ランカ「解ってる…どうせあたしの歌はヘタだって」
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http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343460633/ こっちから移動してきました スレ違い大変申し訳ありません 多分1000行きそうなのでスレ立てにしました 一から張った方がいいか続きからの方がいいかどっちがいいでしょうか 「アーイモアーイモ ネーィテ ルーシェ…… ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ……」 青い空にきれいに配置された雲。人工の島、フロンティア。 その、グリフィスパークの丘でひとり歌うのが、あたしのたったひとつの、日課だった。 「ここーはあーったかな うーみーぃだーよー……っけほ、っふ」 急に咳き込んでしまう。喉が、痛い。 どうしてだろう、いつもいつも……二、三回歌うと、喉が痛くなっちゃう。 あーあ、と溜息まじりに、オオサンショウウオさんのケータイからイヤホンを引っ張り出した。 耳に聞こえるのはあたしの歌声。 『アーイモアーイモ ネーィテ ルーシェ……』 「…………。なかなか、上手くならないなあ……どうしてだろ……」 鞄からペットボトルを取り出して、水をこくんと一口飲む。 ひりひり擦れた喉に、それはひどくやさしく、ひんやりと染み透っていった。 遠くまで街の景色が良く見える、グリフィスパークの丘。 そこでひとり歌うのが、あたしの、たったひとつの日課だった。 「ホントに!?ホントにシェリルのチケット取れたの!?」 『ふふん、ランカのためならこの俺に不可能はない!』 「うふふっ、ありがとうお兄ちゃん、あいしてる!」 ぎゅう、と握るとオオサンショウウオさんはぐへえと音を立てて通話を切った。 「やぁったぁぁーー!!!もぉ、デカルチャー!!さいっこー!!」 シェリルのポスターが目の前に見える。銀河歌姫来艦。 ほんとに、ほんとにシェリルに会えるんだ……。 うれしくって、オオサンショウウオさんを投げだしてくるくる回ってしまう。 ぽん、と落ちてきたのを髪の毛で受け止めて、うふふ、と笑っていると背後から肩を叩かれた。 「あ……ナナちゃん!」 「もう……まずいですよ、ランカさん」 「せっかくの天然ポーク!冷めたらダイナシね!!」 「あっ……す、スミマセン……」 店長が怒っている。見ると周りのお客さんがみんなこっちを見ていた。 すいません、ともう一度頭を下げるとお皿を出しに行く。 (……もう、だってせっかくのシェリルライブのチケットだよ?少しは見逃してくれたっていいじゃん!) 何日たっても、その事を思い出すとフクザツな気分になる。 ぶーぶー思いだし怒りをしながら制服に着替えた。 (あんなに怒る事ないじゃない。ちょっと携帯使っちゃっただけでしょ? あーあ、せっかくシェリルのチケット取れたのに、ツイてない) 『銀河の妖精こと、シェリル・ノームさんが銀河ツアーの最終地点、フロンティアへ……』 「あっ!シェリルだ!!」 テレビの中では、フラッシュに瞬く青い瞳のシェリル・ノームが自信ありげな微笑みを浮かべていた。 (キレイ……) 明日は、シェリルのライブだ。 たのしみ! ライブ当日。あたしは見事に寝坊してしまった。 前日の夜、もう楽しみすぎて楽しみすぎて、ぜんっぜん、眠れなかったのだ。 (うううう……押しつぶされちゃうよぉ……) 満員電車がツラい。 ほっぺがガラスにおしつけられて、顔が変形しちゃいそうになる。 『天空門ー、天空門ー』 「う、ひゃあああっ!」 いきなりドアが開いて、あたしは見事ホームに放り出された。 転ばなかったのが不幸中の幸いだ。 もう時間はいくらもない。 慌ててライブ会場へと向かった。 (どうしよう……) 困った。ものすごく困った。 道にまよってしまったのだ。 (横着して森なんか突っ切ろうとしたから……) 「うううー、遅れちゃう、遅れちゃうよぉ」 辿り着いたライブ会場前はもう黒山の人だかりで、なかなか前に進むことすらできなかった。 このままじゃ遅れちゃう、グッズはもう後で買えばいい、きっと売り切れちゃうだろうけど……。 なんでこんなにツイてないの!?と思いながら、ふっと目に入ったのが森だったのだ。 (急がばまわれ、って言葉、ウソじゃん……もう、やだ) 回り道して人を避けようと思ったのに、樹がいっぱいすぎてもう今自分がどこにいるのかすら良く解らない。途方に暮れてしまいそうになる。 「えぇ……?もう、わかんなくなっちゃった…………、あっ」 ぴん、ときた。 目の前には大きな樹がそびえたっている。 「上からなら……良く見えるんじゃないかな!」 樹の上で四方を見渡す。相変わらず、ものすごい数の人だ。 (当然だよね、何てったって銀河の妖精、シェリル・ノームだもん!) 視界のはしっこに、炎を吐く龍を掲げたライブ会場が見えた。 「よし!」 大体の目星はついた。 あとは方角を見失わないだけだ。 (それが一番、むずかしいんだけどね) よろよろと大樹から地面に着地する。根っこが大きすぎてこけそうになる。 「急がなきゃ……急がなきゃ……」 (シェリルに、会えなくなっちゃう!!) 「……わゃあっ!!」 びしゃ、と音を立てて目の前に冷たい水しぶきが飛んでくる。 目に入る、と思って反射的に目をつぶってしまい、あたしは後ろに尻餅をついてしまった。 「い……ったぁ……」 すっ転んだあたしの上にびしゃびしゃ水が叩きつけられる。 涙がにじみそうになった。 「やっちゃった……」 どうしてこんなに、ツイてないんだろう。 せっかくの大事な大事なシェリルのライブなのに、チケットを取れた時に怒られるし、寝坊はするし、道に迷うし、転んじゃうし、 びしょびしょになっちゃうし、きっとグッズも、買えないし、下手したらもう、ライブに行けないんじゃないかって……。 (どうして?なんであたしだけ……) 「うう……びしょびしょ」 頭をふるふると振って、顔を上げて目をこする。 そしたら、そこに、 天女みたいなひとがいた。 「わぁ……キレイ……」 サラサラの長い髪、切れ長の涼しい眼差し、通った鼻梁。 あたしはなにもかも忘れてただ、感動して、つぶやいた。 「……なんだ?お前」 「えっ、」 天女が、しゃべった。 ぶおおー、と何だか良く解らない、多分パイロットさんが足につけてるヤツみたいなのが風と火を吹いている。あたしの服は、順調に乾いていっているようだった。 「あの、ありがとう……もうライブ行けなくなるかと思った……」 天女の男の子は、もくもくと無言であたしの服を乾かしている。 (まさか、男の子だったなんて……あんなにキレイなのに) 彼から借りた、ぶかぶかのワイシャツの胸元をぎゅっと握った。 「でも、びっくりした!あんまりキレイなんで、女の子が裸で着替えてるのk」 「誰が女だ!!」 「!!」 食い気味に怒鳴られた。……しょんぼりしそうだ。 けど、男の子ははっとしたように視線を戸惑わせると、ゴメン、と言ってくれた。 服はすっかり乾いていて、寧ろ濡れる前よりすっきりしたんじゃないかとすら思えた。 EXギア姿に着替えた男の子が、あたしを案内してくれる。 (やっぱり、パイロットだったんだ) 「あのね、道に迷っちゃって、あたし」 「ああ」 「それでね、樹の上からなら良く見えるかなーって」 「なんとかと煙は高い所が好き、って言うしな」 「あ、ひっどーい!」 「ぅえ、や、えっと……」 「あはは!」 目の前に門が見える。そこを抜けると、もうライブ会場は目の前だった。 くるりと男の子の方に向き直る。 「ありがとね、案内してくれて!」 「……お前が、勝手についてきただけだ」 「ふふ。そーだ、今度お礼するね!あたし、娘娘でバイトしてるから、今度来て!」 「にゃん……にゃん?」 頭の上にハテナマークを浮かべている彼。 あたしは思い切って、 「にゃんにゃん、にゃんにゃん、ニーハオにゃん♪ ゴージャスデリシャスデカルチャー♪」 振り付きで歌って踊ってみせた。 (このフレーズなら、バイト先で死ぬほど聞いてたもんね!絶対、マシに歌えてるはず!) 「こーいうCM。知らない?」 「え……」 知らないみたいだ。 説明しようと口を開きかけると、ワンピースのポケットでオオサンショウウオさんがアラームを鳴らした。……やばい、時間だ! 「かならず来てね!まってるよー!!」 ばいばい、と手を振りながら、あたしはライブ会場に入って行った。 「あたしの歌を聴けぇ!!!」 夢の時間が始まる。 色とりどりの煙を上げながらEXギアが宙を舞う。 キラキラ、光が舞い降りてきた。 (すごい、キレイ!) シェリルの歌がはじまる。 堂々として、セクシーで可愛くてキレイで……ステージの上の、初めて生で見るシェリルは、あたしが今までの人生で見たどんなものよりも輝いて見えた。 強く凛とした歌声が、この場の全てを支配している。 ――と、急に歌が止まった。 シェリルが、ステージからふわりと落下する。 「……っ!!」 (なに……事故?) そんな不安になったのもつかの間、シェリルはEXギアに抱きかかえられながらステージの下から舞い上がってきた。 伸びやかなサビが耳に届く。 (素敵……演出だったんだ、よかった) 何曲か過ぎた後。 急に、バシン!と大きな音を立てて、全客席のライトがつく。鳴り響くアラーム音。 (な、なに……?) 『全艦に、避難警報が発令されました』 「え、ええっ!?うそ!」 ステージからシェリルが去っていく。なんで?どうして? あんなに楽しみにして、眠れないほど待ち望んだライブが、なんで、中断されちゃうの? 群衆にまぎれて外へ出ていく。 どん、と背中にぶつかられた。相手はゴメンナサイも言わない。 (ツイてないよ……本当に……) どおん!と大きな音がした。 あちこちで爆発が起こっている。空へ煙が立ち上ってゆく。 (火が……出てる……ひとが……にげ、て……) 眩暈がする。ぐるぐる回る。吐きそうになる。 なんで?どうして?どうしよう、あたしも、他の人みたいに逃げて、どこかへ逃げて、 それでずっとずっとずっと黙って知らないふりして喋らないでいなきゃいけないのに、なのに、 「……ぁあ、」 ずるずると座り込む。 立って。立たなきゃ。どうしたの、あたし?自分が自分じゃない、みたいな、すごくぐるぐるして、きもちわるい……。 路傍のポールに手をかけて、よろめきながら立ち上がる。 空が赤い。いやな音がいっぱいする。 「ひっ、」 化け物が、飛んできた。 粉砕される建物。戦車砲の音。化け物が放つ光で、なにもかもが壊れていく様。 (い……いやだ……どうして……どうして……!) そんなはずない。そんなはずはないのに。 べしゃ、と腰が落ちて、膝ががくがく震えだす。動けない。 ヒコーキが飛んでくる。その上に、化け物が取りついて、ゆすぶって、落ちてくる。 もつれあうようにして、街がこわれていく。 「……ぅあ、あぁあ……」 動けない。目を逸らしたい。何も見たくない。なのにもう、何も、できない。 コックピットから人が飛び出した。乱射される銃弾の音が耳をつんざく。 化け物が、そのひとを握りしめて―― 「やめろぉおおおおおお!!!!」 遠い声がする。 すごく遠い、だれかの声……。 なにかもが、ぜんぶ、スクリーンの向こうの嘘みたいに……。 びち、びしゃばしゃ、……ぽた、ぽた、……。 「ひ、いやぁあああああああ!!!!」 誰だろう。すごくうるさい。 こんな時に、もう、しずかにしてよ。 そうだよ。こんなこと、あるはずがない。だってあたしちゃんと、 ちゃんと―― 「いや、いや、いやぁあああああああ!!!!」 ――その途端、スッ、と何かが通じて、さめるような気がした。 クリアになった耳に爆裂音が聞こえた、と思うと、化け物の身体がのけぞるようにしなった。 射たれてる。すごい音がして、お腹のそこがびりびりする。破片が頬をかすめる。 (嘘じゃない……夢じゃない……逃げないと!) 今のはあたしの声だ。本能的な恐怖をふりしぼった、悲鳴だ。 逃げないと。コイツが射たれてる間に、逃げないと……! でも足が言う事をきいてくれない。がくがくふるえて、みっともなく後ずさるだけ。 喉の奥から勝手に悲鳴があふれてくる。声がかすれて、喉が裂けそうだ。 飛行機が弾を吐くのをやめた。化け物に覆いかぶさられる。 (あ……あぁ……やめ……や、やめ……) ――視界が白くなる。爆発音。消えていく命。 ――遠い約束、赤い化け物、それから……、 違う。こんなの違う。嘘だ。 だってあたし、ちゃんと約束、守ったよ? あたし何も、あのときのこと何も、誰にも言ってない……! 「掴まれ!はやく!!」 「……え、」 ヒコーキから手が出てきて、あたしをそっと握りしめる。 一瞬、さっきの光景が頭をかすめて――消えていった。……なんだったっけ。 あたし、なんで、こんなところにいるんだっけ……。 「しっかり掴まってろ!」 「あ、うん!」 びゅうびゅうと風が耳を切る。 ヒコーキが、飛んでくんだ。焦げたような匂いが立ち込めて、爆発音がどんどん飛んでくる。 ぐるぐる回って、飛んでって……ブラックアウトしそうになる。 ふっ、と身体が自由になった。 (……え?) ふわり、と宙に浮く感覚。そのまま凄い勢いで、引っ張られていく――。 「掴まれぇ!!」 手が見えた。だから必死になってそれを掴もうとした。何が起こってるのか良くわからない。 目を閉じて口をふさげ、と言われ、素直に従う。誰かが飛び出して、あたしを抱き留める。 ぎゅっ、と強く抱かれているのを感じた。……温かい。 「大丈夫か?しっかりしろ!」 「う……こ、こわかった……怖かったよう……!」 「大丈夫、もう大丈夫だから……」 「お兄ちゃん、お兄ちゃん、おにいちゃん……!」 お兄ちゃん。 あたしすごく、こわかったよ……。 たすけてくれて、ありがとう……。 ちゃんと約束、守ったよ。嘘、ついてないよ。なのに、どうして……? 「おにい…………えっ?」 目の前に、今日出会った天女の男の子がいた。 (え?え、えっ?だれ?なに?どうして?) 「なんで、あたし……」 あたし、何がどうして、ここにいるの? ここ、どこ?今は何時?慌てて辺りを見回そうとすると、手が何かにぶつかった。途端に、がくん、と身体が傾く。猛スピードで飛び出していく感覚。 「きゃっ……!」 「おい!」 抱き留められた。と思った。助けてくれたんだ。それは解ってた。でも。 彼の手があたしを掴まえていたその場所は、その……胸、だったので……。 「わああああああああっ!!」 反射的に、大声で叫んでしまったのだ。 「うん、良かったな、鼓膜も破れてない」 「えへへ……あたし、ゼントランとのクォーターだから」 「見かけに寄らず、タフなわけだ」 「それにしても……今日は助けてもらってばっかりだね!ホントに、ホントにありがとう!」 「いや、こいつのお陰…………、」 そう言ったとたん、目の前の彼の顔が急激に曇るのがわかった。 なにかがきっと、あったのだ。彼はつらそうに、礼を言われるのは俺じゃない、と呟いた。 さっと身を翻すと、EXギア姿のまま、去って行く。 「待って……!」 反射的に、追いかけていた。 今日一日ずっと、あたしを助けてくれていた男の子。 何があったのかわからないけれど、あんなにひどい顔をしていた男の子。 追いかけなきゃいけない、そう思った。 「あなたの、あなたの名前……!!」 走ってもとても追いつけない。 モーター音が遠ざかり、暗闇の中にそのきれいな姿が溶けていきそうになる。 「あたし、ランカ!ランカ・リー!……忘れないで!ねえ、必ず、お礼……!」 返事はなかった。彼は何も言わず、炎にけぶる街へと消えていった。 「……なんであたし、検査なんかしなきゃならなかったの?全然元気なのに」 「念のためさ……注射で泣いたりしなかったか?」 「コドモ扱いしないでよ!……それよりお兄ちゃん、さっきの話、忘れないでよね!」 「あぁー、あれか……天女かお姫様みたいな男のパイロット、ねえ」 「信じてないでしょ!ホントなんだよ!」 病院で、検査につぐ検査であたしはもうずいぶん退屈していた。 待ち時間は長いし、注射は痛いし、学校にも行けてないし。 あたしはぶりぶり怒りながら、彼がいかにうつくしい人かを力説した。お兄ちゃんが溜息をつく。……絶対、信じてない。 「お兄ちゃんの会社のヒトか軍人さんか、解らないけど……お兄ちゃんなら調べられるよね?」 なんたってあたしのお兄ちゃんは、民間軍事会社の人事部だ。軍にだってきっと繋がりの一つや二つくらいあるに違いない。 「あーまあ解った解った、調べといてやる」 「ありがとうお兄ちゃん!お礼に、今日も差し入れ持ってってあげるからね!じゃ!」 あとは検査結果を待つだけ、という段階になったので、あたしはさくっと立ち上がって、学校へと向かうのだった。 「とーびーこーえろぉーハラーペコーなのー♪」 お兄ちゃんへの差し入れを抱えながら、シェリルの歌を口ずさむ。 ひとりで歌う時は自分が下手っぴで、すぐ喉が痛くなって、しょんぼりしちゃうけど。 でもこうやってシェリルと一緒に歌う時は、なんだかまるで違う自分になれるような気がしてた。 シェリルは凄い。こんなあたしなんかにまでパワーをくれる。あたしも、あんな風になれたらいいな……。 「ちょっと!そこの貴女!」 「はい?」 「ここの住所、わかるかしら?」 「えーっと……あ、ここ、今からあたし行くんです。案内しますよ!」 「あらそう?ありがとう」 サングラスに帽子を目深にかぶったその女性は、とてもきれいな声をしていた。 お兄ちゃんの会社の関係者かな?長い髪がとても素敵だ。あたしは、すぐそこですよ、と言うとその女性の前を歩きだした。 長いエスカレーターを下りながら、話題は今一番銀河を騒がせている、シェリルの話ばかりになった。 「へえ、貴女、そんなにシェリルのこと好きなんだ?」 「だって素敵じゃないですか。歌も凄いし、踊りも……でもやっぱり、オーラです!自信と才能にあふれてて、それが見えるみたいで……」 「ふふ、もっとないの?」 「あと……インタビューとかで時々言いすぎちゃうとことか!カッコイイですよね!」 「あ、あはは……」 「でも、憧れます。あたしも一度でいいから、あんな風になれたらなって……えへへ、あたしなんかじゃとてもムリなの、解ってるんですけど」 「そお?可愛いわよ、貴女」 「え……っ、ありがとうございます……お世辞でも、すっごく、嬉しいです!」 暗くなりはじめた空の下、展望公園を行く。 いつの間にか女性はあたしを追い抜いて、階段のてっぺんまでしっかりとした足取りで辿りついていた。あたしも後に続こうと、階段の側へ 。どん、と音がして、戦闘機が何機か、飛び立っていった。バーナーの炎がきれいな直線を描く。 「綺麗ね」 「はい……でも」 「……知り合いに、飛行機乗りがいるの?」 「お兄ちゃ……兄が、むかし。今は事務の仕事だから、安心なんですけど、でも……」 次々と、尾を引きながら飛行機が飛び出してゆく。また、怖いことが起こるんだろうか。 (やだな……シェリル、あたしに、力を貸して……) 「……神様に……恋を、してた頃は……こんな別れが……来るとは思ってなかったよ……」 「「Uh Wow……」」 口ずさむその声に、聞き覚えのある、ううん、絶対に聞き間違えたりしない声が、重なった。 (まさか……そんな……!) 「うそ……」 「もう二度と……触れられないなら……せめて最後に、もう一度抱きしめてほしかったよ……It's long long good bye……」 凛とした、それでいて静かで強い、美しい歌声。あたしが聞き間違える筈がない。自然と、涙がこぼれる。 「シェリル……」 その人影はゆっくりと振りむいて…… 「ふふ、こんなサービス、滅多にしないんだからね?」 帽子とサングラスを取った、あたしにとって神様にも等しいひと、シェリル・ノームがあらわれた。いたずらっぽい微笑みと共に。 「……あれ?お前ら……」 「えっ?」 涙をぬぐいながら男のひとの声に振り返ると、そこには昨日の天女みたいな、お姫様みたいなパイロットさんがいた。驚いて声をかけようとすると、 「見つけたわ!早乙女アルト!!」 びっくりするほど大きいシェリルの声がして、あたしは何も言えなくなってしまった。え、と息を飲んでいると、急に空がかげる。 イヤな音が聞こえてきて、あたしたち三人は揃って、つくりものの夜空を見上げた。 ――化け物が、そこにいた。 「きゃあああああッ!」 戦闘機が飛び込んでくる。化け物ともつれあうようにして、あたしたちの目の前で銃弾が撒き散らされる。 思わず男の子の後ろに隠れた。暫くもみあっていた化け物と変形した飛行機だったけれど、ガァン!と言う大きな音と共に、化け物の頭が吹っ飛んだ。 動きが止まる。当てやがった、と呆然としたような彼の声がする。 はっ、と詰めていた息を吐こうとした瞬間、ぴくり、と何かが痙攣して、化け物がまた動き始めた。 飛行機を放り投げて、砲弾をばら撒いていく。偽物の天が割れる。空気が外にごう、と流れ出していくのが解る。 逃げたいのに、逃げなきゃいけないのに、足が動かない。 「シェリル!こっちだ!」 ふわっ、と身体が持ち上がる感覚があったと思うと、彼はあたしを抱えてどこかに飛び込んでいた。 シェリルが飛び込んでくる気配を感じて、あたしは何か、糸が切れてしまったように、体中の力が入らなくなってしまっていた。 「なんなのよ一体……」 「知るかよ、クソッ!」 あたまのうえで、こえがする……。おひめさまと、あたしのめがみさまだ。 赤いかいぶつがいた。あたしは、あれを、あれに……。頭が、ぐるぐるする……。 あたたかい何かにしがみついていたいのに、それが離れていきそうになる。いやだ、いかないで、ここにいて、……お兄ちゃん……。 「……い、おい!」 「!!あっ、ご、ゴメンナサイ!」 顔を上げると、あの物凄くキレイな男の子の顔がすぐ目の前にあった。あたしはいつの間にか、彼のシャツにしがみついていたみたいだ。 不機嫌そうな眼差しがあたしを見る。離せ、と一言、不愛想な声がした。 「あ……うん……あれ?」 離したいのに、離れない。手が固まったみたいになって、あたしのいう事をちっとも聞いてくれない。(ど、どうしよう……) 試行錯誤して無理矢理ひっぱってるのに、まるっきり離れる気配がない。彼のシャツがしわしわになっちゃう。どんどん不機嫌になってくのがわかる。どうしよう。泣きたい。 「お前いい加減に……」 「っ……よぉし、えい!」 半泣きになりながら、それでも気合を入れ直して引っ張ると、今度こそ手が離れてくれた。 「ホラ、大丈夫!」 笑顔を作って見せる。ほんとは今すぐ泣き出したいくらい、怖かったけれど……。 「怯えてる女の子の一人や二人くらい俺が守ってやる!……くらい言えないわけ?」 「うるっせえな!出来る状況ならいくらでもやってるよ!」 ガン、と彼が壁を叩いた。びく、と肩がはねる。シェリル……さん、が、はー、と溜息をついた。 「さっさと出ましょ。その方がお互いの精神衛生上良さそうだし」 「……無理だ。ここは非常用の退避壕だ。ドーム内には通じてない」 「ちょっと……それって、閉じ込められたってこと!?」 「えぇっ!?」 どれくらい時間がたったのか、わからない……。 幸いトイレに行きたいとかそういう、差し迫った事情はないけれど、蒸し暑くて狭い室内に閉じ込められたまま、と言うのはあたしの気持ちを不安にさせた。 シェリルさんと、……さっき名前を聞いた、アルト君。二人もすごく、つらそうだ。 「ったく暑いわね……ってきゃああ!」 シェリルさんがそう言った途端、地鳴りのような音がして、ものすごく揺れた。同時に電気が切れて、真っ暗になる。 立っていたシェリルさんがバランスを崩して倒れかかる。あたしも、顔面から地面に突っ込んでしまった。 「なんなのよもう……」 バシン、と音をたてて電気が復旧する。……どうやら一時的な停電だったみたいだ。 と、ふっと顔を上げて、あたしは目の前のあんまりにもあんまりな光景に悲鳴を上げた。 「シ、シェリルさんッ!!」 肩ひものないタイプのワンピースだったから……その、倒れた拍子に、下の方へずるっと、いっちゃってたみたいだ。 あたしの方からは背中しか見えないけど、アルト君の方からは……。 シェリルさんがふふふ、と不気味な笑いを上げた……かと思うと、次の瞬間、アルト君は見事なまでに張り倒されていた。 「私のナマで見たのよ!?それくらい安いと思いなさい!」 「ぬかせ!ステージで色々見せてるだろ!」 「プライベートは別なの!ヤらしい目で見ないで、この変態!」 「誰が変態だ!」 「あんたよ!」 「なんだとこの露出魔!!」 (ど、どうしよう……) なに、この状況。もうなんか、しっちゃかめっちゃかだ。 何か、何かないかな……どうにかしないと……。 きょろきょろしていると、ちょうどあたしがお兄ちゃんに持っていこうと思っていた差し入れがあった。これだ。 「あ……あのっ!」 ばっ、と二人が一斉にこちらを見る。美人二人に見据えられると、凄い迫力だ。 「お腹すいてませんか!あたし、たまたますっごく美味しい点心を持ってるんです!娘娘名物、まぐろ饅!」 ぱか、とケースをあけた。まぐろ饅はふたつある。結構大きいから、三人で食べてもいけるはずだ。 甘みのある皮と、ジューシーな具、頭が飾りとしてピンクに染められてるところも可愛らしい。 どうだ、と二人の方を見る。……なぜか、ポカーン、としていた。(ど、どうしよ) 「や、やっぱり、腹が減っては戦が出来ないっていうか、閉じ込められたらその、まぐろ……饅……みたい、な……」 駄目だ。完全に意味がわからない。もうほんと、何言ってるんだろうあたし……。 何をやってもダメで、どんくさいし、歌もちっともうまくならないし、こんな時だって、何もできないし……。 「ぷっ……ふふふふふ!やっぱり可愛いわ、貴女」 「く……はははは!」 「?」 何故か二人が笑い出した。 なんだか良く解らないけど物凄く恥ずかしくなってしまって、あたしはますます下を向くしかできなくなってしまった……。 三人でまぐろ饅を食べ終わってしばらく。 アルト君はどこかに電話をかけようとしてたけど、結局ダメだった。つい、弱音を吐いてしまう。 「SMSの人たち、大丈夫かな……」 「知り合いがいるのか?」 「ん、お兄ちゃんが事務で。あたしも良く、差し入れに」 「……ねえ、なんか空気悪くない?」 「皮肉ならやめろよ」 「違うわよ!本当に息苦しいような……っきゃあッ!」 物凄い揺れが来た。また停電だ。ばちん、と赤いランプに証明が切り替わる。アルト君がまずい、と叫んだ。 「循環系が停止してる……このままじゃあと15分保たない……!」 「ちょっと……なんとかしなさいよ!」 「出来るんならやってる!」 「そ、そんな……」 あたしたち、死んじゃうの?こんな暗くて狭くて暑いところに、ああでもシェリルさんがいるんなら悪くないのかな、 でも、こんなところで、まだ歌いたい曲だっていっぱいあるのに、全部ダメで死んじゃうの……? 「……冗談じゃないわよ」 低い声がした。シェリルさんだった。彼女はそのままつかつかと、別のパネルの方へ歩み寄る。アルト君が馬鹿野郎、外は真空だ!と叫んだ。 「なら諦めて窒息するまで待てっての!?そんなのゴメンよ、あたしは諦めない!」 「シェリルさん……」 こんな暗闇の中にいるのに、シェリルさんはいつものシェリル・ノームで、ひどくキレイだった。 「皆はあたしを幸運だって言うわ。でも、それに見合う努力はしてきたつもりよ。 だから私はシェリル・ノームでいられるの!運命ってのは、そうやって掴み取っていくものなのよ!」 「その通りです」 女性の声がした、と思ったら、ハッチが開いた。 シェリルさんがグレイス、と心底安心したような声で言う。きっととても信頼できるひとなのだろう。 ……助けが来たんだ。あたしたち、死なずにすんだんだ! 迎えの車の前で、シェリルさんは腰に手を当てて高らかに宣言した。 「いい?もしあの時の視覚映像をネットに流そうもんなら、社会的にも生物学的にも抹殺するわよ!」 そう言い捨てて、車に乗り込む。そしてドアを閉める前に、そうね、と歌うような声で笑った。 「でも、ただの記憶として、今夜一晩使うことくらいは許してあげる」 「「!」」 「っふふふ!ばぁーか、ンなわけないでしょ?……ねえ、ランカちゃん」 「あ、ハイ」 「貴女、歌うのは好き?」 一瞬、ひるんだ。あたしはどんなに練習しても歌がうまくならないし、自分の歌が人並みだってことくらい自覚してる。