>>218への反論@-2
ほとんどのがんは放置しておくと致死的ながんに進行するので、早期に発見・治療すれば救命につながるという主張を直接批判する科
学的具体的根拠は現在のところありません。しかし、もしそういった機序で救命される例が実際のがん臨床において相当な割合で存在
するのであれば、厳密にプロトコール、管理された複数の大規模RCT試験で示された結果には批判や反論の余地がないより高いレベルの有意
差が出ていたと考えられます。
つまり、提示いただいた大腸がんデータの早期ステージ生存率の「下げどまり」やステージ間の「格差」に大きく影響、寄与している
のは、致死的ながんを早期発見・治療によって救命できた症例よりも、非致死的ながんを過剰治療した症例のほうが圧倒的に多いと考
えるほうが合理的だということです。
以上述べたからといって、私はがん検診の有効性を全部頭から否定するつもりはありません。大規模なランダム化比較試験(RCT)によっ
て死亡率の有意差が出たとの報告がある一方、出なかったという研究もありますが、がん種によっては例えば乳がんや大腸がんでは、
複数の試験で有効の結果が報告されエビデンスの質が高いとされるメタアナリシスの結果から、その有用性は揺るぎないと考えている専門医が多
いのも知っています。一方、前立腺がんPSA検診では有効、有効でないの相反するRCT試験があって議論が衝突し、米国では癌予防委員
会(USPSF)の「勧奨しない」の結論に対し米国泌尿器学会は猛反発し、欧州の泌尿器学会はPSA検診を勧奨しないという世界的には判
断が分かれている状況もあります。
がん検診の有効性を総合的にみた時、有効とされるがん種の検診においても、その有効性やメリットの程度は一般社会で思われているよう
なほどのものではなく、あってもわずかなものではないかと思います。さらに実際の検診では厳密に計画、管理され行われた大規模比
較試験での有効程度と比べると大きく低下している可能性は高いと思われます。例えば日本の自治体の公共福祉政策による乳がん検診
では触診や画像判読に携わる医師のレベルの問題(人手不足等の理由により、乳がん診療に日常的に携わっていない開業医が短期間の
研修を経て診ているという心もとない状況もあります)等により、RCT試験で示されたわずかな有効性さえ維持出来ているのかという疑
問が強く残ります。
組織型検診として精度の維持向上に労力がさかれていた英国の乳がん検診においてさえ示されているような状況ですから。