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【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2017/07/31(月) 22:38:53.85ID:TwvFk4rz
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
       
新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

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スリーサイズ:(大体の体格でも可)
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過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50
0266シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:45:00.30ID:mROVqqTY
>「……あいつは戦士だ。ぶつかって分かったが、弱い奴にだけ強く当たるようなヒトじゃない。
 さっきは思わず八つ当たりなんて言っちまったが、家族殺されて冷静なままじゃいられねえよな」

最初の問いかけに、ジャン様はそう答えました。
……戦いを通して上辺の行動だけではなく、彼の人となりを知ったから。
筋は通っています。だけど……彼の人格が分かったとしても、それで罪が消える訳じゃない。

>「あいつが村人の誰かをあの槍で突き殺していれば、殺した。
  結果として村人はみんな疲れたが死んじゃいない。だから迷惑料として槍をもらって、それで終わりだ」

誰も死ななかったから、だから殺さない。
筋は通っている……けど、それはただの結果論です。
彼には明らかな殺意があった。私達が誰も殺されない内に追いつけたのはたまたまです。
……そんな事は、ジャン様にだって分かってるはずなのに。
なのに、何故私と違って……

>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」

問いを受けたジャン様が足を止める。
そしてあらゆる感情を排した表情で、私を振り返った。

>「……そういうのはベテランの傭兵とか、生死の境目について考えているような学者様に聞きな。
  できるなら、死体は増えない方がいいだろうってだけだ」

静かな、抑揚のない声……。
だからこそかえって、私にはそれが彼の真実の声に聞こえました。
同時に……やっぱり、軽々と……いえ、そんなつもりはなかったのですが、
とにかく……触れてはいけないものに触れてしまったような、気がしました。

……結局分かった事と言えば。
ジャン様には、確かな考えがある。
そして私には、それがない……たったそれだけで。
問いに答えて下さったジャン様に、申し訳ないです……。

「……ありがとう、ございます。それと……すみません。変な事を聞いてしまって」

>「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

>「なんだってんだ、二人とも急に暗くなりやがって!
  山頂まではまだ時間がかかる。ティターニア、なんか明るい昔話でもしてくれよ!」

>「そうだな、ユグドラシアに伝わる真夏の夜の悪夢と呼ばれるちょっとした伝説の話でもしようか。
  もうかなり昔だが助手のパック殿は以前は魔法薬学研究室の助手でな……
  ある日研究室で開発した惚れ薬を効果実験と称して屈強な魔法格闘研究室の面々のまぶたに塗って回るという悪戯をしてしまった。
  それがまた悪いことに効き過ぎてな――」

……私はこっそり歩みを緩めて、一行の一番最後に回りました。
私、その……感情がすぐに体色に出てしまいますから。
私達ナイトストーカーの生態など誰も知ってはいないでしょうけど……。
手の甲を見ると……ほら、青の中に、ほんの僅かにだけど赤が混じっていて。
た、例え皆さんには分からなくてもこんなの、見られる訳にはいきません。
0267シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:45:42.09ID:mROVqqTY
 


……山頂に辿り着くと、そこにいたのは先ほどの黒騎士。
そして首を切り落とされてもなお生きている……闇の竜。

>「くだらん謎掛けは終わりだニーズヘグ。闇の指環の在り処など、貴様に聞いて分かるはずもない。
 貴様自身、闇の指環がどこにあるかなど知りはしないのだろう?」

……闇の指環の在り処。
お伽話では、勇者が指環を捨てたのは誰の手にも渡らないようにですから……
あれ?でも竜は指環に宿ってるんだから、在り処が分からないなんて事は……
えっと、駄目です。考えたって分かる訳がありません。

>「知るはずもない。闇の指環などどこにも在りはしないのだから。
 つまりはこういうことだろう。闇の指環は探し出す物ではなく――創り出す物だ」

ただ……この隠そうともしない、獣よりも更に荒々しい、狂犬のような殺気。
あの男、アドルフと呼ばれていた黒騎士が何を考えているのかは容易く分かります。

>「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」
>「させぬ――! シノノメ殿、下がれ!」

「いえ、ご心配なく。魔術師を前に立たせるほど、華奢じゃありません!」

呼び出された霊獣の動きは素早く、数は多い。
攻め筋が広い。実体を持たない霊獣はあらゆる角度から襲い掛かってくる。
だとしても、私に出来る事は一つです。つまり、全て切り落とす……

>『それは無粋じゃよ』

指を弾く音。振るった長剣が空を切る。
……霊獣が、掻き消された?
一体一体が高密度の魔素で構築されていたはずなのに、指を鳴らすだけで?
これが……竜の力。

>『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』
>『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』

「あ、あの……私は、別に、指環が欲しい訳では……」

闇竜は無言で私を見つめ、すぐに顔を背けました。
異論は認めない……という事ですか。

>『試練を与えるのは久しぶりなんじゃ、喋ってるうちに思い出したわ。
  ……これより行うは試練。
  ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』

>『汝らに勇気を』

そして、周囲が闇に包まれました。だけど……完全な暗闇じゃない。
蝋燭の微かな明かり。気づけば私は椅子に座っていて、目の前には上質な木で造られた執務机。
私は……手紙を読んでいました。

……おかしい。これは、私の記憶じゃない。
私がこれまで歩んできた生の中に、こんな場所で、手紙を読んでいた覚えなんてない。
一体どういう……いけない、落ち着かないと。
0268シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:47:33.43ID:mROVqqTY
まずは……この手紙を読んでみれば、何か分かるかも……。

『この土地がまだダーマと呼ばれる前の時代、
 トランキルは執行官ではなかった』

「なっ……」

なんですか、この手紙……一体、どういう事……。

『かつてトランキルは初代魔王の友、戦友だった。
 魔王と共にダーマを建国した八人の友の一人。
 闇より生まれ闇に潜む種であるトランキル。
 彼が担った役割は……言うまでもないだろう。




             君の背後にそれはいる』

「……っ!」

私が手紙を読み終えた瞬間、私の背後に誰かが現れた。
そして振り返る暇も与えず、私の背中に刃が突き立てられる。
……その瞬間に、やっと私は理解しました。

これは……私の記憶じゃない。
だけど最も見たくない過去。
トランキル家の、過去なんだ……。

気づけば私はまた、さっきとは違う、私じゃない誰かになっていました。
ここは……どこかの街並み。人混みの中で……。
その中に紛れて、前方から、また何者かが歩み寄ってくる。
いえ……あれは……

『ダーマの黎明期において、トランキルは暗殺者の役割を担っていました。
 魔王の敵を秘密裏に、事を荒立てる事なく始末する……。
 それはある意味では魔王からの無上の信頼の証だったのでしょう』

……私だ。

『だけどその信頼が、トランキルのその後の運命を決定付けてしまった。
 誰にも任せられない事を、任せる相手として』

短剣が私の腹部に突き刺される。
膝を突き倒れると……また、私は別の誰かに。
今度は……手足を縛られて、跪かされている。

『国が形になり暗殺がさほど必要なくなると、トランキルはもう一つ仕事を与えられました。
 そう、罪に対する罰の、国家の正義の象徴。死刑執行官です。
 素晴らしい名誉です。魔王陛下は国家の威容そのものと言っても過言ではない役割を与えて下さった』

……首を刎ねられる罪人は、こんな景色を見ているんですね。

『言祝ぐべき事です。そうでしょう?トランキルは皆その役割を誇りに思っていた。
 あなたの父も、祖父も、曽祖父も。あなただけです。死刑執行官の職務を厭うているのは』

見えるのは執行官の足元と、振り上げられる剣の、薄い影……。
0269シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:49:29.30ID:mROVqqTY
『言いなさい。罪人の首を刎ねる刃を担うは、至上の名誉、至上の幸福であると。
 それこそが勇気の証明。弱いあなたを否定し、あるべき姿に。
 国家の剣へと生まれ変わるのです。この瞬間を、あなたは待ち望んでいたはず』

……そうだ。私はずっと、待ち望んでいた。
私が、今の自分じゃない、もっと違う私になれる時を。
それはもしかしたら、いやきっと、この瞬間……なのかもしれない。
0270シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:50:05.32ID:mROVqqTY
「わ……」

言わなきゃ、首が飛ぶ。だから否応なしに強く生まれ変われる。

「私は……罪人の首を、斬る事に……喜びを……」

……風切り音。
私のすぐ傍、体を掠めるほど間近に、何かが突き立てられる音。

顔を上げると……目の前には、槍がありました。
この槍は……アルマクリス、彼の……なんで、こんなところに……?
私は無意識に槍に手を伸ばそうとして、手足を縛る縄が断たれている事に気付きました。

首切りの私は……まだ私を見下ろしたまま、動かないでいます。
私が……答えを口にするのが、きっとこの試練の筋書きだから。

「……言えなかった」

首を斬られる心配がなくなれば、もう私が、言葉を強いられる理由はありません。
私は深く、溜息を吐く。
……肺の中の空気を全て吐き出して、同じくらい深く息を吸って。
そして私は気付きました。この溜息は……落胆ではなくて、安堵から来ているのだと。
だから……私はやっぱり、多分ずっと、自分の責務を好きになれない。

