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多ジャンルバトルロワイアル Part.17
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0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 01:10:43.38ID:YQAyD3vj
ここは様々な作品のキャラを使ってバトルロワイアルの企画をリレー小説で行おうというスレです。
みんなでワイワイSSをつないで楽しみましょう。一見さんも、SSを書いたことのない人も大歓迎。
初投下で空気が読めないかもしれない? SS自体あまり書いたことがなくて不安?
気にせずにどうぞ! 投下しなくちゃ始まりません。
キン肉マンのラーメンマン先生曰く「最後に勝負を決めるのは技(SSの質)ではない! 精神力だ! 心だ!」

リレー小説バトルロワイアル企画とは……
原作バトルロワイアル同様にルールなし、特定会場で最後の一人が生き残るまで続くという企画です。
キャラをみんなでリレーし、交わらせ、最後の一人になるまでリレーを行う、みんなで物語を作るスレです。
ここしか書けない、このキャラしか書けないという人も分かる範囲で書けるし、
次どうなるかを期待して次の人にバトンを渡すこともできます。
全ての作品を知りつくてしなければ参加できない企画ではないので、興味が沸いたらぜひ参加を!

詳細ルールに関してはこちらを
ttp://www44.atwiki.jp/tarowa/pages/13.html

〜予約、トリップについて〜

予約する際はトリップをつけてしたらばの予約スレに書き込んでおいてください。
トリップのつけかたは、名前欄に #の後に半角8文字以下、全角4文字以下の好きな言葉を打ち込んで書きこんで。
したらばに予約するのは、「他の人が書いてるから避けよう」という心理を利用し、予約だけして放置することで
企画を妨げる「予約荒らし」という行為を防ぐためです。予約期間は5日(120時間)ですが、
間に合わないからもうちょっと伸ばして!という報告があればさらに2日予約期間を追加(48時間)できます。

したらば(予約などいろいろな時にご利用を)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11918/
wiki(まとめサイトです)
http://www44.atwiki.jp/tarowa
0002創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 01:11:46.53ID:YQAyD3vj
★キャラクター能力制限★

・シャナ@灼眼のシャナ、C.C.@コードギアスは再生能力を落とす&急所(頭)をぶち抜かれたら即死。
・ルルーシュ・ランペルージ@コードギアスのギアス能力は、「死ね」「殺せ」など、 直接相手や自分の生死に関わる命令は無効。(「死ぬ気で頑張れ」などはあり)
・らき☆すたキャラのオタ知識、ラノベ知識は制限。
・仮面ライダー龍騎キャラのミラーワールドへの侵入禁止。
・ローゼンメイデンキャラのnのフィールドへの侵入は禁止。
・泉新一@寄生獣はミギー付き。
・シャナ@灼眼のシャナの封絶は禁止。
・雛見沢症候群@ひぐらしのなく頃には、まあ、空気読む方向で。

★支給品としてのアイテム制限

・KMF@コードギアスなどのロボ系は禁止。
・仮面ライダー龍騎キャラには、自分のカードデッキを支給品枠2つ分としてカウントして支給。それ以外のキャラに支給される場合は支給品1つの扱い。
・デスノート@DEATH NOTEは禁止。
・サタンサーベル@仮面ライダーBLACKはシャドームーンから没収&世紀王の呼び寄せ禁止。
・カードデッキの変身は10分で解除。
・カードデッキは変身すれば1時間、ファイナルベントを使えば更に1時間使用不可となる。
0003創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 01:13:50.91ID:YQAyD3vj
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ@アニメ】
● ルルーシュ・ランペルージ/ ● 枢木スザク/ ● C.C./ ● ロロ・ランペルージ/ ● 篠崎咲世子/●ジェレミア・ゴットバルト
0/6【ひぐらしのなく頃に@ゲーム】
● 前原圭一/ ● 竜宮レナ/ ● 園崎魅音/ ● 北条沙都子/ ● 園崎詩音/ ● 北条悟史
1/5【スクライド@アニメ】
● カズマ/ ● 劉鳳/ ● 由詑かなみ/○ストレイト・クーガー/ ● 橘あすか
1/5【らき☆すた@漫画】
● 泉こなた/○柊つかさ/ ● 柊かがみ/ ● 高良みゆき/ ● 岩崎みなみ
1/5【るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-@漫画】
● 緋村剣心/ ● 斎藤一/○志々雄真実/ ● 瀬田宗次郎/ ● 雪代縁
1/4【仮面ライダー龍騎@実写】
● 城戸真司/○北岡秀一/ ● 浅倉威/ ● 東條悟
0/4【ルパン三世@アニメ】
● ルパン三世/ ● 次元大介/ ● 石川五ェ門/ ● 銭形警部
1/4【ローゼンメイデン@アニメ】
● 真紅/ ● 水銀燈/○翠星石/ ● 蒼星石
1/3【ガン×ソード@アニメ】
○ヴァン/ ● レイ・ラングレン/ ● ミハエル・ギャレット
0/3【寄生獣@漫画】
● 泉新一/ ● 田村玲子/ ● 後藤
0/3【ゼロの使い魔@小説】
● ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/ ● 平賀才人/ ● タバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン)
0/3【バトルロワイアル@小説】
● 稲田瑞穂/ ● 千草貴子/ ● 三村信史
0/2【相棒@実写】
● 杉下右京/ ● 亀山薫
1/2【仮面ライダーBLACK@実写】
● 南光太郎/○シャドームーン
1/2【真・女神転生if...@ゲーム】
● 男主人公/○狭間偉出夫
0/2【DEATH NOTE@漫画】
● 夜神月/ ● L
1/2【TRICK@実写】
● 山田奈緒子/○上田次郎
0/2【バトルロワイアル@漫画】
● 織田敏憲/ ● 桐山和雄
0/1【ヴィオラートのアトリエ@ゲーム】
● アイゼル・ワイマール
0/1【灼眼のシャナ@小説】
● シャナ

9/65
0009叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:42:48.25ID:jQ2D6Xxu
「それに……まだ俺の命は残ってる」

ゆっくりと立ち上がるクーガー。

「せっかくこうして残ってるんだ、最期の一滴まで使わないと勿体無い」
「何を、何をする気です、クーガー?」
「拳や剣ならともかく、このストレイト・クーガーが蹴りで負けるってのは我慢できねえ」

カズマが拳に絶対の自信を持っているように、クーガーも己の脚に絶対の自信を持っている。
そのクーガーが蹴りで死ぬなど、自らの誇りが許さない。
だから、蹴り返す。
既に生命は風前の灯火、今にも付きてしまいそうな蝋燭と同じだ。
それでも微かに残っているのなら、派手に燃やし尽くすのがストレイト・クーガーの生き様である。

「志々雄の野郎は翠星石が絶対にぶっ飛ばすから、お前はもう休んでろです!」
「そいつは出来ない相談だ、これは俺の我儘だ、やりたいからやるんだ」

視線の先にいるのは、リュウガ――――志々雄真実の姿。
今にも燃え尽きしまいそうだというのに、その双眸は仇敵の姿をハッキリと写している。
身体は死に掛けていても、心はまだ死んでいない。
精神が肉体に及ぼす影響は確かに存在する。
腹に風穴が空こうと、ストレイト・クーガーは己の脚で立ち上がることができた。

「意地があるんですよ、男には」

周囲に散らばる茨や植物、花弁や羽が粒子化し、クーガーの身体に吸収されていく。
クーガーの全身が七色に輝き、砕けた装甲が見る見るうちに修復していった。
己のエゴを貫く力、アルターによる最期の輝き。
流線型の装甲を纏ったクーガーは、クラウチングスタートの体勢を取る。

「受けろよ、俺達の速さを」

踵と背中のブースターを同時に始動。
背中からエネルギーを噴出しながら、両脚で地面を蹴り上げる。
その走りは第一歩目から常に最高速。
あまりの速度に衝撃波を生み出し、それすらも彼方へと置き去りにする。
速さを証明するために、僅かに残った命という燃料すらも振り絞り。
クーガーは音よりも、光よりも、誰よりも速く走る。

「受けてやるよ、お前の速さを」

ゾルダの相手をドラグブラッカーに押し付け、志々雄は天高くへとヒノカグツチを掲げる。
クーガーが全力で仕掛けてくるのなら、志々雄が全力で迎え撃つのも必然。
ヒノカグツチの全発火能力を開放し、深紅色の刀身を紅蓮の炎で燃やす。
炎神の炎は周辺の酸素を燃焼させ、やがて轟々と音を立てながら渦を巻き始めた。

志々雄が剣を振り降ろす。
クーガーが蹴りを繰り出す。
タイミングは寸分の狂いもなく同時。

「終 の 秘 剣 ・ 火 産 霊 神 !!!!」
「瞬殺のファイナルブリットオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――ッ!!!!」

剣と脚が衝突する。
炎と衝撃波がぶつかり合う。
極限まで辿り着いた技同士の衝突は、その他の者を遠ざけるように爆風を巻き起こす。
0014叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:45:29.27ID:jQ2D6Xxu
「フフ……ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

仮面の奥から志々雄の哄笑が木霊する。
ヒノカグツチから吹き荒れる炎により、クーガーの肉体が炎に侵食され始めたことに気付いたのだ。
火産霊神とは相手を炎で焼くのではなく、相手を炎に変えていく技。
だが、この剣はそれすらも超越した。
元来の火産霊神とは違い、この技は全てを炎へと変える。
焼けることも溶けることも許さず、塵や炭も残さず、相手の全てを炎へと突き落とす。
ここに来て、志々雄は究極の秘剣を完成させたのだ。
名付けるのならば、この魔剣に習って『火之迦具土』とでもするべきだろうか。
最速すらも凌駕した炎は、クーガーのありとあらゆる全てを上塗りしていった。

「もう……何もいらない……」

炎の中から声が聞こえる。

「身体も命も全部くれてやる」

肉体が焼失したはずなのに、クーガーの声が聞こえる。

「だから寄越せ……速さを!」

炎の奥が七色に煌きを放つ。
呼応するように炎が揺らぎ始め、やがて煌きの中へと吸収されていく。
志々雄がそれに気付いた時にはもう遅い。
吸い込まれた炎は光の外周を覆うように装甲を形成し、やがて人型のシルエットを完成させた。
そのシルエットが誰かなど、今更語るまでもない。
最速の男・ストレイト・クーガー。

「アルターを進化させやがったのか……!」

ここに来て、彼のアルターは更なる進化を遂げた。
金属から炎へと変化した装甲。
それを身に纏い――――否、今の彼はアルターそのものだ。
彼の肉体はアルターに変換され、炎の魔人としてクーガーはこの世界に存在している。
己の全てを代償に、クーガーは限界を越えたのだ。

「すいませんねェ田村さん、でも一緒に通行料を払ったんだ、特等席でお見せしますよ、文化の真髄をッ!!」

ヒノカグツチの刀身を蹴り、上空へ跳び上がるクーガー。
空中で宙返りをし、足先を志々雄に向ける。
地上で燻っていた炎が舞い上がり、紅色の龍に変化。
龍は荒れ狂うようにクーガーの回りを旋回した後、彼の背後から炎を吹き掛ける。
炎のエネルギーを受けたクーガーは、一気に急降下した。

「これが俺達の速さだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!!!!!!」

そうして、脚と剣は再び衝突する。


 ☆ ☆ ☆
0019叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:47:55.46ID:jQ2D6Xxu
「ケホッ、ケホッ、どうなったです……?」

目を擦りながら翠星石は呟く。
煙が舞っているため、まともに目を開けることすらままならない。
つかさと共に見届けようとしたが、爆発が発生したせいで結末までは分からなかったのだ。

「ありがとう、翠星石ちゃん」
「こ、このくらい翠星石ならお茶の子さいさいです!」

爆発の規模は凄まじく、数十メートル以上離れたところまで余波が飛んできた。
翠星石がバリアを張っていなければ、二人とも吹き飛ばされていただろう。
つかさが感謝の意を示すと、翠星石は恥ずかしそうにそっぽを向く。

「つかさちゃん、大丈夫だった?」

煙の中から現れたのはゾルダだ。
ドラグブラッカーがミラーワールドに避難したため、つかさの安否を確認しに来たのだ。

「はい、翠星石ちゃんに助けてもらいました」
「そっか、一応礼は言っておくよ」
「お前に感謝されても嬉しくねーですよ」
「やな奴。で、あっちはどうなったの?」

クーガーと志々雄が大技同士で衝突したのだから、互いに無事で済むわけがない。
煙の中を寂しげに見つける翠星石。
クーガーは衝突の以前から致命傷を負っていた。
その状態で自らの肉体をアルターに変換し、志々雄と衝突したのだ。
クーガーの命は燃え尽きた。
彼は最後の一滴まで命を振り絞り、速さの先へと旅立っていったのだ。

「ありがとうです」

クーガーが全力で向き合ってくれなければ、自分は決定的な間違いを犯すところだった。
それを自覚しているからこそ、翠星石は感謝の言葉を口にする。

「後は翠星石が頑張るから、お前は天国でのんびりしてろです」

クーガーの死は堪えられないほどに悲しいが、今はそれに浸っていられる状況ではない。
翠星石にはまだやらなければならないことが残されている。
泣くのは全てが終わってからだ。

「あれは……あいつの持ってた剣か?」

煙が流れていき、遠くまで見渡せるようになる。
そうして視界に飛び込んできたのは、地面に突き刺さった深紅色の剣。
志々雄が操っていた魔剣・ヒノカグツチだ。
クーガーに蹴り飛ばされた結果、あそこに突き刺さったのだろう。
それはつまり志々雄が押し負けたという証である。
0022叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:49:11.36ID:jQ2D6Xxu
「あの包帯お化け、死にやがったですか」
「だろうね、これで残ってるのは――――」



「勝手に殺すなよ」



煙の中から声が響く。
その瞬間、周囲の炎が一気に膨張するように猛り始める。
まるで主の生還を喜ぶように、炎は歓喜の産声を上げている。
そして煙が破裂するように散開し、中から現れたのは影の戦士。
仮面ライダーリュウガ・志々雄真実。

「なん、で……」

両腕の手甲は砕け散り、胸部の装甲に大きな穴が空き、強化スーツの至るところが破けている。
デッキにすら罅が入っているが、それでも志々雄真実は生き残った。
クーガーの決死の一撃を受けて尚、志々雄は健在であった。

「理由なんか一つしか無えだろ。俺が強くて、アイツが弱かった。それだけだ」
「ふざけんなです! クーガーは弱くなんかない、負けたのはお前です!」
「生き残ったのは俺だ。死んだ奴は勝者になれねぇ」

クーガーの命を賭した特攻でも志々雄を殺せなかった。
その事実はクーガーの死が無駄死にだと嘲っているようで、翠星石は許容することができなかった。

「お前は私がぶっ倒すです、元はといえば翠星石がお前に手を貸したのが全ての原因、だからこれは翠星石の責任です」

静かに怒りを燃やす翠星石。
ゾルダもつかさを背後へと移動させ、マグナバイザーの銃口を向ける。
一触即発の状況。
誰かが動けば、それが新たな抗争の合図になるのだろう。
一秒、二秒、十秒と経過して、動く者が現れる。

「……揺れてる?」

それは、この空間だった。

空間内がまるで地震が起こったかのように震動している。
その強さは生半可ではなく、つかさはその場に座り込んでしまう。
それでも震動は衰えることなく、時間を重ねるごとに増していく。
唸るような轟音が耳を支配した頃には、ゾルダですらも立っていることができなくなっていた。

「ッ……これは?」

全ての者が辺りを見回す中、轟音の中に奇妙な音が混じり始める。
それに真っ先に反応したのはゾルダだった。
というよりは、ゾルダ以外は反応することができなかった。
志々雄は音の意味を理解できず、翠星石やつかさの耳にはそもそも聞こえていない。
それもそうだろう。
この音の正体を知っているのは、この中でゾルダだけなのだから。
不快感と警戒心を煽られる耳鳴りのような音。
ゾルダと志々雄のみに届いた音の正体は、ミラーモンスターが出現した時の合図だ。
0027叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:51:33.10ID:jQ2D6Xxu
「なにあれ!?」

天上を指差しながらつかさが叫ぶ。
それに応じて全員が上を向くと、そこには奇妙な物体が浮いていた。

大きさはおよそ一メートルほどだろうか。
完璧な比率の立方体であり、六面全てが鏡張りになっている。
しかしその鏡面は、絵の具をぶち撒けたような混色が渦巻いていた。
立方体の正体はゾルダにも分からなかったが、混色の正体はこの場にいる全員が知っている。
nのフィールドへの入り口が繋がっている時のものだ。

「身体が……引っ張られる!?」

しばらく立方体を見上げていると、ゾルダは自身がそれに引っ張られてることに気付いた。
重力に逆らって、ゾルダの身体が浮き上がっていく。
つかさと翠星石は無事だが、横を見ると志々雄の姿が同じ高さにある。
地上に戻ろうとしても、身体が浮き上がる方が圧倒的に早い。
見る見るうちにゾルダと志々雄は立方体に近付いていき、やがてその中へと吸い込まれていった。

「北岡さんと志々雄さんが消えちゃった」

二人が居なくなると震動は次第に小さくなり、天上に浮いていた立方体も姿を消している。
何が起きたのか理解できず、つかさは首を傾げるばかりだ。
翠星石もnのフィールドに吸い込まれたのか等と呟いているが、真実に辿り着くことはできない。
分かっているのは、この場で戦えるのが翠星石だけということ。
そして――――

「最後に残ったのは貴様か」

創世王・シャドームーンは未だに健在だということ。

「つかさ、私の後ろに隠れてるです」

カシャ、カシャとレッグトリガーが上下する足音は、多くの者に絶対的な恐怖を刻み付けてきた。
一般人であるつかさは尚更であり、身体を震わしながら翠星石の背後に隠れる。

「断言してやる、今の貴様が一人で私に勝てる可能性は万に一つもない」

五つのローザミスティカとキングストーンの力を得た翠星石は、本来なら最強の名を欲しいがままにするはずだった。
しかし、今のシャドームーンは創世王の力を我が物にしている。
世紀王と創世王では格が違う。
一度は埋まったはずの力量差が、今は再び開いてしまったのである。

「黙りやがれです」
「ここまで来て力の差すら理解できなくなったか
 キングストーンの力に耐えられず、とうとう頭が触れてしまったようだな」
「んなわけねえです。お前こそ頭がおかしくなったですか?」

シャドームーンの顔を見上げ、翠星石は嘲るように喉を鳴らす。
0033叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:53:37.77ID:jQ2D6Xxu
「お前と私の実力差なんざ百も承知ですよ、それでも翠星石はお前を倒さなきゃいけないんです」
「倒せると思うのか?」
「倒せる倒せないじゃない、倒すんです!
 お前をこのまま放っておけば、きっと全部の世界をぶっ壊しちまうです
 私の世界も、真司の世界も、クーガーや劉鳳の世界も、新一の世界も、つかさの世界も
 そんなの絶対に許さない! お前はここで私が止めるです!」

シャドームーンと翠星石の実力差は明確だが、それはあまりに些末な問題である。
ここでシャドームーンを止められなければ、全ての世界がゴルゴムの支配する地獄に変わるだろう。
ジュンやのりのような罪のない人達が終わりのない苦痛を味わい続けることになる。
そんなことが許されていいはずがない。
彼らを守るためならば、翠星石はシャドームーンと戦う覚悟があった。

「それに、今の翠星石は一人じゃないです」
「なに?」
「私には友達が出来たです……初めての友達です」

背後のつかさに目配せする翠星石。
長い生涯の中、つかさは初めて出来た友達だ。
つかさやその友人達を散々侮辱したのに、一方的に傷つけたのに、つかさは翠星石のことを許してくれた。
そして、初めての友達になってくれた。

「ならば貴様を殺した後で、その娘も地獄に送ってやろう」
「ふざけたこと抜かすのもいい加減にしろですキュウリ野郎。つかさは絶対に私が守るですよ
 もし指一本でもつかさに触れようとしたら、その時は私がお前をぶっ殺してやるですッ!!」

大事な友達を守るためならば、翠星石はシャドームーンを殺す覚悟があった。

「フッ、いいだろう」

シャドームーンがサタンサーベルを構える。
翠星石も庭師の如雨露を取り出し、シャドームーンの翠緑の複眼を睨み上げた。
互いの殺気が交錯し、空気が張り詰めていく。
そして、互いに武器を振り上げた瞬間。

「待てよ」

遠くから、男の声が響いた。


  ☆ ☆ ☆


気が付いた時、北岡と志々雄は白い空間に立っていた。
空間内にあるのは二人の影と空に浮かぶ立方体だけ。
傍に居たはずの翠星石やつかさも、唯一の出入り口だった木製の扉もない。
シャドームーンが抉じ開けた穴や戦闘の痕跡もなく、果てしない白が広がるばかりである。
何が起きたのか理解できず、額に皺を寄せる北岡。
しかし、この空間の正体には薄々感づいていた。
この肌を刺すような空気は、元の世界で自分達が戦い続けてきたミラーワールドのものだ。
0035叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:54:54.93ID:jQ2D6Xxu
「ここが『みらーわーるど』か、殺伐としてて俺好みの場所だ」

志々雄も正体に気付いたのか、興味深そうに辺りを見回している。
ミラーワールドは鏡写しの世界であり、全ての物体が現実と反転している。
だが元の空間が何も無かったため、大きな変化は見当たらなかった。

「で、これはおたくの仕業なわけ?」
「いや、いくら俺でもここまで大それたことは”まだ”出来ないさ」

理解不能な状況に追いやられたにも関わらず、志々雄は楽しそうに笑っている。
その態度から浅倉が連想され、北岡は不愉快そうに顔を歪めた。

「だが、この原因ならもう検討が付いてるぜ。おそらくアンタもじゃねえか?」
「……多分だけどね」

ずっと考えていた可能性だった。
最初に気付いたのは、名簿に東條の名前を確認した時。
死んだはずの彼の名前を見て、北岡はふと疑問を覚えた。

――――ライダーバトルはまだ有効なのではないかと。

東條――――タイガは脱落したはずなのに、どうして殺し合いに参加しているのか。
デッキが支給されていない可能性も考えたが、後にタイガに変身していたことが判明している。
他にもシザース、インペラーといった脱落者が復活しており、さらに神崎士郎の奥の手だったオーディンも主催が掌握している。
奪い取ったにしては、手が込み過ぎているのだ。
ここで脳裏を過った可能性。
もしかしたら、ライダーバトルそのものを主催が乗っ取ったのではないか。
考えれば考えるほど、この可能性は北岡の中で膨らんでいく。

そして、この可能性は正解だった。
バトルロワイアルの影に隠れて、もう一つのバトルロワイアルが進行していた。
十三人の仮面ライダー同士による殺し合い。
カードデッキが支給された表向きの理由は、誰にでも優勝の可能性を持たせるためだ。
特殊な才能や経験が無くても強大な力を身に纏えるカードデッキは、参加者間の差を埋めるのに絶好の道具だった。
だが、表があれば裏がある。
カードデッキが支給された理由はもう一つあった。


六十四人の消滅と引き換えに、あらゆる願いを叶える自在法・【バトルロワイアル】
これによって殺し合いは管理されていたが、物事には想定外の事態が付き纏うものだ。
自在法が打ち破られ、願いを叶えられなくなってしまうかもしれない。
そういった事態に陥った時の対策として、V.V.は予備の手段を用意していた。
それこそがカードデッキであり、これらが支給された裏の理由である。
他のライダーが全滅した時、最後に残ったライダーは願いを叶えることができる。
奇跡を起こすための手段として、V.V.はカードデッキを支給していたのだ。
主催側がオーディンに加えてガイとライアを保有していたため、本来ならばライダーが最後の一人まで減ることはない。
万が一の事態が起こった場合のみ、これらのデッキを解放する予定だった。
しかし、物語は想定外の方向に進んだ。
鷹野がオーディンを持ち出し、V.V.と観柳がガイとライアに変身した。
予期せぬ形で全てのライダーが盤上に上ることになったのだ。
0038叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:55:53.89ID:jQ2D6Xxu
「あの鏡は最後の戦いに邪魔が入らないよう、ミラーワールドの中に俺達を隔離したって所だろうな」

白い空間内に突如として現れた立方体の名はコアミラー。
ミラーワールドの力の源であり、謂わば核のようなものである。
今に至るまで、コアミラーはラプラスの魔が作った空間に安置されていた。
だが彼の死で空間が不安定になったところで、クーガーと志々雄の衝突が時空間を大きく歪めた。
その結果、コアミラーはライダー達のいる場所へと辿り着くことができたのだ。

そもそも何故V.V.はカードデッキを選んだのか。
その理由はそれらの技術の根底に兄弟愛があったからだ。
ミラーワールドが開かれた理由は、神崎士郎が神崎優衣を救うために他ならない。
たった一人の妹を救うために全てを犠牲にする覚悟をもった士郎に対し、V.V.は深い共感を覚えた。
兄弟愛を最も美しい関係と考えるV.V.にとって、士郎はとても安心できる存在だった。
だが、士郎は最終的に妹を救うことを断念した。
V.V.は不満を覚えたが、それも士郎の選んだ道だろう。
これにより彼の世界とミラーワールドの関係は途絶え、ミラーワールドは放置されることとなった。
それをV.V.が再利用し、バトルロワイアルの中に組み込んだのだ。

「もう俺達以外にライダーは居ないようだな」
「つまりは俺かアンタ、生き残った方が最後の一人ってことだな」

北岡秀一――――仮面ライダーゾルダ。
志々雄真実――――仮面ライダーリュウガ。
生き残ったどちらかが己の欲望を満たすことができる。
この戦いはそういうものだ。

「戦いを降りたはずの俺が残っちゃうなんて、何の因果だろうねえ」
「そのまま脱落しても構わないぜ」
「いや、悪いけど、遠慮しておくよ」

困ったように溜息を吐き、北岡――――ゾルダは志々雄――――リュウガへと向き直る。

「ライダー同士の戦いとかは関係なしに、お前は倒したいと思ってたからね」
「アンタに怨みを買う真似をした覚えはないんだがな」
「ランスロットの件、忘れたとは言わせないよ」
「あの死に損ないの復讐ってか、随分と仲間思いじゃねえか」
「復讐? 馬鹿言うなよ、嫌いな奴のためにわざわざそんなことしないさ」

出会った当初からジェレミアは生きることを諦めていた。
そんな奴に背中を預けられないと叫んだが、彼が聞き入れることはなかった。
生き残るために戦うと言って、最後は勝手に死んでいった。
つかさを悲しませないと言ったのに、彼女を動けなくなるくらい悲しませた。
そんなジェレミアが、ゾルダはずっと気に入らなかった。

「馬鹿だよね、アイツ。死んだら終わりだってのにさ」
「アンタとは気が合いそうだな、命を投げ捨てるのは阿呆のすることだぜ」
「ジェレミアも、五ェ門も、城戸も、次元も、蒼嶋も、ヴァンも、クーガーも……
 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだよ、命を何だと思ってるのさ」

自分の命以上に大切な物などない。
命とはたった一つの宝であり、どんな欲望もこれを対価とすることはできない。
金も、権力も、女も、命があるからこそ価値を持つ。
それを分かっていない奴は、命を対価にしてしまう奴は、どうしようもないほどに馬鹿なのだ。
0043叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 01:59:14.00ID:jQ2D6Xxu
「でも、俺やお前よりはマシな人間だ」

だが、その馬鹿は少しだけ眩しかった。

「いや、お前とも比べられたくないかな。正真正銘のクズのお前とはね」

多ジャンルバトルロワイアルのホームページにより、ゾルダは志々雄の情報を得ている。
そこに書き連ねられていた数々の悪行を見て、ゾルダは吐き気を覚えた。
弱肉強食を理由に人々を蹂躙する志々雄は、正真正銘の悪党である。

「お前が願いを叶えたら世界は滅茶苦茶になる、だから俺は死ぬわけにはいかない」
「アンタも弱肉強食の理に納得できない口か、聡明に見えたがどうやら買い被りだったようだな」
「いや、この世は弱肉強食だと思うよ。だから俺達みたいのがいるんだ」

ゾルダの言葉の真意を計りかねているのか、リュウガは言葉を返さない。

「弁護士ってのは弱い奴の味方なんだよ」

マグナバイザーの銃口をリュウガへと向ける。

「ああ、明治時代にはまだ弁護士って居なかったっけ」
「似たようなのはいたさ」
「そう。お前に今度会ったら言おうと思ってたんだけどさ、二十八にもなって世界征服とか恥ずかしくないの?」
「いい年してスーパー弁護士を名乗ってる爺には言われたくないな」
「俺より百年以上も昔の土人がなに言ってるのさ
「そういやお前を倒したい理由を言ってなかったよね。一言で言うとな、気に入らないんだよ、お前」
「ハンッ、テメエにどう思われようが興味はねえが、その程度の力でこの俺に勝てるつもりか?」
「お前こそ、そんなにボロボロで大丈夫なの?」

リュウガの全身はクーガーの一撃で大きく傷付いている。
一方でゾルダの負傷は皆無に等しく、戦闘を始める前から大きな差が付いていた。

「テメエを相手にするのはちょうどいいハンデだと思ったが、そう言うならこいつを使わせてもらうぜ」

デッキから一枚のカードを抜き取るリュウガ。
そのまま見せつけるように掲げると、彼の周囲を疾風が吹き始める。
彼の手にあるのは、ナイトが所持していた疾風のサバイブカード。
ナイトのデッキが破壊された際に失敬していたのである。
変化した召喚器にカードを放り込むと、リュウガを覆うように竜巻が発生。
それが収まった時には、リュウガは再びサバイブ形態へと進化していた。

「もう一度聞いてやる。お前如きの力でこの志々雄真実に勝てるつもりか?」

刺のように鋭利な装甲を纏い、リュウガは言い放つ。
ヒノカグツチは無くとも、禍々しいまでの実力は健在だった。

「そのつもりだよ」

リュウガとの実力差など百も承知である。
だからこそ、ふてぶてしく笑う。
力で負けている上に気持ちでも負ければ、それこそ完全に勝ち目は無くなってしまう。
今でこそ落ちぶれてしまったが、ライダーバトルが始まった頃のゾルダは他のライダーを圧倒していた。
あの頃のゾルダに戻ることができれば、リュウガを撃破することができるかもしれない。
だから、今だけは仮面を被る。
ゾルダの仮面をきつく被り、目の前のライダーと戦う。

「ならその過剰過ぎる自信ごと斬り殺してやるよ」

最後のライダーバトルが幕を開ける。
0047叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:01:08.78ID:jQ2D6Xxu
  ☆ ☆ ☆


気が付いた時、男は教会の中に居た。
石造りの堅牢な建築であり、眩い太陽すらも屋根が遮っている。
壇上へと敷かれた赤い絨毯の上に男は立っていて、隣には純白のドレスを着た女がいた。
誰なんだろうと考えるが、思い出すことはできない。
気まずくなって顔を逸らすと、周囲に配置された長椅子が目に入った
一定間隔で配置されているそれには何人かの人達が座っている。
壇上から見て手前の席に座っているのは、夫婦と思われる一組の男女。
長い金髪に和装の男と、寄り添うように座っている短髪の女だ。
絨毯を挟んで隣の椅子に座っているのは、和服を着た十代と思われる姉弟。
姉の方はもう大人だが、逆に弟はまだまだ子供である。
面倒臭そうに座っている弟を、姉が宥めているのが印象的だった。
彼らの後ろの椅子では、二人組の青年が談笑している。
友人なのだろうか、二人はとても仲が良さそうだった。
そして、一番後ろには男と女が一人ずつ座っている。
一人は立派な髭を蓄えた中年の男性。
もう一人は明るい黄緑色の長髪をした若い女だった。

ここに来て、彼は結婚式の途中だったことを思い出す。
自分は新郎で、隣にいる女は新婦。
女が着ていたのはウェディングドレスで、椅子に座っている人達は来賓だ。
世界一愛していて、何よりも夢中な女。
そんな女と、自分は結婚する。
幸せの絶頂にいる自分達は、これから永遠の愛を誓い合うのだ。

女の歩調に合わせて、ゆっくりとヴァージンロードを歩いていく。
すると椅子に腰掛けていた人達が一斉に拍手を始める。
無数の拍手が贈られる中、男と女は壇上へと歩き続ける。
周囲の人々は何処かで会ったような気がしたが、ハッキリと思い出すことはできない。
会ったことがあるという認識だけが、ぼんやりと頭の中を渦巻いていた。

ついに壇上へと辿り着く。
身体をくるりと返し、座席を見渡せるように立つ。
後は互いの指輪を交換し、誓いのキスをするだけだ。
薬指に嵌めていた指輪を外した男は、隣にいる女と向き合う。
0050叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:03:00.89ID:jQ2D6Xxu
「……おい」

向き合って、気付かされる。

「なんでそんな顔してるんだよ」

女がとても悲しそうな顔をしていることに。

お嫁さんというのは、幸せで幸せで幸せの絶頂の時になるものだ。
だが、今の女は違う。
幸せの絶頂にいるはずの人間は、こんな悲しそうな顔をしない。

「分かってるよ、分かってるって、これは夢なんだろ」

とっくに気付いていた。
エレナは死んだ。
■■■■は死んだ、ガドヴェドは死んだ。
レイは死んだ。シノは死んだ。縁は死んだ。巴は死んだ。光太郎は死んだ。信彦は死んだ。
死んだ奴は蘇らない。
だから、これは夢なのだ。

「……これは」

エレナが持っていたのは蛮刀だった。
エレナが遺した形見であり、自分の復讐を手伝ってくれた愛刀。
まだ戦えと言うつもりなのか。
せっかく用意したタキシードは血塗れになり、身体はボロボロな上に右目は欠けてしまっている。
もう、十分だろう、休ませてくれ。
そんな弱音を漏らそうとして、男はぐっと飲み込んだ。
まだ何も終わっていない。
シャドームーンとの決着も付けていないし、カギ爪の男を殺していない。
男の旅はまだ途中なのだ。

男はエレナを愛した。
エレナは男を愛した。
馬鹿で無鉄砲で乱暴で一途な男を、エレナは愛したのだ。
だから、男が自分を裏切るわけにはいかない。
自分を裏切るということは、エレナを裏切るということだからだ。

「悪いな、心配掛けた」

男は蛮刀を受け取ると、教会の出口へと進んでゆく。
夢は所詮、夢なのだ。
いつかは必ず終わりが訪れるのである。

「いってらっしゃい、ヴァン」
「ああ、いってきます」

そして、男は夢から醒める。


  ☆ ☆ ☆


「……ヴァン」

背後に現れた男を見て、翠星石は呆けたように呟く。
彼の傷は相当深く、そのまま死んだと思っていたからだ。
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2013/10/10(木) 02:05:37.94ID:jQ2D6Xxu
「まだ生きていたか」

傷だらけのヴァンを見て、シャドームーンはゴキブリのようだと評する。
つかさによって応急処置は施されているが、それでも完治には程遠い状態だ。
それなのに、ヴァンは敵意を剥き出しにしている。
ここまで傷付いて尚、ヴァンの瞳の中の炎は消えていなかった。

「いや、もしかしたら死んでたかもしれねえな」

先程見たばかりだというのに、夢の内容はハッキリと思い出せない。
多分、幸せな夢だったのだろう。
そのまま夢を見続けていれば、ずっと幸せなままだったのかもしれない。

「でもな、まだ何も終わっちゃいないんだ」

しかし、ヴァンは目覚めた。
目覚めたということは、夢の中の自分はそれを選んだのだろう。
だったら、突き進むだけである。
そもそも夫婦というのは、幸せも悲しみも分かち合うものだ。
夫が一人で幸せになるなど、妻に対する最大限の裏切りである。

「だったら死んでる場合じゃねえだろうがあああぁぁぁッ!!!!」

だから、ヴァンは吠えた。
全身を激痛に支配され、血液は足りず、視界は半分欠けている。
目の前に立ちはだかるのは創世王・シャドームーン。
ナイトのデッキは破壊され、彼に残された武器は一振りの剣だけ。
絶体絶命、しかし問題はない。
彼が持っているのは、世界で一番愛している人から託された剣なのだから。

「そうか。ならば二度と生き返らないように八つ裂きにしてやる」

距離を詰め、ヴァンへと斬り掛かるシャドームーン。
だが、その脚はすぐに止まった。
地中から伸びた無数の轍が絡み付き、シャドームーンの動きを阻害しているのだ。

「また貴様か、何度も何度も目障りな傀儡だ」
「お前を倒せるなら、何度だって繰り返してやるです!」

シャドームーンが強引に踏み出すと、轍は簡単に引き千切られてしまう。
それでも一秒だけシャドームーンを足止めできた。
背後を振り返る翠星石。
そこには蛮刀を握り締めたヴァンの姿があった。
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2013/10/10(木) 02:07:45.70ID:jQ2D6Xxu
チリン、と音が鳴る。

蛮刀の鍔から切っ先に掛けて青色の電流が迸り、刀身に円形の穴がいくつも開いていく。
天空を仰ぐように蛮刀を掲げ、袈裟懸けに一閃。
腰を下ろし、逆袈裟に一閃。
綺麗に繋がった剣筋は、空中にV字の軌跡を描く。
それは剣を呼び寄せるための合図。
本来なら封印されていたはずの行為だ。
一個人が運用する兵器としては強力過ぎるため、ギアスによってそれは禁じられていた。
しかし、ギアスは決して万能ではない。
クーガーが、後藤が、翠星石が自力で破ったように、ヴァンも絶対遵守の力に打ち勝ったのだ。

天が鳴き、地が動く。
次元を越え、空間を突き破り、神は裁きが飛来する。
天空の白を切り裂き、地面へと突き刺さる剣。

その剣の名は――――ダン・オブ・サーズデイ。

「ロボット……?」

背後に現れた鋼鉄の巨人を見て、翠星石は呆気に取られている。
オリジナル専用ヨロイの一機、ダン・オブ・サーズデイ。
全てのヨロイの開祖であり、刀を武器として戦う機体。
胸や脚を白い装甲が覆い、その隙間から黒い身体が見え隠れしていた。
それがヴァンに残された、正真正銘最後の剣だ。

ヴァンが何処に居ようとも、呼び寄せれば剣は駆け付ける。
例えここが世界の片隅に捨て置かれた小さな空間だとしても、だ。
王が己の騎馬を呼び寄せることができるなら、騎士が己の剣を呼び寄せられるのも当然だろう。

「ヴァン……」

いつの間にかダンの胸部へと移動しているヴァン。
胸部の装甲が床のように開き、その上に彼は立っているのだ。

「何の用だ」
「そ、その、翠星石が色々と迷惑を掛けちまったです。だから……ごめんなさい」

あからさまに不機嫌そうなヴァンの態度に、翠星石は意味もなく怯えてしまう。
しかし、それでも彼に謝罪しなければならなかった。

「……俺よりももっと謝らなきゃいけない奴がいるだろ」

それだけ吐き捨てると、ヴァンは視線をシャドームーンへと据える。

「それが貴様の本当の力か、面白い」

自らの何倍も巨大なロボットと対峙しても、シャドームーンに動揺や畏怖はない。
創世王は全世界を支配する存在。
頂に立つ者は、大衆の前で定期的に虎を殺して見せなくはならない。
逆らう者は圧倒的な力で叩きのめし、二度と歯向かう気が起きないように屈服させる。
そうすることで自らに刃向おうと思わせる馬鹿が出ないようにするのだ。
倒す相手が強ければ強いほど、その効果は上がる。
故にどんな強者が相手になったとしても、王は真っ向から捻じ伏せなければいけないのだ。

「行くぜ」

ヴァンは蛮刀を逆手に持ち替え、G-ER流体で構成された床へと突き刺す。
開いていた穴が塞がり、右手と蛮刀の柄が一体化。
胸部の装甲が閉じると同時にヴァンを機体の奥へと送り込み、薄暗い青色で彩られたコックピットを形成する。
0062叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:09:30.10ID:jQ2D6Xxu
「Wake Up! ダン!」

彼の合図により、一面の青は輝かんばかりの白へと変化する。
機体の黒い部分はG-ER流体の青に点滅し、それが収まると共にダンの目は赤色に染まった。

「掛かって来い、捻り潰してやる」

勢いよく刀を振り上げ、そのまま垂直に振り下ろすダン。
サタンサーベルを横に構え、剣撃を受け止めるシャドームーン。
たったそれだけのやり取りで、想像を絶する衝撃をもたらす。
地面は陥没し、粉塵が舞い散り、烈風が巻き起こる。
だが、それでも互いに微動だにしない。
己の剣に力を込め、全力で鎬を削り合う。
人間の何倍もの体躯を持つダンは、その大きさに見合った力を持つ。
それを相手にして尚、シャドームーンは互角に渡り合っていた。

「それで全力か、創世王さんよ」
「減らず口を叩いている余裕があるのか?」

空いている左腕を掲げ、シャドービームを照射するシャドームーン。
狙いはコックピット。
操縦者を直接潰した方が手っとり早いと考えたのだ。

「あるから言ってんだろ」

しかし、シャドービームは届かない。
コックピットに到達する寸前、白い障壁によって阻まれる。
メッツァとの戦いで会得した電磁シールドを展開したのだ。
シャドービームにエネルギーを割いたことで剣を握る力が弱まり、それが一瞬の隙となる。
その結果ダンの力が上回り、シャドームーンの身体を巨剣が押し潰した。

「シャドームーンさんを倒した……?」
「あの程度で倒れるなら、とっくの昔に翠星石がボコボコにしてるですよ」

翠星石が解説した瞬間、粉塵の中から翠緑の光線が伸びる。

「人形のように障壁を張ることが出来たか、下等な虫共の考えることは同じだな」

粉塵の中から現れたシャドームーンに目立った外傷は無かった。
自身の何倍もの大きさの剣に押し潰されたにも関わらず、シャドームーンは致命傷には至らない。
それどころか即座に反撃を仕掛けてくる始末だ。

「テメエの方がよっぽどゴキブリだぜ」

皮肉を吐きながら、ダンは再び刀を構える。
シャドームーンもその双眸でダンを見据え、静かにサタンサーベルを突き出す。
轟音が再び鳴り響く。

「つかさ、一端離れるですよ!」

二人の激突は衝撃波を生み、周辺一帯に甚大な被害をもたらしていた
翠星石はバリアでそれを遮るが、彼らの激突は何度も何度も続いている。
翠星石には問題なかったが、つかさは身動きを取ることができない。
黒翼から龍の顎を伸ばし、その場に立ち尽くしているつかさを呑み込む。
間髪入れずに翼を広げ、衝撃波の届かない地点まで飛行する。
一度体勢を立て直す必要があると判断したのだ。
0066叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:11:26.10ID:jQ2D6Xxu
「ごめんね、やっぱり戦うことになると役立たなくて……」
「バカ! つかさがそんなこと心配しなくていいんです!」
「でも……」

二人が剣を打ち合う度に、爆発でも起きたのかと勘違いするような音が轟く。
衝撃波は届かなくても震動は伝わり、まるで断続的に地震が起きているかのようだ。

「……それなら、私と契約してくれますか?」

少しの間悩んだ後、翠星石はその言葉を口にする。
先程シャドームーンを足止めした際、翠星石は数秒は稼げると考えていた。
だが、轍は一瞬で引き千切られてしまった。
志々雄との契約を破棄したことで、茨が轍に戻ってしまったからだ。
今のシャドームーンを相手にするには、キングストーンとローザミスティカだけでは力不足である。
人間と契約しなければ、シャドームーンと渡り合うことはできない。
たった一度のやり取りだが、翠星石はそれを痛感していた。

「うん、私が役に立つなら力を貸すよ」
「ちょっ、いくらなんでも早過ぎですよ! ちょっとは悩まないのですか!?」

悩む素振りを見せず即答するつかさ。
翠星石にとってはありがたいが、あまりの即答ぶりに拍子抜けしてしまう。
こんな簡単に人を信用してしまって、この人間は大丈夫なのだろうか。

「だって、翠星石ちゃんが必要だと思ったんでしょ?」
「確かにそうですけど……。
 お前を見てると、コロッと騙されないか不安になるです」
「ううん、翠星石ちゃんはそんなことしないって信じてるから」

屈託のない笑顔を浮かべ、つかさは翠星石の瞳を覗き込んでくる。
数秒の間、彼女達は互いを見つめ合う。
しかし恥ずかしくなったのか、翠星石は顔を熟れた果実のように赤く染めてそっぽを向いた。

「そそそそそそんな目で翠星石を見んなです! さっさと契約をするですよ!」
「う、うん。でも私はどうすればいいの?」
「この指輪にキスしやがれです」

左手を差し出す翠星石。
その薬指には薔薇の装飾が施された黄金の指輪が嵌められている。
キスと聞いてつかさは頬をほんのりと赤くするが、やがて決心したように指輪にくちづけをした。

「熱っ……」

翠星石の指輪が緑色に輝き、共鳴するようにつかさの左手も光に包まれる。
その光が収まった時には、つかさの薬指に鮮やかな緑色の花弁に彩られた指輪が装着されていた。
0069叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:14:16.39ID:jQ2D6Xxu
「力が……力が溢れてくるですよ……」

胸の前で手を組み、翠星石は目を瞑る。
するとその身体は様々な色の光に彩られ、まるで翠星石を祝福するように交じり合う。
翠星石の身体から溢れているのは、キングストーンの強烈過ぎる閃光ではない。
彼女の内側で眠る姉妹達の魂が放つ優しい色合いの光だ。
正規の手順で契約を結んだことで、翠星石の力は格段に強くなっている。
いや、それだけではない。
かつて水銀燈が蒼星石のローザミスティカを強奪した時、彼女の身体になかなか馴染まないという現象が起きた。
今の翠星石に起きているのはその逆。
ドールと媒介者が心の底から信じ合ってるからこそ、この輝きは生まれているのである。
兄貴分から力を託され、信じ合える友を得て、翠星石は本当の強さを取り戻した。

今の翠星石はキングストーンすらも乗り越える。

「じゃあ、行ってくるですよ」

お互いに笑い合い、翠星石は戦いへと戻る。
その足取りは何処までも軽かった。

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

埒が明かないと判断したヴァンは、刀を分割して二刀流に持ち変えていた。
一撃は軽くなった分、手数が増している。
これで有利に事が運ぶと考えたが、シャドームーンはその上を行っていた。
一方の刀をサタンサーベルで受けつつ、もう一方の刀は格闘でいなし、隙を見せれば即座に反撃を行う。
シャドームーンの一撃は、ダンの頑丈な装甲すらも容易く破壊する。
煉獄を相手にした時のように、身長差など物ともしていない。
形勢はシャドームーンに傾きつつあった。

「貴様の力はその程度か、口ほどにもない」

頭上に迫る刃を最小限の動きで避け、カウンターの要領でシャドービームを発射する。
電磁シールドを展しようとするが間に合わず、シャドービームは左肩の装甲に着弾。
大きな爆発を起こし、その周辺を抉り取るように粉砕した。
シャドームーンの翠緑の双眼には、ダンの弱所がハッキリと映っているのである。
それだけではない。
マイティアイは相手を解析し、その全てを白日の下に曝す。
相手の一挙手一投足が情報であり、シャドームーンの改造された脳に収集されていく。
初撃では有効だった電磁シールドも、今は強度や発動までの時間が把握されてしまっている。
長期戦になればなるほど不利になっていくのだ。
0073叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:16:03.00ID:jQ2D6Xxu
「なら、これならどうだ!」

背中のブースターを駆動させ、上空へ飛び上がるダン。
そのまま二本の刀を一本に戻し、加速をつけて急降下しようとする。
だが、シャドームーンは同じ高さまで跳び上がってきた。
レッグトリガーの超振動による脚力を用い、ダンと同じ高度まで跳躍したのだ。
地上からおよそ百メートル。
シャドーチャージャーが明滅し、サタンサーベルの刀身にエネルギーが集合する。
ダンはとっさに防御しようとするが、シャドームーンの方が速かった。
キングストーンの加護を受けたサタンサーベルが、装甲が砕けて剥き出しになった左肩へと侵入する。
そのままサタンサーベルは機械を切り抜き、やがて出口へと到達した。
血液のように飛び散るG-ER流体。
ダンの左腕が切断され、地上へと落下した。

「ぐおおおおおぉぉぉぉッ!!」

ダンのダメージが電流となり、操縦者へと襲い掛かる。
耐え難い苦痛であったが、ヴァンは操縦桿になった蛮刀の柄を握り締めて堪えた。
しかしそんなことは関係ないというように、シャドービームの体勢を取るシャドームーン。
この一撃が命中すれば、ダンであっても破壊は免れないだろう。

「しゃんとしやがれです!」

シャドームーンの身体を真下から成長した巨大な植物が呑み込む。
下を向くと、植物の根本に翠星石の姿があった。
腰に刀を溜め、即座に急加速するダン。
そのまま居合い切りの要領で刀を抜き、拘束されているシャドームーンに一閃を加える。
巨剣の斬撃を喰らったシャドームーンは、為す術なく地上へと落下した。

「大丈夫ですか!?」
「……うるせえ」

翼を広げて横に並んでいる翠星石を一瞥し、ヴァンは不愉快そうに吐き捨てる。
そんな態度に翠星石は文句を付けようとするが、真下から放射された光線がそれを阻害した。
ダンと翠星石を同時に狙ったものであり、拡散されているため威力は削がれている。
それでも元の威力が高すぎるため、直撃すればただでは済まなかった。

「クソッ、なんて野郎だ」

必死に操縦桿を動かし、網のように張り巡らされたシャドービームを避け続ける。
避け切れない分は電磁シールドで相殺するが、それでも限界があった。
直撃する度に装甲は削れ、内装が剥き出しになっていく。
シャドービームの性能は威力や飛距離等、あらゆる方面で大きく向上している。
しかし一番の問題は技の威力ではなく、発射口であるシャドームーン自身の異常な耐久力だ。
首輪の爆発に巻き込まれても、ダンの斬撃を受けても、シャドームーンは立ち上がってくる。
それに加えて、キングストーンによる回復力も驚異だ。
シャドームーンを倒すには、一撃で相手を葬るような大技が必要なのだ。
0077叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:18:10.23ID:jQ2D6Xxu
「……」

シャドービームの追撃を抜け切り、ヴァンは極限まで張りつめていた緊張の糸を僅かだが解す。
全身を覆っていた装甲は大半が砕け、G-ER繊維で形成される肉体が剥き出しになっていた。
今のヴァンと同様、ダンの身体も傷だらけである。
だからだろうか。
操縦者とヨロイの状態が重なったせいか、今のヴァンの脳は澄み切っていた。
痛みで意識が飛びそうだというのに、嵐のように思考が溢れていく。
エレナのこと、カギ爪の男のこと、エンドレス・イリュージョンで連んでいた連中のこと――――シャドームーンのこと。
C.C.が死んだ今、シャドームーンが最も古い付き合いの参加者になっている。
東條や縁と争いを始めようとしていた最中、シャドームーンは突然現れた。
サタンサーベルの奪還が目的だったようだが、最後は殺戮の限りを尽くしていった。
その後も何度か顔を合わせ、一時ではあるが肩を並べて戦ってもいた。
だが、結局は敵なのだ。
共闘することはあっても、決して仲間ではない。
最後には殺さなければいけない存在なのだ。
そして、その最後とは今だ。
銀の月との関係を清算するのは今なのだ。

「長過ぎたな」

寄り道をし過ぎた、と感じる。
シャドームーンも所詮は通過点であり、カギ爪の男に辿り着くまでの道程なのだ。
だから、ここで終わりにする。
言葉は必要ない。
シャドームーンとの関係の中にあるのは、結局のところ戦いだけだ。
他のオリジナル用のヨロイと違い、重火器は搭載されていない。
ヴォルケインのキャノンのような高威力の兵器もない。
ダンの武器はあくまで刀。
刀一筋で戦うのがダン・オブ・サーズデイなのだ。

