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多ジャンルバトルロワイアル Part.17
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0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 01:10:43.38ID:YQAyD3vj
ここは様々な作品のキャラを使ってバトルロワイアルの企画をリレー小説で行おうというスレです。
みんなでワイワイSSをつないで楽しみましょう。一見さんも、SSを書いたことのない人も大歓迎。
初投下で空気が読めないかもしれない? SS自体あまり書いたことがなくて不安?
気にせずにどうぞ! 投下しなくちゃ始まりません。
キン肉マンのラーメンマン先生曰く「最後に勝負を決めるのは技(SSの質)ではない! 精神力だ! 心だ!」

リレー小説バトルロワイアル企画とは……
原作バトルロワイアル同様にルールなし、特定会場で最後の一人が生き残るまで続くという企画です。
キャラをみんなでリレーし、交わらせ、最後の一人になるまでリレーを行う、みんなで物語を作るスレです。
ここしか書けない、このキャラしか書けないという人も分かる範囲で書けるし、
次どうなるかを期待して次の人にバトンを渡すこともできます。
全ての作品を知りつくてしなければ参加できない企画ではないので、興味が沸いたらぜひ参加を!

詳細ルールに関してはこちらを
ttp://www44.atwiki.jp/tarowa/pages/13.html

〜予約、トリップについて〜

予約する際はトリップをつけてしたらばの予約スレに書き込んでおいてください。
トリップのつけかたは、名前欄に #の後に半角8文字以下、全角4文字以下の好きな言葉を打ち込んで書きこんで。
したらばに予約するのは、「他の人が書いてるから避けよう」という心理を利用し、予約だけして放置することで
企画を妨げる「予約荒らし」という行為を防ぐためです。予約期間は5日(120時間)ですが、
間に合わないからもうちょっと伸ばして!という報告があればさらに2日予約期間を追加(48時間)できます。

したらば(予約などいろいろな時にご利用を)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11918/
wiki(まとめサイトです)
http://www44.atwiki.jp/tarowa
0611 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:02:44.05ID:Kyiok4kb
 

「――――内よりい出て外から現れるもの。
 悪魔ですよ、上田先生――――貴方も狭間偉出夫とご知り合いなら知っているでしょう?
 ルシファーと言いますが、ルイ・サイファーのままで構いませんょ」


最初の二人を誑かし、人類に永遠の罪を背負わせたもの。
赤き蛇・ルシファー。
それこそがルイ・サイファーの正体。

「な、なにを……」
「上田先生、貴方の考えは恐らく限りなく正しい……『かも』しれない」

自らを魔の類だと名乗り、ルイ・サイファーは嘲り笑いを深めながら言葉を滑らせていく。
上田次郎の、本人さえも気づいていないかもしれな事実。
それを突きつけることが楽しくてしょうがないと言わんばかりに。
ルイ・サイファーは語る。

「この世の魔は全て人、人こそが魔の生みの親。
 なるほど、貴方の意見は一理ある。
 かつて破壊神シヴァの使いである『聖獣』を『食用動物』とし、破壊神の信仰を貶めたミレニアム。
 アレも結局は人の信仰こそが我々の力の源であることを突いた作戦だった」

ルイ・サイファーは立ち上がる。
金色に煌めく金髪が棚びき、蛇の舌先の如き赤い唇が動き始める。

「この世の起点は人かもしれない、私はそんな考えも持っている。
 そう、人と人が繋がって世界は生まれる。
 そして、貴方は繋がってしまった……全く別の世界と。
 全てを突き詰めることの出来る貴方が。
 この世の世界の真理を求める科学者である貴方が。
 この世界に、『他の世界』という概念を持ち込んでしまった」

ルイ・サイファーの言葉は止まることはない。
上田次郎は寒気が走る。
明星の暖かさはない。
罪を突きつけ、そして、新たな罪を促す。
人は悪魔に最も近い生き物かもしれない。
しかし、人は悪魔ではない。
ならば、ならばこそ。

「交じり合った世界と世界。
 本来あるべきでなかったものが世界に現れる。
 Butterfly Effect、蝶の羽ばたきが世界の反対で台風を起こすように」

本当の悪魔を前にして覚える感情は。
恐怖以外の何者でもない。

「世界は合わせ鏡です、上田先生」
「……」
「鏡の反射率、あるいは鏡と鏡の間に存在する不可視の小さな粒。
 そういった物が原因で生まれる、不完全な同一の世界。
 そんな鏡の概念である『同一』というものからは生まれるはずでない『変化』が無数に重なり合う。
 そして、ついには全く別の世界へと変わる」

真理を突きつける。
悪魔とはそういうものだ。
人が求めるもの全てを差し出し、人を堕落させる。
0612 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:03:56.22ID:Kyiok4kb
 
「だから、全ての大元は『鏡』なんですよ。
 ミラーワールドという神崎優衣と神崎士郎の世界が『鏡』越しに現れたのも。
 世界樹に繋がるnのフィールドの入り口が『鏡』なのも。
 多くの人間が『鏡』によってハルケギニアに迷い込むことも。
 世界と世界が『鏡合わせ』によって生まれる違いで成り立っているからなんです」

鏡合わせの末に生まれる小さな変化。
その変化の極まりが、奇跡だ。

「光あれ――――そう、初まりは光だった。
 そして、光が存在したからこそ無数の混沌が生まれた。
 光を反射する物質と物質が鏡合わせとなった。
 神は光を求めたのであれば、その自由を認めなければいけなかった」

笑いが深まる。
人は美に惹かれるように、人は真理に惹かれる。
世界のすべてを暴きたくてしょうがない人種が居る。
上田次郎もその一人だ。
そして、突き詰めた真理は、極まった美しさがそうであるように、恐怖を生む。

「魔とは、内よりい出で外から現れる――――貴方の考えは、限りなく正しい。
 これ以上ないほどに我々の存在の本質を捉えている」

ルイ・サイファーの言葉。
人が神話を作り、神を生んだ。
しかし、神は人を生んだ。
鶏と卵の問題。
それは『鶏』という概念を突き詰めれば答えが出る。


「ひょっとすると、『宇宙の大いなる意思』とは――――」


瞬間、ルイ・サイファーの顔から笑みが消えた。


「『神』とは、『人々の意志』なのかもしれない」


時間にすれば、それこそ秒にも満たない一瞬の出来事だっただろう。
しかし、その瞬間に生まれたものこそが目の前の悪魔の真の感情。
翼をもぎ取られる前に感じたものだったのかもしれない。
0616 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:06:00.22ID:Kyiok4kb
 
「可能性ですがね」

再び嘲りを顔に浮かべるルイ・サイファー。
つかつかと窓際から元のソファーの位置まで戻る。
上田はルイ・サイファーに飲まれ、何も口にすることが言えない。
そんな上田へと向かって、ルイ・サイファーはぐいと顔を近づける。
ルイ・サイファーの双眸に魂を飲まれる。

