X



トップページ創作発表
481コメント1464KB

レトロファンタジーTRPG

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2020/05/31(日) 21:18:54.91ID:Nni+ZiO2
ここはアースギア……。
五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。


◆概要
・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。
0301レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/04(金) 20:10:28.29ID:JZF7WO5+
三体の単眼の怪物が雄叫びを上げて突っ込んでくる!
狙いはそれぞれクロム、マグリット、ドルヴェイク。
レインはやや離れた位置で清冽の槍を構えたまま戦局を俯瞰する。
現状フリーのレインは状況に応じて立ち回らなければいけないからだ。

――はじめにサイクロプスと交戦したのはクロムとマグリットだ。
クロムは振り下ろされる金棒を自身の『鬼の金棒』で真っ向から受け止める。
マグリットは放たれた横薙ぎの一撃をシャコガイメイスの柄で防御した。

>「ぐっ……!! ぐぐぐぐぎぎぎ……!!」

クロムが歯を食いしばって耐えている。相当の衝撃だろう。
常人が受け止めようものなら比喩ではなく粉砕していたに違いない。

>「凄まじい威力です、私の足に骨があったら大惨事でしたよ……って、クロムさああああん!?」

……なにせ、防御したクロムの半身が地中にめりこむほどの威力だ。
薄々勘づいてはいたが、もう人間の頑丈さじゃない。クロムはやはり亜人の類なのだろう。
だがまぁ、今までの強さを思えば腑に落ちるだけで驚きやマイナスの感情は生まれない。
マグリットはというと攻撃が横薙ぎだったことと、全身筋肉という特性のおかげで防御しきれたようだ。

>「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

>「こんなところでテストしないで下さいよ!失敗してたら脳天潰れていましたよ!」

「ま、まぁまぁ……マグリット落ち着いて」

ひょっとしたら多少のダメージはあるのでは――と危惧したレインだったが、杞憂だったらしい。
強いてあげればめりこんだことでしばらく身動きとれないことであろう。

>「レイン、マグリット! こいつの相手はお前らに任せる!」

カバーに入ろうとしたところで、クロムの声でレインの動きがいったん止まる。

>「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
> 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

「わかった、奴らの弱点は『眼』か……!」

クロムがこういった助言をするのは案外珍しい。
なにせ、いつもなら一番槍。パーティーの切り込み隊長と呼べるポジションだ。
実力からいっても口を動かすより敵を叩き斬った方がはやい。
0302レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/04(金) 20:11:41.78ID:JZF7WO5+
弱点を把握したマグリットが早速攻勢に出た。
すかさず口から自身の血を噴霧したのだ。いわゆる『毒霧』と呼べばよいか。
サイクロプスは大きく怯んで後ろへ二、三歩後退する。

>「溜め込んだ毒血目薬です、大きなお目目には効くでしょう!
>そしてクロムさん、顔のガードしてくださいね」

一方クロムを地面にめり込ませたサイクロプスは、追撃を敢行しようとしていたが、
マグリットが攻撃を仕掛けてきたため追撃を止めてそちらの迎撃に。
お互いの得物が激突して、大気が激しく震動する。
――そしてシャコガイメイスは地面を抉り、金棒は宙にかち上げられる。

>「レインさん、お願いしますよ!」

続けざまにシャコガイメイスを引き抜いて体当たりすると、
サイクロプスの巨体が目潰しで未だ混乱しているもう一体のサイクロプスにぶつかる。
二体は態勢を大きく崩し、分かりやすい隙ができた。倒すならここしかない!

「了解、このチャンスは外さないっ!」

清冽の槍にありったけの魔力を込めて、水流を生み出す。
それは渦を巻いて穂先に纏わりつくと、目潰しされている一体へ素早く投擲。
水属性で強化された槍は正確に眼球を射抜き、容易く脳へと達する。

「戻れ、アクアヴィーラ!!」

残りのサイクロプス目掛けて疾駆しながら、
槍のみを召喚解除→再召喚で手元に戻し、そのまま振り下ろす。
――が、残りの方は態勢を崩しつつも視界は健在。動物的反射神経で上体を逸らして回避。
スウェーされた穂先が虚しく空を裂く。その隙に、上体を逸らした"戻り"で出の早い拳を繰り出された。

素手は威力とリーチはあるがやや遅い金棒よりもむしろ凶悪だ。
なにせ、サイクロプスの膂力なら軽い力でも人体など豆腐のように脆い。
つまり十二分の殺戮が可能!!

「舞踊槍術、白鳥の舞!!」

単眼の巨人の遥か足元で、白き翼が広がった。ともすれば華麗に、ともすれば優雅に。
水の勇者は上方へ高く跳躍。拳を避けてすれ違いざまに単眼を切り裂いた。
0303レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/04(金) 20:14:55.82ID:JZF7WO5+
その跳躍力の正体は魔導具たる『波紋の長靴』の効果だ。
槍を携えた"召喚の勇者"はカウンターこそ本領。
攻撃した瞬間こそがもっとも窮地と知るべきだったろう。

「グォォォァァァッ……!!!!」

断末魔の叫びを上げるサイクロプスを見て、
未だ交戦中のドルヴェイクは勇者一行の実力を再確認した。

「儂の方もいい加減決着をつけなくてはのう……!」

ただ一体取り残された最後のサイクロプスは、退く様子もなく戦闘を続ける。
魔物なりに戦士としての矜持があるのか。それとも同胞の仇討ちのつもりか。
何にせよ力んだサイクロプスは渾身の力を込めて金棒を振り下ろした。

ドルヴェイクはそれを待っていた。
恰幅の良い体格に似合わぬ横っ飛びで回避。地面が陥没して粉塵が舞い上がる。
威力は凄まじいが、視界が悪くなり、隙の大きな振り下ろす一撃。
なにせ敵はドワーフなのだ。普通の人間よりも背が低く金棒を当てにくい。

完全に虚を突いたドルヴェイクは砂塵を裂いてミスリルの斧をやや横薙ぎに振るった。
軌道は吸い込まれるように単眼に命中して、刃が深く深く頭部を抉る。
最後のサイクロプスは呻き声一つ漏らさずに絶命した。

「終わった……。ドルヴェイクさん、凄いですね。
 真っ向からあのサイクロプスを倒すなんて……!」

「味方を倒されて動揺したのじゃろう。老体でもなんとかなったわい」

レインの賛辞を流して、ドルヴェイクは一息つくように腰を叩いた。
それにしても、昔の自分ならこう容易くは倒せなかっただろう。
クロムとマグリットのおかげもあるが、船での修行が活きている、と素直に思った。
仮面の騎士との特訓はレインの地力を着実に上げていたのだ。
0304レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/04(金) 20:35:18.37ID:JZF7WO5+
「加勢の必要はなかったらしい。皆、見事な戦いぶりだった。
 見張りは私が引き受けよう、今日はもう休むことだ」

仮面の騎士が最後にそう言って、今夜は何事もなく眠ることができた。
クロムが異種族であること、そのことについて一切言及しないことについては聞かないことにした。
レインはこの世界に生きる仲間だから――いや、"自分はその仲間だと思いたい"から、何族だろうが気にしない。
だが、本人が自身の種族について隠している以上、無理に問うのも気がひけるのだ。

何せ……とうのレイン本人も、出会った当初から、ある秘密をずっと黙っている。
それは仮面の騎士の正体のように、自身から打ち明けでもしない限り絶対に分からない秘密だ。

仲間から年齢や種族、生まれ故郷などを詮索されたくらいでは露呈しない。
多少は動揺しながら真実を答えるだろう。年齢は16。種族は人間。故郷はサマリアの田舎町ハルモニーと。
また、嘘発見の魔法にかけられてもその質問に行き着くことは極小確率だと断言できる。
そしてその秘密こそ、光魔法や勇者の特技が使えない謎にも繋がっている。

……さて、一同は『気球』で移動しながら、時に魔物を退治しつつ順調に旅を続けた。
――そして辿り着いたのがシルバニア共和国とメガリス地下王国の国境沿い。通称『竜の谷』である。

「谷というより断崖絶壁だ。底が見えない……。
 徒歩じゃ確かに渡るのも降りるのも無理そうですね」

気球の移動を聖弓で操作しつつ、レインは呟いた。
そんな巨大な谷が地平線まで延々と続いているのだ――。
ここを降りたところに地下王国への入り口があるとのことだが……。
竜の生息地ということもあり、本能的に危機感を覚える。

「うむ。ここに棲む竜のことじゃ。もう侵入には気づかれているじゃろう。
 儂が『行き』の時は偶然、竜騎兵(ドラグーン)の旅人に連れて貰えたのじゃがな。
 その時もえらい危険な戦いじゃった。だがレインよ、この件については考えがあるようじゃな」

『気球』で降りるというのは、考えなくても分かるが危険だ。
竜には爪もあれば牙もある。獰猛で口からは強力な竜の吐息(ドラゴンブレス)を放射する。
そんな化け物相手に非武装の気球で降りるなど、まず死ににいくようなもの。
こちらのパーティーには風魔法の使い手もいない。空中戦だって不可能だ。

「考えというか……ここは師匠、もとい仮面の騎士に頼りましょう。
 光魔法には防御魔法もあります。それで気球を守れる。
 俺も『天空の聖弓』で牽制くらいはできるし……それに」

レインはごにょごにょと曖昧な口ぶりでこう言った。

「……師匠は『グローパイル』が使えますよね?」

端で腕を組んで立っていた『仮面の騎士』が口を開く。

「問題ないが……そういうことか。だが竜種の空戦能力は随一だ。
 どこまで通用するか……クロムとマグリット次第になる」
0305レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/04(金) 20:40:12.38ID:JZF7WO5+
二人だけで会話が先行しているが、その解説をしようとしたところだった。
天空の聖弓兵の魔導具たる『透視の片眼鏡』が接近する敵を捕捉した。
この片眼鏡は物体を透かして見る他にも千里眼のような遠隔視もできるのだ。

「……『ワイバーン』が複数で近づいてくる!?しかも速い!!
 接触まで三十秒程度……まずは俺が迎撃するしかないッ!」

気球を降下させながら叫ぶと素早く『天空の聖弓』を引き絞った。
魔力を込めることで風を番え、放たれる非実体の矢は強力無比。音も無く敵を貫く。
十秒経過。北西から真っ直ぐに近づいてくる粒のようなそれが飛竜ワイバーンである。

レインはその小さな粒目掛けて五発連射した。凝縮された風の矢が音の速さで飛んでいく。
侮っていたわけではないが、レインはそれで一体くらいは墜とせると踏んでいた。
しかし、ワイバーンの群れは先読みしたかのように散開して『気球』を包囲するように迫る。
『透視の片眼鏡』越しに飛竜の一体と目が合った。こちらを完全に"視て"いるらしい。

「竜の本能ってやつなのか……!」

十五秒経過。近づくにつれて徐々にその威容が露になってくる。
濃い緑色の鱗に、巨大な鉤爪のような翼。獲物を狩ろうとする獰猛な貌。

古来、竜種は高度な知能も備えていたというが、時代が下るにつれて、
徐々に知能の劣る種族が増え始め、現在のような魔物の一種に落ち着いたという。
残されているのはその恐ろしいまでの戦闘能力。それがパーティーに牙を剥く!

「女神の護符、信奉者、星々よ魔を封じる鉄窓となれ」

仮面の騎士が詠唱。紡いだそれは拘束結界を張る光魔法『タリスマン』だ。
ただし、自分に張ることで防御魔法にも転用できる類の結界である。
気球に展開することで全方位を守るつもりなのだ。

二十秒経過。四方から火炎弾が飛来してくる。
ワイバーンの口から放たれるそれは、まさに気球の天敵。
張られた結界が轟音を上げて振動している。そう長くは持つまい。

「……クロム、マグリット。私が『足場』を作る。
 この結界が解けたらそいつで直接ワイバーンを叩いてくれ。
 いざとなれば私とレインで援護する……時間がない。頼んだぞ」

仮面の騎士は手短にそう呟くと、新たに魔法の詠唱を開始。
三十秒経過。ワイバーンの接近が完了した。これで爪や牙で気球を攻撃できる。
とりつかれたら俄然こちらの不利。が――向こうも新たな一手には気づいていない。

「……――『グローパイル』!」

結界が解けると同時、仮面の騎士の手から光が放たれた。『杭』だ。
光の杭が何本も放たれると、それは空間を縫い留めて足場のように展開した。
『グローパイル』とは、敵に投射して空中に固定、磔にしてしまう光魔法を指す。
だが、この光の杭は宙に『置く』ことも可能であり、それによって即席の足場を生み出したのだ。


【『竜の谷』に到着。降下中にワイバーンの群れに襲われる】
【仮面の騎士が光魔法で即席の足場を作成。気球の周囲を自由に動けます】
0306クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/06/12(土) 02:40:50.00ID:eVzBdM2D
──全てのサイクロプスが大地に沈み、戦場が再び静かな野営地へと戻っていく。
それと時を同じくして地中からの脱出を果たしたクロムは、衣服に着いた土を掃いながらパーティを見渡した。

「弱点を突いたとはいえ、随分と楽に倒したもんだな」

そして、意地悪い笑みを浮かべながらマグリットに目を合わせると、わざとらしい大げさな溜息をつくのだった。

「どうせなら俺ももっと楽に出たかったんだがな。まったく、器用というか不器用というか、内臓が潰されるところだったぜ」

それはクロムに彼女を責める気は一切なく、そもそも体も大事ないことを意味している。
仲間を助けようとして、結果としてそれが裏目に出ることなど戦場では良くある事である。
それをいちいち非難できるほどクロム自身完璧な戦士ではない事を自覚しているし──
何より結果無事で済んだミスも許されない軍隊のような堅苦しい雰囲気は彼の好む所ではないのだ。

>「加勢の必要はなかったらしい。皆、見事な戦いぶりだった。
> 見張りは私が引き受けよう、今日はもう休むことだ」

仮面の騎士の言葉を受けて、クロムは遠慮することなくさっさとその場に横になり、目を瞑る。
長年、一人で世界を旅して来たものだから、地面の上だろうと眠りに落ちるのは早い。そういう癖がついているのだ。
しかも一人旅の時とは異なり、見張り《仲間》がいるという安心感から眠りは極めて深く──
再び目を開けた時は既に、朝日が昇る時刻となっていた。

────。

「──やはり遠目に見るのと間近で見るのとじゃえらい違いだな。まさかここまで目眩がするもんだとは」

気球から“それ”を見下ろして、クロムは感嘆に似た溜息をつく。
竜という屈強な魔物が住処にするのも頷けるほどの、まるで地獄と繋がっているかのような底知れぬ深い谷──。
大自然が創り出したと思われるその想像以上の現実に。

「なぁ爺さん、この谷の深さはどれくらいなんだ?」

レインと仮面の騎士が小声で話し込むその横で、クロムはふとドルヴェイクに問いかける。
ゴールまでの距離も知らずに膨大な数の強敵と戦い続けるのは、肉体はもちろん精神的にも大きな負担になるからだ。

しかし、答えは返ってこなかった。いや、ドルヴェイクは返せなかったに違いない。
気球に高速で迫る複数の飛竜を発見しては、その脅威に対処する為の話題以外、後回しにする他はないのだろうから。

>「……クロム、マグリット。私が『足場』を作る。
> この結界が解けたらそいつで直接ワイバーンを叩いてくれ。
> いざとなれば私とレインで援護する……時間がない。頼んだぞ」

「分かった──って、ちょっと待て! この高さ、ワイバーン相手に小さな足場を駆け巡って直接打撃を加えろってのか?
 あんたなら魔法で一気にぶっ飛ばすくらいできるんじゃねぇの!?」

>「……――『グローパイル』!」

「〜〜! 聞けよクソ! あぁーもう!」

クロムの声などまるで耳に届いていないかのように複数の足場を次々に空中に打ち込んでいく仮面の騎士。
それを見てクロムは舌打ちしながら足場の一つに嫌々ながらも素早く乗り移り、ワイバーンは翼を広げて急ブレーキをかけた。
足場のない筈の空中で、己の眼前に突如として金棒を担いだ男が立ちはだかったのである。然しもの強獣も驚いたのであろう。
0307クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/06/12(土) 02:54:42.52ID:eVzBdM2D
(敵は四方に展開……囲んだ形か。何とか一匹ずつと言いたいが、空中は圧倒的に向こうが有利だ。キツイな)

しかし、それも一瞬である。
首を突き出してけたたましく咆哮すると、蛙を竦ませる蛇の如くの凶悪な眼光を叩きつけて来たのだ。

「──!」

体の芯が冷えるような感覚に襲われたクロムは、ざわ、と全身を総毛立たせ、思わず動きを停める。
──直後、それを待ってたとばかりに鋭い牙を剥き出しにして、突進してくるワイバーン。

「おっと!」

だが、ギリギリのタイミングでジャンプし、すんでのところで躱し切る。
噛み付こうとしたのか、それとも肉体そのものを武器に体当たりしようとしたのかは定かではない。
ただ、いずれにしても喰らっていたら無事では済まなかったであろう。

別の足場に着地して素早く辺りを見回す。
──速い。既にワイバーンは旋回を終え、こちら目掛けて矢のような速さで水平飛行していた。
クロムは金棒を握り締める手に力を込める。
竜の全身は硬い鱗によって護られており、半端な攻撃は通用しない仕様となっている。
サイクロプスのような致命的な弱点があれば話は別だが──少なくとも、あるという話をクロムは聞いた事がない。
つまり、防御に関して竜族ほど生まれながらに隙が無い種族もないのだ。しかも──

「っ!! ──ちぃ!」

空を縦横無尽に駆けることのできる飛竜と呼ばれるタイプは高い機動力も備えているのである。
迫り来るワイバーンを引き付けて、躱しざまに金棒を後頭部目がけて鋭くスイングするも、当たらない。
決してタイミングを見誤ったのではない。敵の尋常ならざる飛行性が、空振りという結果を生じさせたのだ。
もっとも、得物が小回りの利かない超重量武器であったことも原因の一つであったのだろうが……。

(……いずれにしても叩こうとしても正攻法じゃ当たる確率が低い。考え方を変えるしかねぇだろうな)

クロムは気球の周りを見渡し、仮面の騎士が放った足場の数とその位置を確認すると、皆に向けて口を開いた。

「仕留めるのは任せる。ただし、全力でやってくれよ。半端な攻撃は怒らせちまうだけだからな」

そして──再び空をUターンして戻ってきた個体に対して背を向け、足場から足場へと移動を開始した。
後ろから追われる形を敢えて取ったクロムは、移動先を常に己の前方の足場に限定している。
足場は気球を取り囲むように設置されているので、移動し続ければやがて気球の周りを一周することになるだろう。

だが、気球を襲撃したワイバーンは一匹だけではない。気球の四方に展開しているのだ。
つまり、周りを一周するということは、四方を囲む全ての獰猛なワイバーンの目前を横切ることになる。

(目障りだろ? さぁ……追ってきやがれ)

──それでいいのだ。何故ならこれは挑発。クロムは囮なのだから。
ワイバーンの意識が気球から外れることで生じる隙──それをレイン達に衝かせようというのである。

【足場から足場へ移動して気球の周囲を回り、敵の注意を引き付ける】
0308マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/06/17(木) 22:27:45.08ID:fEhbr7vL
上を見れば蒼天
下を見れば底の見えぬ谷
崖伝いに降下する気球は激しい閃光と振動に見舞われていた

飛来したワイバーンの群れからの火球による攻撃の為だ
攻撃事態は仮面の騎士の光結界魔法タリスマンにより防いで入るが、衝撃や振動までは防げない
ワイバーンは高速で空を飛び回りヒット&ウェイを繰り返すのだが、気球に乗っているPTの攻撃範囲はあまりにも狭い
唯一レインの矢が放たれるが、空中機動力に優れたワイバーンはそれをやすやすと躱し接近し攻撃を繰り返すのだ

この高所でできる事もなく、乗っている籠一枚下は支えるものが何もない状態にマグリットはただ籠を吊るすロープにしがみつくのが精一杯

しかしそこに打開策が作られた
仮面の騎士がグローパイル、光の杭を空中に縫い留めて足場のように展開したのだ

「あははは、いいじゃないですか、クロムさん
海魔の洞窟で貝殻を足場にしたときに比べればよっぽどしっかりとした足場です
このまま籠から出るに出られず嬲られるより、有難いというものですよ」

抗議するクロムをなだめながら、背負った水樽を下ろして籠からクローパイルの足場へと飛び移っていった
狭い足場に高機動なワイバーンを相手にするので、なるべく身軽な状態でという事だ

空中に躍り出たクロムとマグリットにワイバーンは警戒を見せるが、躊躇は一瞬
即座に周囲を取り囲み、クロムへと突撃
クロムは躱しざまに金棒を振るうが空を切る

「ふむう、クロムさんですら当てることが困難な飛行能力ですか」

その様子を見ながら放たれた火球をシャコガイメイスで叩き落すマグリット
通常の打撃では難しそうと次なる策を思案しながら、移動するクロムに合わせて位置を変えていく

囮となりワイバーンを引き付ける意図を察し、先回りをして準備を整える
クロムがワイバーンたちを引き連れながら移動する先にはマグリットが大きく口を開き立っていた

その口から発せられるのは、ほら貝から発せられる様な超音波
音波数を変える事により硬い甲羅などを崩壊させる事もできるのだが、それはある程度の照射時間が期待できる場合だ
高速飛行するワイバーンに於いてダメージは期待できない
が、高速飛行に適応した鋭敏な感覚を持つからこそ、すれ違う一瞬であっても期待できる効果はあった

クロムが引き連れてきたワイバーンたちはマグリットを掠め、高速で飛び去って行った
マグリットが躱したわけではない
ワイバーンたちが攻撃を外していったのだ

通常であれば一瞬で大した効果も期待できない時間であったが、ワイバーンたちにとっては感覚を狂わさせるに十分な不快な音だった、というわけだ
とは言え、攻撃を外させただけでありダメージを与えたわけではない
距離を取れば効果も切れる代物であり、いつまでも保つわけではない

攻撃を受けはしなかったものの、至近距離を飛び去られた衝撃でマグリットの体が足場から浮かび上がるが、仮面の騎士が即座に新たなるグローパイルを設置し着地点を作る

「クロムさん、すいませんがしばらくこの空域でワイバーンの攻撃を捌いてください」

無事に着地したところでクロムに願い、自らも迫るワイバーンを睨み口を大きく開く
暫くは二人が飛来するワイバーンの攻撃をかわすも、こちらからの攻撃も決定打を与えられず飛び去られるという展開が続いた
どうしても両者の間に機動範囲の差が大きすぎて戦いになり辛いのだ

が、そうしたやり取りが続くのも長くはもたなかった
まずはマグリットがワイバーンの顎に咥えられ、それを助けようとしたクロムに火球が直撃
動きが止まったところに複数のワイバーンが寄ってたかって食いちぎらんとしている
0309マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/06/17(木) 22:31:27.82ID:fEhbr7vL
その光景を見下ろしながら、マグリットが気球のレインに手を振る

クロムがワイバーンを引き付けている間い、飛び回るワイバーンを捉え打撃を与える事が難しいと踏んだマグリットは一定空域に留まっていた
その身から幻惑物質を噴出しまき散らしながら

開けた空で幻惑物質は拡散しやすく、一定濃度を保つのは難しい
その状態にも拘らず、高速で通り過ぎるワイバーンに幻惑状態に陥れる為には、何度もこの空域に突っ込ませる必要があったのだ
故に超音波で器官を狂わせ凌ぎ、クロムにもこの空域で持ちこたえるように頼んだのだった

結果、何度も幻惑物質の漂う空域を行ったり来たりする間にワイバーンは徐々にその効果に侵されていった
頃合いを見計らい、クロムと共に空域を脱出
あとはワイバーン同士の同士討ちを眺めていたというわけだ

ワイバーンたちはクロムとマグリットを貪っていると誤認しているが、実像は一匹のワイバーンを残りのワイバーンが集団で噛みつき貪っている状態である
噛まれているワイバーンも反撃しているのだが、多勢に無勢で長くは持たないだろう
ともあれ、ワイバーンたちは血の匂いにさらに興奮し、空中で団子状態になっている

「ふーむ、風月飛竜シェイバーんも高速飛行戦闘が得意という事で、一定空域に幻覚物質を浮遊させ罠を張ってみたのですが……効くまでに時間がかかり過ぎですよねえ
また考えねばなりませんが、とりあえずワイバーンの動きが止まっていますし、レインさんの攻撃が始まったら私たちもとどめを刺しに行きましょう」

そう言いつつシャコガイメイスを強く握り直し、レインの攻撃とタイミングを合わせられるように準備をする

【幻惑物質を散布し罠を張る】
【ワイバーンを引き付け時間を稼ぎ、同士討ちに導く】
【レインの攻撃に合わせとどめを刺すようタイミングを計る】
0310レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/22(火) 18:51:36.31ID:5DPKKwPx
クロム&マグリットwithレインvsワイバーンの空中戦がいよいよ始まった。
得物が重量級の金棒ということもあってクロムは陽動に回ることになった。
マグリットもまたスピードを意識してか樽を降ろして足場に飛び移る。

「二人には悪いけれど、これで魔力の節約になったかな」

四方八方のワイバーンから目を離さないまま、レインは呟いた。
今回使ったのは下位魔法の『タリスマン』と中位魔法の『グローパイル』。
クロムの言う通り、いくら竜種といえど仮面の騎士なら、上位魔法を解禁して範囲攻撃を行えば殲滅できよう。
だが魔力残量=滞在時間である仮面の騎士にとって、上位クラスの魔法は使用を避けたいところだ。

ゆえにレインはワイバーン遭遇前からこの迎撃方法を目論んでいた。
なにせ、意識して節約する必要があるほど彼の魔力残量は逼迫している。

事実、この旅の道中、仮面の騎士は魔物戦において何度も力を貸してくれたが、
大抵は魔力消費を抑えるため剣のみで対処していたし、それで十分だった。

その点は多かれ少なかれ皆気にしている。
教会の『聖域』で魔力を回復してもらったり。
さり気なくサイクロプスと戦闘をさせないようにしたり。

でもそれは、強い魔物と遭遇したときに助けてもらうための打算なんかじゃない。
同じ目的地を目指す旅の仲間だから。運命共同体だから気にするのだ。
加えて、レインにとってはもはや第二の師匠と言っても差支えない。
『宇宙の梯子』を攻略した後も、ずっと彼らとともに旅を続けたいと思っていた。

(おっと……状況が変わってきたな)

なんと、一匹のワイバーンを他のワイバーン達が食いちぎろうと襲い掛かっているではないか。
どうやらマグリットが放った幻惑物質が遅まきながら効力を発揮し始めたらしい。
こちらに手を振るマグリットに手を振り返して、レインは天空の聖弓を構えた。

「接触前は外したけど、今回は外さないぞ……!」

魔力を送って弓をひくと、無数の『風の矢』が放たれた。
もっとも、確実に命中させるため今回は矢の軌道を調整してある。
矢は大きな曲線を描いて、団子状態のワイバーン達を包囲するかの如く襲い掛かった。

食らえばワイバーンといえど大きなダメージは避けられない。
避けるということは当たれば負傷することを明示しているようなものだからだ。
このアタックを合図にクロムとマグリットもまた攻撃を仕掛けるだろう。
そうなれば空中戦は決着を迎えるはずだ。
0311レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/22(火) 18:53:18.98ID:5DPKKwPx
……――――ワイバーンを片付けると、気球は順調に降下を続けた。
ドルヴェイク曰く、谷は地下まで続いており、およそ数キロに及ぶという。

「底が見えたぞ。もう少しの辛抱じゃ」

これほどまでに深い谷だ。底部は地上に比べて涼しく、レインにはありがたかった。
そして気球が緩やかに谷底に着地すると、一同は『竜の谷』の底に遂に到着したのだった。
見上げれば飛竜の群れが飛び交っているのが分かった。
襲ってこないのはワイバーン達を倒したことで、警戒されているためか。

「……ここじゃ。ここが故郷への入り口になっておる」

「ただの岩壁に見えますが……」

「はっはっは。鈍いのうレインよ。
 余所者の侵入を防ぐためカモフラージュしているのじゃ」

そう言って岩壁の窪みに手を嵌め込むとドルヴェイクは渾身の力を込めた。
すると壁の一部が大きくスライドして、巨大な穴が出現したではないか。

「……とまぁ、古典的じゃがこんな仕掛けになっておる。
 扉に本物の岩を使っとるからドワーフ並みの馬鹿力がない限り開けられんがな」

ドルヴェイクを先頭にして穴を入っていく。
入ると看板が立てかけられており『ゴルトゲルプ大坑道』とある。
この坑道こそあらゆる鉱山と町に繋がっているメガリス地下王国の大動脈だ。
ちょうどサマリア王国の『ラピス街道』のようなものだと思えばいい。

「ちょうどいい。このトロッコに乗って進むとしよう。
 目的地は首都じゃから、徒歩ではかなり遠いのでな」

敷かれた鉄路の上に安置された、やや年季の入った貨車を指差す。
ドルヴェイクは懐中時計で時間を確認すると、今は正午を過ぎたあたりだった。
地上の日が暮れる頃には着くだろう、と言ってトロッコを操縦すべく乗り込む。
0312レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/22(火) 18:54:49.21ID:5DPKKwPx
メガリス地下王国という名称通り、かの国の主要な町は全て地下にある。
これはドワーフが古くから鉱業を営んでいるからであり、
蟻の巣のように拠点を増やした結果、自然と今の地下王国が形成されていったという。

首都の『地底都トロンハイム』もその例に漏れない。
王城を中心として同心円状に広がる町並みは猥雑に入り組んでおり、
領土内に広がる鉱山の数々から資源が一気に集まる中心地。

トロッコを降りて、細い道から出るとレインはまずその"明るさ"に驚いた。
暗い地下を照らすため、そこかしこに明かりが設置されているのだ。
それだけでは足りないのか、王城の頭上には魔法で創った疑似太陽が煌々と首都を照らしている。

そして次に。道から出た瞬間、多くの人――いや、ドワーフ達と目が合った。
降り注いだ視線は好奇の色をしていた。ドワーフの国なのだから当然だが、ここに住む多くの種族はドワーフだ。
人間などかえって珍しいのだろう。それは獣人であるマグリットや人間に近い見た目のクロムも同じだ。

「冒険者ギルドの支部へ行くとするかのう。ここらでは一番異種族に寛容じゃろう。
 諸々の用事は明日に回すとして、今日はもう休むとしよう……」

ドルヴェイクの案内で一同は冒険者ギルドの支部へと向かった。
世界中に存在するという触れ込みは伊達ではなく、こんな秘境にもギルドはあるらしい。
……もっとも、支部の酒場を運営しているのもドワーフで、後は獣人やハーフリングが多い。
人間はいないようだ。なんだか心細い気がしながらレインは支部に入っていく。

「あ、あなたは……!」

ドルヴェイクと共に支部に足を踏み入れると、ドワーフの冒険者達が驚きのあまり立ち上がる。
遅れて獣人やハーフリングがドワーフ達と共に盛大に出迎えてくれた。

「遂に帰還されたのですね、スローイン様!」

「なぜ日程を伝えてくれなかったのですか!驚きましたよ!」

「ということは彼らが『宇宙の梯子』攻略組……!?」

支部の一角に半ば強制的に座らされながら、レインはある事を思い出していた。
それはかつて、エイリークがドルヴェイクについて話していたことだ。
確か……『地元の大陸ではえらい有名らしい』とか、そんなことを言っていた。
この喧騒ぶりはそれが原因としか思えない。問題はなぜそんな有名なのかであるが……。
0313レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/22(火) 18:58:10.52ID:5DPKKwPx
「そういえば……まだ儂の身の上を伝えてなかったのう。
 これから先、何も知らぬままでは話が前に進むまい。いい加減話しておくとしよう」

席に座りながら、ドルヴェイクはふうと一息ついた。
クロムの剣の再生のため故郷まで着いてきたわけだが、その実彼のことをよく知らない。
分かっているのは腕っ節があって、鍛冶の技能があること、神代文字が読めるといった教養があるなど。
おおよそ冒険者としてのドルヴェイクの顔であって、故郷でどんな人物なのかは誰も知らない。

また、『海魔の遺跡』で各大陸の窮地を聞かされた時は、ドルヴェイクもその事を知っている様子だった。
身の上については、故郷に着くまでは秘密と言っていたが……いよいよそのベールが露になるのだ。

「まずドルヴェイクという名は、なんというか……あだ名でのう。
 ドワーフの異称である"ドヴェルグ"が訛ったものなのじゃ……」

「つまり……本名ではないのだな」

仮面の騎士が席の端から口を挟んだ。
ドルヴェイクは首肯しながら話を続ける。

「儂の本名はスローイン・シュレーゲル・メガリス。
 平たく言えばこの『メガリス地下王国』を統べる王の弟にあたる」

対面に位置していたレインは、ドルヴェイクの言葉を脳内で反芻した。
王の弟……王の弟。王の弟!?つまり――彼はドワーフの王族なのだ!
偽名を使っているとはいえ王族が冒険者をやってたらそりゃ有名になるだろう。
驚きの事実にレインはごくりと息を飲んだ。

「やんごとない身分ってことですか!?……えらいこっちゃ……」

「そ、そう驚くな。逆に儂が気にする。王族といっても儂は堅苦しい生き方が嫌いでな。
 若い頃から身分を隠しては、諸国を漫遊したり一介の鍛冶師として仕事をしたりしていた。
 ……一人イース大陸へ渡り"風月飛竜"を倒し得る人材を探していたのもその縁があってのことでな……」

これで全てに合点がいく。
教会と各国が大幹部討伐の勇者を選任していたことを知っていたのも。
ドルヴェイクが何を隠そう王族の一人だったからなのだ。

というより、彼の口ぶりからすれば"召喚の勇者"を選任したのは、
"聖歌"のアリアと他でもないドルヴェイク本人なのだろう。
0314レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/06/22(火) 18:59:34.30ID:5DPKKwPx
「まぁ、出自など気にせず、今まで通りドルヴェイクと呼んでくれ。
 儂もそっちの方が気が楽だし、いまさら王族らしい生き方をする気もないのでな」

王族が鍛冶の技術など持っているのか――と疑問視するかもしれないがそれは違う。
ドワーフは神話と呼べるほどのいにしえより鍛冶を得意としてきた。
メガリス地下王国を拓いたドワーフもまた鍛冶の技術に長けていたのである。
むしろその腕前は血統書つきと言えるだろう。

