レトロファンタジーTRPG
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ここはアースギア……。
五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。
◆概要
・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。 「魔王を倒すのはアシェルだと、俺も他の勇者も皆思ってたんだ。皆の目に俺がどう映っていたかは分からない。
でも『アシェルの代わり』になることが……俺の今までの冒険の原動力だったんだ」
アシェルにとってその約束にどんな意味が込められていたのか、今となっては知る由もない。
冗談だったのか。本気だったのか。発破をかけてくれたのか。無理をするなと言ってくれたのか。
それともいつ死んでもおかしくない程弱い友達の使命をも背負おうとしたのか……誰にも分からない。
だが感情の整理がつかないままレインはそれを鵜呑みにすることにした。
そうしなければ『魔王を倒す』という夢のような難題を背負える気がしなくて。
魔王を倒すのはアシェル。ならば魔王を倒すのは自分。そう思って逸ることもあった。
時には復讐をしたいだけではないかと気持ちさえ疑うこともあった……。
感情の整理がつかないから戦い続ける本当の『理由』が見えなかった。
それでもある時、仮面の騎士は言ってくれた。魔王に会えば答えは出ると。
勇者として戦い続ける『本当の理由』が分かると。
「でも……俺……魔王と会って少しだけ分かった気がする。
誰かの代わりとか……ましてや復讐なんて……そんな器用なことできないよ……」
それは本心の言葉だった。
誰かの代わりで居続けようと思えばかりそめの支えにできた。
では弱い自分がアシェルのようになれたか。そんな事は一度もないはずだ。
怒りや憎しみに任せた復讐であれば一瞬の原動力にはなる。
だが、周囲を顧みない戦いでは衛星の時のように魔王には通じない。
「……なんていうか……上手く言葉にできないんだけど。俺……この世界が好きだ。
だから皆を守りたい。そのために勇者の使命を果たしたい。そういう意味でも……魔王は倒すべき敵だと思う。
奴に斬りかかった時、剣を『闇』で受け止められた。その時に感じたんだ。あいつは……深くて暗い、恐ろしい存在だ」
そこまで言って、レインはようやく自分が何を言っているのか気づいた。
そして急に気恥ずかしくなってきた。この世界が好き。メシ時に一体何を打ち明けているんだ。
妙な空気を変えるために(自分のせい)ぱん、と膝を叩いて立ち上がる。
「……ゆ、勇者の使命を果たすためにもまず目の前の問題から何とかしていこうか!
アンジュが良ければ俺達にも"地の大幹部"討伐を手伝わせてくれないかな!?
人手が多い方が移動型ダンジョンも早く見つかるはず!……クロムもいいよね!?」
クロムとマグリットを仲間に誘った時のことをレインは忘れていない。
『二人となら魔王城を見つけ出し、攻略できる!』そう言った。
アシェルの話を口にしたことで、何故か変わらずに確信できる。 だが、まずは魔王城を探す『とっかかり』が必要だ。
その辺の魔物を当てもなく倒したり小さな依頼をこなすより、
魔王軍を指揮する大幹部の方が遥かに優れた手がかりには違いない。
「そう言ってくれると嬉しいです。私の数少ない友達と仲間が協力してくれるなら百人力ですね。
いえ……友達の仲間はもう友達……つまりは朋友ですね……。なんと素晴らしいことでしょうか……」
微妙に間違ったことを言っているような気がするが……。
とりあえず、"探究の勇者"アンジュの了承を得たことで今後の方針は決まった。
「おぅさー。なら私も朋友だねぇ。クロムちゃんはもっと喜んでオーケーってわけよ」
ところでさー、とヒナは長ったらしい白衣の袖をヒラヒラさせながら話を続ける。
「クロムちゃんって……何者?いやさぁ、単純に種族が聞きたいってわけよ。人間じゃないよねぇ?
んー。耳はちょい尖ってるけどエルフではなさそうだし……高身長ですらっとしたドワーフ?
まさか獣人……じゃないかぁ。どう見てもケモの特徴が無さすぎるってわけよ」
「いけません、ヒナ。余計な詮索は失礼ですよ。クロムさん……すみません」
レインは言葉に詰まった。クロムが人間じゃないのは薄々知っているが具体的な種族までは知らない。
ただそれとなく隠している様子なので聞くのは野暮だと思い知らないふりをしてきた。
まさか……それを容易くぶち壊す人間が現れるとは。
そういえばヒナは昔からやけに種族の判別に長けている子だった。
無用な差別を避けるため種族を隠す異種族にズバズバ言い当てるという傍迷惑な事も過去にしていた。
「いや……それはその……」
曖昧なレインの言葉を無視してヒナは話を続ける。
「あたし、動物とか魔物の個体差を見分けるのが得意なんだよねぇ。
だから最近……『人間に紛れてる既知の種族じゃない奴ら』が気になってるってわけよ」
瓶底眼鏡の奥に潜む澄んだ瞳がクロムを捉えて離さない。
「稀に見かけるだけだしすぐに事を荒立てるって訳じゃないからスルーしてたけど……。
な〜んか気になるってわけよ。クロムちゃんもひょっとしたらその一人なんじゃないかってね」
「またそれですか……ヒナ、それの区別は貴女にしかできませんよ。
事を急いても魔女狩りめいたことが始まるだけだと言ったでしょう」
「どういうことか……分からないよ。俺にも詳しく説明してほしいよ」 アンジュ、レインも口を開き、そして一斉に口を閉じる。
クロムの何らかの回答を待っているのだ。しかし――その時は訪れなかった。
「……どうやら魔物が接近していますね。接触は少々先でしょうが」
アンジュは緑の瞳で夜の帳が下りた漆黒の砂漠の地平線――それより遥か彼方を『視て』そう告げた。
立ち上がっていたレインは片膝をついて「限定召喚」と呟くと『透視の片眼鏡』を召喚する。
その遠視能力で地平線を索敵すると確かに魔物の群れらしき一団が迫ってきている。
"探究の勇者"は立ち上がり焚き火を囲う一同を青と緑のオッドアイで見渡す。
「お喋りは終わりにしておきましょう。きっと砂漠に住む魔物です。
脅威度こそ低いですがここには避難民しかいません……なので……」
「それ以上は言わなくてもいいさ。一緒に戦おう。クロムもいいかい?
まだシェーンバイン戦の直後……疲労が抜けてないならここで避難民の護衛を頼むよ」
レインとて魔力がフル回復した訳ではない。自動修復するだろうが刀身の欠けた紅炎の剣も直ってない。
妙な詮索を入れてくる"探究の勇者"一行と一緒に戦いたくないならそれでいい、と遠回しに言ったのだ。
「敵は数が多いけど……ゴブリン……いや、砂漠地帯に適応したデザートゴブリンが一番多いね。
ゴーレムもいる。後はでかいのがぼちぼちってところか……後ろに避難民がいる以上一匹も討ち漏らせないな」
「そういうことです。私達は必ず魔物を殲滅しなくてはなりません。
さいわい、伏兵もいませんので……このまま正面から迎え撃ちましょう」
無力な避難民に群がるヒエラルキーの低い弱小魔物達。さながら砂漠のハイエナといったところか。
360度に広がる砂漠をぐるっと緑の瞳で確認する。それで地平線の彼方まで隈なく視れた。
アンジュの片目の緑の瞳は、超視力と言うべき優れた眼をしている。
幼少期に『魔眼』に憧れた彼女は軽い好奇心だけで魔導書を参考に自分の片目をいじくった。
結果として改造にこそ失敗したが、片目の基本能力は飛躍的に向上した。それがその緑の瞳なのだ。
きっと、今までもその緑の瞳で周辺を警戒しながら避難民達をたった二人で守ってきたのだろう。
「召喚」
手に魔法陣が浮かぶと、燐光を残して弾ける。残り少ない魔力で選んだ武器はクロスボウ。
『透視の片眼鏡』と組み合わせて魔物を討ち漏らさず倒すつもりだ。大半がゴブリンなら何とかなるだろう。
余裕があれば『天空の聖弓兵』へと召喚変身するのだが、今は変身しても『風の矢』をまともに撃つ魔力が無い。
「準備オーケーかな。しょうか〜ん!!」
ヒナがばっ、と両手を上げると眼前に巨大な魔法陣が三つほど現れ、巨大な影が浮かぶ。
ゴーレムだ。足は普通だが今度は両腕が何やら大砲のようになっている。
魔物を呼び出す召喚魔法はレインが使うアイテム・武器召喚のストレージサモンより高位の魔法だ。
……なんというか、さり気なく格の違いを見せつけられた気分である。
「こいつはハシゴをつけてるから肩まで登りやすいってわけよ。さぁ発進っ!」
ゴーレムに登るのが下手なレインにも親切な設計というわけだ。
素早くハシゴを登り頑丈な肩に乗ると、三体のゴーレムは暗闇の砂漠を進みはじめた。
【それでは第五章を開始します!】
【アンジュと共に砂漠を横断する避難民と合流】
【夜になり魔物の群れが接近してくる。殲滅のため"探究の勇者"一同と共同戦線】 マグリットが手にした腕輪から、突如として溢れ出す光。
それは瞬く間に魔法陣を生み出し、傷付いた勇者パーティを驚異的な治癒効果を齎す聖なる結界に包み込んだ。
>「こ、これは、セイクリッドサークル!?」
クロム自身、噂程度にしか聞いた事のない、初めて目にする高位の回復魔法だった。
見る見る内にダメージが消えていく己の体に目を見張りながら、クロムはやがて口角を上げて思わず拳を握り締める。
腕輪は本物だった。これで、しばらくは回復に悩まされる事もないだろう。懸念材料が一つ、無くなったのだ。
が、喜んでばかりもいられなかった。傷が全快したところで、全員が息を吹き返したわけではなかったのだから。
気力を取り戻して再び立ち上がったクロムと入れ替わるように、今度はマグリットが地に倒れ伏したのである。
恐らく傷は癒えても残り少ない魔力を使い果たしたことで精神的疲労がピークを迎えたのだろう。
いや、それ以上に砂漠という乾燥した気候が貝の獣人にとって致命的な体力の急減を招いたと見るべきか。
水を求める弱々しい声を最後に意識を失うマグリット。
戦いが終わった直後、物資の補給もない内に砂漠に転送されたパーティに、脱水症状から救えるだけの水があるはずもない。
>「……そうかもしれない。でも凄く頼りになるんだ」
「それはいいがな。今、頼りになるのは水だけって事を忘れんなよ、お二人さん?」
レインとアンジュの会話に割り込んだクロムに、そうですね、というように頷いたアンジュは、再びラクダに跨った。
それを合図にレインがマグリットを担ぎ上げ、ふと地平線を見据える。
>「私の仲間のところまで行きましょう。まずはこの砂漠を横断しなければいけません。
> ……かつては周辺にオアシスと町があったそうですが、遠い昔に魔物の襲撃で滅んでしまいました。
> ですからここには何もありません。しばらくすればミスライム魔法王国に入りますからそれまでの我慢です」
つられて視線の先を見ると、そこには陽炎に揺れるいくつもの小さな影があった。
……どうやらその砂漠を横断中の一団がアンジュの仲間、ということらしい。
しかし、実際にそこへ行ってみると、影の多くはほとんどが丸腰の人間・非戦闘員にしか見えない者達ばかりであった。
アンジュは、彼らは大幹部を追っている途中で出会った難民であり、護衛が必要なので同行していると明かしたが……
ざっと見渡したところ、大勢の難民を守り切れるほどの数《戦力》を揃えているようには見えなかった。
(……少数でも守り切れる“力”があるということか?)
しかし、難民の列、砂塵の舞うその最後尾に来た時であった。
十体はいようかという巨大ゴーレムの一団が突如として視界に現れたのは。
しかも砂漠でもその巨体をスムーズに移動できるようにだろうか、脚部がキャタピラと化した特殊なタイプの……。
そう、戦力なら初めからそこに在ったのだ。
キャタピラが巻き上げる大量の砂塵が存在を覆い隠し、あくまで遠目での視認を困難にしていたに過ぎなかったのだ。
(……その気になれば数そのものを増やせるってわけか。これだけの力、アンジュ《この女》が……)
クロムは一瞬アンジュに送りかけた視線を、不意に頭上に向ける。気配がしたからである。
>「おぅさー。メディックゴーレム10号が空いてるよー。
> あっ……レインちゃん。おひさぶりだねぇ」
そこ──すなわちゴーレムの肩の上──にいたのは、分厚いぐりぐり眼鏡をかけた茶髪の少女。
顔立ちと、大人物の白衣をぶかぶかの袖余り状態にする体型から察するに、年齢は十代の前半といったところだろうか。
少なくとも実年齢よりもはるかに若く見える、童顔童体体質の持ち主や長寿の亜人族でもない限りは。
(“探究の勇者”の仲間……ひょっとしてこいつがゴーレムの創造主……) 大地に降り立った少女を、クロムは分析するようにしげしげと見つめる。
その視線に気が付いたか、やがて少女の方もクロムをまじまじと見つめ始めた。まるでお返しと言うように。
>「んん……そこの人なんか……知らない種族だね。
> まぁ雑談はあとあと……あたしはヒナ・ペルセポネ。よろしくってわけよ」
ヒナ・ペルセポネ。その名を記憶に刻むように心の中で呟いて、クロムも名乗る。
「俺はク>「人はあたしをこう呼ぶ。マッドサイエンティストってね」っておいこっちには挨拶させねぇのかよ」
が、少女改めヒナはそんな事はお構いなしに言葉を被せると、再び何事もなかったようにゴーレムの元へ去っていった。
自己中とでも言いかえられそうな余りのマイペースさを見せつけられて、流石のクロムも呆れ顔で盛大に溜息一つ──
「おい、なんなんだよあいつ《あのメガネ》は……」
たまらずアンジュに抗議するのだった。
────。
『ミスライム魔法王国』を目指す為の砂漠横断も、一休みの時が来る。
太陽が沈み、代わって月が顔を出す夜の時間を迎えたのだ。
難民達が家族や村落単位で小さな集団を作り、それぞれ陣取った場所で自由に食事や休息に入るのを見て、
探究の勇者と召喚の勇者両パーティも『フレイムスフィア』による焚火を囲んで、やがて静かに食事を摂り始める。
メニューはレーションとスープ。
何とも味気ないが、食料の調達が難しい砂漠という不毛地帯にあっては何か食べられるだけマシともいえる。
ましてや今のクロムは食料・水の一切を持っていない、要は食事を奢って貰っている身だ。
図々しく文句を言える立場ではない。
しかし何か喋ろうとすれば思わず「やっぱ不味ぃな」ぐらいはつい言ってしまいそうなので、クロムは沈黙を守る。
黙々と食欲の為だけに口を動かす様は、隣でこれまでの旅の経緯をアンジュ達に説明するレインとは何とも対照的だ。
そんな彼が説明を終え、やっとまともに食事に手を付け始めた頃には、クロムは既に食器を空にしていた。
(……転送魔法で移動、ね)
レインと入れ替わりに自分達の旅の経緯を語り始めるアンジュ。
その時、彼女の話に耳を傾けながら、焚火をぼう、っと見つめるクロムの脳裏に、ふと衛星内での出来事が蘇った。
突然のウェストレイへの転送、そして砂漠の横断。
それら思わぬ事態が重なった事によりこれまで一時的に頭に隅に追いやっていたモノを、一気に思い出したのである。
一つは、衛星が本当に破壊されたのかという疑念。
衛星の破壊をアンジュは「最良の選択」と評したが、実のところ衛星が破壊されたと言い切れる者はここにはいない。
昇降機ではなく、瞬間移動による離脱を余儀なくされた為、破壊を確認できた者はパーティに誰も居なかったのだから。
そしてもう一つ。それは魔王の“肉体”……レインがアシェルと呼んだ人物についてである。
曰く、かつての友“魔導の勇者”アシェルは、仲間とノースレア大陸に渡って、魔王軍と戦い死んだ……という。
ならばあの時、魔王が支配していたアシェル《あの肉体》は、死体だったのだろうか?
それとも未だ肉体は生きているのだろうか?
(……ノースレアに渡って死んだ、とされる勇者。実際にその場にいたわけじゃねーから何とも言えねーが……)
レインの言うように魔王は他者の肉体を乗っ取り、操作できる事は間違いないと見ていい。
魔王自身のみならず、仮面の騎士さえ『本体を探せ』とその事に言及していた以上、疑う余地はないだろう。
だが、支配できる肉体が死者に限定されているのか、それとも生者も含むのかでは大きな違いがある。
この世には魔法によって死体から生み出された魔物が存在する。
アンデッド。肉体が腐敗しても、傷付いても、術者に込められた魔力を動力源に永遠に活動し続ける生ける屍だ。
屍だから痛みも恐怖も感じない。既に死んでいるから、殺す事ができない。そう恐れる冒険者は数多い。
ただし、一部のベテランにとっては必ずしも恐怖の対象というわけではない。例え強敵ではあっても。 アンデッドには、実は致命的な弱点があるのだ。それは回復魔法。
生き物に等しく至上の癒しを齎す魔法が、生ける屍に対してだけはその身を破壊する猛毒となる。
これを修羅場を潜り抜けてきた経験豊富なベテランだけは知っている。何故か?
アンデッド系自体が魔王軍全体から見れば数が少なく、しかも高レベルなダンジョンにいる強敵であるケースが多いからだ。
──如何な強敵でも弱点さえ分かっていれば作戦次第で攻略の望みは出てくる。シェーバイン戦がそうであったように。
もし、アシェルも魔王の依代となっているが為にアンデット化しているとしたら……倒せるかもしれない。
少なくとも肉体《アシェル》だけは。だが、もし生きたまま支配されているとすれば、この一発逆転ともいうべき手は使えない。
倒して魔王の本体に近付くには、最低でもアシェルの全てを超えて見せなければならないということになるだろう。
(…………)
いや、ひょっとしたらそれでも足りないのかもしれない。クロムは魔王と仮面の騎士の戦いを今一度思い出す。
そう、あの時魔王の体は、アシェルの光の魔法に加えて闇の魔法も使っていたのだ。
全く……今更ながら何と無謀な挑戦に手を貸してしまったのかと変な笑いが出そうになる。
しかし、だからといって魔王軍の手先・魔人としての安寧な人生を取り戻す気など彼には毛頭なかった。それこそ今更だった。
何故ならそんなものよりももっと価値があるものを、既に取り戻していたのだから。
それは全てを捨て、魔人となった時より忘れていた……忘れなければならなかった夢。
かつて人間であった時、一人の“勇者”であった時に心に誓ったもの──魔王の打倒。
勇者らしい事を当たり前のように言える少年を、クロムは面白いと感じた。
果たしてどこまで勇者らしく生きて行けるのだろうかと興味を持った。その顛末を見届けたいと思った。
……仲間になった動機はただそれだけの事と、そう思っていた。
だが、今にして思えばレインに己が捨てた光を見ていたのだ。希望を、ヒトの持つ底知れぬ可能性を。
その眩いばかりの輝きに惹かれたのだ。暗闇を舞う虫が、あたかも灯りに引き寄せられるかのように……無意識の内に。
かつて己が見た夢に向けて邁進する少年の姿が思い出させてくれた。
一度捨てた光が戻ってくることは二度とない……でも、夢だけは今から拾い直しても神だって文句は言うまい。
(もっとも、魔王は……いいや……アリスマター《あいつ》だけは決して許しはしねぇだろうがな、魔人《オレ》の裏切りを)
夜空を見上げると蘇る──天空よりも遥か高みにある宇宙。崩壊しつつある人工衛星の中で最後に見た光景。
最後に、クロムに放たれた言葉。
『次はないぞ、クロムウェル』
大幹部の一角であるシェーンバインの殺害に手を貸した時点で本来ならその場で“処分”されてもおかしくはなかった。
そうならなかったのは“生みの親”としての親心的な躊躇か、単に駒としての価値・元勇者のポテンシャルを惜しんだからか……
いずれにしても言葉の通り、次に彼女が目の前に現れた時がどちらかが死ぬ時に違いない。
(だがな、俺は魔王のいない世界ってのをこの目で見たくなったんだ。死んでやるわけにはいかねぇぜ、アリスマター……)
クロムは拳を握り締める。それこそが近い内に起こるであろう死闘への意気込みであるかのように。
「……ん?」
──彼が、ふと自分に突き刺さる複数の視線に気が付いたのは、丁度その時だった。
周りを見てみると、どういうわけか焚火を囲むその場にいた全員が押し黙り、じっとクロムを見つめているではないか。
ひょっとしたら自分の世界に入り過ぎて周囲が奇妙に思うほどボーっとしていたのかもしれない。
そういえば、アンジュの話も途中から記憶になかった。
聞いていたつもりだったが、あれこれ考えていた所為でどうやら右耳から左耳になっていたようだ。
「悪ィ、聞いて>「……どうやら魔物が接近していますね。接触は少々先でしょうが」」
「悪ィ、聞いてなかった。なんだっけ?」──そんなクロムの言葉は、今度はアンジュによって遮られた。
バタバタと一斉に立ち上がる面々に混じって、クロムもタイミングの悪さを溜息しつつも迫る脅威の前には立ち上がしかない。 伏兵はおらず、敵は真正面からのみ迫っているとはアンジュの言だが、特殊な片眼鏡を召喚したレインもそれに相槌を打つ。
以前にも何度か見た武装なので何となく有している機能は想像がつく。恐らく千里眼的なものだろう。
レインに先んじて敵の配置を把握したアンジュもそれに似た能力、もしくは広範囲を一気に探る能力でも持っているに違いない。
>「それ以上は言わなくてもいいさ。一緒に戦おう。クロムもいいかい?