「おい、アンタ」
「翠星石ですか?」
「そう、アンタだ」

あくまで名前で呼ばないヴァンに対し、翠星石は呆れたように溜息を吐く。

「少しだけでいい、アイツの動きを止めろ」

それだけ告げると、ダンは飛び去っていってしまう。
突然の申し出に翠星石は混乱するが、シャドームーンが跳躍するために膝を屈めているのが見えた。

「この辺でいいか」

ひたすら上昇を続けたダンは、高度二百メートルのところにいる。
シャドームーンの姿を認識できる最大限の高度を保った距離だ。
この距離から下降すれば、刀にも勢いが乗る。
シャドームーンの頑強な鎧を打ち破るには、もはやこれ以外の手段は無かった。
片腕で剣を振るっていても勝機は薄く、必殺の一撃を放つ必要があるのだ。
残った右腕で刀の柄を握り締め、ゆっくりと下界を見下ろすヴァン。
翠星石が奮闘しているようだが、まだシャドームーンの動きを止めるには至っていない。
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2013/10/10(木) 02:19:43.93ID:jQ2D6Xxu
待つ。
刃を下に向け、虎視眈々とシャドームーンの動きを追う。
刹那の隙も逃さぬよう、無言で刀を構え続ける。
先程までは溢れていた思考が、今はぴたりと鳴り止んでいた。
ヴァンの頭にあるのはたった一つだけ。
シャドームーンを殺す。
それだけだ。

「ッ!」

そして、その時は訪れる。
茨、蔦、花弁、黒羽の四つが同時にシャドームーンの四肢に絡み付いたのだ。

「チェエエエエエエエエエエスッ!!!!」

ブースターを最大出力で稼働。
強烈な推進力により機体が押され、ダンは瞬く間に空を駆け降りていく。
地上にいるシャドームーンを斬り殺すため、一騎当千の勢いで走り抜ける。
そして、刀を大きく振り被った。
二百メートルの距離は滑走路。
ここで助走を付け、飛行機が陸から飛び立つように相手を叩き斬る。
シャドービームで四肢を拘束していた物体を凪ぎ払うシャドームーン。
だが、遅い。
ダンは既に地上へと到達し、その刀を振り降ろしていた。

「トオオオオオオオオオオオオウッ!!!!」

サタンサーベルを振り翳し、ダンの一撃を受け止めるシャドームーン。
その瞬間、再び空間内を巨大な振動が襲う。
大地は悲鳴のように唸り声を上げ、大気はそれを克明に周囲へと伝達する。
巨大な金属の塊が二百メートルの高さから急降下したのだ。
シャドームーンであってもそれを易々と受け止めることはできない。
みしみしと強化外装・シルバーガードが軋みを上げる。
その身体は地面へとめり込んでいき、人工筋肉・フィルブローンからは蒸気が立ちこめる。
両手でサタンサーベルの柄を握り、さらにキングストーンのエネルギーを刀身へと送り込む。
エルボートリガーの超振動とキングストーンのエネルギーが加わり、サタンサーベルの威力は大きく向上する。
それでもまだシャドームーンの方が押されていた。

「こうでなくては……面白くないッ!」

今まで冷酷を貫いていたシャドームーンが、ここに来て興奮したように声を上げる。
生身で世紀王と渡り合った男が、今は創世王と化した自分を打ち倒そうとしているのだ。
自分が創世王を取り込んで成長したように、ヴァンも次々と新たな力を披露している。
創世王となっても敵が存在することが、シャドームーンは純粋に嬉しかった。
強者を完膚なきまでに叩きのめしてこそ、王の威厳は保たれるというものだ。

「シャドービームッ!!」

キングストーンにエネルギーを密集させ、螺旋状の光線として放射する。
ダンに避ける術はなく、機械の身体はあっという間に翠緑の光で呑まれていく。
今までの戦闘で装甲の大半が剥がれていたため、光線は直にその身体を苛んでいった。
0085叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:21:41.64ID:jQ2D6Xxu
「ぐああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

電流が迸る音に紛れ、耳を覆いたくなるような絶叫が鳴り響く。
電気に近い性質を持つシャドービームは、ダンを通じてヴァンの肉体すらも破壊する。
掠っただけでも被害をもたらす光線が、途切れなく肉体にまとわりついているのだ。
意識は酩酊し、皮膚は爛れ、筋肉は痙攣し、血液は沸騰する。
強烈な電流によって神経繊維は焼き切れ、人間が感じることのできるあらゆる激痛がヴァンの全身を蝕んでいった。

「何故だ」

それなのに。

「何故、まだ私が押されている」

未だにヴァンの力は衰えない。
それどころか刀に込められた力はさらに増しつつあった。

「……何でかって、そんなの決まってんだろ」

シャドーチャージャーは途切れることなくシャドービームを発射し続けている。
ダンは全身から火花を飛び散らせ、至るところから黒煙を昇らせている。
この損傷具合で、創世王に勝る力を出せるわけがない。
マイティアイによる分析結果は完璧だったはずだ。

「お前を殺すために決まってるだろうがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

ピシリ、と音が鳴る。
その音源はダンの身体からでも、シャドームーンの身体からでも無かった。
音の正体、それは――――
絶対に折れることのない、折れてはならない証。
ゴルゴムの、創世王の象徴。
魔剣・サタンサーベルに亀裂が入った音だった。

「馬鹿な!? サタンサーベルが折れるだと!!」

象徴は砕け散る。
サタンサーベルの刀身は根本から折れ、真っ二つになって宙を舞う。
そして――――

「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

サタンサーベルの防御を破った斬撃は、シャドームーンの装甲すらも斬り裂いた。

「ぐ……おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

ダン・オブ・サーズデイは刀を象徴としたヨロイ。
故に斬れないものなど存在しない。
ダンの刀はシルバーガードを突き抜け、フィルブローンすらも一刀両断した。
シャドームーンは仮面の下から低い声を漏らし、おぼつかない足取りで後退していく。
傷口から火花と煙を飛び散らし、その度に銀色の破片が足下へと落ちていった。
たった一撃だが、その被害はあまりにも甚大。
創世王と化したシャドームーンですら、まともに立っていることができない。
0091叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:24:09.26ID:jQ2D6Xxu
「これで……全部終わりだ」

だが、それはヴァンにとっては最大の好機。
長過ぎた因縁を清算し、次に進むための好機なのだ。
十メートルほど背後へと下がり、突き出すように刀を腰に構えるダン。
そうして、再びブースターを点火。
G-ER流体と同色の青い光を噴出し、ダンはシャドームーンへと突進する。
今のシャドームーンは反撃も、迎撃も、回避も、防御すらもままならない。

「死いいいいいいいいいいいいいいいねええええええええええええええええッ!!!!!!」

多くの思いを乗せた刀が、ついに銀の月を突き抜ける。










――――はずだった。










シャドームーンに刀が到達する直前、ダンの動きはピタリと停止してしまう。
ブースターの噴出も止み、身体から光が失われていく。
あと数センチでシャドームーンを串刺しにできるのに、ダンは刀を突き出したまま動かない。
まるで時間が止まっているようだ。
しかし、ダンの身体からは火花や煙が上がっている。
先程よりもその強さは増し、パチパチと音を鳴らしていた。
翠星石とつかさは、呆然としながらダンを見上げている。

「どうしたです、なんで動かないんです? あと少しであいつを殺せるじゃないですか」

ダンを見上げながら、翠星石は狼狽している。
あれだけシャドームーンを敵視していたヴァンが、何故この期に及んでトドメを刺さないのか。
翠星石はその理由を理解することができない。
ダンの瞳からは、燃え盛る炎のような赤は消えている。
だが、翠星石は気付かない。
つかさも気付かない。
気付いたのは、シャドームーンだけだった。

「……死んだか」

淡々とした口調でシャドームーンは言う。
ダンの刃は届かなかった。
今までの傷に加え、シャドービームを長時間も浴び続けたのが原因だ。
あと一歩、あと数センチのところで、ヴァンの命は尽き果てた。
操縦桿を握り締めながら、無職のヴァンは死んでいた。
0096叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:26:17.71ID:jQ2D6Xxu
ゾルダとリュウガの戦いは佳境を迎えていた。
ミラーワールドに侵入してから五分が経過し、互いのデッキのカードも半分ほどに減っている。
だが、戦況は五分ではない。
一方的ではないが、やはりどちらかに傾きつつある。
ただし、リュウガの方ではない。
僅かだが、ゾルダの方が優勢だった。

ゾルダの身長以上の大きさを持つ巨大な一門砲・ギガランチャーから砲弾が発射される。
リュウガがレーザーでそれを迎撃すると、大きな爆発と煙を起こした。
大量の煙が視界を塞ぐ中、ゾルダはひたすらにギガランチャーを乱射する。
相手の居場所は分からないが、広範囲攻撃で全てを制圧するのがゾルダなのだ。
一片の容赦もなく、リュウガへの殺意をもって、ゾルダは砲撃を続ける。
圧倒的なまでの絨毯爆撃に押されているのか、リュウガの反撃が飛んでくることはない。
だが、ゾルダは奇妙な違和感を覚えていた。
あまりにも呆気なさ過ぎるのだ。
暖簾に腕押しと言うべきか、いくらなんでも手応えが無さ過ぎる。
今のリュウガはヒノカグツチを失い、大きな傷を負っている。
だとしても狭間やシャドームーンにすら匹敵する力を持っていたリュウガサバイブにしては、あまりに弱すぎるのではないか。

煙が晴れ、リュウガの身体を視認できるようになる。
そこに新しい傷は存在しなかった。

「おたく、やる気あるの?」

抱いていた疑問をぶつける。

「おいおい、少しは自信を持てよ。お前の砲撃が強すぎるから防御するしかないんだろうが」
「嘘を吐くなよ」

リュウガは明らかに嘘を吐いている。
攻撃的な性質を持つリュウガであれば、ゾルダの砲撃を強引に突破して接近戦に持ち込むなど容易いはずである。
ゾルダとしては遠隔戦の方が都合がいいが、それでもあまりに上手く行きすぎているのだ。

ゾルダとリュウガサバイブの間にある戦力差を北岡は理解してないわけではなかった。
単純な数値の大小もそうだし、変身者の力量差もある。
真っ向から挑めば、やはり勝機はない。
しかし、ゾルダは志々雄真実のたった一つの弱点を知っている。
大火傷で体温調節が出来なくなった志々雄は、十五分しか戦うことができない。
だからこそ人間離れした力を持っていながら、十本刀を始めとした組織を作った。
この弱点を突けば、勝利を掴むことができるのではないかと考えたのだ。
詳細な時間までは分からないが、リュウガは自分達よりも早く戦闘を始めていた。
今の時点でも十分以上は経過しているだろう。
ライダーの変身が解除されないのは、おそらくデッキ自体に特殊な制限が設けられていたからだ。
十分しか変身できないという制限は、本来はミラーワールドの限界滞在時間を表しているものだ。
連続変身が出来なくなっていたのと同様に、主催側がデッキに細工をしていたのだろう。
それがキングストーンの影響で解除され、ライダーは本来の力を発揮できるようになったのだ。
0101叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:28:57.25ID:jQ2D6Xxu
「アンタの目論んでることは分かるぜ、俺が燃え尽きるのを待ってんだろ?」

考えを見透かされ、ゾルダは僅かに目を見開く。
仮面を被っていなければ、その反応でリュウガに答えを伝えることになっていただろう。

「そう言うってことは、やっぱりお前は十五分しか戦えないんだな」
「くくっ、ああ、そうだぜ」

自らの弱点を曝け出すリュウガ。
あえて口にする理由は分からないが、これが事実なら余計に疑問は深まる。
時間制限の存在を自覚しているなら、何故全力で相手を潰しに行かないのだろうか。

「どうして俺にそれを言うんだ」
「ああ、そうだな、強いて言うなら……」

笑いを堪えながら、リュウガは言葉を紡いでいく。

「冥土の土産ってやつだ」

その瞬間、ゾルダの身体はガクンと崩れ落ちた。

「そろそろ来ると思ってたぜ」
「お前、何をした……!」

異様なまでの虚脱感が全身に伸し掛かり、ゾルダは立っていることすらままならない。
視界はぐにゃりと歪み、黒い靄で埋め尽くされていく。
ギガランチャーが彼の手から離れ、白い空間内を転がった。

「俺は何もしてないさ」
「ふざけるな……そんなはずないだろ!」

意識が暗闇の中に吸い込まれそうになる。
全身の感覚が無くなり、自分の肉体が意識にまとわりつく不快な異物へと変わっていく。
自らの身体に突然起きた異常に、ゾルダは理解が追い付けずにいた。

「俺は何もしていないが、お前は既に何かされていたのさ」

かつかつと足音を立てながら、リュウガは一歩ずつ歩いてくる。

「真っ先に脱出したV.V.から色々な話を聞いていた
 大半がくだらねえ与太話だったが、いくらか興味深いことを吐いてやがったな」

余裕の表れか、リュウガは喋りながら歩を進めている。
ゾルダは迎撃しようと力を振り絞るが、身体が立ち上がることはなかった。

「例えば、俺達に課せられた力の制限とかな」

力の制限。
シャドームーンや狭間の能力低下や、翠星石やルルーシュの特殊能力の制限が該当する。
カードデッキのように支給品が制限を掛けられているケースもあった。

「俺達の制限は、大体がギアスかラプラスの自在法で賄われていたらしい
 大半はそいつを弱くするためだったようだが、たった一人だけ例外がいた」
「例、外……?」

リュウガの言葉の真意が読めず、ゾルダは地面に這い蹲りながら疑問符を浮かべる。
体力を奪われつつあるせいか、呼吸も途切れ途切れになっていた。
0104叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:30:36.12ID:jQ2D6Xxu
「重病を患っていたせいで、本来なら既に立ち上がることすらできなかった奴だ」

心臓が大きく脈打つ。

「テメエのことだよ、北岡秀一」

リュウガの身体が、目と鼻の先にまで来ていた。

現代の医学ではどうすることもできない奇病。
それがゾルダを、北岡を蝕み続けてきた不治の病の正体だった。
そして北岡がゾルダの仮面を被ることを決意した理由でもある。
この場に誘拐された際、病は完全に治癒されていたので意識の外へと追いやっていた。

「アンタの病気はラプラスの自在法で一時的に治癒されていたようだが、キングストーンがそれを解いちまったんだろうな」

キングストーンの光が全ての参加者を力の制限から解き放った。
大半の参加者は己の本当の力を取り戻したが、北岡だけは病を復活させてしまったのである。

「俺が燃え尽きるのを待つっていう着眼点は悪くなかったが、自分が大して変わらない身体だってのを自覚するべきだったな」

リュウガの足先がゾルダの脇腹にめり込む。
カードを装填したわけではない、ただの蹴りだ。
それでも志々雄自身の人間離れした力に、リュウガサバイブの性能が加わった蹴りである。
衝撃は強化スーツを突き抜け、彼の内蔵すらも揺り動かす。
北岡は仮面の下で血を吐き、無様に地面を転がった。

「テメエみたいな雑魚相手に、この俺が本気を出すと思ったのか」

リュウガがデイパックを漁り、中から魔の香を取り出す。
それの蓋を開けると、リュウガの欠けていた装甲やスーツが修復されていった。

「ククッ、これでクーガーは無駄死にってわけだ」

目の前に転がるゾルダを、死んでいったクーガーを嘲るようにリュウガは笑う。
そして、一枚のカードを召喚機へと装填した。

――――SWORD VENT――――

ブラックドラグライザーツバイが鉛色の刃を吐き出す。

「色々な武器を試してきたが、やっぱりこいつが一番しっくり来るな」

リュウガはうつ伏せで倒れているゾルダの首を掴み、そのまま身体が浮くまで持ち上げる。
薄弱な意識の中でゾルダが行えたのは、急所である腰のカードデッキを守ることだけ。
リュウガはその動きを傍目に捕らえながら、精一杯の力で刃を走らせた。
小さな悲鳴を漏らすゾルダ。
ピシリ、と頑丈な装甲に罅が入る。

「口ほどにもねえ、こんな奴が最後の相手なんて興醒めもいいところだぜ」

反撃もできないゾルダを見て、リュウガはつまらなそうに肩を落とす。
カードデッキを破壊するのは簡単だが、それでは溜まった鬱憤を晴らすことはできない。
戦闘が開始してから十分以上が経過しているため、大技を使えば身体が危なくなるのも事実だった。
このような雑魚を相手に燃え尽きたのでは笑い話にもならないだろう。
故にゾルダは剣で始末することにする。
0111叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:33:34.60ID:jQ2D6Xxu
「ここから戻ったら、まず真っ先にあのつかさって餓鬼を殺してやるぜ
 最後の決戦に弱い奴はいらねェ」

何度も何度も剣を振り上げ、ゾルダの身体を斬り付ける。
ナイトサバイブのダークブレードと同威力の剣に、志々雄の腕前が加わったのだ。
ゾルダを破壊するまで大した時間は掛からない。
肩や胸の装甲は何度も切り裂かれ、あっという間に砕け散っていく。
声を上げる気力ももはや無く、ゾルダは無言で攻撃を受け続ける。
その醜態を見て、リュウガは不愉快そうに吐き捨てた。

「ふざ……けるな……!」

リュウガの言葉に激昂したゾルダは、マグナバイザーの銃口を漆黒の鎧に当て引き金を絞る。
零距離射撃だ。
発射されたエネルギー弾は二人の間に衝撃を生み、リュウガの腕からゾルダの身体を引き離した。
地面を転がるゾルダ。
まともに受け身を取る余力すらなく、その身体はだらしなく地面に横たわる。

「つかさちゃんを殺させなんて……絶対にしない!」
「ほう、まだ少しはやるってことか」

ゾルダの病気の末期症状は、意識を一瞬で刈り取ってしまうほどに凶悪なものだ。
それでも彼が立っていられたのは、己が死んだら世界が終わってしまうという責任感に他ならなかった。
リュウガは倒れているゾルダを愉しそうに見下ろすと、その顔面に蹴りを叩き込む。
仮面が砕け散り、血塗れの素顔が曝された。

「いい面してるじゃねえか」

仮面の破片が突き刺さり、額から血が流れ出る。
いや、今までの戦闘で既に血は流れていた。
血液がゾルダの視界を遮り、青白くなった肌を赤に彩っていく。
自分が生きているのか、死んでいるのか、それすらも定かではない。
小さすぎる呼吸音が耳に届き、ゾルダは辛うじて自分が生きていることを理解した。

「そろそろ地獄に送ってやるぜ」

カードデッキに向けて、リュウガは刃を突き立てる。

――――その時だった。

鏡が割れる音が連続して響き、ミラーワールド内を反響し始める。
状況を理解できず、辺りを見回すリュウガ。
その背後に信じられない者がいることを、ゾルダの血に塗れた眼球は映し出していた。

「……ッ!」

背後を振り返り、刃で斬り付ける。
そこにいたのは龍。
全てを斬り裂く牙と爪を持つ深紅色の龍。
無双龍・ドラグレッダー。
仮面ライダー龍騎と共に消滅したはずのミラーモンスターの姿がそこにはあった。

「何が起きてやがる……」

それだけではない。
ダークウイング、ベノスネーカー、デストワイルダー。
他にも多くのミラーモンスターが出現し、リュウガの視界を埋め尽くすかのように蠢いていた。
0117叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:35:28.41ID:jQ2D6Xxu
「チィッ……!」

メタルゲラスとエビルダイバーがリュウガへと迫り、同時に体当たりを仕掛けてくる。
素早い身のこなしでそれを回避するが、今度はブランウイングが滑空を始めていた。
背後へと後退していくリュウガ。
その時、上空に浮いていたコアミラーから次々とモンスターが湧き出ているのが見えた。

大量のミラーモンスターの出現。
それの発端は、現実世界でナイトに変身していたヴァンが死亡したことだった。
ミラーワールドが人間の命を吸い、願いを叶えるためのエネルギーとする。
だが、ミラーワールドは本来の主である神崎士郎の手から離れていた。
その後はラプラスの魔が管理していたが、彼も死んだ。
結果として管理者は不在となり、ミラーワールドは非常に不安定な空間となった。
そこにヴァンの生命が吸収され、エネルギーとして変換されたのだ。
多くの命を吸ったミラーワールドはエネルギーの膨大さに耐えることができず、暴走を始めたのだ。

ミラーモンスターは強い魂を求めて行動する。
襲い掛かってくるモンスターをリュウガは次々と撃退していくが、それでもまだ足りない。

「ハンッ、世界が俺を拒絶してるわけか、面白え!」

ミラーモンスターを両断しながら、リュウガは愉悦を噛み締めるように吠える。
この事態の元凶は管理者の不在とヴァンの死だが、リュウガはあえてそう捉えた。
世界が弱肉強食の理を拒んでいる。
甘い泥濘のような世界を望み、それを破壊しようとしているリュウガの動きを妨げているのだ。

「なら俺がテメエすらも支配してやる」

世界が志々雄を拒むなら、世界すらも服従させるまでだ。
所詮この世は弱肉強食。
世界よりも志々雄真実の方が強者であることを証明し、この世を地獄へと変えるまでである。
デッキから一枚のカードを抜き、ブラックドラグバイザーツバイへと装填。
そうして絵柄が変わったカードを、再び読み込ませる。

――――STRANGE VENT――――

――――UNITE VENT――――

空間が軋みを上げ、巨大な歪みが発生する。
それはまるでブラックホールであり、周囲で蠢いていたモンスター達を次々と呑み込み始めた。
ストレンジベントが変化したのは、ミラーモンスターを融合させるユナイトベントのカード。
力を増した融合のカードは、野良のモンスターすらも呑み込みはじめた。
大量発生していたモンスターが全滅するまで時間は掛からない。
重厚な種も、翼のある種も、幻獣種も、等しく歪みの中に吸い込まれていく。
そして最後にブラックドラグランザーが吸収され、ブラックホールは弾けるように爆発した。

爆発の奥から現れたのは醜悪な合成獣。
メタルゲラスの胴体に、バイオグリーザの両脚。
臀部からはベノスネーカーの尾が生え、胸部にはエビルダイバーの貌がある。
全身をサイコローグのパイプが繋がり、エネルギーを供給していた。
左腕はデストワイルダーの爪で、右腕はボルキャンサーの鋏。
背中からはダークウイングとブランウイングの翼が対になるように生え、それに覆い被さるようにゴルトフェニックスの両翼がある。
そして、首は二本あった。
紅と黒の二匹の龍の首。
ドラグレッダーとドラグブラッカーの首だった。
それぞれの頭部からゼール系モンスターの角が伸びている。
0121叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:38:09.35ID:jQ2D6Xxu
二匹の龍が哭くと、耳を塞ぎたくなるような奇声へと変わった。
リュウガの身長を遙かに上回る巨大な生物。
この世に存在するあらゆる生物の特徴を持ち、それでいてどの生物とも似ていない。
あまりにも邪悪で禍々しい合成獣。
その名は、ジェノサバイバー。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

ジェノサバイバーを背後に従えながら、リュウガは高笑いを上げる。
コアミラーから新たなミラーモンスターは現れることなく、ミラーワールドの中で響き渡るのは彼の笑い声だけだった。
ついに志々雄真実は世界すらも支配下に置いた。
背後に従えている獣はその証である。

「邪魔が入ったが、今度こそ……あん?」

ゾルダにとどめを刺そうとして、リュウガは不機嫌そうに舌打ちする。
生まれたての子鹿のように脚を震わせながら、ゾルダが立ち上がっていたのだ。

「まだ立ち上がる気力があったのか、面倒臭え」

徹底的に痛めつけられた上、今のゾルダは不治の病に侵されているのだ。
こうして立ち上がれただけでも賞賛に値するだろう。
だが、あまりにも無意味。
今にも朽ち果てそうな身体で、リュウガとジェノサバイバーに対抗する術などないのだ。

「いつまでもみっともないぜアンタ。もう俺が殺してやるよ」

一歩ずつ歩いていくリュウガ。
悪鬼の足音を耳にしながら、ゾルダはデッキから一枚のカードを抜く。
それをマグナバイザーに装填するでもなく、眼前へと翳す。
すると、異変が起きた。

ジェノサバイバーが引っ張られるように、一歩ずつ前へと踏み出し始めたのだ。

「テメエ、その札は契約の……!」

ゾルダが手にしていたのは、浅倉の死後に回収した支給品。
ジェノサイダーに使おうとして使わなかった契約のカードだ。
契約(コントラクト)は、どんなに強力なモンスターであろうと相手の意志に関係なく強引に従えることができる。
それが複数のモンスターから形成される合成獣だとしても関係がない。
神崎士郎の開発したシステムは、あらゆるミラーモンスターに対して平等だった。
全てを統率するドラグブラッカーはリュウガの契約モンスターだが、それ以外は全てが野良である。
故にジェノサバイバーの因子は圧倒的に野生の方が強く、契約の魔の手から逃れることはできなかったのだ。

「死に損ないが邪魔をしやがって、テメエはもう終わってるんだよ!」

契約モンスターを奪われれば、ライダーは著しく弱体化してしまう。
ドラグブラッカーが抵抗しているため、まだ契約が成立するにはしばらくの猶予があった。
リュウガは走る。
契約が成立する前にゾルダを殺せば、それで全ては終わるのだ。

「……させるわけ……ないだろ」

尽き果てそうな意識を必死で繋ぎ止め、マグナバイザーの銃身を握り締めるゾルダ。
病気と怪我による二重の苦痛が肉体を苛み続けるが、それでも倒れるわけにはいかなかった。
自分が死ねば、世界は志々雄が支配する地獄へと変わる。
そうすればつかさを始めとする多くの人達が苦しむことになるのだ。
0126叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:41:08.44ID:jQ2D6Xxu
死に逝く意識を覚醒させたのは、聞き覚えのある慟哭だった。
そうして目を開けた時、暗闇の中に映ったのは王蛇のジェノサイダーに酷似した化け物。
それは北岡の罪の象徴だった。
もしあそこで王蛇にトドメを刺すことができれば、つかさに新たな十字架を背負わせることはなかった。
自分が不甲斐ないからこそ、つかさは立てなくなるくらいに追い込まれてしまったのだ。

今こそ、全てを精算する時なのだ。
ふがいない自分に別れを告げ、課せられた責任を果たす時なのだ。
マグナバイザーをゆっくりと持ち上げる。
手に馴染んでいた武器は重く、視界はまともに機能しないほどに掠れている。
それでも、ある一箇所だけはしっかりと映していた。
リュウガの腰に装着されたVバックルの中心。
クーガーの一撃にで罅割れ、脆くなっているカードデッキだ。
これを破壊すれば、ライダーの契約は破棄となる。
ゾルダに残された力では、一発撃つことが限界。
それで命中する確率は限りなく低いだろう。
かつて総合病院で王蛇から逃げようとした時と同じシチュエーションだった。
あの時は次元が助け舟を出してくれたが、今は自分しかいない。
だから、やるしかない。
出来る出来ないの問題ではなく、成功させるしかないのだ。
引き金を引く。
マグナバイザーが仄かに震え、銃口からエネルギー弾が迸る。
遅れて、銃声が響き渡る。
そして――――


パリン、と音が鳴る。


エネルギー弾はリュウガのカードデッキに命中し、それを粉々に粉砕した。

「……」

リュウガの変身は強制的に解除され、ミラーワールドに志々雄の姿が曝される。
ドラグブラッカーの契約が破棄になったことで、ジェノサバイバーはゾルダの契約のカードへと吸い込まれていった。

「……」

走っていた志々雄はゆっくりと速度を落としていき、やがてその場に立ち尽くす。
自らの敗北が信じられないのか、無言のまま己の身体を見回していた。

「お前は……やり過ぎたんだよ……」

ゾルダはそんな彼の姿を傍目に置きながら、掠れる声で呟く。
もし志々雄がユナイトベントを発動しなければ、ゾルダに勝ち目は無かった。
大きすぎる欲望が、世界への反逆心が、逆に志々雄をへと追いやったのだ。
0131叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:42:37.19ID:jQ2D6Xxu
「そうか、俺は負けたのか」

自らの肉体を見回しながら、志々雄は淡々とした口調で言う。
リュウガを失った今、彼に勝ち目は無かった。

「ここまでだな」

その声の中には全ての失敗に対する悲観も、ゾルダへの敵意もない。
唯一存在するのは、祭りが終わった後のような静寂感だった。

「俺が弱くて、アンタの方が強かった。それだけの話だ」

北岡と志々雄の間にあった実力差は圧倒的だった。
それでも最後に勝ったのは北岡だった。
故に志々雄は弱く、北岡は強い。
弱肉強食とはそういうものだ。
敗者は全てを失い、どこまでも惨めでなければならない。
志々雄の身体が溶け、粒子として散らばり始める。
生身の人間がミラーワールドに滞在できる時間は少ない。
それはライダーだった人間も同様であり、敗者は空間の糧として消え行くだけである。

「まあ、それなりには楽しかったぜ」

三村やタバサを従え、主催者との戦を宣言した。
そこから様々な連中と戦い、駆け引きをし、そしてここまで至った。
未来の情勢や異世界の知識を知ることができた。
ここで得たのは、古惚けた小さな島国にいては永遠に届くことがなかったものばかりだ。

「フフ……」

だから、笑う。

「フフフハハハハハハ……」

高らかに、笑い声を上げる。




「ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」




身体が少しずつ溶けて行こうが関係ない。
自らが消滅する最後の瞬間まで、志々雄真実は笑う。
心の底から楽しかったと告げるように、狂ったように笑い続ける。
それが幕末の悪鬼と呼ばれた男の最期だった。


志々雄の消滅を確認し、ゾルダはその場に崩れ落ちる。
もはや意識を保つ気力すらない。
全身に大怪我を負っているのに、身体は全く痛みを感じることはない。
北岡の病気は既に末期状態へと進行していた。
バトルロワイアルに参加させられなかったら、あと数分もしないうちに息を引き取っていたはずなのだ。
視界は完全に暗闇に閉ざされ、自分が誰かすら定かではなくなる。
抗いようのない死が、すぐ傍まで来ていた。
0136叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
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2013/10/10(木) 02:44:18.00ID:jQ2D6Xxu
光が射す。
強烈な光が北岡の目前に光臨し、暗闇をあっという間に塗り潰していく。
それは生命の光だった。
自分以外の全てのライダーが死亡したことで、北岡は願いを叶える権利を得たのだ。

「ぁ……あぁぁ……」

手を伸ばす。
己の願いを叶えるため、奇跡へと手を伸ばす。
そして、ピタリと止まった。
脳裏にふと疑問が過ぎたのだ。

今の自分の願いとは一体何なのか、と。

初めは永遠の命を手にするためだった。
だが、時を経るごとに戦いは虚しくなり、気が付いた時にはどうでもよくなっていた。
永遠の命への執着もなくなり、浅倉も死に、志々雄の野望も打破した。
今の北岡に叶えたい願いなどない。
シャドームーンはまだ生きているが、死に損ないの自分が加勢してもどうにもならないだろう。
狭間と翠星石ならば、きっと銀の月を打ち倒してくれるはずだ。
今の自分に残された役目は、静かに朽ち果てるだけではないのか。

――――私が代わりに死んでればよかったんだ

「だ、めだ……!」

ジェレミアの死であれだけ苦しんでいたつかさ。
ようやく立ち直れたというのに、ここでさらに北岡が死んでしまったら。
彼女は今度こそ本当に立ち直れなくなってしまうかもしれない。
それに約束したのだ。
元の世界に帰り、料理を作ってもらうと。

まだ死ねない、死ぬわけにはいかない。
目の前の光に向かって、北岡は精一杯手を伸ばす。








――――そして、世界は終わりを告げる。







  ☆ ☆ ☆
0144叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 02:46:19.31ID:jQ2D6Xxu
ヴァンが力尽き、戦える者は翠星石以外に居なくなっていた。
シャドームーンの胸部には生々しい傷跡があるが、致命傷にまでは至っていない。
ゆっくりとではあるが修復も始まっていた。

「やはり最後の敵になるのはキングストーンか」

サタンサーベルが折れても、未だにシャドームーンは健在である。
サタンサーベルは確かに創世王の象徴だった。
だが、所詮は象徴だ。
創世王は、ゴルゴムの支配者は、確かな存在としてここに生きているのである。

「決着を付けるぞ、人形」
「望むところですよ、この銀ぴか野郎!」

視認できるほどの恐怖に当てられても、翠星石は欠片も物怖じはしない。
守るべき人がいるからこそ、翠星石は心を保つことができる。

そんな時、彼らの頭上を強烈な光が照らし出す。
キングストーンに優るとも劣らない、力に溢れた光である。
思わず目を瞑ってしまう翠星石。
シャドームーンも同様であり、マイティアイを以てしても光の奥を見透かすことはできなかった。
光はゆっくりと地上へと降りていき、やがて翠星石の横へと着地する。
そして光が収まった時、そこには一人の仮面ライダーが立っていた。

「お前は北岡……ですか?」

傍に立つ人間を見上げながら、翠星石はライダーの名前を呼ぶ。
だがそれは疑問系だった。
ゾルダの仮面を着けているが、どこか雰囲気が違っているのだ。

「新たな力を手に入れたか」

ゾルダを見据えながら、シャドームーンはそう評する。
かつてとは比べものにならないほどに、今のゾルダは力に満ち溢れていた。

「ああ、ちょっとね」

実際に口にしたわけではないから定かではない。
しかし北岡が光に触れた時に願ったのは、つかさと共に元の世界に戻ることだった。
その結果、全身の負傷と不治の病は消え去っていた。
視界もはっきりと世界を映し、ゾルダの装甲や仮面も修復されている。
自らの肉体からは今までと段違いの力が溢れていた。
そして、デッキには大量のカード。
全てのモンスターと契約し、あらゆる種類のカードが収納されていた。

「その力で貴様は何を望む」

ここに至るまで、シャドームーンは多くのライダーを屠ってきた。
ただの人間が世紀王に坑がうだけの力を身に付けることができる道具、それがカードデッキだ。
一定値まで力を高めるのか、それでも強者が変身すればより力を増すのか。
戦いを重ねていくうちに興味は深まり、そして新たな進化を遂げる者すらも現れた。
狭間との契約で休戦をうやむやになってしまうかと思ったが、再び戦う機会が訪れたのだ。
目の前にいるのは、紛れもなく創世王の敵である。
それを認識したシャドームーンは、最後の仮面ライダーへと問い掛けた。

「決まってるでしょ
 お前を倒して、元の世界に戻るためだ」

背後にいるつかさに視線を配りながら、仮面ライダーはシャドームーンへと宣言した。
0147叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 02:47:54.55ID:jQ2D6Xxu
【二日目/午前/始まりの部屋】
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]真紅と蒼星石と水銀燈と雛苺のローザミスティカ@ローゼンメイデン、キングストーン(太陽の石)@仮面ライダーBLACK(実写)
   ローゼンメイデンの鞄@ローゼンメイデン、庭師の鋏@ローゼンメイデン、庭師の如雨露@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0〜1)
[状態]首輪解除済み、全身にダメージ
[思考・行動]
1:銀色オバケ(シャドームーン)を殺す。
[備考]
※バトルロワイアル第二会場へと飛ばされました。
※首輪が解除されました。
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※ローザミスティカを複数取り込んだことで、それぞれの姉妹の能力を会得しました。
※キングストーンを取り込んだことで、能力が上がっています。
 またキングストーンによる精神への悪影響を克服しました。
※nのフィールドに入る能力を取り戻しました。
※柊つかさと契約しました。


【柊つかさ@らき☆すた】
[装備]空飛ぶホウキ@ヴィオラートのアトリエ、契約の指輪(翠星石)
[支給品]支給品一式×4(水のみ3つ、鉛筆一本と食糧の一部を消費)、確認済み支給品(0〜1) 、レシピ『錬金術メモ』、陵桜学園の制服、かがみの下着、
    食材@現実(一部使用)、パルトネール@相棒(開封済み)、こなたのスク水@らき☆すた、メタルゲラスの角と爪、
    咲世子の煙球×1@コードギアス 反逆のルルーシュ、ジェレミアの確認済み支給品(0〜1)、ジェレミアの仮面
[状態]ダメージ(中)
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:錬金術でみんなに協力したい。
[備考]
※バトルロワイアル第二会場へと飛ばされました。
※首輪が解除されました。
※錬金術の基本を習得しました。他にも発想と素材次第で何か作れるかもしれません。
※アイゼルがレシピに何か書き足しました。内容は後続の書き手氏にお任せします。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。
※翠星石と契約しました。


【北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]:レイの靴@ガン×ソード、仮面ライダーのデッキ@仮面ライダー龍騎、ブラフマーストラ@真・女神転生if…
[所持品]:支給品一式×3(水×2とランタンを消費)、CONFINE VENTのカード@仮面ライダー龍騎
     FNブローニング・ハイパワー@現実(12/13) 、RPG-7(0/1)@ひぐらしのなく頃に、榴弾×1、デルフリンガーの残骸@ゼロの使い魔、
     五ェ門の確認済み支給品(0〜1)(刀剣類では無い)、昇天石×1@真・女神転生if…、リフュールポット×1、デルフリンガーの残骸@ゼロの使い魔、
     贄殿遮那@灼眼のシャナ
[状態]仮面ライダーに変身中。
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:シャドームーンを殺す。
[備考]
※バトルロワイアル第二会場へと飛ばされました。
※首輪が解除されました。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。
※レナ、狭間と情報交換をしました。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。
※最後のライダーになったことで願いを叶えました。
 最後に思っていたのはつかさと共に元の世界に戻ることでしたが、詳細はお任せします。
※デッキには龍騎に登場する全てのアドベントカードが入っています。
0153叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 02:49:26.98ID:jQ2D6Xxu
【シャドームーン@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]:バトルホッパー@仮面ライダーBLACK
[支給品]:支給品一式、不明支給品0〜2(確認済み)
[状態]:左手の手甲が破壊、全身に火傷、胸部に大きな裂傷(全て修復中)
[思考・行動]
1:他の参加者を皆殺しにする。
2:翠星石を殺してキングストーン(太陽の石)を回収する。
【備考】
※バトルロワイアル第二会場へと飛ばされました。
※首輪が解除されました。
※創世王を取り込みました、基本能力が更に上昇しましたがそれ以上の変化があるかは後続の方に任せます。
※本編50話途中からの参戦です。
※会場の端には空間の歪みがあると考えています。
※空間に干渉する能力が増大しました。
※nのフィールドの入り口を開ける能力を得ました。
※狭間との契約は果たされました。

【共通の備考】
※彼らが戦っている空間は0話にて殺し合いの開催が宣言された場所です。
 天井も床も壁もありませんが、普通に立つことも歩くこともできます。
※空間内にダン・オブ・サーズデイ@ガン×ソードが放置されています。
 その内部にはヴァンの遺体とヴァンのデイパック(支給品一式、昇天石×1@真・女神転生if…、 アドロップ×1@ヴィオラートのアトリエ、調味料一式@ガン×ソード)があります。
※空間の何処かにヒノカグツチ@真・女神転生if...が刺さっています。
※クーガーと志々雄の所持品は消滅しました。


【ストレイト・クーガー@スクライド 死亡】
【ヴァン@ガン×ソード 死亡】
【志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚- 死亡】
0157 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/10(木) 02:50:37.70ID:jQ2D6Xxu
以上で終了になります。
長時間の投下にお付き合いくださりありがとうございました。

誤字等がありましたらご指摘お願いします。
0159創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 03:01:08.17ID:kIyzUImo
投下乙です!!!
今まで重ねてきたエピソードの上で繰り広げる決戦、
どのシーンも絶賛ものだけどひとまずは北岡先生ええええええええええええええ!!
浅倉との決着回でつかさを思いやって契約のカードを取っておいたのがここで生きてくるのがやっばい
0160創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 11:22:17.18ID:I2NWtkav
大作投下お疲れ様です!

北岡先生がついにゾルダサバイブに変身できるんですね!やったー
0161創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 12:29:12.37ID:sU+SHgwr
投下乙です!
激しいバトルの連続にただただ圧倒されました
でもその裏側でつかさや北岡先生や翠星石みたいに心の弱さを吐き出しているキャラもいて…
彼らの心理描写も本当にすごかったです
翠星石にはおかえりなさい、クーガーとヴァンにはお疲れ様を
そして志々雄、欲張りすぎて自滅したわけだけど最期までらしいままだったなあ
主人公となった北岡先生と狭間、覚悟を決めたつかさと翠星石に対する創世王との戦いがどうなるのか今から楽しみすぎてヤバイです!
……誰か忘れてないかって?
0162創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 17:35:17.93ID:GALoXRQz
投下お疲れ様でした!
すごい!その一言につきます。
もう全キャラが輝いていて、本当面白かったです!!
0163創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 19:14:56.49ID:+nLX2IE8
投下乙です!
翠星石がようやく元に戻った……と思ったら、ヴァンとクーガーがここで散ったか!
二人ともお疲れ様……そして志々雄もついに散ったか! 最期の最期まで強かったな
北岡先生もどうなるかと思ったけど、まだ生きていてくれてよかったな。
残り6人になった多ロワがこれからどうなるか、非常に楽しみです!
0165創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/10(木) 22:23:32.36ID:WJLKsNh0
投下乙です!
ヴァンとクーガーが逝ってしまって寂しくなったけど、二人とも最後までめちゃめちゃカッコよかった!
カグツチVSファイナルブリットとか制限解除によるダン召喚とか読んでて滾りっぱなしでした
しかし志々雄様は最後の最後でシャドームーン&ヴァン、クーガー兄貴、北岡先生と立て続けに戦り合うとか…
本当にこの人は誰よりもロワを満喫してたよ

そして、人間を前にして戦うことを喜び始めたシャドームーンもラスボスの風格がさらに増してきた
そしてラストステージは、つかさと契約したキングストーン翠星石と“最後の仮面ライダー”北岡先生
ここに狭間と参加者の記録をコンプリートした上田先生が加わるのか……まさに総力戦
0166創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/11(金) 00:22:16.54ID:WVV2mzDs
投下乙です!

三つ巴の戦い、翠星石の登場、ダン・オブ・サーズデイの登場、クーガーの乱入など、
二転三転する戦況にワクワクが止まりませんでした!
まさかのコアミラー登場によるミラーワールドの種明かしもクロスオーバー要素たっぷりで
設定スキーとしてはここもたまらない所でした。

ヴァンとクーガー、そして志々雄はどこまでも彼ららしく燃え尽き、
そして戦局は最終決戦へ。

それにしてもまさか最後に残ったライダーが北岡先生になるとは……
前半ヒロイン属性を上げておいて、後半ヒーロー属性を上げる北岡先生が本当にカッコいいです。

局面もついに最終盤面。
「弁護士ってのは弱い奴の味方なんだよ」 という果たしてスーパー弁護士は白を黒に変えることは出来るのか。
0167 ◆ew5bR2RQj.
垢版 |
2013/10/11(金) 01:12:54.96ID:wqoqSouN
たくさんのご感想をありがとうございます。

Wiki収録の件なのですが自宅のパソコンが壊れてしまい現在身動きが取れないので、使えるようになる土曜日になったらこちらでやっておきます。

あと少々状態表に不足があったので追記します。

>>147
【北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
※最後のライダーになったことで願いを叶えました。
 願いを叶える直前に考えていたのはつかさと共に元の世界に戻ることでしたが、詳細はお任せします。
※デッキには龍騎に登場する全てのアドベントカードが入っています。
願いの影響で他にも変化があるかもしれません。

>>148
【バブルルート@灼眼のシャナ】
三村信史に支給。
“狩人”フリアグネが所持する、コイン型宝具。『武器殺し』の異名を持つ。
弾くとコインの残像が鎖になり、相手の武器に絡み付く。
これが絡み付いてる間、あらゆる武器は能力を失ってしまう。
0168創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/12(土) 00:48:27.31ID:6sVig2Ns
>れこそが本来の雛苺の力である。 
の「『こ』れこそ」が抜けているかもです


乙ですー!!
6人6様の願い…ここで3人が落ちてシャドームーンが事実上のラスボスに

あと一歩という所で逝ってしまったクーガーとヴァン!
でもそれぞれ愚直なまでに自分の生き方に正直な最期で熱いことこの上ない…!
KMFがアリなら…と思ってたのでダン降臨には「待ってました!」となった

翠星石、おかえりぃぃ!
クーガーの器、そして友達になると言ってくれたつかさの星のおかげだ、つかさは強くなったなー
二人は逝ってしまったけど、自分弱さを乗り越え死んだ皆の意志を受け継ぐ3人の姿がひどく頼もしく感じる!
迎え撃つのがどちらかというと心に弱さを持っていて人間くさい3人というのが、もうね

不治の病に再び襲われるというまさかの事態からの、浅倉戦や総合病院戦での出来事回収という流れは 神
自分ひとりの手でカタを付けることで過去の自分にも訣別を告げた新生北岡先生の姿が最高にカッコイイ
自分のことを願った、でもその願いには他人の姿も過っていて。「願い」ってこういうもんだよなーと思った

大作投下乙でした!!
0169創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/12(土) 01:41:28.73ID:Azh/5YXu
ひたすらお疲れ様
状況的につかさちゃんの錬金術レシピの伏線が回収されることはもうないのかなぁ
0170創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/13(日) 12:47:38.78ID:g0E6EesR
上田は役立たずで小心者で弱っちいどこまでも普通の人間だけど、どんなに怖くてもここに至ってなお当然のごとく他人の命を尊ぶ普通の“人間”であるってのは上田先生の強さだと思う
生き残ってくれ
0172創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/15(火) 02:58:21.62ID:qdrD1m2j
なかっち 動画
http://www.youtube.com/watch?v=z2qK2lhk9O0s



みんなで選ぶニコ生重大事件 2012
http://vote1.fc2.com/browse/16615334/2/
2012年 ニコ生MVP
http://blog.with2.net/vote/?m=va&;id=103374&bm=
2012年ニコ生事件簿ベスト10
http://niconama.doorblog.jp/archives/21097592.html


生放送の配信者がFME切り忘れプライベートを晒す羽目に 放送後に取った行動とは?
http://getnews.jp/archives/227112
FME切り忘れた生主が放送終了後、驚愕の行動
http://niconama.doorblog.jp/archives/9369466.html
台湾誌
http://www.ettoday.net/news/20120625/64810.htm
0174創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/15(火) 18:03:19.61ID:pXtLeDDf
是非2ndをやって欲しいな
0176創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/17(木) 23:06:01.48ID:PJtbxOH1
多ロワは色んなジャンルをごちゃ混ぜにしてバトロワだから、2ndはまるで別物になってしまう気がする
0177創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/18(金) 12:38:08.52ID:7BffPfzG
別物でいいと思うよ
0178創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/18(金) 13:00:50.23ID:NNrvLt0I
このロワ他と比べて異常に人気だけど、その要因ってなんだと思う?
参戦キャラ?書き手クオリティ?読み手の民度の良さ?投稿スピード?
思うことがあったらみんなの考えを教えてほしい
2ndやるなら大賛成だし、このロワと同じ勢いや活気をそのまま引き継ぐようなロワにしたいし、そのためにも知りたい
0179創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/18(金) 13:17:58.36ID:7BffPfzG
パロロワ常連作品が多く参加してるからとか?
0180創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/18(金) 18:18:03.33ID:8Ljf5DgI
>>179
もしくは普通じゃ参戦しない作品があるからじゃないかな?(相棒やTRICK)
後、書き手のクオリティも高い方じゃないかな?
0181創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/18(金) 20:23:27.39ID:7+iVzF1q
ハハハ、それはだねYOU、日本科学技術大学教授である上田先生のおかげだよ!
0182創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/19(土) 13:56:57.79ID:yDuQNlMN
上田先生には是非2ndにも参加してもらおう!

ぼくの考えた自己満足の多ジャンルバトルロワイヤル2nd名簿

2/2【東方project@ゲーム】
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙

4/4【魔法先生ネギま!@漫画】
○神楽坂明日菜/○近衛木乃香/○桜咲刹那/○エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

3/3【めだかボックス@漫画】
○黒神めだか/○人吉善吉/○球磨川禊

3/3【遊戯王@アニメ】
○武藤遊戯/○城之内克也/○海馬瀬人

4/4【遊戯王デュエルモンスターズGX@アニメ】
○遊城十代/○丸藤翔/○万丈目準/○三沢大地/

5/5【遊戯王5D's@アニメ】
○不動遊星/○ジャック・アトラス/○クロウ・ホーガン/○鬼柳京介/○プラシド

4/4【LIAR GAME@漫画】
○カンザキナオ/○アキヤマシンイチ/○フクナガユウジ/○ヨコヤノリヒコ

【Steins;Gate@アニメ】3/3
〇岡部倫太郎/〇牧瀬紅莉栖/〇橋田至/

3/3【スクライド@アニメ】
○カズマ/○劉鳳/○ストレイト・クーガー

6/6【仮面ライダー龍騎@実写】
○城戸真司/○秋山蓮/○北岡秀一/○浅倉威/○東條悟/〇香川英行

6/6【銀魂@漫画】
〇坂田銀時/○志村新八/○神楽/○近藤勲/○土方十四郎/○沖田総悟/

3/3【BLACK LAGOON@漫画】
〇レヴィ/〇バラライカ/〇ロベルタ/

1/1【墓場鬼太郎@アニメ】
〇墓場鬼太郎

9/9【放課後のカリスマ@漫画】
〇神矢史良/〇ナポレオン・ボナパルト/〇一休宗純/〇ジークムント・フロイト/〇アルベルト・アインシュタイン/○フローレンス・ナイチンゲール/〇エリザベス1世/〇ジャンヌ・ダルク/〇アドルフ・ヒトラー

3/3【仮面ライダー555@実写】
○乾巧/○草加雅人/○木場勇治

8/8【Fate/stay night@ゲーム】
○衛宮士郎/○セイバー/〇遠坂凛/○アーチャー/○間桐桜/○ライダー/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○バーサーカー

12/12【Fate/zero@アニメ】
〇衛宮切嗣/○セイバー/○言峰綺礼/○アサシン/○遠坂時臣/○アーチャー/○ウェイバー・ベルベット/○ライダー/○雨生龍之介/○キャスター/○間桐雁夜/○バーサーカー

6/6【相棒@実写】
○杉下右京/○亀山薫/○神戸尊/○甲斐享/○伊丹憲一/○米沢守


続きます
0183創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/19(土) 13:59:06.26ID:yDuQNlMN
4/4【TRICK@実写】
〇山田奈緒子/○上田次郎/○矢部謙三/○秋葉原人

6/6【SPEC 警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿】
○当麻紗綾/〇瀬文焚流/○一十一/○海野亮太/〇地居聖/○津田助広/

1/1【半沢直樹@実写】
〇半沢直樹

5/5【ジョジョの奇妙な冒険Part4‐ダイヤモンドは砕けない‐@漫画】
〇東方仗助/○広瀬康一/○虹村億泰/○岸辺露伴/○吉良吉影


みせしめ
●椎名まゆり
●野々村 光太郎


是非御一考くだしゃい(懇願)
0186創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/19(土) 14:35:17.44ID:hIlsnzMZ
まだ終わってないところで続編の話とかやめなよ
終わってすぐでも失礼なのに
0187創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/19(土) 14:59:59.22ID:D9gDEfoe
過疎することが多いパロロワにとって最終回まで書ききるというのはとても名誉なことだと思うんだ
0189創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/19(土) 19:25:28.77ID:SoSxv0wB
>>187
本当にそう思う。しかも全員出揃うまで半年かかったようなロワがここまで辿り着くなんて
話数に関係なくここまで書き続けてきてくれた書き手諸氏には感謝しかないよ
0190創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/19(土) 20:31:03.91ID:cSUobSIp
とりあえず五年も頑張って書き続けた書き手の皆様に感謝感激です
0191創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/10/20(日) 01:24:05.40ID:TXCERunJ
てか…本当にもう終わるのか…
ifのファンブック的なのに載ってた小説でヒーホー君(ドラクエで言えばドラキーレベルの悪魔)とおしゃべりしただけで一瞬復讐とかどうでもよくなるほど喜んだ狭間を見て、こいつにもし友達が居ればって思ったんだよ
だから狭間が人に戻った時俺は嬉しかったよ
遂に終わるんだな…
0192創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/11/17(日) 22:13:18.68ID:wwFqs6h1
もうすぐ最終回!

というわけでメイン書き手6人のSS再現絵!!!!

