【リレー小説】TPパニック 〜 殺し屋達の絆 〜
舞台は台湾の首都台北
主人公は台湾マフィアお抱えの殺し屋ファミリー「タオ一家」三男マルコム
通称「マル」、ただし偽名である
彼らは互いの名前をイングリッシュ・ネーム及び偽名で呼び合い、誰もその本名を知らなかった マルコムが両親のところへ挨拶に向かおうとした時、戸口のほうから太陽のように明るい声が聞こえた。
「みんなー! 元気だった?」
声のしたほうを皆が揃って振り向く。
バーバラ以外の全員が笑顔になった。
そこには白いブレザー姿の長い髪の女性が、皆の笑顔を受けて、輝くような笑顔で立っていた。
「やぁ、キム」
「キンバリーちゃん!」
「キム姉ぇ〜! 会いたかったよぉ〜(泣)」
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
マルコムも笑顔で声を掛けた。
「キム……。会いたかった」 次女のキンバリー・タオが入って来た時、長男のジェイコブは鼻の下を伸ばしてしばし彼女に見惚れた。
しかしすぐに、思い出したように対角線に立つ三男マルコムのほうへ鋭く視線を投げた。
マルコムは笑っていた。何か秘密を共有するような意味ありげな微笑みだった。 「まさか国民党党首が暗殺されるとはな」
二人の刑事が屋台に並んで座り、コロナビールをらっぱ飲みしていた。
「これで民主党の蔡 英語の再選がほぼ間違いなくなりましたね」
「なんだお前、嬉しそうだな」
「いっ、いえ! そんなことは……」
「まぁ、大陸にいいようにされて嬉しい奴はそういないからな」
「こんなことをしなくても、民主党の再選は間違いなかったでしょうにね」 「しかし、あれはタオ一家の長男ジェイコブの仕事だよな」
「間違いないですよね、捜査するまでもないかも」
「お前、タオ一家の兄弟、全員知ってるか?」
「知ってるつもりですけど……念のため教えてもらえます?」 「まず長男ジェイコブ。毒殺のスペシャリスト。毒を飲ませるだけでなく、あらゆる方法で標的の体内に毒を注ぐ」
「コイツに狙われたら助からないですよね」
「ただ、格闘には弱いらしい。捕まえて縛り上げるのは簡単だろうな」 「長女バーバラ。いい女らしいぜ」
「見てみたいもんです」
「ただし見た奴はすべて死んでいる。色仕掛けと暗器の使い手だと言われている」
「どんな女なのかなぁ」 「次男ガンリー。タオ一家をしょっぴけるとしたら、頼りはコイツだ。顔が割れてる」
「まじっすか!?」
「しかし個人情報が不明だ。奴らは偽名を名乗っているし、指紋も残さねぇからな」
「よく出没する場所とかないんですか?」
「あるよ。ただしあっちこっちだ。相当遊び回ってるらしい」
「ガンリーは一族1の……」
「あぁ。バカだ」
「捕まえられるとしたらガンリーですね?」
「ただし、奴は格闘においても一族1だ。捕まえるのはそれでも容易じゃない」
「まさしくバカ力の持ち主……ですか」 突如、そこに謎の金髪男が現れた。
「俺の名はヴェントゥス」 以前、国際高校野球大会で、
韓国の監督が「日本が圧縮バット使ってるんじゃないか?」っていい出して
全参加国のバット調べてみたら、圧縮バット使ってるの韓国だけだったww
あれ爆笑したなwww 「ヴェントス? 何だ君は、唐突に?」
「先輩……。もしかしてコイツ、タオ一家じゃないですか?」
二人の刑事は突然声を掛けて来たヴェントスとい名乗る男に動揺しまくった。 「確かに……。今挙げた三人の他の兄弟は面どころか名前も割れてないが……」
「でも?」
「少なくとも金髪はガンリーともう一人だけという話だ。しかもそのもう一人は、女だ」
「おい、ヴェントスとやら、お前、何者だ!?」
男は答えた。
「……ヴェントスじゃなくてヴェントゥスだ」 ヴェントゥスが謎すぎるので刑事達はほっといて話を続けた。
「さっきも言った通り、残りのメンバーは面も通り名も割れていない。しかし、殺し方に特徴がある」
「特徴……ですか」 「まず、必ず傷ひとつだけで殺す奴がいる。しかもコイツはマフィア絡みの悪い奴しか殺さない」
「一撃必殺、ですか」
「コイツなのかどうかは定かじゃないが、それらしき姿を目撃した情報はある」
「どんな奴ですか?」
「高そうなブランド物のスーツに身を固めた、長身の色男だったそうだ」
「へぇぇ……」
「コイツはその殺し方と目撃された姿から『スーパージェットスーツ』と警察内では呼ばれている」 先輩の刑事はコロナビールを一気に飲み干し、おかわりを貰うと、続けた。