だけど……名誉に思わない訳じゃないんです。
私の幻が語った過去は、父も祖父も、何度も言い聞かせてくれたものです。

父も祖父も、曽祖父も、トランキルは皆、死刑を執り行える事を名誉に思っていた。

「……あなたが、一体何者なのかは分かりません。
 あの闇の竜が言う、闇の一つの側面なのか。
 私の心が生み出した幻なのか。だけど……」

私だって、それが誇るべき名誉だって事くらい分かります。
それでも、どうしても好きになれないだけで。だから、だったら……。

「私は……父と祖父を尊敬しています。
 父も祖父も、思想は違えど……立派な、執行官です」

『……深淵を望みたいと。それがあなたの厭う過去なら、試練はそのように』

私の幻がそう言うと、再び周囲の景色が変わりました。
この場所は……見覚えが、あります。
ここは……王都の、トランキルの本家の廊下。

小さな子供がいる。私じゃない。これは……父だ。
父はドアの前にいる。この部屋は……父の、執務室。
鍵穴を覗き込んでいる。

父に触れようとすると、私の手はその体をすり抜けた。
……ドアノブも、やっぱり。
だったら、このドアも……。

執務室の中は、薄暗かった。
窓の外は真っ暗で……あるのは蝋燭の明かりだけ。
まだ若い姿の祖父は、処刑用の長剣を蝋燭にかざしていた。
身体を刃に変えられる私達には不要な、金属の長剣を。
0271シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:54:15.40ID:mROVqqTY
……磨き上げられた剣身が、蝋燭の明かりを反射させている。
その光が、壁を、天井を照らす。
……そこには、礼拝堂があった。
剣身に刻まれた微細な彫刻。それによって生じる、光の陰影が描く礼拝堂が。

祖父は、祈りを捧げていた。
ダーマに生きる数多の種族が、創造神と崇める神々に。
0272シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:57:19.59ID:mROVqqTY
私は身を翻して、執務室を出る。
……父はもう、鍵穴を覗いてはいなかった。
鍵穴から漏れる光。それが描く神の一柱に、祈りを捧げている。

「……見たくない過去は見れました。さっきの続きをしましょう」

虚空に向けて呼びかける。
私の目の前に、私の幻が現れる。
0273シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2017/12/22(金) 11:58:21.35ID:mROVqqTY
『……言いなさい。罪人の首を刎ねる刃を担うは、至上の名誉、至上の幸福であると』

「いいえ……トランキル家の使命は、至上の名誉。
 だけど……決して幸福ではなかった。父も祖父も、私と同じだった。
 二人が、私よりも立派な執行官でいられた理由が、私、分かった気がします」

私は右手に長剣を作り出す。

「苦しいのは、自分だけじゃなかったから。父は、祖父を見て。祖父は、曽祖父を見て。
 皆、苦しんできたから……自分だけが逃げちゃいけないって、思えたんです。
 私が今、そうであるように」

そして、それを振り被り。

「そう、私は出来損ないじゃなかった。
 トランキルも、死神なんかじゃない。
 私はダーマで、きっと一番不運な家に生まれただけの、ただの魔族です」

私の幻の首目掛けて、振り抜いた。

「首を斬るのも、斬られるのも……誰かが被らなきゃいけない、ただの不運。
 だからもう、首を斬るのは怖くない」

今まで多くの罪人の首を斬ってきた。
だけどこんなにも素早く、淡々と……迷いなく剣を振り抜けた事は、なかった。
振り抜いた腕はその先端まで、満月の夜空のような青色に変化していました。
……確かに、今は晴れやかな気分です。

「さぁ、私は勇気を示せたのかは分かりませんが……
 これ以上どんな過去を見たって、もう心は挫けません。
 帰らせて下さい。闇の指環が欲しい訳じゃないけど……次こそは、あの人達の助けにならなくては」

斬り落とされた、私の幻の首を見下ろす。
闇竜がこの試練を見ているのかは分かりませんけど……
声をかけるとしたら、それくらいしか心当たりがなかったものですから。



【遅れてすみません……】
0275スレイブ垢版2017/12/26(火) 18:35:37.57ID:vb5XTl8v
【あらかじめお伝えしとくっす
 年末ちょーっとビジーなので一週間ギリギリかちょーっとオーバーするかもっす
 年内には投下するっすなので許して欲しいっす】
0278創る名無しに見る名無し垢版2017/12/27(水) 09:43:14.81ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

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0279スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/01(月) 13:53:58.23ID:7cE8OwVD
>『それは無粋じゃよ』

黒犬騎士アドルフが放った虚無の猟犬を、老龍はにべもなく睥睨した。
漆黒の爪をヒトの手へと変じ、指を鳴らす。圧を伴わない衝撃が風を巻き、猟犬が弾け飛んで消えた。

「今のは……シェバトでジャンが放ったのと同じ――」

『竜轟(ドラグロア)じゃな。ありゃ元々テネブラエの技をアクアがパクった奴じゃから』

咆哮に乗せた波動で発動済みの魔法すらも消し飛ばす竜の御業。
水竜アクアをその身に宿したジャンが全身を震わせて放つ竜轟を、老龍は指先一つで成してみせた。
圧倒的な彼我の能力差を目の当たりにして、アドルフが眉を立てる。

>『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』

「ならば何故邪魔立てするニーズヘグ。あの魔族を腑分けして指輪を取り出せばことは単純だろう」

>『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』

>「……最初からそう言ってくれよ、爺さん。とっととやらせてくれ」

老龍と知己であるらしいジャンは、臆した様子もなく先を促す。
試練。旅の道中でティターニアからこれまでの指輪に関するあらましは聞いていた。
火竜も、水竜も、地竜も、指輪の勇者たる資格を問う試練を彼女たちに課してきたという。
ならば、闇の指輪もこの試練を乗り越えた者に与えられるのだろうか。

>「あ、あの……私は、別に、指環が欲しい訳では……」

傍で戸惑っているシノノメは完全に巻き込まれた形になるが、これもまた運命と瞑目する他無い。
呪うべきは神の不明だ。そしてスレイブもまた、他人事ではなかった。

「指環を得る為に必要なら、俺は試練を受けよう。……試されるのには、慣れているつもりだ」

ジュリアンに蒙を啓かれるまで、スレイブの命は常に秤にかけられ続けてきた。
魔族至上主義の王都にあって、尖兵としての存在価値を立証し続けなければ生きることさえ許されなかった。
この剣で証を立てられるのならば、やることは何も変わらない。

>『 ……これより行うは試練。ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』

エルフの姿をとった老龍が宙に陣を描き、魔法が発動する。
スレイブの視界はまばゆい光に包まれ、それきり何も見えなくなった。

>『汝らに勇気を』

――――――・・・・・・
0280スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/01(月) 13:54:36.92ID:7cE8OwVD
土砂降りの雨音が耳朶を打って、スレイブは自分が屋外にいることに気がついた。
夕闇がすぐそこまで迫り、息も絶え絶えとなった陽光がこの手に握る剣を照らしている。
磨き抜かれた刃には、今よりも少しだけ幼い自分の姿が写っていた。

(過去との対峙――そう言っていたな。かつての記憶を呼び覚ましているのか)

見回せばあたりの景色にも見覚えがある。
ダーマ領内の小さな村と、近隣都市とをつなぐ街道だ。
かつてここを訪れた『理由』を思い出そうとして、しかし記憶をたどるまでもないことに気がついた。

「私の負けだ……殺せ」

大柄な男が一人、スレイブの足元で膝を着いていた。
苦痛と疲労に喘ぐ顔には玉のような脂汗が光り、肩口と脇腹からは赤黒い血液が大量に噴出している。
十人に問えば十人が致命傷と答えるだろう、正しく死に体となった男。
そして、彼をここまで追い詰め、傷と付け、今まさに命を奪わんとしているのは、スレイブ自身だった。

("任務"の記憶か――腑に落ちないな。何故数ある殺しの中から、この記憶だけが選び取られた?)

過去との相対を迫られて、しかしスレイブは自分でも不思議なほどに落ち着いて状況を把握していた。
予め老龍から試練の内容を伝えられていたおかげで、ある程度推測と覚悟が出来ていたというのが大きい。
何が来るのか分かっていれば、不必要に心を揺さぶられずとも済む。

だが解せないのは、目の前で自分に殺されかけているこの男が何故、最も憎み嫌った過去なのか。
この光景は、バアルフォラスが保管していた記憶の断片の一つに過ぎない。
ダーマ王家の尖兵として、同胞殺しの任を請け負っていた頃の、言ってはなんだがありふれた業務記録だ。

内容も昨日のことのように諳んじられる。
たしかこの男はダーマの前哨地に何度も小競り合いを仕掛けてきていた反抗組織のリーダーだった。
組織は非常に精強な槍術の使い手達で構成されていて、鎮圧にやってきた国軍を尽く蹴散らす快進撃を見せていた。
いたずらな部隊の損耗を嫌った軍部は、使い捨ての暗殺者としてスレイブを送り込んだのだ。

暗殺は苦労せずに終わった。
王都の紋章を掲げて街道を歩けば、勝手に向こうから絡んで来てくれる。
反抗組織の本拠地と目されている村の近辺で槍使いの集団と遭遇し、戦闘になった。
半刻もしないうちに、街道には無数の骸が転がることとなった。