「上田先生、貴方の研究は恐らく実を結ぶ。失敗という形で、最悪の形で。
 しかし、その研究は正しく世界に運ばれる。
 ターミナルというテレポート装置の失敗が原因で訪れた、真の女神転生の世界と同じように。
 あなたの失敗が、正しく世界を導く」

ルイ・サイファーの嘲り。
カオスへの導き。
秩序を破壊し、自由を手にせよ。
蛇の赤い舌が、上田を唆す。

「混ざったんですよ、貴方が。山田奈緒子が消えたことにより、矛盾を埋めるために。
 この世界が他の世界を知ったがために」

上田次郎という真理を求める者が。

「世界と、貴方が、変わったのです」

世界を変えようとしている。

「運命なのか、奇跡なのか。そんなものはどうでもいい。
 しかし、無数の世界は許されるべきなんだ。
 偉大なる我らが主に歯向かってでも、生み出した世界を否定する唯一神を殺さなければいけない」

そして、ルイ・サイファーは。
勢い良く天を仰ぐ。

「この世の何処かで、誰かが思ったんだ」

さながら神に祈りを捧げるように。
大きく手を広げ。
こう、言い放った。


「みんなの『世界』を守らなきゃ――――」


そして、その結果が私なのだと言い残し。
ルイ・サイファーは光の中に溶けていき。
上田次郎の意識もまた途切れていった。
0619 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:07:44.90ID:Kyiok4kb
 
 
   ◆   ◆   ◆


「……」

長い長い気絶から――――あるいは、眠りから覚めた上田次郎。
ルイ・サイファーが片付けていったのか、あるいは、そもそもが夢だったのか。
湯のみはテーブルの上から消え。
ルイ・サイファーが持ってきていた雑誌も消えていた。

「やれやれ、未知など知るものじゃないな」

上田はゴキゴキと音を立てながら首を動かす。
不吉な言葉。
上田が世界を壊す。

「全く、バカバカしい」

そんなこと、あるはずもない。
そもそもとして上田が調べた魔術関係は全てオカルトと結びつかないものだ。
この『悪魔召喚プログラムver上田次郎』にしたって狭間偉出夫の知る悪魔召喚プログラムとは全くの別物だ。
しかし、それでも上田の心の中に生まれた不穏な波は消えない。
上田は不安をかき消すようにテレビをつけた。
最近新調したテレビだ。

「……自衛隊か」

何かの演習のようだった。
上田をも超える立派な体躯の持ち主がインタビューに答えていた。
刈り上げた短い髪と鋭い視線。
見るものにプレッシャーを与える油断ないその姿は朝から見るには少々負担が大きかった。

「ゴトウ……か」

レポーターの言葉に一瞬ビクリとするが、その名前は『後藤』ではなく『五島』。
姿も似ているが決して『後藤』ではない。
あの凄惨な殺し合いから脱出して随分な時間が経っていた。
だが、殺し合いの中の出来事は上田の心に大きな影響を与えていた。

「……山田、あるいは、私の君への想いが明確ならば」

私はもう少し楽になれたのかもしれないな。

上田にとってはそう思うことが、何よりもむず痒かった。
性経験は、確かにない。
だが、恋は幾らでもしたことがある。
だのに、自身の気持ちすらも定かではない。
恋かどうかも。
友情かどうかも。
上田次郎にとっての山田奈緒子とはなんだったのか。
何もかもがわからない。
0622 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:09:15.95ID:Kyiok4kb
 



―――我々とは別の世界とその住人達を見知ってしまった者が――



もしも願いが叶うのなら。



――今後、それら悪魔たちと全くの無関係でいられるだろうか――



奇跡を可能とするのならば。



――別々の世界同士が触れ合うとき――



『神の力』が『人間』上田次郎にも手に入るのならば。



――日常が壊れ、平穏が失われるとき――



この半端な気持ちにも、決着がつくのかもしれない。



――それはいつかやってくる――




 
0624 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:10:47.50ID:Kyiok4kb
  




「……私は、君のことが」






――もしも、ではなく、きっと――






   上田次郎エピローグ


       『IF』


 
0625 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:11:21.28ID:Kyiok4kb
投下終了です
こんな時間にたくさんの支援ありがとうございました
0626創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/03(木) 07:10:31.24ID:T5gAYw9M


もしも上田次郎が傍観者でなくなるのなら…
もしも奇跡を手に入れるのなら…
もしも…ではなくきっと…日常が壊れる日が来る
素晴らしいエピローグでした!
0627創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/03(木) 18:12:56.95ID:q79c4FoW
閣下の言い回しやら雰囲気が実にメガテンぽくてやべえよ
てか確かに
このロワを経てさえ傍観者に徹してきた上田が自ら動き事をなすのなら、いや、なそうとしている時点でそれは大きな変革か
投下おつでした
0628創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/03(木) 22:41:30.17ID:1vmi/Z3C
投下乙
このロワの上田は終始ギャグっぽかったけど、TRICKって時々すごいシリアス差し込んでくるから
「嫌な結果になるかも知れない」っていうこの空気は、TRICKの欝部分を思い出してドキドキする
0629創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/04(金) 00:10:01.12ID:XlzhxrJl
投下乙でしたー
出涸らしの茶w
参加者の生死に合わせて世界が変わる、異なる世界同士が繋がってしまう…
今もそして今後更に世界が大きく変わっていく、
巻き込まれる傍観者だった上田先生が今度は自身が引き金を起こしてしまうかもしれない
そんなIFの不穏な気配がイイ
0630創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/04(金) 17:18:20.44ID:fXOZ5l4k
茶のグレードが上がってくのにふいたw
きっと最後の茶の入れ物にはでっかく「最高級茶葉」と書いてあるに違いない!
0631創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 01:56:42.87ID:+O/SCTcp
ヒーローがゴトウとトールマンの蛮行を止められずICBMが落ち、トウキョウに悪魔が蔓延るのが「真・女神転生」の世界
ヒーローが2人を止め、平和を取り戻すのが「ペルソナ」「デビルサマナー」の世界、つまり「真・女神転生 if」の世界

もし、ヒーローが吉祥寺の高校生ではなく大学教授のおっさんだったら
もし、世界を魔界と繋げてしまった者が、自ら編み出した対抗策で戦いを決意したら
もし、ヒーローの仲間に人類史上最高の叡智が居たら
もし、悪魔召喚プログラムが、無差別にばら撒かれなかったら

