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レトロファンタジーTRPG
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0001レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:18:54.91ID:Nni+ZiO2
ここはアースギア……。
五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。


◆概要
・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。
0002レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:20:14.50ID:Nni+ZiO2
【テンプレート】

名前:
種族:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
職業:
出身:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
0003レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:21:36.08ID:Nni+ZiO2
ちゃいちゃい、投下ミス


【テンプレート】

名前:
種族:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
職業:
能力:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
0004レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:24:31.68ID:Nni+ZiO2
サマリア王国の首都である王都ナーブルスは城下町型の都市だ。
冒険を始める者が集まることから「はじまりの街」とも呼ばれる。
入り口を起点に一本の大通りが中央の噴水広場まで続いていて奥に王城が聳える。
――その広場に入ってすぐの酒場が、冒険者ギルドである。

酒場といっても昼間から飲んだくれるのが冒険者の仕事ではない。
ギルドで情報を集め、依頼を受け、現地で問題を解決するのが仕事だ。
王都の外れ、「水晶の洞窟」へ踏み入った一団もまたそうである。
古代から魔物の住処として知られるこのダンジョンは腕試しの洞窟とも呼ばれている。
と、いっても、彼らは元からパーティーを組んでいた間柄ではない。
一つの突発的な事件が発生し、その対処のため組まれた急ごしらえのパーティーだ。

「魔物だーっ!」

男の一人が叫ぶや、振り下ろされた鉄拳の前に大きく吹き飛んだ!
後ろが透けて自分の顔が映り込みそうなほどの透明度をもって巨躯を彩っていた。
人によれば、美しいとすら形容するかもしれない。

「クリスタルゴーレム……!古代王国の遺産か……!?」

眼前に姿を現した巨体の兵器を前にレインは誰と話すでもなく呟いた。
家から抜け出した貴族の御子息を連れ帰るだけの単純な依頼だが、
一人、また一人と紙屑のように人間が吹き飛んでいく光景を見て、全滅を想起させる。

「このっ――!」

いてもたってもいられなくなり、後列から飛び出す。
不意打ち気味に胴へはがねの剣を一閃!完璧なタイミングの一撃である!
だが剣の腹から先が何処かへ飛んで行ってしまった。折れたのだ。

「…………」

クリスタルゴーレムとレインの間で沈黙が続いた。




名前:レイン・エクセルシア
種族:人間
年齢:16
性別:男
身長:170
体重:68
性格:勇敢
職業:勇者
能力:召喚魔法
ダンジョンなどで入手した装備を収納・召喚できる。
魔法適正が低いレインが唯一使える魔法。
取り出せるシリーズ装備は【紅炎の剣士】【清冽の槍術士】【天空の聖弓兵】など。
所持品:はがねの剣、旅人の服、外套、旅の道具一式
容姿の特徴・風貌:旅人の服を着た軽装姿の少年

簡単なキャラ解説:
今やアースギアにどこにでもいる勇者の一人。光魔法が使えない落ちこぼれ。
自身の弱点をカバーするため強い武器や装備を求めて旅をしていた。
スペックは低いが今日も勇気ある心で魔物に立ち向かう。


【参加者募集中!】
0005レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/02(火) 20:28:28.40ID:+S4vtG7E
剣士と水晶質の巨体の間で重い膠着が続く。
クリスタルゴーレムの攻撃は、まさに一撃必殺。
人体を軽く吹き飛ばす拳を浴びれば間違いなく瀕死だ。

武器を失った剣士は迂闊に動き回れない。
しかし、剣士の運動能力は自身の攻撃を容易く躱せることを、
クリスタルゴーレムの魔導知能は理解していた。

沈黙を破ったのはやはり水晶の巨人。
堰を切ったかのように猛烈に連続で拳を振り下ろす!
一度、二度。三度目となって、レインは折れた剣を振った。

「――召喚」

降り注ぐ拳をすり抜けて跳躍。
ゴーレムを飛び越えて背後に着地したとき、その頭部は寸断されていた。
レインの手元から折れた剣は消滅し、代わりに戦斧が握られている。

バルディッシュ。
重量で敵を叩き切る事を目的としたポールウェポンである。
レインが召喚魔法によって呼び出した、近接武器だ。
もっとも単純に武器を斧に変えたから攻撃が通った訳ではない。
同じ水晶の鎧でも首関節ならば機能上胴より硬度で劣ると判断したのだ。

「もう眠るんだ。お前たちの主人は……ここにはいない」

肝要たる魔道性知能を積んだ頭部と胴が別たれた結果。
クリスタルゴーレムは完全に沈黙した。

魔物との戦闘が一段落し、急造パーティー達は一時話し合う事になった。
彼らは腕試しに水晶の洞窟に来たわけではない。
さる貴族の子息を屋敷まで連れ帰るために編成されてやってきたのだ。

「いくら冒険者に憧れてるからって、こんなとこに来なくても……」

「この洞窟、奥に行くほど強い魔物に遭遇すると聞く。子供ならそう深くまでは潜れまい」

「そりゃガセだ。出くわす魔物の強さに法則なんてねぇよ。
 運が良けりゃ一番奥まで入りこんじまってるかもな……」

現状のパーティーでクリスタルゴーレム級の敵と何度も戦うのは現実的でない。
引き返したいが、依頼を受けている手前引き返す訳にもいかない……。
誰もが絶望を感じはじめた時、端にいたレインが口を開いた。

「増援を呼ぶのはどうかな。時間がないけど、このまま進むのも危険だし」

こうして話はまとまり、冒険者ギルドに伝書鳩を送って増援のパーティーを要請する事になったのである。
洞窟から放たれた鳩は雲一つない空を飛び、王都ナーブルスを目指すのだった。


【引き続き参加者募集中です!気軽にご参加ください】
0006創る名無しに見る名無し垢版2020/06/02(火) 23:22:07.60ID:uBWDRASg
『いい子にしてるから』

 クリスマスイブのこと。
「今年もぼうやにサンタさんは来てくれるかな」
「ぼく、いい子にしてるから。きっとサンタさんはきてくれるんだ」
ある親子がそんなやり取りをしていた。
その晩、日付は変わってクリスマス。
ぼうやの部屋に、煙とともにサンタが現れた。
サンタはそっと、プレゼントを置こうとした。
「困ります。本物のサンタが来てプレゼントを置いていくなんて」
サンタが驚くと、すやすや眠っていたはずのぼうやがこちらを見ている。
「親はサンタを信じていないから、クリスマスプレゼントを用意するんです。
全員がサンタを信じたら、親はプレゼントを用意しなくなってしまう」
見つかってしまった。この子もサンタを初めて見たはずだが、その反応は非常に乏しかった。
最近のこどもたちに、増えているタイプだ。
「ぼくたちこどもはサンタを信じているふりを長く続けて、一回でも多くプレゼントをもらいたいんです」
「去年来てくれなかった本物が、来年も来てくれるでしょうか。本物に気まぐれで
クリスマスにプレゼントを配られると、長い目で見て損になるかもしれないんです」
「ですから、ぼくたちこどもとしては、26日の夜にでも配ってもらえると助かります」
サンタは何も言えず、プレゼントとともに煙と消えた。
0008レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/04(木) 20:27:32.42ID:Phrr7mrr
>>7
 敵役参加も歓迎です!ぜひご参加ください!
 敵NPCの操作という意味でしたら、>>1が登場させたNPCは参加者が自由に動かして大丈夫です!】
0009創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:22:30.05ID:X3oh/yYO
切って、刻んで、すり潰す!
ああっ… 足が!
叩いて! 壊して! 殺す!

バラバラにしてやる!

足に当たった!
胸が…!
痛み?

お前!!
0010創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:25:30.13ID:v3SLBkRl
ビッグホーン、きょうだいを殺した!

も、もう止めろ!
白い奴だ! 怖いよう!


ビッグホーン、きょうだいを殺した!


羊さん。なぜ羊なの?


白いフワフワを殺せ!

ダメ! 白い奴、来る! 逃げろ!
白い奴、きょうだいを殺した!

メェー! メェー! 怖い!



大きい奴! 怖いよう!
0011創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:27:45.53ID:+abLYagk
どうして去るんだ? 空港に戻らないと!

お前がデルバートを撃ったから、去るしかない!

お前のせいだ!





俺のせいじゃない! デルバートが蹴ってきて…

だから撃った。あいつのせいだ!

関係ない、デルバートはボスだ。

絶対撃つな!

両方とも黙れ! うるさい!





見つかるぞ… 何の音だ?
0012創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:34:48.82ID:4Gz83Y/6
あ、あのお話があるのですが…

死体がしゃべったんだ。

誓って言う、不可能だ。

死体は喋らない、ただ命令に従うだけだ、そうだろう?

コリン…いえMrモリアティ…今日はまた一段とご立派で…

なんてことだ!さっき言っただろう!仕事に戻れ、それとも頚になりたいのか!?

えっ、あ…はい

あ、あのお話があるのですが…

死体がしゃべったんだ。

誓って言う、不可能だ。

死体は喋らない、ただ命令に従うだけだ、そうだろう?

ただいまヌカコーラを切らしてまして、先にお伝えしたほうがよろしいかと

ゴブ、黙ってろ。

お前は口だけは動くな、しゃべりすぎだ。仕事に戻れ

うん・・・Mrモリアティ?

何、なんだと今なんて言った。

口を開いていいと誰が言ったんだ。

いやしい死体のくせに!

コリン…いえMrモリアティ…今日はまた一段とご立派で…

なんてことだ!さっき言っただろう!仕事に戻れ、それとも頚になりたいのか!?
神よ、オレに力を
0013創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 22:39:02.64ID:3VQKCrCE
名前:クロン
種族:魔族
年齢:?(見た目は10代)
性別:男
身長:160
体重:50
性格:気分屋
職業:剣士
能力:魔装機神…自身の素早さ+攻撃力+防御力を上昇させる。魔法ではなく魔力を使った固有の特技。
所持品:悪鬼の剣…日本刀タイプの黒い剣。
      魔人の服…片掛けの胸当てと肩当て付きの黒い服。
      髑髏のイヤリング…髑髏型のイヤリング。
容姿の特徴・風貌:黒髪おかっぱの色白少年。瞳が赤くトンガリ耳。八重歯が鋭い。
簡単なキャラ解説:人間社会に浸透し内側から切り崩す事を目的に魔王によって創られた新種のヒト型魔族。
            彼はその中でも魔法が使えない剣士に似せて創られており、実際に魔法は一切使えない。
            彼自身は魔王の意思に必ずしも忠実ではなく、割と自由気ままに過ごしている。
            趣味は呪いの装備品を集めること(魔族なので呪いの影響を受けない)。
0015レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/06(土) 22:53:41.34ID:WoJ8+sVr
【浮かれて見落としてましたがクロンさん、お手数ですが
参加&本人識別のため一度トリップを使用して書き込みお願いします!】
0016クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/07(日) 17:20:21.62ID:ZgsRDliK
『水晶の洞窟』に今、一人の男が足を踏み入れた。
彼の名はクロム。
見た目は小柄で中性的な顔をした少年だが、その実単身世界中を旅してきた屈強な剣士の一人である。

「──お、いたいた。あんた達が例のパーティだろ? 俺はクロム。増援だ」

王都の冒険者ギルドに増援要請をした一団。クロムがそれを発見するのに時間は掛からなかった。
出入り口から然程遠くない地点で焚火を囲んで待機していてくれたからだ。

(ふぅん……思ったより統率が取れてるじゃんか)

それを見てクロムは思わず感心する。
一団の傍で横たわる巨大な首無し死体は、クリスタルゴーレムと名付けられた手強い魔物のそれである。
恐らく現状の戦力では同クラスの魔物との連戦は危険と判断し、大人しく増援を待つことに決めたのだろうが……
ともすれば烏合の衆と化す急造パーティでは意思統一と行動の徹底は簡単なようで難しいもの。
ましてや貴族の子息を救出するという時間との勝負でもある依頼を受けているなら尚のことである。
なのに特に足並みが乱れた様子がないのは個々が冷静なのかそれとも良いリーダーに恵まれたのか……。

「ちょっと待て、増援ってのはガキか!? 他は!?」

「まさか来ないんじゃ……」

口々に不安を漏らし始める一団を見渡して、クロムは後者であることを確信する。
そしてそのリーダーが──恐らくだが──誰なのかも。

「他の奴らの事までは知らないね。他にも来るかもしれないし来ないかもしれない。何なら待ってもいいけどどうする?」

クロムの視線はありふれた旅人の服を着た少年に向けられていた。

【名前をクロムに変えてますが>>13本人です。混乱させたら申し訳ないです。これからよろしくお願いします】
0017レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/07(日) 19:33:34.35ID:uw+JGGC1
洞窟の中というのは寒い。もっともサマリア王国は温暖な気候の土地である。
理由として空気が動かないということと、岩や土が自然の断熱材の効果を持つからである。
ともかく急造の救助パーティー一同は焚き火を囲って増援を待っていた。

>「──お、いたいた。あんた達が例のパーティだろ? 俺はクロム。増援だ」

そしてやってきた増援はというと、クロムと名乗った少年一人なのである。
パーティーのメンバーは口々に異を唱えたが、少年はどこ吹く風で軽やかに答えた。

>「他の奴らの事までは知らないね。他にも来るかもしれないし来ないかもしれない。何なら待ってもいいけどどうする?」

視線はレインに向けられていた。
こちらの実力を窺うかのような意味深長な視線――のようにレインは感じた。
あるいは、風のように気まぐれな事を言っているだけなのかもしれないが。

「……タイムリミットだ。これ以上は待つ時間が惜しい。先を急ごう。
 ギルドが寄越した増援が一人だってことは、そういうことなんだと思う」

――恐らくはかなりの実力者……。ありがたい、とレインは思った。
レインは修行の旅でサマリア王国各地のダンジョンを潜った事がある。無論水晶の洞窟も。

水晶の洞窟は古代王国時代の魔法使い達が創ったゴーレムや人工魔物を投棄する場所だった。
そのためか出現する魔物は一様に鉱物系である。鉱物系魔物は頑丈で有名だが索敵能力は然程高くない。
が、洞窟は単純な構造をしていて大人が隠れて進めるような道もない。奥に進むほど強力な魔物と戦うリスクは上がる。

「紹介が遅れてごめん。俺はレインって言うんだ、よろしく!
 今回限りの面子だけど一応勇者パーティーってことになるのかな?」

各々軽い自己紹介を済ませたところで、再び洞窟の探索がはじまった。
光を帯びた水晶が煌びやかに洞窟を彩る幻想的な景色の中を、ただ進む。

「……シッ、何かいる」

洞窟を半分ほど進んだ辺りで、レインがパーティーを制する。
壁越しに目を凝らすと、全身が水晶で構成された百足がそこにいた。
その全長は恐らく10メートルをゆうに超えているだろう。

「……クォーツセンチピードだ。気をつけた方がいい。あの巨体に反してかなり素早いぞ。
 油断してるとすぐ捕まって万力みたいに絞め殺されるか、首を食いちぎられるかってところだ」

水晶百足は身体をくねらせながら進路を妨害するように立ち塞がっている。前へ進むには倒すしかない。
その数、実に3匹。力はクリスタルゴーレムの方が上だろうが、物理防御の高さはひけをとらないだろう。

「クロムと俺で一体ずつ倒す。他の皆は残りの一体に牽制をかけてくれ。
 先に片付けた方が三匹目も倒す……で、どうかな、クロム?」


【まもののむれがあらわれた!(クォーツセンチピードは1ターンキル可能)】
【クロムさん、改めてよろしくお願いします!今回は休日なので早目に返せましたが
 平日はあまり時間が取れないので土日に返すことが多いかと思います。すみません】
0018クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/09(火) 20:54:55.75ID:X/RskrkA
>>17
>「……タイムリミットだ。これ以上は待つ時間が惜しい。先を急ごう。
> ギルドが寄越した増援が一人だってことは、そういうことなんだと思う」

少年の出した結論に、誰も異を唱えなかった。

>「紹介が遅れてごめん。俺はレインって言うんだ、よろしく!
> 今回限りの面子だけど一応勇者パーティーってことになるのかな?」

先程までクロムを子供と侮っていた者達が粛々と彼の──レインの言葉に従っている。
どうやら彼がリーダーであると見たクロムの目に狂いはなかったようである。

「あぁ、よろしくな。……勇者パーティね。ま、何でもいいけど」


──洞窟の中を進む事どれだけ経ったろうか。
『水晶の洞窟』とは良く言ったもので、どこまで行っても文字通りそこら中に水晶が散りばめられている。

そう、クリスタルゴーレムがそうであったように──この洞窟では敵も例外ではないらしい。
レインが周囲を制した直後、目の前に現れた巨大ムカデ型の魔物は、当然の如く水晶の輝きを放っていた。
クロムにとっては初見の──厳密には実物を見るのは初めての魔物『クォーツセンチピード』である。

>「クロムと俺で一体ずつ倒す。他の皆は残りの一体に牽制をかけてくれ。
> 先に片付けた方が三匹目も倒す……で、どうかな、クロム?」

クロムはムカデからレインに一旦視線を移して

「随分とここの魔物に詳しいじゃん。さてはお前、何度か来た事あるな?
 俺はこの洞窟もこの魔物にも慣れてねーからここのノルマは一匹だけにしてくれよ。
 第一めんどk……じゃなくて、信頼されてる奴に任せた方が皆も安心するだろうしな?」

などと答えた。が、それは完全な判断ミス、油断であった。

「ん? ──うをっ!?」

視線を戻した時、すなわち気が付いた時には、既にムカデは全身に巻き付いていたからである。

「こいつっ……いつの間にくそっ! 虫ってやつはどうして空気が読めねぇんだよっ……!」

とクロムは言うが、そもそも戦場においては敵から一瞬でも目を離した方が悪いのだ。
全身を絞め上げられるのはその報い。油断した方が容赦ない責苦を受ける。残酷だが、それが戦場だ。
0019クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/09(火) 21:01:47.69ID:X/RskrkA
全身を包む強い圧力。
レインはそれを万力に例えたが、なるほど確かに人体など軽く潰せるだけの力はあるらしい。
いくら二の腕に力を入れてもビクともしないばかりか、逆に締め付けが強くなる一方だ。

「んぐぐぐぐ……!! あぁもう! こりゃあ今のままじゃ解くのは無理っぽいなっ……!」

しかし、そんな諦めとも取れる言葉とは裏腹に、クロムの顔に絶望や悲観の色は一切なかった。
別に仲間が助けてくれるだろうと楽観視している訳ではない。
実際に攻撃を受けた事で確信できたのだ。ムカデの力は己の本気のそれに遠く及ばないという事を。

「……しゃーない。ちょっとマジにならなきゃ駄目……かっ!」

不意にその目にこれまでにない力強い光を宿して気張るクロム。
途端にギチギチギチと悲鳴に似たかつてない軋み音を発するムカデの肉体。
これは抑え込もうとする外側の力とそれを解こうとする内側の力。
その優劣があっさり逆転した事を意味していた。

──発動と同時に素早さ、攻撃力、防御力を爆発的に上昇させるクロム特有の技『魔装機神』。

その肉体が発揮する驚異的な力の前では水晶の硬度などもはや何の意味もなさない。
つまりムカデもまたミスを犯していたのである。
初めの奇襲で急所を噛み砕いてさえいれば、その時点で決着は尽いていた筈だから。


(剣も能力も使わないで済むレベルの洞窟と思ってたんだけど……少し甘く見てたな。やれやれ。
 ……さて、他の連中の実力は実際どんなもんかな? 今後の為にも情報収集は必要ってね)

ゴム輪を引き千切るようにムカデを解体したクロムは、その残骸を服から払いながらパーティの戦いぶりを観察する。

【クォーツセンチピードを一匹撃破。他の戦闘には静観中】
【気にしないで下さい。こちらも週に一度か良くて二度が限度ですので】
0020マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/10(水) 14:55:16.31ID:vdpM4pJN
名前:マグリット・ハーン
種族:獣人(貝)
年齢:22
性別:女
身長:185
体重:155
性格:野心家
職業:宣教師
能力:獣化、回復魔法
   貝類の能力を体に顕現させられる
     硬質な殻を生み出した手にしたり、放水したりなど
   種族特性として毒や瘴気を吸収し身に溜め込むことができ、肌の褐色度合いが毒の溜め込み度合いと言える
   神の奇蹟により傷の治療を出来るが、長く高い祈りが必要で戦闘中は実質使用不能
   また、効果が高いとは言い難い

所持品:白を基調とし金の縁や文様で装飾された法衣
    鈍器状態の聖典、聖遺物の入った聖印
    砂鉄、水の入った樽を背負っている

容姿の特徴・風貌:灰色髪を緩い夜会巻にして、巻貝のような髪型
         目鼻立ちはくっきりしており、肌は褐色、張り付いた営業スマイル
         大女ではあるが体格的には太っているわけではない

簡単なキャラ解説:
貝の獣人女性
各種貝の能力を扱う事ができ、その一環として砂鉄の摂取が習慣化している
砂鉄を吸収する事で体の外皮に鉄の鱗を生じさせることができる
それ故に見た目以上の体重になっている

宣教師をしているが、特に信心深いわけではない
自身の目的を達するために宣教師が都合が良かった、と言うだけだが一応建前は取り繕う模様
教会側も、未開の地に布教するには危険が伴い、戦闘力を持つマグリットは重宝する人材足りえると受け入れている
要するに教会の傭兵である

【ステレオタイプはよくわかっていませんがご精査お願いします】
0021レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/10(水) 19:18:52.33ID:cWoWWL2H
>>22
 参加ありがとうございます!よろしくお願いします!!
 ステレオタイプの世界観といいつつ私のお出しできるフレーバーがユルいだけとは言えな…げふん!
 それはともかく、どのタイミングで参戦しますか?クォーツセンチピード(名前長)との戦闘からであれば私が投下を待った方がいいのかな?
 もちろん百足との戦闘後に参戦されても大丈夫ですよ!その場合は私の投下を2、3日待って頂く感じになるでしょうが……。
 いずれにせよ状況的には@増援が遅れてやってきた、A何らかの事情で居合わせた、Bその他って感じでしょうか】
0023マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/10(水) 20:51:55.01ID:vdpM4pJN
>>21
ありがとうございます
@でいかせてもらおうと思います
投下ですが、ムカデとの戦闘中に乱入させてもらおうかな、と
それで質問ですが、MOBPTメンバーは何名ほどいるでしょうか?
そちらも取り入れて描写しようと思っていますので
お答えいただけてから1.2日でレス投下させてもらおうと思います】
0024レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/10(水) 22:06:51.75ID:cWoWWL2H
>>23
モブメンバーは全員で5名です。レインを入れて6名の救助パーティになります。
水晶の洞窟に詳しいレインをリーダーに依頼者のモブ貴族が編成しました(たぶん)】
0025マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/11(木) 16:32:05.09ID:C+DDNcz6
水晶の洞窟にて冒険者たちが巨大な水晶ムカデ、クォーツセンチピートと戦いを繰り広げている
激しい剣撃や怒号の飛び交う中でもドスドスと近づいてくる大きな足音は聞こえるだろう

クロムが体に巻き付いた水晶ムカデを引き裂いたところでその足音の主が現れた
「おーい、教会より派遣された宣教師マグリット、ただいま到着ですよー」
大きな体に褐色の肌を強調するかのような白を基調とした法衣に似合わぬ樽を背負った姿
宣教師マグリッドである

神の教えを説く他の神職とは違い、未開の地を切り開きそこに教えを広める宣教師は教会の尖兵ともいえる存在
貴族子息の救出という事でギルドから協力要請を受け戦力として派遣されてきたのだが、重鈍故に合流に遅れ今になって到着というわけだ

遅れてやってきたマグリットの目に入ったのは倒れて動かない冒険者一人
そして今、水晶ムカデの無数の脚に絡めとられようとしている冒険者
他の冒険者も抵抗しているようだが効果はあまりないようだ

「下がって!今助ける!圧流刃!」

状況を一目見て危機を察したマグリットはそう叫んで腕を振る
袖に隠れてはいるが腕とは別に伸びた放水管から高圧の水が刃となって水晶ムカデの胴を両断した

「皆さん大丈夫ですか?教会所属の宣教師マグリットがお助けしましたよ!
感謝の気持ちは改宗と喜捨にて受け付けて……!」

恩着せがましく布教の言葉を並べながらムカデの脚から解放された冒険者を起こそうとしたマグリットを強い衝撃が襲う
水晶ムカデは胴体を両断されても死んでいなかったのだ
切り落とされた体の後半部分を置き去りに、前半部分だけで這い進みマグリット胴体に突っ込み巨大な顎を突き立てたのだ

だが、マグリットは倒れない
そして突き立てられた顎が切り裂いたのは法衣だけで、その下の皮に傷つけることはできずにいた

海中の鉄分を吸収し、鋼の鱗を生やすスケーリーフットという貝がいる
マグリットも日常的に砂鉄を摂取する事で、外皮は文字通り鋼鉄となっている
その代償として体重は3桁を優に超え、移動速度は遅く、大きな足音を立てることになってしまっているのだが
しかしその重さと三桁体重で行動するが故に鍛えられた足腰の強さがあるからこそ、巨大な水晶ムカデの体当たりを食らっても倒されずに済んだのだ

「ふむう、虫の生命力を侮っていましたね
水晶の体と言うのであればこの周波数かな?くらいなさい、螺哮砲を」

大きな顎で食らいつく水晶ムカデを引きはがすでもなく、むしろ触角を掴み固定すると、マグリットの口から重低音の、まるで法螺貝の調べのような音が流れ出す
それは10秒15秒と続くうちに水晶で覆われたその頭部が振動をはじめ、やがてひびが入りそれは全身に広がっていく
たまらず顎を離しのたうつクォーツセンチピートに

「神の使いたる宣教師に牙をむいた罪は重いですよ!神罰覿面〜〜!」

その言葉と共に聖典が振り下ろされる
分厚く鋼鉄で補強された聖典はもはや鈍器も同然
ひび割れたクォーツセンチピートの頭部は粉々に砕かれ床にめり込みその動きを止めた

【戦場に乱入、クォーツセンチピード一体撃破】
【登場レスです。これからよろしくお願いします】
0026レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/12(金) 23:22:48.09ID:fkKYIbeT
クォーツセンチピード。名前まで百足の胴みたいに長くしなくても……と、ある魔物学者に評された魔物。
早い話が鉱物系の大百足である。全身が水晶でできており、その多脚で壁や死角から忍び寄ってくる。
気付いた時には既に遅く、ゆっくりといたぶられて殺される。

>「随分とここの魔物に詳しいじゃん。さてはお前、何度か来た事あるな?
> 俺はこの洞窟もこの魔物にも慣れてねーからここのノルマは一匹だけにしてくれよ。
> 第一めんどk……じゃなくて、信頼されてる奴に任せた方が皆も安心するだろうしな?」

本来なら「わかった、それじゃぁ3匹目はクロム以外の皆で仕留めよう」とでも返すべきだろう。
だが、薄暗い天井から忍び寄って来るクォーツセンチピードを前にそんな余裕はない。
頭上へバルディッシュを振り上げ攻撃を加えたが寸でのところで避けられてしまった。

>「こいつっ……いつの間にくそっ! 虫ってやつはどうして空気が読めねぇんだよっ……!」

一方、クロムは水晶百足に組みつかれ、まさに全身を絞めあげられている最中だ。
本来ならなりふり構わず助けに行くべきだろうが、その余裕がレインにはなかった。
クロムの方へと少しでも注意を逸らすとすかさず二匹目が攻撃を仕掛けてくる。
パーティー達も5名のうち3名が負傷しており長期戦は不利。長くは持たないだろう。

「これは……!」

クロムを戦力として当て込んで魔物の各個撃破を狙ったが、むしろ分断されてしまった。
手早く3匹を片付けなければパーティー全滅も考えられる。完全に作戦ミスだ。
どうしようもない後悔が波濤のように押し寄せてくる。

(こんなはずじゃぁ……!)

>「……しゃーない。ちょっとマジにならなきゃ駄目……かっ!」

しかし、不利な流れを変えたのは他でもないクロムだった。
絞めあげられていたのも束の間、目映い光を全身から発すると
パンをむしるかのように硬い百足を容易く解体してみせたのだ。

>「おーい、教会より派遣された宣教師マグリット、ただいま到着ですよー」

百足が解体されたのと時を同じくして現れたのが、新たなる増援。
神懸かり的なタイミングだ。なぜならパーティーが3匹目の百足に苦戦を強いられ、
一人は昏倒し、一人は無数の脚に絡めとられようとしていたのだから。
クロムはというとノルマを達成し、静観を決め込んだようだ。
それはこちらの実力を図っているかのようにも感じられた。

>「皆さん大丈夫ですか?教会所属の宣教師マグリットがお助けしましたよ!
>感謝の気持ちは改宗と喜捨にて受け付けて……!」

取るに足らない事のように百足を両断すると、宣教師のさが(?)を発揮している。
そこでレインは意識を切り替えた。自分自身も目の前の敵を集中しなければならない。
0027レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/12(金) 23:26:05.57ID:fkKYIbeT
百足のオーソドックスな弱点はクリスタルゴーレムと同じく関節となる。
しかし、バルディッシュによる攻撃は大振りになりがちでどうにも当たらない。
機敏に動く百足をなかなか捉えられず、攻めあぐねているのが現状。

だから武器を替える。召喚魔法で両手武器のバルディッシュを消滅させて新しく召喚。
レインの手に現れたのはエストックだ。鎧通しとも呼ばれる、敵を突き刺すための剣。

「一気に畳みかけるっ!」

2匹目のクォーツセンチピードがレインを絞めあげようとその長い胴で包囲を始めた。
レインはぎりぎりまで引きつけたところで、両手で握ったエストックを硬い水晶の胴と胴を繋ぐ関節に突き刺す。
痛みに悶絶して怯んだ隙に百足へと飛び乗り、新たに召喚したエストックを頭と胴の間を深々と一突き。

ゆっくりと地面へと倒れ込むクォーツセンチピードを一瞥もせず、マグリットの方を見た。
粉々になった百足の頭部が地面にめり込んでいる……なるほど、頼んだ増援はかなりの強者揃いらしい。
回復役としてパーティーに一人欲しい僧侶職だが、回復以外の役割を持ち辛いのがネックになりがちだ。
マグリットの場合はそれを完全に克服している。これほど頼もしい追加パーティーもいない。

「ありがとう、マグリットさんがいなければどうなっていたか……俺はレイン。
 一応勇者だよ。回復魔法は使えないかな?連戦で仲間が負傷してて……」

負傷者が出たので手当てのため小休止。その間レインは軽く周囲を探索してみた。
洞窟の真ん中辺りまで来たはずだが、少年がいた形跡は見当たらない。
考えてみれば足下一面も硬質な水晶なのだから、足跡すら残らない。

「やっぱり、子供は最深部か……」

憂いを帯びた顔で奥を見据える。

「俺はこれまで、魔王を倒し得る伝説の武器や防具を求めて色々なダンジョンを潜ってきた。
 この水晶の洞窟もそのひとつだけど倒せずに逃げるしかなかった魔物も何体かいる。
 あいつとは……もう出くわしたくない」

いつになくレインは弱気だった。
結果的に無事ではあったが、マグリットとクロムがいなければどうなっていたことか。
駆け出しの頃、他の勇者に誘われてこの洞窟に潜った時を思い出す。手も足も出ず敗走した過去をだ。

戦わないに越したことはないが、虱潰しに探す手前、可能性は十分考えられる。
その魔物の名をアメトリンキマイラという。鉱物系の混合魔獣で高い知性に稲妻と猛毒を吐く能力をもつ。
五メートルを超える体躯は見る者全てを畏怖させるだろう。

「……子供が無事なら良いんだけれど」

その時だった。微かだが子供がすすり泣くような声が聞こえたのは。
同時に、僅かに瘴気が立ち込め、剣呑な気配が漂いはじめる……。
近くにまだ魔物が潜んでいるらしい。


【まもののむれをやっつけた!近くに子供と別の魔物が潜んでいる様子】
0028クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/13(土) 22:34:10.52ID:qrZkOW9R
>>25-27
クロムが戦闘観察を始めると同時に戦場に現れた褐色肌の長身美女──宣教師マグリット。
その戦闘力は一般的な僧侶のイメージに反した驚異的なものであった。

(…………そうか、こいつ)

そこに自分と同じ──いわば“人外”のニオイを鋭く嗅ぎ取ったクロムは、
口元にうっすらと笑みを貼り付けた顔でマグリットに話しかける。

「──あんた尼さんの癖に強いね、かなり。まさか美人の皮を被った“獣”じゃねーよな、中身は? ……なんてな。
 俺はクロム。このパーティの増援に来た助っ人さ。ま……あんたの“同類”ってわけだ。仲良くやってこうぜ?」

そして言い終えると同時に、視線をレインに向けると、

>「一気に畳みかけるっ!」

そこでは丁度ムカデが撃破されたところであった。
増援を除いたパーティの中でムカデを苦にしないレベルなのはやはりレインだけだったらしい。

(ってことは……ゴーレムも実質レイン一人で倒したってわけだ。これじゃ増援を呼ぶわけだ)

などとクロムが分析していると、勝利の後だというのに表情を一層暗く沈めたレインがぽつりと呟いた。

>「俺はこれまで、魔王を倒し得る伝説の武器や防具を求めて色々なダンジョンを潜ってきた。
> この水晶の洞窟もそのひとつだけど倒せずに逃げるしかなかった魔物も何体かいる。
> あいつとは……もう出くわしたくない」

それを聞いたクロムは、対照的なけろっとした表情で言葉を紡ぎ出す。

「ふーん。要するにボスっぽい奴がこの洞窟にも居て、そいつは恐らくまだ誰にも倒されてないってわけだ。
 それはつまり、隠し財宝がどこかにあればまだ誰にも回収もされてないってことでもあるな。
 ……いいねいいね。やる気が出てくるじゃん。実は俺も珍品、貴重品には目がなくてさ。
 探してるんだよ。特に“クセ”のある武器や防具をな」

まるで子供の救出はおまけとでも思ってるかのように。そういう意味でもレインとは対照的だ。


「お……何かありそうだな」

不意にクロムが興味を示したのは、子供の声が聞こえてくる通路の奥──
ではなく、通路の壁に空いた小さな穴であった。大きさは大人の頭がすっぽり入るくらいだろうか。
彼はそこにお宝のニオイを感じた取ったといわんばかりに、無造作に手を突っ込んで探り始める。

だが、ややってその手が掴んで引き出したのは、体長30pほどの蟻であった。
それも毒々しい色の謎の鉱物で構成された、一目で小型の魔物と判る。
咄嗟にクロムは「うわキモッ!」と地面に叩きつけ、グシャりと思いっきり踏み潰すのだったが──

──それが呼び水になったのだろうか。
突然、通路の奥からとてつもない雄叫びが発せられたかと思えば、
やがてそこからズシ、ズシと巨大な足音を鳴り響かせる何かが現れたのだ。
暗くて遠目にはその正体こそはっきりと見て取れないが、確実なのは大型の魔物であるということだろう。

「鬼かそれとも蛇か……。いずれにしてもパパッと片付けちまおうぜ? この洞窟虫ばかりで気持ち悪ぃわ」

【マグリットさんこれからよろしくお願いします!】
【魔物の正体はお任せします】
0029マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/16(火) 23:34:17.14ID:nfkDgj4n
>「──あんた尼さんの癖に強いね、かなり。まさか美人の皮を被った“獣”じゃねーよな、中身は? ……なんてな。
> 俺はクロム。このパーティの増援に来た助っ人さ。ま……あんたの“同類”ってわけだ。仲良くやってこうぜ?」


クォーツセンチピードを倒し、祈りをささげていたところでクロムからの言葉に顔を上げる
マグリットは貝の獣人、それも蜃と呼ばれるものであり、故に様々な貝の能力を使える

隠しているわけではないが、人あらざるものというのは説明を要し時として警戒心を抱かせてしまう
それは布教にとって不都合なものであり、人としての形態をとれるのであればあえて明かすこともないとしていた
故にクロムの探りの言葉も笑顔で流し、更にそこに勘違いも重ねる

「はい、出所は違えど同類ですし、是非とも仲良くしていただけると嬉しいです」

そのまま聞けばクロムが魔族、自分が獣人であるが同じ人外と言っているようにも捉えられるかもしれないがそのような意図はない
出所とは所属先が冒険者ギルドか教会かという違いであり、同類とは救援要請を受けてやってきた増援というところというクロムの言葉の表層をそのまま辿っただけなのだから

頭一つ分小さなクロムではあるが、ムカデを引きちぎるさまを見てその実力を認め固く握手をするのだった
職業的には僧侶ではあるが、宣教師という職種柄考えをめぐらすより肉体言語の方を重視する、それがマグリットなのだ


>「ありがとう、マグリットさんがいなければどうなっていたか……俺はレイン。
> 一応勇者だよ。回復魔法は使えないかな?連戦で仲間が負傷してて……」

そうしている間にレインも水晶ムカデを倒しやってきた
こちらも単独で撃破という力を見てマグリットは満足げにその言葉に応える

「いいえ、こちらこそ貴族の子息救援に呼んでいただきありがとうございます
教会を代表して感謝と尽力を尽くしますですよー!」

教会と言えどもその内情は慈善事業をしているわけではない
信仰を得て勢力を拡大するために日々活動しているのだし、王都の教会ならば様々な利権、利害、権力闘争にまみれている
そういった中で【冒険者ギルドからの要請】で【貴族の子息の救出応援要請】となれば二重に美味しいのだ

応援要請に応えた時点で冒険者ギルドとの関係強化
救出に向かったという事で貴族へ恩を売れる
もしも救出失敗したとしても主導が冒険者ギルド故に責任も負う必要がない

「それでは負傷者の方々の治療を行います。
ただ治療には深い祈りと時間がかかりますのでしばしお待ちを」

レインとクロムが話している間にマグリットは重症者から回復の祈りをささげていく
ぼんやりとした光が倒れている冒険者を包み、ゆっくりとだが傷はふさがり顔色が戻っていくがその進みは遅々としたもの
戦闘力重視のマグリットの回復魔法は時間がかかるうえに効果が薄いものであるが故、全快するまで時間は待ってくれなかった

重傷者の一人が何とか動ける程度まで回復したところで辺りに瘴気が漂ってくる
それとともに子供のすすり泣きが聞こえたのだが、それはすぐに巨大な雄叫びにてかき消されてしまった
大きな足音を響かせながら接近してくるそれにマグリットの顔は青ざめる
動けない重傷者はもう一人いるのだから

「拙いですね、こういった場所で雄叫びを上げ足音を響かせるというのは、自分の位置が相手に知られても問題ない存在であるという事でしょう
すなわちこの洞窟で一番強い魔物なのかもしれません
傷ついた者は後ろへ!
重傷者はもう一人います。
動けるまで回復させたらお手伝いしますので、それまで時間を稼いでください」

マグリットは一心不乱に祈りをささげ、倒れている冒険者に回復の光を当て続けている
0030レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/18(木) 20:27:31.76ID:BRoNnMuI
ダンジョンといえば探索、探索と言えば財宝。冒険者は一獲千金を求めてダンジョンを潜る。
レインもそうであり、増援として参じた剣士クロムもまたそうであるようで。

>「お……何かありそうだな」

子供の声を聴き取ろうと耳をそばだてていると、クロムが魔物の気配がする方を向く。
そして無造作に通路に空いた穴に手を突っ込む。中から出てきたのは一山の金銀財宝……。
……ではなく、何とも毒々しい鉱物でできた、巨大な蟻だった。30センチほどもある。
鉱物と虫の合いの子は、クロムの生理的嫌悪によって踏み潰されてしまった。

「メノウアント……さっき感じた気配はこいつだったのか」

この洞窟内で出現する魔物の中で最弱の存在だ。
特徴は骨ごともっていかれかねない顎の力だが、
数の暴力で襲い掛かられるとまぁまぁ厄介ではある。

「……今、揺れた?」

洞窟内が揺れてざわついたような、くぐもった振動。
足音だ。人間のものではない。もっと巨大な何かだ。
それが魔物である、というのは想像に難くない。

>「拙いですね、こういった場所で雄叫びを上げ足音を響かせるというのは、自分の位置が相手に知られても問題ない存在であ>るという事でしょう
>すなわちこの洞窟で一番強い魔物なのかもしれません
>傷ついた者は後ろへ!
>重傷者はもう一人います。
>動けるまで回復させたらお手伝いしますので、それまで時間を稼いでください」

「わかった。負傷者は頼む!」

エストックを召喚したまま前衛に出た。
巨大な魔物はやや離れた暗がりの位置から動く気配がない。
いまいち正体が判然としない距離感のまま、緊張を保っている。
だがその威容、気配はどことなく覚えがある気がした。

>「鬼かそれとも蛇か……。いずれにしてもパパッと片付けちまおうぜ? この洞窟虫ばかりで気持ち悪ぃわ」

「確かに。でも先に仕掛けるのは危険だよ。
 相手の正体が分からない以上、ここは慎重に――……」
0031レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/18(木) 20:28:53.47ID:BRoNnMuI
レインが喋り終わらぬ内に痺れを切らした魔物が接近をはじめた。
距離が近付くにつれ、正体が露になる。
獅子の頭、山羊の胴、毒蛇の尻尾を持ち、紫水晶と黄水晶が混じり合った体躯。
その巨体を揺らし、足音を立てながら突進を敢行する。

「……アメトリンキマイラ!?」

洞窟の番人(ボス)、混水晶の魔獣が姿を現したのだ。
まずはこの突進を止めなくてはいけない。
背後には回復のため祈りを捧げるマグリットと怪我人がいる。
と、いっても5メートルはある巨大な魔物だ。
そんな魔物の突進を単純な腕力で止められるわけがない。

レインは壁へ素早くよじ登ると、丁度良い水晶の突起に掴まり、天井にぶら下がる。
そしてタイミングを見計らって魔獣の背中に飛び乗った。
そのまま頸椎へ向けて渾身の刺突を繰り出した。

「くそっ、硬すぎる!」

刀身が根元から折れた。
クォーツセンチピードやクリスタルゴーレムとはまるで硬度が違う。
アメトリンキマイラは勢いを緩めることなくマグリット達の方へと猛進する。

「クロムッ、気をつけろ!こいつの攻撃方法は電撃と猛毒の……」

言い終わらぬ内に口部に閃光が灯った。
それは電撃となって不規則な挙動で拡散しクロムへと迫る。


【洞窟のボスが登場。突進しながらクロム目掛けて電撃を吐く】
0032クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/21(日) 15:39:56.02ID:3XzpGLRb
獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾……そしてそれらを構成する物質は希少な輝きを放つ鉱石。
レインは正体が露わになったその魔獣をこう呼んだ。

>「……アメトリンキマイラ!?」

「正に文字通りってやつだな。捕まえて売ったら結構な高値がつくんじゃねーか?」

などと、軽口を交えるクロムだが、その表情はいつになく締っている。
凝らすように目を若干細めるその仕草は、警戒に値する相手と見做しているからに他ならない。
これまで積み重ねてきた数多の実戦経験。それが彼に語り掛けているのだ。
『こいつはこの洞窟の“主《ボス》”だ。油断するな』──と。

突進してくるキマイラに飛び乗り、隙だらけのその背中にエストックを繰り出すレイン。
しかし、効かない──。
刃は皮膚に触れた瞬間粉々となったのだ。キマイラには蚊に刺された程の感覚もないだろう。

(ありふれた武器じゃレインの腕でも傷一つ付けられない……そんなレベルの硬度か)

クロムは流石に素手じゃ無理だな、と内心続けて、いよいよ鯉口を切る。
前からはキマイラ。後ろには仲間を治療中で動けないマグリット。
そしてレインも再び得物を手にして攻撃に移るまで数秒は要するであろうこの状況の前では本気にならざるを得ない。
パーティの大量死という最悪の事態を防ぐには、差し当たってクロムが一人で何とかするしかないのだから。

>「クロムッ、気をつけろ!こいつの攻撃方法は電撃と猛毒の……」

キマイラの口部から激しい光が飛び出したのはその時だった。
不規則な軌道を描くそれは、レインの言う電撃に違いない。
世の中には雷系魔法の威力を半減させる装備も存在するが、今のクロムの装備では直撃すれば丸焦げであろう。
かといって躱すことはできない。軌道を読み難い電撃を躱すのは困難、という意味ではない。
躱せば、後ろに居るマグリット達が代わりに直撃を受けてしまうのが明らかだったからだ。
0033クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/21(日) 15:48:06.68ID:3XzpGLRb
(──なら)

素早く剣を抜き放つと同時──クロムは自身の前方の空間に“鞘”を投げ放つ。
これは自身の身代わりを兼ねたキマイラへの目くらまし。

『グォォオオオオオオオオオオオ!』

かくしてその目論見は成功する。
電撃を受け止めた鞘が撒き散らす激しい光と火花が、獅子頭を絶叫させて前進をストップさせたのである。
しかし、その隙を突いて一気にキマイラの側面に回ったクロムを待ち構えていた者が居た。

『シャアアアアアアアアア!』

尻尾《蛇》である。それも大口を開けて正に飛び掛かってきているではないか。
視界が効かないにもかかわらず、動きを完全に把握していなければできない反応を目の当たりにして、
クロムは蛇には体温を感知する器官があるという話を思い出すが──

「──お前ぐらいの速さなら、まだ何とかなるんだな、これが」

強力な顎による奇襲を柔軟かつ素早い体捌きをもって紙一重で躱したクロムは、
手にした特徴的な黒剣を地面に向けてこれ見よがしに一振りする。

蛇の上顎から頭部にかけてがいきなり首から別れ落ちたのはその直後だった。
既に斬っていたのである。躱した際に、そのすれ違いざまとなった時に、とてつもない速さで。

ぶしゅぅぅぅ! と紫色の液体が傷口から噴水のように溢れ出し、戦場を見慣れない色に変えていく。
これには蛇の奇襲にも顔色一つ変えなかったクロムも思わず目を丸くした。
この洞窟の魔物は鉱物を基に創られた人造物の筈で、それが本物の生物のように体液を有していた事に驚いたのだ。
実際、ムカデもアリも、引き千切ろうが粉々に踏み潰そうが体液は一滴も出なかったのだが……。

(あるいはこいつだけ駆動の為の溶液が内部に満たされていた特別なタイプだったのか……)

そう解釈したところで、クロムは一旦、頭を横に振って考えを振り払おうとする。
まだ獅子と山羊の二つを残しており、戦闘が終わったわけではない。余計な事を考えている暇はないからだ。

しかし、頭を横に振った際、たまたま視界の端に飛び込んできた光景が、彼にそれを許さなかった。

「……!」

メノウアント。恐らく戦場に迷い出たのであろう一匹が、紫色の体液を浴びてひっくり返っている。
見た目は無傷であるにもかかわらず、如何にも虫の息という感じに、ピクピクと痙攣して。
これは典型的状態異常の症状。故にクロムは直感する。

「やべぇ! こいつは“毒液”だ!」

【キマイラの足止めに成功し、蛇の頭部をぶった切るが、そのせいで猛毒が周囲にばら撒かれてしまう】
0034創る名無しに見る名無し垢版2020/06/21(日) 17:11:22.80ID:0WATSczn
いいね
0035マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/25(木) 19:23:42.81ID:3Ua9o/92
ホタテは全周囲に複数の眼が配置されており、360度の視界を得ることができる
しかしその視覚情報を処理するには脳が未発達過ぎるのが問題ではある
貝の獣人であるマグリットはその能力が使え、そしてその視覚情報を処理できる脳を持っていた

故に、見ていた
負傷者を回復させる祈りを捧げながら、こめかみに、うなじに、肌の露出部に発生させた目で背後に出現したアメトリンキマイラの姿を
内心悲鳴を上げるが、一応とはいえ神職につくものが治療を投げだして逃げるわけにもいかず
少しでも治療を早く終わらせようと念を込めるが、所詮は一応の神職でしかなく、回復は遅々として進まない

天井にしがみつき、渾身の力で繰り出されたレインの刺突が弾かれ、クロムに電撃が発せられたところで覚悟を決め身を固くする
協力体制ではあるし、水晶ムカデでとの戦いである程度の力はわかっているが、流石に全幅の信頼で背中を任せられるほどの信頼関係はない
神職としての体面もあるが、自身の任務と命には代えられない
義務感と体面と保身の我慢比べがマグリットの中で繰り広げられていたのだが、それが見た時には手遅れだった

吐き出された電撃を防ぐ術はマグリットは持ち合わせていない
それどころか、水を満載した樽を担いでいるので効果は抜群であろう
重量ゆえに素早い移動もできず逃亡はもちろん回避すら不能
ならばあとは耐える覚悟を決めるだけ、だったのだが

来たのは雷撃の衝撃ではなく耳を切り裂くようなアメトリンキマイラの鳴き声
クロムが投げた鞘が電撃を受け止め激しく光と火花をまき散らしその突進を止めたのだ

それだけでなく、その閃光の中で襲ってきた尻尾部分の鎌首をすれ違いざまに切って落とす鮮やかな手際
改めてクロムの強さに驚きつつも、ここに至りてようやく冒険者の意識が回復した

「気が付きましたね、まだ回復させ切っていませんが動けるはずです
這ってでもいいので下がってください」

自力で動けるようになったところで治療を中断
アメトリンキマイラの単純な強さだけでなく、体液が毒液である旨の声を聞きそちらの対処を優先させざる得なくなったからだ

「お待たせしました。他の皆さんは自力で動けるようになりましたのでお手伝いしますよ」

声を掛けながらアメントリンキマイラに向き合うのだが、周囲は既に毒液がばらまかれ、それは気化して周囲を冒していく
電撃に話す術もないマグリットだが、毒液ならば対処の術を持っているのだ
0036マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/25(木) 19:27:39.74ID:3Ua9o/92
「皆さん、私は貝の獣人です。
ですので驚かずに戦いに集中してくださいませ
これは生態濾過機と呼ばれる貝の能力です!」

宣言と共にマグリットのうなじ辺りから太くぬめった管が伸びて頭上にうねる
これは貝の給水管であり、普段は樽に繋がっており水を吸い込んでいる
それを腕に添うように伸びる放水管を通じて吐き出し、その吐き出す圧力によって砲弾にもなれば刃にもなる
のだが、今は空中に霧のように漂う毒を吸い込んでいるのだ
マグリットの褐色の肌の濃さが徐々に増してきているのは、それだけ毒を吸収していると言えるだろう

「むむむ、これはかなり強力な毒ですね
あまり長く時間をかけていては浄化しきれないかも
鉱石の装甲が邪魔なようですし螺哮砲で……!」

鉱石は硬くはあるが、特定周波数の音波を当てると崩すことができる
その技が螺哮砲といい、クォーツセンチピートの装甲も脆くして倒したのだ
黄色か紫か的を絞ればある程度時間がかかっても崩す事ができるし、そこをつけば倒せるという算段だったのだが、一瞬マグリットの思考が停止する

その隙を見逃すわけもなく、アメントリンキマイラの前足がマグリットを薙ぎ払ったのだ
巨大ムカデの体当たりにも耐えたマグリットの足腰をもってしてもこの一撃には耐えられるものではなかった
軽々と吹きとばされ壁に叩きつけられたのだが、その体制は崩れていなかった

前腕部から生やした巨大な二枚貝の殻を盾としてギリギリのところで直撃を下げていたのだった
しかし背負っていた樽は砕け、法衣もボロボロになって出血部分もある
直撃を防いでもその威力は十分なものであった

しかしマグリットの思考はそこにはない

「この近くで子供の泣き声が聞こえましたよ!
件の御子息がいるのかもしれません
毒は浄化していますが完全ではなく子供では耐えられないかもしれませんので探してください!」

そう、今回の目的はアメントリンキマイラの討伐ではなく、貴族の子息の保護なのだから
キマイラの動きに注意しつつ、目の数を増やし周囲に子供の姿がないか探している

【負傷者の応急処置完了】
【周囲の毒を吸収し浄化】
【キマイラの一撃を食らい吹きとばされるもガード成功】
【子供の泣き声に気づき伝達】
0037レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 21:58:49.66ID:/2lJVEUx
自身の攻撃が失敗に終わり、新たに召喚を試みる。
――駄目だ。どうしても間に合わない。
レインの思考をよそに、クロムは遂に剣を抜く。
そして、前方の空間目掛けて鞘を投げつけたのだ。

「その手があったのか……!」

咄嗟に手で目を覆うと、目映い閃光が洞窟内でスパークする!
不用意に電撃の光を浴びたキマイラは絶叫を響かせながら突進を停止した。
それだけではない。クロムは怯んだ隙を突いて、既に側面へと回りこんでいる。

(凄い……単に防御するだけじゃなく次の動きに繋がっている!)

だが、待ち構えていたのはアメトリンキマイラの尻尾――蛇だ。
キマイラ本体から独立して動く蛇は、獰猛な鳴き声で威嚇しながら少年剣士へ迫る。

>「──お前ぐらいの速さなら、まだ何とかなるんだな、これが」

攻撃を躱したクロムの腕がとてつもない速さで蛇を斬った……はずである。
レインの目には、剣の軌道らしきものが視えただけで、はっきりとは捉えられなかった。

東方に伝わる抜刀術なるものを想起したが、恐らく単純に速すぎるのだ。
類稀なる戦闘センスと身体能力……どれも自分にはない才能だ。
そこまで思考を巡らせて、レインはようやく自分の愚に気がついた。

(しまった!クロムは蛇の尾には毒があることを知らない!?)

>「やべぇ! こいつは“毒液”だ!」

青白い燐光を灯した洞窟を紫の液体が染めていく。
周囲に猛毒の液体がばら撒かれてしまった。
レインは即座にキマイラから飛び降り、距離を取って口元を覆った。

(触れても即死級……だけど、あの毒液は即座に気化する……。
 吸入すればあっという間にあの世行きだ……撤退するしかないのか?)

目と鼻の先に子供がいるかもしれないのに、撤退するのか?
だが毒液が撒かれた今、撤退しなければ全員の命に関わる。
初めてこのダンジョンに挑んだ時とは逃走の重さが違う。

>「お待たせしました。他の皆さんは自力で動けるようになりましたのでお手伝いしますよ」

――心で揺らぐ天秤を止めたのは、回復に専念していたマグリットだった。
その強い意志を秘めた双眸は、何者よりも信頼に値するように感じた。
0038レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:02:34.52ID:/2lJVEUx
「はじまりの街」と呼ばれるだけあって、王都の冒険者ギルドには玄人がほとんどいない。
この依頼を請け負った時も、増援を呼んだ時も、戦力としての期待は然程できなかった。
だから、レインは可能な限り仲間を生存させるため一人で戦うつもりだった。

だが、現実はその逆だ。
増援に来てくれたクロムとマグリットに助けられてばかりいる。
もし二人がいなければ、パーティーの誰かが水晶百足に殺されていただろう。
もし二人がいなければ、魔獣の雷と毒の前に、やはり命を失っていただろう。

自分ではない誰かに助けられながらダンジョンを潜る……。
ソロや急造パーティーで済ませてきた彼には初めての出来事だった。

>「皆さん、私は貝の獣人です。
>ですので驚かずに戦いに集中してくださいませ
>これは生態濾過機と呼ばれる貝の能力です!」

マグリットの貝としての能力が、気化した毒を吸い上げていく。
これで、まだ戦える。

>「むむむ、これはかなり強力な毒ですね
>あまり長く時間をかけていては浄化しきれないかも
>鉱石の装甲が邪魔なようですし螺哮砲で……!」

一瞬の間を置いてキマイラの前足がマグリットを吹き飛ばした。
猛烈な勢いで壁に叩きつけられ、常人ならばあるいは即死しているだろう。
現にマグリットの法衣はボロボロになり、出血すらしている。
……が、獣人ゆえタフなのかすぐさま起き上がって叱責を飛ばした。

>「この近くで子供の泣き声が聞こえましたよ!
>件の御子息がいるのかもしれません
>毒は浄化していますが完全ではなく子供では耐えられないかもしれませんので探してください!」

こう易々と見つからないのであれば、子供は目に見える場所にはいないのだろう。
レインの推測はこうだ。子供は自分達より奥にいた。
最深部まで到達したが、キマイラに見つかって逃げてきた……。
そしてキマイラは子供を見失い、『より強大な侵入者』と出会って標的を変えた。

――この洞窟は大人が隠れられるような場所はない。
が、小さい子供が入れそうな穴や、這っていけば進めそうな隙間なら探せばある。
子供はそのような場所に隠れている可能性が高い。
0039レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:05:08.04ID:/2lJVEUx
しかし現実的な問題がひとつあった。
そんな場所に隠れている子をどうやって見つける?
声を頼りにキマイラが暴れている中を悠長に探し回れるのか。
できるのだ。レインが召喚できるのは、何もありふれた武器ばかりではない。

「子供は俺が見つけるよ。二人とも……キマイラを頼む」

返事は聞いていなかった。意識していなかったが、本来なら頼みもしないことを頼んでいた。
会って間もない関係にも関わらず、レインは二人をまるきり信頼していたのだ。

「召喚、天空の弓――『ストリボーグ』ッ!」

レインの身体が淡い光に包まれる。旅人の服や外套が消失し、
さしずめ薄緑色の狩人服といった趣の装備へと姿を変えた。
片眼鏡を掛け、手には長弓が握られている。
不思議なことに、番えるべき矢だけが存在しない。

装備、天空の聖弓兵。
遥か西のダンジョン『埋もれた王城』で手に入る魔法装備。
片眼鏡もまた魔法のアイテム……いわゆる魔導具と呼ばれるものである。
レンズをターレットのように回すことで遠見や透視の力を発揮できる。

「……見つけた。10時の方向、壁面の穴の奥に子供がいる」

首を振って辺りを見渡し、子供を捕捉すると同時。
レインの存在に気付いたキマイラが咆哮を上げ雷撃を放たんとする。
一方でレインもまた、ノールックで背後へ長弓を構えて魔力を込める。

ストリボーグは、魔力を風の矢に変換する魔法武器だ。
魔力を注げば注ぐほど強大かつ長射程の矢を形成できる。

キマイラの雷撃と風の矢が放たれたのは同時だった。
両者は激突し、激しい光と轟音を立てながら相殺されていく。
相殺を狙ったのは敢えてだ。子供の下へ向かう隙をつくため、二射も放たず駆け出す。

「もう大丈夫だよ。さあ、君の家へ帰ろう」

穴の中で泣きじゃくる子供を見てレインは手を差し伸べた。


【子供を保護。アメトリンキマイラの撃破はお任せします!】
0040レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:11:00.97ID:/2lJVEUx
【ぐぁぁぁ!すみません、↑のレスはなかったことにしてください(汗)早とちりしました】
0041レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:27:20.35ID:/2lJVEUx
>>39差し替え

しかし現実的な問題がひとつあった。
そんな場所に隠れている子をどうやって見つける?
声を頼りにキマイラが暴れている中を悠長に探し回れるのか。
できるのだ。レインが召喚できるのは、何もありふれた武器ばかりではない。

「召喚、天空の弓――『ストリボーグ』ッ!」

レインの身体が淡い光に包まれる。旅人の服や外套が消失し、
さしずめ薄緑色の狩人服といった趣の装備へと姿を変えた。
片眼鏡を掛け、手には長弓が握られている。
不思議なことに、番えるべき矢だけが存在しない。

装備、天空の聖弓兵。
遥か西のダンジョン『埋もれた王城』で手に入る魔法装備だ。
片眼鏡もまた魔法のアイテム。いわゆる魔導具と呼ばれるものだ。
レンズをターレットのように回すことで遠見や透視の力を発揮できる。

「……見つけた。10時の方向、壁面の穴の奥に子供がいる」

首を振って辺りを見渡し、子供を捕捉すると同時。
レインの存在に気付いたキマイラが咆哮を上げ雷撃を放たんとする。
一方でレインもまた、魔獣の方へと振り返り、長弓を構えて魔力を込める。

ストリボーグは、魔力を風の矢に変換する魔法武器だ。
魔力を注げば注ぐほど強大かつ長射程の矢を形成できる。

キマイラの雷撃が放たれるより速く、風の矢が《獅子》の口部から脳を射抜いた。
口で溜められていた稲妻は暴発し、キマイラは今まで聞いたことのないような鳴き声をあげる。
だが、それでも――……。キマイラは未だ健在。たとえ頭を失おうとも……。
《山羊》の胴で鼓動を続ける心臓を止めるまで、混水晶の魔獣は死なない。

「――――え?」

結果。子供の下へと駆け出した隙を突かれたレインは、《山羊》の不意のタックルを浴びる。
枯葉のように脆く吹き飛んだ弓兵は、猛烈な衝撃音を響かせながら水晶の壁面を粉々に砕いた。
もうもうと上がる煙の中、咄嗟に召喚した盾で防いでなお、瀕死の重傷だった。


【子供を発見。《獅子》の頭を射抜くも瀕死】
0042創る名無しに見る名無し垢版2020/06/28(日) 21:41:34.48ID:CD7DjitI
Ok
0043垢版2020/06/28(日) 22:57:26.11ID:fgMvjY6F
ですよね
0044クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/28(日) 23:23:24.47ID:WI+LwoIE
毒液が消えていく。
土に染み込んでいるわけではない。あっという間に気化しているのだろう。
周囲に漂い始めた言いようのない独特の刺激臭がそれを証明している。

(外気に触れた途端一気に気化する猛毒……タチが悪いぜ。洞窟という密閉空間ではこれ以上ない凶悪な武器だ)

やはり、この洞窟を少し甘く見ていた……と思わず舌打ちするクロム。
キマイラを倒せる屈強なパーティであればある程、尻尾を破壊して内部の毒を飛散させるケースが出てくる筈だ。
つまり尻尾の毒は弱者を効率良く狩る為の武器ではなく、むしろ強者を狙い撃ちにしたトラップなのではないだろうか。

とするならば、この洞窟を攻略するには単純な“強さ”以外の力も必要という事になる。
すなわち毒を無効化する魔法や能力である。
残念ながらクロム自身にそのような力はない。
だが、その代わりとなるモノを彼は既に身に纏っている。

かつて『魔導士の森』と呼ばれる場所で手に入れたアイテム『魔人の服』である。
これは装着した者を毒、麻痺、眠り、混乱などの状態異常から即時自動回復させる便利な服であるが、
一方で装着したら死ぬまで脱げない上に、常に生命力を奪い続ける“呪い”までもが付加された危険なシロモノでもある。
もっとも、“魔族”の特性で呪いを無視できるクロムにとっては危険など一切ない、ただ便利なだけの服に過ぎない。

つまり彼の懸念は、猛毒から自らの命を守れそうな者が、このパーティの中で自分以外に果たしているのか?
という点に尽きるのだ。
そして見たところ、解毒という高位な魔法を修得していそうな人材は居そうにもない。

(まずいな……。このままだと仲間がまとめてあの世に行きかねねぇ。貴族の息子を救うどころじゃなくなるぜ)

かといって一時的にせよ洞窟外に退避するという選択肢はありえない。
そもそも気化毒が洞窟内に充満して行けば、件の子の命すら絶たれかねない状況なのだ。
結果的に見殺しにしたことになれば依頼を受けた冒険者としての沽券に関わる話にもなるだろう。
では他のメンバーを洞窟外に退避させて、子の捜索と救出をクロムが引き受けるという手はどうだろうか?
いや駄目だ。この洞窟の出口は──恐らくだが── 一つしかない。
子供を救出したところで、毒が充満する道を戻らなければならないのであれば、解毒の術を持たない限り意味はなくなる。

>「皆さん、私は貝の獣人です。
>ですので驚かずに戦いに集中してくださいませ
>これは生態濾過機と呼ばれる貝の能力です!」

退避は駄目。このまま救出に向かうのも駄目。では他に有効な手段が何かあるのかと問われれば沈黙するしかない。
だが、そんな八方塞がりの状況を打開する手段を持つ者がいた。
マグリットである。
人間には無い獣人ならではの器官を用いて何と空気中の毒を吸い込んでいくではないか。

「魔法ではなく獣人の特技……! こいつぁ盲点だったね。ナイスだ宣教師!」

これにより意識を毒からキマイラに向けることができたクロムは、次なる黒剣の餌食となる箇所を見定めて跳躍する。
狙いは胴体。剣を両手持ちに切り替え、頭上に振りかぶる。上半身と下半身を真っ二つに切り離すつもりなのだ。
0045クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/28(日) 23:34:03.13ID:WI+LwoIE
(──な!?)

しかし、予想外の事が起きたのは、剣を振り下ろして刃を直撃させた正にその時であった。
甲高い金属音が響く同時に、刃が弾かれてしまったのである。
おまけにキマイラの表皮にはかすり傷一つ付いていない。ノーダメージというわけだ。

ダメージがなければ、キマイラが攻撃動作に移るのも当然容易く、そして早い。
もしクロムの一刀が決まっていれば決してできる筈のない前脚での攻撃。
それを真正面から受けてマグリットが勢いよく吹っ飛んだのは、クロムが唖然とした表情で着地した瞬間だった。

>「召喚、天空の弓――『ストリボーグ』ッ!」

レインがすかさず攻撃態勢に移る。
新たな武器である長久──彼は武器召喚の魔法が使えるのだろう──を手に、獅子目掛けてその弦を引いたのだ。
そこに本来ある筈の矢が見当たらないのはその武器が特殊なものである事の証左であろう。
要するに本物の矢を放つ為の武器ではなく、使用者の魔力を吸って魔法を撃ち出す魔導具。
それがストリボーグの正体に違いないのだ。でなければ矢の無い弓を引く説明がつかない。

そして、レインの指が弦から離れたのは、獅子の口部が光り、電撃が繰り出される──よりも早かった。
瞬間、クロムは見た。
風を起こし、周囲の土埃を巻き込んだ“空間の歪み”が、凄まじい速さで獅子に向かいその口部に突き刺さったのを。
歪みの正体は恐らく高密度の空気──それも先端が円錐形を成し、それが竜巻のように高速回転した矢。
小さいながらも暴風の如くの破壊力があったのだろう矢を受けて、獅子は電撃を暴発させ苦悶の声を挙げる。

これを断末魔と解釈するのに何の不思議があるだろう。
少なくともクロムはそう解釈したし、直ぐに子供の声の方向に駆け出したレインも恐らくそうだった筈だ
だが、それが単なる勘違いに過ぎない事を思い知らされるまでそう時間は掛からなかった。

頭を失って直ぐに、キマイラがその巨体で隙を見せたレインにぶつかり吹き飛ばしたのだ。

(こいつ──頭が中核じゃなかったのか! ってことは……)

丸くした目でキマイラを見据えながらも、クロムの頭は冷静に働いた。
蛇《尻尾》は切り落とされ、頭《獅子》は破壊された。それでも尚、動きを止めないということはそう──
残す胴体《山羊》こそがコアの働きを成しているからに違いない。
尻尾をあっさり切り裂いた剣をもってしても歯が立たなかった異常な防御力もこれで説明がつく。
胴体はコアを守る為に重点的に固められていたのだろう。

「動けるか? 獣人女──いや、マグリット」

と、不意にマグリットを見ずに口を開くクロム。
その時、既にその目はさながら獲物を定めた捕食者のように、静かだが確かな殺意を湛えていた。

「子供探しは後回しだ。動けるならレイン《あいつ》を回復させてやってくれ。俺がキマイラ《こいつ》を片付ける」

ひゅん、と横一文字に空を薙いだ剣が、洞窟内の輝きを反射して鈍く光る。
──いや、これは反射の光ではない。刀身そのものが微かだが自ら光を発しているのだ。
キマイラには知る由もないだろうが、これは『魔装機神』と並ぶもう一つの“奥の手”をクロムが発動した証。
0046クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/28(日) 23:38:34.24ID:WI+LwoIE
遥か東の果てにある『鬼の洞窟』。
その最深部に祀られていた黒剣『悪鬼の剣』は、黒色という点を除けば何ら変哲もない刀剣に見える。
しかしその実、持ち主の魔力を吸収してそれを攻撃力に変換する能力を持った魔導具なのである。
“黒妖石《こくようせき》”と呼ばれる希少な鉱物で創られたこの剣は、通常状態でもその殺傷力は非常に高い。
達人ならば魔力を込めずとも鉄の硬度を遥かに凌ぐ物質をも容易く切断できるだろう。
もっともクロムのような人外──それも魔族──でもなければ、自分の意思で手元から離せず、
しかも寝ていても歩いていても常に魔力を吸われ続ける“呪い”に頭を悩ませることになるだろうが……。

「おい化物。さっきは俺の一刀をその硬い皮膚で弾いてくれたが……次はそうはいかねぇぜ」

言うが早いか、クロムが再び跳躍しキマイラの背上を取る。
剣を両手持ちにし、頭上に振りかぶるところも先程と同じ。
そして秘かに『魔装機神』を発動し、身体能力を上昇させているところも同じだ。

「『魔装機神』の一撃も胴体《お前》には通用しなかった。だから──」

違うのは──手にした黒剣に魔力をたっぷり吸わせているか否か──の点一つ。
けれどもそのたった一つの違いが、結果を180度引っくり返すであろうという事をクロムは確信していた。


「俺の今の、本当の全力の一撃を見舞ってやるよ」


振り下ろされた刃が、空気を切り裂き混水晶を切り裂き、更にコアを切り裂き──

そして、その遥か先にある地面までをも剣圧で切り裂いて、鋭い切れ目を発生させる。

着地と同時に丁度足元に転がっていた焦げた鞘──といっても剣と同じ素材で創られているので元々黒色だが──
を拾い上げて腰に差し素早く納刀するクロム。

後ろでは真っ二つに分離したキマイラの上半身と下半身がズズン、と音を立てて地に沈む。
だが、クロムの視線がそこに向かうことはもはやなく、ただ子供の声がする方向にのみ向けられていた。

「誰でもいい。誰か救出に向かってやれよ。俺、ちょっと疲れちまったからそんな気分じゃねーのさ」

【レインの回復をマグリットに頼み、キマイラの胴体《山羊》を真っ二つに切り裂いて地に沈める】
【子供の救出はお任せ】
0047マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/02(木) 23:06:16.04ID:UcqGa+DT
救出対象である子供らしき泣き声が聞こえ、意識はキマイラから離れる
マグリットの第一の目的は貴族子息の救出
冒険者たちとの協力はその手段でしかないのだから

とはいえ目の前のキマイラという脅威を放置するわけにもいかない
実際に意識が離れたが故に強力な一撃を食らってしまっているのであるから、これ以上の被弾は避けたい所

その板挟み状態を解消するために、マグリットは目の数をさらに増やした
キマイラの動きに注視しつつ周囲を見回し子供の位置を特定するために
しかし、子供は怯え隠れているわけで、視線の届く範囲にいるこてゃなかった
それを見つけたのはレインのストリボーグによる遠隔透視能力だった

>「……見つけた。10時の方向、壁面の穴の奥に子供がいる」

「おお、良かった、さっそく救護を……」
安堵の息を漏らすが、勿論キマイラが大人しくしているはずもない
口内から雷を漏らしながら、特大の雷を吐き出す予備動作が始まっている

子供に法に駆け出そうとするマグリットの動きが止まる
先ほどはクロムの行動によって防がれたが、相変わらずマグリットに雷を防ぐ術はないのだから
近寄るによれずという状態のところでレインの魔力によってなされた矢が放たれた

今まさに雷を吐き出さんとしていたキマイラの口内を貫き脳を射抜くその一撃に絶叫と爆音と共に口内の雷が暴発する
通常で見れば閃光でしかないのだが、眼を増やしていた分その眩しさも倍増され脳に到達する衝撃も大きなものとなっていたのだ

「ぎいい、目が、目がぁ」

全ての眼を閉じ苦悶の表情を浮かべるマグリットにクロムが駆け寄る

>「動けるか? 獣人女──いや、マグリット」

その言葉にマグリットの動きが止まる
貝の獣人である事を隠していたのは、それが一般において説明を要するもの、すなわち不審と疑心を呼び起こすものだからだ
だがクロムは出会って間もなく貝の獣人である事を知った上で名前で呼んでくれた

>「子供探しは後回しだ。動けるならレイン《あいつ》を回復させてやってくれ。俺がキマイラ《こいつ》を片付ける」

「わかりました、動きますとも。彼の事はお任せください」

まだ視力が回復したわけではない
だが視界を増やすことはできる
新たに額に小さな眼を出現させ視界を確保し吹きとばされたクロムの元へ駆ける

クロムは水晶の瓦礫の中にいた
それを見たマグリットの表情は歪み声が漏れる

「ううぅ、こ、これは……」
5メートルを超すキマイラのタックルである
鉄分過剰なマグリットが盾で防いでさえ軽く吹きとばされた一撃以上の一撃を食らっているのだ
硬い水晶の壁面を粉々にするほどの衝撃
咄嗟に召喚したであろう盾で防いだが故に即死は免れたのだろうが、瀕死の重体である

マグリットの信仰心は薄く、教会とも利害関係で繋がっているに過ぎない
故に回復魔法の効果は低く、これ程の傷を癒せる能力はない
ならば第一目的である貴族の子息保護に動くべきだ
0048マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/02(木) 23:09:43.22ID:UcqGa+DT
だがマグリットはレインのわきに跪く

「死なせはしませんよ!このマグリット、全霊をもってお助けします」

意識を集中させ両腕を広げると、左右の前腕部に巨大な二枚貝の殻が形成されていく
先ほどキマイラの一撃を受ける為に盾にしたものが、更に大きく、巨大に
人ひとり十分飲み込むに足る大きさにまで成長すると腕から取り外し、巨大な二枚貝となりレインをその中に収納した

本来は緊急避難シェルターとしての技であるが、ここでは治療ポットとして使用している
それは真珠貝のように
レインは貝の中で特殊な溶液に包まれ傷を癒していくだろう

しかしそれだけでは足りない
それほどまでにレインの傷は深く重いのだから
あくまでこれは応急的な措置、ここからが本来の治療であると言わんばかりにマグリットは叫ぶ

「おお神よ!願わくば汝の慈しみによりこの勇者に救い給え
彼は奮い立たせる者、救う者、多いなり試練に立ち向かえる勇敢なる者、まだ死なせるわけにはいきません!」

マグリットが施したのは治療魔法ではなく神の奇蹟による直接的な回復
本来マグリットの様な下位の神職には使え得ぬものであったが……それでも試みたその訳は

最初に出会った時から感じていた
レインが勇者と名乗る割にはそこから感じる光の波動があまりにも弱かったこと
その戦いは武器を召喚するというものであり、自身の勇者としての才覚が見られない
にも拘らずレインは常に先頭に立ち戦、周りに気を配り、負傷者への配慮も忘れない
そして今、子供を見つけ尚且つキマイラの対処まで行っている
力なき者がその力量を最大限に生かし自分の力以上のものに立ち向かい、周囲を奮い立たせる
そんなレインの姿にマグリットは勇者の在るべき姿を見たのだ

ならばマグリットは神の使途としてその使命を全うすべく全霊の祈りを捧げた

かくしてその願いは聞き遂げられた
レインを包んだ貝が眩しく発光し小さく震える

どれ程の奇蹟を賜り回復したかはマグリット自身分かってはいなかったが、二つ分かった事はある
聞き遂げられたこと自体が既に奇蹟であり、二度目三度目ができるとは思えない事
そして、レインは助かったであろうという事

回復用の貝は外部からの攻撃には強固であるが、内部からは簡単に出られる
命をとどめた程度であれば貝の内部で回復をしていくだろうし、動けるほどまでの回復であれば自力で出てくるだろう

事が済んだ後でマグリットはふらふらと歩きだす
戦いや回復用の貝の産出に奇跡を引き起こし体力的にも限界に近いのだがまだやる事があるのだから

血を拭い、ボロボロになった法衣を一応体裁を整え
レインのいたところから10時方向の壁面の穴をのぞき込み、にっこりとほほ笑む

「貴族のご子息様ですね?
ご安心ください、脅威は我らが勇者たちが取り除いてくれましたよ」

保護対象である子供を見つけ優しく手を伸ばし抱え抱きしめた
本来ならば「教会が」と強調すべき場面であったにもかかわらず「勇者たち」と言ってしまっていることにマグリット自身気づいていなかった

「皆さん、ご子息を保護しましたよ!さあ、街に戻りましょう」

子供を抱え振り返り、目的達成を告げたのであった
0049レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/04(土) 16:44:33.97ID:wA7TCePW
アースギアにおいて、勇者とは伝承により魔を打ち払う存在だと伝えられてきた。
伝承発祥の地としてサマリア王国には伝承に倣った勇者選別の風習が残っている。

教会が授かる神託に選ばれた少年へ試練を課す通称"勇者の試練"。
この試練で"勇気""知恵""意志"を問われ、クリアした者は勇者として潜在能力に目覚める。
その多くは至難とされる光魔法をはじめ数々の固有能力を身につけるという。
ただ一人を除いては。

目覚めたのは普通の魔法使いでも修得できる召喚魔法。
そんな落ちこぼれの勇者を指して、人は彼を『召喚の勇者』と呼ぶ。


――……朦朧とする意識の中で、レインは意識が深く沈んでいくのを感じた。
暗い海の底へ落ちていくにも関わらず、不思議と安堵を覚える自分がいた。

「気がついたか?」

目を開けると、そこには自分を覗き込む、見慣れた青年の顔。
魔導士風のローブを纏った、どこか育ちの良さを感じさせる男だ。
レインはゆっくりと起き上がると、あたりを見渡した。
ここはもう洞窟の中じゃないらしい。

「おっかねぇ魔物だったな。電撃は上手く躱せたのに!
 蛇の尻尾に毒があるなんて聞いてねぇよなー」

レインは目を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。
そうか。自分は彼を庇って蛇の盾になったところを毒で死にかけたんだ。

「蛇に毒はベタか?まぁいいや。逃げる途中に魔法で解毒はしといたぜ。
 いくらなんでも冒険しょっぱなに水晶の洞窟は無謀だったかな!はははっ!」

ばしばしと肩を叩きながらレインはぎこちなくはにかんだ。
後に"魔導の勇者"と呼ばれ、最高峰の勇者となった男にしては、
どうにもフランクすぎる気がしたからだ。

だがレインと彼は不思議とうまが合った。
冒険者ギルドで偶然出会って以来すぐ親しい間柄となった。
パーティーを組まなかったのは、お互いに照れがあったからか。
0050レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/04(土) 16:49:54.94ID:wA7TCePW
後ろの方を何となしに振り返った。
ダンジョンに何か大事なものを置いてきた気がする。
そう――そうだ。まだ、やるべきことは山ほどある。

「アシェル……まだ君と同じ道は歩めない。
 俺は戻るよ。皆が……仲間が待ってるんだ」

レインは振り返らず洞窟の方へ走った。
全てを放り出すにはまだ早すぎるから。

――――……。

二枚貝の中から起き上がった時は、全てが終わっていた。
文字通りの奇跡によって、レインは死の淵から這い上がることに成功したのだ。

>「皆さん、ご子息を保護しましたよ!さあ、街に戻りましょう」

現状を見るにマグリットが子供を確保し、クロムがアメトリンキマイラを倒したようだ。
クロムがアメトリンキマイラを倒したからか、魔物が潜んでいる気配が消えた気がした。
今なら洞窟の最深部を探索して、隠された財宝を探すことも難しくないだろう。
だが、今はその時ではない。子供を確保したからには洞窟を早く脱出すべきだ。

「マグリットさん……助けてくれてありがとう。
 なんてお礼を言えばいいのか……その……とにかくありがとう」

それから、レインはしばし何かに悩んだような顔で洞窟の出口へ歩く。
しかし、王都へ戻る頃には覚悟を決めた顔に戻っていた。

「おお……よくぞ!よくぞ無事に帰ってきた!」

「父さん!!」

父と子は抱き合い、従者達は涙を流して無事を喜んでいる。
腕白かつ無鉄砲な少年ではあるが、愛されているのだろう。文句なしに一件落着。
報酬を得てパーティーは解散となり、皆それぞれの冒険に戻っていくはずだ。

「クロム、マグリット……ちょっといいかな。話があるんだ。
 いきなりだけど、その……俺とパーティーを組んでみないか?」

それは、レインが依頼の途中から考え始めていたことだ。
魔王を倒す冒険の旅……。それは過酷な当てのない旅だ。
慈善事業でもやってられない、メリットの少ない旅だと理解した上で、レインは提案した。

「二人となら絶対に辿り着ける気がするんだ。
 未踏のダンジョン"魔王城"を見つけ、攻略できる!……だめかな」


【依頼クリア!次章もよろしくお願いします!
 新規参加者も随時募集しております!(宣伝)】
0052クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/05(日) 21:51:07.62ID:0mkW+Peq
(さて、と……)

マグリットが子供を救い出したのを見届けると、クロムは黙って歩き出す。
これにて一件落着と洞窟の出口へ向かうのではなく、洞窟の奥へと。

古代の遺物が蠢くこの『水晶の洞窟』。
呪われた武具を求めて世界中を巡ってきたクロムにとって、ここはこのまま去るわけにはいかないダンジョンであった。

かといって今はがむしゃらに虱潰しに探していくというわけにはいかない。
キマイラとの戦いで体力を消耗しているにもかかわらず、食料も水も薬草も碌に持ち合わせていないのだ。
至る所に水晶が張り巡らされているせいで自生している植物も見当たらないし、出てくる魔物は鉱石を用いた人造物。
これでは食料の現地調達も見込めない。
もし洞窟の奥が際限のない迷路のような構造になっていれば迷ったが最期。やがて餓死の危機に直面するだろう。
それだけは御免である。

「腕試しの洞窟だなんて言われてるからとっくの昔に誰かが攻略済みと思ってつい軽装で来ちまったんだよなぁ。
 だから子供を救った報酬を貰うだけの小遣い稼ぎのつもりだったし…………チッ! ここはハズレのルートかよ!」

故に望ましいのは次に来る時の為に、迷わぬ範囲で構造調査しておき、宝探しは二の次というプランなのだが……
財宝など見当たらない行き止まりにぶつかればやはり無意識に落胆し不快になるもので、思わず舌打ちである。
もっともその壁面には子供なら這って入れそうな小さな穴が一つ空いているのだが、
それでもいくら小柄な体型のクロムと言えど流石に入れそうにない。

「まぁ……入れたとしても入らねーけどな」

と言ってクロムが穴の中に突き入れたのは、自らの手──ではなく、剣。
つい先程、いきなり手を入れて嫌悪感を催す存在を掴むという失敗を犯したばかりなのだ。
それを忘れるわけもない。まずは剣で様子見が同様の失敗を回避する確実な方法である。

そして手応えはあった。鋒が何かを突き刺した、そんな感触が手に伝わってきたのだ。
脳裏に串刺しになったメノウアントの姿が過ぎり、クロムはしてやったりと口角を吊り上げた。

「……大当たり」

後は剣を穴から引き抜くだけ。
予想通りならその時、串刺しになったメノウアントが一緒に穴から引きずり出される筈である。

「同じ手は二度もくわねーって…………あ、あれ?」

しかし、実際に彼の眼前に引きずり出されたのは蟻の死体などではなく、古びた鉄製の箱であった。

──────────。
0053クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/05(日) 22:08:39.86ID:0mkW+Peq
クロムがパーティの元へと戻った時には、既に瀕死の重傷だったレインがすっかり回復し、意識を取り戻していた。
そうなれば子供の救出という目的を果たしたパーティメンバーがここに留まる理由はなくなる。
誰かが言い出したわけでもないのに、誰もが出口へ向けて歩き出したのは自然の成り行きであろう。

彼らとは少し違った思惑を抱いていたクロムもその列に加わっていた。
手持ちの食料がない以上、洞窟が残す未踏のダンジョンを攻略するにはパーティの食料《協力》が必要である。
だが皆が目的を果たして満足気な顔をしている中、「お宝を探してこうぜ」等と呑気に言える雰囲気である筈もなく、
もはや付いて行く以外に選択肢はなかったのだ

いや、あるいはレインの意識が回復するまでの間に手に入れた洞窟の“遺物”。
それが彼をひとまず出口へ向かわせる動機になったのかもしれない。

出口。そこから数十分ほど歩けば、もうそこは都である。
酒場の前で再会を果たした親子の姿を見届ければ、後はパーティも報酬を受け取り解散するだけだ。
それぞれがまた各自の思惑を胸にいずこかへ散っていく。
次に会う時も味方なのか、それとも同じ獲物を狙うライバルとなるのか、それは神のみぞ知ると言ったところだろう。

>「クロム、マグリット……ちょっといいかな。話があるんだ。
> いきなりだけど、その……俺とパーティーを組んでみないか?」

レインが意外な提案を持ち掛けてきたのは、
クロムが散っていった冒険者達の後を追うようにして、その場を離れかけた丁度その時だった。

>「二人となら絶対に辿り着ける気がするんだ。
> 未踏のダンジョン"魔王城"を見つけ、攻略できる!……だめかな」

足を止め、思わずレインの言った事を反芻するクロム。

(魔王城の……攻略だと?)

勇者は今の世の中ではありふれた存在だ。だが勇者を名乗る者はある共通した目的を持っている。
それは“魔王の打倒”。
言葉にすると一言だが、魔族の頂点に立ち、絶大な力を持つ王を屠るのは当然ながら容易いことではない。
というより同じ魔族のクロムからすれば、それは夢物語であり幻想としか思えないものだ。
実際、魔王城を見つける旅の途中で挫折し、光を失って堕落する勇者は数えきれないほど存在する。

「……勇者らしい事を当然のように言うんだな。
 言うまでもないことかもしれねーけど、簡単なようでかなり難しいぜ、それ?」

故に勇者らしい事を言える勇者というのは、そいつがただの経験の浅い怖い者知らずというケースが大半だ。
だが、クロムの目には、レインがただの怖いもの知らずというようにはどうしても見えなかった。
それはつまり、彼が敵の強大さ、旅の過酷さを重々承知の上で尚、心の底から信じているからに違いない。
いつか魔王城を攻略できると。

「……なるほど、肩書だけじゃない。心も紛れもない勇者ってわけか。──面白い」

クロムも答えを決める。だからレインに投げた。洞窟で手に入れた“遺物”を。
それはキマイラの混水晶と同じ輝きを放つ宝石。

「さっき洞窟で手に入れたんだが、俺の趣味には合わないものだったんでね。お前にやるよ。
 別に遠慮することはねーよ? 仲間同士で宝を山分けするのは当たり前だからな。
 ……いつまでかは分からないが、しばらくつきあってやるよ。勇者の冒険にな」

【『水晶の洞窟』で手に入れた謎の宝石(名称不明)をレインに投げ渡し、パーティ入りを承諾する】
【宝石の効果、今後の取り扱いなどは自由にしていいです】
0054マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/10(金) 20:44:28.68ID:Zx/gsNoD
試しの洞窟より貴族の子息を救出し、数日
マグリットは教会の【燭台の間】と呼ばれる会議室に立っていた
前に居並ぶのは数名の司祭と、奥にはベールに阻まれ見ることは叶わないが、恐らくは司教がいるのであろう

「先の救出任務ご苦労であった
冒険者ギルド、モンタギュー家双方からの感謝状が届いておる」
「それで、宣教師の任から離れたい、と?」

「はい、天啓を受けました」

「天啓?それがレインなる者と?」
「かの者は光の加護なく勇者と飛べるかも怪しいと聞くが?」

司祭たちが怪訝な声を上げる
マグリットは神職としては下位の者であり、むしろ戦力として建前上神職となっているようなものである
そんなマグリットが天からの啓示が受けたという話を持ち出すのは司祭たちにすれば何の冗談だ?となるであろう
更に神職が勇者を補佐する事は珍しくないが、その相手が光の加護を持たないレインとなれば尚更であろう

「しかし、それでよいのかな?」
「内々ではあるが赴任地の選定が進んでおり、候補はいずれも其方の望む九似のいる可能性が高いのだぞ」

そう、マグリットには目的がある
九似に類される生物を探し手に入れる事
しかしそれを探し出す事自体困難であり、未知なる世界へと赴く必要がある

教会の情報網と未知なる世界に派遣される宣教師という立場はそれに最適だと言えた
だからこそ教会に属し、戦力として保持されながら選挙打ちへ派遣される日を待っていたのだ
のだが……マグリットは静かに口を開く

「私は、試しの洞窟にてかの者に対し……【奇蹟】を起こし命を救いました」

その言葉に司祭たちが驚きの声を上げた
天啓、奇蹟
どちらも名ばかりの宣教師に訪れるものではない
しかし本来の目的を曲げてでも宣教師の任を離れたいと言い出した事も真実味を帯びさせる

司祭たちが事実確認をするため奇跡認定委員を呼ぼうと動き出したところ、ベールの奥から声が響く

「良い……現時点をもってマグリット・ハーンの宣教師の任を解き、伝導師として勇者を補佐する事を命ずる」

その言葉に祭司たちは一言の異もなく静かに首を垂れる
マグリットは驚きのあまり目を見開き動くこと置できず直立不動であった

なぜならば、ベールの向こうから流れてきた声は司教ではなく、枢機卿のものであったからだ
マグリット程度だと司教ですら直接顔を見る機会はめったにない
それを司教どころか大司教も飛び越えて教皇に次する枢機卿がそこにいるという事実に驚きを隠せないでいた

なぜに枢機卿がマグリット如きの報告と進退について出向いていたのかは知る由もないが、ともあれマグリットは正式にレインとのパーティーを組む事を許されたのであった


数日後、冒険者ギルドの酒場スペースでくつろぐレインとクロムの元へ大柄な貝の獣人伝道師が笑顔で赴くことになるのだが、それはまた次回の機会にて
0055レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/11(土) 14:47:22.09ID:sjoo99uj
勇者であろうと、一介の冒険者だろうと、仲間は不可欠だ。
レインは誰かを誘って仲間を作るという行為を避けてきた。

それは落ちこぼれの仲間になってくれる人が見つからないというのもあったけれど、
何よりレイン自身が後回しにしてきた事にも原因がある。
故にその口説き文句はぎこちないものだ。
果たして彼の提案は受け入れられるのだろうか。

>「……なるほど、肩書だけじゃない。心も紛れもない勇者ってわけか。──面白い」

不意にクロムが何かを投げた。それをぱしっと受け取ると、硬質な感触。
宝石のようだ。こぶし大のそれを確認してみれば、アメトリンの輝きを放っていた。

>「さっき洞窟で手に入れたんだが、俺の趣味には合わないものだったんでね。お前にやるよ。
> 別に遠慮することはねーよ? 仲間同士で宝を山分けするのは当たり前だからな。
> ……いつまでかは分からないが、しばらくつきあってやるよ。勇者の冒険にな」

「クロム……!ありがとう」

クロムが仲間になった。マグリットの返事はその場で聞けず保留になったが、
宣教師という立場上、その場で決めることができなかったのだろう。

次にクロムから譲り受けた宝石のことだ。
軽く試したところ、宝石は魔力を込めると雷を帯びたり放てるらしい。
他にも色々な使い道がありそうだが、鑑定人が見つからないため詳しくは不明。

宝石が大きいので指輪にでもすれば数個作れそうだが、そんな加工技術は持ち合わせていない。
そこでレインが思いついたのは宝石を利用した、簡易的な新しい武器。
工程は単純で武器屋で魔法使い用の杖を購入し、宝石を先端に嵌め込むだけだ。
便宜的に雷霆の杖と命名し、召喚魔法で他の武器と同じく保管することにした。

そうして細かなタスクを片付けている内に、攻略から数日が経った。
話すことでもないが、瀕死の重傷を負ったにも関わらず予後は良い。
それはひとえにマグリットが起こした奇蹟の力と言えよう。

レインはギルドの一角にある席に座り、朝食もそこそこに地図を広げていた。
――そこにクロムとマグリット、二人の仲間がにいる事は言うまでもない。
0056レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/11(土) 15:11:36.15ID:sjoo99uj
財宝探しにせよ魔物退治にせよ、誰もが一度は門を叩くのが冒険者ギルド。
ギルドには多くの冒険者達がいるし、情報も仕事も自然と集まってくる。
その活動範囲は広く、各大陸の主要な街には必ずあると言っていい。

「よし、皆集まったところでこれからの相談をしよう」

勇者になる理由は様々だがどの勇者も目的だけは同じだ。
それは魔王城を見つけ出し、人々を苦しめる魔王を倒すこと。
……だが、重要な問題がひとつある。

「魔王城の居場所を見つけた勇者は、伝承の勇者を除いていないとされている。
 存在自体に懐疑的な冒険者もいるけれど、ないなんて事は考えられない」

だからこそ冒険者達の間で勇者との旅は過酷とされている。
それは羅針盤も役に立たぬ果てしない旅だ。

「……現実として魔王軍は村や街を襲っているし、次々と新しいダンジョンを築く。
 どこかに大元の拠点が存在するに違いない。その手掛かりを知っているのは……」

未開の場所にダンジョンを築き、そこを拠点に街や村に侵攻する。
人間社会において魔王軍の侵略スタイルは一貫してそうだと言われている。
無論、レインもその認識であり、他の手段で侵略を企てているなど考えた事がない。

「……現状は魔王軍しかいない。だから奴らのダンジョンを積極的に攻略していこう。
 ちょうど『精霊の森』に、魔王軍が侵攻したっていう情報がある」

精霊の森。サマリア王国の秘境、遥か南端に存在すると言われている森だ。
その名の通り、精霊や妖精が舞う美しい場所で、人はエルフが僅かにいるだけらしい。
サマリア王国領でありながら、王国との交流を断ち自然と共存して暮らしているようだ。
そのような場所だからか、王国側も侵攻されようが兵団も騎士団も派遣しようとしない。

「ギルドからも一応調査の依頼が出てるんだ。
 報酬額は手間暇に見合わないけれど、受けてみる価値はあると思う」

獣人の伝道師マグリットに、凄腕の剣士クロム。
やや近距離戦闘に特化しているが、実力は折り紙つきだ。

「異論がなければ『精霊の森』を目指そうと思う。どうかな?」


【ではでは新章スタートします!改めてよろしくお願いします!】
0057クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/15(水) 20:16:53.06ID:fKONmfdo
アメトリンキマイラを倒して数日後の朝。
クロムはギルド内の酒場の一角に居た。
別に朝っぱらから飲んだくれているわけではない。朝食を兼ねた話し合いの為に、ここに居るのだ。
“召喚の勇者”の仲間となった以上、もはや単身好き勝手に動き回れる身ではない。
次なる冒険の舞台を定めるのもリーダーたる勇者との相談が必要なのである。

「しっかし遅せーなあの女。予定の時刻はとっくに……って、噂をすればだ。おい、こっちこっち!」

干し肉を挟んだ指を頭上で揺らしながらクロムが呼んだのは、ギルドの出入口から入ってきたばかりのマグリット。
笑顔をもって即座に応えてくれたのは、無事教会にパーティ入りを認めて貰えたという事なのだろう。

>「よし、皆集まったところでこれからの相談をしよう」

マグリットが席に着くと同時に、レインが丸テーブルの上に地図を広げる。
クロムは空いた椅子に足を投げ出し、手にした干し肉を齧りながら地図を流し見て、レインの言葉に聞き耳を立てた。





レインの言った事を要約するとこうだ。
懐疑的な見方をする者もいるが、自分は魔王とその本拠地はこの世のどこかに確実に存在すると思っている。
だからその手掛かりを得る為にも魔王軍が築いたダンジョンを積極的に攻略していきたい。
その手始めとして魔王軍が侵攻したとの情報がある王国の辺境地『精霊の森』を目指したいがどうか?

魔王城の場所を知る者は魔族の中でも魔王に選ばれた幹部だけと言われている。
事実、クロム自身は魔王と直接面識は無いし、その本拠地がどこにあるのかも知らない。
だから「あそこに行けば手掛かりが得られる」とは言ってやれない。

だが、魔王軍が築くダンジョンに手掛かりがあると見るのは地味だが堅実な判断であろう。
何故なら幹部の多くは自らの拠点を人間界に持つ軍の司令官なのだ。
確かにダンジョンを片っ端から攻略していけば、いつかは幹部の元へ辿り着けるかもしれない。

ならば反対する理由は何もない。結論は異論なしで決まりである。

「場所はここから南。徒歩だと少し時間がかかるところか」

そう言ってクロムは干し肉の残りを一気に口の中に放り込むと誰よりも早く立ち上がり、

「折角だから“アレ”に乗ってこうぜ?」

とギルドの出入り口の前に停まっていた、一頭の馬に引かれた車を指差した。
馬車である。貴族が乗るような豪勢かつ綺麗な造りのものでは勿論ない。
むしろ如何にも農家のおっさんが乗り回しているような貧相で小汚いものだが、
それでも足の役割ならば充分に果たしてくれるだろう。

「キマイラの残骸を店に持ってったら、馬車と交換してくれるって奴を見つけてね。喜んで応じたってわけだ。
 あ、でも御者はいねーからお前らのどっちかに任せるわ。
 俺が用意した馬車なんだから俺は荷台でゆっくりさせて貰うけどな。ははは」

言うだけ言ってさっさと馬車に乗り込み、業者に予め運ばせておいた酒樽と食料袋を早くも開け始めるクロム。
旅を楽しむ気満々といった感じだが、戦いに行くとは言え常に張り詰めていては体はあっという間に悲鳴を挙げる。
娯楽が少ないこの世界で美味い酒と食料は息抜きにかかせない必需品なのである。

【馬車に乗り込む】
【一応馬車は今後魔物に潰されたりするなどのトラブルで使い捨てになっても構わない前提で出してます】
0058マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/18(土) 23:43:00.81ID:0AQQoKBx
正式にPTを組み冒険者ギルドに三人は次なる行き先について相談していた
最終的な目的は魔王の居城を探し出し倒すこと
しかし今はその場所すらわからぬ状態であり、各地の魔王軍を倒しながらそれを辿っていくしかないというものだ

そこで今回の目的となった場所はサマリア王国南端にある秘境精霊の森である

「むむむ、それは是非もなしですね!
教会でも精霊の森については話に上がっていましたし、これもお導きでしょう」

交流を断った独立した地域というのはマグリット、ひいては教会からしてみれば違って見えてくるものがあるのだ
即ち信仰の空白地帯
宣教師から伝道師になったとはいえ、やはりこういった領土的野心は根本に植え付けられているものだ

話がまとまったところでクロムが先んじて立ち上がり、アレを指し示す
そこに留まっていたのは荷馬車
キマイラの残骸を持ち帰り荷馬車と交換してきたというのだ

「おお、素晴らしいですね。
これで旅も捗るというもの!
そして今や私は正式に勇者につく伝道師となりましたので、各地の教会で様々な支援を受けられます
お馬さんの餌なども提供を受けられると思いますのでご安心ください!」

そういいながら馬の頭をなで、荷馬車と既に乗り込んでいるクロム、そしてレインを見回し一つ咳払い

「で、では、私が御者をしましょう
貝とはいえ獣人の端くれですのでお馬さんともそれなりに意思疎通ができるのですよ」

そういいつついつも担いでいる樽を荷台に乗せ、自身は前方の御者席に登る
ゆっくりと足をかけ登ると、きしむ音が低く響いた

そう、鉄分過多で天然装甲皮膚になっているマグリットの体重は3桁を越える
更にいつも背負っている樽には水が入っているのだが、今回は伝道師になったという事で教会で祝福を受けた聖水が支給され満杯になっており捨てるわけにはいかない
要するにあまりにも重すぎるのだ
荷を乗せる為の馬車である以上重量的には大丈夫とは思うが、バランス的に危うさを感じ御者役を買って出たのであった

あえてそれを言わず馬との意思疎通を前面に出したのは、マグリットもこれでいて22歳乙女の端くれなのであった

【馬車の御者を買って出る】
【第二章よろしくお願いします】
0059レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/19(日) 13:20:20.70ID:/oE3g03i
秘境『精霊の森』行きが無事に決まったところで、クロムが指差したのは馬車。
どうやら先日の戦いの後、キマイラの残骸を抜け目なく持ち帰っていたらしい。

>「キマイラの残骸を店に持ってったら、馬車と交換してくれるって奴を見つけてね。喜んで応じたってわけだ。
> あ、でも御者はいねーからお前らのどっちかに任せるわ。
> 俺が用意した馬車なんだから俺は荷台でゆっくりさせて貰うけどな。ははは」

何らかの魔法的加工は施されているだろうが、アメトリンはアメトリンだ。
希少品であることに変わりはないし、職人に巡り合えば美しい装飾品になるだろう。

>「で、では、私が御者をしましょう
>貝とはいえ獣人の端くれですのでお馬さんともそれなりに意思疎通ができるのですよ」

マグリットの申し出に対して、レインは即座に『水晶の洞窟』での戦いを思い出した。
魔物の突進攻撃をものともしない天然の装甲や体重。戦闘中は頼りになるが、日常生活ではどうだろう。
よもやあげつらう者はいないだろうが、その申し出は彼女なりの恥じらいなのかもしれない。
背中の樽と自身を荷台、御者台に分ければ重量は分散されるからだ。

「『精霊の森』までの道のりは複雑だ。俺が地図で道を教えるよ」

レインが荷台に乗り込むと馬車がぎいっと走りはじめる。
王都を出るとしばらく続くのは綺麗に整備された街道だ。

この街道は各主要都市に繋がっており、『ラピス街道』と言われている。
石畳に魔物除けの魔法陣が刻まれていて、それが淡く瑠璃色に光ることからこの名で広まった。
と、言ってもこのまま進むと他の街に着くだけなので、街道を外れて南へ。

鬱蒼と茂る樹々の中の、迷路のごとき道を進む。
ラピス街道に比べて不整備なため、居心地は微妙なところだ。
とはいえ、嗜好品を堪能するくらいの余裕はあるだろう。

「『精霊の森』には、『ラピス街道』のように魔法が掛かってるらしいんだ。
 といっても、人払いの魔法だけどね。マグリットがいるから俺達は問題ないはず」

森の周辺に漂う魔法の霧が冒険者を惑わし、やがて離れた村などに追い返すという。
人払いは主にエルフや獣人といった亜人種が人間を追い払うためのものなので、
貝の獣人たるマグリットが(実はクロムでもそうだが)御者を務めていれば問題はない。

道を進んでいくと辺りに霧が立ち込めてきた。
どうやら順調に『精霊の森』へと近付いているらしい。
0060レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/19(日) 13:24:10.95ID:/oE3g03i
『精霊の森』には僅かながらエルフが暮らしていると聞いた。
だが、今のところそれらしい影はない。魔物の気配もない。
いったん馬車から降りて徒歩で探索した方がいいのかもしれない。
……そう考え始めていた頃だった。

「――――なんだ!?」

頭上の樹々から高速で何かが降ってきた。
レインは咄嗟に腰に帯びた剣の柄を掴んで、鞘ごと振り上げる。
鞘と短剣の刃が空中で交錯。敵は余った腕から何かを放った。

「……召喚っ!」

同時。召喚魔法で左腕に木製のラウンドシールドを呼び出す。
放たれた何かは、風だ。突風がレインの頬を叩く。
盾では防ぎきれずに後方へ吹っ飛ばされ、あわや荷台から落ちかけた。

「ちっ」

露骨な舌打ち。敵は真っ黒い外套にフードを被っているので、顔は判然としない。
レインが縁を掴んで荷台に立ち直す間、敵は荷台に着地して短剣をマグリットへ向けた。
言葉は発さないが、「余計な真似をすれば御者の獣人を殺す」と言いたいのだろう。

天然の装甲皮膚を持つマグリットにどこまで意味のある行為だろうか。
が、それを理解しているのはクロムとレインだけだ。

「獣人を連れてくるとは知恵が回る侵入者だ。これは脅しじゃないよ。
 森が傷つくところはもう見たくない……君達には消えてもらう」

「待ってくれ、俺達は怪しい者じゃない!」

「問答無用っ!」

声色から察するに女性らしい。女性は短剣を構えたまま清涼な声で呪文を唱えた。
魔法だ。レインを吹き飛ばした何かの正体も、彼女が放った風の魔法。
正確には風魔法の初歩『ツイスター』という。

「虹の女神、花の女神、美貌の王子。愛を巡り、荒れ狂う風を吹きつけよ」

詠唱を終え、振り払う仕草をすると、馬車の上で風の渦が吹き荒れた。
『タービュランス』と呼ばれる乱気流を起こす風魔法の一種である。
複数の風は狂ったようにレイン、クロム、マグリットを吹き飛ばすべく向かう。


【『精霊の森』に到着。謎の女性に強襲され、風魔法で攻撃される】
【敵の操作は自由です。装備は短剣、短弓。風の魔法を行使可能】
0061クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/23(木) 20:51:14.52ID:zlPkji4/
マグリットが御者を、レインが道案内役と決まり、馬車はいよいよ走り出す。
初めの内は整備された『ラピス街道』を行くが、途中からは道なき道を行く。
『ラピス街道』は南端の秘境の地には繋がっていないからだ。

でこぼこ道に容赦なく揺らされる安物の荷馬車はお世辞にも乗り心地が良いとは言えない。
だが、冒険者にとって、悪条件の中の船旅や馬車の旅などは慣れっこ。酒を進めるのに何ら問題はない。
鬱蒼とした森に入り、辺りに霧が立ち込めてきた頃には、クロムの開けた酒樽はほとんど空になっていた。

霧──。レイン曰く、『精霊の森』には人払いの魔法が掛けられているという。
もしこの霧が魔法によるものならば、レインの案内に間違いはなく、目的地はすぐ近くにあるという事だ。

(人との接触を好まないエルフが暮らす森……。俺達に対しても当然、好意的ではないだろうな)

エルフは一般的に争いを好まない種族とされている。
が、中には例外もいるだろうし、人間を嫌う余りに暴力で排除しようとする者もいるかもしれない。
覚悟はしておいた方がいいだろう──。

>「――――なんだ!?」

事件が起きたのは、クロムがそんなことを考えていた時だった。
何者かがいきなりレインの頭上に現れ、彼と激しく交錯したのである。
襲撃者の正体は外套とフードに遮られ見る事は叶わない。

>「獣人を連れてくるとは知恵が回る侵入者だ。これは脅しじゃないよ。
> 森が傷つくところはもう見たくない……君達には消えてもらう」

それでも少なくとも襲撃者が“女性”という事はその声質から判る。
そしてマグリットを一発で獣人と見抜きこちらを“侵入者”と表現したその言動から、
彼女は金品狙いの賊などではなく人払いの魔法を掛けた側の一員であろうという事も。

「物騒なモンを振り回して奇襲かよ。歓迎されたもんだな」

敵の得物を見て接近戦を得意とするタイプと呼んだクロムは、遅れを取る前に剣に手を掛けた。
しかし、それに対する敵の次の一手は意外。なんと詠唱。

唱え終えると同時に、突如として馬車の上で発生する風の渦。これは風魔法。
それも『ツイスター』より広い範囲に打撃を与える事ができる『タービュランス』である。
──要するに、馬車ごと三人を吹き飛ばす気なのだ。

「くそ! 問答無用の上に手段は選ばずか!」

風に肉体が翻弄される前にマグリットの腕を引っ張り車外へ向けて跳躍。
背後で荒れ狂う暴風が背中を押しそれが上手い具合に脱出を勢い付ける推進力の役割を果たしたことで、
クロムは馬車の破壊に巻き込まれずに済み無傷で大地に着地することに成功した。
勿論、彼に連れられ共に脱出したマグリットも大事はない筈である。

「ったく……折角手に入れた馬車《足》をいきなり滅茶苦茶にしやがって。
 例え相手が女だろうが何だろうが、こうなりゃ容赦はしねーぜ」

ぺっ、と唾を吐き捨てながら、粉々に潰された馬車の周囲を舞う土埃を凝視するクロム。
土埃の中で黒い影が動いている。馬だ。どうやら奇跡的に馬は無事だったらしいが、今はどうでもいい。
馬の安否などよりも敵が何処に居るか。重要なのはそこだ。
レインも恐らくそうだろうが、敵も当然、馬車が破壊される前に脱出している筈なのだ。
狙いがこちらの命ならば、攻撃がこれで終わるわけもない。

「ちっ、気配を消してやがる。この鬱蒼とした木々の中に同化されたら探すのは困難だぜ。
 このままだと受け身になっちまう。……マグリット。お前の“目”で何か見つけられるか?」

【『タービュランス』を躱すが、馬車が破壊されてしまう。襲撃者も気配を消す】
0062創る名無しに見る名無し垢版2020/07/23(木) 21:31:04.16ID:/wWwUg4t
あげ
0063マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/27(月) 17:49:09.98ID:SXyseJOJ
精霊の森には人払いの魔法がかけられている
立ち込めてくる霧の中を進みながらレインの言葉を思い出していた

「ふむむ、これがそうですか
しかし人に限定して私の様な獣人は受け入れてくれるところを見るに、森のエルフさんたちとお話くらいはできそうですね!」

整備されていない森の道を馬車で進むのはいささか難儀をする
手綱を引きながら馬を操作して進んでいった時だった

突如として出現する気配と共に激しい衝突音
振り返れば何者かにレインが吹き飛ばされており、それを認識した時にはマグリットに短剣がつきつけられていた

「いけません!」
マグリットが口に出すことが許されたのはこの短い一言だけだった
それはクロムが剣を手に取ったのを見て発せられた言葉だったのだが
それ以上続けようにも、レインが口を開いた瞬間に荷馬車には風が吹き荒れ吹きとばされてしまったからだ

吹きとばされた瞬間、マグリットの腕が強い力が引っ張る
それはクロムだ
暴風を背に受け飛翔し着地、マグリットもその救出により事なきを得ることができた

マグリットはクロムが魔族である事に気づいていない
故に自分より頭二つほど小さな男が重量級と自認する自分を引いて跳躍できたことに驚きを隠せないでいた

「ありがとうございます!私を引っ張れるとは驚きました
しかし、あの方とこれ以上事を荒立てるのはお控えください」

確かに奇襲を受けた以上反撃するのは当然である
が、クロムも気づいているように、攻撃者は森のエルフであり人払いの役割を持っているのであろう
自分たちの目的が精霊の森を襲う魔族であるならば、エルフは共闘すべき存在でありここで倒してしまえばそれが困難になる
という旨を伝える

とはいえ、状況は厳しくある
うっそうとしたきりの立ち込める森の中
相手は気配を消し木々と同化し発見は困難
土煙の中馬の影は見えるが、レインとははぐれてしまっている

「相手は森の専門家ですので、探り合いでは少々分が悪いですね
ですが私も神の使徒の端くれ、必ずや相手の方の心を開いてみせますよ!
むむむむ……」

マグリットがしゃがみ祈るような体制で低く唸り始める
それと共に大量の汗が噴き出している

「私が貝の獣人である事はご存知だとは思いますが、細かく言うと蜃という貝なのですよ
ではいきますので、なるべく傷つけないようにお願いしますね?」

その言葉とともにマグリットが無防備に立ち上がる
185センチの大柄の体で更に手を広げて見えない襲撃者に声をかける

「精霊の森のエルフさんとお見受けしました
我々は魔王軍の襲来の方を受け調査に来た勇者の一行で、私は勇者を導く伝道師マグリット・ハーン
奇襲をかけておきながら直接の攻撃をしない、風の魔法を使いながらも馬を傷つけていない
以上の事からあなたに敵意がない事はわかっております
そして【森が傷つくところは「もう」見たくない】とのお言葉からあなた方の窮状は察しました
どうか我らにお手伝いをさせていただけませんか?」

人間が森を荒らしたから、という可能性もあったが魔王軍が進行してきている現状ならばそちらの可能性が高いであろうとの判断であった
0064マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/27(月) 17:49:33.58ID:SXyseJOJ
呼びかけに返ってきたのは二本の矢
一本はマグリットの耳元を掠め飛び去り、もう一本は足元に
足元の矢に魔法が付与されていたようで、そこから突風が吹き荒れマグリットが散り散りになって吹き飛んだ
その様子を木の影から見ていたマグリットが小さく「あそこです」と合図する

マグリットの獣部分である蜃という貝は幻覚物質をまき散らし蜃気楼を作り出す
精霊の森の霧に紛れ幻覚物質の霧をまき散らし、襲撃者に幻を見せて攻撃を誘発したのだ
如何に気配を消し森と同化しようとも、攻撃する瞬間にその姿は露になるのだから

「エルフの皆さんとの共闘を望みますが、その為に我々の力も見せる必要があるでしょう。ご堪能下さいませ!」

クロムと茂みにいるであろうレインに合図するように、そして襲撃者にもわかるように声を上げるのであった

【蜃気楼で自分を作り説得しながら襲撃者を炙り出す】
0065レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/30(木) 20:33:04.74ID:tBhCleng
魔法。精霊や神々、悪魔といったこの世界(アースギア)を形作る超常の存在に干渉する技術。
生物が潜在的に持つ『魔力』をエネルギーに使い、呪文という式で引き出したい力を発動する。

魔法の威力や効力を決める条件は、魔力量でも高度な呪文でもない。
神格を感じとる感受性――そしてその存在を信じること。つまり、魔法には信仰が要る。
聖職者のように信心深くなれという訳ではないが、無神論者では魔法も不発に終わるだろう。

襲撃者の女性も何かを信仰しているから魔法が使える、ということだ。
青い双眸が捉えたのは、風の渦が霧を裂き、土埃を上げつつ迫る光景。
栗色の髪が揺れ『ツイスター』でふっ飛ばされた感覚が甦る。
広範囲を薙ぎ払うこの魔法はそれ以上の威力だろう。

>「くそ! 問答無用の上に手段は選ばずか!」

クロムはマグリットを連れて跳躍し馬車から脱出する。
二人が脱出したのと一歩遅れて、レインも跳躍して難を逃れる。
……が、荒れ狂う風に勢いよく飛ばされ、茂みに頭から突っ込んだ。
受け身をとってなんとか地面に着地して周囲を見渡す。はぐれたらしい。

(相手の気配を感じない……。どこだ?)

近接戦を得手とするのだと思い込んでいたが、そうではないらしい。
だが、遠隔から攻撃するのが本来の戦闘スタイルだとするなら、
なぜ彼女は最初に接近戦を仕掛けてきたのだろうか。

(――無駄な抵抗ばかりして……!何者だあの子らは……!)

襲撃者は苛立ちを隠せないでいた。
完璧な奇襲を躱され、風魔法も凌がれた。
後に残されたのは自身のもっとも得意とする弓矢。

>「ったく……折角手に入れた馬車《足》をいきなり滅茶苦茶にしやがって。
> 例え相手が女だろうが何だろうが、こうなりゃ容赦はしねーぜ」

襲撃者は気配を消し、ひと飛びで樹上へ登る。威勢のいい声がよく届く。
彼女にとって精霊の森は庭。身を隠し狙撃する位置の確保など造作もない。

>「相手は森の専門家ですので、探り合いでは少々分が悪いですね
>ですが私も神の使徒の端くれ、必ずや相手の方の心を開いてみせますよ!
>むむむむ……」

弓に矢を番え、きり――と弦を引いた。
心が冷えていく。呪われた氷の湖に沈むように。
0066レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/30(木) 20:38:39.36ID:tBhCleng
……奴らもきっと森を脅かしに来た連中と同じに違いない。
気がつかない内にきりきりと奥歯が軋んでいた。
怨念染みた思考が彼女を塗りつぶした。

>「精霊の森のエルフさんとお見受けしました
>我々は魔王軍の襲来の方を受け調査に来た勇者の一行で、私は勇者を導く伝道師マグリット・ハーン
>奇襲をかけておきながら直接の攻撃をしない、風の魔法を使いながらも馬を傷つけていない
>以上の事からあなたに敵意がない事はわかっております
>そして【森が傷つくところは「もう」見たくない】とのお言葉からあなた方の窮状は察しました
>どうか我らにお手伝いをさせていただけませんか?」

「――――っ!」

マグリットの声で矢を番えた手元が狂った。
狙いは頭から大幅にずれて、矢は耳を掠める軌道を進む。
襲撃者は慌てて矢に風魔法を込め、第二射を放った。

外敵に対する強い憎悪が、彼女の感覚を最後まで鈍らせた。
魔法の霧の中に今まで感じたことのない"何か"が混じっていることに。
狙い過たずマグリットの足元に矢が突き刺さると、風魔法が解き放たれた。
幻覚物質によって生み出されたマグリットの幻がちりぢりに消えていく。

>「エルフの皆さんとの共闘を望みますが、その為に我々の力も見せる必要があるでしょう。ご堪能下さいませ!」

「……しまった」

舌打ちする間もなく茂みの中からレインが顔を出す。
剣は抜いていない――が、居所が知れたいま、
正面から三対一はあまりに分が悪い。

「俺は"召喚の勇者"レインです。仔細は仲間のマグリットが言った通り、
 俺達はこの森を助けるため来ました。どうか信じて下さい……!」

召喚の、というフレーズに怪訝な反応を示した。

「召喚の……?私がお伽話で聞いた勇者様とはずいぶん違うようだね。
 助けになるかどうかは森が決めることだが……いいだろう。
 私を倒せたら、森番として彼女の話を信じよう」

この状況、レイン達の方が数的有利に違いない。
だが地の利は樹上にいる襲撃者――もとい、森番たる彼女にある。

居場所はばれてしまったが、森の隅から隅まで知り尽くしている彼女なら
逃げながら戦うこともできるし、こちらを撒いてもう一度隠れることなど造作もない。
だが、彼女にその考えはない。森番として勇者達の実力を確かめるべく、正面から戦う構えだ。
0067レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/30(木) 20:42:43.81ID:tBhCleng
魔力を練り上げ、呪文を詠唱のはじめる。
彼女が信奉するのは自然、それを形作る神格たち。そして動物を愛する。
主に木の精や四大精霊――とりわけ風の精霊と相性が良い。
魔法の霧が彼女の構えた弓矢を基点に渦を巻きはじめた――。

「食らい……なさいっ!」

先程マグリットの幻影を払ったのと同じく、使うのは風魔法の付与。
ただし、放つ弓矢は一度に十本以上。幻覚で居場所を欺瞞するならば、
無差別攻撃で殲滅すればいい……というのが、彼女の考えである。
矢が地面に刺さり、突風がそこかしこに吹き荒れる。

「遠距離戦は分が悪すぎる。樹上へどうにかして接近したい……!
 俺が陽動になって引っ掻き回すから、その間に彼女に近付いてみてくれ!」

言うなりレインが召喚したのは、前回手に入れた宝石で拵えた『雷霆の杖』。
魔力を込めると電撃を放つ力を持っているのは試験済み。
弓矢の類だと風で躱されるおそれがあるので、今回はこれを使う。

左に盾、右に杖の状態で、レインは疾駆。
突風吹き荒れる"風の雨"の中を突っ込んだ。
魔力を込めて杖の力を発動し、電撃を放射する。

「魔力で丸わかりだ。そんな単調な攻撃じゃ当たらないよ」

森番は別の樹上へと軽やかに飛び移り、攻撃を回避。
そして再度弓矢を構え、感知した魔力の方角へ"風の雨"を放った。
それこそが狙いだ。森番には分からないだろう。勇者の仲間が接近している事に。


【襲撃者は風魔法を付与した矢を雨のように降らせて無差別攻撃】
【レインは"雷霆の杖"を装備して陽動を買って出る】
0069クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/04(火) 03:55:46.00ID:1f+0vOSg
マグリットの呼びかけに弓矢でもって応える敵。
それは聞く耳持たぬの冷徹な意思表示か、それとも無謀とも思える堂々たる仁王立ちに刺激され思わず攻撃してしまったのか。
いずれにしてもこれはマグリットが仕掛けた罠に、敵がまんまとかかった証拠。
何故なら敵が射掛けたマグリットは彼女が作り出した幻なのだから。

(自力で見つけられないなら、敵に居場所を教えてもらえばいいってか。こいつの能力は思った以上に頼りになりそうだ)

本体が如何に上手く木々と同化しようとも、射掛けた矢の弾道を辿れてしまうなら意味はない。
クロムが“そこ”目掛けて大地を蹴ったのは、マグリットが「あそこ」と合図したのとほぼ同時であった。

視線の先では既にレインが敵と接触していたが、戦っているようには見えなかった。
口を忙しく動かしている様子から、話し合っている……いや、敵を説得しているのかもしれない。
だが、敵がそれに応じないであろうことはマグリットへの攻撃でも明らかだ。
だからクロムは木から木へと跳躍を繰り返し、敵の背後へ迫りながら抜刀する。

前にはレイン。後ろにはクロム。敵からすれば挟み撃ちの格好だ。
手持ちの武器は短剣と短弓。体術に余程の自信がない限り二対一の近接戦闘はできるだけ避けようとするだろう。
とすれば──

>「食らい……なさいっ!」

当然、まずは短弓による迎撃を図る。
だからこそ読めていた。故にどれだけどこに矢を放たれようとも、クロムは慌てない。
元々、種族としても肉体の能力も人外のそれである。
どれだけ乱射しようとも、彼にとって来ると分かっている方向から放たれた矢など容易く躱せるのだ。

>「遠距離戦は分が悪すぎる。樹上へどうにかして接近したい……!
> 俺が陽動になって引っ掻き回すから、その間に彼女に近付いてみてくれ!」

(って、アホか! 作戦を大声で言うか普通!? 丸聞こえじゃねーか!)

思わず枝からズッこけてしまいそうなところを何とか立て直し、接近を再開する。
この時点で敵との距離は当初の半分程度まで縮まっていたが、それでもまだクロムの間合いには程遠い。
敵もこちらの姿を認めてもまだ余裕の表情である。
なるほどこの森を知り尽くしているとはいえ、その軽快な身のこなしは正に鍛えられた者のそれだ。
接近を許しても、最終的には逃げ切れる。そんな自信があるのだろう。

だが──そこに隙がある。問題はない。次で追いつき、終わらせる。
クロムがその細めた目にそんな意思を込めた一段と鋭い光を湛えた時に、チャンスはやって来た。
レインが電撃を放ったのである。『水晶の洞窟』で手に入れた、あの宝石を嵌め込んだ杖を使って。
結果、それを躱す為に敵は樹上への退避を余儀なくされる。

──瞬間、枝を蹴ったクロムの体は爆発的な加速をもって一気に敵の背後に舞い上がった。
0070クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/04(火) 04:09:32.95ID:1f+0vOSg
「レインの魔力に惑わされて、俺の『魔装機神』の魔力には気付かなかったようだな。
 俺の“素”の速さで俺の全力を測ろうとしたのがお前の隙だ」

「!?」

舞い上がると同時に右手によって振り上げられていた黒剣が、容赦なく振り下ろされる。
背後からではあるが、相手の右肩から左脇腹にかけてを斬り下ろす袈裟斬りというやつだ。

「──甘い!」

だが、不発。刃を止めたのは敵の右手に握られていた短剣。
瞬時に弓から手を離し、武器を持ち替えて刃の軌道上に短剣を置いたのだ。
恐らく防げたのは偶然ではなく、殺気から軌道を読み取ったからに違いない。

「──私に気付かれずに後ろを取れるとは驚いたが、攻撃をこちらに気付かれちゃ意味はないね!
 特に声を出せばその瞬間に奇襲は意味を──」

「普通の奴なら声を出したって反応はできないさ。けど、あんたの動きを見たら多分ガード“してくれるだろう”と思ったんだよ」

「! “してくれる”だ──とっ!?」

不意にボギボギッ、という耳障りな音が空間を走り、敵が体を左に捩った。
その体──無防備な左脇腹には細長い黒い金属の塊が直撃している。
これは鞘。クロムの剣を収める為の、剣と同じ材質で創られた鉄よりも頑丈な。

「右に剣、左は逆手に持った鞘。俺の本命は剣じゃなく、鞘《これ》。最初からね。殺気で気付かなかったろ?」

「がっ……あぁ!」

苦痛の声をあげて、ぐらりと体勢を崩す敵。
放っておけば頭から真っ逆さまに落ちていくだろうが、マグリットにも指摘された手前、相手を死なせてしまうのは本意ではない。
なので落ちる寸前に腕を掴み、下のマグリットに向けて放り投げた。
少々乱暴な扱いに見えるだろうが、怪我をした敵を回復魔法の使えるマグリットに真っ先に渡したのは、彼なりの優しさである。

「事を荒立てるなって言われたけど、話し合いが無理なら流石に無傷でどうにかしろってのは戦士《俺》には無理だ。
 ……それより、こいつをこれからどうするんだ? 『くっ、殺せ』とかいう展開になったらかなり面倒だぜ。
 もっと強力な仲間が続々とやってきて戦いになっちまうだろうし、何とかそれだけは避けねーとな」

樹から飛び降り、マグリットとレインの二人の顔を交互に見て、クロムはこの謎の襲撃者の処遇を訊ねた。

【襲撃者を撃破。その処遇を二人に訊ねる】
【避難所設置乙です。規制の時や時間が空いた時などに使わせて頂きます!】
0071マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/07(金) 19:57:51.79ID:wucqVZrR
攻撃を誘発し、襲撃者の場所を特定
それを後ろのクロムに伝えた時には既にクロムの姿はマグリットを越えて飛びだしていた

射線を把握し動き出したのはクロムだけでなくレインもであった
一見言葉を交わそうにも拒絶されたようであったが、しっかりと言質を引き出していた

>私を倒せたら、森番として彼女の話を信じよう」

この言葉を引き出せたのは大きく、そして同時にマグリットの中に違和感を植え付けていた
そしてその違和感は直ぐに確信に変わる

レインとクロムが樹上の襲撃者に迫る中、それを見ていたマグリットの瞳は一つのみ
体中に生成された無数の目はその周囲をくまなく見ていたのだが……全ての目は閉じられることになる

樹上から矢が雨あられと無差別に降り注がれたからだ
それもただの矢ではなく、先ほどマグリットの幻影をかき消した風の魔法が付与されているのであろう
あたりかまわず突き刺さりそこを起点に突風が吹き荒れるのだ

「あばばば、なんという無茶苦茶な!しかしこれができるという事は……!」

マグリットは地に伏し両肘から生成した巨大な貝殻を被りその猛威を凌ぎながら、一つの結論に至っていた

吹き荒れる風が収待ったのを見て起き上がった時には、レインが雷霆の杖を振りかざしていた
しかし襲撃者も魔力を読み軽やかに回避し、矢を番える
瞬間、その背後に黒い影が、そう魔装機神を纏ったクロムが爆発的な跳躍力で舞い上がるのが見えた

ならばマグリットの撮るべき行動は一つだ

「ここはお任せください!」

森番とレインの間に飛び込み貝殻の盾をかざす
185センチのマグリットの全身を優に隠す貝殻の大盾を二枚並べてかざせばそれはもはや壁!
矢がどのような軌道を描こうと壁に突き立ちその進みを止めるほかなかった

しかし、この矢はそこからが本領である
突き立った盾を起点に突風が吹き荒れる
地面にしっかり足をつけているならばともかく、飛び込んだ状態では踏ん張る事も出来ず背後のレインを押しつぶすような形になってしまった

「いたたた……あ、レインさん、申し訳ない」

起き上がって自分の下敷きになっているレインを見つけた時には樹上の戦いは終わりを迎えていた
クロムの鞘が森番の脇腹にめり込んでいるのが見える
崩れ落ちる森番の手を取りマグリットの方へ投げ渡すのをみて慌てて抱きとめるのであった
0072マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/07(金) 20:01:00.13ID:wucqVZrR
「おお、やはりエルフさん、軽いですね!
いかがでしたか?我らの力は」

マグリットの腕の中で脂汗を浮かばせながら苦し気に睨み、口を開く

「ふん……その勇者とやらはお前の下で倒れているわけだが?
黒衣の男の方が強いのではないか?」

そういわれていまだに下敷きにしたままである事に気づき飛びのくと、満面の笑みを浮かべる

「あわわわ、失礼
勇者の強さとは武力の強さだけではありません
字のごとく勇気をもって踏み出す者です
彼は常に我らの先頭を踏み出してくれる、間違いなく勇者なのですよ」

諭すように答えると、大きく息を吐きかける
濃厚な幻覚物質を至近距離で浴びせる事で麻酔の代わりとしたのだ

「まずは傷を治しますので、しばしお眠りください」

森番の薄れゆく中でマグリットの言葉が遠くに聞こえたであろう

「さて、この戦いで色々と分かった事がありますが、まずは治療してからにしましょう
この方の仲間が続々とやってくるという事はないでしょうからきっと大丈夫ですよ」

レインとクロムに応え祈りに集中していくのであった

######################################

治療を終え、幻覚作用が切れて森番が目を覚ますまで、マグリットは今回の戦いで感じたことを二人に話していた

通常侵入者を察知すれば、まずは仲間に知らせる
その上で侵入者に倍する戦力を用意する
この森番が手練れである徐とは疑うべくもないが、それでも相手の戦力がどのくらいかもわからぬまま単独で戦闘を仕掛けることはあり得ない
だが、戦闘中森番以外の存在は確認できず、更には無差別に矢を降らせていた
これは仲間が近くにいるのであれば出来ない事だ

さらに続ける

「エルフさんたちは【森に住まう者】ではなく【森と共に生きる者】だと聞いたことがあります
自身の森の中では森の生気を得て回復力も有するとか」

しかし、クロムに一撃入れられた森番は悶絶し回復の兆しもなかった

「これらを勘案するに、侵入者への対処に人員を複数割けない程重大事が起きており、森自体も大きなダメージを負って衰えていると言えるのではないでしょうか
……もしかすると、我々が思っている以上に事態は深刻なのかもしれませんね」

そう締めくくり、うめき声を上げ始めた森番に視線を下す
幻覚効果も切れ覚醒が近いのであろう

「ともあれ、自分を倒せたら私の話を信じると言ってくれておりますし
目が覚めたらお話くらいしてくれるでしょう」


【避難所設置お疲れ様です、ありがとうございます】
0073創る名無しに見る名無し垢版2020/08/09(日) 19:56:37.80ID:N8DucUzb
3安打
0074レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/09(日) 22:33:47.31ID:OTcMNRqi
勇んで飛び出して雷を放ってみたがレインは即座に後悔した。
雨のように降ってくる矢を前にして、躱しきれる自信がなくなったからだ。
もし当たりそうになっても、左腕の盾で矢自体は防げようが、その後の風魔法はどうしようもない。
当たったが最後、どこかへ吹き飛ばされしたたかに身体を打ち付けるだろう。

>「ここはお任せください!」

「マグリット!?助かるっ!」

前に躍り出たのはマグリットだった。
となれば、クロムはこの攻撃の隙を突いて上手く接近できているだろう。
それはともかくマグリットは貝殻の盾を構えてレインの前に壁役として飛び出した。
――が、さしもの彼女といえど風魔法の暴風には抗えず、こちらへ吹き飛んでくる!

「おわぁっ!?」

>「いたたた……あ、レインさん、申し訳ない」

「だ、大丈夫……ありがとう。おかげで矢が直撃せずに済んだよ」

頑張って受け止めようとしてみたが、パワーが足りずそのまま下敷きになるレイン。
情けなくも地面に倒れ伏している間に戦いは終わっていた。

>「事を荒立てるなって言われたけど、話し合いが無理なら流石に無傷でどうにかしろってのは戦士《俺》には無理だ。
> ……それより、こいつをこれからどうするんだ? 『くっ、殺せ』とかいう展開になったらかなり面倒だぜ。
> もっと強力な仲間が続々とやってきて戦いになっちまうだろうし、何とかそれだけは避けねーとな」

「すまない、俺の力不足だ。話し合いでケリを着けるチャンスはあった。
 ただ……どう足掻いてもついて回って来るんだな。"召喚の勇者"は」

クロムに投げ飛ばされた森番をマグリットが抱き止める。
被っていたフードはその最中に剥かれており、素顔が露になっていた。
白皙に怜悧な美貌、尖った耳。間違いなくエルフだ。
眉を寄せて表情は苦し気だ。敵意は最早ないように感じた。

>「おお、やはりエルフさん、軽いですね!
>いかがでしたか?我らの力は」

>「ふん……その勇者とやらはお前の下で倒れているわけだが?
>黒衣の男の方が強いのではないか?」

「ぎくっ……いやっ、それよりマグリット、
 森番の人は多分肋骨あたりが折れてるかもしれない。
 回復を頼めないかな。そっちの方が話をスムーズに進められる」

実際にぎくっ……と発音した訳ではない。
だが、その時の鋭い指摘にレインはあまりに焦りを感じたので
冒険の記録の表現上そうなってしまうのだ。
0075レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/09(日) 22:38:00.56ID:OTcMNRqi
思えば、クロムのフォローがなければ陽動作戦も成功しているか怪しいものだった。
レイン・エクセルシア。彼を本当に勇者と呼んでもいいのか?

>「あわわわ、失礼
>勇者の強さとは武力の強さだけではありません
>字のごとく勇気をもって踏み出す者です
>彼は常に我らの先頭を踏み出してくれる、間違いなく勇者なのですよ」

幻覚物質を至近で浴びせて眠らせ、治療を開始するマグリット。
勇者の強さは武力だけではない――このことを真に理解するのは、まだ少し先の話だ。

……治療を終えて森番の女性が目を覚ますまでの間、
マグリットが戦いの中で得た情報から森の状況を推理してくれた。
森にはすでに何か重大な事件が起こっており、
森を守る森番はもちろん、森自体もダメージを負っている……というものだ。

(たとえ魔王軍でなくても、見過ごす訳にはいかないな……。
 こんな辺境の森だ。他の冒険者が事態に気付くのも時間がかかるはず)

>「ともあれ、自分を倒せたら私の話を信じると言ってくれておりますし
>目が覚めたらお話くらいしてくれるでしょう」

レインは何気なく森番のエルフの方へ視線を移した。
すると丁度、森番が形のよい目をゆっくりと見開いて、身体を起こす。
左脇腹の怪我はすっかり癒えていた。

……全霊をもって挑んで負けた。にも関わらず――……。
森を傷つけられて凍てついた心は、すっかり氷解しているような気がした。
これが勇者パーティーの力……なのだろうか。

「私を倒せば話を信じる……という約束だったな。
 まず、君達に攻撃を加えた非礼を詫びたい。……すまなかった」

そう言ってエルフは頭を下げた。
そして翡翠のような澄んだ瞳で、三人をじーっと見る。

「私はエルミア。この『精霊の森』で森番をしている。
 言い訳がましいだろうが外界の情報に疎くてね。
 そこの彼がお伽話で聞いた、伝承の勇者のようには見えなかった。
 だが……そうか。強さや魔力の波動ばかりが、勇者の条件ではない、か」

魔王が世に現われた年数だって、エルフの寿命ほど長くはない。
長きに渡って森から離れず守り続ければ、外の情報にも疎くなろう。
0076レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/09(日) 22:53:15.11ID:OTcMNRqi
戦いの時とは打って変わって、エルミアの表情と喋り方は落ち着いたものに変わった。
どうやら、勇者の一行だと本当に信じてくれたらしい。

「……今、この森ではその魔王の尖兵達が跋扈している。
 奴らは突然やってきてこの森の樹々を……焼き払った。
 そして焼き払った土地に魔法でダンジョンを作ったのさ。
 ……この森の樹は、ただの樹木じゃない。神格が宿った精霊の樹なんだ」

『精霊の森』の樹々には木の精霊(ドリアード)が宿っている、ということなのだろう。
エルミアはそっと一本の樹に手で触れると、樹に燐光が灯った。
燐光は精霊を形作り、一本の枝にちょこんとドリアードを座らせた。

エルミアはぼそぼそとドリアードと何か言葉を交わすと、
再び三人の方へと翡翠の瞳を向ける。

「……森は今の勇者と、その仲間の力を信じると言っている。
 魔王軍と戦ってくれるならダンジョンへ案内しよう。
 だが攻略には協力できない。連中との戦いで他の森番は傷を負っていてね」

まともに動ける森番はエルミアだけで、後は非戦闘員らしい。
ダンジョンを攻略することは森を救うことに他ならないが、
今森で暴れている魔王配下の魔物を駆除しなければならない、と言った。

「君達にあの魔族……"猛炎獅子"サティエンドラが倒せるとは思わないが……」

「サティエン……?ダンジョンのボスですか?」

エルミアは首肯する。それはこの森に築かれたダンジョンの主の名だ。
炎を操り、炎を纏った部下達を従え、魔王城より侵攻してきた魔族……!
当てのない旅の一番目で当たりを引いたことに、レインは不気味さを感じた。
それは今まで止まっていた巨大な歯車の装置が廻りはじめたかのようだった。

「ちょっと待った!ダンジョンへ行く前に色々準備したいな。
 壊れた馬車も放置したままだし……エルミアさん、いいかな?」

レインが気になったのは、馬車の残骸だ。
茂みに吹っ飛ばされたのでどうなったのかよく確認していないが、
馬やマグリットの樽が無事なら今の内に確保しておきたい、と咄嗟に思ったのだ。
もっとも、風魔法が直撃した馬車に乗せていたものだ。樽だけキレイに残っているかは分からない。

それにレインの戦闘スタイルは多種多様な武器で相手の弱点を突く……
……つまり、メタを張ることを基本とする。ダンジョンの情報も多い方が良い。

「必要なものがあればある程度は用意してやろう。
 ……聞きたいことがあるなら今の内に言うといい。
 私で答えられる範囲であればだけど、ね」


【ダンジョン攻略準備フェイズ(情報収集&何かあれば)】
0077クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/13(木) 01:03:07.48ID:1zHu+zmX
治療を受けて一時的に眠りに入った敵が目覚めるまでの間、クロムはマグリットから以下の内容の話を聞かされた。

森番である筈の彼女が、仲間に侵入者の存在を知らせた様子がなく、単独で対処しようとした事は不自然である。
更にエルフは森の生気で回復する事が出来るが、その回復の兆候は彼女から確認できなかった。
それは仲間を呼びたくても呼べる状況にはなく、森は吸える生気もない程衰えている事を意味するのではないか。
つまり、何かしらの重大事が既にこの森で発生しているという事ではないのか……。

「なるほどね……」

呟くクロムの脳裏に、旅立つ前にレインが言った一言が甦る。

『ちょうど『精霊の森』に、魔王軍が侵攻したっていう情報がある』

その言葉と、マグリットの言う重大事は正にピタリと符合する。
ただ、実際に魔王軍の姿を目にしたわけではない。
人間、あるいは魔族と無関係の亜人種の軍勢が何らかの理由で侵攻している可能性もある。
むしろ勇者《人間》にとって、より悩むのはその手のケースの方かもしれない。

(ま……相手が何の種族であろうと、見過ごす訳にはいかねーって顔してるがな、お前は)

レインを見て一つ溜息をつくクロム。
それは愚直なほど真っ直ぐな生き方に対する感嘆か、それとも呆れを意味していたのか、彼自身分からなかった。


意識を取り戻した森番──エルミアと名乗ったエルフ──はこの森で起きた事を話してくれた。
彼女によると攻めてきたのはやはり魔王軍であり、そいつらは森を焼き払うと型通りにダンジョンを構築したのだという。
それを指揮したのは『サティエンドラ』と名乗る炎の使い手。
魔王軍が相手となれば、回復の全てをマグリットの魔法に頼るのは危険。せめて薬草を用意して置いた方が良いだろう。
いや、その前にまずは破壊された馬車に残してきた物資を回収しなければならない。

>「必要なものがあればある程度は用意してやろう。
> ……聞きたいことがあるなら今の内に言うといい。
> 私で答えられる範囲であればだけど、ね」

等と思っていると、エルミアと目が合った。
一つの間を置いて、クロムは口を開く。

「レイン。馬はさっき無事を確認してる。まだそこら辺に居るはずだ。
 馬車にはマグリットの樽の他にも俺の食料袋を載せてあったから、中身が無事なら一緒に回収した方が良い。
 腹が減ったら戦えねーからな。──っつーわけで、早速皆を代表して行って来てくれ、リーダー。
 美人達の前で良いところ見せるチャンスだ。ははは、頼んだぜー色男ぉー」

強引かつ言葉巧みにレインに雑事を押し付けるこの男を、エルミアは何と思っただろう。
抜け目のない奴。これではどちらがチームのリーダーか分かったものではない。
そんなところだろうか?