「次は『人喰いゴスロリ人形』」
「人喰い……ですか」
「コイツに殺されたのは全員男だ。しかも身体中を刃物のようなもので切り刻まれ、必ずペニスを根本から切り取られている」
「ひぃ」
「しかもそのペニスが現場のどこにも残されていない。持ち帰っているようだな」
「た、食べてるんでしょうか」
「わからん。コイツも目撃情報がある。白と黒のドレスに身を包んだ若い娘だったそうだ」
「それで『ゴスロリ人形』……」 「そして、最後だ。『暴れ牛』」
「え。もしかして……」
「そう。さっき話した金髪の女だ」
「女が『暴れ牛』?」
「コイツは必ず場を荒らす」
「場を?」
「あぁ、その場にいた人間を皆殺しにするんだ。1人だけ殺す場合でも必ずその部屋を滅茶苦茶に荒らす」
「暴れ狂った跡……みたいな感じですかね」
「そう。だから『暴れ牛』。目撃情報によると金髪長髪の十代ぐらいの醜い娘だそうだ」
「よく目撃者生きてましたね」 「以上だ」
「えっ……? 先輩、タオ一家って6人だけなんですか?」
「わかっているのは、な」
「もっといそうだけどなぁ」
「父親のタオ・パイパイは引退している。母親のエレナ・タオは24年前に殺しに失敗し、死んでいる」
「えっ? じゃあ、さっきの十代ぐらいの女の子ってのは?」
「再婚したんだろうよ。恐らく『人喰いゴスロリ人形』も後妻の娘だ」 「さぁ、ぼちぼち帰って子供の面倒を見てやらんとな」
「先輩は奥さん大事にしますよねぇ。いいなぁ」
「おい、ヴェントゥスとやら」先輩刑事は振り返ると、言った。「別に用がないなら俺達は帰るぞ?」 食卓に豪華な料理が並べられた。
「わぁい。この鶏モモ肉、めっちゃ美味しい」
ムーリンは姉の心配はすっかり忘れて早速料理にかぶりついている。
「気をつけなさい。17歳は食べたものが吹き出物に変わりやすいのよ」
「違うわ、お姉ちゃん。ムーリンは若者だから、吹き出物じゃなくニキビっていうのよ」
「……くっ!」
「さぁさぁ、それじゃ食事を始めよう」タオ・パイパイが手を叩いて言った。「さぁ、皆も食べ始めてくれ」 「毎回こういう時思うけど」モーリンが姿勢正しく箸を持ちながら言った。「毒味はしないでいいの?」
「ジェイコブ相手に毒味なんて必要ないわよ」隣のバーバラが言った。「飲ませる気になれば毒味が終わった食べ物からでも毒を飲ませられるんだから」
「バーバラお姉さんは飲まされたことある?」
「いっくらでもあるわ」バーバラは平気な顔で鶏肉を口に運びながら言った。「解毒さえすれば何も問題ないのよ」 ジェイコブは食事をしながら、ずっと横目でマルコムとキンバリーの様子を窺っていた。
二人は離れて座り、話どころか目も合わさずに食事をしていた。
しかしたまに遠くで目が合うと、キンバリーが何やら恥ずかしそうに笑い、マルコムが軽くウィンクをした。 ジェイコブはガンリーに何やら耳打ちした。
ガンリーは立ち上がると、音も立てずに食事をしている四男のところへ行った。
「おい、えーと……名前が出て来ん!」
「『○○○だよ、ガンリー兄さん」四男はそう答えると、にっこりと笑った。 「うっ!?」
モーリンが口を押さえて呻いたので、楽しそうに食事をしていたムーリンが飛び上がると同時に泣き出した。
「お姉ちゃん!? 舌噛み切っちゃったの!?」
「いいえ。お箸を食べてしまっただけ」
「うわぁぁぁ! 病院! 救急車!」
「必要ないわよ。そのうちお尻から出て来るわ。ただ……」モーリンの人形のような顔が暗く曇った。「悔しいだけよ。私としたことが……」 「キンバリー、オーストラリアはどうだったね?」タオ・パイパイが隣のキムに話しかけた。
「心から楽しかったわ、パパ」キムは笑顔で答えながら、数回まばたきをした。
「そうか。すまなかったな。お前の身を案じてのことだ、察してくれ」
「えぇ、パパ。感謝してる」キムはそう言うと、家族全員の顔を見回しながら言った。「こうやってまた皆と会えたのもパパのお蔭」
普段は殺伐とした表情の兄弟達が、キンバリーに見つめられると、途端に人懐っこい笑顔になる。
「私、皆と一緒にいる時が一番楽しいの」
「キム……」ジェイコブがうっとりと笑いながら、頷いた。 「君と血の繋がりがなくて本当によかった」
ジェイコブは誰にも聞こえない声で呟いた。
「君は後妻オリビアの連れ子。俺達の母親エレナはもちろん、タオ・パイパイの血も入っていない」