(――でも、) 『運命ってのは、そうやって掴み取っていくものなのよ!』 「はい!大好きです!」 シェリル・ノームが、あたしに力をくれた。自信をもって答えられる力を。 シェリルさんはそう、なら素直になりなさい、と満足げに笑うと、そっとあたしに耳打ちした。 「チャンスは目の前にあるものよ?」 「……ふ、ふわぁ……」 「ふふ。こんなサービス、滅多にしないんだから」 艶やかな微笑みを残して、シェリルさんは去って行った。 アルト君と、軍の人がなんだか険悪な雰囲気だ。 要約すると早く助けに来いというアルト君と、情報が足りなかったという美人の軍人さんと。 鳴り響く携帯電話の中で続けられたやりとりは、アルト君の出ろよ、と言う溜息で幕を閉じた。 「はい、こちら完了しました。……え?オズマ・リー少佐が負傷!?」 (――え、) 「えっ?」 このひとが何を言っているのか、解らなかった。事務って、少佐とかの階級、あったっけ?お兄ちゃん、ケガしたの?なんで?どうして?あの化け物がきたから? 飛行機が降ってくる。中に、――血まみれのお兄ちゃんを入れて。 「いやぁああああああああ!!」 なんで?お兄ちゃん、おにいちゃん、なんでケガしてるの?パイロットは辞めたって……もう絶対あたしを一人に、 危ないことしないって言ってたのに、なんで?死ぬの?お兄ちゃんは死んじゃうの?死んじゃだめ、死んじゃダメだよ……。 ああ、ぐるぐるする。喉がやぶけそうだ。目の前が涙でぐしゃぐしゃで何も見えない。 どうして?なんでそんなことしてるの?あたしちゃんと約束守ったよ?あの時のこと、誰にも言ってない……きちんと内緒にしてるよ? お兄ちゃんが言ったんでしょ?なのにどうして、約束やぶるの?ねえ、お兄ちゃん、おにいちゃん…… ものすごくうるさい音がきこえた。 それがあたしの悲鳴だ、って解ったのは、意識を失ったあたしをアルト君が抱き留めた後だった。 今日もあたしは一人で歌っている。 全然思い出せないけど、お兄ちゃんがケガをした時あたしは随分泣き叫んだみたいで、まだ喉がひりひりする。 それでも歌った。たったひとつの、あたしだけの歌を……。 「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ…… ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ……」 「ランカ……」 「!アルト君……!」 グリフィスパークの丘、展望台の手すりにもたれて、いい歌だな、とアルト君は言った。お世辞でもいいから嬉しかった。 なんだかひどく疲れていて、当のあたしはなんにもわかってないし、なんにも覚えてないのに、勝手にいろんなことが起きて、大変になっちゃって……。 だからだろうか、アルト君にホントのことを言おうと思ったのは。 「あたしね……こどもの頃のこと、なんにも覚えてないんだ……」 ぽつり、と呟く。返事は期待していなかった。 「だけどこの歌だけは覚えてる。……あたしの、たったひとつの思い出なんだ」 だからここに歌いに来るの、ここならだれも聴いていないでしょ?そう言って笑ったつもりだったけど、上手に笑えてたかどうかはわからなかった。 「聴いてない?それで、いいのか?」 「え……うん……。今までは、それでいいと思ってたんだけど……」 スポットライトに照らされた凛々しい姿が思い浮かぶ。 運命は自分で掴み取るものだ、と言ったうつくしい声。 初めて生で見た、『シェリル・ノーム』という伝説。 「素敵だよね、シェリルさん……凄く羨ましい」 アルト君は何も言わずに、黙って聞いてくれている。 「あたしね、あそこに閉じ込められたとき、すごく怖かった。このまま誰にも知られないで、何もできないで死んじゃうんだ、って……」 言葉にすることで、気持ちの輪郭が見えてくる。あたしは、何をしたいのか。どうなりたいのか。 本能的に、心の底から願う何か。誰かを求める、その気持ち。 「そしたらね、あたしはここにいるよって……それを出来るだけ沢山のひとに伝えられたらなって、そう……思ったの」 「無理だな」 「っ、」 つめたい声だった。一気に現実に引き戻されたように思った。 だってわかってる。どうせあたしの歌はヘタだって。 いつまでたっても上達の気配すら見えなくて、いつもすぐに喉をいためて、恥ずかしいからひとりぼっちで、ここで歌って。 「そうだよね。……どうせあたしなんか」 でも次のアルト君の声を聞いて、思わず顔を上げた。 「そうやって、出来たらとか自分なんかとか言ってるうちは……」 いつの間にか、彼の手には紙飛行機。勢いよくステップを踏んで、それを空に解き放つ。 「絶対に……ッ!」 すうっ、となめらかに風に乗り飛んでいく紙飛行機。どこまでも自由に、誰の元へでも飛んで行ける……。 (あたしも、卑屈にならなかったら、……あんな風に、) 「はは、意地悪だね、アルト君」 「良く言われるよ」 「あたし、みんなに伝えたいの。だから聴いてくれる?あたしの歌!」 「……好きにしろよ」 「ありがとう、アルト君!」 「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ…… ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ…… ここーはあーったかな 海ーだーよー…… ルーレイ ルレイア 空を舞うひばりは涙…… ルーレイ ルレイア おまえは優し みどりの子……」 あたしはここにいる。 あたしは、ここにいるんだよ。 それを沢山の人に、知ってほしいの……。 「114番、ランカ・リーです!よろしくおねがいします!」 「ではランカさん。君がこの、ミス・マクロスコンテストに参加することになった動機を聞かせてもらえるかな?」 「はいっ!」 「わあああッ!」 がしゃこーん、とド派手な音を立ててすっ転ぶ。お皿は見事に粉々だ。店長がキッ、とこちらを睨むのが見て取れた。 (……また怒るのかな。やだなー、もう終業後のお説教はこりごりだよ) 「大丈夫ですか、ランカさん?」 「ごめんね、ナナちゃん……」 親友のナナちゃんがほうきで破片を集めてくれる。どうしたんですか上の空で、と心配そうな声が頭上からおりてきた。 それすら話半分に聞いていると、オオサンショウウオさんがぴぴぴ、と電子音を立てた。 (――きた!?) ばっ、と取り出して中身を見る。そこにあったのは――、 「やった、やったぁ!!やったのあたし!見て、ナナちゃん!!」 「……!あはははは!やりましたねっ!!ミス・マクロスフロンティアの予選通過、おめでとうございますランカさんっ!!」 「コラー!就業中はセイシュクにネ!!!」 『To:早乙女アルト 件名:ねえ聞いて! アルト君!あたしミスマクロスの予選に通ったの! ダメ元だったけど、応募してよかった。これもみーんな、アルト君のお陰だよ! でね、今度の日曜日が本選なの。お願い、見に来てね。そしたらあたし、頑張れるから!』 『ミス・マクロスフロンティア!特別ゲストにシェリル・ノームを迎え、本日開催!!』 屋外の放送が、楽屋にまで聞こえてくる。多勢のキレイな女の子たちがめいめいにお化粧をしたり、髪を整えたりしていた。 (う……みんなあたしより大人っぽくて、背も高くて、きれい……) 気圧されてしまう。あたし、すごい場違いだ……どうしよう、恥ずかしい……。 あら、ナナセじゃない、とナナちゃんの知り合いらしい人が話しかけてくる。……すごく、胸が大きい。腰のくびれもすごい。脚が長い。 メリハリのある、はっきりした強気な顔立ちが印象的な美人だ。そのひとはあたしを見下ろして、ヨロシク、とだけ言うと笑いながら去って行ってしまった。 ……歩くたびに胸が揺れて、凄い迫力だ。 ぽかんとしていたあたしの肩を、ナナちゃんがガッと掴んだ。 「大丈夫!サイズなんか問題じゃありません!!ランカさんは、可愛いですから!!」 (そう言うナナちゃんも、胸がぼいんぼいん揺れてるよ……) がんばってください、の言葉を残してナナちゃんも行ってしまった。ふー、と息を吐きながら鏡の前に行こうとすると、サッと別の人が入り込んでしまった。 途方に暮れて立ち尽くしていると、邪魔、と言われてしまう。……なんだかすごく、殺気立ってる。怖いな……。 なんとか水着に着替えられたあたしは、結局廊下のすみっこに追い出されてしまった。 「やっぱムリだよね……あたしなんかじゃ」 手持無沙汰にオオサンショウウオさんをいじくっていると、急にメールが届いた。 「アルト君からだ!」 『見てるぞ。勝て! アルト』 どうしよう。……すごく、嬉しい。 どうしてかな。アルト君の言葉や行動のひとつひとつが、あたしにびっくりするぐらいの勇気を与えてくれる……。 まるでシェリルさんみたい。でも、シェリルさんとはちょっと違う……。 「あら、迷子?」 「、違います!あたしは……、っ!」 階段の上から差し込んだ光を受けて、ストロベリーブロンドの髪が輝いている。いつもはしていない眼鏡越しに、青色の澄んだ瞳がこちらを見つめていた。 (シェリル・ノーム……) 「なら早く行きなさい。ここは夢の入口。でも階段に足をかけただけよ。あたしを追いかけたかったら迷わず、進んでくるのね!」 「……はいっ!」 心の一番奥の方から、つよい力が湧いてくるのを感じる。 アルト君、シェリルさん……。あたし、がんばるよ。 「お客様、娘娘名物まぐろ饅はいかがですか?」 「……ランカ」 何食わぬ顔でお盆を運ぶ。アルト君はSMSの人たちと打ち上げに来てるみたいだった。 随分にぎやかで、すごく楽しそう。……いいな。 ああこの子でしょ今年のミスマクロス、と言う言葉が他のテーブルから聞こえてきた。思わず画面を見てしまう。 あの時あたしとナナちゃんに挨拶した、ミランダさんという人が映っていた。 「残念……だったな」 「えっ?」 「最後まで見られなくて……悪かった」 「ううん、……最初から、無茶だったんだもん。皆の前に出たらバリバリ上がっちゃったし。やっぱりあたしなんか…………、 そ、それよりびっくりしたよアルト君!SMSに入るなんて……。大変なお仕事なのに、どうして?」 アルト君はペーパーを引き抜くと、紙飛行機を折りだした。 「……チャンスだと思ったんだ」 「チャンス、」 「だから、お前もあきらめるな」 こつん、と紙飛行機でおでこを小突かれる。 「伝えたいんだろ?みんなに」 「うん…………うわぁっ!!」 後ろからミシェル君たちが激突してきて、あたしはアルト君の胸に思いっきり倒れ込んでしまったのだ。……アルト君&、椅子ごと。 「どういう事だこれは!!俺に何の断りもなく!見ろ、お陰で停学だ!俺がお前をあのお嬢様学校に入れるのにどれだけ苦労したと……」 「頼んだわけじゃないもん!!あたしは、歌手になりたいの!!」 「お前みたいな引っ込み思案が、歌手なんかになれっこない!!」 「それは小さい時の話でしょ!?……お兄ちゃんの……」 「バカ!バカ、バカバカバカバカっ!」 叫びながら、手当たり次第にものを投げつける。重いモノとか、危ないモノとかあった気がするけど、そこまで頭がまわらなかった。だって仕方無いじゃん。 お兄ちゃんは全然わかってくれないし。今のあたしはもう、前のあたしとは違うんだもん!アルト君とシェリルさんに勇気をもらって、歌手になるんだもん!! 「ばかぁ……!」 お兄ちゃんの頭に鉄鍋が激突したのを確認して、泣きながら家を飛び出した。 だってお兄ちゃんが悪いんだ。 あたしを騙して、嘘ついて危ないお仕事して。もうパイロットはしないって言ったくせに。 だったらあたしだって、歌手になってやるんだから!お嬢様学校?好きで入った訳じゃないもん! 周りの子はみんな両親の揃ったいいとこの子ばっかり、話も全然合わないし、制服が可愛いってとこくらいしかいい所なんてない。 授業参観とか三者面談でお兄ちゃんが出てくるたびに、クラスメイトに噂されるのはあたしなんだから! あたしはただ、あたしがここにいるって、いっぱいの人に知ってもらいたいだけなんだもん! 当てもなく歩いていたら、つい美星学園の前まで来てしまった。 アルト君やミシェル君の学校だ。……アルト君、もう授業始まっちゃったかな……。 携帯が鳴って、アルト君かと思って出てみたらお兄ちゃんだった。即行で切った。握りつぶした。電源ごと。 「はぁ〜あ……」 ふと、思い直して電源をまた入れる。アルト君に相談しよう。今は授業中かもしれないけど、放課後ならきっと。 留守番メッセージを促す声に従って、言葉を残す。 「アルト君、助けて!あたし、ミスマクロスの事バレて停学になっちゃったの。 お兄ちゃんは石頭のガチンゴチンで絶対ダメだって言うし、でも、諦めたくないの!お願い、相談に乗って!待ってるから……!」 それだけ言うと、もう一度オオサンショウウオさんを握りつぶした。今度こそ、もう電源は当分入れないんだもん。 ずーっとずっと待ってたら、ランカちゃん?って聞き覚えのある声を掛けられた。 「あ、ミシェル君!」 ミシェル君ならきっとあたしの事わかってくれるはず! …………そう思ったのは、とんでもない勘違いだったんだけど。 「イヤったらイヤ!ぜぇーったい帰らない!」 「や、でも隊ちょ……お兄さん、凄く心配して……」 「もうっ!」 車がばんばん走ってるけどお構いなしに道路を横切る。派手なクラクションの音が耳を叩いた。うるさいなあもう。あたしは今、怒ってるの!! 「ちょっ……どこ行くの!」 「どこだっていいでしょ!?」 今度は反対方向に歩きだした。待ってよー、と間延びした声がついてくる。もう、知らない!ついてくるなら勝手にすれば? ミシェル君をまこうとしてあちこち行っている内に、ゼントラモールのフォルモまで来てしまった 。エスカレーターをのぼるあたしの後ろから、どこいくのーランカちゃん、と呆れたような声が飛んでくる。だから、どこだって、いいでしょ!! 「……はあー、わかったよ、僕の負け。休戦しよう。お詫びに、ソフトクリーム奢るから」 「えっ!」 ソフトクリーム!そういえば最近ミスマクロスのために忙しくって、全然そういうの食べられてない。……ソフトクリームかあ。いいかも。 「はい、コレ」 「うわぁー!」 「美味しいんだよ、ここの。……そういや、なんで美星に?」 「………………アルト君に相談しに。」 「は?……よりによってアイツに?」 「だって、アルト君はちゃぁんとあたしの話聞いてくれるもん。お兄ちゃんや、ミシェル君と違って!」 「は、はは、厳しいなー……でもさ、コレ食べたら帰ろうよ。隊長、本当に心配してるかr」 「やだ。」 即答した。だって絶対、こんなの不公平だ。 「お兄ちゃん、いつまでもあたしをコドモ扱いするし、あたしを騙して戦闘機乗ってたりするし。だからあたしも、勝手にするの!」 あたしだって、もうすぐ成人だ。いつまでもいつまでも小さい赤ちゃんみたいな扱いされて、嬉しいわけがない。 それにいつだってあたしの意見なんか聞かないで勝手に全部決めちゃうし。仕事の事も、学校の事も、家の事も全部……。あたしだって、好きにしたい! 「…………甘えるのもいい加減にしようね、ランカちゃん。」 (えっ……) 普段とおんなじ、優しくて柔らかいミシェル君の声。だから逆に、すごく本気なんだって、わかってしまった。急にこわくなってくる。 ……でも、だって、あたし間違ったことしてない……。 「隊長がどんな思いで戦ってるのか、知ろうともしないで良く言うよね。それに、隊長を説得できないからアルトを頼る……? その程度の覚悟で歌手になろうなんて、お笑いだよね?大体さランカちゃん、人前で歌う事なんてできるわけ?」 「ッできるもん!だってミスマクロスの時だってちゃんと……」 「あの時はね。でも例えば今ここで歌える?だれも君を見ようと、見るために来てないこの場所で」 ここ?こんな、ただのモールで?ステージもライトも何もない、こんなところで……? ミシェル君は普段と全く顔色を変えずに、さらりと言葉を続ける。 「……さっき、入口で歌ってた人がいたよね。ランカちゃんも完全スルーしてたけど、ああいう時でも歌い続ける覚悟、君にあるの?」 誰もあたしを見ない場所で、歌い続ける……。 そんなの、……。 あたし、覚悟が足りないの?甘えてるってどういうこと? そりゃあちょっとやりすぎたかもしれないけど、お兄ちゃんがあたしに嘘ついたのは本当だし、歌手になりたい気持ちだって、本物だもん……。 みんなに、あたしがここにいるって、知って欲しいんだもん……。 マイクを持って、モールの端っこに立つ。 目の前をたくさんの人が通り過ぎていく。誰もこっちを振り向かない。マイクを持って立ってるから、あたしが歌うかもって解るひとだっているはずなのに、……誰も立ち止まらない。 誰もあたしを見ようとしない……。 涙が出そうだった。こわくてたまらない。あたしなんか、どうせ、そんな気持ちがまた復活しそうになる。せっかくアルト君とシェリルさんにもらった勇気がしわしわにしぼんでしまう。 顔を上げた。下を向いていたら、泣いてしまいそうだったから。 そしたら、モールの中をすい、と泳いでいく――紙飛行機が見えた。 『できたらとか、自分なんかとか言ってるうちは……絶対に!』 ――そうだ。 あたしは、歌うんだ! ワンフレーズ歌っただけで、ひとが皆あたしに注目するのがわかった。 シェリルの歌だ、あれシェリルの曲だよね、シェリルのだ、ざわめきが聞こえてくる。 いつもあたしを励ましてくれた、シェリル・ノームの歌。シェリルさん、あたしに力を貸して! 途中でギターが入ってきたのがわかった。その次にドラムが聞こえてきた。 そこからは、もう無我夢中だった。(――届いて、あたしの歌!) ねえ、あたしはここにいるよ。 誰か……誰でもいい、誰か……あたし、ここだよ。ここにいるんだよ。 歌い続けていると、お腹の奥があったかくなってくる。手拍子が聞こえる。 あたしがここにいることを、誰かが知っていてくれる。……つながっている。そう思った。 「凄かった……正直、驚いたよ」 あのミシェル君が、びっくりしてる。あたしを、認めてくれてる!飛び上がりたいくらい嬉しい。あの紙飛行機を思い出した。 「アルト君のおかげなの!」 「は?ふうん……噂をすれば」 ミシェル君が視線をなげかける先には、アルト君と……シェリルさんがいた。 「シェリル……さん?」 夕日に照らされ、噴水越しに見える二人は一枚の絵のように様になっていた。どんなやりとりをしているかは解らない。でも、じっと見つめてしまう。 そして―― シェリルさんが、アルト君の頬にキスをした。 「……っ!!」 ヒュウ、とミシェル君が口笛を鳴らす。思わず立ち上がってしまった。だって、そんな、どうして?アルト君、どうしてシェリルさんと一緒に……。 「おーーい!きみーー!!」 けれどその時、叫びながら駆け寄ってくる人があたしの手を取って言った言葉が、今日の全てを吹き飛ばした。 「君こそはワタシが探し求めた本当の歌姫ッ!!どうか、ワタシのところでデビューしてみませんか!?」 「…………、え、えええええっ!!!」 「妹さんを、ワタシに下さいッ!!」 あの時あたしをスカウトした、エルモさんが土下座している。 お兄ちゃんはこめかみに青筋を立てながら、がっつりと腕を組んでそれを見下ろしている。 あたしはエルモさんの少し後ろで座り込んでいた。頭を下げればよかったのかもしれなけど、それだけはしたくなかった。 だってあたし、やっぱり間違ってなかった! 今ここで歌える?って言われて、ちゃんと歌えた。 そしたらいっぱい人が来てくれて、スカウトまでやってきた。 やっぱりあたしは間違ったことしてない!石頭のお兄ちゃんが、あたしをコドモ扱いするから、いけないんだ。 あたしだってもうすぐ成人する。 「歌は文化、文化は愛!つまり、歌は愛なんです! そして、ランカさんにはその愛を伝える力がある……ですからどうか、お兄さま……」 ――自分のことくらい、自分で決める! 「「「おめでとう、ランカちゃん!!」」」 トン、とコップをテーブルに叩きつける。乾杯のマークがあたしのコップに集まってくるのを見て、ああ、あたし本当にデビューできるんだ、ってやっと思った。 「ありがとう!みんなのお陰だよ!」 和気藹々と皆があたしのことを祝ってくれる。それがたまらなく嬉しかった。アルト君はこんな事務所名、聞いたことがないぞ、とぼやいていたけれど、他のみんなが総ツッコミしてて、ちょっと面白かった。 「なんてったって、あのオズマ隊長が認めてくれたんですから!」 「あはは、でも認める時の顔と声が怖すぎて、エルモさんびっくりしてたけどね」 あーありそう、と全員きれいにハモる。ナナちゃんは、私全力で応援します!と腕を掲げた。 「目指せ、銀河の歌姫!打倒シェリルです!」 (打倒……シェリル……さん) この前みたキスシーンが脳裏をよぎった。……あの二人、つきあってるのかな。なんでだろう、なんか凄く、モヤモヤした気持ちになる……。 「俺も応援するよ、ランカちゃん」 「ミシェル君……」 「あんな素敵な歌を聞かされちゃあね……つまり、ファン一号ってコトで」 「一号は私です!」 「あ、じゃあ僕、三号になります!」 そして全員の視線が――アルト君に集まる。うへぇ、とヘンなため息をもらすと、アルト君は仕方なさそうにわかったよ、応援してやるさ、と言った。 投げ遣りな感じの言葉なのに、どうしてかな、あたしは他の誰から言われた言葉よりも嬉しく感じた。 「ではここに、ランカ・リーファンクラブの結成を宣言します!」 「「おー!!」」 ……どうしよう。もうファンクラブが出来ちゃった。えへへ、照れくさいけど、嬉しいな……。 ナナちゃんたちが、あたしの衣装を考えてくれている。 それなのに、あたしはどこか上の空だった。アルト君は横で紙飛行機を折っている。 「ごめんね、アルト君」 「ん?」 「ホントは……一番に知らせようと思ったの。だけど……」 夕日の差し込む中、美しいグラデーションを描く空を背景に。 噴水の光が西日を乱反射して、ダイアモンドのようにきらめいていた。 あたしにとってのお姫様と女神さま……まるでこの世のものじゃないくらいキレイな二人。 映画のワンシーンのような、一瞬のキス。 「……あの、邪魔しちゃったらとか、うるさくしたらダメかなーって」 (言えないよ、こんな気持ち……) こつん、と額に紙飛行機を当てられた。アルト君は何今更遠慮してんだよ、とふてている。 「それに、実はあの時俺も、ゼントラのモールにいたんだ」 「……、…………そ、そおなんだ……えっと、買い物とか?」 「まあ……そんなとこだ」 「ひ、一人で?」 「ああ」 (……!) どうして?なんで黙ってるの?言えばいいじゃない、シェリルさんと一緒だった、って……。 それとも何か、言えないわけでもあるの……? 「良かったじゃないか、盛り上がって。……そだ、コレやるよ」 かさ、と差し出されたのは、シェリルさんのサヨナラライブのチケットだった。それもS席の……。 (これ、シェリルさんから直接、もらったのかな……) 「別に誘ってるわけじゃないからな?そう、祝いだ、スカウトの」 「…………、ありがとう……」 どうしよう。なんて顔したらいいんだろう。 どうして、大好きなシェリルのライブチケットなのに、こんなに、素直に喜べないんだろう……。 ブザーが鳴って、街頭テレビが全部大統領声明に切り替わった。 『今日は、皆さんに重大なお知らせがあります。ご覧ください』 パッ、と切り替わった画面には――赤い化け物。 ひっ、と喉が音をたてた。 バジュラ、と呼ばれるらしいその化け物の映像が流れ続ける。あたしは目を背けてしまった。 震えが止まらない。アルト君にしがみついたまま、離れられない。 『現時点を――――非常事態宣言を――』 頭がばらばらになりそうだ。大事なお知らせだから聞かなきゃいけないのに、声がちっとも耳に入ってこない。 血まみれになったお兄ちゃんの映像が脳裏にフラッシュバックした。ずっと、思い出せなった映像なのに……なんでこんな時に……。 「……カ、おいランカ、大丈夫か!?」 「ランカさん!?どうしたんですか!」 いやだ……いやだよ……どうして来るの……あたし、ちゃんと、約束を……。 夜。テレビではまだ、大統領声明が流れ続けている。 「…………だから、だったんだ……戦いが、はじまるかもしれないから……」 だからあたしを、歌手に。……お兄ちゃん……。 せっかくのシェリルのチケットが、くしゃくしゃになって投げ出されてる。 なんでかな、今はちっとも、このチケットが魅力的に見えないよ……。 この前のライブのチケットは、大事に封筒に入れてても、いつもキラキラして見えたのに……。 色んなことがいっぺんに起こりすぎて、頭がパンクしそうだった。 あたしが歌手になる。シェリルさんがアルト君にキスをした。戦いが……起こるかもしれない。 (電話……しなきゃ……お兄ちゃんがしんじゃうかもしれないなら……電話を……) どうしよう。うまく、考えられないよ……せっかくのデビューだったのに……。 『安心しろランカ、何があっても俺は絶対死んだりしない、アルトたちも絶対死なせはしない! それにお前ももう16、来年には成人だ。いつまでも過保護じゃいかんだろ……。 あぁ、だからって何してもいいわけじゃないぞ!何かあったら、歌手なんてすぐやめさせるからな!』 普段なら猛反発してるところなのに……何故か言葉が出てこなかった。 「うん……わかってるよ、お兄ちゃん……」 ずっとコドモ扱いしてたくせに……こんな時だけ、オトナだなんて。 『私はギャラクシー、私の故郷が無事だと信じます。そして、このフロンティアが、彼らを助けるために行動を起こしてくれることに、感謝を申し上げます』 言葉が耳に入ってこない。いつもテレビで見てるシェリルなのに、そこにいるのはもう、あたしの知っている『シェリルさん』だった。 ポッキーをだらしなくくわえて、パジャマ姿でずっと、お兄ちゃんと電話したときから、……ずっとこうしてる。 『それどころか、いたずらに手を出せば、あの化け物、バジュラの注意を引くだけとの見方もあるようですが……』 『つまりこう仰りたいんですか?ベッドに潜って息を殺して、バジュラが見逃してくれるのを待つべきじゃないのか……ギャラクシーなんて見殺しにして』 『そ、そうは言っていませんが……』 『そうですよね。この艦ももう、バジュラに襲われてるんですから』 シェリルさん……どうしてこんな時でも、笑顔でいられるんだろう……気丈でいられるんだろう。シェリル・ノームだから?……あたしには、ムリだよ……。 『と、ともかく、こういう事態です、今夜のライブは中止だと思いますが、ファンに向けて……』 『中止!?誰がそんなことを決めたの!?』 『で、ですが……』 『ライブはやるわ。そして私は……ギャラクシーに帰る!』 シェリルさん……。どうしてそんなに、強くいられるのかな……。 あたしなんか今はもう、なんにも感じないよ……。あたし、ひどい人間なのかな……。 「シェリルさん……」 気付けばあたしは走っていた。天空門への道を、一目散に。 ライブはもう、きっと始まってる。それでもくしゃくしゃになったチケットを握りしめて、何度も転びそうになりながら、ただひたすら走り続けた。 きっと今シェリルさんに会いにいかなかったら、あたし一生後悔する。だってあたしは、シェリル・ノームのファンだから……! (どうしよう……アルト君、待たせちゃったかな……) えーと、Mの5と6……と呟きながら、出来るだけ頭を下げて客席を探す。 ――あった。空席が……ふたつ。 (アルト君……?) 「短い間だったけど、フロンティアの人たちと一緒にいられてホントに良かったわ。 いろいろあって、みんなに心配かけちゃったみたいね」 「シェリルさん……」 「でももう大丈夫!今夜もいつも通り、マクロスピードで突っ走るよ!だから……」 「あたしの歌を聴けぇえ!!」 その瞬間――、あたしは、戦争になるかもしれないことも、隣にアルト君がいないことも、お兄ちゃんの死なないという約束も、何もかもを忘れて、ただの『シェリル・ノームのファン』になっていた。 ただ、魅了される。 どこまでも伸びていく凛とした歌声、めまぐるしく変化する衣装、時により形を変えるステージ。光と音と、それだけが全てになる。 会場を埋め尽くすシェリルコール。ここにいる全員が、シェリル・ノームを待っている。 (どうして来ないんだろう、アルト君……こんなに素敵なステージなのに) その時、肩に乗せていたオオサンショウウオさんの目が光った。アラーム式の留守番メッセージだ。 名前は……お兄ちゃん?イヤフォンをひっぱって耳に当てる。 『俺だ。