「……何か、言い遺すことはあるか?家族や友人に、伝えておきたいことは?」

最後に残った一人……反抗組織のリーダーの首筋に刃を突きつけて、スレイブは問うた。
男は血泡混じりに言葉を零す。

「よく言う……我が戦友はたった今、貴様が全て殺したではないか」

「……そうだな。家族は?」

「とうの昔に喪ったとも。貴様ら王党派が、我々からどれだけのものを奪ってきたか」

「そうか……」

黙祷でもするかのように目を伏せたスレイブに、死にかけの男は苛立った。

「殺すなら早く殺してくれ。私はいつまで苦しめば良い」

「分かった。……済まない」

男の首を断ち落とさんを振り上げた剣が、半ば反射的に見当違いの方向へと打ち下ろされた。
切り裂いたのは拳大の石。真っ二つに断ち別れた石が地面に落ちたその先に、投擲者の存在があった。
0281スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/01(月) 13:54:58.66ID:7cE8OwVD
「おじ様から離れろっ!裏切り者!!」

スレイブへ石を投げつけたのは、横転した馬車に隠れていた一人の少年だった。
その両腕にまだ石をいくつか抱え、涙の溢れる双眸でスレイブを睨みつけながら腕を振り上げる。

「この!」

うなりを付けて放られた石は、やはりスレイブに届く前に断ち落とされた。

「……家族はいないんじゃなかったのか?」

少年から視線を外さずに、スレイブは足元の男へ問うた。
もはや息も絶え絶えの男は震える唇で否定を口にする。

「拾った孤児だ。兵士としての訓練も積ませていない、我々とは関係のない子供だ」

「関係ないなんてことあるかっ!オレにとっちゃみんな家族だったんだよ!おじ様、アンタもだっ!
 よくもみんなを殺したな……!絶対に許さねえ、殺してやる……!」

「失せろッ!!」

男が血を撒き散らしながら叫んだ。少年の肩が大きく震える。

「戦い方も知らぬガキに何が出来る!とっとと戦場から消えろ!!」

命を振り絞るような怒声に弾かれて、少年は両手の石を取り落とした。
何事か反駁しようとしばらく口をぱくぱくさせていたが、やがて背を向けて走り出した。
スレイブもまた応じるように一歩前に出る。
踏み込みとともに剣を放てば、無防備な少年の身体ひとつ、濡れ紙を引き裂くように両断できるだろう。

「待て」

男がスレイブの足に縋り付いた。
誇りも外聞も投げ捨てたその挙動に、スレイブが面食らう番だった。

「王党派が求めているのは私の首級だけだろう。あの子は無関係だ。
 死にゆく戦士の遺言を聞き届けてくれるのならば、後生だ、あの子のことは見逃してやってくれないか」

「………………」

瀕死の男の懇願を、スレイブは跳ね除けることが出来なかった。
彼とて道楽で同胞の命を奪っているわけではない。殺さずに済むならばそれが最良だと思える。
どの道、この地方の抵抗組織は頭目が粛清された時点で瓦解は免れないだろう。
任務は完了しているのだ。これ以上命を奪う意味はないと感じた。

「……見なかったことにする」

「恩に着る……!」

男は自分を殺した者へ感謝を述べて、それを最期に動かなくなった。
本当に、一滴の限りまで命を絞り尽くして……首を撥ねられるまでもなく、息絶えた。

怨嗟と絶望に満ちた、血塗られた戦いの遍歴の中で、唯一他人に感謝された記憶。
"最も憎み、嫌っている過去"などとは結びつかないはずだ。

「ニーズヘグは何故、この記憶を俺に見せた……?」

極論を言ってしまえば、スレイブにとってジュリアンと出逢う前の全ての過去が忌むべき記憶だ。
思いつく限りの罵声を浴びせて死んでいった者や、父母の亡骸の傍で自身の喉に刃を突き立てた子供もいた。
それらに比べてこの記憶は、憎しみの引き合いに出すにはあまりにも穏やかだ。
0282スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/01(月) 13:55:23.52ID:7cE8OwVD
「そりゃおめーが現実から目を背けてっからだろ?だからあのクソ陰険ドラゴンはこの記憶をお前に見せたんだよ」

不意に背後から声を掛けられて、振り向きざまに剣を振るう。
一閃が断ち切ったのは黒い靄――老龍のそれによく似た魔素の凝りは、しかし老龍とは別の声で言葉を発した。
霧散した靄が再び凝集して、ヒトの輪郭を造り始める。やがて現れたのは――

「アルマクリス……!?」

チェムノタ山中腹で戦ったエーテル教団の尖兵、アルマクリスの姿だった。

「何故お前がここに……!」

「あーあー説明メンドいから全部終わってからクソエルフに聞いてね!んなこたぁ今重要じゃないのよ。
 なぁお前、何が『殺した相手に感謝されて嬉しかったです。』だよ作文発表会かここは?ああーっ?」

アルマクリスはスレイブの胸ぐらを掴む。指先ひとつ動かせず、まともに抵抗も適わなかった。

「この話にゃまだ続きがあんだろうがよ。そいつを受け入れなけりゃ、てめーはずっと闇ジジイのお腹の中だぜ」

「お前は何か知っているのか……?」

「俺が知るわけないじゃん!ここはてめーの記憶ン中だろがよ。知ってんのはてめーだし、知らないフリしてんのもてめーだ。
 時間ないからヒント一つあげるね?この後抵抗勢力の拠点になってた村はダーマの地図から消えました。なーぜーでーしょーぅ?」

「………………っ!!」

スレイブは喉の奥で呻いた。

この話には続きがある。見逃した少年は、村へと帰って抵抗組織の壊滅を住民たちに伝えた。
そして、事態はそれで終わりにはならなかった。少年は住民たちを焚き付けて、ダーマ前哨地への一斉蜂起を成し遂げたのだ。
明らかに絶望的な戦いに、どうして他の大人たちが賛同したのかまでは分からない。
しかし、目の前で仲間を殺された少年の怒りと恨み、その執念が大勢を突き動かしたことは確かだった。

結果は――言うまでもない。抵抗組織の息がかかってたとはいえ、大多数はまともに剣の振り方も知らない農民たちだ。
前哨地に詰めていたダーマの軍隊に勝てるはずもなく、反転攻勢を受けて村一つが焦土と化した。
少年はおろか、彼らの村の全ての住民が、一人の例外もなく根絶やしにされたのだった。
0283スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/01(月) 13:55:40.02ID:7cE8OwVD
「てめーがあの時クソガキもしっかり殺しとかなかったから、もっと多くの人間がおっ死ぬハメになった。
 くだらねえ情にほだされて、その場限りの悦に浸って!人殺して食うメシは美味かったか?おお?」

「俺は……!」

「山ン中で俺と殺り合った時も、結局おめーは急所狙ってこなかったよなぁ?
 もう人殺したくないんですぅーじゃねーんだよナメてんのか。殺し合いだっつってんだろ。
 おめーのそのクソみてーな拘りで次は誰が死ぬのかな?オークかなエルフかな魔族ちゃんかな!楽しみだね!」

アルマクリスが掴んでいた手を離すと、スレイブは力なく崩折れた。
前哨地での一件は、スレイブが任地を離れた後に起きたことだ。
軍部の記録を当たればあの後村がどうなったかなど容易く知り得たにも関わらず、彼は無意識に頭の中からそれを締め出していた。
自分のしたことの結末を知ろうともせず、耳障りの良い上っ面だけで満足する。
これを偽善と言わずしてなんと言う?

「……あの時の俺の判断は多分、間違ってたんだと思う。あの少年を殺しておかなければならなかった」

握りしめた拳を地面に突き立てて、スレイブは少しずつ身体を持ち上げる。

「それでも……!この先の全ての戦いで、人を救いたいと願う俺の意志が間違いだとは、思いたくない」

どだい、何が正しくて何が間違っているのかなど、答えは自分の中にしかない。
少なくとも、アルマクリスを殺さなかったおかげで、今こうして老龍の思惑の外から彼は手を差し伸べてくれた。
きっと、あの時殺せなかった選択は、間違いなんかじゃなかったはずだ。

「王都にいたころ、78人殺した。あの村の住民215人を加えるならば、俺はこれまで293の同胞をこの手にかけてきた。
 全部覚えてる。忘れるはずもない、293人分の命を奪って繋いできた、これが俺の人生だ」

かつてジュリアンは言った。
『相手を殺すことは、その人の人生の全てを背負うことである』と。
ならば、293人の人生を背負ったスレイブには、293人の想いと願いを代行する責務がある。
彼らはみな一様に、ダーマにおける同胞の救済を目的として戦ってきた。
彼らの救いたかった者の全てを、スレイブもまた救いたい。

「この先の戦いで、俺は再び人を殺すだろう。……それでも俺は、殺した分だけ人を救うよ」

「そーかい。だったらとっととここから出て、てめーの偽善に付き合わされる可哀想な連中と合流しねえとな。
 あーお前こっから一人で歩けよ。ちょっとクソオークがやばそーだからあっちに顔出して来るわ」

