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【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2017/07/31(月) 22:38:53.85ID:TwvFk4rz
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
       
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(単章のみなどの短期参加も可能)

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過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50
0165シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/10/22(日) 21:55:18.03ID:mj2lwpKy
「無駄な抵抗をしないで頂けますか、トランキル。あなたには暫くの間、病に伏せて頂きます。
 ……ラーサ通りの監督官が、魔族の執行官を打ちのめしたなどという風評は好ましくない。分かるでしょう?」

だけど……彼が私を攻撃し、私がそれを凌いだ。
そこまで理解が追いついても……何故、彼がそんな事をしたのか。
私には分からないままでした。

「な……なんで、私が、そんな……」

「このままではあなたがオーカゼ村を滅ぼしてしまうからですよ。私の弟子の生まれ故郷を。
 ……あまり甘やかすのは良くないとも思うのですが、見過ごす訳にもいきません」

ガレドロ監督官が鋭い視線と、言葉で私を刺す。

「あなたは祖父とも父君とも、比ぶべくもない未熟者ですが……
 それでも、トランキル家の次期当主。行けば必ずやこの判決を現実のものとするでしょう。
 いかにオーカゼ村のオーク達が屈強であっても……」

声が出せない。状況に理解が追いつかない。
オーカゼ村は……オーカゼ村は、そうだ、さっきも言っていた……ジャンさんの……故郷で……。
でも……私は、執行官で……終審裁判所は、オーカゼ村を、滅ぼせって……。

「ヒトの形をしたものを殺める事にかけて、あなた達はダーマ一の達者だ。
 それになにより……あなた達は国家の正義を、罪に対する罰を、体現しなければならない。
 だから必ず成し遂げる……そうでしょう、トランキル?」

「やっ……」

やっと絞り出せた声は……それでも意味を宿せるほどの言葉に出来なかった。
立っている感覚すら覚束ない中、私は必死に、首を振る。

「……嫌?トランキルの家の者が、下された判決を拒めるのですか?」

私は……私は……どうすればいいのでしょう。
ジャン様は、スレイブ様のお仲間です。
それにさっき……私を助けてくれると、魔族の、執行官の私に、そう言って下さいました。
だけど……私は、トランキルで……執行官で……。
もし、オーカゼ村の住民を皆殺しにすれば……それは確かに、内乱の抑止になるかもしれなくて……。
祖父なら……どうするんだろう……父なら……。

「……いえ」

……私には……何も分からない。

「私は……トランキルですから。そのように判決が下ったのなら……それに従うまでです」

「えぇ、そうでしょうね」

ガレドロ監督官が胸の前に右手を運ぶ。指先で摘むように構えているのは、細長い植物の葉。
ただそれだけ、なのに彼から溢れる威容は……私の鼓動を更に早く荒立たせる。

「……だけどっ」

その圧力に押し潰されてしまう前に、私は必死に声を絞り出す。

……私には、父のようにも、祖父のようにもなれないけど。
執行官ならどうすればいいのか……何も、分からないけど。
でも、たったそれだけです。たったそれだけの理由で……私は、諦めたくない。諦めていい事じゃない。
0166シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/10/22(日) 21:55:52.20ID:mj2lwpKy
「だけど、私は……未熟な、出来損ないですから……。
 腕が悪くて……そのくせ気分で刑を変える、恥晒し、ですから……」

深く、何度も息を吸っては吐く。
暴れ回る鼓動が煩わしくて、今から言おうとしている事が恐ろしくて、両手で強く胸を抑える。

「ど、どうせ処刑するなら……生け捕りにして……拷問に掛けてからの方が、いいです……」

『マリオネット』で自分を操る余裕なんてない。声が震えている。
0167シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/10/22(日) 21:56:47.61ID:mj2lwpKy
「こ、殺すだけなら、まだしも、捕縛となると、一人では……難しいので……
 知人に……過去に魔王様の、近衛騎士を務めていた方が、います。そ、その方に、助力を乞う事にします。
 だ、だから……」

……今日は、本当に沢山の事を喋りました。
自分の言葉で、自分の気持ちを……こんな事は、本当に、久しぶりで。
なんだか、子供の頃に、戻ったような……そんな気さえします。
もう、その頃の事なんて殆ど思い出せないけど……

でも……あぁ、そうだ。

「……確かに、それなら処刑までの時間は稼げるかもしれません。
 ですが、所詮は時間稼ぎ。結局、あなたは刑の執行をやめられない」

「……いえ」

……ティターニア様は、言っていました。
選択肢は、沢山あるって。そしてそれは、その通りでした。
私は、トランキルを辞められないけど……祖父のようにも、父のようにもなれないけど……。

「あなたの言葉が全て真実なら……指環を見つけられれば。
 魔王様はまたそのお姿を皆に見せて下さるはずです。元気な、お姿を。
 それは表向きは、病の快癒という事に……なる、はずです。だから」

それでも、その避けられない道の先にも、ヒトを殺さずに済む選択肢は……あったんです。
ずっと昔、私が子供の頃に、一度だけ。
あの時は……親友の孫が、7歳の誕生日を迎えたから、なんて理由だったけど。
いつもさせられていた、処刑の立ち合いがなくなって……あの日は世界が、いつもよりずっと見えたのを覚えています。
そう、あの日は、国中に……

「国中に、恩赦が、与えられるはずです。だから……」

私は……一際大きく息を吸い込んで、頭を下げた。
……頭を下げる直前の、ほんの一瞬の時間。
その中で、ガレドロ監督官が微笑んでいるように見えたのは……気のせいでしょうか。
いえ、どちらにしたって、今の私にその事を気にしている余裕なんてない。
だって、声を、振り絞らなきゃ。

「私を、一緒に連れて行って下さい……」

……我ながら、消え入るような声だったけど。私は確かにそう、言えました。





【遅くなってごめんなさい!】
0169スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/10/26(木) 23:48:23.15ID:hiNEI4kX
これからの方針の話し合いを肴にした地獄絵図のような闇鍋パーティが佳境に入らんという頃、
すっかり黄昏に包まれた窓の外から硝子を叩く軽い音が数度鳴った。
ジャンが皿と匙を机に置いて、鋭く窓の方へ目配せする。

>『この家にいたずらするガキはいねえ。俺が窓を開ける』

「あ、ああ……気を付けてくれよ……あと十秒は動けそうにない……」

>「そなたはよくやった。人類はその勇気を忘れはしまい――」

食中りにダウンしたスレイブはソファに身体を横たえて、ティターニアの解毒を受けていた。
ようやく薬が効いてきたのか、ユグドラシア導師の解毒魔法が覿面なのか、身体の痺れが和らいでいく。
フォークを握ったままの右手が所在なく空を泳ぎ、目だけでジャンの後を追った。
ジャンは外からの視線を遮りつつ、窓を開けて様子を伺う――

>「んぐっ!ぐごご……がぁっ!」

突如ジャンの発した呻き声に、スレイブは痺れの残る身体を強引に動かして飛び起きた。
見遣れば、窓から入り込んだ茨がジャンの太い首を締め上げ、外へと引きずり出さんとしている。

「ジャン!」

刹那、スレイブは握ったフォークをそのまま窓へ向けて投擲した。
射矢もかくやの速度で飛ぶフォークが茨の根本に直撃するが、刺さることはなく床に落ちて跳ねる。
その金属音が響くよりも速く、スレイブは既にソファに立てかけていた剣を抜き放ち、跳躍していた。
淀みなき所作で振るった剣で、ジャンを縛る茨の半ばを断ち斬る軌道で打ち下ろす。

(斬れない……!?)

斬撃に手応えはなかった。
宙を舞う木の葉すら両断するスレイブの一閃が、茨によって柔らかく受け止められ、威力を殺される。
それでも一瞬だけ緩んだ締め上げの隙を突いて、ジャンは力任せに茨を引き千切って後ずさった。
スレイブもまた油断なくバックステップし、ジャンと爪先を並べる形で茨の群れと対峙する。
臨戦の膠着。それを解いたのは、他でもないジャンの挙げた声だった。

>「――ガレドロ爺か!いきなり試すような真似しやがって!」

>「一番ではないとはいえ弟子は弟子、久しぶりに会えば試してみたくなるでしょう?」

応じる声が庭から返ってくる。窓から覗き見れば、そこには初老の植物族の男が恭しく礼をしていた。

>「はじめまして、皆さん。立ち並ぶ木々亭店主、ガレドロ・アルマータです。これから、どうぞよろしく」

「……ガレドロ某。ジャンの言っていたラーサ通りのまとめ役か」

どうやらこの夜襲は、弟子と久しぶりに会ってテンション上がっちゃったお爺ちゃんがハッスルした末の結果らしい。
人騒がせな師弟愛の暴走に、スレイブはようやく緊張を解いた。

>「ジャン殿の師匠殿だったとはな……」

「何から何まで正反対の師弟だ……」

しかしなるほど、最初の一合でスレイブの剣が通らなかった不可思議もこれで頷ける。
ジャンの尋常ならざる打たれ強さ、肉弾戦の技術は、このガレドロ某に師事することで培われたものなのだろう。
斬撃のいなし方などお手の物というわけだ。
0170スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/10/26(木) 23:48:54.44ID:hiNEI4kX
>「あの、どうかなさいましたか?」

そこへ、騒ぎを聞きつけたシノノメが別室からやって来た。
彼女もまた窓の外を見下ろして、何か得心が行ったように表情を硬くする。

>「……彼らは、あなたのお知り合いでしたか。ガレドロ監督官」
>「でしたら……すみませんが、冒険者の皆様方。早急にお引き取り下さい」

「シノノメ殿」

突如手のひらを返したシノノメの態度をスレイブは訝しんだが、すぐに言葉の行間を理解した。
シノノメはスレイブたちの立場に配慮して、トランキルとの接触をなかった事にしようと腐心してくれているのだ。

>「そのような芝居をせずとも結構ですよ、トランキル。
 今宵私がここを尋ねたのは、彼らをこの街で除け者にする為ではありませんから」

だがその建前もガレドロは見通していたようだった。
彼は両者の間にある認識の行き違いを修正し、シノノメの案内に従って部屋まで上がってきた。

>「――さて、私がここに来た件ですが。
 トランキル氏に今日の件で感謝を述べに来たのではありません。もちろんラーサ通りを救ってくれた方の一人でありますが、
 街の治安を維持する執行官としては当然の義務だと思いますので」

スレイブたちの逗留する部屋へ通されたガレドロは、余分な前置きを省いてすぐに本題に入る。
茶を沸かす時間のなかったスレイブは、来客をもてなせない居心地の悪さを咳払いで誤魔化して対面のソファに腰掛けた。

>「私が用があるのはあなたたち、指環の勇者です。
 エルフのユグドラシア導師、ティターニア。
 昆虫族の王、フィリア。
 人間の騎士、スレイブ。
 そして……なんであなたがなれたんでしょうね、ジャン」
>「最後は余計だぜ爺さん!」

「……随分と深い事情まで知っているようだな、ガレドロ殿」

ガレドロが当たり前のように口にした『指環の勇者』という言葉にスレイブは身を硬くした。
単なる市場の事情通と言うにはあまりにも"知りすぎ"ている彼は、一体何を求めにここへ来たのか。
弟子の様子を見に来ただけでは当然あるまい。

>「……指環の?指環って、あの……お伽噺の……?」

俄には信じがたいといったシノノメの反応の方が、よほど順当ではある。
スレイブは目頭を揉んで、彼女の動揺に応えた。

「指環に勇者と認められているのは俺を除いた三人だけだ。俺は……見習いの使いっ走りといったところだな」

右手の中指で鈍く輝く風の指環が失笑するように僅かな風を巻く。
なんとなくイラっとしたので指先でそれを弾くと大人しくなった。

>「余計な一人は放っておくとして……シェパト解放の一報は既に王都にも届いています。
 あなた方の働きは実に見事なものでした。神話に語られる指環の勇者そのものです。
 ですが、我らが王はそれを怪しんだのです。国家に与しない者が世界を揺るがすような力を持つことを」

「……"我らが王"?あんたは一体何者なんだ」

ガレドロの語り口は一介の冒険者上がりのものではない。
まるで国家の意志を代弁するような物言いに、今度こそスレイブは眉を眇めた。
0171スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/10/26(木) 23:49:43.45ID:hiNEI4kX
>「王は指環についてほとんどを理解しています。おそらく闇の指環がここダーマにあるであろうことも。
 であるからこそ、『王の隠し牙』たる私が指環の勇者たちに会い、
 彼らが真に平和のために動くならよし、そうでないならば誅殺せよ、と王は命じられました」

「隠し牙だと……王属特務、実在していたのか……!」

多くの属州を束ねるダーマの王府においては、上級官吏ですら組織の全貌を把握することは出来ない。
とりわけ王や魔族院議会が独自に抱えている特務機関は、その存在さえも霞の中に隠されている。
現に王宮護衛官であるスレイブは、『王の隠し牙』が単なる与太話であることをこの時まで疑っていなかった。

その一方で、ガレドロの明かした身分に説得力を感じている自分がいることも確かだ。
一同に会せば世界を手にする力を得るとされるドラゴンズリング。
そのうち4つを既に入手している指環の勇者たちに、国家が接触を図ってこない方が不自然だ。
シェバト解放という大仕事を成し遂げ、既に存在を包み隠すことなど出来なくなった今であればなおさら。

ガレドロはダーマの抱える内情について掻い摘んで話した。
魔王の隠遁は容態の悪化ではなく、闇の指環の覚醒を抑える封印に尽力しているため。
そして国家を脅かす影、エーテル教団は既に暗黒大陸の各地で工作を行っているのだと。
そして闇の指環の餌にするために、虚無を蔓延させられた村がキアスムスの付近にあると言う――

>「そうなってしまったのはオーカゼ村……ジャン、あなたの故郷です。
 チェムノタ山に近いというのもあるのでしょう、あそこには年老いた龍がいますから。
 闇を意味する名前の付いた山に、数千年を生きたと自称する龍。教団が目を付けてもおかしくはありません。……ジャン?」

「なんだと……!」

ジャンが慄然としているのも無理はない。
彼がこれからまさに立ち寄らんとしていた故郷、両親、同郷の友人たちが、教団の信徒にされていると聞かされたのだ。
同時にスレイブにとっても、その事実は痛痒の記憶を掻き毟るものであった。

国家に仇なす者たちを、彼はこれまで何人も斬ってきた。
ダーマの国教とは異なる土着の神を信仰していたという理由で、罪なき信徒の集団を皆殺しにしたこともある。
血涙に塗れた双眸で呪い殺さんばかりに睨みつけられたあの視線は、今でも時折夢に見る。
苦悩し、心を磨り減らし続けていたあの頃と、姿を写したように同じ惨状が、再び繰り広げられようとしている。
奥歯が砕けそうなほどの軋みが、どこか遠い残響のように聞こえた。

>「ジャン殿――固まっている場合ではないぞ。父上殿と母上殿を助けに行かねば」

悔恨の過去に囚われそうになったスレイブを現実に引き戻したのは、ティターニアの強い声だった。

>「命があれば元に戻る希望はある。バアルフォラス殿は一度それに成功しているのだからな」

「そうか……魔剣の力なら……!」

黒曜のメアリがスレイブに植え付けた虚無を、バアルフォラスは『喰い散らかし』によって解き放っている。
闇の指環に絶望を供給する以上、教団は信徒たちの精神を完全に殺すことはない。
虚無によって抑えつけ、締め上げ、漏れ出す負の感情を搾取するために生かし続けているはずだ。

「ジャン、城門の開く夜明けを待ってすぐにここを発とう。キアスムスからならオーカゼ村まですぐだ。
 俺は一度虚無に呑まれたから分かる。連中の洗脳が心を完全に支配するには時間がかかるんだ」

それが単なる気休めではないことを、他ならぬジャンはよく知っているはずだ。
虚無に呑まれたスレイブを、深い深い闇の渦中へ手を伸ばして救い出してくれたのは、彼らなのだから。

「だから間に合う。絶対に間に合う。……俺たちで、間に合わせるんだ」
0172スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/10/26(木) 23:50:00.21ID:hiNEI4kX
>「シノノメ殿――我々の特殊な事情とはまあそういうことだ。
 様子を見ておいおい明かしていこうと思っていたのだがここで知ることになったのも何かの巡り合わせなのだろう。

ティターニアはシノノメにも同行を提案する。
闇の指環に関わる事態であれば、闇属性エーテルを操るシノノメがいれば確かに心強い。
何より――ラーサ通りで見せた絶技が示す通り、対人戦闘においてシノノメはおそらく誰の後塵も拝すまい。
トランキルの直系、スレイブの姉弟子、彼女の能力を裏付けする肩書きには困らない。
0173スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/10/26(木) 23:50:22.71ID:hiNEI4kX
>「い、いえ……そんな、恐れ多い事です。勇者と呼ばれる方々が、私のような者を連れ歩くなんて……」

言葉とは裏腹に、顔を覆ったシノノメの肌が仄かに輝いていた。
まんざらでもない様子である。

>「……と言っても職務を放置して行くわけにはいかぬか。
  ガレドロ殿、彼女が我々に同行できるように裏から手を回して手配するのは可能だろうか」
>「その必要はありませんよ。私が手を貸さずとも、彼女はあなた達と共に行く事が出来る。
 そうすべきであるかどうかは……別としてね」

ティターニアの要請に、ガレドロは意味深げにそう呟いた。
補足するように懐から取り出したのは、簡素な見た目の書類が一枚。

>「トランキル、終審裁判所からあなたへの書簡です。
 もっともこれは私が用意した写しですが……明日の朝には、これと同じものが届けられるでしょう」

彼が読み上げる内容に、今度こそスレイブは奥歯を噛み砕くことになった。
魔族院が終審裁判所を通してシノノメに下した命令は、オーカゼ村の住人全ての処刑。
取ってつけたような罪状など建前でしかない。魔族院は、オーク達の征伐をその威権を誇示材料としようとしている。

「承服できるか……!」

血塗れの奥歯を吐き捨てて、スレイブはガレドロに喰ってかからんとした。
矛先をガレドロに向けたところで何の意味もない。命令を下すのは彼ではない。
むしろこの段階で指令の内容を知らしめてくれたことはスレイブ達にとって利となり得る。
その恩を、しかしスレイブは受け入れることが出来なかった。
ガレドロの口ぶりは、オーカゼ村の住民に最早死を待つ以外の道がないことを冷徹に表わしていた。

刹那、ガレドロの片手が閃き、撃ち出された何かをシノノメが短剣で弾いた。
スレイブには放たれたものが何らかの植物の種であることくらいしか分からない。
ガレドロという特務官とスレイブとの間に横たわる実力の溝は、それほどまでに深い。

>「無駄な抵抗をしないで頂けますか、トランキル。あなたには暫くの間、病に伏せて頂きます。
 ……ラーサ通りの監督官が、魔族の執行官を打ちのめしたなどという風評は好ましくない。分かるでしょう?」

だが――ガレドロが有無を言わさずシノノメを害そうとしていることは、理解できた。
スレイブが剣を抜く理由はそれで十分だ。

「…………ッ」

ただ、この剣をどちらへ向ければ良いのか分からない。
シノノメは恩人の娘で、王都にいた頃から浅いながらも親交のあった旧知だ。
そして個人的に、彼女が苦境に立ち向かう姿勢に好感を憶えてさえいる。

しかし、そのシノノメが、王都からの命令でオーカゼ村の人々を処刑するよう強いられている。
彼女の実力ならば、それは問題なく成し遂げられるだろう。
ジャンの家族を――殺すだろう。
スレイブを闇の中から救い出してくれた、大切な恩人を、同じ目的を追う仲間を、不幸に陥れるだろう。

>「私は……トランキルですから。そのように判決が下ったのなら……それに従うまでです」

……やめろ。頼む。その先を言わないでくれ。
それを口にしてしまったら、一線を超えるならば、この刃を貴女に向けなければならなくなる。
頭の芯がぐらぐらと揺れる錯覚があった。スレイブは声を圧し殺して祈る。果たしてシノノメは、二の句を継いだ。

>「……だけどっ」

呻くような、か細い、しかし意志の篭った声をシノノメは絞り出した。
0174スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/10/26(木) 23:50:54.41ID:hiNEI4kX
>「ど、どうせ処刑するなら……生け捕りにして……拷問に掛けてからの方が、いいです……」

酷薄な言葉とは対照的に、彼女は荒い呼吸を無理やり押さえつけるように身体を抱いていた。
心にもないことを、あえて口にするのは、その先に覆すべき結論があるからだ。
それが分かっていたから、スレイブはシノノメの言葉に剣を抜かずに済んだ。
その信頼は決して間違っていないと、今なら胸を張って言える。
0175スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/10/26(木) 23:51:11.89ID:hiNEI4kX
>「こ、殺すだけなら、まだしも、捕縛となると、一人では……難しいので……
 知人に……過去に魔王様の、近衛騎士を務めていた方が、います。そ、その方に、助力を乞う事にします。
 だ、だから……」

オーカゼ村の住人を……殺さず、傷付けず、生け捕りにする。
来るべき『処刑』の日までに闇の指環を確保して、恩赦による放免を得られたなら――

「オーカゼ村の人々を、殺さずに済む……!」

>「私を、一緒に連れて行って下さい……」

シノノメはこちらに頭を下げて同行を願い出る。
自分でもわけが分からないほどの高揚が腹の底から湧き上がって来るのを、スレイブは感じていた。

己の責務に疑問を持ちながらも使命から逃げ出すことが出来ず、心を凍りつかせていた彼女が。
ともすれば己の立場すら危うくなる建前の綱渡りを越えて、オーカゼ村の住人を救うために手を尽くしてくれている。

