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☆★☆【夢】思春期の何でも語るスレ10【恋】☆★☆
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0001Ms.名無しさん
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2021/11/11(木) 05:45:38.500
           
       ,,;⊂⊃;,、 。” カッパッパー♪
       (,,,・∀・)/》
      【(つ #)o 巛 しぬこと以外はかすり傷☆
     (( (ノ ヽ)
            
0952Ms.名無しさん
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2021/12/23(木) 11:08:29.370
 こういう気分に神経を焦いらつかせている時、彼女はふと女の雑誌か何かを借りるために嫂の室へやへ這入はいった。そうしてそこで嫂がお貞さんのために縫っていた嫁入仕度よめいりじたくの着物を見た。
「お重さんこれお貞さんのよ。好いでしょう。あなたも早く佐野さんみたような方の所へいらっしゃいよ」と嫂は縫っていた着物を裏表引繰返ひっくりかえして見せた。その態度がお重には見せびらかしの面当つらあてのように聞えた。早く嫁に行く先をきめて、こんなものでも縫う覚悟でもしろという謎なぞにも取れた。いつまで小姑こじゅうとの地位を利用して人を苛虐いじめるんだという諷刺ふうしとも解釈された。最後に佐野さんのような人の所へ嫁に行けと云われたのがもっとも神経に障さわった。
 彼女は泣きながら父の室へやに訴えに行った。父は面倒だと思ったのだろう、嫂あによめには一言いちごんも聞糺ききたださずに、翌日お重を連れて三越へ出かけた。
0953Ms.名無しさん
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2021/12/23(木) 11:08:38.410
        十一

 それから二三日して、父の所へ二人ほど客が来た。父は生来せいらい交際好こうさいずきの上に、職業上の必要から、だいぶ手広く諸方へ出入していた。公おおやけの務つとめを退いた今日こんにちでもその惰性だか影響だかで、知合間しりあいかんの往来おうらいは絶える間もなかった。もっとも始終しじゅう顔を出す人に、それほど有名な人も勢力家も見えなかった。その時の客は貴族院の議員が一人と、ある会社の監査役が一人とであった。
 父はこの二人と謡うたいの方の仲善なかよしと見えて、彼らが来るたびに謡をうたって楽たのしんだ。お重は父の命令で、少しの間鼓つづみの稽古けいこをした覚おぼえがあるので、そう云う時にはよく客の前へ呼び出されて鼓を打った。自分はその高慢ちきな顔をまだ忘れずにいる。
0954Ms.名無しさん
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2021/12/23(木) 11:08:47.400
「お重お前の鼓は好いが、お前の顔はすこぶる不味まずいね。悪い事は云わないから、嫁に行った当座はけっして鼓を御打ちでないよ。いくら御亭主が謡気狂うたいきちがいでもああ澄まされた日にゃ、愛想を尽かされるだけだから」とわざわざ罵ののしった事がある。すると傍そばに聞いていたお貞さんが眼を丸くして、「まあひどい事をおっしゃる事、ずいぶんね」と云ったので、自分も少し言い過ぎたかと思った。けれども烈はげしいお重は平生に似ず全く自分の言葉を気にかけないらしかった。「兄さんあれでも顔の方はまだ上等なのよ。鼓と来たらそれこそ大変なの。妾あたし謡の御客があるほど厭いやな事はないわ」とわざわざ自分に説明して聞かせた。お重の顔ばかりに注意していた自分は、彼女の鼓がそれほど不味いとはそれまで気がつかなかった。
 その日も客が来てから一時間半ほどすると予定の通り謡が始まった。自分はやがてまたお重が呼び出される事と思って、調戯からかい半分茶の間の方に出て行った。お重は一生懸命に会席膳かいせきぜんを拭いていた。
0955Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 07:51:20.270
「今日はポンポン鳴らさないのか」と自分がことさらに聞くと、お重は妙にとぼけた顔をして、立っている自分を見上げた。