> まだシェーンバイン戦の直後……疲労が抜けてないならここで避難民の護衛を頼むよ」
と言うと、レインはさっさとゴーレムに乗って魔物の群に向かっていく。
遠ざかっていくその背中を眺めるクロムは思わず半笑いだ。
「なーにが疲労が抜けてないなら、だ。お前だって魔力が回復しきってない身だってのによ、無理しやがって」
そして「昔からああいう奴なのかい、やはり」と付け加えアンジュを見ると、すかさず手を出して彼女の前進を制止した。
「夜でも遠くを見通せる目は貴重だぜ。あんたはここに残って敵の動きを監視してな。代わりに俺が行く」
「……ですが、貴方もまだ傷が回復したばかり。貴方を戦わせて私が残るわけには……」
「飯を奢って貰ったんでね。どんなに不味くても借りは借りだ。無かった事にする気はねーよ。それに……」
「?」
「ウェストレイ《ここ》の魔物の扱いは良く知ってるんだよ。あんたよりもな」
それだけ言ってクロムは跳ぶ。砂を巻き上げる力強い蹴りを大地にくれてその身を高く空中へと舞い上がらせる。
先陣を切ったゴーレムを追い越し、降り立った場所は殺気立ったゴブリン達の文字通りの眼前だ。
「巨大で動きは鈍いが、腕は大砲。お前らは敵のでかいやつを的にするようにしな。俺がゴブリン共を引き受ける。
間違っても俺に当てんじゃねーぞ、メガネ」
後ろのレインとヒナに指示を出し、一歩、踏み出しながらだんびらの柄に手を掛けるクロムにゴブリン達が殺到する。
正に獲物に集団で群がり欲望を剥き出しにするハイエナのように。
餌も碌にないこの砂漠を縄張りにする彼らにとって、今のクロムは幸運にも天から降ってきた肉にしか見えないのだろう。
しかし、大軍ともいうべき集団を前にした個が、慌てふためくどころか逆に眉一つ動かさずに大胆不敵に間を詰めた。
この異常性に彼らはいち早く気付くべきだったのだ。そして、警戒すべきだったのだ。
「──────!!」
──瞬時に全身を輪切りにされて、断末魔一つ残せぬまま大地にばら撒かれていくゴブリン。
血の雨が降る中をクロムは一歩、また一歩と歩みを進めていく。その度に、物言わぬ新たな肉塊を大量に増やしながら。
個が集団を蹂躙する。この異様な状況を、ゴブリン達は止める事ができない。
「鼻先に餌をぶら下げられるとそれしか見えなくなる。単純脳みそでは俺には勝てねーってまだ学んでなかったのか?」
彼らのレベルでは到底捉える事の出来ない高速剣の結界に無謀にも飛び込んでは無残にも八つ裂きにされる。
それを見てある個体は却って躍起になり、ある個体は戸惑いながらも食欲に負けて結局突っ込み、犠牲者をひたすら増やす。
ただこれを繰り返すのみだ。
「まぁ、学ぶ前に死んじまうんだから無理もねーか」
ゴブリン集団のど真ん中に打ち込まれた小さな楔が、物凄い速さで集団を二つに分断しつつあった。
【傷が全快。ゴブリンの集団と戦う】
【クロムの正体→ウェストレイの元勇者。魔人としての生みの親はアリスマター】
【なお、途中で話を聞いていなかった為、ヒナの詮索には気付いていない模様】 自分より龍に近しいシェーンバインという存在
そのシェーンバインとの戦いによる損傷は肉体的な限界点を迎えていた
それだけの戦いを経たにもかかわらず、九似の一つである禽皇の爪を得られなかった無力感
魔王との接触による精神的なショック
アルスを囮にした罪悪感とそれを望み狙った自分への嫌悪
祈りの腕輪の暴走による魔力の枯渇
砂漠という環境下における渇水状態
こうした状況の中でメディックゴーレムに収容治療されたことで一命をとりとめ平穏な状態に置かれていた
様々な極限要因が重なり合い、マグリットは今、高位の苦行僧がようやく踏み入れる無我の境地に至っていた
無我の境地でマグリットは光に包まれ、海面に浮かび上がるように意識を取り戻した
意識の回復と共にメディックゴーレムのハッチが開き、マグリットが起き上がる
ぼんやりとした顔であたりを見回し、ゴーレムが持っていたシャコガイメイスを手に取ると、シャコガイから下が伸びその手を這うように伸びる
時は隊列に魔物の群れが接近しているという頃であった
>「それ以上は言わなくてもいいさ。一緒に戦おう。クロムもいいかい?
「委細承知しました、共に魔王と戦う同列のものとして戦いましょう」
クロムにかけられたレインの声に答えながら飛び降り、アンジュとレインの近くに着地した
「探索の勇者アンジュさんですね、お世話になりました
盗み聞きのような形になって申し訳ないですが、このシャコガイメイスは私の半身
記憶の共有ができますのでこれまでのあらましは把握させてもらっております
助けていただき感謝いたします」
そう礼を述べている間に、レインはクロスボウを召喚し、ヒナは巨大な砲撃型ゴーレムを召喚
クロムはアンジュに索敵監視を任せ先駆けていく
「失礼ながらレインさんとのお話も把握させてもらっています
アシェルさんの件から考えるに、あなた方勇者は人の強力な戦力であると同時に、倒された際には魔王の強力な依り代とされてしまう危険があるという事
ですので、くれぐれも御身を大切にし、周囲を存分に使ってください
その為に、我らの力を見極めて頂く為にこの場はお任せあれ」
そう伝えると深々と礼をし、大きな砂煙と共にマグリットの巨体は消えていた
三体の砲撃型ゴーレムとそれに乗るヒナとレイン
その二人の耳にマグリットの声が届いたのだが、あたりを見回せどその姿はない
しばしの逡巡の中でヒナが「そこね!」と指さした
「はい、御明察です」
砂の中から目玉のついた触手が伸びだし、ゴーレムの上のヒナとレインを見上げていた
マグリットは貝の獣人
貝は砂浜の中に身をひそめるものであり、マグリットにとって温度の下がった夜の砂漠は砂浜に通じるものがある
螺哮砲の応用で全身を超振動させ砂中に潜り移動してきたのだった
「ヒナさん、回復ありがとうございました
戦中故砂中からのご無礼をお許しくださいませ」
ぴょこりと触手が頭を下げるようなしぐさをしながら言葉が続けられる
「敵影は50ほど、更に大型種やゴーレムもいるようですね
クロムさんが既に楔を入れておりますし、私も敵の足を止めますので、砲撃殲滅をお願いします
いざとなればクロムさんは砂中に回収いたしますので存分にどうぞ」
そう言い残し触手は佐中へと沈み姿を消すのであった デザートゴブリンの群れの中を無人の野を行くように切り込むクロム
進路上に立ちふさがったゴブリンたちはなで斬りにされ肉塊に代わっていく
群れはクロムにより左右二つに分断されながらも、クロムを囲む集団と、クロムに構わずキャラバンに進もうとする前後にも別れようとしていた
そのキャラバンに進もうとしていた最前列のゴブリンが突如として隣のゴブリンに殴り掛かる
更に畳みかけるように後続のゴブリンが最前列のゴブリンに切りかかり、途端に集団の前線で同士討ちが始まるのであった
その同士討ちは徐々に後列にも波及し、大型のトロールタイプも周りのゴブリンをなぎ倒し始め、集団としての行進が完全に停滞するのであった
「クロムさん、お加減良さそうで何よりです」
クロムの足元から届く声にこの状況を把握できたであろう
マグリットが砂中より幻惑物質を散布した故に始まった同士討ちである事を
「集団の足は止まりましたし、レインさんとヒナさんの遠距離攻撃が始まります
足元に穴をあけておきますので危ういようでしたらどうぞ
あ、あと私の幻惑物質はゴーレムには効果がないのでお気を付けください」
その言葉が終わる前にクロムに降り注ぐ月明かりがさえぎられる
影を作った巨大なゴーレムが混乱するゴブリンたちを踏み潰しながらクロムに迫ってきたのだが、マグリットの掘った穴に片足を取られ横転するのであった
ゴーレムの足をすくい機動を封じたのは良いが、砂中に潜んでいたマグリットは押し潰される危機に瀕し、慌てて砂から飛び出てくるのであった
「ま、まあ、結果オーライという事で、砲撃に巻き込まれない程度に蹴散らしましょう」
手近なゴブリンをシャコガイメイスで吹き飛ばし、トロールタイプにぶつけながら笑いかけるのであった
【砂中より、幻惑物質散布して同士討ちを誘発、群れの動きを止める】
【身をひそめる穴にゴーレムが足を取られ態勢を崩し、その余波で砂中より飛び出る】 レインとヒナが乗るのは腕に備わった大砲から『魔光弾』を放つキャノンゴーレムである。
召喚者であるヒナがサマリア王国で開発し、主に戦闘で用いられる。
キャノンゴーレムが砂漠を踏みしめる振動を感じながら遠方にいる魔物の集団を見ていると、
ふと後方からやって来たクロムがキャノンゴーレムを追い越し、魔物の群れの前へと着地する。
飯の借りを返すために馳せ参じてくれたようだ。
>「巨大で動きは鈍いが、腕は大砲。お前らは敵のでかいやつを的にするようにしな。俺がゴブリン共を引き受ける。
> 間違っても俺に当てんじゃねーぞ、メガネ」
そう悪態をついてゴブリンの集団に斬り込むと、瞬く間に血飛沫を撒き散らして肉塊に変えていく。
最弱のモンスターといえど、数ではデザートゴブリンが圧倒しているはずなのに、クロムに手も足も出ない。
レインは新しく手に入れた剣の名前を知らなかったが、まさしく『鬼神』のような活躍だと思った。
「ふぅん、クロムちゃんやるじゃん。口が悪いのは玉に瑕だけどねぇ」
「それは……大目に見てほしいな。とっつきにくいけど悪い人ではないよ」
ゴーレムの肩で二人は何気なく会話していると、砂の中から触手が飛び出してくる。
触手の先端には目玉がついており、魔物かと疑ったがどうやらマグリットらしい。
>「敵影は50ほど、更に大型種やゴーレムもいるようですね
>クロムさんが既に楔を入れておりますし、私も敵の足を止めますので、砲撃殲滅をお願いします
>いざとなればクロムさんは砂中に回収いたしますので存分にどうぞ」
「おぅさー。『あいつ』以外はどうとでもなるから任せてほしいってわけよ」
「ヒナ……『あいつ』って……あの一番でかい魔物のことかな?」
「いえーす。ちょっとめんどい生態してるからさ」
そんな会話を続けていると、マグリットが散布した幻惑物質がゴブリンに効き始めたらしい。
魔物の間で同士討ちがはじまり混沌とした様相を呈している。ただ生物ではないゴーレムには効いてないようだ。
そろそろこちらのキャノンゴーレムの射程圏なので、支援砲撃を行ってもよいだろう。
「……あの、ヒナ。さっき話してたクロムの種族のことなんだけど……。
探りを入れるのは止めてあげられないかな。俺は本人が話す気になるまで待ちたいんだ」
「んー……今その話?まぁいいけどさぁ、レインちゃん、あたしが思うに全ては時間の問題だよ。
あたし以外にも気づいてる奴いると思うんだよね。どうせいつかバレるなら今バレてもいいと思うわけよ」
でも、とヒナは続ける。
「……勇者のレインちゃんがストップして欲しいならあたしも追及するのは止めとくかな。
隠し事はしてるけど、クロムちゃん自体が何か悪さする感じでもなさそうだし……。
ただーし。もしこの問題で何かが起きたときは……レインちゃんがクロムちゃんを守ってあげなよ」
「うん、もちろんだ。ありがとう……ヒナ」 クロムの種族のことのいざこざを話し終えると、状況がまた動いたようだ。
マグリットが開けた穴にゴーレムの一体が引っ掛かり、激しく横転する。
砂の中に潜んでいたマグリットが押し潰されそうになったことで慌てて飛び出してくる。
「おーけーおーけー。お待たせぇ!キャノンゴーレムちゃん、砲撃開始っ!」
三体のキャノンゴーレムの砲身に光が灯ると、一斉に『魔光弾』を発射する。
ひゅおん、と風を切って敵のゴーレム達の胴体に命中し、その衝撃で後方へ倒れていく。
正確な砲撃だ。『ゴーレム使い』とも仇名されるだけあってヒナのゴーレムは高性能である。
敵のゴーレムは肉弾戦しか出来ないうえ、『魔光弾』に耐えられる強度の装甲じゃない。
勝負はどう見たってワンサイドゲームだ。このまま問題なく殲滅できるだろう。
「ヒナ、あっちとあそこのゴーレム二体は背中にデザートゴブリンが張りついてる。
……奇襲を仕掛けてくる気だな……。俺が全部撃ち落とすから気にせず砲撃してほしい」
ゴーレムの巨体を隠れ蓑にするとは侮れない悪知恵だ。流石はゴブリンと言ったところか。
だが『透視の片眼鏡』の能力を使えば看破は容易い。この魔導具には千里眼と同様の能力があるのだ。
キャノンゴーレムの砲撃が敵のゴーレムを穿つと、ゴブリンたちが飛び出してレインとヒナを襲う。
だがそこに待ち構えていたのはレインのクロスボウによる正確な射撃。
レインの召喚したクロスボウは連射ができる『連弩』なので複数体で奇襲を仕掛けても無意味だ。
狙い過たず急所を射抜かれ地面へと落ちていく。
「おっと」
急所を射抜かれてなお、一矢報いようとヒナに飛び掛かる個体をはがねの剣で弾く。
ゴブリンの群れ自体はクロムとマグリットがどんどん片付けてくれている。
と、なれば後の問題は一番後方に控えているでかい魔物――巨大な砂像のような魔物だ。
その魔物はライオンの身体に頭巾(ネメスという)を被った人間の顔を併せ持っていた。
全長は目測で三十メートルを超えているだろう。今まで遭遇した魔物の中で最大級のサイズだ。
名を『スフィンクス』という。ウェストレイ大陸の砂漠に生息する強力な魔物だ。
「あの魔物はスフィンクスって言うんだけど……レインちゃん、知ってる?」
「……ごめん、名前しか聞いたことないんだ。どんな魔物なのかな」
「たは〜。レインちゃんも知らないかぁ!しょうがないなぁ!」
ヒナは有り余った袖でレインの肩をぱしぱし叩く。
試しにスフィンクスに攻撃してみてと言うので、レインは目を狙って矢を放つ。
クロスボウの矢は正確に巨大な砂像へ飛んでいき――命中する直前に障壁らしきものに弾かれた。
矢はくるくると回転しながら砂漠へと落下していく。
「……なるほど。防御魔法を身に纏っているんだね」
「そーゆーこと。並大抵の物理攻撃や魔法は通じないってわけよ。
しかもあのサイズだからちょっと斬りつけたくらいじゃダメージにならない」
でかい個体は七十メートルを超す例もある、とヒナはつけ加える。
そしてこの魔物の特徴として敵に必ず『謎とき』や『ゲーム』を仕掛けてくるのだという。 スフィンクスが問いかける謎の正解は防御魔法を解除するパスワードになっている。
正解を導き出した者だけに倒すチャンスが訪れるというわけだ。
だがもし間違えてしまえば凶暴化して不正解の者を殺すまで襲うという。
なぜそんな事をするのか、といえば……スフィンクスを創り出した魔族の趣味なのだろう。
自身が高い知能を持っているという自負ゆえか、または無尽の砂漠の支配者としての傲慢ゆえか。
「だーかーら。まずはあたし達になぞなぞを出して貰わないと倒せないってわけよ。
へいへーい、スフィンクスちゃん見てるぅ!?こっちこっち!こっちに注目!」
スフィンクスは二体いる。
ヒナのキャノンゴーレム達が一斉に砲撃すると、魔光弾がスフィンクス達を襲う。
だが、その全てが防御魔法に弾かれている。一切ダメージはないようだ。
「我はスフィンクス。『知』を重んじる者なり。
汝、この砂漠を通りたくば我が問いに答えよ……」
「おっ、はじまったねぇ。まぁまずは見てなよレインちゃん。
あたしを解答者に選んだみたいだからこの灰色の脳細胞をご覧あれってわけよ!」
スフィンクスの一体が接近してくると、その巨大な瞳をぎょろりとヒナに向ける。
ヒナは恐れる様子もなく平然としているが――何せあのでかさだ。相当なプレッシャーがある。
「……では問題。朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か」
どこかで聞いたことがある問題だぞ、とレインは思った。
どんな謎解きを仕掛けてくるのかと思っていたが、難易度は低そうだ。
「ぴんぽーん!答えは『人間』ね!簡単すぎるってわけよ!
人間は赤ん坊の時には四足で這い回り、成長すると二足で歩き、老年になると杖をつくから三足になる!」
「正解だ……このスフィンクス、汝の『知』を認めよう」
スフィンクスの頭上に魔法陣が浮かんだかと思うと、粉々に砕け散る。
防御魔法が解除されたらしい。ヒナはすかさずキャノンゴーレムに指示を飛ばし砲撃する。
轟音が響いたかと思うと、スフィンクスが呻き声を漏らして後退していく。見れば魔光弾によって胸部が陥没している。
「我はスフィンクス。『知』を重んじる者なり。
汝、この砂漠を通りたくば我が問いに答えよ……」
と、思っていたら次はレインを標的に問題を仕掛けてきた。
さっきの調子なら少し頭をやわらかくしておけば答えられる程度に違いない。
「リーマンゼータ関数ζ(s)の非自明な零点sは全て、実部が1/2の直線上に存在する……?」
「えっ……ちょっ……ちょっと待ってくれないか。それって数学!?」 もう謎解きの領域じゃない。
スフィンクスの提示した問題はいわゆるリーマン予想と呼ばれている。
解いたら懸賞金が貰えるほどの難問でありもちろんレインごときに解けるわけがない。
「わ……わかりません」
「不正解だ……このスフィンクス、全能力を懸けて汝を滅ぼすなり!!」
巨大な砂像の前足を持ち上げ、一気に振り下ろす。
レインとヒナは咄嗟に乗っていたキャノンゴーレムから飛び降りた。
するとキャノンゴーレムが紙屑のように粉々に砕けた。なんという力だ。
「いや〜あんな問題出してくる個体もいるんだ。魔物って理不尽だねぇ……あはは」
ヒナは面白そうに笑っているが、笑い事じゃない。
一体の防御魔法は解除したがもう一体は解除できなかったのだ。
どうやって倒せばいいのか……ヒナと共に砂漠に着地しつつ、レインは頭を抱えるのだった。
【二体いるスフィンクスのうち一体の防御魔法だけ解除に成功する】 キャノンゴーレムから放たれた魔光弾が敵ゴーレムの胴体を穿ち、沈黙させていく。
一方、背後を振り返れば、クロムに構わず難民達の寝床を襲おうと前進していたゴブリンの一団が同士討ちを始めていた。
クロムには何かを仕掛けた覚えはない。ゴブリンに気まぐれで仲間を襲う習性がなければ、誰かが何かを仕掛けたのだ。
しかし召喚勇者パーティの一員であれば、誰が何をしたのかなどもはや大方察しが付くというものだった。
>「クロムさん、お加減良さそうで何よりです」
不意に砂中から聞こえてきた声は、正にその答え合わせと言ってよかった。
マグリットである。思った通り、ゴブリン達は彼女の毒によって狂わされていたのだ。
「やっとお目覚めか。寝てた分、しっかり働けよな」
言われるまでまでもない──。
砂から飛び出すと、即座にゴブリンをぶっ飛ばしてトロールにぶつけて見せたマグリットの姿は、如何にもそう言いたげであった。
傷は勿論のこと、医療用ゴーレムの中でぐっすり眠れたお陰で体力も全快したと考えていいのだろう。
マグリットの加勢で一息つくタイミングを得たクロムは、ここで剣を止めて周囲をざっと見渡した。
当初より大幅に数を減らしたとはいえ、どうやら敵意を持ってしっかりこちらを見据えている魔物はまだそこそこ残っているようだ。
ゴブリンの他にトロール、それよりも更に大型タイプのオーガも何匹か見受けられる。たまたま毒に耐性があった個かもしれない。
「ここは任せる。俺はちょっとあいつらのところに行って来るわ、手こずってるようなんでな」
しかし、それらはクロムの眼中にはなかった。オーガなどよりも更に巨大な影が、キャノンゴーレムを一蹴したのを見たからだ。
クロムはもはや心配無用と思えるマグリットに残りの魔物の掃討を任せると、その場から跳んで即座にレイン達の元へ移動する。
「問題。俺の昨日の夕食のメニューを答えよ。
──ったく、馬鹿正直に待ってないで奴より先にこうやって問題を出しときゃ良かったんだ。絶対に答えられねーヤツをな。
そうすりゃ奴の難解な問題を解かなくてもこっちの知を認めて防御魔法を解いてくれたんだ。なーにのんびりやってんだよ」
そして己の肩をだんびらの峰で叩きながら、すかさずヒナよりも、レインよりも更に前へ出る。
その巨大な影──スフィンクスに“邪魔者”と認識させ、攻撃目標を一時的に己に切り替えさせる為に。
「もうこの手は使えねぇ。一度誰かを敵と見做すと、そいつを殺すまでこいつには声は届かねぇんだ。
っつーわけでこいつはこのまま倒すしかねぇ。ここは俺とレインがやるから、メガネ、お前はもう一体の方に止めを刺せ」
瞬間、スフィンクスが巨大な前脚をがばぁ、っと上げ、一気に降り下ろした。
「退けい。邪魔をするなら排除するのみ」
見た目は砂像のようで、一見その肉体の耐久性など無いに等しいように見えるスフィンクス。
しかしそれは大きな間違いだ。何故なら表面には透明な鎧とでもいうべき防御魔法が施されている。
いわば繰り出されたスフィンクスの前脚などは質量・硬度の点で巨大な鋼の丸太も同然なのだ。
ヒナの言うように、並大抵の攻撃では跳ね返されるのがオチだ。
「排除されんのはてめぇだよ」
が、それは逆を言えば並以上の攻撃をもってすれば、その限りではなくなるということでもある。
クロムはだんびらの峰を左掌に乗せて刃を立てると、跳び上がった。迫り来る前足に向けて剣を渾身の力で切り上げたのだ。
──苦悶の絶叫が夜空に轟いたのは、その直後。
クロムの殺気に呼応して本来の切れ味を一時的に完全覚醒させただんびらが、防御魔法ごと足を左右真っ二つに割ったのだ。
防御魔法と一口で言ってもその効果は他の魔法と同じくピンからキリまであり、スフィンクスのそれは然程高位のものではない。
ましてや竜人の皮膚すら切り裂けるだんびらの全力の一刀。この結果に一体何の不思議があろうか。
胸元を超え、顔の辺りまで跳び上がったクロムが続けて繰り出した斬撃は、これまた防御魔法を容易く打ち破る一撃だった。
額から右目にかけてをバッサリ斬られたスフィンクスが再び絶叫する。
クロムは着地すると、一旦レインの元まで下がって納刀しながら言った。
「さ、渾身の一撃を見舞って、止めを刺してやれ。奴の防御魔法くらい打ち破れねぇと、いつまで経っても魔王城には行けねーぜ」 【生き残りの魔物の掃討をマグリットに任せ、スフィンクスと戦う】
【スフィンクスにダメージを与え、止めをレインに任せる】 砂中の穴に足を取られ傾くゴーレム
そこにヒナのキャノンゴーレムから放たれた魔光弾が命中
その衝撃でごーえれむは後ろに倒れ煙を上げている
その威力と命中精度にマグリットの口から口笛と共に
「やりますねえ」
との感嘆の声が漏れる
もうこうなると殲滅戦、と思われたのだが更に一山残っていた
それは後方から現れた巨大な影
当初宣教師として各地の辺境に派遣される予定だったマグリットは、各地の危険生物についても一定の履修は終えている
そしてその巨大な影もその中の知識として把握していた
知能の高い魔獣で高い防御結界を持つ
その問いかけに応えると防御結界が解除され攻撃を与えられる、というものだ
二体のスフィンクスは乱戦を避けレインやヒナのいる方向へと進むのが見える
「ふむ、あれはスフィンクスですね
様子を見るに謎かけの解答に失敗したご様子、となれば……」
シャコガイメイスを握る手に力がこもったが、クロムの方が先に動いた
>「ここは任せる。俺はちょっとあいつらのところに行って来るわ、手こずってるようなんでな」
「はい、こちらはお任せください」
込めた力を抜きながら、スフィンクスへと跳ぶクロムの背中を見送るのであった
スフィンクスは知を重んじる魔物であり、相手の知力を計る為に謎かけをしてくる
防御結界を解くためにその謎を解く必要があるのだが、重要なのは「知力を計る為の行為」である事だ
即ち問いかけられるだけでなく、問いかける事も成立する
とは言え、これらはあくまで謎かけ問答成立前の攻防であり、謎かけに失敗した場合、スフィンクスへの対処は難しいものになる
だが、だからこそ、だ
>奴の防御魔法くらい打ち破れねぇと、いつまで経っても魔王城には行けねーぜ」
砂漠に響くクロムの声に笑みを浮かべながら大きくうなずいた
もはや召喚の勇者一行は町の冒険者ではない
魔王軍の大幹部と戦い、そしてその先の魔王に勝利すべく動いているのだ
スフィンクスを攻略法抜きに力押しで倒せなくてはいけない
「ふふふ、気が合いますねえ」
同じ事を考え一歩先に実行したクロムを見ながら、楽しそうに呟きながら振り返る
その先にはゴブリン、トロール、オーガの盛大なバトルロイヤルが広がっていた
勿論その中にいるマグリットもバトルロイヤルの一員だ マグリットの幻覚物質は周囲の全てが敵に見えるようにしているのだから
散布領域は群れの戦闘のみだったが、クロムが離れた今、全域散布となっている
故にマグリットも攻撃に曝されているのだが、ゴブリン程度の力ではその鉄の肌を傷つけるには至らない
「まあ、クロムさんが向かってくれて良しとしましょうか」
群がるゴブリンたちを一薙ぎでまとめて吹き飛ばしながら周囲を見渡す
飛び掛かってきたオーガの棍棒を左手に精製した貝殻の盾で受け、そのこめかみにシャコガイメイスを叩き込む
血煙り舞う戦場でマグリットは寄る敵を殴り倒しながら探していた
暫くして立っている者が少なくなったところで、それらを倒し掃討を完了させた
が、最後に倒した二体のオーガとゴブリンはまだ息がある
いや、息があるように倒したのであり、これこそがクロムが向かってくれてよかった、という言葉の意味だ
もしクロムが掃討を担当していたのであれば、とても息を残すような倒し方はしないと思ったからだ
瀕死のオーガとゴブリンを引きずり、難民集団を守り周辺警戒をしているアンジュの元へと戻り
「群れは片付けましたので一足先に戻ってきました」
そうしてオーガとゴブリンに手をかざすと淡い光があふれ、その傷を癒していく
マグリットの回復魔法はその信仰心の低さから効果は高くなく、それも高い集中力を要して戦闘中に使えるものではなかった
だが、極限要因が重なり疑似的な無我の境地に至ったマグリットには確信があった
今の自分ならばできる、と
高純度な祈りと、それを増幅させる祈りの腕輪の力を制御する事ができる、と
その予想通り、瞬時に必要なだけの回復をオーガとゴブリンに与える事が出来たのだった
「ただの魔物の群れであればよかったのですが、スフィンクスがいました
ともすればただの偶発的な接触でない可能性もありますので、会話できそうなの二体選んで連れてきた次第
運動機能はともかく、喋れる程度には回復させましたので取り調べなど行うのでしたらどうぞ」
二体連れてきたのは会話ができるかどうかはやってみなければわからなかった事と、両方会話できる知能があるならば情報のすり合わせができるだろうと
そして探索の勇者の称号を持つのであれば情報収集もできそうと見込んでの事だった
【魔物の群れの掃討完了】
【瀕死のゴブリンとオーガをアンジュの元に連れていき情報収集用に差し出す】 スフィンクスの問いに答えることができず、防御魔法の解除に失敗してしまったレイン。
持っているのは連射可能なクロスボウ一丁とはがねの剣だけだ。これでどうやって倒そうか……。
思案している内に、クロムがやって来てこう口を開いたのだった。
>「問題。俺の昨日の夕食のメニューを答えよ。
> ──ったく、馬鹿正直に待ってないで奴より先にこうやって問題を出しときゃ良かったんだ。絶対に答えられねーヤツをな。
> そうすりゃ奴の難解な問題を解かなくてもこっちの知を認めて防御魔法を解いてくれたんだ。なーにのんびりやってんだよ」
「なっ……そうだったのか。盲点だったよ……」
スフィンクスの対処法を事もなげに述べるクロムにそう返事して、レインは過去を思い出していた。
サウスマナ大陸に到着してサイクロプスと戦った時も、的確に弱点を教えてくれたことがあったと。
クロムは時折、現地の人しか知らないような魔物の対処法を教えてくれる。
それは単にクロムが博識なのか。それとも――過去に戦ったことがあったのか。
レインは後者だと予想しているが、正確にはウェストレイ大陸がクロムの故郷だからだろう。
「あたしもそれ知らなかった。メモしとこ!」
生物学を専攻する傍ら魔物を調査することもあってヒナは熱心だ。
懐からメモ帳を取り出すと速記でクロムの話した情報を書き記していく。
>「もうこの手は使えねぇ。一度誰かを敵と見做すと、そいつを殺すまでこいつには声は届かねぇんだ。
> っつーわけでこいつはこのまま倒すしかねぇ。ここは俺とレインがやるから、メガネ、お前はもう一体の方に止めを刺せ」
そう話しているうちにスフィンクスはクロムの思惑通り標的をクロム自身に変える。
そして前足を大きく持ち上げて振り下ろした。防御魔法を纏った鋼鉄の塊さながらの足を。
>「退けい。邪魔をするなら排除するのみ」
「クロムちゃんあぶな――……」
>「排除されんのはてめぇだよ」
ヒナの言葉が全て吐き出される前にクロムは剣を構えて跳躍し、スフィンクスの前足を切り上げる。
クロムの意思に呼応して能力を覚醒させた剣は、その前足を真っ二つに切断する。
攻撃はそれで終わりではなかった。続けて頭部に一撃お見舞いすると、額から右目が綺麗に裂けた。
苦悶に歪むスフィンクスの絶叫が砂漠にこだまする。
>「さ、渾身の一撃を見舞って、止めを刺してやれ。奴の防御魔法くらい打ち破れねぇと、いつまで経っても魔王城には行けねーぜ」
「あ……ああ……うん……了解した」
レインはその様相を前にして歯切れの悪い返事をするしかなかった。
――『強く』なっている。以前から頼もしいことに変わりはなかったが遥かに強くなった。
おそらくはクロムが新たに所持している剣。その剣の力なのだろう。二度目になるがまさに『鬼神』だ。 残念なことにレインの戦闘スタイルとは基本的に敵の弱点を突く、メタを張ることである。
力押しで突破することは得手としておらず、何より今は魔力の残量が少ない。
とはいえ――ダゴン戦の時のように武器に魔力を込めて、渾身の一撃を放つことはできる。
問題は残りの魔力でスフィンクスの防御魔法を突破してなお破壊力を維持できるか。微妙なラインだ。
(今回はこのクロスボウの『矢』に魔力を込める……!)