アルマクリスはそう言って目の前から掻き消えた。
唐突に道案内を放棄されたスレイブは、しかし白昼夢の中を臆せず無く進む。

進むべき道は分かっていた。
もう迷わない。


【アルマクリスに説教ぶちかまされて開き直る】
0284スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/01(月) 13:57:06.40ID:7cE8OwVD
【あけましておめでとうございます!
 思いっきり年明け投下になってしまって申し訳ないっす。
 想像以上に年末年始にやることが密集してたのとカゼ引いちまいました
 みなさま今年もよろしくです。めっちゃ寒いのでカゼには気をつけてね・・・】
0287ジャン ◆9FLiL83HWU 垢版2018/01/05(金) 20:13:37.44ID:pZwUkuLB
自分そっくりの姿をしたオークが、大剣を携えて立ちすくむジャンへとゆっくり歩いてくる。
何の感情もないその顔は、やがてどこからかやってきた闇に紛れて消え去ってしまった。

『お前は罪を犯したが裁きを受けてはいない。
 この闇の試練によって己の過去と向き合い、過ちを清算する時だ』

どこからか響くその声はジャンの声だが、断定するような口調はジャンのものではなかった。
その声を振り払うようにジャンは声を荒げる。

「……俺は確かに最初は間違えた!だけどよ、最後にゃ犯人を突き出しただろう!」

『あの女性が無実の罪を着せられ、結果として死んだ事実は変わらない。
 そしてそれを主導したのはお前だ』

「殺したのは衛兵だ!俺じゃない!」

それから続く問答の中、ジャンは槍を構え、オークは大剣を構えた。
オークの構える大剣は先が潰され、刀身は分厚くこん棒に近い。
まともに打ち合えば不利だとジャンは考え、相手の出方を待った。

『……罪を受け入れぬ罪人に裁きを!』

オークは動きを止め、一呼吸置いて突撃する。
まったく体幹のぶれないその動きは、実力がジャンよりもはるかに優れていることを示していた。
そしてそこから繰り出される上段からの振り下ろしは、音すら置き去りにする必殺の一撃だ。

「だらぁっ!」

ジャンはそれを防ぐべく槍の穂先を刀身に叩きつけ、斬撃を右に逸らしつつ左に踏み込む。
そして腰の鞘から左手で引き抜いた聖短剣サクラメントをオークの首筋へと突き刺そうと左手を振り下ろした瞬間だった。

『……温い!』

逸らした大剣の軌道をオークは凄まじい膂力で以て変更し、その分厚い刀身をジャンの脇腹に叩きつけた。
吹き飛ばされたジャンはいつの間にか生えていた大きな大理石の柱にぶつかり、色とりどりのモザイク模様で出来たタイルに倒れ伏す。

気づけば辺りは満月が床と柱を照らす神殿となっていて、ジャンとオークはその中心、広場と言うべき場所にいた。
0288ジャン ◆9FLiL83HWU 垢版2018/01/05(金) 20:14:06.49ID:pZwUkuLB
『……まだ息があるか。さすが今代の指環の勇者だ』

「てめえ……!」

ジャンが槍を支えに何とか立ち上がったところで、ジャンの肩を叩く者がいた。
軽装の革鎧を身に纏った青年が一人、ジャンの横に立っているのだ。

「クソったれオーク、それでも指環持ちかよ?
 あのクソジジイがお前の過去を脚色してることに気づかなかったのか?」

「俺がみんなを扇動したことに変わりはないだろ!」

「最初に協力した住民が魔女だったのは覚えてんだろ?
 そいつが魔術の効きやすいオーク族のお前を操ったって考えなかったのか?つまりそういうことだぜ、この話」

『なに!?……むう、闇竜様がまた大事な部分をお話になられなかったということか……これだからあの方は』

大剣を構えたオークは天を仰ぎ、大剣で何もない空間を切り裂いたかと思うとそこに足を踏み入れ、
そのままするりと出て行ってしまった。
それを見たジャンはため息をついて、アルマクリスの方を振り向く。

「……俺は……やっぱりバカだな」

「そんなもんさっきの打ち合いで分かったっつの!
 とっとと出るぞ、てめえのお友達も待ってんだからな!」

アルマクリスが神殿の奥、大きな扉を指差し、ジャンを先導するように歩き出す。
ジャンもそれを追いかけるように歩いて、出口へと向かうのだった。


「なんじゃ、どいつもこいつも見破りおったか。
 ……いや一人だけ、耐え切れなかったようじゃな」

大扉を開け、黒一色の闇に包まれたかと思うと闇が吹き飛び、気がつけば先程までいた山頂だった。
周りを見ればティターニアやスレイブ、トランキルにフィリアもいる。

だが……同じ試練を受けていたはずの黒犬騎士アドルフはいない。
アドルフがいたはずの場所にあるのは、ちょうど人間一人分の骨だけだ。
0289ジャン ◆9FLiL83HWU 垢版2018/01/05(金) 20:14:57.73ID:pZwUkuLB
「……どういうことだ、爺さん」

「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

闇竜は指をパチンと鳴らし、老エルフの姿から再び竜の姿へと変化した。

『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』

くつくつと顎を鳴らして笑い、闇竜は右手を天にかざして叫ぶ。

『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』

すると周囲に漂っていた黒い粉のようなものが闇竜の右手に収束し、
やがて一切の光沢を持たず、黒一色に染まった指環が出来上がった。

「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」

闇の指環は闇竜から離れ、ジャンたちへと近づいてぴたりと止まった。

「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

分かっているであろう?と言わんばかりの闇竜の態度に、ジャンが自信満々に一歩を踏み出した。

『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』

「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』


【あけましておめでとうございます&去年はありがとうございました!
 インフルエンザも流行ってるそうなので気を付けてくださいね……ゴホゴホ】
0290ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/06(土) 17:16:40.16ID:lrsBzCFs
アルマクリスが槍を一閃すると空間が裂けて、彼はその向こうへと消えていく。
アルマクリスを追って空間の裂け目へ入ろうとするティターニアの前に、黒衣の女が現れた。
フードを目深に被っていて顔は見えないが、その手には白く輝く指輪――光の指輪と思しきものがはめられている。

『ウフフ、折角片付けるチャンスだったのに失敗しちゃった。
まさか闇の影に助けられるなんて――流石、指輪の勇者様。運も実力のうちね』

女は、ティターニアを挑発するように笑って空間の裂け目へと消えた。

「そなたの好きなようにはさせぬぞ、指輪の魔女!」

ティターニアは一瞬茫然とするもすぐ我に返って女を追う。
どんな戦場が待っているかと身構えるティターニアだったが、想像の斜め上の光景が展開される。

「なんだこれは……」

一見すると妖艶な女が寝室で男に擦り寄っているシーンにしか見えないが……その指には光の指輪らしきものが嵌められている。
会話の内容に意識を向けると、何故かはっきりと聞き取れた。
指輪の魔女が、ダーマ黎明期の魔王らしき人物にトランキル家を執行官にするよう進言しているのだ。
指輪の魔女は歴史の随所に現れ有力者を操り世界に干渉してきたという。

「やめぬか! その女の言う事に耳を貸してはならぬ! 我は断固反対するぞ!」

全く空気読まずに乱入するティターニア。
尤もこの光景が真実かどうかは定かではない上、この闇竜が作った空間で暴れたところでどうしようもないのだが、
遥か昔にトランキルに与えられた執行官という役目が後々シノノメを苦しめることになると思うと、つい飛び出してしまったのだ。
上を下への大修羅場に突入するかと思われたがそこで都合よく場面が切り替わる。
次の瞬間ティターニアは、拘束されたシノノメが、今まさに彼女自身と同じような姿の影に首を刎ねられようとしているのを目撃した。
異空間特有の急展開にティターニアが面食らっている間に、シノノメをアルマクリスが間一髪で救い出した。
0291ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/06(土) 17:18:23.69ID:lrsBzCFs
「行くぞ――次は手伝ってもらうからな!」

アルマクリスに促され、空間を渡るティターニア。
眼前で展開される場面の中にまたもや仲間の姿は見当たらず、やはり黒衣の魔女の姿があった。
黒衣の魔女が言葉巧みに慈母の皮を被り年端もいかぬ少年に反乱を起こすように唆している。
どうやら少年はスレイブによって身内を殺されるも、自身は見逃してもらった者らしい。

「駄目だ……無駄死にするだけだ。命を粗末にしてはならぬ!」

止めようとするも、気付けば大人の村人達も扇動され、後戻りできないところまできていた。
あっという間に周囲は炎が燃え盛る戦場と化し、村人達が王国軍に突撃していく。
迎え撃つ王国軍がいるはずの場所には、放心状態のスレイブが佇んでいる。
尤も、彼自身はまた別の光景を見ているのだろう。何が真実かは誰にも分からない。
というより元より闇竜が作り出した異空間。真実など存在しないのだ。

「スレイブ殿、何突っ立っておるのだ……!」

「こりゃヤバいな――俺はあのバカに説教かましてファイト一発するわ! お前はここで奴らを食い止めろ!」

いつの間にか村人たちは地獄の亡者のような姿になっていて。
反乱を先導する少年が、哀しげに恨めしげに訴えてくるのだ。

「あの時オレを殺しておいてくれれば、みんなは死なずに済んだのに……」

「許してやってくれとは言わぬ。しかし我々もここでくたばるわけにはいかぬのだ。済まぬな――」

淡々と、灼熱の炎で亡者の群れを焼き払うティターニア。
ここで動じれば自分もスレイブも闇に飲まれる。それが分かっているからだ。
やがて、唐突に亡者の群れが搔き消える。アルマクリスによる気合注入が成功したのだろう。