「だって今御膳が出るんですもの。忙しいからって、断ったのよ」
0956Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 07:51:28.610
 自分は台所や茶の間のごたごたした中で、ふざけ過ぎて母に叱られるのも面白くないと思って、また室へやへ取って返した。
 夕食後ちょっと散歩に出て帰って来ると、まだ自分の室へやに這入はいらない先から母に捉つらまった。
0957Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 07:51:38.430
「二郎ちょうど好いところへ帰って来ておくれだ。奥へ行って御父さんの謡うたいを聞いていらっしゃい」
 自分は父の謡を聞き慣れているので、一番ぐらい聴くのはさほど厭とも思わなかった。
0958Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 07:51:47.770
「何をやるんです」と母に質問した。母は自分とは正反対に謡がまた大嫌だいきらいだった。「何だか知らないがね。早くいらっしゃいよ。皆さんが待っていらっしゃるんだから」と云った。
 自分は委細承知して奥へ通ろうとした。すると暗い縁側えんがわの所にお重がそっと立っていた。自分は思わず「おい……」と大きな声を出しかけた。お重は急に手を振って相図のように自分の口を塞ふさいでしまった。
0959Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 11:00:38.470
「なぜそんな暗い所に一人で立っているんだい」と自分は彼女の耳へ口を付けて聞いた。彼女はすぐ「なぜでも」と答えた。しかし自分がその返事に満足しないでやはり元の所に立っているのを見て、「先刻さっきから、何遍も出て来い出て来いって催促するのよ。だから御母さんに断って、少し加減が悪い事にしてあるのよ」
「なぜまた今日に限って、そんなに遠慮するんだい」
0960Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 11:00:49.620
「だって妾あたし鼓つづみなんか打つのはもう厭いやになっちまったんですもの、馬鹿らしくって。それにこれからやるのなんかむずかしくってとてもできないんですもの」
「感心にお前みたような女でも謙遜けんそんの道は少々心得ているから偉いね」と云い放ったまま、自分は奥へ通った。
0961Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 11:01:00.560
        十二

 奥には例の客が二人床とこの前に坐すわっていた。二人とも品の好い容貌ようぼうの人で、その薄く禿げかかった頭が後うしろにかかっている探幽たんゆうの三幅対さんぷくついとよく調和した。
 彼らは二人とも袴はかまのまま、羽織を脱ぎ放しにしていた。三人のうちで袴を着けていなかったのは父ばかりであったが、その父でさえ羽織だけは遠慮していた。
0962Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 11:01:11.540
 自分は見知り合だから正面の客に挨拶あいさつかたがた、「どうか拝聴を……」と頭を下げた。客はちょっと恐縮の体ていを装よそおって、「いやどうも……」と頭を掻かく真似をした。父は自分にまたお重の事を尋ねたので、「先刻さっきから少し頭痛がするそうで、御挨拶ごあいさつに出られないのを残念がっていました」と答えた。父は客の方を見ながら、「お重が心持が悪いなんて、まるで鬼の霍乱かくらんだな」と云って、今度は自分に、「先刻綱つな(母の名)の話では腹が痛いように聞いたがそうじゃない頭痛なのかい」と聞き直した。自分はしまったと思ったが「多分両方なんでしょう。胃腸の熱で頭が痛む事もあるようだから。しかし心配するほどの病気じゃないようです。じき癒なおるでしょう」と答えた。客は蒼蠅うるさいほどお重に同情の言葉を注射した後あと、「じゃ残念だが始めましょうか」と云い出した。
 聴手ききてには、自分より前に兄夫婦が横向になって、行儀よく併ならんで坐すわっていたので、自分は鹿爪しかつめらしく嫂あによめの次に席を取った。「何をやるんです」と坐りながら聞いたら、この道について何の素養も趣味もない嫂は、「何でも景清かげきよだそうです」と答えて、それぎり何とも云わなかった。