未だ製鉄技術が未発達だった神話の時代に、現代の武器はおろか、
黒妖石やミスリルにも劣らない硬度をもつ武器を生み出せる伝説の金属があった。

名を『神鉄オリハルコン』。生きた金属とも言われている。
打てば意思を持っているかのように武器の形となり、損壊しても自動修復する能力を持つ。
かの金属は神々の一柱、地神ティターナから賜ることでのみ手に入ったという。
ゆえに、神が地上にいない現代ではもう入手できない。

この金属を使った魔法武器や魔法防具の数々を作ったのが、
ドワーフの王族、つまりドルヴェイクの祖先と言われている。

そう。天空の聖弓"ストリボーグ"、清冽の槍"アクアヴィーラ"、紅炎の剣"スヴァローグ"。
縁とは奇妙なものでレインには知る由もないが、この三つもドルヴェイクの祖先が作った。
そして、彼がひた隠しにしている『四つ目の切り札』もまた――。

「明日にはクロム、儂の工房でお主の剣を脇差として再生させる。
 その間にトバルカイン王に謁見するとよかろう。
 『宇宙の梯子』について教えてくれるはずじゃ」

クロムの剣の修復も大事だが、今回は最終目標に打倒大幹部がある。
レインはまだ『宇宙の梯子』というダンジョンについての詳細を知らない。
ギルドの依頼書の説明を読む限りでは『すげぇでかい塔』という認識なのだが……。
どんな魔物がおり、どのような罠が仕掛けられているのか。一切知らない。

「なにせ、あれの建造には……我々ドワーフが関わっておるからのう。
 本来は魔族に対抗するため造ったのじゃが、よもや乗っ取られてしまうとは」

ドルヴェイクは今までにないほど深刻そうな表情をしていた。
だが、すぐに顔をいつもの頼もしいものに戻して、こう付け足した。

「……まぁ、お主らと仮面の騎士がおれば大丈夫じゃろうて。
 ここまでの長旅を付き合った仲じゃ。実力はよく理解しておるのでな」


【ドルヴェイクの故郷、『メガリス地下王国』に到着する】
【ワイバーン撃破の様子についてはすみませんがお任せします】
0315クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/06/27(日) 19:12:58.02ID:kie4omnS
──目には見えない疾風の矢に翼を貫かれ、一匹、また一匹と墜落していくワイバーン。
中には攻撃の気配を鋭く感じ取ったか、それを紙一重で躱す個体も何匹か存在したが──

「悪あがきはよせよ」

それらの個体の頭上にはクロム。
マグリットの幻術にかけられながら、視認不可能なレインの横槍を察知して見せたのはなるほど驚くべき危機察知能力である。
しかし、不意の矢を回避する際も、クロムやマグリットに意識を残しておくという徹底した注意深さは流石のワイバーンにもなかったと見える。
あるいはそれも幻術により感覚器官を狂わされ、位置を誤認していた結果であったのかもしれない。
でなければ既に潰されていた回避先に飛ぶ等という愚行に及ぶ筈がないのだから。

「大人しく沈んどけ──って!」

勢いよく振り下ろされた重さ数百キロの凶器が鱗ごとその下の頭蓋を圧砕し、瞬時に命を断つ。
が、これだけでは終わらない。クロムは死骸と化した個体が墜落するより先に、その体を蹴って素早く真横に移動。
そこに滞空していた別の個体の横っ面を思いっきりぶっ叩いた。
いや、破壊したと言った方が正しい。牙を粉砕し、顎をかつてない方向へひしゃげさせたのだ。

──足場にクロムが着地した時、空中には未だ飛び続けているワイバーンは一匹も残っていなかった。
クロムと時同じくして、恐らくマグリットが残りのワイバーンを掃除していたのだろう。
何はともあれこれで障害は取り除かれた。後は面倒な魔物の第二波がないことを祈りつつ、底に着くのを待つのみだ。

────。

祈りが通じたのか、結局のところ第二波はないまま気球は谷底に到着した。
そして一行はドルヴェイクが案内した隠し通路の中へ。
『ゴルトゲルプ大坑道』の看板が立てかけられていたそこでは、トロッコが開通していた。
どうやら地下は蟻の巣の様に長く複雑な坑道が張り巡らされているらしい。地下王国とはよくいったものだ。

トロッコにしばらく揺られていると、やがて巨大な地下都市に辿り着いた。
ドルヴェイク曰く、名は『トロンハイム』。王国の首都だという。
クロムは目線を上に向けながら己の額に手をかざす。“それ”を直視するにはあまりに眩しいからだ。

(あれは“疑似太陽”……。ダゴンの遺跡のように、領内から魔力を少しずつ集めて創り出しているのか……?
 いずれにしても地下が太陽に照らされる光景を目にすることになるとは……この国、相当高度な文明を持ってるぜ)

と、しばし進行方向とは違う方向をぼんやりと眺めながらも足はしっかと前を行くドルヴェイクの後をついていく。
ふと我に返って目線を元の位置に戻した時には、既に目の前には冒険者ギルドの入口が迫っていた。
0316クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/06/27(日) 19:19:42.09ID:kie4omnS
>「あ、あなたは……!」

中に入ると周囲から驚きの声があがり、途端に何故だかドルヴェイクがあっという間に大勢の人々に囲まれていく。
亜人のいない人間の町であればいざ知らず、ドワーフの国でまさがドワーフが珍しいというわけでもないだろう。
しかし考え込む必要はまるでなかった。理由は直ぐに彼らが口々に発する言葉から察することができたのである。

──『スローイン“様”』。彼らはドルヴェイクをそう呼んだのだ。

(そういえばエイリークが地元じゃ有名とか言ってたな。どうやら悪い意味で有名というわけではなさそうだが……)

クロムは彼の正体を無難に有名職人集団の長老格だろうと読んだが、真実はその権威を遥かに上回っていた。
ドルヴェイクの本名は『スローイン・シュレーゲル・メガリス』。
何とこのメガリス地下王国を統治する王の弟──つまりは王族だったのである。
それを聞いてただ純粋に驚いた様子で固まるレインの後ろで、クロムは小さく舌打ちしてパチン、と指を鳴らした。

「オークションのあのドラゴン殺しの剣、買っときゃよかったな。なんせ王族だ、多分5000万でも1億でも払ってくれただろうし。
 チッ、趣味じゃねーとかカッコつけるんじゃなかったぜ。偽物でも本物でもどっちに転んでも俺達に損はなかったんだからよ」

そして、隣のマグリットに小声でせこい愚痴を零すのであった。

────。

一通り話を聞いた後、クロムは己の腰に差さっている切っ先の無い剣を鞘ごと取り出してドルヴェイクに投げ渡した。

「明日か。じゃあ今の内に預けとくよ。どうせ持ってたって俺にはどうしようもねぇしな。鞘も脇差用に打ち直しておいてくれ」

続いてレインとマグリット、仮面の騎士を順に見ると、最後に窓から見える王宮を見やった。

「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
 いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

【マグリットの幻術+レインの風の矢から生き残ったワイバーン二体を撃破】
【ドルヴェイクに剣を鞘ごと預ける】
0317マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/07/02(金) 20:03:56.89ID:yxjLQ0cN
襲撃をかけてきたワイバーンたちも今や肉団子状態
その脅威である高速飛翔が幻惑により封じられたところに、レインが無数の風の矢を放つ
着弾に合わせ確実にとどめを刺すべくしてマグリットも動いた

翼を貫かれ落ちていくワイバーンの多い中、矢を受けても何とか持ちこたえる個体や恐るべき危機回避能力で矢を避け飛び去ろうとする個体がいる
しかしその逃走経路を塞ぐように既にクロムが回り込んでいるのだが、それを見ながらマグリットは少々不満顔だった

「ふーむ、やはりこう開けた空だと効果は薄いですかー」

幻惑物質を散布し相手を虜にする能力は、静寂で空気の動きの緩やかな森や室内でこそその真価を発揮するもの
開けて風もある空中ではやはり効果も半減という所だろう
マグリットの思考は常にこの先の風月飛竜との戦いに向いており、それはこれから振るわれるシャコガイメイスにも言える事であった

手負いのワイバーンの背中に叩き込まれるシャコガイメイス
その柄に伝わる感触と間近に見るその姿を無数に出現させた目で見ていた

「ふむふむ、竜族の鱗を近くではっきり見たのは初めてですが、トカゲや蛇の鱗ではなく魚の鱗に近いですね
硬く滑らかで歯を滑らし衝撃を分散させる、更にその内にはしなやかな筋肉があり、柔軟性も保つ
亜種のワイバーンでこれですから、さてさて、頭が痛くなりますねえ」

ワイバーンを叩き落としながらため息をついたころには、クロムが軽業師よろしく倒したワイバーンの体を足場にして次へ行くという技を見せ、殲滅し終えていたのだった

#############################

ワイバーンの襲撃を退けた一行は、その後襲撃を受ける事なく無事にその最下部へとたどり着くことができた
見上げれば降りてきた場所は霞んでもう見えなくなっており、頼りない籠一つで良くここまで降りてこられたと安堵の息を漏らすのであった

そこから通されたのはゴルトゲルブ大坑道
トロッコに乗り進んだ先はドルヴェイクの故郷であるメガリス地下王国は地底都トロンハイムであった

地底世界には驚かされる事ばかりであったが、その住人たちから熱烈な歓迎を受けるドルヴェイクの正体がメガリス地下王国国王の弟スローインであった事だった

「えええ?ドルヴェイクさん、いや、スローイン様、王弟様だったのですか?」

>「そ、そう驚くな。逆に儂が気にする。王族といっても儂は堅苦しい生き方が嫌いでな。

驚くマグリットにドルヴェイクは気さくに応えるが、一応とはいえ組織人であるマグリットの衝撃を簡単に溶けるものではない

「いやいや、王位継承権を持たれるお方が単独で他大陸に赴いたり、サイクロプスと戦ったりしてはいけませんよ!」

>「オークションのあのドラゴン殺しの剣、買っときゃよかったな。なんせ王族だ、多分5000万でも1億でも払ってくれただろうし。
> チッ、趣味じゃねーとかカッコつけるんじゃなかったぜ。偽物でも本物でもどっちに転んでも俺達に損はなかったんだからよ」

慌てるマグリットだったが、その隣でそんな権威どこ風吹くと言わんばかりのクロムのつぶやきに思わず吹き出してしまう

「もう、そんなこと言って
その金棒買っていなかったら、サイクロプスに剣ごと叩き潰されていたかもしれないんですよ」

勿論クロムが剣を手にすれば剣の戦い方をするだろうし、まともに刀身で受ける事はあり得ない
というのは判っていながら、軽口で返してしまう程度にはマグリットの衝撃を和らげる言葉であった

そのおかげもあって、今まで道理ドルヴェイクと呼んでくれという言葉に、了承の意を伝える事が出来たのだった
0318マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/07/02(金) 20:05:11.04ID:yxjLQ0cN
翌日トバルカイン王との謁見が予定されており、そこで様々な話が聞けるという事になったが、その前に何気ない一言がマグリットに新たな衝撃を与えていた

>「なにせ、あれの建造には……我々ドワーフが関わっておるからのう。
> 本来は魔族に対抗するため造ったのじゃが、よもや乗っ取られてしまうとは」

この言葉が意味する事を理解したからだ

マグリットの故郷は海底にあり、その中で水棲獣人とはいえ居住区を設けるという事がどういう事かはよくわかっている
貝の獣人たちは群体生物の巨大クラゲをつかい、その発光期間を利用していた
だが、ドワーフたちはこの地底王国の空気を循環させ、崩落を防ぐ掘削計画を立て、広大な地下空間を照らす人工太陽を作り出し管理維持している
技術力については貝の獣人たちの比ではない

そんなドワーフたちが魔族に対抗するという目的をもって建造したものが魔族に攻略されたのだ
これから戦う風月飛竜とそれが率いる魔族の強さを察し、戦慄するのであった

>「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
> いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

>「ふふふ、地熱を利用した温泉があるでの、そこで疲れを癒すと良いぞ」

そんなやり取りをするクロムとドルヴェイク、そしてレインに意を決して声をかける

「皆さん、これはあまりやりたくなかったのですが、ここから先の戦いではそうも言ってられなそうですので……」

そう言いながら、マグリットが三人に小さな巻貝の貝殻を三つずつ渡した
中には赤黒い丸薬が大中小一つ入っている

「この丸薬を一日に一つ、小さいものから順に飲んでいってもらえませんか?
私の血は濃縮された毒であり、それを利用した戦いもします
ただ、その毒は皆さんも蝕む危険もありますので、それを飲んでいただければ抗体ができ、私の血を浴びようとも害される事はなくなりますから」

出来れば王位継承権を持つドルヴェイクにはこんなもの服用してほしくはないが、もしこれ以降も同行するのであれば、と注釈をつけておく
ここからの戦いがどういったものになるか、そういう戦いを想定しているか、マグリットの覚悟の現れであった

「ご了承いただけましたら、明日に備え英気を養うためにも温泉につかりましょうか」

覚悟を決めた顔からふと表情をやわらげ、いつもの柔和な笑みを浮かべながら温泉への案内を催促するのであった


【ドルヴェイクの出自に驚き】
【ドワーフの文明レベルの高さに驚き】
【その技術で作られた宇宙の梯子を攻略した、魔族に驚き】
【自分の毒血への抗体を仲間が持つように丸薬を渡す】
0319レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:26:01.67ID:L4LL/AP0
>「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
> いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

クロムはドルヴェイクに黒剣を投げ渡してそう言った。
大衆浴場くらいならありそうだが、ドルヴェイクは得意げにこう返した。

>「ふふふ、地熱を利用した温泉があるでの、そこで疲れを癒すと良いぞ」

「温泉ですかぁ〜。いいですね。あ……師匠は大丈夫ですか?
 仮面を脱ぐことになると思いますけど……」

「このトロンハイムには温泉がいくつも湧いとるから、
 人の少ないところを選べば素顔のことは問題なかろう」

ドルヴェイクがレインにすかさずそう返した。
そうして呑気に風呂の話をしていると、
マグリットが意を決したように口を開く。

>「皆さん、これはあまりやりたくなかったのですが、ここから先の戦いではそうも言ってられなそうですので……」

そして手渡されたのは小さな貝殻だった。中には丸薬が三つ。
レインはそれを指で摘まんでしげしげと眺めた。

>「この丸薬を一日に一つ、小さいものから順に飲んでいってもらえませんか?
>私の血は濃縮された毒であり、それを利用した戦いもします
>ただ、その毒は皆さんも蝕む危険もありますので、それを飲んでいただければ抗体ができ、私の血を浴びようとも害される事はなくなりますから」

「毒の血液……か。なるほどのう。承知した、今日から飲んでおくとしよう。
 『宇宙の梯子』への案内役は儂をおいて他にはおらんだろうしのう」

ドルヴェイクは渡されたそれを持ったまま頷く。
出自には驚かされたが、彼はこの長旅で一緒に戦ってきた仲間だ。
迷いなくドルヴェイクに渡すというのは信頼されている証でもある。

だがレインは"風月飛竜"との戦いにドルヴェイクを巻き込むわけにはいかない、と考えていた。
その出自が王族である以上、国王や臣下のドワーフ達も絶対に止めるはず。
それを理解しているから本人も『案内役』と言ったのだろう。
0320レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:27:28.50ID:L4LL/AP0
温泉へと向かうべく冒険者ギルドを出ると、何故か武装したドワーフ達に囲まれた。
どうやら王城の衛兵らしい。隊長にあたるドワーフがずかずかと前へと出てくる。

「トバルカイン王の命令により参りました。
 スローイン様および勇者の一行を城へ案内するように仰せつかっております」

「むうっ……帰って来たのがもうバレたのか。王は手を回すのが早いのう。
 まぁよい、城にも温泉はある。貸し切りだと思えば悪くはないか」

有無を言わさず衛兵たちに連れられて金と白で彩られた豪奢な王城へと入っていく。
するとこれまた召使いらしきドワーフが現れ、恭しく頭を下げた。

「"召喚の勇者"御一行様ですね?お話は伺っております。
 お部屋まで案内致しましょう。明日には国王がお会いになるとの事ですので……。
 今日はゆっくりなさって旅の疲れを癒してください」

冷静に考えれば、今回の依頼はひとつの大陸を救うというもの。
やることはいつものダンジョン攻略とそう変わらないが……話のスケールが違い過ぎる。
国や教会が絡んでいるのだから少しくらい歓待を受けたっていいのかもしれない。

そして一同は召使いに客人用の部屋まで案内された。
一人一人に個室が与えられ、部屋には豪華な調度品が置いてある。
レインは何気なくソファに腰かけると、その柔らかくも心地よいフィット感に驚いた。

(いくらするんだこれ……いけないな、眠くなりそうだ)

だが睡魔が眠りに誘うより早くドルヴェイクが部屋にやって来た。
話していたとおり王城の温泉へ連れて行ってくれるらしい。
レインは剣やら旅の道具やらを外すと部屋を飛び出していく。

王城の一角にある温泉までやって来ると、中は貸し切り状態だ。
湯けむりが漂っており、薄壁の向こうは女湯になっているようだった。
0321レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:29:12.24ID:L4LL/AP0
温泉に浸かっているとアルスがやって来た。
入浴中なのだから当然だが、服はもちろん仮面も外している。
精霊のような存在だと本人は言うが、引き締まった肉体がそう感じさせない。
数えきれない戦いを潜り抜けてきた歴戦の強者……そんな感じだ。

「何か悩みがあるようだな、レイン。君はいつも心に迷いを抱えている。
 自分がなぜ戦うのか。正しいのか……それとも間違っているのか。違うか?」

迷い、と言われてどう返答すべきか逡巡した。
レインはこれまで死んだ友との約束を果たすため、魔王討伐のためひた走ってきた。
どちらかが死んだら代わりに魔王を倒す。その約束がレイン最大の原動力だった。

各地を巡って魔王を倒し得る武器を集め、二人の欠かせない仲間もできた。
真の勇者とも言える仮面の騎士と出会い、修行もした。
だがそれは結局のところ復讐がしたいだけなのかもしれない。

復讐は勇者としての在り方に反するものだと思う。
傷つく人のために悪と戦い、勇気を持って進む者ではない。
だが……無二の親友だったアシェルが死んだと聞いたとき、悲しみ以上にこう思った。
魔王を許せないと。レインは確かに怒りと憎しみを宿していた。

もちろん、最初からそうだったわけではない。
勇者になった頃はただ純粋に世界を守りたかった……。
この美しい世界を。大切な人がいる世界を。ただ守りたいと思った。

今はもうどっちなんだか分からない。
復讐がしたいだけなのか、あの頃と同じままなのか。
この事になるといつもそうだ。深い霧に迷ったように答えが出ない。
思考の迷路から抜け出せずに時間だけが流れていく。

「今は無理に考える必要はない。魔王に会えば答えは出る。
 なぜ戦い続けるのか……君が戦う本当の『理由』が」

「それでいいんでしょうか?
 俺は勇者失格なのかもしれないのに」

「いいんだ。喜び、楽しみ、怒り、悲しみ……勇者だって持ってる当然のものだ。
 君の気持ちは間違いなんかじゃない。その日が来た時、全ての想いを魔王にぶつけてやればいい」

この時、その日が遠くないことをレインは知る由もなかった。
0322レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:32:44.44ID:L4LL/AP0
次の日。
召使いのドワーフに案内されて、一同は玉座の間へと行くことになった。
ドルヴェイクはクロムの剣を打ち直すためかその場には不在。
仮面の騎士は正体について言及されると面倒なので早朝には城を去った。
よって残りの三人が集められ、謁見の時間になるまで待つことに。

「なんだか落ち着かないなぁ……王様に謁見するなんて勇者になって以来だし。
 片膝を立てて頭を低くするだけでいいよね……会話になったらどうしよう」

えらく小奇麗な旅人の服(わざわざ予備の新品を着た)を纏い、レインは緊張を露にした。
召使いはニコニコ笑って「フランクな方ですから普段通りでよろしいですよ」と言ってくれた。
とはいえレインの緊張は解けない。なにせ王直々に話をするというのだから。

「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
 クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

そうこうしている内に謁見の時間だ。
玉座の間に通されて王の顔が遠巻きに見えた瞬間、もう完全に固まってしまっていた。
召使いに通されると、レインはなんとか基本的儀礼に沿って片膝を立てて頭を下げた。

「わ、私は"召喚の勇者"レインと申します。
 こっこの度は謁見の機会をくださりまことに感謝いたします!」

トバルカイン王は齢65歳に達しており、老齢の域だが壮健で優しさを帯びている。
顔立ちもドルヴェイクとどこか似ている気がする。
周囲にはドワーフの近衛兵たちが物々しく立っており警備は厳重だ。

「お主たちが"召喚の勇者"一行か。話は弟から聞いている。
 頭を上げて楽になるとよい。サウスマナに存在する各国を代表して、
 宇宙の梯子について話をさせてもらおう」

「あ、ありがとうございます。その……単刀直入に伺います。
 『宇宙の梯子』とはどのような施設なのでしょうか?
 十全に理解できているか不安なもので……」
0323レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:35:12.15ID:L4LL/AP0
レインの問いに軽く頷くとトバルカイン王は静かに口を開く。

「うむ。そのために確認だが、召喚の勇者殿は宇宙についてどこまで御存知かな?
 後ろの二人も。クロム殿とマグリット殿でよかったかな」

レインは頭を掻きたくなった。
くそぉ……こんなことならもっと勉強しておけば良かった。
だが未だに天動説と地動説で意見が割れているサマリア王国で育ったレインだ。
どちらにせよ宇宙について大した知識はない。

「そ、その……星々のある場所が宇宙というくらいしか。
 太陽、月、星座……それにこの世界(アースギア)も。全て宇宙にあると」

歯切れ悪く返答したレインには、玉座の間の静寂がひどく刺さった。
何でもいいから早く誰か何か言ってくれ……と心の中で歯噛みした。

「うむ……まぁその程度でよいだろう。私も学者ではない。
 空の果て、全ての星々がたゆたう空気無き場所、それが宇宙。
 『宇宙の梯子』はその名の通り、宇宙まで伸びている巨大な塔なのだ」

トバルカイン王は正確には軌道エレベーターと言う、とつけ加えた。
エレベーター。たしか人力や魔法の力で上下する昇降機のことか、と思った。
サマリア王国ではあまり見かけないがサウスマナ大陸では珍しくないのだろうか。

「魔族に対抗するため建造されたとドルヴェイク……失礼、スローイン様から伺いましたが……。
 その塔でどのようにして迎撃するのですか?私にはどうにも想像がつきません」

レインの疑問はもっともだ。
トバルカイン王は問いに対しうむと口を開く。

「梯子の先端は人工衛星と接続されている。その衛星は巨大な『魔導砲』でもあるのだ。
 大陸全土から少しずつ魔力を吸い上げ砲のエネルギーとし、その威力は一国をも焦土にする。
 魔族の軍勢すら手が届かぬ場所から一方的に攻撃できるのだ……理想的な迎撃システムであろう」

――魔族に手にさえ堕ちなければ。
そんな凶悪な兵器が魔王軍のものになったということか。
確かに、サウスマナに存在する国全てが喉元に刃を突き立てられたようなものだ。
0324レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:38:56.24ID:L4LL/AP0
「おとぎ話にもあるように、勇者が魔王を討ったことであれの役割はとっくに終わっていた。
 以降は我らの祖先が封印し厳重に守っていたのだが……よもや占拠されてしまうとは。
 皮肉なものだ。過ぎたる力は持つものではないのかもしれないな」

トバルカイン王は自嘲気味にそう言うと、話を続ける。
いま、『宇宙の梯子』は"風月飛竜"配下の魔物の棲家となっている。
ワイバーンをはじめとする竜種が梯子を守り、人を一切寄せつけない。

梯子までの道程は険しい。地上の道なき道を進んでは数か月を要するだろう。
だがドワーフの『ゴルトゲルプ大坑道』を利用すればそう日数はかからないはずだ。
 
「占拠されてから約半年……衛星砲はもう何度も使用されており、既に幾つかのサウスマナの国が滅んでいる。
 改めて頼もう。"召喚の勇者"一行、お主たちには『宇宙の梯子』を奪還してもらいたい」

「お任せください。必ずや"風月飛竜"の手から奪還してみせます!」

こうしてトバルカイン王との謁見は終了し、レイン達は玉座の間から去った。
そこからさらに一週間ほど一行は王城に滞在することになった。
クロムの剣を打ち直すのに時間を要したためである。
そして来るべき出立の日――。

「待たせたのうクロム。これが生まれ変わったお主の剣じゃ」

ドルヴェイクは高級そうな布地に包まれたそれをクロムに手渡す。
包みを開けば、そこには黒鞘に収められた小刀があるはずだ。

こうして出発の準備は整った。
奪還作戦のメンバーはレイン、クロム、マグリット、仮面の騎士。
案内役にはドルヴェイクと彼を守る二名の護衛という構成となっている。

ドルヴェイク達の案内で大坑道を進んだ先には辺り一面に森が広がっていた。
この森を抜けた先に『宇宙の梯子』があるというわけだ。
だが、梯子が占拠されて以来森には魔族が棲みついている。
おそらくは梯子を守る"風月飛竜"の部下だろう。
0325レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:41:49.20ID:L4LL/AP0
ドワーフ達に導かれるまま進んだ先にその魔族はいた。
まるで冒険者たちの行く手を阻むように、多数の魔物を従えて。

「おーっほっほっほっほ!あなた達、ここから先は通しませんことよ!
 ここから先は魔王軍の領土!他の種族は帰りやがれでございますわぁ!!」

禍々しい黄色の体躯に、飛翔するための羽根。一撃で生命を断つ鋭い毒針。
――『蜂』だ。人間の顔に蜂のような身体をもつ『蜂の魔族』だ。
扇子で口元を隠しながら蜂の魔族は高らかに名乗りを上げた。

「私は魔蜂の女王キュベレー!"風月飛竜"シェーンバイン様いちの部下ですわっ!
 どうぞお見知りおきを!もっともすぐに死んでしまうでしょうけどねぇ!!」

キュベレーの周囲で羽音を響かせているのは『蜂の魔物』だ。その名も魔蜂デスホーネット。
体長は約30センチほどと小型だが、数が多いうえに強力な毒をもつ魔物である。

毒属性か、とレインは思った。マイナーだが木属性には有利に働く属性だ。
弱点は地属性とされている。だが、運のいいことに相手は昆虫系の魔物。
炎系の攻撃も嫌がるはず。ならば『紅炎の剣士』で十分――と分析した。

「毒属性が風の大幹部の部下なのは……なんだか釈然としないけど。
 魔王軍の組織表には興味ない。押し通らせてもらうぞ、魔蜂の女王っ!」

何気なくそう言って『召喚変身』しようとした瞬間、
キュベレーが烈火の如く怒り始めた。

「冒険者風情が痛いところ突くんじゃありませんわーーーーっっ!!!!
 仮面の騎士とかいう変な奴に上司をぶっ殺されたせいでこうなってるんですのよっ!!
 まぁぜーんぜんいいですけど!シェーンバイン様の方が元上司よりイケメンですものおほほほほっ!」

そこでキュベレーはハッとした顔で仮面の騎士を見た。
目を擦り、細めて凝視する……そしてようやく気付いたらしい。
彼こそが魔蜂の女王の上司にあたる魔族を殺した、あの仮面の騎士なのだと。

「ま、まままままさか……貴方は仮面の騎士……ですの!?
 私の上司含め、大幹部四名を倒した危険人物!なぜこんなところに!」
0326レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/04(日) 20:45:09.97ID:L4LL/AP0
動揺するキュベレーをよそに仮面の騎士は平静を崩さずこう返した。

「"腐毒公爵"グリマルディの元部下か。下衆だが強敵だった。
 マグリット以外は気をつけろ。連中の武器は毒……掠り傷が致命傷になる」

仮面の騎士は鞘からサーベルを抜いて戦闘態勢に入る。
キュベレーもようやく落ち着いたらしく再びかん高い笑い声を響かせた。

「おーっほっほっほっほ!冷静に考えてみたらカモネギですわ!
 手柄を上げれば大幹部就任間違いなし!顎で使われることもありませんのよー!」

扇子をばっ、と開いて仮面の騎士達に差し向ける。
すると周囲にいた無数のデスホーネットが殺到する。
魔蜂たちは数を活かして全員を取り囲むように襲い掛かる!

「召喚変身、"紅炎の剣士"!!」

レインは赤い民族衣装の姿へと変えるとスヴァローグを抜き放つ。
魔力を込めて炎を滾らせると、空間を斬り、炎を放って障壁を生み出す。
二度、三度、剣を振るい続け、皆を守るための『壁』を作る。
だがデスホーネット達は止まらない。構わず炎に突っ込んできたのだ。

「なっ……燃えるのが怖くないのか!?」

「おほほ、火力が足りないんじゃありませんこと?
 私が産み出した魔物は死をも恐れぬ兵隊ですのよぉ!?」

デスホーネットは炎に焼かれ、燃え盛りながらも突撃してくる。
炎の壁がかえって面倒な状況を生んでしまった。

「ごめん、皆避けてくれ!」

炎を纏ったスヴァローグを片手で回転させ、魔蜂を斬り払いながら叫んだ。
ドルヴェイク達や仮面の騎士もまたデスホーネットを躱しながら後退する。
そうはさせじと追撃を仕掛けるべくキュベレーはパチンと指を鳴らした。

すると森の奥から二足歩行の蜂型魔物が三体姿を現す。
全長三メートル。巨人の膂力を併せ持つ怪物・ギガントワスプである。
両腕には蜂らしく杭のような毒針を持ち、突き刺す事で毒を流し込める。
ギガントワスプもまた炎の壁をものともせず、そのまま突っ込んでくる。

「おーっほっほっほ。エンチャントファイアですわぁ!」

「そんなに燃えたいのか。今度は跡形もなく焼却してやる……!」

レインは苛立たし気にそう言い放って、炎上するギガントワスプの前に立ち阻む。
燃え盛る巨人型の蜂はそれぞれvsクロム、vsマグリット、vsレインの恰好となった。


【『宇宙の梯子』付近の森まで到着。梯子を守る魔族キュベレーと遭遇】
【死を恐れぬ巨人型の蜂魔物『ギガントワスプ』とそれぞれ戦闘になる】
0327クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/07/11(日) 18:51:12.84ID:qpQET7wo
ドルヴェイクに案内された王城の温泉──そこの広々とした脱衣所にて、クロムは大急ぎで服を着こんでいた。
レイン達と時同じくして温泉に浸かったのだが、その湯加減の余りの心地よさからか急激な眠気に襲われて寝入ってしまい、
気が付けば誰も居ない湯舟の中で一人のぼせて溺れかけるという有様だったため、慌てて出てきたのである。

「極楽極楽……っと思っていたら、本当にあの世に行くところだったぜ。こんなところで溺れ死んだら洒落にもならねぇ」

服のポケットに手を入れると、指先にコツン、と小さく硬いものが当たる。
マグリットから貰った三つの丸薬が入った貝殻だ。
実は中身は既に数が一つ減っている。それは、入浴前に特に何も考えずに飲んでいたからなのだが……

(……中身は抗体を作る為の毒とか言ってたな。まさかそのせいで急激な眠気が来たんじゃねぇだろうな?)

などと、思わず考えてしまうクロム。
もっとも、真実かどうかは定かではないし、仮にそうであったとしても副作用がその程度であれば特に気にするに値しない。
だから身支度を整えて脱衣所の出入り口を見据えた時には既に、頭にあったのは空腹を満たす夕食のメニューについてだけであった。

────。

翌日。
召使いに案内されて勇者一行は玉座の間へ。
王に会うということで気を使ったのか、明らかに新品の服を着て畏まるレインの姿がやけに目に付いた。
いや、客観的にはむしろ目立つのはクロムの方だったかもしれない。
いくら洗濯してあるとはいえ、平然と戦闘の痕が目立つ装束にゴツイ金棒を背負ういつものスタイルでいるのだから。

>「なんだか落ち着かないなぁ……王様に謁見するなんて勇者になって以来だし。
> 片膝を立てて頭を低くするだけでいいよね……会話になったらどうしよう」

「ん? 別にいいんじゃね? どーでも」

>「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
> クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

「お前も気が小さい奴だな。
 宮廷作法なんて宮廷の人間が使うもんなんだから、冒険者が作法を知らなくても問題はねーよ。大目に見て貰えるさ」

そんな良くも悪くもぶっきらぼうで大雑把な男だから、アドバイスを求められてもこの通りである。
召使のニコニコ顔が、若干、失笑気味の色に変わったように見えるのは、果たして気のせいだろうか。

さて、そんなやり取りをしていると、いよいよ地下王国の王・トバルカインとの謁見の時間がやって来た。
ドルヴェイクの兄ということだから、年齢にして恐らく60〜70代といったところだと思うが……流石にドワーフか。
肉体の見た目は人間の同世代のそれと比較すると遥かに屈強そうに見えるのは、気のせいではあるまい。

しかし、クロムが驚いたのは王の肉体などではなく、王が話す『宇宙の梯子』の正体についてであった。

空を遥か高く越え、宇宙にまで伸びた巨大な塔──『宇宙の梯子』。
その先端は大陸全土から魔力を吸い上げ、それを破壊エネルギーに変えて地上に放つ人工衛星──『魔導砲』と接続されているという。
その威力は極めて絶大で一国を焦土にするほどで、実際に既にサウスマナの幾つかの国が消滅したのだとか。

(つまり……巨大な“魔光弾”を放つ装置がその衛星というわけか……?)

魔光弾──。
超常的存在に呪文で干渉して魔力を変換するのではなく、魔力そのものを押し固めた光弾を体外に射出して目標物を貫徹する。
多量の魔力を内在する高位の魔法使いなどが好んで使う技である。
0328クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/07/11(日) 18:56:00.38ID:qpQET7wo
しかし、一国を瞬時に滅ぼすほどの巨大な魔光弾という想像を超えたものなど当然ながらクロムは目にしたことはない。
できればそんなものは永久に目にしたくないものである……が

(なんでそんな物騒なものをいつまでも解体せずに“封印”で済ませていたのか……。
 解体する技術も失われていたのか? 万が一の事を考えて、切り札用に取っておいただけか……?)