世界はどうなるんだろうね
0632創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 10:51:09.14ID:r4w6EK4g
どうでもいいがスティーブン製悪魔召喚プログラムがバラ撒かれてるし
再び魔界と現世が接触することが暗示されてるから
ifは真・女神転生の世界とつながってるんじゃないか?
0634創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 23:10:41.24ID:+O/SCTcp
ペルソナでたまきちゃん(ifの女主人公)出てくるのとゴトウが逮捕されたってニュースが流れるからifには「もしも、東京にICBMが落ちなかったら」っていうペルソナ世界に分岐したって意味も込められてるとか無いとか
うろ覚えだわ
0638創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/12(土) 01:52:17.34ID:+eFcpzUB
そんな事言ったらどの世界も危ないんじゃないかw
平和で安全そうに見える龍騎最終回後の世界も、実は……だし
0640創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/18(金) 11:44:50.41ID:OtJ9AV1P
実はメガテン世界に起こった大破壊は米軍のICBMが原因などではなくて、
一人のアルター使いによって引き起こされたものだったのだ
0642創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/18(金) 13:29:26.53ID:X+TyAXM/
あの空間が特殊だっただけで、北岡がいつでもダン召還できるわけじゃないんじゃね?
0644創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 00:15:11.78ID:uwOuxDlY
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1385131196/
多ジャンルロワ語りやってるよ!
0645 ◆EboujAWlRA
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2014/04/21(月) 02:09:28.17ID:iYuxyfCO
予約は行っていませんが、ゲリラ投下させていただきます

北岡秀一のエピローグです
0647蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:11:48.09ID:iYuxyfCO
 
法廷の一室。
北岡秀一は(あくまで自らの住居のものと比べて)簡易的な椅子に腰掛けていた。
そこで無体な表情のまま、パラリ、と新聞をめくると見飽きた記事が目に飛び込む。
殺人犯の神隠し。
数カ月前に脱獄した浅倉威、その居所を掴んだ機動隊。
発砲もやむ無し、というあまりにも異常な事態。
『そこに浅倉威が居る』
よほどの確信を持って踏み込んだ先。
そこは蛻の殻だった。
当然だ。

浅倉威はバトルロワイアル会場で死んだ浅倉に引きずられるように消えたのだから。

だが、北岡以外にその事実を知るものはこの世界に存在しない。
北岡だって、こんなこと言ったところで誰も信じやしないことはわかっている。
野放しの凶悪殺人犯に怯える市民には申し訳ないが、北岡は親しい人間以外に真実を口にするつもりはない。
世間的には浅倉が生きたまま、しかし、浅倉の被害に会うものは誰も居やしない。
それならそれで良い。

しかし、真実を知らない警察は別だ。
この失態を当然隠そうとする。
だが、人の口に戸は立てられない。
どこからか漏れた情報を元に、警察はここ数日大バッシングを受けていた。

「ゴローちゃん」
「はい、先生」

従うように由良吾郎は北岡の後方に立っていた。
話しかけなければ黙り込んだままだっただろう。
怯えているのではない。
ただ、吾郎がそうあるべきだと思ったから、そうしていただけだ。

「浅倉は、居なかったんだっけ」
「……はい」

五郎は咎められた子供のように肩を竦めた。
死の淵に立たされていた北岡。
もはやライダーバトルはおろか、歩くことすら出来ない身体。
その北岡が残した、浅倉との因縁。
警察に捕まる前に、北岡自身の手で決着をつける。
売られた勝負に北岡が勝てないまま終わるなど、そんなことは吾郎が許さない。
全ての勝負に勝ってこその北岡秀一だ。
だから、ゾルダに変身し、北岡秀一の代理として勝負へと向かった。
そこに、浅倉威の姿はなかったが。

「すいません、先生。勝手なことをしました」

北岡は軽く笑いながら、言葉を続ける。

「別に責めてるわけじゃないよ。
 さっきも話したとおり、別のところで終わっただけだからさ。
 浅倉との決着だってちゃんとつけた、そう、全部終わったんだ」
「……はい」
「吾郎ちゃんも、ありがとね。俺の代わり、だなんてさ」

 
0649蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:13:29.10ID:iYuxyfCO
 
全ては終わった。
浅倉との因縁も。
バトルロワイアルという殺し合いも。
そう、ライダーバトルという殺し合いも。

「……これもただの玩具か」

北岡は小箱――――ライダーデッキを鏡へと翳す。
本来ならばライダーベルトが鏡の中の北岡へと装着される。
そして、まるで鏡の世界こそが真実であるように現実の北岡にもベルトが装着される。
それこそが『仮面ライダー』へと変身するために必要な工程。
しかし、そうはならない。
当然のように、鏡は北岡の有りの侭の姿を写すだけだ。

「何が合ったんですか?」
「うーん……全然わかんない、と言いたいんだけど、本当はわかってる」

なんとなく、北岡自身は理解していた。
ライダーバトルの終わり。
ライダーとミラーモンスターが集めに集めた命の塊。
それが生む奇跡を争う殺し合い。
その終わりの引き金は、自分が引いたことを。

「多分、ライダーバトルの魔法が解けちまったんだろうね。
 神埼の掛けてた魔法が」
「魔法……ですか?」

狭間偉出夫は言った。
『バトルロワイアルと無関係だったはずの者達まで失踪――いや、死亡している』
すなわち。
『全てのミラーモンスターを従えたゾルダが、全てのミラーモンスターを失ったことで』
『ゴルドフェニックスの存在も消失し』
『TIME VENTのカードも消え去り』
『ライダーバトルは、本当に終わってしまった』のだ。

「今の俺は十二時を回ったシンデレラ、ってことさ」

それは『神崎優衣の死』を意味し。
『現実を否定した神崎士郎という精神体の終わり』を意味し。
『秋山蓮の恋人、小川恵里が二度と目を覚ますことがない事実』を意味する。
全ては終わった。
終わりは残酷だ。
良いことも、悪いことも。
終わりは、全てを確定させてしまう。
 
0652蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:15:26.58ID:iYuxyfCO
 
「ゴローちゃん、車、取ってきてよ」
「わかりました……先生」
「ん、なに?」

いつもならば唯々諾々と従う吾郎が、北岡へと言葉を投げかける。
大男の吾郎には似合わず、その言葉は少し震えていた。

「もう、どこにも行かないでくださいね。行く必要なんて、ないんですから」
「……わかってるよ、吾郎ちゃん。行ったでしょ、全部終わったって」

しかし、北岡の言葉に吾郎は納得しない。
どこか拗ねたように顔を歪ませる。
もっとも、それは長い付き合いである北岡にしかわからないほどに些細な変化だが。

「でも、先生は嘘をつきますから」
「まあね」

悪びれもせずに北岡は肯定する。
北岡は、時に意味もなく嘘をつく。
意味のない言葉を口にする。
それが楽しいからだ。
いつもの北岡であることを確信し、吾郎は少し微笑んだ

「……素敵です、先生」

そう言うと、吾郎は部屋から立ち去った。
落ち着いた動きで外へと向かった吾郎を見送った後。
北岡は腰を上げた。

「ごめんねぇ、吾郎ちゃん」

一人になりたかった、できるだけ長い時間。
変わるにしても、あまりにも急すぎる。
変化が大きすぎて、北岡自身どこかついていけていないのだ。

「ほら、俺って嘘つきだからさ」



   ◆   ◆   ◆


 
0654蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:17:21.60ID:iYuxyfCO
 
「……あー、なんか、慣れないなぁ」

空を見上げながら北岡は呟く。
そこに聳えるものはあまりにも眩しい太陽。
黒い太陽も、影の月も存在しない。
暗黒の支配者を連想させるものは、人の天には存在しなかった。
広がる蒼穹と輝く太陽。
そこに不安など生まれるはずはない。