『透視の片眼鏡』と組み合わせ、敵のもっとも脆弱な箇所に命中させる。
そうすればなんとかスフィンクスを倒す威力に届くはずである。
レインは片眼鏡のダイヤルを回して敵を透視し、脆いところを探す。
(……『額』……かな。クロムの攻撃でダメージを受けているし、人間で言っても弱点だ)
レインはスフィンクスの無傷な方の前足に乗ると、クロスボウを構えて狙いを定める。
無事な方の前足で防御されてしまっては折角の渾身の一撃が台無しだからだ。
残りの魔力から言って一発しか放てない――それを防ぐために『乗った』。
するとクロムからダメージを受けて苦しんでいたスフィンクスが鬱陶しそうに声を出した。
「蝿が……!そんな玩具で我を倒せるとでも思っているのか……!?」
「戦い方次第さ。このただの『矢』が貴方を殺す強力な武器となる!」
全身から魔力を放出すると、それは余すことなくクロスボウに装填された『矢』に集まっていく。
魔力を理力に変換するこの技術は、極めれば『奥義』にもなり得る特技だ。
レインはかつて冒険者ギルドのアンナから教わり、拙いながらも使用することができた。
ただ『渾身の一撃』という名称の通り消耗が激しいので使う機会は限られている。
――そして『渾身の一撃』となる矢が無音で放たれた。
スフィンクスは侮っていたがその額に命中した瞬間、爆ぜたように大穴が穿たれた。
爆裂魔法染みた派手な音と共に頭部がすっ飛んで、スフィンクスを構成する砂が周囲に降り注ぐ。
「……血の雨じゃなくて良かったよ。危うく狂戦士になるところだ」
思考回路を失ったスフィンクスの胴体はずずんと静かに倒れていく。
レインは巻き込まれないよう前足から飛び降りてそう呟いた。
「お〜……あれが"召喚の勇者"パーティーの力ってわけだねぇ。やるじゃん」
ヒナが腕を組んでうんうんと頷く。
防御魔法を解除できていた個体も至る所が陥没し、あるいは大穴が穿たれ倒れている。
無事だったキャノンゴーレム二体で倒せていたらしい。
ゴブリンの群れの方も無事に全滅しているようだ。マグリットのおかげだろう。
肝心のマグリットが見当たらないので、すでに避難民達がいるところへ戻っているようだ。
「……クロムのおかげでなんとかなったよ。ありがとう。
それじゃあアンジュのところに戻ろう。伏兵や残存戦力もいなさそうだからね」
『透視の片眼鏡』で注意深く周囲を確認するが、敵の影はない。
砂漠のハイエナ――弱小魔物の群れは掃討できたと判断してよいだろう。
一同は避難民達のところまで戻ることになった。 アンジュは緑の瞳で周囲を警戒しつつ戦況を見守っていると、マグリットが一足早く戻って来た。
手には瀕死のオーガとゴブリンを引き摺っていて、避難民達は驚いた様子でざわつきはじめる。
>「群れは片付けましたので一足先に戻ってきました」
「お疲れ様ですマグリットさん。
しかし……その魔物は?敢えて息を残してあるようですね」
意図はおおよそ分かっていたのだが、アンジュは確認のためにそう質問した。
するとマグリットは二体の魔物の傷を即座に癒してこう返す。
>「ただの魔物の群れであればよかったのですが、スフィンクスがいました
>ともすればただの偶発的な接触でない可能性もありますので、会話できそうなの二体選んで連れてきた次第
>運動機能はともかく、喋れる程度には回復させましたので取り調べなど行うのでしたらどうぞ」
「……やはり、そういうことでしたか。魔物の中には知能の高い個体もいますからね。
言語こそ違えどゴブリンやオーガは会話によって意思疎通ができると言います」
回復したゴブリンとオーガに近寄るとアンジュは手を翳す。
すると二体の足元に魔法陣が浮かび、結界の中に閉じ込めた。
下位の光属性結界魔法『タリスマン』である。
続いてアンジュは指をパチンと鳴らすと、二体の魔物の目が虚ろになった。
簡単な催眠魔法だ。これで情報を引き出そうというつもりなのだ。
問題は魔物の言語を理解している必要がある点だが――。
"探究の勇者"として魔族の生態を調査してきたアンジュは魔物の言語も把握している。
「……魔物に尋問してるのか。有益な情報が引き出せると良いんだけど」
クロム、ヒナと共に戻ってきたレインは誰に話すでもなく呟いた。
聴き慣れない独特な発音の言葉が響く奇妙な光景である。
アンジュはふぅと一息つくと、結界の中が眩い光に包まれた。
「……『ホーリーアサイラム』。これで用は済みました。
残念ですが、この襲撃自体は魔族の絡んでいない偶然だったようですね」
弱い魔物を問答無用で消滅させ、魔族でさえ弱体化は免れない上位結界魔法。
ゴブリンとオーガごときが浴びれば跡形も残るまい。
防塵マントを翻してマグリット達に近寄る。
「……ですが一点、気になることを話していました。
魔物達はミスライム魔法王国に集結しろと命令を受けていたようなのです。
なにか……嫌な予感がします。もしかしたら魔王軍が動き出しているのかもしれません」
アンジュは表情を一瞬険しくするが、すぐに顔を綻ばせる。
「といっても、今気にしたところでどうにかなる問題ではありません。
後はゆっくり休んでください……夜間の見張りは私が続けておきます」
そう言ってアンジュは去っていく。
ヒナは三人の顔を見渡してこう続けた。
「そーいう訳だからお言葉に甘えといて欲しいってわけよ。
あたしのゴーレムとアンジュで上手いことやっとくからさぁ。それじゃおやすみ!」
取り残されたレインは二人の背中を見つめながら、気持ちを切り替えた。
友人として手伝いたいところだがもう魔力切れだ。休むのも重要な仕事である。
無理をしたところで足を引っ張るだけなら寝るしかない。
親切な避難民が貸してくれた寝袋の中に入って、レインは休息に努めるのだった……。 ミスライム魔法王国の国境沿いの街に到着したのは数日後のことだった。
国境では王国の官吏が難民保護のため住居から食糧まで準備をして待っていた。
さすがウェストレイ大陸いちの大国と言うべきか、これで一安心だと胸を撫でおろす。
「それにしても、準備がよかったね。まるで来るタイミングが分かっていたみたいだよ」
「それはこの国の宮廷魔導士、アルバトロス様のおかげでしょうね」
街の酒場で食事を摂りながらアンジュはレインの疑問にそう答える。
避難民達を護衛しながらここまで来る間、食事は貧しいものばかりだった。
久々にまともな料理だ。地方特有の郷土料理を食べることは冒険においてささやかな楽しみである。
「宮廷魔導士か……どんな人なんだい?」
「魔法の探究にとても熱心ですね。態度にこそ出しませんが優しい方ですよ。
大幹部討伐の任を帯びた私とヒナを援助してくれています」
そうして食事を平らげた辺りで、酒場に人が入ってきた。
褐色肌に長い耳をしたエルフの女性といかにも護衛らしい屈強な戦士の二人だ。
砂漠が広がるこの土地にエルフがいるのは珍しい。エルフは基本的に森と共に生きる者だからだ。
「探したよ……"探究の勇者"。そちらは"召喚の勇者"一行だね?
突然押しかけてすまないね。私はこの国の宮廷魔導士……アルバトロスだ」
「アルバトロス様……!どうなされたんですか?なぜ貴女が城から離れてこの街まで?」
アンジュは椅子から立ち上がると脳裏に以前のことがちらついた。
魔物を尋問した結果、ミスライム魔法王国に集結しろと命令を受けていたという事実を。
「避難民の保護は私が手配したからだよ。君達の動向は概ね把握している。
"召喚の勇者"達が崩壊する衛星からこの大陸に飛ばされてきた瞬間も……ね。
そして"探究の勇者"と共にこの街まで来るところもずっと見ていた」
「この街に訪れたのは避難民の保護だけが目的ではないでしょう。
地の大幹部の新たな標的は……この国なんですね」
「アンジュ、君は話が早くて助かるよ。詳しい説明は首都の城で話そう。
"召喚の勇者"一行も一緒に来てくれたまえ。風の大幹部を倒したその力、是非借りたい」
「えっ……あ……もちろんです」
レインは歯切れ悪く返事をして、いそいそと酒場を出ていく。
皆が酒場の外に出ると、アルバトロスが杖でトン、と地面を突いた。
すると足下に魔法陣が浮かんで目の前の景色が変わっていく。
この感覚には憶えがある。転送魔法だ。気がついたらレイン達は巨大な城の前にいた。
国境沿いの街とはまるで違う、賑やかな王国の首都ヘリオトロープに一瞬で到着したのだ。 城門で警備をしている衛兵を顔パスで通ると、アルバトロスの案内で城内のある部屋に着く。
彼女の自室なのだろう。見たことのない書物や資料がそこかしこに散乱している。
「その辺りの椅子に自由に掛けてくれ。本当なら王に謁見させるところだが時間の無駄なので省略する。
まずはこれを見てくれ。私がなぜ君達の動向を知っているのか、よく理解できるだろう……」
長机の上に乗っていた書物や資料を荒っぽくどけて、両手に収まるくらいの水晶球を置いた。
水晶球には暗い星の海と、そこに漂う何かの残骸が浮かんでいる様子が映されていた。
「……遠見の魔法ですか?」
「そうだ。魔王軍に占領されて以来、私はドワーフの衛星砲を監視していた。
いつこの国に撃たれるか分からない状況だったからね。だがある時に突然、隕石群が降り注ぎ……。
衛星砲は半壊状態になった。この状態では使い物にならないだろう……"召喚の勇者"達、君らがやったんだろ?」
「……まぁ、そうですね。正確にはここにいるクロムがやりました」
遥か遠方の地を見通せる魔法。それでアンジュ達の動向も把握していたわけだ。
ならば避難民達の迅速な保護も説明がつく。
「別に責めているわけではないよ。むしろ不安要素を取り除いてくれて感謝している。
……気を取り直して本題に入ろう。今から我が国の領土を映す……よく見てもらいたい」
水晶球に映し出されたのは、俯瞰視点の映像だった。空中から地面を見下ろしている図である。
それはミスライム魔法王国のどこかの土地なのだろう。砂漠の真ん中に巨大な柱のようなものが聳えている。
水晶の映像が『柱』を拡大して映し出す。その柱にはなにかの紋様がびっしりと刻まれているようだ。
「これは……何の柱ですか?魔法の術式が刻まれているようですが……」
「土魔法系統の術式のようですね。どことなく見覚えがあります」
レイン、アンジュが次々に口にする。アルバトロスはすぐさま映像を切り替えた。
ぼんやりした映像だが、魔物がさっきの柱を建てている様子が映し出されている。
「私はこれを『地殻の楔』と呼んでいる。全長にして数キロメートルはくだらない。
アンジュ……君が留守にしている間に我が領土に三か所、こいつが魔王軍に打ち込まれてしまった」
壁に貼り付けてあったウェストレイ大陸の地図を机に広げると、アルバトロスはある地点を丸で囲んでいく。
その丸の位置こそ『地殻の楔』が打ち込まれた場所だろう。レインはその位置に引っかかりを覚えた。
「ひょっとして……この『地殻の楔』って最低でも後二回は打ち込まれる可能性がありませんか?
何が起こるかは分かりませんが……この辺りとこの辺りに楔があれば――……」
レインが指したのはミスライム魔法王国に流れる最大の河川の源流たる『月の山脈』の辺り。
そして代々魔法王国を統治した王が埋葬されているという『王家の谷』の辺り。
「……――完成しますね。とても大規模な魔法陣が」
アンジュはレインの言葉を継ぐとお互いに顔を見ながら頷き合った。
魔王軍が何かの大規模な魔法陣を作成しようとしていること。
そしてこの国に魔物を集結させようとしていること。何かの関連があるに違いない。 アルバトロスは表情筋を動かすことなくレインとアンジュの指摘を首肯した。
「水晶球越しではあるが……私はこの楔に刻まれた術式を解析してみた。
結果、この楔にはある土魔法の効果を増幅する効果があると結論付けた……。
それは……『地震を起こす土魔法』だ。こいつが完成すれば、我が国全体が未曽有の大地震に襲われる」
そんな事になってしまったら、さしもの大陸一の魔法王国だってひとたまりもないだろう。
大地震で壊滅的な被害を被った後に魔王軍の襲撃など受けてしまえば滅亡は避けられない。
「ここまで言えばもう分かるだろう。君達にはこの大規模魔法陣の完成を阻止してもらいたいんだ。
この国には地の大幹部に故郷を滅ぼされ、行き場を失った者達がたくさんいる。彼らを守るためにもね」
「もちろんです。おそらくはこれも地の大幹部の仕業でしょう。ならば協力しない手はありません」
アンジュは即答した。レインも断る理由がないので無言で頷く。
この場に勇者パーティーが二組存在するというのも奇妙な偶然だ。
残り二か所に『地殻の楔』を打ち込まれないよう、それぞれ別れて守ることができる。
「魔王軍は野良の魔物にも集結を命じていました。大陸中の魔物が襲ってくるかもしれません。
長期戦になればこちらが不利……どうにかして地の大幹部の居所を掴めればいいのですが……」
「そうだね。でも……魔王軍にとっても重要度の高い作戦だよ。
俺達が上手く妨害し続ければ『チャンス』が生まれるかもしれない」
「……それはどういう意味ですか、レイン?」
レインはサウスマナ大陸目指して船に乗っていた日々のことを思い出す。
高速戦闘に対応するための特訓漬けだったが、仮面の騎士は修行の合間に冒険の話をしてくれた。
その時に言っていたのだ。彼が倒した大幹部の中に空に浮かぶ城に住む者がいたと。
飛べない限り敵も味方も城に行けないので、部下の魔族は転移アイテムを用いて出入りしていたらしい。
仮面の騎士はそいつから転移アイテムを奪って城に侵入――大幹部を倒しこそしたが実質的に敗北したと話していた。
「部下の魔族は地の大幹部の移動型ダンジョンにどうやって出入りしてるのかって事だよ。
大規模な作戦なら信頼できる仲間の魔族が指揮してる可能性が高い。そいつを生け捕りにすれば……」
「……奴のダンジョンを突き止めることができる?」
「うん。あくまで可能性の話だけどね。まずは分担を決めよう。
俺達とアンジュ達、どっちがどっちを守る?片方は河川で片方は谷か……」
河川の源流たる『月の山脈』と王達の躯が眠る『王家の谷』。
地理に合わせて集まる魔物も変われば防衛の方法も変わってくるだろう。
クロムとマグリットの意見を交えて慎重に決めるべきだ。
「何か質問があれば答えよう。私が知っている範囲であればだが」
アルバトロスはそう言って、両勇者パーティーの相談を見守った。
【スフィンクスを倒して大陸一の大国・ミスライム魔法王国に到着】
【避難民が保護された後、宮廷魔導士アルバトロスと出会う】
【アルバトロスに地の大幹部から魔法王国を守ってほしいと頼まれる】 レインの放った渾身の一矢は、スフィンクスの頭部を粉砕して砂の雨に変えた。
司令塔を失った肉体はもはや物言わぬ砂像と化し、辺りは急速に夜の静寂を取り戻していった。
振り返ればゴブリンの群は全てゴミの様に砂上に打ち捨てられており、横を見ればヒナが余裕の表情で腕を組んでいた。
既にマグリット、ヒナら二人の残敵掃討も済んでおり、レインの止めをもって戦闘は完全に終結していたのである。
>「……クロムのおかげでなんとかなったよ。ありがとう。
> それじゃあアンジュのところに戻ろう。伏兵や残存戦力もいなさそうだからね」
「なぁに、俺は飯代の分だけ働いただけさ。だから敢えて止めはお前に任した。
……で、任せて正解だった。あんま謙遜すんなよ。お前、やっぱイースの頃より強くなってるぜ。少しは自信持ちな」
そう言って、クロムはトン、とレインの腰を叩くと、避難民を守るアンジュの元へと歩き出す。
──アンジュの元には既に一足早くマグリットが戻っていた。それも、瀕死の二体の魔物を連れて。
曰く、今回の魔物の襲撃が仕組まれたものではないかと疑ってのことで、情報を聞き出したいのだとか。
確かに、ゴブリンのような低級の群に、およそ低級とは言い難いスフィンクスが数体混じっていたのは些か不可解ではあった。
早速、アンジュが催眠魔法を用いて事の真相を暴いていく。
どうやら魔物の襲撃こそ偶発的産物に過ぎなかったが、彼らはミスライム王国に集結せよとの指示を受けていたらしい。
指示をした者の正体までは判らなかったようだが、低級とは言い難いスフィンクスに命令できる辺り常識的に考えればボス格の魔物……
恐らくは幹部の一人に違いない。
(例の“地の大幹部”って野郎か……)
アンジュの「後はゆっくり休んでくれ」の言葉に従い、クロムはごろんとその場に寝転んで眠気が来るまで夜空を見上げる。
夜空など、どこで見ても同じようなものだとこれまで気にもしていなかったのだが……
(……星座とか全然知らねーんだけどな。意識に刷り込まれてるもんなんかな、ガキの頃に見た星空って)
今夜ばかりはその星の輝きにどこか妙な懐かしさを覚えて、中々寝付けないクロムであった。
────。
数日後。
召喚勇者および探求勇者一行は無事に目的地・『ミスライム魔法王国』に到着した。
避難民を現地の役人に任せた後、向かう場所は冒険者の空腹を満たせる場として定番となっている酒場である。
しばらくレーション続きの毎日を送っていたから、誰もが質にも量にも飢えている。
特にヒトよりも屈強な肉体を誇るが故に、只でさえその維持に必要なカロリー量が多いクロムの食事量は抜きん出ていた。
次から次へと山盛りの料理が盛られた皿がテーブルに並べられ、それを片っ端から空けていくのだ。
中でも周囲の人々の目を引いたのは大きく丸々太った豚の丸焼きをあっという間に骨に変えてしまったことだろう。
ちなみその豚、猪型魔物の家畜化と品種改良に成功という世にも珍しいプロセスを経て生まれたこの地域特有種である。
肉が魔力を帯びているから食べると魔法水と同じく急速な魔力回復が見込め、一部の国には特産品として輸出もされている。
もっとも、魔力をアイテムによって封じている今のクロムには残念ながら効果は無いのだが……。
「……あ、そういやお前肉じゃが食った? この地域の肉じゃがは名物の一つだぜ。
ここはじゃがいもも品種改良されててな。ここの豚と合わせて煮込むと美味さが増すってんで評判なんだ。マジおすすめ」
前の席に座るマグリットにゲップしながら何とはなしに地元料理を語るクロム。
「あ、それ初耳。メモしとこ」
そんな彼に真っ先に反応して見せたのは、たまたま隣に座っていたヒナであった。 「……お前さ、ここに来て結構長いんじゃねーの? なんかその割にはこの間から何も肝心なコト知らなくない?」
「んー……そっちが知り過ぎてるってゆーか。今更な事聞くようだけど、ぶっちゃけこの大陸初めてじゃないよね?」
「そらね。これでも世界中を旅して来たんでね。まだ行った事のない大陸もあるけど、ここら辺は俺の庭だったから」
「ふーん。で、それいつ頃の話ってわけ?」
「そうだなぁ……ざっと100年くらい前ってところかな。見かけによらず長生きだろ、はっはっは」
「長寿種ってわけね。それも若いままで長く生きられるなんて羨ましいじゃん。まるで魔族みたいってゆーかぁー」
「……嘘だからな、一応言っとくけど。冗談のつもりがマジで信じかねねーキャラだからよお前」
考え込む仕草もなく、絶妙な間で受け答えするヒナに、クロムは大きく息を吐き後頭部に手を回して視線を宙にさ迷わせる。
「ホントーは冗談じゃなかったりして」などと呟く声が聞こえてくるが、じと目で眼鏡を上げている彼女の姿が目に浮かぶようだ。
しかし、目を合わせて確認する気が起きない。どうもヒナのようなタイプが相手だと、見透かされてる気分になるからだろうか。
魔人は魔王軍の利益になる行為全般をほとんど自由意志によって行う事を許されている。
己の欲求を満たす為に人間に不幸をばら撒く者が多数を占める魔人にあって、クロムはとりわけ変わり種の部類である。
他の同類《ナカマ》とは違い、ヒトを殺めることや、暴力による愉悦を味わうことが魔族化の動機ではなかったこともあって、
魔人となってからというもの実は一度たりとも魔王軍を利する行為に手を染めた事はない。
故に別に言ってもいいのだ、自分の正体を。堂々と。信頼を壊す後ろめたいことをやってきたわけではないのだから。
(タイミングってのは難しいよなぁ、こう改めて考えると)
しかし、しかしである。それ本当かよ? と疑われた時、果たしてどうすれば潔白を証明できるのだろうか。
その確かなやり方を、少なくともクロムは知らない。
つまり裏を返せばリスクなのだ。実は魔族であるという事を明かすのは。
パーティの信頼を壊し、お互いが疑心暗鬼になりかねない危険を秘めている。そんなギクシャクした関係で旅など御免である。
上手くいくはずがないからだ。
『いつまでも隠し事をしてちゃ真の信頼は築けねぇぜ?』──かつてエイリークはそう言った。
クロム自身、実際仲間というものはお互い腹を割った関係の事であると思うし、二人の性格を考えた時にも、
案外、想像しているような最悪の事態は起こらないのではないかと、楽観する自分がいるのも確かなのだ、が……。
(こいつぁ慎重って言うより、ネガティブなだけかもなぁ……俺が)
こちらが魔王の首を狙う以上、敵幹部・アリスマターとの戦いは避けられない。その時、確実に二人に正体は知れるだろう。
なればこそそうなる前に己の口で明かす事こそが最善とは思うものの、中々そのタイミングというものが掴めない。
>「探したよ……"探究の勇者"。そちらは"召喚の勇者"一行だね?