「死せる者達の物語」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0267.png

「FINAL VENT」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0268.png

「寄り添い生きる獣たち」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0269.png

「因果応報」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0270.png

「Switch(Choice[Player]){...}」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0271.png

「BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0272.png
0194創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/11/17(日) 23:29:33.19ID:yk9+OUQt
うおおおおおおおお!!!
支援絵乙です!
どれも見るだけでSSの名シーンを思い出す……!
0198創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/11/25(月) 15:17:08.80ID:lHS7pPLV
書き手は生きてるよな?
待ってるぞ
0200創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/11/29(金) 02:46:44.37ID:uzg3XS24
ルパン実写化するらしいけど、上田……じゃなくて阿部ちゃんが五ェ門やるって話はどうなったんだろう
0201創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/12/05(木) 00:39:08.40ID:dykDYTpT
そういえばあったような、消えたのかな
実写といえばデスノで月をやった藤原竜也がるろ剣で志々雄をとかの巡り会わせも
0204創る名無しに見る名無し
垢版 |
2013/12/19(木) 15:00:48.87ID:jIDHfy1I
BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち
Blood bath
Ultimate thing

第一回放送前の三連続分割乱戦SSと

はぐれ者/夢
FINAL VENT - 戦わなければ生き残れない/FINAL VENT - What a Wonderful World
緋色の空 -the sky of FLAME HAZE-(前編)

第三回放送後の三連続分割決戦SS、ここら辺の面白さが凄い
前3つは多ロワの空気を決定づけて、後ろ3つは終盤に向けて動き出した雰囲気がたまらない
0205創る名無しに見る名無し
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2013/12/19(木) 15:21:16.42ID:tC5psSUO
わざわざ投票までしなくても好きなSSと感想言ってくだけで十分楽しそうだな
0207創る名無しに見る名無し
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2013/12/30(月) 17:22:36.89ID:32QQluWT
おお、正月に投下とな……!
0208創る名無しに見る名無し
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2013/12/31(火) 18:28:35.60ID:V0dHJUXp
最近の投下だと「叶えたい願い」での北岡vs志々雄や、クーガーやヴァンの生き様も熱かった
年明けには最終回の投下スタートか…!楽しみすぎる
0209創る名無しに見る名無し
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2014/01/01(水) 00:45:22.74ID:swZnR97G
そういえばヤングジャンプのローゼンメイデンも
今月最終話なんだよな…
少し寂しいが感慨深い
0212 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:01:18.06ID:CQ1uZSZh
 終わりを迎える物語は幸福である。

 物語は絶えず人の手で生み出され、人に享受される。
 しかしその全てが結末を得られるわけではない。
 始まったまま終わらず、時の流れと共に消えていく物語は数多ある。
 誰の目に留まる事もなく、埋没していく物語もあるだろう。
 読み手に忘れられ、創り手にさえ忘れられる物語もあるだろう。

 故に、喜劇であろうと悲劇であろうと。
 ハッピーエンドであろうとバッドエンドであろうと。
 救いがあろうとなかろうと、この物語は幸福である。

 衆目に晒されながら、確かに幕を下ろすのだから。



 翠星石、そして仮面ライダーゾルダに変身した北岡がシャドームーンの前に並び立つ。
 空気を破裂させんばかりに高まる緊張の中、口を開いた北岡は飽くまで普段通りの調子だった。

「ここまで来て、お前を生かしておく気はないんだけどさ……この辺で終わらせておいた方がいいんじゃないの。
 俺、無駄に戦うの嫌なんだよね」
「図に乗っているな……仮面ライダー」

 底冷えするような低い声で返すシャドームーン。
 怒りを正面からぶつけられても、北岡はおどけた様子で肩を竦めるだけだった。
 「負けは決まっているのだから大人しく殺されろ」等と煽られれば、シャドームーンでなくとも怒る。
 残念でもなく当然。
 だが北岡はどこぞの戦闘民族ではないのだ、これぐらいの事は言いたくなる。
 そして怒らせた上で、言いたい事を言った上で、北岡はシャドームーンの怒気を受け流していた。
 以前なら、シャドームーンを相手にこんな余裕は出せなかっただろう。

 相変わらずシャドームーンに絶対に勝てるという保証や確証はない。
 幾ら新しい力を手に入れようと、シャドームーンを軽視する気はない。
 だが「勝つしかない」という覚悟は決まっている。
 勝った後に進む『明日』も既に決まっている。
 それに、信頼出来る仲間もいるのだ。
 だから北岡の気持ちは凪のように静かで、今までになく安定していた。

「お前ならそう言うだろうと思ってたけどさ……そろそろ来る頃なんだよ」

 「大分遅刻だけど」と北岡は仮面の下で視線を動かす。
 その先で、空間に亀裂が走った。
 何もないはずの中空に罅割れが生まれて拡大。
 人間大にまで広がり、やがて砕け散る。
 その向こうに立つのは純白の学制服を血で染めた少年だった。

「遅かったじゃない」
「ああ、手間取ってしまった」

 ゆったりとした歩みで空間の境界を乗り越える狭間偉出夫。
 その体は、薄っすらと光って見えた。
 北岡は以前と明らかに雰囲気の変わった少年に対し、敢えてその理由を問わない。
 そんなものは全てが終わってからでいい。
 ただクーガーが、ヴァンが、志々雄が死んだ事だけを端的に告げる。
 訃報を聞いた狭間は表情を曇らせたものの、狼狽えはしなかった。
 翠星石の状況についても、今はつかさと契約しているという話だけで充分に伝わったようだった。

「わ……悪かった、ですぅ」
0214創る名無しに見る名無し
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2014/01/01(水) 18:01:41.51ID:Kb2MaF49
 
0215 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:02:04.93ID:CQ1uZSZh
「……いいさ。
 僕の方こそ、謝るべきだったんだ」

 口調は以前よりも子供らしいものになっていた。
 だがその落ち着きぶりは、何かを悟ったようでさえある。
 背伸びして、痩せ我慢をして、一人で何もかも背負おうとしていた少年が一つ大人になった――という事なのだろう。

 シャドームーンとの決着に向けて、狭間に躊躇はないようだ。
 翠星石も覚悟を決め、シャドームーンは言わずもがな。
 初めから分かり切っていた通り、戦闘は不可避。

 まぁ、分かってたんだけどね。
 北岡は一人ごち、もう一度肩を竦めた。



 シャドームーンに叶えたい願いはない。

 目的はある。
 野望と呼んでも良い。
 しかしそれらは『願い』などという不確かなものではない。
 シャドームーンが志した時点で、既にそれは『確定した未来』に等しいのだ。
 だから、シャドームーンに願いはない。
 だから、他者の願いを踏み躙るのに何の感慨も覚えない。

 祈っても無駄。
 願いは叶わない。
 助けの手は差し伸べられない。
 愛する人には愛されない。
 シャドームーンがもたらすのは、絶望の世界。
 ただシャドームーンはこれまでと変わらずに王として君臨し、最後に残った人間達を蹂躙する。

 狭間が現れても、シャドームーンは僅かも動じなかった。
 ただ観察する。
 平然と話し掛ける北岡に対し、特に緊張した様子もなく返す狭間を注視する。
 自然体のままそこに立っている狭間偉出夫の一挙一動を見逃さない。
 シャドームーンと交渉し、契約し、共闘もした“魔人皇”――とは、異質な存在のようだった。

 シャドームーンが創世王を吸収したように。
 翠星石がキングストーンの力を乗り越えたように。
 北岡秀一が仮面ライダーとして新たな力を得たように。
 狭間偉出夫もまた、変化したのだろう。
 狭間が状況を把握する間、シャドームーンは奇襲するでもなく黙って待っていた。

 シャドームーンに心はない。
 しかし高揚に近いものは感じているのだ。

 直前まで争っていたヴァンが見せた力は、決してシャドームーンを失望させるものではなかった。
 そして最後の仮面ライダー。
 太陽の石を取り込んだローゼンメイデン。
 王の立場を捨てた人間。
 どれもが王の矜持を満たすに充分な相手。
 その者達全てを下し、創世王として頂点に立つ。
 確定した『明日』を前にしてシャドームーンは僅かに肩を揺らし、クツクツと低く笑う。



 しかし、戦いは始まらない。
 各々の覚悟や確信に反し、全てが中断される事になる。
0217 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:03:23.05ID:CQ1uZSZh
 突如、空間が赤く発光。
 光源を探せば、鳥が翼を広げたような紋章が足下に広がっていた。
 シャドームーンはその紋を見た事がある。
 C.C.と初めて接触した際、その額に浮かんでいたものだ。
 罠かと警戒を強めるが、狭間達もまた状況を掴めていない様子だった。

 視界が暗転。
 空間そのものが振動して足場が消失する。
 正確には足場が消失したように「感じた」――足場が消えたのではなく、足場のない場所へワープさせられたのだ。
 重力に従って落ちていく。
 だがシャドームーンはマイティアイが捉えた下方の『水面』に、足から難なく着水した。

 水音だけが支配する闇。
 そこへ声が響いた。
 それは空気を震わせるものではなく、映像と共に脳に直接流れ込んでくる叫びだった。



               ――…………だからこそ、俺が行くんです! 警察官の――――特命係の俺が!――



                         ――正義。仮面ライダー龍騎……!――



 シャドームーンの記憶ではない。
 他人の記憶が、イメージが、シャドームーンの脳内で再生されているのだ。



                      ――正しいも間違いも糞もない、俺には姉さんが全てだ!――

                 ――姉さんが笑ってくれるのならば、他のことなんて知ったことじゃない!――



             ――お前を殺すために決まってるだろうがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!――



「これは……」

 緑髪の女が見せた、シャドームーン自身や他者の記憶イメージを彷彿とさせる。
 異なるのは、この催しの中で出会わずに終わった者達の記憶まで含まれている事か。
 故に、これらの記憶には。



                   ――それでも聞いて、みなみちゃん……俺の事は、忘れていいから……!

                        ――俺は君に、幸せになって欲しいんだ……!――



「!!」

 シャドームーンの宿敵の最期もまた、克明に映し出されていた。
0222終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:06:42.96ID:CQ1uZSZh


 シャドームーンという最後の敵を前にして、柊つかさは立っている。
 北岡と、翠星石と、狭間と、共に戦う為に。

 自虐する北岡の為にと奮起した。
 翠星石という友達を得た。
 ミーディアムという役割を手にした。
 だが罪の呵責が緩んだわけでも、悲しみが癒えたわけでもない。
 それでも今が座っている時ではないからと、両足で必死に体を支えている。

 実際に戦うのは翠星石であり、ミーディアムであるつかさは後ろから見ている事しか出来ない。
 今まで通り戦場から一歩離れた場所に居る――それなのに、嫌な汗は止まらなかった。
 シャドームーンが放つ殺気に、距離などさしたる問題ではないのだ。
 ましてつかさはこの場に集った者達の中で、最も争いや事件から縁遠い世界から来た。
 バトルロワイアルが始まってからも、つかさ自身が矢面に立ったことはほとんどない。
 一般人に過ぎない、それも心を弱らせたつかさにとっては、この場の空気そのものが毒と言っても良かった。

 いつ戦闘が始まるのか、知識も経験も不足したつかさには掴みようがない。
 固唾を飲み、震える手を固く握り締め、睨み合う四人を見詰める。

 赤い光が白い空間を浸食したのは、その緊張の最中の事だった。
 足下に広がるマークは、情報交換に際してジェレミアから説明された事がある――ギアスの紋だ。

 足場の消失、落下、つかさには事態が全く把握出来なかった。
 そして受け身も取れずに水面に叩き付けられる。
 水底に背中を打つが、幸い痛みはほとんどなかった。
 溺れまいと藻掻こうとしてすぐ、その水が太腿程度の深さしかない事に気付いた。
 落ち着いて底に足を着ける。
 そして脳に、音声と映像が流れ込んできた。



                  ――ゆーちゃんがこのまま死んじゃったままでいいの!? ねぇ!?――



                          ――だから寄越せ……速さを!――



 それは良く知る友人の切迫した声であったり。
 それは大切な事を教えてくれた仲間の声であったり。

 強い意志。
 強い感情。
 強い願い。
 網膜を通さずに伝えられる叫び。
 死んでいった者達の辿った軌跡。
 記憶の奔流が津波のような勢いと量で、つかさを押し流さんとしている。
 頭痛がして、目眩がして、それでも映像は止まらない。



                 ――……お前が探し続けていた、我々の存在意義とやらはわからん。――

                  ――だが、それでも俺にはやはり戦いこそがその意義なのだろう。――

                  ――戦いを求めるからこそ、俺はお前の言うとおり強くなったのだ――
0223終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:07:36.87ID:CQ1uZSZh
           ―― ねぇ、サイト喜びなさいよ。もうすぐ帰れるのよ、私がアンタを帰してあげるんだから!!――



 親しい者の記憶、出会わなかった者の過去。
 一切の区別なく、全てが一挙に押し寄せる。
 つかさがその全てを忘れまいと掴もうとしても、濁流の如き速さで流れていってしまう。
 つかさの指の隙間をすり抜けていってしまう。
 どころか流れの強さに負けて、自分の形すら分からなくなっていく。
 自分を何とか保とうとして、自分が誰なのか思い出そうとして――振り返ったのは北岡との会話だった。





「北岡さん」

 箒に跨がり、風を切る。
 すぐ後ろにいる北岡に、呼び掛けている自分。
 ランスロットが破壊された後、狭間達の元へ帰ろうとしていた時の記憶だ。
 ほんの数分前、長く同行していた相手と別れを済ませたばかりの朝焼けの中。
 つかさは重い沈黙を破り、北岡へ一つ問う。

「ジェレミアさんは『死にたい』って、言ってたんですか?」

 箒の上でバランスを取ろうとつかさの肩を掴んでいた北岡だったが、その手の強ばりがつかさにも伝わってきた。
――まさか、この期に及んでまだ死にたいなんて――
 北岡が口を滑らせた、死にゆく者へ向けた言葉。
 その言葉の真意を知ろうとして、つかさは尋ねたのだ。
 数十秒か、数分か。
 長く黙った後、北岡は投げ捨てるように告げた。

「…………まぁそれに近い事を、言ってたよ」

 お互いの表情は見えないまま、それを聞いたつかさは目を伏せた。
 その時の自分の気持ちを、今のつかさも良く覚えている。
 歪んでしまった顔を見られずに済んで良かったと――そう思った。

「……ありがとうございます、北岡さん。
 嘘を、言わないでくれて」

 北岡が誤魔化そうとせずに、つかさを子供扱いせずに正直に答えてくれた事が嬉しかった。
 しかし、それでも。
 覚悟していても。
 その答えは、その事実は、つかさの心をより深く傷付けるに充分だった。





 人が死ねば悲しい。

 つかさはこれまでに何度も別れを経験してしまった、その度に感じている。
 痛感している。
 こんなにも悲しい。
 だが、つかさはその悲しみを人に強いた。
 ルルーシュを殺し、その周りの人々を悲しませた。
0226終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:09:35.49ID:CQ1uZSZh
 浅倉にも、その死を悲しむ人がいたのかも知れない――或いはいつか、そんな人が現れたのかも知れない。
 当人からも、周囲からも、未来の可能性の全てを奪ったのだ。

 分かってはいた。
 だから自分に出来る事を探そうと、何度も失敗しながらずっと考えていた。
 だが改めて罪の重さを突き付けられて、喪失の悲しみに押し潰されて、立っていられなくなった。
 
――私なんて、死んじゃえばよかったんだ。

 第二会場に着いてすぐ、言ってはならない言葉を口にした。
 以前にも同じ事を言って叱責されたのに、繰り返してしまった。

――私さえ、いなければ――

――そうだ、ルルーシュ様もアイゼルも……皆死んだ!!
――だから……!!

 「生きる事が君の義務だ」と、彼は言った。
 そして、つかさや北岡との出会いを誇りに思うとも。
 だから『後悔することで、彼の騎士の誇りを穢してはいけない』と……思っていたのに。
 罪の重さと悲しみが勝って、こんな自分がのうのうと生きているのが許せなくなった。
 歩く事も立つ事も出来なくなって、座り込んでしまった。
 北岡がいなければ、未だ悲しみに暮れたままだったかも知れない。

 他者の記憶の濁流の中で、つかさはもう一度己を振り返る。
 他者から見た自分の姿を見ながら、考える。
 自分が何の為にここにいるのか。
 自分が何の為にここに立っているのか。



                             ――生きて、ね。――

                              ――私の分も――



                         ――つかさ殿のこと……頼んだぞ……――



 こんな自分を助けてくれた、守ってくれた、想ってくれた人がいた。



                       ――それでも守りたいと願って、何が悪いッ!!!――



 こんな自分を恨まずに、憎まずに、赦してくれた人がいた。



「そうだ、私……」



 苦しいから、悲しいから、忘れてしまいそうになっていた。
 見えなくなっていた――それでは、駄目だ。
 苦しくても、悲しくても――
0229終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:10:40.80ID:CQ1uZSZh
「私は……一生懸命、生きなきゃ」



 大勢に守られて、助けられて、ここにいる。
 生きたかったのに生きられなかった人達がいる。
 皆の分まで生きなければ、幸せにならなければ、無駄にしてしまう。
 彼らに何も返せなかった分、自分の周りにいる人達に優しさを返さなければならない。
 それはつかさの義務であり、願いだ。
 何度も迷って、後悔して、自己嫌悪に陥りながら、それでももう一度奮い立つ。
 今の自分を否定してしまったら――それは、皆の事を否定しているようなものだから。



「皆の分まで……絶対、生きるんだ」



 流れていく記憶を追い掛けて、手を伸ばす。
 届かなくても諦めない。
 頭が割れるように痛んでも、つかさは皆の記憶を最後まで見続けようとした。
 そして――



              ――六十四名の存在を消滅させ、数多の世界を歪めることで常識を塗り替えるのさ――



 つかさは耳にした。
 最後に流れて行ったおぞましい台詞を。
 そして、強い感情が芽生える。



「……」

 突然放り込まれた暗闇の中、狭間は立ち尽くしていた。
 大腿の半ば程の高さまで張っている水は、どうやら“水”の形状を取っているだけで水そのものではないらしい。
 人の記憶の溶け込んだ水――それに浸かったまま、狭間は今し方見たものを脳内で反芻していた。



                         ――”もし”……なんていらない。――

                ――”もし”を打ち砕けるならば、俺はその”もし”をぶっ壊せる力になりたい――



              ――うん……皆を元の世界に帰してあげて欲しいんだ……狭間さんならきっと出来るよ――



 記憶。思い出。
 狭間が背負って生きていくと決めたもの。
 蒼嶋とレナだけではない、出会う事すらなかった者達の分まで胸に刻む。
0232終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:12:00.47ID:CQ1uZSZh
 だが狭間が感傷に浸っていたのはごく短い時間だった。
 止まっている場合ではない。
 シャドームーンへの対処は勿論だが、志々雄の記憶の中にあったV.V.の言葉も看過出来るものではなかった。


「ようこそ……と言うべきかな」


 カーテンを開けるように、その声と共に暗闇が取り払われた。
 どこまでも続く広大な空間。
 水面もまた果てなく続き、自分が海原の中心に立っているかのようだった。
 そしてその水面の少し上、宙に浮かぶ無数の額縁が、そこが現実の海ではない事を物語っている。

 水面から顔を出すには背丈が足りず、北岡に支えられている翠星石。
 膨大な記憶を見た直後の為か呆然としている柊つかさ。
 そして一分の隙もなく立つシャドームーン。
 皆、狭間のすぐ傍にいた。

「ここはV.V.のメモリーミュージアム――その複製だ。
 実際にはラプラスが手を加えているから、ほぼ別物と言っていいだろう」

 声の主は、V.V.だった。
 何故、と声を上げようとするが、その前にV.V.自身が答える。

「僕はV.V.ではないよ、狭間偉出夫。
 僕はV.V.の記憶を管理していた者のコピーだ。
 そして『過去』の管理者である僕には、V.V.が『今』と認識していた時の記憶がない……つまり君達の事も直接は知らないんだ」
「記憶……コピーだと?」
「コード保持者は不死……過去が際限なく増えていく。
 だからCの世界の中に、記憶を管理するメモリーミュージアムを形成するんだよ」

 困惑の表情を浮かべる狭間達を余所に、V.V.と同じ姿をした人物は続ける。
 シャルルにコードを奪われた時点で、V.V.のミュージアムは崩壊した。
 しかしそこでV.V.の記憶のサルベージを行ったのが、ラプラスの魔である。

「彼はミュージアムと、管理者であった僕を複製した。
 この時点で彼は既にバトルロワイアルの構想を持っていたようだね。
 V.V.は踊らされていたわけだ」

 ラプラスは記憶を蓄積する器としての空間を複製した。
 しかし、ただ複製するだけではない。
 バトルロワイアルの参加者が死ぬ度に、その者の記憶が溶け込んだ「無意識の海」が注がれていくよう作ったのだ。
 そうして今の姿になったこの場所は複製であるが故に、V.V.がコードを失おうが死亡しようが関係なく残り続けている。

「主催者が全員死んだ今、残された僕には説明の義務がある。
 だから僕は君達六人が揃ったところで、ここに招いたんだ」

 六人、と聞いて狭間が振り返る。
 背後では上田が気絶して水に浮いていた。
 どうやらあのタイミングで狭間達がここに移されたのは、上田の到着に合わせた結果であったらしい。

「この場所は、二つの用途を想定して構築された空間だ。
 それは――」
「大体察しは付いている」

 説明しようとしたV.V.を、狭間が遮る。
 V.V.が志々雄に対して口にした言葉。
 そしてV.V.を良く知るC.C.、会場内で思考を巡らせていたLやルパン三世の記憶に、シャナの知識を組み合わせて裏付ける。
 その結論を、吐き捨てるように言った。
0235終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:13:08.43ID:CQ1uZSZh
「一つは『願いを叶える自在法』を発動させる鍵とする為。
 もう一つは、……ラグナレクの接続を拡大する為だ」

 参加者達の存在そのものを消す事で、世の理を歪めて願いを叶える自在法――それと並行して用意されていたもの。
 神殺しの槍。
 生者死者の区別なく、全ての人間の意識を統合して嘘の意味を無くす計画。
 それが、ラグナレクの接続。
 かつてV.V.達はそんな大それた、自分達の生きる世界を変える計画を進めていた。

「もしも私達参加者が『昨日』を選んでいれば……恐らく、V.V.は実行していたのだろう。
 あらゆる世界の意識を一つに統合し、文字通り『全て』の嘘を消そうとしていた」

 自在法。
 不死のコード。
 創世王。
 世界を変え得る力を、ラプラスは幾つも所有していた。
 それらを用い、世界樹――世界の根源に根を張り、ありとあらゆるものに繋がる樹へ干渉しようとしていたのだ。

 数多の世界から集められた参加者達、その記憶が溶け合った空間。
 狭間達が立つこのミュージアムから世界樹に働きかける事で、ラグナレクの接続の影響範囲を拡張。
 V.V.達の理想によって全てを塗り変えようとしていたのだ。

「いや、私もLさんの考察を聞いた時からそんな気はしていたんだ。
 ただ皆をイタズラに怖がらせるような真似は私には」
「君はちょっと黙っててくれるかな」

 目を覚ました直後にも関わらず、堂々と話に割って入る上田。
 V.V.によって即座に切り捨てられはしたものの、その自尊心と行動力は流石だと、狭間は感嘆した。

「結局、そうはならなかった。
 V.V.は神殺しの槍を捨てた」

 上田の事は既に忘れたかのように、V.V.は続ける。
 V.V.本人ではないただの管理者の声に、感傷や感慨の響きはなかった。

「ここにいる六人は勿論、志々雄真実ですら『明日』を求めていた。
 だからV.V.は引き下がり、この空間に残された用途は一つ。
 自在法を発動させる事だけ」

 飽くまで主催者V.V.について他人事のように言う。
 管理者である彼は、ただ言われた事を忠実に果たす人形と言って良いのだろう。
 だから何の躊躇いもなく、ラプラスから与えられた力を行使して自在法を発動させられる。

「けれどラプラスやV.V.にとって、君達が何も知らない状態で優勝者が決まるのは不本意だったようだ。
 だから僕は事前に指示されていた通り、君達をここに招いた。
 主催者が全員死んでいたとしても、君達に正しく現状を理解させる為に……その上で、『選択』させる為に」

 志々雄が聞かされた、主催者V.V.による説明。
 優勝者が決まれば、参加者六十四名が死亡すれば、六十四名の『存在』が消滅する。
 そして残る一人の願いが叶う。

「ちょっと、その自在法とかいうのって俺達がシャドームーンを倒した後、元の世界に戻って普通に死んだ場合は大丈夫なわけ?
 寿命で死んで存在が消されるなんて、勘弁してよね」
「その杞憂を取り払う為の説明だよ、北岡秀一」

 北岡の疑念はもっともだった。
 例え殺し合いの場から生還したところで、皆が天寿を全うした後でも自在法が発現してしまうのでは意味がない。

「もしも参加者の中に殺し合いの意志を持つ者がいなくなれば、その時はバトルロワイアルが終結したと見なす。
 具体的には僕がこの空間の維持をやめ、崩壊させる……この空間がなくなれば、自在法も発動しなくなるからね」
0237終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:14:48.74ID:CQ1uZSZh
「つまり貴様が、保証するんだな」

 狭間が念を押す。
 保証――その言葉を、狭間自身も使った事がある。
 シャドームーンと契約を結ぶ際に、必ず契約内容を遵守すると“魔人皇”の名に懸けて保証したのだ。
 それ故に狭間は、否、この場にいる全員がその言葉の重みを知っている。

「その通りだよ。
 君達が争いを終わらせるのなら、僕が君達の『存在』を消させない」
「何故そこまでする?」
「僕はプログラムのようなものだ。
 ラプラスから与えられた役割通りに動くだけだよ」

 未だ全てがラプラスの掌の上にあるような、言いようのない気味の悪さはあった。
 しかしこれがラプラスの思惑通りの偽りであったとしても、今はどうしようもない。

「ならば、貴様をこの場で倒せば自在法は発動しなくなるんだな」
「試してみるかい?」
「……」

 言ってはみたものの、無駄であろう事は狭間も分かっていた。
 この管理者は人間ではない。
 この空間にのみ存在する精神体と呼ぶのが正解に近いだろう。
 消滅させるのは不可能ではないはずだが、少なくとも物理的な手段では無理だ。
 ラプラスによってどんな力が付与されているかも分かったものではない。
 それに、殺せる存在ならシャドームーンがとうに動いている。
 ラプラスの魔を消滅させたシャドームーンが大人しく話を聞いている時点で、打つ手がないという事なのだ。

「まぁ……知ったところで、やる事は変わらないよね」
「ですぅ」

 一同の視線がシャドームーンに向かう。
 今更和解の道があるはずがないと、誰もが理解していた。

「シャドームーン……お前は僕達を殺して存在を消滅させ、創世王として君臨しようとしている。
 そして僕達は、お前を倒して元の世界へ帰還しようとしている。
 お互い妥協の余地はないな」
「今更確かめるまでもない。
 茶番はここまでだ」

 主催者による横槍も、恐らくこれが最後になる。
 心なしかシャドームーンの声は喜色をはらんでいた。

「契約の破棄……は、とっくにされていたか。
 もっとも、あれは世紀王と魔人皇の間に交わされた王の契約。
 僕が王でなくなった時点で、この形にしかならないとは思っていた」
「王でなければ、今の貴様は何だ?」
「人間だ」

 魔人皇とて、人の中の王に過ぎなかった。
 ゴルゴムの王にとって狭間の変化は、言葉遊びの域を出ないだろう。
 しかしシャドームーンは油断していない。
 慢心も驕りもなく、壁として狭間達の『明日』への道を塞いでいる。

「当初の契約通りにはならなかったが……結果は同じ事だ」

 狭間が首輪を外す、互いに協力して主催を倒す、そのどれもが実現せずに終わったが、行き着く先は同じ。
 即ち、生存する全ての参加者によるシャドームーンとの決着。
 誰一人逃げる事なくシャドームーンと戦い、雌雄を決する。
0243終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
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2014/01/01(水) 18:16:52.67ID:CQ1uZSZh
 狭間とシャドームーンの応酬を聞いていた管理者V.V.は鷹揚に頷く。
 全員の覚悟は既に決まり、V.V.もそれに口を挟む気はないらしい。

「選択は変わらないようだね。
 ならば心ゆくまで戦えばいい。
 僕はこの場所で、『多ジャンルバトルロワイアル』の終わりを見届けよう」

 V.V.が言い終えた瞬間水底が、来た時と同じ赤い光を放つ。
 Cの世界と外とを繋ぐ黄昏の扉。
 目映さに目を閉じ、再び開いた時、六人は共に元の白い空間に立っていた。



 突然変わった視界に追い付かず、つかさはきょろきょろと周囲を見回す。
 正面に立つシャドームーン。
 迎え撃つのは狭間、北岡、翠星石。
 狭間達の後ろで行く末を見守るつかさ、上田。
 構図は元のまま、上田が追加されただけ。
 髪も服も濡れていない。
 今見たものは全て夢だったのではないかと錯覚しそうになる。
 しかしつかさの中には確かに、死亡した参加者達の記憶が残されていた。

「私を倒す、か……愚かだな。
 少しばかり力を付けた程度で、この創世王を相手に勝ち目があると思うとは」

 数の有利はある。
 狭間も、翠星石も、北岡も、力を得た。
 シャドームーンはサタンサーベルを失い、身を護る装甲に無数の傷を負っている。
 死の際まで追い詰めた事もある。
 だがこれだけ重ねてもなお、勝てる確証はどこにもなかった。
 それだけの相手だ。
 シャドームーンが北岡達を愚かと称するのも、無理からぬ事なのかも知れない。

 しかしつかさは、胸に湧き上がる感情を抑え切れなかった。


「勝ち目がないのに戦ったら、いけないんですか」


 制止しようとする仲間の手を振り切って、シャドームーンの前へと歩を進めた。
 誰かの背に守られる事なく、直接シャドームーンと向かい合う。


「私の尊敬する人達の中に……『勝ち目があるから』なんて理由で戦ってた人は、いません。
 皆、そんなものがなくたって、自分の大切なものの為に戦ってたんです」


 つかさの声は恐怖ではなく、怒りで震えていた。
 一度、己を卑下する北岡に対して声を荒げた事はある。
 しかしこれ程の怒りを覚えるのは初めてだった。


「あの人達は……家族とか、友達とか、仲間とか。
 夢とか、願いとか、そういうものの為に戦っていた人達は。
 貴方にとって、『愚か』なんですか」


 守られる側にいたつかさがずっと見ていた背中。
 無意識の海で流れ込んできた記憶。
 彼らがその手に握り締めていた意志を、願いを、つかさはしっかりと受け止めていた。
0246終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/01/01(水) 18:17:55.86ID:CQ1uZSZh
 だから不遜な王の物言いを、聞き流す事が出来なかった。
 この王を倒さなければ自在法が発動する、その最悪の未来がつかさを更に駆り立てる。


「その通りだ小娘……ゴルゴムの王たるこの私に刃向かう、それ自体が愚かだ。
 友や仲間など、群れなければ何も出来ない弱い人間共が求めるものだ。
 夢や願いなど、人間の醜い欲望に他ならない。
 だから人間は、愚かなのだ」


 静かに語るシャドームーン。
 シャドームーンとて、ただ人間を見下しているわけではないのだろう。
 殺し合いの中で幾度も人間と衝突し、命を脅かされた事すらあるのだ。
 狭間との交渉で見せたような高い知性を持つシャドームーンが、その人間達をただの塵芥程度の認識で終わらせているはずがない。
 それでもなお、シャドームーンと人間の間には深い断絶がある。
 シャドームーンが元人間であろうと、決して対等にはなり得ない。
 例え彼らの願いを、叫びを、無意識の海を通して全てを共有しても、シャドームーンには届かないのだ。


「あの人達は」


 つかさとて、分かっている。
 光太郎の記憶を垣間見た事でシャドームーンの過去も、今も、知っている。
 分かり合えないと理解している、それでもここで黙るわけにはいかなかった。


「あの人達は、弱くなんかないです。
 醜くなんてない、愚かでもない……ここにいる北岡さん達だって!!」


 蒼嶋駿朔を、ヴァンを、千草貴子とC.C.は『英雄』と呼んだ。
 英雄の条件が、C.C.の感じた通り「他者がその者を英雄と認める事」であるならば――つかさの周囲に居た者達は、英雄だ。
 つかさが彼らを英雄だと思えば、彼らは英雄なのだ。

 つかさはそんな彼らの戦っている背を見ている事しか出来なかった。
 しかしずっと見ていたからこそ、誰よりも知っている。
 死せる英雄達の戦いを。
 彼らが強かった事を、美しかった事を、正しかった事を。
 無意識の海でより強固にした彼らへの羨望を、感謝を、尊敬を、強大な敵に向かって叩き付ける。



「私の大好きな人達を……悪くなんて言わせない、いなかった事になんてさせないッ!!!!」



 息を切らし、肩を上下させ、精一杯の思いを乗せてシャドームーンを睨む。
 しかしつかさの必死の思いを、シャドームーンは一笑に付した。

「吠えたな小娘。
 だがそれでどうすると言うのだ」

 つかさは言葉を詰まらせる。
 シャドームーンの言う通り、どんなに思いを募らせてもつかさは無力なのだ。
 対するシャドームーンは傷付いてなお健在。
 弱った素振りすらなく、堂々と立つ絶対の王者。
0252終幕――死せる英雄達の戦い ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/01/01(水) 18:20:33.12ID:CQ1uZSZh
「脆弱な人間が、この創世王に何が出来る?
 させないと言うのなら――」
「俺達が黙らせるだけだよ」

 シャドームーンの声を遮り、北岡がつかさの前に出る。
 そして狭間が、翠星石が、それに続いてつかさを下がらせた。

「ありがとうね、つかさちゃん。
 俺達の分まで言ってくれたお陰でせいせいしたよ」
「気持ちは僕達も同じだ、柊。
 これ以上言わせておくつもりはない……まして、皆の存在を消させるつもりもない」
「銀色おばけ相手にあれだけ啖呵を切れれば大したもんですぅ。
 後はこっちに任せておけですよ」

 遠くからは「流石だつかさちゃん、私の言おうとしていた事を良く代弁してくれた!」という上田の激励が聞こえてくる。
 仲間の気遣いに、涙が出そうになる。
 結局仲間を頼る事しか出来ない自分が悔しかった。
 けれど、彼らになら任せられる。
 つかさは微笑み掛けてくれる三人に向かって頷き、素直に戦線から下がった。

「契約の時に言ったな、シャドームーン。
 僕は、お前を許さない」

 狭間がシャドームーンに向けるのは、一切の優しさを消し去った冷静な声。
 周囲は空気は質量を持ったように重く、つかさが話していた時とは桁違いの緊張が辺り一帯を包む。


「皆で元の世界に帰る為にも、自在法を発動させない為にも、人間として……僕らはお前を倒す」


 改めて狭間偉出夫が宣戦布告する。
 そして――



「いいだろう、掛かって来い――我が敵達よ」



 魔王はそれを、受けて立つ。


0255 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/01/01(水) 18:22:19.37ID:CQ1uZSZh
短いですが投下終了です。御支援ありがとうございました。
続きは執筆中ですので、大変申し訳ございませんが今暫くのお時間を戴ければと思います。
誤字脱字、問題点等がございましたら御指摘下さい。
よろしくお願い致します。
0259創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/01/01(水) 18:27:46.23ID:Kb2MaF49
投下乙でした!
死者の台詞の連打がもう……!
どの台詞もその場面を思い出させて、そのどれもが名シーンだったけに、熱すぎる!
シャドームーンが光太郎の最後を知って!
つかさが狂っちまったけど、ゆーちゃんの死にだけはまともな、人間の感情を持っていたことは知って!
アイゼルやジェレミアの記憶を見てつかさの弱くて挫けそうな部分がなくなって!
もうこのパートがヤバイ、最終回というに相応しいクライマックスパート!

それである種ロワの根幹になるところをVVが説明しだして、
その中に神殺しの剣で接続するのがCの世界よりも大きい感じのする世界樹に接続するというのが実に実に!
クロスオーバーの醍醐味を見た!

そして最後はつかさが人間を代表してゴルゴムの王に啖呵を切って、シャドームーンとの決戦に……!

後編も楽しみにしています!新年から投下ありがとうございましたー!
0260創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/01/01(水) 18:34:57.51ID:KqqePZ1D
投下お疲れ様です!最後の戦いの幕開けにして物語の幕引き。
出会わなかった参加者の記憶も刻まれていくのがなんとも!名シーン台詞ラッシュ。
野望を持ちこそすれ必死になって汗だくになってまで叶えたい「願い」というものを持たないシャドームーンと、
願いのために戦いあがいてきた一同という対比、そして「明日」「英雄」というキーワード。
今までの描写を丁寧に拾ってくるのがたまらないです
ジェレミアが死にたいと漏らしていたことを知って傷つきながらも、生きる意志を固めて
シャドームーン相手に「いなかった事になんてさせないッ!!!!」と叫ぶつかさがもうね…!

続きの投下も楽しみにしてます!
0262創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/01/01(水) 20:51:31.04ID:fOIAj1Cr
投下乙です!
まさに最終決戦って感じの始まり方でしたね! これまでに出会ってきた人達との思い出を背負って、シャドームーンと戦うのですから!
最後はどちらが勝つのか? それとも誰も生き残らないままこの物語は決着がつくのか?
どんな結末を迎えるのか、楽しみに待たせて頂きます!
0263創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/01/06(月) 19:32:52.90ID:15JrqS3g
もうあまり時間がありませんが今日は交流雑談所で多ジャンルバトルロワイアル語りをしています

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1385131196/l50
0264創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/01/08(水) 01:19:40.42ID:TDMzgtKS
こなたの登場話はゆたかの存在が誰からも忘れられてしまうという寂しい夢だったっけな
そしてラストは64人の存在をなかったことにさせないための戦いに…!
0268創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/02/11(火) 23:43:47.79ID:0mk1GVW6
支援絵!

年賀状
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0298.png

SS再現絵第二弾!

「それぞれの行く先」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0294.png

「叶えたい願い」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0295.png

「Ultimate thing」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0296.png

「Blood bath」
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0297.png
0269創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/02/12(水) 03:06:03.82ID:tyXqyoJE
うおおおおおおおおおおおおおお!!!!
支援絵かっけえええええええええええええええええ!!!!
ジェノサバイバーかっけえ!
傷ひとつないメタリックボディのシャドームーンと傷だらけの亀山インペラーが対照的であのシーンのかっこよさが全面に出てる!
三人を相手にする後藤かっこいいが、その、左上のサイトとルイズからの左下の血と暗闇は……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

そして、そして……光太郎とみなみが綺麗すぎる……泣けてくるよ……
0270創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/02/19(水) 15:21:03.63ID:A0JNQgvn
保守
0271創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/02/21(金) 23:47:34.01ID:BhooUosT
今更だがトリック映画…トリックのくせに湿っぽい終わりかたしやがって…
ベタだがうるっときちゃったぜ
0272創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/02/22(土) 00:11:05.33ID:4Py8Y0oa
トリック劇場版ネタバレ

上田大活躍!
0278終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:01:30.70ID:w0JRCrMo
 挑発とも取れるシャドームーンの言葉をきっかけに、ピンと張り詰めてた空気が爆ぜる。
 最後の戦いの火蓋が、落ちる。
 先陣を切ったのはローゼンメイデン第三ドール、翠星石だった。

「言われなくても行ってやるですよ!」

 戦いに臨む四人のうち唯一、単身での空中戦を可能とする翠星石。
 音速に近い速度で移動しながら小回りを利かせ、シャドームーンの間合いの外から花弁と黒羽を飛ばす。
 掌から直線的にシャドームーンを狙うのではなく、広範囲に拡散させて進路を妨害するのが狙いだ。
 マイティアイを持つシャドームーン相手に攪乱は無駄。
 しかし動きを制限するには充分だった。

 その間に狭間がタルカジャとラクカジャを重ね掛けし、味方全員の攻撃力と防御力を底上げした。
 そして翠星石がシャドームーンの周囲の花弁の位置を操作して道を作り、狭間が駆ける。
 狭間が抜き放った名刀・斬鉄剣はエルボートリガーによって受け止められた。
 しかし岩を砕く程の振動を放つエルボートリガーが相手であっても、斬鉄剣は揺るがない。
 線が細く華奢な体の狭間だが、魔界を制したその膂力はシャドームーンにも比肩し得る。
 また単純な筋力ではシャドームーンに軍配が上がるとしても、扱う武器によって差が縮まっていた。
 両手で扱う斬鉄剣に対し、エルボートリガーは片腕の力しか掛けられないのだ。

 空いた腕を振り上げようとして、止まる。
 翠星石の如雨露によって育った蔦が絡んでいたのだ。
 これにより斬鉄剣とエルボートリガーの衝突は完全に拮抗。
 だが今の狭間には、魔人がついている。

「行くぞ、蒼嶋……!!」

 狭間の背後に浮かび上がる朧げな影。
 それが狭間自身と一体化し、【魔人】イフブレイカーの力――“もし”をぶっ壊す為の力が宿った。
 狭間が足場を踏み締め、両腕で斬鉄剣を支えてエルボートリガーに対抗する。
 拮抗していた天秤は狭間に傾き、シャドームーンが一歩後退した。

「生身の人間の力が、この創世王に勝るだと……!?」
「そうだ。
 僕は、一人じゃないからな……!」

 エルボートリガーが斬鉄剣を弾き、シャドームーンが素早く飛び退く。
 直前まで居た場所には黒羽が突き刺さっていた。
 狭間も後方へ跳び、手の痺れを振り払いつつ体勢を立て直す。
 シャドームーンはその間にもシャドービームで花弁と黒羽を撃ち落とし、更に距離を取った。

 サタンサーベルを失ったシャドームーンは今や徒手空拳。
 ダンとの戦闘による消耗はそのままで、エルボートリガーも残るは片腕分のみ。
 かと言って、余裕のある戦いにはならない。
 シャドームーンはこれだけの不利を抱えながら、翠星石と狭間の初撃を無傷で切り抜けて見せたのだ。
 創世王を前に、僅かな油断も許されない。

 そしてその間に静観を続けていた男が動き出す。



「私に何か出来る事は……」
「ないよ。
 無理しなくていいから、つかさちゃん連れて下がっててね」

 取り付く島もなく流されて、つかさと共にすごすごと戦場を離れていく上田。
 「手伝え」と言われずに済んでホッとしている事は、己の胸の内にそっとしまわれている。

「ま、ものは試しだからね」
0279終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:02:14.55ID:w0JRCrMo
 上田達が離れるのを見届けたゾルダはデッキに手を伸ばす。
 使うタイミングは、翠星石達とシャドームーンの間に距離が出来た時。

 『願い』が叶えられた事で、ゾルダは全てのライダーのカードを手に入れた。
 同時にそれぞれのカードの能力、使い方といった知識も得ている。
 故にカード選びに迷いはなく――そしてそれは、数あるカードの中でも異質と言って良い程の力を持っていた。

 ライダーバトルを始めた張本人、神崎士郎が利用していたオーディンのデッキ。
 そのオーディンが扱う、時を操作するカード――過去の修正を可能とするカード。
 神崎が妹の結衣を救う為に、望んだ結果を得る為に、ライダーバトルを繰り返すのに用いられていた。
 このバトルロワイアルそのものを破綻させかねないそのカードを、ゾルダは躊躇なくマグナバイザーへとベントインした。

――TIME VENT――

 一瞬、全てが止まった。
 ゾルダの体が鏡の破片となって砕け散り、巻き起こった突風にシャドームーンも狭間達も煽られる。
 飛び散った破片は時を巻き戻すようにゾルダを再構築し、ゾルダ以外の者達の姿は消えていた。
 シャドームーンも、狭間も、翠星石も。
 そして「空間に断裂が走った」。

「は?」

 ゾルダは目の前の光景が信じられず、間の抜けた声を出してしまう。
 斜めに一閃。
 更に一閃加わり、十字が描かれる。

「下らん……」

 シャドームーンの声と共に、十字の隙間から銀色の指と翠色の光が覗いた。
 そしてシャドームーンは、最初にこの場に現れた時と同様。
 エルボートリガーで作った断裂に手を掛け、障子を破るような気安さで空間を引き裂いた。

 古い殻を脱ぎ捨てるように、止まっていた景色を破壊して再びシャドームーンが現れた。
 何事もなかったかのようにそこに立っている。
 タイムベントが構築した膜は音を立てて崩れていき、狭間や翠星石達も姿を見せた。

「例え時が歩みを止めようと、この創世王の歩みは止まりはしない」
「…………だよねぇ。
 無理だと思ってたよ」

 改めて規格外の強さを見せ付けるシャドームーンに、ゾルダは負け惜しみを言う気も起こらなかった。
 キングストーン相手に小細工は無駄だと察していたからこそ、危険ですらあるタイムベントを躊躇いなく使ったのだ。
 始めに言った通り、ものは試し。
 元より大きな期待を抱いていたわけではない――とは言え、ゾルダも仮面の下で苦笑せざるを得なかった。

「それなら別の手を使うだけなんだけどね」

 ゾルダが新たなカードを抜く。
 シャドームーンは即座にゾルダとの距離を縮めようとすが、横合いから急激に成長した太い蔦がそれを阻んだ。

「行かせねーです!!」

 這うように伸びた蔦が絡み合い、太さは三メートルを優に越えていた。
 そうなれば当然、シャドームーンの進路と視界を完全に塞いでいる。
 だがシャドームーンは速度を緩めず、蔦の表面を蹴って上へと跳んだ。
 蔦を乗り越え、視野が開ける。
 マイティアイが映す景色の中央には、同じく反対側から蔦を乗り越えた狭間がいた。
0280終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:03:16.49ID:w0JRCrMo
「ジオダイン!!」
「シャドービーム!!」

 “魔人”との出会い、己の内にある欲望との決着。
 それらの経験は狭間の魔法の威力を飛躍的に高めていた。
 そしてジオダインは、敵単体への雷撃魔法のうちで最も高い威力を誇る。
 本物の雷と同じ速さで飛ぶ雷撃――しかしシャドービームも引けを取らない。
 閃光と閃光がぶつかり合い、巻き起こった爆発が真下の蔦を焼き尽くした。
 それ程の熱が周囲に飛び散り、接近した状態にあった二人は爆風によって引き離される。
 吹き飛ばされた狭間とシャドームーンは、両者とも空中で体勢を整えて着地。
 そして瞬きする暇も許さない攻防戦の背後で、機械音声が響く。

――SURVIVE――

 そのカードは“烈火”。

――SURVIVE――

 そのカードは“疾風”。

――SURVIVE――

 そして“無限”。

 同時にゾルダに変化が起こる。
 緑を基調にしていたスーツは黒へ。
 その上から緑と黄に色分けされた装甲を纏い、肘にはマグナギガのギガホーンを模した角が装着された。
 ゴルトフェニックスの左の翼が司る炎を、右の翼が司る疾風を背負う。
 そして金の羽がゾルダの周囲を舞う――仮面ライダーゾルダのトリプルサバイブ形態。

 タイムベントが不発に終わった後、ゾルダがデッキから抜き取ったのは三枚のサバイブカードだった。
 この三枚を同時に扱えるのは、本来は召喚機に三カ所のカードスロットを持つオーディンのみ。
 しかしゾルダがサバイブカードを手にすると、召喚機を兼ねたマグナバイザーはマグナバイザーツヴァイへと変形した。
 ハンドガン型からガトリング型へと姿を変え、弾倉部分を上下に開けばそこには三カ所のスロットがある。
 北岡の『願い』に呼応した事で、ゾルダは三枚のサバイブを使えるよう進化していたのだ。

「多勢に無勢でかっこ悪いけどね……手抜きは無しだ」
「面白い……!」

 サバイブは一枚だけでも劇的な強化をもたらす。
 それが三枚――しかしそれで怯む王ではない。
 翠星石が放った黒龍の顎を最小限の動きで躱し、拡散したシャドービームが周囲の花弁ごと黒龍を撃ち落とす。
 黒龍が形を失って大量の黒羽を散らせ、それも花弁と共にビームで焼かれていった。
 だが広く散らばった花弁に対応する為に、ビームもまた薄く広く展開していた。
 故にマグナバイザーツヴァイから放たれた弾丸は、ビームの層を易々と貫通する。
 弾数制限のないマシンガンに強襲され、シャドームーンは回避を余儀なくされる。

 だがそれら全ても次への布石に過ぎない。
 弾丸の嵐を躱し切ったシャドームーンの背後から、狭間が奇襲を仕掛ける。
 その斬鉄剣による斬撃を――シャドームーンはエルボートリガーで受け止めた。
 振り返らずに。
 翠星石とゾルダが二人掛かりで作った死角からの攻撃を、一歩も動く事なくだ。

「まさか……」

 援護射撃をしようとしていたゾルダの手が止まる。
 狭間もまたシャドームーンの変化に気付いて距離を取った。
 翠星石は水銀燈から受け継いだ黒羽で高く舞い上がり、俯瞰した位置から憎々しげにシャドームーンを見下ろしている。

「死んだ者達の記憶は……思い出とやらは、貴様らの力になったか?」
0283終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:04:42.28ID:w0JRCrMo
 彼らの記憶は、確かに狭間達の支えとなっている。
 背中を押してくれる。
 それにお互いの技や性質・性格を知り合う事により、戦いの中で合図がなくとも呼吸を合わせられるようになった。
 だがシャドームーンにとっては、全く別の意味を持っている。

 強化手甲・エルボートリガー。
 強化装具・レッグトリガー。
 金属外皮・シルバーガード。
 強化筋肉・フィルブローン。
 シャドームーンは戦う為に生まれたと言って良いポテンシャルを持つ。
 そしてこれらの肉体的強さを支えるのが、全てを見通すマイティアイだ。
 目から得られた情報を改造された脳が解析し、卓越した戦闘センスによって戦いに活かしていく。
 そのシャドームーンに足りないものがあるとすれば、実戦経験の少なさだった。
 改造された後は長く眠り、目覚めたのは最近の事。
 戦った相手は剣聖ビルゲニアや仮面ライダーBLACKと、ごく限られていた。
 逆にそれ故に、このバトルロワイアルでの連戦がシャドームーンを更に強くしたのだ。

 そのシャドームーンに参加者五十九人の記憶を見せればどうなるか。
 並の人間ではその膨大な量の記憶を一度に見せられても、多くを散逸させてしまう。
 だが改造された脳を持つシャドームーンは違う。
 五十九人の記憶を情報として解析し、己の糧としたのだ。
 一度見た動きはシャドームーンには二度と通用しない。
 そのシャドームーンが多くの戦いの記憶を得た事で、以前よりも対応出来る攻撃・状況の幅が広がった。
 そして戦場に身を置いた年月と研鑽によってのみ得られる「勘」を獲得したのだ。
 狭間による視界の外からの斬撃を受け止められたのも、己へ向けられる殺意に鋭敏に反応した為だった。
 歴戦の強者達の記憶と経験を我が物として、シャドームーンは欠けたるものを埋めたのである。

「慣れ合いに価値はない。
 貴様達の首を絞める事はあってもな」

 横薙ぎに振るわれた斬鉄剣をいなし、足下に撃ち込まれた黒羽を跳躍する事で回避。
 そして――

――FINAL VENT――

「その技も知っているぞ!!」

 シャドームーンを空中に誘い出して狙った一撃も、読まれていた。
 仮面ライダーシザースのファイナルベント・シザースアタック。
 契約モンスターボルキャンサーの両腕によって高く、強く回転しながら打ち出されたゾルダによる体当たりだ。
 だがシャドーチャージャーは既にエネルギーを蓄えており、シャドームーンはそれを拳に込める。

「シャドーパンチ!!!」

 拳と蹴りが拮抗したのは一瞬だった。
 弾かれたのはゾルダの方で、体勢を整えるのも間に合わず地面に墜落する。
 のみならず、シャドームーンはチャージャーの余剰エネルギーを指先の一点に集中させて射出。
 細く伸びたビームはボルキャンサーの胸を貫き爆散させた。

 シザースは決して強いライダーではない。
 ファイナルベントの威力も4000APと、他のライダーのものに劣る。
 だが『願い』とトリプルサバイブ、そして狭間の強化魔法によってゾルダの強さは何段階も引き上げられているのだ。
 その一撃を、シャドームーンは狭間達を相手にしながら破った。
 しかも事のついでのようにボルキャンサーの破壊まで行っている。
 どんな技か、最適な迎撃のタイミングはいつか、「知っている」アドバンテージはそれだけ大きかったのだ。
 ゾルダ自身はほぼ無傷だったものの、あっさりと破られた事への驚きは隠せない。

 シザースアタックを弾いた反動で更に高く舞うシャドームーン。
 シャドーチャージャーへのエネルギーチャージの時間を与えず、翠星石の黒龍が口を開けてその銀の体に噛み付いた。
0285終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/07(金) 22:06:18.67ID:w0JRCrMo
 シャドームーンの体が黒龍の口内に収まるが、黒龍の口は閉じない。
 シャドームーンが両手足の力で上顎と下顎を押さえているのだ。

