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ロスト・スペラー 21

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0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 18:38:53.75ID:2nCOUSfN
そろそろネタが切れそう

過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1544173745/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0028創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:02:51.90ID:3RHAJswF
なろうとか好きそう
0029創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:03:47.96ID:/NcgU/+n
ここはもしかして障がい者専用スレ?
0030創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:04:15.16ID:BQIPXRNL
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。
0031創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 17:57:04.31ID:ER4grkwp
こんなにレスが付いたのは最初に書き始めて9年間で初めての事です。
これまで余り注目される事無く細々と続けていた物ですから驚いています。
何名様でしょうか、それとも、お一人様?
殆ど個人スレも同然なスレに、ようこそ入らっしゃいました。
もう飽きられたかも知れませんが、>>1の一番下のスレから読んで頂けると幸いです。
文章も読み難い事は自覚していますが、これで長年続けて来た物で御勘弁を。
……と言っても、余りに長いので、とても一から全てを読んではいられないでしょう。
自分でも一から全部読めと言われたら拒否します。
0033創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 18:22:42.74ID:ER4grkwp
なろうは知っていますが、読んだ事はありません。
最初は設定スレとして始めたスレで、設定だけ延々と書き続けるのも何だからと、物語を入れてみたんですが、
なろうっぽいんでしょうか?
0034創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 18:39:42.33ID:ER4grkwp
なろうの話はネット上で、よく見掛けはするんですが……。
このスレは自分が思い付いた設定を投げると言うか、アイディアの投棄場みたいな所もあるので、
素人の考える話は似たり寄ったりだと言う意味では、なろうっぽくなるのかも知れません。
そう言うと、なろうで真面目に書いている方にとっては失礼な話かも知れませんが……。
0035創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 18:52:21.89ID:6rID8uEA
……はい。
流石に日曜の深夜や平日の昼間にレスを続ける程、お暇では無かったのでしょう。
健全で結構な事です。
0036創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 18:59:19.57ID:6rID8uEA
少し寂しさを覚えつつ、前スレの続きから行きたいと思います。
前スレでは、中途半端な所で容量限界が来てしまいました。
ここで板情報を再度確認します。
新しい創作発表板の設定では、容量限界が512KBから1024KBに変わりました。
従来の2倍です。
具体的に何時から変更されたのかは不明です。
この容量はスレの右下に表示される物とは違う筈です。
スレの右下の表示は実際の要領の約1.4倍になっています。
0037創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 19:08:08.95ID:6rID8uEA
これによりAAでもある程度の作品を投稿出来る様になった……と思います。
まあAA系は専用のカテゴリーがあるので、態々創作発表板でやる事は無いと思いますが……。
そもそもVIPや外部板の方が注目され易いので、そちらでやる人が多いでしょうし。
容量が増えて、不便になる事は無いでしょうから、問題はありませんが……。
ある程度の長文で遣り取りしても、直ぐにスレが埋まってしまう事態は防げるでしょう。
0038創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 21:35:10.01ID:HHKyV/I6
ロススぺは設定の緻密さも物語の内容も興味を惹かれるものばかりで、日々のささやかな楽しみにとしております

……物語の開始前なら邪魔にならないかなと思ってコソッとささやかにお伝えしましたっ!
0040創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 18:51:25.18ID:QFWTBO15
スフィカは淡々と答えた。

 「私に人を襲う事を止めろと?」

 「そうだよ、人を襲わなくても済むなら、それに越した事は無いだろう?
  マトラは居なくなった。
  『仕事』をしなくても、罰せられる事は無いんだ。
  これからは人の世界で穏やかに生きて行こう」

ラントロックは問い掛けたが、彼女は肯かない。

 「……人を襲うのは魔物の宿命だ。
  テリアやフテラは、人の餌でも満足出来たのだろうが、私は違う。
  人の血肉を食らわなければ、生きて行けない」

月明かりに浮かぶスフィカの姿は、どこと無く悲し気だった。
ラントロックは真っ直ぐ彼女を見詰めて言う。

 「それは思い込みだ。
  スフィカさんは、自分は他人と違うと決め付けている」

 「半端な情けを掛けないでくれ。
  私は所詮、化け物なんだ。
  人と同じ生活は出来ない。
  狼が羊の群れで暮らせない様に」

 「人と姿が違う事を、気にしているのか?」

スフィカは明らかに人では無い。
テリアやフテラ、ネーラの様に、人に化ける事も出来ない。
0041創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 18:51:58.54ID:QFWTBO15
その事を気にしているのかと、ラントロックは思った。
だが、スフィカが肉食だと言うのも事実である。
加工肉では無く、生肉を捏ねて食べる性質だと言う事も、あるのかも知れない。
確かに、人の世界で生きて行くには、難しい性質と容姿ではある。
それ等の問題を解決する良案は無いかと、ラントロックは暫し思案した。
そこで彼はポイキロサームズの事を思い出す。
ポイキロサームズは元人間で、魔導師会の禁呪によって、人の姿に戻った。
どうにかして、魔導師会の手を借りる事が出来れば……と彼は考える。

 「それなら、スフィカさん、人間になりに行こう」

 「えっ」

驚いた顔をする彼女に、ラントロックは続ける。

 「魔導師会は人化の魔法を知っている。
  もし魔導師会を当てに出来なくても、人間に変わった怪物の話は幾らでもある。
  旧い魔法使いの中に、人化の法を知っている人が居るかも知れない」

 「私が……人間に……?」

 「そうだよ。
  魔性を得て、人間に化けるんじゃなくて、人間その物になるんだ」

ラントロックの提案に、スフィカは迷いを見せた。
人に成れるなら成りたいとは思うのだが、本当に人に成れるのかと言う不安があるのだ。

 「本当に?」

 「なれるさ。
  俺が付いている」

ラントロックも確証は無かったが、大見得を切った。
嘘にする積もりは無い。
0042創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 18:53:41.66ID:QFWTBO15
スフィカは今度こそ小さく肯いて、彼に言う。

 「人間になりたい……」

 「探しに行こう。
  人間になる方法を」

ラントロックはスフィカを見詰めて、そっと抱き留めた。
彼女の肌は硬質で、小刻みに震えている。
2人して月を眺めている内に、ラントロックは眠りに落ちた。
……翌朝、ラントロックはスフィカを抱えた儘、木の上で目を覚ました。

 (朝か……。
  よく落ちなかったな)

ラントロックは余り寝相の良い方では無かったが、無事に朝を迎えられて安堵する。
彼はスフィカを起こして、共に地上に下りた。

 「取り敢えず、ネーラさんの所に飛ぶよ」

ラントロックは特殊な水の入った水筒を逆さにして、地面の上に水溜まりを作る。

 「おーい、ネーラさん!
  スフィカさんを見付けたよ!」

彼の呼び掛けに応じて、ネーラが水の中から現れた。

 「はいはい。
  おお、スフィカ、久しいな。
  生きていたか!」

スフィカは無言で小さく肯く。
0044創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 19:03:34.10ID:4ZEo37Xn
ラントロックとスフィカは水を潜り、カターナ地方からブリンガー地方キーン半島のソーシェの森に、
移動した。
そこに住む「森の魔女」、使役魔法使いのウィローに、ラントロックは相談する。

 「ウィローさん、お願いがあります。
  スフィカさんを人間にしたいんですけど……」

 「へー、人間に?」

古めかしい魔女の姿のウィローは、嗄れた老婆の声でスフィカに尋ねた。

 「お前、人間になるって事が、どう言う事か解っているのかい?」

スフィカは肯く。

 「力を失う」

その答にウィローは深く頷き返し、再び問うた。

 「お前は無力な人間に満足出来るのかな?」

 「……ああ、出来る。
  人間になれば、肉に飢える事も無くなる。
  人に追われて暮らすより、人として生きたい」

それは切実な願いだった。
ウィローは何度も頷いて、同情する。

 「怪物として生き続けるのも、楽じゃないからね。
  人化の法か……。
  残念ながら、私は知らないけど、知ってる奴なら知ってるよ」
0045創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 19:04:18.65ID:4ZEo37Xn
ラントロックはウィローに尋ねる。

 「それは誰ですか?」

 「レノックだよ」

 「今、どこに?」

 「ティナーに居るんじゃないのかな?
  詳しい事は分からない。
  外の世界の事は、よく知らないからね」

教える事は教えたと、ウィローは溜め息を吐いて、素っ気無い態度。
ラントロックは困って立ち尽くしていたが、ウィローの反応は冷たい。

 「もう私から言える事は何も無いよ。
  後は自分の力で何とかするんだね」

しかし、全く当てが無いのに、ティナーまで行って、どうするのかとラントロックは悩んだ。
それを見兼ねて、ウィローは一つ助言する。

 「やれやれ、仕様の無い子だ。
  旧い魔法使いに会いたいなら、先ず行動する事だよ。
  動かないと始まらないのは、何にしても同じさね。
  求むれば、やがて得る。
  旧い魔法使いに会う為の、合言葉だよ」

 「……はい」

ラントロックは腑に落ちないながらも、一応は頷いて、彼女の言う通りにしてみる事にした。
0046創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 19:05:11.01ID:4ZEo37Xn
ティナー地方に向かう前に、ラントロックはネーラに尋ねる。

 「ネーラさんも、一緒に行かない?」

 「何故そんな事を聞く?」

ネーラは真面目に彼に尋ね返す。
ラントロックも真剣な顔で答えた。

 「スフィカさんと一緒に、人間になろう」

 「人間になって、どうしろと言うんだ?」

 「一緒に旅をするんだ。
  世界中を見て回ろう」

それはネーラの期待する回答では無かった。
彼女は小さく笑って首を横に振る。

 「嫌だよ」

否定の言葉は優しく、少し悲し気。
ラントロックも寂し気に言う。

 「残念だ」

背を向けた彼に対して、ネーラは声を掛けようとするも、思い止まる。
結局、ラントロックはスフィカだけを連れて、森を出て行った。
ウィローは俯いたネーラを見て、呆れた声で言う。

 「馬鹿だね。
  人間に成る成らないは置いといて、素直に付いて行けば良いのに」
0047創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/21(木) 19:18:11.60ID:iryb2YNV
第四魔法都市ティナーにて


ラントロックとスフィカはブリンガー地方から遥々徒歩と馬車で移動し、ティナー市内に着く。
移動中、ラントロックは魅了の魔法で敵意を取り去り、スフィカが注目されない様にした。
しかし、ティナーに着いた良い物の、何の手掛かりも無い状態。
ラントロックは使役魔法使いウィローの言葉を信じて、都市を彷徨う。
やがて2人は路地裏で言葉の魔法使いワーズ・ワースと出会った。
少女の姿を取るワーズ・ワースに、ラントロックは初めて会うが、その気配から徒者で無い事は、
直ぐに察せた。
警戒する彼に、ワーズ・ワースは苦笑いする。

 「そう睨まないでくれよ。
  私はワーズ・ワース・"グロッサデュナミ"。
  言葉の魔法使いだ。
  君の事は、よく知っている。
  奇跡の魔法使いワーロック・アイスロンと、魅了魔法使いバーティフューラー・
  トロウィヤウィッチ・カローディアの息子、ラントロックだね?」

 「あんたは一体……」

ラントロックは見た目年下の少女に対しても、気を緩めなかった。
彼はワーズ・ワースの強大さを感じ取っているのだ。
年齢が見た目通りでは無い事も、見抜いている。

 「今、名乗った事が全てだよ。
  君は旧い魔法使いの事を余り知らないのかな?
  私達は大抵の事は知っている。
  風が教えてくれるんだ」

 「それなら、どうして、この街に来たのかも?」
0048創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/21(木) 19:18:42.50ID:iryb2YNV
ラントロックは尋ねたが、ワーズ・ワースは再び苦笑いする。

 「大抵の事は知っていると言ったけど、全知と言う訳じゃないんだ。
  用があるなら言って貰わないと分からない。
  私は只、珍しい者が来たと思って、話を聞きに来ただけだよ」

ラントロックは暫し怪しんでいたが、それだけでは何にもならないと思い切り、自分から話した。

 「彼女を人間にしたい。
  その方法を探しに来た」

彼は隣のスフィカを指して言う。

 「蜂女の『昆虫人<エントマントロポス>』か……。
  しかし、その気配は……」

ワーズ・ワースはスフィカを見詰めて、険しい表情。
ラントロックは何かあるのかと、率直に問う。

 「どうしたんだ?」

 「いや、何でも無い。
  見知った顔じゃないから、どんな奴かと。
  どうやら、新参の様だ」

ワーズ・ワースは溜め息を吐いて、改めて問う。

 「それで、彼女を人間にしたいと?」

 「ああ」

 「本気か?」
0049創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/21(木) 19:19:55.73ID:iryb2YNV
彼女の問は、ラントロックでは無く、スフィカに向けられていた。
スフィカは小さく肯く。
それを見て、ワーズ・ワースは幻惑させる様に言う。

 「人間と言うのは、不便な物だよ。
  力弱く、その癖、数を恃みに横暴になる。
  人外から人間になった者は、必ず後悔する。
  『自分は人間じゃない』と言う意識を捨て切れないからね。
  人間に成ると言うのは、実は大変な事なんだよ。
  否、成る事自体は簡単でも、成り切る事がね……。
  大きな苦難と苦痛を伴う」

決意を揺らがす言動を、ラントロックは不快に思った。

 「人間にはなるなって事か?」

 「そうは言っていない。
  只、『大変だよ』と。
  生半可な気持ちで、やる様な事じゃない」

ワーズ・ワースの態度は揶揄いを含んでいる。
それが益々ラントロックは不愉快だった。

 「あんた、一体何なんだ?」

怒る彼を見て、ワーズ・ワースは愛おし気な目をする。

 「あはは。
  だから、そう睨まないで。
  君は若い頃の君の父親に似ているよ。
  親子だね」
0050創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/22(金) 18:58:27.68ID:YhfkzxcL
意図しているのか、いないのか、彼女の言葉は的確に、ラントロックの神経を苛付かせる。

