ざくざくアクターズ SSスレ [転載禁止]©2ch.net
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『夕闇グルームアンダーエンド』
この物語は蛇足である。
ひょっとしたら生じていたかもしれない過去。
ひょっとしたら生じていたかもしれなくとも消え去った過去。
夕闇の下に。
淡く。
緩やかに。
消えたかもしれない。
在りえたかもしれない。
そんな過去のお話。 ――あぁ、私は消滅したのだ。
とても心優しい、小さいのにとても大きなあの国王様も帰路について。
私を支えてくれたシノブのイメージも、その源を失い世界の中に薄れていった。
私の心は、とても満たされている。とても…幸せに満ちている。
それはおかしい。
私は消滅したのだ。
何故、現在において私の心は満たされているのだ。
何故、私はこのようなことを考えられているのだ。
私の姿は見えない。なのに考えている私がいる。
どうなっているのだろうか。 異常事態だ。しかし間違いなく世界は消えつつある。夜が迫ってくる。
何もない夜が。明日の来ない夜が。闇が。世界があるべき形を迎える為に仄かな明かりを塗りつぶしていく。
終りに向かって緩やかに、曖昧に、ぼかしながら塗りつぶしていく。
かの国王の気配は感じられない、彼女も無事帰ることができたのだろう。
そうであれば想像と創造の力の源はもう何も存在しない。
きっと…緩やかに終りを迎えている最中に過ぎないのだろう。
エステルにメニャーニャ。彼女達には本当に酷いことをしてしまった。
私の自分勝手な嘘の為に随分不自由していたことだろう。
あぁ、彼女達もまた私のように実体もなく意識が残っていたりするのだろうか。
それとも意識も完全に消え失せたのだろうか。
もし消え失せたのであれば、安らかに眠れたのだろうか。 生きる決意を固めたシノブの脱出に死力を尽くして協力してくれていたね。
一方、嘘が暴かれた私は守り、愛し合っていたかったシノブまでを含めて、
常識を超えてシノブを助けに来た友人まで一緒くたに乱暴に傷つけて…
私はなんと身勝手なことだろうか。
この世界はシノブのイメージによって創られた世界だ。
シノブの中そのものと言ってもいい…はずだったが
その創造者がこの世界にいない。
だからこの世界は急速に闇に溶けていきつつある。
身体が存在しないのだから視えることもない筈なのに
周囲に仄暗さを感じる。
今私は既にシノブとは離れた場所にある存在なのだ。
…そう考えると酷く寂しい。心細い。
涙を溢れさせる涙腺は…存在しない。 エステル、メニャーニャ…彼女達は寂しくなかったのだろうか
ただ消えるだけで再びシノブの夢にすら出られない可能性だってある。
仮にシノブが私達についての夢を見たとしても、
出てくるのが「この創られた世界で生まれた虚像」である私達である保証もない。
寂しくはなかったのだろうか…不安ではなかったのだろうか…
いいや。
仮に寂しかったとしてもだ、エステル、メニャーニャ。
それでも君達はシノブが未来へ進む為のことを考えていたのだろう。
つくづく、私は臆病だったと思い知らされる。
そして、その臆病者の前に現れたのが小さくも勇敢な国王様、か…
通常ならば、私が侵入に対して何の邪魔もする必要のない世界。
もっとも、あの忌々しい蚊には憎しみしか湧かなかったものだがね。 小さな世界で、穏やかに、ささやかに。愛し合いながら。
それが仮初であっても、短いものであっても平和に終わって死んでいく…
そんなことを望んでいた。それでも少しでも長く共に居たかった。
あの小さな国王様が命がけで助けに落ちてこなければ私は…
最も大事な、愛しいシノブを、守るべき、かけがえのない大切なシノブを…
ありがとう、小さな国王様…デーリッチ、といったね。
非常識な現れ方をした君には本当に驚いたものだよ
とても危機感を覚えたね、どうにか早くご退場いただく為に頭がいっぱいだったものだ。
くく、自嘲めいた何かが心の奥底から湧いてくるよ。
それにしても、侵入を拒む為に立ちはだかった時に浴びた炎も、
シノブがこの私に愛を叫びながら、それでも全力でぶつけてきた絶大な炎も、
とてもとても、熱かった。 未来へ進む意志が熱かったのだ。
生きる意志が熱かったのだ。
彼女らが放つ心の炎が、私という闇には。
あまりにも熱すぎて、あまりにも眩しすぎたのだ。
そう考えれば、あの場所で妨げることに成功するはずがない。
シノブが突き進む未来へ生きる為の道を妨げることができるはずがないのだ。
そしてあの小さな王、そして大きな国。
ただの協調性とも、ただの多様性とも言えない。