本当は直接言うべきことなんだろうが、ちょっと言いにくくてな。……仕事だ。今日は帰れない』 (お仕事……?) ――赤い化け物。 ――燃えていく街。 ――傷付いたお兄ちゃん。 (そんな……) 『だが約束は必ず守る。心配しないで、待ってろ』 ピー……、という終了音がいつまでも耳に残った。 「!!じゃあアルト君も!?」 思わず大声が出てしまう。周りからじろりと睨まれ、慌てて頭を下げた。 (アルト君……お兄ちゃん……!) 「いよいよ最後のナンバーね。皆ともこれでお別れ……あっという間だったけど、すごくいい思い出になったわ! 広い銀河の中、また会える日が来るかわからないけど……、っ……あれ……うそ……」 語尾が震えている。 どんな時でも凛々しく強く美しい、シェリル・ノーム。あたしの憧れ。 だけど、今の彼女は、あたしの知っている『シェリルさん』に見えた。 高まっていくシェリルコール。泣かないでー!と叫ぶファンたち。あたしも、気付けば叫んでいた。 泣かないで、と。(だって、アルト君たちが戦ってる……きっと、シェリルさんの故郷は守られる……!) だからお願い、ステージの上では、どうかシェリル・ノームのままでいて、と。 シェリルさんは目元をぐいっと拭うと、 「泣くわけないでしょ、この私が!!……わたしが…………」 言葉に詰まってしまった。 (どうしてだろう、すごく、悲しい……) あたし、みんなに届けたいの。あたしはここにいるよって……。 シェリルさんにも、届けたいの……あたしはここに、シェリルさんのすぐ傍にいるんだよ、って。 おなかが熱い。ぐっと、感情が流れ出てくる。 「シェリルさぁん!!!!」 届くはずがないと思ってた。だってステージのシェリル・ノームは、あたしからこんなに遠かったから。物理的にも、精神的にも、なにもかもが。だけどその時、あたしがあらん限りの声で名前を呼んだとき、シェリルさんは確かにこっちを見た。 (シェリルさん……シェリルさん……!あたしはここだよ、ここにいるよ……アルト君はいないけど、でもシェリルさんのために戦っていて……、あたしは、ここにいるんだよ!!) ふっと、ステージの彼女が、微笑んだ。 「ねえ皆……ちょっと我が儘言わせてもらってもいいかな。この最後の曲だけは……ある人のために……ううん、ある人達のために歌いたいの。今遠いところで、いのちをかけている人達のために……」 「!!」 (シェリルさん、知ってる……知ってるんだ……) アルト君たちが出撃してること、知ってて、それでも、ステージで……。 世界中でシェリルさんとあたし、二人きりになったような気がした。 お腹の奥が熱い。あんなに遠くにいる筈なのに、シェリルさんの表情まで読み取れる。 「そしてあなたにも……あなたにも一緒に、歌って欲しいの……」 ささやくような、だけどお腹の底にひびくような、シェリルさんの声。 あたしは、絶対見えてないとわかっているのに、ただ静かにうなずいた。 一緒に歌おう、シェリルさん。あたしは……ここにいるよ。 「ありがとう皆!愛してる!」 一緒に歌う。声が重なって、大きな層になっていく。 シェリルさん、シェリルさん……。 今この天空門にいる人も、全銀河にいる人もみんな、シェリルさんの傍にいるよ……。 ひとりじゃないよ……。 「ありがとう……!みんな、ありがとう……!!」 「ええっ!?もう退院しちゃったの?ルカ君も?」 『俺は検査入院みたいなもんだし、ルカも別の病院に行ってるけど……明後日には帰れるらしい』 「そうなんだ……ゴメンね、お見舞い行けなくて」 言った途端、受話器の向こうでアルト君が苦笑した。誰も来てくれなんて頼んでないって。 ……お見舞い、行きたかったのにな。 戦いに出たアルト君が入院したって聞いて、あたしはもう何を置いても真っ先にお見舞いに行きたかった。 でも、できなかった。お仕事があったし……それに、シェリルさんとのことがどうしても、気になってたから。 だけどこんなに後悔するなら、やっぱり行けばよかったよ。 差し入れ持って行って、リンゴとか剥いてあげたりして、アルト君を気遣って……そういうこと、してみたかったな。 気付いたらあっと言う間。もう、退院しちゃっただなんて……。 『駆け出しの癖に仕事で忙しいなんて、生意気だけどな、はは』 「う、うん……」 「たとえ世界がつらくても〜夢があるでしょイロイロと〜♪」 ニンジンの着ぐるみが重い。バランスも悪い。ふらふらしそうになる。 ゼントラモールフォルモ、そこのニンジン売場で、あたしは一人歌っていた。 「き〜みにビタミン七色〜ニンジンloves you yeah!」 ゼントラーディの子供たちがこっちを見てる。今だ!と思って踊りながらすかさずニンジンの試食を取り出した。 でも、子供たちは見向きもしない。……ニンジンって、ちいさい子、キライなこと多いもんね……。 (ううう、喉が、ノドが痛いよぅ……) こんなに長い事ずっと歌ってるなんてしたことなかった。 それに踊りもしなきゃならないから、なんかもうフラフラだ。舌がもつれて時々歌詞が飛ぶ。音程がふらふらする。 (シンドいよう……こんな仕事、アルト君に言えないよ……) 「ニンジンloves you yeah〜っ!!!」 早く、早くシェリルさんみたいになりたい。 シェリルさんみたいになって、堂々とアルト君の隣に立ちたいよ。 こんなじゃなくて、ちゃんとアルト君に言えるようなお仕事ができるくらいになりたい。 「……ぷはぁっ!」 ニンジンの被り物を脱いで、ちょっと休憩する。 「こんな仕事じゃ……アルト君に言えないよ」 「そうですか?私はなかなか、楽しいですが」 「徳川さん……」 ミシェル君とここに来たとき、あたしが完全スルーしてた、いつもここで演歌を歌ってる人だ。 徳川さんはニンジンを一本手に取ると、何事も下積みが大事です、と言った。 「それにランカさん、テレビのお仕事も決まったんでしょう?」 「……はいっ!!ちっちゃなバラエティのゲストですけど……でもお仕事貰えるだけ幸せですもんね!がんばります!」 まだまだシェリルさんには遠く及ばないけど、それでもテレビの仕事なら……アルト君にも、見てって言えるかもしれない。 ……収録の、出来次第だけど。 「ランカちゃ〜〜〜ん!!ニュースニュース、大ニュースですよ!!」 「あ、エルモさん!」 「例の件!合格ですよ!」 「!!ホントですか!?」 (やった……!) ニンジンの着ぐるみが重いことも、衣装がかわいくないことも、ステージがないことも全部、もうどうでも良くなっちゃうくらい、あたしは飛び上がって喜んだ。 だって明日から……アルト君と同じ学校に行けるんだ!!! 「芸能コース一年に転校してきました、ランカ・リーですっ!えへへ……」 座席についているアルト君に向かって手を振る。ふふふ、アルト君ったら、すっごくびっくりしてるよ。 よろしくお願いしますっ!とあたしは上機嫌に自己紹介を終えた。 「お仕事はじめたせいで前の学校にいられなくなっちゃったし……だから転入試験受けてみたの。 でもドキドキだったよー、実技試験とかあってキビしいの有名だったし!」 休み時間。みんなで階段に座りながら、おしゃべりする。すごく楽しかった。 ……だってその間、ずっとアルト君も一緒にいてくれるんだから。 「ランカさんの実力なら当然ですよ!これから毎日会えるなんて、私うれしくってもう……」 「ナナちゃん!」 思わずナナちゃんの手を取る。ルカ君が、楽しくなりそうですねアルト先輩、と話を振った。 「アルト君も、よろしくね!」 「あーまぁな……」 投げ遣りな言葉。いつものことだから、気にしない。 それに今日はあたしにとって特別な日になったんだから、ちょっとやそっとのことじゃへこたれないんだから! ミシェル君が、学校内を案内してくれる、って言った。……何だか照れくさいな。 こんな風に、学校で誰かに話しかけてもらったり、特別扱いしてもらったりするのなんて、全然なかったし。 「遠慮なんかナシナシ!今日は、ランカちゃんが主役なんだから」 「主役……?ちょ、ちょっとうれしいかも!」 今日のあたしは、みんなの主役なんだ……特別、なんだ。……うれしいな……。 急に門の辺りがざわめいたと思うと、車の音がした。 乱暴に突入(という言葉がぴったりだ)してくる車は、あたしたちの前に滑り出してくる。 ばたん、とドアが開いたと思うと、自信満々にあらわれたのは…… 「な、なんでお前が……」 「シェリルさん……!?」 「地元学生との交流だぁ?」 「そーよ。ちゃんと学校側の許可も取ってあるわ。それにしても……」 美しい色合いの髪がたなびいて、澄んだ瞳があたしのことを見つめる。 「奇遇よね、貴女もこの学校に転入したばっかりだなんて」 「あ……ハイ……」 なんだろう。なんで、なんだろう。 いつの間にか、この場所の主役はとっくに、シェリルさんになっていた。 シェリルさんはいつもそうだ、どこにあらわれても、ただそこにいるだけで、全てを圧倒して……自分がスポットライトの中心になってゆく。 (今日は、あたしが主役のはずだったのに……) 「見学中なんでしょ?一緒にこのドレイ君に案内してもらいましょ?」 「ど、奴隷!?」 「そうよ。アルトは私の、ド・レ・イ」 「……、」 大好きなシェリルと同じ学校、その筈なのに。 (なんでかな、嬉しいって気持ちが、ちょっとしか湧いてこないよ……) 気付けば校舎の窓はどこも開かれて、多勢の人が窓に詰め寄せていた。シェリルコールが聞こえる。 ここは……ステージじゃないのに……。奴隷にしてくださいとか、女王様とか、アルト姫とシェリル様だなんて、とか、いろいろ。 「姫……?」 「「「はーい、このひとでーす」」」 全員がキレイにアルト君を指し示した。シェリルさんはぽかん、とした顔で姫……と呟いている。 ぎしぎししていたアルト君が急にがばっ!と動き出すと、 「来い!!!」 怒鳴るようにしてシェリルさんの手を握って……どこかへ行ってしまった。 「あ、アルト君……」 やっぱりシェリルさんは、シェリル・ノームだ……一瞬で、何もかもを持っていく。 人影が小さくなって、見えなくなるまで、あたしはただ立ち尽くしていることしかできなかった。 皆の提案で、なぜかこっそり後をつけることになってしまった……。 アルト君とシェリルさんは、何やら口論らしきものをしている。 なんだろう、アルト君と話してる時とのシェリルさんは、シェリル・ノームじゃなくって、ただの女の子に見える。 アルト君も、シェリルさんと喋ってる時は、いつもの不愛想だったり投げ遣りだったりするアルト君じゃなくて、ただの普通の男の子みたいに見えた。 「あの二人、どういう関係なんでしょう……」 ナナちゃんが呟く。ルカ君にもわからないらしい。……あたしにだって、わからないよ。 ミシェル君が、苦笑するようにランカちゃんも気になる?と聞いてきた。絶対、わかって聞いてるよ、ミシェル君。 「そ、それは気になるけど……でも、気になると言ってもそんな意味じゃなくって、でも……あの…………、……?」 がさがさ、と草むらがうごめいた。何か、影が見えた気がする。 「どうしたの?」 「え、あ……今、そこに……」 でももう一度見てみると、そこには何もいなかった。 シェリルさんの提案で、EXギアを試してみることになった。 とは言ってもあたしは後ろで見てる群衆なだけで、主役はシェリルさんなんだけど……。 EXギアの操作はとっても難しいらしくって、シェリルさんは生卵を掴み切れずにいくつもいくつも砕いてしまった。 (天然モノだから、貴重なはずなんだけどな……)とばっちりで白身が顔に飛んでくる。 でもシェリルさんは負けず嫌いなのか、全然諦めようとしなくって、結局卵がなくなるまでずっとそうしていた。 汚れてしまったあたしとシェリルさんとナナちゃんは、シャワーを浴びることにした。 制服は幸い無事だから、髪や顔を洗えばいいだけだし。 隣のブースで、シェリルさんがシャワーを浴びている。 そんな無防備な姿すら絵になるな、とごく自然にそう思ってしまって、……なんだかひどくみじめなような、悔しいような気持ちになった。 (そりゃ、そうだよね……どっちが主役の器かって言ったら、あたしなんかより断然、シェリルさんの方だよ) あたしなんかちんちくりんで、シェリルさんみたいに胸もお尻もないし、髪だって長くないし、歌は下手くそだし、それに、それに……。 「仕事の方はどう?ランカちゃん」 「あ、えっと……ぼ、ぼちぼち、です……」 「そう。グレイスに任せてあるから、局も枠もわからないんだけど、今度ね、あたしの特番があるのよ。 ……あなた一人くらいなら、すぐねじ込めるわ?」 「……、」 一瞬で、頭の中がぐちゃぐちゃになった。 格の違いを見せつけられたみたいだった。 そんなの今日一日で、イヤって言うくらい解ってるのに。 でも、シェリルの特番に出る、って言うことは、物凄く大きな仕事になって、大きい所と、顔が繋がる機会になるってことで……。 出たい、と思う心を、あたしは抑え切れなかった。でも。 「馬鹿にしないでください!!」 「ナナちゃん……?」 「ランカさんは、あなたの力なんか借りなくても大丈夫です!大体なんですかあなたは! いきなり学校に乗り込んできて、女王様気取りで早乙女君を小突きまわして……」 とたんに、シェリルさんが意味ありげに微笑んだ。 「……貴女。アルトの事が好きなの?」 「!?そ、そうなのナナちゃん!!」 「ち、違います私は……、」 「そういえば、貴女もなかなか美人よね……プロポーションもいいし」 「イヤらしい目で見ないでください!!」 「あー……ナナちゃん、シェリルさん……」 洗濯機の前で首をかしげているシェリルさんの前に、歩み寄る。 「あの……シェリルさん」 「ん?」 「ありがとうございます、お仕事の話……でも、でもあたし……、」 ホントは揺れていた。目の前に見えたのはあんまりにも甘い餌だった。 それでも、ナナちゃんが言ってくれた言葉が、あたしの背中を押してくれた。 (だってこのままじゃ、みじめなだけで終わっちゃう……) 「あたし、自分の力で頑張ってみたいんです。今日もこれから収録あるし……だから、」 「……そう言うんじゃないかって思ってた。自分の信じるとおり頑張ってみるといいわ」 「……はい!」 シェリルさん、買いかぶりすぎだよ。あたしはそんな、出来た子じゃない。 でも、シェリルさんがそう言ってくれるならあたし、なんとか自分で頑張るよ。 よし、と決意を決めた時、また、がさがさ、と音がした。シェリルさんのカゴからだ。 洗濯前の衣類を入れたカゴ、そこに詰め込まれた布類が、ひょこひょこ揺れている。 「?……わあっ!!」 なにかが飛び出した。 緑色の、尾の長い何かが、ピンク色の布をまとわりつけた状態で跳ねている。 誰かが入ってくるのと入れ違いに、そのままぴょこぴょこと、ドアの外へ出て行ってしまった。 (今の布は………………下着!?) 「な、な、な」 「いゃぁあああああッ!!!あたしの下着ィイイイ!!!」 シェリルさんが身も蓋もなく絶叫した。 ドアの外で待機していたらしい、大量のシェリルファンたちがいっせいにどよめく。 そこからはもう、大騒ぎだった。 シェリルの脱ぎたてだー!と言う声を皮切りに、上へ下への大騒動が始まる。 キッとまなじりを上げたシェリルさんは、がばりとワンピースをかぶるとあたしに行きなさい、と言った。 「あ、え、でも……ぱんつ、」 「私を誰だと思ってるの……駆け出しは自分の事だけ心配してなさい!!」 (いや、でもその下、はいてないですよね……) だけどあんまりにも自信たっぷりにシェリルさんが言うから、不思議と力が湧いてくる。 この人が言うと、本当に何もかもが大丈夫に思えるから不思議だ。 「……はい!行ってきます!」 あたしは踵を返して、学校を後にした。 「はっ、はっ、はっ……」 坂を駆けおりる。空が青い。息がはずむ。 「人生は、ワン、ツー、デカルチャー!頑張れあたし!!」 下着騒動で出遅れたあたしは、全力で仕事場へと向かっていた。 息がへろへろになって、電柱にしがみついて、でもまた走り出す。 懐でオオサンショウウオさんが鳴った。 「はい、すみません社長!あと少しで……!」 『いやいやいやいやもう、参っちゃったよ〜!それがさ、 シェリルの特番が入るって言うんで、、番組自体が飛んじゃって……』 「!!」 『プロデューサ―はね、ランカちゃんの事たか〜〜く買ってくれてるの!だから次!次こそはね!』 足が止まる。息が、うまくできない。 路面電車が通り過ぎていく。その向こう側には、壁いっぱいのシェリルの広告。 ……電話を切って、空を見上げた。 どこもかしこも、……シェリルであふれていた。 あたしが主役だったはずの日。 特別な一日になるはずだった日。 でも今は、……ただの一日だ。(……帰ろう) グリフィスパークの丘。 帰ろうと思ったのに、自然と足が向いてしまっていた。 デビューする前は、いつもここで歌っていたっけ……。だれもあたしを見ないから。 (でもそんなのはもう、イヤだって、思ったんだ) だから歌手になろうって決めた。それなのに。 まだ誰も、あたしがここにいるって、知らないよ……。 スポットライトの中心はいつも同じ人。あたしの女神さま、シェリル・ノーム。 ……かないっこない、あたしなんか。 その時、かさかさ、と音がした。 音の方を見ると、緑の尾が長い、つぶらな瞳が可愛らしい生き物が、こちらを見ていた。 「あなた、もしかしてさっきの……?」 シェリルさんの下着を持ってっちゃった子に、良く似ている。 「……そんなわけないか。おいで?あたしも今、一人だから」 緑の子は、するするとベンチの端っこを伝ってこちらに寄ってくる。言葉が通じてるみたいだ。 「あんまり見かけない子だね。あなた、どこの星から連れてこられたの?」 そっと頭をなでてやると、キイ、と小さい声が鳴いた。 「ふふ。……かわいい」 素直でいい子だ。あたしが今とっても寂しかったのをわかってて、側に居てくれるみたいだった。 「誰もあたしを見ないけど……知らないけど。あなたは聴いてくれる?あたしの歌……」 キイ、と可愛い声が答えた。 「アーイモアーイモ ネーィテ ルーシェ…… ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ……」 街はシェリルであふれている。ライトを浴びるのはいつだって彼女だ。 あたしはまだ駆け出しで、だれもあたしのことを知らない。 いつかみんなに、誰でもいいから皆に知って欲しいけど、今聴いてくれるのはこのちいさなみどりの子だけ……。 「ルーレイ ルレイア……」 ハーモニカの音がした。同じメロディをかなでている。 それどころか、その続きも。(あたしの曲を、……知ってる?) 音楽が止まり、その人があらわれた。 群青の服を着た、金色の髪と赤い瞳の、男のひと……。 「……あなた……だれ……?」 「ランカ・リーです!この度わたし、デビューします!よろしくお願いしまーす!」 街頭に立って、水着姿でディスクを手渡す。メイクはボビーさんがしてくれた。 バックにはあたしのデビュー曲の『ねこ日記』が流れていた。 ぽつぽつだけど、受け取ってくれる人もいる。 その場で聴いてもらえて、さらに手元にも残る形なら覚えてらえる可能性が高いって言った社長の作戦はとてもいいと思う。 ネットでもPVを流せたら良かったんだけど、サイトを立ち上げたり動画を流そうとすると、どうしても会社のパソコンがハッキングされたりしてうまくいかないんだって。 水着はちょっと、恥ずかしいけど……でも、着ぐるみの仕事よりずっといい。 (それにこれならバックで歌を流してるだけだし、喉も痛くならないからね) 「お願いしまーす!お願いしますー!…………あっ、」 この前の、ハーモニカの人が、柱にもたれて立っていた。 「あのっ……!」 見間違えるはずがないと思ったのに、……声を掛けた時にはもうそのひとは消えていた。 (誰なんだろう、あの人……どうして、あたしの歌を……) 『魅力的なサラを期待しています……今年度ミスマクロスのミランダ・メリンさんでした』 娘娘の休憩室のテレビでは、あのコンテストの時に出会った女性が、主演女優を演じる映画の番宣をしている。 大昔の伝記を元にした映画なんだって。 「なんか悔しいですね……こっちは手渡しのプロモーションしか出来ない、って言うのに」 「でもねナナちゃん、エルモさんが言ってたの。歌って元々、人から人へ口伝えで伝わるものなんだって。何か素敵じゃない?」 「そ、……そうですよね!あのディスクを見て、ランカさんの事好きになってくれる人が!!」 「うん!」 どたどたどた、と物凄く騒がしい足音がした、と思うと、息を切らしたエルモさんが飛び込んできた。 「ランカちゃん、ニュースですよ、ニュースですっ!!」 「……え?」 その話を聞いた時、あたしは最初、本気でウソなんじゃないかって疑ったくらいだった。 × 「そ、……そうですよね!あのディスクを見て、ランカさんの事好きになってくれる人が!!」 ○ 「そ、……そうですよね!きっといますよ!あのディスクを見て、ランカさんの事好きになってくれる人が!!」 『映画?おまえが?』 「そうなのアルト君!監督さんがね、あたしのディスクを見て、気に入ってくれたんだって!!」 『へえ……良かったじゃないか!』 「でもあたし今までお芝居なんてしたことないし、うまくできるか心配で心配で……」 『まあ……ムリだろうな』 「あー……やっぱり意地悪だよ、アルト君……こういう時は、ウソでもいいからできるって言おうよ?」 『思わざれば華なり、思えば華ならざりき……』 「えっ?」 『頭で演じようとすれば、必ずどこかに嘘が残る。要するに、考えずにただひたすら感じて、役になりきれって事さ』 「すごいやアルト君!お芝居のこともわかるんだ!」 『うぁ……まあな……どっちにしろ、台詞もない端役なんだろ?』 「っ……そうだけど……」 アルトー、いつまで電話してんのー!という覚えのある声がかすかに聞こえた。 (一緒にいるんだ……シェリルさんと) 『悪い、軍から広報の仕事が入って……じゃな』 「あ、うん……」 何も言えなかった。電話が切れたあと、あたしはぼんやり窓の外を見つめた。 広告はやっぱり、どこもかしこもシェリル・ノームばかりだった。 映画撮影当日。 あたしたちは船で、撮影場所となるマヤン島までたどり着いた。 あちこちで大道具の人たちが働いている。 「すごーい!!島がまるごとセットになってるなんて!」 「ようこそマヤン島へ、ランカちゃん!」 「えっ?……ミシェル君、ルカ君!どうして……」 桟橋の上に立つのは間違いなく彼らだ。 ボビーさんが、SMSが撮影に協力してるの、と事情を説明してくれた。 バルキリーがいっぱい出てくるから、そこらへんを担当してるらしい。 「じゃあアルト君も……!」 「や、あいつは別の仕事。色々やばくってね」 「……そうなの」 「さあさ、ランカちゃん。メイクの続きしましょ?」 ボビーさんが優しく肩に手を掛ける。 慰められてるのがわかって、逆にちょっとしょんぼりした。 バリバリと音をたててヘリが降りてくる。主演女優態の登場だ、という声。 その中からは、ミランダさんがあらわれた。 ……あの時同じ舞台に立っていたのに、今はこんなにも遠い。 着替えて浜を歩いてると、あら貴女、と声をかけられた。ミランダさんだ。 「ミスマクロスの時の子ね」 「あ、はい、こんにちは……」 「出るの。役は?」 「マヤンの娘Aです!」 「まあ素敵。私の映画を台無しにしないよう、せいぜい頑張ってちょうだい?」 「……、」 やっぱり、殺気立ってるな……あの時といっしょで、やな感じ。 「聞き捨てならないわね。妥協で私の歌が使われるの?」 「?今の、シェリルさんの声……」 見ると、テントの方に見覚えのあるストロベリーブロンドが輝いている。 その隣にいるのは、……アルト君だった。(別のお仕事って……こういうこと?) ミランダさんは興味を失ったかのようにすいっとあたしの前を去って行くと、シェリルさんの方へ駆けて行った。 つい、あたしも後を追いかける。 シェリルさん、とミランダさんが感極まったような声で話しかける。 私主演の……、と続けようとしたが、それを綺麗に無視してシェリルさんはあたしの方へ歩み寄ってきた。 「ちゃんと登ってきてるみたいね」 「はいっ!」 ……ふふーん、何だか気分がいい。 あのシェリルさんが、ミスマクロスのヒトよりあたしを気にかけてくれている! キッとこちらを睨むミランダさんの視線は相変わらず怖かったけど、あたしは全然気にならなかった。 「アルト!あんたも何か言ってあげなさい!」 「……よ、よお」 「あの……どうして?アルト君」 「命令さ……例のコイツのドキュメンタリーとかもSMSが全面協力とかで……」 めんどくさそうにぼやいていると、急に後ろの監督さんとスタッフさんがガッ!とアルト君に食ってかかった。 「失礼ですがあなた、早乙女アルトさんですか!映画に出ていただけませんか!?」 (アルト君……知り合い?) 「見ましたよぉあなたの舞台!!桜姫東文章の桜姫!!」 「さくら……ひめ?」 (なに、それ……) 「驚いた……アルト君が、歌舞伎のおうちの跡取りだったなんて」 「そお?私は知ってたけど。触れられたくないから突っ込むのをやめてたけど、有名人よ?嵐蔵早乙女は」 「ルカ君も?」 「一応……先輩、家を継ぐのがイヤで、大ゲンカしてパイロットになったらしくて……」 「そう、なんだ……」 「ランカさん?」 「あ、ちょっと、ね!」 そのまま駆け出してしまった。行く当てなんてない。 ただ、何だか良く解らないけど、胸が苦しくて……切なくて、打ちひしがれたようだった。 (皆知ってるのに、あたしだけ、知らなかったんだ……アルト君のこと、なんにも) 知ってて、アルト君を思って何も言わなかったシェリルさん。 無神経にも電話でお芝居のことを聞いてしまった自分。……みっともなくて、涙が出そうになる。 あたし、アルト君のこと何にも知らない。 どこで生まれて、どんな風に育って、何が好きで、何が嫌いで……そういうの何も知らない。 あたしはただ浮かれて、キレイでカッコイイパイロットの子に憧れただけ……。 あちこち歩いて……というか、よじ登ったり降りたりを繰り返している内に、高台の崖まで来てしまった。 辺り一面を一望できる。青くてきらきらした海が広がっていて、浜に近づくにつれてグリーンへのグラデーションが描かれて、とてもきれいだ。 「うわあ……」 思わずそこへ座り込んだ。広くて大きくて、青くて……とてもあたたかい。やさしい場所だな、と思った。 「アーイモアーイモ ネーィテ ルーシェ…… ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ……」 あんまりにもキレイで、だから何もかも忘れさせてくれるような気がした。 あの時は一緒だったはずのミランダさんが、もう全然追いつけそうにない距離にあること。 シェリルさんがあんまりにも自然にアルト君を思いやっていて、すごく大人だと思ったこと。 アルト君のことを、上っ面のことしかなんにも知らなかった自分。 そういうみっともない何もかもを、忘れさせてくれるんじゃないかって思った。 (アルト君……あたし、大人になりたいよ……) 暫く歌っていると、やっぱり喉が痛くなってきて。もう頃合いかな、と思って立ち上がった。 (早く戻ろう。あたしの役まではまだ時間があるけど、何があるかわからないし) そうして振り返ると、そこには――ヒュドラがいた。 目が赤い。ひゅうひゅうと呼吸音がする。開かれた口からは、鋭い牙が見えた。 完全に、こちらを捕食対象として見ている――! (逃げ、なきゃ) 走って走って、ヒュドラから逃げた。普段は大人しいはずのヒュドラが、なぜあんな風になってしまったのか解らない。 でも初めて見た野生まるだしのヒュドラは恐ろしくてたまらなくて、脚がもつれてころびそうになりながら、それでも逃げた。 「はっ、はっ、はっ……っ、あぁっ!」 目の前には崖。行き止まりだ。振り返ると、野性を剥きだしにしたヒュドラがこちらを見つめている。 (やだ……誰か……!) どこかへ逃げなきゃ、と一歩後ろへ足を引くと、がく、と踵が落ちそうになった。もう崖っぷち。 本当に、後がないのだ。 ヒュドラが地を蹴って飛ぶ。あたしへ向かって。 「い、いやぁああああ!!」 「ランカぁあ!!」 何発か銃声が聞こえた。もんどり打って、誰かがこちらへ転がってくる。 慌てて駆け寄るとそれは……アルト君だった。 (助けに来てくれたんだ……) アルト君はあたしをかばうように立ち、ヒュドラと対峙した。