「……助けるなどと、分不相応な口約束は必要なかったな」

心を満たす快さを抑えきれず、スレイブは苦笑と共に呟いた。
上から目線で手を差し伸べずとも、彼女はちゃんと自分で答えを出せる強い意志を持っている。
スレイブは背筋を伸ばして応えた。

「その依頼、承った。故あって俺は対人の捕縛術にも憶えがある。
 こちらに居るのは凄腕の魔導師に勇猛なる戦士、数多の眷属たちを従える女王だ。
 オーカゼ村の信徒たちを、処刑が執行されるその日まで――かすり傷一つつけることなく、拘束し続けよう」

執行官とその依頼を受けた冒険者達、という建前を通す以上、シノノメの同行は必須だ。
だが、そんな合理性を差し置いて、スレイブは頭を下げ続けるシノノメへ手を伸ばした。

「俺は貴女に、一緒に来て欲しい」


【シノノメの提案に賛同】
0176ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/10/30(月) 16:41:49.88ID:j4J1x8GB
>「ジャン殿――固まっている場合ではないぞ。父上殿と母上殿を助けに行かねば」
>「命があれば元に戻る希望はある。バアルフォラス殿は一度それに成功しているのだからな」

>「ジャン、城門の開く夜明けを待ってすぐにここを発とう。キアスムスからならオーカゼ村まですぐだ。
 俺は一度虚無に呑まれたから分かる。連中の洗脳が心を完全に支配するには時間がかかるんだ」

「……お、おう。そうだな!父ちゃん母ちゃん早く助けに行かねえとな!」

ティターニアに努めて明るく声をかけられて、ジャンは初めて反応した。
いつものやや不細工な笑顔のまま、部屋から出ていこうとドアノブに手をかける。

「ジャン、まだ話は終わっていませんよ。
 次の話はトランキルとジャン、あなたたち両方に関係することですから」

するとガレドロが丸めた羊皮紙を取り出し、ダーマ終審裁判所最高裁判長の印とサインが書かれたそれの中身を読み上げ始めた。
ジャンはその内容に、再び硬直することとなる。

>「いつまで呆けているのですか、ジャン。
 オーカゼ村が虚無に呑まれた事は、あなたには不幸な事でしたが……最悪ではなかった。
 この書簡……これこそが、あなたにとっての最悪だ」

ジャンはそこから、トランキルとガレドロが何を話していたのかよく分からなかった。
いつものように、難しくて理解できなかったり、自分には関係ないことだと聞いていなかったからではない。
むしろ村のみんなをどうするつもりなのか、二人の問答を一言一句聞き洩らさず聞いていた。

初めて自分より大きな魔物と出会ったときのように、足がすくみ、手が震えて喉の渇きが止まらないからだ。
頭はあらゆることに対する疑問で埋まり、鍛え上げた強靭な身体は鉛のように重く動かない。

「村のみんなを……処刑だって?
 ジャバおじさんも、ジルおばさんも、父ちゃんも母ちゃんもみんな…?」

床に膝をつき、目に映るもの全てがぐにゃりと歪んで見える。
ジャンの心にひびが入り、再びへし折れようとした瞬間だった。

>「ど、どうせ処刑するなら……生け捕りにして……拷問に掛けてからの方が、いいです……」

トランキルの口から出たのは、処刑までの期日。魔王の病気回復による恩赦。闇の指環の確保。
全ては繋がっていたのだ。オーカゼ村の信徒と化した村人を皆殺し、その死体を晒さずとも、やりようはあったのだ。

>「私を、一緒に連れて行って下さい……」

>「俺は貴女に、一緒に来て欲しい」
0177ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/10/30(月) 16:42:27.85ID:j4J1x8GB
「ちょっと待ってくれや、みんな」

ゆらりと立ち上がったジャンが腰の革袋から指輪を取り出す。
そして右手の中指に嵌めると、自分の顔面に向けてこう叫んだ。

「アクア!ありったけの水を俺にぶつけろ!」

直後、指環から勢いよく出た水流がジャンの顔を思い切り叩き、思わずジャンはその場でのけぞる。
そして水流が収まった頃。水浸しになったカーペットの上でジャンはずぶ濡れになっていた。

「――よし!オーカゼ村に行こうじゃねえか!」

そうしてずぶ濡れのまま、思い切り叫ぶ。
やりようはあると分かった以上、それに向かって突き進むのみ。
ジャン・ジャック・ジャンソンは、迷いを今断ち切れたのだ。

「……結論は出たようですね。
 では明日の早朝、日の出の頃に馬車を東門に一台用意します。
 オーカゼ村は表面上何も変わらないように振る舞っていますが、
 白黒に塗られた教団の施設が立っていますし、
 信徒は皆、虚無を表す黒い六芒星のペンダントを身につけています」
 
そこまで言ってガレドロは一回言葉を区切り、三本指を立ててみせた。

「三日待ちます。それ以降何の連絡もなければキアスムスに待機させてある
 竜騎兵部隊を動かし、村を焼き払います。」

そしてガレドロは深く一礼すると、屋敷を出ていった。

「さて、とっとと寝ちまうか。と言いたいところだけどよ……
 フィリア、指環の力でこのカーペット乾かせるか?」

ジャンはこの夜、寝るまでのわずかな時間ですっかり水が染み込み重くなったカーペットを持ち上げ、
フィリアの指環から静かに灯る炎に近づけて乾かそうと四苦八苦していた。
0178ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/10/30(月) 16:42:50.63ID:j4J1x8GB
―――オーカゼ村は、ダーマ魔法王国最初の解放奴隷と呼ばれる、アウダス・オーカゼの故郷だ。
と言っても村にあるのは彼の生涯が刻まれた石碑と、その隣に突き刺さった古びた大剣だけ。
種族はオーク族がほとんどだが、解放奴隷が伝手を辿ってここに住み着くことが多いため、他種族も少ないがいる。
主に農耕や狩猟をして暮らしているが、キアスムスに近いこともあってか出稼ぎをする者が多く、ダーマの中では裕福な村と言えるだろう。

ダーマ王立図書館所蔵『解放奴隷たちの生涯』より


「……見えてきた。あれが俺の故郷、オーカゼ村だ」

日の出と共に馬車に乗り込み、オーカゼ村へと向かった一行は
まず村の入口にある見張り台を見た。
木の骨組みに石を積んで作られた、頑丈な見張り台だ。
だが屋上には誰もおらず、弓矢が立てかけられているだけだ。

「変だな、いつも交代で見張りをしてるんだけどよ……誰もいないみてえだ。
 悪いがここで下ろしてくれ、嫌な予感がするぜ」

「ガレドロ爺には伝えておくよ、事情は知らんが気を付けてくれ」

キアスムスへと戻る馬車を見送った後、一行はオーカゼ村へと入った。
そこでジャンが見たのは、記憶にあるオーカゼ村の風景だ。

鍛冶場の煙突からは煙が立ち上り、近くの川の流れで水車は緩やかに動く。
風は穏やかにチェムノタ山から吹き、近所のジルおばさんが育てていた花畑は色とりどりだ。

村人が誰一人いないことを除けば、記憶通りの風景だった。
0180創る名無しに見る名無し
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2017/10/30(月) 21:22:38.22ID:y93iXNHD
ラテは
一度真面目にここで弁解するといい
みんな納得しないよ
お前が荒らしってことになってるから
0181ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/10/31(火) 23:01:21.33ID:90fT5UYA
>「その必要はありませんよ。私が手を貸さずとも、彼女はあなた達と共に行く事が出来る。
 そうすべきであるかどうかは……別としてね」

シノノメが一緒に来られるように手配してほしいとのティターニアの要請に、ガレドロは思ってもみなかった答えを返した。

>「ジャン、まだ話は終わっていませんよ。
 次の話はトランキルとジャン、あなたたち両方に関係することですから」
>「トランキル、終審裁判所からあなたへの書簡です。
 もっともこれは私が用意した写しですが……明日の朝には、これと同じものが届けられるでしょう」
>「終審裁判所から?……あれ、その写しってどうやって」
>「そんな些細な事は気にしなくていいのですよ。大事なのは内容……ここには、こう記されています」
>「ダーマ終審裁判所よりキアスムス駐在執行官シノノメ・トランキルに刑の執行を命じる。
 大陸各地の反社会的勢力に戦力を供給し、国土に広く混迷を招いた大逆の罪により、
 以下の者達を晒し首の刑に処すべし……」

大陸各地の反社会的勢力に戦力を供給とはまた物凄い大がかりな組織があったものだ、とガレドロの次の言葉を待つ。

>「オーカゼ村の全住民を、と」

>「……え?」

「ちょっと待て、何故そうなる。彼らは被害者ではないか……!」

話が飛躍しすぎて俄かには理解が及ばなかったが、次のガレドロの言葉でようやく事態が呑みこめてきた。

>「いつまで呆けているのですか、ジャン。
 オーカゼ村が虚無に呑まれた事は、あなたには不幸な事でしたが……最悪ではなかった。
 この書簡……これこそが、あなたにとっての最悪だ」
>「オーク族は屈強で戦に長けた種族です。その彼らを村ごと征伐する事で、
 魔族院は現体制が強力無比であると示したいのですよ。そしてそれはもう裁決されてしまった」

もはや魔族が無理を押し通せば道理は軽く引っ込むここダーマでは常識は通用しないと思った方が良い。
奴らは現体制の脅威となる可能性のある者を潰し自らの権威を知らしめることが出来れば理由など何でもいいのだ。
あまりに理不尽な採決に、スレイブは怒りを露わにし、ジャンは打ちのめされた様子。当然の反応だ。

>「承服できるか……!」

>「村のみんなを……処刑だって?
 ジャバおじさんも、ジルおばさんも、父ちゃんも母ちゃんもみんな…?」

>「ただ虚無から救い出すだけでは、手遅れなのです。
 例えそれを成し遂げたとしても彼らはもうこの国にとって死すべき者達だ。そして……」
>「無駄な抵抗をしないで頂けますか、トランキル。あなたには暫くの間、病に伏せて頂きます。
 ……ラーサ通りの監督官が、魔族の執行官を打ちのめしたなどという風評は好ましくない。分かるでしょう?」

ガレドロとシノノメの間で繰り広げられた一瞬の攻防。
王の隠し牙という立場といえど、やはり弟子のジャンの故郷の者が皆殺しになるのは承服できないのだろう。
しかしここで一介の執行官であるシノノメを害したとて何の解決にもならない。
仮にシノノメを再起不能にしたところで、他の者が刑を執行するようになるだけのことだ。
0182ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/10/31(火) 23:03:24.84ID:90fT5UYA
>「な……なんで、私が、そんな……」
>「このままではあなたがオーカゼ村を滅ぼしてしまうからですよ。私の弟子の生まれ故郷を。
 ……あまり甘やかすのは良くないとも思うのですが、見過ごす訳にもいきません」
>「あなたは祖父とも父君とも、比ぶべくもない未熟者ですが……
 それでも、トランキル家の次期当主。行けば必ずやこの判決を現実のものとするでしょう。
 いかにオーカゼ村のオーク達が屈強であっても……」
>「ヒトの形をしたものを殺める事にかけて、あなた達はダーマ一の達者だ。
 それになにより……あなた達は国家の正義を、罪に対する罰を、体現しなければならない。
 だから必ず成し遂げる……そうでしょう、トランキル?」

ガレドロは、王の隠れ牙という立場でありながら、弟子であるジャンのために
こちらがオーカゼ村の人々を救うために動くチャンスを与えようとしてくれているのだ。
忠実に命令のままに処刑を執行しようとするシノノメがいては必ずその邪魔になる、そう思ってのことだった。
しかしおそらくガレドロは、淡々と死刑を執行する冷酷な処刑人という一般的なイメージでしかシノノメのことを知らない。

>「やっ……」
>「……嫌?トランキルの家の者が、下された判決を拒めるのですか?」
>「……いえ」
>「私は……トランキルですから。そのように判決が下ったのなら……それに従うまでです」
>「えぇ、そうでしょうね」

かといってどうすればいいのか。処刑を拒めば彼女自身が命を取られかねない立場。
なんという残酷な巡りあわせなのだろう。このままでは否応なくお互い望まない敵対関係になるしかない。
そこでティターニアは、もう一つの選択肢を示してみせた。

「シノノメ殿――もしも今の自分のすべてを捨ててもいいと思うなら……手引きすることはできる。
何、執行官が謎の失踪など大して珍しくもないだろう。万が一追っ手が来たなら退けてみせよう」

敵対するのを避けるには、もはやシノノメがトランキルであることを捨てるしか残された道はないと思われた。
今の自分の全てを捨ててこちらの手を取り仲間になるか、トランキルであり続けることを選び敵対するかの究極の選択。
それでも選択肢が無い一択よりはいくぶんか増しと思ってのことだ。
しかし、彼女はそのどちらも選ばなかった。

>「……だけどっ」
>「だけど、私は……未熟な、出来損ないですから……。
 腕が悪くて……そのくせ気分で刑を変える、恥晒し、ですから……」
>「こ、殺すだけなら、まだしも、捕縛となると、一人では……難しいので……
 知人に……過去に魔王様の、近衛騎士を務めていた方が、います。そ、その方に、助力を乞う事にします。
 だ、だから……」
>「……確かに、それなら処刑までの時間は稼げるかもしれません。
 ですが、所詮は時間稼ぎ。結局、あなたは刑の執行をやめられない」

確かに生け捕りにすれば少なくともその場では文字通り首の皮は繋がるが、問題はその後どうやって処刑を回避するかだ。
取りつくしまもないガレドロに、ティターニアが言う。
0183ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/10/31(火) 23:05:50.27ID:90fT5UYA
「ここで彼女を足止めしても他の執行官が派遣されるだけであろう。
ここまで"罪人"の命を繋ごうと腐心してくれる執行官など他におらぬぞ。
生きたまま捕らえたならそこから先はむしろ王の腹心たるそなたの腕の見せどころではないのか?」

しかしそれは要らぬ心配だったようで、単なる時間稼ぎではなくシノノメはその先の策まで用意していた。

>「あなたの言葉が全て真実なら……指環を見つけられれば。
 魔王様はまたそのお姿を皆に見せて下さるはずです。元気な、お姿を。
 それは表向きは、病の快癒という事に……なる、はずです。だから」
>「国中に、恩赦が、与えられるはずです。だから……」
>「私を、一緒に連れて行って下さい……」

「見事な作戦だ、シノノメ殿……!」

シノノメは忠実な執行官であり続けながらこちらの手助けをするという不可能と思われた第三の選択肢を見事に選び取って見せた。

>「その依頼、承った。故あって俺は対人の捕縛術にも憶えがある。
 こちらに居るのは凄腕の魔導師に勇猛なる戦士、数多の眷属たちを従える女王だ。
 オーカゼ村の信徒たちを、処刑が執行されるその日まで――かすり傷一つつけることなく、拘束し続けよう」
>「俺は貴女に、一緒に来て欲しい」

ジャンはアクアに水をぶっかけてもらって気合を入れると、力強く宣言したのだった。

>「――よし!オーカゼ村に行こうじゃねえか!」

>「……結論は出たようですね。
 では明日の早朝、日の出の頃に馬車を東門に一台用意します。
 オーカゼ村は表面上何も変わらないように振る舞っていますが、
 白黒に塗られた教団の施設が立っていますし、
 信徒は皆、虚無を表す黒い六芒星のペンダントを身につけています」
>「三日待ちます。それ以降何の連絡もなければキアスムスに待機させてある
 竜騎兵部隊を動かし、村を焼き払います。」

非情にも聞こえる言葉だが、これが彼の王の隠し牙という立場とジャンの師匠という立場の板挟みの中での最大限の手助けなのだ。
国家という怪物からは一線を画し建前を気にしなくていい分かりやすい世界に住んでいるティターニアには無縁の世界であった。
ガレドロが去った後、シノノメの肩に手を置いて言うのだった。

「やれやれ、弟子を思うあまりハッスルしてしまったのだろう。しかし案外あやつも蓋を開ければそなたと似たようなものなのかもしれないな」
「……ところでテッラ殿、概念的植物でカーペットの水分を吸い取ったりはできるか?」

こうして夜は更けていく。
0185ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/10/31(火) 23:07:59.77ID:90fT5UYA
次の日、日の出と共にオーカゼ村に向かった一行。

>「……見えてきた。あれが俺の故郷、オーカゼ村だ」
>「変だな、いつも交代で見張りをしてるんだけどよ……誰もいないみてえだ。
 悪いがここで下ろしてくれ、嫌な予感がするぜ」

村に入ってみると、荒らされている様子などはなかったが、ジャンの予感したとおり、誰一人見当たらない。

「ガレドロ殿は村は表面上は何も変わらず振る舞っていると言っていたが……皆どこに行ったのだ?」

考えられるのは、ティターニア達が到着する直前に大きく状況が動いたということ。急いだ方が良さそうだ。
村を一周してみると、場違いな白黒の施設が立っているのがすぐに分かった。

「あれが教団の施設か……行ってみるとしよう」

最大警戒態勢で施設に乗り込む一同。施設の中も静まり返って誰もいない、と思いきや。

「貴様ら何者だ!」「関係ない、何者だろうとのして洗脳するまでだ――!」

等と言いながら教団員と思しき者達が数人襲い掛かってきた。が、幸い大して強くは無く、一行の前にすぐにのされた。
とはいえ決して雑魚というわけではなく一般的基準ではかなり強いと思われるのだが、おおかた留守番のために残されていた者達なのだろう。
適当に拘束して村人達の行方を尋ねると、あっさり吐いた。しかし雰囲気からして下っ端っぽいので、詳しい情報は望めないかもしれない。

「村の皆は何処に行ったのだ」

「……闇の指環を目覚めさせる儀式をするとか何とか言って裏山に連れて行かれた」

「裏山……チェムノタ山のことか!」

「ああ……あの扉から出れば山の入り口だ」

言われてみれば教団の建物が登山道を塞ぐように立てられており、建物の裏口から出ると登山道に直結するようになっていた。
0186シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/03(金) 05:01:33.63ID:LB09ps68
……今、私は寝室にいます。
いつもならもう寝ている時間ですが……今日は色々ありましたから。
それらを日記に全部記そうと思うと……なかなか文章がまとまらないのです。

>「見事な作戦だ、シノノメ殿……!」
>「俺は貴女に、一緒に来て欲しい」

ティターニア様は、スレイブ様は、私にそう言って下さいました。
……私には勿体無いお言葉です。謙遜なんかじゃなくて、本当に。
だって私はただ……嫌な事から逃げただけなんです。

今まで一度だって、執行官の使命から逃げようなんて考えた事もなかったのに。
今回に限ってあんな事を言ったのは……嫌だったから。
ヒトの命を奪う事よりも、トランキルの家名と挟持を汚してしまう事の方が、怖かったのと同じように。

スレイブ様に。そしてジャン様にも、ティターニア様にも……彼らに、嫌われたくなかったから。
罪人と定められた者の命を奪うよりも、執行官の使命を果たせない事よりも。
そっちの方が怖くて、嫌だって、思ってしまったんです。
そのくせ、ティターニア様が仰ったような……トランキルから逃げる事も、
父と祖父から永遠に繋がりが切れてしまう事も、怖くて。

「……よして、下さい。こんなの、ただの気まぐれです」

だから私は顔を隠しながら、お二人にそう返す事しか出来ませんでした。
だけど、それが本当の事なのですから、そう言う他ありません。
……私は自分のした事が、正しい事なのか、そうでないのかすら分からないのです。

私は、テーブルの引き出しから鏡を手に取りました。
小さな鏡を二枚重ね合わせた、折り畳み式の手鏡。
その手鏡を、部屋を照らすランプの傍に、鏡面がそちらへ向くように置く。
……すると寝室の暗闇の中に、礼拝堂が現れます。
鏡の表面に、極めて微細な彫刻を施す事で生じる陰影が、礼拝堂を描き出すのです。

この鏡は、私が自分で作ったもの。私の秘密の礼拝堂。
ここにはダーマに生きる様々な種族が崇める神々がいる。
死刑を執行した日はいつも……私は彼らに懺悔し、そして祈りを捧げます。
私の殺めてしまったヒトが、無事彼らの許へ辿り着けるように。

「……明日。私は生まれて初めて、ヒトを殺さない為に、頑張ります」

……私なんかの祈りに、価値なんてない。
だけどもしそれが届いていたなら、きっと私が殺めてしまったヒト達も、この礼拝堂の奥にいるはず。

「……本当は、ずっと前から、そうする事が出来たはずなのに」

どんな魔族にも、助命嘆願書を裁判所に提出する事が出来る。
高等法院の役人である執行官なら、死刑の廃止だって……主張する事だけなら、可能です。
ずっと、そうする事は出来たはずなのに。それでも私は命を奪う事を選び続けてきた。