召喚勇者一行がこの国に呼ばれたのは『宇宙の梯子』の奪還の為である。
つまり、戦いで下手を打てば正に目の前で見ることになるかもしれないのだ。想像を絶する悪夢の光景を。

>「お任せください。必ずや"風月飛竜"の手から奪還してみせます!」

レインの言葉に合わせて、クロムは王に一礼して踵を返し、頭を掻きながら溜息交じりに呟く。

「一撃で一都市を破壊できる兵器。責任は重大。失敗は許されねぇ、か……。
 たまんねぇなぁ。ドワーフの先祖ってのもとんでもない遺物を残していきやがったもんだ」

────。

その後、勇者一行は一週間王城に滞在する事になった。
剣の打ち直しの為にそれだけの日数が必要だったからであるが、足止めを食らうというのも時には悪くない。
その期間を普段は取れない休養にあてる事ができるし、何より毒の抗体を作っておくという意味でも好都合だったからだ。

「久々にいい休みが取れた。お前の丸薬、きちんと全部飲んどいたから安心しろよな」

出発の集合場所にてクロムはまずマグリットにそう言い、続いて「それはそうと──」とドルヴェイクに視線を向けた。
それだけで何を言いたいのか察したか、ドルヴェイクは布に包まれた何かを差し出した。

>「待たせたのうクロム。これが生まれ変わったお主の剣じゃ」

布を取ると、中は予想していた通り短い黒鞘に納まった一振りの小剣。
柄に手を掛け、鞘から刀身を引き抜き、人口太陽の光を受けて黒光りする刃を、切っ先から根元まで軽くなでてみる。
瞬間、クロムは思わず顔をほころばせた。

「……ドルヴェイクの爺さんよ」

長年使い続けて何もかも知り尽くした愛刀である。
指先に伝わる微かな感触だけで、ドルヴェイクがどれだけの仕事をしてくれたのかをクロムは把握したのだ。

「いい仕事するじゃん。あんた、予想以上だよ。これ、『ドルヴェイクの小剣』とでも名付けることにするぜ」

「ふっふっふ。それは光栄じゃの」

「ん……? 今気づいたが、剣と一緒に布に包まれてるこれは……?」

そう言って布の中からクロムが取り出したのは、小さな★型の硬く平たい二枚の金属。

「脇差用に鞘を短く打ち直したじゃろ。その際に出た余った部分を使ってのう、“手裏剣”を作ってみたんじゃよ。
 なんせ希少な金属じゃ。捨てるのも勿体ないんでの」

「……魔力を込めると切れ味が増す手裏剣ってわけだ。ついでにしちゃ気が利いてるな。ありがたく貰っとこう」

ドルヴェイクとその護衛、仮面の騎士、レイン、マグリット、クロムが揃い、そして装備も揃った。かくして全ての準備は整ったのだ。
となれば──後は『宇宙の梯子』に向けて出発するのみである。
クロムが手裏剣を懐に仕舞い、剣を腰に差すと、その時をまるで待っていたようにドルヴェイクが言った。

「では、出発するとしよう」

────。
 
0329クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/07/11(日) 19:03:16.38ID:qpQET7wo
『ゴルトゲルプ大坑道』を利用してやがて辿り着いた場所は森だった。
森を抜けた先に『宇宙の梯子』があるとのことだが、ドルヴェイクの話によると、森には魔族が棲みついているという。
しかもそれらは元々森に生息していたわけではなく、梯子が占拠されてより棲みつくようになったとのこと。
つまり──明らかに梯子に近付く侵入者を排除する目的で配備された兵隊だというわけだ。

(戦闘は避けられねぇだろうな……面倒臭ぇったらありゃしねぇ)

──などと、クロムが思った矢先だった。早くもその兵隊が現われたのは。

>「おーっほっほっほっほ!あなた達、ここから先は通しませんことよ!
> ここから先は魔王軍の領土!他の種族は帰りやがれでございますわぁ!!」

不快な羽音を引っ提げて、耳障りな甲高い高笑いとやけに鼻につく物言いをする蜂型魔族が空中から舞い降りたのである。
そいつは自ら風月飛竜の部下・魔蜂の女王キュベレーと名乗った。

(敵は一匹…………なわけねーか。“女王”だもんな)

ブーン、ブーン、とキュベレーの周りで羽音を響かせる無数の虫を見て、クロムは思わず眉を顰める。
ただの虫などではない。それらは全て魔物なのだ。これまた毒蜂型の──『デスホーネット』である。
キュベレーが手にした扇子を広げると、それを合図にデスホーネットの群が四方に素早く散開して一行を取り囲む。

「そりゃ数の上では優位だ。教科書通り包囲殲滅とくらぁな」

そしてレインが展開した炎の壁をものともせずに突き破り、針を突き立てんと猛然と接近して来る。
クロムは背中に回しかけた手を下ろして素早く腰の剣に掛けると、間近にまで迫ったデスホーネットに向けて抜刀。
奔らせた剣閃によって瞬時に数匹を斬り捨てた。
小剣というのものは刀身が短い故に間合いが小さいが、小回りが利くのでより素早く複雑な軌跡を描く斬撃を繰り出すことができるのだ。

>「ごめん、皆避けてくれ!」

とはいえ、小剣一本で撃退し続けられるほど敵の数は少なくない。
死をも恐れず向かってくる魔蜂を切り落としながら、クロムも仮面の騎士達の行動に合わせて後退を開始する。
しかし、それもどうやら敵のシナリオの内だったらしい。
キュベレーのフィンガースナップを合図に、背後の森から新たな魔物が出現したのだから。

『ギガントワスプ』。二足歩行の巨人型の魔蜂である。それも三匹。
その内の一匹と目が合ったクロムは、うんざりしたように息を零しつつ、剣を左手に持ち替え、フリーとなった右手で背中の金棒を握る。
目を左右に動かすとレインもマグリットもまたギガントワスプと対峙していた。
キュベレーの言葉の通り、魔物達が彼女によって産み出されているなら、本丸を落とさない限り魔物などいくらでも沸いて出ることになる。
勿論、産み出せる数は無限ではなく有限に違いないのだろうが……何にせよ魔物と戦わされるのは敵の術中というものだ。

「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
 さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

クロムは二人を見ながら言う。目の前の、今にも攻撃を仕掛けてきそうな巨蜂など気にもしていないように。
挑発と受け取って怒ったか、それとも単に隙だらけと見て襲いたくなったか、敵が毒針の腕を突き出して来たのはその直後だった。

──だが、毒針が届く事は無かった。
体に届くより先に、クロムの左剣が素早く毒針ごと腕を切断していたからだ。
そして、敵にはそれに対する悲鳴をあげる時間さえ無かった。

「──らぁっ!!」

極めて重い金棒の横一閃の一撃を頭部に許し、あっという間に首を引き千切られてしまったのだから。
司令塔を失って痙攣し、やがてフラフラと倒れ伏していく巨蜂を一瞥する事なく、クロムはくるりと体ごと振り返る。
見据えるは、敵の本丸こと女王蜂である。

【『ドルヴェイクの小剣』と『ドルヴェイクの手裏剣』を手に入れる。丸薬によって毒の抗体有】
【デスホーネット数匹+ギガントワスプ一匹撃破】
0330マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/07/14(水) 19:28:12.66ID:TkiynQs6
玉座の間に案内されたマグリットは礼装用の法衣に身を包み、外交儀礼に則った立ち振る舞いで進んでいた

大元は未開の地に神の教えを広める宣教師で儀典とは程遠い身ではあるが、それでも教会組織に属しているのだ
一通りの再訪は叩き込まれていた、が、他の二人はそうでもないようで

>「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
> クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

レインの言葉に耳を傾けつつも、視線は玉座から外さず、表情も変えずに二人にだけ聞こえる程度の音量で応える

「ご安心ください、私たちは助けを請われて招かれた立場です
必要以上にかしこまって平伏する必要はありません
片膝をつき膝拙く程度で十分かと」


>「ん? 別にいいんじゃね? どーでも」

安心させるように語り掛けたのだが、それを拡大解釈どころか相変わらずの自由過ぎるクロムの言葉に思わずマグリットの頬がひきつる

「かといって相手は王族、対等な立場ではありません
王としての威厳や面子もありますので、そこを外すとあっという間に拗れるので注意は必要ですよ」

今回の謁見に際して、特に身体検査などをされていない
これは信頼の証でもあると同時に、万が一自分たちが襲い掛かったとしても王を守り切れるという自負の現れでもある
即ち、不用意な挙動一つで槍も矢も飛んできてもおかしくないという事なのだから

という事を付け加えていると、謁見の時間となり、仰々しい宣告と共にトバルカイン王がその姿を現して

>「うむ。そのために確認だが、召喚の勇者殿は宇宙についてどこまで御存知かな?
> 後ろの二人も。クロム殿とマグリット殿でよかったかな」

「空の遥か上、星と神々の世界
神々が星辰を運行し運命を歯車を回す天界の領域、と教会では教えられておりますが」

宇宙についての知識は殆どないにも等しく、教会では天動説が通説として用いられており、しどろもどろ応えるレインの後ろからマグリットが応える
その応えに対しトバルカイン王の言葉は、そしてドワーフたちの技術は、マグリットを驚愕させるのに十分なものだった

それは、宇宙まで伸びている巨大な塔
その先端は人が作りし星と接続され、大陸全土から魔力を吸い上げ砲として放つというものなのだから

「そ、それは……バベル……!?」

思わず口走ってしまった言葉
聖書の中にある、古の昔、天へ至ろうとした傲慢な王が建てた塔の逸話そのままだったからだ



謁見が終わり、戻る道中クロムの言葉にため息交じりに応えずにはいられなかった

>「一撃で一都市を破壊できる兵器。責任は重大。失敗は許されねぇ、か……。
> たまんねぇなぁ。ドワーフの先祖ってのもとんでもない遺物を残していきやがったもんだ」

「眩暈がしそうなお話しでしたね。
バベルは神の怒りによって崩され、宇宙の梯子は魔族によって奪われても尚それに頼ろうとは……」

トバルカイン王の依頼はあくまで宇宙の塔の奪還であり破壊ではない
もちろん現在のように魔族が猛威を振るう中、強大な力を放てる衛星砲は確保しておきたい武力なのだろうが……
マグリットはそこまで信心深い方ではないのだが、それでもその業の深さにため息を禁じえないのであった
0331マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/07/14(水) 19:30:47.50ID:TkiynQs6
一週間ほどの滞在の後、いよいよ宇宙の梯子奪還のための出立日となった
準備は整い、レインたちに渡した丸薬による抗体も十分にできたであろう
召喚の勇者一行に仮面の騎士、ドルヴェイクとその護衛の7人はゴルトゲルプ大坑道を通り森へ出た
ここからは柱の梯子まで森を一つ抜けなければいけないのだが、ここからは既に魔族の勢力圏

それを実感させるように姦しい声と共に蜂の魔族が多数の魔物を引き連れ現れた

>「私は魔蜂の女王キュベレー!"風月飛竜"シェーンバイン様いちの部下ですわっ!
> どうぞお見知りおきを!もっともすぐに死んでしまうでしょうけどねぇ!!」

名乗りを上げたキュベレーは元は腐毒公爵グリマルディの部下であったが、仮面の騎士が上司を倒した事により現在の地位に流れてきたとの事だった

驚いたり甲高く笑ったり、忙しく反応を見せた後、デスホーネットをけしかける
ここに戦闘が開始されたのだった

レインが素早く紅蓮の剣士に召喚変身し、炎の壁を作り上げるがですホーネットは全くひるまない
それどころは炎を纏った毒に飛礫となって襲い来るのだ

デスホーネットを切り払いながら後退するレインとクロムに代わり、マグリットが前に出る

「お任せください!螺哮砲!」

その声と共にマグリットの大きく開かれた口からは超音波が放たれ、それは30センチ程度の蜂にとっては音の壁となって立ちはだかるのだ
もちろんこれでデスホーネットを仕留められるわけではないが、一瞬の足止めができれば十分
あとは幅広なシャコガイメイスが面の打撃により、バチンという音と共にデスホーネットをまとめて叩き落すのであった

しかしキュベレーの手勢はデスホーネットだけではなかった
デスホーネットを避け下がった先に現れたのは全長三メートルの巨躯を誇るギガントワプスである
こちらもレインの作った炎の壁をものともせずに、実が燃え上がろうとも構わず襲い来る


>「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
> さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

それを受け、クロムの声が飛び、戦闘が激化しようとするところだが、マグリットの視線はレインに向けられていた



>「そんなに燃えたいのか。今度は跡形もなく焼却してやる……!」

紅蓮の剣士への召喚変身をしたにもかかわらず、炎の壁を作るも突破され、苛立ちもあったのだろう
しかし立ち向かおうとしたギガントワプスは突然横からの炎の塊により弾き飛ばされ、飛んでいたものと一体となって転がっていく

「いやいや、失礼失礼、思いのほかよく飛びまして」

炎の塊の飛んできた方を見れば、シャコガイメイスをフルスイングした状態でレインに笑いかけるマグリットが言葉を続ける

「レインさん、毒は毒でも毒舌に侵されてしまったようですね
怒りを煽られた状態で戦ってはなりませんよ?」

大股でレインに近寄り、諭すように語り掛けると、激突し一つの肉塊になったギガントワプスだったものからはみ出ている足を掴み上げながら

「クロムさんの言うとおり、狙うべきは女王
我らが目的は風月飛竜であり、その自称NO2の更に部下などという些事は私に任せ、レインさんはまずはこの場の大将を討ってくださいませ」

そう言いながらところどころに火を纏うギガントワプス二体分の肉塊をキュベレーに投げつけるのであった

【レインに向かったギガントワプスも一緒に討伐】
【その肉塊をキュベレーに投げつけ牽制し、キュベレーを討つように促す】
0332レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/17(土) 00:05:01.68ID:HIpGkBHG
ギガントワスプと対峙したレインは言葉を荒立てながらも、頭は冷静だ。
大剣を正眼で構えたまま相手の出方を慎重に伺う。

>「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
> さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

クロムの言うことはもっともだった。
ぶっきらぼうな男だが、戦闘においては何よりも頼りになる。
小剣という形ではあるが剣の武器が戻ってきてよりそう感じている。
クロムと蜂巨人が早速かち合ったのを見て、レインもいざ斬りかかろうと――。

>「いやいや、失礼失礼、思いのほかよく飛びまして」

――したが横合いから炎の塊がレインと相対していた蜂巨人を吹き飛ばした。
マグリットの仕業だ。マグリットは悪気もない様子でこう話しかけてきた。

>「レインさん、毒は毒でも毒舌に侵されてしまったようですね
>怒りを煽られた状態で戦ってはなりませんよ?」

「それは……分かってるさ。おかげで落ち着いてる」

『豪腕の籠手』のような魔導具もなく、素の膂力で
三メートルの巨体を矢のように吹き飛ばすのかと思ってちょっと驚いた。
出会った頃からパワータイプだったが、獣人の筋力は凄いものだと再認識する。

>「クロムさんの言うとおり、狙うべきは女王
>我らが目的は風月飛竜であり、その自称NO2の更に部下などという些事は私に任せ、レインさんはまずはこの場の大将を討ってくださいませ」

「分かった。いつもサポートしてくれて助かるよ。
 敵は魔物を統率するタイプのようだから直接対決ならこちらに分があるはず……」

何気なく自分の分析を話していると、
マグリットは蜂巨人二体をボール球のように軽々放り投げたのだ。
空中に浮かぶキュベレーは「げぇっ」とした顔で慌てて回避した。
0333レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/17(土) 00:05:56.45ID:HIpGkBHG
だがまぁそんな無駄にデカいもん投げつけたところで大した牽制にならない。
それよりもキュベレーはなぜか自分を余裕で倒せるみたいな会話を聞いて正気を疑っていた。

「こいつらマジですの……?魔族である私を倒せると思ってる……?
 ははーん。もしかしてイメトレとかシミュレーションでイキっちゃうタイプなんですの?
 おーっほっほっほ!私は優しいから教えてさしあげますわ。実戦はトーシロの想像とは何もかも違って……」

扇子で口元を隠しつつ、どや顔で語っているとレインが大剣を構えて突っ込んできた。
隙だらけなせいだ。キュベレーは「またかよ」みたいな顔でサッと躱す。

「違って……」

だが、なぜか空中で方向転換を決めて背後からまた斬りかかってきた。
キュベレーは不思議に思いながらも羽根をはばたかせ、サッと躱す。

「違って……」

だがまたもや空中で方向転換を決めて斬りかかってきた。
キュベレーは「いや流石におかしいだろ」と思いながらサッと躱す。

「違っ……もうなんですのっ!?
 さっきからどうやって攻撃してるっていうんですの〜ッ!?」

よくよく見たら空中に杭みたいな足場が展開されているではないか。
あれは中位光魔法『グローパイル』!そんな使い方あるのかよと絶句した。
師匠と弟子、阿吽の呼吸で攻撃を仕掛けていたらしい。

(……さすがに空中戦は向こうの方が得意か。大振りな大剣じゃ当たらない。
 ここは相手の機動力を奪うことを考えた方がいいかもしれない)

仮面の騎士の拘束結界魔法『タリスマン』で閉じ込めてもらうか。
いや、あのスピードだ。空中に魔法陣が浮かんだ瞬間避けられかねない。
0334レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/17(土) 00:07:48.52ID:HIpGkBHG
思考を数瞬巡らせているのが隙となったのかキュベレーが高速で捲し立ててくる。
どうやらお喋りが好きなようだ。連弩さながらに言葉の矢を浴びせてきた!

「ふふん、蚊トンボがいい加減鬱陶しいですわ。私の魔物捨て身の必殺技でお逝きなさい!
 ぶんぶんぶん、魔蜂飛ぶ〜♪さー追い詰めますわよ、我が眷属たちよ!『蜂球』開始ッ!!」

ギガントワスプを呼んだ時と同じように指をパチンと鳴らす。
すると森のどこからともなく『デスホーネット』達が再度集まってきた。
それも尋常な数じゃない。数千匹いなくては説明がつかない膨大な量だ。
それがレイン、クロム、マグリット、仮面の騎士withドルヴェイク達を包囲する。

「蜂球……!?ということは……!」

レインは光の杭のひとつに着地して呟いた。蜂球。
それはミツバチが巣を狙うオオスズメバチに使う撃退方法だ。
数百匹のミツバチによってオオスズメバチを包み込み熱で蒸し殺す現象。

「さあ驚きなさい!慄きなさい!絶望しなさい!それが私にとって何よりの蜜!
 さっきのようにちょっとやそっと切り伏せた程度じゃこの『蜂球』は防げませんのよー!」

仮面の騎士は思考する。
全方位の守りとして使える『タリスマン』を防御魔法代わりとして皆に使うか否か。
いや、わざわざ魔族が攻撃手段に選んだのだ。張ったところで破られる恐れがある。
そうなれば『タリスマン』は盾どころか棺桶になってしまいかねない。

事実、デスホーネットの『蜂球』は数千度の超高熱を発するうえ、
魔蜂が密集することでとてつもない圧力を発揮し敵を圧殺もする厄介な一手だった。
……よって、仮面の騎士はドルヴェイクとその護衛二名の守りに徹することを決心する。
ドルヴェイクを背中に、護衛を脇に抱えて高速移動でいのいちに『蜂球』の包囲から脱出する。

「はぁ!?なんですのそのずっこい動き!?」

驚くのはまだ早い。
空中にいたレインは紅炎の剣に炎を宿らせて『蜂球』に斬りかかる。
振るわれた炎を纏いし刃は螺旋を描くように魔蜂を燃やす。
0335レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/17(土) 00:09:22.39ID:HIpGkBHG
なんだ、またお得意のショボい火力の炎か。
――キュベレーはそのように慢心しきっていたが今度は違う。
一瞬で蜂の体が燃え尽きるほどの強力な紅の炎が、魔蜂をことごとく焼き殺していく。

「もう魔力のセーブはしない。全力で……お前を倒す!」

そして剣に再び魔力を込めて空間を斬り裂く。
すると三日月の形をした焔の刃がキュベレーめがけ飛ぶ。
だがやはり寸でのところで避けられてしまう。

「あっぶねぇですわっ!なにしやがりますの!」

しっしっと振り払うように扇子を動かしてキレる。
直後、キュベレーの眼前に紫の魔法陣が浮かび、ふーっと息を吹きかけた。
すると魔法陣から猛烈な勢いで毒々しい色の煙が放出されレインを襲う。

「あはっ。毒魔法『ポイズンミスト』ですわ。
 吸えばどうなるかお分かりですわよね……ごめんあそばせ?」

これならもう倒しただろうという確信をもってキュベレーは満足した。
空中にこれでもかというほど広範囲に毒霧をバラまいてやった。

「って……えぇぇぇぇぇ!!?」

だがそれが仇となった。
広範囲に撒いた毒霧がかえってキュベレーの視覚を塞いでしまった。
背後からこっそり忍び寄ってくるレインにギリギリまで気付けなかった。
回避しようとしてもコンマ秒で間に合わない。

「そこだぁぁぁーーーーっ!!」

紅炎の剣を振り下ろし、一太刀で肩口から裂き、四枚ある羽根のうち片方二枚を切断する。
本当は換装召喚して『天空の聖弓』を使い毒霧を払っても良かったが……。
それでは防御できてもキュベレーに攻撃が当たらなかっただろう。
だから捨て身で攻める必要があった。
0336レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/07/17(土) 00:13:05.60ID:HIpGkBHG
毒霧を吸ってしまい限界がきたレインと羽根を失ったキュベレーが地面へ落下する。
レインはなんとか両足で着地すると、そのまま倒れ込んでしまった。

「ごめん……ちょっと動けそうにないや。皆、後は頼むよ……」

記憶が確かならクロムが『毒消し草』を持っていたはずだ。ゆえに無茶を敢行できた。
本当ならさっきの一撃でケリをつけたかったが、流石に致命傷は避けられてしまった。
信頼できる仲間とはいいものだ。たとえ自分が動けなくなっても後を任せられる。
後方から素早く仮面の騎士がやってきてレインに肩を貸すと、高速移動で戦闘圏から離脱する。

「ああああああああああ!!!!!!マジでなんなんですの!!!?
 私の美しい羽根がぁぁぁぁっ!!ただの冒険者共なんかにぃぃぃぃぃ!!!!」

「俺達はただの冒険者じゃないよ……これでも一応、勇者パーティーなんだ。
 キュベレー覚えておくことだ。お前を倒すのは"召喚の勇者"一行だってこと……」

「知ったこっちゃありませんわそんなクソ雑魚ナメクジ弱小パーティーッ!!
 私に近づくな、この……下賤で不愉快極まりない下等種族共がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

魔族は他種族と一線を画する高位の種族だ。
エルフと肩を並べるほどの寿命に膨大な魔力。獣人を凌ぐ身体能力。優れた適応力に多様な生物的特性。
最強の種族となるべく生み出され、生物界の頂点に立つべき数々の恵まれた能力を誇る。
その傲慢さがここにきて露になっていた。飛行能力を失って余裕がないのだろう。

そして追い詰められたキュベレーは次なる手札を切る。
毒針を構えるとクロムとマグリット目掛けて高速で連続発射してきた。
一見しただけでは分からないだろう。これはただの針ではない。

『エグゾセニードル』という着弾すると爆発する針だ。
体内で爆薬を調合して針に仕込むキュベレーの特技のひとつである。
ミスリルの盾でもない限り、防ぎでもしたら盾ごと木っ端微塵に吹っ飛ぶ代物。

「だいたいおかしいですわ!なぜ魔族より遥かに劣る下等種が世界を支配しているんですの!
 人間たちだけが神に愛され贔屓されている!この現状に我慢がなりませんわっ!!
 ……気に入りませんわどいつもこいつも!きたねぇ花火にしてさしあげましてよ!!」


【キュベレーは『蜂球』を使い一行全員を焼き殺そうとする】
【その後、レインに羽根を二枚切り裂かれ地面に落下する】
【落下後は着弾すると爆発する針を連射して攻撃してくる】
0337クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/07/23(金) 22:58:39.75ID:1dMUq6Bm
レインの捨て身の攻撃がキュベレーから機動力を奪う。
空を舞う蜂の女王も、羽が無ければ流石に宙に留まることはできず、為す術なく地面に墜ちる。

「ナーイス」

墜落地点の周囲にはクロム、マグリット。
手下の蜂を使って常にパーティを囲み、優勢を保ってきた女王蜂が初めて、そして一瞬で形勢逆転を許した瞬間であった。
しかし、これで決着がついたわけではない。女王はまだ戦闘力を有しているのだ。
じり、と慎重に間合いを詰めていくクロムが、女王の殺気が急激に膨れ上がるのを感じ取るまでそう時間は掛からなかった。

「悪あがきはよせって──……」

殺気はいわば攻撃の合図。故にクロムは足を止め、思わず身構えた。
直後、見開いた目が何かを捉える。
それは小さな針──それも恐らく毒の──がキュベレーから無数に、高速で発射されたのである。

クロムは咄嗟にジャンプする。だが、回避の試みは完全な形では成功しなかった。
ジャンプに用いたが為に攻撃範囲から最後まで逃げ遅れた形となった利き足だけは直撃を許してしまったのだ。

「ちっ────!?」

クロムの反応に勝るとも劣らない速度の攻撃だが、真に驚くべきはそこではなかった。
驚くべきは触れた瞬間に激しく爆発し、骨肉を瞬時に爆ぜ散らした針。その凶悪な特性である。

(──『反魔の装束』に殺されねぇ威力! この爆発は魔法じゃねぇ、特技によるものか!)

焦げた傷口から全身に伝わる強烈な痛みが、あっという間にクロムに冷や汗を噴き出させ歯軋りをさせる。
その苦痛を露わにした表情を見て、甲高く笑うキュベレー。

「おーっほっほっほっほっほ! その足じゃもうちょこまか逃げ回ることもできませんわねぇ!
 私の『エグゾセニードル』を喰らって無事で済む奴なんかこの世にいねぇんですのよ! 避けるなら避け切らないと意味が──」

続いて彼女は、空中に逃れたクロムに向けて、追撃を掛けんと構えた。

「──なっ!?」

──が、瞬間、その顔から笑みが消し飛ぶ。
方向転換が不可能な筈の空中で、クロムの体が突如として弾き飛ばされるかのように進行方向を変え、キュベレーに向かったからだ。
しかも、雷のように素早く、ジグザグの軌跡を描きながら。

「打ち込まれていた『グローパイル』の足場──位置を記憶してなかったのか? だからお前は“自称”2止まりなんだよ」

片足だけでも足場から足場への跳躍は可能だ。それもクロムの身体能力をもってすれば、高速で。
加えて複数の足場を複雑に経由すれば、更に目で追う事を困難にさせ狙い撃ちのリスクを減らせる。

「なっ、ななななななっ──あぁっ!?」

その目論見通り、攻撃を受けることなくまんまと狼狽するキュベレーの背後を取ったクロムは、彼女の喉元に剣を突き付けて囁いた。

「解ったか? 解ったら、潔く降参しろ。面倒くせぇ手下どもも全部下がらせて危害を与えねぇようにしな。さもねぇと……」

戦場には未だ無数の蜂が空中を飛び回り、群れを成して熱殺の機会を伺っている。
キュベレーという司令塔を始末したら、勝手にどこかへ飛び去ってくれたり無力化されたりするのだろうか。
それは分からない。下手をすれば暴走して却って手が付けられなくなるかもしれない。
だからこそ敢えて殺さず、脅して取引を持ち掛けたのだ。
片足を失った今のクロムでは、もはや蜂の全てを片付けるだけの余裕も、逃げ切るだけの力もないのだから。

もっとも、既に蜂どもは無力化されているかもしれない。何故ならこちにらも毒の使い手がいるのだから。

【『エグゾセニードル』を喰らい右足の膝から下を失うも、キュベレーの背後を取ることに成功し降伏を迫る】
0338マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/07/28(水) 19:48:49.95ID:dSCCyOYI
レインの三次元的な動きに翻弄され、業を煮やしたキュベレーは大量のデスホーネットを呼び出し周囲を取り囲む
その意図を察した仮面の騎士はドルヴェイクたちを担ぎ一足先にその包囲網から脱した
レインも魔力のセーブをやめ本来の火力を元なう紅蓮の刃でデスホーネットを焼き尽し突破口を開き、クロムも続くのだが、マグリットは動かなかった

マグリットは重鈍であり、レインやクロム程は早くは動けない
それに、ここを突破してもデスホーネットはすぐに新たなる蜂球を形成するだけだ
故に、デスホーネットの群れを引き受けるものが必要だと判断したからだ

蜂球形成により外部からではマグリットの姿は見えず、時折激しい音が聞こえてくることがいまだ生存している事を知らせていた
内部ではマグリットはコマのように回転しシャコガイメイスを振り回したり、時折地面を叩き周囲に衝撃波を生み出し寄せ付けないようにしている
が、それも時間稼ぎにしか過ぎなかったのだが、その時間稼ぎこそがマグリットにとっては必要な事なのだ


マグリットが蜂球に包まれている間に戦況は動いている
クロムがキュベレーを追い詰め、毒きりの噴霧にも構わずキュベレーの羽を切り落としたのだ

>「ごめん……ちょっと動けそうにないや。皆、後は頼むよ……」

辛うじて着地には成功したものの、毒を吸い込んでしまっておりそのまま倒れ込んみ、仮面の騎士が肩を貸し戦闘圏から離脱する

「いやいや、手間取ってしまい申し訳なかったです
あとはお任せくださいませ」

レインの言葉に応える言葉と共に、崩れる蜂球から出てきたのは血塗れのマグリットであった

毒を使う生物だからと言って、毒に耐性があるとは限らないというもの
個別で叩いていても際限のない大軍に、マグリットは空間自体を己の毒血霧で満たす事により対抗したのだ
密集するデスホーネットは熱を発する前に毒により息絶えていったのだった

「周囲に散布したあなたの毒は吸収させていただきました。
さて、自称とはいえNO2、色々お話しいただきたいところなのですが?」

レインにより羽を切り落とされ、高速機動どころか飛ぶことすらもままならなくなったキュベレー
切り札の蜂球も破り毒きり散布も浄化、もはや形勢は決したと、情報を引き出しにかかろうと笑みを浮かべながら近寄る
だが、まだキュベレーの戦意はくじけていなかった

>「だいたいおかしいですわ!なぜ魔族より遥かに劣る下等種が世界を支配しているんですの!
> 人間たちだけが神に愛され贔屓されている!この現状に我慢がなりませんわっ!!
> ……気に入りませんわどいつもこいつも!きたねぇ花火にしてさしあげましてよ!!」

その言葉と共に毒針を連続発射を始める
マグリットは笑顔で接近をしていても一切相手を信用していない
それが未開の地に布教に行く宣教師たちに叩き込まれる鉄則であるからだ

故に、キュベレーの攻撃に咄嗟に反応ができシャコガイメイスを振るい針を薙ぎ払うが、薙ぎ払った先で爆発が起こりその衝撃により体勢が崩れる
尚も連射される爆発の針に左手で貝殻の盾を形成し防ごうとするも、爆発の威力はすさまじく、盾ごと左腕が吹き飛んでしまった

キュベレーの高笑いと共に尚も連射される爆発針に左腕を失ったマグリットはなすすべもなく晒されていく
しか、クロムは足を負傷しながらも設置されたグローパイルを利用して撹乱移動
そしてついにはキュベレーの背後を取り首筋に剣を突き付けるに至ったのだ

>「解ったか? 解ったら、潔く降参しろ。面倒くせぇ手下どもも全部下がらせて危害を与えねぇようにしな。さもねぇと……」

その言葉を遮るようにデスホーネットが数匹、キュベレーに攻撃を仕掛ける
喉元に剣を突き付けられ身動きがとれぬ上に、まさか手下に襲われるとは思っていなかったキュベレーが苦痛と驚きの声を上げる
しかしその攻撃も長くは続かなかった
キュベレーの手足や毒針がボロボロになる頃には力を失い地面へと落ちてしまったのだから
0339マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/07/28(水) 19:52:40.22ID:dSCCyOYI
「このあたり一帯は私の毒血霧と幻惑物質で満たされています
あなたは……腐肉男爵、でしたっけ?に仕えていただけあってそれなりに耐性があるようですが、周囲はそうではないようですねえ」

その言葉と共に現れたのは爆散したはずのマグリットであった
血塗れではあるが、蜂球を破るために自ら噴出させた血であり、爆発による傷はない

そう、蜂球を破った時点で既に毒血と幻惑物質の散布は始まっていたのだ
高速飛行されては効果も出なかったであろうが、羽を切り落とされ地上に立たざる得なかった時点で、キュベレーはマグリットの術中にはまってしまっていたわけだ
次々と頭上から落ちてくるデスホーネットや眷属の骸
この戦い方ができたのも、レインやクロム、そしてドルヴェイクたち同行者が丸薬を飲みマグリットの毒血への抗体を持っていてくれたからだ

「さて、今一度お話を希望するのですが、抵抗しても構いません
あなたに見えている私が、感じている私が本物であるかの保証はしかねますがね
まあ、それ以前にクロムさんの刃は早く鋭いのでご注意を
そしてお話に応じて頂けるのであれば、私も神に仕える者の端くれとして少々気になるお言葉はありましてお聞きしたい」

キュベレーの言葉にあった
>「人間たちだけが神に愛され贔屓されている現状が我慢ならない」
との言葉
これはマグリットにとって驚きであった
その旨をキュベレーに伝え、言葉を続ける

「あなたがた魔族は、神の寵愛を欲しているのですか?」

本来聞くべき事は他にもあったはずだ
宇宙の梯子へのルート、警備体制、風月飛竜の居場所など
しかしそれらを差し引き、マグリットは聞かずにはいられなかった

神に仕える者ではあるが、獣人であり、教会と利害関係で席を置いている
その程度の信仰心の持ち主だからこその言葉であったのかもしれない
教会で教えられていた『魔族は神の敵対者』であるという前提が、ここに崩れようとしているのだから

尚、幻覚にしてマグリットはキュベレーに対峙しているように見えているが、その実態はクロムの横に跪き、右足をきつく縛り上げ止血作業をしているのであった
マグリットの回復魔法の効果は低く、欠損した四肢を再生させる事は敵わない
故にただただ止血するしかないのだった