だが。 人間のか弱い身体じゃ、強いケモノとやり合えるわけがない。 あたしとアルト君はまとめて吹っ飛ばされて、あたしはまた崖っぷちギリギリまで逆戻りした。 ヒュドラが口を開いてあたしを見つめている。 (もう、ダメだ――) その瞬間。何かが、あたしたちの間に割って入った。 目もくらむような速さでヒュドラを殴り飛ばす。 噛み付かれたのだろう、腕からは血がしたたり落ち、中のコードだかチューブだかが丸見えになっていた。 後ろ姿しか見えないけど、見間違えるはずがない。 金色の髪、群青の服――あの時の、ハーモニカの男の子だ……。 (い……いや……) フラッシュバックする。頭がぐるぐるする。 どうして傷つくの?なんでこんなことになってるの?だってあたし、あたし何もしてない……。 約束をやぶるような真似、なんにもしてないよ……。 (死んじゃ……お兄ちゃん……いや……!) 懐かしい夢を見ていた気がする。 歌っているあたしと、傍にはやわらかくてあたたかくていいにおいの人がいる。 それから、お兄ちゃんも……。きれいな歌だね……これは、何の歌だったの、おかあさん……。 「……ん」 目が覚めると、あたしはアルト君におぶわれていた。 「目が覚めたか?」 「あたし……、あっ!いきなり、ヒュドラに……どうして」 「覚えていないのか?」 「もしかして……アルト君が……」 「あ、いや俺は、」 「っ……ありがとう……いつも……助けて、くれるんだね……」 なんでかな。涙が止まらないよ……。 さっきみた夢のせいかな。どんな夢だったか、全然思い出せないのに。 ただあったかくてやさしくて、それでいてひどく寂しかったことしか、わからないのに……。 「あぁっ!来ましたよ!」 森を抜けると、ルカ君の声が飛び込んできた。それからエルモさんも。 「ランカちゃん!ニュースですよ!ウルトラスーパービッグニュースです!!」 「あたしが、マオ!?」 「しかも、ランカちゃんが歌っていた曲をメインテーマとして使いたいって!!」 「ええっ!」 あんまり唐突な話で、現実感がついてこない。 ぽん、とアルト君が頭に手を乗せて、良かったな、と笑いかけてくれた。 が、何故かその顔が急速に凍りつく。 「待て……お前がマオ役ってことは…………俺とお前が……!?」 「?」 「き、キス……することに……」 「へ、キスって…………………………ぅえぇえええッ!?」 夕暮れ時の砂浜に、ぽつんと座っている。 橙の光を乱反射する波が、とてもキレイだ……。 背後からさく、と足音が聞こえたかと思うと、ボビーさんが苦笑する気配があった。 「どうしてすぐ引き受けないの?アルトちゃんとキスするの、イヤ?」 「…………、」 「怖いんです……あたしに出来るのかな、って……キスのことも、お芝居の事も」 ボビーさんは何も言わずにあたしの話を聞いてくれている。 ホントはわかってた。ここは二つ返事でとびつくべきチャンスなんだ、って。 あたしのつまんない葛藤のせいで、監督さんも現場のみなさんも待たせっぱなしで、撮影日がどんどん過ぎていくなんて、シェリルさんクラスの人ならともかく、駆け出しのあたしじゃあそんなことあってはならないんだってことも。 (でも……あたし……) 「あたし、マオのこと、よくわからなくって…… お姉さんが、サラが好きになった男の人のことを好きになって……それで自分から、キスまでしちゃうなんて……」 「まだ本気で恋をしたことがないのね、ランカちゃんは」 「……、本気の、恋……」 お子様なあたしにはまだ、解らないのかな……。 ぼんやりボビーさんの方を振り返ると、向こうのバンガローで、アルト君とシェリルさんが二人でいるのが見えた。 (いつも一緒だな、あの二人……) いつかのゼントラモールの時みたいに、夕暮れ時の光につつまれて。 アルト君とシェリルさんのいる風景は、相変わらず、これこそ映画のワンシーンみたいに美しかった。そして。 ――シェリルさんが、アルト君に――今度はちゃんと唇に、そっとキスをした。 (……!!) ゆっくりと、離れていく。 閉じたまぶたがゆっくりと開かれて……シェリルさんは、どんなメディアでも見たことがないような、ただの『女の子』の顔をした。 アルト君と二言三言なにか話して……そしてそのまま、笑いながら、追いかけっこみたいに二人してどこかへ行ってしまった。 そんなところまで……まるで、良く出来た絵画のようだと、胸がずきずき痛むのに、本当にキレイだと、思ってしまった。 この量で1000いくならHP立ててやっても良いレベル 内容は知らんけど 届かない。アルト君にも、シェリルさんにも。 まだ本気で恋をしたことがないのねって、ボビーさんは言う。 そうかもしれない。だってあたし、いまだに頭のなかぐちゃぐちゃで、良く解らない。 アルト君のことだって、表面的なこと以外は全然知らない。でも。――でも! 桟橋にいる監督さんの方へ歩み寄る。 思い切って、がばっと頭を下げた。 「監督、やらせてください……あたしに、マオを!!」 ボートから海中へダイブする。 海の水は塩っ辛くて、それから何か良くわからない、ミネラルみたいな味もして、まるで涙みたいだと思った。 先に海中にいたアルト君があたしを見つめている。 髪を結いあげて、いつものアルト君とまるで違う雰囲気の、それでもきりりとした目差しはいつも通りの、アルト君が。 「ホントに、いいのか……?」 「今なら、わかる気がするの……マオの気持ちが」 どんなにあがいても届かない、そんなキスシーン。 アルト君のことを何も知らなかったあたし。 それでも、――それでも。 「シーン47、カット11、アクション!!」 今ならあたし、マオの気持ちがわかるよ。 二人して海中に沈む。手を繋いで、一緒に潜っていく。 アルト君が苦しそうにもがいて、岩にぶつかる。アルト君――シンのゴーグルを、そっと持ち上げる。 (シン……お姉ちゃんのことが、好きなの?) シンの目が驚いたように見開かれる。その中に、ゆらゆら揺れながら、あたしの姿が映っている。 (あたしを見て……あたしだって、あなたのことを……) どんなに届かなくても、むくわれなくても。 抑えられない、心がある。 シン、それが今の、あたしの気持ちだよ……。 海が揺れる。海藻が、魚が、大地が、ゆらゆらと揺らいでいる。 今だけでいい、あたしを見て……。例え、かなわなくてもいいから……。 あたしはそっと、シンにキスをした。涙のような海の中で。 あたしはそのキスシーンを、赤面してふるえながら眺めていた。 先行試写会。自分がこんな風にスクリーンに映るなんて初めてで、何もかもが恥ずかしい。 隣の席のナナちゃんは食い入るように画面を見つめている。 (どうして、あんなことが出来たんだろう……!) ああ、恥ずかしい!あの時はどうかしていたとしか思えない。 なんであんなに当たり前のように、アルト君にキス……なんてできたんだろう……。 バルキリーが落ちていく。 シンが優しげに、そっと呟く。聴こえるよ、きみの歌が、と。 マオはいつまでも歌っている。何かを見送るように。そして何もかもが光に包まれて、消えてゆく――。 キャストが流れて、会場が暗くなった。拍手の嵐が聞こえる。 「それでは、出演者の方にご挨拶願いましょう!まずは主役の、ミス・ミランダ・メリン!」 割れるような拍手の中、ミランダさんは艶やかな微笑みを浮かべ、頭を下げる。 「そして、マオ役を射止め、フレッシュな歌声で我々を魅了してくれた……」 「ミス・ランカ・リー!!」 カッ、とスポットライトがあたしの周りを包む。 こんなの聞いてなかった。あたしはただ、関係者席でぼんやりと映画を見ていただけなのに……。 現実感のないまばゆいライトに、目がくらみそうになる。 拍手は続く。立ち上がる人もいる。辺りを見回して、驚きでうまく反応できない。 「応えてあげなさい。みんな貴女を呼んでいるのよ?」 目の前に――どんなに頑張っても届かなかった、シェリル・ノームがいた。監督から手を差し伸べられる。 「昨日までの君は何者でもなかった。伝説は今、ここから始まる……!」 そっと手を取る。割れるような拍手の音が、更に大きくなる。 ステージへ連れられて、ゆっくりとのぼっていく。 把握しきれないほどの観客たち……この人たちがみんな今、あたしを見てるんだ……。 あたしは高揚して、頬が上気するのをおさえられなかった。 「皆さん、ありがとうございましたっ!!」 娘娘の制服を着て、カメラの前で頬笑む。CM撮りはつつがなく終了した。 エルモさんが、次は雑誌のインタビューですよー、とあたしを急かす。 移動中の車から見える街頭広告たちは、ほとんどがランカ・リーで埋め尽くされている。 たまにシェリル・ノームも見かけるけど、今はほぼすべての広告があたしの姿で埋まっていると言ってもいい。 『アルト君へ。 あの映画が公開されてから、なんだか夢みたいな毎日が続いています。 目が回りそうって言うの、きっとこう言うことなんだね。 あたしは社長の言うとおり、目の前のことを次々こなしていくので精一杯です。』 メールを打ちながら移動していると、エルモさんがあそこですよ、と外を指さした。天空門だ。 ……夢みたいだ、シェリルさんと同じところで、あたしのファーストライブが出来るなんて。 『あ、そうだ。アルト君、来週誕生日なんだって?ナナちゃんから聞きました。 パーティとかするのかな?その時は、お休みをもらって必ず行きます!もちろん、プレゼントを持って!』 ランカちゃん、行きますよ、とエルモさんに急かされる。あたしは慌てて未送信ボックスにメールを突っ込むと、車から飛び出した。 「はぁーいランカちゃん!頼まれてたアリーナのチケット!」 「ありがとうございます、エルモさん!」 「それにしてもどうして?ご家族やお友達には、ワタシの方から手配を……」 「直接手渡したい相手がいるのよね?」 耳に飛び込んできた凛とした声に振り向くと、そこにはシェリルさんが立っていた。 「はい、期待の新星に」 カップを受け取る。シェリルさんは軽くそれを掲げた。 「ありがとうございます……これもみんなシェリルさんと、」 「……アルトのおかげ?」 思わず顔を上げると、シェリルさんはいたずらっぽく笑っている。 あたしの手に握られたアリーナチケットを見て、バースデープレゼントでしょそれ、と一発で見抜いた。 「あ……これだけだとちょっとアレかなーと思うんで……他にもちょっと」 「そ。アイツ喜ぶわよーきっと」 アイツ、って呼ぶんだ……。 マヤン島での撮影でも思ったけど……シェリルさんとアルト君って、どういう関係なんだろう……。 「あ、あの、シェリルさん……!」 意を決して問おうとした瞬間、ばしゃ、と音を立ててシェリルさんのカップが落ちた。 キレイな髪がゆらりとゆれて、目眩を起こしたみたいにシェリルさんが手すりにすがりつく。 「シェリルさん!?」 「……ご、ゴメン……ちょっと立ちくらみしちゃった」 「大丈夫ですか?」 「もちろん。体調管理はこの仕事の初歩だもの。……でしょ?」 だけどシェリルさんの頬が赤い。チークとかそういうんじゃなくて、のぼせたような、熱っぽいような……。 でも、あたしの大先輩であるシェリルさんが大丈夫って言うんなら、あたしはもう何も言えなかった。 「レシピありがとう、ナナちゃん!今夜はうちに帰れそうだから、さっそく試してみるね!」 短い待ち時間の間、楽屋で電話をするのが数少ない楽しみだ。 もちろんお仕事が楽しくないわけじゃないし、とっても充実してるけど、やっぱり緊張もしちゃうわけで……こうしてリラックスしていられる時間というのはとても貴重だった。 『それよりランカさん……早乙女君と、連絡取りました?』 「まだ、だけど……」 『私の気にしすぎかもしれないんですけど……最近、早乙女君とシェリルさん、何というか、すごく、仲がいいと言うか……』 ――夕日のさす海辺で、映画のワンシーンのように完璧なキスを思い出した。 「二人……付き合ってるのかな、やっぱり」 『それはありません!いえ、まだそれはないはずです。 でもランカさん、このままぼやぼやしてると、取られちゃいますよ?それでいいんですか?』 「い、いいも何も……だってアルト君は……」 ドンドン、とノックの音がする。時間だ。社長の急かす声が聞こえる。 「あ、はい!――じゃ、お仕事始まっちゃうから、またね?ナナちゃん」 そのまま通話を切った。ぼんやりと鏡を見つめる。あたしの姿が映っていた。 あの海中で、アルト君の瞳に映っていたのと同じ、あたしの姿が……。 (ナナちゃん、いきなりすぎだよ……あたし……アルト君のこと……) あの時キスした唇に、そっと触れてみる。もう感触も思い出せない、遠いキス。 『アイツ喜ぶわよ?きっと』 自信ありげなシェリルさんの笑みが思い出される。 (あたし……あたしは……) ドンドンドン、とノックの音がした。 「ランカちゃーん!まだでかなー!!皆待ってますよー!!」 「!あっ、はい!!あの、ちょっと待ってください!一分だけ……!」 握りっぱなしだったオオサンショウウオさんをいじって、電話をかける。 「あ、あの、アルト君?」 『アルトだ。電話に出られない。用事のある奴は言え』 「はあー……あ、ランカです。最近、あんまり会えなくてゴメンね。 って、何で謝ってんだろ……会えなくて残念かどうかって、アルト君が決めるコトだよね…… あは、バカだなあたし……そ、それでね、誕生日のこと聞いたの。 それで、良かったらなんだけど……プレゼント、貰って欲しいの。 誕生日の日、あの丘で……グリフィスパークの丘で、待っててくれる?必ず行くから……だから…………」 『仕方ありませんねえ……二時間だけですよ?』 そのエルモさんの言葉をありがたく受け取って、あたしはグリフィスパークの丘めがけて走っていた。 そういえば、こんな風に走ったのなんて久しぶりだ。最近はずっと、移動は車で……仕事から仕事へ、渡り歩いていたから……。 (アルト君……) 何時に抜けられるかわからなかったから、留守電にはいつ待ってて欲しいとか、そういう言葉を入れられなかった。 アルト君だってあたしが忙しいのわかってる。だからもしかしたら、待っててくれるかもしれない、そんな願望を抱いていた。 「はあっ、はあっ、……」 階段を駆け上る。デビュー前のあたしの、ひとりぼっちのステージ。そこへ辿り着く。 柱の陰から、人影があらわれるのが見えた。 「……アルト君……!」 ――やっぱり、待っててくれたんだ!駆け寄って、アルト君!!と大声で呼ぶ。 「……あ、ランカちゃん……ゴメン、アルトじゃなくて」 そこにあらわれたのは、……ミシェル君だった。 「あいつに頼まれて来たんだ。アルトの奴、今頃……」 アルト君は、ガリア4に向かう、と聞いた。……シェリルさんと、一緒に。 ミシェル君は朝からずーっと、あたしを待っててくれたらしい。 じゃあね、と帰って行ったミシェル君を見送って、あたしは戻る気にもなれず、ただぼんやりと日が暮れていくのを眺めていた。 と、キイ、と聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。振り向くと、長い尾をもつ緑の子があたしの方へぴょこぴょこ飛んでくる。 「あなた……」 キ?と首をかしげるその子は、とても可愛らしかった。そっと抱き上げる。 「アルト君、行っちゃったんだって……シェリルさんと」 キイ!と声を上げ、その子はあたしの鼻をつついた。 「ふふ、慰めてくれるの?優しいね。……食べる?初めてだから、あんまり上手に出来なかったんだけど……」 袋の中から、バルキリー型のクッキーを取り出してその子に与える。さくさくと軽快な音を立てながら緑の子はクッキーにかじりついた。 もう一つ取り出して、……空にかかげる。 「アルト君……ハッピーバースディ……」 一人ぼっちの、ハッピーバースディ。 さく、とそれをかじると……ぼそぼそして、苦くて、その癖中は中途半端な味で……なんだかあたしの心の中みたいだった。 「苦っ……」 あたしの小さなぼやきは、誰もいない夕暮れに消えていった。 「あれ?もうお弁当終わり?最近元気ないね、ナナセ」 「ううん?そんなことないけど……ちょっと寂しいかなって……シェリルさんも早乙女君も、ずっとお休みだし」 「でも、ランカさんには明後日会えるじゃないですか!それに、会えない時間が長いほど、再開は嬉しいって言うし!」 「そうだよね……ありがとう、ルカ君」 「じゃああたし、休んだ方が良かったかな?」 「「ランカさん!?」」 階段の上、皆の背後からいたずらっぽく声をかける。 「ランカさあああん!!」 ナナちゃんが飛びついてくる。ぎゅうぎゅう抱きしめられて、少し苦しい。 と、制服の下からもぞもぞと、……出てきちゃう気配がした。 「あっ、コラ!」 ちょこん、と出てきたのはいつもあたしを慰めてくれた緑の子だ。 ナナちゃんは、頭にハテナマークを浮かべながらその子の事を見ている。 思わず大声を上げそうになるのを、あわてて手でふさいで、お願い、と頼み込んだ。 「見つかったら、生態系保護法違反で強制ボランティアですよ?」 屋上で、ナナちゃんはやれやれと言う風に腰に手を当てた。 「でも、懐かれちゃって……それにこの子、あたしを慰めてくれたの……。 アルト君にプレゼントを渡しに行って……一人ぼっちだったときに」 「ランカさん……。ふぅ。じゃ、私も共犯です!罰を受ける時は、一緒ですよ?」 「!!わぁ、ありがとうナナちゃん!」 思わずナナちゃんの手を握りしめてしまった。 でも、と思う。ナナちゃんはいつも優しい、あたしの親友だ。 けど、どうしていつもあたしにこんなに良くしてくれるんだろう……? 「ねえナナちゃん」 「どうしたんですか、ランカさん」 「生態系保護法違反って……前科がついちゃうよね」 「そう……ですね」 「なのにどうして、あたしに協力してくれるの?あたしいつもナナちゃんに頼ってばかりで……どうしてナナちゃんは、いつもあたしに良くしてくれるの?」 そう問うと、ナナちゃんは一瞬びっくりしたような顔をして、それから少し俯いた。 「話しにくいことなので……もうちょっと陰の方、行ってもいいですか?」 「あ、うん」 柱の陰にかくれると、ナナちゃんは俯いたまま、ぽつぽつと話し始めた。 「私ね、……その、嫌味に聞こえるかもしれないけど……胸とか、大きいでしょう?」 「……うん、そうだね」 「それで昔っから、そういう目で見られたり、からかわれたすることが多くて……それが凄く、イヤだったんです」 胸元を隠すように自らの身体を抱くナナちゃんは、それでね、と顔を上げた。 「ランカさんはなんていうか……中性的じゃないですか。女の子すぎることも、 男の子すぎることもない、自然体の、あるがままの姿……最初はそこに、憧れたんです」 もちろん今はそれだけじゃありませんけど!とナナちゃんは力説する。 「ランカさんはね、私の星なんです。 どんなに遠いところにあっても輝きを失わない、私を導いてくれる……そんな星なんだ、って」 「ナナちゃん……」 「あ、あはは、ちょっと話しすぎちゃいましたね!……忘れてください」 照れたように笑うと、それにしても、とナナちゃんは緑の子を突っついた。 「でも、あんまり見かけない子ですね……」 「うん、生態マップも見てみたけど、全然見かけないんだ」 「ミシェル先輩!!」 ルカ君の切羽詰った叫び声に、あたしとナナちゃんは一気に現実に引き戻された。 ちょっくら外出してきます 書き溜めはしてるので帰ったらすぐ投下できそうです 支援本当にありがとうございます 面白いねー これってアニメ版をランカちゃん視点でそのまま書き起したの? >>140 ありがとうございます TV版をランカちゃん視点で&ランカちゃんが凡人だったら という設定でやっていく予定です 最強フォールド波でバジュラクイーンのランカちゃんも、 超時空シンデレラなランカちゃんも、 一番最初に惚れたのが恋に恋して空回っちゃうごくごく普通の子なランカちゃんだったので 画面の中では、タラップを降りようとして崩れ落ちるシェリルさんと、暴動を起こすゼントラーディの人達。 ミシェル君がカリカリしている。 「シェリルが病気で歌えないから暴動って……どうせ口実だろ!」 「アルト君……」 アルト君は、シェリルさんと一緒にいるはずだ。だったらこの暴動にも、巻き込まれている……。 思わずとがめるようにミシェル君を見た。 「ねえ、助けに行かないの!?アルト君、大変なんでしょ!?」 「ムリなんだよ……ここからじゃ、絶対間に合わない」 「そんな……」 (あたし、アルト君にプレゼントも渡せてない……何も言えてないのに……!) アルト君、アルト君……。 失敗作のクッキーのことも、病気のシェリルさんのことも全部頭から吹っ飛んで、あたしはアルト君のことしか考えられなくなっていた。 だってあたし、まだ何も、なんにもしてない……。 「一つだけ、方法があるかもしれません!」 きっぱりと言い切ったのは、ルカ君だった。 フォールド断層の影響を受けない、新型のフォールド機関がある、とルカ君は言った。 難しいことはわからないけれど、それを使えば何日もかかるガリア4までの道のりが一瞬ですむことになる、とのことだった。 (明後日は、あたしのファーストライブ……) ミシェル君のバルキリーに乗り込みながら考える。 スタッフもファンのみんなも、あたしのライブを楽しみに待っている……。でも。 一人ぼっちのバースディ。失敗作の苦いクッキー。来てくれなかったアルト君……。 (ライブなんかより、あたしには、アルト君のバースディの方が……!) 「待てランカ!自分がどれほど無茶をやろうとしているのか、わかってるのか!」 出発しようとするあたしを、お兄ちゃんが大声をあげて引き留めた。 「……お兄ちゃん、言ってたよね。後悔するくらいなら、当たって砕け散れ……って。 あたし、行きたい。行かないと……伝えないと、きっと後悔する。だから……」 心配してくれてるのは痛いほどわかってる。でも。 一人ぼっちの誕生日……あんなの絶対、もう二度とゴメンだ。 伝えたい気持ちがあるから、あたしは歌手になった。ここにいるって、言いたくて。 だからアルト君にも、ちゃんと伝えたい……!誕生日、おめでとうって、ちゃんと言いたい。 「ゴメンね、お兄ちゃん」 それだけ言うとあたしは、振り返らずに後席に身を沈めた。 『アルト!!お前にバースディプレゼントの配達だ!!』 ミシェル君がスピーカー越しに呼び掛ける。眼下には、さっきまで銃弾が飛び交っていた暴動の場所。 アルト君は頭の後ろで手を組んで、抵抗できない状態になっている。 (あたし、届けたい……届けたいよ、あたしが、ここにいるんだって……アルト君!!) バルキリーのハッチが開く。吹き付ける風に髪が頬を打つ。 あたしはそれでも立ち上がって、震える手でマイクを握りしめて……キッ、と眼下の戦場を見据えた。 「皆、抱きしめて……!銀河の、果てまで……!!」 踊りながら、バルキリーに乗って歌う。ライブのために用意された、あたしの新曲。 あなたが好き、あなたが好き、悲劇だってかまわない……。 けし粒の命でも、あたしたちは瞬いている……。 スピーカーとエフェクターに頼った、たよりない歌声。それでも歌った。 ミシェル君のバルキリーが着地する。あたしは、シェリルさんが歌うはずだったステージに降り立った。 (あたし、歌うよ、アルト君……!) いつの間にか、銃撃戦は止まっていた。みんなが、あたしの歌を聴いている。 アルト君のバルキリーが、目の前を飛んでいる。ガラス越しに、アルト君があたしを見つめているのが解る。 心が光の矢を放つ――。 アルト君に向かって、あたしは歌った。 もつれあうバルキリーたち。飛び交う光。あたしはアイモを歌う。 あたしのたったひとつの、思い出の歌。なにかやさしいものが、胸の奥から込み上げてくる。 みんながあたしを、あたしの歌を聴いている。 (ねえアルト君……あたし、ここにいるよ……) 「バカかお前!スーツもつけずに、生身で戦場に出てくるなんて……!」 「だってホラ、あのくらいしないと、みんな歌を聴いてくれないかな、って……」 そこまで言うとあたしはへたり込んだ。腰が抜けたのだ。銃弾飛び交う中で歌うなんて、初めての経験だった。 それどころか、戦場なんてものを見たのも、初めてで。 (どうしてだろう……すごく怖かったはずなのに、満たされた気持ち……) 「おい、ランカ!」 「あれ、なんか……気が抜けたら、あしが……」 「お前、どうしてここまでして……」 (どうして?……そんなの、決まってる。スタッフよりもファンよりも、ライブなんかよりもずっとずっと大切だったのは――) 「だって、伝えたかったんだもん……」 涙が、出そうになる。それをぐっとこらえて、笑顔を作った。精一杯の笑顔を。 「ハッピーバースディ、アルト君!!」 「キレイだね……このまま、どこまでも飛んでいきたい気分……」 あたしはアルト君のバルキリーの後席に乗って、ガリア4の夕暮れを見つめていた。 今度はちゃんと、スーツをつけて。 「ああ、そうだな……」 帰りは、ミシェル君じゃなくてアルト君が送ってくれることになっていた。 あたしのライブは明日。来るときに使ったフォールド機関を使えば、きっと間に合う。(……でも、) きっともし間に合わなかったとしても、あたしは後悔しなかっただろう。 だってアルト君に、ハッピーバースディが言えたんだから。 「その……ランカ、……ありがとな」 「お、お礼されるようなこと、してないよ!あたしが勝手に来た、だけだし……」 「でも、お陰で助かったよ。…………最高のプレゼントだった」 「……!!」 どうしよう……心臓がどきどきして、止まらない。顔がかあっと熱くなる。 それを誤魔化すように、あたしは空を見ながら小さく歌を口ずさんだ。 急にけたたましいアラームが鳴る。アルト君が、操縦がきかない、と焦ったように言う。 バルキリーはそのまま力を失って、腹を地面にこすりつけるようにして着地した。 「何なんだ突然……!」 「……?」 なにかが。 フラッシュバックしたような、気がした。 機体をチェックしているアルト君をよそに、あたしは歩きだす。その先に何かがある、とどこかで確信しながら。 「!アルト君……あれ……!」 「どうした!」 あたしたちの目の前にあらわれたのは――第一世代型マクロスだった。 ――景色が、フラッシュバックする。 誰かのやさしいにおい、あたたかな手、笑顔、それから、――何もかもが壊れていく様子。 「ぁ……あ、……」 震えが止まらない。何も思い出せない。それなのに、……怖くてたまらない。 「いやぁあああああッ!!!」 「……ごめんね、びっくりさせて」 低空飛行で辺りを探索するバルキリー。その後席で、あたしはぽつりと言った。 「ちっちゃい頃の記憶がないって話……したよね。 どんなに頑張っても思い出せない癖に、時々……勝手に出てきて、……今みたいになるの」 「なら、考えるなよ。思い出さないでいいことだから、忘れてるんだろ?」 「そう……なのかな」 「ああ。過去なんかに縛られるのは時間の無駄さ…………、っ、またか!!」 苛立ったようなアルト君の声。バルキリーががくん、と揺れる。……動かなくなった。 「……ねえ、もう帰れないの?」 様子見に外へ出て、深い原生林を見わたす。アルト君はあたしを勇気づけるように、心配するなと言った。 「航法計が全部ホワイトアウトしてるだけで、壊れたわけじゃない」 「でも……」 「恐らく、強力なジャミングを受けて……アイツが原因かもしれないな」 マクロスの方を望遠鏡で覗きながら、アルト君は、お、水場がある、と言って立ち上がった。 水場に辿り着いたアルト君は、水のチェックをしたら即座にパイロットスーツを脱ぎ捨てて水浴びをした。 ほどかれた長い髪は枝毛なんかとは無縁そうで、とてもきれいだ。 何だか初めて出会った時みたい、と思ってそれを言うと、アルト君に笑われた。 水をかぶったのはお前の方だ、って。 (……覚えてて、くれたんだ) 水場から出たアルト君の、髪を梳く。さらさらのやわらかい手触りを味わっていると、 「ホント、お前はビックリ箱みたいな奴だよな」 と苦笑交じりのアルト君の声がした。 「会ったばかりの頃は、あたしなんかー、って言ってた癖に……臆病なんだか大胆なんだか、いい心臓してるぜ、ったく」 きゅ、と音を立てて、赤いひもでアルト君の髪を結う。 アルト君と出会った時のことなんて、もうずっと遠い昔みたい。 最初はあたし、すごく卑屈だったのに……いつの間にか、誕生日を祝いたい気持ちひとつでこんなところまで来るようになっちゃった。 