ジェイコブは鼻の下を伸ばして気味悪く笑いながら、なおも独り言を呟いた。
「君には俺の妻となり、次世代のタオ一家を作ってもらいたい」 タオ一家の住む台北市内から北へ離れた草東街の温泉旅館にマルコムは1人、愛車テスラで訪れていた。
一家揃っての晩餐からそれほど後のことではない。
マルコムがスーツ姿のまま窓から山林の景色を眺めていると、ドアが外からノックされた。
「どうぞ」
マルコムがそう言うと照れ臭そうにドアが開かれ、白いブレザー姿のキンバリーが入って来た。 迎え入れるなり、マルコムは彼女の身体を抱き締めた。
髪を指でなぞり、貪るように口づけをする。
「会いたかった!」
叫ぶように囁くマルコムの目をまっすぐ見つめてキンバリーはうっとりと微笑んだ。
「私もよ、マル」 マルコムは壁にキンバリーを押しつけると、その白いブレザーを脱がせた。
脱がせながら、だんだん露出して行く肌にキスをした。
興奮して息を荒くしながらキンバリーも、マルコムの短く刈り揃えた髪にキスをする。 マルコムの手が優しく、しかし強引にキンバリーの胸を隠していた白い布を取る。
手も口も片時も休まなかった。
指で乳首を愛撫しながら唇を何度も吸う。
手が腰や尻を触りはじめた頃には唇は首筋から鎖骨へと這い、焦らすように乳首の周りを舐めた。 キンバリーが待ち焦がれていた乳首を攻撃される頃には、マルコムの指は今度は白いパンティの上からクリトリスの周りを焦らして回っていた。
たまに中へ入り込んでも陰毛を撫でるだけで、なかなかそこは触らない。
「んもうっ、意地悪!」
興奮の高まったキンバリーはマルコムの腕を振りほどくと、怒ったようにしゃがみ込んだ。 慌てたような手の動きでマルコムのスボンとカルバン・クラインのブリーフを脱がせると、そそり勃っている長物を両手で握りしめた。
「あぁ……。キムの手、赤ちゃんみたいに柔らかいよ」
「赤ちゃんなんかじゃないって、思い知らせてあげるわ」
そう言うとキンバリーは、長くて赤い舌を這わせた。
付け根から亀頭まで、長い旅をするように舐め上げた。 赤い紅を塗った唇で包むと、きつく吸い込み、舌を波立てる。
「凄いな、どこでそんなテクニックを教わった?」
「あなたでしょ? もぉっ!」
「はは。オレか。オレがあの清純キンバリーを売女にしたのか」
「売女じゃないもん」キンバリーはすねたようにそう言いながら、マルコムのペニスにキスをした。「あなただけよ」 ベッドの上で長身の男女が重なり、腰を振り合っていた。
「あ……! あ……! マルっ……!」
「キム……。綺麗だよ。白いマーガレットのようだ」
マルコムの長い剣がキンバリーの花弁の中心を突き刺し、かき回す。
「マル……! マル……あああっ!」
「泣いてる君も綺麗だよ」 「……いや、ちょっと待て」
マルコムはベッドに座り、後ろからキンバリーを突き上げ続けながら、言った。
「いつからそこにいた?」
「えっ?」
合体している二人をまるでAVを観賞するように真っ正面から見ながら、粗末なモノをしごいていた四男が声を出した。 キンバリーは快楽に心を奪われてか、目の前の四男に気づいていない。
マルコムは背面座位で彼女の膣を突き上げ続けながら四男に聞いた。
「もしかしてオレの車に乗ってたか?」
「うん。ずっと後ろの席にいたよ」
「ジェイコブに頼まれたな?」
「うん。でもマルが嫌なら嘘の報告する」
「別に兄さんを怒らせてもオレは構わないが、キムが困る。このことは秘密にしてくれ」
二人はキムの喘ぎ声と肉のぶつかり合う音にかき消されないよう、大声で会話した。
「うん、わかった。ジェイコブには二人は会ってたけどセックスまではしてなかったって報告するよ」
「いや待て。会ってたことも言うな」
「わかった」四男は頷くと、泣くような顔をした。「殺さないで」
「殺さないよ。お前は可愛い弟だ。ただし……」マルコムは優しく微笑みながら言った。「キムを傷つけたら殺す」
「わかった」
四男は何度も頷くと、部屋を出て行った。 「ねぇ」
情事が終わるとキンバリーは、子供のように甘えながら、葉巻に火を点けたマルコムに聞いた。
「誰かと話してなかった?」
「君への褒め言葉を思いつく限りに並べてたのさ」
マルコムはそう言うと、葉巻の煙を吸い込んだ。そして吐き出しながら笑った。
「君は僕の腰の動きに夢中で聞こえてなかったけどね」 「近い所まで送るよ」
そう言いながらキンバリーの腰を抱いて歩いて来たマルコムがふいに立ち止まる。