「あなた達を殺してしまって、なのに今度は殺したくないなんて……おかしいですよね。
 だから……ごめんなさい」

許して下さいなんて言えない。言えるのは、ただ……

「恨むなら、どうか私だけを恨んで下さい」

オーカゼ村の民を捕縛し、そして闇の指環を探す旅……。
それがどれくらい長く続くのかは分からないけど……この日記と、鏡だけは、持っていこう。
日記は、私が何を思って、どう変わるのか。変われるのかを、記す為に。
鏡は……そんな事があって欲しくないけど。失われた、あるいは奪った命に、祈りを捧げる為に。
0187ポチ ◆xueb7POxEZTT
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2017/11/03(金) 05:01:54.06ID:LB09ps68
……そうしてベッドに入ると、一階からまだ微かに、彼らが動く気配を感じます。
まだカーペットを乾かしてるのでしょうか。
どうせ普段招く客もいないし、丸めて外に放り出してくれていいとお伝えしたのですが。
もしかしたら……あの態度は、いかにも魔族風な物言いで、感じが悪かったかもしれません。
なんて事を悶々と考えている内に、私はいつの間にか眠りに就いていました。
0188シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/03(金) 05:02:37.49ID:LB09ps68
 


そして翌朝。私は……皆様と共にオーカゼ村へと発ちました。

>「……見えてきた。あれが俺の故郷、オーカゼ村だ」

まず初めに目についたのは、見張り台です。
あの手のものは大抵の村には設置されていますが……その上には、誰の姿も見えません。

>「変だな、いつも交代で見張りをしてるんだけどよ……誰もいないみてえだ。
 悪いがここで下ろしてくれ、嫌な予感がするぜ」

村の中まで入ってみても、やはり人影は見えません。
ナイトドレッサーである私は、狩人が呼吸や足音を聞き取るのと同じように、影が動き回る気配を感じ取る事が出来ます。
が、それすらも……感じない。

>「ガレドロ殿は村は表面上は何も変わらず振る舞っていると言っていたが……皆どこに行ったのだ?」

「……この村の住民達が宗教に没頭しているなら……礼拝や、それに準ずる何かに、出払っているとか」

或いは村の全住民を戦力として、どこかの内乱に注ぎ込むべくここを離れたか。
……その予想は、口に出さないでおきました。
そうして村の内部を警戒しつつ見て回っていると、ガレドロ監督官の仰っていた……あれは礼拝堂、でしょうか。
ともかく白黒の建物が見つかりました。

>「あれが教団の施設か……行ってみるとしよう」

「……中に誰か、いる……はずです。気をつけて下さい」

ナイトドレッサーの感覚は、僅かに動く影の気配を感じ取っている。
だけど私はそれを断言という形で言葉に出来なかった。
私が今感じている気配は……まるで、ただ太陽が傾いて、それに伴って影が動くような。
そんな、命を伴わない……そんな気配だったから。

>「貴様ら何者だ!」「関係ない、何者だろうとのして洗脳するまでだ――!」

礼拝堂の中には、真っ白な、或いは真っ黒なローブを身に纏った人達がいました。
語気は荒く……なのに、その声は酷く無機質に感じられます。
塗り固められたような声と眼光。

彼らが襲い掛かってきます。ある者は剣を抜き、ある者は呪文を唱え。
私は……術士を抑えるのが適役でしょうか。
右手にショートソードを作り出し、前へ躍り出る。

すぐに術士を庇うように、剣士が私の前に立ちはだかる。
とても素早く滑らかな……だけど硬質な動きです。
鍵を差し込まれた錠前が開くような、よく油を差した機械のような動き。
よほどの訓練を積んでいるのか……それとも、これも洗脳とやらの力なのでしょうか。

素早く突きを放つと……紙一重でそれを躱し、私の右手首を切りつけようとしてくる。
足捌きで躱して術士を狙おうとすれば……あえてこちらの側面に回り、挟撃を図られる。
まともに切り結ぼうとすると、今度は術士がちょっかいを出してくる。

条件反射にも似た素早い攻防、無言の連携。
……少し、私の『マリオネット』に似ています。
0189シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/03(金) 05:06:41.00ID:LB09ps68
「……これは、困った事になりました」

……不意に、私は何の構えも取らずに目の前に剣士へと歩み寄ります。
こちらが剣を動かしていませんから、相手もこちらの出方を見て、剣を振りかぶる時間はありません。
もし剣を振りかぶれば、こちらが後の先を取って突きを放つだけです。

ともあれ、相手が自然な構えのまま繰り出せるのは、突きに限られます。
そしてその突きを、私は更に一歩踏み込みつつ、体を半身にする事で躱し。
だらりと下ろしたままの剣を振り上げ、相手の右前腕の筋を断つ。
後は、護衛のいなくなった術士を剣の柄で殴って……おしまいです。

「本当に、困った事でした。あなた達にとっては、ですが」

……言い終えてから、私は気恥ずかしさに顔が明るみを帯びるのを感じました。
私が、誰か他人の為に戦うなんて、まるでかつて夢見た騎士にでもなったかのようで……。
少し、気が大きくなってしまったんです……誰にも聞かれていなければいいんですが……。
0190シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/03(金) 05:10:19.29ID:LB09ps68
……トランキル家は、ダーマ建国からずっと、あらゆる種族の肉体を切り刻んできました。
旅人や、行商と関わる機会も……異国の知識に触れる機会も多かった。
だから私達は知っているのです。
この世に生きる殆どの種族の肉体は、脳で生じた思考が、神経と呼ばれるものを伝う事によって動いていると。
そして……魔力は神経よりもずっと早く、思考に反応して変化を起こす、とも。

つまり後の先、先の先の取り合いで……彼らが私に勝てる理由はありませんでした。
『マリオネット』は神経を介する通常の身体操作よりも素早く的確に、罪人の急所を破壊する為の魔法です。
それが通用するのは、何も処刑台の上だけではありません。
……さておき、スレイブ様達も教徒の制圧は問題なく終わったみたいです。

>「村の皆は何処に行ったのだ」

「……話を聞き出すのは、私、得意ですよ」

執行官は、そういうお仕事ですから。
もっとも彼らが痛みや恐怖にも屈しないほど強く洗脳を受けているのだとしたら……
皆様には暫く席を外してもらう事になるかもしれませんが。

>「……闇の指環を目覚めさせる儀式をするとか何とか言って裏山に連れて行かれた」

ですがその必要はなかったみたいです。
彼らはあっさりと、あまりにもあっさりと質問に答えてくれました。
嘘を、ついているのでしょうか……。

>「裏山……チェムノタ山のことか!」
>「ああ……あの扉から出れば山の入り口だ」

いえ……幾人もの罪人を拷問にかけてきた、執行官の経験が私に教えてくれます。

「……嘘をついているようには見えません。
 多分、ですけど……こうなった時の事を、「教わって」いないんだと思います。
 私も……そうだから、きっとそう……な気がします……」

強い義務感を教え込まれた者ほど……その道から外れてしまった時、何をしていいのか分からなくなる。
……彼らが私に似ているのは、戦い方だけじゃなかったみたいです。
……いえ、そんな事よりも。

「……闇の指環を目覚めさせる儀式。それってつまり……心に闇を、落とす為の儀式、ですよね」

それがどういうものか……具体的には分からないし、分かりたくもない。
けど……

「すごく……嫌な、予感がします……」

登山道には大勢が通った事で残された足跡があります。
オーク族は勇猛果敢な種族ですが、戦や狩りの達者でもあります。
足跡を偽装する術を種族の中で持っていてもおかしくありません。
だけど、だとしても……それはジャン様が知っているはず。
それに、土地勘だってあるでしょうし……。
今一番辛いのは、間違いなく彼でしょうけど……

「い、急ぎましょう……連れて行かれたって事は……きっと先導してるのは教団側の人間です。
 私達ほど早くは、登れないはずです……」

彼以外に、私達を先導出来る者はいない。
だから私には、そう声をかける事しか出来ませんでした。


【一部、異世界の影が映ってしまったんですけど、なにとぞ見なかった事に……】
0192創る名無しに見る名無し
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2017/11/03(金) 16:08:04.13ID:8jp5EXlG
0187 ポチ ◆xueb7POxEZTT 2017/11/03 05:01:54
……そうしてベッドに入ると、一階からまだ微かに、彼らが動く気配を感じます。 



ええと、ポチさんってどなたですか?
0194スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/11/05(日) 22:36:47.01ID:R07o0jeG
>「ちょっと待ってくれや、みんな」

シノノメの決意を聞いたジャンは、ようやく放心から我に返ったように呟いた。
水の指環から強烈な水流が迸り、頑健なオークの肉体が仰け反るほどの勢いでジャンの顔面に直撃した。

>「――よし!オーカゼ村に行こうじゃねえか!」

文字通り顔を洗って目を覚ましたジャンは、気持ちを切り替えるように叫ぶ。
これを空元気になどさせはしない。絶対に。
スレイブはそれに頷きで応じ、弟子の様子を見守っていたガレドロに声を掛けた。

「ガレドロ殿、夜明けまでに物資の調達を頼むことは出来るだろうか。この時間だ、酒場以外はどこも閉まってる」

「『立ち並ぶ木々亭』の店主としての範囲であれば、用意しましょう。何をご所望ですか?」

あくまで『王の隠し牙』としては手を貸さないという姿勢を貫くガレドロの問いに、スレイブは左腕を掲げて見せた。
冒険者や兵士が武具屋で採寸を受ける姿勢だ。

「小振りの盾が一つ欲しい。材質は問わないが、出来るだけ頑丈なものを頼む」

ガレドロは何かを思案するようにスレイブの腕をひとしきり眺めてから、鷹揚に頷いた。

「良いでしょう、承りました。明日の朝、用意した馬車に積んでおくよう手配しておきます。
 ……お代はジャンに請求しておきますよ。オーカゼ村から帰って来た後にでもね」

スレイブはそこに強い信頼で結びついた師弟の絆を感じた。
ガレドロは、ジャンが必ず故郷の解放を成功させて戻ってくると、疑っていないのだ。
弟子の発奮を認めた師匠は、満足したように一礼してトランキル屋敷を辞した。

>「さて、とっとと寝ちまうか。と言いたいところだけどよ……フィリア、指環の力でこのカーペット乾かせるか?」
>「……ところでテッラ殿、概念的植物でカーペットの水分を吸い取ったりはできるか?」

「任せろ、俺は故あって湿ったカーペットの処置にも憶えがある。ジュリアン様の居室の掃除も俺の仕事だったからな」

ずぶ濡れにしてしまったいかにも高級そうな敷物をどう処理するか、懐具合の寂しい冒険者達の悪戦苦闘は夜更けまで続いた。

・・・――――――

翌日、早朝からキアスムスを出立した馬車は、太陽が南に登る前に目的地へと辿り着いた。

>「……見えてきた。あれが俺の故郷、オーカゼ村だ」

「この辺りは景色が良いな、風も湿り気がなくて心地良い……人の活気がないのが気掛かりだが」

馬車の小窓から外を眺めていたスレイブは、益体もない感想を零して首を引っ込めた。
彼の左腕には手首に固定するバックラーと呼ばれるタイプの小振りな盾が付いている。
ガレドロは注文通りの品を納期通りに届けてくれた。
心なしか市場に出回っているものより造りがしっかりした高品質なもののような気がするのは、恐らく気の所為ではあるまい。

>「変だな、いつも交代で見張りをしてるんだけどよ……誰もいないみてえだ。悪いがここで下ろしてくれ、嫌な予感がするぜ」

村の高見台には常駐しているはずの哨戒がいなかった。
どころか、既に日が登っているにも関わらず野良作業に出ている人影もない。
文字通り人っ子一人存在しない無人の光景が広がっていた。

>「ガレドロ殿は村は表面上は何も変わらず振る舞っていると言っていたが……皆どこに行ったのだ?」
>「……この村の住民達が宗教に没頭しているなら……礼拝や、それに準ずる何かに、出払っているとか」

「見張り台に弓が置きっ放しだった。弓のような繊細な道具を野晒しで放置するなどあり得べからざることだ。
 それに鍛冶場の炉が灯ったままだな……作業を中断してどこかへ行ったにしては、あまりに不用心過ぎる」
0195スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/11/05(日) 22:37:17.24ID:R07o0jeG
スレイブは炉の中で赤熱している炭を取り出して、消化用の灰を被せて火を消した。
放り出された弓に、煙を吹いている炉。これらの持ち主は、おそらく自発的にここを去ったわけではあるまい。
何らかの理由で、何の支度も出来ずに中座させられた。
何かがこの村で起きている。――それも、かなり直近の出来事だ。

>「あれが教団の施設か……行ってみるとしよう」
>「……中に誰か、いる……はずです。気をつけて下さい」

「若者の帰郷を歓待するといった動きではないな……!」

シノノメの注意喚起に先駆けて、スレイブは既に臨戦の態勢を取っていた。
色濃い敵意の気配を歴戦の戦士の嗅覚が機敏に感じ取る。
果たして教団の礼拝堂と思しき建物に足を踏み入れれば、待っていたとばかりに手荒い歓迎を受けた。

>「貴様ら何者だ!」「関係ない、何者だろうとのして洗脳するまでだ――!」

二色に統一されたデザインのローブを来た者達が、思い思いの武器を手に襲い掛かってくる。

「エーテル教団の信徒……!こいつらは純人種だ、オーカゼ村の人々じゃない!」

言いながらスレイブは打ち下ろされた戦斧を盾で受けた。
バックラーの丸みを帯びた形状は攻撃を受け止めるのではなく軌道を逸らして受け流すことに特化している。
火花を散らしながら盾の表面を擦過していった戦斧の刃は勢いそのままに地面を穿った。

「眠っていろ。後で起こしてやる」

攻撃を受け流されて態勢を崩した斧使いの下がった頭にバックラーを叩きつける。
巨大な手のひらにビンタされたような衝撃が余すことなく斧使いの頭部に伝わり、彼は失神して膝から崩れ落ちた。

「……聞きたいことがあるからな」

――戦士のスキルが一つ、『シールドバッシュ』。
盾を使って相手を殴り付けるという非常に地味な技ながら、近接戦闘においてその効果は覿面だ。
敵の攻撃を受け流す動きから遅滞なく連携に繋げられるため隙が生まれず、剣を振るうよりも素早い反撃が可能。
本気でぶち当てればこれでも十分人を死に至らしめられるが、刃がないため手加減が容易という部分も重要な利点だ。

スレイブはかつて、敵対者をどうにか殺さずに無力化しようとしてこの技術を磨いた。
結局その努力は命令を下す魔族に認められず、昏倒させた相手の首に剣を振り下ろす過程が増えただけだったが。

過去の無念を折れた奥歯で噛み砕きながら、スレイブは疾走する。
槍使いの刺突を受け流しながら肉薄し、鞘に収めたままの長剣で顎を掠めて意識を飛ばす。
背後から攻撃魔法を叩き込まんと詠唱している魔導師に、取り外したバックラーを投げつけて黙らせた。

>「本当に、困った事でした。あなた達にとっては、ですが」

周囲の襲撃者を軒並み沈黙させて振り向くと、シノノメもまた信徒たちの無力化を終えていた。
スレイブがそれに気付かなかったのは、彼女の戦闘がスレイブよりも遥かに静かに起伏なく遂げられたからだ。

「……お見事」

下した敵対者達を見下ろして表情一つ変えないのは、この際鉄面皮とは関係あるまい。
彼女にとってこの程度の戦闘は、息を乱すことさえない柔軟体操未満なのだ。
シノノメ・トランキル。ダーマ魔法王国の黎明以来一家相伝で洗練され続けてきた、戦闘技術の申し子。
もしもトランキル家が処刑以外の道にその刃を振るったならば、時代の節々に一騎当千の英雄が生まれていただろう。
ダーマで上に立っているのはこういう連中で――だからこそこの国は侵略国家足り得るのだ。

>「村の皆は何処に行ったのだ」

縛り付けた襲撃者たちを集めてティターニアが尋問する。
シノノメが隣で何か不穏なことを言っているが、どうやら信徒たちは彼らにとって幸せな選択をしたようだった。
0197スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/11/05(日) 22:37:55.66ID:R07o0jeG
>「……闇の指環を目覚めさせる儀式をするとか何とか言って裏山に連れて行かれた」

>「……嘘をついているようには見えません。多分、ですけど……こうなった時の事を、「教わって」いないんだと思います。
  私も……そうだから、きっとそう……な気がします……」

「……気持ちは分かる。そしてこうした視野狭窄を意図的に引き起こすのが洗脳というやり方だ」

洗脳は、他人を操縦するように意のままに操るような技術ではない。
条件を限定することで、あたかも本人が自分の意志で選択したかのように錯覚させる術だ。
だから彼らは自由な意志を保ったまま、疑うこと無く教団に忠誠を誓っている。心に闇や光を持つことが出来る。

>「……闇の指環を目覚めさせる儀式。それってつまり……心に闇を、落とす為の儀式、ですよね」
「い、急ぎましょう……連れて行かれたって事は……きっと先導してるのは教団側の人間です。
 私達ほど早くは、登れないはずです……」

「鍛冶場の炭はまだ十分燃え残っていた。村の人々が連れ去られてそう時間は経ってないはずだ。
 今から全力で登れば追いつける……ジャン、先導を頼む」

信徒たちを絶望に至らしめる儀式。
何をするつもりなのかは大体想像がつくし、それは絶対に遂げさせてはならない。
村の住民を丸ごと連れていったということは、そこには子供や老人も多数含まれているはず。
ならば、全体の行軍ペースは疲労を無視したとしても然程早くはないだろう。

ジャンの先導に従ってチェムノタ山を駆け上ったスレイブ達は、中腹の開けた場所に人だかりを発見した。
オーカゼ村住民の大部分を占めるオーク族と、少数の別部族、それを監視するように周囲に無数に立つ白黒のローブを着た人影達。
山肌の木々に隠れながら、注意深く集団の様子を確認する。

「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」

スレイブが言外に問うたのは、既に犠牲となった者がいないかどうかということだ。
見たところ住民たちの表情には、絶望よりも不安が強く現れている。
これから何が起きるか分からない――裏を返せばまだ何も起きていない、予測のつかない事態に対する不安だ。

「まだ連中は俺達の様子に気付いていないようだが……見ろ、誰か出てきたぞ」

住民達の視線の先、集団の先頭に、二つの人影が歩み出た。
一人は黒い全身鎧に身を包み、禍々しい形状の蛮刀を佩いた男。
無感情に住民たちを眺める双眸は野犬のように鋭く荒々しく、憮然とした表情を崩さない。

対照的にもう一人の男は柔和な笑みで連れてきた集団を眺めている。
革製の軽鎧は機動性を重視したもので、長身でありながらそれ以上に長大な矛を背負っていた。

「あーもうマジでおっせぇな!もっとキビキビ歩けよ蛮族共がよぉー!
 ジジババクソガキの歩幅に合わせて歩くのほんとイライラする!儀式始めるまでに日が暮れんじゃねえの!?」

矛使いの男は柔和な笑みとは裏腹に暴言を吐き散らかし、先頭にいたオークを蹴りつけた。
蹴られたオークは驚くことも怒ることもなく、矛使いは一人でヒートアップしている。

「おうアドルフ!お前からもなんか言ってやれよこの鈍亀蛮族どもに!
 早くしねえとお前のお姉ちゃんからまた嫌味言われるだろが!あのクソ真っ黒ババア、虚無に呑まれて死ねばいいのに!」

アドルフと呼ばれた黒鎧の男は、矛使いを一顧だにせず鼻を鳴らした。

「……アルマクリス、あまり姉上のことを悪く言うな」

「ああっ?なになにアドっちゃん、妹殺しのカスゴミ野郎のくせして姉上のことは聖域扱いなの?
 そういう差別良くないと思うんだよなあ!パトリエーゼもあの世で泣いてんぜ!?あ、エーテリアル世界か、メンゴメンゴ」

矛使い、アルマクリスの言葉にアドルフは一度だけ視線を遣ったが、すぐに目を逸らした。
0198スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/11/05(日) 22:38:18.42ID:R07o0jeG
「忠告はしたぞ。あの女はどこで聞き耳を立てているか分からない……お前の死因にならなければ良いな」

「ヘイヘイびびってんじゃねーよアドルフ!陰口言ったら殺しに来るとかお前の姉ちゃん都市伝説かよ!
 まあ指環の魔女って都市伝説みてーなもんだしな!オッケー口謹んどくね!メアリ様素敵愛してます!」

「手遅れだと思うが」

二人の男のやり取りを木陰で聞いていたスレイブは、出てきた名前に眉を顰めた。

「"アドルフ"……?それにあのブラックオリハルコンの鎧、帝国の黒騎士か……!」

中央大陸の覇者、ヴィルトリア帝国が有する『七人の黒騎士』の存在についてはダーマでも捕捉していた。
他ならぬ"白魔卿"ジュリアン・クロウリーのもたらした情報によって構成人員の内訳まで把握できている。
しかし、帝国最強戦力が暗黒大陸の山の中に居るこの状況に既存の情報がまるで結びつかない。
ただ一つ分かることは、黒犬騎士アドルフが明確にオーカゼ村に纏わる一件に関わっていることだけだ。

「エーテル教団は帝国黒騎士まで抱き込んでいるのか……!?」

スレイブの驚愕をよそに、村人集団の方で更に動きがあった。
歩みの遅い老いたオークが一人、アルマクリスによって集団の外に弾き出されたのだ。

「おっせー奴に合わせてたら時間がいくらあっても足りねーや。つうわけで現場の判断である程度間引くことにします。
 この老いぼれの家族はどいつだ?ちょっと挙手して挙手!」