「常に先頭を踏み出してくれる者……それにはパシリという意味も含まれていたのか?」

どうやら呆れた目つきでポツリと漏らしたところを見ると、その読みは当たっていたらしい。

「……それはお前が本当に聞きたいことじゃねーよな?
 聞きたいことがあるならと言ったが、実際は俺達に聞きたいことがあったんだろ。レインを除いた俺達に」

だが、レインに雑事を押し付けたのは、面倒を嫌っただけが理由ではない。
クロムはエルミアの真意を察して、彼女の為にお膳立てをしたのである。

「……! やれやれ……益々呆れたね。さっきのは芝居か。どうりで強引だったわけだ。
 じゃあ聞くよ、一つだけ……」

「何故、君は……いや、何故人外《君達》が人間《彼》の味方を?」
0078クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/13(木) 01:21:38.09ID:1zHu+zmX
クロムは、厳密には魔族の魔法によって生み出された魔族──『魔造人間』である。

魔族は主に二つの方法をもって異形の怪物たる魔物を造り出す。
一つは生物を魔法で禍々しく変質・強化させる──つまり既存の生命体を利用《加工》する──方法。
もう一つは魔法で無生物に意思と形を与える方法である

魔造人間──通称『魔人』は前者の方法によって生み出される。
ただ、見た目が人間の形を残しただけの化物でないのは、加工の際に異形への変質を抑制されたからだ。
意図して。つまり異形本来が持つ圧倒的な力強さを半減させてでも、そのように敢えて調整されたのだ。

何故そんな手の込んだことをわざわざ?
理由はそれによって人間の姿形とその知性を保てるからだ。
魔族が魔人を造った目的は主に人間界のスパイと破壊工作。それによって疑心暗鬼を生じさせ、結束を弱める為。
人間に酷似した見た目だからこそ人間社会に溶け込めるし、人間並の知性があるから人間を欺ける。

しかも人間界で生きる亜人種が何も魔人だけとは限らないこの世界。
その赤い瞳と尖った耳程度の差異で、魔王軍の放ったスパイと看破されるケースはあったとしても極めて稀だろう。
事実、レインもマグリットも、クロムを魔なる者と疑っている様子は見られない。少なくとも今のところは。

「……どこに居るのかも分からない、誰も倒したことのない伝説の敵を倒すって言ったんだよ、あいつ」

エルミアも精々、何らかの獣人種と思っているだけで、気が付いていない筈だ。
でなければ味方として受け入れようとするわけがない。現在この森は魔族の侵攻の最中にあるのだから。

「使えるのは召喚の魔法。勇者としての弱さを誰よりも知ってるのに、それでもあいつの目は正気で本気だった。
 ……そんな人間《ヤツ》、今時珍しいぜ。だから興味が沸いた。それが旅に同行した理由……の半分」

とにかく余計な事は言うべきではない。
これからダンジョンに乗り込もうという時に聞かれてもいない事を告白して、トラブル発生となっては目も当てられない。
だから答えるのは、聞かれた部分だけ。しかし正直にだ。嘘はつけない。
別に正直に言ったところで困る事はないし、何より嘘をつけば見抜かれた時に警戒されるだけなのだから。

「残りの半分は……ま、欲しいモノを手に入れたいってのと、色々だな」

「……」

「薬草」

「え?」

「必要なものを用意してくれるって言ったろ? 回復アイテムはいくらあっても困るもんじゃねーからな。用意してくれ」

「あぁ、それくらいならお安い御用だ。後で用意しよう。……それで」

クロムから視線を外したエルミアが、今度はマグリットを見た。

【エルミアと話して待機中】
0079マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/16(日) 22:41:53.68ID:OBa49NJ6
傷を癒し目を覚まして襲撃者は一行を勇者と認め話し合いに応じる姿勢を見せる
その中で自身を森番のエルミアと名乗った

エルミアの話によれば魔王の尖兵が森にやってきて、木々を焼き払いダンジョンを作ったとの事
その影響で他の森番は負傷し、森自体も衰弱しているようだ

「成程、強力なエルフさんたちを退けた魔物が猛炎獅子サティエンドラと炎を纏った魔物たちですか
炎の魔物となるとエルフさんたちとは相性が悪いですねえ」

エルミリアの話を聞き納得するようにうなずくマグリット
そうしていると隣でクロムが言葉巧みにレインを荷物の回収に向かわせる

「あ、それならば……あ〜、えっと……
私の樽は伝道師になるに当たって教会から特別に頑丈に作られたものが支給されました
ですので多分無事でしょうが、とても重いので転がして運んでくださって結構ですよ」

マグリットの持ってきた樽は特性の樽で多少の衝撃では壊れることはない
しかし中は聖水で満たされており、かなりの重量であるしと立ち上がろうとしたのだが、クロムの視線を感じ慌ててレインを送り出す体をとり見送った

レインが馬の方へ向かったのを確認したところでクロムが口を開いた
どうやらあえてレインを外し、三人だけで話があるようだ
促されたエルミリアが紡いだ言葉は驚きのものだった

>「何故、君は……いや、何故人外《君達》が人間《彼》の味方を?」

「え、達?……という事は……!」

ワンテンポ遅れて言葉の意味を察したマグリットが慌てて自分の口を両手で塞ぐ
今この時までクロムが人間と思って疑っていなかったからだ
人間の他には様々な亜人や獣人がいる
一口に獣人と言っても様々な種類の獣と人のハイブリットがいるわけで、クロムがどういった人外かは人でないと言われた今もわかりはしない

しかしだからと言って、どういった種族かを聞くのは憚られ、それを口にすることはできない
『亜』人、『獣』人などこれらの呼び名は『人』を基準にした呼び名だ
即ちこの世界は『人間』が中心になっている
その中で暮らすうえで軋轢を避けるために人でないことを隠すのはままある事であり、かくいうマグリットも隠すまではいかなくともわざわざ自分から言う事もないのだから

ここであえてクロムに聞き出そうとは思えなかった
しかしエルミリアの問いに答えるクロムの答えが効ければそれで充分であると思えていた
なぜならば、マグリットもまたそう感じる部分があったからだ
0080マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/16(日) 22:45:28.26ID:OBa49NJ6
クロムの答えに満足したようで、次にマグリットに答えを促すエルミリア
その視線を受け僅かな躊躇の時間を置き小さく息を吐く

「ここからの戦いを考えれば下手にごまかしたりするのは得策ではなさそうなのでぶっちゃけますが」

肩をすくめながらそう前置きを置いてからマグリットは語る
『人間』に味方する理由は『人間』がこの世界で最大版図を持っており、その組織力や情報網がマグリットの目的達成に必要なものだったから
それを利用するために『人間』に味方し『教会』に属して協力関係を構築していたのだと

その一環でレインに協力する事となったのだが、その際にレインの率先して先を切り開く行動に感銘を受けた
エルミリアも感じている通り、決して万能でも無敵でもない、それどころか光魔法が使えない勇者でもあるにもかかわらず
そんな彼がそれでも前に進んでいこうとする強い意志を見た
そして救命する際に奇跡を賜り、レインと共に進む事に指名を感じたのだ

「そもそも利害関係で神職になった私などが奇跡を起こしたというのは信じるに足る根拠といって良いでしょう?」

人に味方する理由とレインに味方する理由をこう締めくくり誇らしげに胸を張るのだった
が、思い出したように体を縮め付け加える

「ま、まあそんな分けてそんなに信仰深い訳でもなく、お恥ずかしながら回復術も戦闘時にささっとかけられるような腕ではありませんので
クロムさんの言ったように回復薬を用意していただけるとありがたいですね」

PTの回復役としては己の存在意義をかなぐり捨てるような発言ではあるが、実際問題回復力としては乏しすぎるので仕方がない

「後は……」

と腕組みをして少し考え
出現時期や判っている魔物数や種類、耐火炎用の装備、近くの水源・水脈、ダンジョン内の探索の有無などを尋ねていく

出現時期によりダンジョン形成の規模が予測できるし、炎を纏う魔物と言っても実体を持つ魔物か炎そのもののような魔物かによっても対処は異なる
更にエルフが持つ耐火装備や炎に対する耐性魔法などがあれば、利用できるものがあれば何でも利用したいというのが本音であり
地形や地質もその一環であるし、ダンジョンの探索が行われているかにより攻略難易度も変わるだろう

考えるべきところは多くあるが

「それにしても猛炎『獅子』ですか
やはりレインさんについてきて正解ですね
運命の歯車の様なものを感じます」

戻ってくるレインの姿を認め、そんな呟きを漏らすのであった
0081レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 21:54:35.34ID:Pj6AJEUv
エルミアの口から語られた魔族の名。その名は"猛炎獅子"サティエンドラ――!
果たして彼のダンジョンに魔王城への手がかりはあるのだろうか。
いずれにせよ、準備を怠っていい相手でないことは確かだ。

>「レイン。馬はさっき無事を確認してる。まだそこら辺に居るはずだ。
>馬車にはマグリットの樽の他にも俺の食料袋を載せてあったから、中身が無事なら一緒に回収した方が良い。
>腹が減ったら戦えねーからな。──っつーわけで、早速皆を代表して行って来てくれ、リーダー。
>美人達の前で良いところ見せるチャンスだ。ははは、頼んだぜー色男ぉー」

>「あ、それならば……あ〜、えっと……
>私の樽は伝道師になるに当たって教会から特別に頑丈に作られたものが支給されました
>ですので多分無事でしょうが、とても重いので転がして運んでくださって結構ですよ」

……言い出したまでは良かったが、残骸の回収に行くのは自分に決まってしまった。
クロムは基本的に面倒くさがる性分なので、こう切り返してきても不思議はなかったが……。
……それでも、残骸回収にレインを指名したのには理由がありそうだ。

恐らくエルミアの胸にはまだ疑念が燻っているのだろう。
森は信じると言ってくれたようだが、彼女自身はどうであろうか。。
エルフは長寿で仲間意識が強く、利口で魔法の扱いにも長けているが、
裏を返せば排他的であり、疑り深いということでもある。

思えばクロムはどことなく亜人に近い顔立ちをしていなくもない。
彼の人種を気にしたことはないが、仮にクロムが亜人だったとしてだ。
二人と共に居ることは、同族の繋がりを重視するエルフからは奇異に映るのだろうか?
ともかく、クロムはエルミアが秘めていた真意を察したに違いない。

「分かった、ちょっと待ってて。すぐに戻ってくるよ」

ならば邪魔をするのは野暮だ。レインは立ち上がり、元来た道を戻り始めた。
さて、エルミアと会った場所に辿り着くと馬車の残骸が散らばっていた。
積んであったクロムの食料袋も周辺に散乱している。

(食料袋は全滅っぽいな……)

風魔法の直撃を受けたのだから仕方あるまい。
レインは周辺の草木を掻き分けて樽を探し始めた。
エルミアの話によれば敵の魔族は炎を使うと聞く。
樽があれば戦闘を優位に運べるはずだ。

「あっ……あれだ!」

かくして聖水を湛えた水樽は発見された。やはり特別製であることがさいわいしたのか。
マグリットの樽は中身を零すことなく、ゴロッと茂みの中に転がっていた。
更に待っていた言わんばかりにクロムの馬もそこにいるではないか。

……が、馬を連れて樽をごろんごろん転がしていくのは若干骨が折れる。
そこでレインはごそごそと白紙のスクロールを取り出した。
魔法使いでない者がたまに使う、使い捨て式の魔導具である。
レインはこれに召喚魔法の魔法陣を書き込んで樽を収納する作戦だ。
0082レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 22:01:47.81ID:Pj6AJEUv
スクロールに刻んだ召喚魔法が発動すると樽は燐光を残して消え去っていく。
かくして巻物を片手に馬を引き連れ、レインは三人の下へ戻る。
エルミアとの話はどうなっているのだろうか。

考えてみれば二人が仲間になってくれた理由をちゃんと聞いたことがない。
レインがクロムとマグリットを誘った理由は、端的に言えば運命を感じた。
理屈をつければ、あの二人となら、もっと多くの誰かを助けられると思ったからである。

レインは三人の中で一番弱い。光魔法は使えないし、戦闘技術も一流とは呼べない。
一人の頃は、それでも強くなろうと頑なにダンジョンを潜った。
それは儚い憧れを追いかけていたに等しいかもしれないが。

(……二人とも、冒険をする理由は何だろう。
 魔王城を探す冒険の中で、求めているものが見つかればいいけど)

仲間になったのだから、二人が冒険に求める"何か"を、レインは一緒に探したい。
そう、目的は何も魔王城の攻略だけではない。彼らの冒険に協力する義務がレインにはある。
……この一件が終わったら聞いてみよう。そう決意を固めて三人の所へと戻るのだった。

「待たせたかな。樽は無事だったけど食料袋は全滅だったよ」

スクロールを開くと、ぼんっ!と樽がマグリットの前に現われた。
召喚魔法しか使えないレインだが、ものを運ぶときには便利だとつくづく思う。

「ダンジョンについて話していたところさ。
 そういえば君がいないことを忘れていた」

いなかったレインのために、エルミアは再度ダンジョンについて語ってくれた。
半年ほど前、精霊の森を焼き払い構築されたその迷宮の名を『紅蓮魔宮』という。
いちからサティエンドラの魔法によって生み出され、大量の魔物を内部に秘めている。
最低でも一個中隊程度の数が潜んでいると考えてよいとのこと。

近くに水源はあったが、ダンジョン構築の際に埋め立てられたらしい。
……と、ここまで話して、森番たちも実際にダンジョンに入った訳ではないことを打ち明けた。
十数名程度の森番では、森に放たれた魔物と炎の対処で精一杯だったという。
0083レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 22:04:37.54ID:Pj6AJEUv
森番たちが確認している魔物は第一にトーチゴブリン。
文字通り火の棒を持ったゴブリンで、周辺のものを焼いてくる危ない魔物だ。
次にヘルハウンド。凶暴な猟犬型の魔物で敏捷性も厄介だが怒ると口から火を吹く。
そしてフレイムリザード。精霊サラマンダーが魔物化し実体を得たもの。火炎を操れる。
残るは溶岩兵士。溶岩に意志を与え生まれた魔物。マグマを血に動く。

これはあくまでも森番が確認した魔物でしかない。
ダンジョンの中にいる魔物も全て同じではないだろう。

最後にマグリットの希望にあった耐火装備についてだが、
エルミアが着ている外套と同じものであれば用意できるそうだ。

「これは『精霊の外套』と言ってね。
 四大精霊の力を込めた糸で編んだ外套なんだ」

曰く『精霊の森』の森番だけが纏うことを許される特別なものらしい。
火、水、風、土、それぞれに攻撃に対して反発属性で威力を軽減してくれる。
ゆえに火では燃えず、水を弾き、風に流されず、衝撃を和らげる。

「薬草と同じく、人数分用意しておくよ。気休めにはなってくれるだろう」

薬草と装備を取りに一度皆のところへ戻る、とエルミアは言った。
ダンジョンを攻略している間、クロムの馬も預かってくれるそうだ。
去り際に三人のことを見て、こんな言葉を掛けた。

「今は君達を信じよう。召喚の勇者にその仲間達の無事を、
 森の精霊と、この大地を創りたもうた神々に祈ることにするよ」


――――――…………。


サティエンドラが構築したダンジョンは森の中央に聳え立っている。
本来ならそこに樹齢数万年を超える精霊の樹が存在していたが、
魔王軍によって燃やされてしまいもう存在していない。

ダンジョンとは言うが外観は宮殿そのものだ。
玉ねぎ型の屋根が特徴的なこの世の贅を凝らした建築物。
エルミアと共に木陰から覗き込みながら、レインは言った。

「半年前には森があったなんて信じられない大きさだ。
 ……でも用心するべきだ。魔法で作られたということは、
 外観と内部の構造は一致していないかもしれない」
0084レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 22:10:23.34ID:Pj6AJEUv
宮殿や城にはじまる、建物型の迷宮は内部に魔法が掛けられている事がある。
魔法によって形成された虚数空間は、外観以上の広さをダンジョンに与えるのだ。

虚数空間――。すなわち魔法によって構築される異空間のことだ。
身近な例で言えばレインの召喚魔法も武器の収納先はこの虚数空間だ。
ダンジョンよりはよっぽど簡易的なもののため、比べることも烏滸がましいが……。

話を戻そう。広いだけなら生易しい。場合によっては内部の構造が逐一変わる意地悪い例もあるのだ。
駆け出しの冒険者なら、道に迷っている内にアイテムが尽きて全滅なんてこともあり得る。

「私が案内できるのはここまでだ。……くれぐれも気をつけて欲しい。
 私の知る限り、このダンジョンの主ほど強い者は見た事がない」

物憂げな表情でエルミアはそう言った。
自分達の身を案じてくれているのだろう。
だとしても、このダンジョンだけは必ず攻略したい。

今魔王軍を止めなければ、近い将来この森は焦土と化すだろう。
精霊と少数のエルフだけの辺境なら切り捨ててしまってもいいのか?
あるいは、サマリア王国はそうなのかも知れない。だがレインはそう考えなかった。
『精霊の外套』を翻して、自分の胸をとん、と拳で叩く。心配せずに任せろという仕草だ。

「三人で帰ってきます。絶対に!」

宮殿の入り口らしき場所は正面しかない。ならばこそこそする必要も無いだろう。
勢いよく扉を開け放つと、待ち受けていたのはだだっ広い空間だった。
奥には通路らしきものが見えており、宮殿の深部へ続いているのだろう。
……そして、まるで待ち構えるかのように魔物達が立ち塞がっている。

めいめい武装したトーチゴブリンの群れ。
魔犬ヘルハウンドに火炎を操るフレイムリザード。
そして身体が燃え滾る溶岩で出来ているという溶岩兵士。
どれもエルミアから聞いた情報通りの魔物たちだ。

強いて言えば、厄介なのは溶岩兵士か。
高温の溶岩で出来た手足から放つ攻撃は、それだけで一撃必殺。
剣や槍で斬ろうものならマグマの血が噴出する。武器も冒険者も溶かすことだろう。
この魔物達が、魔王軍の魔族へと続く道の第一関門とでも言ったところか。
――やがて、痺れを切らした魔物達がクロム、マグリット、レインに殺到した!


【いよいよダンジョン『紅蓮魔宮』に突入】
【魔物の群れに囲まれて戦闘開始】
0085クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/24(月) 04:11:22.38ID:lmucn47R
森の中央部に聳え立つダンジョン。
その外観は、軍事拠点《城》というよりはどこぞの王朝の王都にありそうな豪華な宮殿だ。
だが、その優雅な見た目もどこかうそ寒く感じられるのは、恐らく気のせいではないのだろう。

(外は美しく、中は醜くってか)

宮殿の入口は正面の扉しかない。
だからレインを先頭にした三人はそこに立ったのだが、見張りが一匹もいないそこは余りに静か過ぎた。
それを嵐の前の静けさと解釈する者が居たとして何の不思議があるだろうか。

先頭のレインが勢いよく扉を開け放ち、露となった宮殿内部。
そこに広がっていた光景は予想通り、あるいは懸念通りというべき、ひしめく魔物の群れ、群れ、群れ。
トーチゴブリン、ヘルハウンド、フレイムリザード、溶岩兵士──……
しかしどれもエルミアの情報通りの魔物達なのは救いだ。
もっとも、敵がどんな魔物であろうと、魔法の使えないクロムに自身の戦闘スタイルを変える余地はほぼないのだが。

「先に行くぜ」

様々な魔法を駆使して多様な戦術が可能な魔法使いとは違い、戦士は“力”に特化した分、不器用だ。
クロムの場合は言ってしまえば剣を振るうだけ。
それでも、いや……だからこそか。彼は、マグリットより、レインよりも早く前に出る。
パーティで己の特徴を最も生かす役割こそ“先陣を切る”であると信じているからだ。

弾き出されるように飛び出してきた魔物達の顔触れを見渡して、柄に手を掛けるクロム。
一斉に殺到、という状況とはいえ、魔物達にも身軽な者、鈍重な者とでそのスピードには差が生まれる。
最も前面に集中している魔物は、やはり身軽なゴブリンやヘルハウンド。

(好都合だ)

一人突出した形となったクロムの姿を認めた魔物達が、前から右から左から、そして頭上から殺到する。

「──」

だが、彼らの持つ爪や牙、そして得物がクロムに届く事は無かった。
それよりも早く空間を横一文字に薙いだ剣が、正面左右から跳びかかってきたヘルハウンド数匹の首をぶっ飛ばし、
すかさず手首を返して左斜め上に切上げた鋒が今度は頭上のゴブリン数匹の腹を切り裂き、腸をぶち撒けさせたからだ。

瞬時に仲間が肉塊と化す異様な光景を目の当たりにしても、恐れ知らずの魔物達は仲間の屍を文字通り踏み越えて向かってくる。
恐れないのは狂気に支配されているからか、あるいは恐怖すら認識できない知性を原因とするものか。
いずれにしてもこれはクロムにとっても望むところである。

「こちとらこれからボスと斬《や》り合わなきゃならないんでね。体力の消耗はできるだけ抑えたいんだ。
 だから仲間がどれだけ殺されても恐れず自分から剣の餌食になりに来てくれるお前らは楽でいいぜ」

無数の火の棒、無数の牙を躱し、吐かれた火炎を『精霊の外套』で耐える。
そしてその黒剣でカウンター。一匹、また一匹と頭を割り、胴体を切り裂き、首を飛ばして血の海に沈めていく。

だが、レインもマグリットもそろそろ気が付いているだろうか。
クロムが次から次へと斬り捨てている魔物のほぼ全てが、ゴブリンとヘルハウンドだということに。
そして溶岩兵士とフレイムリザードには攻撃を一切仕掛けてはいないということに。

これは溶岩兵士とフレイムリザードには剣よりも魔法の方が相性が良さそうだというクロムなりの判断。
つまり「“そっち”はお前らに任せたぜ」というメッセージである。

【ゴブリン・ヘルハウンドと戦闘開始。溶岩兵士とフレイムリザードはお任せ。ただ頼まれれば加勢するつもり】
0086マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/28(金) 19:57:23.87ID:ssOFUTP0
「こ、これは凄いですねえ」

思わず感嘆の呟きを漏らしてしまうマグリット
エルミアに案内され辿り着いた紅蓮魔宮はそんな言葉が漏れてしまうのにふさわしい荘厳さであった
深い森の中に不自然に聳え立つ魔宮はその威容を惜しみなく振りまいていた

「半年でこれだけの魔宮を築き上げるとは、"猛炎獅子"サティエンドラというのはよほどの魔物のようですね」

この奥に待ち構えるサティエンドラを想像しごくりと唾をのむ
火炎系の魔物が揃っているという事で、水源があればレインが樽をスクロールに入れて運んだように、水源から水を大量にスクロールに入れて魔宮を水浸しにしようと考えていたのだが、当然のように埋め立てられていた
しかしこの規模の魔宮を見るにそれが可能であったからと言ってすんなりと勝てるとは思えなかった

>「三人で帰ってきます。絶対に!」

レインの言葉にマグリットも覚悟を決め、その門をくぐるのであった


広間に入ると魔物の群れが待ち構えていた
見渡す限り、エルミアの言っていた通りの魔物たち
それぞれが火の棒を持ったり火を吐いたりしている

「むむむ、多勢には幻覚で混乱させようかと思ったのですが、幻覚物質が炎に舐められてしまって効果が期待できませんね」

>「先に行くぜ」

さてどうしたものかと困っていると、隣のクロムが先んじて飛び出していく
殺到してくるゴブリンやヘルハウンドの攻撃をすり抜けるように白刃を舞わせ、そのたびに血煙が上がっていく

「これはありがたい、ではこちらは引き受けますよ!」

数が多く動きの速い魔物に囲まれては、重鈍なマグリットはその対処で身動きが取れなくなっていたであろう
しかしクロムが引き受けてくれたことにより、落ち着いて狙いが定められる
腰を落とし右手を掲げるその先には、溶岩兵士

「火には水、水浸しになって冷え固まりなさい」

掲げられた右手の袖口に覗くは貝の放水管
水晶の洞窟では、その口を限界まで絞り水圧をかけウォーターカッターとしていたが、今回は大きく広げ拳大の水球を勢いよく射出した

水球は狙い違わず溶岩兵士の顔面に直撃したが、マグリットが狙ったように水浸しになり冷え固まる事はなかった
溶岩に意思を与えた魔物であり、すなわち体は溶けた岩
思った以上に柔らかく、水球はその顔にめり込んでしまったのだ
そして次の瞬間、マグマの血液により急激に熱せられ沸騰し膨張し、水球は溶岩兵士の頭部諸共爆ぜたのだ

「熱つつつ!
あんなになるとは……精霊の外套があって良かった」

爆発した溶岩兵はあたりにマグマを飛び散らせ熱気を拡散させていく
近くに魔物も破片に当たり傷つくが、熱気はマグリットの元まで辿り着いていた

「ま、まあ、一撃必殺という事で、お二人とも破片にはお気を付けください!」

周囲への被害は大きいが、多勢は相手方であり被害が大きく及ぶのも相手側
ならば思いがけず手に入れた当たれば一撃必殺の特攻効果の攻撃を渋る理由もない
動きの鈍い溶岩兵士を撃ち抜くことはたやすい事だ
次々に水球を射出し溶岩兵士を爆発させていくのであった
0087レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/29(土) 15:39:44.77ID:BfUHJ3F6
扉を開けば相手は四種の魔物による混成部隊。
襲い掛かる魔物の群れを前にこちらも今更うろたえはしない。
クロムは切り込み隊長としてトーチゴブリンとヘルハウンドを。
マグリットは弱点属性を活かして溶岩兵士を相手取る。

レインも負けてはいられない。
この紅蓮魔宮の魔物は一様に火属性である。
ならばここは所有する三つの魔法武器のひとつが役立つ。

「召喚変身――清冽の槍術士!」

空間に魔法陣が浮かぶと身体を包み込んだ。
舞い散る燐光を弾けさせて現れたのは、槍を構えた水の勇者。
水気を持った槍に和洋折衷の装束と長靴が特徴的だ。

呼び出した武器は天空の聖弓『ストリボーグ』と同じ魔法武器。
水を生成する清冽の槍『アクアヴィーラ』。それに伴う付加装備である。
この形態のレインは装備している波紋の長靴の効果で素早さと跳躍力が向上する。
さらに、長靴に刻まれた魔法の力で水の上を歩くこともできるのだ。

「グオオオオオッ……!」

レインを標的と定めたフレイムリザードはその力で五つの火球を生み出した。
分類すると炎魔法の初歩『フレイムスフィア』に該当するのだろう。
神格が低いとはいえ元は精霊。その程度は造作もない。
槍を向けて突っ込むと、火球は過たずレインへと迫る。

「舞踊槍術――……」

身体を捻らせて火球を躱しつつ一閃。
フレイムリザードを真っ二つに切り裂く。

「……――睡蓮の舞!」

舞踊槍術。レインがさる東方の島国を訪れた際に着想を得た独自の戦闘方法である。
のらりくらりと動いて敵の調子を崩して、痛烈なカウンターを叩き込む。
乱戦で使うのは始めてだが魔物の単調な炎攻撃は避けやすい。

魔物との戦いは順調そのもの。全員撃破も不可能ではない。
だからといって、ここで体力を無駄に消耗すると後が続かなくなる。
深部へ続く道が手薄になったところで、レインは一気に突破することに決めた。

「このまま通路まで突っ切ろう!舞踊槍術……流麗の舞!」

アクアヴィーラを高速回転させながら水流を発生させて突撃。
炎はすべて水の壁に防がれて、強引に魔物の群れの中に道を切り開いていく。
クロムとマグリットが通路まで来るのを見計らったところで、召喚魔法を発動。

「換装召喚――天空の聖弓兵!」

風の弓を持った狩人のごとき姿へ再変身すると、頭上めがけて『風の矢』を放つ!
放たれた矢は石造りの天井を崩し、瓦礫となって通路の道を閉塞してしまった。
0088レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/29(土) 15:42:24.04ID:BfUHJ3F6
これで魔物達が追いかけてくることはないだろう。
帰りはまたストリボーグで穴を開けてやればいい。

「道を進もう。虱潰しに、まずはまっすぐに探索してみよう」

深部へと続く道は幾つか別れていたが、レインはまっすぐ進むことを選んだ。
さいわいと言うべきか、魔物と遭遇することもなく、ひとつの扉まで辿り着く。
中は先のようにモンスターハウスとなっている可能性もあるが……。
知るのを恐れていては先に進めない。レインは意を決して扉を開いた。

三人を待っていたのは――巨大なコロシアムと耳を聾する大歓声。
なんと観客席には人間ではなくゴブリンなどの魔物で溢れている。
おそらくその全てがサティエンドラ配下の魔物たちだろう。

「話が違うぞ……一個中隊なんてもんじゃない。
 これだけの数の魔物がいるなんて!」

数だけならサマリア王国の戦力に匹敵するほどではないだろうか。
ここにいる魔物が全て武装して襲い掛かってきたとしたら……。
話の規模は『精霊の森』どころではなくなる。

「――よくぞ俺様の試練を潜り抜けた!合格だ勇者諸君!」

歓声を切り裂いて、威厳をもった声が響いた。
その声が聞こえた途端、観客席は水を打ったように静まり返る。

「俺様の名は"猛炎獅子"サティエンドラ!
 この紅蓮魔宮を創り出した主にして、魔王軍幹部の一人!!」

サティエンドラは、観客席の中でもひと際高い位置のVIP席に座っていた。
獅子の毛皮を被ったような服装に、頭には魔族を示す二本の巨大な角。
自身の鬣を撫でながら、ふんぞり返った姿勢で座っている。

「大方、俺様の首を獲りに来たんだろう?
 生憎と雑魚には興味ねぇんでな……試させてもらった」

サティエンドラは話を続ける。

「この退屈な世界で、俺様が愉悦としているのは『闘争』!
 血沸き肉躍る、飽くなきまでの純粋な闘いよッ!!」

「どういう事だ……!?」

「数の暴力でテメェやこの国を潰すのは簡単だ。が、それじゃつまらねぇ。
 だから……俺様を殺すチャンスをくれてやるって言ってんのさ!」

獅子のごとき魔族は立ち上がるや跳躍し、
クロム、マグリット、レインの前に着地した。

恐ろしいほどの威圧感。その偉丈夫と鋭い眼光もさながら、
迸る魔力は炎を思わせるほどに揺らめき、陽炎の如く空間へ散っていく。

勇者も含めて、連中の素性など意にも返さないとばかりに。
そう、彼は――何も考えずに、ただ純粋に闘争を楽しみたいのだ。
構えもせずに、剣が届き得る距離まで無防備に近付いて口を開いた。

「……どうした?先手は譲ってやるぜ」


【第一関門通過。第二関門にして紅蓮魔宮のボス登場】
0089クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/02(水) 01:18:07.44ID:o4rixJR0
魔物の断末魔が挙がる度に、物言わぬ肉塊が一つ、また一つと増えていく。
初めはゴブリン、ヘルハウンドのものばかりだったそれらの上に、次第に溶岩兵士、フレイムリザードが積み重なっていく。
どうやら任せて正解。レインもマグリットも臆することなく魔物を倒しているようだ。順調である。

とはいえ、ボス戦を控える身で、ここで体力を消耗してまで魔物を全滅させるというのも些か馬鹿正直というものだ。
無駄な戦いを回避できるのならばそれに越した事は無い。

>「このまま通路まで突っ切ろう!舞踊槍術……流麗の舞!」

そして、それを可能にする手段を持っていたのはレインだった。
召喚させた魔法の武器で、水流を発生。火炎《魔物の群れ》のど真ん中に、文字通り“道”を切り開いて見せたのだ。

「行け! ここは俺が殿《しんがり》だ!」

後ろから魔物がついてくる万が一の事態に備えて、クロムは動きの遅いマグリットを先にレインの後に続かせる。
道を渡る先頭はレイン、真ん中にマグリット、最後尾にクロム──。
その最後のクロムが“道”を渡り切ったところで、次にレインが放ったのはキマイラを貫いたあの風の矢。
だが、ターゲットは三人の後に続こうとする魔物などではなく、天井。その目的はなるほど、足止めという事らしい。

激しい風が天井を崩落させ、“道”を物理的に塞いでいく。
勿論、生き残りの魔物達がそれに巻き込まれて潰れるのもレインの計算の内だろう。
道は閉ざされ、戦力は壊滅的。となれば追跡はもはや困難である。

(追手の心配はなくなった。後は、落ち着いて次の道を決めるだけだが……さて)

奥の暗がりの先に佇む、迷宮にありがちな分かれ道。
次のステージに通じるのは間違いなくその内の一つだけしかないだろう。
つまり他の道は罠が盛り沢山のダミーというのは想像に難くない。

>「道を進もう。虱潰しに、まずはまっすぐに探索してみよう」

だが、罠などをいちいち恐れていては、冒険者などましてやサティエンドラの命を狙う戦士など務まらないのだ。
ここは迷いのないレイン《勇者》の一言と直感に、四の五の言わずただ黙って従うのみである。

──……。

それが視界に現れたのは、レインの後を歩いて十何分か、あるいは何十分かが経った頃だった。
行く手を阻むのように立ちふさがる大きな扉──
──いや、扉なのだからむしろその逆で、入って来いと誘っているようにも受け取れる。
いずれにしても次のステージの入口を告げるものであることは確かであろう。

(……この気配)

扉の先から感じる妙な気配に違和感を覚えながらも、クロムはレインが扉を開くのを黙って見届ける。
彼がその違和感の正体を異様な熱気である事を知るのは、扉が開かれた直後だった。
0090クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/02(水) 01:26:33.28ID:o4rixJR0
歓声。耳を劈くような歓声。
扉を潜り、辺りを見回せばそこは円形闘技場。
観客席を所狭しと埋め尽くした数百匹、数千匹の魔物達がその口から、全身から興奮の熱気を捻り出している。
──ただ一匹を除いては。

観客席の中でも最も高い席にどっかり腰を据え堂々たる雰囲気を醸し出す魔物。
クロムは初め、サティエンドラの側近と見当をつけたが、それを否定したのは他でもないその魔物であった。

>「俺様の名は"猛炎獅子"サティエンドラ!
> この紅蓮魔宮を創り出した主にして、魔王軍幹部の一人!!」

何とサティエンドラ本人を名乗ったのである。

「馬鹿な」

薬草一つ、回復魔法を一回も使わずにボスに辿り着けるダンジョンなど、余りに手応えがなさすぎる。
故にクロムは罠を警戒する。
しかし、自称サティエンドラは闘争を望むが故に敢えてチャンスを与えたとまるでこちらの疑問を見透かしたように説明すると、リングへと着地した。
すなわち、こちらの目と鼻の先に。

これを罠に掛ける為の挑発と解釈するか、それとも闘争を望む真実の態度と受け取るか、判断は難しい。
通常の悪辣な魔族、その手口を考えれば十中八九、罠と考えて良いのだが……。

(いずれにしてもこいつを避けて通るわけにはいかねぇ……か)

考えている内に、サティエンドラは剣の間合いに堂々と入り込んで来ていた。
クロムはレインとマグリットに一瞥をくれて左右に散らせると、やや半身となって剣の柄に手を伸ばす。

>「……どうした?先手は譲ってやるぜ」

「随分と気前がいいんだな。じゃあ遠慮なく──」

クロムの目に光が宿る。固有の能力『魔装機神』が発動した証である。
更に鞘に収まる黒剣もにわかに輝きを増す。魔力を喰わせて剣の能力を引き出しているのだ。
つまりこれらは様子見や手加減なしの本気を意味する。

「──喰らいな!」

柄を掴むと同時、鞘から抜き放たれた黒剣が空間を走る。
常人ならばその過程を視認することはおろか、黒い光が走ったとすら認識できないであろう神業的超速。
『魔装機神』で身体能力が飛躍的に強化されているからこそ可能な抜刀術だ。

そして、魔力を喰った『悪鬼の剣』が吐き出すその打撃力は、文字通り通常の剣など比ではない。
『魔装機神』との併せ技で発揮される威力は、強化されたキマイラの胴体すら容易く真っ二つにする。
今までこれをまともに喰らい、無事で済んだ者はいない。人間は勿論、亜人も魔族も。

(──っ!!?)

しかし──予想外。
貰ったチャンスを生かし、見事にその必殺の黒刃を敵の首筋に叩きつけた筈が──
紙一重の差でその軌道上に差し出された敵の手首によって防がれてしまったのである。

超速についてこれる敵のスピードにも驚くが、クロムが一瞬、思考を停止する程驚愕したのは敵の防御能力。
手首の甲で刃を受け止める。それがまず通常ではありえない光景だからだ。
普通ならば手首ごと首が切り落とされている。少なくともクロムはそれを確信できるだけの威力を剣に込めていた。

なのに現実はそれとは真逆。敵は首はおろか、手首すら負傷していない。
これは悪夢という名の幻か。やはり仕掛けられた敵の罠にまんまと掛かってしまったのか。
それとも、サティエンドラ《目の前の敵》が、単にクロムの予想を超えた実力の持ち主なのか──。
0091クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/02(水) 01:34:08.12ID:o4rixJR0
「──中々どうして、痛ェじゃねぇか。こんな手応え久しぶりだぜ!」

ニタァ、と口を歪めたサティエンドラが、手首を返して今度は掌で刃を掴んだ。

(こいつ……!)

とてつもない握力。剣を引くことも、押し出す事も出来ない。

「どういう手品か知らねぇがよ。テメェ、一風変わったワザを持ってやがるな? まぁ……どんなワザも」

クロムを再び違和感が襲ったのは、正にその時だった。
剣を握る手が熱い。……いや、柄が熱い。……違う。これは剣が熱いのだ。剣が急速に熱を発し始めている。

「俺様の“それ”に比べりゃ子供の遊びだがな」

「っ!」

突如として赤く染まる視界に──同時に全身を襲った痛みに、クロムは声にならない声をあげた。
熱い。体が燃えるように熱い。いや、実際に今、焼かれているのだ。突如として発生した紅蓮の火炎に。

「そら! 早く手を離さねぇと黒焦げになっちまうぜ?」

(そうか、火炎の使い手! 炎が刃を伝って──!)

咄嗟に柄から手を離し、思いきり後方に飛び退いて火炎を振り払うクロム。
だが、敵がそれを黙って見ているわけもない。
敵との距離十メートル程の地点に着地すると同時に、矢のように放たれた黒剣が右太ももを貫いたのだ。
相手の得物を追撃の一手として利用したわけだ。それも正確無比の投擲で。

「チッ!」

思わず舌打ち。
そして刺さった剣を引き抜きながら、懐から取り出した薬草を口に入れて、回復と止血を図る。
この時、一度は静まり返った観客席が、一気に興奮を取り戻していた。

この一連の攻防でサティエンドラは無傷。こちらは火炎に焼かれ、脚を刺傷。魔物達が狂喜するのも無理はない。

「……さて。次はどっちだ? 女か? それとも勇者サマか? 何なら二人纏めてか? ククク、どっちでもいいぜ」

クロムは唇を噛み、滲んだ血もろとも唾をその場にぺっと吐き出した。
『精霊の外套』のお陰で火炎のダメージは軽減されているに違いない。
にもかかわらず、肉体が負った火傷は大事に至っていないだけで、決して軽症ではない。
つまりそれだけのレベルの魔法を使えるということだ。
しかもサティエンドラという魔族、何も強力なのは魔法だけではない。体術もなのだ。

(やべぇな。こいつは半端じゃねぇぞ……! 正に『獅子』だ……!)

【サティエンドラと戦闘開始。全身を焼かれ右脚を負傷。一旦距離を取って薬草で応急手当中】
0092マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/06(日) 19:23:46.23ID:vvgkHqWT
マグリットの頭の中では最大級の警報が鳴り響いていた
逃げろ、と

辿り着いたコロシアムを埋め尽くす魔物の数は国軍が持って当たるべき数である
例え"猛炎獅子"サティエンドラを倒せたとしても、残る魔物が統率を失いなだれ込んで来たらどうなるであろうか?
だがそれ以前に、そもそも眼前に舞い降りたサティエンドラから発せられる圧倒的な強さを前に、全力で逃げ出したい衝動に駆られていた

ここで戦うより、この規模、この強さの魔物が出現している旨を外部に知らさなくてはならない、と

こっそりレインとクロムに逃げ出す事を耳打ちしようとしたところで、先端は開かれてしまった

決して油断はしていない
むしろ最大限に注意を払いそこかしこに目を出現させ複数の目でそれを追っていた
客席の魔物たちの動向、サティエンドラ、クロム、レインの一挙手一投足を

にも拘らず稼働時てみえたのは黒い閃光にしかすぎなかったのだが、サティエンドラにはしっかりと見えていたようだ
首筋に一戦する直前に手首でクロムの黒い剣を防いでいたのだ
恐るべき速さと硬さ
更に手首を返し刀身を掴めばそこから炎が吹き上がりクロムを焼こうとしているのだ

結果としてクロムは自身の獲物を手放すことで炎から逃れるが、正確無比な追撃……と言っていいのだろうか
無造作に奪った黒剣を投げ返しクロムの太ももに突き立てる芸当をして見せたのだから

「あわわわ、ク、クロムさん、少しでも回復を!」

魔物たちの大歓声が上がる中、クロムに駆け寄り祈りを捧げる
大した回復量は望めないだろうが、目的はそこではない

「一合当てて身に染みているとは思いますが、相手はとてつもなく強いです
あの強さ、魔物の数を外部に知らせなければいけません
レインさんは勇者である故に逃げられないですし、私は鈍足で逃げ切れませんし伝道師としてレインさんに付き添わねばなりません
ですがクロムさんなら、まだ今の状態なら追手を振り払い逃げられるはず
我々が戦っている隙を見て、に、逃げ……脱出して、この情報を王都に届けてくれませんか?」

祈る振りをしながらクロムの耳に震えるマグリットの声が囁かれる
レインが勇者であり逃げることができないであろうと同時に、クロムもまた誇り高い戦士である事を知ってはいるが、それでも後事を託すとすればこう言う他ないのであった

>「……さて。次はどっちだ? 女か? それとも勇者サマか? 何なら二人纏めてか? ククク、どっちでもいいぜ」

「安心してください、死ぬつもりはありません
一応私もレインさんも脱出できる可能性は見えていますから……」

促されるように立ち上がりクロムから離れる
レインの隣に並び目線はサティエンドラに向けた

「これだけの数を要しながら、あえて自ら戦いに赴いてくれるとは魔物と言えど武人と称えましょう
しかるにその強さを満足させるだけの強さは私にはありませんので、二人がかりで挑ませてもらいます!」

その言葉と共にマグリットの体が一回り大きくなっていく
全身から殻を形成し鎧と化していっているのだ
その鎧の隙間から小さな声でレインに声をかける

「レインさん、ありがとうございます
私が教会に属していたのは8体の魔物を倒すことにあります
目の前にいるサティエンドラはそのうちの一体に数えるに値します
どうか、ご助力をお願いします
足を止めますので、クロムさんの剣を受け止めた手首に追撃を」

クロムの斬撃をこともなげに防いだように見えたが、如何に強力な魔物と言えども全くの無傷とは思えない
例え小さな傷であろうとも、同じ場所に攻撃を加えれば……少なくとも無策で攻撃を加えるよりは可能性はあると思えたからだ
0093マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/06(日) 19:25:00.51ID:vvgkHqWT
「では、伝道師マグリット、まいります!」

頭の中では相変わらず最大級の警報が鳴っている
逃げろ、と
例えコロシアムの魔物の数が0であったとしてもこの警報は変わらなかっただろう
それだけの強さをサティエンドラから感じている

だが同時に、ここで引くこともできないのだ
勇者を導く伝道師として
蜃の獣人として
己の使命と野望の為に

右腕を突き出しその裾に潜ませた放水管から特大の水弾を射出
水弾故に力で防げば形を崩し水浸しになるのみ

故にサティエンドラの動きを読む事が出来たのだが、誤算はその動きが早すぎたという事だ
水弾を躱し体勢が崩れたところでわき腹に体当たりするつもりが、躱すと同時に迎撃の体制をとられていた
繰り出される拳に咄嗟にガードを重ねるのだが、ガードした貝殻は砕け散りマグリットの体が衝撃で浮き上がる

が、それでもマグリットは止まらない
殻が砕けるそばから再生し、着地と共に再度地を蹴り、突き出たサティエンドラの腕をかいくぐりその腰にタックルをした
サティエンドラの足腰も強く、タックルを食らったにも拘らず僅かに下がったのみ

「さっきの剣士を見ていなかったのか?壺焼きになるぞ?」

サティエンドラに密着してどうなるか
勿論わかっている事だ
しかしマグリットは離さない
火だるまになりながらも全力で押し込んでいる

自身の身と殻の鎧の間に精霊の外套があり、そこに袖からひっこめた放水管から絶えず水を滴らせ炎を防いでいる

「今です!」

腰にタックルしてサティエンドラの機動を封じるだけでなく、押し込み続けることで重心を前に維持させ体捌きも制限させている
これでクロムが逃げ出してくれればサティエンドらの注意は更に逸れ、致命の隙となるかもしれない
それを願って炎に包まれながら押し込み続ける

【クロムに逃げて情報を外部に出すようにお願い】
【防火状態でサティエンドラにタックルして動きを止める】
【しがみついているマグリットがどうなるかは描写しちゃっても大丈夫です】
【振り払われるなり攻撃受けるなりお任せします】
0094レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:03:16.60ID:hrQ57eBr
姿を現した"猛炎獅子"サティエンドラは何よりも闘争を望むバトルマニアだった。
相手は剣が届き得る距離まで無防備に近寄ると、「先手を譲る」と言い出したのだ!

(これだけの数の魔物を仕向けず、敢えて攻撃を譲る……。
 そして敵から感じる強大な魔力!俺達のレベルで勝てるのか……?)

戦闘前にも関わらずレインはすでに実力差を思い知ってしまっていた。
だが、この戦いに撤退の二文字はありえない。生き残るには勝つしかないのだ。
よってレインはストリボーグに手を添えたまま警戒を解かない。

クロムとマグリットには有利な戦闘距離だが『天空の聖弓兵』となったレインには不利。
戦闘になれば必ず換装召喚で近接武器への変更を余儀なくされるだろう。
それは単純に彼が狙撃を嫌ったのか、それとも――……。

>「随分と気前がいいんだな。じゃあ遠慮なく──」

警戒するレインとは対照的にクロムはちり――と魔力を解き放った。
『水晶の洞窟』でも目撃した技だ。すなわち魔力を用いた身体能力強化である。
また、鞘に収まっている剣にも魔力が集中しているのをレインは見逃さなかった。
クロムの全力を目撃するのは初めてだが、超速の一撃が待っているのは想像に難くない。

>「──喰らいな!」

常人の目には視認することさえ叶わない超速の抜刀術!
実際、レインの眼では捉えることができず、結果だけが映った。

>「──中々どうして、痛ェじゃねぇか。こんな手応え久しぶりだぜ!」

レインの目に映ったのは黒剣が手首の甲であっさり受け止められた光景。
それどころか、サティエンドラは素手で刃を掴み紅蓮の火炎を放ってみせた。
慌ててクロムは剣を離して飛び退くが、黒剣を投擲され右太腿を貫かれる。

はっとしたレインは慌ててクロムとサティエンドラの間に割って入った。
サティエンドラがその場から動く気配はない。その様子は食事を待つ賓客。
オードブルを平らげ、次はスープ、そしてメインディッシュを待つかのようだ。

「……そういうことか」

事ここに至ってレインはようやく理解した。
無防備に接近してきたのは単なるパフォーマンスなどではない。
近接戦闘において、サティエンドラは絶対的な自信を持っているのだ。
事実、あのクロムが彼の前では子供の遊び扱いだ。

>「……さて。次はどっちだ? 女か? それとも勇者サマか? 何なら二人纏めてか? ククク、どっちでもいいぜ」

現状、勝機は全く見えない。
相手の手の内も「炎を操る」とか「体術が得意」とか「高速戦闘に対応できる」とか。
そんなサティエンドラの上っ面しか判明していないのだ。
対策を立てる暇もなくやられてしまうかもしれない。
0095レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:04:50.36ID:hrQ57eBr
だが、サティエンドラさえ倒せば『紅蓮魔宮』の魔物自体はどうにかできるかもしれない。
エルミアの言っていた通りこの宮殿が魔法で生み出したモノならば、間違いなく虚数空間。
術者たるサティエンドラが命を落とせばこの虚数空間もまた消滅するだろう。
つまり、コロシアムの魔物達を上手くこのダンジョンに閉じ込めることさえできれば解決する。

(けどもし倒せなかったら――……誰かに王都へ戻ってもらうか……?)

二人で時間を稼いで負傷したクロムに頼んでみるか。果たして引き受けてくれるだろうか。
たとえ勝ったとしても、疲弊した状態で統率を失った魔物達を上手く閉じ込められるだろうか。
逡巡している内にマグリットが隣に立ち、再び戦闘の様相を呈してきた。
そこで強制的に考えを打ち切った。まずは目の前の敵に集中する。

>「これだけの数を要しながら、あえて自ら戦いに赴いてくれるとは魔物と言えど武人と称えましょう
>しかるにその強さを満足させるだけの強さは私にはありませんので、二人がかりで挑ませてもらいます!」

「そうだね。俺達はか弱いから……どうかお手柔らかに」

『ストリボーグ』を構えて、レインはそう冗談を言った。
近接戦が得意だと言うのならそれには乗ってやらない。
遠距離からチクチク攻めて、相手の手札を出させず勝つ。
今のところ、レインが出来るのはそれが精いっぱいだ。

>「レインさん、ありがとうございます
>私が教会に属していたのは8体の魔物を倒すことにあります
>目の前にいるサティエンドラはそのうちの一体に数えるに値します
>どうか、ご助力をお願いします
>足を止めますので、クロムさんの剣を受け止めた手首に追撃を」

見ればいつの間にかマグリットは殻の鎧を纏っていた。
レインはマグリットの話を聞いて、心が研ぎ澄まされていくのを感じた。

「……そうだったのか。君といると、身体の底から勇気が湧いてくるよ。
 このクラスの魔物が後七体もいると聞いたんじゃあ……この程度で怯んでいられない」

戦闘再開の鐘はマグリットによって鳴らされた。
気勢よく突っ込むと特大の水弾を射出。
サティエンドラは水弾を回避すると素早く迎撃の拳を叩き込んだ。
モノが叩き割れる鋭い音が響く。ガードした箇所の殻が割れたらしい。

>「さっきの剣士を見ていなかったのか?壺焼きになるぞ?」

それでもマグリットはタックルを敢行して組みついた。
火達磨になりながらもサティエンドラを離さない。
精霊の外套と水の相乗効果で、ダメージを最大限軽減させているようだ。

>「今です!」

声に合わせて、レインは番えていた『風の矢』を解き放った。
矢は過たずサティエンドラの手首目掛けて直進する。
無論、組みついているマグリットに影響が出ぬよう風圧は引き絞っている。
0096レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:06:57.42ID:hrQ57eBr
タックルで組みついたマグリットを眺めながら、サティエンドラは二人の品定めを行っていた。
強者ゆえの余裕。これでもサティエンドラは三人のレベルに合わせて戦ってやっているのだ。

「随分と泥くせぇファイトスタイルだな。
 嫌いじゃねぇが……しゃらくせぇっ!『爆炎装甲』!!」

刹那、しがみついていたマグリットが後方へ大きく吹き飛ばされた。
サティエンドラを覆っていた炎の魔力が爆発となって解き放たれたためだ。
零距離爆破によってタックルを無理矢理振り解き、結果――『風の矢』を対処する余裕が生まれる。

「『牙炎掌』ッ!!」

手のひらに紅蓮の炎が灯るや掌底で『風の矢』を弾き飛ばす。
炎と風の激突によって風はちりぢりに、跡形もなく霧散する。

これで無傷なのはレイン一人だけになってしまった。
サティエンドラは退屈そうに腕を組んだ姿勢のまま動かない。
相手は攻撃力も防御力も一級品だ。この化け物相手にレインは勝機を見出せようか。

「換装召喚――清冽の槍術士ッ!」

召喚したのは清冽の槍『アクアヴィーラ』。
そう、勝機はある。クロム、マグリットのおかげで光明が見えた。
上手くいけばサティエンドラに対する強力なメタを発揮できるかもしれない。

「いいねぇ!そうこなくっちゃなぁ!
 この程度で負けた気になられちゃ話にならねぇ!!」

サティエンドラが獅子の如く獰猛に攻め立てる。
両手足に炎を纏い、自慢の体術による一気呵成の連続攻撃。
いや――あるいは炎か。燃え盛る火炎のごとく、猛烈な勢いの攻め。
まさしく"猛炎獅子"。異名通りの攻撃がコロシアムを熱狂の渦に巻き込む。

「『牙炎掌』!『獄炎斧』!!『炎威戦槌』!!!」

掌底、ハイキック、上空からのダブルスレッジハンマー。
技の全てが超速にして即死級。だが当たらない。紙一重で躱されている。
――それどころか、レインはその一撃一撃に対してカウンターを命中させていた!

サティエンドラが僅かに苦悶の声を上げる。
無理もない。レインの持っている魔法武器は水を纏った槍。すなわち弱点属性だ。
思えばクロムの一刀や『風の矢』は真っ向から防いでおきながらマグリットの水弾だけは回避していた。
いかに頑丈な身体を持つサティエンドラといえど水属性は有効なのだろう。
0097レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:09:42.28ID:hrQ57eBr
弱点属性に加えて更に狙ったのは相手の力を上乗せできるカウンター攻撃。
現在のレベルの攻撃が威力不足なら、レベルの足りている攻撃を用意すればいい。
すなわち――……それは敵自身だ。

結果。サティエンドラの身体に少しずつ血が滲んでいく。
槍の命中した箇所には刺し傷が浮かび上がり、攻撃が有効であることを示している。
もっとも傷はとても浅く、致命傷と呼べるものはひとつもないが……。

「……ひとつ教えろ。なんだその技……?」

「舞踊槍術……五月雨の舞。解説はしないよ、"猛炎獅子"」

「ちっ……そりゃそうか。だが薄々と分かっちゃいる。
 その戦法の基本運用がカウンタースタイルなのはすぐに見抜けたぜ。
 踊ってるみてぇな独特の動きは要するに円運動だな?軽やかなもんじゃねぇか」

(バレるの早っ……!)

表情を崩さないよう努めたつもりだが、顔色に出ていたらしい。
サティエンドラは友人と語らうかのように朗らかに笑った。

まさしく舞踊槍術の型は円運動を基本とする。
その動きがまるで東洋の舞踊であることからこの名がついた。
中でも五月雨の舞は高速の足捌きで連続攻撃を躱すことに長けている。
そして、その一発一発にカウンターをぶち込めるのだ。

相手の動きを読む肝は『第六感』だ。気配、殺気、魔力など。
目に見えないモノを鋭敏に察知する感性をレインは磨いていた。
そのためにサティエンドラの高速戦闘を目視できないながらも見切れている。

「勇者というと光魔法を始めとした万能タイプのイメージだが……。
 『静』の戦いができるタイプもいるとはな。あるもんだぜ、掘り出し物がよ」

レインは槍を構えたまま動かない。
カウンター狙いの槍術なのだから、自分から動くことは滅多にない。
まして戦いのネタまで割れてしまっている。迂闊に攻めるより出方を窺った方が得策だ。
0098レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:20:20.43ID:hrQ57eBr
次の瞬間、サティエンドラの魔力が爆発的に高まった。
その全てが右拳に集約されていき――地面に向かって振り下ろしたのである!
まるで火山の噴火。コロシアムの石畳が轟音と共に割れていく。
レインは慌てて後方へと跳躍するが、崩壊する床の隙間から炎が噴き出す。

「褒めてやるぜ。子供の遊びで俺を本気にさせちまうとはな……。
 冥土の土産に受け取るがいい。俺様の『獅子奮迅拳』……その奥義のひとつをよぉ!」

「奥義……!?」

奥義。一部の冒険者や魔族が持ついわゆる必殺技だ。
乾坤一擲の秘技は、一瞬にして戦局を一変させてしまう。
サティエンドラの放った奥義――『地爆豪炎掌』もまたそうである。

床下から噴き出す業火がどこまでもレインを襲い続ける。
アクアヴィーラで追い払おうと穂先に水流を纏わせ、炎に触れたのが誤りだった。
この炎は生きている。いや、正確に表現するなら生きているというより。
炎と化したサティエンドラの右そのものなのだ。

「焼け石に水って知ってるか?いくら弱点属性だろうが
 その程度の水量じゃ怖くもなんともねぇよ!!」

かえって相手に捕縛される隙を生んでしまったらしい。
『アクアヴィーラ』ごと巨大な炎の右手に握り込まれるレイン。

「ぐ、うぅっ……!」

「粘るタイプも嫌いじゃねぇぜ。水の球体を纏って炎から身を守ったようだな。
 さぁて、そっからどうするつもりだ……?もっと俺様を楽しませて貰おうか!!」


【奥義『地爆豪炎掌』によって捕縛されてしまうレイン】
【サティエンドラに有効な攻撃:水属性とカウンター】
0099レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:27:25.19ID:hrQ57eBr
【×炎と化したサティエンドラの右そのものなのだ。 】
【〇炎と化したサティエンドラの右手そのものなのだ。】
【失礼しました】
0100クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/13(日) 13:27:08.71ID:S0wv/jiJ
痛みが和らぎ、血が止まる。
薬草と極めて短時間ながらも捧げられたマグリットの祈り。いわば二重の回復が効いたらしい。
鋭い刃が穿った深い傷口は既に、新たな皮膚で塞がれつつあった。

とはいえ所詮は治りかけだ。完治にはまだ時間を要する、そんな半端な状態に過ぎない。
直ぐに全力で動こうとすれば傷口は再び開いてしまうだろう。
それでも、クロムにのんびり全快を待つという選択肢はなかった。

『我々が戦っている隙を見て、に、逃げ……脱出して、この情報を王都に届けてくれませんか?』

マグリットの治療を受けた際、彼女から囁かれた一言。
それを脳裏に蘇らせながら、クロムは剣を石畳に突き立てる。

「……」

だが、その剣を杖代わりに立ち上がった時には既に、その言葉は頭の片隅にも残ってはいなかった。

どんな時でも最後まで戦意を保ち、最悪仲間を逃がす為に肉の盾になること。
それが戦士の役割であると心得るクロムにとって、仲間を残して戦場を立ち去る事は耐え難かったというのもある。
だが、感情だけが拒絶を即断させた理由の全てではなかった。

──そもそも魔王軍侵攻の情報を得ながら、ほぼ静観を決め込んでいたのは他でもないサマリア王国である。
その原因がエルフ勢力と王国《ニンゲン》の微妙な関係……相互不信にあるのは想像に難くない。
増援の要請をしたところで実行に移して貰えるかどうか、その見通しは極めて不透明だ。当てにはできない。

ならば、他に策はあるのか?

既に防御力はクロムの“本気”の攻撃力を上回り、スピードに置いても互角以上である事が証明されている。
他にも、全身を鎧で覆った超重量級のマグリットを軽く吹っ飛ばすほどの爆発的魔力。
水属性の特殊武器で果敢に挑むレインをあっさり窮地に追い込む多彩かつ強力な闘技が敵にはある。
二人のように水を使う能力も、武器も持たないクロムがこれらを捌き、ダメージを与える術を持っているのだろうか?

……実はあるのだ。たった一つだけ。その可能性を持つ武器が。
0101クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/13(日) 13:33:05.93ID:S0wv/jiJ
>「ぐ、うぅっ……!」

巨大な炎の右手がレインを掴むのを見て、クロムは再び戦場に跳び出した。
サティエンドラの背後に超速で接近し、隙だらけの首に黒刃を叩き込む。

「……不意打ちでもその程度かよ? ケッ、失望させやがって」

瞬間、辺りに響いたのは断末魔──ではなく、生身の体に打ち込んだとはとても思えない甲高い金属音。
それはまるで剣の悲鳴。
与えたダメージはほぼゼロだろう。見た目にも傷一つ負っていないのだから。

「弱ェ奴に興味は無ェんだ。とっとと尻尾を巻いて立ち去るか、それとも死ぬか……どっちかにしな!
 虫けらが俺様の周りをウロチョロするのは目障りなんだよ!」

サティエンドラからすれば今のクロムはさながら耳元を飛び回る蚊と言ったところか。
レインから離した炎の手を、今度はクロム目掛けて繰り出す。
恐らくレインのように掴んで拘束するつもりではないのだ。それこそ蚊のように、文字通り握り潰すのが目的に違いない。

「……効かねぇのは織り込み済みでね」

しかし、クロムは向かってくる炎の手を横へのステップで躱し、更にそこからの追撃を複数の跳躍を重ねて振り切る。
不意打ちも効かない。これが想定外でなく織り込み済みならば、思考の流れも体の動きも緊張で強張ることはない。
無駄が生じなければそれだけ隙がなくなる。そうなれば、躱し切る事は可能なのだ。
ただし、それにも限度はある。何故なら敵はスピードで互角以上のサティエンドラである。
この戦場に留まる限り、回避に専念してもいずれは捉えられてしまうだろう。

「テメェ、いい加減に……」

だから、クロムは今、“それ”を外した。
左右の両耳にぶら下がる髑髏を模した黒いイヤリングの片方を。

「慌てんな、今からくれてやるからよ。お前が満足できるだけの攻撃を」

「……あん?」

今、クロムの視線は怪訝そうな顔のサティエンドラを通り越して、その後ろに居るレイン、マグリットに注がれていた。
彼なりに知らせようとしているのだ。これから起きる事を。
もっともパーティを組んでまだ日が浅い面子。多少のアイコンタクトでは具体的な内容の伝達は望むべくもない。
それでも恐らく、“これからヤバイ事が起きる”ぐらいの事は伝わる筈だ。
微かに汗を滴らせるその顔から、雰囲気から。

(俺は多分、駄目だろうが……。頼むぜ、お前らだけでも何とか巻き込まれないようにしてくれよ……)

イヤリングを乗せた手を一度握り締め、再び開ける。
髑髏の眼窩部分が微かに光っているのが確認できる。これは“作動”した事を意味する。
サティエンドラにダメージを与える可能性のある唯一の武器として、目覚めた証だ。
0102クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/13(日) 13:43:34.92ID:S0wv/jiJ
「……何だそれは?」

「気になるか? だったら──もっと近くで良く見てみるんだな!」

クロムがサティエンドラに向けて投げ放つ黒髑髏《イヤリング》。
これはかつて砂漠の王を自称する魔物のダンジョンを攻略した時に偶然手に入れた、破壊のアイテム。

製作者は不明だが、髑髏型のイヤリングは他にも世界中にいくつかあると言われている。
共通しているのはそのどれもが装飾品に擬装した、使い捨ての魔導具であるという点だ。
魔力を込めることで魔導具として覚醒し、あるキーワードを唱えることでその秘めたる力を発揮する。
髑髏の“色”によって発揮される力の種類とキーワードが異なるらしいのだが、詳細は不明だ。

ただ、クロムは黒髑髏のそれだけは知っている。
砂漠の王が身に着けていたものと同じで、その解放された力を実際に目の当たりにした経験があるからだ。

「……あ?」

空中を泳ぐようにゆっくり舞う黒髑髏の姿を、サティエンドラはただぼんやりとした目で追っている。
攻撃とは思っていないのか、それとも何らかの大技を覚悟していたが故に、思わず拍子抜けしたのか……
いずれにしても危険を察知して回避行動を取っていないのは好都合である。
“まともに喰らう”と言っているようなものだから。

「『爆ぜろ、散らせよ、滅せよ、全てを爆熱の地獄に沈めよ』──!!」

石畳に伏せ、瞳に『魔装機神』の光を宿し、できる限り『精霊の外套』の中に身を潜める。
そして唱えたキーワード。

これによって解放される力は──“最高位の爆裂魔法に匹敵する威力の巨大な爆発”──。


「────なっ────」


凄まじい閃光、爆音、そして圧倒的破壊のエネルギーが、あっという間にサティエンドラを飲み込んだ。

その爆心地から僅か数メートルの距離の地点に伏せるクロムもまた否応なしにそれに巻き込まれる。
自分の体が暴風に吹かれる枯葉のように弄ばれるのを感じながら、クロムの意識は次第に薄れていった……。

【髑髏のイヤリング(最高位の爆裂魔法を発動する魔導具)を使用しサティエンドラを攻撃。与えたダメージはお任せ】
【クロムは爆発に思いきり巻き込まれて吹っ飛ばされる】
【一応『魔装機神』と『精霊の外套』でダメージ軽減を図ってはいるが、死なない程度の大ダメージは確定で戦闘不能】
0103マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/17(木) 20:25:47.67ID:xFCZdzi5
レインとサティエンドラの一時の語らいの後、爆発的に高まる魔力
振り下ろされた拳により砕ける石畳と、そこから噴き出る炎
その衝撃によりマグリットは意識を取り戻す

「こ、ここは、あ?え?意識が飛んでた??どもくらい??」

爆炎装甲により吹きとばされたマグリット
その身にまとう殻の鎧により大きな傷を負う事はなかったが、殻に覆われた中身は強くかき回され意識を失っていたのだ
意識の後についてくるように視界が戻り、そこに映ったものは巨大な炎の塊と化したサティエンドラの右手に捕まれ捕らわれてしまったレインの姿だった

水球を身にまとい炎の手に握り潰されるのに抵抗しているが時間の問題でしかないだろう

「く、レインさん、今……うう、動け、足い!」

即座に起き上がろうとするのだが、いまだに身体機能は戻っておらず、立ち上がる事すらできずに這いつくばるしかできずにいた
背中に担いだ樽に残る水は僅か、先ほどは牽制程度にしかならなかったものでレインを救えるのであろうか

そんなもがくマグリットを余所にサティエンドラに飛び掛かる黒い影が

「クロムさん……すみません……」

サティエンドラの背後からその首に切りつけるクロムの姿を見て、マグリットは自分が見誤っていたことを悟った
一人脱出し情報を持ち帰る
それもまた重要な使命であるが、それは教会という組織に属していた自分の価値観でしかなかったのだ
クロムは戦いに命を賭す戦士であり、レインとはまた別の意味で逃げることを自身に許さぬものだったのだ

だからこそ、今度は見誤ら無い
素早く動き攻撃を躱し続けることで、業を煮やしたサティエンドラはレインの拘束を解きその炎の腕をクロムに向ける
その中で確かにクロムはレインとマグリットに視線を送り、それを受け止めた

剣撃が通用しないとわかって尚立ち向かうのは、相応の勝算があるからだ
その視線はこれからそれを行うと言っている

何が起こるかはわかりはしないが、サティエンドラに届きうる攻撃であり、それはサティエンドラ自体のみならず周囲にも甚大な被害を及ぼすものである
でなければ視線を送る必要がないのだから

「承知しました!」

ここにいたりようやく身体機能の回復を見たマグリットが地を蹴る
そのままの勢いでレインを抱きかかえるように飛びつき、サティエンドラの真後ろに転がり込んだ

サティエンドラは戦闘狂であり、戦いの愉悦を求めている
それは振り返ってみれば、愉悦足りえない弱者は歯牙にもかけないという事でもあるのだ

だからこそ吹きとばされ意識をなくしていたマグリットに追撃もかけなかった
不意打ちすらもダメージを与えるに至らなかったクロムに
>「弱ェ奴に興味は無ェんだ。とっとと尻尾を巻いて立ち去るか、それとも死ぬか
と吐き捨てたのだろう
ならばこそ、その傲慢を、敵とすらみなされていない意識を利用させてもらうのだ

クロムが繰り出したものはサティエンドラに届きうる強力な攻撃ならばマグリットが全力防御しても無事では済まないであろう
ならばこの場にある最も頑丈な場所、すなわちサティエンドラを盾にして身を守るのだ

サティエンドラの背後で巨大な殻を形成しつつ、石畳の砕けた土の剥き出しになった部分にレインと共に身を沈めていく
敵としてみなされていればこのような行動は許されなかったであろう
だが、唐突に投げられたクロムのイヤリングという拍子抜けの状態で気が抜けたサティエンドラが敵ともみなしていない弱者が後ろでうろついていようが気にも留めていなかったようだ

>「『爆ぜろ、散らせよ、滅せよ、全てを爆熱の地獄に沈めよ』──!!」

様々な偶然と必然が重なり合った先に、クロムのキーワードが唱えられた
0104マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/17(木) 20:26:27.50ID:xFCZdzi5
閃光、爆音、破壊エネルギーの奔流がコロシアムを包み込む
石畳は全て砕け散り爆炎が渦巻き煙が立ち上る

その煙の中、巨大な獅子は立っていた
全身に傷を負い特に右腕は損傷が激しくだらりとぶら下がっている
しかしサティエンドラは歓喜に満ち溢れ笑っていた

「ふははははは!なんだよ、いいもの持ってんじゃねえか……!
だが、相性が悪かったなぁ、俺は猛炎獅子
とはいえ、咄嗟に右腕を犠牲にしなけりゃヤバかったかもしれねえ」

大きく肩で息をしながら煙を払いながら吹き飛んだクロムに視線を向ける

「右手をくれてやっても惜しくない戦いは久しぶりだ
お前を敵と認め、全力でとどめを刺してやる」

無事な左腕の爪に炎が宿る
クロムの意識があろうがなかろうが関係ない
戦闘の歓喜に酔いしれる血走った目で射すくめながら一歩踏み出した背後に大きな影が立ち上がる

「くれても惜しくないのであれば私が頂きますね、その右手!」

背後から繰り出されるのはマグリットの極限まで絞り込まれた放水管から放たれる聖水の刃
狙うは初撃でクロムが当てた手首
損傷し力なくぶら下がっていたサティエンドラの右手を見事に切り落としたのであった

「な、てめぇ、何処から……」

ようやくマグリットの存在を認めたサティエンドラだが、猛炎獅子の目に映るそれは教会の伝道師のそれではなかった
這いより、地に落ちた右手に覆いかぶさるように滑り込んでくる表情から読み取れるものは……狂気

「やっと、やっと手に入れた……!
ふふ、ふひひひ
ようやく一つ、獣王の掌!私の道標!」

ようやくクロムを敵と認め死力を尽くす戦いを味わうという時に、ほとんど機能しなくなっていた右腕を落とされた
落とされても今更どうという事もないのだが、愉悦の時間を食まされたのは不快極まりない
本来であればどんな小物であろうが薙ぎ払い殺すのであるが、それをしなかったのはクロムの極大の一撃を食らったダメージの為だけではない
これから何かが起こるという予感があったからだ

そしてその予感は当たっていた
マグリットが抱きしめるサティエンドラの手は抱きしめられたままマグリットの体に沈んでいくのだ

「俺の手を取り込むつもりか!
馬鹿が、お前ごときが取り込もうが破裂するだけだぞ」

「ひひひ、もう遅い
もうこれは私の血肉です、返さない、還さない
私は龍へ一歩近づく」

狂乱と歓喜と悦楽にまみれたマグリットの言葉と共に、サティエンドラの右手は完全にその体内へと沈んでいった
0105マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/17(木) 20:26:50.57ID:xFCZdzi5
クロムの放った黒髑髏のイヤリングの爆発をサティエンドラを盾にしつつ地中に潜り殻の中でやり過ごしたレインとマグリット
そこでマグリットの目的とこれからについて手短に話していた

マグリットは貝の中でも蜃の獣人で、様々な貝の能力を使える
蜃が龍の九似の一種であり、鹿公、月兎、獣王、牛鬼、など九種類の種族が混生する事で龍と化すと一族に伝えられている
それこそがマグリットの目的であり、サティエンドラは竜の掌となりうる獣王の掌と見ていると

隙を突きサティエンドラの手を落とし取り込む
しかし、莫大な力を取り入れた際には一時的に出力が増し暴走状態になる
その暴走を利用してサティエンドラと戦う事を

「ようやく一つ目を手に入れられるのは良いですが、まだ七つあるのでここで死ぬわけにはいきませんから
どうかレインさん、お助け下さいね」

そう締めくった後、地に埋まる貝から出て、サティエンドラの右手を落としたのだった
そしてここからもその予定のまま自体は進む
サティエンドラの右手を取り込んだマグリットの体から強大な魔力が溢れ出る


砂鉄を取り込み鉄の鱗を生やす貝がいる
海藻を食らい取り込む事で光合成をおこなうウミウシがいる

そういった貝の能力を持つが故にマグリットはその手を取り込み、ただ血肉とするのではなく能力を得ることができる
だがもちろん過ぎたる力は身を亡ぼす
サティエンドラが言うように普通ならば魔力の暴走により破裂するはずである
が、取り込まれた手は龍の因子として認められマグリットの中に溶け込んでいった

「ふ、ふふふ、ふふふ、凄い力ららら……!
これこれなななら勝てててててるううう!」

溢れ出る魔力は炎の形を得てマグリットの周囲ではじけ飛ぶが、それはやがて背中に収束し、その身を一気に加速させる
一瞬で間合いを詰め繰り出される拳
右手を失い全身に傷を負うサティエンドラにかつての速さはなく、避ける事もできずまともに食らい大きく後ろに後ずさる

「あはははは!すごいすごいいい!
あなたのちか、ちかかからはあああすごごごいいい」

一撃一撃の威力はサティエンドラのそれに匹敵する
一方的にサティエンドラを攻撃するマグリットであるが、レインの目にはそうは映らないだろう
攻撃をしているのではなく、させられている
確かにダメージは与えているが、ただ闇雲に拳を振り回しているだけの素人戦闘に手負いで消耗したとはいえサティエンドラがいつまでも対応できないわけではないだろうから

「このクソが!俺の力を手に入れたからっていい気になるな!扱いきれてねぇんだよお!」

大振りなマグリットの拳を避けざまに、残った左手の爪が腹部に深々と突き刺さる
両者動きを止め、突き立てられてたサティエンドらの手首をマグリットが掴む
これ以上深く刺されないようにという防御の為ではなく、むしろその手を逃がさぬように

「ふひひひ、手は二本で一対、左手も来たあぁ!」

吐血しながらなおも深く突き立てんと掴んだ左手を押し込むその力は、マグリットに取り込まれたサティエンドラの力そのものである
マグリットの細胞はその左手に龍の因子を認め、爪や指先から既に融合が始まっていた

【サティエンドラの右手を取り込みパワーアップ】
【殴り合うも対応され腹部に爪を突き立てられる】
【腹部に刺さったサティエンドラの左手を掴み動きを封じそのまま吸収を始める】
0106レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/19(土) 16:59:09.97ID:CHttG7JY
サティエンドラの放った奥義『地爆豪炎掌』は、確実にレインを追い込んでいる。
咄嗟に清冽の槍で水球を生み出し防御したものの、所詮時間稼ぎにしかならない。
真綿で首を絞められるようだ。万事休すとかと思いきや、救いの手となったのはクロムだった。

>「弱ェ奴に興味は無ェんだ。とっとと尻尾を巻いて立ち去るか、それとも死ぬか……どっちかにしな!
> 虫けらが俺様の周りをウロチョロするのは目障りなんだよ!」

握り込んでいたレインを離して、巨炎の掌をクロムへと差し向ける。
水球を解いて肩で息をするが休んでいる暇はない。
いくら薬草で回復したとはいえ、足を怪我していては長く持たないだろう。

>「慌てんな、今からくれてやるからよ。お前が満足できるだけの攻撃を」

>「……あん?」

サティエンドラの怪訝な反応と共に、クロムの視線が目に飛び込む。
レイン達は結成して間もないパーティーだ。具体的な内容までは理解できない。
だが、今まで何も言わず先陣を切ってきたクロムが、こちらをわざわざ視るということ――。
それはすなわち、味方にも影響を及ぼすような事が起きるということだ。

>「承知しました!」

死角から飛びついてきたマグリットに抱きかかえられ、
二人サティエンドラの真後ろへと転がり込む。

>「『爆ぜろ、散らせよ、滅せよ、全てを爆熱の地獄に沈めよ』──!!」

次の瞬間、凄まじいほどの熱風と閃光、そして衝撃がレイン達を襲った。
味わったことはないが、魔法で例えるなら最高位の爆裂魔法にも匹敵し得るだろう。
今すぐにでも飛び出してクロムの安否を確認したかったが――それは叶わなかった。
マグリットの口から、彼女の出自が語られたからだ。

曰く、彼女は貝の中でも蜃にあたる獣人である。
蜃は龍の九似――龍の九つの部位が他の生物に似ること――の一つなのだという。
この九似にあたる生物九種が混成することで、"龍"に至るのだというが……。
信仰心の薄いマグリットが宣教師をやっていたのも、全てはそのためらしい。

>「ようやく一つ目を手に入れられるのは良いですが、まだ七つあるのでここで死ぬわけにはいきませんから
>どうかレインさん、お助け下さいね」

「あ、ああ……」

いつも強く、頼もしいマグリット。レインにとっては命の恩人でもある。
恩義があり、マグリットに何か目標があるなら、協力してやりたいとも思う。
だがこの時ばかりは些かの不穏な空気を感じていた。レインはこう思うのだ。
龍へと至った後、その力で彼女は何をするのだろうかと。
0107レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/19(土) 17:02:17.33ID:CHttG7JY
一方、サティエンドラは爆発を受けてなお、全身――特に右腕を激しく損傷しながらも立っていた。
クロムの意識が薄れる中、それも気にせずとどめを刺そうと左腕の爪が炎で染まる。
確実に止めを刺すことこそ、彼の戦士としての最大限の敬意なのだろう。

瞬間。不意打ちで現れたマグリットの聖水製水圧刃によって右手が切り落とされた。
元来、魔物は聖水を嫌うものであり、それが弱点であればダメージは大きいに違いない。
それが爆発でボロボロに損傷し、使い物にならなくなった右腕であれば猶更だ。

>「やっと、やっと手に入れた……!
>ふふ、ふひひひ
>ようやく一つ、獣王の掌!私の道標!」

「ま、マグリット……?」

狂気染みた笑い声。とてもいつもの彼女とは思えない――。
今すぐに飛び出すべきか……?逡巡するも、事態は彼を待ってはくれない。

>「ふ、ふふふ、ふふふ、凄い力ららら……!
>これこれなななら勝てててててるううう!」

一拍で間合いを詰めたマグリットは、拳による肉弾戦を敢行する。
それはサティエンドラの鋼の肉体にダメージを与えうるに十分の威力を持っていた。
しかし、いくら連拳を放っても致命傷を与えることはできないだろう。
無闇に攻撃させ、反撃の隙を作ることが"猛炎獅子"の狙いなのだ。

>「このクソが!俺の力を手に入れたからっていい気になるな!扱いきれてねぇんだよお!」

左手の爪が腹部に突き刺さる。だがマグリットは止まらない。
サティエンドラに残された左の手首を掴み、融合を始めたのだ!
"九似"の力に酔い、歓喜するマグリット。

「おい、扱いきれてねぇって何度も言わせんじゃねぇよ。
 今この瞬間、融合を始めてる俺の掌で"奥義"を使えばどうなるか――」

ここで奥義を解禁すれば内部からマグリットをズタズタにできる。
サティエンドラの考えは間違っていなかったが誤っていた。
それは弱者に無頓着過ぎるという彼の悪癖……。
つい数十秒前に戦っていた相手でさえも歯牙にかけないその慢心。

「おおおおおおっ!!」

隠れていたレインが姿を現し、跳躍してサティエンドラに襲い掛かった。
裂帛の気合と共に左手目掛けて『アクアヴィーラ』を振り下ろす。
清冽の槍は手首へ深々と食い込んだが、断ち切るまでには至らない。
0108レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/19(土) 17:04:54.62ID:CHttG7JY
水属性であってもカウンターを加算した攻撃ではなかったためだ。
右腕はともかく左手首は深い傷もない。結果は威力不十分。

だがサティエンドラが放とうとした奥義は、完全に不発となった。
清冽の槍『アクアヴィーラ』を手首に浴びた時点でこの攻防は決している。
なぜなら槍の水が絶えず敵の手首から先を覆うことで、炎と化さぬよう中和するからだ。

「まだだっ!!」

槍に全霊の魔力を込めて、二撃。炎の中和を続けながら槍を振るう。
三撃目にしてようやくサティエンドラの手首を切断した。
これでサティエンドラは闘技の大部分を使用不可能になるだろう。
実を言えば――手首ではなく、サティエンドラの急所を狙うこともできた。

だがそうしなかった。騎士道精神に則った訳ではない。
一撃で殺しきれない以上、急所狙いではマグリットが奥義を食らう可能性があった。
だからレインはあえて手首を攻撃することにしたのだ。仲間を見捨てる訳にはいかない。

「……参ったな……」

魔力が底を尽き、『召喚変身』が解けて旅装姿に戻っていく。
一層高まるコロシアムの熱狂とは裏腹に、戦いはジリ貧になりつつあった。
両手を失っているのに、サティエンドラはその闘志をむしろ燃え上がらせている。
サティエンドラは闘争を楽しむためか、慢心に任せて闘う相手のレベルに合わせる癖がある。
彼の全力が見れるのはむしろこれからなのだろう。

勇者として、決して逃げるわけにはいかない戦い……。
仲間の一人が戦闘不能、もう一人が暴走状態という有様。
壊滅的状態だ。おそらく勝ち目はないだろう。待ち受けているのは死だ。
逃げるか。しょせん最弱の勇者だ。勇者としての沽券なんて持ち合わせちゃいない。

だが逃げたところで、逃げきれるだろうか?
両手を奪った敵を黙って逃がすほど愚かではないだろう。
もうお互い退けないところまできている――かに思われた。
不意にコロシアムの扉がずずん、と音を立てて開いた。
0109レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/19(土) 17:13:59.89ID:CHttG7JY
サティエンドラもレインも、お互い睨み合ったまま扉へ意識を向ける。
入ってきたのは仮面をつけた謎の男だ。腰には一振りの剣を帯びている。

「――その戦い、ここまでにしてもらおうか」

と、仮面の男は言った。
ダンジョンなのだから普段は他の冒険者がいてもおかしくはない。
だが、ここは『精霊の森』の一部を焼き払って出来たダンジョンだ。
仮に他の冒険者がいればエルミアが事前に何か話してくれていたはず。
そんな素振りは一切なかった。……何者?

「てめぇは……『仮面の騎士』!?」

「久しいなサティエンドラ。
 いつぞやの決着を今つけたいなら構わないが」

瞬間、『仮面の騎士』と呼ばれた男を基点に光の結界が広がる。
まばゆいばかりの光輝の聖域は遂にコロシアムを覆うまでに至った。
すると観客席に座っていた魔物達が次々と苦しみ出し消滅していく。

「……結界魔法……!?」

レインは思わず驚きの声を上げながら、倒れているクロムを担いだ。
『仮面の騎士』が展開したのは最高位の結界魔法『ホーリーアサイラム』。
光の波動を持つ者のみが扱えるという破邪の結界である。

その効果は尋常ではなく、低級の魔物なら問答無用で消滅し、
ダメージの深いサティエンドラもまた苦しみ膝をつくしかない。
手負いでなく万全の状態ならこうはならなかっただろう。

「チッ……これじゃあ退くしかねぇな。
 てめぇらのツラ、覚えたぜ。次は全力で闘おうじゃねぇか」

「……だそうだ。異存はないな"召喚の勇者"。それに蜃の九似」

サティエンドラに背を向けて、コロシアムを後にした。
『仮面の騎士』は少し離れた距離から殿としてついてくる。
やがて『紅蓮魔宮』から脱出すると、レインはクロムを担いだまま振り返った。
魔王軍幹部が生み出した居城が、轟音をあげながら地に沈んでいくのを。

「これで魔王軍もサマリア王国からしばらく手を退くはずだ」

『仮面の騎士』はそう言うと手を翳しクロムに回復魔法をかけた。
マグリットの魔法よりも即効性があるそれは、みるみる傷を癒していく。

「助けてくれてありがとうございます。しかし、貴方は一体……?」

「なに……ただの冒険者だ。森番がやって来るまでは私もここにいよう」

聞きたいことは山ほどあったが、今日は色々な事が起きすぎた。
喋る気力もなく、レインは沈黙を保ったままクロムが目覚めるのを待っていた。


【サティエンドラ討伐失敗。謎の男に助けられ『紅蓮魔宮』から脱出】
【謎の男は普通の勇者と同じく『光の波動』の持ち主】
0110クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/21(月) 12:14:05.68ID:JE5ljFRv
……どれだけ意識を失っていたのかは分からない。十分か、あるいは一時間か。
いずれにしても目覚めた時、そこはもう魔物が跋扈する伏魔殿ではなく、見覚えのある緑に彩られた森であった。

(ここは……精霊の森《外》か?)

クロムは咄嗟に仰向けの状態から身を起こし、一斉に自分に注がれた視線に向けて目を流す。
そこにはレイン、マグリット──……そして『仮面を着けた男』が居た。

「……あんたは?」

「通りすがりのただの冒険者、とでも名乗っておこう」

「……ここにレインとマグリットが無事で居るということは」

「いや、まだサティエンドラは倒していない。だが、奴らはこの森より撤退した。当面の間は再侵攻の恐れもないだろう。
 我々は今、森番の到着を待っているところだ」

「撤退……か」

ひゅう、と吹いた風が、クロムの髪をさらっていく。
思わず視線を風上に向けると、煙を上げる巨大な瓦礫の山が目に飛び込んできた。
場所といい、恐らくサティエンドラの宮殿の残骸だろう。
撤退の際に、軍が自陣を焼き払うようにサティエンドラ自らがやったものか、それともあるいは……。

クロムは視線を落とし、自らの身体の状態を確認する。
服は『精霊の外套』を含めてボロボロ。黒髑髏の猛烈な爆熱に晒されたのだから、それは仕方のないことだ。
だが、不思議な事に服の下の身体には傷一つ、痛み一つ残っていない。

(ただの冒険者、ね……)

意識を失う程の大ダメージ。それは経験上、ほとんど瀕死に近い状態だった筈だ。
それをマグリットがここまで完璧に回復させた、とは思えない。
技量云々を抜きにしても……戦闘で消耗した彼女に、そこまでの魔力が残っていたと考えるのはむしろ不自然だろう。
となると……体を治したのは消去法で『仮面の男』ということになる。

「見た感じ僧侶というわけでもなさそうだけど、高位の回復魔法なんてどこで覚えたんだ? 何モンだよ、あんた?」

「……言った筈だ。“ただの冒険者”だと」

「……あっそう。ま、それでいいよ……“今は”な」

正体を明かす気はない。その頑なな意思を感じ取ったクロムは、含み笑い一つして、頭を掻く。
──恐らくサティエンドラはこの男の登場で撤退を決めたのだろう──
そんなことを薄々感じながら。


──男と話し終えた後、ひたすら沈黙を守るクロムが、徐に剣を抜いた。
鞘と同色の黒剣がすーっと解き放たれ、太陽光を鈍く反射する。
ぱっと見では分からない。恐らく誰の目にも。が、目を細めてじっくり眺めると、嫌でも異変に気が付かされる。

……欠けている。ほんの僅かだが、鋒が。
更にその鋒を中心にして、刀身全体に小さな亀裂が無数に入っている。
その原因が先《サティエンドラと》の戦いにあることは疑いようがない。
ダメージを負ったのは服や肉体だけではなかったのだ。

(これが今の俺と大幹部の力の差……。今のままじゃ、そう長くはねぇな……“今のまま”じゃ……)

剣を再び鞘に納めた時、クロムの目つきは何かを覚悟したようにどこか不穏なものになっていた。

【目覚めて森番来るまで待機中】
0111マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/26(土) 19:27:21.18ID:nRy3IZCK
回復魔法をかけられたクロムが目を覚ました時、既に紅蓮魔宮は消滅し一同は森番の到着を待っていた
クロムの目に映るのはレインと謎の仮面の男、そして巻貝の様にうずくまったマグリットであった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

溢れてくる……力が
漲る……気が
何処までも飛んでいけそうなくらいの万能感がマグリットを酔わせる

一族に伝わる九似を得て龍と成る伝承
いや、伝承などというあいまいなものではなく
確固たる成龍への道の第一歩を踏み出した陶酔はさらに高まり更なる力を欲する

酩酊の末に自身の危機的な状況にも気づけず、吸収しようとしているサティエンドラの左手からの致命の攻撃を受けようとしていた
そんなマグリットを救ったのはレインの一撃であった

本来ならば急所を狙い、この戦いに決着をつける事もできたであろう
しかしレインの決断はサティエンドラの左手を切り離す事だった
それに全ての魔力を使い果たし、召喚変身が解けたレインと爆発の衝撃で吹き飛び気絶しているクロム

この状態にいたり、ようやくマグリットは正気に戻ったのだが、再び酩酊と陶酔に身を沈めようとしていた
全身に傷を負い両手を失ったといはいえ、その滾る気は衰えることなく、まともに戦って勝てる相手ではない
となれば、もう一度暴走状態で挑むしかない

「レインさん、すいません、私の為に
かくなるうえは今度こそ……」

>「――その戦い、ここまでにしてもらおうか

再び力の酩酊に身を沈めようとした覚悟の言葉は乱入者によって遮られた
サティエンドラの反応からすると、冒険者でありサティエンドラと戦えるツワモノであるらしい
が、それ以上の考察を続けることはできなかった

仮面の棋士と呼ばれた男を起点に光の結界が広がり観客席の魔物が次々に苦しみだし手滅していく
それと同じくしてマグリットも苦しみ始め、天を仰ぎ口から豪火を噴出した
取り込んだサティエンドラの両手がマグリットの中で光の結界に反応し消滅していっていたのだ

そんな中、サティエンドラは引き、それとともに紅蓮魔宮は地に沈んでいった
こうして精霊の森の魔王軍は撃退され、その侵攻から解放された
そして冒頭の状態に戻るのであった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
0112マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/26(土) 19:29:09.82ID:nRy3IZCK
「うううぅ……うううう〜〜〜……っだーーー!」

クロムが仮面の騎士とやり取りしている間、巻貝の中で呻いていたマグリットがようやく殻を割り立ち上がる
振り向いた目は赤く腫れていたが、表情はいつもの明るいものに戻っていた

「ふ〜〜暴走状態になるとは聞いていましたが、ああにまでなるとは
獣王の掌を吸収すれば超絶パワーアップしてお二人を助けられると思っていたのですが、うまくいきませんね
吸収した掌も光の結界で殆ど浄化されてしまいましたし……とほほ
それも吸収する側の私の力が足りなかったという事なのでしょう
龍への道は遠く険しいですが、これからまだまだ強くなっていくですよ!」

マグリットの目的は龍の九似と融合し龍と成る事である
この戦いでようやくその一歩を踏み出せたと思ったが、有り余る力に振り回され暴走状態に陥る
あまつさえ吸収しきれず光の結界の効果でそのほとんどを失ってしまったのだ

その結果や事態を飲み込み自分の中で折り合いをつけるのに時間がかかってしまったがようやく納得がいったようだ

「仮面の騎士さん、脱出時はまともにお返事できずに失礼しました
助けていただきありがとうございます!」

仮面の騎士の手を取り大きく振りながら礼を述べた
その実力からして高名な騎士であろうし、サティエンドラと因縁もある様子
更に九似は蜃の獣人の間ではよく知られている事だが人間にとってはマイナーな情報であるはずだが、一目でそれを見抜いた事
一体何者かは気になるところではあるが、クロムが尋ねてもはぐらかされていたところを見ると、マグリットが効いても答えは同じだろう
ならばまた時期を待つしかない

「……レインさん、この仮面の方、お知合いです?」

とは言え、やっぱり気になるのでレインにそっと尋ねるのであった
あれだけの光の魔法が使えるのであれば勇者の中では有名人なのかもしれないからだ
そしてさらに付け加える

「それと、クロムさんがすんごい目つきしていますけど大丈夫でしょうかね?
やっぱりコテンパンにやられちゃったのが堪えたのでしょうか……」

剣技に秀でたクロムの攻撃がサティエンドラに全く通用せず、自爆覚悟のアイテム攻撃に頼らざる得なかった事は戦士としてのプライドが傷ついているのでは、と心配になってしまったのだった
0113レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:16:30.65ID:tYOvj2di
回復魔法の効力でクロムの目が覚めたことで、レインの緊張は完全に解けた。
麻痺していた疲れがどっと押し寄せて今にも前後不覚に陥りそうだ。
少しふらついていると、貝に籠っていたマグリットも姿を現す。

>「うううぅ……うううう〜〜〜……っだーーー!」

脱出してしばらく経ち、ようやく何か折り合いがついたのか。
彼女が龍に至ることでどう変わるか――。
暴走状態になる辺り本人にも分からないのかもしれない。

>「……レインさん、この仮面の方、お知合いです?」

不意の問いかけにレインはかぶりを振って答えた。
少し離れたところで腕を組んだまま佇む『仮面の騎士』を一瞥する。

「いや……初対面だよ。それに、仮面を被った勇者なんていないんだ」

勇者が珍しくない時代だ。大抵の勇者は"召喚の勇者"のような異名を持つ。
だが"仮面の勇者"は同業者のレインも聞いた記憶がない。

>「それと、クロムさんがすんごい目つきしていますけど大丈夫でしょうかね?
>やっぱりコテンパンにやられちゃったのが堪えたのでしょうか……」

「そうだね……誰だって壁にぶつかることはある。
 誰しもが超えられる訳じゃないけど……クロムならきっと突破できるさ」

むしろ力関係が分かりやすい程度には拮抗できていたとも言える。
曲がりなりにもサティエンドラが応じてくれていたのがその証拠だ。
もしレベルがあまりにもかけ離れていたら、
爆発時のレインとマグリットのように相手にもされていない。

やがて馬の蹄音が聞こえてくると、クロムの馬を連れてエルミアが姿を現した。
後ろには仲間らしきエルフも何人かいる。非戦闘員のようだが仲間に違いない。
0114レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:18:25.91ID:tYOvj2di
森番が来たところで『仮面の騎士』に視線を移すと……彼は忽然と姿を消していた。
レインはあっと心の中で驚いて、エルミアの目も憚らず周辺を探し回った。
聞きたいことが沢山あるのに!まるで幻のようにいなくなってしまった。

エルミアは三人の下へ駆け寄ると、微かにはにかんだ。
出会いは殺伐としたものだったが気にかけてくれていたらしい。

「言いたい事は尽きないが、君達が無事で良かった。
 まさか本当にサティエンドラを追い払ってみせるとはね。
 おかげで私たちも森の再生に専念できそうだ」

次にエルミアの後ろにいた男性のエルフが一人一人に握手を求めた。
レインは男性エルフの勢いに流されハンドシェイクを交わす。
雰囲気から察するに、エルミアより目上の立場らしい。

「申し遅れました。私はこの森を守るエルフの長……グウィンドールと言います。
 魔王軍の幹部サティエンドラを退けたこと、まことに感謝したい」

グウィンドールは感謝の意を示してくれたが、実態はどうだ。
勇んで挑んだものの、窮地に陥って助けてもらっただけのことだ。

「お気持ちは嬉しいのですが……俺達は大した事は何もしてません。
 今はいませんが全て『仮面の騎士』という冒険者のおかげなんです」

「かめんのきし?」

エルミアの怪訝な反応。やはり誰も知らないらしい。
そもそも彼が『精霊の森』に居たこと自体が不思議なのだ。
レインは強力な光の波動を持つ謎の冒険者、と簡潔に伝えた。
グウィンドールはその端正な顔立ちを崩さぬまま、手を組んで答える。

「ふむ……遠い昔話になりますが、神々が地上を見放し、魔が溢れ混沌が訪れた時代――……。
 この地に古代王国が築かれるより遥か昔です、人間の中にとても勇敢な子がいました」

「……お伽話ですか?」

「ええ。サマリア王国に伝わる勇者の伝承……。
 この話の最後は御存知ですか?"召喚の勇者"殿」

「勇者は魔の軍勢を打ち払った後、神のいる天界に向かったとか……」
0115レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:21:08.14ID:tYOvj2di
グウィンドールは実感の伴った表情で深く頷いた。
まるでその時の光景を見たかのような表情だ。

「信仰が薄れて久しいですが、アースギアは紛れもなく神々が生み出した世界。
 天は我らを見放し地上を去ってしまいましたが、勇者は違う……。
 ならば、再び魔が満ちつつあるこの時代には、あるいは――……。
 いや、やめておきましょう。全ては私の憶測なのですから」

それより、とグウィンドールは話を続ける。

「これからも魔王軍と一戦交えることがあるのならば、気を付けることです。
 彼らの君主たる魔王は神々でさえ手のつけられないほど強大な魔力を持っている」

「……魔王、ですか」

魔王。魔王城と同じく、その正体は謎に包まれている。
勇者が倒すべき敵と神託で漠然と決まっている程度だ。
大幹部のサティエンドラがあの強さなのだから、魔王の強さなど想像もできない。
山でも眺めている気分だ。それでもやらねばならないのが勇者の使命というものである。

「長はそれは長い年月を生きているから、多くのことを知っているんだよ。
 勇者のお伽話も、幼少期に長から聞いた……きっと"伝承の勇者"と親しかったのだろう」

そして、エルミアは言葉を続けた。

「……この恩は忘れない。どうか『精霊の森』のことを忘れないで。
 君達に何かあれば必ず助けになる。私の名と、精霊達に賭けて誓おう」

その時、『精霊の森』に生い茂る木々が語り掛けるように揺れた。
一体何を話しかけてくれたのやら――きっとエルミアには分かったのだろう。
去り行く道を振り返り、レインは手を挙げて答えた。

「いつかまた会いましょう!
 その時はもっと強い俺達でエルミアさんを迎えます!」


【第二章:精霊の森編完!次章へと続きます!】
【クロムさん、マグリットさん、お疲れさまでした!】
【第三章:海魔の遺跡編は↓より始まります!】
0116レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:22:50.64ID:tYOvj2di
……――――遥か遠きノースレア大陸にて。

降りしきる雪の音を聞きながら、男は玉座で微睡んでいた。
どこか貴族的とも魔法使い的とも思わせる装いに端正な顔立ちの青年。
青年はどう見ても、人間の美の基準でいえば優れた容貌に入る。

その横に片時も離れず傍につくのが漆黒の衣装に身を包んだ白皙の女性。
青年と同じく人間にしか見えないが――薄く張り詰めた魔力を感じれば、
嫌でも人を超えた存在であることが理解できるだろう。

「……"猛炎獅子"」

転移石でやって来た同胞を見て、女性は感情もなく呟いた。
両手を失い、胸から浅く出血している負傷状態にも関わらずだ。

「……遅れて悪かったな。しかし……魔王城を完全に秘匿するためとはいえ、
 定例会議の場をコロコロ変えるんじゃねぇよ。煩わしいぜ」

獅子の毛皮を被ったが如き男、サティエンドラ。
仮面の騎士と召喚の勇者一行に撤退を余儀なくされた大幹部の一人。
回復の暇もなく会議に参列してみれば、思わず外の喧騒に目を瞑った。
まるで蟻同士の戦いなど興味がないというばかりに。
最早魔王軍が抵抗軍を殲滅するのも時間の問題だろう。

「今日は議題を変えましょうか"死霊術師"。
 馬鹿な九似が両手を失って逃げ帰ってきたもの」

サティエンドラの隣で青肌の女性がくすくすと笑った。
僧侶風の出で立ちに身体に毒蛇を絡ませた妖艶な魔族だ。

「……うるせぇよ"水天聖蛇"。仮面の騎士の横槍が入った。
 あいつが何者なのか、大方の予想はついてるが……問題は"召喚の勇者"共だ」

「何者」

漆黒の衣装の女性――……。
"死霊術師"アリスマターは端的に問うた。
0117レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:24:56.26ID:tYOvj2di
サティエンドラは柄でないことを理解しつつも、腕を組みながら答えた。

「さぁな……だが、これから何者かになっていくんだろうぜ。
 いずれ俺様が本気で戦うに値する連中になる。きっとな」

「ふぅん……自分は絶対に手を出さないって事ね。
 なら私が仕留めておきましょうか。新芽を摘むのは慣れてるわ」

「へっ、まぁ好きにしな。仮面の騎士にだけ気をつけるこった。
 "風月飛竜"と"不動城砦"はどうだ。異存ねぇよな」

「……好きにしろ。風もそう言っている」

「問題ないんだな。ウェストレイ大陸の件で忙しい。ああ忙しい」

帽子を目深に被った半竜の男とゴーレムの如き魔族も異論はない。
どちらも担当の大陸の侵攻に忙しく、この手の会話には参加しない。
比べてみれば、受け持ちの大陸を80%以上侵略した"水天聖蛇"は流石に仕事が早い。
――そう。彼らが会議を開いているノースレア大陸がその大陸なのだ。

「……城の外は」

玉座に座る青年が静かに口を開いた。
大幹部達は一様に口を閉じ、彼の言葉を待った。
彼は発言は今や魔王の御言葉そのものに等しい。

「……今日も騒がしい」

「……はっ。ではこのサティエンドラが鎮めましょう」

陥落した聖都にて開かれた定例会議は終わりを迎え、
大幹部達はそれぞれ転移石で己の侵攻地域へと去っていった。
……白い大地に雪が降り注ぎ、一層深く積もっていく。
0118レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:26:27.29ID:tYOvj2di
……――――イース大陸、サマリア王国にて。

精霊の森から戻って数日。
冒険者ギルドに調査報告書を提出した後、レインは奇怪なことを耳にした。
仮面の騎士と呼ばれるような冒険者は存在しない、と冒険者ギルドに言われたのだ。

「うーん、ウチの登録に仮面の騎士なんて
 名前や特徴の人はいないんだよね。おっかしいな」

ギルドマスターのアンナは頭を掻いた。
もぐりの冒険者など今に始まった話ではないが……。
と言っても冒険者など多くは腕に覚えありのならず者集団の訳で、
ギルドのメンバーであるかないかぐらいの違いでしかない。

「ねぇレインっち、暇なら探してよ。助けて貰った縁もあるし」

「な……なぜです?」

「実力者なら勧誘していいかなって。
 本当の騎士様なら抱き込むのは難しいかもだけど」

何の手がかりもないのに無茶を言う人だ……。
だが勧誘したい、というギルドマスターの意思は本物らしい。
使えるものがあれば猫でも冒険者にするのがギルドの方針だ。

「……難しいですね。手掛かりは何もないですから」

「残念。あぁ、どんなイケメンなのかしら……っ!」

レインは少し呆れてしまった。最近『仮面の騎士』の話になると皆こうだ。
彼の活躍によってサマリア王国が当面の間魔王軍の危機から逃れられたのは事実だ。
だが、裏を返せば魔王軍と戦うにはサマリア王国の外へ行く必要があるということでもある。

魔王城を見つけ出し、それを攻略するという勇者としての目標。
それを遂行するにはいよいよこの国を出る必要が生じてきたのだ。
0119レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/01(木) 20:28:59.35ID:tYOvj2di
いや、むしろそれで良かったのかもしれない。
先の戦いで各々自分達の未熟さを知った次第だ。
それを突破するのに、諸国を渡って実力をつけるのも悪くない。

「けどレインっち。今サマリアを出るのは難しいよ。船出てないもん」

「……え!?」

「うーん、海に魔物が出るようになってね。今は船が出せないらしいのよねー。
 あっそうだ(唐突)こんなところに海の魔物を退治して欲しいって依頼があるう〜」

巻紙をくるくる開くとなんとそこには依頼書が。
攻略推奨レベルは25以上。駆け出し冒険者では到底攻略できそうにない。

「……分かりました。その依頼、引き受けます」

これからどこへ行くにせよ、船がないのでは話にならない。
レインはアンナの思惑のままその依頼を引き受けることにした。

「皆、次の依頼が決まった。俺達は港町マリンベルトへ向かう。
 そこで船に乗って航海を邪魔する魔物を退治しようと思う」

いつも通り地図と依頼書を広げて机に置く。まず示したのは港町。
あらゆる国のモノが海を超えて集う、王国における交易の中心地だ。
そこからすーっと指を動かしてぽつんと存在する島を指差した。

「……依頼書を読む限り、発生源はメリッサ島にある『海魔の遺跡』。
 サマリア王国に存在するダンジョンで最難関の……呪われた島だ」


【避難所で土曜に投下すると言いましたがなんとか書き上がったので投下】
【次の行先は呪いのダンジョン!】
0120クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/04(日) 22:46:01.59ID:Kct6TBzl
ギルドの酒場。
そこに、カウンターで言葉を交わし合うギルドマスターとレインの姿を遠目に見ながら、朝食を摂る一人の男が居た。
クロムである。
今やギルドでも見慣れた顔の一人であるが、あるいはだからこそ、彼がクロムであると気付く者は少ないかもしれない。

右の肩当てと一体化した片掛けの胸当てに、左腰のみに装着された腰当て。
その下はいつもの漆黒の『魔人の服』ではなく上下共に真逆の色である純白の白装束。
そして特徴的なおかっぱ頭がありふれたショートヘアに……。

『精霊の森』から帰還した後の数日で、見た目が変化したのである。
彼と関りの浅い冒険者ほど別人に感じる事だろう。


「──お、あんたレインのところの剣士じゃねーか?」

不意の声に、思わず咀嚼を止めて、声の方向を見やるクロム。
するとそこには如何にも冒険者というような筋肉質の大男が立っていた。

「“イメチェン”ってやつだろそりゃ? ハハハ、ショックな事があったってのはどうやら本当みてぇだなぁ?」

口の中のパンをごくりと飲み込んで、クロムは溜息混じりに言葉を紡ぐ。

「あっちこっちで『仮面の勇者』だの『レインのパーティがボロ負けした』だの、どうして噂ってのは光のような速さで広まるんかね」

「広いようで狭い界隈なのさ、ギルドってのは。しかし“凄腕の剣士”にしちゃ随分打たれ弱ェじゃねーの。
 そんなことでボロ負けのショックから切り替えられるもんかねぇ。やっぱいくら強くっても子供《ガキ》ってか?」

「……髪型を変えたのは確かに気持ちを切り替える為だけど、服は『魔人の服《前の》』が使えなくなったからだよ。
 あれでも世界に二つとない正真正銘の一点物だったんでね。呪いも《事情も》あって仕立て屋でも修復できないし。
 ホントはまだ着たくなかったんだ、この服は。妙な“制約”を強いられる曰く付きなんでね」

「フン……何のことかは知らねーが、だったらそこらへんの武器屋で鎧でも買った方がいいんじゃねぇか?」

「そこら辺に売ってるありふれたモノじゃ着けてないのと同じさ。サティエンドラ《あいつ》のような強敵にとっちゃな」

「……」

「ま、あんたみたいに雑魚狩りで満足するようなヤワい冒険者じゃ理解できないかもしれないけど」

「な、なにを……!」

テーブルに手をつき、ずいっと身を乗り出して凄む大男。
だが、クロムはそれに怯むどころか、涼しげな顔で更に挑発するように口角を吊り上げる。

「ジョーダンだよ、冗談。ったく、コワモテってのは体だけじゃなく心までガチガチに強張ってて暑苦しいぜ」

「くっ、調子に乗りやがって……!」

「だったらどうする? ここで殴り合うってか? 三対一を覚悟で?」

そして握り締めた拳を今にも振り上げんとする男に対し、あれを見てみな、とでもいわんばかりに大げさに顎をしゃくる。
途端に男は「うっ」と呻く様に声を漏らした。しゃくった先を見たのだ。
ギルドマスターと話し終えて戻ってくるレインと、それとは別の方向からこれまで席にいなかったマグリットがやって来る姿を。

「ケッ! この続きはまた次の機会だ! 覚えてやがれ!」

男は余りにも分かり易い形で喧嘩の不利を悟ったのであろう。
即座にテンプレの捨て台詞を吐くと、そそくさと立ち去って行った。
0121クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/04(日) 22:53:01.52ID:Kct6TBzl
────。

>「……依頼書を読む限り、発生源はメリッサ島にある『海魔の遺跡』。
> サマリア王国に存在するダンジョンで最難関の……呪われた島だ」

テーブルの上に地図を広げて、レインが指で二つの場所を順に指し示す。
初めに『港町マリンベルト』、次に『メリッサ島』。いずれもサマリア王国の領土内の場所だ。

数ある依頼の中で、何故レインはルートが航路に限られる孤島のダンジョン攻略を選んだのか。
理由は外洋に出る為……延いては他の大陸に出る為だ。
物騒な魔物が航路を遮断するのを放置しては、いつまで経ってもこのイース大陸から離れることができない。

各地の大幹部のダンジョンを攻略し、最終的にはこの世の何処かにある魔王城に辿り着く。
そんな大目標を達成するには、遅かれ早かれ海を魔物から奪回しなければならないのである。
奪回は早ければ早いほどいい。ただ、問題は奪回への挑戦が無謀な挑戦になりはしないかという点であろう。

(依頼書によると攻略推奨レベルは25以上……)

それは駆け出しの冒険者では無謀を意味するレベル。
だが、サティエンドラとの死闘を生き残った召喚勇者のパーティであれば攻略は決して不可能ではないだろう。

「……馬車を外に待たせてある。御者は前と同じでマグリットがやってくれ。
 食料と薬草は樽に入れて積んであるが、他にも必要なものがあったら載せて置けよ。出発はそれからにしよう」

だとしても、立ち上がり、『精霊の森』の時と同じく誰よりも先に酒場を後にするクロムの足取りは、その時より明らかに重かった。
心につっかえているものがあり、気分が晴れなかったからである。

(『魔人の服』よりも強い“制約”があるこの服に、欠けて亀裂が入ったままのこの剣……。
 ハンデ持ちの今の俺でレベル25以上の洞窟か…………くそ、らしくなく沈んでやがるぜ、俺)

【装備変更:『魔人の服』→『???』(特性も不明。ただし呪いの装備品であることは確かなようだ)】
【『悪鬼の剣』→刀身がダメージを受けた事で殺傷力ダウン】
【気分転換に髪型をおかっぱから普通のショートヘアに変える】
0122マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/10/10(土) 19:36:20.01ID:/O1S6QkZ
ギルドの酒場
レインがギルドマスターと話し、クロムが大男に絡まれている最中にマグリットはやってきた

通常ギルドの酒場に集う時はそのまま冒険に出られる装備で来るものだが、マグリットの格好は法衣ではなく平服だった
トレードマークのように背負う樽は家財道具を一敷き詰めたようなリュックになっていた

大荷物を背負いながらレインの席に歩み寄る途中、レインに絡んでいた大男とすれ違いその剣呑な雰囲気にきょとんとした顔のまま籍の到着

「お知り合いでしたか?なんか剣呑でしたけど
それとなんだか雰囲気が変わりましたねえ、白い服もお似合いですよ!」

いつもの漆黒の魔神の服ではなく純白の白装束姿に驚きつつも挨拶を交わし、席に着く
奇しくもクロムもマグリットも普段とは違う服装でレインの戻りを待つことになったのだった

レインが戻ってきたところで、先にマグリットが口を開いた
勇者付きの伝導師の職を解かれ、冒険に出る事を禁止されたという旨を

「やーまあ、そんな訳で今回ご一緒できません
せっかくの休暇ですので一度実家に戻って羽を伸ばそうと思っているのですよ」

法衣を着ていないのも、家財道具を一式背負ったような荷物になっているのも王都ナーブルスを離れるという事だったのだ
そこまでは明るく話していたのだが、周囲に目をやり聞き耳を立てているものがいないのを確認し、テーブルに乗り上げるように体を寄せ、声を潜めて言葉を続ける

「教会の宣教師派遣が一斉に中止になっています
私だけでなく、多くの勇者付きの伝導師が職を解かれ待機状態命令が出ました
この動きが何を意味するか、私如き下級職には情報はおりてきません
もしかすると各地の大陸で大きな事件が起きているか、大きな戦いの前触れの可能性も……」

マグリットの顔が険しく、深刻なものに変わっていく

宣教師は未開の地に布教するために派遣される者たちであり、教会の尖兵とも情報網を構築する者ともいわれる
その派遣が一斉に中止になるという事は、派遣先に重大な異変が起きていると考えられもするのだ

精霊の森で見たサティエンドラの強さと引き連れていた魔物の数はサマリア王国を殲滅しかねない程であった
それを鑑みれば、国外や他大陸に同様の侵攻が起きている可能性もよぎってくる
もしその状況が事実であれば、教会の動きも戦力温存という意味で合点がいく

「ですので私は身動きが取れませんし、出来ればレインさんやクロムさんも暫く休養する事をお勧めします」

最悪の事態に想いを巡らせながら、教会組織に属する者として動くこともできず、忠告をするのが精一杯だった
声を潜めそれだけ語ると、体を起こし表情は元に戻っていた

「というわけで、しばらく実家に戻りますので、申し訳ありませんがまた帰ってきたらご一緒させてもらいます
あ、乗り合い馬車の時間ですので失礼しますね!」

そう言うと大きく手を振りギルドの酒場を出て行ってしまった
マグリットの向かう乗合馬車の行先は奇しくも港町マリンベルトであった
0123マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/10/10(土) 19:40:13.43ID:/O1S6QkZ
マグリットの説明には明確な矛盾があった
教会内に大きな動きがあり、その一環としてマグリットは伝導師の職を解かれた
そして他の伝導師と同じように【待機命令】が下っているのだ

にも拘らず、マグリットは休暇と曲解して実家への帰路へと向かっている

これはマグリットの目的である九似を集め龍と成る為にあまりにも自分の器が小さすぎる事に気づいたからだ

九似の一角である猛炎獅子サティエンドラはあまりに強かった
取り込んだだけでも暴走し挙句に吸収しきれず仮面の騎士の結界によってほとんどが浄化されてしまった
龍に成る為にはサティエンドラと同じレベルの魔物を吸収して回らなければいけないとなると、今のままではとてもではないが力不足が過ぎると感じだからだ

そこで待機命令を良い事に、一度実家……すなわち港町マリンベルトの近くの貝の獣人集落に戻り、自身の強化に努めるつもりなのであった

【教会内にて大きな動きがあり、他大陸の異変の可能性を示唆】
【同行不能の旨を伝え、実家に帰る】
0124レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/12(月) 16:49:11.51ID:vKKGDfaB
……――冒険者ギルド。
ギルドの酒場でクロムに会ってまず驚いたのは、いつもの彼と印象が大きく異なっていたことだ。
黒衣の剣士とも比喩される衣服は純白の装束に変わり、髪型も普通のショートヘアに様変わりしている。
『紅蓮魔宮』脱出後、自身の剣をずっと眺めていたことといい、何か心境の変化があったに違いない。

そして驚いたことがもうひとつ。マグリットが伝導師の任を解かれ、帰省する事になった。
レインもすっかり油断していたが、彼女の所属はあくまでも教会の伝導師なのだった。
教会の命令が下れば従うのが当然。伝導師でなくなった今、無理に冒険につきあう必要はない。

ただ、マグリット自身はパーティーを抜けたつもりはないようで戻って来る意思はあるようだ。
しまったなぁ……。マグリットを戦力として当て込んだ上で依頼を受けてしまった。
レインの予想が正しければ今回は他の冒険者と競合になる。戦力ダウンはかなりの痛手だ。

競合になると報酬はもちろんダンジョンの宝の奪い合いになるので、面倒事が起きやすい。
ギルドの規約においては競合となった際、依頼の報酬は達成者のみが得られるとある。

本来なら『水晶の洞窟』のように即席PTを組んで協力するのがベターだ。
しかし、ダンジョンに眠る財宝を独占したい場合は、これに限らない。
PTを組めば多くの場合は手に入れた宝も山分けすることになるからだ。

「……御者は俺がやるよ。二人で頑張ろう」

レインは脳内プランを修正しながら空元気をとばした。
二人きりの馬車が王都を出発し、ラピス街道を進んでいく……。

……――港町マリンベルト。
ラピス街道に接続された、帯状に港が広がる交易の中心地。
海の水質はとてもきれいで、少し歩けば他の村や集落に着き、ビーチもある。

港へ足を運べば常に船が行き交う光景が見られるはずだが、海に魔物が出る今はがらんどうだ。
代わりにサマリア海兵隊の船が仰々しく配備されている。

それでも交易の中心地なだけあって、多くの店や人は活気に溢れている。
武器屋には見たことのない珍妙な武器が並んでいるし、
異国の道具や調度品の数々は眺めるだけでも楽しい。

レインは何度かマリンベルトに訪れたことがあるが、
この町を歩くだけで世界各国を旅したような気分を味わえる。

港町に着くとまず宿をとって厩に馬車を預けた。
宿は『運命の水車亭』――水車の看板が目印の宿屋だ。

まるで観光気分かと思えるほどにレインの足並みはゆっくりだった。
なぜかというと、すぐ船に乗れるわけではなかったからだ。
海が危険である以上、一般の船は出ていない。
0125レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/12(月) 16:55:28.04ID:vKKGDfaB
そこで冒険者ギルドの船を使う。船の名は『アドベンチャー号』。
直球な名前だが、大砲やバリスタといった装備を乗せた立派な武装帆船だ。
船員は全員屈強な元冒険者で、サマリア王国の海兵隊にもひけをとらないと言われている。
ちなみにギルドの船に乗るのはレインも経験が無い。

「……ギルドの船長が今日、この宿に来ることになってるんだ。
 顔合わせして、明日船に乗る流れになると思う。今日はゆっくりしよう」

日が沈みかかる頃、二人は夕食を摂ることにした。
レイン達が泊まる『運命の水車亭』の料理は美味いことで有名だ。
前菜だけでも野菜類、魚介類、サラミ、生ハム、燻製、チーズ、カルパッチョ……。
……と、非常にバラエティに富んでいる。王都の宿の飯も決して悪い訳ではないのだが……。

「……そういえばクロム。武器のダメージは大丈夫?
 『紅蓮魔宮』を脱出した後、ずっと見てたよね。なんか気になっちゃって」

フルコースが肉料理にさしかかった頃、不意にそんなことを聞いた。
召喚魔法で様々な武器を扱う手前、肌感でクロムの心配事を察してしまったのだ。

「俺、実家は武器屋で。こういう時、どうにかしたいってつい考えるんだ。
 でもあの黒剣はどう見ても普通の鍛冶屋じゃ直せないか……」

サティエンドラを真っ向から斬りつけた代償は大きかったということらしい。
レインのアクアヴィーラは敵の弱点属性を纏っていたおかげかそれらしい損傷もなかったが……。
『清冽の槍』は東方の国で亀を助けた際、『竜宮城』の姫君にお礼でもらったものである。
こういった一点モノの武器や防具は並みの鍛冶屋では直せない場合がある。

「うーん、鍛冶職人といえばドワーフだよね。何か良い方法を考えてくれるかも。
 あるいは直せる人物を知ってるかもしれない!俺にドワーフの知り合いがいればなぁ……」

頼まれてもないのにああだこうだと喋ってみたが、具体的な解決策は思いつかなかった。
後ろで肉料理を平らげていた客が冷えた赤ワインを一口飲むとと、レイン達の方をちらと見る。

「武器の話しかせんのか貴様らは。
 最後の晩餐だと思って堪能することだ。
 マリンベルトには美味い飯がいくらでもある」
0126レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/12(月) 17:01:05.12ID:vKKGDfaB
客は椅子をがたんとひっくり返してこちらに座り直した。
オールバックで無精髭を生やした、やや彫りの深い顔の男だった。
その堂々とした佇まいと、置いていた船長帽を被ったところで誰か分かった。

「あ……!貴方がエイリークさんですか?」

「いかにも。俺がギルドで船長をやってるエイリークだ。
 明日はお前らを呪われた島まで運ばせてもらう」

「よろしくお願いします」

「しかしお前ら、別の意味で今回は難易度高いぜ。
 なにせ競合相手が多いって聞いててな――あそこを見ろ」

エイリークが親指で示した方に、ちびちびとエールを飲む男がいた。
髭面の恰幅の良い小男で、見るからにドワーフといった感じだ。

「あいつは"斧砕きの"ドルヴェイク。この辺じゃマイナーだが地元の大陸ではえらい有名らしい。
 なんでも自分の斧をよく砕いちまうくらい豪腕だから斧砕きって異名がついたそうだ。
 冒険心でイース大陸まで来たはいいが故郷が恋しくて依頼を受けたんだってよ」

エイリークは次にカウンターで祈りを捧げている女性を指差した。
腰ほどまである金色の髪にやや幼い顔立ち。年はレインと同じくらいだろう。

「あの可愛い子は"聖歌の"アリア。補助魔法に長けた子だ。
 教会の元僧侶らしいが……なんで一人で冒険者やってるかは俺も知らん」

なぜ、攻略レベルの高いこの依頼に競合という形で人が集まったのか。
理由は簡単で、メリッサ島には金銀財宝が隠されているという言い伝えがある。
巨万の富を得られるとも言われており、多くの冒険者はそれを狙っているのだろう。

普段は水棲系の魔物が繁殖しているため上陸禁止となっており、財宝を探せるのは今回の機会しかない。
しかし、なぜ『呪われた島』と呼ばれているか――それを知る者はもうほとんどいない。
サマリア各地のダンジョンを潜ったレインもメリッサ島の情報はあまり持っていなかった。
0127レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/12(月) 17:04:07.93ID:vKKGDfaB
エイリークが葉巻に火をつけて、レインの肩をがしっと掴んだ。
一口吸うと口元から摘まみ上げて深刻そうに小声で話す。

「……さっきの二人はまぁいい。問題は連中だよ」

店の端――テーブル席で酒を飲んでいる、マントを羽織った三人組。
それぞれが異大陸からやって来た者達で『初心者狩り』の名で知られている。
『初心者狩り』とは、高レベルPTが低レベルPTを脅して依頼の報酬と成果を掠め取ることだ。
掠め取られるだけならまだ生易しく、最悪の場合、命を奪われることもあるという。

三人組はギルドの鑑定では全員レベル30の実力者。偶然この大陸で顔を合わせ、意気投合。
パーティーを組むに至り、それ以来低レベル帯のサマリアに入り浸っている。

レインがマントの三人組をちらりと見ると、真ん中の男に睨まれた。
鋭い猛禽のような目……。それが柔和な美男に戻るのに時間はかからなかった。
ほっと胸をなでおろして心の中で構成メンバーを思い出す。

西のウェストレイ大陸出身、魔法と剣に長けたリーダー、シナム。
北のノースレア大陸出身、剣術をはじめとする武芸に長けた元兵士フェヌグリーク。
南のサウスマナ大陸出身、クロスボウや狩りの技に長けた狩猟民族出身のアサフェティ。

シナムは冷酷さに反して美男で通っているので、先程睨んできた男がそうだろう。
セミショートの黒髪に仲間と語らう時の優しい表情は女性のようだ。
と、すれば見るからに鍛えている強面の禿頭がフェヌグリーク。
痩身に目元が隠れるほど伸ばした茶髪男がアサフェティか。

「……あいつらとはあまり関わるなよ。標的にされかねん。
 ギルドとしちゃ競合結構だが、『初心者狩り』みたいな真似は非推奨だ」

他にも多数、一獲千金を求めて冒険者達が『運命の水車亭』に集まっている。
マグリットを欠いた今、彼らを退けて依頼をクリアできるだろうか。
ふと何か気づいたエイリークが辺りを見渡しながら言った。

「そういえば"召喚の勇者"パーティーは三人組って聞いたが、一人いないな。
 もう一人はどうしたんだ?たしか貝の獣人だっけか……」


【『悪鬼の剣』の損傷に気付き、心配するレイン】
【『運命の水車亭』にて船長から同業者の紹介を受ける】
0128クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/17(土) 20:58:25.74ID:YAQ7oM2G
召喚の勇者一行を乗せた荷馬車が無事、目的地マリンベルトに到着したのは、かなり日が陰ってからの事だった。
王都の酒場を出発したのが朝であるから、およそ八時間から九時間は馬車に揺られていた計算になるだろうか。
徒歩よりは体力の消耗が少ないとはいえ、何時間も座ったり寝たりの姿勢で過ごしていたものだから、流石に体がだるい。

だが、文句は言えない。
何故なら王都からマリンベルトへ向かう道のりは、以前なら馬車を使っても丸一日以上は掛かると言われていたのである。
それを十時間以下にまで短縮できたのは、魔物も悪路も排除した、便利なラピス街道が整備されたからこそだ。
発達した交通網にはむしろ感謝しなければ罰が当たるというものだろう。

「……よっと」

厩で馬車を下り、体内に充満する気だるさを大きな伸びで放散しつつ、レインの後ろに付いて行く。
途中で腹がぐぐぅと鳴るが、そこは買い食いなどで誤魔化さずに我慢である。
何故ならレインが向かっているところは料理が上手いことで有名とされている宿屋なのだから。

>「……ギルドの船長が今日、この宿に来ることになってるんだ。
> 顔合わせして、明日船に乗る流れになると思う。今日はゆっくりしよう」

「顔合わせの前に飯だ、飯。飯を食いつつ船長を待つって事で」

宿屋・『運命の水車亭』。今のクロムには、その宿の薄汚れた看板が心なしか輝いて見えるのだった。

────。

『運命の水車亭』の食堂。
テーブルに並んだバラエティ豊かな料理に舌鼓を打ちつつ、クロムはレインと明日を見据えた会話を交わす。

>「……そういえばクロム。武器のダメージは大丈夫?
> 『紅蓮魔宮』を脱出した後、ずっと見てたよね。なんか気になっちゃって」

話題がふと傷んだ剣の件に及んだのは、胃も随分と満たされてきたかという時であった。
クロムは一瞬、手にした食器の動きを止めて、目をやや半開きのような状態に細めると、答えた。

「ああ。“まだ”使える」

事実を、抑揚の無い声で、サバサバと。
受け取り方によっては不安が増幅されかねないリアクションだろうが、これでもクロムなりに余計な心配を掛けたくないと気を使っているのである。
ムードメーカーのように殊更明るく振る舞えないのは、そういう性格ではないからとしか言い様がない。

>「うーん、鍛冶職人といえばドワーフだよね。何か良い方法を考えてくれるかも。
> あるいは直せる人物を知ってるかもしれない!俺にドワーフの知り合いがいればなぁ……」

「ないものねだりをしてもしょうがねーよ。今は現状の“戦力”で明日をどうやって戦うかを考える方が──」

視線を横に向けながら、「なぁ、マグリット」──と続けようとするクロムだったが、その声は実際には出なかった。
寸前でいつもは“その位置《そこ》”に居る筈の彼女が居ない事を思い出したからだ。

「……どうも癖になってんな、あいつに話を振るのが。
 今日の朝も休暇を取るって話を聞いてたのに、酒場を出る時にはあいつに御者を頼んじまってたしよ。調子狂うぜ。
 あ、そういやあいつの実家って一体どこに──」

そして話の流れでマグリットが言っていた実家についての疑問を口にしようとして、クロムの声は再び止まるのだった。

>「武器の話しかせんのか貴様らは。
> 最後の晩餐だと思って堪能することだ。
> マリンベルトには美味い飯がいくらでもある」

と、突如として話に割って入る男が現れたからである。
しかし何者かと訊ねる前に、クロムは男が被る船長帽に目が留まり、ピンとくる。
そしてその直感はレインと男の会話で確信に変わる。
0129クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/17(土) 21:09:16.07ID:YAQ7oM2G
(『エイリーク』……。こいつがレインの言っていた船長か)

目が合う。
己の心を見透かされてる気分になるような独特の視線は、なるほど多くの修羅場を潜り抜けてきたプロのそれだ。
実際、魔物がうろつく危険な海を船乗りとして生き抜いてきた年季の入った強者なのだろう。
そんな彼からすれば、レインやクロムなど色々な意味で子供にしか見えず、つい老婆心が働くのかもしれない。

『斧砕きのドルヴェイク』、『聖歌のアリア』、『初心者狩りの三人組』──
訊いてもいないのに一方的に始まった呪いの島攻略に参加する面子の解説は、明らかにアドバイスを兼ねたものであった。

(お節介というか何というか……まぁ、貴重な情報には違いないから敢えて何も言わないけど)

>「そういえば"召喚の勇者"パーティーは三人組って聞いたが、一人いないな。
> もう一人はどうしたんだ?たしか貝の獣人だっけか……」

皿に残された肉をフォークで口に運びつつ、クロムはぶっきらぼうに答える。

「むさいとっつぁんの顔は私の好みじゃねーって、一旦実家《クニ》へ帰ったよ」

「あぁ? なんだそりゃ?」

「船はむさ苦しい男達の溜まり場だって相場が決まってるだろ。獣人でも女だぜ、一応」

「女にゃ似合わねぇ環境ってか! 違ぇねぇぜ、ガハハハハ!」

大口を開けて笑うエイリークだったが、やがてレインが本当の理由を説明すると、真顔に戻って「そういやぁ」と切り出した。

「マリンベルト《この近く》にも獣人の住処が何処かにあるって聞いた事があるぜ。ひょっとしたら何か関係があるんじゃねーか?」

マグリットの帰省先がどこなのか、それは何気にクロムが気になっていた点である。
しかし、エイリークの言うような偶然などハナから信じていないクロムは「んなことより、とっつぁんよ」と直ぐに話を変えた。

「島の攻略に関して、なんかもっと有益な情報はないわけ? どういう魔物が出るだとか、どういうアイテムが有効だとかさ」

それに対しエイリークはさっきのお返しとばかりに軽口混じりの一言を返して寄越した。

「情報が無ぇから及び腰になるってんじゃ、冒険者としちゃ二流じゃねぇのか? ボーズ」

「……つまり、肝心な情報は持ってねーって事だろが。まぁ、別に期待してたわけじゃねーから構わねーけど」

フォークを空になった皿の上に置いて、クロムは頭を掻きながら椅子から腰を上げる。

「一足先に部屋へ戻ってるぜ。体力は温存しとかねーとな」

「あんだよ、もう寝るってか? 近頃の若い者は体力がなくていけねーな。夜はこれからだってのによぉ、ガハハ!」

「よければデザートはとっつぁんにやるよ。甘いものって気分じゃないんでね、今夜は」

そして再び豪快に笑うエイリークから背を向け、一階の食堂エリアを後にし、二階の宿泊エリアへと向かう。
その際に席で一人エールを飲み続けるドワーフ──すなわち『斧砕きのドルヴェイク』に目が留まるが、向こうは目を合わせようとしない。
視線に気が付いていないのか、気が付いた上で無視しているのかは定かではない。

(……一晩でどうにかなる問題じゃねーからな)

いずれにしてもこの晩、クロムは彼に話しかけることなく、部屋へと戻っていった。
確かに刀のダメージは気になるところではあるが、出航を明日に控えた今、時間が圧倒的に足りないと考えたからである。

【夕食を終えて部屋へ戻る】
0130マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/10/21(水) 21:01:54.87ID:2Csxlj1m
低く小さく、それでいて確実に何かが脈動するような音が定期的に響いている部屋
松明などはないのだが、部屋全体が仄かに光り十分な明るさを提供している

「それで、どうだった?九似を取り込んだ感想は」

部屋でくつろぐ二つのシルエットのうち、小さい方が楽しそうに尋ねる
しかしそれに応える大きな方のシルエットは楽しいとは言い難い声色で応える

「いやいや、どうだったじゃないですよ!暴走するとは聞いていましたけど、あれ程とは
何というか、自分が自分でないような……」

「万能感と多幸感、かえ?」

言語化できない返答を補うように言葉を補足してやると、言い淀んだ返答が流れを再開する

「そう!それです!
膨大な力が流れ込んできて、制御が効かないというより自制が効かないという感じでしたね
単純に私の力が小さく、受け入れた力が大きすぎたというのはわかるのですけどね」

「猛炎獅子サティエンドラといったか、そ奴が強すぎたのではあろうが……だからこそ却ってきたのだろう?
準備はできておる
アンボイナ、これえ」

その言葉に応えるように壮年の男が部屋に現れ、大きなシルエット即ちマグリットの前に進み出る

「おじさん、すいません
おじさんの力は悪者っぽくて出来れば取り入れたくなかったけど、このままじゃ厳しそうなので」

「鼻たれの小娘が言うようになりやがったなぁ
構わんさ、俺の力を使いお前は龍に成れ」

貝の獣人たちの中では数世代に一人、蜃の獣人が生まれる
蜃は幻を生み出す貝であり、龍の九似の一種
即ち、他八種類の魔物を取り込む事により、龍となると言い伝えられている

獣人集落では様々な獣人の交配が進むが、特徴として表れるのは一種のみ
ではあるが蜃の属性を持って生まれるとウミウシの特徴も合わせて現れる事になる
これは他の八種を取り込み龍と成る為であり、取り込めるのは九似のみであるが、同族である貝の獣人も取り込めることから、蜃は他の貝を取り込み能力を高めていくのだ
そしてマグリットは様々な貝の能力を持つに至り、そして今、新たなる力を求め故郷に戻り目的を達成したのであった
0131マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/10/21(水) 21:02:44.43ID:2Csxlj1m
「しかし間違えるでないぞ、能力の幅は広がったが強くなったわけではないのだからな」

「ええ、勿論
それにしても先代の巫女は400年前でしたっけ?
その時は7つまで集めたって聞きましたけど、一つでこれとなるとよほど凄かったのでしょうねえ」

再び二人になった室内で一族の夢に賭けた歴史に想いを馳せ、マグリットは現在の進捗や立場について語る
教会の情報網を利用し九似を探し出す当初の計画から外れ、現在は召喚の勇者のパーティーに加わっている事
神託を受け、奇跡を起こし仲間に加わったこと
冒険の中で運命の様なものを感じた事
サティエンドラの戦い、仮面の勇者の戦い
レインの事、クロムの事……

「それで、あれを取りに行くという訳か」

「ええ、伝導師ではありますが、その実導いてくれるのは彼らです
ならば私は彼らを後ろから押せるようにより強くありたいですから、今回お休み貰ってきたわけで
猛炎獅子の手を一本切り取るのにも苦労しましたから
もう22年、あそこでなら10倍として220年分ですし、十分使えるでしょう

そういいレインとクロムの顔を思い浮かべながら見上げる先は、鈍く発光するゼラチン質の天井
その上にかぶさる大量の砂
更にその上には大海原が広がり、その先にメリッサ島が位置するのであった

そう、ここは港町マリンベルトにほど近い沖の海の底の更に底にマグリットはいた


港町マリンベルトから程離れた小さな集落
それは一見さびれた漁村であるし、実際に大多数が漁師でありマリンベルトに魚を下ろして生計を立てている
だがそこが貝の獣人たちの集落の【入り口】である事はほとんど知られていない

貝の獣人は浜辺に集落をつくるが、真なる拠点はそこから続く海の底に張り巡らされるトンネル網にある
クラゲの中には群生態として一個の巨大クラゲになるものがいる
貝の獣人たちはそのクラゲを繋ぎ合わせ海底の砂に埋め、巨大な生体トンネル網を構築しているのだ
クラゲの内部空間を住居とし、貝の獣人たちはクラゲに餌をやり育てる共存関係を築いていた

海上からはわからないがマリンベルト周辺の海底こそが貝の獣人たちの棲み処であり、それは呪われた島メリッサ島にまでその触手を伸ばしていた
0132レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/24(土) 18:13:23.37ID:she84qJ2
空がだんだんと白んでいく。
雄大なサマリアの山脈から太陽が徐々に顔を出す――。
朝。日が昇ると同時に、港の『アドベンチャー号』に冒険者達が集まった。
エイリークは懐中時計で時間を確認し、高らかに宣言する。

「よおし、出航だ!」

……――――メリッサ島へ向かう船は海を緩やかに進んでいる。
アドベンチャー号での冒険者達の行動はまとまりもなく別れていた。
船室で休む者、賭けに興じる者、甲板で魔物が現れるまでじっと待つ者。
レインはといえば、船室から水平線にぼんやり見えるメリッサ島を眺めている。

頭の中にあったのはマグリットのことだ。
エイリークも言っていたが、獣人の集落がこのマリンベルト周辺にあるのは事実らしい。
マグリットの実家がどこなのか、嵐のように去っていったため聞けずじまいだが……。

貝の獣人。サマリア国に住む同郷の種族にも関わらず、貝種には謎が多い。
彼らがどのような風習と文化を持っているのか――住むところでさえも――判然としない。

パーティーを組んで間もないが、もう三人でいることに慣れきってしまっていた。
クロムが調子を狂わせているのも無理はない。レインの顔もどこか浮かない。

そんなことを考えている内に帆船はメリッサ島に到着した。
意外な話だが、海で一度も魔物に襲われなかったのだ。

「どうだ、ギルドの船も捨てたもんじゃないだろう。
 お前達を島に送り届けるのが俺の仕事だからな。快適だったか?」

船を降りる前、エイリークはにやりと笑ってそう言った。
彼が言うには船が襲われたルートを割り出し、そこを避けただけと言うが……。
航海術と長年の経験に裏打ちされた航海術がなければ出来ない芸当だ。

「依頼を受けたからには必ずこなせよ。実はギルドで誰がこの依頼を解決するか賭けてるのさ。
 俺は大穴を狙ってお前らにしたんだが……事前に情報を流すのはイカサマだったかな?」

そう言って、レインとクロムの頭を肩をばしっと叩いた。

「……冗談だよ!お前達はまだ若い。無茶だけはするなよ。
 仲間が欠けて本調子じゃないだろう。ヤバいと思ったらすぐ引き返せ。俺達が待っててやる」

そう言って景気良く送り出された。
いい加減マグリットがいないくらいでくよくよしていても仕方あるまい。
心を切り替えたレインの顔はいつもの表情に戻っていた。
0133レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/24(土) 18:17:11.41ID:she84qJ2
メリッサ島の入り口は巨大な洞窟となっていた。
大型帆船の『アドベンチャー号』が入れるほどで、天然の港のようだ。
怪物の顎が大きく開かれたかのようなその洞窟に、ギルドの帆船は停泊している。
噂では海底に島への侵入ルートもあるらしいが、詳細は不明だ。

しだいに財宝狙いの冒険者たちがぞろぞろと船を降りていく。
レイン達も船から降りると、洞窟は複数の道に別れているらしい。
どうやら今回の依頼、まずは『海魔の遺跡』の入り口を探す必要があるようだ。

「どーれーにーしーよーうかーなっ。
 依頼なんてついでだしなあ……まずは噂の財宝を見つけたいなあ」

前で『初心者狩り』PTのリーダー、シナムが道を選んでいる。
やがて道のひとつを選ぶと、パーティーメンバーと共に去っていった。

「……最初は勘で行くしかないか。
 島の入り口を基点に虱潰しに探していこう」

エイリークが『初心者狩り』とは関わるな、と忠告していたので、
レイン達は彼らと別の道を選んで探索をするという運びになった。
ごつごつした岩に挟まれた細い道を歩いていく。
道は斜面になっており、どんどん下っている。

「……なんだか、遺跡とは見当違いの方向を目指しているような……。
 この島、海底にも繋がってるらしいから……そっちに向かってるのかも」

サマリア王国に眠る数々のダンジョンを潜り抜けたレインの勘がそう告げていた。
無地の羊皮紙に道筋を描きながら、額を手で押さえるが、手を放してこう言い放った。

「まぁいいか。俺達の狙いは財宝じゃない。早い者勝ちしたい訳じゃないし……」

極論、依頼が解決されるなら何でもいい。
報酬が貰えないのは痛いが、金に困ってる訳でもない。
0134レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/24(土) 18:21:21.96ID:she84qJ2
やがて辿り着いたのは岩で囲まれたひとつの空間だ。
綺麗な白い砂が地面に広がり、空間の半分ほどを海水が満たしている。
ざざぁ……と砂に海水が波打つさまは小さな浜辺のようだ。

これはこれで美しい景色だが、明らかに行き止まりだ。
どうやらこれより先は海底へと続いているらしい。外れの道だ。

「うーん、噂で聞いた海底からの侵入ルートかな?
 ごめんクロム、やっぱり道を間違えていたみたいだ……」

と、言って、レインは道筋の終点を羊皮紙に書き記した。
その時、レインは海面から腐臭のような濃い瘴気が立ち込めるのを感じた。
羊皮紙を道具袋にしまいこむと、海面から距離を取った。

「何か来るぞ……!」

派手に水しぶきを散らせながら現れたのは、巨大なタコの魔物。
油断していた。まさか海底付近にこんな魔物が棲息しているとは思ってなかった。

「……――エビルオクトパスかッ!?」

体長5メートルほどだろうか。かなりの大きさだ。
蛸の足を含めるともっと巨大だろう。

エビルオクトパスといえば、蛸足で相手を絡め取り、
吸盤で吸い着きつつ獲物の生命力を吸収する戦法が有名だ。
いや、巨木の幹のように太い足は振り回しただけでも十分凶器。

だが、どれだけ巨大で力が強かろうがしょせん水属性だ。
『雷霆の杖』で容易に対処ができる相手とも言える。

「よし……召喚!」

右手を広げて召喚魔法を発動すると、いつも通り魔法陣が浮かび上がる。
同時、魔法陣を上書きするように不気味な紋様が浮かび上がった。
そして、呼び出そうとした武器が召喚されないまま砕け散る。
0135レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/24(土) 18:29:22.66ID:she84qJ2
降って湧いた異常事態に動揺を隠せないレイン。
焦って腰からはがねの剣を抜き放つと、エビルオクトパスの足がぬーっと海面から姿を現す。
本当は杖で一蹴してやりたいところだが、召喚魔法が使えない以上仕方ない。
レインはその原因をまだ理解していないが、クロムは察するところがあるだろう。

これは『呪い』によるものだ、と。
メリッサ島がなぜ呪われた島と呼ばれているのか……。

それは、メリッサ島の『海魔の遺跡』に眠るボスが島に呪いをかけているからだ。
呪いは魔法を使えば自動的に発動する。魔法を封じ、魔力を吸い続ける。
その呪いの名を『魔封の呪い』という。

「……撤退しよう、無理に戦う必要なんてない!」

剣を情けなく握りしめたまま叫ぶと同時、足の一本がレインに襲い掛かった。
巨木のように太く、鞭のようにしなる一撃。当たれば即死は免れないだろう。
慌てて横っ飛びで回避して後方の元来た道へ逃げはじめる。

だが、そうは問屋が卸さなかった。バックアタックだ。
元の道の入り口から、ゆっくりと魔物が姿を現す。
それは海賊帽を被った四体ほどの骸骨だ。

「す、スケルトンパイレーツ……!どこに潜んでたんだ!?」

骸骨たちは、メリッサ島の財宝伝説を知り不法侵入した海賊のなれの果て。
手には船乗りが好んで使う剣、カットラスを持ち、静かにこちらへ近寄ってくる。
おそらくは島に充満する瘴気が死後の彼らを魔物へと変貌させたのだろう。

「くっ、応戦するしかないか……!」

骸骨海賊の二体と剣で鍔迫り合いながら、レインは後方へ注意を払う。
エビルオクトパスは緩慢で攻撃が遅い。今の内に骸骨を倒せれば……。

骸骨はいわゆるアンデッドのため、通常の手段で倒してもすぐに復活してしまう。
が、いったん倒せば復活には時間を要する。その隙に逃げるなり、蛸を倒すなりしたい。
というのがレインの考えである。

しかしこのスケルトン、生前の海賊が実力者だったのかやけに剣技に長けている。
二対一とはいえ素早い剣速に防戦を強いられ、容易に倒せない。

すると残り二体はクロムに狙いを定め、骨を軋ませながら剣を振るう。
息の合ったコンビネーションで、左右から同時に攻撃を仕掛けてくる!


【メリッサ島に到着。探索するも海底へ続くルートに辿り着く】
【その後、魔物と遭遇。エビルオクトパスとスケルトンパイレーツに襲われる】
0136レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/10/24(土) 19:17:15.05ID:she84qJ2
【×そう言って、レインとクロムの頭を肩をばしっと叩いた。 】
【〇そう言って、レインとクロムの肩をばしっと叩いた。 】
【失礼しました】
0137クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/27(火) 22:21:29.79ID:8/53LavY
エイリークが指揮するギルド船『アドベンチャー号』に乗って、マリンベルトからメリッサ島へ──。
それは、嵐にも、魔物にも見舞われることのない、拍子抜けするほどの平穏な航海であった。

だからだろう。
島の入口たる巨大洞窟内に停泊した船から降りていく冒険者達の顔に、一様にリラックスの色が浮かんでいるのは。
確かにトラブル続きの前途多難な航海より、遥かに幸先は良い。特に命懸けの仕事をする者ほど験担ぎは常である。
平穏無事に終わったという事実をポジティブに解釈することに、何の不思議があろうか。

(この島……何かが変だ)

だが、洞窟に降り立った冒険者の中で、クロムだけは終始神妙な顔つきを崩さなかった。
平穏無事な航海は吉兆ではなく、むしろ嵐の前の静けさを意味する凶兆だったのではないか──
そう思えてならないような漠然とした“違和感”を、島に着いてより覚えていたからである。

>「……最初は勘で行くしかないか。
> 島の入り口を基点に虱潰しに探していこう」

……だからといって、立ち止まるわけにはいかない。
クロムは黙って小さく頷いて見せると、レインの後ろを静かについていった。

────。

歩いて数十分。
たどり着いた場所は、上と左右をごつごつした岩に囲まれ、下が白い砂と水に満たされた空間であった。
岩に囲まれているから開放的でこそないものの、空間としてはそこそこ広い。
地底湖か? いや違う。潮の香りがして水面が波打っているということは、海と繋がっている証拠だ。

このまま前進すると、いずれ島の外に出てしまう事になる。つまりルートとしては──。

「ハズレってわけか。まぁ、案外お宝ってのはこういうところに眠ってるもんだが」

とはいえ、財宝は目的ではないので一旦引き返す事になるだろう。
レインが羊皮紙に道筋を書き込むのを横目に、クロムは踵を返しかける。

>「何か来るぞ……!」

その時だった。ざぱぁっ、と水面を弾いて、大きな何かが飛び出してきたのは。
振り返ってみて見れば、そこに居たのは『エビルオクトパス』と呼ばれるタコの化物であった。
咄嗟にクロムは剣の柄に手を掛けかけるが、先んじて戦闘の意志を見せたレインを見て、直ぐに手を下ろした。
数は一体。多種多様な武器を召喚できるレインであれば一人でも片付けることができるだろうと判断したのだ。
が──。

「────!?」

レインが発動した召喚魔法が瞬時に霧散する光景は、その甘い認識を見事に打ち砕くものだった。
出航してからここに来るまで戦闘は一切発生していない。
魔力を消費していないのだから、魔力不足で発動には至らなかった等ありえない。
では、エビルオクトパスが何らかの能力を使ったのか?
オクトパスの触手に生命力を奪う器官が備わっていることは冒険者の間で有名だが、それ以外の力となると……。

(他にも敵がいる? だが、魔法を封じる力はかなり高位の──)

>「……撤退しよう、無理に戦う必要なんてない!」

思考の途中でレインが来た道を慌てて戻り始める。
クロムは舌打ちして咄嗟に彼の肩に向けて手を伸ばすが、届かない。

「おい馬鹿! これから先も逃げ続けるつもりかよ! 遅かれ早かれ戦わなきゃ攻略は不可能なんだ! 待──」

そして、「待て──」と言い掛けて、気が付くのだった。
0138クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/27(火) 22:31:09.28ID:8/53LavY
(──まてよ──。魔法を封じる──だと?)