【毒血と幻覚物質散布で蜂球を破る】
【毒血により周囲のキュベレー眷属を倒し、キュベレーを幻惑しながら質問】
【本体はクロムの失った膝の止血中】
0340レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:27:16.75ID:uV+u8Fb8
クロムに喉元を剣で突きつけられ、身体は幻惑物質と毒血でボロボロ……。
最早キュベレーに戦う力は残されていなかった。この戦い、魔蜂の女王の敗北である。

>「さて、今一度お話を希望するのですが、抵抗しても構いません
>あなたに見えている私が、感じている私が本物であるかの保証はしかねますがね
>まあ、それ以前にクロムさんの刃は早く鋭いのでご注意を
>そしてお話に応じて頂けるのであれば、私も神に仕える者の端くれとして少々気になるお言葉はありましてお聞きしたい」

対峙するマグリットがそう言うと、キュベレーはくっ……とそっぽを向いた。
実際のところマグリットの姿は幻覚で、本当は右足の膝から下を失ったクロムを止血している途中なのだが。
どうせ現上司の弱点がどうとか、梯子を守る魔物の情報とかを聞き出す気だろう。

>「あなたがた魔族は、神の寵愛を欲しているのですか?」

だがマグリットの問いは意外なほど大したことのない質問だった。
それゆえにキュベレーの口は淀みなく動いてしまう。

「神の寵愛を……?それは魔族によりけりですわ。私は神に愛されたいとかじゃなくて……。
 未だ超常の存在に甘え贔屓され世界の中心にいる……人間という種族が好きじゃないだけですわ」

教会が何を教えているのかなんてキュベレーの知る所ではない。
だが、魔族とて神の創った存在。彼らとて『魔法』を使う以上、超常的存在への信仰心はある。
といっても、彼らが信仰するのは神から堕ちた悪魔や暗黒神かも知れないが……。

神とは決して一体だけではない。
教会が一神教なのか、多神教なのかこれもキュベレーの知る所ではない。
だが『神に敵対すること』と『神を信奉すること』は必ずしも矛盾しないのだ。
教会の奉じる神に敵対した過去があるだけで、魔族は魔族なりに神を信仰している……のかもしれない。

「多くの人間がそうであるように、魔族も神は魔法のパワーソース程度の認識ですわ。
 でも1000歳以上の魔族は神々に何か思うところがあるかもしれませんわね。
 まぁピッチピチの220歳である私には関係のないことですけれど……」

それっきりキュベレーは幻覚に対して口を開かなくなってしまった。
毒に耐性をもつことから、幻覚物質も持ち前の耐性で落ち着きを見せ始めたのだ。
いずれマグリットの猛毒も自力で解毒するはずだ。
0341レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:29:13.10ID:uV+u8Fb8
レインに肩を貸したまま、仮面の騎士はキュベレーを一瞥する。
魔蜂の女王キュベレーはコメディ染みてはいたが強敵だった。
結果を見ればレインは毒に侵され、クロムは片足を失ってしまったのだ。

「……クロム、吹き飛んだ足を見せてくれ。
 私の上位回復魔法で欠損自体は治せるはずだ」

レインを地面に座らせると、仮面の騎士はクロムの患部を診た。
仮面の騎士が止血した足の修復を開始すると、足が温かな光に包まれる。
すると30分程度でクロムの欠損した足は以前と寸分違わず復活してしまった。

「少々リハビリを要するが、君ならすぐ前と変わらず歩けるようになる。
 森を抜ける頃にはきっと完治しているだろう。全く、君の頑丈さには驚かされる」

仮面の騎士がどこまで気付いているのか、レインも分からないが……。
そりゃ頑丈だろう。だってクロムは人間じゃない。しかもそれを隠している。
仲間の隠し事を無理に暴くような趣味はないので黙ってはいるが……。

「完治ついでに毒消し草……持ってない?実はそれを当て込んで無理をしたんだ。
 クロムって意外と準備いいからさ。薬草とかもよく持ち歩いてるじゃないか?」

クロムの怪我が治ったところでレインは話を切り出した。
マグリットの毒は抗体があるので問題ないが、キュベレーの毒魔法の抗体は持ってない。
毒に蝕まれたまま森を抜けるのはさしものレインも不可能だ。

「ちょい待ち、聞き捨てなりませんわ。森を抜けるですって……なぜ私が降参した前提で話が進んでますの。
 まだ『参った』は言ってませんわ!たとえ私を倒しても第二第三のデスホーネットが――」

レインは無言で背負っていた紅炎の剣を引き抜こうとすると、
キュベレーは凄まじい勢いで命乞いを始めた。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいまし!参った!参りました!参りましたわ!
 でも貴方達の脅しに従うなんて魔王様への背信行為ですわ!いずれにしても私の身は危ないまま……!
 女神に選ばれし勇者ならきっと慈悲の心をお持ちですわよね……!?」

ちょっと呆れた顔をしながら、レインは大剣を背に収めた。

「俺達にどうしてほしいんだ。言っておくけど条件次第だよ……」

「この場で見逃すとか、そんな中途半端な真似は止めて欲しいですわ!
 傷の手当て!今後の身の安全の保障!私の居住地の確保などなど!!
 上司や魔王様を裏切るのですから、きちんと約束してくれないと協力はできませんのよ!」
0342レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:32:35.28ID:uV+u8Fb8
こっちだって今見逃しても後から奇襲される可能性がある。
森を抜けるまではキュベレーを生かしたまま連行する必要があるとは思っていた。
だが、その後の身の安全まで約束するというのは考えてなかった。

厚かましい気もしたが……魔王軍にとって降伏は背信行為に等しいらしい。
身の安全を保障してほしいと思うのは当然なのだろう。

「うーん……君がもう誰も傷つけないって誓うなら……。
 俺達……"召喚の勇者"パーティーとしてはもう手を出さないと約束するけれど」

「傷つけませんわ!逆にめっちゃ守りますわ!
 ……けれど?けれど何ですの?」

「治療はともかく、棲家の確保まではどうしようかな……」

レインは頭を掻きながらそう言った。棲家は……現状この森が第一候補だろう。
いちいち移動の手間をかけないで済むし、並大抵の魔物では近づくこともできない場所だ。
しかしここはドワーフの土地である。元は封印の地に指定されている踏み入れてはならない領域。
どう考えてもレインの一存でどうにかなる問題じゃない。

「ごめんなさい、ドルヴェイクさん!お願いします!
 この森をキュベレーの棲家として貸してあげられませんか!?」

だからドルヴェイクに手を合わせて頭を下げた。
彼女の棲家に関しては王族でもある彼に頼むしかない。
ドルヴェイクは髭を触りながら少々考え込んで、口を開いた。

「こちらに危害を加えず、魔王軍と手を切るというなら儂は構わんよ。
 勇者が無害だと判断して生かしたと報告すればとりあえずゴリ押せると思うが……。
 魔蜂の女王よ、その後の事はお主自身の手で『自分は無害』だと証明する必要があるぞ」

「もう悪いことはしませんわ!配下の魔物には手を出させませんし、デスホーネットは昆虫系ですから!
 花の蜜で十分生きていけますもの!あとあとえーと……そう!蜂蜜!蜂蜜とか贈りますわ!
 『魔蜂印の自家製はちみつ』といえば魔族界隈では天下一品と評判ですのよ!!」

食い気味でドルヴェイクに這い寄り、キュベレーは猛然と言葉を紡いだ。

「ま、まぁ……たぶん大丈夫じゃろう。王族として、我々メガリス地下王国の者が手を出すことはないと約束しよう。
 元よりこの森は封印の地じゃ。誰かが足を踏み入れることも滅多にないし、トバルカイン王も頷いてくれるはず。
 治療に関しては儂ではどうすることもできん。仮面の騎士に頼んでもらいたい……儂からは以上じゃ」
0343レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:34:56.71ID:uV+u8Fb8
なりゆきを見守っていた仮面の騎士が口を開いた。

「傷口は塞ぐが……斬られた羽根の復活はしばらく待ってもらおう。
 君はいわば捕虜だ。まだ信頼を勝ち取ったわけではない。
 悪いが私達が帰ってくるまで我慢してもらうぞ」

「構いませんわ。傷さえ塞いでくれれば死にはしませんもの。
 おーっほっほっほ!話が纏まったなら早速行きましょうか!
 『宇宙の梯子』へはこっちが近道ですのよ!」

キュベレーを解毒して話が纏まると(なぜか)彼女の仕切りで森の奥へ進む。
そして無事に森を抜けた先。一行はようやく辿り着いた。
天高くまで聳える巨大な塔。暗い星の海まで続く禁断の場所へと。

今までは森の木々に隠れてその全容は分からなかったが、今ならはっきり理解できる。
天を衝かんばかりの規格外のスケールを誇る、この施設の威容が。

「ここが……『宇宙(そら)の梯子』……」

ここまで来るのにずいぶん時間がかかった。万感の想いが自然と言葉になる。
レインが入り口らしき扉まで近付くと、キュベレーが「ああっ」とでかい声を出した。

「う、迂闊に近づくのは止めなさいな!危険ですわ!
 中はシェーンバイン様配下のドラゴン軍団が待ち構えていますのよ!」

「……それぐらい分かってるよ。でも『宇宙の梯子』に裏門なんてない。
 怖がっていたって仕方ないよ……正面突破以外に道はないんだ」

「いや。竜の群れと真正面から戦うのは危険だ。
 キュベレーと戦った時以上に我々全員が疲弊する恐れがある。
 相応の策が必要だが……残念なことにドラゴンの弱点は無いと言っていい」

仮面の騎士はすかさずそう言った。
確かに何か名案があればそれに越した事はない。
だがそんな策少なくともレインには思い浮かばなかった。
0344レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:36:31.67ID:uV+u8Fb8
だから、と仮面の騎士は話を続ける。

「……一人、足止めがいるな。
 誰かを囮にしている間に竜の軍団を突破するしかない」

「……そんな!出来ませんよそんなこと!」

もちろんレインは反対した。
そんな非道な真似できるはずがないと。足止め役は確実に死んでしまう。
マグリットの幻覚物質あたりで何とかできないかと思う。
だが……ワイバーンには通用したが他の竜にも通じるかなんて分からない。

もし幻覚に対して耐性があったらどうする?はなから効き目が薄かったら?
いやよしんば効いたとしても利口な個体はそれが幻覚だとすぐ気づく。
そうなったら一巻の終わりだ。きっと手当たり次第に攻撃してきてかえって手がつけられない。

「問題ない。私が足止めを引き受ける。
 君達は私が囮になっている間に最上階へ行き……シェーンバインを倒すんだ。
 ……私の残り時間はもう少ない。もう足止めぐらいの役しか出来ないんだ」

「……ならせめて約束してください。必ず竜を倒して最上階へ来るって。でないと同意できません」

仮面の騎士は苦笑して頷いた。

「……分かった。約束しよう。必ず竜の群れを片付けて合流すると」

「話は纏まったようじゃな。ここから先共に行けぬのが無念じゃ。
 絶対に死んではならぬ……必ず勝って生きるのじゃぞ。
 お主達にはトロンハイムの案内もろくにしてないからのう」

「はい。必ず風の大幹部を倒して帰ってきます!」

レインは快活に笑って、ドルヴェイク達に親指を立てる。
そして厳かに開かれていく塔の扉の中へと"召喚の勇者"一行は消えていった。
0345レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:37:59.46ID:uV+u8Fb8
『宇宙の梯子』の中は広い空間になっていた。
中央には一本の透明の柱が立っており、これまた扉がある。
おそらくあれが昇降機になっているのだろう。

「静かだね……不気味なくらいだ」

レインは辺りを見回しながら、背中の『紅炎の剣』の柄を握りしめる。
敵は見当たらないが警戒は解いていない。ここはすでに魔王軍の腹の中なのだ。

「……飛竜が来るっ!?」

レインは己がいかに愚鈍だったかを感じずにいられなかった。
遥か上から何かが落ちてくる。正確な数は把握できない。とにかくたくさんだ。
『リントヴルム』と呼ばれる飛竜の一種だ。それも大量に上から降ってくる。

「な、なんだあの竜は……!?」

そして最後に一際巨大な灰色の竜が降り立った。
先程降ってきたリントヴルムの体躯がまるで子供のように見えるほどの威容。
魔物の種類はある程度把握している方だが、あの竜は見たことも聞いたこともない。

「……邪竜ジャバウォックか。私も見るのははじめてだが」

仮面の騎士の呟きを聞いて、レインは目を剥いた。
――ジャバウォック!サマリア王国では情報が少なく『正体不明の怪物』とされている魔物だ。
まさかドラゴンの一種だったとは。あいつは明らかに格が違う。
リントヴルムよりも遥かに巨大で強靭だ。

仮面の騎士は静かに剣を抜くと、レイン達を一瞥した。
「早く先へ行け」と。そう言っているのだ。
竜の群れは待ってなどくれず、構わず口部に火炎を灯し、一斉に吐き出した。
特技であるドラゴンブレスだ。灼熱が一同に容赦なく迫る。

「……魔祓い、太陽の下賜、月の豊穣、女神の盾よここに」

仮面の騎士は詠唱し、左手を前に突き出すと光の盾が展開した。
出現したのは光属性の防御魔法『セイントイージス』だ。
そんじょそこらの物理・魔法では決して破れない上位魔法である。
0346レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:39:22.70ID:uV+u8Fb8
竜の吐息は全て光の盾に弾かれて、レイン達は難を逃れる。
しかし込めた魔力が少なかったのだろう。光の盾に少しずつ罅が入っていく。
長くは持たない。迷っている暇なんかなかった。

「今しかない。進め、"召喚の勇者"一行よ!」

「……すみません師匠!ここは任せますっ!」

竜の群れが防御魔法に気を取られている今が好機だ。
敵は仮面の騎士の『セイントイージス』を破ることに夢中になっている。
レインは隙を見計らって光の盾から飛び出すと、中央の柱目指して一気に駆けた。
気づいた邪竜ジャバウォックが火炎をこちらへ向けようとするが――。

「――女神の護符、信奉者、星々よ魔を封じる鉄窓となれッ!」

すかさず六角柱の拘束結界に閉じ込められてしまう。だが破られるのは時間の問題。
レインは扉の横にあるスイッチを押して、雪崩れ込むように昇降機の中へと入る。
端末に触れると魔法陣が浮かび、どの階へ移動するかを尋ねられた。

「え、えぇと……最上階!とにかく最上階だっ!」

レインは慌てて魔法陣を操作して、人工衛星へ続く最上階を選択すると、
白銀の扉が閉まり始め、ゆっくりと仮面の騎士の姿が見えなくなっていく。
そして扉が完全に閉まると昇降機が上昇をはじめた。

息もつかせぬ展開にレインはふうと息を吐いて、しばらく黙り込んでいた。
不思議なことに緊張はしていなかった。大幹部と戦うのは二度目というのもあるだろう。
敢えていえば、仮面の騎士の安否だけが心配だ。最強の初代勇者といえど万全ではない状態。
あの竜の群れを本当に片付けて加勢に来てくれるのだろうか?

「……三人だけになったね」

レインは振り返って、クロムとマグリットにそう言った。
別に深い意味なんてない。ただ二人に話しかけられればそれで良かった。
昇降機はただ静かに上を目指して昇っていく。
透明の昇降機が映すのは頑丈な白銀の壁だけだった。
0347レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:41:08.24ID:uV+u8Fb8
「俺達だけなんて、随分久しぶりかもしれないね。
 今まではほら……ドルヴェイクさんや師匠がいたから」

この時を待っていた。
この戦いのために、レインは仮面の騎士と修行という準備をしていたのだ。
完璧には程遠いかもしれない。だが、勝つ見込みは十分あるとレインは思っている。

「俺はこのままで戦うよ。半竜とはいえ風属性の相手だからね。
 炎属性の装備で挑んだ方が二人のサポートもしやすいはずだ」

『風』は『炎』に弱い。
今装備している紅炎の剣士で挑んだ方が有利との判断だ。
そして風の大幹部について忘れてはいけない点もおさらいする。

・風魔法の使い手である魔法剣士タイプ
・大幹部いちのスピードを誇り高速戦闘ができる
・高速で接近してから回避不能な範囲攻撃を行うのが基本戦法
・竜鱗を備えており、防御力も高い。並大抵の武器じゃ傷つかない
・弱点は魔族の角。折れば魔力を制御できなくなり魔法が使用不能になる

「後、まだ未完成だけど俺にも秘策の『奥義』が――……」

その時だ。
昇降機は白銀の壁を抜けたらしい。周囲の景色が変わると透明の壁は成層圏を映し出した。
眼下には雲と青い海が広がっており、世界(アースギア)が球面であることをまざまざと見せつけられた。

「……綺麗だ」

遥か地上――アースギアという一個の星を前にしてレインはただ見惚れていた。
サマリア王国にいる頃にはこんな所まで来るとは思いもしなかった。
二人と出会わなければきっとここまで来れなかっただろう。
0348レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:43:40.77ID:uV+u8Fb8
そして、ある時から昇降機内は無重力状態となり、身体がふわっと浮くのを感じた。
独特な感覚に驚いたが、恐らく人工衛星の中で戦闘になってもこの状態は続くだろう。

「二人とも」

慣れない無重力の感覚に戸惑いながら、レインは緩やかに床に着地する。
やがて昇降機の上昇が停止すると扉が厳かに左右に開いた。
その先には人工衛星『ストラトゥール』への通路が続いている。

「必ず……風の大幹部に勝とう」

前を向いたレインの表情は、戦いに赴く決然としたものへと変わっていた。
先へ進むと、一行を待っていたのは人工衛星のコントロールルームだ。
天井が半球状になっており、部屋の中央には玉座のような椅子がひとつ置いてある。
その椅子には帽子を目深に被った、細身の男が足を組んで座っていた。

「侵入者か。監視水晶でずっと覗いてたが……待ちくたびれたよ。
 ここじゃあ風の声も聞こえなくてな。ずっと退屈してたんだ」

椅子から飛び降りると、男は腰に帯びた剣に触れながら話しかけてきた。
彼こそが風の大幹部。"風月飛竜"の異名をもつ魔族・シェーンバインである。

「風の声か……二人とも、あれはただのポエムじゃない。
 『ウェザーリーディング』っていう気象を探知できる奴だけの感覚能力だ」

仮面の騎士から教えてもらった情報を話す。
本来は大自然に宿る精霊達の声を聞き、自在に言葉を交わし、天候をも動かす能力だったそうだ。
だが、神々が去り多くの自然が神性を失ったこの世界においてその能力は無意味となった。
ゆえに、今のアースギアに適応した結果生まれたのがシェーンバインの気象探知能力……らしい。

「よくご存知で。ま……空より遥か上の宇宙じゃ意味無いけどな。
 お前らが『仮面の騎士』の仲間ってのは分かるんだが……何者なんだ?死ぬ前に教えておいてくれ。
 魔族の中には脳ミソから情報を抽出できる奴もいるんだが、わざわざ仕事を投げるのも億劫なんだよ」

背中から紅炎の剣を引き抜いて、レインは啖呵を切った。

「俺達は……"召喚の勇者"パーティーだ!
 これ以上サウスマナの人々を苦しめさせはしない!覚悟しろっ!!」
0349レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:47:08.85ID:uV+u8Fb8
シェーンバインは帽子を軽く持ち上げて、その双眸を三人に向ける。
どこかで聞いたことのある名。たしか"水天聖蛇"が始末すると言っていたはずだ。

「あ〜。お前達か?サティエンドラが言ってたのは。記憶に覚えがあるぞ。
 ということはラングミュアは始末に失敗したのか……あいつは部下に任せすぎだな」

溜息をひとつ吐くと、一人一人を詳しく精査するように見つめる。
一人は完全に人間。一人は人外。だが、魔族に近しいものも感じる。
自分の部下にはいないが、たしか魔族の中には人間を魔族にして潜入工作を行わせる者がいた。
『魔人』などと呼ばれるタイプの存在だ。

シェーンバインはどうしようか少し考えた。
『魔人』に関しては潜入工作という任務がある手前、公でその存在を口にしてはならない。
せっかく人間社会に馴染めるよう調整してあるのに明るみに出てしまったら元も子もないからだ。
だからこの場で殲滅対象から外したり、命令して魔王軍との繋がりを証明するのも良くない。

(あの『仮面の騎士』と同行できてたってのは大したモンだがな。
 仕事してる奴には悪いがこの場で手加減は出来ないな……)

魔王からは存在の秘匿が第一で、それが守られるならあとの裁量は任せると言われている。
だから殺してしまっても問題ない。『魔人』の存在がバレさえしなければいいのだ。
ただし『仮面の騎士』と同行していた以上、重要な情報を入手している可能性もある。

(……頭だけは残してやるか)

そして、最後の一人。貝にも似たメイスを持った大女。
上手く隠しているが十中八九獣人だろう。そんな気配がする。
不思議なのは赤の他人の大女に同族にも似た懐かしい空気を感じたことだ。

「……お前、ちょっと面白いな。初対面なのに何だか懐かしい気配がする。
 『蜃』ってヤツなのかな。あたりだろ。だとしたらお前……何だか繋がってきたぞ。
 そうか、だからサティエンドラの奴……あの時『掌』を失ってたのか?」

一人合点が言ったように頷く姿を見て、レインの頬に一筋の冷や汗が伝った。
敵の眼前で剣も抜かずに相対しているのに全く隙が見えない。
剃刀にも似た薄く鋭い、斬るような殺気がコントロールルームを覆っている。
それがレインに先手を躊躇わせていた――迂闊に攻撃を仕掛けても待っているのは死だ。
0350レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:51:08.70ID:uV+u8Fb8
「さて……そろそろ始めるとするか?"召喚の勇者"一行。
 お前らはドワーフにでも頼まれて来たんだろうが……運が無かったな。
 勇者ってのは難儀な職業だ。よりにもよって罪深い連中に蜘蛛の糸を垂らしちまった」

「罪深い……?そんなこと魔王軍に言われたくない!
 ドルヴェイクさんやドワーフの人達が何をしたっていうんだ!」

「ま……お前の知り合いは良い奴なのかもな。だがドワーフってのは案外強欲で拝金主義なんだ。
 カネが貰えりゃ何でもするぜ。だから穴を掘って金銀や宝石を探しては私腹を肥やすのさ。
 『技術の行き先』なんてまるで考えてない。こんな施設まで平気で造っちまう……」

触れていた腰の剣をゆらりと抜き放つと、その細身の長剣を三人に見せつける。

「こいつは風の魔剣『ヴァルプリス』。1000年以上前にドワーフが生み出し魔王軍に献上された一振りだ。
 お前が持ってるその大剣と同じ……神鉄オリハルコンで打たれた史上最強の魔法武器さ」

それは昔のドワーフが金さえ貰えれば何でもするという、他ならぬ証拠であった。
対価さえあれば神々だろうが魔族だろうが相手を選ばない。その対価に見合ったものを作る。
この『宇宙の梯子』だって、かつて人間による「サウスマナ全体を守る」という名目の建造計画に従ったものだ。
無論、その対価である金は人間達から支払われた。だから自分たちの土地にこんなものを建てたのだ。

「……嘘だ。そんな剣の名前、はじめて聞いた」

「俺はそう断言するぜ。今から……それを教えてやる」

瞬間、コントロールルーム全体を覆っていた殺気が大きく揺らめいた。
殺気を放っていたシェーンバイン本人が動いたのだ。
目では捉えきれない。だが、殺気と魔力だけは鋭敏に探知できている。

レインは仮面の騎士との修行で第六感や魔力探知を磨き抜き、以前より高速戦闘に対処できるようになっている。
『清冽の槍術士』にならなくとも、相手の攻撃に合わせて避けられるしカウンターをぶち当てられる!

「――そこだっ!!」

レインは接近するシェーンバインに向かって紅炎の剣を振り抜く。
真一文字にフルンスイングした大剣は敵の姿を真っ二つにした。
だがその姿はまやかしのように消え去り、結果として紅炎の剣は空を切っていた。
0351レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:53:46.78ID:uV+u8Fb8
外した?そんな訳はない。確かに魔力源は『そこ』にあったはずだ。
直後、脇腹に痛みを感じて片足を曲げ、大剣を支えにして倒れ込むのを防いだ。
手で腹を押さえると、出血している。目にも留まらぬ速さでレインは切り裂かれていたのだ。

「残像だ。と、いっても残像に魔力を込めた特製の囮(デコイ)だがな。
 どうせ仮面の騎士から俺の手の内を教わっているだろうと思ったんだ。
 お前みたいに目の悪い奴には結構有効だぜ。目ってのは鍛えようが無いからな」

敵の追撃がくる。振り下ろされた超高速の斬撃を、今度は紅炎の剣で受け止める。
それを受け止めきれたのは、レインが仮面の騎士と何度も高速戦闘の手合わせをしていたおかげだった。
勘としか言いようがない。このスピードならこのタイミングで防げる、というのを肌感で理解していた。

シェーンバインは史上最強と嘯いていたが、向こうは『風属性の剣』でこちらは『炎属性の剣』だ。
素材も同じなら属性の相性的にはこちらが有利。豪腕の籠手の力も合わさって押し返されることはないはず。

「――さぁて、盛り上げていこうかッ!!」

瞬間。耳障りな高音が鳴り響いたかと思うと、受け止めた紅炎の剣の刀身にヴァルプリスの刃が食い込んだ。
単純に剣が風を纏ったとか、そんな類の攻撃ならこの現象は発生しない。
『高速振動』している。風の力によって高周波振動する刀身が切れ味を増幅させているのだ。
これが史上最強と豪語した理由。ヴァルプリスはただの剣じゃない。全てを切り裂く高周波ブレードなのだ。

「――スヴァローグッ!!」

だがレインも大人しく叩き切られるほど愚かではなかった。
すかさず大剣に魔力を込めると、紅炎の剣の刀身が赤熱して赤く染まる。
紅炎の剣は熱を帯びることでその切れ味を増す魔法武器でもある。
レインは限界まで剣の温度を上げることで、ヴァルプリスの刀身を溶断する気なのだ。

「お前、本当に勇者か?まるで『光の波動』を感じないな」

大剣の中腹あたりで風の魔剣は止まっている。風属性と炎属性の力が拮抗しているためだろう。
基本的に風は炎に対して不利に働くので、それを超えるには相応の魔力が必要だ。
だが、大幹部であるシェーンバインの魔力量ならそんなことは造作もない。
問題はこのせめぎ合いによって大きく隙ができてしまうこと。

だからシェーンバインはすぐに見切りをつけて蹴りを打ち込んだ。
ボール球のように面白いほど吹っ飛ぶとレインは壁際まで転がっていく。
魔族ゆえか半竜ゆえか。細身の身体とは思えない膂力だ。
0352レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/08(日) 20:57:05.70ID:uV+u8Fb8
「っと――次はこいつは贈呈するよ。せいぜい楽しんでくれ」

クロムとマグリットに視線を送ると、シェーンバインの左手につむじ風が浮かぶ。
するとその小さな旋風は瞬く間に大竜巻になって周囲を吹きつける。
上位風魔法『インフィニティストーム』だ。台風と呼ぶべき巨大な風を魔力供給が続く限り生み出す。
壁際に吹き飛んだレインは脇腹を押さえたまま、吹き飛ばされないように剣を床に対して垂直に立てて防御する。

(俺達が戦っているのは天災なのか……?魔法の規模が違い過ぎる!)

レインが吹き飛ばずに済んだのは纏っている装備が『紅炎の剣士』だったおかげだ。
風属性の力を半減する能力をもつ装備のおかげでなんとか生きながらえている。

シェーンバインが仕掛けたのはそれだけじゃない。
しばらくすると、『何か』がレインの身体を浅く切り裂いた。
腕を。足を。胸を。チッ、チッ、と音を立てて何かがやって来る。

これもまた上位風魔法。無数の見えない風の刃を放つ『ミストラルエッジ』だ。
それがコントロールルームを覆う台風に混じって襲い掛かってきている。
今の装備でなければたちどころに手足や胴は切断されていただろう。

(『紅炎の剣士』でなければあの世行きだ……!クロムとマグリットは無事なのか!?)

注意深くクロムとマグリットの気配を探る。
死んではいないと思うがダメージの程度までは分からない。
一方、台風の目にいるシェーンバインは当然ながら無傷。
しかも風の防御魔法『ウィンドシェル』を発動して防御を重ねる徹底ぶりだ。

この魔法は自分の周りに気流を発生させ、飛び道具の軌道を逸らす目的で使うものだ。
だが膨大な魔力を持つ彼なら炎もある程度防げる。
さらに、意図はしていなかったがマグリットの幻覚物質や毒の散布も防御できる。

不思議なことに、これ程の規模の魔法が内部で発生しているのにコントロールルームには何の影響もなかった。
何せ、この部屋は衛星砲をはじめとする施設自体を制御する重要な場所だ。それゆえに頑丈に造られている。
その一切がミスリルでできており、魔法を通さない特殊なコーティングが施されているのだ。
だから戦闘の影響はほとんど無いと言っていい。

話を戻そう。シェーンバインはサティエンドラと違ってバトルジャンキーじゃない。
余裕があるように見えるものの、ここまでやってきた敵として油断は無かった。
だから警戒している。勇者の力を。魔人の抵抗を。蜃の獣人の能力を。


【『宇宙の梯子』に到着。コントロールルームにて風の大幹部と戦闘開始】
【レイン脇腹に負傷。蹴っ飛ばされて部屋の壁際でなんとか魔法を凌ごうとしています】
0353クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/08/15(日) 23:08:10.51ID:P/piySaZ
突然のデスホーネットの反逆に、動揺を隠せない様子のキュベレー。
そんな彼女にマグリットが言う。既にこの戦場は自身の毒で満たされているのだと。
機動力を失い、部下を失い、終いには戦闘力も気力も完全に失ったキュベレーに、もはや剣を突き付ける意味はない。
クロムは勝負が決した事を確信して、小さく息を吐きながら刃を鞘に納めた。

「あっ、痛たたたたっ……! おいマグリット、きつく縛り過ぎ。……っつーか、止血の必要ねーぜ、多分な」

そして傍らで、傷口の止血をしているマグリットに言うと、再び戦場に戻ってきた仮面の騎士と視線を向けた。
彼は期待していた……というよりも、予想していたのである。彼なら上位の回復魔法も修めているだろうと。

>「……クロム、吹き飛んだ足を見せてくれ。
> 私の上位回復魔法で欠損自体は治せるはずだ」

「あんたならそう言うと思ってたよ。ほら、早いとこ治してくれや。脚が一本無ぇってのは見た目以上にきついんでな」

仮面の騎士に突き出した先の無い右脚が、先のある右脚へと元通りに戻るまで、そう時間は掛からなかった。

>「少々リハビリを要するが、君ならすぐ前と変わらず歩けるようになる。
> 森を抜ける頃にはきっと完治しているだろう。全く、君の頑丈さには驚かされる」

「そりゃそうさ。俺の体は“ヤワに出来てない”んでね。そこら辺の冒険者と一緒にされちゃ困るんだよ」

>「完治ついでに毒消し草……持ってない?実はそれを当て込んで無理をしたんだ。
> クロムって意外と準備いいからさ。薬草とかもよく持ち歩いてるじゃないか?」

「あ? 毒消し草? お前も細かい事を良く覚えてんな。俺はほとんど忘れかけてたが……確かこの中に」

クロムがしばし懐をまさぐり、やがて「あった」と取り出した毒消し草。
しかし、その見た目はかつて毒消し草だったものでしかなかった。
道具袋ではなく、懐に入れたまま旅をしていた為に、これまでの戦いの汗と血に塗れ切ってグシャグシャになっていたのである。
しかし、クロムはそれを構わずレインに手渡した。

「……なんか食ったら別の毒に侵されそうな気がするが……まぁ、何とかなるだろ、多分。
 ていうか何かあっても毒のスペシャリストたるマグリットさん辺りが何とかしてくれるから大丈夫だろ、多分な」

何とかなる、大丈夫──呟かれたそれはまるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
0354クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/08/15(日) 23:10:26.27ID:P/piySaZ
 
────。

その後、改心する事を条件に森を住処として与えられることが決まったキュベレーの案内で、一行は近道を通って『宇宙の梯子』へ。
そこではキュベレーやドルヴェイクとは入口で、敵の足止めを買って出た仮面の騎士とも塔の内部で一旦別れる事になった。
つまり、最上階に居るであろうボスにはレイン、クロム、マグリットのパーティ初期メンバーで対処することが事実上決定したのだ。

>「……三人だけになったね」

「まぁ……また直ぐに四人に戻るかもしれねーが、それまでに俺達が全滅してたら全てがパァってわけだ。
 如何な仮面の騎士でもたった一人で、しかも消耗してたら尻尾を巻いて退散しなきゃいけねーんだろうし」

最上階へ向かう昇降機の中で、腕を組んで壁に背をもたれかけながら、瞳に眼下のアースギアを映し出すクロム。
だが、その目が今見ていたのは美しい景色などではなく、サティエンドラに苦戦したあの時の記憶であった。

(魔人ってのは改めて良くできてると思うぜ。人間を超えた力を手に入れられるが、それ以上の存在にはなれないんだからな。
 少なくとも自力では、決して。……例え反逆しても魔族の支配体制を揺るがす存在になれないなら、そりゃ放任が基本だわな)

「──おっ」

不意にクロムの思考がストップする。
ふわりと、いきなり体が宙に浮いたからである。

「あぁ……昔どっかで聞いたな。星から離れると無重力という環境に……ってことはここが宇宙空間か……」

上昇を続けていた昇降機が停止し、扉が左右に開いていく。
そうしてやがて露になったのは人工衛星に続く前進あるのみの一本道。

(確か宇宙空間には空気もないんだったか……。この特殊過ぎる環境が果たして吉と出るか凶と出るか……)

────。

一本道を進むと、やがて天井がドーム状に膨らんだ部屋に辿り着いた。
辺りを見回すと、周囲の壁が見覚えのある輝きとツヤに包まれていた。
……どうやらこの部屋全体が希少金属のミスリルで覆われているらしい。

クロムは思わず何とも言えない溜息をつく。
いざとなれば壁を破壊して敵を宇宙空間に放逐する、などという無茶な作戦もぼんやり視野に入れていた彼であるが、
一方で安全性が確保されているという事実に安堵する自分もまたいたのである。
壁が脆ければ、それだけ宇宙に放逐されるリスクがパーティにも降り掛かるのだから。

「……!」

ふと目線を部屋の中央に向ければ、厳めしい椅子に腰を下ろした細身の男が、黙ってこちらを見つめていた。
帽子を深く被っているので正体は判然としない、が……クロムには今更糞真面目に問いただす気もなかった。
状況から考えて相手が敵のボスであろうことは誰の目にも明らかだったからである。