問われ、一団の中から一人のオークが恐る恐る手を挙げる。
オークの年齢は純人のスレイブにはわかりにくいが、娘なのだろう。歩み出てきたのは女性だった。

「よしよし、じゃあお前ちょいこっち来て……はいこれ、サクっとやっちゃいな!」

アルマクリスは娘のオークに短剣を握らせ、顎でしゃくって老オークを示した。
その動きが何を意味しているのかを理解した娘オークの顔がさっと青ざめる。涙を浮かべて首を振る。
やはり絶望を生み出すためにある程度意志の自由を残されているのだ。

「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

アルマクリスは痺れを切らし、オークの親子二人を纏めて貫かんと矛を振り上げた。
0199スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/11/05(日) 22:38:33.86ID:R07o0jeG
【チェムノタ山中腹で村人の集団と教団に追い付く。気付かれないよう物陰から視認中。
 敵NPC
 黒犬騎士アドルフ:ユグドラシア防衛戦で学長とかとわちゃわちゃしてたあいつ。
 天戟のアルマクリス:黒曜のメアリの部下の矛使い。背丈とテンションが高いクズ
 アドルフもアルマクリスも自由操作でお願いします】
0203ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/09(木) 15:06:44.60ID:DEUu67ZT
>「あれが教団の施設か……行ってみるとしよう」

>「……中に誰か、いる……はずです。気をつけて下さい」

誰もいなくなった村を探索していると、白黒の施設がチェムノタ山へ続く
道のりをふさぐように建っているのがすぐに分かった。
トランキルによれば誰かが建物内にいるらしく、一行は警戒しつつ突入した。

>「貴様ら何者だ!」「関係ない、何者だろうとのして洗脳するまでだ――!」

>「エーテル教団の信徒……!こいつらは純人種だ、オーカゼ村の人々じゃない!」

「だろうな!」

ジャンはそう吐き捨てるように言い、目の前の男が振り下ろさんとした戦槌の柄を掴んだ。
そしてそのまま持ち上げたかと思うと、即座に地面に叩きつけた。
引きずられるように倒れた男の顎を蹴り飛ばし昏倒させると、戦槌についていた埃をぱっぱと払い
そこに刻まれていた銘を確かめる。

「……ハルコンネン、こりゃ近所の爺さんが持ってたもんだぜ」

同じように一行が無力化した信徒たちの武器を確かめると、刻まれた銘はどれも
この村に住むヒトたちが昔から持っていたものだ。

「集会場を勝手に改造して武器までかっぱらうとはひでえ奴らだぜ、ますます許す気がなくなっちまった」

>「村の皆は何処に行ったのだ」

「こちらの御方は執行官だぜ。嘘吐くんじゃねえぞ」

拘束した信徒の頭を掴みトランキルの方を向かせる。
トランキルの顔を知っているかどうかは定かではないが、ダーマに住んでいるならば
執行官が意味するところは分かっているだろう。

>「……闇の指環を目覚めさせる儀式をするとか何とか言って裏山に連れて行かれた」

>「……嘘をついているようには見えません。多分、ですけど……こうなった時の事を、「教わって」いないんだと思います。
  私も……そうだから、きっとそう……な気がします……」

「トランキルさんが言うなら大丈夫だろうな、とっとと山に行くか。
 洗脳されてんなら足跡を偽装する暇もねえ、足跡おっかけりゃすぐに追いつけるさ」
0204ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/09(木) 15:07:19.13ID:DEUu67ZT
チェムノタ山はそれほど険しくはなく、自然もそれなりに豊かな山だ。
年老いたとはいえ龍が住むことから魔物の縄張り争いも激しくはなく、
オーカゼ村の子供は皆、一度はここで遊ぶと言われている。

そのチェムノタ山の中腹、いつもならば狩人たちが休憩に使う広場に
村の住人たちが集まっているのをジャンたちは発見した。

>「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」

「……見覚えのあるやつは全員いる!でも父ちゃんと母ちゃん、それに出稼ぎに行ってる
 いつもの連中はいねえな……そこを狙ったのかもしれねえ」

一行は木々と茂みに紛れて隠れ、集団のリーダーと思しき人間二人が怒鳴っていることに気づいた。

>「おうアドルフ!お前からもなんか言ってやれよこの鈍亀蛮族どもに!
 早くしねえとお前のお姉ちゃんからまた嫌味言われるだろが!あのクソ真っ黒ババア、虚無に呑まれて死ねばいいのに!」

>「……アルマクリス、あまり姉上のことを悪く言うな」

「こいつぁたまげたな、黒騎士様までいらっしゃるときたもんだ。
 ……帝国も一枚噛んでやがるのか?」

ジャンが真っ先に思い出した黒騎士アルバートも指環を探していた。
もしかすると帝国は複数のルートで指環を集めようとしているのかもしれない、
そうジャンが珍しく頭を使って考えた矢先、それは起きた。

>「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

「――先、行くわ」

黒騎士と揉めていた男、アルマクリスが苛立ちをオークの親子二人に矛という形でぶつけようとした瞬間だ。
突如飛来した短剣がアルマクリスの右肩を貫いた。
アルマクリスが力の入らない右手に気づいたときには時既に遅く、矛はぐらりと傾いて地面に落ちた。

「はああぁぁぁぁぁ!!?誰だ短剣投げやがったクソは!?
 蛮族連中皆殺しにすっぞオラァ!」

短剣を引き抜いて投げ捨て、憤怒に満ちた表情で辺りを見回す。
周りにいるのは怯えた村人たちと、剣に手をかけ周囲を警戒しているアドルフ。
そして困惑したように辺りを探している教団の信徒たちだ。

「俺だよ、クソ野郎」

信徒が持っていた戦槌を肩に担ぎ、地面に刺さった短剣を抜いて土を払い、鞘に戻す。
ゆらりと木々の陰から姿を現したのは、ジャンだ。
0205ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/09(木) 15:07:48.31ID:DEUu67ZT
「ジャン・ジャック・ジャンソンだ、ようく覚えとけクソ野郎」

「てめえもオークか!?てめえら、そいつはいらねえ!殺しちまえ!」

辺りにいた信徒が各々の得物を手にジャンを取り囲み、やがて一人が飛び掛かったその時。
ブン、という鈍い音と共に、その信徒の頭は砲弾が直撃したかのように砕け散った。

ならば数人で、と信徒たちがそれぞれ異なる方向から襲い掛かれば、
ジャンの姿がぐにゃりと揺らめいて消え、信徒たちは困惑の表情を浮かべる。
直後に信徒たちは激しい水流を浴びて吹き飛ばされ、山道を転げ落ちていく。

「アクア、最初っから全開で行くぜ。纏めて殺されるのはてめえらだ!」

ジャンが姿を現したとき、そこにいたのは一人の竜人。
清流の如く蒼く輝く鱗を身に纏い、手に持つは荒波のような波紋を映し出す大斧。
伝説に語られる指環の勇者、その一人によく似た姿だった。

「指環の勇者か……アルマクリス、お前は足止めをしておけ。
 私は山頂で儀式の準備に入る」

アドルフはそれだけ言うと、おそらくは護衛であろう何人かが信徒の群れから離脱し、共に山頂へと向かう。
アルマクリスはその一方的な態度にさらに怒りを覚えたらしく、矛を拾い上げると
縦横無尽に何度も振り回し、こちらへと威嚇してきた。

「あんのクソ家族殺しがよぉ!偉そうに命令しやがって……
 指環の勇者サマご一行、どうせ他にもいるんだろ?鬱憤晴らしだ!
 ここでてめえら皆殺しにしてやるよぉ!!」

一見矛をがむしゃらに振り回しているように見えるが、
空を切る音の鋭さ、常人では見切れぬほどの手と足の動き、そして体のしなやかさは達人のそれだ。

未だ困惑している村人たちも考えると、かなりの強敵となるだろう。
0206ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 21:49:54.77ID:D2xiIRAZ
>「鍛冶場の炭はまだ十分燃え残っていた。村の人々が連れ去られてそう時間は経ってないはずだ。
 今から全力で登れば追いつける……ジャン、先導を頼む」
>「トランキルさんが言うなら大丈夫だろうな、とっとと山に行くか。
 洗脳されてんなら足跡を偽装する暇もねえ、足跡おっかけりゃすぐに追いつけるさ」

のされた見張りが吐いた情報は信ぴょう性が高いだろうということで、すぐに山に向かう。
予想した通り教団側の行軍ペースはあまり早くは無かったようで、中腹程度で追いつくことが出来た。

>「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」
>「……見覚えのあるやつは全員いる!でも父ちゃんと母ちゃん、それに出稼ぎに行ってる
 いつもの連中はいねえな……そこを狙ったのかもしれねえ」

「つまり村の中で戦える者はここにはおらぬということか――」

ジャンの両親は相当な手練れの戦士なのだろう。
ジャンの言うように普通に不在だっただけの可能性もあるが、村人にかけられた洗脳が一般人向け程度のものだとしたら
鍛錬を積んでいる者達は洗脳を免れて異常事態に気付き、事態を打開するために先に動いている、という可能性もある。

>「まだ連中は俺達の様子に気付いていないようだが……見ろ、誰か出てきたぞ」

帝国の黒騎士と矛使いらしき男が掛け合いを始める。
無駄にハイテンションな矛使いに黒騎士が淡々と突っ込むというスタイルである。
会話の中で黒騎士はアドルフ、と呼ばれた。
ユグドラシア防衛戦の最中現れ、実の妹であるパトリエーゼを葬ったという黒犬騎士アドルフで間違いないだろう。

>「"アドルフ"……?それにあのブラックオリハルコンの鎧、帝国の黒騎士か……!」
>「エーテル教団は帝国黒騎士まで抱き込んでいるのか……!?」

驚愕するスレイブに、ユグドラシア防衛線の後に学長から聞いた事の顛末を思い出しながら説明する。

「というよりアドルフが教団が帝国に一枚噛むために送り込んだ駒、というのが実態なのかもしれぬな。
そもそも黒騎士というのは一枚岩ではなくそれぞれ違う勢力がバックに付いておると言っても過言ではないようだ。
もしかしたら本当の意味での皇帝の腹心はアルバート殿ぐらいなのかもしれぬ――」
0207ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 22:04:50.62ID:D2xiIRAZ
そうこうしている間に、アルマクリスというらしい矛使いがオークの父娘を殺そうとし始めた。
ちなみにオークがあまり住んでいない地域では、オークは男性しかいないとか、
あるいは女性もいわゆるオークと聞いてイメージするオークの外見をしているから男性しかいないように見える、
等という勘違い説も流布しているがそんなことはなく、実際はやはり大柄で筋肉質ではあるが女性と分かる外見をしている。

>「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

>「――先、行くわ」

ジャンの不意打ちが成功し、ジャンが放った短剣がアルマクリスの右肩を貫く。
当然、アルマクリスは激怒するのであった。

>「はああぁぁぁぁぁ!!?誰だ短剣投げやがったクソは!?
 蛮族連中皆殺しにすっぞオラァ!」

>「俺だよ、クソ野郎」
>「ジャン・ジャック・ジャンソンだ、ようく覚えとけクソ野郎」

ジャンが姿を現し、襲い掛かってきた信徒たちを蹴散らすと、アドルフは何人かの護衛を連れて山頂へと向かっていった。

>「指環の勇者か……アルマクリス、お前は足止めをしておけ。
 私は山頂で儀式の準備に入る」

>「あんのクソ家族殺しがよぉ!偉そうに命令しやがって……
 指環の勇者サマご一行、どうせ他にもいるんだろ?鬱憤晴らしだ!
 ここでてめえら皆殺しにしてやるよぉ!!」

「そうだな、家族殺しなどという悪趣味なことをやらせるのはもっての他だ」

地面から生えてきた蔦が一斉に信徒達に巻き付き、信徒達が文字通りの吊るし上げになる。
ここは山であるため、大地の属性であるテッラの力は親和性が高い。
ざっ――と足音を立てて大地の植物の側面を顕現する竜装”ダイナストペタル”を纏ったティターニアが姿を現す。
0208ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 22:06:46.29ID:D2xiIRAZ
「呼ばれた気がしたから出てきてやったぞ。
鬱憤が溜まるのは分かるが関係無い者に当たり散らすのは頂けぬな。
一応言ってみるがそなたの嫌いなメアリもアドルフも幸い我らの敵だ――共に鬱憤を晴らす気はないか?
ちなみに教えといてやるとこちらは指輪持ちだけでもあと二人、総勢だと5人いるが――」
0209ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 22:09:14.97ID:D2xiIRAZ
一見ただのハイテンション野郎に見えるアルマクリスだが、アドルフに足止めを任されたことを考えると、相当な達人なのだろう。
メアリに対して文句を言っていた事を考えると、教団信徒ではありえない。
また、アドルフの部下に見えるが、好き好んでアドルフに仕えているわけでもなさそうだ。
たまたまアドルフの下に配属されてしまったばかりにエーテル教団にこき使われる羽目になって鬱憤を募らせている帝国騎士といったところか
この時点ではそう推測するティターニアであった。

「はァー!? バカなの!? ふざけてるの!? 誰がてめぇらに使われてやるかっつーの!!
パトリエーゼを見殺しにしたくせして何が勇者だよ!」

「そなた、パトリエーゼ殿を知っておるのか……!?」

実はこの場で最も心に闇を募らせているのは、他でもないアルマクリスであった。
アルマクリスと、シュレティンガー家の三兄弟は、旧知の仲であった。
幼いころからエーテル属性を始めとする人間離れした魔術の才能を持っていたメアリと、卓越した武術の頭角を現したアドルフ。
彼らは自分とは違う”選ばれし者”なのだ―― その圧倒的な才能に、羨望と仄かな嫉妬を抱き、
一方でそんな姉兄と比べて落ちこぼれとみなされていたパトリエーゼに共感を抱いていた。
意識してかせずか、長大な矛という武器を選んだのも、コンプレックスを隠すため。
やがて嫉妬しつつも羨望の対象だったはずのメアリやアドルフは狂っていき、しかしその時にはすでに部下という立場であったため逆らうことも出来なかった。
そして、パトリエーゼがアドルフによって殺された、しかも最大級の”選ばれし者”であるはずの指輪の勇者と共にいたにも関わらず、
彼らはパトリエーゼを守ってくれなかったと聞いた時、彼の中で決定的に何かが壊れたのだ。

「ああ、少なくともてめぇらよりはずっとよく知ってるわ!!」

アルマクリスが矛を一閃すると、その怒りを体現するように、矛が燃え盛る炎を纏う。
単に長大な矛を振り回すだけではなく、付与魔術の心得もあるらしい。
前線では炎の矛とジャンの水の大斧が激突し、矛が振るわれる度にその余波の炎が全方位に飛ぶ。
余波といっても、その一発一発が火炎級の魔術もかくやと思われるほどの威力だ。
植物属性では分が悪いと思ったティターニアは、竜装を切り替え応戦する。

「――ストーンガード」

味方全員に防御力強化と炎耐性付与の魔術をかける。
緑を基調とした装いから一転、金色にも見える黄土色を基調としたその姿は“クエイクアポストル”――テッラの大地の堅牢そのものを体現する形態だ。
しばらく拮抗状態が続いていたかと思われたが――
アルマクリスが「埒があかねぇな」のような事を呟いたかと思うと、突如姿を消した、
ように見えた。実際には一瞬にして空高くジャンプしたのだ。
狙われたら最後。天空から自由落下を超える速度で舞い降り、相手は貫かれたと認識する間すら無く貫かれて絶命する――
それこそが彼の二つ名、”天戟”の所以。相変わらず姿は見えないが、上の方から声が聞こえてきた。

「まずは指輪も持ってない雑魚から片付けるぜぇ!!」

「シノノメ殿!」

事前にターゲットを教えてくれたのが不幸中の幸いとばかりに、とっさにシノノメにプロテクションをかけるティターニアだが、防ぎきれるかは分からない。
また、実はその言葉はターゲットをシノノメに見せかけるためのフェイクで実際には他の者がターゲットである可能性もあるだろう。
0210シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:21:18.74ID:XO2hQVfk
>「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」

山道を登り出してから暫く、私達は前方に大勢のオークが成す集団を見つけました。
スレイブ様が緊迫した声音でジャン様に尋ねます。

>「……見覚えのあるやつは全員いる!でも父ちゃんと母ちゃん、それに出稼ぎに行ってる
  いつもの連中はいねえな……そこを狙ったのかもしれねえ」
 
「……良かった」

私がほっと胸を撫で下ろしていると……集団の先頭から何か声が聞こえてきます。
苛立ちに任せた怒鳴り声……のような。

>「おうアドルフ!お前からもなんか言ってやれよこの鈍亀蛮族どもに!
 早くしねえとお前のお姉ちゃんからまた嫌味言われるだろが!あのクソ真っ黒ババア、虚無に呑まれて死ねばいいのに!」
>「こいつぁたまげたな、黒騎士様までいらっしゃるときたもんだ。
  ……帝国も一枚噛んでやがるのか?」

「伝説の指環が実在して、それを集めるとするならば……黒騎士一人でも少ないくらいですしね」

いえ、それよりも……なんだか雰囲気が剣呑です。
お年寄りの方を集団から引っ張り出して、一体何をするつもり……

>「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

>「――先、行くわ」

「……お譲りします」

あのような輩に裁きを下すのは執行官の使命……ですが。
ジャン様は、私がお仕事の為に雇った冒険者。
だからこれは別に私情を優先した訳じゃない……なんて、一体誰に言い訳してるんでしょうか、私は。
本当はただ……私の仕事ですなんて、言えなかっただけなのに。

>「指環の勇者か……アルマクリス、お前は足止めをしておけ。
  私は山頂で儀式の準備に入る」

黒騎士は……どうやら矛使いの、アルマクリスでしたか、彼の援護はしないようです。
村人達を置いていくという事は、足止めの為の捨て駒という訳でもないのでしょう。
彼が指環の勇者と知っていながら……なおもたった一人にこの場を任せるなんて……。

>「あんのクソ家族殺しがよぉ!偉そうに命令しやがって……
  指環の勇者サマご一行、どうせ他にもいるんだろ?鬱憤晴らしだ!
  ここでてめえら皆殺しにしてやるよぉ!!」

やっぱり……言動こそ粗野なものの、放たれる槍技の冴えは、思わず背筋が凍るほど。
帝国……このダーマにおいては軟弱な純人が数の利に任せて支配する後進国と、
そのような風評ばかりが謳われていますが……あの男は物凄く、出来る。

>「そうだな、家族殺しなどという悪趣味なことをやらせるのはもっての他だ」

ティターニア様もそれを察したのでしょう。
ジャン様に続いて彼の前へと出ていきます。

>「呼ばれた気がしたから出てきてやったぞ。
  鬱憤が溜まるのは分かるが関係無い者に当たり散らすのは頂けぬな。
  一応言ってみるがそなたの嫌いなメアリもアドルフも幸い我らの敵だ――共に鬱憤を晴らす気はないか?
  ちなみに教えといてやるとこちらは指輪持ちだけでもあと二人、総勢だと5人いるが――」
0211シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:21:35.57ID:XO2hQVfk
……説得、出来るのでしょうか。
見ていた限りでは確かに一枚岩ではない様子でしたが。
かくして彼、アルマクリスの返答は……言葉ではなく、閃光。
ジャン様めがけ繰り出された、閃きと見紛うような刺突。
それが彼の答えでした。

>「はァー!? バカなの!? ふざけてるの!? 誰がてめぇらに使われてやるかっつーの!!
 パトリエーゼを見殺しにしたくせして何が勇者だよ!」
0212シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:21:53.64ID:XO2hQVfk
パトリエーゼ……?誰かの、お名前でしょうか。
私が彼らと出会う前の、彼らの冒険の中で、関わった方の?
……そして、見殺しにした、と言うのは。

>「そなた、パトリエーゼ殿を知っておるのか……!?」
 「ああ、少なくともてめぇらよりはずっとよく知ってるわ!!」

言葉通りの意味だとは思いません。
だけど……いくら指環の勇者と言えども、その手で全ての人を救える訳じゃなかった。
きっと、そういう事……。

……いえ、やめましょう。
いつもこういう事を考えているから、私はろくに執行官の職務をこなせない。
目の前の出来事に、ただの現象に、集中しないと。

矛が振るわれる度に迸る火炎が無差別に暴れ狂う。
自分へと迫り来るそれを、私は右手に生み出したショートソードで切り払う。
正しくは……剣では炎は切れない。だけどそれが伝う空気は、切り裂ける。
だけど……

「これでは、オーカゼ村の皆さんまでは……!」

彼らにこの炎から自分の身を守る術があると考えるのは、あまりに浅慮です。
ここは、私は守りに徹するべきか……。
……でも、守り切れるのでしょうか。
目の前の、一つの命を痛めつけ、奪う為の方法。それしか教わってきていない私に。

違う……そんな事考えたって何にもならないのに。
本当はただ、無我夢中にならなきゃいけないのに。
なんで私は、こんな事ばかり考えて……いつもそうだ。処刑台の上でも。
目の前で起きている事に、目の前にいる人達に……真摯に、なれない……。

「……守りは、わたくしが引き受けますの」

……不意に背後から感じた、強烈な熱気。
振り返ればそこには……城塞がそびえ立っていた。
一瞬、そんな錯覚さえ覚えるような……あれは、炎を纏った……巨大な百足?
そしてその炎が、襲い来る炎を薙ぎ払う……指環の力とは、凄まじいものですね。

