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ロスト・スペラー 21
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0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 18:38:53.75ID:2nCOUSfN
そろそろネタが切れそう

過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1544173745/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0002創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 18:39:21.18ID:2nCOUSfN
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。
魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。

『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。


ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。
0003創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 18:39:51.56ID:2nCOUSfN
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。
0004創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 18:43:06.75ID:2nCOUSfN
前スレは中途半端な所で容量限界が来てしまいました。
今まで最大512KBまでだったのが、1024KBになった様です。
0005創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 19:52:57.29ID:hOA0w/q8
待ってました!

時に、暗黒魔法は独立した魔法の一派なのか、わたし気になります!
0006創る名無しに見る名無し
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2019/11/15(金) 20:56:18.36ID:gBlFhUil
おしっこおおおおお!!

うんち!うんこおおお!
0007創る名無しに見る名無し
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2019/11/15(金) 23:19:41.62ID:D1/+O3jd
ちんちん!
ちんちん!
0008創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:28:28.24ID:YB6eOCFa
登場人物紹介

【面道 つかさ】
このスレの主人公。なんでもギガントバトルでケリをつけようとする熱血的な男。
ギガントは父から受け継いだ『キングメンガー』。命と引き換えにしても構わないという割には、すぐ無くしたりカツアゲにあうことも。
世界一のギガントシューターを目指すと明言しているが実力は弱く連敗ばかりで、特に不利でしかないファーストギガントを取りたがりすぐに敗北することも多い。
ギガント以外に全く興味がなく少しでも小難しい話になると寝てしまう。
0009創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 17:25:11.36ID:Vk0QrgmF
おしっこぶっしゃー
0010創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 17:41:20.77ID:AZ+TT7Gw
金玉
0011創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 18:23:10.27ID:b7xB4tJA
>>5
暗黒魔法は神聖/その他で分かれていた旧暦の魔法の分類です。
特定の魔法の流派ではなく、宗教的・倫理的な禁忌を多分に含んだ物を一纏めにした物です。
例えば、生け贄や人柱を必要とする、血や臓物を捧げる等の物で、その多くは悪魔の力を借りる形の物でした。
0012創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 18:35:01.57ID:b7xB4tJA
貪に取り憑かれ、他の命を自らに取り込んだビュードリュオン。
戦禍竜アマントサングインを身に宿し、その力を自らの物にしたニージェルクローム。
この2人が使う魔法に直接の関係はありません。
彼等に限らず、多くの魔法使いは、同系統とされていても、本質的に無関係と言う事があります。
例えば、トロウィヤウィッチの魔法は本質が魅了ですが、舞踊魔法使いの一種とされています。
音楽魔法使いレノックと、禁断の地の精霊楽団達も、楽器を使う点では同系統ですが、根本は異なります。
0013創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 18:49:49.45ID:b7xB4tJA
もっと言ってしまえば、真面に系統立てられた魔法は共通魔法と精霊魔法しか無いのです。
神聖魔法は神の御業ですし、その他の魔法は悪魔によって地上に齎された物です。
そして悪魔は生まれた世界が違えば、全く別種の法則で、その力を行使します。
旧暦には起こす現象は同じでも、過程が全く異なる魔法が幾つもありました。
傍目には同じでも、当人達の意識では完全な別物と言う事は珍しくありません。
多くの魔法使いは自らの流派を自称します。
中には名前被りもありますし、派閥を形成しない物もあります。
長い時の中で類似の系統と統合したり、手段や解釈の違いで分裂したりもしました。
暗黒魔法使いは、その中でも特に定まった形を持たない者達です。
自らの欲望や欲求に正直な者達が、自ら正道ならざる事を自覚して、「暗黒」を自称する様になった物もあれば、
同様に「正道ならざる者達」と見做され「暗黒」と謗られた、他称的な物もあります。
この辺は魔法暦以降の「外道魔法」に似た感覚でもあります。
0014創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 19:05:00.27ID:b7xB4tJA
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。
0015創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 19:29:31.33ID:b7xB4tJA
よって結論から言えば、「魔法暦の」暗黒魔法は他の魔法から独立はしていますが、「一派」と言う表現は、
適切では無いと言う事になります。
これは他の「共通魔法以外の魔法」も同じです。
集落を形成している隠密魔法使いが、寧ろ特殊な事例です。
「共通魔法以外の魔法」でも、過去には多くの支持者や同志を持って、一大流派を形成した物もありますし、
「暗黒魔法」の中にも嘗ては、その様な流派、乃至は派閥を形成した物もあったでしょう。
しかし、魔法暦以降、共通魔法使い達の認識で「外道魔法」を頼る集団は、弾圧を受けて縮小しています。
組織的な活動を封じられ、個人レベルにまで落ちるか、或いは僻地に追い込まれるかして。
「暗黒魔法」も「外道魔法」に変わりありませんし、倫理に悖る魔法は特に厳しく取り締まられました。
ビュードリュオンは魔法暦の人間であり、旧暦の様な派閥や伝統と言う意識はありません。
権力を得るとか、同志を作ると言う意識も皆無です。
一方でニージェルクロームは同じく魔法暦の人間でありながら、そうした過去の偉大な組織に憧れていました。
尤も、彼の場合はアマントサングインと同化するに従って、異端への憧れや偉大な物への帰属精神を失いましたが……。
0016創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 19:47:56.41ID:b7xB4tJA
さて、反逆同盟の暗黒魔法使いは名前に反して、「暗黒」要素を余り持ちません。
ビュードリュオンもニージェルクロームも、独学で概念的な「闇」を利用する技術を身に付けてはいるのですが、
判り易く暗闇を操ったり、闇を支配したりする様な物ではありませんし、明かりに弱い事もありません。
そちらの魔法はルヴィエラが使いますが、彼女は自分の魔法を「闇を操る魔法」と認識していますが、
「暗黒魔法」だとは認識していません。
彼女は人間の魔法の分類に、全く興味がありません。
多くの悪魔や旧い魔法使いと同様に、自分の魔法は自分の物で、他と比較する様な物では無いと思っています。
0017創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 22:19:55.08ID:ybhc7YDR
さて、反逆同盟の暗黒魔法使いは名前に反して、「暗黒」要素を余り持ちません。
ビュードリュオンもニージェルクロームも、独学で概念的な「闇」を利用する技術を身に付けてはいるのですが、
判り易く暗闇を操ったり、闇を支配したりする様な物ではありませんし、明かりに弱い事もありません。
そちらの魔法はルヴィエラが使いますが、彼女は自分の魔法を「闇を操る魔法」と認識していますが、
「暗黒魔法」だとは認識していません。
彼女は人間の魔法の分類に、全く興味がありません。
多くの悪魔や旧い魔法使いと同様に、自分の魔法は自分の物で、他と比較する様な物では無いと思っています。
0018創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 22:20:32.64ID:uJMOY5FN
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。
0019創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:15:34.85ID:Auwi784B
登場人物紹介
【小出 ミル子】
つかさのクラスメイト。ツンデレな性格であり、彼の世話を焼くことが多い。
ギガントバトル選手権で優勝できれば留学できると父親と約束していた。
愛用のギガントは「シャリースメンメンコ」。
0020創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:20:50.31ID:fJKoPfMi
【桐谷.M.キリト】
イケメンで謎の多い人物。
つかさたちのバトルを影から見つめて謎の台詞を仄めかしていたが、
つかさたち全員からオフ台詞を全て聞かれていたことを暴露される。
暴露後にギガントバトルに興味があることをつかさたちに話したところあっさりと勝負に乗ってくれた。
ただし肝心の初勝負は不良からの大会告知のための介入で中断される。
瞬間移動のような能力も見せており、ギガントバトルに負けた相手に何らかの異常を与えている。

「・・・・・・来たな、面道つかさ。ふふふ・・・・・・。 始まるぞ、ついに」
0021創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:30:52.58ID:TKsEFG3Q
おちんちんびろーん
0022創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:32:22.06ID:YqpWmfbB
何このスレ
0023創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:34:14.25ID:MBXRQ7VS
おおおおお
0024創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:34:34.49ID:xousr6rp
>>22
黙れバカ
0025創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:35:00.08ID:HJ8Z9A12
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。
0026創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 09:59:30.77ID:O6yOY58D
↑うるせぇバカヤローコノヤロー
0027創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:02:31.95ID:Yx54Im1S
タマキン・スカイウォーカー
0028創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:02:51.90ID:3RHAJswF
なろうとか好きそう
0029創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:03:47.96ID:/NcgU/+n
ここはもしかして障がい者専用スレ?
0030創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 10:04:15.16ID:BQIPXRNL
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。
0031創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 17:57:04.31ID:ER4grkwp
こんなにレスが付いたのは最初に書き始めて9年間で初めての事です。
これまで余り注目される事無く細々と続けていた物ですから驚いています。
何名様でしょうか、それとも、お一人様?
殆ど個人スレも同然なスレに、ようこそ入らっしゃいました。
もう飽きられたかも知れませんが、>>1の一番下のスレから読んで頂けると幸いです。
文章も読み難い事は自覚していますが、これで長年続けて来た物で御勘弁を。
……と言っても、余りに長いので、とても一から全てを読んではいられないでしょう。
自分でも一から全部読めと言われたら拒否します。
0033創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 18:22:42.74ID:ER4grkwp
なろうは知っていますが、読んだ事はありません。
最初は設定スレとして始めたスレで、設定だけ延々と書き続けるのも何だからと、物語を入れてみたんですが、
なろうっぽいんでしょうか?
0034創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 18:39:42.33ID:ER4grkwp
なろうの話はネット上で、よく見掛けはするんですが……。
このスレは自分が思い付いた設定を投げると言うか、アイディアの投棄場みたいな所もあるので、
素人の考える話は似たり寄ったりだと言う意味では、なろうっぽくなるのかも知れません。
そう言うと、なろうで真面目に書いている方にとっては失礼な話かも知れませんが……。
0035創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 18:52:21.89ID:6rID8uEA
……はい。
流石に日曜の深夜や平日の昼間にレスを続ける程、お暇では無かったのでしょう。
健全で結構な事です。
0036創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 18:59:19.57ID:6rID8uEA
少し寂しさを覚えつつ、前スレの続きから行きたいと思います。
前スレでは、中途半端な所で容量限界が来てしまいました。
ここで板情報を再度確認します。
新しい創作発表板の設定では、容量限界が512KBから1024KBに変わりました。
従来の2倍です。
具体的に何時から変更されたのかは不明です。
この容量はスレの右下に表示される物とは違う筈です。
スレの右下の表示は実際の要領の約1.4倍になっています。
0037創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 19:08:08.95ID:6rID8uEA
これによりAAでもある程度の作品を投稿出来る様になった……と思います。
まあAA系は専用のカテゴリーがあるので、態々創作発表板でやる事は無いと思いますが……。
そもそもVIPや外部板の方が注目され易いので、そちらでやる人が多いでしょうし。
容量が増えて、不便になる事は無いでしょうから、問題はありませんが……。
ある程度の長文で遣り取りしても、直ぐにスレが埋まってしまう事態は防げるでしょう。
0038創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 21:35:10.01ID:HHKyV/I6
ロススぺは設定の緻密さも物語の内容も興味を惹かれるものばかりで、日々のささやかな楽しみにとしております

……物語の開始前なら邪魔にならないかなと思ってコソッとささやかにお伝えしましたっ!
0040創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 18:51:25.18ID:QFWTBO15
スフィカは淡々と答えた。

 「私に人を襲う事を止めろと?」

 「そうだよ、人を襲わなくても済むなら、それに越した事は無いだろう?
  マトラは居なくなった。
  『仕事』をしなくても、罰せられる事は無いんだ。
  これからは人の世界で穏やかに生きて行こう」

ラントロックは問い掛けたが、彼女は肯かない。

 「……人を襲うのは魔物の宿命だ。
  テリアやフテラは、人の餌でも満足出来たのだろうが、私は違う。
  人の血肉を食らわなければ、生きて行けない」

月明かりに浮かぶスフィカの姿は、どこと無く悲し気だった。
ラントロックは真っ直ぐ彼女を見詰めて言う。

 「それは思い込みだ。
  スフィカさんは、自分は他人と違うと決め付けている」

 「半端な情けを掛けないでくれ。
  私は所詮、化け物なんだ。
  人と同じ生活は出来ない。
  狼が羊の群れで暮らせない様に」

 「人と姿が違う事を、気にしているのか?」

スフィカは明らかに人では無い。
テリアやフテラ、ネーラの様に、人に化ける事も出来ない。
0041創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 18:51:58.54ID:QFWTBO15
その事を気にしているのかと、ラントロックは思った。
だが、スフィカが肉食だと言うのも事実である。
加工肉では無く、生肉を捏ねて食べる性質だと言う事も、あるのかも知れない。
確かに、人の世界で生きて行くには、難しい性質と容姿ではある。
それ等の問題を解決する良案は無いかと、ラントロックは暫し思案した。
そこで彼はポイキロサームズの事を思い出す。
ポイキロサームズは元人間で、魔導師会の禁呪によって、人の姿に戻った。
どうにかして、魔導師会の手を借りる事が出来れば……と彼は考える。

 「それなら、スフィカさん、人間になりに行こう」

 「えっ」

驚いた顔をする彼女に、ラントロックは続ける。

 「魔導師会は人化の魔法を知っている。
  もし魔導師会を当てに出来なくても、人間に変わった怪物の話は幾らでもある。
  旧い魔法使いの中に、人化の法を知っている人が居るかも知れない」

 「私が……人間に……?」

 「そうだよ。
  魔性を得て、人間に化けるんじゃなくて、人間その物になるんだ」

ラントロックの提案に、スフィカは迷いを見せた。
人に成れるなら成りたいとは思うのだが、本当に人に成れるのかと言う不安があるのだ。

 「本当に?」

 「なれるさ。
  俺が付いている」

ラントロックも確証は無かったが、大見得を切った。
嘘にする積もりは無い。
0042創る名無しに見る名無し
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2019/11/19(火) 18:53:41.66ID:QFWTBO15
スフィカは今度こそ小さく肯いて、彼に言う。

 「人間になりたい……」

 「探しに行こう。
  人間になる方法を」

ラントロックはスフィカを見詰めて、そっと抱き留めた。
彼女の肌は硬質で、小刻みに震えている。
2人して月を眺めている内に、ラントロックは眠りに落ちた。
……翌朝、ラントロックはスフィカを抱えた儘、木の上で目を覚ました。

 (朝か……。
  よく落ちなかったな)

ラントロックは余り寝相の良い方では無かったが、無事に朝を迎えられて安堵する。
彼はスフィカを起こして、共に地上に下りた。

 「取り敢えず、ネーラさんの所に飛ぶよ」

ラントロックは特殊な水の入った水筒を逆さにして、地面の上に水溜まりを作る。

 「おーい、ネーラさん!
  スフィカさんを見付けたよ!」

彼の呼び掛けに応じて、ネーラが水の中から現れた。

 「はいはい。
  おお、スフィカ、久しいな。
  生きていたか!」

スフィカは無言で小さく肯く。
0044創る名無しに見る名無し
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2019/11/20(水) 19:03:34.10ID:4ZEo37Xn
ラントロックとスフィカは水を潜り、カターナ地方からブリンガー地方キーン半島のソーシェの森に、
移動した。
そこに住む「森の魔女」、使役魔法使いのウィローに、ラントロックは相談する。

 「ウィローさん、お願いがあります。
  スフィカさんを人間にしたいんですけど……」

 「へー、人間に?」

古めかしい魔女の姿のウィローは、嗄れた老婆の声でスフィカに尋ねた。

 「お前、人間になるって事が、どう言う事か解っているのかい?」

スフィカは肯く。

 「力を失う」

その答にウィローは深く頷き返し、再び問うた。

 「お前は無力な人間に満足出来るのかな?」

 「……ああ、出来る。
  人間になれば、肉に飢える事も無くなる。
  人に追われて暮らすより、人として生きたい」

それは切実な願いだった。
ウィローは何度も頷いて、同情する。

 「怪物として生き続けるのも、楽じゃないからね。
  人化の法か……。
  残念ながら、私は知らないけど、知ってる奴なら知ってるよ」
0045創る名無しに見る名無し
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2019/11/20(水) 19:04:18.65ID:4ZEo37Xn
ラントロックはウィローに尋ねる。

 「それは誰ですか?」

 「レノックだよ」

 「今、どこに?」

 「ティナーに居るんじゃないのかな?
  詳しい事は分からない。
  外の世界の事は、よく知らないからね」

教える事は教えたと、ウィローは溜め息を吐いて、素っ気無い態度。
ラントロックは困って立ち尽くしていたが、ウィローの反応は冷たい。

 「もう私から言える事は何も無いよ。
  後は自分の力で何とかするんだね」

しかし、全く当てが無いのに、ティナーまで行って、どうするのかとラントロックは悩んだ。
それを見兼ねて、ウィローは一つ助言する。

 「やれやれ、仕様の無い子だ。
  旧い魔法使いに会いたいなら、先ず行動する事だよ。
  動かないと始まらないのは、何にしても同じさね。
  求むれば、やがて得る。
  旧い魔法使いに会う為の、合言葉だよ」

 「……はい」

ラントロックは腑に落ちないながらも、一応は頷いて、彼女の言う通りにしてみる事にした。
0046創る名無しに見る名無し
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2019/11/20(水) 19:05:11.01ID:4ZEo37Xn
ティナー地方に向かう前に、ラントロックはネーラに尋ねる。

 「ネーラさんも、一緒に行かない?」

 「何故そんな事を聞く?」

ネーラは真面目に彼に尋ね返す。
ラントロックも真剣な顔で答えた。

 「スフィカさんと一緒に、人間になろう」

 「人間になって、どうしろと言うんだ?」

 「一緒に旅をするんだ。
  世界中を見て回ろう」

それはネーラの期待する回答では無かった。
彼女は小さく笑って首を横に振る。

 「嫌だよ」

否定の言葉は優しく、少し悲し気。
ラントロックも寂し気に言う。

 「残念だ」

背を向けた彼に対して、ネーラは声を掛けようとするも、思い止まる。
結局、ラントロックはスフィカだけを連れて、森を出て行った。
ウィローは俯いたネーラを見て、呆れた声で言う。

 「馬鹿だね。
  人間に成る成らないは置いといて、素直に付いて行けば良いのに」
0047創る名無しに見る名無し
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2019/11/21(木) 19:18:11.60ID:iryb2YNV
第四魔法都市ティナーにて


ラントロックとスフィカはブリンガー地方から遥々徒歩と馬車で移動し、ティナー市内に着く。
移動中、ラントロックは魅了の魔法で敵意を取り去り、スフィカが注目されない様にした。
しかし、ティナーに着いた良い物の、何の手掛かりも無い状態。
ラントロックは使役魔法使いウィローの言葉を信じて、都市を彷徨う。
やがて2人は路地裏で言葉の魔法使いワーズ・ワースと出会った。
少女の姿を取るワーズ・ワースに、ラントロックは初めて会うが、その気配から徒者で無い事は、
直ぐに察せた。
警戒する彼に、ワーズ・ワースは苦笑いする。

 「そう睨まないでくれよ。
  私はワーズ・ワース・"グロッサデュナミ"。
  言葉の魔法使いだ。
  君の事は、よく知っている。
  奇跡の魔法使いワーロック・アイスロンと、魅了魔法使いバーティフューラー・
  トロウィヤウィッチ・カローディアの息子、ラントロックだね?」

 「あんたは一体……」

ラントロックは見た目年下の少女に対しても、気を緩めなかった。
彼はワーズ・ワースの強大さを感じ取っているのだ。
年齢が見た目通りでは無い事も、見抜いている。

 「今、名乗った事が全てだよ。
  君は旧い魔法使いの事を余り知らないのかな?
  私達は大抵の事は知っている。
  風が教えてくれるんだ」

 「それなら、どうして、この街に来たのかも?」
0048創る名無しに見る名無し
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2019/11/21(木) 19:18:42.50ID:iryb2YNV
ラントロックは尋ねたが、ワーズ・ワースは再び苦笑いする。

 「大抵の事は知っていると言ったけど、全知と言う訳じゃないんだ。
  用があるなら言って貰わないと分からない。
  私は只、珍しい者が来たと思って、話を聞きに来ただけだよ」

ラントロックは暫し怪しんでいたが、それだけでは何にもならないと思い切り、自分から話した。

 「彼女を人間にしたい。
  その方法を探しに来た」

彼は隣のスフィカを指して言う。

 「蜂女の『昆虫人<エントマントロポス>』か……。
  しかし、その気配は……」

ワーズ・ワースはスフィカを見詰めて、険しい表情。
ラントロックは何かあるのかと、率直に問う。

 「どうしたんだ?」

 「いや、何でも無い。
  見知った顔じゃないから、どんな奴かと。
  どうやら、新参の様だ」

ワーズ・ワースは溜め息を吐いて、改めて問う。

 「それで、彼女を人間にしたいと?」

 「ああ」

 「本気か?」
0049創る名無しに見る名無し
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2019/11/21(木) 19:19:55.73ID:iryb2YNV
彼女の問は、ラントロックでは無く、スフィカに向けられていた。
スフィカは小さく肯く。
それを見て、ワーズ・ワースは幻惑させる様に言う。

 「人間と言うのは、不便な物だよ。
  力弱く、その癖、数を恃みに横暴になる。
  人外から人間になった者は、必ず後悔する。
  『自分は人間じゃない』と言う意識を捨て切れないからね。
  人間に成ると言うのは、実は大変な事なんだよ。
  否、成る事自体は簡単でも、成り切る事がね……。
  大きな苦難と苦痛を伴う」

決意を揺らがす言動を、ラントロックは不快に思った。

 「人間にはなるなって事か?」

 「そうは言っていない。
  只、『大変だよ』と。
  生半可な気持ちで、やる様な事じゃない」

ワーズ・ワースの態度は揶揄いを含んでいる。
それが益々ラントロックは不愉快だった。

 「あんた、一体何なんだ?」

怒る彼を見て、ワーズ・ワースは愛おし気な目をする。

 「あはは。
  だから、そう睨まないで。
  君は若い頃の君の父親に似ているよ。
  親子だね」
0050創る名無しに見る名無し
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2019/11/22(金) 18:58:27.68ID:YhfkzxcL
意図しているのか、いないのか、彼女の言葉は的確に、ラントロックの神経を苛付かせる。

 「話を逸らすな。
  何が言いたいんだ?」

凄む彼に対して、ワーズは両肩を竦めて見せた。

 「私が言いたいのは一つだけ。
  人間に成るのは大変だと言う事。
  その覚悟はあるのかなと聞いているだけさ」

それを聞いたラントロックは、一度スフィカを顧みた。

 「スフィカさん……」

スフィカは何も答えない。
人形の様な顔で、呆っと虚空を見詰めている。
否、そう見えるだけで、実際は内心で葛藤しているのだ。
昆虫人だから表情の変化が少ないだけ。
中々彼女が答えないので、ラントロックは心配になる。
元々人間の彼には、人間に成ると言う事が解らない。
便利だとも不便だとも思わない。
しかし、人外の者は違うのだろうかと、彼は考える。
そんな1人と1体の様子を見て、ワーズは呆れた顔をする。

 「何も考えていなかったのかな?」

ラントロックとスフィカは何も答えられなかった。
ワーズは小さく溜め息を吐き、仕方無いなと言う風に話す。

 「人間に成る方法を知りたければ、レノックに聞くが良い。
  音の魔法使いレノック・ダッバーディーだ」
0051創る名無しに見る名無し
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2019/11/22(金) 18:59:25.27ID:YhfkzxcL
ラントロックは漸く本来の目的を思い出す。

 「そうだ、俺達はレノックさんを探しに来たんだ!
  今、どこに!?」

ワーズは詰まらなそうに答える。

 「あいつは『結婚旅行<ハネムーン>』中だよ。
  人間の女と付き合ってるんだ。
  全く、信じられない位、軽薄な奴」

 「それで、『どこに』!?」

ラントロックが具体的な場所を問い質すと、彼女は小さく笑って答えた。

 「カターナだよ。
  何でも人間の間では、定番なんだそうだ。
  今頃、宜しくやってるんじゃないか?」

 「カターナかぁ……」

無駄に遠回りしたなと、ラントロックは徒労感に草臥れる。
カターナ、ブリンガー、ティナーと回って、又カターナに戻らなければならないのだから。
疲れた顔をするラントロックに、ワーズは助言した。

 「旧い魔法使いに会う為の、合言葉は知っているな?」

ラントロックはウィローに伝えられた言葉を答える。

 「求めれば、得る」

 「そう、その通り。
  心の底から、真に人間に成りたいと望んでいれば、必ず会える」

ワーズの言葉にラントロックは頷いたが、スフィカは無反応だった。
0052創る名無しに見る名無し
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2019/11/22(金) 19:02:26.65ID:YhfkzxcL
第六魔法都市カターナにて


ラントロックとスフィカは馬車鉄道でカターナに向かう。
数日掛けて、特に何事も無くカターナに着き、馬車から下りた2人……否、1人と1体は、
空を見上げた。
よく晴れた暑い日。
ラントロックはスフィカを一度顧みた。
そして彼女に呼び掛ける。

 「さて、一緒に探そう」

スフィカは静かに頷いた。
しかし、探せど探せど、レノックは見付からない。
もしかしたら行き違いになったのかも知れないと、ラントロックは不安になった。
ハネムーンと言う物が、基本何日かは分からないが、そう長い期間では無い事は想像出来る。
精々1週間、長くても2週間程度だろう。
或いは、2〜3日とか、もっと短い事もあり得る。
探し疲れたラントロックは、その辺の街路樹の木陰で涼みつつ、休憩する。
そしてスフィカに話し掛けた。

 「中々見つからないね。
  どうしようか?
  スフィカさん」

人間に成るのを諦めないのであれば、どうするも何も無いのだが、ラントロックの問は不用意だった。
スフィカは彼に謝る。

 「……済まない、トロウィヤウィッチ。
  私が腑甲斐無いばかりに」

 「どうしたんだい?」

 「レノックが見付からないのは、私の決心が弱い所為だ」

それは考え過ぎだと、ラントロックは笑って気にしない。

 「人間に成るって言うのは、今までの自分を変える事なんだから、決心が付かなくて当然だよ。
  俺だって人間を辞めて、他の生き物になれって言われても、困っちゃうし。
  取り敢えずは、レノックさんに会って、話を聞いてみてからでも良いじゃないか?
  行き成り人間に成れる訳じゃないだろうしさ」
0053創る名無しに見る名無し
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2019/11/23(土) 19:59:28.62ID:G3AU7B9E
スフィカは俯いた儘で、何も答えなかった。
ラントロックは怪訝な顔になって問う。

 「……スフィカさん?」

 「本当は、人間に成るのが怖いんだ。
  本当に人間に成れるのかも。
  もし、失敗したら、どう仕様か……。
  そんな事ばかり考えてしまう」

深刻に悩む彼女に、ラントロックは言う。

 「もし成れなくても大丈夫。
  俺はスフィカさんを見捨てたりしないよ。
  どこかで潜(ひっそ)りと暮らそう。
  禁断の地みたいな、共通魔法使いの目の届かない所で、静かに暮らすんだ」

 「有り難う、トロウィヤウィッチ」

スフィカに感謝されたラントロックは、少し困った顔をした。

 「『トロウィヤウィッチ』じゃなくて……。
  スフィカさんも俺を名前で呼んでくれないか?
  俺は『ラントロック・アイスロン』だ。
  『トロウィヤウィッチ』は魔法使いの名前、バーティフューラーは一族の名前。
  俺自身はラントロック」

 「ラントロック?」

 「そう、ラントロック。
  長いならラントで構わない」

 「分かったよ、ラント」
0054創る名無しに見る名無し
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2019/11/23(土) 20:00:06.78ID:G3AU7B9E
そんな話をして、スフィカは少し前向きな気持ちになれた。
その時、若い男女の2人組がラントロックに声を掛ける。

 「や、ラントじゃないか!」

ラントロックは振り向いた。
女性の方には見覚えがある。
フィーゴ・ササンカだ。
着物姿のボルガ地方の伝統的な格好では無く、常夏の地に合わせた、露出の多い服を着ている。
暑ければ、それなりの格好をするのは当然の事だと、ラントロックは疑問に思わなかったが、
当のササンカにとっては大きな変化である。
ボルガ地方民はグラマー地方に次いで、肌を露出したがらない傾向にあり、特に伝統的な価値観を、
重視する人間は、その傾向が強い。
隠密魔法使いの集団は、その極地である。
ササンカは村を抜けた事で、外の文化に馴染んだのだ。
それは扨て置き、問題は男性の方である。
ラントロックは男性の方に見覚えが無かった。
しかし、彼の纏う魔力の流れは知っている。

 「レノック……さん?」

 「そうだよ、レノック・ダッバーディーだ。
  何時もの姿じゃなくて悪かったね」

レノックは爽やかに笑い、ラントロックに問い掛けた。

 「こんな所で何をしてるんだい?
  隣の子は……」

彼はラントロックの隣のフードを被ったスフィカの顔を覗き込もうとする。
0055創る名無しに見る名無し
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2019/11/23(土) 20:01:03.83ID:G3AU7B9E
ラントロックは慌てて彼を止めた。

 「待ってくれ、レノックさん。
  彼女は……」

レノックは小さく頷き、ラントロックに言う。

 「ああ、分かっているよ。
  彼女は人間じゃないね?
  以前に言っていた、昆虫人の子かな?」

 「あ、ああ」

全部お見通しと言う感じのレノックに、ラントロックは戸惑った。
ラントロックは禁断の地では家に篭もり勝ちだったので、レノックの事は余り知らないのだ。
小賢人と呼ばれるレノックは、旧い魔法使いの中でも、指折りの知恵者である。
暫しレノックの雰囲気に圧されていたラントロックだったが、彼は本来の目的を思い出した。

