「天秤が傾いた組織である【ブルークロス】は「ニュータイプ」としてのありようは示せても、オールド
タイプとの架け橋にはなり難い。だから、真に両者の融和を唱えるならば、その中間の立ち位置に
いるものが必要とされる」
アーサーは話を戻した。
「それが、マフティー・ナビーユ・エリンというわけですか」
「はい。・・・預言者、人々の思いを代わりに語るもの。けして、集団の代表者ではないもの。
ですから、ジオンの再興を考えるジオンの生き残りと連邦での足場を固めたい【クローノス】。
この二者がマフティーと相容れることはない」
「先入観は禁物ですよ」
セイエン副長が穏やかに言った。その言葉にアーサーは首を振る。
「一度、信奉した思想信念は、捨てることはなかなかできないものです。情熱を持って行動した
過去は美化され、思いは熾火のように、心の中でくすぶり続ける」
「君もですか?アーサー」
アーサーは不意をつかれた。ジオンの名を冷静に受け止めることは、まだ自分には難しいと
思い知る。それでも、アーサーはセイエンに向かって言った。
「遠い夢です」

しばしの沈黙が二人の間におりた。口を先に開いたのはセイエンだった。
「私は半ば確信しています。覚めない二つの夢に踊らされるものが、これからも出てくるだろうと」
「覚めない二つの夢?」
「ニュータイプとモビルスーツ」
もしかしたら、この二つを根絶することこそが、平和への近道かもしれませんね、と冗談とも本気と
もつかぬ顔と声でセイエンがアーサーにささやいた。