 「話を逸らすな。
  何が言いたいんだ?」

凄む彼に対して、ワーズは両肩を竦めて見せた。

 「私が言いたいのは一つだけ。
  人間に成るのは大変だと言う事。
  その覚悟はあるのかなと聞いているだけさ」

それを聞いたラントロックは、一度スフィカを顧みた。

 「スフィカさん……」

スフィカは何も答えない。
人形の様な顔で、呆っと虚空を見詰めている。
否、そう見えるだけで、実際は内心で葛藤しているのだ。
昆虫人だから表情の変化が少ないだけ。
中々彼女が答えないので、ラントロックは心配になる。
元々人間の彼には、人間に成ると言う事が解らない。
便利だとも不便だとも思わない。
しかし、人外の者は違うのだろうかと、彼は考える。
そんな1人と1体の様子を見て、ワーズは呆れた顔をする。

 「何も考えていなかったのかな?」

ラントロックとスフィカは何も答えられなかった。
ワーズは小さく溜め息を吐き、仕方無いなと言う風に話す。

 「人間に成る方法を知りたければ、レノックに聞くが良い。
  音の魔法使いレノック・ダッバーディーだ」
0051創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/22(金) 18:59:25.27ID:YhfkzxcL
ラントロックは漸く本来の目的を思い出す。

 「そうだ、俺達はレノックさんを探しに来たんだ!
  今、どこに!?」

ワーズは詰まらなそうに答える。

 「あいつは『結婚旅行<ハネムーン>』中だよ。
  人間の女と付き合ってるんだ。
  全く、信じられない位、軽薄な奴」

 「それで、『どこに』!?」

ラントロックが具体的な場所を問い質すと、彼女は小さく笑って答えた。

 「カターナだよ。
  何でも人間の間では、定番なんだそうだ。
  今頃、宜しくやってるんじゃないか?」

 「カターナかぁ……」

無駄に遠回りしたなと、ラントロックは徒労感に草臥れる。
カターナ、ブリンガー、ティナーと回って、又カターナに戻らなければならないのだから。
疲れた顔をするラントロックに、ワーズは助言した。

 「旧い魔法使いに会う為の、合言葉は知っているな?」

ラントロックはウィローに伝えられた言葉を答える。

 「求めれば、得る」

 「そう、その通り。
  心の底から、真に人間に成りたいと望んでいれば、必ず会える」

ワーズの言葉にラントロックは頷いたが、スフィカは無反応だった。
0052創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/22(金) 19:02:26.65ID:YhfkzxcL
第六魔法都市カターナにて


ラントロックとスフィカは馬車鉄道でカターナに向かう。
数日掛けて、特に何事も無くカターナに着き、馬車から下りた2人……否、1人と1体は、
空を見上げた。
よく晴れた暑い日。
ラントロックはスフィカを一度顧みた。
そして彼女に呼び掛ける。

 「さて、一緒に探そう」

スフィカは静かに頷いた。
しかし、探せど探せど、レノックは見付からない。
もしかしたら行き違いになったのかも知れないと、ラントロックは不安になった。
ハネムーンと言う物が、基本何日かは分からないが、そう長い期間では無い事は想像出来る。
精々1週間、長くても2週間程度だろう。
或いは、2〜3日とか、もっと短い事もあり得る。
探し疲れたラントロックは、その辺の街路樹の木陰で涼みつつ、休憩する。
そしてスフィカに話し掛けた。

 「中々見つからないね。
  どうしようか?
  スフィカさん」

人間に成るのを諦めないのであれば、どうするも何も無いのだが、ラントロックの問は不用意だった。
スフィカは彼に謝る。

 「……済まない、トロウィヤウィッチ。
  私が腑甲斐無いばかりに」

 「どうしたんだい?」

 「レノックが見付からないのは、私の決心が弱い所為だ」

それは考え過ぎだと、ラントロックは笑って気にしない。

 「人間に成るって言うのは、今までの自分を変える事なんだから、決心が付かなくて当然だよ。
  俺だって人間を辞めて、他の生き物になれって言われても、困っちゃうし。
  取り敢えずは、レノックさんに会って、話を聞いてみてからでも良いじゃないか?
  行き成り人間に成れる訳じゃないだろうしさ」
0053創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 19:59:28.62ID:G3AU7B9E
スフィカは俯いた儘で、何も答えなかった。
ラントロックは怪訝な顔になって問う。

 「……スフィカさん?」

 「本当は、人間に成るのが怖いんだ。
  本当に人間に成れるのかも。
  もし、失敗したら、どう仕様か……。
  そんな事ばかり考えてしまう」

深刻に悩む彼女に、ラントロックは言う。

 「もし成れなくても大丈夫。
  俺はスフィカさんを見捨てたりしないよ。
  どこかで潜(ひっそ)りと暮らそう。
  禁断の地みたいな、共通魔法使いの目の届かない所で、静かに暮らすんだ」

 「有り難う、トロウィヤウィッチ」

スフィカに感謝されたラントロックは、少し困った顔をした。

 「『トロウィヤウィッチ』じゃなくて……。
  スフィカさんも俺を名前で呼んでくれないか?
  俺は『ラントロック・アイスロン』だ。
  『トロウィヤウィッチ』は魔法使いの名前、バーティフューラーは一族の名前。
  俺自身はラントロック」

 「ラントロック?」

 「そう、ラントロック。
  長いならラントで構わない」

 「分かったよ、ラント」
0054創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 20:00:06.78ID:G3AU7B9E
そんな話をして、スフィカは少し前向きな気持ちになれた。
その時、若い男女の2人組がラントロックに声を掛ける。

 「や、ラントじゃないか!」

ラントロックは振り向いた。
女性の方には見覚えがある。
フィーゴ・ササンカだ。
着物姿のボルガ地方の伝統的な格好では無く、常夏の地に合わせた、露出の多い服を着ている。
暑ければ、それなりの格好をするのは当然の事だと、ラントロックは疑問に思わなかったが、
当のササンカにとっては大きな変化である。
ボルガ地方民はグラマー地方に次いで、肌を露出したがらない傾向にあり、特に伝統的な価値観を、
重視する人間は、その傾向が強い。
隠密魔法使いの集団は、その極地である。
ササンカは村を抜けた事で、外の文化に馴染んだのだ。
それは扨て置き、問題は男性の方である。
ラントロックは男性の方に見覚えが無かった。
しかし、彼の纏う魔力の流れは知っている。

 「レノック……さん?」

 「そうだよ、レノック・ダッバーディーだ。
  何時もの姿じゃなくて悪かったね」

レノックは爽やかに笑い、ラントロックに問い掛けた。

 「こんな所で何をしてるんだい?
  隣の子は……」

彼はラントロックの隣のフードを被ったスフィカの顔を覗き込もうとする。
0055創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 20:01:03.83ID:G3AU7B9E
ラントロックは慌てて彼を止めた。

 「待ってくれ、レノックさん。
  彼女は……」

レノックは小さく頷き、ラントロックに言う。

 「ああ、分かっているよ。
  彼女は人間じゃないね?
  以前に言っていた、昆虫人の子かな?」

 「あ、ああ」

全部お見通しと言う感じのレノックに、ラントロックは戸惑った。
ラントロックは禁断の地では家に篭もり勝ちだったので、レノックの事は余り知らないのだ。
小賢人と呼ばれるレノックは、旧い魔法使いの中でも、指折りの知恵者である。
暫しレノックの雰囲気に圧されていたラントロックだったが、彼は本来の目的を思い出した。

 「そうだ、レノックさん、教えて欲しい事がある。
  人間に成る方法を知らないか?」

そうラントロックに聞かれたレノックは、一瞬怪訝な顔をするも、直ぐに事情を理解する。

 「成る程、彼女を人間にしたいと言う訳か……」

その通りだと、ラントロックは何度も頷く。
レノックは一度周囲を見回して、ラントロックとスフィカに言った。

 「ここは少し目立つな。
  人目に付かない所に行こう」

一同は街から離れて、人気の少ない遊泳禁止の浜辺に移動する。
0056創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 19:02:23.55ID:vG7ls1gY
レノックは周囲に人目が無い事を確認して、スフィカに言った。

 「ここなら他人に見られる事は無い。
  顔を見せてくれ」

スフィカは躊躇っていたが、やがて緩りとローブのフードを剥ぐ。
現れたのは昆虫の顔だ。
ササンカは無言で目立った反応こそしなかったが、内心で驚いていた。
レノックはスフィカに小さな布の袋を渡す。

 「これが人に成る為の魔法の粉だ。
  この粉を水に溶かして飲めば、君は人に変われる」

スフィカは表情こそ分からないが、半信半疑だった。

 「本当か……?」

 「僕は嘘は言わないよ。
  但し、使うなら人目に付かない所で、独り、誰にも姿を見られては行けない。
  太陽や月に照らされても行けないし、鑑や水面に姿を映しても行けない。
  一晩過ごして、翌朝を迎えれば、君は人間になっている。
  君は新しい命として、生まれ変わるんだ。
  それまでの過去は捨て去る必要がある」

レノックの最後の一言に、スフィカは直感する。

 「私の記憶もか?」

レノックは無言で頷いた。
その事実を知ったラントロックは声を上げる。

 「そんな!」
0057創る名無しに見る名無し
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2019/11/24(日) 19:03:10.29ID:vG7ls1gY
レノックは至極真面目な顔で、ラントロックとスフィカに告げた。

 「記憶を保持した儘、人間になる方法もある。
  でも、それだと今までの生き方を捨てた事にはならない。
  過去に囚われている者は、人間には成れない。
  魔性を持った人間は、人間では無い。
  唯、人の姿をした化け物に過ぎない」

厳しい言葉に、ラントロックは沈黙した。
真っ当な人間になりたければ、魔性を捨て、魔物として生きた過去も捨てなければならないのだ。
人の血肉の味を覚えた儘、人間にはなれないと言う事。

 「君に、その覚悟はあるか?」

レノックに回答を迫られて、スフィカも沈黙していた。
ラントロックは彼女に「人間にならなくても良い」と言う事も出来たが、それを口にしてしまうと、
人間になりたいと言った彼女の思いまで否定する事になりそうで、躊躇われた。
やがてスフィカは答える。

 「ある。
  私は人間に成りたい」

そう言って、彼女はレノックの手から小さな袋を受け取った。
本当に大丈夫なのかとラントロックは心配したが、それを口に出したりはしなかった。
唯、彼女の覚悟を受け止めて、見守ると決めた。
しかし、スフィカはラントロックに言う。

 「ラント、これから私は人間になる。
  ……付いて来ないでくれ」

 「えっ、いや、大丈夫!?
  もう少し考えた方が良くないか!?」

ラントロックは驚いて彼女に問い掛けた。
0058創る名無しに見る名無し
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2019/11/24(日) 19:04:04.04ID:vG7ls1gY
だが、もうスフィカの心は決まっている。

 「考えた所で、結論は変わらない。
  人間になりたいなら、こうするしか無いんだ。
  ラント、貴方の事を忘れていたら、御免なさい」

そう言って、スフィカはローブを脱ぎ捨て、昆虫人の姿を露にして飛び去って行った。

 「えっ、待ってくれよ、スフィカさん!
  どこで人間になる積もりなんだ!?」

空を飛ぶスフィカに、ラントロックは追い付けない。
スフィカを追い掛ける事を諦めた彼は、レノックに食って掛かった。

 「レノックさん、どう言う事なんだ!」

 「どうも、こうも無い。
  君も彼女の事は忘れるんだ」

 「えっ!?
  何で、そんな……!」

 「君は彼女が魔物だった事を憶えている。
  魔物の彼女の事は忘れろ。
  それが彼女の為でもある」

 「忘れるなんて、そんな簡単に出来るかよ!」

 「人間に成ると言う事は、生まれ変わると言う事。
  魔物としての彼女は死に、新しい人間としての生を受ける。
  彼女は、それを選んだ」

スフィカが決めた事に、ラントロックは何も言う事が出来ない。
彼は人間に成ると言う事を甘く見ていた自分に悔いた。
それ程の決意と覚悟が要る物だとは、思っていなかったのだ。
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2019/11/25(月) 18:47:57.49ID:C/oHu2gS
ラントロックはレノックに問う。

 「それで……スフィカさんは、どこに行ったんだ?
  もし人間に成れても、独りだと……」

レノックは冷たく言った。

 「それは君の知った事では無い」

 「そんな訳には行くかよ!!」

焦るラントロックにレノックは真面目な顔で尋ねる。

 「君は乙女心と言う物が解っていない。
  どうして彼女が君の前から去って行ったのか、君には全く解らないと言うのか?」

そう言われてラントロックは驚き、自らを顧みる。
しかし、幾ら考えても理由は解らない。

 「……レノックさんは知っているのか?」

その問い掛けに、レノックは苦笑いした。

 「知らないなら、知らないで良い。
  その儘、彼女の事は忘れてしまうんだな」

 「どうして教えてくれない!?」

 「それは君が自分で気付くべき事だから。
  だけど、気付かないなら、気付かないで良い」
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2019/11/25(月) 18:49:26.22ID:C/oHu2gS
ラントロックにはレノックが意地悪をしているとしか思えなかった。
しかし、スフィカがラントロックの元を離れてしまったのは事実だ。
そこには何か理由がある。
我関せずと涼しい顔をしているレノックとは対照的に、ササンカは心配そうな顔をしていた。