 しかしシャドームーンが極端なダメージを受けている時ならばともかく、この程度で倒せない事は翠星石も良く知っていた。
 故に、黒龍をもう一体。
 一体の黒龍が体内のシャドームーンとせめぎ合う間にもう一体の黒龍が大口を開け、「その上から」食らい付く。
 遠目では黒龍が黒龍を食っているようにも見えた。
 黒龍二体分の力が加わって、それでもなおシャドームーンは踏み留まる。
 やがてシャドーチャージャーにエネルギーが充填され、黒龍の口の中で全包囲に向けてシャドービームが炸裂した。

 翠星石がミーディアムと契約して得たのは、「更なる力」ではない。
 狭間、シャドームーン、ヴァン、クーガーらを同時に相手取れた程の絶大な力――それを自らの意志で操作する「安定」だ。
 それ故に、力そのものには前にシャドームーンと戦った時から大きな成長がない。

「その程度では、私には届かん」

 対するシャドームーンはその戦闘の後、創世王を吸収して格段に強くなっている。
 それは強化というより『進化』と呼んだ方が近い変化だった。
 加えて無意識の海で得た豊富な経験がある。
 よって、シャドームーンと翠星石の力の差は開きつつあった。

 新たな強さを手に入れてもまだ、足りない。
 翠星石でも。
 狭間でも。
 ゾルダでも。
 一対一では、シャドームーンには届かない。

「だから仲間がいるんだ。
 お前は慣れ合いと呼ぶだろうがな……!!」

 焼け焦げて散らばる無数の黒羽の中、シャドームーンが姿を見せる。
 未だ着地していない。
 ゾルダと翠星石による連撃の直後、回避行動が制限されたこの機会を逃がす狭間ではなかった。

 掌から放たれたのはアギダイン。
 敵単体への攻撃としては炎系魔法の中で最強の威力を持つそれを、シャドームーンは交差させた両腕で受け止めた。
 豪快な音を轟かせ、爆炎がシャドームーンを弾き飛ばす。
 足場のない空中では勢いが緩まず、シャドームーンは遙か後方に着地した。
 その身から僅かに立ち上る噴煙がと火花が、シャドームーンが決して無傷ではない事を示していた。

 とは言え、その程度。
 そして狭間達の側も失ったのはミラーモンスター一体、それもゾルダが様子見に使ったもののみ。
 お互いまだ全力には程遠く、小手調べの域を出ない。
 戦いはまだ、始まったばかりである。



――SHOOTO VENT――

 ゾルダが両肩に二連ビームキヤノンを担ぎ、翠星石と共に後衛。
 そして狭間が前衛という体制を崩さないまま戦いを続ける。
 ゾルダは近距離戦闘も可能だったのだが、今は現状維持という結論で落ち着いていた。
 性格の向き不向きや慣れの問題に加え、シャドームーンの周囲を花弁が包んでいる状況では前衛が増やせないからだ。
 故に狭間は仲間の援護を受けながらではあるが、一人でシャドームーンに立ち向かう事になる。

 斬鉄剣とエルボートリガーがぶつかり合う。
 しかし押し合いになれば狭間の側に分があるのは既に証明済み。
 また動きを止めればゾルダと翠星石の恰好の的となる故に、シャドームーンは鍔迫り合いを避けていた。
 狭間の剣戟をエルボートリガーから生えた突起で止め、そのまま腕を振るって剣の軌道を逸らしているのだ。
 魔界での経験がある狭間も剣に関しては我流であり、蒼嶋の力を未だ活かし切れていない。
0287終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:07:24.26ID:w0JRCrMo
 しかし数の利は確実に戦況に影響していた。
 シャドームーンはエルボートリガーを失った腕で常にシャドービームを撃ち続け、防御に専念している。
 周囲の花弁一枚一枚がシルバーガードを傷付けるだけの鋭さを有しており、そこにゾルダの砲弾が加わるからだ。

 ゾルダが狭間とシャドームーンの位置を見極めて撃ち込む砲弾。
 それはシャドームーンの間合いの外でビームとぶつかり合い、爆発する。
 だがゾルダの砲撃の威力は元の倍以上に跳ね上がっており、爆発位置が少々ズレたところで火力は殺せない。
 相殺し切れず、花弁を飲み込んで急速に広がった爆炎がシャドームーンを飲み込んだ。

 強大な敵を前に、決して不利な戦いにはなっていない――狭間は戦況をそう判断した。
 シャドームーンを防戦一方に追い込み、反撃の余裕はなくなっている。
 だが実際にはギリギリの均衡の上での優位だ。
 現に、今。
 シャドームーンを包んだ炎の壁から、銀色の手が突き出された。

 撃ち出されるシャドービーム。
 狙いは炎に巻き込まれないよう一歩遠ざかった狭間――ではなく、その狭間よりも更に離れた位置にいる翠星石である。
 だがローザミスティカと共に受け継いだ、水銀燈の不可視のバリアが翠星石を守った。
 ビームがバリアを突破する事はなく、翠星石には風圧さえ届かない。

「お前の攻撃なんか効かねーです!
 このままケチョンケチョンに、」
「翠星石、前に出すぎるな!!」
「わ、分かってますぅ!」

 身を乗り出そうとしていた翠星石に、狭間が釘を刺す。
 翠星石を傷付けさせるわけにはいかないからだ。
 翠星石は今、前線に出ないのでも出さないのでもなく――出せないのである。

 一度は狭間も「殺す」と宣言した相手ではあるが、今は守り抜く決心を固めている。
 それはレナの為であり、翠星石自身の為であり――ストレイト・クーガーの意志に報いる為である。
 翠星石の説得を、狭間は終ぞ成功させられなかった。
 殺すという選択肢しか見出せず、その為にレナの願いと決別しようとさえしていた。
 そこへ、速さを信条とするあの男が新たな道を切り拓いた。
 一つしかなかった道に、命懸けでもう一つの道を作ってみせたのだ。
 無意識の海を通し、今も狭間の中に息づく志。
 それを決して無駄にはしない。

 また、翠星石が戦っている間は継続的にミーディアムの力が使われている。
 つまりつかさの負担になっている。
 翠星石が全力で戦えば、つかさも無事では済まないだろう。
 狭間の忠告に素直に従っているのを見ると、翠星石もつかさの身を案じているようだ。
 性格の面で狭間と決して相性が良いわけではない翠星石だが、目的はきちんと一致している。

 しかしシャドービームの瞬間、翠星石が無傷で済んだとは言え狭間は肝を冷やした。
 この状況下でも――否、この状況だからこそ、シャドームーンは隙あらば翠星石を狙おうとしている。
 目的はただ一つ、月の石と対となる太陽の石を手に入れる為だ。
 奪われれば戦況の逆転は確実。
 奪われなかったとしても、月の石と太陽の石が接近すればまた『不思議な事』が――『余計な事』が起こるとも知れない。
 翠星石やつかさの安全を度外視しても、やはり翠星石を前線に出すわけにはいかないのだ。

 故に、狭間はシャドームーンと相対しながら常に翠星石の位置に気を配っている。
 狭間が魔法主体ではない刀による接近戦を選んでいるのも、今の僅かな優勢を保つ為。
 だが当のシャドームーンは決して余裕を崩さない。

「微温い。この程度か」
「銀色おばけの癖に、偉そうな事ばかり……!」

 弾丸の嵐を掻い潜りながら、翠星石に向かって言葉を投げるシャドームーン。
0290終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:10:18.65ID:w0JRCrMo
 押されているにも関わらず、その声に焦りの色はなかった。
 攻め切れずにいる翠星石の方が余程落ち着きを失っており、これではどちらが追い詰められているのか分からない。

「孤立していた貴様の方がまだ手応えがあった」
「だっ、……誰のせいで、あんな事になったと思っていやがるですか!!!!」
「止まれ翠星石!」

 感情の爆発に合わせ、翠星石の体から赤い光が噴き出した。
 しかし宙を滑り出した翠星石はすぐに急ブレーキを掛け、バリアでシャドービームを防ぐ。
 太陽の石の光に包まれたのも一瞬の事で、既に光は収まっていた。

 シャドームーンはプライドの高い王だが、真正面からの戦いのみに拘るわけでも騎士道精神に従っているわけでもない。
 必要とあらば挑発もする、演技の一つもするだろう。
 あらゆる意味で、一筋縄でいく相手ではないのだ。

 翠星石が引き下がるのを視界の端で確かめながら、狭間は思案する。
 長期戦になる程翠星石が消耗し、不利になる。
 危険が増える。
 故に、攻める。

 狭間の斬撃はことごとく勢いを殺され、シャドームーンに届いていない。
 「線」が捉えられてしまうなら、シャドームーンですら止められない「点」で狙う。
 何よりも速く鋭い一撃を叩き込む。

「思い出が僕らの力になったかと、尋ねていたな」

 弓を引き絞るように斬鉄剣を携えた左腕を下げ、反対に右手を前へと翳す。

「なっているさ」

 記憶を垣間見ただけで模倣出来る程、彼らの生きた道は易くない。
 或いはこれが桐山和雄であれば、余程巧く再現して見せたかも知れない。
 だが今は、洗練されたものである必要はない。
 荒削りで良い、その鋭さの一端でも受け継げられれば充分。
 「両腕で刀を振るえる」というアドバンテージを捨て、ガーディアンの力を左腕に集中させる。

 眼前の敵に対し、上半身のバネのみで繰り出す牙突零式。
 シャドームーンはこの技を知っている、だが最適解をもってしても止まらない。
 その切っ先は矢よりも速く、エルボートリガーへと到達した。

「馬鹿な……!」

 折れたエルボートリガーが宙を舞う。
 なおも止まらない斬鉄剣が、シャドームーンの腕のシルバーガードを貫く。
 悪・即・斬の牙に押され、シャドームーンの上体のバランスが崩れた。

「北岡!!」

 作戦など立てていない、だがこれで伝わっているという確信があった。
 狭間は巻き込まれる前に後退し、花弁と黒羽が道を空け渡す。

――FINAL VENT――

 ミラーモンスター、ギガゼール種達がシャドームーンに飛び掛かる。
 数はシャドームーンの視界を覆う程だが、これは記憶の海だけでなくシャドームーン自らが一度目にした攻撃だ。
 トリプルサバイブもミラーモンスター一体一体を強化するわけではなく、脅威にはなり得ない。
 シャドービームが次々に焼き払っていく。
 そしてゼール達を難なく撃退しながら、シャドームーンは脚に力を籠める。

 インペラーのファイナルベント・ドライブディバイダーの本命は、インペラー本人による蹴り。
0291終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:11:15.99ID:w0JRCrMo
 それを予め知っていたシャドームーンは、ゾルダの蹴りを正面から迎え打った。

「無駄な足掻きを!!」
「そっちこそ、いい加減終わりにしてくれない!?」

 蹴りと蹴りが交差するも弾き合い、互いに無傷。
 だがゾルダは更にカードを抜く。

――FINAL VENT――

 デストワイルダーがシャドームーンを引きずり倒す。
 うつ伏せになったシャドームーンだが、指先から放たれるビームは過たずデストワイルダーの体を射抜いた。

――FINAL VENT――

 ブランウイングが風を起こし、起き上がろうとしていたシャドームーンの身が僅かに浮く。
 その風には鋭い花びらとブフの氷が乗せられ、シルバーガードに確実に傷を付けていく。
 しかし、怯まない。
 吹き飛ばされかけたものの、シャドームーンはチャージャーのエネルギーを籠めた足を振り下ろした。
 足場に亀裂が走り、シャドームーンは強引にその場に踏み留まる。
 そしてチャージャーから直接放射されたビームが狙うのは一点。
 無視した花弁と氷に切り裂かれるのも構わず、ブランウイングの体を貫いた。

――FINAL VENT――

――FINAL VENT――

 エビルダイバーが。
 メタルゲラスが。
 ファイナルベントと共に散っていく。
 それでも一切の隙も生まれない。
 シャドームーンは常に『次』を想定して戦っている。

「貴様の狙いは読めているぞ……来い!!」
「おおおぉ!!!」

――FINAL VENT――

 ゾルダが跳び、ドラグレッダーが吐き出した炎に乗る。
 シャドームーンはそれに対し、一度破った時と同じ蹴りで応える。
 だが跳躍しようとしたその手足を、何重にも織り上げた蔦が縛った。
 ここまでのファイナルベントの間に用意されたものであり、シャドームーンであっても力だけでは千切れない。
 そしてその上から唱えられたブフダインがシャドームーンの全身を凍結させる。

 キングストーンを持つシャドームーンにFREEZEの効果は期待出来ない。
 氷はたちまち砕かれ、ビームが蔦を焼き切るのに掛かる時間も一秒足らず。
 だがその時間が、シャドームーンの知る最適な迎撃のタイミングを奪った。

「ドラゴンライダーキック!!!」
「シャドーキック!!!」

 ゾルダに数歩遅れて跳び上がり、チャージャーのエネルギーを存分に籠めた蹴りを放つ。
 同じ型の蹴りが、再び衝突した。



 いつか見た戦いの再現に、翠星石は目を細める。
 どちらも『彼』の技に良く似ていて。
 けれどその『彼』はどこにもいない。
 優勝という道を、自在法という万能の手段を、翠星石が捨てたからだ。
0294終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:12:45.95ID:w0JRCrMo
 自分が選ばなかったものに、翠星石は別れを告げる。

「そのまま、ぶっ飛ばせですぅぅ!!!!」

 小さな手で握り拳を作り、掲げる。
 それに呼応するように、ドラグレッダーの炎が勢いを増した。
 対照的にシャドーチャージャーからのエネルギーは弱まっている。
 花弁と羽を防ぐ為、ミラーモンスター達を倒す為、高出力のビームを放ち続けていたからだ。
 勝敗は既に決している。

「ぐ、ぉぉおぉおおおおおおおお!!!!!」

 シャドームーンの叫びと共に脚のシルバーガードが砕け、火花が散る。
 装甲のダメージは全身へ広がり、シャドームーンの巨躯が紙のように吹き飛んだ。
 ゾルダの勝利――しかしそれは、この場の誰もが想定していなかった結果を生んだ。

 遠ざかり、小さくなっていくシャドームーンの姿が消える。
 否、見えなくなった。
 空間を突き破り『外』へと落ちていったのだ。
 ダンの召還、強大な力と力の衝突、シャドームーンや狭間の出入り。
 様々な要因が、この空間の壁を脆くしていた。
 そしてその先にあるのは――

「nのフィールド……」

 狭間が呟く。
 ここはバトルロワイアルが開催された始まりの場所。
 V.V.のアジトとのみ繋がったこの場所は、志々雄が受けた説明によれば他の全ての世界から隔絶されている。
 しかしシャドームーンや狭間のように空間に穴を空けられれば、nのフィールドへ出られるのだ。

「あれで死んでるわけないです!!
 とっとと追うですよ!!!」
「分かっている……しかし」

 先陣を切って穴へ向かう翠星石を追いながら、狭間は胸騒ぎを覚えた。
 nのフィールドと繋がっているという事は――他の世界との行き来が可能であるという事。
 他の全ての世界から隔絶されたこの場所は、nのフィールドを通じて全ての世界と繋がっている。

 ここは始まりの場所。
 ここは『全ての世界に繋がる場所』。
 故に、空間が裂けた時。
 その先にあるのが、いつも同じ場所であるとは限らない。

 シャドームーンを追って狭間達も裂け目から飛び出す。
 眼前に広がるのは、やはりnのフィールド。
 だが吹き飛ばされたシャドームーンはその先にあった『扉』さえ壊して落ちていったようだ。
 個々の世界への入り口となる『扉』――それがあったであろう場所にも無惨な大穴が空いていた。
 そしてそこから覗く世界の姿に、狭間は目を剥く。

「魔界……!」

 狭間にとっては馴染みのある。
 ゾルダや翠星石にとっては蒼嶋の記憶で見た事のある景色が広がっていた。



 シャドームーンがまだ生きているという確信の下、狭間達はその世界に降り立つ。
 学校の周囲の建造物は疎か、校庭すら置き去りにして魔界に堕とされた学校。
 否、狭間が魔界に「堕とした」学校、軽子坂高校。
 狭間達が降りたのはその三階建ての校舎の屋上だった。
0296終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:14:21.41ID:w0JRCrMo
 グッと視線を持ち上げれば、混沌の色に染まった空に浮かぶ六つの異次元界がある。
 傲慢界、飽食界、怠惰界、憤怒界、嫉妬界、貪欲界。
 しかし狭間が知る魔界とは少し異なるようだった。
 魔神皇の気配がない。
 そもそも魔神皇がいれば、四階から十一階までの幻の校舎を形成しているはずなのである。
 恐らくバトルロワイアルが外部から干渉されないよう、ラプラスが予め手を打っていたのだろう。

 シャドームーンもまた、同じ屋上に立っていた。
 空間を破る程の衝撃を受けたその体は煙と火花を上げている。
 ダンの一刀によって傷付いていた胸部を中心にシルバーガードは剥がれ、強化筋肉が露出。
 しかし、それで微塵も揺るがないのがシャドームーンという存在である。
 周囲の景色を視界に取り込んだシャドームーンはあざ笑う。
 蒼嶋の知識を共有している為に、この世界が如何なる意味を持つのかも知っているのだ。

「魔界、大罪。
 人間の欲そのものの姿……やはり、醜い」
「……確かに僕も、そう思っていた」

 狭間にとって、人間は醜かった。
 狭間は孤立しながら、そうして人間を蔑む事でしか己を保っていられなかった。
 だが日常の中で愛情に飢えていた狭間は、皮肉にも殺し合いの中で愛情を得た。

「僕の好きな女の子は。
 毎日仲間と幸せに過ごしたいとか、美味しいものが食べたいとか、部活で勝ちたいとか、可愛いものが欲しいとか。
 そんな事を思いながら、日々を謳歌していた」

 その少女は、日々が有限である事を知っていた。
 幸せが簡単に壊れてしまう事を知っていた。
 だから毎日を懸命に生きていた。

「僕は、それを……欲望とは呼ばせない。
 彼女の願いを、なかった事にはさせない」
「ふん……」

 いつまでも平行線のまま、斬鉄剣が振り抜かれる。
 既にエルボートリガーはなく、シャドームーンは回避するか刀の腹を裏拳で弾くかで凌いでいた。
 あと一歩のところで決定打が出ない。
 しかし、狭間は一人ではないのだ。
 翠星石の放った花弁がシャドームーンの足下を穿ち、跳躍してそれを回避したところをゾルダの砲弾が狙う。

「やっぱり嫌いだよ、お前みたいな奴。
 志々雄と同じぐらいにさ」

 直撃の寸前にエルボートリガーが砲弾を切断するが、爆発の熱と炎がシャドームーンを襲う。
 シャドームーンが掌で爆炎を受け止めたものの、そのまま学校の屋上に叩き付けられた。
 コンクリートを砕きながら転がり、シャドームーンはすぐに体を起こす。
 その装甲に広がった傷が、体から立ち上る噴煙が、シャドームーンのダメージが小さくない事を告げていた。

「僕らに共存の道はない……これで終わらせよう」

 屋上に斬鉄剣を突き立て、空いた両手を前へと翳す。
 巻き添えを避ける為ゾルダと翠星石は後退し、シャドームーンは立ち上がるのが一歩遅れた。


「 メ ギ ド ラ オ ン ! ! ! 」


 それは万能属性の神の力。
 煉獄・改のブレイズルミナスをも突破した最大呪文を、シャドームーンに向けて放つ。
 本来一人の敵を相手に使う魔法ではなく、効果範囲は広大だ。
0300終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/07(金) 22:17:05.03ID:w0JRCrMo
 回避の余地はない。
 シャドービームで反撃したところで、この魔法の前では津波に飲まれて消えるさざ波のようなもの。
 正面突破も許さない。

 神の裁きの光に埋まるシャドームーン。
 断罪の炎が銀色の月を灼く。
 学校の屋上は狭間が立つ位置から先が残らず消し飛び、下の階層までも破壊され、隣りの傲慢界の一部さえ削り取られた。

 光が止むと、狭間の額からドッと汗が噴き出す。
 ギアスによる制限を破ったとは言え自在法には縛られたままで、魔力の消耗は大きい。
 しかし駆け寄ろうとしたゾルダと翠星石を手で制し、首を横に振る。
 シャドームーンの生死の確認が先だ。
 破壊の光が過ぎ去った後の景色の、その先へ。
 狭間は目を凝らす。

 最初にシャドームーンを視認したのはゾルダだった。
 元々二十キロ先まで見通す程だった視力はトリプルサバイブで上昇し、遙か遠くの銀も正確に捉えたのだ。
 だがより正確に言えば、銀ではない。
 全身のシルバーガードが剥がれた、或いは亀裂を走らせたその姿は、既に銀の輝きを失っていた。

 真っ先にメギドラオンを受けたであろう両腕は消失していた。
 火花を上げながら、シャドームーンは軽子坂高校と傲慢界の間を落下していく。
 足場のない無音の闇へ落ちていく。

 だが狭間達には誤算があった。
 キングストーンを――月の石の力を最大限に警戒しながら、それでもなお足りなかった。
 人智を超えた大いなる石。
 『月』の一字を冠したその石の力を、狭間達は知らなかったのだ。



 落ちていくシャドームーン。
 六つの異次元界が遠ざかっていく。
 ぼやけた意識の中でその目に映ったのは、月。
 ラプラスが用意した会場のまやかしの月ではない、悪魔達の力を増減させる本物の月。
 そして、今ここで見えるのは――真円を描く満月。

 シャドームーンの目の中で火花が散る。
 体内のキングストーンの働きが急速に活発化する。
 全身から蒸気が噴き出し、金色の光に包まれた。








――その時、不思議な事が起こった。








「……?」

 ざわ、と狭間達三人の背筋に、冷えた手で撫でられるような感覚が走った。
0304終幕――月は出ているか? ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/07(金) 22:18:31.18ID:w0JRCrMo
 本能が警鐘を鳴らす。

 狭間達の立っていた場所めがけて、金の流れ星が落ちた。
 三人は咄嗟に飛び退いて目を凝らす。
 辺りに熱と炎を蒔いたその星の正体は、シャドームーン。
 横たわった状態から緩慢な動作で立ち上がるのを、誰も止められなかった。
 得体の知れない気配を纏った相手に、不用意に攻撃を仕掛けられなかったのだ。

「生まれ変わった、か……」

 冷静な声。
 今ここで、何が起きているのかを正確に把握しているのはシャドームーンただ一人。

「貴様達の地獄は、ここから始まる」

 シャドームーンは再度、宣言する。


「私はこの世の全て……生きる者全てを支配する」


 それはまさに、月の荘厳なる奇跡であった。



「創世王シャドームーン R X ! ! ! 」



「センスが昭和なんだよ……!」

 反射的に悪態を吐いたゾルダだったが、状況は最悪だった。
 志々雄真実がもしこの光景を見ていれば、こう口にしただろう。
 最終戦、第二幕の開始だ――と。

0309 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/07(金) 22:20:37.66ID:w0JRCrMo
短いですが投下終了です。御支援ありがとうございました。
今月中の完成を目指しておりますので、今暫くのお時間を戴ければと思います。
誤字脱字、問題点等がございましたら御指摘下さい。
よろしくお願い致します。
0313創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/07(金) 22:42:02.44ID:4SZzBpvi
投下お疲れ様でしたー!
最後のオチにもおおうってなったし、メガテンとの関連付けも上手かったしセンスが昭和にも吹いたけど
そういう不思議な事じゃない序盤の方の参加者たちの思い出が逆用されての強化にもおおうってなった
シャドームーンやはり強い!
北岡さんのトリプルサバイブやファイナル連打も燃えた!
0316創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/09(日) 18:51:12.28ID:XovH1fMw
投下乙です。

ブラックが太陽光で進化したように、シャドームーンも月光によりRX化!
0317創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/26(水) 22:47:41.58ID:xdSor9an
投下お疲れ様でした、なんてこったい
Cの世界での参加者の記憶共有によって実戦経験の乏しさを補ってしまった上、
RX化してしまうなんて!最後でも一筋縄でいかせないで詰めこんでくれる!
「『不思議な事』が――『余計な事』が起こるとも知れない。」とか警戒対象扱いな上言い直していたのには噴くw

それにしてもあらゆるカード・ミラーモンスターを駆使する最強の仮面ライダーゾルダといい、
斎藤一の牙突零式を繰り出す狭間といい、多ジャンル的に参加者の記憶共有は燃える燃える
参加者の記憶・想いを背負った生存者とシャドームーン、どっちが上回るか…!
かつて自分が魔界に落とした軽子坂高校という狭間にとって因縁深い地が舞台となったのも、
現在の狭間の変化が余計際立つなぁと

次の投下もwktk待機!
0318 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/30(日) 20:25:24.90ID:FY4NXSPc
大変長らくお待たせしております。
最終回は本日22時より投下開始、本日中に完結の予定です。
最後までどうかよろしくお願い致します。
0323 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/30(日) 22:00:12.84ID:FY4NXSPc
最終回を投下します。

なおこの最終回の原案は◆KKid85tGwY氏より頂戴しました。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げます。
0325終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/30(日) 22:01:13.42ID:FY4NXSPc
 戦闘の煽りを受けないよう、つかさと共に遠く離れた位置から戦況を見守っていた上田。
 狭間へ送る視線は真剣そのものだった。

「狭間君、そうだったのか……」

 彫りが深く、少々日本人離れした濃さの顔にはイタリア人温泉技師も真っ青。
 そんな上田が眉間に大きな皺を刻んで考え込む。
 狭間は天才だが、この男もまた天才。
 故に狭間に可能な事は、上田にとってもまた可能なのである。

「つまり……私も……訓練を積めば、飛天御剣流の使い手に!!!」
「ええっ、凄いです上田先生!」

 上田の台詞を聞いていたつかさは素直に感嘆の声を上げた。
 残念ながらこの場にはツッコミ役がいないのである。
 気を良くした上田が己の肉体美について語るうちに、戦っていた四人は「外」へと戦場を移した。

 取り残された二人。
 つかさの隣りにて、上田は所在なげに待つ。
 外がどうなっているのか、上田達が立っている場所からは見えない。
 だが二人はその場から動かない。
 彼らを追い掛ける術を持たず、また追い掛けたところで足手纏いにしかならないのは明白だからだ。
 空間にぽっかりと空いた穴を覗く事すら危険を伴い、躊躇われる。
 故に戦況を窺う事もなく立ち尽くしているのだが、とにかく手持ち無沙汰だった。
 しかもミーディアムとなったつかさとは違い、上田は何の役割も負っていない。
 流石に何かした方がいいのではないかと、そわそわと落ち着きなく視線を彷徨わせ始める。

「上田先生」

 挙動不審、の一言で表現出来る状態にあった上田に、つかさの声が掛かる。
 見詰めてくる彼女の顔は僅かに紅潮しており、上田の心拍数が跳ね上がった。

「と、突然改まってどうかしたのか……?
 サインならまた今度に、」
「さっき、応援してくれてありがとうございました。
 それから……こなちゃんの事と、みなみちゃんの事も」

 「さっき」とは、シャドームーンに啖呵を切った時の話だろう。
 そして泉こなた。岩崎みなみ。
 つかさの同級生と後輩。
 小早川ゆたかを失い、心を蝕まれた二人。

「記憶を見て、私が悪い事をしたって知っても……それでも上田先生や翠星石ちゃんが味方してくれて、嬉しかったです。
 それに、こなちゃんを止めてくれて……みなみちゃんと最後まで一緒にいてくれて、ありがとうございました」

 ルルーシュ・ランペルージと浅倉威の殺害。
 それは確かに悪だが、記憶を見ていれば片や事故、片や正当防衛のようなものだと分かる。
 上田にとって、つかさの印象を大きく変えるようなものではなかった。
 そしてこなたを止めた――ものの、結局彼女が正気に戻る事はなく、ミラーモンスターに捕食された。
 みなみと最後まで一緒にいた――のは事実だが、彼女の心を救ったのは南光太郎である。
 上田の心情を無視してはっきりと記すなら、上田はどんな場面でも大して役に立っていない。
 総合すれば、つかさは礼を言う程でもない事に礼を言っている事になる。
 自意識過剰な上田でも、それは少々決まりが悪かった。

 役立たずな上田の姿を見ていた者達。
 彼らの記憶を垣間見ているはずのつかさだが、上田を責めようともしない。
 上田ですら実は密かに役立たずの自覚があるというのに、つかさはまるで気に留めていないようだった。
 頭を下げて感謝する――竜宮レナが、狭間偉出夫に対してそうしたように。

「こなちゃん達は私と同じで……悪い事を、しました。
0327終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:02:25.68ID:FY4NXSPc
 気持ちは凄く分かるんです。
 大事な人がいなくなるのは……いなかった事になるのは……寂しくて、悲しくて……。
 だから上田先生が傍にいて良かったって、思うんです」

 先程の興奮がまだ残っているのか、熱っぽく語るつかさ。
 桃色に染まった頬とほんの少し潤んだ瞳に、上田は目を奪われる。

「だから、ありがとうございました」
「礼を言うなら…………私もその、ビーフシチューを……」

 遠慮がちに言うと、同時に腹が鳴った。
 この一日、隙を見ては支給された食料を貪っていたのだが、落ち着いた食事は全く取れていない。
 杉下右京も認める最高級ワイン・パルトネールで作ったビーフシチューの晩餐が、正直羨ましかった。

「また作りますから」

 つかさが微笑み、上田は胸を撃ち抜かれる。
「まさか君は、私に恋を――」
「翠星石ちゃんにも食べて貰いたいんです。
 それに今度は狭間さんも同じテーブルで食べられたらいいなって」
 ついつかさの手を取ろうとした上田だが、失敗した。
 つかさに悪気がないだけに落ち込んでしまう。
 しかしすぐに立ち直った。
 天才は細かい事をいちいち引き摺らない。

「しかし、その前に聞いておきたいんだが。
 君はこの後どうするんだ?」
「え?」
「理由があったにしても、君達がしたのは悪い事だ。
 事故でも、正当防衛でも」
「そう、ですね……右京さんやLさんも、きっとそう言います。
 悪い事は、悪い事です」

 殺人は悪い事。
 誰でも知っている。
 上田とて、その罪を暴く側の人間だ。
 しかし上田はつかさに対し、はっきりとした態度を取る事が出来なかった。

 上田次郎と山田奈緒子が殺人事件を暴くと、決まって薄暗い真実が待っていた。
 いっそ暴かなければ丸く収まっていたような事を掻き回し、後ろめたい結果を残す。
 それでいて反省する事なく次の事件を解決する――それが上田と山田というコンビだったのだ。
 そんな上田だから今回も変化なく、つかさという「犯人」に対し「何も悪くない」とは言ってやれなかった。

 かと言って、上田はあの誰よりも優れた刑事と名探偵のような絶対の信念を持っているわけではない。
 「どんな状況下で起きていようと犯罪は法によって裁かれるべき」と、そう断じる事もしないのだ。
 故に上田の姿勢は、非常に曖昧だった。

「悪い事をしたからと言って、警察に行っても取り合ってはくれないだろう。
 そもそも検証しようにもあの会場に戻るにはどうすればいいのか、私の物理学の知識をもってしても……。
 そうなったら君は、どうするんだ?」

 許すでも責めるでもなく純粋に、どうするつもりでいるのかを聞きたかった。
 悪い事をした多くの人間の末路を知っているから、心配だった。
 これから彼女がどんな人生を歩むのか、と。
 問われて一瞬だけ表情を強ばらせたつかさだが、すぐに笑顔に戻った。

「皆の分まで、生きます」

 はっきりとした口調に、上田は驚かされる。
 真っ直ぐな視線を受け、上田の方が目を逸らしてしまいそうになった。
0329終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:03:43.30ID:FY4NXSPc
「悪い事をしておいて、勝手だと思います……でも私はそうしないと返せないんです。
 償いとか、難しくて、どうすればいいのかまだ分からないですけど……これから時間を掛けて考えます。
 その為に、帰ります」

 こうして答えられたという事は、つかさの中で既に何度も繰り返されていた問いだったのだろう。
 開き直るでもなく。
 自己嫌悪に陥るでもなく。
 つかさはつかさなりに、自分の犯した罪との折り合いを付けている。
 「もう私が教える事は何もないようだな」と、上田は勝手に納得した。

 そんな戦いと無縁なやり取りを、轟音が遮った。
 未来を信じる会話。
 希望に満ちた会話。
 仲間を信じているからこその会話――それを終わらせるのは、創世王シャドームーンRX。

 上田が轟音の元を辿って目を凝らすと、狭間達が出ていった穴の傍でゾルダが倒れていた。
 続いて狭間と翠星石が、穴を通ってnのフィールドから戻ってきた――叩き込まれる、という形で。

 シャドームーンが取った行動は単純だった。
 後衛に居たゾルダの間合いまで一足で踏み込み、たった一度の蹴りで魔界の外へと追いやった。
 勢いはそれでも弱まらず、ゾルダは自らがドラゴンライダーキックで空けた穴を通過して元の空間へ。
 先刻魔界まで吹き飛ばされたシャドームーンと逆の結果になってしまった。
 そしてシャドームーンはそのまま翠星石にシャドーパンチを食らわせて弾き飛ばす。
 翠星石の体を受け止めようとした狭間すら巻き込み、二人はゾルダと同じ軌道を描いて元の空間に叩き戻されたのだ。

 転がされた三人が立ち上がる。
 シャドームーンも、今やnのフィールドとの出入り口になってしまった穴からゆったりとした足取りで帰還した。

 シャドームーンが狭間達をわざわざこの空間に戻したのは、ただ勝つ為だではない。
 敵と認めた者達を、一人残らず皆殺しにする為。
 つかさも上田も逃がさないという意思表示の為に、戦場を再びこの始まりの場所へ移したのだ。

「人間、ライダー、ドール。
 この私を倒すと言うなら見せるがいい。
 貴様達の力を……!」

 空間の穴から現れたシャドームーンの姿は、以前に増して強い威圧感を放っていた。
 感覚だけの問題ではなく大きくなった複眼、太くなった首筋と、外見までもが明らかな変化を遂げている。
 上田は気が遠くなった。



 シャドームーンが両手を上げると、それぞれの手から赤い光が伸びて剣の形を作り出す。
 そしてそれらが実体化し、二振りの赤い剣――シャドーセイバーとなった。
 剣の生成は、本来は記憶喪失という重い代償を払った後で可能となるはずだった。
 だが月の光を浴びた王の石は、それを難なく実現させたのだ。

 左右で微妙に長さの異なるこの双剣はサタンサーベルと似た姿をしているが、それは見た目だけの話だ。
 祭器としての性格が強かったサタンサーベルとは違い、シャドーセイバーはシャドームーンの敵を斬る為にある。

 狭間が先陣を切り、斬鉄剣を振り下ろす。
 だがそれはシャドーセイバー一本でピタリと止められていた。
 シャドームーンは片腕の力しか使っていないというのに、びくともしない。
 狭間は持ち堪えるのに精一杯で、攻撃に転じる余裕があるはずもなかった。
 退けば死ぬ。
 攻めても死ぬ。
 狭間が身動きを取れなくなっている間に、シャドームーンはゆっくりともう一方の腕を持ち上げていた。
 掲げたシャドーセイバーは、断頭台のギロチンに似ていた。
 花弁の群れがシャドームーンを襲うも、最早外装に傷を付ける事すら叶わない。
0331終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:05:31.29ID:FY4NXSPc
――SWORD VENT――

 シャドームーンの振り下ろした剣を受け止めたのはドラグブレードだった。
 初めて持つはずのその剣は、不思議とゾルダの手に馴染んでいる。

「慣れてないとか言ってる場合じゃないからね」

 左右から挟み撃ちにする形で、狭間とゾルダが斬り掛かる。
 だがシャドームーンの余裕は途切れなかった。
 全力で振るわれる斬鉄剣とドラグブレードを左右のシャドーセイバーで軽々と捌いている。
 新しい体の準備運動のつもりなのか、反撃はない。
 その状況を黙って見ている翠星石ではなかった。

「だったら、こうするです!!」

 双子の姉から受け継いだ庭師の鋏が、シャドームーンに向かって金の軌跡を描く。
 しかしシャドーセイバーはその到達よりも早く斬鉄剣を弾き、そこから流れるような動きで鋏を受け止めた。
 狭間が構え直して再度立ち向かうが、シャドームーンの蹴りが翠星石に向けられる。
 その衝撃そのものはバリアによって受け止められたものの、翠星石の体が浮いてしまった。
 結果としてシャドーセイバーが自由に動くようになり、またしても斬鉄剣は阻まれる。
 その間、ゾルダはブレードを押す事も引く事も出来なかった。

 五本の刃が踊る。
 剣戟の音が場を支配する。
 しかしシャドームーンには届く気配すらなかった。

「このっ……!!」

 感情の高ぶりに合わせ、翠星石の体が赤い光を放ち始める。
 脈打つような力の波動は、すぐ傍にいる狭間にも伝わってきた。

「よせ翠星石、その力は――」
「そんな事言ってて勝てる相手ですか!」

 狭間が思わず口を噤む。
 出し惜しみをしていて勝てる相手なら、このバトルロワイアルはとうに終結している。

 如雨露の水が蔦を育て、蔦が骨格となり、鱗となった花弁が骨格を包む。
 水銀燈の黒龍よりも強靱、真司のドラグレッダー以上の巨体を持つ龍が、シャドームーンへ牙を剥いた。
 花弁一枚の鋭さは刃の如く、掠めただけでシャドームーンの装甲に傷を付けた。
 太陽の石の力で満たせば、RXとなったシャドームーンにも通用する。
 それを確かめた翠星石は更に力を注ぎ込み、より強くより速く龍を操る。

 狭間が翠星石を制止しようとするが、今更止まるはずもなかった。
 翠星石とて、太陽の石の力に頼る危険は承知しているのだ。
 それでも頼らなければ、生まれ変わったシャドームーンは倒せない。
 結局短期決戦に持ち込む他はなく、狭間は歯噛みして手を翳す。

「ブフダイン!!」

 狙うのはシャドームーンの関節。
 凍結は一瞬で砕かれるとしても、その一瞬が今は惜しい。

――AD VENT――

 氷が砕かれると同時に、ドラグレッダーが5000℃に達する火球・ドラグブレスを吐き出す。
 しかし当たる寸前でシャドービームに阻まれ、シャドームーンまでは届かない。
 そして本命であった黒龍の顎もまた紙一重で回避された。
 惜しかったのではなく――それだけ最小限の、まるで無駄のない動きで躱されたのだ。
0334終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:08:11.49ID:FY4NXSPc
 そして黒龍との擦れ違い様、シャドームーンは龍の口角にシャドーセイバーを突き立てた。
 襲った際の勢いをそのままに、龍が通り過ぎていく。
 僅かも動かないシャドーセイバーが、龍の速度に合わせてその身を斬り裂いていく。
 太陽の石の力を存分に注がれた龍は、その強大過ぎるエネルギー故に止まれなかった。

 龍の巨体が上下にバクリと二つに割れる。
 垂れ下がった下顎が地面と擦れ、花弁や羽を散らせて失速していく。
 だが翠星石は更に如雨露を傾け、より多くのエネルギーを注ぎ込んだ。

「まだまだ……!!」

 増量した花弁が傷を埋め、体積を肥大化させた龍が再びシャドームーンを襲う。
 狭間が細かく魔法を詠唱してシャドームーンの退路を阻み、立ち止まればゾルダの砲撃が待っている。
 そして黒龍は翠星石がエネルギーを注ぐ限り、何度でも再生して攻撃を仕掛ける事が出来る。
 そこでシャドームーンは新たな手を打った。

「アクロバッター!!」

 空間を突き破って現れたのは一台のバイクだった。
 その正体は、シャドームーンの進化と呼応して生まれ変わったバトルホッパー。
 会場に置き去りにされながらも、創世王の求めに応じて馳せ参じたのだ。

――FINAL VENT――

 ゾルダがバイクへと変形したドラグランザーに乗り込んで走り出す。
 ゾルダを援護すべく翠星石が蔦を成長させてアクロバッターのタイヤを捉えようとするが、速い。
 ドラグランザーが吐き出す火炎弾も悉く回避され、動きを止める事が出来ない。

 アクロバッターの時速は750km。
 ドラグランザーの時速は760km。
 数値では僅かにドラグランザーが勝るものの、アクロバッターとてただ速いだけの乗り物ではない。
 装甲を強化するのはソーラジルコンという、どんな高温・低温にも耐久し得る物質である。
 そして搭乗のパワーと融合し、このソーラジルコンにエネルギーが充填されるのだ。
 今のシャドームーンはただのRXではなく創世王を吸収したRXであり、ソーラジルコンに注がれるエネルギー量は計り知れない。

 アクロバッターの必殺技はただただ単純な体当たり――アクロバットバーン。
 だがそれは『必殺』と呼ぶにふさわしい威力を持ち、あらゆる障害物を破壊する。

 ドラグランザーとアクロバッターの正面衝突。
 隕石の衝突を思わせる程の衝撃。
 突風と呼ぶのでは生温い、目に突き刺さるような風が、破壊の音と共に空間を震わせた。



 ドラグランザーは砕かれ、ゾルダの体は地面に投げ出された。
 狭間が倒れたゾルダに駆け寄ってディアラハンを掛けるが、すぐには立ち上がれない。

 とは言えアクロバッターの前面の装甲も砕け、走りに支障が出る程の損傷を受けていた。
 それに乗っていたシャドームーンもまた衝撃の余波を受けているはずだが、見た目からは判断が付かない。
 アクロバッターを降りたシャドームーンが一歩、狭間とゾルダの方へと踏み出した。

「菩薩掌!!!」

 狭間は膝を着いた状態のまま、体に練り込んだ第五元素を両の掌に集めてイメージを肥大化させる。
 その巨大な手が挟み込むようにしてシャドームーンを潰そうとするが、シャドームーンは跳躍してそれを回避。
 残されたアクロバッターが音を立てて破壊され、シャドームーンはそれを一瞥もせずに狭間の目の前へと降り立った。
「ぐっ……」
 シャドームーンの蹴りが狭間の腹へ突き刺さる。
 咄嗟に翠星石が二人の間に花弁の壁を割り込ませたが、それでも狭間を宙高く放り出すに充分な威力だった。
 翠星石が黒羽で受け止める事で落下のダメージを軽減させたものの、狭間はうずくまったまま起き上がれずにいる。
0339終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:11:35.86ID:FY4NXSPc
「……終わりか」

 呆れるような、憐れみさえ含むような声色だった。
 それが翠星石の神経を逆撫でし、怒りを増幅させる。

「うるせーです!!
 今ぺしゃんこにしてやりますから、大人しくそこで――」
「後ろを見てみろ」

 それでもシャドームーンの声は飽くまで冷静だった。
 口車に乗ってはならない。
 振り返ってはならない。
 隙を見せるわけにはいかない。
 そう分かっていても、翠星石も北岡も狭間も――同時に後方へ注意を引かれてしまう。

 「後ろ」にいるのは、つかさと上田。
 守るべき者達。
 シャドームーンの罠を疑っても、確認しないわけにはいかなかった。
 それに三人共が、危惧してはいたのだ。
 ただそれが、狭間が計算していたよりも早く訪れてしまっただけの話である。

「駄目……!」

 つかさが止める声は間に合わない。
 振り返った三人の視界に入ったのは、力なく倒れたつかさ。
 そしてその彼女を助け起こそうとする上田の姿だった。

「ごめん、なさい……」

 つかさの不調は明らかだった。
 息を乱し、頬を極端に紅潮させ、疲弊を通り越して衰弱している。
 重そうな目蓋がつかさの大きな瞳を半ばまで隠しており、意識を保たせるのがやっとのようだった。
 全ての原因を理解した翠星石は動きを止める。

 ローゼンメイデンは媒介となる人間と契約し、その力を用いて戦う。
 翠星石の場合はつかさの力で直接戦うというより、つかさの力で暴走寸前の太陽の石をコントロールして戦っていた。
 故に必要とする力は最少限に抑えられ、また翠星石とつかさの感情の同調により無理なく引き出されていたはずだった。
 しかし五つのローザミスティカを抱え、太陽の石を制御しながら戦う翠星石が扱うエネルギーは余りに大きすぎた。
 「最少限」の力が、つかさの命を脅かす。
 翠星石は無意識のうちに、短時間のうちに、つかさの力を限界以上に使ってしまっていたのだ。

「駄目、私は、いいから……っ」
「い、いいわけねーです!!
 何を言ってやがるですかこのおバカ!!!」

 力を使い過ぎればミーディアムは死ぬ。
 それを知っていながら、心乱されずに戦っていられるはずがない。
 そしてその隙を、シャドームーンが逃すはずもない。

 つかさの下に駆け付けようと空中を移動していた翠星石が、シャドービームに貫かれて地に落ちる。
 バリアを展開する余裕はなかった。
 腹に風穴を空けて不格好に転がり、つかさに向かって手を伸ばすも届かない。
 翠星石を回復させようと狭間が手を伸ばすものの、投擲されたシャドーセイバーがそれを遮った。
 狭間が寸でのところでそれを躱して再度詠唱を試みるが、既にシャドームーンは目前まで迫っている。
 倒す事だけに集中して戦っても及ばない相手。
 他者を守りながらで勝てる道理はないと、シャドームーンは無言にして雄弁に語る。

 盾として翳した斬鉄剣は軽く振り払われ、エルボートリガーが狭間の首筋を斬り裂いた。
 赤い血を噴水のように飛び散らせ、狭間の体が崩れ落ちる。
0343終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:13:42.85ID:FY4NXSPc
 白い肌を、白い学制服を、赤に染めていく。
 そしてシャドームーンの指先がつかさへと向けられた。
 真っ直ぐに伸びた光が、つかさの命を刈り取る。

――GUARD VENT――

 つかさとシャドームーンの間に割って入ったゾルダがゴルトシールドでビームを受け止める。
 たった一撃で盾は崩れたが、その後ろに居たゾルダにもつかさにもビームは届かなかった。

「させるわけ、ないでしょ……それだけは」
「そうか」

 シャドームーンが通り過ぎた。
 立ち塞がっていたゾルダの横を、堂々と。
 その速さに、唐突さに、一瞬ゾルダは思考を停止させてしまう。
 遅れて理解してシャドームーンを追おうとして、同時に腹部に熱が広がった。
「ッ……!!?」
 腹に突き刺さったシャドーセイバー。
 擦れ違い様に刺されたはずだが、気付く事が出来なかった。

「その娘を囮にして撃っていれば、貴様は私に手傷を負わせる程度の事は出来ただろう。
 つくづく愚かしい」

 反論する事もなく、ゾルダは倒れ伏す。
 つかさが叫ぼうとするが、声すら出なかった。

「柊君、しっかりするんだ!!
 Why don't you do your b…………はっ」

 気付けば、残っているのは上田一人だった。
 シャドームーンと目が合う。
 仮面の上からではシャドームーンの視線は辿れないのだが、今はどうしようもなく察してしまった。

「メディアラハン……」

 上田の顔色が青ざめていくうちに、弱々しく唱えられた呪文が各人の傷を癒していく。
 傷が塞がるだけであり、衰弱も疲労も残っている。
 だが狭間とゾルダがそれぞれに剣と銃を手にして立ち上がった。
 まだ戦いは終わってはいない。
 諦めている者は誰もいなかった。



 一つ、後悔があった。
 翠星石に、まだ何も言えていないのだ。

――仲間がこんな体たらくなら、お前も誰か殺したりしてるんじゃないですか?