>「そーかい。だったらとっととここから出て、てめーの偽善に付き合わされる可哀想な連中と合流しねえとな。
 あーお前こっから一人で歩けよ。ちょっとクソオークがやばそーだからあっちに顔出して来るわ」

次の空間では、ジャンがオークのようなシルエットの何者かと戦っている。
ゆらり、とローブを纏った女性がどこからともなく現れる。
ティターニアが振り向いてみると、それは首の無い女性だった。
服装は一般的な魔女のようだが、指輪ははめておらず、指輪の魔女ではないようだ。
右手に大鎌を構え、左手に自分の首らしき物と抱えており、その目は怨嗟に血走っている。
その首が言葉を発した。

「そこを退け……あの男は村人を扇動し無実の私を死に追いやったのだ!」

振り抜かれた鎌を、とっさにプロテクションを展開した杖で受け止めるティターニア。
暫し生首と睨み合う。

「退かぬと言ったら?」
「――力づくで退かすまで!」

振るわれる首狩り鎌の前に防戦一方となり、致命の一撃をなんとか躱すも地面に倒れ伏す形となる。
ついにとどめの一撃を放たんと鎌が振り上げられた。
0292ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/06(土) 17:20:08.07ID:lrsBzCFs
「――そこだ!」

ティターニアは苦し紛れに魔力の矢を放ち、それは何もない地面に突き立つ。
否――それは首無し女の影にあやまたず突き刺さっていた。
その瞬間、首無し女の姿は消え、代わりに影のあった場所から指輪の魔女が姿を現した。

「あーあ、見抜かれちゃった。そうよ、黒幕は私」

ジャンの方を見ると、彼が戦っていた相手もいつの間にか消えていた。
そして気が付くと、何もない空間で仲間達が一同に会していた。
シノノメ、スレイブ、ジャン、フィリア――全員、闇の試練を乗り越えたということだろう。
アルマクリスが、一同を見まわして言う。

「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

ようやく現実世界に帰れるかと思いきや、もう一度場面が塗り替わっていく。

「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

それは、木漏れ日の中で、少年少女達4人が笑顔で戯れている光景。
アルマクリスによると、黒犬騎士アドルフの過去に関する光景のようだ。

「それじゃああれは……」

「ガキの頃の俺と……シュレディンガー三兄弟だ」

アルマクリスとパトリエーゼはいつの間にか場面から姿を消し、少年の日のアドルフがメアリに、何かを差し出している。

「お姉ちゃん、あげる! はめてみて!」
「まあ綺麗。どこで見つけてきたの?」

それは、光り輝く美しい指輪――光の指輪だった。
優しい姉と、姉を慕う弟。これがアドルフの最も思い出したくない記憶なのだとすれば。
微笑ましい子ども時代の一幕にしか見えないこれこの瞬間こそが、終わりの始まりだったのだ。
無情にも、何も知らぬ少女は差し出された指輪をはめてしまう。
この日から、無邪気だった少女は狂気の魔女と化していき、
姉が狂ったのは自らのせいだと悟った少年は姉と共に歩む覚悟を決め自らもまた狂っていった――
考えてみれば、指輪の魔女という呼び名が付くからには、歴代の魔女は皆指輪をはめていたと思われる。
指輪の魔女とは――指輪をはめたヒトのことではない。
ヒトを乗っ取り傀儡とする魔性の指輪そのものなのだとしたら――

「我々は大変な勘違いをしていたのかもしれないな……。
指輪の魔女メアリが光の指輪を手に入れたのではなく、光の指輪がメアリを”指輪の魔女”に仕立て上げたのだ……」

ソルタレクのギルドが最近指輪を手に入れたという噂の正体は、
最初から光の指輪を持っていたエーテル教団と手を組んだ(という名目でメアリの完全支配下に入った)ということなのだろう。
0293ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/06(土) 17:22:11.14ID:lrsBzCFs
「ぜんぶ、ぼくのせいなんだ……。あのときゆびわなんてあげなければ……。
ほんとうは、もうおねえちゃんはおねえちゃんじゃないってわかってた。
せめてぼくがおわらせてあげなきゃいけなかったのに。
おねがい、おねえちゃんをかいほうしてあげて……」

幼いアドルフが懇願するように訴えながら、光の粒となって消えていく。

「待て! 勝手に消えるでない!
そなたが姉上殿に指輪をあげたところからすでに指輪の手の内だったのだ……!」

ティターニアの呼びかけも虚しく幼いアドルフは消え去り、気が付けばもとの山頂。
今度こそ、現実世界に帰ってきた。

>「なんじゃ、どいつもこいつも見破りおったか。
 ……いや一人だけ、耐え切れなかったようじゃな」

アドルフがいたはずの場所には、丁度一人分の骨だけが残されていた。

「アドルフ殿……」

>「……どういうことだ、爺さん」
>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

「ああ、奴は……真の敵に立ち向かう勇気を出せなかった……。
見えない敵と戦っていた時間が長すぎたのかもしれぬな……」

敵でありパトリエーゼの仇でもあるはずのアドルフの冥福をそっと祈り、気持ちを切り替える。
いよいよ闇の指輪を授けられる時がやってきたのだ。
0294ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/06(土) 17:23:33.98ID:lrsBzCFs
>『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』
>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』
>「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」
0295ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/06(土) 17:24:02.05ID:lrsBzCFs
闇竜によって、黒一色の指輪が具現化する。
おそらく、この指輪に宿っている”影”は、アルマクリスなのだろう。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」
>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」
>『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』

ジャンが抜かりなく場を和ませ、ティターニアがニヤリと笑う。

「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

ティターニアはそう言って、シノノメの背中を押すように肩を叩いた。
もちろんシノノメ以外はすでに指輪を持っていて二個目は無理っぽいというのもあるが、
そうでなくてもシノノメは体が闇の魔素で構成された種族であり、歴史の闇を担ってきた一族でもある。
彼女以上の適任はいないだろうと思ってのことだ。
彼女は執行官の任務を持つ身だが、指輪に選ばれてしまったとなれば休職ぐらいはさせてもらえるだろう。
しかし指輪の中身がアルマクリスでは苦労するだろうな、等と思うティターニアであった。

【ジャン殿もお大事に!】
0296 ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/09(火) 15:03:04.26ID:jhV/IFgD
年始早々めちゃんこ忙しくって今回も遅刻かましそうです・・・
今回はせめて早めに懺悔しておきます・・・ごめんなさいぃ・・・
0297 ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/13(土) 05:41:42.22ID:tK4aegA2
今日、明日中には投下します。本当に申し訳ない……
0300シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/13(土) 22:59:48.77ID:tK4aegA2
『帰らせて下さい?おかしな事を言いますね。あなたはトランキル。
 ダーマの建国、黎明。それらの裏に、澱のように積もっていく闇の全てを背負ってきた者。
 ……いえ、それらを積み重ねてきた者こそが、トランキル』

私の幻、その斬り落とされた生首が、あの闇竜のように声を発する。

『そう、あなた達は闇から生まれた。そして長い歴史の中で
 闇を生み出し、形造る者になった。
 今のあなたなら……誰の助けも必要としない。一人で、ここから立ち去る事が出来る』

それらの言葉に私は何の返事もしない。
ただ、右手の長剣をもう一度振るった。
トランキルの剣技が放つ黒の剣閃が闇を断つ。
空間に細い切れ目が走る。向こう側から眩い光が漏れる切れ目が。

「……ありがとう、ございました」

『礼ならあの槍使いに言いなさい。私はただあなたを試しただけです』

「はい。あの方にも、お礼は言います。だけど、あなたにも。
 ……それと、あなたは、もしかして」

『試練は終わりです。あなたが助けになりたいと願った者達は、既に試練を終えて待っていますよ』

……これ以上の問答をするつもりは、私の幻にはないみたいです。
私はもう二度、長剣を振るい……細い切れ目を、三角形の穴に変える。
そしてその向こうに見える光へと、足を踏み入れました。

「……ここは」

気付けば私は、どこかの神殿にいました。
元の世界ではない、どこか……だけどスレイブ様も、ジャン様も、皆が既に揃っています。
待たせてしまった……という様子ではなさそうで、ひとまずは安心ですが……。
しかし、ここはどこなんでしょうか。

>「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

「あ、アルマクリスさん。あの……さっきは、ありがとうございました」

「あー?何言ってんだ?お前。いや、なんの事かさっぱり分かんねーわー!
 異空間にありがちな幻でも見たんじゃねーの?いいからさっさと帰ろうぜって」

アルマクリスさんが私に目もくれず歩き出す。
だけど不意に、周囲の風景が再び闇色の渦と化した。
そしてそれが晴れると……私達は森の中にいました。
……子供の声が聞こえる。振り向いてみれば、淡い木漏れ日の中で子供達が遊んでいます。

>「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

……これは、黒騎士アドルフの記憶?
この穏やかな時の中に……彼が最も忌み嫌う記憶があるんでしょうか。

>「お姉ちゃん、あげる! はめてみて!」
>「まあ綺麗。どこで見つけてきたの?」

……私には、彼らがどういう人で、どんな考えを持っていて、どんな行いをしたのか。
完全には分からない。だけど、あの指環。そして彼がこの記憶を忌み嫌っているという事は……。
今この瞬間こそが、きっと全ての始まりなんだ。
この大陸に戦争の火が燃え広がり、世が乱れ……多くの人達がトランキルの刃に掛けられた。
その始まりも……。
0301シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/13(土) 23:01:19.26ID:tK4aegA2
>「ぜんぶ、ぼくのせいなんだ……。あのときゆびわなんてあげなければ……。
 ほんとうは、もうおねえちゃんはおねえちゃんじゃないってわかってた。
 せめてぼくがおわらせてあげなきゃいけなかったのに。
 おねがい、おねえちゃんをかいほうしてあげて……」

そう言い残して……アドルフは少年の姿のまま、消えてしまいました。
そして気付けば私達も、あの山頂に戻ってきていた。

>「……どういうことだ、爺さん」
>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

……私は何も言えずにいました。
ティターニア様のように、彼に祈りを捧げる事も出来なかった。
気持ちが落ち込んでしまった訳ではありません。
ただ……何か、違和感がある。

>『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』
>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』
>「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」

闇竜の呼び声が、闇の指環を現界させる。
漆黒の、竜の指環……本当に今更だけど、実在していたなんて……。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

ジャン様が自信に満ちた態度で大きく一歩踏み出す。
……そうですね。
ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者……。
故郷の人々を洗脳され、殺されかけても、それを許してしまえるジャン様になら相応しい……

>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

……えっ?そ、そうなんですか?