愛車テスラの後ろに停まっているドゥカティの赤い1000ccバイクを見つけたのだ。
「……敵わないな、姉さんも尾けてたのか」 「ダメな子ね、マル」
二人の背後の茂みから、赤い皮ツナギ姿のバーバラが腕を組んで現れた。
「一家のアイドルを独り占めしてはダメよ。ジェイコブに殺されるわ」 「オレがあのウスノロに殺されるとでも?」
マルコムはおどけてみせた。
「しかし意外だな。姉さんの口からキンバリーをアイドルと認めるような言葉が出るなんて」
「もちろん、あたし以外の一家のアイドル、という意味よ」
バーバラは笑ったが、目つきがキンバリーに対する殺意を浮かべていた。
「わかってらっしゃると思うけど、あたしはアンタのこと、虫酸が走るほど嫌いだから」
バーバラにそう言われ、キンバリーは怯えた少女のようにマルコムの背に隠れた。 「姉さん」
たしなめるように言うマルコムをバーバラは手で制した。
「わかってるわよ、マル。キムは一家にいなくちゃならない人物だものね」
「お姉さん……」
マルコムの背中から顔だけを覗かせているキンバリーに、バーバラは微笑んだ。
「さっきのは嘘よ、キム。仲良くしましょ」
キンバリーの顔が嬉しそうに綻んだ。
「ハイ!」
そう言いながらマルコムの後ろから駆け寄って来たキンバリーの股間をバーバラは素早く掴んだ。力を入れて強く締め上げる。 「痛い! お姉さん、痛い!」
泣き声を上げるキンバリーに笑いながらバーバラは聞いた。
「何発ヤッたの? 大人しそうな顔をして」
「姉さん!」
マルコムが怒鳴るとバーバラはすぐに手を離した。
くるりと背を向けると舞うようにバイクに跨がり、ヘルメットを被る。 「女のソレはね、お金にも、武器にもなるの」
バーバラはバイクのエンジンを始動させながら言った。
「あなたみたいに何にもならない勿体ない使い方をする人の気が知れないわ」 「あなたは朝に輝く白い薔薇。あたしは夜に艶めく黒い薔薇。永遠に相容れないわね」
バーバラはそう言い捨てるとバイクのスロットルを煽った。
「それじゃ、おやすみなさい」
あっという間に夜の向こうに見えなくなる赤い後ろ姿を見送りながら、マルコムが頭を掻きながら呟いた。
「何しに来たんだ、あの人……」 タオ・パイパイは自分の部屋にジェイコブを呼びつけた。
「なんだい、話って? パパ」
「まぁ、そこに座りなさい」
先にソファーに座ると、タオ・パイパイはお茶と菓子を勧めた。
菓子皿には子供の頃ジェイコブが好きだったチョコをかけたコーンパフのお菓子が入っていた。 「ジェイ、お前、マルを殺したがっているだろ」
少しギクリとしながら、菓子皿には手も付けずにジェイコブは答えた。
「そんなことはないよ、パパ」 「お前らは実の兄弟。仲良く出来んものかな」
「仲良くしてるよ、パパ」ジェイコブは作り笑顔でコーン菓子を手に取ると、サクサクと食べた。「みんな仲良しさ」
「とにかく」タオ・パイパイは言った。「ワシが生きているうちは兄弟で殺し合うようなことは絶対に許さん」 「それからバーバラだ」タオ・パイパイは続けて言った。「あの子はキムを殺したがっておるな」
「えっ?」ジェイコブの菓子を食べる手が止まった。
「なんだ気づかなかったのかお前ともあろうものが」
「バラがキムを嫌っているのは知っていますが……だってキムは……」
「気に入らない人間は誰であろうと殺すのがバーバラだろう」
「そんな……」
「あっ、すまん。バーバラだけじゃないな。お前もか」
「キムは俺が守ります」
「いや、だから、バーバラを殺したりするなよ?」
「バーバラ……殺す!」
「いや、だから……」 「お姉ちゃん」
薄暗い屋敷の廊下をTシャツと短パン姿のムーリンが金髪のポニーテールを揺らして歩いている。
「お姉ちゃぁん」
廊下に新しく張られていた足元のワイヤーを軽く飛び越すと、壁からBB弾が飛んで来た。
それも軽く前に屈んで避けると、ムーリンは姉の部屋のドアを開けた。 入るなり姉のモーリンが飛ばして来た吹き矢をスウェーでかわすと、ムーリンは嬉しそうに笑った。
「お姉ちゃん、またこけしの手入れしてたの?」
「えぇ。アンタなかなかすばしっこくなったわね、ムー」
モーリンは純白のドレスに身を包み、一体のこけしを左手に持って磨いていた。
「そりゃこの屋敷で育てばすばしっこい子になるよー」
ムーリンはぶさいくな顔を明るく笑わせた。 ムーリンの部屋はお姫様の部屋のようで、飾り台には所狭しと大小様々な形のこけしが並んでいる。