これで守りの不安要素はなくなった……。
ですがそれでもなお、戦況は拮抗したまま。
ジャン様の斧は、振り下ろすならば瀑布の如く、振り上げるならば波浪のように。
凄まじい暴威を示しています。
だけどアルマクリスはジャン様の攻撃の出だしを見極め、突きを繰り出すそれを見事に凌いでいる。
囲まれないよう常に動き回りながら、あれほど精密に、素早い槍捌きが成し得るなんて。
攻防一体。言葉にしてしまうのは簡単ですが……生半可な鍛錬で至れる技量ではありません。

>「埒があかねぇな」

……これほどの戦いぶりを見せておいて、まだ、不満があるのですか?
私が目を見張った、その瞬間……彼の姿が視界から消えました。
いえ、辛うじてどちらに動いたのかは追えましたが……

「上です!」

あの一瞬で、殆ど力を溜める素振りも見せずにあれほどの跳躍を……。

>「まずは指輪も持ってない雑魚から片付けるぜぇ!!」
 「シノノメ殿!」
0213シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:22:17.96ID:XO2hQVfk
……狙いは、私……ですか?それは……なんとも……

「……困った事に、なりました」

なんて呟く私は、自分でも分かるくらいはっきりと、笑みを浮かべていて。
こんなはしたない事、本当は駄目なのに。
執行官の仕事をしている時こそ、こんな風に笑わなきゃ、いけないのに。

「おいおいどうした!足止めちまって、ビビってんのかァ!?
 それなら……そのまま、喰らいやがれ!!」

……あんなに凄い矛の使い手と、刃を交える事が、楽しみで仕方がない。
0214シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:23:19.09ID:XO2hQVfk
超高速で降下してくるアルマクリスが見えます。加速によって赤熱した矛が。
……どう、対応しましょうか。
防御は困難。躱して包囲するように動いても……彼にとって上空が逃げ場になり得る以上、確かに「埒が明かない」。

「『天』」

だから私は右手のショートソードを、弓を引き絞るように振り被る。
そしてアルマクリスを迎え撃つ形で突きを放った。

「『げ』……」

より正確には……彼が構える矛、その切っ先に剣の腹を当て。

「き……って」

肘と膝の脱力で落下の勢いを殺し……矛先を地面の方向へといなす。

「おいおいマジかよ。半端ねえな。思わず素に戻っちまうぜ」

……そうする事で、一切の破壊を伴わずに、彼は再びその両足を地面に着けた。

「……あなたの、一番派手な技は、確かに見せてもらいました。
 次は……一番練習した技で向かってくる事を……お勧めします」

そう口走ってから……私はまた、顔が明るみを帯びるのを感じました。
ち、違うんです。私、舞い上がってる訳じゃなくて……ええと……
こういう時、どんな風に振る舞えばいいのか分からないから……憧れが、出てきちゃうんです。

……私の言葉に、アルマクリスは一瞬、面食らったように目を見開く。

「おいおいおい、なんだそりゃ!確かにさっきのはわりと驚いたけどよ!」

けれどすぐに……その表情は、業火のような敵意を宿したものに変わります。

「でもぶっちゃけお前、ただガードしただけじゃん!なに上から目線かましてくれてんの!?
 ……いや、でもそれは舐められちまった俺が悪いか!
 分かった分かった!次は二度とそんな口が利けねーようにしてやるよ!」

瞬間、周囲に響く爆音。
見れば私とアルマクリスを取り囲むように、爆炎の柱が地面から迸っていました。
……先ほどから矛先が地面に刺されたままだった事に、気を配るべきでした。

「んじゃ、サクッと終わらせっか!」

……ジャン様達が、あの火柱を取り除くまでの間に、私を仕留める、と?
私は武人ではありませんから、そのように低く見られたって構いませんが……。
彼は指環の勇者一行を相手に、互角の立ち回りをしてみせた。
ならば今度も……私を倒せると、確信した上でああ言っている、はず。
だけど……一体どうやって?

縦横無尽に迫り来る矛は鋭く力強い。
でも眼で追えている。全ていなし、逸らし、弾いている。その上で余裕もある。
油断するつもりはありませんが……私が負けるとも、思えない。
得体の知れない自信に不安を覚えながらも、私は剣を振るう。
殺すのは……したくない。だから急所を外して浅い傷を負わせていく。
出血で動けなくなってくれれば……そんな事を、思っていたら。
不意にアルマクリスが膝を深く曲げた。
いや……フェイントだ。飛び込んでくる訳がない。
だって私はまさに今、剣を突き出している最中で。
そんな事をすれば自分から刃に刺さりに来る事に、
0215シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:24:07.03ID:XO2hQVfk
「――『天戟』」

……炎が爆ぜ、鮮血が飛び散った。
爆炎を推力にアルマクリスが飛び込んできて、私の剣が彼の胸に突き刺さったからだ。
ぱきんと硬質な音が響く。ティターニア様に付与された防御魔法が砕かれた音だ。
もしそれがなかったら、私は矛に貫かれていた。もう次は防いでもらえない。
なのに……私の意識は戦いに集中出来なくなっていた。

なんで、なんでそんな事が出来るんですか。
心臓は外れていたけど、そんなのたまたまです。
死ぬのが、怖くないんですか。
0216シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:24:46.61ID:XO2hQVfk
なんで、なんでそんな事が出来るんですか。
心臓は外れていたけど、そんなのたまたまです。
死ぬのが、怖くないんですか。

「なっ……」

私は動揺を禁じ得なくて……それは私の『マリオネット』の動作を阻害する。
次の瞬間、私の視界が激しく揺れた。
矛の柄で殴られたんだ。叩き付けられる殺気。見えなくても分かる。このままじゃとどめを刺される。

甲高い金属音……襲いかかる矛先を、ショートソードが弾いた。
マリオネットによる自動迎撃だ。
……だけどマリオネットは、私が思い描いた通りの動きをする為の補助魔法。
魔力を介した身体操作を行う事で、反射的な行動の速度も上がるけど。
つまり……目に映っていない攻撃を、正確に防ぐ事が出来るようになる訳じゃない。

「う、あ……」

弾いた矛の刃が、私の脇腹を引き裂いていた。
傷口から、大量の魔素が溢れ出る。
体から力が抜ける。体勢が崩れ……アルマクリスの追撃は更に続く。
五月雨のような刺突。軌跡は見える……剣を合わせる事は出来る。
だけど……力が入らない。十分に軌道を変えられない。
でも……おかしい……なんで……。

「なんで、その深手で、こんな……」

こんなにも凄まじい攻めを、繰り出す事が出来る……。

「気合。つーか別にこんなもん深手でもなんでもねーけどな!」

……事も無げに返ってきたのは、荒唐無稽で、しかし間違いなく、正確な答えでした。
短剣に腕の筋を断たれ、胸部を深く切り裂かれ、それでもまるで衰えない動き。
この世のあらゆる戦場に、魔術師だけが溢れ返っていない理由……。
己が肉体に頼みを置いて戦う者達の……理不尽な精神力。

……私には、無い力。
押し切られる。矛の柄が横薙ぎに、私の腹に叩き込まれる。
踏み留まれ……ない……。

「はいこれにて決着!格付け終了!俺様が本気出しゃてめえなんてこんなもんなの!
 さ、て、と、そんじゃアイツらが来る前に可及的速やかに遺言をどーぞ!とびきり気まずくなる感じの奴頼むわ!なっ!」

アルマクリスが得物の矛先を、倒れた私の胸の上に置く。

「何黙ってんだよ今すぐ死にてえか。……あ、もしかして今考え中?
 なんだよだったらそう言えよ!しょーがねーなー!
 俺様が面白トークで間を持たせてやっから早めにお願いね!」

そしてそのままジャン様達へと振り返った。
それは……私に対する油断を意味してはいない。
もし私が新たに武器を作り出せば、目もくれないままでも、彼は私を殺められるのでしょう。

「……いや、やっぱやめたわ。もっとスカッとするやり方思いついちまった」

……彼は何を、言っているのでしょう。

「おいてめえら。今すぐその指環を寄越して俺様の前に跪きな。
 勿論その後俺様はてめえらを殺す。一人ずつ、散々甚振ってからぶっ殺す。
 全員死んだら……コイツだけは助けてやんよ」
0217シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:25:02.89ID:XO2hQVfk
「何を……馬鹿な……そんな事、信じられる訳……」

「そーだよなぁ。信じらんねーよなぁ。あ、別に嫌なら無理に従わなくたっていいんだぜ。
 ……つーか、従うわきゃねーよな!だから可哀想に!てめえはここで見殺しって訳だ!
 なぁそうだろ指環の勇者様よ!見殺しにすんだろ!?いやしろよ!パトリエーゼん時みてーによぉ!」

また、その名前……一体、何があって……彼は、こんな……。

「ほら言えよ!指環は手放せないし殺されたくないから死んで下さいってよ!」

いや、違う。そんな事を考えてる場合じゃない。
私は、まだ、殺されたくもないし……彼らにそんな事を、言わせる訳にもいかない……。
0218シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:26:24.80ID:XO2hQVfk
……アルマクリスの足元から、不意に刃が生えた。
地中を通して移動させた、私の指先から伸びた刃が。
狙いは首筋。今度は、避けざるを得な……

「あーあー!早くしねーからコイツが気を使って味な真似してくれちゃったじゃん!」

アルマクリスの矛が、私の胸を貫いていた。
同時に私の刃も、アルマクリスの首筋を切り裂く。
そして直後に彼は、左手で傷口を抑え……肉の焼ける音と臭い。

「せっこいよなぁそう言うの!かーっ!俺らのせいじゃありませーんって……」

「……げほっ……はぁ……はっ……」

「はぁー!?なんで生きてんのお前!意味分かんねえんだけど!」

……大抵の魔族は、純人種よりもずっと頑丈ですからね。
ナイトドレッサーは身体のどの部位を欠損しても再生が可能です。
体内の魔素が尽きない限りは……ですが、そんな事よりも。

「理解が出来ないのは……私の方……です……。
 あなたは……死ぬ事が、怖くないんですか……」

魔族じゃない、ただの人間の身で、なんであんな戦い方が出来るのか……私には理解出来ません。
私は……今まで、多くのヒトを、魔族を、殺してきました。
だけどこれほどまでに……死を恐れない人を、見た事がありません。

……突き立てられた矛が、赤く染まっていく。
炎の付与魔術……それが何を意味しているかはすぐに分かった。
私を、体内から……焼き尽くすつもりなんだ……。
……怖い。嫌だ。死にたくない。私の心を、暗い感情が埋め尽くしていく。

「……あぁ、ぜーんぜん怖かねえよ。俺にはなんもねえんだからよ。
 だからてめえらも、全部失くしてから死ねや」

……だけどその言葉が聞こえた瞬間、それらがふっと消えていくのを、私は感じました。
だって私は……ジャン様の、スレイブ様の邪魔をする事だけは、したくない。
彼らの冒険の負い目になりたくない。

それに……この人が、こんなにも空虚な声で話をするのも……なんだか、嫌です。
話が聞きたくない訳じゃなくて、むしろ逆で……上手く言葉に、出来ないけど、とにかく嫌なんです。

この気持ちを、失くしたくない。
抱えたまま死んでしまいたくない。
これはきっと……私が変わる為に必要だったものだから。
だから……

「さて、そろそろ決めてくれや!もう半分見殺しにしてるようなもんだけどよ!
 ちゃんとてめえらの言葉で聞きてえんだよなぁ俺ぁ!
 さぁどうするよ!指環を寄越して死ぬか!このアマ見殺しにして生き延びるか!さっさと決めやがれ!」

矛の刺さった傷口から魔素が漏れ続けてて……声は、出せないけど。
彼らの方を、じっと見つめる事しか出来ないけど。
それでも、お願いです。気付いて下さい。

……助けて、下さい。
0219創る名無しに見る名無し
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2017/11/15(水) 14:15:34.54ID:m1E9nLei
シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI

>「はぁー!?なんで生きてんのお前!意味分かんねえんだけど!」

これそのままお前に言いてーわ
なんで生きてんのお前
0223スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/11/21(火) 20:22:17.96ID:VGKZcgVv
地に伏せるシノノメの生殺与奪を握り、アルマクリスは一方的な二者択一を叩き付ける。
焼け焦げた首筋の傷に、ジャンの短剣が作った肩口の出血、悠長な態度とは裏腹に彼自身にも時間がなかった。

「返答まだ!?ああもうイライラするなぁ、おっせーんだよどいつもこいつも!
 俺も忙しいんだからこんなとこでウジウジ悩んでんじゃねーよ。制限時間つけりゃ良かったな。
 じゃああと5秒以内に答えてね?ごー、よん、さん、にー……」

瞬間、アルマクリスの背後の虚空から刃が出現し、彼の右肩目掛けて一閃を放った。

「はい残念」

アルマクリスはそれを顧みることさえせずに上体を曲げて躱した。
空を切った剣が擦過していくさなか、空気に張った"膜"が剥がれて刃の主が姿を現す。

「く……!」

スレイブだ。風属性魔法の一つ、大気を捻じ曲げて姿を覆い隠す『ステルス』を用いた背後からの奇襲。
視覚に加え足音、匂い、気配すら断って接近したにも関わらず、不意打ちはアルマクリスを捉えられない。

「ほんのちょびっとだけ殺気漏れてんだよなぁ。なに?おこなの?このクソ魔族ザクザク刺されて激おこなの?
 だったらさぁ!そういう薄っぺらい仲間意識をさぁ!……なんでパトリエーゼにも持ってやらなかったんだ、テメェらは!!」

アルマクリスは犬歯を剥き出しにして吠える。シノノメの肉体から抜き、呼応するように振るった矛が爆炎を纏う。
スレイブもまた歯噛みしながらそれを受け、捌き、隙を見つけては刃を叩き込むが、有効打を為し得ない。

「あ、やべ。矛抜いちゃった。魔族ちゃんそこ動くなよ、こいつ片したらもっかい刺し直すから!」

「させるか」

スレイブはアルマクリスがシノノメに背を向けるように立ち位置を調整しつつ断続的に剣を振るう。
さらに、攻撃対象が自分に向くよう挑発の言葉を発した。

「お前は助けなかったのか?……その、パトリエーゼという人を」

「ああ?なに人のせいにしてんの?俺そのとき帝国で別任務中だったんだけど?近くにいた奴が助けろよ。
 かーっ!俺があんときユグドラシアにいたらなーっ!お前らみたいに見殺しにするこたぁなかったんだけどなーっ!」

戯言を垂れ続けるアルマクリスを黙らすべくスレイブは鋭く踏み込み、銀の尾を引く刺突を放つ。
アルマクリスは矛の柄でそれを受け流し、返答とばかりに石突で薙いだ。
バックラーで受け止め、矛の下に潜り込むように身体を滑らせたスレイブが、股から上を断つ軌道で剣をかち上げる。

「うーん……ゴミ!あの魔族ちゃんの方が歯応えあったわ」

足捌きだけで重心を逸らし、剣の軌道から脱したアルマクリスが、間断なく引き戻した矛を唐竹割りに振るった。
咄嗟に受け止めたスレイブの足が地面に若干沈み込む。元々の膂力に加え、背丈と遠心力が矛を打ち下ろす威力を底上げしている。

「これほどの力があって……っ!何故黒犬騎士に従い続けている?あいつはお前にとっても仇じゃないのか!?」

ティターニアから掻い摘んで聞いた話では、件のパトリエーゼとやらを殺したのは黒犬騎士アドルフだったと言う。
にも関わらず、パトリエーゼを悼むアルマクリスは、その仇を恨む様子もなく馴れ合っていた。
スレイブにはそれが理解できない。

「ダーマの野蛮人どもはおっくれてんなぁ!先進国の文明人サマが一つ常識を教えてやるよ、謹聴しとけ?
 ――復讐は何も生まないんだぜ」

「知っている……!!」

「あっそ。あといい加減お前の相手飽きたわ。急所外そうとしてんのバレバレなんだよ」
0224スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/11/21(火) 20:22:43.92ID:VGKZcgVv
瞬間、スレイブのバックラーが大きく跳ね上がった。
矛ではない。アルマクリスの高身長を支える長くしなやかな脚が、強烈な蹴撃で盾を吹き飛ばした。
まずい、と感じた時には既に、蹴り上げた脚を踏み込みに変えた矛の一閃が、スレイブの胴を捉えていた。
叩き込まれた矛が慣性の全てをスレイブの身体に伝達し、彼は周囲を覆う炎の壁を突き抜けて外へと放り出された。
アルマクリスは引き戻した矛に血が付いていないのを確認して舌打ちする。

「まーた防御魔法かよ、めんどくせぇなあ!ヘボ剣士は急所狙ってこねぇし、命のやり取りにビビってんじゃねえよ。
 死ぬのも殺すのも嫌だっつんならそういう趣味の人達とだけ仲良くペチペチ殴り合ってれば?
 俺はここに人を殺しに来てんの!お前らのそーいう意味不明なこだわりに俺を巻き込むなよ!」

アルマクリスは肩口の血を親指で拭い、それを舐めて口端を歪めた。

「でもそこのオークと魔族は良い感じだわ。ちゃんと殺しに来てくれるからこっちも殺りがいがあるね!
 特にお前、オーク、ジャンだっけ?その水の大斧、殺意がビンビン来て凄く良いよ!俺テンション上がっちゃうわ。
 これ直撃食らったら死ぬだろうなぁ。下手に受けても手足吹っ飛びそうだなぁ。血ィ止まんねえし、俺ここで死ぬのかなぁ」

身体が震えるのは失血のせいだろうが、アルマクリスはこれを武者震いに変える。
双眸はぎらつき、口端はつり上がって犬歯が剥き出しになっていた。
彼は――笑っていた。獰猛で、快活な笑みだ。

「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
 何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
 俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

それは、パトリエーゼの死を境に彼が見出した価値観だった。
生まれながらに何も持たない者も、努力で何かを得られなかった者も、死だけは必ず訪れる。
避け得ないものであるならば、せめてそれを享楽として受け入れよう。パトリエーゼの亡骸を前に、彼はそう決めた。

「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
 お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
 ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

アルマクリスの身体から異様な熱気が発せられ、焦げた血糊が煙と化して立ち上る。
『インシネレイト』。肉体のリミッターを意図的に外し、体温を上げ、負担を度外視して身体能力を発揮する戦士のスキルだ。
ジャンとシノノメによって深手を負わされた今の彼が用いれば、文字通り命を削ることにも成りかねない諸刃の剣。
心臓を始めとした臓器の各部に激痛が奔っているはずだが、アルマクリスは笑顔を絶やさない。

「おら、ノリが悪ぃぞ蛮族共!いつまで転がってんの?地面おいしい?後で好きなだけ舐めさせてやっから立てよ今すぐ!
 これから始まる超絶楽しいパーティに乗り遅れたくなかったら……立ち止まるんじゃねえぞ!!」

刹那、陽炎の尾を引いてアルマクリスは一つの砲弾と化した。
踏み抜いた地面の小石さえも蒸発するほどの熱を纏って、ジャン目掛けて矢の如く吶喊する。
それは言わば、『天戟』の跳躍を水平に敢行する動きであった。


【パトリエーゼの件でぐちぐち陰湿に責めながらテンション爆上げで吶喊。このターンで決着希望】
【遅くなってすみません!】
0226創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/23(木) 17:52:42.20ID:4UH3fNZA
カスレイブはガイジだからね
レスが遅い癖に大した文章でもないから救いようがない
0227ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/11/24(金) 21:24:31.16ID:2WMAGVTC
>「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
 何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
 俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

「……ありがとな、みんな。
 時間稼いでくれたおかげでみんなは村に帰せたぜ」

アルマクリスとの激しい打ち合いから一転、彼が空高く飛び上った瞬間
ジャンは真っ先に村人たちの元へ向かい急降下による一撃を防ごうとした。

それはトランキル狙いの一撃だったが、ジャンは他の三人と目線を交わし、頷いたかと思うと
一旦村人たちを村へ誘導するべく走り出したのだ。

「みんな!儀式は一旦中止だから村に帰れってよ!」

村人たちが状況の変化についていけていないところに、ジャンが大声で呼びかける。

「し、しかしアドルフ様は……」

「教団の人たちを殴るなんて!ジャンったら何考えてるんだい!」

(埒があかねえな!洗脳ってやつはこれだから……こうなりゃこうだ!)