>「あ〜。お前達か?サティエンドラが言ってたのは。記憶に覚えがあるぞ。
> ということはラングミュアは始末に失敗したのか……あいつは部下に任せすぎだな」

椅子から離れて、腰に帯びた剣をチャカ、チャカと揺らす敵ボス・シェーンバイン。
その剣を一瞬、凝視して、クロムはまたも溜息をつく。
事前に情報を得ていたから敵が魔法剣士タイプである事は知っていたが、だから戦りやすい等ということは決してない。
魔法剣士とは読んで字の如く、魔法が使える上に剣士の身体能力を持つ一種特別な存在である。
そのレベルに関係なく、魔法剣士というだけで通常戦りにくいものなのだ。攻撃・防御の両面で常に豊富な選択肢を持つのだから。

(……首を護る代わりに、手足の二、三本は捨てる覚悟が必要になる、か)

ましてやシナムをも上回る力量の持ち主であることは確実な相手である。
これでは膂力、防御、魔法……そのどれかに比類なき力を誇る特化型のボスの方がよっぽどやり易い。
0355クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/08/15(日) 23:25:53.06ID:P/piySaZ
>「さて……そろそろ始めるとするか?"召喚の勇者"一行。
> お前らはドワーフにでも頼まれて来たんだろうが……運が無かったな。
> 勇者ってのは難儀な職業だ。よりにもよって罪深い連中に蜘蛛の糸を垂らしちまった」

シェーンバインはそう言うと、すらぁっと腰の剣を引き抜いた。
鞘からこれまでにない鈍い光を放つ長剣が露になった途端、室内に充満したのは刃のような殺気。
それはあるいは本体・シェーンバインと、妖しくも苛烈な気配を纏う魔剣の相乗効果が生み出したものの一端かもしれなかった。
思わず全身の皮膚を削ぎ落される感覚を覚えるくらい、かつてないほど研ぎ澄まされたものだったのだから。

(殺気だけでも常人の精神を切り刻めそうだ。実際に矛を交えたら何が起きるのか、想像したくもねぇ──)

>「――そこだっ!!」

──などと思っている内に、いよいよ戦闘が開始された。
最初のターゲットに選ばれたのはレイン。正しく疾風の速さでシェーンバインが一気に間合いを詰めたのだ。
だが、仮面の騎士との模擬実戦、繰り返された修行の成果か、レインの迎撃速度はそれに負けていなかった。
攻撃を許すより先に、炎剣による薙ぎ払いを繰り出していたのである。

「っ!」

しかし、磨いた第六感によって高速戦闘に対処できるレインと異なり、魔族の五感を以って高速戦闘に対処できるクロムには見えていた。
シェーンバインが仕掛けた罠の存在を。
すなわち、レインが斬ったモノは『気当たり』と呼ばれる気配や魔力の運用によって巧みに作り出されたリアルな幻影であることを。
それを声に出さなかったのは、声に出してももはや無駄だったからだ。
次の瞬間には既に、レインは無防備な脇腹を一閃されていたのだから。

>「――さぁて、盛り上げていこうかッ!!」

『気当たり』は、使い手の技量によってはまるで本物と見分けがつかない程の視覚的錯覚効果をも齎す事がある。
クロムが見たところ、シェーンバインのそれは文句なしに達人の域に達したものだ。
厄介であるが、ある意味で最も厄介なのは何も敵の技量だけが厄介なのではないという事実であろう。
思った通りと言うべきか、彼の持つ魔剣には非常に強い厄介なクセがあったのだ。

──刃の高速振動。それにより、交錯させた相手の得物すらもぶった切れるというのである。
敵の剣閃さえも得物で受け止める事ができないのでは、白兵戦では技量云々の関係なしに不利は決定的となる。

>「っと――次はこいつは贈呈するよ。せいぜい楽しんでくれ」

レインにあっさり傷を負わせたところで、いよいよ竜の親玉がクロム、マグリットにも牙を?く。
魔法陣を浮かべた左手から放たれたのは、巨大な竜巻『インフィニティストーム』。上位魔法だ。

ここは無重力。踏み止まることはできない。
黙って突っ立っていれば体はいずれあっさりと宙に巻き上げられ枯葉の如く翻弄される事になるだろう。

(マグリットの事だ。既に毒を散布してるかもしれねぇが……奴に効く保証はねぇ。
 つーか、毒が効くのを待ってる余裕もこっちには無さそうだ。なら、いっそのこと──)

──次の瞬間、クロムは意を決して跳んだ。
飛ばされるのを待つのではなく、敢えて自ら風に任せて飛ばされることにしたのだ。受けから攻めに回る為に。

ここは開けた屋外ではない。密閉された室内なのだ。どんなに強い風も彼方まで飛ばすことはできない。必ず行き止まりがある。
その行き止まり、すなわちミスリル製の壁に打ち付けられる直前、クロムは体を反転させ──両足で着地。
すかさず壁を蹴って暴風の中へ矢のように突っ込む。
0356クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/08/15(日) 23:31:23.63ID:P/piySaZ
「ん? この風を突っ切って来るか。しかし、飛んで火に入る夏の虫──いや、風だけどな。そいつはちっと無謀だぜ?」

「うるせぇよ、反則技ばかり使いやがって!」

シェーンバインの至近に迫り、金棒を袈裟斬りの要領で思い切り振り下ろすが、あっさりと魔剣が受け止める。
まるで威力など感じてなどいないように、細身の体は何ら強張りを見せない。

「さっさと離れた方がいいぞ? それとも俺が早過ぎてできないか? そら、まずは金棒《こいつ》を潰してやるよ」

言うと、シェーンバインはフリーの左手で素早く金棒の頭を抑えて、ぐっと下に押し込み始めた。
金棒の下には高速振動する魔剣。宣言通り、このまま得物を切り落として潰そうというのだろう。
金棒を握る利き手に力を込めるも、ビクともしない。竜の力なのか、とにかく物凄い力で固定されている。

「ああ、そうかよ──」

クロムは左手を剣の柄に掛ける。この至近距離。逆手で抜刀し、一撃を見舞うチャンスと見たのだが──

「──両手が塞がっていても、脚があるんだぜ?」

「がっ……!?」

──未遂に終わる。
思わず苦悶の声が出るほどの鋭い痛み。左手首から発せられるかつてない鈍い音。
シェーンバインが繰り出した右の回し蹴りが、手首の骨をあっさり砕いたのだ。これでは抜刀できない。

「案外、反応が鈍いな? 躱せるかと思ったんだが。……その様子じゃ、“これ”も避けられそうにないな」

シェーンバインの口元が、僅かに弧を描く。

「ぐはぁぁああっ!!」

直後、それを合図に押し寄せ、クロムの全身を一気に滅多切りにしたのは無数の目には見えない刃だった。
上位魔法『ミストラルエッジ』である。
『反魔の装束』によって威力は大幅に殺されているが、一人の体をズタズタにする程度なら充分な数の刃が揃っていたのだ。
例え針に刺された程度の威力しかなくとも、その針に数千・数万と刺されれば膨大なダメージとなるのと同じだ。

「んん? お前、服に何か仕込んでるのか? やけにダメージが少ねぇな。普通なら全身バラバラの筈だが……。
 ま、結局は死ぬことになる運命に違いはないが──なっ!」

もう片方の脚で放った蹴りが、クロムの鳩尾に炸裂する。
ボギボギッ、とあばら骨の何本かが破裂するような悲鳴を挙げ、クロムは自らの後方に勢いよく吹っ飛ばされる。

「……ッ!!」

竜の親玉が放った蹴りの威力は凄まじかった。
クロムの体は硬いミスリルの壁をぶち抜き、更に奥の二枚目の壁をぶち抜き、三枚目の壁に叩きつけられたところでやっと止まった程だった。

「なんだ……結構呆気ないな。こんなもんなのか? ……まぁいいさ。俺はサティエンドラとは違う」

金棒の頭を切り落とし、残った部分をレインに投げつけて、シェーンバインはまるで独り言ちる様に言った。

「獅子は兎を狩るにも全力を出すという。お前らの力量なんざどうでもいい。一人ひとり、確実に仕留めてくぜ。全力でな」
0357クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/08/15(日) 23:34:36.55ID:P/piySaZ
 
────。

「げほっ……げほっ……!」

全身がかつてないダメージに悲鳴を挙げている。
動かせない事はないが、体のどこかを動かそうとするとその度に激痛が走る。というか、むせただけでもだ。

「こいつぁ……かなり骨をやられちまったな……。キュベレーの時みてーに欠損しなかっただけでもマシだが……」

壁に減り込んだ格好のまま、クロムはポケットから取り出した薬草を食べながら周囲を見回す。
恐らくここは人工衛星の制御室とは別の、何かの部屋であることは間違いない。
物置だろうか? 薄暗くてよく見えないが、何かが床のそこら中に沢山置いてあるようにも見える。
……いずれにしても魔物の部屋じゃなくて良かったと言ったところだろう。今の彼に、余計なバトルは致命的なのだから。

(体のダメージは薬草で多少は回復するが……実力の差は薬草ではどうにもならねぇ。俺の武器もあっさり潰されちまった。
 ……かといって、長々と考えてる時間もなさそうだぜ。このままじゃ仮面の騎士の加勢を待つ前にマジで全滅するかもしれねぇ)

何か、少しでも差を埋める策はないのだろうか?
思考を加速させるクロムの目線がふと、床に落ちる。
……瞬間、彼は思わず目を見張った。

暗闇に目が慣れて、床に無数に置いてあったものの正体がはっきりと見て取れたのである。その正体とは──

「なっ……こんなところに……宝箱、だとっ?」

【レインに毒消し草(だったもの?)を渡し、『宇宙の梯子』へ】
【シェーンバインと戦うも、左手首+あばら数本を折られ、全身を無数に切り裂かれる大ダメージを負って吹っ飛ばされる】
【鬼の金棒も破損する】
【現在地はコントロールルームの隣の隣にある沢山の宝箱で埋め尽くされた謎の部屋】
0358マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/08/21(土) 20:59:49.32ID:3jB9R51T
キュベレーとの戦いの終結後
レインはクロムの毒消しにより回復し、クロムは失った足を仮面の騎士の上級回復魔法により再生させた
無事に回復、なのだが、マグリットの心には暗く影が差していた

回復役として何の役にも立たなかった
その為に、仮面の騎士の有限な力を消耗させてしまったのだから
それは大きく響き、宇宙の梯子で顕現する事になる

>……私の残り時間はもう少ない。もう足止めぐらいの役しか出来ないんだ」

仮面の騎士のこの言葉
半神である仮面の騎士の存在は特殊であり、高エネルギー体そのものと言っていいだろう
存在するだけで力は消耗していき、そしてそれが回復する事はない
自分たちが死力を尽くしても勝てるかわからない魔族の大幹部を屠る力を、無駄に消耗させてしまったという事なのだから

沈痛な面持ちで頭を下げ、昇降機に乗り込むのであった


>「……三人だけになったね」

昇降機にて、決戦を前にレインが口を開く
どこまで続くともしれぬ上昇の果てに待ち構える戦いを前に、覚悟を決めているのだろう

>「まぁ……また直ぐに四人に戻るかもしれねーが、それまでに俺達が全滅してたら全てがパァってわけだ。

それにクロムも続く
そしてレインからこれから戦うシェーンバインの情報を整理する

魔族の大幹部という事は、精霊の森で戦った猛炎獅子サティエンドラと同格という事だ
あれだけの魔族とまともに正面切って戦う事を考えれば、その恐ろしさに身震いは禁じ得ない
だが、それでも立ち向かう覚悟を完了させている二人に、伝道師としてマグリットも言葉を紡がずにはいられなかった

「並べ立ててみると手強そうではありますが、角という弱点が分かっておりますし
それに、大幹部一のスピードを誇るという事は、この戦いに勝てばこの先、スピードで後れを取るという事は無くなるという事ですしね!
それに……」

ポジティブな言葉を並べ、にっこりと笑ったところでふわりと体が浮いた
クロムの言葉によると無重力になった、との事だがマグリットの理解に御及ぶところではない

「これは、海中にいるより体が軽く不思議な感覚ですね
地に足がついていないようでどうにも落ち着きませんし、こうしましょうか」

文字通り地の楔から解き放たれているわけだが、それが戦いにおいて何を意味するのか
急激な環境の変化に普段の動きができなくなることを恐れ、靴を脱ぐ
その足は人のものから貝の腹足に変化し床に吸着して安定を得るのであった
0359マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/08/21(土) 21:01:34.35ID:3jB9R51T
やがて起動エレベーターはその終着点に到達する

>「必ず……風の大幹部に勝とう」

「もちろんです、誰一人欠ける事なく!」
自分を鼓舞するかのように、レインの言葉に応えながら『そこ』へと足を踏み入れるのであった

人工衛星『ストラトゥール』

それは古に昔に付けられたこの衛星砲の名前であった
広がるのは阪急退場の天井と部屋の中央に玉座
そこに座る細身の男
言われずとも本能でわかる
サティエンドラとは別種の、しかし同等のプレッシャーを放つこの男こそ、魔族大幹部が一人、風月飛竜シェーンバインであると

部屋全体が薄膜のようなさっきに満ちる中、シェーンバインの一語一句、一挙手一投足に集中
こうして退治するだけでもゴリゴリと精神力を削られていくようだ

>「風の声か……二人とも、あれはただのポエムじゃない。
「そういう……散布型の攻撃はすぐに気づかれてしまいそうですね……」

小さく舌打ちしながらシェーンバインを見据えた
それは同時にシェーンバインがめぐらす視線を受ける事にもなる
そしてその視線はマグリットを正確に射貫くように、様々な情報をくみ取っていった

「これは、参りましたね
魔族特有の傲慢や油断が微塵もない……」

魔族は他種族を圧倒する膂力や魔力を持っているが故に、他者を軽んじ見下す傾向がある
それこそがつけ入る隙となるのだが、シェーンバインの冷静な分析能力や状況判断能力、そしてその立ち振る舞に隙を見出す事が出来ないでした
が、それと同時にマグリットの中に確信めいたものも生まれていた

しかしそうした睨み合いもつかの間の事
風の魔剣『ヴァルプリス』をぎらつかせながら、一言二言躱したのちに先端は開かれる

部屋全体を覆う殺気が揺らいだ瞬間、動いたことは感じ咄嗟に飛びのいたのだが、それは反射にしかすぎずどうしてそこに飛びのいたかの理由などなかった
なぜならばシェーンバインの動きをマグリットの目が捉えるられていなかったからだ
辛うじて見えたのは、レインが炎の剣を振るい、その後にわき腹を抑えながら片膝をつくさまであった

マグリットの全身に冷たい汗が噴き出る

油断していたわけではない
シェーンバインの一挙手一投足に注視していたはずだが、それでも見えなかった
レインがどうやって斬られたかすらもわかっていないのだ
もし標的が自分であれば、何もできずに死んでいた事実

足りない、全く持って足りない!
その気持ちがマグリットの全身に新しい目を生み出させた
複眼効果で動体視力を飛躍的に高め、シェーンバインの動きに対応できるようにしたのだ

その間にも戦局は進み、シェーンバインの追撃をレインが炎の大剣で受け止める
増やされた目はヴァルプリスが高速振動し、紅蓮の刀身に食い込んでいくのを見た
レインもまた刀身の温度を上げ相手の刀身を溶断するつもりだ

その鍔迫り合いにマグリットがシャコガイメイスを振るい割って入ろうとするのだが、シェーンバインの判断の方が早かった

>「っと――次はこいつは贈呈するよ。せいぜい楽しんでくれ」

素早くレインを蹴り飛ばし自由の身となったシェーンバイン、左手を差し出すと、その先に小さなつむじ風が発生
それは瞬く間に暴風となり、殴りかかろうとしていたマグリットを吹き飛ばした
0360マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/08/21(土) 21:04:15.83ID:3jB9R51T
吹き荒れる暴風にレインは剣を突き立てなんとか位置を確保し、クロムは風に乗り壁を蹴り、シェーンバインに金棒を振るう
更にはインフィニティストームの暴風の中には、もう一つの風の上位魔法、ミストラルエッジが仕込まれていた
見えない風の刃は容易く人体を切り刻む

そんな中でレインは何かが自分を包む感覚と共に、風が止み、傷ついたわき腹に暖かな光を感じるだろう

吹き飛ばされたマグリットがゲル状の水球を周囲に展開させた状態でレインを包み込んだのだ

「こちらは貝の獣人が住居につかっているクラゲの一部、しばし風を防ぐ事ができますので安心してください
クロムさんが時間を稼いでくれているうちに傷口を塞ぎますのでお待ちください」

レインの傷口に手を当て祈りを捧げると、暖かな癒しの光が灯る

マグリットは貝の獣人であり、放水能力がある
だがあくまで放水能力であり水を生み出したり操ったりできるわけではないのだ
故に何時も樽を背負い、そこに入れた水や聖水を放出していた
が、マリンベルトを出る際にシェーンバインが高速機動タイプである事を知り、樽の中身を変えておいたのだ

それが貝の獣人が住居として使っている群体巨大クラゲの一部
捕捉機関であり、粘着質なゲル状のものであった
群体クラゲとは、小さなクラゲが各所の部位を担当し一つの生命体を形成するものであり、すなわちマグリットの展開させた水球はクラゲの一部でありながら一個の独立した生物なのだ

高速機動する相手を捉えるのは困難だが、周囲に展開しておけば勝手に突っ込んできて絡めとれる、という目論見を持っていたが、それを達成するまで隠して置ける相手ではなかった
ミストラルエッジを防ぐために展開せざる得なかったのだった

レインの傷がふさがる頃に、クロムの戦いにも大きな動きがあった
クロムの振りう降ろした金棒をあっさりと受け止め、高速振動する魔剣でそれを切り落としにかかっていたのだ

質量的観点で見れば剣を金棒を受ける事はもちろん、切り落とす事もできるはずもない
しかしその魔剣はいともたやすくそれをやって見せる
甲高い音を響かせ切り落としていく様をマグリットは見ていた

「拙いですね、傷口はふさがりましたし、私も出ます
信じられないかもしれませんが、この状況だと私が一番よく戦えるでしょうから」

吹き荒れる暴風の中、マグリットは立ち上がり駆けだした
重力の楔から解かれ、身を翻弄するような激流に時に身を任せ、時に腹足で床に吸い付き、クロムを蹴り飛ばしたシェーンバインの前に立ちはだかった
そう、この状況は海流の激しい海中での戦いに酷似しているのだ

>「獅子は兎を狩るにも全力を出すという。お前らの力量なんざどうでもいい。一人ひとり、確実に仕留めてくぜ。全力でな」

「仕留めさせませんよ!まだお話したい事もありますのでね」

シャコガイメイスを大きく振りかぶり、突進するマグリット
しかし突進した分シェーンバインは下がり、勢いが衰えたところで剣を振るう
そんなやり取りが数回
技量では圧倒されながらもマグリットが戦えているのは、暴風の中でも変わらぬ身のこなしができる事と、身にまとったゲル状の水球にあった
その特性を瞬時に見抜いたシェーンバインは、まずは水球を削ぎ落していく攻撃にシフトしたからだった

「まったく、順番くらい待てないのかねえ」

呆れるように、それでも単なる作業のように水球を削ぐ落としていく剣を見ながら、マグリットが問いかける

「あなたはサティエンドラとは違う様子ですね
私は今まで魔族は神の敵対者、破壊の権化だと思っていました
しかし、これまでの戦い、そしてあなたを見て確信しました
魔族もまた一個の生命体であり、私たちと何ら変わりもない、と
ならばどうして魔族は多種族を駆逐し世界を崩壊させようというのですか?
支配が目的であるならば交渉の余地もあるのでは?」
0361マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/08/21(土) 21:07:00.34ID:3jB9R51T
勇者と魔族が殺し合うのは必然
魔族は神の、そして世界の敵対者であり、滅ぼすべき存在である

それはごく当たり前の事であり、疑う余地もない話
のはずであった
しかしキュベレーの降伏後の保身に走る様はどうだろうか?
神へのスタンスは?
渇望の根源は?
人間のそれと何の違いも見出す事ができなかったのだ

そして今対峙するシェーンバインを見て、この構図は完全に瓦解した

そうなるとこうして戦う意義すらもまた揺らいでくるのだから
だから、マグリットは魔族は何を思い侵攻を始めているのかを知りたくなったのだ

その問いと共に渾身の力でシャコガイメイスを振り降ろすのだが、刹那、シェーンバインの姿が消えた

今までゲル状の水球を削ぎ落すためにあえてマグリットの攻撃を誘っていたのだが、ほとんどそぎ落とし終わった今、それに合わせる必要もなくなったという事だ
複眼効果により辛うじて見えたその移動により背後に回られたことを把握はしていたが、止まらない

「ああ、そう言えば、ドワーフたちが罪深いというのには同意しますよ
こんなものがあるから、後生大事にするからいけないのですよ!」

振り降ろす先は玉座
人工衛星『ストラトゥール』の制御を司る部位であろうものだ
受けた依頼は宇宙の梯子に救う魔族の撃退と衛星砲の奪還ではあるのだが、奪われ甚大な被害をもたらすような禁忌な兵器だ
それならばいっそのこと壊してしまった方が良い、と思っていた
即ち、シェーンバインに逃げられる事は織り込み積みであり、そのどさくさに紛れて玉座を破壊する事こそが真なる狙いなのであった

隠して渾身の力で振り降ろされたシャコガイメイス
それは大きな音と衝撃波を発生させたが、玉座は……無傷!
衛星全体の制御を司るこの部屋は全てがミスリルづくりで、渾身の一撃でも傷つくことなかったのだ

「クククク、思い切った事を考えたが、どうだ?ドワーフの罪深さは想像以上だったろ?」

無傷な玉座を前に驚くマグリットの背後から響く声
無防備な背中に高速振動の魔剣が振り降ろされた

背負っていた樽の中身はすでになく、防壁としての役割を果たす事なく容易く両断される
刃はそれだけでなくその背も切り裂き血が噴出する
玉座が無傷であった事は想定外であったが、背中を切られる事は想定内
マグリットの血は行動度の毒であり、返り血という形であってもかけさえすれば大きなダメージになるのだが

「ど、何処までも隙のない御仁ですね……」

飛び散った血が不自然な軌道を描きシェーンバインから逸れて消えていくのをうなじの複眼で確認し、膝をつく
シェーンバインが周囲に巡らせたウィンドシェルにより毒血の起動を逸らし散らされてしまったのだ

「お前さんのゲル状の水球も似たようなものだったろ?」

事も無げに言うシェーンバイン
確かに効果は通じるものがあるが、そぎ落されたマグリットの水球に比べ、その差は歴然であった

「明らかに格が違うと言いたげですね!」

振り向きざまにシャコガイメイスを振るうが、当たるはずもなく、魔剣を振るいその軌道を変えられやすやすと躱されてしまう
マグリットの攻撃を完封したシェーンバインだが、けげんな表情を浮かべ自身の剣を見つめていた
0362マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/08/21(土) 21:10:24.52ID:3jB9R51T
「ふむ、まただ
さっきの一撃、その身を両断するつもりだったのにまだ体がくっついている
そして今も、貝殻ごとききれないとは、何をした?」

高速振動する刀身、ゲル状の水球を切ったからと言ってそれがまとわりついて切れ味が落ちたわけではない
実際に刀身を確認してもそのような事はなかった

距離を置き、シャコガイメイスを構えながらマグリットが口を開く

「ふふふ、騙されてはくれませんか
確かに水球は関係ありません
分析がお得意なようですし、どうせすぐ気付くでしょうから種明かししますとね
あなたの魔剣、高速振動する事で切れ味を増すのでしょう?
レインさんとの鍔迫り合いだけなら気づかなかったのですが、クロムさんの金棒の切り落としは不用意でしたね」

ここまで言えば既に察せられているようだが、更に言葉を紡ぐ
シェーンバインは分析タイプ
様々な事を「知らずにはいられない」と踏んだのだ

故に様々な種をまき、疑念を解消するという形で思考リソースを奪い、こうして会話に持ち込む事もできる
それは負傷したレインやクロムが回復する貴重な時間稼ぎになるのだから

「私達水棲の獣人は水中でも会話できるように特殊音波の発生ができます
それを貝を通して発する事で様々な音波振動として発せられるわけですんね
もうここまで言えばお分かりと思いますが……」

特定周波数の音波を照射する事でいかなる硬度のものも振動によって破砕する螺哮砲の低周波により、シェーンバインの魔剣の高速振動を中和して切れ味を落としてたのだ
そう言葉を続けるはずだったのだが、その言葉紡ぎだされる事はなかった

「そうかい、つまりは最初に殺すべきはお前という事だな」

マグリットの言葉を遮り発せられたシェーンバインの言葉
その「殺す」の一言に込められた殺気がマグリットの言葉を紡がせる事を強制的に辞めさせたのであった

鳥類が光物を集める習性があるように、シェーンバインも武器の収集癖があり、その中でも一品が風の魔剣『ヴァルプリス』なのである
コレクターのサガとして、収集したものを見せ、誇らずにはいられない
レインとの最初のやり取りでその出自を明らかにしたのは、ドワーフが罪深い存在であるかを知らしめ動揺を誘う為だけではなく、コレクターのサガがそうさせた一面もあったのだ

そして、そのコレクションの価値を貶めるような事を絶対に許しはしない
その怒りがシェーンバインの殺意となって立ち上るのであった

「まあ、そういう事になりますが……高速振動を軽減されちゃうその魔剣で殺せますかね?」

うすら笑いを浮かべながら答えるが、これは余裕があっての事ではない
恐怖も極限を超えると却って笑えてしまうという笑いでしかないのだから

「十分さ」

刹那に間合いを詰め、横薙ぎの一閃を繰り出すが、複眼効果により辛うじてその動きは把握されシャコガイメイスの柄でその刃を受ける
確かに高速振動は緩和され刃は受け止められたのだが、その刃に纏わされていた風の刃が柄をすり抜けマグリットを襲う
受けた右腕に幾本もの裂傷を負いながら吹き飛ばされていくマグリットだが、その目に宿る光は死んではいない

「流石に冷静、そして多彩な事で、確かに私一人ならば十分でしょうが、私には仲間がいますのですよ
それに、先ほどの問いかけ、魔族の目的についてもお答えいただいておりませんのでね、まだ死ねません」

血塗れになりながらも、即座に態勢を整えシェーンバインの追撃に備えるのであった

【レインの治療をした後シェーンバインに問いかけ】
【玉座破壊に失敗】
【風の魔剣『ヴァルプリス』の高速振動を軽減中】
0363レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/27(金) 18:30:55.60ID:M7Y5LF0+
血が止まらない。脇腹の負傷はそう浅い傷ではなさそうだ。
達人級であるシェーンバインの一撃は内臓をもしっかりと切り裂いている。
回復魔法や薬草で迅速に応急処置を施さねばレインは死ぬしかないだろう。

台風の目の中ではシェーンバイン目掛けてクロムが突っ込んでいくのが見える。
痛みを紛らわせるように仰ぎ見れば、ゲル状の何かが周囲を包んでいく。
シェーンバインの攻撃とは違う。明らかに風系統のなせる技ではなかった。

>「こちらは貝の獣人が住居につかっているクラゲの一部、しばし風を防ぐ事ができますので安心してください
>クロムさんが時間を稼いでくれているうちに傷口を塞ぎますのでお待ちください」

「ごめん……頼むよ。このままじゃクロムが危険だ」

回復魔法による応急処置で傷口だけは塞がる。と、いっても完治には程遠い。
まだ動くと激痛が走る。マグリットの回復魔法の治癒速度ではそれが限界だったのだろう。

>「拙いですね、傷口はふさがりましたし、私も出ます
>信じられないかもしれませんが、この状況だと私が一番よく戦えるでしょうから」

マグリットが戦列に復帰しようとした時、クロムが蹴りを浴びて吹き飛んだ。
シェーンバインの渾身の蹴りはミスリルの壁を破るほどの威力で、レインは言葉を失う。
自分が食らった蹴りはまるで全力ではなかったのだ。そう思うとぞっとする。
シェーンバインが投擲した金棒の残りをしゃがみこんで回避すると、マグリットを追う。

「ま……待ってくれマグリット。俺も……ぐっ」

立ち上がろうとするが痛みで片膝をついた。やはりまだ十全には戦えなさそうだ。
その間にマグリットとシェーンバインの一騎打ちが始まってしまう。
本人の言葉通り、マグリットはシェーンバインと交戦が成立する程度には戦えている。

どうする。自分はどうすればいい。どうすれば足を引っ張らないで済む。
後ろから斬りかかるか?それとも我が身を盾にして反撃の糸口を作らせるか?

(……『あれ』しかない。未完成だけど……このチャンスがあれば発動できる!)

紅炎の剣を前に突き出して構え、魔力を集中させはじめる。
この技はまだ発動に時間がかかるうえ、威力にもムラがある。
だが使えばシェーンバインに多少の手傷を負わせることができるはずだ。

>「あなたはサティエンドラとは違う様子ですね
>私は今まで魔族は神の敵対者、破壊の権化だと思っていました
>しかし、これまでの戦い、そしてあなたを見て確信しました
>魔族もまた一個の生命体であり、私たちと何ら変わりもない、と
>ならばどうして魔族は多種族を駆逐し世界を崩壊させようというのですか?
>支配が目的であるならば交渉の余地もあるのでは?」

一方、シェーンバインはマグリットの言葉を聞き流して、
彼女を覆うゲル状水球を削ぎ落す作業に専念していた。
返事をする余裕はあるが今は戦闘中だ。口を動かしてやる義理なんてない。
0364レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/27(金) 18:33:26.24ID:M7Y5LF0+
>「ああ、そう言えば、ドワーフたちが罪深いというのには同意しますよ
>こんなものがあるから、後生大事にするからいけないのですよ!」

そして削ぎ落しが終了すると同時、マグリットの背後に回って斬りかかる。
マグリットは構わずコントロールルームの要たる玉座に一撃を入れる。
衛星砲という禁忌の兵器。頼まれたのは奪還だが、今後の危険性を考えて破壊を試みたのだろう。
が、無傷。彼女ほどの膂力の持ち主でも破壊はおろか傷すらつけられてない。

>「クククク、思い切った事を考えたが、どうだ?ドワーフの罪深さは想像以上だったろ?」

シェーンバインは樽ごとマグリットの背中を切り裂く。鮮血が勢いよく噴き出した。
その血は濃縮された毒血だが、事前に発動していた防御魔法『ウィンドシェル』の力で届かない。
ただ――おかしい。高速振動する風の魔剣の効力なら背中を斬るどころか両断できてもおかしくないはず。
明らかに切れ味がただの剣レベルまで減衰している。

>「私達水棲の獣人は水中でも会話できるように特殊音波の発生ができます
>それを貝を通して発する事で様々な音波振動として発せられるわけですんね
>もうここまで言えばお分かりと思いますが……」

マグリットの特技のひとつに音波を放ち対象を振動破壊する『螺哮砲』がある。
この音波を魔剣に放つことで振動を中和してその威力を落としていたというのだ。
魔剣の超音波振動で切れ味を増幅させるという性質を逆に利用した形だ。

>「そうかい、つまりは最初に殺すべきはお前という事だな」

語調は平板だが、確かに殺気を孕んだ言葉だった。それも無理はない。
風の魔剣『ヴァルプリス』はシェーンバインが有する剣の中でも最高峰の一振り。
武器の収集家としての一面を持つ彼にとって、愛剣の価値を下げることは許されない。

それほどまでの剣でありながら、仮面の騎士からその情報は聞かされていなかった。
なぜなら風の魔剣は仮面の騎士を撃退した功績で下賜されたものだからだ。
仮面の騎士も、魔剣の存在については把握していなかったのだ。

一瞬にして間合いを詰めて剣閃を繰り出す。
剣自体はメイスで受け止めたのだが、剣から放たれた風の刃が迫る。
マグリットはそれを右腕でガードするもののいくつもの裂傷を負って吹き飛んだ。

>「流石に冷静、そして多彩な事で、確かに私一人ならば十分でしょうが、私には仲間がいますのですよ
>それに、先ほどの問いかけ、魔族の目的についてもお答えいただいておりませんのでね、まだ死ねません」

追撃を繰り出すため、軽快に床を蹴る。
なるほど頑丈な獣人だ。多少切り裂いたくらいでは防御が緩まない。
ならば速度の乗せた『刺突』で一気に心臓を貫く考えだ。
0365レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/27(金) 18:36:36.56ID:M7Y5LF0+
だが放たれた突きの一閃が届くことはなかった。
二人の戦闘に割り込んだレインの大剣が魔剣の一撃を防いだのだ。

「待たせてごめん、今からは俺も参戦させてもらうっ!」

力強い一言を聞いてシェーンバインは後ろに飛び退いた。
その台詞に圧された訳ではない。レインの異常な様子に警戒を示したためだ。
全身から超高温度の炎が噴き出し、熱を纏った人間離れした姿に。

「……おいおい、いいのか。お前さんにつけた傷はそう浅いもんじゃない。
 応急処置を施したんだろうが無理すると死ぬぜ。人間の寿命ってのは短いんだろ?」

「……そうだよ。でも……俺は守りたい約束があるんだ。それを果たすためなら何だってする。
 シェーンバイン……君は、君達魔族は何のために戦うんだ!?なぜそこまで他の種族を傷つける!?」

剣に魔力を込めて連続で『炎の刃』を飛ばす。当たれば風属性の敵は大ダメージを被るだろう。
シェーンバインはそれを高速移動で避けていく。流石は最速の魔族といったところか。
帽子を被り直しながら、シェーンバインは言葉を返す。

「別にいいだろなんでも。お前に何か関係あるか?魔族の事情なんて俺にも関係のないことだ。
 魔族という最も優れた種族こそが世界の覇を握るべき。純粋で単純にそれだけだよ。
 だがまぁ、魔王様に限ってはだが……単なる世界征服以上のビジョンを持ってるみたいだな」

「どういうことなんだ……!?」

炎を剣に纏わせて斬りかかるが、やはりシェーンバインは平然とした顔で避けていく。

「魔王様は『神々の支配を受けない世界にするため』と仰っていたよ。
 この世界から去った今も、神々は色々な形でこの世に干渉して世界を管理しようとしている。
 運命を操作してるなんて話もあったな……とにかく魔王様はあいつらの操り人形になるのが嫌だと言っていた」

レインの腑にも落ちてしまう話だった。
当のレイン本人が光の女神に選ばれ、魔王を倒す使命を帯びた勇者だからだ。
もし神々が完全な放任主義であればそんな事自体しないだろう。
そして、レインは勇者に選ばれた時、そんな話は聞かされなかった。

「だから……魔族は神に縋る人間達とは絶対に相容れない。魔族は神すら超えて高みに昇る。
 それが魔王様の目的であり……夢だからな。俺はそれに従うだけだ」

「そこまで知っているのに……何で『俺にも関係ない』なんて言うんだ?
 シェーンバイン、君は……魔王に忠誠を誓ってないのか?」

レインがそんな言葉をつい放ってしまったのは、キュベレーとの一件があったからだ。
勇者の最終目標は魔王ただ一人。それ以外の魔族は障害とはいえ必ずしも倒す敵とは限らない。
ならば対話の道もあるかもしれないという淡い期待を込めてしまったのだ。
0366レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/27(金) 18:39:51.00ID:M7Y5LF0+
「……忠誠は誓ってるさ。良ければ俺の昔話でもしてやろうか?退屈はしないと思うぜ」

帽子のつばをいじりながら、シェーンバインはそう答えた。
なぜレインとの会話に付き合っているかと言えば――それはレインが纏う炎を警戒してのことだ。
おそらくは鉄すら瞬時に融解するほどの温度。熱は『ウィンドシェル』でも防ぎきれない。
オリハルコン製の『ヴァルプリス』なら耐えられるだろうが、念を入れて様子を窺っていた。

それはクロムが戦線復帰する可能性も孕んでいたが、彼にはすでに十分な手傷を負わせている。
多少複数同時に相手するリスクを背負ってでもレインの炎は注意すべきと判断したのだ。
要は時間稼ぎ。魔力を少しでも消耗させようとしているのだ。

レインもその意図にようやく気付いて、やはり対話は不可能なのだと悟る。
戦って決着をつける以外に道は残されていないのだと。

「そうしたいところだけど……俺にも時間がない。行くぞ、シェーンバインっ!!」

噴き出す炎がレインの全身を覆い、大剣を構えてそのまま突貫した。
当たればシェーンバインといえど負傷は避けられない。
だが、当たればの話だ。これまでの攻撃でレインから負った手傷などひとつもない。
今までの攻撃に比べれば速いが、それでも十分避けられる速さだ。

「未完奥義!!プロミネンスブレイザーッ!!!!」

瞬間、レインは一気に加速した。シェーンバインは目を剥いて回避行動に移る。
あれはヤバい。本能が告げる危険性は彼の足を動かして横っ飛びで躱させた。

レインの突貫はそれだけで終わらない。急ブレーキを掛けて反転すると再突撃を敢行する。
舌打ちして跳躍すると空を舞った。ここは無重力空間だ。風魔法を併用すれば飛行も難しくない。
だがレインの追尾は続き、飛翔するシェーンバイン目掛けて正確に飛んでくる。

(纏っている炎で空気さえも燃焼し、噴流を生み出して飛行してるのか!!?)