 「そうだ、レノックさん、教えて欲しい事がある。
  人間に成る方法を知らないか?」

そうラントロックに聞かれたレノックは、一瞬怪訝な顔をするも、直ぐに事情を理解する。

 「成る程、彼女を人間にしたいと言う訳か……」

その通りだと、ラントロックは何度も頷く。
レノックは一度周囲を見回して、ラントロックとスフィカに言った。

 「ここは少し目立つな。
  人目に付かない所に行こう」

一同は街から離れて、人気の少ない遊泳禁止の浜辺に移動する。
0056創る名無しに見る名無し
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2019/11/24(日) 19:02:23.55ID:vG7ls1gY
レノックは周囲に人目が無い事を確認して、スフィカに言った。

 「ここなら他人に見られる事は無い。
  顔を見せてくれ」

スフィカは躊躇っていたが、やがて緩りとローブのフードを剥ぐ。
現れたのは昆虫の顔だ。
ササンカは無言で目立った反応こそしなかったが、内心で驚いていた。
レノックはスフィカに小さな布の袋を渡す。

 「これが人に成る為の魔法の粉だ。
  この粉を水に溶かして飲めば、君は人に変われる」

スフィカは表情こそ分からないが、半信半疑だった。

 「本当か……?」

 「僕は嘘は言わないよ。
  但し、使うなら人目に付かない所で、独り、誰にも姿を見られては行けない。
  太陽や月に照らされても行けないし、鑑や水面に姿を映しても行けない。
  一晩過ごして、翌朝を迎えれば、君は人間になっている。
  君は新しい命として、生まれ変わるんだ。
  それまでの過去は捨て去る必要がある」

レノックの最後の一言に、スフィカは直感する。

 「私の記憶もか?」

レノックは無言で頷いた。
その事実を知ったラントロックは声を上げる。

 「そんな!」
0057創る名無しに見る名無し
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2019/11/24(日) 19:03:10.29ID:vG7ls1gY
レノックは至極真面目な顔で、ラントロックとスフィカに告げた。

 「記憶を保持した儘、人間になる方法もある。
  でも、それだと今までの生き方を捨てた事にはならない。
  過去に囚われている者は、人間には成れない。
  魔性を持った人間は、人間では無い。
  唯、人の姿をした化け物に過ぎない」

厳しい言葉に、ラントロックは沈黙した。
真っ当な人間になりたければ、魔性を捨て、魔物として生きた過去も捨てなければならないのだ。
人の血肉の味を覚えた儘、人間にはなれないと言う事。

 「君に、その覚悟はあるか?」

レノックに回答を迫られて、スフィカも沈黙していた。
ラントロックは彼女に「人間にならなくても良い」と言う事も出来たが、それを口にしてしまうと、
人間になりたいと言った彼女の思いまで否定する事になりそうで、躊躇われた。
やがてスフィカは答える。

 「ある。
  私は人間に成りたい」

そう言って、彼女はレノックの手から小さな袋を受け取った。
本当に大丈夫なのかとラントロックは心配したが、それを口に出したりはしなかった。
唯、彼女の覚悟を受け止めて、見守ると決めた。
しかし、スフィカはラントロックに言う。

 「ラント、これから私は人間になる。
  ……付いて来ないでくれ」

 「えっ、いや、大丈夫!?
  もう少し考えた方が良くないか!?」

ラントロックは驚いて彼女に問い掛けた。
0058創る名無しに見る名無し
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2019/11/24(日) 19:04:04.04ID:vG7ls1gY
だが、もうスフィカの心は決まっている。

 「考えた所で、結論は変わらない。
  人間になりたいなら、こうするしか無いんだ。
  ラント、貴方の事を忘れていたら、御免なさい」

そう言って、スフィカはローブを脱ぎ捨て、昆虫人の姿を露にして飛び去って行った。

 「えっ、待ってくれよ、スフィカさん!
  どこで人間になる積もりなんだ!?」

空を飛ぶスフィカに、ラントロックは追い付けない。
スフィカを追い掛ける事を諦めた彼は、レノックに食って掛かった。

 「レノックさん、どう言う事なんだ!」

 「どうも、こうも無い。
  君も彼女の事は忘れるんだ」

 「えっ!?
  何で、そんな……!」

 「君は彼女が魔物だった事を憶えている。
  魔物の彼女の事は忘れろ。
  それが彼女の為でもある」

 「忘れるなんて、そんな簡単に出来るかよ!」

 「人間に成ると言う事は、生まれ変わると言う事。
  魔物としての彼女は死に、新しい人間としての生を受ける。
  彼女は、それを選んだ」

スフィカが決めた事に、ラントロックは何も言う事が出来ない。
彼は人間に成ると言う事を甘く見ていた自分に悔いた。
それ程の決意と覚悟が要る物だとは、思っていなかったのだ。
0059創る名無しに見る名無し
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2019/11/25(月) 18:47:57.49ID:C/oHu2gS
ラントロックはレノックに問う。

 「それで……スフィカさんは、どこに行ったんだ?
  もし人間に成れても、独りだと……」

レノックは冷たく言った。

 「それは君の知った事では無い」

 「そんな訳には行くかよ!!」

焦るラントロックにレノックは真面目な顔で尋ねる。

 「君は乙女心と言う物が解っていない。
  どうして彼女が君の前から去って行ったのか、君には全く解らないと言うのか?」

そう言われてラントロックは驚き、自らを顧みる。
しかし、幾ら考えても理由は解らない。

 「……レノックさんは知っているのか?」

その問い掛けに、レノックは苦笑いした。

 「知らないなら、知らないで良い。
  その儘、彼女の事は忘れてしまうんだな」

 「どうして教えてくれない!?」

 「それは君が自分で気付くべき事だから。
  だけど、気付かないなら、気付かないで良い」
0060創る名無しに見る名無し
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2019/11/25(月) 18:49:26.22ID:C/oHu2gS
ラントロックにはレノックが意地悪をしているとしか思えなかった。
しかし、スフィカがラントロックの元を離れてしまったのは事実だ。
そこには何か理由がある。
我関せずと涼しい顔をしているレノックとは対照的に、ササンカは心配そうな顔をしていた。

 「レノック殿、どう言う事なのでしょうか?」

 「殿なんて、他人行儀な言い方は止してくれよ。
  敬語も止めだ。
  僕等は、もう夫婦なんだぜ」

 「そ、それでは……レノック、どう言う事か、教えてくれないか?」

 「何の話?」

 「あのスフィカとか言う者、レノックは彼女に就いて詳しい様だが」

 「ああ、僕は人の心が読めるからね。
  感情や思考は、態度や呼吸に現れる物だよ。
  注意深く観察していれば、心を読む位は訳無い」

得意気に語るレノック。
ササンカは一度ラントロックを見て、再びレノックに尋ねた。

 「スフィカは何を思っていたのだ?」

 「君も女の子だから気持ちは解らなくは無いと思う」

そう言って、レノックはササンカに耳打ちする。
それを聞いたササンカは、難しい顔をした。

 「そう……なのか?」

 「中々難しいよね」

レノックは肩を竦めて、小さく息を吐く。
0061創る名無しに見る名無し
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2019/11/25(月) 18:50:11.88ID:C/oHu2gS
一体何なのかと、ラントロックは眉を顰めた。
ササンカはラントロックを見詰めて問う。

 「ラントロック、貴方は彼女の事を、どう思っているのだ?」

 「仲間だ。
  大事な仲間だよ」

一瞬の迷いも無くラントロックが言い切ると、ササンカは悲しそうな顔になった。

 「……だったら、仕方無い」

それ以上、ササンカは何も言わなくなる。
代わりにレノックがラントロックに問う。

 「ラント、君は人間に成って記憶を失ったスフィカに、何が出来る?」

 「何って……」

 「彼女は普通の人間になる。
  特別な力を持たない、極々普通の人間だ。
  加えて、記憶を持たない」

 「それでも事情を理解して、一緒に居て上げられるのは、俺しか……」

 「彼女は人間に成ると言うのに、過去の事情を知っていて、何か意味があるのかな?
  嘗て、人外だった事を教えるのか?」

 「そんな積もりは……」

 「過去を捨て去って、生まれ変わろうと言う者の過去を知っている事が、生まれ変わった後に、
  何か役に立つのか?」

ラントロックはレノックが言いたい事を、何と無くではあるが、理解し始めていた。
0062創る名無しに見る名無し
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2019/11/26(火) 18:49:19.40ID:KEqxmQnR
薄々感付いていた事を、彼はレノックに問う。

 「人間に成るスフィカさんにとって、俺は必要無いって事なのか……?」

レノックは苦笑いを浮かべて答えた。

 「逆だよ。
  彼女を必要としていないのは、君の方だ。
  だから、彼女は君から離れる事を決意した」

ラントロックは俯く。

 「……それって、詰まり……」

察した様子の彼に対して、レノックは事実を告げた。

 「彼女が求めていた物は、君の愛だ。
  しかし、君は彼女を愛していない」

ラントロックには何も言えない。
彼にとってスフィカは大事な仲間だが、それと生涯の伴侶として迎えるかと言う話は別だ。
種族が違うからと言うのでは無く、ラントロックは未だ義姉を愛している。
愛する人には忠実でありたいと言う彼の思いが、同時に複数の人と付き合う事を許さない。
レノックは彼を言葉で慰める。

 「君は悪くないよ。
  そう、これは誰も悪くない。
  色恋の沙汰とは、そう言う物なんだ。
  好いた惚れたに罪は無い」

訳知り顔のレノックにラントロックは不快な顔をしたが、事実は事実として受け止める。
0063創る名無しに見る名無し
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2019/11/26(火) 18:50:46.81ID:KEqxmQnR
レノックは続ける。

 「余り深刻になるな。
  色恋に関しては、寧ろ、好きでも無い者を好きだと言う事の方が、罪が重い。
  そこから先は地獄だ。
  叶わぬ想いと知ったなら、潔く断ち切る事も、必要な事なんだよ。
  それはラント、君にも言える事だ。
  彼女は君の事を諦めた。
  それを寂しく思うのは自然な感情だが、寂しさを紛らわす為だけに、彼女を追うべきでは無い」

ラントロックはレノックの言葉を受け入れて、力無く俯いた。

 「分かった……。
  もうスフィカさんを追う事はしない。
  ……でも、人間に成ったスフィカさんが、本当に無事に人間の生活に溶け込めるか……」

レノックは静かに頷く。

 「その点に関しては、僕が面倒を見よう。
  ラント、君は何も心配しなくて良い。
  君は君自身の事を考え給え」

そう断言されて、ラントロックは口を閉ざした。
そして、悄然としてレノックに頭を下げる。

 「スフィカさんの事、お願いします」

彼は独りで、海岸沿いの道路を歩き出す。
テリアとフテラは動物に戻ってしまって行方不明。
スフィカは人間に成って、彼の元を離れて行った。
B3FのB3は去り、残ったのはFのネーラだけ。
0064創る名無しに見る名無し
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2019/11/26(火) 18:52:26.56ID:KEqxmQnR
ラントロックは道端で水筒の水を使い、水溜まりを作ると、ソーシェの森に居るネーラの元に戻った。
そしてネーラに事の次第を説明する。
ネーラは水球に浮かびながら、寂し気に言う。

 「そう……。
  スフィカは、そう決断したんだな」

 「俺には彼女を止められなかった」

 「それは仕方が無い事だよ。
  成就せぬ願いを抱き続けるより、新しい生き方を選んだのだ。
  その心は尊重しなければな」

そこでラントロックはネーラに尋ねる。

 「ネーラさんは?」

 「……私は気が長い方だから。
  それに精さえ貰えれば、構わない。
  心だの何だのと、煩い事は言わないよ」

 「本当に……?」

真剣に尋ねられて、ネーラは困った顔になった。

 「都合の好い女と思われるのも困るので、一応言っておくが、私は安い女では無い。
  そもそも子供を産むだけなら、交尾せずとも良いのだ」

 「それでも……温もりが欲しいんだね?」

ラントロックの問い掛けに、ネーラは小さく頷く。
0065創る名無しに見る名無し
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2019/11/27(水) 19:09:53.14ID:83Mu7c0r
それを見たラントロックは、水球の中のネーラに向けて、両手を差し出した。
何の積もりかと訝る彼女に対して、ラントロックは言う。

 「俺も温もりが欲しい」

ネーラは困惑して答える。

 「私は変温動物だよ」

 「そう言う事じゃないんだ」

真っ直ぐ見詰めて来るラントロックの瞳に耐えられず、ネーラは視線を逸らして彼の手を取った。
ラントロックはネーラの腕を手繰り寄せて、彼女の体を水球から引き抜き、優しく抱き締める。
冷たく湿ったネーラの体に、ラントロックの体温が伝わる。

 「……暖かい。
  熱い位だ。
  やはり私達は違う生き物なのだと思うよ」

寂し気に言うネーラに、ラントロックは驚いた。

 「どうして、そんな事を言うんだ?」

 「……私は都合の好い女では無い。
  寂しい時に、体だけ求められて、応える様な女では……」

ラントロックは強くネーラを抱き締めて、両目を閉じる。

 「御免よ、ネーラさん。
  『甘え』だと言う事は解っているんだ。
  でも、寂しいんだよ。
  皆、去って行ってしまった」
0066創る名無しに見る名無し
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2019/11/27(水) 19:10:44.77ID:83Mu7c0r
ネーラは体ではラントロックに逆らわず、口先だけで抵抗した。

 「それでも私を愛してくれないんだな……」

ラントロックは何も言えなかった。
ネーラは更に続ける。

 「どうして魅了の魔法を使わない?
  魅了の魔法を使って、問答無用で黙らせれば良いだろう」

 「そんなの、虚しくなるだけじゃないか……」

スフィカが去った後、ラントロックは魅了の魔法を使えなくなった。
技術的には可能なのだが、心が動かないのだ。
どうしても使う気になれない。
ネーラは小さく息を吐いて、ラントロックを抱き締め返す。

 「今日だけだぞ」

 「……恋人よりも、仲間が、友達が欲しい」

 「困った子だ」

ラントロックは母親に甘える様に、ネーラに抱かれた。
彼は心を許せる存在が欲しいのだ。
自分を優しく包んでくれる、母親の様な存在を求めている。
それは幼くして母を失った事も関係している。
ネーラは母性で彼の求めに応え、唯静かに寄り添う。
依存気味ではあるが、彼女は彼と心が深く結び付くのを感じていた。
0067創る名無しに見る名無し
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2019/11/27(水) 19:11:28.05ID:83Mu7c0r
その後、第六魔法都市カターナで記憶喪失の女性が発見され、病院に連れて行かれる。
彼女は自分の名前も過去も何も憶えておらず、日常生活も儘ならない状態だった。
数月の入院生活で、女性は医師の男性と恋に落ち、結婚した。
女性の過去は全く不明で、記憶が戻る事も無かったが、今が幸せなら良いと、誰も問題にしなかった。
0069創る名無しに見る名無し
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2019/11/28(木) 18:25:49.08ID:KUBkScjF
ノストラサッジオ死す


第四魔法都市ティナーにて


反逆同盟との戦いが終わった後、ワーロック・アイスロンは予知魔法使いのノストラサッジオに、
感謝の念を伝えに向かった。
反逆同盟との戦いの被害は軽微だったとは言えないが、決定的な破局は迎えずに済んだ。
正確には一度破局してしまったのだが、全部夢で無かった事になったので、結果良しだ。
もしかしたら、それもノストラサッジオの予知の力があっての事なのかも知れない。
ワーロックが貧民街に入り、地下組織マグマの『拠点<アジト>』に向かっていると、
道中でマグマの構成員が慌てた様子で駆け寄って来た。

 「あっ、ラビさん、ラビさん、大変なんですよ!
  今朝から先生が居らんのですわ!」

中央訛りで早口で捲くし立てる彼に、ワーロックは驚いて尋ねる。

 「居ない?」

 「ええ、そうです。
  ラビさん、何か心当たりは無いですか!?」

 「いえ……、残念ながら。
  書き置きとか無かった……んですよね?」

 「いや、書き置きはありました」

構成員の返答に、ワーロックは脱力した。

 「あるなら……。
  いや、内容次第ですね。
  何て書いてあったんです?」
0070創る名無しに見る名無し
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2019/11/28(木) 18:26:49.79ID:KUBkScjF
ワーロックの質問に、構成員は難しい顔をして答える。

 「予知は失敗したとか何とか……」

それを聞いて、ワーロックは更に驚を喫した。
予知は予知魔法使いの命だ。
予知が外れる事は、魔法使いとしての死を意味する。
ワーロックは『予言者<プレディクター>』としてのノストラサッジオに予知を依頼した。
その内容は、全員が無事に反逆同盟との戦いを乗り切れる事。
しかし、全員が全員、無事にとは行かなかった。
共通魔法社会を破壊すると言う、反逆同盟の試みは失敗した物の、大きな爪痕が残ってしまった。
ワーロックは責任を感じて、マグマの構成員に告げる。

 「私も探してみます」

そうして、貧民街の中でノストラサッジオを探して回った。
彼は乞食達を頼り、1人当たり500MG硬貨1枚で買収して、ノストラサッジオの捜索を依頼した。
1角後に乞食達の情報網は、ノストラサッジオの足跡を捉える。
話に拠ると、ノストラサッジオらしき老人が、貧民街を通る大きな川、ロジ川の畔に佇んでいた様だ。
それを信じて、ワーロックはロジ川の上流から下流まで、歩いて行ける範囲を全て見て回った。
だが、時々釣り人や乞食達が屯している以外は、特に何も無い。
ノストラサッジオを見たと言う人も居なかった。
川沿いには無断で作物を栽培している畑もある。
その畑の中で、呆然と川面を見詰めている老人が居た。
同じ老人ではあるが、ノストラサッジオとは似ていない。
顔付きはノストラサッジオより老けており、髪は真っ白で、短い無精髭を生やしている。
着物は襤褸だ。
ワーロックは彼に尋ねてみた。

 「済みません、人探しをしているんですけど……。
  この人に見覚えは有りませんか?」

ワーロックはマグマの構成員に用意して貰った、ノストラサッジオの似姿を老人に見せる。
0071創る名無しに見る名無し
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2019/11/28(木) 18:29:21.78ID:KUBkScjF
老人はワーロックを一瞥すると、再び呆然と川面を見詰め出す。
答えて貰えないのかとワーロックが眉を顰めると、老人は小声で零した。

 「その人は見付からんよ」

 「何か知っているんですか?」

ワーロックが目を剥いて尋ねると、老人は川面を見詰めた儘で答える。

 「……私は何も知らん。
  何も知らんが、分かる……」

老人の言葉の意味を量り兼ねて、ワーロックは沈黙した。
その後ワーロックはロジ川を2往復したが、結局ノストラサッジオは見付からなかった。
予知は予知魔法使いの命、予知を外した予知魔法使いに価値は無く、もしかしたら入水自殺か……と、
ワーロックは悠大なロジ川の流れを見詰めて思う。
否、そう決め付けるのは早いと、彼は首を横に振って、嫌な考えを振り払った。
そして、ノストラサッジオを知る者達に、話を聞いて回ろうと決める。
カターナ地方に結婚旅行中のレノックは措いて、他に近場で頼れそうな魔法使いは1人だけ、
言葉の魔法使いワーズ・ワースしか居ない。
ワーロックはティナー市内の繁華街に向かい、ワーズ・ワースを探した。
ワーズ・ワースは意外に早く見付かった。
ワーロックは単刀直入に尋ねる。

 「ワーズさん!
  ノストラサッジオさんを知りませんか?」

 「ノストラサッジオ?
  彼奴(あやつ)が、どうした?」

彼はワーズに斯々然々と事情を説明した。
話を聞き終えて、ワーズは眉を顰め、皮肉な笑みを浮かべる。

 「それが本当なら、ノストラサッジオは生きてはいまいよ」
0072創る名無しに見る名無し
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2019/11/29(金) 18:40:08.37ID:Jzg+rKdt
ワーロックは眉を顰めて、ワーズ・ワースに言う。

 「未だ、そうと決め付けるのは早いでしょう」

 「どうかな?
  君は魔法使いを殺すのが得意みたいだからね」

厳しい言葉にワーロックは沈黙した。
魔法使いは魔法が使えるから魔法使い。
魔法が使えなくなったら、魔法使いでは無くなってしまう。
それだけの単純な事が、真性の魔法使いにとっては死に直結する。
ワーズ・ワースは俯いたワーロックを見て、申し訳無さそうな顔をした。

 「悪かったよ。
  しかし、残酷だが、私はノストラサッジオが生きているとは思わない。
  魔法使いが住家を離れて、行方を晦ますと言う事は、相当な事なんだ」

生存は絶望的だと理解しても、ワーロックは僅かな希望を求めた。

 「もし、ノストラサッジオさんが出掛けるとしたら、どこだと思いますか?」

 「あの世だろう。
  冗談でも何でも無いぞ」

 「そうでは無くて……」

 「ああ、死に場所か?
  流石に、そこまでは分からない。
  しかし、奴に思い出の地等と言う物は無かろう。
  丸で消え去る様に、誰にも知られぬ場所で、孤独に死す事が出来れば、それで良いのかもな」

それは寂し過ぎるとワーロックは思った。
だが、魔法使いにとって、魔法を失敗する事は恥その物。
誰にも姿を見られず、消えたいと言う願いは、そう不可解な物では無いのだ。
0073創る名無しに見る名無し
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2019/11/29(金) 18:40:45.36ID:Jzg+rKdt
ワーロックはワーズ・ワースに依願する。

 「ノストラサッジオさんは見付かると、言ってくれませんか?」

彼女は難色を顔に表した。

 「嫌だよ。
  私は不利な賭け事はしない主義なんだ。
  君は私まで殺す気なのか?」

ワーズ・ワースの言葉は真実になる。
彼女が語る事は、現実に影響を与え、変化させる。
それに失敗すれば、やはり死が待っている。
人間なら死なないが、彼女は完全な魔法使いだ。
物理的な命を持たず、極めて概念的、魔法的な命となっている。
その彼女が魔法の使用を、ここまで忌避すると言う事は、それだけノストラサッジオの死が、
確定的である事を意味している。

 「分かりました。
  他の人にも聞いてみます」

そう言って立ち去ろうとするワーロックを、ワーズは呼び止める。

 「待て待て、当てはあるのか?」

 「いいえ。
  それでも探すだけ探してみます」

ワーズは愚直な彼を見兼ねて助言した。

 「この近くに、魔法使いが来ている。
  路地裏を歩け。
  そこで会った者に、『言葉に導かれた』と告げろ」

 「有り難う御座います」

ワーロックは彼女の助言に従い、路地裏を歩き回る。
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2019/11/29(金) 18:41:26.03ID:Jzg+rKdt
繁華街は路地裏でも日中であれば人通りは多いのだが、この日は全く人と会わなかった。
未だ人々は反逆同盟の事を警戒しているのか、それともワーズの魔法的な導きなのかは判らない。
だが、如何にも魔法使いに会えそうな雰囲気だった。
そこでワーロックは黒衣の人物を見た。
屹度ワーズが言っていた者に違い無いと、彼は自ら話し掛ける。

 「言葉に導かれて来ました」

黒衣の人物は低い男の声で答える。

 「望みを言え」

行き成りの事にワーロックは驚いたが、話が早いのは好都合なので、素直に願いを口にした。

 「……ある人を探しています」

 「誰だ?」

 「予知魔法使い、ノストラサッジオ」

ワーロックが答えると、黒衣の人物は沈黙する。
数十極後に、黒衣の人物は改めて問い掛けた。

 「……どんな関係だ?」

 「彼は私の恩人です」

 「……探して、どうする?」

 「安否を知りたい。
  唯それだけです」

最初の方は間髪入れずに問い掛けて来た黒衣の人物だったが、ワーロックがノストラサッジオの、
名前を出してからは、明らかに反応が鈍い。
0075創る名無しに見る名無し
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2019/11/30(土) 18:43:07.22ID:y4oV6NOT
ワーロックは彼の反応を怪しんだ。

 「どうしたんですか?」

 「言葉の魔法使い奴(め)、厄介事を押し付けたな……」

黒衣の人物は小声で暈やく。
それを聞いて、ワーロックは眉を顰める。

 「……結局、見付けて貰えるんですか?」

不安そうな声で尋ねる彼に、黒衣の人物は初めて自分から物を言った。

 「私は人の願いを叶えられる。
  だが、人探しは得意では無い」

 「人を探して貰うのは無理なんですか?」

願いを叶える魔法使いにとっては、そう難しい話でも無いだろうと、ワーロックは思っていたが、
そうでは無い様子。

 「普通の人間なら何と言う事は無いが、魔法使いを探す事は出来ない。
  弱小なら未だしも、予知魔法使いは特に厄介だ。
  当人が見付かりたくないと思っていれば、先ず見付からない」

 「そうですか……。
  安否だけでも判ると良いんですけど……」

ワーロックは肩を落として溜め息を吐く。
明らかに落胆した彼に、願いを叶える魔法使いは少し思案した。

 「……人探しなら打って付けが居る。
  それを紹介してやろう」
0076創る名無しに見る名無し
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2019/11/30(土) 18:43:25.26ID:y4oV6NOT
彼の言葉にワーロックは目を見張る。

 「本当ですか!?
  それは、誰ですか?」

 「風の魔法使いだ。
  人の噂は風に乗り世界中を巡る。
  その全てを風の魔法使いは知っている」

 「どこに居るんですか?」

 「どこにでも居る。
  今も私達の話を聞いている」

黒衣の人物に言われて、ワーロックは空を見上げた。
所々に白い雲の浮かぶ、晴れた空。
弱い風が吹いている。
だが、誰か居ると言う感じはしない。

 「どうすれば会えるんですか?」

 「何時でも、どこでも会える。
  『風』が、その気になりさえすれば」

 「……それで、どうすれば会えるんでしょう?」

 「待て、呼び掛けてみる」

黒衣の人物は暫く沈黙していた。
テレパシーを使っているのかなとワーロックは思う。
0077創る名無しに見る名無し
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2019/11/30(土) 18:43:47.11ID:y4oV6NOT
暫くして、黒衣の人物はワーロックに告げた。

 「ティナー市内では会えないそうだ。
  この近辺で人気の無い、小高い場所に来て欲しいと言っている」

ワーロックは困った顔で尋ねる。

 「条件に当て嵌まるなら、どこでも良いんですか?」

 「そうだ」

黒衣の人物は、それだけしか答えない。
これ以上話をする積もりは無い様子。

 「分かりました、行ってみます。
  有り難う御座いました」

ワーロックは願いを叶える魔法使いに一礼して、付近で人気の無い小高い場所を探す。
さて、彼が目を付けたのは、ティナー市の街外れにある、どことも知れない低い山だった。
標高30身程の、木々に覆われた、極普通の山だ。
1角程で山頂に着いたワーロックは、見晴らしの良い場所を探す。
丁度、半径3身程の円形に開けた場所を発見して、その中央にワーロックは立つ。
彼は空を見上げて、風を感じた。
数極と経たない内に、さわさわと緩やかな風が吹き始める。
何と無く、ワーロックは風の魔法使いに会える様な気がした。
それから約1点後、ワーロックはテレパシーを受ける。

 (よく来た。
  私は風の使い)

ワーロックは周囲を見回して、背後に一人の少年を発見する。
0078創る名無しに見る名無し
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2019/12/01(日) 18:37:36.97ID:qEXNyc3M
煤んだ空色のローブを着込んだ、不思議な雰囲気の少年に、ワーロックは話し掛けた。

 「貴方が風の魔法使い?」

 「そう呼ばれる事もある。
  嵐を呼ぶ者、風に乗る者、雲を誘う者、天より降臨する者、呼び名は様々だが、今の時世は、
  風の魔法使いと言う方が、解り易いだろう」

 「それでは、聞きたい事があるのですが……」

ワーロックが尋ねようとすると、少年は小さく頷き、彼の先を制して答える。

 「判っている。
  君は探し人に既に会っている。
  貧民街に戻り給え。
  予知魔法使いは元の場所に戻った」

 「あっ、本当ですか?」

無言で頷く少年を見て、ワーロックは安堵し、脱力した。
散々探して回ったのに、元の場所に戻っているとは。
骨折り損だとは思った物の、しかし、ノストラサッジオが戻って来ているなら、問題は無い。
とにかく無事が何よりだと、ワーロックは誰かを恨む事はしなかった。

 「それなら良かった。
  有り難う御座いました」

彼が礼を言うと、少年は瞬きの間に、姿を消している。
旧い魔法使いの中には、人間嫌いの者が多く、全体として余り長々と会話をしない傾向にある。
淡泊な態度は寂しかったが、そんな物だとワーロックは割り切って、貧民街に向かった。
0079創る名無しに見る名無し
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2019/12/01(日) 18:39:00.73ID:qEXNyc3M
ワーロックはノストラサッジオを探しに方々走り回っていたので、貧民街に戻るのは数日振り。
そこでマグマの構成員にノストラサッジオの事を尋ねた。
マグマの構成員はワーロックの問に対して、歯切れの悪い回答をする。

 「戻って来た……と言って良いのか……」

 「どうしたんです?」

 「とにかく、会って貰えれば解ります」

そう言って、マグマの構成員は彼をノストラサッジオの部屋に通した。
そこでワーロックは川の畔に居た老人と再会する。

 「えっ、誰……」

ノストラサッジオと再会出来る物とばかり思っていたワーロックは、目を剥いて驚く。
同時に、どうして構成員の歯切れが悪かったのかも理解した。

 「貴方は……?」

ワーロックの言葉に、老人も戸惑った様な態度で答える。

 「私は……予知魔法使い……らしい」

 「らしいって……」

 「何故かは知らないが、ここに来れば良いと判っていた」

 「貴方がノストラサッジオさんの代わりの予知魔法使い……?」

 「ノストラサッジオ……。
  そう、彼は私に、そう言っていた。
  これからは私がノストラサッジオなのだと」
0080創る名無しに見る名無し
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2019/12/01(日) 18:41:02.07ID:qEXNyc3M
老人の言葉に、ワーロックは再び目を剥いて驚く。