 「レノック殿、どう言う事なのでしょうか?」

 「殿なんて、他人行儀な言い方は止してくれよ。
  敬語も止めだ。
  僕等は、もう夫婦なんだぜ」

 「そ、それでは……レノック、どう言う事か、教えてくれないか?」

 「何の話?」

 「あのスフィカとか言う者、レノックは彼女に就いて詳しい様だが」

 「ああ、僕は人の心が読めるからね。
  感情や思考は、態度や呼吸に現れる物だよ。
  注意深く観察していれば、心を読む位は訳無い」

得意気に語るレノック。
ササンカは一度ラントロックを見て、再びレノックに尋ねた。

 「スフィカは何を思っていたのだ?」

 「君も女の子だから気持ちは解らなくは無いと思う」

そう言って、レノックはササンカに耳打ちする。
それを聞いたササンカは、難しい顔をした。

 「そう……なのか?」

 「中々難しいよね」

レノックは肩を竦めて、小さく息を吐く。
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2019/11/25(月) 18:50:11.88ID:C/oHu2gS
一体何なのかと、ラントロックは眉を顰めた。
ササンカはラントロックを見詰めて問う。

 「ラントロック、貴方は彼女の事を、どう思っているのだ?」

 「仲間だ。
  大事な仲間だよ」

一瞬の迷いも無くラントロックが言い切ると、ササンカは悲しそうな顔になった。

 「……だったら、仕方無い」

それ以上、ササンカは何も言わなくなる。
代わりにレノックがラントロックに問う。

 「ラント、君は人間に成って記憶を失ったスフィカに、何が出来る?」

 「何って……」

 「彼女は普通の人間になる。
  特別な力を持たない、極々普通の人間だ。
  加えて、記憶を持たない」

 「それでも事情を理解して、一緒に居て上げられるのは、俺しか……」

 「彼女は人間に成ると言うのに、過去の事情を知っていて、何か意味があるのかな?
  嘗て、人外だった事を教えるのか?」

 「そんな積もりは……」

 「過去を捨て去って、生まれ変わろうと言う者の過去を知っている事が、生まれ変わった後に、
  何か役に立つのか?」

ラントロックはレノックが言いたい事を、何と無くではあるが、理解し始めていた。
0062創る名無しに見る名無し
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2019/11/26(火) 18:49:19.40ID:KEqxmQnR
薄々感付いていた事を、彼はレノックに問う。

 「人間に成るスフィカさんにとって、俺は必要無いって事なのか……?」

レノックは苦笑いを浮かべて答えた。

 「逆だよ。
  彼女を必要としていないのは、君の方だ。
  だから、彼女は君から離れる事を決意した」

ラントロックは俯く。

 「……それって、詰まり……」

察した様子の彼に対して、レノックは事実を告げた。

 「彼女が求めていた物は、君の愛だ。
  しかし、君は彼女を愛していない」

ラントロックには何も言えない。
彼にとってスフィカは大事な仲間だが、それと生涯の伴侶として迎えるかと言う話は別だ。
種族が違うからと言うのでは無く、ラントロックは未だ義姉を愛している。
愛する人には忠実でありたいと言う彼の思いが、同時に複数の人と付き合う事を許さない。
レノックは彼を言葉で慰める。

 「君は悪くないよ。
  そう、これは誰も悪くない。
  色恋の沙汰とは、そう言う物なんだ。
  好いた惚れたに罪は無い」

訳知り顔のレノックにラントロックは不快な顔をしたが、事実は事実として受け止める。
0063創る名無しに見る名無し
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2019/11/26(火) 18:50:46.81ID:KEqxmQnR
レノックは続ける。

 「余り深刻になるな。
  色恋に関しては、寧ろ、好きでも無い者を好きだと言う事の方が、罪が重い。
  そこから先は地獄だ。
  叶わぬ想いと知ったなら、潔く断ち切る事も、必要な事なんだよ。
  それはラント、君にも言える事だ。
  彼女は君の事を諦めた。
  それを寂しく思うのは自然な感情だが、寂しさを紛らわす為だけに、彼女を追うべきでは無い」

ラントロックはレノックの言葉を受け入れて、力無く俯いた。

 「分かった……。
  もうスフィカさんを追う事はしない。
  ……でも、人間に成ったスフィカさんが、本当に無事に人間の生活に溶け込めるか……」

レノックは静かに頷く。

 「その点に関しては、僕が面倒を見よう。
  ラント、君は何も心配しなくて良い。
  君は君自身の事を考え給え」

そう断言されて、ラントロックは口を閉ざした。
そして、悄然としてレノックに頭を下げる。

 「スフィカさんの事、お願いします」

彼は独りで、海岸沿いの道路を歩き出す。
テリアとフテラは動物に戻ってしまって行方不明。
スフィカは人間に成って、彼の元を離れて行った。
B3FのB3は去り、残ったのはFのネーラだけ。
0064創る名無しに見る名無し
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2019/11/26(火) 18:52:26.56ID:KEqxmQnR
ラントロックは道端で水筒の水を使い、水溜まりを作ると、ソーシェの森に居るネーラの元に戻った。
そしてネーラに事の次第を説明する。
ネーラは水球に浮かびながら、寂し気に言う。

 「そう……。
  スフィカは、そう決断したんだな」

 「俺には彼女を止められなかった」

 「それは仕方が無い事だよ。
  成就せぬ願いを抱き続けるより、新しい生き方を選んだのだ。
  その心は尊重しなければな」

そこでラントロックはネーラに尋ねる。

 「ネーラさんは?」

 「……私は気が長い方だから。
  それに精さえ貰えれば、構わない。
  心だの何だのと、煩い事は言わないよ」

 「本当に……?」

真剣に尋ねられて、ネーラは困った顔になった。

 「都合の好い女と思われるのも困るので、一応言っておくが、私は安い女では無い。
  そもそも子供を産むだけなら、交尾せずとも良いのだ」

 「それでも……温もりが欲しいんだね?」

ラントロックの問い掛けに、ネーラは小さく頷く。
0065創る名無しに見る名無し
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2019/11/27(水) 19:09:53.14ID:83Mu7c0r
それを見たラントロックは、水球の中のネーラに向けて、両手を差し出した。
何の積もりかと訝る彼女に対して、ラントロックは言う。

 「俺も温もりが欲しい」

ネーラは困惑して答える。

 「私は変温動物だよ」

 「そう言う事じゃないんだ」

真っ直ぐ見詰めて来るラントロックの瞳に耐えられず、ネーラは視線を逸らして彼の手を取った。
ラントロックはネーラの腕を手繰り寄せて、彼女の体を水球から引き抜き、優しく抱き締める。
冷たく湿ったネーラの体に、ラントロックの体温が伝わる。

 「……暖かい。
  熱い位だ。
  やはり私達は違う生き物なのだと思うよ」

寂し気に言うネーラに、ラントロックは驚いた。

 「どうして、そんな事を言うんだ?」

 「……私は都合の好い女では無い。
  寂しい時に、体だけ求められて、応える様な女では……」

ラントロックは強くネーラを抱き締めて、両目を閉じる。

 「御免よ、ネーラさん。
  『甘え』だと言う事は解っているんだ。
  でも、寂しいんだよ。
  皆、去って行ってしまった」
0066創る名無しに見る名無し
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2019/11/27(水) 19:10:44.77ID:83Mu7c0r
ネーラは体ではラントロックに逆らわず、口先だけで抵抗した。

 「それでも私を愛してくれないんだな……」

ラントロックは何も言えなかった。
ネーラは更に続ける。

 「どうして魅了の魔法を使わない?
  魅了の魔法を使って、問答無用で黙らせれば良いだろう」

 「そんなの、虚しくなるだけじゃないか……」

スフィカが去った後、ラントロックは魅了の魔法を使えなくなった。
技術的には可能なのだが、心が動かないのだ。
どうしても使う気になれない。
ネーラは小さく息を吐いて、ラントロックを抱き締め返す。

 「今日だけだぞ」

 「……恋人よりも、仲間が、友達が欲しい」

 「困った子だ」

ラントロックは母親に甘える様に、ネーラに抱かれた。
彼は心を許せる存在が欲しいのだ。
自分を優しく包んでくれる、母親の様な存在を求めている。
それは幼くして母を失った事も関係している。
ネーラは母性で彼の求めに応え、唯静かに寄り添う。
依存気味ではあるが、彼女は彼と心が深く結び付くのを感じていた。
0067創る名無しに見る名無し
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2019/11/27(水) 19:11:28.05ID:83Mu7c0r
その後、第六魔法都市カターナで記憶喪失の女性が発見され、病院に連れて行かれる。
彼女は自分の名前も過去も何も憶えておらず、日常生活も儘ならない状態だった。
数月の入院生活で、女性は医師の男性と恋に落ち、結婚した。
女性の過去は全く不明で、記憶が戻る事も無かったが、今が幸せなら良いと、誰も問題にしなかった。
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2019/11/28(木) 18:25:49.08ID:KUBkScjF
ノストラサッジオ死す


第四魔法都市ティナーにて


反逆同盟との戦いが終わった後、ワーロック・アイスロンは予知魔法使いのノストラサッジオに、
感謝の念を伝えに向かった。
反逆同盟との戦いの被害は軽微だったとは言えないが、決定的な破局は迎えずに済んだ。
正確には一度破局してしまったのだが、全部夢で無かった事になったので、結果良しだ。
もしかしたら、それもノストラサッジオの予知の力があっての事なのかも知れない。
ワーロックが貧民街に入り、地下組織マグマの『拠点<アジト>』に向かっていると、
道中でマグマの構成員が慌てた様子で駆け寄って来た。

 「あっ、ラビさん、ラビさん、大変なんですよ!
  今朝から先生が居らんのですわ!」

中央訛りで早口で捲くし立てる彼に、ワーロックは驚いて尋ねる。

 「居ない?」

 「ええ、そうです。
  ラビさん、何か心当たりは無いですか!?」

 「いえ……、残念ながら。
  書き置きとか無かった……んですよね?」

 「いや、書き置きはありました」

構成員の返答に、ワーロックは脱力した。

 「あるなら……。
  いや、内容次第ですね。
  何て書いてあったんです?」
0070創る名無しに見る名無し
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2019/11/28(木) 18:26:49.79ID:KUBkScjF
ワーロックの質問に、構成員は難しい顔をして答える。

 「予知は失敗したとか何とか……」

それを聞いて、ワーロックは更に驚を喫した。
予知は予知魔法使いの命だ。
予知が外れる事は、魔法使いとしての死を意味する。
ワーロックは『予言者<プレディクター>』としてのノストラサッジオに予知を依頼した。
その内容は、全員が無事に反逆同盟との戦いを乗り切れる事。
しかし、全員が全員、無事にとは行かなかった。
共通魔法社会を破壊すると言う、反逆同盟の試みは失敗した物の、大きな爪痕が残ってしまった。
ワーロックは責任を感じて、マグマの構成員に告げる。

 「私も探してみます」

そうして、貧民街の中でノストラサッジオを探して回った。
彼は乞食達を頼り、1人当たり500MG硬貨1枚で買収して、ノストラサッジオの捜索を依頼した。
1角後に乞食達の情報網は、ノストラサッジオの足跡を捉える。
話に拠ると、ノストラサッジオらしき老人が、貧民街を通る大きな川、ロジ川の畔に佇んでいた様だ。
それを信じて、ワーロックはロジ川の上流から下流まで、歩いて行ける範囲を全て見て回った。
だが、時々釣り人や乞食達が屯している以外は、特に何も無い。
ノストラサッジオを見たと言う人も居なかった。
川沿いには無断で作物を栽培している畑もある。
その畑の中で、呆然と川面を見詰めている老人が居た。
同じ老人ではあるが、ノストラサッジオとは似ていない。
顔付きはノストラサッジオより老けており、髪は真っ白で、短い無精髭を生やしている。
着物は襤褸だ。
ワーロックは彼に尋ねてみた。

 「済みません、人探しをしているんですけど……。
  この人に見覚えは有りませんか?」

ワーロックはマグマの構成員に用意して貰った、ノストラサッジオの似姿を老人に見せる。
0071創る名無しに見る名無し
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2019/11/28(木) 18:29:21.78ID:KUBkScjF
老人はワーロックを一瞥すると、再び呆然と川面を見詰め出す。
答えて貰えないのかとワーロックが眉を顰めると、老人は小声で零した。

 「その人は見付からんよ」

 「何か知っているんですか?」

ワーロックが目を剥いて尋ねると、老人は川面を見詰めた儘で答える。

 「……私は何も知らん。
  何も知らんが、分かる……」

老人の言葉の意味を量り兼ねて、ワーロックは沈黙した。
その後ワーロックはロジ川を2往復したが、結局ノストラサッジオは見付からなかった。
予知は予知魔法使いの命、予知を外した予知魔法使いに価値は無く、もしかしたら入水自殺か……と、
ワーロックは悠大なロジ川の流れを見詰めて思う。
否、そう決め付けるのは早いと、彼は首を横に振って、嫌な考えを振り払った。
そして、ノストラサッジオを知る者達に、話を聞いて回ろうと決める。
カターナ地方に結婚旅行中のレノックは措いて、他に近場で頼れそうな魔法使いは1人だけ、
言葉の魔法使いワーズ・ワースしか居ない。
ワーロックはティナー市内の繁華街に向かい、ワーズ・ワースを探した。
ワーズ・ワースは意外に早く見付かった。
ワーロックは単刀直入に尋ねる。

 「ワーズさん!
  ノストラサッジオさんを知りませんか?」

 「ノストラサッジオ?
  彼奴(あやつ)が、どうした?」

彼はワーズに斯々然々と事情を説明した。
話を聞き終えて、ワーズは眉を顰め、皮肉な笑みを浮かべる。

 「それが本当なら、ノストラサッジオは生きてはいまいよ」
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2019/11/29(金) 18:40:08.37ID:Jzg+rKdt
ワーロックは眉を顰めて、ワーズ・ワースに言う。

 「未だ、そうと決め付けるのは早いでしょう」

 「どうかな?
  君は魔法使いを殺すのが得意みたいだからね」

厳しい言葉にワーロックは沈黙した。
魔法使いは魔法が使えるから魔法使い。
魔法が使えなくなったら、魔法使いでは無くなってしまう。
それだけの単純な事が、真性の魔法使いにとっては死に直結する。
ワーズ・ワースは俯いたワーロックを見て、申し訳無さそうな顔をした。