0963Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 13:59:47.090
 客のうちで赭顔あからがおの恰腹かっぷくの好い男が仕手してをやる事になって、その隣の貴族院議員が脇わき、父は主人役で「娘」と「男」を端役はやくだと云う訳か二つ引き受けた。多少謡を聞分ける耳を持っていた自分は、最初からどんな景清ができるかと心配した。兄は何を考えているのか、はなはだ要領を得ない顔をして、凋落ちょうらくしかかった前世紀の肉声を夢のように聞いていた。嫂の鼓膜こまくには肝腎かんじんの「松門しょうもん」さえ人間としてよりもむしろ獣類の吠うなりとして不快に響いたらしい。自分はかねてからこの「景清」という謡うたいに興味を持っていた。何だか勇ましいような惨いたましいような一種の気分が、盲目もうもくの景清の強い言葉遣ことばづかいから、また遥々はるばる父を尋ねに日向ひゅうがまで下くだる娘の態度から、涙に化して自分の眼を輝かせた場合が、一二度あった。
 しかしそれは歴乎れっきとした謡手が本気に各自の役を引き受けた場合で、今聞かせられているような胡麻節ごまぶしを辿たどってようやく出来上る景清に対してはほとんど同情が起らなかった。
0964Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 13:59:58.340
 やがて景清の戦物語いくさものがたりも済んで一番の謡も滞とどこおりなく結末まで来た。自分はその成蹟せいせきを何と評して好いか解らないので、少し不安になった。嫂は平生の寡言かごんにも似ず「勇しいものですね」と云った。自分も「そうですね」と答えておいた。すると多分一口も開くまいと思った兄が、急に赭顔の客に向って、「さすがに我も平家なり物語り申してとか、始めてとかいう句がありましたが、あのさすがに我も平家なりという言葉が大変面白うございました」と云った。
 兄は元来正直な男で、かつ己おのれの教育上嘘うそを吐つかないのを、品性の一部分と心得ているくらいの男だから、この批評に疑う余地は少しもなかった。けれども不幸にして彼の批評は謡の上手下手でなくって、文章の巧拙に属する話だから、相手にはほとんど手応てごたえがなかった。
 こう云う場合に馴なれた父は「いやあすこは非常に面白く拝聴した」と客の謡うたいぶりを一応賞ほめた後あとで、「実はあれについて思い出したが、大変興味のある話がある。ちょうどあの文句を世話に崩くずして、景清を女にしたようなものだから、謡よりはよほど艶えんである。しかも事実でね」と云い出した。
0965Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 14:00:10.390
        十三

 父は交際家だけあって、こういう妙な話をたくさん頭の中にしまっていた。そうして客でもあると、献酬けんしゅうの間によくそれを臨機応変に運用した。多年父の傍そばに寝起ねおきしている自分にもこの女景清おんなかげきよの逸話は始めてであった。自分は思わず耳を傾けて父の顔を見た。
「ついこの間の事で、また実際あった事なんだから御話をするが、その発端ほったんはずっと古い。古いたって何も源平時代から説き出すんじゃないからそこは御安心だが、何しろ今から二十五六年前、ちょうど私の腰弁時代とでも云いましょうかね……」
0966Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 14:00:24.460
 父はこういう前置をして皆みんなを笑わせた後あとで本題に這入はいった。それは彼の友達と云うよりもむしろずっと後輩に当る男の艶聞えんぶん見たようなものであった。もっとも彼は遠慮して名前を云わなかった。自分は家うちへ出入ではいる人の数々について、たいていは名前も顔も覚えていたが、この逸話をもった男だけはいくら考えてもどんな想像も浮かばなかった。自分は心のうちで父は今表向おもてむき多分この人と交際しているのではなかろうと疑ぐった。
 何しろ事はその人の二十はたち前後に起ったので、その時当人は高等学校へ這入り立てだとか、這入ってから二年目になるとか、父ははなはだ瞹眛あいまいな説明をしていたが、それはどっちにしたって、我々の気にかかるところではなかった。
0967Ms.名無しさん
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2021/12/24(金) 16:38:56.150
【速報】高須克弥の女性秘書、不正署名に関与していた! 