「……秋山蓮、かぁ」

揺れる心の原因はその男のことだった。
別に深い交流があったわけではない。
ただ、チラリ、と新聞に見えたのだ。
『身元不明の自殺者の記事』が。
身体的特徴だけの乗った記事にすぎない。
しかし、それは秋山蓮を連想させるに、十分な――――

「秋山蓮は消えた……城戸と、浅倉は死んだ。
 神埼の奴は腹の奥で抱えていた願いも消えて、みんなみんな絶望の淵」

考えを打ち消すように呟く。
ただ、口にすることだけを目的に言葉を放ち続ける。

「参加者もスポンサーも主催者も放り投げたリングの上。
 バカには見えないベルトを掲げるチャンピオン。
 観客は意味がわからずに呆然とする。
 空っぽのチャンピオン、それが俺」

そこまで言って、プッ、と吹き出す。
前かがみになり、腹を抱えて笑い始める。
一度出た笑いは抑えきれない。
たっぷり三分は笑った後、目からこぼれた涙を拭う。

「あー、恥ずかし。中学生かっての」

自分の言葉が気恥ずかしくなって
そうだ、なんだか最近『らしくない』行動ばかり取ってしまう。
変わった、のだろう。

「変わった、かぁ」

果たして、それは良かったことなのだろうか。
病は消え、今までに抱えていた負の念は不思議と吹き飛んだ。
これこそが本当の北岡であるかのように、偽悪者と呼ばれかねないほどに。
妙な清々しさを当然のように覚えている。
ともすれば、妙な空白を覚えるほどに。
今までの『北岡秀一』を成り立たせていたどこか鬱屈したものがなくなった違和感。
優秀な自分、なのに、自分より長生きする愚図。
人生なんてそんなもんだとねじ曲がっていた。
どこかで、現実に対して卑屈な自分が居た。

「これが変わるっていうことかな」

爽快感と違和感が同時に襲い掛かってくる不思議な感覚。
恐らく、この感覚は時間が解決するだろう。
そして、この広がった場所にはまた別の感情が埋め尽くしてくれるはずだ。
 
0656蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:19:26.94ID:iYuxyfCO
 
「変身!……なんちゃって」

いつものポーズを鏡の前で行う。
恐らく、これももう行うことがない。
だが、それでいいのだ。

変わることもない、そうだ、無理やり変わろうと願うことはもうない。
自分の好きなように、好きな風に、好きな時に変わっていく。
未来は無限大だ。
なんでもできる自分なんだから、なんでもやればいい。
気持ちいいことも後味の悪いことも、いろんなことを贅沢に抱えて行ったらいい。
今の北岡秀一には、それが出来る。

欲望を肯定する、それが人生というものだ。
欲望こそが人の本質で、肯定こそが北岡秀一の本質だ。
病という鎖がなくなって、ようやく、北岡秀一が北岡秀一としてもう一度生きられる。

今の変化への喜びは一過性の感情に過ぎないのか。
スーパー弁護士として動きながら決めるだけだ。
とりあえず、当面は桃井玲子への機嫌取りだ。
立派な大人らしく、立派な恋愛に励んでみる、という腹づもりだ。

「さて、戻ろうかね……吾郎ちゃんも心配してるかもなぁ」

スタスタと元の部屋へと戻ろうとする。
足取りは軽い。
身体も心も、不自然なほどに。
生きる人間は生きる、死ぬ人間は死ぬ。
叶う願いは叶う、叶わない願いは叶わない。
馬鹿みたいに厳しすぎる現実だが、それと折り合いをつけることが生きるということだ。

秋山蓮は――――折り合いをつけられなかったのだろう。
そんな予感があった。
あれは、生きる理由を求める人間だ。
何か必要な物がないと生きていられない人間なのだ。
そんな人間は居る。
恐らく、由良吾郎もそんな人間だ。
北岡のように、『生きているから生きる』、なんて。
そんな生き方が出来ない人間だって存在する。
それを笑うことは出来ない。
あの『騎士』の最後を。
あの『侍』の最後を。

自分と違うから、なんて理由で笑うことは出来ない。

「そうだよな。
 五エ門、ジェレミア……俺は俺で、お前らはお前ら。
 きっと、それでいいんだよな」
 
0657蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:20:16.19ID:iYuxyfCO
 

天に広がる蒼穹。

ちっぽけな自分と、偉大な自分。

両方を感じながら、北岡は歩いて行く。

なんでも出来そうな気分だった。

そうだ、今なら、何でも。

自分を。

世界さえも。


――――変えられてしまいそうなほど。



 
0659蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:21:54.04ID:iYuxyfCO
 

























































北岡秀一が彼女との『二度目』の出会いが訪れたのはそんな時だった。
 
0661蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:23:34.01ID:iYuxyfCO
  
小柄な身体をさらに小さくした少女だった。
短い髪はうなじが見えるほどで、不釣り合いなほど大きなコートを着込んでいる。
一見して奇妙な少女。
北岡を訝しみながら、少し距離を取ろうとする。
あまり関わりあいになりたくないタイプだ。
だが、ちらりと上げた顔にグッと引き込まれる。
整った顔立ちをした少女だ。
現金なもので、少女へと近づいていく。
そして、おあつらえ向きに少女は大きなコートから小さな財布を落とした。

「ねえ、君。これ、落とした――――」

ここぞとばかりに俊敏な動きで財布を拾い、気付かずに通り過ぎていった少女へと声をかける。
余裕のあるところを演出しようとしているのか、ゆっくりと振り返ると。


恐らくたっぷり五メートルは離れているであろうと考えていた少女が。



――――すでに、自身の胸元へと迫っていた。


 
0666蒼穹 ◆EboujAWlRA
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2014/04/21(月) 02:28:10.16ID:iYuxyfCO
 
「――――よ?」

胸元に走る、鋭い痛みと激しい熱。
時間差で走る脳への鈍痛。
理解が追いつかない。
近似の記憶をたどる。
女性に抱きつかれた記憶は数えきれないほどある。
この痛みを、どこかで知っている。
しかし、その二つが結びつかない。
呆けた頭のまま、あまりの衝撃に後ずさろうとすると、追いかけるようにグリグリとねじ込んでいく。

『おいおい、そんなことしなくても女からは逃げないよ』

そんな軽口が思わず浮かんでしまう。
いや、実際に言葉にしようとした。
しかし、うまく言葉が口から出てこない。
そのまま、ズドンと倒れこむ。
北岡の身体の上に少女が馬乗りになった。