 そう言われた時、つかさは何も答えられなかった。
 自分が向き合って、自分が答えを出さなければならなかったのに、北岡やジェレミアに助けられてしまった。
 あの時どう答えれば良かったのか、今も分からない。
 そして何も分からないまま『友達』になろうと言った――何も答えないまま『友達』になった。
 これでは、騙しているようなものではないか。

 けれど無意識の海で全てを知った後も、翠星石は何も言わなかった。
 何も言わずに味方してくれた、『友達』のままでいてくれた。
 この事への感謝も、まだ伝えていない。
 言いたい事が、言わなければならない事が、多すぎる。

 ごめんなさい。
0345創る名無しに見る名無し
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2014/03/30(日) 22:14:17.87ID:FW4LH+ht
 
0349終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:15:42.44ID:FY4NXSPc
 伏したつかさは何度も、心の中でその言葉を口にした。
 せっかく与えられた役割も満足に果たせなかった。
 荷物になるばかりだった。
 このままでは全員殺されてしまう。
 いなかった事にされてしまう。
 翠星石にも、北岡にも狭間にも上田にも、何も言えなくなってしまう。
 悔しさに歯噛みしても、つかさには何も出来ない。

「つかさ」

 目の前に翠星石がいた。
 翠星石は膝を着き、倒れたつかさの頭を気遣わしげに撫でる。
 そして自身も苦しそうにしながら、微笑んだ。

「『友達』なんだから、隠し事の一つや二つあるですよ。
 それぐらいでつかさを嫌いになる程、翠星石は小さくねーです。
 翠星石こそ、嫌な事ばっか言う奴だったからいけなかったんですぅ」

 指輪を通して、つかさの焦燥が伝わっていたらしい。
 受け入れて貰えた事が嬉しい。
 だがまたしても助けられてしまった事が、自分から何も出来なかった事が、悔しかった。
 同時に――今の切迫した状況下で何故、翠星石がこんな話をするのか。
 何故、『今』なのか。
 言いようのない違和感と不安を覚えた。

「銀色おばけの事だって、もう心配する必要はねーですよ」
「翠、星石、ちゃん……?」

 翠星石が、倒れたつかさの手を優しく取る。
 そしてその細い指に填められた薔薇の指輪に、触れるだけの軽い口付けをした。
 薔薇の意匠に亀裂が走り、赤く灼けるように色付く。
 そして強い光を放ち、つかさが瞬きした後には指輪が消えていた。
 それが意味するのは契約の破棄。

「な、何で、これは……っ!!」
「つかさは充分頑張ったですぅ。
 だから後は、翠星石のかっこいいとこを見てやがれです」

 立ち上がってロングドレスを揺らし、つかさに背を向ける翠星石。
 手を伸ばして引き留めようとするも、その手には何も掴めなかった。

「翠星石がちゃーんと、つかさ達を元の世界に帰してやるですよ」

 誰よりも小柄な彼女の背はどうしてか――いつか見た、凛とした大人の女性の背に似ていた。



 狭間が倒れ。
 ゾルダが倒れ。
 シャドームーンはシャドーセイバーを一振りし、付着した血液を払い落とす。
 そして、残った敵へと向き直る。

「……そろそろ返して貰うぞ」
「やれるもんなら、やってみやがれです」 

 翠星石は振り返らずに歩く。
 そして立ち上がろうとしている狭間や北岡を一瞥し、それから目を逸らす。

「お前らもそこで、見てろです。
 今まで迷惑を掛けた分ぐらいは、返してやるですよ」
0353終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:18:07.55ID:FY4NXSPc
 決まり悪そうにしながらシャドームーンの前に進み出る翠星石。
 ミーディアムを失って再び制御を失った太陽の石が、翠星石の体内で熱く輝く。
 過ぎた力が溢れ、翠星石の胸に痛みが走った。

 痛みを顔に出さず、翠星石はゆっくりと歩を進める。
 シャドームーンもまた肩をいからせたまま、シャドーセイバーの切っ先を微塵も揺らさずに歩く。
 そしてシャドーセイバーの間合いの一歩前で互いに足を止める。
 翠星石の目前に立つ王者の背丈は、人形である翠星石の数倍ある。
 纏う威圧感、殺意がそれを更に大きく見せる。
 しかし翠星石は一歩も退かず、シャドームーンのプレッシャーをその小さな体一つで受け止める。

「はぁぁッ!!」

 翠星石の右手から打ち出された薔薇の花弁がシャドームーンを襲う。
 跳び退って回避したシャドームーンに、翠星石の左手から伸びた茨が迂回して別の角度から追い立てる。
 シャドームーンはそれら全てを最低限の身のこなしで躱しているが、それでいい。
 シャドームーンがつかさ達から距離を取る、それが狙いだ。
 翠星石は二種類の攻撃を織り交ぜてシャドームーンの退路を限定し、仲間から遠ざけている。
 そして仲間を巻き込まないだけの間隔が生まれた事を確かめ、翠星石は黒い翼を羽ばたかせる。

「翠星石、行くな……!」
「ぶっ飛ばしてやるですよ!」

 翠星石が狭間の制止の声を振り切って滑空し、シャドームーンを追う。
 仲間達を後方へと置き去りにして、翠星石は己の内にある力の全てを解放した。
 太陽の石の加護を受けた攻撃であればRXにも通用する事は、既に証明されている。

 植物の蔦。
 薔薇の花弁と茨。
 黒羽。
 それらが鋏の如き鋭さをもって、大質量でシャドームーンに伸びていく。
 最早それは、避ける余地のない壁。
 津波のように、シャドームーンを押し潰さんと襲い掛かった。

 蔦や花弁を繰る指が崩れ始める。
 胸を中心にして罅割れが広がり、亀裂は頬にまで及んだ。
 しかし力の奔流を指先に集中させ、体の内側にあるもの全てを注ぎ込む。
 翠星石の感情の昂ぶりに合わせて太陽の石がますます強く輝き出した。
 それが体の崩壊を早めても、力を緩めはしない。

 この「壁」を前にシャドームーンは怖じ気付くのか。
 死を覚悟して立ち尽くすのか、無駄を承知で逃げ回るのか。
 答えは否。
 そんな相手であれば、城戸真司がとうに決着を付けている。


「シャドーキックッ!!!!」
「掛かって来やがれですぅぅぅぅ!!!!!」


 シャドームーンの選択は、シャドーチャージャーの力を足裏へと集めたシンプルな蹴り。
 だがそれは数々の怪人を葬ったライダーキックと対を成す、シャドームーン最大の攻撃である。
 巨大な「壁」を前に、シャドームーンは防御でも回避でもなく一点突破を選択した。
 この判断力と戦闘センスが、龍騎をも破ったのだ。

 シャドームーンの蹴りが植物の壁に突き刺さる。
 植物で埋め尽くされた翠星石の視界にその姿は映らないが、壁の中を抉り進む光景は容易に想像出来た。
 一瞬でも気を抜けば、たちまち壁を突破されるだろう。
 そしてこの状態になってしまえば、北岡も狭間も援護のしようがない。
0358終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:20:22.30ID:FY4NXSPc
 狭間のタルカジャによる強化だけを受け取って、翠星石はキングストーンと五つのローザミスティカの力を解き放つ。

「さっさと……倒れやがれです……ッ!!!」

 体が音を立てて崩れていく。
 父から授かった体が壊れていく。
 足首から先がぼろりと落ちた時は悲鳴を上げそうになったが、もう気にはしていられなかった。

 まだ足りない、まだだもっとと力を絞り出す。
 劉鳳のように、新一のように、真司のように、クーガーのように、命の一片まで燃やし尽くす。

 両の手首から先が崩れ落ちた。
 肘の球体関節まで大きな亀裂が刻まれ、ばらばらと破片が飛び散っていく。
 力が指向性を失って分散してしまいそうになる、それを気力だけで押さえ付ける。

 崩れていく翠星石を支えたのは、小さな手だった。
 深い赤のケープ付きワンピースドレスを身に纏い、金のツインテールを薔薇飾りの付いたボンネットで包んだ第五ドール――真紅。
 腰まである長い銀髪に、それを映えさせる黒のロングワンピースとレースを合わせた黒羽の第一ドール――水銀燈。
 青のキュレットを穿き、短い茶髪に小さな帽子を乗せた少年の如き第四ドール――蒼星石。
 薄桃色のパフスリーブワンピース、そしてそれと同系色の大きなリボンで髪を飾った第六ドール――雛苺。

 翠星石と並び、生成し続ける壁に力を送る姉妹達。
 それは、限界を通り越した翠星石が見た幻覚だったのかも知れない。
 そうだとしても、翠星石には充分だった。
 姉妹達が――水銀燈までもが協力し合う景色。
 蒼星石が居て、真紅が居て、雛苺が居て、出来ればそこに水銀燈も居て、ただ仲良くしていられれば良かった。
 幾ら父を愛していてもアリスゲームは嫌で、争う事など考えたくもなかった。
 だから今は、幸せだった。

「ほら、見やがれです水銀燈。
 ちゃんと出来るじゃねーですか」

――真紅が私と居たいだなんて、思うはずがないじゃない。

 どこか寂しそうにそう告げた水銀燈に、言ってやりたかった。

「お前がちょっと素直になれば、真紅だって応えてくれるです。
 そんな事も分からなかったなんて、水銀燈は本当に頑固でお間抜けですぅ」

 顔を赤くして怒る水銀燈の表情が見えた気がした。
 ムキになった時の真紅の顔に、少し似ている。
 姉妹なのだから当然だった。

「たった七人の姉妹、どうして嫌いになれるですか……」

 この気持ちは、姉妹の誰も変わらないはずだ。
 父の愛を求め、積極的にアリスゲームを進めようとしていた水銀燈でも。
 来たるアリスゲームの時を覚悟していた蒼星石でも。
 変わり者の真紅でも。

 アリスゲームを肯定していた姉妹もいる。
 戦う事もあった、楽しい記憶ばかりではなかった。
 それでも本当に、心の底から好き好んで争っていた姉妹は誰もいない。
 姉妹を愛していたのは、翠星石だけではないのだ。

「これが終わったらジュンの家に帰って、のりに花丸ハンバーグを作って貰うです。
 あーんなに美味しいものを食べた事がない水銀燈は本当に残念な奴ですぅ、お裾分けしてやるから有り難く思えですよ。
 その後は翠星石の焼いたスコーンでほっぺた落ちやがれです。
 真紅も蒼星石も、もうアリスゲームの事なんて考えなくて良いのです。
 雛苺が居て、金糸雀も遊びに来て、皆でくんくん探偵を見て、それから……それから――」
0361終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:21:39.39ID:FY4NXSPc
 オッドアイの両目のうち、エメラルドのような緑色の左目がごろりと零れ落ちた。
 そして空洞になった眼窪に幸せな世界が映る。
 夢見るようにそれを語る。

「それから――」

 それは甘美で、優しくて。




「劉鳳や、新一や、真司やクーガーも、来てくれたら――」




――どんなに逃げても……あなたの犯した罪からは逃げられない。




 とても虫の好い、夢だった。




 癇癪を起こして何もかも台無しにしようとした。
 大事な人を殺した。
 仲間を見殺しにしようとした。
 殺そうとした。
 敵と手を組んだ。
 自分のせいで、人が死んだ。
 罪を重ねて、積み重ねて、それでも。
 自在法を諦めて、大事な人に別れを告げても。
 夢を見てしまう。
 そうであって欲しかった夢を、見続けてしまう。

 残されたルビーのような深い赤の眼の中に、青い閃光が広がった。
 植物の壁を貫通したシャドームーンの蹴りが、すぐそこまで迫っている。
 憎悪する敵の姿に、大切な人の面影が重なってしまう。

 姉妹に支えられてなお翠星石の崩壊は早かった。
 最初にキングストーンを手にしてから、その力に振り回された時間が長過ぎたのだ。
 人の命を奪った感触、仲間達からの孤立、偽りの姉妹の裏切り、そうして心に負った傷が終わりを早めてしまった。

 とは言えシャドームーンの姿も無惨なものだった。
 RXに進化したシャドームーンであっても、太陽の石と相対せば無事で済むはずもない。
 右足による蹴りに全身全霊を注ぎ、防御を捨て、左半身は既に失われていた。
 全身を守っていたシルバーガードは剥がれ落ち、右半身の各部の赤い人工筋肉を外気に晒している。
 体は隅なく切り刻まれ、この姿のまま倒れていたとすれば死んでいるようにしか見えないだろう。
 だが、動いている。
 戦っている。
 戦闘の意志をいささかも失う事なく、王は未だ君臨し続けていた。

「うっ……」

 翠星石の腹に蹴りが突き刺さった。
 壁を貫くのに力を費やした蹴りは、本来の威力を失っている。
 だがかろうじて形を保っていただけの翠星石は、より大きな破片をばら蒔いて宙を舞った。
0370終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:24:33.53ID:FY4NXSPc
 対するシャドームーンは翠星石を蹴った反動で体勢を整え、朽ちゆく植物を足場にして翠星石に追撃する。
 手刀が、翠星石の胸を破った。

 つかさの声なき絶叫が響く中、翠星石の背から突き出すシャドームーンの手。
 その手には赤い石――キングストーンが握られていた。

「やはり貴様には、過ぎたるものだったな……」
「こ、の、……」

 翠星石は藻掻く事すら出来ない。
 ローザミスティカが己の身から離れていくのを感じる。

「つ、かさ……」

 しかし一つ残った目を動かせば、そこには仲間達がいる。
 守りたい者達――劉鳳が、新一が、真司が、クーガーが守りたかった者達。
 翠星石の意地が、消えようとしていた力を繋ぎ留める。


「立派なレディに……なれ、ですよ」


 五人の姉妹の最後の力を振り絞る。
 叫ぶような、祈るような薔薇乙女達の声を乗せて、その光はどこまでも続く広大な空間全体に響き渡った。



 左半身を失ったシャドームーンは無様に床に落下した。
 装甲を剥がされて傷付いた体が転がる。
 そしてその傍らに、宙をひらひらと舞っていた深緑のロングドレスが落ちた。
 それを目にしていた狭間も、北岡も、つかさも、上田も、すぐには動けなかった。

 ローザミスティカさえ残さず、翠星石は砕け散った。
 たった今まで隣りに居た者の死――離別は、全員が既に何度も経験している。
 それでもこの場でまず何をすべきなのか、瞬時に判断を下せる者はいなかった。

 真っ先に我に返ったのは狭間だった。
 翠星石が戦っている間に回復を進めた狭間はほんの数秒の思考停止から復帰し、シャドームーンに向かって手を翳す。

「メギド!!!」

 シャドームーンまで距離があり、一見しただけでは生死の判別がつかない。
 しかし、死んでいない。
 翠星石が命を懸けて戦っても、それでもまだ終わらない――同じ「王」を名乗っていたからこそ、狭間は肌でそれを感じた。
 何よりも翠星石との決着の間際、シャドームーンは太陽の石を手にしていたのだ。
 これで終わるはずがない。

――SHOOT VENT――

 狭間のメギドに続いて、北岡もギガランチャーで追撃を加える。
 爆炎、そして黒い煙がシャドームーンの姿を覆い隠した。

「北岡」
「分かってるって……」

 狭間が目配せするまでもなく、北岡はギガランチャーを撃ちながらつかさと上田を庇える位置へ移動する。
 北岡と狭間の二人で油断なく、どんな攻撃にも対応出来るよう煙に目を凝らす。
 そして――全員の背筋に、冷や水を浴びせられたような悪寒が走った。
 狭間でさえ、生存本能を直接刺激するかのような圧迫感に震え上がる。
 北岡も仮面の下で表情を凍らせ、つかさや上田に至っては呼吸すら出来なくなっている。
0373終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:25:27.53ID:FY4NXSPc
「クク……」


 最初に煙の中から聞こえたのは低く、漏れ出るような笑い声だった。



 カシャン、カシャン。



 シャドームーンそのものを表すと言っても良い、特徴的な足音が空間を支配する。


 深い煙幕を斬り裂くように、銀色の手が現れる。
 狭間のメギドも、北岡の弾幕も、全てその手に受け止められたのだ。

 王に道を空けるように、煙が急速に引いていく。
 初めはぼんやりと浮いて見えた緑色の複眼がはっきりと現れ、その場にいる人間達を威圧する。



 カシャン、カシャン、カシャン、カシャン。



 全ての煙が晴れ、シャドームーンは再び姿を見せた。
 全身を銀のシルバーガードで包み、五体全てに力を漲らせている。
 無傷。
 掠り傷一つ、見当たらない。

「……馬鹿な」

 思わず狭間が口にして、唾液を飲み込もうとする。
 だがひりつくように痛む喉に張り付いてしまい、それすら上手くいかなかった。
 シャドームーンが放つプレッシャーは、これまでの比ではない。

「この創世王を相手に、貴様達人間は良く戦った。
 『存在』が消える、その最後の瞬間まで誇るがいい」

 シャドームーンの腹部に埋め込まれているのはキングストーン。
 複眼と同じ翠の光を放つ月の石――そしてその隣で赤く輝くのは、太陽の石。
 一つでも奇跡を起こし得る、人類の手には届かない未知の石。
 それが二つ。
 遂にシャドームーンの体内に揃ったのだ。

 だがそれだけではない。
 シャドームーンの体を薄く包む緑色の光は、キングストーンのものとは違う。
 翠星石が所有していたローザミスティカは消滅したのではなく、シャドームーンの中に取り込まれたのだ。

 翠星石達が所持していたローザミスティカは、欠片だった。
 元々一つであったものをローゼンが割り、それぞれを姉妹達に分け与えたからだ。
 故に一つ一つは賢者の石の一片に過ぎない――それをシャドームーンが「まがい物」と称したのも当然であった。
 しかし今、シャドームーンは“認めた”。
 月の石を持つシャドームーンと幾度も互角に渡り合い、体内にある太陽の石を制御した五つの石。
 ミーディアムの力を借りていたとは言え、五つの欠片は不完全でありながらも確かに「奇跡の石」だった。
 これらもまた一つの高みに至ったものであると認められ、それ故に吸収されたのである。
0378終幕――その旋律は夢見るように ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:26:52.61ID:FY4NXSPc
 シャドームーンの体内にある賢者の石は七つ。
 ローゼンメイデン達が“究極の少女”となる為に必要だった数が、一つの肉体に宿っている。
 今のシャドームーンは二つのキングストーンと五つのローザミスティカを揃えた“究極の王”。
 たった一人、頂点に立つ者となった。


「クックック……ははははははははははは!!!!!」


 シャドームーンの哄笑に、空気が怯えるように振動する。
 つかさと上田の歯の根が合わなくなり、カチカチと鳴ったまま止まらない。
 狭間と北岡ですら、そうならないよう唇を噛み締めるので精一杯だった。

 そして、シャドームーンの身に更なる変化が起きた。
 じわりじわりと、腹部のキングストーンを中心として体が変色を始めたのだ。
 黒い関節部分はそのままに、銀色の装甲は赤に染まる。
 それは夕焼けの如き赤。
 燃え盛る炎の如き赤。
 鮮血の如き、赤。
 滑らかな丸みを帯びていた肩には無骨な突起が生え、触角がノコギリを思わせる形へと伸びていく。


「これが、今後『五万年の刻』を支配する創世王の真の姿だ」


 凶々しさを超え、最早神々しささえ帯びている。
 『赤き魔神』は、王から神の域へ到達しようとしていた。


「光栄に思い、その目に焼き付けるがいい。
 貴様らの『存在』ごと、その記憶が消えるとしてもな」


 絶望が、そこにあった。


【翠星石@ローゼンメイデン 死亡】


0380終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:28:38.94ID:FY4NXSPc
 誰も動かなかった。
 狭間とゾルダの足さえ恐怖に震え、頬を流れた冷や汗が顎を伝い落ちる。
 だが赤い魔神がカシャリと一歩踏み出した事で、二人は弾かれたように駆け出した。
 狭間が斬鉄剣を振り下ろし、ゾルダが別の角度からギガランチャーを撃ち込んだ。
 シャドームーンは回避は疎か、防御すらしない。

 パキン。
 冗談のような軽い音を立てて斬鉄剣が折れた。
 シルバーガードに触れたという、ただそれだけの事で。
 斬鉄剣は紛れもなく名刀だが、飽くまで人の手によって打たれたもの。
 究極の王を斬る事は叶わなかった。
 弧を描いて落ちていく刀身を、シャドームーンの背に当たった砲弾から広がる爆炎を、狭間は呆然と見詰める。

「最早釣り合わんな」

 二つの王の石が並んだシャドーチャジャーが輝き出す。
 狭間が我に返った時には遅い。

「マカラカー、」

 後ろから学制服の襟を引かれ、詠唱が途切れる。
 狭間の頭があった位置をビームが通過していき、当の狭間はゾルダによって小脇に抱えられていた。
 ゾルダがマグナバイザーツヴァイを連射しながらシャドームーンと距離を取る。
 ギガランチャーは通用しないと判断し、早々に放棄したようだ。

「しっかりしてよね、頼りにしてるんだから」
「すまない……」

 狭間を下ろしたゾルダがデイパックから素早く取り出したのは、ジェレミアが最後に使っていた日本刀。
 炎髪灼眼のフレイムヘイズが愛刀・贄殿紗那だった。
 狭間がそれを鞘から抜き、改めて構える。
 シャドームーンはまだ自分から仕掛けるつもりはないようだった。

「試したい事があるんだけど、時間稼いでくれる?」
「……余り期待はしないでくれ」
「まぁ、そりゃあね。
 なるべく急ぐよ」

 ゾルダが退き、狭間が残る。
 刀を握る手が汗でべたつき、己の鼓動がいつになく騒がしい。
 怯えている。
 魔界を制した狭間であっても、この先にそびえ立つ壁を乗り越えられる気がしなかった。

「まだ諦めないか」
「あぁ……貴様が誰であろうと、僕達は負けられないからな」
「それでこそ、この私が敵と認めた人間だ」

 シャドームーンが上へと手を翳し、再び二振りのシャドーセイバーが形成される。
 この二刀によって串刺しにされる己の姿が容易に想像出来た。
 逃げ出したくなるが、逃げ場はない。
 何より、思い出が狭間を踏み留まらせる。

 シャドームーンが地面を蹴る。
 たった一歩で狭間の間合いを侵略し、頭上に高く掲げた剣を下ろした。
 狭間が仰け反るように回避すると、もう一本のシャドーセイバーが横薙ぎに狭間を襲う。
 それを狭間はもう一歩退き、避ける。

 “究極の王”が振る剣は、最早目にも映らない速さ。
 狭間にも見えていない。
 それをかろうじて躱せているのは、偏に無意識の海がもたらした「勘」に助けられているからだ。
0384終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:29:58.20ID:FY4NXSPc
 心のないシャドームーンの剣筋を読むのは至難だが、五十九人の経験が挾間の体を突き動かしていた。
 明治の剣豪、侍の末裔、ブリタニア帝国の騎士、フレイムヘイズ、刀や剣と共にあった者達の知識に助けられている。

「今度は私の真似か」
「あるものは何だって使う。
 そうでなければ、貴様は倒せない……!」

 狭間が吸収しているのは皆の知識や技だけではない。
 目の前で相対しているシャドームーンの動きすら、間近に見る事で盗んでいる。
 その場で得たものをその場で使う付け焼き刃に過ぎないが、手段を選んでいる余裕はなかった。

 二刀流のシャドームーンに対し、贄殿遮那一本で立ち向かう狭間。
 身体能力や技術だけでなく手数においても不利を強いられ、戦いが始まった頃とは逆に狭間が防戦一方となっていた。
 ただしシャドームーンがしていたように、相手の斬撃をいなす事は出来ない。
 力の差は歴然で、受け止めるどころか太刀筋を変える事さえ困難なのだ。
 狭間に出来るのは、ひたすら躱す事だけだ。

「無駄な足掻きだ……世界はこの月が支配する。
 貴様達に夜明けは訪れない」
「させないと言っているだろう……!!」

 とは言え、見えない攻撃をいつまでも躱せるはずもない。
 鋭く斬り込んできた赤い剣が狭間の胸を貫く。
「ッ……!!!」
 贄殿遮那で僅かに切っ先を逸らし、致命傷だけは避ける。
 そして致命傷でさえなければ、【魔人】イフブレイカーの恩恵を得た今の狭間なら持ち堪えられる。

「ディアラハン……!」

 シャドーセイバーが引き抜かれてすぐに傷を回復させ、続く攻撃を回避する。
 攻撃の隙は一瞬たりとも与えられず、死は常に目の前にある状況。
 それでも心折れずに居られるのは、集中を切らさずに居られるのは、信頼があるからだ。

 シャドーチャージャーに急速にエネルギーが集まるのを見て戦慄する。
 だがすぐにそれは光が収まり、シャドームーンは攻撃の手を止めた。

「……時間稼ぎとしては優秀だったな」
「!! 北岡……」

 ゾルダが余裕のある歩みで挾間の横へと並ぶ。
 ゾルダの疲労も蓄積しているはずだが、それはおくびにも出していなかった。

「もう一本、折れない剣持ってきたよ」

 北岡が手にしているのはマグナバイザーツヴァイ一つだった。
 狭間が疑問を表情に出すと、ゾルダは指を差す。

「上だよ」

 空気が振動する。
 シャドームーンは今の姿になってから初めて回避行動を取った。

 シャドームーンが立っていた場所へと落下してきたのは、ゾルダと同じ緑を基調とした巨人である。
 マグナギガがサバイブによって進化したミラーモンスター、マグナテラ。
 だがそのサイズはミラーモンスターのものから大きく逸脱している。
 見上げるようなその大きさは。
 その目に宿った光は。
 背負った大剣は。
 呆然とする狭間の前で、ゾルダは答えを口にする。
0389終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:31:57.66ID:FY4NXSPc
「“夜明け”のヴァン」



 一度は敗北し、パイロットと共に眠りについたはずの機体。
 ダンが姿を変え、再度シャドームーンと相見える。



「志々雄みたいだから、やりたくなかったんだけどね」

――AD VENT――

 マグナテラを召還しながら、『それ』を前にしてゾルダは語る。
 死体に鞭打つこの行動は、出来れば避けたかった。

 生粋の悪。
 黒を白に変えるスーパー弁護士の力をもってしても染まらない黒。
 一緒にされたくない――心底そう思った男と、同じ手を使おうとしている。
 だが狭間と同様、ゾルダもまた手段を選べない状況にあるのだ。

「休んでるとこ、悪いんだけどさ」

 マグナテラを従え、語り掛ける相手はダン・オブ・サーズデイ。
 役目を終え、操縦者と共にその機能を停止させた巨大兵器ヨロイ。
 装甲は傷付き、大破寸前と言っても良い状態だった。
 話を振ったところで返事があるはずがないが、ゾルダは続ける。

「あんたとは碌に話もしなかったけど、こっちはあんたの事を知ってるんだ」

 目的。
 願い。
 幸せな結婚式、幸せな夢。
 無意識の海を通して、全てを見ている。

「あんた、これでいいの?
 偉そうな剣を一本折ったぐらいで満足するような奴がさ……何年も飽きずに仇討ちなんて考えるわけないじゃない」

 ダンのパイロット、ヴァンにとってシャドームーンの存在は通過点。
 見ていたのは『未来』、最愛の花嫁の仇を討って手にする『明日』。
 しつこく、一途で、ただただ愛に生きた純粋な馬鹿。
 ヴァンという男を、ヴァンという男が関わった者達を、北岡は知っている。

「あんたが負わせた傷、月の力で全回復だって。
 しかもますますパワーアップって、ムカつくでしょ」

 敗北に終わった戦いの記憶を。
 その時の煮え滾る感情を。
 北岡は共有している。

「だから、もう一度だけ」

 今の北岡は自分の為だけではなく、他人の為にも戦っている。
 背負うものが増えすぎた。
 だからこそ。

 光る粒子がダンを包み込む。
 それは、アルターの光だった。
0397終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:34:01.29ID:FY4NXSPc
 アルター能力者は生まれる前から『向こう側』の世界を認識し、そのアクセス方法を知っている。
 アクセスする事で、物質を変換し己のエゴを具現化するのだ。
 その方法は言語化出来るようなものではなく、多くのアルター能力者は無意識に行っていた。
 「何となく」、という言葉が近いのだろう。
 そしてその「何となく」もまた――無意識の海の中を漂っていた。
 故に北岡はそれを、うっすらとそれを感じ取っていた。

 それだけではない。
 この場所は、nのフィールドを通じて全ての世界と繋がった場所。
 そして、クーガーが命を燃やした場所。
 ラディカル・グッドスピードによってアルター粒子が濃くなった特殊な空間である。
 故に、間接的な知識しか持たない北岡でもアクセスが可能となったのだ。

 ダンが消える。
 そして再構築される先はマグナテラ。
 融合装着型アルターのように、マグナテラが鎧としてそれを纏う。

 北岡のエゴが形となったその鎧は、マグナテラと良く似た形態を取った。
 その質量はダンと同じだけのものであり、圧倒的な巨体を誇る。
 しかしそこに、誤算があった。


『めんどくせぇ……俺はな、眠いんだ』


 気だるげな男の声が聞こえ、ゾルダは仮面の下で目を見開いた。
 アルターは己のエゴそのものであり、魂そのものである。
 だからただの足場を変換するよりも誰かの思いの残ったものを使った方がいいと、そう考えての行動だった。
 こんな事まで計算に入れていたわけではない。
 しかし「あり得ない」とも思わず、ゾルダは笑みを作る。

『だから、さっさと終わらせる』
「……有り難いね。
 俺ももううんざりだからさ」

 ドラグレッダーに魂を捕食された劉鳳は“魂の反逆”を起こし、真司に己の魂そのものであるアルターを発現させた。
 それは本来起こり得ない、奇跡のような出来事であった。
 だがその時と同じ敵を前にして、奇跡は再び起こる。
 目的を果たせないまま敗北した男の意志は、まだ死んでいない。
 マグナテラに取り込まれても魂の形を失う事なく、どころかマグナテラの体の主導権を奪い取ったのだ。



「『こんな所で終われない――そう思うだろ、あんたも!!!』」



 『明日』を奪おうとする敵を討つ為に。
 夜明けをもたらす為に。
 北岡のアルター『マグナテラ』の目に、ダンと同じ色の光が宿る。



 シャドームーンに振り下ろされるその巨大な剣に、名前はない。
 ただ“ダンの剣”と呼ばれていた。
 パイロットと同様、立派な名前を持たない――ただ斬れればいい。
 ヴァンの生き様を反映したとも言えるその剣を、シャドームーンは交差させた双剣によって受け止めた。
 マグナテラの重量と力によってシャドームーンの足場が陥没するが、剣と剣はなおも拮抗していた。
0403終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:35:19.56ID:FY4NXSPc
「まだ足掻くか……面白い!!!」

 マグナテラの動きにかつての鈍重さはない。
 北岡が相手取ったKMFのように、元となったダンのように、全ての関節がしなやかに動く。
 そしてその出力は、本来のマグナテラの力にもダンのマシンスペックにも依存していない。
 ただ北岡とヴァンの意志が、出力を決める。
 二人の願いの強さがそのままマグナテラの力になる。
 今、このアルターは赤い魔神と渡り合うだけの強さを手にしていた。

 マグナテラの大剣がシャドームーンを薙ぎ払う。
 吹き飛ばされるシャドームーンだが、大剣を振るわれた方向に向かって自ら跳んで威力を相殺しているだけだ。
 斬撃を完璧に防いでおり、ダメージは皆無。
 しかしこうしてシャドームーンが防御しているという事は、当たればシャドームーンとて無傷で済まないという事。
 戦いは成立している。

 危なげなく着地したシャドームーンのシャドーチャージャーが輝き出す。
 如何に創世王であっても、これだけのサイズ差のある敵を斬るのは至難。
 故にビーム主体の攻撃となるのは必然である。
 そしてそれを迎え打つべく、マグナテラの全身の砲門が開いた。

 シャドービームとマグナテラのミサイルが誘爆を引き起こし、爆炎が辺りを埋め尽くした。
 しかし視界が晴れるのを待たず、炎と煙の中で両者は再び剣戟を打ち鳴らす。



 巨人と魔神の攻防を背景に、狭間は一時的に戦線を外れた。
 戦況を見守りたい気持ちもあったが、後方の事がずっと気に掛かっていたのだ。

「柊……」
「大、丈夫です……」

 つかさは座り込んでいた。
 起き上がれない状態からは回復したようだ。
 しかし俯き、前髪で隠れた表情は見えない。
 頬を伝い落ちた水滴が汗なのか涙なのかも、狭間からは判断がつかなかった。

「ごめんなさい、狭間さん……私……」
「僕があの時倒せていれば、こんな事にはならなかった。
 柊は悪くない」

 つかさに対し、もっと適切な態度はきっとあるはずだ。
 翠星石を失った――それも自分のせいで失ってしまったと思っている今のつかさに。
 だがそれ以上の言葉は出て来なかった。
 ジェレミアを失った直後と同じように。
 優れた頭脳を持っていようと、新しい生き方を始めようと、狭間に出来る事は余りに少なかった。

「……柊、僕と北岡のデイパックを預かっていてくれないか」
「それ、って……」
「余計な意味はないから大丈夫だ。
 単に僕も北岡も、荷物が邪魔になっただけだから」

 後で必ず取りに来るからと告げ、二つのデイパックを渡す。
 つかさが顔を上げる事はなかったが、渡されたデイパックを固く握り締めていた。

 狭間が一つ、息を吐き出して体の力を抜く。
 傷は全て塞いでいるものの、失血と疲労が体に重くのし掛かっていた。
 一時だけの休息を取り、そしてすぐに緊張を取り戻す。
 マグナテラとシャドームーンの剣の打ち合いは未だ続き、その度に空気がビリビリと震えて身を締め付けてくるのだ。
 すぐに戻らなければならない。
0406終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:35:57.46ID:FY4NXSPc
「狭間君、その、話があるんだが」

 戦場に足を向けた狭間を呼び止めたのは、深刻な表情をした上田だった。
 顔は深刻、しかし聞き流して良い話である事の方が多いと、狭間は経験則で知っている。
 とは言え初めから聞かないわけにもいかず、狭間は続きを促した。

「実は君達が戦っている間に、私の天才的な洞察力によって大きな収穫を得たんだ。
 大きいと言っても私の器ほどではなかったが、きっと役に立つはずだ。
 しかし私が取りに行こうにも、今の柊君を一人にするわけには――」
「何があったんだ?」

 不必要な情報が多すぎた為、耐えかねた狭間が答えを急がせる。
 そして結果的に上田は、この戦いで大きく貢献する事になった。



 巨大な力と力がぶつかり合うその場所は、惨状と呼ぶに相応しい状態になっていた。
 足場は爆発や斬撃でめくれ上がり、空間のあちこちに穴が空いてnのフィールドを覗かせている。
 それでもマグナテラとシャドームーンの攻防は終わる気配を見せなかった。
 七つの賢者の石を有するシャドームーンのエネルギーは無尽蔵。
 マグナテラも、弾薬が尽きればゾルダが足場をアルター化させて次弾を補っている。

 しかし長く続いた攻防は唐突に終わりを迎える。
 マグナテラが大剣を薙ぎ払う――それをシャドームーンは受け止めるでも受け流すでもなく、跳躍して回避した。
 着地するのは他でもない、その大剣の上である。
 そしてマグナテラが振り払うよりも速く、シャドームーンは大剣の上を駆け抜けた。
 マグナテラの間合いの内の内、超至近距離に迫る。

 全長約四メートルから五メートル程に収まるKMFに対し、ヨロイ――今のマグナテラは約二十五メートル。
 人間大の敵を相手にするには余りに巨大で、懐まで踏み込まれた時に抗う手段が限られてしまう。
 何より、相手にしているのはシャドームーン。
 少々の攻撃では傷付かない頑強さを、装甲さえ斬り裂く剣を、ヨロイを破壊するだけの火力を、全てを兼ね備えた王である。

「この距離ではミサイルは撃てまい」

 マグナテラの手首まで到達したシャドームーンが、腹部に向かって跳ぶ。
 そしてシャドーチャージャーに蓄積したエネルギーを解放し、シャドービームを展開する。
 威力、範囲共にRXの時よりも更に上。
 マグナテラの巨体をビームが覆い尽くし、蹂躙する。

「がぁぁあああぁあああああああ!!!!!」

 ゾルダが膝を着く。
 アルターである以上、マグナテラのダメージは本体であるゾルダにも反映される。
 そしてシャドームーンはマグナテラの胸に剣を突き立て、下へと振り抜こうとしていた。
 それに対しマグナテラは、砲門を己へと向ける。

「!! まさか、」

 シャドーセイバーを抜いて跳び退くが、砲弾はそれよりも速く。
 シャドームーン諸とも、マグナテラの全身が爆炎に包まれた。

 爆風に煽られて高く舞い上げられたシャドームーンだが、マグナテラから遠く離れた地点に降り立った。
 赤い体を煤で汚す事になったものの、外傷はない。
 マグナテラは未だ炎の中にあったが、シャドームーンのマイティアイはその内側の虹色の光を捉えた。
 同時に大剣が炎の壁を斬り裂き、道を作る。
 そこに居たのは、マグナテラではなかった。

「まだ、終わらないでしょ……」
『当たり前だろ。
0413終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:38:56.25ID:FY4NXSPc
 俺はまだ、あいつをぶったぎってないからな』
「そうだ、だから……!!」

 シャドームーンを倒す、殺す――ヴァンとゾルダがその思いを一つにした事で、ゾルダのアルターに変化が起きた。
 ヴァンのエゴが反映された、白い機体。
 推定頭頂高24.8m、本体重量unknown。
 “神は裁き”と名付けられた、元囚人惑星エンドレス・イリュージョンを統率したオリジナル7の内の一機。



「『Wake Up……ダン!!!!』」



 その機体の名は、ダン・オブ・サーズデイ。



 重火器を捨てたその体は、マグナテラよりも更に速い。
 シャドームーンの回避にすら追い付き、その頭上に大剣を振り翳す。

 一際大きな地響きが起きた。
 シャドームーンの双剣がダンの剣を防ぎ、その重量によって足場が砕けたのだ。
 しかしシャドームーンの四肢はなおも大剣による一撃を支えている。

「『うぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』」

 ヴァンとゾルダの叫びが重なり、ダンの出力が増大する。
 無尽蔵のエネルギーを注がれていたにも関わらずシャドーセイバーが軋み、二振りが同時に折れた。
 だが即座にシャドームーンは両腕を交差させ、落ちてきた大剣を受け止める。

「貴様……!!」
「これで、落ちろッ……!!!」

 シャドームーンの腕の強化外装に亀裂が走る。
 そして足場が更に砕け、シャドームーンが片膝を着いた。

「この私が、膝を!?」

 シャドームーンは驚愕の声を上げ、シャドーチャージャーからビームを発射する。
 ダンは跳躍してそれを躱し、更に上昇していく。


――FINAL VENT――


 ゾルダがカードをベントインする。
 ゾルダサバイブのファイナルベントは、マグナテラが戦車へと変形して砲撃と共に敵に体当たりするというもの。
 そのマグナテラがダンと一体化した今、そのカードを使うなら。
 ファイナルベントは別の形を取る事になる。

 ダンが跳ぶ。
 天井の存在しない空間の中を上へ上へと跳び、やがて止まる。
 一度目の決着の時と同じ、上空約二百メートル。
 違うのは、ダンが変形したという点。
 その形は、一本の剣だった。
 オリジナル7の機体が大気圏に突入する際に取る形態である。

 普段は宇宙にある機体が地上に降りる時、わざわざ剣の形を取る事には意味がある。
 囚人惑星エンドレス・イリュージョン。
0415終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:39:47.36ID:FY4NXSPc
 地球――“マザー”と呼ばれる星の犯罪者を収容するのが、この惑星の元々の役割であった。
 そしてオリジナル7は、そこに住む囚人達を統治するべく開発された機体。
 その形状によって囚人達に畏怖を知らしめ、反乱の意志を奪ったのだ。

 今、眼下にいるのは囚人ではない。
 相手の姿形で恐れ慄くような敵ではない。
 しかし“神は裁き”の名に従い、ダンはシャドームーンに断罪を下す。

 遙か下、一滴の血痕のように見えるシャドームーンに向けてダンが急降下する。
 この攻撃を、シャドームーンは避けないだろうという確信があった。
 膝を着けられた相手。
 その相手の最大の攻撃を避ける事は、シャドームーンの矜持が許さない。

 遠くから見ればそれは、一筋の流れ星のようであっただろう。
 巨大な一振りの剣が、落ちる。
 そして再び双剣を生成したシャドームーンがそれを迎え討つ。

 その瞬間の衝撃は境界の向こう、nのフィールドの先の扉さえも破壊する程のものだった。
 空間の境界は最早意味を成さなくなり、穴だらけになった景色の中で、魔神と大剣が意志をぶつけ合う。

 シャドーセイバーが持ち堪えたのはほんの数秒だった。
 シャドームーンは折れた剣を放棄し、その両腕で剣の突進を受け止める。
 シャドービームがダンの巨体を包むように襲うが、その勢いに衰えは微塵もない。
 対するシャドームーンの赤い強化外装は既に剥がれ、露出した人工筋肉から火花が飛び散っている。

「何故……私が、二度までも……!!」
『てめーは俺が!!!!
 ぶっ殺すっつっただろうがぁあああああああぁあああああああああッ!!!!!!』

 ビームの出力に、ダンの装甲が砕けていく。
 しかしゾルダはその一撃に注力する傍ら、翠星石の如雨露が作った水溜まりからミラーモンスターを出現させた。
 一体や二体ではない。
 先程シャドームーンに破壊されたモンスターを除く全てである。

――UNITE VENT――

 核となるのはマグナテラ、即ちダン。
 ミラーモンスター達を新たな鎧として纏い、ダンは更なる突進力を得る。
 しかしダンが強化される程に、二つのキングストーンが輝きを増していく。
 ダンの破損が進み、ゾルダの体が灼かれていく。

「この創世王に、勝てると思うな!!!」
「それでも俺は……!!」

 諦められるはずがない。
 既に、願ったのだ。
 誰より強く命の音を鳴らし、叫ぶ。



「俺は、『明日』が欲しいんだよッ!!!!」



 それはV.V.にバトルロワイアル開催を決意させた、始まりの一言だった。
 最初の『願い』だった。

 ズドン、と。
 大剣が地面へと突き立った。
 そして半拍遅れ、赤い腕が落下する。
0419終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:41:27.10ID:FY4NXSPc
 “究極の王”となったシャドームーンは、転がった左腕を呆然と見詰めた。

「……この、創世王の……腕が」

 それまでの轟音が嘘だったかのように、辺りは静まり返っていた。
 風一つなく、ただ変わり果てた景色と大破した大剣が、戦いの激しさを物語っている。
 大剣――ダンは動かない。
 そしてゾルダもまた地に伏し、起き上がる事はなかった。



 カシャン、カシャン、カシャン。

 シャドームーンは一人、歩を進める。
 左肩から先を失いながら、それでもその神々しさは薄れない。

「……」

 切断された肩が再生しない。
 それだけが少々気に掛かったものの、創世王は歩みを止めない。
 倒れたゾルダにとどめを刺すべく為に。
 だがその前に、立ち塞がる影があった。

「シャドームーン!!!! …………さん!」

 上田だった。
 勇ましく呼び掛けようとしたものの、途中で怖くなってさん付けに変えてしまった。
 しかし図体こそ大きいものの、誰よりも小心者にして小物だった上田が、たった一人で王と対峙している。
 これだけで一つの奇跡である。

「き、君に願いはないんだろう。
 わざわざ私達を殺して、自在法と呼ばれるものに頼る必要もないはずだ。
 私達が負けを認めれば、そそ、それで充分なんじゃないか?」

 完全に腰が引けている。
 だが上田は何とか生き残ろうとして、シャドームーンを相手に交渉しているのだ。
 しかしシャドームーンの視線は冷ややかだった。
 表情は読み取れないのだが、冷ややかとしか思えなかった。

「上田、次郎。
 随分早い段階から、私の視界の端でうろついていたな」

 上田がシャドームーンと遭遇してしまったのは、第一回放送前の事である。
 この場に残っている誰よりも早く接触し、その脅威を目の当たりにしている。
 故に、当然、分かっているのだ。

「貴様達を全員殺す事でのみ、私の矜持は満たされる。
 運良くここまで生き延びた貴様なら、それも分かるだろう」

 丸腰というわけではなく一応腰にブラフマーストラを差しておいたものの、抜けるような状況ではない。
 上田は尻餅をつき、震えながら後ずさる。
 シャドームーンが歩みを再開し、上田に向けて手を翳した。

「北岡、上田、ありがとう」

 少年の声がそこに割り込んだ。
 上田が四つん這いになって逃げ出すと、代わりに狭間偉出夫がシャドームーンに相対す。

「皆のお陰で、僕はまだ戦える」
「……二刀流か」
0420終幕――鋼の救世主 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:42:10.84ID:FY4NXSPc
 狭間が携えるのは二振りの刀剣。
 贄殿遮那――そして、ヒノカグツチ。

「いいや……僕が使うのはヒノカグツチだけだ」

 狭間は目を閉じ、そして決別する。
 それまで狭間と重なり合っていた黄色の影が狭間から離れていき、狭間の隣りに立った。
 そして、その言葉を口にする。



「……“Alter”」



 己のガーディアン、【魔人】イフブレイカーを触媒として『向こう側』の世界にアクセスする。
 そして顕現するのは、参加者の一人。
 軽小坂高校の制服に身を包んだ男子学生、蒼嶋駿朔だった。

「行くぞ、蒼嶋。
 ふざけた“もし”をぶっ壊しに」

 狭間がヒノカグツチを構え、蒼嶋は贄殿遮那を握る。
 終わりは確実に、近付いている。

0427終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:45:28.93ID:FY4NXSPc
 戦場の事を気に掛けながら、狭間は上田が指し示した場所に向かっていた。
 魔力の残りは随分少なくなり、体も目蓋も重い。
 常に気を張っていなければ意識を手放してしまいそうになる。
 だが北岡が戦っている今、止まってなどいられない。
 そして『そこ』に、辿り着いた。


――……我は――


 呼び掛けられた。
 北岡も、つかさも、上田も、近くには居ない。
 蒼嶋の声でもない。
 だがその声の主ははっきりしている。
 見覚えのある――身に覚えのある剣が、そこに刺さっていた。

――――我は魔剣ヒノカグツチ……天津神ヒノカグツチの力が込められし剣なり……
――――我を引き抜きし者に我と我が力与えん……

『おうおう、懐かしいもんがあるじゃねーか……』

 蒼嶋にとっては二度目となる、ヒノカグツチとの遭遇。
 志々雄真実の手に渡って以降猛威を振るい続けたその剣は、ここで再び主の訪れを待っていた。

 この剣を手にする資格が自分にあるのかと、狭間は思わず自問する。
 守ると決意したものをことごとく失って、弱さを露呈するばかりの自分。
 それでも今更退けないと、ヒノカグツチの柄を握る。


――――お主はよき守護者に恵まれたな。


 心なしか、優しい口調だった。
 狭間は喉元にこみ上げた思いを飲み込んで、その声に応える。


「……ああ。
 僕も、そう思うよ」


――――その力をもてば我を引き抜く事出来よう。


 ここで得られたものを。
 ここで失われたものを。
 振り返っている時間はない。
 狭間は静かに、ヒノカグツチを抜いた。

『イケるだろ、狭間』
「当然だ、蒼嶋」

 狭間がこの剣を手に取るのは初めてだった。
 一度は自分を貫いた剣。
 忌々しいと思っていた剣。
 しかし手にした途端、力が漲るのを感じる。

「……蒼嶋。
 もし、北岡でもシャドームーンを倒せなかったら。
 その時は――」
『好きにすればいいだろ。
0431終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:46:17.32ID:FY4NXSPc
 気にすんな』

 北岡は無意識の海で得た記憶を使い、『向こう側』の世界へとアクセスした。
 それは同じものを見た狭間にも可能である。
 そして狭間がアルターを発現する時。
 その触媒として最も適したものは――

『俺はお前と一緒に“もし”をぶっ壊す為についてきたんだ。
 それで済むなら、安いもんだろ』

 一度触媒に使ってしまえば、もう元には戻らない。
 だがそれでもいいと、蒼嶋は言う。

『小難しい事ばっか考えやがって。
 そんな話してる場合かっての』
「……それも、そうだな。
 それなら僕も、何も言わないさ」
『それでいいんだよ。
 さっさと行こうぜ』

 少年は――少年達は、再び戦場へ向かう。
 真の創世王が待つその場所へ。



 ガーディアンを失った事で狭間は弱体化した。
 その代わり今は、隣りに信頼し合えるパートナーがいる。

 自立稼動型アルターとなった蒼嶋がシャドームーンへと肉薄し、狭間がそれを魔法で援護する。
 だが、片腕になったとは言えダンの出力で漸く戦いが成立していた相手である。
 贄殿遮那による一撃はシャドーセイバーによって容易に止められ、弾かれ、鍔迫り合いすら成立しない。

「ジオダイン!!」

 最速の雷撃がシャドームーンに命中。
 シャドームーンがたたらを踏み、その間に蒼嶋が後退する。

「……?」

 シャドームーンが訝しむように己の肉体を見下ろす。
 その隙に蒼嶋が再び飛び掛かって刀を振るった。
 何度挑んでも完全に防がれてしまう。
 だが「シャドームーンが防いでいる」時点でないかがおかしいと、狭間は感じ取っていた。
 ただ受け止めただけで斬鉄剣を折る程の硬度を誇るシルバーガード。
 贄殿遮那が折れる事はないとしても、当たったところで傷を付けられるはずがないのである。
 ならば、今は防がなければならない理由がある――それは勝機を見出すには充分な要素だった。

 シャドーセイバーが贄殿遮那と衝突した瞬間、狭間はシャドームーンの左側へと回り込む。
 脇腹をめがけてヒノカグツチを突き出すが、シャドームーンは身を逸らしてそれを回避。
 カウンターの蹴りを腹へと叩き込まれ、狭間は体を浮かせた後に足場を転がった。
 しかしすぐに起き上がり、再度距離を取った蒼嶋と共にシャドームーンを睨み付ける。

「まだ分からないようだな。
 貴様らは何も掴めずに虚空に消える」
「何度も言わせるな……消させない」

 ヒノカグツチを杖にして立ち上がる。
 痛みと疲労に支配されても、苦しくても、思い出の中にある仲間が支えてくれている。

「皆と一緒に、生きる」
0435終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:47:53.94ID:FY4NXSPc
 殺し合いに乗っていたミハエル・ギャレットを、彼が信奉していたカギ爪の男を、肯定するつもりはない。
 しかし彼らの思想の一部は確かに真実を捉えていた。
 その人を忘れなければ、その人は死なない。
 共に生き続けられる。

「僕は皆と同じ夢を――……いや」


――夢で終わらせないで。


 参加者である六十五人には含まれない、ハカナキ者達のうちの一人。
 ほんの数秒だけの邂逅を果たした、レナの友達――狭間の友達。
 彼女の『願い』に報いる為にも。



「僕は生きて、皆と同じ『明日』を見る」



 カシャン、と足音が一つ。
 これ以上の会話を無駄と判断したのか、今度はシャドームーンが攻めへと転じる番だった。
 目に映らない程の速度で踏み込み、蒼嶋の体に袈裟掛けに一撃を見舞う。
 一瞬早く後退した為傷は浅く済んだが、直後にシャドームーンが投擲したシャドーセイバーが蒼嶋の肩へと突き刺さった。

「アギダ――」

 詠唱の暇さえ与えず、狭間の顔面を鷲掴みにするシャドームーン。
 狭間は掴まれた状態のまま、地面へめり込む程の力で頭部を叩き付けられた。
「ごっ……ぁ……!!」
 視界が明滅して意識が飛びかける。
 だが気を失えばアルターを維持出来なくなる為、歯を食い縛って思考を繋ぎ留めた。

 蒼嶋がシャドームーンに蹴りを入れようとするが、シャドームーンは狭間を蒼嶋に向かって投げ付けた。
 蹴りを中断して無理矢理狭間を受け止めた為、二人でもつれ合うように転がされてしまう。
 そして冷徹な声が紡がれた。

「シャドービーム」

 短い攻防の間に蓄えられたエネルギーが光を放ち、狭間と蒼嶋の体を灼く。
 アルターと本体の両方に攻撃される狭間は、痛みを二重に味わう事になる。
 だが逆に、狭間の精神さえ保てば蒼嶋は痛みを感じる事なく動ける。
 シャドービームが止まるのを待たず、蒼嶋がシャドームーンの間合いへと飛び込んだ。

『おらぁぁぁああああああああッ!!!!』

 勢いに任せた一撃は届かず、シャドームーンが新たに生成したシャドーセイバーが贄殿遮那を遙か遠くへと弾き飛ばす。
 そして徒手空拳となった蒼嶋の胸にシャドーセイバーが突き刺さる。
 しかし蒼嶋はしがみつくようにしてシャドームーンの腕を掴み、そのまま固定。
 シャドービームを注ぎ込もうと離れない。
 そして蒼嶋の背後から現れた狭間がヒノカグツチを突き出した。

 シャドームーンの全身を守るシルバーガード。
 ヒノカグツチはそれを突破し、シャドームーンの腹を貫いた。

「……」

 シャドームーンの蹴りが蒼嶋を引き離し、自由になった拳で狭間を殴り倒す。
0439終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:49:02.86ID:FY4NXSPc
 ヒノカグツチが刺さったままの状態であっても痛みはないようで、未だ倒れる様子はなかった。
 だが変化は確実に訪れている。

「……何が、起きている……?」

 外から見て見て分かる程に、シャドームーンは狼狽していた。
 突き立ったヒノカグツチを見詰め、抜こうという素振りもない。
 神の力を宿した剣。
 それでも――この装甲を、貫けるはずがない。

「メ、ギ――」

 狭間が血を吐きながら体を起こす。
 詠唱が終わるのは、我に返ったシャドームーンが手を翳すのと同時。


「――ドラ、オン!!!!」
「シャドービーム!!!!」


 両者の間にあった距離は五メートルに満たない。
 その状態で放たれた最大呪文と高エネルギーのビームの衝突に、狭間の体は遠く吹き飛ばされた。



 全身を包む痛み。
 メギドラオンに残るほとんどの魔力を注ぎ込み、既にアルターを維持出来るだけの力も残っていない。
 それでも立ち上がり、拳を握る。
 そこにまだ、シャドームーンが立っているからだ。
 ヒノカグツチは未だ刺さったまま。
 全身から細く煙が立ち、時折火花を散らす赤き魔神。
 今のシャドームーンには余裕がない。
 苦しいのはお互い様である。

 カズマのような自慢の拳ではない、他者とまともなケンカをした事もない小さな拳。
 だが、たった一つ残された狭間の武器。
 僅かに残った蒼嶋の力を込め、腕を振り上げる。

「おおおおお!!!!」

 掠る気配すらなく避けられる。
 大きく隙を作った狭間に対し、シャドームーンは容赦なくシャドーセイバーを振るった。
 しかし狭間は姿勢を低く落とし、シャドームーンの反撃をスレスレで回避する。

 不格好な戦いだった。
 だがあのカズマとて、技術があったわけではない。
 かなみやクーガーと出会うまで、家族すら持たなかった。
 金もなければ学もない、立派な名前すらない。
 拳しか持っていなかった。
 だから、ただ気に入らない奴をぶん殴る。
 だから、ただ生きる為にぶん殴る。
 ひたすらに、ひたむきにシンプルな生き方だった。
 その強さを知っているから、狭間も己の拳を信じた。

「そうだ、シャドームーン。
 僕は――」

 がむしゃらに拳を振るう。
 シャドームーンの必殺の一撃からかろうじて逃れながら、思いを吐き出す。
0445終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:50:04.75ID:FY4NXSPc
「僕は、お前が――」

 孤独な王。
 誇りの為に全てを敵に回し、たった独りで戦い続けた新たな創世王。
 元は魔神皇であった狭間には、シャドームーンの在り方を理解出来た。

 たった一人で在り続ける。
 狭間に出来なかった事をしていたシャドームーンを、羨ましいとは思わなかった。
 だがその矜持に敬意を示した。
 羨ましくはなくても――凄いと、純粋に思ったのだ。
 そして理解出来るからこそ、尊敬に近い念を覚えるからこそ、「許さない」と言った。
 同族嫌悪に近い感覚を、覚えていた。
 だから『魔人皇』として必ず決着をつけると宣言したのだ。

 対する『人間』狭間偉出夫は。
 魔神皇でも魔人皇でもない、肩書きを捨てたただの人間は。
 言葉を飾る事なく、素直に思ったままを叫ぶ。
 北岡が既に口にしていたように。
 他の者が気負いなく言っていた事を、狭間偉出夫は漸く言葉にする事が出来た。


「僕はお前が気に入らなかったんだ!!!」


 シャドームーンの一撃を躱し、間合いの奥まで踏み込む。
 腕をしならせ、拳を弓のように引き絞る。
 そして蒼嶋の力と思いを拳に重ね、一撃を見舞う。

「『うおおおおおおぉぉぉおぉぉおおおおおおおおおおッ!!!!!!!』」

 狭間の拳がシャドームーンの頬を穿つ。
 衝撃が空間全体を揺らし、絶対の王であるはずのシャドームーンの体が傾いだ。

「……!!」

 シャドームーンの仮面に亀裂が走る。
 狭間の渾身の一撃は、確かにシャドームーンに届いていた。
 シャドームーンは拳の威力に押されて一歩後ずさる。
 そして狭間は力尽き、そのまま倒れ込んだ。