高須「私は全く知らない、秘書が田中に要請されてやった。厳しく叱ったなう!★3
https://asahi.5ch.net/test/read.cgi/newsplus/1621471804/
0969Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 06:22:27.850
「その人は好い人間だ。好い人間にもいろいろあるが、まあ好い人間だ。今でもそうだから、廿歳はたちぐらいの時分は定めて可愛らしい坊ちゃんだったろう」
 父はその男をこう荒っぽく叙述じょじゅつしておいて、その男とその家の召使とがある関係に陥入おちいった因果いんがをごく単簡たんかんに物語った。
「元来そいつはね本当の坊ちゃんだから、情事なんて洒落しゃれた経験はまるでそれまで知らなかったのだそうだ。当人もまた婦人に慕したわれるなんて粋事いきごとは自分のようなものにとうてい有り得べからざる奇蹟きせきと思っていたのだそうだ。ところがその奇蹟が突然天から降って来たので大変驚ろいたんですね」
0970Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 06:22:43.110
 話しかけられた客はむしろ真面目まじめな顔をして、「なるほど」と受けていたが、自分はおかしくてたまらなかった。淋さみしそうな兄の頬ほおにも笑の渦うずが漂ただよった。
「しかもそれが男の方が消極的で、女の方が積極的なんだからいよいよ妙ですよ。私がそいつに、その女が君に覚召おぼしめしがあると悟ったのはどういう機はずみだと聞いたらね。真面目まじめな顔をして、いろいろ云いましたが、そのうちで一番面白いと思ったせいか、いまだに覚えているのは、そいつが瓦煎餅かわらせんべいか何か食ってるところへ女が来て、私にもその御煎餅おせんべをちょうだいなと云うや否や、そいつの食い欠いた残りの半分を引ひっ手繰たくって口へ入れたという時なんです」
0971Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 06:22:54.850
 父の話方は無論滑稽こっけいを主にして、大事の真面目な方を背景に引き込ましてしまうので、聞いている客を始め我々三人もただ笑うだけ笑えばそれで後あとには何も残らないような気がした。その上客は笑う術をどこかで練修れんしゅうして来たように旨うまく笑った。一座のうちで比較的真面目だったのはただ兄一人であった。
「とにかくその結果はどうなりました。めでたく結婚したんですか」と冗談とも思われない調子で聞いていた。
「いやそこをこれから話そうというのだ。先刻さっきも云った通り『景清』の趣おもむきの出てくるところはこれからさ。今言ってるところはほんの冒頭まえおきだて」と父は得意らしく答えた。
0972Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 06:23:09.790
        十四

 父の話すところによると、その男とその女の関係は、夏の夜の夢のようにはかないものであった。しかし契ちぎりを結んだ時、男は女を未来の細君にすると言明したそうである。もっともこれは女から申し出した条件でも何でもなかったので、ただ男の口から勢いに駆かられて、おのずと迸ほとばしった、誠ではあるが実行しにくい感情的の言葉に過ぎなかったと父はわざわざ説明した。
「と云うのはね、両方共おない年でしょう。しかも一方は親の脛すねを噛かじってる前途遼遠ぜんとりょうえんの書生だし、一方は下女奉公でもして暮そうという貧しい召使いなんだから、どんな堅い約束をしたって、その約束の実行ができる長い年月の間には、どんな故障が起らないとも限らない。で、女が聞いたそうですよ。あなたが学校を卒業なさると、二十五六に御成おなんなさる。すると私も同じぐらいに老ふけてしまう。それでも御承知ですかってね」
0973Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 09:53:38.580
 父はそこへ来て、急に話を途切とぎらして、膝の下にあった銀煙管ぎんぎせるへ煙草たばこを詰めた。彼が薄青い煙を一時に鼻の穴から出した時、自分はもどかしさの余り「その人は何て答えました」と聞いた。
 父は吸殻すいがらを手で叩はたきながら「二郎がきっと何とか聞くだろうと思った。二郎面白いだろう。世間にはずいぶんいろいろな人があるもんだよ」と云って自分を見た。自分はただ「へえ」と答えた。