「……はあ、はあ!」

本来北岡が漏らすべき激しい息を、自らの上に居る相手が漏らす。
極度の興奮状態にあるようだ。
手には何も持っていない、ただ奇妙な赤いメイクが施されている。
持っていたものは――――武骨なまでに大きな『ナイフ』は。
北岡の胸に生えるように突き刺さっていた。

「……はあ!」
「………………………ああ、ああ、はいはい」

ようやく、北岡は少女の顔を思い出した。
そうだ、この少女は。

「ひ……ひと、ひとでな……!」

あの時、法廷で。
聴衆席に居た。

「この、ひとでなし!」


――――浅倉の被害者遺族の少女だ。


 
0668創る名無しに見る名無し
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2014/04/21(月) 02:28:45.51ID:4681DIvr
支援
0673蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:30:06.68ID:iYuxyfCO
 
「アンタが、あんたが弁護なんかするから……アイツは!」

北岡の優秀な頭脳はすぐに現状を把握した。
つまり、こういうことだ。

「黒を白にするって……なによ、それ……なによ、それ!」

浅倉は死刑になるはずだった。
しかし、北岡はそれを懲役十年にした。
だのに、浅倉は脱獄に成功した。
それでも警察は浅倉の所在を特定した。
と思ったら、浅倉は神隠しにあったように消えた。


「なんで、アイツだけが生きていいのよ! ねえ!」


つまり。


「おかしいでしょ!? 死んで当然でしょ!? なのになんで死なないの!?」


世間的にはまだ。


「全部!全部……!」


『浅倉威』という凶悪殺人者は。


「アンタが悪いのよ!」



――――生きているのだ。


  
0680蒼穹 ◆EboujAWlRA
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2014/04/21(月) 02:31:55.63ID:iYuxyfCO
 
「いろん、なこと……やろう、とか……やらなきゃ、とか……おも……た……ど……」

北岡は、なにかを諦めるように、笑みをこぼした。

「……これ、は……そー、ぞーして、なか……た……ぁ」

北岡は力なくつぶやいた。
懐かしい感覚が戻ってくる。
無力。
歩くことすら困難な状態。
生きることが、できなくなる感覚。
何もかもが消えていき、自分一人になっていく感覚。
淋しさ。
これが。


死。



薄笑いを浮かべながら、涙をこぼし続ける少女の後方を眺めながら。
広がる、広すぎる世界を眺めながら。
人に満ちた世界で。
一人ぼっちで。



――――狭間、あんまり、頑張らなくていいぞ……



蒼穹に、吸い込まれていった。




――――やっぱり、俺って約束は守れないヤツみたいだから、さ……。
0684蒼穹 ◆EboujAWlRA
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2014/04/21(月) 02:32:40.52ID:iYuxyfCO
投下終了です、支援ありがとうございました
0685創る名無しに見る名無し
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2014/04/21(月) 02:34:50.40ID:B790/XSB
ここで終わったああ!?
敢えて死亡表記も何もなくどうとでも捉えれるのが憎い
投下乙です
実に特撮過ぎるエピローグ……
変わった矢先にこれか。北岡が変わっても世間には分からないし、朝倉のことも知られてないからな……
自分の黒までは白にしきれなかったこれも因果か
タイトル時点で嫌な予感はしてたよ、うん
0686創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 02:56:40.03ID:aXGIpgkD
投下お疲れ様でしたー
浅倉の弁護を行ったのが北岡という過去、そして浅倉が世間的には未だ脱走中という扱いにされたことが重なった結果。
そんな考えがふとよぎっていたけどこれもまた一種の因果応報といえなくもない、それでもやっぱり突き刺さる
気になる蓮のことを五ェ門、ジェレミアの生き方と絡めたのもぐっとくる
0688創る名無しに見る名無し
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2014/04/21(月) 07:14:13.43ID:bpAGK6Kg
投下乙
北岡さん…浅倉との決着が付こうが
不治の病が治ろうが大激戦を生き残ろうが
他の人には知った事じゃないもんな
剣を収めようとしていたジェレミアがいたように
復讐しなきゃいけないジェレミアもいたってのを失念してたな…
0689創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 00:24:04.93ID:CLkWXGL0
投下乙です
北岡先生……とてもらしい最後だけどやっぱり生きてほしかったし、焼き肉の約束も守ってほしかった
蓮も死んで、そして誰もいなくなったというところが実に龍騎のエピローグっぽい
0690創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 12:18:56.24ID:IeBADxfw
投下乙です。

世間一般の認識では、北岡は浅倉の唯一の味方だからな。

願いの為に戦った者は、その願いが良かれ悪しかれ、死ぬ。
悲しいけどこれが、龍騎の世界のルールなのよね。
0691名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 16:23:21.25ID:J/UoVONA
柏崎誠人は窃盗犯
0692創る名無しに見る名無し
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2014/04/22(火) 19:02:44.17ID:m2tlxY+/
投下乙
北岡先生…焼き肉一緒に食いに行こうって約束したじゃないですか…
あ、でも狭間がNのフィールドを行き来できる方法を完成させて
北岡先生にサマリカーム使ったらいいんじゃないか
0693創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 19:19:26.44ID:GRIIiTlH
いっそ北岡さんが転生して大人になるまで待ってから焼き肉食いに行くと言う
原作女神転生方針はどうだろう
0694創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 23:23:45.29ID:YUChCtRB
投下乙です
北岡先生いいいいい、嘘だと言ってくれよ……
でもこのSS最後に北岡先生の生死が確定していないところが良い
0695 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/24(木) 22:59:08.18ID:bHYt2Pfc
失礼します
今回のSSですが 終幕――誰も知らない物語 において

> バトルロワイアルに巻き込まれる直前の状況を思い返してみれば、北岡は不治の病に侵されてまともに歩く事も出来なかった。
> そんな中で北岡が姿を消した――それもゾルダのデッキと共に。
> そうなれば、吾郎は北岡を探すだろう。
> 必死になって、躍起になって、血眼になって探すだろう。
> 確かめるまでもない、由良吾郎はそういう男なのだ。

と書かれており本SSで矛盾してしまったので冒頭を修正させていただきました。
0698 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:13:20.85ID:XAVDP9qn
狭間偉出夫と柊つかさのエピローグを投下します。
0699新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:14:24.30ID:XAVDP9qn
 




「れ、レナ……!!」
「狭間さん?
 どうしたんですか?」
「きょ、今日は、ぼぼ、僕と、……!!」
「?」
「僕とっ……その……!」
「そう言えばこれから行きたい所があるんですけど、付き合ってもらえませんか?」
「?!?!!?!!!」

「お、狭間じゃーん。
 そんなとこで突っ立って何してんだ、顔赤いぞ。
 面白い事やってんなら、俺にも一枚噛ませろよなー」
「うっ、うるさっ……っみ……見るな蒼嶋ぁぁあああああアアアアアアア!!!!」





 絡み合った枝。
 新たに生まれた可能性。
 夢物語のような、しかし存在し得る世界の物語。
 ある青年が微睡むようにそれに思いを馳せ、一抹の羨望を抱きながら――静かに顔を上げる。