 立っているシャドームーン。
 倒れた狭間、消滅した蒼嶋。
 結局、拳を届かせるのみ。
 仮面に僅かな傷を入れるのみで、シャドームーンを倒す事は叶わなかった。

 シャドームーンは動かない。
 数秒間動きを止め、それからゆっくりと手を頬へと当てる。

「…………?」

 七つの賢者の石を得たシャドームーンのシルバーガード。
 アルターの力があったとは言え、生身の人間の拳で罅など入るはずがない。

「何、だ……?」

 シャドームーンの手が震え出す。
 手の力が緩み、シャドーセイバーが地に落下して刺さった。

「これは……」
0451終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:51:43.73ID:FY4NXSPc
 狭間に殴られた頬が変色する。
 血の如き赤から、鈍い銀へ。
 そしてその色が水面に落ちた絵の具のように広がり、全身が元の銀色へと戻っていく。
 のみならず肩の突起は崩れ、触角は刃を失い、塞がっていたはずの全身の傷が再び姿を見せた。
 左半身は人工筋肉すら失って骨格を残すのみであり、立っている事すら困難な様相だった。

 シャドームーンの傷から噴き出すように溢れるのは緑と赤、二色の光。
 ローザミスティカと太陽の石の光だ。

 二つのキングストーン、そして五つのローザミスティカをその身に取り込むには、シャドームーンは傷付き過ぎていた。
 度重なる戦闘は確実にシャドームーンを蝕み、傷は体内の奥深くにまで達していたのだ。
 それがダンとの戦闘で全力を出した事をきっかけに、綻びを生む。
 そして狭間の小さな一撃が決定打となり――ダムが決壊するように、終わりが始まった。

「く……」

 綻びが広がり、やがて致命的な崩壊へ。
 翠星石の最期を焼き直すように、シャドームーンのシルバーガードに亀裂が広がっていく。

「くっく……」

 だが、笑う。
 低く、重く、究極の王の威厳を欠片も損なわず。

 バラバラと剥がれ落ちていく装甲。
 左足を引きずり、なお動く。
 手を伸ばし、シャドーセイバーを握り直す。

「それでも、貴様らを殺す力は残っているぞ……!!」

 あと一撃あればシャドームーンを倒せるだろう。
 だがその一撃は、遠い。
 身動きを取れず、狭間は伏したまま唇を噛み締める事しか出来なかった。
 王に立ち向かえる者は、もう残っていない。


「シャドームーン、さん」


 戦える者がいなくなった戦場で。
 最後にシャドームーンの眼前に立ち塞がったのは狭間でも北岡でもなく。



「もう、終わりにしませんか」



 柊つかさだった。





 つかさが手に握るのは、一丁の銃。
 ルルーシュ・ランペルージを殺害した始まりの銃。
 北岡がつかさに持たせまいとして持ち続けていたそれを、つかさは自分の意志で手に取った。
 引き金に触れる指も、足も震えている。
 恐怖で、疲労で。
 しかし疲れたからと、敵が怖いからと――撃つ事が怖いからと。
0452終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:52:35.33ID:FY4NXSPc
 そんな理由で膝を折るわけにはいかなかった。

「小娘……人間如きが作ったその武器で、この創世王を止められると傲るか!!」
「止めます!!
 だって……皆が、好きだから……っ!」

 体の芯から凍え、声が震える。
 足が動かない。
 逃げる事も出来ない。
 もう立ち向かうしかないのだと、つかさは真っ直ぐにシャドームーンを見詰める。


 カシャン、ずるり、カシャン、ずるり


 半ば鋭さを失った足音は、それでもつかさの恐怖を煽るに充分だった。
 握っていたシャドーセイバーを落とし、それでも前進する。
 一歩ずつ接近してくるシャドームーンに対し、つかさは引き金を絞る事が出来ない。
 生きている皆を守る為には、死んでいった皆を消させない為には、撃つしかないと分かっていても。

 シャドームーンの手が伸びる。
 大きな掌がつかさの視界を侵食していく。
 そしてそれはつかさの鼻先で止まった。

 膝からくず折れるシャドームーン。
 全身がガクガクと痙攣し、火花が激しく飛び散った。
 しかし、崩壊の速度が緩み出す。
 太陽の石が暴走してローザミスティカが反発する中、元々シャドームーンが持っていた月の石が持ち堪えているのだ。
 月の光を受けたキングストーンが崩壊する肉体の修復を行い、終わりを遅延させている。

 シャドームーンは立ち上がろうとしていた。
 否、遠からず必ず立ち上がる。
 誇り高い究極の王は例えその身を失おうと、ここにいる四人を殺すまで戦いを止めはしない。
 戦いを見ていただけのつかさでも、それは理解出来ていた。
 だから――撃つしかない。

「もう……」

 撃つしかないと、理解している。


「もう、ここで終わりにしませんか……?」


 それでもつかさは、諦められなかった。
 シャドームーンが何人も参加者を殺害していても。
 目の前で翠星石の命を奪ったばかりであっても。
 これからも人間と分かり合う気がないとしても。


「私は……シャドームーンさんとだって!
 寄り添って、生きたい……!!」


 泉新一とミギーが築いた信頼を知っている。
 田村玲子の生き様を、ストレイト・クーガーの生き様を知っている。
 その美しさを知っているから、諦められない。

 だからつかさは、銃を下ろした。
0457終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:54:21.69ID:FY4NXSPc
 つかさはただの女子高生だった。
 ギアスを持たず、関わった事もない。
 惨劇に立ち向かった事も、アルターに触れた事も、刀を振った事も、ライダーに変身した事もない。
 事件を起こさず、解決もせず、姉妹で殺し合う事もない。
 生まれ育った豊かな土地で幸せに生き、魔法も錬金術も夢物語。
 悪魔も、パラサイトも、死神も知らない。
 バトルロワイアルに巻き込まれた事もなく、紅世の徒を相手取った事もない。

「誰が相手だって、死んで欲しくない……!
 だって、死んじゃったら!!」

 他のどの参加者よりも、平和な人生を送ってきた。
 だからつかさには、覚悟を決められなかった。

「死んじゃったら……もう、会えない……っ」

 覚えてさえいれば、その人はいつまでも心の中で生きている。
 きっとそうだ。
 そうでなければ悲しい。
 けれど、死んでしまったら。

 会えない。
 「おはよう」も「また明日」も。
 「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えない。
 一緒に食事をする事も、同じ景色を見る事も、ケンカも仲直りも出来ない。
 一度はギアスによって、一度は自らの意志によって引き金を引いてしまったつかさだからこそ、その重さを知っている。

「もう嫌なんです……だから!!」
「この私に命乞いをしろと……!?
 図に乗るな人間!!!」
「違います、私は……今は仲良く出来なくても、いつか――」

 シャドームーンが身を乗り出し、つかさの左腕を掴む。
 瀕死のはずのその手は万力の如く、つかさの細い腕を締め上げた。
 つかさは痛みに上げそうになる悲鳴を飲み下し、その手を振り払う事なく堪える。
 右手に持った銃を上げる事も捨てる事も出来ず、膠着する。

「この創世王を憐れむか……ッ!」
「一緒に生きたいと思って、何が悪いんですかッ!!」

 平行線を辿る。
 シャドームーンにとっては敗北よりも――人間の、それも無力な少女に手を差し伸べられる事の方が屈辱となるはずだ。
 つかさの声は届かない。

「貴様の周りを見るがいい……」

 シャドームーンの背後には無数の穴が空いていた。
 度重なる戦闘で境界は傷付き、既に意味を成していない。
 そしてその先の扉さえ破壊され、それぞれの世界の姿を見せている。

 KMFが駆けるビル群。
 混乱の時代を乗り越えた明治の町並み。
 宇宙の吹き溜まり、乾き切った荒野。
 少女が錬金術の店を切り盛りするのどかな村。
 一つ一つに、人々の生活が息づいていた。

「分かるだろう、小娘」

 筋肉と骨が軋みを上げる。
 このままでは千切られると、知識の乏しいつかさにも理解出来る。
0463終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:55:47.55ID:FY4NXSPc
「私はこれらの世界の全てを支配する」

 南光太郎が阻止しようとしていた、ゴルゴムによる支配。
 それが今視界に映る全ての世界に広まってしまう。
 それでもつかさは、決断を下せない。

 シャドームーンの言葉に、目に入る世界の景色に、思考が鈍る。
 どうすればいいのかと。
 どうしたいのかと。
 必死に答えを探そうと記憶の糸を辿り、気付く。
 この景色の中に足りないものを。

 シャドームーンを前にしながら、つかさは振り返る。
 ゆっくりと視線を後ろへと逸らしていくと、後方にもやはり数多くの穴が空いていた。
 そしてつかさの背後の穴の先にあったのは、学校だった。
 軽小坂高校ではない。
 陵桜学園高等学校――つかさが妹や友人と共に通う母校。
 友達の顔が、教師の顔が、皆で楽しく過ごした日々が、記憶の波となって押し寄せてくる。

「その世界も、私が支配する」
「ッ……!!」

 下へ向けていた銃口が揺れる。
 揺さぶられる。
 それでも――撃てなかった。

「っめて、下さい……!
 何で、どうしてそこまで!!」
「私がゴルゴムの王だからだ」
「説明になってません!!」

 シャドームーンに食って掛かる。
 諦められずに食い下がるが、シャドームーンの立つ場所は余りに遠かった。

「シャドームーンさんにだって、大事な人はいるんじゃないんですか……!
 杏子さんや克美さんの事は、もういいって言うんですか!!」
「!!」

 つかさの前で。
 シャドームーンが初めて、仮面の上からでも分かる程に動揺した。
 つかさの腕を掴んでいた手がつかさの首へと伸び、圧迫を始める。

「貴様が、貴様がその名を口にするか……!
 貴様に何が分かる!!!」
「ぁっ……か……」

 心を失ったはずのシャドームーンが激昂する。
 互いの額がぶつかり合う程の距離でシャドームーンが叫ぶ。
 つかさが必死にその手を剥がそうとしても外れない。

「どんなに姿が変わっても、あの二人の事をいつまでも思っている……!!
 だが、それがどうした!!
 私はゴルゴムの王、創世王だ!!!」

 途切れる事のない痛みと呼吸出来ない苦しさで、目蓋が重くなっていく。
 シャドームーンの声が更に遠のいていく。


「死ね……その後すぐに、貴様の仲間も貴様と同じ場所へ送ってくれる!!!」
0472終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 22:58:48.96ID:FY4NXSPc
 つかさが目を見開く。
 つかさの次は上田で、狭間で、北岡で。
 当たり前の事だった。
 その当たり前の事が――絶対に許せなかった。
 シャドームーンの手を引き剥がそうとしていた左手をそのままに、右手だけで銃口を上げる。
 視線の先にあるのは刺さったヒノカグツチのすぐ下、シャドーチャージャー。
 そこに埋め込まれ、一際強く輝く月の石。

 素人の腕。
 震える手。
 力の入らない指。
 それでもこの距離なら、外れようがない。


「撃たないなら思い知らせてやろう……貴様全員の存在を、この創世王の手で消し去ってくれる!!!」



 そしてその一言が、つかさに引き金を引かせた。



 翠に輝いていた月の石に弾丸が突き刺さる。
 崩壊を止めるものがなくなり、シャドームーンの右腕が崩れ落ちた。

 撃っていいのは撃たれる覚悟がある者だけ。
 撃って後悔するぐらいなら、悲しむぐらいなら、銃など初めから持つべきではない。
 けれど。
 それでも。



「ごめん、なさい……」



 柊つかさは、弱さを露呈した。
 例え大事な人達の為であっても、『明日』の為であっても。
 ただの少女であるが故に、撃った事を後悔した。

 ばらばらと装甲を失っていくシャドームーン。
 だが倒れ込むように、仮面をつかさの額へ接触させる。
 触れ合う程の近さで、シャドームーンはつかさへの怒気を露わにした。


「ならば聞け、小娘……いや、柊つかさ!!
 そして忘れるな……!!!」


 銀が失われていく。
 だが翠の複眼はいつまでも憎悪を放つ。



「私が……この私こそが、創世王シャドームーンだ!!!!」



 目の前で壊れるシャドームーンを、つかさはその目に焼き付けた。
 仮面が崩れ去り、一瞬だけ見えた秋月信彦の顔と共に全てが砕けて消えた。
0481終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:01:49.24ID:FY4NXSPc
 最期に見せた表情は、つかさだけが知っている。
 つかさだけが見届けて、見送った。


「ごめ……ん、なさ、い」


 嗚咽に途切れる声で紡ぐ。
 シャドームーンへ、撃つ事しか出来なかったと。
 仲間達に、死んだ者達に、最後まで強くある事が出来なかったと。
 誰も彼女を止める事は出来ず、か細い声が謝罪を続ける。

「ごめんなさい……ごめんなさ、い……ごめん、なさい……」

 物語の最後の決着は、劇的なものではなく。
 ただ少女に消えない傷を残し、静かに幕を下ろした。


【シャドームーン@仮面ライダーBLACK 死亡】




 つかさは座り込んだまま泣き続けた。
 しかしすぐに、そうはしていられない事に気付く。
 緩やかな振動。
 徐々に激しさを増し、目を回す程になっていく。
 地震――しかしここは、つかさの常識で測れるような空間ではない。
 度重なる戦闘の結果、崩壊が始まったのだ。

「き、北岡さん、狭間さん、上田さ――」

 立ち上がろうとして足場が崩れる。
 白い空間から暗い闇の中へと落ちていく。

 手を伸ばすが、周りの足場も全てが崩壊して落下を始めている。
 為す術なく、落ちるだけだ。

「そんな、――!?」

 肩を掴まれて浮遊感を味わう。
 振り返ると蝙蝠型のミラーモンスターがつかさを支えていた。

「ダークウイングさん……?」

 シャドームーンに破壊されずに残っていたモンスター達は全て、ユナイトベントによってダンと同化していた。
 ダークウイングがいる、そしてつかさに味方しているならば、北岡がカードを解除して新たな命令を出しているはずである。
 戦闘を遠目で見ていたつかさはユナイトベントが使われた事までは知らないが、北岡の生存を確信するには充分だった。

「ダークウイングさん、北岡さんの所まで連れて行って――」

 そこでつかさは気付く。
 限られた光源の中ではあるが――ダークウイングの翼は深く傷付いていた。
 ダンと同化した状態でシャドービームを受けた為である。
 羽ばたいてはいるが上昇する事はなく、つかさと共に速度を落としながら少しずつ落下していく。

 数十秒か、数分か。
 疲れ果てて眠ってしまっていたつかさは水の音で目を覚ました。
 そこは一度訪れた、V.V.のメモリーミュージアム。
 ラプラスはあの第二会場の真下にこの空間を形成していたらしい。
0482終幕――果ての果て ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:02:39.07ID:FY4NXSPc
 V.V.の姿はない。
 シャドームーンが命を落として殺し合いが終わった時点で、宣言通り自壊したのだろう。

「北岡さん!! 狭間さん!!!」

 ダークウイングは着水すると共に消滅してしまった。
 辺りは薄暗く、限られた視界の中でつかさは仲間の姿を探す。
 しかし闇雲に歩き回るのも危険かと、その場から動く事が出来ない。
 何より足が、重い。
 シャドームーンに掴まれた腕と首は未だ痛み、それが嫌が応でもシャドームーンの最期を思い出させる。

 寂しさに、後悔に、暗く落ち込んでいく。
 そんな中、光が完全に遮られた。
 見上げても何が起きたのか分からない。
 しかし『それ』が降りてくると、つかさの表情はパッと明るくなった。

「無事だったんですね……!」

 北岡、狭間、そして上田。
 三人を背負って降りてきたドラグブラッカーは、ダークウイングと同様に消えてしまった。
 全ての契約モンスターを失ったゾルダはブランク体となり、その変身も解除された。

 無意識の海に落ちる北岡と狭間。
 沈まないよう、つかさが二人の肩を支えて声を掛けるもののどちらも目を開かない。
 一人ほぼ無傷だった男も必死に叫ぶ。

「北岡さん、狭間さん……!」
「二人共、しっかりするんだ!!
 Why don't you do your best!!!
 死んでしまうとは情けない!」
「そんな、嫌……もう……もう、こんなの……っ」

 つかさの涙がはらはらと北岡の頬に落ちた。
 北岡の目蓋が震え、開く。
 目を見開いて驚くつかさに、北岡は力なく微笑った。

「……あのさ、二人共悪いんだけど……死んでないから」
「僕もな」

 北岡は横になった姿勢のまま手を持ち上げ、気だるそうに振って見せる。
 狭間が残った僅かな魔力で自分と北岡にディアを使い、申し訳程度に傷を回復させた。

「僕にはまだ、やる事がある。
 こんな所では死ねないな」
「俺だって。
 それに……あの連中と、一緒にしないでよね」

 自分の命を捨てて戦って、自分の命を犠牲にして他人を守った英雄達。
 北岡は、それと同類扱いされるのはまっぴらだった。

「俺はあの連中みたいになんてなりたくないし……なれっこないんだから、さ」

 安堵の息を漏らす一同。
 戦いの意志を持つ者はなく、既に最終戦の幕は下りた。

 しかし管理者を失ったこの世界もまた、崩壊を始めていた。

0488終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:05:54.89ID:FY4NXSPc
 崩壊していくメモリーミュージアム。
 遥か遠くでは足場である水底が崩れ、そこから無意識の海が溢れ落ち始めていた。
 水かさは徐々に減り、大腿の半ばに届いていた水面は膝程の高さまで下がっていた。

「出口はあるのか……?」
「……今、考えている」

 上田の不安げな声に、狭間は苦々しく答える。
 シャドームーンと戦っていた始まりの場所は、全ての世界に繋がる場所だった。
 そこから落下して着いたという事は、このミュージアムもまた全ての世界に繋がっている。
 ならばこの崩壊するミュージアムから安全な場所に移る方法はどこかにあるはずだ。
 しかし、その方法が見付からない――正しくは実行出来ない。
 空間に穴を空けるような力が残っている者は、ここにはいないのだ。
 狭間にはマッパーを使うだけの魔力すら残っていなかった。

 それに外に出られたとして、どこに向かうのか。
 nのフィールドにドールの案内もなく飛び込むのは自殺行為だ。
 故に狭間は持てる知識を総動員する。
 レナの願いに応える為に、皆で帰る為に。
 出る方法を、出る場所を考える。
 しかし空間の崩壊は刻々と進み、仮定は立てる度に否定されていく。

「? これは――」

 一同が袋小路に追い込まれる中、狭間の眼前で水面が光り出した。
 黄昏の扉の赤い光とは違う、絵の具を幾つも混ぜたような虹色の輝き。
 満月のような真円を描く――nのフィールドの出入り口。
 ガラスや水溜まりと同様、この無意識の海もまた鏡面として成立するのだ。
 そこから少女がひょこりと顔を覗かせ、飛び出した。


「ローゼンメイデン第二ドール、金糸雀かしら!」


 得意げに日傘をくるりと回し、明るい口調と声で堂々と名乗り挙げた一人のドール。
 小さな体躯に黄を基調とした豪奢なドレス、癖のある語尾、愛くるしい顔立ち。
 名乗られずともすぐに翠星石らの姉妹であると分かった。
 狭間が垣間見た彼女達の記憶を辿ってみても、確かにそこにはこの金糸雀の姿がある。

「ふっふっふぅ、ようやくここまで来られたかし、――」

 しかし彼女がその出入り口から一歩出れば、あるのは当然の如く水面。
 足を踏み外し、金糸雀は呆気なく顔面から水中に突っ込んだ。

「――らぁぁっ!!」

 素っ頓狂な声を上げて水に落ちた金糸雀を、狭間達は口をぽかんと開けたまま眺める。
 結局四人の中で一番体力に余裕のある上田が金糸雀を助け起こしてやった。
 水から顔を出した金糸雀は、記憶の奔流に当てられて目を回しているようだった。

「うぅ、ありがとうかしら……。
 お陰で、事情は大体分かったわ」

 ふらつきながら立ち上がる金糸雀。
 そして狭間、北岡、上田、つかさの顔を順に見回すとすぐにその表情は曇り、項垂れる。

「でも間に合わなかったみたい、かしら……」

 翠星石はいない。
 他のドール達も、既にいない。
0490終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:06:38.59ID:FY4NXSPc
 偽りの姉妹である薔薇水晶ですら散っていった。
 金糸雀の到着は、確かに遅すぎた。

「でも……良かったかしら。
 こうして貴方達に会えたから」
「君は、僕達の味方なのか?」
「当然かしら!」

 狭間の問いに、金糸雀が自慢げに胸を張る。
 その周囲で六つの拳大の光球――人工精霊がチカチカと煌めきながら飛び回った。
 ホーリエ、メイメイ、レンピカ、スィドリーム、ピチカート、ベリーベル。
 常にドール達の傍らにいた人工精霊達だ。

「聞こえたの……翠星石達の声が。
 翠星石達が、この場所を教えてくれたかしら」

 翠星石がシャドームーンに敗れた瞬間、ローザミスティカが見せた最後の輝き。
 それはどこまでも響き、nのフィールド内で姉妹を捜す金糸雀にまで届いていた。
 翠星石は最期に仇敵を殺す為ではなく、仲間を生還させる為に力を使い果たしたのだ。

「とにかく、今は安全な場所に移るべきかしら!
 私が貴方達を、必ず守るかしら!」
「あてはあるのか?」
「えっ……と……とりあえず、みっちゃんの所に、」

 自信なさそうに言いながら、金糸雀は開いたままにしていたnのフィールドの入り口を指す。
 漸く危険から解放され、喜び勇んで入り口へと向かう上田。
 しかし狭間達は座り込んだままだった。

「どうした?
 もしや感極まって――」
「立てないんだよね、これが……」

 北岡がやれやれと溜息を吐き、狭間とつかさが俯く。
 上田以外は体力が底を尽き、立つ事もままならなくなっていた。

「ちょ、ちょっと! あと少しなんだから頑張るかしら!!」

 上田が如何に恵まれた体格と通信教育カラテジツを持っていても、三人を抱えて動くのは不可能。
 しかし崩壊は確実に迫っている。
 ミュージアムの端から流れ落ちていく無意識の海は水位を下げていき、やがては全てが乾くだろう。
 そして器であるミュージアムそのものも消え、それに巻き込まれればどこに流れ着くかも分からない。

 金糸雀がつかさの手を引き、上田が狭間と北岡を何とか立たせようと四苦八苦する。
 遅々として脱出が進まない中で、徐々に近付く終わりの刻。

 空が崩れていく。
 流れ落ちる水音は近い。

「お願い、早く――」

 金糸雀の声が途切れる。
 全員の視界が白に染まり、全てが光に包まれた。

 ローザミスティカではない。
 キングストーンでもない。
 ギアスとも違う。
 その光は優しく、日溜まりのように暖かかった。

0494終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:08:05.38ID:FY4NXSPc
「ん……」

 閉じた目蓋に目映い光が刺さり、つかさは目を擦りながら身じろぎする。
 手を翳して光を遮り、目を細く開ける。
 朝陽の差し込む見知らぬ部屋――明るく、穏やかで、柔らかい空気に包まれた部屋。
 しかし一度ここを出てしまえば、もう思い出せなくなるような。
 夢の中で見る景色のような。
 淡く朧げになってしまいそうな儚さがあった。

 本当に夢なのかも知れない。
 全て夢だったのかも知れない。
 ぼんやりとそう考えた。
 しかし鏡台の鏡に映った自分の腕と首にははっきりと青黒い痣が残っていた。
 現実に引き戻され、改めて自分の状況を確認する。

 つかさは柔らかなソファに腰掛けた状態で、肩から肌触りの良い毛布を掛けられていた。
 向かいのソファを見ると、同じように目を覚ました北岡の姿がある。
 欠伸しながら伸びをする彼に怪我はなく、そこかしこが破れて汚れいていた衣服も新品同然になっていた。
 北岡の無事な姿に、つかさは胸を撫で下ろす。

 見詰めているうちに、目が合う。
 先に逸らしたのは北岡の方だった。
 決まり悪そうに俯き、言葉を探しているようだった。

「……謝らないで、下さいね」

 つかさの方から切り出す。
 北岡が言おうとしている事は、何となく分かっていた。

「……選びたく、なかったです。
 でも……それでも私は、自分で選んだんです。
 自分で選んで……今、北岡さんがここにいて、私も隣りにいて。
 『幸せだ』って、思えるんです。
 だから……北岡さんは謝らなくて、いいんです」

 痩せ我慢は、している。
 後悔がないと言えば嘘になる。
 引き金を引いた感触が――命を奪った感触が指に残り、シャドームーンの最期の言葉は頭にこびり付いている。
 けれどこうして大切な人と向き合って言葉を交わす時間の尊さも、確かに実感していた。

「……ズルいんだよなぁ」

 北岡はソファの背もたれに体重を預け、表情を隠すように顔を掌で覆う。
 自分への苛立ちも。
 悔しさも。
 全て押し込んで、いつもの飄々とした声を紡ぐ。

「つかさちゃん、俺よりよっぽどしっかりしてるんだもの……」

 そんな事ないですよ、と。
 言い掛けたところで、北岡の隣りのソファで寝こけていた上田が目を覚ました。

「はっ。
 ………………夢か」

 周囲を見回した結果夢の中だと判断したようで、上田が二度寝を始める。
 つかさが慌ててそれを起こそうとすると、全く違う方向から声を掛けられた。

「お目覚めかしら?」
0496終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:09:18.94ID:FY4NXSPc
 金糸雀だった。
 ソファから少し離れた位置にある丸テーブルに着き、対面に座る狭間と話をしていたようだ。
 金糸雀と狭間の前には可愛らしいティーカップが並び、そこに満ちる紅茶からは優しい香りが漂っている。

「ここは、お父様が招いて下さった部屋かしら」
「お父、様……」
「そう……カナ達の、お父様よ」

 口元に笑みを湛えながら、金糸雀は僅かに目を伏せた。
 数秒の間を置いて、すぐに気を取り直すように話を続ける。

「お父様が助けて下さったみたい……きっと、皆が翠星石達と一緒に戦ってくれたからかしら」

 つかさは胸を締め付けられた。
 確かに彼女達の父・ローゼンが助けたのなら、「翠星石と親しかったから」という理由に他ならないだろう。
 しかしその翠星石も、他の姉妹も、金糸雀だけを残して『遠く』へ行ってしまった。

「結局ここはnのフィールドの中なのか?」
「カナも久しぶりに来たけど、多分そうかしら」

 狭間に対し曖昧に返しつつ、金糸雀はつかさ達に席を勧める。
 全員が着席すると、金糸雀は温めてあったティーカップに丁寧に紅茶を淹れた。
 新たに注がれた三人分の紅茶。
 香りが鼻腔を擽り、つかさは遅れて喉の渇きを自覚する。

「ローゼンさんもこのお家に?」
「……今は、ここにはいらっしゃらないみたいかしら。
 でもとても悲しんでいるのは、伝わってくるかしら」

 五人の姉妹が向かったのは、創造主たるローゼンですら取り戻す事が出来ない程の遠く。
 彼女達の命にも等しいローザミスティカは、異世界の賢者の石と共に失われてしまった。

「私ももう、アリスにはなれないかしら」

 金糸雀はぽつんと、独り言のような小さな声で呟く。
 諦観や達観を知るその顔は酷く大人びていた。
 究極の少女アリスを目指す為に造られたローゼンメイデン――しかし彼女がそれを果たす機会は、永遠に訪れない。
 つかさがどう返すべきかと悩むうちに、金糸雀はパッと表情を柔らかくした。

「べ、別にいいのよ!
 お父様の事は愛しているし、勿論アリスにだってなりたかったけど……でも私には、皆と楽しく過ごせる時間の方が――」

 大事だった、と続こうとした声は止まってしまった。
 アリスになるという夢だけでなく、大切にしていた些細な幸せもまた、もう戻らない。
 ゼンマイが切れたドール達に訪れる永い眠りとは違う。
 「いつか」が存在しない、全ての終わり。
 姉妹同士の一時的な別れは幾度も繰り返されていたが、それと永別は似て非なるものなのだ。

 ドレスの裾を握り締めて下を向く金糸雀。
 つかさが心配して覗き込むと、金糸雀は顔を上げて「大丈夫かしら」と微笑んだ。

「ね……それ、飲んでみて」

 金糸雀に促され、つかさは目の前のティーカップに手を伸ばした。
 取っ手まで熱くなっていて、火傷をしないように指先で慎重に扱いながら口元に近付ける。
 砂糖もミルクも入れず、そのまま一口。
 つ、と紅茶が僅かに口の中を湿らせた。
 その僅かだけで優しい味が舌をなぞり、香りが鼻を抜けていく。
 舌を火傷しそうになりながら、少しずつ口に含む量を増やしていく。
 紅茶の熱が喉を通り、全身が温まるのを感じた。
0499終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:10:56.63ID:FY4NXSPc
「ほう……」

 意図せず、気の抜けた声を漏らしてしまった。
 肩の力が抜け、足を伸ばす。
 内側から温められた体が弛緩して、ずっと続いていた緊張が自然と解れた。

 多くの出会いと別れ。
 沢山の思い出、記憶。
 人の命を奪った感触。
 シャドームーンが最期に残した言葉は今この瞬間も、脳裏で反芻されて響き続けている。
 それでも今は、素直に自分達の無事を喜ぶ事が出来た。
 北岡と、狭間と、上田と――自分の無事を。

「落ち着いたみたいかしら」
「ありがとう、金糸雀ちゃん……凄く、美味しい」

 笑い掛ける金糸雀に、つかさも笑顔を返す。
 無理せず笑えたのは、きっとこの温かさのお陰だろう。
 「良ければクッキーも」と勧められ、テーブルの中央にに鎮座していたクッキーに手を伸ばす。
 表面に砂糖をまぶしたシンプルなクッキーだった。
 手のひらにすっぽりと収まる小さなそれに歯を立てると、サクリと音がした。
 ほのかな苦みのあるストレートティーに、控え目な甘さが引き立って良く合っている。
 クッキーを食べてからまた紅茶を口にすると違う味わいがあり、ついまたクッキーにも手が伸びてしまう。

 緊張が解けたのはつかさだけではないようで、北岡や上田もくつろぎ始めていた。
 それを確認すると、金糸雀は改めて話を切り出す。

「それでね……今は狭間と、大事な話をしていたのかしら。
 だから貴方達も、ここで聞くといいかしら。
 説明が難し――め、面倒なところは、狭間に任せてあげるかしら!」

 金糸雀が空になった自分のティーカップに紅茶を注ぐ。
 湯気が上がり、部屋に漂っていた紅茶の香りは一層強くなった。

 私もこの子達に教えて貰っている事だから、詳しくは分からないかしら。
 瞬く人工精霊に視線を遣りながらそう前置きし、金糸雀は話し始める。

「翠星石達がいなくなってすぐにね……ホーリエ達が私を呼びに来てくれたの。
 それで翠星石達を探すうちに、ラプラスが作った会場に着いて――でもその時にはもう、会場は崩れ始めていたかしら」

 マップの端と端を繋げるギミックを備えたあの会場は、ラプラスが用意したものなのだろう。
 ならばラプラスが消え、全生存者が移動してしまえば、役目を終えた会場が崩壊するのは自明。
 しかし今頃は既に消滅しているだろうと聞かされると、つかさは心を痛めずにはいられなかった。
 多くの参加者の遺体が残っていた会場が消えた事は、つかさにとってはやはり悲しかった。

「会場から貴方達が居た場所までは、近くはなかったかしら。
 多分ラプラスは『兎の穴』を使って移動していたのね」

 真紅達の記憶を辿るとその穴は、要はラプラスが用意した近道の事である。
 そしてそれはラプラスの消滅と同時に消えたという。
 故にミュージアムの発見自体が困難だったはずだが、金糸雀は辿り着いた。
 翠星石が、彼女を導いたのだ。

「ここに来てからは、貴方達はずっと眠っていたの。
 でも、実際の時間はほとんど経っていないみたいかしら。
 きっと時間の流れが他の世界と違うのね」

 ここでなら、金糸雀が力を使ってもゼンマイが切れないらしい。
 つかさ達の衣服が元通りになっているのもそのお陰のようだった。
0501終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:12:07.96ID:FY4NXSPc
「本題に入ろうか」

 沈黙を守っていた狭間が口を開く。
 緊張を解いたつかさ達とは違い、狭間の表情は固い。
 ここからの話は決して明るいものではないのだと、つかさにも察する事が出来た。

「金糸雀から詳しい事情を聞いていて、おかしいと思ったんだ。
 金糸雀の話と翠星石達の記憶は、食い違っている」
「ジェレミアとC.C.の時みたいに、微妙に違う時間から――いや、違う世界から来たって事?」
「そうなるな」

 金糸雀の知る蒼星石は、水銀燈にローザミスティカを奪われて眠っているのだという。
 だが真紅、翠星石、蒼星石、水銀燈の四人の記憶を辿ってみてもそのような出来事は起きていない。
 ならば、この金糸雀はバトルロワイアルに巻き込まれた四人よりも未来の世界から来ている事になる。
 そして金糸雀が過去に姉妹達の失踪を経験していない以上、金糸雀の姉妹はバトルロワイアルに参加していない。
 「別の世界から来た」とは、そういう意味だ。

「にも関わらず、金糸雀の世界の翠星石達が失踪したんだ。
 ローザミスティカを失って眠っていた蒼星石や雛苺もな」
「……おかしいじゃない」
「あぁ、だから考えていた」

 ここにいる金糸雀とバトルロワイアル参加者の翠星石達は、言ってしまえば出会った事もない他人同士。
 別の世界でその「他人」が失踪しようと、金糸雀の世界では無関係のはずなのだ。

「人工精霊達にも調べて貰った。
 その上で立てた仮説を、可能性の一つとして聞いてくれ」

 仮説と言ってはいるが、ほぼ確信しているような話し方だった。
 つかさ達は手を止めて狭間の話に聞き入る。

「人工精霊達によれば、世界樹の枝の一部が絡み合う異常が起きているらしい。
 その結果、異なる世界同士で因果が混線して同調を起こしている」

 選択によって分岐した世界は、その後決して交わらない。
 nのフィールドを介して異なる世界間を行き来するドール達が特殊なのであって、分岐した世界同士は基本的に互いに干渉しない。
 そのはずであったものが、そうでなくなっている。

「ラプラスの魔とV.V.があらゆる世界を変えようとしていた事は、今更確認するまでもないな。
 奴らの自在法そのものが発動しなくても、多くの世界に影響が出ているのだと思う」

 管理者V.V.がミュージアムごと自壊した事で、自在法は発動せずに終わった。
 存在を消滅させられた者はいない。
 しかし自在法の計画の準備の為か、実験の為か、或いはラプラスの魔の気紛れか。
 結果世界樹の枝は曲がり、重なり、絡まった。

「全ての世界を確認したわけではないが、参加者六十五人の関わる世界やそれに近似する世界には大なり小なり変化があったようだ。
 バトルロワイアルと無関係だったはずの者達まで失踪――いや、死亡している」

 ある世界から呼び出されて死んだ者が、他の世界でも同じく死亡する。
 そんな事態が、多くの世界で発生しているのだ。

 例えば同じエンドレス・イリュージョン出身のヴァンとレイ・ラングレン。
 カギ爪の男を追っている最中だったレイと、カギ爪の男との決着を間近に控えたヴァン。
 二人は近似した別の世界から連れて来られている。
 そして二つの世界の一部が同期した結果、過去――レイの世界のヴァンも死んだ。

「つまり……僕の世界の蒼嶋も、死んだ」

 狭間が知る蒼嶋は、「レイコと共に」魔界を制して狭間の前に現れた。
0506終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:13:33.73ID:FY4NXSPc
 しかし狭間のガーディアンとなっていた蒼嶋は、「アキラと共に」魔界を進んだ蒼嶋である。
 二人の蒼嶋は、別の世界に生きる別人。
 しかし同期の結果、恐らく狭間と殺し合った蒼嶋もまた死亡しているのだ。

「きっと貴方達の世界でも、何かしらの変化が起きていると思うかしら」
「まぁ元々、『元の世界に帰ったら皆生きてました』なんて都合の良い話を期待をしてたわけじゃないしさ。
 実際の変化の大きさとか種類にもよるけど、言う程落胆するようなもんじゃないでしょ」

 深刻な表情で語る狭間と金糸雀に、北岡は敢えて軽い調子で返す。
 だが狭間達はやはり楽観出来ていないようだった。

「そうだな……だが単純な人の生死だけの変化では留まらないかも知れない。
 それで世界の流れが変わる可能性もあれば、世界の流れが変わらないよう改変される可能性もある」

 ヴァンとレイが消えればカギ爪の男の計画が成就するのかと言えば、「分からない」。
 邪魔者が消え、エンドレス・イリュージョンがカギ爪の男の思想で染まるのかも知れない。
 ヴァンでもレイでもない“代わり”の誰かが現れて、カギ爪の男を殺すのかも知れない。
 或いは二人がいなくなっただけで、全く別の世界に変わってしまうのかも知れない。

 ラプラスらの干渉で、世界樹の枝が複雑に絡まり合った。
 変化は死者の同期だけとは限らない。
 いるべき人がいない――いるはずのない人がいる。
 世界の在り様そのものが変わる、世界が生まれ変わる。
 可能性を挙げていけばきりがない。

「帰ってみないと分からない……ですね」
「そうね、結局はそうなるかしら」

 話は終わり、沈黙に包まれる。
 つかさが殺害したのは三人。
 それが多くの世界に影響してしまっているという事実が、より胸を締め付ける。

「それなら、ここで心配していても仕方がないな。
 ゆっくりティータイムを楽しむとしよう」

 うんうん、と上田が頷く。
 ややこしい話が一言で片付けられた。
 重い空気を纏っていた面々は脱力し、不安を深い溜息に変えて吐き出す。

「それなら話変えるけどさ、これからもnのフィールドの中は移動出来るわけ?」

 話を終わらせてしまった上田に続き、北岡もそれに乗る。
 危惧しているのは「この先も異なる世界の間を渡れるのか」という点だった。

「勿論元の世界には帰りたいよ、吾郎ちゃんも待たせてる。
 でも俺はつかさちゃんとまた会いたいし、まぁこのメンツとはこれからも付き合っていってもいいかなって思うわけ」
「……確約は出来ないかしら」

 未来の話をする北岡に、金糸雀は首を横に振る。

「nのフィールドには沢山の……本当に沢山の『扉』があるかしら。
 その中で行きたい世界を見付け出すのは大変な事。
 それに、枝がこれからどうなるか分からないかしら……」

 世界樹の変化がこれで終わったとは限らない。
 枝が今後も変化していくのなら、つかさ達四人が帰る世界の座標も定まらなくなる。
 砂浜――それも打ち寄せる波で刻々と姿を変える場所で、一粒の砂金を探すのにも似た労苦だ。

「帰りはお父様が送って下さるそうなの。
 けどその後の事は……」
0509終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:15:04.99ID:FY4NXSPc
「一度帰ったらもう、皆には会えないかも知れないんですか……?」

 本来ならば交わるはずのなかった世界と世界。
 ローゼンメイデンならばnのフィールドの中を動けるとは言え、それすら時間が限られている。
 長時間nのフィールドにいれば、やがてゼンマイが切れて動かなくなるのだ。
 一度その世界と離れ離れになってしまえば、再び辿り着く事はないかも知れない。

「いや、会えるさ」

 つかさの不安げな声に返事をしたのは狭間だった。
 狭間はこれまでの重い空気を払拭するように、紅茶を口に含み、ふっと力を抜いてから続ける。

「悪魔召還プログラムを組み上げた時のように、僕がnのフィールド内の往来を可能にしてみせる。
 だから……会えないかも、なんて“もし”は要らない。
 そんな“もし”を壊す為の力を、僕は持っているから」

 静かな声だった。
 しかし決意に満ちたその声は、『青い炎』のようだった。


「“もし”ではなく“きっと”……僕らはまた会える」


 確かな自信をもって狭間が言い切る。
 それを笑う者も、疑う者も、この場にいるはずがない。

「勿論、その為には協力して貰う。
 人工精霊は借りていくぞ」
「言われなくても、皆にはホーリエ達に付いていって貰うかしら!」

 nのフィールド内でのドール達の行動時間が制限されているのに対し、人工精霊にはそれがない。
 四人それぞれの世界に人工精霊がついていけば、再会の可能性は上がる。
 姉妹達の忘れ形見となってしまった人工精霊だが、金糸雀はそれも承知で言っているようだった。

「じゃあ任せたよ。
 気長に待ってるからさ」
「流石だ狭間君。
 私もその技術の開発に協力したいのだが、何せ教授としての仕事が立て込」
「狭間さん、金糸雀ちゃん、ありがとう」

 それぞれの寄せる信頼に、狭間は少し照れて緊張しているようだった。
 しかし背筋はピンと伸び、その表情に初めて出会った頃の陰はない。


「だから次に会う時は……皆で、焼き肉を食べに行こう」
0510終幕――見えない未来 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:15:46.76ID:FY4NXSPc
 四人が思い思いに頷く。
 年長者の上田が払うか、高収入の北岡が払うかで揉める中、ふとつかさが視線を落とす。
 五人のティーカップは空になっていた。
 茶会の時間も、終わろうとしている。



 会話が途切れると、部屋の明るさが増した。
 景色の輪郭がぼやけ、隣りにいる者の顔も見えなくなっていく。

 「またね」とか、「お元気で」とか。
 出てくるのは当たり前の言葉ばかりだった。
 呆気ない、と言って良い程にあっさりした別れだった。
 それがとても短い別れだと、皆が知っている。

 光に包まれて元の世界へ帰っていく者達。
 そして無人となったローゼンの屋敷は閉ざされ、nのフィールドの片隅で静かにその存在を薄れさせていった。

0514終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:17:48.75ID:FY4NXSPc
 死の淵から救われたV.V.は、ラプラスの魔と共に多くの世界を見た。
 多くの世界の過去を、現在を、未来を見た。
 しかしV.V.達の干渉を受けた数多の世界は今、進むべき道筋を変えている。
 V.V.達が見た未来と同じ未来は訪れない。
 この先の未来を知る者はいない。


 故に、ここから先は。



 誰も知らない物語。





 家の前に立っていた。
 小洒落たデザインの白い家、紛れもなくスーパー弁護士・北岡秀一の自宅だ。
 陽はまだ高いが、閑静な住宅街に北岡以外の人影はない。
 道路のカーブミラーから唐突に出現する姿を見られずに済んだのは幸いだった。
 北岡は胸を撫で下ろして玄関へ向かう。

 しかし、足が止まる。
 北岡が所有する車は二台あるが、駐車場にはそのうちの一台しか停まっていなかった。
 それはつまり、北岡の秘書・由良吾郎が外出している事を意味している。

 バトルロワイアルに巻き込まれる直前の状況を思い返してみれば、北岡は不治の病に侵されてまともに歩く事も出来なかった。
 そんな中で北岡が姿を消した――それもゾルダのデッキと共に。
 そうなれば、吾郎は北岡を探すだろう。
 必死になって、躍起になって、血眼になって探すだろう。
 確かめるまでもない、由良吾郎はそういう男なのだ。

 吾郎が一人で危険な事に首を突っ込んでいないかと心配していると、耳に良く馴染んだエンジン音が聞こえてきた。
 そのまま立っていると、猛スピードで迫ってきた車が乱雑なハンドリングと急ブレーキで北岡の真横に停車する。
 車から飛び出して来たのは、今まさに思案していた由良吾郎である。

「先生……!!」

 吾郎の目には涙が浮かんでいた。
 掴み掛かるような勢いで北岡に接近してきた吾郎は、そのまま何も言わずに俯いてしまう。

「その……ごめん、吾郎ちゃん。
 ちょっと、野暮用があってさ」
「いいんです……先生が無事なら、それで」

 涙ながらに話していた吾郎だが、ふと顔を上げた。
 北岡がこうして真っ直ぐに立ち、普通に会話している事への疑問に数秒遅れで思い至ったのだろう。
 無言の問いに、北岡は逡巡する。

「あのさ、吾郎ちゃん……話が、したくてさ。
 冗談とかじゃなくて、真面目に聞いて欲しい。
 話したい事が、たくさんあるんだ」
「聞きます」

 大真面目に即答した吾郎に少し笑ってしまいそうになる。
 ほんの数日ぶりだというのに、酷く懐かしく思えた。
 何から話したものかと考えを巡らすうちに、北岡は大切な事を思い出した。

「――あ、令子さん!!
0522終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:20:38.92ID:FY4NXSPc
 吾郎ちゃん、時間は!?」
「何日前の話ですか。
 先生の姿が見えなくなってすぐに連絡して、またの機会という事に」

 新聞記者・桃井令子。
 何度断られてもしつこく食事に誘い、今回初めて了承を得られたランチデート。
 千載一遇のチャンスを棒に振ってしまった。
 デートをすっぽかすとは、スーパー弁護士北岡秀一にあるまじき失態である。
 北岡は露骨に肩を落とした。
 吾郎のお陰で令子を待ちぼうけにさせるのは免れたが、今後のデートの誘いが成功する確率は低い。
 もっともV.V.に呼び出されていなければ、それこそ待ちぼうけにさせてしまっていたかも知れないのだが。

「まぁ、しょうがないかな」

 北岡はそれ程のショックを受けなかった。
 心象はますます悪くなっただろうが、それでも諦めずにいれば、これっきりという事もないだろう。
 また明日にでも電話を掛ければいい。
 直接令子の職場まで会いに行ってもいい。
 今の北岡には、時間がある。

「先生……病院はいいんですか」
「……うん、まぁ、その事も話すよ。
 とにかく、痩せ我慢とか気休めとかじゃなくて……もう大丈夫なんだ。
 俺は嘘吐きだし、人を騙すのも実は結構楽しんでるけどさ。
 これはホントだから、吾郎ちゃん涙拭きなよ」

 北岡と話しながら、吾郎の目からは滂沱の涙が落ちていた。
 それだけ心配していたのだろうし、やはり信じられないのだろう。

――健康で頑丈な体がある癖に、御主人様が死んだら自分も一緒に死ぬなんて、ただの馬鹿じゃないか……!

 少し前に、北岡はそんな事を言った。
 相手を殴りたいと思う程度には苛立っていた。
 しかしこうして吾郎を見ていると、「そういうものなんだな」と納得出来た。
 北岡が死ねば吾郎も、健康だろうと頑丈だろうと関係なく死にに行くのだろう。
 そういう生き方しか出来ない人間もいる。
 それと同じように、自分よりも他人の命を優先するような道しか選べない人間もいるのだ。
 北岡はそれを痛感し、同時に自分が決してそうはならない事を、なれない事を確信している。

 思い返していると、やはり不満だとか、後悔だとか、嫌なものが胸に溜まってきた。
 相変わらず泣いている吾郎に向けて、北岡は語る。

「敵も味方も、俺の嫌いなタイプだらけだったわけ。
 振り回されるこっちはたまったもんじゃないのよ、一人可愛い女の子がいたけど癒しはその子ぐらいだったんじゃないかな。
 高校生だし、別にロリコンってわけじゃないから幻滅しないでよね。
 あ、その子暫くしたらうちで秘書として雇うかも知れないから。
 吾郎ちゃん、嫉妬しないでね」

 密度の濃かったあの時間の事を話そうとすると、脈絡がなくなる。
 思い付いたままを口に出してしまう。
 常に理論武装をしている弁護士北岡らしくない話し方だった。

「けどさ……あの連中は。
 あの子に、あんな事はさせなかった。
 俺だけだよ、二度も助けられて……二度も、あんな思いさせたの。
 ホントに……俺よりよっぽど、まともな奴らだったよ」

 もっと先に説明しなければならに事があるはずなのに、上手く纏まらない。
 悔しさや、今まで縁遠かったはずの類の感情が先走る。
0525終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:22:17.99ID:FY4NXSPc
「先生……もしかして、なんですが」
「何よ」
「…………友達、出来たんですか?」
「……………………冗談よしてよ」

 勘弁して欲しい。
 緊急時、非常時だったからこその共同戦線であって、そうでなければ関わりたくもない人種だ。
 暑苦しい、騒がしい、鬱陶しい。
 それなのに少し名残惜しさを感じてしまっている自分にも気付いていた。
 実に、不本意ながら。

「とにかくさ……令子さんとのデートもパーになっちゃったし、吾郎ちゃんと話がしたいんだよね。
 俺の話を聞いて欲しいし、吾郎ちゃんの話も聞きたいな」

 吾郎は涙を拭く暇も惜しんで何度も頷いた。
 今は信じていないかも知れないが、話せば必ず聞いてくれるし、分かってくれるだろう。
 吾郎から向けられる無条件の信頼を、北岡は心地よく受け止める。

「ありがとね……吾郎ちゃん」

 何から話すか、まだ考えていない。
 気持ちが日常から剥離していて、普段吾郎の前でどんな態度を取っていたのかまだ良く思い出せない。
 しかし不思議と焦りはなかった。
 あれだけの事をした後なら、大抵の事は何とかなると思えてしまう。
 それに、今日のうちに話し切れなければ明日話せばいい。
 明日終わらなければ明後日話せばいい。

「時間は、たくさんあるからさ」

 こうして吾郎と過ごす一年後、五年後、十年後を考える。
 「もしライダー同士の殺し合いで生き残れれば」という不確かなものではなく、確かに存在する『明日』。
 そこにはつかさもいるのかも知れない、狭間や上田もいるかも知れない。
 まだ見えない、しかしいずれ訪れるその未来が、とても楽しみだった。



 夜だった。
 自宅マンションに戻った上田はテレビを点け、日付と時刻を確認。
 数日が経過していたが、たまたま大学の休みと重なっていたお陰で無断欠勤は免れた。
 給与にも評価にも響かない。
 軽く涙が出そうになる程度に嬉しかった。
 ほんの少し前まで生きるか死ぬかの話をしていたのだが、上田は即座に俗事へ頭を切り替えたのだった。

 すぐに大学に連絡を取って手続きを行う。
 フィールドワークを名目に大学を長期間空ける、いつもの事であったので電話口の相手も慣れた対応だった。
 そしてデイパックに残っていた保存食を口にしてからシャワーを浴び、寝間着に着替えてベッドに潜り込む。
 ローゼンの部屋で休んだとは言え、緊張と運動の連続で疲弊し切っていた為、微睡む暇さえない。
 時々目を覚まし、適当に冷蔵庫から出したミネラルウォーターで喉を潤してはまた寝直した。

 はっきりと目が覚めたのは正午。
 翌日ではなく、翌々日だ。
 満足するまで寝た上田は大量に炊いた米を貪る。
 健康そのもの、男らしくオカズもなしに三合の白米を掻き込んでいく。
 その後優雅に身支度を整え、部屋の隅に置いたままだったデイパックに自分のPCを詰め込んだ。

 部屋を出て、向かうのは駐車場。
 空いた助手席にデイパックを乗せ、上田の愛車・次郎号は軽快に走り出す。
 目的地までの道のりは頭に入っているので、ナビや地図は不要だった。
 時間もさして掛からない。
0528終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:23:20.74ID:FY4NXSPc
「あんれ、上田先生でねーの!!」

 到着したアパートの前には、鍋をつつく大家・池田ハル。
 それに彼女の配偶者であるジャーミー君に対し、上田は爽やかな会釈をする。
 そして開閉した衝撃で取れてしまった次郎号のドアを直した後、アパートの奥へと足を踏み入れた。

 ある部屋の前で、深呼吸。
 ついでに屈伸をして適度な運動。
 テンションが上がってきたのでその場で腹筋も行った。
 心を落ち着けてドアノブを回そうとすると、鍵が掛かっている。
 四桁の数字を合わせる形式の安っぽい錠だ。

「ふふ……YOU、学習能力がないな。
 既に一度、私に破られた事を忘れたか?」

 以前使った数字を使う。
 カチリカチリと一桁ずつ回していき、――開かない。

「はっはっは、この程度では私の足止めにしかならない」

 上田は鞄からメモ用紙とボールペンを取り出し、今確認した四桁の数字を書き込む。
 そしてまた一桁ずつ回し、0000に合わせる――開かない。
 0000をメモし、0001に合わせる――開かない。
 0001をメモし、0002に合わせる――開かない。
 0002をメモし、0003に合わせる――開かない。
 0003をメモし、0004に合わせる――開かない。
 0004をメモし、0005に合わせる――開かない。
 開かない。
 開かない。
 開かない。



 三時間後、部屋の前には数字が羅列された大量のメモと外れた錠前が!