0974Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 09:53:47.890
「実はわしも聞いて見た、その男に。君何て答えたかって。すると坊ちゃんだね、こう云うんだ。僕は自分の年も先の年も知っていた。けれども僕が卒業したら女がいくつになるか、そこまでは考えていられなかった。いわんや僕が五十になれば先も五十になるなんて遠い未来は全く頭の中に浮かんで来なかったって」
「無邪気なものですね」と兄はむしろ賛嘆さんたんの口くちぶりを見せた。今まで黙っていた客が急に兄に賛成して、「全くのところ無邪気だ」とか「なるほど若いものになるといかにも一図いちずですな」とか云った。
0975Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 09:53:58.800
「ところが一週間経たつか経たないうちにそいつが後悔し始めてね、なに女は平気なんだが、そいつが自分で恐縮してしまったのさ。坊ちゃんだけに意気地のない事ったら。しかし正直ものだからとうとう女に対してまともに結婚破約を申し込んで、しかもきまりの悪そうな顔をして、御免ごめんよとか何とか云って謝罪あやまったんだってね。そこへ行くとおない年だって先は女だもの、『御免よ』なんて子供らしい言葉を聞けば可愛かわいくもなるだろうが、また馬鹿馬鹿しくもなるだろうよ」
 父は大きな声を出して笑った。御客もその反響のごとくに笑った。兄だけはおかしいのだか、苦々にがにがしいのだか変な顔をしていた。彼の心にはすべてこう云う物語が厳粛な人生問題として映るらしかった。彼の人生観から云ったら父の話しぶりさえあるいは軽薄に響いたかもしれない。
0976Ms.名無しさん
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2021/12/25(土) 09:54:11.680
 父の語るところを聞くと、その女はしばらくしてすぐ暇を貰ってそこを出てしまったぎり再び顔を見せなかったけれども、その男はそれ以来二三カ月の間何か考え込んだなり魂が一つ所にこびりついたように動かなかったそうである。一遍その女が近所へ来たと云って寄った時などでも、ほかの人の手前だか何だかほとんど一口も物を云わなかった。しかもその時はちょうど午飯ひるめしの時で、その女が昔の通り御給仕をしたのだが、男はまるで初対面の者にでも逢あったように口数くちかずを利きかなかった。
 女もそれ以来けっして男の家の敷居を跨またがなかった。男はまるでその女の存在を忘れてしまったように、学校を出て家庭を作って、二十何年というつい近頃まで女とは何らの交渉もなく打過ぎた。
0979Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 07:59:59.370
        十五

「それだけで済めばまあただの逸話さ。けれども運命というものは恐しいもので……」と父がまた語り続けた。
 自分は父が何を云い出すかと思って、彼の顔から自分の眼を離し得なかった。父の物語りの概要を摘つまんで見ると、ざっとこうであった。
0980Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 08:00:10.900
 その男がその女をまるで忘れた二十何年の後のち、二人が偶然運命の手引で不意に会った。会ったのは東京の真中であった。しかも有楽座で名人会とか美音会びおんかいとかのあった薄ら寒い宵よいの事だそうである。
 その時男は細君と女の子を連れて、土間どまの何列目か知らないが、かねて注文しておいた席に並んでいた。すると彼らが入場して五分経たつか立たないのに、今云った女が他の若い女に手を引かれながら這入はいって来た。彼らも電話か何かで席を予約しておいたと見えて、男の隣にあるエンゲージドと紙札を張った所へ案内されたままおとなしく腰をかけた。二人はこういう奇妙な所で、奇妙に隣合わせに坐った。なおさら奇妙に思われたのは、女の方が昔と違った表情のない盲目めくらになってしまって、ほかにどんな人がいるか全く知らずに、ただ舞台から出る音楽の響にばかり耳を傾けているという、男に取ってはまるで想像すらし得なかった事実であった。
0981Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 08:00:23.010