 「ノストラサッジオさんに会ったんですか!?」

 「ノストラサッジオ……?」

ワーロックは老人に詰め寄ったが、老人は『ノストラサッジオ』が何か解っていない様子だった。
ワーロックは改めて老人に、ノストラサッジオの似姿を見せる。

 「彼です!」

 「ああ、この人だ。
  この人が私に……。
  いや、この人だったかな?
  記憶が曖昧だな?」

瞭(はっき)りしない老人に、ワーロックは不安になった。
彼は唯の痴呆老人なのでは無いかと。
怪訝な顔をするワーロックに老人は言う。

 「私はノストラサッジオ……なのか?」

 「違……いや、違わないのか?
  ノストラサッジオは個人名では無い?」

そう言えばと、ワーロックはノストラサッジオに会ったばかりの頃を思い出す。
もう随分と昔の事だが、ノストラサッジオは本名では無いと言っていた様な気がする。
老人は難しい顔をするワーロックに、困惑した顔で告げた。

 「とにかく私がノストラサッジオなのだ。
  そして予知をするのだ。
  私はノストラサッジオ、予知……魔法使い。
  君はラヴィゾール。
  ここはマグマの拠点、そして私の部屋」

老人は正気か妄言かも判らない言葉を吐く。
0081創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:39:26.90ID:4vegiXHz
ワーロックは彼がノストラサッジオだとは認め難かった。
そこで一つ質問をする。

 「貴方の名前を教えて下さい」

 「私は……、私は……?
  思い出せない。
  私はノストラサッジオ。
  違う、ノストラサッジオは私の名前では無い……。
  それは予知魔法使いの名前だ」

老人は混乱して、何度も首を傾げていた。
彼はワーロックを見詰めて言う。

 「君の知っているノストラサッジオは死んだ。
  そして私が後を引き継いだ」

彼の口調はノストラサッジオの物に似ている。
それがワーロックには不気味だった。
ワーロックは師の言葉を思い出す。

――魔法使いは究極的には魔法その物になる。
――「魔法の使い」としての魔法使いになるのだ。
――魔法を使う者から、魔法その物、そして魔法に使われる者へ……。

ノストラサッジオも同じだったのかも知れないと、彼は思った。
長年予知魔法使いとして生きていたノストラサッジオも、昔は普通の人間で、ある時から目覚め、
この老人の様に人間から魔法使いに変わってしまったのだろうかと。
そして、漸く目の前の「新しいノストラサッジオ」を認める気持ちになって来た。

 「貴方が新しいノストラサッジオさん……と言う事ですか?」

ワーロックの問に、老人は大きく頷く。

 「どうやら、そう言う事らしい」
0082創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:39:46.12ID:4vegiXHz
ノストラサッジオが何を思って、この老人に予知魔法を託したのかは分からない。
何も老人でなくてもとワーロックは思ったが、その方が都合が好かったか、或いは何等かの条件に、
当て嵌まるのが、この老人しか居なかったのか?
とにかくノストラサッジオは代替わりした。
今まで彼が頼りにしていたノストラサッジオは、もう居ない。
それをワーロックは悲しんだ。
彼に対して、老人は訳知り顔で言う。

 「嘆く事は無い、ラヴィゾール。
  私はノストラサッジオ。
  前代と変わらず、何時でも君達の力になる」

その言葉はワーロックを一層悲しませた。
この老人は人間だった頃の意識を失っている。
それまでの生を捨て、新たな予知魔法使いに生まれ変わったのだ。

 (そう言う人間を選んだのか……)

生に未練の無い者だからこそ、ノストラサッジオの後継者になれた。
そうして「魔法」は存えるのだ。

 「私が貴方を新しいノストラサッジオさんと認めるのには、未だ少し時間が掛かりそうです」

ワーロックは正直に自分の思いをノストラサッジオに告げる。
彼が何と言った所で、この老人が新しいノストラサッジオと言う事実は変わらない。
マグマも老人をノストラサッジオと認め、以前と変わらず、利用しようとするだろう。
老人は淡々と答えた。

 「私達は又会う事になる。
  何時でも待っているよ」

それは予知だ。
ワーロックも新しいノストラサッジオを認めて、今までと同じ様に付き合う様になる。
今では無く、「将来」の話。
0083創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:40:53.20ID:4vegiXHz
魔法とは正に「魔の法」だ。
社会に安定を齎す筈の法に拠って生きる人が、法を尊ぶ剰りに、法に縛られ、法に狂わされ、
法の内で滅びるのと同じく、魔法も人を狂わせる。
魔法を使う者は、何時しか魔法が「法」である事を忘れて、魔法に傾倒し、魔法に全てを捧げる。
そうして自らの生き方と魔法を同一の物とし、自分自身の生き方を忘れてしまう。
魔法を便利な道具としか思っていない内は、魔法を極める事は出来ない。
しかし、魔法を極めようとすれば、何時しか魔法に狂わされる。
魔法を使う者、魔法を極めんとする者は、覚悟しなくてはならない。
その全てを魔法に捧げる積もりがあるのか否かを。
人の身を惜しんで魔法の神髄は得られず、幾つもの魔法を極めんとする者も又、その神髄には、
永遠に届かない事を覚悟しなければならない。
真の魔法を志す道は、正に魔道なのだ。
ワーロックも魔法使いである。
彼は――彼の魔法は、彼の生き方その物だ。
魔法使いの魔法とは、その様な物であるべきだと、彼は思っている。
0085創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 18:24:38.76ID:ojyX/Z+8
グランスールとゲヴェールト


第六魔法都市カターナにて


精霊魔法使いの女、通称「グランスール」は、カターナ地方で3匹の犬を拾った。
この3匹は、どうやら主に捨てられたか、主と逸れるかしてしまった物らしく、
野良犬と言うには上品だった。
この場合の上品とは、見た目の事もあるが、振る舞いも含める。
よく躾けられているのだ。
無駄に人に吠え掛かる事はせず、無闇に人に噛み付く事もせず、堂々と落ち着いている。
多少は動物とも意思の疎通が可能なグランスールは、3匹の犬から事情を聞いた。
犬達の語る所によると、3匹の飼い主は所謂「外道魔法使い」であり、その中でも特殊な物で、
複数の人格を持つらしい。
飼い主の別人格は冷酷で、犬達を道具としか思っておらず、粗雑な扱いをすると言う。
魔導師との戦いで、飼い主は行方を晦ましてしまい、どこに行ったのか分からなくなった。
しかし、3匹は捨てられたとは全く思っていない。
何時か、優しい主人が帰って来ると信じている。
その健気さに心を打たれ、グランスールは3匹の飼い主が見付かるまで、仮の飼い主となる事にした。
旅の身である彼女は、行方知れずの飼い主を探すのには、都合が好かった。
犬達も彼女を信用して、共に付いて行った。
犬達はグランスールを本当の飼い主の様に慕っていた。
普段は彼女の背後を守り、怪しい者が彼女に近付けば、守る様に間に入る。
グランスールは犬達に守られる度に、不要な事だと思いながらも、その忠実さには感心していた。
そして、事々に3匹の犬に言うのである。

 「こんな賢い子達を捨てる主人は居ないよ。
  生きていれば、絶対に探そうとする。
  そう遠くない内に会えるさ」
0086創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 18:25:05.19ID:ojyX/Z+8
グランスールが3匹の犬を拾ったのは、未だ反逆同盟が倒れる前の事だった。
だが、彼女と犬達の付き合いは数月で終わった。
魔導師会の執行者が、彼女の連れている犬に目を付けたのである。

 「そこの人!
  その犬達は、貴女の飼い犬ですか?」

元々魔導師会と関わり合いになりたくないグランスールは、内心で非常に面倒臭く不快に思った物の、
それは心の中だけに収めて、表面上は穏やかに対応する。
彼女の敵意を察して、犬達が前に出ようとしたが、それをグランスールは手振りで抑えた。

 「はい、そうです」

一時的とは言え、飼い主なのだから嘘では無い。
しかし、執行者は簡単には彼女を解放しない。

 「どこかで拾った犬ですか?」

 「どうして、そんな事を?」

飼育届が必要ならば面倒だなとグランスールは考えた。
彼女は旅の身を言い訳にすれば、見逃して貰えるかと言う計算を始める。

 「いえ、よく似た犬の捜索願が出ている物ですから。
  丁度、貴女が連れている様に3匹の」

 「誰から?」

 「そりゃ飼い主ですよ」

遂に、この時が来たかとグランスールは溜め息を吐いた。
0087創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 18:26:08.07ID:ojyX/Z+8
彼女は事実を認める。

 「確かに、この犬達は私が拾った物だ。
  飼い主が居なくて困っていた様だから、私が一時的に預かった」

それを聞いて、執行者は安堵した。

 「そうでしたか……。
  飼い主に確認を求めるので、直ぐ近くの支部まで来て貰えませんか?
  先ず間違い無いと思うんですが、人違いならぬ犬違いと言う事もありますので」

グランスールは共通魔法使いでは無いので、執行者の依願に裏が無いか警戒していたが、
執行者は困った顔で告げる。

 「そう時間は取りません。
  本当に唯確認するだけですので」

執行者の言葉に嘘は無いと認めた彼女は、大人しく彼に従った。
数点掛けて支部に着いたグランスールは、そこで青年ゲヴェールト・ブルーティクライトと会う。

 「フリンク、アインファッハ、クルーク!」

ゲヴェールトは3匹の犬を見るなり、それぞれに呼び掛けた。
犬達はグランスールの下を離れて、真っ直ぐ彼に駆け寄り、戯れ付く。

 「おぉ、良し良し!!
  御免よ、お前達。
  でも、もう大丈夫だ。
  お前達を酷い目に遭わせたりはしないよ。
  これからは、ずっと一緒だ」

ゲヴェールトは3匹を撫で回して抱き締める。
0088創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 18:39:54.24ID:QIl8ymJD
グランスールはゲヴェールトと飼い犬の姿を見て、寂しそうな顔をした。
無意識に、そんな顔をしてしまっていた。
やはり仮の飼い主より、本来の飼い主なのだ。
彼女の視線に気付いたゲヴェールトは、小さく一礼をする。

 「有り難う御座いました。
  貴女が私の犬を保護して下さったんですね」

 「ああ、良いよ、礼には及ばない」

グランスールは感情を覚られない様に、視線を逸らした。
そんな彼女をゲヴェールトは熟(じっ)と見詰める。
何を見ているのかと、グランスールは不機嫌を顔に表した。

 「何か?」

 「あっ、いえ、どこの方かなと思いまして」

グランスールはカターナ地方民にしては背が高く、顔付きも細面だ。
加えて、浅黒い肌に白い伝統文様の入れ墨をしているので、とても目立つ。
グランスールが眉間の皺を一層深くしたので、ゲヴェールトは慌てて謝罪した。

 「済みません、立ち入った事を……」

後ろ暗い事があると思われるのも嫌なので、グランスールは答える。

 「私は旅の身だ」

 「あ、そうでしたか……」

何と無く気不味い空気になり、2人は沈黙する。
0089創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 18:40:33.75ID:QIl8ymJD
執行者は何時の間にか立ち去っている。
これ以上は魔導師会が関与する事では無いと言う事なのだろう。
ここで別れても良いのだが、グランスールは一つ気になる事があった。

 「貴方、共通魔法使いじゃないの?」

 「あ、はい。
  血の魔法使いです」

 「どんな魔法?」

グランスールは完全に興味本位で尋ねる。
特に深い意味は無い。
ゲヴェールトは困った顔で答える。

 「血を飲んだ者を操ると言う……」

 「操る?」

 「えー、説明は難しいんですが、意識を乗っ取ると言うか、思い通りに動かすと言うか、
  そんな感じの……。
  血液自体を操る事も出来ます。
  自分の血しか操れませんけど」

 「ああ、そう言う魔法……。
  変わった魔法ね」

 「はい、中々使い所の無い魔法で……。
  あの、貴女も共通魔法使いではない……ですよね?」

ゲヴェールトの問い掛けに、グランスールは大きく頷いた。

 「私は精霊魔法使いだ」
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2019/12/05(木) 18:41:18.91ID:QIl8ymJD
精霊魔法使いと聞いて、ゲヴェールトは1人の男を思い浮かべる。

 「――と言う事は、コバルトゥスと言う方を知っていますか?」

 「ああ、私の弟だよ」

 「姉弟……?」

ゲヴェールトはグランスールの容姿を上から下まで見詰めた。
グランスールは又も眉を顰める。

 「どうした?」

 「あ、いえ、余り似てらっしゃらないなと」

 「血の繋がりは無いからね」

 「あっ、そうでしたか……」

気不味くなって俯くゲヴェールトを見て、グランスールは小さく笑った。

 「こらこら、変な誤解をするんじゃない。
  別に複雑な関係じゃない。
  少しの間、一緒に暮らしていただけの、姉弟みたいな関係ってだけさ」

 「あっ、そうでしたか……」

そこから再び重苦しい沈黙。
ゲヴェールトは咳払いを一つして、改めて礼を言う。

 「えー、この度は誠に有り難う御座いました。
  ……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
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2019/12/06(金) 20:02:40.09ID:j+kGzTZN
社交辞令に疎いグランスールは小さく笑って拒否した。

 「私の名前を知って、どうしようって言うんだい?
  私は別に感謝も礼も求めないよ」

 「ああ、いえ、そう言う事では無く……。
  又どこかで、お会いするかも知れませんから……」

グランスールは惚けて答える。

 「そんな予定は無いけれど」

 「予定とか、そう言う話でも無く……」

どこかで偶々会った時にでも、何か恩返しが出来ればとゲヴェールトは思っていたのだが、
彼女には全く気が無い様だったので、彼は小さく息を吐いて諦めた。

 「とにかく有り難う御座いました。
  この御恩は、『必ず』、お返しします」

グランスールは肩を竦めて苦笑い。

 「別に良いって言うのに」

そうして2人は別れた。
――しかし、直ぐに2人は再会する事になる。
グランスールは旅の身だが、金が無くては生きて行けない。
彼女の主な収入源は、直ぐに金の入る飛び入りの仕事だ。
例えば、夜のクラブで歌手やダンサーをしたり、狩猟や漁猟を手伝ったり、割と何でも出来る。
プロフィールは大体偽っている。
0092創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 20:03:00.16ID:j+kGzTZN
グランスールの実年齢は、明らかに人外だと言える程では無いが、少なくとも若くは無い。
だが、外見年齢は若い儘である。
これは多くの魔法使いと同じく、彼女も半精霊化している為だ。
飽くまで「半」であり、永遠の命を持っている訳では無い。
肉体を捨て去れば、永遠の命を持つ事も可能だが、それをしようとは全く思っていない。
それは彼女自身、自然の儘に生きる事が、精霊魔法使いのあるべき姿だと思っているからに、
他ならない。
グランスールはカターナの海で、海女達と共に漁業を手伝っていた。
彼女はカターナ地方に訪れる度、毎年の様に手伝っているので、既に地元の海女集団とは、
顔馴染みである。
精霊魔法を自在に使う彼女は、泳ぎが得意で、水にも慣れており、潜水時間も常人の3倍は長い。
グランスールが狙うのは大物だ。
普通の人では手が出せない、大型の魚介類を取る。
大体自分の体と同じ大きさまでなら、彼女は捕獲出来る。
中には人間を襲う危険な物も居るが、グランスールの敵では無い。
大きい物は調理も相応に大変だが、共通魔法があるので、処理には苦労しない。
人間が入れそうな程の、大きな壺貝を彼女が海から引き上げると、海女達の間で歓声が起きる。

 「ヒャー、大物だ!」

 「相変わらず、凄いねぇ!」

海女達の年齢幅は広い。
家業としている者もあれば、グランスールの様に臨時の収入に利用する者も居る。
危険が伴うので、人気の職業と言う訳では無いが、稼ぎは悪くなく、後継者も多い。
グランスールは海女達に笑い掛ける。

 「もっと沖に、この倍はある真珠貝を見付けたよ。
  もし大きな真珠が入ってたら、今晩は宴会だ」
0093創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 20:03:26.28ID:j+kGzTZN
若い海女達が態とらしい嬌声を上げる。

 「キャー、素敵!」

それに対してグランスールは大きな笑みを見せるが、一方で経験豊富な老齢の海女達は心配顔で、
彼女に警告した。

 「あんたの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けなよ」

 「心配御無用です。
  海は私の味方ですから」

精霊魔法使いである彼女にとって、自然は彼女の親しい友人だ。
大型の海獣も、荒れ狂う波も、彼女の敵では無い。
老齢の海女達もグランスールを「海に愛された者」だと認識していたので、諄くは言わなかった。
グランスールは海に飛び込んで、大きな真珠貝を獲りに行く。
普通の人間なら、潮に流されて帰れなくなる様な場所も、グランスールには問題無い。
流れに乗って、大きな真珠貝まで接近し、精霊魔法で岩の隙間から貝を引き抜く。
その瞬間を待っていた様に、大蛸が彼女の背後に現れた。
触手も含めると人間の倍の大きさはあろうと言う、正に大蛸。

 (おっとっと、横取りかな?
  人の獲物を奪ろうなんて、甘い甘い)

グランスールは一度敢えて貝を蛸に渡すと、精霊魔法「水の槍」で蛸の急所、両目の間を貫いた。
蛸は貝を抱いた儘、体色を淡くして即死する。

 (これぞ一石二鳥)

グランスールは蛸が巻き付いた貝を回収して、浅瀬へと泳ぐ。
0094創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 19:40:19.48ID:kvreI0PH
そこへ更に闖入者が現れる。
今度は海獺だ。
逸れ物が単独でグランスールの抱える獲物を狙っている。

 (人の獲物を横取りしようとは、感心しないね。
  自分の力で狩りをやらないと、女の子に持てないぞ)

彼女は内心で独り言ち、対処方法を思案する。
蛸は呉れてやっても良いのだが、これで人間を狙う事に味を占めて貰っても困る。

 (仕様が無い。
  痛い目を見て諦めて貰おう)

グランスールは海中で海獺と戦う決意をした。
先ずは精霊魔法で海流を局所的に変化させ、海獺の行動を制限する。
海獺は本能で海流が判るのだ。
目に見えているかの様に、海流の強い部分、弱い部分を見極められる。
そして、自然に体力の消耗が少ない進路を選択する。
海流を避けて回り込んで来る海獺に対し、グランスールは水槍の魔法で、その目を狙った。

 「アギャァアアッ!!」

両目を潰された海獺は、醜い叫び声を上げて怯む。
その隙にグランスールは浅瀬へと泳いだ。
海獺は暫く、その場で沼田打ち回っていたが、直ぐに回復して再びグランスールを追う。

 (執拗いなぁ。
  執念深い事が悪い訳じゃないけどね。
  これは愈々女の子に持てない奴の行動だよ)

頭の先が漸く水面から出る程度の浅瀬で、グランスールは再び海獺と対峙する。
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2019/12/07(土) 19:41:01.58ID:kvreI0PH
グランスールは貝と蛸を守りながら、海獺と戦わなくてはならない。
海獺の大きさは3身程。
海獣としては小さい方だが、脅威には変わり無い。
武器があっても、真面な人間では立ち向かえないのが、大海獣なのだ。
グランスールは水の中に潜り、水の刃で海獺を切り裂く。
しかし、体の表面を傷付けるだけで、大きな打撃は与えられない。
海獺の方は既に貝にも蛸にも興味が無く、邪魔者のグランスールを排除する事だけを考えている。
突進を繰り返す海獺を、グランスールは流れに身を任せて回避する。

 (早く諦めた方が身の為だぞ。
  疲れるのは、そちらが先だ)

その内に海獺は疲れて、グランスールを無視して、浅瀬で休憩を始めた。

 (あらら、これは困った。
  そんな所で待ち構えられていたら、陸に上がれないじゃないか……)

海獺は海獣だが、陸上でも十分な機動力を持つ。
やはり人間では敵わない。
グランスールは精霊魔法を使い、静かに雨雲を呼び寄せた。
数針は掛かるが、雨雲を呼んで落雷で海獺を仕留めようと言う計算だ。
徐々に冷たい風が吹き始める……。
その時、海岸に3匹の犬を連れたゲヴェールトが現れた。
犬達が海獺を取り囲んで吠え掛かり、その間にゲヴェールトはナイフで自らの腕を浅く切り、
出血させる。
彼は出血した儘で、海獺に接近して腕を振るい、血飛沫を浴びせた。
血飛沫を顔に受けた海獺は、直ぐに大人しくなって、ゲヴェールトに平伏する。
3匹の犬達は海獺から離れて、ゲヴェールトの周囲に戻った。
その後、ゲヴェールトは海獺に指示して、海の中に帰らせる。
彼が海を指差すと、海獺は海に飛び込み、その儘沖へ。
0096創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 19:42:05.44ID:kvreI0PH
その間にグランスールは貝と蛸を波打ち際に運んだ。
今まで遠巻きに彼女を見守っているだけだった海女達も、彼女を手伝いに駆け付ける。
貝と蛸は無事に陸上に引き上げられ、海獺が戻って来る事も無かった。
落ち着ける状況になったグランスールがゲヴェールトの様子を窺うと、彼は腕に包帯を巻いて、
愛犬達と退散しようとしていた。
お礼をしない訳には行かないだろうと、グランスールは彼を追う。

 「待って!」

呼び止められたゲヴェールトは振り返って、彼女と向き合った。
彼は気恥ずかしそうな笑みを浮かべて言う。

 「何か?」

 「助けてくれたでしょう?」

 「ああー、別に助けは必要無かったみたいですけどね。
  海辺を散歩していたら、偶々見掛けた物で。
  大事にするのも何だと思ったので」

空模様を見ながら話すゲヴェールトは、状況をよく理解していた。
彼はグランスールが雷雲を呼んでいる事、更に自分の手助けが必要無い事も知っていた。
グランスールは眉を顰めて問う。

 「恩返しの積もり?」

 「いえ、こんな物で返せたとは思っていません。
  あれは……魔法使いとしての自己紹介みたいな物でしょうか?
  私には、こう言う事が出来ますと言う……。
  私の能力が役立つ時に、貴女と偶然一緒に居る可能性は低いでしょうけど」
0097創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:28:27.23ID:UROJyp13
ゲヴェールトの透かした態度が気に食わず、グランスールは不機嫌な顔をする。

 「助けられたからには、お礼をしないと行けないんだけど」

 「いえ、結構です」

 「『結構です』じゃなくて、これは私の主義だよ」

 「でも、貴女も私の礼は要らないと言ったじゃないですか?
  お互いに礼を受け取る積もりが無いなら、それも対等って奴でしょう」

ゲヴェールトに言い包められて、グランスールは引き下がった。
グランスールとしては、恩は押し付ける物で、返す物では無いのだ。
よって、他人に恩を売られると、どこか据わりが悪くなる。
それは単なる我が儘だ。
去ろうとするゲヴェールトをグランスールは再び呼び止める。

 「待て、名前を聞いていなかった」

ゲヴェールトは足を止めて振り返った。

 「ゲヴェールト。
  ゲヴェールト・シュトルツ・ブルーティクライト」

 「エグゼラ地方の生まれ?」

 「ああ、ティナー地方寄りの南部の生まれだ」

グランスールは頷いて、自分も名乗る。
「グランスール」と言う通称では無い、本当の名前を。

 「私はフィジア。
  カターナ地方の生まれ」
0098創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:29:30.74ID:UROJyp13
ゲヴェールトは彼女の名前を確認する様に、自分でも口にした。

 「フィジア……。
  名字は?」

 「無い。
  私は自然の中で生きる物。
  個体の識別としての名はあれど、所属を示す名字を持たない。
  最も古く、伝統的な精霊魔法使い。
  貴方が犬達に名字を付けないのと同じく、私達は自然の中では犬達と同じ。
  誰も何も区別しない」

精霊魔法使いとは面倒臭い物だとゲヴェールトは思うが、口には出さない。

 「そ、そうですか……」

 「敢えて言うならば、『精霊魔法使い<エレメンタル・マスター>』と。
  精霊魔法使いのフィジア。
  そう憶えて欲しい」

 「解りました、フィジアさん」

 「有り難う、ゲヴェールト。
  それともシュトルツ?」

 「あ、ゲヴェールトで大丈夫です。
  ミドルネームで呼ばれる事は余り無いので……」

 「そう。
  それじゃあ、又どこかで」

お互いに名前を確認すると、グランスールは再会を予感させる言葉を告げて、背を向けた。
0099創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:30:15.95ID:UROJyp13
グランスールは海女達の集団に戻る。
海女達は既に海岸から離れた場所で、大物の解体を始めていた。
若い子達は戻って来たグランスールに、ゲヴェールトの事を尋ねる。

 「姉さん、姉さん、あの人誰?」

 「誰って、只の顔見知りだよ」

若い子は色恋の香りに敏感なのだ。
年頃の男女が一緒に居れば、先ず関係を疑う。

 「嘘だー!
  そんな感じじゃなかったよ」

 「嘘って言われても」

グランスールは苦笑して、全く動揺を見せない。
若い子等は露骨に残念がる。

 「違うのかぁ……」

 「何だい、君達?
  君達こそ彼が気になるのか?」

若い子等は顔を見合わせ、小さく笑った。

 「気にならない訳じゃないけど……」

 「でも、そこまで気にする程じゃないって言うか?」

曖昧な返答にグランスールは眉を顰め、話を切り替える。

 「それより、真珠貝は?」
0100創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:41:21.26ID:bNDOCGha
年配の海女達は真珠貝の口を開けて、中身を取り出していた。

 「ほれ、大物だ」

拳大の真珠が2つ、3つと転がり出て来る。
若い海女達は目を輝かせて、真珠を手に取る。

 「わー、綺麗!」

それを年配の海女の一人が窘める。

 「これこれ、獲物を取ったのは、『姉<スー>』ちゃんだよ」

若い子等は揃ってグランスールを見た。

 「あっ、御免なさい……」

グランスールは小さく笑って許す。

 「良いよ。
  どうせ売ってしまうんだし。
  売り上げは皆で分けるんだし。
  今の内に、好きなだけ眺めときなよ」

彼女は形の残る物に頓着しない。
それが精霊魔法使いとして、あるべき姿だから。
精霊は基本的に見えないが、その存在は感じられる。
見える物ばかりに囚われていては、精霊には気付けない。
しかし、全く物欲が無い訳では無い。
価値観が一般的な人とは少し違うだけだ。
0101創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:43:53.28ID:bNDOCGha
貝も蛸も、身をその場で捌き、肉は凍らせて売り物に。
腐り易い内臓は、その場で処分する。
可食部は火を通して食べ、どうしても食べられない部分は廃棄する。
他の海女達が獲った魚介類も、同様に処理して行く。
若い子等は処理に手間取るが、年配の者達は手早い。
小物でも大物でも、あっと言う間に処理が終わる。
グランスールも手慣れた物で、精霊魔法を使った処理技術は見事の一言。
利き手の指先に刃を宿らせ、魚の腹を切り裂くと、内臓を掻き出す。
その間、魚を押さえる手には、冷気を宿らせ、鮮度を落とさない。
捌き終われば、運搬に困らない程度の大きさに切り分け、洗浄した冷海水に漬けて身を締める。
これを市内の魚市場に卸すのだ。
一通りの作業を終えた後、一人の若い海女がグランスールに話し掛けた。

 「あっ、姉さん、今更なんですけど……」

 「どうしたの?」

 「あの人に、お礼しなくて良かったんですか?」

グランスールは眉を顰めて答える。

 「要らないってさ」

 「はぁ、変わった人ですね」

 「……ああ言うの、私は嫌い」

グランスールが人間の好き嫌いを口にした事に、若い海女は驚いた。
0102創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:45:05.28ID:bNDOCGha
グランスールは人当たりが好く、誰かの悪口を言う事は無かった。

 「あの人と何かあったんですか?」

至極当然の疑問に、グランスールは飄々と答える。

 「お礼をすると言ったのに、断られた。
  好意を無下にされれば、誰だって良い気はしない」

 「あれじゃないですか?
  都市警察だとか、執行者だとか?
  市民から、お礼を貰えないって言う」

 「そうでは無いから不満なのだ」

 「それじゃあ……。
  下心があると思われたから?」

 「警戒された訳でも無い。
  ――と言うか、そんな風に見えるのか?」

男を取って食う様な女に見えるのかと、グランスールは若い海女に尋ねた。
若い海女は苦笑いして、正直な印象を述べる。

 「見えない事も無いですよ。
  堂々としてますし、下手な男の人より強そうで。
  如何にも肉食系って感じ」

 「……とにかく、それは関係無い。
  もう、この話は良いだろう」

 「好意に甘えてくれる人の方が好きなんですか?」

 「そう言う訳でも無い。
  嫌いと言うのも、心の底から嫌だとか、そこまでの話では無い」

分からない人だなと若い海女は小首を傾げるばかりだった。
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2019/12/10(火) 19:32:05.29ID:JrDjsPxu
童話「運命の子」シリーズA 奇跡の者