 「悪かったよ。
  しかし、残酷だが、私はノストラサッジオが生きているとは思わない。
  魔法使いが住家を離れて、行方を晦ますと言う事は、相当な事なんだ」

生存は絶望的だと理解しても、ワーロックは僅かな希望を求めた。

 「もし、ノストラサッジオさんが出掛けるとしたら、どこだと思いますか?」

 「あの世だろう。
  冗談でも何でも無いぞ」

 「そうでは無くて……」

 「ああ、死に場所か?
  流石に、そこまでは分からない。
  しかし、奴に思い出の地等と言う物は無かろう。
  丸で消え去る様に、誰にも知られぬ場所で、孤独に死す事が出来れば、それで良いのかもな」

それは寂し過ぎるとワーロックは思った。
だが、魔法使いにとって、魔法を失敗する事は恥その物。
誰にも姿を見られず、消えたいと言う願いは、そう不可解な物では無いのだ。
0073創る名無しに見る名無し
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2019/11/29(金) 18:40:45.36ID:Jzg+rKdt
ワーロックはワーズ・ワースに依願する。

 「ノストラサッジオさんは見付かると、言ってくれませんか?」

彼女は難色を顔に表した。

 「嫌だよ。
  私は不利な賭け事はしない主義なんだ。
  君は私まで殺す気なのか?」

ワーズ・ワースの言葉は真実になる。
彼女が語る事は、現実に影響を与え、変化させる。
それに失敗すれば、やはり死が待っている。
人間なら死なないが、彼女は完全な魔法使いだ。
物理的な命を持たず、極めて概念的、魔法的な命となっている。
その彼女が魔法の使用を、ここまで忌避すると言う事は、それだけノストラサッジオの死が、
確定的である事を意味している。

 「分かりました。
  他の人にも聞いてみます」

そう言って立ち去ろうとするワーロックを、ワーズは呼び止める。

 「待て待て、当てはあるのか?」

 「いいえ。
  それでも探すだけ探してみます」

ワーズは愚直な彼を見兼ねて助言した。

 「この近くに、魔法使いが来ている。
  路地裏を歩け。
  そこで会った者に、『言葉に導かれた』と告げろ」

 「有り難う御座います」

ワーロックは彼女の助言に従い、路地裏を歩き回る。
0074創る名無しに見る名無し
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2019/11/29(金) 18:41:26.03ID:Jzg+rKdt
繁華街は路地裏でも日中であれば人通りは多いのだが、この日は全く人と会わなかった。
未だ人々は反逆同盟の事を警戒しているのか、それともワーズの魔法的な導きなのかは判らない。
だが、如何にも魔法使いに会えそうな雰囲気だった。
そこでワーロックは黒衣の人物を見た。
屹度ワーズが言っていた者に違い無いと、彼は自ら話し掛ける。

 「言葉に導かれて来ました」

黒衣の人物は低い男の声で答える。

 「望みを言え」

行き成りの事にワーロックは驚いたが、話が早いのは好都合なので、素直に願いを口にした。

 「……ある人を探しています」

 「誰だ?」

 「予知魔法使い、ノストラサッジオ」

ワーロックが答えると、黒衣の人物は沈黙する。
数十極後に、黒衣の人物は改めて問い掛けた。

 「……どんな関係だ?」

 「彼は私の恩人です」

 「……探して、どうする?」

 「安否を知りたい。
  唯それだけです」

最初の方は間髪入れずに問い掛けて来た黒衣の人物だったが、ワーロックがノストラサッジオの、
名前を出してからは、明らかに反応が鈍い。
0075創る名無しに見る名無し
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2019/11/30(土) 18:43:07.22ID:y4oV6NOT
ワーロックは彼の反応を怪しんだ。

 「どうしたんですか?」

 「言葉の魔法使い奴(め)、厄介事を押し付けたな……」

黒衣の人物は小声で暈やく。
それを聞いて、ワーロックは眉を顰める。

 「……結局、見付けて貰えるんですか?」

不安そうな声で尋ねる彼に、黒衣の人物は初めて自分から物を言った。

 「私は人の願いを叶えられる。
  だが、人探しは得意では無い」

 「人を探して貰うのは無理なんですか?」

願いを叶える魔法使いにとっては、そう難しい話でも無いだろうと、ワーロックは思っていたが、
そうでは無い様子。

 「普通の人間なら何と言う事は無いが、魔法使いを探す事は出来ない。
  弱小なら未だしも、予知魔法使いは特に厄介だ。
  当人が見付かりたくないと思っていれば、先ず見付からない」

 「そうですか……。
  安否だけでも判ると良いんですけど……」

ワーロックは肩を落として溜め息を吐く。
明らかに落胆した彼に、願いを叶える魔法使いは少し思案した。

 「……人探しなら打って付けが居る。
  それを紹介してやろう」
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2019/11/30(土) 18:43:25.26ID:y4oV6NOT
彼の言葉にワーロックは目を見張る。

 「本当ですか!?
  それは、誰ですか?」

 「風の魔法使いだ。
  人の噂は風に乗り世界中を巡る。
  その全てを風の魔法使いは知っている」

 「どこに居るんですか?」

 「どこにでも居る。
  今も私達の話を聞いている」

黒衣の人物に言われて、ワーロックは空を見上げた。
所々に白い雲の浮かぶ、晴れた空。
弱い風が吹いている。
だが、誰か居ると言う感じはしない。

 「どうすれば会えるんですか?」

 「何時でも、どこでも会える。
  『風』が、その気になりさえすれば」

 「……それで、どうすれば会えるんでしょう?」

 「待て、呼び掛けてみる」

黒衣の人物は暫く沈黙していた。
テレパシーを使っているのかなとワーロックは思う。
0077創る名無しに見る名無し
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2019/11/30(土) 18:43:47.11ID:y4oV6NOT
暫くして、黒衣の人物はワーロックに告げた。

 「ティナー市内では会えないそうだ。
  この近辺で人気の無い、小高い場所に来て欲しいと言っている」

ワーロックは困った顔で尋ねる。

 「条件に当て嵌まるなら、どこでも良いんですか?」

 「そうだ」

黒衣の人物は、それだけしか答えない。
これ以上話をする積もりは無い様子。

 「分かりました、行ってみます。
  有り難う御座いました」

ワーロックは願いを叶える魔法使いに一礼して、付近で人気の無い小高い場所を探す。
さて、彼が目を付けたのは、ティナー市の街外れにある、どことも知れない低い山だった。
標高30身程の、木々に覆われた、極普通の山だ。
1角程で山頂に着いたワーロックは、見晴らしの良い場所を探す。
丁度、半径3身程の円形に開けた場所を発見して、その中央にワーロックは立つ。
彼は空を見上げて、風を感じた。
数極と経たない内に、さわさわと緩やかな風が吹き始める。
何と無く、ワーロックは風の魔法使いに会える様な気がした。
それから約1点後、ワーロックはテレパシーを受ける。

 (よく来た。
  私は風の使い)

ワーロックは周囲を見回して、背後に一人の少年を発見する。
0078創る名無しに見る名無し
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2019/12/01(日) 18:37:36.97ID:qEXNyc3M
煤んだ空色のローブを着込んだ、不思議な雰囲気の少年に、ワーロックは話し掛けた。

 「貴方が風の魔法使い?」

 「そう呼ばれる事もある。
  嵐を呼ぶ者、風に乗る者、雲を誘う者、天より降臨する者、呼び名は様々だが、今の時世は、
  風の魔法使いと言う方が、解り易いだろう」

 「それでは、聞きたい事があるのですが……」

ワーロックが尋ねようとすると、少年は小さく頷き、彼の先を制して答える。

 「判っている。
  君は探し人に既に会っている。
  貧民街に戻り給え。
  予知魔法使いは元の場所に戻った」

 「あっ、本当ですか?」

無言で頷く少年を見て、ワーロックは安堵し、脱力した。
散々探して回ったのに、元の場所に戻っているとは。
骨折り損だとは思った物の、しかし、ノストラサッジオが戻って来ているなら、問題は無い。
とにかく無事が何よりだと、ワーロックは誰かを恨む事はしなかった。

 「それなら良かった。
  有り難う御座いました」

彼が礼を言うと、少年は瞬きの間に、姿を消している。
旧い魔法使いの中には、人間嫌いの者が多く、全体として余り長々と会話をしない傾向にある。
淡泊な態度は寂しかったが、そんな物だとワーロックは割り切って、貧民街に向かった。
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2019/12/01(日) 18:39:00.73ID:qEXNyc3M
ワーロックはノストラサッジオを探しに方々走り回っていたので、貧民街に戻るのは数日振り。
そこでマグマの構成員にノストラサッジオの事を尋ねた。
マグマの構成員はワーロックの問に対して、歯切れの悪い回答をする。

 「戻って来た……と言って良いのか……」

 「どうしたんです?」

 「とにかく、会って貰えれば解ります」

そう言って、マグマの構成員は彼をノストラサッジオの部屋に通した。
そこでワーロックは川の畔に居た老人と再会する。

 「えっ、誰……」

ノストラサッジオと再会出来る物とばかり思っていたワーロックは、目を剥いて驚く。
同時に、どうして構成員の歯切れが悪かったのかも理解した。

 「貴方は……?」

ワーロックの言葉に、老人も戸惑った様な態度で答える。

 「私は……予知魔法使い……らしい」

 「らしいって……」

 「何故かは知らないが、ここに来れば良いと判っていた」

 「貴方がノストラサッジオさんの代わりの予知魔法使い……?」

 「ノストラサッジオ……。
  そう、彼は私に、そう言っていた。
  これからは私がノストラサッジオなのだと」
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2019/12/01(日) 18:41:02.07ID:qEXNyc3M
老人の言葉に、ワーロックは再び目を剥いて驚く。

 「ノストラサッジオさんに会ったんですか!?」

 「ノストラサッジオ……?」

ワーロックは老人に詰め寄ったが、老人は『ノストラサッジオ』が何か解っていない様子だった。
ワーロックは改めて老人に、ノストラサッジオの似姿を見せる。

 「彼です!」

 「ああ、この人だ。
  この人が私に……。
  いや、この人だったかな?
  記憶が曖昧だな?」

瞭(はっき)りしない老人に、ワーロックは不安になった。
彼は唯の痴呆老人なのでは無いかと。
怪訝な顔をするワーロックに老人は言う。

 「私はノストラサッジオ……なのか?」

 「違……いや、違わないのか?
  ノストラサッジオは個人名では無い?」

そう言えばと、ワーロックはノストラサッジオに会ったばかりの頃を思い出す。
もう随分と昔の事だが、ノストラサッジオは本名では無いと言っていた様な気がする。
老人は難しい顔をするワーロックに、困惑した顔で告げた。

 「とにかく私がノストラサッジオなのだ。
  そして予知をするのだ。
  私はノストラサッジオ、予知……魔法使い。
  君はラヴィゾール。
  ここはマグマの拠点、そして私の部屋」

老人は正気か妄言かも判らない言葉を吐く。
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2019/12/02(月) 18:39:26.90ID:4vegiXHz
ワーロックは彼がノストラサッジオだとは認め難かった。
そこで一つ質問をする。

 「貴方の名前を教えて下さい」

 「私は……、私は……?
  思い出せない。
  私はノストラサッジオ。
  違う、ノストラサッジオは私の名前では無い……。
  それは予知魔法使いの名前だ」

老人は混乱して、何度も首を傾げていた。
彼はワーロックを見詰めて言う。

 「君の知っているノストラサッジオは死んだ。
  そして私が後を引き継いだ」

彼の口調はノストラサッジオの物に似ている。
それがワーロックには不気味だった。
ワーロックは師の言葉を思い出す。

――魔法使いは究極的には魔法その物になる。
――「魔法の使い」としての魔法使いになるのだ。
――魔法を使う者から、魔法その物、そして魔法に使われる者へ……。

ノストラサッジオも同じだったのかも知れないと、彼は思った。
長年予知魔法使いとして生きていたノストラサッジオも、昔は普通の人間で、ある時から目覚め、
この老人の様に人間から魔法使いに変わってしまったのだろうかと。
そして、漸く目の前の「新しいノストラサッジオ」を認める気持ちになって来た。

 「貴方が新しいノストラサッジオさん……と言う事ですか?」

ワーロックの問に、老人は大きく頷く。

 「どうやら、そう言う事らしい」
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2019/12/02(月) 18:39:46.12ID:4vegiXHz
ノストラサッジオが何を思って、この老人に予知魔法を託したのかは分からない。
何も老人でなくてもとワーロックは思ったが、その方が都合が好かったか、或いは何等かの条件に、
当て嵌まるのが、この老人しか居なかったのか?
とにかくノストラサッジオは代替わりした。
今まで彼が頼りにしていたノストラサッジオは、もう居ない。
それをワーロックは悲しんだ。
彼に対して、老人は訳知り顔で言う。

 「嘆く事は無い、ラヴィゾール。
  私はノストラサッジオ。
  前代と変わらず、何時でも君達の力になる」

その言葉はワーロックを一層悲しませた。
この老人は人間だった頃の意識を失っている。
それまでの生を捨て、新たな予知魔法使いに生まれ変わったのだ。

 (そう言う人間を選んだのか……)

生に未練の無い者だからこそ、ノストラサッジオの後継者になれた。
そうして「魔法」は存えるのだ。

 「私が貴方を新しいノストラサッジオさんと認めるのには、未だ少し時間が掛かりそうです」

ワーロックは正直に自分の思いをノストラサッジオに告げる。
彼が何と言った所で、この老人が新しいノストラサッジオと言う事実は変わらない。
マグマも老人をノストラサッジオと認め、以前と変わらず、利用しようとするだろう。
老人は淡々と答えた。