「最近、新しいこけしがなかなか手に入らないわ」
モーリンは暗い目をして美しい顔を曇らせた。
「それそれ、そのことよ」ムーリンは持って来た嬉しい報せを姉に伝えた。「パパから言われて来たの。お姉ちゃん、仕事だよ」
「本当?」モーリンの目の奥が輝いた。 香港マフィアの幹部ジャッキーは台湾料理を満喫すると、ホテルの一室に通された。
「綺麗どころを呼んであるんだろうな?」
台湾マフィアのチンピラに偉そうにそう言うと、チンピラはへへ、と笑って答えた。
「台湾は美女どころ。最上級のを用意してありますぜ」 「女優で言うと?」ジャッキーは涎を垂らす勢いで聞く。
「うーん」チンピラは暫く考えると、答えた。「若い頃のビビアン・スー」
「でかした!」 ジャッキーは部屋に入ると、ソファーにだらしなく腰掛け、若い頃のビビアン・スーがやって来るのを待った。
葉巻に火を点け、貧乏揺すりをしながら待っていると、ドアが外から軽い音でノックされた。
「入りなさい」ジャッキーは興奮を抑えきれない声で言った。 「お邪魔いたします」
そう言って頭を下げながら、若い頃のビビアン・スー似のタオ・モーリンが部屋へ入って来た。 「おぉ……!」
ジャッキーの顔がスケベ心丸出しの笑顔に歪んだ。
「名前は?」
「ビビアンと申します」
モーリンはそう言うと、またお辞儀をした。そして妖しく微笑みながら、言った。
「逞しいおじさまは私の大好物」 「そのドレス……あぁ、何といったかな」
「ゴシック・ロリータですわ」
モーリンはそう言うと、黒いスカートを広げて見せた。
「……たまらん! 早くこっちへ来なさい!」 ジャッキーはモーリンを膝の上に乗せると、その美しい白い顔の肌と赤い唇を目で堪能した。
「年は? 19歳ぐらいか?」
「21歳になりますのよ。脳公(旦那様)」
「よし……よしよし! まずは口づけをさせろ!」
「嫌」
「何?」 「私、早く脳公のここが欲しい」
そう言うとモーリンは白い手袋を嵌めた手を、ゆっくりと下へ伸ばした。
「脳公の下面(おちんぽ)、舐めてもいいですか?」 「いっ、いきなりか!」ジャッキーは嬉しそうに笑った。「ふっ、風呂も浴びずにいきなりしゃぶってくれると言うか!」
「はい」
頷くとすぐに、モーリンは猫のようにしなやかにしゃがみ込み、ズボンのベルトを脱がしはじめた。
「欲しい」上目遣いでジャッキーに聞く。「貰ってもいい?」
「即効OKなほどにギンギンだぜ」
主の言う通り、トランクスを脱がせると丸太ん棒のように逞しいペニスがモーリンの唇を待っていた。 「わぁ」モーリンはうっとりと笑った。「素敵。大型で怒った顔のこけし……」
ジャッキーは嬉しそうにモーリンの顔を上から眺めている。
「それでは」モーリンはゆっくりと口を開いた。「いただきまぁす」
開かれた口からモーリンの歯が現れる。毎日磨いてカミソリの刃のように鋭利になっている歯並びが、光った。 林檎を齧るような音とともに鋭い痛みを感じ、ジャッキーは声を上げた。
見るとモーリンの白い顔が返り血に彩られ、自慢のペニスが根本から無くなっている。
思わず意味不明な声を上げながら懐のピストルを取り出そうとしたジャッキーの右腕が飛んだ。
「んふぅ」
ペニスを口中に含んだまま、モーリンはうっとりと笑っている。
長く伸ばしてマニキュアで鋼の硬度に固めた爪が振るわれ、左腕も斬り落とす。 「おっ……、おいっ! 殺し屋だ!」
廊下の用心棒に向かって叫ぼうとしたジャッキーの声は、しかしモーリンの頭で塞がれた。
勢いよく立ち上がったモーリンの黒髪がジャッキーの口に突き刺さる。赤いカチューシャには毒針が仕込んであった。
さらにモーリンは顎を高く振り上げ、ジャッキーの耳に打ちつけた。
顎の下から長い針が伸び、鼓膜を突き破って反対側の耳へ貫通する。
それがとどめだった。 「どんなの?」
机に座った四男がモーリンに聞く。
モーリンは自慢するように口を開き、ピンクの舌に絡めたジャッキーの男根を出して見せた。
「今度のはでかいね」 ジャッキーの男根はモーリンの口の中で、最大サイズのまま固まっていた。
「立派でしょう?」
そう言って笑うと、モーリンは弟に命令した。
「明日までよ。それまでは待てない。早く仕事にかかれデブ」
「任してよ」
四男は卑屈な笑いと自信たっぷりな目の輝きを同時に浮かべると、自分の胸を叩いた。
「最高の作品に仕上げてみせる」 自分の部屋に帰るとモーリンは、飾り台に並んだこけし達に話しかけた。