> 突然押しかけてすまないね。私はこの国の宮廷魔導士……アルバトロスだ」
……一つ確かな事は、今はそれを考えている時ではないらしいということだ。
気が付けば褐色肌のエルフがテーブルの横に立っており、話があるから城に案内するという流れになっていた。
各々が席を立ち、それに一拍遅れてクロムも立ち上がる。
「食後の休憩もなく、か。毎度毎度、忙しねーなこのパーティは」
────。
エルフ──アルバトロスと名乗った──に案内された場所は、王国首都城内の一室だった。
小難しい書物や見覚えがありそうでなさそうな文字で書かれた古臭い図面のようなものがそこかしこに散らばっている。
クロムの「これあんたの私室? それとも研究室?」の問いに「前者だ。後者を兼ねた」と即答するアルバトロス。
私室と言えば使命や業務から完全に切り離された空間を想像するクロムにとって、これには思わず「お堅いねぇ」とポツリ。
そういえば宮廷魔導士と言っていた。
王侯に仕える魔法使いは、男女種族問わずどうも学者肌の堅物が多いイメージがあるが、彼女もその例に漏れないということか。 「どうせ散らかってるなら食い掛けの菓子とか、穿き潰した下着とかの方が笑えて良かったんだけどな。お前らの部屋みたいに」
と、クロムは他三人の女性陣に向けてセクハラ気味のジョークを飛ばしながら、適当な椅子にどっかり座り込んで見つめる。
アルバトロスが用意した水晶球の──遠隔視魔法が映し出す光景を。そして同時に紡がれる彼女の言葉に耳を澄ませた。
・
・
(そうか……その為の魔物の招集だったか)
──全てを見、聞き終えて、クロムはレインの話に聞き耳を立てつつアルバトロスから得た情報を反芻していた。
どうも地の大幹部という奴は、ミスライム国内の各地に特殊な巨大柱を打ち込んで大規模な魔法陣を構築し、
超どでかい地震を引き起こそうとしているらしい。
不意打ちの巨大地震で恐慌状態のところを、一気に魔物の大軍でも差し向けられたら正に秒で決着がついてしまうかもしれない。
それを阻止する為にはまず魔法陣を完成させないことだが、妨害をするだけではいつまで経っても脅威は取り除けない。
結局のところ魔法陣を構築しようとするボスそのものを倒すのが一番シンプルで、かつ確実に脅威を排する方法なのだ。
だが、肝心のそのボスは移動型のダンジョンに引き篭もっていて、居場所を掴めないという話は既にクロムも聞いている。
>「部下の魔族は地の大幹部の移動型ダンジョンにどうやって出入りしてるのかって事だよ。
> 大規模な作戦なら信頼できる仲間の魔族が指揮してる可能性が高い。そいつを生け捕りにすれば……」
そこでレインの作戦である。
瞬間移動の魔法やアイテムがあるこの世の中、配下の魔物もダンジョンの出入りにそれらを用いてる可能性が高い。
残りの柱が立つ場所を予測して待ち伏せ、そいつを生け捕りにすることができればあるいは……というのだ。
レインは『月の山脈』、『王家の谷』の二つの地点を候補として挙げた。アンジュもアルバトロスもそれに同調した。
アンジュは催眠と上位結界を修得しているほどの魔法の使い手。
アルバトロスに至っては柱に刻まれた術式を解析して発動魔法を割り出した程の専門家だ。信じるには充分といえる。
後はどっちのパーティがどっちで待ち伏せをするかを決めるだけだ。
(にしても月の山脈に王家の谷か。……これまた懐かしき庭だな。出てきそうな魔物のツラも大体は予想がつく……が)
クロムは腕を組み、背もたれに思いきり体重を預けた。椅子の前足が浮かび、姿勢が斜めになって自然と視線が上に向く。
次第に虚空にぼんやりと浮かび上がったのは懐かしき敵の顔。記憶の底に在るかつての見飽きた魔物達だ。
それらもやがては蜃気楼のように消えていく。いや、一つの懸念の前に自らイメージを打ち消したと言った方が正しいだろう。
(今はどうかな。俺がこの大陸を離れて十年……いやもっとか。何にしてもその間に顔触れが大きく変わってる可能性もある。
あるいはやたら強化されているかも。なんせあの頃に、地の大幹部なんて大層な肩書の野郎はここには居なかった……)
がたん、と椅子を元の位置へと戻したクロムは、とにかく──と懸念を吹っ切る様にレインを見て言葉を紡ぐ。
「どっちもリスクは変わらねーさ。だからここは敢えて個人的な好みで選ばせて貰うが、俺は『王家の谷』がいいね。
あそこは未発見の墓が未だに数多く眠ってると言われてる。貴重なアイテムが見つかるかもしれねぇからよ」
そして目線を横にスライドさせてアルバトロスに移すと、続けた。
「ちなみになんだが、その地の大幹部って奴の名前は何て言うんだ?
それと北の魔物討伐に向かった“神剣の勇者”とかいう奴について、あんた何か聞いてないか?
……南《俺達》の方は何とか倒せたが、西《ここ》の勇者は意外にもまだボスと戦っていなかった。
それじゃあ残る北《そいつ》の方は今どうなってるのかと、ちょっと気になったもんでね」
【レインに『王家の谷』行きの意思を伝え、アルバトロスに大幹部の名と北の戦況を訊く】 >「どっちもリスクは変わらねーさ。だからここは敢えて個人的な好みで選ばせて貰うが、俺は『王家の谷』がいいね。
> あそこは未発見の墓が未だに数多く眠ってると言われてる。貴重なアイテムが見つかるかもしれねぇからよ」
クロムの希望はミスライム魔法王国を統治した歴代の王が眠る墓所、『王家の谷』だった。
貴重なアイテムが眠っていると聞くと、冒険者として嫌でも期待に胸を膨らませてしまう。
アンジュ側はどちらでも良いらしく、レイン達が『王家の谷』を。アンジュ達が『月の山脈』を守ることに決まった。
>「ちなみになんだが、その地の大幹部って奴の名前は何て言うんだ?
> それと北の魔物討伐に向かった“神剣の勇者”とかいう奴について、あんた何か聞いてないか?
> ……南《俺達》の方は何とか倒せたが、西《ここ》の勇者は意外にもまだボスと戦っていなかった。
> それじゃあ残る北《そいつ》の方は今どうなってるのかと、ちょっと気になったもんでね」
「地の大幹部の名は……魔物達いわく、"不動城砦"ガルバーニというらしい。
しかし、実際に姿を見た者はいないはずだよ。私の水晶で覗くこともできなかった」
サティエンドラが炎属性で、シェーンバインが風属性だった。
ならばこの大陸を襲撃しているガルバーニは地属性といったところか。
地に有利を取れるのは『風』だな、とレインは心の中で再確認する。
「"神剣の勇者"ジークの担当は北ですからね。ノースレアは領土の大半が魔王軍の手に落ちています。
ほぼ孤立無援である以上、探索も一苦労でしょう。加えて、倒す大幹部も炎と水の二体を任されています。
ノースレアのレジスタンスと協力して任に就いているでしょうが……まだ討伐の報告は届いていません」
アンジュは北の戦況をクロムにそう話した。
やはり大幹部討伐というのは一筋縄ではいかないらしい。
神剣の勇者は現在の勇者の中でも三本の指に入る実力者とされている。
だが、そんな彼でも大幹部を倒すには至っていない。
「では話が纏まったところで、さっそく勇者御一行達には防衛の任に当たってもらおう。
私の転送魔法で運ぶよ。現地には我が国の軍もいるから、協力して頑張ってくれたまえ」
アルバトロスがそう締めくくり、一同はそれぞれの防衛地点まで転送されることとなった。
レイン達が到着した王家の谷にはミスライムの騎士達が駐留していて、指揮官が出迎えてくれた。
板金鎧に身を包んだ、実直そうで精悍な顔立ちの騎士だった。
「防衛の任務に協力してくれることになった、"召喚の勇者"一行だよ。
サウスマナで風の大幹部を討伐した実力者達だ。きっと一騎当千の働きをしてくれるよ」
「い、いやぁ……アルバトロス様、それは盛り過ぎですよ。
申し遅れました。俺は"召喚の勇者"レインです。よろしくお願いします」
騎士は敬礼の仕草をして言葉を返す。
「はっ!了解しました。期待させて頂きましょう、勇者御一行殿!
私は指揮官のラカンであります!お見知りおきを!」
ラカンと名乗った男と握手すると、アルバトロスは転送魔法で王城へと戻る。
それを見届けると、レインはそわそわした様子で周囲を見渡した。 ラカンはその挙動不審を心配してレインに質問する。
「どうされましたか"召喚の勇者"殿。何か体調が優れないとか……。
衛生兵を呼びましょうか。砂漠は過酷な環境です」
そういうわけではない。もうこのウェストレイ大陸にきてしばらく経つ。
いい加減、砂漠の環境にも慣れてきたところだ。
レインが気にしていたのは王家の谷に点在する入り口のような穴のことだ。
「ああ……いえ、あの穴はこの国の王の墓に続いているのかと思いまして」
「そうですね。我が国を統治してきた歴代の王が眠っております。
墓荒らしや冒険者に暴かれたものもありますが、未発見の墓も多いと聞きます」
クロムの言っていた通りだ。まだ魔王軍が襲撃してくる様子もない。
探索するなら今が好機だ。レインは平然とこう言い放った。
「すみません、今の内に『王家の谷』を探索していいですか。
もしかしたら戦いに役立つアイテムが見つかるかもしれません」
素面で悪気も無くレインはそう言ったが、ラカンは目頭を揉んだ。
国王に仕える騎士である手前、大っぴらに歴代王の墓を暴くことを許可してよいものか。
だが、国が滅ぶか滅ばないかの一大事だ。そんな固いことを言っていられるのか(?)とも考えてしまう。
「……まぁその……今回は目を瞑りましょう」
「……ありがとうございます!行こうクロム、今がチャンスだ!」
レインは「限定召喚」と呟いて透視の片眼鏡を召喚する。
王家の谷を隈なく精査すると、レインはハンマーを召喚して岩壁の一角を全力で叩いた。
すると、岩壁に穴が開き内部へと繋がる通路が現れたのである。
「いつだったか、竜の谷でも似たような仕掛けがあったよね。それでピンと来たよ。
ここは少なくとも未発見の通路だ。何か有用なアイテムや武器が見つかるかも」
通路を進んでいくと、両側の壁はびっしりと壁画が描かれダンジョン特有の雰囲気を形成していた。
魔物は今のところ現れていない。片眼鏡で透視を続けながら探索し、あるところで立ち止まった。
「……ここだ。透視の片眼鏡で別の通路が見える。どこかに仕掛けが……」
レインが壁を触ると、窪みの部分がスイッチになっていたらしい。
壁の一部が上へせり上がって新たな通路が現れた。中には埃を被った宝箱が幾つかある。
「どれもミミックの類じゃないな。全部開けて問題ないよ」
透視の片眼鏡のダイヤルをいじりつつ隠し部屋へと入っていく。
どの宝箱も鍵がかかってない。レインは手慣れた様子で一際大きな宝箱を開ける。
ブーメランだ。中央にはエメラルドのような宝玉が嵌っていて、レインはそれを見て何かを思いつく。
魔力を僅かに込めてみると、ブーメランはふわっと風を帯びた。
間違いない、これは魔法武器だ。思わぬ拾い物である。
【王家の谷に到着。魔王軍が攻めてくるまで探索の時間】
【『透視の片眼鏡』を用いて風属性の魔法武器(ブーメラン)を入手】 アルバトロスによって地の大幹部は“不動城砦”ガルバーニと呼ばれている事が判明した。
一方、アンジュによれば北の戦況については不明であり、少なくとも討伐の報告は未だ届いていないとの事であった。
が、それでもクロムの知らない情報を得る事はできた。
どうやらノースレアには炎と水、二体の幹部がいるらしいのだ。
(まさか……)
炎属性の幹部と言われて、クロムはあの男の顔を思い浮かべずには居られなかった。
“猛炎獅子”。そう、かつてイース大陸に拠点を構えていたあの戦闘狂である。
魔王軍の事情や戦略など知る由もないが、ひょっとしたら結果としてイース攻略に失敗し数を減らした彼の軍が、
本来ノースレア攻略を一手に任されていた水の軍の増援として、一時的に派遣されているのかもしれない。
……むしろそうであって欲しいと願うところなのかもしれない。
最悪なのは強力な火炎属性の幹部が実はもう一人いて、そいつが北攻略の担当だった場合だろう。
サティエンドラと同じ力量の炎の使い手がもう一人いるなど考えただけでもぞっとするではないか。
そんなことを思っている内に、一行はアルバトロスの手によって早速現地に飛ばされることになっていた。
魔法陣が足元に浮かび上がり、一瞬の内に視界に広がる景色が変わる。
クロムにとって懐かしさを感じるそれは、紛れもなくかつての庭・『王家の谷』に違いなかった。
アルバトロスの言っていた通り、現地には既に騎士達が駐留しており、彼らは一行の姿を認めると丁重に出迎えたくれた。
ラカンと名乗る隊長格の男と握手をするレインを後目にしつつ、クロムは周囲を一瞥する。
今のところ魔物の姿はなく、気配も感じない。
レインもそれに直ぐに気が付いたようで、『今の内に谷を探索したい』と切り出すが、言われたラカンは困惑した様子であった。
「後で墓荒らしの許可を出しちまったと知れれば責任問題になりかねねーからな。あんたは見て見ぬフリをしてくれりゃいいよ」
しばしの間を置き、『目を瞑る』と声を絞り出したラカンに、クロムは笑いながらあっちへ行ってなと言わんばかりに手を振る。
その間にいつもの片眼鏡を装着したレインが、早速辺りを見通して岸壁の一角をハンマーで叩いていた。
そうして現れたのは岸壁の中へと通じる隠し通路。
>「いつだったか、竜の谷でも似たような仕掛けがあったよね。それでピンと来たよ。
> ここは少なくとも未発見の通路だ。何か有用なアイテムや武器が見つかるかも」
「気を付けろよ。未発見の墓ってのは経験上……」
壁画に囲まれた薄暗い通路を進みながら、クロムは何かを言い掛けるも、レインが立ち止まったのを見て思わず口を閉じる。
何かを発見したのかと暗い中を目を凝らしていると、やがて通路の壁の一部が開いていった。隠し通路である。
中を覗いて見ると、明らかに随分長い間誰にも触れられていないような宝箱がいくつか並んでいた。
ひゅう♪ と口笛を鳴らすクロムの横で、レインが早速つかつかと宝箱に歩み寄り、その内の一つを開ける。
出てきたのは宝石が嵌め込まれたブーメラン。魔道具の一種だったようで、彼はそれが一目で気に入ったらしい。
クロムはというと、宝箱の中でも最も小さいのを選んでいた。
「こういうのは一番小さいヤツに一番のアタリが入ってるもんなんだよ。例えば強力な爆弾みてーなのが……あれ?」
しかし、出てきたのは想像とは異なりただのガラスの小瓶だった。いや、中に何らかの液体が入っている。
手に取ってじろじろと見るクロムがやがてポツリと漏らした言葉は「これ……“薬水”だな」だった。
薬水とはその名の通り液状の回復薬だが、液体の原料は薬草である。
薬草よりは缶詰のように日持ちはするが、原料自体はありふれたものなので残念ながら特に貴重というわけではない。
「ってことはもう何百年も前の薬水ってことになるが……飲めるんかなこれ。保存が効くとはいえ……」
現在、クロムは薬草を切らしているので、これは回復薬を補充するチャンスではある。
が、迂闊に口を付けて腹でも下したら回復どころか逆効果にしかならないのだ。
貰えるものは貰っておくべきか、それともタダより高いものはないとそっと宝箱の中に戻すべきなのか……
クロムに一瞬の迷いが生じた、その時であった。 「シャアアアアアアアアアアア!」
突然、得体のしれない奇声が響き渡り、殺気が頭上から迫ってきたのは。
(──)
クロムは素早く剣に手を掛けると、頭上に向けて一閃。降ってきた何かを真っ二つに切り裂いた。
そして、どさっ、どさっ、と地面に落ちたそれを見下ろして、「やっぱりいやがったか」と小さく零した。
「ミイラ化したゾンビだ。多分、この墓に眠る王か……。天井に貼り付いていたらしいな。
……さっきは言いそびれたが、未発見の墓の中ってのはこういう危険もあるんだ。覚えとけよ」
上半身と下半身が見事に真っ二つに別れているにもかかわらず、動きを止めずに這いずって来る様は正に亡者だ。
メリッサ島に居たスケルトンパイレーツ同様、この手の魔物は通常攻撃では完全に活動を停止させることはできない。
「それともう一つ。実はこいつらにはある弱点があるってことも覚えとけよ」
しかし、クロムは知っている。亡者の弱点を。だから、手に入れたばかりの薬水を使うことに何ら躊躇いはなかった。
瓶の蓋を開け、中身を亡者に向けて豪快に振りかける。
すると、途端に亡者は「ギヤァァァアア……」と呻き声を挙げた。見る見るうちに体が溶けていき、それが痛みを感じない筈のゾンビに苦痛を齎しているのだ。
「どうやらあの薬水はまだ効き目があったようだ。ゾンビってのはどういうわけだか知らんが、回復に弱いんだ。見ての通りな」
そして、出来の悪いシチューの様になったかつて亡者だったものを見下ろしつつ剣を納めるクロムは、こうも言った。
「ちなみにここら辺で見つかる亡者の多くは魔王軍とは何ら関りがないものばかりだ。
古代の王は生前に永遠の権力を望むあまり不老不死になれるという怪しげな魔法を自分に掛けたとされる奴も多くてな。
それが死後に発動する欠陥のゾンビ魔法だった為に、この世を彷徨うことになってるってわけだ」
「──うわああああああああ!!」
納刀を完了すると同時に聞こえてきた声。それは亡者の奇声などではなく、明らかに生きた人間の悲鳴であった。
方向は通路の外……騎士達が居た場所からだ。
【墓を探索。手に入れたばかりの『薬水』を使って現れたゾンビを撃退】
【騎士達の悲鳴が聞こえてくる】 ウェストレイ大陸は土地柄、砂漠に適応した魔物が多い。
すなわち魔物の多くは地属性ということになる。『地』の弱点は『風』だ。
風属性のブーメランは今回の戦闘で大いに役立ってくれるだろう。
>「こういうのは一番小さいヤツに一番のアタリが入ってるもんなんだよ。例えば強力な爆弾みてーなのが……あれ?」
クロムが開けた一番小さな宝箱にはガラスの小瓶が入っていた。
中には液体が詰まっている。小瓶のデザインは違えど道具屋で見た覚えがある。
あれはもしや『薬水』というやつではなかろうか。
>「ってことはもう何百年も前の薬水ってことになるが……飲めるんかなこれ。保存が効くとはいえ……」
「普通の医薬品でも使用期限はあるよね。それでも数年ぐらいはもつと思うけど……。
数百年たった回復アイテムか……普通に使うのは止めた方がいいのかも」
もっとも、回復以外の使い道はあまり思い浮かばないが。
レインはこの時、回復以外の使い道がすぐに訪れるとは思っていなかったのだ。
>「シャアアアアアアアアアアア!」
レインは反射的に鞘からはがねの剣を抜きつつ音源へ視線を向ける。
――が、それよりも早くクロムが頭上に剣を一閃して対処。
頭上から人型の何かが落ちてくる。ミイラだ。これも土地柄か。
砂漠という乾燥地帯なうえ、この国には死体に防腐処理を施す文化があると聞く。
死後の復活信仰が転じてミイラを作るようになり、何らかの理由でアンデッドとなる。
ちなみにサマリア王国では単純な土葬ゆえか、現れるアンデッドは白骨死体が多い。
>「ミイラ化したゾンビだ。多分、この墓に眠る王か……。天井に貼り付いていたらしいな。
> ……さっきは言いそびれたが、未発見の墓の中ってのはこういう危険もあるんだ。覚えとけよ」
「アンデッドは厄介な魔物だからね。俺も墓荒ら……じゃなかった、探索ははじめてだし」
>「それともう一つ。実はこいつらにはある弱点があるってことも覚えとけよ」
クロムがついさっき手に入れたばかりの薬水の蓋を開けてミイラに振りかける。
すでに死に至り、痛みなどと無縁なはずのミイラが苦悶の声を漏らす。
しかも肉体が液化して地面にじわじわと広がっていくではないか。
>「どうやらあの薬水はまだ効き目があったようだ。ゾンビってのはどういうわけだか知らんが、回復に弱いんだ。見ての通りな」
「……聞いたことはあるけど、実践してるとこをみるのは初めてだよ」
それは高レベルの冒険者なら知る情報で、いわくアンデッドは回復に弱いという。
アンデッドは低レベル帯のダンジョンでは滅多にお目にかからない。
そのため駆け出しの冒険者は知らないこともままある。
サマリア王国でも、遭遇の可能性があるのは王国で最難関とされるメリッサ島だけだ。
召喚魔法を封じられて焦って逃げたら、スケルトンパイレーツにバックアタックを食らったのも今や良い思い出か。
>「ちなみにここら辺で見つかる亡者の多くは魔王軍とは何ら関りがないものばかりだ。
> 古代の王は生前に永遠の権力を望むあまり不老不死になれるという怪しげな魔法を自分に掛けたとされる奴も多くてな。
> それが死後に発動する欠陥のゾンビ魔法だった為に、この世を彷徨うことになってるってわけだ」
「勉強になるよ。けどクロム……この土地にやけに詳しいね。
もしかして……以前に来たことがあるのかい?」
スフィンクスと戦った時にも感じたことだ。
だから何が悪いというわけではない。むしろ助かるぐらいだ。
冒険において現地に詳しいというのはそれだけでアドバンテージである。 >「──うわああああああああ!!」
ミイラを退治したところで、外から悲鳴が聞こえてきた。ミスライムの騎士達の声だ。
まさか魔王軍が襲撃を仕掛けてきたのか。そんな馬鹿な話があるか。さきほどまで何の前触れもなかった。
軍勢がそんな手品みたいにいきなり現れるわけがない。だから探索を優先して――。
「ああ……!?そうか、しまったぁ〜っ!!」
レインは頭を抱えた。自身が痛恨の勘違いをしていることに気づいてしまったのだ。
ブーメランを片手に外へと向かって全力疾走する。視界に飛び込んできたのは大量の魔物だ。
万を超える軍勢。それが、さきほどまでなかった大穴から次々と飛び出してくる。
地の大幹部こと"不動城砦"ガルバーニは転送魔法で移動するダンジョンに身を隠している。
そして、そのダンジョンから魔物を送り込み街などを襲うのが奴らの戦略。
つまるところ、魔王軍の襲撃には何の前触れもない。幽霊のように突然現れて襲ってくるわけである。
「ジャッカルナイトにバジリスク……この大陸特有の魔物かっ!」
ジャッカルナイト。犬の顔をした魔物の騎士。その剣の腕は人間の剣豪にも劣らないといわれている。
バジリスク。巨大な蛇の魔物で、蛇の王とも言われている。全身に強力な毒を持っている。
他にも以前と同じくデザートゴブリンやゴーレムもいるが、注意すべきなのは上記の二種類だろう。
「うぉぉぉぉっ!!」
レインは魔力を込めてブーメランを投げると、それは味方を襲う魔物目掛けて滑空する。
『風』がこもったそれは高速回転する鋭利な刃となって鎧ごとジャッカルナイト数体を切り裂いた。
そして手元に戻ってきたブーメランをキャッチして騎士を率いるラカンの元へと急ぐ。
「すみません、遅れました。これから戦闘に参加します!」
「おお、"召喚の勇者"殿!お待ちしておりました!」
ラカンは喜色ばんだ声でレインとクロムを迎える。
すると直後、地面が大きく震動したかと思うと魔物を放出していた大穴が突如消滅した。
おそらくその大穴こそがガルバーニのいる移動型ダンジョンへの入り口だったのだろう。
アンジュの話通り逃げ足が早い。
「『地殻の楔』を建てる工程は分かってる、まずはそれを阻止しよう」
アルバトロスの水晶でみた限りでは、楔を建てるのにも転送魔法を使っていた。
魔法陣を地面に描いて、楔を転送することでぶっ刺すという具合である。
なにせキロ単位の巨大な柱だ。物理的に運ぶわけにもいかないのだろう。
「ふん……『格』の違う奴らが二人現れたな。だがものの敵ではないわ」
押し寄せる魔王軍の軍勢、その最後尾で魔族が独白した。
彼こそが『地殻の楔』を建てる任務を帯びたガルバーニの部下。
モグラめいた顔立ちに腕には槍のような武器がついている。
「我が名は穿孔の螺旋ディグラント!ガルバーニ様の命により掘削するぞ、貴様らの命ッ!」 ディグラントは興奮のあまり吼えた。
しかし最後尾にいたので、悲しいことにレインの耳には届いていない。
「魔族もいるみたいだね。何かをわめいてるみたいだ……」
今のところ転送の魔法陣を構築する様子はない。この場を制圧してから行う気だろうか。
魔王軍は数こそ多いが統率力は低い。どの魔物も本能のまま暴れているという感じだ。
――などと考えていると、最後尾の魔族・ディグラントが砂漠に潜るのが見えた。
レインは『透視の片眼鏡』のダイヤルを合わせて地面を透視する。
腕についた槍のような部位が高速回転して地面を掘り進んでいる!さながら土竜のように!