『王位禅譲<スローン・インヘリタンス>』編


南西の国で悪魔を退治したクローテルのうわさは、アーク国にも届きました。
いよいよ彼こそ本物の神の子では無いかと、アーク国中で語られる様になります。
それから間も無く、ルクル国のマルコ王子とオリン国のアレクス王子とアーク国のヴィルト王子が、
3人で秘密の約束をします。
それはクローテルを新たな王、それもアーク国だけでなく、全ての国を治める王の中の王として、
迎えようと言う物です。
しかし、アーク国の王は王位をゆずるつもりはありませんでした。
多くの国をまとめるのは自分以外に無いと思っていました。
クローテルが王になると言う話は、未だ先の事だったはずですが、そこに教会も加わって、
話はますます複雑になります。
教会の中で熱心な信仰心を持つ集まりは、クローテルを次の王にしようと考えていました。
その中心にあったのが、司祭の娘のシスター・ローラです。
彼女はクローテルが神の子であると、早くから知っていました。
そして彼の勇ましいうわさが広まる度に、その確信を深めて行きました。
多くの出来事が一つの輪となり、クローテルを新しい王に選び出そうとしていました。
0105創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 19:34:05.98ID:JrDjsPxu
時は流れ、クローテルは19才になりました。
オリン国は非公式ながらクローテルを王にする事を認める予定でした。
ルクル国も同じく、また他のほとんどの国でもクローテルと言う神の子を王の中の王、
新しい神王として正式に認める事に反対しないつもりでした。
ただアーク国王と一部の教会の者だけは認めるつもりがありませんでした。
ある時クローテルは王に呼び出されて、こう告げられます。

 「クローテルよ。
  世間では、そなたこそが王になるべきだと考える者が居る様だ」

 「その様なつもりはありません」

 「それならば良いが、本当に王にはならぬのか?
  心のどこかでは、王になる日を待ち望んでいるのではないか?」

疑り深いアーク国王にクローテルははっきり言いました。

 「私が王になるとすれば、それは運命に導かれた時です」

これにアーク国王はおどろいて、クローテルを問いつめます。

 「お前は自分が王になると思っているのか!?」

 「それは分かりません。
  もし、そうなる時が来たらと言う事です」

 「王になる者は高貴な血統でなくてはならぬ。
  クローテル、お前には神器を……」

そこでアーク国王は言葉につまってしまいました。
0106創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 19:37:32.43ID:JrDjsPxu
うわさが正しければ、クローテルは神器を使えるのです。
アーク国王を聖槍家当主たらしめている物は、神槍コー・シアーを使えると言う事実です。
だからクローテルも神器を使えるのであれば、彼を王と認めざるを得ないのです。
そして、もしクローテルを王に選ぼうと言う者があれば、神器を使える事を証明させるでしょう。
クローテルはアーク国王に言います。

 「全ては運命です。
  私が王となるもならないも、その中での出来事です。
  私は聖騎士として多くの物を見て来ました。
  多くの悲しい出来事をありました。
  私は王となる運命が来たら、それを受け入れようと思っています。
  そして……」

 「いや、もう良い!
  何も言うな!」

アーク国王はクローテルの澄んだ目に耐えられなくなり、彼の言葉を止めました。

 「お前は王と言う物を知らぬのだ。
  王になると言う事は、権力を得る事。
  そして権力には誘惑がつきまとう。
  お前は……、お前ははかりごとばかりの世界で生きて行くには若すぎる」

 「陛下、私には人の心が見えます。
  陛下の王国の行く末をうれう心が分かります。
  しかし、陛下、私はアーク国の王、一国の統治者になるのではありません。
  あなたを王位から追い落とすつもりもありません。
  私には、より大きな使命の様な物が見えるのです。
  私には政治は分かりません。
  国家を統治する事は出来ないでしょう」

クローテルの瞳は白く、まるで全てを見通しているかの様です。
アーク国王はクローテルのまなざしにふるえました。
0107創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 18:06:30.78ID:3N9HrvLf
アーク国王は恐れを隠す様に、怒りと見下しの目を向けてクローテルに言います。

 「ハハ、ハハハ……!
  統治せぬ王は王では無い!
  王とは君臨する者の事だ!」

何も答えないクローテルに王は独り演説を続けました。

 「人民とは正にアリの様な物。
  欲のままに甘味にたかり、少し小突かれただけで、おどろき逃げ惑う。
  それをまとめ上げ、従えるのが王の役割。
  人の本性はけだものだ。
  王の法の下、罪には罰を与え、功に報いる事によって、ようやく人になる。
  人を人にする事、これもまた王の使命」

 「本当に、そうなのでしょうか?
  人の本性はけだものでしか無いのでしょうか?」

クローテルの問いかけに、王は自信を深めて答えます。

 「そうでなければ法と言う首輪は必要あるまい。
  世の全ては、必要があって、そうなっているのだ。
  王も教会も貴族も騎士も商人も農民も。
  それは精巧な細工のごとく、どれが欠けても崩壊する」

 「分かります。
  しかし、今の世のあり様を見ても神王は不要だとおっしゃるのですか?」

 「神の存在は人には余りにもまぶしすぎる。
  どこまでも人は人でしかなく、完璧にはなれぬ。
  だから人は神より王を求めるのだ」

王は自分を正当化して、クローテルを言い負かしたつもりになっていました。
0108創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 18:07:57.86ID:3N9HrvLf
しかし、クローテルは動じません。

 「それも真実なのでしょう。
  しかし、あなたは知っています。
  今の世が決して平穏なままでは無い事を。
  何者の支配も永久ならざる物だと言う事を。
  ただ神を除いて」

 「お前ごときが神を語るのか!?」

 「いいえ、私は神ではありませんし、神意を知る事も出来ません。
  それでも神の御業を感じる事は出来ます。
  もし私が王となるならば、それは運命によってです。
  あなたが善き王であり、善く支配し、善く人々に支えられるのであれば、運命が私を選ぶ事は、
  無いでしょう」

その言葉に王は再び恐れを感じました。
彼は自分が善き王である自信が無かったのです。
その夜、アーク国王は教会で司教達と司祭達を集めました。
そして、こう言ったのです。

 「このままでは聖騎士クローテルが王になってしまう。
  それも、ただの王ではない。
  王の中の王、世界を統べる神王だ」

司教達と司祭達はとまどっていました。
一人の司教が王をなだめます。

 「陛下、何を恐れる事がありましょう。
  あなた様はアーク国の王なのです」
0109創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:09:48.64ID:3N9HrvLf
それに対して王は激怒しました。

 「何だと、貴様!
  私が若僧を恐れていると言うのか!」

司教は失言に気づいて平謝りします。

 「も、申しわけございません……」

しかし、王は怒りが収まりません。

 「それが貴様の本心なのだな!
  私が若僧ごときを恐れていると、心の中で笑っているのか!!」

他の司教達や司祭達は口を閉ざしました。
王は我に返って、ようやく怒りを静めます。

 「とにかくクローテルを神王とは認めない様に。
  今の時代に神王は不要なのだ。
  これまで私達は上手くやって来た。
  そうであろう?」

司教達と司祭達は同意せずに沈黙しました。
これに不満を持った王は、翌日にアーク国と周辺国の貴族を呼び寄せて、同じ様な会合を開きます。
ただクローテルだけは会合に呼びませんでした。
そして王は貴族達にもクローテルを神王と認めない様に迫りました。

 「諸君、よく集まってくれた。
  話と言うのは最近の一部の貴族や教会の不穏な動きについてだ。
  どうやら聖騎士クローテルを神王として認めようと言う動きがある様なのだ」
0110創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 11:10:00.64ID:iUyqOuVb
ハツカネズミのジョニー「 あーカユカユ &#12316;背中がかゆいわ&#12316;、何でやろな?お前のせいやわ」
0111創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:57:43.04ID:zx+tRPXy
貴族達はおどろいて顔を見合わせました。

 「何とおそれ多い。
  一体誰が、その様な……」

 「王子達が秘密の会合で決めたのだ。
  ルクルとオリンの王子も参加していたと言う」

王の発言に貴族達はまたもおどろきます。

 「ヴィルト王子もですか!?」

1人の貴族が放った言葉に対して、王は答えませんでしたが、その顔は強張っていました。
それだけで貴族達は事情を察しました。
また別の貴族がアーク国王に問いかけます。

 「教会は何と言っているのでしょうか?」

 「やつ等は当てにならぬ。
  やつ等にとっては王や貴族より神だ。
  神を持ち出されれば従わざるを得ぬ」

王が何を言っているのか、貴族達は分かりませんでした。
王はつまり、クローテルには神がついていると言っているのです。
また別の貴族の1人がアーク国王にたずねました。

 「クローテルとは何者なのですか?」

そう聞かれて、王は黙ってしまいました。
クローテルについて何を言っても、彼の名誉をたたえる事になってしまいます。
貴族達もクローテルのうわさについては知っています。
うそやごまかしは通じません。
0112創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:58:20.16ID:zx+tRPXy
アーク国王は、事実を言う事しか出来ませんでした。

 「得体の知れない男だ。
  もしかしたら人間では無いのかも知れぬ」

それを聞いた貴族達は声をそろえて言います。

 「悪魔審問だ!
  教会に悪魔審問会を開かせれば良いではありませんか!」

貴族達の威勢にアーク国王はおびえました。
もしクローテルが悪魔審問を乗り越えてしまえば、もう彼を責める事が出来なくなります。
アーク国王は苦しまぎれに言いました。

 「いや、教会も信用ならぬ」

そこまで事態は深刻なのかと、貴族達は顔を見合わせました。
沈黙の中で、また1人の貴族が言います。

 「それならば、神器の審判を受けさせましょう。
  悪魔も神器からは逃れられますまい」

それは名案だと他の貴族達も賛成します。

 「他の国にも呼びかけましょう。
  公の場でクローテルの正体を暴くのです」

再び勢いを増した貴族達に、アーク国王は参ってしまいました。
もしクローテルが、それさえも乗り越えてしまったら、もう止める事は出来ません。
誰もがクローテルを神の申し子と認めてしまうでしょう。
0113創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:59:14.65ID:zx+tRPXy
アーク国王は何とか貴族達を抑えようと、呼びかけました。

 「待て待て、はやってはいかん。
  落ち着くのだ。
  神器は神聖な物。
  そうみだりに神器を持ち出すわけにもいかんのだ」

王の発言に貴族達は不満そうな顔をします。
一体何をためらっているのかと、みんな不思議でならないのです。
王の命令があれば、神器を持ち出す事は難しくありません。
いつも式典でヴィルト王子に持たせているのですから。
貴族達の疑いの目に、アーク国王はひるみました。
貴族達はうったえます。

 「教会もむしばまれているとなれば、これは国の一大事。
  すぐに手を打たねばなりません」

 「そうです。
  誤解なら誤解で良いではありませんか?」

アーク国王は弱気になり、貴族達に問いかけました。

 「本当に良いのか?
  もしクローテルが神器の試練に堪えれば、神王となるかも知れぬのだぞ。
  その時にクローテルが何をするのか分からぬのだ。
  貴族の権威をおびやかすかも知れぬ」

貴族達は顔を見合わせ、少し迷いました。

 「しかし、このまま見過ごすわけにはいかないでしょう」

 「もしクローテルが悪魔の手先ならば、この国はどうなるのですか?
  神王になるならないは、後の話。
  まずは白黒はっきりさせるべきです」

アーク国王は何も言い返せませんでした。
心なしか貴族達の目が冷たく感じられます。
それは決断出来ない国王を批難しているかの様でした。
0114創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:21:29.72ID:6s/lxUJ/
アーク国王の心配をよそに、クローテルに対して悪魔審問会が開かれる事になりました。
しかも、教会の行う物では無く、アーク国・オリン国・ルクル国が協力し、多くの貴族と国民の前で、
公開されるのです。
アーク国の大聖堂で、その悪魔審問会は開かれました。
悪魔審問会としか聞かされていない多くの貴族や国民は、英雄である聖騎士クローテルが、
一体どうなってしまうのかと、ある者は興味本位で、ある者は暗いねたみをこめて、
ある者は本気で彼を心配して、審問会の行く末を見守っていました。
しかし、ルクル国の国王夫妻と王子、そしてオリン国の公王と王子、そして教会の一部の者だけは、
この審問会が持つ真の意味を理解していました。
聖騎士にして子爵クローテルが被告人席に上がって、聖堂内がざわつきます。
その後に教会の中でクローテルに不信感を持つ派閥の審問官が3人登場して、被告人席を囲みます。

 「これより悪魔審問を開始する!」

罰棒を持った3人は、杖で聖堂の床をドンドンと叩き、厳しい声で宣言しました。

 「なんじ、クローテル!
  そなたには悪魔つきの嫌疑がかけられている!
  この審問会は、その疑いを晴らすためにある!」

 「神聖なる心でのぞめ!
  決していつわりをのべる事は許されぬ!」

 「聖なる宣誓文を読み上げよ!」

審問官に言われた通り、クローテルは宣誓文を読み上げます。

 「私は神の愛し子として、自らの良心に従い、真実のみをのべ、いつわりを口にせぬ事を誓います」

 「よろしい!
  では、尋問から始める!」
0115創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:21:55.25ID:6s/lxUJ/
クローテルの宣誓の後に、審問官はクローテルを問い質します。

 「クローテルよ、そなたは神を信じているか?」

 「分かりません」

その答えに3人の審問官はぎょっとしました。

 「分からぬとは何事かっ!!」

 「この神国に生まれながら、神を感じた事は無いと言うのかっ!!」

審問官達の怒りにもひるまず、クローテルは答えます。

 「はい。
  神の教えは理解しています。
  この世の全ての理を創造された方だと。
  しかし、世に満ちる理の神秘を感じる事はあっても、神の心、神意を感じた事はありません。
  故に、それを信じて良い物か分からないのです」

審問官は彼をあわれみました。

 「世の全ては神の計らいである。
  そなたが今日まで生き、その勇名をはせたのも、今まさに審問の場にあるのも。
  自然の物、全てが神意である」

 「それでは、世の幸不幸も?」

 「しかり。
  全ては神の差配である」

 「聖書には、そうは書いてありませんでした。
  神は姿を隠したために、世の幸不幸は人の差配であると。
  もし人の世が多くの者の望まざる物でありながら、人の手ではおよばぬ程に乱れた時、
  初めて神は御手を差し伸べられると」
0116創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:22:56.19ID:6s/lxUJ/
審問官は口をつぐみます。
クローテルはなおも聖書の言葉を続けました。

 「神は私達の支配者ではなく、私達を支配する事もしないと。
  それは喜ばしい事でもあり、悲しむべき事でもあると。
  運命はただ一つの事を除いて、全てはまやかしであると」

彼の堂々とした語りは、まるで神の言葉の様でした。
審問官だけでなく、多くの聴衆も彼の言葉に聞き入っていました。

 「聖書の言葉は正しいと思います。
  しかし、私は神を信じて良いのか迷っています。
  何故なら今、私の目の前に運命があるからです。
  それが本物かまやかしの物か、分からないのです。
  審問官よ、お答え下さい。
  『これ』は運命ですか?」

クローテルの問いかけに、審問官は我に返って答えました。

 「しかり。
  これは運命である。
  そなたは運命に測られている」

 「残念ながら、尋問にて熱心な信仰心は認められなかった!
  しかし、邪悪な物と断ずる事は早計と考える!」

 「これより聖別の儀を行う!
  聖十字十芒星章を持て!
  聖水と聖油による清めを受けよ!」

審問官達が要求すると、3人のシスターが聖具を持って現れます。
0117創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:30:00.15ID:iQ/He6wx
1人は聖なる紋章を、残りの2人は聖水と聖油を持っていました。
3人の審問官は、ぞれぞれ聖具を受け取ると、クローテルに向かって言います。

 「もし、そなたが悪魔なら、聖なる物に何がしかの反応を示すだろう」

クローテルは全く何の反応もしませんでした。
審問官の1人がクローテルに、聖なる紋章を突き付けます。

 「邪悪なる物よ、退け!」

聖なる力で紋章はまばゆくかがやき始めましたが、クローテルはまばたき一つせずに、
まっすぐ見つめていました。
審問官は低くうなり始めます。

 「う、ううむ……」

 「次は私が」

もう1人の審問官が、聖水の入ったビンを持って進み出ました。
彼は聖水を自らの手に少しかけます。

 「これは聖水である。
  この様に普通の人間には効かないが、悪魔や悪魔つきが浴びると、やけどの様になる。
  被告クローテル、両手を差し出すのだ」

クローテルは言われるままに両手を前に差し出しました。
審問官は手に聖水をかけます。
クローテルは無表情のままでした。

 「……効かない様だな」

聖水を持った審問官が引き下がると、最後の審問官が聖油を持って進み出ました。
0118創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:30:56.40ID:iQ/He6wx
 「クローテルよ、聖油は悪しき物を退け、万病をいやす。
  敬けんな心を持って、こうべをたれよ」

審問官は聖油の入ったビンを開けて、頭を下げたクローテルの上にたらしました。
やはりクローテルは何ともありません。
審問官達は顔を見合わせて、首を横に振りました。

 「なんじ、クローテル。
  そなたに魔性は認められなかった。
  しかし、信仰心あつき敬けんな信徒とも言い難い」

 「すなわち、そなたは一般的な、あるいは大きなとがめ無き者と変わらぬ存在かも知れぬと言う事。
  聖騎士の号(よびな)は聖性のある者にしか認められぬ」

 「これより、なんじの聖を見る。
  そなたに聖性が認められなかった場合、聖騎士の号をはく奪する」

そう言って、悪魔審問官達は下がりました。

 「神器の審判を始める!
  神器は聖職者であっても、みだりに手に出来る物では無い。
  だが、幸いにして、この場には神器の継承者であらせられる王子達がおわせられる。
  聖なる者の選定は聖なる者によって行われるべし。
  どうぞ、お出でになられます様、お願い申し上げます」

それに応じて、ルクル国のマルコ王子とオリン国のアレクス王子、そしてアーク国のヴィルト王子が、
席を立って、クローテルの前に立ちました。
マルコ王子の手には旗が、アレクス王子の手には盾が、ヴィルト王子の手には槍があります。
0119創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:32:05.67ID:iQ/He6wx
3人は声をそろえて言いました。

 「なんじ、聖騎士クローテル!
  これより我等3人が、そなたの聖性を見る!
  神器の審判を受けよ!」

そしてアレクス王子が最初に一歩進み出ます。

 「我がオリン国に伝わるは神盾セーヴァス・ロコ!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる盾がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が盾を持て!」

アレクス王子に命令されて、悪魔審問官の1人が盾を持とうとします。
しかし、審問官が盾を受け取ると、見る見る盾は重くなり、審問官は立っていられなくなりました。
審問官は盾を落とさない様にするのがせいぜいで、その場にうずくまってしまいます。

 「おお、まさしく神器……。
  選ばれし者にしか持つ事を許されぬ物……」

アレクス王子は審問官から盾を取り上げると、改めてクローテルと向き合います。

 「クローテル殿、盾をお持ち下さい」

クローテルはアレクス王子から盾を受け取りました。
盾は少しも重たくなく、まるで軽木の様な軽さです。
クローテルは盾を持ち、両手で高くかかげました。

 「そして身に着けるのです」

アレクス王子に言われた通り、クローテルは盾を左手に装着しました。
そうすると、盾がまばゆくかがやき始めます。
アレクス王子は聖堂中に大声で宣言しました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0120創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:25:27.53ID:IynuwEX1
クローテルに盾を返してもらいアレクス王子は下がります。
次にマルコ王子がクローテルの前に立ちました。

 「我がルクル国に伝わるは神旗マスタリー・フラグ!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる旗がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が旗を持て!」

マルコ王子に命令されて、悪魔審問官の1人が旗を持ちます。
盾の時とは違って、旗が重くて持てないと言う事はありませんでした。
続けてマルコ王子は命じます。

 「ひもを解き、旗を立てよ。
  正しき信仰心が風を呼び、旗をたなびかせる」

審問官は旗を広げて立てましたが、聖堂の中では風が吹くはずも無く、だらりと旗はたれ下がります。
マルコ王子は審問官から旗を返してもらい、自ら神器の神秘を見せました。

 「正しき者が持ては、こうなるのだ」

マルコ王子が旗を立てると、どこからとも無くさわやかな風が吹いて、旗をたなびかせました。
審判を見物に集まっていた人々は、神器の神秘を見ておどろきます。
マルコ王子が旗を下ろしてたたむと、風は少しずつないで収まりました。

 「それではクローテル殿」

マルコ王子はクローテルに旗を差し出します。
クローテルは旗を広げて立てました。
そうすると、マルコ王子の時と同じ様に、どこからとも無く風が吹いて、旗をたなびかせます。
マルコ王子は聖堂中に大声で宣言しました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0121創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:26:00.11ID:IynuwEX1
クローテルに旗を返してもらい、マルコ王子も下がります。
最後にヴィルト王子がクローテルの前に立ちました。

 「我がアーク国に伝わるは神槍コー・シアー!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる槍がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が槍を持て!」

ヴィルト王子に命令されて、悪魔審問官の1人が槍を持とうとします。
しかし、審問官が槍を受け取ると、見る見る槍は重くなり、審問官は立っていられなくなりました。
審問官は槍を落とさない様にするのがせいぜいで、その場にうずくまってしまいます。

 「おお、まさしく神器……。
  選ばれし者にしか持つ事を許されぬ物……」

ヴィルト王子は審問官から槍を取り上げると、改めてクローテルと向き合います。

 「クローテル殿、槍をお持ち下さい」

その時、たまらずアーク国王が立ち上がりました。
このままではクローテルが神王になってしまうのです。

 「待て!!」

アーク国王は自ら審問の場に出て、ヴィルト王子から槍を取り上げました。

 「神槍は盾や槍とは違う!!
  これはおそろしい神器だ!!
  みだりに他者に持たせるでない!!」

 「父上……いえ、陛下、審判のさまたげになります。
  お下がり下さい。
  ご心配にはおよびません。
  邪心ある者に神器は使えないのです」
0122創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 17:26:59.65ID:IynuwEX1
ヴィルト王子は落ち着いて言いましたが、アーク国王はうろたえて言いました。

 「く、来るな!」

アーク国王は神器の先をヴィルト王子に向けます。
それと同時に、アーク国王の手の中で、槍が重くなって行きました。

 「な、何だと!?」

アーク国王はあせりました。
神器が王を見放したのです。
それをさとられまいと、アーク国王は必死に槍を持ち続けました。
しかし、どんどん重さは増して行きます。

 「陛下……」

ヴィルト王子の目にはあわれみが表れていました。
他の者に分からない様にと、ヴィルト王子はアーク国王から槍を取り上げます。

 「お下がり下さい、陛下。
  今は神聖な審判の最中です」

アーク国王はただ審判を見届けるしかありませんでした。
ヴィルト王子は改めてクローテルに神槍を差し出します。

 「クローテル殿、槍を」

クローテルは槍を受け取って、高くかかげました。
槍はまばゆくかがやき、聖堂中を照らします。
ヴィルト王子は大声で言いました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0123創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/16(月) 19:24:27.68ID:+3AiWON8
3人の王子は神器をかかげて声をそろえ言いました。

 「我等は彼こそ神なる王と認める!
  教会よ、今こそ選定の時」

神器を持ち出されては、教会も従わざるを得ません。
そのまま大聖堂で神王選定が始まります。
アーク国王は頭を抱えました。

 「あぁ、聖君……。
  やつが本物の聖君なのか?
  わしには何も分からぬ……」

教会の者達も、ここで聖君の選定を行うとは思っていなかったので、どよめきました。
しかし、王子達は本気です。
神器がクローテルを選んだ以上、もう彼を否定する事は出来ません。
教皇と司教達は協議を始めました。
王子達は、その様子をじっと見守っています。
王子達をいつまでも待たせるわけにも行かず、教皇がクローテルの前に立ちました。

 「なんじ、クローテル。
  そなたは神器に選ばれし者。
  教会は、そなたを神王になるべき者と認める。
  ……ただ、神王選定の儀は神聖にして厳なる物。
  後日、正式に神王選定の儀を行う場を設けたい」

クローテルは困った顔をして問います。

 「いつですか?」

 「そう遠くない日。
  遅くとも今年中と約束しよう」
0124創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/16(月) 19:25:32.14ID:+3AiWON8
教皇の話を聞いて、クローテルはうなずきました。

 「分かりました」

王子達は神器を下ろして、再び宣言します。

 「我等、神器の後継者、神聖十騎士となり、神王に仕える!
  全ての神器は今再び1人の主の下に!」

大聖堂は歓声に包まれました。
先代神王の死後、ばらばらだった各国が、今こそ1人の王の下で、1つになるのです。
そして――……、それから3月の後に、再び大聖堂で神王選定の儀が開かれました。
そこには次世代の新たな十騎士も集まっています。
祈り子長、軍師、従者、御者、槍持ち、盾持ち、旗手、袋笛吹き、鳴鐘者、将軍。
教皇は各国の代表者の前で、クローテルを神王だと宣言します。

 「この者、神器に選ばれし者、クローテル。
  神王としての名はジャッジャス。
  神王の下、今ここに神聖アーク国がよみがえる」

クローテルは教皇に認定されて、正式に神王となりました。
彼は新しい聖君として、信仰心が失われて乱れた世界を再興させるのです。
その後、多くの国が、ただ1人の真なる王を認めて、その下に集いました。
クローテルは治める国を持たない王を統べる王となって、神意の象徴として多くの国を従え、
神聖アーク国を築きました。
0125創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/16(月) 19:26:39.59ID:+3AiWON8
解説