「あのころに比べて、あたしが少しでも勇気がもてるようになったとしたら、それは……」 フォルモでひとり、マイクを持って立っていた時。 頭上をひらりと飛んで行った紙飛行機。あたしなんか、とうじうじしていた時、おでこにぶつけられた紙飛行機。 「……アルト君の、お陰だよ。アルト君がいたから……いつもあたしを守ってくれて、迷った時には、背中を押してくれて……だから……」 木漏れ日が差し込む。アルト君の瞳に光が映り込んで、すごくキレイ……。 がさ、と音がして我に帰った。 アルト君が即座にあたしの腰を抱き寄せて、銃をかまえる。 (ど、どうしよう……わかってる、わかってるけど……ドキドキしちゃうよ……) 草むらからは、何かちいさな虫みたいなものが出てきたかと思うと、興味を失ったかのようにふいっとどこかへ行ってしまった。 アルト君がふう、と息をつく。そして――目が合った。 「「う……うわぁっ!!!」」 どうしてこんなに、密着しても平気だったんだろう……! あたしたちはお互い顔を真っ赤にしながら、しどろもどろで飛びのいた。 アルト君は気を取り直したかのように咳払いをすると、とっとと戻ってあの船を調べるぞ、と言った。 「準備はいいか?」 「うん。………………ひっ」 「安心しろよ、ライブには絶対間に合わせてやるから」 「あ、ありがとう……でもちょっとだけ、待ってもらっても、いい……?」 「?どうした」 「えと、それは…………」 (い、言えない……!アルト君の前で、お手洗いに立ちたいなんて、言えない……ッ!!) 「何がいるかわからないんだ、どうしても、って言うなら俺がついt」 「だめぇえええッ!!!絶対ッ!!!!」 な、なんてとんでもないことを。そんなの無理、ダメ、絶対。 あたしはバカァアア!と叫びながら、草むらの向こうにダッシュして行った。 ……アルト君の溜息が、後ろから聞こえた気がした……。 『キレイな歌……この歌、あたし大好き!地球の歌なの?』 『違うわ。この歌はね……』 「……ぉ、かあ、さ……」 何か、夢を見た気がする。よろつく腕で身体を支え、起き上がる。 (あたし、どうして……そうだ、お手洗いに行こうと思って、それで……) 何かに、捕まったんだった。辺りを見回す。なにか大きなものが、卵のようなものを産み付けている。 (何なの、ここ……)とにかく、アルト君と連絡を取らないと。 腕の通信装置に何度も呼びかける。するとしばらくして、ノイズまじりの返事があった。 「アルト君……!」 『今どこにいるんだ!』 「えっと……何か広い洞窟みたいなとこで……卵がたくさんあって……」 『ランカ、今から行くぞ!そこを動くなよ!』 「ありがとう、アルト君!」 と、何かのうめき声のようなものが聞こえた。 巨大な昆虫のような生物の頭が、獲物を見るようにこちらを無感情に見つめている。反射的に悲鳴が出た。 (助けて……!) 大きな音をたてて、昆虫が横に揺らぐ。見覚えのない赤い機体が、あたしと昆虫の間に割って入った。 (たすけて……くれるの?) けたたましい銃声が止まることなく響きつづける。頭が割れそうだ。 あたしはただ頭をかかえて、うずくまることしかできなかった。 「ランカ!!」 アルト君の、声がする……。 立ち上がって、EXギア姿で飛んでくるアルト君へ手を伸ばして、掴もうとした。 でも手が触れ合うより先に、何か膜のようなものがぐっと上がってきて、あたしの周りを包んでしまった。 「ランカ、今助けてやるからな……!」 「アルト君……!」 銃声は止まらない。大きいのを庇うように辺りを舞う小さい昆虫をかいくぐって、大きな昆虫に銃弾が当たった。 「……っぐ、う……ッ!!」(お腹の……奥の方が、痛い……!) 立っていられない。よろめいて、思わずへたり込む。 アルト君が必死にあたしに呼び掛ける。でも、良く聞こえない。 お腹の奥の方が、熱くて……痛くて、苦しくて……捩じ切れそうだ。 (あたしは――あたしは、ここに、いる――) 途端に、すべてが真白く塗りつぶされた。 何かが爆発したのだろうというのは、耳を駄目にしそうなほどの爆音でようやく解った。 どこか遠くへ、飛んでいく感じ。何かに、守られているような……。 ここはどこだろう……。 さっきからずっと、膜につつまれた中でじっとしている。 どれだけ時間がたったのかも、良く解らない。 (帰りたいよ……みんなのところへ……) アルト君……お兄ちゃん……。 こんなことになるのなら、お兄ちゃんにいつもワガママ言わなければよかった。 アルト君にも、もっと自分の気持ちを、まだ上手に見つけられていないこの気持ちを、不器用でもいいからちゃんと伝えればよかった。 「……ひっ、」 大きな昆虫のようなものが、触手をこちらに伸ばしてくる。 喉の奥から勝手に悲鳴が漏れた。あたしを包んでいる膜に触手がふれた――と思うと、急に、外の様子が頭に入ってきた。 (フロンティアが見える……) バジュラの群れ。それと、フロンティア軍の戦闘機たちが、ぶつかりあって、爆発していく。 長く尾を引くミサイルが、バジュラに食らいつく。まばゆい光がいくつもいくつも、放たれては散っていく。 ……その度に、誰かが、何かが……死んでいくんだ。 (やめて……もう、やめてよ、こんなの……) お腹が痛くて、苦しくて……泣き出しそうになった、その時。……音楽が聞こえた。 『伝えたいの……わたしたちは、あなたたちに……』 (この歌……アイモ) 切なくて優しくて、何かを求めるような……そんな音楽。 「アーイモアーイモ ネーィテ ルーシェ…… ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ……」 気付けば、あたしも歌っていた。 伝えたいの、あたしは……。あたしが、ここにいること……あなたが、ここにいることを……。 ねえ聴いてる?どうか、届いている? 血を流すことじゃなくて、争い合うことじゃなくて、憎しみ合うことではなくて……。 ただ、ここにいるよと、それだけを……。 視界の中ではきらきらと、悲しいくらい美しい光が瞬いていた。 人が、バジュラが、死んでいく光。それがいくつも、いくつも……。 怒りと憎しみに満ちた、破壊と殺戮のまばゆい輝きが。 (どうしてかな……悲しくて、たまらないよ……) ひゅ、と音がした、かと思うと、後ろに赤い機体があらわれていた。 触手を切り裂かれたからか、外の景色はもうわからない。 赤い機体はあたしを、まるい膜ごと抱きかかえた。戦場の音。 アルト君の機体が見える。その機体の矛先が、さっきまで一緒にいた大きなバジュラへと向けられるのがわかった。 「アルト君!!だめぇえええ!!!」 声は届かない。放たれたミサイルは炎を呼び起こし、バジュラを燃やしていく。 お腹が痛い。崩れ落ちそうになる。悲しくてたまらない。いくつもの炎が上がる。 逃げていくバジュラたちを追い詰める兵器たち。 光り輝き、幾重にも瞬く宇宙。 その景色だけを見れば確かにとても美しいのに、それなのにあれは人とバジュラの命の光なんだ。 ……どうして、こんな風になってしまうんだろう。 『……何故、泣く』 あたしを助けてくれた赤い機体から、不愛想な声がした。 「わからない……わからないよ…………。どうして……?」 ただ、お腹の奥の方がじんじんと熱くて、……切なくて。涙が止まらなかった。 「あ、あの……検査って、いつになったら、終わるんですか……?」 「もう少しです。」 「少しって……ずっとそればっかりじゃないですか!……戻ってから、誰にも会わせてもらえないし」 「クレームは貴方を隔離、検査することを決定した政府へどうぞ」 「……!」 やーな物言い!思わず、いぃーっ、と子供みたいな顔をすると、真正面から 「ちょっと見ない間に随分美人になったな」 とからかいまじりの声がした。 「アルト君……!」 今の顔を見られてしまった、という恥ずかしさはあれど、ずっと誰にも会えなかったのでやっと知り合いに会えた嬉しさの方が勝ってしまう。 「良かったぁ、無事だったんだね!!」 大きな戦いだった、と聞いている。アルト君も病院という事は、怪我でもしたのかもしれない。 でも今こうやってぴんぴんしている姿を見て嬉しくなって、あたしはアルト君に飛びついた。 「……や、いやいや待てランカ、下!!」 「……?」 あたしはちょうど今検査着を着ているところで……それはとっても薄くてすぐに風にあおられてぴらぴらしてしまう頼りない素材で……そんな服で飛びついたりしたら、その、下の方が当然……見え…………。 「いやぁあああああ!!!」 検査がひととおり終わった頃、シェリルさんも同じ病院に入院していると聞かされた。 暴動だ何だですっかり忘れていたけれど、そういえばシェリルさんが体調を崩して倒れたところがすべての始まりだったんだっけ。 アルト君とふたり、連れだってお見舞いに行く。 シェリルさんは全銀河の大スターだから、あたしが持ってきたようなちゃちな花束、喜んでもらえるかどうか解らないけれど……それでも手ぶらでいくのはいくら何でもなので、適当な花を見繕ってもらって持ってきた。 アルト君が病室のベルを鳴らす。 「俺だシェリル、入るぞ」 『ちょっと待って!』 「どうした、具合まだ悪いのか?」 『……いいわよ、入って?』 短いやりとりの後、ドアが開く。 シェリルさんは病院のベッドにいるというのにまるで変わらぬ華やかさで、病室がどこか高級ホテルの一室に見えるように優雅に、余裕たっぷりと言った風にこちらを見ていた。 「シェリルさん……お加減、いかがですか?」 「ランカちゃん……」 シェリルさんはあたしを見ると、何故か複雑そうな顔をして、ちょっと目を逸らした。 でもそれも一瞬で、何もかも勘違いだったんじゃないかと思うくらいすぐにその表情を消すと、ちょっと外へ出ましょ、と悠然と微笑んだ。 「いいのかシェリル?ちゃんと寝てなくて」 「いーのいーの。ずっと寝てばっかじゃ息が詰まるわ。……それにしても。無事で良かったわ、ランカちゃん」 「あ、はい、ありがとうございます!アルト君やギャラクシーのパイロットさんに助けてもらって……」 そうして何でもないような会話をしていると……。 『Baby どうしたい 操縦〜☆』 「あら、この歌……」 「!!嘘、どうして!?」 「オイ、これってまさか……」 「私たちのデートの時のよね?」 「で、デート!?」 思わず反応してしまった。そして思い出す。 あたしなんかじゃ絶対にかなわない、と思った、まるで映画のように美しいキスシーンのことを。 (……でも、あの時のあたしは名もないただの女の子だった。今は違う。 今のあたしは、超時空シンデレラ・ランカ・リーなんだから……!) 「ち、違うからなランカ!!……にしても、良く撮れてるな……」 「でもなんか……超恥ずかしい……」 「ふふ、結構素敵よ?初々しくて、夢見る乙女、って感じで」 (何だか、シェリルさんが余裕に見える……) 「あの、あたし、この頃は全然自信がなくて……でも、助けてくれたんだよね?」 アルト君を覗き込む。びっくりしたような顔をしているシェリルさんとアルト君を見て、あの紙飛行機、と言った。 「あれ、アルト君だよね」 「見えてたのか……?」 「やっぱり!いつもいつも、ありがとね!!アルト君!」 「や、あれはただの偶然……」 「なら私にも言わせて?」 ちょっと負けん気の強そうなシェリルさんの表情が、割って入った。 「ライブの時も、この間の戦いの時も……ありがとう、アルト」 「シェリル……」 (むう……なんだかこの二人、いい感じになっちゃってる……) あたしとシェリルさん両方から見つめられて怖気づいたのか、ちょっと困ったように目線を泳がせると、アルト君は俺も助けられたんだぜ、と言った。 「お前たちの歌にな」 「「歌?」」 「そう。サヨナラライブの戦闘でやられそうになった時、聴こえた気がしたんだ……二人の歌が」 あたしとシェリルさんははた、と顔を見合わせると、二人して叫んだ。 「「うそ!?」」 「ホントに通じたの?」 「私たちの気持ちが……?」 嬉しくなって、思わずアルト君の手を握る。 「すごいすごい、すごいよアルト君!」 「いやランカ、ただの空耳かもしれないし……」 その時、凛とした歌声が耳に届いた。 「シェリル……さん?」 ……すごい。病院の廊下でただ歌ってるだけなのに、まるでスポットライトがあたってるみたいに輝いて見える。 持っていないはずのマイクまで見えそうだ。 シェリルさんは歌いながら、アルト君の顎をそっとつかまえて、胸板をつうっと撫でる。 官能的な仕草にアルト君が赤面している。 (……あたしだって……あたしだって!!) あたしも負けじと歌いだす。 ……あたしにも、シェリルさんみたいに、架空のスポットライトがあたってたらいいな。 両手でトライアングルを作って、アルト君をとらえる。 シェリルさんと二人、背中合わせになって、アルト君へと歌う。 遠くからざわめきが聞こえる。あれってシェリルとランカ・リー?みたいな。 ああ、あたしもシェリルさんと少しは、並ぶことが出来たのかな―― 「っげほ、けほっ……!!」 「シェリル!!」 「シェリルさん!!」 「……ごめん、大丈夫だから……心配ないって、ね?」 アルト君は呆れたようにため息をつくと、だから大人しく寝てろって言ったのに、とぼやいた。 具合が悪いはずなのに、逆にこちらを気遣うようなシェリルさんの眼差しを見ていると、何も言えなくなってしまう。 どんな言葉をかけていいか迷っていると、――失礼ですが、と声をかけられた。 「ランカ・リーさんでいらっしゃいますね?」 「え……は、はい」 「大統領府より、貴女をお迎えに参りました」 「……あたしを……?」 そんなエラい人たちが、あたしに何の用なんだろう……。 「は……初めまして!三島……主席補佐官さん……。でも、どうして政府が、あたしのためにプロジェクトチームを……?」 初めて見る三島というエラい人は、心の奥底が良く見えない笑みを浮かべて、それはね、と囁いた。 「君の歌が、バジュラに対する切り札になるかもしれないからさ」 「え……バジュラに?」 「紹介しよう。君のプロジェクトを支えるリーダーだ」 キイ、と扉の開く音がして……ヒールの音も高らかに、何度か見たことのある人影があらわれた。 「ハァイ、ランカさん」 「グレイスさん!」 (グレイスさんはシェリルさんのマネージャーなのに、どうして……) 「それともう一人。以後、君のボディーガードとして行動を共にする……」 もうひとり、人影があらわれる。群青の服、首からぶら下げたハーモニカ、金色の髪、赤い瞳……。 「ブレラ・スターンだ」 「……えっ!?」 そこに立っていたのは、あたしの歌、アイモを知っていた――不思議な男の人だった。 一応TV版最終回まで書きためてたんだけど、今見返したら1000までは無理そうだった なので最終回後のアフターストーリーも入れたいと思います 最終回後はゆっくり投下になるかと思います 授業中。……あたしはついつい、後ろの方を見てしまう。 それは他の生徒も同じだったようで(というか、他の子たちはあからさまにきゃあきゃあ騒いでいる)、壁を背にじっとしているブレラさんは、教室の中でイヤと言うほど目立っていた。 先生が困ったように、何とかならんのかねランカ君、と言う。 「す、すみません……できれば外で、ってお願いしたんですけど……」 当のブレラさんはぴくりとも動かない。……こうなったら多分もうダメだ。 きっと強情なんだろうなー、とか呑気なことを考えていたら、ばしん、と机をたたいてアルト君が立ち上がった。 「目障りなんだよお前!政府の依頼だか知らないけど……部外者は出てけ!」 「待ってアルト君……!」 「お前には聞きたいことが山ほど…………うわぁっ!!」 ブレラさんに掴みかかった、と思った瞬間、アルト君はキレイに放り投げられた上にマウントを取られ、がっちり固められてしまっていた。 「やめてよブレラさん!」 「……自分は任務遂行を邪魔する人間を、実力で排除する権限を与えられている」 「そういうことじゃなくて!」 色めき立つクラスメイト達。ブレラさんもアルト君に負けず劣らずの美形だからだろうか、女子たちがきゃあきゃあ盛り上がっている。 (……あー、もう……) 学校を早々に切り上げて、仕事への移動中。 ふかふかした座り心地がちっとも慣れそうにない車に乗りながら、運転するグレイスさんに話しかける。 「あの……あたしやっぱり、ボディーガードなんて……」 「邪魔でしょうけど我慢して?クライアントの意向なの」 「じゃ、邪魔って……わけじゃ……」 本人が隣に座ってるのに、邪魔です、なんて言えるわけない。 ますますちぢこまっていると、グレイスさんはひどく楽しそうに、歌うように言った。 「ランカ・リーを人々の希望の光に!比喩的な意味でも、実際的な意味でも、ね」 「……そんな大それたこと……あたしやっぱり、今まで通り、エルモさんたちと……」 「ごめんなさい、書類は見せたでしょう?貴女のマネージメントはあの会社から、私が引き継ぐことになったのよ。……政府の依頼でね」 「っでも、グレイスさんもシェリルさんのお仕事とか、あるし……!」 「ふふ。シェリルはまだ入院してるわ?戻ってきたところで、二人まとめて面倒見るくらいへっちゃらよ」 ここまで言われると、……なにも言い返せない。 俯いてしまったあたしに、グレイスさんははい、と一枚のディスクを手渡した。 聴いておいてねと言われて、オオサンショウウオさんにディスクを入れる。 「セカンドシングルは、これで行きましょう」 (セカンドシングルって……あたしのファーストは、ねこ日記なんだけどな……) 手渡しでプロデュースするしかなかった日々。 今みたいにあらゆるメディアがあたしを取り上げてくれることはなくって、地味で地道な活動しかなかった頃。 ……あの頃は、早く売れたい、って思ってたけど……今になるとちょっと懐かしいな。 まあ、街頭手渡しオンリーだったねこ日記より、全国のCDショップに並んだ星間飛行の方を世間はファーストシングルと言うのかもしれない。 (……それに正直、水着で手渡しよりも、暴動を鎮めた希望の歌、の方がファーストシングルとしてはカッコイイもんね) そんな事を考えながら再生すると、……どこか聞き覚えのあるメロディの、やけに勇ましいアレンジが聴こえてきた。 「これ……」 「貴女のあの曲、映画のテーマ曲になった奴ね。アレンジと歌詞をちょっとだけいじってみたの。……あら、気に入らないかしら?」 (アイモ……たった一つの、あたしの……曲を……) 大切な思い出の曲。それをアレンジされて、なぜだかあたしはモヤモヤした気持ちになった。 なんでだろう、あたしだって、街頭でシェリルさんの歌を歌った時は、早さや歌詞をちょっといじって歌いやすいようにしたりしてたし……カバー曲だって、今は良くある話なのに……どうして、こんな気持ちになるのかな……。 「唯一覚えていたものなのね。小さい頃の記憶がないのに」 「はい……」 「だから、映画のテーマなのにシングルカットされなかった。……でもね?だからこそ世に出したい、出すべきよ。それが貴女の唯一の思い出なら、なおさら」 次から次へと舞い込んでくるお仕事。 慰安訪問、チャリティライブ、その他諸々。 相変わらずあたしの歌はヘタクソだし、数曲歌うと喉がダメになるからいつもバックで音楽を流して口パクだったんだけど、それなのに、あたしはどんどん持ち上げられていった。 ……超時空シンデレラ。 あたしに不釣り合いなほど大行な二つ名だ。 ライブでみっともない真似をしなくてすんでいるのは、ひとえに修正済みのボーカル音源を流しているからに過ぎない。 本当のあたしは、音程だって安定しないし、高音はスカスカだし、歌詞はすぐに飛ぶし、踊りの振りだって間違えるのに、……多勢のスタッフたちが総動員で、『超時空シンデレラ』を作り上げている。 (これが本当に……あたしのしたかったことなのかな……) そんな事を思う隙間さえないくらい詰め込まれていく仕事。 あたしが顔を出せばそれだけで人々は歓声を上げ、歌を流して踊って見せれば幾つものフラッシュが瞬いた。 疑問に思わない訳じゃなかったけれど、ステージで持て囃される快感は、何ものにも抗いがたいものだった。 「上出来よ、ランカさん。今夜のニュースでも大きく取り上げられるでしょうね」 「……でも…、」 「でも、が多いわね。やっぱり信じられない?」 ちいさく頷く。何だか、地に足がついていないようなフワフワした感じがずっと続いている。 多勢の人があたしを知ってくれた。それはとても嬉しいことだし、物凄く喜ばしいことだ。 スポットライトを浴びて、沢山の人に褒められて。……すごく、気分がいい。 でも何だろう、……現実味が、ない。 「なら試してみましょう?貴女が本当に、人々の希望の歌姫たり得るのか」 「え……?」 「その歌を使って、ね」 「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ…… 打ち鳴らせ いーま 勝利の 鐘を……」 セカンドシングルの収録中。 自分でも、うまくいかないのは解っていた。 発声が不安気でワンテンポ遅れるし、ロングトーンがぶれるし、そもそも音が外れてる。 どうしてかな。アルト君とふたりきりでグリフィスパークの丘でアイモを歌った時、あの時はなにも恐くなんかないって思った。 あたしがここにいることを、みんなに知らせたいって。 気持ちのいい風が吹いて、あたしの声が風にふかれて、どこかへ届いていくのがわかった。なのに……。 音響さんや他のスタッフさんたちに匙を投げられて、もう夜遅く。 あたしは屋上に上がって、溜息をついた。 ……全然うまくいかない。あたしの、たった一つの思い出の歌……アイモを歌う時は、いつだって、何かと繋がってる気持ちになれた。 なのに今は、なんだかひとりぼっちみたいだ……。 ふと、目の前にコーヒーのコップが差し出された。 「あ、ありがとう……ブレラさん……」 あんまりにも気配なく無言でいつも傍にいるものだから、いつの間にかあたしは時々、このひとの存在を忘れてしまう。 一口飲んで、…………むせそうになった。(これ、お砂糖入ってないよ!!) 「……何故ためらう」 「え?」 「いつものお前の歌は、もっと……」 「……いつもの?」 途端に、ブレラさんの顔に色が浮かんだ。 いつも無表情で感情なんかどこにもないみたいな人だと思ってたのに、何だかちょっと焦ったような色が見て取れる。 「いつも、聴いてくれてたの?」 「ああ……お前の歌は、宇宙を感じさせる」 ブレラさんは、どこか遠くを見るような目をして、静かにそう言った。 「宇宙と言っても、突き放すようなのじゃなく……包み込むような。 銀河の渦が、そのまま形になっ…………すまない、あまり上手い例えが見つからないんだ」 「ううん……ありがとう……」 なんでだろう。ここ最近ずっとあたしは超時空シンデレラとして持て囃されて、褒められて煽てられて時には崇められたりまでしたのに……、今のブレラさんの不器用な感想が、何よりも……。 「うれしい……」 自然と笑顔になる。 恥ずかしくてブレラさんの顔から下へ目線を落とすと、夜の中きらりと星を反射して光るハーモニカが目に留まった。 「あの……ブレラさんですよね、あの時、グリフィスパークの丘で会ったの」 「ああ」 「ずっと、聞きたかったんです……どうして、あの歌を?」 「それは…………極秘事項だ」 ふっ、と表情から色が消えた、と思うと、ブレラさんはそのままくるりと踵を返して屋内へと入っていってしまった。 (…………どうして、なのかな……) がさごそ、と音をたててカバンからアイ君(あの緑の子にはそう名前を付けたのだ)がひょこんと顔を出す。 だめだよ、見つかったら怒られちゃうよ、と慌ててアイ君の顔をカバンの中へと戻す。 「ねえアイ君、ほんとにあたしに出来ると思う……?あたしの歌、そんな力、あるのかな……」 アイ君はただあたしを見つめて、慰めるようにちいさく鳴いた。 これは実験なのだ、とエラい人は言った。 ミンメイ・アタックの如く、あたしの歌声を使って、バジュラを制圧することが出来るのではないか、と。 小難しくも長いお話をまとめると、そういう事らしかった。 リン・ミンメイの伝説はあたしも知っている。 文化を知らないゼントラーディたちに、歌で愛と文化を伝え、戦争を止めた歌姫だ、と。 半ば神格化されたその姿とあたしとじゃ、あんまりにも相違点が多すぎて、……ホントにそんなことできるのか疑いたくなる。 お兄ちゃんが、メットを丁寧にかぶせてくれた。……これから、戦場に出るんだ……。 「……頼むぞ、カナリア」 「穏やかに飛ぶ。……可能な限りな。でも気分が悪くなったらすぐに言うこと」 「はい、お願いします」 傍らに立っていたお兄ちゃんが、メットごとあたしを抱きしめる。 「……これがお前の望みなのか……?」 目を逸らすことを許さない、真剣な顔。 ……本当は、良く解らない。 あたしに何が出来るのか、何をしたらいいのか。 いきなりあたしの歌で戦争が、って言われても、……実感わかない。 でも、世間は超時空シンデレラの活躍を待っている。 ……きっと、こうするのが一番いいんだ。 あたしは、黙って頷いた。 お兄ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。 イントロが始まる。 目の前で、お兄ちゃんやアルト君の機体が宙を舞う。 飛び交うミサイルに、破裂する光たち。お互い譲ことなく、弾を撃ち続ける。 (これが……戦い、) 『ランカさん、初めてちょうだい』 「……はい」 「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ…… 打ち鳴らせ いーま 勝利の 鐘を……」 あたしのたったひとつの、大切な……思い出の歌。 戦場に鳴り響く、あたしの歌。無線の向こう側で、多くの人が息を飲む気配を感じる。 効いている、と無線が叫ぶと、攻撃はより一層苛烈になった。 まぶしくて目を開けていられない。爆風にあおられて、機体が揺れる。 (……やだ、) 目の前に広がるのは無数の着弾。ひとつひとつが、命のはずの光。戦場の……風景。 「歯を食いしばれ!!」 「きゃっ……!」 カナリアさんが叫ぶと、機体は急速に方向転換した。 思わず悲鳴を上げる。爆発の光で前が真っ白だ。 目の前に、ブレラさんの機体があるのが、ほのかに見える赤色でようやく解った。 『前にも言ったはずだ……アルト、お前はあの子にふさわしくない。ランカは、俺が守る』 「ブレラさん……」 そして辺りが再び、生き物が死んでいく光たちに満たされた。 『凄かったわァランカちゃん!!』 一つ息を吐いて、メットを脱ぐ。ボビーさんをはじめ、無線の向こう側からは口々に賞賛する声が聞こえていた。 『伝説のミンメイみたいでしたよ!』 『古すぎよォ、それを言うならバサラ様でしょ?……ランカちゃん、胸を張って。今やアナタは、アタシたちの希望の歌姫!』 「そ……そんな……」 『超時空シンデレラ。魅惑のディーヴァ、ランカちゃんなのよ!』 「え、えへへ……言いすぎですってば」 照れくさくて、少し笑う。 褒められるのにも慣れてきたと思ったけど、やっぱり少し恥ずかしい。 (あたし……あたしが、人類の希望になるんだ……) もう光のない宇宙を見つめる。あそこで死んでいったものは、二度と帰らない。 (お兄ちゃん……アルト君……あたし、これで良かったんだよね……?) 返事はなかった。あたしは、長い長い溜息をつくと、ゆっくりと目を閉じた。 ボディーガードさんがいっぱいいるあたしの家に、知られずに入ろうとするのは大変だ。 必死に壁伝いに窓から入ってきたアルト君は、なんで間男みたいな真似を、とぼやいていた。 「ゴメンね、ボディーガードさんがいつも詰めてるから……」 「ブレラの野郎か?」 「ブレラさんは何か、お仕事みたい。お兄ちゃんも出かけてるから、今は誰もいないよ……って」 その言葉に思わず頬を赤らめてしまう。 (夜中に、女の子の自室で、二人きりって……!) 「べっ、別にヘンな……あれじゃないよ、あたしは信じてるからね、アルト君!」 「ばっ……当たり前だろ!」 「そっ、そうだよね!えっとあの……お茶!お茶いれるから!!待ってて!」 アルト君はコーヒーだったはずだ。 慌ててキッチンに抜けようとして、……ドアから顔だけ出してアルト君に忠告した。 「女の子の部屋なんだから、あんまりジロジロ見ちゃダメだからね?」 「……はぁ?」 心底呆れたような、訳が分からんというような顔をされた。……ちょっと、ショックだ。 のんびりコーヒーをいれていると、どわあ、みたいなヘンな声と、どしゃん、とアルト君がすっ転ぶ音がした。 