“魔法を封じる”モノは何も、レベルの高い技だけとは限らない。それこそが、先程の“違和感”の正体なのだと。

(『呪われた島』とは、この島そのものに“呪い”が掛けられてるという意味か! 魔法を、あるいは魔力を封じる呪いが)

>「す、スケルトンパイレーツ……!どこに潜んでたんだ!?」

気が付けばレインが更に動揺した声を上げていた。
見れば古めかしい舶刀を持った四体の骸骨が退路を塞ぐようにひしめいている。
常人なら亡霊が出たと思わず卒倒するか堪らず神に祈りを捧げたくなるような場面だろうが、戦士は戦うのみである。

「財宝を狙った海賊の成れの果てか。……ひょっとしたら財宝伝説そのものが人間を誘き寄せる罠かもな」

視界の左ではレインと二体の骸骨が剣を交え、視界の右には水面から触手を出して隙を伺う巨大タコ。
前方、そして真後ろにはもう二体の骸骨……。完全に囲まれている。
レインも相手の剣技に防戦一方の様子で、徐々にじりじりと押され始めている。
黙って見ていればやがて二体を引き連れた形となって、クロムの至近にまで迫ってくるだろう。
敵はアンデッド。剣で仲間を斬り付けようが、仲間の剣で傷付こうがおかまいなし。二対四の乱戦は間違いなく敵が有利だ。

だから、クロムは待つ。
その場に留まったまま、前後から繰り出される舶刀を剣と鞘の両方で捌いては、隙を見てど突く《カウンター》を繰り返す。
“その時”が来るまで──。

「──!」

かくしてそれは数十秒後にやって来た。
至近にまで迫ったレインの背中を視界の左端で認めた時、視界の右端でタコが水面から顔を出し、触手を振るったのだ。
待っていたその一瞬をクロムが見逃す筈がなかった。
かつてない強いカウンターを前後の骸骨に見舞って大きく仰け反らせると、すかさずレインの襟をつかんでジャンプ。
天井ぎりぎりの空中へと逃れるのだった。

直後、下に残された骸骨達を待っていたのは、鞭のようにしなった丸太のような触手に薙ぎ払われるという運命であった。
──所詮は骨組み。強烈な力で瞬時に壁に叩きつけられれば、後は押し潰されてバラバラに粉砕されるのみ。
不死身の生ける屍とはいえ、これではしばらくの間復活はできないだろう。

「よっ──と!」

四体の骸骨を戦闘不能に追い込むことに成功したが、クロムの作戦はこれで終わりというわけではなかった。
レインを離し、下半身を曲げて空中で体の上下を入れ替えると、そのまま天井を蹴って加速。
矢のような速さを以って肉体をタコの眼前へ運ぶと、その勢いのまま一気に剣を脳天に突き刺すのだった。

「──ぉぉおおおおおおおおおおおらあああああああああああっ!!」

剣を思いきりねじ込み、更に刃を重力の方向へ力任せに斬り下ろす。
如何に切れ味鋭い呪われた剣とはいえ、その殺傷力はかつての半分ほどまでにダウンしている。
その上、敵は巨大で魔物という事もあって、やたら肉厚だ。
斬り応えがあり過ぎて、流石のクロムも蟀谷に血管を浮かび上がらせ、普段は出さないような力んだ大声を上げる。

しかしその甲斐あってか、やがて刃は分厚い肉の抵抗に打ち勝ち、見事にタコの顔面を真っ二つに切り開いて見せた。
途端に墨が混じったタコの体液が流れ出し、海面を黒く染めていく。

敵の死を見届けてから大きく息を吐き、タコの死体から離れて砂浜に着地するクロム。
敵を倒したというのに、どこか浮かない表情をしているのは、レインにとって気になるところかもしれない。
……ともあれ、障害は排除されたのだ。後は骸骨達が復活する前にこの場を離れるだけである。

「この島、思ってた以上に癖が強い。だが……俺達の腕を上げるいい機会かもしれねぇ。逃げるのは、もう無しだ」
0139クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/10/27(火) 22:39:01.42ID:8/53LavY
────。

行きは魔物には出くわさなかった分かれ目なき一本道。なのに、道を戻ろうとしたら骸骨達が現れた。
奴らはこちらに気づかないよう遠くから後をつけて来たのか、もしくは臭いを辿って来たのだろうか?
それともタコの居たあの広い空間の岩陰辺りにたまたま潜んでいたのだろうか?
……どれもありえる。つまり現時点でその答えは不明としか言いようがない。

「……出やがったぜ、キモイのがよ。それも──二体」

だが、戻る道の途中で“前”と“後ろ”からの挟み撃ちにあうという現実が、クロムにもう一つの可能性を考慮させた。
すなわち、海底に至るこのルートのどこかに、隠し通路のようなものがあるのではないかと。
特に行き止まりであった“後ろ”から新たな魔物が追って来たという事実は、それ以外に解釈のしようがない。

クロムは前と後ろを怠りなく目配りする。
前の魔物は全身から粘液を滴らせるグロテスクな顔と殻を持つ巨大なカタツムリ。
しかも滴らせているのはただの粘液ではなく、明らかに酸だ。
滴る粘液に触れた物質が片っ端から爛れて溶けているのだから。

「レイン、今度は逃げずにリーダーらしいとこ見せてくれよ? といっても逃げられねぇがな、挟み撃ちじゃ」

一方の後ろの魔物は毒々しい模様を持ち、緑色の粘液で体表を湿らせた巨大なナメクジ。
如何にも毒属性と言わんばかりの不快なデザインだ。

(薬草と毒消し草は用意してあるから回復面は多少何とかなるが……。
 やはり問題は“縛り”のある攻撃面……だな。……さて、どっちをどのように攻撃するか)

【敵を倒し来た道を戻るが、その途中で新たな魔物二体に挟み撃ちにされる】
0140マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/10/31(土) 16:47:48.28ID:uP/K4lxx
潮だまりの行き止まりの通路から戻ろうとしているレインとクロムの前に立ちはだかる巨大なカタツムリ
踵を変えそうにもその先は行き止まりであるし、それ以前に毒々しい巨大なナメクジが粘液を滴らせて立ちはだかっている
挟み撃ち状態になり身構える二人の足元が爆発する

爆発、というのは正しくない

正確には巨大な水球が着弾し、破裂したのだ
それと同時に巨大な何かがナメクジ側から二人の間に飛び込んできて、二人の腕を抑える

「ここは上陸禁止の島!あなた方は何者です……かっ、て……レインさん?クロムさん?」

飛び込んできたのはギルドの酒場で実家に帰省すると別れたマグリットであった


驚きと共に一旦離れ、改めて二人の顔を見直す
そして一応危険がない旨を告げ、事情を説明するのであった

マグリットの故郷はマリンベルト近海の底に広がっており、メリッサ島にも接続されている
レインとクロムがエビルオクトパスと戦った潮だまりは貝の獣人たちの上陸口である、と
そしてエビルオクトパスや今挟み撃ちにしているナメクジやカタツムリは貝の獣人が上陸口の安全確保の為に放ったものだったのだ

「タコ、イカ、ウミウシやカタツムリやナメクジは貝の遠戚なんですよ」

と笑いながら説明を付け加えるのであった
スケルトンパイレーツのようなアンデッドは砕いても時間を置けば蘇るのでカタツムリやナメクジが溶かして啜り消す役割を持っているのだ

「人にとってはこの島は呪われた島ですが、私たちにとっては地元のちょっとしたスポットでして、遺跡を利用して儀式を行っているのです
精霊の森での戦いで私も強くあらねばと思い知りましたので、ここで儀式の産物を取りに来たという訳なのですよ」

自分の事情を明かした上で、不思議そうにレインを見る

「それにしても、お二人がこの島に来るのは予想外でした
特にレインさん、この島がどういう場所か知っているのです?」

この島では魔法が封じられ魔力が吸収される
種族による特殊能力で戦うマグリットにはさほど影響はないのだが、召喚魔法を主体で戦うレインにとっては死地に等しいのだから

「それにしても、絶対に来られない場所でこうやって再会したのも神の導きというものですね!
教会への口実がまた増えちゃいました
この島にどういう目的で来たかは知りませんが、ご一緒させてもらいますよ
その前に、ちょっと寄らせてもらいますけどね」

言葉を区切ると、マグリットの口から小さく低く短い音が漏れ出る
それは人の可聴域からギリギリ外れるような音だが、その音に反応しカタツムリとナメクジは壁に消えていった
そう、壁に
そしてさらに壁自体が蠢動し開けていく
0141マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/10/31(土) 16:49:35.87ID:uP/K4lxx
レインやクロムにとってはおぞましい光景だったかもしれないが、潮だまりに続く通路の床、壁、天井と思っていたものは全てナメクジとカタツムリの類が擬態したものであった
それらが移動した後には、本来の通路であろう二回りほど大きな回廊となり、隠されていた枝分かれする通路もあらわになったのだった

「この島に眠るボスの呪いで魔法は無効化され魔力は吸収されます
その吸収される魔力の流れを少し利用して私たちが儀式に利用しているのですよ〜
こちらの通路が島の中枢に向かう道になっていますので、ついてきてくださいな」

足取りも軽く通路を行くマグリット
人にとっては海魔の住む呪われた島でも地元民であるマグリットにとってはちょっと危険な裏山程度な認識なのだ
行く先は島の中枢付近
魔力の流れ道に設置された魔法陣のある広間

魔法陣にはいくつも巨大なシャコ貝が設置されており、静かに息づいていた
これこそがマグリットの目的物

貝の獣人は小さな貝を握って生まれてくるのだ
本来は本人と共に成長していくものだが、この島の魔力の流れを知り、蜃の獣人の即ちマグリットの貝の為に魔法陣敷き設置
魔法陣は魔力の流れを操作し、その一部を吸収し設置されたシャコ貝に流し込んでその成長を促しているのだ

巨大なシャコガイは長さ1メートル程の棒を咥え込んでおり、マグリットがそれを持ち上げると巨大なハンマーの様相を呈す

「私が生まれてから22年、この場で魔力を吸収し続け静かに成長していたものだそうです
本来ならばこんなに大きくならないのですが、この島の魔力を吸収していたおかげですね
初めて握りますが、手にしっくり馴染みます!」

そういいながら軽くシャコガイメイスを振るうのであった

【レインとクロムの二人に合流】
【貝の獣人の隠し通路で中枢付近の儀式の魔法陣まで案内】
0142レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:05:25.93ID:48LGU1HC
カットラス。剣としては刀身が短く、全長はおよそ60〜80センチ。
武器としてはもちろん、雑用や工作用具としても使われている。

スケルトンパイレーツはサーベルを扱うのと同じ要領でカットラスを構える。
片手を後ろに、片足を前に出す。刀身が短いので出が速く一撃が素早い。
対魔物戦で鍛えた冒険者の大味な剣技とは対照的に、リズミカルに攻めてくる。

レインが相手にした骸骨海賊の二体は、一体が剣を持つ手を、もう一体が急所を狙う。
片方に気を取られたが最期、態勢を立て直す暇もなく致命の一撃が飛んでくる。

(生前は結構な手練れだったんだろう。戦い慣れている……!)

金属音が鳴り響く。剣と剣が幾度なく交差する。
一体のカットラスをはがねの剣で受け止めてすぐさま剣を返す。
そしてもう一体のカットラスを刃で防御。もし剣で受けきれなかったら。
そんな時は迷わず後退して間合いを維持。これの繰り返し。

反撃の隙はある。だが、多少の切り傷では意味がない。
相手はアンデッド……やるなら復活に時間のかかる攻撃がいい。

(ベストは質量攻撃。けど召喚魔法は使えない。
 ハンマーやモーニングスターが呼び出せれば……!)

最適解が分かりながら実行に移せないのがなんとも歯がゆい。
水面の方に一瞥くれるとエビルオクトパスがそろそろ攻撃してきそうな雰囲気だ。
その隙を突かれたのか、カットラスの刃が間合いの内に入りかけた。
ルーチンで後退した瞬間、誰かに襟を掴まれる。

「うお……っ!?」

襟を掴んだのはクロムだ。
気づいたら天井付近に跳躍していた。

直後、エビルオクトパスの巨木の如き足が骸骨たちを薙ぎ払った。
スケルトンパイレーツの骨格が粉々に砕かれ、周囲に散乱する。
偶然では済まされない。狙いすましたかのようなタイミングだ……。
どうやらクロムはずっと魔物の同士討ちを狙っていたらしい。
0143レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:06:34.58ID:48LGU1HC
重力に従ってゆるやかに高度を下げていくレインに対して、
クロムは天井を蹴って一気に加速。矢のようにエビルオクトパスに突き立った。

>「──ぉぉおおおおおおおおおおおらあああああああああああっ!!」

裂帛の気合と共に黒剣を突き刺し、重力に従い斬り下ろす。
エビルオクトパスの頭部が真っ二つに裂けて沈黙。

「相変わらず凄い腕前だ。あの巨体を一撃で切り裂くなんて……!」

クロムの下へ駆け寄ると、どこか浮かない顔をしている。
いつも自分のペースを崩さない彼がそんな表情をするのは珍しい。

>「この島、思ってた以上に癖が強い。だが……俺達の腕を上げるいい機会かもしれねぇ。逃げるのは、もう無しだ」

少しの間。レインは自身の手をちらりと見た。
召喚魔法で呼び出せる武器は自分の"強み"そのものである。
武器を召喚するだけならそう難しい技術じゃない。
だがひとつひとつ使いこなせるよう習熟するのは相応の修練が要る。

その強みを失った時、レインは咄嗟に戦闘のメリットと安全性を考慮して退こうとした。
魔力切れ以外で召喚魔法が使えなくなるのは初めての経験だったため、動揺してしまった。
しかし戦士の矜持凄まじいクロムは納得しかねるだろう……。

「すまない、クロム。俺が間違っていたよ」

険しく遠い魔王城を目指すからには強くならなくてはいけない。
どんな罠も、どんな敵も乗り越えて。攻略する必要があるのだ。
この程度の魔物は簡単に倒せるべき……ということなのだろう。
0144レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:08:45.35ID:48LGU1HC
元来た道を戻りながら、自分で描いた地図を眺めていた。
この道は一本道となっている。スケルトンパイレーツはどこに潜んでいたのか。
可能性はいくらでも考えられるが……新たに出現した魔物がひとつの仮説を生み出す。

>「……出やがったぜ、キモイのがよ。それも──二体」

一体は前から。酸を滴らせたかたつむりの魔物。アシッドスネイル。
もう一体は後ろから。緑の粘液を湿らせるなめくじの魔物。ポイズンスラッグ。

前からも後ろからも新たに魔物が出現するのはおかしい。
行きの道でも行き止まりにもこんな魔物はいなかった。

となれば、浮かび上がる仮説はこうだ。
この道のどこかに隠された通路があるのではないか、と。

>「レイン、今度は逃げずにリーダーらしいとこ見せてくれよ? といっても逃げられねぇがな、挟み撃ちじゃ」

「分かってるさ。早く片付けて遺跡への道を見つけよう」

対照的な二人が背中合わせに二体の魔物を見据える。
自身の眼前には触れたものを片端から溶かしてにじり寄ってくる醜悪な魔物。
酸の粘液を分泌するため触るのも危険な上、体表は酷く滑る。
真っ向から剣で斬ろうとしても滑ってしまうだけだろう。

はがねの剣を抜刀して慎重に攻め入ろうとしたその時。
足下が爆発したかと思うと、水飛沫が舞った。
いや――これは爆発ではない。威嚇で放たれた水弾だ。

>「ここは上陸禁止の島!あなた方は何者です……かっ、て……レインさん?クロムさん?」

「マグリット……!?」

両者驚きを隠せない様子で顔を見合わせる。
実家へ帰ると言った彼女がなぜここにいるのか……。
理由を問わねばなるまい。マグリットは事情を話してくれた。
0145レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:10:39.79ID:48LGU1HC
マリンベルト近海の底にマグリットの故郷があること。
タコやかたつむり、なめくじの魔物は貝の獣人が放ったものだということ。
そして、貝の獣人はこの遺跡を利用して儀式を行っているということ。

>「それにしても、お二人がこの島に来るのは予想外でした
>特にレインさん、この島がどういう場所か知っているのです?」

「ここは初めて潜るダンジョンなんだ……。
 事前に情報も集まらなかったしで、大変な目に遭ったよ」

>「それにしても、絶対に来られない場所でこうやって再会したのも神の導きというものですね!
>教会への口実がまた増えちゃいました
>この島にどういう目的で来たかは知りませんが、ご一緒させてもらいますよ
>その前に、ちょっと寄らせてもらいますけどね」

マグリットが低い音を鳴らすと、立ち塞がっていた二体の魔物は壁に消えた。
続いて壁が何やら粘り気のある音を響かせながら蠢動するではないか。

壁を触ったことが無くて良かったと思う。
壁だと思っていたのは全てかたつむりとなめくじだったのだ!
やがて隠されていた大きな回廊が露になる。

>「この島に眠るボスの呪いで魔法は無効化され魔力は吸収されます
>その吸収される魔力の流れを少し利用して私たちが儀式に利用しているのですよ〜
>こちらの通路が島の中枢に向かう道になっていますので、ついてきてくださいな」

「呪いか……。呪われた武器や防具は聞いたことがあるけど、
 文字通り島ごと呪われているなんて……サマリアもまだまだ奥が深いなあ」

マグリットについていけば、魔法陣のある広間が待ち受けていた。
陣に置かれた棒を咥えているシャコ貝を持ち上げて、ぶん、とそれを振るう。

>「私が生まれてから22年、この場で魔力を吸収し続け静かに成長していたものだそうです
>本来ならばこんなに大きくならないのですが、この島の魔力を吸収していたおかげですね
>初めて握りますが、手にしっくり馴染みます!」

「聖典の角は強力だろうけど、それも良い武器だね」

随分風変わりだが、貝の獣人に伝わる武器なのだろう。
その威力や効果のほどは推して知るべしである。
0146レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:13:57.15ID:48LGU1HC
マグリットの目的物が手に入ったところで、レインは気を取り直した。
彼女のパワーアップは嬉しい話だが、肝心の依頼は何も解決していない。

「マグリット。俺たちはギルドの依頼でここへ来たんだよ。
 海の魔物の退治なんだけど……発生源はこの島の遺跡らしいんだ」

召喚魔法が呪いによって使えなくなったのは大きな痛手だが、
この島に詳しそうなマグリットが同行してくれるのは幸運だ。
新たな武器も手に入れて百人力というものである。

「俺達は魔物が発生する原因を断つため、島に上陸したんだ。
 ただ海の魔物を倒すだけじゃあいたちごっこだからね」

遺跡に眠るボスがどんな魔物/魔族なのか、レインも詳しくは知らない。
だが経験上、魔物の活動が活性化する原因にはパターンがある。
もっともメジャーなのは、魔物のボスが目覚めて活性化してしまうケースだ。
今回はこのケースではないのかと、レインは疑っている。

そして懸念がひとつ、とつけ加える。
他の冒険者が大勢、島の財宝伝説に釣られて集まったことも気がかりだ。
クロムが立てた予想通り、人を誘き寄せる罠なのかもしれない。
問題は人を集めて何がしたいかということだが……。

「細かい話は調べてみないと分からないけれど、
 マグリットが同行してくれるなら心強いよ」

教会から冒険を禁じられているにも関わらず、
同行を申し出てくれたのは実家に近いからであろう。
待機命令に対して結構スレスレな気もするが……。
レインは直接教会と繋がってないので深く詮索するのはやめた。

「……よし、それじゃあ『海魔の遺跡』へ行こう!」

地面に走っている魔力の流れ道がぼんやりと光っている。
呪いで吸った魔力を本体に送り届ける流れ道……。
つまり、この流れ道に沿っていけば遺跡に辿り着くだろう。
数々の懸念を孕みながら、いよいよ遺跡に続く道へ歩みを進める。
0147レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:15:30.87ID:48LGU1HC
島の中枢付近から魔力の流れ道を辿ってついたのが巨大な青銅色の扉のある入り口だ。
『紅蓮魔宮』の時を彷彿とさせるが、以前とは異なりどこか不気味な雰囲気が漂う。

「これが『海魔の遺跡』の入り口か……!」

扉の隙間から微かに瘴気が漏れている。
現在マグリットと合流したぶん他の冒険者より出遅れている。
悩むことなくレインは扉を開け、遺跡の中を進んでいく。

中は扉と同じ青銅色の空間が続く遺跡になっていた。
前後、上下、左右に道が続いている。どこを進んでも同じ空間が広がっている。
部屋は膝下まで浸水しており、壁を見ると海藻がびっしりと生えていた。

また、壁面の一角に魔法陣がふたつ描かれているのに気づいた。
三角形の魔法陣で、その形状から上と下を表しているように見える。
刻まれた術式を読み上げると、水魔法系統の式が組み込まれているのがわかる。

「遺跡というより迷宮って感じだね……探索のしがいがありそうだ。
 ダンジョンボスが遺跡のどこに眠っているか、マグリットは知ってる?」

雑談で何気なく質問するや、レインは咄嗟に飛び退いた。
下の道から何かが勢いよく飛び出してきたのだ。
遺跡に棲む魔物が侵入者に気づいたのか。

「気をつけて。マーマンだ……!」

銛を携え、魚のようなぬめりと鱗をもった光沢ある肌。
屈強の体格に、手には水かきがあり、足はなく尾ひれがついている。
それが実に三体。水没した下の道から現れた。

マーマンは人間に近い魔物だが、とても凶暴で言語体系も違う。
女性型であるマーメイドとなると悲恋の話や、幻想的なエピソードを耳にするが、
マーマンはとにかくおっかないイメージだ。
0148レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/05(木) 07:21:44.69ID:48LGU1HC
マーマンの一体が手を翳すと、水属性の魔法陣が浮かび水球が生成された。
水魔法の初歩『アクアショット』。六つほど生成した水球をレイン達目掛けて放つ。

「ギシュウウウウ……」

相手が魔法を躱す隙をついて、マーマンは壁面の魔法陣に触れた。
触ったのは三角形が上を向いている方の魔法陣である。
ごごご、と鈍い音がすると、入り口が閉じ、左右の道に青銅色の扉が現れた。
扉は道を完全に封鎖してしまうと、次第に部屋の水位が上がりはじめる。

「しまった、水位を操作してこの部屋を満水にする気か……!
 早く倒さないと大変なことになる……!」

水球を回避しつつ、ようやくマーマンの思惑に気づく。下から急速に水が上昇していく。
レインは魔法陣が仕掛けになっているダンジョンには幾つか心当たりがある。
こういう仕掛けは大抵魔力を送り込めば魔法陣が起動してくれるはずだ。

今は水位を下げたいので、下の魔法陣を使うべきだろう。
ただレインは呪いで魔力を吸われている身。魔力はほとんど残っていない。
魔法陣はマグリットかクロムのどちらかで操作する必要がある。

ところでこの水は海水だ。『海魔の遺跡』の地下は海に繋がっており、
魔法によって水流を操作して海水を吸い上げ遺跡まで運んでいる。
そして、地下はマーマンにとって棲家(ダンジョン)の入り口でもあるのだ。
彼らは棲家に土足で踏み込んだ者達を排除すべく、全力で戦いを仕掛けてくる!

「ギシャアアアアッ!!」

部屋の水位はあっという間に胸の高さまで昇る。
これではろくに身動きもできない。動きを半ば封じたところで、
マーマンは再び水魔法を唱えた。発動したのは渦潮を起こす魔法。
海水は部屋の中で螺旋を描き始め、三人を巻き込まんと回転する――。


【海魔の遺跡に到着。マーマンに襲われる】
【部屋の水位が上昇中。満水になるか魔法陣で操作するまで止まりません】
0149創る名無しに見る名無し垢版2020/11/06(金) 13:33:19.98ID:ClVhkDVn
♪ 日本人チョロすぎる(笑)反日ステマの工作手口 ♪
@日本人の精神を腐敗・堕落させ愚民化させろ!
A日本人の女を集中的に狙い洗脳しろ!
Bネトウヨ、ヘイトスピーチ等の言葉を浸透させ、同胞への批判を封じろ。
C韓国人識者に政治的意見を言わせ、御意見番化させろ!
D「同性婚・LGBTを全面肯定しない者は差別主義者だ!」という雰囲気を作れ!
E中身のないアニメを流行らせ、クールジャパンをオワコン化させろ
F「未だにガラケーの奴は笑い者」という雰囲気を作れ。
G「LINEに入らない奴は仲間外れ」という雰囲気を作れ.
H「日本人の男VS日本人の女」の対立を煽り、分断しろ。
I日本人同士で恋愛・結婚させない、子供を生ませないよう誘導しろ!
J日本同士で結婚していたら離婚させる方向に仕向けろ。
K我々がステマしてやれば無名女優も売れっ子女優に早変わり!
Lイケメンブームを定着化させ、「男は外見が全てだ!」と洗脳しろ.
- ソース -
電通グループ会長 成田豊は朝鮮半島生まれ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E7%94%B0%E8%B1%8A
0151クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/09(月) 22:43:37.29ID:PefyjIJL
レインが前のカタムツリを、クロムが後ろのナメクジを──。
背中合わせとなった二人が互いに標的を見定め、いよいよ攻めかからんとした丁度その時であった。

>「ここは上陸禁止の島!あなた方は何者です……かっ、て……レインさん?クロムさん?」

聞き覚えのある声と共に、何者かが二人の間に飛び込んできたのは。

「お前……!」

闖入者の顔を見て、クロムも、レインも思わず目を丸くした。いや、それは闖入者その人も同様であった。
無理もない。レインとクロムとマグリット……三人がこの呪われた孤島で再会するなど、誰が予想できたであろうか。

──やがてマグリットはクロム達の湧いて出る疑問を見透かしたように、先手先手を打って事情を説明していった。
彼女の故郷である貝の獣人の住処がマリンベルト近海の底に在るということ。
島は貝の獣人達の儀式の場として利用されており、タコと戦ったあの空間が島への上陸口になっているということ。
その為の安全確保に、飼い慣らした貝の魔物達を放っているということ──つまりカタツムリ達に危険はないということ。
そしてマグリット自身は今、儀式の産物を取りに行く途中であるということを。

(……とっつぁんの言ったことが当たったか)

葉巻を吹かすニヤケ面のエイリークの顔を思い浮かべて、クロムは思わずうんざりしたような顔で溜息一つ漏らした。
だが、そんな顔をしていたのも一瞬であった。
次の瞬間には、カタムツリとナメクジが壁に溶け込むように消えて、更にその壁自体が開いていったからである。

「げっ!」

いや、開いたというのは正しくないだろう。
何故なら壁と思っていたものは、小型の貝類が無数に折り重なってそれと見せかけていたものに過ぎなかったのだ。
つまり壁が何らかの仕掛けで動いたのではなく、無数の貝類がわさわさと蠢いて壁の形を解いた──それが正しい。
その寒気を覚えるような光景には、流石のクロムも口元を抑えて表情を苦々しく歪める。

>「この島に眠るボスの呪いで魔法は無効化され魔力は吸収されます
>その吸収される魔力の流れを少し利用して私たちが儀式に利用しているのですよ〜
>こちらの通路が島の中枢に向かう道になっていますので、ついてきてくださいな」

しかし、お陰で隠し通路の存在と呪いを確信することができた。
更にマグリットの一族が呪いを利用しているという事実も新たに判明した事で、クロムはふと真顔になって思うのだった。

貝を使役して枝分かれした道を一本道に見せかけていたのは、儀式の場を部外者から守る為だろうか?
儀式の場所は奇しくもこの島の攻略に重要と思われる中枢部に近いらしい。
ならば今頃、島の中枢を目指してる他の冒険者は獣人達の罠に悉くかかり、果てしなく迷っているかもしれない。
もしマグリットを伴う自分達だけが例外なら、ひょっとして攻略の可能性を持つのも自分達だけなのではないか──と。

「……」

無論、所詮は憶測である。
勝手知ったる何とやらとばかりに、躊躇ない足取りで先頭を行くマグリットの後姿はクロムにイエスとは言ってくれないのだ。
むしろその軽やかなステップが『考え過ぎ(笑)』と小馬鹿にしているように見えて、痒くもないのに思わず頭を掻いてしまう。

そんなマグリットの足が止まったのは、彼女の後を追って十分ほど歩いた頃だった。
ふと前方の暗がりに目を凝らしてみると、魔法陣がありその上に長い棒を銜えたいくつもの巨大な貝が置かれていた。
その特徴的な二枚貝はシャコ貝と呼ばれるものだろうか。

魔法陣と貝──。
何とも不思議な組み合わせだが、それ故にクロムは直感する。どうやらここが儀式の場らしい、と。
0152クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/09(月) 22:46:22.56ID:PefyjIJL
>「私が生まれてから22年、この場で魔力を吸収し続け静かに成長していたものだそうです
>本来ならばこんなに大きくならないのですが、この島の魔力を吸収していたおかげですね
>初めて握りますが、手にしっくり馴染みます!」

棒の一つを握り、ぶるんと振るうマグリット。
まるで箒でも振り回したかのように涼しい顔をしているが、巨大なシャコ貝の重量は数百キロはある筈なのだ。
つまり巨大なハンマーと同じである。人間では女はおろか、男であっても使い手が限定される超重量武器。

人外ならではの光景と言えばそれまでだが、特に貝の獣人には性別は関係ないという事なのだろうか。
それとも本来関係はあるのだが、マグリットだけは特別という事なのだろうか。
……考えてみれば龍になるとぶち上げた獣人なのだ。後者……と見ていいのかもしれない。

「鬼に金棒。美女と野獣ならぬ……美女の野獣、ってか? いやいや、良く似合ってるよ。全く心強いぜ」

そう言ってマグリットから目を切り、代わって依頼の件を詳しく彼女に伝えるレインに目を向けるクロム。
その際、彼は小さく、誰にも聞こえないような声で付け加えるのだった。「……仲間の内はな」と。

途方もない力を目指す存在。それに対する不安、善悪抜きに力を求める者に共通する危うさ──……。
あるいはクロムは彼女に自分自身を見ていたのかもしれなかった。

────。

『海魔の遺跡』を目指して魔力の流れを辿っていく三人。
そうしてやがて辿り着いたのが膝下まで水に浸かった青銅色の空間であった。
見上げればそこに上に続く道があり、見下ろせば地下に続く水没した道がある。前も後ろも左も右も、同じく道だ。

「宝の臭いがしそうな分かれ道だな。そしてさっきの潮だまりの時もそうだが、そういうところは大体──」

レインが叫んだのは、クロムが魔物の存在に触れようとした、正にその時であった。

>「気をつけて。マーマンだ……!」

「……期待を裏切らねぇな、本当によ。給料分の仕事はきっちりこなすってか!」

視線を向けるとそこに居たのはレインが言った通りの男性型人魚。それも三匹である。
翳した手の周囲に魔法陣が浮かび上がると、それを合図に放たれたのは“水球”。どうやら水魔法が使えるらしい。
呪いを無視して発動できるのは魔族の特性か、それともこの島のボスの手先だから除外されているということなのか。
いずれにしても水魔法の初歩であれば大げさに身構えることはない。特に──“今”のクロムならば。

一つ、二つ……そして三つ。放たれた水球がクロムの身体に次々と着弾し、音を立てて弾ける。
しかし、クロムは動じなかった。決してダメージがゼロというわけではない。
ただ彼にとって、そのダメージは気にするほどのものでもない程度に過ぎないのだ。

(初歩の魔法なら子供に殴られた、ってところで済む。……それより)

クロムの視線が腰が浸かるくらいまで上昇した海水に注がれる。
彼は水球が繰り出され、それが着弾するまでの間、この空間のからくりを操作していた敵の動きを見逃してはいなかった。
そう。壁の一角に描かれた正三角の魔法陣と逆三角の魔法陣。
先程、敵の一体が正三角に触れた途端、空間の扉が閉ざされて水位が急上昇を始めたことを。

>「ギシャアアアアッ!!」

あれよあれよという間に胸元まで達した海水が、次第に渦を巻いていく。
なるほど機動力を奪うだけじゃ飽き足らず、本格的に殺意を剥き出しにしてきたらしい。
とはいえ目的は溺死──ではなさそうである。
渦潮で完全に体の自由を奪い、銛で滅多刺しにしてやる──銛を構えるその仕草が、如何にもそう言いたげなのだから。
0153クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/09(月) 22:51:45.27ID:PefyjIJL
敵は水中戦の達人である人魚。
対してこちらは魔力の使えない勇者に、人外だが人魚ではない剣士、貝の獣人。
この三者の中で水中戦で最も良い仕事をしそうなのが貝の獣人・マグリットであろう。

つまり敵と直接矛を交える役割をマグリットが負い、その間に魔法陣のからくりを操作しに向かう役割をクロムが負う。
これが妥当なプランと言えるかもしれない。
しかし、実際にクロムがマグリットに言った言葉は、それとは全く逆のものだった。

「マグリット。“今”の俺は、魔法陣《あそこ》に行っても何もできない。……行くならお前が行け」

魔族は“呪い”の影響を受けない。
厳密に言えば魔に近似した負属性由来の呪いであれば、魔族は無条件で回避できる。これは知る人ぞ知る事実である。
故にもしマグリットがクロムの正体を魔族と見破っていたならば、彼の言葉に嘘があると判断したに違いない。
“島の呪い”は島の魔物が由来のモノだし、魔力が空になるほどの戦闘もここに至るまでに発生していないのだから。

だが実際のところ「魔法陣《あそこ》に行っても何もできない」という言葉に、嘘は一切含まれていないのである。
何故なら彼の魔力は“今”、文字通りのゼロの状態だからである。
では何故そうなったのか? その疑問に対する答えは彼が着ている白い装束にある。

かつてクロムにその装束を譲った者は、それを『反魔の装束』と呼んでいた。
何故、“反魔”なのか? それは二つの特性に由来する。
すなわち“あらゆる魔法効果を大幅に減少させる”という魔法に対する強い耐性と──
“着用者が魔族であった場合にのみ限り、魔力がゼロになる”という魔族に対してのみ発動する呪い──。

魔法と魔族、二つの魔に対して強い反発力を持つ──故に反魔。
魔法が使えない純粋な戦士に似せて肉体を調整されているクロムは、魔法に対する防御手段が常に限定されている。
そんな彼にとって『反魔の装束』は自らの短所を強力に補いながら同時に自らの長所を殺している諸刃の剣である。
『魔装機神』も『悪鬼の剣』の真の力も、魔力を消費して発動する奥義なのだから。

それでもその諸刃の剣を使う決断をしたのは、魔力対策と自らの力の底上げをサティエンドラとの戦いで痛感したから──
というのもある。確かに。が、それだけが理由の全てではない。
既にクロムは、奥義に変わる新たな力の心当たりがあった。だからこそ思い切ったのだ。

(と、言ったものの……水中は奴らの独壇場。三対一は望むところじゃねぇ。とにかく、何とか一匹ずつだ……)

──とはいえ、思い切った変化も命そのものがここであっさり散っては結実も夢幻の如くであり、何の意味もなくなる。
渦に流され、中心にいる人魚に引き寄せられつつある自らの肉体を止めんと、クロムは抜いた剣を壁に突き刺す。

深く刺さった剣が、それを持つ者の体の流動を阻み、固定する。
だが、これだけではまだ何も解決していない。流れに抗う事はできても、身動きが取り難いのでは不利は変わらない。

「ギシィィィイイ!!」

人魚の一匹が渦の流れに乗って猛然と突っ込んで来る。
得物を自ら封じてまで渦に抗んとするクロムを、却って銛の餌食にする絶好の機会と考えたに違いない。
突き出された銛が水飛沫を上げて水面を走る。
黙って見ていれば数秒後には確実にクロムの胸を抉り、貫通するだろう。

無論、クロムはただその時を待つような諦めの良い男などではない。
柄を握る利き手の右腕に力を込め、敵が攻撃軌道を修正できない距離まで引き付けて剣を引き抜くと──
──同時に腰に回していた左手を迫り来る銛先に向けて繰り出す。
瞬間、その左手が逆手に持っていた鞘が銛先と接触──その軌道を無理矢理ズラすのだった。

「──……!」

行き先が左にズレた銛はクロムの右肩を掠めるだけに終わる。つまり敵の初撃は不発。
──この時、クロムは敵の攻撃は初撃《それ》が最後になることを既に確信していた。
0154クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/09(月) 22:57:35.30ID:PefyjIJL
何故なら引き抜かれた剣は右手が逆手に持つ形となっている。
ほんの少し手首の角度を変えて肘を曲げれば、その鋒を丁度敵の首に突きつけられるのだ。

「ちょっと泳ぎが上手いからって調子に乗って真正面から突っ込んでくると──“こうなる”」

「ギッ────」

容赦なく繰り出された刃が敵の急所を難なく突き破り、その奥の命を容赦なく抉った。
体液が水中に流れ出し、渦の急流に翻弄されて散っていく……。

「うわっぷ! ──流れがどんどんキツくなってきやがる」

刃を引き抜き、ぐったりした敵の体を手で退けて、クロムは再び近くの壁に剣を突き入れて体を固定する。
周りを見ると残る二匹の人魚の姿は見えなくなっていた。どうやら水中を移動しているらしい。
こうなると厄介である。薄暗い遺跡のそれも水の中で機会を伺われては、目や耳で探ることもできない。

やはり鍵は水位を調整する魔法陣にあるのだろう

【海魔の遺跡で人魚と戦闘開始。何とか一匹撃破する】
【『反魔の装束』→あらゆる魔法効果を大幅に減少させる力を持つ】
【ランクが下の魔法ほどその減少幅が大きく、下位でほぼ無効化、中位で三分の一、上位で半減する】
【なお“あらゆる”なので回復や身体強化などの便利な魔法の効果も減少させてしまう】
【また着用者が魔族に限り“魔力がゼロになる”という通常とは逆の呪いを持っている】
0155マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/11/15(日) 21:42:13.37ID:+a9lDejD
マグリットは失意の元にPTを離れ故郷であるマリンベルト近海の故郷へと帰ってきた
実際に九似の一角を吸収し感じた己の力量不足
それを補う新たな力を手に入れる為に

目的地は呪われた島として上陸を禁止されているメリッサ島
貝の獣人たちが秘かにその島の呪いを利用して儀式魔法陣を設置してある場所であり、本来ならば危険こそあれどこうして仲間と再会することなどありえない
特にレインは召喚魔法依存の戦闘スタイルが故に、魔法が無効化され魔力が吸われるこの島に来ることはあり得ない

にも拘らずこうして再会できた事に上機嫌になり、目的物であるシャコガイメイスを振り回す手も軽やかになろうというもの

「いやですよ―クロムさん、そんなに褒めても何も出ませんよ?」

と言いながらクロムの背中を叩くが、嬉しさのあまり少々力加減ができず、洞窟内に大きな音を響かせることになったのだった


改めて同行の運びとなり、今回の探索の目的を聞くと、海の魔物退治
ではあるが、根本原因がこの島にあるとみての探索との事
そしてこの島についての情報提供を求められるのだが、申し訳なさそうに眉を下げてしまう

「申し訳ありません、私も私たち貝の獣人も、この島を詳しく知っているわけではないのですよ
呪の力が働いており、魔力が主に吸われているであろうという事
その魔力の通り道に儀式魔法陣を設置して流用させてもらっているだけで、島の構造や主についてはわかっていません
ただ、わかっているのは様々な魔物が徘徊しており、私たちにとっても危険な場所
だからこそ眷属を放って上陸口や魔法陣までの安全を確保しているので、他の場所までは……」

そう、貝の獣人たちが把握し確保できているのは島のほんの一部でしかない
その実態を把握しきれていないのは、島の呪いだけでなく貝の獣人と同じように他の種族や魔物が島の各所でテリトリーをもってうごめいているからだ
丁度眼前に現れたマーマンの様に

レインの渓谷に目をやるとマーマンの手に魔法陣が浮かび、水球が生成、放たれた
その光景に思わず気を取られ回避が間に合わず、シャコガイメイスに一つ、マグリットの体に一つ着弾
鉄の肌を持つマグリットにとっては文字通り水鉄砲にすぎないが、回避したレインとは対照的に三発命中したクロムに目を向ける

「あわわ、クロムさん大丈夫ですか?」

心配する程でもないかのように平然としているクロムにほっとしながら、今度はレインに向けて首をかしげる

「おかしいです、この島は魔力が吸われ魔法を発動しようとしても即座に無効化されてしまうのに
私たち(貝の獣人)の様に魔法陣で呪の方向を変えているのか、この場所には呪が及んでいないのか、どうなっているのでしょ?」

思った事をそのまま口にしてしまうのだが、それを確かめる術はレインにもないだろう
そしてマーマンもそれにこたえる訳でなく、追撃が始まる

壁面の魔法陣の△マークにマーマンが触れると、部屋の出入り口が塞がれ、変わって開いた穴から大量の海水が流れ込む
マグリットやマーマンなど海棲種ならば問題がいがレインやクロムは大きく動きを制限されるし、そもそも生命維持も難しくなるだろう
更に渦巻きの魔法も発動され、海水は螺旋を描き始める
0156マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/11/15(日) 21:42:58.28ID:+a9lDejD
あっという間に形勢不利な立場に追い込まれたPT
襲い来るマーマンたち
ならばマーマンには及ばずとも同じ海棲種であり、水中戦が一番できるであろう自分がと前に出ようとするマグリットをクロムが呼び止める

>「マグリット。“今”の俺は、魔法陣《あそこ》に行っても何もできない。……行くならお前が行け」

「え……?」

その言葉に思わず不思議そうな声を出し首をかしげるのだが、それも数舜の事
直ぐに満面の笑みで「わかりました!」と返事を続けるのであった

精霊の森にてクロムが人間ではない事はわかっていた
だが、どういった存在なのかは深堀しなかったし、ましてや魔族である事は想像の埒外であり、クロムの嘘に辿り着くことはなかった
言葉の意味に考えを巡らせる事をせず、そのまま言葉に従ったのだ

水流に紛れ襲い来るマーマンの鉾と剣を交えるクロムの横で大きくシャコガイメイスを振りかぶる
レインとクロムにとっては胸元迄の水位ではあるが、巨躯なマグリットにとってはまだ腹当たりであり振りかぶる余裕がある

「それでは行ってきますので、お二人に神の加護があらんことを!」

祈りの言葉と共にそのまま巨大な貝を水面へと叩きつけた
衝撃で追撃に来ていた二匹目のマーマンが押し戻され、三人の動きを封じていた渦が一瞬勢いをなくす

そのままマグリットは水中にしゃがみ床を蹴り水中を壁面へと進む
海棲種とは言え、泳ぎが得意とは言えない貝の獣人
ではあるが、水中での推進力がないわけではない
普段は水弾を放つマグリットの放水管はそのままジェット推進となる
それと共にシャコガイメイスのシャコガイ
これは形を模したものではなくそのまま生きているシャコガイなのだ
一瞬大きく膨らんだかのように貝殻を広げ、シャコガイの貝殻は再び閉じる
開閉の勢いとシャコガイの放水管からの放水により、それを持つマグリットをすさまじい勢いで引っ張っていく

水中をすさまじい勢いで突進したマグリットは、壁面近くのマーマンを巻き込み壁に激突
壁にはヒビと血のシミがつき、シャコガイメイスと壁に挟まれ潰れたマーマンが水中に沈んでいく

「これですね。今止めます」

逆三角の魔法陣に触れ魔力を流し込むと、海水を流し込んでいた扉が閉まり、水位は徐々に下がっていくのであった

【水面を叩きつけて追撃のマーマンを押し戻し、渦の勢いを弱める】
【魔法陣に向かって水中を突進、壁際のマーマンを一体巻き込んで激突到着】
【魔法陣を操作して注水停止、水位が下がり始める】
0157レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:17:43.79ID:AxmbRJUM
マーマンの魔法によって生まれた渦は、レインを確実に絡めとる。
流れに逆らうこともできないまま飲み込まれて、動きの自由を奪われてしまった。

窮地にも関わらずレインの頭はある問題について頭がいっぱいだった。
クロムもマグリットも疑問に感じていた、なぜ島内で魔法が使えるのか、という問題だ。
曰く、メリッサ島は魔法を封じ魔力を吸う呪いがかかっているはずである。

マグリットが言っていたようにこの場所だけ呪いが効かない可能性もある。
しかしレインが思いついた予想はマグリットとは異なるものだ。

(マーマンの装備で呪いを防げるのかもしれないな……)

現れたマーマンは水中で活動するためにほぼ全裸に近い格好である。
しかし、よく見てみると多少は文化的な装いをしていることが分かる……。
――三匹のマーマンはそれぞれ耳飾り、首飾り、腕輪といった装身具を装備している。
そのどれかが人間側の呪いを防ぐ装備『護符』や『聖なる首飾り』と同じ役割を果たしている可能性。

(今のところ確認方法は……倒すしかないか)

死体漁り染みた発想だが、それ以外に方法はない。
既に呪いで魔力を吸われきったレインが装備したところで意味はない。
だが、それでも厄介な呪いだ。対抗策を知っていて損はないはずである。

>「うわっぷ! ──流れがどんどんキツくなってきやがる」

水深が徐々に上がりながら渦を巻き続ける中、クロムがマーマンを一体撃破した。
彼らの独壇場であるはずのフィールドを制するとは、流石PTの切り込み隊長と言わざるを得ない。

>「これですね。今止めます」

そして少しの間を置いて、二体目のマーマンを撃破しながらマグリットが水位を操作。
仕掛けられた魔法陣の力で渦を巻きながらもみるみる水かさが減っていく。
へその辺りまで減った頃合いに、レインは腰の剣を引き抜いた。
動きはまだ制限されるが、これならなんとか戦えるだろう。
0158レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:18:55.82ID:AxmbRJUM
残る一体は覚悟を決めたのか、水位が下がり切る前に勝負に出た。
渦の流れに乗っかってレイン目掛けて突貫してくる。
ただし真正面からではなく、大きく迂回して背後からだ。

「……そこかっ!」

振り返り、銛と剣が交錯。差し違えるように刺さった。
レインの剣は過たずマーマンの身体を貫いている。
一方。マーマンの銛は外套を貫き、脇の下をすり抜けていた。

(……危なかった。完全な水中戦だったらこうはいかなかった……)

マーマンがぐったりと仰向けに倒れる……水位はもう元の膝下辺りまで戻っていた。
自分が倒した個体から剣を引き抜くと、試しに身に着けている首飾りを外してみた。
予想が正しければ装備することで呪いが無効化されるはずである。

「マグリット。マーマンが魔法を使えることを不思議がってたよね。
 もしかしたら、この首飾りなんかが呪い除けになってるのかも……」

何かの鱗で作ったであろう翠色の首飾りとマグリットの顔を見比べてレインは言った。
目を凝らすとうっすら魔力を帯びている……少なくとも特殊な効果はありそうだ。
いざ、破れた外套を一時脱いで旅人の服の上から首飾りを装備。

「……なるほど」

レインが装備した途端、首飾りはボロボロと風化して壊れてしまった。
どうやら人魚以外が装備すると壊れてしまう仕組みらしい。
盗賊や冒険者に盗まれないための防止策なのだろう。

「答え合わせはしばらくお預けだね……今は道を進もう」

こうして一同は遺跡の更に奥深くへと進んでいくのであった。
0159レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:23:34.16ID:AxmbRJUM
遺跡の探索がはじまり、一同は罠や仕組みを解除し、時に魔物を倒しながら道を進んでいく。
滔々と流れる海水の上に作られた青銅色の水道橋を歩きながら、レインは呟いた。

「水道橋の下は水深が深そうだね。水棲魔物もたくさんいそうだ。
 水位を操作する魔法陣もないから今の装備で探索するのは難しいな……」

目を凝らして下を見れば、何かが沈んでいるのが判る――宝箱だ。
いや、それだけではない。金塊をはじめとする金銀財宝が、あちこちに沈んでいる。
どうやらこの島の財宝伝説は遺跡に存在している確かなものらしい。

水道橋には先着の冒険者が何組も来ており、すでに財宝のサルベージがはじまっている。
深海装備であるダイバールックで水棲魔物を倒しながら財宝を直接拾う者や、
あるいは釣り竿で宝箱を引き揚げようとする者など、方法は様々だ。

それだけではない。
ある冒険者の商人は橋の一角に布を広げて商品を並べ、露店を開いている。
水中戦に使えそうな武器や薬草をはじめとしたアイテム類。
マーマンから調達したらしい装身具が所狭しと並んでいる。

「あっ……あの首飾りは!」

装備すると風化する首飾りがなんと2000ゴールドで売られているではないか!
これは阿漕な商売だ、商人はレインと同じ見立てをしているらしく、
『島の呪いが解ける……かも!?』などと吹聴して販売している!

隣には水中装備を貸し出しているレンタル屋の商人。
こちらは良心的かつリーズナブルな価格で道具の数々を貸し出してくれる。
例えば噛むと酸素を生成する空気草を詰めた水中マスク。
または潜水服などを一式800ゴールドでレンタルしている。
0160レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:25:32.66ID:AxmbRJUM
更にその隣では……。
"聖歌の"アリアが路上ライブで小銭を稼いでいるではないか。
なんでも彼女の歌う『ピュリフィアンセム』を聴ききると呪いが解けるとか。

「ららら〜♪呪いを解きたい人は最後までお聴きください。
 呪いの装備を着けてしまった方は聴ききると装備を外せるようになります♪」

だが待ってほしい。こんなことで騙されるレイン・エクセルシアではない。
アリアの路上ライブは島に掛かった呪いを解く訳ではないので、根本的な解決になっていない。
レインが聴ききったところで魔力切れの状況も、召喚魔法が使えない状況も改善される訳ではない。

「……でも結構良い歌だね。呪いも一応解けたし、お金出した方がいいのかな……」

水道橋を歩いていると天使のような歌声が自然と聴こえてくるので、呪いは勝手に解けた。
レインは悪いと思って懐から500ゴールドを取り出し、投げ銭して帰ってくる。
なんとも賑やかな光景だったが、ここで遊んでいる場合ではない。目的は魔物退治だ。

橋を渡り切ったところで待ち受けていたのは一際広い円筒状の空間である。
螺旋階段が下に続いており、最下層の扉は固く閉ざさているようだ。
そして、よくよく壁面を見渡すと神代文字と壁画も刻まれているではないか。

「あれがこの遺跡のボスなのかな……?」

壁画に描かれたボスは巨大な人魚と呼ぶべき見た目をしていた。
翡翠の光沢ある鱗に、立派な尾ひれ。目は鋭く、背中に海竜を模した二つの触手。
その威容を見ると、レインはボスが暴れまわった時の恐ろしさを想像してしまう。

「封印されとるのは遥か遠い昔の魔族じゃ。
 名はダゴンというらしい。神代文字で書かれとるわい」

ふと、横を見ると恰幅の良い小男がいつの間にか座り込んでいた。
髭面で背中には斧を背負っている。レインとクロムは、彼を一度見ている。

「あなたは……"斧砕きの"ドルヴェイクさん?」
0161レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:26:32.96ID:AxmbRJUM
ドルヴェイクは浅く頷いて壁に刻まれた神代文字の解読にあたっていた。
彼もまた純粋に依頼解決を目的に参加した一人とエイリークから聞いている。
きっと、ボスに関する情報や弱点を集めている最中なのだろう。

「ふむ……人魚たちの親玉として相当暴れまわったようじゃわい。
 最後には海神に仕える巫女に封印されて、以来ずっと眠っとるようじゃ」

「神代文字が読めるんですか?」

「まぁ……教養としてな」

レインも一緒に眺めてみるが、何が書いてあるかてんで分からない……。
神代文字は解読が難しく覚えるのに相応の勉強が必要らしいが、
"斧砕き"のドルヴェイクはそんなものをどこで覚えたのやら。

「そうだ。ドルヴェイクさん、魔法を封じる島の呪いはご存知ですか?
 人魚だけはすり抜けて魔法を使えるようなんですが……」

「呪い?儂は魔法が使えんから関係なかったが……。
 仕方ないのう、それくらいなら教えてやろう」

ドルヴェイクは壁面の一部を指すと、そこに首飾りのような画が描かれていた。
曰くボスは人魚の魔族で、自身は魔族のため呪いが効かない。
そこで、配下に自身の一部を持たせ呪い除けとし、財宝を守らせているという。

「壁画によると『人魚の首飾り』は人魚しか装備できんようじゃな。
 だから儂らには無用の長物……露店で買っても意味はないぞ」

なるほど、とレインは言った。
これで謎は解け、しこりは無くなった。
……やはりあの商人の売り方は阿漕すぎる。
0162レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:28:45.81ID:AxmbRJUM
とにもかくにも、この先へ進むには扉を開ける必要がある。
だが……扉には鍵が掛かっており、開けることができない。
壁画に在り処のヒントが書かれているようで、ドルヴェイクが教えてくれた。

「鍵は財宝と一緒に隠されておるようだな。
 つまり、さっきの水道橋のどこかにあると考えていいだろう。
 儂は泳ぎが得意でないから、他の者が見つけてくれるのを待っておくわい」

だから皆ここで足踏みしているのか……とレインは思った。

「俺たちも鍵を探そう。ここでじっとしていても仕方ない」

水道橋まで戻ると、レインはどうやって探すか二人と相談することにした。
方法は他の冒険者がサルベージしているのと同じでまず二つ。
釣竿で釣ってしまうか、直接ダイビングして探すかだ。

「おっ、あんたらもサルベージに参加すんのかい?
 水中にはランペイジシャークとマーマンがいるから気をつけなよ!」

レンタル屋の商人が親切に声を掛けてくれた。
ランペイジシャークは文字通り凶暴化した鮫で、水中戦の雄だ。
血を嗅ぎつけたが最後、敵に食らいついて離さないだろう。

「それで……二人とも、どうやって鍵をサルベージする?」


【遺跡入り口のマーマンを無事撃破。探索開始】
【水道橋に到着。他の財宝狙いの冒険者たちと遭遇】
【先へ進むには水中に沈んでいる鍵を見つける必要があるようだ】
0163レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/11/17(火) 22:45:48.69ID:AxmbRJUM
【たまにはageて参加者募集を告知してみるテスト……】
【レトロファンタジーTRPGはいつでも冒険者を待っている!気軽にご参加ください!】
0164創る名無しに見る名無し垢版2020/11/18(水) 02:35:27.99ID:diINqG/Z
 砦への総攻撃は夜明けと共に始まった。

 作戦会議を終え、ゴブリンの兵士たちは武器を持ち、それぞれが持ち場へと向かった。

 上位のゴブリンは、鎧牛という戦車のように大きな牛に跨り、一振りで塔を倒せそうな大剣を片手に、前線へと駆け出した。

 残りのゴブリン歩兵達も土埃を巻き上げながら、砦へと一気に攻め入った。

 その中に、勇者ヘッポコもいた。

 魔王軍尋問官として後方の業務に従事しているが、もともと彼は王女のために剣を振るっていた半トロールの勇者である。

 ゴブリンの歩兵達は、勇者が自分たちの軍に混じっていることに違和感を覚えた。

 しかし、一度酒を酌み交わせば彼らの流儀では仲間だった。

「ヘッポコどん、早く王女様のところに来いよぉ。アンタに戦いの権利は譲るでごわす」


(あれだけ酒を飲んでも、結局、種付の権利なんてものは得られなかった)

(得たのは、王女と戦う資格だけだ。王女を見つけたら優先的に戦えること。そして、俺が勝てば、彼女の身柄はこちらで貰い受けること。それだけは、約束させた)

(王女を囚えるには俺が彼女に勝たなければならない。勝てるか?あの女に……)

 ヘッポコの手は震えていた。

(俺は、あいつが貴族の学校でのほほんとしている年の頃から、辺境地帯で勇者見習いとして、魔獣や盗賊と殺し合っていた)

(勇者になれるのは、1000人に1人。勇者見習いの半分はその教練過程で命を落とすか、治らない怪我でリタイアする。残り半分は苛酷な試練に付いて行けずにやめることになる)

(俺は選ばれた人間だった。10年近い修練に青春を捧げ、勇者として認められた時には、16歳を超えていた)

(戦争が始まり、俺たち勇者の多くが国に雇われ、特別な待遇で戦場へ向かった)

(そこで俺は、彼女と出会った)

(兵士を統率しながら、誰よりも前を走り、大軍にも怯まず、突撃する)

(時には俺たち勇者ですら腰が引けるような強力な魔物を相手に、単独で戦い首をもいでくる)

(魔界の地をまたたく間に蹂躙し、魔王さえも戦いを避ける、チート生物)

(それはムーントリア純血の金色の髪に蒼い瞳、紅いドレスと銀のティアラが似合う王女様だ)

(憧れていた。崇拝していた……彼女に認められたかった……畏怖を覚えていた……)

(彼女の血の色を誰もしらない。彼女が血を流しているのを誰も見たことがないからだ)

(彼女が人間なのか、疑問に思う。自ら突撃命令を出した結果、数万の部下が犬死した報告を受けた時も、眉一つ動かさずに執務室で紅茶を啜っていたのを俺は見た)

(さらに気に食わない部下は、勇者でさえも平然と面罵して最前線へ送り込む……俺は勇者だ……俺は……)

「俺は勇者だ!」

 ヘッポコはゴブリンの中で絶叫した。
0165創る名無しに見る名無し垢版2020/11/18(水) 02:49:13.17ID:diINqG/Z
「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 ゴブリン達は、それに呼応して鬨の声をあげた。ヒトの言葉は彼らに通じないので、ゴブリン達は勇者が自分たちに激を飛ばしたのだと勘違いした。

「第三王女ラングドシャが軍を率いる限り、この戦争は終わらない!

 魔王を殺し、魔界の民の血で海を作ろうと、彼女の暴走は止まらない!

 魔界の地を蹂躙し尽くし、この地を荒野とした後、彼女は軍を率いて、魔界の先の最果ての地へ戦いに行くだろう!

 人々が平和を希求しようと、彼女がいる限り、平和は訪れない!

 俺が、全人類を救うのだ!俺が、王女を囚え、全人類を救済するのだ!

 ヘッポコは戦いのためのスイッチを入れ終えた。

 神経回路と勇者回路が完全に繋がり、臍の奥の魔術器官のバルブが全て開いた。

 「はぁ……はぁ……何なの、もー!」

 エルベ・シュパルツドルフは王女と別れ、南の城壁の下でゴブリン軍と戦っていた。

 彼女もまた、貴族の1人として戦闘教練を受け、ゴブリン兵など、彼女の戦闘力をもってすればものの数ではない。

 しかし、1時間近くに戦いが及ぶと、次第に、剣を振るう腕も鈍ってくる。

 息をつく暇もなく、ゴブリンの兵士が襲いかかってくるのだ。

 「いやっ……もうっ……来るなぁ……」

 汗がドレス・スーツの中で蒸れて、エルベは気持ちが悪かった。

「もう、二百匹は殺した……なのに、なんで向かってくるのよぉ!」

 ゴブリンは死を恐れず、突っ込んでくる。
種付の権利は、敵を倒した者のものである。

 ゴブリン兵にとって、敵の戦士の雌を囚えることは、優先度が高い。

 戦士の雌を妻とすることは彼らの社会で重要なステータスとなるからである。

「苦戦しているようだな」

「ヘッポコのダンナ!戦う権利は先に来たオラのもんです!手出し無用で頼みまさぁ!」

 ヘッポコがまず着いたのは、王女のいるところではなく、女騎士が気を吐く戦場だった。

 ゴブリンの兵士はヘッポコを遮り、順番に1人ずつエルベへと飛びかかってゆく。

 そして、その剣に切り伏せられていくのだ。

(俺の目標は、王女だが……リハビリにはちょうどいいか)

 ヘッポコはまずは狙いをエルベに定めた。

先に順番を待つゴブリンがまたたく間に地に伏して行くのを眺め、順番を待ってヘッポコは前に出た。

「えっ……なんで……人間?」

 エルベは突然ゴブリンの群衆から出てきた勇者に目を丸くした。
0166創る名無しに見る名無し垢版2020/11/18(水) 03:00:02.06ID:VLt2pPQT
『やんごとなき駄目ドラゴン』#2

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。
0167創る名無しに見る名無し垢版2020/11/18(水) 03:06:28.92ID:pGYTJsvO
 2020年7月に、自宅で母親に暴行を加えて死亡させたとして再逮捕された男が、母親の口座から400万円から500万円を引き出していたことが分かりました。

 仙台市太白区中田町の無職・村上陽都容疑者(21)は2020年7月16日、自宅で母親の淑さん(当時55)に暴行を加え、死亡させた傷害致死の疑いで再逮捕されました。これまでに、村上容疑者と淑さんの間には複数のトラブルがあったことが分かっていますが、その後の捜査関係者への取材で、村上容疑者が事件までに淑さんの口座から複数回にわたり現金あわせて400万円から500万円を引き出していたことが新たに分かりました。引き出した金は、ゲームの課金などに使っていたとみられるということです。また、淑さんは村上容疑者の金の使い方について第三者に相談していたということです。

 村上容疑者は、淑さんの遺体を燃やした死体損壊と死体遺棄の罪ですでに起訴されています。
0168創る名無しに見る名無し垢版2020/11/18(水) 03:09:01.68ID:5Fv16icy
 2020年7月に、自宅で母親に暴行を加えて死亡させたとし
て再逮捕された男が、母親の
口座から400万
円から500万円を引き出していた
ことが分かりました。
 仙台市
太白区
中田町の無職・村上陽都容疑者(21)は2020年7
月16日、自宅で母親の淑さん(当時55)に暴行を
加え、死亡させた
傷害致死の疑いで再逮
捕されました。これまでに、村上容
疑者と淑さん
の間には複数のトラブルが
あったことが分かっていますが、その後の捜査関係者への取材で、
村上容疑者が事件
までに淑さんの口座から複数
回にわたり現金
あわせて400万円から
500
万円を引き出していた
ことが新たに分かりました。引き出し
た金は、ゲームの
課金などに使ってい
たとみられると
いうことです。また、淑
さんは村上容疑
者の金の使い方について第
三者に相談してい
たということです。
 村上容疑者は、
淑さんの遺体を燃やした
死体損壊と死体
遺棄の罪ですでに起
訴されてい
ます。
0169創る名無しに見る名無し垢版2020/11/18(水) 03:12:08.07ID:bkqKenOZ
 202
0年7月に、自宅で母
親に暴行を加えて死亡させ
たとし
て再逮捕された男が、母親の
口座から40
0万
円から500万円を引き出

ていた
ことが分かりました。
 仙台市
太白区
中田町の無職・村上陽
都容疑者(21)は2
020年7
月16日、自宅で

親の淑さん(当時5
5)に暴行を
加え、死亡させた
傷害致死の疑いで再逮
捕されました。これ
までに、村上容
疑者と淑さん
の間には複数のト
ラブルが
あったことが分かってい
ますが、その後の捜査
関係者への取材で、
村上容疑者が
事件
までに淑さんの口座か
ら複数
回にわたり現金
あわせて400万円から
500
万円を引き出していた
ことが新たに分かり
ました。引き出し
た金は、ゲー
ムの
課金などに使ってい
たとみられ
ると
いうことです。また、淑
さんは村上容疑
者の金の使い方に
ついて第
三者に相談してい
たという
ことです。
 村上容疑者は、
淑さんの遺体を燃やし

死体損壊と死体
遺棄の罪ですでに起
訴されてい
ます。
0170クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/22(日) 02:15:20.41ID:IR/voY6i
水位が下がり、奪われていた自由が徐々に体に戻っていく。
これで水に呑まれる心配はなくなり、更に残り二匹の敵もレイン達に無事片付けられたことでその脅威も消えた。
ならばもはや剣を抜身のままにしておく必要はない。
クロムは壁から引き抜いた剣を鞘に納めると、ふぅ、と一つ安堵の溜め息をついた。

────。

罠を潜り抜け、魔物を倒し、遺跡の更なる深みを目指し突き進む。
そうしてやがて辿り着いた場所は、遺跡の深みには似つかわしくない人々の喧騒に支配されたフィールドであった。

>「水道橋の下は水深が深そうだね。水棲魔物もたくさんいそうだ。
> 水位を操作する魔法陣もないから今の装備で探索するのは難しいな……」

レインの呟きを受けてふと橋の上から見下ろしてみると、下は透明度の高い海水で満たされており、
何人もの冒険者達が海中のそこら中で輝く金銀財宝に我先にと群がっている様子が見て取れた。

「まるで光に吸い寄せられる虫だな。どうりで騒々しいわけだ」

光り輝く財宝を前にして、全くはしゃがずに冷静沈着で居られる人間はそう多くはないものだ。
そういう意味では金銀《カネ》よりも真っ先に人魚の首飾りに興味を示したレインは変わり種と言えるだろうか。
もっとも、お宝の定義が呪いの武具にほぼ限定されているクロムも人の事は言えないのだが。

回収された装飾品や武具の類が所狭しと並ぶ商人の露店。
レインが様々な冒険者達の店に目移りする中、クロムの視線は対照的にそこだけに注がれていた。
何故ならここは呪いの島。元々自分にとっての宝がある確率は、他のダンジョンよりは高いと踏んでいたからだ。

(……!)

呪いは何も『悪鬼の剣』のそれのように、その道具を手にした瞬間に発動するものばかりではない。
中には実際に身に付けたり、道具として使用するその時を発動のトリガーとする呪いも存在する。
本来一ゴールドの価値もない筈の呪われた道具類が見た目だけで高価な値段を付けられてしまい、
稀に観賞用の古美術品として市場に流通する事があるのもその為である。
0171クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/22(日) 02:21:27.93ID:IR/voY6i
「らっしゃいそこの剣を持った兄ちゃん!!」

不意にクロムが歩行のスピードを緩める。途端に、一人のむさい商売人が彼に威勢よく声を掛けた。
男が広げた布の上に置かれた商品、その内の一つに彼の目が留まったことを見逃さなかったのだろう。
クロムは完全に足を止め“それ”を薄目でじっと見据えて言った。

「親父、これは……」

「分かってる分かってる! 兄ちゃんいい趣味してるぜぇ! 大事な女にでも着せて楽しもうってか? ハハハ!」

しかし、その親父が手に取り渡そうとしたものは、クロムの興味を惹いたものでも何でもなかった。

「──おい! それは『ビキニアーマー』だろ! それじゃなくてその隣に置いてあるヤツだ!」

「え? この“ボロい盾”のこと? こいつぁさっき遺跡の中で拾ったモンだが、ひょっとしてこれが欲しいのかい?」

突っ込みを受けて次に親父が手に取ったもの、それはバックラーと呼ばれる小型の盾。
ただ通常のそれとは異なり手に持つのではなく前腕部に装着するタイプのようだが──
いや、それよりも目に付くのはひび割れたガラスのように盾の全面に沢山の亀裂が入っているところだろう。
“ボロい”と表現されても無理はない。

「……いくらで売るつもりだ、それ」

しかし、魔族《クロム》の目にははっきりと見えていた。
ただボロくなった盾などには決してありえない、黒い靄のようなオーラが僅かに滲み出ているのが。
これは知る人ぞ知る、呪いが掛かった物品の特徴。つまり彼にとってのお宝を意味するものに他ならなかった。

「そうだなぁ〜。所詮は二束三文でも売れりゃいいと思って並べたモンだし……100ゴールドってところかなぁ?」

「ひゃ……はぁ? ボロボロの盾には10ゴールドだって高ぇよ! 二束三文の覚悟ねーじゃねぇか!」

「おいおい、資源に乏しい地域なんかじゃ鉄の盾だって高級品なんだぜ? 中古品でも2000や3000で売れるくらいな。
 こいつだってそういうところに持ち込みゃ300〜500くらいは値がつくかもしれねぇ。
 100で買ってくれねぇってならこっちも売る気はねぇなぁ。これ以上まけると商売人にとっちゃ二束三文以下だからよぉ」

「ちっ! 小石同然に拾ったモンに何て値をつけやがるんだ……悪徳商人め。
 そんなにカネが欲しけりゃ水の中に飛び込んで金塊の一つでも持ってくりゃいいだろうが」

「泳ぎも魔物退治も得意なら商人なんかやってないっての。で、買うのかい買わねーのか、どっちなんだい?」

「…………ちょっとだ。ちょっとだけ待ってろ」
0172クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/11/22(日) 02:27:41.20ID:IR/voY6i
レインが橋の先の円筒状の空間から戻って来るのを横目で確認して、クロムは彼と合流せんと一旦この場を離れた。
背後から「100ゴールドきっちりだよー! でないと絶対売れないからねー!」と親父の念を押す声が聞こえる。
交渉の余地が完全にないのでは盾を手に入れるにはきっちり100ゴールド用意するしかない。

親父は商人にとって100ゴールドは端金と言った。多くの冒険者にとっても別段大金というわけではないだろう。
が、クロムのように金を持ち歩かない主義の、金に執着しないタイプにとってはそうではない。
常に金の持ち合わせがないから100ゴールドたらずを支払うにもどこからか“調達”する必要に迫られるのだ。

かといってパーティの誰かに金を借りようなどとは思っていない。
パーティは助け合うものとはいえ、ほんの些細な事でも借りは作りたくない──そういう性格をしているからだ。

>「俺たちも鍵を探そう。ここでじっとしていても仕方ない」

橋の途中でレインと合流し、彼からドルヴェイクとの会話の内容を聞かされるクロム。
曰く、どうも先のステージに進むには水中のどこかに沈んでいる“鍵”を見つけなくてはならないらしい。

「水中に沈んでる鍵……か」

それはクロムにとって好都合であった。何故なら水中には100ゴールドなど目ではない財宝が沈んでいるのだから。
財宝を確保しながら一緒に鍵をも確保出来れば正に一石二鳥である。

>「それで……二人とも、どうやって鍵をサルベージする?」

「これだけの数の冒険者が水の中に居りゃ魔物のリスクも多少は分散される。俺は潜るぜ。その方が性にも合ってるしな」

そう言い残して、クロムは橋から飛び降りた。
肺機能が常人よりも強い彼にとって潜水服は重しにしかならない。故にノーマルで充分なのだ。

(一匹……二匹……)

水中。丁度視線の先にフジツボがびっしりとついたいくつかの宝箱が見える。
だが、その近くでゆっくりと遊泳する二つの影をクロムの目はしっかり捉えていた。
一つは人魚と分かるシルエットで、もう一つは巨大な魚のシルエット……その特徴的な背びれから鮫に違いない。
恐らくレインの言っていたランペイジシャークだろう。
クロムに向かって来ないところを見るとまだ気が付いていないらしい。他の冒険者達に気を取られているのかもしれない。

(戦わないで済むならそれに越したことはねぇ。ゆっくりと近付くか)

【水中に飛び込む。人魚と鮫が宝箱の近くを泳いでいるのを見つけ、ゆっくりと近付くことに】
【露店にて名称不明の呪われた盾を見つける】
0173マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/11/27(金) 18:07:46.79ID:I0mW6r4y
マーマンたちを倒した後、洞窟探索は続く
既に貝の獣人たちのテリトリーからは大きく離れ、マグリットも知らぬ場所を進んでいる
だからこそなおのこと驚いてしまう
水道橋に集まる一団
そしてその下の水中にもぐり、財宝をサルベージするために群がる冒険者たちに

>「まるで光に吸い寄せられる虫だな。どうりで騒々しいわけだ」

「人というのは凄いですね
上陸禁止だった魔法が使えないこの島も本格的に探索するとなるとこうなるのですか」

水道橋では一種のバザーが開催されているようで、半ば呆れるようにクロムの言葉に同意する
そんな人混みの中で三人はそれぞれ分かれていく

レインは聖歌のアリアの唄を聞き、クロムはクロムで別の商人の品を見定めている
そしてマグリットもまた興味を引かれた商人に

「ご主人、ご主人!
島の呪いが解けるかもというそのネックレス、私知ってます
先ほどマーマンを倒した時にレインさんがネックレスつけてみたんですけど、あっという間に崩れちゃったんですよ
盗難防止措置が施されているんじゃないかって言ってました!」

「こ、このっ!
言いがかりだ!商売の邪魔するんじゃねえ
誰だよレインって
買わねえのなら行ったいった!」

マグリットは親切心のつもりであったのだが、商人にとっては営業妨害他ならない
慌ててマグリットを追い払おうと棒を振り回すのだが、時すでに遅しだ
隣でネックレスを手に取っていた冒険者がそっと置き、不信の目で商人を見るのであった


商人の追い立てられて水道橋を渡った先の円筒状の空間
レインとドルヴェイクが話しているところに合流

「レインさん、聖歌のアリアさんいたの見ました?
私が教会に入る前に辞めちゃった方ですが、その歌声は奇跡そのものだって語り継がれてるのですよ
実際あの歌は奇跡でしたよー
帰りにご一緒できたらちょっとお話したいものですね!」

ずかずかと無遠慮にレインとドルヴェイクの間に入るマグリット
ドルヴェイクの人魚の首飾りの話に

「やっぱりそうだったんですか!
装備すると崩れちゃうっていうのは教えて差し上げたのですが、人魚しか装備できないというのならまたあとで教えておきますね!」

商人に対する印象はレインとマグリットでは大きく違うようだった
ただ迷惑なのはマグリットなのだろう
この後、商売を完全に破綻させる災厄が近づいてくることに商人はまだ気づいていない

そうこう話しているうちに鍵の話になったところでクロムも合流
これからの方針について話し合われる

>「俺たちも鍵を探そう。ここでじっとしていても仕方ない」

>「これだけの数の冒険者が水の中に居りゃ魔物のリスクも多少は分散される。俺は潜るぜ。その方が性にも合ってるしな」

「もちろん探しましょう!って、クロムさん?あわわ、もいっちゃいましたよ!」

貝の獣人である自分ならば水中呼吸も問題ないのだが、クロムが潜水服もなしに橋から飛び降りた事に動揺が隠せないマグリットが慌ててそのあとを追い橋から飛び降りる
0174マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/11/27(金) 18:08:17.92ID:I0mW6r4y
飛び降りて着水
したのだがマグリットの巨体が着水したにもかかわらず飛沫は上がらず静かに吸い込まれるように水中に入っていった
水生生物たる貝の獣人ゆえに水中への適応力も高いのだ
更に鉄分過多の肌を持ち重量も過多であるためか、そのままの勢いで海底の砂地に着地
そこでも砂煙を上げることなく、まるで羽にように軽やかに着地し、微振動を起こしそのまま砂地へと半身を潜り込ましていく
正に貝が海底の砂に潜り込むかのように埋もれていく

海底から見上げると散発的なマーマンの襲撃はあるが、基本冒険者たちに撃退されている
それを見てマグリットは大きな不安を抱き、同じく潜っているクロムに目を向ける

「クロムさん、一方通行ですが聞いてください」

クロムの耳にマグリットの声が届く
それは水中にあって驚くほど鮮明に聞こえるだろう
マグリットの螺哮砲は法螺貝の音波攻撃であるが、元々は貝の獣人たちが水中での会話の為に備わった音波通信の発展形
すなわち今こうしてクロムに声を届ける事が本来の使い方なのだ

・ドワーフさんの解読によると、マーマンはこの島の主の眷属であり、呪除けの加護を受けている財宝の守り手である事
・長らく立ち入り禁止だった島に大挙して訪れた冒険者たちにマーマンとしても不意を突かれたような状態でしょうが、そのままという事はないでしょう
・いつ組織だった対応を取られるかもわからないので、海面に向かうかもしもの時は海底に設置した貝殻をシェルターにしてください、と

その言葉の通り、マグリットは海底についてから捜索より前腕部から生成する巨大貝殻、それもサザエの様な巻貝タイプを人一人が覆いかぶされるくらいまで大きくしては取り外し海底に設置していた
海底に沈む財宝を取り巻くように設置された巨大貝殻はいざという時のシェルターになるだろうから

「ところで、鍵ってどんな形しているのでしょうかね?
あの扉に鍵穴ってありましたっけ?」

これから来るであろう戦いの準備をしながら、今更呑気に鍵がどういうものかわかっていない事に気づいたのだった
いわゆる錠前の鍵なのか、形容詞としての鍵なのかも判らずにとりあえず飛び降りたのを思い出した

しかしそんな思考も轟音と共に突っ切る黒い影とそれを追随する赤い靄ががかき消した
財宝をあさる冒険者たちにランペイジシャークが突っ込み哀れな犠牲者を咥えそのまま通り過ぎていく
後に広がるのは冒険者の血の霞
慌てて上を見れば5.6匹のランペイジシャークが悠々と泳ぎ、時折スピードをつけて突っ込みその度に新たな犠牲者を生んでいく
遠巻きにはマーマンが囲んでいる

水中では本来の動きができず、冒険者たちの抵抗は鈍いものにならざる得ない
それ以上に赤く染まる水は煙幕となり視界を奪われると同時にパニックが広がっていき冒険者たちは我先にと浮上しようとするが、それは戦う事を諦めた逃走にすぎない

それを見てマグリットは海底を蹴り、放水管からの放水の力も借りて急浮上する
中間域で今まさに冒険者の背中に咬みつこうとしていたランペイジシャークに大振りのシャコガイメイスを叩きつけ弾きとなした
水中でメイスをふるうななど抵抗がつきすぎて無理なように見える
しかしその実シャコガイの特殊形状が抵抗を軽減し、更にシャコガイ自体の放水管からの放水の力もあり水中にあって十分な力を発揮するのだ

「皆さん落ち着いてください、抵抗を放棄して逃げる背中はランペイジシャークにとって獲物にしかすぎません
逃げるより戦う方が生存率は高いですよ!
相手は血を流せば見境ないですから、手傷さえ負わせれば勝手に共食いしてくれ……あれ?」

海中にマグリットの声が響き、冒険者たちのパニックを抑え対抗するように促す
その為の対処法を示すようにランペイジシャークの一体を弾き飛ばし、十分な傷と血を流させたのだがその血に誘われ共食いするようなそぶりはない
むしろ隊列を成して巨大なランペイジシャークが冒険者たちを蹂躙していく

「もしかして、マーマンが操ってる!?」

遠巻きに囲んでいるマーマンたちを見るのであった

【海中に潜り、財宝の周囲に巻貝タイプの貝殻を設置】
【ランペイジシャークの襲撃、マーマンに操られ統率されている?】
0175創る名無しに見る名無し垢版2020/11/28(土) 01:37:47.00ID:Qxuh4zCa
『やんごとなき駄目ドラゴン』#2

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。
0176創る名無しに見る名無し垢版2020/12/02(水) 02:52:06.32ID:rDtaskUe
『やんごとなき駄目ドラゴン』#2

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。
0177レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/12/05(土) 22:14:26.99ID:rDRmJPj4
透きとおった海水の底に散らばる宝箱を一瞥して、レインは二人に問う。
海中用装備はレンタル可能なので潜れなくもない。

>「これだけの数の冒険者が水の中に居りゃ魔物のリスクも多少は分散される。俺は潜るぜ。その方が性にも合ってるしな」

>「もちろん探しましょう!って、クロムさん?あわわ、もいっちゃいましたよ!」

「あっ……ちょっ、二人とも!?」

クロム、マグリット共に海中での活動に自信があるらしく、装備も変えず飛び込んでいく。
置いてけぼりにされた"召喚の勇者"はいそいそとレンタル屋へ向かい潜水服を借りるのだった。
さらに武器屋にて銛を購入し、これで準備は整った。レイン(水中戦仕様)の誕生である。

「よし……行くぞ!」

どぼん、と静かに飛び込むと、水中は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
隊列を為したランペイジシャークの群れが冒険者達を襲っているのだ。
そして、マーマンがその光景を遠巻きに眺めているではないか。

(誰かに指揮されているかのような行動……操られているのか?)

この水域にいるのはマーマンとランペイジシャークのみ。
と、なれば知能が高いマーマンが操っていると考えるのが自然だろう。
財宝を守るのがマーマン達の役割だ。宝探しを黙って見ている訳がない、という事だろう。

それにしても、これでは『鍵』を探している場合ではない。
マグリットが作ったらしい貝シェルターがあるとはいえ、最早危険の方が勝る状態だ。
状況を打破すべくマーマンの群れ目掛けて突貫すると、鮫の隊列は標的をレインに変えて襲いかかる。

(マーマンを狙った途端に……!でも好都合だ!)

巨大な口を開いて突っ込んでくる鮫魔物の攻撃――。
レインは身体を捻って円運動を描き、紙一重で回避しつつ銛で突き刺した。

(舞踊槍術、銛バージョン!)

動きは地上に比べて鈍っているが、相手の攻撃を読む舞踊槍術は健在だ。
槍と銛にあまり区別がないゆえ、応用が効くのがさいわいしている。
銛を引き抜くと勢いよく血を流して泳ぐ力を弱めていくランペイジシャーク。
0178レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/12/05(土) 22:16:09.80ID:rDRmJPj4
残り五匹――。
さっきの個体は上手く急所に当たってくれたが、偶然は何度も起きない。
五匹は威嚇するように旋回してレインの周囲を泳ぎ回っている。

(同時攻撃は望むところだ……!)

なぜならレインには舞踊槍術、五月雨の舞がある。
上手く攻撃を見切ることができれば鮫の群れを殲滅できるだろう。
懸念があるとすれば、水中においては五月雨の舞独特の、高速の足捌きが発揮できないことだ。

(誰かが『鍵』を見つけるまでの間は引きつけたいな……)

扉には鍵穴らしき部分があったので、普遍的な形状をしていると思われる。
と、いってもこれだけいる冒険者。鍵開けの得意そうな者でも開けられていない辺り、
魔法の力によってロックが掛かっており、『鍵』はそれを解除する役割があるのだろう。

(……来た!)

鮫達が一斉に攻撃を仕掛けてきた瞬間、レインも五月雨の舞で対抗。
結果――攻撃は躱せたもののスピードが足らず、レインのカウンターは二匹に留まった。
深々と突き刺さった銛の一撃が鮫を水底へ沈めていく……。

(いけない。仕留め損なったか……!)

何度も避け切る自信はない。
慌ててマグリットの作ったシェルターに身を隠すと、
ランペイジシャークが手をこまねくように周囲を遊泳する。

かくしてレインの目論見は成功したのだろうか。
操られたランペイジシャークを引きつけるという彼の作戦がだ。
可能な限り派手に暴れてみたつもりだが……。

これで宝箱を探す隙/水上へ逃げる隙/マーマンを叩く隙は生まれたと思いたい。
問題は誰が『鍵』を見つけ出すのか、ということにつきるか。


【お待たせしました。レイン、潜水服を着て水中に飛び込む】
【ランペイジシャークを三匹撃破。時間稼ぎを狙ったつもりのようだ】
【現在はマグリットの作ったシェルターに隠れています】
0179創る名無しに見る名無し垢版2020/12/06(日) 02:26:21.54ID:QsjhxDUs
シェルターはゆっくりと海溝を沈んで行く。
「おい、ミシミシ音がするぞ!大丈夫なのか?」
レインが不安げに問う。
ランペイ爺は強張った表情で大丈夫だぁと繰り返すだけである。
0180クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/12/06(日) 23:16:35.85ID:zIEH7YTx
ランペイジシャークやマーマンの襲撃を受けて一人、また一人と水中から姿を消していく冒険者達。
それを海底から遠目に見ながら、クロムは自分が台風の目の中にいるような感覚を覚えていた。

海底スレスレを這うように泳いで移動し、宝箱を開ける。それを繰り返すこと既に数十回。
その間、彼を襲うランペイジシャークやマーマンは一匹たりとも現れなかった。

勿論、クロム自身が敵の隙を上手く突いて行動しているというのもある。
常人よりも肺活量があり、長時間潜水していられるその肉体の特性が、発見されるリスクを軽減させているのも確かだろう。
だが、やはりお宝欲しさに水中に飛び込む命知らずな冒険者が後を絶たないのが大きいと言える。
魔物の視線は常に水面に注がれており、足元の海底には全く注意が向いていないのが見ていても分かるからだ。

(それにしても……どういうことだ?)

目に付いた最後の宝箱を開け、中にぎっしりと詰まっていた金貨を一攫い。
偽物ではない、確かな古代王朝のそれである数枚を掌の上で遊ばせながら、クロムは辺りを見回した。
もう宝箱は無い。少なくとも目に見える範囲の場所にあり、目に見える形で沈んでいるそれに関しては全て開けてしまった。
にもかかわらず次のステージに進むための“鍵”はまだ手に入れていない。

(水中のどこかに宝箱がまだ隠されているのか? それとも宝箱の中に鍵はないのか?
 だとすると厄介だな……。時間を掛けて海底をまるごと浚うしか方法はなくなるぜ……)

たまたま向けた視線の先では、レインがマーマンの群れに突貫し、数匹の鮫に逆襲されるという光景が展開されていた。
なるほどマグリットが言ったように、知能の高いマーマンが鮫を統率しているのは間違いなさそうである。
そして知能が高ければ海底の宝箱が片っ端から開けられているという異変に気が付くも時間の問題だ。
……ここは一旦、水上に出て仕切り直した方がいいかもしれない。

だが、クロムがそう考え、再び海底を移動しようとしたその時だった。

「ギギギ!」

眼前にマーマンが突然と現れ、間髪入れず銛が繰り出されたのである。
右の脇腹に痛みが走り、血が噴き出す。
反射的に腰を捻ったことで串刺しだけは免れたが、脇腹を抉られてしまった形だ。

(チッ! 気付かれたか! 今は一匹だが、いずれ血の臭いに気が付いてここに集まって来やが──)

それでもクロムは咄嗟に右手で銛を掴み、それを脇下に固定してそれ以上の攻撃を封じようと試みるが、それを見たマーマンは手を翳した。
自分の武器は何も銛だけではないというように。そう、彼らは水魔法が使えるのだ。
魔法陣が浮かび上がるその横で、マーマンの固い口元が一瞬、ニヤリと歪んだような気がした。

「──ギギッ!」

──もっとも、口元で一瞬笑みを浮かべたのは、クロムも同じだったのだが。
左で素早く剣を抜き、逆手で切り上げる形で刃を水中に走らせる。
距離は至近。手応えあり。水中で剣の走りは鈍く、一撃で絶命というわけにはいかなかったが、確かな深手だ。
血を噴き出すのは今度はマーマンの番であった。

だが、クロムの狙いはそもそも敵の命でもなければ、魔法を喰らう前に深手を負わせることでもない。
彼が狙ったのはマーマンの“首飾り”。
といってもそれはレインが身に着けようとして風化してしまったものとは全くの別物だ。
年代物を思わせる茶色い“鍵”に、紐を通して首に掛けただけの、いわば首飾りに見せかけただけのシロモノ。
それが何を意味するか。後は直感である。

(探したって無ぇわけだ。まさかマーマン《お前ら》が持ってやがったとはな!)

切断された紐からするりと落ちる鍵を握り締め、クロムは自らの後方を確認する。
そして体内に残されたありったけの酸素を用いてその視線の先の海底にいるマグリットに向けて叫ぶのだった。

「怪しげな鍵を手に入れた! とりあえず脱出するぞ! レインにも伝えろ!」
0181クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/12/06(日) 23:21:47.47ID:zIEH7YTx
水中だから相手が人間なら何を言っても伝わらないだろうが、貝の獣人ならば上手く聞き取ってくれるだろう。
これでこの水中でクロムができることは全てやった。
後はマーマンやランペイジシャークの群れを突破して脱出するだけだが──それは水魔法が叶えてくれる。

魔法を発動し掛けたマーマンは深手を負っただけで、絶命したわけではない。
つまり魔法は依然、生きているのだ。故にクロムはこの場に留まる限り、それを思いっきり食らうことになる──。

(ぐっ──!!)

圧倒的水圧がクロムに直撃し、その肉体をあっという間に海底から海上へと弾き出す。
『反魔の装束』によって威力が軽減されていなければ肉体はボロ雑巾のように翻弄され引き千切られていたに違いない。
しばし仰向けの格好で空中を舞っていたクロムだが、地面が近付くのを見て体を捻り上手い具合に足から着地。
瞬間、「おお!」と、辺りがどよめいた。
そこは丁度、水道橋の露店が並ぶ場所であった。

「ふぅぅぅ〜〜〜〜! 計算通り……と必ずしも言えねぇのが悔しいところだが、しょうがねぇ」

大きく深呼吸しながら手を突っ込んだポケットの中には、回収した筈の財宝は入っていなかった。
どうやら水魔法で吹っ飛ばされた衝撃で多くを水の中に落としてきてしまったらしい。
まぁ、元々開けた宝箱の中身を全て回収してきたわけではないし、物理的にもそれが可能だったわけでもない。
なので手ごろな大きさの装飾品をいくつかくすねてきた程度だったのだが、それすら大半が失われるのは計算外であった。
それでも懐に仕舞っておいたお陰で無事だった古代王朝の金貨は、一枚だけで100ゴールド以上の価値はあるだろう。

「へぇ〜! 兄ちゃんやっぱタダ者じゃねぇな! 化物がうろつく水の中からド派手に登場するんだもんなぁ!」

と、驚嘆の声を上げたのはあのむさい商人《オヤジ》。
クロムは彼の前にずかずかと出ると、手に入れた金貨四枚を全て叩きつけて唸るように言った。

「古代ペトロ王朝の大金貨四枚! こいつとさっきの盾を交換してくれ!」

「あ、あぁ……。ま、まぁ落ち着きなよ! 確かにこいつは貴重なモンだが……」

「100ゴールドって言ってただろ? どう見てもこの金貨の価値はそれ以上だがまだ不満があるのか?」

「い、いやぁ……そういうわけじゃねぇんだが……その……ついさっき売れちまって」

「……なに?」

言い難そうに頬を掻くオヤジの視線を追っていくと、そこには一人の青年の後姿が。

「あいつは……」

思わず呟くと、オヤジは溜息に似た声で頷いた。

「『シナム』って言やぁお前さんも聞いたことがあるだろう? そいつに一足早く持ってかれちまったんだよ。
 俺も先客がいるとは言ったんだが、何せ強引でなぁ。逆らってもいいことねぇしよ、ああいう輩には」

「……妙だな」

「ああ、今日は本当に妙な日だぜ。あんな拾いモンのボロボロの盾を買うって物好きが二人もいるなんてよ」

「いや、そういう事じゃなくてだな。
 ……まぁいい。盾の代わりにこいつを持ってくぜ。金貨を持っててもこのダンジョンじゃ使い道がなさそうなんでね」

「あ、それ……」

一瞬、戸惑うような表情を浮かべるオヤジを一瞥し、クロムは遠のいていくシナムの背中を改めて見やる。
0182クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/12/06(日) 23:25:03.65ID:zIEH7YTx
……何も知らずに買った、とは思えない。
何も知らなかったにしても、わざわざ見た目がボロボロの盾を買う合理的な理由がない。
つまり……恐らくこれは確信犯。
彼は知っていたのだ。盾の正体を。盾が呪われているということを。それを承知の上で敢えて買ったのだ。
しかし何故だ? 呪いの装備品は“人間”にコントロールできるシロモノではない筈だが……。

「……マーマンの一体が首飾りにしてやがった。これで扉が開かなきゃ、もう一度潜るしかないな」

クロムは水から上がってきたレインに回収した鍵を投げつけ、続いて『ビキニアーマー』をマグリットに投げつける。

「そいつは古代金貨と同じ価値がある高級品だが、女しか身に付けられないそうだからお前にやるよ」

無論、これは彼なりの冗談である。
しかし言いながらふとエイリークから聞いた話を思い出していた彼の顔には、冗談を言う雰囲気ではない神妙な色が滲んでいた。

『初心者狩りの三人は、全員がレベルの高い実力者』

(実力者……といっても、どうも“ただ”の実力者ではなさそうだ……)

【鍵と財宝の一部を回収して水上へ。鍵をレインに、金貨の代わりに得た装備品をマグリットに渡す】
【呪われた盾はシナムが購入。どうもただの実力者ではなさそうだとクロムは見るが……】
【マーマンとの戦闘で脇腹を負傷するが、軽症】
0183なh垢版2020/12/07(月) 05:15:18.33ID:j8gf8ckG
しかし水中8000マンメートルである。
流石のクロムもペシャンコに圧壊してしまう。
0184マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/12/12(土) 20:48:16.68ID:13lZfQK1
ランペイジシャークを一体撃退
倒さずとも血を流させれば血の匂いに引かれ、サメ同士の同士討ちが始まると踏んでいたのだがそうはいかなかった
遠巻きにしているマーマンが統率をしているのかも?という疑念は後から入水してきたレインの行動により確信に変わる

マーマンに攻撃の矛先が向かうと即座にランペイジシャークの隊列は標的を変えレインに殺到するのだから
人間とは本来陸上性の生き物であり、水中においてはその機能を著しく低下させる
むろん運動性能や戦闘力の低下は言うまでもなく、五匹の突進を受けるという事は絶体絶命を意味する

慌てて助けに入ろうとするも、貝の獣人の悲しさか
水中での呼吸に不便はないし、運動機能も人間よりは機能するが、鉄の肌を持つが故の重さの為に浮上という点においては機動力を大きく落とす
間に合わずただ見守るしかできなかったのだが、だからこそレインのその動きをマグリットはしっかり見る事ができた

水中においても見事な体捌きでサメたちの同時攻撃を躱し、なおかつうち二匹にカウンターを叩き込んだのだから
思わず戦いの中である事を忘れて歓声を上げてしまうのだが、そこにクロムの声が届く

>「怪しげな鍵を手に入れた! とりあえず脱出するぞ! レインにも伝えろ!」
「……!わかりましたってええ!?」

声の方向を向くとクロムが腹から血を流し、更に瀕死のマーマンの水魔法が発動する直前であった
急いで助けに入ろうにもクロムとの距離は開いており、それ以上に魔法の発動の時間は絶望的に短い
手を伸ばすだけで何もできないままクロムは水魔法に押し流されていく
もちろんこれはクロムの周到に計算された「狙い通り」ではあるが、それを見守るしかできなかったマグリットの心情は穏やかではない

貝の獣人として、水中戦においては一歩先んじるつもりであったのだが、レインの助けにもクロムの守りもなれなかった不甲斐なさに歯ぎしりをしながら海底の貝殻シェルターへと降り立つ

「レインさん、クロムさんが鍵を見つけたようです。
これから浮上させますのでじっとしていてくださいね!」

そういうや否や巨大な巻貝を中身のレインごと持ち上げ、咆哮と共に海面に向かって投げ放った
その勢いはすさまじく、一気に海面を飛び出しそのまま橋に打ち上げられた

「みなさん、鍵は見つかったようです
援護しますので浮上したい方はこの機に脱出してください!」

海中にマグリットの声がこだまし、それと共に次々に巻貝が海底から射出される
貝殻シェルターに隠れていた冒険者や、射出の勢いにサメが寄ってこないのを見て次々に陸へと上がっていく冒険者たち

全ての貝殻を投げ終わり、あらかたの冒険者がいなくなったのを見てマグリットも海底を蹴り、ジェット推進も使い海面へと向かう
のだが……海中にほとんどの冒険者がいなくなったことで狙われる確率も高くなる
海面近くになったところでランペイジシャークがマグリットの足に喰らいついた
その鋭い牙は鉄の肌を突き破り、血を噴出させそのまま引きずり回し始めるのであった
サメの回遊速度は速く、足を咥えられた状態では体勢を整える事も難しく反撃ができずに引き回されるだけであった
0185マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/12/12(土) 20:54:03.85ID:13lZfQK1
暫くして海面にはどす黒いシミが広がり、サメが腹を見せて浮かび上がった

「ふぅ、私に噛みつき攻撃とは自殺行為ですよ」

サメの腹を足場にして海上に姿を現し橋へとよじ登った
貝は生体ろ過装置ともいわれるように毒素を吸収し浄化する能力がある
しかし吸収された毒は分解浄化されるわけではなく、体内に蓄積され貝毒となりその肌を染めていく
マグリットの肌が褐色なのはそれだけ毒を蓄積している事を表しているのだから
噛みつきその血を飲むという事は、そのまま服毒行為となるのだ

橋に上がっるとクロムから何やら投げつけられ反射的にそれを受け取り見てみると、ビキニアーマーがその手の中にあった

>「そいつは古代金貨と同じ価値がある高級品だが、女しか身に付けられないそうだからお前にやるよ」

「も、もう、嫌ですよぅ。私なんかにこんなの似合う訳ないのに
まあ、お気持ちとして頂いておきますが、それより水魔法をまともに食らっていましたね?
平気そうな顔していますけど、っちゃんと見てましたよ
お腹も銛に刺されているようですし、直ぐ治療しますから大人しくしてください!」

顔を赤らめながらビキニアーマーを懐にしまい込み、クロムの腹に手をかざし祈りを捧げ始める
それほど信仰心の高くなりマグリットの回復魔法がこの呪われた島でどれだけの効果を発揮するかは不明であったがそれでもやらずにはいられない

いつもならば淡く光傷を癒していくのだが、マグリットの手からは眩いばかりの光が満ち溢れ、急速にクロムの傷を癒していく
それどころではなく、マグリットの負傷した足も見る見るうちに傷がふさがり完全回復したのだ
マグリットの回復魔法ではありえない回復力だが、その原因は一目瞭然、いや、一聴万解
それは周囲に響く清らかな歌声にあった

「これが……噂に名高いカリヨンベル(大聖堂の鐘)ですか……!」

歌声の主は聖歌のマリアである
歌声の届く範囲の呪いを払い、加護を与えるその効果を身を持って体験したのだった

「あなたたちの戦いは見させてもらいました。勇敢なる者たちへ祝福を」

歌だけでなく流れる言葉も涼やかなマリアにマグリットは橋に投げ上げられた巻貝を一つ差し出した

「ありがとうございます
教会に身を置くものとしてあなたの御高名はよく聞いておりました
この探索が終わったら一度ゆっくりとお話させてください
とりあえずこちらはお礼という事で」

巻貝をひっくり返すと中から古代の金貨や宝石がボロボロと零れ落ちる
マグリットが財宝周りに巻貝を生成し設置していたのはもちろんシェルターにするためではあるが、それ以外の目的も担っていたという事なのだ

「まあ、私たちは冒険者ですし、意地も信仰も目的も先立つものがあってこそという事ですよ」

そう笑いながらレインにウインクをする
レインは知っていただろう、貝殻シェルターに潜り込んだ際にその奥に財宝を掻き込まれていた事を
そしてその状態で投げつけられたのだから多少痛い目に遭っていたかもしれないが、活動資金の確保という事で
十個近く打ち上げられた巻貝からの回収作業が始まるのだった

【巻貝事レインを海上に投げ上げる】
【他冒険者の浮上を援護しサメに噛みつかれるも毒血により撃退】
【橋の上で聖歌のマリアの歌により回復】
【投げ上げた巻貝の中に財宝を掻き入れていたのを回収】
0186創る名無しに見る名無し垢版2020/12/13(日) 01:52:27.59ID:tek8ROsl
「あっしまった。宝石を持ってくるのを忘れてしまった。」
マルグリットは再び海底へと引き返す。
0188レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/12/18(金) 00:50:53.75ID:ut/lMwS3
逃げ込んだ貝のシェルターにはいくつもの煌びやかな財宝が眠っていた。
どこかのタイミングでマグリットが忍ばせていたのだろう――。
真珠の装飾品をはじめとするお宝の数々はまさに宝石箱や。

>「レインさん、クロムさんが鍵を見つけたようです。
>これから浮上させますのでじっとしていてくださいね!」

「むぐぐ!」

マグリットの声が響くや、もの凄い勢いで投擲される。
結果として水道橋にごろんと横たわるレイン・イン・貝シェルターなのだった。
命からがら、貝殻から這い出てくると潜水服を脱ぎ捨てた。

「はぁ、良い水中戦の特訓になったよ……そっちはどうだった?」

>「……マーマンの一体が首飾りにしてやがった。これで扉が開かなきゃ、もう一度潜るしかないな」

投げつけられた鍵をキャッチして、鈍く光るそれを眺めるレイン。
クロムは続けてビキニアーマーをマグリットに投げつける。

>「そいつは古代金貨と同じ価値がある高級品だが、女しか身に付けられないそうだからお前にやるよ」

冗談を言うだけの余力はあるものの、それに反してクロムは負傷していた。
とはいえ、マグリットの回復魔法に頼る訳にはいかないだろう。
忘れそうになるがこの島では『呪い』で魔法が使えない。
正確には魔法を使うと呪いが発動して魔法を封じ、魔力を吸われていく。

レインも今は"聖歌の"アリアの力で解けているものの、呪いに罹っている身だった。
それでも今一度魔法を使えば即座に呪いが発動することだろう。

なればと気を利かせて懐から薬草を取り出したが、水に濡れたのかびっちゃびちゃだ。
レインはそれを少し眺めて、無言で懐にしまいこんでいると、水道橋に歌声が響いた。
その清らかな響きはレインが聴いた『浄解の聖歌(ピュリフィアンセム)』と同じ声。
異なっている点はその曲調だ。

>「も、もう、嫌ですよぅ。私なんかにこんなの似合う訳ないのに
>まあ、お気持ちとして頂いておきますが、それより水魔法をまともに食らっていましたね?
>平気そうな顔していますけど、っちゃんと見てましたよ
>お腹も銛に刺されているようですし、直ぐ治療しますから大人しくしてください!」

その歌が発揮する効き目を理解しているのか、マグリットは迷わず回復魔法を行使。
クロムの負傷がみるみる回復していく――いつも以上の回復速度。
0189レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/12/18(金) 00:52:45.41ID:ut/lMwS3
その原因は、水道橋に響く歌声にあるのだろう。
やがて歌が終わると、その主は透き通るような声で言った。

>「あなたたちの戦いは見させてもらいました。勇敢なる者たちへ祝福を」

冒険者の一人、"聖歌の"アリアである。
彼女の『聖歌』は、魔法を封じる空間でも遺憾なく効果を発揮する。
なぜならこれは魔法ではなく、彼女が生まれつき持つ『特技』なのだ。
光の波動に由来するこの力はまさしく勇者顔負け、天賦の才である。

>「ありがとうございます
>教会に身を置くものとしてあなたの御高名はよく聞いておりました
>この探索が終わったら一度ゆっくりとお話させてください
>とりあえずこちらはお礼という事で」

マグリットは打ち上げられた巻貝のひとつをアリアに差し出した。
レインはもう見ているので驚くこともないが、中身は海中の財宝だ。

>「まあ、私たちは冒険者ですし、意地も信仰も目的も先立つものがあってこそという事ですよ」

アリアはおずおずとそれを受け取ると、十字架の首飾りを握って微笑んだ。

「こちらこそ、なんとお礼を言えばいいか……。
 私でよろしければ後でお話致しましょう」

十個近い巻貝から財宝の回収を終えるとさっそく扉へ向かった。
全部集めると結構な量になるので、レインが持ち運ぶ係を申し出た。
リーダー(ざつようがかり)として自分の役目だと思ったからだ。
道具袋がパンパンである。

「まるで成金だよ。他の冒険者の目が怖いくらいだ……。
 この稼業は金に縁があっても奪われる可能性があるからなぁ……。
 盗賊とか、初心者狩りとか。疲弊した隙を突かれたりしてね」

レインはこう言いたいのだ。例えボスを倒したとしても、無事に帰るまでが冒険だ。
最後の最後まで何がどう転ぶかは分からない。誰と戦うかも含めて、だ。

「ほう、本当に鍵を見つけ出したのか。勇者は仲間に恵まれとるようじゃのう。
 ……くれぐれも追い越されないように気をつけることじゃ。儂とか、儂とかにのう」

壁画の前で未だ解読を続けていた"斧砕きの"ドルヴェイクがそう冗談を言った。
さて、扉に鍵をさすと、がちゃり、という大仰な音が響いて扉が開き始める。
――クロムが見つけた鍵はまさしく扉の鍵だったようだ。最深部への道が開かれる。
0190レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/12/18(金) 00:54:41.16ID:ut/lMwS3
遺跡の最深部探索はまさしく迷宮に等しく、同じような道をひたすら潜ることになった。
どこもかしこも呪いで吸った魔力の流れ道が通っており、三人はここが終点なのだと悟った。

そして辿り着いた場所――それは水槽のように巨大な空間。
レイン達は外周部の縁に立っており、うっかり足を滑らせると水槽内に落っこちそうだ。
水槽は吸った魔力を大量に含んだ海水で満たされていて、ぼんやりと翡翠に輝いている。

貝の獣人が儀式に使っていた空間は島の中枢付近に存在していたが、ここはまさしく中枢だ。
それを示すように水槽の中には、この島のボスにして人魚の主たる魔族、ダゴンがいた。

「大きい……!何メートルあるんだ……!?」

アメトリンキマイラが五メートル程だったが、ダゴンの全長はその三倍くらいある。
重力に支配されない海という領域が、かの魔族をそこまで巨大化させるに至ったのだろうか?
侵入者に気づいたダゴンは眠りから目を覚ますと、その鋭い目でレイン、クロム、マグリットを睨む。
そして水槽から半身を露出させると、威厳ある深みをもった声でこう喋った。

「侵入者か……ここまで来て、よもや生きて帰れるとは思うまいな?
 ようやく封印から解き放たれたのだ……失われた時間を取り戻す邪魔は許さん。
 全ての海は我のもの!その海に漂う船も、財宝も、また我のものだ!」

魔物のマーマンよりも高度な知能をもつ魔族・ダゴンは人語も解するらしい。
これほどまでに強欲な魔物だ。サマリアの領海で魔物に荒らさせていたのはダゴンだろう。
背負っていた銛を抜き放って、臨戦態勢に入るレイン。
冒険者とダンジョンのボスが出会えばこうなるのは最早必然である。

「誰が封印を解いたのかは知らないが……大人しくしないなら、倒すまでッ!」

ダゴンは何かに気付いたらしく、頬を撫でながら面白そうに呟いた。

「ほぉ、貴様が"召喚の勇者"か……聞いた通り、これほども光の波動を感じぬわ。
 ラングミュア様もおかしなことを言うものだ……借りは返さねばな。貴様を殺すなど造作もない!」

再び水槽内に潜ると、ダゴンは背中に生えた海竜の如き触手をレイン達へ放った。
太くしなる鞭のようなそれは水の波動を纏って、三人を纏めて薙ぎ払うように迫る。

「仲間のことも知っているぞ……特に貝の獣人!
 我が封印されている間、この島で好き勝手してくれたな!
 一族もろとも滅ぼしてくれようぞ!覚悟するがいい……!!」


【島の中枢に一番手で到着。ダゴン(中ボス)と戦闘開始】
【水槽内に逃げつつ水の波動を纏った触手で全員に薙ぎ払い攻撃】
【余談ですが水槽内の水に浸かったり飲むと魔力が回復します】
【なので実質的にダゴンの魔力は無尽蔵ということになります】
0192クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/12/31(木) 00:42:54.93ID:Ek7K2cbu
傷口に手を翳し祈りを捧げ始めるマグリット。
祈りは、回復魔法を発動させる為の重要な儀式であって、本来ならばその厚意は黙って受け取っておくべきところだが、今回は事情が異なる。
魔法を封じられた呪いの島にあって、しかも当のクロムは魔法効果を半減させる衣に身を包んでいるからだ。

「薬草で何とかなる。お前は魔力を温存して……」

魔力を無駄に消費させ、それが後々パーティの行動にも影響を与えかねないとすれば、黙っている訳にはいかない。
クロムは彼女の行為を止めさせようと口を開く。

「……な」

が、言い終えるより先に、クロムは押し黙ることになる。
傷口が瞬く間に全快してしまい唖然とする他はなかったのである。
この理解を超えた光景を現出させた“タネ”をクロムが理解するまで、しばしの時間が必要であった。

>「これが……噂に名高いカリヨンベル(大聖堂の鐘)ですか……!」

ややあって二人の前に現れた人物は、マグリットに感嘆の声を上げさせた。
“聖歌のアリア”──。
どうやら彼女はその歌声だけで、クロムの、そしてマグリットの負傷を、同時にかつ高速で治してしまったらしい。

(そうか……彼女の歌声はあくまで特技。
 高位の回復魔法に匹敵する力も魔法でなければこの島の呪いも衣の呪いも無視できる……こいつは利用できそうだな)

マグリットがお礼と称して橋に打ち上げた巻貝の一つをアリアに差し出し、残りをレインが回収していく。
中身を直接確認したわけではないが、巻貝の穴から零れ出る輝きを見て、クロムには何となく想像がついていた。
だから思わず苦笑いを浮かべる。

「ったく、俺はほとんど落としちまったのに、抜け目のなさ《強欲さ》じゃ一枚上手が居たってわけか」

────。

鍵を開け、魔力の流れを追って更に奥へと進み、やがて辿り着いた最深部。
そこは巨大な化物人魚《ダゴン》が浸かる巨大な水槽が設けられた空間であった。
水槽を満たす液体からは潮の香りがするものの、見た目にはぼんやりとした輝きを放っており明らかに海水とは別物と化している。

ここが魔力の流れの終着地点という事を考えると、輝きの正体は魔力と見て間違いない。
ならばダゴンが浸かる液体は魔力回復の効果を持つアイテム『魔法水』と同じということになるだろう。
0193クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/12/31(木) 00:48:52.25ID:Ek7K2cbu
>「侵入者か……ここまで来て、よもや生きて帰れるとは思うまいな?
> ようやく封印から解き放たれたのだ……失われた時間を取り戻す邪魔は許さん。
> 全ての海は我のもの!その海に漂う船も、財宝も、また我のものだ!」

(しかし……見た感じ相当高濃度の魔力で“汚染”されてやがるな、この水は。
 人間が長時間浸かれば廃人と化す危険もある……こいつは迂闊に飛び込まねー方が良さそうだが……)

鯉口を切り、柄に手を掛けながら、クロムは左右に目を配り思考を加速させる。
リーチの長さでは圧倒的に有利な敵に対し、できるだけ水には触れず、どうやって致命のダメージを負わせたものかと。
だが、ここは無慈悲な戦場。敵も都合よく待ってはくれない。
プランをまとめるより先に、かつてのタコと同様の触手攻撃が繰り出されたのだ。
もっとも、そのスピードは明らかに桁違いだが。

「チッ──ボスの癖してサービス悪ぃな! こっちがいいよと言うまで待ちやがれ!」

それでもクロムはそれ以上のスピードをもって右手でレインを、左手でマグリットを掴んで空中にジャンプ。
紙一重の差で触手を避けてみせる。
勿論、二人の経験と実力があれば、別に助けを必要としなかったかもしれないことはクロム自身承知の上である。
彼は二人を敢えて伴うことで、とにかく大雑把でも当面の方針だけでも共有する時間を作りたかったのである。

「時間がねーから簡潔に言うぜ。
 あのデカブツを倒す──とまでは流石に行かねぇだろうが、とりあえず大ダメージを与える方法だけは思いついた!
 いいか、まずは何とかしてあの野郎の顔面を水の中から引きずり出してくれ! 方法はお前らに任せ────くそ!」

視界の端で捉えた巨大な影は、クロムに掴んでいた両手を離させ、更に自由となった二人の体に蹴りを入れさせた。
何故なら巨大な影は別方向から迫り来るもう一つの触手。
蹴られたことで二人の体は地面に向けて急降下し、逆に蹴ったことで推進力を得たクロムの体は更に上へと加速する。
これは三人が一纏めに薙ぎ払われる最悪の事態を防ぎつつ、三人とも攻撃軌道から外れて無傷で切り抜けることを企図したクロムの最善策。

「──がっ!!?」

しかし、如何に機転を利かせた最善策を捻り出したとしても、事前の見積もりが甘ければ最善にはなり得ない。
落下した二人は紙一重で攻撃軌道から脱したが、クロムは脱しきれずに触手に弾かれ凄まじい勢いで壁に叩きつけられたのだ。
減り込んだ壁の中で、あたかも体内で地震が発生し内臓が悉く裏返ってしまったかのような強烈な吐き気を覚えたクロムは、盛大に胃液を逆流させる。

(くそっ……馬鹿力め! 骨が全部砕けたかと思ったぜ……!)

口の中が切れているわけでもないのに、吐き出した胃液に鮮血が混じっているのは体内がダメージを負った証拠だ。
それでも意識がしっかりあり、尚も体を動かすのに不自由がないということは、まだ危機的状況にはないという事でもある。
戦闘は続行可能──だが今は動かない。

本体は視界の悪い水の中。
更に触手もでかいだけあって壁に減り込んだ小さい人間を流石にどうこうできるほどの器用さはないらしい。
皮肉なものだが、強烈な攻撃を喰らったことで現在のクロムの体はちょっとした安全地帯に在るのだ。

位置的にも水槽を見下ろせる場所であり、敵もレイン達の動きも把握しやすい。
動くのは二人が敵の顔面を水の上に引きずり出したその時。
──薬草でダメージの回復を図りながら、今はその時を待つのが賢明なのだ。

「早くその間抜けヅラを出してきやがれ。触手のお返しに強烈な一発をくれてやるぜ……!」

【触手の一撃目を躱すが、二撃目を躱せずに直撃を許し壁に叩きつけられる】
【大ダメージを与える策があるらしく、レインとクロムにダゴンの顔面を水の中から引きずり出すことを依頼】
0194マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/10(日) 20:14:11.80ID:du8/KhY5
漸く辿り着いた島の中枢
そこにはほの暗く光る水を称えた巨大な水槽、いや、この巨大さはもはや巨大なプールと言っていいのではないだろうか?
数十メートルにも及ぶ水槽の縁に立ち水に手を入れるとわかる
それが濃厚な魔力を含んでいる事を

「これが……この島の呪いの源、なのでしょうね
どれだけの期間魔力を吸い続ければこの濃度になるというのでしょか
魔力を回復させるでしょうが、人の身では魔素中毒になりかねません」

三人についてきた他の冒険者たちが喜び、飲もうとするのを牽制するように言葉を発するマグリット
そしてもちろん、ただ単に濃厚な魔力を含んだ水を称えるためにこれ程巨大な水槽があるわけでもなく
水面が大きく盛り上がり、そこから出てきたのは扉に描かれていた巨大な魔物、ダゴンであった

>「ほぉ、貴様が"召喚の勇者"か……聞いた通り、これほども光の波動を感じぬわ。
> ラングミュア様もおかしなことを言うものだ……借りは返さねばな。貴様を殺すなど造作もない!」

水面から出ている部分だけでも10メートルを超えているであろう
両脇に突き出る巨大な触手も相まってかそれ以上に大きく見える
実際に水面下にどれだけの大きさが沈んでいるか分かったものではない巨大なダゴンが睥睨しながら言葉を紡ぐ

「……レインさん、名指しされていますよ、知らぬところで有名になっているようですね
それにしてもラングミュア【様】ですか、それって……」

ダゴンの言葉を分析しながら、レインなどこかしらで抹殺指令を受けるほどになっていた
これ程の魔物の眠りを覚まし、抹殺指令を出せるほど高位の魔物が絡んでいる
となれば、心当たりで言えばやはり魔王軍、猛炎獅子との戦いくらいしかない
ただの海域の魔物討伐が魔王軍に繋がっているとは、やはりレインは何かしらの定めを持っていると再確認するマグリットであった

>「仲間のことも知っているぞ……特に貝の獣人!

「あ、あら?私も名指し?しかも一族ごと!?
お怒りは尤もで、利用させてもらった事についてはお礼を言いたいところですが、お互いの立場の違いもありますのでね
恩を仇で返さざる得ないですがお許しください」

煽るつもりはないのだが、結果としてダゴンの怒りを燃え上がらせてしまったのであろう
巨大な触手が三人まとめて薙ぎ払わんと振るわれる

単純な質量としても、纏った水の気にしても流石にこれを受けるわけにはいかず、飛び退いて回避しようとするもそれより早く情報に引っ張られた
隣を見ると同じく引っ張られるレイン
下方はすさまじい勢いで先ほどまでいた場所を薙ぎ払う巨大な触手
そして上には二人を引っ張り上げ跳躍するクロムがいた

>「時間がねーから簡潔に言うぜ。
> あのデカブツを倒す──とまでは流石に行かねぇだろうが、とりあえず大ダメージを与える方法だけは思いついた!
> いいか、まずは何とかしてあの野郎の顔面を水の中から引きずり出してくれ! 方法はお前らに任せ────くそ!」

「了解です」と答える前に今度はクロムによって下に蹴り飛ばされた
第二の触手が追撃を繰り出し、そこから二人を逃がすために緊急回避させたのだ
だが当のクロムは躱しきれず、吹きとばされて壁に叩きつけられたのが見えた
0195マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/10(日) 20:16:25.52ID:du8/KhY5
「……っ!ク、クロムさん大丈夫、ですよね?」

隣に着地したレインに言葉と目で訴えかける
大丈夫、と言ってほしくて
動揺の隠しきれないマグリットだが、それでも何とか為すべき事に一歩踏み出す

「さ、幸いな事にレインさんは抹殺指令出されていますし、私は個人的に恨まれているようですし、囮にはもってこいですね!
顔を出させるためには触手じゃ埒が明かないと思わせること、水面で届きそうな場所で攻撃を誘う事がよろしいかと
私が足場を作るので、レインさん、お願いできますか?」

そういうマグリットの両前腕部から幾重にも重なった巨大な二枚貝の貝殻が創出される
それは盾であるが水面に浮かべれば足場となり、投げれば空中の足場となるだろう
レインの舞踊槍術の身のこなしであれば、浮いたり投げられたりする貝殻を足場にしても落ちることなく立ち回る事ができるであろうという目論みだった

数枚の貝殻を各所の水面に設置し、レインの動きに合わせて次なる足場となるように投げつけるのであった

しかしそんな無防備な状態をそのまま見逃すわけもなく、巨大な触手が打ち付けられる
迎撃するマグリットのシャコガイハンマーだが、触手はいわば軟体
打撃の衝撃波拡散されうち払うのは至難、ではあったが、触手はそのまま弾かれ飛んでいった
撃ち返したマグリット自身も驚いたのだが、その原因はすぐに分かった

「まだまだ詰めが甘いの
鍵を開けてもらった分くらいの借りは返してやるぞ」

マグリットの傍らに煌めく斧をふるう斧砕きドルヴェイクがいたのだから
中央部分で触手は斬り払われており、切り離された先端部分だけだったからはじき返すことができたのだった

「ドワーフさん!ありがとうございます!
これでレインさんの援護に集中できます!」

安全確保ができたところで、レインの動きに合わせ、足場となる貝殻を供給するために投げ続けるのであった

【レインに水槽水面上での囮役を依頼】
【レインの足場となる貝殻供給】
【ドルヴェイクが触手を一本切断】

『あけましておめでとうございます。遅ればせながら投下です。今年もよろしくね』
0196レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/11(月) 19:38:26.64ID:2o8Vq8uL
放たれた大振りの薙ぎ払い攻撃がパーティーを蹂躙せんと迫る。
あわや命中かと思われたそのとき、クロムに掴まれ大跳躍。触手の一撃目を回避する。

>「時間がねーから簡潔に言うぜ。
> あのデカブツを倒す──とまでは流石に行かねぇだろうが、とりあえず大ダメージを与える方法だけは思いついた!
> いいか、まずは何とかしてあの野郎の顔面を水の中から引きずり出してくれ! 方法はお前らに任せ────くそ!」

だが、二本目の触手による攻撃が続けざまに放たれた。
クロムはマグリットとレインに蹴りを入れて攻撃の射程外へと脱出させる。
上手く水槽の縁に着地すると、レインの目に飛び込んだのは壁面に叩きつけられたクロムの姿だった。

>「……っ!ク、クロムさん大丈夫、ですよね?」

同じく着地したマグリットが動揺した様子でそう言った。
気を落ち着かせるように、レインは努めて冷静に言葉を切り返す。

「大丈夫。クロムはこの程度で死なないさ。俺達は俺達の役割を果たそう」

むしろ、攻撃を食らい壁面にめりこんだおかげで追撃の心配もない。
後ろを気にせず戦えるというものだ。

>「さ、幸いな事にレインさんは抹殺指令出されていますし、私は個人的に恨まれているようですし、囮にはもってこいですね!
>顔を出させるためには触手じゃ埒が明かないと思わせること、水面で届きそうな場所で攻撃を誘う事がよろしいかと
>私が足場を作るので、レインさん、お願いできますか?」

「よしきた、それでいこう!必ず奴を引きずり出してみせるよ」

敵の目下の標的は自分とマグリット。ならば彼女の作戦に乗らない手はない。
マグリットが創った貝が水面に設置されると、レインはそれに飛び移って触手を撹乱しはじめた。

海竜の触手は巨大ゆえに当たれば大ダメージは免れないだろう。
……が、そのでかさが仇となって動きは読みやすい。
水の波動を纏っていることもあり、魔力の動きも手に取るように分かる。

だが、触手は二本。貝を水面に投げ込むマグリットを潰す攻撃もまた容易。
触手の片割れは標的をマグリットに定め、ごう、と勢いよく迫る。

「マグリット、だいじょ――」

レインが言葉を言い終えるより早く触手は迎撃された。
なんと入り口から小男が颯爽と躍り出て、斧で触手をぶった切ったのだ。
0197レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/11(月) 19:41:23.51ID:2o8Vq8uL
小男の顔には見覚えがあった。
そう、あのどこか優しい顔立ちをした髭面の男は――。

「……"斧砕きの"ドルヴェイクさん!」

>「まだまだ詰めが甘いの
>鍵を開けてもらった分くらいの借りは返してやるぞ」

二番手に到着したドルヴェイクが戦闘中と見るや助太刀に参戦してくれたのだ。
しかし、あれほど太い触手を両断してしまうとは。異名に違わぬ豪腕の持ち主だ。

残る触手は一本だけだ――と思った矢先、触手の先端にある海竜の口が開く。
そして、その口部から巨大な水弾を発射した。放たれたのは中位水魔法『アクアカノン』。
下位魔法『アクアショット』の上位互換に当たる魔法である。

「うおわっ……攻撃パターンが変わった!?」

考えてみれば敵は魔力が回復するのだから、魔法に糸目をつける必要はない。
が、レインも飛び石のように貝から貝へと移って水の砲弾を避けていく。
隙を見て肉薄すると、海竜の口に思い切り銛を突き刺した。
下顎まで突き抜けた銛は、返しがついているので容易には外せない。

一撃で触手を両断するような膂力は純人間のレインにはない。
だが、これで水弾を封じ、ほどほどにダゴンをイラつかせられたはずだ。
触手をブン回したくらいでは自分に当たらないこともそろそろ理解しているだろう。

苦しむように藻掻きのたうつ触手を見届けて後方の貝へと飛び移る。
すると水槽内のダゴンは怒りを滾らせた鋭い形相で徐々に水面へと近づいてきた。

「触手なんかじゃ俺達は倒せない。さあ来い……!」

ダゴンの巨体がレインの足元に浮かび上がる。
遂にその顔を、人魚を統べる魔族の姿を水槽から露出させるに至る。
猛烈な勢いのあまり、魔力を含んだ水面は大きく揺れ、軽い津波となって襲った。
0198レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/11(月) 19:45:48.71ID:2o8Vq8uL
翡翠に輝くそれは魔力濃度の高すぎる魔法水だ。
浴びるのはもちろんうっかり飲んでしまえば碌なことにならない。
慌てて水槽の縁目指して跳躍。その直後――。

「う、うおわ――――」

ダゴンは水面を大きく持ち上げると更に津波を生み出し、
水面を飛び回っていたレインと、水槽の縁にいるマグリットとドルヴェイクを攻撃した。
この攻撃の影響を唯一受けなかったのは、壁にめりこんでいたクロムだけであろう。
何せあの巨体だ。魔法ですらない『ただの動作』がイコール攻撃に繋がるのだ。

もみくちゃに押し流され、壁面に強かに身体を打ちつける。
高濃度の魔法水をモロに浴びたレインは魔力の回復と毒に酷似したダメージを同時に受けた。
急速に身体が痺れ、動きが鈍るのを感じる。この状態では舞踊槍術もまともに使えないだろう。

「ぐっ……しまった……こんな単純な手を食らうとは……。
 でも厄介な一手だ、魔素中毒は毒消し草じゃ治せないからね……」

ぐっしょりした姿で剣を杖代わりに立ち上がる。
一方ドルヴェイクは斧をその場に突き刺し、腕力で無理矢理縁に踏みとどまったらしい。
また、ダゴン対策なのか雨合羽を着ていたので水槽内の魔法水を浴びずに済んだようだ。
さすが壁画の解読を行っていただけのことはある。

「大丈夫か?無理に動かぬ方がよいぞ。魔法水が身体に回る」

ドルヴェイクの肩を借りて、こちらを睨むダゴンをきっと見据える。
中毒で震える手で剣を握り直すが、あまり力が入らない。

「舐めた真似をしてくれたな!我が本気を出せば貴様など取るに足らんわ!」

標的を"召喚の勇者"に定めたダゴンは、口をがぱっと開いて魔力を口部に溜めていく。
何の水魔法を発射するかは知らないが無防備な今食らえばただではすまない。


【ダゴンの顔が水面から露出】
【口を開きレイン目掛けて水魔法を発射する3秒前】
0199クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/01/17(日) 19:48:34.30ID:3GCMCGBW
マグリットがせっせと貝殻《足場》を作り出し、レインがその上を縦横無尽に跳び回る。
そのコンビネーションの前には水中から操作される触手の動きは余りにも大雑把であり、虚しく空振りを繰り返すのみだ。
巧みにタイミングを変えてレインの虚を衝いても、他の冒険者の加勢が直撃を許さない。

その様子を黙って見下ろしていたクロムは、不意にしゃん、と剣を抜く。
ダゴンが痺れを切らして本体による近接攻撃に戦法を切り替えるとすれば、今がその時と踏んだからだ。

>「う、うおわ――――」

そして、その読みは正に次の瞬間に的中する。
レインの挑発に釣られる形でダゴンがその頭部を水面から露出させたのだ。
ダゴンは眼前のレインを睨みつける。それは裏を返せば、クロムは敵の視界からは完全に外れている事を意味する。
ならば躊躇する理由はどこにもない。

クロムはダゴンの頭部目掛けて思いきり壁を蹴り、空間を駆けた。

「──小賢しいわ、馬鹿《ハエ》が」

だが、直後にレインに向けられていたダゴンの顔面が、くるりと向きを変える。

「──触手《海竜》のセンサー《器官》か!」

思わず舌打ちしたのはマグリットでも他の冒険者でもなく、クロムであった。
ダゴンの双眸が向いた先が他でもない自分だったからである。
見れば、いつの間にかダゴンの死角の水面から触手が顔を出して、辺りを伺っているではないか。
つまり動きを把握し、次の行動を読んでいたのはクロムだけではなく、ダゴンもだったのである。

「我に死角など初めからありはせんのだ! さぁ、まずは貴様からその体を四散させてくれよう!」

がぱぁ、と開けられるダゴンの口。
中では魔法の術式が浮かび、青白い光を放つ魔力が蓄積されていた。
空気を伝って肌を泡立たせる程の波動は間違いなく上位の魔法のそれだ。
『反魔の装束』は魔法を殺す効果があるが、上位の魔法となれば無効化は不可能。喰らえば当然ダメージを負う。

(予定が狂っちまった──が、しゃーねー!)

クロムは手にした剣で空を一閃。
勿論、未だダゴンは剣の間合いには入っていないのだから、これはダゴンを直接斬り付けようと意図したものではない。
これは弾いたのだ。
水面が盛り上がり、一時的な津波が起きたことで空中に放り出されていた貝殻《足場》を。
たまたま彼の近くに浮いていたその一つを、ダゴンに向けて。

「ぬぅっ!?」

弾かれた貝殻に目を射抜かれ、一瞬だが動揺の間を作り出すダゴン。
それは魔法を発射させるタイミングを僅かだが先延ばしさせたことを意味していた。

そして、クロムにはその僅かな“間”さえあれば、それで充分であった。

事前に左耳から外し、手に持っていた“黒髑髏《バクダン》”──。
それをダゴンの口内目掛けて投げつけ、起爆のキーワードを唱えるには、充分な時間であったのだ。

「爆ぜろ────……もっとも、また俺まで爆ぜち《巻き込まれち》まいそうだがな」

舞空の魔法でも使えない限り、他に足場のない空中では肉体の移動先を変更することはできない。
だからクロムは腕を前でクロスさせて、かつて身をもって知ったその衝撃に備える。
0200クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/01/17(日) 19:50:43.98ID:3GCMCGBW
 
 
──走る閃光、轟く爆音、撒き散らされる灼熱──。


それに伴い発生した凶悪な衝撃波が戦場を覆い、あらゆるものにその威力を叩きつける。
気が付けばクロムは再び壁に激突し、その身を減り込ませていた。

「また振り出しに戻るってか……! 何度喰らっても強烈だぜ、こいつは……!」

衣を通して肉体に刻まれたダメージが齎す激痛に歯を軋ませるクロム。だが、その口角は上がっていた。
サティエンドラの時とは違って意識がはっきりと残っているばかりか、体もまだまだ限界に達していないという実感があったからである。

(……いや、真に強烈なのはやはりこの衣かもしれねぇな。魔法に対する防御が随分マシになったぜ。
 だが……肝心の敵の防御力はさてどうだったのか……?)

【最後の黒髑髏を使用。その際にダゴンの魔法の暴発も相まってダゴンの口内を中心にかつてない爆発が生じる】
【爆発に思いきり巻き込まれて再び壁に減り込む。ダメージは大きいが『反魔の装束』の効果もあって戦闘続行は可能】
0201マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/19(火) 23:50:42.02ID:O8EMTWlV
二本ある巨大な海竜の触手の一本は切り落とされ、もう一本はレインの銛によって封じられた
水面に浮かぶ貝殻や、投げ込まれる貝殻を足場に飛び回るレインに痺れを切らしたのか、ついにダゴンの顔が水面へと浮かび上がる

それは人が水面に浮かび上がるのとはわけが違う
全長15メートルを超える巨大質量が浮かび上がるのだ
水槽の水は大きく盛り上がり、津波となって水槽の縁に溢れ出た

この事態を予期していたのか、ドルヴェイクは斧を床に突き刺しその場に踏みとどまる事ができたようだ
しかしレインは壁まで押し流され、マグリットの姿は消えていた

壁に押し流され体を打つのも十分なダメージであろうが、それ以上にこの水が問題である
濃すぎる魔力水は魔力回復をさせるがそれ以上に中毒症状を引き起こす
今のレインはマヒ状態であり、それを逃すダゴンではなかった

ダゴンの口が大きく開き、魔力の収束と共にレインに向けられる……のを見逃すクロムでもなかった
視界から外れた瞬間壁を蹴り宙をかけるのだが、これもまたダゴンの視界の内
切り落とされたはずの海竜の触手が再生しており、そのセンサー器官がクロムの動きを察知していたのであった

激しい戦いの中で幾重にも張り巡らされる駆け引き
その中であって、戦局全体を把握し勝ち取ったのはダゴンであったが、それで大人しく終わるクロムではなかった

口から魔力の奔流が放たれる直前、いまだクロムの間合いには遠くあってもダゴンの先手を取る
津波により空中に放り出されていた貝殻の足場をはじくことでダゴンの眼を射抜き一瞬の隙を作り、左耳の黒髑髏を投げつけたのだ

それは猛炎獅子サティエンドラとの戦いでその片腕を失わさせる大爆発
それがダゴンの魔力が凝縮した状態の口内で炸裂したのだ
周囲は閃光と衝撃波に包まれ、飛び散る肉片と焦げた匂いが充満する

立ち込めるもやの中、下顎が消失し、首や胸まで大きく抉れ損傷したダゴンが絶叫して身もだえしていた
上顎も当然無事ではなく、鼻も吹き飛び片目も潰れている
だがそれでも、ダゴンは死んではいなかった
残った目に憎悪の炎を滾らせながらも、動きを止めている

「よくもやってくれたな!だが無駄だ!この水槽にある限り我が魔力は無尽蔵!
直ぐに再生し己らを八つ裂きに……?」

メリッサ島の呪いは島全域の魔力を吸収しこの水槽集める
呪は島で発動した魔法だけでなく、地脈や自然界に漂う魔力も集め続けている
結果としてダゴンの身を浸す水槽の水は濃厚な魔力水となり、ダゴンは無尽蔵の魔力を得ていた
その無尽蔵の魔力を使い、切り落とされた海竜の触手も容易に再生できたのであった
傷の再生に集中し、そのあと冒険者たちを叩き潰そうという算段であったのだが、爆発による損傷部位の再生が遅々として進まない事に気づいたのだ

「レインさん、魔法水にやられてしまったのですね」

ダゴンが動揺しているところでマグリットがレインの前に水を滴らせながら水槽から這い上がってきた
シャコガイメイスをレインの鼻先につきつけると、シャコガイの割れ目から大きく長い舌が伸びてきてレインにのしかかる
0202マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/19(火) 23:53:39.91ID:O8EMTWlV
「少し動かないで、と言っても動けないですよね」

笑顔でこの行為について説明を始める
このシャコガイメイスはマグリットの為にこの島の呪いを流用して流れを変え、魔力を吸い続けて育てられたのだ
即ち、高濃度の魔力を吸い取る能力があり、そのおかげで津波に流され水槽に落ちたマグリットは魔力中毒になる事なくこうして帰還できたというわけだ
ダゴンにしても高濃度魔力水に浸かればレインの様に魔力中毒を起こすことは判っており、ましてや水槽に落ちたとなれば何もできずに廃人になるとノーマークだったのだろう

「余剰な魔力を吸い取れば動けるようになると思いますので、痺れが取れたら離れてくださいね」

と言葉を締めくくるマグリットの背中にダゴンの視線が突き刺さる

「再生が遅い、魔力が薄れていっている?
まさか、お前か!お前が何かしたのか!?」

振り返りダゴンを見上げるマグリットの顔に悪い笑みが浮かび上がる

「少し見ないうちに凄い顔になっていますね
はい!島の呪いによって集められた魔力がこの水槽に集められていたようですので、きっとここに呪いの魔法陣があると思っていまして
先ほど流された際に水槽の底でそれを見つけました
私たち貝の獣人はこの島の呪いを流用させてもらっていたわけで、当然呪いの魔法陣についても解析済でして
それで少し魔法陣を操作して作用を反転させてもらいました!」

靄が晴れた時、うっすらと光っていた水槽の光は失われ代わりに島全体が燐光を発していた
そう、今や呪いは逆作用を引き起こし、水槽の中の魔力を吸収して島全体から放出されているのだ

「貝の獣人ごときがこのダゴンにどこまで仇なすのか!一族ごと消し去っても飽き足らぬわぁ!」

怒りに任せ水弾を周囲に乱れ打ちし、暴れまわる

「わちゃちゃちゃ!魔力枯渇して干物になると思ったら意外とまだ元気でしたか!
レインさん、痺れが取れたならとどめをお願いしますですよー
クロムさんが壁に張り付いたままですし、やっぱり拙そうなので行ってきます!」

津波に流されてからの水槽に潜っていたために、そこからの攻防を見ていないマグリットにとってはクロムはずっと壁に張り付いたままと認識されているのだ
乱射される水弾を躱しながらクロムの張り付く壁に到着
だがクロムの張り付いているのは3メートルほど上であるために、マグリットは壁に大の字になって密着する

巻貝種は体全体が腹側となり岩などに張り付き移動する
同様にマグリットの前腕部や脛が腹側に変化して、壁に密着して重鈍な身でも登っていけるのだ
しかしこの移動方法には明確な弱点がある
それは……

「クロムさん、大丈夫ですか〜!助けに来ましたばばばばば!」

そう、腹側での移動や登攀は致命的なまでに移動速度が遅いのだ
更に大柄なマグリットは被弾面積も多く、狙いも定められていないような乱射であっても被弾確率も上がるというもの
水弾が連続して命中してしまうのであった

【水槽底の魔法陣を操作し、島の呪いを反転させる】
【シャコガイメイスの魔力吸収性質を利用しレインの魔力中毒を治療】
【ダゴン、魔力補給を断たれ更に魔力を吸われ弱体化】
【全方位に水弾を放ち暴れる中、壁にへばりついてクロム付近に辿り着いたところで連続被弾】
0203レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/23(土) 22:15:56.93ID:iakxmpP3
レインに向けられていた狙いはくるりと向きを変え、クロムへと変わる。
海竜の触手に備わっている器官によって辺りを窺い、動向を探っていたらしい。
そして、クロムのアタックが本命だと気づき、標的を変更したというわけである。

>「我に死角など初めからありはせんのだ! さぁ、まずは貴様からその体を四散させてくれよう!」

口部内で魔法の術式が浮かび上がり、魔力が充填されていく。
発射は秒読みといったところだろう。

「あの術式は……水の上位魔法『アクアプレッシャー』か!
 食らえば勇者の仲間とて無事ではおられぬぞ!」

レインを支えながらドルヴェイクは驚きの声を上げた。
助けに入ってやりたいが、空中の出来事ではどうにもならない。
アクアプレッシャーは凝縮した超質量の水球で敵を圧し潰す質量攻撃――。
『反魔の装束』を着込んだクロムでも命中すればダメージは不可避。

だが、その魔法が解き放たれることはなかった。
代わりに発生したのは、クロムが投げ込んだ黒髑髏による爆裂と焦熱。
サティエンドラ戦でも見せた上位魔法級の爆発だ。

「お主の仲間、ずいぶんと無茶しよるわい……!」

爆発の余波を受けるも、斧を背にすることでレインを庇う。そして爆発も収まったころ。
直撃を受けたダゴンはといえば、下顎が消し飛び、首や胸まで抉れ痛みに悶えていた。

「……あのダメージならしばらくは大丈夫か。
 問題はこちらのようじゃな。儂ではどうにもできん」

お手上げ、といった様子で魔力中毒に苦しむレインを寝かせる。
高濃度の魔力がレインの身体を回り、彼を蝕んでいる。
中毒症状で済んでいるだけマシというもので、最悪廃人になっていただろう。

>「レインさん、魔法水にやられてしまったのですね」

レインの症状を見守っていると、仲間と思しき女性が水槽から這い出てきた。
ドルヴェイクは無言で頷くと、マグリットはメイスを勇者の鼻先につきつける。
0204レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/23(土) 22:18:39.28ID:iakxmpP3
魔力中毒を治療する光景は奇妙なものだった。
貝状のメイスから長い舌が伸びて伸し掛かり、余剰魔力を吸い取っていく。
やがて微かに呻き声をあげて、レインは重たい瞼を開くと、ゆっくりと起き上がった。

「おおっ、復活したか。お主の仲間が魔力中毒を治してくれたのじゃ」

「マグリットが治してくれたんだね……ありがとう、助かったよ」

胸に手を当てて、疲れた表情で微笑むと、マグリットに感謝を述べる。
はがねの剣を持って敵を見据えると、ダゴンは怒り狂い水の砲弾を撒き散らしていた。
無限の魔力を用いて回復を図ろうとしたら、マグリットの策に嵌り逆に魔力を放出してしまったらしい。
にも関わらず無闇に魔法を連発するあたり、我を失っているとしか思えない。

>「わちゃちゃちゃ!魔力枯渇して干物になると思ったら意外とまだ元気でしたか!
>レインさん、痺れが取れたならとどめをお願いしますですよー
>クロムさんが壁に張り付いたままですし、やっぱり拙そうなので行ってきます!」

そう言うなり、マグリットはクロムの下へと向かう。
爆発を浴び、魔力を放出し、弱体化しているダゴンだが、なにせあの巨体だ。
とどめを刺すにはそれなりの一撃でなければならない。
だがレインに残されているのははがねの剣一本。

(ダゴンはどう考えても水属性……雷属性の武器が使えれば……!)