「みんなちょっとこっちを向いてくれ……ウオオアアアアァァァァァ!!!!」

指環の魔力によって増幅され、竜の咆哮にも等しいウォークライが村人たちに浴びせられる。
鼓膜が破けんばかりの大音量だが、増幅されたことの意味はそれだけではない。

「……あれ?なんでこんなところにいるんだ?」

「お前見張りはどうした?弓も持ってないが」

「ジャールおじさんだって鍛冶ほっぽりだして何してるんだい」

どこか虚ろな表情をしていた村人たちが、憑き物が落ちたかのように騒ぎ出す。
最初の魔術とも言うべき指環の力をウォークライに乗せることで、他の魔術を打ち消したのだ。

「みんなこんなところにいないで、早く村に帰ろうぜ!」

「お、おう……そうだな。ジャンも後で顔を見せてくれよ」

そうして村人がぞろぞろと山道を降りていく中、陽炎となって幻影を見せていた炎の壁が姿を現す。

「……ジャン様、もうよろしいんですの?」

「ああ、ありがとなフィリア。
 ……アルマクリス!時間稼ぎはおしめえだ!」

ゆらめく炎の壁を通り抜け、吹っ飛んできたスレイブを受け止める。
見た目に怪我はないが、受け止めたときの衝撃からして矛の柄で打ち抜かれたか。

「ありがとな、スレイブ。トランキル!お前も下がって――」
0228ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/11/24(金) 21:25:01.29ID:2WMAGVTC
炎によって囲まれた闘いの場、そこに入った瞬間ジャンが見た光景は壮絶なものだった。
胸から魔素が噴き出し、仰向けに倒れ込んだトランキル。
額に脂汗を滲ませ距離を取るティターニア。そして中央に立って哄笑と共にこちらを見るアルマクリス。

>「でもそこのオークと魔族は良い感じだわ。ちゃんと殺しに来てくれるからこっちも殺りがいがあるね!
 特にお前、オーク、ジャンだっけ?その水の大斧、殺意がビンビン来て凄く良いよ!俺テンション上がっちゃうわ。
 これ直撃食らったら死ぬだろうなぁ。下手に受けても手足吹っ飛びそうだなぁ。血ィ止まんねえし、俺ここで死ぬのかなぁ」

「……喋るんじゃねえ」

ジャンが大斧を肩に担ぐように構え、一歩近づく。
アルマクリスも矛の先を下段に置き、構えて一歩近づく。

>「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
 何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
 俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

「……喋るなって言っただろ」

お互いに二歩、近づいた。

>「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
 お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
 ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

「……てめえのそれは――」

>「おら、ノリが悪ぃぞ蛮族共!いつまで転がってんの?地面おいしい?後で好きなだけ舐めさせてやっから立てよ今すぐ!
 これから始まる超絶楽しいパーティに乗り遅れたくなかったら……立ち止まるんじゃねえぞ!!」

「ただの八つ当たりだアアッッッ!!!!」

アルマクリスが残像すら見えるほど早く、常人には消えたとしか思えないほどの速度でジャンに突撃する。
それに合わせるようにジャンもウォークライを放ち、だが斧は振り下ろさなかった。

増幅されたウォークライによって地面を抉るような衝撃波が放たれ、それに突っ込んだアルマクリスは
衝撃波を丸ごと浴びる形となった。しかしアルマクリスも矛の達人である以上その軌道はわずかにしかぶれることはなく、
速度はほとんど死ぬことなく吶喊は続く。

「「――ウォラアアァァ!!!」」

どちらも雄叫びを挙げる中、アルマクリスはそのわずかな減衰が命取りとなった。
ジャンは竜装によって強化された動体視力でアルマクリスの挙動を捉え、かすかに体を動かしたのだ。
突き出された矛がジャンの脇腹を掠めていき、胸当てと擦れて火花が散る中、その長大な柄をジャンは掴みとった。

掴んだとは言ってもその凄まじい速度は健在であり、ジャンも矛の柄を掴んだまま一緒に後方へと飛ばされていく。
矛から放たれる熱と、指環から放たれる水流がぶつかり激しい水蒸気となって辺りに舞う中、やがて二人の動きは止まる。

「……てめえの手品はそれでおしまいか」

ジャンは全身に火傷を負い、矛の柄を掴んだ手は感覚が感じられないほど酷い火傷を負っていた。
それでもなお立ち続けられるのは、水の指環が放つ水流の加護によるものだ。
0230ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/24(金) 21:27:11.94ID:2WMAGVTC
「ゴホッ……まだ終わってねえぞクソオーク!
 これから俺の逆転勝ちが……決まるんだ……なあ……パトリエーゼ……」

一方アルマクリスは口から血を吐き、充血しきった目と全身から立ち上る湯気が
身体が限界であることを伝えている。

こちらも立ってはいるが、ジャンが掴んだ矛の柄によりかかるようにしてようやく立っているような状況だ。

「お前の……その指環があれば……パトリエーゼ……パトラを……」

ふらりと伸ばした手はジャンの指環にはほど遠く、何もない場所を掴んだ。
それと同時にアルマクリスは地に膝をつき、そのままぐらりと倒れていく。

「……とことん身勝手な野郎だ」

ジャンがアルマクリスの顔に近づき、耳を近づけてみるとなんと息があった。
どうやら見た目よりもはるかに頑丈な身体だったらしい、オーク族でもここまで頑強な者はそうそういないだろう。

「ティターニア、こいつの手当頼むぜ。
 村の人たちを殺そうとしたのは許せねえが、こいつは立派に戦った」

そう言ってジャンは手近な石に腰かけ、アルマクリスの横に倒れていた矛を持ち上げてみる。

「……こいつは……なかなかいい重さだ。
 隕鉄とミスリルの合金か。勝利者の特権だ、戦利品としてもらってくぜ」

そう言って矛を火傷が酷くない方の手で担ぎ、立ち上がる。
指環の魔力で武器を作るのは容易だが、維持しつづけるには魔力を使うため
あまり使いたくないというのがジャンの考えだ。

だが、強者ぞろいであろう教団に殴り込むにあたって、街の武器屋で売られているような
量産品では心もとない。バターにナイフを入れるがごとく折られるだろう。
かと言って聖短剣サクラメント一本では戦えるわけもなく、仕方なく指環で武器を作っていたのだが、
この矛はまさにぴったりだった。ジャンにはちょうどいい長さと重さであり、魔力の伝導率が高いミスリルも含まれ指環を活かしやすい。

「さてと……みんな大丈夫か?怪我が酷いなら一旦休むけどよ」
0231ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/24(金) 21:28:19.69ID:2WMAGVTC
―――同時刻、チェムノタ山の山頂。
年老いた龍に相談するために、時折オーカゼ村の村人がやってくる場所だ。
山頂と言っても龍が眠る大きなほら穴が、広場に一つ置かれているだけだが。

そしてその年老いた龍は今、帝国の最高戦力たる黒犬騎士、そしてその護衛たちと対峙していた。

『なんじゃあ、この年寄りに何の用じゃ』

「とぼけるな。お前が暗黒龍ニーズヘグであることは分かっている。
 闇の指環を渡してもらおうか、儀式によって目覚めさせた後、正当なる後継者にお渡しせねばならん」

アドルフの脅しめいた要求に、龍はその大きな身体を小刻みに震わせてくつくつと笑った。
その振動で顔に生えてからすっかり色が落ちた髭が二、三本抜け落ち、古くなった鱗も体から剥がれていく。

『正当なる後継者とは面白いことを言う。闇の指環が何を元にして作られたか知っておるのかな?』

「……謎かけか?ヒトの負の感情をかき集めて作られた、光の指環の作りと対を成す指環の一つだろう」

『その通りじゃ。怒り憎しみ悲しみ……そういったものを四属性の指環と同じように集めて作り上げたものじゃな。
 だが炎水風土の四属性とは違い、光と闇は自然からではなくヒト、すなわち人間、魔族、エルフ、ドワーフ、
 その他諸々の知恵を持った種族からできている』

「時間がない、手早く言ってくれ。
 こちらとしては闇の指環がもらえればそれでいい」

『では言ってやろう。光と闇の指環は一つではない、無数に存在する。
 ヒトの感情が無数であるようにな』

「……気が変わった。興味深い話だ、そのまま続けろ」

こうして指環の勇者たちが山頂にたどり着くまでの間、年老いた龍は語り始める。
隠された二つの指環の真実と、その真の能力を。
0232ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:36:42.85ID:dVbgDx/p
果たして――シノノメは見事アルマクリスの初撃をしのいでみせた。
それがアルマクリスの闘志に火を付けてしまったらしく、燃え盛る爆炎の壁が二人と周囲を阻む。
ティターニアが水魔法でそれを払うのには、幾何もかからなかったはずだ。
その短い間に何が起こったのか――
視界が開けた時、目に飛び込んできたのは、矛を突きつけられたシノノメの姿だった。

>「おいてめえら。今すぐその指環を寄越して俺様の前に跪きな。
 勿論その後俺様はてめえらを殺す。一人ずつ、散々甚振ってからぶっ殺す。
 全員死んだら……コイツだけは助けてやんよ」

衝撃的な光景だが、状況は見た目ほどは絶望的ではないと分析するティターニア。
魔族と人間では基礎スペックが根本的に違う。
アルマクリスの悪趣味さが結果的にこちらに幸いしているというべきか、
このままもう少しだけ引き延ばして時間稼ぎをすれば、先に倒れるのはアルマクリスの方だ。
逆に下手に刺激を与えれば、このままとどめを刺してしまう危険性がある。
そこで、敢えて答えを返さずに、相手が喋るに任せておく。
しかし――シノノメが抵抗を試み、互いが互いに更なる深手を負わせた。

>「あーあー!早くしねーからコイツが気を使って味な真似してくれちゃったじゃん!」

シノノメの生命力がいかに魔族といえどどこまで持つか分からず、アルマクリスも焦り始めて何をするか分からない。状況は一刻を争う。
シノノメが息も絶え絶えに問いかける。

>「理解が出来ないのは……私の方……です……。
 あなたは……死ぬ事が、怖くないんですか……」
>「……あぁ、ぜーんぜん怖かねえよ。俺にはなんもねえんだからよ。
 だからてめえらも、全部失くしてから死ねや」

何もない――それすなわち虚無。
虚無の勢力にとって洗脳する手間すらいらない忠実な手駒、ということだろうか。
散々主であるはずのメアリの悪口を垂れながら、その実は決して逆らわないこの上なく便利な手駒なのかもしれない。

>「さて、そろそろ決めてくれや!もう半分見殺しにしてるようなもんだけどよ!
 ちゃんとてめえらの言葉で聞きてえんだよなぁ俺ぁ!
 さぁどうするよ!指環を寄越して死ぬか!このアマ見殺しにして生き延びるか!さっさと決めやがれ!」

シノノメが、目線で確かに訴えかける。助けて――と。それは、普通の意味ともう一つ。
この人を助けてあげて――そう言っているようにも感じられた。
スレイブと無言の目くばせを交わし、密かに詠唱無し版のフル・ポテンシャルをかける。
0233ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:38:44.58ID:dVbgDx/p
>「返答まだ!?ああもうイライラするなぁ、おっせーんだよどいつもこいつも!
 俺も忙しいんだからこんなとこでウジウジ悩んでんじゃねーよ。制限時間つけりゃ良かったな。
 じゃああと5秒以内に答えてね?ごー、よん、さん、にー……」

スレイブは見事期待に応え、これ以上無いほどのベストなタイミングで奇襲をかける。
しかし、アルマクリスはそれをあっさりとかわしてみせた。

>「はい残念」
>「ほんのちょびっとだけ殺気漏れてんだよなぁ。なに?おこなの?このクソ魔族ザクザク刺されて激おこなの?
 だったらさぁ!そういう薄っぺらい仲間意識をさぁ!……なんでパトリエーゼにも持ってやらなかったんだ、テメェらは!!」

シノノメから矛を抜かせ攻撃対象を移すことには成功したスレイブは、相手の注意を引き付けようと、何故未だ仇に付き従っているのか問いかける。
それに対する答えは、それはその通りだがお前が言うな、といった感じのものであった。

>「ダーマの野蛮人どもはおっくれてんなぁ!先進国の文明人サマが一つ常識を教えてやるよ、謹聴しとけ?
 ――復讐は何も生まないんだぜ」
>「知っている……!!」
>「あっそ。あといい加減お前の相手飽きたわ。急所外そうとしてんのバレバレなんだよ」

スレイブとの打ち合いは、強い者との戦いを求める武人にとってはこの上なく興味深いもののはずだ。
殺意全開の手負いの獣状態の者を相手取って、殺さないようにしながらこれだけ立ち回れるのは只者ではない。
つまり、アルマクリスが言っているのは生粋の戦士によくある強い者と戦うことへの興味とは全く違う。彼が求めているのは死、そのもの――
彼はパトリエーゼを深く悼んでいる様子がありながらその仇に付き従い、復讐は何も生まないと言いながら命のやり取りを楽しんでいる。
その言動は筋が通っているようでいなくて、一貫性があるようで無くて、どうしようもなく壊れていた。
激しい立ち回りの末に、アルマクリスの矛がスレイブに致命の一撃を叩き込まんとする。

「プロテクション――!」

ティターニアの防御魔法が間一髪で傷を受けるのを阻み、それでも衝撃はもろに受けて吹っ飛ばされていくスレイブ。

>「まーた防御魔法かよ、めんどくせぇなあ!ヘボ剣士は急所狙ってこねぇし、命のやり取りにビビってんじゃねえよ。
 死ぬのも殺すのも嫌だっつんならそういう趣味の人達とだけ仲良くペチペチ殴り合ってれば?
 俺はここに人を殺しに来てんの!お前らのそーいう意味不明なこだわりに俺を巻き込むなよ!」
0234ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:44:01.77ID:dVbgDx/p
スレイブから興味を失ったアルマクリスは、村人の避難誘導を終え戦列に復帰したジャンに標的を移した。
防御や補助を中心とする立ち回りをしているティターニアやフィリアには端からあまり興味が無いようだ。
どうやらアルマクリスが闘志を燃やすのは、殺す気で向かってくる相手限定らしい。
それならそれで、こちらは補助に専念するまでだ。

>「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
 お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
 ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

>「……てめえのそれは――」

>「ただの八つ当たりだアアッッッ!!!!」

アルマクリスの弾丸のような刺突とジャンのウォークライが激突し、凄まじい衝撃波が巻き起こる。
そして二人の動きが止まった時、ジャンの勝利は明らかだった。

「シノノメ殿……!」

シノノメに駆け寄って様子を見ると驚くべきことに、劇的に回復しつつあった。
何故か先程から一帯の闇の魔素の濃度が異常に上昇しており、そのお陰のようだった。

「もう大丈夫だ――」

>「……てめえの手品はそれでおしまいか」
>「ゴホッ……まだ終わってねえぞクソオーク!
 これから俺の逆転勝ちが……決まるんだ……なあ……パトリエーゼ……」
>「お前の……その指環があれば……パトリエーゼ……パトラを……」

「やっと……本心を言ったな……」

アルマクリスが気を失う直前に言った言葉―― 一貫性が無いように思えた彼の言動が、これで繋がった気がした。
憎き仇に付き従っているのは、指輪を手に入れるため。
殺意を向けてくる相手と殺し合いをしたがる――死を望むのは、パトリエーゼがいない世界では生きていけないから。

>「ティターニア、こいつの手当頼むぜ。
 村の人たちを殺そうとしたのは許せねえが、こいつは立派に戦った」

「分かった――」
0235ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:46:19.59ID:dVbgDx/p
アルマクリスは指輪が手に入らない――パトリエーゼが生き返らないのなら死を望むのかもしれないが、敗者は自らの処遇を選べない。
勝者であるこちらが生かすと判断した以上、彼は少なくともこの場では生き延びるしかないのだ。
ティターニアはアルマクリスに回復魔術をかけながら呟いた。

「パトリエーゼ殿を守れなかったことは済まなかったな……。そなたの願いは我らが引き継ごう。
指輪を全て手に入れた者は世界のすべてを手に入れる――もしもそれが真実なら。
全て揃えた暁にはそなたの願いも――」

“復讐は何も生まない”――それは確かに真実で、死んだ者は生き返らないからどうしようもなくて人は復讐するのだ。
でも、もし生き返らせることが出来るとしたら?
指輪の力で誰かを生き返らせるのが目的で刃を交えることになった者はこれで二人目。
いかに指輪の力といえども死んだ者は生き返らない、そう思っていたが、本当に全て揃えれば死者蘇生までも出来るとしたら?
(世の中には超高位神官が大がかりな儀式で執り行う蘇生魔術もあるにはあるが、死亡後すぐの者限定で、必ず成功するとは限らない)
それが正しいことなのかは分からない。
だが、このあまりにも哀しい青年に死ぬことも許さず生きる事を強いた以上、そう言わずにはいられなかった。

>「さてと……みんな大丈夫か?怪我が酷いなら一旦休むけどよ」

シノノメの回復においては幸運であった闇の魔素濃度の上昇だが、それは何らかの状況の変化があったということを意味する。

「シノノメ殿には申し訳ないが急いだ方がよさそうだ――
この者が目を覚ます前に行かねばややこしくなる、というのもあるしな」

こうして山頂に向けて歩みを進める一行。
山頂が近づくにつれて、ますます闇の魔素が濃くなってくるのが分かる。

「アドルフは山頂で儀式の準備に入ると言っていたが……そういえば喋る竜がいるというのも山頂か?
村人がいなくなったゆえ儀式は出来ないとは思うが先に指輪を手に入れられては厄介だ」

この時点のティターニアは、今までと同じように竜が自らの属性を注ぎ込んで作った唯一無二の指輪を守っている、
という構図を信じて疑っていないのであった。
0236シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:41:19.01ID:Let29eWS
不意に虚空から放たれる剣閃。
それが誰によるものなのか、私にはすぐに分かりました。
スレイブ様です。人の身でありながら魔王様の近衛騎士に選ばれた彼の、不意打ちの一撃。
アルマクリスは……それを振り向きもせずに躱してみせた。
その後の剣戟も……スレイブ様が殺しの技術を使っていないとは言え、ずっと優位に立ち続けている。

……彼の強さが見えてきて、そこから、彼の人物が……なんとなくだけど見えてくる。
誰かが戦いに臨む時……その刃や拳には、その人の、人となりが宿るものです。
ただの精神論と言われればそれまでですが……根拠は、あります。

>「あっそ。あといい加減お前の相手飽きたわ。急所外そうとしてんのバレバレなんだよ」

たった今アルマクリスが、スレイブ様の剣から、殺意のなさを読み取ったのがまさにそれです。

……徹底的なまでの、肉を切らせて骨を断つ。
辛うじて殺されないように、だけど最速最短で敵を殺める為の戦術。
そこには積み重ねられた経験と、それを積み上げる為の、勇気と目的があったはず。

>「でもそこのオークと魔族は良い感じだわ。ちゃんと殺しに来てくれるからこっちも殺りがいがあるね!
  特にお前、オーク、ジャンだっけ?その水の大斧、殺意がビンビン来て凄く良いよ!俺テンション上がっちゃうわ。
  これ直撃食らったら死ぬだろうなぁ。下手に受けても手足吹っ飛びそうだなぁ。血ィ止まんねえし、俺ここで死ぬのかなぁ」

だけど今の彼からは……何かを積み上げようとする意思は見えない。

>「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
  何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
  俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

そこにあるのは、彼から見えるものは…………あぁ、そうだ。
この人は……自暴自棄になっているんだ。
……こんなにもじっくりと、誰かの事を眺めていたのは、初めてかもしれません。

>「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
  お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
  ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

そして……アルマクリスと、ジャン様が、同時に動いた。
彗星の如く尾を引く炎の逆光と水蒸気によって、私には両者の交錯、その瞬間は見えませんでした。
二人の雄叫びが止まり、水蒸気が消えて、見えたのは……
矛を掴み自身の両足で立つジャン様と、倒れ伏したアルマクリスの姿。

>「シノノメ殿……!」

ティターニア様が駆け寄ってくる。
治療の為でしょう……だけど、今はそんな事よりも……

「ま、待って下さい……先に、ジャン様を……止め……」

>「ティターニア、こいつの手当頼むぜ。
  村の人たちを殺そうとしたのは許せねえが、こいつは立派に戦った」

「……へっ?」

……私はてっきり、ジャン様はアルマクリスを殺してしまうと、思っていたのですが。
0237シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:44:13.30ID:Let29eWS
>「さてと……みんな大丈夫か?怪我が酷いなら一旦休むけどよ」
>「シノノメ殿には申し訳ないが急いだ方がよさそうだ――
  この者が目を覚ます前に行かねばややこしくなる、というのもあるしな」

「い、いえ……ご心配なく……。もう、平気みたいです」

少なくとも表面的にはもう、私の胸に穿たれた傷は塞がっていました。
内臓はまだ形が整っただけ、と言った感覚ですが……それもじきに元通りになりそうです。
0238シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:45:03.00ID:Let29eWS
……ティターニア様の魔法があったとは言え、こんなにも早く、再生が終わるなんて。
周囲の闇の魔素が、異様に濃い……嫌な予感がします。
だけど、

「それよりも……あの、ジャン様。良かったんですか?
 その方を……えと、殺して、しまわなくて」

……なんて言えば角が立たないのか一瞬悩んだのですが、結局相応しい言い方が思いつきませんでした。

「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」
0239シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:45:25.29ID:Let29eWS
戦いが始まる前、確かにジャン様は彼を殺す気でいたはずです。
だけど結局そうはしなかった。
良く戦った。槍が本当にただの戦利品だとすれば、彼を殺さなかった理由はただそれだけ。

……私は、彼が同情に値する人間だと分かった……つもりでいます。
だけどそれでも……彼が死すべき人間なのか、そうでないのか、分からないのです。
法に照らし合わせても、ジャン様の心に秤を委ねても、彼が罪を犯したのは明白なのに。
分からない。だから……聞かずにはいられません。

「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」
0240シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:46:47.62ID:Let29eWS
 
 

「……気が変わった。興味深い話だ、そのまま続けろ」

言葉と同時、アドルフは左右の腰に差した剣を抜いた。
その一方、右側の切っ先が年老いた龍に突きつけられる。

「だがその前に答えてもらおうか。我々は既に光の指環を手に入れ、支配している。
 そこに宿る光竜をもだ。その事実は、今のお前と言葉と食い違うのではないのか」

『ほほう、それは大したものだ。そう思っているのであれば、そうなのだろう。
 お主らの許には、お主らの思う指環があり、竜がいる。何もおかしくはない』

「指環に宿る竜までもが、無数に存在すると?
 だがそれで指環の真の力を発揮出来るのか?」

『まさか。指環を無数に作れるなら、四竜が自らを指環に捧げる必要もなかっただろう』

「ならば……どうすれば無数の指環を一つに出来る?」

『さあて、な』

年老いた龍がくつくつと笑った。
アドルフが無言の殺気を漂わせる。

『おお怖い怖い……お主、お伽話を知らんのか?この爺が言って聞かせてやろうか?
 指環が封印された理由を思い出してみろ。祖竜との戦いが終わり、次の争いの火種にならぬようじゃろう?
 一つに戻す必要などないのだから、その術もまた、存在しない』