慌ててコーヒーを持って部屋に戻ると、アルト君は額にアイ君を乗せたまま床に転がっていた。 ……多分、不意打ちをつかれて視界をふさがれたんだろう……。 「なんなんだよそいつは!」 「アイ君、って言うの。どこかの星から連れてこられたと思うんだけど……」 「知らねーぞ、バレて怒られても……。で、相談ってのは?」 こんな壁登りまでさせて、下らないことじゃないだろうな、とアルト君は多分半ば本気で笑う。 「……どう思う?」 それだけで通じたらしい。 「例の実験のことか?」 「うん……」 「隊の皆は喜んでるよ。これで戦いが楽になる、って」 「……隊の皆じゃなくって、…………アルト君は?」 「…………。」 アルト君は、なんだか良く解らない難しい話をした。 二種類の上昇志向を持つ生き物がいる時、それらは競争や争いをする。 今もそんな感じで、あたしたち人類はそういった瀬戸際に立たされてるんだ、……って。 「生き残るのは連中か俺達か……そういう、瀬戸際だ」 言いながら、手元で折っていた紙飛行機をぽい、と投げた。 アイ君が口でキャッチする。 「……いいんだよね?」 「少なくとも俺は、……そう思うよ」 その時感じた感情を、どうあらわしたらいいのか解らない。 ただどうしようもなく胸が熱くて、泣きたいくらい嬉しくて、今ならどんな難題だって解決できる、ってくらいに力に満ち溢れてて……あたしはよおーし、と言いながらベッドに飛び乗った。 「あたしの歌でちょっとでもみんなが助かるなら、それが一番だもんね!」 ……本当は、ちょっとだけ嘘だった。 みんなが、じゃなくて。アルト君が、助かるのなら。 あたしは幾らだって歌うことが出来る、と思った。 他の誰でもないあなたが、歌ってくれと言うのなら。 あたしはどんな希望にだってなってみせる、と。 「あたし、歌うね!明日のライブも頑張る!」 「ああ……今度こそ、ちゃんと見に行ってやるよ」 「うん!絶対だよ!」 ベッドの端っこではアイ君が、アルト君の折った紙飛行機を引き裂いていた。 アルト君にハッピーバースディを言いに行ったせいで出来なかった、あたしのファーストライブ。 がらんとした天空門のステージに立ちながら、あたしはじわじわと実感を噛みしめていた。 ……本当に、ここまで来たんだ。シェリルさんと同じ、ステージに……! 見ててね、アルト君、お兄ちゃん……! ステージがはじまる。 まばゆい光、めくるめくエフェクトの数々。 バックで流れてくる音楽に合わせて、あたしは歌を口ずさみ、踊っていた。 マイクの電源は入っていない。 あたしの歌じゃ、満足なライブなんて夢のまた夢、というのをスタッフの人達は解っているからだ。 超時空シンデレラ、ランカ・リーを作り出すための舞台装置として、あたしは加工された自分の声に乗って、歌うふりをしながら踊る。 ステージからは無数のサイリウムが見える。あの光の中に、アルト君やお兄ちゃんもいるのだろうか……。 (ねえ、アルト君。あたし、夢をかなえたよ。……みんなの希望の歌姫に、なるんだよ……!) 「バカバカバカ!!!ほんっっとに心配したんだからね、お兄ちゃん……!!」 重症だと言うのにお兄ちゃんがあたしのライブをのこのこ見に来てぶっ倒れて入院した、と言う知らせを受けたのはライブが終わったすぐ後だった。 卒倒しそうになるあたしをスタッフの人がさんざん面倒見てくれて、面会に来れたのは随分後だった。 お兄ちゃんは、上手い具合に重要な臓器などを避けた傷だったからよかったものの、あのまま失血し続けたらやばかったらしい。 (どうして、もう……あたしのライブなんかより、ずっと、命の方が……!) 「言ったろ、俺は死なないって。……パインケーキ、食うか?キャシーが持ってきてくれたんだ」 泣きながら横を見ると、きれいに焼き上がったパインケーキ。 ……昔の事を、思い出した。 なにも思い出せなくて、なにもわからないあたしに、お兄ちゃんが作ってくれたパインケーキ。 ものすごくまずかったけど、でも、どこか温かかった……。 「……いい。お兄ちゃんのが、いいよ……」 「っははは!やっぱりまだまだ子供だな、お前は」 「退院したら作ってね、約束だよ!」 この約束が果たされたら、また次の約束を作ろう。 そうやって約束を重ねていけば、きっと誰も傷付くことなく生き延びられるんじゃないかって……あたしはそう、思っていた。 街中でセールやバーゲンが行われている。 超長距離フォールド計画を前倒しで行うことになった、のだそうだ。 エネルギーが足りないからまだ出来ない、ということだったのに、無理矢理前倒しにしたものだから今後は食料や水も配給制になり、商業活動が行えなくなる、……とか。 正直難しいことは良く解らない。 ただ、どこか遠く……すごく遠くへフォールドして、バジュラから逃げるんだろうということは、なんとなくあたしにもわかった。 気がつけばあたしの名前は希望の歌姫として独り歩きしていて、街を歩くとそこらじゅうであたしの顔を見かける。 ちょっと前まではシェリル一色だった街が、あたしの色に染まっていく。 ……まるで最初から、シェリル・ノームなんていなかったみたいに。 超長距離フォールド計画についての大統領会見。 大統領さんが演説を終えた後、司会者が高く手を上げた。……出番だ。 「じゃあランカさん、出番お願いします!」 「はい!」 「それでは紹介しましょう……我々人類の希望の歌姫、現代のリン・ミンメイ、ミス・ランカ・リー!」 フラッシュの瞬く中頭を下げる。 誰もがあたしのことを見ている。あたしのことを、望んでる。みんなあたしを知ってる。 もう、あたしは誰に知られることもなく死んでいくなんて心配をしなくてもいい。 誰もがあたしの歌を覚えてる。……不思議な昂揚感だった。 マイクを前に、スタッフから覚えさせられた通りの台詞を語ってゆく。 「あたしは今まで、ただ歌が好きで……それをみんなに伝えたい、その想いだけで歌ってきました……。 そんなあたしの歌が、皆さんを守る力になるのなら……」 誰もに求められている。 必要とされている……。 ……これで、いいんだよね? 台詞が飛びそうになりながらも話していると、途中でにわかに辺りが騒がしくなった。 ボディーガードさんたちが慌てた素振りで近づいてきた。 会見は中止らしい。急いでこちらへ、と促される。 あたしの歌が、必要なんだって。どうか我々の守護神になってくれと。 ……きっとまた、あの時みたいな戦いになるんだ。 あたしは歌う。(……何のために?) 希望になる。(……誰のために?) あたしが……やらないと。 促されるままにケーニッヒに乗り込み、メットをかぶる。 もうアルト君たちは出ているらしい。 今ここで全てのバジュラを駆逐しない限り、超長距離フォールドは全くの無意味になる。 あたしが。……あたしが、希望にならないと……! 「みんな……!抱きしめて!銀河の……果てまで!!」 イントロが始まる。心を落ち着けて、歌を歌い始める。 ……お兄ちゃん、アルト君。もう誰にも傷付いてほしくない。 例えあたしが囮になることになったとしても、そのせいで多くの命が失われたとしても……やるしか、ないんだ。 『お前は俺が守る。安心して歌え……ランカ』 「ブレラさん……」 バジュラが集まってくる。あたしの歌に惹かれて、誘蛾灯にむらがるように、一直線に……射程範囲内におさまってくる。 カウントが始まり、そして――放たれる。 「――っっ!!」 いともたやすく薙ぎ払われていくバジュラたち。 お腹が、……痛い。捩じ切れそうなほど、じくじくと痛い。 うしなわれた、と思った。取り返しのつかないような何かが……今たしかに、失われたのだと。 (悲しくて……たまらないよ) 『全艦、フォールドに突入しました!』 歓声が聞こえる。……振り切ったんだ。 だけどあたしはまだ、歌っていた。たったひとつの思い出の歌を。 カナリアさんが、もう歌わなくていいんだぞ、と笑う。それでもあたしは、歌わずにはいられなかった。 どうしてだろう……この歌を、今うしなわれていった何かのために、歌わなければと思ったんだ……。 今日はこの辺までで 明日も投下します 支援やレスというものがこんなに嬉しいことだとは知らなかった どうもありがとう また明日 ……懐かしい夢を見た気がした。きっと子供の頃の夢。 だけど目が覚めた時にはもう何も思い出せなくて、涙のあとだけが残った。 テレビではもう、朝からずっと『歌姫ランカ・リー 決死の脱出!』そればっかりだ。 バジュラから解放された、その安堵からか誰もかれもが笑い、騒ぎ、街には紙吹雪が舞い、脱出記念として今日を『アイモ記念日』という祝日にすること、そしてそれを祝うパレードが華々しく繰り広げられていた。 パレードのメインは、大統領さんとあたしの凱旋だ。 ……でも、車には大統領さんの姿しかない。 人々は困惑し、ランカちゃんを出せー、と息巻いている。 あたしはそれを、路地裏からこっそり眺めていた。 「ゴメンなさい、大統領さん!」 そのまましゅっと路地裏に駆け込む。 「アイくーん?アイ君ー!」 国家イベントクラスの大事なパレードをサボっちゃったのは悪いけど、あたしにはすることがあった。 アイ君……あのいつもあたしを慰めてくれたやさしい緑の子が、この間から行方不明で。 お世話をまかせっきりにしていたナナちゃんも知らないって言うし、ブレラさんが手伝ってくれるって言うから、パレードをサボって探すことにしたのだ。 「…………っ!!」 ゴミ箱から飛び出したネコに取りつかれて、ブレラさんは顔を硬直させている。 ……普段クールな分、ギャップがひどい。思わず笑ってしまった。 ブレラさんはぶすっとしている。 「……何がおかしい」 「ぶっ……くくく、ゴメンね、だって、ブレラさ……っくくくく!」 「………………。」 どこを探してもアイ君は見つからない。 街ではそこかしこから、あたしが最初にフォルモで歌った、シェリルさんのカバー曲が流れている 。いつの間にかあれも、正式にCDとして売りに出されたらしい。グレイスさんが言ってた。 (……そういえば今、シェリルさんて何してるんだろ?全然見かけないけど) ちらりと頭をかすめた考えは、ブレラさんが時折かます真顔のボケのせいですぐに掻き消えた。 「はい、これ。ありがとう」 ベンチに座っているブレラさんに、ソフトクリームを差し出す。 ブレラさんは一瞬なんだこれ、と言うような顔をして、でも口を開いたらまたボケたことを口走ってあたしに笑われると踏んだのか、黙ってそれを受け取った。あたしもソフトクリームを片手に、隣に座る。 「ありがと、ブレラさん。あたしのワガママに付き合ってくれて」 「……言ったはずだ。俺はお前を守ると。その言葉を、違えるつもりはない」 (そんなにマジメに言い切られると、ちょっとドキドキしちゃうよ……) 「ん、どうした?」 「……なんでもない!ほら、行こ!」 あたしはブレラさんの手を取って、そのまま走り出した。 アイ君は結局見つからなかった。グリフィスパークの丘から街を見下ろして、ため息をつく。 「やっぱり……いないのかな」 「その辺りで道草を食っているんだ。……案ずるな、きっと帰ってくる」 その声と共に、ぽん、と頭に手が乗った。 思わず見上げると、ブレラさんは自分でもびっくりしたように手をはねのけて、まじまじと手のひらをみつめていた。 「っ……あ、すまん。痛かったか」 「ううん。……でも、やっぱり思った通りだね。 ブレラさんてなんか……お兄ちゃんみたい。妹とか、いたりするの?」 「さあ……」 そう呟くと、ブレラさんはどこか遠い目をして街をながめた。 「俺は過去の記憶がない。肉親の有無もわからない」 「えっ……なら、……あたしと同じだね」 ブレラさんが息を飲む気配がした。 「あたしも昔の事……覚えてないんだ」 「……そんなお前が、どうして歌うことを……歌手になろうとしたんだ?」 「それは、」 (あたしはここにいるよって、みんなに知らせたいの!) (みんなに伝えたいの、あたしの歌を!) 「……うたがすき、……だから」 真っ直ぐにこのひとの目を見られなくて、目をそむけた。 歌が、好き。確かに最初はそうだったと思う。 どんなに下手くそでも、すぐに喉が痛くなっても、何があっても……どんなに嬉しい日も辛い日も、いつもここで歌っていた。ひとりぼっちで。 でもそれじゃ、イヤだって思ったんだっけ。 アルト君たちと三人で閉じ込められて、このまま死んじゃうんだって思って……そしたら、あたしがここにいるってことを、もっと沢山の人に解ってもらいたくなった。 それで……歌手になった。 でも、今あたしがしてることはなんだろう。 人類の希望になること?バジュラを寄せ付けるための餌になること? 人やバジュラがどんどん死んでいく戦場で、ただ歌っていればいいってこと? (……わかんないや、よく) もう、きっとあたしのことを知らない人はこの船にいない。 目的は果たされてしまった。だったらあたしは、……なんで、歌ってるのかな。 「最近のお前は、歌っていても楽しそうじゃない」 「……!」 「お前は何のため、誰のために歌っている」 あの紙飛行機を思い出した。ぶっきらぼうに、好きにしろよとあたしの歌を聴いてくれた人。 何のために、……誰のために歌うのか、なんて。 (あたし、みんなに伝えたいって……伝えなきゃって、思い込んでた) でも。……本当は――。 ――長い紺色の髪、たなびく赤い紐、 ――困ったように笑った顔、いつもの紙飛行機。 なんだろう。胸の奥がぐうっとあったかくなった。不思議なくらい、力が満ちてくる。 あたしは誰のために歌うのか。それを――確かめなくっちゃ!! 記念ライブは美星学園がステージだった。 あたしはいつもと違う力に満ちたまま、音楽に合わせて踊り続ける。 いつも通りマイクの電源は入っていないけど、もし今日マイクの電源が入っていたって、あたしは完璧なパフォーマンスが出来ると思った。 だって――アルト君が、飛んでいる。 キラキラとした光を振りまきながら、アルト君が飛んでいく。 RANKAの文字と、大きなハートをEXギアが描いていく。その真中を、……アルト君が矢になって、通り過ぎて行った。 「……!」 (アルト君……そっか、やっぱり、あたし……!!) 胸の奥から強い気持ちが湧いてくる。もう何も怖いものなんてない。あたし、あたしは――、 「みんな!抱きしめて!銀河の、果てまで!!」 次の曲は、……たった一人のために歌おう。 例えマイクがなくても、声が枯れても、あたしの大好きな、たった一人のためだけに。 アルト君、あなたが好き。大好きよ。どうかあたしの、歌を聴いて。 ライブが終わって、あたしはその昂揚感のままに階段を駆け上がっていた。 航空パフォーマーは屋上にいるって聞いた。きっとアルト君もそこだろう。 (アルト君……アルト君、アルト君、アルト君……!) きっと言うんだ。伝えなきゃ、この気持ち……! どんなスポットライトよりも、幾万の観客よりも、熱狂よりも……ステージに巣食うそれらはひどく魅力的で、抗いがたいものだったけれど。それよりも、あなたが聴いてくれること、それが全てだって。 辿り着いたそこには――、 抱き締めあう、アルト君とシェリルさんの姿があった。 あたしに気付いた二人は慌てたように身を離す。 「うそ……」 からっぽの言葉がこぼれおちた。 「あ、あの、……あたし…………ゴメンナサイ!!」 反射的に踵を返す。呼びとめようとするアルト君の声がしたけれど、止まることはできなかった。 階段を駆け下りようとして、派手に踊り場へ転び落ちてしまう。 ……ずきずきする。肋骨の真ん中の辺りが、死にそうなほど痛い。 擦りむいた膝や頬よりも、ずっとずっと痛い。 「ヤダ、もう……死んじゃいたい……」 ……あたし、何を舞いあがっていたんだろう。 アルト君が好きって、……やっと、やっと揺らぐことなく自信を持って言えるようになったと思ったのに……今更、こんななんて。 恥ずかしい。みっともない。あたしがそんな所でうろうろ考えてる内に、アルト君とシェリルさんはとっくの昔にそういう風になってたんだ。 あたし、……なんて、間抜けなんだろう。 遠く、叫び声が聞こえた。それから銃声も。 バジュラが……誰もいなくなったステージに、むらがっている。 それがなんだかとても、滑稽な光景に見えた。 歌がへったくそで踊りもダメで口パクで歌う、嘘ばっかりの希望の歌姫。 エフェクターとボーカル入りバックオケがないと、アイドルにもなれない存在。 ステージがなければあたしは何者にもなれない。みんな、あたしに騙されているだけ……。 超時空シンデレラの本質は、あたしじゃなくて、ステージにあったんだ。 その空っぽのステージに、バジュラがむらがっている。 ……ねえ、バジュラ。あたしの歌声がバジュラに効くって聞いたけど、あなたたちも……あたしじゃなくて、『超時空シンデレラ』が良かったの? 「ランカ!!」 アルト君が怒鳴るのが遠くに聞こえた。 足音が近づいてきて、座り込んでいるあたしの傍に、アルト君がしゃがみこむ。やさしく、手を差し伸べて……。 「歌ってくれ、ランカ。お前の歌で、あいつらを大人しくさせるんだ」 「でも……」 「この街を守るためだ!……みんなのために、頼む……!」 「……!」 (皆の……ために……) (∪^З^)アルトくぅ〜ん…? あれ?なんか違う (∪^ω^∪)アルトくぅ〜ん… これも違う…。 (∪ω∪)アルトくぅ〜ん…? (∪^ω)アルトくぅ〜ん (∪`ω´)アルトくん! (∪▼ω▼)アルト!? (∪∵)アルト君? (∪^∪^∪)アルトくん! (∪^ι^)アルトくん? (∪^ω^)キラっ? アルト君……そんなのって……ひどいよ……。 あたしは、超時空シンデレラなんかじゃない。希望の歌姫なんかじゃない。 空っぽのステージに踊らされてるだけの間抜けなアイドルもどきだ。 あたしは、あたしは皆に歌を届けたいんじゃなくて……ただ、アルト君だけに、歌を届けられたら、それだけで……それだけでよかったのに……。 下手くそでも、高音スカスカでも、喉が痛くなってもいいから、アルト君のためだけに歌いたかったのに……。 ぱたぱたっ、と音を立てて涙が落ちる。 「やだ……歌え……ないよぅ……」 「ランカ……」 「こんなんじゃ歌えないよ!!あたし、あたし……」 すごくみじめだ。最初は皆に向かって歌いたいって思ってたのに、それも結局偽物で……アルト君のためだけに歌いたいって気付いた途端、失恋だなんて……。 銃声がうるさい。 最後に残ったのは、対バジュラ兵器としてのあたし。それだけだ。 きっと今もたくさんの人が犠牲になってるんだ、と空っぽの頭で考えるけど、ちっとも現実としておりてこない。そんなことよりもアルト君の方がずっと、ずっと……。 「もう、やだ!こんなの……!あたしはバジュラと戦うための道具じゃない!!こんなのもう……イヤだよぉ!!!」 アルト君がいたから。アルト君が、いいって言ってくれたから。 だからあたし歌えたのに。 バジュラを殺すことになっても、戦場に出ることになっても、……道具に、なっても。 それでも、アルト君がそれでいいって言ってくれるんなら、あたし、歌ったのに。なのに……。 (アルト君は、もう……シェリルさんの……) かつかつと高い足音が聞こえた。途端――ばちん、と物凄い音がした。 頬を張られたのだと気づいたのは、抱きしめられた後だった。 あたしをぎゅっと抱きしめたシェリルさんは、ものすごく優しい声でそっと、落ち着いて、と言った。 「歌うのに気持ちがいるのは、良くわかる……でも、貴女はプロなのよ。出来ることをなさい。 貴女の歌声には力があるの……私がどんなに望んでも、得られない力が……」 「頼む、ランカ……!」 (ずるいよ、二人とも……) あたしだってこんな力、欲しくなかった。 今からでも出来るんならシェリルさんにこの力をあげて、代わりにアルト君をちょうだいって言いたかった。 でも、できないんだ。だからどうしようもない。あたしが……歌うしかない。 「…………うん……」 呆然と頷くと、アルト君が優しくあたしを助け起こしてくれた。 なのにもう、……何も感じなかった。 屋上に立つ。あちこちで煙が見える。 そこらじゅうが火事になって、ここから見えるだけでもあちらこちらに血痕があった。 バジュラと人とが、もみあって争っている。 何も考えられないまま、ただあたしは歌った。……それしか、残されていなかったから。 (胸が……痛いよ……) どんなに歌っても、気持ちが晴れることはない。 「……!!うそ、……どうして?」 バジュラの大群が空を埋め尽くす。攻撃は更に勢いを増し、歌う前よりも戦況は悪化していた。 あたしに残されたのはもう、対バジュラ兵器としてのあたしだけなのに……それすらもう、役に立たないって……あたしはもういらないって、言うの? 「ミシェル!ルカ!無事か!」 「先輩!!」 「くそっ……どうしてこんなにバジュラが……」 「アイランド内で繁殖してたのかもしれません……」 皆と合流したアルト君たちは、SMSの基地に行くことを考えているようだった。 まだ小型のバジュラには銃が通じる。それをなんとかかいくぐって、武装を取りに行くのだということらしい。 だけどあたしはそのやりとりを、ほぼ上の空で聞き流していた。震える肩をナナちゃんが抱いていてくれる。 「大丈夫です、ちょっと調子が悪かっただけですよ……ランカさんの歌は、みんなの希望なんです……。ランカさんは、私の星なんですから……」 「うん……」 ルカ君が、ただ出力が足りないだけかもしれません、と言った。 「数が数ですから……SMSに行けば、フォールドウェーブアンプもあります。あれを使えばきっと……」 「よし!じゃあ行くぞ!」 そうして爆音と共に飛び出した、と思った。 なのに後が続かない。振り返ると、遠くでシェリルさんがナナちゃんを抱きかかえていた。 ナナちゃんはぐったりして、目を閉じている。……身体中が、赤い色に染まっている……。 「……ナナ、ちゃん……?」 あたまが、……ぐるぐるする……。 なんでこんなことになったんだろう……。 「待ってろシェリル、今そっちに……」 「行って!私たちは大丈夫!早く行ってこの騒ぎを止めなさい!」 「だが……!」 「……私を誰だと思ってるの?」 その時、炎に照らされて気丈にも微笑むシェリルさんは確かに、とても美しく見えた。 アルト君が舌打ちして、必ず助けに行く、と叫んだ。 「行くぞ……何呆けてる、ランカ!!」 強く手を引かれて、あたしはよろめいて……そのまま、炎の中を走り出した。 ぐるぐる、ぐるぐるする……。 アルト君の手が、すごく熱い……。こんな風な手の温度を、昔どこかで……。 前にも、誰かに手を引かれて……その時も手が、すごく熱くて……。 (黙ってろって、言われたんだ) だからあたし、誰にも……なのに、どうしてこんなことに……? SMS基地内で、ミシェル君が何かを抱き起している。 なんでだよ、と言う慟哭が聞こえた。 アルト君があたしの肩を抱いてくれるけれど、あたしは目の前のそれから目を逸らすことができない。 「戦うのも死ぬのも、兵隊だけで充分だろ!?なんでだよ……!」 血に塗れた遺体を抱きしめたまま叫ぶミシェル君に、クランさんが落ち着け馬鹿者が、と怒鳴った。 ごと、と音を立てて遺体がまた床に落ちる。 「こういう時こそ落ち着け。……いいな」 「クラン……」 「ルカ!使用可能な武器は!」 クランさんは冷静に状況を分析していく。 この中の誰よりも冷静なちいさなひとは、大丈夫と言わんばかりの強気の笑顔を向けて見せた。 EXギア姿のアルト君とミシェル君が場を持たせている間に、クランさんが服を脱いでいる。 「クラン!準備は!?」 クランさんはブラジャーを外しながら、静かに言った。 「なあミシェル……さっきの答え、教えてくれないか」 「……はあ?」 胸元をおさえてくるりと振り向くと、きっとミシェル君を見上げたまま、クランさんは怒鳴るように言った。 「お前の恋はどこにある!!」 ひときわ大きな爆音が聞こえた。 「……、……行方不明で現在捜索中さ。そんなモンあったかどうか……俺自身、忘れちまったけどね!」 銃を乱射しながら答えるミシェル君に、クランさんはわなわなと肩をふるわせる。 「なるほど……確かにお前は、……臆病者だ!!」 キレイにみぞおちにグーを入れたクランさんは、バランスを崩したミシェル君の肩を受け止めると、……そっと背伸びをして、キスをした。 「……私は、お前が好きだミシェル」 「おまっ……こんな時に、なにを」 「こんな時だからだ!!いいかミシェル!よく覚えておけ!アルト、貴様もだ!」 びし、と指さされる。 「ミシェル……」 「クラン……」 二人はしばし見つめ合ったかと思うと、クランさんはくるりと踵を返し、 「死ぬのが怖くて……恋が出来るかぁあああ!!!」 そう叫びながら走って行った。 「……すごい……」 思わず口に出してしまった言葉は本心からのもので。 あたしも、死ぬのを恐れず恋が出来ると言ってみたかった。 口パクの歌姫でも、兵器になっても、例え戦場で死ぬかも知れなくても、あなたのためなら歌えると、……言ってみたかった。 (もう、きっとかなわない恋だけれど……) 「アルト、クランの援護を!」 「ああ!」 銃弾が飛び交う中をアルト君のEXギアにつかまりながら、徐々に後退していく。 途中でルカ君と一緒にフォールドアンプを確認しに、アルト君とわかれた。 フォールドウェーブアンプは無事だったようだ。いったん戻ってこい、とアルト君が叫ぶ。 ガラス越しに、クランさんの傍へバジュラがなだれ込むのが見える。 ゼントラ化したクランさんはやっと、ゆっくりと目を開いたところだった。 ミシェル君がクランさんを守ろうと、必死で飛びながら銃を射つ。そして、 ……なにかよく、わからないものを、みた。 緑色のバジュラとミシェル君が、ひとつになったように……みえる。 赤いものがぼとぼとと滴り落ちる。そしてそれらはまた二つになり、……赤い血が、もう取り返しがつかないほどに流れ出て、クランさんの叫び声が聞こえて……。 轟音がして外壁が爆破した。 空気が、吸い出されていく。クランさんがミシェル君を呼ぶ。 「ごめんな……クラン……今まで……言えなくて……」 静かな瞳だった。死を前にした人はみんな、あんなきれいな目をするのだろうか。 「俺も……俺も……お前の事……愛してる……」 クランさんの絶叫が聞こえる。 アルト君が必死に手を伸ばす。 閉じられてゆく穴。 もう二度と手の届かないところへ、吸い出されていくミシェル君……。 全てが終わった後、かつん、と静かに、……ミシェル君の眼鏡が落ちていた。 「……アイランド3に行けば、なんとかなるんだな」 「はい」 アルト君とルカ君が話してる。……きっとあたしにはわからない、難しい話だ。 あたしが聞きたいのはもっと別のこと。……どうして?ただそれだけだ。 どうして、目の前は炎で満ちていて、辺りはガレキだらけになっているんだろう……。 あたし、ちゃんと約束を守っていたはずなのに、どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 頭がずっと、ぐらぐらして、とまらない。あのひとに引かれた手が熱い。 言いつけを守ったんだから、褒めてくれてもいいのに。どうしてずっとあのひとに会えないの。 物凄い爆音が聞こえた。……きっとクランさんだ。 アルト君があたしを抱きかかえて、どこかへ行こうとする。 どこへ行くんだろう。……もうどこへ行って何をしても、……どうにも、ならないのに。 アイランド3の研究所には、名前こそリトル・ガールと可愛らしいものの、威力は半径50キロメートルの空間を切り取るというフォールド爆弾があった。 「50って……船団ごと飲み込んじまうじゃないか!」 「だから……バジュラをどこか一か所に集めて、爆発させる」 そう言うとルカ君は静かにあたしを見た。 ……あたしに、バジュラを集めるための餌になれって、そういうこと……? アルト君は激昂してルカ君に掴みかかった。反射的にやめて、と叫ぶ。 今ここで争ったって、……返らないものは二度と返らない。ルカ君が冷静な声で言った。 「僕は決めたんです……絶対に守る、って」 「だからって、ランカを囮にしようなんて……!」 「死んだんですよ!!ミシェル先輩が!!!」 ――死んだ、という表現は、少し遅れて……イヤになるくらいの実感をつれてきた。 「船だってボロボロ……生態系だって無茶苦茶だ……これ以上被害を受けたら、フロンティアはお仕舞いなんです!これはもう、生存をかけた戦いなんですよ!僕等か、バジュラか!」 