ないものねだりをしても仕方ない。
片目の潰れた人魚の主を見つめて、剣を握り直す。

『一撃』を放つ手段があるには、ある。
光魔法も使えなければ勇者の特技も使えないが、方法論的に出来なくはない。
ならば、あの『奥義』の出来損ないくらいは自分でも発動できるはず。
特技に分類される技ならば、島の呪いもすり抜けられる。

「……やるしかないか。今放ちうる全力の一撃で……ダゴン、お前を倒す!」

人差し指を巨大な人魚の主に突きつけると、レインは疾駆した。
水面に残ったマグリットの貝に飛び移り、水弾を避けつつ接近。
0205レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/23(土) 22:20:32.40ID:iakxmpP3
ダゴンは水弾を迫りくる"召喚の勇者"に集中砲火させつつ、レインを嘲笑った。
負傷など忘れて喉を鳴らし、でかい声で哄笑した。

「我を倒すだと……?ふはははは……ッ!笑わせるな、蝿がッ!
 自前の魔法も使えぬ偽勇者ふぜいに何ができる!?」

ドン、と水面を叩けば水が捲れ上がり、魔法水の津波ができあがる。
島外に魔力を放出したことで魔力中毒は期待できないが、それでも津波だ。
ひとたび飲み込まれたら最期、水槽の底に没し、水死は免れないだろう。
幾重にも襲い掛かる津波をレインは足場の貝を踏み込んで跳躍、回避。

「そら、貴様など水面を撥ねる水切りの石が如き存在だ!所詮は『路傍の石』なのだッ!
 魔族(われら)に蹴られ、踏み躙られ……いずれ水底に沈む運命の小石が!何度も盾つくなァッッ!!」

連続で水面を持ち上げ、津波の第二波、第三波が襲い掛かる。
跳躍中の今、自由落下するしかないレインに回避の術はない。

「……かもしれない。けど……俺には仲間がいる!
 クロムが、マグリットが作ってくれた道を引き返しはしない!!」

外套を脱ぐや四隅を掴んで広げると、それは傘のように開いて僅かに浮かんだ。
――まるでパラシュートのように滞空時間を延ばし、迫る津波を凌ぎ切る。
巨大な怪物の瞳と勇者の瞳が交錯する。ダゴンに肉薄するまでそう遠い距離ではない。

「おのれェェッ!いちいち小賢しいわァッ!!」

思わず蝿でも払うかのように滞空中のレイン目掛けて拳を振り下ろす。
"召喚の勇者"は降りかかった勝利を前にして微笑みを浮かべた。

「その瞬間を――」

巨大な拳が命中する瞬間。
外套から手を離して、身体を独楽のように回転させて威力を削ぎ、殺しきる。
同時、その巨大な鱗の生えた腕に掴まって着地。ダゴンの腕を駆け抜けた。

「――俺は待ってた!」

剣を構え直し、魔力を込めて漲らせる。
喉元で踏み込んで跳躍すると、半壊したダゴンの顔面と相対する。

「うおおおおおーーーーっ!!」

薄皮一枚魔力を纏った剣が、絹でも裂くように脳天を切り裂く。
ダゴンは絶叫を上げながら身体を悶えさせて、やがて力尽きたのか水槽の底へと沈んでいった。
0206レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/23(土) 22:22:41.40ID:iakxmpP3
サマリアの領海を荒らし、人間の宝を掠奪せし魔族・ダゴン。
神々がまだ地上にいる時代から海の男達を畏怖させた彼の命運も遂に尽きた。
思えば、海神に仕える巫女に封じられ、水槽に閉じ込められていたままの方が幸福だったかもしれない。
昔のように海の秘宝を独占しようと企まなければ、こうして退治されることもなかったのだから。

「……呪いも解けたのかな。島を包んでいた妖しい気配が消えた気がする」

ダゴンの死骸から離れ、水槽の縁に辿り着いたレインはぼそりと呟いた。
勝利を迎えた一同を祝うように、ドルヴェイクがのそのそと近付いてくる。

「お主が放った最後の一撃、見事じゃった。まさしく勇者の姿を見たわい」

「……いえ、あれは違うんです。さっきのは魔力を剣に纏わせて理力にブーストを掛けただけ……。
 本来勇者が使える奥義『エクセリオンレイス』なら、ダゴンの肉体をも消滅させていたはず」

口にした『奥義』の名は光の波動をもつ勇者のみが使える至高の技。
万能エネルギーたる魔力によって光剣を形成することで威力を増幅させ、如何なる敵をも消滅させる。
その技の肝はやはり光属性であることで、魔物や魔族に対して特効を発揮する。

……が、レインのそれは同じ原理でも魔力を纏わせただけの無属性。
『奥義』と呼べるほどの技ではなく、威力も天と地ほど違う。
方法さえ学んでしまえば誰でも習得できてしまうだろう。

「細かい事は気にせん!お主の力に感服した儂の気持ちは変わらんわい!はっはっは!」

「……ドルヴェイクさん」

ばしばしとドルヴェイクに背中を叩かれ、レインははにかんだ。
ダゴンが倒されたことで海の魔物たちも大人しくなることだろう。
これで一件落着……のはずだが、まだ嫌な気配を拭いきることができなかった。
島の呪いが解けたにも関わらずだ。どんどん近づいている気がする。
0207レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/23(土) 22:24:54.17ID:iakxmpP3
それにしても、ドルヴェイクには何度も助けてもらった。
無報酬にも関わらずだ。お礼のひとつやふたつでは尽きぬだろう。

「むう、礼ならいいぞ。儂は故郷に帰れるならそれで満足じゃ。
 ここの金銀財宝なんぞ地元で嫌というくらい見慣れとるわい――……」

そして、雑談の折に『嫌な気配』の正体はやってきた。
入り口から空気を裂いて矢が飛来した。
ドルヴェイクを狙ったものだったが、背負っていた斧で弾く。

「……誰だ!?」

レインは剣を身構えて咄嗟に声を上げた。

「……誰だ!?じゃねぇよマヌケ野郎、口を閉じてろよ。あーあぁ。
 だから同じ大陸出身を殺るのは面倒くさいんだよなぁ。妙に勘がいいんだよね」

現れたのはクロスボウを構えた痩身の男。
矢を装填し直しながらぶつくさと文句を言っている。

「ッ……確か『初心者狩り』の……」

「当たりだよ。でも名乗る気はないね。
 ハンティングゲームに自己紹介の時間なんてないからなぁ」

「まぁまぁ。いいじゃないアサフェティ。ちょっとくらいお話しようよ。
 俺は好きだな、お話するの。なりゆきくらい知ってもらおうじゃない」

後ろから現れたのは、中性的な顔立ちをした青年だ。
腰に剣を帯びて、腕にはボロボロの盾をつけている。
名はシナム。『初心者狩り』と呼ばれるパーティーのリーダーである。

「……時間はたっぷりある。いいんじゃないか」

次いで現れたのは、見るからに戦士職と言わんばかりに鍛え上げた禿頭の男。
名はフェヌグリーク。さっと手を上げると、後ろからごろつきの男たちがゾロゾロと現れる。
0208レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/01/23(土) 22:27:16.51ID:iakxmpP3
シナム、アサフェティ、フェヌグリーク。
エイリークが関わるなと忠告していた『初心者狩り』の三人組だ。

「ついでに俺達の定型句聞いてくれる?『お前達、レベルは幾つだ?』ってね」

シナムが冗談めいた声でそう言った。
……27。心の中でギルドの査定値を唱えて、押し黙った。

「サマリアなんて小国で燻ってるんじゃ大したレベルじゃないだろうがな」

フェヌグリークが腕組みをしてつまらなさそうに呟く。
アサフェティはどうでもよさそうにしながら矢の装填を終えたらしい。

「まぁ本題に入るけど。君達、財宝を手に入れすぎだよ〜。
 水道橋での大立ち回りは見事だったけど……ちょっと強欲すぎない?
 『過ぎたるは及ばざるが如し』って言うじゃない。他の冒険者がおけらになっちゃうだろ」

「……後ろの人達は、俺達が手に入れた財宝目当ての危ない人達ってことですか」

「当たりだよ勇者くん。かくいうお兄さんも君達に不満を抱いている訳なんだけど。
 ……だからいつも通り格下から奪い取ることにしたのさ。だって許せないでしょう。
 命乞いとか素直に渡すとかしないでね。ギルドに報告されるとめんどいから殺す予定なんだ」

シナムが指をパチンと鳴らすと、ごろつき冒険者達がにわかにレイン達を囲みはじめた。
その話し方はふざけた調子だが、実行しようとしている事と放っている殺気は本物だ。

「……冒険者達が宝を奪い合って争うなんて日常茶飯事だ。恨むなよ」

「……すまねぇ。無報酬で帰ると借金が返せねぇんだ」

「……嫌だ。宝は俺のものだ。宝は俺のものだ……」

遺跡に入る前、クロムがふと言った。財宝伝説は人を誘き寄せる罠かもしれないと。
『この展開を仕組んだ者』の目的が人間同士で争わせることだったのだとしたら――……。
レイン達は、とっくにその術中に嵌っていたことになる。

「新芽を摘むのは慣れてるんでね……君の弱点なんて簡単に判るよ。
 まさか勇者様が人殺しなんてしないよねぇ?魔物や島のボスよりよっぽどやり難いんじゃない?」

後ろで愉快そうにせせら笑いながら、シナムは確かにそう言った。
共にやって来たごろつき達は目を血走らせ、各々武器を構えて一同に襲い掛かる!


【レイン渾身の一撃にてダゴン撃破】
【その後、ごろつき冒険者を引き連れて『初心者狩り』が到着】
【ごろつき達が武器を構えて襲い掛かってくる】
0209クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/01/27(水) 19:57:59.31ID:DavBOcXv
煙が晴れた後、半壊した肉体を震わせ、苦痛の声を上げるダゴンの姿を認めたクロムは、最初に安堵の息を零した。
ダゴンのみが魔法を使えるフィールドで、剣やメイスのみを用いて戦うことは過酷を極める。
それは火を見るよりも明らかだった。
故に黒髑髏の使用を即断したわけだが、それは裏を返せば黒髑髏以外に手段が見つけられなかった事を意味する。

もし──不発に終わっていたら。
そのもしもという不安が心の底で汚泥のように溜まっていたからこそ、目の前の光景には思わず一安心したのだ。

>「クロムさん、大丈夫ですか〜!助けに来ましたばばばばば!」

懐から取り出し口に運んだ薬草をもしゃもしゃと上下の葉ですり潰していると、下からマグリットの声が聞こえてきた。
黙って下を覗き込めば壁面を垂直にカタムツリのようにゆっくり移動してくる彼女の姿が。
それも、乱射された水弾を次から次へとその身に受けながらである。

「……おいおい」

クロムは再度、息を零す。
しかしそれは先程とは異なり安堵感が込められたものではなく、呆れであったが。

減り込んだ壁から身を起こし、足元に剣を突き刺してそこに片手で掴まり、残った片手でマグリットの手を掴んで引き上げる。
その際、マグリットを壁側に押し込め、代わりにクロム自身の背中を水弾に晒すことも忘れない。

「助けに来といて逆に助けられてちゃ世話ねーよ。お前ももう少し仲間の力《こと》を信じるようにした方がいいな」

一発、二発──と背中に水弾の着弾を許しながら、まるでその痛みを感じていないかのように抑揚の無い声で話すクロム。
マグリットは却ってそれを不安に感じるかもしれないが、『反魔の装束』が水弾の威力を大幅に殺しており、実際比較的軽い痛みで済んでいるのだ。
──逆に言えばもはやダゴンが使える魔力はその程度の魔法分にまで減少していると言えるのだろう。

「……もっとも、それは俺も同じか。事前に魔力の流れを操作する魔法陣の存在は聞かされていたんだからな。
 応用して魔力の供給をも断てる可能性には気が付くべきだった。そうすりゃ黒髑髏に頼ることもなかっただろう。
 お互い、いつか全てを知る事が出来ればその時はもっと──……さて、降りるぞ。勝負がつきそうだ」

そう言ってクロムは剣を引き抜き、重力に従って地面に着地する。
それはダゴンがその巨体を沈めたタイミングと丁度同じであった。

────。

>「……呪いも解けたのかな。島を包んでいた妖しい気配が消えた気がする」

剣を納めながら、呟くレインに歩み寄って、クロムはぼうっと薄暗い虚空を見上げた。
財宝を手に入れ、呪いの主とされる敵を倒した。ギルドの依頼はやり遂げたのだ。
なのに彼の心はどこか晴れず、今見据える虚空のように薄暗いままであった。
何故なのか?

『ラングミュア様もおかしなことを言うものだ……借りは返さねばな』

戦う前、ダゴンが何気なく口走った何者かの名前。それが、そしてそいつの思惑が心に引っ掛かっていたからである。
ダゴンの口振りは、高位の魔物が自身の封印を解いたことを臭わしていた。
レインの事を『聞いた』とも言っていた辺り、そいつは恐らく猛炎獅子と関わりのある存在に違いない。
ダゴンは幹部《そいつ》の駒だったのではないか。レイン抹殺の為だけに利用され、使い捨てにされただけの──。

ならば、逆に勇者に討たれるケースも当然想定していた筈だ。
倒されたら倒されたで別の魔物を新たに用意するだけ、と強者らしく余裕たっぷりの思考をしてくれていればまだ良い。
厄介なのは何としてでもこの島で仕留めると事前に“保険”を掛けていくような周到さがある場合であろうか……。
0210クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/01/27(水) 20:02:27.67ID:DavBOcXv
>「……誰だ!?」

突然のレインの緊張した声を受けて、宙をあてもなくさ迷っていたクロムの視線が咄嗟に彼へと向けられる。
いや、正確にはレインと、その周辺の出来事に、である。
──矢が放たれたことを合図に、近くの暗闇から得物を携え異様に殺気立った男達が続々と現れたのだ。

「ダゴン退治の祝賀会を催してくれるってわけか。恐縮だな」

クロムは呆れ顔で頭を掻いた。
彼らは例の『初心者狩り』の三人と、恐らく彼らにけしかけられたのであろう有象無象の冒険者達である。
ならば何を目的に大挙して押し寄せてきたのか、もはや改めて訊ねるまでもない。

(如何にも小悪党の考えそうなことだが……)

あっという間に取り囲まれながら、レインと異なり剣を抜きもしなければ抜刀の構えすら見せず、ぼんやりと立ち尽くすクロム。
彼にとって、今更ゴロツキに堕した冒険者など、何人集まったところでまるで警戒に値しない存在に過ぎないのである。
だからその視線の行く先は自然、彼らを飛び越えてある一点《唯一警戒心を抱かせる存在》に注がれるのだ。
──呪いの盾に。いや、呪いの盾を平気な顔して装着する、『シナム』という名の一人の男に。

(……小悪党のフリした大悪党が紛れ込んでいるとするならタチが悪い)

「おおおおおおお────がっ!?」

じゃり、とクロムが一歩前へ踏み出すと同時、三人に襲い掛かった一団の先頭数人が勢いよく自らの後方に飛んだ。
否、飛ばされたのだ。クロムの手で。素早く抜き放たれた黒剣をその身に受けて。

「っ!?」「なっ──!?」

吹き飛ばされた者達は白目を?いて後続を押し倒し、あっという間に彼らの足を止める。
もっとも、これは物理面ではその気になればいつでも文字通り容易に乗り越えられる小さな障害に過ぎない。
なのに後続の誰もがそれをする気配がないのは、一撃で数人が伸されたという光景に気圧されたからだろう。
一様に顔を引きつらせているのがそれを物語っている。

「斬ったわけじゃねーから安心しな。ま、峰打ちは鈍器を叩きつけたのと同じだから、死ぬほど痛いことに変わりないけど」

「こ、このチビ……!」

「つーかお宅ら、俺達がダゴンに勝ったってこと忘れてんじゃねーの? それも魔法無しってハンデ有りで。
 ダゴン討伐は疎か、宝の一つも手に入れることができねー奴らじゃ所詮、俺達相手に横取りは無謀ってもんだ」

トン、と剣を肩に乗せて、クロムが再び一歩前へと踏み出すと、それに合わせるようにゴロツキ達が一歩後ずさる。
それを見てか、彼らの後ろで腕を組んでいたフェヌグリークが不意に「おい」と低く唸った。
慌てたように振り返った彼らに向けて、今度は「だらしないなぁ、これだから雑魚は」とアサフェティがクロスボウを構えて言う。

「どいつもこいつも生活苦、借金で悩んでるんだろ? 目の前にチャンスが転がってるんだ、少しくらい根性見せてみろよ。
 それとも……その底辺をさ迷い続ける下らない人生、今すぐにでも終わらせてみるか?」

光る矢じりに唾を飲み込むゴロツキ達。
だが、クロムはそんなアサフェティを鼻で笑って見せた。

「バーカ。根性見せられない奴が根性見せろと他人にエラソーに言うなってんだよ。
 レベルなんて表層的なモンで人を測る事に拘ってるから“初心者狩り”なんてヌルい生き方を選んじまうんだよ、お前」

「……あ?」

「何が切欠でそんな生き方になったのか知らねーが、ひょっとしてお前、“誰か”に利用されてるクチか?
 ゴロツキ共《こいつら》みたいに──」
0211クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/01/27(水) 20:10:00.52ID:DavBOcXv
──その時、辺りがどよめいた。
瞬時に大きく膨れ上がった殺気。そして一瞬の風切り音。
クロスボウから弾かれた矢がクロムの言葉を強制的に打ち切らせたのだ。

「調子に乗ってベラベラと……チッ──!」

しかし、矢は届いていなかった。胸元に突き刺さるその寸前で、クロムの手によって掴み取られていたのだから。

「言っとくがこれは“勘”じゃねーからな。自分より遅く動くモンが馬鹿正直に真正面から来たら、そりゃ捌くだろ」

どよめきは矢の発射に対してではなく、それに対しての動揺を示したものだっただろう。
カラン、と地面に投げ捨てられた矢を一瞥して、ある者は息をのみ、ある者は手にした武器ごと腕を力なく下げる。
もはやゴロツキ達は初心者狩りの三人と召喚の勇者組の三人の成り行きを見守るだけの存在となっていた。

(……安心しろよ。どうせ宝の独り占めなんて欲深い事はこのパーティにはできやしねぇんだから)

戦意を損失し、肩を落とす彼らの顔を流し見て、クロムはどこか苦笑気味に内心で独り言ちた後、再度目を合わした。
初心者狩りと。

「どけよ」

そして紡がれた一言。
裏も表もない本気も本気の言葉であったが、その効果をあまり期待していない自分がいることも、彼自身自覚していた。

『新芽を摘むのは慣れてるんでね』

(種の使命に従って自由意志でここに来ただけの偶然か、それとも幹部の意を受けて送り込まれた“保険”か……。
 いずれにしても、こいつの“正体”は恐らく…………)

【ゴロツキ達の戦意を損失させ、初心者狩り三人にそこをどけと要求】
【クロムはシナムの正体に心当たりがあるらしい】
0212マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/31(日) 17:53:13.23ID:srSbvf3d
所かまわず乱射される水弾の中、ズリズリと這い上がる速度は遅くマグリットの体躯は大きすぎた
威力がそれほど高くなく、鉄の肌を持つとはいえ何度も繰り返しの被弾は徐々にダメージを蓄積していったのだが、それが大きな傷になる前にクロムによって引き上げられた

引き上げられただけでなく、その身を入れ替えかばわれてしまっている
だがそれよりもそうした体制故に鼻が尽きそうな距離にクロムの顔が位置してしまい、クロムの言葉が頭に入ってこないで

「ややや、助けに来たつもりが、すいません
それに、私を引き上げるなんて力持ちでびっくりです」

しどろもどろでちぐはぐな回答になりながら顔を逸らすのであった

>「……もっとも、それは俺も同じか。事前に魔力の流れを操作する魔法陣の存在は聞かされていたんだからな。
> 応用して魔力の供給をも断てる可能性には気が付くべきだった。そうすりゃ黒髑髏に頼ることもなかっただろう。
> お互い、いつか全てを知る事が出来ればその時はもっと──……さて、降りるぞ。勝負がつきそうだ」

しかし、この言葉に顔の向きを戻し

「いえ、レインさんが注意を引き、クロムさんがダメージを与えてくれたからこそ私は水槽の中で自由に動けたのですよ!
ま、まあ……お互いを知る事は、大事、ですね」

強い口調で言葉をつづるのだが、その勢いで再度クロムと超至近距離で顔を突き合わせることになり、続く言葉を濁らせしまうのであった

そうしている中でレインがダゴンの脳天を切り裂き、ついに勝利をもぎ取る事に成功
力尽きたダゴンが水槽に沈んでいくのを見ながらクロムと共に壁から降りたのだが、時同じくして乱入者がぞろぞろと入ってきた

初心者狩りの三人とそれの引きつけられたごろつきたち
危険なボス戦は静観し、戦闘が終わったところで宝の横取りに来たようである

少し言葉を交わしたのを聞いただけだが、あらかたの事情は把握できたマグリットは小さくため息を付いた
勿論この後起こる結果が分かっていたからだ
戦いの後で消耗もあるだろうが、レインは魔力中毒から脱しているし、クロムはそれほどダメージが深刻ではなかった様子
シナムの言うとおり、レインが人を相手に殺し合いは難しいかもしれないが……

果たして結果はマグリットの思うとおりになった
ごろつきたちはクロムによって一蹴され、あとは気迫に押され棒立ち状態
扇動者であろう三人が煽り立てるが、動きは鈍い

「となれば……」

クロムとシナムが対峙している状態を見ながら、笑みを浮かべながら大きく両手を開き、勢いよくそれを打ち合わせた

***パァン……!***

水槽の間を切り裂くような大きな平手打ちの音が響き抜ける
ごろつきたちの注意を一点に集めるには十分で、その視線の集中店には音源であるマグリットが満面の笑みで仁王立ちしていた

「皆さん、事情は承知しました
ならば危険を冒して奪う必要はありません、私があなた方を雇い報酬という形で等分して分け与えるからです!」
0213マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/31(日) 17:53:46.80ID:srSbvf3d
突然の申し出にごろつき達の間にどよめきが上がる
それは動揺の広がると同義であり、その心の隙をマグリットは逃さない

「私たちを殺して宝を奪ったとしましょう。
あなた方はそれをどうやって分け合うのでしょうか?
仲良く分け合えますか?
それに、見ての通り当方のクロムさんは十分な強者ですし、心優しいレインさんも悪人には容赦しませんし、微力ながら私も抵抗します
あなた方が勝つとしても相応に損害は出る事は必定
そうすると扇動者のお三方が真の漁夫の利を狙う事もありうるのでは?」

その言葉と共に初心者狩りの三人に視線をやる
こうする事でごろつき達と初心者狩りを別勢力として認識している事を印象付けるのだ
そう、あくまで対立者として見ているのは初心者狩りであり、ごろつき達については不問にしていると言外に伝えるのだ

「奪った後がどうなるかあやふやな扇動に乗るより、宝を持つ私たちに着いた方が後からの分配は確実ですよ?
という事で、お仕事内容は宝の横取りを扇動する悪者を私たち共に倒すのです
得られるのは宝の平等な分配と悪者を倒したという栄誉、勿論ギルドと共に教会にもその功績は報告させてもらいます」

明確な利害を提示し、その後の処遇も示す
既に初心者狩りに乗って襲ってしまった以上、後には引けないというごろつきたちの心理的な枷を外すのだ
ギルドだけでなく、教会の名を出したことにより権威付けも行われ説得力も増すだろう

しかしそれを黙って聞いている初心者狩りではない

「おまえら、こんな初心者と俺たちとどちらにつくつもりだ?
ガキどもの口車に乗ってんじゃね
俺たちの怖さ、知らねえわけじゃねえだろうが」

フェヌグリークが怒気をはらみながら声を荒げる
その言葉にごろつき達の間にさらにざわめきが生まれる
その出で立ちからして確かに強者である事は疑いようもないが、あえて無視するように反論を展開
フェヌグリークの言葉による恐れはごろつきたちの動揺をさらに広げ、付け込みやすくなっただけなのだから

「語るに落ちるとはこの事ですね
あなた方が真に強いのであれば、こんな大勢引き連れずとも三人で私たちを襲えばよかった
分け前が減っちゃいますからね
なのにそれをしないのは、評判だけで実際にはそんなに強くないからなのでは?」

挑発するように首をかしげながら言葉を並べるのだが、思い出したように首を戻し

「あ、これは失礼、あなたが本当に強いという可能性もありますね
つまりは、私たちと皆さんを戦わせ、残った方を殺せるという自信がある、と
そうすれば分け前は考える必要ありませんものね
見誤っていたようで大変失礼しました」

白々しく驚いた表情を浮かべながらごろつきたちの方に向き直る

「さて、みなさん、お判りでしょうか?
あのお三方が弱いのであれば、私たちと組んで倒してしまえば安全確実にお金と名誉が手に入ります
強いのであれば、私たちと戦っている場合ではありません、私たちもあなた方もあの三人に殺される予定になっているのですから
ならばどうすればいいかお分かりですよね?」
0214マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/01/31(日) 17:54:24.35ID:srSbvf3d
にっこりと微笑み、結論を出し更にトドメに言葉を付け加える

「それと、先ほど洞窟全体が光っていたのを覚えていますよね
あなた方も見たはずです
あれは私がこの島の呪いの魔法陣を反転させた影響で、洞窟どころがメリッサ島全体が発光したのです
大規模な発光現象となれば当然国の調査団も動くでしょうし、先遣隊くらいならばいつ来てもおかしくない
その時立場がはっきりしていないと困る事になる、というのも付け加えておきますわ」

マグリットはこれでいて元は教会の宣教師
未開の地に赴き外敵を駆逐しながら現地に教えを広める役割を担っていた
弁が立ち人心掌握の方法も学んでおり、それがここにきて発揮されたのであった

ごろつきたちにしてみれば
想定以上のクロムの強さ
宝分配という利益
シナムたち初心者狩りとの信頼関係の薄さ
そして国家権力介入が迫っている事で、不安を増幅させ利益で釣り上げ、時間制限をつけ判断能力を奪っていったのだった

「お、襲った事は、いいのか?」

ごろつきの一人がおずおずと尋ねるが、それに対してマグリットは満面の笑みをもって答える

「もちろん、あなたがは一時の気の迷いを突かれ悪に足を引っ張られただけ
ここで悔い改め共に戦えば、些細な行き違いなど問題なく、我々は同志です
宝を分かち合いましょう」

その回答にごろつきたちに「俺も」「俺もだ」という声が広がっていく
そんな様子を満足そうに見ながらゆっくりと移動し、レインの横に移動していた

「さて、話はまとまりましたが、実際の話あのお三方には不穏なものを感じます
発光現象のくだりは本当ですが、調査隊は適当な話ですし予断は許しません
皆さんが『お仕事』してくださっている間にどさくさに紛れて脱出するならクロムさんにも伝えますよ?」

こっそりと囁きながら事態の推移を見守り、今後の方針をレインに尋ねる


【口八丁でごろつきたちを動揺させ、味方に引き込む】
0215レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/04(木) 14:11:14.17ID:g/pEzJcE
ごろつきたちが一斉に攻撃を仕掛けた瞬間、それらはクロムによって吹き飛ばされた。
ダゴンとの戦いで疲労しているとはいえ、有象無象の冒険者では彼の相手にならない。
その威圧的な『強さ』が、ごろつき達の戦意を奪っていく。

>「どけよ」

クロムの放った一言に、『初心者狩り』の返答はなかった。
何かを考えているのか、あるいは企んでいるのか。沈黙を保ったままだ。
そして次に、マグリットの弁舌によってごろつきたちを味方に引き込むことに成功。
二人とも狙っているのか、偶然なのか、アメとムチになっているな、とレインは思った。
味方となったごろつき達は、『初心者狩り』たちの方を振り向き、取り囲みはじめている。

>「さて、話はまとまりましたが、実際の話あのお三方には不穏なものを感じます
>発光現象のくだりは本当ですが、調査隊は適当な話ですし予断は許しません
>皆さんが『お仕事』してくださっている間にどさくさに紛れて脱出するならクロムさんにも伝えますよ?」

合理的な立ち回りとしてはごろつきに『初心者狩り』をぶつけて逃げることなのだろう。
が、彼らに任せきりにするのはどうにも不安が残る。
相手が変わっただけで犠牲なしに勝てない相手には違いないのだから。

「いや……穏便に済ませよう。なるべく話し合いで決着をつけたいんだ」

今ならこっちが有利だからね、と言って。
レインがそう話してすぐに、シナムもようやく口を開いた。

「……はぁ。まさか裏切られちゃうとはなぁ。悲しい、悲しいよ俺は。
 でも敢えて言うよ。いくらなんでも俺達をみくびりすぎじゃないかな……?」

やっと口を開いたシナムは芝居がかった仕草で顔を手で覆う。
すると、ごろつき達の足元に水色の魔法陣が広がっていく。
ダゴンが死んだいま呪いは解け、魔法も使えるようになっている。

「――神曲、嘆きの川、裏切りの懲罰、咎人よ氷結地獄を巡れ」

魔法陣が燐光を残して弾け、ごろつきたちを結界が覆う。
結界内に閉じ込められた彼らは驚きの叫びを上げた。
瞬く間に身体が凍りつき身動きを封じられていくのだから。
やがて完成したのは、恐怖に顔を歪ませたごろつきたちの氷像。
0216レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/04(木) 14:12:54.47ID:g/pEzJcE
恐るべきは一瞬にしてごろつきたちを制圧するシナムの魔法力。
そうだ、彼は剣と魔法に長けた魔法剣士だった。
そしてとりわけ『氷魔法』を得手としている。

「安心しなよ、別に死んじゃいないから。これは攻撃魔法の類じゃない。
 ……ま、ずっと氷漬けじゃあ、いつか凍死するかもしれないけれど」

そう言うと氷漬けのごろつきをコンコンと叩いた。
結界魔法。あの『仮面の騎士』も使っていたタイプの魔法だ。
特定の領域を魔法によって区切ることを指し、領域内に様々な効果を及ぼす。
シナムの使った『コキュートスジェイル』は侵入した敵を氷結させる拘束結界である。

「ったく、雑魚は役に立たねぇな。もう後には退けねぇよ、お前ら」

こうなっては話し合いによる解決は不可能。
『初心者狩り』は舐められたら徹底的に潰す主義だ。
アサフェティは吐き捨てるように言うとマグリットを指差す。

「俺の『狩り』の相手はお前にしとくよ。
 分かるんだよなぁ、獣人風情が人間のフリしてんじゃねぇよ」

クロスボウに矢を装填して怒りを滲ませる。だが思考は極めて冷静だ。
驚異的なスピードと反射神経を持つクロムには効かなかったが、
鈍重そうな大女相手なら通用するだろう、と考えてのマッチメイクである。

クロスボウ。矢を装填する力さえあれば誰でも使える遠距離武器。
が、代償として装填に時間がかかるという難点も背負っている。
一対一なら外せばそこで終わり……加えて、マグリットは鉄並の硬さを誇る。

それでも長身痩躯の男は余裕の表情で装填している矢をマグリットに向ける。
これはクロム相手に使った普通の矢ではない。ミスリルの鏃でできた対魔物用の矢だ。
ドワーフが採掘する特殊な金属で出来たそれは、鉄以上の硬度をもっている。
0217レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/04(木) 14:16:10.39ID:g/pEzJcE
例えばミスリルはドルヴェイクの斧にも使われている。
その硬度はダゴンの太い触手をぶった切った事からも推察できよう。
いかにマグリットが硬いといっても、希少金属ミスリルほどではない。

「俺は亜人の多いサウスマナ大陸出身でさ。
 誤魔化してても人間と"それ以外"の連中の判別がなんとなくついちまう。
 だから言うが……お前とリーダーは異常者だぜ。味方がどんな奴なのかも理解してねぇのか?」

アサフェティがクロムの方に視線を動かす。
彼の目は前髪で隠れているから、マグリットにどう見えたかは分からない。
すると少し間をおいてばつの悪そうに頭を掻いた。

「っと……他人の事は言えないか。まぁいいや」

はじめは小さなうさぎだった。
狩猟民族出身のアサフェティは、幼い頃から狩りをして暮らしていた。
罠や武器を使って巧みに捕えて、彼はそれを持って帰ると両親に褒められた。
大蛇、猪、熊、魔物――……年を重ねるごとに獲物は大きくなっていった。

ある日、彼は禁忌を犯して故郷にいられなくなってしまう。
それは誰にも言わず密かに行っていた『狩り』のためである。
狩人にとって狩りは生活に根ざしたものだ。
生きるためにすることで、貴族のように娯楽でするものではない。

だがアサフェティは敵を追い詰め、仕留めることに愉悦を感じていた。
獣人、エルフ、ドワーフ、ハーフフット……人間でさえも。
狩りの対象など何でもよかった。

「気に食わねぇ、気に食わねぇな。その面構えがだよ。
 狩られる側の分際で、不敵そうに微笑んでるんじゃねぇよ」

『獲物』ごときに舐められた彼は怒っている。尊厳を踏みにじられ激怒している。
マグリットの正中線に沿ってミスリルの矢を放つや、クロスボウを捨てて飛び掛かった。

怒りに我を忘れたわけではない。思考は極めて冷静だ。
矢が刺さった程度で殺せるほど獣人は弱い生き物ではない。

確実に仕留めるには、矢では足りない。そう判断したまでだ。
そう、アサフェティの得意武器はクロスボウなんかじゃない。
誰でも使える武器を見せびらかすように用いることで、得意武器を欺いていたのだ。

「――磯くせぇんだよ貝野郎ォッ!!仕留めて綺麗に解体して!
 貝料理の材料にしてやるよォォォォッ!!」

彼の本当の得物は短剣。
両袖に隠していた二本のミスリルナイフを握りしめ、
貝の獣人マグリットを解体(バラ)すべく襲い掛かる。
狙いは人体の急所、首の頸動脈だ。
0218レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/04(木) 14:17:42.06ID:g/pEzJcE
一方、フェヌグリークはごろつきを助けようとするレインと相対していた。
火花が散り、交差する刃。鍔迫り合いになる剣と剣。
剛力を活かした接近戦によって、レインは徐々に追い詰められていく。

「っ……剣を受け止めきれない。なんて力だ……!」

「その程度かよ!雑魚はやっぱり雑魚だな、ええ、おい!?」

電光石火の攻撃を前に、攻撃を捌くしかない。
だがフェヌグリークは攻めに転じる隙など与える気はない。
強者とは、敵を威圧し、圧倒し、踏み躙るもの。
舐められることなど決してあってはならないのだ。

ノースレア大陸の小国で生まれたフェヌグリークは、生まれた時から兵士だった。
常に雪で覆われた極寒の大地は、弱い生物は死に絶え、強いものだけが残った。
人間も、魔物もまたそうだ。そんな場所で生まれ育ったフェヌグリークもまた、強者たらんとした。

だが……ノースレアにおいて、フェヌグリーク程度の実力の兵士は腐るほどいた。
彼は故郷において『強者』ではなく、どこにでもいる『凡人』に過ぎなかった。
それが、曲がりなりにも努力して実力を磨いてきた彼にはどうしても我慢できなかった。
だからなのか。ぬるま湯のイース大陸に流れ着いてしまったのは。

「ちったぁ本気出したらどうだ!いっぺん死んでみるか!?」

唐竹割りを放った瞬間、レインは紙一重で躱して距離をとる。
そしてシナムと同じように自分も魔法を行使する。
手に魔法陣が浮かび上がり、青白い燐光を残して弾けていく。

「なら……遠慮なく行かせてもらう!」

「……召喚魔法かッ!」

呼び出したのは『鎖鎌』。接近戦は不利と判断したためだろう。
鎖分銅をぶんぶんと回しはじめると、分銅を投擲。
フェヌグリークは咄嗟に剣で防御すると鎖が絡みつく。

「おいおい、これで攻撃を封じたつもりかよ……呆れたぜ勇者様よぉ」

そう吐き捨てると、構わずレイン目掛けて突っ込んでいった。
0219レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/04(木) 14:20:52.69ID:g/pEzJcE
アサフェティとフェヌグリーク。
二人の戦いを眺めつつ、シナムはよしよしと頷いた。
『初心者狩り』と言われている三人の中でもシナムだけは謎に包まれている。
曰く、ウェストレイ大陸出身とは言われているが、それ以上の情報は判然としない。

「いやぁ、二人とも本気だなぁ。じゃあ俺も頑張っちゃうかな」

ゆっくりと剣を鞘から引き抜くと、ひと跳びでクロムに接近して刃を振り下ろした。
その表情を猛禽のように鋭くして、小さな声でクロムにだけ聞こえるよう呟く。

「……――お前、魔族だろ。いつまで勇者と仲間ごっこをするつもりだ。
 自分が魔王様に創られた意味を思い出せよ。いい加減"役割"を果たしたらどうなんだ?」

シナムは知っている。クロムの正体を。クロムが創られた意味を。
なぜなら、『初心者狩り』シナムは――金品を目的にレベルの低い者を襲うと見せかけて。
有望株のパーティーを巧妙に潰す役割を持つ、クロムと同じ魔造人間なのだから。

「同族だから分かりやすいように言う。俺達の側につけよ。
 これは魔王軍大幹部の"水天聖蛇"ラングミュア様の命令でもある」

シナムのスピードはクロムとほぼ同等。
攻めているフリをして、裏切れと誘いをかけているのだ。

「"召喚の勇者"たちのスパイはもう終わりってこと。
 俺の仲間でも十分対処できると思うけど、念には念を入れないとね。
 それに……嫌だろ?あいつらと一緒に片付けられちゃうのはさ……?」

誰にも聞こえないような声量でクロムに話しかける。
たとえ注意して見ても、シナムが独り言を呟いているようにしか見えないはずだ。
事実、一人外野に残されたドルヴェイクにはそう見えた。
宝の所有権を巡る戦いに興味を見出せない彼は、腰を下ろして静観を決め込んでいた。

(さて……確と見せてもらうかのう。"召喚の勇者"PTの強さとやらを。
 もしかしたら……儂の故郷を救う人材足り得るかもしれぬ……!)


【ごろつきたちはシナムの結界魔法で氷漬けになる】
【それぞれ『初心者狩り』と一対一の戦闘が始まる】
【アサフェティvsマグリット、フェヌグリークvsレイン、シナムvsクロム】
0220クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/09(火) 23:44:53.66ID:kVCOF1aV
>「――神曲、嘆きの川、裏切りの懲罰、咎人よ氷結地獄を巡れ」

シナムの口から呪文が唱えられるや否や、発動された超常的力が空間を覆う。
その空間に囚われ、次々と沈黙を強制されていくのはマグリットに丸め込まれたゴロツキ達。
彼らが一人残らず物言わぬ氷像と化すまでに要した時は、正に瞬き程の刹那であった。

「っ!」

複数の対象を同時に凍り付かせる全体型の『氷魔法』。
それも、有効範囲全てに無秩序に広がる通常のそれとは異なり、指定した範囲にのみ威力を広げる『結界魔法』が組み合わさったもの。
複合型魔法は上位の魔法。修得するには、何より高いレベルを必要とする。
つまり、シナムは単に“裏切者”を成敗したのではない。己のレベルを見せつける事をクロムに対する返事としたのだ。

(やはり、『力づくでどかしてみろ。できるもんならな』……か)

展開としては予想通りではある。
だが、それでも小さな溜め息が出るのは、予想を上回る才能を見せつけられた力の一端から感じ取っていたからに他ならない。
故にアサフェティとマグリット、フェヌグリークとレイン、それぞれの視線と視線、得物と得物の間に火花が散っても、クロムはもう気にもしなかった。
シナムのポテンシャルの前では、ほんの僅かでも他に気を取られればそれが命取りになる。それが分かるからだ。

ゆっくりとした動作で剣を抜くシナムを見て、クロムは逆に肩に乗せた剣を鞘に納め抜刀の構えを取る。
シナムが、ゆっくりとした動作とは対照的なスピードをもってあっさり間合いに踏み込んで来たのは、その直後だった。
袈裟斬り気味に振り下ろされた刃に対し、クロムはすかさず剣を抜き放ちそれを迎撃する。
刃と刃が×字に交錯し、辺りに金属音と共に火花が散った。

>「……――お前、魔族だろ。いつまで勇者と仲間ごっこをするつもりだ。
> 自分が魔王様に創られた意味を思い出せよ。いい加減"役割"を果たしたらどうなんだ?」

刃を押し合う最中、ふとシナムが目つきを鋭く変化させ、小さく囁いた。

「──やはりお前は」

>「同族だから分かりやすいように言う。俺達の側につけよ。
> これは魔王軍大幹部の"水天聖蛇"ラングミュア様の命令でもある」

自らの後方に向けて地を蹴り、距離を取るクロム。
しかし、シナムはすぐさま同じように地を蹴って再び急接近する。逃さない、己の攻撃からも“誘い”からもというように。
繰り出された横一文字の胴斬り。
それを、今度は剣を地に突き立てるように構えて防ぎつつ、手首に力を込め鋒を無理矢理切り上げて敵刃を弾く。
そして切り上げられたことで自然と頭上に振り上げられる形となった剣を間を置かずに振り下ろす。

>「"召喚の勇者"たちのスパイはもう終わりってこと」
> 俺の仲間でも十分対処できると思うけど、念には念を入れないとね。
> それに……嫌だろ?あいつらと一緒に片付けられちゃうのはさ……?」

──唐竹割。当たれば脳天を真っ二つに斬り裂くところだが、決まらない。
刃を十字の形で交錯させて防いだシナムは、動揺した様子は微塵も感じさせずにただ、淡々と誘いの言葉を紡ぎ続けていた。

(こいつ……剣の腕も……!)

始まる鍔迫り合いの中、クロムはギリッ、と奥歯で歯軋りするのだった。
0221クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/09(火) 23:50:36.77ID:kVCOF1aV
「魔物とは違い、魔人は人間を素体とする故の複雑怪奇な精神構造を持つ。だから“仕事”に真面目じゃない奴もいる。
 魔王軍とて初めからそんなことは承知さ。その上で、敢えて野放しにしているんだ。まだ俺も大目に見てもらえるさ」

「おいおい……聞いてなかったのかい? これは俺の“頼み”じゃない、大幹部の“命令”なんだ。
 命令は軽んじない方が良い。彼らにとっては魔人なんてそこらの人間と同じ、ただの虫けらに等しいんだから……」

「……魔王軍が恐れるのは人間の可能性。脆い肉体、短い寿命、そんな人間が唯一魔族に勝る強みは成長力。
 そいつを自ら捨てて魔に尻尾を振った奴《ニンゲン》なんぞ、なるほど確かにちっぽけな存在かもな」

「猛炎獅子は誰が相手でも戦いを楽しめればそれでいいと考える変わり者だが、果たして他の幹部の方々はどうかな?
 ……例え勇者を騙す演技であっても、戯れを何度も許してくれるほど、甘い人達じゃないと思うんだけどねぇ」

「……俺には欲しいモノがあってね。魔人《この姿》になったのも、全てはそれを手に入れる為なんだよ。
 だから悪ぃな、それまでは“仕事”をする気はねーんだ。勧誘なら他を当たれと、ラングミュア様とやらに伝えな」

「やれやれ……」

シナムがふぅ、と溜息をつくように息を吐いた直後、彼はその場から大きく自らの後方に跳んだ。
クロムがそう仕向けたわけでも、ましてや力づくでそうさせたのでもない。自ら距離を取ったのだ。

何故か? クロムはもはや改めてその意図を考える必要もなく解っていた。
これまでの斬り合いは全て、シナムにとって勧誘の為のいわば見せかけ。本気ではなく、手を抜いていたものなのだ。
つまり意図は“本番”の為の仕切り直しであり──覚悟しろよという意思表示なのだと。

「残念だよ。折角、仲間になれると思ったのに」

目つきに合わせて鋭くなっていく殺気を感じ、ドクン、と心臓が高鳴る。
これは決して強者と戦えることへの高揚ではない。
何故ならクロムの全身は今、むしろサティエンドラの時と同じ強い緊張感に包まれていたのだから。

これまでの攻防が本気でなかったのは彼も同じであった。
となれば勝負を分けるのは本気の力量、どちらがより多大な力を秘匿していたかにかかっていると言えるのだが……

(斬り合った時のあの手応え…………不味いかもな)

再びギリ、と奥歯を鳴らすクロム。
彼の見立てでは本気の白兵戦技でもほぼ互角。
しかし、黒髑髏を使い切ったクロムの攻撃手段が黒剣一本にほぼ限定されているのに対し、敵には魔法がある。
魔法は装束で殺せるとはいえ、先程の『氷魔法』の質の高さを考えれば、無力化不可能な威力を当たり前のように放ってくるに違いない。
体力面でも不安があるのは普通に考えればダゴン戦に続く連戦となるクロムの方であろう。

要するに総合的に不利なのだ。それが分かるからこそ歯軋りもする。

「うだうだ言ってねーで来いよ。力づくでどかせっつーなら、これからやってやるからよ……」

それでも潔く諦めることなど、ましてや前言を撤回して寝返る選択肢などクロムにあるはずもない。
闘気をその瞳に充満させて再び剣を納め、抜刀の構えを取る彼に、シナムは一瞬、ニィと口角を上げた。

──それこそが“本番突入”を告げる烽火であった。

(速ェっ!)

瞬きを許さない程の超がつく高速移動を以って、一気に眼前に現れたシナムの姿にクロムの目は思わず見開かれる。
0222クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/09(火) 23:56:45.28ID:kVCOF1aV
「────」

回避。
迫る脅威、すなわち顔面目掛けて放たれた刺突に対してクロムが取った行動は、反射と思わせるような素早い跳躍だった。

「捌き切れないと判断したのか、それとも単なる恐怖かな?」

言いながらその場で急停止し、逃さんとばかりに跳び上がるシナム。

「さて──どっちか──な!」

それを見たクロムは天井スレスレまで来たところで再抜刀し、体の上下を入れ替えながら剣で円を描いた。

「!」

天井に剣を突き立てて“着地”。
──と同時に、根元から切り離された大小様々な氷柱石が、重力に引き寄せられて落下を始める。
思いもよらぬ障害物の発生に、今度はシナムが目を見開く。

「ダゴンと戦わなかったせいで構造の把握が不十分だったようだな。
 要はこいつは危険を冒した奴だけに与えられる地の利ってわけだ。今度から依頼は真面目にこなすといいぜ」

「──チッ! こんなもの」

それでも見開いた目を直ぐに猛禽のような鋭いものへと戻して、シナムは降り注ぐ氷柱石を剣を一閃させて掃う。
しかし、雨のように降り注ぐそれを、一振りで一掃することは叶わず、彼の顔面はやがてクロムが仕掛けた目くらましに塗れていった。

咄嗟の思い付きではあったものの、その目論見は成功した。
とはいえこれで決着がついたわけではない。ならば、クロムは決着をつける為に動くのみである。

剣を抜き、天井を蹴ってシナム目掛けて急降下。
そして間合いに入るや否や振り上げていた剣を袈裟斬り気味に振り下ろす。
シナムは視界を封じられているからか、剣での防御も、魔法で迎撃する様子も見られない。

(──入った!)

故に無防備な急所に黒刃が直撃──それをクロムが確信したのも無理はなかった。

「────盾っ!?」

だからこそ、クロムは叫ばずにはいられなかった。正に目の前で行われた、シナムの防御を。
左腕に装着されていた呪いの盾──剣腕と魔法を警戒する余り、つい忘れかけていたその存在の名を。

「俺には剣と魔法の他にもう一つあるって──知ってた筈だろ?」

目を開け、ニタァー、と見る者の心にべったりと張り付くような不気味な笑みを浮かべて、シナムが素早く剣を突き出す。
刺突だ。狙いは心臓であろうか。
しかし場所は空中。避け切れない。かといって剣は既に抜き放たれ、その刃は盾に斬り付けられている。防御も不可能。

「ぐっ──がぁ!」

ならば、せめて致命傷だけは回避せんと、クロムは咄嗟に上体を捻って鋒を左肩で受け止め──
──と同時にシナムの胴体を蹴飛ばす。
肩から横薙ぎに心臓を抉られる事態を避ける為、蹴った反動で剣を抜き去りつつ一旦距離を取る為に。

「……流石に戦い慣れてるようだね。だけどその左腕、この戦いじゃもう使えないんじゃない?」

着地し、数メートルの空間を挟んで対峙した二人の男の表情は対照的なものだった。
笑みを崩さないシナムに対し、クロムはひたすら険しく眉間に皺を寄せるのみだ。
0223クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/09(火) 23:59:17.21ID:kVCOF1aV
じわ、と白い装束の左肩口部分が赤く染まり始める。
腕を動かそうとすれば患部に激痛が走り、思わず口元がヒクつく。
なるほど深手だ。これでは確かに満足には使えないだろう。

「……右《こっち》が使えりゃ問題ねーよ、お前を退けるくらいならな」

ヒュン、と黒剣で空を薙いで、クロムは闘志を些かも衰えさせぬ眼光を叩きつける。

「そうこなくっちゃねぇ。なんせお楽しみはこれからだからねぇ、“お楽しみ”は」

左腕に装着された盾。
それを不意に突き付けるように構えたシナムは、その意図を推察せんと目を凝らすクロムに対しやがてこう続けた。

「既に知ってるだろ? こいつがただの盾じゃないってことはさ。
 こいつが受け止めた攻撃はな、こいつに完全に吸収され《喰われ》ちまうのさ。
 魔法だろうと拳打だろうと斬撃だろうと……なんだろうとね」

この時、クロムがイメージしたのは自身が纏う装束の上位モデルともいうべきものであった。
魔法だけじゃない。あらゆる物理攻撃をも完全に殺す盾なのか、と。

「けど、喰ったモンはやがて吐き出されるのが普通だと思わないか? 人間の場合は食い物を糞にしちまうが……」

「吐き出す……? ──まさか」

しかし、クロムはそれが誤りであることを即座に直感し、思わず身構える。
そう。もし、攻撃を完全に遮断するのではなく、攻撃を跳ね返すのだとしたら──
その吐き出す瞬間をむざむざ見逃すわけにはいかない。更なるダメージを許す訳にはいかないからだ。

「警戒したところで無駄だよ。こいつはターゲットの肉体に直接吐き出すんだ。
 自分が反射の対象に指定されたことに気付くのは、
 誰であろうと威力をその身に刻まれる時まで発動を察知する事はできない。
 でも安心しな? まだチャンスはある。何故なら──こいつは気まぐれだからね」

「……なんだと?」

「いつ、誰の、どこに“飛ぶ”か分からないんだ。その時になってみなきゃ、俺でもね……。
 何度か実験を繰り返して分かったのは、“飛ぶ範囲”は盾を中心とした半径二十メーターほど。
 “対象”となるのはその範囲内に居る人間ほどの大きさの生き物に限定されること。
 そして装着者《オレ》だけは常に対象外になるってことくらいさ」

……受け止めた攻撃をそのまま誰かに返す。そこに規則性はなく、常に対象は完全なランダム。
それが事実だとするならば、聞いておかねばならないことがある。
だから一旦構えを解き、剣を下げて問う。険しさを消した素の真顔で。

「盾《そいつ》の力は“仲間も巻き込む《完全な無差別》”ってことか?」

「言ったじゃないか。“お楽しみ”はこれからだって。何が起こるか分からないから面白いんだよ」

笑みの裏に潜む尋常ではない狂気と利己心を感じ取って、クロムは鋭い切れ長へと目つきを変える。
その瞳に薄暗い嫌悪の光を湛えながら。

「……お前のような奴が息をしていると思うと、空気を吸いたくなくなってくるぜ。このクソ野郎」

【戦闘開始。左肩負傷。シナムの誘いを断る】
【シナムの盾:正式名称『魔鏡の盾』。盾で受けた攻撃を、射程内にいる人間ほどの大きさの生物(一人)にランダムで返す能力を持つ】
【レイン、クロム、マグリット、アサフェティ、フェヌグリーク、ドルヴェイク、氷像のいずれかが現在『クロムの斬撃』を受ける対象】
【どこに飛ぶかはお任せしますが、ネタとして拾い難ければスルーして下さっても構いません。その場合はクロムか氷像のどちらかに飛ばしますので】
0224クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/10(水) 03:16:08.66ID:ccBg6ZdS
【不要と思い削除したのに何故か残っていた文があったようです。
 >自分が反射の対象に指定されたことに気付くのは という部分は飛ばして読むようにして下さい】
【また「どこに“飛ぶ”か分からない」という台詞がありますが、これは「体のどの部分に攻撃が返るのかも予測不能」という事を言ってます。
 不要かとも思いましたが、念の為補足しておきます】
0225マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/02/15(月) 21:07:24.11ID:Qrb/+hSE
マグリットが感じていた不穏な空気
それがなんであるかがはっきりした

ごろつきたちを扇動し、数の優位を働かせ圧力をかける
ともすればごろつきたちと初心者狩りを戦わせ、その間に脱出するなり漁夫の利を得るなりするつもりだったが、一手でそれが封殺されてしまったのだ
コキュートスジェイルによりごろつきたちは氷像と化してしまった
残ったのは自分たち三人と初心者狩りの三人

「あらら、相手の手札一枚めくるだけで全滅とは、参りましたねえ」

困ったような口調だが、表情はそうはなっていなかった
マグリットにとって扇動したごろつきたちは利用する対象でしかなく、利用価値が思った以上に低かった事に残念さはあっても氷漬けにされて心痛む事はない
それよりもこの一手で多くの事が判明しており、その分析に暇ないのだ

これだけの封印結界魔法を使えるシナムの力量が一般冒険者の域を超えているという事
更にあえて自分たちに効果を及ばさなかった何らかの意図があるという事
それについて思惑を巡らせていると、静かだが怒気のこもった声をかけられる

>「俺の『狩り』の相手はお前にしとくよ。
> 分かるんだよなぁ、獣人風情が人間のフリしてんじゃねぇよ」

初心者狩りのうちの一人
クロスボウに矢を装填しながら怒気を向けている
その怒気を受け流すように微笑み言葉を返す

「狩り、ですか
そういうのはもっと間合いがあけて不意打ちしなくては意味がないのではないでしょうかね
私をそんな矢一本で止められるとお思いですか?」

それと共に左手に小型の貝殻盾を形成し前面に出し腰を大きく落とす
この体制は一気に間合いを詰めるスタートダッシュの構え
盾が小型なのも速度を落とさない為だ
元々鉄の肌を持つマグリットだが、盾を構える事で防御を万全に
クロム程の反射神経はなくともマグリットには別の手段がある

盾を前面に出しアサフェティの視界を遮りながら目を各所に複数創出
複眼効果で動体視力を大幅に高めて対処しようというのだった

>「俺は亜人の多いサウスマナ大陸出身でさ。
> 誤魔化してても人間と"それ以外"の連中の判別がなんとなくついちまう。
> だから言うが……お前とリーダーは異常者だぜ。味方がどんな奴なのかも理解してねぇのか?」

じりりと間合いとタイミングを計る両者だが、アサフェティが声をかける
その視線は前髪に隠され見えないが、「お前とリーダー」「味方がどんな奴なのか」という事からそれはクロムの事を指すのであろう
複眼の一つでシナムと切り結ぶ姿を見ながらも他の目はアサフェティから離さない

「クロムさんが人でない事は知っています
まだお互いに全てを知っているわけではありませんが、これから知っていけばよい事です
少なくとも、共に戦う仲間である事は知っていますし、今はそれで十分です!」

先ほど壁で交わしたクロムとの言葉を思い出しながら、迷いのない笑みを浮かべながら答える
それが気に入らなかったのであろうか
アサフェティから一層の怒気が立ち上り、それは怒声となって吐き出された
0226マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/02/15(月) 21:12:57.59ID:Qrb/+hSE
>「気に食わねぇ、気に食わねぇな。その面構えがだよ。
> 狩られる側の分際で、不敵そうに微笑んでるんじゃねぇよ」

「っふ!怒りは力を増すものですが、技を曇らせもするのですよ!」

お互いに計ったように同じタイミングでアサフェティは矢を放ち、そしてマグリットは一歩を踏み込んだ
怒りと共に繰り出される攻撃は単純で、複眼をもって注視するマグリットにははっきりと見えていた
最短で間合いを潰したいマグリットは正中線に沿って放たれた矢を躱す事なく盾を前に出し、矢を弾いてそのまま突進するつもりだった
が、その歩みは驚きと共に一歩で押しとどめられてしまう

鉄の硬度を持つ貝殻の盾を貫き、同じく鉄の硬さの肌の腕に深々と突き刺さったのだから
だが、これだけで致命のダメージとなるわけではない
それはアサフェティもわかっている
これで仕留めるつもりはなくあくまで突進を止め、驚きによって一瞬の意識の空白を生む事が狙いなのだ
その一瞬の空白に仕留めるため、クロスボウを投げ捨て本来の得物である二本のミスリルナイフを持ってマグリットとの間合いを詰めるのであった

クロスボウというわかりやすい武器で注意を引く
怒り狂った態度で相手を油断させ、ミスリルの鏃で確実にダメージを与え動きと意識を止める
ここまでマグリットは完全にアサフェティの術中にはまってしまっていたのだ

もし事前に複眼を生成していなければ、両手にナイフを持ち迫るアサフェティの姿を捉えることなく首を掻っ切られていたであろう
だが幸いな事に弓や対策に複眼を生成していたことが功を奏した
間合いを詰めるアサフェティを何とかその視界にとらえ、シャコガイメイスを横薙ぎに振るうのであった

巨大なシャコガイが高速で横移動する
それだけで空間制圧力があるのだが、あくまで苦し紛れに振るったものでしかない
アサフェティが危険を顧みず攻撃を仕掛けていれば狙い通りマグリットの頸動脈は切られていたであろう
だが、怒気は演技でしかなく、その本質はクレバーな狩人なのだ
シャコガイメイスの一撃を確実に躱したのち、それ以上間合いを詰める事はなかった

マグリットが横薙ぎの一撃と同時に後ろに転がり水槽の縁で待ち構える姿勢を見せたからだ
貝とはいえ水棲獣人相手に、水中戦を誘うような構えを見せられては深追いするような真似はできないのだろう

「驚きました、盾ごと私の腕に刺さるとは……鉄の硬度を誇っているのですけどね
これ、ミスリルの鏃ですか?
高価なミスリルを鏃に使うとは思いませんでしたよ」

左手を力なく落とし、肩で息をしながら話すマグリットに、不敵な笑みを浮かべて応える
アサフェティが深追いをしなかった理由は、誘いに乗らないとともに、これも理由だ
奇襲は失敗したとはいえ、ダメージ自体は与えているのだ
じっくり狩っていけばいい、というあくまでアサフェティにとっては狩りなのだ
故に焦ることなく、マグリットから繰り出される水弾を躱していく

マグリットは水槽の縁に辿り着くと、給水管を水槽に垂らし中の水を吸い上げる
水を生み出すことはできないが、これにより無限の弾を得た様なものだ
放水管から水弾を放つ
初撃の水弾がアサフェティが悠々と躱し、その足元に水柱を立てるのであったが、それと共に破壊音が混じっていた
それは先ほど投げ捨てたクロスボウが破壊されたのだった

「あなたの本来の武器はその二本のナイフのようですし、クロスボウは壊れてもいいですよね?」

当初飛び道具で制しようとするアサフェティと間合いを潰して一撃を加えようとするマグリットという構図だったが、すっかり逆転してしまっていた
間合いを潰されまいと水弾を放つマグリットと、それを躱し続けるアサフェティ
その応酬が続く中、次第に床は水浸しになっていく

「この貝野郎が、この程度の弾幕で俺がどうこうなるとでも……」

その台詞の途中、アサフェティが床の水に足を滑らせ大きく体勢を崩す
このチャンスをマグリットが見逃すはずもなく、一際大きな水弾を放つのであった
0227マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/02/15(月) 21:16:33.92ID:Qrb/+hSE
が、それはアサフェティの誘い
体勢を崩すことによりマグリットの射線を誘導し限定したのだ
故に躱すことも容易く、その余裕をもって一気に間合いを詰める

しかしこの一撃に狙いがあるのはマグリットにとっても同じ
アサフェティが体勢を崩した場所はその後ろでレインと戦うフェヌグリークと射線が重なっていたのだから
躱された後も水弾は飛来し、フェヌグリークの背中に迫る

そんな攻防の末、アサフェティは一気に間合いを詰めてマグリットの首筋にミスリルのナイフを走らせたのだが、すぐに違和感に気づくだろう
あまりにも手ごたえがなさすぎる
その思考が浮かんだと同時にマグリットの姿が大きく歪み、そこから巨大なシャコガイが突き出てくる

放たれ続けた水弾には幻覚物質が混ぜ込まれており、水弾を躱そうとも既に術中にはまっていたのだった
振り抜かれるシャコガイメイスに弾き飛ばされ転がっていく姿を見ながら、マグリットは感嘆の息をついていた

「右手一本とはいえ完璧なタイミングと思っていたのですけど、驚きました
左手を犠牲にして飛ぶことで衝撃を緩和したのですか」

左手は無惨に折れ曲がり力なく垂れさがっている
立ち上がり右手にはナイフを持ち構えてはいるものの、ダメージは深刻なようで体がふらついている

「さて、お互い左腕一本ずつですが、そちらは随分と苦しそうですね
まだ続けますか?」

マグリットの言葉通り、確かに動かないのはお互い左腕一本ずつ
しかし痩身のアサフェティは明らかにダメージは大きく、武器であるスピードや身のこなしにも影響が出るのは明らかである
マグリットの優位は揺るがないのだったのだが

>「言ったじゃないか。“お楽しみ”はこれからだって。何が起こるか分からないから面白いんだよ」
マグリットとアサフェティの戦う場所にははっきりとはその声は聞こえなかったが、その効果は表れた
唐突にマグリットの腹が横一線に切り裂いたような傷が生まれ血が噴き出したのだ
その衝撃に体の軸がズレ、手にしていたシャコガイメイスを落とす

「あ?え?なに、が……?」

血の噴き出る腹を抑え、片膝をつくマグリット
触った限りでは内臓には届いていないようだが、その衝撃と出血が問題だった

驚きと混乱をきたしているのはアサフェティも同じで、また幻覚では?と身構えるが

>「ははははっ!運がないのはお前の仲間の女だったようだな」
というシナムの高笑いが届き、アサフェティは事情を察したようだった
呼吸を整え、歪んだ笑みを浮かべながら慎重に近づいていく

「ふふふ、運がなかったな、その出血ではまともに動けないだろうが、俺にはわかる
とどめを刺される時に最後の力を振り絞って反撃するつもりだろう?
諦めろ、俺はそういう獣に数えきれないほどとどめを刺してきた
お前の視線、筋肉の動きで全部察知し回避してとどめを刺す」

注意深くマグリットを観察しながらシャコガイメイスを水槽に蹴落とすと、また一旦離れ別の角度から近づいていく
その間マグリットは腹を抑え肩で浅い息をしながらそれを見ているだけだった

「この血の匂い、毒か
腹を抑えて出血を止めているんじゃなく、かけるために溜めているのか?
お前の放水管は右手から分離するのも、ある程度まっすぐに伸ばしていないと放てないのも判っているぞ?」

これまでの戦いでマグリットのできる事を把握し分析しているのだ
己の狙いを看破された言葉にマグリットの顔から始めて笑みが消え、小さく舌打ちが鳴る
0228マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/02/15(月) 21:21:29.85ID:Qrb/+hSE
「そうだ、その貌が見たかったんだ!
狩られる獲物である事を自覚し絶望しろ!」

血だまりを避け、矢で貫かれ動かない左腕側から慎重に近づき、ミスリルナイフを振り上げた時、アサフェティは泡を吹き白目をむいて倒れた

「ふふふ、足りない、足りない、まるで足りないですよ?
もっと注意を払うべきでしたね」

倒れたアサフェティに代わり、絶望から愉悦へと表情を変えたマグリットが立ち上がる
その左手からは細い管が伸びていた

「悪者っぽいのであまり使いたくなかったのですが、役立ちましたよ、おじさん」

これがマグリットが故郷に帰り、そこで得た新たなる力

貝の獣人たちの中で数世代に一人蜃の獣人が生まれる
蜃の属性を持って生まれた者はウミウシの特徴も合わせて現れるのだ
ウミウシは他の生物の遺伝子を取り入れ己のものとする事ができる
それは他の八種を取り込み龍と成る為だが、同族である貝の獣人も取り込めることから、他の貝の能力を取り込み様々な能力を持つにいたる
今回、里帰りした際に吸収したのはアンボイナ
貝類最強の毒針を持つ貝なのであった

「何とか倒せましたが、この出血は拙いです、ね」

止血するにしては傷の範囲が大きすぎる
この状態で高い集中力を要する回復魔法を使用するのも難しい
内臓に届いていないとはいえ、このままでは出血死の恐れすらあると判断し、マグリットは一つの決意をするのだった

「島の呪いが反転し、魔法が使えるようになっている今なら、これで何とかなるはず」

そう言い懐から取り出したのは、大橋でクロムから投げ渡されたビキニアーマーであった
女戦士がビキニアーマーを着て戦う姿は一見すれば滑稽に映るかもしれな
防御面積があまりにも少なすぎるからだ
しかしそれは事実ではない
もしそうであれば、ビキニアーマーをつける戦士などいはしないのだから
厳然としてビキニアーマーを切る戦士がいるのは、男性冒険者にはあまり知られていない効果があるのだ

見た目の防御面積は狭くとも、魔法効果【珠の肌の守り】により、不可視の膜により全身がガードされるのだ
その膜は単純に全身を覆うだけでなく、矯正下着のごとく体を締め付けベストな体形を維持するのだ

マグリットはこの効果を防御目的ではなく全身締め付ける膜によって止血するために使ったのだ
着る際にはスカートを着用したままや上着をつけたままでも着用できるが、その効果を発揮するためには体を隠すような装備をつけていてはならない
故に、ビキニアーマーを着用した後、意を決しスカートや上着を脱ぎ棄ててビキニ姿をさらすことになるのであった
サイズがあっておらず、はち切れそうになりながらもビキニアーマーはその役割を全うしていた

「背に腹は代えられないと言いますが、流石に恥ずかしいですね
止血はできましたが……手助けに行くのはもう少しかかりそうです」

膝をつき呼吸を整えながら薬草を口にし、回復を待つのであった

【アサフェティの術中にはまり左腕に矢を受ける】
【攻防戦の中でフェヌグリークの背中に向けても水弾を放つ】
【シナムの盾の効果により腹部負傷出血】
【油断を誘い毒針でアサフェティを倒す】
【ビキニアーマー姿になり、その効果を利用して止血するも、負傷と出血のために動けず回復に務める】

『美味しいネタ頂きました、ありがとうございます』
0229レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/16(火) 23:10:27.21ID:IA0lxvyB
剣に鎖分銅が絡みついていることなどものともせず、フェヌグリークは接近を敢行した。
レインが鎌を構えているにも関わらず、ステゴロの肉弾戦に持ち込もうというらしい。

「馬鹿な――こっちにはまだ武器があるんだぞ!」

左手に持った鎌を振り回して距離を置きつつ、内心焦った。
鎖鎌を選んだのは、剣相手に距離をとった戦いができ、鎖を使って楽に無力化できると踏んだからだ。
相手を殺傷するためじゃない。よってその攻撃は急所を外した完全な牽制となる。

「"視え"てんだよッ!」

レインに誤算があったとすれば、フェヌグリークの"目"が想定以上に優れていたこと。
そして、危険を顧みずに前進できる無鉄砲さを持ち合わせていることだ。
フェヌグリークは左腕を振りかぶると、無造作に殴りかかった。
スウェーで避けるが、二度、三度と連続で拳が降りかかる。

「俺は『勇者』って職業が嫌いなんだよ!大した努力もせず、
 くだらねぇ神託と試練を受けただけで大層な力に目覚めやがる!」

拳が何度も掠めるうち、避け切れず一発が頬に命中した。
視界がちかちかと明滅し、痛みが顔に走る。
"まずい"のはダメージより隙を生んでしまったことだ。
フェヌグリークはそのチャンスを逃さず鳩尾にボディーブローを叩き込む。

「中には神の恩恵からあぶれた野郎もいるらしいがなぁ!お前のことだよ!!
 痛いだろ!苦しいだろ!『強者』に甚振られる気分はどうだ!これが実力差だ!
 俺達に歯向かったらどうなるか、徹底的に身体に教え込まれる気分はどうだ!?」

剣に絡みつく鎖を引っ張って、距離を取ろうとするレインを強引に引き寄せる。
膂力では悲しいまでにフェヌグリークの方が上だ。抵抗しても耐えられない。
堪らず召喚を解除しかけたが――鎖分銅が無くなれば相手が剣を使えるようになってしまう。

「いつだって『弱者』は這い蹲るしかねぇのさ!守ってくれる奴なんていやしない!
 何もできない奴は誰からも嫌われてゴミみたいに扱われるだけだからな!!
 それが嫌だってんなら『強者』に媚びるか『自分より弱い奴』を探すしかない!!」

大きく振りかぶって、レインの顔面に再び拳を叩き込んだ。
有無を言わせぬクリーンヒット。踏ん張って倒れるのを耐えはしたが。
倒れようが倒れまいが待ちうけているのは更なる加虐。

「覚悟しろ――これは『戦い』じゃねえ、一方的な『制裁』だっ!!」

顎に渾身の正拳を叩き込もうとするや、それは叶わなかった。
フェヌグリークはとっさに拳をひっこめて身を捻ると、背後からの水弾を躱す。
0230レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/16(火) 23:12:28.90ID:IA0lxvyB
完璧な不意打ちだったが、なぜマグリットの攻撃に気づけたか。
レインの視線が自分から一瞬外れたのを見逃さなかったためだ。

「ちッ、何やってんだアサフェティ!」

不意打ちとしては失敗に終わったが、援護としては十分だ。
レインはよろめきながらバックステップで距離を空けた。

顔の血を拭きながら体力の回復に努める。幸いなことに致命傷は受けていない。
拳が命中する瞬間、身を引いて衝撃を逃がしていたおかげである。
そのため怪我は一見派手だが、骨が折れたりしているわけではない。

「……ひとつ言いたいことがあります。あなたは間違っている」

「ガキの癖に説教か。お前と論じる気はない。
 道徳や規範さえも踏み躙れるのが真の『強者』だからな」

鎖が絡みつく剣の先端で地面を突っついて、フェヌグリークはそう答えた。
また先程のように鎖のひっぱりあいになればレインが不利。

「……『どう生きても自由だが力の使い道は誤るな』と……。
 師匠からそう教わりました……力には責任が伴う。強者なら尚更です。
 事情は知りませんが、魔王軍のように誰かを傷つける使い方は間違っている」

フェヌグリークは手の内を隠したまま勝てる相手ではない。
ゆえに切り札の開帳を決心させるには十分だった。
一呼吸置いて、レインは最後に言葉をつけたす。

「……暴力だけが、あなたの力の使い道じゃないはずです」

「なんだ。俺を改心させたいのか?」

「いえ……ただこの後、『初心者狩り』は廃業になるでしょう。
 フェヌグリークさん……これからは新しい生き方を探してください」

瞬間、レインの身体を魔法陣が包み込む。
その姿を新たな姿へと変えるために。
0231レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/16(火) 23:14:18.32ID:IA0lxvyB
レインの魔法陣を見て、経験と勘からフェヌグリークは決着を急いだ。
鎖を引っ張り、再びインファイトに持ち込もうとして――彼は宙を舞った。

「なに――」

逆転する天地の中で彼が見たのは、赤を基調とした民族衣装を身に纏った少年だった。
身の丈ほどある大剣を背負い、腕には籠手を着けている。そして手には鎖鎌。
鎖のひっぱりあいに負けたフェヌグリークは、恐ろしいほどの膂力で、弧を描きつつ宙にかち上げられたのだ。

「召喚変身……"紅炎の剣士"!」

弧の頂点に達すると、フェヌグリークはレイン目掛けて落下する。
"紅炎の剣士"となったレインは半身となって左手を前に、右拳をひく。

(……この状態じゃあ防御するしかねぇか!)

両腕を交差させて攻撃を防ごうとするフェヌグリークの考えは誤りだった。
装備、紅炎の剣士はレインが持つ三つの切り札のひとつだ。
"天空の聖弓兵"、"清冽の槍術士"と並び魔導具も備えている。

その名は『豪腕の籠手』。
装備する者の魔力に応じて膂力を向上させる魔導具。
その効果は単純にして強力。本来は主武器たる大剣を振り回すための装備だが――。
――フェヌグリークを倒すには、籠手の拳で十分だ。

「……――ぉぉぉおおおっ!!!!」

裂帛の気合いと共に放たれた正拳は、落下してきたフェヌグリークに命中した。
両腕のガードの上から、その恐ろしいまでの『豪腕』を以って腹部に大ダメージを与える。

「がはっ――……!」

内臓を損傷したフェヌグリークは最早戦える状態ではない。
血反吐を吐きながらその場に倒れ込むと、朦朧とする意識でレインを見上げる。
燃え盛る炎のような姿。彼の目には、レインがかの炎神フラマルスの如く映った。

(そ、そうか……こいつも俺と同じ……)

レインはただの『弱者』などではない。
自分と同じ、努力によって力を磨いた『戦士』だ。拳一発で逆転負けした今、そう確信できた。
そう思えるようになると、途端に不貞腐れたように故郷を去り、弱者を虐めるだけの己を恥じた。
いや……レインだけではない。これまで獲物にしてきた者は、多かれ少なかれそうだったのだろう。
0232レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/16(火) 23:16:22.29ID:IA0lxvyB
はじめはただ強さを求めて邁進していただけだったのに……。
いつからだろう。魔王軍のような思想を持つようになったのは。

力が全て……強さが全て。兵士であった頃の自分はどうだったか。
何のために強さを求めていたのか――それは、人々を守るためではなかったか。
力の使い道は同じだったはずなのに、どうしてこれほどまでに堕落してしまったのだろう。
フェヌグリークは何かを話そうとしたが、意識は段々と薄れ、やがて昏倒した。

(……危なかった。マグリットの援護がなければ負けていたかもしれない)

どうやらマグリットの方も決着はついたらしい。
だが、目に飛び込んだのはなぜかビキニアーマーにコスチュームチェンジした姿だ。
よもや魔法の効果によって止血するためとは思うまい。レインはただぎょっと驚くばかりである。

(と、ともかく……今は残ったシナムを何とかしないと!)

クロムが戦っている最中だ。悠長な状況ではない。
そのうえ、シナムが持っているボロボロの盾。なにか不気味だ。

(あの妖しい気配。クロムの剣にどことなく似ているような……)

遠目のため確証はないが、何か特殊な効果を持っているかもしれない。
でなければあんなボロボロの盾を好んで装備するとは思えない、というのもある。
シナムは残念そうな顔をすると、魔力を練り上げながらこう言い放った。

「あらら……二人とも負けちゃったのか。俺が全員片付けるはめになっちゃったじゃない」

三人を『コキュートスジェイル』の対象から外したのは、
クロムを味方に引き込めると思ってのことだが……。
かえってそれが裏目に出る結果となってしまった。

「まぁいいさ。これで纏めて凍っちゃいなよ!」

魔法陣が空中に浮かび上がり、放たれたのは氷の上位魔法。
周辺全てを凍てつかせる吹雪『ヘブンズブリザード』だ。
シナムは氷魔法を高度に修めた魔法剣士である。
だから威力を無視すればどんな氷魔法でも無詠唱で放てる。
0233レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/02/16(火) 23:18:38.60ID:IA0lxvyB
吹きつける猛吹雪を前に、背中の大剣を引き抜いてマグリットの盾となる。
更にその場に剣を突き立てた。この紅炎の剣『スヴァローグ』は、熱をもち炎を放つ。
柄を握りしめて魔力を送れば、氷属性の弱点たる炎の壁と化す。

「ノータイムで上位魔法を使ってくるとは……!
 クロムは大丈夫なのか……!?」

今の装備の影響か、クロムはこれまでの探索でも魔法に対し耐性を持っているようだった。
すぐに氷漬けということはないだろうが、吹雪を浴びればダメージは避けられないだろう。
そして、この寒さ。手はかじかみ、筋肉は硬直する。動きが鈍るのもまた必定だ。

「この吹雪は俺が魔力を供給する限り続く。すぐに止むなんて思わない方がいいよ」

"紅炎の剣士"は炎属性の装備であり、風や氷属性の威力を半減してくれる。
無理に突っ込めなくもないが、いま飛び出せばマグリットがモロに魔法を食らってしまう。
さしもの彼女といえど、負傷中の身で魔法を浴びればただでは済まないだろう。

「……っと、君との決着の前に。運命のルーレット回しちゃうかなぁ!?」

シナムが機嫌良く叫ぶと、装備している盾に自分の剣を刺した。
つまり『魔鏡の盾』に。攻撃を自分以外の人間大のモノに反射する防具に。
そう、この盾は単に攻撃を防御する意外にも使い道があるのだ。
――ランダムで防御無視の確定ダメージを与える凶悪な"武器"として。

「シナムはいきなりどうしたんだ……?」

その効果はすぐに現われた。
レインは足に鋭い痛みを感じると、耐えきれずに膝をつく。
視線を落とせば、右足から血が滲んでいるのが見えた。

「そ、そうか……"そういう"防具か……!」

盾の力を体感したレインはその反射効果を察した。
もっとも先程クロムが全力で放った一撃の反射に比べれば、適当な刺突だ。
それほどの深手にはなり得ない。あくまで普通の刺し傷程度であろう。
が、レインは運悪く足に傷を負ってしまい、クロムの助っ人どころか動き回るのも難しくなった。

「おっ……いいねぇ。それじゃあいい加減"怠け者"を仕留めますか」

不気味な笑みを浮かべると、クロムを包囲するように魔法陣が浮かぶ。
これも氷魔法のひとつ。中位に位置する攻撃魔法『フロストジャベリン』だ。
氷の槍を無数に放つ魔法が、容赦なくクロムに襲い掛かる。


【フェヌグリークを召喚変身にて撃破。その後足の負傷につき動けず】
【周囲に上位魔法の吹雪が吹き荒れ、クロム目掛けて無数の氷の槍が迫る】
0234クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/21(日) 19:55:25.37ID:XIqwPpIN
「随分な言い様だなぁ。所詮、力を得る為に人間《大切な何か》を捨てた仲間《気狂い》同士だろう?
 まさか自分だけは“まとも”だとでも言うつもりかい?」

「俺は品性まで捨ててきた覚えは無いんでね。
 お前の場合はそれも捨てて来ちまったのかそれとも元々ありはしないのか……さて判断に困るところだな」

「……なるほど、手段は選ぶか。けど、そんな甘い考えだと却って仲間も、自分自身も苦しめることになるんじゃないか?」

「──!」

不意に鼓膜を打った斬撃の炸裂音は、クロムの目を無意識にその方向へと向けさせた。

「マグリット……!」

そうして飛び込んできたのは、胴を深く斬り裂かれ激しく流血する驚き顔のマグリット。
対するアサフェティの顔には獲物を刻んだ愉悦は無く、代わって事情を呑み込めないといわんばかりの硬直した表情のみが浮かんでいる。
それはマグリットだけではない、アサフェティにとっても目の前の光景がイレギュラーな事態だったことを意味している。
──恐らく盾が吸収した“クロムの斬撃”。吐き出された不可避のそれを、マグリットが受けたのだ。このタイミングで。

>「ははははっ! 運がないのはお前の仲間の女だったようだな!」

「……」

「分かったろう? 仲間の身なんぞをいちいち案じるような奴が却って仲間を傷付けちまうんだってことが!
 幸運の女神はより度胸のある男に媚びを売る──だから手段を選ぶような軟弱野郎じゃ俺には勝てないのさ!」

得意気に高笑いしつつ、一歩、煽る様に音を立てて踏み出すシナム。
だが、目の端でそれを捉えながらも慌てる事なくゆっくり目を戻したクロムは──やがて嘲る様に鼻で笑みを漏らした。

「どうかな。お前が手懐けたその幸運の女神……今度からは仲間にも媚びを売るように躾けておくといいぜ」

途端にシナムの視線が周囲を索敵するかのように左右に散り、高笑いが止まる。
クロムに遅れる事数秒、どうやら彼も気が付いたらしい。
フェヌグリークがレインに敗れ去り、アサフェティもまたそれに続く様にマグリットに敗れ去った事実に。

>「あらら……二人とも負けちゃったのか。俺が全員片付けるはめになっちゃったじゃない」

と、残念そうにシナムは言うが、恐らく彼が残念がっているのは仲間の敗北という事実それ自体ではない。
一人で三人を始末する面倒な事態を残念がっているのだ。
薄々察していたことだが、彼にとって二人はレイン抹殺の為に利用しただけの所詮は使い捨てだったのだろう。
ラングミュアという大幹部がダゴンを利用したように。
後に二人から情報を聞き出そうとしても、結局、何一つ重要な情報は得られずに終わるに違いない。

「──チィ!」

──突然何かが空間を吹き荒れ、思わずクロムを強く舌打ちさせた。
風か? ──否。それは極地の寒風を思わせる突き刺すような凍てつく殺気。
しかし、シナムの頭上に浮かび上がる魔法陣が、それを本物の冷気に変えるまでコンマ数秒とかからなかった。

「ぐっ……!!」

腕を顔の前でクロスさせ、クロムは“それ”に歯を食いしばる。
相手が並の装備、あるいは並の戦士であれば、瞬時に絶命させることができる高位の魔法──
強烈な極寒の冷気を勢いよく放出することで、局地的な大吹雪を発生させる氷魔法・『ヘブンズブリザード』に。

『反魔の装束』がその威力を半分は殺してくれる。お陰で命が凍り付く事は無い。そう、少なくとも一撃では。
──それは言い換えれば連続で長時間、同規模の吹雪を浴びせられればその限りではなくなるということだ。
当たり前だが殺し切れなかった威力は、衣のガードを突き破って生身の肉体に打ち込まれる運命なのだから。
初めは皮膚、次にその内側の肉……更に長時間の猛攻に晒されれば、終いには骨までが完全に凍り付くだろう。
0235クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/21(日) 19:57:31.21ID:XIqwPpIN
(やはり時間は味方しちゃくれねぇな。……魔力が尽きるのを耐えて待つわけにはいかねぇ、か)

>「おっ……いいねぇ。それじゃあいい加減"怠け者"を仕留めますか」

一旦、攻撃の矛先がレインに向いたのも束の間であった。
シナムの殺気に満ちた視線が再びクロムに注がれると同時、その殺気を具現化したかのような氷の槍が空中に出現したのである。

「こんな氷のオモチャで仕留めようってか? 俺も見くびられたもんだ」

しかし、大軍が城を取り囲むが如く、クロムの全方位を埋め尽くす無数の槍を見渡しながら、クロムは不敵に笑った。

「ははは、君を見くびっているかどうかは直ぐに判るさ!」

笑い返すシナムがパチン──と指を鳴らす。
それは正しく大軍の将が兵士に示した“総攻撃”の合図であった。
──その冷たく鋭い鋒を突き立てんと、情け容赦なく一斉に殺到する凶器の群れ。

(これで終わらせる。頼むぜ……俺の思った通りに行ってくれよ)

それに対し、クロムが取った行動は前進。地面を思い切り蹴っての急加速。
剣を素早く十字に振るいながら前面を埋め尽くす弾幕さながらの氷の槍衾に自ら突っ込んだのである。
その場に留まり奮戦したところでもはやダメージは免れない。ならば、前後左右上下いずれかに強行突破を図る。
その方がむしろ留まるよりも、ダメージは余程小さく済むであろうというのがクロムの考えであった。

「──おおおおおおおおおおおっ!!」

衝突する十字の黒閃と氷の弾幕。
その直後、弾幕の一部を見事十字型に切り開いて、刃のみが殺到する無慈悲な処刑空間から飛び出すクロム。
全身に大小無数の切り傷、刺し傷を負いながら、それでも深手は一つもない。
つまり強行突破は成功。判断は正解だったのである。
となれば、後は戦いそのものを終わらせる為にシナム目掛けて全速で駆け、再び黒剣を振るうのみ。

「────…………地獄を巡れ」

「!」

だが──首を狙って横薙ぎに振るわれた必殺の刃も、シナムの剣によってあっさりと阻まれてしまう。
いや、重要なのはもはやその点ではない。
剣と剣が交錯し、その衝突音が響き渡る中、シナムは確かに紡いでいたのだ。まだ記憶に新しい“呪文”を。

「『コキュートスジェイル』! 本命はこっちさ! はははははははは!」

咄嗟に刃を引くクロムを、もはや遅いと言うように四方から覆い尽くす結界の牢屋。
あのゴロツキ達が証明したように、それに囚われた者を待つのは氷結地獄行きの運命ただ一つ。

「────」

沈黙するクロム。いや、もはやその場に在るのは、クロムの形をした物言わぬ氷像でしかなかった。

「君の言う通り、『フロストジャベリン』じゃ殺せないことくらい分かっていたよ、初めからねぇ。
 だから地獄を用意して待ってたんだよ、飛び出してくるのをさぁ!
 ほんの少しだけ手こずったけど、所詮は俺の敵じゃない。くくくくく、あはははははははは!」

笑う。シナムは勝利を確信した高笑いを響き渡らせる。
しかし、やがて永遠に続くかと思われたそれを止めたのは、生き残った召喚の勇者でもなければ獣人の伝道師でもなく──

「……は?」

体を凍てつかせ息絶えたはずのクロムであった。
シナムは見たのである。氷像と化し凍り付いたはずの彼の目が、一瞬、僅かに動いたのを。
0236クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/21(日) 19:59:40.82ID:XIqwPpIN
「なっ──────あ゛っ!?」

剥がれ落ちていく氷。露になった、生きた皮膚。
脈動する筋肉が生み出すは、溢れ出る闘志と殺意の具現化物──超高速の逆袈裟斬り。
完全に不意を突かれたシナムが、それを躱すことは不可能であった。

「ば、馬鹿なっ……!! 完全詠唱の拘束結界魔法だぞっ……!! 動ける筈が……!?」

どぱっ、と真っ赤な血を空中に噴き上げながら、シナムはふらふらと後退る。
その血走った眼が睨むのは、全身を覆っていた氷を完全に払い落し、その場に仁王立ちするクロム。

「俺は魔法が使えないが、その代わりに耐性があってね。この戦いではそれが唯一、俺がお前に勝る点だった」

「……耐性……!?」

「だが、戦いが長期化してお前が魔法を使えば使う程、俺の異常なタフさにやがて気が付く事になるだろう。
 俺は体力を更に削られた挙句、唯一の強みも失う。そうなったらもう劣勢を挽回するのは絶望的だ。
 だから……俺は戦いが長期化する前に、お前に勝利を確信させる状況を作り出しておきたかったんだ。
 ……あの氷の槍を見て俺が笑ったのは、『コキュートスジェイル』を引き出す為の挑発のつもりだったんだよ。
 まぁ、その必要もなく元々氷の槍は布石だったようだが……」

「! そ、そうか……“氷漬けにされる”のを待っていやがったのか……!
 俺に見抜かれる前に、反撃できないほど体力を削られる前に……俺を油断させてそこを討つのが狙いだったのか!」

「一時はどうなることかと思ったが……勝利の女神だけはお前じゃなく、俺に微笑んでくれたようだ」

クロムは口角を上げて思わずしたり顔を見せつけるが、傷口を抑えながらシナムもまた冷ややかに笑い返した。

「どうかな……? 確かに思わぬ深手を負ったが、それでも“致命傷”じゃない。
 ククク、残された力だけでもお前ら死にぞこないを片付けるのはわけもな──」

「残念だが──お前の“剣”の方は“致命傷”だったようだぜ?」

「ッ!?」

だが、クロムが顎をしゃくった先に視線を合わせた途端、その顔も一気に強張るのだった。
何故なら刀身が根元から無くなっているのだから。
先程の逆袈裟の斬撃が、“ミスリル製”の剣までをも切り裂いていたことに気付かされれば、流石に衝撃が小さい筈もない。

「別に驚くことはねぇよ。希少金属という意味じゃ、俺の剣もそいつに負けちゃいねぇからな」

「そういうことか……。確かに君の言う通りだったな。ちょっと見くびってたみたいだ、君の……いや、君達のことを。
 ……良ぉく分かったよ、ここは一旦退いた方が賢明だってことがねぇ……」

言いながら、シナムは腰から下げていた小さな袋を取り出す。
食料袋にしては小さいので、薬草などを入れる道具袋だろうか。
ただ、気になるのは『退く』と明言した男が、この期に及んで何の道具を使う気なのか、という点だが……。

「次は必ず仕留めてみせる。俺の“本当の愛刀”と“本当の仲間”でね」

シナムが袋を自らの頭上に投げ、その中身を空中に飛散させる。
それは黄金に光り輝く粉──。しかし、ただの金粉などではない。
空中を舞っていたそれらが、やがて見た事も無い黄金の魔法陣を形作って弾け、シナムを覆う黄金の結界を生み出したからだ。

(魔導具──)

「今度は最初から本気で行く。全力でその命、狩らせて貰う。その日まで精々、腕を磨いておくことだね。ククククク──」

周囲を照らす金色の光が、次第に空間そのものに?み込まれていくかのように消失していく。
──光が完全に消えた時、それまでそこに在った結界もシナムの肉体も、完全に消え失せていた。
0237クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/21(日) 20:01:39.97ID:XIqwPpIN
「気配も感じない。……こいつは噂に聞く『転送魔法』というやつか。あの妙な粉が発動装置だったらしいな」

誰に言うでもなく独り言のように呟きながら、クロムはやや硬い表情でレインとマグリットを見やった。
が、そこで思わぬ“異変”を目の当たりにして、全く別の意味でまた顔を硬くするのであった。

「ったくよぉ……獣人ってのは何考えてんだか、たまに分からなくなるぜ」

どういうわけかビキニアーマー姿となっているマグリットに、たまらず溜息を投げかける。仕方がない。
アサフェティの敗北を確認した直後に意識を彼女から離したクロムには、然る事情から今の格好となった経緯など知る由もないのだ。

「恐らく止血じゃよ。『ビキニアーマー』が持つ魔法効果を利用しての、応急処置と言ったところじゃな」

「……あんたは」

不意の背後からの声に、クロムは薄く目を細めた。
振り返ればそこにはのそのそと歩み寄って来る一人のドワーフの姿が──『斧砕きのドルヴェイク』である。

「お主と話すのは初めてじゃが、今更お互い自己紹介の必要もないじゃろ。のぅ、クロムとやら」

「……『ビキニアーマー』にそんな効果があるとは初耳だな。年の功ってやつか」

「なに、儂にそう語り掛けて来とるだけじゃ。長く生きてれば聞こえてくるようになるんじゃよ、“物”の声がのぅ」

クロムが手にする黒剣をじっと見つめて、ドルヴェイクは言葉を続ける。

「その剣でミスリルの剣と“相討ち”に持ち込むとはのう。いやはや聞きしに勝る腕前じゃ」

その時だった。突然、黒剣の鋒に大小無数の亀裂が生じ、そこだけが内部から爆破されたかのように弾け飛んだのは。
それはあたかも『相討ち』の言葉が起爆の合図になっていたかのようであった。
クロムは、鋒を失い、剣としての体裁をも同時に失った己の愛刀を一瞥することなく、ただドルヴェイクを見据え続けていた。

「気が付いてたのか」

「お主の剣がそう語り掛けて来たのでの。弱った剣で一方的にミスリルの剣を叩き割るなど、土台無理な話じゃて」

「無理をしなきゃあいつを退けることはできなかった。黒剣《こいつ》が死んでも俺達の命が助かったなら、安いもんだ」

「……いや、その剣はまだ死んではおらぬ」

「なに?」と、怪訝な顔をするクロムに、ドルヴェイクは「死んではおらぬ」と再度言って、再び歩き始める。
そして今度はクロムを背にする形を取って立ち止まると、振り返らずに虚空を見つめた。

「人にも命があるように、物にも命がある。命尽きた物は、何も言わん。人の躯が何も言えんようにな。
 じゃが……その剣からはまだ声が聞こえるんじゃ。『まだ生きられる』という声がの……」

「……。つまり、この剣は直せる──いや、“あんたなら”直せる……と?」

「……儂ができるのは精々、残った刀身に新たに鋒を拵えてやり、“小刀《脇差》”として再生させるくらいじゃよ。
 黒妖石は接着の修復が可能なような楽な素材とは違うのでの」

「……剣が言う『まだ生きられる』ってのは、姿を変えて脇差としてなら……ということか」

折れた剣はもはや武器とはならない。かといって、クロムには他に頼りになる予備の剣があるわけでもない。
町に行けば金さえあれば剣などいくらでも手に入るが、はがねの剣程度では所詮、愛用の武器にはなり得ないのだ。
頑丈な希少物質で創られた特別品だからこそ、クロムの人外的剣腕にも自壊せず耐え切れて来れたのだから。
愛刀になり得る剣──それを手に入れるまでの間に合わせとしてならば、黒妖石の脇差の方が遥かに無難といえる。
だからクロムは迷いなく言い切るのだ。

「分かった。あんたに頼みたい、再生を」──と。
0238クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/02/21(日) 20:04:35.67ID:XIqwPpIN
「ならば儂について来るが良い。ただし……これから行くところはサマリアよりも遥かに危険な魔物がうろつく場所じゃ。
 身の安全は保障できん。それでもよければ……じゃがな」

「そこはどこなんだ?」

「故郷じゃよ、儂の」

それだけ言うと、ドルヴェイクは一人、のそのそと歩いて出口へ向かっていく。
その後ろ姿をしばし目で追っていたクロムだったが、やがて自分の手に視線を落とすと、黙って瞳を凝らした。

呪いの道具の特徴である、黒い靄のようなオーラ……それがどう見ても剣から消えているのである。
恐らくこれは“呪いの剣”としての寿命が尽きた事を意味するのだろう。

触れた者から強制的に魔力を吸い上げ続ける呪いの刀剣。
考えてみれば、この呪いが生きている限り、流石のドルヴェイクも触れる事は躊躇うに違いない。
多分、呪いが解かれた事を彼は見抜いていたのだろう。だからあっさり再生を引き受けたのだ。

(物の声を聞く、か……)

クロムはレイン、マグリットの二人を再び見やると、折れた剣をゆっくり鞘に納める。

「……聞いての通りだ、俺はあの爺さんについて行くことにする。が……お前達はどうする?
 俺は自分の剣の為だが、別にお前達まで俺に付き合ってわざわざ危険な目に遭う事はないだろう。
 まぁ、行くも行かぬもお前達の自由。任せるよ」

そして改めて自分の意思を伝えると、ドルヴェイクの後をついて出口へ向かうのだった。

【戦闘終了。全身傷だらけになるが、シナムに深手を与え、武器を破壊して撤退させる】
【シナムは魔道具を使って転送魔法を発動し、どこかに瞬間移動】
【ドルヴェイクの故郷に行くことを決意】
【悪鬼の剣→鋒が砕け散り、武器として使用できなくなる。呪いが解除される】
0239マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/02/28(日) 19:28:04.46ID:pjQ6Pw6x
ビキニアーマーは被服部分の少ない単なる露出装備に思われるかもしれないが、その実魔法のスキンにより全身を覆い引き締める力を持つ
それを利用して切り裂かれた腹の止血を試みたのだが、傷が広く回復が遅い
いまだ立ち上がれぬところで、水槽の間全域を吹雪が襲う

本来の威力には程遠いのかもしれないが、今のマグリットにとっては十分な脅威
俯き身を固めた得る事しかできなかった
しかし、唐突に吹雪が和らぐのを感じ顔を上げるとそこにはマグリットの前に立つ赤装束のレインがいた
紅炎の剣スヴァローグを床に突き立てる事により、吹雪の威力を和らげる結界を形作っていたのだ
しかしそれがどういう意味かはすぐにわかる

「く、すいません、足手まといになってしまって……」

マグリットを守るためにレインという戦力がここで釘づけにされてしまっているのだから
本来勇者を守り導くはずの自分がこうして守られてしまっている事に不甲斐なさを感じるのであった

数的な有利を生かせぬまま、残る戦いはクロムとシナムの1対1の戦いとなる

>「……っと、君との決着の前に。運命のルーレット回しちゃうかなぁ!?」

そんなレインが唐突に片膝をつく
見ればその足には血が滲んでいる

「攻撃の気配がなかったのに……あの盾ですか!あれで私のお腹も」

シナムの言葉とレインのダメージを見て、ようやく気付いた
自分が何の予兆もなく腹を切り裂かれたのはあの盾の効力だったのだ、と
回避不能な攻撃の転送とでもいおうか、恐るべき盾である

戦いは終局に突入する
氷の槍衾を強行突破したクロムの横薙ぎの一閃も防がれ、その代わりにシナムのコキュートスジェイルが発動するのだった

「いけない、あれは私では解除できない!」

強力な氷結結界
ごろつきが氷漬けにされた時とは意味合いが違う
クロムが氷漬けにされる姿を思い浮かべ、思わず叫ぶのだがどうにもならず
立ち込める靄の中から、物言わぬ氷像となったクロムの姿が露になったのだたった

勝利に酔い高笑いを上げるシナム
絶望感に包まれるマグリット

だが、それは一瞬
氷が剥がれ落ちながら、その中から繰り出されるクロムの超高速の逆袈裟斬りがシナムを切り裂いだのだった
致命傷を与えるとまではいかなかったようだが、シナムのミスリルの剣まで叩き切っていたのだ
これを見てシナムは撤退を選択、黄金の粉を振りまき虚空と消えていった

ここに戦いの終結を見たのだったが、その代償は大きかったようだ
立ち並ぶごろつきたちの氷像
レインやクロム、マグリットの傷も浅くはない
特にクロムは斧砕きドルヴェイクの指摘通り、愛刀が粉砕してしまっているのだから

戦いが終わり、ようやく一息をつつ一行
>「ったくよぉ……獣人ってのは何考えてんだか、たまに分からなくなるぜ」

「あははは、クロムさんからのプレゼントが思わぬところで役立ちましたよ」

その効能についてはドルヴェイクによって説明される
説明が正しいと一目でわかるだろう
マグリットの腹の傷部分は赤く染まり不自然に膨らんでいるのだから
引き締め効果で傷を押さえつけてはいるが、完全な止血という訳にもいかなかったようだ
0240マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/02/28(日) 19:35:15.19ID:pjQ6Pw6x
話しはクロムの愛刀の再生について
ドルヴェイクは自身の故郷である大陸についてこれば直せるというのだ
勿論クロムは再生の為にドルヴェイクと共に大陸を渡るのだが…‥

「水臭いですよ、仲間じゃないですか
とは言え、治療や後始末はしなければいけませんし、それに手続きは必要ですのでしばしお日にちを頂きたいですね
先ほども言いましたが、島の発光現象についてギルドや国からの調査も入るでしょうが、私は立ち会えません
実を云うと教会からは待機命令を受けている身ですので、調査隊が来る前に姿を……」

事後の件について話すマグリットだったが、その貌は蒼白で言葉は途中で途切れ崩れ落ちる事になる
それとともに水槽の間の気配が一変した事に気付くだろう
あたりを見回せば、床が、壁が、徐々に色を変えていっているように見える

レインとクロムはこの現象がどういうものかわかるだろう
これは島の隠し通路と同じ色
即ち、夥しい量の陸生の貝やナメクジがあたりを覆っている事を表しているのだから

「出血が過ぎたようですね、彼女はこちらで回収しておきましょう
彼らがそう望んでおりますので」

部屋に入ってきたのは聖歌のアリアと屈強な男たち
だが、男たちは何処かしら人間ではない気配を醸し出している
そう、彼らはマグリットの故郷の貝の獣人たち
既に水槽に落ちたシャコガイメイスも回収されていた

「お話はまた今度、ですね」

担がれていくマグリットに声をかけ見送る
それを見届けた後、レインとクロムに向き変える

「改めまして、聖歌のアリアと申します
教会から離れた元僧侶、とお聞き及びかもしれませんが実体は少々異なりまして
教会という囲いに囚われず自由に動けるようにしてもらっているのです」

自己紹介と共に奏でられる歌は周囲を照らすような錯覚を与えるだろう
僅かではあるがレインとクロムの傷が癒されている
しかしこの歌の本来の効果は……ごろつき達を固めていた氷が徐々に解けていっている
コキュートスジェイルの解呪なのであった

「お見事な戦いぶりでした
ダゴンのみならず初心者狩りをも退けるとは
この件についての詳細については私から教会、ギルド、国へ報告しておきましょう
今後の彼女についても、教会として便宜を図らせてもらいますわ」

事後処理を請け負う旨を告げた後、回復の唄にてレインとクロムを癒す
一曲終えた後、アリアから

「あなたの刀が砕けた事も、ここでドルヴェイクとの縁が結ばれたのも
あなた方は勇者の一行としてこの大陸を出て先へ進むべきという天祐と言えるでしょう」

アリアはレインに向き直り、他大陸の状況を語るのであった

【事後処理をしようとするも、出血により気絶】
【貝の獣人たちがマグリットを回収】
【事後処理はアリアが買って出て、マグリットの今後についても便宜を図る旨を伝える】
0241レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/06(土) 09:31:59.40ID:4pgMr8mR
発動した完全詠唱の『コキュートスジェイル』は、クロムを容赦なく氷漬けにした。
――が、それこそがクロムの狙いだった。『反魔の装束』の力でその効力を半減させ、氷獄の牢から脱出。
不意を突いて繰り出した超高速の逆袈裟斬りはシナムの剣を根元から叩き斬り、胸から鮮血を飛び散らせた。

「やった!」

レインはクロムの勝利を確信した。
さしもの『初心者狩り』のシナムといえど、武器を壊されては戦いようがない。
予想通り撤退を決意したのか小さな袋を取り出しながらこう言い放った。

>「次は必ず仕留めてみせる。俺の“本当の愛刀”と“本当の仲間”でね」

レインは反射的に倒れているアサフェティとフェヌグリークを見る。
『初心者狩り』の仲間だった彼らは、シナムにとって出来合いの仲間に過ぎなかったのだ。
ちょうどレインがクロムとマグリットに出会うまで急造のパーティーを組んでいた時のように。
だがこうも平気で人を捨て駒扱いする人間をレインは知らない。胸の内には微かに怒りが灯っていた。

>「今度は最初から本気で行く。全力でその命、狩らせて貰う。その日まで精々、腕を磨いておくことだね。ククククク──」

シナムは袋を頭上に投げると、中身から黄金の粉が飛び出す。
それは黄金の魔法陣を形成して、結界を生み、その姿を手品のように消した。

>「気配も感じない。……こいつは噂に聞く『転送魔法』というやつか。あの妙な粉が発動装置だったらしいな」

転送魔法。モノやヒトを瞬間移動させる魔法のことだ。
となればシナムは一足早くこの『海魔の遺跡』を脱出したのだろう。
退けたまでは良いが、結局のところ彼の真意は分からずに終わってしまった。
最後の発言は財宝というより、自分達の命そのものが狙いのようにも感じたからだ。

「……命が幾つあっても足りないね」

ダゴンの封印を解いた者と初心者狩りのシナム。どちらも謎を残したまま戦いを終えてしまった。
ただひとつ分かっているのは、彼らの狙いが"召喚の勇者"の命という一点に尽きる。
0242レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/06(土) 09:33:27.21ID:4pgMr8mR
戦闘が終わると、ドルヴェイクがのそのそと近付いてきた。
『ビキニアーマー』の隠された魔法効果について説明してくれると、
レインは足の怪我も気にせず感心した。武具の世界は果てしなく広い。
自分の武具については知り尽くしてると断言できるが、まだまだ未知の武具は存在するのだ。

何気なくクロムの黒剣が視界に入る。
黒剣には罅が入っており、殺傷力が落ちているという。
それでも敵の剣を破壊してみせたのだから相変わらず恐るべき技量である。

クロムの黒剣は、ただの剣ではない。
武器を大量に所有し、武器屋の息子でもあるレインには分かる。
あれはドワーフが採掘するミスリルのような、特別な金属を素材にしている。
壊れてしまったら最後、修復できる腕を持つ鍛冶職人を探すのは至難であろう。
マリンベルトではまだ使えると言っていたが、果たしていつまで持つか――。

>「その剣でミスリルの剣と“相討ち”に持ち込むとはのう。いやはや聞きしに勝る腕前じゃ」

――そう思っていた矢先。ドルヴェイクの言葉と同時に黒剣が切っ先を中心に砕けた。
それでもクロムは戸惑うことなくドルヴェイクを見据えたまま話を続ける。

>「人にも命があるように、物にも命がある。命尽きた物は、何も言わん。人の躯が何も言えんようにな。
> じゃが……その剣からはまだ声が聞こえるんじゃ。『まだ生きられる』という声がの……」

至難とされている修復を可能とするのは、他でもないドルヴェイクだった。
彼はドワーフだ。ドワーフといえば高い鍛冶の技術を持つことで有名であり、
普通の鍛冶屋とは質が違うと父から散々聞かされた記憶もある。

>「……剣が言う『まだ生きられる』ってのは、姿を変えて脇差としてなら……ということか」

とはいえ、黒剣の残った刀身を素材に小刀として再生させる――……という形ではあるが。
剣を打ち直すには故郷に戻らなければならないらしく、クロムはドルヴェイクに同行するという。

>「……聞いての通りだ、俺はあの爺さんについて行くことにする。が……お前達はどうする?
> 俺は自分の剣の為だが、別にお前達まで俺に付き合ってわざわざ危険な目に遭う事はないだろう。
> まぁ、行くも行かぬもお前達の自由。任せるよ」

どこか余所余所しくそう言って。クロムはドルヴェイクの後をついていく。
『召喚変身』を解除すると、怪我した片足を引き摺りながらクロムを追いかける。

「クロムの大事な剣が壊れたんだ、一緒に行くに決まってるよ。
 だって俺達は仲間じゃないか。危険なんて……大した問題じゃない!」

そう、クロムは大切な仲間だ。仲間の目的は、自分の目的でもある。
欲しいものがあるなら一緒に探そう。剣が壊れたなら、一緒に直しに行こう。
0243レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/06(土) 09:37:06.34ID:4pgMr8mR
港町マリンベルトで言ったように、黒剣の心配をしているのは一人じゃない。
ドルヴェイクの故郷がどこなのかは知らないが、どこだろうと行く所存だ。

「儂の故郷は遥か南、サウスマナ大陸に存在するドワーフの地下王国じゃ。
 クロムに語った通り、簡単な道程にはならぬ……覚悟するのだぞ」

マグリットもまた、去りゆくクロムを見て言う。

>「水臭いですよ、仲間じゃないですか
>とは言え、治療や後始末はしなければいけませんし、それに手続きは必要ですのでしばしお日にちを頂きたいですね
>先ほども言いましたが、島の発光現象についてギルドや国からの調査も入るでしょうが、私は立ち会えません
>実を云うと教会からは待機命令を受けている身ですので、調査隊が来る前に姿を……」

――話の途中で、マグリットは地面に倒れ込んでしまった。
『ビキニアーマー』で応急処置を施したといえど、しょせん緊急の手当てに過ぎない。
傷はやはり浅いものではなかったらしく、マグリットは顔を苦悶に歪めている。
レインが慌ててマグリットに駆け寄ろうとした時だった。貝の獣人達と"聖歌の"アリアが現れたのは。

……――――突如現れたマグリットの同胞とアリアが、戦いの事後処理をする旨を告げた。
獣人たちは手早くマグリットを回収し、アリアは『コキュートスジェイル』を解呪。
降って湧いた来訪者たちにドルヴェイクも何事かと足を止め、出口で待ってくれていた。

すると、アリアが特技である『聖歌』によって傷を癒してくれる。
透明感のある歌声は、さながら天使かと疑うような美しい調べだった。
曰く、アリアは教会の人間であり、あえて教会に籍を置かぬことで、自由に動ける身分ということ。

>「あなたの刀が砕けた事も、ここでドルヴェイクとの縁が結ばれたのも
>あなた方は勇者の一行としてこの大陸を出て先へ進むべきという天祐と言えるでしょう」

だが平和なイース大陸を出るということはそれ以上の危険が待ち受ける。
ドルヴェイクの言う通り、遭遇する魔物も今以上に強力になってくるだろう。

「ただお気をつけください。教会が伝道師に待機命令を出したり、宣教師派遣を中止したのは、
 まず北の大陸……ノースレア大陸にて大きな動きがあったためなのです」

「……ノースレア」

大陸の名を呟いたレインの顔は、今までにないほど険しいものだった。
0244レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/06(土) 09:39:11.91ID:4pgMr8mR
ノースレア大陸はほとんどが雪で覆われた極寒の土地で、歩くだけでも推奨レベル20以上が求められる。
そんな厳しい環境で育つ人と魔物は、概して強力な個体が誕生するという。
大陸一の大国である『コールディア聖王国』は教会とも太いパイプで繋がれていたが、
魔王軍の手によって陥落し、聖都クーリスもダンジョンに変えられたと聞く。

「ノースレアは、すでに八割が水の魔族ラングミュアによって占領されています。
 教会が擁する神殿騎士団を中核とした、抵抗軍が奪還に動いていますが……。
 つい最近、炎を纏いし魔族が現れ、抵抗軍を次々と殲滅しているとの報が入っています」

「ラングミュア。ダゴンが言っていた名前と同じだ……!」

「ダゴンの封印を解き、レインさんの命を狙ったのも奴の仕業なのでしょう。
 ……といっても教会も大した情報を知りません。水の魔族は決して正体を現さない。
 影から人を操り、策謀を巡らせて魔王軍の邪魔者を始末する……そんなタイプですから」

「それに加えて炎の魔族とは……」

レインの脳裏をよぎったのは"猛炎獅子"サティエンドラだ。
"召喚の勇者"一行として最初に挑み、そして決着がつかぬまま終わってしまった彼との戦い。
いや――レイン個人の感想は、敗北に近いのが率直なところだ。
魔力が尽きたあの状態で戦い続けても、サティエンドラを倒すには至らなかっただろう。

今の実力で大幹部級の敵と戦うことになった時。
はっきり『倒す』と。レインは自信をもって言えない。

だが気づけば自然にぐ、と拳を握りしめていた。
……――サティエンドラとまた戦えるかもしれない。
あの時勝てなかった相手に、リベンジするチャンスがあるかもしれない。

『精霊の森』にてサティエンドラの話を聞いた時、
レインは運命という巨大な歯車が動いたような感覚に陥った。
その時は不気味に感じたものだが、今度は奇妙な高揚感を感じた。

「レインさん。恐らく炎の魔族はあの"猛炎獅子"サティエンドラで間違いないでしょう」

レインの様子を見て、見透かしたような顔でアリアは微笑んだ。
0245レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/06(土) 09:41:48.24ID:4pgMr8mR
「ただ、それだけではないのです。西の大陸では、地の魔族が次々と国を滅ぼしています。
 もしかしたら西大陸(ウェストレイ)一の大国……ミスライム魔法王国までも滅んでしまうかもしれません」

そして、とアリアが続けて言う。

「南の大陸……サウスマナ大陸では、空の果てに続く『宇宙の梯子』が風の魔族に占拠されました。
 梯子には山を砕くと伝承に綴られる衛星砲があり、各国は喉元に刃を突き立てられたに等しい状態です」

「……ノースレアのみならず、各大陸が魔王軍によって窮地に陥っているってことですか?」

アリアは「そうです」と肯定した。各大陸に存在する情報の点と点。
それを繋げれば、アースギアという世界がいかに危機的状況に陥っているのかよく分かる。
それも教会という情報網が為せる技だ。平和なイース大陸にいるだけではピンとこなかっただろう。

「今、どの勇者に各大陸の魔族を討伐してもらうか、各国の意見も交えて選任しているところです。
 事実、北には"神剣の勇者"が、西には"探究の勇者"が向かうことに決まっています。
 南は候補が割れていますが、私個人としては"召喚の勇者"一行に頼みたいと考えています」

――レインは身を灼くような焦熱に駆られた。他の勇者に討伐を任せるなんて冗談じゃない。
先に幹部級を倒されると、魔王打倒を先に越されてしまう気がしてならなかった。
名誉や名声の問題じゃない。魔王を倒すのだけは、自分であるべきだ。

どちらかが死んだら、代わりに魔王を倒す……。
それが友達と交わした約束なのだから。

勇者に選ばれる前から友人だった。
友達は幼い頃から魔法の才に恵まれ、神童とまで呼ばれた男で。
彼に並び立つ者はいないと思っていた。魔王を倒すのは彼だと誰もが思っていた。

だが彼は最果ての地(ノースレア)で死んだ。
陥落寸前だった聖都を守るため、命を賭して戦った。
0246レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/06(土) 09:45:13.73ID:4pgMr8mR
時折思う。
魔王を倒すという目的を掲げているのは、
使命のためでも、世界を救いたいからでもない。
もしかしたら――……。
そこでレインの思考は打ち切られた。

「その話じゃが、そう日が経たんうちにメガリス地下王国のドワーフたちが
 南の大陸を代表して"召喚の勇者"一行を指名するじゃろう。内々定といったところじゃのう」

「良かった。今回の活躍で押せるとは思っていたのですが、それを聞いて安心しました」

ドルヴェイクが不意に口を挟むと、アリアは喜んだ。
レインはなぜドルヴェイクがそんな話を知っているのか疑問に感じた。
神代文字を知っていたり、斧は煌びやかなミスリル製。更に鍛冶師としての技能も持っている。
アリアは不思議がるような様子がない辺り、心当たりがあるらしい。

「ドルヴェイクさん……貴方は一体何者なんですか?」

「なに、儂の故郷までついてくれば分かる。
 故郷の外では秘密にすると誓っているのでの。それまで内緒じゃ」

とにもかくにもこれで話は纏まった。
レイン個人としては体が三つあれば全ての大陸の魔族を倒したいところだが――。
今は各大陸の窮地だ。瞬間移動でもできない限りそんな我儘は言えない。
特にサティエンドラとの再戦が叶わないのは残念だった。
勇者の中でも三本の指に入る実力者、"神剣の勇者"が向かう以上、奴もただでは済まないだろう。

「アリアさん、討伐にはマグリットの力が必要です。
 どうか彼女の待機命令を解いてください――お願いします」

話を終えると、レイン達はその場を後にした。
――帰りの船で、仄かに発光する島を見つめる。
色々なことがあったが、とにかく次の目的地は決まった。
目指すはサウスマナ大陸。まずはドワーフの国でクロムの剣を直す。

「なんだか色々な情報が飛び交ったけど、やることは変わらない。
 ……この大陸を出て、実力を磨き、もう一度魔王軍に挑む!」

ぐ、と拳を握りしめて、レインは意気込むのだった。


【三章終了!クロムさん、マグリットさん、お疲れ様でした!】
【次から四章が始まるので、新規参加者の方も募集しています!気軽にご参加下さい!】
0248クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/03/10(水) 21:26:00.54ID:gM3f4Z6N
>「出血が過ぎたようですね、彼女はこちらで回収しておきましょう
>彼らがそう望んでおりますので」

ダゴンの間から立ち去ろうとするクロムに一旦待ったを掛けたのは、『聖歌のアリア』──
──と、彼女に従うように現れた全く見覚えのない複数の男達であった。
どことなくマグリットに似た気配が感じられる点から推測するに、彼らは獣人……それも貝の、だろう。

アリアは、気絶したマグリットを男達に回収させ、クロムとレインのダメージを歌で癒すと、二人に言った。
剣が砕けたのは、むしろドルヴェイクとの縁を頼ってイースを出ろとの天祐であろうという事を。
そして、勇者パーティがこれから進むべき世界の各大陸が今、どのような状況にあるかという事を……。




帰途につく『アドベンチャー号』。
その甲板の上で、クロムは一人、手すりにもたれ掛かりながら潮風を浴びていた。
目に映るは沈みかけた夕日。聞こえてくるのは魔物の咆哮《ノイズ》一つない、穏やかな波音と海鳥達の平和な囀り。
それは傷だらけの体には潮風が染みるということを忘れさせるくらい、何とも心地の良い調和であった。

「──これだから大穴狙いは止められねぇんだ。リスクはデケェがその分リターンも大きい。お陰様で大儲ってな! ガハハハハ!」

と、そんな黄昏る彼の後姿に向けて、不意にガサツな男の声が飛ぶ。

「……そういや賭けをしてるとか言ってたっけ。しかし、確か冗談、とも言っていたように記憶もしてるんだが」

調和を崩された事に対してか、それとも冗談と言いながらしっかりやる事はやってた抜け目なさに対してか、クロムは呆れ顔となって振り返る。
そこに立っていたのは、思った通りエイリーク。
それも、ほくほく顔というのだろうか、満面の笑みで、両腕に大量の陶器製の酒瓶や肉を抱えた姿となって。

「別にいいじゃねぇか。これからダゴン退治とお前ぇらの無事の帰還を祝って酒盛りする手筈になってんだからよぉ」

「とっつぁんが飲みてーだけじゃねぇのか? つーか、船長が飲んだくれてて船の操舵は大丈夫なのかよ?」

「下らねぇこといちいち気にすんな。人生、楽しめる時に楽しまねーと損するぜ?」

酒瓶の一つを開けて、ぐびっ、とラッパ飲みしながら、エイリークはクロムの隣に歩み寄り、同じように手すりにもたれる。
しかし、じっと夕日を見つめる目はクロムとは違い、その鮮やかな光景ではなく海を隔てた遥か先の光景を見据えているかのようだった。

「……ダゴンが消えて、この海も静かな日が増える。そうなればヒヨッコ冒険者を海の外に送り届ける仕事もまた増える。
 お前さん達は南の大陸に行くらしいが、くれぐれも海の外の世界をイース《ここ》と同じように考えるんじゃねぇぞ。
 他の大陸じゃイースの冒険者にゃ予想もつかないバケモノが我が物顔で歩き回ってるそうだからな」

「……知ってる」

「ところがな、話で聞くのと直にその目で見るのとじゃ大きな違いがあるものなのさ。だから……」

「だから、“知ってる”」

「んん〜?」

抑揚の無い声で余りに淡々とクロムが紡いだからか、不意に覗き込むようにして顔をぐぐっと近付けるエイリーク。
いい具合に夕日に照らされる甲板で、男が二人きり黙ってじっと見つめ合う構図である。
たまたま近くに居た第三者が、そこから何か危ない雰囲気を誤って感じ取る危険性があるかもしれない。

「な、なんだよ……」

クロム自身は元々女以外顔を近付けるのお断り、と公言して憚らないような無類の女好きというわけではない。
が、別にむさいおっさんの顔の急接近に胸ときめく趣味の持ち主でもないので、誤解されるのは不本意であった。
だから咄嗟に顔を引くのだが、その瞬間、エイリークの口がニチャア、と何やら不気味な開き方をしたのを見て、ぎょっとなる。
まさかこのオヤジにはそういう趣味があるのか、と。
0249クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/03/10(水) 21:31:12.68ID:gM3f4Z6N
「そうか、そういうことかぁ。お前さん、他の大陸《外》から来た冒険者ってわけだ?」

「え? あ、あぁ……まぁね」

言いながら、(なんだよ、驚かせやかって)──と、内心ほっとするクロム。
その一連の心の動きを見透かしていたわけではないのだろうが、ふぅー、と大きく息をつく彼に、エイリークはまた笑った。

「ダゴンにも初心者狩り相手にも一歩も引かなかったって聞いたが、道理で初心者にしちゃ可愛くねぇなと思ってたんだ」

「俺は一言も自分が初心者だなんて言ってない。皆が勝手にそう思ってるだけだ」

「んで、どこから来たんだ、お前? 出身は?」

「…………。ノースレア」

そして、しばし無言で目を合わせた後、夕日に向かい直して呟くようにぼそりと言ったクロムを見て、「ほう」と手にした酒瓶に視線を落とした。

「極寒の大陸か。アルコールも高けりゃ値段も高ェ、だが旨い酒がたんまりあるところで有名だな。へっへ」

「とっつぁんなら度の強い酒がありゃどの大陸でも生きて行けそうだな?」

「ハハ、その通りよぉ! んぐんぐ……ぶはぁぁ〜〜! こいつぁ上等な酒だぜぇ、へっへっへ」

再び豪快に酒瓶をラッパ飲みした後、盛大に撒き散らされる酒臭い息をクロムは手うちわの風起こしで払い除ける。迷惑顔で。
だが、一拍置いてエイリークの顔を見た時、彼は直ぐにその表情を消した。
エイリークの顔からもまた、その時既に酒に酔った陽気さは消えて無くなっており、武骨な真顔だけがあったからである。

「──……本当に聞きてぇことは実はこっからなんだが、いいか? お前さん、イース《こっち》に来て何年になる?」

この瞬時の雰囲気の変化が意味するところは、“冗談抜き”で話そう──という意思表示ではないのか。
少なくともクロムにはそう思えた。
応じる義務はないが、例え偶然であってもこの男だけは賭けに自らの食料や金を勇者パーティに注ぎ込んだのは事実。
その程度には三人を買ってくれていたわけだ。だから、クロムは礼のつもりで敢えて真面目に応じる事にするのだった。

「サマリアに来たのはつい最近だよ。イース《大陸》に着いたのは、三年前……くらいか」

「ノースレアとイース、それ以外の大陸に渡ったことはあるのか?」

「ノースレアについては実は全く覚えていない。親が赤ん坊の頃の俺を連れてウェストレイに移住したんだ。
 だから実際には俺が知ってるのはイースを除けばウェストレイとサウスマナだけさ」

「ほう? サウスマナも知ってんのか」

「ま……奥地にまでは行かずに途中で引き返しちまったから、ドルヴェイク爺さんの故郷があるとは知らなかったけど」

「ちなみに、だ……それはいつ頃の話なんだ?」

「………………二十年くらい前さ」

それだけ聞くと、エイリークは酒を一気に呷り、空になった酒瓶を床に投げ捨て、葉巻を咥えた。
そして火をつけて煙を燻らせると、やがて小さな声で言うのだった。「やっぱりな」と。

クロムの見た目はどう見ても十代前半の少年である。
彼を人間と思い込んでいる者が今の話を聞けば、誰であろうと見た目との大きな矛盾にまず驚くに違いない。
そして矛盾を解消する為にこの世界のリアルとを摺り合わせる過程で、亜人ではないかという発想に至る筈だ。
でなければ冗談だと思い、まさかと一笑に付すのではないだろうか。

エイリークはそのどちらでもなかった。驚きもしなければ、笑いもしない。つまりどこかのタイミングで感づいたのだ。
それは恐らくだが、先程クロムを覗き込んだ時ではなかったか。
かつて彼が“心を見透かされてる気分になる”と感じたあの“目”が、確信に導いたのではないだろうか。
0250クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/03/10(水) 21:36:00.66ID:gM3f4Z6N
「見た目は子供、キャリアはベテランのそれ。くくく、魔物共もさぞかし面食らったことだろうなぁ」

次第にくつくつと笑い始めるエイリーク。
対照的にそんな彼を流し目で見据えるクロムは、ばつが悪そうに頭を掻く。

「騙まし討ちみたいだってか?」

「いや、そうじゃねぇ。お前さんの中身が、ひょっとして俺と歳の変わらねぇ脂ぎったオヤジだと思うと、くくくくく……」

「おい! 人間の年齢と一緒にして考えるんじゃねーよ! 全然脂ぎってねーだろ俺!」

「いいじゃねぇか、オヤジでもよぉ! ハーッハッハッハッハッハ!」

「だから──……はぁ、まぁどうでもいいや、別に」

抗議するもエイリークの笑いを止めるには至らず、やがて諦めたクロムは溜息一つ吐いて、改めて沈みゆく夕日を眺める。

(そう……別にいいさ。肝心な部分を見透せなかったなら……)

──夕日の黄色い光が、金色の結界と共に消えた同族のことをふと思い出させた。
今、クロムの脳裏に蘇るのは、彼に言った自らの言葉──。

『人間が唯一魔族に勝る強みは成長力』
『そいつを自ら捨てて魔に尻尾を振った奴《ニンゲン》なんぞ』

魔族は人間よりも遥かに強靭な肉体、遥かに巨大な魔力の器、遥かに長い寿命を持って生まれる。
もしそれを欲する人間がいるのならば、魔族の力を借りる事である。
恐らくそれが最も近道で、かつ現実的な唯一の方法である筈だからだ。

ただし、ヒトとして得られるはずの可能性・未来を引き換えにしても、との覚悟がなければ諦めた方がいい。
人間何かを得れば何かを失うもの。ましてや己の器を超えた力は、相応の代償なくして得られるものではないのだ。

「──んで、この事を勇者は知ってんのか?」

ひとしきり笑ってようやく落ち着きを取り戻したのか、エイリークが息を整えて訊ねる。
クロムが「いや──」と頭を振るも、彼は「まぁ、聞かれなきゃいちいち口にすることでもねぇわな」と勝手に自己完結。
もっとも、人間中心の世界で亜人がどのような思いで暮らしているのか、流石にその事情も知っているからこそなのだろう。
しかし、彼は最後にこう付け加えるのも忘れなかった。

「が、いつまでも隠し事をしてちゃ真の信頼は築けねぇぜ? そこんとこを魔王の城に辿り着くまでによぉーく考えとくんだな」

──踵を返して遠くで雑務をこなす水夫達のもとへ去っていくエイリーク。
博打で得た食料を見せびらかしに行ったのか、それとも酒盛りの予定でも伝えに行ったのか……。
何にしても無事に港まで送り届けてくれるのなら博打をしようが酔っ払おうが文句はない。
ギルドに報告を済ませれば、後は既に決まっている次の目的地へ向かう為の体力を回復させるだけなのだから。

「サウスマナ……ドルヴェイクの故郷、か」

エイリークの後ろ姿に向けられていたクロムの視線は、いつしか南の空へと向けられていた。

【船で帰途につく】
【お疲れさまでした。次の章もお願いします】
0251レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/17(水) 23:01:34.97ID:CfAiJNlZ
夜は海も静かだ。マリンベルトに着くとダゴン退治と無事の帰還を祝い宴会となった。
『運命の水車亭』で飲んで食っての大騒ぎ。レインもはじめは楽しんでいたが、酒には強くない。
エイリークや水夫達はアルコール度数の高い酒を水のようにがばがば飲むものだから、
それに付き合って飲んでいると、すぐに身体がふらつき、頭痛がし始めた。

これは堪えられない。一人で席から抜け出すと、外で夜風に当たることにした。
涼やかな風が心地良い。えらい喧騒だったが、こんな楽しい気分も久しぶりだな、と思った。
これもクロムと(ここにはいないが)マグリットが運んだ縁なのだろうか。
もし二人がいなければまだ大陸を出ようとは思わなかったし、エイリーク達と出会うこともなかった。

全ては魔王を倒す旅に付き合ってくれているからだ。そのことに感謝すべきだろう。
だからこそ、心に棘が刺さった感じがしてしまう。これでいいのか、と。
そんなレインの思いを飲み込むように、どこまでも夜空は広がっていて。

星の海とでも形容すべきだろう。
光を散りばめた夜は海を照らし、さざ波の音が微かに届く。
ある時、流星が瞬いた。青色に輝く星が落ちたと気づいた時には、背後に気配を感じた。

「……あなたは」

石畳を音も無く踏んで現れたのは、忘れもしない。
仮面で素顔を隠した、謎の騎士。
"召喚の勇者"一行を助けた、謎の冒険者。

「……仮面の騎士、さん」

あの時忽然と姿を消した彼が、目の前にいる。
よもやこの港町に滞在していたとは。

「無事、"水天聖蛇"ラングミュアの刺客を退けたようだな。
 だがまだ安心するな。奴の部下は再び君達の命を狙うだろう」

「……ダゴンのことですか。忠告ありがとうございます。
 でも、俺だって弱いけど勇者です!自分の身は自分で守れます!
 いずれは魔王を倒さなきゃいけないんです。敵の一人や二人――……」
0252レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/17(水) 23:04:37.73ID:CfAiJNlZ
酔った頭で言葉を紡いで、レインは意気込む。
しばらくしておかしいことに気づいた。
なぜ仮面の騎士がそんなことを知っているのだ。

「あれ……?どうして仮面の騎士さんがその事を?」

「気にするな。それより君に用があって来た」

仮面の騎士の気配が変わった。
身体を焼き尽くすようなとてつもない殺気。
その凄まじいまでの迫力に、レインの酔いは一気に醒めた。

「君の実力、少しだけ試させてもらう」

「え……?」

状況を飲み込めずぼやぼやしている内に、仮面の騎士は肉薄していた。
掌底が頭目掛けて飛んでくる。こめかみを掠めながら紙一重で避けると、慌てて距離を置く。

「試すって……突然何です!?」

「剣を取るといい、"召喚の勇者"」

反射的にはがねの剣を抜こうとしたが、腰には何もない。
『運命の水車亭』に置いてきてしまった。
だが、この殺気、このスピード。死を直感させるものだ。
召喚魔法を行使しなければ自分の身が危険だ。

手に魔力を込めて魔法を発動しようとした時、高速の蹴りがそれを阻止する。
続いて襲い掛かるダブルスレッジハンマーに対し、スウェーで間一髪回避。
この掌底、蹴り、両手拳を組んだ殴打による一連のムーブ。奴に酷似している。

「気づいたようだな。そうだ。これはサティエンドラの戦い方。
 私には魔王軍の幹部と戦った経験がある……対幹部級の模擬戦だと思えばいい」
0253レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/17(水) 23:06:17.91ID:CfAiJNlZ
瞬間、仮面の騎士が視界から消えた。

(まさか……高速戦闘に入ったのか!?)