「明日、新しいお友達が来るわよ」
こけし達は何も言わず、しかし描かれた可愛い顔で笑っていた。
「今度の子は超大型巨チンよ。仲良くしてあげてね」 刑事二人が小吃店で並んで涼麺を食べながらTVを観ている。
モンキーズ対ライオンズの試合が中継されていた。
「12対13か。いい試合だな」
「しかし我が国のプロ野球の超打高投低はどうにかならないんですかね」
「大規模な八百長やってた頃のがまだ人気あったな」
「大王様も日本のプロ野球に行ったらさすがに四割打ててませんし」 刑事部長が入って来て、隣に座ると言った。
「コラ、お前らはプロ野球解説者か?」
「あ、すいません」
「ハハ……」
刑事部長は持参したペットボトルの水を飲むと、言った。
「タオ一家の奴ら、今までは国内のマフィア同士の抗争に関わる仕事を主にしていたが……」
「今回は香港マフィアでしたね」
「その前は政治家」
「何かが変わったのか知らんが、あまり良くない兆候だな」
「今まで通り、カス共の間だけでやっててくれりゃよかったのに」
「いや、それも良いとは言えんが……」 「今回は『人喰いゴスロリ人形』の仕事か」
「えぇ。例によって男根が切断されていました」
「喰ったのかなぁ……」
「目撃者は?」
「いません。被害者のボディーガードはすべて薬を飲まされ眠っていました」
「女を手配したチンピラがいるだろう」
「そいつが行方不明で……」
「ふむ」刑事部長は涼麺を一啜りすると、言った。「やはり『逃がし屋』がいるな」 金髪男が刑事部長の隣に突然座ると、言った。
「俺の名はヴェントゥス」 「またお前か……」
「誰だ?」
「わかんないけどヴェントゥスって名前の奴です」
馬鹿にするような目で見て来る刑事達に、ヴェントゥスは阿呆を見る目で見返すと、立ったまま言った。
「おい、お前ら、これはいつリレー小説になるんだ?」
「うっ」
「それは……」
「だって……」
狼狽える刑事達をもう一度見下すと、謎の金髪男ヴェントゥスは、何も注文せずに店を出て行った。 出て行き際に、ヴェントゥスは呟いた。
「おい、俺を登場させた奴! 俺をどうにかしろ!」 「おい! ヴェントゥス!」
後ろのほうから声を掛けられ、ヴェントゥスは振り向いた。
人混みを掻き分けて短く刈り上げた金髪の大男が笑顔で手を振っている。
タオ一家の次男、ガンリーだった。 「いや……、俺らって知り合いなの?」
ヴェントゥスが不思議そうに言うと、駆け寄って来たガンリーは豪快に笑い飛ばした。
「いいじゃねーか、金髪同士、仲間ってことにしとこうぜ」
「テキトーだな」
「いーんだよ。リレー小説なんてテキトーなもんだ。で、どこ行く?」
「え?」
「遊びに行こうぜ!」
「あー……。じゃ、QQタイム」
「は? それって駅前のマンガ喫茶のこと?」
「飙速宅男(弱虫ペダル)読みたい」 二人はマンガ喫茶QQ タイムの個室に男二人で入ると、黙々とマンガを読んだ。
ヴェントゥスは「弱虫ペダル」の中国語版、ガンリーは陳某の三國志アクション物の「火鳳燎原」を選んだ。 「ガハハッ! こんな北斗の拳みてーな三國志あるかいな!」
大笑いするガンリーを煩そうに見ながら、ヴェントゥスは愛想笑いをする。
「お前、そんな日本の少年マンガなんか読んでんじゃねーよ」ガンリーが突っ込む。
「いいだろ。それにこれは自転車マンガだ。スポーツ自転車の販売台数は我が国が世界一位二位を独占してんだぜ」
「どーでもいいぜ! 読むなら自国のマンガ読めっつってるだけだぜ」
「いや……、それ、作者香港人だろ」
「同じ華人だぜ」
「大体、ここに置いてあるマンガって……」
9割以上が日本のマンガだった。 「戦神、呂布かぁ」
ガンリーは「火鳳燎原」を読みながら、いよいよ登場した呂布に感動した。
https://i.imgur.com/vC4uWgn.jpg 「俺も戦神とか呼ばれてーなぁ」
無邪気にそんなことを言うガンリーに、ヴェントゥスは真顔で言った。
「何言ってんだ化け物の分際で」
「化け物? 俺が?」
「あぁ。素手で人間の体を千切れる奴なんて、お前ぐらいだろ」
「化け物かぁ」ガンリーの顔がみるみるにやけた。「大陸の『黒色悪夢』と戦っても俺が勝つかな?」 「失礼します」
マルコムはタオ・パイパイの部屋のドアをノックすると、お辞儀をしながら入室した。
「お話とは何でしょう、お父さん?」
「まぁ、座れ」
タオ・パイパイはソファーに座るよう、マルコムに勧めた。