「詭弁だな。ならば全ての指環を破壊すれば良かっただけの事だ」

『どうかな?単に壊せなかっただけかもしれんのう』

「……話を逸らすのも程々にしろ。方法はある。
 正当なる後継者とは面白い事を言う……だったな。
 お前にはその心当たりがあるのだろう」

『くく……いいや、そんな事は儂にも分からん。
 だからお主が儂にも分からん事を分かった気でいるのが面白いのじゃよ。
 考えてみる事じゃな。そもそもどのようにして光と闇の指環が創り出されたのか……』
0241シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:47:37.17ID:Let29eWS
 
 
 
『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』

それから更に暫しの時を経て、老龍の言葉にアドルフが背後を見る。
彼は何の気配も感じていなかったが……視線の先には確かに追いついてきた客人がいた。
黒犬騎士である彼が、指摘を受けるまでその接近に気付けなかった事には、理由があった。
0242シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:48:12.98ID:Let29eWS
「……闇の魔素か。結局、下らない時間稼ぎだった訳だ」

アドルフは老龍へと視線を戻し……瞬間、彼の剣が閃いた。
老龍の首が宙を舞う。

「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

彼の言葉に偽りはない。
アドルフは背中を見せたまま右の剣を振るったが、
しかし残る左の剣と、そこに宿った殺気は、確かに指環の勇者達を捉え続けていた。
そして老龍の首が地面に転がり、

『さあて、どうかの。案外当てが外れたのはそっちかもしれんぞ?』

その生首が平然と声を発した。

『くく……くくく……愉快じゃのうお主は。
 何もかもを分かった気でいて、その実何も分かっておらぬ』

「……貴様、一体」

『おや、儂が何者かは分かっていると言っておったではないか。
 暗黒龍ニーズヘグ、じゃったか。外れじゃ、外れ。
 まぁそう呼ばれた事もあるからまるきり間違いではないがの』

老龍の首が、頭部を失った体が、闇色に変化し、溶けるように崩れ落ちる。
そして地面の上に広がって……再び龍の形を描いた。

『儂の名はな、アジダカーハと言うんじゃ。……あれ、いや、ティアマトじゃったか。
 それともファフニール……うむむ、最近物忘れが激しくてのう。
 ……くく、そう睨むな。儂はな、ただの影じゃよ。お主らヒトが見た影に過ぎぬ』

「……影、だと?」

『あぁそうとも。お主は今何を見ておる?地面か?そこに差した影か?
 それとも暗黒龍と呼ばれし存在の、一つの側面に過ぎぬ姿を見ておるのかの?』

アドルフの剣が老龍……最早そうではなく、暗黒龍の影を、斬りつける。
剣閃は確かに暗黒龍の影を切り裂き……しかしその口を噤ませる事は出来なかった。

『闇とは斯様なものよ。お主らはいつもその、ただ黒い、薄っぺらな表面だけを見て、
 それを理解したつもりになる……。
 そんな事では、闇の指環は永劫、手に入らぬよ。くく、くくくく……』



【それっぽい雰囲気が出したかっただけで何も考えてないから後はよろしくお願いします!】
0244スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/12/05(火) 20:24:27.04ID:sJAWv/VK
束の間の微睡みからアルマクリスが醒めた時、戦場に残っているのは彼一人だけだった。
既にジャン達指環の勇者一行はその場を後にして、ここまで連れてきたオーカゼ村の住人たちも消えている。

「えっ?ええ??なんで生きてんの俺」

目覚めた瞬間身体のあちこちに激痛が走ったが、痛みがあるということは五体が十全に機能している証だ。
骨、筋、腱の全てがまともに動き、いつの間にか深手の出血さえも止まっている。
放っておけば確実に死に至る傷だったはずだ。それが塞がっている理由など、一つしか思い至らない。

「クソ……!ざけんじゃねーぞっあいつらっ!俺を助けたってのか……?」

ようやく見つけた死場から引きずり降ろされた怒りが身体を動かし、アルマクリスは跳ね起きる。
すぐさま追撃をかけんと己の得物を手繰り寄せ――られない。彼の愛矛はどこにも転がっていなかった。
思い起こす最後の記憶は、ジャン・ジャック・ジャクソンがアルマクリスの吶喊を止め、矛を掴んでいた光景。
つまり。

「信じらんねえっ!ウソだろあいつ!俺を勝手に生かした挙句――他人の矛パクっていきやがった!!
 なんでそんなひどいことするの!?やっぱ性根が卑しい卑しい蛮族メンタルだよあのクソ野郎!!」

アルマクリスはしばし一人で地団駄を踏んで、傷口が開きかけてきたので大人しくなった。
あの時、ジャンに打ち倒され朦朧とする意識の中で、エルフの魔導師が零した言葉が脳裏に蘇る。

>『パトリエーゼ殿を守れなかったことは済まなかったな……。そなたの願いは我らが引き継ごう。
  指輪を全て手に入れた者は世界のすべてを手に入れる――もしもそれが真実なら。全て揃えた暁にはそなたの願いも――』

「くだらねえ。ンな簡単に人が死んだり生き返ったりしてたまっかよ。俺の死も、パトラの死も……俺達だけのもんだ」

パトリエーゼは死んだ。アルマクリスもまた、戦いの果てに後を追おうとして、しかし失敗した。
この手に最後に残った『死』さえも取り上げられて、この先どうすれば良いのかもはや欠片も分からない。
首と肩を抑えながら蹲り、しばらく押し黙っていた彼はようやく一言漏らす。

「この"借り"は……必ず返すからな、ジャン・ジャック・ジャクソン。当面はそいつが、俺の生きる理由だ」

死に場所が分からないのなら――とりあえず、生きていよう。再び死にたいと願えるその日まで。
独りごちる彼の背後で、複数の足音が連なった。
すわ、村の住民達がお礼参りに来たかと振り向けば、そこにいたのは無数の獣だった。
痩せこけた犬のような容貌をした獣達は、命の気配を感じさせない色を一様に纏っている。

黒。
光を失った死者の漆黒。
――『虚無』の黒だ。
0245スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/12/05(火) 20:24:59.86ID:sJAWv/VK
「アドルフの"猟犬"か。あの生ゴミ野郎、この場は任せたとか言っといてしっかり監視を残してやがる」

帝国最高戦力が一人、黒犬騎士アドルフ・シュレディンガー。
彼の振るう蛮刀『ティンダロス』は、剣がこれまで斬ってきた者達の魂を"猟犬"として隷属させる力を持つ。
黒騎士としての戦歴と、エーテル教団幹部として暗躍してきた日々が、そのまま彼の手駒の豊富さへと繋がっているのだ。
矛術を達人の域にまで修めたアルマクリスと言えども、その単純にして圧倒的な物量差には勝てない。……勝てなかった。
パトリエーゼを殺されてなお、彼がアドルフに従い続けざるを得なかった理由の一つだ。

支配されし亡者の成れの果て、『虚無の猟犬(ヴォイドハウンド)』。
猟犬達はアルマクリスを取り囲み、怨嗟にも似た唸りを上げて牙を剥いた。
無機質な殺意の風に当てられて、アルマクリスの武人としての本能が彼を立ち上がらせる。

「うひゃひゃひゃ!信用されてねーなぁ俺!負けた部下は始末するっつー定番の流れかこりゃ?
 いや、いや、別に責めてねーよ?わりと当然の末路っつーか、俺がアドルフでも同じことしたね、多分。うん、納得しました」

アルマクリスが手を打って受け入れの姿勢をとると同時、猟犬達は一声吠え上げ、彼の元へと飛びかかった。
その牙が喉元へ届かんとした刹那、アルマクリスのしなやかな脚が猟犬の顔面を強かに捉え、蹴り飛ばす。
蹴られた猟犬は悲鳴地味た鳴き声を上げて他の猟犬を巻き込んで地面を転がった。

「……クソ陰険野郎が、俺を舐めてんじゃあねえぞっ!殺したけりゃテメエで来い、パトラにそうしたようによぉっ!!
 テメエ如きに斬られるような雑魚共をどんだけ従えたって、俺のタマは取れねーぞ、アドルフ!!」

猟犬が転がったことで出来た包囲の切れ目から飛び出したアドルフは、地面に落ちた槍を掴み取る。
部下として与えられた信徒、ジャンに斃された彼らの遺品。質は量産品相応だが、扱う武人の腕は超一級品だ。

「来やがれ犬畜生共!あのクソエルフが治療してくれやがったお陰でなぁ!俺ぁまだまだ元気百倍だぜ!!
 可愛がってるワンちゃんの素っ首全部、ご主人様の前に並べてやるよ!!」

言葉とは裏腹に開いた傷口から血を滴らせながら、アルマクリスは槍を構えて疾走する。
猟犬達は混乱からいち早く復帰し、連携をとりつつ四方から牙を突き立てんと跳躍。
アルマクリスの神速の刺突が、猟犬達の胴体を空中で一つ残らず穿ち抜いた。
風穴を開けられた猟犬が人間のような叫声を上げて地に伏せ、漆黒の粒子となって霧散する。

「れ、ん、ど、が足りてませんねぇ〜〜っ!やっぱアドルフ君雑魚専だったんじゃないのぉ?
 それともオキニの一軍は温存したい派か?つーこたぁテメエら、捨て駒ってことじゃん!
 まぁそれは俺も同じか!仲良くしようぜ!俺がテメエらを片付けるほんの数秒の仲だけどよ!」

光の尾を引く刺突が猟犬達の腹をぶち抜き、嵐を思わせる薙ぎ払いが円状に黒の亡骸を飛散させる。
猟犬の牙や爪は確かにアルマクリスの手や脚に裂傷を刻むが、急所へ届くことはない。
苛烈の一言に尽きるアルマクリスの孤軍奮闘は、しかし無数の猟犬の群れを押し返しつつあった。
もはや総崩れとなり、集団としての戦力を為していない群れの中から、一体の猟犬が彼に背を向けて走り出した。
0246スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:25:16.76ID:sJAWv/VK
「おらっイモ引いてんじゃねーよ浮いた駒から狩られるってご主人様は教えてくれなかったか?
 じゃあみんな今日は憶えて帰ろうね!一人だけビビって逃げるとこうなりまーす――」

『アルマクリス』

背後から串刺しにせんと追いすがるアルマクリスの耳に、声が聞こえた。
忘れるはずもない、故郷で別れ、二度と生きて会うことのなかった幼馴染の声。
パトリエーゼの声は――目の前で逃げ惑う猟犬の唸りに混じって聞こえた。

「パトラ――?」

アドルフの剣は、彼の殺してきた者達の魂を猟犬の形に縛りつけて隷属する呪刀だ。
そして……妹のように想っていた幼馴染が死んだあの日、パトリエーゼを殺したのは紛れもなく、アドルフだった。

それは、他愛もないまやかしだったのかもしれない。
アルマクリスに対して幻惑の効果があると、そういう戦術の一環で、パトリエーゼの声色を真似ただけだったのかもしれない。

しかし、アルマクリスは疑いようもなく理解してしまった。彼女とかつて心通わせた彼にだけは、それがわかってしまった。
聞き間違えるわけがない。逃げる猟犬から放たれた声は、声を放った猟犬の魂は、パトリエーゼのものだ。
支配者たるアドルフがこの場へ彼女を寄越した理由など、推し量るまでもない。

「…………本当に、悪趣味なクソ野郎だ」

――アドルフの猟犬達は、アルマクリスの評価とは裏腹に、一体一体が名うての武人の魂を元に造られていた。
彼が集団を相手に一方的な戦いを展開出来たのは、ひとえにアルマクリスが戦闘者として格段に高い位置にあったからだ。
つまり……ほんの僅かな気の緩み、足の踏み外し、ボタンの掛け違えで、容易く逆転し得る優位であった。
そして逆転の契機は、今、訪れた。

「クソ」

束の間の再会に一瞬だけ意識を奪われたアルマクリスは、その一瞬の隙に牙をねじ込まれ、肩口が大きく抉れる。

「クソ」

動かなくなった左腕でカバー出来なくなった脇腹に、別の猟犬の爪が埋まる。

「クソ」

足首を猟犬に食らいつかれ、足捌きが効かなくなり、アルマクリスはもんどり打って地に伏せる。

「クソがぁぁぁぁああああ!!!!」

そこへ残りの猟犬達が折り重なるようにして覆い被さる。
アルマクリスの怨嗟の叫びは、やがて犬の地響きのような唸り声に混じって、消えていった。
0248スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:26:25.20ID:sJAWv/VK
"天戟"のアルマクリスを下した指環の勇者一行は、傷の手当もそこそこに黒犬騎士アドルフを追って山を這走していた。
ティターニアの咄嗟の防御魔法のお陰で深手を免れたスレイブは、最も重傷を負ったシノノメを庇うように最後尾を行く。
しかしと言うべきか、上体を貫かれたはずのシノノメは既に戦闘前と遜色ない程度に快復しているようだった。
この尋常ならざる快復速度を、ティターニアは闇の属性が山頂へ向かうにつれ増している為、と結論付けた。

「怪我の功名……とは言えないだろうな。シノノメ殿の傷が早く塞がるのはありがたいが」

闇の魔素が濃くなる、ということは人の心に闇が深く現れているということでもある。
教団がそもそも何のためにオーカゼ村の住民をここへ連れて来ていたかを思えば、楽観視など出来るはずもなかった。
だがシノノメは、自身の傷の安否よりも気掛かりなことがあるといった風で言葉を零した。

>「それよりも……あの、ジャン様。良かったんですか?その方を……えと、殺して、しまわなくて」

「………………!」

シノノメの問いに、水を向けられたジャンよりも先にスレイブは言葉にならない呻きを上げた。
血潮さえも揮発するような熱波と水流との熾烈な激突を経て、アルマクリスを倒し仰せたジャン。
しかし彼は、家族とも言うべき村人達を傷付けられた怒りとは裏腹に、アルマクリスの治療をティターニアに頼んだ。
あの男を――殺しはしなかった。

>「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」

シノノメにはそれが不可解に思えたのだろう。至極尤もな疑問だとスレイブも思う。
ジャンは己と渡り合った武人に対して敬意を忘れない。前後がどうあれ、拳を交わした相手を貶めることはない。
他ならぬ、スレイブ自身も。シェバトで一方的に襲いかかったにも関わらず、ジャンは破顔してそれを赦してくれた。
まして、スレイブの命を救うために自身の命さえもかけて戦ってくれた。

>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」

同時に、ジャンのこの立ち回りは、スレイブやティターニアへの配慮のような気もした。
元々研究職で殺し合いの場に出る方が珍しいティターニアはともかく、スレイブは王宮護衛官、れっきとした戦闘職だ。
この手で人を殺めたことなど両手足の指を使っても数え切れないし、その為の技術を今日まで砥ぎ上げてきた。

だが――殺せなかった。アルマクリスと対峙して、互いに刃を向けあったにも関わらず。
シノノメを蹂躙されて、ステルス越しにすら感知されるほどに殺意を孕んでいたにも関わらず。
スレイブは彼の急所を狙うことが出来ず、手足の腱や骨を断って無力化する戦運びを選んでしまった。
無様にもその隙を突かれて一矢さえも報いられず、戦闘の負担をジャンへと集中させてしまった。
ジャンの分厚い手のひらがひどい火傷を負ったのは、他ならぬスレイブの落ち度によるものだ。

今のスレイブには、人を殺すことが出来ない。
握った刃の向こうで命の消え行くあの感触を、再び味わうかと思うと全身の筋が石のように硬くなる。
殺さねば、仲間を殺されてしまうかもしれないというのに――女王の騎士を気取っておきながら、酷い有様だ。

きっとこの震えは、怯えは、ジャンにも伝わっているのだろう。共に刃を重ねた者にだけ分かる感覚だ。
本当はアルマクリスの四肢を八つ裂きにしたかったのかもしれない。家族を辱められた者の当然の感情。
その正当な制裁を、スレイブの存在が留めさせてしまったのなら、きっと謝り足りないほどに不甲斐ない。

「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

言葉だけの感謝など到底足りるわけがないと分かっていても、スレイブにはそれ以上の術がなかった。
願わくば……何度でも。感謝を伝えたいと、そう想った。

――――――・・・・・・
0249スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:27:10.04ID:sJAWv/VK
>『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』

チェムノタ山の頂に辿り着いたとき、周辺の闇の魔素はもはや濃霧の如く行先を覆っていた。
深色の帳の向こうから、遠鳴りのような声が聞こえる。この響きは人間の発声器官によるものではない。

「チェムノタ山の主、老竜か――!」

果たして、そこには鱗の褪せた一匹の竜がいた。そして同様に、黒の鎧を纏った男が一人。
黒犬騎士・アドルフは、今しがたようやくこちらの到着に気付いたといった風に眉を立てた。

>「……闇の魔素か。結局、下らない時間稼ぎだった訳だ」
>「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

不愉快そうに鼻を鳴らしたアドルフが、蝿を払うような所作で剣を振るう。
いかなる絶技によるものか、老竜の首は何の抵抗もなく宙を舞った。

「――――!!」

再び命の失われる瞬間を目の当たりにして、スレイブの身体が強張った。
アドルフの口ぶりから察するに、老竜は指環の勇者たちに助けを求める時間稼ぎに闇の魔素を充満させていた。
しかし、間に合わなかった。彼らの目の前で、老竜は殺された。

>『さあて、どうかの。案外当てが外れたのはそっちかもしれんぞ?』
>『くく……くくく……愉快じゃのうお主は。何もかもを分かった気でいて、その実何も分かっておらぬ』

だが悔恨とは裏腹に、老竜の命はまだ終わってなどいなかった。
地面に転がる竜の頭部が、心底愉快そうに含み笑いを漏らす。

>『儂はな、ただの影じゃよ。お主らヒトが見た影に過ぎぬ』
>『闇とは斯様なものよ。お主らはいつもその、ただ黒い、薄っぺらな表面だけを見て、
 それを理解したつもりになる……。そんな事では、闇の指環は永劫、手に入らぬよ。くく、くくくく……』

老竜の異質な言動に、何らかの目的を持って来たはずのアドルフもまた困惑しているようだった。
導かれるがままにここへ辿り着いたスレイブ達はもっと混乱している。

「一体どういうことなんだ。あの老竜は、闇竜テネブラエの眷属か守護聖獣の類だと思っていたが」

闇の名を冠すチェムノタ山に、古くから住まう年老いた竜。
"王の隠し牙"ガレドロのもたらした情報を元に、スレイブは自分なりにいくつかの推論を立てていた。
風竜ウェントゥスが無数の飛竜を眷属としていたように、闇竜テネブラエもまた眷属を従えていたとすれば。
言わば鎮守の要の如く、暗黒大陸の闇の要衝であるチェムノタ山に監視を置いていてもおかしくはない。
あるいはシェバトのケツァクウァトルのような、都市の代わりに山を守護する聖獣か。
たった今首を落とされた老竜こそが、その中の一体だと大まかに予測を立てていたが、しかし――
0250スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:27:46.88ID:sJAWv/VK
『テネブラエは眷属なんぞ作っとらんぞ。あいつそういうの要らない系だし』

スレイブの指環から、幻体のウェントゥスがぴょこりと顔を出した。
シェバトを絶って以来、僅かな残存魔力を節約するためにずっと沈黙を保っていた彼女は、指環からぬるりと這い出る。

『この濃い魔素のおかげでようやく幻体を作れるようになったわい。ちと属性が違うから、髪が黒くなってしもたが』

果てしなくどうでも良い感想を述べるウェントゥスに、老龍の影が愉悦に捩れる。

『久しいのうウェントゥス。お主と最も宜しくやっていたのはどの"儂"じゃったかな?』

『アジ公かヴァジュラちゃんあたりじゃろ。今おるんかそこに?』

『生憎じゃがどちらも席を空けておるな。ウェントゥスが会いたがってたと伝えておくとしよう』

さながら再会を喜ぶ旧知のような二体のやり取りに、スレイブは眉を顰めた。

「旧交を温め合うのは後にしてくれ。あの竜はさっき自分を"影"と言ったな。
 ウェントゥス、あんたの本体が別のところにあるように、あの竜も幻体の一種ということなのか」

『んんー?それはどうじゃろなぁー……あっ、いや誤解じゃ、違うんじゃ、マジで説明が難しいんじゃって!
 はぐらかしとるわけじゃないから指環外して地面に叩きつけようとすんのやめや!』

「時間が惜しい。質問の仕方を変えるぞ。あの竜は何者なんだ、闇竜テネブラエと関係はないのか?」

『見た通りに闇の竜じゃよ。じゃがテネブラエとは違う……ちゅうより、テネブラエ自体がかなり曖昧な存在なんじゃ』

「曖昧……?」

『わしら四竜や光竜みたく、確たる存在の証がない。だって闇じゃもん。逆に聞くけど闇って何じゃ?何をもって闇とするんじゃ』

「闇の定義……光がなく、心に希望のない状態、だろう」

『そう、それ!つまりな、闇と言うのは"何もない"状態そのものを指す概念なんじゃ。光がなく、希望がなく、未来がない。
 本来、闇の指環や闇の竜なんてものは存在するはずがないんじゃ。司るべきものが何もないんじゃからな』