ならば素の状態では対処できない。
『召喚変身』で清冽の槍術士になろうとした時には遅かった。
気づけば懐に潜り込まれ、胸には掌が添えられていた。

「――――『レパルス』」

掌が白く発光したかと思うと心臓が爆裂したかのような衝撃が襲った。
身体は後方へ大きく吹き飛んで、地面に激突するとそのまま倒れ伏す。

行使されたのは光の下位魔法。それも初歩とされるものだ。
威力など低いに決まっているが、上位魔法かと錯覚するような威力だった。
朦朧とする意識の中で仮面の騎士の声が響いてくる。

「これが奴の技なら死んでいたな。私達に残された時間は少ない。
 ……その間に、君には可能な限り強くなってもらわなければならない」

そこでレインの意識は途絶えてしまった。


……――――目を覚ました時には『運命の水車亭』の借り部屋にいた。
外で倒れていたはずだが、誰かが運んでくれたのか。
ベッドから起き上がり胸に手を当てる。まだすこし痛む。

コツコツと物音がしたので窓の方を見ると、伝書鳩がいた。
窓を開けて手紙を受け取ると、鳩は外へと飛び立っていく。
手紙は二通ある。一通目はギルドの依頼書らしかった。
そして二通目はギルドマスターであるアンナからの手紙。

まずギルドの依頼書を開くと、依頼内容は以前"聖歌の"アリアが言っていた通りだった。
サウスマナ大陸に存在する『宇宙の梯子』の攻略と、そこを占拠する魔族の討伐。
0254レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/17(水) 23:08:27.16ID:CfAiJNlZ
内容を読む限り、『宇宙の梯子』とは空の果てまで続く巨大な塔らしい。
空の果てなど想像もつかないが、神々が地上にいた時代は行けたという。

もっとも、魔法技術が最盛期を迎えていた頃の話だ。
今や時代も過ぎ、あらゆるものが衰退してしまった。

この『宇宙』というのも正直よく分からない。
宇宙は息ができないところで、太陽や月、星々は宇宙にあるとぼんやり聞いた気が……。
いや、今はその話は止めておこう。レインの知識ではそれ以上を語るのは不可能だ。

それよりも、依頼主がサウスマナ大陸にある国々のほとんどというのが凄い。
アリアは各国の意見も交えて魔族討伐の勇者を選任していると言っていたが、本当らしい。
代表にはメガリス地下王国とある。これもドルヴェイクの言っていた通りだ。

気になる選任理由は、二通目のアンナの手紙にある。
アンナ曰く、レイン達は唯一魔王軍の大幹部と交戦して生き残っていること。
これが大きな要因らしい。勇者として落ちこぼれ扱いされてきたレインだが、この一点が評価された。

ついでに述べるなら、大口の依頼のため報酬額も尋常ではないと書いてある。
ギルドとしては冒険者を確実に現場まで送り届けたいので、エイリークの船に乗れとのこと。
つまり『アドベンチャー号』でドルヴェイク諸共サウスマナまで運んでくれるとのことである。

「……ようやく起きたか。数日間寝たきりだったんだぞ」

無遠慮に部屋の扉が開くと、そこにはエイリークがいた。

「その手紙は依頼書か?なら話が早い。またお前さんらを乗せてやるよ。
 船はいつでも出せるが……しかしなんでまた外でぶっ倒れてたんだ?」

エイリークに仮面の騎士との一件を語る。
突然手合わせすることになり手も足も出なかったと。
爆笑でもされるかと思ったが、真面目な顔で言葉を返された。

「失敗や敗北も経験ってヤツだ。あまり気にするんじゃねーぞ。
 しかし、噂になってた『仮面の騎士』ってのがこの町にいたとはな……。
 まあ飯でも食おうや。寝込んでた分、体力つけとけ。これからの旅は過酷になる」

二人で一階の食堂まで降りると、店主に大広間で待ち人がいると言われた。
待ち人……『海魔の遺跡』で別れたマグリットが来てくれたのだろうか。
それとも待ちぼうけを食らっているクロムかドルヴェイクか。
0255レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/17(水) 23:12:17.15ID:CfAiJNlZ
大広間の端で立っていたのは、『仮面の騎士』だった。
組んでいた腕を解くと「目覚めたようだな」と言った。

「ええ……なんとか」

「手荒な真似をしてすまなかった。だが前に言った通り時間がない。
 各大陸に勇者を派遣するそうだが、今の勇者達の実力では失敗するだろう。
 三人集まったら、港まで来るといい。君達に次戦う幹部級の攻略法を教える」

少々反論を挟もうかと思った。
自分はともかく"探究の勇者"も"神剣の勇者"も相応の実力者だ。
魔王軍の幹部級が相手だろうと遅れを取るはずはない……と。

だが、仮面の騎士の否応ない独特の雰囲気がそうさせない。
レインは少しばかり間をおいて、恐る恐る愚にもつかぬことを尋ねた。

「『宇宙の梯子』を占拠しているという風の魔族の……ですか?」

仮面の騎士は肯定した。
正確に言えば、その名を"風月飛竜"シェーンバインというらしい。
仮面の騎士が知る限り魔王軍大幹部の中でも最速の魔族とのことだ。
無策で挑んで勝てる相手ではなく、最低限のことは知っておくべきだと。

そう言い残して仮面の騎士は大広間を去っていった。
突然のことに困惑を隠せなかったが、行くしかあるまい。

「面白いことになってきたのう。彼がイースで噂の『仮面の騎士』か」

仮面の騎士と入れ違いになる形でドルヴェイクが姿を現した。
どこか物見高い表情で、レインとエイリークの顔を交互に見る。

「俺も会うのは初めてだ。どんな素性の人間なんだかな」

エイリークは至極真っ当な意見を述べる。
とりあえずレインはクロムとマグリットを待つことにした。
何事もなく二人が『運命の水車亭』に集まれば、レインは話をするだろう。
仮面の騎士が港で待っていることを。


【それでは四章開始します!】
【『仮面の騎士』再登場。対幹部級の攻略法を伝えるべく港で待つ】
0256クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/03/21(日) 19:40:37.44ID:WuAemUBZ
マリンベルトに着いてから数日後。
すっかり傷を癒したクロムが最初に向かった先は、町で営業中の武器屋兼鍛冶屋だった。

「メリッサ島が目と鼻の先にある町だから少しは期待したんだが……」

目的は勿論、武器の調達であるが、別に『悪鬼の剣』に代わる本差《メインウェポン》を求めにやって来たわけではない。
そんなものが一般の武器屋にある筈がないというのは既に承知していることなのだから。
求めているのは砕けた剣が脇差《サブウェポン》に打ち直されるまでの間、攻撃と防御に使用できる束の間の代用品である。

何せ今のクロムは裸同然。
黒髑髏のようなマジックアイテムも無く、敵と相対した時はほとんど己の肉体を武器とするしか方法がない状態だ。
イースの魔物ならともかく、サウスマナの魔物相手に拳法家でもない男が徒手空拳で挑むのはマゾでしかない。
過去にサウスマナに渡った経験から、クロムはそれを知っているのだ。

「……所詮はサマリアの町ってわけか」

しかし、手に取った剣を棚に戻しつつ、店内に所狭しと並べられたその他武器類を見渡すクロムの顔は冴えなかった。
何処を見ても一時の代用品にすらなりそうもないありふれた素材の武器しか目に映らなかったからである。

「銅や鉄。これじゃ鞘を使った方がマシだな」

剣と同じ、希少な金属で拵えられた左腰の黒鞘に視線を落として、クロムは頭を掻きながら溜息を吐く。

「おいそこのアンタ、さっきから何をブツブツ言ってんだ?」

背後から、誰かがドスを効かせた低い声を飛ばして来たのはその時だった。
振り返れば、そこには腕を組んで憮然とした表情の店主が、鍛冶で鍛えた筋肉を見せつけるように腕まくりして立っていた。
どうやら商品にケチをつけに来たと思われたらしい。まぁ、所詮はとかマシとか、溜息交じりに呟かれれば無理も無いが。

「そいつは俺がこの手で打ったモンだ。文句があるなら俺に直接言ってくんな。大きな声ではっきりとな」

「い、いや……別にアンタの腕が悪いとか、そういう事を言ってるんじゃねーから安心しろよ」

「じゃあ何がご不満なんで、お客さん?」

オヤジは地面から二メートルはありそうな位置から文字通り見下ろしてくる。
縦にでかければ、横もまたでかいそのゴリラのようなガタイがずいっと近づいてくるのは、山が動くようで迫力満点である。
腕っぷしには自信のあるクロムであるが、仮に喧嘩になったところで得はなく、その勝敗には何ら意味はない。
ましてや意図したことではないとはいえ、オヤジの機嫌を損ねる原因を作ったのはそもそもクロムなのだ。
だから彼は食って掛かるような真似はせず、後退って出口に近寄る。事を穏便に済ませる為、誤解を解くことにも全力を注ぐ。

「素材だよ素材。つってもミスリルとかヒヒイロカネとか、こんなところでそんな上等なモンを期待してたわけじゃねーんだ。
 ただ、せめて魔獣の牙とかで作った剣があるかなーって、例えばドラゴンとか……」

「悪いが“こんなところ”にはドラゴンみてーな上等な生き物なんざいやしねーんだ。なんせ“所詮はサマリア”だからよぉ」

「げっ……! あー、ちょっと待って。今のは言い間違えっていうか──」

しかし、言葉とは難しい。
店主への悪意があったわけでもないのに、ちょっとした単語の選択ミスが穏便に済ませるどころか更なる怒りを招いてしまう。

「いるのはお前さんのような上等な剣士サマから見りゃ下等な生き物ばかりさ。そう、例えばこの俺みたいのなぁ」

ボキボキ指の関節を鳴らしながら、ずん、ずん、とにじり寄って来るオヤジ。
こうなるともう、何を言ったところで噴火は時間の問題であろう。となれば、残されている道はもはや一つである。

「……あ、そうだそうだ急な用事があったの思い出したー! さいならー!」

逃走。
クロムが全速力で店を出たのは、オヤジが「用がねぇならとっとと出ていきやがれぇー!」と叫ぶよりも早かった──。
0257クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/03/21(日) 19:47:27.06ID:WuAemUBZ
──武器屋を出たクロムが次に向かった先は露店街だった。
いや、正確には勇者パーティの宿である『運命の水車亭』に向かっているのだが、露店街を突っ切る道はそこへの近道なのだ。

「──確かに曰く付きの武器や防具の話は聞いた事あるけどよォ、そんなモノこの世に本当にあるのかねェ?」

「俺ぁ世界中で物を売って来たんだぜ? 世界にゃお前さんじゃ想像もつかねぇような珍品奇物がゴロゴロしてんのよ」

「とかなんとか言いやがって、ホラ吹いてンじゃねェのか? 大体、その“最強になれる剣”だって実物は見た事ねェんだろォ?」

「そりゃあそれに限って言やぁ確かに聞いた話だけどよ、実際にその剣を使ってた奴を見たってのが現地にゃ居るんだよ」

宿へ向けて淀みなく一定のリズムで歩を重ねていたクロムの足が、ふと止まる。
耳が、興味深い会話をしている男達の声を拾ったからである。
方向を探ると、どうやらそれは果物商の小太り中年と、その店の前で売り物のリンゴを齧っている二人組の男達のものらしかった。

「──面白そうな話してんじゃん、おっさん達。俺も混ぜてくれよ」

クロムは強引に三人の間に割って入ると、店頭に並んだ真っ赤なリンゴを素早く一つ掴んで、威勢よくしゃくりと一齧りして見せる。

「……あん? 何だぁお前は突然? ガキに話す事は何もねーよ」

「全くだ。お家に帰ってママのお手伝いでもしてな、へっへっへ」

腰に凶器こそ下げてはいるものの、見た目は少年の闖入者。
恐らく男達には無邪気・無鉄砲だけが取り柄の鬱陶しい駆け出し冒険者に見えたに違いない。
二人組の内の一人──眼帯に総髭、手拭を巻いた頭。元山賊か何かだろうか──がぶっきらぼうに言い放てば、
もう一人──剃髪と分かるハゲ頭、額に卍のタトゥー。破戒僧の成れの果てだろうか──も同調して手で追い払う仕草をする。

「そんなこと言わずにさぁ。おっさん達、ベテランの冒険者だろ? 駆け出しの後輩に情報を恵んでよ。勿論、タダとは言わないよ」

──しかし、それを予測していたクロムはすかさず二人に投げ渡す。
道具袋から取り出した、陶器製の酒瓶を。エイリークとの宴会の最中、密かに彼の目を盗んでくすねておいた高級酒を。

「おぉ? こいつぁ……」

「貰いモンだけど、ノースレアの旨い酒だってさ。俺みたいな子供より、酒の味を知り尽くしてる男が持ってる方が似合うだろ?」

「……へっ、滅多にお目に掛かれねぇ酒が棚から落ちてきやがったぜ。少しは世の中の事を解ってんじゃねーか、ボーズ」

煽てられ、思いがけずに手に入った酒に一転して上機嫌な二人組。
すると、今度はこれまできょとんとした顔つきで一連のやり取りを黙って見ていた小太り商人が、不機嫌そうにボヤいた。

「なんだいなんだい、この話のネタを仕入れたのは俺だぜ? そんなのありかよ〜」

そんな彼を見て、クロムは「ほい、リンゴの代金」っと躊躇なく道具袋の中の最後の酒瓶を投げ渡す。
明らかにリンゴ一つとは釣り合わない値段の酒。
商人は初め「おお!」と声を上げて喜ぶも、やがて盛んに目で問うて来る。「本当にいいのか?」と。

「遠慮も釣りもいらねーよ。それには情報料も入ってんだから。──つーわけでさっきの話、聞かせてくれよ」

言いながら、しゃくりと再びリンゴを齧るクロムに、商人と二人組の冒険者は互いに顔を見合わせた後、話すのだった。

「ボーズも冒険者の端くれなら呪いの武具の話は聞いた事があんだろ?
 俺らがこのオヤジから聞いたのはそんなたわいもねぇ噂話よぉ、へっへっへ」

「いやな、海の向こうで聞いたんだよ。手に入れればどんな奴だって“鬼のように強くなれる剣”の話をよぉ。
 ただ、どうやらその剣は呪われてるらしくて、誰もが最後は“破滅”しちまってろくな死に方しねぇんだと。
 実際に何十年も前にその剣を使ってた野郎はある時忽然と姿を消したらしくて────」

クロムが求めてやまない、“最凶”の呪いの剣の話を──。
0258クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/03/21(日) 19:52:12.29ID:WuAemUBZ
──リンゴを齧りながら、『運命の水車亭』に向かって歩を進めるクロム。
彼の脳裏には今、全力の一刀を腕一本で、しかも無傷で弾いたあのサティエンドラの顔が浮かんでいた。

『手に入れればどんな奴だって“鬼のように強くなれる剣”の話をよぉ』

それに続いて蘇ったのは、露店商のオヤジの言葉。

(……やはり)

クロムは水溜まりの上で立ち止まり、視線を下に落とす。
見えるのは魔人となった瞬間から、ほとんど成長《変化》のない己自身の見飽きた姿。

(……俺にはあれが必要だな)

拳を握り締めて顔を上げると、不意に強い風が吹き荒れ髪をさらっていく。
思わず風が抜けていく方向を見ると、すぐ近くまで迫っていた水車の看板がギシギシと揺れていた。

風。そういえば次なるステージで待ち受ける強敵は風の魔族だと、アリアが言っていた。
もし、そいつがサティエンドラ同様の大幹部ならば、例えそいつに辿り着くまでに幾百の戦いを重ねても決して力は届かないだろう。
人間《レイン》ならいざ知らず、成長を捨てた魔人《クロム》では……。

「今、あれはどこにあるのか……。だが、必ず手に入れてやる」

芯だけとなったリンゴを捨てると、クロムはいよいよ宿に入っていった。

【『運命の水車亭』に到着】
【第四章も引き続きお願いします】
0259マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/03/25(木) 23:23:51.12ID:uWrChg/Y
港町マリンベルト近海の海底
そこには人知れず巨大なクラゲが横たわっており、その触手は広く伸び近海一帯、そしてメリッサ島にまで及ぶ
偶然居合わせた魔物ではなく、貝の獣人たちが棲み処として改良増殖させた結果の産物である

そんな都市型巨大クラゲの中心部に安置されていた大型の二枚貝が煙を吐きながらゆっくりとその口を開く
中から裸体のマグリットがゆっくりとその身を起こす
これはサティエンドラとの戦いで負傷したレインを収容し治療した治療貝の上位種のものであり、メリッサ島で負傷したマグリットはここで傷を癒していたのだ

矢に貫かれ動かなかった左腕を持ち上げ、拳を握り締めると上腕二頭筋を覆っていた真珠が筋肉の膨張によりはじけ飛ぶ
真珠が剥がれ落ち露になった腕にはもはや矢を受けた傷跡は残っていなかった
その後、腹部を広く一文字に覆う真珠を掻くように剥ぎ落とし、部屋を出る

傷を癒した後は体力回復の為の食事に取り掛かる
大量に用意された食事を頬張りながら、治療のために要した数日で起こった事の説明を受けていた

「やーアリアさんが教会の……流石の情報網といったところですねえ」

教会から追放されたと噂されていた聖歌のアリアは実のところ教会と繋がっており、ある種の査察官であったことに驚きを隠せないマグリット
待機命令を無視してマリンベルトまで来て、成り行きとは言えレインたちと繰り広げた一連の戦いは全て筒抜けになっているという事なのだから

>「うむ、だからこそお前を教会に入れたのだがな
>メリッサ島は我々に管理委託するという形で共同管理となった」

偶然による部分も大きいだろうが、今回の一件で教会と貝の獣人たちの関係性はさらに強まった事になった
貝の獣人たちにとってメリッサ島は秘かに魔力蒐集の儀式に利用していたものであったが、これからは島全体を紐付きとはいえ自身の管理下に置けるメリットである
更に南の大陸への派遣決定
これは王国、冒険者ギルド、教会の三者による決定であり、マグリットはこのままマリンベルトでレインたちと合流、マリンベルトからアドベンチャー号でサウスマナへ向かう旨が記されていた

「命令違反を不問にしてそのまま他大陸に派遣命令とは、相当切羽詰まった状況なようですね
こちらとしては渡りに船でありがたいですが」

>「あれらが回収できてよかったわい」

そう長老が目を向けるのはマグリットの隣に立てかけられているシャコガイメイス
今回のマグリットの本来の目的は儀式により育てられ続けてきた地震の半身ともいえるシャコガイメイスの回収であったのだ
これこそが九似、すなわちサティエンドラレベルの敵と戦うための切り札
だが、はからずもマグリットが得たのはそれだけでなかった

「ええ、でもそれだけではありません
常人ならば浴びただけで魔力中毒を起こす程の魔力水を飲んだことで分かった事があります
私の中にはまだ取り込んだ獣王の掌の因子は残っていました
魔力水に反応したのを感じたのですよ」

そういいながら掌をかざすと、そこには小さくはあるか確かに火花が散っていた
紅蓮魔宮を消滅させた仮面の騎士の光の結界の影響で消失したと思っていたが、僅かとは言え残っていた事に頬をほころばせるマグリット
魔法陣を反転させ溜められた魔力は解放してしまったものの、その前にわずかながらだが魔力水の回収もできている

今回の戦いは偶発的なものであり、深手を負ってしまってはいたが、手に入れるべきもの以上を手に入れられた実り多い戦いだったと言える

「それに……」

食事を終え、新調された法衣にそれを通しながらマグリットは言葉を続ける

「レインさんとクロムさんと行動を共にするようになってから、事態が確実に動き出したことを感じます
魔族との立て続けの遭遇、そして今回のサウスマナ行き
宣教師続けていても行にはならなかったでしょう
神の思し召しとやらを肌で感じざる得ませんよ」

そう笑いながら聖水の入った樽を背負い、シャコガイメイスを手に取り出立するのであった
0260マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/03/25(木) 23:27:56.31ID:uWrChg/Y
貝の獣人集落はマリンベルト近海海底になるのだが、その入り口はマリンベルト近郊のさびれた漁村を偽装している
そこからマグリットは上陸、指定された運命の水車亭に向かうのだが、その途中見てしまった
港にて佇む仮面の騎士の姿を

「げっ!あれはあの時の……なんでこんなところに?」

その姿を見て思わず身を隠すマグリット
紅蓮魔宮での光の結界を思い出し身震いをしてしまう
敵対関係ではないとはいえ、せっかく吸収した九似の一つ獣王の掌が消滅しかけたのだ
ここで不用意に接触して、いまだかすかにマグリットの内部に残るサティエンドラの因子を察知され消されてはたまらない、と迂回していくことにしたのであった


新調された法衣、樽を背負い、手には巨大なシャコガイのメイス
それらを余裕も持って持ち運ぶ巨躯
海の荒くれ冒険者たちのたまり場となる運命の水車亭の入り口は頑丈で大きくつくられているが、それが小さく見えるような来訪者に酒場内の視線が集まる
そんな視線を全く気にするそぶりもなくマグリットは酒場内を見回し、レインとクロムを見つけると手を振り席へと移動した

「やーお待たせしてすいません。数日ぶりで、お二人ともすっかり回復したようで何よりですね。」

仮面の騎士の目撃談についてはあえて口にはしなかった
いえば勇者であるレインは会いに行こうと言い出すかもしれない
マグリットとしてはできるだけ接触を避けたくあり、余計な事を言わずに話を進める

「クロムさんの武器の件もありますが、まさしく渡りに船ですね
私の方にも教会から書状が届き、このままお二人と合流し、召喚の勇者の一行としてサウスマナに渡るようにとの事です
これも神の思し召しですねえ」

レインの方にはギルドから書状が届いているであろう事もわかっていた
様々な思惑や手続きによって事態は進むのだが、教会に属している以上まずは神を立てて感謝の念を捧げるのであった

「さて、それでは揃った事ですし、出向時間はもうそろそろでしょうか?
準備はできていますし、行きましょう
書状によれば各大陸の状況はかなり切迫しているようですからね!」

そう、各大陸の戦況は全般的に思わしくない
北を筆頭に、他大陸の魔族侵攻は著しく、今回の各大陸への勇者派遣は一大反抗作戦の橋頭保となるものであろうから
故にこの港町マリンベルトから勇者たちが出向するのは不思議ではなく、仮面の騎士もそのうちの一人だと思っていたのだ

船に乗り出向してしまえばもはや出会う事も成し、と出発をせかすマグリットであったが……レインの口から仮面の騎士に会いに港に行くと告げられる事をまだ知らない

【運命の水車亭にて合流】
【仮面の騎士の話をされると微妙に多少挙動不審になりつつも従いついていきます】
【第四章よろしくお願いします、賑やかになると良いですね】
0261レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/29(月) 22:14:33.38ID:bDbPZTzy
『運命の水車亭』の食堂で皆を待っていると、先にやってきたのはクロムだった。
ただし腰にはいつも通り、見慣れた黒鞘を帯びた姿で。
他の武器を持っている様子はない。
つまり、まだ間に合わせの武器を見つけていないということか。

無理もない。
いくらサマリア王国の交易を担う港町といえど、集まるのは既製品。
ダンジョンで手に入るような優れた武器は滅多に流通していないだろう。
だが、ほぼ素手の状態でサウスマナに挑めというのも無理な話である。

いっそ自分が所有する武器の中から適当に見繕って渡してみるか……?
とも思ったが、レインの持っている武器の中で黒剣に見劣りしないのは、
紅炎の剣スヴァローグしかない。大剣と日本刀では使い勝手が違い過ぎる。
渡したところで扱い慣れずクロムも本領を発揮できないだろう。

とはいえ、まだ代用品を見つけるチャンスはある。
アドベンチャー号が目指すサウスマナの港は、シルバニア王国の水都リナメールだ。
シルバニアはサマリアとは比較にならない大国であり、魔物も強力だという。

ならば必然的に扱う武器の質も高いはず。クロムの眼鏡にかなう武器もあるかもしれない。
ちなみにレインはイース以外の大陸を知らないので、どんな武具が揃っているか楽しみでもある。

(っと……マグリットはいつ来るんだろうか)

マグリットに関しては連絡がついていないので、いつ来るか分からない。
仮面の騎士を待たせてはいるが、現れるのは明日かもしれないし明後日かもしれない。
運に身を任せるしかないか――と思った矢先、マグリットが手を振って現れた。

>「さて、それでは揃った事ですし、出向時間はもうそろそろでしょうか?
>準備はできていますし、行きましょう
>書状によれば各大陸の状況はかなり切迫しているようですからね!」

なんだか急かすように出発を促されたが、
その前にいよいよ仮面の騎士との一件を語らねばなるまい。

「実はサマリアを出る前に、会わなきゃならない人がいる……仮面の騎士だ」
0262レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/29(月) 22:17:02.17ID:bDbPZTzy
レインは語った。
手合わせで一方的に負けたこと。彼が大幹部との交戦経験を持っていること。
そして次なる敵――風の魔族こと、大幹部"風月飛竜"シェーンバインの攻略法を有していること。

「あの人が何者なのかは分からない。前に会った時は聞く暇もなかった。
 けど……嘘をつくような人でないのは分かるんだ。だから会いにいこうと思う」

マグリットの反応がなぜか芳しくなかったが、その意思は変わらない。
サティエンドラの戦いを思い返せば、同クラスの敵の情報は是非とも欲しい。
いや――単に大幹部との実力差を前にして、焦っていたというのもあるかもしれない。
でなければ九似の件について思い至ることができたはずだ。

レインは立ち上がってはがねの剣を装備すると、港へと向かった。
船が行き交う港では、仮面の騎士が海を眺めるように佇んでいる。

何もしていないのに一分の隙もない。常在戦場という言葉があるが彼はまさにそれだ。
なのに落ち着くような、安らぐような気もする。まったくもって不思議な人物である。
仮面の騎士はこちらへ振り返ると、静かに語りかけてきた。

「三人揃ったようだな。では……これから"風月飛竜"の戦い方とその攻略法を教えよう」

「待ってください、その前にひとつ聞きたいんです。前にあなたは自分を一介の冒険者だと言いました。
 でも……本当は何者なんですか?その膨大な光の波動に、一級品の実力。どれをとっても只者じゃない。
 なのに、貴方は冒険者ギルドの人間ではないし、今まで噂話すら聞いたことがない」

仮面の騎士は少し間をおいて「何が言いたい?」と問いかけてきた。
質問はとうの昔に決まっている。かつて『精霊の森』のエルフの長がほのめかした通りの内容だ。

「仮面の騎士さん、貴方は実は勇者じゃないんですか?
 それも……かつて魔王を倒した、あの"伝承の勇者"では――……!?」

瞬間、仮面の騎士の気配が変わった。真空の刃のように鋭利な殺気。
無防備な者が浴びたら気を失ってしまいそうなほどの。
思わず息を呑む。震える手を押し殺して、条件反射的に剣の柄を握る。

「君は大きな勘違いをしているようだ。私は勇者などではないし、資格もない。
 勇者との共通項があるとすれば、魔王を打倒したいという事実その一点だけだろう」

仮面の騎士は腰に帯びていた剣を鞘から抜かず握りしめると、レイン目掛けて振り下ろした。
形状から察するにサーベル――をすかさず抜き放ったはがねの剣で受け止める。

「雑談は終わりにしよう。まずは"風月飛竜"の戦い方を君達三人に教える。
 もっとも、手合わせという形でだが。君達は私の攻撃を躱すだけでもいいし、反撃してもいい」
0263レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/29(月) 22:21:09.79ID:bDbPZTzy
鞘から剣を抜かないのは模擬戦のためか。だが殺気は本物だ。
前回の手合わせの時と殺気の種類が違う辺り、"風月飛竜"の模倣なのだろう。

「もし私に一撃入れられるならそれで良し。"風月飛竜"と渡り合える見込みがある――」

「――前回と同じってことでしょう!?」

ぎゃり、と鞘入りのサーベルを受け流すと、はがねの剣を上段から振り下ろす。
こちらは完全なる剥き身の剣。フェアではないが、手加減などしてられない。
それほどまでに彼我の実力差には開きがある。

仮面の騎士はレインの攻撃を難なく躱し――同時に腕が消えた。
いや、正確に表現すれば超スピードでサーベルを振り抜いたのだ。

レインの目は特別良いわけではない。
だからその攻撃を目視することはできなかった。
だが、仮面の騎士は常に刺すような殺気を放っている。
その刺々しい刃物のごとき殺気が剣の軌道を教えてくれる。

一歩踏み込んで頭部を傾け、サーベルの一撃を避けるとカウンターを見舞う。
もっとも動きを読まれていたのか、仮面の騎士は後方へ大きく跳躍してレインの剣を回避する。

「……"風月飛竜"シェーンバインは風の魔法剣士だ。全ての攻撃が高速で繰り出される。
 一撃一撃を、絶対に見逃すな。ただ目で見るのではなく、全身で敵を感じることだ」

「……召喚変身、"清冽の槍術士"!」

レインの姿が青を基調とした装束姿に変わる。
前回は実力を出す前に昏倒してしまったが、今回はそうはいかない。
超スピード対策ならこっちにだって手段がある。前と同じ轍は踏まない。

すると仮面の騎士は姿を消した。
否。常人の目では捉えられないほどの速度で動いたのだ。
魔法を使ったわけでも、特技を使ったわけでもない。
純粋な身体能力によってそれを実現している。
0264レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/29(月) 22:24:41.79ID:bDbPZTzy
高速戦闘――前回の模擬戦と全く同じだ。
そして迫りくるのは五発の連撃!

「舞踊槍術、五月雨の舞っ!」

だがレインも負けてはいない。その一発一発を見切り、連続で刺突を放つ。
仮面の騎士もまた刺突を紙一重で躱す。それが幾度なく繰り返される。
常人の目には『見えない何か』をレインが捌き続けている格好だが、遂に隙が見えた。

(ここだ!)

放たれた神速の一撃を槍の穂先で防御、左足を軸に回転することで受け流す。
そして舞踊槍術の肝。円運動による回避からの……カウンターを叩き込む!

「舞踊槍術、睡蓮の舞!」

回転から流れるように放たれる横薙ぎの一閃。
仮面の騎士とて食らえばしばらく動けないだろう。
ただレインは見誤っていた。仮面の騎士の懐の深さを……。

「だが気をつけるべきだ。シェーンバインは速いだけではない。
 奴は半竜の魔族。その皮膚は竜鱗によって守られている。
 通常の武器、通常の技量では傷もつけられない」

渾身の一撃は、しかし手甲に容易く受け止められてしまう。
馬鹿な。清冽の槍アクアヴィーラに落ち度はない。あるとすれば自身の技量。
隙を見せたのはわざとだったのか、と今更ながら理解した。
全てはレインの動きを止め、槍の射程圏の内側へと潜り込むため。

「そして待っているのは至近距離から放たれる広範囲にして高威力の一撃!」

仮面の騎士が手刀を構えれば、その手には閃光のような輝きが宿る。
それがどんな技なのか、勇者であるレインは知っている。
0265レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/03/29(月) 22:29:51.97ID:bDbPZTzy
まずい――身を守るようにガードしたが、後の祭りだ。
過去にその威力を目の当たりにしているだけに全身から血の気が引く。

「魔祓い、薔薇の冠、眠れる聖者、連なる十字を刻め――」

胴目掛けて横に手刀を叩き込めば、光の十字架が聳え立った。
眩い光はレインを一瞬にして飲み込み、その衝撃は瞬く間に五体を焼き尽くす。
それは光魔法。『上位』に位置する、悪を断ち魔を祓う必殺の一撃。

「……――『セイントクロス』!!」

仮面の騎士が唱えた魔法は何もレインに叩き込んで終わりではない。
十字架はその規模を広げ続け、クロム、マグリットをも飲み込もうと拡大を続ける。
――そして、やがては港をも飲み込まんばかりに光が煌々と周囲を照らす。

こんなものを零距離で食らっては無事で済むまい。
レインの意識はとっくに刈り取られているだろう。

「……以上が"風月飛竜"の基本戦術だ。
 よもや攻略法を教える前に全員戦闘不能にはならないだろうな」

『セイントクロス』の光を眺めながら、
仮面の騎士は光の向こう側にいるクロムとマグリットに言う。
この手合わせはただの練習なんかじゃない。大陸を出る資格があるかどうかの"試し"だ。

「……そんなものではないはずだ。君達のポテンシャルは。
 もしそうであるとするなら、出航は諦めてここで眠れ……!」


【港に到着。仮面の騎士に正体を問うも分からず】
【対"風月飛竜"の模擬戦開始。上位魔法で全体攻撃、レイン戦闘不能?】
【この戦闘は目標一ターンで終わらせる予定なのでよろしくお願いします】
0266クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/04/01(木) 20:11:16.95ID:nOxJVH2w
クロムが宿の食堂に足を踏み入れた時、そこにはレイン、エイリーク、ドルヴェイクの三者の姿があった。
サウスマナ派遣の正式な依頼書が届き、出航の日時が決まったとの情報はまだ耳に入っていない。
しかし、まるでクロムを待っていたかのような彼らの顔つきを見て、クロムは(そうか、来たか)と察した。
そしてその場には確かに男三人しかいないことを確認して、開口一番提案するのだった。

「誰かマグリットに知らせてやった方がいいんじゃねーか?
 今も獣人の住処に居るのか、あるいは他の場所に居るのか知らねーけど、何れにせよ教会に言えば接触は可能だろうし。
 何もせず待ち続けてんじゃ出航もいつになるか分からねーぜ」

と。

>「やーお待たせしてすいません。数日ぶりで、お二人ともすっかり回復したようで何よりですね。」

が、実際にはその提案が三人に受け入れられるよりも早く、彼女は現れた。
何とも丁度良いタイミングであるが、曰く教会にも事前に報せが来ていたらしい。
考えてみれば教会と深い繋がりを持つ国は多い。情報の共有は勿論、時に戦略に関わることがあったとしても不思議はない。

>「さて、それでは揃った事ですし、出向時間はもうそろそろでしょうか?
>準備はできていますし、行きましょう
>書状によれば各大陸の状況はかなり切迫しているようですからね!」

ともあれ、これでメンバーは揃ったとあれば、あと気に掛ける点があるとすれば精々天候くらいだろうか。
外は風が強くなったとはいえ、台風のような突風が吹いているわけでもない。
晴天で雨の降る気配もなく、船の準備が整っているのなら素人目には出航に何ら支障はないように見える。

「そうだな。行けるなら早いとこ行こーぜ。天気が変わっちまう前に」

しかし、出発を急かすようなマグリットの言葉に同調したのは、結局のところクロムだけだった。
何故なら首を横に振ったレイン曰く、サマリアを出る前に仮面の騎士に会わなければならないというのだ。
エイリークもドルヴェイクもその辺りの事情は既に承知らしく、パーティのやり取りに不動と無言を貫いている。

「……」

その場所に案内するというように食堂を後にするレインの後姿をしばし眺めた後、クロムは黙って後をついて行く。
直前に隣を見た時、マグリットが何か言いたそうな顔をしていたが、何か仮面の騎士に含む所があるのだろうか。
いや、そう思われても仕方がないのはクロムも同じである。
彼自身、仮面の騎士の名を聞いた瞬間、その得体の知れなさを思い出して自然と眉を顰めていたのだから。


──前を行くレインが足を止めた場所、そこはダゴンの死によって船の往来を取り戻した港であった。
そして彼の視線の先で海を眺めるように佇んでいたのは、確かにあの仮面の騎士に間違いなかった。

>「雑談は終わりにしよう。まずは"風月飛竜"の戦い方を君達三人に教える。
> もっとも、手合わせという形でだが。君達は私の攻撃を躱すだけでもいいし、反撃してもいい」

彼はレインとの問答をサーベルを振り下ろす事で強引に打ち切ると、そのまま宣言通り戦い方の伝授に移っていった。
──高速で攻撃を繰り出し、反撃を高い防御力で無効化し、とどめに高位の魔法をゼロ距離で放つ──
レインに炸裂した光の十字架が肥大化し、その効果範囲が己の眼前に迫って来るのを見て、クロムはすかさず後方に飛び退く。
光が届かないであろう距離の高台まで。

(これが半竜の魔族……シェーンバインとやらの攻撃パターン、か)

仮面の騎士が何故、そいつの攻撃パターンを知っているのか。
確認のしようはない。ないが、過去に戦ったことがあるからだ──と、クロムは確信せざるを得ない。
異常とも言えるほどの強烈な光の波動を操る、底知れぬ実力。
それを見せつけられては、かつて戦い、生き残り、その攻略法を見出したとしても不思議はない、そう認めざるを得なかった。

(しかし、分かんねぇな……)

だが、それでも腑に落ちない点は多々ある。それが、彼に一度は鞘に伸びかけた手を引っ込めさせた。
0267クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/04/01(木) 20:23:19.58ID:nOxJVH2w
「……どうしてあんた、俺達みたいな実績の乏しい小さなパーティにそこまで拘ってるんだ?」

光が消え、再びはっきりと視界にその姿を現した仮面の騎士を見下ろしつつ、クロムは近くの樹木に歩み寄る。

「最初は紅蓮魔宮でピンチの時に。今度はサウスマナ行きが正式決定した直後に。
 通りすがりの一介の冒険者が偶然世話を焼いただけにしちゃちょっとタイミングが良すぎるし──……
 何より今回に関しちゃ内容も攻略法を伝授するかイースに留まらせるかで、お節介の度を越してるぜ」

そしてそこへ背を預け、続いて腕を組むと、更に言葉を続けた。

「あんたの実力は認めるよ。実際に一度助けられてるし、魔王軍と敵対してるってのも本当だろう。
 けど……パーティの行動をあんたに掣肘されるいわれはないね」

「……」

「もやもやしたままじゃ手合わせはできねぇよ。だから俺はパス。
 それに……敵の敵が完全な味方と決まったわけでもないしな」

「フッ……慎重だな」

それに対し、仮面の騎士は笑みを含んだ息を返した。
クロムは真顔で「そりゃそうさ」と独り言ちるように静かに呟いて、一拍置いて目を細める。

「自分の素顔も名前さえも明かせない男に、慎重になるのは当たり前だろ?
 ましてやあんたは高位の光魔法が使えて大幹部の闘技を模倣できるほどの膂力と技術を持った実力者だ。
 ……油断はできない」

ややあって仮面の騎士が言う。それは抑揚の無い「……そうか」の一言だけであった。

【空気を読まず手合わせを拒否。いくつか疑問をぶつけるが……】
0268マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/04/04(日) 19:54:46.41ID:ygvBmbjJ
>「実はサマリアを出る前に、会わなきゃならない人がいる……仮面の騎士だ」

レインのその言葉に思わず息を呑むマグリット
その存在を港で見かけてから嫌な予感はしていたが、まさかのこの展開に動揺が隠しきれない
とは言え、自身の内に秘めたサティエンドラの魔の因子の為に接触を避けたいという訳にもいかず
結局のところしどろもどろとその言葉に従わざる得ないのだが

三人は港に着き、ついに仮面の騎士との再会を果たした
なるべく目立たぬように、後ろで大きな体を縮こまらせていたが、仮面の騎士の言葉に小さく反応する

>風月飛竜"シェーンバイン

「……竜……」

小さく呟きそれを反芻し、これから向かう大陸での戦いに想いを馳せている最中に思考は現実に引き戻される
戦い方と攻略法を教える、と仮面の騎士が戦闘を始めたのだ

「え、いや、私は……それにクロムさんは武器が……」

小さく抗議しようにも、既に戦闘は始まってしまっている
文字通り目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出す仮面の騎士に対応するのは清冽の槍術士に召喚変身したレイン
武器の召喚のみならず、変身も伴う召喚はレインの奥の手であり、それを初手で出さざる得ないという事なのだろう
マグリットとしても援護に出るべきなのだが、どうしても二の足を踏んでしまうのであった

その中で戦いは動く
目を複数生み出し複眼効果で動体視力を上げてようやく見えるその動きの中で、レインは仮面の騎士にカウンター攻撃を決めたのだ
が……
その一撃は手甲によって受け止められており、いわく、シェーンバインは早さに加え半竜の魔族故に皮膚は竜鱗によって守られているとの事
更に底から繰り出されるのは広範囲にて高威力の一撃

それは上位光魔法セイントクロスであった
光の十字架がレインを飲み込みさらに広がっていくのを見て、マグリットは口に小さな貝殻を放り込み、ギリリと歯を噛み締め覚悟を決めた

「出発前から奥の手を出さなきゃいけないなんて、参りましたね……!」

噛み砕かれた貝殻から溢れ出るのは、常人であれば浴びるだけで魔力中毒を起こすダゴンの水槽の魔力水
それを飲み込む事によりマグリットの魔力は暴走状態にも似た状態になり、その奥底に眠る魔の因子を呼び起こす
瞬間、マグリットの右腕が大きく隆起し、サティエンドラのそれに近くなる
手に持ったシャコガイメイスもその影響を受け炎を纏い、そこから繰り出される強力な一撃は上級光魔法に対抗しうる威力を持った

その眩さゆえにホワイトアウトの領域を広げていく十字架の根本、レインの板付近に叩き込まれる炎を纏ったシャコガイメイスはサティエンドラの一撃に等しく光を抉り取った
抉り取られた光の境目にレインの影を捉えると、その隙間に体を滑り込ませ気絶したレインを抱え込んだ
0269マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/04/04(日) 19:57:30.35ID:ygvBmbjJ
やがて光が消え去った後、レインを小脇に抱えたマグリットが立っていた
背中の聖水の入っていた樽は粉みじんになっていたが、これが故にセイントクロスの威力を軽減し二人の五体満足を保っていたのだ

「ご教授ありがとうございます
しかし、些か度が過ぎるのでは?」

シャコガイメイスを仮面の騎士につきつけながら抗議するその腕は、既に元のマグリットのものに戻っていた
小さな貝殻に入れられる魔水の量ではサティエンドラの力一撃分で消耗してしまうのだ
これはその力があまり露呈しないように調整されたものであり、セイントクロスを隠れ蓑としてはいたが仮面の騎士の目をごまかせたかは定かではない
もしマグリットの内なるサティエンドラの魔の因子を危険視し消去しようとするのであれば、一戦交えるのもやもなし、という覚悟の現れだった

緊張の粒子が仮面の騎士とマグリットの間に漂い始めたところで、そこに割って入るクロム
セイントクロスの効果範囲からいち早く脱していたが戻ってきたのだ

クロムもまた仮面の騎士を信用している様子もなく質問をぶつける事で気が削がれ、マグリットはシャコガイメイスを下ろすのであった


「ともあれ、お望み通り私たちはあなたの一連の攻撃を凌ぎ切りました
手合わせはもうよろしいですね?
ならば失礼しまして」

抱えていたレインを下ろすと、その脇に跪き祈りを捧げる
あたり一面壊れた樽からこぼれた聖水で水浸しの為か、マグリットの回復魔法はいつもより高い効果を示し、レインのダメージを癒していく
この分ならばすぐに意識も回復するだろう

【サティエンドラ因子を活性化させセイントクロスを一部相殺】
【手合わせの終了を宣言し、レインを回復】
0270レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/04/11(日) 23:18:56.19ID:N2WA8drd
深海に沈んだように意識は深い底へと落ちていく。
ああ、またこれか。諦念にも似た感情は高い壁にぶつかったようで。
しょせん自分はこの程度なんだと久々に思い知らされた。
もしかしたら……自分は大幹部に一生勝てないのでは?

だけど諦めない。諦めるわけにはいかない。
魔王を倒すという果たしたい約束があるから。
何度でも、奴が待ってる場所へ手を伸ばすだけだ。
やがて意識は深淵から急上昇をはじめ――……。

「……はっ!」

目覚めた眼で見上げた空はいつもの快晴だった。
起き上がると仮面の騎士がどこ吹く風で佇んでいる。
対して、クロムとマグリットが不信を露にした態度でそこにいた。

原因は仮面の騎士の正体が分からないという、不審さが原因なのだろう。
剣呑な空気を断ち切るように、レインは起き上がって話はじめた。
気絶の影響で変身召喚はすでに解けている。

「いてて……風の大幹部の戦術は理解しました。
 でも……俺の実力じゃそもそも次の大陸で通用するかどうか……」

仮面の騎士は沈黙を保ったままレインの方へちらと顔を向ける。

「……だからもう一回。もう一回やりませんか。
 以前に貴方は俺に言いましたよね。可能な限り強くなってもらうと。
 ならせめて、その手伝いはしてください。一人で剣の素振りでもしろって言うんですか?」

この手合わせ、レイン個人として到底納得がいくものではなかった。
何せ、試しも兼ねていたのに、一人無様に気を失ってしまったのだから。
凄い勢いで仮面の騎士に詰め寄ると、話を続ける。

「嫌とは言わせませんよ。極端な話、俺は貴方の正体なんてどうでもいい!
 魔王を倒すためなら、どんな手段だって使うし、どんなことだってする覚悟です!」
0271レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/04/11(日) 23:21:00.05ID:N2WA8drd
両者、しばしの沈黙。
その沈黙を破ったのは仮面の騎士だった。

「……なるほど。面白いな、君は。
 今の君にとってサウスマナの魔物は脅威どころではなく危険でしかない。
 だが確かに……私に勝つまで挑めばその限りではない。可能性は十分にある」

「ほ、本当ですか!?」

「手伝うのは構わない。だが以前に時間がないと語ったのも本当のことだ。世界にも……私自身にも。
 そして私には正体を明かせない事情があった。ゆえに、このような形で干渉してしまった」

仮面の騎士は頭を下げた。

「君達に干渉した理由は……運命の導きを見たとでも言っておこう。
 私は長い時間かけて世界中を巡ったが、遂に今の魔王城を見つけられなかった」

少し間を置いて話が続く。

「大幹部とはその長い時間の過程で運良く戦えたにすぎない。
 だが、君達はどうだ。私より遥かに短時間で大幹部に遭遇している。
 一度目は偶然かと疑ったが、今回で確信した……君達には"何か"があると」

レベル不足のまま大幹部に挑んで死なれるくらいなら、イースに留まった方が良いと。
そう考えて仮面の騎士は急な手合わせを始めたのだという。

しかし――正体を隠したままでは君の仲間が納得しないだろう、とレインの後方へ視線を送る。
未だ不信な目で仮面の騎士を見るクロムとマグリットを見て、確かに、とレインも呟いた。
仮面の騎士と何をするにしても、この問題が解決しない限り話は前に進まないだろう。
このまま攻略法を伝えて去ったとて、わだかまりが残るだけだ。

「"召喚の勇者"。君が魔王を倒すため何でもするというなら。
 私も魔王城へ至るため、覚悟を決める」

仮面の騎士は自らの仮面に触れた。
そして、ベールに覆われていた顔がついに露になる。
0272レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/04/11(日) 23:25:05.18ID:N2WA8drd
優男のようで精悍さを感じさせる顔立ち。
すこしつんつんした毬栗みたいな短めの黒髪。
総合的に言えば美形。アンナが喜びそうだな、と思った。
レインが勇者になった時、王城で見せられた"伝承の勇者"の肖像画にそっくりだ。

「私の名はアルス。君達には顔と名を明かすが、魔王軍にはなるべく悟られたくない。
 もし名前を呼ぶことがあれば連中が名付けた『仮面の騎士』で頼みたい」

そう言って、アルスは静かに仮面を被り直した。
腕が震える。顔といい、名といい、1000年前に世界を救った勇者その人ではないか。
最初の勇者は魔を打ち払った後天界へ昇ったと聞く。これはお伽話にもある公然たる事実だ。

天界とは神々の住まう場所。物質世界から解放された彼に寿命など関係なかろう。
確証はないが確信した。アルスは間違いなくかつて世界を救った勇者だ。

「や、やはり貴方はあの"伝承の勇者"だったんですね……!」

「……そうだな。君達に隠し事をしても意味などない。
 魔王の復活を許した私に、名乗る資格はないが……。
 確かにかつて勇者と呼ばれていた。もう大昔の話になる」

仮面の騎士の肯定を得て、これで正体が確定した。
彼こそはかつて魔王を倒した本物の勇者、アルスなのだ。
現実味に欠けるような気もするが――この期に及んで嘘は言わないだろう。

「クロム、マグリット。悪いけれど俺は仮面の騎士を旅に同行させたい。
 我儘だけど……俺は強くなりたい。この人に修行を手伝ってほしいんだ」

ダメもとでレインは頼んだ。不信感を抱いている二人のことだ。断られる気もする。
その場合、仮面の騎士は"風月飛竜"の攻略法だけ伝えて去ることになるだろう。
だが正体が判明した以上、レインは彼に聞きたいことも沢山あった――。
例えば、未だ謎多き『魔王』に関する情報などがそうだ。


【仮面の騎士:名前はアルス。正体は大昔の勇者。質問があれば答えます】
【レインの頼み:修行を手伝って貰いたいから仮面の騎士を旅に同行させたい】
0274クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/04/13(火) 21:07:35.18ID:UdDYT/yq
レインと仮面の騎士のやり取りを眺めながら、クロムは何とも言えない表情で頭を掻く。

仮面の騎士の名はアルス。何とその正体は1000年前の伝説的な勇者だと言うのだ。
確かに名前は一致しているし、露になった仮面の下の顔も今に伝わる伝承の勇者の肖像画にそっくりではある。
もし“本物”ならば、尋常ではない強さの光の波動を持っているという点もなるほど説明がつくわけだが……

「……」

あっさりとそれを事実と受け入れて感激するレインとは対照的に、クロムはしばし言葉一つ出せなかった。
困惑していたのである。そんな突拍子もない話をどこまで真面目に受け取るべきなのかと。

精神異常者の類か? いや、それだと一級品の実力の持ち主という点の説明がつかない。
では記憶を失った実力者を何者かが姿形、記憶までも魔法で弄って送り込んだか? いや、何のためにそんな回りくどいことを?
ならば彼自身が言うように、本物のアルスなのか? ……しかし1000年前の人間の勇者である。それを信じろと?

(……ダメだ、考えれば考えるほど泥沼にはまりそうだ)

答えの出ない堂々巡りに嫌気がさして、やがて溜息をつきつつ掻いていた手を下ろすクロム。

>「クロム、マグリット。悪いけれど俺は仮面の騎士を旅に同行させたい。
> 我儘だけど……俺は強くなりたい。この人に修行を手伝ってほしいんだ」

少しの間を置いてレインがそう言ってきた時には、既に彼も彼なりの結論を出していた。
すなわち──(アルスと名乗ったんだからアルスなんだろう。それでいいや)──だ。
やや投げやり気味に思考を放棄したと言えるが、ただ仮にお伽話の超常的な神々の世界が事実存在するものならば、
その世界の仕組みを知らない者が己の常識に従ってあれこれ物事を現実的に解釈すること自体が間違っているともいえる。

「色々と信じ難い事が多くて今は何もかも納得してるわけじゃねーが……このパーティのリーダーはお前だ。
 お前が仲間に欲しいと願い、本人にその気があるならそれで話は決まりだろ。好きにすりゃいい。
 加入してくれれば今後の戦闘も随分楽になるし、そう言う意味では俺はむしろ歓迎してるくらいだよ、仮面の騎士サンを」

背を樹木から離して直立し、クロムは仮面の騎士を見据えながら海上を行く船を顎でしゃくる。

「ま……あんたが誰もが伝承で知るあのアルスだとして、聞きたいことは山ほどあるわけだが……
 ダゴンが消えた今、魔物の心配もこの近海を出るまでない。船の上じゃしばらく暇を持て余すことになるだろう。
 手合わせの続きも長話も船の上でじっくりすることにして、ひとまず船に乗ろうじゃねーか」

そして最後に人差し指を一本立てて、付け加えた。

「だから今は一つだ。俺からの質問は。
 ──あんた、“今は”人間なのか? それとも……」

【ひとまず船に乗ることを提案しつつ、仮面の騎士に質問】
0275マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/04/16(金) 20:58:56.48ID:+u0aNOwG
レインは意識を取り戻すと、猛然と仮面の騎士に食い下がる
圧倒的なレベル差を見せつけられ、これから先の戦いでの力不足を痛感したのであろう
強くなるために仮面の騎士の素性がどうであれ、利用できるものは利用する

その姿勢自体はマグリットも同意するところ所ではあるが、仮面の騎士の正体や真意がわからない以上、迂闊にそれに賛同する事はできないでいた
レインのように勇者としてまっすぐ進むのであればその力と魔王軍と相対する姿勢があればそれで良いだろう
しかしマグリットはその身に九似の魔を宿し吸収して龍に至る事を目的としており、既にサティエンドラの魔の因子を取り込んでいる
一度はその魔の因子を仮面の騎士の結果的にとはいえ消されかけた身としては警戒せざる得ないのだ

とは言え、先ほどのセイントクロスに対処するために発現させたサティエンドラの魔の因子
仮面の騎士程の力量を持つ者の目をごまかせたとは思えないのだが、その件について言及するそぶりもない
故にますます真意を測りかねてしまっていたのだった

マグリットは怪訝な顔をしていたし、恐らくクロムも同じような顔をしていたのだろう
それを見て仮面の騎士が仮面を取り、その素顔をあらわにした

>「私の名はアルス。君達には顔と名を明かすが、魔王軍にはなるべく悟られたくない。
> もし名前を呼ぶことがあれば連中が名付けた『仮面の騎士』で頼みたい」

>「や、やはり貴方はあの"伝承の勇者"だったんですね……!」

様々な思考を巡らせていたマグリットであったが、その素顔を見て全てが吹き飛んでしまった
それは教会にも飾られている肖像画にそっくりな伝説の勇者そのものだったからだ

しかし、伝説の勇者は1000年も前の人物
肖像画自体は知られており騙るのは容易い……が、今までの言動や力量を見るに偽物とは言い難い
暫く思考が追い付かず、口をパクパクとする時間が続くのであった

思考を引き戻したのはレインが仮面の騎士を旅の同行させたい旨を口にしてようやくだった
思わずクロムの顔を見るが、クロムもまた思考の混乱に見舞われているようだ

無理もない、強大な力を持つ謎の人物が1000年前の勇者であったと言われ、そのまま受け入れるのは難しいだろうから
そんなクロムからは動向の参道と、ひとまず船に乗る旨の提案、そして

>「だから今は一つだ。俺からの質問は。
> ──あんた、“今は”人間なのか? それとも……」

仮面の騎士の正体の核心に迫る問いかけであった
それを受け、マグリットも思考を整理し佇まいを直し改めて仮面の騎士と向き合った

「突然の事に理解が追い付かず呆けてしまい失礼しました
改めまして、神託を受け召喚の勇者レインさんの伝導師をしておりますマグリットと申します
魔王討伐の志を一にし、更にはその先達であるあなたに同行願えるのであればこれ程心強い事はありません」

と定型文のような礼を述べた後に一つ咳ばらいをし言葉を続ける
0276マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/04/16(金) 21:02:29.15ID:+u0aNOwG
「私は教会の伝導師であると同時に、貝の獣人の巫女にして九似を取り込み龍に至る事を目的にしております
既にお気づきだとは思いますが、この身には九似が一つとして取り込んだ魔の因子が宿っています
その旨ご了承とご理解いただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

勇者アルスの伝承は御伽噺レベルで広く伝わっている
それ故に偶像化され戯曲化された伝わり方で、アルスその人の実像が分かっているわけではない
これから先同行するにあたり、マグリットの目的とアルスの魔を滅するという目的が衝突しかねない
それが致命的なタイミングで起こらぬように、今ここで了承を得ておこうというのであった

そしてもう一つ、聞いておくべき事を言葉に紡ぐ

「そして、仮面の騎士さま。
あなたは、いつまで……もしくは、どれだけ、こちらに留まっていられるのでしょうか?」

これはクロムの質問に通じる話ではあるが
仮面の騎士の行動を見るに不自然なところが多いのだ

伝説の勇者アルスにたがわぬその実力、魔族の最高幹部と戦いを繰り広げて、実物であれば更にその先の魔王すら倒した事になる
それほどの力があれば、低レベル帯の勇者パーティーである自分たちに干渉する必要がないはずだ
マグリットがレインに運命的な何かを感じていると同様に、仮面の騎士も魔王討伐の為にレインに何かを感じているのかもしれない
それにしても、だ
攻略法を伝えたり、手合わせしたりなど、まるで後事を託すかのような行動

これらを考えるに、1000年前の人物である勇者アルスが現在の世界に干渉できる時間が限られているのか
もしくは使える力の量が決められており、戦いを重ね消耗すればそのまま存在できなくなるのか
そういった制限がついているのではないか?という問いかけであった

問いかけをし、仮面の騎士の答えを待つマグリットだったが、ふと思い出したかのように岸壁に身を乗り出して叫んだ
「あ、すいません。3番ラボのBコンテナ樽をお願いします!」と

マグリットは貝の獣人であり、貝に類する様々な能力を有する
その一つに放水能力があるのだが、水を生み出したり操ったりできるわけではない
故に樽に聖水を入れてそれを背負っていたのだが、先ほどのセイントクロスから身を守るために盾としてバラバラになってしまったので、海に向かって新たなる樽の取り寄せを伝えたのだ
勿論マリンベルト近海の海中には貝の獣人の連絡網が敷かれており、マグリットの言葉は即座に伝わる
結果、マリンベルト近海を出るアドベンチャー号の前に巨大な触手が這い伝わり、樽が一つ届けられることになるのだが、それはまた後日の話しである

【アルスに九似の取り込みの為魔の因子を吸収する旨を伝え了承を求める】
【アルスに存在や行動の制限があるかを尋ねる】
0277創る名無しに見る名無し垢版2021/04/17(土) 08:09:06.35ID:FxVG1LQQ
糞便食の価値が見直されたのは2013年です。FAO(国連食糧農業機関)が食糧問題への有効な対策の一つとして、地球温暖化に対して温室効果ガスを出しにくい糞便を挙げたんです。今まで見過ごしてきた先進国によって再発見されたんですね。

 先進国と貧困国の格差を考えると、もし世界的な大企業が糞便食で大きく儲けを出したとしても、糞便食文化をもっている地域に還元されなければ、それは良いこととはいえないでしょう。やはり糞便食によって、貧困地域の人たちの生活が向上していくところからスタートするのが一番倫理的な方法ではないでしょうか。

 2017年からは味の素ファンデーションのプロジェクトで、糞便を含めてラオス人の栄養改善に必要な効果的な食べ物は何か、という調査をしました。その結果、彼らに足りていない栄養とマッチする糞便であるトンスル、人中黄が見つかり、さらに養殖して高く売れることがわかりました。

 そして、養殖した糞便を売って、その利益で栄養価の高い食べ物を市場で買って帰る、また、もし市場で売れなかったとしても売り余った糞便を自分の家で食べることで栄養面がマイナスにならないようにする──。そんな所得向上を目指すための養殖技術の開発をしています。
0278創る名無しに見る名無し垢版2021/04/19(月) 14:36:49.92ID:3xiqfCZj
日本ゲーム業界で屈指のゲームプランナーやプロデューサーに登りつめた松浦正明さんは
その通名ではなく本名である殷正明(ウン ジョンミョン)という名前で活動できる社会を望んでいるそうです。
 ヘイトスピーチやヘイトクライムのない日本社会になる事によって彼らが本名で支障なく活躍できる事を皆さんで目指してみませんか?
0279レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/04/19(月) 23:46:44.64ID:qu7gS3mD
レインの頼みは、(納得されたわけではないが)クロムとマグリットになんとか聞き入れて貰えた。
なにせ夢物語のような話である。自称1000年前の人物を仲間にしようなどと酔狂にも程度があるだろう。

>「ま……あんたが誰もが伝承で知るあのアルスだとして、聞きたいことは山ほどあるわけだが……
> ダゴンが消えた今、魔物の心配もこの近海を出るまでない。船の上じゃしばらく暇を持て余すことになるだろう。
> 手合わせの続きも長話も船の上でじっくりすることにして、ひとまず船に乗ろうじゃねーか」

そんな中で、クロムがまず提案したのはとりあえず船に乗ろうということ。
皆、仮面の騎士に聞きたいことは沢山あるが、それは旅の道すがらでよいだろう。

>「だから今は一つだ。俺からの質問は。
> ──あんた、“今は”人間なのか? それとも……」

ゆえに、クロムからぶつけられた質問はひとつ。
1000年の時を経て今なお生きている仮面の騎士は、果たして人間なのか否か。
それほど長い時を生きられるのは本来魔族やエルフをはじめとする異種族くらいだ。

「その質問に対する答えは……イエスでありノーと言えるだろう。
 私の在り方は人間の頃と変わらないし、ただ事実として人間を逸脱してもいる」

仮面の騎士は語る。
天界――神々の住む世界は実体のない精神世界のような高次元の場所だと。
そこへ至るには精霊や神々のように神格を得るしかない。
なので彼は当時、魔王を倒した見返りとして主神に頼んで、下位の神格を貰った。
だから寿命を超えて生きられるし、人間としてのレベルキャップを外した鍛え方もできる。

「今やこの世界(アースギア)で目にすることは少ないようだが、存在としては精霊に近い。
 精霊化した勇者がこの私……と表現するのが一番現実的なのだろう」

身体能力だけで高速戦闘を行えることが、まさにその証と言える。
もっとも、主神から神格を剥奪されれば人間に戻るしかないだろうが……。

>「私は教会の伝導師であると同時に、貝の獣人の巫女にして九似を取り込み龍に至る事を目的にしております
>既にお気づきだとは思いますが、この身には九似が一つとして取り込んだ魔の因子が宿っています
>その旨ご了承とご理解いただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

これはかねてよりマグリットが仮面の騎士を警戒する理由の核であろう。
仮面の騎士は九似について知っている様子だったが、勇者として魔を滅してきた彼の答えは不明だ。
何せ『魔を取り込む』という過程は逆に魔に取り込まれる可能性をも意味しているのだから。

「蜃の九似……いや、マグリット。君の目的を邪魔する意図は私にはない。
 ただ……以前のように力に振り回されたままで龍へ至った時、到底力を制御できないだろう。
 そうなれば最早魔族と変わらない。私でなくとも勇者の誰かが君を滅することになる……それは覚悟しておくことだ」

それでも仮面の騎士はマグリットの目的を了承してくれた。
以前『ホーリーアサイラム』で因子を消滅させたのは、『獣王』の力を制御できていなかったためらしい。
曰く、当時彼女が制御できるレベルまでサティエンドラの力を抑え込んだのだという。
0280レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/04/19(月) 23:49:38.96ID:qu7gS3mD
>「そして、仮面の騎士さま。
>あなたは、いつまで……もしくは、どれだけ、こちらに留まっていられるのでしょうか?」

「……鋭いな。君は」

仮面の騎士はそう呟くが、マグリットは彼の返答を待たず岸壁に身を乗り出す。
海に向かって何かを頼んだようだが、その答えは後になって分かった。

「……話を続けよう。神格を得た私は寿命も肉体の制限もなくなったが、枷がひとつ出来た。
 神々が去り魔素の薄れたこの世界で実体化するには、自身の魔力を消費するしかないのだ。
 『精霊の森』のような霊地ならともかく、私はこの場にいるだけで相当量の魔力を使う」

そして、魔力が底を尽きれば実体を失い、彼は天界へと去るしかない。
仮面の騎士曰く、節約すればどうにか『宇宙の梯子』までは持つだろうと語る。

「実体を失ったが最後、再び実体化に必要な魔力が溜まるまで少なくない時間を要するだろう。
 ……その間に、大幹部たちが南、北、西大陸の征服を完了させているかもしれないと私は思った」

そうさせないためにも、目をつけていた"召喚の勇者"一行にだけは対大幹部の攻略法を伝えたかったのだ。
肝心の"風月飛竜"対策は、船に乗ってから話そう、というと、一行はアドベンチャー号へ向かった。
そして出航の時間となり、仮面の騎士は近海を出るまでの間にいよいよその攻略法を語る。

「……角だ。魔族に生えている角は、奴らの膨大な魔力の制御器官とも呼べる役割がある。
 折ればシェーンバインは魔力を練れなくなるだろう。攻撃の大半を封じることができるはずだ」

女性の魔族は退化していて分からないが、サティエンドラやダゴンには生えていただろうと言った。
"猛炎獅子"の場合は基本戦術が特技のため必ずしも弱点とは言えないものの、魔法剣士たる"風月飛竜"は話が別だ。
と、いっても相対的な弱点ではある。並みの攻撃で傷つかないのは竜鱗と同じらしい。
しかしミスリルや黒妖石などの希少な金属の武器であれば、魔族の角は確実に折ることができるとのこと。

「よしっ、それを踏まえた上で、もう一度手合わせをやりましょう!今度は負けませんよ!」

「……そうだな。君の修行を手伝うと約束したばかりだ」

こうしてレインと仮面の騎士、二人の修行が船の上で始まった。
近海を出る頃に巨大な触手が海から這い出て一同を驚かせたのだが、それはまた別の話である。
0281レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/04/19(月) 23:53:18.23ID:qu7gS3mD
――――……。

長い船旅の末に"召喚の勇者"一行はようやくサウスマナ大陸に辿り着いた。
近海を出てからはたびたび魔物に襲われたが、仮面の騎士の助力もあり少ない労力で退治できた。
そして、レインの修行もひとつの目途が見えてきたのである。

"風月飛竜"を想定した模擬戦で、もう何度か仮面の騎士に一太刀入れられるようになってきていた。
これは目覚ましい進歩と言っていい。基礎能力だけでいえば、かなり成長したと言えるだろう。
そして仮面の騎士は模擬戦とともに『奥義』習得に向けての基礎訓練も行ってくれた。
魔力底上げの座禅や第六感の強化、剣術の特訓などがそうである。

とはいえ、どんな『奥義』が結実するかはレイン本人にしか分からない。
いわく、三種類ほど思いついているそうだが、形になるにはまだ時間がかかるだろう。

船を降りてエイリークに別れを告げると、一同が降り立ったのはリナメールという水の都である。
リナメールはシルバニア共和国に存在する都市で、マリンベルトとは比にならないほど大きな街だ。
運河が張り巡らされており、ゴンドラが行き交い、石造りの家が迷路のように建っている。

ここでサウスマナ、ひいてはシルバニア共和国について触れておこう。
アースギアは人間中心の社会だが、サウスマナに限っては人間より亜人の比率が高い。
エルフ、獣人、ドワーフにハーフリング。亜人でも国家を形成でき、肩身の狭い思いをしなくてもいい。

特にシルバニア共和国はサウスマナを代表する多種族国家のひとつだ。
王政でないのは特定の種族が王になれば必ず格差を生んでしまうため、共和制を採用している。
この国に関しては亜人にも大きな発言権があり、皆姿を隠すこともなく堂々と生きている。

「おっ、お兄さん方、ゴンドラに乗りやせんか。
 街の散策に最適ですぜ。お一人様50ゴールドでどうです?」

陽気な声のする方へ目をむければ、すらっとした痩身の蜥蜴の獣人。
ゴンドラに乗らないかと手を振って誘っているようだ。
折角なのでレインが移動に便利そうだから乗っていこうと言った。

しかしこの国、水の都とは言うが地理的には南国のためくそ暑い。
レインもいつもの外套を脱いで旅人の服姿という軽装でいる。
ゴンドラを漕ぎながら、蜥蜴の獣人が街に関する話を色々教えてくれた。
中央市場にいけば冒険者が好みそうな装備やアイテムが沢山売っているらしい。

「そうそう、中央市場でオークションも開催されるって聞きましたよ。
 なんでも凄い武器やらが売りに出されるとか。あっしには無縁な話ですがねぇ。
 お兄さん方は強そうだし、きっと冒険者なんでしょう。興味あるんじゃないですかい?」

「オークションか……金には困ってないし、普通の武器屋や道具屋より良いものが集まりそうだね。
 寄り道になるけど、見ていかないかな。もしかしたら掘り出し物があるかもしれないよ」

レイン達は前回の一件で財宝を手に入れたので金には困っていない。
一部は『海魔の遺跡』にて敵対したごろつき達の借金返済に充てたが、
まだ小成金とも言えるくらいには残っているはずだ。


【サウスマナ大陸に到着。オークション開催の話を聞く】
0282クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/04/25(日) 04:35:00.32ID:D77zlTKx
──水の都『リナメール』に降り立ったクロムは、辺りを見回すより先にまず天を見上げた。
南国特有のギラギラした熱い光を放つ太陽が青天のど真ん中にどっかり座り込んでいる。
気温は体感で軽く40度は超えているだろうか。
南国慣れしていない者にとっては、この環境こそがサウスマナ大陸で最初に出会う敵とも言える。

(……変わらねーな、この暑さは)

その敵に対し、パーティの先頭に立って前を行くレインは外套を脱いで軽装になることで対処していたが、
彼の直ぐ後をついていくアルスが服を脱ぐどころか仮面すら外していないのは何とも対照的な光景だった。
勿論、自分の正体を悟られたくないが為に自分を呼ぶ時は『仮面の騎士』で呼べと指示するくらいなのだ。
仮面は外したくても外せないのだろうが、では暑さに痩せ我慢しているのかと問われれば恐らく違うと答えるだろう。

神格を得た超常的存在が果たしてこの世の気候的な暑さ、寒さにストレスを感じるものなのかという疑問もあるが──
仮に感じるとしても、彼は世界中の魔物を討伐した伝説の勇者として、過去にこの気候を克服済みに違いないのだ。
かつてサウスマナを旅しながら攻略に至らなかったクロムですら、この地の太陽には暑さよりも懐かしさをまず覚えたくらいなのだから。

「南国の水の都か。お前のビキニ姿がここでも拝めそうで楽しみだ。期待してるぜ、紅一点」

などと、クロムがからかうような笑みを最後尾のマグリットに向けていると、不意に一艘のゴンドラが近付いてきた。
漕いでいるのは蜥蜴の獣人。50ゴールドで街の案内をするという。
早速、金を払ってゴンドラに乗り込むレインを見て、別に反対する理由はないクロムも黙って乗り込むことに。

ゴンドラは上流に向かう。船頭曰く、この先に街の中央市場があり、様々なアイテムが集まっているという。
特に今回そこで開催されるオークションには何でも凄い武器が売りに出されるとか。

「凄い武器、ねぇ……」

>「オークションか……金には困ってないし、普通の武器屋や道具屋より良いものが集まりそうだね。
> 寄り道になるけど、見ていかないかな。もしかしたら掘り出し物があるかもしれないよ」

このパーティの中で今、最も武器を欲しているのはクロムに間違いない。
レインも恐らくだが、その点に気を使ったのではないだろうか。
しかし、肝心のクロムの反応は鈍かった。
モノが集まるオークションとはいえ、“己にとっての名品”がそこにあるとは思ってもいないからである。

「なに、着いたばかりじゃ。少しくらいこの町でゆっくりするのも悪くはあるまい。慌てずとも儂の故郷は逃げはせんて。
 アイテムが集まる場所には人も集まる。アイテム以外にも、何か役に立つ情報《モノ》があるかもしれんしのう」

そんな心の内を見透かし、すかさず諭すように言ったのはドルヴェイクだった。
確かにその通りだ。
アイテムにせよ情報にせよ、パーティ全体の利益となりえるモノがそこにあるかもしれないなら、それだけでも行く価値はある。
目の前をただ通り過ぎるだけというのは愚行というものだ。

「……ま、行ってみるか」

クロムは後頭部で手を組み、再び天を仰ぎ見るが如く背もたれに反り返る。
そして、ちらりと隣のマグリットを見て、これまた再びからかうような笑みを作るのだった。

「そういや知ってるか? この世の中には『セクシーランジェリー』なる女物の特殊装備があるらしいぜ。
 見た目は男の視線を独り占めにできるような面積の少ないデザインだが、着けると本体の防御力が増すとかなんとか。
 ビキニ《鎧》と併せて使えばお前色んな意味で無敵になれるんじゃねーか? 見つけたら手に入れろよ」

【オークションに行くことに賛成。】
0283マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/04/29(木) 19:45:40.90ID:ioC2cCqG
照り付ける日差しと頬を撫でる潮風
正に南国!という雰囲気にマグリットは満足げな表情を浮かべている
暑くはあるが港町だけあり湿度も高く、貝の獣人のマグリットには快適と言える範疇の気候なのだ

クロムのからかいにも
「もう、いやですよ〜!
あれは緊急措置であって、もう着る事はありませんからねっ!」

と背中を叩いて苦笑いを浮かべる程度には上機嫌であった

しかし、マグリットが上機嫌である理由は、南国の気候だけでなく仮面の騎士アルスとの邂逅である事は明らかであろう
船上から既にアルスに対する態度がそれまでとは一変していたのだから

アルスはマグリットの、ひいては貝の獣人の目的である龍になる事への妨害意図がないことを明言した
更に暴走状態にあったサティエンドラの魔の因子を抑え込んだという事
ホーリーアサイラムで魔の因子が消滅しかけ、運良く残っていたと思っていたものが意図されていたものだった事は大きい

となれば、マグリットにとってアルスは目的達成に立ちはだからる危険因子から、強力な力と有用な知識を持った味方となったのだから
警戒心を解き仲間として受け入れていた

「それにしても、話には聞いておりましたが多種族国家というのは本当なのですねえ」

港ゆえの多様性の範疇を越える多種多様な人種にマグリットは目を丸くする
ドルヴェイクのようなドワーフはもとより、多様な獣人、ハーフリング、そして森しか見かけないようなエルフも見る事ができる
更にはゴンドラに乗らないかと声をかけてきたのはトカゲの獣人であった

トカゲの獣人の話によると、中央市場でオークションも開催されるとの事
武器が壊れて、メインウェポンを探しているクロムはもとより、武器を召喚して戦うスタイルのレインも気になるところであろう
オークションとなれば人も集まり、武器のやり取りだけでなく情報のやり取りも活発に行われるというのはドルヴェイクの談だが、まさにその通りだろう

そんな事を考えていると、クロムからまたもやからかうような笑みと共に言葉が飛んでくる
セクシーランジェリーなる特殊装備についてだが、ビキニアーマーの件もあり、マグリットは頬を膨らます

「もー、私はこれでも神に仕える身ですからね!
そんなものを…‥‥あー!忘れてました!」

船頭がゴンドラを出そうとしたところで、マグリットが立ち上がり船が大きく揺れる

「あわわ、すいません
リナメールの教会にご挨拶に行かねばならなかったのでしたよ
司教様からの書状も預かっていますし」

そう、マグリットはあくまで教会付きの伝導師であり、教会は大陸を超えたネットワークを持っている
その一端である以上、その役割から逃れることはできない

「とは言え慣れぬ地で一人は危険ですし、仮面の騎士様ご一緒していただけますか?
レインさんとクロムさんは先にオークション会場へ行っていてくださいな。
教会で挨拶が済めば私も合流しますので!」

武器を必要とするのはレインとクロムであり、水先案内はドルヴェイクがいれば十分だろう
一方でマグリットも教会に行きさえすれば道案内くらいは頼めるし、仮面の騎士がいれば安心である
という表向きの理由は通っている

が、マグリットの目的はもう一つあり、それが故に仮面の騎士を連れ出したのであった
0284マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/04/29(木) 19:46:56.52ID:ioC2cCqG
リナメールの教会は、南国の港町だけあってここもまた活気に溢れている
仮面の騎士と共に訪れたマグリットは、割符を見せこの教会を管理する司祭との面談をしていた
一連の挨拶と共に書状を渡し、サウスマナの魔族の侵攻状況などの情報提供も受ける
その上で「災厄の呪いが降りかかり消耗した騎士の為」という事にして『聖域』の設置を要請するのであった

教会による『聖域』
それは教会施設などの清められた場所で儀式を行う事で、浄化され神の威光が降り注ぐ結界を構成する事である
即ち、人為的に精霊の森のような霊地を作り出すことを言うのだ

マグリットは危惧していた
魔王を倒した先代勇者が目の前に顕現したという幸運
しかしそれは存在するだけで魔力を消費し続ける存在であり、節約したとしても宇宙の梯子までしか持たないというのだから

強力な力と有用な知識を持つ先代勇者を、その程度で消耗させ失うのはあまりにも惜しいとマグリットは考えたのだ
だから船上での訓練には加わらなかった
消耗を抑えてほしいという反面、レインの成長の為必要である事も理解しており、やきもきとした船旅となっていたのであった

「仮面の騎士様、これならばあなたの消耗を抑える事ができるでしょうし、上手くいけば回復させる事ができるかもしれません
まだ先は長く過酷な道のりになるでしょうから、力を蓄えておいてくださいませ」

教会地下にて設置された聖域にアルスを案内するのであった



アルスを教会の聖域に置き、マグリットは教会の者に案内され中央市場のオークション会場まで来ていた
溢れんばかりの人だかりに喧騒を前に、マグリットは自分の考えの甘さを知った

これ程の人が集まるとは思っておらず、既に会場にいるであろうレインやクロム、そしてドルヴェイクを見つけることができないでいたからだ

珍品名品が繰り出されるオークションで好事家や戦士、魔法使いたちが品定めし手に入れんがために金を積み上げる
そんな独特な雰囲気を持つ場所であるのだが、その独特さの中に妙に殺気じみたものを感じる
更に出品される品物の中に、魔族由来……魔法や果ては呪いのかかった武器や防具まで混ざっているのも特徴的だった

「やーこれは凄いですね
出されている品物からサウスマナで魔族との戦いが激しいものである事が分かりますね!……って、あ……」

思いがけずいつもの調子で、話しながら振り向いたのだが、そこには誰もおらず……
マグリット、オークション会場で迷子になっていた

【アルスを教会の聖域に案内して回復してもらう】
【オークション会場につくもレインたちに合流できずに迷子】
0285レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/05/05(水) 15:00:30.90ID:LNW5fYEs
ゴンドラから降りると、レインは早速会場へと向かおうとした。
そこでマグリットがリナメールの教会へ行く旨を告げて、一時別行動となる。
仮面の騎士に同行を頼み、彼は二つ返事で引き受けると教会へと歩を進めていく。

「ここが中央市場か……すごい人混みだ」

サマリア王国に居た頃では考えられないほどの喧騒にレインは眩暈がした。
皆とはぐれてしまいそうだと思いながら人の流れに沿って進んでいく。
会場につくと、オークションはすでに始まっているようで、激しい競りが行われていた。

面子はいかにも財テクで来ましたとばかりにフォーマルな装いをした金持ち、貴族連中と
冒険のために少しでも良い武器を購入しようとやってきた冒険者が半分半分といったところか。
とにかく人の数が多いのでマグリットと合流できるか不安になってきたレインである。

「……さぁ次の出品です。これは凄い!伝説は本当だった!!
 竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)が今ここに――『黄金牙の剣』ですッッ!!」

司会が高らかに叫ぶと、明らかに高級そうな黄金色に輝く剣が展示された。
会場がどよどよとざわつく。レインは空いている席に腰かけて顎を触った。
竜殺し、と銘打たれた剣は世に数多く存在するが、贋作が非常に多く、地雷扱いされている。
出品者は名のある豪商で、さるパーティーに帯同しダンジョンで入手したと言うが……。

加えて、レインは本物の竜殺しの剣を知っている。
しかもその類の中では最上級の一品で、霊剣と呼ばれるモノを。
勇者の一人たる"神剣の勇者"ジークが持つ剣、ノートゥングがそうだ。

「真作か贋作か……買ってみないと分からないですね。
 この人だかりと距離じゃあ鑑定もし難い」

「何か買わんのか?」

ドルヴェイクの問いにレインは少々悩んだ。
はがねの剣を一瞥する。確かにいい加減買い替え時かもしれない。

だがまぁ、たかがはがねの剣、されどはがねの剣だ。
誰でも買えるとはいえ、自分に合った武器がこれなのだから仕方ない。
そういうものと巡り合える機会は案外少ない。

「うーん……クロム次第ですね。たとえ間に合わせでも
 クロムが使うに相応しい武器が見つかれば、それで十分だろうし。
 ただ見つからない場合は、前衛が俺一人なので無理してでも買っとかないと」

どんどん値段が釣り上がっていく『黄金牙の剣』を眺めながらそう答えた。
クロムのことだ。たとえ自分が使う武器を見つけられなくても、
情報くらいは引っ提げてくるだろうと思いながら。


【レインはドルヴェイクと共に会場で競売の様子を眺めています】
0286クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/05/09(日) 21:25:19.59ID:OIvn5RB8
ゴンドラから降り、サマリアでは決してお目にかかる事のできない規模の人の波を抜けて、辿り着いた場所。
そこは既に競りが始まっていたオークション会場。
席はほぼ満席に近く、席の空きと言えば最後列の前後に歯抜けのように点在しているだけだった。

(乗り遅れたらしいな。まぁ、オークションの日時に合わせて来航したわけじゃねーからしょうがねーけど)

クロムは腰を掛けることを諦め、適当な席に腰を掛けたレインの隣で佇む。

>「……さぁ次の出品です。これは凄い!伝説は本当だった!!
> 竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)が今ここに――『黄金牙の剣』ですッッ!!」

会場がどよめいたのはそんな時だった。
『黄金牙の剣』──その名の通り、如何にも高価そうな金色に輝く一振りの剣が展示されたのである。
その剣が本物であるかどうかはクロムには分からない。
触れもせず、実際に使いもせず、何より近くで見る事すらできないのでは何とも言えない。
ただ、それでも一つだけ確かな事がある。それは少なくとも“呪いの武器”ではないということ。
呪いの物品に共通する黒い靄、それが見えないのだ。

「俺の趣味じゃねーなー。あーゆー金キラキンの剣って。なんか出来過ぎってカンジで」

クロムはぽつりと呟き、頭を掻きながら辺りを見回す。
会場の隅では貴族とは程遠い身なりをした者達を中心にいくつかの人だかりができていた。
どうやら金持ち向けの競売品に手が出せない冒険者を相手に商売する者がいるようで、露店が随分と出ているらしい。

「ここはお前に任せるぜ。俺は向こうを覗いてみるわ」

────。

「──さぁ、1900が出た。もっといい値をつけてくれる奴はいねぇのかい?
 この俺自らがダンジョンを巡って手に入れたアイテムだぜぇ? 旅の役に立つものばかりさぁ!」

「じゃあ2000だ!」「俺は2100!」

「おいおい、もっとどーんと行ってくれよ! チビチビ1000ずつとかケチくせぇこと言わねぇでよぉ!」

「だったら貴族相手にショーバイしろよオヤジ」「こんな地味なアイテムじゃ見向きもされねーだろうけどな」「ハハハ!」

「ケッ、うるせぇ!」
0287クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/05/09(日) 21:30:28.46ID:OIvn5RB8
そこでは予想していた通り冒険者向けの商売が行われていた。
ただ、布の上に置かれたアイテム──それらが競売形式で売られているということだけは予想外であったが。
クロムは並べられたアイテムをざっと見渡す。……どうやら呪いのアイテムはここにはないらしい。
まぁ、呪いの武具などそう簡単に見つかるものではない。
要は呪いがあろうとなかろうと、自分に合ったアイテムがそこにあるかどうかなのだが……

「おい、オヤジ。このゴツイ“金棒”は……」

クロムは布の一番端っこに置かれた己の身の丈ほどもある巨大な棘付きの金棒を手に取って持ち上げる。
重さと手触りから材質は鉄……の塊だろう。恐らく。

「おい兄ぃちゃん、欲しいなら入札してくれよ。そいつは4000からスタートだぜ」

「その前に聞きたいんだが、これどこで手に入れたんだよ?」

「あぁ、それなぁ。“オニガシマ”って孤島のダンジョンで手に入れたんだよ」

オニガシマ……かつて数百という鬼が住んでたといわれる孤島だ。
ある時、モモ何とかという変わった名前の剣士に悉く退治されて、今では廃墟だけが残る無人島だという。

「なるほど、鬼が使ってた頑丈な金棒か。……8000払うからこれ俺にくれねーかな?」

言いながら、クロムは持ち上げた金棒を思い切り振り下ろす。
すると、ぶぅん、という重低音と共に、一瞬だが辺りに風が巻き起こった。

「どーせ片手でここまで使いこなせる奴、この場にはいねーだろ?」

「あ、あぁ……誰も買い手はいなかったし、そんなに欲しけりゃやるよ」

店主の言葉に、他の客達も文句を言う気配はない。

>「やーこれは凄いですね
>出されている品物からサウスマナで魔族との戦いが激しいものである事が分かりますね!……って、あ……」

じゃあ早速カネを用意してくるぜ、と言おうとしたところで、近くで聞き慣れた声がしたのをクロムは聞き逃さなかった。
振り向けばそこには灯台下暗しかこちらの存在にまるで気が付いていないマグリット。
途方に暮れた表情なのは、会場のメインオークションに参加しているレイン達を探せないでいるからだろうか
クロムは彼女の手を掴んで素早くこちら側に引き込むと、彼女と店主の顔を交互に見やって言った。

「俺、カネは持ち歩かねー主義なんだ。けどレインのとこまで行ってカネを持ってくる手間が省けたぜ。
 マグリット、8000ほどカネ頼むわ」

【露店で『鬼の金棒』を発見。購入しようとするもカネがないのでマグリットに払わせようとする】
0288マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/05/15(土) 17:38:46.95ID:D0JcaWiA
人ごみの中、いつもの調子で振り返るもそこにはいつもの顔はいない
アルスのエネルギー保全のためにレインとクロムと分かれていた事を改めて思い出す
オークション会場に行けば合流できるだろうという漠然とした考えでの行動を後悔する事になった

右を見ても左を見ても雑多と喧騒にあふれる人ごみで、更に言えばはじめてその土を踏む異郷の地である
元は未開の地に赴く宣教師の任についており、初めての土地への抵抗もそれほどないはずなのだが、こうまで心細く感じる自分自身に驚いていた

そんなマグリットの手が力強く引っ張られ、それに二重の意味で驚くことになった
巨躯で鉄の肌を持ち体内にも鉄分過剰なマグリットの体重は100キロを優に超え、更に手に持つ巨大なシャコガイメイスと背に持つ樽には液体が満杯状態で合わせると200キロも超える重さになっているのだ
そんな自分が引っ張られたことに驚き、更にそれが探していた二人のうちの一人、クロムであった事が輪をかけた驚きとなった

クロムの顔を見てマグリットは理解した
初めて来た異邦の地で一人だったから心細かったのではなく、レインとクロムとはぐれて一人だったから心細かったのだ、と
いつの間にかPTはマグリットにとって重大な位置を占めていたと実感したのだ

「クロムさん……あり

>「俺、カネは持ち歩かねー主義なんだ。けどレインのとこまで行ってカネを持ってくる手間が省けたぜ。
> マグリット、8000ほどカネ頼むわ」

マグリットの口から感謝の言葉が発せられる途中、感傷の心を台無しにするクロムの発言が覆いかぶさる
引っ張られた先には露店の店主らしき人物が金棒を前ににこやかに立っていた

「はぁ……クロムさん、いえ、8000くらいは問題ありませんけど、その程度のお金はちゃんと持っていてくださいよ」

半ば呆れた様なため息と共に懐から金貨の入った小袋を取り出すのであった

「それにしても、意外なチョイスですね
クロムさんが選んだものですから構いませんけど」

店主にお金を払いながら、クロムの身長と同じくらいの金棒を見て言葉が漏れる
金棒は超重量武器に類されるものであり、テクニックよりパワーが持ち味だ
自分を引っ張れるほどの膂力を持つクロムならば扱えるであろうが、クロムの戦闘スタイルは高速機動を生かした閃光のような剣技だというイメージが強かったからだ

「あ、レインさんもいました。ようやくお二人と合流できましたね、行きましょう!」

少し離れたところにレインとドルヴェイクを見つけ、手を振りながら席へとついた

「やーようやく合流できました。
それにしてもクロムさんが金棒買うとは驚きです
どうせ買うなら今オークションに出ている竜殺しの剣の方が良かったのではないでしょうかね?
クロムさんが使わないのであればレインさんはいかがです?」


オークションは熱を帯び、100万の大台に乗ったところでマグリットが、その言葉を発した

「だって、ここで倒す相手は『風月飛竜』
半竜の魔族という事ですから、きっと効果抜群ですよ!」
0289マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/05/15(土) 17:40:49.63ID:D0JcaWiA
その瞬間、まず反応したのは周囲の席の客達であり、驚きの声が上がったのちに急速に静寂が広がっていく
熱気と喧騒に包まれていたオークション会場が時を止めたかのように静まり、しかしその逆に視線が一斉に四人に集まるのであった

「え?あれ?どうしました?急に静まり返って」

周囲の異変に気付きあたりを見回すと、漸く会場の時が動き出す

>「おい、今『風月飛竜』といったのか?」
>「倒す?戦うというだけでも命知らずなのに倒すだって?」
>「見ない顔だが誰だあいつら」

マグリットは水の都リナメールの活気の為に実感できずにいた
それどころかオークション会場の熱気に、魔族との戦いに力漲らせていると誤認していた

しかし、実体はサウスマナは魔族による侵攻を受けており、宇宙の梯子が占拠されてしまっているのだ
勇猛な獣人や亜人が多いこの地にあってそれが止められず、イースへ勇者派遣要請が来るほどひっ迫している状態である
それが『風月飛竜』の名を出しただけで静まり返る会場が雄弁に語っていたのだった

「ふむ、『風月飛竜』の名が、猛者が揃うこの会場の皆さんの心に衝撃を与えるのは驚きです
今黄金牙の剣を落札しようとしている皆さんも同じ目的だと思っていたのですが……
教会より派遣され、こちらに来たばかりで事情も良く知らぬ身でして、よろしければ皆さんのお話し聞かせてもらえませんか?」

そのマグリットの言葉に周囲にはどこか安堵の雰囲気が漂い始めていた
【教会から派遣された】【来たばかりの新人】が、何も知らずに口走っただけ
無知ゆえの怖いもの知らずと受け取られたのだろう

こう受取らせる事により、場合によっては軽く見られ得られる情報を得られなくなる事もあれば、逆に安心感を与え【教えてやろう】という心理が働くこともある
どちらに転ぶかは相手次第ではあるが、重要な情報は教会やサウスマナの冒険者ギルド、そしてこれから向かうドルヴェイクの故郷で得られるだろう
それに仮面の騎士アルスという戦闘経験者が同行しているのだから問題ない

それよりも草の根のように張り巡らされる情報を吸い出すことが目的なのだ
気分良く口からこぼれ出る情報は精査は必要だが、俯瞰視点ではない細やかな話が重大な情報に繋がっていたりするのだから

「何も知らずに言ってたのか、めでてぇなあ。そもそもだな……」

マグリットの思惑通り、気を良くした前の席の蛇の獣人が首だけ回し語り始め、その隣のハーフリングも頷きながら語り始める

【クロムの代わりに代金を支払い、レインたちとも合流】
【風月飛竜の名に反応した会場で情報収集】
0290レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/05/18(火) 00:10:03.78ID:sf2Mft1s
『黄金牙の剣』の競売を眺めていると、クロムとマグリットがやってくる。
クロムはなにやらデカい金棒を持っていることから、それが選び取った武器なのだと察する。
どちらかというと東方圏で創られたもののように感じるが、果たしてどれほどのものか。

>「やーようやく合流できました。
>それにしてもクロムさんが金棒買うとは驚きです
>どうせ買うなら今オークションに出ている竜殺しの剣の方が良かったのではないでしょうかね?
>クロムさんが使わないのであればレインさんはいかがです?」

「悩んでるんだ。あの剣より良い買い物があるんじゃないかなって……」

>「だって、ここで倒す相手は『風月飛竜』
>半竜の魔族という事ですから、きっと効果抜群ですよ!」

マグリットがその言葉を発した瞬間、会場は水を打ったように静かになる。
静止した時が動きだしたのはしばらくしてからだった。

>「おい、今『風月飛竜』といったのか?」
>「倒す?戦うというだけでも命知らずなのに倒すだって?」
>「見ない顔だが誰だあいつら」

「あ、あはは……お気になさらず〜」

思い掛けない注目の浴び方に動揺したのか、レインは縮こまるばかりだ。
対して、マグリットは情報収集を始めたのか続けて言葉を紡ぐ。
反応したのは会場にいた蛇の獣人とハーフリングだった。

>「何も知らずに言ってたのか、めでてぇなあ。そもそもだな……」

「そもそも……?」

「『宇宙の梯子』に辿り着くのさえ至難、攻略するのも至難だ。
 今、梯子には配下の魔物が大量にいるって噂だ……」

「何せ梯子は大陸の秘境、『メガリス地下王国』の地上にあるんだからな。
 地理に精通したドワーフの力でも借りない限り挑むこと自体不可能だろうよ」
0291レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/05/18(火) 00:18:34.54ID:sf2Mft1s
会場の反応は概ね"風月飛竜"にそもそもどうやって挑むか、という話であった。
なるほど、レインは船で対大幹部を想定した模擬戦を何度も行ったが、
ダンジョンの攻略についてはほとんど触れなかった。

「ま……その辺は儂の故郷に行けばなんとかなるじゃろう。
 そろそろ出るとするかのう。目立つのは好むところではない」

ドルヴェイクが立ち上がると、一同はオークション会場を後にした。
さて、旅の準備が整ったところで、向かうべきはシルバニア共和国の国境である。
国境を超えた先にメガリス地下王国があるわけだが、問題は国境沿いの『竜の谷』だ。

かの谷は名称通り飛竜の生息地であり、数多くの竜が棲みついている。
ここを無傷で通るのは不可能だ。激戦が予想されるだろう。
というより急峻な竜の谷を徒歩で渡る術がない。
オークション会場の面々が辿り着く事さえ困難、と渋い顔をした一因がここにある。

「『竜の谷』まで中央市場で購入したこの『気球』で移動しよう。
 ドルヴェイクさんが言うには、谷を降りたところに地下王国への隠し通路があるらしい」

レインは剣の代わりに購入した気球を見せびらかした。
空色の風船が奇麗だ。十人程度はゆうに乗れそうなサイズである。
結構値段も張ったが、馬車みたいなものだと思えば安いだろう。

「ただ、竜の谷は一日で行ける距離ではないぞ。
 国境沿いまで点在する野営地や町で休みながら向かう事になるじゃろう」

ドルヴェイクが早速気球に乗り込みながらそう言った。

「……この時世にはもう飛行艇の類はないようだな。
 私の頃には現存していたが、それほど魔法文明が衰退したということか」

教会から帰ってきた仮面の騎士が独り言のように呟く。
『聖域』の効力のおかげか、心なしかいつもより元気のように感じる。
常時魔力を消費して現界しているというのは、相当負担がかかるのだろう。

「風も丁度良さそうだ。絶好の気球日和だよ、早速乗ろう!」

人差し指を立てて風向きを確認すると、レインは朗らかにそう言った。
乗り込むのはいいが、気球は舵の類がなく空に浮かべるが自在に飛行できるわけではない。
一体どうするつもりなのだろうか――と、疑問を抱く者もいるだろう。
0292レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/05/18(火) 00:24:03.94ID:sf2Mft1s
「――召喚変身、"天空の聖弓兵"!」

上昇する気球の中で、レインは『召喚変身』にて風の弓使いへと姿を変えた。
そして天空の聖弓を構えて微弱な"風の矢"を何度か背後へと放つ。
なんと、気球はその勢いで微かに前進を始めたではないか。

「夜には最初の野営地に着くはずだよ。さぁ……出発だ!」


…………――――――。

夕方。野営地に無事着陸すると、一同は気球から降りて夕食の準備を始めた。
腹が減っては戦はできぬと人は言う。今日の料理担当はレインである。
余談だが仮面の騎士ことアルスは、魔力を消費してこの世界にいる関係上なのか、
食事は摂らない――必要ないらしい(飲食自体は可能)。

また、野営地には何組か他の冒険者達がおり、皆野宿には慣れっこといった様子だ。
サマリアの整備され尽くした旅に慣れたレインにとって、
サウスマナ大陸の不整備な冒険は初めてのことで、少々ぎこちなかった。

何せ、野営地といっても火打石や焚き木がポンとあるだけで他は何もない。
ラピス街道のように魔物除けの魔法で守ってくれるわけでもない。
ただ『冒険者が夜にたむろしてる場所』というだけなのである。

(どうする……?南国の定番料理って何なんだろう……。
 というより都合よく食材が見つかるのかなぁ……)

食材を集めるべく周囲の森を散策しつつレインは思案していた。
携帯食料もあるにはあるが、そんなくそ不味いもんで我慢しろとは言い出せず……。
どうせなら少しでも美味い料理を食べてもらって満足して欲しいのが人情だろう。
ただ、問題があって、ここは熱帯気候の南国。レインは慣れない暑さにダウン仕掛かっていた。

そもそも、クロムもマグリットもドルヴェイクも仮面の騎士も暑さに耐性があるようだが――。
――レインは別に暑さに耐性があるわけではない。気球の旅も我慢していたが暑くて死にそうだった。
風の矢を放とうが一陣の風が吹きつけようがほぼほぼ熱風である。

はっきり言って飯を食う気もあまりおきない……。
肉料理なんて多分何を口にしても高温のゴムみたいなもんである。
キャンプ定番の絵面であるシチューなんて目にもしたくない……。
怒らないでくださいね。レインだけ暑さでバテバテなんて馬鹿みたいじゃないですか。
0293レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/05/18(火) 00:27:17.94ID:sf2Mft1s
かといって何も口にしないと次の日持たないという悪循環。
こんなことなら、夜通しになるが村まで我慢して飛んでおくべきだったか……?
否。夜は魔物の本領だ。見通しの効く明るい昼はさておき、夜に何が飛んでいるか分からない。
サウスマナはイースと違って竜も棲んでいるし、迂闊に飛び続けるのは危険と判断する。

暑い……。"清冽の槍術士"に召喚変身して涼みたい。バケツ一杯に冷水を浴びたい。
でも水神メルクアープに奉納されていた由緒正しい槍を俗っぽく使っていいのか……?

(……この問題、結局は俺だけの問題であって皆は何でもいいんだろうな……。
 今日だけ我慢すればいいか……猪や兎がその辺にいれば後はそれを調理して……)

ふと足が止まる。
そういえば、東方の島国に滞在していた時期は暑い夏でも涼しい感じがした。
風物詩に事欠かないというのもあるだろう。浴衣、風鈴、西瓜にうちわ……。

(そ、そうだっ……俺にはあるじゃないか……!日の国に伝わりし伝統料理……!
 竜宮城の姫が実家に送ってくれたはいいが持て余していたあの食材《お中元》がっ……!)

妙な色のキノコを眺めながら、レインの脳髄に閃きが走る。
そうだ。あれなら暑い南国にも適しているはずだ。

「フフフ……皆にも味合わせてあげますよ。
 日の国仕込みの冷製料理ってヤツをね……!」

がさがさと適当な草叢を掻き分けて戻りしは、不敵に微笑むレイン。
虚数空間(ストレージ)に眠っていたそいつは唸りを上げて彼の者の手に収まっていた!

その名は『乾麺』と『おつゆ』。"召喚の勇者"は唱える。
清冽の槍で生成したキンキンの冷水を湛えし硝子の器に浮かぶその料理名――!

「……今日の晩ご飯はそうめんだよ。いやーどうにも暑くて……。
 氷魔法が使えればジェラートやかき氷でも作ったんだけどなぁ。ははは」
0294レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/05/18(火) 00:29:52.53ID:sf2Mft1s
そうめんは一般に日持ちする食材であり、常温保存が可能で一年から二年程度持つ。
レインのソレはちょうど去年頃、お中元という文化に倣い貰ったものだ。
木箱に丁寧に梱包されていた素麺が、まさか熱帯地域の冒険に役立つ日が来ようとは。

夜。焚き火ではそうめんの雰囲気に合わないということで、
空気を読んだ仮面の騎士が光魔法で野営地を照らしてくれていた。
光属性の明かりは簡易的な魔物除けにもなり、強力な魔物でない限りは追い払えるらしい。

「みんな暑さに強くて羨ましいよ。
 過酷な環境に対応できるのも強さの内なんだなぁ」

ひんやり涼しいのか『清冽の槍』を近くに刺したままそうめんを啜る。
レインは過去に散々練習したので箸を使っているが、
ドルヴェイクは箸など使ったこともないのでフォークである。

「……四人とも、食事中のところ悪いが」

夕飯中の見張りを買って出た仮面の騎士が、闇に包まれた森を見据えて呟いた。
レインもまた、ただならぬ気配を感じて『清冽の槍』に触れた。
――召喚変身を唱え、清冽の槍術士へと変身する。

(これがサウスマナの魔物……!強力だと聞いていたけど、これほどとは……!
 全力で戦わなければ殺られてしまうかもしれない……!)

びりびりと雷電のような殺気を感じて、警戒を強めながら夜闇を見つめる。
ぬう……と闇から静かに姿を現したのは、単眼と巨躯に、金棒を携えた魔物――。

「サイクロプス……!それも三体。
 もしサマリア王国なら倒せば英雄扱いだ……」

「安心せい、こっちでも十分強敵じゃ。奴らの強さは『雷』にも喩えられるほど。
 仮面の騎士は可能な限り戦闘を控えられよ。ここは我らのみで応戦するべきじゃ」

ミスリルの斧を引き抜いてドルヴェイクは眼光鋭く単眼の巨人達を睨む。
じり、と間合いを保ちつつ、ディフェンシブな構えで制空圏を張る。

サイクロプスの強さといえば見ての通り……としか言いようがない。
魔法の類は使えないが、巨体に裏打ちされた、魔装機神を発動したクロムにも負けぬパワー。
鉄の硬度を持つマグリットにもひけをとらぬ鋼のタフネス。そして人間並みの知性。
これらが組み合わさり、かつ、恐ろしいまでの獣性で襲い掛かってくる。

「……――グオオオオオオッ!!!!」

瞬間、サイクロプスは痺れを切らしたのか雄叫びを上げて突貫した。標的はクロムとマグリット。
二人目掛けて金棒を振りかぶり、膂力にものを言わせてフルスイングする――!


【リナメールを気球で出発し、野営地に到着】
【夕食中のところをサイクロプス三体に襲われる】
0295クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/05/23(日) 20:39:47.01ID:haj151gN
マグリットが金貨を店主に渡すのを見届けて、クロムは金棒を勢いよく肩に担ぎ上げる。
魔人の膂力ならば充分に使いこなせる重さとはいえ、決して軽いと感じるレベルの重量ではない。
ましてやクロムは元々重装ではなく、軽装の剣士としてキャリアを積んできた身。
肩に伸し掛かる慣れない重さが、「ふー……」と、一つ大きな息を吐かせる。

>「それにしても、意外なチョイスですね
>クロムさんが選んだものですから構いませんけど」

それを見てか、マグリットがシンプルな疑問を投げかけてきた。
使い慣れた大きさ、重さの武器ならなるほど探せば確かにあるだろう。
しかし、ただそれだけの武器では手に入れても結局は持ってないのと同じなのだ。クロムの場合は。

「貧弱な造りだと敵に通じる、通じない以前に、まず俺の力に耐えられなくて壊れちまうからな。
 丈夫で長持ち良く切れるって剣はそうそうあるもんじゃねーし、だったらとにかく頑丈そうなのをってね」

────。

レインと合流後、勇者一行はオークション会場を離れて共和国の国境沿いにある『竜の谷』に向かうこととなった。
オークションに参加していた名無しの客から“『宇宙の梯子』が『メガリス地下王国』の地上にある”という情報を得てはいたが、
元々ドワーフの国・メガリスを目指していたのだからその途中にある『竜の谷』の通過は当初からの既定方針に過ぎない。

問題はどうやって通過するかなのだ。
ドルヴェイクが事前に谷についてパーティに話していた事があったが、クロムは軽く聞き流していた。
障害は魔物。それも谷の名の通り竜が大半であろうが、こちらには仮面の騎士もいるのだ、まぁ大丈夫だろう、と。
それがまずかった。
いざ谷を前にして、初めて徒歩での踏破が非常に難しいほどの険しい造りこそが真の障害であった事を知ったのだから。
これでは仮に「さぁ、どうする?」と聞かれても何も答えを用意していなかったクロムでは情けないが黙るしかない。

>「『竜の谷』まで中央市場で購入したこの『気球』で移動しよう。
> ドルヴェイクさんが言うには、谷を降りたところに地下王国への隠し通路があるらしい」

もしパーティの全員がクロムのように何ら対策を講じていなければ、
必要アイテムを確保しに引き返すにせよこのまま強行するにせよ通過を果たすまでにかなりの時間を要した事だろう。
だが、適当なクロムとは違い、生真面目なリーダーはちゃんと話を聞き、そして考えていたようだ。
彼はその場に谷の移動を可能にする“気球”を召喚して、得意気な顔を周囲に振りまいて見せた。

「仲間ってのはいいもんだな。単独じゃ誰もカバーしてくれねーもん」

レインの肩を、ぽんと叩いて、クロムは軽く微笑みながら気球に乗り込んだ。
気球は船とは違い進行方向は風任せとなる。
風向き次第では足止めを食う事があるかもしれない。時間を掛ければ掛けるほど魔物と遭遇する確率も上がることになる。
そうなると厄介であるが、クロムに心配はなかった。
レインなら当然、その点も考えている筈だと思っていたからだ。

>「――召喚変身、"天空の聖弓兵"!」

果たしてそれは的中する。
レイン自らが風を起こす事で気球を意図した方向へと動かす事に成功したのである。
これなら彼の魔力が続く限り自然の風に翻弄される事なく、着実に目的地に近づく事ができる筈だ。

「流石空だな。見晴らしは抜群」

天候《風》に問題がないのならば、残す懸念は空の魔物といったところだが、見渡す限り魔物の影一つない。
仮に魔物が現れたとしても、障害物の無い空では接近を許す前に気が付く事ができ、魔法などで迎撃する事もできるだろう。
もっとも、それも見通しが利く“昼”の内は──の話だが。
0296クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/05/23(日) 20:48:57.82ID:haj151gN
 
────。

辺りが刻一刻と薄暗い色に染まっていく夕方。
夜間の飛行は危険というレインの判断の下、勇者一行は最初の野営地に降り立っていた。

夜。完全に沈んだ太陽に代わって辺りを照らすのは、魔除けの結界を兼ねた仮面の騎士の光魔法。
その聖なる輝きに包まれながら、クロムは地べたに座り込んで無言で食事を摂っていた。
別に不味くて声も出ないというわけではない。むしろその逆で、声を出す事すら忘れるほど食事に夢中になっているのだ。

その料理、レインが作ったもので曰く“そーめん”というらしい。
麺という細長い練り物をスープに浸して食すのだが、これが中々どうしていけるのである。
過去にクロムが食べた事のある麺料理も旨いものだったが、それはスープに浸すスタイルのものでは無かった。
麺の原料も異なるのか、食感も違う。
一体どこの地域の料理だろうか。箸を使う辺り、恐らく東方のものなのだろうが……。

「これでも色んな大陸、島を渡ってきた身だが……見知らぬ料理と出会う度に世界は広い事を思い知らされるな。
 ……その点、あんたに知らない事はなさそうだが、どうなんだ?」

腹が満ち、空になった器と箸を置いて、ようやくクロムは沈黙を破る。
仮面の騎士に視線を向けながら。

>「……四人とも、食事中のところ悪いが」

しかし、それに対する満足な答えは返っては来なかった。
すかさず小さく舌打ちして立ち上がるクロム。
──いや、返答をスルーした仮面の騎士に怒ったわけではない。
思わず耳をピクリ、と小さく動かしてしまうほどの、重量感のある威圧的な足音を鼓膜が拾ったのだ。
すなわちこれは結界を物ともしない強力な魔物の襲来を察知しての警戒態勢。

「……飯のニオイにつられたか。食後の運動には少し早いような気もするが、しょうがねぇ」

やがて闇の中からぬっと現れた三つの巨体。
それは鋼鉄の肉体と剛力を誇る単眼の異形──サイクロプスであった。

>「……――グオオオオオオッ!!!!」

三体の内の二体が足音を立てて、雄叫びを上げ手にした得物を振り上げる。
クロムは金棒を肩に担ぐと、一旦、左右に目を配った。
二体の狙いはクロム、そしてたまたま彼の横に位置していたマグリットであろうか。
残りの一匹はどうやらドルヴェイクの迎撃態勢に反応しているようで、こちらに意識を向けている様子は無い。
とすると、レインは遊撃ポジションとして、臨機応変に三体に対処する事になるのだろう。

(試してみるにはいい相手かもしれねぇな。……やってみるか)

勢いよく振り下ろされるサイクロプスの金棒。
だが、それよりも早くクロムは己の金棒を掲げ、そして頭上で寝かせた。棒先を左手で支えながら。
──敵の一撃を受け止めようと言うのである。

「ぐっ……!! ぐぐぐぐぎぎぎ……!!」

金棒と金棒がぶつかるけたたましい衝撃音と共に、クロムの二の腕に圧し掛かって来るかつてないチカラ。
しかし、クロムは耐える。全身の血管が破裂しそうになるくらい全力で体を力ませ、歯を食いしばってそれに耐える。
──そして数秒後、ついにその時がやって来る。敵の金棒が完全に勢いを失ってストップしたのである。
0297クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/05/23(日) 20:54:11.05ID:haj151gN
クロムは既に汗まみれになった顔を拭いながら、「ふうー」と息をついた。
頭上を見上げると、そこにはほんの少しの変形も見られない鬼の金棒の姿が。
鬼の金棒は見事、文字通りに敵の一撃を防ぎきったのだ

「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

しかし、問題もあった。金槌に打たれた釘のように、クロム自身の体が地面に減り込んでしまったのである。
両腕は頭上に掲げていた為に埋まらずに済んでいたが、胸から下は土の中。これでは隙だらけだ。
敵もそれが絶好のチャンスだと分かっているようで、再び金棒を振り上げて咆哮した。
地面に両手をつけ、腕の力だけで穴から抜け出そうと試みるも、そうはさせじと土圧が体を締め付け邪魔をしてくる。
これは時間が掛かると見たクロムは、レインとマグリットに向けて叫んだ。

「レイン、マグリット! こいつの相手はお前らに任せる!」

そして、こう付け加えた。

「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

二人は知る由もないだろうが、クロムはかつてサウスマナを旅した身だ。
知る人ぞ知るサイクロプスの弱点を、彼も知っていたのである。

【攻撃を鬼の金棒で受け止めて防ぐが、地面に減り込んでしまう。地面から出るまで戦闘不能】
0298マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/05/27(木) 18:51:13.98ID:1pQqRqd9
「じ、地面をこれだけありがたく思ったのは初めてです……」

野営地に着陸し、気球の加護から転がるように降り立ったマグリットの第一声はこれであった
というのも、マグリットは気球に乗っている最中はずっと籠を吊るすロープにしがみつき縮こまっていたのだから
クロムのように景色を堪能する余裕などありはしなかった

レインの用意した気球は優に10人が乗れるほどの大型なものであったが、マグリットは総重量300キロを超える
それが魔法により浮かぶわけではなく、気球により吊り下げられただけの籠に乗って上空高くまで持ち上げられるとなれば不安で仕方がなかったのだ
一般人5人分の重量が一人分の面積にかかるのだから、いつ籠の底が重量に耐えかね抜けてもおかしくない、と
サウスマナの熱気でも温められない程の冷や汗で肝を冷やしていたのであった


宿営地に到着し、一息ついたところで食事タイム
そこでレインが取り出し調理したものを見てマグリットが驚愕のまなざしを向ける

「こ、これは『そうめん』……!
まさかこの目で見る日が来るとは思っても見ませんでした」

「なんじゃ、『これ』を知っておるのか?」

驚きの声を上げたマグリットに反応したドルヴェイクに応える様に言葉をづつける

「貝の獣人の集落に伝わる古の言い伝えにあります
遠く東の海、日の国の龍が治める島に伝わる民族料理で、針のような麺に水気を宿らせる事で冷気纏う柔らかな絹糸のような食べ物になる、と聞いたことがあります
熱気を退け、「つゆ」に付ける事で薬用成分も得るという伝説の食べ物ですが……
これを作れるレインさん、一体どういう……んん、おししい!」

集落に伝わる伝承を披露しながらそうめんを頬張り舌鼓を打つのであった
0299マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/05/27(木) 18:54:03.26ID:1pQqRqd9
そんな夕食のひと時を邪魔する魔物が仮面の騎士の警戒に察知される
闇の中から現れたのは単眼巨躯で金棒を携えたサイクロプス!

サマリア王国でこんなものが出現したらギルド総出、ともすれば国軍が討伐に出るほどの魔物である
それが野営地に現れる、それも複数で
この事からもサウスマナの危険度を肌で感じるというものであった

>「……――グオオオオオオッ!!!!」

サイクロプスの雄たけびと共に戦端は開かれる
二体がクロムとマグリットに向かってきており、一体はドルヴェイクへ

クロムへの一撃は大上段からの振り降ろしの一撃
マグリットへの攻撃は横薙ぎの攻撃

これを見てマグリットはシャコガイメイスを立てて受けて立つ
横薙ぎの一撃は攻撃範囲が広く、下手に良ければ周囲へ被害を出すかもしれないと判断したからだ
隣のクロムに向けられた振り降ろしの一撃は効果範囲は一点に集中するために躱しても問題ない
クロムの回避能力ならば十分躱せる、と思っていたのだが……

サイクロプスの横薙ぎの攻撃をシャコガイメイスの柄で受け止めながら、その衝撃に驚いていた
恐るべき膂力
通常の武器で受け止めていたら武器ごと粉砕されていたであろう
だがシャコガイメイスで受け止められたからと言って無事では済まない
凄まじい威力を受け止めたマグリットの両足は大きく歪みながら地面を削っていた

「凄まじい威力です、私の足に骨があったら大惨事でしたよ……って、クロムさああああん!?」

そう、マグリットは貝の獣人
人の形をしてはいるが、貝の特性や特徴を備えている
ウロコフネタマガイの特性により鉄の肌を持ってはいるが、そもそも貝である故に体を支える骨はなく、筋肉で体を支えているのだ
それがマグリットの膂力の秘密であり、今回のサイクロプスの一撃による衝撃を分散緩和させられた理由であった

とは言え、マグリットも全力をもって支えたが故に歯を食いしばりすぎて口から出血をしていた
が、それ以上に衝撃だったのが隣のクロムの姿であった

すっかりサイクロプスの一撃を回避したと思ってたら、リナメールで買った金棒で受け止めていたのだ

>「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

「こんなところでテストしないで下さいよ!失敗してたら脳天潰れていましたよ!」

のんきに性能テストなどと言っているクロムに思わずツッコミを入れずにはいられない
確かにテストは成功かもしれないが、その代償として胸まで地面に埋まってしまっているのだから
0300マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/05/27(木) 19:00:39.89ID:1pQqRqd9
そんなやり取りをしている間にも、マグリットに一撃を止められたサイクロプスは尚も押し切ろうと力を込めてくる
サイクロプスとマグリットの押し合いが始まったところでクロムの声が響く

>「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
> 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

「なるほど、了解です」

この状況、サイクロプスは鍔迫り合いのまま押し切ろうと肉薄している
接近するという手間が省けるというものだ
一撃を受ける為に歯を食いしばりすぎて口内で出血しているのを幸いにと、血の塊をサイクロプスの顔面に吹き付けるのであった

マグリットは毒物を吸収し周囲を浄化する事ができる
吸収された毒は体内に蓄積され毒血としてマグリットの肌を黒く染めいるのだ

「溜め込んだ毒血目薬です、大きなお目目には効くでしょう!
そしてクロムさん、顔のガードしてくださいね」

毒血の目潰しにより怯み後ずさるサイクロプス
弱点だけあって効果は抜群のようだ
押し切らんとする圧力が無くなったところで、クロムに再び一撃を加えんとするサイクロプスにシャコガイメイスを振るう

身に危険が迫れば攻撃どころではないだろう
地中に埋まったクロムへの攻撃はマグリットへの迎撃へ変更され、金棒とシャコガイメイスが激しくぶつかる
結果、両者の武器の起動は大きく逸れるが、それこそが狙い
金棒に弾かれたシャコガイメイスはクルムの目の前の地面をたたき抉る事になる
クロムへの一撃を防ぎつつ、クロムへの土圧を軽減するために埋まっている地面への一撃を両立させたのだ

しかし、地面を叩きつけた事により崩れクレーターはできたが、クロムにかかる土圧が上がってしまった事まではマグリットの気づくところではなかった


状況はシャコガイメイスに弾かれた金棒ごと腕を宙に上げるサイクロプス
金棒に弾かれたシャコガイメイスを地面に突き立てるマグリット
どちらも得物を振り上げるには態勢不十分
更に地面に突き立てられたシャコガイメイスにより小規模なクレーターが発生し、サイクロプスの態勢は崩れている

「レインさん、お願いしますよ!」

マグリットはシャコガイメイスを構え直すことなくそのまま引き抜きサイクロプスに体当たりを敢行
毒血の目潰しを食らい混乱状態のサイクロプスにぶつける様に押し出すのであった



残る一体のサイクロプスと戦っていたドルヴェイクがマグリットたちの戦いを横目で見ながら懐から杭を取り出し、投げつける
「ふむ、発想は悪くはないがやはり素人よの
まああれだけ崩してやりやすいわ」
杭がマグリットの作り出したクレーター中心部に突き刺さると、クロムを締め上げていた土圧がふと消えた事に気づくであろう

【サイクロプスAに毒血の目潰しでひるませる】
【サイクロプスBの攻撃を弾き、タックルでサイクロプスA、Bをぶつける】
【サイクロプスCと対峙していたドルヴェイクの放った杭により土が崩れクロムへの土圧が無くなる】
0301レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/04(金) 20:10:28.29ID:JZF7WO5+
三体の単眼の怪物が雄叫びを上げて突っ込んでくる!
狙いはそれぞれクロム、マグリット、ドルヴェイク。
レインはやや離れた位置で清冽の槍を構えたまま戦局を俯瞰する。
現状フリーのレインは状況に応じて立ち回らなければいけないからだ。

――はじめにサイクロプスと交戦したのはクロムとマグリットだ。
クロムは振り下ろされる金棒を自身の『鬼の金棒』で真っ向から受け止める。
マグリットは放たれた横薙ぎの一撃をシャコガイメイスの柄で防御した。

>「ぐっ……!! ぐぐぐぐぎぎぎ……!!」

クロムが歯を食いしばって耐えている。相当の衝撃だろう。
常人が受け止めようものなら比喩ではなく粉砕していたに違いない。

>「凄まじい威力です、私の足に骨があったら大惨事でしたよ……って、クロムさああああん!?」

……なにせ、防御したクロムの半身が地中にめりこむほどの威力だ。
薄々勘づいてはいたが、もう人間の頑丈さじゃない。クロムはやはり亜人の類なのだろう。
だがまぁ、今までの強さを思えば腑に落ちるだけで驚きやマイナスの感情は生まれない。
マグリットはというと攻撃が横薙ぎだったことと、全身筋肉という特性のおかげで防御しきれたようだ。

>「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

>「こんなところでテストしないで下さいよ!失敗してたら脳天潰れていましたよ!」

「ま、まぁまぁ……マグリット落ち着いて」

ひょっとしたら多少のダメージはあるのでは――と危惧したレインだったが、杞憂だったらしい。
強いてあげればめりこんだことでしばらく身動きとれないことであろう。

>「レイン、マグリット! こいつの相手はお前らに任せる!」

カバーに入ろうとしたところで、クロムの声でレインの動きがいったん止まる。

>「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
> 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

「わかった、奴らの弱点は『眼』か……!」

クロムがこういった助言をするのは案外珍しい。
なにせ、いつもなら一番槍。パーティーの切り込み隊長と呼べるポジションだ。
実力からいっても口を動かすより敵を叩き斬った方がはやい。
0302レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/04(金) 20:11:41.78ID:JZF7WO5+
弱点を把握したマグリットが早速攻勢に出た。
すかさず口から自身の血を噴霧したのだ。いわゆる『毒霧』と呼べばよいか。
サイクロプスは大きく怯んで後ろへ二、三歩後退する。

>「溜め込んだ毒血目薬です、大きなお目目には効くでしょう!
>そしてクロムさん、顔のガードしてくださいね」

一方クロムを地面にめり込ませたサイクロプスは、追撃を敢行しようとしていたが、
マグリットが攻撃を仕掛けてきたため追撃を止めてそちらの迎撃に。
お互いの得物が激突して、大気が激しく震動する。
――そしてシャコガイメイスは地面を抉り、金棒は宙にかち上げられる。

>「レインさん、お願いしますよ!」

続けざまにシャコガイメイスを引き抜いて体当たりすると、
サイクロプスの巨体が目潰しで未だ混乱しているもう一体のサイクロプスにぶつかる。
二体は態勢を大きく崩し、分かりやすい隙ができた。倒すならここしかない!

「了解、このチャンスは外さないっ!」

清冽の槍にありったけの魔力を込めて、水流を生み出す。
それは渦を巻いて穂先に纏わりつくと、目潰しされている一体へ素早く投擲。
水属性で強化された槍は正確に眼球を射抜き、容易く脳へと達する。

「戻れ、アクアヴィーラ!!」

残りのサイクロプス目掛けて疾駆しながら、
槍のみを召喚解除→再召喚で手元に戻し、そのまま振り下ろす。
――が、残りの方は態勢を崩しつつも視界は健在。動物的反射神経で上体を逸らして回避。
スウェーされた穂先が虚しく空を裂く。その隙に、上体を逸らした"戻り"で出の早い拳を繰り出された。

素手は威力とリーチはあるがやや遅い金棒よりもむしろ凶悪だ。
なにせ、サイクロプスの膂力なら軽い力でも人体など豆腐のように脆い。
つまり十二分の殺戮が可能!!

「舞踊槍術、白鳥の舞!!」

単眼の巨人の遥か足元で、白き翼が広がった。ともすれば華麗に、ともすれば優雅に。
水の勇者は上方へ高く跳躍。拳を避けてすれ違いざまに単眼を切り裂いた。
0303レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/04(金) 20:14:55.82ID:JZF7WO5+
その跳躍力の正体は魔導具たる『波紋の長靴』の効果だ。
槍を携えた"召喚の勇者"はカウンターこそ本領。
攻撃した瞬間こそがもっとも窮地と知るべきだったろう。

「グォォォァァァッ……!!!!」

断末魔の叫びを上げるサイクロプスを見て、
未だ交戦中のドルヴェイクは勇者一行の実力を再確認した。

「儂の方もいい加減決着をつけなくてはのう……!」

ただ一体取り残された最後のサイクロプスは、退く様子もなく戦闘を続ける。
魔物なりに戦士としての矜持があるのか。それとも同胞の仇討ちのつもりか。
何にせよ力んだサイクロプスは渾身の力を込めて金棒を振り下ろした。

ドルヴェイクはそれを待っていた。
恰幅の良い体格に似合わぬ横っ飛びで回避。地面が陥没して粉塵が舞い上がる。
威力は凄まじいが、視界が悪くなり、隙の大きな振り下ろす一撃。
なにせ敵はドワーフなのだ。普通の人間よりも背が低く金棒を当てにくい。

完全に虚を突いたドルヴェイクは砂塵を裂いてミスリルの斧をやや横薙ぎに振るった。
軌道は吸い込まれるように単眼に命中して、刃が深く深く頭部を抉る。
最後のサイクロプスは呻き声一つ漏らさずに絶命した。

「終わった……。ドルヴェイクさん、凄いですね。
 真っ向からあのサイクロプスを倒すなんて……!」

「味方を倒されて動揺したのじゃろう。老体でもなんとかなったわい」

レインの賛辞を流して、ドルヴェイクは一息つくように腰を叩いた。
それにしても、昔の自分ならこう容易くは倒せなかっただろう。
クロムとマグリットのおかげもあるが、船での修行が活きている、と素直に思った。
仮面の騎士との特訓はレインの地力を着実に上げていたのだ。
0304レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/04(金) 20:35:18.37ID:JZF7WO5+
「加勢の必要はなかったらしい。皆、見事な戦いぶりだった。
 見張りは私が引き受けよう、今日はもう休むことだ」

仮面の騎士が最後にそう言って、今夜は何事もなく眠ることができた。
クロムが異種族であること、そのことについて一切言及しないことについては聞かないことにした。
レインはこの世界に生きる仲間だから――いや、"自分はその仲間だと思いたい"から、何族だろうが気にしない。
だが、本人が自身の種族について隠している以上、無理に問うのも気がひけるのだ。

何せ……とうのレイン本人も、出会った当初から、ある秘密をずっと黙っている。
それは仮面の騎士の正体のように、自身から打ち明けでもしない限り絶対に分からない秘密だ。

仲間から年齢や種族、生まれ故郷などを詮索されたくらいでは露呈しない。
多少は動揺しながら真実を答えるだろう。年齢は16。種族は人間。故郷はサマリアの田舎町ハルモニーと。
また、嘘発見の魔法にかけられてもその質問に行き着くことは極小確率だと断言できる。
そしてその秘密こそ、光魔法や勇者の特技が使えない謎にも繋がっている。

……さて、一同は『気球』で移動しながら、時に魔物を退治しつつ順調に旅を続けた。
――そして辿り着いたのがシルバニア共和国とメガリス地下王国の国境沿い。通称『竜の谷』である。

「谷というより断崖絶壁だ。底が見えない……。
 徒歩じゃ確かに渡るのも降りるのも無理そうですね」

気球の移動を聖弓で操作しつつ、レインは呟いた。
そんな巨大な谷が地平線まで延々と続いているのだ――。
ここを降りたところに地下王国への入り口があるとのことだが……。
竜の生息地ということもあり、本能的に危機感を覚える。

「うむ。ここに棲む竜のことじゃ。もう侵入には気づかれているじゃろう。
 儂が『行き』の時は偶然、竜騎兵(ドラグーン)の旅人に連れて貰えたのじゃがな。
 その時もえらい危険な戦いじゃった。だがレインよ、この件については考えがあるようじゃな」

『気球』で降りるというのは、考えなくても分かるが危険だ。
竜には爪もあれば牙もある。獰猛で口からは強力な竜の吐息(ドラゴンブレス)を放射する。
そんな化け物相手に非武装の気球で降りるなど、まず死ににいくようなもの。
こちらのパーティーには風魔法の使い手もいない。空中戦だって不可能だ。

「考えというか……ここは師匠、もとい仮面の騎士に頼りましょう。
 光魔法には防御魔法もあります。それで気球を守れる。
 俺も『天空の聖弓』で牽制くらいはできるし……それに」

レインはごにょごにょと曖昧な口ぶりでこう言った。

「……師匠は『グローパイル』が使えますよね?」

端で腕を組んで立っていた『仮面の騎士』が口を開く。

「問題ないが……そういうことか。だが竜種の空戦能力は随一だ。
 どこまで通用するか……クロムとマグリット次第になる」
0305レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/04(金) 20:40:12.38ID:JZF7WO5+
二人だけで会話が先行しているが、その解説をしようとしたところだった。
天空の聖弓兵の魔導具たる『透視の片眼鏡』が接近する敵を捕捉した。
この片眼鏡は物体を透かして見る他にも千里眼のような遠隔視もできるのだ。

「……『ワイバーン』が複数で近づいてくる!?しかも速い!!
 接触まで三十秒程度……まずは俺が迎撃するしかないッ!」

気球を降下させながら叫ぶと素早く『天空の聖弓』を引き絞った。
魔力を込めることで風を番え、放たれる非実体の矢は強力無比。音も無く敵を貫く。
十秒経過。北西から真っ直ぐに近づいてくる粒のようなそれが飛竜ワイバーンである。

レインはその小さな粒目掛けて五発連射した。凝縮された風の矢が音の速さで飛んでいく。
侮っていたわけではないが、レインはそれで一体くらいは墜とせると踏んでいた。
しかし、ワイバーンの群れは先読みしたかのように散開して『気球』を包囲するように迫る。
『透視の片眼鏡』越しに飛竜の一体と目が合った。こちらを完全に"視て"いるらしい。

「竜の本能ってやつなのか……!」

十五秒経過。近づくにつれて徐々にその威容が露になってくる。
濃い緑色の鱗に、巨大な鉤爪のような翼。獲物を狩ろうとする獰猛な貌。

古来、竜種は高度な知能も備えていたというが、時代が下るにつれて、
徐々に知能の劣る種族が増え始め、現在のような魔物の一種に落ち着いたという。
残されているのはその恐ろしいまでの戦闘能力。それがパーティーに牙を剥く!

「女神の護符、信奉者、星々よ魔を封じる鉄窓となれ」

仮面の騎士が詠唱。紡いだそれは拘束結界を張る光魔法『タリスマン』だ。
ただし、自分に張ることで防御魔法にも転用できる類の結界である。
気球に展開することで全方位を守るつもりなのだ。

二十秒経過。四方から火炎弾が飛来してくる。
ワイバーンの口から放たれるそれは、まさに気球の天敵。
張られた結界が轟音を上げて振動している。そう長くは持つまい。

「……クロム、マグリット。私が『足場』を作る。
 この結界が解けたらそいつで直接ワイバーンを叩いてくれ。
 いざとなれば私とレインで援護する……時間がない。頼んだぞ」

仮面の騎士は手短にそう呟くと、新たに魔法の詠唱を開始。
三十秒経過。ワイバーンの接近が完了した。これで爪や牙で気球を攻撃できる。
とりつかれたら俄然こちらの不利。が――向こうも新たな一手には気づいていない。

「……――『グローパイル』!」

結界が解けると同時、仮面の騎士の手から光が放たれた。『杭』だ。
光の杭が何本も放たれると、それは空間を縫い留めて足場のように展開した。
『グローパイル』とは、敵に投射して空中に固定、磔にしてしまう光魔法を指す。
だが、この光の杭は宙に『置く』ことも可能であり、それによって即席の足場を生み出したのだ。


【『竜の谷』に到着。降下中にワイバーンの群れに襲われる】
【仮面の騎士が光魔法で即席の足場を作成。気球の周囲を自由に動けます】
0306クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/06/12(土) 02:40:50.00ID:eVzBdM2D
──全てのサイクロプスが大地に沈み、戦場が再び静かな野営地へと戻っていく。
それと時を同じくして地中からの脱出を果たしたクロムは、衣服に着いた土を掃いながらパーティを見渡した。

「弱点を突いたとはいえ、随分と楽に倒したもんだな」

そして、意地悪い笑みを浮かべながらマグリットに目を合わせると、わざとらしい大げさな溜息をつくのだった。

「どうせなら俺ももっと楽に出たかったんだがな。まったく、器用というか不器用というか、内臓が潰されるところだったぜ」

それはクロムに彼女を責める気は一切なく、そもそも体も大事ないことを意味している。
仲間を助けようとして、結果としてそれが裏目に出ることなど戦場では良くある事である。
それをいちいち非難できるほどクロム自身完璧な戦士ではない事を自覚しているし──
何より結果無事で済んだミスも許されない軍隊のような堅苦しい雰囲気は彼の好む所ではないのだ。

>「加勢の必要はなかったらしい。皆、見事な戦いぶりだった。
> 見張りは私が引き受けよう、今日はもう休むことだ」

仮面の騎士の言葉を受けて、クロムは遠慮することなくさっさとその場に横になり、目を瞑る。
長年、一人で世界を旅して来たものだから、地面の上だろうと眠りに落ちるのは早い。そういう癖がついているのだ。
しかも一人旅の時とは異なり、見張り《仲間》がいるという安心感から眠りは極めて深く──
再び目を開けた時は既に、朝日が昇る時刻となっていた。

────。

「──やはり遠目に見るのと間近で見るのとじゃえらい違いだな。まさかここまで目眩がするもんだとは」

気球から“それ”を見下ろして、クロムは感嘆に似た溜息をつく。
竜という屈強な魔物が住処にするのも頷けるほどの、まるで地獄と繋がっているかのような底知れぬ深い谷──。
大自然が創り出したと思われるその想像以上の現実に。

「なぁ爺さん、この谷の深さはどれくらいなんだ?」

レインと仮面の騎士が小声で話し込むその横で、クロムはふとドルヴェイクに問いかける。
ゴールまでの距離も知らずに膨大な数の強敵と戦い続けるのは、肉体はもちろん精神的にも大きな負担になるからだ。

しかし、答えは返ってこなかった。いや、ドルヴェイクは返せなかったに違いない。
気球に高速で迫る複数の飛竜を発見しては、その脅威に対処する為の話題以外、後回しにする他はないのだろうから。

>「……クロム、マグリット。私が『足場』を作る。
> この結界が解けたらそいつで直接ワイバーンを叩いてくれ。
> いざとなれば私とレインで援護する……時間がない。頼んだぞ」

「分かった──って、ちょっと待て! この高さ、ワイバーン相手に小さな足場を駆け巡って直接打撃を加えろってのか?
 あんたなら魔法で一気にぶっ飛ばすくらいできるんじゃねぇの!?」

>「……――『グローパイル』!」

「〜〜! 聞けよクソ! あぁーもう!」

クロムの声などまるで耳に届いていないかのように複数の足場を次々に空中に打ち込んでいく仮面の騎士。
それを見てクロムは舌打ちしながら足場の一つに嫌々ながらも素早く乗り移り、ワイバーンは翼を広げて急ブレーキをかけた。
足場のない筈の空中で、己の眼前に突如として金棒を担いだ男が立ちはだかったのである。然しもの強獣も驚いたのであろう。
0307クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/06/12(土) 02:54:42.52ID:eVzBdM2D
(敵は四方に展開……囲んだ形か。何とか一匹ずつと言いたいが、空中は圧倒的に向こうが有利だ。キツイな)

しかし、それも一瞬である。
首を突き出してけたたましく咆哮すると、蛙を竦ませる蛇の如くの凶悪な眼光を叩きつけて来たのだ。

「──!」

体の芯が冷えるような感覚に襲われたクロムは、ざわ、と全身を総毛立たせ、思わず動きを停める。
──直後、それを待ってたとばかりに鋭い牙を剥き出しにして、突進してくるワイバーン。

「おっと!」

だが、ギリギリのタイミングでジャンプし、すんでのところで躱し切る。
噛み付こうとしたのか、それとも肉体そのものを武器に体当たりしようとしたのかは定かではない。
ただ、いずれにしても喰らっていたら無事では済まなかったであろう。

別の足場に着地して素早く辺りを見回す。
──速い。既にワイバーンは旋回を終え、こちら目掛けて矢のような速さで水平飛行していた。
クロムは金棒を握り締める手に力を込める。
竜の全身は硬い鱗によって護られており、半端な攻撃は通用しない仕様となっている。
サイクロプスのような致命的な弱点があれば話は別だが──少なくとも、あるという話をクロムは聞いた事がない。
つまり、防御に関して竜族ほど生まれながらに隙が無い種族もないのだ。しかも──

「っ!! ──ちぃ!」

空を縦横無尽に駆けることのできる飛竜と呼ばれるタイプは高い機動力も備えているのである。
迫り来るワイバーンを引き付けて、躱しざまに金棒を後頭部目がけて鋭くスイングするも、当たらない。
決してタイミングを見誤ったのではない。敵の尋常ならざる飛行性が、空振りという結果を生じさせたのだ。
もっとも、得物が小回りの利かない超重量武器であったことも原因の一つであったのだろうが……。

(……いずれにしても叩こうとしても正攻法じゃ当たる確率が低い。考え方を変えるしかねぇだろうな)

クロムは気球の周りを見渡し、仮面の騎士が放った足場の数とその位置を確認すると、皆に向けて口を開いた。

「仕留めるのは任せる。ただし、全力でやってくれよ。半端な攻撃は怒らせちまうだけだからな」

そして──再び空をUターンして戻ってきた個体に対して背を向け、足場から足場へと移動を開始した。
後ろから追われる形を敢えて取ったクロムは、移動先を常に己の前方の足場に限定している。
足場は気球を取り囲むように設置されているので、移動し続ければやがて気球の周りを一周することになるだろう。

だが、気球を襲撃したワイバーンは一匹だけではない。気球の四方に展開しているのだ。
つまり、周りを一周するということは、四方を囲む全ての獰猛なワイバーンの目前を横切ることになる。

(目障りだろ? さぁ……追ってきやがれ)

──それでいいのだ。何故ならこれは挑発。クロムは囮なのだから。
ワイバーンの意識が気球から外れることで生じる隙──それをレイン達に衝かせようというのである。

【足場から足場へ移動して気球の周囲を回り、敵の注意を引き付ける】
0308マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/06/17(木) 22:27:45.08ID:fEhbr7vL
上を見れば蒼天
下を見れば底の見えぬ谷
崖伝いに降下する気球は激しい閃光と振動に見舞われていた

飛来したワイバーンの群れからの火球による攻撃の為だ
攻撃事態は仮面の騎士の光結界魔法タリスマンにより防いで入るが、衝撃や振動までは防げない
ワイバーンは高速で空を飛び回りヒット&ウェイを繰り返すのだが、気球に乗っているPTの攻撃範囲はあまりにも狭い
唯一レインの矢が放たれるが、空中機動力に優れたワイバーンはそれをやすやすと躱し接近し攻撃を繰り返すのだ

この高所でできる事もなく、乗っている籠一枚下は支えるものが何もない状態にマグリットはただ籠を吊るすロープにしがみつくのが精一杯

しかしそこに打開策が作られた
仮面の騎士がグローパイル、光の杭を空中に縫い留めて足場のように展開したのだ

「あははは、いいじゃないですか、クロムさん
海魔の洞窟で貝殻を足場にしたときに比べればよっぽどしっかりとした足場です
このまま籠から出るに出られず嬲られるより、有難いというものですよ」

抗議するクロムをなだめながら、背負った水樽を下ろして籠からクローパイルの足場へと飛び移っていった
狭い足場に高機動なワイバーンを相手にするので、なるべく身軽な状態でという事だ

空中に躍り出たクロムとマグリットにワイバーンは警戒を見せるが、躊躇は一瞬
即座に周囲を取り囲み、クロムへと突撃
クロムは躱しざまに金棒を振るうが空を切る

「ふむう、クロムさんですら当てることが困難な飛行能力ですか」

その様子を見ながら放たれた火球をシャコガイメイスで叩き落すマグリット
通常の打撃では難しそうと次なる策を思案しながら、移動するクロムに合わせて位置を変えていく

囮となりワイバーンを引き付ける意図を察し、先回りをして準備を整える
クロムがワイバーンたちを引き連れながら移動する先にはマグリットが大きく口を開き立っていた

その口から発せられるのは、ほら貝から発せられる様な超音波
音波数を変える事により硬い甲羅などを崩壊させる事もできるのだが、それはある程度の照射時間が期待できる場合だ
高速飛行するワイバーンに於いてダメージは期待できない
が、高速飛行に適応した鋭敏な感覚を持つからこそ、すれ違う一瞬であっても期待できる効果はあった

クロムが引き連れてきたワイバーンたちはマグリットを掠め、高速で飛び去って行った
マグリットが躱したわけではない
ワイバーンたちが攻撃を外していったのだ

通常であれば一瞬で大した効果も期待できない時間であったが、ワイバーンたちにとっては感覚を狂わさせるに十分な不快な音だった、というわけだ
とは言え、攻撃を外させただけでありダメージを与えたわけではない
距離を取れば効果も切れる代物であり、いつまでも保つわけではない

攻撃を受けはしなかったものの、至近距離を飛び去られた衝撃でマグリットの体が足場から浮かび上がるが、仮面の騎士が即座に新たなるグローパイルを設置し着地点を作る

「クロムさん、すいませんがしばらくこの空域でワイバーンの攻撃を捌いてください」

無事に着地したところでクロムに願い、自らも迫るワイバーンを睨み口を大きく開く
暫くは二人が飛来するワイバーンの攻撃をかわすも、こちらからの攻撃も決定打を与えられず飛び去られるという展開が続いた
どうしても両者の間に機動範囲の差が大きすぎて戦いになり辛いのだ

が、そうしたやり取りが続くのも長くはもたなかった
まずはマグリットがワイバーンの顎に咥えられ、それを助けようとしたクロムに火球が直撃
動きが止まったところに複数のワイバーンが寄ってたかって食いちぎらんとしている
0309マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/06/17(木) 22:31:27.82ID:fEhbr7vL
その光景を見下ろしながら、マグリットが気球のレインに手を振る

クロムがワイバーンを引き付けている間い、飛び回るワイバーンを捉え打撃を与える事が難しいと踏んだマグリットは一定空域に留まっていた
その身から幻惑物質を噴出しまき散らしながら

開けた空で幻惑物質は拡散しやすく、一定濃度を保つのは難しい
その状態にも拘らず、高速で通り過ぎるワイバーンに幻惑状態に陥れる為には、何度もこの空域に突っ込ませる必要があったのだ
故に超音波で器官を狂わせ凌ぎ、クロムにもこの空域で持ちこたえるように頼んだのだった

結果、何度も幻惑物質の漂う空域を行ったり来たりする間にワイバーンは徐々にその効果に侵されていった
頃合いを見計らい、クロムと共に空域を脱出
あとはワイバーン同士の同士討ちを眺めていたというわけだ

ワイバーンたちはクロムとマグリットを貪っていると誤認しているが、実像は一匹のワイバーンを残りのワイバーンが集団で噛みつき貪っている状態である
噛まれているワイバーンも反撃しているのだが、多勢に無勢で長くは持たないだろう
ともあれ、ワイバーンたちは血の匂いにさらに興奮し、空中で団子状態になっている

「ふーむ、風月飛竜シェイバーんも高速飛行戦闘が得意という事で、一定空域に幻覚物質を浮遊させ罠を張ってみたのですが……効くまでに時間がかかり過ぎですよねえ
また考えねばなりませんが、とりあえずワイバーンの動きが止まっていますし、レインさんの攻撃が始まったら私たちもとどめを刺しに行きましょう」

そう言いつつシャコガイメイスを強く握り直し、レインの攻撃とタイミングを合わせられるように準備をする

【幻惑物質を散布し罠を張る】
【ワイバーンを引き付け時間を稼ぎ、同士討ちに導く】
【レインの攻撃に合わせとどめを刺すようタイミングを計る】
0310レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/22(火) 18:51:36.31ID:5DPKKwPx
クロム&マグリットwithレインvsワイバーンの空中戦がいよいよ始まった。
得物が重量級の金棒ということもあってクロムは陽動に回ることになった。
マグリットもまたスピードを意識してか樽を降ろして足場に飛び移る。

「二人には悪いけれど、これで魔力の節約になったかな」

四方八方のワイバーンから目を離さないまま、レインは呟いた。
今回使ったのは下位魔法の『タリスマン』と中位魔法の『グローパイル』。
クロムの言う通り、いくら竜種といえど仮面の騎士なら、上位魔法を解禁して範囲攻撃を行えば殲滅できよう。
だが魔力残量=滞在時間である仮面の騎士にとって、上位クラスの魔法は使用を避けたいところだ。

ゆえにレインはワイバーン遭遇前からこの迎撃方法を目論んでいた。
なにせ、意識して節約する必要があるほど彼の魔力残量は逼迫している。

事実、この旅の道中、仮面の騎士は魔物戦において何度も力を貸してくれたが、
大抵は魔力消費を抑えるため剣のみで対処していたし、それで十分だった。

その点は多かれ少なかれ皆気にしている。
教会の『聖域』で魔力を回復してもらったり。
さり気なくサイクロプスと戦闘をさせないようにしたり。

でもそれは、強い魔物と遭遇したときに助けてもらうための打算なんかじゃない。
同じ目的地を目指す旅の仲間だから。運命共同体だから気にするのだ。
加えて、レインにとってはもはや第二の師匠と言っても差支えない。
『宇宙の梯子』を攻略した後も、ずっと彼らとともに旅を続けたいと思っていた。

(おっと……状況が変わってきたな)

なんと、一匹のワイバーンを他のワイバーン達が食いちぎろうと襲い掛かっているではないか。
どうやらマグリットが放った幻惑物質が遅まきながら効力を発揮し始めたらしい。
こちらに手を振るマグリットに手を振り返して、レインは天空の聖弓を構えた。

「接触前は外したけど、今回は外さないぞ……!」

魔力を送って弓をひくと、無数の『風の矢』が放たれた。
もっとも、確実に命中させるため今回は矢の軌道を調整してある。
矢は大きな曲線を描いて、団子状態のワイバーン達を包囲するかの如く襲い掛かった。

食らえばワイバーンといえど大きなダメージは避けられない。
避けるということは当たれば負傷することを明示しているようなものだからだ。
このアタックを合図にクロムとマグリットもまた攻撃を仕掛けるだろう。
そうなれば空中戦は決着を迎えるはずだ。
0311レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/22(火) 18:53:18.98ID:5DPKKwPx
……――――ワイバーンを片付けると、気球は順調に降下を続けた。
ドルヴェイク曰く、谷は地下まで続いており、およそ数キロに及ぶという。

「底が見えたぞ。もう少しの辛抱じゃ」

これほどまでに深い谷だ。底部は地上に比べて涼しく、レインにはありがたかった。
そして気球が緩やかに谷底に着地すると、一同は『竜の谷』の底に遂に到着したのだった。
見上げれば飛竜の群れが飛び交っているのが分かった。
襲ってこないのはワイバーン達を倒したことで、警戒されているためか。

「……ここじゃ。ここが故郷への入り口になっておる」

「ただの岩壁に見えますが……」

「はっはっは。鈍いのうレインよ。
 余所者の侵入を防ぐためカモフラージュしているのじゃ」

そう言って岩壁の窪みに手を嵌め込むとドルヴェイクは渾身の力を込めた。
すると壁の一部が大きくスライドして、巨大な穴が出現したではないか。

「……とまぁ、古典的じゃがこんな仕掛けになっておる。
 扉に本物の岩を使っとるからドワーフ並みの馬鹿力がない限り開けられんがな」

ドルヴェイクを先頭にして穴を入っていく。
入ると看板が立てかけられており『ゴルトゲルプ大坑道』とある。
この坑道こそあらゆる鉱山と町に繋がっているメガリス地下王国の大動脈だ。
ちょうどサマリア王国の『ラピス街道』のようなものだと思えばいい。

「ちょうどいい。このトロッコに乗って進むとしよう。
 目的地は首都じゃから、徒歩ではかなり遠いのでな」

敷かれた鉄路の上に安置された、やや年季の入った貨車を指差す。
ドルヴェイクは懐中時計で時間を確認すると、今は正午を過ぎたあたりだった。
地上の日が暮れる頃には着くだろう、と言ってトロッコを操縦すべく乗り込む。
0312レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/22(火) 18:54:49.21ID:5DPKKwPx
メガリス地下王国という名称通り、かの国の主要な町は全て地下にある。
これはドワーフが古くから鉱業を営んでいるからであり、
蟻の巣のように拠点を増やした結果、自然と今の地下王国が形成されていったという。

首都の『地底都トロンハイム』もその例に漏れない。
王城を中心として同心円状に広がる町並みは猥雑に入り組んでおり、
領土内に広がる鉱山の数々から資源が一気に集まる中心地。

トロッコを降りて、細い道から出るとレインはまずその"明るさ"に驚いた。
暗い地下を照らすため、そこかしこに明かりが設置されているのだ。
それだけでは足りないのか、王城の頭上には魔法で創った疑似太陽が煌々と首都を照らしている。

そして次に。道から出た瞬間、多くの人――いや、ドワーフ達と目が合った。
降り注いだ視線は好奇の色をしていた。ドワーフの国なのだから当然だが、ここに住む多くの種族はドワーフだ。
人間などかえって珍しいのだろう。それは獣人であるマグリットや人間に近い見た目のクロムも同じだ。

「冒険者ギルドの支部へ行くとするかのう。ここらでは一番異種族に寛容じゃろう。
 諸々の用事は明日に回すとして、今日はもう休むとしよう……」

ドルヴェイクの案内で一同は冒険者ギルドの支部へと向かった。
世界中に存在するという触れ込みは伊達ではなく、こんな秘境にもギルドはあるらしい。
……もっとも、支部の酒場を運営しているのもドワーフで、後は獣人やハーフリングが多い。
人間はいないようだ。なんだか心細い気がしながらレインは支部に入っていく。

「あ、あなたは……!」

ドルヴェイクと共に支部に足を踏み入れると、ドワーフの冒険者達が驚きのあまり立ち上がる。
遅れて獣人やハーフリングがドワーフ達と共に盛大に出迎えてくれた。

「遂に帰還されたのですね、スローイン様!」

「なぜ日程を伝えてくれなかったのですか!驚きましたよ!」

「ということは彼らが『宇宙の梯子』攻略組……!?」

支部の一角に半ば強制的に座らされながら、レインはある事を思い出していた。
それはかつて、エイリークがドルヴェイクについて話していたことだ。
確か……『地元の大陸ではえらい有名らしい』とか、そんなことを言っていた。
この喧騒ぶりはそれが原因としか思えない。問題はなぜそんな有名なのかであるが……。
0313レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/22(火) 18:58:10.52ID:5DPKKwPx
「そういえば……まだ儂の身の上を伝えてなかったのう。
 これから先、何も知らぬままでは話が前に進むまい。いい加減話しておくとしよう」

席に座りながら、ドルヴェイクはふうと一息ついた。
クロムの剣の再生のため故郷まで着いてきたわけだが、その実彼のことをよく知らない。
分かっているのは腕っ節があって、鍛冶の技能があること、神代文字が読めるといった教養があるなど。
おおよそ冒険者としてのドルヴェイクの顔であって、故郷でどんな人物なのかは誰も知らない。

また、『海魔の遺跡』で各大陸の窮地を聞かされた時は、ドルヴェイクもその事を知っている様子だった。
身の上については、故郷に着くまでは秘密と言っていたが……いよいよそのベールが露になるのだ。

「まずドルヴェイクという名は、なんというか……あだ名でのう。
 ドワーフの異称である"ドヴェルグ"が訛ったものなのじゃ……」

「つまり……本名ではないのだな」

仮面の騎士が席の端から口を挟んだ。
ドルヴェイクは首肯しながら話を続ける。

「儂の本名はスローイン・シュレーゲル・メガリス。
 平たく言えばこの『メガリス地下王国』を統べる王の弟にあたる」

対面に位置していたレインは、ドルヴェイクの言葉を脳内で反芻した。
王の弟……王の弟。王の弟!?つまり――彼はドワーフの王族なのだ!
偽名を使っているとはいえ王族が冒険者をやってたらそりゃ有名になるだろう。
驚きの事実にレインはごくりと息を飲んだ。

「やんごとない身分ってことですか!?……えらいこっちゃ……」

「そ、そう驚くな。逆に儂が気にする。王族といっても儂は堅苦しい生き方が嫌いでな。
 若い頃から身分を隠しては、諸国を漫遊したり一介の鍛冶師として仕事をしたりしていた。
 ……一人イース大陸へ渡り"風月飛竜"を倒し得る人材を探していたのもその縁があってのことでな……」

これで全てに合点がいく。
教会と各国が大幹部討伐の勇者を選任していたことを知っていたのも。
ドルヴェイクが何を隠そう王族の一人だったからなのだ。

というより、彼の口ぶりからすれば"召喚の勇者"を選任したのは、
"聖歌"のアリアと他でもないドルヴェイク本人なのだろう。
0314レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/06/22(火) 18:59:34.30ID:5DPKKwPx
「まぁ、出自など気にせず、今まで通りドルヴェイクと呼んでくれ。
 儂もそっちの方が気が楽だし、いまさら王族らしい生き方をする気もないのでな」

王族が鍛冶の技術など持っているのか――と疑問視するかもしれないがそれは違う。
ドワーフは神話と呼べるほどのいにしえより鍛冶を得意としてきた。
メガリス地下王国を拓いたドワーフもまた鍛冶の技術に長けていたのである。
むしろその腕前は血統書つきと言えるだろう。

未だ製鉄技術が未発達だった神話の時代に、現代の武器はおろか、
黒妖石やミスリルにも劣らない硬度をもつ武器を生み出せる伝説の金属があった。

名を『神鉄オリハルコン』。生きた金属とも言われている。
打てば意思を持っているかのように武器の形となり、損壊しても自動修復する能力を持つ。
かの金属は神々の一柱、地神ティターナから賜ることでのみ手に入ったという。
ゆえに、神が地上にいない現代ではもう入手できない。

この金属を使った魔法武器や魔法防具の数々を作ったのが、
ドワーフの王族、つまりドルヴェイクの祖先と言われている。

そう。天空の聖弓"ストリボーグ"、清冽の槍"アクアヴィーラ"、紅炎の剣"スヴァローグ"。
縁とは奇妙なものでレインには知る由もないが、この三つもドルヴェイクの祖先が作った。
そして、彼がひた隠しにしている『四つ目の切り札』もまた――。

「明日にはクロム、儂の工房でお主の剣を脇差として再生させる。
 その間にトバルカイン王に謁見するとよかろう。
 『宇宙の梯子』について教えてくれるはずじゃ」

クロムの剣の修復も大事だが、今回は最終目標に打倒大幹部がある。
レインはまだ『宇宙の梯子』というダンジョンについての詳細を知らない。
ギルドの依頼書の説明を読む限りでは『すげぇでかい塔』という認識なのだが……。
どんな魔物がおり、どのような罠が仕掛けられているのか。一切知らない。

「なにせ、あれの建造には……我々ドワーフが関わっておるからのう。
 本来は魔族に対抗するため造ったのじゃが、よもや乗っ取られてしまうとは」

ドルヴェイクは今までにないほど深刻そうな表情をしていた。
だが、すぐに顔をいつもの頼もしいものに戻して、こう付け足した。

「……まぁ、お主らと仮面の騎士がおれば大丈夫じゃろうて。
 ここまでの長旅を付き合った仲じゃ。実力はよく理解しておるのでな」


【ドルヴェイクの故郷、『メガリス地下王国』に到着する】
【ワイバーン撃破の様子についてはすみませんがお任せします】
0315クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/06/27(日) 19:12:58.02ID:kie4omnS
──目には見えない疾風の矢に翼を貫かれ、一匹、また一匹と墜落していくワイバーン。
中には攻撃の気配を鋭く感じ取ったか、それを紙一重で躱す個体も何匹か存在したが──

「悪あがきはよせよ」

それらの個体の頭上にはクロム。
マグリットの幻術にかけられながら、視認不可能なレインの横槍を察知して見せたのはなるほど驚くべき危機察知能力である。
しかし、不意の矢を回避する際も、クロムやマグリットに意識を残しておくという徹底した注意深さは流石のワイバーンにもなかったと見える。
あるいはそれも幻術により感覚器官を狂わされ、位置を誤認していた結果であったのかもしれない。
でなければ既に潰されていた回避先に飛ぶ等という愚行に及ぶ筈がないのだから。

「大人しく沈んどけ──って!」

勢いよく振り下ろされた重さ数百キロの凶器が鱗ごとその下の頭蓋を圧砕し、瞬時に命を断つ。
が、これだけでは終わらない。クロムは死骸と化した個体が墜落するより先に、その体を蹴って素早く真横に移動。
そこに滞空していた別の個体の横っ面を思いっきりぶっ叩いた。
いや、破壊したと言った方が正しい。牙を粉砕し、顎をかつてない方向へひしゃげさせたのだ。

──足場にクロムが着地した時、空中には未だ飛び続けているワイバーンは一匹も残っていなかった。
クロムと時同じくして、恐らくマグリットが残りのワイバーンを掃除していたのだろう。
何はともあれこれで障害は取り除かれた。後は面倒な魔物の第二波がないことを祈りつつ、底に着くのを待つのみだ。

────。

祈りが通じたのか、結局のところ第二波はないまま気球は谷底に到着した。
そして一行はドルヴェイクが案内した隠し通路の中へ。
『ゴルトゲルプ大坑道』の看板が立てかけられていたそこでは、トロッコが開通していた。
どうやら地下は蟻の巣の様に長く複雑な坑道が張り巡らされているらしい。地下王国とはよくいったものだ。

トロッコにしばらく揺られていると、やがて巨大な地下都市に辿り着いた。
ドルヴェイク曰く、名は『トロンハイム』。王国の首都だという。
クロムは目線を上に向けながら己の額に手をかざす。“それ”を直視するにはあまりに眩しいからだ。

(あれは“疑似太陽”……。ダゴンの遺跡のように、領内から魔力を少しずつ集めて創り出しているのか……?
 いずれにしても地下が太陽に照らされる光景を目にすることになるとは……この国、相当高度な文明を持ってるぜ)

と、しばし進行方向とは違う方向をぼんやりと眺めながらも足はしっかと前を行くドルヴェイクの後をついていく。
ふと我に返って目線を元の位置に戻した時には、既に目の前には冒険者ギルドの入口が迫っていた。
0316クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/06/27(日) 19:19:42.09ID:kie4omnS
>「あ、あなたは……!」

中に入ると周囲から驚きの声があがり、途端に何故だかドルヴェイクがあっという間に大勢の人々に囲まれていく。
亜人のいない人間の町であればいざ知らず、ドワーフの国でまさがドワーフが珍しいというわけでもないだろう。
しかし考え込む必要はまるでなかった。理由は直ぐに彼らが口々に発する言葉から察することができたのである。

──『スローイン“様”』。彼らはドルヴェイクをそう呼んだのだ。

(そういえばエイリークが地元じゃ有名とか言ってたな。どうやら悪い意味で有名というわけではなさそうだが……)