 「私達は又会う事になる。
  何時でも待っているよ」

それは予知だ。
ワーロックも新しいノストラサッジオを認めて、今までと同じ様に付き合う様になる。
今では無く、「将来」の話。
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2019/12/02(月) 18:40:53.20ID:4vegiXHz
魔法とは正に「魔の法」だ。
社会に安定を齎す筈の法に拠って生きる人が、法を尊ぶ剰りに、法に縛られ、法に狂わされ、
法の内で滅びるのと同じく、魔法も人を狂わせる。
魔法を使う者は、何時しか魔法が「法」である事を忘れて、魔法に傾倒し、魔法に全てを捧げる。
そうして自らの生き方と魔法を同一の物とし、自分自身の生き方を忘れてしまう。
魔法を便利な道具としか思っていない内は、魔法を極める事は出来ない。
しかし、魔法を極めようとすれば、何時しか魔法に狂わされる。
魔法を使う者、魔法を極めんとする者は、覚悟しなくてはならない。
その全てを魔法に捧げる積もりがあるのか否かを。
人の身を惜しんで魔法の神髄は得られず、幾つもの魔法を極めんとする者も又、その神髄には、
永遠に届かない事を覚悟しなければならない。
真の魔法を志す道は、正に魔道なのだ。
ワーロックも魔法使いである。
彼は――彼の魔法は、彼の生き方その物だ。
魔法使いの魔法とは、その様な物であるべきだと、彼は思っている。
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2019/12/04(水) 18:24:38.76ID:ojyX/Z+8
グランスールとゲヴェールト


第六魔法都市カターナにて


精霊魔法使いの女、通称「グランスール」は、カターナ地方で3匹の犬を拾った。
この3匹は、どうやら主に捨てられたか、主と逸れるかしてしまった物らしく、
野良犬と言うには上品だった。
この場合の上品とは、見た目の事もあるが、振る舞いも含める。
よく躾けられているのだ。
無駄に人に吠え掛かる事はせず、無闇に人に噛み付く事もせず、堂々と落ち着いている。
多少は動物とも意思の疎通が可能なグランスールは、3匹の犬から事情を聞いた。
犬達の語る所によると、3匹の飼い主は所謂「外道魔法使い」であり、その中でも特殊な物で、
複数の人格を持つらしい。
飼い主の別人格は冷酷で、犬達を道具としか思っておらず、粗雑な扱いをすると言う。
魔導師との戦いで、飼い主は行方を晦ましてしまい、どこに行ったのか分からなくなった。
しかし、3匹は捨てられたとは全く思っていない。
何時か、優しい主人が帰って来ると信じている。
その健気さに心を打たれ、グランスールは3匹の飼い主が見付かるまで、仮の飼い主となる事にした。
旅の身である彼女は、行方知れずの飼い主を探すのには、都合が好かった。
犬達も彼女を信用して、共に付いて行った。
犬達はグランスールを本当の飼い主の様に慕っていた。
普段は彼女の背後を守り、怪しい者が彼女に近付けば、守る様に間に入る。
グランスールは犬達に守られる度に、不要な事だと思いながらも、その忠実さには感心していた。
そして、事々に3匹の犬に言うのである。

 「こんな賢い子達を捨てる主人は居ないよ。
  生きていれば、絶対に探そうとする。
  そう遠くない内に会えるさ」
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2019/12/04(水) 18:25:05.19ID:ojyX/Z+8
グランスールが3匹の犬を拾ったのは、未だ反逆同盟が倒れる前の事だった。
だが、彼女と犬達の付き合いは数月で終わった。
魔導師会の執行者が、彼女の連れている犬に目を付けたのである。

 「そこの人!
  その犬達は、貴女の飼い犬ですか?」

元々魔導師会と関わり合いになりたくないグランスールは、内心で非常に面倒臭く不快に思った物の、
それは心の中だけに収めて、表面上は穏やかに対応する。
彼女の敵意を察して、犬達が前に出ようとしたが、それをグランスールは手振りで抑えた。

 「はい、そうです」

一時的とは言え、飼い主なのだから嘘では無い。
しかし、執行者は簡単には彼女を解放しない。

 「どこかで拾った犬ですか?」

 「どうして、そんな事を?」

飼育届が必要ならば面倒だなとグランスールは考えた。
彼女は旅の身を言い訳にすれば、見逃して貰えるかと言う計算を始める。

 「いえ、よく似た犬の捜索願が出ている物ですから。
  丁度、貴女が連れている様に3匹の」

 「誰から?」

 「そりゃ飼い主ですよ」

遂に、この時が来たかとグランスールは溜め息を吐いた。
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2019/12/04(水) 18:26:08.07ID:ojyX/Z+8
彼女は事実を認める。

 「確かに、この犬達は私が拾った物だ。
  飼い主が居なくて困っていた様だから、私が一時的に預かった」

それを聞いて、執行者は安堵した。

 「そうでしたか……。
  飼い主に確認を求めるので、直ぐ近くの支部まで来て貰えませんか?
  先ず間違い無いと思うんですが、人違いならぬ犬違いと言う事もありますので」

グランスールは共通魔法使いでは無いので、執行者の依願に裏が無いか警戒していたが、
執行者は困った顔で告げる。

 「そう時間は取りません。
  本当に唯確認するだけですので」

執行者の言葉に嘘は無いと認めた彼女は、大人しく彼に従った。
数点掛けて支部に着いたグランスールは、そこで青年ゲヴェールト・ブルーティクライトと会う。

 「フリンク、アインファッハ、クルーク!」

ゲヴェールトは3匹の犬を見るなり、それぞれに呼び掛けた。
犬達はグランスールの下を離れて、真っ直ぐ彼に駆け寄り、戯れ付く。

 「おぉ、良し良し!!
  御免よ、お前達。
  でも、もう大丈夫だ。
  お前達を酷い目に遭わせたりはしないよ。
  これからは、ずっと一緒だ」

ゲヴェールトは3匹を撫で回して抱き締める。
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2019/12/05(木) 18:39:54.24ID:QIl8ymJD
グランスールはゲヴェールトと飼い犬の姿を見て、寂しそうな顔をした。
無意識に、そんな顔をしてしまっていた。
やはり仮の飼い主より、本来の飼い主なのだ。
彼女の視線に気付いたゲヴェールトは、小さく一礼をする。

 「有り難う御座いました。
  貴女が私の犬を保護して下さったんですね」

 「ああ、良いよ、礼には及ばない」

グランスールは感情を覚られない様に、視線を逸らした。
そんな彼女をゲヴェールトは熟(じっ)と見詰める。
何を見ているのかと、グランスールは不機嫌を顔に表した。

 「何か?」

 「あっ、いえ、どこの方かなと思いまして」

グランスールはカターナ地方民にしては背が高く、顔付きも細面だ。
加えて、浅黒い肌に白い伝統文様の入れ墨をしているので、とても目立つ。
グランスールが眉間の皺を一層深くしたので、ゲヴェールトは慌てて謝罪した。

 「済みません、立ち入った事を……」

後ろ暗い事があると思われるのも嫌なので、グランスールは答える。

 「私は旅の身だ」

 「あ、そうでしたか……」

何と無く気不味い空気になり、2人は沈黙する。
0089創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 18:40:33.75ID:QIl8ymJD
執行者は何時の間にか立ち去っている。
これ以上は魔導師会が関与する事では無いと言う事なのだろう。
ここで別れても良いのだが、グランスールは一つ気になる事があった。

 「貴方、共通魔法使いじゃないの?」

 「あ、はい。
  血の魔法使いです」

 「どんな魔法?」

グランスールは完全に興味本位で尋ねる。
特に深い意味は無い。
ゲヴェールトは困った顔で答える。

 「血を飲んだ者を操ると言う……」

 「操る?」

 「えー、説明は難しいんですが、意識を乗っ取ると言うか、思い通りに動かすと言うか、
  そんな感じの……。
  血液自体を操る事も出来ます。
  自分の血しか操れませんけど」

 「ああ、そう言う魔法……。
  変わった魔法ね」

 「はい、中々使い所の無い魔法で……。
  あの、貴女も共通魔法使いではない……ですよね?」

ゲヴェールトの問い掛けに、グランスールは大きく頷いた。

 「私は精霊魔法使いだ」
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2019/12/05(木) 18:41:18.91ID:QIl8ymJD
精霊魔法使いと聞いて、ゲヴェールトは1人の男を思い浮かべる。

 「――と言う事は、コバルトゥスと言う方を知っていますか?」

 「ああ、私の弟だよ」

 「姉弟……?」

ゲヴェールトはグランスールの容姿を上から下まで見詰めた。
グランスールは又も眉を顰める。

 「どうした?」

 「あ、いえ、余り似てらっしゃらないなと」

 「血の繋がりは無いからね」

 「あっ、そうでしたか……」

気不味くなって俯くゲヴェールトを見て、グランスールは小さく笑った。

 「こらこら、変な誤解をするんじゃない。
  別に複雑な関係じゃない。
  少しの間、一緒に暮らしていただけの、姉弟みたいな関係ってだけさ」

 「あっ、そうでしたか……」

そこから再び重苦しい沈黙。
ゲヴェールトは咳払いを一つして、改めて礼を言う。

 「えー、この度は誠に有り難う御座いました。
  ……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
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2019/12/06(金) 20:02:40.09ID:j+kGzTZN
社交辞令に疎いグランスールは小さく笑って拒否した。

 「私の名前を知って、どうしようって言うんだい?
  私は別に感謝も礼も求めないよ」

 「ああ、いえ、そう言う事では無く……。
  又どこかで、お会いするかも知れませんから……」

グランスールは惚けて答える。

 「そんな予定は無いけれど」

 「予定とか、そう言う話でも無く……」

どこかで偶々会った時にでも、何か恩返しが出来ればとゲヴェールトは思っていたのだが、
彼女には全く気が無い様だったので、彼は小さく息を吐いて諦めた。

 「とにかく有り難う御座いました。
  この御恩は、『必ず』、お返しします」

グランスールは肩を竦めて苦笑い。

 「別に良いって言うのに」

そうして2人は別れた。
――しかし、直ぐに2人は再会する事になる。
グランスールは旅の身だが、金が無くては生きて行けない。
彼女の主な収入源は、直ぐに金の入る飛び入りの仕事だ。
例えば、夜のクラブで歌手やダンサーをしたり、狩猟や漁猟を手伝ったり、割と何でも出来る。
プロフィールは大体偽っている。
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2019/12/06(金) 20:03:00.16ID:j+kGzTZN
グランスールの実年齢は、明らかに人外だと言える程では無いが、少なくとも若くは無い。
だが、外見年齢は若い儘である。
これは多くの魔法使いと同じく、彼女も半精霊化している為だ。
飽くまで「半」であり、永遠の命を持っている訳では無い。
肉体を捨て去れば、永遠の命を持つ事も可能だが、それをしようとは全く思っていない。
それは彼女自身、自然の儘に生きる事が、精霊魔法使いのあるべき姿だと思っているからに、
他ならない。
グランスールはカターナの海で、海女達と共に漁業を手伝っていた。
彼女はカターナ地方に訪れる度、毎年の様に手伝っているので、既に地元の海女集団とは、
顔馴染みである。
精霊魔法を自在に使う彼女は、泳ぎが得意で、水にも慣れており、潜水時間も常人の3倍は長い。
グランスールが狙うのは大物だ。
普通の人では手が出せない、大型の魚介類を取る。
大体自分の体と同じ大きさまでなら、彼女は捕獲出来る。
中には人間を襲う危険な物も居るが、グランスールの敵では無い。
大きい物は調理も相応に大変だが、共通魔法があるので、処理には苦労しない。
人間が入れそうな程の、大きな壺貝を彼女が海から引き上げると、海女達の間で歓声が起きる。

 「ヒャー、大物だ!」

 「相変わらず、凄いねぇ!」

海女達の年齢幅は広い。
家業としている者もあれば、グランスールの様に臨時の収入に利用する者も居る。
危険が伴うので、人気の職業と言う訳では無いが、稼ぎは悪くなく、後継者も多い。
グランスールは海女達に笑い掛ける。

 「もっと沖に、この倍はある真珠貝を見付けたよ。
  もし大きな真珠が入ってたら、今晩は宴会だ」
0093創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 20:03:26.28ID:j+kGzTZN
若い海女達が態とらしい嬌声を上げる。

 「キャー、素敵!」

それに対してグランスールは大きな笑みを見せるが、一方で経験豊富な老齢の海女達は心配顔で、
彼女に警告した。

 「あんたの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けなよ」

 「心配御無用です。
  海は私の味方ですから」

精霊魔法使いである彼女にとって、自然は彼女の親しい友人だ。
大型の海獣も、荒れ狂う波も、彼女の敵では無い。
老齢の海女達もグランスールを「海に愛された者」だと認識していたので、諄くは言わなかった。
グランスールは海に飛び込んで、大きな真珠貝を獲りに行く。
普通の人間なら、潮に流されて帰れなくなる様な場所も、グランスールには問題無い。
流れに乗って、大きな真珠貝まで接近し、精霊魔法で岩の隙間から貝を引き抜く。
その瞬間を待っていた様に、大蛸が彼女の背後に現れた。
触手も含めると人間の倍の大きさはあろうと言う、正に大蛸。

 (おっとっと、横取りかな?
  人の獲物を奪ろうなんて、甘い甘い)

グランスールは一度敢えて貝を蛸に渡すと、精霊魔法「水の槍」で蛸の急所、両目の間を貫いた。
蛸は貝を抱いた儘、体色を淡くして即死する。

 (これぞ一石二鳥)

グランスールは蛸が巻き付いた貝を回収して、浅瀬へと泳ぐ。
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2019/12/07(土) 19:40:19.48ID:kvreI0PH
そこへ更に闖入者が現れる。
今度は海獺だ。
逸れ物が単独でグランスールの抱える獲物を狙っている。

 (人の獲物を横取りしようとは、感心しないね。
  自分の力で狩りをやらないと、女の子に持てないぞ)

彼女は内心で独り言ち、対処方法を思案する。
蛸は呉れてやっても良いのだが、これで人間を狙う事に味を占めて貰っても困る。

 (仕様が無い。
  痛い目を見て諦めて貰おう)