テーブルの上の菓子皿には、幼い頃にマルコムの大好物だったソフトキャラメルが山盛りになっている。 「お前、今のタオ一家をどう思う?」
唐突にそう聞かれ、しかしマルコムは即答した。
「おかしくなってしまっています」
「そうだろう?」
「ええ。みんなまるで快楽殺人鬼だ」
「お前に相談してよかった、マル」タオ・パイパイの顔が緩んだ。「その通り、ワシらは殺し屋だが、殺し屋とは快楽殺人犯のことではない!」 「最近」マルコムは父に言った。「仕事の質が変わりましたよね」
「む」タオ・パイパイは少し嫌そうな顔をした。
「依頼元に変化があったのですね」
「それは……」
「もちろん」マルコムは父が何か言おうとするのを遮った。「依頼人のことを知りたいとは思いません。僕らは依頼された仕事をただこなすだけでいい」
「うむ」
「ただ、そのことが兄さん達や妹の快楽殺人鬼ぶりに拍車をかけている」 「お前にだけは話しておこう」
タオ・パイパイはそう言うと、ソファーに深く座り直した。
「以前は台湾内部の抗争に関わる仕事が主だった。しかし、お前が言う通り、ここ最近、事情が変わって来たのだ」
「大陸と……日本のヤクザですね?」
「何でもお見通しだな、お前は」タオ・パイパイは瞠目し、すぐに目を瞑る。「その通り。今は内部で結束するべき時なのだ」 「台湾独立運動が本格的に始まったのですね」マルコムは言った。
「しっ!」タオ・パイパイは声をひそめた。「どこに耳があるかわからんぞ」 「そうなると中国とは戦争です」マルコムは小声で言った。
「あぁ。そのために、今フォルモサ(台湾)に入り込んで来る大陸側の人間及び内部の外省人をふるいにかけておる」
「僕らはまるで裁判官、そして死刑執行人というところか」
「そう言うと聞こえが悪いが、これは必要なことなのだ」 「そしてそこに日本のヤクザも絡んで来る」マルコムはそう言うと、コーヒーを飲んだ。
「ウム。大陸との取引のある日本のヤクザが全面的協力を申し出た」
「中国人は本当に根回しが得意だな。我々も見習わなければ」
「無理だよ。我々は真面目すぎるくせに面倒臭がりで、しかもそのくせ自分大好きなのだ。統率力では中国に敵うべくもない」
「しかも優しすぎる」
「とにかく」タオ・パイパイは話を戻した。「ワシら一家を日本のヤクザが狙っておる」 「何となくそんな話ではないかと思ってはいました」マルコムはそう言うと、ソフトキャラメルを一個、口に放り込んだ。
「そんな時に一家が互いの命を狙い合っておる。これではいかん」
「ターゲットが国際的になって来て、みんな自分の凄さを競うように楽しんでますし、ね」
「かと言って台湾独立の話など大っぴらにはできん。襲い来る巨大な敵を相手に家族一丸とならなければならんのに……」
「ええ」
「お前、兄弟のことは好きか?」
マルコムは少し答えにくそうに笑うと、答えた。
「兄さん達のことは尊敬していますよ。妹は可愛い。趣味がいいとはとえも言えないが……」 「あと姉さんにはいつも世話になっています」マルコムはようやく本心からのことを言えてほっとした。
「あの、えっと、何と言ったっけな、デブの……」
「四男は情けない奴ですが、可愛い奴ですよ」
「そうか」
「そしてキム。キンバリーはオレだけじゃなく、一人除いて兄弟全員から愛されている唯一貴重な存在です」
「それだ」タオ・パイパイは身を乗り出した。「キムの力で兄弟をまとめることは出来ないか?」 「どうでしょうね」マルコムは面白くなさそうな顔で言った。「少なくとも僕とジェイコブ兄さんは、かえって……」
「わかった」タオ・パイパイは諦めたようにマルコムの言葉を遮った。「とりあえず台湾独立のことは口外するな。それだけだ」 タオ・ムーリンは高校の制服に自分の偽名を刺繍して、街を歩いていた。
他の高校生らしき子らが皆、私服で歩いている中で、むしろムーリンは浮いていた。 「50嵐」でタピオカミルクティーを買う高校生らしき子らの列に並びながら、ムーリンは思った。
『あたしも高校、行きたかったな……』
前に並んだ可愛い顔の女の子がふと振り返り、ムーリンを見た。
金髪の三つ編みに制服姿のムーリンに少しぎょっとしたようだ。 「アンタどこの学校?」
その女の子が聞いて来たのでムーリンは心をオフにする。
「もしかしてコスプレなの?」
そう聞かれてもムーリンは頑なに無視した。
「なんか面白い子ね。友達にならない?」
ムーリンはつんぼのように地面をただ眺めていた。