クロムは彼の正体を無難に有名職人集団の長老格だろうと読んだが、真実はその権威を遥かに上回っていた。
ドルヴェイクの本名は『スローイン・シュレーゲル・メガリス』。
何とこのメガリス地下王国を統治する王の弟──つまりは王族だったのである。
それを聞いてただ純粋に驚いた様子で固まるレインの後ろで、クロムは小さく舌打ちしてパチン、と指を鳴らした。

「オークションのあのドラゴン殺しの剣、買っときゃよかったな。なんせ王族だ、多分5000万でも1億でも払ってくれただろうし。
 チッ、趣味じゃねーとかカッコつけるんじゃなかったぜ。偽物でも本物でもどっちに転んでも俺達に損はなかったんだからよ」

そして、隣のマグリットに小声でせこい愚痴を零すのであった。

────。

一通り話を聞いた後、クロムは己の腰に差さっている切っ先の無い剣を鞘ごと取り出してドルヴェイクに投げ渡した。

「明日か。じゃあ今の内に預けとくよ。どうせ持ってたって俺にはどうしようもねぇしな。鞘も脇差用に打ち直しておいてくれ」

続いてレインとマグリット、仮面の騎士を順に見ると、最後に窓から見える王宮を見やった。

「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
 いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

【マグリットの幻術+レインの風の矢から生き残ったワイバーン二体を撃破】
【ドルヴェイクに剣を鞘ごと預ける】
0317マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/07/02(金) 20:03:56.89ID:yxjLQ0cN
襲撃をかけてきたワイバーンたちも今や肉団子状態
その脅威である高速飛翔が幻惑により封じられたところに、レインが無数の風の矢を放つ
着弾に合わせ確実にとどめを刺すべくしてマグリットも動いた

翼を貫かれ落ちていくワイバーンの多い中、矢を受けても何とか持ちこたえる個体や恐るべき危機回避能力で矢を避け飛び去ろうとする個体がいる
しかしその逃走経路を塞ぐように既にクロムが回り込んでいるのだが、それを見ながらマグリットは少々不満顔だった

「ふーむ、やはりこう開けた空だと効果は薄いですかー」

幻惑物質を散布し相手を虜にする能力は、静寂で空気の動きの緩やかな森や室内でこそその真価を発揮するもの
開けて風もある空中ではやはり効果も半減という所だろう
マグリットの思考は常にこの先の風月飛竜との戦いに向いており、それはこれから振るわれるシャコガイメイスにも言える事であった

手負いのワイバーンの背中に叩き込まれるシャコガイメイス
その柄に伝わる感触と間近に見るその姿を無数に出現させた目で見ていた

「ふむふむ、竜族の鱗を近くではっきり見たのは初めてですが、トカゲや蛇の鱗ではなく魚の鱗に近いですね
硬く滑らかで歯を滑らし衝撃を分散させる、更にその内にはしなやかな筋肉があり、柔軟性も保つ
亜種のワイバーンでこれですから、さてさて、頭が痛くなりますねえ」

ワイバーンを叩き落としながらため息をついたころには、クロムが軽業師よろしく倒したワイバーンの体を足場にして次へ行くという技を見せ、殲滅し終えていたのだった

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ワイバーンの襲撃を退けた一行は、その後襲撃を受ける事なく無事にその最下部へとたどり着くことができた
見上げれば降りてきた場所は霞んでもう見えなくなっており、頼りない籠一つで良くここまで降りてこられたと安堵の息を漏らすのであった

そこから通されたのはゴルトゲルブ大坑道
トロッコに乗り進んだ先はドルヴェイクの故郷であるメガリス地下王国は地底都トロンハイムであった

地底世界には驚かされる事ばかりであったが、その住人たちから熱烈な歓迎を受けるドルヴェイクの正体がメガリス地下王国国王の弟スローインであった事だった

「えええ?ドルヴェイクさん、いや、スローイン様、王弟様だったのですか?」

>「そ、そう驚くな。逆に儂が気にする。王族といっても儂は堅苦しい生き方が嫌いでな。

驚くマグリットにドルヴェイクは気さくに応えるが、一応とはいえ組織人であるマグリットの衝撃を簡単に溶けるものではない

「いやいや、王位継承権を持たれるお方が単独で他大陸に赴いたり、サイクロプスと戦ったりしてはいけませんよ!」

>「オークションのあのドラゴン殺しの剣、買っときゃよかったな。なんせ王族だ、多分5000万でも1億でも払ってくれただろうし。
> チッ、趣味じゃねーとかカッコつけるんじゃなかったぜ。偽物でも本物でもどっちに転んでも俺達に損はなかったんだからよ」

慌てるマグリットだったが、その隣でそんな権威どこ風吹くと言わんばかりのクロムのつぶやきに思わず吹き出してしまう

「もう、そんなこと言って
その金棒買っていなかったら、サイクロプスに剣ごと叩き潰されていたかもしれないんですよ」

勿論クロムが剣を手にすれば剣の戦い方をするだろうし、まともに刀身で受ける事はあり得ない
というのは判っていながら、軽口で返してしまう程度にはマグリットの衝撃を和らげる言葉であった

そのおかげもあって、今まで道理ドルヴェイクと呼んでくれという言葉に、了承の意を伝える事が出来たのだった
0318マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/07/02(金) 20:05:11.04ID:yxjLQ0cN
翌日トバルカイン王との謁見が予定されており、そこで様々な話が聞けるという事になったが、その前に何気ない一言がマグリットに新たな衝撃を与えていた

>「なにせ、あれの建造には……我々ドワーフが関わっておるからのう。
> 本来は魔族に対抗するため造ったのじゃが、よもや乗っ取られてしまうとは」

この言葉が意味する事を理解したからだ

マグリットの故郷は海底にあり、その中で水棲獣人とはいえ居住区を設けるという事がどういう事かはよくわかっている
貝の獣人たちは群体生物の巨大クラゲをつかい、その発光期間を利用していた
だが、ドワーフたちはこの地底王国の空気を循環させ、崩落を防ぐ掘削計画を立て、広大な地下空間を照らす人工太陽を作り出し管理維持している
技術力については貝の獣人たちの比ではない

そんなドワーフたちが魔族に対抗するという目的をもって建造したものが魔族に攻略されたのだ
これから戦う風月飛竜とそれが率いる魔族の強さを察し、戦慄するのであった

>「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
> いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

>「ふふふ、地熱を利用した温泉があるでの、そこで疲れを癒すと良いぞ」

そんなやり取りをするクロムとドルヴェイク、そしてレインに意を決して声をかける

「皆さん、これはあまりやりたくなかったのですが、ここから先の戦いではそうも言ってられなそうですので……」

そう言いながら、マグリットが三人に小さな巻貝の貝殻を三つずつ渡した
中には赤黒い丸薬が大中小一つ入っている

「この丸薬を一日に一つ、小さいものから順に飲んでいってもらえませんか?
私の血は濃縮された毒であり、それを利用した戦いもします
ただ、その毒は皆さんも蝕む危険もありますので、それを飲んでいただければ抗体ができ、私の血を浴びようとも害される事はなくなりますから」

出来れば王位継承権を持つドルヴェイクにはこんなもの服用してほしくはないが、もしこれ以降も同行するのであれば、と注釈をつけておく
ここからの戦いがどういったものになるか、そういう戦いを想定しているか、マグリットの覚悟の現れであった

「ご了承いただけましたら、明日に備え英気を養うためにも温泉につかりましょうか」

覚悟を決めた顔からふと表情をやわらげ、いつもの柔和な笑みを浮かべながら温泉への案内を催促するのであった


【ドルヴェイクの出自に驚き】
【ドワーフの文明レベルの高さに驚き】
【その技術で作られた宇宙の梯子を攻略した、魔族に驚き】
【自分の毒血への抗体を仲間が持つように丸薬を渡す】
0319レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:26:01.67ID:L4LL/AP0
>「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
> いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

クロムはドルヴェイクに黒剣を投げ渡してそう言った。
大衆浴場くらいならありそうだが、ドルヴェイクは得意げにこう返した。

>「ふふふ、地熱を利用した温泉があるでの、そこで疲れを癒すと良いぞ」

「温泉ですかぁ〜。いいですね。あ……師匠は大丈夫ですか?
 仮面を脱ぐことになると思いますけど……」

「このトロンハイムには温泉がいくつも湧いとるから、
 人の少ないところを選べば素顔のことは問題なかろう」

ドルヴェイクがレインにすかさずそう返した。
そうして呑気に風呂の話をしていると、
マグリットが意を決したように口を開く。

>「皆さん、これはあまりやりたくなかったのですが、ここから先の戦いではそうも言ってられなそうですので……」

そして手渡されたのは小さな貝殻だった。中には丸薬が三つ。
レインはそれを指で摘まんでしげしげと眺めた。

>「この丸薬を一日に一つ、小さいものから順に飲んでいってもらえませんか?
>私の血は濃縮された毒であり、それを利用した戦いもします
>ただ、その毒は皆さんも蝕む危険もありますので、それを飲んでいただければ抗体ができ、私の血を浴びようとも害される事はなくなりますから」

「毒の血液……か。なるほどのう。承知した、今日から飲んでおくとしよう。
 『宇宙の梯子』への案内役は儂をおいて他にはおらんだろうしのう」

ドルヴェイクは渡されたそれを持ったまま頷く。
出自には驚かされたが、彼はこの長旅で一緒に戦ってきた仲間だ。
迷いなくドルヴェイクに渡すというのは信頼されている証でもある。

だがレインは"風月飛竜"との戦いにドルヴェイクを巻き込むわけにはいかない、と考えていた。
その出自が王族である以上、国王や臣下のドワーフ達も絶対に止めるはず。
それを理解しているから本人も『案内役』と言ったのだろう。
0320レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:27:28.50ID:L4LL/AP0
温泉へと向かうべく冒険者ギルドを出ると、何故か武装したドワーフ達に囲まれた。
どうやら王城の衛兵らしい。隊長にあたるドワーフがずかずかと前へと出てくる。

「トバルカイン王の命令により参りました。
 スローイン様および勇者の一行を城へ案内するように仰せつかっております」

「むうっ……帰って来たのがもうバレたのか。王は手を回すのが早いのう。
 まぁよい、城にも温泉はある。貸し切りだと思えば悪くはないか」

有無を言わさず衛兵たちに連れられて金と白で彩られた豪奢な王城へと入っていく。
するとこれまた召使いらしきドワーフが現れ、恭しく頭を下げた。

「"召喚の勇者"御一行様ですね?お話は伺っております。
 お部屋まで案内致しましょう。明日には国王がお会いになるとの事ですので……。
 今日はゆっくりなさって旅の疲れを癒してください」

冷静に考えれば、今回の依頼はひとつの大陸を救うというもの。
やることはいつものダンジョン攻略とそう変わらないが……話のスケールが違い過ぎる。
国や教会が絡んでいるのだから少しくらい歓待を受けたっていいのかもしれない。

そして一同は召使いに客人用の部屋まで案内された。
一人一人に個室が与えられ、部屋には豪華な調度品が置いてある。
レインは何気なくソファに腰かけると、その柔らかくも心地よいフィット感に驚いた。

(いくらするんだこれ……いけないな、眠くなりそうだ)

だが睡魔が眠りに誘うより早くドルヴェイクが部屋にやって来た。
話していたとおり王城の温泉へ連れて行ってくれるらしい。
レインは剣やら旅の道具やらを外すと部屋を飛び出していく。

王城の一角にある温泉までやって来ると、中は貸し切り状態だ。
湯けむりが漂っており、薄壁の向こうは女湯になっているようだった。
0321レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:29:12.24ID:L4LL/AP0
温泉に浸かっているとアルスがやって来た。
入浴中なのだから当然だが、服はもちろん仮面も外している。
精霊のような存在だと本人は言うが、引き締まった肉体がそう感じさせない。
数えきれない戦いを潜り抜けてきた歴戦の強者……そんな感じだ。

「何か悩みがあるようだな、レイン。君はいつも心に迷いを抱えている。
 自分がなぜ戦うのか。正しいのか……それとも間違っているのか。違うか?」

迷い、と言われてどう返答すべきか逡巡した。
レインはこれまで死んだ友との約束を果たすため、魔王討伐のためひた走ってきた。
どちらかが死んだら代わりに魔王を倒す。その約束がレイン最大の原動力だった。

各地を巡って魔王を倒し得る武器を集め、二人の欠かせない仲間もできた。
真の勇者とも言える仮面の騎士と出会い、修行もした。
だがそれは結局のところ復讐がしたいだけなのかもしれない。

復讐は勇者としての在り方に反するものだと思う。
傷つく人のために悪と戦い、勇気を持って進む者ではない。
だが……無二の親友だったアシェルが死んだと聞いたとき、悲しみ以上にこう思った。
魔王を許せないと。レインは確かに怒りと憎しみを宿していた。

もちろん、最初からそうだったわけではない。
勇者になった頃はただ純粋に世界を守りたかった……。
この美しい世界を。大切な人がいる世界を。ただ守りたいと思った。

今はもうどっちなんだか分からない。
復讐がしたいだけなのか、あの頃と同じままなのか。
この事になるといつもそうだ。深い霧に迷ったように答えが出ない。
思考の迷路から抜け出せずに時間だけが流れていく。

「今は無理に考える必要はない。魔王に会えば答えは出る。
 なぜ戦い続けるのか……君が戦う本当の『理由』が」

「それでいいんでしょうか?
 俺は勇者失格なのかもしれないのに」

「いいんだ。喜び、楽しみ、怒り、悲しみ……勇者だって持ってる当然のものだ。
 君の気持ちは間違いなんかじゃない。その日が来た時、全ての想いを魔王にぶつけてやればいい」

この時、その日が遠くないことをレインは知る由もなかった。
0322レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:32:44.44ID:L4LL/AP0
次の日。
召使いのドワーフに案内されて、一同は玉座の間へと行くことになった。
ドルヴェイクはクロムの剣を打ち直すためかその場には不在。
仮面の騎士は正体について言及されると面倒なので早朝には城を去った。
よって残りの三人が集められ、謁見の時間になるまで待つことに。

「なんだか落ち着かないなぁ……王様に謁見するなんて勇者になって以来だし。
 片膝を立てて頭を低くするだけでいいよね……会話になったらどうしよう」

えらく小奇麗な旅人の服(わざわざ予備の新品を着た)を纏い、レインは緊張を露にした。
召使いはニコニコ笑って「フランクな方ですから普段通りでよろしいですよ」と言ってくれた。
とはいえレインの緊張は解けない。なにせ王直々に話をするというのだから。

「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
 クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

そうこうしている内に謁見の時間だ。
玉座の間に通されて王の顔が遠巻きに見えた瞬間、もう完全に固まってしまっていた。
召使いに通されると、レインはなんとか基本的儀礼に沿って片膝を立てて頭を下げた。

「わ、私は"召喚の勇者"レインと申します。
 こっこの度は謁見の機会をくださりまことに感謝いたします!」

トバルカイン王は齢65歳に達しており、老齢の域だが壮健で優しさを帯びている。
顔立ちもドルヴェイクとどこか似ている気がする。
周囲にはドワーフの近衛兵たちが物々しく立っており警備は厳重だ。

「お主たちが"召喚の勇者"一行か。話は弟から聞いている。
 頭を上げて楽になるとよい。サウスマナに存在する各国を代表して、
 宇宙の梯子について話をさせてもらおう」

「あ、ありがとうございます。その……単刀直入に伺います。
 『宇宙の梯子』とはどのような施設なのでしょうか?
 十全に理解できているか不安なもので……」
0323レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:35:12.15ID:L4LL/AP0
レインの問いに軽く頷くとトバルカイン王は静かに口を開く。

「うむ。そのために確認だが、召喚の勇者殿は宇宙についてどこまで御存知かな?
 後ろの二人も。クロム殿とマグリット殿でよかったかな」

レインは頭を掻きたくなった。
くそぉ……こんなことならもっと勉強しておけば良かった。
だが未だに天動説と地動説で意見が割れているサマリア王国で育ったレインだ。
どちらにせよ宇宙について大した知識はない。

「そ、その……星々のある場所が宇宙というくらいしか。
 太陽、月、星座……それにこの世界(アースギア)も。全て宇宙にあると」

歯切れ悪く返答したレインには、玉座の間の静寂がひどく刺さった。
何でもいいから早く誰か何か言ってくれ……と心の中で歯噛みした。

「うむ……まぁその程度でよいだろう。私も学者ではない。
 空の果て、全ての星々がたゆたう空気無き場所、それが宇宙。
 『宇宙の梯子』はその名の通り、宇宙まで伸びている巨大な塔なのだ」

トバルカイン王は正確には軌道エレベーターと言う、とつけ加えた。
エレベーター。たしか人力や魔法の力で上下する昇降機のことか、と思った。
サマリア王国ではあまり見かけないがサウスマナ大陸では珍しくないのだろうか。

「魔族に対抗するため建造されたとドルヴェイク……失礼、スローイン様から伺いましたが……。
 その塔でどのようにして迎撃するのですか?私にはどうにも想像がつきません」

レインの疑問はもっともだ。
トバルカイン王は問いに対しうむと口を開く。

「梯子の先端は人工衛星と接続されている。その衛星は巨大な『魔導砲』でもあるのだ。
 大陸全土から少しずつ魔力を吸い上げ砲のエネルギーとし、その威力は一国をも焦土にする。
 魔族の軍勢すら手が届かぬ場所から一方的に攻撃できるのだ……理想的な迎撃システムであろう」

――魔族に手にさえ堕ちなければ。
そんな凶悪な兵器が魔王軍のものになったということか。
確かに、サウスマナに存在する国全てが喉元に刃を突き立てられたようなものだ。
0324レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:38:56.24ID:L4LL/AP0
「おとぎ話にもあるように、勇者が魔王を討ったことであれの役割はとっくに終わっていた。
 以降は我らの祖先が封印し厳重に守っていたのだが……よもや占拠されてしまうとは。
 皮肉なものだ。過ぎたる力は持つものではないのかもしれないな」

トバルカイン王は自嘲気味にそう言うと、話を続ける。
いま、『宇宙の梯子』は"風月飛竜"配下の魔物の棲家となっている。
ワイバーンをはじめとする竜種が梯子を守り、人を一切寄せつけない。

梯子までの道程は険しい。地上の道なき道を進んでは数か月を要するだろう。
だがドワーフの『ゴルトゲルプ大坑道』を利用すればそう日数はかからないはずだ。
 
「占拠されてから約半年……衛星砲はもう何度も使用されており、既に幾つかのサウスマナの国が滅んでいる。
 改めて頼もう。"召喚の勇者"一行、お主たちには『宇宙の梯子』を奪還してもらいたい」

「お任せください。必ずや"風月飛竜"の手から奪還してみせます!」

こうしてトバルカイン王との謁見は終了し、レイン達は玉座の間から去った。
そこからさらに一週間ほど一行は王城に滞在することになった。
クロムの剣を打ち直すのに時間を要したためである。
そして来るべき出立の日――。

「待たせたのうクロム。これが生まれ変わったお主の剣じゃ」

ドルヴェイクは高級そうな布地に包まれたそれをクロムに手渡す。
包みを開けば、そこには黒鞘に収められた小刀があるはずだ。

こうして出発の準備は整った。
奪還作戦のメンバーはレイン、クロム、マグリット、仮面の騎士。
案内役にはドルヴェイクと彼を守る二名の護衛という構成となっている。

ドルヴェイク達の案内で大坑道を進んだ先には辺り一面に森が広がっていた。
この森を抜けた先に『宇宙の梯子』があるというわけだ。
だが、梯子が占拠されて以来森には魔族が棲みついている。
おそらくは梯子を守る"風月飛竜"の部下だろう。
0325レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:41:49.20ID:L4LL/AP0
ドワーフ達に導かれるまま進んだ先にその魔族はいた。
まるで冒険者たちの行く手を阻むように、多数の魔物を従えて。

「おーっほっほっほっほ!あなた達、ここから先は通しませんことよ!
 ここから先は魔王軍の領土!他の種族は帰りやがれでございますわぁ!!」

禍々しい黄色の体躯に、飛翔するための羽根。一撃で生命を断つ鋭い毒針。
――『蜂』だ。人間の顔に蜂のような身体をもつ『蜂の魔族』だ。
扇子で口元を隠しながら蜂の魔族は高らかに名乗りを上げた。

「私は魔蜂の女王キュベレー!"風月飛竜"シェーンバイン様いちの部下ですわっ!
 どうぞお見知りおきを!もっともすぐに死んでしまうでしょうけどねぇ!!」

キュベレーの周囲で羽音を響かせているのは『蜂の魔物』だ。その名も魔蜂デスホーネット。
体長は約30センチほどと小型だが、数が多いうえに強力な毒をもつ魔物である。

毒属性か、とレインは思った。マイナーだが木属性には有利に働く属性だ。
弱点は地属性とされている。だが、運のいいことに相手は昆虫系の魔物。
炎系の攻撃も嫌がるはず。ならば『紅炎の剣士』で十分――と分析した。

「毒属性が風の大幹部の部下なのは……なんだか釈然としないけど。
 魔王軍の組織表には興味ない。押し通らせてもらうぞ、魔蜂の女王っ!」

何気なくそう言って『召喚変身』しようとした瞬間、
キュベレーが烈火の如く怒り始めた。

「冒険者風情が痛いところ突くんじゃありませんわーーーーっっ!!!!
 仮面の騎士とかいう変な奴に上司をぶっ殺されたせいでこうなってるんですのよっ!!
 まぁぜーんぜんいいですけど!シェーンバイン様の方が元上司よりイケメンですものおほほほほっ!」

そこでキュベレーはハッとした顔で仮面の騎士を見た。
目を擦り、細めて凝視する……そしてようやく気付いたらしい。
彼こそが魔蜂の女王の上司にあたる魔族を殺した、あの仮面の騎士なのだと。

「ま、まままままさか……貴方は仮面の騎士……ですの!?
 私の上司含め、大幹部四名を倒した危険人物!なぜこんなところに!」
0326レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/04(日) 20:45:09.97ID:L4LL/AP0
動揺するキュベレーをよそに仮面の騎士は平静を崩さずこう返した。

「"腐毒公爵"グリマルディの元部下か。下衆だが強敵だった。
 マグリット以外は気をつけろ。連中の武器は毒……掠り傷が致命傷になる」

仮面の騎士は鞘からサーベルを抜いて戦闘態勢に入る。
キュベレーもようやく落ち着いたらしく再びかん高い笑い声を響かせた。

「おーっほっほっほっほ!冷静に考えてみたらカモネギですわ!
 手柄を上げれば大幹部就任間違いなし!顎で使われることもありませんのよー!」

扇子をばっ、と開いて仮面の騎士達に差し向ける。
すると周囲にいた無数のデスホーネットが殺到する。
魔蜂たちは数を活かして全員を取り囲むように襲い掛かる!

「召喚変身、"紅炎の剣士"!!」

レインは赤い民族衣装の姿へと変えるとスヴァローグを抜き放つ。
魔力を込めて炎を滾らせると、空間を斬り、炎を放って障壁を生み出す。
二度、三度、剣を振るい続け、皆を守るための『壁』を作る。
だがデスホーネット達は止まらない。構わず炎に突っ込んできたのだ。

「なっ……燃えるのが怖くないのか!?」

「おほほ、火力が足りないんじゃありませんこと?
 私が産み出した魔物は死をも恐れぬ兵隊ですのよぉ!?」

デスホーネットは炎に焼かれ、燃え盛りながらも突撃してくる。
炎の壁がかえって面倒な状況を生んでしまった。

「ごめん、皆避けてくれ!」

炎を纏ったスヴァローグを片手で回転させ、魔蜂を斬り払いながら叫んだ。
ドルヴェイク達や仮面の騎士もまたデスホーネットを躱しながら後退する。
そうはさせじと追撃を仕掛けるべくキュベレーはパチンと指を鳴らした。

すると森の奥から二足歩行の蜂型魔物が三体姿を現す。
全長三メートル。巨人の膂力を併せ持つ怪物・ギガントワスプである。
両腕には蜂らしく杭のような毒針を持ち、突き刺す事で毒を流し込める。
ギガントワスプもまた炎の壁をものともせず、そのまま突っ込んでくる。

「おーっほっほっほ。エンチャントファイアですわぁ!」

「そんなに燃えたいのか。今度は跡形もなく焼却してやる……!」

レインは苛立たし気にそう言い放って、炎上するギガントワスプの前に立ち阻む。
燃え盛る巨人型の蜂はそれぞれvsクロム、vsマグリット、vsレインの恰好となった。


【『宇宙の梯子』付近の森まで到着。梯子を守る魔族キュベレーと遭遇】
【死を恐れぬ巨人型の蜂魔物『ギガントワスプ』とそれぞれ戦闘になる】
0327クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/07/11(日) 18:51:12.84ID:qpQET7wo
ドルヴェイクに案内された王城の温泉──そこの広々とした脱衣所にて、クロムは大急ぎで服を着こんでいた。
レイン達と時同じくして温泉に浸かったのだが、その湯加減の余りの心地よさからか急激な眠気に襲われて寝入ってしまい、
気が付けば誰も居ない湯舟の中で一人のぼせて溺れかけるという有様だったため、慌てて出てきたのである。

「極楽極楽……っと思っていたら、本当にあの世に行くところだったぜ。こんなところで溺れ死んだら洒落にもならねぇ」

服のポケットに手を入れると、指先にコツン、と小さく硬いものが当たる。
マグリットから貰った三つの丸薬が入った貝殻だ。
実は中身は既に数が一つ減っている。それは、入浴前に特に何も考えずに飲んでいたからなのだが……

(……中身は抗体を作る為の毒とか言ってたな。まさかそのせいで急激な眠気が来たんじゃねぇだろうな?)

などと、思わず考えてしまうクロム。
もっとも、真実かどうかは定かではないし、仮にそうであったとしても副作用がその程度であれば特に気にするに値しない。
だから身支度を整えて脱衣所の出入り口を見据えた時には既に、頭にあったのは空腹を満たす夕食のメニューについてだけであった。

────。

翌日。
召使いに案内されて勇者一行は玉座の間へ。
王に会うということで気を使ったのか、明らかに新品の服を着て畏まるレインの姿がやけに目に付いた。
いや、客観的にはむしろ目立つのはクロムの方だったかもしれない。
いくら洗濯してあるとはいえ、平然と戦闘の痕が目立つ装束にゴツイ金棒を背負ういつものスタイルでいるのだから。

>「なんだか落ち着かないなぁ……王様に謁見するなんて勇者になって以来だし。
> 片膝を立てて頭を低くするだけでいいよね……会話になったらどうしよう」

「ん? 別にいいんじゃね? どーでも」

>「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
> クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

「お前も気が小さい奴だな。
 宮廷作法なんて宮廷の人間が使うもんなんだから、冒険者が作法を知らなくても問題はねーよ。大目に見て貰えるさ」

そんな良くも悪くもぶっきらぼうで大雑把な男だから、アドバイスを求められてもこの通りである。
召使のニコニコ顔が、若干、失笑気味の色に変わったように見えるのは、果たして気のせいだろうか。

さて、そんなやり取りをしていると、いよいよ地下王国の王・トバルカインとの謁見の時間がやって来た。
ドルヴェイクの兄ということだから、年齢にして恐らく60〜70代といったところだと思うが……流石にドワーフか。
肉体の見た目は人間の同世代のそれと比較すると遥かに屈強そうに見えるのは、気のせいではあるまい。

しかし、クロムが驚いたのは王の肉体などではなく、王が話す『宇宙の梯子』の正体についてであった。

空を遥か高く越え、宇宙にまで伸びた巨大な塔──『宇宙の梯子』。
その先端は大陸全土から魔力を吸い上げ、それを破壊エネルギーに変えて地上に放つ人工衛星──『魔導砲』と接続されているという。
その威力は極めて絶大で一国を焦土にするほどで、実際に既にサウスマナの幾つかの国が消滅したのだとか。

(つまり……巨大な“魔光弾”を放つ装置がその衛星というわけか……?)

魔光弾──。
超常的存在に呪文で干渉して魔力を変換するのではなく、魔力そのものを押し固めた光弾を体外に射出して目標物を貫徹する。
多量の魔力を内在する高位の魔法使いなどが好んで使う技である。
0328クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/07/11(日) 18:56:00.38ID:qpQET7wo
しかし、一国を瞬時に滅ぼすほどの巨大な魔光弾という想像を超えたものなど当然ながらクロムは目にしたことはない。
できればそんなものは永久に目にしたくないものである……が

(なんでそんな物騒なものをいつまでも解体せずに“封印”で済ませていたのか……。
 解体する技術も失われていたのか? 万が一の事を考えて、切り札用に取っておいただけか……?)

召喚勇者一行がこの国に呼ばれたのは『宇宙の梯子』の奪還の為である。
つまり、戦いで下手を打てば正に目の前で見ることになるかもしれないのだ。想像を絶する悪夢の光景を。

>「お任せください。必ずや"風月飛竜"の手から奪還してみせます!」

レインの言葉に合わせて、クロムは王に一礼して踵を返し、頭を掻きながら溜息交じりに呟く。

「一撃で一都市を破壊できる兵器。責任は重大。失敗は許されねぇ、か……。
 たまんねぇなぁ。ドワーフの先祖ってのもとんでもない遺物を残していきやがったもんだ」

────。

その後、勇者一行は一週間王城に滞在する事になった。
剣の打ち直しの為にそれだけの日数が必要だったからであるが、足止めを食らうというのも時には悪くない。
その期間を普段は取れない休養にあてる事ができるし、何より毒の抗体を作っておくという意味でも好都合だったからだ。

「久々にいい休みが取れた。お前の丸薬、きちんと全部飲んどいたから安心しろよな」

出発の集合場所にてクロムはまずマグリットにそう言い、続いて「それはそうと──」とドルヴェイクに視線を向けた。
それだけで何を言いたいのか察したか、ドルヴェイクは布に包まれた何かを差し出した。

>「待たせたのうクロム。これが生まれ変わったお主の剣じゃ」

布を取ると、中は予想していた通り短い黒鞘に納まった一振りの小剣。
柄に手を掛け、鞘から刀身を引き抜き、人口太陽の光を受けて黒光りする刃を、切っ先から根元まで軽くなでてみる。
瞬間、クロムは思わず顔をほころばせた。

「……ドルヴェイクの爺さんよ」

長年使い続けて何もかも知り尽くした愛刀である。
指先に伝わる微かな感触だけで、ドルヴェイクがどれだけの仕事をしてくれたのかをクロムは把握したのだ。

「いい仕事するじゃん。あんた、予想以上だよ。これ、『ドルヴェイクの小剣』とでも名付けることにするぜ」

「ふっふっふ。それは光栄じゃの」

「ん……? 今気づいたが、剣と一緒に布に包まれてるこれは……?」

そう言って布の中からクロムが取り出したのは、小さな★型の硬く平たい二枚の金属。

「脇差用に鞘を短く打ち直したじゃろ。その際に出た余った部分を使ってのう、“手裏剣”を作ってみたんじゃよ。
 なんせ希少な金属じゃ。捨てるのも勿体ないんでの」

「……魔力を込めると切れ味が増す手裏剣ってわけだ。ついでにしちゃ気が利いてるな。ありがたく貰っとこう」

ドルヴェイクとその護衛、仮面の騎士、レイン、マグリット、クロムが揃い、そして装備も揃った。かくして全ての準備は整ったのだ。
となれば──後は『宇宙の梯子』に向けて出発するのみである。
クロムが手裏剣を懐に仕舞い、剣を腰に差すと、その時をまるで待っていたようにドルヴェイクが言った。

「では、出発するとしよう」

────。
 
0329クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/07/11(日) 19:03:16.38ID:qpQET7wo
『ゴルトゲルプ大坑道』を利用してやがて辿り着いた場所は森だった。
森を抜けた先に『宇宙の梯子』があるとのことだが、ドルヴェイクの話によると、森には魔族が棲みついているという。
しかもそれらは元々森に生息していたわけではなく、梯子が占拠されてより棲みつくようになったとのこと。
つまり──明らかに梯子に近付く侵入者を排除する目的で配備された兵隊だというわけだ。

(戦闘は避けられねぇだろうな……面倒臭ぇったらありゃしねぇ)

──などと、クロムが思った矢先だった。早くもその兵隊が現われたのは。

>「おーっほっほっほっほ!あなた達、ここから先は通しませんことよ!
> ここから先は魔王軍の領土!他の種族は帰りやがれでございますわぁ!!」

不快な羽音を引っ提げて、耳障りな甲高い高笑いとやけに鼻につく物言いをする蜂型魔族が空中から舞い降りたのである。
そいつは自ら風月飛竜の部下・魔蜂の女王キュベレーと名乗った。

(敵は一匹…………なわけねーか。“女王”だもんな)

ブーン、ブーン、とキュベレーの周りで羽音を響かせる無数の虫を見て、クロムは思わず眉を顰める。
ただの虫などではない。それらは全て魔物なのだ。これまた毒蜂型の──『デスホーネット』である。
キュベレーが手にした扇子を広げると、それを合図にデスホーネットの群が四方に素早く散開して一行を取り囲む。

「そりゃ数の上では優位だ。教科書通り包囲殲滅とくらぁな」

そしてレインが展開した炎の壁をものともせずに突き破り、針を突き立てんと猛然と接近して来る。
クロムは背中に回しかけた手を下ろして素早く腰の剣に掛けると、間近にまで迫ったデスホーネットに向けて抜刀。
奔らせた剣閃によって瞬時に数匹を斬り捨てた。
小剣というのものは刀身が短い故に間合いが小さいが、小回りが利くのでより素早く複雑な軌跡を描く斬撃を繰り出すことができるのだ。

>「ごめん、皆避けてくれ!」

とはいえ、小剣一本で撃退し続けられるほど敵の数は少なくない。
死をも恐れず向かってくる魔蜂を切り落としながら、クロムも仮面の騎士達の行動に合わせて後退を開始する。
しかし、それもどうやら敵のシナリオの内だったらしい。
キュベレーのフィンガースナップを合図に、背後の森から新たな魔物が出現したのだから。

『ギガントワスプ』。二足歩行の巨人型の魔蜂である。それも三匹。
その内の一匹と目が合ったクロムは、うんざりしたように息を零しつつ、剣を左手に持ち替え、フリーとなった右手で背中の金棒を握る。
目を左右に動かすとレインもマグリットもまたギガントワスプと対峙していた。
キュベレーの言葉の通り、魔物達が彼女によって産み出されているなら、本丸を落とさない限り魔物などいくらでも沸いて出ることになる。
勿論、産み出せる数は無限ではなく有限に違いないのだろうが……何にせよ魔物と戦わされるのは敵の術中というものだ。

「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
 さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

クロムは二人を見ながら言う。目の前の、今にも攻撃を仕掛けてきそうな巨蜂など気にもしていないように。
挑発と受け取って怒ったか、それとも単に隙だらけと見て襲いたくなったか、敵が毒針の腕を突き出して来たのはその直後だった。

──だが、毒針が届く事は無かった。
体に届くより先に、クロムの左剣が素早く毒針ごと腕を切断していたからだ。
そして、敵にはそれに対する悲鳴をあげる時間さえ無かった。

「──らぁっ!!」

極めて重い金棒の横一閃の一撃を頭部に許し、あっという間に首を引き千切られてしまったのだから。
司令塔を失って痙攣し、やがてフラフラと倒れ伏していく巨蜂を一瞥する事なく、クロムはくるりと体ごと振り返る。
見据えるは、敵の本丸こと女王蜂である。

【『ドルヴェイクの小剣』と『ドルヴェイクの手裏剣』を手に入れる。丸薬によって毒の抗体有】
【デスホーネット数匹+ギガントワスプ一匹撃破】
0330マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/07/14(水) 19:28:12.66ID:TkiynQs6
玉座の間に案内されたマグリットは礼装用の法衣に身を包み、外交儀礼に則った立ち振る舞いで進んでいた

大元は未開の地に神の教えを広める宣教師で儀典とは程遠い身ではあるが、それでも教会組織に属しているのだ
一通りの再訪は叩き込まれていた、が、他の二人はそうでもないようで

>「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
> クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

レインの言葉に耳を傾けつつも、視線は玉座から外さず、表情も変えずに二人にだけ聞こえる程度の音量で応える

「ご安心ください、私たちは助けを請われて招かれた立場です
必要以上にかしこまって平伏する必要はありません
片膝をつき膝拙く程度で十分かと」


>「ん? 別にいいんじゃね? どーでも」

安心させるように語り掛けたのだが、それを拡大解釈どころか相変わらずの自由過ぎるクロムの言葉に思わずマグリットの頬がひきつる

「かといって相手は王族、対等な立場ではありません
王としての威厳や面子もありますので、そこを外すとあっという間に拗れるので注意は必要ですよ」

今回の謁見に際して、特に身体検査などをされていない
これは信頼の証でもあると同時に、万が一自分たちが襲い掛かったとしても王を守り切れるという自負の現れでもある
即ち、不用意な挙動一つで槍も矢も飛んできてもおかしくないという事なのだから

という事を付け加えていると、謁見の時間となり、仰々しい宣告と共にトバルカイン王がその姿を現して

>「うむ。そのために確認だが、召喚の勇者殿は宇宙についてどこまで御存知かな?
> 後ろの二人も。クロム殿とマグリット殿でよかったかな」

「空の遥か上、星と神々の世界
神々が星辰を運行し運命を歯車を回す天界の領域、と教会では教えられておりますが」

宇宙についての知識は殆どないにも等しく、教会では天動説が通説として用いられており、しどろもどろ応えるレインの後ろからマグリットが応える
その応えに対しトバルカイン王の言葉は、そしてドワーフたちの技術は、マグリットを驚愕させるのに十分なものだった

それは、宇宙まで伸びている巨大な塔
その先端は人が作りし星と接続され、大陸全土から魔力を吸い上げ砲として放つというものなのだから

「そ、それは……バベル……!?」

思わず口走ってしまった言葉
聖書の中にある、古の昔、天へ至ろうとした傲慢な王が建てた塔の逸話そのままだったからだ



謁見が終わり、戻る道中クロムの言葉にため息交じりに応えずにはいられなかった

>「一撃で一都市を破壊できる兵器。責任は重大。失敗は許されねぇ、か……。
> たまんねぇなぁ。ドワーフの先祖ってのもとんでもない遺物を残していきやがったもんだ」

「眩暈がしそうなお話しでしたね。
バベルは神の怒りによって崩され、宇宙の梯子は魔族によって奪われても尚それに頼ろうとは……」

トバルカイン王の依頼はあくまで宇宙の塔の奪還であり破壊ではない
もちろん現在のように魔族が猛威を振るう中、強大な力を放てる衛星砲は確保しておきたい武力なのだろうが……
マグリットはそこまで信心深い方ではないのだが、それでもその業の深さにため息を禁じえないのであった
0331マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/07/14(水) 19:30:47.50ID:TkiynQs6
一週間ほどの滞在の後、いよいよ宇宙の梯子奪還のための出立日となった
準備は整い、レインたちに渡した丸薬による抗体も十分にできたであろう
召喚の勇者一行に仮面の騎士、ドルヴェイクとその護衛の7人はゴルトゲルプ大坑道を通り森へ出た
ここからは柱の梯子まで森を一つ抜けなければいけないのだが、ここからは既に魔族の勢力圏

それを実感させるように姦しい声と共に蜂の魔族が多数の魔物を引き連れ現れた

>「私は魔蜂の女王キュベレー!"風月飛竜"シェーンバイン様いちの部下ですわっ!
> どうぞお見知りおきを!もっともすぐに死んでしまうでしょうけどねぇ!!」

名乗りを上げたキュベレーは元は腐毒公爵グリマルディの部下であったが、仮面の騎士が上司を倒した事により現在の地位に流れてきたとの事だった

驚いたり甲高く笑ったり、忙しく反応を見せた後、デスホーネットをけしかける
ここに戦闘が開始されたのだった

レインが素早く紅蓮の剣士に召喚変身し、炎の壁を作り上げるがですホーネットは全くひるまない
それどころは炎を纏った毒に飛礫となって襲い来るのだ

デスホーネットを切り払いながら後退するレインとクロムに代わり、マグリットが前に出る

「お任せください!螺哮砲!」

その声と共にマグリットの大きく開かれた口からは超音波が放たれ、それは30センチ程度の蜂にとっては音の壁となって立ちはだかるのだ
もちろんこれでデスホーネットを仕留められるわけではないが、一瞬の足止めができれば十分
あとは幅広なシャコガイメイスが面の打撃により、バチンという音と共にデスホーネットをまとめて叩き落すのであった

しかしキュベレーの手勢はデスホーネットだけではなかった
デスホーネットを避け下がった先に現れたのは全長三メートルの巨躯を誇るギガントワプスである
こちらもレインの作った炎の壁をものともせずに、実が燃え上がろうとも構わず襲い来る


>「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
> さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

それを受け、クロムの声が飛び、戦闘が激化しようとするところだが、マグリットの視線はレインに向けられていた



>「そんなに燃えたいのか。今度は跡形もなく焼却してやる……!」

紅蓮の剣士への召喚変身をしたにもかかわらず、炎の壁を作るも突破され、苛立ちもあったのだろう
しかし立ち向かおうとしたギガントワプスは突然横からの炎の塊により弾き飛ばされ、飛んでいたものと一体となって転がっていく

「いやいや、失礼失礼、思いのほかよく飛びまして」

炎の塊の飛んできた方を見れば、シャコガイメイスをフルスイングした状態でレインに笑いかけるマグリットが言葉を続ける

「レインさん、毒は毒でも毒舌に侵されてしまったようですね
怒りを煽られた状態で戦ってはなりませんよ?」

大股でレインに近寄り、諭すように語り掛けると、激突し一つの肉塊になったギガントワプスだったものからはみ出ている足を掴み上げながら

「クロムさんの言うとおり、狙うべきは女王
我らが目的は風月飛竜であり、その自称NO2の更に部下などという些事は私に任せ、レインさんはまずはこの場の大将を討ってくださいませ」

そう言いながらところどころに火を纏うギガントワプス二体分の肉塊をキュベレーに投げつけるのであった

【レインに向かったギガントワプスも一緒に討伐】
【その肉塊をキュベレーに投げつけ牽制し、キュベレーを討つように促す】
0332レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/17(土) 00:05:01.68ID:HIpGkBHG
ギガントワスプと対峙したレインは言葉を荒立てながらも、頭は冷静だ。
大剣を正眼で構えたまま相手の出方を慎重に伺う。

>「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
> さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

クロムの言うことはもっともだった。
ぶっきらぼうな男だが、戦闘においては何よりも頼りになる。
小剣という形ではあるが剣の武器が戻ってきてよりそう感じている。
クロムと蜂巨人が早速かち合ったのを見て、レインもいざ斬りかかろうと――。

>「いやいや、失礼失礼、思いのほかよく飛びまして」

――したが横合いから炎の塊がレインと相対していた蜂巨人を吹き飛ばした。
マグリットの仕業だ。マグリットは悪気もない様子でこう話しかけてきた。

>「レインさん、毒は毒でも毒舌に侵されてしまったようですね
>怒りを煽られた状態で戦ってはなりませんよ?」

「それは……分かってるさ。おかげで落ち着いてる」

『豪腕の籠手』のような魔導具もなく、素の膂力で
三メートルの巨体を矢のように吹き飛ばすのかと思ってちょっと驚いた。
出会った頃からパワータイプだったが、獣人の筋力は凄いものだと再認識する。

>「クロムさんの言うとおり、狙うべきは女王
>我らが目的は風月飛竜であり、その自称NO2の更に部下などという些事は私に任せ、レインさんはまずはこの場の大将を討ってくださいませ」

「分かった。いつもサポートしてくれて助かるよ。
 敵は魔物を統率するタイプのようだから直接対決ならこちらに分があるはず……」

何気なく自分の分析を話していると、
マグリットは蜂巨人二体をボール球のように軽々放り投げたのだ。
空中に浮かぶキュベレーは「げぇっ」とした顔で慌てて回避した。
0333レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/17(土) 00:05:56.45ID:HIpGkBHG
だがまぁそんな無駄にデカいもん投げつけたところで大した牽制にならない。
それよりもキュベレーはなぜか自分を余裕で倒せるみたいな会話を聞いて正気を疑っていた。

「こいつらマジですの……?魔族である私を倒せると思ってる……?
 ははーん。もしかしてイメトレとかシミュレーションでイキっちゃうタイプなんですの?
 おーっほっほっほ!私は優しいから教えてさしあげますわ。実戦はトーシロの想像とは何もかも違って……」

扇子で口元を隠しつつ、どや顔で語っているとレインが大剣を構えて突っ込んできた。
隙だらけなせいだ。キュベレーは「またかよ」みたいな顔でサッと躱す。

「違って……」

だが、なぜか空中で方向転換を決めて背後からまた斬りかかってきた。
キュベレーは不思議に思いながらも羽根をはばたかせ、サッと躱す。

「違って……」

だがまたもや空中で方向転換を決めて斬りかかってきた。
キュベレーは「いや流石におかしいだろ」と思いながらサッと躱す。

「違っ……もうなんですのっ!?
 さっきからどうやって攻撃してるっていうんですの〜ッ!?」

よくよく見たら空中に杭みたいな足場が展開されているではないか。
あれは中位光魔法『グローパイル』!そんな使い方あるのかよと絶句した。
師匠と弟子、阿吽の呼吸で攻撃を仕掛けていたらしい。

(……さすがに空中戦は向こうの方が得意か。大振りな大剣じゃ当たらない。
 ここは相手の機動力を奪うことを考えた方がいいかもしれない)

仮面の騎士の拘束結界魔法『タリスマン』で閉じ込めてもらうか。
いや、あのスピードだ。空中に魔法陣が浮かんだ瞬間避けられかねない。
0334レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/17(土) 00:07:48.52ID:HIpGkBHG
思考を数瞬巡らせているのが隙となったのかキュベレーが高速で捲し立ててくる。
どうやらお喋りが好きなようだ。連弩さながらに言葉の矢を浴びせてきた!

「ふふん、蚊トンボがいい加減鬱陶しいですわ。私の魔物捨て身の必殺技でお逝きなさい!
 ぶんぶんぶん、魔蜂飛ぶ〜♪さー追い詰めますわよ、我が眷属たちよ!『蜂球』開始ッ!!」

ギガントワスプを呼んだ時と同じように指をパチンと鳴らす。
すると森のどこからともなく『デスホーネット』達が再度集まってきた。
それも尋常な数じゃない。数千匹いなくては説明がつかない膨大な量だ。
それがレイン、クロム、マグリット、仮面の騎士withドルヴェイク達を包囲する。

「蜂球……!?ということは……!」

レインは光の杭のひとつに着地して呟いた。蜂球。
それはミツバチが巣を狙うオオスズメバチに使う撃退方法だ。
数百匹のミツバチによってオオスズメバチを包み込み熱で蒸し殺す現象。

「さあ驚きなさい!慄きなさい!絶望しなさい!それが私にとって何よりの蜜!
 さっきのようにちょっとやそっと切り伏せた程度じゃこの『蜂球』は防げませんのよー!」

仮面の騎士は思考する。
全方位の守りとして使える『タリスマン』を防御魔法代わりとして皆に使うか否か。
いや、わざわざ魔族が攻撃手段に選んだのだ。張ったところで破られる恐れがある。
そうなれば『タリスマン』は盾どころか棺桶になってしまいかねない。

事実、デスホーネットの『蜂球』は数千度の超高熱を発するうえ、
魔蜂が密集することでとてつもない圧力を発揮し敵を圧殺もする厄介な一手だった。
……よって、仮面の騎士はドルヴェイクとその護衛二名の守りに徹することを決心する。
ドルヴェイクを背中に、護衛を脇に抱えて高速移動でいのいちに『蜂球』の包囲から脱出する。

「はぁ!?なんですのそのずっこい動き!?」

驚くのはまだ早い。
空中にいたレインは紅炎の剣に炎を宿らせて『蜂球』に斬りかかる。
振るわれた炎を纏いし刃は螺旋を描くように魔蜂を燃やす。
0335レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/17(土) 00:09:22.39ID:HIpGkBHG
なんだ、またお得意のショボい火力の炎か。
――キュベレーはそのように慢心しきっていたが今度は違う。
一瞬で蜂の体が燃え尽きるほどの強力な紅の炎が、魔蜂をことごとく焼き殺していく。

「もう魔力のセーブはしない。全力で……お前を倒す!」

そして剣に再び魔力を込めて空間を斬り裂く。
すると三日月の形をした焔の刃がキュベレーめがけ飛ぶ。
だがやはり寸でのところで避けられてしまう。

「あっぶねぇですわっ!なにしやがりますの!」

しっしっと振り払うように扇子を動かしてキレる。
直後、キュベレーの眼前に紫の魔法陣が浮かび、ふーっと息を吹きかけた。
すると魔法陣から猛烈な勢いで毒々しい色の煙が放出されレインを襲う。

「あはっ。毒魔法『ポイズンミスト』ですわ。
 吸えばどうなるかお分かりですわよね……ごめんあそばせ?」

これならもう倒しただろうという確信をもってキュベレーは満足した。
空中にこれでもかというほど広範囲に毒霧をバラまいてやった。

「って……えぇぇぇぇぇ!!?」

だがそれが仇となった。
広範囲に撒いた毒霧がかえってキュベレーの視覚を塞いでしまった。
背後からこっそり忍び寄ってくるレインにギリギリまで気付けなかった。
回避しようとしてもコンマ秒で間に合わない。

「そこだぁぁぁーーーーっ!!」

紅炎の剣を振り下ろし、一太刀で肩口から裂き、四枚ある羽根のうち片方二枚を切断する。
本当は換装召喚して『天空の聖弓』を使い毒霧を払っても良かったが……。
それでは防御できてもキュベレーに攻撃が当たらなかっただろう。
だから捨て身で攻める必要があった。
0336レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/07/17(土) 00:13:05.60ID:HIpGkBHG
毒霧を吸ってしまい限界がきたレインと羽根を失ったキュベレーが地面へ落下する。
レインはなんとか両足で着地すると、そのまま倒れ込んでしまった。

「ごめん……ちょっと動けそうにないや。皆、後は頼むよ……」

記憶が確かならクロムが『毒消し草』を持っていたはずだ。ゆえに無茶を敢行できた。
本当ならさっきの一撃でケリをつけたかったが、流石に致命傷は避けられてしまった。
信頼できる仲間とはいいものだ。たとえ自分が動けなくなっても後を任せられる。
後方から素早く仮面の騎士がやってきてレインに肩を貸すと、高速移動で戦闘圏から離脱する。

「ああああああああああ!!!!!!マジでなんなんですの!!!?
 私の美しい羽根がぁぁぁぁっ!!ただの冒険者共なんかにぃぃぃぃぃ!!!!」

「俺達はただの冒険者じゃないよ……これでも一応、勇者パーティーなんだ。
 キュベレー覚えておくことだ。お前を倒すのは"召喚の勇者"一行だってこと……」

「知ったこっちゃありませんわそんなクソ雑魚ナメクジ弱小パーティーッ!!
 私に近づくな、この……下賤で不愉快極まりない下等種族共がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

魔族は他種族と一線を画する高位の種族だ。
エルフと肩を並べるほどの寿命に膨大な魔力。獣人を凌ぐ身体能力。優れた適応力に多様な生物的特性。
最強の種族となるべく生み出され、生物界の頂点に立つべき数々の恵まれた能力を誇る。
その傲慢さがここにきて露になっていた。飛行能力を失って余裕がないのだろう。

そして追い詰められたキュベレーは次なる手札を切る。
毒針を構えるとクロムとマグリット目掛けて高速で連続発射してきた。
一見しただけでは分からないだろう。これはただの針ではない。

『エグゾセニードル』という着弾すると爆発する針だ。
体内で爆薬を調合して針に仕込むキュベレーの特技のひとつである。
ミスリルの盾でもない限り、防ぎでもしたら盾ごと木っ端微塵に吹っ飛ぶ代物。

「だいたいおかしいですわ!なぜ魔族より遥かに劣る下等種が世界を支配しているんですの!
 人間たちだけが神に愛され贔屓されている!この現状に我慢がなりませんわっ!!
 ……気に入りませんわどいつもこいつも!きたねぇ花火にしてさしあげましてよ!!」


【キュベレーは『蜂球』を使い一行全員を焼き殺そうとする】
【その後、レインに羽根を二枚切り裂かれ地面に落下する】
【落下後は着弾すると爆発する針を連射して攻撃してくる】
0337クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/07/23(金) 22:58:39.75ID:1dMUq6Bm
レインの捨て身の攻撃がキュベレーから機動力を奪う。
空を舞う蜂の女王も、羽が無ければ流石に宙に留まることはできず、為す術なく地面に墜ちる。

「ナーイス」

墜落地点の周囲にはクロム、マグリット。
手下の蜂を使って常にパーティを囲み、優勢を保ってきた女王蜂が初めて、そして一瞬で形勢逆転を許した瞬間であった。
しかし、これで決着がついたわけではない。女王はまだ戦闘力を有しているのだ。
じり、と慎重に間合いを詰めていくクロムが、女王の殺気が急激に膨れ上がるのを感じ取るまでそう時間は掛からなかった。

「悪あがきはよせって──……」

殺気はいわば攻撃の合図。故にクロムは足を止め、思わず身構えた。
直後、見開いた目が何かを捉える。
それは小さな針──それも恐らく毒の──がキュベレーから無数に、高速で発射されたのである。

クロムは咄嗟にジャンプする。だが、回避の試みは完全な形では成功しなかった。
ジャンプに用いたが為に攻撃範囲から最後まで逃げ遅れた形となった利き足だけは直撃を許してしまったのだ。

「ちっ────!?」

クロムの反応に勝るとも劣らない速度の攻撃だが、真に驚くべきはそこではなかった。
驚くべきは触れた瞬間に激しく爆発し、骨肉を瞬時に爆ぜ散らした針。その凶悪な特性である。

(──『反魔の装束』に殺されねぇ威力! この爆発は魔法じゃねぇ、特技によるものか!)

焦げた傷口から全身に伝わる強烈な痛みが、あっという間にクロムに冷や汗を噴き出させ歯軋りをさせる。
その苦痛を露わにした表情を見て、甲高く笑うキュベレー。

「おーっほっほっほっほっほ! その足じゃもうちょこまか逃げ回ることもできませんわねぇ!
 私の『エグゾセニードル』を喰らって無事で済む奴なんかこの世にいねぇんですのよ! 避けるなら避け切らないと意味が──」

続いて彼女は、空中に逃れたクロムに向けて、追撃を掛けんと構えた。

「──なっ!?」

──が、瞬間、その顔から笑みが消し飛ぶ。
方向転換が不可能な筈の空中で、クロムの体が突如として弾き飛ばされるかのように進行方向を変え、キュベレーに向かったからだ。
しかも、雷のように素早く、ジグザグの軌跡を描きながら。

「打ち込まれていた『グローパイル』の足場──位置を記憶してなかったのか? だからお前は“自称”2止まりなんだよ」

片足だけでも足場から足場への跳躍は可能だ。それもクロムの身体能力をもってすれば、高速で。
加えて複数の足場を複雑に経由すれば、更に目で追う事を困難にさせ狙い撃ちのリスクを減らせる。

「なっ、ななななななっ──あぁっ!?」

その目論見通り、攻撃を受けることなくまんまと狼狽するキュベレーの背後を取ったクロムは、彼女の喉元に剣を突き付けて囁いた。

「解ったか? 解ったら、潔く降参しろ。面倒くせぇ手下どもも全部下がらせて危害を与えねぇようにしな。さもねぇと……」

戦場には未だ無数の蜂が空中を飛び回り、群れを成して熱殺の機会を伺っている。
キュベレーという司令塔を始末したら、勝手にどこかへ飛び去ってくれたり無力化されたりするのだろうか。
それは分からない。下手をすれば暴走して却って手が付けられなくなるかもしれない。
だからこそ敢えて殺さず、脅して取引を持ち掛けたのだ。
片足を失った今のクロムでは、もはや蜂の全てを片付けるだけの余裕も、逃げ切るだけの力もないのだから。

もっとも、既に蜂どもは無力化されているかもしれない。何故ならこちにらも毒の使い手がいるのだから。

【『エグゾセニードル』を喰らい右足の膝から下を失うも、キュベレーの背後を取ることに成功し降伏を迫る】
0338マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/07/28(水) 19:48:49.95ID:dSCCyOYI
レインの三次元的な動きに翻弄され、業を煮やしたキュベレーは大量のデスホーネットを呼び出し周囲を取り囲む
その意図を察した仮面の騎士はドルヴェイクたちを担ぎ一足先にその包囲網から脱した
レインも魔力のセーブをやめ本来の火力を元なう紅蓮の刃でデスホーネットを焼き尽し突破口を開き、クロムも続くのだが、マグリットは動かなかった

マグリットは重鈍であり、レインやクロム程は早くは動けない
それに、ここを突破してもデスホーネットはすぐに新たなる蜂球を形成するだけだ
故に、デスホーネットの群れを引き受けるものが必要だと判断したからだ

蜂球形成により外部からではマグリットの姿は見えず、時折激しい音が聞こえてくることがいまだ生存している事を知らせていた
内部ではマグリットはコマのように回転しシャコガイメイスを振り回したり、時折地面を叩き周囲に衝撃波を生み出し寄せ付けないようにしている
が、それも時間稼ぎにしか過ぎなかったのだが、その時間稼ぎこそがマグリットにとっては必要な事なのだ


マグリットが蜂球に包まれている間に戦況は動いている
クロムがキュベレーを追い詰め、毒きりの噴霧にも構わずキュベレーの羽を切り落としたのだ

>「ごめん……ちょっと動けそうにないや。皆、後は頼むよ……」

辛うじて着地には成功したものの、毒を吸い込んでしまっておりそのまま倒れ込んみ、仮面の騎士が肩を貸し戦闘圏から離脱する

「いやいや、手間取ってしまい申し訳なかったです
あとはお任せくださいませ」

レインの言葉に応える言葉と共に、崩れる蜂球から出てきたのは血塗れのマグリットであった

毒を使う生物だからと言って、毒に耐性があるとは限らないというもの
個別で叩いていても際限のない大軍に、マグリットは空間自体を己の毒血霧で満たす事により対抗したのだ
密集するデスホーネットは熱を発する前に毒により息絶えていったのだった

「周囲に散布したあなたの毒は吸収させていただきました。
さて、自称とはいえNO2、色々お話しいただきたいところなのですが?」

レインにより羽を切り落とされ、高速機動どころか飛ぶことすらもままならなくなったキュベレー
切り札の蜂球も破り毒きり散布も浄化、もはや形勢は決したと、情報を引き出しにかかろうと笑みを浮かべながら近寄る
だが、まだキュベレーの戦意はくじけていなかった

>「だいたいおかしいですわ!なぜ魔族より遥かに劣る下等種が世界を支配しているんですの!
> 人間たちだけが神に愛され贔屓されている!この現状に我慢がなりませんわっ!!
> ……気に入りませんわどいつもこいつも!きたねぇ花火にしてさしあげましてよ!!」

その言葉と共に毒針を連続発射を始める
マグリットは笑顔で接近をしていても一切相手を信用していない
それが未開の地に布教に行く宣教師たちに叩き込まれる鉄則であるからだ

故に、キュベレーの攻撃に咄嗟に反応ができシャコガイメイスを振るい針を薙ぎ払うが、薙ぎ払った先で爆発が起こりその衝撃により体勢が崩れる
尚も連射される爆発の針に左手で貝殻の盾を形成し防ごうとするも、爆発の威力はすさまじく、盾ごと左腕が吹き飛んでしまった

キュベレーの高笑いと共に尚も連射される爆発針に左腕を失ったマグリットはなすすべもなく晒されていく
しか、クロムは足を負傷しながらも設置されたグローパイルを利用して撹乱移動
そしてついにはキュベレーの背後を取り首筋に剣を突き付けるに至ったのだ

>「解ったか? 解ったら、潔く降参しろ。面倒くせぇ手下どもも全部下がらせて危害を与えねぇようにしな。さもねぇと……」

その言葉を遮るようにデスホーネットが数匹、キュベレーに攻撃を仕掛ける
喉元に剣を突き付けられ身動きがとれぬ上に、まさか手下に襲われるとは思っていなかったキュベレーが苦痛と驚きの声を上げる
しかしその攻撃も長くは続かなかった
キュベレーの手足や毒針がボロボロになる頃には力を失い地面へと落ちてしまったのだから
0339マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/07/28(水) 19:52:40.22ID:dSCCyOYI
「このあたり一帯は私の毒血霧と幻惑物質で満たされています
あなたは……腐肉男爵、でしたっけ?に仕えていただけあってそれなりに耐性があるようですが、周囲はそうではないようですねえ」

その言葉と共に現れたのは爆散したはずのマグリットであった
血塗れではあるが、蜂球を破るために自ら噴出させた血であり、爆発による傷はない

そう、蜂球を破った時点で既に毒血と幻惑物質の散布は始まっていたのだ
高速飛行されては効果も出なかったであろうが、羽を切り落とされ地上に立たざる得なかった時点で、キュベレーはマグリットの術中にはまってしまっていたわけだ
次々と頭上から落ちてくるデスホーネットや眷属の骸
この戦い方ができたのも、レインやクロム、そしてドルヴェイクたち同行者が丸薬を飲みマグリットの毒血への抗体を持っていてくれたからだ

「さて、今一度お話を希望するのですが、抵抗しても構いません
あなたに見えている私が、感じている私が本物であるかの保証はしかねますがね
まあ、それ以前にクロムさんの刃は早く鋭いのでご注意を
そしてお話に応じて頂けるのであれば、私も神に仕える者の端くれとして少々気になるお言葉はありましてお聞きしたい」

キュベレーの言葉にあった
>「人間たちだけが神に愛され贔屓されている現状が我慢ならない」
との言葉
これはマグリットにとって驚きであった
その旨をキュベレーに伝え、言葉を続ける

「あなたがた魔族は、神の寵愛を欲しているのですか?」

本来聞くべき事は他にもあったはずだ
宇宙の梯子へのルート、警備体制、風月飛竜の居場所など
しかしそれらを差し引き、マグリットは聞かずにはいられなかった

神に仕える者ではあるが、獣人であり、教会と利害関係で席を置いている
その程度の信仰心の持ち主だからこその言葉であったのかもしれない
教会で教えられていた『魔族は神の敵対者』であるという前提が、ここに崩れようとしているのだから

尚、幻覚にしてマグリットはキュベレーに対峙しているように見えているが、その実態はクロムの横に跪き、右足をきつく縛り上げ止血作業をしているのであった
マグリットの回復魔法の効果は低く、欠損した四肢を再生させる事は敵わない
故にただただ止血するしかないのだった

【毒血と幻覚物質散布で蜂球を破る】
【毒血により周囲のキュベレー眷属を倒し、キュベレーを幻惑しながら質問】
【本体はクロムの失った膝の止血中】
0340レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:27:16.75ID:uV+u8Fb8
クロムに喉元を剣で突きつけられ、身体は幻惑物質と毒血でボロボロ……。
最早キュベレーに戦う力は残されていなかった。この戦い、魔蜂の女王の敗北である。

>「さて、今一度お話を希望するのですが、抵抗しても構いません
>あなたに見えている私が、感じている私が本物であるかの保証はしかねますがね
>まあ、それ以前にクロムさんの刃は早く鋭いのでご注意を
>そしてお話に応じて頂けるのであれば、私も神に仕える者の端くれとして少々気になるお言葉はありましてお聞きしたい」

対峙するマグリットがそう言うと、キュベレーはくっ……とそっぽを向いた。
実際のところマグリットの姿は幻覚で、本当は右足の膝から下を失ったクロムを止血している途中なのだが。
どうせ現上司の弱点がどうとか、梯子を守る魔物の情報とかを聞き出す気だろう。

>「あなたがた魔族は、神の寵愛を欲しているのですか?」

だがマグリットの問いは意外なほど大したことのない質問だった。
それゆえにキュベレーの口は淀みなく動いてしまう。

「神の寵愛を……?それは魔族によりけりですわ。私は神に愛されたいとかじゃなくて……。
 未だ超常の存在に甘え贔屓され世界の中心にいる……人間という種族が好きじゃないだけですわ」

教会が何を教えているのかなんてキュベレーの知る所ではない。
だが、魔族とて神の創った存在。彼らとて『魔法』を使う以上、超常的存在への信仰心はある。
といっても、彼らが信仰するのは神から堕ちた悪魔や暗黒神かも知れないが……。

神とは決して一体だけではない。
教会が一神教なのか、多神教なのかこれもキュベレーの知る所ではない。
だが『神に敵対すること』と『神を信奉すること』は必ずしも矛盾しないのだ。
教会の奉じる神に敵対した過去があるだけで、魔族は魔族なりに神を信仰している……のかもしれない。

「多くの人間がそうであるように、魔族も神は魔法のパワーソース程度の認識ですわ。
 でも1000歳以上の魔族は神々に何か思うところがあるかもしれませんわね。
 まぁピッチピチの220歳である私には関係のないことですけれど……」

それっきりキュベレーは幻覚に対して口を開かなくなってしまった。
毒に耐性をもつことから、幻覚物質も持ち前の耐性で落ち着きを見せ始めたのだ。
いずれマグリットの猛毒も自力で解毒するはずだ。
0341レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:29:13.10ID:uV+u8Fb8
レインに肩を貸したまま、仮面の騎士はキュベレーを一瞥する。
魔蜂の女王キュベレーはコメディ染みてはいたが強敵だった。
結果を見ればレインは毒に侵され、クロムは片足を失ってしまったのだ。

「……クロム、吹き飛んだ足を見せてくれ。
 私の上位回復魔法で欠損自体は治せるはずだ」

レインを地面に座らせると、仮面の騎士はクロムの患部を診た。
仮面の騎士が止血した足の修復を開始すると、足が温かな光に包まれる。
すると30分程度でクロムの欠損した足は以前と寸分違わず復活してしまった。

「少々リハビリを要するが、君ならすぐ前と変わらず歩けるようになる。
 森を抜ける頃にはきっと完治しているだろう。全く、君の頑丈さには驚かされる」

仮面の騎士がどこまで気付いているのか、レインも分からないが……。
そりゃ頑丈だろう。だってクロムは人間じゃない。しかもそれを隠している。
仲間の隠し事を無理に暴くような趣味はないので黙ってはいるが……。

「完治ついでに毒消し草……持ってない?実はそれを当て込んで無理をしたんだ。
 クロムって意外と準備いいからさ。薬草とかもよく持ち歩いてるじゃないか?」

クロムの怪我が治ったところでレインは話を切り出した。
マグリットの毒は抗体があるので問題ないが、キュベレーの毒魔法の抗体は持ってない。
毒に蝕まれたまま森を抜けるのはさしものレインも不可能だ。

「ちょい待ち、聞き捨てなりませんわ。森を抜けるですって……なぜ私が降参した前提で話が進んでますの。
 まだ『参った』は言ってませんわ!たとえ私を倒しても第二第三のデスホーネットが――」

レインは無言で背負っていた紅炎の剣を引き抜こうとすると、
キュベレーは凄まじい勢いで命乞いを始めた。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいまし!参った!参りました!参りましたわ!
 でも貴方達の脅しに従うなんて魔王様への背信行為ですわ!いずれにしても私の身は危ないまま……!
 女神に選ばれし勇者ならきっと慈悲の心をお持ちですわよね……!?」

ちょっと呆れた顔をしながら、レインは大剣を背に収めた。

「俺達にどうしてほしいんだ。言っておくけど条件次第だよ……」

「この場で見逃すとか、そんな中途半端な真似は止めて欲しいですわ!
 傷の手当て!今後の身の安全の保障!私の居住地の確保などなど!!
 上司や魔王様を裏切るのですから、きちんと約束してくれないと協力はできませんのよ!」
0342レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:32:35.28ID:uV+u8Fb8
こっちだって今見逃しても後から奇襲される可能性がある。
森を抜けるまではキュベレーを生かしたまま連行する必要があるとは思っていた。
だが、その後の身の安全まで約束するというのは考えてなかった。

厚かましい気もしたが……魔王軍にとって降伏は背信行為に等しいらしい。
身の安全を保障してほしいと思うのは当然なのだろう。

「うーん……君がもう誰も傷つけないって誓うなら……。
 俺達……"召喚の勇者"パーティーとしてはもう手を出さないと約束するけれど」

「傷つけませんわ!逆にめっちゃ守りますわ!
 ……けれど?けれど何ですの?」

「治療はともかく、棲家の確保まではどうしようかな……」

レインは頭を掻きながらそう言った。棲家は……現状この森が第一候補だろう。
いちいち移動の手間をかけないで済むし、並大抵の魔物では近づくこともできない場所だ。
しかしここはドワーフの土地である。元は封印の地に指定されている踏み入れてはならない領域。
どう考えてもレインの一存でどうにかなる問題じゃない。

「ごめんなさい、ドルヴェイクさん!お願いします!
 この森をキュベレーの棲家として貸してあげられませんか!?」

だからドルヴェイクに手を合わせて頭を下げた。
彼女の棲家に関しては王族でもある彼に頼むしかない。
ドルヴェイクは髭を触りながら少々考え込んで、口を開いた。

「こちらに危害を加えず、魔王軍と手を切るというなら儂は構わんよ。
 勇者が無害だと判断して生かしたと報告すればとりあえずゴリ押せると思うが……。
 魔蜂の女王よ、その後の事はお主自身の手で『自分は無害』だと証明する必要があるぞ」

「もう悪いことはしませんわ!配下の魔物には手を出させませんし、デスホーネットは昆虫系ですから!
 花の蜜で十分生きていけますもの!あとあとえーと……そう!蜂蜜!蜂蜜とか贈りますわ!
 『魔蜂印の自家製はちみつ』といえば魔族界隈では天下一品と評判ですのよ!!」

食い気味でドルヴェイクに這い寄り、キュベレーは猛然と言葉を紡いだ。

「ま、まぁ……たぶん大丈夫じゃろう。王族として、我々メガリス地下王国の者が手を出すことはないと約束しよう。
 元よりこの森は封印の地じゃ。誰かが足を踏み入れることも滅多にないし、トバルカイン王も頷いてくれるはず。
 治療に関しては儂ではどうすることもできん。仮面の騎士に頼んでもらいたい……儂からは以上じゃ」
0343レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:34:56.71ID:uV+u8Fb8
なりゆきを見守っていた仮面の騎士が口を開いた。

「傷口は塞ぐが……斬られた羽根の復活はしばらく待ってもらおう。
 君はいわば捕虜だ。まだ信頼を勝ち取ったわけではない。
 悪いが私達が帰ってくるまで我慢してもらうぞ」

「構いませんわ。傷さえ塞いでくれれば死にはしませんもの。
 おーっほっほっほ!話が纏まったなら早速行きましょうか!
 『宇宙の梯子』へはこっちが近道ですのよ!」

キュベレーを解毒して話が纏まると(なぜか)彼女の仕切りで森の奥へ進む。
そして無事に森を抜けた先。一行はようやく辿り着いた。
天高くまで聳える巨大な塔。暗い星の海まで続く禁断の場所へと。

今までは森の木々に隠れてその全容は分からなかったが、今ならはっきり理解できる。
天を衝かんばかりの規格外のスケールを誇る、この施設の威容が。

「ここが……『宇宙(そら)の梯子』……」

ここまで来るのにずいぶん時間がかかった。万感の想いが自然と言葉になる。
レインが入り口らしき扉まで近付くと、キュベレーが「ああっ」とでかい声を出した。

「う、迂闊に近づくのは止めなさいな!危険ですわ!
 中はシェーンバイン様配下のドラゴン軍団が待ち構えていますのよ!」

「……それぐらい分かってるよ。でも『宇宙の梯子』に裏門なんてない。
 怖がっていたって仕方ないよ……正面突破以外に道はないんだ」

「いや。竜の群れと真正面から戦うのは危険だ。
 キュベレーと戦った時以上に我々全員が疲弊する恐れがある。
 相応の策が必要だが……残念なことにドラゴンの弱点は無いと言っていい」

仮面の騎士はすかさずそう言った。
確かに何か名案があればそれに越した事はない。
だがそんな策少なくともレインには思い浮かばなかった。
0344レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:36:31.67ID:uV+u8Fb8
だから、と仮面の騎士は話を続ける。

「……一人、足止めがいるな。
 誰かを囮にしている間に竜の軍団を突破するしかない」

「……そんな!出来ませんよそんなこと!」

もちろんレインは反対した。
そんな非道な真似できるはずがないと。足止め役は確実に死んでしまう。
マグリットの幻覚物質あたりで何とかできないかと思う。
だが……ワイバーンには通用したが他の竜にも通じるかなんて分からない。

もし幻覚に対して耐性があったらどうする?はなから効き目が薄かったら?
いやよしんば効いたとしても利口な個体はそれが幻覚だとすぐ気づく。
そうなったら一巻の終わりだ。きっと手当たり次第に攻撃してきてかえって手がつけられない。

「問題ない。私が足止めを引き受ける。
 君達は私が囮になっている間に最上階へ行き……シェーンバインを倒すんだ。
 ……私の残り時間はもう少ない。もう足止めぐらいの役しか出来ないんだ」

「……ならせめて約束してください。必ず竜を倒して最上階へ来るって。でないと同意できません」

仮面の騎士は苦笑して頷いた。

「……分かった。約束しよう。必ず竜の群れを片付けて合流すると」

「話は纏まったようじゃな。ここから先共に行けぬのが無念じゃ。
 絶対に死んではならぬ……必ず勝って生きるのじゃぞ。
 お主達にはトロンハイムの案内もろくにしてないからのう」

「はい。必ず風の大幹部を倒して帰ってきます!」

レインは快活に笑って、ドルヴェイク達に親指を立てる。
そして厳かに開かれていく塔の扉の中へと"召喚の勇者"一行は消えていった。
0345レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:37:59.46ID:uV+u8Fb8
『宇宙の梯子』の中は広い空間になっていた。
中央には一本の透明の柱が立っており、これまた扉がある。
おそらくあれが昇降機になっているのだろう。

「静かだね……不気味なくらいだ」

レインは辺りを見回しながら、背中の『紅炎の剣』の柄を握りしめる。
敵は見当たらないが警戒は解いていない。ここはすでに魔王軍の腹の中なのだ。

「……飛竜が来るっ!?」

レインは己がいかに愚鈍だったかを感じずにいられなかった。
遥か上から何かが落ちてくる。正確な数は把握できない。とにかくたくさんだ。
『リントヴルム』と呼ばれる飛竜の一種だ。それも大量に上から降ってくる。

「な、なんだあの竜は……!?」

そして最後に一際巨大な灰色の竜が降り立った。
先程降ってきたリントヴルムの体躯がまるで子供のように見えるほどの威容。
魔物の種類はある程度把握している方だが、あの竜は見たことも聞いたこともない。

「……邪竜ジャバウォックか。私も見るのははじめてだが」

仮面の騎士の呟きを聞いて、レインは目を剥いた。
――ジャバウォック!サマリア王国では情報が少なく『正体不明の怪物』とされている魔物だ。
まさかドラゴンの一種だったとは。あいつは明らかに格が違う。
リントヴルムよりも遥かに巨大で強靭だ。

仮面の騎士は静かに剣を抜くと、レイン達を一瞥した。
「早く先へ行け」と。そう言っているのだ。
竜の群れは待ってなどくれず、構わず口部に火炎を灯し、一斉に吐き出した。
特技であるドラゴンブレスだ。灼熱が一同に容赦なく迫る。

「……魔祓い、太陽の下賜、月の豊穣、女神の盾よここに」

仮面の騎士は詠唱し、左手を前に突き出すと光の盾が展開した。
出現したのは光属性の防御魔法『セイントイージス』だ。
そんじょそこらの物理・魔法では決して破れない上位魔法である。
0346レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:39:22.70ID:uV+u8Fb8
竜の吐息は全て光の盾に弾かれて、レイン達は難を逃れる。
しかし込めた魔力が少なかったのだろう。光の盾に少しずつ罅が入っていく。
長くは持たない。迷っている暇なんかなかった。

「今しかない。進め、"召喚の勇者"一行よ!」

「……すみません師匠!ここは任せますっ!」

竜の群れが防御魔法に気を取られている今が好機だ。
敵は仮面の騎士の『セイントイージス』を破ることに夢中になっている。
レインは隙を見計らって光の盾から飛び出すと、中央の柱目指して一気に駆けた。
気づいた邪竜ジャバウォックが火炎をこちらへ向けようとするが――。

「――女神の護符、信奉者、星々よ魔を封じる鉄窓となれッ!」

すかさず六角柱の拘束結界に閉じ込められてしまう。だが破られるのは時間の問題。
レインは扉の横にあるスイッチを押して、雪崩れ込むように昇降機の中へと入る。
端末に触れると魔法陣が浮かび、どの階へ移動するかを尋ねられた。

「え、えぇと……最上階!とにかく最上階だっ!」

レインは慌てて魔法陣を操作して、人工衛星へ続く最上階を選択すると、
白銀の扉が閉まり始め、ゆっくりと仮面の騎士の姿が見えなくなっていく。
そして扉が完全に閉まると昇降機が上昇をはじめた。

息もつかせぬ展開にレインはふうと息を吐いて、しばらく黙り込んでいた。
不思議なことに緊張はしていなかった。大幹部と戦うのは二度目というのもあるだろう。
敢えていえば、仮面の騎士の安否だけが心配だ。最強の初代勇者といえど万全ではない状態。
あの竜の群れを本当に片付けて加勢に来てくれるのだろうか?

「……三人だけになったね」

レインは振り返って、クロムとマグリットにそう言った。
別に深い意味なんてない。ただ二人に話しかけられればそれで良かった。
昇降機はただ静かに上を目指して昇っていく。
透明の昇降機が映すのは頑丈な白銀の壁だけだった。
0347レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:41:08.24ID:uV+u8Fb8
「俺達だけなんて、随分久しぶりかもしれないね。
 今まではほら……ドルヴェイクさんや師匠がいたから」

この時を待っていた。
この戦いのために、レインは仮面の騎士と修行という準備をしていたのだ。
完璧には程遠いかもしれない。だが、勝つ見込みは十分あるとレインは思っている。

「俺はこのままで戦うよ。半竜とはいえ風属性の相手だからね。
 炎属性の装備で挑んだ方が二人のサポートもしやすいはずだ」

『風』は『炎』に弱い。
今装備している紅炎の剣士で挑んだ方が有利との判断だ。
そして風の大幹部について忘れてはいけない点もおさらいする。

・風魔法の使い手である魔法剣士タイプ
・大幹部いちのスピードを誇り高速戦闘ができる
・高速で接近してから回避不能な範囲攻撃を行うのが基本戦法
・竜鱗を備えており、防御力も高い。並大抵の武器じゃ傷つかない
・弱点は魔族の角。折れば魔力を制御できなくなり魔法が使用不能になる

「後、まだ未完成だけど俺にも秘策の『奥義』が――……」

その時だ。
昇降機は白銀の壁を抜けたらしい。周囲の景色が変わると透明の壁は成層圏を映し出した。
眼下には雲と青い海が広がっており、世界(アースギア)が球面であることをまざまざと見せつけられた。

「……綺麗だ」

遥か地上――アースギアという一個の星を前にしてレインはただ見惚れていた。
サマリア王国にいる頃にはこんな所まで来るとは思いもしなかった。
二人と出会わなければきっとここまで来れなかっただろう。
0348レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:43:40.77ID:uV+u8Fb8
そして、ある時から昇降機内は無重力状態となり、身体がふわっと浮くのを感じた。
独特な感覚に驚いたが、恐らく人工衛星の中で戦闘になってもこの状態は続くだろう。

「二人とも」

慣れない無重力の感覚に戸惑いながら、レインは緩やかに床に着地する。
やがて昇降機の上昇が停止すると扉が厳かに左右に開いた。
その先には人工衛星『ストラトゥール』への通路が続いている。

「必ず……風の大幹部に勝とう」

前を向いたレインの表情は、戦いに赴く決然としたものへと変わっていた。
先へ進むと、一行を待っていたのは人工衛星のコントロールルームだ。
天井が半球状になっており、部屋の中央には玉座のような椅子がひとつ置いてある。
その椅子には帽子を目深に被った、細身の男が足を組んで座っていた。

「侵入者か。監視水晶でずっと覗いてたが……待ちくたびれたよ。
 ここじゃあ風の声も聞こえなくてな。ずっと退屈してたんだ」

椅子から飛び降りると、男は腰に帯びた剣に触れながら話しかけてきた。
彼こそが風の大幹部。"風月飛竜"の異名をもつ魔族・シェーンバインである。

「風の声か……二人とも、あれはただのポエムじゃない。
 『ウェザーリーディング』っていう気象を探知できる奴だけの感覚能力だ」

仮面の騎士から教えてもらった情報を話す。
本来は大自然に宿る精霊達の声を聞き、自在に言葉を交わし、天候をも動かす能力だったそうだ。
だが、神々が去り多くの自然が神性を失ったこの世界においてその能力は無意味となった。
ゆえに、今のアースギアに適応した結果生まれたのがシェーンバインの気象探知能力……らしい。

「よくご存知で。ま……空より遥か上の宇宙じゃ意味無いけどな。
 お前らが『仮面の騎士』の仲間ってのは分かるんだが……何者なんだ?死ぬ前に教えておいてくれ。
 魔族の中には脳ミソから情報を抽出できる奴もいるんだが、わざわざ仕事を投げるのも億劫なんだよ」

背中から紅炎の剣を引き抜いて、レインは啖呵を切った。

「俺達は……"召喚の勇者"パーティーだ!
 これ以上サウスマナの人々を苦しめさせはしない!覚悟しろっ!!」
0349レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:47:08.85ID:uV+u8Fb8
シェーンバインは帽子を軽く持ち上げて、その双眸を三人に向ける。
どこかで聞いたことのある名。たしか"水天聖蛇"が始末すると言っていたはずだ。

「あ〜。お前達か?サティエンドラが言ってたのは。記憶に覚えがあるぞ。
 ということはラングミュアは始末に失敗したのか……あいつは部下に任せすぎだな」

溜息をひとつ吐くと、一人一人を詳しく精査するように見つめる。
一人は完全に人間。一人は人外。だが、魔族に近しいものも感じる。
自分の部下にはいないが、たしか魔族の中には人間を魔族にして潜入工作を行わせる者がいた。
『魔人』などと呼ばれるタイプの存在だ。

シェーンバインはどうしようか少し考えた。
『魔人』に関しては潜入工作という任務がある手前、公でその存在を口にしてはならない。
せっかく人間社会に馴染めるよう調整してあるのに明るみに出てしまったら元も子もないからだ。
だからこの場で殲滅対象から外したり、命令して魔王軍との繋がりを証明するのも良くない。

(あの『仮面の騎士』と同行できてたってのは大したモンだがな。
 仕事してる奴には悪いがこの場で手加減は出来ないな……)

魔王からは存在の秘匿が第一で、それが守られるならあとの裁量は任せると言われている。
だから殺してしまっても問題ない。『魔人』の存在がバレさえしなければいいのだ。
ただし『仮面の騎士』と同行していた以上、重要な情報を入手している可能性もある。

(……頭だけは残してやるか)

そして、最後の一人。貝にも似たメイスを持った大女。
上手く隠しているが十中八九獣人だろう。そんな気配がする。
不思議なのは赤の他人の大女に同族にも似た懐かしい空気を感じたことだ。

「……お前、ちょっと面白いな。初対面なのに何だか懐かしい気配がする。
 『蜃』ってヤツなのかな。あたりだろ。だとしたらお前……何だか繋がってきたぞ。
 そうか、だからサティエンドラの奴……あの時『掌』を失ってたのか?」

一人合点が言ったように頷く姿を見て、レインの頬に一筋の冷や汗が伝った。
敵の眼前で剣も抜かずに相対しているのに全く隙が見えない。
剃刀にも似た薄く鋭い、斬るような殺気がコントロールルームを覆っている。
それがレインに先手を躊躇わせていた――迂闊に攻撃を仕掛けても待っているのは死だ。
0350レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:51:08.70ID:uV+u8Fb8
「さて……そろそろ始めるとするか?"召喚の勇者"一行。
 お前らはドワーフにでも頼まれて来たんだろうが……運が無かったな。
 勇者ってのは難儀な職業だ。よりにもよって罪深い連中に蜘蛛の糸を垂らしちまった」

「罪深い……?そんなこと魔王軍に言われたくない!
 ドルヴェイクさんやドワーフの人達が何をしたっていうんだ!」

「ま……お前の知り合いは良い奴なのかもな。だがドワーフってのは案外強欲で拝金主義なんだ。
 カネが貰えりゃ何でもするぜ。だから穴を掘って金銀や宝石を探しては私腹を肥やすのさ。
 『技術の行き先』なんてまるで考えてない。こんな施設まで平気で造っちまう……」

触れていた腰の剣をゆらりと抜き放つと、その細身の長剣を三人に見せつける。

「こいつは風の魔剣『ヴァルプリス』。1000年以上前にドワーフが生み出し魔王軍に献上された一振りだ。
 お前が持ってるその大剣と同じ……神鉄オリハルコンで打たれた史上最強の魔法武器さ」

それは昔のドワーフが金さえ貰えれば何でもするという、他ならぬ証拠であった。
対価さえあれば神々だろうが魔族だろうが相手を選ばない。その対価に見合ったものを作る。
この『宇宙の梯子』だって、かつて人間による「サウスマナ全体を守る」という名目の建造計画に従ったものだ。
無論、その対価である金は人間達から支払われた。だから自分たちの土地にこんなものを建てたのだ。

「……嘘だ。そんな剣の名前、はじめて聞いた」

「俺はそう断言するぜ。今から……それを教えてやる」

瞬間、コントロールルーム全体を覆っていた殺気が大きく揺らめいた。
殺気を放っていたシェーンバイン本人が動いたのだ。
目では捉えきれない。だが、殺気と魔力だけは鋭敏に探知できている。

レインは仮面の騎士との修行で第六感や魔力探知を磨き抜き、以前より高速戦闘に対処できるようになっている。
『清冽の槍術士』にならなくとも、相手の攻撃に合わせて避けられるしカウンターをぶち当てられる!

「――そこだっ!!」

レインは接近するシェーンバインに向かって紅炎の剣を振り抜く。
真一文字にフルンスイングした大剣は敵の姿を真っ二つにした。
だがその姿はまやかしのように消え去り、結果として紅炎の剣は空を切っていた。
0351レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:53:46.78ID:uV+u8Fb8
外した?そんな訳はない。確かに魔力源は『そこ』にあったはずだ。
直後、脇腹に痛みを感じて片足を曲げ、大剣を支えにして倒れ込むのを防いだ。
手で腹を押さえると、出血している。目にも留まらぬ速さでレインは切り裂かれていたのだ。

「残像だ。と、いっても残像に魔力を込めた特製の囮(デコイ)だがな。
 どうせ仮面の騎士から俺の手の内を教わっているだろうと思ったんだ。
 お前みたいに目の悪い奴には結構有効だぜ。目ってのは鍛えようが無いからな」

敵の追撃がくる。振り下ろされた超高速の斬撃を、今度は紅炎の剣で受け止める。
それを受け止めきれたのは、レインが仮面の騎士と何度も高速戦闘の手合わせをしていたおかげだった。
勘としか言いようがない。このスピードならこのタイミングで防げる、というのを肌感で理解していた。

シェーンバインは史上最強と嘯いていたが、向こうは『風属性の剣』でこちらは『炎属性の剣』だ。
素材も同じなら属性の相性的にはこちらが有利。豪腕の籠手の力も合わさって押し返されることはないはず。

「――さぁて、盛り上げていこうかッ!!」

瞬間。耳障りな高音が鳴り響いたかと思うと、受け止めた紅炎の剣の刀身にヴァルプリスの刃が食い込んだ。
単純に剣が風を纏ったとか、そんな類の攻撃ならこの現象は発生しない。
『高速振動』している。風の力によって高周波振動する刀身が切れ味を増幅させているのだ。
これが史上最強と豪語した理由。ヴァルプリスはただの剣じゃない。全てを切り裂く高周波ブレードなのだ。

「――スヴァローグッ!!」

だがレインも大人しく叩き切られるほど愚かではなかった。
すかさず大剣に魔力を込めると、紅炎の剣の刀身が赤熱して赤く染まる。
紅炎の剣は熱を帯びることでその切れ味を増す魔法武器でもある。
レインは限界まで剣の温度を上げることで、ヴァルプリスの刀身を溶断する気なのだ。

「お前、本当に勇者か?まるで『光の波動』を感じないな」

大剣の中腹あたりで風の魔剣は止まっている。風属性と炎属性の力が拮抗しているためだろう。
基本的に風は炎に対して不利に働くので、それを超えるには相応の魔力が必要だ。
だが、大幹部であるシェーンバインの魔力量ならそんなことは造作もない。
問題はこのせめぎ合いによって大きく隙ができてしまうこと。

だからシェーンバインはすぐに見切りをつけて蹴りを打ち込んだ。
ボール球のように面白いほど吹っ飛ぶとレインは壁際まで転がっていく。
魔族ゆえか半竜ゆえか。細身の身体とは思えない膂力だ。
0352レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/08(日) 20:57:05.70ID:uV+u8Fb8
「っと――次はこいつは贈呈するよ。せいぜい楽しんでくれ」

クロムとマグリットに視線を送ると、シェーンバインの左手につむじ風が浮かぶ。
するとその小さな旋風は瞬く間に大竜巻になって周囲を吹きつける。
上位風魔法『インフィニティストーム』だ。台風と呼ぶべき巨大な風を魔力供給が続く限り生み出す。
壁際に吹き飛んだレインは脇腹を押さえたまま、吹き飛ばされないように剣を床に対して垂直に立てて防御する。

(俺達が戦っているのは天災なのか……?魔法の規模が違い過ぎる!)

レインが吹き飛ばずに済んだのは纏っている装備が『紅炎の剣士』だったおかげだ。
風属性の力を半減する能力をもつ装備のおかげでなんとか生きながらえている。

シェーンバインが仕掛けたのはそれだけじゃない。
しばらくすると、『何か』がレインの身体を浅く切り裂いた。
腕を。足を。胸を。チッ、チッ、と音を立てて何かがやって来る。

これもまた上位風魔法。無数の見えない風の刃を放つ『ミストラルエッジ』だ。
それがコントロールルームを覆う台風に混じって襲い掛かってきている。
今の装備でなければたちどころに手足や胴は切断されていただろう。

(『紅炎の剣士』でなければあの世行きだ……!クロムとマグリットは無事なのか!?)

注意深くクロムとマグリットの気配を探る。
死んではいないと思うがダメージの程度までは分からない。
一方、台風の目にいるシェーンバインは当然ながら無傷。
しかも風の防御魔法『ウィンドシェル』を発動して防御を重ねる徹底ぶりだ。

この魔法は自分の周りに気流を発生させ、飛び道具の軌道を逸らす目的で使うものだ。
だが膨大な魔力を持つ彼なら炎もある程度防げる。
さらに、意図はしていなかったがマグリットの幻覚物質や毒の散布も防御できる。

不思議なことに、これ程の規模の魔法が内部で発生しているのにコントロールルームには何の影響もなかった。
何せ、この部屋は衛星砲をはじめとする施設自体を制御する重要な場所だ。それゆえに頑丈に造られている。
その一切がミスリルでできており、魔法を通さない特殊なコーティングが施されているのだ。
だから戦闘の影響はほとんど無いと言っていい。

話を戻そう。シェーンバインはサティエンドラと違ってバトルジャンキーじゃない。
余裕があるように見えるものの、ここまでやってきた敵として油断は無かった。
だから警戒している。勇者の力を。魔人の抵抗を。蜃の獣人の能力を。


【『宇宙の梯子』に到着。コントロールルームにて風の大幹部と戦闘開始】
【レイン脇腹に負傷。蹴っ飛ばされて部屋の壁際でなんとか魔法を凌ごうとしています】
0353クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/08/15(日) 23:08:10.51ID:P/piySaZ
突然のデスホーネットの反逆に、動揺を隠せない様子のキュベレー。
そんな彼女にマグリットが言う。既にこの戦場は自身の毒で満たされているのだと。
機動力を失い、部下を失い、終いには戦闘力も気力も完全に失ったキュベレーに、もはや剣を突き付ける意味はない。
クロムは勝負が決した事を確信して、小さく息を吐きながら刃を鞘に納めた。

「あっ、痛たたたたっ……! おいマグリット、きつく縛り過ぎ。……っつーか、止血の必要ねーぜ、多分な」

そして傍らで、傷口の止血をしているマグリットに言うと、再び戦場に戻ってきた仮面の騎士と視線を向けた。
彼は期待していた……というよりも、予想していたのである。彼なら上位の回復魔法も修めているだろうと。

>「……クロム、吹き飛んだ足を見せてくれ。
> 私の上位回復魔法で欠損自体は治せるはずだ」

「あんたならそう言うと思ってたよ。ほら、早いとこ治してくれや。脚が一本無ぇってのは見た目以上にきついんでな」

仮面の騎士に突き出した先の無い右脚が、先のある右脚へと元通りに戻るまで、そう時間は掛からなかった。

>「少々リハビリを要するが、君ならすぐ前と変わらず歩けるようになる。
> 森を抜ける頃にはきっと完治しているだろう。全く、君の頑丈さには驚かされる」

「そりゃそうさ。俺の体は“ヤワに出来てない”んでね。そこら辺の冒険者と一緒にされちゃ困るんだよ」

>「完治ついでに毒消し草……持ってない?実はそれを当て込んで無理をしたんだ。
> クロムって意外と準備いいからさ。薬草とかもよく持ち歩いてるじゃないか?」

「あ? 毒消し草? お前も細かい事を良く覚えてんな。俺はほとんど忘れかけてたが……確かこの中に」

クロムがしばし懐をまさぐり、やがて「あった」と取り出した毒消し草。
しかし、その見た目はかつて毒消し草だったものでしかなかった。
道具袋ではなく、懐に入れたまま旅をしていた為に、これまでの戦いの汗と血に塗れ切ってグシャグシャになっていたのである。
しかし、クロムはそれを構わずレインに手渡した。

「……なんか食ったら別の毒に侵されそうな気がするが……まぁ、何とかなるだろ、多分。
 ていうか何かあっても毒のスペシャリストたるマグリットさん辺りが何とかしてくれるから大丈夫だろ、多分な」

何とかなる、大丈夫──呟かれたそれはまるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
0354クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/08/15(日) 23:10:26.27ID:P/piySaZ
 
────。

その後、改心する事を条件に森を住処として与えられることが決まったキュベレーの案内で、一行は近道を通って『宇宙の梯子』へ。
そこではキュベレーやドルヴェイクとは入口で、敵の足止めを買って出た仮面の騎士とも塔の内部で一旦別れる事になった。
つまり、最上階に居るであろうボスにはレイン、クロム、マグリットのパーティ初期メンバーで対処することが事実上決定したのだ。

>「……三人だけになったね」

「まぁ……また直ぐに四人に戻るかもしれねーが、それまでに俺達が全滅してたら全てがパァってわけだ。
 如何な仮面の騎士でもたった一人で、しかも消耗してたら尻尾を巻いて退散しなきゃいけねーんだろうし」

最上階へ向かう昇降機の中で、腕を組んで壁に背をもたれかけながら、瞳に眼下のアースギアを映し出すクロム。
だが、その目が今見ていたのは美しい景色などではなく、サティエンドラに苦戦したあの時の記憶であった。

(魔人ってのは改めて良くできてると思うぜ。人間を超えた力を手に入れられるが、それ以上の存在にはなれないんだからな。
 少なくとも自力では、決して。……例え反逆しても魔族の支配体制を揺るがす存在になれないなら、そりゃ放任が基本だわな)

「──おっ」

不意にクロムの思考がストップする。
ふわりと、いきなり体が宙に浮いたからである。

「あぁ……昔どっかで聞いたな。星から離れると無重力という環境に……ってことはここが宇宙空間か……」

上昇を続けていた昇降機が停止し、扉が左右に開いていく。
そうしてやがて露になったのは人工衛星に続く前進あるのみの一本道。

(確か宇宙空間には空気もないんだったか……。この特殊過ぎる環境が果たして吉と出るか凶と出るか……)

────。

一本道を進むと、やがて天井がドーム状に膨らんだ部屋に辿り着いた。
辺りを見回すと、周囲の壁が見覚えのある輝きとツヤに包まれていた。
……どうやらこの部屋全体が希少金属のミスリルで覆われているらしい。

クロムは思わず何とも言えない溜息をつく。
いざとなれば壁を破壊して敵を宇宙空間に放逐する、などという無茶な作戦もぼんやり視野に入れていた彼であるが、
一方で安全性が確保されているという事実に安堵する自分もまたいたのである。
壁が脆ければ、それだけ宇宙に放逐されるリスクがパーティにも降り掛かるのだから。

「……!」

ふと目線を部屋の中央に向ければ、厳めしい椅子に腰を下ろした細身の男が、黙ってこちらを見つめていた。
帽子を深く被っているので正体は判然としない、が……クロムには今更糞真面目に問いただす気もなかった。
状況から考えて相手が敵のボスであろうことは誰の目にも明らかだったからである。

>「あ〜。お前達か?サティエンドラが言ってたのは。記憶に覚えがあるぞ。
> ということはラングミュアは始末に失敗したのか……あいつは部下に任せすぎだな」

椅子から離れて、腰に帯びた剣をチャカ、チャカと揺らす敵ボス・シェーンバイン。
その剣を一瞬、凝視して、クロムはまたも溜息をつく。
事前に情報を得ていたから敵が魔法剣士タイプである事は知っていたが、だから戦りやすい等ということは決してない。
魔法剣士とは読んで字の如く、魔法が使える上に剣士の身体能力を持つ一種特別な存在である。
そのレベルに関係なく、魔法剣士というだけで通常戦りにくいものなのだ。攻撃・防御の両面で常に豊富な選択肢を持つのだから。

(……首を護る代わりに、手足の二、三本は捨てる覚悟が必要になる、か)

ましてやシナムをも上回る力量の持ち主であることは確実な相手である。
これでは膂力、防御、魔法……そのどれかに比類なき力を誇る特化型のボスの方がよっぽどやり易い。
0355クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/08/15(日) 23:25:53.06ID:P/piySaZ
>「さて……そろそろ始めるとするか?"召喚の勇者"一行。
> お前らはドワーフにでも頼まれて来たんだろうが……運が無かったな。
> 勇者ってのは難儀な職業だ。よりにもよって罪深い連中に蜘蛛の糸を垂らしちまった」

シェーンバインはそう言うと、すらぁっと腰の剣を引き抜いた。
鞘からこれまでにない鈍い光を放つ長剣が露になった途端、室内に充満したのは刃のような殺気。
それはあるいは本体・シェーンバインと、妖しくも苛烈な気配を纏う魔剣の相乗効果が生み出したものの一端かもしれなかった。
思わず全身の皮膚を削ぎ落される感覚を覚えるくらい、かつてないほど研ぎ澄まされたものだったのだから。

(殺気だけでも常人の精神を切り刻めそうだ。実際に矛を交えたら何が起きるのか、想像したくもねぇ──)

>「――そこだっ!!」

──などと思っている内に、いよいよ戦闘が開始された。
最初のターゲットに選ばれたのはレイン。正しく疾風の速さでシェーンバインが一気に間合いを詰めたのだ。
だが、仮面の騎士との模擬実戦、繰り返された修行の成果か、レインの迎撃速度はそれに負けていなかった。
攻撃を許すより先に、炎剣による薙ぎ払いを繰り出していたのである。

「っ!」

しかし、磨いた第六感によって高速戦闘に対処できるレインと異なり、魔族の五感を以って高速戦闘に対処できるクロムには見えていた。
シェーンバインが仕掛けた罠の存在を。
すなわち、レインが斬ったモノは『気当たり』と呼ばれる気配や魔力の運用によって巧みに作り出されたリアルな幻影であることを。
それを声に出さなかったのは、声に出してももはや無駄だったからだ。
次の瞬間には既に、レインは無防備な脇腹を一閃されていたのだから。

>「――さぁて、盛り上げていこうかッ!!」

『気当たり』は、使い手の技量によってはまるで本物と見分けがつかない程の視覚的錯覚効果をも齎す事がある。
クロムが見たところ、シェーンバインのそれは文句なしに達人の域に達したものだ。
厄介であるが、ある意味で最も厄介なのは何も敵の技量だけが厄介なのではないという事実であろう。
思った通りと言うべきか、彼の持つ魔剣には非常に強い厄介なクセがあったのだ。

──刃の高速振動。それにより、交錯させた相手の得物すらもぶった切れるというのである。
敵の剣閃さえも得物で受け止める事ができないのでは、白兵戦では技量云々の関係なしに不利は決定的となる。

>「っと――次はこいつは贈呈するよ。せいぜい楽しんでくれ」

レインにあっさり傷を負わせたところで、いよいよ竜の親玉がクロム、マグリットにも牙を?く。
魔法陣を浮かべた左手から放たれたのは、巨大な竜巻『インフィニティストーム』。上位魔法だ。

ここは無重力。踏み止まることはできない。
黙って突っ立っていれば体はいずれあっさりと宙に巻き上げられ枯葉の如く翻弄される事になるだろう。

(マグリットの事だ。既に毒を散布してるかもしれねぇが……奴に効く保証はねぇ。
 つーか、毒が効くのを待ってる余裕もこっちには無さそうだ。なら、いっそのこと──)

──次の瞬間、クロムは意を決して跳んだ。
飛ばされるのを待つのではなく、敢えて自ら風に任せて飛ばされることにしたのだ。受けから攻めに回る為に。

ここは開けた屋外ではない。密閉された室内なのだ。どんなに強い風も彼方まで飛ばすことはできない。必ず行き止まりがある。
その行き止まり、すなわちミスリル製の壁に打ち付けられる直前、クロムは体を反転させ──両足で着地。
すかさず壁を蹴って暴風の中へ矢のように突っ込む。
0356クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/08/15(日) 23:31:23.63ID:P/piySaZ
「ん? この風を突っ切って来るか。しかし、飛んで火に入る夏の虫──いや、風だけどな。そいつはちっと無謀だぜ?」

「うるせぇよ、反則技ばかり使いやがって!」

シェーンバインの至近に迫り、金棒を袈裟斬りの要領で思い切り振り下ろすが、あっさりと魔剣が受け止める。
まるで威力など感じてなどいないように、細身の体は何ら強張りを見せない。

「さっさと離れた方がいいぞ? それとも俺が早過ぎてできないか? そら、まずは金棒《こいつ》を潰してやるよ」

言うと、シェーンバインはフリーの左手で素早く金棒の頭を抑えて、ぐっと下に押し込み始めた。
金棒の下には高速振動する魔剣。宣言通り、このまま得物を切り落として潰そうというのだろう。
金棒を握る利き手に力を込めるも、ビクともしない。竜の力なのか、とにかく物凄い力で固定されている。

「ああ、そうかよ──」

クロムは左手を剣の柄に掛ける。この至近距離。逆手で抜刀し、一撃を見舞うチャンスと見たのだが──

「──両手が塞がっていても、脚があるんだぜ?」

「がっ……!?」

──未遂に終わる。
思わず苦悶の声が出るほどの鋭い痛み。左手首から発せられるかつてない鈍い音。
シェーンバインが繰り出した右の回し蹴りが、手首の骨をあっさり砕いたのだ。これでは抜刀できない。

「案外、反応が鈍いな? 躱せるかと思ったんだが。……その様子じゃ、“これ”も避けられそうにないな」

シェーンバインの口元が、僅かに弧を描く。

「ぐはぁぁああっ!!」

直後、それを合図に押し寄せ、クロムの全身を一気に滅多切りにしたのは無数の目には見えない刃だった。
上位魔法『ミストラルエッジ』である。
『反魔の装束』によって威力は大幅に殺されているが、一人の体をズタズタにする程度なら充分な数の刃が揃っていたのだ。
例え針に刺された程度の威力しかなくとも、その針に数千・数万と刺されれば膨大なダメージとなるのと同じだ。

「んん? お前、服に何か仕込んでるのか? やけにダメージが少ねぇな。普通なら全身バラバラの筈だが……。
 ま、結局は死ぬことになる運命に違いはないが──なっ!」

もう片方の脚で放った蹴りが、クロムの鳩尾に炸裂する。
ボギボギッ、とあばら骨の何本かが破裂するような悲鳴を挙げ、クロムは自らの後方に勢いよく吹っ飛ばされる。

「……ッ!!」

竜の親玉が放った蹴りの威力は凄まじかった。
クロムの体は硬いミスリルの壁をぶち抜き、更に奥の二枚目の壁をぶち抜き、三枚目の壁に叩きつけられたところでやっと止まった程だった。

「なんだ……結構呆気ないな。こんなもんなのか? ……まぁいいさ。俺はサティエンドラとは違う」

金棒の頭を切り落とし、残った部分をレインに投げつけて、シェーンバインはまるで独り言ちる様に言った。

「獅子は兎を狩るにも全力を出すという。お前らの力量なんざどうでもいい。一人ひとり、確実に仕留めてくぜ。全力でな」
0357クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/08/15(日) 23:34:36.55ID:P/piySaZ
 
────。

「げほっ……げほっ……!」

全身がかつてないダメージに悲鳴を挙げている。
動かせない事はないが、体のどこかを動かそうとするとその度に激痛が走る。というか、むせただけでもだ。

「こいつぁ……かなり骨をやられちまったな……。キュベレーの時みてーに欠損しなかっただけでもマシだが……」

壁に減り込んだ格好のまま、クロムはポケットから取り出した薬草を食べながら周囲を見回す。
恐らくここは人工衛星の制御室とは別の、何かの部屋であることは間違いない。
物置だろうか? 薄暗くてよく見えないが、何かが床のそこら中に沢山置いてあるようにも見える。
……いずれにしても魔物の部屋じゃなくて良かったと言ったところだろう。今の彼に、余計なバトルは致命的なのだから。

(体のダメージは薬草で多少は回復するが……実力の差は薬草ではどうにもならねぇ。俺の武器もあっさり潰されちまった。
 ……かといって、長々と考えてる時間もなさそうだぜ。このままじゃ仮面の騎士の加勢を待つ前にマジで全滅するかもしれねぇ)

何か、少しでも差を埋める策はないのだろうか?
思考を加速させるクロムの目線がふと、床に落ちる。
……瞬間、彼は思わず目を見張った。

暗闇に目が慣れて、床に無数に置いてあったものの正体がはっきりと見て取れたのである。その正体とは──

「なっ……こんなところに……宝箱、だとっ?」

【レインに毒消し草(だったもの?)を渡し、『宇宙の梯子』へ】
【シェーンバインと戦うも、左手首+あばら数本を折られ、全身を無数に切り裂かれる大ダメージを負って吹っ飛ばされる】
【鬼の金棒も破損する】
【現在地はコントロールルームの隣の隣にある沢山の宝箱で埋め尽くされた謎の部屋】
0358マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/08/21(土) 20:59:49.32ID:3jB9R51T
キュベレーとの戦いの終結後
レインはクロムの毒消しにより回復し、クロムは失った足を仮面の騎士の上級回復魔法により再生させた
無事に回復、なのだが、マグリットの心には暗く影が差していた

回復役として何の役にも立たなかった
その為に、仮面の騎士の有限な力を消耗させてしまったのだから
それは大きく響き、宇宙の梯子で顕現する事になる

>……私の残り時間はもう少ない。もう足止めぐらいの役しか出来ないんだ」

仮面の騎士のこの言葉
半神である仮面の騎士の存在は特殊であり、高エネルギー体そのものと言っていいだろう
存在するだけで力は消耗していき、そしてそれが回復する事はない
自分たちが死力を尽くしても勝てるかわからない魔族の大幹部を屠る力を、無駄に消耗させてしまったという事なのだから

沈痛な面持ちで頭を下げ、昇降機に乗り込むのであった


>「……三人だけになったね」

昇降機にて、決戦を前にレインが口を開く
どこまで続くともしれぬ上昇の果てに待ち構える戦いを前に、覚悟を決めているのだろう

>「まぁ……また直ぐに四人に戻るかもしれねーが、それまでに俺達が全滅してたら全てがパァってわけだ。

それにクロムも続く
そしてレインからこれから戦うシェーンバインの情報を整理する

魔族の大幹部という事は、精霊の森で戦った猛炎獅子サティエンドラと同格という事だ
あれだけの魔族とまともに正面切って戦う事を考えれば、その恐ろしさに身震いは禁じ得ない
だが、それでも立ち向かう覚悟を完了させている二人に、伝道師としてマグリットも言葉を紡がずにはいられなかった

「並べ立ててみると手強そうではありますが、角という弱点が分かっておりますし
それに、大幹部一のスピードを誇るという事は、この戦いに勝てばこの先、スピードで後れを取るという事は無くなるという事ですしね!
それに……」

ポジティブな言葉を並べ、にっこりと笑ったところでふわりと体が浮いた
クロムの言葉によると無重力になった、との事だがマグリットの理解に御及ぶところではない

「これは、海中にいるより体が軽く不思議な感覚ですね
地に足がついていないようでどうにも落ち着きませんし、こうしましょうか」

文字通り地の楔から解き放たれているわけだが、それが戦いにおいて何を意味するのか
急激な環境の変化に普段の動きができなくなることを恐れ、靴を脱ぐ
その足は人のものから貝の腹足に変化し床に吸着して安定を得るのであった
0359マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/08/21(土) 21:01:34.35ID:3jB9R51T
やがて起動エレベーターはその終着点に到達する

>「必ず……風の大幹部に勝とう」

「もちろんです、誰一人欠ける事なく!」
自分を鼓舞するかのように、レインの言葉に応えながら『そこ』へと足を踏み入れるのであった

人工衛星『ストラトゥール』

それは古に昔に付けられたこの衛星砲の名前であった
広がるのは阪急退場の天井と部屋の中央に玉座
そこに座る細身の男
言われずとも本能でわかる
サティエンドラとは別種の、しかし同等のプレッシャーを放つこの男こそ、魔族大幹部が一人、風月飛竜シェーンバインであると

部屋全体が薄膜のようなさっきに満ちる中、シェーンバインの一語一句、一挙手一投足に集中
こうして退治するだけでもゴリゴリと精神力を削られていくようだ

>「風の声か……二人とも、あれはただのポエムじゃない。
「そういう……散布型の攻撃はすぐに気づかれてしまいそうですね……」

小さく舌打ちしながらシェーンバインを見据えた
それは同時にシェーンバインがめぐらす視線を受ける事にもなる
そしてその視線はマグリットを正確に射貫くように、様々な情報をくみ取っていった

「これは、参りましたね
魔族特有の傲慢や油断が微塵もない……」

魔族は他種族を圧倒する膂力や魔力を持っているが故に、他者を軽んじ見下す傾向がある
それこそがつけ入る隙となるのだが、シェーンバインの冷静な分析能力や状況判断能力、そしてその立ち振る舞に隙を見出す事が出来ないでした
が、それと同時にマグリットの中に確信めいたものも生まれていた

しかしそうした睨み合いもつかの間の事
風の魔剣『ヴァルプリス』をぎらつかせながら、一言二言躱したのちに先端は開かれる

部屋全体を覆う殺気が揺らいだ瞬間、動いたことは感じ咄嗟に飛びのいたのだが、それは反射にしかすぎずどうしてそこに飛びのいたかの理由などなかった
なぜならばシェーンバインの動きをマグリットの目が捉えるられていなかったからだ
辛うじて見えたのは、レインが炎の剣を振るい、その後にわき腹を抑えながら片膝をつくさまであった

マグリットの全身に冷たい汗が噴き出る

油断していたわけではない
シェーンバインの一挙手一投足に注視していたはずだが、それでも見えなかった
レインがどうやって斬られたかすらもわかっていないのだ
もし標的が自分であれば、何もできずに死んでいた事実

足りない、全く持って足りない!
その気持ちがマグリットの全身に新しい目を生み出させた
複眼効果で動体視力を飛躍的に高め、シェーンバインの動きに対応できるようにしたのだ

その間にも戦局は進み、シェーンバインの追撃をレインが炎の大剣で受け止める
増やされた目はヴァルプリスが高速振動し、紅蓮の刀身に食い込んでいくのを見た
レインもまた刀身の温度を上げ相手の刀身を溶断するつもりだ

その鍔迫り合いにマグリットがシャコガイメイスを振るい割って入ろうとするのだが、シェーンバインの判断の方が早かった

>「っと――次はこいつは贈呈するよ。せいぜい楽しんでくれ」

素早くレインを蹴り飛ばし自由の身となったシェーンバイン、左手を差し出すと、その先に小さなつむじ風が発生
それは瞬く間に暴風となり、殴りかかろうとしていたマグリットを吹き飛ばした
0360マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/08/21(土) 21:04:15.83ID:3jB9R51T
吹き荒れる暴風にレインは剣を突き立てなんとか位置を確保し、クロムは風に乗り壁を蹴り、シェーンバインに金棒を振るう
更にはインフィニティストームの暴風の中には、もう一つの風の上位魔法、ミストラルエッジが仕込まれていた
見えない風の刃は容易く人体を切り刻む

そんな中でレインは何かが自分を包む感覚と共に、風が止み、傷ついたわき腹に暖かな光を感じるだろう

吹き飛ばされたマグリットがゲル状の水球を周囲に展開させた状態でレインを包み込んだのだ

「こちらは貝の獣人が住居につかっているクラゲの一部、しばし風を防ぐ事ができますので安心してください
クロムさんが時間を稼いでくれているうちに傷口を塞ぎますのでお待ちください」

レインの傷口に手を当て祈りを捧げると、暖かな癒しの光が灯る

マグリットは貝の獣人であり、放水能力がある
だがあくまで放水能力であり水を生み出したり操ったりできるわけではないのだ
故に何時も樽を背負い、そこに入れた水や聖水を放出していた
が、マリンベルトを出る際にシェーンバインが高速機動タイプである事を知り、樽の中身を変えておいたのだ

それが貝の獣人が住居として使っている群体巨大クラゲの一部
捕捉機関であり、粘着質なゲル状のものであった
群体クラゲとは、小さなクラゲが各所の部位を担当し一つの生命体を形成するものであり、すなわちマグリットの展開させた水球はクラゲの一部でありながら一個の独立した生物なのだ

高速機動する相手を捉えるのは困難だが、周囲に展開しておけば勝手に突っ込んできて絡めとれる、という目論見を持っていたが、それを達成するまで隠して置ける相手ではなかった
ミストラルエッジを防ぐために展開せざる得なかったのだった

レインの傷がふさがる頃に、クロムの戦いにも大きな動きがあった
クロムの振りう降ろした金棒をあっさりと受け止め、高速振動する魔剣でそれを切り落としにかかっていたのだ

質量的観点で見れば剣を金棒を受ける事はもちろん、切り落とす事もできるはずもない
しかしその魔剣はいともたやすくそれをやって見せる
甲高い音を響かせ切り落としていく様をマグリットは見ていた

「拙いですね、傷口はふさがりましたし、私も出ます
信じられないかもしれませんが、この状況だと私が一番よく戦えるでしょうから」

吹き荒れる暴風の中、マグリットは立ち上がり駆けだした
重力の楔から解かれ、身を翻弄するような激流に時に身を任せ、時に腹足で床に吸い付き、クロムを蹴り飛ばしたシェーンバインの前に立ちはだかった
そう、この状況は海流の激しい海中での戦いに酷似しているのだ

>「獅子は兎を狩るにも全力を出すという。お前らの力量なんざどうでもいい。一人ひとり、確実に仕留めてくぜ。全力でな」

「仕留めさせませんよ!まだお話したい事もありますのでね」

シャコガイメイスを大きく振りかぶり、突進するマグリット
しかし突進した分シェーンバインは下がり、勢いが衰えたところで剣を振るう
そんなやり取りが数回
技量では圧倒されながらもマグリットが戦えているのは、暴風の中でも変わらぬ身のこなしができる事と、身にまとったゲル状の水球にあった
その特性を瞬時に見抜いたシェーンバインは、まずは水球を削ぎ落していく攻撃にシフトしたからだった

「まったく、順番くらい待てないのかねえ」

呆れるように、それでも単なる作業のように水球を削ぐ落としていく剣を見ながら、マグリットが問いかける

「あなたはサティエンドラとは違う様子ですね
私は今まで魔族は神の敵対者、破壊の権化だと思っていました
しかし、これまでの戦い、そしてあなたを見て確信しました
魔族もまた一個の生命体であり、私たちと何ら変わりもない、と
ならばどうして魔族は多種族を駆逐し世界を崩壊させようというのですか?
支配が目的であるならば交渉の余地もあるのでは?」
0361マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/08/21(土) 21:07:00.34ID:3jB9R51T
勇者と魔族が殺し合うのは必然
魔族は神の、そして世界の敵対者であり、滅ぼすべき存在である

それはごく当たり前の事であり、疑う余地もない話
のはずであった
しかしキュベレーの降伏後の保身に走る様はどうだろうか?
神へのスタンスは?
渇望の根源は?
人間のそれと何の違いも見出す事ができなかったのだ

そして今対峙するシェーンバインを見て、この構図は完全に瓦解した

そうなるとこうして戦う意義すらもまた揺らいでくるのだから
だから、マグリットは魔族は何を思い侵攻を始めているのかを知りたくなったのだ

その問いと共に渾身の力でシャコガイメイスを振り降ろすのだが、刹那、シェーンバインの姿が消えた

今までゲル状の水球を削ぎ落すためにあえてマグリットの攻撃を誘っていたのだが、ほとんどそぎ落とし終わった今、それに合わせる必要もなくなったという事だ
複眼効果により辛うじて見えたその移動により背後に回られたことを把握はしていたが、止まらない

「ああ、そう言えば、ドワーフたちが罪深いというのには同意しますよ
こんなものがあるから、後生大事にするからいけないのですよ!」

振り降ろす先は玉座
人工衛星『ストラトゥール』の制御を司る部位であろうものだ
受けた依頼は宇宙の梯子に救う魔族の撃退と衛星砲の奪還ではあるのだが、奪われ甚大な被害をもたらすような禁忌な兵器だ
それならばいっそのこと壊してしまった方が良い、と思っていた
即ち、シェーンバインに逃げられる事は織り込み積みであり、そのどさくさに紛れて玉座を破壊する事こそが真なる狙いなのであった

隠して渾身の力で振り降ろされたシャコガイメイス
それは大きな音と衝撃波を発生させたが、玉座は……無傷!
衛星全体の制御を司るこの部屋は全てがミスリルづくりで、渾身の一撃でも傷つくことなかったのだ

「クククク、思い切った事を考えたが、どうだ?ドワーフの罪深さは想像以上だったろ?」

無傷な玉座を前に驚くマグリットの背後から響く声
無防備な背中に高速振動の魔剣が振り降ろされた

背負っていた樽の中身はすでになく、防壁としての役割を果たす事なく容易く両断される
刃はそれだけでなくその背も切り裂き血が噴出する
玉座が無傷であった事は想定外であったが、背中を切られる事は想定内
マグリットの血は行動度の毒であり、返り血という形であってもかけさえすれば大きなダメージになるのだが

「ど、何処までも隙のない御仁ですね……」

飛び散った血が不自然な軌道を描きシェーンバインから逸れて消えていくのをうなじの複眼で確認し、膝をつく
シェーンバインが周囲に巡らせたウィンドシェルにより毒血の起動を逸らし散らされてしまったのだ

「お前さんのゲル状の水球も似たようなものだったろ?」

事も無げに言うシェーンバイン
確かに効果は通じるものがあるが、そぎ落されたマグリットの水球に比べ、その差は歴然であった

「明らかに格が違うと言いたげですね!」

振り向きざまにシャコガイメイスを振るうが、当たるはずもなく、魔剣を振るいその軌道を変えられやすやすと躱されてしまう
マグリットの攻撃を完封したシェーンバインだが、けげんな表情を浮かべ自身の剣を見つめていた
0362マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/08/21(土) 21:10:24.52ID:3jB9R51T
「ふむ、まただ
さっきの一撃、その身を両断するつもりだったのにまだ体がくっついている
そして今も、貝殻ごとききれないとは、何をした?」

高速振動する刀身、ゲル状の水球を切ったからと言ってそれがまとわりついて切れ味が落ちたわけではない
実際に刀身を確認してもそのような事はなかった

距離を置き、シャコガイメイスを構えながらマグリットが口を開く

「ふふふ、騙されてはくれませんか
確かに水球は関係ありません
分析がお得意なようですし、どうせすぐ気付くでしょうから種明かししますとね
あなたの魔剣、高速振動する事で切れ味を増すのでしょう?
レインさんとの鍔迫り合いだけなら気づかなかったのですが、クロムさんの金棒の切り落としは不用意でしたね」

ここまで言えば既に察せられているようだが、更に言葉を紡ぐ
シェーンバインは分析タイプ
様々な事を「知らずにはいられない」と踏んだのだ

故に様々な種をまき、疑念を解消するという形で思考リソースを奪い、こうして会話に持ち込む事もできる
それは負傷したレインやクロムが回復する貴重な時間稼ぎになるのだから

「私達水棲の獣人は水中でも会話できるように特殊音波の発生ができます
それを貝を通して発する事で様々な音波振動として発せられるわけですんね
もうここまで言えばお分かりと思いますが……」

特定周波数の音波を照射する事でいかなる硬度のものも振動によって破砕する螺哮砲の低周波により、シェーンバインの魔剣の高速振動を中和して切れ味を落としてたのだ
そう言葉を続けるはずだったのだが、その言葉紡ぎだされる事はなかった

「そうかい、つまりは最初に殺すべきはお前という事だな」

マグリットの言葉を遮り発せられたシェーンバインの言葉
その「殺す」の一言に込められた殺気がマグリットの言葉を紡がせる事を強制的に辞めさせたのであった

鳥類が光物を集める習性があるように、シェーンバインも武器の収集癖があり、その中でも一品が風の魔剣『ヴァルプリス』なのである
コレクターのサガとして、収集したものを見せ、誇らずにはいられない
レインとの最初のやり取りでその出自を明らかにしたのは、ドワーフが罪深い存在であるかを知らしめ動揺を誘う為だけではなく、コレクターのサガがそうさせた一面もあったのだ

そして、そのコレクションの価値を貶めるような事を絶対に許しはしない
その怒りがシェーンバインの殺意となって立ち上るのであった

「まあ、そういう事になりますが……高速振動を軽減されちゃうその魔剣で殺せますかね?」

うすら笑いを浮かべながら答えるが、これは余裕があっての事ではない
恐怖も極限を超えると却って笑えてしまうという笑いでしかないのだから

「十分さ」

刹那に間合いを詰め、横薙ぎの一閃を繰り出すが、複眼効果により辛うじてその動きは把握されシャコガイメイスの柄でその刃を受ける
確かに高速振動は緩和され刃は受け止められたのだが、その刃に纏わされていた風の刃が柄をすり抜けマグリットを襲う
受けた右腕に幾本もの裂傷を負いながら吹き飛ばされていくマグリットだが、その目に宿る光は死んではいない

「流石に冷静、そして多彩な事で、確かに私一人ならば十分でしょうが、私には仲間がいますのですよ
それに、先ほどの問いかけ、魔族の目的についてもお答えいただいておりませんのでね、まだ死ねません」

血塗れになりながらも、即座に態勢を整えシェーンバインの追撃に備えるのであった

【レインの治療をした後シェーンバインに問いかけ】
【玉座破壊に失敗】
【風の魔剣『ヴァルプリス』の高速振動を軽減中】
0363レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/27(金) 18:30:55.60ID:M7Y5LF0+
血が止まらない。脇腹の負傷はそう浅い傷ではなさそうだ。
達人級であるシェーンバインの一撃は内臓をもしっかりと切り裂いている。
回復魔法や薬草で迅速に応急処置を施さねばレインは死ぬしかないだろう。

台風の目の中ではシェーンバイン目掛けてクロムが突っ込んでいくのが見える。
痛みを紛らわせるように仰ぎ見れば、ゲル状の何かが周囲を包んでいく。
シェーンバインの攻撃とは違う。明らかに風系統のなせる技ではなかった。

>「こちらは貝の獣人が住居につかっているクラゲの一部、しばし風を防ぐ事ができますので安心してください
>クロムさんが時間を稼いでくれているうちに傷口を塞ぎますのでお待ちください」

「ごめん……頼むよ。このままじゃクロムが危険だ」

回復魔法による応急処置で傷口だけは塞がる。と、いっても完治には程遠い。
まだ動くと激痛が走る。マグリットの回復魔法の治癒速度ではそれが限界だったのだろう。

>「拙いですね、傷口はふさがりましたし、私も出ます
>信じられないかもしれませんが、この状況だと私が一番よく戦えるでしょうから」

マグリットが戦列に復帰しようとした時、クロムが蹴りを浴びて吹き飛んだ。
シェーンバインの渾身の蹴りはミスリルの壁を破るほどの威力で、レインは言葉を失う。
自分が食らった蹴りはまるで全力ではなかったのだ。そう思うとぞっとする。
シェーンバインが投擲した金棒の残りをしゃがみこんで回避すると、マグリットを追う。

「ま……待ってくれマグリット。俺も……ぐっ」

立ち上がろうとするが痛みで片膝をついた。やはりまだ十全には戦えなさそうだ。
その間にマグリットとシェーンバインの一騎打ちが始まってしまう。
本人の言葉通り、マグリットはシェーンバインと交戦が成立する程度には戦えている。

どうする。自分はどうすればいい。どうすれば足を引っ張らないで済む。
後ろから斬りかかるか?それとも我が身を盾にして反撃の糸口を作らせるか?

(……『あれ』しかない。未完成だけど……このチャンスがあれば発動できる!)

紅炎の剣を前に突き出して構え、魔力を集中させはじめる。
この技はまだ発動に時間がかかるうえ、威力にもムラがある。
だが使えばシェーンバインに多少の手傷を負わせることができるはずだ。

>「あなたはサティエンドラとは違う様子ですね
>私は今まで魔族は神の敵対者、破壊の権化だと思っていました
>しかし、これまでの戦い、そしてあなたを見て確信しました
>魔族もまた一個の生命体であり、私たちと何ら変わりもない、と
>ならばどうして魔族は多種族を駆逐し世界を崩壊させようというのですか?
>支配が目的であるならば交渉の余地もあるのでは?」

一方、シェーンバインはマグリットの言葉を聞き流して、
彼女を覆うゲル状水球を削ぎ落す作業に専念していた。
返事をする余裕はあるが今は戦闘中だ。口を動かしてやる義理なんてない。
0364レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/27(金) 18:33:26.24ID:M7Y5LF0+
>「ああ、そう言えば、ドワーフたちが罪深いというのには同意しますよ
>こんなものがあるから、後生大事にするからいけないのですよ!」

そして削ぎ落しが終了すると同時、マグリットの背後に回って斬りかかる。
マグリットは構わずコントロールルームの要たる玉座に一撃を入れる。
衛星砲という禁忌の兵器。頼まれたのは奪還だが、今後の危険性を考えて破壊を試みたのだろう。
が、無傷。彼女ほどの膂力の持ち主でも破壊はおろか傷すらつけられてない。

>「クククク、思い切った事を考えたが、どうだ?ドワーフの罪深さは想像以上だったろ?」

シェーンバインは樽ごとマグリットの背中を切り裂く。鮮血が勢いよく噴き出した。
その血は濃縮された毒血だが、事前に発動していた防御魔法『ウィンドシェル』の力で届かない。
ただ――おかしい。高速振動する風の魔剣の効力なら背中を斬るどころか両断できてもおかしくないはず。
明らかに切れ味がただの剣レベルまで減衰している。

>「私達水棲の獣人は水中でも会話できるように特殊音波の発生ができます
>それを貝を通して発する事で様々な音波振動として発せられるわけですんね
>もうここまで言えばお分かりと思いますが……」

マグリットの特技のひとつに音波を放ち対象を振動破壊する『螺哮砲』がある。
この音波を魔剣に放つことで振動を中和してその威力を落としていたというのだ。
魔剣の超音波振動で切れ味を増幅させるという性質を逆に利用した形だ。

>「そうかい、つまりは最初に殺すべきはお前という事だな」

語調は平板だが、確かに殺気を孕んだ言葉だった。それも無理はない。
風の魔剣『ヴァルプリス』はシェーンバインが有する剣の中でも最高峰の一振り。
武器の収集家としての一面を持つ彼にとって、愛剣の価値を下げることは許されない。

それほどまでの剣でありながら、仮面の騎士からその情報は聞かされていなかった。
なぜなら風の魔剣は仮面の騎士を撃退した功績で下賜されたものだからだ。
仮面の騎士も、魔剣の存在については把握していなかったのだ。

一瞬にして間合いを詰めて剣閃を繰り出す。
剣自体はメイスで受け止めたのだが、剣から放たれた風の刃が迫る。
マグリットはそれを右腕でガードするもののいくつもの裂傷を負って吹き飛んだ。

>「流石に冷静、そして多彩な事で、確かに私一人ならば十分でしょうが、私には仲間がいますのですよ
>それに、先ほどの問いかけ、魔族の目的についてもお答えいただいておりませんのでね、まだ死ねません」

追撃を繰り出すため、軽快に床を蹴る。
なるほど頑丈な獣人だ。多少切り裂いたくらいでは防御が緩まない。
ならば速度の乗せた『刺突』で一気に心臓を貫く考えだ。
0365レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/27(金) 18:36:36.56ID:M7Y5LF0+
だが放たれた突きの一閃が届くことはなかった。
二人の戦闘に割り込んだレインの大剣が魔剣の一撃を防いだのだ。

「待たせてごめん、今からは俺も参戦させてもらうっ!」

力強い一言を聞いてシェーンバインは後ろに飛び退いた。
その台詞に圧された訳ではない。レインの異常な様子に警戒を示したためだ。
全身から超高温度の炎が噴き出し、熱を纏った人間離れした姿に。

「……おいおい、いいのか。お前さんにつけた傷はそう浅いもんじゃない。
 応急処置を施したんだろうが無理すると死ぬぜ。人間の寿命ってのは短いんだろ?」

「……そうだよ。でも……俺は守りたい約束があるんだ。それを果たすためなら何だってする。
 シェーンバイン……君は、君達魔族は何のために戦うんだ!?なぜそこまで他の種族を傷つける!?」

剣に魔力を込めて連続で『炎の刃』を飛ばす。当たれば風属性の敵は大ダメージを被るだろう。
シェーンバインはそれを高速移動で避けていく。流石は最速の魔族といったところか。
帽子を被り直しながら、シェーンバインは言葉を返す。

「別にいいだろなんでも。お前に何か関係あるか?魔族の事情なんて俺にも関係のないことだ。
 魔族という最も優れた種族こそが世界の覇を握るべき。純粋で単純にそれだけだよ。
 だがまぁ、魔王様に限ってはだが……単なる世界征服以上のビジョンを持ってるみたいだな」

「どういうことなんだ……!?」

炎を剣に纏わせて斬りかかるが、やはりシェーンバインは平然とした顔で避けていく。

「魔王様は『神々の支配を受けない世界にするため』と仰っていたよ。
 この世界から去った今も、神々は色々な形でこの世に干渉して世界を管理しようとしている。
 運命を操作してるなんて話もあったな……とにかく魔王様はあいつらの操り人形になるのが嫌だと言っていた」

レインの腑にも落ちてしまう話だった。
当のレイン本人が光の女神に選ばれ、魔王を倒す使命を帯びた勇者だからだ。
もし神々が完全な放任主義であればそんな事自体しないだろう。
そして、レインは勇者に選ばれた時、そんな話は聞かされなかった。

「だから……魔族は神に縋る人間達とは絶対に相容れない。魔族は神すら超えて高みに昇る。
 それが魔王様の目的であり……夢だからな。俺はそれに従うだけだ」

「そこまで知っているのに……何で『俺にも関係ない』なんて言うんだ?
 シェーンバイン、君は……魔王に忠誠を誓ってないのか?」

レインがそんな言葉をつい放ってしまったのは、キュベレーとの一件があったからだ。
勇者の最終目標は魔王ただ一人。それ以外の魔族は障害とはいえ必ずしも倒す敵とは限らない。
ならば対話の道もあるかもしれないという淡い期待を込めてしまったのだ。
0366レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/27(金) 18:39:51.00ID:M7Y5LF0+
「……忠誠は誓ってるさ。良ければ俺の昔話でもしてやろうか?退屈はしないと思うぜ」

帽子のつばをいじりながら、シェーンバインはそう答えた。
なぜレインとの会話に付き合っているかと言えば――それはレインが纏う炎を警戒してのことだ。
おそらくは鉄すら瞬時に融解するほどの温度。熱は『ウィンドシェル』でも防ぎきれない。
オリハルコン製の『ヴァルプリス』なら耐えられるだろうが、念を入れて様子を窺っていた。

それはクロムが戦線復帰する可能性も孕んでいたが、彼にはすでに十分な手傷を負わせている。
多少複数同時に相手するリスクを背負ってでもレインの炎は注意すべきと判断したのだ。
要は時間稼ぎ。魔力を少しでも消耗させようとしているのだ。

レインもその意図にようやく気付いて、やはり対話は不可能なのだと悟る。
戦って決着をつける以外に道は残されていないのだと。

「そうしたいところだけど……俺にも時間がない。行くぞ、シェーンバインっ!!」

噴き出す炎がレインの全身を覆い、大剣を構えてそのまま突貫した。
当たればシェーンバインといえど負傷は避けられない。
だが、当たればの話だ。これまでの攻撃でレインから負った手傷などひとつもない。
今までの攻撃に比べれば速いが、それでも十分避けられる速さだ。

「未完奥義!!プロミネンスブレイザーッ!!!!」

瞬間、レインは一気に加速した。シェーンバインは目を剥いて回避行動に移る。
あれはヤバい。本能が告げる危険性は彼の足を動かして横っ飛びで躱させた。

レインの突貫はそれだけで終わらない。急ブレーキを掛けて反転すると再突撃を敢行する。
舌打ちして跳躍すると空を舞った。ここは無重力空間だ。風魔法を併用すれば飛行も難しくない。
だがレインの追尾は続き、飛翔するシェーンバイン目掛けて正確に飛んでくる。

(纏っている炎で空気さえも燃焼し、噴流を生み出して飛行してるのか!!?)