これにて運命の子シリーズの第2章は終わる。
第2章はシリーズ的に最も人気があり、作者としては、ここでの完結も視野に入れられていた様だが、
読者の続編を望む声に応える形で、第3章の執筆が決定する。
この後、シリーズ第3章では、未だにクローテルを認めない者や、聖君を戴く事その物を認めない、
守旧派との国家統一戦争に移る。
しかし、3章は神器を持ったクローテルの一方的な粛清と言う面が強くなる上に、政治闘争も増え、
面白味が無く、シリーズの人気は低迷する事となった。
第4章にて、幾らか人気を盛り返すも、今度も政治的な要素が絡んだ為に、人気回復には至らず。
多くの少年少女読者は、竜退治や悪魔退治の様な、冒険要素を求めていたのである。
0126創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 18:38:24.56ID:J8fAN70T
商業的な話は扨て措き、本編の解説に移る。
この話ではアーク国王の愚かさが強調されているが、原典は輪を掛けて酷い。
焦る余りに、教会にも貴族にも失望されて、孤立してしまう。
権力に固執する人間とは、この様な物だと言う、旧暦の統治者への批判だろうか?
しかし、アーク国王の悩みも、尤もな物ではある。
クローテルには政治は難しいだろうとは、誰もが思う事だ。
権力闘争、派閥作り、根回し等とは、全く無縁の人物に思われる。
これは旧暦の政治制度の腐敗が原因と見られている。
詰まり、人々は統治者である王や貴族が、国民や領民の為では無く、自分達の利益の為だけに、
行動すると思っており、それ等を超越して、絶対的な正しさを以って、全てを公平に裁いてくれる、
神王を欲したのだ。
それが後々の悲劇に繋がるのだが……。
アーク国王の言う通り、人に神は眩し過ぎたと言う事なのだろう。
0127創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 18:42:28.58ID:J8fAN70T
作中で登場した悪魔審問官は、人に紛れた悪魔を裁く者達だ。
しかし、活躍した記録は殆ど無い。
これは悪魔審問官の権限が原因である。
先ず審問には教会の許可が必要で、更に平民を裁くにも領主の了承が必要で、更に貴族を裁くには、
王や周辺の貴族の了承が必要だった。
よって、殆ど活躍の機会が無い、閑職も同然の機関だったのだ。
一応、その役目は果たせる様になっているが、悪魔を退治したと言う記録は殆ど無い。
「殆ど」なので、何点かは見付かっているのだが、正確性と具体性と信憑性に欠けるのである。
未だ史料が発見されていないだけと言う可能性も、勿論あるのだが……。
審問は、形式的には尋問と聖別によって行われる。
尋問も聖別も、実際に悪魔を見分ける効果があったかは疑わしい。
尋問の内容は、聖書の暗唱、或いは聖書の精神を問う事が基本であり、これだけで悪魔の区別は、
難しいと思われる。
神聖魔法にも共通魔法の愚者の魔法の様な、嘘を封じる魔法があれば、話は違って来るのだが、
審問官が魔法を使った様子は無い。
審問の場となった、聖堂に仕掛けがあるのかも知れない。
但、尋問よりは、聖別に魔法的な効果が付与されていたと見るのが普通であろう。
聖具は所謂「魔法道具」であり、神聖魔法と異なる魔力の流れに反応するのかも知れない。
聖具自体が聖別によって清められた道具であり、その「清める」とは具体的に、どうするのか、
全くの不明なので何とも言えないが……。
0128創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 18:43:22.04ID:J8fAN70T
当然、実際の悪魔審問では、神器を持ち出したりはしない。
大聖堂で行われた悪魔審問は、実質的には神王選定の儀だった。
原典では、それ等は教会、ルクル国、オリン国の三者による共謀だったとされている。
悪魔審問の名を借りて、不意打ち的に神器による神王選定を行ったのだ。
三者は聖君代理であるアーク国王が、クローテルを神王にする事に難色を示していたので、
こうせざるを得なかった。
アーク国王は聖君の代理であり、最も大きな権力を持っていた。
新たな神王の選定には、聖君代理の承認が必要だったのだ。
クローテルの聖君にする為、アーク国王に神王認定を拒ませない為に、神器を持ち出したのだ。
どれだけアーク国王に権力があっても、実際に神器に選ばれた者を拒む事は出来ない。
何故なら、アーク国王の聖君代理としての正当性も、神器に由来するからである。
ヴィルト王子もクローテルが神王となる事に賛成していたが、仮に彼が反対していても、
ルクル国とオリン国が神器を持ち出せば、アーク国も動かざるを得ない。
ルクル国はアーク国王が聖君代理である事を快く思っていない節があり、その為に協力的だった。
十騎士の後継者を集める等、ルクル国王家はアーク国王の代わりに、マルコ王子を新たな聖君、
或いは聖君代理としたかった様である。
当のマルコ王子はクローテルを新たな聖君として認めてしまったが、ルクル国王もアーク国王よりは、
クローテルが聖君になった方が良いと思ったのであろう。
0129創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 19:07:03.25ID:xnoZX0p5
そこで話はアーク国王の信望に移る。
如何にクローテルが神器に選ばれようとも、アーク国王が統治者として優れた者であれば、
国民が幸福だと実感していれば、聖君の交代は無かった筈である。
アーク国に成り代わって、聖君代理者が統治する聖都に成ろうと言う野望を持つ、
ルクル国は分からないが、少なくともオリン国はクローテルを聖騎士の儘で居させた。
そうした記述が原典にはある。
アーク国王は国内の貴族や平民に、余り快く思われていなかったと言うのだ。
実際どうだったかは、直接的に貴族や平民が不満を述べる部分が無いので、推測するしか無い。
しかし、アルス子爵領での盗賊の跋扈、魔竜の出現等、不穏な部分は幾らでも読み取れる。
それが統治能力の欠如の現れなのか、或いは、そうでは無くて、旧暦の信仰が薄れているから、
この様な不幸が起こるのだと言う事なのか、その両方なのか、解釈は分かれる。
原典では人々の信仰心の不足が嘆かれているので、人に信仰心を持たせられない王は、
王に相応しくないと言う事なのかも知れない。
この後、アーク国王は王位を王子に譲って、自身は後見人となり、院政に入る。
聖槍を持てなくなった彼は、自信を喪失して、心を入れ替えたと言う。
完全に失脚していない所からして、やはり統治能力には一定の評価があったのだと思われる。
0130創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 19:08:04.78ID:xnoZX0p5
作中でも言われている通り、神王は統治者では無い。
アーク国はヴィルト王子が王位に就いても、諸侯を束ねる王(実際は公)の地位は変わらず、
その上に神王を戴くのみである。
これは政治的な混乱を避ける為の配慮であろう。
しかしながら、神王の誕生を機に、独立心を持つ貴族も少なくなかった。
その辺りの問題を解決する話が、第3章にはある。
大概は独立ならず、元の鞘に収まる形で決着するのだが……。
元々神王を戴くエレム・ハイエル語圏では、王は神王唯一人であり、現在の王家は公に過ぎなかった。
それが神王不在の間に権力を持ち、代理聖君等と言う名目で、他の貴族を支配し始めたのだから、
旧い貴族は不満を溜め込んでいたのだ。
だが、如何に歴史が古かろうと、国力では王家の方が強かった。
周辺国との関係もあって、王に従属するより他に無かったと言う貴族も多かった。
これが神王の誕生で、周辺国との力関係に振り回される必要が無くなったのだ。
王家の支配が強まりつつあった中で、以後の王家と貴族の関係は、比較的対等に近い物になる。
王家は貴族を束ねると言うより、意見を聞いて纏める、町内会の会長の様な存在になる。
変化は平民にも表れ、多くの平民が国境を移動する様になる。
より暮らし易い国へ、より豊かな国へと言う動きは自然な物であり、中々止める事は難しい。
国境が閉ざされていた時代と異なり、貴族は領民に配慮せざるを得ず、故に弱体化する貴族もあった。
これも一部の貴族の反感を買う事になる。
0131創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 19:08:22.82ID:xnoZX0p5
クローテルが神王となり、諸王は王の地位を返上して、公の地位に降る。
だが、公式に「公」となったかは明確では無い。
諸侯を束ねるなら王であると、「王」の儘の史料もある。
クローテルの治世は短かったので、本来なら公とされる物でも、名残で王としている可能性もある。
では、神王――真の聖君とは何かと言うと、人々に信仰心を取り戻させる物である。
王の中の王でありながら、統治する事は無い。
人々を従える為の道具と言う事も出来るが、教会も王も神王を操る事は出来ない。
神王は絶対でありながら、その意を騙る事は誰にも出来ないし、しては行けない。
神王自身の意識や意図もあるので、政治の道具にするには、余りにも不便である。
神王は必要があれば、進んで自らの意見を述べたし、行動も起こした。
神王の働きは神意であるが故に、その行動を止める事は出来なかった。
神意を騙れない様にする為に、神王は隠れるのでは無く、寧ろ誤解を避ける為に、多く表に現れて、
自らの言動を明らかにした。
特に、クローテルは超人的な存在だったので、護衛も付けずに出歩いた。
実際には、周囲が護衛を付けようとしたが、本人は束縛を嫌った様だ。
神王の役割は、神秘を荘厳で秘匿された物とする事では無く、神秘を奇跡として人前に顕す事である。
そうして人々に信仰心を取り戻させるのだ。
0132創る名無しに見る名無し
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2019/12/19(木) 18:33:23.46ID:aSVTHZsF
クローテルを神王とする事に、多くの者は反対していなかった。
原典では態度を決め兼ねていた者達も、アーク国王に失望したとしているが、当時の他史料から、
実は大多数は日和見的だった事が判っている。
既にクローテルの活躍の噂は広まっており、彼を神王とするか否かは、実質的に推進派と、
反対派の少数同士の問題だった様だ。
そこで推進派が協調して、大聖堂での悪魔審問に持って行った……と言う事らしい。
詰まり、「悪魔審問だ」と叫んだ貴族が、その1人と言う事になるが……。
その貴族が誰かは明確では無く、真相は不明である。
教会ではクローテルを神王とする事に反対する者も賛成する者も少なく、実態としては、
大多数の日和見と、少数の賛成派と、より少数の反対派があった。
この反対派がアーク国王に付いたかと言うと、そうでも無かったらしく、取り敢えず現状維持と言う、
曖昧な態度の為に、賛成派に押し切られたと言う。
教皇も含めた日和見派は、神器の審判の結果、流される儘に神王を認めた。
この時代は信仰心の薄れから、教会の影響力が小さくなりつつあった事も関係している。
自信喪失状態にあった教会は、自ら世論を動かそうとか、政治に関与しようと言う気概に欠け、
自ら新たな神王を認めようと言う積もりも無かった。
一方で、強力にクローテルを神王に推進した者の中には、嘗ての権威ある教会の復活を企て、
その為に神王を選ぼうとしていた。
教会内の推進派の筆頭は、シスター・ローラの父(大聖堂の司祭の1人)である。
彼には少なからぬ野心があった様で、その為に娘を祈り子長にするべく教育した。
0133創る名無しに見る名無し
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2019/12/19(木) 18:33:43.98ID:aSVTHZsF
それに対してシスター・ローラは純粋にクローテルを信じていたとされる。
彼女は父の野望の為に、「清らかな娘」として育てられた。
流石に、実際に神王が誕生して、娘が祈り子長になるとまでは予想していなかったが、
それなりに高い地位――具体的には高位の貴族の嫁に相応しい教育を施していた。
原典には、シスター・ローラと彼女の父親に就いても、幾らか言及があり、これを元にした、
書籍「シスター・ローラ外伝」がある。
それによると、ローラがクローテルと初めて出会った時から、彼女はクローテルの事を、
父に報告しており、その熱心な語りに父は不安を持ったと言う。
更にマルセル国との戦いで、彼女は完全にクローテルに心酔してしまい、父は恐怖心を持った。
クローテルは伯爵の養子だったが、領地は継がず、生家の子爵領を継いだ事も、父にとっては、
不満だった様だ。
ローラの父は聖職者でありながら、野心が強く、権力闘争を好む性格だった様だ。
シスター・ローラ自身は、父の野心を余り良く思っておらず、表立って反抗する事は無かったが、
「貞淑な娘」を盾に、小やかな抵抗をした。
これをローラの父も子供がやる事と許していたのだが、クローテルの登場で彼の計画が狂う。
この時にローラの父は、娘の言う事を戯れ言と聞き流さず、もしクローテルが本当に神王になり、
諸国を平定した場合に備えて、娘を祈り子長にする計画を並行させた。
教育方針の転換には、やはりローラの熱心な訴えがあり、その為にローラの父も、もしもの時を、
考える様になったらしい。
0134創る名無しに見る名無し
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2019/12/19(木) 18:34:50.97ID:aSVTHZsF
原典ではローラの父がクローテルを見た時の様子も語られている。
神器に選ばれたクローテルを見て、ローラの父は何と自らの野心を恥じたと言う。
詰まる所、ローラの父は大聖堂の司祭でありながら、神を信じていなかったのだ。
後に、彼は娘が祈り子長となった事で、司教に格上げされるが、教皇になろうとまでは考えない。
敬虔な心に目覚めて、権力ばかりを追求する事を止めた。
「どんなに権力を得ようとも、神と真実の前では無力である」と悟ったらしい。
確かに、実際のクローテルも内容の通りであれば、権力も何の意味も持たないであろう。
即ち、クローテルは既存の権威や権力が、全く通用しない物として、描かれているのである。
神の偉大さ、神意の偉大さは、あらゆる障害を払い除け、世界を覆すのだ。
若かりし日のローラの父は教会の地位の低さ、教皇や司教達の軟弱さに不満を持っており、
ならば自分がと、教会を引っ張って行く積もりだった。
それが何時の間にか、権力闘争に明け暮れて、権力を得る事だけが目的化していたと言う。
0135創る名無しに見る名無し
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2019/12/20(金) 18:30:45.24ID:DCtkj3nH
クローテルが神王となった儀式は、原典では1つの編に出来そうな程、長々と語られている。
否、正確には、それだけで1つの編なのだ。
それを童話に改変するに当たって省略したと言うのが正しい。
儀式の様子を一々語った所で、物語的には何も面白くないだろうから、英断ではある。
クローテルの神王認定と同時に、十騎士の認定も行われている。
所が、「将軍」だけは誰が選ばれたのか分からない。
十騎士の役目は以下の通り。

槍持ち(ランスベアラー)
神槍コー・シーアを持ち、必要があれば、それを振るう事が許されている。
だが、神槍の真の力は神王で無ければ引き出せないとされており、槍持ちの正確な役割は、
神槍を守り継ぐ事であるとされる。
そして、来るべき戦いでは、神槍を神王に捧げる。

盾持ち(シールドベアラー)
神盾セーヴァス・ロコを持ち、神王を守る。
こちらはコー・シアーとは違い、神王で無ければ真の力を引き出せない訳では無い。
盾持ちは神盾が手にある内は、武器を持ってはならないと言う定めがある。
これは盾持ちの役割とは正しく守備であり、それを疎かにしては行けないと言う、戒めだとされる。

旗手(フラグレイザー)
神旗マスタリー・フラグを持ち、平時は神王の先を歩いて、神威を示す。
戦時には神王の後に続いて、その地が神王の下にある事を示す。
神旗は神王が居る事で、真の力を発揮すると言う。
神王が持つ、持たないに関わらず、神王の存在その物が、マスタリー・フラグに力を与えると言う。

袋笛吹き(バグパイパー)
神笛オー・トレマーを演奏する。
平時は穏やかな音で人々の心を癒し、戦場では露払いを務める。
演奏で戦意を高める事もする。
セーヴァス・ロコと同じく、神王が直接持つ必要は無い。

鳴鐘者(ベルリンガー)
神鐘ベル・オーメンを鳴らして、神王の到来を告げる。
袋笛吹きと共に、戦場では露払いを務めたり、演奏で戦いを補助したりする。
目覚めの鐘、弔鐘も鳴らす。
危機には独りでに鳴るとも言う。
こちらも神王が直接持つ必要は無い。
0136創る名無しに見る名無し
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2019/12/20(金) 18:31:32.93ID:DCtkj3nH
祈り子長(プレアー・リーダー)
「祈りを導く者」の名の通り、祈り子を統括して、神王に祈りを捧げる。
人々の祈りによって、神王は更なる力を得る。
ジャッジャスの代の祈り子長は女性だったが、女性である必要は無い。
神器の後継者も含めて、十騎士には特に性別の指定は無い。

軍師(ストラテジスト)
平時、戦時に関わらず、神王に助言する役割を持つ。
平時は神王の統治を補佐し、戦時は神王の兵を勝利に導く。
予知能力を持つとも言われるが、真相は不明。

従者(ヴァレット)
神王に付き従い、神王の身の回りの世話をする。
時には神器を持つと言われるが、十分に扱えるとは書かれていない。
主な役割は、神王の側に控えて、些事を取り扱う事にある。
一々何から何まで手取り足取り神王の世話をすると言う訳では無い。

御者(キャリッジ・ドライヴァー)
神王が乗る馬の世話や、神王が乗る馬車の運転、管理をする。
必要な役割ではある物の、そこまで重要さは感じられない。
態々十騎士に任命する程かは不明。

将軍(ジェネラル)
神王に代わり、多くの兵を率いる。
時に神器を持つとも言われるが、少なくともジャッジャスの代では、その様な描写は無い。
重要な役割ではあるが、特に神に選ばれている必要は無いのか、一代の神王で交替もする。
恐らくは、当代で最も武勇で名を馳せた将軍が選ばれる。
0137創る名無しに見る名無し
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2019/12/20(金) 18:32:07.12ID:DCtkj3nH
この様に、同じ十騎士であっても、その重要度は異なる。
替えの利かない者もあれば、幾らでも替えの利きそうな者もある。
実際に将軍は代替わりした記録がある。
但し、それはジャッジャスの代では無い。
将軍の正体は不明だが、それは重要度の低さの表れなのかも知れない。
交代した時に備えて、敢えて名を記さなかった可能性もある。
槍持ち、盾持ち、旗手は、それぞれアーク国、オリン国、ルクル国の王子。
袋笛吹きはルクル国からアルス子爵領に移動したルーデンス。
祈り子長は司祭の娘ローラ。
以下、鳴鐘者はレタート、御者はバディス、軍師はドクトル、従者はフィデリートと、
ルクル国の者が横滑りする形で、十騎士に選ばれている。
0139創る名無しに見る名無し
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2019/12/21(土) 17:58:01.93ID:fGy7uYNP
馬と生きる


ブリウォール街道にて


旅商の男ワーロックと、その養娘リベラは、父娘2人で商いの旅をしていた。
しかし、道中でワーロックが憊(へば)る。
男性と女性では、男性の方が体力があるとは言え、ワーロックは若くない。
しかも、魔法が上手では無い上に、見栄を張ってリベラより多くの荷物を背負っている。
どうしてもリベラより先に疲れてしまう。

 「はぁ、年は取りたくない物だなぁ」

街道沿いに設置された休憩所の長椅子に腰と荷物を下ろし、ワーロックは長い息を吐いた。

 「そんな急に老け込む訳じゃないんだから」

リベラは呆れて小さく笑うが、ワーロックにとっては笑い事では無い。
その時、2人の目の前を乗り合い馬車が通り過ぎて行った。
力強い大きな2頭の馬が、20人余りを乗せた車を牽引している。
それを見てリベラは零した。

 「馬車が借りられれば良いのにね」

何気無い一言だった。
だが、馬車は高い。
借りると安くても半日で1万MGはする。
ワーロックもリベラも、金持ちと言う訳では無いので、出来るだけ出費は控えたい。
そもそも2人共、馬車免許を持っていない。
0140創る名無しに見る名無し
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2019/12/21(土) 17:58:45.19ID:fGy7uYNP
家の経済状況に不満があるかの様な言い方になってしまったので、リベラは不味い事を言ったかと、
ワーロックの反応を心配した。
しかし、彼の言葉は予想しなかった物だった。

 「ああ、荷運び用の馬を借りれば良い。
  貸し馬屋が近くにある筈」

ワーロックは重い荷を背負って立ち上がると、貸し馬屋を探して街道沿いを歩いた。
リベラも彼に付いて行く。
貸し馬屋は直ぐに見付かった。
大抵は、街道沿いに目立つ看板が設置されているので、見落とす事は先ず無い。
そうして貸し馬屋に辿り着いた2人は、貸し馬屋の裏手の牧場を眺める。

 「あの、お養父さん……。
  私、馬に乗れないんだけど?」

遠慮勝ちに言ったリベラに、ワーロックは告げる。

 「大丈夫、大丈夫。
  荷運び用の馬は、連れて歩くから。
  乗る必要は無いよ」

それを聞いて一安心するリベラ。
ワーロックは彼女を見て、小さく笑う。

 「でも、そうだな……。
  馬に乗れるなら、それに越した事は無いし、急ぎの時にも役に立つ。
  どこかで乗馬免許を取らないとな。
  馬車免許もあると良いんだけど」

 「お金は大丈夫?」

 「余っ程、下手じゃなければ、試験に失敗しないだろう。
  乗馬の練習が出来る場所は多いし」
0141創る名無しに見る名無し
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2019/12/21(土) 17:59:33.17ID:fGy7uYNP
そんな話をしながら、2人は貸し馬屋に入る。
ワーロックは店員に話し掛けた。

 「馬を借りたいんですけど」

 「はい、何をお求めですか?」

店員は営業スマイルを浮かべながら尋ねる。

 「荷運び用の馬です」

 「ランクは?」

 「騾馬、C級を1頭。
  売買許可証があります」

ワーロックがブリンガー地方とボルガ地方の売買許可証を見せると、店員は一度目を落とした。

 「はい、お待ち下さい」

そして、店の裏手に回り込む。
リベラは待機中に店の中を見回した。
そして料金表に目を留める。
荷運び用の馬も乗用の馬も、A、B、Cの3つのランクがある。
荷運び用の馬のCランクは、重さ1体まで運べ、料金は1500MG。
Bランクは、重さ2体まで運べ、料金は2500MG。
Aランクは、重さ4体まで運べ、料金は4500MG。
複数頭を借りる際の割引は、要相談となっている。
更に、保証金として5000MGの前払いが付く。
この保証金は無事に馬を返せれば、返金すると書いてある。
0142創る名無しに見る名無し
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2019/12/22(日) 18:50:57.28ID:Zf4ZFEl9
やがて、店員が騾馬を連れて、外から呼び掛ける。

 「お待たせしました。
  こちらです」

ワーロックとリベラは店員と騾馬の元に向かった。
そこでワーロックは騾馬の様子をよく観察する。
目を見詰めた後、軽く体を撫でながら、特に足回りを見る。
問題無いと認めた彼は、店員に1500MGを渡した。

 「では、現金で」

 「あ、全商連なら割引がありますけど」

 「いえ、個人ですから。
  そちらには入ってないので」

 「はぁ、分かりました。
  確かに、お受け取りしました。
  領収書を発行します」

店員は一度屋内に戻り、領収書を持って戻って来る。

 「御利用、有り難う御座いました。
  荷物の載せ過ぎには、御注意下さい」

 「はい、大丈夫です」

 「有り難う御座いました。
  道中、お気を付けて」

形式的な遣り取りをして、ワーロックとリベラは騾馬を借り、店員と別れた。
0143創る名無しに見る名無し
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2019/12/22(日) 18:51:42.61ID:Zf4ZFEl9
リベラは疑問に思っていた事を尋ねる。

 「保証金は払わなくて良いの?」

 「ああ、売買許可を持っている商人は、保証金の対象外なんだ」

 「ゼンショーレンって言うのは?」

 「全国商人連合会。
  そっちの会費も納めていれば、色々と優遇があるんだけど……。
  所謂『外道魔法使い』とも取り引きしている訳だから、説明が面倒で。
  入会していないんだ」

 「そうなんだ」

未だ未だ自分の知らない事が一杯あるんだなと、リベラは感心して養父の話を聞いていた。
ワーロックとリベラは騾馬の背に荷物を預けて、ブリウォール街道を歩く。
暫くして、リベラはワーロックに再び尋ねた。

 「どうして騾馬?」

 「安いからだよ。
  荷運び用のCランクは大体騾馬だ。
  中には大型の馬もあるけど。
  荷物の多い時は、荷台付きのBランクを借りる。
  荷台分は別料金だけど、2頭借りるよりは、そっちの方が安い」

 「複数頭は要相談って何の事?
  相談すると、どうなるの?」

 「貸し馬屋は、どこでも共通で馬を返せる。
  借りた場所に返しに行かなくても、同じ系列の店舗なら良い。
  だけど、人の往来には波があるから、往路では人が多くても、復路では人が少ないと言う事が、
  時々ある。
  そう言う時は、復路では値段が安くなる。
  逆に往路で値段が上がる時もある……『あった』と言った方が良いかな?」
0144創る名無しに見る名無し
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2019/12/22(日) 18:57:15.15ID:Zf4ZFEl9
 「どう言う事?」

 「値段が上がると、渋って馬に無理をさせる人が出て来るから。
  そうならない様に、貸し馬屋の協会の方で、値上げは出来るだけしない方針になった。
  人の言う事を素直に聞く、大人しくて丈夫な馬を育てるのは大変なんだ。
  目先の小金欲しさに、貴重な資産を使い潰す訳には行かないって事になった」

流石に長年商人をして来ただけあって、ワーロックは商業関連の知識は豊富である。
それにしては、一向に対人の駆け引きは苦手なのだが、それも誠実さ見れば美点となる。
徒、呆っと話を聞いていたリベラに、ワーロックは心配な顔をして言った。

 「リベラも馬の良し悪しが判る様にならないとな。
  あー、でも、乗馬免許を取るのが先か……。
  公学校卒業程度の資格を取ってから、安心していたけど、未だ未だ学ぶ事が多いな。
  人生何事も勉強勉強、そんな物か……」

そう言われて、リベラは礑と気付く。

 「お養父さんは、乗馬免許持ってるの?」

 「ああ、持ってるよ。
  余り馬に乗る機会は無かったけど、月に数回程度は利用する事がある。
  もしもの時に、馬に乗れないと困るから、乗馬免許は持っているに越した事は無い」

 「乗馬……。
  上手く乗れるかな?」

 「どうだろう?
  こればっかりは相性だからね。
  平衡感覚が確りしていないと行けないとは言うけれど。
  運動が出来ても、乗れない人は居るからね」

リベラは不安に思いながら、乗馬の事を考え続けていた。
0145創る名無しに見る名無し
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2019/12/23(月) 18:37:52.77ID:0pCLVGLy
数日後、ティナー地方西部の村シュミタルにて


乗馬の話から余り日を置かない内、リベラはワーロックに連れられて、乗馬が体験出来る牧場に来た。
実はリベラにとって乗馬は初めてでは無い。
何度も乗った事がある。
だが、それは何れも幼い頃の事で、今も乗れるかと言うと分からない。
楽しかった記憶があるので、苦手意識は無かったが、やはり空白期間で下手になっているのではと、
不安が大きい。
牧場の柵の中に入ると、リベラの周りに馬が集まって来た。
馬達はリベラを取り囲んで、何事かと鼻先で突いたり、匂いを嗅いだりしている。
大きな馬に囲まれて、リベラは恐怖を感じる。

 「お、お養父さーん!
  助けて!」

馬に囲まれて身動きが取れない彼女を、ワーロックも牧場の管理人も笑って見ている。
牧場の管理人はリベラに言った。

 「ははは、大丈夫ですよ。
  珍しい人が来たと思って、見ているだけです。
  余り怖々(おどおど)していると、馬に揶揄われますよ」

基本的に唯一大陸で人に飼われている馬は、人を恐れない。
堂々と人間に近付き、愛撫を求める。
所が、少しの事で機嫌を損ねたり、驚かせてしまったりもする。
そうすると、この人は危険だと認識して、近寄らなくなる。
神経質でありながら、図太いと言う、少し困った存在だ。
馬好きは、そんな馬が可愛いと言う。
リベラが本気で困っている様子だったので、ワーロックは馬の群れの中に割って入り、
彼女を連れ出した。
馬達の数頭は未だリベラに付いて来る。
0146創る名無しに見る名無し
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2019/12/23(月) 18:39:10.03ID:0pCLVGLy
中でも黒くて大きな体の馬が、リベラを気に入ったのか、中々離れない。
牧場の管理人は困った顔をした。

 「こらこら、迷惑がっているだろう。
  ノイノイ、下がれ、下がれ」

そう言って馬を引き離そうとする。
ノイノイとは、この馬の名前だ。
しかし、ノイノイは動かない。
執拗にリベラの周りを回る。

 「参ったなぁ、こりゃ」

牧場の管理人は頭を掻いて、リベラに申し訳無さそうな顔をした。

 「済みませんね。
  どうも、こいつ、貴女の事が気に入ったみたいで。
  偶にあるんですよ。
  こいつじゃなくても、お客さんを気に入ってしまう事が」

それを聞いてワーロックは尋ねた。

 「使い魔が自分から主を選ぶのと、同じ様な感覚なんでしょうか?」

 「ああ、そうかも知れませんね。
  でも、馬を飼うのは大変でしょう?」

牧場の管理人は苦笑い。
確かに、馬を飼うのは容易な事では無い。
餌代、糞の掃除、馬を放せる広い土地、どれも一般の家庭では手に余る。
0147創る名無しに見る名無し
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2019/12/23(月) 18:39:51.03ID:0pCLVGLy
ノイノイの瞳は真っ直ぐリベラを見詰めていた。
余りに懸命な態度に、何か応えてやれないかと思い、リベラがノイノイに手を伸ばすと、
ノイノイはリベラの手に自ら頭を擦り付け、丸で撫でろと促している様。
それに応じて、リベラがノイノイの額を撫でると、ノイノイは両目を閉じて大人しくなった。
牧場の管理人は益々困った顔になる。

 「ありゃ〜……。
  これは行けませんね。
  完全に惚れちゃってますよ」

惚れると言うのは、繁殖相手として定めた訳では無い。
馬が主人を選ぶのは、悪い事では無いのだが、馬屋としては困り物だ。
主人を決めた馬は、他の人を乗せたがらない。
牧場の管理人は、ワーロックに視線を向けた。
ワーロックは驚いた顔で首を横に振る。
それは「引き取れますか?」と言う暗黙の問い掛けに対して、「無理です」と答えた物だ。
ワーロックも牧場の管理人も、揃って両腕を組む。
事情を余り理解していないリベラは、不思議そうに尋ねた。

 「何か不味い事が?」

ワーロックが答える。

 「毎回、この馬だけを借りる訳には行かないから。
  何時も相性の良い馬だけとは限らない。
  『普通の馬』に乗れる様にならないと」

 「あー」

それもそうだと、リベラは小さく頷いた。
0148創る名無しに見る名無し
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2019/12/24(火) 19:09:23.59ID:XvH26oqB
リベラの乗馬技術は、才能があると言う程では無いが、下手でも無く、大きな問題も無く、
極々普通に馬に乗っていた。
覚えは良い方で、半日で普通に馬に乗る分には必要な技術を習得する。
その後は慣れと言う所。
所が、リベラが馬を少し走らせていると、ノイノイが駆け寄って来る。
どうやら抑えていた牧場の職員を振り切ってしまった様だ。
そしてリベラが乗る馬に並走して幅寄せを始める。
全く煽り運転の様。
否、実際に煽っているのだ。

 「こら、止めないか!
  ノイノイ!」

牧場の人達が声を掛けるも、ノイノイは全く気にしない。
体の大きなノイノイに、リベラが乗っている馬は押されて、遂に足を止めてしまった。
困惑するリベラ。
こう言う経験の無い彼女は、どう対処して良いか分からない。
そこにワーロックが割って入った。
彼はリベラに気を取られているノイノイの背に飛び乗る。

 「ドウ、ドウ」

ワーロックはノイノイを落ち着かせようとするが、そんな事で落ち着く訳が無い。
行き成り知らない人間に飛び乗られて、ノイノイは不快になり、暴れ始める。
そこからは丸でロデオだ。
懸命に背中の人間を振り落とそうとするノイノイと、何とか落ちまいと堪えるワーロック。
その間にリベラは牧場の職員の誘導で、その場を離れる。
暫くは持ち堪えていたワーロックだったが、やがて力尽きて、撥ね飛ばされた。
足が鐙から外れ、手が手綱から放れ、体を宙に投げ出される。
0149創る名無しに見る名無し
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2019/12/24(火) 19:11:00.84ID:XvH26oqB
そこを牧場の職員達が、共通魔法で助けに入る。
地上に空気のクッションを作って、落下するワーロックの衝撃を和らげる。
目論見通りにワーロックは魔法のクッションの上に落ち、何度か跳ねて地面に落ちた。
興奮したノイノイは、牧場内を走り回る。
ワーロックは職員達に怒られた。

 「何故、あんな事を!」

もっと穏便に解決する方法はあった。
少なくとも、牧場の職員達であれば。
例えば、魔法を使って落ち着かせたり、或いは、リベラがノイノイに働き掛けても良い。
馬を驚かせるのは、愚策も愚策。
幾ら娘を守る為とは言え、無謀に過ぎる。

 「す、済みませんでした」

 「気持ちは解りますが、幾ら何でも……」

その頃、リベラと数人の職員によって、漸くノイノイが取り押さえられる。
ノイノイは鼻息を荒くしながらも、リベラに寄り添う。
職員達はノイノイの強引さに呆れ果てた。

 「困った奴だ。
  女の子同士だって言うのに」

別に使い魔が主人を選ぶのに、男女は関係無い。
使い魔と主人の関係は、異性と同性で何か違ったりはしない。
リベラはノイノイを牧場の管理人に預けて、ワーロックの元に向かう。

 「お養父さん、大丈夫?」

 「ああ、平気平気。
  馬に振り落とされたのは、久し振りだよ。
  三十年振り位かな。
  気持ちだけは若い頃の積もりだけど、体が付いて行かない」
0150創る名無しに見る名無し
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2019/12/24(火) 19:13:11.45ID:XvH26oqB
ワーロックは溜め息を吐きながら立ち上がり、服に付いた土を払う。
ノイノイは職員を引き摺り、リベラの元に寄って行った。

 「こら、ノイノイ!
  好い加減にしないか!」

職員の制止も全く聞かずに、ノイノイはリベラの隣に来て、しかもワーロックを睨み付ける。
ワーロックは弱った顔をして言う。

 「随分、嫌われてしまったなぁ」

牧場の管理人はワーロックに謝罪した。

 「済みません、家の馬が迷惑を」

 「いや、私は自業自得ですから。
  それより……」

リベラに付いて離れないノイノイを、ワーロックは心配そうに見る。
管理人は深い溜め息を吐いた。

 「参りました。
  ここまで強情だとは思いませんでした」

リベラは思案顔をして、牧場の管理人に尋ねた。

 「あの……。
  この馬を譲って貰う事って、出来るんでしょうか?」

ワーロックも牧場の管理人も、驚いた顔をする。
0151創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 18:16:03.32ID:sMnm5voA
牧場の管理人は真剣に考え込んだ後に、こう答えた。