「ラカンさん、クロム、敵が『下』から来るっ!!」
レインは限定召喚を行い装備を『透視の片眼鏡』から『波紋の長靴』へとチェンジ。
板金鎧を纏うがゆえに動きの遅いラカンを抱えて、その跳躍力で空中へと逃げる。
「ばぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!驚いたか!掘削、掘削ぅ!!」
地中より強襲したディグラントは完全な不意打ちを決めたつもりだったが、手応えがない。
なるほどそれなりに『出来る』冒険者らしい。ディグラントは相手にとって不足無しだと思った。
「しかぁし!足場の崩れた今、ワシの二撃目を躱せるかなぁ〜〜〜〜ッ!?」
口を風船のように膨らませると、魔法陣が口部に浮かぶ。
そしてディグラントはぶわっと灰色の液体のようなものを勢いよく吐いた。
これは地属性魔法のひとつ、『ペトロブラスト』である。
灰色の液体を浴びてしまった物質はカチカチに石化してしまう。
つまり、身動きを封じるためのいやらしい魔法なのである。
石化する液体がレインとラカン、そしてクロムへと迫る。
【外の悲鳴は魔王軍によるものだった】
【魔物を率いるボス、穿孔の螺旋ディグラントに強襲される】 悲鳴を聞いて一目散に来た道を駆け戻ってみると、外では既に地を埋め尽くさんばかりの魔物の群がひしめいていた。
よくよく見てみると、いつの間にかフィールドに現れた巨大な穴から魔物達がわらわら湧き出ている。まるで蟻の巣のようだ。
(あれが例の移動型ダンジョン……? 何の前触れもなく現われ、一気にこれだけの魔物を……なるほど厄介だなこりゃ)
眼前に広がるおぞましき光景に舌打ちし掛けて、クロムは止める。音もなく迫り来る不気味な影を目の端で捉えたからだ。
「──あっぶねぇ。後一秒でも遅れてたら毒牙の餌食にされてたところだ」
跳び上がるクロム。一瞬遅れて彼が立っていた場所に獰猛な殺意をぶつける巨影──大蛇『バジリスク』。
ピンチの後にチャンスあり。間一髪ながら必殺の牙を躱し、頭上を取った形となったクロムは既に剣を抜いていた。
王冠を彷彿とさせる突起と模様を持つその威厳溢れる頭部がすぐさま鬼神によって食い破られる。
が、残念なことに彼の振るう鬼神には毒を浄化する能力まではない。
「これだから蛇ってのは好きになれねぇんだ。──マグリット、毒の処理は十八番だろ!? つーか残りの相手もお前がやれ!」
破壊箇所から噴き出す厄介な毒が混じった体液。こういう時クロムは悲しいまでに無力となる。
もはや出来る事と言えば、撒き散らされた毒と相性のよろしくない残りのバジリスクの掃除役をマグリットに押し付けつつ、
毒雨に濡れぬようその場からさっさと離れる事だけであった。
とはいえ、危険を完全に避けられるわけではない。
そこら中で無数の魔物がひしめいているということは、移動すればそれだけ新しい敵と嫌でも遭遇してしまう状況なのだから。
でも問題は無い。ゴブリン類、ゴーレム、ジャッカルナイト……ざっと顔触れを見渡した限り、毒持ちはバジリスクのみ。
返り血を浴びることになんら不安要素がなければ、いつものように気楽な気持ちで存分に剣を振るうことができる。
「随分と数だけは揃えたもんだが──」
四方八方から群がるゴブリンを苦も無く撫で斬りにするクロムに、ジャッカルナイトが剣を構えて切り込んで来る。
すかさずクロムは剣で掃おうとするが、流石にその剣腕は文句なしに剣豪レベルとも評されるジャッカルナイト、反応が早い。
逆にその剣を払いのけんと鋭い剣閃で迎撃してきたではないか。
「──俺達を仕留めるには少々質が悪ィんじゃねぇの!?」
しかし、無意味だ。ただの鉄の塊で、鬼神の行く手を阻める筈もない。
接触即斬鉄。瞬時にジャッカルナイトの意図を挫いた鬼神は、続けて無防備な胴に容赦なく襲い掛かり──
──切断。上半身を糸の千切れた凧のように空中にぶっ飛ばして、辺りに血の雨を降らせた。
人外同士、お互い剣の使い手であっても、クロムとジャッカルナイトでは決定的な差がある。それは得物の質。
竜人の皮膚すら斬り避ける鬼神の切れ味の前では、たかだが鉄の棒に過ぎないありふれた刀剣など豆腐も同然なのだ。
(っ!)
次の命知らずがどこから来るか、探るクロムの足元が突然激しく揺れる。
騎士達の何人かが口々に「穴が」と騒いでいる。見れば、先程まではそこに在った筈の大穴が煙のように消え失せていた。
……なるほど移動型のダンジョン。また移動したらしい。
奇襲して魔物を大量にばら撒いたら、長居せずに即撤退する。これを徹底されたら確かに尻尾を掴むのは難しいだろう。
アンジュ達が手こずっていたわけだ。 >「我が名は穿孔の螺旋ディグラント!ガルバーニ様の命により掘削するぞ、貴様らの命ッ!」
直後、群の奥から現れた一匹のモグラ面の魔族が、騎士達を更に大きくどよめかせた。
昂りを抑えられないというように威勢よく吠えるその姿に、剣を握るクロムの手にも自然と強い力が入る。
>「魔族もいるみたいだね。何かをわめいてるみたいだ……」
「ガルバーニ……とか名乗ってるぜ。恐らくあいつがこの群のボスだな。早速、生け捕り作戦開始と行くか?」
意思を確かめんとレインを見るクロム。だが、レインはその視線に合わせず……やがて唐突に目を見開いた。
何事かと咄嗟に目を群の奥へと戻すと、何とガルバーニの姿がいつの間にかそこから消えているではないか。
>「ラカンさん、クロム、敵が『下』から来るっ!!」
「しまっ──見た目の通り地中を移動できるタイプかよ!」
レインが上へ跳び、やや遅れてクロムが身を屈めて飛び込むように前へ跳ぶ──。
足元の地面が音を立てて崩れ、中から腕の掘削刃を高速回転させたどや顔のガルバーニが出てきたのはその直後だった。
挨拶代わりの奇襲を躱したとはいえ、依然主導権は敵が握ったまま。今は体勢が悪く反撃できる状況ではないのだ。
>「しかぁし!足場の崩れた今、ワシの二撃目を躱せるかなぁ〜〜〜〜ッ!?」
それはやはり敵も理解していたらしい。ガルバーニが打った次の一手は、追撃として正に的確かつ絶妙だった。
口から魔法陣を通して一気に吐き出された大量の液体は、触れた物質を岩の様に石化させる地属性魔法の一つ『ペトロブラスト』。
浴びても反魔の装束の効果で完全な石化は回避できるだろうが、それでも鉛のように体が重くなる程度は覚悟すべきレベルの魔法。
数で有利なのは敵。そのうえスピードまで敵が有利となっては流石に厳しくなる。ここはほんの少しでも浴びるわけには行かない。
けれども体勢が悪い中、広範囲に飛び散りながら追いすがって来るそれを躱し切ることは、言うまでもなく困難だ。
(これだけの量を詠唱もせずほとんどノータイムで……!)
──ならば、防ぐしかない。何かを身代わりの盾にして。
クロムは一瞬視線を横に流してその何かを見定めると、伸ばした左手で大地を掴んで急ブレーキをかけた。
そして両膝を曲げ、あたかも蛙の倒立のような体勢を取ったところで、一気に縮めたばねを伸ばすが如く両足を繰り出した。
それによって蹴り飛ばされたのは司令部を失っても尚、倒れる事無く未だ大地に立往生し続けていたジャッカルナイトの下半身。
蹴った反動で左手は再び大地から離れ、クロムは体の上下を入れ替えながら更なる前進を果たして着地する。
一方、蹴られたジャッカルナイトはペトロブラストに突っ込み、その前進を阻み堰き止める障害物の役割を果たして石化していった。
「ほォ……二撃目もノーダメージで切り抜けたか。思ったよりやるではないか、少しは驚いたぞ!」
「そりゃこっちのセリフだ。動きといい判断力といい、お前かなり戦い慣れてやがるな」
「当ォ〜〜全ェンッ!! 小僧などとは戦いの年季が違うのだァ! さぁァ〜〜次こそ貴様らの命に大穴を空けてやろう!」
「欲張るんじゃねぇよアホ。次のターンはこっちだ──」
言うが早いか、瞬時に加速して大地を風の如く駆けるクロムに、ガルバーニの目が丸くなった。 「──おオォッッとォオオオッ!!」
しかし、驚いたのも一瞬だった。至近に迫ると同時に放った横一文字斬り。
加減したつもりは無い一刀を、次の瞬間ガルバーニは興奮気味の微笑を浮かべてドリルの得物で受け止めて見せたのだ。
「はっはっは、危ない危ないィ! 瞬きしていたらやられておったわ! しかぁし! しかししかししかぁぁあ──」
「──いちいちうるせぇよ」
「ぬッ!!?」
が──それも一瞬に過ぎなかった。
抑揚の無い声で呟くクロムの瞳から、殺意の暗い色が滲み出した途端──止まった筈の刃が再び動き出したからである。
「ワシの得物に食い込んで────ぬっ、おぉぉおおおおッ!!」
あれよあれよと真っ二つに切断されるドリル。邪魔な障害物を排除して、改めて横一閃に刃を走らせる鬼神のだんびら。
──ガルバーニは逃れる。己の肉体に刃が届く前に、素早く後方に跳び退いて。
「ふっ……ふぅぅぅうううううううう! 今のは流石のワシも肝を冷やしたぞ!
信じられん、ワシ特製の掘削武器を切り裂くとは……一体なんだなんだその剣は……!?」
「答える必要なし」
剣を肩に乗せて、再び加速せんとやや前のめりとなるクロム。
それを見て、叫び声をあげながらこれまた再び地中に潜っていくガルバーニ。
「舐めるなぁぁぁあ! 得物は一つになっても、貴様ら如きでは追いつけぬ速さで地中を移動できるのだぁぁあ!
ワシは地中でも貴様らの位置ははっきりと分るがァ! 貴様らでは地中のワシを捕捉する事はできまいぃい!
ふははははははは! どんな切れ味の剣も、届かなくては意味はなかろうぉお!」
「チッ、確かに……」
舌打ちしながらあっという間に地中へ消えていく様を見届けたクロムは、不意に背後を振り返って剣を走らせる。
直後に「ギャアア」と断末魔を挙げて大地に散らばっていくトロール。
だが、これで降り懸かる火の粉の全てが片付いたわけではなかった。
視界は一面、殺気立ったゴブリン、トロール、ゴーレム、ジャッカルナイトなどで埋め尽くされていたのだから。
「こんだけいると気が散って気配を探ることも、うるせぇから音に耳を澄ますこともできやしねぇ。
レイン! 奴を捕捉できるのはお前だけだ、何とかしろ! 俺は魔物がお前の邪魔をしねぇようにしてやるからよ!
だが気を付けろ! あのモグラ、恍けてやがるがキュベレーなんぞよりずっと手強い! 油断したらやられるぜ!」
言って、クロムは左手で小剣を抜き放つ。
「……ったく、いくら質が悪ィとはいえ、ガチのマジでいかねーとやばそうだぜ。俺だって体力の限界ってもんがあるんでな。
さあ……準備が整ったところでそろそろはじめようじゃねぇか──! 行くぜ、糞野郎どもぉぉおおおおおお!!」
そしてやがて魔物の大群に矢のように突貫するのだった。右にだんびら、左に小剣の二刀を構えて。
【ディグランドと戦闘。片方のドリルを斬って破壊するが、地中に逃げられる】
【魔物の群の注意を引き付け、レインから遠ざける】 すいません訂正
ディグラントの部分が全部ガルバーニになってました
脳内で置き換えて読んでください
思い込みってこわい 石化の液体は容赦なく、大量にレインとラカン、クロムを襲う。
盾を召喚して防ぐか?だが少しの飛沫でも侮れない。浴びればたちまちに石化してしまう。
それに、その防御方法は盾を捨てるやり方だ。既製品とはいえもったいない。
石化魔法というのは解呪に専用の魔法が必要となる。
高位の僧侶はそういった魔法にも心得があると言うが、果たしてマグリットが使えるかどうか。
ならば、ベストは言うまでもなく完全に防ぐこと。そして、今のレインならそれができる。
「――ブーメランには、こういう使い方もあるっ!!」
レインはブーメランに魔力を込める。
そして、投げるのではなくプロペラのようにその場で高速回転させたのだ。
風を帯びたブーメランは即席の盾として、石化することなく液体を弾く。
そして、ラカンと共に無事に着地。
クロムはジャッカルナイトの下半身を投げつけて防いだようだ。
>「ほォ……二撃目もノーダメージで切り抜けたか。思ったよりやるではないか、少しは驚いたぞ!」
そうなったのは紛れもなく魔王軍や強い野生の魔物との戦いのおかげだ。
レインに関しては、今までの経験値が活きているとしか言いようがない。
「ある意味お前達のおかげだよ」なんて思っている間にクロムとディグラントが会話を繰り広げる。
>「──おオォッッとォオオオッ!!」
疾風迅雷。クロムが瞬きの速さで横一文字に斬りかかる。
だがディグラントとて魔族の端くれ。クロムをして「戦い慣れている」と言わせるほどだ。
『鬼神のだんびら』の一撃を腕にくっついた回転する槍で受け止める。
>「ワシの得物に食い込んで────ぬっ、おぉぉおおおおッ!!」
食い込んだ。静かに、鋭利に、研ぎ澄まされた刃がディグラントの得物を寸断する。
恐るべきは剣の切れ味。恐るべきはクロムの技量。ラカンもその所業に目を見張った。
「す、すごいですね……まさしく鬼神……!」
スフィンクスと戦った時のレインと同じ感想だ。
血と臓物と屍が重なる戦場で、血塗れの剣を持った少年。
ぞっとするほど凍てついた真紅の瞳で敵を睨み、新たな骸を築いていく。
そんな仲間をなんと形容すればいい?
まさか死神と呼ぶにはいくまい。ならば戦場に降り立った鬼神と言う他ない。
まぁ、そんな彼も仲間となれば案外懐のあったかい人物なのだが。
>「ふっ……ふぅぅぅうううううううう! 今のは流石のワシも肝を冷やしたぞ!
> 信じられん、ワシ特製の掘削武器を切り裂くとは……一体なんだなんだその剣は……!?」
素早く後方へ逃げて、肉体へのダメージは避けるディグラント。
すると叫び声を上げながら再び地中へと潜っていく。
>「舐めるなぁぁぁあ! 得物は一つになっても、貴様ら如きでは追いつけぬ速さで地中を移動できるのだぁぁあ!
> ワシは地中でも貴様らの位置ははっきりと分るがァ! 貴様らでは地中のワシを捕捉する事はできまいぃい!
> ふははははははは! どんな切れ味の剣も、届かなくては意味はなかろうぉお!」
丁寧な解説つきで地中へと潜っていく。
それは自信の表れだった。魔族特有の慢心と言い換えてもいい。
実際、ひとたび地中に潜られたら攻撃だって届かない。厄介な一手に変わりはない。 >「こんだけいると気が散って気配を探ることも、うるせぇから音に耳を澄ますこともできやしねぇ。
> レイン! 奴を捕捉できるのはお前だけだ、何とかしろ! 俺は魔物がお前の邪魔をしねぇようにしてやるからよ!
