日の丸背負う三菱重工の“没落”と経産省失敗の本質
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■期待の火力発電事業でもトラブル続きで泣きっ面にハチ
 タイミングの悪いことに、現在、三菱重工は日立製作所との間に大きなトラブルを抱えている。
 両社がそれぞれの火力発電事業部門を統合し、三菱日立パワーシステムズを設立したのは14年のことだ。
 両社にとって、火力発電事業は屋台骨とも言える重要な事業だ。しかし、世界の競争は厳しさを増している。
 そこで、統合によって、世界の2強、GEとシーメンスに対抗できる勢力を目指したのだ。

 ところが、統合前に日立が受注していた南アフリカの火力発電プラント建設で工事の遅延が発生した。
 アメリカで東芝の子会社が、原発建設の遅れから大規模な損失を出して、破たんに追い込まれたのは
 つい最近のことだが、これと似たことが起きているわけだ。

 そして、これによって発生する巨額の損失の負担をめぐり、日立と三菱の間で折り合いがつかず、
 三菱は損失額7634億円全額の支払いを日立に求めて、17年7月末に日本商事仲裁協会に仲裁を申し立てている。

 ここまで泥沼化し、仲裁申し立てまでしなければならないということは、三菱が負ける可能性もあるということだ。
 そうなれば、出資比率(65%)に応じた損失が生じ、その額は5000億円規模になってしまう。

 ということは、MRJ、そして南アフリカの発電プラントでの損失見込みを合わせると1兆円を超えてしまうかもしれない。
 三菱重工の自己資本は2兆円と厚いので、1兆円の損失で即経営危機とはならないが、
 少なくとも、経営にイエローランプが灯ったと警戒すべき段階だと言ってよいだろう。

■今後の火力発電の見通しは真っ暗
 南アフリカの損失は、過去のもので、しかも原因は日立側にあった。
 今後、心機一転巻き返しに出ればよいのかもしれないが、それが、全くそうなりそうもない。
 17年12月の記者会見で、宮永社長自らが、火力発電向けタービン事業の不振が「少なくとも」
 2年は続くと認めざるを得ないほどの不振に陥っているのである。

 その原因は、パリ協定成立などで、新興国を含め世界中で太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が急拡大し、
 逆に火力発電用タービンの需要が急激に落ち込んでいるのだ。

 これは、世界の潮流を見ていれば誰にでもわかることのように見える。
 現に、GEやシーメンスは、既に大幅リストラを発表している。
 両社とも再生可能エネルギー向けの需要拡大により、そちらにシフトして稼ぐ戦略をとっているのだ。

 ところが、三菱重工を含め、日本の重電企業は、未だに経産省と二人三脚で原発に軸足を置き、
 再生可能エネルギー分野では世界から完全に取り残されてしまった。
 伸びる分野で仕事が取れないので、火力分野を縮小するという判断が遅れてしまったのだ。
 三菱重工では、17年3月期にエネルギー・環境部門が営業利益の7割を稼いだ。
 今年度はその中の重要な柱の一つである火力の受注高は2割減にまで落ち込むらしい。
 今後は、採算度外視でも火力の仕事を取りに行くしかなさそうだが、そうなれば、大きな損失が発生することもあり得る。
 屋台骨が揺らぐというのは、まさにこういうことを言うのだろう。