 「商売的な話をするなら、1000万MG」

リベラは落胆の色を顔に浮かべ、ワーロックも到底1000万は出せないと険しい表情。
牧場の管理人は再び考え込んで、こう切り出す。

 「商売抜きで、他の馬と同じ様に考えれば、300万って所ですかねェ……」

それでもリベラとワーロックには結構な金だ。
出せない事は無いが、確実に生活に影響が出る。
牧場の管理人は俄かに厳しい声で言う。

 「300万が軽く出せない様なら、馬を飼う事は出来ませんよ。
  馬を飼う積もりなら、世話だとか場所だとか、諸々を考えれば、もっと掛かるんですから」

彼の説教を受けて、リベラは馬を飼う事を諦めた。
軽い気持ちで飼える動物では無いのだ。
牧場の管理人は優しく言う。

 「意地悪で言っているんじゃないんですよ」

 「はい、分かっています」

ワーロックとリベラは共に頷く。
牧場の管理人は続けた。

 「300万じゃなくても、200万でも100万でも、何だったら只でも良いんです。
  でも、馬の幸せを考えると、それなりに財力のある人にしか任せられません」

丸で嫁婿の話である。
否、実際そうなのだ。
手塩に掛けて育てた可愛い子に、苦労をさせる訳には行かない。
0152創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 18:17:53.35ID:sMnm5voA
リベラはノイノイの胴体を撫でながら、管理人に問い掛ける。

 「管理人さん、この子に乗っても良いですか?」

 「ああ、はい。
  大丈夫ですか?」

 「大丈夫です」

そんなに馬に乗り慣れている訳でも無いのに、リベラは断言した。
彼女は軽々と自分の背より高い馬の背に乗り、鞍に跨る。
ノイノイは大人しくリベラを乗せていた。

 「ハイ、ハイ!」

リベラが進めの声を掛けると、ノイノイは緩りと歩き出す。
リベラはノイノイとの時間を噛み締める様に、穏やかな時を過ごした。
ノイノイはリベラの指示に逆らわない。
今日会ったばかりなのに、丸で長年連れ添った様な味わいがある。
その様を見て、ワーロックは深い溜め息を吐いた。

 「はぁ、金の問題かなぁ……。
  ウーム、金があってもなぁ……」

リベラとノイノイの仲睦まじい様を見て、ワーロックも何とかしてやりたいとは思う。
しかし、旅の身であるが故に、どこまでも馬を連れて行く事は難しい。
だからと言って、預けられる様な場所も持っていない。
どの道、諦めなければならないのだ。
牧場の管理人も思う所はある物の、敢えて何も言わない。
馬が見ず知らずの人に懐いてしまう事は間々あり、その度に諦めさせている。
0153創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 18:18:40.91ID:sMnm5voA
やがてリベラとノイノイは別れの時を迎える。
だが、ノイノイは大人しかった。
駄々を捏ねる事も、暴れる事もせず、静かに牧場の職員達と共に、ワーロックとリベラを見送る。
一体どうした事だろうと、ワーロックはリベラに尋ねた。

 「リベラ、あの馬に何をしたんだ?」

 「一寸、話をしたの」

 「話?」

 「お養父さんが教えてくれた、動物と話せる魔法」

 「ああ、あれかぁ……」

動物と話せる魔法は、今は失われた魔法の一つだ。
元は動物と心を通わせる物で、難しい話は出来ないが、簡単な意思の疎通なら可能。
しかし、言う事を聞かせられる訳では無い。
当然動物にも意思があり、大抵の場合、動物は自分の都合を優先する。
現代では、動物に対しては「指示」や「命令」をする方が効率が良く、動物と話す魔法は、
殆ど使われない。

 「でも、話をするだけで、あそこまで大人しくなってくれるとは……」

ワーロックも動物と話をする魔法は使うが、我が儘を言う動物を従わせる事は難しい。
よくリベラの言う事を聞いてくれた物だと、彼は感心する。

 「心と心を通じ合わせたの。
  遠く離れても、私達は友達だよって」

 「凄いな。
  私には考えも付かなかった事だ。
  試しもしない内から、出来ないと思い込むとは、私も年を取った物だ」

ワーロックは小さく息を吐き、リベラの才覚を認めた。
大袈裟だなとリベラは思いながらも、褒められて含羞む。
この後、リベラはティナー地方で馬を借りる際に、可能な限りノイノイを融通して貰える様になった。
0154創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 18:21:13.91ID:sMnm5voA
年末年始は休みます。
本格的にネタが切れました。
これからは投稿頻度が落ちるかも知れません。
0155創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 20:25:20.76ID:a7R9RQTX
良きお年を……
ヘルザ・ティンバーの魔法、カティナ・ウツヒコのその後、久しぶりのサティ
興味のある話は幾つもありますが、ご無理はなさらずに
0157創る名無しに見る名無し
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2020/01/06(月) 19:33:49.00ID:dMlGg+DD
あけましておめでとうございます。
>>155
済みません、ヘルザの魔法を忘れていました。
昔の事とか結構忘れているので、未解決の問題とかあれば、思い出して書くかも知れません。
0158創る名無しに見る名無し
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2020/01/06(月) 19:34:13.60ID:dMlGg+DD
ヘルザの魔法


ティナー地方の商都バルマーにて


魔導師会の女性執行者に連れられて、バルマー市内にある実家に戻ったヘルザは、両親と対面した。
彼女の両親は最初、魔導師会に何か迷惑でも掛けて、補導でもされたのかと、大いに驚いた。
行方不明の娘が帰って来た事は嬉しかったが、何か騒動を起こしたのであれば、素直に喜べない。
怪訝な顔をする両親に、ヘルザは何と説明した物か困る。
正直に反逆同盟に加担していたとは言えないし、反逆同盟を抜けた後は、反逆同盟との戦いに、
身を投じていた……と言うのも憚られる。
何も言えないヘルザに代わって、執行者が口を開く。

 「ヘルザ・ティンバーさんの御両親ですね?」

 「あ、はい。
  あの……娘が何か……?」

ヘルザの父ノーブルは、恐る恐る執行者に尋ねた。
執行者も対応に困る。

 「いえ、何と言う訳ではありません。
  娘さんを保護したので、お送りに……」

執行者もヘルザと彼女の両親の双方に配慮して、詳細は告げない。

 「あっ、はい、そうですか……」

ノーブルは我に返り、妻マージョリーに言う。

 「マージョリー、お客様を……」

 「あら、これは失礼……」
0159創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 19:34:46.02ID:dMlGg+DD
来客を持て成そうとする2人対して、執行者は遠慮する。

 「いえ、長居はしませんので。
  勤務中ですから」

基本的に執行者と言う物は生真面目だ。
そうで無くては務まらない。
執行者は一度ヘルザを見る。
彼女は不安そうな顔をしていた。
ヘルザは両親との対話に自信が無かった。
両親に今までの経緯を、どう説明したら良いのか分からないのだ。
理路整然とした説明で、両親を安心させたいが、反逆同盟に加わっていた後ろ目痛さがある。
どうあっても、その事だけは説明出来ない。
しかし、上手に嘘を吐ける自信も無い。
そんなヘルザの内心も知らずに、執行者は去ろうとする。

 「それでは、後の事は御家族で……」

執行者は個々の家庭内の事情にまでは踏み込まない。
ヘルザは困り果てたが、引き留める上手い口実も思い浮かばなかった。
ヘルザの両親は執行者に深く頭を下げる。

 「有り難う御座いました」

 「いえ、仕事なので」

礼には及ばないと、執行者は去って行く。
そしてヘルザは到頭(とうとう)両親と対面せざるを得なくなる。
0160創る名無しに見る名無し
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2020/01/06(月) 19:35:19.10ID:dMlGg+DD
何を言われるのだろうかと、ヘルザは恐々としていた。
先ず口を開いたのは、ノーブル。

 「ヘルザ」

 「は、はい……」

 「無事で良かった」

 「う、うん……」

それから暫くの沈黙。
再びノーブルが口を開く。

 「お前が居ない間、母さんと話し合ったんだ。
  お前の魔法の事……」

ヘルザは自分の魔法が何なのか、結局判らなかった。
唯共通魔法使いでは無いと言うだけで、彼女は反逆同盟の仲間にもなれなかった。
自分の事ながら中途半端だと思うが、反逆同盟でも無く、共通魔法使いでも無い仲間が居ると、
彼女は知った。
もし両親に受容されなくとも、寂しくは無い。
否、寂しい事は寂しいが、絶望まではしない。
ヘルザは期待せずに父の言葉を待つ。

 「それで……学校には行きたくないのか?」

父の問い掛けに、ヘルザは思案する。

 「学校が嫌なんじゃないの。
  友達は好き。
  でも……、私は皆と同じ様にはなれないから」
0161創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 18:42:54.33ID:8cn2dy1i
それは偽り無い本心だった。
ヘルザは共通魔法使いにはなれない。
彼女の両親は未だ、その事実を認めたくない様子だった。
ノーブルは重々しく問い掛ける。

 「本当に駄目なのか……?」

ヘルザは答えない。
それが答の様な物だが、どうして言わないのか、ノーブルは不審がった。
父の目に気付いて、ヘルザは口を開く。

 「共通魔法は使いたくない」

両親の目には単なる我が儘に映るだろう。
実際、共通魔法と外道魔法は相反する物では無い。
外道魔法使いの中にも、共通魔法を使う物が居る。
だが、血統を主とする外道魔法は別だ。
共通魔法を使えない事も無いが、大きな違和感と不快感を伴う。
それに慣れるのは並大抵の事では無い。
当然、扱いも下手になる。
現在の社会は、共通魔法を上手く使えない者への対応は改善されたが、人の目は変わらない。
ヘルザが共通魔法を上手く使えない理由が、外道魔法の血筋にあると判れば、やはり差別を受ける。
ヘルザは心の中で自分に味方してくれる者を求めた。
その時、玄関でチャイムが鳴らされる。
こんな時に誰なのかと、ノーブルはマージョリーに目配せをした。
ノーブルは自ら立ち上がって、客人を迎えに行く。
その間、マージョリーがヘルザを見ていた。
0162創る名無しに見る名無し
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2020/01/07(火) 18:44:07.27ID:8cn2dy1i
客人の正体は少女だった。
年齢はヘルザよりも若く見える。
10歳前後と言った所。

 「君は誰だ?」

ノーブルは行き成りの訪問者に驚いて問い掛けた。
正か、ヘルザの友人とも思えない。
少女は答える。

 「私は言葉の魔法使い。
  誰か私を呼んだ者が居る」

 「そんな誰が……」

ノーブルが戸惑っている間に、言葉の魔法使いは彼の脇を通り抜けて、勝手に家に上がった。
ノーブルは慌てて少女を止める。

 「あっ、勝手に上がるな!」

少女は止めようとするノーブルの手を、丸で風に舞う木の葉の様に擦り抜け、ヘルザの前に現れた。
少女はヘルザに言う。

 「今日は。
  私を呼んだのは、君?」

ヘルザは目を見張って硬直する。
彼女は少女を全く知らなかった。
マージョリーは後から現れた夫ノーブルに目を遣る。

 「どうしたの?」

ノーブルは肩で息をして、疲れた様子だった。
0163創る名無しに見る名無し
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2020/01/07(火) 18:44:55.10ID:8cn2dy1i
彼は深呼吸をすると、大きな声でマージョリーとヘルザに言う。

 「そいつは普通じゃない!
  外道魔法使いだ!」

マージョリーもヘルザも吃驚して、警戒の目で少女を見詰めた。
言葉の魔法使いの少女は、やれやれと困った顔で言い訳する。

 「私は誰かの呼び声を聞いて、ここに来たんだ。
  『助けて欲しい』と、確かに呼ばれた」

その正体はヘルザである。
だが、当のヘルザは意識的に誰かを呼んだ訳では無かった。
こうなっては言葉の魔法使いの少女は突然の侵入者である。
誰か囚われているのでは無いかと、少女は辺りを見回すが、そうした怪しい気配は感じない。

 「ムム、奇怪(おか)しいな?
  確かに呼ばれたんだが……。
  誰かの悪戯か?」

怪訝な顔の一家を見て、少女は苦笑いした。

 「お邪魔したみたいだね。
  何でも無いなら良いんだ。
  失礼するよ」

彼女は何度も首を傾げ、「奇怪しいなぁ」と呟きながら家を出て行く。
家族の話し合いに水を差されて、何だか話を続ける雰囲気では無くなってしまった。
ヘルザは助かったと思うと同時に、実は自分が少女を呼んだのでは無いかと、今更ながら、
感付き始める。
0164創る名無しに見る名無し
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2020/01/08(水) 18:51:13.07ID:yM16SNSR
思い返してみれば、ヘルザは何時も誰かの助けを求めていた。

 (リベラさんに言われた、『私の願い』……。
  本当に、それが私の魔法なら?)

他人に助けを呼ぶ魔法と考えれば、納得出来ない事は無い。
最初に彼女の魔法に応えたのが、恐らくはマトラ事ルヴィエラ。
否、ワーロック・アイスロンだったかも知れない。
それ以前にも覚えがあると言えばある。
自分の魔法に気付いたヘルザは、自分の魔法で何が出来るかを考え始めた。
自分に他者に無い能力があれば、自分の為であれ、他人の為であれ、それをどう役立てるかを、
考えてしまうのは人の性。
しかし、彼女には有効な活用方法が思い付かない。
今一使い所が難しい魔法なのだ。
もっと便利な魔法だったらなと、彼女は思わざるを得ない。
活用範囲の狭いテレパシーの様な物なのだから。
実際、共通魔法は多くの他の魔法を取り入れた物なので、強力だが使途の限られる事が多い、
所謂「外道魔法」より、共通魔法の方が便利なのは当然である。
夢が壊れた様な気分で、ヘルザは落胆した。

 (これだったら……。
  共通魔法使いの方が良かったかなぁ……)

だが、共通魔法を覚えるのは苦難の道だ。
やはり彼女は共通魔法使いの中にあっては、違和感と共に過ごさざるを得ない。
ヘルザの内心の変化を、両親は目敏く感じ取って、声を掛けた。

 「どうした、ヘルザ?」

 「何を考えているの?」

自分の魔法の正体を、言おうか言うまいか、ヘルザは悩む。
0165創る名無しに見る名無し
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2020/01/08(水) 18:52:01.15ID:yM16SNSR
彼女は試しに、もう一度、先程の少女を呼ぼうと思った。

 (来て……)

少女の姿を思い浮かべながら、強く念じてみる。
そうすると、何時の間にか少女が両親の背後に現れている。

 「やっぱり呼んでいたんじゃないか……。
  君だね?」

行き成り少女が背後に現れた事に、ヘルザの両親は驚いて振り向いた。
ノーブルは声を高くして問う。

 「帰ったんじゃなかったのか!?」

言葉の魔法使いの少女は悪怯れずに答えた。

 「誰も帰るとは言っていないよ。
  失礼したとは言ったけど」

不快感に顔を顰めるヘルザの両親に、少女は軽く笑って言う。

 「この家から呼び声が聞こえたのは間違い無いから、再び呼ばれるんじゃないかと思って、
  少し待っていたんだ」

そして彼女はヘルザを見た。
ヘルザは小さく頷いた後、両親に告げる。

 「これが私の魔法みたい……」

両親は今一つ状況を掴めず、不可解な顔をした。
0166創る名無しに見る名無し
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2020/01/08(水) 18:52:55.92ID:yM16SNSR
ヘルザは改めて告げる。

 「詰まり、その……誰かを呼ぶ魔法?
  それが私の魔法……」

ヘルザの両親は共に低く唸った。
害になる様な魔法では無いが、逆に何か利益になりそうにも思えない。
呪詛魔法の様な、恐ろしい魔法で無かった分、良かったと思うべきかと認める。

 「そ、そう……」

だが、本人に対して良かったとも悪かったとも言い難い。
コメントに困る。
言葉の魔法使いの少女は、何度も頷いた。

 「成る程、君は共通魔法使いでは無いのか……。
  誰かを呼ぶ魔法とは、詰まり召喚魔法かな?
  極めれば、大きな力になるかも知れない」

 「大きな力?」

 「今みたいに誰かに呼び掛けるだけじゃなくて、直接呼び寄せるとかね。
  応用が利かない分、効果は大きいだろうし」

ヘルザの両親は少女を睨み付けた。
2人共、自分の娘が大きな力を持つ事を望んでいなかった。
即ち、それが2人の外道魔法に対する認識なのである。
2人は娘が邪悪で強大な魔法使いになる事を嫌ったのだ。
0167創る名無しに見る名無し
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2020/01/09(木) 18:34:25.69ID:v1M/wuau
勿論、そうなるとは限らない。
力を得た所で、突然邪悪な人格に変容する訳では無い。
否、可能性が全く無い訳では無いのだが……。
ヘルザは言葉の魔法使いの少女に尋ねる。

 「あの、それで、召喚魔法は何かの役に立つんでしょうか?」

 「えっ、役に?
  ……それは君の心掛け次第じゃないかな?
  全く何の役にも立たない魔法なんて、そうそう無いよ」

そうは言われても、ヘルザは未だ召喚魔法の具体的なイメージを持っていない。
今の所は、少し変わったテレパシーの一種でしか無いのだ。
不安気な顔をするヘルザに、少女は困った顔をして言う。

 「多くの魔法使いは『役割』を持って生まれる。
  それを持たない君は、幸福であり、不幸でもある。
  役割に縛られた生き方をしなくても良いと言う事なのだから。
  君は新しい世代の魔法使いなのだ。
  『役に立つ』と言う考え方をする必要は無いんだよ」

人の世界で生きるのだから、人の役に立とうと考えるのは、自然な事なのだが……。
所謂「外道魔法使い」の少女には、その心が理解出来ない。
未だ不満気な顔のヘルザに、少女は告げる。

 「役に立たなくても良いじゃないか?
  全てが何かの役に立つと思う必要は無いんだよ。
  君は自由に生きれば良い。
  自ら考え、自ら選択して生きるんだ。
  それは苦しみでもあろうが、無上の喜びでもある」
0168創る名無しに見る名無し
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2020/01/09(木) 18:34:56.42ID:v1M/wuau
言葉の魔法使いの少女は、ヘルザの両親にも言う。

 「『外道魔法』を恐れる必要は無い。
  この子は普通の人間だ。
  少し共通魔法が苦手で、少し変わった魔法が使えるだけの子供。
  今時、共通魔法が使えない子供は珍しくも無いだろう」

しかし、ヘルザの両親は軽々に頷かなかった。
共通魔法が使えない事は確かに珍しくは無いが、嫌悪感を示す者は殆ど居ない。
多くの共通魔法を使えない者は、魔法資質が低い。
故に、魔法に対して鈍感だ。
だが、ヘルザは違う。
そうした共通魔法社会に生きる、平凡な一家としての悩みを、少女は理解出来ない。
納得行かない様子の一家の顔を見て、少女は眉を顰めた。

 「……後は本人達で解決するしか無い。
  幾らでも迷い、悩むと良いよ。
  それも人間ならではの貴重な体験だ」

そう言って少女は今度こそ本当に去る。
一家は呆気に取られていたが、最初にノーブルが我に返る。

 「……とにかく、ヘルザが無事に帰って来て良かった。
  今は、それで良しとしよう」

マージョリーもヘルザも頷く。
問題の先送りだとは解っていたが、これ以上疲れる話をする気力は無かった。
0169創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 18:35:47.61ID:v1M/wuau
しかし、現実とは向き合わなくてはならない。
ヘルザは学校に行く気力はあるのだが、共通魔法だけが受け入れられない。
共通魔法を教えない学校があれば良いのだが、残念ながら、そんな学校は唯一大陸には無い。
義務教育に確り組み込まれている。
共通魔法の授業だけを休む事も出来なくは無いが、所謂「不良」扱いは避けられない。
ノーブルとマージョリーには、それが受け入れられなかった。
ヘルザが自分から逸(ぐ)れてしまえば良かったのだが……。
その夜、ノーブルとマージョリーは2人だけで相談する。

 「ヘルザの事なんだが……。
  学校の先生に相談してみるのは、どうだろう?」

 「共通魔法の授業だけ受けないの?
  そんな事が出来る?」

 「頼むだけ頼んでみようじゃないか?
  余り聞かないだけで、もしかしたら他にも共通魔法の授業を受けない、前例があるかも知れない」

 「でも、他の子達は、どう思うかしら。
  虐められたりしない?
  子供って残酷だから」

 「その時は、その時だ。
  学校に行きたくないと言ったら、考えよう」

 「大丈夫かしら……」

 「昔だって、クラスに1人は居たじゃないか?
  苦手な授業を放り出す様な問題児が……。
  それと同じだよ。
  そう言う奴だって、公学校は卒業していた」

 「卒業までは良いとして……卒業後は、どうなるの?」

マージョリーは我が娘ヘルザの将来を心配した。
0170創る名無しに見る名無し
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2020/01/10(金) 18:40:37.87ID:9rXaT7ZA
2人は共に真面目な学生だった為に、道を外れてしまった時の事が分からない。
元に戻る為の道程も。
だから、過剰に心配してしまう。
ノーブルは妻マージョリーに言う。

 「何とかなるよ。
  不良学生が皆、犯罪者になったり、野垂れ死にする訳でもあるまいし」

マージョリーは不安そうな顔をしていた。
ノーブルも同じ気持ちだったが、弱気な所は見せられないと強がる。

 「何が幸せか、それを決めるのは、ヘルザ自身だ。
  親として、子供の望みは叶えて上げたい」

 「それが本当に、あの子の為になるなら良いんだけど」

マージョリーは疲れた顔で俯いた。
翌日、ノーブルとマージョリーは、ヘルザが通っていたバルマー市第三公学校に連絡を入れて、
校長や担任教師と面談する。
2人の訴えを聞いた校長は、困った顔をした。

 「お話は分かりました。
  しかし、1人だけを特別扱いする訳には……」

例外を認めていては切りが無いし、担任教師の負担もある。
他の子供達との兼ね合いも問題だ。
何故あの子だけと言われない様に、説明するのは困難。
魔法資質が低い子供でも、共通魔法の授業は受けるだけ受けなくては行けない。
共通魔法社会の中で、外道魔法使いは魔法資質が低い者よりも少ない、圧倒的少数派だ。
それに対応する方法が確立されていない。
未だ未だ外道魔法に対する理解は進んでいない。
0171創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 18:41:41.58ID:9rXaT7ZA
しかし、公学校とて何の柔軟性も無い訳では無い。
担任教師はヘルザの両親に尋ねた。

 「共通魔法の実技は無理でも、筆記は出来るんじゃないでしょうか?
  共通魔法の基礎的な知識さえ理解していれば、最低限の合格点は出せるので……」

マージョリーは怖ず怖ずと問う。

 「実技は免除して貰えると言う事ですか?」

 「いえ、免除と言うか……。
  勝手に休んだと言う扱いですけれど。
  でも、筆記で知識があると分かっていれば……。
  魔法以外は問題無いんですよね?」

 「ええ、多分。
  共通魔法に対して過敏になっている部分はありますが……」

一定の成果を得て、ヘルザの両親は帰宅する。
そうして両親に説得されて、ヘルザは再び公学校に通う事になった。
多くの魔法使いと出会い、多くの魔法を見て、更に自分の魔法を知ったヘルザは、共通魔法にも、
以前程は嫌悪感を持たなくなっていた。
寧ろ、魔法に関する興味は以前よりも増していた。
相変わらず、共通魔法は苦手だったが……。
その理論をよく勉強した。
自分の魔法をよく知る為にも。
彼女には学校の友人以外にも、心強い仲間が居た。
それは……共通魔法使いから外道魔法使いになった、ルヴァート・ジューク・ハーフィードと、
その弟子のメルベーとルーウィーである。
0172創る名無しに見る名無し
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2020/01/10(金) 18:42:19.75ID:9rXaT7ZA
ルヴァートとヘルザの出会いは、ヘルザが両親からルヴァートの事を聞いたのが、始まりだった。
ヘルザは自ら外道魔法使いとなったルヴァートに興味を持った。
何を思って共通魔法使いから外道魔法使いへ転身したのか?
そこに苦労は無かったのか?
彼の弟子達も共通魔法使いなのか?
公学校の休日に、ヘルザは両親と共にバルマー市から離れたサブレ村を訪れ、山間の花畑に向かう。
一面に広がる色彩々の季節の花々に、ティンバー家の3人は圧倒された。
花畑では初老の男性が、花の手入れをしている。
彼は直ぐにティンバー一家に気付き、自ら近付いて声を掛けた。

 「今日は。
  皆さんは、ティンバー家の方々ですか?」

我に返った一家は、小さく礼をして、銘々に挨拶をする。
男性は笑顔で自己紹介する。

 「私がルヴァートです。
  緑の魔法使い。
  初めまして、ヘルザさん」

ヘルザは花畑が魔法陣を描いて、結界の役割を果たしている事に気付く。
ここの植物は全て生き生きとしていて、微風が吹くと人に語り掛けるかの様に爽々と音を立てる。

 「綺麗な花ですね」

マージョリーの言葉に、ルヴァートは小さく笑った。

 「ああ、ははは、有り難う御座います。
  ここで立ち話も何ですから、取り敢えず家の中へ」

一家はルヴァートの住家に案内される。
0173創る名無しに見る名無し
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2020/01/11(土) 18:46:15.24ID:L1SWExwq
家の中には若い男女が居た。
2人はルヴァートの弟子、メルベーとルーウィーた。
ティンバー一家を見て、2人は自己紹介をする。

 「あ、初めまして。
  ティンバー家の皆さんですね?
  私はメルベー、そして、こちらが――」

 「ルーウィーです」

それに対してティンバー一家も名乗った。

 「私はノーブル・ティンバーです。
  そして、妻のマージョリーと娘のヘルザ」

メルベーとルーウィーの視線は、ヘルザに集まる。
最初にメルベーが言った。

 「この子が例の隔世遺伝の子ですね」

ヘルザは見知らぬ大人が2人も居る事に緊張して身構えている。
メルベーとルーウィーは互いの顔を見合って、小さく笑みを漏らした。

 「私達はルヴァートさんの弟子です」

そうメルベーが言うと、ルーウィーも続く。

 「元共通魔法使い……。
  否、今でも共通魔法使いを止めた積もりは無いけれど。
  師匠には劣るけど、緑の魔法が使える。
  所謂『多重魔法理論内包者<マルチマジシスト>』だな」
0174創る名無しに見る名無し
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2020/01/11(土) 18:46:56.98ID:L1SWExwq
聞き慣れない単語に、ヘルザは戸惑った。

 「マルチ……?」

 「Multi-magic-ist……即ち、『多重』、『魔法主義者』。
  Multi-magic-theor-ist(マルチマジックセオリスト)……とも言う。
  本来的に共通魔法使いは多重魔法主義者だ。
  何故なら、多くの旧い魔法の理論を取り込んでいるから」

ルーウィーの説明にメルベーは呆れる。

 「行き成り難しい事を言っても伝わらないでしょう?」

 「はは、その内、解る様になるよ。
  今は解らなくても、知識として知っているだけで良い。
  それが後になって、こう言う事だったんだと解る」

言い合う2人の間に、ルヴァートが割って入った。

 「知識の先行は好ましいとは言えないけれどね。
  納得、体感、知識は一体の物。
  その段階に応じて、少しずつ歩んで行かなくては」

その後、彼は2人の弟子を下がらせる。

 「さて、今から私は、お客様と話をしなければならない。
  君達2人は少し席を外していてくれ」

メルベーとルーウィーは素直に従い、退席した。
ルヴァートはティンバー一家を台所のテーブルに案内する。
ティンバー一家は両親の間に娘を挟む形で着席し、その対面にルヴァートは座った。
0175創る名無しに見る名無し
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2020/01/11(土) 18:47:45.30ID:L1SWExwq
ルヴァートはティンバー一家に話を促す。

 「それでは、お話を伺いましょう。
  何か、お力になれれば良いのですが……」

ノーブルとマージョリーは何から聞けば良い者か、お互いに見合う。
最初に口を開いたのは、ノーブル。

 「外道魔法使い……と呼ばれる物が、共通魔法社会で生きて行く為に……。
  何か助言を頂けないかと」

 「具体的に、どんな事で、お困りですか?」

 「それは……」

ノーブルは一度ヘルザを見て、こう言う。

 「共通魔法を使えない事で……。
  いえ、共通魔法に違和感と言うか、嫌悪感があるらしいのですが……」

 「ああ、解ります。
  御両親は外道魔法を目にした事はありますか?」

ルヴァートの問い掛けに、ティンバー夫妻は再び見合って、首を横に振った。

 「いえ、瞭りと目にした事は……ありません」

その答を聞いたルヴァートは、何度も頷いた。

 「それでは中々娘さんの気持ちは理解出来ないでしょう。
  『異なる魔力の流れ』と言う物が、如何なる物なのか、先ずは解って頂こうと思います」
0176創る名無しに見る名無し
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2020/01/12(日) 21:28:55.78ID:F6lR3R6s
次の瞬間、ルヴァートは緑の魔法を使った。
何と言う事は無い、植物を成長させるだけの魔法。
家の周囲の雑草が伸びて、窓を覆い始める。
先に退室した2人の弟子が、異変を察知して慌てて飛び込んで来る。

 「ど、どうしたんですか!?」

それに対して、ルヴァートは落ち着いた声で言った。

 「『外道魔法』と言う物を見せているだけだよ。
  心配無い」

2人の弟子は本当に心配しなくて良いのか迷い、狼狽していた。
2人共、師が大きな魔法を使う所を、未だ見た事が無かったのだ。
一方、ティンバー一家の反応はと言うと、ヘルザは動揺しているだけだったが、夫妻の方は、
恐怖に顔を引き攣らせていた。
ノーブルはルヴァートに問う。