>『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』

でも、だったら誰が……ティターニア様はあのユグドラシアの導師。
闇の魔法に関しても深い造詣があるはず……

>「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

そう言ってティターニア様は私の背中を……えっ?

「わ、私ですか……?」

私は指環が欲しくてここに来た訳じゃないってさっきも……
闇竜の方を見てみると……もう視線は逸らされない。
けどそれだけです。彼は私に何も言おうとしない。
……光栄に、思わない訳じゃないんです。
0302シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/13(土) 23:03:23.61ID:tK4aegA2
だけど……私はこの、執行官の娘がわがままを言って連れ出してもらった短い旅の中で
……指環の勇者の名に相応しい事を成せたんでしょうか。
偶然スレイブ様を見つけて、偶然オーカゼ村の殲滅を命じられて
……そんな事したくないから、執行官の使命をねじ曲げて。

偶然に流されて、嫌な事から逃げて、
運良くそれらしい答えを見つけられただけの小娘。
私はまだ、その程度でしかない気がするのに……。

「……本当に、私でいいんでしょうか」

だけど、この状況で私にはやれません、自信がありませんとは言えなくて。
私は一歩前に出て、手を伸ばす。
そして指先が指環に触れて……瞬間、闇の魔素が溢れ返る。

「えっ……な、なに?なんで急に……!?」

『……うむうむ、愛い反応じゃのう。
 指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

周囲が急速に闇に染まっていく……。

「一体、どういう事なんですか?私は……指環に拒まれたのですか?」

『む、なんじゃ。思ったより勘が鈍いのう。拒まれたのではない。
 試練はまだ終わっておらぬ。ただそれだけの事。言うたはずじゃ。
 闇の指環が認めるは、ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者』

即ち……こういう事じゃ、と闇竜が続けた。
辺りに満ちた闇の魔素が形を得る。見覚えのある、ヒトの形を……。

「執行官……指環を寄越せ。俺は……責任を果たさねばならん。
 姉上を救うのは俺だ。闇に呑まれ、闇と同化した今、闇の指環を手にすれば……
 俺は俺自身を完全に律する事が出来る。姉上を、止められる」

……黒騎士、アドルフ。
 
「まっ、要するに……俺達の器になってくれやって事だぜ、トランキルさんよ。
 さっきは助けてやったり、姉上を救ってーなんて言ってたけどよ。
 生憎ここにいるのは指環に集積された闇そのもの……つまり」

そして……アルマクリスの姿を取った影が、矛の切っ先を私に向ける。

「殺し合おうぜ。殺し殺される、その絶対の運命を楽しめ。
 そして……指環は俺達のもんだ!俺達がここにいんだ。パトリエーゼもきっとここにいる。
 後はメアリを殺せば……やっとだ。やっと全部の辻褄を合わせられるって寸法よ!」

その咆哮と共に……アドルフが動いた。

一対の細剣から放たれる無数の斬撃……
五月雨のような手数を繰り出しながら、
しかし一つとして受けてもいいと思える一撃がない。
0303シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/13(土) 23:04:28.00ID:tK4aegA2
「俺達は闇の指環と同化している。だから分かる。
 お前には大層な望みなどない。闇の指環を手にして何を願う?
 それは俺達の願いを踏み躙ってまで、叶えなければならないものか?」

そしてアドルフの連撃を目眩ましにして襲い来る刺突。
受け止められない。防御すればこちらの剣が一瞬止まる。
そうなればアドルフの双剣が私に届いてしまう。

「アイツらの力になりてえか?それなら別に俺達の器になったって叶えられる。
 なあ、頼むわ。俺達の願いを叶えさせてくれよ」

黒騎士と、その命を狙い続けた男の、
いえ……命を落としてやっと、その手を組む事が出来た二人、その連携……。
……強い。

それだけじゃない。闇の魔素は次から次へ、影を生み出し続けている。
数え切れないほどの民兵に、エルフ達……。
見覚えのあるリザードマン……私が、いえトランキルが首を刎ねた罪人達も。
それに、彼らは……かつて指環の勇者を志して、そして叶わなかった数多の冒険者達。

こんなの、私に勝ち目があるとは思えない……だけどそれでも、私もこの体を、そして指環を渡す訳にはいかない。
こうして追い詰められてこそ、改めて分かる事がある。
それは、私には、私の……

……アルマクリスの天戟、私はそれを長剣の切っ先で受け止める。
そしてその反動で後方へ大きく飛び退いた。

「……私は、ただ幸運に恵まれて、嫌な事から逃げ出して、ここに来ました」

無数の影は……緩やかな歩みで、私に迫ってくる。
ありがたい事です。

「だから、せめて最後くらいは……自分の意志で何かをしないと。私は……」

アドルフが地を蹴った。低く、低く、懐に潜り込む動き。
同時にアルマクリスが槍を支点に宙へと飛び上がる。
天と地からの挟み撃ち……私はそれを、

「――指環の力よ」

長剣を上から下へ、蛇のように。

「私は、あなた達の器にはなりません。私には私の……願いがある」

その一振りで、彼らの首を薙ぎ払った。二人だけでなく、全ての影の首を。

「私は、私に恥じない私になりたい。たったそれだけの事だけど。
 あなた達の願いよりも、ずっとちっぽけな願いだけど……」

闇の属性が持つ力。見えず、理解出来ず、無形である事。
その概念を以って生み出した刃によって。

「あなた達の願いは叶えられない。
 誰かが首を刎ねられ、誰かが首を刎ねなければならないように。
 願いを叶えるのは私です。あなた達じゃない」

「俺達を、拒むのか……いや、ならば何故、闇の指環が……」

斬り落とされたアドルフの、アルマクリスの首が、私を見つめる。
0304シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 垢版2018/01/13(土) 23:05:14.68ID:tK4aegA2
「いいえ……拒みはしません。拒める訳がない。
 あなた達の願いは、とても尊いものです。
 叶うべきで、叶わない方が間違っている……」

「ならば……」

「それでも、叶わない。罪なき者が、時に死の運命から逃れられないように。
 あなた達はもう何も叶えられない。その無情と、無念を、私は受け入れます。
 そう……世の中は、そんなものだと」

私はヒトの首を斬り落とした。
その願いを断ち切って、決して未来へと辿り着かないようにした。
だけど……いつも処刑台に立っていた時のようには、私の心と鼓動は荒ぶらない。
胸の内が静かです。無風の湖のように、だけど水面よりも遥かに硬く。
心がまるで……罪人の首を断つ長剣のように変わっていくのを、私は感じていました。
……父も祖父も、きっといつも、こんな気持ちで処刑台に立っていたんだ。

「……要するに、開き直ってるだけじゃねーか」

「ええ。だけどそれでいいんでしょう。なんと言っても闇の指環です。
 きらきら眩しい心より、こっちの方がお似合いでしょう?」

……それに。

「あなた達はもう何も出来ないんだから……何も気負う必要もないんですよ。
 あなた達の願いが叶うか叶わないかは、私の気分次第……。
 なら、叶わなかったならそれは私のせい。でしょう?」

だからあなた達はもう何も気負わなくてもいいし、自分を責める必要もない。

「……さぁ、私は闇の指環の力を引き出した。今度こそ、試練は終わりです」

私がそう言って、数秒……不意に周囲の闇が渦を巻いて、消えた。
……今のは、幻?それとも……いえ、どちらであっても、関係ありません。
私は、確かに試練を乗り越えた。

気付けば私は、闇の指環に手を伸ばした時と同じ場所で、同じように右手を伸ばしていました。
いえ……一つだけ、違う事があります。私はいつの間にか、右手を握り締めていました。
その拳を、手のひらを上にして開く。
……闇の指環は、私の手の中にありました。



【遅くなってごめんなさい!】
0306スレイブ垢版2018/01/19(金) 17:48:58.61ID:Sg82Od9q
【すみません!今日ちょっと間に合わなさそうなので明日には投下します!
 二週連続で遅くなってしまってホント申し訳ないです!】
0308スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/20(土) 23:07:23.02ID:8pkZ86TN
五里の霧中をかき分けて、スレイブが辿り着いたそこは『無』としか形容しようのない空間だった。
既に試練を終えたらしきジャンとティターニア、それからシノノメが彼を待っていた。
そして――