 天才物理学者らしい完璧な戦術により、部屋への侵入を果たした上田。
 見回してみると案の定、ケージの中の亀とハムスターが飢えて弱っていた。
 ここが主の不在になった部屋であると、言外に告げている。

「…………」

 仕方がないので、無責任な飼い主の代わりに上田が餌を与えた。
 すぐに元気を取り戻した彼らだが、上田に感謝する気配を微塵も感じさせない辺りが飼い主にそっくりである。

 狭い部屋の中、大きすぎる図体を縮めつつ寝転がってみる。
 洗濯物が出しっぱなしになっていたので取り込んでおいた。
 下着を観察してみるが、名前の書かれたそれの色気のなさは流石だった。
 道すがら購入しておいたわらび餅を食べ始める。
 また体を動かしたくなってきたのだが、家具を壊してしまいそうなのでやめた。
 不愉快に冷たい壁に背中を預け、ぼんやりと思考を巡らす。

 他にも思いつく限りの暇潰しをした。
 時折ハムスターや亀がごそごそと動き、外から大家達の声が聞こえる以外は静寂そのもの。
 時計がペースを乱す事なく時間を刻んでいく。
 窓の外が暗くなっていき、やがて闇に包まれた。

 0時。
 日付変更線を超えた。
0532終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:25:00.35ID:FY4NXSPc
 部屋には誰も訪れない。

 約束をしていたわけでも、賭けをしていたわけでもない。
 だが上田次郎は、納得した。
 山田奈緒子という女は、もうこの部屋に帰って来る事はない。

 元より覚悟はしていた。
 金糸雀達の話でほぼ確信していた。
 そして「もしかしたら」という僅かな思いも、ここで潰えた。
 持ってきていた封筒と百円玉をちゃぶ台の上に並べてみても、何も起こらない。

「君が来れば、寿司と餃子を死ぬ程奢ってやろうと思っていたんだがな……」

 偶然、ただの気紛れで、奢ってやってもいい気分になっていたのだが。
 こんな機会を逃すとは、あの女には運がないようだ。
 胸がない、金がない、運がないの三重苦である。

「さて……」

 上田は気分を変え、鞄からPCを取り出した。
 勝手にコンセントに繋ぎ、部屋の中央に鎮座したちゃぶ台に乗せて立ち上げる。
 そしてアタッシュケースに詰められていたUSBのうちの一つを接続した。
 同時に開くのは新規のWordファイル。
 USB内の音声を聞きながら、上田はひたすらキーボードを叩く。

 このUSB群が他の誰でもなく上田次郎の手に渡った事には、必ず意味がある。
 少なくとも上田はそう思っている。
 あの会場で散っていった者達。
 彼らの姿を留めて世に知らせられるのは、権威と文才を兼ね備えた上田にしか出来ない事だからだ。
 出版、大ヒット、重版出来、映画化、思わず上田の口からは不気味な笑い声が漏れた。

 狂ったように回し車を回し続けるハムスター。
 脱走しようと足掻く亀。
 マイペースなペット達に囲まれながら、上田は悩む。
 絶対の自信をもって挑んではいるものの、執筆にあたって心配事は少なくない。
 どの程度実名を伏せるべきなのか。
 著作権は大丈夫か。
 そもそも殺し合いなどという非常識にして悪趣味な催しを、ノンフィクションとして出版して良いものなのか。
 懇意にしている出版社はあるが、受け入れて貰えるかは怪しい。
 いっそ今流行りのWeb公開というものを考えても良いかも知れない。
 何しろ返品や売れ残りの心配をする必要がない点が大変好ましかった。

 しかし、一番の不安は世に公開した後にある。
 公開したものが本当に世界的なムーブメントを生んでしまったらどうすれば良いのか。
 彼らの、そして上田の激しいまでの生き様が上田の筆によって描かれるのだ、その可能性も大いにあり得る。
 そうなれば、最も問題になるのは上田を演じる役者だろう。
 上田のような完璧な人間を演じられる役者など存在しない、つまり上田自身が上田役として抜擢されてしまう。
 日本科学技術大学教授として日々を忙しく生きている身としては、非常に困る。
 それに上田の姿が茶の間に流れるとあっては、上田に心を奪われた人々は上田なしには生きられなくなるだろう。
 Jiro Dependence Cyndrome――上田がかつて危惧していた事態が実現してしまう。
 過ぎたる天才は、時に世界の毒となり得てしまうのだ。

「ふぅ」

 頭を冷やした。
 天才上田次郎には執筆以外にもう一つ、やるべき事があるからだ。

 それは本業の天才物理学者としての仕事――あのバトルロワイアルの間に見聞きした現象の解明だ。
 ギアス、自在法、錬金術……挙げればきりがない。
 これらを解き明かせば、世界最高峰の科学者のみに与えられる栄誉『科学と人類大賞』の受賞と賞金五千万とんで七千円は手にしたも同然。
0535終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:26:32.92ID:FY4NXSPc
 著作がますます売れて花の印税生活まっしぐら。
 人生の勝ち組待ったなし。

 そう、全ての事象は科学によって証明出来る。
 超常現象はあり得ない。
 上田の基本姿勢であり、山田奈緒子もまたそれを信じていた。
 信じようと、していた。
 霊能力など存在しないと、自分は霊能力者などではないと、信じたがっていた。
 自称霊能力者のペテンにあっさりと引っ掛かる上田だが、本当に揺らぎやすいのはカミヌーリの血を引く奈緒子の方だった。
 だから、上田が証明する。
 バトルロワイアルの会場で奈緒子を困惑させた多くの出来事を、全て解き明かす。
 そうすればあの胸の貧しい女でも、「ありがとう」の一言ぐらいは口にするだろう。
 安心して、あのだらしなくかつ色気のない寝顔を無防備に晒して眠れるだろう。

 天才物理学者上田次郎。
 晴れやかな『明日』を思い描き、今は亡き友人を想う。



 狭間偉出夫は扉の前に立った。
 nのフィールドの中に浮かぶ、無数の扉のうちの一つ。
 この扉の先には、狭間が元居た世界が広がっているはずである。
 狭間が堕とした高校、魔界。
 じんわりと背に嫌な汗が滲む。

 狭間はバトルロワイアルを通じて変わった。
 しかし過去は変わらない。
 世界の在り方が少々変わったところで狭間の犯した罪は消えないし、消えてはならない。

 全校生徒の前で魔神皇を名乗り、学校を魔界に堕とした事も。
 それに伴って犠牲者が出た事も。
 変えようのない現実だった。

 この扉を潜り、人と会えば。
 糾弾される。
 罵倒される。
 罪を問われる。
 イジメよりもずっと厳しい現実が待っている。
 それは、背負っていくと覚悟していても――

 背中を押してくれる者はいない。
 思い出が押してくれると言っても、結局押すのは自分だ。
 一時だけ共にあった蒼嶋も、既にいない。

――狭間君ってば、今更こんな事ぐらいでぶるっちゃうわけですかー!?
――シャドームーンよりも学校のオトモダチの方が怖いんですかー!?

 もし居れば、そんな風に。
 歌い出しそうな程に高いテンションでやかましく、狭間を囃し立てて背中を押したのだろう。
 しかしいないからと言って、何か変わるわけでもない。
 自分の力で、歩いていける。
 もう、開けると決めているのだ。
 狭間は立ち止まるのをやめ、最初の一歩を踏み出す。



 元居た場所――狭間自身の精神世界。
 愛に、友情に、全てに飢えたかつての狭間の心を映し出した世界。
 負の感情に満ち、汚れて濁った醜い世界。
 狭間が蒼嶋のヒノカグツチによって胸を貫かれた地。
0542終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:28:54.78ID:FY4NXSPc
 目前に控えるのは、狭間が不在の間に体を休めていた『宿敵』。
 レイコと共に狭間の精神世界まで踏み込んできた『宿敵』――。

 蒼嶋では、ない。
 想定していた通りだった。
 蒼嶋が死亡した世界と同期され、そして世界は蒼嶋の不在に合わせて“代わり”を立てたのだ。
 蒼嶋に代わってレイコの隣りに立つのは、レイコと同じ制服を着た“少女”だった。

 その姿を見て、狭間は目を見開く。
 優れた頭脳を駆使し、あらゆる可能性を考えていたはずだった。
 それなのに、喉から言葉が出ない。

 レイコ達もまた驚きを隠せない様子だった。
 倒したはずの狭間がほぼ無傷のまま復活したとあっては無理もないだろう。
 まして今の狭間は、別人のようなものなのだから。
 狭間は深呼吸をしてから、二人に向けて語り掛ける。

「もう、いいんだ」

 その一言を契機に精神世界が崩れた。
 そして新たに構築される。
 凶々しく醜悪だった色が剥がれ落ち、突き抜けるような晴天が姿を見せ始める。
 歪んだ世界の残骸が欠片となって舞い落ちるその空間に、陽の光が満ちた。

 レイコが狭間に駆け寄り、抱き締める。
 「もう一人にはしないから」と涙を浮かべるレイコに――狭間は首を横に振った。

「いいんだ……欲しかったものは全部、貰ったんだ。
 色んな人達に、教えて貰った。
 僕は、自分で歩いていける」

 狭間偉出夫と離れ離れになり、他人として生きていた実の妹・レイコ。
 あのバトルロワイアルで彼らに出会っていなければ――レイコに縋る事しか出来なかっただろう。
 レイコを巻き込んで、共に堕ちていく未来しか選べなかったかも知れない。
 しかし今の狭間は戸惑うレイコの肩に手を置いて、優しく遠ざけた。
 そして狭間は『宿敵』に向き直る。

「君の名前を、教えて欲しい」

 ヒノカグツチを携えた『彼女』。
 蒼嶋が居たはずの、居るべきであった場所に居るその少女は、不思議そうに首を傾げた。

「知ってるはずだよね?」
「それでも、聞きたいんだ。
 君の口から……」

 訝しんだ様子ではあったが、『彼女』がそれ以上渋る事はなかった。
 胸を張り、姿勢を正し、凛とした声で『彼女』は名乗る。



「レナだよ」



 改めて、狭間は言葉を失った。

 狭間と同じ高校生である『彼女』は、狭間が知る『竜宮レナ』よりもずっと大人びていた。
 良く似た容姿を持ちながら、可愛らしい、と形容するよりも美しい、と言った方がずっと近い。
 明るい茶がかった髪。
0547終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:31:07.19ID:FY4NXSPc
 何もかもを見透かすような、静かに燃えるような――それでいて優しい青い瞳。
 まさしく『竜宮レナ』が成長していれば得ていたであろう姿を前に、狭間は目を奪われ、言葉を奪われ、立ち尽くす。

 これはラプラスの干渉によって、本来独立して存在していた世界同士が混ざり合い、因果が絡み合った結果だ。
 よりによって狭間の前に再びレナが現れた事は、奇跡と言う他ない。
 敢えてこの奇跡に理由を付けるなら、あのバトルロワイアルで蒼嶋がレナを庇って死んだ為か。
 あの自己犠牲が、こうして狭間の居た世界に影響したのかも知れない。

 ……分かっている。
 どう理屈をこねたところで、『彼女』は『竜宮レナ』ではない。
 あの世界のあの時代、あの雛見沢、あの仲間達、そしてバトルロワイアルでの経験、全てがあっての『竜宮レナ』だった。
 狭間を魔人皇に――そして人間にしたレナは死に、もう決して戻らない。
 狭間達の記憶の中にだけ息づいている。
 目の前にいるのは偶然姿が良く似た、名前が同じ別人だ。
 それでも――

「……レイコ、それにレナ」

 声を絞り出す。
 涙を堪え、声が震えないよう抑え、話し掛ける。
 この出会いが、この偶然が、この奇跡が、嬉しかったから。

「僕の話を、聞いてくれないか。
 取り返しのつかない事をしたと、分かっている。
 全部が元には戻らないし、一生を懸けても償えるとは思っていない。
 でも、今は……君達と話がしたいんだ」

 全てを知って欲しかった。
 縋る為ではなく、共に堕ちる為でもなく、これから並んで歩いていく為に。

 二人の女性は微笑み、頷いた。
 狭間の声に耳を傾けている。
 いつかに蒼嶋が言ったように、狭間の声は確かに他者へと届いていた。

「……ありがとう」

 魔神皇になった理由。
 魔人皇になった理由。
 人間になった理由。

 死せる者達の。
 DEAD ENDの。
 因果応報の。

 寄り添い生きる獣達の、物語。

 海にも陸にも負けはしない、一点の白すらないこの紺碧の空。
 狭間偉出夫は『明日』に向けて、第二の生を歩み始める。



――行ってきます。

 最後の会話で、そう告げた。
 狭間達との一時の別れとは違う、永別。
 「さよなら」とは、どうしても言えなかった。
 しかし、それが最後になると分かっていた。
 分かっていて、「さよなら」から逃げた。

 それなら、あの言葉は。
0550終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:32:29.59ID:FY4NXSPc
 「さよなら」と何も変わらない。

 あの時に限った話ではない――別れが多すぎた。
 再会は少なく、離別ばかりが積み重なって――



 深夜だった。
 街は静かで、通りには誰もいない。
 「世界の改変」と聞いて不安になっていたのだが、柊家は柊家のままそこにあった。
 帰りたかった家が、目の前にある。

 沢山悩んで、生きると決めた。
 帰りたいと思った。
 だが北岡達がいなくなった今、つかさは心細さで再び揺らいでしまう。

 扉の向こうまで同じとは限らない。
 同じ名前の別の家族が住んでいるかも知れない。
 あり得ないとは言い切れない、そんな不安があった。
 そしてつかさの知るままの家族がそこに居たとして、今のつかさを受け入れてくれるのかと。
 或いは受け入れられてしまって良いのかと――ぐらり、ぐらりと、自分の中にある芯が揺れるのを感じる。

 玄関の戸に手を掛けようとして躊躇う。
 自分の手が赤く赤く汚れて見えて、綺麗なものに触るのが怖かった。
 腕と首に残った痣が疼いて、扉がとても遠くに見えた。
 一緒に帰って来れなかった妹、友達や後輩、新たに知り合った人々を思うと、近付けない。
 開けられない。

 自分一人が帰ってきてしまった。
 手を汚して。
 大勢の人に迷惑を掛けて、優しさに助けられて、ここにいる。

 だから。
 つかさは手にしていたデイパックを抱き締める。
 かがみの衣類、こなたの水着、ジェレミアの仮面、アイゼルのレシピ。
 持ち帰ってきた『記憶』。
 自分は一人ではないのだと、もう一度思い出す。

「……返さなきゃ」

 死んでいった人達には、何も返せない。
 殺した人達にも、何も返せない。
 だからせめて、自分に出来る事を。
 あの場で起きた事を、自分のした事を、言われた事を、忘れない。
 受け取った優しさを、自分の周りにいる人達に伝えていく。

 時が流れれば、記憶を美化してしまうかも知れない。
 風化してしまうかも知れない。
 けれど優しくされた時の気持ちだけは、きっと残り続ける。
 それを周りの人へ渡していく、広げていく、繋げていく。
 腕と首に残った痣と一緒に――ずっと、覚えている。

 春の陽気。
 夏の暑さ。
 秋の風。
 冬の雪。
 幾つ季節が巡っても、この気持ちだけは変わらない。

 そして、立派なレディになる。
 調理師になる。
0557終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/03/30(日) 23:34:12.73ID:FY4NXSPc
 北岡の助手になる。
 錬金術士を目指してもいい。
 後悔を、罪悪感を、自己嫌悪を、何もかも乗り越えていける願いと夢で胸を満たす。
 大切な人達の願いを無碍にしない為に、もう二度と自分を嫌わない。

 意を決して戸を引くと、開いて光が漏れ出した。
 深夜なのに鍵が掛かっていない。
 つかさとかがみが行方を眩ませたから――二人がいつ帰って来ても良いように、開けたままにしてくれているのだ。
 心配しながら帰りを待っている家族の事を思い浮かべると、目に涙が浮く。
 あんなにも重そうに見えた扉は、ほんの少し力を入れただけですんなりと開け放たれた。

 扉を開けて最初に目に入ったのは、目蓋を泣き腫らした母。
 それに父、二人の姉。
 この時間まで帰りを待っていてくれた家族。
 世界が変わってしまっても、変わらずに残っていてくれたもの。
 自分を無条件に愛してくれる人達。
 安心したつかさはその場に座り込んでしまった。
 泣くまいと思っていたのに、大粒の涙が玄関を濡らす。
 抱き締めてくれた家族の温かさが後ろめたく、そしてそれ以上に嬉しかった。

 言いたい事が沢山あった。
 話したい事が幾らでもあった。
 それでも、最初の一言は決めていた。











                     「ありがとう。ただいま」












【北岡秀一@仮面ライダー龍騎 生還】
【上田次郎@TRICK 生還】
【狭間偉出夫@真・女神転生if... 生還】
【柊つかさ@らき☆すた 生還】
0562創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/30(日) 23:35:43.07ID:B+4xd+4s
乙うううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!
0565 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/30(日) 23:36:18.11ID:FY4NXSPc
投下終了です。
沢山の御支援ありがとうございました。
0570創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/30(日) 23:37:10.43ID:1mtchmdh
お疲れ様でしたああああああああああああああああああああああ!!!!!
盛り上がって目頭が熱くなった!!!!!!!!
0571創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/30(日) 23:37:28.06ID:B+4xd+4s
まさに最終回だったあああああああああああああああああああ
乙乙乙!!!
0574創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/30(日) 23:39:15.79ID:dZUJNUIK
乙!!! 乙!!! 乙!!!
なんちゅうものを……なんちゅうものを見せてくれたんや……!
0577創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/30(日) 23:41:08.77ID:e0ygbjtc
投下乙です!
完結おめでとうございます!
関係者皆様、本当にお疲れ様でした!
0580 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/03/30(日) 23:50:10.90ID:FY4NXSPc
この最終回の執筆にあたり、多くの方に御協力戴きました。
この場をお借りして御礼申し上げます。


長く一緒にこの企画を支え、最後のパスを下さった◆ew5bR2RQj.氏
最終回一分割目にて、設定を一緒に確認して下さった◆EboujAWlRA氏
真・女神転生if...の知識や多くの案を提供して下さった◆GvGzqHuQe.氏
初めに申し上げました通り、最終回プロットを譲って下さった◆KKid85tGwY氏
オフ会やTwitter上で相談に乗って下さった他ロワ書き手の皆様
最終回が遅れる間もイラストを提供し続けて下さった絵師様

投下数に関わらず、多ジャンルバトルロワイアルに参加してSSを書いて下さった書き手の皆様
五年半に渡る長いロワの完結を待っていて下さった読み手の皆様
ここに皆様と同じく並べる事は大変憚られますが、何年も私の無理に付き合ってくれた某参加者の彼


皆様のお陰で無事、企画を完結させる事が出来ました。
本当にありがとうございました。
0581創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/30(日) 23:58:24.50ID:+A+um3cn
完結乙です
最初少し関わって途中飛び飛びで読んで最終回と聞いて読んでいた一読み手だけど、うんまずはお疲れ様でした
最後に相応しい激戦の末にシャドームーンに止めを刺したのがつかさというのは、前半と一転して静かな最後と相まって印象的だった
ラストの個々のエピローグもそれぞれ胸にくるものがあった

月並みな感想だけど、完結おめでとうございます
そしてありがとう
0583創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/31(月) 00:46:14.57ID:ZgypBLJ9
投下お疲れ様でした!
やばいっていうほかなかったシャドームーン
ダンやアルターまで引き出してでも締めはつかさで倒れゆくシャドームーンの最後が切ないとも悲しいとも違うんだけどほんとうもう、刻まれた
エディはほろりとくる北岡にいつもどおりなんだけどほっとする上田、おかえりなつかさもあるんだけど
女神転生ifならではのifに痺れた
これはもうほんとご都合主義とかじゃなくて、ifやった人なら、ああ!ってなる
そうだよな、ifならこのイフもありえていいんだよな
面白かった、最終回も多ジャンルロワも面白かったです!
0584創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/31(月) 11:23:28.91ID:PuDWdyBd
乙です
うまく言葉が整理できない、素晴らしいとしか
長きに渡る物語が最後まで全力の、見事な最終回で幕を閉じることがいかに幸福なことかを実感した
本当にもう……乙です
0585創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/31(月) 12:02:30.17ID:7EqNXI+h
うおおおおおおおっ
完結おめでとう
0586創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/31(月) 12:23:17.31ID:7/LwbFcf
なんかコレすんごい衝撃的でした。。。
こんな事って実際あるの?

http://estar.jp/.pc/work/novel/22797121/

オナニーしたくなってきた
0587創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/31(月) 16:08:44.53ID:Uq7G5FIw
投下乙です
夢中になって読みふけりました
書き手の端くれとして、あなたに心から嫉妬し、尊敬します

シャドームーンとの死闘では今まで積み上げてきたものの集大成って感じでたまらなかったです
それぞれの後日談が皆”らしく”て、読んでいて心地よかったです

完結おめでとう!
0588創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/31(月) 20:32:27.11ID:jzJvCG2b
完結お疲れ様です

上田は誰よりも命を大事にしてたから
自分の命はもちろん他人の命も
だから生き残ったんじゃないかな
0590創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/01(火) 01:06:42.78ID:+VOjWZWw
完結お疲れ様です!
もうなんて言っていいかわからないけど完結したことが嬉しいです
最終回を執筆した◆Wv2FAxNlf.氏と今まで物語を紡いできた書き手の皆さんに感謝を!

そして最終回執筆直後に恒例エイプリルフールwikiとかすげぇw
0591創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/01(火) 02:05:44.47ID:qY9tG9d/
完結おめでとうございます!
シャドームーンRXそしてアナザーシャドームーン強すぎやべえよ…と脂汗が流れた所に、
アルター使い北岡・狭間に、夜明けのヴァンに人間狭間の拳一発に最後はつかさが止めを刺すという流れがもうね…!

願いを背負った者たちの重みが上回ったんだけど、シャドームーンが最後までシャドームーンとしてカッコ良かった
翠星石も命の一滴をしぼり尽くしてまで皆を守ってくれた…!

狭間の台詞「僕は生きて、皆と同じ『明日』を見る」 という台詞が大好き
ガンソの「同じ夢を見る」、けど梨花の「夢で終わらせないで」にギアスの『明日』。
生き残った者みんな前を向いた『明日』を望んでいてそれを掴み取ることができたのがね

「“もし”ではなく“きっと”……僕らはまた会える」や蒼嶋の焼肉食いたい発言を狭間が継いでいるのもうおお、ってなるし、
女主人公が!これは絶妙!涙腺がゆるんだ
さすがに存在自体が消えなくてもその死が与える影響は大きい、それが個人の存在の重みを感じさせるなぁ
けどそれでも忘れない、受け継いで伝えていく、他人が肯定してくれた自分を大事にする。そんなラストに感動した

最終回を投下したエース書き手さんもメイン書き手さんもその他の書き手さんもここまで引っ張ってきて本当にお疲れ様でした!
多ジャンルロワ最高!


あと恒例のエイプリルフール更新www
0592 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 04:52:52.63ID:Kyiok4kb
上田次郎のエピローグ、投下します
0595 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 04:54:20.29ID:Kyiok4kb
よく晴れた日のことだった。
上田次郎はバトルロワイアルから帰還後、己の分野から逸脱した専門書を読み漁ることが多くなっていた。
全ては研究のため。
少々人間的欠点が多すぎるだけで、上田次郎という男の本質は研究者だ。
新たに知った知識を解き明かさなければ気が済まない。
知識欲の塊のような男なのだ。

今日も積み重ねた本の山とともに自らの研究室に寝泊まりしていた上田の元に、一人の男が現れた。
上等なスーツを纏い、明星の如き輝きを持った金髪をオールバックに固めた紳士。
金の右目と蒼の左目、病的なまでに白い肌。
筋張った指先に備えた爪は黒く塗られている。
見るものを魅了する妖しい美と、見るものに恐怖を覚えさせる美。
二つの美が蛇と蛇のように入り混じった妖しげな男だった。

「申し訳ありません、上田先生。こんなお時間に」

血のように赤い唇からつらつらと言葉が飛び出る。
人類の英知と自負する上田ですら聴き惚れるような声だった。
善悪や好悪はともかく、目の前の男はすべてが美しかった。

「約束のお話ですが……」
「約束?」
「おや、お忘れですか?」

紳士はブラインドに指をかける。
爛々と輝く明けの明星が上田の瞳を刺した。
その光の前に立ち、男は。
挑発するような、あるいは媚びるような。
蛇の舌先を連想させる、人を惑わす笑みを浮かべながら。


「ルイ・サイファーです。先日、先生に依頼のお電話を入れたものですよ」


自らの名を口にした。
0598 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 04:55:58.61ID:Kyiok4kb
  


   ◆   ◆   ◆



「いやあ、申し訳ありませんね。まさかこんな時間に人が来るとは考えもしなかったもので」

上田は寝起きの苛立ちを隠そうともせず、厭味ったらしくルイ・サイファーの非常識を言外に責めた。
ルイ・サイファーはと言うと気にした風もなく、やはりあの笑みを浮かべるばかりだ。
脚を組み、優雅に来客用のソファーへと座る。
上田は眉間に皺を深め、茶の用意をする。

「申し訳ありません、海外から飛んできたものでして。なるべく上田先生にお会いしたかったんですよ」
「ほほう、海外というと?」
「イスラエルです」
「イスラエル!それはまた……しかし、日本語がお上手ですな」
「日本は好きですから。それはそれとして、上田先生のご高名はお聞きしております」

イスラエルの地でも自らの名が知れ渡っていることに気を良くする。
出涸らしの茶で入れた茶を捨て、通常の茶へと変更するために再び棚に手を伸ばす。

「先生の著書は全て所有しております。
 どん超 Part1、Part2、Part3、Part4、Part5。なぜベス、IQ200」
「IQは実は220なんですがね」

通常の茶を捨て、来客用の茶を用意する上田。
擦り切れた本、それは何度も読み返した証明にすぎない。
すでに苛立ちは消え、持ち前の気の抜けた笑みを顔に貼り付けていた。
上田次郎という男は生粋の単純な男だった。

「そしてこちらが保存用」
「!?」

新たに取り出された本の数々。
さすがの上田も目を剥く。

「展覧用、布教用です」

ルイ・サイファーが取り出した綺麗に包装された自著を見て、すぐさま最高級茶葉を用意する上田。
もはや明けの明星が見える時間に訪れる非常識さも、自らに会いたい余りの行動と捕らえていた。
自らを尊敬する人間に悪い人間は居ない。
心の何処かでそんな風に思える人間が上田次郎という男だった。

「感銘を受けました。
 初めて手にとった時はよくあるオカルト批判の名をかざしたオカルト本に過ぎないと思っていましたが……
 いやいや、オカルトを真っ向から切り捨てる弁舌の数々、噂に違わぬ人物です」
「世には科学をオカルトと同等に扱う人間が多すぎる、嘆かわしいことです」

すっかり気を良くした上田はテーブルを挟んでルイ・サイファーと向き合う。
上田は反オカルトを公表している学者、相談に来る人物も少なくはない。
ルイ・サイファーもそんな依頼者の一人だ。
先ほどまですっかり忘れていた依頼の電話も、上田の頭脳は思い出していた。
0601 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 04:57:48.29ID:Kyiok4kb
 
「ガイア教、というものを上田先生はご存知でしょうか」
「ガイア教?」

聞き覚えのない単語だった。
マイナーなカルト宗教団体の一つだろうと上田は見当をつける。
ルイ・サイファーは一冊の本を取り出す、有名なオカルト雑誌だった。

「大元の組織自体は歴史の深いものですが、新興宗教だと思ってください。
 現在主流となっている革新的派閥は最近になって力をつけたものですので」

ルイ・サイファーはペラペラと雑誌をめくり、あるページでその手を止める。
そして、その雑誌をテーブルの上に置き、上田は前のめりになってページを覗きこんだ。

「大した話ではありません、よくあるカルト宗教です」
「そのようですな」

オカルト雑誌によくある話だった。
言ってしまえば例の宗教団体を批判する、悪魔信望団体だ。
そんなものこの世にゴマンと存在する。

「はい、その団体自体は問題では無いのです。
 ……問題は、私の日本人の友人がこのカルトにのめり込んでしまったことです」
「失礼ですが、貴方の思想は、その……」
「私は科学教、とでも言ってしまいましょうか。
 上田先生とは違って、学がないゆえに何処か科学万能主義じみたところがありますが」
「なるほど」

上田の元を訪れたとは言え、万が一のことがある。
オカルトを全否定して逆上されては面倒だ。
いかに上田が一般人を遥かに凌駕する、まさしく達人と呼べる腕前を誇る武道家であったとしてもだ。

「悪魔など存在しない、あるいはこの教義のイカサマを解き明かして欲しいのです」
「……ふむ、残念ですが私は忙しくてね。申し訳ないが――――」
「報酬もご用意しています」

カルト宗教の人物と関わることほど面倒なことはない。
上田が体よく断ろうとした瞬間、タイミングよくルイ・サイファーが鞄を取り出した。
そのまま鞄の口を開と、中には大量の福沢諭吉が仏頂面で佇んでいた。
明治の傑物・福沢諭吉と現代が生んだ人類の至宝・上田次郎が視線と視線を交錯させる。

「上田先生がこんなもので心を動かす人物だとは思っていません。
 しかし、私のような俗物にとって気持ちをお伝えする術はこのようなことしか知らないのです」
「全くです。いえ、私もお金が欲しいわけではないのです。
 しかし、私も現代社会に生きる男。これほどのお金がどれだけの価値があるかも知っています。
 それを私に依頼料として払うという貴方の気持ち、これを断れるほど私は非情な人間ではありません」

引っ込ませないと言わんばかりに鞄をものすごい速さで掴み、自身の横に置いた。
ルイ・サイファーはただそれを眺めるばかり。
これは上客だ、上手くすればスポンサーとなり得る。
0605 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 04:59:14.68ID:Kyiok4kb
 
「悪魔、でしたね……ちょうど私も今は魔術の蔵書に目を通していましてね」
「まずは敵を知ること、さすが上田先生です」
「科学にかぎらず人生のセオリーです」

上田はニヤリと笑みを深めた。
そして、無精髭に包まれた口から得意気に言葉を滑り出し始める。

「まず、魔術とはなにか。これは結局のところ心理学に過ぎないんですよ」
「と、言いますと?」
「自らに暗示をかけること、です。記憶の遡行とモチベーションの維持、これに尽きる」

そう言いながら上田はノートパソコンを起ち上げる。
デスクトップに置かれた一つのアイコン。
反応の悪いマウスを操りながら、上田はそのアイコンをダブルクリック。

「これは?」
「悪魔召喚プログラムver上田次郎」
「……はあ」

ここで初めてルイ・サイファーの表情が崩れる。
はっきり言ってしまえば呆気に取られる。
歯に衣を着せないならば、上田を馬鹿にするような表情となる。
さすがに上田自身も恥ずかしくなったのか、まくし立てるように言葉を続けた。

「まあ、言ってしまえば自己催眠プログラムですよ。これで自らの判断能力を曖昧にし、暗示をかける」
「出来るんですか?」
「そこまでおかしなことじゃない。大事なことはリラックス状態か、もしくは脳を単調化させることです。
 これをやってみてください」

上田はルイ・サイファーへとノートパソコンを向ける。
ルイ・サイファーは画面を覗きこんだ。
そこには幾つかの点滅する文字。
それはAであったり、1であったり、アであったり、不規則な文字の集まりであった。

「これをキーボードで打ち込んでいくんです」

点滅で浮かび上がる文字は急なスピードで。
かと思いきや中々新たな文字

「アロマテラピーやお香などがあるでしょう?
 あれがリラクゼーションの方面から展開する魔術だとしたら、これは脳を単調化させることでアプローチする魔術です」
「ふむ」
「ようは、脳を通常の状態から変化を与えることが重要なんですよ」
「なるほど。わかってきましたよ、上田先生」

ルイ・サイファーは得心が行ったと言わんばかりに大きく頷く。

「内より出て外より現る。天魔の基本ですね、所詮、全ては人の思い込みに過ぎないと。
 この世の魔術のほとんどはプラシーボ効果に似た何かであると」
「その通りです、貴方もなかなかに理解が深いようで」
「海外を飛び回ることが多いと、様々なことを耳にするもので」

上田はフンと鼻を鳴らす。
この世の魔術は全て心理学の成り損ないにすぎない。
上田の出した結論はそれだった。
0607 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:00:43.11ID:Kyiok4kb
 
「結局、悪魔の正体とは人なんですよ。
 この世に『幽霊の正体見たり枯れ尾花』以上のことはあり得ない」

様々なことを思い出しながら、上田次郎は口にする。
自身の研究は未だに奇跡からは程遠い。
どれだけ突き詰めても、結局はオカルトで止まってしまう。
恐らく、それが上田次郎という男の研究なのだろう。
本当の奇跡を自身が手にするまで、オカルトを否定する。
『自身がわからないオカルト』を奇跡するのではなく。
『自身が理解した奇跡』を手にするまで。
上田次郎は生き続ける。

「他にも様々なことを調べていますが――――」
「調べる、ですか」

上田の言葉を、ルイ・サイファーは断ち切った。

「貴方は、魔術を、悪魔をお調べになっている。
 反オカルトの代表を自負する貴方が」
「……な、なんですか、いきなり」
「……素晴らしいですね、上田先生。
 貴方は奇跡を求めている。
 しかし、半端なものは求めていない。
 科学の延長線上にある奇跡だけを求めている……実に、素晴らしい」

ルイ・サイファーは人を嘲笑うかのような笑みを浮かべた。
正確に言えば、表情を形作ることを忘れたような笑みを浮かべたのだ。
恐らく、最初からルイ・サイファーの心中はその笑みだけだった。
ただ奇跡という名の真理を見つけることのできない上田を小馬鹿にする感情だけが胸のうちにあったのだろう。

「あ、ちなみに先ほどの依頼。真っ赤な嘘です。
 ただ、貴方があの事件を経た今、『悪魔』をどう捉えているものか気になったもので」

上田にそこまでの観察眼は備わっていなかった。
いや、余程の人間でなければ、この紳士の仮面を見破ることはできない。
とは言え、さすがにここまであからさまに態度を一変させればおかしなことに気づく。


「君は一体、何者なんだ」


オッドアイが蠢く。
上田は今、手を出してはいけないものに前にしている。
Cの世界に刻まれた。
人としての原初の記憶が。
警鐘を鳴らし続けていた。
0611 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:02:44.05ID:Kyiok4kb
 

「――――内よりい出て外から現れるもの。
 悪魔ですよ、上田先生――――貴方も狭間偉出夫とご知り合いなら知っているでしょう?
 ルシファーと言いますが、ルイ・サイファーのままで構いませんょ」


最初の二人を誑かし、人類に永遠の罪を背負わせたもの。
赤き蛇・ルシファー。
それこそがルイ・サイファーの正体。

「な、なにを……」
「上田先生、貴方の考えは恐らく限りなく正しい……『かも』しれない」

自らを魔の類だと名乗り、ルイ・サイファーは嘲り笑いを深めながら言葉を滑らせていく。
上田次郎の、本人さえも気づいていないかもしれな事実。
それを突きつけることが楽しくてしょうがないと言わんばかりに。
ルイ・サイファーは語る。

「この世の魔は全て人、人こそが魔の生みの親。
 なるほど、貴方の意見は一理ある。
 かつて破壊神シヴァの使いである『聖獣』を『食用動物』とし、破壊神の信仰を貶めたミレニアム。
 アレも結局は人の信仰こそが我々の力の源であることを突いた作戦だった」

ルイ・サイファーは立ち上がる。
金色に煌めく金髪が棚びき、蛇の舌先の如き赤い唇が動き始める。

「この世の起点は人かもしれない、私はそんな考えも持っている。
 そう、人と人が繋がって世界は生まれる。
 そして、貴方は繋がってしまった……全く別の世界と。
 全てを突き詰めることの出来る貴方が。
 この世の世界の真理を求める科学者である貴方が。
 この世界に、『他の世界』という概念を持ち込んでしまった」

ルイ・サイファーの言葉は止まることはない。
上田次郎は寒気が走る。
明星の暖かさはない。
罪を突きつけ、そして、新たな罪を促す。
人は悪魔に最も近い生き物かもしれない。
しかし、人は悪魔ではない。
ならば、ならばこそ。

「交じり合った世界と世界。
 本来あるべきでなかったものが世界に現れる。
 Butterfly Effect、蝶の羽ばたきが世界の反対で台風を起こすように」

本当の悪魔を前にして覚える感情は。
恐怖以外の何者でもない。

「世界は合わせ鏡です、上田先生」
「……」
「鏡の反射率、あるいは鏡と鏡の間に存在する不可視の小さな粒。
 そういった物が原因で生まれる、不完全な同一の世界。
 そんな鏡の概念である『同一』というものからは生まれるはずでない『変化』が無数に重なり合う。
 そして、ついには全く別の世界へと変わる」

真理を突きつける。
悪魔とはそういうものだ。
人が求めるもの全てを差し出し、人を堕落させる。
0612 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:03:56.22ID:Kyiok4kb
 
「だから、全ての大元は『鏡』なんですよ。
 ミラーワールドという神崎優衣と神崎士郎の世界が『鏡』越しに現れたのも。
 世界樹に繋がるnのフィールドの入り口が『鏡』なのも。
 多くの人間が『鏡』によってハルケギニアに迷い込むことも。
 世界と世界が『鏡合わせ』によって生まれる違いで成り立っているからなんです」

鏡合わせの末に生まれる小さな変化。
その変化の極まりが、奇跡だ。

「光あれ――――そう、初まりは光だった。
 そして、光が存在したからこそ無数の混沌が生まれた。
 光を反射する物質と物質が鏡合わせとなった。
 神は光を求めたのであれば、その自由を認めなければいけなかった」

笑いが深まる。
人は美に惹かれるように、人は真理に惹かれる。
世界のすべてを暴きたくてしょうがない人種が居る。
上田次郎もその一人だ。
そして、突き詰めた真理は、極まった美しさがそうであるように、恐怖を生む。

「魔とは、内よりい出で外から現れる――――貴方の考えは、限りなく正しい。
 これ以上ないほどに我々の存在の本質を捉えている」

ルイ・サイファーの言葉。
人が神話を作り、神を生んだ。
しかし、神は人を生んだ。
鶏と卵の問題。
それは『鶏』という概念を突き詰めれば答えが出る。


「ひょっとすると、『宇宙の大いなる意思』とは――――」


瞬間、ルイ・サイファーの顔から笑みが消えた。


「『神』とは、『人々の意志』なのかもしれない」


時間にすれば、それこそ秒にも満たない一瞬の出来事だっただろう。
しかし、その瞬間に生まれたものこそが目の前の悪魔の真の感情。
翼をもぎ取られる前に感じたものだったのかもしれない。
0616 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:06:00.22ID:Kyiok4kb
 
「可能性ですがね」

再び嘲りを顔に浮かべるルイ・サイファー。
つかつかと窓際から元のソファーの位置まで戻る。
上田はルイ・サイファーに飲まれ、何も口にすることが言えない。
そんな上田へと向かって、ルイ・サイファーはぐいと顔を近づける。
ルイ・サイファーの双眸に魂を飲まれる。

「上田先生、貴方の研究は恐らく実を結ぶ。失敗という形で、最悪の形で。
 しかし、その研究は正しく世界に運ばれる。
 ターミナルというテレポート装置の失敗が原因で訪れた、真の女神転生の世界と同じように。
 あなたの失敗が、正しく世界を導く」

ルイ・サイファーの嘲り。
カオスへの導き。
秩序を破壊し、自由を手にせよ。
蛇の赤い舌が、上田を唆す。

「混ざったんですよ、貴方が。山田奈緒子が消えたことにより、矛盾を埋めるために。
 この世界が他の世界を知ったがために」

上田次郎という真理を求める者が。

「世界と、貴方が、変わったのです」

世界を変えようとしている。

「運命なのか、奇跡なのか。そんなものはどうでもいい。
 しかし、無数の世界は許されるべきなんだ。
 偉大なる我らが主に歯向かってでも、生み出した世界を否定する唯一神を殺さなければいけない」

そして、ルイ・サイファーは。
勢い良く天を仰ぐ。

「この世の何処かで、誰かが思ったんだ」

さながら神に祈りを捧げるように。
大きく手を広げ。
こう、言い放った。


「みんなの『世界』を守らなきゃ――――」


そして、その結果が私なのだと言い残し。
ルイ・サイファーは光の中に溶けていき。
上田次郎の意識もまた途切れていった。
0619 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:07:44.90ID:Kyiok4kb
 
 
   ◆   ◆   ◆


「……」

長い長い気絶から――――あるいは、眠りから覚めた上田次郎。
ルイ・サイファーが片付けていったのか、あるいは、そもそもが夢だったのか。
湯のみはテーブルの上から消え。
ルイ・サイファーが持ってきていた雑誌も消えていた。

「やれやれ、未知など知るものじゃないな」

上田はゴキゴキと音を立てながら首を動かす。
不吉な言葉。
上田が世界を壊す。

「全く、バカバカしい」

そんなこと、あるはずもない。
そもそもとして上田が調べた魔術関係は全てオカルトと結びつかないものだ。
この『悪魔召喚プログラムver上田次郎』にしたって狭間偉出夫の知る悪魔召喚プログラムとは全くの別物だ。
しかし、それでも上田の心の中に生まれた不穏な波は消えない。
上田は不安をかき消すようにテレビをつけた。
最近新調したテレビだ。

「……自衛隊か」

何かの演習のようだった。
上田をも超える立派な体躯の持ち主がインタビューに答えていた。
刈り上げた短い髪と鋭い視線。
見るものにプレッシャーを与える油断ないその姿は朝から見るには少々負担が大きかった。

「ゴトウ……か」

レポーターの言葉に一瞬ビクリとするが、その名前は『後藤』ではなく『五島』。
姿も似ているが決して『後藤』ではない。
あの凄惨な殺し合いから脱出して随分な時間が経っていた。
だが、殺し合いの中の出来事は上田の心に大きな影響を与えていた。

「……山田、あるいは、私の君への想いが明確ならば」

私はもう少し楽になれたのかもしれないな。

上田にとってはそう思うことが、何よりもむず痒かった。
性経験は、確かにない。
だが、恋は幾らでもしたことがある。
だのに、自身の気持ちすらも定かではない。
恋かどうかも。
友情かどうかも。
上田次郎にとっての山田奈緒子とはなんだったのか。
何もかもがわからない。
0622 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:09:15.95ID:Kyiok4kb
 



―――我々とは別の世界とその住人達を見知ってしまった者が――



もしも願いが叶うのなら。



――今後、それら悪魔たちと全くの無関係でいられるだろうか――



奇跡を可能とするのならば。



――別々の世界同士が触れ合うとき――



『神の力』が『人間』上田次郎にも手に入るのならば。



――日常が壊れ、平穏が失われるとき――



この半端な気持ちにも、決着がつくのかもしれない。



――それはいつかやってくる――




 
0624 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:10:47.50ID:Kyiok4kb
  




「……私は、君のことが」






――もしも、ではなく、きっと――






   上田次郎エピローグ


       『IF』


 
0625 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/03(木) 05:11:21.28ID:Kyiok4kb
投下終了です
こんな時間にたくさんの支援ありがとうございました
0626創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/03(木) 07:10:31.24ID:T5gAYw9M


もしも上田次郎が傍観者でなくなるのなら…
もしも奇跡を手に入れるのなら…
もしも…ではなくきっと…日常が壊れる日が来る
素晴らしいエピローグでした!
0627創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/03(木) 18:12:56.95ID:q79c4FoW
閣下の言い回しやら雰囲気が実にメガテンぽくてやべえよ
てか確かに
このロワを経てさえ傍観者に徹してきた上田が自ら動き事をなすのなら、いや、なそうとしている時点でそれは大きな変革か
投下おつでした
0628創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/03(木) 22:41:30.17ID:1vmi/Z3C
投下乙
このロワの上田は終始ギャグっぽかったけど、TRICKって時々すごいシリアス差し込んでくるから
「嫌な結果になるかも知れない」っていうこの空気は、TRICKの欝部分を思い出してドキドキする
0629創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/04(金) 00:10:01.12ID:XlzhxrJl
投下乙でしたー
出涸らしの茶w
参加者の生死に合わせて世界が変わる、異なる世界同士が繋がってしまう…
今もそして今後更に世界が大きく変わっていく、
巻き込まれる傍観者だった上田先生が今度は自身が引き金を起こしてしまうかもしれない
そんなIFの不穏な気配がイイ
0630創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/04(金) 17:18:20.44ID:fXOZ5l4k
茶のグレードが上がってくのにふいたw
きっと最後の茶の入れ物にはでっかく「最高級茶葉」と書いてあるに違いない!
0631創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 01:56:42.87ID:+O/SCTcp
ヒーローがゴトウとトールマンの蛮行を止められずICBMが落ち、トウキョウに悪魔が蔓延るのが「真・女神転生」の世界
ヒーローが2人を止め、平和を取り戻すのが「ペルソナ」「デビルサマナー」の世界、つまり「真・女神転生 if」の世界

もし、ヒーローが吉祥寺の高校生ではなく大学教授のおっさんだったら
もし、世界を魔界と繋げてしまった者が、自ら編み出した対抗策で戦いを決意したら
もし、ヒーローの仲間に人類史上最高の叡智が居たら
もし、悪魔召喚プログラムが、無差別にばら撒かれなかったら

世界はどうなるんだろうね
0632創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 10:51:09.14ID:r4w6EK4g
どうでもいいがスティーブン製悪魔召喚プログラムがバラ撒かれてるし
再び魔界と現世が接触することが暗示されてるから
ifは真・女神転生の世界とつながってるんじゃないか?
0634創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 23:10:41.24ID:+O/SCTcp
ペルソナでたまきちゃん(ifの女主人公)出てくるのとゴトウが逮捕されたってニュースが流れるからifには「もしも、東京にICBMが落ちなかったら」っていうペルソナ世界に分岐したって意味も込められてるとか無いとか
うろ覚えだわ
0638創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/12(土) 01:52:17.34ID:+eFcpzUB
そんな事言ったらどの世界も危ないんじゃないかw
平和で安全そうに見える龍騎最終回後の世界も、実は……だし
0640創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/18(金) 11:44:50.41ID:OtJ9AV1P
実はメガテン世界に起こった大破壊は米軍のICBMが原因などではなくて、
一人のアルター使いによって引き起こされたものだったのだ
0642創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/18(金) 13:29:26.53ID:X+TyAXM/
あの空間が特殊だっただけで、北岡がいつでもダン召還できるわけじゃないんじゃね?
0644創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 00:15:11.78ID:uwOuxDlY
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1385131196/
多ジャンルロワ語りやってるよ!
0645 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:09:28.17ID:iYuxyfCO
予約は行っていませんが、ゲリラ投下させていただきます

北岡秀一のエピローグです
0647蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:11:48.09ID:iYuxyfCO
 
法廷の一室。
北岡秀一は(あくまで自らの住居のものと比べて)簡易的な椅子に腰掛けていた。
そこで無体な表情のまま、パラリ、と新聞をめくると見飽きた記事が目に飛び込む。
殺人犯の神隠し。
数カ月前に脱獄した浅倉威、その居所を掴んだ機動隊。
発砲もやむ無し、というあまりにも異常な事態。
『そこに浅倉威が居る』
よほどの確信を持って踏み込んだ先。
そこは蛻の殻だった。
当然だ。

浅倉威はバトルロワイアル会場で死んだ浅倉に引きずられるように消えたのだから。

だが、北岡以外にその事実を知るものはこの世界に存在しない。
北岡だって、こんなこと言ったところで誰も信じやしないことはわかっている。
野放しの凶悪殺人犯に怯える市民には申し訳ないが、北岡は親しい人間以外に真実を口にするつもりはない。
世間的には浅倉が生きたまま、しかし、浅倉の被害に会うものは誰も居やしない。
それならそれで良い。

しかし、真実を知らない警察は別だ。
この失態を当然隠そうとする。
だが、人の口に戸は立てられない。
どこからか漏れた情報を元に、警察はここ数日大バッシングを受けていた。

「ゴローちゃん」
「はい、先生」

従うように由良吾郎は北岡の後方に立っていた。
話しかけなければ黙り込んだままだっただろう。
怯えているのではない。
ただ、吾郎がそうあるべきだと思ったから、そうしていただけだ。

「浅倉は、居なかったんだっけ」
「……はい」

五郎は咎められた子供のように肩を竦めた。
死の淵に立たされていた北岡。
もはやライダーバトルはおろか、歩くことすら出来ない身体。
その北岡が残した、浅倉との因縁。
警察に捕まる前に、北岡自身の手で決着をつける。
売られた勝負に北岡が勝てないまま終わるなど、そんなことは吾郎が許さない。
全ての勝負に勝ってこその北岡秀一だ。
だから、ゾルダに変身し、北岡秀一の代理として勝負へと向かった。
そこに、浅倉威の姿はなかったが。

「すいません、先生。勝手なことをしました」

北岡は軽く笑いながら、言葉を続ける。

「別に責めてるわけじゃないよ。
 さっきも話したとおり、別のところで終わっただけだからさ。
 浅倉との決着だってちゃんとつけた、そう、全部終わったんだ」
「……はい」
「吾郎ちゃんも、ありがとね。俺の代わり、だなんてさ」

 
0649蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:13:29.10ID:iYuxyfCO
 
全ては終わった。
浅倉との因縁も。
バトルロワイアルという殺し合いも。
そう、ライダーバトルという殺し合いも。

「……これもただの玩具か」

北岡は小箱――――ライダーデッキを鏡へと翳す。
本来ならばライダーベルトが鏡の中の北岡へと装着される。
そして、まるで鏡の世界こそが真実であるように現実の北岡にもベルトが装着される。
それこそが『仮面ライダー』へと変身するために必要な工程。
しかし、そうはならない。
当然のように、鏡は北岡の有りの侭の姿を写すだけだ。

「何が合ったんですか?」
「うーん……全然わかんない、と言いたいんだけど、本当はわかってる」

なんとなく、北岡自身は理解していた。
ライダーバトルの終わり。
ライダーとミラーモンスターが集めに集めた命の塊。
それが生む奇跡を争う殺し合い。
その終わりの引き金は、自分が引いたことを。

「多分、ライダーバトルの魔法が解けちまったんだろうね。
 神埼の掛けてた魔法が」
「魔法……ですか?」

狭間偉出夫は言った。
『バトルロワイアルと無関係だったはずの者達まで失踪――いや、死亡している』
すなわち。
『全てのミラーモンスターを従えたゾルダが、全てのミラーモンスターを失ったことで』
『ゴルドフェニックスの存在も消失し』
『TIME VENTのカードも消え去り』
『ライダーバトルは、本当に終わってしまった』のだ。

「今の俺は十二時を回ったシンデレラ、ってことさ」

それは『神崎優衣の死』を意味し。
『現実を否定した神崎士郎という精神体の終わり』を意味し。
『秋山蓮の恋人、小川恵里が二度と目を覚ますことがない事実』を意味する。
全ては終わった。
終わりは残酷だ。
良いことも、悪いことも。
終わりは、全てを確定させてしまう。
 
0652蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:15:26.58ID:iYuxyfCO
 
「ゴローちゃん、車、取ってきてよ」
「わかりました……先生」
「ん、なに?」

いつもならば唯々諾々と従う吾郎が、北岡へと言葉を投げかける。
大男の吾郎には似合わず、その言葉は少し震えていた。

「もう、どこにも行かないでくださいね。行く必要なんて、ないんですから」
「……わかってるよ、吾郎ちゃん。行ったでしょ、全部終わったって」

しかし、北岡の言葉に吾郎は納得しない。
どこか拗ねたように顔を歪ませる。
もっとも、それは長い付き合いである北岡にしかわからないほどに些細な変化だが。

「でも、先生は嘘をつきますから」
「まあね」

悪びれもせずに北岡は肯定する。
北岡は、時に意味もなく嘘をつく。
意味のない言葉を口にする。
それが楽しいからだ。
いつもの北岡であることを確信し、吾郎は少し微笑んだ