グランスールは海中で海獺と戦う決意をした。
先ずは精霊魔法で海流を局所的に変化させ、海獺の行動を制限する。
海獺は本能で海流が判るのだ。
目に見えているかの様に、海流の強い部分、弱い部分を見極められる。
そして、自然に体力の消耗が少ない進路を選択する。
海流を避けて回り込んで来る海獺に対し、グランスールは水槍の魔法で、その目を狙った。

 「アギャァアアッ!!」

両目を潰された海獺は、醜い叫び声を上げて怯む。
その隙にグランスールは浅瀬へと泳いだ。
海獺は暫く、その場で沼田打ち回っていたが、直ぐに回復して再びグランスールを追う。

 (執拗いなぁ。
  執念深い事が悪い訳じゃないけどね。
  これは愈々女の子に持てない奴の行動だよ)

頭の先が漸く水面から出る程度の浅瀬で、グランスールは再び海獺と対峙する。
0095創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 19:41:01.58ID:kvreI0PH
グランスールは貝と蛸を守りながら、海獺と戦わなくてはならない。
海獺の大きさは3身程。
海獣としては小さい方だが、脅威には変わり無い。
武器があっても、真面な人間では立ち向かえないのが、大海獣なのだ。
グランスールは水の中に潜り、水の刃で海獺を切り裂く。
しかし、体の表面を傷付けるだけで、大きな打撃は与えられない。
海獺の方は既に貝にも蛸にも興味が無く、邪魔者のグランスールを排除する事だけを考えている。
突進を繰り返す海獺を、グランスールは流れに身を任せて回避する。

 (早く諦めた方が身の為だぞ。
  疲れるのは、そちらが先だ)

その内に海獺は疲れて、グランスールを無視して、浅瀬で休憩を始めた。

 (あらら、これは困った。
  そんな所で待ち構えられていたら、陸に上がれないじゃないか……)

海獺は海獣だが、陸上でも十分な機動力を持つ。
やはり人間では敵わない。
グランスールは精霊魔法を使い、静かに雨雲を呼び寄せた。
数針は掛かるが、雨雲を呼んで落雷で海獺を仕留めようと言う計算だ。
徐々に冷たい風が吹き始める……。
その時、海岸に3匹の犬を連れたゲヴェールトが現れた。
犬達が海獺を取り囲んで吠え掛かり、その間にゲヴェールトはナイフで自らの腕を浅く切り、
出血させる。
彼は出血した儘で、海獺に接近して腕を振るい、血飛沫を浴びせた。
血飛沫を顔に受けた海獺は、直ぐに大人しくなって、ゲヴェールトに平伏する。
3匹の犬達は海獺から離れて、ゲヴェールトの周囲に戻った。
その後、ゲヴェールトは海獺に指示して、海の中に帰らせる。
彼が海を指差すと、海獺は海に飛び込み、その儘沖へ。
0096創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 19:42:05.44ID:kvreI0PH
その間にグランスールは貝と蛸を波打ち際に運んだ。
今まで遠巻きに彼女を見守っているだけだった海女達も、彼女を手伝いに駆け付ける。
貝と蛸は無事に陸上に引き上げられ、海獺が戻って来る事も無かった。
落ち着ける状況になったグランスールがゲヴェールトの様子を窺うと、彼は腕に包帯を巻いて、
愛犬達と退散しようとしていた。
お礼をしない訳には行かないだろうと、グランスールは彼を追う。

 「待って!」

呼び止められたゲヴェールトは振り返って、彼女と向き合った。
彼は気恥ずかしそうな笑みを浮かべて言う。

 「何か?」

 「助けてくれたでしょう?」

 「ああー、別に助けは必要無かったみたいですけどね。
  海辺を散歩していたら、偶々見掛けた物で。
  大事にするのも何だと思ったので」

空模様を見ながら話すゲヴェールトは、状況をよく理解していた。
彼はグランスールが雷雲を呼んでいる事、更に自分の手助けが必要無い事も知っていた。
グランスールは眉を顰めて問う。

 「恩返しの積もり?」

 「いえ、こんな物で返せたとは思っていません。
  あれは……魔法使いとしての自己紹介みたいな物でしょうか?
  私には、こう言う事が出来ますと言う……。
  私の能力が役立つ時に、貴女と偶然一緒に居る可能性は低いでしょうけど」
0097創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:28:27.23ID:UROJyp13
ゲヴェールトの透かした態度が気に食わず、グランスールは不機嫌な顔をする。

 「助けられたからには、お礼をしないと行けないんだけど」

 「いえ、結構です」

 「『結構です』じゃなくて、これは私の主義だよ」

 「でも、貴女も私の礼は要らないと言ったじゃないですか?
  お互いに礼を受け取る積もりが無いなら、それも対等って奴でしょう」

ゲヴェールトに言い包められて、グランスールは引き下がった。
グランスールとしては、恩は押し付ける物で、返す物では無いのだ。
よって、他人に恩を売られると、どこか据わりが悪くなる。
それは単なる我が儘だ。
去ろうとするゲヴェールトをグランスールは再び呼び止める。

 「待て、名前を聞いていなかった」

ゲヴェールトは足を止めて振り返った。

 「ゲヴェールト。
  ゲヴェールト・シュトルツ・ブルーティクライト」

 「エグゼラ地方の生まれ?」

 「ああ、ティナー地方寄りの南部の生まれだ」

グランスールは頷いて、自分も名乗る。
「グランスール」と言う通称では無い、本当の名前を。

 「私はフィジア。
  カターナ地方の生まれ」
0098創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:29:30.74ID:UROJyp13
ゲヴェールトは彼女の名前を確認する様に、自分でも口にした。

 「フィジア……。
  名字は?」

 「無い。
  私は自然の中で生きる物。
  個体の識別としての名はあれど、所属を示す名字を持たない。
  最も古く、伝統的な精霊魔法使い。
  貴方が犬達に名字を付けないのと同じく、私達は自然の中では犬達と同じ。
  誰も何も区別しない」

精霊魔法使いとは面倒臭い物だとゲヴェールトは思うが、口には出さない。

 「そ、そうですか……」

 「敢えて言うならば、『精霊魔法使い<エレメンタル・マスター>』と。
  精霊魔法使いのフィジア。
  そう憶えて欲しい」

 「解りました、フィジアさん」

 「有り難う、ゲヴェールト。
  それともシュトルツ?」

 「あ、ゲヴェールトで大丈夫です。
  ミドルネームで呼ばれる事は余り無いので……」

 「そう。
  それじゃあ、又どこかで」

お互いに名前を確認すると、グランスールは再会を予感させる言葉を告げて、背を向けた。
0099創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:30:15.95ID:UROJyp13
グランスールは海女達の集団に戻る。
海女達は既に海岸から離れた場所で、大物の解体を始めていた。
若い子達は戻って来たグランスールに、ゲヴェールトの事を尋ねる。

 「姉さん、姉さん、あの人誰?」

 「誰って、只の顔見知りだよ」

若い子は色恋の香りに敏感なのだ。
年頃の男女が一緒に居れば、先ず関係を疑う。

 「嘘だー!
  そんな感じじゃなかったよ」

 「嘘って言われても」

グランスールは苦笑して、全く動揺を見せない。
若い子等は露骨に残念がる。

 「違うのかぁ……」

 「何だい、君達?
  君達こそ彼が気になるのか?」

若い子等は顔を見合わせ、小さく笑った。

 「気にならない訳じゃないけど……」

 「でも、そこまで気にする程じゃないって言うか?」

曖昧な返答にグランスールは眉を顰め、話を切り替える。

 「それより、真珠貝は?」
0100創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:41:21.26ID:bNDOCGha
年配の海女達は真珠貝の口を開けて、中身を取り出していた。

 「ほれ、大物だ」

拳大の真珠が2つ、3つと転がり出て来る。
若い海女達は目を輝かせて、真珠を手に取る。

 「わー、綺麗!」

それを年配の海女の一人が窘める。

 「これこれ、獲物を取ったのは、『姉<スー>』ちゃんだよ」

若い子等は揃ってグランスールを見た。

 「あっ、御免なさい……」

グランスールは小さく笑って許す。

 「良いよ。
  どうせ売ってしまうんだし。
  売り上げは皆で分けるんだし。
  今の内に、好きなだけ眺めときなよ」

彼女は形の残る物に頓着しない。
それが精霊魔法使いとして、あるべき姿だから。
精霊は基本的に見えないが、その存在は感じられる。
見える物ばかりに囚われていては、精霊には気付けない。
しかし、全く物欲が無い訳では無い。
価値観が一般的な人とは少し違うだけだ。
0101創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:43:53.28ID:bNDOCGha
貝も蛸も、身をその場で捌き、肉は凍らせて売り物に。
腐り易い内臓は、その場で処分する。
可食部は火を通して食べ、どうしても食べられない部分は廃棄する。
他の海女達が獲った魚介類も、同様に処理して行く。
若い子等は処理に手間取るが、年配の者達は手早い。
小物でも大物でも、あっと言う間に処理が終わる。
グランスールも手慣れた物で、精霊魔法を使った処理技術は見事の一言。
利き手の指先に刃を宿らせ、魚の腹を切り裂くと、内臓を掻き出す。
その間、魚を押さえる手には、冷気を宿らせ、鮮度を落とさない。
捌き終われば、運搬に困らない程度の大きさに切り分け、洗浄した冷海水に漬けて身を締める。
これを市内の魚市場に卸すのだ。
一通りの作業を終えた後、一人の若い海女がグランスールに話し掛けた。

 「あっ、姉さん、今更なんですけど……」

 「どうしたの?」

 「あの人に、お礼しなくて良かったんですか?」

グランスールは眉を顰めて答える。

 「要らないってさ」

 「はぁ、変わった人ですね」

 「……ああ言うの、私は嫌い」

グランスールが人間の好き嫌いを口にした事に、若い海女は驚いた。
0102創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:45:05.28ID:bNDOCGha
グランスールは人当たりが好く、誰かの悪口を言う事は無かった。

 「あの人と何かあったんですか?」

至極当然の疑問に、グランスールは飄々と答える。

 「お礼をすると言ったのに、断られた。
  好意を無下にされれば、誰だって良い気はしない」

 「あれじゃないですか?
  都市警察だとか、執行者だとか?
  市民から、お礼を貰えないって言う」

 「そうでは無いから不満なのだ」

 「それじゃあ……。
  下心があると思われたから?」

 「警戒された訳でも無い。
  ――と言うか、そんな風に見えるのか?」

男を取って食う様な女に見えるのかと、グランスールは若い海女に尋ねた。
若い海女は苦笑いして、正直な印象を述べる。

 「見えない事も無いですよ。
  堂々としてますし、下手な男の人より強そうで。
  如何にも肉食系って感じ」

 「……とにかく、それは関係無い。
  もう、この話は良いだろう」

 「好意に甘えてくれる人の方が好きなんですか?」

 「そう言う訳でも無い。
  嫌いと言うのも、心の底から嫌だとか、そこまでの話では無い」

分からない人だなと若い海女は小首を傾げるばかりだった。
0104創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 19:32:05.29ID:JrDjsPxu
童話「運命の子」シリーズA 奇跡の者

『王位禅譲<スローン・インヘリタンス>』編


南西の国で悪魔を退治したクローテルのうわさは、アーク国にも届きました。
いよいよ彼こそ本物の神の子では無いかと、アーク国中で語られる様になります。
それから間も無く、ルクル国のマルコ王子とオリン国のアレクス王子とアーク国のヴィルト王子が、
3人で秘密の約束をします。
それはクローテルを新たな王、それもアーク国だけでなく、全ての国を治める王の中の王として、
迎えようと言う物です。
しかし、アーク国の王は王位をゆずるつもりはありませんでした。
多くの国をまとめるのは自分以外に無いと思っていました。
クローテルが王になると言う話は、未だ先の事だったはずですが、そこに教会も加わって、
話はますます複雑になります。
教会の中で熱心な信仰心を持つ集まりは、クローテルを次の王にしようと考えていました。
その中心にあったのが、司祭の娘のシスター・ローラです。
彼女はクローテルが神の子であると、早くから知っていました。
そして彼の勇ましいうわさが広まる度に、その確信を深めて行きました。
多くの出来事が一つの輪となり、クローテルを新しい王に選び出そうとしていました。
0105創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 19:34:05.98ID:JrDjsPxu
時は流れ、クローテルは19才になりました。
オリン国は非公式ながらクローテルを王にする事を認める予定でした。
ルクル国も同じく、また他のほとんどの国でもクローテルと言う神の子を王の中の王、
新しい神王として正式に認める事に反対しないつもりでした。
ただアーク国王と一部の教会の者だけは認めるつもりがありませんでした。
ある時クローテルは王に呼び出されて、こう告げられます。

 「クローテルよ。
  世間では、そなたこそが王になるべきだと考える者が居る様だ」

 「その様なつもりはありません」

 「それならば良いが、本当に王にはならぬのか?
  心のどこかでは、王になる日を待ち望んでいるのではないか?」

疑り深いアーク国王にクローテルははっきり言いました。

 「私が王になるとすれば、それは運命に導かれた時です」

これにアーク国王はおどろいて、クローテルを問いつめます。

 「お前は自分が王になると思っているのか!?」

 「それは分かりません。
  もし、そうなる時が来たらと言う事です」

 「王になる者は高貴な血統でなくてはならぬ。
  クローテル、お前には神器を……」

そこでアーク国王は言葉につまってしまいました。
0106創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 19:37:32.43ID:JrDjsPxu
うわさが正しければ、クローテルは神器を使えるのです。
アーク国王を聖槍家当主たらしめている物は、神槍コー・シアーを使えると言う事実です。
だからクローテルも神器を使えるのであれば、彼を王と認めざるを得ないのです。
そして、もしクローテルを王に選ぼうと言う者があれば、神器を使える事を証明させるでしょう。
クローテルはアーク国王に言います。