>「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

――アルマクリス。
一体如何なる因果によるものか、一度は敵対した指環の勇者達に助太刀し、闇の帳から救い出した男。
助かったには助かったが、正直仲間面して一緒にいることに違和感を禁じ得ない。

「皆、無事だったか……"試練"は、成功したのか……?」

「さぁな、クソドラゴンの採点次第だ。あのジジィが耄碌してなきゃそれなりの結果になるだろうよ」

ジャン達がどのような試練を受けたかは想像もつかないが、互いにべらべらと語り合うものでもないだろう。
掘り返されたのは記憶の澱、心の痛み――胸の裡に秘しておくべき過去なのだから。

「まーいいじゃんダメでもさ!指環あげないって言われたら今度こそぶっ殺して奪っちまえばいいのよ。
 いや、"創る"か?どーでもいいっすね。……今更略奪したくないなんて抜かすなよ、ヘボ剣士」

「……わかってる」

試練を乗り越えたからといって、過去と決別したわけではない。忘れることなど赦されない。
ただ……覚悟を決めた。
これまで忌むべきものとして封じてきた薄汚い殺人者の過去を、前へ進む理由にする覚悟。
ただの偽善に過ぎなくても、最後まで貫き通した偽善ならばそれは、美談と呼べるものになるはずだ。

スレイブが仲間たちど合流すると、不意に周囲の『無』が渦を巻いた。
身を包む闇が軋み、色を得ていく――風景が切り替わっていく。
山頂への帰還かと思われたその変化は、しかし見覚えのない光景を形作った。

柔らかな日差しと木立の緑に囲まれた、静かな街道のほとり。
齢十にも満たない幼い四人の少年と少女が、草遊びをして笑いあっていた。

「これは、まさか……」

少年二人の顔には見覚えがある。随分と様変わりをしてはいたが、わずかに面影が残っている。
黒犬騎士アドルフと、アルマクリス。幼き日の二人だ。

>「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

アルマクリスが露骨に双眸を歪め、不快そうに呟いた。
この過去が、誰にとっての『試練』であるのかは……問うまでもない。

かつてアドルフがどこからか見つけ、姉に贈った指環。
それこそが光の指環であり、指を通した瞬間から彼の姉は最早何者でもなくなった。

>「我々は大変な勘違いをしていたのかもしれないな……。
 指輪の魔女メアリが光の指輪を手に入れたのではなく、光の指輪がメアリを”指輪の魔女”に仕立て上げたのだ……」

「ならば、アドルフの忌むべき過去とは――」

自分の姉を指環の魔女へと変えてしまったこと。
たとえそれが指環によって撚られた運命の糸だったとしても、全てを納得出来るはずもない。
彼もまた足掻いていた。変貌した姉に寄り添い、助け続けることで、贖罪を図っていたのだ。

>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」
0309スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/20(土) 23:07:53.60ID:8pkZ86TN
再び景色が切り替わり、元の山頂へと戻ってきて、変わらずそこにいた老龍は、無感動にそう吐き捨てた。
一歩間違っていればスレイブもこうなっていたかもしれない。
受け入れがたい過去などヒトであれば誰もが抱えているものだ。
老龍の足元に散らばる白い"何か"が、夥しい量の人間の白骨であることに気付いてスレイブの肌は粟立った。

>「ああ、奴は……真の敵に立ち向かう勇気を出せなかった……。
 見えない敵と戦っていた時間が長すぎたのかもしれぬな……」

「だが奴は、己の信念を貫いて……それに殉じた。『向き合わざるを得なかった』者よりも、ずっと強かった」

狂気や妄信は、確かにあったのだろう。
しかしそれ以上に、自身が変えてしまった姉を救いたいという執念が、彼を突き動かしていた。
突き動かして、そして歪なかたちであってもメアリの傍に居続けられるほどに、彼は強かったのだ。
そしてその強さが、この試練では彼に牙を剥いた。

『同情しとるんかお主?あのメアリの弟、信念は御大層じゃけどやっとることは外道そのものじゃぞ。
 麓のオークの村、ありゃマジでちょっとでも遅かったら全員虚無に呑まれとったからな』

ウェントゥスがスレイブの袖を引いて釘を刺した。
それが文字通りの老婆心によるものなのか、単に煽っているだけなのかは、今はどうだって良い。
わずかにでもアドルフの方へ引っ張られそうになった心に冷水を掛けられて、スレイブは首を振る。

アドルフに対する敬意のようなものが生まれていた。
スレイブが耐えきれず逃げ出し、アルマクリスに頬を張られてようやく直視した現実に、アドルフは抗いきったのだ。
物言わぬ亡骸へ向けて、静かに瞑目した。

>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』

老龍が手を掲げると、周囲に満ちていた闇の魔素がそこへ凝集していき、一つの輪郭を形づくる。
彼の手のひらに落ちてきたのは、光を一切反射しない漆黒の指環。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

差し出された指環に、ジャンもティターニアも、そしてスレイブもまた踏み出すことはなかった。
この場の誰が相応しいかなど、言葉にせずとも皆が理解していた。

>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

……理解していた。そういうことにしておく。

>「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

『えっマジで?』

ティターニアの言葉にウェントゥスが素で驚愕した。

「何故あんたが知らないんだ……」

『いや、じゃって千年前は人数的にピッタリじゃったし指環と勇者もそれぞれお互い相性良かったし……。
 誰も気にしとらんかったわそんなん……えぇ?じゃあなにティターニア、このままテッラと組むんか?
 儂誰と組めばいいの……』

ウェントゥスはスレイブの方を振り仰いで、心底げんなりした顔を見せた。

『……これぇ?』

スレイブは無言で指環を外し、握りしめて振りかぶった。

『うそうそ!うそじゃって!年寄りの可愛らしいジョークじゃろうが!ニーズヘグもやっとるじゃろ!?』
0310スレイブ ◆T/kjamzSgE 垢版2018/01/20(土) 23:08:18.52ID:8pkZ86TN
スレイブは露骨に舌打ちして指環を嵌め直し、シノノメに視線を遣る。

「……シノノメ殿、頼む」

>「わ、私ですか……?」
>「……本当に、私でいいんでしょうか」

ティターニアに背を押されているシノノメに、スレイブもまた頷きで肯定した。

「"相応しい"、と言ってしまうのは少しばかり傲慢かも知れないが。少なくとも俺にはそれを持つ資格はない」

アドルフの亡骸に目配せして、スレイブは一歩下がった。そうして彼の空けた道に、シノノメは硬い表情で歩み出た。
老龍の差し出す指環に、彼女の指先が触れた瞬間――

>「えっ……な、なに?なんで急に……!?」
>『……うむうむ、愛い反応じゃのう。指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

指環から溢れ出た闇が、彼女を包み込んで……そこから消し去った。

「!!」

瞬間、スレイブは弾かれた礫の如き速度で老龍までの距離を踏み込む。
流れるような所作で抜き放った剣、その切っ先に老龍の喉元を捉えた。

「彼女に何をした……!」

老龍は眉一つ動かさずに喉に突きつけられた刃と、その先のスレイブを睥睨した。

『何をもなにも、見た通りじゃよ。"試練は合格だ"。"指環を授けよう"。……一言でも儂がそう言ったかの?』

「まさか……」

『さぁさぁ、余興はここからじゃ。あと何度、お主らは儂を愉しませてくれるかの』

断末魔ひとつ上げずに白骨となったアドルフの姿が脳裏に過ぎる。
試練に落第した者の末路――最悪の想像に、スレイブは奥歯を軋ませて耐えた。

やがて、シノノメを飲み込んで消えた闇が再び虚空に渦を巻く。
老龍に剣を突きつけながら固唾を飲んでいたスレイブは、闇の中から五体満足のシノノメが出てきたことに何より安堵した。

「無事だったか……!」

『くくく……愉快愉快。許せヒトの子よ。若者をからかうのは年寄りの特権、娯楽のない余生の一抹の潤いなんじゃ』

『相変わらず趣味と性格が悪いのニーズヘグは……儂ちょっとドン引きじゃわ。やっぱ友達は選ぶべきじゃな』

『いつから儂とお主が友になったんじゃウェントゥス』

『えっ』

スレイブは老龍を睨めつけてから剣を納めて下がった。
シノノメをティターニア達に任せて、彼女たちと老龍とを隔てるように立つ。

「次、くだらない茶目っ気を入れてみろ……ウェントゥスに頭を下げてでも指環の力で貴様を叩き斬る。
 これで指環の試練は終わりなのか?追試はないんだろうな」
0312ジャン ◆9FLiL83HWU 垢版2018/01/22(月) 16:59:45.57ID:ITTT5Tzu
>「次、くだらない茶目っ気を入れてみろ……ウェントゥスに頭を下げてでも指環の力で貴様を叩き斬る。
 これで指環の試練は終わりなのか?追試はないんだろうな」