「だが、祖龍との戦いに闇竜は参戦していたはずだ」

『そうじゃな。終末の絶望の中にそれを見出したものがおったから、テネブラエという形で闇竜は顕現した。
 逆に言えば、誰かが闇を観測せん限り、闇の眷属は存在することさえないということじゃ』

「待て、ダーマには王国黎明期から闇を司る魔族が存在している。家系は途切れることなく続いている。
 闇の眷属が本来在るはずのないものだと言うなら、戸籍を有する個人としての彼女たちの存在はどう説明する」

『そんなもん、王国黎明の頃から絶え間ない絶望が人の心にあったからじゃろ。
 積み重ねた絶望の数だけ、闇の眷属は強く長く存在を保つことができる。のう、"首切りトランキル"?』

――――――・・・・・・
0251スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:28:12.66ID:sJAWv/VK
闖入してきた指環の勇者達の会話から、何か有益な推論材料でも得られないかと口を挟まず聞いていたアドルフは、
一つの結論にたどり着いて鼻を鳴らした。

「なるほどな」

『何か得心した風じゃのう。さぁ聞かせておくれ、的はずれな答えも儂を愉快にさせる分には有益じゃ』

「くだらん謎掛けは終わりだニーズヘグ。闇の指環の在り処など、貴様に聞いて分かるはずもない。
 貴様自身、闇の指環がどこにあるかなど知りはしないのだろう?」

『ほう……?』

「知るはずもない。闇の指環などどこにも在りはしないのだから。
 つまりはこういうことだろう。闇の指環は探し出す物ではなく――創り出す物だ」

アドルフは腰に帯びた蛮刀を抜く。
二刀一対の呪剣『ティンダロス』。虚無の色をした魔力の靄が、牙を創り、爪を創り、強靭な四肢を作り出す。

「我が刃を染めし血潮の主よ。鎖の先に隷属せし魂よ。今一度我が牙となり、我が敵を喰らいつくせ」

"虚無の猟犬"、無数の獣達が、アドルフの前にその顎を連ねていく。
怨嗟の叫びに似た唸りを上げ、血走って眼で主の指示を待っている。

「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」

号令に弾かれるようにして、無数の猟犬たちが一斉に疾走を開始した。
その加速の先に居るのは指環の勇者達と――シノノメ・アンリエッタ・トランキル。
アドルフは、闇の眷属たるシノノメの肉体から闇の指環を精製するつもりだ。

一匹一匹が岩をも抉り取る鋭利な牙と爪を携え、虚無の猟犬達がシノノメへと殺到する。


【アルマクリス:犬に噛まれる】
【アドルフ:犬にシノノメを噛ませようとしてる】
0252スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:31:13.54ID:sJAWv/VK
【つまりどういうこと?:闇って光とか闇とかと違って絶望を感じる人の心の中から出るものだし、
             絶望の権化みたいなもんで人からめっちゃ恨まれてるトランキルの肉体から指環作れんじゃね?】
0253スレイブ
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2017/12/06(水) 04:36:38.06ID:ftsfZ+O3
【×光とか闇と違って
 ○光とか風と違って】
0254ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/12/10(日) 22:04:43.09ID:CXJeajUp
>「アドルフは山頂で儀式の準備に入ると言っていたが……そういえば喋る竜がいるというのも山頂か?
村人がいなくなったゆえ儀式は出来ないとは思うが先に指輪を手に入れられては厄介だ」

「おう、そうだぜ。村を出る前とか旅の途中で何度も立ち寄ってなあ、
 俺は頭が悪いからよく相談したんだよ」

山頂に続く道は村民たちの手である程度整備されており、歩きやすくはなっている。
だが周りに漂う黒い粒のようなものの密度が、だんだんと濃くなっていることをジャンは感じていた。

>「それよりも……あの、ジャン様。良かったんですか?
 その方を……えと、殺して、しまわなくて」

と、傷が急速に癒されつつあるトランキルから疑問が飛んできた。

「……あいつは戦士だ。ぶつかって分かったが、弱い奴にだけ強く当たるようなヒトじゃない。
 さっきは思わず八つ当たりなんて言っちまったが、家族殺されて冷静なままじゃいられねえよな」

ジャンは毛のない禿頭をぽりぽりと掻いて、ばつが悪そうに喋る。

>「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」

「あいつが村人の誰かをあの槍で突き殺していれば、殺した。
 結果として村人はみんな疲れたが死んじゃいない。だから迷惑料として槍をもらって、それで終わりだ」

>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」

これまでの会話は一番前を歩きながらトランキルの方を向いていなかったが、
この瞬間だけはトランキルと目を合わせて、彼女の金色に輝く瞳を見つめた。

「……そういうのはベテランの傭兵とか、生死の境目について考えているような学者様に聞きな。
 できるなら、死体は増えない方がいいだろうってだけだ」

普段はできるだけ微笑むように心がけているジャンは、この瞬間、一切の表情を見せなかった。

>「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

だがスレイブの発言を聞いてすぐに、不細工な顔を歪ませて笑った。

「なんだってんだ、二人とも急に暗くなりやがって!
 山頂まではまだ時間がかかる。ティターニア、なんか明るい昔話でもしてくれよ!」

こうして山頂に着くまでの間、五人は濃くなっていく闇の魔素が周囲を包むのにも構わず笑い話やほら話を続けていた。
0255ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/12/10(日) 22:05:29.45ID:CXJeajUp
>『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』

「来たぜ爺ちゃん!久しぶりだな。
 ……余計な野郎もいるみてえだが」

>「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

アドルフが手に持つ剣を振るい、音もなく年老いた竜の首は断ち切られた。
だがショックを受けた他の仲間と違い、何回か会ったことのあるジャンは
もう慣れていると言わんばかりに首を振ってため息をつく。

「爺さんの暇つぶしが始まったな。人数もいるしこりゃ長引くぞ……」

他の仲間やアドルフが質問をしているが、年老いた竜は
楽しそうに、だが受け流すように答えを返していく。決定的な答えは何一つ言わずに。

これは相談しに来た村人たちにもよくやる行為であり、前にジャンが理由を聞いたところ
『年寄りの独り身は寂しいから、つい構ってしまうんじゃよ』と分身の芸を見せながら答えていた。

>「くだらん謎掛けは終わりだニーズヘグ。闇の指環の在り処など、貴様に聞いて分かるはずもない。
 貴様自身、闇の指環がどこにあるかなど知りはしないのだろう?」

しばらく続いた会話を打ち切るように、アドルフは殺気を体中に漲らせる。
竜の分身と世間話をしていたジャンはそれに気づくと槍を構えて、アドルフの対面に立った。

>「知るはずもない。闇の指環などどこにも在りはしないのだから。
 つまりはこういうことだろう。闇の指環は探し出す物ではなく――創り出す物だ」

>「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」

『それは無粋じゃよ』

年老いた竜が前足を五本指の手に変化させ、パチンと器用に指を鳴らした。
すると猟犬たちを闇の魔素が包み込み、あっという間にかき消してしまう。

『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』

すると竜は全身の姿を変え、ローブを纏った一人の老いたエルフとなった。

『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』

『試練を乗り越えれば闇の指環を与え、力の解放もできよう。
 しかし、試練に負けたときには……ヒトとしては生きられぬ』

「……最初からそう言ってくれよ、爺さん。
 とっととやらせてくれ」

『試練を与えるのは久しぶりなんじゃ、喋ってるうちに思い出したわ。
 ……これより行うは試練。
 ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』

『汝らに勇気を』
0256ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/12/10(日) 22:06:10.15ID:CXJeajUp
老エルフが指をくねらせて空中に小さな陣を描いた瞬間、アドルフと指環の勇者たちは閃光と共に山頂から消え去った。

『さて、彼らはどうするか……これを考えるのもまた暇つぶしじゃな』

そう言って老エルフは寝床にしている洞窟の奥を見る。
寝床のさらに奥、明かりがまったくないそこにあったのは大量の人骨であった。


ジャンが閃光に目がくらみ、目を開けた瞬間に広がった光景は炎だった。
辺りは薄暗いが太陽が出ており、目の前にある民家に火がついて燃え盛っているのだ。

よく見れば民家の周りに人だかりができていて、皆たいまつを持っている。
中には剣や斧など武器を持った者もいて、民家の前で民衆に跪いている人間がいた。

「……みんなはいねえのか?これが試練?」

跪いている人間は女性らしいが、フードを被っていて顔はよく見えない。
そこに男のオークが民衆を割って入ってきて、女性の胸倉を掴んだ。

「お前が俺になすりつけやがったんだな!この魔女め!
 盗んだ金をおばさんに返しやがれ!」

「この魔女が魔術を使って***さんがやったように見せかけたんだ!」

「薬を作ってもらうんじゃなかったよ!」

「村に置いてやったのが間違いだった!」

どうやら民衆はかなりフードの女性に怒っているようだ。
とりあえず落ち着かせた方がいいとジャンは考え、民衆をかき分けてオークに話しかけた。

「何があったか知らねえが落ち着けよ、家まで燃やしてやることじゃ……」

振り向いたオークの顔を見て、ジャンは思い出した。
かつてある村に滞在したとき、強盗の疑いをかけられたこと。
だが住民の一人の協力によって村はずれに住む女性の魔術によるものだと分かったこと。
住民たちを説き伏せて女性の家を焼き、衛兵に魔女だと言って告発したこと。

(だけど……あの女性は結局犯人じゃなかった。
 俺に協力した住民こそが魔女であり、真の犯人だった。
 知り合いの冒険者とそいつを問い詰めて、真実を知ったときにはもう遅かったんだ。
 あの人は拷問に耐え切れず、心を壊して自殺していた……)

『これはお前がやったことだ。ジャン・ジャック・ジャンソン。
 お前のせいで一人の無実の女性が獄中で無残に死んで、ずる賢い人間が生き延びた』

自分そっくりの顔をしたオークが、処刑人が持つような分厚い幅の大剣を持ってそう語る。
ジャンは目の前に広がる吊るしあげの風景の中で、ただ一人立ち竦んでいた。

【試練内容:自分が最も思い出したくない過去との対峙】
0257ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:29:18.71ID:tVZKeyA/
道中でシノノメがジャンに、アルマクリスを生きながらえさせて良かったのかと疑問を口にする。
とはいえ、アルマクリスを生かしたのは、シノノメ自身も望んだ結末であったはずだ。
シノノメはティターニアに、ジャンを止めるように促そうとしていた。
殺そうとするに違いないと思っていたのにあまりにもあっさり許したので、
つい疑問が口を突いて出てしまったのかもしれない。
一方のティターニアはあの時なんとなく予測はついていたのだ。
戦いの最中は手加減はしないが、勝敗が決すればそれ以上追い撃ちをかけることはしないだろうと。

>「……あいつは戦士だ。ぶつかって分かったが、弱い奴にだけ強く当たるようなヒトじゃない。
 さっきは思わず八つ当たりなんて言っちまったが、家族殺されて冷静なままじゃいられねえよな」
>「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」
>「あいつが村人の誰かをあの槍で突き殺していれば、殺した。
 結果として村人はみんな疲れたが死んじゃいない。だから迷惑料として槍をもらって、それで終わりだ」
>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」
>「……そういうのはベテランの傭兵とか、生死の境目について考えているような学者様に聞きな。
 できるなら、死体は増えない方がいいだろうってだけだ」

二人のやり取りを黙って聞いていたティターニアが、シノノメの肩に手を置いて口を開く。

「そなたの助力が無ければ村人に被害が出ていたかもしれない。
つまりそなたがあの青年をも救った、と言えるのかもしれないな」

シノノメがアルマクリスの攻撃を一身に引き受けている時間があったからこそ、ジャンは村人を全員無事に避難させることが出来たのだ。

>「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

スレイブが、改まった様子でジャンに感謝を伝える。
思えば、スレイブは出会い頭にいきなりこちらの仲間――少なくとも同行者を亡き者としている。
犠牲になったのが、本当にたまたま裏がありそうで素性の疑わしい者達だったというだけだ。
人の生死など、紙一重の巡り会わせなのかもしれない。

>「なんだってんだ、二人とも急に暗くなりやがって!
 山頂まではまだ時間がかかる。ティターニア、なんか明るい昔話でもしてくれよ!」

「そうだな、ユグドラシアに伝わる真夏の夜の悪夢と呼ばれるちょっとした伝説の話でもしようか。
もうかなり昔だが助手のパック殿は以前は魔法薬学研究室の助手でな……
ある日研究室で開発した惚れ薬を効果実験と称して屈強な魔法格闘研究室の面々のまぶたに塗って回るという悪戯をしてしまった。
それがまた悪いことに効き過ぎてな――」

話を振られたティターニアは、パックが考古学研究室に移籍してくる羽目になった事件の話を始めるのだった。
こういう時にその場にいない者がダシにされるのは世の常である。
緊迫した状況ではあるはずなのだが、
端から見ればとてもそうは見えないだろう様子で他愛もない話をしながら一行は山頂へとたどり着く。
そこでは、アドルフと竜が言葉をかわしているようであった。
0258ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:32:47.55ID:tVZKeyA/
>『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』
>「来たぜ爺ちゃん!久しぶりだな。
 ……余計な野郎もいるみてえだが」
>「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

闇の竜かもしれない老竜は、ジャンと親しげに挨拶を交わしたかと思うと、いきなりアドルフに首をはねられた。

「お主、何ということを……!」

イグニスがあまりにもあっさりとジュリアンに倒された光景が想起される。
あの時は指輪を完成させるために敢えて殺されたと思われるが、今回もそうなのだろうか。
それにしては、何の御託もなく、指輪の姿すら見えないが――

>『さあて、どうかの。案外当てが外れたのはそっちかもしれんぞ?』
>『くく……くくく……愉快じゃのうお主は。何もかもを分かった気でいて、その実何も分かっておらぬ』

何食わぬ顔で喋り始めた竜の生首を、安堵と驚愕と「やはりそんなに簡単に殺されるわけはないか」という
納得が入り混じった複雑な表情で凝視するティターニアであった。
暫しウェントゥスと老竜の謎めいた問答が繰り広げられ、
そこから闇の指輪は作り出すものだと推測したアドルフが、虚無の猟犬を一行にけしかける。

>「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」

「させぬ――! シノノメ殿、下がれ!」

闇の魔素で体が構成されているシノノメが狙われていることを察しシノノメを下がらせようとするが、その必要は無かった。

>『それは無粋じゃよ』

竜が指を鳴らす、ただそれだけで決して獲物を逃がさぬはずの猟犬が一瞬にして姿を消した。
この竜が人知を超えたとてつもない存在だということを改めて思い知る。
そしてこの竜も今までの例に漏れず、人型に変化して見せた。といっても全般的に若めの今までの竜とは違い、貫禄溢れる老エルフだ。
(外見上老いたエルフというのは実際にはあまり見る機会は無いのだが、老エルフというのはこうだろうな、というイメージど真ん中の姿である)

>『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』
>『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』
>『試練を乗り越えれば闇の指環を与え、力の解放もできよう。
 しかし、試練に負けたときには……ヒトとしては生きられぬ』

>「……最初からそう言ってくれよ、爺さん。
 とっととやらせてくれ」


「やはりそうきたか。やれやれ、普段は試験を出題する方なのだがな……」

イグニスはベヒモスとの戦いの試練で純粋に強さを試し、アクアはクイーンネレイドを地上に送り込み弱き者に手を差し延べる優しさを試した。
テッラは敢えて指輪を求める者同士で争奪戦をするように仕向け盤石の意思を試したと言えるだろうか。
この闇の竜は何を試してくるのだろうか。

>『試練を与えるのは久しぶりなんじゃ、喋ってるうちに思い出したわ。
 ……これより行うは試練。
 ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』
>『汝らに勇気を』

竜のその言葉を最後に、辺りの風景が塗り変わる。
0261ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:42:24.54ID:tVZKeyA/
どうやら故郷の森のようだが、屍累々の戦場と化している。
その惨禍を巻き起こしているのは、たった一人の黒衣の魔女。
0262ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:43:00.07ID:tVZKeyA/
「指輪の魔女……!?」

メアリとは少なくとも肉体は別人のようだが、もしかしたらミライユの姉の仇とは同じ人物かもしれない。

「聖ティターニア……"そこ”にいるのは分かっている!」

黒衣の魔女が狙っているのは、金髪のエルフの少女。紛れもなく、まだ幼く無力だった頃の自分。

「この女……訳が分からぬことを! 聖ティターニア様はとうの昔に亡くなって久しいというのに!」
「なんでもいいがティターニア様には指一本触れさせん!」

そして、その自分を守るために果敢に魔女に立ち向かうも、その圧倒的な力の前に次々と倒れていく者達。
協和国でエルフ族の代表的な地位を勤めている父親がティターニアを守るように立ちはだかる。

「エリザベート、ティターニアを連れて逃げろ!」
「ぼーっと突っ立っとるんやあらへん! 行くで!」
「行くって……どこへ!?」
「ユグドラシア――行けばアンタのひいじいちゃんがどーにかしてくれはる!」

エルフの森で長を務める母親に半ば引っ張られるようにしてその場を逃れる幼ないティターニア。

「何だこれは……全く覚えておらぬ」

試練の内容は最も嫌っている過去との対峙、とのことだったが、全く身に覚えがない。
しかしあの金髪のエルフの少女は確かに幼い頃の自分なのだが――
そう思っていると場面が移り変わりダグラスと幼いティターニアが対峙していた。

「大丈夫だ、何も心配することは無い。その記憶に決して解けぬ最も深き封印を施そう。
思い出さねば、虚無に堕ちることもない。お前は明日から一介の学園生徒だ」

幼いティターニアが術をかけられ記憶封印されるのとまるで交代のように、ティターニアは全てを思い出した。
元々はティターニアがユグドラシアに来たのは、指輪の魔女から匿うためだった。
聖ティターニアとの間にどこまでの関連性があるのか、
何故今では向こうから取り立てては付け狙われなくなったのかはよく分からない。
ただ一つ確かなのは、指輪の魔女から自分を守るために、たくさんの同郷の者が死んでいったという事実。
そして、指輪の魔女は虚無を伝染させる――指輪の魔女によって近しい者が殺された者は、虚無に堕ちる――
ダグラスがティターニアの記憶に封印を施したのは、それを防ぐために違いない。
永遠に解かれぬはずだったその封印が闇竜の気まぐれによって解かれてしまった今、虚無は何倍にもなって襲い掛かる。
自分がいるばかりに、かつて故郷は襲撃された。最近のユグドラシア襲撃だって、実は自分を狙ってきたものかもしれない。
犠牲者は自分が死なせたようなものではないか、そんな考えが際限なく広がっていく。
0263ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:45:11.38ID:tVZKeyA/
――ソウダ、ソノトオリダ……

声が聞こえた気がして足元を見ると、無数の亡者の腕が足を掴み漆黒の闇の中に引きずりこまんとしていた。
考えることを放棄し力無くそれに身を委ねようとするティターニア。
次第に肩まで闇に飲まれ、無意識のうちに右手を上に伸ばすもじきに全身が飲み込まれるだろうと思われたが――その手を力強く掴んだ者がいた。

「クソエルフに群がるなんて奇徳な奴らだな。でも握手会なら手を掴むもんだぜ」

「アルマクリス殿……!?」

それは紛れもなくつい先刻倒して治療しておいたはずのアルマクリスで。
しかしその背には漆黒の竜の翼が生えていた。
彼はティターニアを闇の中から引っこ抜き、一方的にまくしたてる。

「お前らクソジジイに試練だとか騙されて暇潰しに殺されかけてるの! マジマヌケ!
つっても俺もクソジジイと同一存在だけど!ありえねー!」

彼は唖然としているティターニアに、ついて来るように促した。

「モタモタしてんじゃねーよ行くぜ! それともまた仲間を見捨てんのか?」

その言葉にはっとする。こんなところで闇に飲まれている場合ではない。
仲間達は他の空間に隔離されているはずだが、彼が老竜と同一存在であるというのが本当ならこの結界間を渡ることも出来るのかもしれない。

「いや――今度こそ……誰一人奪わせぬぞ!」

ティターニアはアルマクリスの後を追って駆け出した。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

老竜は、今回の者達はいつまで持つかな、等と考えていた。
実のところ、試練とはいいながら今までに挑んで生還した者は一人もおらず、闇に飲み込み取り殺す戯れとも言えるものだった。
が、今回はいつもとは一味違うようだ。

「やれやれ、また一つ影が生まれてしまったようじゃな」

老竜は、自らの暇潰しに想定外の事態が起こったことを察知し、ひとりごちた。
結果的には、闇の要素を多く持つ者を虚無の猟犬に襲わせるというのは、闇の指輪を作るにあたって全くもって正しい方法の一つであった。
いかなる偶然が重なり合ったのかは知れぬが、現にその方法で新たな指輪が生まれてしまったのだ。
老竜は、本当に久々に、真に暇が潰せる暇潰しが出来そうだと期待のような感情を抱きながら事態の行く末を俯瞰しているのであった。

【救出隊出動。自分だけでは闇に飲まれそうになった場合は遠慮なく使って貰うと良い】
0264ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/22(金) 01:28:28.63ID:aJro2sxx
【1週間経ったのでシノノメ殿はいけそうか順番変更した方がいいか連絡をくれると助かる!
スレイブ殿は一応準備をよろしく頼む!】
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