> だが気を付けろ! あのモグラ、恍けてやがるがキュベレーなんぞよりずっと手強い! 油断したらやられるぜ!」
「……分かった!そっちは任せるよ……!」
『透視の片眼鏡』を使えばディグラントを捕捉することは可能。
ディグラントは回転する槍を失っているにも関わらず、そのスピードは衰えていない。
狙いを定めて獰猛に地面から攻撃しようと浮上してくる。
「召喚変身――『天空の聖弓兵』……!」
レインの姿が一瞬にして変わる。
薄緑色の狩人服を纏った、神鉄の弓を持つ兵士へと。
弓を引き絞って襲ってくるタイミングを待つ。
やるなら一撃必殺だ。攻撃してきた瞬間をカウンターで射抜く。
お誂え向きにディグラントは先程してやられたクロムではなくレイン達を狙っている様子。
「ぶわっはははははは!!まずは貴様らからだ、死ねいッ!!」
かくして地中から背後に現れたディグラントの一撃目を、レインとラカンは回避した。
ラカンはそのままごろごろ砂漠を転がるばかりだが、レインはノールックで狙いを定めていた。
「……そこっ!」
放たれた風の矢は高速でディグラントに迫っていく。
だが、クロムの一撃すら捌く老練の魔族は、風の矢をも見切っていた。
「甘いわぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
ガァン!と残った回転する槍で風の矢は容易く弾かれた。
いったんはクロムの斬撃を防いだほどだ。並みの硬度ではないのだろう。
だがレインは勝利を確信して微笑んだ。
「なんだ……!何がおかしいっ!?」
「いや……『風』はまだ止んでないってことだよ」
「あぁ!?どういう意味だッ!?」
直後、ディグラントの後頭部に『風の矢』が着弾した。
視界が上下に揺れて意識が飛ぶ。土属性のディグラントは、風属性に弱い。
弾かれた風の矢はまだ死んでいなかったのだ。矢の弾道を修正して彼の背後に回り込んでいた。
「……俺の勝ちだ。不意打ちってのは勇者らしくないけどね」
後頭部に天空の聖弓を突きつけて、勝敗は完全に決した。
だが――魔王軍の残存戦力が戦いを止める気配はない。
統率がとれていないゆえに、一度暴れたら殲滅するまで止まらないのだろう。
クロムやミスライムの騎士達が倒してくれるのを待つしかない。
レインはその間に気絶したディグラントの持ち物を検分する。
移動型ダンジョンへ行けそうなアイテムを探すが、見つからない。
仕方ない。ディグラントを叩き起こして尋問せねばならないだろう。
【弾道制御で風の矢を後頭部にぶちあてディグラント撃破】
【移動アイテムが見つからないので戦闘が片付いたら叩き起こして尋問しよう】 斬る。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬るKill──。
右のだんびらと左の小剣の二刀をもって死体の山を築いていくクロム。
「ぎゃあああああああ!」「うわああああああああ!」
しかし、その顔に余裕はない。
どれだけ切り刻んでも、敵の戦列は一向に絶える気配がないのだ。
いやそればかりか、むしろ順調に数を減らしているのは味方の方だったのだ。
「わかっていたが、斬っても斬ってもキリがねぇ。あと何十、いや……何百匹残ってやがるん──だ!」
汗まみれとなった顔面を拭いつつ、もう片方の手で迫った殺気に向けて剣を振るう。
断末魔が鼓膜を打ち、今度は噴き出した体液が拭われた汗に代わって頬にへばりついた。
「はぁ、はぁ……! ちきしょう、魔法で一気に焼き払えれば楽なんだが……」
クロムは、もはや返り血を拭おうとはしなかった。その動作に使う体力すら惜しむほど、すり減りつつあったのだ。
だが、敵はまだごまんといる。そして、彼らは弱りつつあった獲物に情けをかけるほど慈悲深くはない。
仲間の屍を踏み越え、素早く己を取り囲んだ魔物の一団をぐるっと見渡して、クロムはぎりり、と歯軋りした。
「っ!」
その時だった。突然、魔物達の目が虚ろになって一斉にその場に倒れたのは。
いや、異変はそれだけではない。辺りを見渡すと、多くの魔物達が同士討ちを始めていたのである。
これは一体どうしたことか──
そんな疑問を見透かしたような声が鼓膜に届くまで、そう時間はかからなかった。
「……『既に毒は散布した』か。マグリット、助かったぜ……」
味方である騎士達が数を減らし、生き残りのほとんどが後ろに押される形となっていたのは不幸中の幸いだっただろう。
クロムは彼女の毒に抗体を持っているが、騎士達はそうではない。
もし多くが生き残りそれらがクロムの様に突出していたら、毒でまとめて仕留めるという手は打てなかっただろうから。
「これで正気の魔物は随分数が減った。さぁ、形勢逆転! みんな、後ひと踏ん張りだ!」
「「「おおおおお!!」」」
──数の優劣が引っ繰り返ったことで、士気を一気に取り戻した騎士達が戦線を各所で押し戻し、圧倒していく。
生き残りの魔物を全て血の海に沈めるまで、彼らが要した時間はほんの十分かそこらであったろう。
「さて……」
クロムはそれを見届けると、レインによって気絶させられていたディグラントに歩み寄って、頭をどがっ、と蹴った。
「……おい、夜じゃねぇんだぞ、起きやがれジジイ! これから俺達の質問に答えて貰わなきゃならねぇんでな!」
ディグランドの目が開く。驚いた様子であるが、飛び起きようとはしない。
いや、したくてもできないのかもしれない。マグリットの毒……麻痺毒か何かで。
「いいか、素直に喋れよ。でなきゃ尋問が拷問に変わるかもしれねーからな。
まずはあの神出鬼没の移動ダンジョンに、お前らがどうやって出入りしているのか教えてもらおうか」
【騎士達に多くの犠牲が出るも魔物の群は全滅】
【ディグランドにダンジョンの出入り方法を訊ねる】 魔物たちはマグリット、クロム、そしてミスライムの騎士達によって制圧された。
『地殻の楔』をめぐる戦いはとりあえずをもってレインたちの勝利に終わったのだ。
クロムはずかずかとディグラントに歩み寄ると、どかっ!と思い切り頭を蹴りつける。
>「……おい、夜じゃねぇんだぞ、起きやがれジジイ! これから俺達の質問に答えて貰わなきゃならねぇんでな!」
「……ふぁっ!?な、なんじゃい急に……!?」
目が覚めたディグラントは目をぱちぱちさせて周囲を見る。
なぜか配下の魔物は全滅して、人間たちに囲まれているではないか。
「な……ワシは……負けたのか?いつの間に?」
信じられなかった。百戦錬磨のディグラントが、よもや不意打ちで負けようなどとは!
だが後頭部に感じる鈍い痛みが告げていた。自分は確かに敗北してしまったのだ。
認めるしかない。
>「いいか、素直に喋れよ。でなきゃ尋問が拷問に変わるかもしれねーからな。
> まずはあの神出鬼没の移動ダンジョンに、お前らがどうやって出入りしているのか教えてもらおうか」
「……なんだと。ワシを甘く見るなっ。例え拷問だろうと口など割らんわ!
このディグラント、魔王様の配下としてのプライドがある……!」
腕を組んで、ふん、と鼻を鳴らす。仕方ないのでレインはフランベルジュを召喚した。
波打った刀身が特徴的な剣だ。一般的に殺傷能力が高い武器として知られる。
なぜこんな形状をしてるかというと、傷口をぐちゃぐちゃにして止血を難しくするためだ。
「やりたくないけど、こいつであなたを斬りますよ。たぶんかなり痛いですよ」
「無駄だっ、たとえ脳を掻き回されようとも吐かぬ!それがワシの意地だ!!」
「いや……そんな酷いことをする気はないですけど……」
残虐非道な魔王軍に所属する魔族だ。
その恐ろしい手口を知っているがゆえに、拷問にも耐性があるのかもしれない。
これは簡単に口を割りそうにない。
「なんというか……レインさんは拷問に向いてないのでは?」
ラカンがそんなことを口にしていると、アルバトロスが転送魔法でやってきた。
砂漠に積もる死屍累々を眺めて感嘆する。
「派手に暴れたようだね。水晶で監視はしていたが」
「アルバトロス様……!お疲れ様です!」
ラカンが敬礼するとアルバトロスは頷く。
「その魔族は始末していいよ。月の山脈を守っていたアンジュたちが情報を手に入れた。
光魔法というのは便利なものだね。じわじわ苦しめたら簡単に吐いたそうだ」
「なにっ!?信じられん、あの馬鹿めが……!!」
ディグラントは驚きのあまり確認するように質問した。
「では我々が『転移石』で地底移動要塞アガルタに出入りしていることも……!
その石はワシが隠し持っていることも全て吐きおったのかぁぁぁ!?」 アルバトロスは無表情のままこう返した。
「なるほど。"召喚の勇者"の読み通りだね。
そしてそのアイテムも君が持っているというわけだ」
「んん!?あぁ〜〜〜!!?しまったぁぁぁぁ!!」
息をするように嘘をつく人だ、とレインは思った。
さっきの話はディグラントを騙すための嘘だったらしい。
「アンジュたちは魔族の捕縛に失敗した。
弱すぎて跡形も残さず殺してしまったと言っていたよ」
「そ、そうなんですか……」
騎士達がディグラントを触ってアイテムを持ってないか確かめる。
さっきレインが軽く調べた時には何も見つからなかったが、果たして。
そこで何か思いついたレインは姿を元に戻し、限定召喚で「豪腕の籠手」を装着する。
「ディグラント、失礼するよっ!」
腹に容赦ないパンチをぶちこむと、ディグラントはげぇっと何か吐き出した。
それは虹色の光彩を放つ石だった。胃液か唾液か判然としないが、べとべとしている。
「ばっちいな……どんな隠し方をしているんだ……」
レインも半信半疑で確かめてみたのだが、まさか当たりだとは思わなかった。
素手で掴む気にはなれない。水魔法の類で洗浄してくれないだろうか。
「誰か、水魔法で洗ってくれ。このままでは持って帰れん」
目を細めてラカンがそう言うと魔法使いの兵士が水魔法で洗浄してくれた。
レインはそれを手に乗せてしげしげと眺める。はじめて見るアイテムだった。
「この魔族はどうしますか?」
「まだ有用な情報を持ってるかもしれない。捕らえておきたまえ」
とにもかくにも、王家の谷は無事に守り抜いた。
レインたちはアルバトロスの転送魔法でいったん城まで戻る。
「レイン、クロムさんも!そちらも無事に防衛できたようですね」
アンジュとヒナとも城で再会した。
ガルバーニのダンジョンへ移動する方法を手にしたと話すと、二人は喜んだ。
これで魔王軍の侵攻を直接止めることができる。とはいえ、今すぐいきなり乗り込むのも性急すぎる。
一日身体を休め、明日に両勇者パーティーで乗り込もうという話になった。
敵もいったん魔物を大量に吐き出したので、再度襲ってくるまで時間を要するはず。
アルバトロスもそれが良いと言って、城の客室を用意してくれた。
「はぁ〜。二度目だけどやっぱり悪魔的な居心地の良さだ……。
宿屋とは比べ物にならない……」
レインは高級なソファに座り、そのまま居眠りしてしまうのだった。
【ディグラントから情報&アイテム入手】
【明日にはガルバーニのいる移動型ダンジョンに突入する予定】 >「……なんだと。ワシを甘く見るなっ。例え拷問だろうと口など割らんわ!
> このディグラント、魔王様の配下としてのプライドがある……!」
といって、鼻息を荒くするディグラントに、クロムは「ま、予想の範囲内か」と、ポツリ吐きながら指の関節を鳴らす。
如何にも思いっきり痛めつけてやるぜ、といわんばかりだが、実際には彼の拳が振るわれる事は無かった。
>「やりたくないけど、こいつであなたを斬りますよ。たぶんかなり痛いですよ」
それより先にレインが、
>「派手に暴れたようだね。水晶で監視はしていたが」
続いて転送魔法で現れたアルバトロスが、彼とディグラントの間に割って入ってきたからだ。
しかも、特にアルバトロスに至っては拷問ショーを繰り広げる必要なく、たった一言で問題を解決してしまったのだから。
曰く『月の山脈を守っていたアンジュたちが情報を手に入れた』。
その一言に狼狽したディグラントが口を滑らせる。『転移石』なるアイテムでダンジョンに出入りしているということを。
アルバトロスの言葉は情報を引き出す為の罠、すなわち真っ赤な嘘であることにも気が付かずに……。
(『転移石』……)
クロムの脳裏に砂を使って転送魔法を発動したメリッサ島のシナムの姿が蘇る。
転移石なるアイテムも恐らく、あの時の砂と同じ魔法効果を持っているに違いない。
「アイテムで出入りしているということは……やはりどっかに隠し持ってるっつーわけか、それを」
しかし、生き残りの騎士達がディグランドの服や持ち物を調べても、いっこうにそれらしきブツは出て来ない。
となると後は消去法だ。
万一を考えて持ち歩くことはせず、どこか適当な物陰にでも隠したか、もしくは体の目には見えない部分──体内に隠したか。
>「ディグラント、失礼するよっ!」
やがて同じことを思ったらしいレインが、籠手をはめた腕でディグラントの腹を思いっきり殴った。
果たして読みは的中する。すぐさま胃液まみれの虹色の石を、ディグランドが吐き出したのだ。
「これでこの作戦の目的は果たしたな。って、いきなりこいつを使ってボスのところに行くわけじゃねーよな?!」
レインの掌の上で輝く石を見つめながら、クロムはまさかと思いながらも訊ねる。
瞬間、足元に広がる魔法陣。見覚えのあるそれは、アルバトロスの転送魔法。
視界を埋め尽くす一瞬の光の後、目の前に現れたのはこれまた見覚えのある光景、王国の首都城。
そこには一足先に任務を終えていたアンジュ達がいた。
駆け寄る彼女たちとレインとの間で、今後の方針がとんとん拍子で決まっていく。
クロムの内心を察知していたわけではないのだろうが、曰く乗り込むのは明日にして、今日は休息取るのだと。
「あたし達は楽勝だったから連戦も余裕。当然、貴方たちもよね? とか言うような常識のない奴らじゃなくてよかったよ」
思わず安堵の溜め息をつくクロム。体力回復もままならないまま、ダンジョン突入などそれこそ拷問に等しかったのだから。
クロムはアルバトロスに宛がわれた客室の場所を確認した後に、風呂場へと案内してもらった。
砂漠だろうとどこだろうと平気で地べたに横になってすやすや眠れる図太さのある彼だが、
流石に全身魔物の体液にまみれた格好のままベッドに横たわる気にはなれなかったのである。
「ついでに服も洗濯しとかねーとな。返り血を気にしなくていい敵ってのは剣を振るうには楽だが、汚れてどうしようもねぇ」
【城に帰還。風呂で汚れを落とした後、部屋で眠る。】 翌朝、目を覚ましたレインは装備を整えて城の外に出た。
手にはディグラントから奪った『転移石』を持って。
アンジュとヒナはもう来ていたようで、レインに手を振って迎える。
「早いですね、レイン。まだ集合時間の30分前ですよ」
「いやぁ……ははは。なんだか朝早くに目が覚めちゃって」
敵のダンジョンに殴り込みに行くということで、防塵用マントは着ていない。
アンジュは狩人風の服装の上から純白のケープを纏っている。
ヒナはそのまま袖が余りまくった白衣姿だ。
あとはクロムだけだ。
そして全員集まった段階でアルバトロスがやって来る。
これから敵の本拠地に殴り込みに行く一同に、激励の言葉を送る。
「そのアイテムがあればいつでも戻れるんだろう。
勇者パーティーだからといって気負わずに挑むといい」
「そうですね。アンジュも無理しちゃだめだよ。君は背負いこむタイプだから」
「それはこちらの台詞です。強くなったとはいえ過信しないように」
そしていよいよレインが転移石を発動させる。
魔力を送り込めば効果を発動するタイプのようなので、魔力を石に込める。
すると足下に魔法陣が浮かんで周囲の景色が徐々に変わっていく。
「行ってきます、アルバトロスさん……!」
「うむ。必ず戻ってきたまえ。命あっての物種というやつだ」
――そして景色が銀色に染まった金属質なものへと変わる。
ここが地の大幹部のいる移動型ダンジョンらしい。
「地底移動要塞アガルタ……だったっけ。道がずっと地下へと続いているね。
このまま降りていく以外の道は無さそうだけど……」
道は螺旋状に下へと伸びている。
中央にはぽっかりと穴が開いているという構造だ。
レインたちはその道を降りていくしかないようだった。
「こ……これは……!」
降りていく途中で目にしたのは、透明で巨大な球体が収まった部屋だった。
球体からは時折、吐瀉物めいた様子で何かが排出されていく。
――魔物だ。王家の谷でも見たジャッカルナイトが産まれた瞬間を目撃したのだ。
それは魔物を効率的に生産するための工場(プラント)だった。
この移動型ダンジョンにはそんな部屋が幾つもあるのだ。
「なんておぞましい場所なんだ……!
こ……ここは既存の生き物を魔物に加工する部屋なのかっ……!」
言語化しようのない拒否反応がレインを襲ってくるのと対照的に、
アンジュとヒナは興味深くしげしげとそれを眺めていた。
「ふむ……魔物は既存の生き物を加工するか、魔法で無から生み出す方法の二種で生まれると聞きますが……。
こうやって大規模に魔物を生産する施設があるのは初耳です。これが大規模な侵攻を可能とした理由なのですね」 レインは『召喚変身』で天空の聖弓兵へと装備を変えると、弓を構えた。
アンジュが慌ててレインの前に立ち塞がる。
「レインっ、何をする気ですか!?」
「壊すんだ。こんな恐ろしい場所はあっちゃいけない!」
「だ、だめだよレインちゃん。そんな目立つ真似しない方がいいって!」
ヒナが後ろから羽交い絞めにしてレインを止める。
レインは若干の抵抗を見せたが、すぐに二人の言うことを聞いた。
「……いや、ごめん。ショッキングだったからつい……」
「気にしないでください。いずれは破壊する必要もありますが……。
無闇に暴れて大幹部との戦闘に支障をきたしては本末転倒ですからね」
地下へ降りるほど、そんな部屋が増えていく様子だった。
魔物が襲い掛かってくる様子もない。それがかえって不気味だ。
そして最下層へとたどり着いた時、一同を迎えたのは巨大な門だった。
金属質なその門は、鍵穴も取っ手も何もない。
「おやおやぁ。お客人なんだな。入ってくるといいんだな」
そんな声が門の奥から響いてくると、門がひとりでに開いていく。
待ち受けていたのはゴーレムかと見紛うほどの巨漢の魔族だった。
「はぁ……おいらのプラントはどうだったんだな?凄くてびっくりした?」
「あなたが……地の大幹部ですか。私は"探究の勇者"アンジュ。
ようやく会えましたね。あなたを殺す機会をずっと探していました」
玉座のような椅子に座るその姿は、喋り方に反して重厚な威圧感がある。
やはり大幹部というだけある。逃げ回るだけの姑息な奴じゃないということだ。
アンジュは腰からすらりと細身の剣、レイピアを引き抜いて構えた。
"星屑の細剣"スターリング。光属性の力を秘めた希少な剣である。
「お前に興味はないんだな。おいらの目的はシェーンバインを殺した連中なんだな」
つまり、目的はレインとクロムというわけだ。
眼中にないと言われてアンジュは募らせていた怒りを爆発させる。
「あなたには無くても、私にはあります!この大陸に生きる人々を傷つけたその罪……。
万死に値します!平和に生きるはずだった皆の無念を味わいなさいっ!!」
そう高らかに叫んで、アンジュがレイピアを構えて突っ込んでいく。
レインは無言でストリボーグを構えて援護に回る。
「はぁ……好きに攻撃するといいんだな。お前じゃおいらは殺せない。
殺して成果になるのは"召喚の勇者"一行だけだし……相手にしてないんだな」
「それが最期の言葉です」
アンジュは初手から全力で攻撃を放った。
放つのは初代勇者が得意とした、勇者固有の奥義。
光の波動を纏わせて巨大な光剣を形成する『エクセリオンレイス』だ。 細身のレイピアを巨大な剣へと変えて、地の大幹部へと斬りかかる。
その刃は一瞬して大幹部を真っ二つにする――はずだった。
「ふぅぅ……やっぱ余裕で耐えれた。おいらは"不動城砦"ガルバーニ。
防御力に関しては大幹部で最高レベルだと自負してるんだな。その程度の奥義では……」
ぎゅん、ぎゅん、と攻撃を受けきったガルバーニの身体が光を溜めていく。
吸収しているのだ。エクセリオンレイスが秘めた莫大な破壊力を。
「……おいらは倒せないッ!!」
そして解放する。ガルバーニは受け止めた破壊力を全てアンジュに返した。
それは衝撃波となってガルバーニの全身から放出される。
レイン、アンジュ、ヒナ、クロムに奥義と同威力の衝撃波が襲う。
「やっば〜〜〜い!?しょうかーん!!!!」
ヒナは慌ててゴーレムを召喚してそれを盾代わりにした。
防御を重視したガーディアンゴーレムと呼ばれる個体である。
だが、衝撃波は防御偏重のゴーレムでなお一瞬で破壊するほどのエネルギーを秘めている。
「アンジュ、危ないっ!」
レインは身を覆うほどの盾を召喚してアンジュを守る。
だがあまりの威力にレインはアンジュごと吹き飛ばされた。
「おっ……案外脆いんだな。"召喚の勇者"一行は。こりゃラッキーなんだなぁ。
お前らを殺せば魔王様に褒められるんだな。だから魔物に任せなかったんだな。理解したんだな?」
どうやら、シェーンバインを倒し、魔王に顔を覚えられたツケが回ってきているらしい。
掃いて捨てるほどいる勇者の中でレインたちだけが魔王軍に危険視され、標的となっているようだ。
【移動型ダンジョン『アガルタ』へ転移。ガルバーニと戦闘開始】
【アンジュが先制攻撃するも完全に防御されたうえで衝撃波として攻撃を反射される】 朝。クロムは昨晩の洗濯で真っ白な輝きを取り戻した装束を着込むと、軽めの朝食を済ませて城を出た。
時は約束の集合時間五分前。
しかし、元々せっかちなのか、ダンジョン突入を前にして気が急いているのか、そこには既にレインやアンジュ達が来ていた。
「その様子じゃ随分前からここで待ってるっぽいな、お前ら。ぎりぎりまで休んどかねぇと戦いの時にもたねぇぜ?」
などと言っていると、クロムの後ろから声がした。
アルバトロスである。ただし彼女自身は共に殴り込みに行く気はないらしく、目的は激励らしい。
>「そのアイテムがあればいつでも戻れるんだろう。
> 勇者パーティーだからといって気負わずに挑むといい」
「確かに、脱出アイテムがあるのは心強い。宇宙の梯子の時みてーな命懸けの脱出はもう御免だからな」
>「行ってきます、アルバトロスさん……!」
レインが転移を発動させる。
徐々に視界から城が消え、代わって銀に染まった無機質な世界が広がっていく。
「……ここが例の……?」
>「地底移動要塞アガルタ……だったっけ。道がずっと地下へと続いているね。
> このまま降りていく以外の道は無さそうだけど……」
レインの目線の先には螺旋状の階段が。それはまるで地獄の底まで達しているかのように延々と下に続いていた。
「薄暗いせいか底が見えねぇな。思った以上にデケェ建物みてぇだ……ん?」
しばしレインの後をついていく形で順調に階段を降りていたクロムの足が、ふと止まる。
前を行くレインの足も止まっていたが、それにつられたわけではない。目の端で何かおぞましさを感じる影を捉えたからだ。
そしてそれは誰かが指し示すまでもなく、この場にいる全員がほぼ同時に目撃したものでもあった。
>「なんておぞましい場所なんだ……!
> こ……ここは既存の生き物を魔物に加工する部屋なのかっ……!」
>「ふむ……魔物は既存の生き物を加工するか、魔法で無から生み出す方法の二種で生まれると聞きますが……。
> こうやって大規模に魔物を生産する施設があるのは初耳です。これが大規模な侵攻を可能とした理由なのですね」
「なるほど……どうりでデケェわけだ。移動型拠点が生産工場を兼ねていたとはな。あの物量のからくりがこれか。
大陸中から生き物をかき集めて魔物を創っていたってわけだ……って、おい!」
武器を召喚して施設を破壊しようとするレインにクロムは思わず手を伸ばして待ったを掛けようとするが、
それよりも一瞬早くアンジュとヒナが止めに入ったのを見て、溜息混じりに手を引っ込める。
「お前、意外と直ぐ頭に血が上るタイプだよな。このダンジョンはボスを倒せばいつでも破壊できる。まずは先へ進もうぜ」
──最下層。そこへ辿り着いた時、一向を待ち構えていたのは巨大な門だった。
>「おやおやぁ。お客人なんだな。入ってくるといいんだな」
とはいえ勿論、門自体は敵ではない。真に待ち構えていた者は、その奥に居た。
ひとりでに開いていった門の中に入っていくと、直ぐに玉座に座った巨漢の魔族が目に飛び込んできたのだ。
(こいつが地の大幹部……ガルバーニ)
思っていると、アンジュがレイピアを抜いて斬りかかっていく。
それもただの一太刀を浴びせようとしているのではない。
剣身に光魔法を纏わせることで創り出した威力抜群の光剣の一刀を喰らわせようというのだ。
が── >「……おいらは倒せないッ!!」
大幹部の中でも最高の防御力を自負するガルバーニには通じなかった。
なんと瞬時に光剣を吸収して、その威力を衝撃波に変換えて跳ね返してきたではないか。
ヒナがゴーレムを、レインが盾を召喚して衝撃に備えるも、その努力虚しく光の力の前にあっけなく吹き飛ばされていく。
>「おっ……案外脆いんだな。"召喚の勇者"一行は。こりゃラッキーなんだなぁ。
> お前らを殺せば魔王様に褒められるんだな。だから魔物に任せなかったんだな。理解したんだな?」
「──案外脆いのはお互い様かもしれねぇぜ」
だがその直後、ガッ──とガルバーニの脳天に刃が食い込んだ。
頭上に移動していたクロムが隙だらけの急所を叩き割らんとだんびらを勢いよく振り下ろしたのだ。
「──うん? なんだお前? いつの間においらの上に?」
「お前の意識がレインやアンジュに集中していたもんでね。その隙に死角に跳んだだけさ。
全方位に放たれた衝撃波。どうせどこに居たってダメージは免れないなら、こうやって切り込んだ方がマシだろ」
クロムは反撃を受ける前に素早い身のこなしでガルバーニとやや距離を取った場所に着地する。
(チッ、真っ二つにするつもりの一刀であの程度の傷かよ。伊達に大幹部最高の防御力ってやつを名乗ってねぇな)
目だけでその動きを追っていたガルバーニは、やがて浅い切り傷ができた自らの頭を撫でて言った。
「それにしては解せないんだな。お前、まともに光の力を受けたにしては明らかにダメージが少ないんだな。
まだ何か隠してることがありそうなんだな」
確かにガルバーニの指摘した通り、クロムは全身に傷を負ってはいたものの、
防御力の高いゴーレムを破壊する程の衝撃波を喰らった割にはそのダメージは小さなものと言わざるを得なかった。
それに対しクロムは無言だ。
当たり前だが、反魔の装束によってダメージが半減したからくりを、いちいち敵に教えてやる必要はどこにもない。
「隠してる事、ねぇ。……それこそお互い様のような気もするがな。ま、いずれは知れる時が来るだろうが」
「それはどうなんだな。お前の隠し事なんか知る前に殺しちゃうかもしれないんだな。
なんせお前らじゃおいらの防御力は突破できないんだな。さっきの一太刀もそれを証明してるんだな」
「いや、いちおう傷はつけたじゃん」
「こんなもの傷の内に入らないんだな。あの程度の太刀筋じゃ何百回おいらを斬り付けたって徒労に終わるんだな」
「へぇ……ならここは勇者の出番かな」
クロムはだんびらを肩に乗せながら、レインを見る。
「知ってるか? シェーンバインご自慢の真竜形態を奴の命ごと見事に切り裂いたのはあいつなんだぜ?