 「な、何をするんです!?」

それに対して、ルヴァートは冷淡に答えた。

 「御両親、これが外道魔法の結界です。
  貴方々の娘さんは、この様な物の中で生きているのです」

ティンバー夫妻が感じているのは、違和感、異質感、異物感。

 「貴方々は知らなかったでしょう。
  共通魔法社会で暮らしている、共通魔法使いの貴方々は、無意識に、そして日常的に、
  私達を迫害しているのです。
  共通魔法の結界その物が、多くの外道魔法使いにとっては毒なのですよ」
0177創る名無しに見る名無し
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2020/01/12(日) 21:30:11.12ID:F6lR3R6s
不快感に顔を歪めて苦しむ両親の姿を見て、ヘルザはルヴァートに訴えた。

 「もう止めて」

ルヴァートは小さく頷き、魔法を中止した。
植物は成長した儘だが、魔力の圧力は弱まる。
ティンバー夫妻は娘に対して、申し訳無さそうな顔をする。

 「ヘルザ、今まで済まなかった。
  お前の苦しみも知らないで、私達は……」

 「良いの。
  謝らないで、お父さん」

ヘルザは両親を許す。
そもそも許す許さない以前に、両親を恨んではいなかった。
全く恨みに思わなかった訳でも無いが、それは過去の話。
何時までも根に持つ積もりは無い。
ルヴァートはティンバー夫妻に告げる。

 「貴方々は共通魔法社会の中で、共通魔法に浸かっているから、気付かないだけなのです。
  少し共通魔法から距離を置けば、外道魔法と呼ばれる物の事も、公平に見られるでしょう」

ノーブルは途端に難しい顔になった。

 「それでは、ヘルザは共通魔法社会の中では、生きて行けないのでしょうか……?」

 「そんな事はありません。
  今の私や、私の弟子が、そうである様に……。
  多くの魔法に寛容になれば良いのです。
  幸い、今のヘルザさんは自分の魔法を自覚しています。
  もっと自分の魔法と他の魔法を知って、自分の魔法と言う物を確立出来る様になれば、
  周囲の魔力に乱されて、心身が動揺する事は無くなるでしょう」

ルヴァートの言葉に、ティンバー一家は安堵する。
共通魔法が大陸を支配している現状で、その中で生きて行けないと言うのは、大きな苦しみだ。
外道魔法使いであろうと、人である事には変わり無い。
人である限り、独りでは生きて行けない。
0178創る名無しに見る名無し
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2020/01/12(日) 21:31:07.65ID:F6lR3R6s
ヘルザは自分の将来に希望を持つと同時に、ラントロックの事を想った。
彼は独り旅を続けながら、共通魔法社会とは異なる世界を目指すと言う。
それは途方も無い野望だ。
どんな魔法使いも平等に生きて行ける場所を創ると言う理想。
どうして彼は、それを目指すのか?
共通魔法社会に紛れて生きるのでは駄目なのだろうか?
何時か、その楽園は完成するのだろうか?
呆けているヘルザに、ルヴァートは小声で言う。

 「所で、ヘルザさん」

 「は、はい、何でしょう?」

吃驚して我に返ったヘルザは、慌てて問う。
ルヴァートは少し困った笑みを浮かべた。

 「君の魔法は人に呼び掛ける魔法でしたね?
  テレパシーの様に。
  或いは、召喚魔法かも知れないと聞きましたが……」

 「あ、はい。
  未だ確信は無いんですけど、多分……」

 「私に会うのが楽しみだったんですか?」

 「え?」

行き成り何を言うのだろうと、ヘルザはルヴァートを怪しむ。
ルヴァートは益々困った顔になった。

 「いえ、その……。
  貴女が来る前から、強い思念と言うか、呼び掛けの様な物を感じていたので……。
  恐らく、貴女の心に反応して、魔法が勝手に発動していたのでは無いかと……」

 「あっ」

未だ未だ制御が必要だと、ヘルザは魔法の未熟さを自覚して赤面した。
0180創る名無しに見る名無し
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2020/01/13(月) 19:00:08.69ID:BixmOVcP
体が2つあれば


象牙の塔にて


カティナ・ウツヒコのB棟掌握計画は着々と進行していたが、彼女は自らの権力を、
誇示する事はしなかった。
偶に『予言』して、人を驚かせる程度である。
少し彼女の知る情報を話せば、頭の良い禁呪の研究者達は、勝手に「事実」を推測して、
恐れてくれる。
それだけで彼女は満足だった。
次第にカティナの興味は一向に行動の予測が付かない、カーラン博士に移りつつあった。
ヒレンミ・ヒューインの研究室に所属しながら、彼女は暇があればカーラン博士への連絡や雑用を、
進んで引き受けた。
これは象牙の塔の職員にとっては、大変有り難い事だった。
先ず、カーラン博士が好きと言うか、得意な人が居ないのだ。
誰も彼もカーラン博士の相手は苦手。
しかし、カティナの行動は当然不審がられた。
詰まり、ヒレンミがカーランを一方的にライバル視しているのだから、何か裏があるのだろうと。
例えば、カーランを監視しているのだとか、或いは、カーランに取り入ろうとしているのだとか……。
そんな人の噂を聞かない振りして、今日もカティナはカーラン研究室に連絡書類を届けに行く。
0181創る名無しに見る名無し
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2020/01/13(月) 19:01:50.31ID:BixmOVcP
 (今日のカーラン博士は、どんな姿をしているかな?)

大体、B棟の事は把握しているカティナだが、カーランだけは彼女の予想の範囲に収まらない。
彼は気紛れな上に、頭の回転が速いので、常人の行動パターンが当て嵌まらない。

 「カーラン博士、失礼します」

B棟の地下研究室の戸をカティナが叩くと、丸で幽霊の仕業の様に、戸が独りでに開く。
「入れ」と言う合図だ。
今日のカーランは下半身を植物に変えていた。
彼の足元からは白い根が無数に生えている。
戸を開けたのは、彼の根の1本だった。
カーランはカティナを見ようともしない。
カティナは、そっと連絡書類をカーランの横に置く。
対するカーランの反応は……。

 「書類入れに」

彼の言葉は何時も要点だけ。
その他の無駄な言葉が一切無い。
時には必要な補助の言葉も無くなるが……。
カティナはカーランの指示通りに、書類入れに連絡書類を入れる。

 「用があるなら言い給え」

緩慢な所作でカーランの様子を窺いながら行動するカティナに対して、彼は苛付いた口調で言った。

 「その下半身は、どうされたのかと……。
  具合は如何ですか?」

 「機能を知りたいのか?」

 「ええ、まあ」
0182創る名無しに見る名無し
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2020/01/13(月) 19:05:25.80ID:BixmOVcP
カーランはカティナに下半身の機能を説明した。

 「見ての通り、これは植物の地下茎だ。
  目的は光合成。
  これによって不眠不食の活動を行える」

 「本当に?」

 「生成可能な糖質の少なさが問題点だが……。
  最近、漸く十分な量を確保出来る様になった」

カーランの下半身の根の大部分は、壁沿いに地下室の天井に向かって伸びている。
恐らく、その先は地上に出ているのだろう。
カーランは何時も新しい体を試している。
全ては効率的な活動の為だ。
カティナはカーランの発言から、事実を推測する。

 「詰まり、地上で十分な光量を確保出来るだけの面積を占めたのですね?」

 「ああ」

自分の体の改造も厭わないカーラン博士を、カティナは見習いたいとは思わないが、その狂人振りは、
研究に対する情熱と真摯さの証拠でもある。
C級の研究者達も自分の体を改造するが、あれは実験に耐える為に、既存の技術を利用して、
より優れた肉体を得ているだけ。
効果も効率も不明な物を試す積もりは無い。
カーラン博士こそが本物の狂人なのだと、カティナは思っている。
ヒレミンがカーランに勝てないのは当然だとも。
では、自分ならカーラン博士に勝てるのか?
カティナは自信が無い。
どれだけ自分が巧みになっても、カーランになら負けるかも知れないと思う。
それは彼女には彼の様な純粋な狂気が無い為だ。
0183創る名無しに見る名無し
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2020/01/14(火) 18:39:32.02ID:x09+dAqa
何時までも研究室に留まっているカティナに、カーランは告げた。

 「用が無いなら出て行ってくれ。
  君は暇なのか?」

 「いえ……、ああ、はい、少し」

カティナは一度否定しようとして、考え直して肯定した。
暇だと言うのは間違っていない。
最近は興味のある研究テーマに出会えていない。
誰も彼も自分の研究テーマを抱えていて、その手伝いをカティナはしているが、果たして、
自分は何の研究をしたいのかと問われると、答えられない。
カティナは優秀ではあったが、それだけの人間でもあった。
詰まり、彼女自身の独創性だとか、熱情が無いのだ。
与えられた指示は的確に熟すし、方針が定まっていれば、直ちに解決への道筋を示せる。
だが、それだけだ。
そんな彼女の悩みを読んだかの様に、カーランは言う。

 「君は手が足りないと言っていた。
  それをテーマにしては、どうだ?」

 「腕を増やすのは……」

カティナは苦笑いする。
カーランの様に多生物の腕を生やしたり、増やしたりするのは、受け入れ難かった。
その反応に、カーランは眉を顰める。

 「言葉を額面通りに受け取るな。
  私が研究中に思い付いた、傀儡魔法に類する分身の技術がある。
  君になら扱えるかも知れない」
0184創る名無しに見る名無し
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2020/01/14(火) 18:40:02.31ID:x09+dAqa
カーランは座した儘でマジックキネシスの魔法を唱えると、離れた書棚の引き出しから、
数枚の報告書を取り出して、カティナに渡した。
そこに書かれている呪文を読んで、彼女は納得する。

 「これは……マリオネットの技術?」

マリオネットとは四大魔法競技の一だ。
人形を操って、その芸術性を競う。
しかし、多くのマリオネットの魔法は、「特定の行動を取る」事を前提としている。
例えば、術者の行動を真似たり、事前に組み込んだ術式の通りに動かしたりと、柔軟性が無い。
人形を自由に動かす場合には、逆に術者の自由が制限される。
カーランの報告書の魔法陣は、人形に自分の人格を転写しながらも、自分と意思を通じさせ、
全く肉体が2つあるかの様に扱う技法だった。
しかし、これは精神に掛かる負荷が大きく、実用には適さないと書かれている。
同じ仕事を2人で行えば、労力も時間も半分になると言うのは、数学上の理論。
そして2人分の労力と時間の合計は、1人で完遂させるのと変わらない。
魔法を使って2人になれば、更に魔法の分だけ足される。

 「確か、B級の研究者には珍しく身体に障害を持った者が居た筈だ。
  名前は確か……、ハンセロトワーン。
  どこの研究室だったかまでは憶えていないが、行き詰まったら彼の助言を受けると良い」

カティナ自身は他者の助言を受ける事は無いと思っていたので、カーランの発言は自分の実力を、
見誤っているか、侮っている物だと受け取った。

 「有り難う御座います」

文句は言わずに、カティナは有り難く報告書を受け取って、退室する。
カーランから貰った報告書の魔法が、どの程度の物かは、実際に使ってみないと判らない。
実用に適さない程、精神に掛かる負荷が大きいと既に書かれているのに、試さずには居られない。
カティナも象牙の塔の立派なエラッタ共の一人なのであった。
0185創る名無しに見る名無し
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2020/01/14(火) 18:41:43.72ID:x09+dAqa
カティナがカーランの研究室から、魔法実験の報告書を持って帰った事に、ヒレンミ室長は、
良い顔をしなかった。
自分の部下が、ライバルの研究を引き継ごうと言うのだから。
しかし、カティナは次の様に言い訳した。

 「これはカーラン博士が物になる事は無いと思って、放棄した研究です。
  仮令、『唾付き』であっても、それを完成させる事が無意味だとは思いません」

「唾付き」とは即ち、一度人が手を付けた物と言う意味だ。
既に先駆者が居る為に、革新的、独創的とは言い難いが、途中で放棄されたのであれば、
これを完成させる事は、放棄した者以上の優秀さを持つ事の証明にもなる。
ヒレンミはカティナの主張を黙って受け入れた。
実際、カティナは優秀だったので、それを遣り遂げるかも知れないと思った。
そしてカティナは初めて、「自分の研究」に没頭する事になる。
先ず、彼女は自分の分身を用意しなければならない。
生きた体の調達は無理なので、取り敢えずは人形で試す事になる。
魔法によって人形に自分の人格を移植するのだ。
だが、人形の作成は職人業である。
他者の手を借りなければならない。
これまでカティナが地道に集めて来た、B棟に関する情報があるので、職人を探すのは容易だ。
その職人の名は……ハンセロトワーン。

 (成る程、こう関わって来るんだ……)

早速カーラン博士の言う通りに、カティナはハンセロトワーンの助言を受ける事になる。
ハンセロトワーンは実際に奇妙な人物だった。
否、象牙の塔で奇妙でない人物は居ないのだが……。
彼は両腕と片脚を欠いた者だった。
それ自体は普通の事。
象牙の塔の者ならば、日常的に手足を欠く位の覚悟は必要である。
欠損はB級禁呪の研究者達の優れた再生魔法によって補われる。
それが先天的であれ、後天的であれ。
0186創る名無しに見る名無し
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2020/01/15(水) 18:47:09.32ID:qpYJ9YjZ
詰まり、象牙の塔に居る者は、精神は別として、肉体に欠損を抱えた儘と言う事が無い。
もし欠損があるなら、意図して自らに不利な障害を維持している事になる。
生まれた儘の体を大事にしたいと言う思いは誰にでもあるが、ハンセロトワーンの場合は、
少々事情が複雑だった。
彼の個人的な事情は今は措くとして、彼は変人揃いの象牙の塔でも、変人扱いされている。
自ら不利な状況に留まり続けるのだから、変人と言えば変人なのだが、外から見れば、
どちらも同類だろう。
カティナは自分の人形を求めて、モノソス研究室のハンセロトワーンに会いに行った。
ハンセロトワーンは禁呪の研究者であると同時に、義体技術者である。
彼は普段、義手義足を装備して過ごしている。
それも機械的な物では無く、魔法的な物だ。
詰まり、義手義足を魔法で動かしているのである。
彼の研究テーマは、人体と義体の置換。
最終的には義手義足だけでなく、完全な義体を作成して、自分の体の代わりにする事を、
目指している。
それが可能になれば、人間は肉の体に拘る必要が無くなる。
モノソス研究室全体での研究テーマが「人体の製作」なので、その流れでハンセロトワーンは、
今の研究を始めた。
否、その為に彼はモノソス研究室を選んだのだ。
とにかく、カティナはハンセロトワーンに会って、人形の作成を依頼した。
ハンセロトワーンは驚いた顔で応える。

 「肉体を2つ……?」

 「はい。
  お願い出来ませんか?」

 「いや、済まない。
  吃驚してしまって。
  何とも贅沢だなと」
0187創る名無しに見る名無し
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2020/01/15(水) 18:48:01.88ID:qpYJ9YjZ
忙しい人間が冗談めいて「幾つも体が欲しい」と言う事を、カティナは本気で実行しようとしている。
ハンセロトワーンは、それを好意的に捉えた。

 「しかし、面白いね。
  実に夢がある」

 「どう言う意味の『面白い』でしょうか?」

カティナが困った顔で問うと、ハンセロトワーンは実に楽しそうに返す。

 「最近の禁呪の研究者達は夢が足りない。
  それこそ冗談を本気にする様な。
  頓智を働かせる前に、やはり正攻法で物事に打付かってみるべきだよ。
  誰も彼も『人形』と言うと、自分の道具だと考えてしまう。
  自分の体では無い、使い捨ての消耗品だとね。
  特に、この象牙の塔では、自分の体であっても……。
  しかし、君は違う訳だ」

 「私自身は、そう違うとは思いませんが……」

 「ああ、君は大した事だとは思っていないだろう。
  その辺は感覚の違いだ。
  改まる必要は無い」

ハンセロトワーンは一つ咳払いをして、カティナに答えた。

 「喜んで協力させて貰おう。
  当然、共同研究者には、僕の名前を入れてくれるんだろうね?」

 「はい、それは勿論。
  貴方無くしては、出来ない訳ですから」

 「はは、嬉しい事を言ってくれる」
0188創る名無しに見る名無し
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2020/01/15(水) 18:49:12.36ID:qpYJ9YjZ
それからカティナはハンセロトワーンと、新しい人形の仕様に就いての協議を始めた。

 「分身と言うからには、人型にするんだろう?」

 「はい」

 「細かい仕様とか、既に決めているのかな?」

 「いえ、未だ……。
  考え自体はありますが、どこまで実現可能か判らないので……」

 「大雑把でも良いから、ここで決めておこう」

 「はい」

 「それで、どんな人形をお望みかな?」

 「出来れば、私と同じ様な……」

 「それは体形とか、重さとか、『使用感』も含めて全部?」

 「使用感?」

 「義体を使わない人には解らないかな?
  詰まり、生身と全く変わらない感覚で使える様な――と言う事だよ」

 「可能なんですか?」

 「時間は掛かるし、君自身の協力も必要になる。
  それでも良ければ」

ハンセロトワーンの口振りからは、相当精巧な人形が製造可能な様だった。
0189創る名無しに見る名無し
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2020/01/16(木) 19:15:52.55ID:ZhbLfQKa
カティナは思案する。
自分の体と同じ積もりで動かすなら、それは同じ材質で、同じ質感、使用感の方が良いだろう。
だが、全く同じ肉体があると言うのは、少し気持ちが悪い。
やはり「自分」は自分1人だけで良いのだと言う思いがある。
しかし、彼女はカーラン博士の事を思い浮かべた。
恐らく、彼なら迷わない。
本気でカーランを越える積もりなら、ここで躊躇っては行けない。
人間的に何か大事な物を捨てる事になろうとも、それが象牙の塔では当たり前なのだから。
だから、『禁呪』の研究者なのだ。

 「私と同じ物を造って下さい」

ハンセロトワーンは一度確認を求めた。

 「『同じ』って、本当に同じ?」

 「はい」

 「その儘、血と肉で造るって事?」

 「無理でしょうか?」

禁呪の研究者に対して、「無理」は禁句だ。
そう言われては引き下がれない。

 「無理では無いけども……」

 「では、お願いします」

強気に言うカティナに、ハンセロトワーンは忠告する。

 「でも、手入れが大変だよ。
  生物(ナマモノ)だから腐らない様にしないと。
  自分で管理出来るのかい?」
0190創る名無しに見る名無し
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2020/01/16(木) 19:16:52.45ID:ZhbLfQKa
 「手入れとは、詰まり、食事とか、普通の人間が行う諸々の事でしょうか?」

カティナの問に、彼は大きく頷く。

 「そう、君は実質、2人分の体を1人で管理する事になる」

負荷が大きい筈だと、カティナはカーランの報告書にあった事の意味を理解した。
知識は体感を伴い、納得に至る。
これが象牙の塔のエラッタ共が考える理想だ。
故に、カティナは頭で考えるだけでなく、実際に体験してみなければならない。

 「やります」

 「その意気や良し。
  では、細胞を採取して培養を始めよう。
  但し、出来上がるのは、君と全く同じ体ではない。
  恐らくは、君が取り得る、或いは取り得た標準的な肉体になる。
  適度な栄養と運動によって、一般的な成長を遂げた姿だ。
  よって、全く同一の物を期待されると、少し困る」

 「はい、分かりました」

 「『人形』の方に余り入れ込まない様に」

 「はい」

 「人形は飽くまで人形だ。
  脳には神経を通じた呪文による制御機構が集中している。
  しかし、これは自発的、自律的な活動をする物では無い事を、了解しておいてくれ」

 「はい」
0191創る名無しに見る名無し
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2020/01/16(木) 19:17:34.29ID:ZhbLfQKa
 「所で、具体的に、どうやって管理する積もりなんだ?」

そう聞かれたカティナは、平然と答えた。

 「常時、接続する予定ですので、特に管理方法は考えていません」

 「大丈夫なのか?
  万一の時に備えて、保存設備が必要にならないか?」

 「その場合も、自分で何とか出来ます」

 「それなら良いけども……。
  余り他人の迷惑にならない様に」

 「はい」

ハンセロトワーンは心配しているのだろうが、好い加減に執拗いとカティナは感じ始める。
だが、それ以上の忠告は無く、彼はカッターを持ってカティナに言った。

 「腕を出してくれ」

言われた通りに、カティナは右腕を差し出す。
皮膚の一部を切り取って、そこから全身を再生させるのだが、彼女はハンセロトワーンの指先を、
凝視した。
カティナの腕に触れる彼の指は、全く人形の様だ。
表面こそ樹脂で覆って柔らかく見えるが、中身は線維の芯に、木の骨組み。
カティナは疑問を抱いて問う。

 「その手は……指先の感覚はあるんでしょうか?」

 「ああ。
  義手だから、そう感度は良くないけれど」
0192創る名無しに見る名無し
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2020/01/17(金) 18:32:18.53ID:m/dCtLCX
細かい作業をするのに、感度の悪い指先では不利では無いかと、彼女は疑問に思った。
ハンセロトワーンはカティナに予告する。

 「少し痛いよ」

 「はい」

彼の持つカッターがカティナの腕に刺さり、素早く円を描く様に皮膚の一部を抉り取る。
的確で素早い作業。
その瞬間の痛みは大きくないが、後から少し痛くなり、血が溢れ出す。
カティナは魔法で直ぐに傷を治療した。
傷は瞬く間に塞がる。
ハンセロトワーンは抉り取った細胞を培養液で満たされた瓶に入れる。

 「汚染が無く、順調に行けば、1箇月後には完成します」

 「分かりました」

正直、長いとカティナは思ったが、人体を複製するのだから、その位は仕方が無いと割り切った。
急かして失敗してしまっても困る。
その間、カティナは何時も通りの日常を過ごして、時々ハンセロトワーンの所に、様子を窺いに行く。
1週間で片腕が完成し、2週間で胸部が、3週間で胴が、4週間で全身が出来上がる。

 「未だ完成していないんですか?」

 「君は意外に急っ勝ちなんだな。
  これは側(ガワ)だけだから。
  中身は未だ完成していないよ。
  残りの2週で仕上げる」

 「ああ、そうなんですか……」
0194創る名無しに見る名無し
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2020/01/17(金) 18:33:49.82ID:m/dCtLCX
カティナは水槽の中の分身を見た。
外見はカティナに似ている。
自分の細胞から造ったのだから、当たり前と言えば、当たり前。
もう2週間後には、この体を第2の体として、扱わなくてはならない。
理論的には、不可能では無い。
これまでカティナは複数の作業を同時に行う練習をして来た。
例えば、複数のペンを魔法で動かしながら、自分の手でも筆記をしたり、全く別の事をしたり。
それでも、2つの体を動かす事に比べて、どうなのかは分からない。
片方が遊んでいる間に、片方で仕事が出来ると言う事なのだが、果たして、そう上手く行くのか?
重要な事は、2体が独立した意思を持っている訳では無く、精神を共有すると言う事だ。
カティナは他の研究中に、小さなマリオネット人形を動かして、密かに予行練習を始めた。
だが、それも所詮は人形遊び。
どんなに複雑な動きをさせた所で、実際に精神が宿っている訳では無い。
そして遂に1箇月が過ぎて、カティナは新しい自分の体を迎える事になった。
水槽の前で、彼女はカーラン博士の報告書にあった呪文を試す。

 「I1EE1・EG4K3F4・I1N5・E1E1A5……」

カティナの意識は、水槽の中の人形と同調を始めた。
直後、彼女は呪文を中断して、激しく咳き込む。
ハンセロトワーンはカティナを心配した。

 「どうしたんだ?」

 「……い、いえ、水の中だったので、息が出来なくて……」

 「成る程。
  培養液から出しておこう」

彼は水槽の蓋を開けて、カティナの分身の体を水から引き上げる。
0195創る名無しに見る名無し
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2020/01/17(金) 18:34:59.90ID:m/dCtLCX
今まで水槽の中で培養されていたので、分身は裸だ。
しかし、B棟の研究者は人の裸体如きで動揺したりはしない。
基本、見慣れている。
B棟の研究者が人の体を見る時は、先ず健康状態を気にする。
異性を見る時は、先ず精神から見ると言う、これぞ『心の人<シーヒャントロポス>』の鑑。
中身の無い人形に欲情する事は、あり得ないのだ。
余談は措いて、ハンセロトワーンはカティナの分身の肺から、水を抜いた。
人形の体は呼吸を始め、丸で寝入っている様。
カティナは改めて呪文を試す。
今度は上手く同調出来た。
人形の方のカティナは、立ち上がる……が、同時に彼女は情報量の多さに困惑する。
体は2つ、精神は1つと言うのは、彼女が想像していた以上に、複雑で気持ちが悪い。
普通の体と、濡れた裸の体が、カティナの中で同居している。

 「ふ、服を着ないと……」

そうカティナが言うと、人形の方も同時に全く同じ言葉を喋る。
堪らず、彼女は精神を元に戻した。
人形のカティナは倒れて動かなくなる。
ハンセロトワーンは彼女に問い掛けた。

 「又、何か不具合でも?」

 「いえ、これは……慣れるまで大変そうです」

 「その体、自分で管理出来そう?」

そう聞かれて、カティナは返答に困る。
恐らくは、持て余す。
十分に慣れるまでは……。
0196創る名無しに見る名無し
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2020/01/18(土) 19:22:53.52ID:uiZeeBRs
しかし、諦めると言う選択肢は彼女の中には無かった。
ここで折れては、禁呪の研究者を名乗る資格が無い。
精神が分裂して、狂ってしまっても、幸い象牙の塔では再生出来る。
カティナは自分の分身になる予定の人形を背負って、ヒレンミ研究室に帰って来た。
同室の研究員達は、興味津々でカティナの人形に就いて尋ねる。

 「これが例の人形?」

 「はい」

 「誰が造ったの?」

 「ハンセロトワーンさんです」

 「あの義体君?
  しかし、よく出来ているね」

 「余り構わないで下さい」

数点も経てば、研究員達は興味を失って、自分達の研究に戻る。
カティナは小実験室に篭もって、独りで魔法の練習をする事になった。
念の為、先輩のヘイゼントラスターロットに、実験後の様子が奇怪しかったら検査して欲しいと、
頼んでおく。
初日の結果は捗々しくなかった。
どうしても、体が2つある感覚に慣れない。
確かに、カーラン博士の報告書通り、精神に掛かる負荷が大きい。
自分の体と分身とで、別の行動を取らせる事も困難だ。
同一の動作をさせる事なら、何とか出来そうなのだが……。
それではマリオネットと変わらない。
0197創る名無しに見る名無し
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2020/01/18(土) 19:23:36.10ID:uiZeeBRs
カティナは少しでも人形に慣れる為に、人形と並んで歩く事にした。
全く同じ動作をさせる事なら、直ぐに慣れるだろうと判断しての事。
最初から完璧には出来ないから、先ずは簡単な事から、それから高度な技術を試せば良い。
こうしてカティナは2人での生活を始めた。
眠る時に同調を切り、朝は1人で早起き。
これからの生活の準備を始める。
取り敢えず、隣に並んで同じ行動が出来る様に、何から何まで、もう1人分を隣に並べる模様替え。
どうしても並んでは無理な事は、片方を眠らせている間に、もう片方で済ませる。
本体で人形分の朝食を用意。
出来上がったら、人形を起こして、同調生活の開始。
何よりも、体が2つある事に慣れなければ始まらない。
仕事中も2人。
但し、何時も同じ行動をさせる訳には行かないので、用の無い時は眠っていて貰う。
本体が一所懸命に働いている横で、分身は突っ伏して眠っている。
そんな生活を数日続けた。
ある日、カティナはヘイゼントラスターロットに言われる。

 「そうしていると、姉妹みたいだね」

 「姉妹?」

カティナと人形は同時に応える。
未だ2つの体で別々の行動を取らせる事は出来ていない。
だが、体が2つある事には慣れて来た。

 「そうそう、手の掛かる妹が居るみたいな感じ。
  見た目も似ているしね」

カティナと人形は、お互いの顔を見合う。
鏡映しと言うには、微妙に似ていない2人だが、姉妹と言われれば、そんな感じはする。

 「妹ですか……。
  お兄ちゃんなら居るんですけど」
0198創る名無しに見る名無し
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2020/01/18(土) 19:24:44.70ID:uiZeeBRs
小さく笑うヘイゼントラスターロットに対して、カティナは眉を顰めて言った。

 「でも、姉妹と言う風には見れませんよ。
  どちらも私なんですから。
  体が2つあるだけで、比喩でも何でも無く、心は1つなんですよ」

カティナは2つの体で同じ事を言う。
これは他者には理解し難い感覚だ。
2つの体で心が1つを、後天的に体得するのは難しい。
共通魔法では一般的な「感覚を共有する」、「体を思う様に動かす」のとは、訳が違う。
約2月後、カティナは体が2つある生活にも慣れて来たが、相変わらず、同時に別の行動をさせ、
2つの体を有効に使う事は出来なかった。
人間の脳は、そう言う風には出来ていないのだ。
この儘では進展は望めないとカティナは悩み、一層脳を改造してしまおうかとも思う。
カティナの精神は1つの体では不足だが、2つの体では余ってしまう。
自分の腕が何本か増える位が、丁度良かったのだ。
しかし、カティナに何の進展が無かった訳でも無い。
彼女は2つの体で別の本を読む事位は、出来る様になっていた。
ヘイゼントラスターロットは読書中のカティナに問う。