それこそがレインの奥義の正体。紅炎の剣で生み出した炎をその身に纏い、空気を燃焼。
発生した噴流の反作用で爆発的な加速力を得て飛行する。さながら空を舞う火の鳥のように。
そのスピードは一時的とはいえ大幹部いちのシェーンバインにさえ匹敵する。

「人間にぞくっとしたのは初めてだ……!悪くない、悪くないな"召喚の勇者"!
 ならば受けて立ってもらうぜ!?この俺の!!真竜の魂のバイブスをーーーーッ!!!!」

空中で機動を変えたシェーンバインは魔剣の切っ先をレインに向ける。
すると魔剣を中心に竜巻が生じ、雷を伴う暴風となって荒れ狂う。
それは『魔法剣』とも呼ばれる魔法剣士にのみ許される技だった。
それも、得意の風魔法のみならず雷魔法をも加えた必殺の一撃。

「――奥義!!オラージュ・エクストリームッ!!!!」

雷と旋風、ふたつの攻撃が火の鳥と化したレインに激突する。
ふたつの巨大な力はぶつかりあって相殺しあい、ばちばちと拮抗している。
0367レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/08/27(金) 18:43:07.64ID:M7Y5LF0+
この激突にさえ勝てばシェーンバインに刃が届くはず。
レインは力を振り絞って全魔力を自らの炎に注ぐ。

「な……!」

だがレインの見積もりは甘かった。
その眼に映ったのは風の力で加速して砲弾の如く突っ込んでくるシェーンバインの姿。
一撃目の雷と嵐で相手の動きを止め、二撃目の斬撃で確実にとどめを刺す。
それが風の大幹部の奥義。『オラージュ・エクストリーム』なのである。

レインは咄嗟に攻撃から防御に切り替え、大剣でシェーンバインを撃ち落としに掛かる。
紅炎の剣スヴァローグと風の魔剣ヴァルプリスが交差する。
そして激突が終わると――レインはぐらりと力無く無重力空間内に浮かんだ。
纏っていた炎は急速に萎んでいき、跡形もなく消え去る。

「……奥義対決は俺の勝ちってところか」

目深に被っていた帽子が焼き焦げ、着地するシェーンバインの足元へ落ちていく。
そして露になったのは二本の魔族の角。それでもなお余裕は崩れていない。
シェーンバインにそれらしい外傷はなかったが、レインは重傷だった。
その程度で済んだと言うべきか。もし魔剣の高速振動が健在なら両断されていただろう――。

高速振動の力が軽減されていたおかげで、奥義はなんとか防御できている。問題はそれ以外だ。
超高熱の炎を身に纏った影響で全身に火傷を負っていた。これがレインの奥義が未完成である最大の理由。
『プロミネンスブレイザー』はその性質上、制御を誤ると自分の身をも焼きかねない危険性を持つ。
シェーンバインを追い詰め、奥義を使わせるまでは良かったが、結局のところレインは自爆してしまった。

「順番が前後しちまったが……お前から殺るって宣言に変わりはないぜ、蜃の獣人。
 あの世に行く心の準備は済んでるか?俺は慈悲深いからなるべく楽に逝かせてやるよ」

風の魔剣の刀身を軽く撫でつけて、一歩、また一歩とマグリットへと近づく。
その命を刈り取るために。


【シェーンバインと奥義対決の末に敗れる】
【帽子が焼けて魔族の角が露出。宣言通りマグリットから殺すつもりのようだ】
0368クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/09/04(土) 17:56:44.29ID:df8teERZ
「マグリット──お前はまずレインを治せ。それまでは俺が踏ん張ってやる」

シェーンバインとマグリット、その二人の間に突如として割って入ったのはクロムの声。
声の方向を見やれば、大きな壁の穴の中からぬっと現れた、新たなアイテムを手にした彼の姿を確認できるだろう。

「チッ……加減を誤って俺のコレクションルームまで飛ばしちまったか。……それにしても」

しかし、凝らすように目を細めるシェーンバインは、如何にも解せないと言いたげである。
いや、あるいはマグリットも同じ心境であったかもしれない。
何故ならクロムが手にしているのは、薄紙一枚切れそうにない錆び付いたナマクラ剣にしか見えないモノだったのだから。

「他にもっといいのがあった筈だろ? なんでそれを選んだ? まさか暗闇で良く見えなかったというオチじゃないんだろ?」

「──……お前、武器のコレクターか。確かにいいのは沢山揃ってたぜ。だが、俺が探してたのはこいつだけだったんでね」

そう言って穴から飛び出て、クロムはひゅん、と剣を試し振りする。
空中を薙いだその剣の造りは、かつての『悪鬼の剣』同様の刃渡りを持つ、片刃の打刀タイプのものだ。
違うところと言えば、元は文字通りの白刃であろう刀身が、見事なまでに錆び付いて薄汚く変色しているという点。
そして、柄や鍔には悪趣味な髑髏の意匠が無数にあしらわれているという点であろう。

「……『鬼神のだんびら』……別名『破滅の凶剣』。要するにお前もその剣にまつわる話を信じてたってわけだ」

「“この剣を手に入れた者は天下無敵となるが、やがて例外なく自らの力に己自身が殺される破滅の時を迎える”……」

「俺がその伝説に終止符を打ってやろうと思った。だから方々手を尽くして探して手に入れたんだが……なんてことはない。
 所詮、伝説なんてのはその多くが誇張と流言によって膨れ上がっただけのデタラメに過ぎないってわけだ。
 そいつは見た目の通り、何の呪いもなければ能力もないただのナマクラだぜ? 残念だがな」

「さて、どうかな──」

クロムが再び剣を振る。それも、今度は確かな殺気を込めて。
しかし、シェーンバインは剣の間合いの遥か外。如何に殺気を込めてそれが届く事は無い。普通なら。

「っ!」

が、瞬間、シェーンバインは声にならない声を上げた。彼の胸が真一文字に切り裂かれ、流血したのだ。

「……どういうことだ?」

ひと呼吸おいて、驚きの表情を以ってそう問うてくるシェーンバイン。
クロムは、そんな彼の表情と、それとは裏腹な冷静そのものの声を聞いて理解した。
彼は胸を傷付けたモノの正体を問うたのではなく、どうやってただのナマクラ剣で今の現象を起こしたのかを問うたのだと。

「流石に超一流の使い手。今の一瞬、不意の攻撃……躱す事はできなくとも理解は速いようだ。
 あんたの思ってる通りさ。今のは魔法じゃない。ただの“剣圧”だ」

クロムが放った剣圧。
それは相手が遥か格下の雑魚モンスターであれば両断できるほどの威力があったものだが、相手はシェーンバイン
傷を負わせたとはいえ、致命傷にはほど遠い浅手に過ぎない。
0369クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/09/04(土) 18:03:02.59ID:df8teERZ
「問題は魔法も呪いもないただのナマクラ剣でどうやってそこまでの剣圧を生み出したのか……答えは簡単だ。
 こいつはあんたにとっては錆びたガラクタに過ぎないが、俺にとっては異常に研ぎ澄まされた凶剣だってことさ。
 この剣は使い手を選ぶ。選ばれた者でなければ、この剣は本気になってくれねーのよ……!」

「! これは……!?」

不意にシェーンバインが目を見張る。
声から先程までの冷静さまでもが消えかかっているのは、彼でも理解が追い付かない光景が眼前で展開されているからに違いない。
彼の傷口から赤い霧状のオーラが湯気のように立ち昇り、それらが全てクロムが握る剣に吸い込まれているのである。
いや、違う。正確には、剣を伝ってクロム自身に吸収されているのだ。

「まさか、俺の血かっ?」

「教えてやろうか? こいつはな……」

全身から真っ赤なオーラを立ち昇らせたクロムが、とん、と刀の峰で肩を叩いた。
そして、言葉の続きが紡がれたのは正にその直後──“シェーンバインの背後”を取った時であった。
──クロムは瞬時に移動したのだ。魔装機神をも上回る、かつてない速度で。

「お前の“エネルギー”だ」

「──っ!!」

袈裟斬り。正しく閃光のように鋭く、速い一撃。
その威力は軽々と竜鱗の防護力を超越し、シェーンバインの背中に斜め一文字の深々とした傷を刻みつけ、血を噴き出させた。

「こっ──のォ!」

シェーンバインは前に倒れかけるも、力強く踏み出した左脚で踏み止まり、すかさず背後を振り返りながら剣を走らせる。
しかも剣には竜巻を纏わせて。
剣は剣で受け止めることができる。しかし、受け止めればマグリットのように得物をすり抜ける風の刃によって傷つくだろう。

ならば避けるしかない。
クロムは素早く床を蹴って後方に跳び退く。敵の斬撃の直撃を許すより先に。
シェーンバインの「チィ!」という強い舌打ちが聞こえる。
彼の実力を考えれば、そもそも空振りを許す事が通常では有り得ない事態に違いない。
実際、先程までのクロムなら躱す事はできなかったであろう。

「この別人のような超反応! お前……俺のエネルギーと言ってたが、まさか!」

シェーンバインは左手を突き出し、その掌から巨大な竜巻を生み出した。『インフィニティストーム』である。
だが、この魔法の性質を考えれば、恐らく彼は直接大ダメージを与える為の攻撃用として用いたのではない。
恐らく狙いは暴風によって肉体の自由を奪う為。攻撃用の魔法はまた別にあるのだ。
すなわち──『ミストラルエッジ』も同時発動していると考えるべきなのだ。

「しかし、これ以上俺を斬ることはできない! 躱したのは見事だったが、俺から離れたのは間違いだったな!」

迫る壁。それに背が着く瞬間、クロムは壁を蹴って暴風の中へと突っ込む。
再びシェーンバインの至近に迫ろうというわけだが、風という拘束具の前ではスピードは制限されてしまう。
もたつけば風の刃の餌食となり、仮に間合いを詰めても緩やかな斬撃ではまた難なく捌かれてしまうだろう。

──ならば、風さえもものともしない速力を捻り出すしかない。
0370クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/09/04(土) 18:07:46.98ID:df8teERZ
「……それもどうかな」

クロムの姿が、その場から忽然と消え失せたのは、そう言った直後の事だった。
刹那、シェーンバインは目を大きく見開いて、叫んだ。

「上っ!!」

そして彼の頭上、ほんの数メートル先で剣を振りかぶった格好のクロムに向けて、奥義を放つのだった。
風魔法と雷魔法を同時発動した必殺の一撃・『オラージュ・エクストリーム』である。

「──なっ!?」

当たれば命を砕く文字通りの必殺技。『反魔の装束』の効果をもってしても、直撃すれば確実に戦闘不能となるであろう威力。
だが、クロムには当たらなかった。いや、当たったのだが、その瞬間にクロムの体が再び忽然と消え失せたのだ。

「まさか──残像……っ!?」

驚き叫ぶシェーンバイン。その背後で、クロム《本物》は剣を振りかざしていた。

「この剣は、ダメージを与えた敵からエネルギーを奪い続け、使い手の膂力にプラスする。
 いわば一時的にステータスを大幅に上昇させるアイテム。残像を見せるくらいわけもない──!」

──振り下ろされる剣。確実に仕留める為、狙いは迷うことなく脳天。
しかし、シェーンバインも流石にただ者ではない。ダメージこそ免れなかったが、致命傷だけは回避して見せたのだ。
クロムは全て見ていた。
刃が命中する瞬間、突如としてシェーンバインの足元から発生した暴風が、彼を瞬時に別の空間まで運び去ったのを。

「……自身の速力に、風魔法の応用技をプラスした独特な移動術ってところか。
 やっぱしぶてぇな……。だが、弱点の内の一つは斬ってやった……ぜ……ごほっ」

頭上に浮かぶ物言わぬ角を見上げるクロムの口から、突然ごぼっと溢れ出たのは大量の血だった。
原因は判っていた。胸部が訴える、突き刺さるような激しい痛みだ。

(無茶な動きをしたせいで……折れた肋骨がどこかに刺さりやがったか。くそっ、魔人の体でも負傷してるとこのザマか……!
 この負担のでかさ、万全でも長時間は使えそうにねぇ……。この戦いでも後どれだけもつのか……)

空中で、斬り落とされた角の根元を押さえながら、どこか呆然とした様子でクロムを見下ろすシェーンバイン。
しかし、その瞳に次第に強烈な殺気が満ちていくのを感じて、見上げるクロムは額に浮かんだ脂汗を拭って呟いた。

「レイン、マグリット……まだか。そろそろやばいぜ」


【『鬼神のだんびら』→錆び付いたナマクラ剣。しかし剣に選ばれた者が持つと異常な攻撃力を発揮する】
【斬り付けた敵から毎秒事にエネルギー《ステータス値》を奪い、使い手のステータス値にプラスする能力有り】
【ただし効果はあくまで一時的で、対象となる敵が能力射程から離脱したり死んだりするとリセットされる】
【クロム:一時的なパワーアップを果たすが肉体的負担が大きくダメージが徐々に拡大中】
【シェーンバイン:背中を斬られ二本の角の内の一本を失う。更にエネルギーを奪われ徐々に弱体化中】
0371マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/08(水) 00:18:27.09ID:+U9AzbOx
>「レイン、マグリット……まだか。そろそろやばいぜ」

その言葉に応えるように、クロムはシェーンバインの肩越しに見るだろう

それはシェーンバインが片角を切り落とされた衝撃から思考が立ち戻る刹那の隙間
背後からの爆発的な魔力の高まりを感じるただろう
しかもそれは良く知った凶暴な炎の魔力に似ていた事も驚きを増大させる事になる

振り向いたシェーンバインは、迫る巨大な影と振り上げられる白刃を見た

 * * *

風の魔剣『ヴァルプリス』の切れ味を衰えさせるマグリットを最優先排除対象と定めたのだが、巨躯と防御力故に中々殺しきれない
故に、斬撃ではなく心臓への刺突により確実に殺傷しようとしたのだが、そこにレインが割って入る

炎の化身と化したレインとシェーンバインの戦いは苛烈を極め、マグリットが手出しができる領域を超えており、ただただ超音波によりヴァルプリスの高速振動を軽減する事しかできなかった

そして両者はお互いの奥義をもってぶつかり合うのだ
共に必殺の奥義ではあったが、結果は一目瞭然
レインは大ダメージを負い力なく宙を漂い、対するシェーンバインは目深に被った帽子が焼け焦げ足元に落ちるにとどまった

奥義対決に勝利したシェーンバインが着地し、マグリットに向き変える

>「順番が前後しちまったが……お前から殺るって宣言に変わりはないぜ、蜃の獣人。
> あの世に行く心の準備は済んでるか?俺は慈悲深いからなるべく楽に逝かせてやるよ」

「レインさんはお話を拒否されたようですが、私はあなたの昔話に興味がありますので、昔話をお願いしたいところなのですが?」

宙を漂うレインは元より、壁を突き破って蹴り飛ばされたクロムもかなりの重傷のはずである
こんな時にPTの傷を癒し立て直しを計るのが神官の、ヒーラーとしての役割なのだが、マグリットの癒しの力はあまりにも低い
それ以前にこの状況で二人の回復を目の前のシェーンバインが許すはずもないだろう
せめてもの時間稼ぎと話を誘うも、一笑に付されてしまう

それを見て覚悟を決めたマグリットは呼吸を整えた

「半竜と聞いておりましたが、とんでもなかったですね
私を蜃の獣人と知っておられるようですし、ならば私の目的もわかっているのでしょう?
私は龍を目指しており、あなたは私が目指すべき場所に随分と近いところにいられるようで」

>「ああ、だが目指す場所も、その途上にいる俺のところにもお前は辿り着けない」

ゆるぎない死刑宣告にマグリットは唇をかんだその時、会話に割って入るかのように声が響いた
その声の向きを見れば、壁の大きな穴から錆びついた剣を手にしたクロムが現れた

「あなたも戦えるような傷ではない」
「いくら何でもそんな剣では」
「せめて一緒に戦います」

言いたい事は色々あったが、その鋭い眼光に全てを飲み込み指示通りレインの元へと移動するのであった
本来シェーンバインの前ではそれすらも至難の業なのであろうが、幸いにして何事もなく到着
これはクロムにつけ入る隙を見せたくないという以上に、その手にあった自身のコレクションでもある鬼神のダンビラに注意が注がれたからであろう
0372マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/08(水) 00:25:50.33ID:51wQpnMr
クロムとシェーンバインとの戦いが始まる中、力なく漂うレインを引き寄せ回復の祈りを始める
状況は先ほどのわき腹を切り裂かれたレインを暴風の中応急処置したと同じではあるが、程度が違いすぎる
全身の火傷に塞いだ脇腹も開いてしまっている
先ほどより重症であるのに対し、マグリットの回復能力は低い
元々信仰が高い訳でもなく利害関係の為に入った教会であり、伝道師の役職ではあるが、それにも増して回復能力の低下を感じていた

それは、森でキュベレーの態度を見た時から、現在のシェーンバインの話を
更に言えばその話にできた魔王の考えに、薄かった信仰は更に揺さぶられていたからである
これでは回復力の低下は当然であるし、奇跡など望むべくもない

「このままでは、レインさんを救えない……クロムさんだって、あの傷であんな動きいつまでもできるわけがない」

マグリットは知る由もないが、鬼神のダンビラの効果によりシェーンバインのエネルギーを吸収し、その爆発的なパフォーマンスを自分のものにしていたのだ
当然恐るべきパワーアップではあるが、それはクロムの体がもつとは思えない動きだったからだ

「ここで、……終わらせるわけにはいかない」

マグリットは静かにシャコガイメイスを握り締め立ち上がる

* * *

クロムの必殺の一撃はシェーンバインの足元に発生した竜巻を伴う移動術によりギリギリ躱されてしまう
が、それでもつのの一本を切り落とす事に成功
これはシェーンバインに大きな衝撃を与えた

魔力を制御する機関である角を切られたこともだが、魔人であるクロムが完全に殺しにかかってきており、角を切り落としたという事実
潜入していて正体を明かせないからでは説明のつかない行為に、シェーンバインの思考が驚きと疑問に支配されていたが、平静な状態に切り替わる

その切り替わる瞬間、マグリットは飛び出していた
例え驚きと疑念に支配されていたとしても不意打ちを食らえば反射で体が動いてしまう
しかし、そこから立ち直り平静な状態に切り替わる一瞬の空白状態を、結果的にだが付いていたのは僥倖といえよう

濃厚な魔水の入った貝殻カプセルを噛み砕き、それを飲み込みながら
僅かでもかかれば魔力中毒になってしまう程に濃厚な海魔の遺跡の魔水は体内に入り、マグリットの奥深くに取り込まれた魔素が反応する
マグリットの魔力では起こし得ない強力な九似が一つ獣王の掌、サティエンドラの魔力が発現するのだ

シェーンバインの速さが魔族位置というのは何も移動速度だけの事ではない
反応速度も恐ろしく早く、思考の間隙の中、不意を突かれても尚、マグリットより早くその剣を突き出していた
0373マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/08(水) 00:29:40.07ID:51wQpnMr
二人が交差する瞬間、時間の感覚は間延びし、ゆっくりと流れる中で意識は交錯する

「流石に早い、が、随分とお疲れのようで、ウインドシェルが弱まっていますね」
>「それでもお前よりは早い」

レインとの奥義のぶつかり合い、そしてクロムによってつけられた傷から吸われるエネルギー
そして何より、切り落とされた角により魔力操作の精度が落ちているのは確かではあるが、それでも十分な力を残している
だが、それでも万全の状態であれば即座に気づき排除できていたものをこの時まで気づけなかったのだ

「同じようなものと言われましたが、私の水球は魔法の産物ではなく、生き物なのですよ」

その言葉の意味は感覚で知ることになる
足元からゲル状ものが急速に増殖しシェーンバインの魔力を吸い取り始めているのだから

マグリットの持ってきた樽の中身は、貝の獣人が住居につかっている巨大クラゲの捕食器官
クラゲと言っても小さなクラゲが無数に集まり、それぞれ各々の器官を担い一個の生命体となす群体生物なのだ
即ち、マグリットの纏っていた水球もまた群体生物であり、削ぎ落されたからと言ってそれで消えてなくなるわけではない
床に薄く伸び、その時を待っていたのだ

そう、シェーンバインが『着地』し、クラゲが膜状に広がる床にその足をつけるその時を

>「こ、これ以上、魔力を吸い取らせるか!」

即座に足元に竜巻を発生させへばりつくクラゲをを吹き飛ばすのだが、その為に割いた数瞬が反応速度の差を埋め合わせた

間延びした時間の中、漸くお互いの刃が体に触れあう
それはほとんど同時
マグリットの刃はシェーンバインの脳天、残った角の付け根
シェーンバインの切っ先はマグリットの心臓の一の胸元へ

お互いの刃が触れた瞬間、シェーンバインは悟るだろう

「お気づきになりましたね、なぜ私が都合よくあなたの高速振動の剣を中和軽減できたかを」
>「そうか、お前もか」
「風と水の違いはあれど、私とあなたは同じ道をゆく者だったという事ですよ」

マグリットがサティエンドラとの戦いを経て、九似の体の部位を切り落とすことの困難さを痛感し、故郷マリンベルトに戻ったわけはこれにあるのだ
シャコガイメイス
それは大量の魔力を流し込み、真珠を形成するように至高の刃を形成する鞘なのだ
長い年月と大量の魔力を使い九似をも切り落とす大剣が今振るわれているのだ

奇しくも風の魔剣『ヴァルプリス』と同様に、高速振動によりその切れ味の本領を発揮するタイプの剣なのは、龍を目指すマグリットと半竜であるシェーンバインと奇縁としか言いようがない

本来であれば鞘のシャコガイを左手に咬ませ、盾兼エネルギータンクとして構え、右手の剣で戦うのがマグリットの本来の戦い方であるのだが
そのシャコガイはいま、重傷を負ったレインを包み込んでいた

試練の森で重傷を負ったレインをマグリットが形成した貝を治療ポットとして使ったが、それとは比べ物にならない魔力を持つシャコガイが全ての力を注ぎ込んでいる
0374マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/08(水) 00:34:07.46ID:51wQpnMr
そして間延びした時は本来の速度を取り戻す
刹那は刹那として過ぎ去り、二人の激突が動き出すのだ

お互いの脳天と心臓に刃を突き立てた状態で、止まる事はない
マグリットは瞬間的にサティエンドラの膂力で高速振動する刃を振り降ろす
しかしシェーンバインはマグリットの心臓から切っ先を外す事なく頭を捻りその斬撃被害を最小限に抑えようとする

マグリットも心臓部に突き立てられる切っ先に対し、回避行動はとれない
回避行動はそのまま自分の攻撃の中断に繋がるのだから
だが、レインに防いでもらったおかげで事前にわかっていた
シェーンバインが心臓を狙ってくることは
だから、心臓部の装甲の密度に差をつけて対応していた

元々マグリットの肌は鉄の硬度をもつ
更に貝殻を形成し、心臓部を守りながら、あえてそこ以外の硬度を下げ柔らかくして切っ先の進行方向を誘導したのだ

結果、シェーンバインの刃は胸元から鎖骨方面に逸れ左の僧帽筋を貫いた
マグリットの刃は床まで振り降ろされたのだが、シェーンバインの脳天を割る事は敵わず
しかし、額から頬に続け右目を通る縦一筋の切り傷をつけるとともに、残った角を切り落とす事に成功した

「満を持して出した剣ですのに、脳天真っ二つとはいかないとな、残念です」

>「おまえ、俺の角を切り落とすだけでも十分すぎるだろ」

確かにシェーンバインの角を二本とも切り落とす事に成功した
これにより魔力操作の精度は欠き大幅な戦力低下になるだろう
更に鬼神のダンビラの効果によりエネルギーを吸い取られ、右目は斬られて視界は遮られている

だが、ここまでなのだ
それで死ぬような傷かと問われればとてもそれには届いていない

一方でクロムは大量の吐血をしておりもはや戦える状態ではないだろう
マグリット自身持てる手札を全て晒し、飲み込んだ魔水も消費し尽くしサティエンドラの魔素も鎮まってしまい、これ以上の服用は体がもたない
左鎖骨を貫かれ、もはや左腕は上がらず

そのような状態ではあるが、それでもマグリットは不敵に笑う

「あなたは私の九似に足りえる強さでした
出来れば自分で禽皇の爪として得たかったのですが、あとは任せる事にします」

今更何をと不思議そうな顔のシェーンバインにマグリットが不敵に笑って答えた

「レインさんの傷を見ましたが、火傷はありましたが新たについた裂傷はなかったのですよ」

残った左目を大きく見開き、マグリットを蹴り飛ばす
その言葉の意味は、奥義対決で勝ったと思っていたが、その刃は届いておらずレインの自爆にすぎない事を悟ったからだ
ここでマグリットにとどめを刺すより、剣を自由にし備えたのだ
残る召喚の勇者の反撃に備えるために

シェーンバインの視線の先にレインを加え込んでいた巨大なシャコガイが宙に浮いていた


【シャコガイメイスは超振動権を生成する鞘であり、魔力をため込むエネルギータンク】
【信仰の揺らぎにより回復力が低下しているため、濃縮回復力を持つシャコガイにレインを入れ治療】
【クロムが作った隙を突き、シェーンバインに不意打ちアタック】
【シェーンバインの残った角と右目を潰す事に成功】
【マグリットは心臓を逸らすも鎖骨を貫かれ重傷】
0375レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/09/13(月) 22:01:14.41ID:apbIqXyd
あれはまだ勇者にもなっていない頃……。
アシェルやアンジュと一緒にサマリア王国の教学院に通っていた時代。
勇者の試練を受けるまで魔法適性が皆無だったレインは魔法の授業だけはいつも休みたかった。
アシェルは常々魔法は勉強すれば面白いと言っていたが、出来もしない話を覚えるのは結構退屈で……。

でも、その時の勉強が冒険で活きることもあるのは確かだ。
ダンジョンには魔法の仕掛けが施されていることもめずらしくない。

「レイン、術式ってのはただ魔法を発動するためのものじゃないんだぜ。
 戦闘で使う魔法は単純に発動にだけ術式を使って、後は感覚に頼ることが多いけどさ」

記憶の中のアシェルが語り掛けてくる。
そうだ。そんな話したっけなぁ、とレインは何となく思い出していた。
戦闘にはおおよそ関係ないが術式には発動した魔法を制御するための『制御術式』というものが存在する。
発動後の魔法の効力――たとえば炎を発する魔法なら火力、水を生成する魔法ならその量などを調整することができる。

だが、戦闘ではそういった制御は感覚的に行われることが多い。
戦いにおいて加減をすることなど滅多にないし、そのためにわざわざ追加で詠唱したり、
魔法陣を組むなんて手間のかかることをやる人間はいないからだ。

だがダンジョンの仕掛けのように、インフラや魔法の乗り物など、
緻密な制御を要するものに魔法を施す時には制御術式が効果を発揮する。

「答えはもう自分の中にあるんだよ。それに気付いてないだけだ。
 だから……あいつにもう一発、奥義をぶちかましてやれ。
 見せてやれよ、"召喚の勇者"の力を!」

ぐ、と拳を握って記憶の中のアシェルは微笑みかけてくれた。
レインは微妙にはみかんで頷くと、徐々にその視界は薄らいでいった。


…………――――――――。

>「レインさんの傷を見ましたが、火傷はありましたが新たについた裂傷はなかったのですよ」

「ちっ……口の減らない奴だ!」

不敵に微笑むマグリットがそう言い放つと、シェーンバインは苛立たし気に蹴り飛ばす。
角を二本失ってしまい、体内の魔力の流れは無茶苦茶だ。これでは魔法はもちろん奥義も使えない。

戦いの流れが一気に変わったのは『鬼神のだんびら』を魔人が手にしてからだろう。
自分が招いた結果とはいえ、蜃の獣人が厄介な奥の手を隠していたこともあり形勢はこちらが不利。
戦闘中の急激なパワーアップはさしものシェーンバインも想定外の出来事だった。

「だが、隠し玉を持っているのはお前らだけじゃない。
 ここまで来た連中なら知ってるだろ?俺が『半竜』の魔族だってことを。
 見せてやるよ、この俺の……真の姿をな……!」
0376レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/09/13(月) 22:05:43.00ID:apbIqXyd
シェーンバインの細身の身体が一気に膨張する。
通常の皮膚レベルまで微細だった竜鱗が巨大に、より分厚くなっていく。
繊細な美男子の顔は徐々に竜の容貌へと変形していき、背中には一対の翼が生える。

「『真竜形態』……だ。本来ならお前らごときに見せる必要はないが……。
 魔法が使えなくなり、魔剣も効力が下がった今……俺もあえてこの姿を晒そう。
 光栄に思うがいい。この姿で戦うのは、魔王様を除いてお前達以外にはいなかった!!」

翡翠の竜鱗を纏った巨大な竜。それこそがシェーンバインの正体。
知能を退化させることなく生き残った稀有な『真竜』と呼ばれる特殊な存在と、
強大な魔力をもつ魔族との間に産まれたシェーンバインだが、かつては魔族でなく竜として生きていた。
それは魔族の血が半分しかないことから、魔族たちに差別されたことも関係していただろう。

そんな彼の野望は退化してしまい魔物のいちカテゴリーに収まってしまった竜を独立した種族にすること。
だがその力を欲した魔王と一騎打ちの末に敗北。彼は自分の野望を捨てて忠誠を誓い、軍門に降ることになる。
シェーンバインが帽子で魔族の角を隠すのは、魔族としての自分の血を恥じているからに他ならない。

真竜形態になった今、シェーンバインは魔法に頼らなくても肺活量だけで嵐を巻き起こせる。
そして、魔族形態でもその片鱗を見せていたが竜由来の圧倒的なパワーとスピードを発揮できる。
小回りこそ効かないがこの形態になってもシェーンバインの速さは落ちないということだ。

シャコガイメイスからレインが飛び出してきたのはシェーンバインが竜の姿になって間もなくだった。
最初は驚いたが、すぐに臨戦態勢に切り替えてミスリルの床に着地する。

「……ありがとう、アシェル。君が完成させてくれた『奥義』だ」

レインは紅炎の剣を構えると、炎の力が亀裂の走った刀身を埋めていく。
すると眼前には真紅の魔法陣が現れる。刻まれた術式は魔法武器が出力した炎をコントロールする『制御術式』。
今までは感覚だけで炎を制御しようとしていたが、今回は違う。紅炎の剣で出力した炎を術式という演算で微調整する。
まるで誰かが教えてくれるように、レインの頭に術式の情報が流れ込んでくる。

「シェーンバイン……行くぞッ!!」

真紅の魔法陣を通過すると、紅炎に身を染めたレインが火の鳥のように向かっていく。
今度は発する炎が自分の身を焼くことはない。正真正銘の不死鳥と化して突貫する。
呼応するかのようにシェーンバインが巨大な竜の腕を振り下ろした。

「うおおおおおおおーーーーーーッッッッ!!!!!」

竜鱗を力任せに溶断しながらその刃は頭を、背を、やがては尾までを一直線に切り裂く。
最後の激突に勝利したのはレインだ。要因としては『風』が『炎』に弱いこと。
そしてクロムのだんびらの力で大幅に弱体化していたことだろう。
空を舞う火の鳥が着地した時、真竜が崩れ去ったのもまた同時だった。

「……奥義。『プロミネンスブレイザー』!」
0377レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/09/13(月) 22:09:48.40ID:apbIqXyd
竜の巨体が力を無くして無重力空間に浮かぶ。
レインの奥義は疑いようもなく致命傷を負わせている。

「……負けたんだな……俺は……かつて魔王様と戦った時を思い出していたよ。
 自由の翼をもがれたあの時から、俺はとっくに死んでいたのかもしれない」

シェーンバインの瞳が徐々に光を失っていく。

「お前達に負けたのに何も感じない……ああそうなのかと思うだけだ……。
 本当は悔しくて仕方がないはずなのにな……感情ってのは不思議なもんだ。
 "召喚の勇者"、魔王軍の大幹部である俺に勝ったんだぜ。もっと喜んだらどうだ?」

「……幸運が重なったおかげだよ。首の皮一枚を何度も繰り返したような戦いだった。
 事実、俺は二度も死にかけた……正直な話、貴方とはもう戦いたくない」

「……そうか。そりゃ……良かっ…………た……」

そう呟いてシェーンバインは静かに事切れた。
魔族形態へと収縮していく様子を見つめていると、ふと宙に浮かぶ彼の肉体を回収しようと近づく。
手厚く葬るというわけにはいかないだろうが、ここに死体を放置するわけにもいかないだろう。

その両腕がシェーンバインの死体を抱えようとした時、レインは咄嗟に飛び退いて紅炎の剣を構えた。
禍々しい気配が現れたことで、自身の命を防衛するため本能的に臨戦態勢に入らざるを得なかった。
それは突如コントロールルームの中央に浮かんだ漆黒に渦巻く穴から感じていた。

「それ以上シェーンバインに近づくな。奴は余のものだ……その肉体も、魂でさえもな」

渦巻く穴から姿を現した一人の青年が冷たくそう言い放つ。隣には漆黒の衣装を纏う白皙の女性がいた。
どちらも恐ろしく整った顔立ちだが、そこにいるだけで肌が粟立つ。肉体が恐怖しているのだ。
何より、レインを困惑させたのは片割れである青年の顔に見覚えがあったことだろう。

「――――――…………アシェル?」

レインの眼前に現れたのは亡くなった友人と同じ顔をした何かだった。
まるで敵に向けるような冷たい表情でこちらを見つめている。

「サウスマナに王手をかけておきながら路傍の石に躓くとは……奴らしくもない。
 ……ああ……確か、お前は"召喚の勇者"だったか?この身体の知り合いか」

青年の問いかけで茫然としていた思考が動きだす。この状況は何もかもがおかしい。
レインの友人である"魔導の勇者"アシェルはノースレア大陸で死んだはずの人間だ。
誰かがアシェルに化けているのか。だとしたらなぜそんなことをする必要がある。

「余は……魔王セイファート。貴様も名くらいは知っているだろう。余こそが魔族の王だ」
0378レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/09/13(月) 22:12:36.21ID:apbIqXyd
友人と同じ顔をしたそいつは、自分を魔王と名乗った。

「……なんで」

レインは思考の処理が追いつかないままかろうじて言葉を紡ぎ出す。

「……なんで魔王が。なんで……アシェルの姿で」

「なぜ?部下の不始末を片付けにきた。だが余は魔王城より動けぬ身。
 だから他人の肉体を借りてここにいる。それだけの事だ。お前の疑問はたったそれだけか?」

ふっ、と顔を綻ばせて魔王は笑った。

「傀儡を介した形ではあるが……貴様はこの魔王と話しているのだぞ。
 もっと聞くべきことがあるのではないのか?もっとやるべきことがあるのではないか?
 その手に握っている剣はなんだ。驚きのあまり貴様は剣の使い方も忘れてしまったのか……?」

レインの友人である勇者アシェルはノースレア大陸にて魔王軍との戦いで死んだ。
より正確に言えば、魔王を名乗る謎の存在との戦いで死んだと、生き残ったアシェルの仲間から聞いている。
今目の前にいる魔王の話から推察するに、その時も他人の身体を借りていたのだろう。

であれば長年の疑問が解けた。他人の身体を借りれば魔王城にいるはずの魔王と戦うという矛盾が解決する。
アシェルは間違いなく魔王と戦って死んだのだ。そして今、奴は友人を操り人形にする事でここにいる!