 男は始め自分の傍そばに坐る女の顔を見て過去二十年の記憶を逆さかさに振られたごとく驚ろいた。次に黒い眸ひとみをじっと据すえて自分を見た昔の面影おもかげが、いつの間にか消えていた女の面影に気がついて、また愕然がくぜんとして心細い感に打たれた。
 十時過まで一つの席にほとんど身動きもせずに坐っていた男は、舞台で何をやろうが、ほとんど耳へは這入らなかった。ただ女に別れてから今日こんにちに至る運命の暗い糸を、いろいろに想像するだけであった。女はまたわが隣にいる昔の人を、見もせず、知りもせず、全く意識に上のぼす暇いとまもなく、ただ自然に凋落ちょうらくしかかった過去の音楽に、やっとの思いで若い昔を偲しのぶ気色けしきを濃い眉まゆの間に示すに過ぎなかった。
0982Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 08:00:35.120
 二人は突然として邂逅かいこうし、突然として別れた。男は別れた後のちもしばしば女の事を思い出した。ことに彼女の盲目が気にかかった。それでどうかして女のいる所を突きとめようとした。
「馬鹿正直なだけに熱心な男だもんだから、とうとう成功した。その筋道も聞くには聞いたが、くだくだしくって忘れちまったよ。何でも彼がその次に有楽座へ行った時、案内者を捕つらまえて、何とかかんとかした上に、だいぶ込み入った手数てかずをかけたんだそうだ」
0983Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 09:13:11.800
「どこにいたんですその女は」と自分は是非確めたくなった。
「それは秘密だ。名前や所はいっさい云われない事になっている。約束だからね。それは好いが、そいつが私わたしにその盲目の女のいる所を訪問してくれと頼むんだね。何という主意か解らないが、つまりは無沙汰見舞ぶさたみまいのようなものさ。当人に云わせると、学問しただけに、鹿爪しかつめらしい理窟りくつを何なんが条じょうも並べるけれども。つまり過去と現在の中間を結びつけて安心したいのさ。それにどうして盲目になったか、それが大変当人の神経を悩ましていたと見えてね。と云っていまさらその女と新しい関係をつける気はなし、かつは女房子にょうぼこの手前もあるから、自分はわざわざ出かけたくないのさ。のみならず彼がまた昔その女と別れる時余計な事を饒舌しゃべっているんです。僕は少し学問するつもりだから三十五六にならなければ妻帯しない。でやむをえずこの間の約束は取消にして貰うんだってね。ところが奴やつ学校を出るとすぐ結婚しているんだから良心の方から云っちゃあまり心持はよくないのだろう。それでとうとう私わたしが行く事になった」
0984Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 09:13:23.220
「まあ馬鹿らしい」と嫂あによめが云った。
「馬鹿らしかったけれどもとうとう行ったよ」と父が答えた。客も自分も興味ありげに笑い出した。
0985Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 09:13:33.950
        十六

 父には人に見られない一種剽軽ひょうきんなところがあった。ある者は直ちょくな方かただとも云い、ある者は気のおけない男だとも評した。
「親爺おやじは全くあれで自分の地位を拵こしらえ上げたんだね。実際のところそれが世の中なんだろう。本式に学問をしたり真面目に考えを纏まとめたりしたって、社会ではちっとも重宝がらない。ただ軽蔑けいべつされるだけだ」
0986Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 09:13:45.420
 兄はこんな愚痴とも厭味いやみとも、また諷刺ふうしとも事実とも、片のつかない感慨を、蔭かげながらかつて自分に洩もらした事があった。自分は性質から云うと兄よりもむしろ父に似ていた。その上年が若いので、彼のいう意味が今ほど明瞭めいりょうに解らなかった。
 何しろ父がその男に頼まれて、快よく訪問を引受けたのも、多分持って生れた物数奇ものずきから来たのだろうと自分は解釈している。
0987Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 10:32:11.500