あいつの腕前なら、お前なんぞ簡単に真っ二つかもな」
釣られてガルバーニがレインに首を向ける。
……レインには解る筈だ。これはガルバーニの意識をクロムから逸らす為の挑発だと。
何故なら今、傷付いたガルバーニの頭部からエネルギーが煙のように立ち昇り、
だんびらに吸収されていく光景が彼にもしっかり見えている筈なのだから。
「……それは初耳なんだな。そうか、あいつがシェーンバインを」
(そう、いずれは知れる。が、早々にタネがバレると何か厄介な策を考えるかもしれねぇ。できるだけ時間を稼げよ)
【衝撃波を喰らうも装束の効果によってダメージは半減しており重症は免れる】
【ガルバーニ:徐々にエネルギーを奪われて弱体化しているが、まだそれには気が付いていない】 アンジュの放った必殺の奥義は、ガルバーニに完全に防がれてしまった。
それだけではない。反射魔法によってその威力を返され、味方に被害が及ぶ。
その圧倒的な爆発めいた衝撃波がパーティーを襲う中、クロムは。
>「──案外脆いのはお互い様かもしれねぇぜ」
ガルバーニの頭上に飛び込み、脳天に刃を叩き落としていた。
しかし、それもわずかな切り傷をつける程度。
反撃を受けるのを恐れてかクロムは素早くやや後ろへ後退する。
>「──うん? なんだお前? いつの間においらの上に?」
大幹部、"不動城砦"ガルバーニは意にも返していない。
無理もないだろう。ほぼほぼ掠り傷のようなものだ。
包丁で危うく手を傷つけて死ぬ人間はいない。
ガルバーニとっては、本当にその程度の僅かな負傷なのだ。
>「お前の意識がレインやアンジュに集中していたもんでね。その隙に死角に跳んだだけさ。
> 全方位に放たれた衝撃波。どうせどこに居たってダメージは免れないなら、こうやって切り込んだ方がマシだろ」
そう言われても実践できるものは少ないだろう。
敵の意識を注意深く観察する眼と、恐るべき身体能力の為せる技。
『反魔の装束』の効果があるとはいえ、ダメージを顧みない根性も加味すべきか。
>「それにしては解せないんだな。お前、まともに光の力を受けたにしては明らかにダメージが少ないんだな。
> まだ何か隠してることがありそうなんだな」
と、言ってもクロムが魔法に対して耐性があるのは今にはじまった話ではない。
それがいつ頃ぐらいだったか……今の真っ白な装束に着替えたあたりからだ。
なのでハッキリ言われたことはないが、レインはその装備のおかげだと推理している。
>「隠してる事、ねぇ。……それこそお互い様のような気もするがな。ま、いずれは知れる時が来るだろうが」
手の内は見せない方がいい。それが敵なら尚更だ。
レインも仲間にすら隠している手札が一枚ある。
なぜそんなことをするかというと、単純に情報漏洩を防ぐためだ。
魔王を倒すためのとってきおきの切り札が、レインにはある。
だが何かの理由でそれが露呈したら意味がない。だから隠す。
>「それはどうなんだな。お前の隠し事なんか知る前に殺しちゃうかもしれないんだな。
> なんせお前らじゃおいらの防御力は突破できないんだな。さっきの一太刀もそれを証明してるんだな」
そこから始まる、子供の口論じみた舌戦。
レインはその隙にどうやってガルバーニを突破すべきか思案していた。
あのとてつもない防御力もそうだが、少なくとも先ほどの反射魔法は封じたい。
>「知ってるか? シェーンバインご自慢の真竜形態を奴の命ごと見事に切り裂いたのはあいつなんだぜ?
> あいつの腕前なら、お前なんぞ簡単に真っ二つかもな」
「……ん?」
そして話はなぜかレインに飛び火したようだ。
天空の聖弓を構えたまま、レインは頭に疑問符を浮かべる。
その時、レインの目にはガルバーニの頭部から発生する煙が目に入った。 あの煙はシェーンバインと戦っている時にも立ち昇っていた。
レインはあの時、未完成の奥義を放って自爆したゴタゴタでしっかりと見たわけではない。
だが後々マグリットが何かの機会にそんな話をしていた気がする。
クロムの新たな剣――『鬼神のだんびら』には、敵の力を吸収する能力があるのだと。
>「……それは初耳なんだな。そうか、あいつがシェーンバインを」
「……そうだね。俺にはとっておきの『三つの奥義』がある。
それを使えば最高の防御力だって簡単に破れちゃうかもしれないよ……!」
「初耳です。そんな技をいつの間に開発していたのですか……!?」
驚きの声を発するアンジュを見て、レインは微笑んだ。
第一に彼女の先祖であり師匠でもある『仮面の騎士』との修行のおかげだ。
そして夢の中に現れた友達、アシェルの助言によって制御術式を追加して完成した。
シェーンバインを葬った『プロミネンスブレイザー』はそんな成り立ちをしている。
これは『紅炎の剣士』状態の奥義なのだが、ガルバーニに素直に放ってはいけない。
なぜなら奴にはとてつもない防御力の他に反射魔法があり、さっきの二の舞になる危険性がある。
まだ実戦では使っていないが『三つの奥義』の二つ目。
『天空の聖弓兵』状態で放つ新たな奥義を試すべき時がきた。
ちょうど属性的にもガルバーニに有利が取れる。
「すっごぉい。レインちゃん、やっちゃっていいんじゃない!?」
ヒナも粉砕したゴーレムの後ろからひょっこりと顔を出して言った。
少々振りがわざとらしい気もする。アンジュもヒナもクロムの剣の効果に薄々気づいている。
だがガルバーニという魔族、防御力に関しては並々ならないプライドがあるらしい。
クロムと喋っていた時もやたらと張り合っていた。
「たとえシェーンバインを倒した奥義だろうがノーダメージなんだな。
断言していいんだな。お前はおいらに傷一つつけられない……!」
「じゃあお見せするよ。俺の奥義の二つ目、『インパルスサイクロン』を……!」
レインが天空の聖弓の弓を引き絞った。
膨大な魔力が風の力に変換され、弓に集まっていく。
大気が震え、さながら嵐の前触れであるかのように感じられた。
「ほう……ならばこっちも全力の『防御力』をお見せするんだな!」
ガルバーニもまた魔力を放出して、その身に多重の防御魔法を纏った。
これが"不動城砦"の絶対なる防御態勢にして奥義でもあるオリジナルの上位防御魔法。
ただでさえ硬いガルバーニの防御力をさらに強固にする。もちろん反射魔法との併用も可能だ。
「この『フォートレスコクーン』は未だに破られたことがないんだな!!
これこそが魔王様の『ダークネスオーラ』にも劣らぬおいらの奥義なんだな!!」
「行くぞ、"不動城砦"ガルバーニ!これが俺の全力だぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
放たれた凝縮された嵐のような一射は、疾風迅雷でガルバーニの腹に命中する。
螺旋状の『風の矢』がガルバーニに炸裂した。バシン、バシン、と激しい音が発生している。 ガルバーニは不敵の笑った。見た目は派手だが威力は大したことがない。
なんならさっきクロムが放った一撃より劣る。奥義を出すまでも無かった。
余裕で防ぎ切れる。
「ん……!?これは……!?」
そして直後、ガルバーニは違和感を覚えた。この攻撃、さっきから止まる気配がない。
威力はてんで大したことはないがガルバーニの腹でずっと炸裂し続けているのだ。
「……ガルバーニ。点滴石を穿つって言葉を知ってるかい」
「あ……!?おいらに知識マウントを取るんだな!?馬鹿にしないで欲しいんだな!
こちとら大幹部でも根気強い方なんだな!じっさい地道にウェストレイ大陸を侵略して……!」
「この奥義もそんな技だ。魔力を込めた分だけ命中した相手に風の力が炸裂し続ける。
一発一発の威力は低くても……いずれ石に穴が開く。これはそういう奥義なんだ……!」
腹に炸裂し続ける風の力をちらっと見て、ガルバーニは巨大なハンマーを取り出す。
『インパルスサイクロン』が止まる気配はない。ならば攻勢に出るべきだ。
ガルバーニの反射魔法は一度攻撃を受けきらないと反射できない。
つまり、レインの奥義が止まるまで反射魔法は封じられた。
「今だみんな!これで相手は反射魔法を使えない。攻撃のチャンスだ!」
「おぅさー!しょうかん、私の切り札……センチュリオンゴーレム!」
レインの掛け声と共に、ヒナがゴーレムを召喚する。
見るからに強そうな騎士っぽい見た目のゴーレムだ。
剣を持ってガルバーニに肉薄する。
「なるほど、反射魔法封じが本命だったんだな……!でも舐めるなと言いたいんだな!」
ハンマーを振りかぶり、センチュリオンゴーレムの巨大な剣と激突。
ゴーレムはガルバーニより数倍でかいのに力が拮抗している。
大幹部の称号は決して伊達じゃない。
「うぉぉぉぉっ、こうなりゃ力で捻じ伏せるんだなー!」
ガルバーニの動きは大振りだが、その一撃一撃が致死級だ。
レインは奥義にほとんどの魔力を注いだのでもう何もできない。
幸運なことに相手はまだクロムの剣の効果に気づいていない様子だ。
必要な時間が稼げるまで、ヒナのゴーレムとアンジュが頼りだ。
【お待たせしました。ガルバーニに風の奥義を放つレイン】
【その効果でガルバーニの反射魔法を封じる】 レインが明かした『三つの奥義』の存在は、敵であるガルバーニよりもまずアンジュやヒナを驚かせた。
それは二人ほどでないにしろ、事前に奥義の存在を把握していた筈のクロムも同様であった。
(三つ……?)
レインの言葉がマジならば、シェーンバインを斬った『プロミネンスブレイザー』の他に、
奥義と位置付けるだけの強力な技を更に二つも隠し持っていることになるからだ。
「いつの間に」とはアンジュの言葉だが、実はそれを最も言いたかったのは共に旅を続けてきたクロムであったかもしれない。
はったりか、それとも誠か、いずれにしてもここぞとばかりにヒナが「やっちゃえ」等と些かわざとらしく煽る辺り、
少なくともクロムの意図は既に彼女らの察するところでもあるらしい。
>「たとえシェーンバインを倒した奥義だろうがノーダメージなんだな。
> 断言していいんだな。お前はおいらに傷一つつけられない……!」
そうした三人の協力もあってガルバーニを上手い具合に誘導する事には直ぐに成功した。
だが、問題はこれからだ。
それぞれがプライドを巧妙に刺激することで注意をクロムから逸らしたまではいいが、
マジになった大幹部にレイン達が秒殺JO、下手すりゃあの世行きなんて事になっては全てが無意味となる。
(……仕掛けておいて無責任だが、こればっかりはあいつらの実力に期待するしかねぇ)
かといってクロムが動けるのは、勝ちの目が見えた時以外にない。
ガルバーニが今、クロム背にしたままその存在を完全に己の意識の外に置いているのは、恐らく三人だけが原因ではない。
『あの程度の太刀筋じゃ何百回おいらを斬り付けたって徒労に終わる』と思い込んでいるのも大きな原因に違いないのだ。
焦って飛び出し、膂力の強化も敵の弱体化も半端な状態で斬り付ける愚は犯したくない。
先程よりは深手を与える事が出来ても倒すまでには至らないだろうし、注意を引いてしまえばだんびらの効果がバレかねない。
そうなれば相手は大幹部。何をしでかすかわからないのだから。
(信じてるぜ、お前の“奥義”とやらをな……!)
>「行くぞ、"不動城砦"ガルバーニ!これが俺の全力だぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
──クロムの願いが通じたのかは定かではないが、レインの放った風の矢《奥義》は、予想だにしない効果を発揮した。
魔法によって防御力が急上昇した肉体──
それを見事貫いた、わけではなく、矢の先端・螺旋風は残念ながら腹にほんの浅く突き刺さった程度に過ぎなかったが、
通常の矢とは異なりそのまま動きを止めることなく傷口にその威力を際限なく炸裂させ続けていくではないか。
>「今だみんな!これで相手は反射魔法を使えない。攻撃のチャンスだ!」
(はったりじゃなかった。こいつぁ並の防御力だと簡単にぶち抜かれるな……レインの奴、本当にいつの間にこんな技を!)
戦いの連続で修行をするまとまった時間などなかったはず。
……いや、思い返せばサウスマナに向かう船の上で仮面の騎士とのマンツーマンの日々があるにはあったか。
が、それでも修行としては短期間に違いはない。
なのに三つの奥義を一挙にそこで修得したならば、勇者の資格を与えられるだけのセンスがやはりあるということなのだろう。 >「なるほど、反射魔法封じが本命だったんだな……!でも舐めるなと言いたいんだな!」
──などと感心している間にも戦いは続き、新たな局面に。
レインの声に真っ先に応じたヒナが、魔法で巨人型の近接戦闘用ゴーレムを生み出し、ガルバーニと激突させたのだ。
ゴーレムの繰り出す大剣とガルバーニが振るう大ハンマーが交錯し、周囲に激しい火花と巨大な衝突音を撒き散らす。
どちらも人間の目線からは圧倒的な巨躯に違いはないが、両者を比較すればゴーレムの方が更に山のようにでかい。
にもかかわらず、ゴーレムは力で大剣を押し切ることができずにいる。……それだけ地力に差があるのだ、恐らく。
互いに小枝を操るが如くの得物と得物の激しい打ち合いも一見実力伯仲には見えるが、クロムの目には既に先が見えていた。
徐々にだがガルバーニの得物捌きが加速している。
初めはゴーレムが一方的に剣を繰り出すばかりだったが、次第にガルバーニが先手を取って打ち込むようになっているのだ。
(くそ、やっぱ長くはもたねぇか……)
がり、と唇を噛むクロムが、直後に目を見開く。
ゴーレムが剣を振りかぶった瞬間、隙だらけになった脇の下にハンマーが炸裂したのだ。
瞬時に上半身の右半分を大きく陥没させ、剣を持つ右手は肩ごと千切られる大ダメージを受けてよろめくゴーレム。
即死しなかったのは流石にヒナの切り札といったところだが、戦闘不能に陥ったのであれば結局は同じ事だ。
「ふぅ〜、残念だが当然の結果なんだな。大幹部のおいらに勝るゴーレムなんぞ、この世に存在しないんだな!」
ゴーレムを完全に沈黙させんと、すかさずとどめのハンマーを振りかぶるガルバーニ。
だがその時、隙が生じた脇腹に突如として光り輝く刃が食い込んだ。
「……ちょっとは効いたんだな。でも、さっきのより威力はないんだな」
刃の正体は如何なる物質をも消滅させることができるという光剣・エクセリオンレイス。
だが、ガルバーニの防御魔法のせいか、肉体は消滅するどころか少々の深手程度に傷ついたに過ぎなかった。
「反射のダメージで力が落ちてるのか、充分に光を練れてないって感じなんだな。お前、やっぱ脆いんだな」
「なっ……!?」
食い込んだ光剣を掴み、握力だけで一気に刀身を握り砕き消滅させるガルバーニを愕然とした表情で見つめるアンジュ。
──彼女の時が止まったかのようなその一瞬の間を、見逃すガルバーニではなかった。
「これじゃおいらの反射魔法を封じたって意味ないんだな」
「うっ、あぁぁ……!」
素早くアンジュの首を掴み、空中に持ち上げたのだ。
「さ、死に方を決めるんだな。このまま首を千切られるか、地面に叩きつけられてグチャグチャに捻り潰されるか……」
レインは奥義を使い、魔力を消費した影響か次の攻撃に移る素振りを見せない。
ヒナもまた切り札を召喚したせいか、新たなゴーレムを生み出さないまま立ち尽くしている。
つまりこの絶体絶命の窮地を救える者がいるとすれば、それは残るクロムを置いて他にいないということだ。 「……お前達はどうもせっかちなんだな。どうして大人しく順番が待てないんだな?」
手裏剣が己の前腕と手の甲に突き刺さったのを見て、ガルバーニは呆れたように呟いてアンジュを離した。
「待っていた方が自分にとって好都合でも、おたくらのように非情になれないもんでね。つい手が出ちまうのさ」
「じゃあその鬱陶しい手を二度と出せないようにしてやるんだな。望み通りお前から最優先に殺すんだな、こうやって」
そして引き抜いた手裏剣をこれみよがしに握り潰して見せたが、クロムの視線はそこになくアンジュに注がれていた。
彼女は“時間”に対する不安と、己の不甲斐なさに怒り、詫びるような、様々な感情が入り混じった目でクロムを見ていた。
……確かにまだ早い。
レイン達のお陰で随分と時間は稼げたが、安全かつ確実に勝ちを得る為にはもっと多くの時間が必要であった。
しかし、己から敵意識の内側に飛び込んでしまった以上、もう時間稼ぎは望めない。やるしかないのだ。
(そんな顔すんなよ、まだ負けたと決まったわけじゃねぇ。俺も、お前もな)
クロムは僅かに唇を動かすと、アンジュから目を切って山のようにそびえ立つ背中を睨みつける。
ガルバーニが未だ後ろを振り返ろうとはしないのは、いつでも来い、このままで充分、という余裕からに違いない。
……いや、油断というべきか。
毎秒ごとに敵が弱体化し、逆にクロムは強化されているとはいえ、勝ちを確信できるだけの時間を稼げなかった分、
敵の防御力はまだまだ堅固なままの筈である。
今のクロムが致命傷を与えるには恐らく肉体の出力限界を超えた全エネルギー集中の一刀でなければならないだろう。
しかし……それには大きな“反動”が伴う。シェーンバインの時がそうだったように……恐らくクロムも無事では済むまい。
できれば体が壊れるような戦い方は避けたかったのが本音だが……もはや手段を選んでいられる状況ではない。
「く……クロムさん……」
か細い声でクロムの名を呼びながら、アンジュがゆっくりと立ち上がる。
それを合図に、クロムは目を見開いて地面を蹴った。ただし全力でではない。フルパワー開放は抜刀の瞬間と決めている。
ぎりぎりまで敵に実力を誤認させて油断させることで、ヒットの確率を少しでも上げるためにだ。
(躱そうとする気配はねぇ──。いいぜ、こっちの思う壺だ!)
背中を眼前に捉えると同時、クロムは右足を踏み込んで素早く柄に手を掛けた。直撃を確信して。
だが直後──
「ふん、お前なんぞが二度もおいらの肌に触れられると思ったのか、なんだな?」
「っ!!?」
これまで一切後ろを振り返ろうとしなかったガルバーニが、なんと突如としてくるりと右回転し後ろを向いたではないか。
しかも右手に握られたハンマーを恐ろしい速さで繰り出しながらだ。 「まんまと騙されたんだなぁ! ちょこまか動き回られると面倒だからこうやって呼び込むことにしたんだなぁあ!
おいらを甘く見たらバラバラの肉塊となって死ぬんだなぁぁああああああああっ!!」
「──甘く見たのはてめぇだよっ!!」
完全に不意を突かれた。一旦躱して仕切り直す、なんてことはもはや望めないタイミングだ。
ならばこのまま予定通り溜め込んだ全エネルギーを攻撃の為だけの膂力に換えて抜刀する他はない。
一か八かの凶器と凶器の打ち合いを制するしか、生き残る道はない──。
両者が得物を振り切ると同時に辺りに響き渡る甲高い衝突音。
それから一瞬の間を置いて、両者が見せた表情はまるで対照的なものだった。
……ニヤリと口元を歪めたのはガルバーニ。対するクロムは顔を顰めていた。
「がはっ……!」
そして苦悶するとやがてその場に力なく崩れ落ちていくのだった。
全身に亀裂のような細かい傷を負い、多量の血を辺りに撒き散らしながら……。
だがしかし──これは決して打ち合いに敗北した事を意味する光景ではない。
何故ならクロムが負った傷は膂力の出力超過が引き起こす肉体の“自壊”によるものだったのだから。
そもそも凶悪な大ハンマーに打ち付けられたのならいくら頑丈なクロムでも上半身はバラバラにぶっ飛んでいただろう。
「おかしい……んだな。なんでおいらが痛み……を」
表情を一変させたガルバーニの手から柄が滑り落ちる。がらん、と地面を転がるその先端には、あるはずの巨槌は無かった。
そう……だんびらにぶった切られていたのだ。打ち合いに敗北していたのはガルバーニだったのである。
「こっ、こんな──……げぶぉあぁあっ!!?」
次の瞬間、ガルバーニの腹に突如として現れた横一文字の傷が、彼にかつてない悲鳴をあげさせた。
手ではとてもおさえきれない程にばっくりと長く、深く開いた傷口から魔族特有の奇妙な色をした血液がとめどなく流れ出し、
それに混じってまるで巨大なミミズのような腸がずるずると垂れ落ちてくる。
「よ゛っ、よ゛ぐも゛っ……! よ゛ぉ゛お゛ぐぅ゛う゛も゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!! ぶっ殺じでや゛る゛ん゛だな゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
ごぼごぼと血反吐を吐き出しながら醜悪な怒りの形相となって倒れたクロムににじり寄るガルバーニ。
クロムは意識こそ保っているものの、反動による自壊のダメージが大きすぎてもはや動くことができない。
(なんてタフな野郎だ……! まだ動けるとは……!)
「はぁ゛あ゛ー、はぁ゛あ゛ー。ごのま゛ま虫けら゛の゛よ゛うに゛潰じでや゛るんだなぁぁ〜〜〜!」
(しかし弱っている……こいつも限界が近い筈だ……。誰でもいい、とどめだ……! 今なら刺せる……!)