「あの殺し合いで、多くの者が命を落とした」


 うず高く積まれた瓦礫の山。
 破壊し尽くされたKMFの残骸達に腰掛けて、青年は呟く。
 KMFからは全てのパイロットが脱出しており、彼の声を聞く者は誰もいない。


「けれど死んでいった彼らの『選択』は、確かに僕らの『明日』に繋がっている」


 青年が空を仰ぎ見る。
 快晴。
 ただし照り付ける太陽は僅かに欠けていた。
 天空要塞ダモクレス――この星の人間の数割を消滅させ得る殺戮兵器が、太陽に廃棄されたのだ。
 太陽に飲み込まれていく黒い点を見届けながら、青年はなおも続ける。


「その『明日』が、誰かの不幸で終わる物語だなんて……それでいいわけないじゃないか」


 破壊音も、駆動音も、聞こえない。
 戦争は既に終結したようだ。
 もっとも、この後に何を選択するかは、この世界を生きる人々次第なのだが。


「だから――」


 青年は立ち上がる。
 次の世界へ。
0701新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:15:17.54ID:XAVDP9qn
 新しい扉を開ける為に。


「だから僕は、これからも頑張るよ――北岡」


 多くの犠牲を払い、一つのバトルロワイアルが幕を下ろした。
 だが殺し合いから生き延びた少年と少女の物語は、未だ終わらない。
 彼らが歩みを止め、呼吸を止め、眠りにつくその時まで――物語は紡がれ続ける。

 新たな可能性を得た世界で。
 彼らはそれぞれに、己の道を『選択』する。



 座標X。
 巨大な研究施設で、突然爆発が起きた。
 人的被害はなかったものの施設へのダメージは甚大。
 施設内部は怒号と悲鳴に包まれ、混乱の渦中にあった。

「開発途中のバースデイ、大破!!!
 計画への影響は目下計算中――」
「各員、被害の報告を!」
「同志の安全を確保しなさい!!
 同志を……!」





 それは宇宙のどん底にある、ケタ外れの吹き溜まり。
 この世の中でもとびきりに上等な屑共が集まった、野望と欲望の終着点。
 惑星エンドレス・イリュージョンは、そんな星だ。

「貴方は、兄さんとヴァンを知ってるんですか!?」
「僕の兄さんとヴァンさんを知ってるんですか!?」

 明るい橙色の髪を二つの三つ編みで結った少女、ウェンディ・ギャレット。
 隣りにいるのは元気のいい金髪の少年、ジョシュア・ラングレン。
 バトルロワイアルの参加者、ミハエル・ギャレットとレイ・ラングレンをそれぞれ兄に持つ二人である。
 ウェンディはカギ爪の男に拉致されたミハエルを探す為、ジョシュアはレイの復讐を止める為、ヴァンと共に旅をしていた。

「知っている。
 だが君達が求める情報は渡せない」

 寂れたバーの一角にて、その二人と一つのテーブルを挟んで向かい合い――黒髪の青年は首を横に振った。
 情報屋であるカルメン99を介してウェンディ達に接触を図ってきた青年だ。
 カルメンがセッティングしたこの店で会う事になった彼を、ウェンディは注意深く観察する。
 長く伸びた前髪を時折鬱陶しそうに払う彼は、ジョシュアやミハエルよりも年上、ヴァンやレイよりも下。
 髪で多少隠れているものの、人目を惹き付ける端整な顔立ちだ。
 服装は長く旅をしてきたという言葉通り土埃に汚れていたが、どの地域のものかは特定出来なかった。
 左腕に取り付けた無骨な機械もウェンディには見覚えがなく、用途は不明。
 敵意は感じないが一言で表すなら、変わった青年である。

 黒髪の青年は、ハザマイデオと名乗った。

「どういう意味ですか?
 知ってるのに言えないんですか?」
「『あの三人はいなくなった』と……『命を落とした』と言うだけで、君達は納得するのか?
 僕は彼らが亡くなったという証拠を提示出来ないんだ」
0702新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:15:50.58ID:XAVDP9qn
「そっ……そんな!!」

 座っていた椅子を倒す程の勢いで、ジョシュアが立ち上がる。
 歯を軋ませて睨むジョシュアに対してウェンディは平静を保とうとしていたが、衝撃は小さくない。
 それでも何か聞き出せないかと、話を続ける。

「『命を落とした』って確信出来るだけの情報を、貴方は持ってるんですか?」
「持っているが、渡すつもりはない。
 君達には悪いが対価の問題ではなく、どうしても渡せないんだ。
 期待には応えられない」

 ジョシュアと共に、ウェンディはハザマを強く睨む。
 知っていながら教えようとしないハザマに、怒りすら湧いた。
 忽然と姿を消したヴァン、全く現れなくなったレイ、目撃情報の入らなくなったミハエル。
 同時期に行方を眩ませたと思しき三人に関わる情報は、喉から手が出る程に欲しい。
 しかし睨み合い、怯んだのはウェンディとジョシュアの方だった。
 二人共、修羅場はそれなりに潜ってきたつもりでいた――しかしハザマには太刀打ちが出来ない。
 実力の問題だけではなく、「話さない」という彼の決意を破るのは不可能だと悟ってしまった。

「……それなら貴方は、どうして私達に会おうと思ったんですか?」

 ウェンディが押し殺すような声で尋ねる。
 ジョシュアも一旦落ち着いて席に着き、ハザマの回答を待った。
 確かにハザマはカルメンと接触した際に「ヴァン達の情報を持っている」、或いは「情報を売りたい」と言ったわけではない。
 「ヴァンとレイ・ラングレン、ミハエル・ギャレットに縁のある人物に会いたい」と話を持ち掛けてきただけなのだ。
 ウェンディもその事はカルメンから聞いており、過度な期待はするまいとしていた。
 しかしあの三人の名を知っているという事は――と、そう考えずにはいられなかったのだ。
 それに事実、彼は重要な情報を持っている。
 にも関わらず何も得るものがなかった事に、ウェンディは落胆を隠せなかった。

「伝えられる限りの事は伝えておこうと思ったんだ。
 それに僕の方から、君達に尋ねたい事がある」

 ウェンディはジョシュアと共に肩を落としながら、「何ですか」と続きを促す。
 諦めざるを得ない事は、少々空気の読めないジョシュアも察したようだった。
 露骨に気落ちするウェンディ達に気を遣ってか、ハザマはもう一度謝罪し、改めて問い掛けた。

「彼らが死んだと聞かされても、君達は旅を続けるのか?」





 狭間はカギ爪の男の施設を破壊した後、この二人に会うべきか随分悩んだ。
 しかし結局はヴァンと関わりのある情報屋に接触し、こうして話し合う場を設けている。
 ヴァンがカルメンの名を覚えていなかった為に、彼女に辿り着くだけで相当な時間と労力を払ってしまったのだが。

