少しの間を置いて、彼は話を元に戻した。

 「……怪しい奴がファラドの秘書と会ってるってぇんだな?
  それで俺に何をしろってんで?」

班員は怯んだ振りをして、気不味そうに言う。

 「そ、そんな大した事じゃないんだよ。
  もしかしたら何かあるかもって、勘だよ、勘。
  エイムラクさん、治安維持部の執行者だろう?
  職務質問でもして……、何にも無ければ、それで良いんだしさ」

 「気軽に言ってくれるねぇ。
  職質も巡回も、程度って物があんだよ」

都市警察にも、魔導師会法務執行部にも、その活動が市民生活の妨げになってはならないと言う、
同様の規定がある。
頻繁に職務質問や巡回を行えば、市民は何事かと不安になる。
そして、日常生活の些細な「違反」さえも咎められるのではないかと、圧力と脅威を感じる物だ。
しかし、班員は正論で応えたエイムラクを笑う。

 「へ〜、エイムラクさんの口から、そんな殊勝な言葉が聞けるなんてね〜。
  何時も強引な遣り口で課長に注意されてるのに、一向に態度を改めたりしないじゃないか」

エイムラクは眉を顰めた。

 「俺だって、誰でも彼でも取っ捕まえてる訳じゃねえ。
  この目で確り見極めてんだ。
  そいつが怪しい奴か、どうかをな」

自らの目元を指して、彼は主張する。
彼は彼なりの正義で動いているのだ。
だが、班員は余り信用していない様子で、浅りと話を片付ける。

 「はい、はい。
  無理にとは言えないよ。
  変な話をして悪かったね」

 「あ、あぁ」

去り行く班員を呆然と見送り、エイムラクは溜め息を吐いた。

 「ファラドか……」