それこそがレインの奥義の正体。紅炎の剣で生み出した炎をその身に纏い、空気を燃焼。
発生した噴流の反作用で爆発的な加速力を得て飛行する。さながら空を舞う火の鳥のように。
そのスピードは一時的とはいえ大幹部いちのシェーンバインにさえ匹敵する。

「人間にぞくっとしたのは初めてだ……!悪くない、悪くないな"召喚の勇者"!
 ならば受けて立ってもらうぜ!?この俺の!!真竜の魂のバイブスをーーーーッ!!!!」

空中で機動を変えたシェーンバインは魔剣の切っ先をレインに向ける。
すると魔剣を中心に竜巻が生じ、雷を伴う暴風となって荒れ狂う。
それは『魔法剣』とも呼ばれる魔法剣士にのみ許される技だった。
それも、得意の風魔法のみならず雷魔法をも加えた必殺の一撃。

「――奥義!!オラージュ・エクストリームッ!!!!」

雷と旋風、ふたつの攻撃が火の鳥と化したレインに激突する。
ふたつの巨大な力はぶつかりあって相殺しあい、ばちばちと拮抗している。
0367レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/08/27(金) 18:43:07.64ID:M7Y5LF0+
この激突にさえ勝てばシェーンバインに刃が届くはず。
レインは力を振り絞って全魔力を自らの炎に注ぐ。

「な……!」

だがレインの見積もりは甘かった。
その眼に映ったのは風の力で加速して砲弾の如く突っ込んでくるシェーンバインの姿。
一撃目の雷と嵐で相手の動きを止め、二撃目の斬撃で確実にとどめを刺す。
それが風の大幹部の奥義。『オラージュ・エクストリーム』なのである。

レインは咄嗟に攻撃から防御に切り替え、大剣でシェーンバインを撃ち落としに掛かる。
紅炎の剣スヴァローグと風の魔剣ヴァルプリスが交差する。
そして激突が終わると――レインはぐらりと力無く無重力空間内に浮かんだ。
纏っていた炎は急速に萎んでいき、跡形もなく消え去る。

「……奥義対決は俺の勝ちってところか」

目深に被っていた帽子が焼き焦げ、着地するシェーンバインの足元へ落ちていく。
そして露になったのは二本の魔族の角。それでもなお余裕は崩れていない。
シェーンバインにそれらしい外傷はなかったが、レインは重傷だった。
その程度で済んだと言うべきか。もし魔剣の高速振動が健在なら両断されていただろう――。

高速振動の力が軽減されていたおかげで、奥義はなんとか防御できている。問題はそれ以外だ。
超高熱の炎を身に纏った影響で全身に火傷を負っていた。これがレインの奥義が未完成である最大の理由。
『プロミネンスブレイザー』はその性質上、制御を誤ると自分の身をも焼きかねない危険性を持つ。
シェーンバインを追い詰め、奥義を使わせるまでは良かったが、結局のところレインは自爆してしまった。

「順番が前後しちまったが……お前から殺るって宣言に変わりはないぜ、蜃の獣人。
 あの世に行く心の準備は済んでるか?俺は慈悲深いからなるべく楽に逝かせてやるよ」

風の魔剣の刀身を軽く撫でつけて、一歩、また一歩とマグリットへと近づく。
その命を刈り取るために。


【シェーンバインと奥義対決の末に敗れる】
【帽子が焼けて魔族の角が露出。宣言通りマグリットから殺すつもりのようだ】
0368クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/09/04(土) 17:56:44.29ID:df8teERZ
「マグリット──お前はまずレインを治せ。それまでは俺が踏ん張ってやる」

シェーンバインとマグリット、その二人の間に突如として割って入ったのはクロムの声。
声の方向を見やれば、大きな壁の穴の中からぬっと現れた、新たなアイテムを手にした彼の姿を確認できるだろう。

「チッ……加減を誤って俺のコレクションルームまで飛ばしちまったか。……それにしても」

しかし、凝らすように目を細めるシェーンバインは、如何にも解せないと言いたげである。
いや、あるいはマグリットも同じ心境であったかもしれない。
何故ならクロムが手にしているのは、薄紙一枚切れそうにない錆び付いたナマクラ剣にしか見えないモノだったのだから。

「他にもっといいのがあった筈だろ? なんでそれを選んだ? まさか暗闇で良く見えなかったというオチじゃないんだろ?」

「──……お前、武器のコレクターか。確かにいいのは沢山揃ってたぜ。だが、俺が探してたのはこいつだけだったんでね」

そう言って穴から飛び出て、クロムはひゅん、と剣を試し振りする。
空中を薙いだその剣の造りは、かつての『悪鬼の剣』同様の刃渡りを持つ、片刃の打刀タイプのものだ。
違うところと言えば、元は文字通りの白刃であろう刀身が、見事なまでに錆び付いて薄汚く変色しているという点。
そして、柄や鍔には悪趣味な髑髏の意匠が無数にあしらわれているという点であろう。

「……『鬼神のだんびら』……別名『破滅の凶剣』。要するにお前もその剣にまつわる話を信じてたってわけだ」

「“この剣を手に入れた者は天下無敵となるが、やがて例外なく自らの力に己自身が殺される破滅の時を迎える”……」

「俺がその伝説に終止符を打ってやろうと思った。だから方々手を尽くして探して手に入れたんだが……なんてことはない。
 所詮、伝説なんてのはその多くが誇張と流言によって膨れ上がっただけのデタラメに過ぎないってわけだ。
 そいつは見た目の通り、何の呪いもなければ能力もないただのナマクラだぜ? 残念だがな」

「さて、どうかな──」

クロムが再び剣を振る。それも、今度は確かな殺気を込めて。
しかし、シェーンバインは剣の間合いの遥か外。如何に殺気を込めてそれが届く事は無い。普通なら。

「っ!」

が、瞬間、シェーンバインは声にならない声を上げた。彼の胸が真一文字に切り裂かれ、流血したのだ。

「……どういうことだ?」

ひと呼吸おいて、驚きの表情を以ってそう問うてくるシェーンバイン。
クロムは、そんな彼の表情と、それとは裏腹な冷静そのものの声を聞いて理解した。
彼は胸を傷付けたモノの正体を問うたのではなく、どうやってただのナマクラ剣で今の現象を起こしたのかを問うたのだと。

「流石に超一流の使い手。今の一瞬、不意の攻撃……躱す事はできなくとも理解は速いようだ。
 あんたの思ってる通りさ。今のは魔法じゃない。ただの“剣圧”だ」

クロムが放った剣圧。
それは相手が遥か格下の雑魚モンスターであれば両断できるほどの威力があったものだが、相手はシェーンバイン
傷を負わせたとはいえ、致命傷にはほど遠い浅手に過ぎない。
0369クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/09/04(土) 18:03:02.59ID:df8teERZ
「問題は魔法も呪いもないただのナマクラ剣でどうやってそこまでの剣圧を生み出したのか……答えは簡単だ。
 こいつはあんたにとっては錆びたガラクタに過ぎないが、俺にとっては異常に研ぎ澄まされた凶剣だってことさ。
 この剣は使い手を選ぶ。選ばれた者でなければ、この剣は本気になってくれねーのよ……!」

「! これは……!?」

不意にシェーンバインが目を見張る。
声から先程までの冷静さまでもが消えかかっているのは、彼でも理解が追い付かない光景が眼前で展開されているからに違いない。
彼の傷口から赤い霧状のオーラが湯気のように立ち昇り、それらが全てクロムが握る剣に吸い込まれているのである。
いや、違う。正確には、剣を伝ってクロム自身に吸収されているのだ。

「まさか、俺の血かっ?」

「教えてやろうか? こいつはな……」

全身から真っ赤なオーラを立ち昇らせたクロムが、とん、と刀の峰で肩を叩いた。
そして、言葉の続きが紡がれたのは正にその直後──“シェーンバインの背後”を取った時であった。
──クロムは瞬時に移動したのだ。魔装機神をも上回る、かつてない速度で。

「お前の“エネルギー”だ」

「──っ!!」

袈裟斬り。正しく閃光のように鋭く、速い一撃。
その威力は軽々と竜鱗の防護力を超越し、シェーンバインの背中に斜め一文字の深々とした傷を刻みつけ、血を噴き出させた。

「こっ──のォ!」

シェーンバインは前に倒れかけるも、力強く踏み出した左脚で踏み止まり、すかさず背後を振り返りながら剣を走らせる。
しかも剣には竜巻を纏わせて。
剣は剣で受け止めることができる。しかし、受け止めればマグリットのように得物をすり抜ける風の刃によって傷つくだろう。

ならば避けるしかない。
クロムは素早く床を蹴って後方に跳び退く。敵の斬撃の直撃を許すより先に。
シェーンバインの「チィ!」という強い舌打ちが聞こえる。
彼の実力を考えれば、そもそも空振りを許す事が通常では有り得ない事態に違いない。
実際、先程までのクロムなら躱す事はできなかったであろう。

「この別人のような超反応! お前……俺のエネルギーと言ってたが、まさか!」

シェーンバインは左手を突き出し、その掌から巨大な竜巻を生み出した。『インフィニティストーム』である。
だが、この魔法の性質を考えれば、恐らく彼は直接大ダメージを与える為の攻撃用として用いたのではない。
恐らく狙いは暴風によって肉体の自由を奪う為。攻撃用の魔法はまた別にあるのだ。
すなわち──『ミストラルエッジ』も同時発動していると考えるべきなのだ。

「しかし、これ以上俺を斬ることはできない! 躱したのは見事だったが、俺から離れたのは間違いだったな!」

迫る壁。それに背が着く瞬間、クロムは壁を蹴って暴風の中へと突っ込む。
再びシェーンバインの至近に迫ろうというわけだが、風という拘束具の前ではスピードは制限されてしまう。
もたつけば風の刃の餌食となり、仮に間合いを詰めても緩やかな斬撃ではまた難なく捌かれてしまうだろう。

──ならば、風さえもものともしない速力を捻り出すしかない。
0370クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/09/04(土) 18:07:46.98ID:df8teERZ
「……それもどうかな」

クロムの姿が、その場から忽然と消え失せたのは、そう言った直後の事だった。
刹那、シェーンバインは目を大きく見開いて、叫んだ。

「上っ!!」

そして彼の頭上、ほんの数メートル先で剣を振りかぶった格好のクロムに向けて、奥義を放つのだった。
風魔法と雷魔法を同時発動した必殺の一撃・『オラージュ・エクストリーム』である。

「──なっ!?」

当たれば命を砕く文字通りの必殺技。『反魔の装束』の効果をもってしても、直撃すれば確実に戦闘不能となるであろう威力。
だが、クロムには当たらなかった。いや、当たったのだが、その瞬間にクロムの体が再び忽然と消え失せたのだ。

「まさか──残像……っ!?」

驚き叫ぶシェーンバイン。その背後で、クロム《本物》は剣を振りかざしていた。

「この剣は、ダメージを与えた敵からエネルギーを奪い続け、使い手の膂力にプラスする。
 いわば一時的にステータスを大幅に上昇させるアイテム。残像を見せるくらいわけもない──!」

──振り下ろされる剣。確実に仕留める為、狙いは迷うことなく脳天。
しかし、シェーンバインも流石にただ者ではない。ダメージこそ免れなかったが、致命傷だけは回避して見せたのだ。
クロムは全て見ていた。
刃が命中する瞬間、突如としてシェーンバインの足元から発生した暴風が、彼を瞬時に別の空間まで運び去ったのを。

「……自身の速力に、風魔法の応用技をプラスした独特な移動術ってところか。
 やっぱしぶてぇな……。だが、弱点の内の一つは斬ってやった……ぜ……ごほっ」

頭上に浮かぶ物言わぬ角を見上げるクロムの口から、突然ごぼっと溢れ出たのは大量の血だった。
原因は判っていた。胸部が訴える、突き刺さるような激しい痛みだ。

(無茶な動きをしたせいで……折れた肋骨がどこかに刺さりやがったか。くそっ、魔人の体でも負傷してるとこのザマか……!
 この負担のでかさ、万全でも長時間は使えそうにねぇ……。この戦いでも後どれだけもつのか……)

空中で、斬り落とされた角の根元を押さえながら、どこか呆然とした様子でクロムを見下ろすシェーンバイン。
しかし、その瞳に次第に強烈な殺気が満ちていくのを感じて、見上げるクロムは額に浮かんだ脂汗を拭って呟いた。

「レイン、マグリット……まだか。そろそろやばいぜ」


【『鬼神のだんびら』→錆び付いたナマクラ剣。しかし剣に選ばれた者が持つと異常な攻撃力を発揮する】
【斬り付けた敵から毎秒事にエネルギー《ステータス値》を奪い、使い手のステータス値にプラスする能力有り】
【ただし効果はあくまで一時的で、対象となる敵が能力射程から離脱したり死んだりするとリセットされる】
【クロム:一時的なパワーアップを果たすが肉体的負担が大きくダメージが徐々に拡大中】
【シェーンバイン:背中を斬られ二本の角の内の一本を失う。更にエネルギーを奪われ徐々に弱体化中】
0371マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/08(水) 00:18:27.09ID:+U9AzbOx
>「レイン、マグリット……まだか。そろそろやばいぜ」

その言葉に応えるように、クロムはシェーンバインの肩越しに見るだろう

それはシェーンバインが片角を切り落とされた衝撃から思考が立ち戻る刹那の隙間
背後からの爆発的な魔力の高まりを感じるただろう
しかもそれは良く知った凶暴な炎の魔力に似ていた事も驚きを増大させる事になる

振り向いたシェーンバインは、迫る巨大な影と振り上げられる白刃を見た

 * * *

風の魔剣『ヴァルプリス』の切れ味を衰えさせるマグリットを最優先排除対象と定めたのだが、巨躯と防御力故に中々殺しきれない
故に、斬撃ではなく心臓への刺突により確実に殺傷しようとしたのだが、そこにレインが割って入る

炎の化身と化したレインとシェーンバインの戦いは苛烈を極め、マグリットが手出しができる領域を超えており、ただただ超音波によりヴァルプリスの高速振動を軽減する事しかできなかった

そして両者はお互いの奥義をもってぶつかり合うのだ
共に必殺の奥義ではあったが、結果は一目瞭然
レインは大ダメージを負い力なく宙を漂い、対するシェーンバインは目深に被った帽子が焼け焦げ足元に落ちるにとどまった

奥義対決に勝利したシェーンバインが着地し、マグリットに向き変える

>「順番が前後しちまったが……お前から殺るって宣言に変わりはないぜ、蜃の獣人。
> あの世に行く心の準備は済んでるか?俺は慈悲深いからなるべく楽に逝かせてやるよ」

「レインさんはお話を拒否されたようですが、私はあなたの昔話に興味がありますので、昔話をお願いしたいところなのですが?」

宙を漂うレインは元より、壁を突き破って蹴り飛ばされたクロムもかなりの重傷のはずである
こんな時にPTの傷を癒し立て直しを計るのが神官の、ヒーラーとしての役割なのだが、マグリットの癒しの力はあまりにも低い
それ以前にこの状況で二人の回復を目の前のシェーンバインが許すはずもないだろう
せめてもの時間稼ぎと話を誘うも、一笑に付されてしまう

それを見て覚悟を決めたマグリットは呼吸を整えた

「半竜と聞いておりましたが、とんでもなかったですね
私を蜃の獣人と知っておられるようですし、ならば私の目的もわかっているのでしょう?
私は龍を目指しており、あなたは私が目指すべき場所に随分と近いところにいられるようで」

>「ああ、だが目指す場所も、その途上にいる俺のところにもお前は辿り着けない」

ゆるぎない死刑宣告にマグリットは唇をかんだその時、会話に割って入るかのように声が響いた
その声の向きを見れば、壁の大きな穴から錆びついた剣を手にしたクロムが現れた

「あなたも戦えるような傷ではない」
「いくら何でもそんな剣では」
「せめて一緒に戦います」

言いたい事は色々あったが、その鋭い眼光に全てを飲み込み指示通りレインの元へと移動するのであった
本来シェーンバインの前ではそれすらも至難の業なのであろうが、幸いにして何事もなく到着
これはクロムにつけ入る隙を見せたくないという以上に、その手にあった自身のコレクションでもある鬼神のダンビラに注意が注がれたからであろう
0372マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/08(水) 00:25:50.33ID:51wQpnMr
クロムとシェーンバインとの戦いが始まる中、力なく漂うレインを引き寄せ回復の祈りを始める
状況は先ほどのわき腹を切り裂かれたレインを暴風の中応急処置したと同じではあるが、程度が違いすぎる
全身の火傷に塞いだ脇腹も開いてしまっている
先ほどより重症であるのに対し、マグリットの回復能力は低い
元々信仰が高い訳でもなく利害関係の為に入った教会であり、伝道師の役職ではあるが、それにも増して回復能力の低下を感じていた

それは、森でキュベレーの態度を見た時から、現在のシェーンバインの話を
更に言えばその話にできた魔王の考えに、薄かった信仰は更に揺さぶられていたからである
これでは回復力の低下は当然であるし、奇跡など望むべくもない

「このままでは、レインさんを救えない……クロムさんだって、あの傷であんな動きいつまでもできるわけがない」

マグリットは知る由もないが、鬼神のダンビラの効果によりシェーンバインのエネルギーを吸収し、その爆発的なパフォーマンスを自分のものにしていたのだ
当然恐るべきパワーアップではあるが、それはクロムの体がもつとは思えない動きだったからだ

「ここで、……終わらせるわけにはいかない」

マグリットは静かにシャコガイメイスを握り締め立ち上がる

* * *

クロムの必殺の一撃はシェーンバインの足元に発生した竜巻を伴う移動術によりギリギリ躱されてしまう
が、それでもつのの一本を切り落とす事に成功
これはシェーンバインに大きな衝撃を与えた

魔力を制御する機関である角を切られたこともだが、魔人であるクロムが完全に殺しにかかってきており、角を切り落としたという事実
潜入していて正体を明かせないからでは説明のつかない行為に、シェーンバインの思考が驚きと疑問に支配されていたが、平静な状態に切り替わる

その切り替わる瞬間、マグリットは飛び出していた
例え驚きと疑念に支配されていたとしても不意打ちを食らえば反射で体が動いてしまう
しかし、そこから立ち直り平静な状態に切り替わる一瞬の空白状態を、結果的にだが付いていたのは僥倖といえよう

濃厚な魔水の入った貝殻カプセルを噛み砕き、それを飲み込みながら
僅かでもかかれば魔力中毒になってしまう程に濃厚な海魔の遺跡の魔水は体内に入り、マグリットの奥深くに取り込まれた魔素が反応する
マグリットの魔力では起こし得ない強力な九似が一つ獣王の掌、サティエンドラの魔力が発現するのだ

シェーンバインの速さが魔族位置というのは何も移動速度だけの事ではない
反応速度も恐ろしく早く、思考の間隙の中、不意を突かれても尚、マグリットより早くその剣を突き出していた
0373マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/08(水) 00:29:40.07ID:51wQpnMr
二人が交差する瞬間、時間の感覚は間延びし、ゆっくりと流れる中で意識は交錯する

「流石に早い、が、随分とお疲れのようで、ウインドシェルが弱まっていますね」
>「それでもお前よりは早い」

レインとの奥義のぶつかり合い、そしてクロムによってつけられた傷から吸われるエネルギー
そして何より、切り落とされた角により魔力操作の精度が落ちているのは確かではあるが、それでも十分な力を残している
だが、それでも万全の状態であれば即座に気づき排除できていたものをこの時まで気づけなかったのだ

「同じようなものと言われましたが、私の水球は魔法の産物ではなく、生き物なのですよ」

その言葉の意味は感覚で知ることになる
足元からゲル状ものが急速に増殖しシェーンバインの魔力を吸い取り始めているのだから

マグリットの持ってきた樽の中身は、貝の獣人が住居につかっている巨大クラゲの捕食器官
クラゲと言っても小さなクラゲが無数に集まり、それぞれ各々の器官を担い一個の生命体となす群体生物なのだ
即ち、マグリットの纏っていた水球もまた群体生物であり、削ぎ落されたからと言ってそれで消えてなくなるわけではない
床に薄く伸び、その時を待っていたのだ

そう、シェーンバインが『着地』し、クラゲが膜状に広がる床にその足をつけるその時を

>「こ、これ以上、魔力を吸い取らせるか!」

即座に足元に竜巻を発生させへばりつくクラゲをを吹き飛ばすのだが、その為に割いた数瞬が反応速度の差を埋め合わせた

間延びした時間の中、漸くお互いの刃が体に触れあう
それはほとんど同時
マグリットの刃はシェーンバインの脳天、残った角の付け根
シェーンバインの切っ先はマグリットの心臓の一の胸元へ

お互いの刃が触れた瞬間、シェーンバインは悟るだろう

「お気づきになりましたね、なぜ私が都合よくあなたの高速振動の剣を中和軽減できたかを」
>「そうか、お前もか」
「風と水の違いはあれど、私とあなたは同じ道をゆく者だったという事ですよ」

マグリットがサティエンドラとの戦いを経て、九似の体の部位を切り落とすことの困難さを痛感し、故郷マリンベルトに戻ったわけはこれにあるのだ
シャコガイメイス
それは大量の魔力を流し込み、真珠を形成するように至高の刃を形成する鞘なのだ
長い年月と大量の魔力を使い九似をも切り落とす大剣が今振るわれているのだ

奇しくも風の魔剣『ヴァルプリス』と同様に、高速振動によりその切れ味の本領を発揮するタイプの剣なのは、龍を目指すマグリットと半竜であるシェーンバインと奇縁としか言いようがない

本来であれば鞘のシャコガイを左手に咬ませ、盾兼エネルギータンクとして構え、右手の剣で戦うのがマグリットの本来の戦い方であるのだが
そのシャコガイはいま、重傷を負ったレインを包み込んでいた

試練の森で重傷を負ったレインをマグリットが形成した貝を治療ポットとして使ったが、それとは比べ物にならない魔力を持つシャコガイが全ての力を注ぎ込んでいる
0374マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/08(水) 00:34:07.46ID:51wQpnMr
そして間延びした時は本来の速度を取り戻す
刹那は刹那として過ぎ去り、二人の激突が動き出すのだ

お互いの脳天と心臓に刃を突き立てた状態で、止まる事はない
マグリットは瞬間的にサティエンドラの膂力で高速振動する刃を振り降ろす
しかしシェーンバインはマグリットの心臓から切っ先を外す事なく頭を捻りその斬撃被害を最小限に抑えようとする

マグリットも心臓部に突き立てられる切っ先に対し、回避行動はとれない
回避行動はそのまま自分の攻撃の中断に繋がるのだから
だが、レインに防いでもらったおかげで事前にわかっていた
シェーンバインが心臓を狙ってくることは
だから、心臓部の装甲の密度に差をつけて対応していた

元々マグリットの肌は鉄の硬度をもつ
更に貝殻を形成し、心臓部を守りながら、あえてそこ以外の硬度を下げ柔らかくして切っ先の進行方向を誘導したのだ

結果、シェーンバインの刃は胸元から鎖骨方面に逸れ左の僧帽筋を貫いた
マグリットの刃は床まで振り降ろされたのだが、シェーンバインの脳天を割る事は敵わず
しかし、額から頬に続け右目を通る縦一筋の切り傷をつけるとともに、残った角を切り落とす事に成功した

「満を持して出した剣ですのに、脳天真っ二つとはいかないとな、残念です」

>「おまえ、俺の角を切り落とすだけでも十分すぎるだろ」

確かにシェーンバインの角を二本とも切り落とす事に成功した
これにより魔力操作の精度は欠き大幅な戦力低下になるだろう
更に鬼神のダンビラの効果によりエネルギーを吸い取られ、右目は斬られて視界は遮られている

だが、ここまでなのだ
それで死ぬような傷かと問われればとてもそれには届いていない

一方でクロムは大量の吐血をしておりもはや戦える状態ではないだろう
マグリット自身持てる手札を全て晒し、飲み込んだ魔水も消費し尽くしサティエンドラの魔素も鎮まってしまい、これ以上の服用は体がもたない
左鎖骨を貫かれ、もはや左腕は上がらず

そのような状態ではあるが、それでもマグリットは不敵に笑う

「あなたは私の九似に足りえる強さでした
出来れば自分で禽皇の爪として得たかったのですが、あとは任せる事にします」

今更何をと不思議そうな顔のシェーンバインにマグリットが不敵に笑って答えた

「レインさんの傷を見ましたが、火傷はありましたが新たについた裂傷はなかったのですよ」

残った左目を大きく見開き、マグリットを蹴り飛ばす
その言葉の意味は、奥義対決で勝ったと思っていたが、その刃は届いておらずレインの自爆にすぎない事を悟ったからだ
ここでマグリットにとどめを刺すより、剣を自由にし備えたのだ
残る召喚の勇者の反撃に備えるために

シェーンバインの視線の先にレインを加え込んでいた巨大なシャコガイが宙に浮いていた


【シャコガイメイスは超振動権を生成する鞘であり、魔力をため込むエネルギータンク】
【信仰の揺らぎにより回復力が低下しているため、濃縮回復力を持つシャコガイにレインを入れ治療】
【クロムが作った隙を突き、シェーンバインに不意打ちアタック】
【シェーンバインの残った角と右目を潰す事に成功】
【マグリットは心臓を逸らすも鎖骨を貫かれ重傷】
0375レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/09/13(月) 22:01:14.41ID:apbIqXyd
あれはまだ勇者にもなっていない頃……。
アシェルやアンジュと一緒にサマリア王国の教学院に通っていた時代。
勇者の試練を受けるまで魔法適性が皆無だったレインは魔法の授業だけはいつも休みたかった。
アシェルは常々魔法は勉強すれば面白いと言っていたが、出来もしない話を覚えるのは結構退屈で……。

でも、その時の勉強が冒険で活きることもあるのは確かだ。
ダンジョンには魔法の仕掛けが施されていることもめずらしくない。

「レイン、術式ってのはただ魔法を発動するためのものじゃないんだぜ。
 戦闘で使う魔法は単純に発動にだけ術式を使って、後は感覚に頼ることが多いけどさ」

記憶の中のアシェルが語り掛けてくる。
そうだ。そんな話したっけなぁ、とレインは何となく思い出していた。
戦闘にはおおよそ関係ないが術式には発動した魔法を制御するための『制御術式』というものが存在する。
発動後の魔法の効力――たとえば炎を発する魔法なら火力、水を生成する魔法ならその量などを調整することができる。

だが、戦闘ではそういった制御は感覚的に行われることが多い。
戦いにおいて加減をすることなど滅多にないし、そのためにわざわざ追加で詠唱したり、
魔法陣を組むなんて手間のかかることをやる人間はいないからだ。

だがダンジョンの仕掛けのように、インフラや魔法の乗り物など、
緻密な制御を要するものに魔法を施す時には制御術式が効果を発揮する。

「答えはもう自分の中にあるんだよ。それに気付いてないだけだ。
 だから……あいつにもう一発、奥義をぶちかましてやれ。
 見せてやれよ、"召喚の勇者"の力を!」

ぐ、と拳を握って記憶の中のアシェルは微笑みかけてくれた。
レインは微妙にはみかんで頷くと、徐々にその視界は薄らいでいった。


…………――――――――。

>「レインさんの傷を見ましたが、火傷はありましたが新たについた裂傷はなかったのですよ」

「ちっ……口の減らない奴だ!」

不敵に微笑むマグリットがそう言い放つと、シェーンバインは苛立たし気に蹴り飛ばす。
角を二本失ってしまい、体内の魔力の流れは無茶苦茶だ。これでは魔法はもちろん奥義も使えない。

戦いの流れが一気に変わったのは『鬼神のだんびら』を魔人が手にしてからだろう。
自分が招いた結果とはいえ、蜃の獣人が厄介な奥の手を隠していたこともあり形勢はこちらが不利。
戦闘中の急激なパワーアップはさしものシェーンバインも想定外の出来事だった。

「だが、隠し玉を持っているのはお前らだけじゃない。
 ここまで来た連中なら知ってるだろ?俺が『半竜』の魔族だってことを。
 見せてやるよ、この俺の……真の姿をな……!」
0376レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/09/13(月) 22:05:43.00ID:apbIqXyd
シェーンバインの細身の身体が一気に膨張する。
通常の皮膚レベルまで微細だった竜鱗が巨大に、より分厚くなっていく。
繊細な美男子の顔は徐々に竜の容貌へと変形していき、背中には一対の翼が生える。

「『真竜形態』……だ。本来ならお前らごときに見せる必要はないが……。
 魔法が使えなくなり、魔剣も効力が下がった今……俺もあえてこの姿を晒そう。
 光栄に思うがいい。この姿で戦うのは、魔王様を除いてお前達以外にはいなかった!!」

翡翠の竜鱗を纏った巨大な竜。それこそがシェーンバインの正体。
知能を退化させることなく生き残った稀有な『真竜』と呼ばれる特殊な存在と、
強大な魔力をもつ魔族との間に産まれたシェーンバインだが、かつては魔族でなく竜として生きていた。
それは魔族の血が半分しかないことから、魔族たちに差別されたことも関係していただろう。

そんな彼の野望は退化してしまい魔物のいちカテゴリーに収まってしまった竜を独立した種族にすること。
だがその力を欲した魔王と一騎打ちの末に敗北。彼は自分の野望を捨てて忠誠を誓い、軍門に降ることになる。
シェーンバインが帽子で魔族の角を隠すのは、魔族としての自分の血を恥じているからに他ならない。

真竜形態になった今、シェーンバインは魔法に頼らなくても肺活量だけで嵐を巻き起こせる。
そして、魔族形態でもその片鱗を見せていたが竜由来の圧倒的なパワーとスピードを発揮できる。
小回りこそ効かないがこの形態になってもシェーンバインの速さは落ちないということだ。

シャコガイメイスからレインが飛び出してきたのはシェーンバインが竜の姿になって間もなくだった。
最初は驚いたが、すぐに臨戦態勢に切り替えてミスリルの床に着地する。

「……ありがとう、アシェル。君が完成させてくれた『奥義』だ」

レインは紅炎の剣を構えると、炎の力が亀裂の走った刀身を埋めていく。
すると眼前には真紅の魔法陣が現れる。刻まれた術式は魔法武器が出力した炎をコントロールする『制御術式』。
今までは感覚だけで炎を制御しようとしていたが、今回は違う。紅炎の剣で出力した炎を術式という演算で微調整する。
まるで誰かが教えてくれるように、レインの頭に術式の情報が流れ込んでくる。

「シェーンバイン……行くぞッ!!」

真紅の魔法陣を通過すると、紅炎に身を染めたレインが火の鳥のように向かっていく。
今度は発する炎が自分の身を焼くことはない。正真正銘の不死鳥と化して突貫する。
呼応するかのようにシェーンバインが巨大な竜の腕を振り下ろした。

「うおおおおおおおーーーーーーッッッッ!!!!!」

竜鱗を力任せに溶断しながらその刃は頭を、背を、やがては尾までを一直線に切り裂く。
最後の激突に勝利したのはレインだ。要因としては『風』が『炎』に弱いこと。
そしてクロムのだんびらの力で大幅に弱体化していたことだろう。
空を舞う火の鳥が着地した時、真竜が崩れ去ったのもまた同時だった。

「……奥義。『プロミネンスブレイザー』!」
0377レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/09/13(月) 22:09:48.40ID:apbIqXyd
竜の巨体が力を無くして無重力空間に浮かぶ。
レインの奥義は疑いようもなく致命傷を負わせている。

「……負けたんだな……俺は……かつて魔王様と戦った時を思い出していたよ。
 自由の翼をもがれたあの時から、俺はとっくに死んでいたのかもしれない」

シェーンバインの瞳が徐々に光を失っていく。

「お前達に負けたのに何も感じない……ああそうなのかと思うだけだ……。
 本当は悔しくて仕方がないはずなのにな……感情ってのは不思議なもんだ。
 "召喚の勇者"、魔王軍の大幹部である俺に勝ったんだぜ。もっと喜んだらどうだ?」

「……幸運が重なったおかげだよ。首の皮一枚を何度も繰り返したような戦いだった。
 事実、俺は二度も死にかけた……正直な話、貴方とはもう戦いたくない」

「……そうか。そりゃ……良かっ…………た……」

そう呟いてシェーンバインは静かに事切れた。
魔族形態へと収縮していく様子を見つめていると、ふと宙に浮かぶ彼の肉体を回収しようと近づく。
手厚く葬るというわけにはいかないだろうが、ここに死体を放置するわけにもいかないだろう。

その両腕がシェーンバインの死体を抱えようとした時、レインは咄嗟に飛び退いて紅炎の剣を構えた。
禍々しい気配が現れたことで、自身の命を防衛するため本能的に臨戦態勢に入らざるを得なかった。
それは突如コントロールルームの中央に浮かんだ漆黒に渦巻く穴から感じていた。

「それ以上シェーンバインに近づくな。奴は余のものだ……その肉体も、魂でさえもな」

渦巻く穴から姿を現した一人の青年が冷たくそう言い放つ。隣には漆黒の衣装を纏う白皙の女性がいた。
どちらも恐ろしく整った顔立ちだが、そこにいるだけで肌が粟立つ。肉体が恐怖しているのだ。
何より、レインを困惑させたのは片割れである青年の顔に見覚えがあったことだろう。

「――――――…………アシェル?」

レインの眼前に現れたのは亡くなった友人と同じ顔をした何かだった。
まるで敵に向けるような冷たい表情でこちらを見つめている。

「サウスマナに王手をかけておきながら路傍の石に躓くとは……奴らしくもない。
 ……ああ……確か、お前は"召喚の勇者"だったか?この身体の知り合いか」

青年の問いかけで茫然としていた思考が動きだす。この状況は何もかもがおかしい。
レインの友人である"魔導の勇者"アシェルはノースレア大陸で死んだはずの人間だ。
誰かがアシェルに化けているのか。だとしたらなぜそんなことをする必要がある。

「余は……魔王セイファート。貴様も名くらいは知っているだろう。余こそが魔族の王だ」
0378レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/09/13(月) 22:12:36.21ID:apbIqXyd
友人と同じ顔をしたそいつは、自分を魔王と名乗った。

「……なんで」

レインは思考の処理が追いつかないままかろうじて言葉を紡ぎ出す。

「……なんで魔王が。なんで……アシェルの姿で」

「なぜ?部下の不始末を片付けにきた。だが余は魔王城より動けぬ身。
 だから他人の肉体を借りてここにいる。それだけの事だ。お前の疑問はたったそれだけか?」

ふっ、と顔を綻ばせて魔王は笑った。

「傀儡を介した形ではあるが……貴様はこの魔王と話しているのだぞ。
 もっと聞くべきことがあるのではないのか?もっとやるべきことがあるのではないか?
 その手に握っている剣はなんだ。驚きのあまり貴様は剣の使い方も忘れてしまったのか……?」

レインの友人である勇者アシェルはノースレア大陸にて魔王軍との戦いで死んだ。
より正確に言えば、魔王を名乗る謎の存在との戦いで死んだと、生き残ったアシェルの仲間から聞いている。
今目の前にいる魔王の話から推察するに、その時も他人の身体を借りていたのだろう。

であれば長年の疑問が解けた。他人の身体を借りれば魔王城にいるはずの魔王と戦うという矛盾が解決する。
アシェルは間違いなく魔王と戦って死んだのだ。そして今、奴は友人を操り人形にする事でここにいる!

「……返せ」

レインは紅炎の剣を握りしめると、その切っ先を魔王に向ける。
床を蹴って踏み込むと、無重力の影響で高く跳躍。宙に浮かぶ魔王まで肉薄する。
そして紅炎の剣を大きく振りかぶって叫んだ。

「……俺の友達を!俺の友達の身体を!!返せえええーーーッッ!!」

大剣が届く瞬間。魔王の、アシェルの身体から『闇』が噴き出した。
それは肉体を覆うように魔王を傀儡を包み、剣を防ぐ障壁となって刃を受け止める。
――闇属性の防御魔法『ダークネスオーラ』だ。あらゆる物理・魔法を無効化する、最強の防御魔法。

闇の障壁と炎の剣が干渉しあって火花が散る。
防御魔法の向こう側で魔王がレインをせせら笑った。

闇の衣とも呼ばれるそれは魔王の代名詞的魔法であり、勇者の伝承にも記述されているほど有名だ。
闇魔法そのものが習得難易度の高いこともあいまって実質的に魔王の固有魔法とされている。
0379レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/09/13(月) 22:16:54.22ID:apbIqXyd
「便利なものだなこれは。余といえど肉体の性能以上のことは出来ないのだが、
 魔法に限っては何でもできる。もう少し身体能力があれば完璧だが……まぁ多少の『縛り』も悪くない」

『ダークネスオーラ』に弾かれて後方へ吹き飛ぶと、空中で静止する。
それは自らの意思ではない。何かがレインの身体を絡めとったと言った方が正しい。

「……くっ!」

『糸』だ。真紅の魔力の糸がいつの間にかコントロールルームに張り巡らされている。
レインはそれに掴まり拘束されてしまったのだ。見る限り魔王の仕業ではない。
糸を辿っていくと、それは魔王の隣にいる女性の白い細指。それが嵌めている指環に集約されている。

レインはいつか聞いたことがあった。『傀儡霊糸』と呼ばれる魔力の糸を伸ばす特殊武器が存在すると。
それはあらゆるものを自在に操る糸となり、あらゆるものを自在に切断する武器にもなるという。
最早レインは蜘蛛の糸に絡めとられた蝶。女性の魔族は冷徹にこう言い放った。

「切り刻みましょうか」

「いや……いい。十分だアリスマター。もう少し遊びたかったがな」

これではクロムも、マグリットも迂闊に動けない。
実体のない魔力の糸に一度触れたが最後、生殺与奪の権を握られたも同然。
下手をうてばレインの肉体は切り刻まれて死体に変わる。

「魔王!魔王っ!!お前ぇぇぇぇぇっ!!!!
 お前なんかが……お前なんかが!アシェルの身体を!アシェルの声を!使うなぁぁっ!!」

四肢を糸で縛られてなお、レインは憤怒を滾らせる。
だが魔王の耳にはもう届いていない。

「さて……いい加減仕事をするとしよう。この施設は魔王軍の戦略上重要なものだ。
 あらゆる国家を自由に狙い撃てるからな。おいそれと渡すわけにはいかん」

魔王は片手をゆっくり持ち上げて、マグリットとクロムを見た。

「余は寛容だ。お前達二人は見逃してやる……だがシェーンバインは返してもらおう」

シェーンバインは大幹部として重要な情報を幾つも握っている存在だ。
もし魔法で死体から情報を抜かれてしまうと、最悪『魔王城』も特定されかねない。
マグリットにとっては九似に足り得る存在のようだが、そんなことは魔王に関係ない。

「これは交渉ではない。命令だ。それを理解した上で行動するのだな」


【シェーンバインを無事撃破】
【その後魔王と側近の魔族アリスマターが現れる】
0380クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/09/19(日) 20:20:56.37ID:95csT1kA
残ったもう一つの角《弱点》は、クロム同様一時的なパワーアップを果たしたマグリットによって切り取られた。
しかし、直後に抵抗することなくシェーンバインにあっさり蹴り飛ばされた彼女の姿は、その代償の重さを物語っていた。
直接的なダメージだけではない。恐らく彼女のパワーアップもまた、肉体に多大な負担が掛かるものだったのだ。
もはや彼女が戦線に復帰するのは困難と言わざるを得ないだろう。クロムと同じく。

(息苦しくなってきやがった……こいつは肺にダメージか……? やべぇな……いよいよ後がねぇぜ)

ただ、一方のシェーンバインも追い詰められている事は確かだ。
魔力のコントロールを失い、片目を潰され、『鬼神のだんびら』によってエネルギーまでも現在進行形で奪われているのだから。
それは満足に動けない、動かせない状態とはいえ、クロムが生きている限り時間はシェーンバインの味方をしないことを意味する。
もたもたしていれば、やがてはもはや戦況を覆す事が絶望的なスペックの低下を招くことになる。

>「だが、隠し玉を持っているのはお前らだけじゃない。
> ここまで来た連中なら知ってるだろ?俺が『半竜』の魔族だってことを。
> 見せてやるよ、この俺の……真の姿をな……!」

だから、だろう。このタイミングでヒトの形を捨てたのは。
劣勢が確実となる前に、勝負を決めに来たというわけだ。
圧倒的なパワーと頑強さであらゆる物を蹂躙し破壊するケダモノの帝王・竜となって。
その姿は紛れもないシェーンバイン最強の切り札に違いなかった。

あっという間に視界を占領した巨体。
剣を床に突き刺し、片膝をついて胸を抑えて動く素振りの無いクロムはしかし、内心まるで動じていなかった。
“間に合った”ことに気が付いていたからである。ケダモノの餌食となる前に、“彼”の回復が。

「既にカードは出揃ってる。勝負の行方は残すお前のカード次第。……頼むぜ、リーダー」

シャコガイから飛び出したレインが繰り出したカード──それは火の鳥。一度はシェーンバインに破られた彼の奥義。
だが、クロムは思わず目を見張っていた。
伝わる熱気から、乱雑さがないその整然とした炎の流れから、明らかに制御され、かつ強力になっていた事を感じ取ったからだ。

>「……奥義。『プロミネンスブレイザー』!」

──切り札と切り札の対決。
その勝負を制したのは、シェーンバインの全身を見事溶断したレインであった。

未完から完成へ。どういう手品を使ったか、この短時間でとにかくレインは完成させていたのだ。
巨大な竜さえも真っ二つにして勝利を掴む正しく強力な切り札を。
事切れ、変身が解けていくシェーンバインの肉体に、そっと触れようとするレインを見て、クロムはやがてゆっくりと目を瞑る。

「……いや。これが人間の成長力。……魔族が唯一恐れる、人間の可能性」

そして小さく呟くと、ゆっくりと目を開けて、マグリットに視線を移して今度ははっきりとした声で言うのだった。

「お疲れのところ申し訳ないんだが、俺はもう薬草も切らしちまってんだ。早ぇとこ治してくれ」

しかし、彼女の返答をクロムが聞く事は無かった。
彼女の声よりも先に、聞き覚えなど全くない別の第三者の男の声が鼓膜を打ったからである。

>「それ以上シェーンバインに近づくな。奴は余のものだ……その肉体も、魂でさえもな」

(!!?)

クロムは一瞬、目を疑った。
声の方向、視線を向けた先には、空間に開いた漆黒の穴を背にした男女が立っていたのだが──
そこに決して忘れる事のできない存在《ツラ》があったのである。
0381クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/09/19(日) 20:25:07.49ID:95csT1kA
聞き覚えの無い声の持ち主──すなわち男の方は顔も見覚えがなく、何者なのかは定かではない。
レインが茫然とした様子で『アシェル』なる名を紡いだが、今のクロムには何ら興味を惹くものではなかった。
それだけ“女”の存在が強烈であり、驚きだったのである。彼にとっては、この場にいる誰よりも……混乱するほどに。

>「余は……魔王セイファート。貴様も名くらいは知っているだろう。余こそが魔族の王だ」

だが、彼をパニックから救ったのもまた、強烈な驚きに他ならなかった。
『魔王』。ある種のショック療法とでも言おうか、更なる衝撃が却ってクロムを我に返させたのだ。

「魔王…………!? まさか……────っ! 待て、レ──」

その時、怒りを燃え上がらせるレインに気付き、クロムは肩を掴もうと咄嗟に手を伸ばすも、時すでに遅し。
怒りのまま魔王に斬り込んだレインには届かず、魔力の糸によってその身を絡め取られる様を見せつけられるのだった。

(敵はシェーンバイン級が一人と、それ以上がもう一人! 満身創痍の俺達にハナから勝ち目はねぇんだ、馬鹿野郎が……!)

魔王を名乗る青年はこちらを見ると、シェーンバインの遺体を捨て置けば見逃すと言ってきた。
つまり、見逃しても何ら問題がない程度の小さな存在と見做しているのだ。
実際、青年にはその自信を裏付けるだけの力があるのは見ただけでも分かった。
今のところはあくまで“自称”魔王に過ぎないが、『ダークネスオーラ』は自信過剰なだけの小物には決して使える魔法ではない。

「……マグリット、聞こえるか」

戦っても勝ち目はないのなら、提案を受け入れるしかない。が、流石のクロムにもただ逃げるという選択肢はなかった。
魔王はあくまでクロムとマグリットの二人を見逃すと言ったのであって、レインを見逃すとは言ってないのである。
殺す気ならとっくにやっているという考えもできるが、二人が去った後で無傷で解放される保証はどこにもない。

しかも衛星砲の奪還に事実上失敗したことで、都市攻撃の脅威は未だ取り除かれていないと来ている。
これでは尚更、撤退が最善策であったとしてもただ逃げることなど出来る筈もない。
地上へ戻る間に、地下深いメガリスさえ想像を絶する強力な砲撃の前に吹き飛ばされているかもしれないのだから。

「逃げるぞ。……この衛星をぶっ壊してな」

故に、クロムはマグリットに伝える。己の意思を、ギリギリの賭けを。
水中での彼の言葉すら聞き分けたずば抜けた聴覚を信じて、他の誰にも聞こえない程の小声を以って。

「方法はある。俺達も破壊に巻き込まれる可能性がある危険なものだが……だからこそこれ以上有効な手は恐らくねぇ。
 俺が仕掛けたら、一目散に来た道を戻って昇降機へ行け。……レインの事は任せろ、まだ少しくらいなら無茶は効く」

今、レインは糸に捕らわれているが、衛星の破壊が起きた時は、流石の魔王とその幹部も一瞬くらいは隙を作るだろう。
糸の効力もその瞬間だけは緩む筈。その時、奪回できる──という読みがクロムにはあった。

「……大丈夫、上手くいくさ」

ただ、結果としてその読みが外れた時は、クロムさえも糸に絡め取られることになりかねず、もしそうなれば終わりである。
目的《破壊》が果たされていればそれに巻き込まれて死に、果たされてなくとも糸にくびり殺される事になるのだろうから。
最後の一言は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。

すっと、静かにポケットに突っ込まれた手が、やがてゆっくりと取り出す。
小さいが衛星砲の破壊には絶対に必要な強力なアイテムを。

表面にいくつもの突起がある小さな球状の物質──『コンペイトウ』。
魔力を込めると破裂して粒子となり、ある魔法を発動する魔法陣を描いて消失する使い捨ての魔道具である。
現在のクロムは『反魔の装束』によって魔力を失った身。……が、使えるのだ。あるアイテムを併用すれば。
0382クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/09/19(日) 20:31:11.98ID:95csT1kA
「シェーンバインの遺体なんざ好きにしろよ。こっちはハナから興味なんざねぇ」

続いてもう片方の手が取り出したのは小瓶。コルクが指ではねられ、中身が無重力空間に風船のように浮かび上がる。
それは『魔法水』。あの宝箱の部屋、シェーンバインのコレクションルームでコンペイトウと一緒に見つけてくすねたものだ。
収集家のサガなのか、どうやらシェーンバインは武器以外のアイテムも幅広く溜め込む一面があったらしい。
まさか彼も結果として己の性格が敵を利することになるとは思ってもみなかったに違いない。

「だが……この衛星については“あんたの好きにしろよ”とは言ってやれねぇんだよ、オモチャにしちゃ危な過ぎるんでな!」

水球と化した魔法水に放り込まれるコンペイトウ。
魔素を得て一気に弾けた粒子が、空間に描かれる魔法陣となって再結集し、やがて一際強い銀色の光だけを残して消える。
これがクロムが“仕掛けた”瞬間である事は、もはや言うまでもない。

「! 今の魔法陣は……」

それを見て、アリスマターが一瞬、何かを言い掛けた。
恐らく発動された魔法の正体に気が付いたのだろう。だが、もう遅い。
突如として激しい轟音が衛星内に響き渡り、それと共に部屋全体が巨大な振動に包まれたのは、その直後だった。

魔法陣が発動した魔法は『メテオレイン』。
亜空間を通して、大小様々な“隕石”を雨あられの如く高速で降り注がせる、隕石召喚魔法である。
隕石を吐き出す亜空間の“穴”は、通常、意図してコントロールしない限り発動地点の真上・数十メートル上空に現れる。
つまり、この場合は衛星の外──衛星は“宇宙空間”から隕石をぶつけられており、それが轟音と振動の正体なのだ。

不意の極めて強い揺れ。ここが地上であればどんな屈強な戦士も思わず体勢を崩し、大きな隙を生み出していたに違いない。
ここは体が宙に浮く無重力故にそれを望むのは難しいが、それでもある程度の意識を引き付けることは期待できるであろう。
ミスリルとはいえ強度には限界がある。ましてや他の部屋や外壁までも、果たしてミスリルで守られているかは疑わしいのだから。
その点に少しでも気を取られていれば、それが僅かな隙となる。

(頼む……上手くいってくれ!)

衛星全体が揺れる中、跳躍し、レインの手を掴んで勢いのまま進行方向へ引っ張るクロム。
もし糸が緩んでいなければ、引っ張られた衝撃でレインの体は一気に締め付けられ、下手をすればバラバラになるところだが──
成功を祈った甲斐があったのか、糸の抵抗を生じることなく彼の体はあっさりと進行方向へ移動した。
賭けに勝った。しかしそれはまだ第一段階に過ぎず、賭けの全てに勝ったと言い切るにはまだ早い。
衛星の破壊と、三人揃っての脱出。これに成功して、初めて作戦は成功した事になるのだ。

体を引っくり返して、迫った壁を蹴る。部屋の出入り口、その奥の昇降機へ通じる一本道を目掛けて思いっきりに。
隕石の衝突音に混じって、金属の歪み、引き裂ける破壊音が聞こえだしたのは丁度その時だった。
蓄積された外壁のダメージがいよいよ限界を超えつつあるのかもしれない。
ならば、第二の賭けに勝利するのも時間の問題といえる。が、ラスト──脱出については最後の最後まで分からない。

如何に隙を衝いたとはいえ、相手は超々一級の実力者。このままカカシの如く黙って突っ立っているだろうか?
仮に無事に昇降機に辿り着いても、何らかのトラブルで動かないこともあり得る。
そうなれば崩壊する衛星に巻き込まれて一巻の終わりだ。
何事もなく脱出できるよう、それこそクロムはもう祈るしかない。

(体が痛ェ……! あと少しだ、もってくれ……!)


【コレクションルームからくすねた『コンペイトウ』+『魔法水』の併用で召喚魔法の一つ『メテオレイン』を発動】
【衛星そのものに大小無数の隕石をぶつけることで破壊+隙を衝いての脱出を試みる】
【レインを回収し出口へ向かうが、ダメージが更に拡大中】
【どうやらクロムはアリスマターの事を知っているようだ】
0383マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/27(月) 00:11:22.11ID:+QXL8AH0
追い詰められたシェーンバインがついにその本来の姿を現した
それが真竜形態
それはマグリットが目指すべき場所に近いものであり、今だ自身では届き得ぬ場所

それに対峙するは、神の徒として神託を受け、共に旅する仲間
シャコガイによる治療を受け回復し、戦線復帰を果たした召喚の勇者レイン

目指すべき存在と、助けるべき存在であり、魔族を倒すよう宿命づけられた勇者
この二人の対峙にマグリットは複雑な念を禁じえない

しかしどのような想いがあろうと、今のマグリットにはそれに介在する力はもはや残っていない
ただ、その激突を見守るしかできないでいたのだった。


両者の激突は二度目
しかしその結果は一度目とは真逆のものとなり、ついにレインはシェーンバインを倒したのであった


>「……負けたんだな……俺は……かつて魔王様と戦った時を思い出していたよ。
> 自由の翼をもがれたあの時から、俺はとっくに死んでいたのかもしれない」

末後の言葉にマグリットは目を細め天を仰ぐ
真竜形態になったシェーンバインはマグリットの目指すものに限りなく近かったのであろう
だが、ここまでの言葉から推察するに、シェーンバインは魔王と戦い、そして敗れ忠誠を誓ったと思われる

「あれをも、超えるというのですか……」

そこから導き出される魔王の強さに途方もない差を感じてしまうのだが、それを直後に肌で感じる事になるとはだれが思おうか?

>「お疲れのところ申し訳ないんだが、俺はもう薬草も切らしちまってんだ。早ぇとこ治してくれ」

クロムの言葉に思考が引き戻されたが、その返事をする事はできなかった
突如コントロールルーム中央に浮かび上がった漆黒の渦巻く穴
そこから響く声と共に室内はとてつもないプレッシャーに包まれたからだ

身動きはもちろん、息を吸うのすら困難になる程のプレッシャー
その発生源が厳かに口を開く

>「余は……魔王セイファート。貴様も名くらいは知っているだろう。余こそが魔族の王だ」

それは漆黒の衣をまとう女性を連れ立った青年の口から発せられたものだ
初めてみる姿ではあるが、その言葉がまぎれもない真実だと本能が継げている
辛うじて視界に入る隣のクロムにも明らかに混乱の色がとって見える

例え五体満足であってもこのプレッシャーの中、動けたかは疑問であるが、満身創痍の状態であればなおさらだ
レインが何やら叫んでいるようだが、声が遠く何を言っているのか聞こえない
更に視界が狭くなってきている事に気づき、唇を神ながら神の加護を請う祈りを呟くのであった
0384マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/27(月) 00:12:50.51ID:+QXL8AH0
そのおかげか、響き渡るレインの咆哮のおかげか
マグリットの意識が鮮明になったのだが、その時既にレインは弾き飛ばされ赤い糸に絡めとられていいた

慌てて立ち上がり救出しようとするも、この状態ではどうにもできない
唯一の救いは

>「いや……いい。十分だアリスマター。もう少し遊びたかったがな」

との言葉で、殺す意思はなさそうだ、という言事だった
戦いの場において完全に生殺与奪の権を握られ、それに縋るしかない状態である事に唇をかむしかできずにいた
そんなマグリットとクロムに魔王は向き帰り

>「余は寛容だ。お前達二人は見逃してやる……だがシェーンバインは返してもらおう」

それはすなわち、見逃すのは二人であり、レインは逃がすつもりはないという事だ
そんな事を了承できるわけがない!という言葉が喉まで出かかったが、それを飲み込んだのはクロムの言葉が耳に届いたからだ

>「シェーンバインの遺体なんざ好きにしろよ。こっちはハナから興味なんざねぇ」

クロムの言葉に乗るように、マグリットも大きく息を吐き剣を横に伸ばすと、漂っていたシャコガイが鞘の役割を果たしその刀身を加え込んだ
納刀し、戦闘継続の意思がない事の意思表示である

「私は九似としてその爪頂きたかったですが、仕方がないですね
戦いを通じて魔族が神の敵対者で世界に仇なす存在という認識も崩れてしまいましたし
出来ればその件についてゆっくりお話ししたいくらいですけど、ね」

右腕は風魔法によりいくつもの裂傷が刻まれ、左肩甲骨辺りは切り裂かれている
骨がなく前進筋肉であるが故の怪力であるが、筋肉事態切り裂かれていてはもはや左腕は上がらない
そのほかにも蹴られ内臓にも損傷があるかもしれない
正に満身創痍で歩く事すらもままならないような状態なのだから

九似足りえるシェーンバインの爪を前にしても理性を保ち諦めるという選択肢を取れる程度に血が流れてしまっているともいえる

「これで見逃してもらえるのなら私たち二人はありがたいですが、クロムさんは歩くのもままならないようですから
魔王の前で神に祈らせてもらうのもおかしいですが、せめて歩いて退場できる程度には回復させてもらいますよ」

ぼんやりとした光がクロムを包み、弱くはあるが確かにその傷を癒していく
全快には程遠くとも、動けるようにはなったはずだ
0385マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/09/27(月) 00:13:24.21ID:+QXL8AH0
そして
>「だが……この衛星については“あんたの好きにしろよ”とは言ってやれねぇんだよ、オモチャにしちゃ危な過ぎるんでな!」
クロムのこの言葉と共にマグリットは動いた

クロムが何をしようとしているかはわからない
衛星を破壊するという言葉に、コントロールであろう玉座を全力で破壊仕様として失敗した事を思い出したが、それを忠告する事はなかった
どのような形で伝えたとしても、魔王の前では情報漏洩のリスクがあり、衛星破壊はもちろん、レイン救出すら水泡に帰す可能性があったからだ
ならばクロムの衛星破壊手段が自分とは違う手段で、かつそれが破壊に足りうるものだと祈るしかなかった

祈りながらシャコガイメイスを突きだすと、そこからゲル状のものが噴出し、無重力状態の中マグリットはその勢いで起動エレベーターに飛んでいく


シャコガイメイスは魔力を食らい溜め込み、マグリットの剣を内包して形成、鋭く研ぐ鞘なのだ
剣が抜かれればマグリットの左腕を加え込み、盾として、そして溜めた魔力を供給し回復元となるタンクとしての役割を持つ

しかしレインの回復のために溜め込んだ魔力を使ってしまい、飢餓状態にあるのだ
そこで魔力の補充を行っていたのだが、それがマグリットが今回持ってきて水球防御につかっていた群体クラゲの捕食器官が使われる
文字通り捕食器官であり、魔力を吸収し蓄える
シェーンバインから僅かではあるが吸収したため、室内に散らばっていた群体クラゲの捕食器官をシャコガイが回収していたのである

そして今、推進力としてそれを噴出したのだ

吹き出されたそれは、魔力を吸収し増殖する
そして室内に張り巡らされた傀儡霊糸は魔力そのものの糸であり、格好の餌ともいえるのだ

本来ならばこういった方策にも即座に対処がとられるのであろうが、それどころではない衝撃が衛星全体を襲っている
クロムの仕掛けたメテオレインにより召喚された隕石が次々に衛星にぶつかり全体をきしませているからだ

傀儡霊糸の魔力が強力が故に群体グラゲの捕食器官の増殖もすさまじいものになっている
マグリットの血の丸薬を飲み抗体が付いているレインやクロムは襲われる事はないが、魔王とアリスマターはそうではない
せめて足止めには、と願わずにはいられないが、それは脆くも崩れ去る

何が起こったのかはわからないが、突如としてゲル状の群体クラゲの捕食器官が文字通り霧散したのだ
魔王を前にすれば当然の結果としか言えないが、一足先に起動エレベーターに到着したマグリットが叫ぶ

「クロムさん、レインさん、早く!……」

だが絶望的にまで遠い
崩壊しそうな衛星と溢れんばかりの魔王のプレッシャーを前に、マグリットができる事は叫ぶしかできなかった

「アルスさん、助けてください!」

召喚の勇者一行の新たなる、そして最後の一人
地上にて竜の群れを一手に引き受け送り出してくれた仮面の騎士、先代勇者の名を叫ぶのであった

【ゲル状群体クラゲの捕食器官を噴出しながら脱出】
【傀儡霊糸の魔力を吸い群体クラゲ増殖】
【崩壊しつつある衛星と魔王のプレッシャーの前にアルスに助けを求める】
0386レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/09(土) 17:02:32.00ID:MPjYjS4F
魔導砲を備えた人工衛星に無数の隕石が降り注ぐ。
激突による振動はコントロールルームをも大きく揺さぶる。
魔王とその側近といえど、一瞬の隙を生んでしまうほどの規模かもしれない。
とにかく、不意をつく形でクロムは拘束されたレインを救出し昇降機めがけ脱出を図る。

マグリットもその流れに追従し、ゲル状の物質を噴出して飛んでいく。
そのゲルの正体とは飢餓状態の群体クラゲであり、魔力を求めて傀儡霊糸に群がる。
おそらく逃走と足止めを兼ねた一手なのだろう。だが魔王の前ではおおよそ児戯に等しかった。

「煩わしいな。この程度か?」

手を翳すと魔法陣が浮かびアリスマターの傀儡霊糸に集まる群体クラゲが霧散していく。
一体どのような魔法を使ったのか――少なくとも四大属性で出来る芸当ではなかった。

"召喚の勇者"パーティーが命懸けの撤退を始め、魔王は宙に浮かんだまま緩やかに後を追う。
急ぐ様子はない。なにせ、この人工衛星と地上を繋ぐ道はただひとつ。行きで使った軌道エレベーターだけだ。
多少なりとも頑丈なつくりではあろうが魔王がその気になればいくらでも破壊できる代物。
三人がそれに乗って地上に降り始めたらまとめて魔法で攻撃してしまえばいい。

それが追跡を急がない理由のひとつ。そして理由はもうひとつあった。

>「アルスさん、助けてください!」

そして神に祈りを捧げて救いを乞うかのごとくマグリットは叫んでいた。
その声はゆっくりと後を追う魔王とアリスマターにも届いていた。
かつてその男は魔王軍に名を知られたくないと言っていたが、今は窮地だ。
焦りのあまり名前を呼んでしまっても致し方ないだろう。

かくして声は天に届いたのか、軌道エレベーターの扉がゆっくりと開いていく。
――そこには三人にとって見慣れた姿の男がいた。
仮面を被り素顔を隠し、膨大な光の波動を纏った最初の勇者が。

「……待たせたな。三人とも……よくやってくれた。後は私に任せてくれ」

昇降機から飛び出すと、三人を守るように魔王とアリマスターを立ち阻む。
魔王はとりわけ驚く様子もなく、むしろ愉快そうに顔を綻ばせた。

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ、仮面の騎士…………いや。
 余の最大最強の宿敵……勇者アルスよ。1000年ぶりだな。貴様と相まみえるのは」

整った顔立ちは心底愉快そうで、魔王は上機嫌で話を続ける。

「大幹部達から得た情報では確証がなかった。だが確信だけはしていたよ。
 こうして直接会えば分かる。その雰囲気。佇まい。魔力の質……全てがあの時と変わらない。
 そう……時を止めたように。余は残念だよ。人間でなくなりいよいよ神の下僕が板についたようだ」

ぐ、と片手で握り拳を作ると拳に魔法陣が浮かぶ。
それは光系統の魔法陣だった。群体クラゲを霧散させたのと同じ術式。
0387レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/09(土) 17:07:28.21ID:MPjYjS4F
仮面の騎士はそれを見逃さずに上位防御魔法『セイントイージス』を発動。
光の盾が出現すると、数秒後跡形もなく霧散する。

「ここへ来たのは奪還を阻止する目的もあったが……やはり一番は貴様だアルス。
 尻尾を掴むのに随分と時間がかかった。今日こそ余と貴様の因縁に決着をつけよう!!」

それこそがもうひとつの理由だった。
クロムとマグリット、レイン達三人が一瞬でも逃げおおせられたのは手心を加えたからかもしれない。
彼らを逃がしつつも窮地に追い込めば仮面の騎士は必ず現れると。殺すチャンスはいくらでもあったはずだ。
少なくとも、アリスマターは魔王の思惑を汲んで幾分か手を抜いていた。

剣を抜き放つと仮面の騎士は神速で真一文字に振り抜き魔王に斬りかかる。
だが魔王がすかさず展開した『ダークネスオーラ』に阻まれてしまう。

「どうした?光魔法で攻撃しないのか。1000年前も言ってやったはずだが?
 この防御魔法を突破できる可能性があるのは『光』だけだとな」

剣を引き抜いて飛び退くと、仮面の騎士は崩れ落ちるように片膝をついた。
ぼんやりと光って明滅を繰り返し、腕や足といった身体の一部が燐光となって消えていく。
もう時間がなかった。魔力は底を尽き、仮面の騎士――アルスが地上を去る時が近付いているのだ。

「……もう限界か。つまらん奴だな。お互い万全ではないが……貴様は何も出来ず、今の仲間も救えずに消えるのか。
 かつての貴様ならば何があろうとこんな無様を晒すことはしなかったはずだ。違うか?
 アルスよ……余を興醒めさせてくれるな。勇者ならば相応しい消え方をしてみろ」

剣を支えにして立ち上がると、アルスは再び剣を構える。

「お喋りだな……魔王。私はもう勇者じゃない。ここにいるのはその亡霊のようなものだ。
 だがこんな私でも旅に迎えてくれた、仲間達だけは守ってみせる。私の全てを賭けてでも……!」

「それでこそ余が唯一好敵手と認めた男だ。褒美に面白いものを見せてやろう。
 この身体は何かと便利でな、余が習得していない魔法も操ることができるのだ……!」

頭上に手を翳して魔王は呪文を唱える。

「――先導者の父、禁忌の神子、森羅万象の精霊よ、一つになりて教理を示せ」

仮面の騎士の背後にいたレインは驚愕した。
あの詠唱はアシェルが開発した独自魔法の呪文だったからだ。

「ふっ……"召喚の勇者"、貴様は知っているようだな。そうだ。
 これこそがこの身体の持ち主が創り出した光魔法……『トリグラフエンド』だ」

勇者の肉体を乗っ取っているからなのか、対極に位置する闇属性の魔王が光魔法を行使している。
それも驚きだが、唱えた魔法は触れれば消滅する光を放つ究極の光魔法。
力を抑えて放っていたが群体クラゲや『セイントイージス』を霧散させたのもこの魔法だ。
もし最大出力で放たれた場合、この狭い一本道では避けることはできないだろう。
0388レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/09(土) 17:11:25.06ID:MPjYjS4F
対する仮面の騎士が残された力で行使したのはとある魔法。
レイン、クロム、マグリットの三人の足元に魔法陣が浮かびあがる。

「この魔法陣は転送魔法……!?まさか……!」

レインの言葉に反応して、仮面の騎士は振り返らずに答える。

「今から君達を地上へ飛ばす……生きて魔王城を目指すんだ。
 ここにいる魔王は本体じゃない……後は任せる。君達ならできるはずだ」

「待ってください師匠!師匠も一緒に……!」

レインは全てを言い終えないうちに起動した転送魔法でふっと消え失せた。
次いでクロム、マグリットが順番に衛星から姿を消していく。

――ただ一人、仮面の騎士を残して。彼はいわばしんがりだ。
崩壊しつつある人工衛星で魔王とアリスマターを足止めする。
転送魔法が使える二人を誰かが妨害しなければならないのだ。
そしてあわよくば道連れにする――――。

「自ら捨て石を選んだか……!ならば望み通りに消してやろうッ!!」

魔王の発動した消滅魔法が容赦なく仮面の騎士に襲い掛かる。
人工衛星の崩壊が近づく中で、僅かな力を武器に魔王と側近へと肉薄していった。



――――――…………。

吹き荒ぶ風が止んでいく。急に"飛んだ"影響なのか、戦闘の緊張が解けたためか。少し意識を失っていたらしい。
砂に埋もれた身体を持ち上げて周囲を見渡すと、一面には広大な砂漠が広がっていた。
姿はとっくに『紅炎の剣士』から元の旅人の服姿に戻っている。

空にはじりじりと照りつける太陽と雲一つない空。それ以外には何もない。
丘のように盛り上がった砂山を超えた先にクロムとマグリットが転がっていた。
眠ったように静かだ。息はある。ずざぁ、と砂山を降りて地平線の彼方まで広がる砂漠をもう一度見る。

「どこなんだ……ここは……?」

恐らく魔王の追跡を困難にするためなのだろう。
仮面の騎士はサウスマナ大陸とは異なる場所に三人を転送したようだ。
砂漠が広がる土地はアースギアに幾つかあるが、最も広大で有名なのはウェストレイ大陸だろう。

問題は現在地の把握と水の確保だろう。何処まで行っても砂しかないこの大地。
目印になるものも無く、どこへ向かえば人里があるかも見当がつかない。
乾燥した暑さは体力を奪い、考える力を徐々に奪っていくようだ。

二人が起き上がるのを待っていると、レインは地平線に浮かぶ"影"に気がついた。
その影はこちらを横切るように進んでいる。しかもひとつじゃない。
いわゆる隊商(キャラバン)という奴なのか。とにかく何かの集団が通り過ぎようとしている。
この好機を逃す訳にはいかない。羽織っているマントと召喚した長柄武器で旗を作ると振り回しながら影の集団へ走った。

「おーい!助けてくれーっ!おーーーい!!」

すると影のひとつが気がついたらしく、進行方向をこちらに変えて近づいてくる。
レインは安堵した。最悪この砂漠で迷い野垂れ死ぬ可能性もあった。自分達は運が良い。
0389レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/09(土) 17:12:50.57ID:MPjYjS4F
やって来たのは一頭のラクダに乗った人間のようだった。
防塵用のマントとゴーグルを被り、腰には細身の剣を帯びている。

「砂漠のど真ん中で……何をしているんです。
 ここはウェストレイ大陸ですよ。なぜ貴方がこの大陸で遭難しているんですか」

ラクダに乗ったその人は困惑したトーンでそう呟いた。
声色から察するに女性らしい。レインはどこかでその声に聞き覚えがあった。

「……鈍いですね。この距離でも分かりませんか?私ですよ」

女性はゴーグルを額まで持ち上げると、レインは「あっ」と変な声を漏らした。
彼女はかつてサマリア王国の教学院で共に学んでいた間柄の人物だった。
今はウェストレイ大陸を滅ぼさんとする大幹部討伐の任に就いているはずだ。

「……"探究の勇者"アンジュです。久しぶりで何よりですねレイン」

――現代において勇者アルスの血統を継ぐ、唯一の勇者がそこにいたのだ。


【一同、仮面の騎士の転送魔法でウェストレイ大陸の砂漠に飛ばされる】
【四章終了!大変長らくお待たせしました&お疲れさまでした。五章に続きます】
0390レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/09(土) 21:50:45.75ID:MPjYjS4F
【あっ。記憶力が欠如してました。マントと長柄武器で旗を作ったと書きましたが正しくは外套と長柄武器です】
【余談ですが外套はポンチョっぽいイメージでして……そのため些末なことですが訂正させていただきます】
0391クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/10/10(日) 20:35:42.18ID:QNSNNofY
メイスからゲル状の物質を噴射し、その反動を利用して昇降機の前へと難なく辿り着くマグリット。
一方、噴射された物質は魔力の糸を喰ってたちまちにして増殖し、魔王達の前進を阻むように広がっていた。
それは恐らく偶然の産物ではない。脱出と同時に足止めを図る、それが彼女の策だったのだろう。

しかし、渾身の策も、圧倒的な力の前では無残に打ち砕かれてしまう。
魔法は物質を瞬時に霧散させたのだ。それも触れずして。
つまりは魔法で──だが、一体どれだけ高位で、どのような性質の魔法を使えば物質を粉々に散らすことができるのか。
その光景を後目に舌打ちするクロムには想像もつかぬことだった。

(爆発でも、炎でもねぇ……分からねぇ。くそったれ、なんて底知れぬ化物だ)

障害物を排除すれば、もはや前方の行く手に魔王を阻むものはない。
なのに魔王の動きは非常に緩やかなものだった。逃げるクロムの背中に追いつくつもりなどまるでないように。
ならば魔法で追撃を掛けてくるのかと言えば、そうでもない。そのような気配も感じないのだ。
では、逃がすつもりなのか? それとも何か別の意図があるのか?

>「アルスさん、助けてください!」

それに対する答えに窮し、縋るかのように仮面の騎士の名を叫んだのは、マグリットだった。
そして、直後に不意に開いた昇降機の扉から現れたのは、紛れもない仮面の騎士その人であった。

>「……待たせたな。三人とも……よくやってくれた。後は私に任せてくれ」

「──仮面の騎士! よく来てくれたと言いたい、が……!」

通路に出た仮面の騎士の横を抜け、クロムは扉に手を掛けて動きを止める。
後は昇降機に乗って脱出するだけ……なのだが、仮面の騎士が足止めを成功させない限り、乗るわけにはいかない。
昇降機は一つしかないからだ。先に三人だけが地上に降りてしまえば、彼を崩壊する衛星に置いていくことになる。

(いくらあいつでも……残りのわずかな時間であんな化物の足を封じる事ができるのか……?)

その疑問に対する答えは、床から現れた。三人の足元に“転送魔法”の魔法陣が浮かび上がったのである。
崩壊する衛星から三人をどこかに転送する理由は敵には無いのだから、仕掛けたのは仮面の騎士に他ならない。

クロムは理解した。
見れば既に彼の体が消えかかっている。それは無数の竜との戦いで、ほとんど魔力を使い果たしていた事を意味する。
そう。僅かな時間で敵を封じ、共に脱出する──今の彼に、そんな芸当が可能な力はもう残っていなかったのだ。
だから三人だけでも確実に逃がす為、己を犠牲にして敵を崩壊する衛星に釘付けにすることを選択したのだ。

>「今から君達を地上へ飛ばす……生きて魔王城を目指すんだ。
> ここにいる魔王は本体じゃない……後は任せる。君達ならできるはずだ」

「仮面の騎士、あんたって奴ぁ……」

徐々に体が消えていく。いや、仮面の騎士のではない。クロムの、彼自身の体が、転送魔法によってその場から。

(…………!)

体も、意識も完全に消えかけたその刹那、クロムは魔王の後ろで宙に浮いていたアリスマターを見た。
視線を感じたからである。彼女からの、まるで死霊のそれのように冷たい無機質な視線を。

彼女は何か呟いていた。勿論、声は聞こえない。だが、クロムには何を言っているのか、把握には唇の動きだけで充分だった。

「次はないぞ、クロムウェル」──彼女の唇は、確かにそう言っていた。
0392クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/10/10(日) 20:43:48.66ID:QNSNNofY
 
────。
 
意識を取り戻した時、そこはもう地上であった。
乾いた風が髪を攫い、砂塵が視界に舞う。肌を照り付ける太陽光は真夏のそれのように強い。
上半身を起こして辺りを見回すと、そこには一面砂漠が広がっていた。

気温からサウスマナに戻ってきたと思いたいところであるが、ここがサウスマナでないことはクロムにははっきりと分かっていた。
別に景色に見覚えがあったわけではない。そもそも砂漠などというものは、どの大陸にあろうとほとんど景色に違いなどない。
それでもここが何処の砂漠なのか、クロムは知っていた。確信していた。漂う空気の“ニオイ”で。

(そうか……ここは懐かしの故郷、か)

イースでもサウスマナでもない、だがクロムが知っているニオイ。
それはクロムが人生で最も長い時を過ごした大陸、忘れる筈もない『ウェストレイ』のものに違いなかった。

>「おーい!助けてくれーっ!おーーーい!!」

ふと遠くで声がした。どうやらレインの声らしい。
そばに転がっていただんびらを掴んで立ち上がったクロムは、腰に下げた専用の真っ白な鞘に入れると、
近くで砂に埋まりかけていたマグリットに声を掛けて声の方向へと向かう。

「起きてんだろ、行くぞ! 散り散りになったところを魔物に狙われたら面倒だ。お互い満身創痍なんだ、離れるのはまずい」

そうして見えてきたのは、ラクダに乗った女性と何やら会話している様子のレインの姿だった。
クロムは急ぐことなく──というよりダメージが癒えておらず、走れないのだが──二人に近付き、やがて合流を果たす。
合流した新たな顔を順に見据えた女性は、まず己の名を『アンジュ』と明かした。
聞けば、正体は“探究の勇者”と呼ばれるレインの旧友であり、今はウェストレイでの任についているという。

「なるほど、あんたも勇者か。俺はクロム。察しの通りレイン《こいつ》の仲間だ。転送魔法でここに飛ばされてきた……」

言って、突然膝をガクンと折り、その場に尻餅をつくクロム。
一瞬の目眩の後、下半身から急速に力が失われていく感覚に襲われたからである。
原因はシェーンバイン戦で蓄積された疲労とダメージにあることは疑いなかった。
慣れ親しんだ故郷とはいえ、砂漠という過酷な環境は今のコンディションではとても耐えられるものではなかったのだ。

「……悪いが、話の前に体を治す時間をくれ。……マグリット、こいつをお前にやる」

クロムは懐から取り出したものをマグリットに手渡す。
それは大きなハート型の宝石が埋め込まれた腕輪だった。名を『祈りの腕輪』。
冒険者の間で、特に神官相手に高値で取引されるという貴重なアイテムである。

「シェーンバインの部屋から持ってきたものだが、使ってみてくれ。役に立つと思うぜ……本物ならな」

それが齎す効果は回復魔法の強化。術者が込めた祈り・魔力を宝石内で増幅し、回復効果をワンランク上昇させるというもの。
つまり、下位の回復魔法を使えば自動的に中位に、中位の魔法を使えば上位の効果が発揮される優れものというわけだ。
高値がつくだけに形だけを似せた偽物も多く出回るのだが、そこは元の持ち主を信頼するしかない。
コレクター故に偽物を見分ける目は確かであり、まさか偽物を掴まされて等いないであろうと。

仮面の騎士の死──いや、敢えて離脱と表現しておこう──が、パーティに与えた打撃は余りにも大きい。
彼は一流の戦士であると同時に一流のヒーラーでもあったからだ。
回復魔法の効果すら半減させてしまう特殊装束を纏うクロムにとって、一流ヒーラーの損失は誰よりも痛手であると言える。

仮面の騎士は装束の妨害がありながらも欠損を治して見せたが、ではそれがマグリットであったら果たしてどうだったか。
……恐らく、治せなかったに違いない。それも装束の妨害が仮になかったとしても。
彼女は装束の効果を知らない。なのに、初めから回復を諦めて処置を止血に留めたのは……つまりそういうことなのだ。
しかし、それでは困る。今後も大幹部との戦いは続くのだから。今後もそれでは、困るのだ……。

【マグリットに回復魔法の強化アイテム『祈りの腕輪』を渡す。偽物か本物かはお任せします】
【次の章も引き続きお願いします】
0393マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/10/17(日) 20:18:25.38ID:Lk54vArG
崩れ行く衛星
その中で繰り広げられる人知を超えた戦い
転送の力によりそれらは視界の彼方へと消えていく

「アルスさん……すいません……」

遠ざかるアルスの背中を見送りながら、その視界が涙にぼやける事を感じていた

マグリットはこうなる事は判っていた
そしてこうなる事を望んでいた

旅の同行を認めた時から
船旅では余計な消耗を避けるため
サウスマナについてからは少しでも延命するために教会に聖域の発動もさせた
ここまでの戦いでアルスにはなるべく負担をかけないようにしたのも

この時の為だったのだ
「どれだけ持つか?」という問いに、アルスは「シェーンバインを倒すくらいまでは持つはず」と答えた
だがマグリットはそれでは「足りない」と思っていたのだ
魔王を倒した先代勇者の力、幹部ではなく更にそれ以上の力に対するために温存しておきたいと

その願い通り、魔王が自ら自分たちの前に立ちはだかり、この窮地を脱するためにアルスを呼んだ
全ては自身の思惑通りであるはずなのに、去来する罪悪感と喪失感はいかなるものか、転送の中でマグリット自身でも分からなかった

ただ一つ、「神はいる」揺らいでいた信仰を強固にするに足るだけの確信だけがその内から溢れ出るのを感じていた


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>「起きてんだろ、行くぞ! 散り散りになったところを魔物に狙われたら面倒だ。お互い満身創痍なんだ、離れるのはまずい」

「え?あ?アルスさん……は……う、はい」

クロムの声に目を覚まし、飛びあがるも全身の傷で起き上がる事もできず
ただ空は何処までも青く、中天には眩い太陽が浮かんでいた
明らかにサウスマナの、少なくとも知っている空ではない事に戸惑いを覚えつつ、なんとか立ち上がりクロムの後を追うのであった
0394マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/10/17(日) 20:19:44.83ID:Lk54vArG
砂に足を取られ、重いシャコガイメイスを引きずりながらレインとクロムに追いついたところ、ラクダに乗った女性と話している最中であった
その女性は探求の勇者アンジュと名乗り、ここがウェストレイ大陸である事を告げる

「ええええ?私たち、大陸間移動の転送されたって事なんですか!
それで、衛星は?それに魔王は……?」

余りの事態に驚き、思わず天を仰ぎ見る
勿論誰もその答えを持ち合わせてはいない事は判っていたが、口に出し、そしてへたり込むのであった

マグリットは海棲獣人である
サウスマナのような湿気の強い暑さには対応できるが、砂漠のような乾燥した暑さには弱かった
表面積が大きい分急速に水分が失われていき、傷も相まって消耗が激しい

アンジュの間とう外套の様に砂漠には砂漠に相応しい装備があるのだが、身一つで転送されてきたのでは如何ともしがたい事であった

>「……悪いが、話の前に体を治す時間をくれ。……マグリット、こいつをお前にやる」

へたり込んだマグリットにクロムが手渡したもの
それを見て驚きに目を開いた
渡されたのは『祈りの腕輪』
癒しの力を一段階上げる効果のあるもので、回復職ならば是非とも持っていたい一品ではあるが、産出は少なく高価で取引されているものだ
それ故に偽物も多く出回っているのだが

「こんなもの一体どこで……いや、でもこれを頂いても私では……」

祈りの腕輪はあくまで祈りを、その信仰心を高めるものであり、単純に回復魔法を振りまくものではない
10が100になれば意味は大きいだろうが、元が1ならば10にしかならず、同じ10倍にするという効果も意味合いが違ってきてしまう
即ち、元々信仰心が低い上に魔族の立場や目的を知り揺らいでしまっている自分が持っても効果が期待できないと思ったのだが

腕輪を受け取った瞬間、光の粒子が溢れだし周囲に積層型魔法陣が展開される

「こ、これは、セイクリッドサークル!?」

魔法陣により聖域を展開し、その内部にいるものに強力な治癒効果をもたらす設置型簡易結界
本来ならば教会を管理する司祭級の祈りがなければ実現しえない魔法だ
その効果は一目瞭然で、効果範囲内にいるレイン、クロム、そしてマグリット自身の傷も急速に癒えていく
貫かれた左鎖骨辺りもふさがり、左腕に力が入るようになるのが分かる

「驚きました、これ、本物の様ですね
しかも急激な反応で一種の暴走状態に陥っていたようで」

時間にして聖域展開は数秒ではあったが、それでも十分な回復力を発揮してくれた
が、傷は癒えども、それを強引に展開させられてマグリットの体力や気力、そして魔力は大幅に消耗
元より消耗激しかった状態で、根こそぎ使い果たしたようなもので
砂漠の暑さも相まってマグリットの視界は暗転するのであった

頬に砂の感触を感じながら
「み、みず……」
とか細く声がこぼれ、気絶してしまう
貝に砂漠という環境は過酷なのだ

【祈りの腕輪が暴走し強力な回復フィールド出現させて快復させる】
【魔力の使い果たしと砂漠の乾燥による脱水症状で気絶】
【第四章お疲れ様でした、第五章もよろしくお願いします】
0395レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 03:50:02.92ID:wWMDqB2g
目の前の女性があのアンジュだということに気づき、レインは目を丸くした。
そういえば彼女は"探究の勇者"としてウェストレイ大陸に派遣されていたのだった。
だからって転送魔法で飛ばされて会った最初の人間がアンジュなんて――そんな偶然があるだろうか?

「どうしました?具合でも悪いのですか?」

アンジュはラクダから降りてレインの顔を覗き込む。
間近に迫る中性的な整った顔立ちに青と緑のオッドアイ。
彼女の顔を直視できない。彼女の顔を見ると仮面の騎士を思い出す。

再会して判ったが仮面の騎士――アルスの面影を強く感じるのだ。
アンジュを見ていると彼を一人衛星に残してしまった罪悪感が湧いてくる。

「いや……大丈夫だよ。意外なところで会ったものだから……」

「それは私の台詞です!レイン、なぜ貴方がここに?
 運命の悪戯が神の仕業ならその手元が狂ったとしか思えません」

「話せば長くなるから詳細は後にするけど……転送魔法で飛ばされてきたんだ」

本体ではないようだが魔王との決着もまだついていなかった。
まさしく突然落ちてきた隕石にぶつかったような衝撃。
掴みかけた幸運がすり抜けていったような感覚だ。

「転送魔法が原因でしたか。ならば合点は行きます。話は後で聞くとして……。
 今は私の数少ない友人との再会を祝しましょう!後ろのお二人は貴方の仲間ですか?」

振り返るとクロムとマグリットがこちらへやって来る途中だった。
そういえば二人はまだ戦闘のダメージも色濃いはずだ。
特に重そうなシャコガイメイスを抱えたマグリットは疲れの色が見える。

「うん……俺の仲間だよ。クロムとマグリットって言うんだ。
 凄く頼りになる。二人がいなかったら何度死んでたか分からないくらいだ」

「そうですか……それは良かったです。
 貴方は……仲間を作りたがりませんでしたからね」

そうして合流を果たすとアンジュはいのいちに自己紹介を述べた。

「はじめまして。私はレインの友人で"探究の勇者"アンジュです。
 このような砂漠の真ん中で出会えたのも何かの縁、以後お見知りおきください」

>「なるほど、あんたも勇者か。俺はクロム。察しの通りレイン《こいつ》の仲間だ。転送魔法でここに飛ばされてきた……」

クロムも端的に自己紹介で返すと、突然ガクンと片膝をついた。
無理もない。蓄積した戦闘の疲労がそうさせてしまったのだろう。
0396レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 03:54:45.69ID:wWMDqB2g
アンジュはちょっと動揺した様子でクロムへ近寄る。

「戦闘のダメージが残っているようですね。立てそうですか?
 その身体でウェストレイ大陸の極端な環境は酷でしょう」

ウェストレイ大陸はクロムにとって見慣れた故郷なのだが……彼女には知る由もなかった。
地平線に見える集団のところまで戻れば負傷と疲れを癒す方法もあるが、アンジュは回復魔法を使えない。
ラクダに乗せて連れて行くことを考えているとマグリットが先程の言葉に大声で反応する。

>「ええええ?私たち、大陸間移動の転送されたって事なんですか!
>それで、衛星は?それに魔王は……?」

そしてそのままへたり込んでしまうとアンジュは思わず苦笑した。
クロムは構う様子もなく「時間をくれ」と言って腕輪をマグリットに手渡す。

>「シェーンバインの部屋から持ってきたものだが、使ってみてくれ。役に立つと思うぜ……本物ならな」

「それは……『祈りの腕輪』?」

なんと抜け目ないことか。手に入れるタイミングは蹴り飛ばされて離脱したあの時しかない。
そういえば風の大幹部との戦闘の途中からクロムは見慣れない剣を持っていた。
あれもシェーンバインの部屋から持ってきたものなのか、と今更合点がいった。
今、その剣は腰に下げているこれまた見慣れない真っ白な鞘に収まっているのだろう。

ともあれ、マグリットが腕輪を受け取ると光の粒が湧きだし魔法陣が浮かび上がる。
回復魔法の結界であろうか。レインは初めて見るが、たぶん範囲内の者を癒す効果のはず。

>「こ、これは、セイクリッドサークル!?」

マグリット自身がこの魔法の発動に驚いているあたり、意図的に発動したものではないようだ。
結界が三人の傷を癒す――といってもレインは戦闘中シャコガイメイスの力で怪我を治していたが。
しかし多量の魔力を放出したらしい。マグリットはか細い声を漏らしてその場に気絶する。
その様子をひとしきり眺めたアンジュは口元に指を添えながらこう呟く。

「なるほど。レイン、貴方の仲間は……かなり個性的なようですね。
 素敵なパーティーメンバーです。冒険が楽しそうですね」

「……そうかもしれない。でも凄く頼りになるんだ」

何と返せば良いか分からず同じ事を二度言って、レインはマグリットに近寄っていく。
「限定召喚」と呟いて両腕に『豪腕の籠手』を装着すると重い彼女の身体を担ぎ上げる。
体重155キロのマグリットをラクダの上に乗せたらラクダが潰れてしまいそうだ。
そのためレインは無言で運ぶ役を買って出たというわけである。

「私の仲間のところまで行きましょう。まずはこの砂漠を横断しなければいけません。
 ……かつては周辺にオアシスと町があったそうですが、遠い昔に魔物の襲撃で滅んでしまいました。
 ですからここには何もありません。しばらくすればミスライム魔法王国に入りますからそれまでの我慢です」

どれだけ遠い昔か尋ねると「100年ほど前です」とアンジュは答えた。
時間の感覚がズレていたようだが、仮面の騎士は一応人里に飛ばしたつもりだったらしい。
0397レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 03:57:30.13ID:wWMDqB2g
アンジュの仲間の下――地平線で待ってくれていた一団のところまで歩く。
ようやく着くとその集団は冒険者ではない民間人達で構成されているようだった。
各々荷車をラクダに曳かせて大荷物を載せている様子。さながらどこかへ引っ越す途中のようだ。

「アンジュ……この人達は?どうも隊商(キャラバン)……というわけじゃ無さそうだ」

「……避難民です。魔物の襲撃で滅んだ国からミスライムを目指して逃げてきた人々です。
 地の大幹部の足跡を追っている途中で出会って、魔物の群れから守るため同行しているところなのです」

アンジュは避難民の集団の最後尾まで歩みを進めていく。
するとそこにいたのは巨大なゴーレムだった。それも一体じゃなく、総勢十体も並んでいる。
ふとましい頑丈そうな胴体をしていて、脚部は普通の足の代わりになんと無限軌道だ。

ゴーレムと言えば魔物だが、かの魔物の特徴のひとつに人間でも容易に生み出せるという点がある。
避難民達と一緒にいることから、このゴーレム達は味方で、それも人間が造ったものだと予想できる。
最後尾にいるのは無限軌道(キャタピラ)で走行するため尋常じゃない砂埃が舞うからだろう。
そして――レインはこのゴーレムを造ったのが誰なのか心当たりがあった。アンジュの仲間だ。

「ここです。ヒナ、暑さと疲労で意識不明の人がいます。収容してあげてください」

ゴーレムを見上げて大きな声で仲間を呼ぶと、その肩に乗っていた小柄な人物が手を上げる。
茶髪の髪にでかい瓶底眼鏡を掛けた人間の少女だ。14歳くらいだろう。
防塵用マントの内側に白衣を着ているようだがサイズが合ってないらしい。
白衣の袖が異常に余っており伸ばした手から垂れさがってヒラヒラしている。

「おぅさー。メディックゴーレム10号が空いてるよー。
 あっ……レインちゃん。おひさぶりだねぇ」

掴むところも無いのにするするっとゴーレムから降りてくる。
少女はレインに担がれて気絶中のマグリットのところへやって来ると容態を診る。

「この人僧侶?魔法を使い過ぎたみたいだね。あははー医者の不養生。
 軽い熱中症と脱水症状もあるかもね。見たとこ海棲の獣人っぽいからさ……。
 医者でも僧侶でもないから詳しくないけどねー、あはは……」

そうしてマグリットの状態を一目で言い当てると視界に入ったクロムを凝視する。
瓶底眼鏡の縁をカチャカチャと触りながら首を伸ばしてじーっと彼を見た。

「んん……そこの人なんか……知らない種族だね。
 まぁ雑談はあとあと……あたしはヒナ・ペルセポネ。よろしくってわけよ」

そう挨拶を述べると陽光で瓶底眼鏡をキラリと光らせる。

「人はあたしをこう呼ぶ。マッドサイエンティストってね」

決め台詞なのだろう。そう言って『10』の刻印が入ったゴーレムの方へと向かっていく。
レインは黙ってそれについて行くとアンジュはクロムにこう言った。

「気を悪くしないでください。ヒナは私の助手で生物学を専攻してまして……。
 種族のあれこれに関心があるのです。普段調べるのは魔物ばかりなのですけどね」
0398レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 03:59:53.66ID:wWMDqB2g
「10号ちゃんお立ちだーい」

メディックゴーレム――救急医療を目的としたゴーレムは、創造主の言葉に反応して両手でお椀をつくって腕を下げる。
そこにマグリットを仰向けにして寝かせると、ヒナは彼女の汗を拭き取り頭に水で濡らしたタオルを乗せる。
そしてゴーレムは両手を胸元まで持っていくと、なんと胸がせり出してベッドが現れた。
どうやらこのゴーレムの胴体は医療用のカプセルベッドになっているらしい。

「はいはーい10号ちゃん治療よろしくねぇ。
 中は常に適温で点滴と下位の回復魔法を処置してくれるから大丈夫ってわけよ。
 起きたら10号ちゃんが降ろしてくれるから心配無用。安心安全設計って寸法よ」

そうして胴体に収容されていく気絶した仲間を見送る。
彼女達はこうして傷ついたり暑さにやられた避難民を救助しながら魔法王国を目指しているようだ。
ミスライム魔法王国。それはウェストレイ大陸でも最も大国で、最も歴史ある国だ。
きっと避難民を無下にするような事もないだろう。

「さて……皆さんの冒険、その旅路の出来事を知りたいのですが……。
 ここで立ち往生するわけにはいきませんので、後で存分に聞くとしましょう。
 ラクダの余りはありませんからメディックゴーレムの肩に乗せてもらってください」

「いいよー。10号ちゃんの両肩が空いてるからそこ使ってほしいわけよ」

そう言ってアンジュは避難民の行列の先頭に向かい、ヒナは他のゴーレムの肩まで昇っていく。
レインはメディックゴーレム10号を眺めながら『豪腕の籠手』で頭を掻いた。
どう昇るんだよ……これ……。胴体や腕に掴むところなんて何もない。
装甲の表面は大理石のようにつるっつるだ。

たしかに腕の関節などにそれらしい突起はある。
だがまず常人ではそこまで手が届かないだろう。
ヒナはどうやったのか木登りの要領で登ったようだが……。

「……登ればいいんだよね」

とりあえず登ってみようと試みる。『豪腕の籠手』なら万力の握力だ。
どこか掴むところがあれば登れるはず。よって無限軌道部分は難無く登れる。
だがつるつるの胴体をどう掴めばいい。滑って落ちるだけだ。ずるずる。
当然だがレインは滑り落ちた。

「あー……レインちゃんそれコツがあんだよねぇ……。
 掴むっていうか蹴るのよ。ジャンプに近いってわけよ」

なるほど?ならば『豪腕の籠手』から『波紋の長靴』に変えて……。
と思ったところでメディックゴーレム10号が親切に手を差し伸べてくれた。
最初からそうしてくれよ……。


――――――…………。
0399レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 04:02:03.91ID:wWMDqB2g
砂漠の夜は寒い。
太陽が出ている間は40度を超えることもザラにあるが、日が沈むと途端に氷点下まで冷え込む。
現地民はともかくこの気候に慣れていない者であれば一気に体調をぶっ壊しかねない。

夜を迎えて避難民の砂漠横断も小休止となり野宿をすることになった。
レインはメディックゴーレム10号の肩から降りて身体をさすっているとアンジュが再びやって来る。
ランタンを片手に、もう一方の手に魔法陣を浮かべると――下位の炎魔法だ――地面に落とす。
するとぼわっと炎が燃え広がって簡易的な焚き火ができた。焚き火は込めた魔力が無くなるまで燃え続ける。

「『フレイムスフィア』……だね。助かるよ」

「食事にしましょう。簡単なスープとレーションですけどね」

そうしてアンジュとヒナの二人と焚き火を囲って食事が始まる。これは無言の圧力だ。
つまり、サウスマナ大陸で何があったのか話を聞かせろということである。
どこから話せばいいのやら。ただでさえ荒唐無稽とも言える内容を含む話だ。

仮面の騎士こと初代勇者アルスと出会い、共に旅をして風の大幹部を倒したということ。
そして自身の友人の姿を借りた魔王と邂逅し、全く歯が立たなかったこと。

特に仮面の騎士の話はアンジュを大いに驚かせるだろう。
彼女の先祖はその仮面の騎士、勇者アルスなのだから。
そして子孫は勇者の功績から新たな姓を与えられサマリア王国の貴族となっている。
つまりアンジュもまた貴族なのだが、彼女はそのことをひけらかさないしあまり口にしない。

ともあれ、今までの冒険について嘘を言っても仕方がないし必要もない。
信じてもらえるかは置いておくとして語らねばなるまい。
そうすることで自分自身の複雑な感情にも多少の整理がつくかもしれない。

「……そうですか。正直、レインが大幹部討伐の勇者に選ばれたことには一抹の不安がありました。
 ですが……ひとまず風の大幹部を倒せたのですね。そして皆さんが無事で……良かったです」

サウスマナ大陸へ出発する日からウェストレイ大陸へ転送される瞬間までを話すと、アンジュはそう言った。
衛星を独断で破壊した件についても「その時点での最良の選択でしたね」と評した。
そして今度は自身の状況を語りはじめる。自分達が冒険をしていた期間の分だけ、彼女達にも何かがあったはず。

「私達はこの大陸へやって来てしばらく経ちますが……まだ地の大幹部の居所を掴めていません。
 奴はどうも移動型のダンジョンを拠点にウェストレイ大陸の各国へ魔物を送りこんでいるようなのです……。
 中々尻尾を出しません。とても慎重で臆病……それに狡猾ときている。奴に滅ぼされた国を幾つも見てきました」

ぐ、と拳を握るアンジュの顔を燃ゆる火が照らし出す。
途方もない悲しみに暮れているような。そんな顔をしていた。

「これは推測ですが、地の大幹部の潜むダンジョンは定期的に転送魔法で移動しているのです。
 追跡中に奴の足取りが急に消えたことが何度もありました……直接見つけ出すのは困難かもしれません。
 ですが……私は諦めません。レイン達も頑張って大幹部を倒したのですから、私も負けるわけにはいきません」
0400レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 04:04:44.59ID:wWMDqB2g
意気込んで語るアンジュの顔はいつも通りの凛々しい姿で、レインは安堵する。
そうやって話していてふと思った。自分がこれからどうするべきか。
ひとまず風の大幹部を倒すという使命は果たした。

そして……遂に奴と出会うことができた。勇者全ての最終目標、魔王セイファートと。
だが消耗した状態で敵うはずもなく、手がかりも得られずレインは今ここにいる。
仮面の騎士は最後に『魔王城を目指せ』と言っていたが……どこにあると言うのだ。

「しかし魔王がアシェルの身体を……勇者の肉体を使っているとは……。
 本体は最後のダンジョンに身を隠しまま、自由に現地でも戦える……ということですか……」

アンジュの呟きはどこか暗く、レインの顔もそれを受けて沈んでいく。
共通の友人の死を思い出して――二人はまだその死を受け入れ切れていないのだ。

「……俺も初めてみた時は……怒りを抑えきれなかった。体中が沸騰して煮え滾った気分だったよ。
 今までにもそういう気持ちになる時はたまにあったけど……でもあれ以上の衝撃は無かった」

そこまで言ってレインは突然思い出した。
クロムとマグリットに、アシェルという勇者がいた話をしたことが無かったと。
だが考えてみれば仲間に故人の話をする機会なんて今まであったかどうか。

「アシェルっていうのは……俺とアンジュの友達なんだ。"魔導の勇者"とも言われていた。
 勇者になる前から魔法が得意で、勇者の中じゃ最高峰って評判だったんだけど……。
 ある日……アシェルは……仲間とノースレア大陸に渡って、魔王軍と戦い死んだ」

冒険者として旅をしてきたクロムに、至高の存在である『龍』を目指すマグリット。
その二人にはあまり関係がない事柄だ。だが、レインにとっては戦いを続ける重要なファクターでもある。
一緒に旅をした期間も長くなってきた頃だ。話す機会が出来てレインも自然と彼の話をはじめた。

「正確には……他の誰かの身体を乗っ取った魔王と戦い死んだ……と思う。衛星で奴の話を聞いてそう確信した。
 だから魔王は友達の仇ってことになる……のかな。しかも奴はアシェルの身体を傀儡として操っている」

そしてレインは話を続ける。

「……アシェルとは……生前『どちらかが死んだら、代わりに魔王を倒す』……って約束したんだ。
 俺は勇者の中は一番弱くて……才能もない。でも死んだ友達の代わりだと思って今まで旅を続けてきた」

ここまで話して、レインはようやく気付いた。
友達が死んでここまでその死について語ったことはなかったと。
心の中では数えきれないほど考えた。悲しんだ。それは出口のない迷路だった。
その想いを、彼は初めて言葉にする。
0401レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 04:07:55.00ID:wWMDqB2g
「魔王を倒すのはアシェルだと、俺も他の勇者も皆思ってたんだ。皆の目に俺がどう映っていたかは分からない。
 でも『アシェルの代わり』になることが……俺の今までの冒険の原動力だったんだ」

アシェルにとってその約束にどんな意味が込められていたのか、今となっては知る由もない。
冗談だったのか。本気だったのか。発破をかけてくれたのか。無理をするなと言ってくれたのか。
それともいつ死んでもおかしくない程弱い友達の使命をも背負おうとしたのか……誰にも分からない。

だが感情の整理がつかないままレインはそれを鵜呑みにすることにした。
そうしなければ『魔王を倒す』という夢のような難題を背負える気がしなくて。

魔王を倒すのはアシェル。ならば魔王を倒すのは自分。そう思って逸ることもあった。
時には復讐をしたいだけではないかと気持ちさえ疑うこともあった……。
感情の整理がつかないから戦い続ける本当の『理由』が見えなかった。

それでもある時、仮面の騎士は言ってくれた。魔王に会えば答えは出ると。
勇者として戦い続ける『本当の理由』が分かると。

「でも……俺……魔王と会って少しだけ分かった気がする。
 誰かの代わりとか……ましてや復讐なんて……そんな器用なことできないよ……」

それは本心の言葉だった。
誰かの代わりで居続けようと思えばかりそめの支えにできた。
では弱い自分がアシェルのようになれたか。そんな事は一度もないはずだ。

怒りや憎しみに任せた復讐であれば一瞬の原動力にはなる。
だが、周囲を顧みない戦いでは衛星の時のように魔王には通じない。

「……なんていうか……上手く言葉にできないんだけど。俺……この世界が好きだ。
 だから皆を守りたい。そのために勇者の使命を果たしたい。そういう意味でも……魔王は倒すべき敵だと思う。
 奴に斬りかかった時、剣を『闇』で受け止められた。その時に感じたんだ。あいつは……深くて暗い、恐ろしい存在だ」

そこまで言って、レインはようやく自分が何を言っているのか気づいた。
そして急に気恥ずかしくなってきた。この世界が好き。メシ時に一体何を打ち明けているんだ。
妙な空気を変えるために(自分のせい)ぱん、と膝を叩いて立ち上がる。

「……ゆ、勇者の使命を果たすためにもまず目の前の問題から何とかしていこうか!
 アンジュが良ければ俺達にも"地の大幹部"討伐を手伝わせてくれないかな!?
 人手が多い方が移動型ダンジョンも早く見つかるはず!……クロムもいいよね!?」

クロムとマグリットを仲間に誘った時のことをレインは忘れていない。
『二人となら魔王城を見つけ出し、攻略できる!』そう言った。
アシェルの話を口にしたことで、何故か変わらずに確信できる。
0402レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 04:13:07.93ID:wWMDqB2g
だが、まずは魔王城を探す『とっかかり』が必要だ。
その辺の魔物を当てもなく倒したり小さな依頼をこなすより、
魔王軍を指揮する大幹部の方が遥かに優れた手がかりには違いない。

「そう言ってくれると嬉しいです。私の数少ない友達と仲間が協力してくれるなら百人力ですね。
 いえ……友達の仲間はもう友達……つまりは朋友ですね……。なんと素晴らしいことでしょうか……」

微妙に間違ったことを言っているような気がするが……。
とりあえず、"探究の勇者"アンジュの了承を得たことで今後の方針は決まった。

「おぅさー。なら私も朋友だねぇ。クロムちゃんはもっと喜んでオーケーってわけよ」

ところでさー、とヒナは長ったらしい白衣の袖をヒラヒラさせながら話を続ける。

「クロムちゃんって……何者?いやさぁ、単純に種族が聞きたいってわけよ。人間じゃないよねぇ?
 んー。耳はちょい尖ってるけどエルフではなさそうだし……高身長ですらっとしたドワーフ?
 まさか獣人……じゃないかぁ。どう見てもケモの特徴が無さすぎるってわけよ」

「いけません、ヒナ。余計な詮索は失礼ですよ。クロムさん……すみません」

レインは言葉に詰まった。クロムが人間じゃないのは薄々知っているが具体的な種族までは知らない。
ただそれとなく隠している様子なので聞くのは野暮だと思い知らないふりをしてきた。
まさか……それを容易くぶち壊す人間が現れるとは。

そういえばヒナは昔からやけに種族の判別に長けている子だった。
無用な差別を避けるため種族を隠す異種族にズバズバ言い当てるという傍迷惑な事も過去にしていた。

「いや……それはその……」

曖昧なレインの言葉を無視してヒナは話を続ける。

「あたし、動物とか魔物の個体差を見分けるのが得意なんだよねぇ。
 だから最近……『人間に紛れてる既知の種族じゃない奴ら』が気になってるってわけよ」

瓶底眼鏡の奥に潜む澄んだ瞳がクロムを捉えて離さない。

「稀に見かけるだけだしすぐに事を荒立てるって訳じゃないからスルーしてたけど……。
 な〜んか気になるってわけよ。クロムちゃんもひょっとしたらその一人なんじゃないかってね」

「またそれですか……ヒナ、それの区別は貴女にしかできませんよ。
 事を急いても魔女狩りめいたことが始まるだけだと言ったでしょう」

「どういうことか……分からないよ。俺にも詳しく説明してほしいよ」
0403レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/10/24(日) 04:16:07.80ID:wWMDqB2g
アンジュ、レインも口を開き、そして一斉に口を閉じる。
クロムの何らかの回答を待っているのだ。しかし――その時は訪れなかった。

「……どうやら魔物が接近していますね。接触は少々先でしょうが」

アンジュは緑の瞳で夜の帳が下りた漆黒の砂漠の地平線――それより遥か彼方を『視て』そう告げた。
立ち上がっていたレインは片膝をついて「限定召喚」と呟くと『透視の片眼鏡』を召喚する。
その遠視能力で地平線を索敵すると確かに魔物の群れらしき一団が迫ってきている。
"探究の勇者"は立ち上がり焚き火を囲う一同を青と緑のオッドアイで見渡す。

「お喋りは終わりにしておきましょう。きっと砂漠に住む魔物です。
 脅威度こそ低いですがここには避難民しかいません……なので……」

「それ以上は言わなくてもいいさ。一緒に戦おう。クロムもいいかい?
 まだシェーンバイン戦の直後……疲労が抜けてないならここで避難民の護衛を頼むよ」

レインとて魔力がフル回復した訳ではない。自動修復するだろうが刀身の欠けた紅炎の剣も直ってない。
妙な詮索を入れてくる"探究の勇者"一行と一緒に戦いたくないならそれでいい、と遠回しに言ったのだ。

「敵は数が多いけど……ゴブリン……いや、砂漠地帯に適応したデザートゴブリンが一番多いね。
 ゴーレムもいる。後はでかいのがぼちぼちってところか……後ろに避難民がいる以上一匹も討ち漏らせないな」

「そういうことです。私達は必ず魔物を殲滅しなくてはなりません。
 さいわい、伏兵もいませんので……このまま正面から迎え撃ちましょう」

無力な避難民に群がるヒエラルキーの低い弱小魔物達。さながら砂漠のハイエナといったところか。
360度に広がる砂漠をぐるっと緑の瞳で確認する。それで地平線の彼方まで隈なく視れた。

アンジュの片目の緑の瞳は、超視力と言うべき優れた眼をしている。
幼少期に『魔眼』に憧れた彼女は軽い好奇心だけで魔導書を参考に自分の片目をいじくった。
結果として改造にこそ失敗したが、片目の基本能力は飛躍的に向上した。それがその緑の瞳なのだ。

きっと、今までもその緑の瞳で周辺を警戒しながら避難民達をたった二人で守ってきたのだろう。

「召喚」

手に魔法陣が浮かぶと、燐光を残して弾ける。残り少ない魔力で選んだ武器はクロスボウ。
『透視の片眼鏡』と組み合わせて魔物を討ち漏らさず倒すつもりだ。大半がゴブリンなら何とかなるだろう。
余裕があれば『天空の聖弓兵』へと召喚変身するのだが、今は変身しても『風の矢』をまともに撃つ魔力が無い。

「準備オーケーかな。しょうか〜ん!!」

ヒナがばっ、と両手を上げると眼前に巨大な魔法陣が三つほど現れ、巨大な影が浮かぶ。
ゴーレムだ。足は普通だが今度は両腕が何やら大砲のようになっている。
魔物を呼び出す召喚魔法はレインが使うアイテム・武器召喚のストレージサモンより高位の魔法だ。
……なんというか、さり気なく格の違いを見せつけられた気分である。

「こいつはハシゴをつけてるから肩まで登りやすいってわけよ。さぁ発進っ!」

ゴーレムに登るのが下手なレインにも親切な設計というわけだ。
素早くハシゴを登り頑丈な肩に乗ると、三体のゴーレムは暗闇の砂漠を進みはじめた。


【それでは第五章を開始します!】
【アンジュと共に砂漠を横断する避難民と合流】
【夜になり魔物の群れが接近してくる。殲滅のため"探究の勇者"一同と共同戦線】
0404クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/10/31(日) 18:10:49.99ID:a6Ru60nT
マグリットが手にした腕輪から、突如として溢れ出す光。
それは瞬く間に魔法陣を生み出し、傷付いた勇者パーティを驚異的な治癒効果を齎す聖なる結界に包み込んだ。

>「こ、これは、セイクリッドサークル!?」

クロム自身、噂程度にしか聞いた事のない、初めて目にする高位の回復魔法だった。
見る見る内にダメージが消えていく己の体に目を見張りながら、クロムはやがて口角を上げて思わず拳を握り締める。
腕輪は本物だった。これで、しばらくは回復に悩まされる事もないだろう。懸念材料が一つ、無くなったのだ。

が、喜んでばかりもいられなかった。傷が全快したところで、全員が息を吹き返したわけではなかったのだから。
気力を取り戻して再び立ち上がったクロムと入れ替わるように、今度はマグリットが地に倒れ伏したのである。
恐らく傷は癒えても残り少ない魔力を使い果たしたことで精神的疲労がピークを迎えたのだろう。
いや、それ以上に砂漠という乾燥した気候が貝の獣人にとって致命的な体力の急減を招いたと見るべきか。

水を求める弱々しい声を最後に意識を失うマグリット。
戦いが終わった直後、物資の補給もない内に砂漠に転送されたパーティに、脱水症状から救えるだけの水があるはずもない。

>「……そうかもしれない。でも凄く頼りになるんだ」

「それはいいがな。今、頼りになるのは水だけって事を忘れんなよ、お二人さん?」

レインとアンジュの会話に割り込んだクロムに、そうですね、というように頷いたアンジュは、再びラクダに跨った。
それを合図にレインがマグリットを担ぎ上げ、ふと地平線を見据える。

>「私の仲間のところまで行きましょう。まずはこの砂漠を横断しなければいけません。
> ……かつては周辺にオアシスと町があったそうですが、遠い昔に魔物の襲撃で滅んでしまいました。
> ですからここには何もありません。しばらくすればミスライム魔法王国に入りますからそれまでの我慢です」

つられて視線の先を見ると、そこには陽炎に揺れるいくつもの小さな影があった。
……どうやらその砂漠を横断中の一団がアンジュの仲間、ということらしい。

しかし、実際にそこへ行ってみると、影の多くはほとんどが丸腰の人間・非戦闘員にしか見えない者達ばかりであった。
アンジュは、彼らは大幹部を追っている途中で出会った難民であり、護衛が必要なので同行していると明かしたが……
ざっと見渡したところ、大勢の難民を守り切れるほどの数《戦力》を揃えているようには見えなかった。

(……少数でも守り切れる“力”があるということか?)

しかし、難民の列、砂塵の舞うその最後尾に来た時であった。
十体はいようかという巨大ゴーレムの一団が突如として視界に現れたのは。
しかも砂漠でもその巨体をスムーズに移動できるようにだろうか、脚部がキャタピラと化した特殊なタイプの……。

そう、戦力なら初めからそこに在ったのだ。
キャタピラが巻き上げる大量の砂塵が存在を覆い隠し、あくまで遠目での視認を困難にしていたに過ぎなかったのだ。

(……その気になれば数そのものを増やせるってわけか。これだけの力、アンジュ《この女》が……)

クロムは一瞬アンジュに送りかけた視線を、不意に頭上に向ける。気配がしたからである。

>「おぅさー。メディックゴーレム10号が空いてるよー。
> あっ……レインちゃん。おひさぶりだねぇ」

そこ──すなわちゴーレムの肩の上──にいたのは、分厚いぐりぐり眼鏡をかけた茶髪の少女。
顔立ちと、大人物の白衣をぶかぶかの袖余り状態にする体型から察するに、年齢は十代の前半といったところだろうか。
少なくとも実年齢よりもはるかに若く見える、童顔童体体質の持ち主や長寿の亜人族でもない限りは。

(“探究の勇者”の仲間……ひょっとしてこいつがゴーレムの創造主……)
0405クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/10/31(日) 18:12:22.38ID:a6Ru60nT
大地に降り立った少女を、クロムは分析するようにしげしげと見つめる。
その視線に気が付いたか、やがて少女の方もクロムをまじまじと見つめ始めた。まるでお返しと言うように。

>「んん……そこの人なんか……知らない種族だね。
> まぁ雑談はあとあと……あたしはヒナ・ペルセポネ。よろしくってわけよ」

ヒナ・ペルセポネ。その名を記憶に刻むように心の中で呟いて、クロムも名乗る。

「俺はク>「人はあたしをこう呼ぶ。マッドサイエンティストってね」っておいこっちには挨拶させねぇのかよ」

が、少女改めヒナはそんな事はお構いなしに言葉を被せると、再び何事もなかったようにゴーレムの元へ去っていった。
自己中とでも言いかえられそうな余りのマイペースさを見せつけられて、流石のクロムも呆れ顔で盛大に溜息一つ──

「おい、なんなんだよあいつ《あのメガネ》は……」

たまらずアンジュに抗議するのだった。

────。

『ミスライム魔法王国』を目指す為の砂漠横断も、一休みの時が来る。
太陽が沈み、代わって月が顔を出す夜の時間を迎えたのだ。
難民達が家族や村落単位で小さな集団を作り、それぞれ陣取った場所で自由に食事や休息に入るのを見て、
探究の勇者と召喚の勇者両パーティも『フレイムスフィア』による焚火を囲んで、やがて静かに食事を摂り始める。

メニューはレーションとスープ。
何とも味気ないが、食料の調達が難しい砂漠という不毛地帯にあっては何か食べられるだけマシともいえる。
ましてや今のクロムは食料・水の一切を持っていない、要は食事を奢って貰っている身だ。
図々しく文句を言える立場ではない。

しかし何か喋ろうとすれば思わず「やっぱ不味ぃな」ぐらいはつい言ってしまいそうなので、クロムは沈黙を守る。
黙々と食欲の為だけに口を動かす様は、隣でこれまでの旅の経緯をアンジュ達に説明するレインとは何とも対照的だ。
そんな彼が説明を終え、やっとまともに食事に手を付け始めた頃には、クロムは既に食器を空にしていた。

(……転送魔法で移動、ね)

レインと入れ替わりに自分達の旅の経緯を語り始めるアンジュ。
その時、彼女の話に耳を傾けながら、焚火をぼう、っと見つめるクロムの脳裏に、ふと衛星内での出来事が蘇った。
突然のウェストレイへの転送、そして砂漠の横断。
それら思わぬ事態が重なった事によりこれまで一時的に頭に隅に追いやっていたモノを、一気に思い出したのである。

一つは、衛星が本当に破壊されたのかという疑念。
衛星の破壊をアンジュは「最良の選択」と評したが、実のところ衛星が破壊されたと言い切れる者はここにはいない。
昇降機ではなく、瞬間移動による離脱を余儀なくされた為、破壊を確認できた者はパーティに誰も居なかったのだから。

そしてもう一つ。それは魔王の“肉体”……レインがアシェルと呼んだ人物についてである。
曰く、かつての友“魔導の勇者”アシェルは、仲間とノースレア大陸に渡って、魔王軍と戦い死んだ……という。
ならばあの時、魔王が支配していたアシェル《あの肉体》は、死体だったのだろうか?
それとも未だ肉体は生きているのだろうか?

(……ノースレアに渡って死んだ、とされる勇者。実際にその場にいたわけじゃねーから何とも言えねーが……)

レインの言うように魔王は他者の肉体を乗っ取り、操作できる事は間違いないと見ていい。
魔王自身のみならず、仮面の騎士さえ『本体を探せ』とその事に言及していた以上、疑う余地はないだろう。
だが、支配できる肉体が死者に限定されているのか、それとも生者も含むのかでは大きな違いがある。

この世には魔法によって死体から生み出された魔物が存在する。
アンデッド。肉体が腐敗しても、傷付いても、術者に込められた魔力を動力源に永遠に活動し続ける生ける屍だ。
屍だから痛みも恐怖も感じない。既に死んでいるから、殺す事ができない。そう恐れる冒険者は数多い。
ただし、一部のベテランにとっては必ずしも恐怖の対象というわけではない。例え強敵ではあっても。
0406クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/10/31(日) 18:14:07.53ID:a6Ru60nT
アンデッドには、実は致命的な弱点があるのだ。それは回復魔法。
生き物に等しく至上の癒しを齎す魔法が、生ける屍に対してだけはその身を破壊する猛毒となる。
これを修羅場を潜り抜けてきた経験豊富なベテランだけは知っている。何故か?
アンデッド系自体が魔王軍全体から見れば数が少なく、しかも高レベルなダンジョンにいる強敵であるケースが多いからだ。

──如何な強敵でも弱点さえ分かっていれば作戦次第で攻略の望みは出てくる。シェーバイン戦がそうであったように。
もし、アシェルも魔王の依代となっているが為にアンデット化しているとしたら……倒せるかもしれない。
少なくとも肉体《アシェル》だけは。だが、もし生きたまま支配されているとすれば、この一発逆転ともいうべき手は使えない。
倒して魔王の本体に近付くには、最低でもアシェルの全てを超えて見せなければならないということになるだろう。

(…………)

いや、ひょっとしたらそれでも足りないのかもしれない。クロムは魔王と仮面の騎士の戦いを今一度思い出す。
そう、あの時魔王の体は、アシェルの光の魔法に加えて闇の魔法も使っていたのだ。

全く……今更ながら何と無謀な挑戦に手を貸してしまったのかと変な笑いが出そうになる。

しかし、だからといって魔王軍の手先・魔人としての安寧な人生を取り戻す気など彼には毛頭なかった。それこそ今更だった。
何故ならそんなものよりももっと価値があるものを、既に取り戻していたのだから。

それは全てを捨て、魔人となった時より忘れていた……忘れなければならなかった夢。
かつて人間であった時、一人の“勇者”であった時に心に誓ったもの──魔王の打倒。

勇者らしい事を当たり前のように言える少年を、クロムは面白いと感じた。
果たしてどこまで勇者らしく生きて行けるのだろうかと興味を持った。その顛末を見届けたいと思った。
……仲間になった動機はただそれだけの事と、そう思っていた。
だが、今にして思えばレインに己が捨てた光を見ていたのだ。希望を、ヒトの持つ底知れぬ可能性を。
その眩いばかりの輝きに惹かれたのだ。暗闇を舞う虫が、あたかも灯りに引き寄せられるかのように……無意識の内に。

かつて己が見た夢に向けて邁進する少年の姿が思い出させてくれた。
一度捨てた光が戻ってくることは二度とない……でも、夢だけは今から拾い直しても神だって文句は言うまい。

(もっとも、魔王は……いいや……アリスマター《あいつ》だけは決して許しはしねぇだろうがな、魔人《オレ》の裏切りを)

夜空を見上げると蘇る──天空よりも遥か高みにある宇宙。崩壊しつつある人工衛星の中で最後に見た光景。
最後に、クロムに放たれた言葉。

『次はないぞ、クロムウェル』

大幹部の一角であるシェーンバインの殺害に手を貸した時点で本来ならその場で“処分”されてもおかしくはなかった。
そうならなかったのは“生みの親”としての親心的な躊躇か、単に駒としての価値・元勇者のポテンシャルを惜しんだからか……
いずれにしても言葉の通り、次に彼女が目の前に現れた時がどちらかが死ぬ時に違いない。

(だがな、俺は魔王のいない世界ってのをこの目で見たくなったんだ。死んでやるわけにはいかねぇぜ、アリスマター……)

クロムは拳を握り締める。それこそが近い内に起こるであろう死闘への意気込みであるかのように。

「……ん?」

──彼が、ふと自分に突き刺さる複数の視線に気が付いたのは、丁度その時だった。
周りを見てみると、どういうわけか焚火を囲むその場にいた全員が押し黙り、じっとクロムを見つめているではないか。
ひょっとしたら自分の世界に入り過ぎて周囲が奇妙に思うほどボーっとしていたのかもしれない。
そういえば、アンジュの話も途中から記憶になかった。
聞いていたつもりだったが、あれこれ考えていた所為でどうやら右耳から左耳になっていたようだ。

「悪ィ、聞いて>「……どうやら魔物が接近していますね。接触は少々先でしょうが」」

「悪ィ、聞いてなかった。なんだっけ?」──そんなクロムの言葉は、今度はアンジュによって遮られた。
バタバタと一斉に立ち上がる面々に混じって、クロムもタイミングの悪さを溜息しつつも迫る脅威の前には立ち上がしかない。
0407クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/10/31(日) 18:17:01.60ID:a6Ru60nT
伏兵はおらず、敵は真正面からのみ迫っているとはアンジュの言だが、特殊な片眼鏡を召喚したレインもそれに相槌を打つ。
以前にも何度か見た武装なので何となく有している機能は想像がつく。恐らく千里眼的なものだろう。
レインに先んじて敵の配置を把握したアンジュもそれに似た能力、もしくは広範囲を一気に探る能力でも持っているに違いない。

>「それ以上は言わなくてもいいさ。一緒に戦おう。クロムもいいかい?
> まだシェーンバイン戦の直後……疲労が抜けてないならここで避難民の護衛を頼むよ」

と言うと、レインはさっさとゴーレムに乗って魔物の群に向かっていく。
遠ざかっていくその背中を眺めるクロムは思わず半笑いだ。

「なーにが疲労が抜けてないなら、だ。お前だって魔力が回復しきってない身だってのによ、無理しやがって」

そして「昔からああいう奴なのかい、やはり」と付け加えアンジュを見ると、すかさず手を出して彼女の前進を制止した。

「夜でも遠くを見通せる目は貴重だぜ。あんたはここに残って敵の動きを監視してな。代わりに俺が行く」

「……ですが、貴方もまだ傷が回復したばかり。貴方を戦わせて私が残るわけには……」

「飯を奢って貰ったんでね。どんなに不味くても借りは借りだ。無かった事にする気はねーよ。それに……」

「?」

「ウェストレイ《ここ》の魔物の扱いは良く知ってるんだよ。あんたよりもな」

それだけ言ってクロムは跳ぶ。砂を巻き上げる力強い蹴りを大地にくれてその身を高く空中へと舞い上がらせる。
先陣を切ったゴーレムを追い越し、降り立った場所は殺気立ったゴブリン達の文字通りの眼前だ。

「巨大で動きは鈍いが、腕は大砲。お前らは敵のでかいやつを的にするようにしな。俺がゴブリン共を引き受ける。
 間違っても俺に当てんじゃねーぞ、メガネ」

後ろのレインとヒナに指示を出し、一歩、踏み出しながらだんびらの柄に手を掛けるクロムにゴブリン達が殺到する。
正に獲物に集団で群がり欲望を剥き出しにするハイエナのように。
餌も碌にないこの砂漠を縄張りにする彼らにとって、今のクロムは幸運にも天から降ってきた肉にしか見えないのだろう。
しかし、大軍ともいうべき集団を前にした個が、慌てふためくどころか逆に眉一つ動かさずに大胆不敵に間を詰めた。
この異常性に彼らはいち早く気付くべきだったのだ。そして、警戒すべきだったのだ。

「──────!!」

──瞬時に全身を輪切りにされて、断末魔一つ残せぬまま大地にばら撒かれていくゴブリン。
血の雨が降る中をクロムは一歩、また一歩と歩みを進めていく。その度に、物言わぬ新たな肉塊を大量に増やしながら。
個が集団を蹂躙する。この異様な状況を、ゴブリン達は止める事ができない。

「鼻先に餌をぶら下げられるとそれしか見えなくなる。単純脳みそでは俺には勝てねーってまだ学んでなかったのか?」

彼らのレベルでは到底捉える事の出来ない高速剣の結界に無謀にも飛び込んでは無残にも八つ裂きにされる。
それを見てある個体は却って躍起になり、ある個体は戸惑いながらも食欲に負けて結局突っ込み、犠牲者をひたすら増やす。
ただこれを繰り返すのみだ。

「まぁ、学ぶ前に死んじまうんだから無理もねーか」

ゴブリン集団のど真ん中に打ち込まれた小さな楔が、物凄い速さで集団を二つに分断しつつあった。


【傷が全快。ゴブリンの集団と戦う】
【クロムの正体→ウェストレイの元勇者。魔人としての生みの親はアリスマター】
【なお、途中で話を聞いていなかった為、ヒナの詮索には気付いていない模様】
0408マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/11/06(土) 19:31:50.37ID:xX5nvEMw
自分より龍に近しいシェーンバインという存在
そのシェーンバインとの戦いによる損傷は肉体的な限界点を迎えていた
それだけの戦いを経たにもかかわらず、九似の一つである禽皇の爪を得られなかった無力感
魔王との接触による精神的なショック
アルスを囮にした罪悪感とそれを望み狙った自分への嫌悪
祈りの腕輪の暴走による魔力の枯渇
砂漠という環境下における渇水状態

こうした状況の中でメディックゴーレムに収容治療されたことで一命をとりとめ平穏な状態に置かれていた
様々な極限要因が重なり合い、マグリットは今、高位の苦行僧がようやく踏み入れる無我の境地に至っていた

無我の境地でマグリットは光に包まれ、海面に浮かび上がるように意識を取り戻した

意識の回復と共にメディックゴーレムのハッチが開き、マグリットが起き上がる
ぼんやりとした顔であたりを見回し、ゴーレムが持っていたシャコガイメイスを手に取ると、シャコガイから下が伸びその手を這うように伸びる

時は隊列に魔物の群れが接近しているという頃であった

>「それ以上は言わなくてもいいさ。一緒に戦おう。クロムもいいかい?

「委細承知しました、共に魔王と戦う同列のものとして戦いましょう」

クロムにかけられたレインの声に答えながら飛び降り、アンジュとレインの近くに着地した

「探索の勇者アンジュさんですね、お世話になりました
盗み聞きのような形になって申し訳ないですが、このシャコガイメイスは私の半身
記憶の共有ができますのでこれまでのあらましは把握させてもらっております
助けていただき感謝いたします」

そう礼を述べている間に、レインはクロスボウを召喚し、ヒナは巨大な砲撃型ゴーレムを召喚
クロムはアンジュに索敵監視を任せ先駆けていく

「失礼ながらレインさんとのお話も把握させてもらっています
アシェルさんの件から考えるに、あなた方勇者は人の強力な戦力であると同時に、倒された際には魔王の強力な依り代とされてしまう危険があるという事
ですので、くれぐれも御身を大切にし、周囲を存分に使ってください
その為に、我らの力を見極めて頂く為にこの場はお任せあれ」

そう伝えると深々と礼をし、大きな砂煙と共にマグリットの巨体は消えていた

三体の砲撃型ゴーレムとそれに乗るヒナとレイン
その二人の耳にマグリットの声が届いたのだが、あたりを見回せどその姿はない
しばしの逡巡の中でヒナが「そこね!」と指さした

「はい、御明察です」

砂の中から目玉のついた触手が伸びだし、ゴーレムの上のヒナとレインを見上げていた
マグリットは貝の獣人
貝は砂浜の中に身をひそめるものであり、マグリットにとって温度の下がった夜の砂漠は砂浜に通じるものがある
螺哮砲の応用で全身を超振動させ砂中に潜り移動してきたのだった

「ヒナさん、回復ありがとうございました
戦中故砂中からのご無礼をお許しくださいませ」

ぴょこりと触手が頭を下げるようなしぐさをしながら言葉が続けられる

「敵影は50ほど、更に大型種やゴーレムもいるようですね
クロムさんが既に楔を入れておりますし、私も敵の足を止めますので、砲撃殲滅をお願いします
いざとなればクロムさんは砂中に回収いたしますので存分にどうぞ」

そう言い残し触手は佐中へと沈み姿を消すのであった
0409マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/11/06(土) 19:33:32.86ID:xX5nvEMw
デザートゴブリンの群れの中を無人の野を行くように切り込むクロム
進路上に立ちふさがったゴブリンたちはなで斬りにされ肉塊に代わっていく

群れはクロムにより左右二つに分断されながらも、クロムを囲む集団と、クロムに構わずキャラバンに進もうとする前後にも別れようとしていた
そのキャラバンに進もうとしていた最前列のゴブリンが突如として隣のゴブリンに殴り掛かる
更に畳みかけるように後続のゴブリンが最前列のゴブリンに切りかかり、途端に集団の前線で同士討ちが始まるのであった
その同士討ちは徐々に後列にも波及し、大型のトロールタイプも周りのゴブリンをなぎ倒し始め、集団としての行進が完全に停滞するのであった

「クロムさん、お加減良さそうで何よりです」

クロムの足元から届く声にこの状況を把握できたであろう
マグリットが砂中より幻惑物質を散布した故に始まった同士討ちである事を

「集団の足は止まりましたし、レインさんとヒナさんの遠距離攻撃が始まります
足元に穴をあけておきますので危ういようでしたらどうぞ
あ、あと私の幻惑物質はゴーレムには効果がないのでお気を付けください」

その言葉が終わる前にクロムに降り注ぐ月明かりがさえぎられる
影を作った巨大なゴーレムが混乱するゴブリンたちを踏み潰しながらクロムに迫ってきたのだが、マグリットの掘った穴に片足を取られ横転するのであった

ゴーレムの足をすくい機動を封じたのは良いが、砂中に潜んでいたマグリットは押し潰される危機に瀕し、慌てて砂から飛び出てくるのであった

「ま、まあ、結果オーライという事で、砲撃に巻き込まれない程度に蹴散らしましょう」

手近なゴブリンをシャコガイメイスで吹き飛ばし、トロールタイプにぶつけながら笑いかけるのであった

【砂中より、幻惑物質散布して同士討ちを誘発、群れの動きを止める】
【身をひそめる穴にゴーレムが足を取られ態勢を崩し、その余波で砂中より飛び出る】
0410レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/11/14(日) 20:23:43.76ID:2gN3pWhO
レインとヒナが乗るのは腕に備わった大砲から『魔光弾』を放つキャノンゴーレムである。
召喚者であるヒナがサマリア王国で開発し、主に戦闘で用いられる。

キャノンゴーレムが砂漠を踏みしめる振動を感じながら遠方にいる魔物の集団を見ていると、
ふと後方からやって来たクロムがキャノンゴーレムを追い越し、魔物の群れの前へと着地する。
飯の借りを返すために馳せ参じてくれたようだ。

>「巨大で動きは鈍いが、腕は大砲。お前らは敵のでかいやつを的にするようにしな。俺がゴブリン共を引き受ける。
> 間違っても俺に当てんじゃねーぞ、メガネ」

そう悪態をついてゴブリンの集団に斬り込むと、瞬く間に血飛沫を撒き散らして肉塊に変えていく。
最弱のモンスターといえど、数ではデザートゴブリンが圧倒しているはずなのに、クロムに手も足も出ない。
レインは新しく手に入れた剣の名前を知らなかったが、まさしく『鬼神』のような活躍だと思った。

「ふぅん、クロムちゃんやるじゃん。口が悪いのは玉に瑕だけどねぇ」

「それは……大目に見てほしいな。とっつきにくいけど悪い人ではないよ」

ゴーレムの肩で二人は何気なく会話していると、砂の中から触手が飛び出してくる。
触手の先端には目玉がついており、魔物かと疑ったがどうやらマグリットらしい。

>「敵影は50ほど、更に大型種やゴーレムもいるようですね
>クロムさんが既に楔を入れておりますし、私も敵の足を止めますので、砲撃殲滅をお願いします
>いざとなればクロムさんは砂中に回収いたしますので存分にどうぞ」

「おぅさー。『あいつ』以外はどうとでもなるから任せてほしいってわけよ」

「ヒナ……『あいつ』って……あの一番でかい魔物のことかな?」

「いえーす。ちょっとめんどい生態してるからさ」

そんな会話を続けていると、マグリットが散布した幻惑物質がゴブリンに効き始めたらしい。
魔物の間で同士討ちがはじまり混沌とした様相を呈している。ただ生物ではないゴーレムには効いてないようだ。
そろそろこちらのキャノンゴーレムの射程圏なので、支援砲撃を行ってもよいだろう。

「……あの、ヒナ。さっき話してたクロムの種族のことなんだけど……。
 探りを入れるのは止めてあげられないかな。俺は本人が話す気になるまで待ちたいんだ」

「んー……今その話?まぁいいけどさぁ、レインちゃん、あたしが思うに全ては時間の問題だよ。
 あたし以外にも気づいてる奴いると思うんだよね。どうせいつかバレるなら今バレてもいいと思うわけよ」

でも、とヒナは続ける。

「……勇者のレインちゃんがストップして欲しいならあたしも追及するのは止めとくかな。
 隠し事はしてるけど、クロムちゃん自体が何か悪さする感じでもなさそうだし……。
 ただーし。もしこの問題で何かが起きたときは……レインちゃんがクロムちゃんを守ってあげなよ」

「うん、もちろんだ。ありがとう……ヒナ」
0411レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/11/14(日) 20:25:35.96ID:2gN3pWhO
クロムの種族のことのいざこざを話し終えると、状況がまた動いたようだ。
マグリットが開けた穴にゴーレムの一体が引っ掛かり、激しく横転する。
砂の中に潜んでいたマグリットが押し潰されそうになったことで慌てて飛び出してくる。

「おーけーおーけー。お待たせぇ!キャノンゴーレムちゃん、砲撃開始っ!」

三体のキャノンゴーレムの砲身に光が灯ると、一斉に『魔光弾』を発射する。
ひゅおん、と風を切って敵のゴーレム達の胴体に命中し、その衝撃で後方へ倒れていく。
正確な砲撃だ。『ゴーレム使い』とも仇名されるだけあってヒナのゴーレムは高性能である。

敵のゴーレムは肉弾戦しか出来ないうえ、『魔光弾』に耐えられる強度の装甲じゃない。
勝負はどう見たってワンサイドゲームだ。このまま問題なく殲滅できるだろう。

「ヒナ、あっちとあそこのゴーレム二体は背中にデザートゴブリンが張りついてる。
 ……奇襲を仕掛けてくる気だな……。俺が全部撃ち落とすから気にせず砲撃してほしい」

ゴーレムの巨体を隠れ蓑にするとは侮れない悪知恵だ。流石はゴブリンと言ったところか。
だが『透視の片眼鏡』の能力を使えば看破は容易い。この魔導具には千里眼と同様の能力があるのだ。
キャノンゴーレムの砲撃が敵のゴーレムを穿つと、ゴブリンたちが飛び出してレインとヒナを襲う。

だがそこに待ち構えていたのはレインのクロスボウによる正確な射撃。
レインの召喚したクロスボウは連射ができる『連弩』なので複数体で奇襲を仕掛けても無意味だ。
狙い過たず急所を射抜かれ地面へと落ちていく。

「おっと」

急所を射抜かれてなお、一矢報いようとヒナに飛び掛かる個体をはがねの剣で弾く。
ゴブリンの群れ自体はクロムとマグリットがどんどん片付けてくれている。
と、なれば後の問題は一番後方に控えているでかい魔物――巨大な砂像のような魔物だ。

その魔物はライオンの身体に頭巾(ネメスという)を被った人間の顔を併せ持っていた。
全長は目測で三十メートルを超えているだろう。今まで遭遇した魔物の中で最大級のサイズだ。
名を『スフィンクス』という。ウェストレイ大陸の砂漠に生息する強力な魔物だ。

「あの魔物はスフィンクスって言うんだけど……レインちゃん、知ってる?」

「……ごめん、名前しか聞いたことないんだ。どんな魔物なのかな」

「たは〜。レインちゃんも知らないかぁ!しょうがないなぁ!」

ヒナは有り余った袖でレインの肩をぱしぱし叩く。
試しにスフィンクスに攻撃してみてと言うので、レインは目を狙って矢を放つ。
クロスボウの矢は正確に巨大な砂像へ飛んでいき――命中する直前に障壁らしきものに弾かれた。
矢はくるくると回転しながら砂漠へと落下していく。

「……なるほど。防御魔法を身に纏っているんだね」

「そーゆーこと。並大抵の物理攻撃や魔法は通じないってわけよ。
 しかもあのサイズだからちょっと斬りつけたくらいじゃダメージにならない」

でかい個体は七十メートルを超す例もある、とヒナはつけ加える。
そしてこの魔物の特徴として敵に必ず『謎とき』や『ゲーム』を仕掛けてくるのだという。
0412レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/11/14(日) 20:30:40.11ID:2gN3pWhO
スフィンクスが問いかける謎の正解は防御魔法を解除するパスワードになっている。
正解を導き出した者だけに倒すチャンスが訪れるというわけだ。
だがもし間違えてしまえば凶暴化して不正解の者を殺すまで襲うという。

なぜそんな事をするのか、といえば……スフィンクスを創り出した魔族の趣味なのだろう。
自身が高い知能を持っているという自負ゆえか、または無尽の砂漠の支配者としての傲慢ゆえか。

「だーかーら。まずはあたし達になぞなぞを出して貰わないと倒せないってわけよ。
 へいへーい、スフィンクスちゃん見てるぅ!?こっちこっち!こっちに注目!」

スフィンクスは二体いる。
ヒナのキャノンゴーレム達が一斉に砲撃すると、魔光弾がスフィンクス達を襲う。
だが、その全てが防御魔法に弾かれている。一切ダメージはないようだ。

「我はスフィンクス。『知』を重んじる者なり。
 汝、この砂漠を通りたくば我が問いに答えよ……」

「おっ、はじまったねぇ。まぁまずは見てなよレインちゃん。
 あたしを解答者に選んだみたいだからこの灰色の脳細胞をご覧あれってわけよ!」

スフィンクスの一体が接近してくると、その巨大な瞳をぎょろりとヒナに向ける。
ヒナは恐れる様子もなく平然としているが――何せあのでかさだ。相当なプレッシャーがある。

「……では問題。朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か」

どこかで聞いたことがある問題だぞ、とレインは思った。
どんな謎解きを仕掛けてくるのかと思っていたが、難易度は低そうだ。

「ぴんぽーん!答えは『人間』ね!簡単すぎるってわけよ!
 人間は赤ん坊の時には四足で這い回り、成長すると二足で歩き、老年になると杖をつくから三足になる!」

「正解だ……このスフィンクス、汝の『知』を認めよう」

スフィンクスの頭上に魔法陣が浮かんだかと思うと、粉々に砕け散る。
防御魔法が解除されたらしい。ヒナはすかさずキャノンゴーレムに指示を飛ばし砲撃する。
轟音が響いたかと思うと、スフィンクスが呻き声を漏らして後退していく。見れば魔光弾によって胸部が陥没している。

「我はスフィンクス。『知』を重んじる者なり。
 汝、この砂漠を通りたくば我が問いに答えよ……」

と、思っていたら次はレインを標的に問題を仕掛けてきた。
さっきの調子なら少し頭をやわらかくしておけば答えられる程度に違いない。

「リーマンゼータ関数ζ(s)の非自明な零点sは全て、実部が1/2の直線上に存在する……?」

「えっ……ちょっ……ちょっと待ってくれないか。それって数学!?」
0413レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/11/14(日) 20:32:31.86ID:2gN3pWhO
もう謎解きの領域じゃない。
スフィンクスの提示した問題はいわゆるリーマン予想と呼ばれている。
解いたら懸賞金が貰えるほどの難問でありもちろんレインごときに解けるわけがない。

「わ……わかりません」

「不正解だ……このスフィンクス、全能力を懸けて汝を滅ぼすなり!!」

巨大な砂像の前足を持ち上げ、一気に振り下ろす。
レインとヒナは咄嗟に乗っていたキャノンゴーレムから飛び降りた。
するとキャノンゴーレムが紙屑のように粉々に砕けた。なんという力だ。

「いや〜あんな問題出してくる個体もいるんだ。魔物って理不尽だねぇ……あはは」

ヒナは面白そうに笑っているが、笑い事じゃない。
一体の防御魔法は解除したがもう一体は解除できなかったのだ。
どうやって倒せばいいのか……ヒナと共に砂漠に着地しつつ、レインは頭を抱えるのだった。


【二体いるスフィンクスのうち一体の防御魔法だけ解除に成功する】
0414クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/11/18(木) 23:54:08.75ID:WV7kRPz8
キャノンゴーレムから放たれた魔光弾が敵ゴーレムの胴体を穿ち、沈黙させていく。
一方、背後を振り返れば、クロムに構わず難民達の寝床を襲おうと前進していたゴブリンの一団が同士討ちを始めていた。
クロムには何かを仕掛けた覚えはない。ゴブリンに気まぐれで仲間を襲う習性がなければ、誰かが何かを仕掛けたのだ。
しかし召喚勇者パーティの一員であれば、誰が何をしたのかなどもはや大方察しが付くというものだった。

>「クロムさん、お加減良さそうで何よりです」

不意に砂中から聞こえてきた声は、正にその答え合わせと言ってよかった。
マグリットである。思った通り、ゴブリン達は彼女の毒によって狂わされていたのだ。

「やっとお目覚めか。寝てた分、しっかり働けよな」

言われるまでまでもない──。
砂から飛び出すと、即座にゴブリンをぶっ飛ばしてトロールにぶつけて見せたマグリットの姿は、如何にもそう言いたげであった。
傷は勿論のこと、医療用ゴーレムの中でぐっすり眠れたお陰で体力も全快したと考えていいのだろう。

マグリットの加勢で一息つくタイミングを得たクロムは、ここで剣を止めて周囲をざっと見渡した。
当初より大幅に数を減らしたとはいえ、どうやら敵意を持ってしっかりこちらを見据えている魔物はまだそこそこ残っているようだ。
ゴブリンの他にトロール、それよりも更に大型タイプのオーガも何匹か見受けられる。たまたま毒に耐性があった個かもしれない。

「ここは任せる。俺はちょっとあいつらのところに行って来るわ、手こずってるようなんでな」

しかし、それらはクロムの眼中にはなかった。オーガなどよりも更に巨大な影が、キャノンゴーレムを一蹴したのを見たからだ。
クロムはもはや心配無用と思えるマグリットに残りの魔物の掃討を任せると、その場から跳んで即座にレイン達の元へ移動する。

「問題。俺の昨日の夕食のメニューを答えよ。
 ──ったく、馬鹿正直に待ってないで奴より先にこうやって問題を出しときゃ良かったんだ。絶対に答えられねーヤツをな。
 そうすりゃ奴の難解な問題を解かなくてもこっちの知を認めて防御魔法を解いてくれたんだ。なーにのんびりやってんだよ」

そして己の肩をだんびらの峰で叩きながら、すかさずヒナよりも、レインよりも更に前へ出る。
その巨大な影──スフィンクスに“邪魔者”と認識させ、攻撃目標を一時的に己に切り替えさせる為に。

「もうこの手は使えねぇ。一度誰かを敵と見做すと、そいつを殺すまでこいつには声は届かねぇんだ。
 っつーわけでこいつはこのまま倒すしかねぇ。ここは俺とレインがやるから、メガネ、お前はもう一体の方に止めを刺せ」

瞬間、スフィンクスが巨大な前脚をがばぁ、っと上げ、一気に降り下ろした。

「退けい。邪魔をするなら排除するのみ」

見た目は砂像のようで、一見その肉体の耐久性など無いに等しいように見えるスフィンクス。
しかしそれは大きな間違いだ。何故なら表面には透明な鎧とでもいうべき防御魔法が施されている。
いわば繰り出されたスフィンクスの前脚などは質量・硬度の点で巨大な鋼の丸太も同然なのだ。
ヒナの言うように、並大抵の攻撃では跳ね返されるのがオチだ。

「排除されんのはてめぇだよ」

が、それは逆を言えば並以上の攻撃をもってすれば、その限りではなくなるということでもある。
クロムはだんびらの峰を左掌に乗せて刃を立てると、跳び上がった。迫り来る前足に向けて剣を渾身の力で切り上げたのだ。

──苦悶の絶叫が夜空に轟いたのは、その直後。

クロムの殺気に呼応して本来の切れ味を一時的に完全覚醒させただんびらが、防御魔法ごと足を左右真っ二つに割ったのだ。
防御魔法と一口で言ってもその効果は他の魔法と同じくピンからキリまであり、スフィンクスのそれは然程高位のものではない。
ましてや竜人の皮膚すら切り裂けるだんびらの全力の一刀。この結果に一体何の不思議があろうか。

胸元を超え、顔の辺りまで跳び上がったクロムが続けて繰り出した斬撃は、これまた防御魔法を容易く打ち破る一撃だった。
額から右目にかけてをバッサリ斬られたスフィンクスが再び絶叫する。
クロムは着地すると、一旦レインの元まで下がって納刀しながら言った。

「さ、渾身の一撃を見舞って、止めを刺してやれ。奴の防御魔法くらい打ち破れねぇと、いつまで経っても魔王城には行けねーぜ」
0415クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2021/11/18(木) 23:55:05.21ID:WV7kRPz8
【生き残りの魔物の掃討をマグリットに任せ、スフィンクスと戦う】
【スフィンクスにダメージを与え、止めをレインに任せる】
0416マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/11/23(火) 20:31:30.78ID:VwvqfxvB
砂中の穴に足を取られ傾くゴーレム
そこにヒナのキャノンゴーレムから放たれた魔光弾が命中
その衝撃でごーえれむは後ろに倒れ煙を上げている

その威力と命中精度にマグリットの口から口笛と共に
「やりますねえ」
との感嘆の声が漏れる

もうこうなると殲滅戦、と思われたのだが更に一山残っていた

それは後方から現れた巨大な影
当初宣教師として各地の辺境に派遣される予定だったマグリットは、各地の危険生物についても一定の履修は終えている
そしてその巨大な影もその中の知識として把握していた

知能の高い魔獣で高い防御結界を持つ
その問いかけに応えると防御結界が解除され攻撃を与えられる、というものだ

二体のスフィンクスは乱戦を避けレインやヒナのいる方向へと進むのが見える

「ふむ、あれはスフィンクスですね
様子を見るに謎かけの解答に失敗したご様子、となれば……」

シャコガイメイスを握る手に力がこもったが、クロムの方が先に動いた

>「ここは任せる。俺はちょっとあいつらのところに行って来るわ、手こずってるようなんでな」

「はい、こちらはお任せください」

込めた力を抜きながら、スフィンクスへと跳ぶクロムの背中を見送るのであった


スフィンクスは知を重んじる魔物であり、相手の知力を計る為に謎かけをしてくる
防御結界を解くためにその謎を解く必要があるのだが、重要なのは「知力を計る為の行為」である事だ
即ち問いかけられるだけでなく、問いかける事も成立する

とは言え、これらはあくまで謎かけ問答成立前の攻防であり、謎かけに失敗した場合、スフィンクスへの対処は難しいものになる
だが、だからこそ、だ

>奴の防御魔法くらい打ち破れねぇと、いつまで経っても魔王城には行けねーぜ」

砂漠に響くクロムの声に笑みを浮かべながら大きくうなずいた
もはや召喚の勇者一行は町の冒険者ではない
魔王軍の大幹部と戦い、そしてその先の魔王に勝利すべく動いているのだ
スフィンクスを攻略法抜きに力押しで倒せなくてはいけない

「ふふふ、気が合いますねえ」

同じ事を考え一歩先に実行したクロムを見ながら、楽しそうに呟きながら振り返る

その先にはゴブリン、トロール、オーガの盛大なバトルロイヤルが広がっていた
勿論その中にいるマグリットもバトルロイヤルの一員だ
0417マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2021/11/23(火) 20:35:35.31ID:VwvqfxvB
マグリットの幻覚物質は周囲の全てが敵に見えるようにしているのだから
散布領域は群れの戦闘のみだったが、クロムが離れた今、全域散布となっている
故にマグリットも攻撃に曝されているのだが、ゴブリン程度の力ではその鉄の肌を傷つけるには至らない

「まあ、クロムさんが向かってくれて良しとしましょうか」

群がるゴブリンたちを一薙ぎでまとめて吹き飛ばしながら周囲を見渡す

飛び掛かってきたオーガの棍棒を左手に精製した貝殻の盾で受け、そのこめかみにシャコガイメイスを叩き込む
血煙り舞う戦場でマグリットは寄る敵を殴り倒しながら探していた
暫くして立っている者が少なくなったところで、それらを倒し掃討を完了させた

が、最後に倒した二体のオーガとゴブリンはまだ息がある
いや、息があるように倒したのであり、これこそがクロムが向かってくれてよかった、という言葉の意味だ

もしクロムが掃討を担当していたのであれば、とても息を残すような倒し方はしないと思ったからだ



瀕死のオーガとゴブリンを引きずり、難民集団を守り周辺警戒をしているアンジュの元へと戻り

「群れは片付けましたので一足先に戻ってきました」

そうしてオーガとゴブリンに手をかざすと淡い光があふれ、その傷を癒していく

マグリットの回復魔法はその信仰心の低さから効果は高くなく、それも高い集中力を要して戦闘中に使えるものではなかった
だが、極限要因が重なり疑似的な無我の境地に至ったマグリットには確信があった
今の自分ならばできる、と

高純度な祈りと、それを増幅させる祈りの腕輪の力を制御する事ができる、と
その予想通り、瞬時に必要なだけの回復をオーガとゴブリンに与える事が出来たのだった

「ただの魔物の群れであればよかったのですが、スフィンクスがいました
ともすればただの偶発的な接触でない可能性もありますので、会話できそうなの二体選んで連れてきた次第
運動機能はともかく、喋れる程度には回復させましたので取り調べなど行うのでしたらどうぞ」

二体連れてきたのは会話ができるかどうかはやってみなければわからなかった事と、両方会話できる知能があるならば情報のすり合わせができるだろうと
そして探索の勇者の称号を持つのであれば情報収集もできそうと見込んでの事だった

【魔物の群れの掃討完了】
【瀕死のゴブリンとオーガをアンジュの元に連れていき情報収集用に差し出す】
0418レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/12/27(月) 21:22:08.30ID:4uTAfiHt
スフィンクスの問いに答えることができず、防御魔法の解除に失敗してしまったレイン。
持っているのは連射可能なクロスボウ一丁とはがねの剣だけだ。これでどうやって倒そうか……。
思案している内に、クロムがやって来てこう口を開いたのだった。

>「問題。俺の昨日の夕食のメニューを答えよ。
> ──ったく、馬鹿正直に待ってないで奴より先にこうやって問題を出しときゃ良かったんだ。絶対に答えられねーヤツをな。
> そうすりゃ奴の難解な問題を解かなくてもこっちの知を認めて防御魔法を解いてくれたんだ。なーにのんびりやってんだよ」

「なっ……そうだったのか。盲点だったよ……」

スフィンクスの対処法を事もなげに述べるクロムにそう返事して、レインは過去を思い出していた。
サウスマナ大陸に到着してサイクロプスと戦った時も、的確に弱点を教えてくれたことがあったと。
クロムは時折、現地の人しか知らないような魔物の対処法を教えてくれる。

それは単にクロムが博識なのか。それとも――過去に戦ったことがあったのか。
レインは後者だと予想しているが、正確にはウェストレイ大陸がクロムの故郷だからだろう。

「あたしもそれ知らなかった。メモしとこ!」

生物学を専攻する傍ら魔物を調査することもあってヒナは熱心だ。
懐からメモ帳を取り出すと速記でクロムの話した情報を書き記していく。

>「もうこの手は使えねぇ。一度誰かを敵と見做すと、そいつを殺すまでこいつには声は届かねぇんだ。
> っつーわけでこいつはこのまま倒すしかねぇ。ここは俺とレインがやるから、メガネ、お前はもう一体の方に止めを刺せ」

そう話しているうちにスフィンクスはクロムの思惑通り標的をクロム自身に変える。
そして前足を大きく持ち上げて振り下ろした。防御魔法を纏った鋼鉄の塊さながらの足を。

>「退けい。邪魔をするなら排除するのみ」

「クロムちゃんあぶな――……」

>「排除されんのはてめぇだよ」

ヒナの言葉が全て吐き出される前にクロムは剣を構えて跳躍し、スフィンクスの前足を切り上げる。
クロムの意思に呼応して能力を覚醒させた剣は、その前足を真っ二つに切断する。
攻撃はそれで終わりではなかった。続けて頭部に一撃お見舞いすると、額から右目が綺麗に裂けた。
苦悶に歪むスフィンクスの絶叫が砂漠にこだまする。

>「さ、渾身の一撃を見舞って、止めを刺してやれ。奴の防御魔法くらい打ち破れねぇと、いつまで経っても魔王城には行けねーぜ」

「あ……ああ……うん……了解した」

レインはその様相を前にして歯切れの悪い返事をするしかなかった。
――『強く』なっている。以前から頼もしいことに変わりはなかったが遥かに強くなった。
おそらくはクロムが新たに所持している剣。その剣の力なのだろう。二度目になるがまさに『鬼神』だ。
0419レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/12/27(月) 21:23:56.30ID:4uTAfiHt
残念なことにレインの戦闘スタイルとは基本的に敵の弱点を突く、メタを張ることである。
力押しで突破することは得手としておらず、何より今は魔力の残量が少ない。
とはいえ――ダゴン戦の時のように武器に魔力を込めて、渾身の一撃を放つことはできる。
問題は残りの魔力でスフィンクスの防御魔法を突破してなお破壊力を維持できるか。微妙なラインだ。

(今回はこのクロスボウの『矢』に魔力を込める……!)