 「全ては運命です。
  私が王となるもならないも、その中での出来事です。
  私は聖騎士として多くの物を見て来ました。
  多くの悲しい出来事をありました。
  私は王となる運命が来たら、それを受け入れようと思っています。
  そして……」

 「いや、もう良い!
  何も言うな!」

アーク国王はクローテルの澄んだ目に耐えられなくなり、彼の言葉を止めました。

 「お前は王と言う物を知らぬのだ。
  王になると言う事は、権力を得る事。
  そして権力には誘惑がつきまとう。
  お前は……、お前ははかりごとばかりの世界で生きて行くには若すぎる」

 「陛下、私には人の心が見えます。
  陛下の王国の行く末をうれう心が分かります。
  しかし、陛下、私はアーク国の王、一国の統治者になるのではありません。
  あなたを王位から追い落とすつもりもありません。
  私には、より大きな使命の様な物が見えるのです。
  私には政治は分かりません。
  国家を統治する事は出来ないでしょう」

クローテルの瞳は白く、まるで全てを見通しているかの様です。
アーク国王はクローテルのまなざしにふるえました。
0107創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:06:30.78ID:3N9HrvLf
アーク国王は恐れを隠す様に、怒りと見下しの目を向けてクローテルに言います。

 「ハハ、ハハハ……!
  統治せぬ王は王では無い!
  王とは君臨する者の事だ!」

何も答えないクローテルに王は独り演説を続けました。

 「人民とは正にアリの様な物。
  欲のままに甘味にたかり、少し小突かれただけで、おどろき逃げ惑う。
  それをまとめ上げ、従えるのが王の役割。
  人の本性はけだものだ。
  王の法の下、罪には罰を与え、功に報いる事によって、ようやく人になる。
  人を人にする事、これもまた王の使命」

 「本当に、そうなのでしょうか?
  人の本性はけだものでしか無いのでしょうか?」

クローテルの問いかけに、王は自信を深めて答えます。

 「そうでなければ法と言う首輪は必要あるまい。
  世の全ては、必要があって、そうなっているのだ。
  王も教会も貴族も騎士も商人も農民も。
  それは精巧な細工のごとく、どれが欠けても崩壊する」

 「分かります。
  しかし、今の世のあり様を見ても神王は不要だとおっしゃるのですか?」

 「神の存在は人には余りにもまぶしすぎる。
  どこまでも人は人でしかなく、完璧にはなれぬ。
  だから人は神より王を求めるのだ」

王は自分を正当化して、クローテルを言い負かしたつもりになっていました。
0108創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:07:57.86ID:3N9HrvLf
しかし、クローテルは動じません。

 「それも真実なのでしょう。
  しかし、あなたは知っています。
  今の世が決して平穏なままでは無い事を。
  何者の支配も永久ならざる物だと言う事を。
  ただ神を除いて」

 「お前ごときが神を語るのか!?」

 「いいえ、私は神ではありませんし、神意を知る事も出来ません。
  それでも神の御業を感じる事は出来ます。
  もし私が王となるならば、それは運命によってです。
  あなたが善き王であり、善く支配し、善く人々に支えられるのであれば、運命が私を選ぶ事は、
  無いでしょう」

その言葉に王は再び恐れを感じました。
彼は自分が善き王である自信が無かったのです。
その夜、アーク国王は教会で司教達と司祭達を集めました。
そして、こう言ったのです。

 「このままでは聖騎士クローテルが王になってしまう。
  それも、ただの王ではない。
  王の中の王、世界を統べる神王だ」

司教達と司祭達はとまどっていました。
一人の司教が王をなだめます。

 「陛下、何を恐れる事がありましょう。
  あなた様はアーク国の王なのです」
0109創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:09:48.64ID:3N9HrvLf
それに対して王は激怒しました。

 「何だと、貴様!
  私が若僧を恐れていると言うのか!」

司教は失言に気づいて平謝りします。

 「も、申しわけございません……」

しかし、王は怒りが収まりません。

 「それが貴様の本心なのだな!
  私が若僧ごときを恐れていると、心の中で笑っているのか!!」

他の司教達や司祭達は口を閉ざしました。
王は我に返って、ようやく怒りを静めます。

 「とにかくクローテルを神王とは認めない様に。
  今の時代に神王は不要なのだ。
  これまで私達は上手くやって来た。
  そうであろう?」

司教達と司祭達は同意せずに沈黙しました。
これに不満を持った王は、翌日にアーク国と周辺国の貴族を呼び寄せて、同じ様な会合を開きます。
ただクローテルだけは会合に呼びませんでした。
そして王は貴族達にもクローテルを神王と認めない様に迫りました。

 「諸君、よく集まってくれた。
  話と言うのは最近の一部の貴族や教会の不穏な動きについてだ。
  どうやら聖騎士クローテルを神王として認めようと言う動きがある様なのだ」
0110創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 11:10:00.64ID:iUyqOuVb
ハツカネズミのジョニー「 あーカユカユ &#12316;背中がかゆいわ&#12316;、何でやろな?お前のせいやわ」
0111創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:57:43.04ID:zx+tRPXy
貴族達はおどろいて顔を見合わせました。

 「何とおそれ多い。
  一体誰が、その様な……」

 「王子達が秘密の会合で決めたのだ。
  ルクルとオリンの王子も参加していたと言う」

王の発言に貴族達はまたもおどろきます。

 「ヴィルト王子もですか!?」

1人の貴族が放った言葉に対して、王は答えませんでしたが、その顔は強張っていました。
それだけで貴族達は事情を察しました。
また別の貴族がアーク国王に問いかけます。

 「教会は何と言っているのでしょうか?」

 「やつ等は当てにならぬ。
  やつ等にとっては王や貴族より神だ。
  神を持ち出されれば従わざるを得ぬ」

王が何を言っているのか、貴族達は分かりませんでした。
王はつまり、クローテルには神がついていると言っているのです。
また別の貴族の1人がアーク国王にたずねました。

 「クローテルとは何者なのですか?」

そう聞かれて、王は黙ってしまいました。
クローテルについて何を言っても、彼の名誉をたたえる事になってしまいます。
貴族達もクローテルのうわさについては知っています。
うそやごまかしは通じません。
0112創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:58:20.16ID:zx+tRPXy
アーク国王は、事実を言う事しか出来ませんでした。

 「得体の知れない男だ。
  もしかしたら人間では無いのかも知れぬ」

それを聞いた貴族達は声をそろえて言います。

 「悪魔審問だ!
  教会に悪魔審問会を開かせれば良いではありませんか!」

貴族達の威勢にアーク国王はおびえました。
もしクローテルが悪魔審問を乗り越えてしまえば、もう彼を責める事が出来なくなります。
アーク国王は苦しまぎれに言いました。

 「いや、教会も信用ならぬ」

そこまで事態は深刻なのかと、貴族達は顔を見合わせました。
沈黙の中で、また1人の貴族が言います。

 「それならば、神器の審判を受けさせましょう。
  悪魔も神器からは逃れられますまい」

それは名案だと他の貴族達も賛成します。

 「他の国にも呼びかけましょう。
  公の場でクローテルの正体を暴くのです」

再び勢いを増した貴族達に、アーク国王は参ってしまいました。
もしクローテルが、それさえも乗り越えてしまったら、もう止める事は出来ません。
誰もがクローテルを神の申し子と認めてしまうでしょう。
0113創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:59:14.65ID:zx+tRPXy
アーク国王は何とか貴族達を抑えようと、呼びかけました。

 「待て待て、はやってはいかん。
  落ち着くのだ。
  神器は神聖な物。
  そうみだりに神器を持ち出すわけにもいかんのだ」

王の発言に貴族達は不満そうな顔をします。
一体何をためらっているのかと、みんな不思議でならないのです。
王の命令があれば、神器を持ち出す事は難しくありません。
いつも式典でヴィルト王子に持たせているのですから。
貴族達の疑いの目に、アーク国王はひるみました。
貴族達はうったえます。

 「教会もむしばまれているとなれば、これは国の一大事。
  すぐに手を打たねばなりません」

 「そうです。
  誤解なら誤解で良いではありませんか?」

アーク国王は弱気になり、貴族達に問いかけました。

 「本当に良いのか?
  もしクローテルが神器の試練に堪えれば、神王となるかも知れぬのだぞ。
  その時にクローテルが何をするのか分からぬのだ。
  貴族の権威をおびやかすかも知れぬ」

貴族達は顔を見合わせ、少し迷いました。

 「しかし、このまま見過ごすわけにはいかないでしょう」

 「もしクローテルが悪魔の手先ならば、この国はどうなるのですか?
  神王になるならないは、後の話。
  まずは白黒はっきりさせるべきです」

アーク国王は何も言い返せませんでした。
心なしか貴族達の目が冷たく感じられます。
それは決断出来ない国王を批難しているかの様でした。
0114創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:21:29.72ID:6s/lxUJ/
アーク国王の心配をよそに、クローテルに対して悪魔審問会が開かれる事になりました。
しかも、教会の行う物では無く、アーク国・オリン国・ルクル国が協力し、多くの貴族と国民の前で、
公開されるのです。
アーク国の大聖堂で、その悪魔審問会は開かれました。
悪魔審問会としか聞かされていない多くの貴族や国民は、英雄である聖騎士クローテルが、
一体どうなってしまうのかと、ある者は興味本位で、ある者は暗いねたみをこめて、
ある者は本気で彼を心配して、審問会の行く末を見守っていました。
しかし、ルクル国の国王夫妻と王子、そしてオリン国の公王と王子、そして教会の一部の者だけは、
この審問会が持つ真の意味を理解していました。
聖騎士にして子爵クローテルが被告人席に上がって、聖堂内がざわつきます。
その後に教会の中でクローテルに不信感を持つ派閥の審問官が3人登場して、被告人席を囲みます。

 「これより悪魔審問を開始する!」

罰棒を持った3人は、杖で聖堂の床をドンドンと叩き、厳しい声で宣言しました。

 「なんじ、クローテル!
  そなたには悪魔つきの嫌疑がかけられている!
  この審問会は、その疑いを晴らすためにある!」

 「神聖なる心でのぞめ!
  決していつわりをのべる事は許されぬ!」

 「聖なる宣誓文を読み上げよ!」

審問官に言われた通り、クローテルは宣誓文を読み上げます。

 「私は神の愛し子として、自らの良心に従い、真実のみをのべ、いつわりを口にせぬ事を誓います」

 「よろしい!
  では、尋問から始める!」
0115創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:21:55.25ID:6s/lxUJ/
クローテルの宣誓の後に、審問官はクローテルを問い質します。

 「クローテルよ、そなたは神を信じているか?」

 「分かりません」

その答えに3人の審問官はぎょっとしました。

 「分からぬとは何事かっ!!」

 「この神国に生まれながら、神を感じた事は無いと言うのかっ!!」

審問官達の怒りにもひるまず、クローテルは答えます。

 「はい。
  神の教えは理解しています。
  この世の全ての理を創造された方だと。
  しかし、世に満ちる理の神秘を感じる事はあっても、神の心、神意を感じた事はありません。
  故に、それを信じて良い物か分からないのです」

審問官は彼をあわれみました。

 「世の全ては神の計らいである。
  そなたが今日まで生き、その勇名をはせたのも、今まさに審問の場にあるのも。
  自然の物、全てが神意である」

 「それでは、世の幸不幸も?」

 「しかり。
  全ては神の差配である」

 「聖書には、そうは書いてありませんでした。
  神は姿を隠したために、世の幸不幸は人の差配であると。
  もし人の世が多くの者の望まざる物でありながら、人の手ではおよばぬ程に乱れた時、
  初めて神は御手を差し伸べられると」
0116創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:22:56.19ID:6s/lxUJ/
審問官は口をつぐみます。
クローテルはなおも聖書の言葉を続けました。

 「神は私達の支配者ではなく、私達を支配する事もしないと。
  それは喜ばしい事でもあり、悲しむべき事でもあると。
  運命はただ一つの事を除いて、全てはまやかしであると」

彼の堂々とした語りは、まるで神の言葉の様でした。
審問官だけでなく、多くの聴衆も彼の言葉に聞き入っていました。

 「聖書の言葉は正しいと思います。
  しかし、私は神を信じて良いのか迷っています。
  何故なら今、私の目の前に運命があるからです。
  それが本物かまやかしの物か、分からないのです。
  審問官よ、お答え下さい。
  『これ』は運命ですか?」

クローテルの問いかけに、審問官は我に返って答えました。

 「しかり。
  これは運命である。
  そなたは運命に測られている」

 「残念ながら、尋問にて熱心な信仰心は認められなかった!
  しかし、邪悪な物と断ずる事は早計と考える!」

 「これより聖別の儀を行う!
  聖十字十芒星章を持て!
  聖水と聖油による清めを受けよ!」

審問官達が要求すると、3人のシスターが聖具を持って現れます。
0117創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:30:00.15ID:iQ/He6wx
1人は聖なる紋章を、残りの2人は聖水と聖油を持っていました。
3人の審問官は、ぞれぞれ聖具を受け取ると、クローテルに向かって言います。

 「もし、そなたが悪魔なら、聖なる物に何がしかの反応を示すだろう」

クローテルは全く何の反応もしませんでした。
審問官の1人がクローテルに、聖なる紋章を突き付けます。

 「邪悪なる物よ、退け!」

聖なる力で紋章はまばゆくかがやき始めましたが、クローテルはまばたき一つせずに、
まっすぐ見つめていました。
審問官は低くうなり始めます。

 「う、ううむ……」

 「次は私が」

もう1人の審問官が、聖水の入ったビンを持って進み出ました。
彼は聖水を自らの手に少しかけます。

 「これは聖水である。
  この様に普通の人間には効かないが、悪魔や悪魔つきが浴びると、やけどの様になる。
  被告クローテル、両手を差し出すのだ」

クローテルは言われるままに両手を前に差し出しました。
審問官は手に聖水をかけます。
クローテルは無表情のままでした。

 「……効かない様だな」

聖水を持った審問官が引き下がると、最後の審問官が聖油を持って進み出ました。
0118創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:30:56.40ID:iQ/He6wx
 「クローテルよ、聖油は悪しき物を退け、万病をいやす。
  敬けんな心を持って、こうべをたれよ」