「……素敵です、先生」

そう言うと、吾郎は部屋から立ち去った。
落ち着いた動きで外へと向かった吾郎を見送った後。
北岡は腰を上げた。

「ごめんねぇ、吾郎ちゃん」

一人になりたかった、できるだけ長い時間。
変わるにしても、あまりにも急すぎる。
変化が大きすぎて、北岡自身どこかついていけていないのだ。

「ほら、俺って嘘つきだからさ」



   ◆   ◆   ◆


 
0654蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:17:21.60ID:iYuxyfCO
 
「……あー、なんか、慣れないなぁ」

空を見上げながら北岡は呟く。
そこに聳えるものはあまりにも眩しい太陽。
黒い太陽も、影の月も存在しない。
暗黒の支配者を連想させるものは、人の天には存在しなかった。
広がる蒼穹と輝く太陽。
そこに不安など生まれるはずはない。

「……秋山蓮、かぁ」

揺れる心の原因はその男のことだった。
別に深い交流があったわけではない。
ただ、チラリ、と新聞に見えたのだ。
『身元不明の自殺者の記事』が。
身体的特徴だけの乗った記事にすぎない。
しかし、それは秋山蓮を連想させるに、十分な――――

「秋山蓮は消えた……城戸と、浅倉は死んだ。
 神埼の奴は腹の奥で抱えていた願いも消えて、みんなみんな絶望の淵」

考えを打ち消すように呟く。
ただ、口にすることだけを目的に言葉を放ち続ける。

「参加者もスポンサーも主催者も放り投げたリングの上。
 バカには見えないベルトを掲げるチャンピオン。
 観客は意味がわからずに呆然とする。
 空っぽのチャンピオン、それが俺」

そこまで言って、プッ、と吹き出す。
前かがみになり、腹を抱えて笑い始める。
一度出た笑いは抑えきれない。
たっぷり三分は笑った後、目からこぼれた涙を拭う。

「あー、恥ずかし。中学生かっての」

自分の言葉が気恥ずかしくなって
そうだ、なんだか最近『らしくない』行動ばかり取ってしまう。
変わった、のだろう。

「変わった、かぁ」

果たして、それは良かったことなのだろうか。
病は消え、今までに抱えていた負の念は不思議と吹き飛んだ。
これこそが本当の北岡であるかのように、偽悪者と呼ばれかねないほどに。
妙な清々しさを当然のように覚えている。
ともすれば、妙な空白を覚えるほどに。
今までの『北岡秀一』を成り立たせていたどこか鬱屈したものがなくなった違和感。
優秀な自分、なのに、自分より長生きする愚図。
人生なんてそんなもんだとねじ曲がっていた。
どこかで、現実に対して卑屈な自分が居た。

「これが変わるっていうことかな」

爽快感と違和感が同時に襲い掛かってくる不思議な感覚。
恐らく、この感覚は時間が解決するだろう。
そして、この広がった場所にはまた別の感情が埋め尽くしてくれるはずだ。
 
0656蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:19:26.94ID:iYuxyfCO
 
「変身!……なんちゃって」

いつものポーズを鏡の前で行う。
恐らく、これももう行うことがない。
だが、それでいいのだ。

変わることもない、そうだ、無理やり変わろうと願うことはもうない。
自分の好きなように、好きな風に、好きな時に変わっていく。
未来は無限大だ。
なんでもできる自分なんだから、なんでもやればいい。
気持ちいいことも後味の悪いことも、いろんなことを贅沢に抱えて行ったらいい。
今の北岡秀一には、それが出来る。

欲望を肯定する、それが人生というものだ。
欲望こそが人の本質で、肯定こそが北岡秀一の本質だ。
病という鎖がなくなって、ようやく、北岡秀一が北岡秀一としてもう一度生きられる。

今の変化への喜びは一過性の感情に過ぎないのか。
スーパー弁護士として動きながら決めるだけだ。
とりあえず、当面は桃井玲子への機嫌取りだ。
立派な大人らしく、立派な恋愛に励んでみる、という腹づもりだ。

「さて、戻ろうかね……吾郎ちゃんも心配してるかもなぁ」

スタスタと元の部屋へと戻ろうとする。
足取りは軽い。
身体も心も、不自然なほどに。
生きる人間は生きる、死ぬ人間は死ぬ。
叶う願いは叶う、叶わない願いは叶わない。
馬鹿みたいに厳しすぎる現実だが、それと折り合いをつけることが生きるということだ。

秋山蓮は――――折り合いをつけられなかったのだろう。
そんな予感があった。
あれは、生きる理由を求める人間だ。
何か必要な物がないと生きていられない人間なのだ。
そんな人間は居る。
恐らく、由良吾郎もそんな人間だ。
北岡のように、『生きているから生きる』、なんて。
そんな生き方が出来ない人間だって存在する。
それを笑うことは出来ない。
あの『騎士』の最後を。
あの『侍』の最後を。

自分と違うから、なんて理由で笑うことは出来ない。

「そうだよな。
 五エ門、ジェレミア……俺は俺で、お前らはお前ら。
 きっと、それでいいんだよな」
 
0657蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:20:16.19ID:iYuxyfCO
 

天に広がる蒼穹。

ちっぽけな自分と、偉大な自分。

両方を感じながら、北岡は歩いて行く。

なんでも出来そうな気分だった。

そうだ、今なら、何でも。

自分を。

世界さえも。


――――変えられてしまいそうなほど。



 
0659蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:21:54.04ID:iYuxyfCO
 

























































北岡秀一が彼女との『二度目』の出会いが訪れたのはそんな時だった。
 
0661蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:23:34.01ID:iYuxyfCO
  
小柄な身体をさらに小さくした少女だった。
短い髪はうなじが見えるほどで、不釣り合いなほど大きなコートを着込んでいる。
一見して奇妙な少女。
北岡を訝しみながら、少し距離を取ろうとする。
あまり関わりあいになりたくないタイプだ。
だが、ちらりと上げた顔にグッと引き込まれる。
整った顔立ちをした少女だ。
現金なもので、少女へと近づいていく。
そして、おあつらえ向きに少女は大きなコートから小さな財布を落とした。

「ねえ、君。これ、落とした――――」

ここぞとばかりに俊敏な動きで財布を拾い、気付かずに通り過ぎていった少女へと声をかける。
余裕のあるところを演出しようとしているのか、ゆっくりと振り返ると。


恐らくたっぷり五メートルは離れているであろうと考えていた少女が。



――――すでに、自身の胸元へと迫っていた。


 
0666蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:28:10.16ID:iYuxyfCO
 
「――――よ?」

胸元に走る、鋭い痛みと激しい熱。
時間差で走る脳への鈍痛。
理解が追いつかない。
近似の記憶をたどる。
女性に抱きつかれた記憶は数えきれないほどある。
この痛みを、どこかで知っている。
しかし、その二つが結びつかない。
呆けた頭のまま、あまりの衝撃に後ずさろうとすると、追いかけるようにグリグリとねじ込んでいく。

『おいおい、そんなことしなくても女からは逃げないよ』

そんな軽口が思わず浮かんでしまう。
いや、実際に言葉にしようとした。
しかし、うまく言葉が口から出てこない。
そのまま、ズドンと倒れこむ。
北岡の身体の上に少女が馬乗りになった。

「……はあ、はあ!」

本来北岡が漏らすべき激しい息を、自らの上に居る相手が漏らす。
極度の興奮状態にあるようだ。
手には何も持っていない、ただ奇妙な赤いメイクが施されている。
持っていたものは――――武骨なまでに大きな『ナイフ』は。
北岡の胸に生えるように突き刺さっていた。

「……はあ!」
「………………………ああ、ああ、はいはい」

ようやく、北岡は少女の顔を思い出した。
そうだ、この少女は。

「ひ……ひと、ひとでな……!」

あの時、法廷で。
聴衆席に居た。

「この、ひとでなし!」


――――浅倉の被害者遺族の少女だ。


 
0668創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 02:28:45.51ID:4681DIvr
支援
0673蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:30:06.68ID:iYuxyfCO
 
「アンタが、あんたが弁護なんかするから……アイツは!」

北岡の優秀な頭脳はすぐに現状を把握した。
つまり、こういうことだ。

「黒を白にするって……なによ、それ……なによ、それ!」

浅倉は死刑になるはずだった。
しかし、北岡はそれを懲役十年にした。
だのに、浅倉は脱獄に成功した。
それでも警察は浅倉の所在を特定した。
と思ったら、浅倉は神隠しにあったように消えた。


「なんで、アイツだけが生きていいのよ! ねえ!」


つまり。


「おかしいでしょ!? 死んで当然でしょ!? なのになんで死なないの!?」


世間的にはまだ。


「全部!全部……!」


『浅倉威』という凶悪殺人者は。


「アンタが悪いのよ!」



――――生きているのだ。


  
0680蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:31:55.63ID:iYuxyfCO
 
「いろん、なこと……やろう、とか……やらなきゃ、とか……おも……た……ど……」

北岡は、なにかを諦めるように、笑みをこぼした。

「……これ、は……そー、ぞーして、なか……た……ぁ」

北岡は力なくつぶやいた。
懐かしい感覚が戻ってくる。
無力。
歩くことすら困難な状態。
生きることが、できなくなる感覚。
何もかもが消えていき、自分一人になっていく感覚。
淋しさ。
これが。


死。



薄笑いを浮かべながら、涙をこぼし続ける少女の後方を眺めながら。
広がる、広すぎる世界を眺めながら。
人に満ちた世界で。
一人ぼっちで。



――――狭間、あんまり、頑張らなくていいぞ……



蒼穹に、吸い込まれていった。




――――やっぱり、俺って約束は守れないヤツみたいだから、さ……。
0684蒼穹 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/21(月) 02:32:40.52ID:iYuxyfCO
投下終了です、支援ありがとうございました
0685創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 02:34:50.40ID:B790/XSB
ここで終わったああ!?
敢えて死亡表記も何もなくどうとでも捉えれるのが憎い
投下乙です
実に特撮過ぎるエピローグ……
変わった矢先にこれか。北岡が変わっても世間には分からないし、朝倉のことも知られてないからな……
自分の黒までは白にしきれなかったこれも因果か
タイトル時点で嫌な予感はしてたよ、うん
0686創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 02:56:40.03ID:aXGIpgkD
投下お疲れ様でしたー
浅倉の弁護を行ったのが北岡という過去、そして浅倉が世間的には未だ脱走中という扱いにされたことが重なった結果。
そんな考えがふとよぎっていたけどこれもまた一種の因果応報といえなくもない、それでもやっぱり突き刺さる
気になる蓮のことを五ェ門、ジェレミアの生き方と絡めたのもぐっとくる
0688創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/21(月) 07:14:13.43ID:bpAGK6Kg
投下乙
北岡さん…浅倉との決着が付こうが
不治の病が治ろうが大激戦を生き残ろうが
他の人には知った事じゃないもんな
剣を収めようとしていたジェレミアがいたように
復讐しなきゃいけないジェレミアもいたってのを失念してたな…
0689創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 00:24:04.93ID:CLkWXGL0
投下乙です
北岡先生……とてもらしい最後だけどやっぱり生きてほしかったし、焼き肉の約束も守ってほしかった
蓮も死んで、そして誰もいなくなったというところが実に龍騎のエピローグっぽい
0690創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 12:18:56.24ID:IeBADxfw
投下乙です。

世間一般の認識では、北岡は浅倉の唯一の味方だからな。

願いの為に戦った者は、その願いが良かれ悪しかれ、死ぬ。
悲しいけどこれが、龍騎の世界のルールなのよね。
0691名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 16:23:21.25ID:J/UoVONA
柏崎誠人は窃盗犯
0692創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 19:02:44.17ID:m2tlxY+/
投下乙
北岡先生…焼き肉一緒に食いに行こうって約束したじゃないですか…
あ、でも狭間がNのフィールドを行き来できる方法を完成させて
北岡先生にサマリカーム使ったらいいんじゃないか
0693創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 19:19:26.44ID:GRIIiTlH
いっそ北岡さんが転生して大人になるまで待ってから焼き肉食いに行くと言う
原作女神転生方針はどうだろう
0694創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/22(火) 23:23:45.29ID:YUChCtRB
投下乙です
北岡先生いいいいい、嘘だと言ってくれよ……
でもこのSS最後に北岡先生の生死が確定していないところが良い
0695 ◆EboujAWlRA
垢版 |
2014/04/24(木) 22:59:08.18ID:bHYt2Pfc
失礼します
今回のSSですが 終幕――誰も知らない物語 において

> バトルロワイアルに巻き込まれる直前の状況を思い返してみれば、北岡は不治の病に侵されてまともに歩く事も出来なかった。
> そんな中で北岡が姿を消した――それもゾルダのデッキと共に。
> そうなれば、吾郎は北岡を探すだろう。
> 必死になって、躍起になって、血眼になって探すだろう。
> 確かめるまでもない、由良吾郎はそういう男なのだ。

と書かれており本SSで矛盾してしまったので冒頭を修正させていただきました。
0698 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:13:20.85ID:XAVDP9qn
狭間偉出夫と柊つかさのエピローグを投下します。
0699新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:14:24.30ID:XAVDP9qn
 




「れ、レナ……!!」
「狭間さん?
 どうしたんですか?」
「きょ、今日は、ぼぼ、僕と、……!!」
「?」
「僕とっ……その……!」
「そう言えばこれから行きたい所があるんですけど、付き合ってもらえませんか?」
「?!?!!?!!!」

「お、狭間じゃーん。
 そんなとこで突っ立って何してんだ、顔赤いぞ。
 面白い事やってんなら、俺にも一枚噛ませろよなー」
「うっ、うるさっ……っみ……見るな蒼嶋ぁぁあああああアアアアアアア!!!!」





 絡み合った枝。
 新たに生まれた可能性。
 夢物語のような、しかし存在し得る世界の物語。
 ある青年が微睡むようにそれに思いを馳せ、一抹の羨望を抱きながら――静かに顔を上げる。


「あの殺し合いで、多くの者が命を落とした」


 うず高く積まれた瓦礫の山。
 破壊し尽くされたKMFの残骸達に腰掛けて、青年は呟く。
 KMFからは全てのパイロットが脱出しており、彼の声を聞く者は誰もいない。


「けれど死んでいった彼らの『選択』は、確かに僕らの『明日』に繋がっている」


 青年が空を仰ぎ見る。
 快晴。
 ただし照り付ける太陽は僅かに欠けていた。
 天空要塞ダモクレス――この星の人間の数割を消滅させ得る殺戮兵器が、太陽に廃棄されたのだ。
 太陽に飲み込まれていく黒い点を見届けながら、青年はなおも続ける。


「その『明日』が、誰かの不幸で終わる物語だなんて……それでいいわけないじゃないか」


 破壊音も、駆動音も、聞こえない。
 戦争は既に終結したようだ。
 もっとも、この後に何を選択するかは、この世界を生きる人々次第なのだが。


「だから――」


 青年は立ち上がる。
 次の世界へ。
0701新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:15:17.54ID:XAVDP9qn
 新しい扉を開ける為に。


「だから僕は、これからも頑張るよ――北岡」


 多くの犠牲を払い、一つのバトルロワイアルが幕を下ろした。
 だが殺し合いから生き延びた少年と少女の物語は、未だ終わらない。
 彼らが歩みを止め、呼吸を止め、眠りにつくその時まで――物語は紡がれ続ける。

 新たな可能性を得た世界で。
 彼らはそれぞれに、己の道を『選択』する。



 座標X。
 巨大な研究施設で、突然爆発が起きた。
 人的被害はなかったものの施設へのダメージは甚大。
 施設内部は怒号と悲鳴に包まれ、混乱の渦中にあった。

「開発途中のバースデイ、大破!!!
 計画への影響は目下計算中――」
「各員、被害の報告を!」
「同志の安全を確保しなさい!!
 同志を……!」





 それは宇宙のどん底にある、ケタ外れの吹き溜まり。
 この世の中でもとびきりに上等な屑共が集まった、野望と欲望の終着点。
 惑星エンドレス・イリュージョンは、そんな星だ。

「貴方は、兄さんとヴァンを知ってるんですか!?」
「僕の兄さんとヴァンさんを知ってるんですか!?」

 明るい橙色の髪を二つの三つ編みで結った少女、ウェンディ・ギャレット。
 隣りにいるのは元気のいい金髪の少年、ジョシュア・ラングレン。
 バトルロワイアルの参加者、ミハエル・ギャレットとレイ・ラングレンをそれぞれ兄に持つ二人である。
 ウェンディはカギ爪の男に拉致されたミハエルを探す為、ジョシュアはレイの復讐を止める為、ヴァンと共に旅をしていた。

「知っている。
 だが君達が求める情報は渡せない」

 寂れたバーの一角にて、その二人と一つのテーブルを挟んで向かい合い――黒髪の青年は首を横に振った。
 情報屋であるカルメン99を介してウェンディ達に接触を図ってきた青年だ。
 カルメンがセッティングしたこの店で会う事になった彼を、ウェンディは注意深く観察する。
 長く伸びた前髪を時折鬱陶しそうに払う彼は、ジョシュアやミハエルよりも年上、ヴァンやレイよりも下。
 髪で多少隠れているものの、人目を惹き付ける端整な顔立ちだ。
 服装は長く旅をしてきたという言葉通り土埃に汚れていたが、どの地域のものかは特定出来なかった。
 左腕に取り付けた無骨な機械もウェンディには見覚えがなく、用途は不明。
 敵意は感じないが一言で表すなら、変わった青年である。

 黒髪の青年は、ハザマイデオと名乗った。

「どういう意味ですか?
 知ってるのに言えないんですか?」
「『あの三人はいなくなった』と……『命を落とした』と言うだけで、君達は納得するのか?
 僕は彼らが亡くなったという証拠を提示出来ないんだ」
0702新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:15:50.58ID:XAVDP9qn
「そっ……そんな!!」

 座っていた椅子を倒す程の勢いで、ジョシュアが立ち上がる。
 歯を軋ませて睨むジョシュアに対してウェンディは平静を保とうとしていたが、衝撃は小さくない。
 それでも何か聞き出せないかと、話を続ける。

「『命を落とした』って確信出来るだけの情報を、貴方は持ってるんですか?」
「持っているが、渡すつもりはない。
 君達には悪いが対価の問題ではなく、どうしても渡せないんだ。
 期待には応えられない」

 ジョシュアと共に、ウェンディはハザマを強く睨む。
 知っていながら教えようとしないハザマに、怒りすら湧いた。
 忽然と姿を消したヴァン、全く現れなくなったレイ、目撃情報の入らなくなったミハエル。
 同時期に行方を眩ませたと思しき三人に関わる情報は、喉から手が出る程に欲しい。
 しかし睨み合い、怯んだのはウェンディとジョシュアの方だった。
 二人共、修羅場はそれなりに潜ってきたつもりでいた――しかしハザマには太刀打ちが出来ない。
 実力の問題だけではなく、「話さない」という彼の決意を破るのは不可能だと悟ってしまった。

「……それなら貴方は、どうして私達に会おうと思ったんですか?」

 ウェンディが押し殺すような声で尋ねる。
 ジョシュアも一旦落ち着いて席に着き、ハザマの回答を待った。
 確かにハザマはカルメンと接触した際に「ヴァン達の情報を持っている」、或いは「情報を売りたい」と言ったわけではない。
 「ヴァンとレイ・ラングレン、ミハエル・ギャレットに縁のある人物に会いたい」と話を持ち掛けてきただけなのだ。
 ウェンディもその事はカルメンから聞いており、過度な期待はするまいとしていた。
 しかしあの三人の名を知っているという事は――と、そう考えずにはいられなかったのだ。
 それに事実、彼は重要な情報を持っている。
 にも関わらず何も得るものがなかった事に、ウェンディは落胆を隠せなかった。

「伝えられる限りの事は伝えておこうと思ったんだ。
 それに僕の方から、君達に尋ねたい事がある」

 ウェンディはジョシュアと共に肩を落としながら、「何ですか」と続きを促す。
 諦めざるを得ない事は、少々空気の読めないジョシュアも察したようだった。
 露骨に気落ちするウェンディ達に気を遣ってか、ハザマはもう一度謝罪し、改めて問い掛けた。

「彼らが死んだと聞かされても、君達は旅を続けるのか?」





 狭間はカギ爪の男の施設を破壊した後、この二人に会うべきか随分悩んだ。
 しかし結局はヴァンと関わりのある情報屋に接触し、こうして話し合う場を設けている。
 ヴァンがカルメンの名を覚えていなかった為に、彼女に辿り着くだけで相当な時間と労力を払ってしまったのだが。

 実際に会ったウェンディとジョシュアは、案の定落胆していた。
 詳細を全て省かれ、ただ「死んだ」という事実だけを示されたのではこの反応も当然だ。
 しかし何が起きたのか、話したところで理解は得られないだろう。
 そしてそれ以前に、この世界の『外』の話を持ち込む事が、この世界に良い影響を与えるとは思えなかった。

 余計な干渉はすべきではないと思っている。
 施設を破壊したのも結果を先延ばしにする為であり、カギ爪の男の計画そのものを阻止する為ではなかった。

 蒼嶋の代わりに『レナ』が現れた狭間の世界とは違い、この世界にヴァン達の代わりは現れなかった。
 ヴァンとレイの不在により、ウェンディ達がカギ爪の男へ到達するのは遅くなる。
 逆にカギ爪の男達は同じくミハエルを失ったとは言え、すぐに代わりの人材を探し出すだろう。
 そうなれば、計画は止められない。
 「カギ爪の男を止める」という選択肢が失われる。
0704新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:16:48.03ID:XAVDP9qn
 だから狭間は時間を――選択肢作ったのだ。
 カギ爪の男を殺す事、それ自体は可能だが、それを『外』から来た狭間が実行しても意味がない。
 カギ爪の死という結果を押し付けるだけでは、カギ爪の男の計画と何ら代わりがない。
 どうするかは、彼女達自身が決めなければならないのだ。

「彼らが死んだと聞かされても、君達は旅を続けるのか?」

 故に狭間はこの問いへの答えが聞きたかった。
 V.V.を真似るわけではないが、彼らの『選択』を直接確かめたかった。


「「当たり前じゃない(ですか)!!!」」


 今度はウェンディも立ち上がり、二人で叫ぶように答える。
 エネルギーに満ちた二人の姿は、確かにヴァンやレイの記憶の中のそれと一致していた。

「貴方が教えてくれないなら、私達が直接確かめるしかないじゃない!
 何も分からないまま諦めるなんて、絶対に嫌よ!!」
「そうですよ!
 ヴァンさんも兄さんも、僕らが探しに行かないでどうするんですか!!」

 丁寧な口調をやめて捲し立てるウェンディに、ジョシュアが強い調子で同調する。
 ウェンディはミハエルの知る彼女よりも自立していて、自分の力で歩いていける力強さがある。
 ジョシュアはレイが認識していた通り優しすぎる、頼りない面を持ちながら、確固たる芯を持っている。
 狭間は彼らに情報を伏せている事を申し訳なく思いながら、同時に安堵した。
 彼らならカギ爪の男へと辿り着き、そこで改めて『選択』をするのだろう。

「……ありがとう。
 その答えが聞けて良かったよ」

 情報料として相場よりも多めの代金を支払い、狭間は店を後にした。
 向かいの店のショーウィンドウに自らの姿を映し、左腕に取り付けた機械――改造したアームターミナルを操作する。
 店は町外れに位置していた為人通りはなく、他人の視線を気にする必要はない。
 次第にガラス全体が絵の具を混ぜ合わせたような色に変化し、映り込んだ狭間の姿が歪んでいく。

 nのフィールドの研究はまだまだ途中で、ここからどの世界に繋がるのかは狭間にも分かっていない。
 ただ様々な世界を巡るうちに、各世界によって時間の進み方が違う事を知った。
 まだ再会していない仲間は狭間よりもずっと年齢を重ねているかも知れないし、あの頃から変わっていないかも知れない。
 ただ再会の時を待ち、狭間はランダムに世界を回る――それでも、恐怖はなかった。
 “きっと”会えると約束している。 
 例え年齢の差が開こうと、約束は薄れないと信じている。

 人は出会い、別れ、また出会う。
 自分の知らないところでも、その出会いは無数に繰り返される。
 それが時に友情となり、時に戦いとなり、時に絆となって、生きるということを形作っていく。
 互いに生きてさえいれば、再会の時は必ず訪れるのだ。

「行こう、ホーリエ」

 旅立ちを決意した時から変わらない思いを胸に。
 瞬く人工精霊に先導され、狭間はnのフィールドへと消えた。



 199X年。
 狭間が魔神皇となった年であり、軽子坂高校に帰還した年でもある。

 バトルロワイアルからの生還と、新しい生の始まり。
0705新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:17:23.24ID:XAVDP9qn
 全てを覚悟して歩き出した狭間を待ち受けていたのは、イジメではなかった。

『偉出夫君、元気?』
「ああ」
『電話越しでも、嘘は分かるよ』
「……健康だよ」
『レナはそういう話はしていないかな、かな』

 誰も狭間をイジメようとはしなかった。
 「誰もが狭間に怯え、近付こうとはしなかった」。

 犠牲者・行方不明者が出た事で学校関係者は皆事情聴取を受けたが、誰も何も言わなかった。
 「言っても信じて貰えないから」ではなく、狭間による報復を恐れたのだ。
 狭間が何をしたのかは分からなくても、得体の知れない何かを持っている事を誰もが思い知った。
 故に狭間の機嫌を損ねないようにと、皆が一様に口を閉ざす。
 黒井慎二や宮本明といった剛胆な者達も面倒事を避け、何も知らない風を装い。
 唯一白川由美という責任感のある生徒は真実を口にしたが、やはり信じる者はいなかった。

 そして狭間もレナもレイコも、悪魔の存在を公にする事は出来ず。
 警察は狭間の態度や由美の証言から狭間が元凶、或いは元凶の一端であると目星を付けたものの、捜査は進展しなかった。
 狭間の父親も聴取に呼び出され、ただ狭間と父親との距離を一層広げるだけの結果に終わった。

 その後、全てが有耶無耶なまま日常に戻りはした。
 しかし狭間の側からアプローチをしても、周りの人間は皆、話を聞く前に逃げていく。
 狭間を恐れない慎二や明、由美とは少しずつ交流を重ねているが、親しく出来ているとは言えなかった。
 「話してみたら案外良い奴だった」などという話は、殺人鬼には適用されないのだ。

 周囲との仲立ちを申し出てくれたレナとレイコの厚意も、丁重に断った。
 イタズラをした、程度の話ではない。
 「もう反省しているから許してあげて」と誰かが庇ったところで、大きな流れは変えられない。
 それどころか庇おうとした彼女達まで、同じく煙たがられる事になるだろう。
 故にこうして自宅で通話する時以外は、レナ達とは関わらないようにしている。

 イジメも報復もなく、誰もが狭間を視界に入れまいとしていた。
 ただ一度だけ、女生徒から石を投げ付けられた事がある。
 あの一件で親しい友人を亡くした人物だと、狭間は記憶していた。
 狭間が避けなかった石は目に当たった。
 狭間は当たった石が落ちていくのを黙って見送り、「すまない」と改めて頭を下げた。
 だが石を眼球に受けながら痛がる素振りも見せず、平然としている狭間の姿は異様に映ったようで。
 女生徒は悲鳴を上げて逃げていき、以降接触してくる事はなかった。

 要は、結局。
 新たな生を歩み出した狭間偉出夫は、何も変えられなかった。
 世界が変革されても、周囲の環境に対しては相変わらず無力な少年のままだった。
 「話を聞いてくれる人間なんて幾らでもいる」という蒼嶋の言葉はとても遠く。
 劇的な変化も和解も訪れず、現実はただ厳しい。
 季節が巡り、進級してクラスが変わっても、学校全体に伝搬した畏怖はいつまでも払拭されずに残っている。

「こうしてレナ達と話せるだけで、僕には充分だよ。
 初めから何もかも上手くいくとは思っていない」
『……うん……難しいね。
 レナは「このままじゃいけないからもっと頑張ろう」なんて、言わないよ。
 無理をしても、きっと苦しいだけだから』

 頑なになった皆の心は溶かせない。
 皆との間にある断絶を埋める方法は、レナにも見い出せなかったのだ。
 電話の子機を握り締めたまま、狭間は電気の消えた自室の隅に座り込む。
 小さな窓に区切られた夜空は、酷く狭い。
0707新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:17:59.01ID:XAVDP9qn
『……偉出夫君はあれから、気が変わった?
 進学はする?』

 軽子坂高校はごく平均的な私学である。
 エスカレーター式に同系列の大学に進学出来る為、熱心に受験勉強に励む生徒は多くない。
 レナもそのつもりでいる――ただし狭間が外の大学に行くのなら、同じ大学を目指すと言ってくれた。
 しかし狭間は、既に己の進路を決めている。

「変わってないよ、進学はしない。
 一度、この世界を出ようと思う」

 金糸雀から預けられた人工精霊・ホーリエと協力し、狭間は寝食を惜しんでnのフィールドの研究に励んでいた。
 目指すのは、レナとレイコが使っていたアームターミナルをベースにしたシステムの構築。
 高校を卒業する頃には完成する予定だ。

「出来ればこの世界に留まりたい。
 僕はこの世界で何も償えていないし、向き合えてすらいないから。
 だけど――」

 立ち上がり、窓を開けて身を乗り出す。
 住宅街に侵食された夜空はやはり狭かったが、先程までよりはずっと広い。
 生ぬるい風が狭間の頬を撫でていった。

「僕はもっと沢山の世界を見て、沢山の人に会った方がいい。
 今まで見ようとしてこなかった分も、見に行きたい。
 後の人生をどうやって生きていくかは、それから決めようと思う」

 欲しいものが何も手に入らないと言いながら。
 求めて伸ばした手を拒絶されるのが怖くて独り、耳を塞いで目を閉じていた。
 けれどこれからは、自分で道を選ぶ力が、自分で選んだ道を歩いていく力が欲しい。

「その中で、出来る事をやっていくよ。
 他の世界への干渉が良い事なのか、そんな事が出来るのかは分からないけど……そのままにしておきたくはないんだ」

 バトルロワイアルによって多くの世界が歪められた。
 世界の在り方にすら影響するような者達も、大勢命を落とした。
 狭間はその歪みを少しでも減らそうとしているのだ。

『それが偉出夫君の償いなの?』
「いや……単に、僕が嫌なだけだ」

 部外者、赤の他人である狭間が恣意的にその世界の流れに関わる。
 そうして狭間が投じた一石がその世界にどこまでの影響を及ぼすのか、狭間の頭脳をもってしても計算し切れない。
 しかし死んでいった六十一人が生きていれば起きなかったはずの、止められていたはずの悲劇がまかり通るのが嫌だった。
 身勝手で、ただの我儘だと分かっていても。
 自分に出来る事があるならやりたいと思う。

「償いは、この世界に帰ってきてから。
 報いを、受けるよ」

 狭間に殺された人がいる。
 狭間のせいで不幸になった人がいる。
 その人々を差し置いて、狭間が幸せになる事は出来ない。
 狭間偉出夫が仇を焼き殺したように、狭間偉出夫もいずれ誰かに焼き殺されるのだろう。

『因果応報?』
「……そうだよ」
『偉出夫君はそれを、柊さんに対しても言える?』
「………………」
0710新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:19:34.01ID:XAVDP9qn
 鋭く斬り込むようなレナの言葉に、狭間は数秒間沈黙する。
 そして、「言えない」と。
 電話の向こうにかろうじて聞こえるだけの声で答える。

「柊には……幸せでいて欲しい」
『偉出夫君は、人殺しに優劣をつけるの?』

 人を殺した、人を不幸にした自分は幸せになるべきではない。
 だが同じく人を殺した、人を不幸にした柊つかさは、幸せの中にいて欲しい。
 狭間の殺人は悪で、つかさの殺人は善。
 そう言っているようなものだ。

「……そう、だ。
 僕は優劣をつける。
 柊には、選択肢がなかったから」

 つかさの殺人。
 一度目は催眠状態にあった。
 そしてその後提示された選択肢が「殺せ、それが出来ないなら仲間共々死ね」。
 北岡や仲間と生き残る為に「殺す」と選択した結果が「因果応報で不幸になる」では。
 つかさが幸せになる選択肢など、初めから存在しなかった事になる。
 バトルロワイアルに巻き込まれた時点で、つかさは不幸になるしかなかった事になる。

「そんなの、理不尽じゃないか……」

 狭間偉出夫は我儘だった、子供だった。
 自分をイジメる皆が悪いんだと僻み、孤立していた。
 八つ当たりで周囲を傷付けて、自分が被害者のような顔をしていた。
 そんな狭間とつかさが同じ「人殺し」という言葉で括られてしまうのが、苦しい。

「僕と柊を、一緒にされたくない。
 因果応報の報いを受けるのは、僕だけであって欲しいよ。
 僕は……皆を想って、皆といられるだけで、充分だから」
『……そう』

 レナは納得したようだった。
 しかし話がそこで終わっていないような気配を感じ、狭間は黙ってレナの言葉を待った。

『ごめんね、責めたかったわけじゃないの。
 私も、柊さんが幸せになってくれたらいいなって思ってるから。
 悪い事は悪い事としてね』
「そうか……」
『だけど偉出夫君の考え方とは少し違うかな、かな』

 優しい声で語るレナは、狭間を肯定しようとしているのか否定しようとしているのか。
 狭間はレナの真意を掴もうとして僅かに緊張し、子機を握る手を強ばらせた。

『偉出夫君は悪い事をした分だけ、自分に返ってくるって思ってるんだよね』
「……思っているよ」
『でも因果応報にはもう一つ意味があるって、偉出夫君も知ってるよね。
 私より頭がいいんだもん』
「それは……」

 知っている。
 ただ、考えないようにしている。
 自分にそんな資格はないだろうと、思うから。

『因果応報はね。
 善い事をしたら、その分だけ善い事が返ってくるんだよ。
 だって返ってくるのが“いや”な事ばっかりだったら、皆疲れちゃうもの』
0718新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:25:22.18ID:XAVDP9qn
 
 善い事なんて、出来ていない。
 バトルロワイアルで皆と協力するようになった頃には、既に大勢の犠牲者が出ていた。
 結局生存者は自分を含めてたったの四人、しかもつかさに新しい罪を背負わせてしまった。
 この世界に帰還してからも、何も出来ていない。
 そして仮に善い事を重ねていたとしても、狭間の重ねた悪事が帳消しになるわけではない。

 狭間はレナの言葉を素直に受け止められずにいた。
 だが当のレナは、それで構わないとでも言いたげに続ける。

『レナもね、頑張った分だけ報われたらいいなって思うの。
 世の中はそんなに単純に出来てないって、知ってるけど。
 それでも頑張った人達が幸せになれないなんて、嫌だよ』

 有無を言わせない強い口調だった。
 結局狭間はレナの言う事を否定出来ないままに、耳を傾ける。

『偉出夫君も、柊さんも、北岡さんも、上田さんも。
 皆、幸せになって欲しい。
 だって皆、頑張ったんだもの』

 狭間の為に、出会った事のない者達の為に、レナは祈るように。
 願うように、言う。

『これから“いや”な事は沢山あるよ。
 悪い事をした分だけ……もしかしたらそれ以上に沢山、“いや”な事も苦しい事もあると思う。
 けどそれとは別に、善い事だってきっと沢山あるんだよ』

 そんな資格はないと、自分に言い聞かせようとしても。
 レナの言葉は心に染み込んでくる。
 上手くいかない毎日に冷え始めていた心が、じんわりと温まっていく。

『それにね。
 善い事をしても悪い事をしても、転ぶ時は転ぶよ。
 だからいつ転んでもいいように、毎日を一生懸命過ごすのが正解だと思う』

 今、この電話の先にいる『レナ』は、竜宮レナではない。
 雛見沢を知らない、前原圭一も園崎魅音も詩音も北条沙都子も悟史も古手梨花も知らない。
 けれどどこかで、雛見沢の竜宮レナに繋がっていて。
 狭間偉出夫と心を通わせた竜宮レナに、繋がっていて。

『だから偉出夫君。
 自分を、信じて』

 甘えたくなるような優しい声のまま、レナは締め括る。



『頑張って』



――僕は、なにを頑張ればいいんだ……レナ。



 あの時は彼女の言葉が、信頼が、ただただ重くて。
 苦しくて、動けなくなってしまった。
 潰されてしまいそうだった。
 けれど今なら、受け止められる。
0721新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:26:16.00ID:XAVDP9qn
 

「……ありがとうレナ。
 僕の背中を、押してくれて」


 ちっぽけな自分。
 けれどそのちっぽけな自分の幸せを願ってくれる人がいるから。
 願ってくれる人が、いたから。



「僕は、頑張れるよ」



 それから少しの間だけ学生らしい雑談をして、狭間は電話を切った。
 冷たさを帯びてきた風を遮るように窓を閉める。
 そして無言になった子機を置き、深呼吸する。
 息を大きく吸って、吐いて。
 狭間は先送りにしていた一つの事案を、今日終わらせる事にした。

 向かったのは、広い家の中でも数える程しか訪れた事のない部屋だ。
 自然と緊張して、足音を忍ばせてしまう。
 決意してもなお自分の家とは思えない、踏み入れてはならない場所のように思えた。

 狭間はその部屋の前に着くと、もう一度深呼吸した。
 震えそうになる手で拳を作り、静かにノックをする。

「父さん」

 父の書斎で、狭間は父と対峙した。
 机に向かう父は顔を上げる事はなく、狭間もそれで構わないと話を続ける。

「僕は高校を卒業したら、この家を出るよ」

 一人でどうやって生きていくのか、当てはあるのか――父は何も聞こうとしなかった。
 父は既に、狭間が常識の範疇を超えた力を持っている事を知っている。
 この父にとって狭間は、既に己の息子というよりも得体の知れない化け物と呼んだ方が近いのだろう。
 元より狭間への愛の薄かった父は、狭間の宣言を聞いても動揺の色を見せなかった。
 小さな声で「好きにしろ」と言う。

 狭間も父の反応に、驚きはなかった。
 今になって引き留められるとも思っていなかった。
 それでもわざわざ直接訪ねたのは、言うべき事があったからだ。

「父さん」

 愛が欲しかった。
 愛をくれなかった。
 狭間の家が嫌だった。
 けれど衣食住に困った事はない。

 この父が親としての最低限の事をしていたかどうかは、見る人によって判断が分かれるかも知れない。
 だが狭間は確かに、この父の庇護下にあった。

「今まで育ててくれて、ありがとう」

 返事はなかった。
 狭間はそれ以上返事を待たず、書斎を後にする。
0727新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:29:17.10ID:XAVDP9qn
 


 数ヶ月後、狭間は宣言通り狭間の家を発った。
 より正確にはこの世界を、だが。
 長い旅は、狭間の体感時間で数年を経た今も続いている。
 出会いと別れを繰り返しながら、狭間は今日も新しい扉を開いた。







「奈緒子、食器の使い方が間違っている。
 一応この店には格式というものが……」
「けど、これでも食べられますよ?」
「そういう話ではない!」

「いいじゃないですか、ジェレミア卿。
 折角三人で集まったんですから」
「む、アイゼル……君がそう言うなら。
 今日ぐらいは、目を瞑ろう」

「不味い!!
 ジェレミアさん、これタッパーで持って帰っていいですか!?」
「…………」
「…………奈緒子、やはり君に話がある」

「奈緒子は仕方がないわね……あら?」
「どうした、アイゼル」
「今、窓の外をやけに速いクルマが通ったような……」





「速さは全てを凌駕する!!!
 速さとはこの世の理であり人間の文化そのもの!
 最高の速さで隣りに可愛い女性を乗せた俺は今、これ以上なく文化的っ!!!
 そうは思いませんかさがみさぁぁぁぁぁぁあああん!!!!」
「さがみでいい……いいから、もう、おろして……」
「えっ!!?
 聞こえませんよさがみさんもっと大きな声で、そうでなければ最速の俺には届かっ、ない!!!」
「勘弁して……死んじゃう……」

「……おや?
 今のは――……可愛い女性とショッピングとは羨ましいけしからん、だが今の俺にはさがみさんがいる!!
 その程度の破廉恥ではこの俺の速さを、止められないッ!!!」
「助けてつかさぁ――――ッ!!!」





「うん、いいじゃない。
 似合ってるよ」
「ホントですか?」
「うむ、可憐だ」
「おでれーた、嬢ちゃんも飾ると大人っぽく見えるもんだなぁ」
0729新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
垢版 |
2014/05/16(金) 23:30:00.03ID:XAVDP9qn
「人前では喋るなと言っているであろう、デルフリンガー」
「へいへい」

「まぁたまにはいいんじゃないの、別に誰も見てないでしょ。
 それよりつかさちゃん、こっちのピンクもどう?」
「い、いいです!!
 もう沢山買ってもらってるのにこれ以上……!」
「いいのいいの、ここから先は五ェ門持ちだから」
「…………」
「……冗談なんだから、そういう目で睨まないでちょーだいね」

「えへへ……嬉しいです。
 皆で、こうしていられて」
「つかさちゃんは、もうちょっと欲張ってもいいんじゃない?」
「いいえ、いいんです。
 皆と一緒が、一番幸せです」





「私の大好きな人達は、『遠く』に行っちゃったけど」

 宿舎の窓際で女性が一人。
 夕焼け空を眺めながら、ぽつりぽつりと言葉を漏らす。

「でもあの人達と良く似た人達が、遠いどこかで幸せにしていてくれたら。
 それはすっごく幸せな事だなって、思うの」

 それを横で聞いていた友人達からは「貴女の言う事は、時々良く分からない」とからかわれた。
 少しだけ寂しさを感じながら、その女性はおどけて返す。

「そうだね、私にも分からないや」

 自在法は発動せず、『存在』の力は消えずに残った。
 絡まり合った世界樹の枝のどこかで、今日も新たな可能性が芽吹いて廻り続けている。
 だから『遠く』で生きる彼らが、どうか幸せでありますようにと。
 何年も前の出会いを昨日の事のように思い出しながら――柊つかさは願う。

「…………あ、勉強しなきゃ」

 太陽が山の端に隠れてしまい、随分長く物思いに耽っていた事に気付く。
 つかさは慌てて六法全書を片手に立ち上がった。

 今のつかさは、司法修習生。
 弁護士の資格を得る過程にある、弁護士の卵である。

――私、弁護士になりたいんです。

 高校の進路相談の日、つかさは一つの『選択』をした。
 確かな意思に支えられた夢だった。
 しかしそれは、すんなりと選べたわけではなく。
 決意するまでに、元の世界に帰還してから相応の時間を要した。



 バトルロワイアルから生還して暫くの間、つかさは眠れない夜を過ごした。
 自分が体験した悲しみ、恐怖。
 無意識の海で垣間見た狂気、苦痛。
 自分と他人の記憶の境が曖昧になる瞬間への不安。
0732創る名無しに見る名無し
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2014/05/16(金) 23:30:57.44ID:7EnCMZeC
 
0735新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:31:47.11ID:XAVDP9qn
 眠ろうとすると沸き上がってくる負の感情に、苛まれていた。

 自分に撃たれる夢を見る事もあった。
 そして目が覚めてからそれが夢ではなく、ルルーシュの、浅倉の、シャドームーンの記憶だったのだと気付く。
 首筋と腕に残った痣が締め付けてくるようで、痛かった。

 またつかさの耳に入るニュースが、恐怖や不安を更に煽り立てた。
 ひき肉殺人、怪盗一味と少年探偵団の追走劇、富士山での新鉱物の発見――以前は聞かなかった種類の事件が増えたのだ。
 つかさがそれまで知らなかっただけなのか、世界が混ざり合った結果なのか。
 明日、世界がどうなっているか分からない。
 かがみやこなた達の喪失に留まらず、いつか学校での日常まで脅かされるのではないかと。
 重い足取りで通学し、家族にも友達にも作り笑いをし、押し潰されそうな夜を過ごす。
 「このままではいけない」と思うようになるまでに、時間は掛からなかった。
 こんな姿は死んでしまった者達にも、再会を約束した者達にも見せられない。

 今を変える為に、まずつかさは荷物の整理を始めた。
 こなたの水着をはじめとした遺品をそれぞれ娘を捜す親達に引き渡し、可能な限り彼らと向き合った。
 デルフリンガーの残骸は父と面識のある刀鍛冶に頼み、小刀に打ち直してもらった。
 アイゼルのレシピや支給された名簿はコピーして、原本は引き出しの中へ。
 ジェレミアの仮面は机の上に置き、埃が溜まらないよう時々乾いた布で磨いている。
 デイパックはほつれた箇所を縫い合わせ、いつでも見えるよう机の脇に提げておく事にした。

 荷物の整理がつくと、少しだけ心に余裕が出来た。
 相変わらず明日の世界は分からない。
 だが未来が見えないのは今までと同じ、当たり前の事だ。
 病気が、事故が、人の悪意が――或いは『報い』が、いつ牙を剥くか分かる者はいない。
 世界樹がどうあろうと、結局は今日を精一杯生きていくしかないのだ。
 これは開き直りなのかも知れないが、前に進む背を押してくれる開き直りだった。

 そうして落ち着きを取り戻した頃、つかさは真っ白なノートを開いた。
 濃密過ぎる、二日に満たないあの時間を、出来る限り詳細に書き記しそうと思ったのだ。
 美化してしまう前に、風化してしまう前に。
 そして読み返す度に、心に刻み付ける。


 ありがとう。
 ごめんなさい。
 そして――



「今日も一日、頑張ります!」



 眠れない夜は少しずつ減っていった。
 進路も大いに迷った末にだが、自分で決める事が出来た。
 弁護士。
 家族も担任も、初めはやんわりとつかさに夢を諦めさせようとした。
 元々勉強が苦手なつかさには酷な道のりだと。
 それに――かがみの代わりになろうとしなくて良いと。
 皆でつかさに気を遣ってくれた。

 だが双子の妹の代わりになりたかったのではない。
 意識はしていたが、違う。
 つかさは、北岡のような弁護士になりたかったのだ。

 真司や浅倉、東条の記憶を辿ると、北岡の風評は手放しに褒められるものではなかったのだろうと思う。
 しかしつかさと共に生き抜いた北岡は。
 強大な敵に立ち向かっていった北岡は。
0737新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:33:01.19ID:XAVDP9qn
 確かに英雄で、弱者の味方だった。
 つかさはその姿に、憧れた。

 調理師になる為の学校に進学する。
 北岡の秘書になる為に役に立ちそうな資格を取る。
 錬金術士としてアイゼルのレシピの研究を独学で進める。
 そうした沢山の選択肢がある中で、つかさは北岡の背を追い掛ける道を選んだ。
 大勢の人に優しくされた。
 守られた。
 それを周りの人達に返すにはどうしたらいいかと、自分なりに考えた結果だった。 

 幸い、勉強に対する苦手意識は克服出来ていた。
 無意識の海で他者の知識や記憶を得た為なのか、姿勢が前向きになった為なのかははっきりしない。
 しかし一日が二十四時間では足りないと思える程に充実していて、居眠り癖もなくなっていた。
 弁護士という夢は、簡単ではなくても不可能ではない。
 つかさの必死の説得に、最終的には皆が納得して応援してくれた。

 毎日寝る暇を惜しんで勉強をして。
 時折レシピをアレンジしたシチューを作って。
 友達と楽しい時間を過ごして。
 日々が目まぐるしく過ぎていった先に、今の柊つかさがいる。
 夢の実現まで、あと一歩だ。



 あれから、もう何年も過ぎた。
 人の記憶は儚いもので、毎日想い続けていても、あの時出会った人々の顔や声は朧げになってしまっている。
 それでも優しくしてくれた、想ってくれた人々への気持ちは変わらない。
 そして交わした約束も覚えている。
 ずっと待ち続けている。

「……。……?」

 ノートに走らせていたペンを止める。
 つかさの目の前で人工精霊がチラチラと明滅し、何かを知らせようとしていた。

「スィドリームちゃん、どうしたの?」

 スィドリームが部屋の内側から窓をコツンコツンと叩く。
 つかさが窓を開けてやると、スィドリームは外へ飛び出していった。
 そしてつかさを急かすように、明滅しながら忙しなく動き回っている。

「もしかして……」

 慌てて寝間着同然の格好の上からジャケットを羽織り、靴を履いて外へ出る。
 スィドリームはつかさを待っていたようで、空中を滑るように移動し始めた。
 つかさはそれを夢中で追い掛ける。

 陽は既に落ちていた。
 宿舎の周囲は自然や民家が多く、今の時間帯は人通りが少ない。
 街灯の明るさを頼りに、つかさはスィドリームを追う。
 運動音痴は相変わらず、どころか年齢を重ねて余計に鈍くなったようにすら思えた。
 時々足をもつれさせながら、転びそうになりながら、つかさは息を切らして走る。

 スィドリームはある店舗の前で止まった。
 既に閉店しているが、大きな窓にはつかさの全身が映った。
 そして映り込んだ景色の色が溶け合って歪んでいく。
 息を整えて、胸を張って、つかさはその時を迎えた。
0742新世界交響曲 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:34:17.43ID:XAVDP9qn
 


 お久しぶりです。
 お元気でしたか、私は元気です。
 私、今は弁護士を目指してるんです。
 そちらは如何ですか?

 幾つ言葉を並べても、足りない。
 一番伝えたい気持ちに届かない。
 何年も待っていたはずなのに、喜びよりも緊張が勝ってしまっている。

 つかさは自分の頬をつねってほぐし、息を大きく吸い込んで。
 笑って、自分の思いの丈を伝える。






「私は今、幸せです」







 この先に、報いがあるとしても。
 世界が変わってしまったとしても。
 この瞬間の幸福は、決して失われない。







 笑い合う声は夜空に、吸い込まれていった。
0744 ◆Wv2FAxNIf.
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2014/05/16(金) 23:34:59.91ID:XAVDP9qn
投下終了です。
御支援ありがとうございました。
0746創る名無しに見る名無し
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2014/05/16(金) 23:39:56.74ID:qfFxLVip
投下乙です、
生き残った全ての魂に、遠い因果の果てに生きている魂に、
眠りについた全ての魂に、祝福あれ
0747創る名無しに見る名無し
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2014/05/16(金) 23:52:00.29ID:ehIt0myc
エピローグ投下お疲れ様でした
狭間の選択とレナの言葉といい、文章のひとつひとつに目頭が熱くなる…
0748創る名無しに見る名無し
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2014/05/17(土) 19:58:40.36ID:vVS809Bz
投下乙です。

つかさは事件に整理をつけ、明日に向かう今日の一歩を踏み出し、狭間は整理中か。
0749創る名無しに見る名無し
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2014/05/17(土) 23:25:55.00ID:dJ3DAfsV
過去をなかったことにはできない。戻ってからもすんなり行くわけでもない、
それでも死や不幸といった悲劇をいやだと思う個人的な感情であの道を選んだのがすごくいいと思う
「いつ転んでもいいように〜」のレナの言葉のなんと励みになることか
ニュースの内容にはニヤリとさせられたw
幸福も不幸もいつふりかかってくるか読めないけど、その「見えない未来」を精一杯生きようとする彼らに幸あれ

読み続けていて本当に色々と励みになりました、ありがとう多ジャンルロワ
0750創る名無しに見る名無し
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2014/05/22(木) 23:47:25.45ID:piDcFpwL
ttp://www44.atwiki.jp/tarowa/pages/548.html
完結祝い絵を投下、エピローグ投下お疲れ様でした&改めて完結おめでとうございます!
0754創る名無しに見る名無し
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2015/04/01(水) 12:48:56.28ID:21PWGtFR
上田先生、乙!
4月1日はあなたのお陰で退屈しませんでした
0755創る名無しに見る名無し
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2015/04/01(水) 17:35:58.16ID:uocmDEo9
流石に今年はないだろうなと思ってたのに・・・・・・
上田先生、ありがとうございました!
0757創る名無しに見る名無し
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2016/07/01(金) 01:15:55.38ID:y3xO8Bd7
支援
0758創る名無しに見る名無し
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2017/12/27(水) 10:53:06.84ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

TRV6P0QE1C
0759創る名無しに見る名無し
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2018/02/09(金) 13:12:44.66ID:2//NlYXr
アホカ
0760創る名無しに見る名無し
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2018/05/21(月) 06:23:12.62ID:tRZnwP6O
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

THNT6
0761創る名無しに見る名無し
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2018/07/03(火) 21:23:29.91ID:f1dClnnX
T43
0762創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/17(水) 15:58:02.08ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

RDM
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