「……返せ」

レインは紅炎の剣を握りしめると、その切っ先を魔王に向ける。
床を蹴って踏み込むと、無重力の影響で高く跳躍。宙に浮かぶ魔王まで肉薄する。
そして紅炎の剣を大きく振りかぶって叫んだ。

「……俺の友達を!俺の友達の身体を!!返せえええーーーッッ!!」

大剣が届く瞬間。魔王の、アシェルの身体から『闇』が噴き出した。
それは肉体を覆うように魔王を傀儡を包み、剣を防ぐ障壁となって刃を受け止める。
――闇属性の防御魔法『ダークネスオーラ』だ。あらゆる物理・魔法を無効化する、最強の防御魔法。

闇の障壁と炎の剣が干渉しあって火花が散る。
防御魔法の向こう側で魔王がレインをせせら笑った。

闇の衣とも呼ばれるそれは魔王の代名詞的魔法であり、勇者の伝承にも記述されているほど有名だ。
闇魔法そのものが習得難易度の高いこともあいまって実質的に魔王の固有魔法とされている。
0379レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/09/13(月) 22:16:54.22ID:apbIqXyd
「便利なものだなこれは。余といえど肉体の性能以上のことは出来ないのだが、
 魔法に限っては何でもできる。もう少し身体能力があれば完璧だが……まぁ多少の『縛り』も悪くない」

『ダークネスオーラ』に弾かれて後方へ吹き飛ぶと、空中で静止する。
それは自らの意思ではない。何かがレインの身体を絡めとったと言った方が正しい。

「……くっ!」

『糸』だ。真紅の魔力の糸がいつの間にかコントロールルームに張り巡らされている。
レインはそれに掴まり拘束されてしまったのだ。見る限り魔王の仕業ではない。
糸を辿っていくと、それは魔王の隣にいる女性の白い細指。それが嵌めている指環に集約されている。

レインはいつか聞いたことがあった。『傀儡霊糸』と呼ばれる魔力の糸を伸ばす特殊武器が存在すると。
それはあらゆるものを自在に操る糸となり、あらゆるものを自在に切断する武器にもなるという。
最早レインは蜘蛛の糸に絡めとられた蝶。女性の魔族は冷徹にこう言い放った。

「切り刻みましょうか」

「いや……いい。十分だアリスマター。もう少し遊びたかったがな」

これではクロムも、マグリットも迂闊に動けない。
実体のない魔力の糸に一度触れたが最後、生殺与奪の権を握られたも同然。
下手をうてばレインの肉体は切り刻まれて死体に変わる。

「魔王!魔王っ!!お前ぇぇぇぇぇっ!!!!
 お前なんかが……お前なんかが!アシェルの身体を!アシェルの声を!使うなぁぁっ!!」

四肢を糸で縛られてなお、レインは憤怒を滾らせる。
だが魔王の耳にはもう届いていない。

「さて……いい加減仕事をするとしよう。この施設は魔王軍の戦略上重要なものだ。
 あらゆる国家を自由に狙い撃てるからな。おいそれと渡すわけにはいかん」

魔王は片手をゆっくり持ち上げて、マグリットとクロムを見た。

「余は寛容だ。お前達二人は見逃してやる……だがシェーンバインは返してもらおう」

シェーンバインは大幹部として重要な情報を幾つも握っている存在だ。
もし魔法で死体から情報を抜かれてしまうと、最悪『魔王城』も特定されかねない。
マグリットにとっては九似に足り得る存在のようだが、そんなことは魔王に関係ない。

「これは交渉ではない。命令だ。それを理解した上で行動するのだな」


【シェーンバインを無事撃破】
【その後魔王と側近の魔族アリスマターが現れる】
0380クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/09/19(日) 20:20:56.37ID:95csT1kA
残ったもう一つの角《弱点》は、クロム同様一時的なパワーアップを果たしたマグリットによって切り取られた。
しかし、直後に抵抗することなくシェーンバインにあっさり蹴り飛ばされた彼女の姿は、その代償の重さを物語っていた。
直接的なダメージだけではない。恐らく彼女のパワーアップもまた、肉体に多大な負担が掛かるものだったのだ。
もはや彼女が戦線に復帰するのは困難と言わざるを得ないだろう。クロムと同じく。

(息苦しくなってきやがった……こいつは肺にダメージか……? やべぇな……いよいよ後がねぇぜ)

ただ、一方のシェーンバインも追い詰められている事は確かだ。
魔力のコントロールを失い、片目を潰され、『鬼神のだんびら』によってエネルギーまでも現在進行形で奪われているのだから。
それは満足に動けない、動かせない状態とはいえ、クロムが生きている限り時間はシェーンバインの味方をしないことを意味する。
もたもたしていれば、やがてはもはや戦況を覆す事が絶望的なスペックの低下を招くことになる。

>「だが、隠し玉を持っているのはお前らだけじゃない。
> ここまで来た連中なら知ってるだろ?俺が『半竜』の魔族だってことを。
> 見せてやるよ、この俺の……真の姿をな……!」

だから、だろう。このタイミングでヒトの形を捨てたのは。
劣勢が確実となる前に、勝負を決めに来たというわけだ。
圧倒的なパワーと頑強さであらゆる物を蹂躙し破壊するケダモノの帝王・竜となって。
その姿は紛れもないシェーンバイン最強の切り札に違いなかった。

あっという間に視界を占領した巨体。
剣を床に突き刺し、片膝をついて胸を抑えて動く素振りの無いクロムはしかし、内心まるで動じていなかった。
“間に合った”ことに気が付いていたからである。ケダモノの餌食となる前に、“彼”の回復が。

「既にカードは出揃ってる。勝負の行方は残すお前のカード次第。……頼むぜ、リーダー」

シャコガイから飛び出したレインが繰り出したカード──それは火の鳥。一度はシェーンバインに破られた彼の奥義。
だが、クロムは思わず目を見張っていた。
伝わる熱気から、乱雑さがないその整然とした炎の流れから、明らかに制御され、かつ強力になっていた事を感じ取ったからだ。

>「……奥義。『プロミネンスブレイザー』!」

──切り札と切り札の対決。
その勝負を制したのは、シェーンバインの全身を見事溶断したレインであった。

未完から完成へ。どういう手品を使ったか、この短時間でとにかくレインは完成させていたのだ。
巨大な竜さえも真っ二つにして勝利を掴む正しく強力な切り札を。
事切れ、変身が解けていくシェーンバインの肉体に、そっと触れようとするレインを見て、クロムはやがてゆっくりと目を瞑る。

「……いや。これが人間の成長力。……魔族が唯一恐れる、人間の可能性」

そして小さく呟くと、ゆっくりと目を開けて、マグリットに視線を移して今度ははっきりとした声で言うのだった。

「お疲れのところ申し訳ないんだが、俺はもう薬草も切らしちまってんだ。早ぇとこ治してくれ」

しかし、彼女の返答をクロムが聞く事は無かった。
彼女の声よりも先に、聞き覚えなど全くない別の第三者の男の声が鼓膜を打ったからである。

>「それ以上シェーンバインに近づくな。奴は余のものだ……その肉体も、魂でさえもな」

(!!?)

クロムは一瞬、目を疑った。
声の方向、視線を向けた先には、空間に開いた漆黒の穴を背にした男女が立っていたのだが──
そこに決して忘れる事のできない存在《ツラ》があったのである。
0381クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/09/19(日) 20:25:07.49ID:95csT1kA
聞き覚えの無い声の持ち主──すなわち男の方は顔も見覚えがなく、何者なのかは定かではない。
レインが茫然とした様子で『アシェル』なる名を紡いだが、今のクロムには何ら興味を惹くものではなかった。
それだけ“女”の存在が強烈であり、驚きだったのである。彼にとっては、この場にいる誰よりも……混乱するほどに。

>「余は……魔王セイファート。貴様も名くらいは知っているだろう。余こそが魔族の王だ」

だが、彼をパニックから救ったのもまた、強烈な驚きに他ならなかった。
『魔王』。ある種のショック療法とでも言おうか、更なる衝撃が却ってクロムを我に返させたのだ。

「魔王…………!? まさか……────っ! 待て、レ──」

その時、怒りを燃え上がらせるレインに気付き、クロムは肩を掴もうと咄嗟に手を伸ばすも、時すでに遅し。
怒りのまま魔王に斬り込んだレインには届かず、魔力の糸によってその身を絡め取られる様を見せつけられるのだった。

(敵はシェーンバイン級が一人と、それ以上がもう一人! 満身創痍の俺達にハナから勝ち目はねぇんだ、馬鹿野郎が……!)

魔王を名乗る青年はこちらを見ると、シェーンバインの遺体を捨て置けば見逃すと言ってきた。
つまり、見逃しても何ら問題がない程度の小さな存在と見做しているのだ。
実際、青年にはその自信を裏付けるだけの力があるのは見ただけでも分かった。
今のところはあくまで“自称”魔王に過ぎないが、『ダークネスオーラ』は自信過剰なだけの小物には決して使える魔法ではない。

「……マグリット、聞こえるか」

戦っても勝ち目はないのなら、提案を受け入れるしかない。が、流石のクロムにもただ逃げるという選択肢はなかった。
魔王はあくまでクロムとマグリットの二人を見逃すと言ったのであって、レインを見逃すとは言ってないのである。
殺す気ならとっくにやっているという考えもできるが、二人が去った後で無傷で解放される保証はどこにもない。

しかも衛星砲の奪還に事実上失敗したことで、都市攻撃の脅威は未だ取り除かれていないと来ている。
これでは尚更、撤退が最善策であったとしてもただ逃げることなど出来る筈もない。
地上へ戻る間に、地下深いメガリスさえ想像を絶する強力な砲撃の前に吹き飛ばされているかもしれないのだから。

「逃げるぞ。……この衛星をぶっ壊してな」

故に、クロムはマグリットに伝える。己の意思を、ギリギリの賭けを。
水中での彼の言葉すら聞き分けたずば抜けた聴覚を信じて、他の誰にも聞こえない程の小声を以って。

「方法はある。俺達も破壊に巻き込まれる可能性がある危険なものだが……だからこそこれ以上有効な手は恐らくねぇ。
 俺が仕掛けたら、一目散に来た道を戻って昇降機へ行け。……レインの事は任せろ、まだ少しくらいなら無茶は効く」

今、レインは糸に捕らわれているが、衛星の破壊が起きた時は、流石の魔王とその幹部も一瞬くらいは隙を作るだろう。
糸の効力もその瞬間だけは緩む筈。その時、奪回できる──という読みがクロムにはあった。

「……大丈夫、上手くいくさ」

ただ、結果としてその読みが外れた時は、クロムさえも糸に絡め取られることになりかねず、もしそうなれば終わりである。
目的《破壊》が果たされていればそれに巻き込まれて死に、果たされてなくとも糸にくびり殺される事になるのだろうから。
最後の一言は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。

すっと、静かにポケットに突っ込まれた手が、やがてゆっくりと取り出す。
小さいが衛星砲の破壊には絶対に必要な強力なアイテムを。

表面にいくつもの突起がある小さな球状の物質──『コンペイトウ』。
魔力を込めると破裂して粒子となり、ある魔法を発動する魔法陣を描いて消失する使い捨ての魔道具である。
現在のクロムは『反魔の装束』によって魔力を失った身。……が、使えるのだ。あるアイテムを併用すれば。
0382クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/09/19(日) 20:31:11.98ID:95csT1kA
「シェーンバインの遺体なんざ好きにしろよ。こっちはハナから興味なんざねぇ」

続いてもう片方の手が取り出したのは小瓶。コルクが指ではねられ、中身が無重力空間に風船のように浮かび上がる。
それは『魔法水』。あの宝箱の部屋、シェーンバインのコレクションルームでコンペイトウと一緒に見つけてくすねたものだ。
収集家のサガなのか、どうやらシェーンバインは武器以外のアイテムも幅広く溜め込む一面があったらしい。
まさか彼も結果として己の性格が敵を利することになるとは思ってもみなかったに違いない。

「だが……この衛星については“あんたの好きにしろよ”とは言ってやれねぇんだよ、オモチャにしちゃ危な過ぎるんでな!」

水球と化した魔法水に放り込まれるコンペイトウ。
魔素を得て一気に弾けた粒子が、空間に描かれる魔法陣となって再結集し、やがて一際強い銀色の光だけを残して消える。
これがクロムが“仕掛けた”瞬間である事は、もはや言うまでもない。

「! 今の魔法陣は……」

それを見て、アリスマターが一瞬、何かを言い掛けた。
恐らく発動された魔法の正体に気が付いたのだろう。だが、もう遅い。
突如として激しい轟音が衛星内に響き渡り、それと共に部屋全体が巨大な振動に包まれたのは、その直後だった。

魔法陣が発動した魔法は『メテオレイン』。
亜空間を通して、大小様々な“隕石”を雨あられの如く高速で降り注がせる、隕石召喚魔法である。
隕石を吐き出す亜空間の“穴”は、通常、意図してコントロールしない限り発動地点の真上・数十メートル上空に現れる。
つまり、この場合は衛星の外──衛星は“宇宙空間”から隕石をぶつけられており、それが轟音と振動の正体なのだ。

不意の極めて強い揺れ。ここが地上であればどんな屈強な戦士も思わず体勢を崩し、大きな隙を生み出していたに違いない。
ここは体が宙に浮く無重力故にそれを望むのは難しいが、それでもある程度の意識を引き付けることは期待できるであろう。
ミスリルとはいえ強度には限界がある。ましてや他の部屋や外壁までも、果たしてミスリルで守られているかは疑わしいのだから。
その点に少しでも気を取られていれば、それが僅かな隙となる。

(頼む……上手くいってくれ!)

衛星全体が揺れる中、跳躍し、レインの手を掴んで勢いのまま進行方向へ引っ張るクロム。
もし糸が緩んでいなければ、引っ張られた衝撃でレインの体は一気に締め付けられ、下手をすればバラバラになるところだが──
成功を祈った甲斐があったのか、糸の抵抗を生じることなく彼の体はあっさりと進行方向へ移動した。
賭けに勝った。しかしそれはまだ第一段階に過ぎず、賭けの全てに勝ったと言い切るにはまだ早い。
衛星の破壊と、三人揃っての脱出。これに成功して、初めて作戦は成功した事になるのだ。

体を引っくり返して、迫った壁を蹴る。部屋の出入り口、その奥の昇降機へ通じる一本道を目掛けて思いっきりに。
隕石の衝突音に混じって、金属の歪み、引き裂ける破壊音が聞こえだしたのは丁度その時だった。
蓄積された外壁のダメージがいよいよ限界を超えつつあるのかもしれない。
ならば、第二の賭けに勝利するのも時間の問題といえる。が、ラスト──脱出については最後の最後まで分からない。

如何に隙を衝いたとはいえ、相手は超々一級の実力者。このままカカシの如く黙って突っ立っているだろうか?
仮に無事に昇降機に辿り着いても、何らかのトラブルで動かないこともあり得る。
そうなれば崩壊する衛星に巻き込まれて一巻の終わりだ。
何事もなく脱出できるよう、それこそクロムはもう祈るしかない。

(体が痛ェ……! あと少しだ、もってくれ……!)


【コレクションルームからくすねた『コンペイトウ』+『魔法水』の併用で召喚魔法の一つ『メテオレイン』を発動】
【衛星そのものに大小無数の隕石をぶつけることで破壊+隙を衝いての脱出を試みる】
【レインを回収し出口へ向かうが、ダメージが更に拡大中】
【どうやらクロムはアリスマターの事を知っているようだ】
0383マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/27(月) 00:11:22.11ID:+QXL8AH0
追い詰められたシェーンバインがついにその本来の姿を現した
それが真竜形態
それはマグリットが目指すべき場所に近いものであり、今だ自身では届き得ぬ場所

それに対峙するは、神の徒として神託を受け、共に旅する仲間
シャコガイによる治療を受け回復し、戦線復帰を果たした召喚の勇者レイン

目指すべき存在と、助けるべき存在であり、魔族を倒すよう宿命づけられた勇者
この二人の対峙にマグリットは複雑な念を禁じえない

しかしどのような想いがあろうと、今のマグリットにはそれに介在する力はもはや残っていない
ただ、その激突を見守るしかできないでいたのだった。


両者の激突は二度目
しかしその結果は一度目とは真逆のものとなり、ついにレインはシェーンバインを倒したのであった


>「……負けたんだな……俺は……かつて魔王様と戦った時を思い出していたよ。
> 自由の翼をもがれたあの時から、俺はとっくに死んでいたのかもしれない」

末後の言葉にマグリットは目を細め天を仰ぐ
真竜形態になったシェーンバインはマグリットの目指すものに限りなく近かったのであろう
だが、ここまでの言葉から推察するに、シェーンバインは魔王と戦い、そして敗れ忠誠を誓ったと思われる

「あれをも、超えるというのですか……」

そこから導き出される魔王の強さに途方もない差を感じてしまうのだが、それを直後に肌で感じる事になるとはだれが思おうか?

>「お疲れのところ申し訳ないんだが、俺はもう薬草も切らしちまってんだ。早ぇとこ治してくれ」

クロムの言葉に思考が引き戻されたが、その返事をする事はできなかった
突如コントロールルーム中央に浮かび上がった漆黒の渦巻く穴
そこから響く声と共に室内はとてつもないプレッシャーに包まれたからだ

身動きはもちろん、息を吸うのすら困難になる程のプレッシャー
その発生源が厳かに口を開く

>「余は……魔王セイファート。貴様も名くらいは知っているだろう。余こそが魔族の王だ」

それは漆黒の衣をまとう女性を連れ立った青年の口から発せられたものだ
初めてみる姿ではあるが、その言葉がまぎれもない真実だと本能が継げている
辛うじて視界に入る隣のクロムにも明らかに混乱の色がとって見える

例え五体満足であってもこのプレッシャーの中、動けたかは疑問であるが、満身創痍の状態であればなおさらだ
レインが何やら叫んでいるようだが、声が遠く何を言っているのか聞こえない
更に視界が狭くなってきている事に気づき、唇を神ながら神の加護を請う祈りを呟くのであった
0384マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/27(月) 00:12:50.51ID:+QXL8AH0
そのおかげか、響き渡るレインの咆哮のおかげか
マグリットの意識が鮮明になったのだが、その時既にレインは弾き飛ばされ赤い糸に絡めとられていいた

慌てて立ち上がり救出しようとするも、この状態ではどうにもできない
唯一の救いは

>「いや……いい。十分だアリスマター。もう少し遊びたかったがな」

との言葉で、殺す意思はなさそうだ、という言事だった
戦いの場において完全に生殺与奪の権を握られ、それに縋るしかない状態である事に唇をかむしかできずにいた
そんなマグリットとクロムに魔王は向き帰り

>「余は寛容だ。お前達二人は見逃してやる……だがシェーンバインは返してもらおう」

それはすなわち、見逃すのは二人であり、レインは逃がすつもりはないという事だ
そんな事を了承できるわけがない!という言葉が喉まで出かかったが、それを飲み込んだのはクロムの言葉が耳に届いたからだ

>「シェーンバインの遺体なんざ好きにしろよ。こっちはハナから興味なんざねぇ」

クロムの言葉に乗るように、マグリットも大きく息を吐き剣を横に伸ばすと、漂っていたシャコガイが鞘の役割を果たしその刀身を加え込んだ
納刀し、戦闘継続の意思がない事の意思表示である

「私は九似としてその爪頂きたかったですが、仕方がないですね
戦いを通じて魔族が神の敵対者で世界に仇なす存在という認識も崩れてしまいましたし
出来ればその件についてゆっくりお話ししたいくらいですけど、ね」

右腕は風魔法によりいくつもの裂傷が刻まれ、左肩甲骨辺りは切り裂かれている
骨がなく前進筋肉であるが故の怪力であるが、筋肉事態切り裂かれていてはもはや左腕は上がらない
そのほかにも蹴られ内臓にも損傷があるかもしれない
正に満身創痍で歩く事すらもままならないような状態なのだから

九似足りえるシェーンバインの爪を前にしても理性を保ち諦めるという選択肢を取れる程度に血が流れてしまっているともいえる

「これで見逃してもらえるのなら私たち二人はありがたいですが、クロムさんは歩くのもままならないようですから
魔王の前で神に祈らせてもらうのもおかしいですが、せめて歩いて退場できる程度には回復させてもらいますよ」

ぼんやりとした光がクロムを包み、弱くはあるが確かにその傷を癒していく
全快には程遠くとも、動けるようにはなったはずだ
0385マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/09/27(月) 00:13:24.21ID:+QXL8AH0
そして
>「だが……この衛星については“あんたの好きにしろよ”とは言ってやれねぇんだよ、オモチャにしちゃ危な過ぎるんでな!」
クロムのこの言葉と共にマグリットは動いた

クロムが何をしようとしているかはわからない
衛星を破壊するという言葉に、コントロールであろう玉座を全力で破壊仕様として失敗した事を思い出したが、それを忠告する事はなかった
どのような形で伝えたとしても、魔王の前では情報漏洩のリスクがあり、衛星破壊はもちろん、レイン救出すら水泡に帰す可能性があったからだ
ならばクロムの衛星破壊手段が自分とは違う手段で、かつそれが破壊に足りうるものだと祈るしかなかった

祈りながらシャコガイメイスを突きだすと、そこからゲル状のものが噴出し、無重力状態の中マグリットはその勢いで起動エレベーターに飛んでいく


シャコガイメイスは魔力を食らい溜め込み、マグリットの剣を内包して形成、鋭く研ぐ鞘なのだ
剣が抜かれればマグリットの左腕を加え込み、盾として、そして溜めた魔力を供給し回復元となるタンクとしての役割を持つ

しかしレインの回復のために溜め込んだ魔力を使ってしまい、飢餓状態にあるのだ
そこで魔力の補充を行っていたのだが、それがマグリットが今回持ってきて水球防御につかっていた群体クラゲの捕食器官が使われる
文字通り捕食器官であり、魔力を吸収し蓄える
シェーンバインから僅かではあるが吸収したため、室内に散らばっていた群体クラゲの捕食器官をシャコガイが回収していたのである

そして今、推進力としてそれを噴出したのだ

吹き出されたそれは、魔力を吸収し増殖する
そして室内に張り巡らされた傀儡霊糸は魔力そのものの糸であり、格好の餌ともいえるのだ

本来ならばこういった方策にも即座に対処がとられるのであろうが、それどころではない衝撃が衛星全体を襲っている
クロムの仕掛けたメテオレインにより召喚された隕石が次々に衛星にぶつかり全体をきしませているからだ

傀儡霊糸の魔力が強力が故に群体グラゲの捕食器官の増殖もすさまじいものになっている
マグリットの血の丸薬を飲み抗体が付いているレインやクロムは襲われる事はないが、魔王とアリスマターはそうではない
せめて足止めには、と願わずにはいられないが、それは脆くも崩れ去る

何が起こったのかはわからないが、突如としてゲル状の群体クラゲの捕食器官が文字通り霧散したのだ
魔王を前にすれば当然の結果としか言えないが、一足先に起動エレベーターに到着したマグリットが叫ぶ

「クロムさん、レインさん、早く!……」

だが絶望的にまで遠い
崩壊しそうな衛星と溢れんばかりの魔王のプレッシャーを前に、マグリットができる事は叫ぶしかできなかった

「アルスさん、助けてください!」

召喚の勇者一行の新たなる、そして最後の一人
地上にて竜の群れを一手に引き受け送り出してくれた仮面の騎士、先代勇者の名を叫ぶのであった

【ゲル状群体クラゲの捕食器官を噴出しながら脱出】
【傀儡霊糸の魔力を吸い群体クラゲ増殖】
【崩壊しつつある衛星と魔王のプレッシャーの前にアルスに助けを求める】
0386レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/09(土) 17:02:32.00ID:MPjYjS4F
魔導砲を備えた人工衛星に無数の隕石が降り注ぐ。
激突による振動はコントロールルームをも大きく揺さぶる。
魔王とその側近といえど、一瞬の隙を生んでしまうほどの規模かもしれない。
とにかく、不意をつく形でクロムは拘束されたレインを救出し昇降機めがけ脱出を図る。

マグリットもその流れに追従し、ゲル状の物質を噴出して飛んでいく。
そのゲルの正体とは飢餓状態の群体クラゲであり、魔力を求めて傀儡霊糸に群がる。
おそらく逃走と足止めを兼ねた一手なのだろう。だが魔王の前ではおおよそ児戯に等しかった。

「煩わしいな。この程度か?」

手を翳すと魔法陣が浮かびアリスマターの傀儡霊糸に集まる群体クラゲが霧散していく。
一体どのような魔法を使ったのか――少なくとも四大属性で出来る芸当ではなかった。

"召喚の勇者"パーティーが命懸けの撤退を始め、魔王は宙に浮かんだまま緩やかに後を追う。
急ぐ様子はない。なにせ、この人工衛星と地上を繋ぐ道はただひとつ。行きで使った軌道エレベーターだけだ。
多少なりとも頑丈なつくりではあろうが魔王がその気になればいくらでも破壊できる代物。
三人がそれに乗って地上に降り始めたらまとめて魔法で攻撃してしまえばいい。

それが追跡を急がない理由のひとつ。そして理由はもうひとつあった。

>「アルスさん、助けてください!」

そして神に祈りを捧げて救いを乞うかのごとくマグリットは叫んでいた。
その声はゆっくりと後を追う魔王とアリスマターにも届いていた。
かつてその男は魔王軍に名を知られたくないと言っていたが、今は窮地だ。
焦りのあまり名前を呼んでしまっても致し方ないだろう。

かくして声は天に届いたのか、軌道エレベーターの扉がゆっくりと開いていく。
――そこには三人にとって見慣れた姿の男がいた。
仮面を被り素顔を隠し、膨大な光の波動を纏った最初の勇者が。

「……待たせたな。三人とも……よくやってくれた。後は私に任せてくれ」

昇降機から飛び出すと、三人を守るように魔王とアリマスターを立ち阻む。
魔王はとりわけ驚く様子もなく、むしろ愉快そうに顔を綻ばせた。

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ、仮面の騎士…………いや。
 余の最大最強の宿敵……勇者アルスよ。1000年ぶりだな。貴様と相まみえるのは」

整った顔立ちは心底愉快そうで、魔王は上機嫌で話を続ける。

「大幹部達から得た情報では確証がなかった。だが確信だけはしていたよ。
 こうして直接会えば分かる。その雰囲気。佇まい。魔力の質……全てがあの時と変わらない。
 そう……時を止めたように。余は残念だよ。人間でなくなりいよいよ神の下僕が板についたようだ」

ぐ、と片手で握り拳を作ると拳に魔法陣が浮かぶ。
それは光系統の魔法陣だった。群体クラゲを霧散させたのと同じ術式。
0387レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/09(土) 17:07:28.21ID:MPjYjS4F
仮面の騎士はそれを見逃さずに上位防御魔法『セイントイージス』を発動。
光の盾が出現すると、数秒後跡形もなく霧散する。

「ここへ来たのは奪還を阻止する目的もあったが……やはり一番は貴様だアルス。
 尻尾を掴むのに随分と時間がかかった。今日こそ余と貴様の因縁に決着をつけよう!!」

それこそがもうひとつの理由だった。
クロムとマグリット、レイン達三人が一瞬でも逃げおおせられたのは手心を加えたからかもしれない。
彼らを逃がしつつも窮地に追い込めば仮面の騎士は必ず現れると。殺すチャンスはいくらでもあったはずだ。
少なくとも、アリスマターは魔王の思惑を汲んで幾分か手を抜いていた。

剣を抜き放つと仮面の騎士は神速で真一文字に振り抜き魔王に斬りかかる。
だが魔王がすかさず展開した『ダークネスオーラ』に阻まれてしまう。

「どうした?光魔法で攻撃しないのか。1000年前も言ってやったはずだが?
 この防御魔法を突破できる可能性があるのは『光』だけだとな」

剣を引き抜いて飛び退くと、仮面の騎士は崩れ落ちるように片膝をついた。
ぼんやりと光って明滅を繰り返し、腕や足といった身体の一部が燐光となって消えていく。
もう時間がなかった。魔力は底を尽き、仮面の騎士――アルスが地上を去る時が近付いているのだ。

「……もう限界か。つまらん奴だな。お互い万全ではないが……貴様は何も出来ず、今の仲間も救えずに消えるのか。
 かつての貴様ならば何があろうとこんな無様を晒すことはしなかったはずだ。違うか?
 アルスよ……余を興醒めさせてくれるな。勇者ならば相応しい消え方をしてみろ」

剣を支えにして立ち上がると、アルスは再び剣を構える。

「お喋りだな……魔王。私はもう勇者じゃない。ここにいるのはその亡霊のようなものだ。
 だがこんな私でも旅に迎えてくれた、仲間達だけは守ってみせる。私の全てを賭けてでも……!」

「それでこそ余が唯一好敵手と認めた男だ。褒美に面白いものを見せてやろう。
 この身体は何かと便利でな、余が習得していない魔法も操ることができるのだ……!」

頭上に手を翳して魔王は呪文を唱える。

「――先導者の父、禁忌の神子、森羅万象の精霊よ、一つになりて教理を示せ」

仮面の騎士の背後にいたレインは驚愕した。
あの詠唱はアシェルが開発した独自魔法の呪文だったからだ。

「ふっ……"召喚の勇者"、貴様は知っているようだな。そうだ。
 これこそがこの身体の持ち主が創り出した光魔法……『トリグラフエンド』だ」

勇者の肉体を乗っ取っているからなのか、対極に位置する闇属性の魔王が光魔法を行使している。
それも驚きだが、唱えた魔法は触れれば消滅する光を放つ究極の光魔法。
力を抑えて放っていたが群体クラゲや『セイントイージス』を霧散させたのもこの魔法だ。
もし最大出力で放たれた場合、この狭い一本道では避けることはできないだろう。
0388レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/09(土) 17:11:25.06ID:MPjYjS4F
対する仮面の騎士が残された力で行使したのはとある魔法。
レイン、クロム、マグリットの三人の足元に魔法陣が浮かびあがる。