審問官は聖油の入ったビンを開けて、頭を下げたクローテルの上にたらしました。
やはりクローテルは何ともありません。
審問官達は顔を見合わせて、首を横に振りました。

 「なんじ、クローテル。
  そなたに魔性は認められなかった。
  しかし、信仰心あつき敬けんな信徒とも言い難い」

 「すなわち、そなたは一般的な、あるいは大きなとがめ無き者と変わらぬ存在かも知れぬと言う事。
  聖騎士の号(よびな)は聖性のある者にしか認められぬ」

 「これより、なんじの聖を見る。
  そなたに聖性が認められなかった場合、聖騎士の号をはく奪する」

そう言って、悪魔審問官達は下がりました。

 「神器の審判を始める!
  神器は聖職者であっても、みだりに手に出来る物では無い。
  だが、幸いにして、この場には神器の継承者であらせられる王子達がおわせられる。
  聖なる者の選定は聖なる者によって行われるべし。
  どうぞ、お出でになられます様、お願い申し上げます」

それに応じて、ルクル国のマルコ王子とオリン国のアレクス王子、そしてアーク国のヴィルト王子が、
席を立って、クローテルの前に立ちました。
マルコ王子の手には旗が、アレクス王子の手には盾が、ヴィルト王子の手には槍があります。
0119創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:32:05.67ID:iQ/He6wx
3人は声をそろえて言いました。

 「なんじ、聖騎士クローテル!
  これより我等3人が、そなたの聖性を見る!
  神器の審判を受けよ!」

そしてアレクス王子が最初に一歩進み出ます。

 「我がオリン国に伝わるは神盾セーヴァス・ロコ!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる盾がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が盾を持て!」

アレクス王子に命令されて、悪魔審問官の1人が盾を持とうとします。
しかし、審問官が盾を受け取ると、見る見る盾は重くなり、審問官は立っていられなくなりました。
審問官は盾を落とさない様にするのがせいぜいで、その場にうずくまってしまいます。

 「おお、まさしく神器……。
  選ばれし者にしか持つ事を許されぬ物……」

アレクス王子は審問官から盾を取り上げると、改めてクローテルと向き合います。

 「クローテル殿、盾をお持ち下さい」

クローテルはアレクス王子から盾を受け取りました。
盾は少しも重たくなく、まるで軽木の様な軽さです。
クローテルは盾を持ち、両手で高くかかげました。

 「そして身に着けるのです」

アレクス王子に言われた通り、クローテルは盾を左手に装着しました。
そうすると、盾がまばゆくかがやき始めます。
アレクス王子は聖堂中に大声で宣言しました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0120創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:25:27.53ID:IynuwEX1
クローテルに盾を返してもらいアレクス王子は下がります。
次にマルコ王子がクローテルの前に立ちました。

 「我がルクル国に伝わるは神旗マスタリー・フラグ!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる旗がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が旗を持て!」

マルコ王子に命令されて、悪魔審問官の1人が旗を持ちます。
盾の時とは違って、旗が重くて持てないと言う事はありませんでした。
続けてマルコ王子は命じます。

 「ひもを解き、旗を立てよ。
  正しき信仰心が風を呼び、旗をたなびかせる」

審問官は旗を広げて立てましたが、聖堂の中では風が吹くはずも無く、だらりと旗はたれ下がります。
マルコ王子は審問官から旗を返してもらい、自ら神器の神秘を見せました。

 「正しき者が持ては、こうなるのだ」

マルコ王子が旗を立てると、どこからとも無くさわやかな風が吹いて、旗をたなびかせました。
審判を見物に集まっていた人々は、神器の神秘を見ておどろきます。
マルコ王子が旗を下ろしてたたむと、風は少しずつないで収まりました。

 「それではクローテル殿」

マルコ王子はクローテルに旗を差し出します。
クローテルは旗を広げて立てました。
そうすると、マルコ王子の時と同じ様に、どこからとも無く風が吹いて、旗をたなびかせます。
マルコ王子は聖堂中に大声で宣言しました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0121創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:26:00.11ID:IynuwEX1
クローテルに旗を返してもらい、マルコ王子も下がります。
最後にヴィルト王子がクローテルの前に立ちました。

 「我がアーク国に伝わるは神槍コー・シアー!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる槍がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が槍を持て!」

ヴィルト王子に命令されて、悪魔審問官の1人が槍を持とうとします。
しかし、審問官が槍を受け取ると、見る見る槍は重くなり、審問官は立っていられなくなりました。
審問官は槍を落とさない様にするのがせいぜいで、その場にうずくまってしまいます。

 「おお、まさしく神器……。
  選ばれし者にしか持つ事を許されぬ物……」

ヴィルト王子は審問官から槍を取り上げると、改めてクローテルと向き合います。

 「クローテル殿、槍をお持ち下さい」

その時、たまらずアーク国王が立ち上がりました。
このままではクローテルが神王になってしまうのです。

 「待て!!」

アーク国王は自ら審問の場に出て、ヴィルト王子から槍を取り上げました。

 「神槍は盾や槍とは違う!!
  これはおそろしい神器だ!!
  みだりに他者に持たせるでない!!」

 「父上……いえ、陛下、審判のさまたげになります。
  お下がり下さい。
  ご心配にはおよびません。
  邪心ある者に神器は使えないのです」
0122創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:26:59.65ID:IynuwEX1
ヴィルト王子は落ち着いて言いましたが、アーク国王はうろたえて言いました。

 「く、来るな!」

アーク国王は神器の先をヴィルト王子に向けます。
それと同時に、アーク国王の手の中で、槍が重くなって行きました。

 「な、何だと!?」

アーク国王はあせりました。
神器が王を見放したのです。
それをさとられまいと、アーク国王は必死に槍を持ち続けました。
しかし、どんどん重さは増して行きます。

 「陛下……」

ヴィルト王子の目にはあわれみが表れていました。
他の者に分からない様にと、ヴィルト王子はアーク国王から槍を取り上げます。

 「お下がり下さい、陛下。
  今は神聖な審判の最中です」

アーク国王はただ審判を見届けるしかありませんでした。
ヴィルト王子は改めてクローテルに神槍を差し出します。

 「クローテル殿、槍を」

クローテルは槍を受け取って、高くかかげました。
槍はまばゆくかがやき、聖堂中を照らします。
ヴィルト王子は大声で言いました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0123創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 19:24:27.68ID:+3AiWON8
3人の王子は神器をかかげて声をそろえ言いました。

 「我等は彼こそ神なる王と認める!
  教会よ、今こそ選定の時」

神器を持ち出されては、教会も従わざるを得ません。
そのまま大聖堂で神王選定が始まります。
アーク国王は頭を抱えました。

 「あぁ、聖君……。
  やつが本物の聖君なのか?
  わしには何も分からぬ……」

教会の者達も、ここで聖君の選定を行うとは思っていなかったので、どよめきました。
しかし、王子達は本気です。
神器がクローテルを選んだ以上、もう彼を否定する事は出来ません。
教皇と司教達は協議を始めました。
王子達は、その様子をじっと見守っています。
王子達をいつまでも待たせるわけにも行かず、教皇がクローテルの前に立ちました。

 「なんじ、クローテル。
  そなたは神器に選ばれし者。
  教会は、そなたを神王になるべき者と認める。
  ……ただ、神王選定の儀は神聖にして厳なる物。
  後日、正式に神王選定の儀を行う場を設けたい」

クローテルは困った顔をして問います。

 「いつですか?」

 「そう遠くない日。
  遅くとも今年中と約束しよう」
0124創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 19:25:32.14ID:+3AiWON8
教皇の話を聞いて、クローテルはうなずきました。

 「分かりました」

王子達は神器を下ろして、再び宣言します。

 「我等、神器の後継者、神聖十騎士となり、神王に仕える!
  全ての神器は今再び1人の主の下に!」

大聖堂は歓声に包まれました。
先代神王の死後、ばらばらだった各国が、今こそ1人の王の下で、1つになるのです。
そして――……、それから3月の後に、再び大聖堂で神王選定の儀が開かれました。
そこには次世代の新たな十騎士も集まっています。
祈り子長、軍師、従者、御者、槍持ち、盾持ち、旗手、袋笛吹き、鳴鐘者、将軍。
教皇は各国の代表者の前で、クローテルを神王だと宣言します。

 「この者、神器に選ばれし者、クローテル。
  神王としての名はジャッジャス。
  神王の下、今ここに神聖アーク国がよみがえる」

クローテルは教皇に認定されて、正式に神王となりました。
彼は新しい聖君として、信仰心が失われて乱れた世界を再興させるのです。
その後、多くの国が、ただ1人の真なる王を認めて、その下に集いました。
クローテルは治める国を持たない王を統べる王となって、神意の象徴として多くの国を従え、
神聖アーク国を築きました。
0125創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 19:26:39.59ID:+3AiWON8
解説


これにて運命の子シリーズの第2章は終わる。
第2章はシリーズ的に最も人気があり、作者としては、ここでの完結も視野に入れられていた様だが、
読者の続編を望む声に応える形で、第3章の執筆が決定する。
この後、シリーズ第3章では、未だにクローテルを認めない者や、聖君を戴く事その物を認めない、
守旧派との国家統一戦争に移る。
しかし、3章は神器を持ったクローテルの一方的な粛清と言う面が強くなる上に、政治闘争も増え、
面白味が無く、シリーズの人気は低迷する事となった。
第4章にて、幾らか人気を盛り返すも、今度も政治的な要素が絡んだ為に、人気回復には至らず。
多くの少年少女読者は、竜退治や悪魔退治の様な、冒険要素を求めていたのである。
0126創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 18:38:24.56ID:J8fAN70T
商業的な話は扨て措き、本編の解説に移る。
この話ではアーク国王の愚かさが強調されているが、原典は輪を掛けて酷い。
焦る余りに、教会にも貴族にも失望されて、孤立してしまう。
権力に固執する人間とは、この様な物だと言う、旧暦の統治者への批判だろうか?
しかし、アーク国王の悩みも、尤もな物ではある。
クローテルには政治は難しいだろうとは、誰もが思う事だ。
権力闘争、派閥作り、根回し等とは、全く無縁の人物に思われる。
これは旧暦の政治制度の腐敗が原因と見られている。
詰まり、人々は統治者である王や貴族が、国民や領民の為では無く、自分達の利益の為だけに、
行動すると思っており、それ等を超越して、絶対的な正しさを以って、全てを公平に裁いてくれる、
神王を欲したのだ。
それが後々の悲劇に繋がるのだが……。
アーク国王の言う通り、人に神は眩し過ぎたと言う事なのだろう。
0127創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 18:42:28.58ID:J8fAN70T
作中で登場した悪魔審問官は、人に紛れた悪魔を裁く者達だ。
しかし、活躍した記録は殆ど無い。
これは悪魔審問官の権限が原因である。
先ず審問には教会の許可が必要で、更に平民を裁くにも領主の了承が必要で、更に貴族を裁くには、
王や周辺の貴族の了承が必要だった。
よって、殆ど活躍の機会が無い、閑職も同然の機関だったのだ。
一応、その役目は果たせる様になっているが、悪魔を退治したと言う記録は殆ど無い。
「殆ど」なので、何点かは見付かっているのだが、正確性と具体性と信憑性に欠けるのである。
未だ史料が発見されていないだけと言う可能性も、勿論あるのだが……。
審問は、形式的には尋問と聖別によって行われる。
尋問も聖別も、実際に悪魔を見分ける効果があったかは疑わしい。
尋問の内容は、聖書の暗唱、或いは聖書の精神を問う事が基本であり、これだけで悪魔の区別は、
難しいと思われる。
神聖魔法にも共通魔法の愚者の魔法の様な、嘘を封じる魔法があれば、話は違って来るのだが、
審問官が魔法を使った様子は無い。
審問の場となった、聖堂に仕掛けがあるのかも知れない。
但、尋問よりは、聖別に魔法的な効果が付与されていたと見るのが普通であろう。
聖具は所謂「魔法道具」であり、神聖魔法と異なる魔力の流れに反応するのかも知れない。
聖具自体が聖別によって清められた道具であり、その「清める」とは具体的に、どうするのか、
全くの不明なので何とも言えないが……。
0128創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 18:43:22.04ID:J8fAN70T
当然、実際の悪魔審問では、神器を持ち出したりはしない。
大聖堂で行われた悪魔審問は、実質的には神王選定の儀だった。
原典では、それ等は教会、ルクル国、オリン国の三者による共謀だったとされている。
悪魔審問の名を借りて、不意打ち的に神器による神王選定を行ったのだ。
三者は聖君代理であるアーク国王が、クローテルを神王にする事に難色を示していたので、
こうせざるを得なかった。
アーク国王は聖君の代理であり、最も大きな権力を持っていた。
新たな神王の選定には、聖君代理の承認が必要だったのだ。
クローテルの聖君にする為、アーク国王に神王認定を拒ませない為に、神器を持ち出したのだ。
どれだけアーク国王に権力があっても、実際に神器に選ばれた者を拒む事は出来ない。
何故なら、アーク国王の聖君代理としての正当性も、神器に由来するからである。
ヴィルト王子もクローテルが神王となる事に賛成していたが、仮に彼が反対していても、
ルクル国とオリン国が神器を持ち出せば、アーク国も動かざるを得ない。
ルクル国はアーク国王が聖君代理である事を快く思っていない節があり、その為に協力的だった。
十騎士の後継者を集める等、ルクル国王家はアーク国王の代わりに、マルコ王子を新たな聖君、
或いは聖君代理としたかった様である。
当のマルコ王子はクローテルを新たな聖君として認めてしまったが、ルクル国王もアーク国王よりは、
クローテルが聖君になった方が良いと思ったのであろう。
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