 父はやがてその盲目めくらの家を音信おとずれた。行く時に男は土産みやげのしるしだと云って、百円札を一枚紙に包んで水引をかけたのに、大きな菓子折を一つ添えて父に渡した。父はそれを受取って、俥くるまをその女の家に駆かった。
 女の家は狭かったけれども小綺麗こぎれいにかつ住心地よくできていた。縁の隅すみに丸く彫り抜いた御影みかげの手水鉢ちょうずばちが据すえてあって、手拭掛てぬぐいかけには小新らしい三越の手拭さえ揺ゆらめいていた。家内も小人数らしく寂然ひっそりとして音もしなかった。
0988Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 10:32:22.850
 父はこの日当りの好いしかし茶がかった小座敷で、初めてその盲人もうじんに会った時、ちょっと何と云って好いか分らなかったそうである。
「おれのようなものが言句に窮するなんて馬鹿げた恥を話すようだが実際困ったね。何しろ相手が盲目なんだからね」
0989Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 10:32:33.190
 父はわざとこう云って皆みんなを興きょうがらせた。
 彼はその場でとうとう男の名を打ち明けて、例の土産ものを取り出しつつ女の前に置いた。女は眼が悪いので菓子折を撫なでたり擦さすったりして見た上、「どうも御親切に……」と恭うやうやしく礼を述べたが、その上にある紙包を手で取上げるや否や、少し変な顔をして「これは?」と念を押すように聞いた。父は例の気性きしょうだから、呵々からからと笑いながら、「それも御土産おみやげの一部分です、どうか一緒に受取っておいて下さい」と云った。すると女が水引の結び目を持ったまま、「もしや金子きんすではございませんか」と問い返した。
0990Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 10:32:42.970
「いえ何はなはだ軽少で、――しかし○○さんの寸志ですからどうぞ御納め下さい」
 父がこう云った時、女はぱたりとこの紙包を畳の上に落した。そうして閉じた眸ひとみをきっと父の方へ向けて、「私は今寡婦やもめでございますが、この間まで歴乎れっきとした夫がございました。子供は今でも丈夫でございます。たといどんな関係があったにせよ、他人さまから金子を頂いては、楽らくに今日こんにちを過すようにしておいてくれた夫の位牌いはいに対してすみませんから御返し致します」と判切はっきり云って涙を落した。
0991Ms.名無しさん
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2021/12/26(日) 16:53:54.170
英紙「アベノミクスは失敗だった。安倍首相は日本を不況に陥れた責任がある」

英の経済紙フィナンシャル・タイムズは
「Six Abenomics lessons for a world struggling with ‘Japanification’」のなかで、
「アベノミクスは成功したのか」という問いに対してはっきりと「ノー」と答えている。

問題点としては、まず消費増税が挙げられている。
「アベノミクスが失敗したのは、
2014年春に日本の消費税が5%から8%に引き上げられた日だった」と振り返り、
2019年の10%への増税も含めて、安倍首相は日本を不況に陥れた責任があると批判。
刺激を約束しておきながら、抑制をもたらしてしまったことが、
アベノミクスが失敗した理由だと振り返った。

また抜本的な構造改革が果たされなかったことも
失敗の原因として挙げられている。

https://forbesjapan.com/articles/detail/36843/2/1/1
0992Ms.名無しさん
垢版 |
2021/12/27(月) 07:51:01.740
「これには実に閉口したね」と父は皆みんなの顔を一順いちじゅん見渡したが、その時に限って、誰も笑うものはなかった。自分も腹の中で、いかな父でもさすがに弱ったろうと思った。
「その時わしは閉口しながらも、ああ景清かげきよを女にしたらやっぱりこんなものじゃなかろうかと思ってね。本当は感心しましたよ。どういう訳で景清を思い出したかと云うとね。ただ双方とも盲目めくらだからと云うばかりじゃない。どうもその女の態度がね……」
0993Ms.名無しさん
垢版 |
2021/12/27(月) 07:51:11.100