 実際に会ったウェンディとジョシュアは、案の定落胆していた。
 詳細を全て省かれ、ただ「死んだ」という事実だけを示されたのではこの反応も当然だ。
 しかし何が起きたのか、話したところで理解は得られないだろう。
 そしてそれ以前に、この世界の『外』の話を持ち込む事が、この世界に良い影響を与えるとは思えなかった。

 余計な干渉はすべきではないと思っている。
 施設を破壊したのも結果を先延ばしにする為であり、カギ爪の男の計画そのものを阻止する為ではなかった。

 蒼嶋の代わりに『レナ』が現れた狭間の世界とは違い、この世界にヴァン達の代わりは現れなかった。
 ヴァンとレイの不在により、ウェンディ達がカギ爪の男へ到達するのは遅くなる。
 逆にカギ爪の男達は同じくミハエルを失ったとは言え、すぐに代わりの人材を探し出すだろう。
 そうなれば、計画は止められない。
 「カギ爪の男を止める」という選択肢が失われる。
0704新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:16:48.03ID:XAVDP9qn
 だから狭間は時間を――選択肢作ったのだ。
 カギ爪の男を殺す事、それ自体は可能だが、それを『外』から来た狭間が実行しても意味がない。
 カギ爪の死という結果を押し付けるだけでは、カギ爪の男の計画と何ら代わりがない。
 どうするかは、彼女達自身が決めなければならないのだ。

「彼らが死んだと聞かされても、君達は旅を続けるのか?」

 故に狭間はこの問いへの答えが聞きたかった。
 V.V.を真似るわけではないが、彼らの『選択』を直接確かめたかった。


「「当たり前じゃない(ですか)!!!」」


 今度はウェンディも立ち上がり、二人で叫ぶように答える。
 エネルギーに満ちた二人の姿は、確かにヴァンやレイの記憶の中のそれと一致していた。

「貴方が教えてくれないなら、私達が直接確かめるしかないじゃない!
 何も分からないまま諦めるなんて、絶対に嫌よ!!」
「そうですよ!
 ヴァンさんも兄さんも、僕らが探しに行かないでどうするんですか!!」

 丁寧な口調をやめて捲し立てるウェンディに、ジョシュアが強い調子で同調する。
 ウェンディはミハエルの知る彼女よりも自立していて、自分の力で歩いていける力強さがある。
 ジョシュアはレイが認識していた通り優しすぎる、頼りない面を持ちながら、確固たる芯を持っている。
 狭間は彼らに情報を伏せている事を申し訳なく思いながら、同時に安堵した。
 彼らならカギ爪の男へと辿り着き、そこで改めて『選択』をするのだろう。

「……ありがとう。
 その答えが聞けて良かったよ」

 情報料として相場よりも多めの代金を支払い、狭間は店を後にした。
 向かいの店のショーウィンドウに自らの姿を映し、左腕に取り付けた機械――改造したアームターミナルを操作する。
 店は町外れに位置していた為人通りはなく、他人の視線を気にする必要はない。
 次第にガラス全体が絵の具を混ぜ合わせたような色に変化し、映り込んだ狭間の姿が歪んでいく。

 nのフィールドの研究はまだまだ途中で、ここからどの世界に繋がるのかは狭間にも分かっていない。
 ただ様々な世界を巡るうちに、各世界によって時間の進み方が違う事を知った。
 まだ再会していない仲間は狭間よりもずっと年齢を重ねているかも知れないし、あの頃から変わっていないかも知れない。
 ただ再会の時を待ち、狭間はランダムに世界を回る――それでも、恐怖はなかった。
 “きっと”会えると約束している。 
 例え年齢の差が開こうと、約束は薄れないと信じている。

 人は出会い、別れ、また出会う。
 自分の知らないところでも、その出会いは無数に繰り返される。
 それが時に友情となり、時に戦いとなり、時に絆となって、生きるということを形作っていく。
 互いに生きてさえいれば、再会の時は必ず訪れるのだ。

「行こう、ホーリエ」

 旅立ちを決意した時から変わらない思いを胸に。
 瞬く人工精霊に先導され、狭間はnのフィールドへと消えた。



 199X年。
 狭間が魔神皇となった年であり、軽子坂高校に帰還した年でもある。

 バトルロワイアルからの生還と、新しい生の始まり。
0705新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:17:23.24ID:XAVDP9qn
 全てを覚悟して歩き出した狭間を待ち受けていたのは、イジメではなかった。

『偉出夫君、元気?』
「ああ」
『電話越しでも、嘘は分かるよ』
「……健康だよ」
『レナはそういう話はしていないかな、かな』

 誰も狭間をイジメようとはしなかった。
 「誰もが狭間に怯え、近付こうとはしなかった」。

 犠牲者・行方不明者が出た事で学校関係者は皆事情聴取を受けたが、誰も何も言わなかった。
 「言っても信じて貰えないから」ではなく、狭間による報復を恐れたのだ。
 狭間が何をしたのかは分からなくても、得体の知れない何かを持っている事を誰もが思い知った。
 故に狭間の機嫌を損ねないようにと、皆が一様に口を閉ざす。
 黒井慎二や宮本明といった剛胆な者達も面倒事を避け、何も知らない風を装い。
 唯一白川由美という責任感のある生徒は真実を口にしたが、やはり信じる者はいなかった。

 そして狭間もレナもレイコも、悪魔の存在を公にする事は出来ず。
 警察は狭間の態度や由美の証言から狭間が元凶、或いは元凶の一端であると目星を付けたものの、捜査は進展しなかった。
 狭間の父親も聴取に呼び出され、ただ狭間と父親との距離を一層広げるだけの結果に終わった。

 その後、全てが有耶無耶なまま日常に戻りはした。
 しかし狭間の側からアプローチをしても、周りの人間は皆、話を聞く前に逃げていく。
 狭間を恐れない慎二や明、由美とは少しずつ交流を重ねているが、親しく出来ているとは言えなかった。
 「話してみたら案外良い奴だった」などという話は、殺人鬼には適用されないのだ。

 周囲との仲立ちを申し出てくれたレナとレイコの厚意も、丁重に断った。
 イタズラをした、程度の話ではない。
 「もう反省しているから許してあげて」と誰かが庇ったところで、大きな流れは変えられない。
 それどころか庇おうとした彼女達まで、同じく煙たがられる事になるだろう。
 故にこうして自宅で通話する時以外は、レナ達とは関わらないようにしている。

 イジメも報復もなく、誰もが狭間を視界に入れまいとしていた。
 ただ一度だけ、女生徒から石を投げ付けられた事がある。
 あの一件で親しい友人を亡くした人物だと、狭間は記憶していた。
 狭間が避けなかった石は目に当たった。
 狭間は当たった石が落ちていくのを黙って見送り、「すまない」と改めて頭を下げた。
 だが石を眼球に受けながら痛がる素振りも見せず、平然としている狭間の姿は異様に映ったようで。
 女生徒は悲鳴を上げて逃げていき、以降接触してくる事はなかった。