個の、集の輝きに満ち溢れていた。
それでいてとても優しかった…。 はぁ、一通り回想に耽ってしまったな…それにしても暗いなぁ…、本当に、昏いなぁ…。
世界から明るさが、光が、失われていくのを存在しない肌で感じる。
本来ならば既に消えている自我。
回想を終えて沈黙する自我。
このまま静かに消えていくべき自我。
その自我が。
ふと、考えてはならない事柄に手を伸ばした。
優しき国王、デーリッチ。彼女が私の為にこの世界に呼んでくれたのは
確かにシノブの姿をしていた。
そして私をささやかな力で支えてくれたことが。
とても心強かった。
嬉しかった。
暖かかった。
しかしその実どうだろうか? そのような行動を取るということは。
デーリッチ、彼女の中ではシノブはとても優しい子として認識されて、
そのようなイメージ体として生み出したのかもしれない。
その時、虚像であるシノブであっても、私の心は確かに満たされたのだ。
しかし、だ。
当のシノブ本人はどうだ。
先に私が消滅したものと思い先に帰っている。
本物のシノブは私があの執念に心を燃やしたまま消滅したものと認識している。
己の嘘が招いた事態だ、自業自得だ、それでも。
最後の真実を知らずにすれ違ったまま終わるなんて、切なすぎる。
愛されなくとも良いとは言った。
言ったのだが。
誤解が残っていることに、未練ができてしまった。 しかしもう終わったことなのだ。
重い、自責の思いが心を包む。
重く垂れ下がった心の手は。
更に深い闇に指を伸ばし、そして掴んだ。
私は何がしたかったのだろう。
父親としてシノブを守りたかった。
父親としてシノブと一緒に過ごしていたかった
父親としてシノブに愛されていたかった。
父親としてシノブを愛していたかった。
しかしそれは。
シノブが実の父親。
「虚像である私」ではない、
「本物の私」の死亡原因になったことで。
奇遇にもこの世界が造られて、私が生まれて。
「虚像である私」が「本物の私」を代行することになったのが切欠だ。 だから。
シノブはこの世界にいる間はずっとずっとこの虚構である私ではない。
「本物の私」から愛情を注がれていると思っていて。
「本物の私」に対して愛情を注いでいると思っていて。
「本物の私」に守られていると思っていて。
「本物の私」と愛し合っていると思っていて。
ずっとずっと。
「虚像である私」の存在を通して。
「本物の私」に感情を向けていたのではないのか?
「虚像である私」がいくらシノブに愛情を注ごうとも、
シノブは既に存在しない「本物の私」からの愛であると感じ取り。
「虚像である私」から既に存在しない「本物の私」にシノブの愛情は流される。 私は、シノブと虚無を繋ぐパイプでしかなかったのではないか。
しかしそれすらも、「虚像である私」が「本物の私」であるかのように
シノブを騙して、嘘をついて、いくつもの自由を奪ってまでして
無理矢理に、強引に自分勝手に振る舞ったことが原因なのだ。
失うのが、怖かったのだ。
この世界が生じることになった経緯については、シノブにはとても不幸なことだっただろう。
しかしこの私にとっては又とない絶好の機会だったのだ。
偽りの世界で、本性を偽ってでも一緒に過ごしていたかったんだ。
「本物の私」が一緒に過ごせなかった時を一緒に過ごしていたかったんだ。
「本物の私」を死なせてしまったことで傷ついたシノブを守ってあげたかったんだ。
過ごしていたかった守っていたかった愛したかった愛されたかったずっとずっとずっと。
しかしシノブの心には本来「本物の私」が知らない大事な友との思い出があって。
あの時の私には誠に不都合なことに一緒に現れてしまった。
「本物の私」が死んでいることを知る彼女達の存在は非常に厄介だった。 だから、シノブの心を縛ってでも彼女達を黙らせた。
私がシノブと共に過ごす時ことを失う可能性をどこまでも排除したかったのだ。
シノブに鍵をかけて、シノブの友に鍵をかけて、私にも鍵をかけて、
鍵は私が管理する。
私は封を決して解かない、閉ざされた世界。
シノブと共に過ごし緩やかに最後を迎える。
愛に満たされたグランドフィナーレ、それが私の理想だった。
だがそこに。
正に文字通りに鍵、しかもマスターキーを持って国王様は降ってきた。 憎かった、一刻も早く出て行ってほしかった。
しかし彼女は救いだったのだ。何度思い返しても…思い返しても感謝し足りない。
考えてみれば、私の嘘で生まれた私の虚しいパイプとしての繋がりも。
彼女が断ち切ってくれたのかもしれないな…
私の虚構が暴かれた時。私が虚構だと暴かれた時。
そこからシノブは急激に真実を取り戻しはじめたね。