まざまざと突きつけられた現実に、あたしも、アルト君も、ルカ君も……言葉が出なかった。 あたしはさっきからもうずっと頭がぐるぐるしっぱなしで、どうしてこんなことになったんだろうって、そればかり考えている。 だって本当なら、こんなこと起こるはずがなかったのに……。あたしちゃんと、言いつけを守って黙ってたのに……。 ああ、もう、イヤだな……。 なんにも、なくなっちゃった。 皆に歌を聴いてほしかったあたしも、アルト君のためだけに歌いたかったあたしも……。 希望の歌姫も、偽物のアイドルも……全部なくなっちゃった。もう残ってるのは、ひとつだけ……。 「……歌うよ、あたし」 二人が一斉にあたしを見た。 感情のこもらない声で、それでも震えないよう、必死に言った。 「みんなの……ためだもんね……」 たった一つ残ったものは、対バジュラ兵器としてのあたしだけ。 だったら、それをする以外にもう、道なんてどこにもないんだ……。 『ランカさんが歌いはじめたら、バジュラが全ての船から集まってくるはずです。 移動が確認された時点でアイランド3を切り離し、安全圏まで離れたところで、これを爆発させます』 「……そのギリギリの瞬間まで、あたしはここで歌い続ければいいんだね……」 「それまで絶対にバジュラには近寄らせない……脱出も成功させる……!だから……」 そこまで言うとアルト君は、歌ってくれ、とは言わずにただ、 「だから安心して歌え」 そうとだけ、静かに言った。 「うん……今度は、ちゃんと出来ると思う」 だってあたしにはもう、それしか残ってないから。 祈るように、頼む……と呟いたアルト君はそのままバルキリーで飛び立った。 ……ひとりになる。 燃え盛る炎と遠くにはガレキの山、煙は立ちのぼり、観客はバジュラだけ……。 (ここが、あたしの……対バジュラ兵器としての、あたしのステージ) 「歌いたくないなら、歌わなくていいんだぞ、ランカ」 背後からやさしい声がして、あたしはその声の主が誰なのか解りながらも振り向いた。 赤い静かな眼差しが、穏やかにあたしを見つめている。 「……、ひどいよ、ブレラさん……どうして、そんなこと言うの……!」 あたしにはもうこれしか残っていないのに。 最初は歌が好きだった。ただそれだけだったのに。 今はもう、歌とは関係ない、ただの兵器としての能力だけしか期待されていない……。 ブレラさんがあたしを抱きしめた。それがあんまりやさしくて、……涙が出た。 「歌はお前の心だ。それは、お前だけのものだから……」 「っ……でも……、っ、う、ぅえぇえええん……!!」 子供みたいにしゃくりあげて、あたしは泣いた。 あたしの歌はもう、……あたしだけのものじゃない。 それなのに今更、やさしいこと言うから。うっかり、期待しそうになる。 そもそも歌が下手だったんだ、あたし。 声も長く続かないし。歌詞だって、すぐ飛ぶし。ダンスにもキレがないし。 こんな奇跡みたいな力がなきゃ、絶対に歌手になんかなれなかった。 たくさんの大人たちが無理矢理あたしっていう『超時空シンデレラ』を支えて、それでようやっと成り立っていただけのことなんだ。 最初に路上で歌った時、人が集まってきた理由が今ならわかる。 『シェリル・ノームの歌』だったからだ。 知名度のばつぐんに高い、全銀河を支配していると言っても過言ではないほどの、銀河の妖精の歌だったから。 だから足を止めてくれた。それだけのことだったんだ。 ……だってほら、ねこ日記の時は全然人、集まらなかったし。 そもそものブレイクのきっかけが映画じゃあ、歌手とは全然、……違うよね。 テーマソングを歌ったと言っても、たまたま覚えていた、きっと誰かから聞かされた借り物の歌を、歌っていただけで。 (純粋にあたしの歌に集まってくれるのは、バジュラだけ……) 「……ありがとう、ブレラさん。でもいいの」 伝えたかった、たった一人のひと。……そのひとには届かなかった歌だけど。 これが、そのたった一人の望みだから。例えバジュラでも、あたしの歌を聴いてくれるなら。 スポットライトがあたしを照らし出す。大きく、息を吸った。 (おいで、バジュラ。あたしは、ここだよ……) アイモを歌う。たった一つの、だけどきっと、借り物の歌。 バジュラが群れを成してこちらへ飛んでくる。爆風が頬を叩く。 地面が揺れて、バジュラの残骸がはらはらと落ちていく。 いつかした約束が脳裏をよぎる。 あたし、ずっとそのことを忘れていて……でもずっと守っていたのに。 どうして、こうなっちゃうのかな……お兄ちゃん……。 (痛い……痛いよ、) お腹の奥の方が、ひどく痛む。 燃え尽きていく。バジュラの群れが、人の憎しみを一身に受けて、炎に包まれ、落ちていく。 涙が止まらない。むらがるバジュラたちは、あたしを見守るように一定の距離を保っている。 「ランカ、もういい、脱出だ……!」 アルト君の声を聞いたとき、あたしはただ、ああ、やっと終わる、それしか考えられなかった。 空間が飲み込まれて消えていく。 お腹がすごく、……凄く痛い。アルト君の後席に座ったまま、うずくまる。 (きっと今ので物凄い数のバジュラが、死んでいったんだ……) 「……ごめんね」 「お前は良くやったさ。……ありがとう、ランカ」 「…………、」 違うの。アルト君に言ったんじゃないの。そう言いたかったのに、もう声が出てこない。 もう、歌も歌えない……。 三島さんが、演説をしている。 とても痛ましい戦いだったと、そして失われたものは二度と戻らない、と。 あたしたちを取り囲むマスコミの人たちも皆、黒服に身を包んでいる。 数々のマイクと照明に取り囲まれながら、なんであたしはまだこんなところにいるんだろう、と考えた。 ただ歌が好きだった、グリフィスパークの丘で一人歌っていたランカ・リーはいなくなった。 みんなに歌を聴いてほしかった超時空シンデレラ、ランカ・リーはもうどこにもいない。 アルト君が大好きで、彼のためだけに歌いたかったランカ・リーも、もういない。 残ったのはただ、バジュラを呼ぶための、ただの兵器のランカ・リー。 ……兵器は、ステージには立たないよ。 「今はただ祈りましょう……失われた命の為に……!」 三島さんがそう言って目を閉じる。 黒い袋に包まれた遺体たち。見ていられなくて、あたしも目を伏せる。 「ミス・ランカ。貴女のお兄さん……オズマ・リー少佐も行方不明です……。 お辛いとは思いますが、歌ってくださいますね……」 お兄ちゃんが、……行方不明。 そんなの、なんか、ウソみたいだ。 だってお兄ちゃんは絶対いなくならないと思ってた。 ずっとあたしの傍にいるんだって、バカみたいに信じてた。 だから好きなだけワガママも言ったし、ヒドイこともしたし、ケンカもいっぱいした。なのに。 「追悼と、明日への希望の歌を。我々がバジュラとの戦いに勝利し、生き残るために」 三島さんがマイクを手渡してくる。 ……マイクなんかいらない。 そんなものなくてもあたしの歌は、バジュラに届くんでしょう? だったら、唯一残った兵器としてのあたしには、それは必要ないものだ。 ……ああ。お兄ちゃんがいなくなるなんて、そんなこと知ってたら。 もっと孝行すれば良かった。いい子にしていればよかった。 パインケーキがマズいとか、お兄ちゃんの石頭とか、そんなこと……言わなきゃよかった。 (……会いたいよ、お兄ちゃん) 音を立ててスポットライトがあたしに向けられた。 凄い数のフラッシュが焚かれる。マイクとカメラがいくつもいくつも、……あたしを見ている。 (なんで……どうして?) もう、必要ないでしょう? あたしはそもそも、希望の歌姫なんかじゃないでしょ? ステージに立って口パクで踊るだけの……それだけの歌姫だった。 今もバックでは音源が準備されている。流れ出したら最後、あたしはまた、歌うフリをしなきゃならない。 フロンティア市民に希望を与える歌姫は、ただのハリボテの偽物だ。 あたしはただの、バジュラ掃討作戦のための兵器でしかないのに。 「ごめん……なさい」 騙していてごめんなさい。あたし本当は、希望の歌姫なんかじゃなかったの。 「ごめんなさい……」 ただの兵器にしか、なれないの。ステージで歌う資格なんか、端っからなかったの。 だから、もう。 「もう……歌えません……」 逃げるようにその場を後にして、森の中をやみくもに突っ走る。 息が切れて、脚がもつれて、ひとつの樹にすがりついた。涙が出そうだ。 「もう……いやだよ……。なんで、あたしなの?」 どうしてあたしだったの?他の誰でもよかったじゃない、それなのに、なんであたし? ろくに歌えもしない、ただの虚飾として祭り上げられていくだけの、そんな役割に……なんであたしが選ばれたの? それともあたしの歌がもっとまともだったら、こんなこと考えずに誇りを持ってステージに立てていた? 「なんで、あたしの歌……バジュラに、」 もうそれしか残っていない。 なのにそれさえも、……ミシェル君も、お兄ちゃんも、助けられなくて。 >>171 ランカちゃん好きなんで楽しみにしてます!! 崩れ落ちそうになった時、後ろでちいさな鳴き声が聞こえた。 「アイ君……?」 どんなに探してもいなかったアイ君は、キイ、と短く鳴くと草かげから飛び出してきた。 「わあっ!」 押し倒される。アイ君はちょっと見ないうちに姿が変わったのか、随分と大きくなっていた。 「今まで、どこにいたの?こんなに大きくなって……ずっと、心配してたんだから」 ……またあたしが一人の時に、あらわれるんだね。そうしてまた、慰めてくれるの?やさしいね、アイ君は。 両手で大分重たくなったアイ君を持ち上げる。途端、アイ君の瞳が赤く光り始めた。 「な……に?」 まばゆい光と共に背中が割れて、……脱皮するように中から何かが出てくる。 それは。 「………………アイ君……」 >>234 好きキャラは逆境に立たせて這い上がってくるドラマが見たいタイプなので 途中でランカちゃんがかわいそうになったらほんとすみません ありがとうございます 真夜中、午前三時。グリフィスパークの丘。 あたしはつめたい地面に座りながら、ただ、たった一人の人を待ち続けていた。 色々準備をしていたら、こんな時間になってしまった。遠い足音が近づいてくる。 「……アルト君」 「ランカ、お前どうして歌を……」 「お願いがあるの!」 その問いには答えられない。 今までアルト君が見てきたステージのあたしが全部偽物だったなんて、……知られなくなかった。 虫のいいワガママだって解ってる。でも、どうせ行くなら……何も知らせず、たださよならだけを言葉にしていなくなろうって、思ったんだ。 だけど、いざアルト君を目の前のすると……何て言ったらいいか、わからないよ。 「……、あっそうだ、いつもアルト君が折ってた紙飛行機。折り方、教えてくれる?」 「?ああ……」 二人して紙飛行機を折る。アルト君の手をまねて、見様見真似で。 「……ね。聞いても、いい?」 「ん?」 「アルト君は、どうして空を飛ぼうと思ったの?」 「それは……」 アルト君は、ちょっとびっくりしたような顔をすると、そうだな、と話し始めた。 「俺のお袋は身体が弱くて。いつも、空ばかり見てる人だった。俺も一緒に見てて、そんな時……お袋が言ったんだ」 アルト君はどこかすごく、すごく遠くを見るような目をして、言った。 「本物の空が見たい、って」 「ほんもの……」 「ああ……青く、果てしなく続く、水平線と白い雲。そんな本物の、……自由な空」 おとぎ話だと思ったよ、とアルト君は言った。フロンティアで育ったあたしたちには、そのどこまでも続くと言う空のことがわからない。 「なんだか……素敵だね」 あたし今まで、何も知らなかった。 たった一人、この人のためだけに歌いたいと思ったのに。 その人の事を何にも知らなかった。 歌舞伎のおうちの出身だったことも、お母さんの身体が弱かったことも、このひとがこんなにも空に固執する理由も、……なんにも。 「……ありがとな、ランカ」 そんなあたしの心中なんか知らずに、アルト君は……物凄くやさしく、微笑んだ。 慌ててしまって、無理矢理紙飛行機に集中する。ぱたぱたと折っては広げ。 「でーきた!」 「ん、ちょっと貸して……」 アルト君は本当に嬉しそうに、紙飛行機をいじっている。 ……このひとは本当に、空が好きなんだ。あたし、そんなことも知らなかったな……。 「よし、これでバッチリだ」 「えへへ……ねえ、飛ばしていい?」 「好きにしろよ」 相変わらずの、ぶっきらぼうな物言い。そこがとても、好きだった。 あたしは彼のことを全然知らなくて、わかってあげられなくて。 でも、彼があたしにくれる励ましや優しさや寛容さ、そういうものがとても、好きだったよ。 (……さよなら、アルト君) 「えいっ!」 紙飛行機は風を掴まえて、遠くへと飛んで行った。もう、どこへ行ったのかさえ見えない。 「みんな自由に……自由に、生きたいんだよね、きっと」 「……そうだな」 「アルト君……お願い、あたしと一緒に――」 きっともう無理なのはわかっている。 なにもかももう、手遅れなのも。 ただ、あたしは最後に――、 「!バジュラ!?」 「えっ……あ、アイ君!?」 唐突に、背後からアイ君があらわれた。アルト君が銃をかまえるのを見て、反射的に割って入る。 「やめて!!」 「どうして!コイツはバジュラなんだぞ!?ミシェルを殺した!」 「……っ!」 確かに、アイ君はバジュラだ。でも、あたしをいつも慰めてくれた。 かなしい時に限って、それがわかるかのように傍にいてくれた。 バジュラだからって、……バジュラだけが、あたしの本当の歌を聴いてくれた。 「この子はまだ脱皮したばかりで何も悪いことしてない!なのに殺すの!?」 「バジュラが生きている限り、空は戦場になる……殺すしかないんだ!!」 「!!」 アルト君が、心から願った空。 バジュラがいるから、そこは戦場になる。 きっとただ自由に飛びたかっただけなのに。アルト君も、バジュラも。 「っぐあっ……!!」 アルト君が、吹っ飛んだ。壁に叩きつけられてうめき声がもれる。 あたしの目の前に風のような速さであらわれた人影は、ブレラさんだった。 「ぶ、ブレラさん!?なんてこと……」 「ランカ。望みを言え」 「え……」 ブレラさんは、アルト君に刃物をつきつけたまま、静かに言い切った。 「お前の望みを、……俺が叶えてやる」 「ランカ、お前……!」 アルト君があたしを睨みあげる。……ごめんね、こんなことになって。 本当ならアイ君のことを知らせずに、ただ最後に玉砕だけして、行こうと思ったのに。 「あたし……あたしね、少しずつだけど、昔の事、思い出してるんだ……」 あたたかい温度、 きれいな歌、 手を引いてくれた人、 そして何もかもが壊れる風景。 「怖いけど……でもきっとあたしは知らなくちゃいけないんだって、そんな気がして」 こんなことなら、アルト君にも手紙を残せばよかった。 ナナちゃんやお兄ちゃんにだけじゃなくって。 過去を思い出せそうなんだってこと。そのフラッシュバックにバジュラが見えること。 もしかしたら、今の戦争、あたしの記憶が何か手がかりになるかもしれない、ってことも。 それから、……偽物の歌姫で、ごめんね、って。 ああ、アルト君。 言いたいことは山ほどあるのに。何一つ出てこない。 せめて謝罪の言葉だけでも言えたらいいのに、喉が痛くて、声がふるえて。 「だ、だからあたし、……行くね」 「行くって……ランカ!」 「せめてアイ君だけでも、仲間のところに、……返してあげたいの」 バジュラがいる限り、空は戦場になる。 だったら、たった一匹でもいいから、……それをどこかに連れて帰るよ。 「ランカ……!」 「わかった」 ブレラさんの静かな声と共に、赤いバルキリーが姿を見せる。 ブレラさんは颯爽とそれに飛び乗ると、バルキリーの手の上にそっとあたしを乗せた。 「っランカ!!」 「アルト君……」 「バカ!行くなランカ!!」 アルト君が風に吹かれて懸命にあたしを見上げている。 きっともうフロンティアには二度と戻ってこれない。 もしかしたら、アイ君を送り届ける途中で命尽きるかもしれない。 だからこれは、最後のワガママだ。 「ホントはね……アルト君と生きたかった……」 「ランカ……」 「ずっと一緒に居たかったよ!!」 呆然と、アルト君があたしを見ている。とてもきれいなひと。 戦乱の中にあっても、美しさを見失わない、あたしのたった一人の、大好きな人。 きっともう、こうして姿を見ることも、二度と出来ない。 「さよなら……、……だいすきでした」 そのままあたしたちは飛び立った。 もう二度と戻る事のない、青い旅路へ。 もうどれくらいたったか解らない。 あたしは何度か眠ったり起きたりして、その度にブレラさんのハーモニカの音を聞いた。 まるで子守唄のような、やさしくて、穏やかな曲。あたしの思い出の音楽だ。 何度目かに目覚めた時、目の前がみょうにユラユラしていて、それで初めて自分が泣いているんだって気が付いた。 もう悔いは残さないようにしてきたつもりだったのに。 最後の最後で、あたしはやっぱりダメで、間違えてしまった。 ……会って話すべきじゃなかったんだ。 いつも傍にいるアイ君があらわれるかもしれないことくらい、ちゃんと頭に入れておけばよかった。 いくらブレラさんがスタンバイしていてくれるからって、それくらい。 アルト君は……バジュラを憎んでる。ミシェル君を殺した、バジュラを。 あたしは……よく、わからない。 最初は怖いだけだったのに、いつの間にかもう自分の心すら良く解らなくなって、だから罰が当たったんだ。 こんなふらふらの心のまま、アルト君にお別れを言おうとしたりしたから。 あなたと一緒に生きていきたかった。 例えあなたがシェリルさんの事を愛していても、あたしはあなたが好きだった。 それだけ言えれば満足だったのに。 こんな、……傷つけるようなことしか、出来ないなんて。 バジュラはどうして、人を襲うんだろう。 始めは、怖くて気持ち悪い化け物だと思ってた。 あたしが作戦に参加するようになってからは、無抵抗なまま殺されて可哀想だって感じた。 今は……あたしの歌をたったひとつ、聴いてくれる存在だと思ってる。 「ブレラさん……」 「どうした、ランカ」 「……外に、出たいの。行き先を知りたくて」 気を付けてとの声を受けて、あたしは宇宙に漂う。 無重力なんて体験したことなかった。 どこを見ても星がきらきら瞬いていて、天地の感覚すらわからなくて……きれいだけど、どこか怖くなる。 「宇宙って……凄いね。こんなにキレイで、広くて…………、吸い込まれそう」 このどこまでも繋がっている宇宙のどこかに、ミシェル君の亡骸があるのだろうか。 クランさんを守って、この怖いくらいキレイな宇宙に吸い込まれていった、あのひとの。 ずっと探し続けていれば、いつか見つけられるだろうか。 アルト君やクランさんの元に、帰してあげることが出来るんだろうか。 (ミシェル君……。ごめんね) アイ君がいぶかしげにあたしを見ている。 大丈夫だよ、とだけ言って、無理して笑った。 「嬉しいような切ないような……そんな気持ちに、なっただけだから」 こんな風にずっと繋がっているのなら、二度と会えなくても、離れているわけじゃない。 戦乱もなにもない、宇宙と地続きの空で、アルト君が飛ぶことがいつかきっとできるかもしれない。 「……みんな、ごめんね…」 ずっと、なだめるようにハーモニカを吹いていてくれたブレラさんの音が止まった。 「進路は決まったか?」 「うん。アイ君のふるさと、もうすぐだって」 それがどんなところかもわからない。 このバルキリーの空気だって、いつまでももつわけじゃない。 だからせめて――アイ君を、帰してあげるところまでは。 「行こう、ブレラさん」 誰かが言い争う声がする――。 ケンカは良くないっていつもあたしたちには言うくせに。 なんだかちょっと怖くなって、となりのひとの手を握ろうとする。 だけどその人の顔が、思い出せない――。 「……カ。ランカ!」 「っ、あ、なに?」 「そろそろ到着するぞ」 目の前に見えたのは、青く輝くひとつの星。 ちらちらと瞬く白い輪をまとった、バジュラの母星だった。 「……ありがとね、ブレラさん。あたしのワガママに付き合わせて、……こんなところまで来させちゃって」 アイ君をふるさとに返しに行きたい、と言った時、ブレラさんは二つ返事で了承してくれた。 いくらボディーガードだとしても、さすがに仕事の範疇外だろう。 何度も、本当にいいのか尋ねた。それでもブレラさんは、絶対に首を横に振らなかった。 「……記憶のないサイボーグにとって、命令は絶対。それを遂行することが、存在意義だった」 ブレラさんは感情を読み取らせない声でそう言う。 「だが、お前の歌を聞いた時……俺の中に、何かがあふれた。ただのサイボーグの、この俺に」 「ブレラさん……」 「だからこれは、その礼だ。気にすることはない」 そっけないのにどこか、優しい感じがした。なんとなくだけど、安心した。 「ねえ、もう一度聞いていい?あの曲の事」 「あれか。あれは……記憶だ」 「えっ……」 「空っぽな俺に残されていた、唯一の……」 「それって、あたしとおなじ――、」 急にけたたましくアラームが鳴った。バジュラの防衛部隊だ、とブレラさんが言う。 いくつものデフォールド反応。アイ君が外で鳴いている。 大丈夫かとブレラさんは尋ねた。あたしはただ、頷いた。 「……今までだって、やれたんだから。きっと届くと思う」 (だってもう、あたしの歌を聴いてくれるのは、バジュラだけなんだから) 赤や青の光が尾を引いて、青い星の前を舞い踊る。 とてもキレイな光景なのに、これは攻撃のサインなんだ。 あたしは大きく息を吸って、歌を歌った。あたしとブレラさんの、思い出の曲を。 懐かしい記憶がよみがえる。 風の吹く草原。あたたかい人。 ハーモニカの音と、とてもキレイな……運命的な曲。 ちゃり、と音がして目を開けると、ブレラさんがあたしの首にハーモニカをかけてくれていた。 「これ……」 「お守りだ。お前の願いが届くように」 なんだろう。このひとのこんな優しい顔を、……前にも見たことがある……。 耳を叩くアラーム音で、ぼんやりとした感覚は全てかき消された。 大型のバジュラがアイ君をつかまえて去って行く。 機体に激突されたのか、辺りが激しく揺れた。ブレラさんの舌打ちが聞こえる。 物凄いアクロバット飛行に、悲鳴が上がる。 「所詮は相容れぬ生き物と言うことか……」 「そんなこと、だって……!」 「口を閉じていろ!来るぞ!」 「撒いたか……」 大きなデブリの陰で、ブレラさんがちいさく呟く。 思い切り振り回されて三半規管がおかしくなりそうだったけど、ハーモニカを握りしめてあたしはなんとか耐えていた。 「安心しろランカ。俺の命にかえてもお前は絶対に守る」 「でも……!」 (やめてよ、命なんてそんな、簡単に……) ミシェル君を思い出す。血って、あんなに赤かったんだ……。 最期に見せた微笑みが物凄く優しくて、それが逆に痛いくらい悲しかった。あんなのはもう、二度と。 「それじゃダメなの……アイ君ひとり連れて来たって何になるかわからないけど、でも……もう命がなくなるようなこと止めたいって、何とかしたいって、……だから、来たのに!!」 あたしの叫びに呼応するかのようにアラームが鳴る。 「見つかったか……!」 舌打ちするブレラさんの上空に、見覚えのあるフォルムと鳴き声の姿があった。 「アイ君!」 良かった……戻ってきてくれたんだね。 (そうだよ……アイ君なら) いつもあたしの傍にいてくれて、寂しい時はなぐさめてくれた、あのアイ君ならきっとあたしたちのこと解ってくれる! どうして争わなきゃいけないのか、傷つかなきゃいけないのか、どうにかしてこれ以上命の失われることのないよう、そういう気持ちを、アイ君なら絶対わかってくれる……! 「アイ君!」 バルキリーから飛び出した。背後で待てランカ、とブレラさんが叫ぶ。 「大丈夫だよ、ブレラさん!」 だってアイ君はいつもあたしに優しくしてくれたもん。だから絶対、大丈夫。 「ねえアイ君!皆に伝えて!あたし、あなたたちに伝えたいことが――」 その時。アイ君の目が、見たことのない赤い色に輝いた。 「!?」 しゅっ、とアイ君の手が伸びてきて、ひどく乱暴にあたしをからめとる。身動きが取れない。 「ランカ!!」 ブレラさんが、叫んでいる。……目の前に首から下げたハーモニカがふらふら揺れていて、それがブレラさんの顔とちらちら重なったり離れたりしている……。 ――思い出の曲。 ――キレイな、ハーモニカの音。 ――金色の髪に、赤い瞳の男の子。 ――やさしくわらって、手を差し伸べてくれたのは……。 今あたしの目の前にいる、ブレラさん――! 「お……にいちゃん……」 赤い大型のバジュラがお兄ちゃんのバルキリーに取りつく。 「お兄ちゃぁあああん!!!」 あたしはどうすることもできない。ただ叫んで呼ぶことしか。 お兄ちゃんの赤いバルキリーはいくつものバジュラが群がっていて、いつも冷静なお兄ちゃんらしくなく、怒鳴り散らしながら乱射するばかりで……それでも、あたしとの距離は、離れていくばかりだった。 (ここは……どこだろう……) 意識を失っていたらしい。辺りを見回しても、暗くて良く見えない。 ただ何かとても大きな、……多分、バジュラがいるような、そんな感じのがわかった。 胸のハーモニカを握りしめる。(お兄ちゃん……ごめんね……) すごくやさしいハーモニカの音だった。 お母さんの歌も好きだったけど、お兄ちゃんのハーモニカがいっとう好きだった。 それに合わせて歌うことが、何より楽しかった。 お母さんに教えてもらった、運命的な歌。 でもそれを歌っちゃいけないって、知らなかった。 きれいだった空に次々と化け物があらわれて、地面がみるみるかげってゆく。 マクロスが崩折れていく。赤い光が尾を引いて、あちらこちらに喰い付く。 どん、とシェルターに押し込まれた。お兄ちゃんは入ってこない。 あたしだけ……ここに残されるの?お兄ちゃんは、どうなるの……。 『すぐ行くから!いいかランカ、絶対言っちゃダメだぞ、お前の歌が……あいつらを呼んだこと!!』 あたしのせいなのに……あたしが、歌ったから、だから……。 「みんな……あたしのせいで……!」 頭がぐるぐるする。 だってあたし、その約束、ちゃんと守ってたのに……。 誰にも話してなくて、自分の中でさえ、忘れていたのに……。でも。 『皆に聴いてほしいの、あたしの歌!!』 『頼んでなんかいないもん!あたし、歌手になりたいの!』 『みんなー!抱きしめて、銀河の、果てまで!!』 ……あたしのせいだ。 あたし一人のうのうと五体満足に生き延びて、何もかも忘れて気楽に暮らしてたから。 何にも知らないでシェリルに憧れて、実力もないくせに歌手になりたいなんて言ったから。 「あたしの……せい、なんだ……みんな……あたしが……」 『……そうよ?みーんな貴女のせい。』 「誰……」 いざなうような声がした。不思議なくらい、心の奥底に切り込んでくる声……。 『全部貴女が悪いのよ。でも、償う方法はあるわ……』 「つぐな、い……?」 『そう。心と身体をひらいて、貴女の全てをさらけだすのよ……』 あたしの、すべて……。そんなもの……。 (あたしを見て)(ねえ、あたしを見て) (あたしはここにいるよ)(ここにいるって、届いてよ) (他の誰でもない、あたしだけを見て)(あたしのことを認めて) (褒められたい、持ち上げられたい)(ステージでちやほやされるのが気持ちいい) (ただ歌うのが好きだったはずなのに、人に見られる快感に飲まれていく) (口パクでもいいの)(ハリボテのアイドルだってかまわない)(ここにいるあたしを見て) (希望の歌姫なんて言われてすごく舞い上がってた) (政府の人がプロデュースするなんて、あたしはそんなに凄いんだって) (だけど現実は違ってた) (あたしの全てはうわべだけ、見せ掛けだけのアイドル) (虚構の内側はただの平凡な女の子しか残らない)(兵器になるしか能のない子に) (だからせめてそれだけでもと思ったのに)(やっぱり戦争より失恋するほうが怖いんだ) (一緒に生きたかった人に銃を向けられて、きっともう二度と会えなくて) (……あたしはたくさんの人を昔殺したんだってわかったのに) (お兄ちゃんもお母さんもあたしのせいで、ってわかったのに) (バジュラさえもあたしの歌のせいで、いっぱい殺されたのに) (あたしの歌のせいで……全部こわれたのに、なに、調子に乗ってたんだろう……) 歌を歌う。ただ、歌を歌う。 たったひとつ残った、あたしの歌を聴いてくれる相手へ向けて。 あたたかい部分も、みすぼらしい部分も、全てさらけ出して歌に込めて。 