「この魔法陣は転送魔法……!?まさか……!」

レインの言葉に反応して、仮面の騎士は振り返らずに答える。

「今から君達を地上へ飛ばす……生きて魔王城を目指すんだ。
 ここにいる魔王は本体じゃない……後は任せる。君達ならできるはずだ」

「待ってください師匠!師匠も一緒に……!」

レインは全てを言い終えないうちに起動した転送魔法でふっと消え失せた。
次いでクロム、マグリットが順番に衛星から姿を消していく。

――ただ一人、仮面の騎士を残して。彼はいわばしんがりだ。
崩壊しつつある人工衛星で魔王とアリスマターを足止めする。
転送魔法が使える二人を誰かが妨害しなければならないのだ。
そしてあわよくば道連れにする――――。

「自ら捨て石を選んだか……!ならば望み通りに消してやろうッ!!」

魔王の発動した消滅魔法が容赦なく仮面の騎士に襲い掛かる。
人工衛星の崩壊が近づく中で、僅かな力を武器に魔王と側近へと肉薄していった。



――――――…………。

吹き荒ぶ風が止んでいく。急に"飛んだ"影響なのか、戦闘の緊張が解けたためか。少し意識を失っていたらしい。
砂に埋もれた身体を持ち上げて周囲を見渡すと、一面には広大な砂漠が広がっていた。
姿はとっくに『紅炎の剣士』から元の旅人の服姿に戻っている。

空にはじりじりと照りつける太陽と雲一つない空。それ以外には何もない。
丘のように盛り上がった砂山を超えた先にクロムとマグリットが転がっていた。
眠ったように静かだ。息はある。ずざぁ、と砂山を降りて地平線の彼方まで広がる砂漠をもう一度見る。

「どこなんだ……ここは……?」

恐らく魔王の追跡を困難にするためなのだろう。
仮面の騎士はサウスマナ大陸とは異なる場所に三人を転送したようだ。
砂漠が広がる土地はアースギアに幾つかあるが、最も広大で有名なのはウェストレイ大陸だろう。

問題は現在地の把握と水の確保だろう。何処まで行っても砂しかないこの大地。
目印になるものも無く、どこへ向かえば人里があるかも見当がつかない。
乾燥した暑さは体力を奪い、考える力を徐々に奪っていくようだ。

二人が起き上がるのを待っていると、レインは地平線に浮かぶ"影"に気がついた。
その影はこちらを横切るように進んでいる。しかもひとつじゃない。
いわゆる隊商(キャラバン)という奴なのか。とにかく何かの集団が通り過ぎようとしている。
この好機を逃す訳にはいかない。羽織っているマントと召喚した長柄武器で旗を作ると振り回しながら影の集団へ走った。

「おーい!助けてくれーっ!おーーーい!!」

すると影のひとつが気がついたらしく、進行方向をこちらに変えて近づいてくる。
レインは安堵した。最悪この砂漠で迷い野垂れ死ぬ可能性もあった。自分達は運が良い。
0389レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/09(土) 17:12:50.57ID:MPjYjS4F
やって来たのは一頭のラクダに乗った人間のようだった。
防塵用のマントとゴーグルを被り、腰には細身の剣を帯びている。

「砂漠のど真ん中で……何をしているんです。
 ここはウェストレイ大陸ですよ。なぜ貴方がこの大陸で遭難しているんですか」

ラクダに乗ったその人は困惑したトーンでそう呟いた。
声色から察するに女性らしい。レインはどこかでその声に聞き覚えがあった。

「……鈍いですね。この距離でも分かりませんか?私ですよ」

女性はゴーグルを額まで持ち上げると、レインは「あっ」と変な声を漏らした。
彼女はかつてサマリア王国の教学院で共に学んでいた間柄の人物だった。
今はウェストレイ大陸を滅ぼさんとする大幹部討伐の任に就いているはずだ。

「……"探究の勇者"アンジュです。久しぶりで何よりですねレイン」

――現代において勇者アルスの血統を継ぐ、唯一の勇者がそこにいたのだ。


【一同、仮面の騎士の転送魔法でウェストレイ大陸の砂漠に飛ばされる】
【四章終了!大変長らくお待たせしました&お疲れさまでした。五章に続きます】
0390レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/09(土) 21:50:45.75ID:MPjYjS4F
【あっ。記憶力が欠如してました。マントと長柄武器で旗を作ったと書きましたが正しくは外套と長柄武器です】
【余談ですが外套はポンチョっぽいイメージでして……そのため些末なことですが訂正させていただきます】
0391クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/10/10(日) 20:35:42.18ID:QNSNNofY
メイスからゲル状の物質を噴射し、その反動を利用して昇降機の前へと難なく辿り着くマグリット。
一方、噴射された物質は魔力の糸を喰ってたちまちにして増殖し、魔王達の前進を阻むように広がっていた。
それは恐らく偶然の産物ではない。脱出と同時に足止めを図る、それが彼女の策だったのだろう。

しかし、渾身の策も、圧倒的な力の前では無残に打ち砕かれてしまう。
魔法は物質を瞬時に霧散させたのだ。それも触れずして。
つまりは魔法で──だが、一体どれだけ高位で、どのような性質の魔法を使えば物質を粉々に散らすことができるのか。
その光景を後目に舌打ちするクロムには想像もつかぬことだった。

(爆発でも、炎でもねぇ……分からねぇ。くそったれ、なんて底知れぬ化物だ)

障害物を排除すれば、もはや前方の行く手に魔王を阻むものはない。
なのに魔王の動きは非常に緩やかなものだった。逃げるクロムの背中に追いつくつもりなどまるでないように。
ならば魔法で追撃を掛けてくるのかと言えば、そうでもない。そのような気配も感じないのだ。
では、逃がすつもりなのか? それとも何か別の意図があるのか?

>「アルスさん、助けてください!」

それに対する答えに窮し、縋るかのように仮面の騎士の名を叫んだのは、マグリットだった。
そして、直後に不意に開いた昇降機の扉から現れたのは、紛れもない仮面の騎士その人であった。

>「……待たせたな。三人とも……よくやってくれた。後は私に任せてくれ」

「──仮面の騎士! よく来てくれたと言いたい、が……!」

通路に出た仮面の騎士の横を抜け、クロムは扉に手を掛けて動きを止める。
後は昇降機に乗って脱出するだけ……なのだが、仮面の騎士が足止めを成功させない限り、乗るわけにはいかない。
昇降機は一つしかないからだ。先に三人だけが地上に降りてしまえば、彼を崩壊する衛星に置いていくことになる。

(いくらあいつでも……残りのわずかな時間であんな化物の足を封じる事ができるのか……?)

その疑問に対する答えは、床から現れた。三人の足元に“転送魔法”の魔法陣が浮かび上がったのである。
崩壊する衛星から三人をどこかに転送する理由は敵には無いのだから、仕掛けたのは仮面の騎士に他ならない。

クロムは理解した。
見れば既に彼の体が消えかかっている。それは無数の竜との戦いで、ほとんど魔力を使い果たしていた事を意味する。
そう。僅かな時間で敵を封じ、共に脱出する──今の彼に、そんな芸当が可能な力はもう残っていなかったのだ。
だから三人だけでも確実に逃がす為、己を犠牲にして敵を崩壊する衛星に釘付けにすることを選択したのだ。

>「今から君達を地上へ飛ばす……生きて魔王城を目指すんだ。
> ここにいる魔王は本体じゃない……後は任せる。君達ならできるはずだ」

「仮面の騎士、あんたって奴ぁ……」

徐々に体が消えていく。いや、仮面の騎士のではない。クロムの、彼自身の体が、転送魔法によってその場から。

(…………!)

体も、意識も完全に消えかけたその刹那、クロムは魔王の後ろで宙に浮いていたアリスマターを見た。
視線を感じたからである。彼女からの、まるで死霊のそれのように冷たい無機質な視線を。

彼女は何か呟いていた。勿論、声は聞こえない。だが、クロムには何を言っているのか、把握には唇の動きだけで充分だった。

「次はないぞ、クロムウェル」──彼女の唇は、確かにそう言っていた。
0392クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/10/10(日) 20:43:48.66ID:QNSNNofY
 
────。
 
意識を取り戻した時、そこはもう地上であった。
乾いた風が髪を攫い、砂塵が視界に舞う。肌を照り付ける太陽光は真夏のそれのように強い。
上半身を起こして辺りを見回すと、そこには一面砂漠が広がっていた。

気温からサウスマナに戻ってきたと思いたいところであるが、ここがサウスマナでないことはクロムにははっきりと分かっていた。
別に景色に見覚えがあったわけではない。そもそも砂漠などというものは、どの大陸にあろうとほとんど景色に違いなどない。
それでもここが何処の砂漠なのか、クロムは知っていた。確信していた。漂う空気の“ニオイ”で。

(そうか……ここは懐かしの故郷、か)

イースでもサウスマナでもない、だがクロムが知っているニオイ。
それはクロムが人生で最も長い時を過ごした大陸、忘れる筈もない『ウェストレイ』のものに違いなかった。

>「おーい!助けてくれーっ!おーーーい!!」

ふと遠くで声がした。どうやらレインの声らしい。
そばに転がっていただんびらを掴んで立ち上がったクロムは、腰に下げた専用の真っ白な鞘に入れると、
近くで砂に埋まりかけていたマグリットに声を掛けて声の方向へと向かう。

「起きてんだろ、行くぞ! 散り散りになったところを魔物に狙われたら面倒だ。お互い満身創痍なんだ、離れるのはまずい」

そうして見えてきたのは、ラクダに乗った女性と何やら会話している様子のレインの姿だった。
クロムは急ぐことなく──というよりダメージが癒えておらず、走れないのだが──二人に近付き、やがて合流を果たす。
合流した新たな顔を順に見据えた女性は、まず己の名を『アンジュ』と明かした。
聞けば、正体は“探究の勇者”と呼ばれるレインの旧友であり、今はウェストレイでの任についているという。

「なるほど、あんたも勇者か。俺はクロム。察しの通りレイン《こいつ》の仲間だ。転送魔法でここに飛ばされてきた……」

言って、突然膝をガクンと折り、その場に尻餅をつくクロム。
一瞬の目眩の後、下半身から急速に力が失われていく感覚に襲われたからである。
原因はシェーンバイン戦で蓄積された疲労とダメージにあることは疑いなかった。
慣れ親しんだ故郷とはいえ、砂漠という過酷な環境は今のコンディションではとても耐えられるものではなかったのだ。

「……悪いが、話の前に体を治す時間をくれ。……マグリット、こいつをお前にやる」

クロムは懐から取り出したものをマグリットに手渡す。
それは大きなハート型の宝石が埋め込まれた腕輪だった。名を『祈りの腕輪』。
冒険者の間で、特に神官相手に高値で取引されるという貴重なアイテムである。

「シェーンバインの部屋から持ってきたものだが、使ってみてくれ。役に立つと思うぜ……本物ならな」

それが齎す効果は回復魔法の強化。術者が込めた祈り・魔力を宝石内で増幅し、回復効果をワンランク上昇させるというもの。
つまり、下位の回復魔法を使えば自動的に中位に、中位の魔法を使えば上位の効果が発揮される優れものというわけだ。
高値がつくだけに形だけを似せた偽物も多く出回るのだが、そこは元の持ち主を信頼するしかない。
コレクター故に偽物を見分ける目は確かであり、まさか偽物を掴まされて等いないであろうと。

仮面の騎士の死──いや、敢えて離脱と表現しておこう──が、パーティに与えた打撃は余りにも大きい。
彼は一流の戦士であると同時に一流のヒーラーでもあったからだ。
回復魔法の効果すら半減させてしまう特殊装束を纏うクロムにとって、一流ヒーラーの損失は誰よりも痛手であると言える。

仮面の騎士は装束の妨害がありながらも欠損を治して見せたが、ではそれがマグリットであったら果たしてどうだったか。
……恐らく、治せなかったに違いない。それも装束の妨害が仮になかったとしても。
彼女は装束の効果を知らない。なのに、初めから回復を諦めて処置を止血に留めたのは……つまりそういうことなのだ。
しかし、それでは困る。今後も大幹部との戦いは続くのだから。今後もそれでは、困るのだ……。

【マグリットに回復魔法の強化アイテム『祈りの腕輪』を渡す。偽物か本物かはお任せします】
【次の章も引き続きお願いします】
0393マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/10/17(日) 20:18:25.38ID:Lk54vArG
崩れ行く衛星
その中で繰り広げられる人知を超えた戦い
転送の力によりそれらは視界の彼方へと消えていく

「アルスさん……すいません……」

遠ざかるアルスの背中を見送りながら、その視界が涙にぼやける事を感じていた

マグリットはこうなる事は判っていた
そしてこうなる事を望んでいた

旅の同行を認めた時から
船旅では余計な消耗を避けるため
サウスマナについてからは少しでも延命するために教会に聖域の発動もさせた
ここまでの戦いでアルスにはなるべく負担をかけないようにしたのも

この時の為だったのだ
「どれだけ持つか?」という問いに、アルスは「シェーンバインを倒すくらいまでは持つはず」と答えた
だがマグリットはそれでは「足りない」と思っていたのだ
魔王を倒した先代勇者の力、幹部ではなく更にそれ以上の力に対するために温存しておきたいと

その願い通り、魔王が自ら自分たちの前に立ちはだかり、この窮地を脱するためにアルスを呼んだ
全ては自身の思惑通りであるはずなのに、去来する罪悪感と喪失感はいかなるものか、転送の中でマグリット自身でも分からなかった

ただ一つ、「神はいる」揺らいでいた信仰を強固にするに足るだけの確信だけがその内から溢れ出るのを感じていた


---------------------------


>「起きてんだろ、行くぞ! 散り散りになったところを魔物に狙われたら面倒だ。お互い満身創痍なんだ、離れるのはまずい」

「え?あ?アルスさん……は……う、はい」

クロムの声に目を覚まし、飛びあがるも全身の傷で起き上がる事もできず
ただ空は何処までも青く、中天には眩い太陽が浮かんでいた
明らかにサウスマナの、少なくとも知っている空ではない事に戸惑いを覚えつつ、なんとか立ち上がりクロムの後を追うのであった
0394マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/10/17(日) 20:19:44.83ID:Lk54vArG
砂に足を取られ、重いシャコガイメイスを引きずりながらレインとクロムに追いついたところ、ラクダに乗った女性と話している最中であった
その女性は探求の勇者アンジュと名乗り、ここがウェストレイ大陸である事を告げる

「ええええ?私たち、大陸間移動の転送されたって事なんですか!
それで、衛星は?それに魔王は……?」

余りの事態に驚き、思わず天を仰ぎ見る
勿論誰もその答えを持ち合わせてはいない事は判っていたが、口に出し、そしてへたり込むのであった

マグリットは海棲獣人である
サウスマナのような湿気の強い暑さには対応できるが、砂漠のような乾燥した暑さには弱かった
表面積が大きい分急速に水分が失われていき、傷も相まって消耗が激しい

アンジュの間とう外套の様に砂漠には砂漠に相応しい装備があるのだが、身一つで転送されてきたのでは如何ともしがたい事であった

>「……悪いが、話の前に体を治す時間をくれ。……マグリット、こいつをお前にやる」

へたり込んだマグリットにクロムが手渡したもの
それを見て驚きに目を開いた
渡されたのは『祈りの腕輪』
癒しの力を一段階上げる効果のあるもので、回復職ならば是非とも持っていたい一品ではあるが、産出は少なく高価で取引されているものだ
それ故に偽物も多く出回っているのだが

「こんなもの一体どこで……いや、でもこれを頂いても私では……」

祈りの腕輪はあくまで祈りを、その信仰心を高めるものであり、単純に回復魔法を振りまくものではない
10が100になれば意味は大きいだろうが、元が1ならば10にしかならず、同じ10倍にするという効果も意味合いが違ってきてしまう
即ち、元々信仰心が低い上に魔族の立場や目的を知り揺らいでしまっている自分が持っても効果が期待できないと思ったのだが

腕輪を受け取った瞬間、光の粒子が溢れだし周囲に積層型魔法陣が展開される

「こ、これは、セイクリッドサークル!?」

魔法陣により聖域を展開し、その内部にいるものに強力な治癒効果をもたらす設置型簡易結界
本来ならば教会を管理する司祭級の祈りがなければ実現しえない魔法だ
その効果は一目瞭然で、効果範囲内にいるレイン、クロム、そしてマグリット自身の傷も急速に癒えていく
貫かれた左鎖骨辺りもふさがり、左腕に力が入るようになるのが分かる

「驚きました、これ、本物の様ですね
しかも急激な反応で一種の暴走状態に陥っていたようで」

時間にして聖域展開は数秒ではあったが、それでも十分な回復力を発揮してくれた
が、傷は癒えども、それを強引に展開させられてマグリットの体力や気力、そして魔力は大幅に消耗
元より消耗激しかった状態で、根こそぎ使い果たしたようなもので
砂漠の暑さも相まってマグリットの視界は暗転するのであった

頬に砂の感触を感じながら
「み、みず……」
とか細く声がこぼれ、気絶してしまう
貝に砂漠という環境は過酷なのだ

【祈りの腕輪が暴走し強力な回復フィールド出現させて快復させる】
【魔力の使い果たしと砂漠の乾燥による脱水症状で気絶】
【第四章お疲れ様でした、第五章もよろしくお願いします】
0395レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/24(日) 03:50:02.92ID:wWMDqB2g
目の前の女性があのアンジュだということに気づき、レインは目を丸くした。
そういえば彼女は"探究の勇者"としてウェストレイ大陸に派遣されていたのだった。
だからって転送魔法で飛ばされて会った最初の人間がアンジュなんて――そんな偶然があるだろうか?

「どうしました?具合でも悪いのですか?」

アンジュはラクダから降りてレインの顔を覗き込む。
間近に迫る中性的な整った顔立ちに青と緑のオッドアイ。
彼女の顔を直視できない。彼女の顔を見ると仮面の騎士を思い出す。

再会して判ったが仮面の騎士――アルスの面影を強く感じるのだ。
アンジュを見ていると彼を一人衛星に残してしまった罪悪感が湧いてくる。

「いや……大丈夫だよ。意外なところで会ったものだから……」

「それは私の台詞です!レイン、なぜ貴方がここに?
 運命の悪戯が神の仕業ならその手元が狂ったとしか思えません」

「話せば長くなるから詳細は後にするけど……転送魔法で飛ばされてきたんだ」

本体ではないようだが魔王との決着もまだついていなかった。
まさしく突然落ちてきた隕石にぶつかったような衝撃。
掴みかけた幸運がすり抜けていったような感覚だ。

「転送魔法が原因でしたか。ならば合点は行きます。話は後で聞くとして……。
 今は私の数少ない友人との再会を祝しましょう!後ろのお二人は貴方の仲間ですか?」

振り返るとクロムとマグリットがこちらへやって来る途中だった。
そういえば二人はまだ戦闘のダメージも色濃いはずだ。
特に重そうなシャコガイメイスを抱えたマグリットは疲れの色が見える。

「うん……俺の仲間だよ。クロムとマグリットって言うんだ。
 凄く頼りになる。二人がいなかったら何度死んでたか分からないくらいだ」

「そうですか……それは良かったです。
 貴方は……仲間を作りたがりませんでしたからね」

そうして合流を果たすとアンジュはいのいちに自己紹介を述べた。

「はじめまして。私はレインの友人で"探究の勇者"アンジュです。
 このような砂漠の真ん中で出会えたのも何かの縁、以後お見知りおきください」

>「なるほど、あんたも勇者か。俺はクロム。察しの通りレイン《こいつ》の仲間だ。転送魔法でここに飛ばされてきた……」

クロムも端的に自己紹介で返すと、突然ガクンと片膝をついた。
無理もない。蓄積した戦闘の疲労がそうさせてしまったのだろう。
0396レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/24(日) 03:54:45.69ID:wWMDqB2g
アンジュはちょっと動揺した様子でクロムへ近寄る。

「戦闘のダメージが残っているようですね。立てそうですか?
 その身体でウェストレイ大陸の極端な環境は酷でしょう」

ウェストレイ大陸はクロムにとって見慣れた故郷なのだが……彼女には知る由もなかった。
地平線に見える集団のところまで戻れば負傷と疲れを癒す方法もあるが、アンジュは回復魔法を使えない。
ラクダに乗せて連れて行くことを考えているとマグリットが先程の言葉に大声で反応する。

>「ええええ?私たち、大陸間移動の転送されたって事なんですか!
>それで、衛星は?それに魔王は……?」

そしてそのままへたり込んでしまうとアンジュは思わず苦笑した。
クロムは構う様子もなく「時間をくれ」と言って腕輪をマグリットに手渡す。

>「シェーンバインの部屋から持ってきたものだが、使ってみてくれ。役に立つと思うぜ……本物ならな」

「それは……『祈りの腕輪』?」

なんと抜け目ないことか。手に入れるタイミングは蹴り飛ばされて離脱したあの時しかない。
そういえば風の大幹部との戦闘の途中からクロムは見慣れない剣を持っていた。
あれもシェーンバインの部屋から持ってきたものなのか、と今更合点がいった。
今、その剣は腰に下げているこれまた見慣れない真っ白な鞘に収まっているのだろう。

ともあれ、マグリットが腕輪を受け取ると光の粒が湧きだし魔法陣が浮かび上がる。
回復魔法の結界であろうか。レインは初めて見るが、たぶん範囲内の者を癒す効果のはず。

>「こ、これは、セイクリッドサークル!?」

マグリット自身がこの魔法の発動に驚いているあたり、意図的に発動したものではないようだ。
結界が三人の傷を癒す――といってもレインは戦闘中シャコガイメイスの力で怪我を治していたが。
しかし多量の魔力を放出したらしい。マグリットはか細い声を漏らしてその場に気絶する。
その様子をひとしきり眺めたアンジュは口元に指を添えながらこう呟く。

「なるほど。レイン、貴方の仲間は……かなり個性的なようですね。
 素敵なパーティーメンバーです。冒険が楽しそうですね」

「……そうかもしれない。でも凄く頼りになるんだ」

何と返せば良いか分からず同じ事を二度言って、レインはマグリットに近寄っていく。
「限定召喚」と呟いて両腕に『豪腕の籠手』を装着すると重い彼女の身体を担ぎ上げる。
体重155キロのマグリットをラクダの上に乗せたらラクダが潰れてしまいそうだ。
そのためレインは無言で運ぶ役を買って出たというわけである。

「私の仲間のところまで行きましょう。まずはこの砂漠を横断しなければいけません。
 ……かつては周辺にオアシスと町があったそうですが、遠い昔に魔物の襲撃で滅んでしまいました。
 ですからここには何もありません。しばらくすればミスライム魔法王国に入りますからそれまでの我慢です」

どれだけ遠い昔か尋ねると「100年ほど前です」とアンジュは答えた。
時間の感覚がズレていたようだが、仮面の騎士は一応人里に飛ばしたつもりだったらしい。
0397レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/24(日) 03:57:30.13ID:wWMDqB2g
アンジュの仲間の下――地平線で待ってくれていた一団のところまで歩く。
ようやく着くとその集団は冒険者ではない民間人達で構成されているようだった。
各々荷車をラクダに曳かせて大荷物を載せている様子。さながらどこかへ引っ越す途中のようだ。

「アンジュ……この人達は?どうも隊商(キャラバン)……というわけじゃ無さそうだ」

「……避難民です。魔物の襲撃で滅んだ国からミスライムを目指して逃げてきた人々です。
 地の大幹部の足跡を追っている途中で出会って、魔物の群れから守るため同行しているところなのです」

アンジュは避難民の集団の最後尾まで歩みを進めていく。
するとそこにいたのは巨大なゴーレムだった。それも一体じゃなく、総勢十体も並んでいる。
ふとましい頑丈そうな胴体をしていて、脚部は普通の足の代わりになんと無限軌道だ。

ゴーレムと言えば魔物だが、かの魔物の特徴のひとつに人間でも容易に生み出せるという点がある。
避難民達と一緒にいることから、このゴーレム達は味方で、それも人間が造ったものだと予想できる。
最後尾にいるのは無限軌道(キャタピラ)で走行するため尋常じゃない砂埃が舞うからだろう。
そして――レインはこのゴーレムを造ったのが誰なのか心当たりがあった。アンジュの仲間だ。

「ここです。ヒナ、暑さと疲労で意識不明の人がいます。収容してあげてください」

ゴーレムを見上げて大きな声で仲間を呼ぶと、その肩に乗っていた小柄な人物が手を上げる。
茶髪の髪にでかい瓶底眼鏡を掛けた人間の少女だ。14歳くらいだろう。
防塵用マントの内側に白衣を着ているようだがサイズが合ってないらしい。
白衣の袖が異常に余っており伸ばした手から垂れさがってヒラヒラしている。

「おぅさー。メディックゴーレム10号が空いてるよー。
 あっ……レインちゃん。おひさぶりだねぇ」

掴むところも無いのにするするっとゴーレムから降りてくる。
少女はレインに担がれて気絶中のマグリットのところへやって来ると容態を診る。

「この人僧侶?魔法を使い過ぎたみたいだね。あははー医者の不養生。
 軽い熱中症と脱水症状もあるかもね。見たとこ海棲の獣人っぽいからさ……。
 医者でも僧侶でもないから詳しくないけどねー、あはは……」

そうしてマグリットの状態を一目で言い当てると視界に入ったクロムを凝視する。
瓶底眼鏡の縁をカチャカチャと触りながら首を伸ばしてじーっと彼を見た。

「んん……そこの人なんか……知らない種族だね。
 まぁ雑談はあとあと……あたしはヒナ・ペルセポネ。よろしくってわけよ」

そう挨拶を述べると陽光で瓶底眼鏡をキラリと光らせる。

「人はあたしをこう呼ぶ。マッドサイエンティストってね」

決め台詞なのだろう。そう言って『10』の刻印が入ったゴーレムの方へと向かっていく。
レインは黙ってそれについて行くとアンジュはクロムにこう言った。

「気を悪くしないでください。ヒナは私の助手で生物学を専攻してまして……。
 種族のあれこれに関心があるのです。普段調べるのは魔物ばかりなのですけどね」
0398レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/24(日) 03:59:53.66ID:wWMDqB2g
「10号ちゃんお立ちだーい」

メディックゴーレム――救急医療を目的としたゴーレムは、創造主の言葉に反応して両手でお椀をつくって腕を下げる。
そこにマグリットを仰向けにして寝かせると、ヒナは彼女の汗を拭き取り頭に水で濡らしたタオルを乗せる。
そしてゴーレムは両手を胸元まで持っていくと、なんと胸がせり出してベッドが現れた。
どうやらこのゴーレムの胴体は医療用のカプセルベッドになっているらしい。

「はいはーい10号ちゃん治療よろしくねぇ。
 中は常に適温で点滴と下位の回復魔法を処置してくれるから大丈夫ってわけよ。
 起きたら10号ちゃんが降ろしてくれるから心配無用。安心安全設計って寸法よ」

そうして胴体に収容されていく気絶した仲間を見送る。
彼女達はこうして傷ついたり暑さにやられた避難民を救助しながら魔法王国を目指しているようだ。
ミスライム魔法王国。それはウェストレイ大陸でも最も大国で、最も歴史ある国だ。
きっと避難民を無下にするような事もないだろう。

「さて……皆さんの冒険、その旅路の出来事を知りたいのですが……。
 ここで立ち往生するわけにはいきませんので、後で存分に聞くとしましょう。
 ラクダの余りはありませんからメディックゴーレムの肩に乗せてもらってください」

「いいよー。10号ちゃんの両肩が空いてるからそこ使ってほしいわけよ」

そう言ってアンジュは避難民の行列の先頭に向かい、ヒナは他のゴーレムの肩まで昇っていく。
レインはメディックゴーレム10号を眺めながら『豪腕の籠手』で頭を掻いた。
どう昇るんだよ……これ……。胴体や腕に掴むところなんて何もない。
装甲の表面は大理石のようにつるっつるだ。

たしかに腕の関節などにそれらしい突起はある。
だがまず常人ではそこまで手が届かないだろう。
ヒナはどうやったのか木登りの要領で登ったようだが……。

「……登ればいいんだよね」

とりあえず登ってみようと試みる。『豪腕の籠手』なら万力の握力だ。
どこか掴むところがあれば登れるはず。よって無限軌道部分は難無く登れる。
だがつるつるの胴体をどう掴めばいい。滑って落ちるだけだ。ずるずる。
当然だがレインは滑り落ちた。

「あー……レインちゃんそれコツがあんだよねぇ……。
 掴むっていうか蹴るのよ。ジャンプに近いってわけよ」

なるほど?ならば『豪腕の籠手』から『波紋の長靴』に変えて……。
と思ったところでメディックゴーレム10号が親切に手を差し伸べてくれた。
最初からそうしてくれよ……。


――――――…………。
0399レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/24(日) 04:02:03.91ID:wWMDqB2g
砂漠の夜は寒い。
太陽が出ている間は40度を超えることもザラにあるが、日が沈むと途端に氷点下まで冷え込む。
現地民はともかくこの気候に慣れていない者であれば一気に体調をぶっ壊しかねない。

夜を迎えて避難民の砂漠横断も小休止となり野宿をすることになった。
レインはメディックゴーレム10号の肩から降りて身体をさすっているとアンジュが再びやって来る。
ランタンを片手に、もう一方の手に魔法陣を浮かべると――下位の炎魔法だ――地面に落とす。
するとぼわっと炎が燃え広がって簡易的な焚き火ができた。焚き火は込めた魔力が無くなるまで燃え続ける。

「『フレイムスフィア』……だね。助かるよ」

「食事にしましょう。簡単なスープとレーションですけどね」

そうしてアンジュとヒナの二人と焚き火を囲って食事が始まる。これは無言の圧力だ。
つまり、サウスマナ大陸で何があったのか話を聞かせろということである。
どこから話せばいいのやら。ただでさえ荒唐無稽とも言える内容を含む話だ。

仮面の騎士こと初代勇者アルスと出会い、共に旅をして風の大幹部を倒したということ。
そして自身の友人の姿を借りた魔王と邂逅し、全く歯が立たなかったこと。

特に仮面の騎士の話はアンジュを大いに驚かせるだろう。
彼女の先祖はその仮面の騎士、勇者アルスなのだから。
そして子孫は勇者の功績から新たな姓を与えられサマリア王国の貴族となっている。
つまりアンジュもまた貴族なのだが、彼女はそのことをひけらかさないしあまり口にしない。

ともあれ、今までの冒険について嘘を言っても仕方がないし必要もない。
信じてもらえるかは置いておくとして語らねばなるまい。
そうすることで自分自身の複雑な感情にも多少の整理がつくかもしれない。

「……そうですか。正直、レインが大幹部討伐の勇者に選ばれたことには一抹の不安がありました。
 ですが……ひとまず風の大幹部を倒せたのですね。そして皆さんが無事で……良かったです」

サウスマナ大陸へ出発する日からウェストレイ大陸へ転送される瞬間までを話すと、アンジュはそう言った。
衛星を独断で破壊した件についても「その時点での最良の選択でしたね」と評した。
そして今度は自身の状況を語りはじめる。自分達が冒険をしていた期間の分だけ、彼女達にも何かがあったはず。

「私達はこの大陸へやって来てしばらく経ちますが……まだ地の大幹部の居所を掴めていません。
 奴はどうも移動型のダンジョンを拠点にウェストレイ大陸の各国へ魔物を送りこんでいるようなのです……。
 中々尻尾を出しません。とても慎重で臆病……それに狡猾ときている。奴に滅ぼされた国を幾つも見てきました」

ぐ、と拳を握るアンジュの顔を燃ゆる火が照らし出す。
途方もない悲しみに暮れているような。そんな顔をしていた。

「これは推測ですが、地の大幹部の潜むダンジョンは定期的に転送魔法で移動しているのです。
 追跡中に奴の足取りが急に消えたことが何度もありました……直接見つけ出すのは困難かもしれません。
 ですが……私は諦めません。レイン達も頑張って大幹部を倒したのですから、私も負けるわけにはいきません」
0400レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/10/24(日) 04:04:44.59ID:wWMDqB2g
意気込んで語るアンジュの顔はいつも通りの凛々しい姿で、レインは安堵する。
そうやって話していてふと思った。自分がこれからどうするべきか。
ひとまず風の大幹部を倒すという使命は果たした。

そして……遂に奴と出会うことができた。勇者全ての最終目標、魔王セイファートと。
だが消耗した状態で敵うはずもなく、手がかりも得られずレインは今ここにいる。
仮面の騎士は最後に『魔王城を目指せ』と言っていたが……どこにあると言うのだ。

「しかし魔王がアシェルの身体を……勇者の肉体を使っているとは……。
 本体は最後のダンジョンに身を隠しまま、自由に現地でも戦える……ということですか……」

アンジュの呟きはどこか暗く、レインの顔もそれを受けて沈んでいく。
共通の友人の死を思い出して――二人はまだその死を受け入れ切れていないのだ。

「……俺も初めてみた時は……怒りを抑えきれなかった。体中が沸騰して煮え滾った気分だったよ。
 今までにもそういう気持ちになる時はたまにあったけど……でもあれ以上の衝撃は無かった」

そこまで言ってレインは突然思い出した。
クロムとマグリットに、アシェルという勇者がいた話をしたことが無かったと。
だが考えてみれば仲間に故人の話をする機会なんて今まであったかどうか。

「アシェルっていうのは……俺とアンジュの友達なんだ。"魔導の勇者"とも言われていた。
 勇者になる前から魔法が得意で、勇者の中じゃ最高峰って評判だったんだけど……。
 ある日……アシェルは……仲間とノースレア大陸に渡って、魔王軍と戦い死んだ」

冒険者として旅をしてきたクロムに、至高の存在である『龍』を目指すマグリット。
その二人にはあまり関係がない事柄だ。だが、レインにとっては戦いを続ける重要なファクターでもある。
一緒に旅をした期間も長くなってきた頃だ。話す機会が出来てレインも自然と彼の話をはじめた。

「正確には……他の誰かの身体を乗っ取った魔王と戦い死んだ……と思う。衛星で奴の話を聞いてそう確信した。
 だから魔王は友達の仇ってことになる……のかな。しかも奴はアシェルの身体を傀儡として操っている」

そしてレインは話を続ける。

「……アシェルとは……生前『どちらかが死んだら、代わりに魔王を倒す』……って約束したんだ。
 俺は勇者の中は一番弱くて……才能もない。でも死んだ友達の代わりだと思って今まで旅を続けてきた」

ここまで話して、レインはようやく気付いた。
友達が死んでここまでその死について語ったことはなかったと。
心の中では数えきれないほど考えた。悲しんだ。それは出口のない迷路だった。
その想いを、彼は初めて言葉にする。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況