 父は考えていた。父の筋向うに坐すわっていた赭顔あからがおの客が、「全く気込きごみが似ているからですね」とさもむずかしい謎なぞでも解くように云った。
「全く気込です」と父はすぐ承服した。自分はこれで父の話が結末に来たのかと思って、「なるほどそれは面白い御話です」と全体を批評するような調子で云った。すると父は「まだ後あとがあるんだ。後の方がまだ面白い。ことに二郎のような若い者が聞くと」とつけ加えた。
0994Ms.名無しさん
垢版 |
2021/12/27(月) 07:51:20.880
        十七

 父は意外な女の見識に、話の腰を折られて、やむをえず席を立とうとした。すると女は始めて女らしい表情を面おもてに湛たたえて、縋すがりつくように父をとめた。そうしていつ何日いつかどこで○○が自分を見たのかと聞いた。父は例の有楽座の事を包み蔵かくさず盲人もうじんに話して聞かせた。
「ちょうどあなたの隣に腰をかけていたんだそうです。あなたの方ではまるで知らなかったでしょうが、○○は最初から気がついていたのです。しかし細君や娘の手前、口を利きく事もでき悪にくかったんでしょう。それなり宅うちへ帰ったと云っていました」
0995Ms.名無しさん
垢版 |
2021/12/27(月) 07:51:32.060
 父はその時始めて盲目めくらの涙腺るいせんから流れ出る涙を見た。
「失礼ながら眼を御煩おわずらいになったのはよほど以前の事なんですか」と聞いた。
0996Ms.名無しさん
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2021/12/27(月) 13:26:46.860
「こういう不自由な身体からだになってから、もう六年ほどにもなりましょうか。夫が亡なくなって一年経たつか経たないうちの事でございます。生うまれつきの盲目と違って、当座は大変不自由を致しました」
 父は慰めようもなかった。彼女のいわゆる夫というのは何でも、請負師うけおいしか何かで、存生中ぞんしょうちゅうにだいぶ金を使った代りに、相応の資産も残して行ったらしかった。彼女はその御蔭おかげで眼を煩った今日こんにちでも、立派に独立して暮して行けるのだろうと父は説明した。
0997Ms.名無しさん
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2021/12/27(月) 13:26:57.820
 彼女は人に誇ってしかるべき倅せがれと娘を持っていた。その倅には高等の教育こそ施してないようだったけれども、何でも銀座辺のある商会へ這入はいって独立し得るだけの収入を得ているらしかった。娘の方は下町風の育て方で、唄うたや三味線の稽古けいこを専一と心得させるように見えた。すべてを通じて○○とは遠い過去に焼きつけられた一点の記憶以外に何ものをも共通にもっているとは思えなかった。
 父が有楽座の話をした時に、女は両方の眼をうるませて、「本当に盲目ほど気の毒なものはございませんね」と云ったのが、痛く父の胸には応こたえたそうである。
0998Ms.名無しさん
垢版 |
2021/12/27(月) 13:27:39.840
「○○さんは今何をしておいででございますか」と女はまた空中に何物をか想像するがごとき眼遣めづかいをして父に聞いた。父は残りなく○○が学校を出てから以後の経歴を話して聞かせた後、「今じゃなかなか偉くなっていますよ。私見たいな老朽とは違ってね」と答えた。
 女は父の返事には耳も借さずに、「定めてお立派な奥さんをお貰いになったでございましょうね」とおとなしやかに聞いた。
0999Ms.名無しさん
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2021/12/27(月) 13:27:50.920
「ええもう子供が四人よつたりあります」
「一番お上のはいくつにお成りで」
1000Ms.名無しさん
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2021/12/27(月) 13:28:07.590
「さようさもう十二三にも成りましょうか。可愛かわいらしい女の子ですよ」
 女は黙ったなりしきりに指を折って何か勘定かんじょうし始めた。その指を眺めていた父は、急に恐ろしくなった。そうして腹の中で余計な事を云って、もう取り返しがつかないと思った。
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