たったひとつの、思い出の歌を……。 遠くから幾重もの光が瞬いてくる。 紫に輝くフォールドの余波をゆらしながら、幾つもの船があらわれる。 『見えるでしょうランカさん。この星を侵そうとするものが攻めてくるわ』 「……あれが……敵……?」 お兄ちゃんが、いつの間にか後ろにあらわれた。 そうだ、ときっぱり言い切られる。 「さあランカ、守るんだ、この美しい星を。それがお前の償い……母さんもきっと、それを望んでいる」 (この星は……バジュラの星。お母さんが守ろうとした……そして、あたしの歌を聴いてくれた……バジュラの、星) (あたしのせいでたくさん殺されてしまったバジュラたちの星……) 「うん、……お兄ちゃん……」 星を守る歌を声にする。 どこかの遠い昔、ただ当たり前にそこにあったはずの、ただのラブソングを。 喉が痛くなっても、声がふらふらになっても歌い続ける。 目の前でひかりがいくつも散っていく。 (――ああ、あの光は、あたしが一番嫌いだった光だ) どうして、こんなことになってるんだろう……。 でも、守らなきゃいけないんだ。あたしが壊してしまったものを。 だけどそのために、また新しいものがこわれていく……。 とてもきれいな光が見えた。見覚えのある、大好きだった人の機体。 お兄ちゃんがそれを真っ直ぐに打ち抜いて行く。 手を伸ばした。もう二度と会えないと思ってた。また会えるなんて思わなかった。こんな形で。 煙を上げてあのひとの機体が落ちていく。 その時あたしは初めて、心の底から――もう嫌だ、と思った。 殺すのも殺されるのももう嫌だった。 なのに一度歌いだしたメロディーは止まらない。 アルト君の機体がくるくると回りながら落ちていき、燃え尽きる。 爆破の瞬間まで、目を離すことが出来なかった。 (……めまいが、する) 「たすけて……」 気付けば歌は止んでいた。 あたしは動けない。なにも、……考えられない。 外の様子はもう見えなかった。 ただどこかに拘束されたまま、ひとやバジュラの命が燃え尽きていく爆音だけを聞いていた。 守るって、言ったのに。どうして。 あたしが歌うと、いつもこうなっちゃう。 あたしさえいなければ、……こんなことにはならなかったのかな。 いやだ。もういやだ。こんなの、ぜんぜんあたしの望んだことじゃない。 戦いを止めたくて、命が失われていくのがいやで、それであたしはステージに立ったのに。 それが全く真逆のことを引き起こしていたなんて。 ただちやほやされていて、それが幸せで、嬉しいと思っていた時もあった。 でも本当はずっと引っ掛かっていて、歌が好きだったはずなのに、いつの間にか口パクライブや兵器としての声しか期待されなくなって、何かがズレていることを見て見ぬふりしてた。 そうしてあたしの歌で色んな命が踏みにじられていくことに、気付いてしまうと辛いから、ずっと気付かないふりをして……あたしがそうやって逃げ続けたせいで、今の現状があるんだ。 もう嫌だった。こんな歌しか歌えない。 みんな自由に生きたいのに、あたしの歌はちっとも自由になれないでいる。 ただ、もう歌姫ともアイドルとも言われなくていい、ほんのちょっとの人しか目に留めてくれなくていいから、……普通の歌が、歌えたら。 ……メロディが聴こえる。 キラキラした、すごくキレイな音……。 どうしてだろう、涙が止まらない。あたしはこの音楽にずっと、ずっと憧れていた。 つらい時も嬉しい時も悲しい時もどんな時も……このひとの音楽が傍にいてくれた。 命を燃やし尽くすような歌。お腹の奥がじいんと、熱くなるほどの歌。 アルト君の声がする……。 「目を覚ませランカ!お前の歌を……本当の歌を取り戻すんだ……!!!」 ハーモニカの音と共に歌った記憶。 グリフィスパークの丘で毎日歌ったこと。 アルト君に夢を聞いてもらって、歌も聴いてもらった。 学校でのライブで、アルト君のためだけに歌ったあの時。 (あたしの、……ほんとうの歌……) 胸に下げていたお守りのハーモニカが、弾けるように砕け散った。 声が、……自由になる。 もう二度と会えないと覚悟して、もう命すら諦めていたはずのひとの、名前を呼んだ。 「アルト君……!」 ずっと圧さえられていた何かから解放された、と思った途端、まばゆい光が目を焼いた。 命が燃え落ちていく。バジュラが……女王バジュラが、目覚めたんだ。 いつの間にかあたしはバジュラとの繋がりから弾きだされて、別の人がそこにいた。 (グレイスさん……!) 「聞くがいい虫ケラども……!我々は今、全宇宙を手に入れた! プロトカルチャーすらその力を畏れ、憧れ、遂には神格化した……バジュラの力によって!!」 違う。バジュラはそんなこと望んでない……!バジュラたちはただ、生きていただけだ。 殺し、争い、宇宙を手に入れたいのは人間だ。 バジュラはただ、ただ……たったいっぴきで誰も知らぬ場所にいたあたしのことを、……助けに来ようとしていただけなのに。 (あたしのせいで……!) 命の燃えるような歌はまだ聴こえ続けている。 遠い向こうでどんどん命が消えていく爆音がする。 本来なら起こらなかったはずの争い。殺されることのなかったはずのものたち。 今、死の瀬戸際で歌い続けている、あたしにとって女神さまだったはずのひと。 (あたしのせいだ……何もかも、ぜんぶ、何もかもがあたしの、) 「うぁああああああああッ!!!」 声にならない悲鳴が喉からほとばしった。 涙が飛び散って、頭を掻き毟る。 ――その時、何かが繋がった気がした。 「……ごめんね、ランカちゃん……アルト……」 泣きたいほど焦がれていたひとの声がする。彼女の気配が急速に弱まっていく。 いつも強くて輝いていて、ただそこにいるだけでスポットライトを浴びているようだった、美しい人。 その人が、絶望して、打ちひしがれて……死を目の前にして、倒れている。 (シェリルさん……シェリルさん!) 『ランカさんはね、私の星なんです。 どんな時も道を見失わないように、私を導いてくれる、希望の――』 ナナちゃん。お兄ちゃん。ブレラお兄ちゃん。 シェリルさん。アルト君。ルカ君。……ミシェル君。クランさん。 みんな、みんないつもあたしの傍にいてくれて、あたしをあたたかいもので包んでくれた。 あたしを希望だと、星だとナナちゃんはいったけど、そうじゃない。 あたしにとっての希望は――、フロンティアのみんなだ。 (……歌おう) 歌を歌おう、そう思った。 争いのための歌じゃなく、兵器としての歌でなく、希望の歌姫の歌でもなく、ただの平凡な少女であるランカ・リーの歌を。 アナタノオトが聴こえる。 生きてる音、やさしい音、切ない音が……聴こえてくるよ。 「……いいぞ、ランカ」 「お兄ちゃん!!」 傷を負ったお兄ちゃんが、あたしをやさしく見つめている。 「被弾したおかげで、やっと奴らの支配から逃れられた……さあランカ、歌うんだ!悲しみも、怒りも、喜びも……思いの全てを、歌に乗せて!」 「……お兄ちゃん」 多分今までの人生で初めて、一番素直に歌った。 命が燃えていく。その音が聴こえる。 悲しくて、つらくて、でも、まだ生きている命があることが嬉しくて……。 争い合う理由なんてもういらない。あたしたちはきっと分かり合えるはずだ。 この広い、どこまでも繋がった宇宙の中で、無数の命の音がする……。 「……立って、シェリルさん」 あたしの、誰より憧れていたひと。いつもどんな時でも輝いていたひと。 褪せた髪をなびかせて、弱々しく立ち上がる。 「ランカちゃん……」 あたしに『歌』を教えてくれたひと。諦めないことを教えてくれたひと。 どんな場所であろうと、この人が歌えばそこがステージになった。 ただの女の子のはずなのに、どんな時でもシェリルでいることを諦めなかったひと。 「やめて……私の仕事は終わった……何も残ってないの……何も」 ……何も残ってないわけがない。 だってあたしがいる。他のシェリルファンのひとだっている。 アルト君だっている。この先何があったって、諦めなければ歌は永遠に残る。 シェリルさんがうずくまった。命が、消え尽きそうになるのがわかる。 もう、ほとんど生気が残っていない……。 (……諦める?あのシェリル・ノームが?) あたしに歌うことの喜びを教え、ステージの快楽を教え、諦めない強さを見せつけて、 好きなひとの傍にいたいという気持ちや、嫉妬、ねたみ、それでもなお憧れる気持ち、 そういった複雑な感情まで全て与えてくれたこのひとが、ひとりで、勝手に、何もかも諦めて……先に、死ぬ……? 「っ……ばかぁっ!!」 考えるより先に手が出ていた。 思いっきり、シェリルさんの頬を張る。驚きに見開かれた青い瞳があたしを見ていた。 「思い出して……思い出してよ……!シェリルさんがいたから、あたしは飛べたの……」 あなたがいなければ、こんなに歌を好きになんてならなかった。 あなたがいなければ、『変わりたい』なんて思ったりしなかった。 あなたがいなければ、今でもずっとうじうじ何でも諦めるようなあたしだった。 あなたがいてくれたから、あたしは、希望を持てたんだ。 「シェリルさんが力をくれたから……アルト君も飛べたの!」 あたしが隣に立ってたんじゃ、アルト君は絶対あんな色んな顔をしなかった。 あたしはアルト君から力を貰うばかりで、でもシェリルさんはいつもアルト君と対等だった。 どんなことがあっても、歌は永遠に残る。 リン・ミンメイの伝説が今もなお語り継がれているように。 Fier Bomberのファンが今もずっといつづけるように。 シェリルさんの歌声も、きっと永遠に残るだろう。 ……諦めさえ、しなければ。 あたしのせいで、命を削っているシェリルさん。 あたしさえいなければ、きっと幸せになれていたシェリルさん。 ……今からでも遅くなんかない。諦めたりしない。あたしは、シェリルさんを助けたい。 それなのに、それなのに……勝手に死んじゃうなんて、……絶対に嫌だ! 「シェリル……」 その声と共に、イヤリングを耳につけたアルト君があらわれる。 「!アルト……!」 「お前言ったろ、絶対に諦めない、って!」 「アルト君の言うとおり……諦めない事をあたしに教えてくれたのは、シェリルさんだった!」 「俺は諦めてないぜ……だから来いよシェリル!」 アルト君が、あたしとシェリルさんを交互に見る。 シェリルさんは涙含みながら立ち上がった。 「お前が……お前たちが、俺の翼だ……!」 それは空を目指していた彼にとって最高の言葉だった。 あたしはそれを受け取って、胸の奥からお腹の底が、不思議な満足感で満たされていくのを感じた。 「お願いシェリルさん、諦めないで……!だから、もう一度飛ぼう……?」 シェリルさんの頭に手をかざす。あたしと同じ……バジュラと繋がる気配がした。 お腹の底が熱くなる。ゆっくりと、噛みしめるように、心で話しかけた。 (おんなじ気配がするけれど、このひとは、あたしじゃない。あたしじゃないよ……。 あたしに色んなことを教えてくれた、大切な人だよ。 あたしはここにいて、そして、シェリルさんも、ここにいるんだよ……) 誰かが、頷いた気がした。 シェリルさんに生気が戻っていく。涙まじりの声で、シェリルさんはあたしたちを呼んだ。 三人で手を取り合う。繋がっていく。心と心が、ひとつになる。 その時あたしはもう、きっと大丈夫だ、と確信した。 凛とした、力強い歌声がする。あたしも声を重ねて歌う。 生きていたい。まだ生きていたい。生きていて欲しい。 戦場のさなかで、それでもあたしたちは繋がっている。どこに立っていても。 こんな風に心を通わせて歌うなんて初めてだった。まるで奇跡みたいだと思った。 閉じ込められていた部屋に、アルト君が飛び込んでくる。 もう二度と会えないと思っていたそのひとに、飛びついてしがみつく。 バルキリーに戻ったアルト君はあたしを運んで飛んでいく。その後ろを光が追ってくる。 ひときわ大きな光がフロンティアの方へ飛んでゆく――、 赤い光が壁のように集まって、そして、散って行った。 「っぐ……!!」 激痛に思わずうめく。バジュラの死骸がばらばらと落ちてきた。 「バジュラが……守ってくれたのか!?」 いくつもの亡がらが落ちていく。涙があふれて、声が震えた。 「ごめんね……ありがとう、みんな」 前方から聞き覚えのある鳴き声がして、アイ君があらわれた。 「アイ君!あのね、届いたの!あたしと、シェリルさんの歌が!」 分かり合うことができたあたしたちには、もう怖いものなんてない。 バルキリーに乗りながら、あたしは誰に語るともなく呟いた。 「バジュラにもちゃんと、気持ちはあるの……ただ人間とはすごく違ってて、人間がどうしてこんなにバラバラに別々のことをしてるのか、理解できなかったの」 多分これは罪の告白だ。 きっと一生許されることのない罪の。 「だからバジュラは、『得体の知れない』人類から、唯一フォールド派が通じるあたしを、ずっと助け出そうとしてくれたの……」 そんなことのために、……多勢のひとが、バジュラが、死んでいったんだ。 アルト君はなにも言わない。それが今は、ありがたかった。 「だけどあたしとは違うシェリルさんの歌声を感じることで……人間は一人一人違うんだって、ちゃんと気持ちを伝えないと分かり合えない生き物なんだって……やっと、解ってくれたの」 人類はもう、バジュラにとって得体の知れないものじゃないって。 だからもうそこから、あたしを連れ出す必要なんかないんだって。 バルキリーから降りる時、アルト君に簡単な挨拶をした。 本当は話したいこと、伝えたいことはあふれるほどあったけれど、それは言わずに胸にしまっておこうと思った。 ……本当はとても、好きだった。でもそれはもう言わずに、ただ歌にして残せばいいと思ったんだ。 シェリルさんが教えてくれた。諦めさえしなければ、歌は永遠に残るんだってことを。 だから。 「みんな、抱きしめて!銀河の、果てまで……!!」 シェリルさんとあたしの歌声が重なって響いていく。 バジュラの心があたしたちの心と繋がっているのを肌で感じる。 戦況が塗り替えられてゆく。誰もが一つになっているのがわかる。 『何故わからないの!?これが人類進化の、究極の姿よ……!!』 「何が進化だ、バジュラを……犠牲にしてる癖に!!」 犠牲は余りにも大きかった。 あまりにも沢山の命が散って、消えていった。たったひとつ、あたしの歌のために。 お兄ちゃんがアルト君の援護に入る。頭を狙え、とお兄ちゃんは言った。 「バジュラの心は頭ではなく、腹にある!」 「アルト君……!バジュラは、お腹で歌うんだよ……!」 アルト君とお兄ちゃんの機体が、光の合間を縫うように飛んでいく。 お兄ちゃんが、貴様らに繋がれていて良く解った、と叫ぶ。 「どこまで行っても、人は一人だ!」 『だから、だから我らは……!』 だからこんな風に繋がり合いたい、と願ったのだろうか。 固体などなくなるくらい深く強く、結びつきたいと思ったんだろうか。 けれど、ふざけんな、というアルト君の声がした。 「だけど一人だからこそ……誰かを、愛せるんだ!!」 光が飛び交う。女王バジュラの頭が、ぐらりと揺れた。 ――グレイスさんが、リンクから外れたのがわかった。 アルト君が銃を向ける。その瞬間――グレイスさんはとても穏やかに、微笑んだ気がした。 そして一条の光が全てを貫いた。 ……アイモが聴こえる。 お母さんから教わった、バジュラの歌。 コミュニケーションを必要としないはずのバジュラの唯一の歌、恋の歌。 何億年かに一度、他の銀河に住まう群れと出会い、交配するために呼び掛ける歌。 アイモ、アイモ……あなた、あなた……。 あたしはここだよ。ここにいるよ……。 降り立ったバジュラの母星は、水が青くて緑の多い、とても綺麗なところだった。 さざめく波に見とれていると、背後から名前を呼ばれる。 あらゆる場所をステージにしてしまうあたしの憧れのひと、シェリルさんが手を振りながら駆け寄ってくるところだった。 (生きてる……シェリルさん、生きてるよ……!) 涙がこみ上げる。そのままあたしも駆け寄って、シェリルさんに抱きついた。 シェリルさんはひどく優しくあたしを抱き返してくれた。そっと涙を拭いてくれる。 きらり、と光るものが空をかけてゆく、と思った途端、あたしとシェリルさんの声が被った。 「アルト!」「アルト君!」 あ、と言う感じでお互い顔を見合わせてしまう。 シェリルさんは少し気まずそうに俯いた。だけどそのまま、二人して空を見上げる。 バルキリーからアルト君が飛び出してくるところだった。 愛機に一度だけ敬礼をすると、アルト君はそれきりり振り返らなかった。 どこまでも繋がっている本物の空を飛んでいくアルト君。 (アルト君。夢、叶ったんだね……) 「……ふふっ。バカが飛んでくわ」 聞いたこともないような甘い声でシェリルさんが呟いて、思わず顔を見た。 慈しむようにアルト君を真っ直ぐに見上げるシェリルさんの横顔はとても幸福そうで、ああ、かなわないなぁこの人には、と、もう何度目だろう、そう思った。 ……これから、どうなるのだろう。 新しい星を見つけるために払った、大きすぎる犠牲。 あたしひとりのために多くの人が死んでいった。あたしの歌で、人も、バジュラも、沢山。 だけど分かり合う事が出来た。 あたしたちはみんな孤独で、でもだからこそ誰かを愛せずにはいられない。 それをバジュラが分かってくれたから、今あたしたちはここに立っている。 贖罪の歌を歌おうと思う。 ずっと長い間かかると思うけれど、それでもずっと、あたしは歌い続ける。 今までのような、大人の手によって作り上げられたシンデレラではなくて……今度こそ自分の力で、歌い続けてみせる。 歌が下手でも、ダンスがダメでも、それでもいいから、フォールドソングでもなんでもない、自分自身の本当の歌を。 いつか遠い銀河の果てまで、あたしはここにいるよと届くように。 「あの、シェリルさん……」 「ランカちゃん?」 「……あたし、負けません。歌も……恋も!!」 いつかきっと、あたしは世界で一番好きになれる誰かを見つけてみせる。 これ以上ないってくらい幸福な恋をしてみせる。 そしてその時、銀河の果てまでずっとずっと、あたしは歌い続けるのだ。贖罪と、希望の歌を。 シェリルさんはとびっきりキレイな笑顔を見せると、 「――受けて立つわ!」 最高の言葉を、あたしにくれたんだ。 ここから、始まるんだね。 あたしの贖罪も、アルト君の空も、シェリルさんの歌も……。 透き通るような青い空の下、あたしたちはいつまでも、いつまでも、飛んでゆくアルト君の姿を見つめ続けていた。 <FIN> とりあえず最終回まで書き溜めてた分はこれで終わりです。 ところどころ誤字脱字があってすみませんでした。 それからランカちゃんを口パクアイドルにしてごめんなさい。 今後投下はまったりになると思いますが、ごくごく平凡な、ただ歌が好きな女の子が贖罪の為に新たな星で歌い続ける後日談を書きたいと思います。 支援してくださった方、レス下さった方、どうもありがとうございます。 乙!…なのか?>>1000 までって話だったけど続くのかな? >>285 後日談はまだ最初しか手をつけてないのでどこまでいけるかわかりませんが、 このスレで続けていこうと思います。 1000まで……遠いなorz でもランカちゃんの物語はほんとここからが始まりだと思うので、続きは書く気満点です。 >>286 むしろここからがオリジナル展開になる本番でしょ?どんな後日談になるのか楽しみにしとく >>287 ありがとうございます。 多分後日談もTV版と同じく書き溜めて投下になると思うので、 ゆっくり待っていただけると幸いです。 乙でした!後日談も楽しみにしてます 創発は一度立てたらまずスレが落ちる事はないので、焦らず投下続けてくださいなー ランカちゃん視点の初めて読んだけど>>1 のランカちゃん分かりやすくて可愛くて好き シェリルとも絆がちゃんとある感じ 後日談気長に待ってるよ 映画のもあるなら待ってるよ 昨日初めて読んだんだけど続きないのか ランカちゃんの心情が丁寧に描かれてておもしろかったよ 漫画家やディズニーシーを、自民党の放射能が直撃! 突然死が目立ってきた関東・・・冷静な国民性、さすがです。 真木よう子、ヒール脱ぎの原因は高熱だった「倒れるよかマシ」 確か、この人、数ヶ月前に、スネに原因不明の痣が増えてたと公表 血小板減少症=白血病の疑い https://twitter.com/toka iamada/status/659767520224645121 埼玉の強歩大会で女子生徒が急死し、ディズニーシーで清掃アルバイト男性が死んでいる。なんだか嫌?な感じ。(-_-) トライアスロン連合、死亡事故相次ぎ対策を緊急要請 今夏の国内大会で6人が心不全などで死亡した。東京オリンピック競技になってなかったか?これ NMB48小谷里歩さんが「心臓が痛くて起床できず」握手会中止自身のツイッターで「心臓が痛くて起きれなくなってしまい…」 https://twitter.com/hitsuji44/status/659037452972068864 宮田紘次さん、34歳で死去 「犬神姫にくちづけ」「ヨメがコレなもんで。」の漫画家 高血圧性脳出血??? あれでしょう。この方も 除染袋回収の作業員5人 疲労で動けず、自衛隊など救助 疲労じゃないだろう、被曝障害だろうよ 死んだように眠る人々(写真多数) http://s.ameblo.jp/kaito000777/entry-12031605335.html 【川島なお美の食べて応援が恐怖すぎる】自宅でも進んで食べて応援 1年後・軽くぶつけただけで肋骨骨折 2年後・眼球から出血は半年に一度 3年後・胆管に腫瘍、血液検査は異状無し 4年後・逝去 夫は片目失明、愛犬もがん 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ベンジャミン古或歩道 フクシマが大変だ大変だって、あれはもうプロパガンダ、嘘八百なにもない。26分40秒〜 https://www.youtube.com/watch?v=KRd6O5bwN9M まんげつ(放射脳デマ除染隊) 放射脳のみなさん、この鼻血と低線量被曝の因果関係は証明されたのでしょうか? リチャード輿水 「放射能コワイコワイ病」罹患者のみなさん、科学を知り、論理的に物事を判断いたしましょう。 http://richardko shimizu.at.webry.info/201510/article_79.html 副島隆彦[1792] 「ホテル 放射能」 を建設しようかと、考え始めています。 また、私たちの愚かな「放射能コワイ、コワイ」派の敵どもが、私のこの「ホテル 放射能」の話に飛びついて、ギャーギャー騒ぐでしょう。 放射能測定のプロ・東海ア マ氏が移住を主張 小沢一郎 「100万人か、何万人か(現時点では)確たる数字はいえないが(移住等の処置を)すべき。もう少しすれば帰れるような話をしているが、無慈悲、無責任」 https://twitter.com/lllpuplll/status/657894962135101441 東 海アマ 安倍晋三・自民党の進めている高濃度放射能汚染地への帰還政策は、完全に大量殺人です。必ず安倍晋三は下獄することになります。 https://twitter.com/tokai amada/status/656953860548726784 副島隆彦・リチャードコ シミズ・中矢伸一・藤原直哉・鎌田實・江川紹子 何か変だと思った連中は、全員、安全デマ吹聴に回った https://twitter.com/tokai amada/status/592518352393764866 彼らの手口は、まともな指摘をする者を「デマ屋」と決めつけることであり、いずれ最期は自分自身でウソのツケを支払わねばならない https://twitter.com/toka iamada/status/659507380808384512 貧富の差拡大は小泉内閣における新自由主義路線。だから小泉が今さら反原発を口にしても違和感が強すぎて、どうにもならない https://twitter.com/tokai amada/status/652631645393059841 安物の測定器で「エセ安全」を流布する素人たち ベンジャミン古或歩道 フクシマが大変だ大変だって、あれはもうプロパガンダ、嘘八百なにもない。26分40秒〜 https://www.youtube.com/watch?v=KRd6O5bwN9M まんげつ(放射脳デマ除染隊) 放射脳のみなさん、この鼻血と低線量被曝の因果関係は証明されたのでしょうか? リチャード輿水 「放射能コワイコワイ病」罹患者のみなさん、科学を知り、論理的に物事を判断いたしましょう。 http://richardko shimizu.at.webry.info/201510/article_79.html 副島隆彦[1792] 「ホテル 放射能」 を建設しようかと、考え始めています。 また、私たちの愚かな「放射能コワイ、コワイ」派の敵どもが、私のこの「ホテル 放射能」の話に飛びついて、ギャーギャー騒ぐでしょう。 日本もさらに多くの原子力発電所を作ろうとしています。多くの人々が核の汚染の影響で死んでいるのに、彼らは幻想の中に生きています。 人々は、放射の影響で不必要に死んでいます。汚染による死者の数は、他のいかなる原因よりも多いです。 ahjzfl-1/04zpzf/n0gkne 免疫システムが弱体化し、慢性疲労、癌、エイズなどの多くの病気を引き起こします。人類全体がこの汚染の脅威の下にあります。 magazines/ahjzfl-1/c6gix5/omw5ne マイトレーヤは、世界中の核分裂による原子力発電所を直ちに閉鎖することを助言されます。 人間が生きるための呼吸そのものが脅かされている−−彼はいかなる人間よりもその危険をよくご存じである。 33116k/yitdsf/u198z0 マイトレーヤが公に話し始めるとき、彼はこのことについて話されるでしょう。 彼は質問に答えて、世界中で何十基もの原子力発電所を建設する計画は破棄されなければならないと非常に明確に言われるでしょう。 magazines/ahjzfl-1/pzytyf/vk7zly 世界中でアルツハイマー病がますます増えており、より若い人々に起こっています。 マイトレーヤと覚者方はこの情報を伝えて、原子炉を速やかに閉鎖することを勧告されるでしょう。 ahjzfl-1/ndshrf/r3xic0 Q 日本の福島では多くの子どもたちが癌をもたらす量の放射能を内部被ばくしていると考えられています。これは本当ですか。 A はい。遅かれ早かれ、原子力エネルギーはあらゆるところで放棄されるでしょう。 magazines/rwhnd8/fkmww5/u9sq64 Q 福島県民やその付近のすべての住民(たとえば30km圏内の住民)は永久に避難すべきでしょうか。 A 永久にではありません。発電所が閉鎖されれば1年か2年で戻って来られるでしょう。 magazines/rwhnd8/t1vhdg/hwe6t0 ■アレルギー症が危ない 戦前アトピーらしきものは、魚からの湿疹だけだった。 http://yukichan.cc/health/05.html 家で不労所得的に稼げる方法など 参考までに、 ⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。 グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』" 2W2KVU76KW 知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方 参考までに書いておきます グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』 HILOH 中学生でもできるネットで稼げる情報とか 暇な人は見てみるといいかもしれません いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね TES ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
read.cgi ver 07.5.4 2024/05/19 Walang Kapalit ★ | Donguri System Team 5ちゃんねる