『透視の片眼鏡』と組み合わせ、敵のもっとも脆弱な箇所に命中させる。
そうすればなんとかスフィンクスを倒す威力に届くはずである。
レインは片眼鏡のダイヤルを回して敵を透視し、脆いところを探す。

(……『額』……かな。クロムの攻撃でダメージを受けているし、人間で言っても弱点だ)

レインはスフィンクスの無傷な方の前足に乗ると、クロスボウを構えて狙いを定める。
無事な方の前足で防御されてしまっては折角の渾身の一撃が台無しだからだ。
残りの魔力から言って一発しか放てない――それを防ぐために『乗った』。
するとクロムからダメージを受けて苦しんでいたスフィンクスが鬱陶しそうに声を出した。

「蝿が……!そんな玩具で我を倒せるとでも思っているのか……!?」

「戦い方次第さ。このただの『矢』が貴方を殺す強力な武器となる!」

全身から魔力を放出すると、それは余すことなくクロスボウに装填された『矢』に集まっていく。
魔力を理力に変換するこの技術は、極めれば『奥義』にもなり得る特技だ。
レインはかつて冒険者ギルドのアンナから教わり、拙いながらも使用することができた。
ただ『渾身の一撃』という名称の通り消耗が激しいので使う機会は限られている。

――そして『渾身の一撃』となる矢が無音で放たれた。
スフィンクスは侮っていたがその額に命中した瞬間、爆ぜたように大穴が穿たれた。
爆裂魔法染みた派手な音と共に頭部がすっ飛んで、スフィンクスを構成する砂が周囲に降り注ぐ。

「……血の雨じゃなくて良かったよ。危うく狂戦士になるところだ」

思考回路を失ったスフィンクスの胴体はずずんと静かに倒れていく。
レインは巻き込まれないよう前足から飛び降りてそう呟いた。

「お〜……あれが"召喚の勇者"パーティーの力ってわけだねぇ。やるじゃん」

ヒナが腕を組んでうんうんと頷く。
防御魔法を解除できていた個体も至る所が陥没し、あるいは大穴が穿たれ倒れている。
無事だったキャノンゴーレム二体で倒せていたらしい。

ゴブリンの群れの方も無事に全滅しているようだ。マグリットのおかげだろう。
肝心のマグリットが見当たらないので、すでに避難民達がいるところへ戻っているようだ。

「……クロムのおかげでなんとかなったよ。ありがとう。
 それじゃあアンジュのところに戻ろう。伏兵や残存戦力もいなさそうだからね」

『透視の片眼鏡』で注意深く周囲を確認するが、敵の影はない。
砂漠のハイエナ――弱小魔物の群れは掃討できたと判断してよいだろう。
一同は避難民達のところまで戻ることになった。
0420レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/12/27(月) 21:25:22.67ID:4uTAfiHt
アンジュは緑の瞳で周囲を警戒しつつ戦況を見守っていると、マグリットが一足早く戻って来た。
手には瀕死のオーガとゴブリンを引き摺っていて、避難民達は驚いた様子でざわつきはじめる。

>「群れは片付けましたので一足先に戻ってきました」

「お疲れ様ですマグリットさん。
 しかし……その魔物は?敢えて息を残してあるようですね」

意図はおおよそ分かっていたのだが、アンジュは確認のためにそう質問した。
するとマグリットは二体の魔物の傷を即座に癒してこう返す。

>「ただの魔物の群れであればよかったのですが、スフィンクスがいました
>ともすればただの偶発的な接触でない可能性もありますので、会話できそうなの二体選んで連れてきた次第
>運動機能はともかく、喋れる程度には回復させましたので取り調べなど行うのでしたらどうぞ」

「……やはり、そういうことでしたか。魔物の中には知能の高い個体もいますからね。
 言語こそ違えどゴブリンやオーガは会話によって意思疎通ができると言います」

回復したゴブリンとオーガに近寄るとアンジュは手を翳す。
すると二体の足元に魔法陣が浮かび、結界の中に閉じ込めた。
下位の光属性結界魔法『タリスマン』である。

続いてアンジュは指をパチンと鳴らすと、二体の魔物の目が虚ろになった。
簡単な催眠魔法だ。これで情報を引き出そうというつもりなのだ。
問題は魔物の言語を理解している必要がある点だが――。
"探究の勇者"として魔族の生態を調査してきたアンジュは魔物の言語も把握している。

「……魔物に尋問してるのか。有益な情報が引き出せると良いんだけど」

クロム、ヒナと共に戻ってきたレインは誰に話すでもなく呟いた。
聴き慣れない独特な発音の言葉が響く奇妙な光景である。
アンジュはふぅと一息つくと、結界の中が眩い光に包まれた。

「……『ホーリーアサイラム』。これで用は済みました。
 残念ですが、この襲撃自体は魔族の絡んでいない偶然だったようですね」

弱い魔物を問答無用で消滅させ、魔族でさえ弱体化は免れない上位結界魔法。
ゴブリンとオーガごときが浴びれば跡形も残るまい。
防塵マントを翻してマグリット達に近寄る。

「……ですが一点、気になることを話していました。
 魔物達はミスライム魔法王国に集結しろと命令を受けていたようなのです。
 なにか……嫌な予感がします。もしかしたら魔王軍が動き出しているのかもしれません」

アンジュは表情を一瞬険しくするが、すぐに顔を綻ばせる。

「といっても、今気にしたところでどうにかなる問題ではありません。
 後はゆっくり休んでください……夜間の見張りは私が続けておきます」

そう言ってアンジュは去っていく。
ヒナは三人の顔を見渡してこう続けた。

「そーいう訳だからお言葉に甘えといて欲しいってわけよ。
 あたしのゴーレムとアンジュで上手いことやっとくからさぁ。それじゃおやすみ!」

取り残されたレインは二人の背中を見つめながら、気持ちを切り替えた。
友人として手伝いたいところだがもう魔力切れだ。休むのも重要な仕事である。
無理をしたところで足を引っ張るだけなら寝るしかない。
親切な避難民が貸してくれた寝袋の中に入って、レインは休息に努めるのだった……。
0421レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/12/27(月) 21:28:57.62ID:4uTAfiHt
ミスライム魔法王国の国境沿いの街に到着したのは数日後のことだった。
国境では王国の官吏が難民保護のため住居から食糧まで準備をして待っていた。
さすがウェストレイ大陸いちの大国と言うべきか、これで一安心だと胸を撫でおろす。

「それにしても、準備がよかったね。まるで来るタイミングが分かっていたみたいだよ」

「それはこの国の宮廷魔導士、アルバトロス様のおかげでしょうね」

街の酒場で食事を摂りながらアンジュはレインの疑問にそう答える。
避難民達を護衛しながらここまで来る間、食事は貧しいものばかりだった。
久々にまともな料理だ。地方特有の郷土料理を食べることは冒険においてささやかな楽しみである。

「宮廷魔導士か……どんな人なんだい?」

「魔法の探究にとても熱心ですね。態度にこそ出しませんが優しい方ですよ。
 大幹部討伐の任を帯びた私とヒナを援助してくれています」

そうして食事を平らげた辺りで、酒場に人が入ってきた。
褐色肌に長い耳をしたエルフの女性といかにも護衛らしい屈強な戦士の二人だ。
砂漠が広がるこの土地にエルフがいるのは珍しい。エルフは基本的に森と共に生きる者だからだ。

「探したよ……"探究の勇者"。そちらは"召喚の勇者"一行だね?
 突然押しかけてすまないね。私はこの国の宮廷魔導士……アルバトロスだ」

「アルバトロス様……!どうなされたんですか?なぜ貴女が城から離れてこの街まで?」

アンジュは椅子から立ち上がると脳裏に以前のことがちらついた。
魔物を尋問した結果、ミスライム魔法王国に集結しろと命令を受けていたという事実を。

「避難民の保護は私が手配したからだよ。君達の動向は概ね把握している。
 "召喚の勇者"達が崩壊する衛星からこの大陸に飛ばされてきた瞬間も……ね。
 そして"探究の勇者"と共にこの街まで来るところもずっと見ていた」

「この街に訪れたのは避難民の保護だけが目的ではないでしょう。
 地の大幹部の新たな標的は……この国なんですね」

「アンジュ、君は話が早くて助かるよ。詳しい説明は首都の城で話そう。
 "召喚の勇者"一行も一緒に来てくれたまえ。風の大幹部を倒したその力、是非借りたい」

「えっ……あ……もちろんです」

レインは歯切れ悪く返事をして、いそいそと酒場を出ていく。
皆が酒場の外に出ると、アルバトロスが杖でトン、と地面を突いた。
すると足下に魔法陣が浮かんで目の前の景色が変わっていく。

この感覚には憶えがある。転送魔法だ。気がついたらレイン達は巨大な城の前にいた。
国境沿いの街とはまるで違う、賑やかな王国の首都ヘリオトロープに一瞬で到着したのだ。
0422レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/12/27(月) 21:31:21.81ID:4uTAfiHt
城門で警備をしている衛兵を顔パスで通ると、アルバトロスの案内で城内のある部屋に着く。
彼女の自室なのだろう。見たことのない書物や資料がそこかしこに散乱している。

「その辺りの椅子に自由に掛けてくれ。本当なら王に謁見させるところだが時間の無駄なので省略する。
 まずはこれを見てくれ。私がなぜ君達の動向を知っているのか、よく理解できるだろう……」

長机の上に乗っていた書物や資料を荒っぽくどけて、両手に収まるくらいの水晶球を置いた。
水晶球には暗い星の海と、そこに漂う何かの残骸が浮かんでいる様子が映されていた。

「……遠見の魔法ですか?」

「そうだ。魔王軍に占領されて以来、私はドワーフの衛星砲を監視していた。
 いつこの国に撃たれるか分からない状況だったからね。だがある時に突然、隕石群が降り注ぎ……。
 衛星砲は半壊状態になった。この状態では使い物にならないだろう……"召喚の勇者"達、君らがやったんだろ?」

「……まぁ、そうですね。正確にはここにいるクロムがやりました」

遥か遠方の地を見通せる魔法。それでアンジュ達の動向も把握していたわけだ。
ならば避難民達の迅速な保護も説明がつく。

「別に責めているわけではないよ。むしろ不安要素を取り除いてくれて感謝している。
 ……気を取り直して本題に入ろう。今から我が国の領土を映す……よく見てもらいたい」

水晶球に映し出されたのは、俯瞰視点の映像だった。空中から地面を見下ろしている図である。
それはミスライム魔法王国のどこかの土地なのだろう。砂漠の真ん中に巨大な柱のようなものが聳えている。
水晶の映像が『柱』を拡大して映し出す。その柱にはなにかの紋様がびっしりと刻まれているようだ。

「これは……何の柱ですか?魔法の術式が刻まれているようですが……」

「土魔法系統の術式のようですね。どことなく見覚えがあります」

レイン、アンジュが次々に口にする。アルバトロスはすぐさま映像を切り替えた。
ぼんやりした映像だが、魔物がさっきの柱を建てている様子が映し出されている。

「私はこれを『地殻の楔』と呼んでいる。全長にして数キロメートルはくだらない。
 アンジュ……君が留守にしている間に我が領土に三か所、こいつが魔王軍に打ち込まれてしまった」

壁に貼り付けてあったウェストレイ大陸の地図を机に広げると、アルバトロスはある地点を丸で囲んでいく。
その丸の位置こそ『地殻の楔』が打ち込まれた場所だろう。レインはその位置に引っかかりを覚えた。

「ひょっとして……この『地殻の楔』って最低でも後二回は打ち込まれる可能性がありませんか?
 何が起こるかは分かりませんが……この辺りとこの辺りに楔があれば――……」

レインが指したのはミスライム魔法王国に流れる最大の河川の源流たる『月の山脈』の辺り。
そして代々魔法王国を統治した王が埋葬されているという『王家の谷』の辺り。

「……――完成しますね。とても大規模な魔法陣が」

アンジュはレインの言葉を継ぐとお互いに顔を見ながら頷き合った。
魔王軍が何かの大規模な魔法陣を作成しようとしていること。
そしてこの国に魔物を集結させようとしていること。何かの関連があるに違いない。
0423レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2021/12/27(月) 21:33:55.87ID:4uTAfiHt
アルバトロスは表情筋を動かすことなくレインとアンジュの指摘を首肯した。

「水晶球越しではあるが……私はこの楔に刻まれた術式を解析してみた。
 結果、この楔にはある土魔法の効果を増幅する効果があると結論付けた……。
 それは……『地震を起こす土魔法』だ。こいつが完成すれば、我が国全体が未曽有の大地震に襲われる」

そんな事になってしまったら、さしもの大陸一の魔法王国だってひとたまりもないだろう。
大地震で壊滅的な被害を被った後に魔王軍の襲撃など受けてしまえば滅亡は避けられない。

「ここまで言えばもう分かるだろう。君達にはこの大規模魔法陣の完成を阻止してもらいたいんだ。
 この国には地の大幹部に故郷を滅ぼされ、行き場を失った者達がたくさんいる。彼らを守るためにもね」

「もちろんです。おそらくはこれも地の大幹部の仕業でしょう。ならば協力しない手はありません」

アンジュは即答した。レインも断る理由がないので無言で頷く。
この場に勇者パーティーが二組存在するというのも奇妙な偶然だ。
残り二か所に『地殻の楔』を打ち込まれないよう、それぞれ別れて守ることができる。

「魔王軍は野良の魔物にも集結を命じていました。大陸中の魔物が襲ってくるかもしれません。
 長期戦になればこちらが不利……どうにかして地の大幹部の居所を掴めればいいのですが……」

「そうだね。でも……魔王軍にとっても重要度の高い作戦だよ。
 俺達が上手く妨害し続ければ『チャンス』が生まれるかもしれない」

「……それはどういう意味ですか、レイン?」

レインはサウスマナ大陸目指して船に乗っていた日々のことを思い出す。
高速戦闘に対応するための特訓漬けだったが、仮面の騎士は修行の合間に冒険の話をしてくれた。

その時に言っていたのだ。彼が倒した大幹部の中に空に浮かぶ城に住む者がいたと。
飛べない限り敵も味方も城に行けないので、部下の魔族は転移アイテムを用いて出入りしていたらしい。
仮面の騎士はそいつから転移アイテムを奪って城に侵入――大幹部を倒しこそしたが実質的に敗北したと話していた。

「部下の魔族は地の大幹部の移動型ダンジョンにどうやって出入りしてるのかって事だよ。
 大規模な作戦なら信頼できる仲間の魔族が指揮してる可能性が高い。そいつを生け捕りにすれば……」

「……奴のダンジョンを突き止めることができる?」

「うん。あくまで可能性の話だけどね。まずは分担を決めよう。
 俺達とアンジュ達、どっちがどっちを守る?片方は河川で片方は谷か……」

河川の源流たる『月の山脈』と王達の躯が眠る『王家の谷』。
地理に合わせて集まる魔物も変われば防衛の方法も変わってくるだろう。
クロムとマグリットの意見を交えて慎重に決めるべきだ。

「何か質問があれば答えよう。私が知っている範囲であればだが」

アルバトロスはそう言って、両勇者パーティーの相談を見守った。


【スフィンクスを倒して大陸一の大国・ミスライム魔法王国に到着】
【避難民が保護された後、宮廷魔導士アルバトロスと出会う】
【アルバトロスに地の大幹部から魔法王国を守ってほしいと頼まれる】
0424クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/01/08(土) 18:43:37.40ID:6Hhod/xy
レインの放った渾身の一矢は、スフィンクスの頭部を粉砕して砂の雨に変えた。
司令塔を失った肉体はもはや物言わぬ砂像と化し、辺りは急速に夜の静寂を取り戻していった。
振り返ればゴブリンの群は全てゴミの様に砂上に打ち捨てられており、横を見ればヒナが余裕の表情で腕を組んでいた。
既にマグリット、ヒナら二人の残敵掃討も済んでおり、レインの止めをもって戦闘は完全に終結していたのである。

>「……クロムのおかげでなんとかなったよ。ありがとう。
> それじゃあアンジュのところに戻ろう。伏兵や残存戦力もいなさそうだからね」

「なぁに、俺は飯代の分だけ働いただけさ。だから敢えて止めはお前に任した。
 ……で、任せて正解だった。あんま謙遜すんなよ。お前、やっぱイースの頃より強くなってるぜ。少しは自信持ちな」

そう言って、クロムはトン、とレインの腰を叩くと、避難民を守るアンジュの元へと歩き出す。

──アンジュの元には既に一足早くマグリットが戻っていた。それも、瀕死の二体の魔物を連れて。
曰く、今回の魔物の襲撃が仕組まれたものではないかと疑ってのことで、情報を聞き出したいのだとか。
確かに、ゴブリンのような低級の群に、およそ低級とは言い難いスフィンクスが数体混じっていたのは些か不可解ではあった。

早速、アンジュが催眠魔法を用いて事の真相を暴いていく。
どうやら魔物の襲撃こそ偶発的産物に過ぎなかったが、彼らはミスライム王国に集結せよとの指示を受けていたらしい。
指示をした者の正体までは判らなかったようだが、低級とは言い難いスフィンクスに命令できる辺り常識的に考えればボス格の魔物……
恐らくは幹部の一人に違いない。

(例の“地の大幹部”って野郎か……)

アンジュの「後はゆっくり休んでくれ」の言葉に従い、クロムはごろんとその場に寝転んで眠気が来るまで夜空を見上げる。
夜空など、どこで見ても同じようなものだとこれまで気にもしていなかったのだが……

(……星座とか全然知らねーんだけどな。意識に刷り込まれてるもんなんかな、ガキの頃に見た星空って)

今夜ばかりはその星の輝きにどこか妙な懐かしさを覚えて、中々寝付けないクロムであった。

────。

数日後。
召喚勇者および探求勇者一行は無事に目的地・『ミスライム魔法王国』に到着した。
避難民を現地の役人に任せた後、向かう場所は冒険者の空腹を満たせる場として定番となっている酒場である。

しばらくレーション続きの毎日を送っていたから、誰もが質にも量にも飢えている。
特にヒトよりも屈強な肉体を誇るが故に、只でさえその維持に必要なカロリー量が多いクロムの食事量は抜きん出ていた。
次から次へと山盛りの料理が盛られた皿がテーブルに並べられ、それを片っ端から空けていくのだ。
中でも周囲の人々の目を引いたのは大きく丸々太った豚の丸焼きをあっという間に骨に変えてしまったことだろう。

ちなみその豚、猪型魔物の家畜化と品種改良に成功という世にも珍しいプロセスを経て生まれたこの地域特有種である。
肉が魔力を帯びているから食べると魔法水と同じく急速な魔力回復が見込め、一部の国には特産品として輸出もされている。
もっとも、魔力をアイテムによって封じている今のクロムには残念ながら効果は無いのだが……。

「……あ、そういやお前肉じゃが食った? この地域の肉じゃがは名物の一つだぜ。
 ここはじゃがいもも品種改良されててな。ここの豚と合わせて煮込むと美味さが増すってんで評判なんだ。マジおすすめ」

前の席に座るマグリットにゲップしながら何とはなしに地元料理を語るクロム。

「あ、それ初耳。メモしとこ」

そんな彼に真っ先に反応して見せたのは、たまたま隣に座っていたヒナであった。
0425クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/01/08(土) 18:47:24.24ID:6Hhod/xy
「……お前さ、ここに来て結構長いんじゃねーの? なんかその割にはこの間から何も肝心なコト知らなくない?」

「んー……そっちが知り過ぎてるってゆーか。今更な事聞くようだけど、ぶっちゃけこの大陸初めてじゃないよね?」

「そらね。これでも世界中を旅して来たんでね。まだ行った事のない大陸もあるけど、ここら辺は俺の庭だったから」

「ふーん。で、それいつ頃の話ってわけ?」

「そうだなぁ……ざっと100年くらい前ってところかな。見かけによらず長生きだろ、はっはっは」

「長寿種ってわけね。それも若いままで長く生きられるなんて羨ましいじゃん。まるで魔族みたいってゆーかぁー」

「……嘘だからな、一応言っとくけど。冗談のつもりがマジで信じかねねーキャラだからよお前」

考え込む仕草もなく、絶妙な間で受け答えするヒナに、クロムは大きく息を吐き後頭部に手を回して視線を宙にさ迷わせる。
「ホントーは冗談じゃなかったりして」などと呟く声が聞こえてくるが、じと目で眼鏡を上げている彼女の姿が目に浮かぶようだ。
しかし、目を合わせて確認する気が起きない。どうもヒナのようなタイプが相手だと、見透かされてる気分になるからだろうか。

魔人は魔王軍の利益になる行為全般をほとんど自由意志によって行う事を許されている。
己の欲求を満たす為に人間に不幸をばら撒く者が多数を占める魔人にあって、クロムはとりわけ変わり種の部類である。
他の同類《ナカマ》とは違い、ヒトを殺めることや、暴力による愉悦を味わうことが魔族化の動機ではなかったこともあって、
魔人となってからというもの実は一度たりとも魔王軍を利する行為に手を染めた事はない。
故に別に言ってもいいのだ、自分の正体を。堂々と。信頼を壊す後ろめたいことをやってきたわけではないのだから。

(タイミングってのは難しいよなぁ、こう改めて考えると)

しかし、しかしである。それ本当かよ? と疑われた時、果たしてどうすれば潔白を証明できるのだろうか。
その確かなやり方を、少なくともクロムは知らない。
つまり裏を返せばリスクなのだ。実は魔族であるという事を明かすのは。
パーティの信頼を壊し、お互いが疑心暗鬼になりかねない危険を秘めている。そんなギクシャクした関係で旅など御免である。
上手くいくはずがないからだ。

『いつまでも隠し事をしてちゃ真の信頼は築けねぇぜ?』──かつてエイリークはそう言った。
クロム自身、実際仲間というものはお互い腹を割った関係の事であると思うし、二人の性格を考えた時にも、
案外、想像しているような最悪の事態は起こらないのではないかと、楽観する自分がいるのも確かなのだ、が……。

(こいつぁ慎重って言うより、ネガティブなだけかもなぁ……俺が)

こちらが魔王の首を狙う以上、敵幹部・アリスマターとの戦いは避けられない。その時、確実に二人に正体は知れるだろう。
なればこそそうなる前に己の口で明かす事こそが最善とは思うものの、中々そのタイミングというものが掴めない。

>「探したよ……"探究の勇者"。そちらは"召喚の勇者"一行だね?
> 突然押しかけてすまないね。私はこの国の宮廷魔導士……アルバトロスだ」

……一つ確かな事は、今はそれを考えている時ではないらしいということだ。
気が付けば褐色肌のエルフがテーブルの横に立っており、話があるから城に案内するという流れになっていた。
各々が席を立ち、それに一拍遅れてクロムも立ち上がる。

「食後の休憩もなく、か。毎度毎度、忙しねーなこのパーティは」

────。

エルフ──アルバトロスと名乗った──に案内された場所は、王国首都城内の一室だった。
小難しい書物や見覚えがありそうでなさそうな文字で書かれた古臭い図面のようなものがそこかしこに散らばっている。
クロムの「これあんたの私室? それとも研究室?」の問いに「前者だ。後者を兼ねた」と即答するアルバトロス。

私室と言えば使命や業務から完全に切り離された空間を想像するクロムにとって、これには思わず「お堅いねぇ」とポツリ。
そういえば宮廷魔導士と言っていた。
王侯に仕える魔法使いは、男女種族問わずどうも学者肌の堅物が多いイメージがあるが、彼女もその例に漏れないということか。
0426クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/01/08(土) 18:53:35.77ID:6Hhod/xy
「どうせ散らかってるなら食い掛けの菓子とか、穿き潰した下着とかの方が笑えて良かったんだけどな。お前らの部屋みたいに」

と、クロムは他三人の女性陣に向けてセクハラ気味のジョークを飛ばしながら、適当な椅子にどっかり座り込んで見つめる。
アルバトロスが用意した水晶球の──遠隔視魔法が映し出す光景を。そして同時に紡がれる彼女の言葉に耳を澄ませた。




(そうか……その為の魔物の招集だったか)

──全てを見、聞き終えて、クロムはレインの話に聞き耳を立てつつアルバトロスから得た情報を反芻していた。
どうも地の大幹部という奴は、ミスライム国内の各地に特殊な巨大柱を打ち込んで大規模な魔法陣を構築し、
超どでかい地震を引き起こそうとしているらしい。
不意打ちの巨大地震で恐慌状態のところを、一気に魔物の大軍でも差し向けられたら正に秒で決着がついてしまうかもしれない。

それを阻止する為にはまず魔法陣を完成させないことだが、妨害をするだけではいつまで経っても脅威は取り除けない。
結局のところ魔法陣を構築しようとするボスそのものを倒すのが一番シンプルで、かつ確実に脅威を排する方法なのだ。
だが、肝心のそのボスは移動型のダンジョンに引き篭もっていて、居場所を掴めないという話は既にクロムも聞いている。

>「部下の魔族は地の大幹部の移動型ダンジョンにどうやって出入りしてるのかって事だよ。
> 大規模な作戦なら信頼できる仲間の魔族が指揮してる可能性が高い。そいつを生け捕りにすれば……」

そこでレインの作戦である。
瞬間移動の魔法やアイテムがあるこの世の中、配下の魔物もダンジョンの出入りにそれらを用いてる可能性が高い。
残りの柱が立つ場所を予測して待ち伏せ、そいつを生け捕りにすることができればあるいは……というのだ。

レインは『月の山脈』、『王家の谷』の二つの地点を候補として挙げた。アンジュもアルバトロスもそれに同調した。
アンジュは催眠と上位結界を修得しているほどの魔法の使い手。
アルバトロスに至っては柱に刻まれた術式を解析して発動魔法を割り出した程の専門家だ。信じるには充分といえる。

後はどっちのパーティがどっちで待ち伏せをするかを決めるだけだ。

(にしても月の山脈に王家の谷か。……これまた懐かしき庭だな。出てきそうな魔物のツラも大体は予想がつく……が)

クロムは腕を組み、背もたれに思いきり体重を預けた。椅子の前足が浮かび、姿勢が斜めになって自然と視線が上に向く。
次第に虚空にぼんやりと浮かび上がったのは懐かしき敵の顔。記憶の底に在るかつての見飽きた魔物達だ。
それらもやがては蜃気楼のように消えていく。いや、一つの懸念の前に自らイメージを打ち消したと言った方が正しいだろう。

(今はどうかな。俺がこの大陸を離れて十年……いやもっとか。何にしてもその間に顔触れが大きく変わってる可能性もある。
 あるいはやたら強化されているかも。なんせあの頃に、地の大幹部なんて大層な肩書の野郎はここには居なかった……)

がたん、と椅子を元の位置へと戻したクロムは、とにかく──と懸念を吹っ切る様にレインを見て言葉を紡ぐ。

「どっちもリスクは変わらねーさ。だからここは敢えて個人的な好みで選ばせて貰うが、俺は『王家の谷』がいいね。
 あそこは未発見の墓が未だに数多く眠ってると言われてる。貴重なアイテムが見つかるかもしれねぇからよ」

そして目線を横にスライドさせてアルバトロスに移すと、続けた。

「ちなみになんだが、その地の大幹部って奴の名前は何て言うんだ? 
 それと北の魔物討伐に向かった“神剣の勇者”とかいう奴について、あんた何か聞いてないか?
 ……南《俺達》の方は何とか倒せたが、西《ここ》の勇者は意外にもまだボスと戦っていなかった。
 それじゃあ残る北《そいつ》の方は今どうなってるのかと、ちょっと気になったもんでね」

【レインに『王家の谷』行きの意思を伝え、アルバトロスに大幹部の名と北の戦況を訊く】
0427レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/01/30(日) 17:51:59.05ID:t4MJFInW
>「どっちもリスクは変わらねーさ。だからここは敢えて個人的な好みで選ばせて貰うが、俺は『王家の谷』がいいね。
> あそこは未発見の墓が未だに数多く眠ってると言われてる。貴重なアイテムが見つかるかもしれねぇからよ」

クロムの希望はミスライム魔法王国を統治した歴代の王が眠る墓所、『王家の谷』だった。
貴重なアイテムが眠っていると聞くと、冒険者として嫌でも期待に胸を膨らませてしまう。
アンジュ側はどちらでも良いらしく、レイン達が『王家の谷』を。アンジュ達が『月の山脈』を守ることに決まった。

>「ちなみになんだが、その地の大幹部って奴の名前は何て言うんだ? 
> それと北の魔物討伐に向かった“神剣の勇者”とかいう奴について、あんた何か聞いてないか?
> ……南《俺達》の方は何とか倒せたが、西《ここ》の勇者は意外にもまだボスと戦っていなかった。
> それじゃあ残る北《そいつ》の方は今どうなってるのかと、ちょっと気になったもんでね」

「地の大幹部の名は……魔物達いわく、"不動城砦"ガルバーニというらしい。
 しかし、実際に姿を見た者はいないはずだよ。私の水晶で覗くこともできなかった」

サティエンドラが炎属性で、シェーンバインが風属性だった。
ならばこの大陸を襲撃しているガルバーニは地属性といったところか。
地に有利を取れるのは『風』だな、とレインは心の中で再確認する。

「"神剣の勇者"ジークの担当は北ですからね。ノースレアは領土の大半が魔王軍の手に落ちています。
 ほぼ孤立無援である以上、探索も一苦労でしょう。加えて、倒す大幹部も炎と水の二体を任されています。
 ノースレアのレジスタンスと協力して任に就いているでしょうが……まだ討伐の報告は届いていません」

アンジュは北の戦況をクロムにそう話した。
やはり大幹部討伐というのは一筋縄ではいかないらしい。
神剣の勇者は現在の勇者の中でも三本の指に入る実力者とされている。
だが、そんな彼でも大幹部を倒すには至っていない。

「では話が纏まったところで、さっそく勇者御一行達には防衛の任に当たってもらおう。
 私の転送魔法で運ぶよ。現地には我が国の軍もいるから、協力して頑張ってくれたまえ」

アルバトロスがそう締めくくり、一同はそれぞれの防衛地点まで転送されることとなった。
レイン達が到着した王家の谷にはミスライムの騎士達が駐留していて、指揮官が出迎えてくれた。
板金鎧に身を包んだ、実直そうで精悍な顔立ちの騎士だった。

「防衛の任務に協力してくれることになった、"召喚の勇者"一行だよ。
 サウスマナで風の大幹部を討伐した実力者達だ。きっと一騎当千の働きをしてくれるよ」

「い、いやぁ……アルバトロス様、それは盛り過ぎですよ。
 申し遅れました。俺は"召喚の勇者"レインです。よろしくお願いします」

騎士は敬礼の仕草をして言葉を返す。

「はっ!了解しました。期待させて頂きましょう、勇者御一行殿!
 私は指揮官のラカンであります!お見知りおきを!」

ラカンと名乗った男と握手すると、アルバトロスは転送魔法で王城へと戻る。
それを見届けると、レインはそわそわした様子で周囲を見渡した。
0428レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/01/30(日) 17:54:30.67ID:t4MJFInW
ラカンはその挙動不審を心配してレインに質問する。

「どうされましたか"召喚の勇者"殿。何か体調が優れないとか……。
 衛生兵を呼びましょうか。砂漠は過酷な環境です」

そういうわけではない。もうこのウェストレイ大陸にきてしばらく経つ。
いい加減、砂漠の環境にも慣れてきたところだ。
レインが気にしていたのは王家の谷に点在する入り口のような穴のことだ。

「ああ……いえ、あの穴はこの国の王の墓に続いているのかと思いまして」

「そうですね。我が国を統治してきた歴代の王が眠っております。
 墓荒らしや冒険者に暴かれたものもありますが、未発見の墓も多いと聞きます」

クロムの言っていた通りだ。まだ魔王軍が襲撃してくる様子もない。
探索するなら今が好機だ。レインは平然とこう言い放った。

「すみません、今の内に『王家の谷』を探索していいですか。
 もしかしたら戦いに役立つアイテムが見つかるかもしれません」

素面で悪気も無くレインはそう言ったが、ラカンは目頭を揉んだ。
国王に仕える騎士である手前、大っぴらに歴代王の墓を暴くことを許可してよいものか。
だが、国が滅ぶか滅ばないかの一大事だ。そんな固いことを言っていられるのか(?)とも考えてしまう。

「……まぁその……今回は目を瞑りましょう」

「……ありがとうございます!行こうクロム、今がチャンスだ!」

レインは「限定召喚」と呟いて透視の片眼鏡を召喚する。
王家の谷を隈なく精査すると、レインはハンマーを召喚して岩壁の一角を全力で叩いた。
すると、岩壁に穴が開き内部へと繋がる通路が現れたのである。

「いつだったか、竜の谷でも似たような仕掛けがあったよね。それでピンと来たよ。
 ここは少なくとも未発見の通路だ。何か有用なアイテムや武器が見つかるかも」

通路を進んでいくと、両側の壁はびっしりと壁画が描かれダンジョン特有の雰囲気を形成していた。
魔物は今のところ現れていない。片眼鏡で透視を続けながら探索し、あるところで立ち止まった。

「……ここだ。透視の片眼鏡で別の通路が見える。どこかに仕掛けが……」

レインが壁を触ると、窪みの部分がスイッチになっていたらしい。
壁の一部が上へせり上がって新たな通路が現れた。中には埃を被った宝箱が幾つかある。

「どれもミミックの類じゃないな。全部開けて問題ないよ」

透視の片眼鏡のダイヤルをいじりつつ隠し部屋へと入っていく。
どの宝箱も鍵がかかってない。レインは手慣れた様子で一際大きな宝箱を開ける。
ブーメランだ。中央にはエメラルドのような宝玉が嵌っていて、レインはそれを見て何かを思いつく。

魔力を僅かに込めてみると、ブーメランはふわっと風を帯びた。
間違いない、これは魔法武器だ。思わぬ拾い物である。


【王家の谷に到着。魔王軍が攻めてくるまで探索の時間】
【『透視の片眼鏡』を用いて風属性の魔法武器(ブーメラン)を入手】
0429クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/02/06(日) 21:42:26.31ID:4WKBfwBv
アルバトロスによって地の大幹部は“不動城砦”ガルバーニと呼ばれている事が判明した。
一方、アンジュによれば北の戦況については不明であり、少なくとも討伐の報告は未だ届いていないとの事であった。
が、それでもクロムの知らない情報を得る事はできた。
どうやらノースレアには炎と水、二体の幹部がいるらしいのだ。

(まさか……)

炎属性の幹部と言われて、クロムはあの男の顔を思い浮かべずには居られなかった。
“猛炎獅子”。そう、かつてイース大陸に拠点を構えていたあの戦闘狂である。

魔王軍の事情や戦略など知る由もないが、ひょっとしたら結果としてイース攻略に失敗し数を減らした彼の軍が、
本来ノースレア攻略を一手に任されていた水の軍の増援として、一時的に派遣されているのかもしれない。
……むしろそうであって欲しいと願うところなのかもしれない。
最悪なのは強力な火炎属性の幹部が実はもう一人いて、そいつが北攻略の担当だった場合だろう。
サティエンドラと同じ力量の炎の使い手がもう一人いるなど考えただけでもぞっとするではないか。

そんなことを思っている内に、一行はアルバトロスの手によって早速現地に飛ばされることになっていた。
魔法陣が足元に浮かび上がり、一瞬の内に視界に広がる景色が変わる。
クロムにとって懐かしさを感じるそれは、紛れもなくかつての庭・『王家の谷』に違いなかった。

アルバトロスの言っていた通り、現地には既に騎士達が駐留しており、彼らは一行の姿を認めると丁重に出迎えたくれた。
ラカンと名乗る隊長格の男と握手をするレインを後目にしつつ、クロムは周囲を一瞥する。
今のところ魔物の姿はなく、気配も感じない。
レインもそれに直ぐに気が付いたようで、『今の内に谷を探索したい』と切り出すが、言われたラカンは困惑した様子であった。

「後で墓荒らしの許可を出しちまったと知れれば責任問題になりかねねーからな。あんたは見て見ぬフリをしてくれりゃいいよ」

しばしの間を置き、『目を瞑る』と声を絞り出したラカンに、クロムは笑いながらあっちへ行ってなと言わんばかりに手を振る。
その間にいつもの片眼鏡を装着したレインが、早速辺りを見通して岸壁の一角をハンマーで叩いていた。
そうして現れたのは岸壁の中へと通じる隠し通路。

>「いつだったか、竜の谷でも似たような仕掛けがあったよね。それでピンと来たよ。
> ここは少なくとも未発見の通路だ。何か有用なアイテムや武器が見つかるかも」

「気を付けろよ。未発見の墓ってのは経験上……」

壁画に囲まれた薄暗い通路を進みながら、クロムは何かを言い掛けるも、レインが立ち止まったのを見て思わず口を閉じる。
何かを発見したのかと暗い中を目を凝らしていると、やがて通路の壁の一部が開いていった。隠し通路である。
中を覗いて見ると、明らかに随分長い間誰にも触れられていないような宝箱がいくつか並んでいた。

ひゅう♪ と口笛を鳴らすクロムの横で、レインが早速つかつかと宝箱に歩み寄り、その内の一つを開ける。
出てきたのは宝石が嵌め込まれたブーメラン。魔道具の一種だったようで、彼はそれが一目で気に入ったらしい。
クロムはというと、宝箱の中でも最も小さいのを選んでいた。

「こういうのは一番小さいヤツに一番のアタリが入ってるもんなんだよ。例えば強力な爆弾みてーなのが……あれ?」

しかし、出てきたのは想像とは異なりただのガラスの小瓶だった。いや、中に何らかの液体が入っている。
手に取ってじろじろと見るクロムがやがてポツリと漏らした言葉は「これ……“薬水”だな」だった。

薬水とはその名の通り液状の回復薬だが、液体の原料は薬草である。
薬草よりは缶詰のように日持ちはするが、原料自体はありふれたものなので残念ながら特に貴重というわけではない。

「ってことはもう何百年も前の薬水ってことになるが……飲めるんかなこれ。保存が効くとはいえ……」

現在、クロムは薬草を切らしているので、これは回復薬を補充するチャンスではある。
が、迂闊に口を付けて腹でも下したら回復どころか逆効果にしかならないのだ。
貰えるものは貰っておくべきか、それともタダより高いものはないとそっと宝箱の中に戻すべきなのか……
クロムに一瞬の迷いが生じた、その時であった。
0430クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/02/06(日) 21:52:03.71ID:4WKBfwBv
「シャアアアアアアアアアアア!」

突然、得体のしれない奇声が響き渡り、殺気が頭上から迫ってきたのは。

(──)

クロムは素早く剣に手を掛けると、頭上に向けて一閃。降ってきた何かを真っ二つに切り裂いた。
そして、どさっ、どさっ、と地面に落ちたそれを見下ろして、「やっぱりいやがったか」と小さく零した。

「ミイラ化したゾンビだ。多分、この墓に眠る王か……。天井に貼り付いていたらしいな。
 ……さっきは言いそびれたが、未発見の墓の中ってのはこういう危険もあるんだ。覚えとけよ」

上半身と下半身が見事に真っ二つに別れているにもかかわらず、動きを止めずに這いずって来る様は正に亡者だ。
メリッサ島に居たスケルトンパイレーツ同様、この手の魔物は通常攻撃では完全に活動を停止させることはできない。

「それともう一つ。実はこいつらにはある弱点があるってことも覚えとけよ」

しかし、クロムは知っている。亡者の弱点を。だから、手に入れたばかりの薬水を使うことに何ら躊躇いはなかった。
瓶の蓋を開け、中身を亡者に向けて豪快に振りかける。
すると、途端に亡者は「ギヤァァァアア……」と呻き声を挙げた。見る見るうちに体が溶けていき、それが痛みを感じない筈のゾンビに苦痛を齎しているのだ。

「どうやらあの薬水はまだ効き目があったようだ。ゾンビってのはどういうわけだか知らんが、回復に弱いんだ。見ての通りな」

そして、出来の悪いシチューの様になったかつて亡者だったものを見下ろしつつ剣を納めるクロムは、こうも言った。

「ちなみにここら辺で見つかる亡者の多くは魔王軍とは何ら関りがないものばかりだ。
 古代の王は生前に永遠の権力を望むあまり不老不死になれるという怪しげな魔法を自分に掛けたとされる奴も多くてな。
 それが死後に発動する欠陥のゾンビ魔法だった為に、この世を彷徨うことになってるってわけだ」

「──うわああああああああ!!」

納刀を完了すると同時に聞こえてきた声。それは亡者の奇声などではなく、明らかに生きた人間の悲鳴であった。
方向は通路の外……騎士達が居た場所からだ。

【墓を探索。手に入れたばかりの『薬水』を使って現れたゾンビを撃退】
【騎士達の悲鳴が聞こえてくる】
0431レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/02/13(日) 19:00:40.39ID:JehQ7ezG
ウェストレイ大陸は土地柄、砂漠に適応した魔物が多い。
すなわち魔物の多くは地属性ということになる。『地』の弱点は『風』だ。
風属性のブーメランは今回の戦闘で大いに役立ってくれるだろう。

>「こういうのは一番小さいヤツに一番のアタリが入ってるもんなんだよ。例えば強力な爆弾みてーなのが……あれ?」

クロムが開けた一番小さな宝箱にはガラスの小瓶が入っていた。
中には液体が詰まっている。小瓶のデザインは違えど道具屋で見た覚えがある。
あれはもしや『薬水』というやつではなかろうか。

>「ってことはもう何百年も前の薬水ってことになるが……飲めるんかなこれ。保存が効くとはいえ……」

「普通の医薬品でも使用期限はあるよね。それでも数年ぐらいはもつと思うけど……。
 数百年たった回復アイテムか……普通に使うのは止めた方がいいのかも」

もっとも、回復以外の使い道はあまり思い浮かばないが。
レインはこの時、回復以外の使い道がすぐに訪れるとは思っていなかったのだ。

>「シャアアアアアアアアアアア!」

レインは反射的に鞘からはがねの剣を抜きつつ音源へ視線を向ける。
――が、それよりも早くクロムが頭上に剣を一閃して対処。
頭上から人型の何かが落ちてくる。ミイラだ。これも土地柄か。

砂漠という乾燥地帯なうえ、この国には死体に防腐処理を施す文化があると聞く。
死後の復活信仰が転じてミイラを作るようになり、何らかの理由でアンデッドとなる。
ちなみにサマリア王国では単純な土葬ゆえか、現れるアンデッドは白骨死体が多い。

>「ミイラ化したゾンビだ。多分、この墓に眠る王か……。天井に貼り付いていたらしいな。
> ……さっきは言いそびれたが、未発見の墓の中ってのはこういう危険もあるんだ。覚えとけよ」

「アンデッドは厄介な魔物だからね。俺も墓荒ら……じゃなかった、探索ははじめてだし」 

>「それともう一つ。実はこいつらにはある弱点があるってことも覚えとけよ」

クロムがついさっき手に入れたばかりの薬水の蓋を開けてミイラに振りかける。
すでに死に至り、痛みなどと無縁なはずのミイラが苦悶の声を漏らす。
しかも肉体が液化して地面にじわじわと広がっていくではないか。

>「どうやらあの薬水はまだ効き目があったようだ。ゾンビってのはどういうわけだか知らんが、回復に弱いんだ。見ての通りな」

「……聞いたことはあるけど、実践してるとこをみるのは初めてだよ」

それは高レベルの冒険者なら知る情報で、いわくアンデッドは回復に弱いという。
アンデッドは低レベル帯のダンジョンでは滅多にお目にかからない。
そのため駆け出しの冒険者は知らないこともままある。

サマリア王国でも、遭遇の可能性があるのは王国で最難関とされるメリッサ島だけだ。
召喚魔法を封じられて焦って逃げたら、スケルトンパイレーツにバックアタックを食らったのも今や良い思い出か。

>「ちなみにここら辺で見つかる亡者の多くは魔王軍とは何ら関りがないものばかりだ。
> 古代の王は生前に永遠の権力を望むあまり不老不死になれるという怪しげな魔法を自分に掛けたとされる奴も多くてな。
> それが死後に発動する欠陥のゾンビ魔法だった為に、この世を彷徨うことになってるってわけだ」

「勉強になるよ。けどクロム……この土地にやけに詳しいね。
 もしかして……以前に来たことがあるのかい?」

スフィンクスと戦った時にも感じたことだ。
だから何が悪いというわけではない。むしろ助かるぐらいだ。
冒険において現地に詳しいというのはそれだけでアドバンテージである。
0432レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/02/13(日) 19:02:49.67ID:JehQ7ezG
>「──うわああああああああ!!」

ミイラを退治したところで、外から悲鳴が聞こえてきた。ミスライムの騎士達の声だ。
まさか魔王軍が襲撃を仕掛けてきたのか。そんな馬鹿な話があるか。さきほどまで何の前触れもなかった。
軍勢がそんな手品みたいにいきなり現れるわけがない。だから探索を優先して――。

「ああ……!?そうか、しまったぁ〜っ!!」

レインは頭を抱えた。自身が痛恨の勘違いをしていることに気づいてしまったのだ。
ブーメランを片手に外へと向かって全力疾走する。視界に飛び込んできたのは大量の魔物だ。
万を超える軍勢。それが、さきほどまでなかった大穴から次々と飛び出してくる。

地の大幹部こと"不動城砦"ガルバーニは転送魔法で移動するダンジョンに身を隠している。
そして、そのダンジョンから魔物を送り込み街などを襲うのが奴らの戦略。
つまるところ、魔王軍の襲撃には何の前触れもない。幽霊のように突然現れて襲ってくるわけである。

「ジャッカルナイトにバジリスク……この大陸特有の魔物かっ!」

ジャッカルナイト。犬の顔をした魔物の騎士。その剣の腕は人間の剣豪にも劣らないといわれている。
バジリスク。巨大な蛇の魔物で、蛇の王とも言われている。全身に強力な毒を持っている。
他にも以前と同じくデザートゴブリンやゴーレムもいるが、注意すべきなのは上記の二種類だろう。

「うぉぉぉぉっ!!」

レインは魔力を込めてブーメランを投げると、それは味方を襲う魔物目掛けて滑空する。
『風』がこもったそれは高速回転する鋭利な刃となって鎧ごとジャッカルナイト数体を切り裂いた。
そして手元に戻ってきたブーメランをキャッチして騎士を率いるラカンの元へと急ぐ。

「すみません、遅れました。これから戦闘に参加します!」

「おお、"召喚の勇者"殿!お待ちしておりました!」

ラカンは喜色ばんだ声でレインとクロムを迎える。
すると直後、地面が大きく震動したかと思うと魔物を放出していた大穴が突如消滅した。
おそらくその大穴こそがガルバーニのいる移動型ダンジョンへの入り口だったのだろう。
アンジュの話通り逃げ足が早い。

「『地殻の楔』を建てる工程は分かってる、まずはそれを阻止しよう」

アルバトロスの水晶でみた限りでは、楔を建てるのにも転送魔法を使っていた。
魔法陣を地面に描いて、楔を転送することでぶっ刺すという具合である。
なにせキロ単位の巨大な柱だ。物理的に運ぶわけにもいかないのだろう。

「ふん……『格』の違う奴らが二人現れたな。だがものの敵ではないわ」

押し寄せる魔王軍の軍勢、その最後尾で魔族が独白した。
彼こそが『地殻の楔』を建てる任務を帯びたガルバーニの部下。
モグラめいた顔立ちに腕には槍のような武器がついている。

「我が名は穿孔の螺旋ディグラント!ガルバーニ様の命により掘削するぞ、貴様らの命ッ!」
0433レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/02/13(日) 19:05:21.79ID:JehQ7ezG
ディグラントは興奮のあまり吼えた。
しかし最後尾にいたので、悲しいことにレインの耳には届いていない。

「魔族もいるみたいだね。何かをわめいてるみたいだ……」

今のところ転送の魔法陣を構築する様子はない。この場を制圧してから行う気だろうか。
魔王軍は数こそ多いが統率力は低い。どの魔物も本能のまま暴れているという感じだ。
――などと考えていると、最後尾の魔族・ディグラントが砂漠に潜るのが見えた。

レインは『透視の片眼鏡』のダイヤルを合わせて地面を透視する。
腕についた槍のような部位が高速回転して地面を掘り進んでいる!さながら土竜のように!

「ラカンさん、クロム、敵が『下』から来るっ!!」

レインは限定召喚を行い装備を『透視の片眼鏡』から『波紋の長靴』へとチェンジ。
板金鎧を纏うがゆえに動きの遅いラカンを抱えて、その跳躍力で空中へと逃げる。

「ばぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!驚いたか!掘削、掘削ぅ!!」

地中より強襲したディグラントは完全な不意打ちを決めたつもりだったが、手応えがない。
なるほどそれなりに『出来る』冒険者らしい。ディグラントは相手にとって不足無しだと思った。

「しかぁし!足場の崩れた今、ワシの二撃目を躱せるかなぁ〜〜〜〜ッ!?」

口を風船のように膨らませると、魔法陣が口部に浮かぶ。
そしてディグラントはぶわっと灰色の液体のようなものを勢いよく吐いた。
これは地属性魔法のひとつ、『ペトロブラスト』である。

灰色の液体を浴びてしまった物質はカチカチに石化してしまう。
つまり、身動きを封じるためのいやらしい魔法なのである。
石化する液体がレインとラカン、そしてクロムへと迫る。


【外の悲鳴は魔王軍によるものだった】
【魔物を率いるボス、穿孔の螺旋ディグラントに強襲される】
0434クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/02/20(日) 21:13:44.95ID:9rsnpeaq
悲鳴を聞いて一目散に来た道を駆け戻ってみると、外では既に地を埋め尽くさんばかりの魔物の群がひしめいていた。
よくよく見てみると、いつの間にかフィールドに現れた巨大な穴から魔物達がわらわら湧き出ている。まるで蟻の巣のようだ。

(あれが例の移動型ダンジョン……? 何の前触れもなく現われ、一気にこれだけの魔物を……なるほど厄介だなこりゃ)

眼前に広がるおぞましき光景に舌打ちし掛けて、クロムは止める。音もなく迫り来る不気味な影を目の端で捉えたからだ。

「──あっぶねぇ。後一秒でも遅れてたら毒牙の餌食にされてたところだ」

跳び上がるクロム。一瞬遅れて彼が立っていた場所に獰猛な殺意をぶつける巨影──大蛇『バジリスク』。
ピンチの後にチャンスあり。間一髪ながら必殺の牙を躱し、頭上を取った形となったクロムは既に剣を抜いていた。
王冠を彷彿とさせる突起と模様を持つその威厳溢れる頭部がすぐさま鬼神によって食い破られる。
が、残念なことに彼の振るう鬼神には毒を浄化する能力まではない。

「これだから蛇ってのは好きになれねぇんだ。──マグリット、毒の処理は十八番だろ!? つーか残りの相手もお前がやれ!」

破壊箇所から噴き出す厄介な毒が混じった体液。こういう時クロムは悲しいまでに無力となる。
もはや出来る事と言えば、撒き散らされた毒と相性のよろしくない残りのバジリスクの掃除役をマグリットに押し付けつつ、
毒雨に濡れぬようその場からさっさと離れる事だけであった。

とはいえ、危険を完全に避けられるわけではない。
そこら中で無数の魔物がひしめいているということは、移動すればそれだけ新しい敵と嫌でも遭遇してしまう状況なのだから。
でも問題は無い。ゴブリン類、ゴーレム、ジャッカルナイト……ざっと顔触れを見渡した限り、毒持ちはバジリスクのみ。
返り血を浴びることになんら不安要素がなければ、いつものように気楽な気持ちで存分に剣を振るうことができる。

「随分と数だけは揃えたもんだが──」

四方八方から群がるゴブリンを苦も無く撫で斬りにするクロムに、ジャッカルナイトが剣を構えて切り込んで来る。
すかさずクロムは剣で掃おうとするが、流石にその剣腕は文句なしに剣豪レベルとも評されるジャッカルナイト、反応が早い。
逆にその剣を払いのけんと鋭い剣閃で迎撃してきたではないか。

「──俺達を仕留めるには少々質が悪ィんじゃねぇの!?」

しかし、無意味だ。ただの鉄の塊で、鬼神の行く手を阻める筈もない。
接触即斬鉄。瞬時にジャッカルナイトの意図を挫いた鬼神は、続けて無防備な胴に容赦なく襲い掛かり──

──切断。上半身を糸の千切れた凧のように空中にぶっ飛ばして、辺りに血の雨を降らせた。

人外同士、お互い剣の使い手であっても、クロムとジャッカルナイトでは決定的な差がある。それは得物の質。
竜人の皮膚すら斬り避ける鬼神の切れ味の前では、たかだが鉄の棒に過ぎないありふれた刀剣など豆腐も同然なのだ。

(っ!)

次の命知らずがどこから来るか、探るクロムの足元が突然激しく揺れる。
騎士達の何人かが口々に「穴が」と騒いでいる。見れば、先程まではそこに在った筈の大穴が煙のように消え失せていた。

……なるほど移動型のダンジョン。また移動したらしい。
奇襲して魔物を大量にばら撒いたら、長居せずに即撤退する。これを徹底されたら確かに尻尾を掴むのは難しいだろう。
アンジュ達が手こずっていたわけだ。
0435クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/02/20(日) 21:19:23.39ID:9rsnpeaq
>「我が名は穿孔の螺旋ディグラント!ガルバーニ様の命により掘削するぞ、貴様らの命ッ!」

直後、群の奥から現れた一匹のモグラ面の魔族が、騎士達を更に大きくどよめかせた。
昂りを抑えられないというように威勢よく吠えるその姿に、剣を握るクロムの手にも自然と強い力が入る。

>「魔族もいるみたいだね。何かをわめいてるみたいだ……」

「ガルバーニ……とか名乗ってるぜ。恐らくあいつがこの群のボスだな。早速、生け捕り作戦開始と行くか?」

意思を確かめんとレインを見るクロム。だが、レインはその視線に合わせず……やがて唐突に目を見開いた。
何事かと咄嗟に目を群の奥へと戻すと、何とガルバーニの姿がいつの間にかそこから消えているではないか。

>「ラカンさん、クロム、敵が『下』から来るっ!!」

「しまっ──見た目の通り地中を移動できるタイプかよ!」

レインが上へ跳び、やや遅れてクロムが身を屈めて飛び込むように前へ跳ぶ──。
足元の地面が音を立てて崩れ、中から腕の掘削刃を高速回転させたどや顔のガルバーニが出てきたのはその直後だった。
挨拶代わりの奇襲を躱したとはいえ、依然主導権は敵が握ったまま。今は体勢が悪く反撃できる状況ではないのだ。

>「しかぁし!足場の崩れた今、ワシの二撃目を躱せるかなぁ〜〜〜〜ッ!?」

それはやはり敵も理解していたらしい。ガルバーニが打った次の一手は、追撃として正に的確かつ絶妙だった。
口から魔法陣を通して一気に吐き出された大量の液体は、触れた物質を岩の様に石化させる地属性魔法の一つ『ペトロブラスト』。
浴びても反魔の装束の効果で完全な石化は回避できるだろうが、それでも鉛のように体が重くなる程度は覚悟すべきレベルの魔法。
数で有利なのは敵。そのうえスピードまで敵が有利となっては流石に厳しくなる。ここはほんの少しでも浴びるわけには行かない。
けれども体勢が悪い中、広範囲に飛び散りながら追いすがって来るそれを躱し切ることは、言うまでもなく困難だ。

(これだけの量を詠唱もせずほとんどノータイムで……!)

──ならば、防ぐしかない。何かを身代わりの盾にして。
クロムは一瞬視線を横に流してその何かを見定めると、伸ばした左手で大地を掴んで急ブレーキをかけた。
そして両膝を曲げ、あたかも蛙の倒立のような体勢を取ったところで、一気に縮めたばねを伸ばすが如く両足を繰り出した。

それによって蹴り飛ばされたのは司令部を失っても尚、倒れる事無く未だ大地に立往生し続けていたジャッカルナイトの下半身。
蹴った反動で左手は再び大地から離れ、クロムは体の上下を入れ替えながら更なる前進を果たして着地する。
一方、蹴られたジャッカルナイトはペトロブラストに突っ込み、その前進を阻み堰き止める障害物の役割を果たして石化していった。

「ほォ……二撃目もノーダメージで切り抜けたか。思ったよりやるではないか、少しは驚いたぞ!」

「そりゃこっちのセリフだ。動きといい判断力といい、お前かなり戦い慣れてやがるな」

「当ォ〜〜全ェンッ!! 小僧などとは戦いの年季が違うのだァ! さぁァ〜〜次こそ貴様らの命に大穴を空けてやろう!」

「欲張るんじゃねぇよアホ。次のターンはこっちだ──」

言うが早いか、瞬時に加速して大地を風の如く駆けるクロムに、ガルバーニの目が丸くなった。
0436クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/02/20(日) 21:25:11.36ID:9rsnpeaq
「──おオォッッとォオオオッ!!」

しかし、驚いたのも一瞬だった。至近に迫ると同時に放った横一文字斬り。
加減したつもりは無い一刀を、次の瞬間ガルバーニは興奮気味の微笑を浮かべてドリルの得物で受け止めて見せたのだ。

「はっはっは、危ない危ないィ! 瞬きしていたらやられておったわ! しかぁし! しかししかししかぁぁあ──」

「──いちいちうるせぇよ」

「ぬッ!!?」

が──それも一瞬に過ぎなかった。
抑揚の無い声で呟くクロムの瞳から、殺意の暗い色が滲み出した途端──止まった筈の刃が再び動き出したからである。

「ワシの得物に食い込んで────ぬっ、おぉぉおおおおッ!!」

あれよあれよと真っ二つに切断されるドリル。邪魔な障害物を排除して、改めて横一閃に刃を走らせる鬼神のだんびら。
──ガルバーニは逃れる。己の肉体に刃が届く前に、素早く後方に跳び退いて。

「ふっ……ふぅぅぅうううううううう! 今のは流石のワシも肝を冷やしたぞ!
 信じられん、ワシ特製の掘削武器を切り裂くとは……一体なんだなんだその剣は……!?」

「答える必要なし」

剣を肩に乗せて、再び加速せんとやや前のめりとなるクロム。
それを見て、叫び声をあげながらこれまた再び地中に潜っていくガルバーニ。

「舐めるなぁぁぁあ! 得物は一つになっても、貴様ら如きでは追いつけぬ速さで地中を移動できるのだぁぁあ!
 ワシは地中でも貴様らの位置ははっきりと分るがァ! 貴様らでは地中のワシを捕捉する事はできまいぃい!
 ふははははははは! どんな切れ味の剣も、届かなくては意味はなかろうぉお!」

「チッ、確かに……」

舌打ちしながらあっという間に地中へ消えていく様を見届けたクロムは、不意に背後を振り返って剣を走らせる。
直後に「ギャアア」と断末魔を挙げて大地に散らばっていくトロール。
だが、これで降り懸かる火の粉の全てが片付いたわけではなかった。
視界は一面、殺気立ったゴブリン、トロール、ゴーレム、ジャッカルナイトなどで埋め尽くされていたのだから。

「こんだけいると気が散って気配を探ることも、うるせぇから音に耳を澄ますこともできやしねぇ。
 レイン! 奴を捕捉できるのはお前だけだ、何とかしろ! 俺は魔物がお前の邪魔をしねぇようにしてやるからよ!
 だが気を付けろ! あのモグラ、恍けてやがるがキュベレーなんぞよりずっと手強い! 油断したらやられるぜ!」

言って、クロムは左手で小剣を抜き放つ。

「……ったく、いくら質が悪ィとはいえ、ガチのマジでいかねーとやばそうだぜ。俺だって体力の限界ってもんがあるんでな。
 さあ……準備が整ったところでそろそろはじめようじゃねぇか──! 行くぜ、糞野郎どもぉぉおおおおおお!!」

そしてやがて魔物の大群に矢のように突貫するのだった。右にだんびら、左に小剣の二刀を構えて。

【ディグランドと戦闘。片方のドリルを斬って破壊するが、地中に逃げられる】
【魔物の群の注意を引き付け、レインから遠ざける】
0437クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/02/20(日) 22:54:57.15ID:9rsnpeaq
すいません訂正
ディグラントの部分が全部ガルバーニになってました
脳内で置き換えて読んでください
思い込みってこわい
0438レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/02/27(日) 21:05:22.38ID:FUA67vCL
石化の液体は容赦なく、大量にレインとラカン、クロムを襲う。
盾を召喚して防ぐか?だが少しの飛沫でも侮れない。浴びればたちまちに石化してしまう。
それに、その防御方法は盾を捨てるやり方だ。既製品とはいえもったいない。

石化魔法というのは解呪に専用の魔法が必要となる。
高位の僧侶はそういった魔法にも心得があると言うが、果たしてマグリットが使えるかどうか。
ならば、ベストは言うまでもなく完全に防ぐこと。そして、今のレインならそれができる。

「――ブーメランには、こういう使い方もあるっ!!」

レインはブーメランに魔力を込める。
そして、投げるのではなくプロペラのようにその場で高速回転させたのだ。
風を帯びたブーメランは即席の盾として、石化することなく液体を弾く。

そして、ラカンと共に無事に着地。
クロムはジャッカルナイトの下半身を投げつけて防いだようだ。

>「ほォ……二撃目もノーダメージで切り抜けたか。思ったよりやるではないか、少しは驚いたぞ!」

そうなったのは紛れもなく魔王軍や強い野生の魔物との戦いのおかげだ。
レインに関しては、今までの経験値が活きているとしか言いようがない。
「ある意味お前達のおかげだよ」なんて思っている間にクロムとディグラントが会話を繰り広げる。

>「──おオォッッとォオオオッ!!」

疾風迅雷。クロムが瞬きの速さで横一文字に斬りかかる。
だがディグラントとて魔族の端くれ。クロムをして「戦い慣れている」と言わせるほどだ。
『鬼神のだんびら』の一撃を腕にくっついた回転する槍で受け止める。

>「ワシの得物に食い込んで────ぬっ、おぉぉおおおおッ!!」

食い込んだ。静かに、鋭利に、研ぎ澄まされた刃がディグラントの得物を寸断する。
恐るべきは剣の切れ味。恐るべきはクロムの技量。ラカンもその所業に目を見張った。

「す、すごいですね……まさしく鬼神……!」

スフィンクスと戦った時のレインと同じ感想だ。
血と臓物と屍が重なる戦場で、血塗れの剣を持った少年。
ぞっとするほど凍てついた真紅の瞳で敵を睨み、新たな骸を築いていく。

そんな仲間をなんと形容すればいい?
まさか死神と呼ぶにはいくまい。ならば戦場に降り立った鬼神と言う他ない。
まぁ、そんな彼も仲間となれば案外懐のあったかい人物なのだが。

>「ふっ……ふぅぅぅうううううううう! 今のは流石のワシも肝を冷やしたぞ!
> 信じられん、ワシ特製の掘削武器を切り裂くとは……一体なんだなんだその剣は……!?」

素早く後方へ逃げて、肉体へのダメージは避けるディグラント。
すると叫び声を上げながら再び地中へと潜っていく。

>「舐めるなぁぁぁあ! 得物は一つになっても、貴様ら如きでは追いつけぬ速さで地中を移動できるのだぁぁあ!
> ワシは地中でも貴様らの位置ははっきりと分るがァ! 貴様らでは地中のワシを捕捉する事はできまいぃい!
> ふははははははは! どんな切れ味の剣も、届かなくては意味はなかろうぉお!」

丁寧な解説つきで地中へと潜っていく。
それは自信の表れだった。魔族特有の慢心と言い換えてもいい。
実際、ひとたび地中に潜られたら攻撃だって届かない。厄介な一手に変わりはない。
0439レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/02/27(日) 21:08:49.73ID:FUA67vCL
>「こんだけいると気が散って気配を探ることも、うるせぇから音に耳を澄ますこともできやしねぇ。
> レイン! 奴を捕捉できるのはお前だけだ、何とかしろ! 俺は魔物がお前の邪魔をしねぇようにしてやるからよ!
> だが気を付けろ! あのモグラ、恍けてやがるがキュベレーなんぞよりずっと手強い! 油断したらやられるぜ!」

「……分かった!そっちは任せるよ……!」

『透視の片眼鏡』を使えばディグラントを捕捉することは可能。
ディグラントは回転する槍を失っているにも関わらず、そのスピードは衰えていない。
狙いを定めて獰猛に地面から攻撃しようと浮上してくる。

「召喚変身――『天空の聖弓兵』……!」

レインの姿が一瞬にして変わる。
薄緑色の狩人服を纏った、神鉄の弓を持つ兵士へと。
弓を引き絞って襲ってくるタイミングを待つ。

やるなら一撃必殺だ。攻撃してきた瞬間をカウンターで射抜く。
お誂え向きにディグラントは先程してやられたクロムではなくレイン達を狙っている様子。

「ぶわっはははははは!!まずは貴様らからだ、死ねいッ!!」

かくして地中から背後に現れたディグラントの一撃目を、レインとラカンは回避した。
ラカンはそのままごろごろ砂漠を転がるばかりだが、レインはノールックで狙いを定めていた。

「……そこっ!」

放たれた風の矢は高速でディグラントに迫っていく。
だが、クロムの一撃すら捌く老練の魔族は、風の矢をも見切っていた。

「甘いわぁぁぁぁぁぁああ!!!!」

ガァン!と残った回転する槍で風の矢は容易く弾かれた。
いったんはクロムの斬撃を防いだほどだ。並みの硬度ではないのだろう。
だがレインは勝利を確信して微笑んだ。

「なんだ……!何がおかしいっ!?」

「いや……『風』はまだ止んでないってことだよ」

「あぁ!?どういう意味だッ!?」

直後、ディグラントの後頭部に『風の矢』が着弾した。
視界が上下に揺れて意識が飛ぶ。土属性のディグラントは、風属性に弱い。
弾かれた風の矢はまだ死んでいなかったのだ。矢の弾道を修正して彼の背後に回り込んでいた。

「……俺の勝ちだ。不意打ちってのは勇者らしくないけどね」

後頭部に天空の聖弓を突きつけて、勝敗は完全に決した。
だが――魔王軍の残存戦力が戦いを止める気配はない。
統率がとれていないゆえに、一度暴れたら殲滅するまで止まらないのだろう。

クロムやミスライムの騎士達が倒してくれるのを待つしかない。
レインはその間に気絶したディグラントの持ち物を検分する。
移動型ダンジョンへ行けそうなアイテムを探すが、見つからない。
仕方ない。ディグラントを叩き起こして尋問せねばならないだろう。


【弾道制御で風の矢を後頭部にぶちあてディグラント撃破】
【移動アイテムが見つからないので戦闘が片付いたら叩き起こして尋問しよう】
0440クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/03/06(日) 23:39:07.81ID:On6gQJyn
斬る。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬るKill──。
右のだんびらと左の小剣の二刀をもって死体の山を築いていくクロム。

「ぎゃあああああああ!」「うわああああああああ!」

しかし、その顔に余裕はない。
どれだけ切り刻んでも、敵の戦列は一向に絶える気配がないのだ。
いやそればかりか、むしろ順調に数を減らしているのは味方の方だったのだ。

「わかっていたが、斬っても斬ってもキリがねぇ。あと何十、いや……何百匹残ってやがるん──だ!」

汗まみれとなった顔面を拭いつつ、もう片方の手で迫った殺気に向けて剣を振るう。
断末魔が鼓膜を打ち、今度は噴き出した体液が拭われた汗に代わって頬にへばりついた。

「はぁ、はぁ……! ちきしょう、魔法で一気に焼き払えれば楽なんだが……」

クロムは、もはや返り血を拭おうとはしなかった。その動作に使う体力すら惜しむほど、すり減りつつあったのだ。
だが、敵はまだごまんといる。そして、彼らは弱りつつあった獲物に情けをかけるほど慈悲深くはない。
仲間の屍を踏み越え、素早く己を取り囲んだ魔物の一団をぐるっと見渡して、クロムはぎりり、と歯軋りした。

「っ!」

その時だった。突然、魔物達の目が虚ろになって一斉にその場に倒れたのは。
いや、異変はそれだけではない。辺りを見渡すと、多くの魔物達が同士討ちを始めていたのである。
これは一体どうしたことか──
そんな疑問を見透かしたような声が鼓膜に届くまで、そう時間はかからなかった。

「……『既に毒は散布した』か。マグリット、助かったぜ……」

味方である騎士達が数を減らし、生き残りのほとんどが後ろに押される形となっていたのは不幸中の幸いだっただろう。
クロムは彼女の毒に抗体を持っているが、騎士達はそうではない。
もし多くが生き残りそれらがクロムの様に突出していたら、毒でまとめて仕留めるという手は打てなかっただろうから。

「これで正気の魔物は随分数が減った。さぁ、形勢逆転! みんな、後ひと踏ん張りだ!」

「「「おおおおお!!」」」

──数の優劣が引っ繰り返ったことで、士気を一気に取り戻した騎士達が戦線を各所で押し戻し、圧倒していく。
生き残りの魔物を全て血の海に沈めるまで、彼らが要した時間はほんの十分かそこらであったろう。

「さて……」

クロムはそれを見届けると、レインによって気絶させられていたディグラントに歩み寄って、頭をどがっ、と蹴った。

「……おい、夜じゃねぇんだぞ、起きやがれジジイ! これから俺達の質問に答えて貰わなきゃならねぇんでな!」

ディグランドの目が開く。驚いた様子であるが、飛び起きようとはしない。
いや、したくてもできないのかもしれない。マグリットの毒……麻痺毒か何かで。

「いいか、素直に喋れよ。でなきゃ尋問が拷問に変わるかもしれねーからな。
 まずはあの神出鬼没の移動ダンジョンに、お前らがどうやって出入りしているのか教えてもらおうか」

【騎士達に多くの犠牲が出るも魔物の群は全滅】
【ディグランドにダンジョンの出入り方法を訊ねる】
0441レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/03/13(日) 19:27:36.60ID:zLFYXmRQ
魔物たちはマグリット、クロム、そしてミスライムの騎士達によって制圧された。
『地殻の楔』をめぐる戦いはとりあえずをもってレインたちの勝利に終わったのだ。
クロムはずかずかとディグラントに歩み寄ると、どかっ!と思い切り頭を蹴りつける。

>「……おい、夜じゃねぇんだぞ、起きやがれジジイ! これから俺達の質問に答えて貰わなきゃならねぇんでな!」

「……ふぁっ!?な、なんじゃい急に……!?」

目が覚めたディグラントは目をぱちぱちさせて周囲を見る。
なぜか配下の魔物は全滅して、人間たちに囲まれているではないか。

「な……ワシは……負けたのか?いつの間に?」

信じられなかった。百戦錬磨のディグラントが、よもや不意打ちで負けようなどとは!
だが後頭部に感じる鈍い痛みが告げていた。自分は確かに敗北してしまったのだ。
認めるしかない。

>「いいか、素直に喋れよ。でなきゃ尋問が拷問に変わるかもしれねーからな。
> まずはあの神出鬼没の移動ダンジョンに、お前らがどうやって出入りしているのか教えてもらおうか」

「……なんだと。ワシを甘く見るなっ。例え拷問だろうと口など割らんわ!
 このディグラント、魔王様の配下としてのプライドがある……!」

腕を組んで、ふん、と鼻を鳴らす。仕方ないのでレインはフランベルジュを召喚した。
波打った刀身が特徴的な剣だ。一般的に殺傷能力が高い武器として知られる。
なぜこんな形状をしてるかというと、傷口をぐちゃぐちゃにして止血を難しくするためだ。

「やりたくないけど、こいつであなたを斬りますよ。たぶんかなり痛いですよ」

「無駄だっ、たとえ脳を掻き回されようとも吐かぬ!それがワシの意地だ!!」

「いや……そんな酷いことをする気はないですけど……」

残虐非道な魔王軍に所属する魔族だ。
その恐ろしい手口を知っているがゆえに、拷問にも耐性があるのかもしれない。
これは簡単に口を割りそうにない。

「なんというか……レインさんは拷問に向いてないのでは?」

ラカンがそんなことを口にしていると、アルバトロスが転送魔法でやってきた。
砂漠に積もる死屍累々を眺めて感嘆する。

「派手に暴れたようだね。水晶で監視はしていたが」

「アルバトロス様……!お疲れ様です!」

ラカンが敬礼するとアルバトロスは頷く。

「その魔族は始末していいよ。月の山脈を守っていたアンジュたちが情報を手に入れた。
 光魔法というのは便利なものだね。じわじわ苦しめたら簡単に吐いたそうだ」

「なにっ!?信じられん、あの馬鹿めが……!!」

ディグラントは驚きのあまり確認するように質問した。

「では我々が『転移石』で地底移動要塞アガルタに出入りしていることも……!
 その石はワシが隠し持っていることも全て吐きおったのかぁぁぁ!?」
0442レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/03/13(日) 19:29:55.44ID:zLFYXmRQ
アルバトロスは無表情のままこう返した。

「なるほど。"召喚の勇者"の読み通りだね。
 そしてそのアイテムも君が持っているというわけだ」

「んん!?あぁ〜〜〜!!?しまったぁぁぁぁ!!」

息をするように嘘をつく人だ、とレインは思った。
さっきの話はディグラントを騙すための嘘だったらしい。

「アンジュたちは魔族の捕縛に失敗した。
 弱すぎて跡形も残さず殺してしまったと言っていたよ」

「そ、そうなんですか……」

騎士達がディグラントを触ってアイテムを持ってないか確かめる。
さっきレインが軽く調べた時には何も見つからなかったが、果たして。
そこで何か思いついたレインは姿を元に戻し、限定召喚で「豪腕の籠手」を装着する。

「ディグラント、失礼するよっ!」

腹に容赦ないパンチをぶちこむと、ディグラントはげぇっと何か吐き出した。
それは虹色の光彩を放つ石だった。胃液か唾液か判然としないが、べとべとしている。

「ばっちいな……どんな隠し方をしているんだ……」

レインも半信半疑で確かめてみたのだが、まさか当たりだとは思わなかった。
素手で掴む気にはなれない。水魔法の類で洗浄してくれないだろうか。

「誰か、水魔法で洗ってくれ。このままでは持って帰れん」

目を細めてラカンがそう言うと魔法使いの兵士が水魔法で洗浄してくれた。
レインはそれを手に乗せてしげしげと眺める。はじめて見るアイテムだった。

「この魔族はどうしますか?」

「まだ有用な情報を持ってるかもしれない。捕らえておきたまえ」

とにもかくにも、王家の谷は無事に守り抜いた。
レインたちはアルバトロスの転送魔法でいったん城まで戻る。

「レイン、クロムさんも!そちらも無事に防衛できたようですね」

アンジュとヒナとも城で再会した。
ガルバーニのダンジョンへ移動する方法を手にしたと話すと、二人は喜んだ。
これで魔王軍の侵攻を直接止めることができる。とはいえ、今すぐいきなり乗り込むのも性急すぎる。

一日身体を休め、明日に両勇者パーティーで乗り込もうという話になった。
敵もいったん魔物を大量に吐き出したので、再度襲ってくるまで時間を要するはず。
アルバトロスもそれが良いと言って、城の客室を用意してくれた。

「はぁ〜。二度目だけどやっぱり悪魔的な居心地の良さだ……。
 宿屋とは比べ物にならない……」

レインは高級なソファに座り、そのまま居眠りしてしまうのだった。


【ディグラントから情報&アイテム入手】
【明日にはガルバーニのいる移動型ダンジョンに突入する予定】
0443クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/03/20(日) 21:27:06.99ID:1zq1+2vJ
>「……なんだと。ワシを甘く見るなっ。例え拷問だろうと口など割らんわ!
> このディグラント、魔王様の配下としてのプライドがある……!」

といって、鼻息を荒くするディグラントに、クロムは「ま、予想の範囲内か」と、ポツリ吐きながら指の関節を鳴らす。
如何にも思いっきり痛めつけてやるぜ、といわんばかりだが、実際には彼の拳が振るわれる事は無かった。

>「やりたくないけど、こいつであなたを斬りますよ。たぶんかなり痛いですよ」

それより先にレインが、

>「派手に暴れたようだね。水晶で監視はしていたが」

続いて転送魔法で現れたアルバトロスが、彼とディグラントの間に割って入ってきたからだ。
しかも、特にアルバトロスに至っては拷問ショーを繰り広げる必要なく、たった一言で問題を解決してしまったのだから。

曰く『月の山脈を守っていたアンジュたちが情報を手に入れた』。

その一言に狼狽したディグラントが口を滑らせる。『転移石』なるアイテムでダンジョンに出入りしているということを。
アルバトロスの言葉は情報を引き出す為の罠、すなわち真っ赤な嘘であることにも気が付かずに……。

(『転移石』……)

クロムの脳裏に砂を使って転送魔法を発動したメリッサ島のシナムの姿が蘇る。
転移石なるアイテムも恐らく、あの時の砂と同じ魔法効果を持っているに違いない。

「アイテムで出入りしているということは……やはりどっかに隠し持ってるっつーわけか、それを」

しかし、生き残りの騎士達がディグランドの服や持ち物を調べても、いっこうにそれらしきブツは出て来ない。
となると後は消去法だ。
万一を考えて持ち歩くことはせず、どこか適当な物陰にでも隠したか、もしくは体の目には見えない部分──体内に隠したか。

>「ディグラント、失礼するよっ!」

やがて同じことを思ったらしいレインが、籠手をはめた腕でディグラントの腹を思いっきり殴った。
果たして読みは的中する。すぐさま胃液まみれの虹色の石を、ディグランドが吐き出したのだ。

「これでこの作戦の目的は果たしたな。って、いきなりこいつを使ってボスのところに行くわけじゃねーよな?!」

レインの掌の上で輝く石を見つめながら、クロムはまさかと思いながらも訊ねる。
瞬間、足元に広がる魔法陣。見覚えのあるそれは、アルバトロスの転送魔法。
視界を埋め尽くす一瞬の光の後、目の前に現れたのはこれまた見覚えのある光景、王国の首都城。

そこには一足先に任務を終えていたアンジュ達がいた。
駆け寄る彼女たちとレインとの間で、今後の方針がとんとん拍子で決まっていく。
クロムの内心を察知していたわけではないのだろうが、曰く乗り込むのは明日にして、今日は休息取るのだと。

「あたし達は楽勝だったから連戦も余裕。当然、貴方たちもよね? とか言うような常識のない奴らじゃなくてよかったよ」

思わず安堵の溜め息をつくクロム。体力回復もままならないまま、ダンジョン突入などそれこそ拷問に等しかったのだから。

クロムはアルバトロスに宛がわれた客室の場所を確認した後に、風呂場へと案内してもらった。
砂漠だろうとどこだろうと平気で地べたに横になってすやすや眠れる図太さのある彼だが、
流石に全身魔物の体液にまみれた格好のままベッドに横たわる気にはなれなかったのである。

「ついでに服も洗濯しとかねーとな。返り血を気にしなくていい敵ってのは剣を振るうには楽だが、汚れてどうしようもねぇ」

【城に帰還。風呂で汚れを落とした後、部屋で眠る。】
0444レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/03/27(日) 00:54:14.05ID:JR85uU4W
翌朝、目を覚ましたレインは装備を整えて城の外に出た。
手にはディグラントから奪った『転移石』を持って。
アンジュとヒナはもう来ていたようで、レインに手を振って迎える。

「早いですね、レイン。まだ集合時間の30分前ですよ」

「いやぁ……ははは。なんだか朝早くに目が覚めちゃって」

敵のダンジョンに殴り込みに行くということで、防塵用マントは着ていない。
アンジュは狩人風の服装の上から純白のケープを纏っている。
ヒナはそのまま袖が余りまくった白衣姿だ。

あとはクロムだけだ。
そして全員集まった段階でアルバトロスがやって来る。
これから敵の本拠地に殴り込みに行く一同に、激励の言葉を送る。

「そのアイテムがあればいつでも戻れるんだろう。
 勇者パーティーだからといって気負わずに挑むといい」

「そうですね。アンジュも無理しちゃだめだよ。君は背負いこむタイプだから」

「それはこちらの台詞です。強くなったとはいえ過信しないように」

そしていよいよレインが転移石を発動させる。
魔力を送り込めば効果を発動するタイプのようなので、魔力を石に込める。
すると足下に魔法陣が浮かんで周囲の景色が徐々に変わっていく。

「行ってきます、アルバトロスさん……!」

「うむ。必ず戻ってきたまえ。命あっての物種というやつだ」

――そして景色が銀色に染まった金属質なものへと変わる。
ここが地の大幹部のいる移動型ダンジョンらしい。

「地底移動要塞アガルタ……だったっけ。道がずっと地下へと続いているね。
 このまま降りていく以外の道は無さそうだけど……」

道は螺旋状に下へと伸びている。
中央にはぽっかりと穴が開いているという構造だ。
レインたちはその道を降りていくしかないようだった。

「こ……これは……!」

降りていく途中で目にしたのは、透明で巨大な球体が収まった部屋だった。
球体からは時折、吐瀉物めいた様子で何かが排出されていく。
――魔物だ。王家の谷でも見たジャッカルナイトが産まれた瞬間を目撃したのだ。

それは魔物を効率的に生産するための工場(プラント)だった。
この移動型ダンジョンにはそんな部屋が幾つもあるのだ。

「なんておぞましい場所なんだ……!
 こ……ここは既存の生き物を魔物に加工する部屋なのかっ……!」

言語化しようのない拒否反応がレインを襲ってくるのと対照的に、
アンジュとヒナは興味深くしげしげとそれを眺めていた。

「ふむ……魔物は既存の生き物を加工するか、魔法で無から生み出す方法の二種で生まれると聞きますが……。
 こうやって大規模に魔物を生産する施設があるのは初耳です。これが大規模な侵攻を可能とした理由なのですね」
0445レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/03/27(日) 00:55:43.29ID:JR85uU4W
レインは『召喚変身』で天空の聖弓兵へと装備を変えると、弓を構えた。
アンジュが慌ててレインの前に立ち塞がる。

「レインっ、何をする気ですか!?」

「壊すんだ。こんな恐ろしい場所はあっちゃいけない!」

「だ、だめだよレインちゃん。そんな目立つ真似しない方がいいって!」

ヒナが後ろから羽交い絞めにしてレインを止める。
レインは若干の抵抗を見せたが、すぐに二人の言うことを聞いた。

「……いや、ごめん。ショッキングだったからつい……」

「気にしないでください。いずれは破壊する必要もありますが……。
 無闇に暴れて大幹部との戦闘に支障をきたしては本末転倒ですからね」

地下へ降りるほど、そんな部屋が増えていく様子だった。
魔物が襲い掛かってくる様子もない。それがかえって不気味だ。
そして最下層へとたどり着いた時、一同を迎えたのは巨大な門だった。
金属質なその門は、鍵穴も取っ手も何もない。

「おやおやぁ。お客人なんだな。入ってくるといいんだな」

そんな声が門の奥から響いてくると、門がひとりでに開いていく。
待ち受けていたのはゴーレムかと見紛うほどの巨漢の魔族だった。

「はぁ……おいらのプラントはどうだったんだな?凄くてびっくりした?」

「あなたが……地の大幹部ですか。私は"探究の勇者"アンジュ。
 ようやく会えましたね。あなたを殺す機会をずっと探していました」

玉座のような椅子に座るその姿は、喋り方に反して重厚な威圧感がある。
やはり大幹部というだけある。逃げ回るだけの姑息な奴じゃないということだ。

アンジュは腰からすらりと細身の剣、レイピアを引き抜いて構えた。
"星屑の細剣"スターリング。光属性の力を秘めた希少な剣である。

「お前に興味はないんだな。おいらの目的はシェーンバインを殺した連中なんだな」

つまり、目的はレインとクロムというわけだ。
眼中にないと言われてアンジュは募らせていた怒りを爆発させる。

「あなたには無くても、私にはあります!この大陸に生きる人々を傷つけたその罪……。
 万死に値します!平和に生きるはずだった皆の無念を味わいなさいっ!!」

そう高らかに叫んで、アンジュがレイピアを構えて突っ込んでいく。
レインは無言でストリボーグを構えて援護に回る。

「はぁ……好きに攻撃するといいんだな。お前じゃおいらは殺せない。
 殺して成果になるのは"召喚の勇者"一行だけだし……相手にしてないんだな」

「それが最期の言葉です」

アンジュは初手から全力で攻撃を放った。
放つのは初代勇者が得意とした、勇者固有の奥義。
光の波動を纏わせて巨大な光剣を形成する『エクセリオンレイス』だ。
0446レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/03/27(日) 00:57:53.37ID:JR85uU4W
細身のレイピアを巨大な剣へと変えて、地の大幹部へと斬りかかる。
その刃は一瞬して大幹部を真っ二つにする――はずだった。

「ふぅぅ……やっぱ余裕で耐えれた。おいらは"不動城砦"ガルバーニ。
 防御力に関しては大幹部で最高レベルだと自負してるんだな。その程度の奥義では……」

ぎゅん、ぎゅん、と攻撃を受けきったガルバーニの身体が光を溜めていく。
吸収しているのだ。エクセリオンレイスが秘めた莫大な破壊力を。

「……おいらは倒せないッ!!」

そして解放する。ガルバーニは受け止めた破壊力を全てアンジュに返した。
それは衝撃波となってガルバーニの全身から放出される。
レイン、アンジュ、ヒナ、クロムに奥義と同威力の衝撃波が襲う。

「やっば〜〜〜い!?しょうかーん!!!!」

ヒナは慌ててゴーレムを召喚してそれを盾代わりにした。
防御を重視したガーディアンゴーレムと呼ばれる個体である。
だが、衝撃波は防御偏重のゴーレムでなお一瞬で破壊するほどのエネルギーを秘めている。

「アンジュ、危ないっ!」

レインは身を覆うほどの盾を召喚してアンジュを守る。
だがあまりの威力にレインはアンジュごと吹き飛ばされた。

「おっ……案外脆いんだな。"召喚の勇者"一行は。こりゃラッキーなんだなぁ。
 お前らを殺せば魔王様に褒められるんだな。だから魔物に任せなかったんだな。理解したんだな?」

どうやら、シェーンバインを倒し、魔王に顔を覚えられたツケが回ってきているらしい。
掃いて捨てるほどいる勇者の中でレインたちだけが魔王軍に危険視され、標的となっているようだ。


【移動型ダンジョン『アガルタ』へ転移。ガルバーニと戦闘開始】
【アンジュが先制攻撃するも完全に防御されたうえで衝撃波として攻撃を反射される】
0447クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/04/04(月) 21:05:50.47ID:e0aBCHym
朝。クロムは昨晩の洗濯で真っ白な輝きを取り戻した装束を着込むと、軽めの朝食を済ませて城を出た。
時は約束の集合時間五分前。
しかし、元々せっかちなのか、ダンジョン突入を前にして気が急いているのか、そこには既にレインやアンジュ達が来ていた。

「その様子じゃ随分前からここで待ってるっぽいな、お前ら。ぎりぎりまで休んどかねぇと戦いの時にもたねぇぜ?」

などと言っていると、クロムの後ろから声がした。
アルバトロスである。ただし彼女自身は共に殴り込みに行く気はないらしく、目的は激励らしい。

>「そのアイテムがあればいつでも戻れるんだろう。
> 勇者パーティーだからといって気負わずに挑むといい」

「確かに、脱出アイテムがあるのは心強い。宇宙の梯子の時みてーな命懸けの脱出はもう御免だからな」

>「行ってきます、アルバトロスさん……!」

レインが転移を発動させる。
徐々に視界から城が消え、代わって銀に染まった無機質な世界が広がっていく。

「……ここが例の……?」

>「地底移動要塞アガルタ……だったっけ。道がずっと地下へと続いているね。
> このまま降りていく以外の道は無さそうだけど……」

レインの目線の先には螺旋状の階段が。それはまるで地獄の底まで達しているかのように延々と下に続いていた。

「薄暗いせいか底が見えねぇな。思った以上にデケェ建物みてぇだ……ん?」

しばしレインの後をついていく形で順調に階段を降りていたクロムの足が、ふと止まる。
前を行くレインの足も止まっていたが、それにつられたわけではない。目の端で何かおぞましさを感じる影を捉えたからだ。
そしてそれは誰かが指し示すまでもなく、この場にいる全員がほぼ同時に目撃したものでもあった。

>「なんておぞましい場所なんだ……!
> こ……ここは既存の生き物を魔物に加工する部屋なのかっ……!」

>「ふむ……魔物は既存の生き物を加工するか、魔法で無から生み出す方法の二種で生まれると聞きますが……。
> こうやって大規模に魔物を生産する施設があるのは初耳です。これが大規模な侵攻を可能とした理由なのですね」

「なるほど……どうりでデケェわけだ。移動型拠点が生産工場を兼ねていたとはな。あの物量のからくりがこれか。
 大陸中から生き物をかき集めて魔物を創っていたってわけだ……って、おい!」

武器を召喚して施設を破壊しようとするレインにクロムは思わず手を伸ばして待ったを掛けようとするが、
それよりも一瞬早くアンジュとヒナが止めに入ったのを見て、溜息混じりに手を引っ込める。

「お前、意外と直ぐ頭に血が上るタイプだよな。このダンジョンはボスを倒せばいつでも破壊できる。まずは先へ進もうぜ」

──最下層。そこへ辿り着いた時、一向を待ち構えていたのは巨大な門だった。

>「おやおやぁ。お客人なんだな。入ってくるといいんだな」

とはいえ勿論、門自体は敵ではない。真に待ち構えていた者は、その奥に居た。
ひとりでに開いていった門の中に入っていくと、直ぐに玉座に座った巨漢の魔族が目に飛び込んできたのだ。

(こいつが地の大幹部……ガルバーニ)

思っていると、アンジュがレイピアを抜いて斬りかかっていく。
それもただの一太刀を浴びせようとしているのではない。
剣身に光魔法を纏わせることで創り出した威力抜群の光剣の一刀を喰らわせようというのだ。

が──
0448クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/04/04(月) 21:07:56.60ID:e0aBCHym
>「……おいらは倒せないッ!!」

大幹部の中でも最高の防御力を自負するガルバーニには通じなかった。
なんと瞬時に光剣を吸収して、その威力を衝撃波に変換えて跳ね返してきたではないか。
ヒナがゴーレムを、レインが盾を召喚して衝撃に備えるも、その努力虚しく光の力の前にあっけなく吹き飛ばされていく。

>「おっ……案外脆いんだな。"召喚の勇者"一行は。こりゃラッキーなんだなぁ。
> お前らを殺せば魔王様に褒められるんだな。だから魔物に任せなかったんだな。理解したんだな?」

「──案外脆いのはお互い様かもしれねぇぜ」

だがその直後、ガッ──とガルバーニの脳天に刃が食い込んだ。
頭上に移動していたクロムが隙だらけの急所を叩き割らんとだんびらを勢いよく振り下ろしたのだ。

「──うん? なんだお前? いつの間においらの上に?」

「お前の意識がレインやアンジュに集中していたもんでね。その隙に死角に跳んだだけさ。
 全方位に放たれた衝撃波。どうせどこに居たってダメージは免れないなら、こうやって切り込んだ方がマシだろ」

クロムは反撃を受ける前に素早い身のこなしでガルバーニとやや距離を取った場所に着地する。

(チッ、真っ二つにするつもりの一刀であの程度の傷かよ。伊達に大幹部最高の防御力ってやつを名乗ってねぇな)

目だけでその動きを追っていたガルバーニは、やがて浅い切り傷ができた自らの頭を撫でて言った。

「それにしては解せないんだな。お前、まともに光の力を受けたにしては明らかにダメージが少ないんだな。
 まだ何か隠してることがありそうなんだな」

確かにガルバーニの指摘した通り、クロムは全身に傷を負ってはいたものの、
防御力の高いゴーレムを破壊する程の衝撃波を喰らった割にはそのダメージは小さなものと言わざるを得なかった。
それに対しクロムは無言だ。
当たり前だが、反魔の装束によってダメージが半減したからくりを、いちいち敵に教えてやる必要はどこにもない。

「隠してる事、ねぇ。……それこそお互い様のような気もするがな。ま、いずれは知れる時が来るだろうが」

「それはどうなんだな。お前の隠し事なんか知る前に殺しちゃうかもしれないんだな。
 なんせお前らじゃおいらの防御力は突破できないんだな。さっきの一太刀もそれを証明してるんだな」

「いや、いちおう傷はつけたじゃん」

「こんなもの傷の内に入らないんだな。あの程度の太刀筋じゃ何百回おいらを斬り付けたって徒労に終わるんだな」

「へぇ……ならここは勇者の出番かな」

クロムはだんびらを肩に乗せながら、レインを見る。

「知ってるか? シェーンバインご自慢の真竜形態を奴の命ごと見事に切り裂いたのはあいつなんだぜ?
 あいつの腕前なら、お前なんぞ簡単に真っ二つかもな」

釣られてガルバーニがレインに首を向ける。
……レインには解る筈だ。これはガルバーニの意識をクロムから逸らす為の挑発だと。
何故なら今、傷付いたガルバーニの頭部からエネルギーが煙のように立ち昇り、
だんびらに吸収されていく光景が彼にもしっかり見えている筈なのだから。

「……それは初耳なんだな。そうか、あいつがシェーンバインを」

(そう、いずれは知れる。が、早々にタネがバレると何か厄介な策を考えるかもしれねぇ。できるだけ時間を稼げよ)

【衝撃波を喰らうも装束の効果によってダメージは半減しており重症は免れる】
【ガルバーニ:徐々にエネルギーを奪われて弱体化しているが、まだそれには気が付いていない】
0449創る名無しに見る名無し垢版2022/04/15(金) 17:31:54.10ID:Pls2V0wb
テスト
0450レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/04/15(金) 23:36:36.36ID:wKuKF2O/
アンジュの放った必殺の奥義は、ガルバーニに完全に防がれてしまった。
それだけではない。反射魔法によってその威力を返され、味方に被害が及ぶ。
その圧倒的な爆発めいた衝撃波がパーティーを襲う中、クロムは。

>「──案外脆いのはお互い様かもしれねぇぜ」

ガルバーニの頭上に飛び込み、脳天に刃を叩き落としていた。
しかし、それもわずかな切り傷をつける程度。
反撃を受けるのを恐れてかクロムは素早くやや後ろへ後退する。

>「──うん? なんだお前? いつの間においらの上に?」

大幹部、"不動城砦"ガルバーニは意にも返していない。
無理もないだろう。ほぼほぼ掠り傷のようなものだ。
包丁で危うく手を傷つけて死ぬ人間はいない。
ガルバーニとっては、本当にその程度の僅かな負傷なのだ。

>「お前の意識がレインやアンジュに集中していたもんでね。その隙に死角に跳んだだけさ。
> 全方位に放たれた衝撃波。どうせどこに居たってダメージは免れないなら、こうやって切り込んだ方がマシだろ」

そう言われても実践できるものは少ないだろう。
敵の意識を注意深く観察する眼と、恐るべき身体能力の為せる技。
『反魔の装束』の効果があるとはいえ、ダメージを顧みない根性も加味すべきか。

>「それにしては解せないんだな。お前、まともに光の力を受けたにしては明らかにダメージが少ないんだな。
> まだ何か隠してることがありそうなんだな」

と、言ってもクロムが魔法に対して耐性があるのは今にはじまった話ではない。
それがいつ頃ぐらいだったか……今の真っ白な装束に着替えたあたりからだ。
なのでハッキリ言われたことはないが、レインはその装備のおかげだと推理している。

>「隠してる事、ねぇ。……それこそお互い様のような気もするがな。ま、いずれは知れる時が来るだろうが」

手の内は見せない方がいい。それが敵なら尚更だ。
レインも仲間にすら隠している手札が一枚ある。

なぜそんなことをするかというと、単純に情報漏洩を防ぐためだ。
魔王を倒すためのとってきおきの切り札が、レインにはある。
だが何かの理由でそれが露呈したら意味がない。だから隠す。

>「それはどうなんだな。お前の隠し事なんか知る前に殺しちゃうかもしれないんだな。
> なんせお前らじゃおいらの防御力は突破できないんだな。さっきの一太刀もそれを証明してるんだな」

そこから始まる、子供の口論じみた舌戦。
レインはその隙にどうやってガルバーニを突破すべきか思案していた。
あのとてつもない防御力もそうだが、少なくとも先ほどの反射魔法は封じたい。

>「知ってるか? シェーンバインご自慢の真竜形態を奴の命ごと見事に切り裂いたのはあいつなんだぜ?
> あいつの腕前なら、お前なんぞ簡単に真っ二つかもな」

「……ん?」

そして話はなぜかレインに飛び火したようだ。
天空の聖弓を構えたまま、レインは頭に疑問符を浮かべる。
その時、レインの目にはガルバーニの頭部から発生する煙が目に入った。
0451レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/04/15(金) 23:37:41.69ID:wKuKF2O/
あの煙はシェーンバインと戦っている時にも立ち昇っていた。
レインはあの時、未完成の奥義を放って自爆したゴタゴタでしっかりと見たわけではない。
だが後々マグリットが何かの機会にそんな話をしていた気がする。
クロムの新たな剣――『鬼神のだんびら』には、敵の力を吸収する能力があるのだと。

>「……それは初耳なんだな。そうか、あいつがシェーンバインを」

「……そうだね。俺にはとっておきの『三つの奥義』がある。
 それを使えば最高の防御力だって簡単に破れちゃうかもしれないよ……!」

「初耳です。そんな技をいつの間に開発していたのですか……!?」

驚きの声を発するアンジュを見て、レインは微笑んだ。
第一に彼女の先祖であり師匠でもある『仮面の騎士』との修行のおかげだ。
そして夢の中に現れた友達、アシェルの助言によって制御術式を追加して完成した。

シェーンバインを葬った『プロミネンスブレイザー』はそんな成り立ちをしている。
これは『紅炎の剣士』状態の奥義なのだが、ガルバーニに素直に放ってはいけない。
なぜなら奴にはとてつもない防御力の他に反射魔法があり、さっきの二の舞になる危険性がある。

まだ実戦では使っていないが『三つの奥義』の二つ目。
『天空の聖弓兵』状態で放つ新たな奥義を試すべき時がきた。
ちょうど属性的にもガルバーニに有利が取れる。

「すっごぉい。レインちゃん、やっちゃっていいんじゃない!?」

ヒナも粉砕したゴーレムの後ろからひょっこりと顔を出して言った。
少々振りがわざとらしい気もする。アンジュもヒナもクロムの剣の効果に薄々気づいている。
だがガルバーニという魔族、防御力に関しては並々ならないプライドがあるらしい。
クロムと喋っていた時もやたらと張り合っていた。

「たとえシェーンバインを倒した奥義だろうがノーダメージなんだな。
 断言していいんだな。お前はおいらに傷一つつけられない……!」

「じゃあお見せするよ。俺の奥義の二つ目、『インパルスサイクロン』を……!」

レインが天空の聖弓の弓を引き絞った。
膨大な魔力が風の力に変換され、弓に集まっていく。
大気が震え、さながら嵐の前触れであるかのように感じられた。

「ほう……ならばこっちも全力の『防御力』をお見せするんだな!」

ガルバーニもまた魔力を放出して、その身に多重の防御魔法を纏った。
これが"不動城砦"の絶対なる防御態勢にして奥義でもあるオリジナルの上位防御魔法。
ただでさえ硬いガルバーニの防御力をさらに強固にする。もちろん反射魔法との併用も可能だ。

「この『フォートレスコクーン』は未だに破られたことがないんだな!!
 これこそが魔王様の『ダークネスオーラ』にも劣らぬおいらの奥義なんだな!!」

「行くぞ、"不動城砦"ガルバーニ!これが俺の全力だぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

放たれた凝縮された嵐のような一射は、疾風迅雷でガルバーニの腹に命中する。
螺旋状の『風の矢』がガルバーニに炸裂した。バシン、バシン、と激しい音が発生している。
0452レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/04/15(金) 23:39:38.74ID:wKuKF2O/
ガルバーニは不敵の笑った。見た目は派手だが威力は大したことがない。
なんならさっきクロムが放った一撃より劣る。奥義を出すまでも無かった。
余裕で防ぎ切れる。

「ん……!?これは……!?」

そして直後、ガルバーニは違和感を覚えた。この攻撃、さっきから止まる気配がない。
威力はてんで大したことはないがガルバーニの腹でずっと炸裂し続けているのだ。

「……ガルバーニ。点滴石を穿つって言葉を知ってるかい」

「あ……!?おいらに知識マウントを取るんだな!?馬鹿にしないで欲しいんだな!
 こちとら大幹部でも根気強い方なんだな!じっさい地道にウェストレイ大陸を侵略して……!」

「この奥義もそんな技だ。魔力を込めた分だけ命中した相手に風の力が炸裂し続ける。
 一発一発の威力は低くても……いずれ石に穴が開く。これはそういう奥義なんだ……!」

腹に炸裂し続ける風の力をちらっと見て、ガルバーニは巨大なハンマーを取り出す。
『インパルスサイクロン』が止まる気配はない。ならば攻勢に出るべきだ。
ガルバーニの反射魔法は一度攻撃を受けきらないと反射できない。
つまり、レインの奥義が止まるまで反射魔法は封じられた。

「今だみんな!これで相手は反射魔法を使えない。攻撃のチャンスだ!」

「おぅさー!しょうかん、私の切り札……センチュリオンゴーレム!」

レインの掛け声と共に、ヒナがゴーレムを召喚する。
見るからに強そうな騎士っぽい見た目のゴーレムだ。
剣を持ってガルバーニに肉薄する。

「なるほど、反射魔法封じが本命だったんだな……!でも舐めるなと言いたいんだな!」

ハンマーを振りかぶり、センチュリオンゴーレムの巨大な剣と激突。
ゴーレムはガルバーニより数倍でかいのに力が拮抗している。
大幹部の称号は決して伊達じゃない。

「うぉぉぉぉっ、こうなりゃ力で捻じ伏せるんだなー!」

ガルバーニの動きは大振りだが、その一撃一撃が致死級だ。
レインは奥義にほとんどの魔力を注いだのでもう何もできない。
幸運なことに相手はまだクロムの剣の効果に気づいていない様子だ。
必要な時間が稼げるまで、ヒナのゴーレムとアンジュが頼りだ。


【お待たせしました。ガルバーニに風の奥義を放つレイン】
【その効果でガルバーニの反射魔法を封じる】
0453クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/04/24(日) 21:28:32.46ID:dB0X/hBq
レインが明かした『三つの奥義』の存在は、敵であるガルバーニよりもまずアンジュやヒナを驚かせた。
それは二人ほどでないにしろ、事前に奥義の存在を把握していた筈のクロムも同様であった。

(三つ……?)

レインの言葉がマジならば、シェーンバインを斬った『プロミネンスブレイザー』の他に、
奥義と位置付けるだけの強力な技を更に二つも隠し持っていることになるからだ。
「いつの間に」とはアンジュの言葉だが、実はそれを最も言いたかったのは共に旅を続けてきたクロムであったかもしれない。

はったりか、それとも誠か、いずれにしてもここぞとばかりにヒナが「やっちゃえ」等と些かわざとらしく煽る辺り、
少なくともクロムの意図は既に彼女らの察するところでもあるらしい。

>「たとえシェーンバインを倒した奥義だろうがノーダメージなんだな。
> 断言していいんだな。お前はおいらに傷一つつけられない……!」

そうした三人の協力もあってガルバーニを上手い具合に誘導する事には直ぐに成功した。
だが、問題はこれからだ。
それぞれがプライドを巧妙に刺激することで注意をクロムから逸らしたまではいいが、
マジになった大幹部にレイン達が秒殺JO、下手すりゃあの世行きなんて事になっては全てが無意味となる。

(……仕掛けておいて無責任だが、こればっかりはあいつらの実力に期待するしかねぇ)

かといってクロムが動けるのは、勝ちの目が見えた時以外にない。
ガルバーニが今、クロム背にしたままその存在を完全に己の意識の外に置いているのは、恐らく三人だけが原因ではない。
『あの程度の太刀筋じゃ何百回おいらを斬り付けたって徒労に終わる』と思い込んでいるのも大きな原因に違いないのだ。

焦って飛び出し、膂力の強化も敵の弱体化も半端な状態で斬り付ける愚は犯したくない。
先程よりは深手を与える事が出来ても倒すまでには至らないだろうし、注意を引いてしまえばだんびらの効果がバレかねない。
そうなれば相手は大幹部。何をしでかすかわからないのだから。

(信じてるぜ、お前の“奥義”とやらをな……!)

>「行くぞ、"不動城砦"ガルバーニ!これが俺の全力だぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

──クロムの願いが通じたのかは定かではないが、レインの放った風の矢《奥義》は、予想だにしない効果を発揮した。
魔法によって防御力が急上昇した肉体──
それを見事貫いた、わけではなく、矢の先端・螺旋風は残念ながら腹にほんの浅く突き刺さった程度に過ぎなかったが、
通常の矢とは異なりそのまま動きを止めることなく傷口にその威力を際限なく炸裂させ続けていくではないか。

>「今だみんな!これで相手は反射魔法を使えない。攻撃のチャンスだ!」

(はったりじゃなかった。こいつぁ並の防御力だと簡単にぶち抜かれるな……レインの奴、本当にいつの間にこんな技を!)

戦いの連続で修行をするまとまった時間などなかったはず。
……いや、思い返せばサウスマナに向かう船の上で仮面の騎士とのマンツーマンの日々があるにはあったか。
が、それでも修行としては短期間に違いはない。
なのに三つの奥義を一挙にそこで修得したならば、勇者の資格を与えられるだけのセンスがやはりあるということなのだろう。
0454クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/04/24(日) 21:29:47.68ID:dB0X/hBq
>「なるほど、反射魔法封じが本命だったんだな……!でも舐めるなと言いたいんだな!」

──などと感心している間にも戦いは続き、新たな局面に。
レインの声に真っ先に応じたヒナが、魔法で巨人型の近接戦闘用ゴーレムを生み出し、ガルバーニと激突させたのだ。
ゴーレムの繰り出す大剣とガルバーニが振るう大ハンマーが交錯し、周囲に激しい火花と巨大な衝突音を撒き散らす。

どちらも人間の目線からは圧倒的な巨躯に違いはないが、両者を比較すればゴーレムの方が更に山のようにでかい。
にもかかわらず、ゴーレムは力で大剣を押し切ることができずにいる。……それだけ地力に差があるのだ、恐らく。
互いに小枝を操るが如くの得物と得物の激しい打ち合いも一見実力伯仲には見えるが、クロムの目には既に先が見えていた。

徐々にだがガルバーニの得物捌きが加速している。
初めはゴーレムが一方的に剣を繰り出すばかりだったが、次第にガルバーニが先手を取って打ち込むようになっているのだ。

(くそ、やっぱ長くはもたねぇか……)

がり、と唇を噛むクロムが、直後に目を見開く。
ゴーレムが剣を振りかぶった瞬間、隙だらけになった脇の下にハンマーが炸裂したのだ。
瞬時に上半身の右半分を大きく陥没させ、剣を持つ右手は肩ごと千切られる大ダメージを受けてよろめくゴーレム。
即死しなかったのは流石にヒナの切り札といったところだが、戦闘不能に陥ったのであれば結局は同じ事だ。

「ふぅ〜、残念だが当然の結果なんだな。大幹部のおいらに勝るゴーレムなんぞ、この世に存在しないんだな!」

ゴーレムを完全に沈黙させんと、すかさずとどめのハンマーを振りかぶるガルバーニ。

だがその時、隙が生じた脇腹に突如として光り輝く刃が食い込んだ。

「……ちょっとは効いたんだな。でも、さっきのより威力はないんだな」

刃の正体は如何なる物質をも消滅させることができるという光剣・エクセリオンレイス。
だが、ガルバーニの防御魔法のせいか、肉体は消滅するどころか少々の深手程度に傷ついたに過ぎなかった。

「反射のダメージで力が落ちてるのか、充分に光を練れてないって感じなんだな。お前、やっぱ脆いんだな」

「なっ……!?」

食い込んだ光剣を掴み、握力だけで一気に刀身を握り砕き消滅させるガルバーニを愕然とした表情で見つめるアンジュ。
──彼女の時が止まったかのようなその一瞬の間を、見逃すガルバーニではなかった。

「これじゃおいらの反射魔法を封じたって意味ないんだな」

「うっ、あぁぁ……!」

素早くアンジュの首を掴み、空中に持ち上げたのだ。

「さ、死に方を決めるんだな。このまま首を千切られるか、地面に叩きつけられてグチャグチャに捻り潰されるか……」

レインは奥義を使い、魔力を消費した影響か次の攻撃に移る素振りを見せない。
ヒナもまた切り札を召喚したせいか、新たなゴーレムを生み出さないまま立ち尽くしている。
つまりこの絶体絶命の窮地を救える者がいるとすれば、それは残るクロムを置いて他にいないということだ。
0455クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/04/24(日) 21:31:30.16ID:dB0X/hBq
「……お前達はどうもせっかちなんだな。どうして大人しく順番が待てないんだな?」

手裏剣が己の前腕と手の甲に突き刺さったのを見て、ガルバーニは呆れたように呟いてアンジュを離した。

「待っていた方が自分にとって好都合でも、おたくらのように非情になれないもんでね。つい手が出ちまうのさ」

「じゃあその鬱陶しい手を二度と出せないようにしてやるんだな。望み通りお前から最優先に殺すんだな、こうやって」

そして引き抜いた手裏剣をこれみよがしに握り潰して見せたが、クロムの視線はそこになくアンジュに注がれていた。
彼女は“時間”に対する不安と、己の不甲斐なさに怒り、詫びるような、様々な感情が入り混じった目でクロムを見ていた。

……確かにまだ早い。
レイン達のお陰で随分と時間は稼げたが、安全かつ確実に勝ちを得る為にはもっと多くの時間が必要であった。
しかし、己から敵意識の内側に飛び込んでしまった以上、もう時間稼ぎは望めない。やるしかないのだ。

(そんな顔すんなよ、まだ負けたと決まったわけじゃねぇ。俺も、お前もな)

クロムは僅かに唇を動かすと、アンジュから目を切って山のようにそびえ立つ背中を睨みつける。
ガルバーニが未だ後ろを振り返ろうとはしないのは、いつでも来い、このままで充分、という余裕からに違いない。
……いや、油断というべきか。

毎秒ごとに敵が弱体化し、逆にクロムは強化されているとはいえ、勝ちを確信できるだけの時間を稼げなかった分、
敵の防御力はまだまだ堅固なままの筈である。
今のクロムが致命傷を与えるには恐らく肉体の出力限界を超えた全エネルギー集中の一刀でなければならないだろう。
しかし……それには大きな“反動”が伴う。シェーンバインの時がそうだったように……恐らくクロムも無事では済むまい。

できれば体が壊れるような戦い方は避けたかったのが本音だが……もはや手段を選んでいられる状況ではない。

「く……クロムさん……」

か細い声でクロムの名を呼びながら、アンジュがゆっくりと立ち上がる。
それを合図に、クロムは目を見開いて地面を蹴った。ただし全力でではない。フルパワー開放は抜刀の瞬間と決めている。
ぎりぎりまで敵に実力を誤認させて油断させることで、ヒットの確率を少しでも上げるためにだ。

(躱そうとする気配はねぇ──。いいぜ、こっちの思う壺だ!)

背中を眼前に捉えると同時、クロムは右足を踏み込んで素早く柄に手を掛けた。直撃を確信して。
だが直後──

「ふん、お前なんぞが二度もおいらの肌に触れられると思ったのか、なんだな?」

「っ!!?」

これまで一切後ろを振り返ろうとしなかったガルバーニが、なんと突如としてくるりと右回転し後ろを向いたではないか。
しかも右手に握られたハンマーを恐ろしい速さで繰り出しながらだ。
0456クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/04/24(日) 21:33:16.35ID:dB0X/hBq
「まんまと騙されたんだなぁ! ちょこまか動き回られると面倒だからこうやって呼び込むことにしたんだなぁあ!
 おいらを甘く見たらバラバラの肉塊となって死ぬんだなぁぁああああああああっ!!」

「──甘く見たのはてめぇだよっ!!」

完全に不意を突かれた。一旦躱して仕切り直す、なんてことはもはや望めないタイミングだ。
ならばこのまま予定通り溜め込んだ全エネルギーを攻撃の為だけの膂力に換えて抜刀する他はない。
一か八かの凶器と凶器の打ち合いを制するしか、生き残る道はない──。

両者が得物を振り切ると同時に辺りに響き渡る甲高い衝突音。
それから一瞬の間を置いて、両者が見せた表情はまるで対照的なものだった。
……ニヤリと口元を歪めたのはガルバーニ。対するクロムは顔を顰めていた。

「がはっ……!」

そして苦悶するとやがてその場に力なく崩れ落ちていくのだった。
全身に亀裂のような細かい傷を負い、多量の血を辺りに撒き散らしながら……。

だがしかし──これは決して打ち合いに敗北した事を意味する光景ではない。
何故ならクロムが負った傷は膂力の出力超過が引き起こす肉体の“自壊”によるものだったのだから。
そもそも凶悪な大ハンマーに打ち付けられたのならいくら頑丈なクロムでも上半身はバラバラにぶっ飛んでいただろう。

「おかしい……んだな。なんでおいらが痛み……を」

表情を一変させたガルバーニの手から柄が滑り落ちる。がらん、と地面を転がるその先端には、あるはずの巨槌は無かった。
そう……だんびらにぶった切られていたのだ。打ち合いに敗北していたのはガルバーニだったのである。

「こっ、こんな──……げぶぉあぁあっ!!?」

次の瞬間、ガルバーニの腹に突如として現れた横一文字の傷が、彼にかつてない悲鳴をあげさせた。
手ではとてもおさえきれない程にばっくりと長く、深く開いた傷口から魔族特有の奇妙な色をした血液がとめどなく流れ出し、
それに混じってまるで巨大なミミズのような腸がずるずると垂れ落ちてくる。

「よ゛っ、よ゛ぐも゛っ……! よ゛ぉ゛お゛ぐぅ゛う゛も゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!! ぶっ殺じでや゛る゛ん゛だな゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

ごぼごぼと血反吐を吐き出しながら醜悪な怒りの形相となって倒れたクロムににじり寄るガルバーニ。
クロムは意識こそ保っているものの、反動による自壊のダメージが大きすぎてもはや動くことができない。

(なんてタフな野郎だ……! まだ動けるとは……!)

「はぁ゛あ゛ー、はぁ゛あ゛ー。ごのま゛ま虫けら゛の゛よ゛うに゛潰じでや゛るんだなぁぁ〜〜〜!」

(しかし弱っている……こいつも限界が近い筈だ……。誰でもいい、とどめだ……! 今なら刺せる……!)

【クロム:吸収エネルギー全消費による超強化の反動で肉体が自壊。大ダメージを受けて戦闘不能】
【ドルヴェイクの手裏剣を使用。ガルバーニに砕かれて失われる】
【ガルバーニ:腹を深く切り裂かれて大量出血+内臓損傷の大ダメージ。更にだんびら効果により今もなお弱体化が進行中】
0458レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/03(火) 00:19:59.74ID:8aeGkvHj
かくして時間稼ぎは成功し、クロムの一撃はガルバーニを捉えた。
閃光とも見紛うような一閃はその腹を深く切り裂いて、臓物をずるずると零す。

>「よ゛っ、よ゛ぐも゛っ……! よ゛ぉ゛お゛ぐぅ゛う゛も゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!! ぶっ殺じでや゛る゛ん゛だな゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

まだ動ける。恐ろしいほどタフだ。
クロムは意識こそ残っているが、限界を超えた一太刀の反動で動けない。
何かしたいレインだったがすでに魔力尽きて何もできない。

「そうだ……!ヒナ、魔力を貸してくれ!アンジュは前に!」

「おぅ……いいけど何する気なのっ!?」

あと一撃。たった一撃だけ放てば勝てるはずだ。
わずかでもいい。スイッチを押すかのような駄目押しの一撃が欲しい。
そうすればガルバーニの命はそれで断てるはずなのだ。

「『ストリボーグ』の風の矢を放つ能力でアンジュを射出する!音速で……!」

「それは……中々大変な提案ですね。でも分かりました」

その一言で意図を察したアンジュはレイピアを構えてレインの前に立つ。
ヒナと一緒に弦を引き、『風の矢』を生成する。これは賭けだ。
だが黙って見ていたらクロムが死ぬ。なんとかするしかない。

>「はぁ゛あ゛ー、はぁ゛あ゛ー。ごのま゛ま虫けら゛の゛よ゛うに゛潰じでや゛るんだなぁぁ~~~!」

「今だっ!アンジュ、頼んだぞっ!」

弦を離して『風の矢』を発射し、爆風がアンジュの身体に叩きつけられる。
アンジュはその勢いで加速して砲弾さながらの速度でガルバーニに突っ込んだ。
その姿はまさしく一筋の流星のように。

「ガルバーニ……これで終わりですっ!!」

「なぁぁぁっ!!?」

音速まで加速されたレイピアによる刺突がガルバーニの傷口に深々と突き刺さった。
アンジュは柄から手を離してバックステップで後退する。
位置的に考えれば心臓辺りを貫いているはずだ。

「ぐ……くっくっくっ……まさかお前如きの一撃がトドメになるとは……思わなかったんだな……」

ずずぅん、とガルバーニが仰向けに倒れた。勝ったのだ。
レインも勝利を確信して『召喚変身』を解除する。三人はクロムの元へ駆け寄った。
この戦いの功労者は彼だ。みんなはその功績を褒め称えようとした。

が、それを妨害するかのようにガルバーニの身体が激しい明滅をはじめたのだ。
レインは異常な魔力の高ぶりを感じていた。これはマズイ。何かの予兆だ。

「おいらは腐っては魔王軍大幹部!タダでは帰さないんだな……。
 このダンジョンと共に果てるんだな!この命尽きようとも、すべては魔王軍のために!!」

「ヤバイッ……ガルバーニは自爆する気だ!!」

即座に『転移石』を取り出したレインは転移魔法を起動する。
間に合うか。明滅は激しさを増し、いつ自爆してもおかしくない。
圧倒的な熱と閃光を感じた瞬間に景色は移り変わり、ミスライムの王城へと転移する。
0459レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/03(火) 00:20:30.10ID:8aeGkvHj
「あ……危なかった……」

へなへなとレインはその場に座り込むと、アンジュの肩を叩いた。
彼女はずっとこの大陸の惨状を憂いていた。今、ようやく彼女はそれから解放されたのだ。
ここは王城の中庭だろうか。しばらくじっと座って休んでいるとアルバトロスが姿を現す。

「……お帰り。大分ピンチのようだったが、どうだったんだい?」

「……大幹部は倒しました。俺たちの勝ちです。クロムとアンジュのおかげで……」

基本的に表情を崩さない、冷静な彼女だがこの時ばかりは顔が綻んだ。
それを見たレインは満足気にその場に寝転んでしばらく眠ってしまった。
起きたら、王城の客室だったので誰かが運んでくれたのだろう。

これで大幹部の二人目を倒した。残るはノースレアに居座る炎と水の大幹部のみ。
すこしここで休んだら、また旅を再開しよう。魔王を倒すことが勇者の使命。
大幹部を倒したと言って浮かれている場合ではないのだから……。


【"不動城砦"ガルバーニ撃破。死亡寸前でダンジョンごと自爆】
【転移石でミスライムの王城まで戻る】
0460レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/03(火) 00:22:06.33ID:8aeGkvHj
大事なお知らせがあります。
かなり一方的かつ突然のことで申し訳ありませんが、自分は今回のレスをもって引退させて頂きます。
理由はいくつかありますが、まずはリアル事情によるものが第一にあります。
この遊びにリソースを割く時間が減ってしまうことが確定し、継続を断念しました。

二つ目にモチベーションの低下によるもの。
参加者のマグリットさんがいなくなって以来、やる気の低下を否定できません。
このスレを建てた時のように弾んだ気持ちで文章が書けないのです。
正直言って、続ける楽しさよりも苦しさの方が大きくなってきています。

三つ目に単純に低い質のレスしか書けないこと。
自分は上手いプレイヤーではありません。間違いもよく犯します。
でも自分なりに上手く書けたなとか、今回は良くなかったとかあるわけです。
なのに最近は文章量も少なく、自分自身にとってすら不満足なものしか書けなくなりました。

この状態で続けても苦痛でしかないので筆を置きたいのです。
遊びとはいえ創作能力が関わる遊びです。自分が納得いかないものを書くのは辛いのです……。

最後までお付き合い頂いたクロムさんには大変申し訳ないです。
平身低頭、謝るほかにできることはありません。

ちょうどキリのいいところまで書けたので、
もし読んでくれる人がいたら……後はご想像にお任せします。
いないと思いますが続けたい人がいらっしゃればもちろん大歓迎です。

しばらくはここを覗いていると思いますので、
何かご質問があれば避難所か本スレに書き込んでくだされば回答します。
0461レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/03(火) 14:05:50.62ID:8aeGkvHj
あ……すみません、避難所を読んでませんでした。
離脱の件、了解です。参加者がいなくなったのでレトロファンタジーは打ち切りにさせて頂きます。
今まで参加してくれた方、読んでくれた方、まことにありがとうございました。
0462クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/03(火) 18:09:29.31ID:BTYdUjf4
>「『ストリボーグ』の風の矢を放つ能力でアンジュを射出する!音速で……!」

三人の会話がクロムの耳にも入って来る。
……なるほど、危険を伴う一か八かの策に出るという事は、三人もクロム程ではないにせよ限界に近いということだ。
打つ手が限られていてリスクを恐れていてはとどめを刺す事は出来ない、そう考えたのだろう。

(頼むぜ……!)

心の中で念じるクロムの視線の先で、風の矢を受けたアンジュが加速する。かつてない速さで。

>「なぁぁぁっ!!?」

弱ったガルバーニに即応は不可能だった。
レイピアを成す術なく傷口奥深くに突き入れられて、直後に彼は音を立てて倒れるのだった。

「……だから言ったろ? 俺もお前も、まだ負けたと決まったわけじゃねぇ、ってな」

駆け寄ってきたアンジュに目をくれて、クロムは口元で笑みを作る。
しかし、それも束の間。

>「おいらは腐っては魔王軍大幹部!タダでは帰さないんだな……。
> このダンジョンと共に果てるんだな!この命尽きようとも、すべては魔王軍のために!!」

「……どうやら我々の勝ちもまだ、決まったわけではないようですね」

突如として明滅し出したガルバーニの肉体を見て、勝利の余韻に浸る間もなく騒然となる一行。

「んな! しつけー野郎だな! あんな奴と心中なんてごめんだぜ!」

クロムはすかさずレインに目をくれる。脱出するぞ、の合図を送ったつもりなのだ。
が、レインもそんなことは今更言われるまでもなかったようで、既に彼の手には転移石が握られていた。

────。

王城の中庭。
レインが腰が抜けたように座り込んだが、戦場と共にピンチを脱して一気に緊張の糸が切れたのだろう。無理もない。
正にぎりぎりのタイミングで爆発から逃れることができた安堵感は、クロムにも一種の脱力感を齎していたのだから。

>「……お帰り。大分ピンチのようだったが、どうだったんだい?」

そんな二人のもとにどこから現れたかアルバトロスが歩み寄ってくる。
もっとも、クロムの場合は脱力以前にそもそも体が壊れて動けず、地べたに倒れ込むしかできないのだが。

>「……大幹部は倒しました。俺たちの勝ちです。クロムとアンジュのおかげで……」

「そう……おかげで体がぶっ壊れてこのザマよ」

「なにはともあれガルバーニは倒せた、君達は生きて帰ってきた。なによりだ。まずは傷付いた体を休めるといい」

そう言ってアルバトロスが顎をしゃくると、後ろから数名の兵士が現れてレイン、そしてクロムを担いだ。

「ひと眠りしたら夕食にしよう。腕によりをかけた料理を用意して待っているよ」

「……その前にこの体、ぱぱっと魔法で治してくれない? ひと眠りしたくらいじゃどうにもならねぇよ、これ。
 って、おお~~い! 冗談抜きでなんとかしてくれよ、誰か! 聞いてる? ねぇ」

えっほ、えっほと城に運ばれていく己の体を痛みを堪えてばたつかせて、クロムはひとり叫ぶのだった。

【終】
0463クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/03(火) 18:16:28.80ID:BTYdUjf4
これでクロム編も〆とさせていただきます。
皆さん今までありがとうございました。そしてレインさんお疲れさまでした。

容量オーバーまで10kbとあと少し(上限が多分1024kbかな?)と思うんですが、どうしますか?
雑談でもして埋めますか?
0466レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/03(火) 22:58:44.89ID:8aeGkvHj
>>463
クロムさん、最後までありがとうございました。そうですね。
板のルール的に使い切った方がいいので雑談などで埋めて頂ければと思います。

>>464
なな板時代でも多少の経験はあります。
ただ当時は学生だったしスレ立てを自分で行ったのは今回がはじめてです。

>>465
落胆させてしまい申し訳ないですが、おっしゃる通りです。
ちなみに次はノースレア大陸で"猛炎獅子"サティエンドラと再戦する予定でした。

清冽の槍術士モードのレインの奥義をそこで披露するつもりでしたが、ここで終わりなのです。
ちなみに水の奥義名は『鐘馗水仙輪舞(しょうきずいせんりんぶ)』です。
無我の境地に達することで先の先、つまり相手の攻撃を読み、
相手の攻撃より速く自分の攻撃を命中させ続け封殺する奥義です。
0467クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/04(水) 18:42:37.87ID:Kyu4EADv
ノースレアにはサティエンドラ以外の現地攻略担当のボスも確かいたんですよね?
多分蛇の人かなと思ってましたが
シナムがその人の部下って感じだったので彼との再戦も次の大陸になるだろうなぁと勝手に想定してましたが
物凄いハードスケジュールになりそうで実は内心ちょっと気が重かったんですよねw
ですからぶっちゃけ呪われた島の時に決着つけときゃ良かったかな、あー余計なことしちまったかと後悔したり

ちなみに一応私もなな板で一時期TRPGしてた人間なんですが、ここに参加した時は上手くできるか不安でした
一度住民をやめて何年も離れてたもんですから…おかしなレスして迷惑かけてなきゃいいなと
0468レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/04(水) 19:52:15.20ID:MG7nkbBM
>>467
"水天聖蛇"ラングミュアはですねぇ……。
本来は三章で倒す予定だったのですが出すタイミングを見失ってたんですよね。
続けてたらたぶん、章を分けて七章のボスとして登場させることになっていたでしょう。

シナムとの再戦というか真の仲間がどんなキャラだったのかは気になるところですね。
自分の手をすでに離れていたで。三章の魔人と魔人の対決は楽しく読ませて頂きました。
ラングミュアの登場が遅れるのは確定していたのでその辺は自分も申し訳なく感じていましたね……。
0469クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/04(水) 20:48:33.18ID:Kyu4EADv
事前に設定を練るタイプじゃないのでシナムの真の仲間についての具体的な設定はほとんど固まってませんでした
ただ、彼の仲間も全員魔人にしたらいいかなとだけは思ってまして
そんで実はその魔人パーティのリーダーは魔法剣士のシナムではなくて、クロムと同じく魔人化した元勇者にしようかなとも

そういう意味じゃ仲間の設定はシナムの真の愛刀より方向性は定まってましたね
ミスリルよりも強力な剣を考えなくてはならなかったので、まぁどうしたもんかと
0470クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/05(木) 22:13:27.45ID:yxRsv4f/
気になるといえば最初のサティエンドラ戦で結果として仮面の騎士に助けられる形になりましたが
あれ当初は勇者一行が仮面の騎士の助太刀なしにサティエンドラを倒す方向で考えられてたんでしょうか?

というのもバトル描写の一番手が私で、幹部というくらいだから強敵にしとかなアカンなと思いああいう感じで書いたんですが、
魔人という初めから強い設定のキャラを圧倒できるとなると結成当初のパーティじゃ無理ゲーが決定的になってしまいますよね
ですからひょっとして全滅回避のために急遽作って登場させたキャラだったりするのかなと
0471レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/05(木) 23:50:46.48ID:uVsmn311
>>469
魔人化した元勇者がリーダー!いいですね。
自分もシェーンバインの剣を考える時に最強の剣なんて
思い浮かばねーよ、と思ったりしたので……結局風のイメージで振動剣にしましたが……。
単純な切れ味だけで考えると限界があるので何か特殊能力があるとかなのかなぁ。

>>470
そうですね。一章につき、一体ずつ四天王(初期設定)を倒して最後に魔王を倒す!
自分がスレを立てた段階ではそういう単純明快なシナリオの予定でした。

魔王城の居場所も最初から決めていました。
それは魔王が創造したアースギアと重なり合って存在するもう一つのアースギアです。
今命名しますが名づけてパラレルアースギア。違う世界に存在するからずっと魔王城が見つからないわけです。

謎にしておくほどのことではないのでついでに書きますが、
レインはアースギアの人間ではありません。私たちの世界に酷似した現代社会出身です。
魔法の適性が異常に低いのは魔法のない世界から来たからなのです。

もっとも女神の力でこの世界に転移したのは赤ん坊の頃なのでレインにはその頃の記憶はありません。
この事実はレインも知っていて密かに隠しており、勇者になった時に神託によって知りました。

アースギアに存在する全ての物質・生命はパラレルアースギアを認識できないし移動できません。
それは両者の関係がコインの表と裏だからです。両者は絶対に干渉できないのです。
創造主の魔王と、アースギア生まれではないレインを除いて。

ゆえに、最底辺の勇者であるレインが魔王城への道を開く鍵となる……。
というのを使う機会があればやろうかなーっと考えていましたね。


話が逸れましたが、サティエンドラはクロムさんの言う通り最初は倒す予定でした。
マグリットさんの暴走任せに倒されても良かったのですが……。
パーティー内最強のイメージがあったクロムさんが手も足も出ない強敵!

という美味しい振りがあったので終盤にリベンジする
展開にしてもいいんじゃないかなーと思ってしまいまして。

そんなわけで仮面の騎士を登板させました。謎めいた協力者のNPCぐらいのイメージでしたが……。
まぁ……初期には登場予定の無かったキャラですが、書いてて楽しくはありましたね。

サティエンドラにもまだ隠された奥義があり、二章で披露した『地爆豪炎掌』の他にも
『天枢滅火掌(てんすうめっかしょう)』と『神明掌握撃(しんめいしょうあくげき)』なんてのも考えてですね……。
セルフ解説でめちゃくちゃ恥ずかしいですけど、名称にもこだわりがありまして(マジで)。

掌の九似という設定なので必ず『掌』の名称を入れる、三つ合わせて天地神明になるって
自分で言うのもなんですが結構頑張って考えた必殺技名を用意してました。

ムーブとしては上空から炎の掌を連続で落っことすとか、
自分が巨大な炎そのものと化して敵を閉じ込めるって感じになってたでしょう。

次章で再登場して戦わせる予定でしたが、すみません。
そこまでのエネルギーがありませんでした。ここで供養させてください。
0472クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/06(金) 02:06:10.86ID:zuD8gYHg
魔人は魔族側が作り出したいわば強化人間なんですが、事前に洗脳しておいて逆らえないようになってたり、
歯向かったら心臓が自動的に止まったりする仕掛けが施されたりだとか、そういった魔王軍にとっての安全弁がない設定なんですよ。
というのも「主人公が人間で仲間も人間じゃ面白くないな。とりあえず魔族にしとくか」って感じで細かい部分を決めずに参加したんで
後付けでそういうリアルな反乱防止装置をくっつけちゃうと魔王軍と戦う事ができなくなっちゃうからでして。

ですからその気になれば裏切れる筈の魔人が裏切らないのは、魔王は勿論、軍中核の大幹部にも絶対届かない程度の強さしか
手に入れられないよう設計されてるからって設定にしたんですが(でもそれが決まったのは多分サティエンドラ戦の後)、
倒す予定だったなら彼は大幹部のボス格ではなく序列がもっと下の中ボス格だったとかで処理したって良かったんですねw
見返してみると「魔王軍幹部の一人」としか言ってませんしね。

ちなみにだんびらは強さの上限設定を唯一突破できる裏技強化アイテムとしてサティエンドラ戦の直後くらいに思いついたものです。
まぁ強化というよりドーピングといった方がいいですが、クロムの過去設定もそれと前後しておおまかに形作られていって、
もっと後になってだんびらは勇者時代に手に入れた剣で、彼が勇者を辞めて魔人化した原因、って皆に説明するつもりでした。
簡単に言うと過去に(だんびらによって)過ぎた力を手に入れて肉体崩壊→もっと強い肉体を求めて魔人化って感じで、
マグリットさんが龍になるって言ってましたから、それに絡めて色々掛け合いやらイベントを起こせればなぁ、と思ってたんですが。

必殺技は私も考えた事があったんですがね、ネーミングセンスがないんで結局諦めましたねw
0473クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/06(金) 02:27:50.89ID:zuD8gYHg
シナムの剣について、あーこんなこと考えた時もあったなって思い出したんで、一応書いときます。
仰る通りとにかく頑丈でめっちゃ斬れる剣、にしちゃうとなんか芸がないっていうか面白味がないってゆーかそんな気がしたんで、
魔力を剣状に具現化してそれに特殊な能力をくっつけとく、みたいな事は私も考えましたね。
得意な魔法が氷だったんで、剣を介してオリジナルの氷の術をばんばん使えるみたいな。
ただ、それくらいなら別に剣なんか介さないでもオリジナルの氷魔法を普通に手からぶっ放せんだろって話になるよなって思って封印しましたw
0474レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/07(土) 22:47:24.17ID:FqhKQb+I
>>472
クロムさんと鬼神のだんびらにそんな過去設定があったとは!
勇者時代に手に入れた後にいったん手放してから(でいいのかな?)
シェーンバインがコレクションに加えるまでの間にも色々ドラマがありそうですねぇ

サティエンドラに関してはまぁ、クソ雑魚ナメクジではないですが
ほどほどに強い敵、ぐらいのイメージですね。今までの敵とは一味違うぐらいの感覚でした
丁々発止の戦いを繰り広げてくれればなーという想定だったのに気づけば生き残らせてしまい……
結果論で言えば再戦は叶わなかったので倒しといても良かったですね

>>473
魔法剣士ということにしてしまったので剣の設定が難しいですよね……
それもこれも自分のせいです。まったく申し訳ないですね
一方でただの噛ませ犬……くらいのつもりで出したのに
よくここまで出世したなぁと思いますね
0475クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/08(日) 14:26:43.51ID:Nqkbe8nF
だんびらは呪いの武器でして(本編では呪われてると噂されたり、クロムがうっかり呪いはないと言ったり曖昧でしたが)
使い手に「装備を外せない呪い+自壊の治癒(回復魔法・薬草含む)を妨害する呪い」が降り掛かる仕掛けになってるんです。
(後者は初めの内はあれ?なんか治りが遅いな?程度ですが、自壊を重ねる度に効果が強まりやがて全く治らなくなる)
これは魔族でも回避不可能な強力なものでして、死ぬまで解かれることはありません。

シェーンバインは幸か不幸かだんびらの使い手にはなれなかったのでその能力も呪いも認識することはできませんでしたが、
剣鬼の勇者クロムウェル(結構有名だったので魔人化の際に「クロム」とだけ名乗る様に。偽名にしちゃそのまんまだけど)は
呪いを受けてとある戦場で乱戦中に致命的な自壊を起こして、文字通り一度死んでるんです。

んで、死んだ彼を蘇生させて魔人に変えたのがアリスマター。
だんびらはクロムが意識を取り戻した時には既に手元にはなく、彼は死んでる間に戦場にいた他の誰かに拾われた……
と勝手に思い込んでるのですが、実際はアリスマターが回収し、後に世界のどこかに隠したという設定です。
それを最初に見つけたのが同僚のシェーンバインだったのか、それともただの冒険者だったのかは想像にお任せします。
全部決めちゃうよりその方がいいと思ったので、なんとなくですが。

本編初期の時点でクロムは世界中を旅してたって事になってますが、これはだんびらを捜す旅だったと解釈して下さい。
マグリットさんが大きな力を一時的に手に入れた際の「万能感と多幸感」について言及されてましたが、
クロムもだんびらによる強烈なドーピングを経験して同じ快感の虜になっていて、無意識に追い求めるようになっていたのです。

イメージとしちゃ重度の麻薬患者が近いかなって感じですね。
ただ当初から用意してた設定ではないので本編ではヤク中っぽい危うさは出せませんでした。
それどころかむしろだんびらにもあまり執着してないような、正気に戻りつつあるような感じばっかで。
まぁ、辻褄を合わせるなら何年もの旅の間に徐々に冷静さを取り戻していったってことになるんでしょう。多分。
0476レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/08(日) 21:52:32.64ID:Uf9sfDKo
>>475
だんびらにも結構重い設定があったんですね……
アリスマターもせっかくクロムさんを蘇生させて手駒にしたのに
結局敵になってしまったのは、生みの親として同情してしまいますね

せっかくなので要領埋めにアリスマターの設定を披露しようと
メモ帳を開きましたが戦闘用の能力や技ばっかり書き綴ってて
見るに堪えない内容なので手ェ引っ込めておきましょう……

クロムさんの過去にも関わるので
アリスマターのキャラ設定を一人で軽々しく書けませんが
初登場時点(三章スタート時)で決まってたのは

・側近ではあるが大幹部の中では一番の新入りである
・魔王に愛とも言えるほど深い忠誠を誓っている(側近なので)
・口数が極端に少ない。いわゆるコミュ障キャラである

という感じですね。ボスとして出すなら予定してた日本編だと思います
八章か九章か……そんぐらいには戦わせたいなぁと思ってました
再登場が遅くない?って感じですがラスボスの前哨戦ポジに置いていたキャラなので

自分の中では「ボスとしての登場は後回しでいいや」という考えだったのです
じっさいに話を転がす段階になったら考えが変わってたかもですが……
0477クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/09(月) 01:52:12.06ID:BnFbk7gS
日本編ですか。この世界にも日本がモチーフの国があるようなことは本編初期から触れられてましたね。
クロムの最初の剣も初めはその国のダンジョンから持ち出したって設定だったんですが、
国を決めちゃうと後々不都合があるかなと思い直して敢えて東の果てと曖昧な表記にしたんですよ。

そういえばこの世界には五つの大陸があるって設定でしたが、東西南北に四つ、もう一つはやっぱ中央大陸なるものですかね?
四方の大陸を順に攻略して行って、残された最後の中央に魔王の拠点があるみたいに思ってましたけど、
まさかパラレルワールドに拠点があるとは予想してませんでした。

さて、残りの容量を見ると多分これが私の最後の書き込みになるんじゃないか思うので、改めて挨拶させていただきます。
皆さんこれまでありがとうございました。レインさんお疲れさまでした。一緒にTRPGができて楽しかったです。
いつかどこかでまた同僚になる機会があったらその時はまたよろしくお願いします。それでは。
0478レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2022/05/09(月) 21:46:37.10ID:mkXlE9qM
もう埋まるかな?スレのスタートが2020年5月31日
ちょっと足りないですが約二年間、お付き合い頂きありがとうございました

なな板TRPGをやってる人はもう相当に減っていそうなので
果たしてこの遊びがいつまで続くのか……遊んでた身としては気になるところです
あまりに人がいません。もう掲示板の時代じゃないんですね……

調べるとなりきり自体はディスコード?なんて場所で展開されているそうです
知らない場所なので首を突っ込めないですが、なな板TRPGも細々とでいいので続いてほしいですね
そう考えると過疎の状態でクロムさん、マグリットさんに出会えたのはとても幸運なことに思えます

特に未熟な自分に最後まで付き合ってくださったクロムさんには感謝しかありません
この二年は掛け替えのない貴重な経験となりました

自分は創作が好きなのでたぶん文章書くのも辞めません
(小説を書くのは得意じゃないので、なぜこんなことやってんだ?って感じですが)
なのでふとした拍子にまたふらっとなな板TRPGを探すかも
その時、もし参加ってことになったら……お手柔らかにお願いしますね

それでは失礼しました!
0481クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2022/05/09(月) 22:31:05.04ID:BnFbk7gS
とりあえず埋め立てテスト
これで1024kbは越えると思いますがこれで埋まらないならもう容量設定がわからないですね…

レトロファンタジーTRPG
http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1590927534/
レトロファンタジーTRPG 避難所
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1596277717/

>ここはアースギア……。
>五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
>あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。


>◆概要
>・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
>・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
>・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
>・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。


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