 「何を読んでいるんだい?」

 「これは人工精霊作成実験の報告書で――」

 「こちらは副脳の実験報告書です」

カティナが本体と分身で別に答えたので、ヘイゼントラスターロットは驚いた。

 「もう完全に2つの体を別々に動かせる様になったの?」
0199創る名無しに見る名無し
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2020/01/19(日) 18:25:50.15ID:mRfnTH4U
2人のカティナは互い違いに答える。

 「そんな事はありません」

 「これは最初から出来ていました」

 「片方に何かをさせている間、もう片方には何もさせない」

 「それだけの事です」

 「同時に別の言葉を喋らせるのとは違いますから」

 「腹話術みたいな物ですね」

そうなのかとヘイゼントラスターロットは頷く。

 「成る程ね。
  でも、2冊の本を同時に読めているじゃないの」

 「読むだけなら、前から出来ていました」

 「これは格好が付く様になっただけです」

 「所詮、見せ掛けだけですよ」

カティナの返答は少し捻くれていた。
実験が思う様に進んでいないのだろうと、ヘイゼントラスターロットは同情する。
その苦しさは同じ研究者だから解る。
予想通りの結果が得られない、技術が進歩しないと言う事は、常に成果を求められる研究者には、
とても辛い事だ。
0200創る名無しに見る名無し
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2020/01/19(日) 18:26:23.94ID:mRfnTH4U
それから1箇月後……。
カティナは誰も気付かない内に、少しずつ分身の動作を進歩させた。
先ず、無意識に行える動作であれば、分身にも容易にさせられる事に気付く。
呼吸、歩行、咀嚼嚥下、それに加えて、普段は手癖で行っている様な事も。
簡単な動作に限られるが、そうした事から少しずつ慣らして行って、複雑な動作にも慣れる計画。
その内に、段々と分身にも愛着が湧く。
初めは、管理が面倒なだけの荷物だったが、今では完全に、もう1人の自分だ。
しかし、第三者からは大きな変化が分からない。
カティナは敢えて進歩を口にせず、何も変わらない振りをした。
形から入ると言う名目で、分身に自分と同じ格好をさせ、敢えて見分けが付かなくする。
分身はカティナと殆ど同じだったので、一見して本人か分身人形か判らない。
その内に、独立させると言う名目で、分身と離れて行動する様になる。
普段は無意識で行える動作だけをさせて、何かあれば本格的に意識を移す。
こうした事を始めて又1箇月後、カティナの意識は本体からも分身からも離れて、宙吊りになる。
どちらの体も余り意識させずに動かす事が可能になったのだ。
そして重要な価値のある情報だけを記憶する事になった。
肉体のカティナは本体も分身も、生気が抜けた様になり、精神のカティナは何時も2つの肉体を、
俯瞰している。
それこそマリオネットの様に。
彼女の当初の計画とは違ったが、これは新たな方向性とも言えた。
0201創る名無しに見る名無し
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2020/01/19(日) 18:27:02.59ID:mRfnTH4U
そして、カティナは3体目の体を持てるのでは無いかと考え始めた。
彼女は久し振りに本体に意識を戻し、分身と一緒にハンセロトワーンに会う。

 「カティナさん、もう2つの体には慣れたのかい?」

 「ええ。
  予想とは少し違う形になりましたが……」

カティナが2体目を得てから、半年が経過している。
彼女はハンセロトワーンに3体目の製作を依頼する。

 「そこで2つ目の分身を造って欲しいのですが……」

その依頼にハンセロトワーンは目を剥いた。

 「2体目!?
  大丈夫なのか?」

 「恐らく、そう苦労はしないと思います」

浅りと答えたカティナに、ハンセロトワーンは難しい顔をして告げる。

 「……君の噂は聞いているよ。
  最近の君は、呆っとしていて危なっかしいと」

 「ああ、それは……。
  2つの体を同時に扱う為に、肉体とのリンクは最小限に止めている為です」

 「えっ?
  それは本当に大丈夫なのか?」

ハンセロトワーンは本気でカティナを心配してたが、当の本人は何とも思っていない。
0202創る名無しに見る名無し
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2020/01/20(月) 18:31:57.56ID:HaSpZrsl
2つの体を同時に扱っている時のカティナは、半精霊化している。
このカティナは現実の空間を越えて、離れた2つの体の間に、同時に存在している。
「存在している」と言うのは、空間的な場所を表すのでは無い。
カティナは未だ、2つの体を同時に扱う際の、自分の所在――「居場所」に関して、自覚的では無い。
意識と言う物の在処に就いて、彼女は深く考えていないのだ。
どちらの体にも意識が宿っていないと言う事が、どう言う事なのかを……。
それに気付いた時、カティナは最大の禁忌を知るだろう。
即ち、『現生人類<シーヒャントロポス>』の肉体と精神は別個の存在で、分離可能な物だと言う事に。
将来の話は扨措(さてお)き、カティナは複数の肉体を持つ事に前向きだった。

 「大丈夫です。
  今の所、大きな問題は起きていません」

 「将来は起きるかも知れない」

 「その時は、その時です。
  ここには『頼りになる』人達が居ますから、そう心配していません」

肉体や精神が毀損しても、B級禁呪の研究者達が居れば、復活は容易である。
そこに関しては、カティナは絶大な信頼を置いている。
それはハンセロトワーンも同じなので、多少痛い目を見るのも経験かと納得して、見過ごした。

 「そこまで言うなら、新しい物を用意しよう。
  所で、3体目を持つ計画もあるのかな?」

 「ええ、持てるだけ持っておきたいです」

持てるだけと聞いて、ハンセロトワーンは呆れ果てた。

 「限界を試す気なのか?」
0203創る名無しに見る名無し
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2020/01/20(月) 18:33:24.93ID:HaSpZrsl
 「それの何が悪いんでしょうか?」

カティナの応答は平然としている。
禁呪の研究者としては珍しくは無い性格。
寧ろ、エラッタとしては一度は自分の限界を見ておく物だと言う。
致命的な『誤り』、『欠陥』を抱えている事を意味するエラッタが、象牙の塔では名誉になる。
死後の事が知りたければ、一度死んでみろと平然と言え、又、実行出来るのがエラッタなのだ。
象牙の塔では己の命よりも、未知を知る事の方が価値がある。
エラッタ共は「死ぬ気でやれ」「死んだら生き返らせてやる」と言う。
その情熱は世界の全てを知るまで、終わる事が無い。
知識として知っていても、それを体得するまで飽き足らないのだから、熱が冷める事も無い。
カーラン博士が不老不死に魅入られる訳である。
その不老不死ですら、最終的な目標では無く、全てを『知る』為の物に過ぎない。
外界から見た象牙の塔は、正に魔窟、魔界なのだ。
しかし、ハンセロトワーンも半分エラッタの様な物なので、カティナの心が解らない訳では無い。

 「取り敢えずは、2体目で満足してくれ」

 「ええ、何事も1つずつ。
  基本ですよね」

 「一度細胞は取ってあるから、もう君から採取する必要は無い。
  緊急事態に備えて、私は私の研究に関与した他人の細胞を、全て保管している」

 「悪用はしていませんよね?」

カティナは冗談めかして問う。
ハンセロトワーンは堂々と答えた。

 「どう悪用すると言うのか?
  ここでは隠し事なんか出来ないし、ここで価値のある物は真実だけだ」
0204創る名無しに見る名無し
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2020/01/20(月) 18:34:06.40ID:HaSpZrsl
それから1月後、カティナは2体目の人形を手に入れる。
そして……僅か1年で、カティナは5人に増えた。
同時に、全てのカティナから嘗ての怜悧さが失われ、半ば寝惚けた様な状態になった。
それは『本体』が存在しない為だ。
他者の研究を手伝いはするが、行動は完全に受け身。
「本当のカティナ」が、どこに居るのか、それは誰にも判らない。
どれが本物のカティナなのかも。
基本的に他者に興味を持たない象牙の塔の者は、同時に多数存在するカティナを区別しなくなった。
もしかしたら、カティナ自身も区別していないのかも知れない。
どのカティナが何番目かを知るのは、ハンセロトワーンのみである。
その事を誰も異常とは思わない、象牙の塔は魔界である。
0205創る名無しに見る名無し
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2020/01/22(水) 13:57:19.00ID:XbQSv6a+
そういえば、夜の人とかひっそり生き続けてたようなものの中には、
世界再生の際に誰からも思い出してもらえず消滅した奴もいるのだろうか……
0206創る名無しに見る名無し
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2020/01/22(水) 18:43:39.23ID:l4bBizmg
>>205
完全に孤立すると言う事は中々難しいので大丈夫だと思います。
思い出すと言うのもファジーな感覚で記憶の片隅にでも残っていれば良いので。
意識は動物にもありますし、人が動植物を思い出せば、その動植物からも連鎖的に存在が再現されます。
良い思い出じゃなくても良いので、悪い記憶でもイメージでも、とにかく誰かや何かの記憶に残っていれば。
中には完璧に閉じた存在もあるでしょうが、そうなってしまうと、もう居ても居なくても同じなので……。
0207創る名無しに見る名無し
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2020/01/25(土) 22:36:25.98ID:EKbqGwmS
過去スレを見てたが、設定では遊牧民もいるのか
唯一大陸って思ったより広いな
0208創る名無しに見る名無し
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2020/01/28(火) 18:58:51.77ID:Tczrbno/
唯一大陸の広さは北アメリカ大陸より少し大きい位のを想定しています。
人口2億5000万と言うのも、その辺を参考にした記憶があります。
馬車鉄道で何日駅とあるので、唯一大陸が1周何キロメートル相当か、一応は算出可能です。
実際は線路の外周部もあるので、もっと広くなりますが……。
舞台となっている星は唯一大陸以外は殆ど海で、唯一大陸が表面積の約20分の1と言う設定だった筈です。
北は極地で南は熱帯なので、相応の広さだと思います。
……本当かな?
厳密に計算すると違うかも知れません。


現実の大陸にも様々な人種や生活習慣がある様に、唯一大陸でも私達が考える「標準的な生活」を営まない人達は居ます。
魔導師会と言う組織は、グラマー地方を除いて政治機能を持っていないので、基本的には現地の決定が優先されます。
魔導師会の役割は争いや行き過ぎがある時に、仲裁する程度です。
大体の集落に、魔導師会の者が1人か2人は配置されている物ですが、居ない所もあります。
0210創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/29(水) 18:49:10.09ID:tc8J+L1n
人間に戻る


ポイキロサームズの後日談


第一魔法都市グラマー 禁断共通魔法研究特区 禁断共通魔法研究所 通称「象牙の塔」にて


反逆同盟との戦いが終わった後、ポイキロサームズは象牙の塔に集められた。
そこで人間の体を与えようと言うのだ。
執行者達の監視の下、ポイキロサームズは象牙の塔の研究者達の診察を受ける。
蛇男のヤクトスだけは既に診察を受けた後だったが、仲間達と共に再度診察を受けた。
以前はカーラン博士だけだったが、今回は大勢のB級禁断共通魔法の研究者の好奇の目に晒されて、
好い気分はしなかったが、それも人間の体を得る為だと耐えた。
B棟の研究者達は「患者」を前に、好き勝手な事を言う。

 「これは完璧に動物ですね……」

 「動物に人間の魂を?」

 「いや、それが記憶は抜いて、人格だけを……」

 「記憶と人格って分けられる物か?」

 「事実、そうなっているんだから」

 「人格から記憶を復元出来るかも」

 「それってA棟の分野と違うか?」

そんな訳で、この珍しい「患者」の治療の為に、象牙の塔が全体が動く事になった。
0211創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/29(水) 18:51:06.12ID:tc8J+L1n
ポイキロサームズの肉体は完全に動物で、人間の物では無い。
脳の構造が人間に近くなっている以外は、人間らしい形跡が無い。
その脳でさえ、人間の物では無いのだ。
B棟の研究者達は感心するばかり。

 「これは凄い。
  この肉体は製造された物だよ。
  製造者は余程、動物の肉体の構造に詳しいんだろう。
  動物の肉体を基礎にして、半分人間の様に動かせる様にするとか、並大抵じゃない」

 「ああ、我々は生命体を創造する時に、どうしても機能や効率を考えてしまう。
  態々こんな事をするとは暇人か、それとも独特な趣味者か?」

 「それが噂の反逆同盟らしい」

 「あぁ、暇人で趣味者だったか……。
  いや、しかし、これ程の腕があれば、真っ当に活かす道もあった筈だが……」

 「世間は常識に煩いですからねぇ。
  真っ当になれなかったんでしょう」

 「執行者も何かと違反違反だしな」

 「やあ、僕等は象牙の塔に入れて良かったですよ」

 「ああ、全く。
  ここなら好きなだけ実験と研究が出来るからな」

狂った研究者達は、執行者を前にして、その不満を平然と吐く。
執行者達は呆れるばかりで、腹も立たない。
相手は狂人、怒るだけ損だ。
0212創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/29(水) 18:52:20.66ID:tc8J+L1n
ポイキロサームズのアジリアは、耐え兼ねて零した。

 「それで結局、人間には戻れるのか、戻れないのか、瞭りしてくれないかな?」

それを聞いて禁呪の研究者達は小さく笑う。
笑われるとは予想しておらず、アジリアは怒った。

 「何故笑う!?」

 「戻ると言う表現は適切では無いかなぁ」

 「それの何が可笑しい!」

 「いや、気を悪くしないで欲しい。
  皆、笑いに飢えているんだ。
  少しでも道理に合わない事が、可笑しくて仕方が無い」

アジリアは理解不能な理屈に益々憤るも、執行者が彼女を宥める。

 「落ち着いて下さい。
  奴等は一寸頭が奇怪しいんです。
  真面に相手をしていると、身も心も持ちませんよ」

研究者達は執行者の失礼な言い方にも、全く気分を害さない。
平然と聞き流して、ポイキロサームズに告げる。

 「これからA棟の心理分析の専門家に診て貰うから、人間の体にするのは、その後だよ。
  彼が到着するまで、適当に寛いで待っていなさい。
  中々直ぐには終わらないと思うからね」

 「今までのは、君達をどうするか話し合っていたんじゃなくて、暇潰しに駄弁っていただけさ。
  そう言う訳だから、肩の力を抜いて、楽にしていなよ」

執行者達もポイキロサームズも、その対応に脱力した。
そして改めて、碌でも無い連中だと思うのだった。
0213創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 18:46:33.71ID:UcZzkjLg
約1角後に、A級禁断共通魔法研究者のユーメロ・リヴラゾンが到着する。
彼は心理魔法の専門家で、人の深層心理を読む事に長けている。
人の体に現れる反応、小さな仕草、表情、言葉、あらゆる行動から、人の心を読む。
彼はポイキロサームズと一対一で、様々な心理テストを行った。
身長は、どの位から「高い」「低い」と思うのか?
体重は、どの位から「重い」「軽い」と思うのか?
収入は、どの位から「多い」「少ない」と思うのか?
空間は、どの位から「広い」「狭い」と思うのか?
年齢は、どの位から「若い」「年寄り」と思うのか?
年代は、どの位から「最近」「昔」と思うのか?
人は何事も自分を基準に考える物である。
意識的にでも、無意識にでも。
小さな引っ掛かりから、人物像を推定するのだ。
加えて、嘘を封じる魔法で、誤魔化す事も出来ない。
個人的な情報が多く含まれる為に、一対一と言う形式になった。
可能であれば、モデルとなった人物を特定する。
しかし、問題は本来の自分を思い出したとして、社会的に受容されるかと言う所。
そして、もし受容されたとしたら、元の生活に帰りたいかと思うかと言う所。
ユーメロはアジリアに問う。

 「何か夢を見たりはしませんか?
  それも一度や二度では無く、よく見る夢です。
  全く同じ夢では無くとも、類似したパターンの夢を見るとか」

アジリアは答えた。

 「あります。
  家族の夢です。
  夫と、子供が2人……。
  そう言う夢を、よく見ました」

 「成る程、失踪届を当たってみましょう」
0214創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 18:48:19.99ID:UcZzkjLg
小さな情報でも積み重なれば、個人を特定出来る。
言葉遣いを取っても、僅かな訛りや、聞き慣れない表現等で、出身地が絞り込める。
しかし、本人には自覚が無い物だから、とにかく言葉を引き出さなくてはならない。
手近にある簡単な物を提示して、これは何か等と、丸で幼児に尋ねる様な、基本的な質問を、
何度も何度も繰り返す。
そして丸1月を掛けて調査した結果、ヤクトス以外の全員の身元を特定出来た。
だが……、それと元の生活に戻りたいかは別だった。
以前の自分を知りたいかと言う問い掛けに、「はい」と答えるのか、「いいえ」と答えるのか……。
真っ先に元に戻りたいと答えたのは、アジリアとヘリオクロスだった。
象牙の塔のロビーに集まったポキロサームズは、これからの事を話し合う。

 「私達は人間の姿に戻る事にしたよ。
  人間としての私達は死んでるけれど、それでも家族と暮らしたい」

そう言ったアジリアに対して、ヴェロヴェロは外方を向いて答える。

 「そりゃ良かった。
  そんじゃ、ここでサヨナラだな。
  もう会う事も無えだろう」

 「そんな事を言うなよ」

 「ソウデスヨ……」

投げ遣りな態度のヴェロヴェロに、アジリアとヘリオクロスは寂しがった。

 「つったって、元の生活に戻るんだから、必然、俺等との付き合いも無くなるだろう」

突き放す彼に対して、アジリアは反論する。

 「そんな事は無いよ。
  そりゃあ元の生活が忙しくなれば、疎遠にはなるかも知れないけどさ……。
  定期的に会って、近況を話し合ったり、昔を懐かしんだりするのも良いじゃないか?」
0215創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 18:50:19.76ID:UcZzkjLg
彼女の言葉にヘリオクロスも同意した。

 「ソウデス。
  寂シイ事ヲ言ワナイデ下サイ。
  皆サンダッテ、人間ノ姿ニ戻ルンデショウ?」

ヘリオクロスの問い掛けに、ヴェロヴェロは答えなかった。
アジリアは驚く。

 「えっ、その姿の儘で居るのかい?」

 「それも悪くねえかもな」

捻くれて冗談を飛ばすヴェロヴェロを、アジリアは益々心配した。

 「……どうしたいんだい、ヴェロ」

 「俺の人生は、あんた等みたいな碌な物じゃなかったって事だよ。
  元の自分に戻っても戻らなくても、どうでも良い感じのな」

アジリアもヘリオクロスも返す言葉を失う。
そこにコラルが口を挟んだ。

 「あの、多分人間の姿には戻ると思います。
  元の姿かは分かりませんけれど……。
  これを機に新しい人生を歩むのも、ありなんじゃないでしょうか?」

 「それなら良いんだけど」

アジリアは怪訝な目でヴェロヴェロを見詰める。
0216創る名無しに見る名無し
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2020/01/31(金) 18:35:08.21ID:l/eD6mHR
ヴェロヴェロにとって、自分の過去は思い出したくない物の様だった。
誰もが幸せな人生を送っていたとは限らない。
アジリアは残りの2人にも尋ねる。

 「コラルとヤクトスは、どうするの?」

先に答えたのはコラル。

 「私は元々余り縁のある人が居なかったみたいなので、少し迷っています。
  元に戻っても、やる事が無いって言うか……」

その後にヤクトスが続けて言う。

 「俺は、そもそも過去の事が全然分からなかった。
  どうすれば良いのかも、全く分からない……」

アジリアとヘリオクロスは何とも言えず、沈黙した。
掛けるべき言葉が分からない。
自分達だけ帰る場所がある事が、申し訳無く感じられる。

 「何か、御免ね」

アジリアが謝ると、コラルは首を横に振った。

 「気にしないで下さい。
  他人の事より、自分の幸せを考えるべきですよ」

ヤクトスも同意して頷く。

 「変に気にされると、こっちも申し訳無くなっちゃうんで……」
0217創る名無しに見る名無し
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2020/01/31(金) 18:36:15.08ID:l/eD6mHR
それから重苦しい沈黙が訪れる。
空気に耐えられず、アジリアは話題を変えた。

 「あっ、そう言えばシャゾールは?」

その問にはヤクトスが答える。

 「彼は元々人間じゃないんで……」

 「ああ、そうだった」

数極後、再びアジリアが口を開いた。

 「取り敢えず、皆、人間にはなるんだろう?
  人間の姿で会おう」

アジリアの言葉に、ヴェロヴェロ以外の全員が頷く。

 「ヴェロ、あんたも……」

アジリアはヴェロヴェロにも呼び掛けたが、返事はして貰えなかった。
その後、アジリアとヘリオクロスが先に人間の姿に戻る。
アジリアは痩せ身で背の高い中年女性、ヘリオクロスは成長期の少年だった。
これから2人は、家族の元に戻るのだ。
コラルも人間だった頃の姿に戻った。
彼女は少し太目の若い女性で、象牙の塔で事務員として働く事にしたと言う。
ヤクトスは未だ人の姿になっていなかった。
元の姿が判らない以上、どの姿になっても違和感しか無いと言う事で、今の姿の儘で居ると言う。
ヴェロヴェロは……姿を見せなかった。
禁呪の研究者達の話では、人の姿に戻ったと言うが……。
0218創る名無しに見る名無し
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2020/01/31(金) 18:37:21.52ID:l/eD6mHR
何時までも象牙の塔に滞在している訳にも行かないので、アジリアとヘリオクロスは家族の元へ帰る。
もう2人はアジリアでもヘリオクロスでも無い。
コラルはグラマー地方で新しい生活を始めると言う。
彼女は自分の名前にコラルと言う愛称を加えた。
ヤクトスは何も分からない儘、象牙の塔で働く事になった。
何時か記憶が戻ると信じて。
ポイキロサームズは離れ離れになってしまった。
魔楽器演奏家のレノック・ダッバーディーは、コラルの勤めている市内の書店を訪れて、彼女と話す。

 「コラル君、今日は」

彼は青年の姿を取っていた。

 「あっ、レノックさん?
  お久し振りです。
  グラマー市に来て、大丈夫なんですか?」

グラマー地方特有のローブ姿のコラルは、一目で青年をレノックだと看破する。
動物の姿での生活が長かった彼女は、人を見た儘の姿では無く、全体の雰囲気で判断する癖が、
身に付いていた。
レノックは笑って答える。

 「ああ、目立った事をしなければ、平気平気」

軽い調子で答えたレノックを、コラルは疑ったり心配したりしない。
彼の実力は十分に知っている。
そこらの魔導師が束になっても、彼には敵わないと言う事を。
レノックには知恵も力もあるのだ。
0219創る名無しに見る名無し
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2020/02/01(土) 18:51:47.95ID:YaozF4HJ
コラルは続けてレノックに尋ねる。

 「態々グラマー地方に来たと言う事は、何か御用ですか?」

 「ああ、ポイキロサームズの皆は、どうしているかと思って。
  あれから象牙の塔で人の姿に戻った事までは聞いているんだけど……。
  その先の事とか、どうなったのかなと。
  この目で確認して、安心したいから」

 「ははぁ、それは有り難う御座います」

 「いやいや、お礼を言われる様な事じゃないんだけどね」

コラルとレノックは小さく笑い合った。
そしてコラルは自分達の近況を語る。

 「私は、そこそこ元気でやれています。
  生活にも特に困った事はありません。
  他の皆は……、どうなんでしょう?
  アジリアさんとヘリオ君は、家族に会いに行って、人間だった頃の生活に戻りました。
  ヴェロさんは……分かりません。
  誰にも会わずに、独りで出て行ってしまいました。
  ヤクトスさんは多分、未だ象牙の塔に居ると思います」

レノックは小さく溜め息を吐く。

 「……皆、散り散りになってしまったんだな。
  何だか、解散して活動停止したバンドみたいだ」

 「実際、解散して活動停止しているんです。
  反逆同盟との戦いも終わったので。
  あ、でも、年に一度は会おうって約束しました。
  10月10日にティナー市の例の場所で」
0220創る名無しに見る名無し
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2020/02/01(土) 18:52:35.62ID:YaozF4HJ
レノックは頷き、コラルに問う。

 「ヴェロヴェロ君も?」

 「いえ、彼は……」

 「ああ、分かった。
  どこかで彼に会ったら、伝えておくよ。
  参加してくれるかは分からないけど」

 「はい、お願いします。
  ……あっ、余り長く立ち話していると、変な目で見られるので……」

ここはグラマー地方である。
男女が一緒に居ると、夫婦か恋人だと思われてしまう。
コラルの態度からレノックは察した。

 「ややや、もしかして?」

コラルが頬を染めて小さく頷いたので、レノックは笑いながら謝った。

 「これは失礼。
  誤解されては行けないからね。
  僕はヤクトス君に会いに行ってみるよ」

 「お気を付けて」

 「何、大丈夫さ」

そう言ってレノックは去る。
コラルは既に付き合っている男性が居るのだ。
彼女は彼女の人生を歩もうとしている。
0221創る名無しに見る名無し
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2020/02/01(土) 18:53:13.57ID:YaozF4HJ
そしてレノックは象牙の塔に移動した。
ここを訪れるのは、彼も初めてである。
敷地内には強力な共通魔法の気配が充満している。
しかし、都市の様な画一的な整った魔力では無い。
より根源的な混沌に近い、整わない乱れた魔力だ。
彼は正面から堂々と近付き、守衛の駐在所にて、ヤクトスを呼び出して貰った。
ヤクトスは蛇人間の儘であった。

 「ヤクトス君、久し振り」

 「お久し振りです、レノックさん」

 「少し痩せた?」

 「ああ、ハハハ、中々ここの生活に慣れなくて」

 「無理しない方が良いんじゃないかい?」

象牙の塔は、真面な精神の人間が滞在する場所では無い。
只でさえ精神を削る場面に遭遇し易いのに、更に悪い事に、ヤクトスは特異な外貌から、
研究者達の興味を引いた。
お蔭で奇妙な実験に付き合わされたり、妙に馴れ馴れしくされたりと、嬉しくない人気者。
それでも象牙の塔を出て行かない理由は……。

 「いえ、外に出ても、どうやって行ったら良いか分かりませんから……」

蛇の姿では人の生活には紛れ込めない。
しかし、人の姿にして貰おうにも、見知らぬ顔では違和感がある。
そう言う訳で、ヤクトスは何と無く象牙の塔に居た。
0222創る名無しに見る名無し
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2020/02/02(日) 18:55:42.67ID:ysSr7Kge
時々大騒動に巻き込まれる事を除けば、象牙の塔は、そう悪い所では無い。
金に困る事は無い……と言うか、金銭の概念が無い。
禁呪の研究者達に頼めば、あらゆる問題が解決する。
「解決」と言っても、望ましい物とは限らないが……。
レノックはヤクトスの心情を慮り、深くは追及しなかった。

 「もし、ここでの生活が嫌になったら、風に頼んで僕を呼んでくれ。
  君の身元を引き受ける位の事はしよう」

 「有り難う御座います……。
  でも、大丈夫ですよ。
  ここの人達も悪い人達では無いので……」

 「君が良いと言うなら、僕から言う事は何も無いよ」

そう言って、レノックは話題を変える。

 「所で、10月10日の予定は決まっているかな?」

 「あぁ、皆で集まる日ですね。
  でも、この姿で出歩くのは……」

 「そんなの、一時的にでも変えて貰えば良いじゃないか?
  元の姿が判らなかった事に、引け目を感じる必要は無い」

ヤクトスは返事をしなかった。
自分の姿を簡単に変える事に、抵抗があるのだ。
レノックはヤクトスが引き篭もり勝ちになるのではと懸念していたが、余り諄々言っても仕方無いと、
一言だけ告げる。

 「何にせよ、君の人生だ。
  後悔しない様に生きるんだよ」
0223創る名無しに見る名無し
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2020/02/02(日) 18:57:34.86ID:ysSr7Kge
レノックは象牙の塔を後にする。
アジリアとヘリオクロスの様子を見に行こうかとも考えたが、人として幸せな生活を送っているなら、
自分が口を出す事は無いと、会わない様にした。

 (後はヴェロヴェロ君か……。
  今頃、どこで何をしているんだろう?
  人の姿に戻れて、幸せに暮らしていると良いんだけど……。
  ああ、思い悩んでいても仕方が無い。
  会いたくない者には会えないんだ。
  僕達は、そう言う風に出来ている。
  彼に困った事があれば、風が教えてくれるだろう)

レノックは深く考えない様にして、再び各地を放浪する。
別れは何時でも悲しい物だけれど、人の人生は人の物。
自分の思い通りには動かせない。
人の幸せを他人が勝手に決めては行けない。
人間でも無いレノックには尚の事。
0224創る名無しに見る名無し
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2020/02/02(日) 19:01:36.56ID:ysSr7Kge
2月は忙しいので、余り投稿出来ないかも知れません。
いや、そもそもがネタ切れ気味なんですけど……。
もう少しはあるので、フェードアウトしない様にします。
0225創る名無しに見る名無し
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2020/03/04(水) 18:10:26.23ID:x9oy0x7h
名前が出てる魔法の中では生命魔法の設定が、まだ紹介されてない気がする
どんな魔法かはだいたい想像つくけど、呪詛魔法<カース・シューティング>や変身魔法<フェノメナル・メタモルフォシス>みたいなカッコいいルビがあるなら知りたいところ
0227創る名無しに見る名無し
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2020/05/01(金) 20:12:16.29ID:ZmwSOi8d
久し振りの書き込みです。
えー、実は他のサイトに浮気してました。
これまで裏でコツコツ書き溜めてた分を投稿して……反響は今一でしたけども。
しかし、中々良い体験でした。
0228創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/05/01(金) 20:23:54.90ID:ZmwSOi8d
世情が世情ですから、御心配をお掛けしたかも知れません。
取り敢えず、元気でやっております。

>>225
「ライフ・シェアリング」です。
その儘の意味通り、活力を分け与える魔法。
リリリンカーとティアルマの場合は、双方が同時に死なないと片方が蘇ると言う仕込みをしていました。
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