「これからパーティーあるんだけど、一緒に来ない?」
「い、行くっ!」
ムーリンは思わず顔を上げてしまった。 カフェの中を通り、階段を降りると地下に広い部屋があった。
「秘密クラブだよ」女の子は言った。「秘密だからね。誰にも言っちゃダメだよ」
ムーリンが後をついて入ると、同い年ぐらいから姉ぐらいの年頃の男女が暗い部屋の中でギターを弾いて歌ったり、踊ったりしていた。
「……わぁ」ムーリンは思わず満面の笑みを浮かべた。 女の子はカウンターに誘うと、中にいるバーテンダーにラム酒を注文した。
「え。珍奶(タピオカミルクティー)あるのに?」
「混ぜるんだよ」女の子は言った。「アンタもやってみな。イケるよ」 「あたしはヤン・ヤーヤ。アンタは?」
「ムーリン」思わず殺し屋の通り名を名乗ってしまった。「タオ・ムーリンだよ」
「そっか。ムーリン、よろしくね」
「うんっ!」 「で、ムーリン。アンタどこの学校?」
「あ……。高校行ってない。これ、自分で作ったの」
「やっぱりね」ヤーヤは笑った。「見たことない制服だと思ったわ」
「おかしな子だと……思われた?」
「ううん。面白い子は好きだよ」
「ほんとう!?」
「うん。あ、ラム酒来たよ。混ぜてみな」 ヤーヤはムーリンのタピオカミルクティーの蓋をナイフで切ると、そこにラム酒を注いだ。
「お酒、飲めるよね?」自分のにも注ぎながらヤーヤが聞く。
「うん。飲んだことはある」
「えー。大丈夫かな」
「だいじょぶ、だいじょーぶ」と言いながらムーリンは太いストローでズビズビと吸い込んだ。 「どう?」ヤーヤがムーリンの顔を覗き込む。
「おいしい!」本心からムーリンは言った。
「よかった!」ヤーヤが笑う。
その後ろから少し年上らしき男の子が3人やって来ると、真ん中の色の黒い子が声を掛けて来た。
「ハイ、ヤーヤ」
「ハイ、ウー・ユージェ。楽しんでる?」 「そっちの凄い髪の色の制服少女は誰?」ユージェは笑顔で聞いて来た。
「タオ・ムーリンよ」ヤーヤは答えた。「さっきから友達になったの」
もじもじしているムーリンの背中をヤーヤが軽く叩く。
「ハイ……。私、タオ・モーリン」
「緊張すんなって」ユージェは優しく笑った。「仲良くやろうぜ」 「ウー・ユージェはね、ロックバンドやってて、将来は台湾の音楽シーンを変えるのよ」
「へぇ……!」ムーリンは目をキラキラと輝かせた。
「見てな。ラブバラードなんて年寄りの音楽にしてやるぜ」
「聴きたいな」
ムーリンが言うとユージェは、よくぞ言ってくださいましたとばかりにアコースティックギターを手に取った。
他の2人もそれぞれアコースティックギターとカホンを持ち、演奏が始まった。
ユージェ達が歌い始めたのは客観的に見ればありきたりな、ジャム・シャオなどが既にやっているような激しくもキャッチーなロックだった。
しかし生で初めて見るロックの演奏に、ムーリンは目を輝かせ、心を奪われてしまった。 酔っ払った足取りで屋敷の罠をかわしながら自分の部屋へ戻ろうとするムーリンを、後ろの扉を開けて姉のモーリンが呼び止めた。
「遅かったわね」
「あっ。お姉ちゃんたらいまぁ!」
「何してたの?」
「聞いて、お姉ちゃん! あたしっ……! 友達できちゃった!」 モーリンは暗い顔をさらに曇らせると、妹を自分の部屋に招き寄せた。
「アンタ、中学校の時のこと、忘れたの?」
そう言われてムーリンは黙り込んでしまった。
「アンタ、教室の同級生……皆殺しにしたでしょうが」
「……」
「あれでアンタ、死んだことになってんのよ? アレがあるからアンタは中学校中退して、高校にも行けなかった」
「あれは……」ムーリンは泣くような声で顔を上げた。「みんながあたしをいじめたから……」
「そうよ。アンタはキレると何をするかわからない。だから外の世界と関わっちゃダメなの。ましてや友達なんて……」
「だいじょぶ! だいじょーぶだよ!」ムーリンは無理やり顔を笑わせた。「ヤーヤもウー・ユージェも優しい人達なんだ!」 キンバリーを送って行った帰り道、マルコムが1人夜の町外れを歩いていると、明らかに取り囲まれたのを感じ取った。
気づかぬフリでポケットから葉巻を取り出し、くゆらせながら人気のないほうへ歩いて行く。
狭い路地は避け、広い裏道へ入った時、前を黒づくめの男が立ち塞いだ。
「晩上好、ムッシュゥ」
マルコムが笑顔で丁寧に挨拶すると、男は言った。
「タオ一家のマルコムだな?」
緊張しているのが黒いマスク越しにもわかった。