 要は、結局。
 新たな生を歩み出した狭間偉出夫は、何も変えられなかった。
 世界が変革されても、周囲の環境に対しては相変わらず無力な少年のままだった。
 「話を聞いてくれる人間なんて幾らでもいる」という蒼嶋の言葉はとても遠く。
 劇的な変化も和解も訪れず、現実はただ厳しい。
 季節が巡り、進級してクラスが変わっても、学校全体に伝搬した畏怖はいつまでも払拭されずに残っている。

「こうしてレナ達と話せるだけで、僕には充分だよ。
 初めから何もかも上手くいくとは思っていない」
『……うん……難しいね。
 レナは「このままじゃいけないからもっと頑張ろう」なんて、言わないよ。
 無理をしても、きっと苦しいだけだから』

 頑なになった皆の心は溶かせない。
 皆との間にある断絶を埋める方法は、レナにも見い出せなかったのだ。
 電話の子機を握り締めたまま、狭間は電気の消えた自室の隅に座り込む。
 小さな窓に区切られた夜空は、酷く狭い。
0707新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:17:59.01ID:XAVDP9qn
『……偉出夫君はあれから、気が変わった?
 進学はする?』

 軽子坂高校はごく平均的な私学である。
 エスカレーター式に同系列の大学に進学出来る為、熱心に受験勉強に励む生徒は多くない。
 レナもそのつもりでいる――ただし狭間が外の大学に行くのなら、同じ大学を目指すと言ってくれた。
 しかし狭間は、既に己の進路を決めている。

「変わってないよ、進学はしない。
 一度、この世界を出ようと思う」

 金糸雀から預けられた人工精霊・ホーリエと協力し、狭間は寝食を惜しんでnのフィールドの研究に励んでいた。
 目指すのは、レナとレイコが使っていたアームターミナルをベースにしたシステムの構築。
 高校を卒業する頃には完成する予定だ。

「出来ればこの世界に留まりたい。
 僕はこの世界で何も償えていないし、向き合えてすらいないから。
 だけど――」

 立ち上がり、窓を開けて身を乗り出す。
 住宅街に侵食された夜空はやはり狭かったが、先程までよりはずっと広い。
 生ぬるい風が狭間の頬を撫でていった。

「僕はもっと沢山の世界を見て、沢山の人に会った方がいい。
 今まで見ようとしてこなかった分も、見に行きたい。
 後の人生をどうやって生きていくかは、それから決めようと思う」

 欲しいものが何も手に入らないと言いながら。
 求めて伸ばした手を拒絶されるのが怖くて独り、耳を塞いで目を閉じていた。
 けれどこれからは、自分で道を選ぶ力が、自分で選んだ道を歩いていく力が欲しい。

「その中で、出来る事をやっていくよ。
 他の世界への干渉が良い事なのか、そんな事が出来るのかは分からないけど……そのままにしておきたくはないんだ」

 バトルロワイアルによって多くの世界が歪められた。
 世界の在り方にすら影響するような者達も、大勢命を落とした。
 狭間はその歪みを少しでも減らそうとしているのだ。

『それが偉出夫君の償いなの?』
「いや……単に、僕が嫌なだけだ」

 部外者、赤の他人である狭間が恣意的にその世界の流れに関わる。
 そうして狭間が投じた一石がその世界にどこまでの影響を及ぼすのか、狭間の頭脳をもってしても計算し切れない。
 しかし死んでいった六十一人が生きていれば起きなかったはずの、止められていたはずの悲劇がまかり通るのが嫌だった。
 身勝手で、ただの我儘だと分かっていても。
 自分に出来る事があるならやりたいと思う。

「償いは、この世界に帰ってきてから。
 報いを、受けるよ」

 狭間に殺された人がいる。
 狭間のせいで不幸になった人がいる。
 その人々を差し置いて、狭間が幸せになる事は出来ない。
 狭間偉出夫が仇を焼き殺したように、狭間偉出夫もいずれ誰かに焼き殺されるのだろう。

『因果応報?』
「……そうだよ」
『偉出夫君はそれを、柊さんに対しても言える?』
「………………」
0710新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:19:34.01ID:XAVDP9qn
 鋭く斬り込むようなレナの言葉に、狭間は数秒間沈黙する。
 そして、「言えない」と。
 電話の向こうにかろうじて聞こえるだけの声で答える。

「柊には……幸せでいて欲しい」
『偉出夫君は、人殺しに優劣をつけるの?』

 人を殺した、人を不幸にした自分は幸せになるべきではない。
 だが同じく人を殺した、人を不幸にした柊つかさは、幸せの中にいて欲しい。
 狭間の殺人は悪で、つかさの殺人は善。
 そう言っているようなものだ。

「……そう、だ。
 僕は優劣をつける。
 柊には、選択肢がなかったから」

 つかさの殺人。
 一度目は催眠状態にあった。
 そしてその後提示された選択肢が「殺せ、それが出来ないなら仲間共々死ね」。
 北岡や仲間と生き残る為に「殺す」と選択した結果が「因果応報で不幸になる」では。
 つかさが幸せになる選択肢など、初めから存在しなかった事になる。
 バトルロワイアルに巻き込まれた時点で、つかさは不幸になるしかなかった事になる。

「そんなの、理不尽じゃないか……」

 狭間偉出夫は我儘だった、子供だった。
 自分をイジメる皆が悪いんだと僻み、孤立していた。
 八つ当たりで周囲を傷付けて、自分が被害者のような顔をしていた。
 そんな狭間とつかさが同じ「人殺し」という言葉で括られてしまうのが、苦しい。

「僕と柊を、一緒にされたくない。
 因果応報の報いを受けるのは、僕だけであって欲しいよ。
 僕は……皆を想って、皆といられるだけで、充分だから」
『……そう』

 レナは納得したようだった。
 しかし話がそこで終わっていないような気配を感じ、狭間は黙ってレナの言葉を待った。

『ごめんね、責めたかったわけじゃないの。
 私も、柊さんが幸せになってくれたらいいなって思ってるから。
 悪い事は悪い事としてね』
「そうか……」
『だけど偉出夫君の考え方とは少し違うかな、かな』

 優しい声で語るレナは、狭間を肯定しようとしているのか否定しようとしているのか。
 狭間はレナの真意を掴もうとして僅かに緊張し、子機を握る手を強ばらせた。

『偉出夫君は悪い事をした分だけ、自分に返ってくるって思ってるんだよね』
「……思っているよ」
『でも因果応報にはもう一つ意味があるって、偉出夫君も知ってるよね。
 私より頭がいいんだもん』
「それは……」

 知っている。
 ただ、考えないようにしている。
 自分にそんな資格はないだろうと、思うから。

『因果応報はね。
 善い事をしたら、その分だけ善い事が返ってくるんだよ。
 だって返ってくるのが“いや”な事ばっかりだったら、皆疲れちゃうもの』
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