『これで終わりじゃよ。物語や伝承に語られるように、
 勇者たちは無事試練を抜け指環を手に入れました……めでたしめでたしというわけじゃ』

「まだめでたしとは言えねえな。指環の魔女――というかメアリの奴とエーテル教団をぶちのめしてからだ」

『……ソルタレクへ行くのじゃな?今やあそこはエーテル教団の理想郷。
 今代の指環の魔女は随分と実力があるようじゃ』

「闇の指環は手に入ったし、村のみんなも助けた。
 これ以上あいつに好き勝手はさせねえよ。ありがとうな、爺さん」

ジャンが礼を言って、夕焼けが照らす山道を歩き出す。連れだって歩く他の仲間を見ながら、闇竜テネブラエの身体は
静かに闇の魔素に分解され、彼のいた場所には巨大な竜の頭骨がまるではるか昔からそこにあったように、佇んでいた。

――山道を歩く一行の頭上を通り過ぎる影が、彼らの目の前に現れる。そこにいたのは一体の竜騎兵。
ミスリルと鋼の合金で作られ、金で縁取られたブラックミスリルの甲冑を身に纏い、
長大なブラックミスリルのハルバードを片手に持ち、ワイバーン種の中でも最も強力なエルダーワイバーンの背中に跨っている。

ダーマ魔法王国が誇る竜騎兵部隊、その中の最精鋭である『黒の小隊』だ。
フルフェイスの兜のフェイスガードを上げ、肌の色からおそらく魔族であろう竜騎兵が
ワイバーンに跨ったまま喋りはじめた。

「指環の勇者というのは君たちのことか?ラーサ通り総責任者の
 ガレドロ・アルマータより伝言を預かっている。」

「ガレドロ爺からか!?どんな内容なんだ」
0313ジャン ◆9FLiL83HWU 垢版2018/01/22(月) 17:00:08.73ID:ITTT5Tzu
ジャンの返答を聞いて本物と確信したのか、鞍にくくりつけていた革袋から
丸められた一枚の羊皮紙を取り出し、紐をほどいてピンと伸ばす。

そして朗々とその羊皮紙に書かれた内容を読み上げた。

「指環の勇者よ、王は闇の指環が相応しき者の手に渡ったことを悟り、
 封印を解いて離宮を離れ、王宮に戻られました」

「あなた方からの連絡が来るよりも先に王からの密使が届き、
 今こうして手紙を書いています。
 また、大陸全土で起きていた反乱も収まりました。
 おそらくはエーテル教団がかく乱のために続けさせていたのでしょう」

「王は勅令を出され、今回の件は全てエーテル教団が裏で仕組んでいたものとし、
 信徒以外の者を全て無罪としました。
 これよりダーマ魔法王国はエーテル教団殲滅のため、ハイランド連邦共和国に宣戦布告。
 首府ソルタレクまで進撃を続けるでしょう」

「指環の勇者よ、あなた方には感謝しています。ガレドロ・アルマータより」

「……以上だ」

羊皮紙を読み上げ終えた竜騎兵は紐で縛って丸め終え、フェイスガードを下げる。
そして兜の中から、くぐもった声でこう言った。

「シェバトには私の妻と子供がいた。……ありがとう。では!」

竜騎兵が両足でワイバーンの腹を二度軽く蹴り、砂を巻き上げてあっという間に飛翔する。
高度を上げたワイバーンは風に乗り、遠くにいる他の竜騎兵たちに合流しに向かっていった。

「……なんだかすげえ話になっちまったな。
 でもよ、これからやることは決まってるぜ」

「村に戻って晩飯だ!洗脳も溶けてるだろうし、村のみんなと宴会でもしようぜ!」

旅人が来ればもてなすのがオーカゼ村の流儀。
ましてやそれが帰ってきた村人と友人ならば、より一層盛り上がるだろう。
この先どうなるか分からないのならば、今を楽しむべきだ。

ジャンは夕日の中、そう考えて山道を下り続けた。

【この辺でそろそろ章区切った方がいいんじゃないでしょうか…】
0314ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/23(火) 01:08:46.38ID:Uq/HO4fB
>「……本当に、私でいいんでしょうか」

皆に背中を押され、シノノメが指輪に手を伸ばす。
彼女がそっと手を伸ばし指輪に触れた瞬間、指輪からあふれ出した闇が彼女を包み込んだ。

「なんだと……!?」

>「えっ……な、なに?なんで急に……!?」
>『……うむうむ、愛い反応じゃのう。
 指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

シノノメの姿は闇に包まれ、その場から見えなくなった。
ティターニアが言葉を発するよりも早く、スレイブが剣を突きつけながらニーズヘグに問う。

>「彼女に何をした……!」
>『何をもなにも、見た通りじゃよ。"試練は合格だ"。"指環を授けよう"。……一言でも儂がそう言ったかの?』
>「まさか……」
>『さぁさぁ、余興はここからじゃ。あと何度、お主らは儂を愉しませてくれるかの』

「貴様……もしも、合格できなかったら、彼女はどうなる?」

よくも嵌めたな――と激昂して詰め寄りたい衝動を抑え、不合格だった場合のシノノメの処遇を問う。
竜とはヒトの尺度を遥かに超えた、世界の理が形を成したようなもの。怒りを向けるだけ無駄だと分かっているからだ。

『そうじゃな――指輪に乗っ取られ言わばもう一人の”指輪の魔女”となるじゃろう。
安心せい、どっちにしても指輪は手に入るということじゃ。
ああ、それとアルマクリスじゃったか、それに今しがた試練に敗れた犬騎士も今や儂と同じ闇の一部となっておる。
今頃仲良く手を組みあの娘を乗っ取ろうとしておるじゃろうな。要はお主、アルマクリスの小僧にまんまと利用されたのじゃよ』

アルマクリスが一行に力を貸したのは、敢えて試練の第一段階をクリアーさせシノノメを乗っ取るのが目的だったのだ。
数舜かかってようやく意味を理解したティターニアの表情が絶望に彩られる。

「そ……んな……」

つい先刻シノノメの背中を押した右手を茫然と見つめる。
またしても無関係な者を指輪を巡る因果に巻き込み奈落の底に突き落としたのだ。
しかも、奇しくも少年時代のアドルフと同じ轍を踏む構図となっていた。

『なかなか出てこぬな。これはくたばったかもしれんぞ。
さあどうする。責任を持って引導を渡すか? それとも犬騎士のように地獄の果てまで寄り添うか?』

動揺するティターニアを、可笑しくてたまらないという風に煽るニーズヘグ。
ティターニアは目に涙を浮かべニーズヘグをきっと睨む。
0315ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/23(火) 01:14:06.57ID:Uq/HO4fB
「そなたは人知を超えた偉大な存在なのだろう!? ちっぽけなヒトを弄んで何が楽しいのだ……!
どちらも選ばぬ。今ここで貴様を屠り乗っ取られる前に彼女を連れ戻す……!」
0316ティターニア ◆KxUvKv40Yc 垢版2018/01/23(火) 01:15:17.67ID:Uq/HO4fB
そしてゆっくりと杖の先を向け今まさに宣戦布告しようとしたその時だった――

>「……さぁ、私は闇の指環の力を引き出した。今度こそ、試練は終わりです」

――凛とした声が響いた。
闇に取り込まれる前と比べてどこか吹っ切れたような雰囲気だが、
その気配は確かにシノノメのもので、その右手には、闇の指輪が握られていた。

>「無事だったか……!」

ティターニアはシノノメに駆け寄り、抱きしめて無事を喜んだ。

「シノノメ殿……見事試練を潜り抜けたんやな! 良かった……良かったよ……!」

そんな光景を前に、ニーズヘグは相変わらずからかうような態度を崩さない。

>『くくく……愉快愉快。許せヒトの子よ。若者をからかうのは年寄りの特権、娯楽のない余生の一抹の潤いなんじゃ』
>『相変わらず趣味と性格が悪いのニーズヘグは……儂ちょっとドン引きじゃわ。やっぱ友達は選ぶべきじゃな』

>「次、くだらない茶目っ気を入れてみろ……ウェントゥスに頭を下げてでも指環の力で貴様を叩き斬る。
 これで指環の試練は終わりなのか?追試はないんだろうな」

スレイブがシノノメ達とニーズヘグの間に割って入り、激昂しながら問いかける。

>『これで終わりじゃよ。物語や伝承に語られるように、
 勇者たちは無事試練を抜け指環を手に入れました……めでたしめでたしというわけじゃ』

その言葉を聞き、ひとまず安堵するティターニア。

「全く……そなた少し冗談が過ぎるぞ。おかげ様で年甲斐無く取り乱したではないか」

>「まだめでたしとは言えねえな。指環の魔女――というかメアリの奴とエーテル教団をぶちのめしてからだ」
>『……ソルタレクへ行くのじゃな?今やあそこはエーテル教団の理想郷。
 今代の指環の魔女は随分と実力があるようじゃ』
>「闇の指環は手に入ったし、村のみんなも助けた。
 これ以上あいつに好き勝手はさせねえよ。ありがとうな、爺さん」

「……悔しいが我からも礼を言うぞ。結果オーライという言葉が古来より存在するからな」

経緯はともかく結果的には味方は全員無事で、闇の指輪は手に入り、
おまけに強敵の一人であったアドルフは倒れ、敵に関する重要な情報まで手に入った。
結果だけを見ればいい事ずくめだ。
もしかしたら最初からこちらを指輪の勇者と認めていて、本当にからかって遊んでいただけなのかもしれない。
そう、竜は人知を超えた存在。真意など知る由もないのだ――
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