【クロム:吸収エネルギー全消費による超強化の反動で肉体が自壊。大ダメージを受けて戦闘不能】
【ドルヴェイクの手裏剣を使用。ガルバーニに砕かれて失われる】
【ガルバーニ:腹を深く切り裂かれて大量出血+内臓損傷の大ダメージ。更にだんびら効果により今もなお弱体化が進行中】 かくして時間稼ぎは成功し、クロムの一撃はガルバーニを捉えた。
閃光とも見紛うような一閃はその腹を深く切り裂いて、臓物をずるずると零す。
>「よ゛っ、よ゛ぐも゛っ……! よ゛ぉ゛お゛ぐぅ゛う゛も゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!! ぶっ殺じでや゛る゛ん゛だな゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
まだ動ける。恐ろしいほどタフだ。
クロムは意識こそ残っているが、限界を超えた一太刀の反動で動けない。
何かしたいレインだったがすでに魔力尽きて何もできない。
「そうだ……!ヒナ、魔力を貸してくれ!アンジュは前に!」
「おぅ……いいけど何する気なのっ!?」
あと一撃。たった一撃だけ放てば勝てるはずだ。
わずかでもいい。スイッチを押すかのような駄目押しの一撃が欲しい。
そうすればガルバーニの命はそれで断てるはずなのだ。
「『ストリボーグ』の風の矢を放つ能力でアンジュを射出する!音速で……!」
「それは……中々大変な提案ですね。でも分かりました」
その一言で意図を察したアンジュはレイピアを構えてレインの前に立つ。
ヒナと一緒に弦を引き、『風の矢』を生成する。これは賭けだ。
だが黙って見ていたらクロムが死ぬ。なんとかするしかない。
>「はぁ゛あ゛ー、はぁ゛あ゛ー。ごのま゛ま虫けら゛の゛よ゛うに゛潰じでや゛るんだなぁぁ~~~!」
「今だっ!アンジュ、頼んだぞっ!」
弦を離して『風の矢』を発射し、爆風がアンジュの身体に叩きつけられる。
アンジュはその勢いで加速して砲弾さながらの速度でガルバーニに突っ込んだ。
その姿はまさしく一筋の流星のように。
「ガルバーニ……これで終わりですっ!!」
「なぁぁぁっ!!?」
音速まで加速されたレイピアによる刺突がガルバーニの傷口に深々と突き刺さった。
アンジュは柄から手を離してバックステップで後退する。
位置的に考えれば心臓辺りを貫いているはずだ。
「ぐ……くっくっくっ……まさかお前如きの一撃がトドメになるとは……思わなかったんだな……」
ずずぅん、とガルバーニが仰向けに倒れた。勝ったのだ。
レインも勝利を確信して『召喚変身』を解除する。三人はクロムの元へ駆け寄った。
この戦いの功労者は彼だ。みんなはその功績を褒め称えようとした。
が、それを妨害するかのようにガルバーニの身体が激しい明滅をはじめたのだ。
レインは異常な魔力の高ぶりを感じていた。これはマズイ。何かの予兆だ。
「おいらは腐っては魔王軍大幹部!タダでは帰さないんだな……。
このダンジョンと共に果てるんだな!この命尽きようとも、すべては魔王軍のために!!」
「ヤバイッ……ガルバーニは自爆する気だ!!」
即座に『転移石』を取り出したレインは転移魔法を起動する。
間に合うか。明滅は激しさを増し、いつ自爆してもおかしくない。
圧倒的な熱と閃光を感じた瞬間に景色は移り変わり、ミスライムの王城へと転移する。 「あ……危なかった……」
へなへなとレインはその場に座り込むと、アンジュの肩を叩いた。
彼女はずっとこの大陸の惨状を憂いていた。今、ようやく彼女はそれから解放されたのだ。
ここは王城の中庭だろうか。しばらくじっと座って休んでいるとアルバトロスが姿を現す。
「……お帰り。大分ピンチのようだったが、どうだったんだい?」
「……大幹部は倒しました。俺たちの勝ちです。クロムとアンジュのおかげで……」
基本的に表情を崩さない、冷静な彼女だがこの時ばかりは顔が綻んだ。
それを見たレインは満足気にその場に寝転んでしばらく眠ってしまった。
起きたら、王城の客室だったので誰かが運んでくれたのだろう。
これで大幹部の二人目を倒した。残るはノースレアに居座る炎と水の大幹部のみ。
すこしここで休んだら、また旅を再開しよう。魔王を倒すことが勇者の使命。
大幹部を倒したと言って浮かれている場合ではないのだから……。
【"不動城砦"ガルバーニ撃破。死亡寸前でダンジョンごと自爆】
【転移石でミスライムの王城まで戻る】 大事なお知らせがあります。
かなり一方的かつ突然のことで申し訳ありませんが、自分は今回のレスをもって引退させて頂きます。
理由はいくつかありますが、まずはリアル事情によるものが第一にあります。
この遊びにリソースを割く時間が減ってしまうことが確定し、継続を断念しました。
二つ目にモチベーションの低下によるもの。
参加者のマグリットさんがいなくなって以来、やる気の低下を否定できません。
このスレを建てた時のように弾んだ気持ちで文章が書けないのです。
正直言って、続ける楽しさよりも苦しさの方が大きくなってきています。
三つ目に単純に低い質のレスしか書けないこと。
自分は上手いプレイヤーではありません。間違いもよく犯します。
でも自分なりに上手く書けたなとか、今回は良くなかったとかあるわけです。
なのに最近は文章量も少なく、自分自身にとってすら不満足なものしか書けなくなりました。
この状態で続けても苦痛でしかないので筆を置きたいのです。
遊びとはいえ創作能力が関わる遊びです。自分が納得いかないものを書くのは辛いのです……。
最後までお付き合い頂いたクロムさんには大変申し訳ないです。
平身低頭、謝るほかにできることはありません。
ちょうどキリのいいところまで書けたので、
もし読んでくれる人がいたら……後はご想像にお任せします。
いないと思いますが続けたい人がいらっしゃればもちろん大歓迎です。
しばらくはここを覗いていると思いますので、
何かご質問があれば避難所か本スレに書き込んでくだされば回答します。 あ……すみません、避難所を読んでませんでした。
離脱の件、了解です。参加者がいなくなったのでレトロファンタジーは打ち切りにさせて頂きます。
今まで参加してくれた方、読んでくれた方、まことにありがとうございました。 >「『ストリボーグ』の風の矢を放つ能力でアンジュを射出する!音速で……!」
三人の会話がクロムの耳にも入って来る。
……なるほど、危険を伴う一か八かの策に出るという事は、三人もクロム程ではないにせよ限界に近いということだ。
打つ手が限られていてリスクを恐れていてはとどめを刺す事は出来ない、そう考えたのだろう。
(頼むぜ……!)
心の中で念じるクロムの視線の先で、風の矢を受けたアンジュが加速する。かつてない速さで。
>「なぁぁぁっ!!?」
弱ったガルバーニに即応は不可能だった。
レイピアを成す術なく傷口奥深くに突き入れられて、直後に彼は音を立てて倒れるのだった。
「……だから言ったろ? 俺もお前も、まだ負けたと決まったわけじゃねぇ、ってな」
駆け寄ってきたアンジュに目をくれて、クロムは口元で笑みを作る。
しかし、それも束の間。
>「おいらは腐っては魔王軍大幹部!タダでは帰さないんだな……。
> このダンジョンと共に果てるんだな!この命尽きようとも、すべては魔王軍のために!!」
「……どうやら我々の勝ちもまだ、決まったわけではないようですね」
突如として明滅し出したガルバーニの肉体を見て、勝利の余韻に浸る間もなく騒然となる一行。
「んな! しつけー野郎だな! あんな奴と心中なんてごめんだぜ!」
クロムはすかさずレインに目をくれる。脱出するぞ、の合図を送ったつもりなのだ。
が、レインもそんなことは今更言われるまでもなかったようで、既に彼の手には転移石が握られていた。
────。
王城の中庭。
レインが腰が抜けたように座り込んだが、戦場と共にピンチを脱して一気に緊張の糸が切れたのだろう。無理もない。
正にぎりぎりのタイミングで爆発から逃れることができた安堵感は、クロムにも一種の脱力感を齎していたのだから。
>「……お帰り。大分ピンチのようだったが、どうだったんだい?」
そんな二人のもとにどこから現れたかアルバトロスが歩み寄ってくる。
もっとも、クロムの場合は脱力以前にそもそも体が壊れて動けず、地べたに倒れ込むしかできないのだが。
>「……大幹部は倒しました。俺たちの勝ちです。クロムとアンジュのおかげで……」
「そう……おかげで体がぶっ壊れてこのザマよ」
「なにはともあれガルバーニは倒せた、君達は生きて帰ってきた。なによりだ。まずは傷付いた体を休めるといい」
そう言ってアルバトロスが顎をしゃくると、後ろから数名の兵士が現れてレイン、そしてクロムを担いだ。
「ひと眠りしたら夕食にしよう。腕によりをかけた料理を用意して待っているよ」
「……その前にこの体、ぱぱっと魔法で治してくれない? ひと眠りしたくらいじゃどうにもならねぇよ、これ。
って、おお~~い! 冗談抜きでなんとかしてくれよ、誰か! 聞いてる? ねぇ」
えっほ、えっほと城に運ばれていく己の体を痛みを堪えてばたつかせて、クロムはひとり叫ぶのだった。
【終】 これでクロム編も〆とさせていただきます。
皆さん今までありがとうございました。そしてレインさんお疲れさまでした。
容量オーバーまで10kbとあと少し(上限が多分1024kbかな?)と思うんですが、どうしますか?
雑談でもして埋めますか? 質問していい?
なな板からTRPGやってたの?それとも創発で知った人たち? >>463
クロムさん、最後までありがとうございました。そうですね。
板のルール的に使い切った方がいいので雑談などで埋めて頂ければと思います。
>>464
なな板時代でも多少の経験はあります。
ただ当時は学生だったしスレ立てを自分で行ったのは今回がはじめてです。
>>465
落胆させてしまい申し訳ないですが、おっしゃる通りです。
ちなみに次はノースレア大陸で"猛炎獅子"サティエンドラと再戦する予定でした。
清冽の槍術士モードのレインの奥義をそこで披露するつもりでしたが、ここで終わりなのです。
ちなみに水の奥義名は『鐘馗水仙輪舞(しょうきずいせんりんぶ)』です。
無我の境地に達することで先の先、つまり相手の攻撃を読み、
相手の攻撃より速く自分の攻撃を命中させ続け封殺する奥義です。 ノースレアにはサティエンドラ以外の現地攻略担当のボスも確かいたんですよね?
多分蛇の人かなと思ってましたが
シナムがその人の部下って感じだったので彼との再戦も次の大陸になるだろうなぁと勝手に想定してましたが
物凄いハードスケジュールになりそうで実は内心ちょっと気が重かったんですよねw
ですからぶっちゃけ呪われた島の時に決着つけときゃ良かったかな、あー余計なことしちまったかと後悔したり
ちなみに一応私もなな板で一時期TRPGしてた人間なんですが、ここに参加した時は上手くできるか不安でした
一度住民をやめて何年も離れてたもんですから…おかしなレスして迷惑かけてなきゃいいなと >>467
"水天聖蛇"ラングミュアはですねぇ……。
本来は三章で倒す予定だったのですが出すタイミングを見失ってたんですよね。
続けてたらたぶん、章を分けて七章のボスとして登場させることになっていたでしょう。
シナムとの再戦というか真の仲間がどんなキャラだったのかは気になるところですね。
自分の手をすでに離れていたで。三章の魔人と魔人の対決は楽しく読ませて頂きました。
ラングミュアの登場が遅れるのは確定していたのでその辺は自分も申し訳なく感じていましたね……。 事前に設定を練るタイプじゃないのでシナムの真の仲間についての具体的な設定はほとんど固まってませんでした
ただ、彼の仲間も全員魔人にしたらいいかなとだけは思ってまして
そんで実はその魔人パーティのリーダーは魔法剣士のシナムではなくて、クロムと同じく魔人化した元勇者にしようかなとも
そういう意味じゃ仲間の設定はシナムの真の愛刀より方向性は定まってましたね
ミスリルよりも強力な剣を考えなくてはならなかったので、まぁどうしたもんかと 気になるといえば最初のサティエンドラ戦で結果として仮面の騎士に助けられる形になりましたが
あれ当初は勇者一行が仮面の騎士の助太刀なしにサティエンドラを倒す方向で考えられてたんでしょうか?
というのもバトル描写の一番手が私で、幹部というくらいだから強敵にしとかなアカンなと思いああいう感じで書いたんですが、
魔人という初めから強い設定のキャラを圧倒できるとなると結成当初のパーティじゃ無理ゲーが決定的になってしまいますよね
ですからひょっとして全滅回避のために急遽作って登場させたキャラだったりするのかなと >>469
魔人化した元勇者がリーダー!いいですね。
自分もシェーンバインの剣を考える時に最強の剣なんて
思い浮かばねーよ、と思ったりしたので……結局風のイメージで振動剣にしましたが……。
単純な切れ味だけで考えると限界があるので何か特殊能力があるとかなのかなぁ。
>>470
そうですね。一章につき、一体ずつ四天王(初期設定)を倒して最後に魔王を倒す!
自分がスレを立てた段階ではそういう単純明快なシナリオの予定でした。
魔王城の居場所も最初から決めていました。
それは魔王が創造したアースギアと重なり合って存在するもう一つのアースギアです。
今命名しますが名づけてパラレルアースギア。違う世界に存在するからずっと魔王城が見つからないわけです。
謎にしておくほどのことではないのでついでに書きますが、
レインはアースギアの人間ではありません。私たちの世界に酷似した現代社会出身です。
魔法の適性が異常に低いのは魔法のない世界から来たからなのです。
もっとも女神の力でこの世界に転移したのは赤ん坊の頃なのでレインにはその頃の記憶はありません。
この事実はレインも知っていて密かに隠しており、勇者になった時に神託によって知りました。
アースギアに存在する全ての物質・生命はパラレルアースギアを認識できないし移動できません。
それは両者の関係がコインの表と裏だからです。両者は絶対に干渉できないのです。
創造主の魔王と、アースギア生まれではないレインを除いて。
ゆえに、最底辺の勇者であるレインが魔王城への道を開く鍵となる……。
というのを使う機会があればやろうかなーっと考えていましたね。
話が逸れましたが、サティエンドラはクロムさんの言う通り最初は倒す予定でした。
マグリットさんの暴走任せに倒されても良かったのですが……。
パーティー内最強のイメージがあったクロムさんが手も足も出ない強敵!
という美味しい振りがあったので終盤にリベンジする
展開にしてもいいんじゃないかなーと思ってしまいまして。
そんなわけで仮面の騎士を登板させました。謎めいた協力者のNPCぐらいのイメージでしたが……。
まぁ……初期には登場予定の無かったキャラですが、書いてて楽しくはありましたね。
サティエンドラにもまだ隠された奥義があり、二章で披露した『地爆豪炎掌』の他にも
『天枢滅火掌(てんすうめっかしょう)』と『神明掌握撃(しんめいしょうあくげき)』なんてのも考えてですね……。
セルフ解説でめちゃくちゃ恥ずかしいですけど、名称にもこだわりがありまして(マジで)。
掌の九似という設定なので必ず『掌』の名称を入れる、三つ合わせて天地神明になるって
自分で言うのもなんですが結構頑張って考えた必殺技名を用意してました。
ムーブとしては上空から炎の掌を連続で落っことすとか、
自分が巨大な炎そのものと化して敵を閉じ込めるって感じになってたでしょう。
次章で再登場して戦わせる予定でしたが、すみません。
そこまでのエネルギーがありませんでした。ここで供養させてください。 魔人は魔族側が作り出したいわば強化人間なんですが、事前に洗脳しておいて逆らえないようになってたり、
歯向かったら心臓が自動的に止まったりする仕掛けが施されたりだとか、そういった魔王軍にとっての安全弁がない設定なんですよ。
というのも「主人公が人間で仲間も人間じゃ面白くないな。とりあえず魔族にしとくか」って感じで細かい部分を決めずに参加したんで
後付けでそういうリアルな反乱防止装置をくっつけちゃうと魔王軍と戦う事ができなくなっちゃうからでして。
ですからその気になれば裏切れる筈の魔人が裏切らないのは、魔王は勿論、軍中核の大幹部にも絶対届かない程度の強さしか
手に入れられないよう設計されてるからって設定にしたんですが(でもそれが決まったのは多分サティエンドラ戦の後)、
倒す予定だったなら彼は大幹部のボス格ではなく序列がもっと下の中ボス格だったとかで処理したって良かったんですねw
見返してみると「魔王軍幹部の一人」としか言ってませんしね。
ちなみにだんびらは強さの上限設定を唯一突破できる裏技強化アイテムとしてサティエンドラ戦の直後くらいに思いついたものです。
まぁ強化というよりドーピングといった方がいいですが、クロムの過去設定もそれと前後しておおまかに形作られていって、
もっと後になってだんびらは勇者時代に手に入れた剣で、彼が勇者を辞めて魔人化した原因、って皆に説明するつもりでした。
簡単に言うと過去に(だんびらによって)過ぎた力を手に入れて肉体崩壊→もっと強い肉体を求めて魔人化って感じで、
マグリットさんが龍になるって言ってましたから、それに絡めて色々掛け合いやらイベントを起こせればなぁ、と思ってたんですが。
必殺技は私も考えた事があったんですがね、ネーミングセンスがないんで結局諦めましたねw シナムの剣について、あーこんなこと考えた時もあったなって思い出したんで、一応書いときます。
仰る通りとにかく頑丈でめっちゃ斬れる剣、にしちゃうとなんか芸がないっていうか面白味がないってゆーかそんな気がしたんで、
魔力を剣状に具現化してそれに特殊な能力をくっつけとく、みたいな事は私も考えましたね。
得意な魔法が氷だったんで、剣を介してオリジナルの氷の術をばんばん使えるみたいな。
ただ、それくらいなら別に剣なんか介さないでもオリジナルの氷魔法を普通に手からぶっ放せんだろって話になるよなって思って封印しましたw >>472
クロムさんと鬼神のだんびらにそんな過去設定があったとは!
勇者時代に手に入れた後にいったん手放してから(でいいのかな?)
シェーンバインがコレクションに加えるまでの間にも色々ドラマがありそうですねぇ
サティエンドラに関してはまぁ、クソ雑魚ナメクジではないですが
ほどほどに強い敵、ぐらいのイメージですね。今までの敵とは一味違うぐらいの感覚でした
丁々発止の戦いを繰り広げてくれればなーという想定だったのに気づけば生き残らせてしまい……
結果論で言えば再戦は叶わなかったので倒しといても良かったですね
>>473
魔法剣士ということにしてしまったので剣の設定が難しいですよね……
それもこれも自分のせいです。まったく申し訳ないですね
一方でただの噛ませ犬……くらいのつもりで出したのに
よくここまで出世したなぁと思いますね だんびらは呪いの武器でして(本編では呪われてると噂されたり、クロムがうっかり呪いはないと言ったり曖昧でしたが)
使い手に「装備を外せない呪い+自壊の治癒(回復魔法・薬草含む)を妨害する呪い」が降り掛かる仕掛けになってるんです。
(後者は初めの内はあれ?なんか治りが遅いな?程度ですが、自壊を重ねる度に効果が強まりやがて全く治らなくなる)
これは魔族でも回避不可能な強力なものでして、死ぬまで解かれることはありません。
シェーンバインは幸か不幸かだんびらの使い手にはなれなかったのでその能力も呪いも認識することはできませんでしたが、
剣鬼の勇者クロムウェル(結構有名だったので魔人化の際に「クロム」とだけ名乗る様に。偽名にしちゃそのまんまだけど)は
呪いを受けてとある戦場で乱戦中に致命的な自壊を起こして、文字通り一度死んでるんです。
んで、死んだ彼を蘇生させて魔人に変えたのがアリスマター。
だんびらはクロムが意識を取り戻した時には既に手元にはなく、彼は死んでる間に戦場にいた他の誰かに拾われた……
と勝手に思い込んでるのですが、実際はアリスマターが回収し、後に世界のどこかに隠したという設定です。
それを最初に見つけたのが同僚のシェーンバインだったのか、それともただの冒険者だったのかは想像にお任せします。
全部決めちゃうよりその方がいいと思ったので、なんとなくですが。
本編初期の時点でクロムは世界中を旅してたって事になってますが、これはだんびらを捜す旅だったと解釈して下さい。
マグリットさんが大きな力を一時的に手に入れた際の「万能感と多幸感」について言及されてましたが、
クロムもだんびらによる強烈なドーピングを経験して同じ快感の虜になっていて、無意識に追い求めるようになっていたのです。
イメージとしちゃ重度の麻薬患者が近いかなって感じですね。
ただ当初から用意してた設定ではないので本編ではヤク中っぽい危うさは出せませんでした。
それどころかむしろだんびらにもあまり執着してないような、正気に戻りつつあるような感じばっかで。
まぁ、辻褄を合わせるなら何年もの旅の間に徐々に冷静さを取り戻していったってことになるんでしょう。多分。 >>475
だんびらにも結構重い設定があったんですね……
アリスマターもせっかくクロムさんを蘇生させて手駒にしたのに
結局敵になってしまったのは、生みの親として同情してしまいますね
せっかくなので要領埋めにアリスマターの設定を披露しようと
メモ帳を開きましたが戦闘用の能力や技ばっかり書き綴ってて
見るに堪えない内容なので手ェ引っ込めておきましょう……
クロムさんの過去にも関わるので
アリスマターのキャラ設定を一人で軽々しく書けませんが
初登場時点(三章スタート時)で決まってたのは
・側近ではあるが大幹部の中では一番の新入りである
・魔王に愛とも言えるほど深い忠誠を誓っている(側近なので)
・口数が極端に少ない。いわゆるコミュ障キャラである
という感じですね。ボスとして出すなら予定してた日本編だと思います
八章か九章か……そんぐらいには戦わせたいなぁと思ってました
再登場が遅くない?って感じですがラスボスの前哨戦ポジに置いていたキャラなので
自分の中では「ボスとしての登場は後回しでいいや」という考えだったのです
じっさいに話を転がす段階になったら考えが変わってたかもですが…… 日本編ですか。この世界にも日本がモチーフの国があるようなことは本編初期から触れられてましたね。
クロムの最初の剣も初めはその国のダンジョンから持ち出したって設定だったんですが、
国を決めちゃうと後々不都合があるかなと思い直して敢えて東の果てと曖昧な表記にしたんですよ。
そういえばこの世界には五つの大陸があるって設定でしたが、東西南北に四つ、もう一つはやっぱ中央大陸なるものですかね?
四方の大陸を順に攻略して行って、残された最後の中央に魔王の拠点があるみたいに思ってましたけど、
まさかパラレルワールドに拠点があるとは予想してませんでした。
さて、残りの容量を見ると多分これが私の最後の書き込みになるんじゃないか思うので、改めて挨拶させていただきます。
皆さんこれまでありがとうございました。レインさんお疲れさまでした。一緒にTRPGができて楽しかったです。
いつかどこかでまた同僚になる機会があったらその時はまたよろしくお願いします。それでは。 もう埋まるかな?スレのスタートが2020年5月31日
ちょっと足りないですが約二年間、お付き合い頂きありがとうございました
なな板TRPGをやってる人はもう相当に減っていそうなので
果たしてこの遊びがいつまで続くのか……遊んでた身としては気になるところです
あまりに人がいません。もう掲示板の時代じゃないんですね……
調べるとなりきり自体はディスコード?なんて場所で展開されているそうです
知らない場所なので首を突っ込めないですが、なな板TRPGも細々とでいいので続いてほしいですね
そう考えると過疎の状態でクロムさん、マグリットさんに出会えたのはとても幸運なことに思えます
特に未熟な自分に最後まで付き合ってくださったクロムさんには感謝しかありません
この二年は掛け替えのない貴重な経験となりました
自分は創作が好きなのでたぶん文章書くのも辞めません
(小説を書くのは得意じゃないので、なぜこんなことやってんだ?って感じですが)
なのでふとした拍子にまたふらっとなな板TRPGを探すかも
その時、もし参加ってことになったら……お手柔らかにお願いしますね
それでは失礼しました! とりあえず埋め立てテスト
これで1024kbは越えると思いますがこれで埋まらないならもう容量設定がわからないですね…
レトロファンタジーTRPG
http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1590927534/
レトロファンタジーTRPG 避難所
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1596277717/
>ここはアースギア……。
>五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
>あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。
>◆概要
>・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
>・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
>・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
>・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。
>【テンプレート】
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