あの私の虚構の中過ごした日々の愛情が。
全て「虚像である私」に向けられていなかったとしても。
それでも、私が最後に全力で道を妨げたあの時だけは…
あの時だけは、この「虚像である私」に対して愛を叫んでくれていたのだろうか。
それとも、あれも既に存在しない「本物の私」に対して向けられたものだったのだろうか。 その真偽はわからない。
「虚像である私」自身に向けられているものであればとても幸せなのだが。
そうであることを確認する術はない。
しかし真偽不明でも。
「虚像である私」自身に本物のシノブの愛情が向けられた可能性が存在することが
たまらなく嬉しいのだ。
仮にあのまま終わりを迎えていたとしたら。
「虚像である私」は一片たりとも「本物のシノブ」の愛情を向けられることなく
シノブは偽物によって生み出された愛を抱えて、
嘘と誤解にまみれたまま…闇に溶けて消えていったのだろう。
私の嘘による最悪の結果は避けられた。
シノブは未来へ向かって着実に歩みだしている。
幸せな結末だ。
そうだ、これでいいんだ。 私自身のささやかな未練など…どうでもいいことなんだ。
それなのに。
とても寂しい。
シノブに会いたい。
例え私が虚像で虚構で既に存在価値がなかろうとも。
守り続ける資格がなくても。
愛される資格がなくても
愛を注ぐ資格がなくても
それでも私はシノブに会いたい。会ってシノブに謝りたい。
できることならば健やかな日々を過ごせているのかを知りたい。 …きっとあの王国のことだ、どうせ賑やかに楽しく毎日を過ごせることだろうけども。
待てよ、とても賑やかというのもあの子には少し考えものかな?
シノブはとても気の小さな子だからあの中でうまくやっていけるのだろうか。
そこまで干渉するのは過干渉、親バカというものだろうか、どうだろう…?
しかし実の父親の虚像であるこの私が親バカなどというのも滑稽なことだ。
あぁそれでも心配だ。
…いや、それもきっと杞憂に過ぎないのだろう、あの輝く心の持ち主達が共にいるのだから。
何が相手であろうとも…きっと、共に乗り越えていけるだろう。 私が仮に会いに行ったとしてあの子は果たして許してくれるだろうか…
…楽観的な推測ではあるけども、きっと許してくれるのだろうな。
どうだろうか、あの子の優しさに少し依存し過ぎた考えではないだろうか?
あの子も少しばかり何かに依存しがちな子だからな。
虚像としての私が言うのもなんだが遺伝だろうか?
しかしシノブはいざとなった時は芯の強い子だ、良く…本当に良く…育ってくれた。
こればかりは「私」からの遺伝かどうかわからないな、何しろ私は臆病に、道を誤ってしまったのだから。
私が道を間違えてシノブの手を無理矢理に引いていっても、道を間違えずに進んでくれた。
それを助けてくれたあの国王様には本当に感謝が絶えない。
もしあの子に謝罪を伝えられたのならば、次はあの国王様に感謝を伝えに行こう。
仮に、シノブに許されたのならば…その日は少しだけシノブが住む素晴らしい王国に長居をしてみたい。
あぁ、「もしも」「もしも」「もしも」「もしも」「もしも」…もしもだらけだ。
それでも願いたい、祈りたい、叶えたい…。 王国を見て歩き、あの小さな王様が何を築き上げたのか。
シノブがどのような友を得るのか。私はこの目に収めたい。
そしてもしまた王国に行くことができたのならば、
今度はシノブとあの王様と、強い記憶に残っていた彼女ら二人に。
何かちょっとした贈り物でもしてみたいな。
あの王様はきっと育ち盛りだ、甘いお菓子なんてきっと喜びそうだ
エステルにメニャーニャ、彼女ら二人はどうだろうか。
糖分などを気にするであろう難しい年頃だからなあ…
そうだな、酸味のある洋菓子かフルーツでも贈ろうじゃないか シノブには…美味しいものもいいのだが、
それに加えて何か形に残るような物をプレゼントしたい。
私は、「虚像である私」だから。紛い物なのだ。実の父親ではない。
だからせめて…そのような私でも存在したことを。
「虚像である私」自身が愛を向けていたことを。
彼女の思い出の中に留めていて欲しいんだ。
あぁ、もう真っ暗だ。暗い昏い…世界が、儚い。
それでもまだ考えることができているのは幸か不幸か。これも心配するだけ無駄だろうか。 あぁ、考えれば考える程、一度は満たされた心が未練で満ち足りなくなってしまう。
考えるのを止めてしまおうか。
それでもシノブの事を想い続けていたい。 会いたいなあ…愛してるよ、シノブ。
-くらいせかい、おわり- ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています