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ロスト・スペラー 21

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0001創る名無しに見る名無し
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2019/11/15(金) 18:38:53.75ID:2nCOUSfN
そろそろネタが切れそう

過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1544173745/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0080創る名無しに見る名無し
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2019/12/01(日) 18:41:02.07ID:qEXNyc3M
老人の言葉に、ワーロックは再び目を剥いて驚く。

 「ノストラサッジオさんに会ったんですか!?」

 「ノストラサッジオ……?」

ワーロックは老人に詰め寄ったが、老人は『ノストラサッジオ』が何か解っていない様子だった。
ワーロックは改めて老人に、ノストラサッジオの似姿を見せる。

 「彼です!」

 「ああ、この人だ。
  この人が私に……。
  いや、この人だったかな?
  記憶が曖昧だな?」

瞭(はっき)りしない老人に、ワーロックは不安になった。
彼は唯の痴呆老人なのでは無いかと。
怪訝な顔をするワーロックに老人は言う。

 「私はノストラサッジオ……なのか?」

 「違……いや、違わないのか?
  ノストラサッジオは個人名では無い?」

そう言えばと、ワーロックはノストラサッジオに会ったばかりの頃を思い出す。
もう随分と昔の事だが、ノストラサッジオは本名では無いと言っていた様な気がする。
老人は難しい顔をするワーロックに、困惑した顔で告げた。

 「とにかく私がノストラサッジオなのだ。
  そして予知をするのだ。
  私はノストラサッジオ、予知……魔法使い。
  君はラヴィゾール。
  ここはマグマの拠点、そして私の部屋」

老人は正気か妄言かも判らない言葉を吐く。
0081創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:39:26.90ID:4vegiXHz
ワーロックは彼がノストラサッジオだとは認め難かった。
そこで一つ質問をする。

 「貴方の名前を教えて下さい」

 「私は……、私は……?
  思い出せない。
  私はノストラサッジオ。
  違う、ノストラサッジオは私の名前では無い……。
  それは予知魔法使いの名前だ」

老人は混乱して、何度も首を傾げていた。
彼はワーロックを見詰めて言う。

 「君の知っているノストラサッジオは死んだ。
  そして私が後を引き継いだ」

彼の口調はノストラサッジオの物に似ている。
それがワーロックには不気味だった。
ワーロックは師の言葉を思い出す。

――魔法使いは究極的には魔法その物になる。
――「魔法の使い」としての魔法使いになるのだ。
――魔法を使う者から、魔法その物、そして魔法に使われる者へ……。

ノストラサッジオも同じだったのかも知れないと、彼は思った。
長年予知魔法使いとして生きていたノストラサッジオも、昔は普通の人間で、ある時から目覚め、
この老人の様に人間から魔法使いに変わってしまったのだろうかと。
そして、漸く目の前の「新しいノストラサッジオ」を認める気持ちになって来た。

 「貴方が新しいノストラサッジオさん……と言う事ですか?」

ワーロックの問に、老人は大きく頷く。

 「どうやら、そう言う事らしい」
0082創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:39:46.12ID:4vegiXHz
ノストラサッジオが何を思って、この老人に予知魔法を託したのかは分からない。
何も老人でなくてもとワーロックは思ったが、その方が都合が好かったか、或いは何等かの条件に、
当て嵌まるのが、この老人しか居なかったのか?
とにかくノストラサッジオは代替わりした。
今まで彼が頼りにしていたノストラサッジオは、もう居ない。
それをワーロックは悲しんだ。
彼に対して、老人は訳知り顔で言う。

 「嘆く事は無い、ラヴィゾール。
  私はノストラサッジオ。
  前代と変わらず、何時でも君達の力になる」

その言葉はワーロックを一層悲しませた。
この老人は人間だった頃の意識を失っている。
それまでの生を捨て、新たな予知魔法使いに生まれ変わったのだ。

 (そう言う人間を選んだのか……)

生に未練の無い者だからこそ、ノストラサッジオの後継者になれた。
そうして「魔法」は存えるのだ。

 「私が貴方を新しいノストラサッジオさんと認めるのには、未だ少し時間が掛かりそうです」

ワーロックは正直に自分の思いをノストラサッジオに告げる。
彼が何と言った所で、この老人が新しいノストラサッジオと言う事実は変わらない。
マグマも老人をノストラサッジオと認め、以前と変わらず、利用しようとするだろう。
老人は淡々と答えた。

 「私達は又会う事になる。
  何時でも待っているよ」

それは予知だ。
ワーロックも新しいノストラサッジオを認めて、今までと同じ様に付き合う様になる。
今では無く、「将来」の話。
0083創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:40:53.20ID:4vegiXHz
魔法とは正に「魔の法」だ。
社会に安定を齎す筈の法に拠って生きる人が、法を尊ぶ剰りに、法に縛られ、法に狂わされ、
法の内で滅びるのと同じく、魔法も人を狂わせる。
魔法を使う者は、何時しか魔法が「法」である事を忘れて、魔法に傾倒し、魔法に全てを捧げる。
そうして自らの生き方と魔法を同一の物とし、自分自身の生き方を忘れてしまう。
魔法を便利な道具としか思っていない内は、魔法を極める事は出来ない。
しかし、魔法を極めようとすれば、何時しか魔法に狂わされる。
魔法を使う者、魔法を極めんとする者は、覚悟しなくてはならない。
その全てを魔法に捧げる積もりがあるのか否かを。
人の身を惜しんで魔法の神髄は得られず、幾つもの魔法を極めんとする者も又、その神髄には、
永遠に届かない事を覚悟しなければならない。
真の魔法を志す道は、正に魔道なのだ。
ワーロックも魔法使いである。
彼は――彼の魔法は、彼の生き方その物だ。
魔法使いの魔法とは、その様な物であるべきだと、彼は思っている。
0085創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 18:24:38.76ID:ojyX/Z+8
グランスールとゲヴェールト


第六魔法都市カターナにて


精霊魔法使いの女、通称「グランスール」は、カターナ地方で3匹の犬を拾った。
この3匹は、どうやら主に捨てられたか、主と逸れるかしてしまった物らしく、
野良犬と言うには上品だった。
この場合の上品とは、見た目の事もあるが、振る舞いも含める。
よく躾けられているのだ。
無駄に人に吠え掛かる事はせず、無闇に人に噛み付く事もせず、堂々と落ち着いている。
多少は動物とも意思の疎通が可能なグランスールは、3匹の犬から事情を聞いた。
犬達の語る所によると、3匹の飼い主は所謂「外道魔法使い」であり、その中でも特殊な物で、
複数の人格を持つらしい。
飼い主の別人格は冷酷で、犬達を道具としか思っておらず、粗雑な扱いをすると言う。
魔導師との戦いで、飼い主は行方を晦ましてしまい、どこに行ったのか分からなくなった。
しかし、3匹は捨てられたとは全く思っていない。
何時か、優しい主人が帰って来ると信じている。
その健気さに心を打たれ、グランスールは3匹の飼い主が見付かるまで、仮の飼い主となる事にした。
旅の身である彼女は、行方知れずの飼い主を探すのには、都合が好かった。
犬達も彼女を信用して、共に付いて行った。
犬達はグランスールを本当の飼い主の様に慕っていた。
普段は彼女の背後を守り、怪しい者が彼女に近付けば、守る様に間に入る。
グランスールは犬達に守られる度に、不要な事だと思いながらも、その忠実さには感心していた。
そして、事々に3匹の犬に言うのである。

 「こんな賢い子達を捨てる主人は居ないよ。
  生きていれば、絶対に探そうとする。
  そう遠くない内に会えるさ」
0086創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 18:25:05.19ID:ojyX/Z+8
グランスールが3匹の犬を拾ったのは、未だ反逆同盟が倒れる前の事だった。
だが、彼女と犬達の付き合いは数月で終わった。
魔導師会の執行者が、彼女の連れている犬に目を付けたのである。

 「そこの人!
  その犬達は、貴女の飼い犬ですか?」

元々魔導師会と関わり合いになりたくないグランスールは、内心で非常に面倒臭く不快に思った物の、
それは心の中だけに収めて、表面上は穏やかに対応する。
彼女の敵意を察して、犬達が前に出ようとしたが、それをグランスールは手振りで抑えた。

 「はい、そうです」

一時的とは言え、飼い主なのだから嘘では無い。
しかし、執行者は簡単には彼女を解放しない。

 「どこかで拾った犬ですか?」

 「どうして、そんな事を?」

飼育届が必要ならば面倒だなとグランスールは考えた。
彼女は旅の身を言い訳にすれば、見逃して貰えるかと言う計算を始める。

 「いえ、よく似た犬の捜索願が出ている物ですから。
  丁度、貴女が連れている様に3匹の」

 「誰から?」

 「そりゃ飼い主ですよ」

遂に、この時が来たかとグランスールは溜め息を吐いた。
0087創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 18:26:08.07ID:ojyX/Z+8
彼女は事実を認める。

 「確かに、この犬達は私が拾った物だ。
  飼い主が居なくて困っていた様だから、私が一時的に預かった」

それを聞いて、執行者は安堵した。

 「そうでしたか……。
  飼い主に確認を求めるので、直ぐ近くの支部まで来て貰えませんか?
  先ず間違い無いと思うんですが、人違いならぬ犬違いと言う事もありますので」

グランスールは共通魔法使いでは無いので、執行者の依願に裏が無いか警戒していたが、
執行者は困った顔で告げる。

 「そう時間は取りません。
  本当に唯確認するだけですので」

執行者の言葉に嘘は無いと認めた彼女は、大人しく彼に従った。
数点掛けて支部に着いたグランスールは、そこで青年ゲヴェールト・ブルーティクライトと会う。

 「フリンク、アインファッハ、クルーク!」

ゲヴェールトは3匹の犬を見るなり、それぞれに呼び掛けた。
犬達はグランスールの下を離れて、真っ直ぐ彼に駆け寄り、戯れ付く。

 「おぉ、良し良し!!
  御免よ、お前達。
  でも、もう大丈夫だ。
  お前達を酷い目に遭わせたりはしないよ。
  これからは、ずっと一緒だ」

ゲヴェールトは3匹を撫で回して抱き締める。
0088創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 18:39:54.24ID:QIl8ymJD
グランスールはゲヴェールトと飼い犬の姿を見て、寂しそうな顔をした。
無意識に、そんな顔をしてしまっていた。
やはり仮の飼い主より、本来の飼い主なのだ。
彼女の視線に気付いたゲヴェールトは、小さく一礼をする。

 「有り難う御座いました。
  貴女が私の犬を保護して下さったんですね」

 「ああ、良いよ、礼には及ばない」

グランスールは感情を覚られない様に、視線を逸らした。
そんな彼女をゲヴェールトは熟(じっ)と見詰める。
何を見ているのかと、グランスールは不機嫌を顔に表した。

 「何か?」

 「あっ、いえ、どこの方かなと思いまして」

グランスールはカターナ地方民にしては背が高く、顔付きも細面だ。
加えて、浅黒い肌に白い伝統文様の入れ墨をしているので、とても目立つ。
グランスールが眉間の皺を一層深くしたので、ゲヴェールトは慌てて謝罪した。

 「済みません、立ち入った事を……」

後ろ暗い事があると思われるのも嫌なので、グランスールは答える。

 「私は旅の身だ」

 「あ、そうでしたか……」

何と無く気不味い空気になり、2人は沈黙する。
0089創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 18:40:33.75ID:QIl8ymJD
執行者は何時の間にか立ち去っている。
これ以上は魔導師会が関与する事では無いと言う事なのだろう。
ここで別れても良いのだが、グランスールは一つ気になる事があった。

 「貴方、共通魔法使いじゃないの?」

 「あ、はい。
  血の魔法使いです」

 「どんな魔法?」

グランスールは完全に興味本位で尋ねる。
特に深い意味は無い。
ゲヴェールトは困った顔で答える。

 「血を飲んだ者を操ると言う……」

 「操る?」

 「えー、説明は難しいんですが、意識を乗っ取ると言うか、思い通りに動かすと言うか、
  そんな感じの……。
  血液自体を操る事も出来ます。
  自分の血しか操れませんけど」

 「ああ、そう言う魔法……。
  変わった魔法ね」

 「はい、中々使い所の無い魔法で……。
  あの、貴女も共通魔法使いではない……ですよね?」

ゲヴェールトの問い掛けに、グランスールは大きく頷いた。

 「私は精霊魔法使いだ」
0090創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 18:41:18.91ID:QIl8ymJD
精霊魔法使いと聞いて、ゲヴェールトは1人の男を思い浮かべる。

 「――と言う事は、コバルトゥスと言う方を知っていますか?」

 「ああ、私の弟だよ」

 「姉弟……?」

ゲヴェールトはグランスールの容姿を上から下まで見詰めた。
グランスールは又も眉を顰める。

 「どうした?」

 「あ、いえ、余り似てらっしゃらないなと」

 「血の繋がりは無いからね」

 「あっ、そうでしたか……」

気不味くなって俯くゲヴェールトを見て、グランスールは小さく笑った。

 「こらこら、変な誤解をするんじゃない。
  別に複雑な関係じゃない。
  少しの間、一緒に暮らしていただけの、姉弟みたいな関係ってだけさ」

 「あっ、そうでしたか……」

そこから再び重苦しい沈黙。
ゲヴェールトは咳払いを一つして、改めて礼を言う。

 「えー、この度は誠に有り難う御座いました。
  ……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
0091創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 20:02:40.09ID:j+kGzTZN
社交辞令に疎いグランスールは小さく笑って拒否した。

 「私の名前を知って、どうしようって言うんだい?
  私は別に感謝も礼も求めないよ」

 「ああ、いえ、そう言う事では無く……。
  又どこかで、お会いするかも知れませんから……」

グランスールは惚けて答える。

 「そんな予定は無いけれど」

 「予定とか、そう言う話でも無く……」

どこかで偶々会った時にでも、何か恩返しが出来ればとゲヴェールトは思っていたのだが、
彼女には全く気が無い様だったので、彼は小さく息を吐いて諦めた。

 「とにかく有り難う御座いました。
  この御恩は、『必ず』、お返しします」

グランスールは肩を竦めて苦笑い。

 「別に良いって言うのに」

そうして2人は別れた。
――しかし、直ぐに2人は再会する事になる。
グランスールは旅の身だが、金が無くては生きて行けない。
彼女の主な収入源は、直ぐに金の入る飛び入りの仕事だ。
例えば、夜のクラブで歌手やダンサーをしたり、狩猟や漁猟を手伝ったり、割と何でも出来る。
プロフィールは大体偽っている。
0092創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 20:03:00.16ID:j+kGzTZN
グランスールの実年齢は、明らかに人外だと言える程では無いが、少なくとも若くは無い。
だが、外見年齢は若い儘である。
これは多くの魔法使いと同じく、彼女も半精霊化している為だ。
飽くまで「半」であり、永遠の命を持っている訳では無い。
肉体を捨て去れば、永遠の命を持つ事も可能だが、それをしようとは全く思っていない。
それは彼女自身、自然の儘に生きる事が、精霊魔法使いのあるべき姿だと思っているからに、
他ならない。
グランスールはカターナの海で、海女達と共に漁業を手伝っていた。
彼女はカターナ地方に訪れる度、毎年の様に手伝っているので、既に地元の海女集団とは、
顔馴染みである。
精霊魔法を自在に使う彼女は、泳ぎが得意で、水にも慣れており、潜水時間も常人の3倍は長い。
グランスールが狙うのは大物だ。
普通の人では手が出せない、大型の魚介類を取る。
大体自分の体と同じ大きさまでなら、彼女は捕獲出来る。
中には人間を襲う危険な物も居るが、グランスールの敵では無い。
大きい物は調理も相応に大変だが、共通魔法があるので、処理には苦労しない。
人間が入れそうな程の、大きな壺貝を彼女が海から引き上げると、海女達の間で歓声が起きる。

 「ヒャー、大物だ!」

 「相変わらず、凄いねぇ!」

海女達の年齢幅は広い。
家業としている者もあれば、グランスールの様に臨時の収入に利用する者も居る。
危険が伴うので、人気の職業と言う訳では無いが、稼ぎは悪くなく、後継者も多い。
グランスールは海女達に笑い掛ける。

 「もっと沖に、この倍はある真珠貝を見付けたよ。
  もし大きな真珠が入ってたら、今晩は宴会だ」
0093創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 20:03:26.28ID:j+kGzTZN
若い海女達が態とらしい嬌声を上げる。

 「キャー、素敵!」

それに対してグランスールは大きな笑みを見せるが、一方で経験豊富な老齢の海女達は心配顔で、
彼女に警告した。

 「あんたの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けなよ」

 「心配御無用です。
  海は私の味方ですから」

精霊魔法使いである彼女にとって、自然は彼女の親しい友人だ。
大型の海獣も、荒れ狂う波も、彼女の敵では無い。
老齢の海女達もグランスールを「海に愛された者」だと認識していたので、諄くは言わなかった。
グランスールは海に飛び込んで、大きな真珠貝を獲りに行く。
普通の人間なら、潮に流されて帰れなくなる様な場所も、グランスールには問題無い。
流れに乗って、大きな真珠貝まで接近し、精霊魔法で岩の隙間から貝を引き抜く。
その瞬間を待っていた様に、大蛸が彼女の背後に現れた。
触手も含めると人間の倍の大きさはあろうと言う、正に大蛸。

 (おっとっと、横取りかな?
  人の獲物を奪ろうなんて、甘い甘い)

グランスールは一度敢えて貝を蛸に渡すと、精霊魔法「水の槍」で蛸の急所、両目の間を貫いた。
蛸は貝を抱いた儘、体色を淡くして即死する。

 (これぞ一石二鳥)

グランスールは蛸が巻き付いた貝を回収して、浅瀬へと泳ぐ。
0094創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 19:40:19.48ID:kvreI0PH
そこへ更に闖入者が現れる。
今度は海獺だ。
逸れ物が単独でグランスールの抱える獲物を狙っている。

 (人の獲物を横取りしようとは、感心しないね。
  自分の力で狩りをやらないと、女の子に持てないぞ)

彼女は内心で独り言ち、対処方法を思案する。
蛸は呉れてやっても良いのだが、これで人間を狙う事に味を占めて貰っても困る。

 (仕様が無い。
  痛い目を見て諦めて貰おう)

グランスールは海中で海獺と戦う決意をした。
先ずは精霊魔法で海流を局所的に変化させ、海獺の行動を制限する。
海獺は本能で海流が判るのだ。
目に見えているかの様に、海流の強い部分、弱い部分を見極められる。
そして、自然に体力の消耗が少ない進路を選択する。
海流を避けて回り込んで来る海獺に対し、グランスールは水槍の魔法で、その目を狙った。

 「アギャァアアッ!!」

両目を潰された海獺は、醜い叫び声を上げて怯む。
その隙にグランスールは浅瀬へと泳いだ。
海獺は暫く、その場で沼田打ち回っていたが、直ぐに回復して再びグランスールを追う。

 (執拗いなぁ。
  執念深い事が悪い訳じゃないけどね。
  これは愈々女の子に持てない奴の行動だよ)

頭の先が漸く水面から出る程度の浅瀬で、グランスールは再び海獺と対峙する。
0095創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 19:41:01.58ID:kvreI0PH
グランスールは貝と蛸を守りながら、海獺と戦わなくてはならない。
海獺の大きさは3身程。
海獣としては小さい方だが、脅威には変わり無い。
武器があっても、真面な人間では立ち向かえないのが、大海獣なのだ。
グランスールは水の中に潜り、水の刃で海獺を切り裂く。
しかし、体の表面を傷付けるだけで、大きな打撃は与えられない。
海獺の方は既に貝にも蛸にも興味が無く、邪魔者のグランスールを排除する事だけを考えている。
突進を繰り返す海獺を、グランスールは流れに身を任せて回避する。

 (早く諦めた方が身の為だぞ。
  疲れるのは、そちらが先だ)

その内に海獺は疲れて、グランスールを無視して、浅瀬で休憩を始めた。

 (あらら、これは困った。
  そんな所で待ち構えられていたら、陸に上がれないじゃないか……)

海獺は海獣だが、陸上でも十分な機動力を持つ。
やはり人間では敵わない。
グランスールは精霊魔法を使い、静かに雨雲を呼び寄せた。
数針は掛かるが、雨雲を呼んで落雷で海獺を仕留めようと言う計算だ。
徐々に冷たい風が吹き始める……。
その時、海岸に3匹の犬を連れたゲヴェールトが現れた。
犬達が海獺を取り囲んで吠え掛かり、その間にゲヴェールトはナイフで自らの腕を浅く切り、
出血させる。
彼は出血した儘で、海獺に接近して腕を振るい、血飛沫を浴びせた。
血飛沫を顔に受けた海獺は、直ぐに大人しくなって、ゲヴェールトに平伏する。
3匹の犬達は海獺から離れて、ゲヴェールトの周囲に戻った。
その後、ゲヴェールトは海獺に指示して、海の中に帰らせる。
彼が海を指差すと、海獺は海に飛び込み、その儘沖へ。
0096創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 19:42:05.44ID:kvreI0PH
その間にグランスールは貝と蛸を波打ち際に運んだ。
今まで遠巻きに彼女を見守っているだけだった海女達も、彼女を手伝いに駆け付ける。
貝と蛸は無事に陸上に引き上げられ、海獺が戻って来る事も無かった。
落ち着ける状況になったグランスールがゲヴェールトの様子を窺うと、彼は腕に包帯を巻いて、
愛犬達と退散しようとしていた。
お礼をしない訳には行かないだろうと、グランスールは彼を追う。

 「待って!」

呼び止められたゲヴェールトは振り返って、彼女と向き合った。
彼は気恥ずかしそうな笑みを浮かべて言う。

 「何か?」

 「助けてくれたでしょう?」

 「ああー、別に助けは必要無かったみたいですけどね。
  海辺を散歩していたら、偶々見掛けた物で。
  大事にするのも何だと思ったので」

空模様を見ながら話すゲヴェールトは、状況をよく理解していた。
彼はグランスールが雷雲を呼んでいる事、更に自分の手助けが必要無い事も知っていた。
グランスールは眉を顰めて問う。

 「恩返しの積もり?」

 「いえ、こんな物で返せたとは思っていません。
  あれは……魔法使いとしての自己紹介みたいな物でしょうか?
  私には、こう言う事が出来ますと言う……。
  私の能力が役立つ時に、貴女と偶然一緒に居る可能性は低いでしょうけど」
0097創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 18:28:27.23ID:UROJyp13
ゲヴェールトの透かした態度が気に食わず、グランスールは不機嫌な顔をする。

 「助けられたからには、お礼をしないと行けないんだけど」

 「いえ、結構です」

 「『結構です』じゃなくて、これは私の主義だよ」

 「でも、貴女も私の礼は要らないと言ったじゃないですか?
  お互いに礼を受け取る積もりが無いなら、それも対等って奴でしょう」

ゲヴェールトに言い包められて、グランスールは引き下がった。
グランスールとしては、恩は押し付ける物で、返す物では無いのだ。
よって、他人に恩を売られると、どこか据わりが悪くなる。
それは単なる我が儘だ。
去ろうとするゲヴェールトをグランスールは再び呼び止める。

 「待て、名前を聞いていなかった」

ゲヴェールトは足を止めて振り返った。

 「ゲヴェールト。
  ゲヴェールト・シュトルツ・ブルーティクライト」

 「エグゼラ地方の生まれ?」

 「ああ、ティナー地方寄りの南部の生まれだ」

グランスールは頷いて、自分も名乗る。
「グランスール」と言う通称では無い、本当の名前を。

 「私はフィジア。
  カターナ地方の生まれ」
0098創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 18:29:30.74ID:UROJyp13
ゲヴェールトは彼女の名前を確認する様に、自分でも口にした。

 「フィジア……。
  名字は?」

 「無い。
  私は自然の中で生きる物。
  個体の識別としての名はあれど、所属を示す名字を持たない。
  最も古く、伝統的な精霊魔法使い。
  貴方が犬達に名字を付けないのと同じく、私達は自然の中では犬達と同じ。
  誰も何も区別しない」

精霊魔法使いとは面倒臭い物だとゲヴェールトは思うが、口には出さない。

 「そ、そうですか……」

 「敢えて言うならば、『精霊魔法使い<エレメンタル・マスター>』と。
  精霊魔法使いのフィジア。
  そう憶えて欲しい」

 「解りました、フィジアさん」

 「有り難う、ゲヴェールト。
  それともシュトルツ?」

 「あ、ゲヴェールトで大丈夫です。
  ミドルネームで呼ばれる事は余り無いので……」

 「そう。
  それじゃあ、又どこかで」

お互いに名前を確認すると、グランスールは再会を予感させる言葉を告げて、背を向けた。
0099創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 18:30:15.95ID:UROJyp13
グランスールは海女達の集団に戻る。
海女達は既に海岸から離れた場所で、大物の解体を始めていた。
若い子達は戻って来たグランスールに、ゲヴェールトの事を尋ねる。

 「姉さん、姉さん、あの人誰?」

 「誰って、只の顔見知りだよ」

若い子は色恋の香りに敏感なのだ。
年頃の男女が一緒に居れば、先ず関係を疑う。

 「嘘だー!
  そんな感じじゃなかったよ」

 「嘘って言われても」

グランスールは苦笑して、全く動揺を見せない。
若い子等は露骨に残念がる。

 「違うのかぁ……」

 「何だい、君達?
  君達こそ彼が気になるのか?」

若い子等は顔を見合わせ、小さく笑った。

 「気にならない訳じゃないけど……」

 「でも、そこまで気にする程じゃないって言うか?」

曖昧な返答にグランスールは眉を顰め、話を切り替える。

 「それより、真珠貝は?」
0100創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:41:21.26ID:bNDOCGha
年配の海女達は真珠貝の口を開けて、中身を取り出していた。

 「ほれ、大物だ」

拳大の真珠が2つ、3つと転がり出て来る。
若い海女達は目を輝かせて、真珠を手に取る。

 「わー、綺麗!」

それを年配の海女の一人が窘める。

 「これこれ、獲物を取ったのは、『姉<スー>』ちゃんだよ」

若い子等は揃ってグランスールを見た。

 「あっ、御免なさい……」

グランスールは小さく笑って許す。

 「良いよ。
  どうせ売ってしまうんだし。
  売り上げは皆で分けるんだし。
  今の内に、好きなだけ眺めときなよ」

彼女は形の残る物に頓着しない。
それが精霊魔法使いとして、あるべき姿だから。
精霊は基本的に見えないが、その存在は感じられる。
見える物ばかりに囚われていては、精霊には気付けない。
しかし、全く物欲が無い訳では無い。
価値観が一般的な人とは少し違うだけだ。
0101創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:43:53.28ID:bNDOCGha
貝も蛸も、身をその場で捌き、肉は凍らせて売り物に。
腐り易い内臓は、その場で処分する。
可食部は火を通して食べ、どうしても食べられない部分は廃棄する。
他の海女達が獲った魚介類も、同様に処理して行く。
若い子等は処理に手間取るが、年配の者達は手早い。
小物でも大物でも、あっと言う間に処理が終わる。
グランスールも手慣れた物で、精霊魔法を使った処理技術は見事の一言。
利き手の指先に刃を宿らせ、魚の腹を切り裂くと、内臓を掻き出す。
その間、魚を押さえる手には、冷気を宿らせ、鮮度を落とさない。
捌き終われば、運搬に困らない程度の大きさに切り分け、洗浄した冷海水に漬けて身を締める。
これを市内の魚市場に卸すのだ。
一通りの作業を終えた後、一人の若い海女がグランスールに話し掛けた。

 「あっ、姉さん、今更なんですけど……」

 「どうしたの?」

 「あの人に、お礼しなくて良かったんですか?」

グランスールは眉を顰めて答える。

 「要らないってさ」

 「はぁ、変わった人ですね」

 「……ああ言うの、私は嫌い」

グランスールが人間の好き嫌いを口にした事に、若い海女は驚いた。
0102創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:45:05.28ID:bNDOCGha
グランスールは人当たりが好く、誰かの悪口を言う事は無かった。

 「あの人と何かあったんですか?」

至極当然の疑問に、グランスールは飄々と答える。

 「お礼をすると言ったのに、断られた。
  好意を無下にされれば、誰だって良い気はしない」

 「あれじゃないですか?
  都市警察だとか、執行者だとか?
  市民から、お礼を貰えないって言う」

 「そうでは無いから不満なのだ」

 「それじゃあ……。
  下心があると思われたから?」

 「警戒された訳でも無い。
  ――と言うか、そんな風に見えるのか?」

男を取って食う様な女に見えるのかと、グランスールは若い海女に尋ねた。
若い海女は苦笑いして、正直な印象を述べる。

 「見えない事も無いですよ。
  堂々としてますし、下手な男の人より強そうで。
  如何にも肉食系って感じ」

 「……とにかく、それは関係無い。
  もう、この話は良いだろう」

 「好意に甘えてくれる人の方が好きなんですか?」

 「そう言う訳でも無い。
  嫌いと言うのも、心の底から嫌だとか、そこまでの話では無い」

分からない人だなと若い海女は小首を傾げるばかりだった。
0104創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 19:32:05.29ID:JrDjsPxu
童話「運命の子」シリーズA 奇跡の者

『王位禅譲<スローン・インヘリタンス>』編


南西の国で悪魔を退治したクローテルのうわさは、アーク国にも届きました。
いよいよ彼こそ本物の神の子では無いかと、アーク国中で語られる様になります。
それから間も無く、ルクル国のマルコ王子とオリン国のアレクス王子とアーク国のヴィルト王子が、
3人で秘密の約束をします。
それはクローテルを新たな王、それもアーク国だけでなく、全ての国を治める王の中の王として、
迎えようと言う物です。
しかし、アーク国の王は王位をゆずるつもりはありませんでした。
多くの国をまとめるのは自分以外に無いと思っていました。
クローテルが王になると言う話は、未だ先の事だったはずですが、そこに教会も加わって、
話はますます複雑になります。
教会の中で熱心な信仰心を持つ集まりは、クローテルを次の王にしようと考えていました。
その中心にあったのが、司祭の娘のシスター・ローラです。
彼女はクローテルが神の子であると、早くから知っていました。
そして彼の勇ましいうわさが広まる度に、その確信を深めて行きました。
多くの出来事が一つの輪となり、クローテルを新しい王に選び出そうとしていました。
0105創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 19:34:05.98ID:JrDjsPxu
時は流れ、クローテルは19才になりました。
オリン国は非公式ながらクローテルを王にする事を認める予定でした。
ルクル国も同じく、また他のほとんどの国でもクローテルと言う神の子を王の中の王、
新しい神王として正式に認める事に反対しないつもりでした。
ただアーク国王と一部の教会の者だけは認めるつもりがありませんでした。
ある時クローテルは王に呼び出されて、こう告げられます。

 「クローテルよ。
  世間では、そなたこそが王になるべきだと考える者が居る様だ」

 「その様なつもりはありません」

 「それならば良いが、本当に王にはならぬのか?
  心のどこかでは、王になる日を待ち望んでいるのではないか?」

疑り深いアーク国王にクローテルははっきり言いました。

 「私が王になるとすれば、それは運命に導かれた時です」

これにアーク国王はおどろいて、クローテルを問いつめます。

 「お前は自分が王になると思っているのか!?」

 「それは分かりません。
  もし、そうなる時が来たらと言う事です」

 「王になる者は高貴な血統でなくてはならぬ。
  クローテル、お前には神器を……」

そこでアーク国王は言葉につまってしまいました。
0106創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 19:37:32.43ID:JrDjsPxu
うわさが正しければ、クローテルは神器を使えるのです。
アーク国王を聖槍家当主たらしめている物は、神槍コー・シアーを使えると言う事実です。
だからクローテルも神器を使えるのであれば、彼を王と認めざるを得ないのです。
そして、もしクローテルを王に選ぼうと言う者があれば、神器を使える事を証明させるでしょう。
クローテルはアーク国王に言います。

 「全ては運命です。
  私が王となるもならないも、その中での出来事です。
  私は聖騎士として多くの物を見て来ました。
  多くの悲しい出来事をありました。
  私は王となる運命が来たら、それを受け入れようと思っています。
  そして……」

 「いや、もう良い!
  何も言うな!」

アーク国王はクローテルの澄んだ目に耐えられなくなり、彼の言葉を止めました。

 「お前は王と言う物を知らぬのだ。
  王になると言う事は、権力を得る事。
  そして権力には誘惑がつきまとう。
  お前は……、お前ははかりごとばかりの世界で生きて行くには若すぎる」

 「陛下、私には人の心が見えます。
  陛下の王国の行く末をうれう心が分かります。
  しかし、陛下、私はアーク国の王、一国の統治者になるのではありません。
  あなたを王位から追い落とすつもりもありません。
  私には、より大きな使命の様な物が見えるのです。
  私には政治は分かりません。
  国家を統治する事は出来ないでしょう」

クローテルの瞳は白く、まるで全てを見通しているかの様です。
アーク国王はクローテルのまなざしにふるえました。
0107創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:06:30.78ID:3N9HrvLf
アーク国王は恐れを隠す様に、怒りと見下しの目を向けてクローテルに言います。

 「ハハ、ハハハ……!
  統治せぬ王は王では無い!
  王とは君臨する者の事だ!」

何も答えないクローテルに王は独り演説を続けました。

 「人民とは正にアリの様な物。
  欲のままに甘味にたかり、少し小突かれただけで、おどろき逃げ惑う。
  それをまとめ上げ、従えるのが王の役割。
  人の本性はけだものだ。
  王の法の下、罪には罰を与え、功に報いる事によって、ようやく人になる。
  人を人にする事、これもまた王の使命」

 「本当に、そうなのでしょうか?
  人の本性はけだものでしか無いのでしょうか?」

クローテルの問いかけに、王は自信を深めて答えます。

 「そうでなければ法と言う首輪は必要あるまい。
  世の全ては、必要があって、そうなっているのだ。
  王も教会も貴族も騎士も商人も農民も。
  それは精巧な細工のごとく、どれが欠けても崩壊する」

 「分かります。
  しかし、今の世のあり様を見ても神王は不要だとおっしゃるのですか?」

 「神の存在は人には余りにもまぶしすぎる。
  どこまでも人は人でしかなく、完璧にはなれぬ。
  だから人は神より王を求めるのだ」

王は自分を正当化して、クローテルを言い負かしたつもりになっていました。
0108創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:07:57.86ID:3N9HrvLf
しかし、クローテルは動じません。

 「それも真実なのでしょう。
  しかし、あなたは知っています。
  今の世が決して平穏なままでは無い事を。
  何者の支配も永久ならざる物だと言う事を。
  ただ神を除いて」

 「お前ごときが神を語るのか!?」

 「いいえ、私は神ではありませんし、神意を知る事も出来ません。
  それでも神の御業を感じる事は出来ます。
  もし私が王となるならば、それは運命によってです。
  あなたが善き王であり、善く支配し、善く人々に支えられるのであれば、運命が私を選ぶ事は、
  無いでしょう」

その言葉に王は再び恐れを感じました。
彼は自分が善き王である自信が無かったのです。
その夜、アーク国王は教会で司教達と司祭達を集めました。
そして、こう言ったのです。

 「このままでは聖騎士クローテルが王になってしまう。
  それも、ただの王ではない。
  王の中の王、世界を統べる神王だ」

司教達と司祭達はとまどっていました。
一人の司教が王をなだめます。

 「陛下、何を恐れる事がありましょう。
  あなた様はアーク国の王なのです」
0109創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 18:09:48.64ID:3N9HrvLf
それに対して王は激怒しました。

 「何だと、貴様!
  私が若僧を恐れていると言うのか!」

司教は失言に気づいて平謝りします。

 「も、申しわけございません……」

しかし、王は怒りが収まりません。

 「それが貴様の本心なのだな!
  私が若僧ごときを恐れていると、心の中で笑っているのか!!」

他の司教達や司祭達は口を閉ざしました。
王は我に返って、ようやく怒りを静めます。

 「とにかくクローテルを神王とは認めない様に。
  今の時代に神王は不要なのだ。
  これまで私達は上手くやって来た。
  そうであろう?」

司教達と司祭達は同意せずに沈黙しました。
これに不満を持った王は、翌日にアーク国と周辺国の貴族を呼び寄せて、同じ様な会合を開きます。
ただクローテルだけは会合に呼びませんでした。
そして王は貴族達にもクローテルを神王と認めない様に迫りました。

 「諸君、よく集まってくれた。
  話と言うのは最近の一部の貴族や教会の不穏な動きについてだ。
  どうやら聖騎士クローテルを神王として認めようと言う動きがある様なのだ」
0110創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 11:10:00.64ID:iUyqOuVb
ハツカネズミのジョニー「 あーカユカユ &#12316;背中がかゆいわ&#12316;、何でやろな?お前のせいやわ」
0111創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 18:57:43.04ID:zx+tRPXy
貴族達はおどろいて顔を見合わせました。

 「何とおそれ多い。
  一体誰が、その様な……」

 「王子達が秘密の会合で決めたのだ。
  ルクルとオリンの王子も参加していたと言う」

王の発言に貴族達はまたもおどろきます。

 「ヴィルト王子もですか!?」

1人の貴族が放った言葉に対して、王は答えませんでしたが、その顔は強張っていました。
それだけで貴族達は事情を察しました。
また別の貴族がアーク国王に問いかけます。

 「教会は何と言っているのでしょうか?」

 「やつ等は当てにならぬ。
  やつ等にとっては王や貴族より神だ。
  神を持ち出されれば従わざるを得ぬ」

王が何を言っているのか、貴族達は分かりませんでした。
王はつまり、クローテルには神がついていると言っているのです。
また別の貴族の1人がアーク国王にたずねました。

 「クローテルとは何者なのですか?」

そう聞かれて、王は黙ってしまいました。
クローテルについて何を言っても、彼の名誉をたたえる事になってしまいます。
貴族達もクローテルのうわさについては知っています。
うそやごまかしは通じません。
0112創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/12(木) 18:58:20.16ID:zx+tRPXy
アーク国王は、事実を言う事しか出来ませんでした。

 「得体の知れない男だ。
  もしかしたら人間では無いのかも知れぬ」

それを聞いた貴族達は声をそろえて言います。

 「悪魔審問だ!
  教会に悪魔審問会を開かせれば良いではありませんか!」

貴族達の威勢にアーク国王はおびえました。
もしクローテルが悪魔審問を乗り越えてしまえば、もう彼を責める事が出来なくなります。
アーク国王は苦しまぎれに言いました。

 「いや、教会も信用ならぬ」

そこまで事態は深刻なのかと、貴族達は顔を見合わせました。
沈黙の中で、また1人の貴族が言います。

 「それならば、神器の審判を受けさせましょう。
  悪魔も神器からは逃れられますまい」

それは名案だと他の貴族達も賛成します。

 「他の国にも呼びかけましょう。
  公の場でクローテルの正体を暴くのです」

再び勢いを増した貴族達に、アーク国王は参ってしまいました。
もしクローテルが、それさえも乗り越えてしまったら、もう止める事は出来ません。
誰もがクローテルを神の申し子と認めてしまうでしょう。
0113創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/12(木) 18:59:14.65ID:zx+tRPXy
アーク国王は何とか貴族達を抑えようと、呼びかけました。

 「待て待て、はやってはいかん。
  落ち着くのだ。
  神器は神聖な物。
  そうみだりに神器を持ち出すわけにもいかんのだ」

王の発言に貴族達は不満そうな顔をします。
一体何をためらっているのかと、みんな不思議でならないのです。
王の命令があれば、神器を持ち出す事は難しくありません。
いつも式典でヴィルト王子に持たせているのですから。
貴族達の疑いの目に、アーク国王はひるみました。
貴族達はうったえます。

 「教会もむしばまれているとなれば、これは国の一大事。
  すぐに手を打たねばなりません」

 「そうです。
  誤解なら誤解で良いではありませんか?」

アーク国王は弱気になり、貴族達に問いかけました。

 「本当に良いのか?
  もしクローテルが神器の試練に堪えれば、神王となるかも知れぬのだぞ。
  その時にクローテルが何をするのか分からぬのだ。
  貴族の権威をおびやかすかも知れぬ」

貴族達は顔を見合わせ、少し迷いました。

 「しかし、このまま見過ごすわけにはいかないでしょう」

 「もしクローテルが悪魔の手先ならば、この国はどうなるのですか?
  神王になるならないは、後の話。
  まずは白黒はっきりさせるべきです」

アーク国王は何も言い返せませんでした。
心なしか貴族達の目が冷たく感じられます。
それは決断出来ない国王を批難しているかの様でした。
0114創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:21:29.72ID:6s/lxUJ/
アーク国王の心配をよそに、クローテルに対して悪魔審問会が開かれる事になりました。
しかも、教会の行う物では無く、アーク国・オリン国・ルクル国が協力し、多くの貴族と国民の前で、
公開されるのです。
アーク国の大聖堂で、その悪魔審問会は開かれました。
悪魔審問会としか聞かされていない多くの貴族や国民は、英雄である聖騎士クローテルが、
一体どうなってしまうのかと、ある者は興味本位で、ある者は暗いねたみをこめて、
ある者は本気で彼を心配して、審問会の行く末を見守っていました。
しかし、ルクル国の国王夫妻と王子、そしてオリン国の公王と王子、そして教会の一部の者だけは、
この審問会が持つ真の意味を理解していました。
聖騎士にして子爵クローテルが被告人席に上がって、聖堂内がざわつきます。
その後に教会の中でクローテルに不信感を持つ派閥の審問官が3人登場して、被告人席を囲みます。

 「これより悪魔審問を開始する!」

罰棒を持った3人は、杖で聖堂の床をドンドンと叩き、厳しい声で宣言しました。

 「なんじ、クローテル!
  そなたには悪魔つきの嫌疑がかけられている!
  この審問会は、その疑いを晴らすためにある!」

 「神聖なる心でのぞめ!
  決していつわりをのべる事は許されぬ!」

 「聖なる宣誓文を読み上げよ!」

審問官に言われた通り、クローテルは宣誓文を読み上げます。

 「私は神の愛し子として、自らの良心に従い、真実のみをのべ、いつわりを口にせぬ事を誓います」

 「よろしい!
  では、尋問から始める!」
0115創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:21:55.25ID:6s/lxUJ/
クローテルの宣誓の後に、審問官はクローテルを問い質します。

 「クローテルよ、そなたは神を信じているか?」

 「分かりません」

その答えに3人の審問官はぎょっとしました。

 「分からぬとは何事かっ!!」

 「この神国に生まれながら、神を感じた事は無いと言うのかっ!!」

審問官達の怒りにもひるまず、クローテルは答えます。

 「はい。
  神の教えは理解しています。
  この世の全ての理を創造された方だと。
  しかし、世に満ちる理の神秘を感じる事はあっても、神の心、神意を感じた事はありません。
  故に、それを信じて良い物か分からないのです」

審問官は彼をあわれみました。

 「世の全ては神の計らいである。
  そなたが今日まで生き、その勇名をはせたのも、今まさに審問の場にあるのも。
  自然の物、全てが神意である」

 「それでは、世の幸不幸も?」

 「しかり。
  全ては神の差配である」

 「聖書には、そうは書いてありませんでした。
  神は姿を隠したために、世の幸不幸は人の差配であると。
  もし人の世が多くの者の望まざる物でありながら、人の手ではおよばぬ程に乱れた時、
  初めて神は御手を差し伸べられると」
0116創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 18:22:56.19ID:6s/lxUJ/
審問官は口をつぐみます。
クローテルはなおも聖書の言葉を続けました。

 「神は私達の支配者ではなく、私達を支配する事もしないと。
  それは喜ばしい事でもあり、悲しむべき事でもあると。
  運命はただ一つの事を除いて、全てはまやかしであると」

彼の堂々とした語りは、まるで神の言葉の様でした。
審問官だけでなく、多くの聴衆も彼の言葉に聞き入っていました。

 「聖書の言葉は正しいと思います。
  しかし、私は神を信じて良いのか迷っています。
  何故なら今、私の目の前に運命があるからです。
  それが本物かまやかしの物か、分からないのです。
  審問官よ、お答え下さい。
  『これ』は運命ですか?」

クローテルの問いかけに、審問官は我に返って答えました。

 「しかり。
  これは運命である。
  そなたは運命に測られている」

 「残念ながら、尋問にて熱心な信仰心は認められなかった!
  しかし、邪悪な物と断ずる事は早計と考える!」

 「これより聖別の儀を行う!
  聖十字十芒星章を持て!
  聖水と聖油による清めを受けよ!」

審問官達が要求すると、3人のシスターが聖具を持って現れます。
0117創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:30:00.15ID:iQ/He6wx
1人は聖なる紋章を、残りの2人は聖水と聖油を持っていました。
3人の審問官は、ぞれぞれ聖具を受け取ると、クローテルに向かって言います。

 「もし、そなたが悪魔なら、聖なる物に何がしかの反応を示すだろう」

クローテルは全く何の反応もしませんでした。
審問官の1人がクローテルに、聖なる紋章を突き付けます。

 「邪悪なる物よ、退け!」

聖なる力で紋章はまばゆくかがやき始めましたが、クローテルはまばたき一つせずに、
まっすぐ見つめていました。
審問官は低くうなり始めます。

 「う、ううむ……」

 「次は私が」

もう1人の審問官が、聖水の入ったビンを持って進み出ました。
彼は聖水を自らの手に少しかけます。

 「これは聖水である。
  この様に普通の人間には効かないが、悪魔や悪魔つきが浴びると、やけどの様になる。
  被告クローテル、両手を差し出すのだ」

クローテルは言われるままに両手を前に差し出しました。
審問官は手に聖水をかけます。
クローテルは無表情のままでした。

 「……効かない様だな」

聖水を持った審問官が引き下がると、最後の審問官が聖油を持って進み出ました。
0118創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:30:56.40ID:iQ/He6wx
 「クローテルよ、聖油は悪しき物を退け、万病をいやす。
  敬けんな心を持って、こうべをたれよ」

審問官は聖油の入ったビンを開けて、頭を下げたクローテルの上にたらしました。
やはりクローテルは何ともありません。
審問官達は顔を見合わせて、首を横に振りました。

 「なんじ、クローテル。
  そなたに魔性は認められなかった。
  しかし、信仰心あつき敬けんな信徒とも言い難い」

 「すなわち、そなたは一般的な、あるいは大きなとがめ無き者と変わらぬ存在かも知れぬと言う事。
  聖騎士の号(よびな)は聖性のある者にしか認められぬ」

 「これより、なんじの聖を見る。
  そなたに聖性が認められなかった場合、聖騎士の号をはく奪する」

そう言って、悪魔審問官達は下がりました。

 「神器の審判を始める!
  神器は聖職者であっても、みだりに手に出来る物では無い。
  だが、幸いにして、この場には神器の継承者であらせられる王子達がおわせられる。
  聖なる者の選定は聖なる者によって行われるべし。
  どうぞ、お出でになられます様、お願い申し上げます」

それに応じて、ルクル国のマルコ王子とオリン国のアレクス王子、そしてアーク国のヴィルト王子が、
席を立って、クローテルの前に立ちました。
マルコ王子の手には旗が、アレクス王子の手には盾が、ヴィルト王子の手には槍があります。
0119創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:32:05.67ID:iQ/He6wx
3人は声をそろえて言いました。

 「なんじ、聖騎士クローテル!
  これより我等3人が、そなたの聖性を見る!
  神器の審判を受けよ!」

そしてアレクス王子が最初に一歩進み出ます。

 「我がオリン国に伝わるは神盾セーヴァス・ロコ!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる盾がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が盾を持て!」

アレクス王子に命令されて、悪魔審問官の1人が盾を持とうとします。
しかし、審問官が盾を受け取ると、見る見る盾は重くなり、審問官は立っていられなくなりました。
審問官は盾を落とさない様にするのがせいぜいで、その場にうずくまってしまいます。

 「おお、まさしく神器……。
  選ばれし者にしか持つ事を許されぬ物……」

アレクス王子は審問官から盾を取り上げると、改めてクローテルと向き合います。

 「クローテル殿、盾をお持ち下さい」

クローテルはアレクス王子から盾を受け取りました。
盾は少しも重たくなく、まるで軽木の様な軽さです。
クローテルは盾を持ち、両手で高くかかげました。

 「そして身に着けるのです」

アレクス王子に言われた通り、クローテルは盾を左手に装着しました。
そうすると、盾がまばゆくかがやき始めます。
アレクス王子は聖堂中に大声で宣言しました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0120創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:25:27.53ID:IynuwEX1
クローテルに盾を返してもらいアレクス王子は下がります。
次にマルコ王子がクローテルの前に立ちました。

 「我がルクル国に伝わるは神旗マスタリー・フラグ!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる旗がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が旗を持て!」

マルコ王子に命令されて、悪魔審問官の1人が旗を持ちます。
盾の時とは違って、旗が重くて持てないと言う事はありませんでした。
続けてマルコ王子は命じます。

 「ひもを解き、旗を立てよ。
  正しき信仰心が風を呼び、旗をたなびかせる」

審問官は旗を広げて立てましたが、聖堂の中では風が吹くはずも無く、だらりと旗はたれ下がります。
マルコ王子は審問官から旗を返してもらい、自ら神器の神秘を見せました。

 「正しき者が持ては、こうなるのだ」

マルコ王子が旗を立てると、どこからとも無くさわやかな風が吹いて、旗をたなびかせました。
審判を見物に集まっていた人々は、神器の神秘を見ておどろきます。
マルコ王子が旗を下ろしてたたむと、風は少しずつないで収まりました。

 「それではクローテル殿」

マルコ王子はクローテルに旗を差し出します。
クローテルは旗を広げて立てました。
そうすると、マルコ王子の時と同じ様に、どこからとも無く風が吹いて、旗をたなびかせます。
マルコ王子は聖堂中に大声で宣言しました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0121創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:26:00.11ID:IynuwEX1
クローテルに旗を返してもらい、マルコ王子も下がります。
最後にヴィルト王子がクローテルの前に立ちました。

 「我がアーク国に伝わるは神槍コー・シアー!
  悪魔審問官よ、まずは聖なる槍がいつわりなく神器である事を証明しよう!
  そなた、我が槍を持て!」

ヴィルト王子に命令されて、悪魔審問官の1人が槍を持とうとします。
しかし、審問官が槍を受け取ると、見る見る槍は重くなり、審問官は立っていられなくなりました。
審問官は槍を落とさない様にするのがせいぜいで、その場にうずくまってしまいます。

 「おお、まさしく神器……。
  選ばれし者にしか持つ事を許されぬ物……」

ヴィルト王子は審問官から槍を取り上げると、改めてクローテルと向き合います。

 「クローテル殿、槍をお持ち下さい」

その時、たまらずアーク国王が立ち上がりました。
このままではクローテルが神王になってしまうのです。

 「待て!!」

アーク国王は自ら審問の場に出て、ヴィルト王子から槍を取り上げました。

 「神槍は盾や槍とは違う!!
  これはおそろしい神器だ!!
  みだりに他者に持たせるでない!!」

 「父上……いえ、陛下、審判のさまたげになります。
  お下がり下さい。
  ご心配にはおよびません。
  邪心ある者に神器は使えないのです」
0122創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 17:26:59.65ID:IynuwEX1
ヴィルト王子は落ち着いて言いましたが、アーク国王はうろたえて言いました。

 「く、来るな!」

アーク国王は神器の先をヴィルト王子に向けます。
それと同時に、アーク国王の手の中で、槍が重くなって行きました。

 「な、何だと!?」

アーク国王はあせりました。
神器が王を見放したのです。
それをさとられまいと、アーク国王は必死に槍を持ち続けました。
しかし、どんどん重さは増して行きます。

 「陛下……」

ヴィルト王子の目にはあわれみが表れていました。
他の者に分からない様にと、ヴィルト王子はアーク国王から槍を取り上げます。

 「お下がり下さい、陛下。
  今は神聖な審判の最中です」

アーク国王はただ審判を見届けるしかありませんでした。
ヴィルト王子は改めてクローテルに神槍を差し出します。

 「クローテル殿、槍を」

クローテルは槍を受け取って、高くかかげました。
槍はまばゆくかがやき、聖堂中を照らします。
ヴィルト王子は大声で言いました。

 「ごらんあれ!
  神器は彼を選ばれた!
  彼こそ聖なる者、血によらず、まさに神器を持つべき者!」
0123創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 19:24:27.68ID:+3AiWON8
3人の王子は神器をかかげて声をそろえ言いました。

 「我等は彼こそ神なる王と認める!
  教会よ、今こそ選定の時」

神器を持ち出されては、教会も従わざるを得ません。
そのまま大聖堂で神王選定が始まります。
アーク国王は頭を抱えました。

 「あぁ、聖君……。
  やつが本物の聖君なのか?
  わしには何も分からぬ……」

教会の者達も、ここで聖君の選定を行うとは思っていなかったので、どよめきました。
しかし、王子達は本気です。
神器がクローテルを選んだ以上、もう彼を否定する事は出来ません。
教皇と司教達は協議を始めました。
王子達は、その様子をじっと見守っています。
王子達をいつまでも待たせるわけにも行かず、教皇がクローテルの前に立ちました。

 「なんじ、クローテル。
  そなたは神器に選ばれし者。
  教会は、そなたを神王になるべき者と認める。
  ……ただ、神王選定の儀は神聖にして厳なる物。
  後日、正式に神王選定の儀を行う場を設けたい」

クローテルは困った顔をして問います。

 「いつですか?」

 「そう遠くない日。
  遅くとも今年中と約束しよう」
0124創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 19:25:32.14ID:+3AiWON8
教皇の話を聞いて、クローテルはうなずきました。

 「分かりました」

王子達は神器を下ろして、再び宣言します。

 「我等、神器の後継者、神聖十騎士となり、神王に仕える!
  全ての神器は今再び1人の主の下に!」

大聖堂は歓声に包まれました。
先代神王の死後、ばらばらだった各国が、今こそ1人の王の下で、1つになるのです。
そして――……、それから3月の後に、再び大聖堂で神王選定の儀が開かれました。
そこには次世代の新たな十騎士も集まっています。
祈り子長、軍師、従者、御者、槍持ち、盾持ち、旗手、袋笛吹き、鳴鐘者、将軍。
教皇は各国の代表者の前で、クローテルを神王だと宣言します。

 「この者、神器に選ばれし者、クローテル。
  神王としての名はジャッジャス。
  神王の下、今ここに神聖アーク国がよみがえる」

クローテルは教皇に認定されて、正式に神王となりました。
彼は新しい聖君として、信仰心が失われて乱れた世界を再興させるのです。
その後、多くの国が、ただ1人の真なる王を認めて、その下に集いました。
クローテルは治める国を持たない王を統べる王となって、神意の象徴として多くの国を従え、
神聖アーク国を築きました。
0125創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 19:26:39.59ID:+3AiWON8
解説


これにて運命の子シリーズの第2章は終わる。
第2章はシリーズ的に最も人気があり、作者としては、ここでの完結も視野に入れられていた様だが、
読者の続編を望む声に応える形で、第3章の執筆が決定する。
この後、シリーズ第3章では、未だにクローテルを認めない者や、聖君を戴く事その物を認めない、
守旧派との国家統一戦争に移る。
しかし、3章は神器を持ったクローテルの一方的な粛清と言う面が強くなる上に、政治闘争も増え、
面白味が無く、シリーズの人気は低迷する事となった。
第4章にて、幾らか人気を盛り返すも、今度も政治的な要素が絡んだ為に、人気回復には至らず。
多くの少年少女読者は、竜退治や悪魔退治の様な、冒険要素を求めていたのである。
0126創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 18:38:24.56ID:J8fAN70T
商業的な話は扨て措き、本編の解説に移る。
この話ではアーク国王の愚かさが強調されているが、原典は輪を掛けて酷い。
焦る余りに、教会にも貴族にも失望されて、孤立してしまう。
権力に固執する人間とは、この様な物だと言う、旧暦の統治者への批判だろうか?
しかし、アーク国王の悩みも、尤もな物ではある。
クローテルには政治は難しいだろうとは、誰もが思う事だ。
権力闘争、派閥作り、根回し等とは、全く無縁の人物に思われる。
これは旧暦の政治制度の腐敗が原因と見られている。
詰まり、人々は統治者である王や貴族が、国民や領民の為では無く、自分達の利益の為だけに、
行動すると思っており、それ等を超越して、絶対的な正しさを以って、全てを公平に裁いてくれる、
神王を欲したのだ。
それが後々の悲劇に繋がるのだが……。
アーク国王の言う通り、人に神は眩し過ぎたと言う事なのだろう。
0127創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 18:42:28.58ID:J8fAN70T
作中で登場した悪魔審問官は、人に紛れた悪魔を裁く者達だ。
しかし、活躍した記録は殆ど無い。
これは悪魔審問官の権限が原因である。
先ず審問には教会の許可が必要で、更に平民を裁くにも領主の了承が必要で、更に貴族を裁くには、
王や周辺の貴族の了承が必要だった。
よって、殆ど活躍の機会が無い、閑職も同然の機関だったのだ。
一応、その役目は果たせる様になっているが、悪魔を退治したと言う記録は殆ど無い。
「殆ど」なので、何点かは見付かっているのだが、正確性と具体性と信憑性に欠けるのである。
未だ史料が発見されていないだけと言う可能性も、勿論あるのだが……。
審問は、形式的には尋問と聖別によって行われる。
尋問も聖別も、実際に悪魔を見分ける効果があったかは疑わしい。
尋問の内容は、聖書の暗唱、或いは聖書の精神を問う事が基本であり、これだけで悪魔の区別は、
難しいと思われる。
神聖魔法にも共通魔法の愚者の魔法の様な、嘘を封じる魔法があれば、話は違って来るのだが、
審問官が魔法を使った様子は無い。
審問の場となった、聖堂に仕掛けがあるのかも知れない。
但、尋問よりは、聖別に魔法的な効果が付与されていたと見るのが普通であろう。
聖具は所謂「魔法道具」であり、神聖魔法と異なる魔力の流れに反応するのかも知れない。
聖具自体が聖別によって清められた道具であり、その「清める」とは具体的に、どうするのか、
全くの不明なので何とも言えないが……。
0128創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 18:43:22.04ID:J8fAN70T
当然、実際の悪魔審問では、神器を持ち出したりはしない。
大聖堂で行われた悪魔審問は、実質的には神王選定の儀だった。
原典では、それ等は教会、ルクル国、オリン国の三者による共謀だったとされている。
悪魔審問の名を借りて、不意打ち的に神器による神王選定を行ったのだ。
三者は聖君代理であるアーク国王が、クローテルを神王にする事に難色を示していたので、
こうせざるを得なかった。
アーク国王は聖君の代理であり、最も大きな権力を持っていた。
新たな神王の選定には、聖君代理の承認が必要だったのだ。
クローテルの聖君にする為、アーク国王に神王認定を拒ませない為に、神器を持ち出したのだ。
どれだけアーク国王に権力があっても、実際に神器に選ばれた者を拒む事は出来ない。
何故なら、アーク国王の聖君代理としての正当性も、神器に由来するからである。
ヴィルト王子もクローテルが神王となる事に賛成していたが、仮に彼が反対していても、
ルクル国とオリン国が神器を持ち出せば、アーク国も動かざるを得ない。
ルクル国はアーク国王が聖君代理である事を快く思っていない節があり、その為に協力的だった。
十騎士の後継者を集める等、ルクル国王家はアーク国王の代わりに、マルコ王子を新たな聖君、
或いは聖君代理としたかった様である。
当のマルコ王子はクローテルを新たな聖君として認めてしまったが、ルクル国王もアーク国王よりは、
クローテルが聖君になった方が良いと思ったのであろう。
0129創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 19:07:03.25ID:xnoZX0p5
そこで話はアーク国王の信望に移る。
如何にクローテルが神器に選ばれようとも、アーク国王が統治者として優れた者であれば、
国民が幸福だと実感していれば、聖君の交代は無かった筈である。
アーク国に成り代わって、聖君代理者が統治する聖都に成ろうと言う野望を持つ、
ルクル国は分からないが、少なくともオリン国はクローテルを聖騎士の儘で居させた。
そうした記述が原典にはある。
アーク国王は国内の貴族や平民に、余り快く思われていなかったと言うのだ。
実際どうだったかは、直接的に貴族や平民が不満を述べる部分が無いので、推測するしか無い。
しかし、アルス子爵領での盗賊の跋扈、魔竜の出現等、不穏な部分は幾らでも読み取れる。
それが統治能力の欠如の現れなのか、或いは、そうでは無くて、旧暦の信仰が薄れているから、
この様な不幸が起こるのだと言う事なのか、その両方なのか、解釈は分かれる。
原典では人々の信仰心の不足が嘆かれているので、人に信仰心を持たせられない王は、
王に相応しくないと言う事なのかも知れない。
この後、アーク国王は王位を王子に譲って、自身は後見人となり、院政に入る。
聖槍を持てなくなった彼は、自信を喪失して、心を入れ替えたと言う。
完全に失脚していない所からして、やはり統治能力には一定の評価があったのだと思われる。
0130創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 19:08:04.78ID:xnoZX0p5
作中でも言われている通り、神王は統治者では無い。
アーク国はヴィルト王子が王位に就いても、諸侯を束ねる王(実際は公)の地位は変わらず、
その上に神王を戴くのみである。
これは政治的な混乱を避ける為の配慮であろう。
しかしながら、神王の誕生を機に、独立心を持つ貴族も少なくなかった。
その辺りの問題を解決する話が、第3章にはある。
大概は独立ならず、元の鞘に収まる形で決着するのだが……。
元々神王を戴くエレム・ハイエル語圏では、王は神王唯一人であり、現在の王家は公に過ぎなかった。
それが神王不在の間に権力を持ち、代理聖君等と言う名目で、他の貴族を支配し始めたのだから、
旧い貴族は不満を溜め込んでいたのだ。
だが、如何に歴史が古かろうと、国力では王家の方が強かった。
周辺国との関係もあって、王に従属するより他に無かったと言う貴族も多かった。
これが神王の誕生で、周辺国との力関係に振り回される必要が無くなったのだ。
王家の支配が強まりつつあった中で、以後の王家と貴族の関係は、比較的対等に近い物になる。
王家は貴族を束ねると言うより、意見を聞いて纏める、町内会の会長の様な存在になる。
変化は平民にも表れ、多くの平民が国境を移動する様になる。
より暮らし易い国へ、より豊かな国へと言う動きは自然な物であり、中々止める事は難しい。
国境が閉ざされていた時代と異なり、貴族は領民に配慮せざるを得ず、故に弱体化する貴族もあった。
これも一部の貴族の反感を買う事になる。
0131創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 19:08:22.82ID:xnoZX0p5
クローテルが神王となり、諸王は王の地位を返上して、公の地位に降る。
だが、公式に「公」となったかは明確では無い。
諸侯を束ねるなら王であると、「王」の儘の史料もある。
クローテルの治世は短かったので、本来なら公とされる物でも、名残で王としている可能性もある。
では、神王――真の聖君とは何かと言うと、人々に信仰心を取り戻させる物である。
王の中の王でありながら、統治する事は無い。
人々を従える為の道具と言う事も出来るが、教会も王も神王を操る事は出来ない。
神王は絶対でありながら、その意を騙る事は誰にも出来ないし、しては行けない。
神王自身の意識や意図もあるので、政治の道具にするには、余りにも不便である。
神王は必要があれば、進んで自らの意見を述べたし、行動も起こした。
神王の働きは神意であるが故に、その行動を止める事は出来なかった。
神意を騙れない様にする為に、神王は隠れるのでは無く、寧ろ誤解を避ける為に、多く表に現れて、
自らの言動を明らかにした。
特に、クローテルは超人的な存在だったので、護衛も付けずに出歩いた。
実際には、周囲が護衛を付けようとしたが、本人は束縛を嫌った様だ。
神王の役割は、神秘を荘厳で秘匿された物とする事では無く、神秘を奇跡として人前に顕す事である。
そうして人々に信仰心を取り戻させるのだ。
0132創る名無しに見る名無し
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2019/12/19(木) 18:33:23.46ID:aSVTHZsF
クローテルを神王とする事に、多くの者は反対していなかった。
原典では態度を決め兼ねていた者達も、アーク国王に失望したとしているが、当時の他史料から、
実は大多数は日和見的だった事が判っている。
既にクローテルの活躍の噂は広まっており、彼を神王とするか否かは、実質的に推進派と、
反対派の少数同士の問題だった様だ。
そこで推進派が協調して、大聖堂での悪魔審問に持って行った……と言う事らしい。
詰まり、「悪魔審問だ」と叫んだ貴族が、その1人と言う事になるが……。
その貴族が誰かは明確では無く、真相は不明である。
教会ではクローテルを神王とする事に反対する者も賛成する者も少なく、実態としては、
大多数の日和見と、少数の賛成派と、より少数の反対派があった。
この反対派がアーク国王に付いたかと言うと、そうでも無かったらしく、取り敢えず現状維持と言う、
曖昧な態度の為に、賛成派に押し切られたと言う。
教皇も含めた日和見派は、神器の審判の結果、流される儘に神王を認めた。
この時代は信仰心の薄れから、教会の影響力が小さくなりつつあった事も関係している。
自信喪失状態にあった教会は、自ら世論を動かそうとか、政治に関与しようと言う気概に欠け、
自ら新たな神王を認めようと言う積もりも無かった。
一方で、強力にクローテルを神王に推進した者の中には、嘗ての権威ある教会の復活を企て、
その為に神王を選ぼうとしていた。
教会内の推進派の筆頭は、シスター・ローラの父(大聖堂の司祭の1人)である。
彼には少なからぬ野心があった様で、その為に娘を祈り子長にするべく教育した。
0133創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/19(木) 18:33:43.98ID:aSVTHZsF
それに対してシスター・ローラは純粋にクローテルを信じていたとされる。
彼女は父の野望の為に、「清らかな娘」として育てられた。
流石に、実際に神王が誕生して、娘が祈り子長になるとまでは予想していなかったが、
それなりに高い地位――具体的には高位の貴族の嫁に相応しい教育を施していた。
原典には、シスター・ローラと彼女の父親に就いても、幾らか言及があり、これを元にした、
書籍「シスター・ローラ外伝」がある。
それによると、ローラがクローテルと初めて出会った時から、彼女はクローテルの事を、
父に報告しており、その熱心な語りに父は不安を持ったと言う。
更にマルセル国との戦いで、彼女は完全にクローテルに心酔してしまい、父は恐怖心を持った。
クローテルは伯爵の養子だったが、領地は継がず、生家の子爵領を継いだ事も、父にとっては、
不満だった様だ。
ローラの父は聖職者でありながら、野心が強く、権力闘争を好む性格だった様だ。
シスター・ローラ自身は、父の野心を余り良く思っておらず、表立って反抗する事は無かったが、
「貞淑な娘」を盾に、小やかな抵抗をした。
これをローラの父も子供がやる事と許していたのだが、クローテルの登場で彼の計画が狂う。
この時にローラの父は、娘の言う事を戯れ言と聞き流さず、もしクローテルが本当に神王になり、
諸国を平定した場合に備えて、娘を祈り子長にする計画を並行させた。
教育方針の転換には、やはりローラの熱心な訴えがあり、その為にローラの父も、もしもの時を、
考える様になったらしい。
0134創る名無しに見る名無し
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2019/12/19(木) 18:34:50.97ID:aSVTHZsF
原典ではローラの父がクローテルを見た時の様子も語られている。
神器に選ばれたクローテルを見て、ローラの父は何と自らの野心を恥じたと言う。
詰まる所、ローラの父は大聖堂の司祭でありながら、神を信じていなかったのだ。
後に、彼は娘が祈り子長となった事で、司教に格上げされるが、教皇になろうとまでは考えない。
敬虔な心に目覚めて、権力ばかりを追求する事を止めた。
「どんなに権力を得ようとも、神と真実の前では無力である」と悟ったらしい。
確かに、実際のクローテルも内容の通りであれば、権力も何の意味も持たないであろう。
即ち、クローテルは既存の権威や権力が、全く通用しない物として、描かれているのである。
神の偉大さ、神意の偉大さは、あらゆる障害を払い除け、世界を覆すのだ。
若かりし日のローラの父は教会の地位の低さ、教皇や司教達の軟弱さに不満を持っており、
ならば自分がと、教会を引っ張って行く積もりだった。
それが何時の間にか、権力闘争に明け暮れて、権力を得る事だけが目的化していたと言う。
0135創る名無しに見る名無し
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2019/12/20(金) 18:30:45.24ID:DCtkj3nH
クローテルが神王となった儀式は、原典では1つの編に出来そうな程、長々と語られている。
否、正確には、それだけで1つの編なのだ。
それを童話に改変するに当たって省略したと言うのが正しい。
儀式の様子を一々語った所で、物語的には何も面白くないだろうから、英断ではある。
クローテルの神王認定と同時に、十騎士の認定も行われている。
所が、「将軍」だけは誰が選ばれたのか分からない。
十騎士の役目は以下の通り。

槍持ち(ランスベアラー)
神槍コー・シーアを持ち、必要があれば、それを振るう事が許されている。
だが、神槍の真の力は神王で無ければ引き出せないとされており、槍持ちの正確な役割は、
神槍を守り継ぐ事であるとされる。
そして、来るべき戦いでは、神槍を神王に捧げる。

盾持ち(シールドベアラー)
神盾セーヴァス・ロコを持ち、神王を守る。
こちらはコー・シアーとは違い、神王で無ければ真の力を引き出せない訳では無い。
盾持ちは神盾が手にある内は、武器を持ってはならないと言う定めがある。
これは盾持ちの役割とは正しく守備であり、それを疎かにしては行けないと言う、戒めだとされる。

旗手(フラグレイザー)
神旗マスタリー・フラグを持ち、平時は神王の先を歩いて、神威を示す。
戦時には神王の後に続いて、その地が神王の下にある事を示す。
神旗は神王が居る事で、真の力を発揮すると言う。
神王が持つ、持たないに関わらず、神王の存在その物が、マスタリー・フラグに力を与えると言う。

袋笛吹き(バグパイパー)
神笛オー・トレマーを演奏する。
平時は穏やかな音で人々の心を癒し、戦場では露払いを務める。
演奏で戦意を高める事もする。
セーヴァス・ロコと同じく、神王が直接持つ必要は無い。

鳴鐘者(ベルリンガー)
神鐘ベル・オーメンを鳴らして、神王の到来を告げる。
袋笛吹きと共に、戦場では露払いを務めたり、演奏で戦いを補助したりする。
目覚めの鐘、弔鐘も鳴らす。
危機には独りでに鳴るとも言う。
こちらも神王が直接持つ必要は無い。
0136創る名無しに見る名無し
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2019/12/20(金) 18:31:32.93ID:DCtkj3nH
祈り子長(プレアー・リーダー)
「祈りを導く者」の名の通り、祈り子を統括して、神王に祈りを捧げる。
人々の祈りによって、神王は更なる力を得る。
ジャッジャスの代の祈り子長は女性だったが、女性である必要は無い。
神器の後継者も含めて、十騎士には特に性別の指定は無い。

軍師(ストラテジスト)
平時、戦時に関わらず、神王に助言する役割を持つ。
平時は神王の統治を補佐し、戦時は神王の兵を勝利に導く。
予知能力を持つとも言われるが、真相は不明。

従者(ヴァレット)
神王に付き従い、神王の身の回りの世話をする。
時には神器を持つと言われるが、十分に扱えるとは書かれていない。
主な役割は、神王の側に控えて、些事を取り扱う事にある。
一々何から何まで手取り足取り神王の世話をすると言う訳では無い。

御者(キャリッジ・ドライヴァー)
神王が乗る馬の世話や、神王が乗る馬車の運転、管理をする。
必要な役割ではある物の、そこまで重要さは感じられない。
態々十騎士に任命する程かは不明。

将軍(ジェネラル)
神王に代わり、多くの兵を率いる。
時に神器を持つとも言われるが、少なくともジャッジャスの代では、その様な描写は無い。
重要な役割ではあるが、特に神に選ばれている必要は無いのか、一代の神王で交替もする。
恐らくは、当代で最も武勇で名を馳せた将軍が選ばれる。
0137創る名無しに見る名無し
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2019/12/20(金) 18:32:07.12ID:DCtkj3nH
この様に、同じ十騎士であっても、その重要度は異なる。
替えの利かない者もあれば、幾らでも替えの利きそうな者もある。
実際に将軍は代替わりした記録がある。
但し、それはジャッジャスの代では無い。
将軍の正体は不明だが、それは重要度の低さの表れなのかも知れない。
交代した時に備えて、敢えて名を記さなかった可能性もある。
槍持ち、盾持ち、旗手は、それぞれアーク国、オリン国、ルクル国の王子。
袋笛吹きはルクル国からアルス子爵領に移動したルーデンス。
祈り子長は司祭の娘ローラ。
以下、鳴鐘者はレタート、御者はバディス、軍師はドクトル、従者はフィデリートと、
ルクル国の者が横滑りする形で、十騎士に選ばれている。
0139創る名無しに見る名無し
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2019/12/21(土) 17:58:01.93ID:fGy7uYNP
馬と生きる


ブリウォール街道にて


旅商の男ワーロックと、その養娘リベラは、父娘2人で商いの旅をしていた。
しかし、道中でワーロックが憊(へば)る。
男性と女性では、男性の方が体力があるとは言え、ワーロックは若くない。
しかも、魔法が上手では無い上に、見栄を張ってリベラより多くの荷物を背負っている。
どうしてもリベラより先に疲れてしまう。

 「はぁ、年は取りたくない物だなぁ」

街道沿いに設置された休憩所の長椅子に腰と荷物を下ろし、ワーロックは長い息を吐いた。

 「そんな急に老け込む訳じゃないんだから」

リベラは呆れて小さく笑うが、ワーロックにとっては笑い事では無い。
その時、2人の目の前を乗り合い馬車が通り過ぎて行った。
力強い大きな2頭の馬が、20人余りを乗せた車を牽引している。
それを見てリベラは零した。

 「馬車が借りられれば良いのにね」

何気無い一言だった。
だが、馬車は高い。
借りると安くても半日で1万MGはする。
ワーロックもリベラも、金持ちと言う訳では無いので、出来るだけ出費は控えたい。
そもそも2人共、馬車免許を持っていない。
0140創る名無しに見る名無し
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2019/12/21(土) 17:58:45.19ID:fGy7uYNP
家の経済状況に不満があるかの様な言い方になってしまったので、リベラは不味い事を言ったかと、
ワーロックの反応を心配した。
しかし、彼の言葉は予想しなかった物だった。

 「ああ、荷運び用の馬を借りれば良い。
  貸し馬屋が近くにある筈」

ワーロックは重い荷を背負って立ち上がると、貸し馬屋を探して街道沿いを歩いた。
リベラも彼に付いて行く。
貸し馬屋は直ぐに見付かった。
大抵は、街道沿いに目立つ看板が設置されているので、見落とす事は先ず無い。
そうして貸し馬屋に辿り着いた2人は、貸し馬屋の裏手の牧場を眺める。

 「あの、お養父さん……。
  私、馬に乗れないんだけど?」

遠慮勝ちに言ったリベラに、ワーロックは告げる。

 「大丈夫、大丈夫。
  荷運び用の馬は、連れて歩くから。
  乗る必要は無いよ」

それを聞いて一安心するリベラ。
ワーロックは彼女を見て、小さく笑う。

 「でも、そうだな……。
  馬に乗れるなら、それに越した事は無いし、急ぎの時にも役に立つ。
  どこかで乗馬免許を取らないとな。
  馬車免許もあると良いんだけど」

 「お金は大丈夫?」

 「余っ程、下手じゃなければ、試験に失敗しないだろう。
  乗馬の練習が出来る場所は多いし」
0141創る名無しに見る名無し
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2019/12/21(土) 17:59:33.17ID:fGy7uYNP
そんな話をしながら、2人は貸し馬屋に入る。
ワーロックは店員に話し掛けた。

 「馬を借りたいんですけど」

 「はい、何をお求めですか?」

店員は営業スマイルを浮かべながら尋ねる。

 「荷運び用の馬です」

 「ランクは?」

 「騾馬、C級を1頭。
  売買許可証があります」

ワーロックがブリンガー地方とボルガ地方の売買許可証を見せると、店員は一度目を落とした。

 「はい、お待ち下さい」

そして、店の裏手に回り込む。
リベラは待機中に店の中を見回した。
そして料金表に目を留める。
荷運び用の馬も乗用の馬も、A、B、Cの3つのランクがある。
荷運び用の馬のCランクは、重さ1体まで運べ、料金は1500MG。
Bランクは、重さ2体まで運べ、料金は2500MG。
Aランクは、重さ4体まで運べ、料金は4500MG。
複数頭を借りる際の割引は、要相談となっている。
更に、保証金として5000MGの前払いが付く。
この保証金は無事に馬を返せれば、返金すると書いてある。
0142創る名無しに見る名無し
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2019/12/22(日) 18:50:57.28ID:Zf4ZFEl9
やがて、店員が騾馬を連れて、外から呼び掛ける。

 「お待たせしました。
  こちらです」

ワーロックとリベラは店員と騾馬の元に向かった。
そこでワーロックは騾馬の様子をよく観察する。
目を見詰めた後、軽く体を撫でながら、特に足回りを見る。
問題無いと認めた彼は、店員に1500MGを渡した。

 「では、現金で」

 「あ、全商連なら割引がありますけど」

 「いえ、個人ですから。
  そちらには入ってないので」

 「はぁ、分かりました。
  確かに、お受け取りしました。
  領収書を発行します」

店員は一度屋内に戻り、領収書を持って戻って来る。

 「御利用、有り難う御座いました。
  荷物の載せ過ぎには、御注意下さい」

 「はい、大丈夫です」

 「有り難う御座いました。
  道中、お気を付けて」

形式的な遣り取りをして、ワーロックとリベラは騾馬を借り、店員と別れた。
0143創る名無しに見る名無し
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2019/12/22(日) 18:51:42.61ID:Zf4ZFEl9
リベラは疑問に思っていた事を尋ねる。

 「保証金は払わなくて良いの?」

 「ああ、売買許可を持っている商人は、保証金の対象外なんだ」

 「ゼンショーレンって言うのは?」

 「全国商人連合会。
  そっちの会費も納めていれば、色々と優遇があるんだけど……。
  所謂『外道魔法使い』とも取り引きしている訳だから、説明が面倒で。
  入会していないんだ」

 「そうなんだ」

未だ未だ自分の知らない事が一杯あるんだなと、リベラは感心して養父の話を聞いていた。
ワーロックとリベラは騾馬の背に荷物を預けて、ブリウォール街道を歩く。
暫くして、リベラはワーロックに再び尋ねた。

 「どうして騾馬?」

 「安いからだよ。
  荷運び用のCランクは大体騾馬だ。
  中には大型の馬もあるけど。
  荷物の多い時は、荷台付きのBランクを借りる。
  荷台分は別料金だけど、2頭借りるよりは、そっちの方が安い」

 「複数頭は要相談って何の事?
  相談すると、どうなるの?」

 「貸し馬屋は、どこでも共通で馬を返せる。
  借りた場所に返しに行かなくても、同じ系列の店舗なら良い。
  だけど、人の往来には波があるから、往路では人が多くても、復路では人が少ないと言う事が、
  時々ある。
  そう言う時は、復路では値段が安くなる。
  逆に往路で値段が上がる時もある……『あった』と言った方が良いかな?」
0144創る名無しに見る名無し
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2019/12/22(日) 18:57:15.15ID:Zf4ZFEl9
 「どう言う事?」

 「値段が上がると、渋って馬に無理をさせる人が出て来るから。
  そうならない様に、貸し馬屋の協会の方で、値上げは出来るだけしない方針になった。
  人の言う事を素直に聞く、大人しくて丈夫な馬を育てるのは大変なんだ。
  目先の小金欲しさに、貴重な資産を使い潰す訳には行かないって事になった」

流石に長年商人をして来ただけあって、ワーロックは商業関連の知識は豊富である。
それにしては、一向に対人の駆け引きは苦手なのだが、それも誠実さ見れば美点となる。
徒、呆っと話を聞いていたリベラに、ワーロックは心配な顔をして言った。

 「リベラも馬の良し悪しが判る様にならないとな。
  あー、でも、乗馬免許を取るのが先か……。
  公学校卒業程度の資格を取ってから、安心していたけど、未だ未だ学ぶ事が多いな。
  人生何事も勉強勉強、そんな物か……」

そう言われて、リベラは礑と気付く。

 「お養父さんは、乗馬免許持ってるの?」

 「ああ、持ってるよ。
  余り馬に乗る機会は無かったけど、月に数回程度は利用する事がある。
  もしもの時に、馬に乗れないと困るから、乗馬免許は持っているに越した事は無い」

 「乗馬……。
  上手く乗れるかな?」

 「どうだろう?
  こればっかりは相性だからね。
  平衡感覚が確りしていないと行けないとは言うけれど。
  運動が出来ても、乗れない人は居るからね」

リベラは不安に思いながら、乗馬の事を考え続けていた。
0145創る名無しに見る名無し
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2019/12/23(月) 18:37:52.77ID:0pCLVGLy
数日後、ティナー地方西部の村シュミタルにて


乗馬の話から余り日を置かない内、リベラはワーロックに連れられて、乗馬が体験出来る牧場に来た。
実はリベラにとって乗馬は初めてでは無い。
何度も乗った事がある。
だが、それは何れも幼い頃の事で、今も乗れるかと言うと分からない。
楽しかった記憶があるので、苦手意識は無かったが、やはり空白期間で下手になっているのではと、
不安が大きい。
牧場の柵の中に入ると、リベラの周りに馬が集まって来た。
馬達はリベラを取り囲んで、何事かと鼻先で突いたり、匂いを嗅いだりしている。
大きな馬に囲まれて、リベラは恐怖を感じる。

 「お、お養父さーん!
  助けて!」

馬に囲まれて身動きが取れない彼女を、ワーロックも牧場の管理人も笑って見ている。
牧場の管理人はリベラに言った。

 「ははは、大丈夫ですよ。
  珍しい人が来たと思って、見ているだけです。
  余り怖々(おどおど)していると、馬に揶揄われますよ」

基本的に唯一大陸で人に飼われている馬は、人を恐れない。
堂々と人間に近付き、愛撫を求める。
所が、少しの事で機嫌を損ねたり、驚かせてしまったりもする。
そうすると、この人は危険だと認識して、近寄らなくなる。
神経質でありながら、図太いと言う、少し困った存在だ。
馬好きは、そんな馬が可愛いと言う。
リベラが本気で困っている様子だったので、ワーロックは馬の群れの中に割って入り、
彼女を連れ出した。
馬達の数頭は未だリベラに付いて来る。
0146創る名無しに見る名無し
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2019/12/23(月) 18:39:10.03ID:0pCLVGLy
中でも黒くて大きな体の馬が、リベラを気に入ったのか、中々離れない。
牧場の管理人は困った顔をした。

 「こらこら、迷惑がっているだろう。
  ノイノイ、下がれ、下がれ」

そう言って馬を引き離そうとする。
ノイノイとは、この馬の名前だ。
しかし、ノイノイは動かない。
執拗にリベラの周りを回る。

 「参ったなぁ、こりゃ」

牧場の管理人は頭を掻いて、リベラに申し訳無さそうな顔をした。

 「済みませんね。
  どうも、こいつ、貴女の事が気に入ったみたいで。
  偶にあるんですよ。
  こいつじゃなくても、お客さんを気に入ってしまう事が」

それを聞いてワーロックは尋ねた。

 「使い魔が自分から主を選ぶのと、同じ様な感覚なんでしょうか?」

 「ああ、そうかも知れませんね。
  でも、馬を飼うのは大変でしょう?」

牧場の管理人は苦笑い。
確かに、馬を飼うのは容易な事では無い。
餌代、糞の掃除、馬を放せる広い土地、どれも一般の家庭では手に余る。
0147創る名無しに見る名無し
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2019/12/23(月) 18:39:51.03ID:0pCLVGLy
ノイノイの瞳は真っ直ぐリベラを見詰めていた。
余りに懸命な態度に、何か応えてやれないかと思い、リベラがノイノイに手を伸ばすと、
ノイノイはリベラの手に自ら頭を擦り付け、丸で撫でろと促している様。
それに応じて、リベラがノイノイの額を撫でると、ノイノイは両目を閉じて大人しくなった。
牧場の管理人は益々困った顔になる。

 「ありゃ〜……。
  これは行けませんね。
  完全に惚れちゃってますよ」

惚れると言うのは、繁殖相手として定めた訳では無い。
馬が主人を選ぶのは、悪い事では無いのだが、馬屋としては困り物だ。
主人を決めた馬は、他の人を乗せたがらない。
牧場の管理人は、ワーロックに視線を向けた。
ワーロックは驚いた顔で首を横に振る。
それは「引き取れますか?」と言う暗黙の問い掛けに対して、「無理です」と答えた物だ。
ワーロックも牧場の管理人も、揃って両腕を組む。
事情を余り理解していないリベラは、不思議そうに尋ねた。

 「何か不味い事が?」

ワーロックが答える。

 「毎回、この馬だけを借りる訳には行かないから。
  何時も相性の良い馬だけとは限らない。
  『普通の馬』に乗れる様にならないと」

 「あー」

それもそうだと、リベラは小さく頷いた。
0148創る名無しに見る名無し
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2019/12/24(火) 19:09:23.59ID:XvH26oqB
リベラの乗馬技術は、才能があると言う程では無いが、下手でも無く、大きな問題も無く、
極々普通に馬に乗っていた。
覚えは良い方で、半日で普通に馬に乗る分には必要な技術を習得する。
その後は慣れと言う所。
所が、リベラが馬を少し走らせていると、ノイノイが駆け寄って来る。
どうやら抑えていた牧場の職員を振り切ってしまった様だ。
そしてリベラが乗る馬に並走して幅寄せを始める。
全く煽り運転の様。
否、実際に煽っているのだ。

 「こら、止めないか!
  ノイノイ!」

牧場の人達が声を掛けるも、ノイノイは全く気にしない。
体の大きなノイノイに、リベラが乗っている馬は押されて、遂に足を止めてしまった。
困惑するリベラ。
こう言う経験の無い彼女は、どう対処して良いか分からない。
そこにワーロックが割って入った。
彼はリベラに気を取られているノイノイの背に飛び乗る。

 「ドウ、ドウ」

ワーロックはノイノイを落ち着かせようとするが、そんな事で落ち着く訳が無い。
行き成り知らない人間に飛び乗られて、ノイノイは不快になり、暴れ始める。
そこからは丸でロデオだ。
懸命に背中の人間を振り落とそうとするノイノイと、何とか落ちまいと堪えるワーロック。
その間にリベラは牧場の職員の誘導で、その場を離れる。
暫くは持ち堪えていたワーロックだったが、やがて力尽きて、撥ね飛ばされた。
足が鐙から外れ、手が手綱から放れ、体を宙に投げ出される。
0149創る名無しに見る名無し
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2019/12/24(火) 19:11:00.84ID:XvH26oqB
そこを牧場の職員達が、共通魔法で助けに入る。
地上に空気のクッションを作って、落下するワーロックの衝撃を和らげる。
目論見通りにワーロックは魔法のクッションの上に落ち、何度か跳ねて地面に落ちた。
興奮したノイノイは、牧場内を走り回る。
ワーロックは職員達に怒られた。

 「何故、あんな事を!」

もっと穏便に解決する方法はあった。
少なくとも、牧場の職員達であれば。
例えば、魔法を使って落ち着かせたり、或いは、リベラがノイノイに働き掛けても良い。
馬を驚かせるのは、愚策も愚策。
幾ら娘を守る為とは言え、無謀に過ぎる。

 「す、済みませんでした」

 「気持ちは解りますが、幾ら何でも……」

その頃、リベラと数人の職員によって、漸くノイノイが取り押さえられる。
ノイノイは鼻息を荒くしながらも、リベラに寄り添う。
職員達はノイノイの強引さに呆れ果てた。

 「困った奴だ。
  女の子同士だって言うのに」

別に使い魔が主人を選ぶのに、男女は関係無い。
使い魔と主人の関係は、異性と同性で何か違ったりはしない。
リベラはノイノイを牧場の管理人に預けて、ワーロックの元に向かう。

 「お養父さん、大丈夫?」

 「ああ、平気平気。
  馬に振り落とされたのは、久し振りだよ。
  三十年振り位かな。
  気持ちだけは若い頃の積もりだけど、体が付いて行かない」
0150創る名無しに見る名無し
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2019/12/24(火) 19:13:11.45ID:XvH26oqB
ワーロックは溜め息を吐きながら立ち上がり、服に付いた土を払う。
ノイノイは職員を引き摺り、リベラの元に寄って行った。

 「こら、ノイノイ!
  好い加減にしないか!」

職員の制止も全く聞かずに、ノイノイはリベラの隣に来て、しかもワーロックを睨み付ける。
ワーロックは弱った顔をして言う。

 「随分、嫌われてしまったなぁ」

牧場の管理人はワーロックに謝罪した。

 「済みません、家の馬が迷惑を」

 「いや、私は自業自得ですから。
  それより……」

リベラに付いて離れないノイノイを、ワーロックは心配そうに見る。
管理人は深い溜め息を吐いた。

 「参りました。
  ここまで強情だとは思いませんでした」

リベラは思案顔をして、牧場の管理人に尋ねた。

 「あの……。
  この馬を譲って貰う事って、出来るんでしょうか?」

ワーロックも牧場の管理人も、驚いた顔をする。
0151創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 18:16:03.32ID:sMnm5voA
牧場の管理人は真剣に考え込んだ後に、こう答えた。

 「商売的な話をするなら、1000万MG」

リベラは落胆の色を顔に浮かべ、ワーロックも到底1000万は出せないと険しい表情。
牧場の管理人は再び考え込んで、こう切り出す。

 「商売抜きで、他の馬と同じ様に考えれば、300万って所ですかねェ……」

それでもリベラとワーロックには結構な金だ。
出せない事は無いが、確実に生活に影響が出る。
牧場の管理人は俄かに厳しい声で言う。

 「300万が軽く出せない様なら、馬を飼う事は出来ませんよ。
  馬を飼う積もりなら、世話だとか場所だとか、諸々を考えれば、もっと掛かるんですから」

彼の説教を受けて、リベラは馬を飼う事を諦めた。
軽い気持ちで飼える動物では無いのだ。
牧場の管理人は優しく言う。

 「意地悪で言っているんじゃないんですよ」

 「はい、分かっています」

ワーロックとリベラは共に頷く。
牧場の管理人は続けた。

 「300万じゃなくても、200万でも100万でも、何だったら只でも良いんです。
  でも、馬の幸せを考えると、それなりに財力のある人にしか任せられません」

丸で嫁婿の話である。
否、実際そうなのだ。
手塩に掛けて育てた可愛い子に、苦労をさせる訳には行かない。
0152創る名無しに見る名無し
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2019/12/25(水) 18:17:53.35ID:sMnm5voA
リベラはノイノイの胴体を撫でながら、管理人に問い掛ける。

 「管理人さん、この子に乗っても良いですか?」

 「ああ、はい。
  大丈夫ですか?」

 「大丈夫です」

そんなに馬に乗り慣れている訳でも無いのに、リベラは断言した。
彼女は軽々と自分の背より高い馬の背に乗り、鞍に跨る。
ノイノイは大人しくリベラを乗せていた。

 「ハイ、ハイ!」

リベラが進めの声を掛けると、ノイノイは緩りと歩き出す。
リベラはノイノイとの時間を噛み締める様に、穏やかな時を過ごした。
ノイノイはリベラの指示に逆らわない。
今日会ったばかりなのに、丸で長年連れ添った様な味わいがある。
その様を見て、ワーロックは深い溜め息を吐いた。

 「はぁ、金の問題かなぁ……。
  ウーム、金があってもなぁ……」

リベラとノイノイの仲睦まじい様を見て、ワーロックも何とかしてやりたいとは思う。
しかし、旅の身であるが故に、どこまでも馬を連れて行く事は難しい。
だからと言って、預けられる様な場所も持っていない。
どの道、諦めなければならないのだ。
牧場の管理人も思う所はある物の、敢えて何も言わない。
馬が見ず知らずの人に懐いてしまう事は間々あり、その度に諦めさせている。
0153創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/25(水) 18:18:40.91ID:sMnm5voA
やがてリベラとノイノイは別れの時を迎える。
だが、ノイノイは大人しかった。
駄々を捏ねる事も、暴れる事もせず、静かに牧場の職員達と共に、ワーロックとリベラを見送る。
一体どうした事だろうと、ワーロックはリベラに尋ねた。

 「リベラ、あの馬に何をしたんだ?」

 「一寸、話をしたの」

 「話?」

 「お養父さんが教えてくれた、動物と話せる魔法」

 「ああ、あれかぁ……」

動物と話せる魔法は、今は失われた魔法の一つだ。
元は動物と心を通わせる物で、難しい話は出来ないが、簡単な意思の疎通なら可能。
しかし、言う事を聞かせられる訳では無い。
当然動物にも意思があり、大抵の場合、動物は自分の都合を優先する。
現代では、動物に対しては「指示」や「命令」をする方が効率が良く、動物と話す魔法は、
殆ど使われない。

 「でも、話をするだけで、あそこまで大人しくなってくれるとは……」

ワーロックも動物と話をする魔法は使うが、我が儘を言う動物を従わせる事は難しい。
よくリベラの言う事を聞いてくれた物だと、彼は感心する。

 「心と心を通じ合わせたの。
  遠く離れても、私達は友達だよって」

 「凄いな。
  私には考えも付かなかった事だ。
  試しもしない内から、出来ないと思い込むとは、私も年を取った物だ」

ワーロックは小さく息を吐き、リベラの才覚を認めた。
大袈裟だなとリベラは思いながらも、褒められて含羞む。
この後、リベラはティナー地方で馬を借りる際に、可能な限りノイノイを融通して貰える様になった。
0154創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/25(水) 18:21:13.91ID:sMnm5voA
年末年始は休みます。
本格的にネタが切れました。
これからは投稿頻度が落ちるかも知れません。
0155創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/25(水) 20:25:20.76ID:a7R9RQTX
良きお年を……
ヘルザ・ティンバーの魔法、カティナ・ウツヒコのその後、久しぶりのサティ
興味のある話は幾つもありますが、ご無理はなさらずに
0157創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 19:33:49.00ID:dMlGg+DD
あけましておめでとうございます。
>>155
済みません、ヘルザの魔法を忘れていました。
昔の事とか結構忘れているので、未解決の問題とかあれば、思い出して書くかも知れません。
0158創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 19:34:13.60ID:dMlGg+DD
ヘルザの魔法


ティナー地方の商都バルマーにて


魔導師会の女性執行者に連れられて、バルマー市内にある実家に戻ったヘルザは、両親と対面した。
彼女の両親は最初、魔導師会に何か迷惑でも掛けて、補導でもされたのかと、大いに驚いた。
行方不明の娘が帰って来た事は嬉しかったが、何か騒動を起こしたのであれば、素直に喜べない。
怪訝な顔をする両親に、ヘルザは何と説明した物か困る。
正直に反逆同盟に加担していたとは言えないし、反逆同盟を抜けた後は、反逆同盟との戦いに、
身を投じていた……と言うのも憚られる。
何も言えないヘルザに代わって、執行者が口を開く。

 「ヘルザ・ティンバーさんの御両親ですね?」

 「あ、はい。
  あの……娘が何か……?」

ヘルザの父ノーブルは、恐る恐る執行者に尋ねた。
執行者も対応に困る。

 「いえ、何と言う訳ではありません。
  娘さんを保護したので、お送りに……」

執行者もヘルザと彼女の両親の双方に配慮して、詳細は告げない。

 「あっ、はい、そうですか……」

ノーブルは我に返り、妻マージョリーに言う。

 「マージョリー、お客様を……」

 「あら、これは失礼……」
0159創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 19:34:46.02ID:dMlGg+DD
来客を持て成そうとする2人対して、執行者は遠慮する。

 「いえ、長居はしませんので。
  勤務中ですから」

基本的に執行者と言う物は生真面目だ。
そうで無くては務まらない。
執行者は一度ヘルザを見る。
彼女は不安そうな顔をしていた。
ヘルザは両親との対話に自信が無かった。
両親に今までの経緯を、どう説明したら良いのか分からないのだ。
理路整然とした説明で、両親を安心させたいが、反逆同盟に加わっていた後ろ目痛さがある。
どうあっても、その事だけは説明出来ない。
しかし、上手に嘘を吐ける自信も無い。
そんなヘルザの内心も知らずに、執行者は去ろうとする。

 「それでは、後の事は御家族で……」

執行者は個々の家庭内の事情にまでは踏み込まない。
ヘルザは困り果てたが、引き留める上手い口実も思い浮かばなかった。
ヘルザの両親は執行者に深く頭を下げる。

 「有り難う御座いました」

 「いえ、仕事なので」

礼には及ばないと、執行者は去って行く。
そしてヘルザは到頭(とうとう)両親と対面せざるを得なくなる。
0160創る名無しに見る名無し
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2020/01/06(月) 19:35:19.10ID:dMlGg+DD
何を言われるのだろうかと、ヘルザは恐々としていた。
先ず口を開いたのは、ノーブル。

 「ヘルザ」

 「は、はい……」

 「無事で良かった」

 「う、うん……」

それから暫くの沈黙。
再びノーブルが口を開く。

 「お前が居ない間、母さんと話し合ったんだ。
  お前の魔法の事……」

ヘルザは自分の魔法が何なのか、結局判らなかった。
唯共通魔法使いでは無いと言うだけで、彼女は反逆同盟の仲間にもなれなかった。
自分の事ながら中途半端だと思うが、反逆同盟でも無く、共通魔法使いでも無い仲間が居ると、
彼女は知った。
もし両親に受容されなくとも、寂しくは無い。
否、寂しい事は寂しいが、絶望まではしない。
ヘルザは期待せずに父の言葉を待つ。

 「それで……学校には行きたくないのか?」

父の問い掛けに、ヘルザは思案する。

 「学校が嫌なんじゃないの。
  友達は好き。
  でも……、私は皆と同じ様にはなれないから」
0161創る名無しに見る名無し
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2020/01/07(火) 18:42:54.33ID:8cn2dy1i
それは偽り無い本心だった。
ヘルザは共通魔法使いにはなれない。
彼女の両親は未だ、その事実を認めたくない様子だった。
ノーブルは重々しく問い掛ける。

 「本当に駄目なのか……?」

ヘルザは答えない。
それが答の様な物だが、どうして言わないのか、ノーブルは不審がった。
父の目に気付いて、ヘルザは口を開く。

 「共通魔法は使いたくない」

両親の目には単なる我が儘に映るだろう。
実際、共通魔法と外道魔法は相反する物では無い。
外道魔法使いの中にも、共通魔法を使う物が居る。
だが、血統を主とする外道魔法は別だ。
共通魔法を使えない事も無いが、大きな違和感と不快感を伴う。
それに慣れるのは並大抵の事では無い。
当然、扱いも下手になる。
現在の社会は、共通魔法を上手く使えない者への対応は改善されたが、人の目は変わらない。
ヘルザが共通魔法を上手く使えない理由が、外道魔法の血筋にあると判れば、やはり差別を受ける。
ヘルザは心の中で自分に味方してくれる者を求めた。
その時、玄関でチャイムが鳴らされる。
こんな時に誰なのかと、ノーブルはマージョリーに目配せをした。
ノーブルは自ら立ち上がって、客人を迎えに行く。
その間、マージョリーがヘルザを見ていた。
0162創る名無しに見る名無し
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2020/01/07(火) 18:44:07.27ID:8cn2dy1i
客人の正体は少女だった。
年齢はヘルザよりも若く見える。
10歳前後と言った所。

 「君は誰だ?」

ノーブルは行き成りの訪問者に驚いて問い掛けた。
正か、ヘルザの友人とも思えない。
少女は答える。

 「私は言葉の魔法使い。
  誰か私を呼んだ者が居る」

 「そんな誰が……」

ノーブルが戸惑っている間に、言葉の魔法使いは彼の脇を通り抜けて、勝手に家に上がった。
ノーブルは慌てて少女を止める。

 「あっ、勝手に上がるな!」

少女は止めようとするノーブルの手を、丸で風に舞う木の葉の様に擦り抜け、ヘルザの前に現れた。
少女はヘルザに言う。

 「今日は。
  私を呼んだのは、君?」

ヘルザは目を見張って硬直する。
彼女は少女を全く知らなかった。
マージョリーは後から現れた夫ノーブルに目を遣る。

 「どうしたの?」

ノーブルは肩で息をして、疲れた様子だった。
0163創る名無しに見る名無し
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2020/01/07(火) 18:44:55.10ID:8cn2dy1i
彼は深呼吸をすると、大きな声でマージョリーとヘルザに言う。

 「そいつは普通じゃない!
  外道魔法使いだ!」

マージョリーもヘルザも吃驚して、警戒の目で少女を見詰めた。
言葉の魔法使いの少女は、やれやれと困った顔で言い訳する。

 「私は誰かの呼び声を聞いて、ここに来たんだ。
  『助けて欲しい』と、確かに呼ばれた」

その正体はヘルザである。
だが、当のヘルザは意識的に誰かを呼んだ訳では無かった。
こうなっては言葉の魔法使いの少女は突然の侵入者である。
誰か囚われているのでは無いかと、少女は辺りを見回すが、そうした怪しい気配は感じない。

 「ムム、奇怪(おか)しいな?
  確かに呼ばれたんだが……。
  誰かの悪戯か?」

怪訝な顔の一家を見て、少女は苦笑いした。

 「お邪魔したみたいだね。
  何でも無いなら良いんだ。
  失礼するよ」

彼女は何度も首を傾げ、「奇怪しいなぁ」と呟きながら家を出て行く。
家族の話し合いに水を差されて、何だか話を続ける雰囲気では無くなってしまった。
ヘルザは助かったと思うと同時に、実は自分が少女を呼んだのでは無いかと、今更ながら、
感付き始める。
0164創る名無しに見る名無し
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2020/01/08(水) 18:51:13.07ID:yM16SNSR
思い返してみれば、ヘルザは何時も誰かの助けを求めていた。

 (リベラさんに言われた、『私の願い』……。
  本当に、それが私の魔法なら?)

他人に助けを呼ぶ魔法と考えれば、納得出来ない事は無い。
最初に彼女の魔法に応えたのが、恐らくはマトラ事ルヴィエラ。
否、ワーロック・アイスロンだったかも知れない。
それ以前にも覚えがあると言えばある。
自分の魔法に気付いたヘルザは、自分の魔法で何が出来るかを考え始めた。
自分に他者に無い能力があれば、自分の為であれ、他人の為であれ、それをどう役立てるかを、
考えてしまうのは人の性。
しかし、彼女には有効な活用方法が思い付かない。
今一使い所が難しい魔法なのだ。
もっと便利な魔法だったらなと、彼女は思わざるを得ない。
活用範囲の狭いテレパシーの様な物なのだから。
実際、共通魔法は多くの他の魔法を取り入れた物なので、強力だが使途の限られる事が多い、
所謂「外道魔法」より、共通魔法の方が便利なのは当然である。
夢が壊れた様な気分で、ヘルザは落胆した。

 (これだったら……。
  共通魔法使いの方が良かったかなぁ……)

だが、共通魔法を覚えるのは苦難の道だ。
やはり彼女は共通魔法使いの中にあっては、違和感と共に過ごさざるを得ない。
ヘルザの内心の変化を、両親は目敏く感じ取って、声を掛けた。

 「どうした、ヘルザ?」

 「何を考えているの?」

自分の魔法の正体を、言おうか言うまいか、ヘルザは悩む。
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2020/01/08(水) 18:52:01.15ID:yM16SNSR
彼女は試しに、もう一度、先程の少女を呼ぼうと思った。

 (来て……)

少女の姿を思い浮かべながら、強く念じてみる。
そうすると、何時の間にか少女が両親の背後に現れている。

 「やっぱり呼んでいたんじゃないか……。
  君だね?」

行き成り少女が背後に現れた事に、ヘルザの両親は驚いて振り向いた。
ノーブルは声を高くして問う。

 「帰ったんじゃなかったのか!?」

言葉の魔法使いの少女は悪怯れずに答えた。

 「誰も帰るとは言っていないよ。
  失礼したとは言ったけど」

不快感に顔を顰めるヘルザの両親に、少女は軽く笑って言う。

 「この家から呼び声が聞こえたのは間違い無いから、再び呼ばれるんじゃないかと思って、
  少し待っていたんだ」

そして彼女はヘルザを見た。
ヘルザは小さく頷いた後、両親に告げる。

 「これが私の魔法みたい……」

両親は今一つ状況を掴めず、不可解な顔をした。
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2020/01/08(水) 18:52:55.92ID:yM16SNSR
ヘルザは改めて告げる。

 「詰まり、その……誰かを呼ぶ魔法?
  それが私の魔法……」

ヘルザの両親は共に低く唸った。
害になる様な魔法では無いが、逆に何か利益になりそうにも思えない。
呪詛魔法の様な、恐ろしい魔法で無かった分、良かったと思うべきかと認める。

 「そ、そう……」

だが、本人に対して良かったとも悪かったとも言い難い。
コメントに困る。
言葉の魔法使いの少女は、何度も頷いた。

 「成る程、君は共通魔法使いでは無いのか……。
  誰かを呼ぶ魔法とは、詰まり召喚魔法かな?
  極めれば、大きな力になるかも知れない」

 「大きな力?」

 「今みたいに誰かに呼び掛けるだけじゃなくて、直接呼び寄せるとかね。
  応用が利かない分、効果は大きいだろうし」

ヘルザの両親は少女を睨み付けた。
2人共、自分の娘が大きな力を持つ事を望んでいなかった。
即ち、それが2人の外道魔法に対する認識なのである。
2人は娘が邪悪で強大な魔法使いになる事を嫌ったのだ。
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2020/01/09(木) 18:34:25.69ID:v1M/wuau
勿論、そうなるとは限らない。
力を得た所で、突然邪悪な人格に変容する訳では無い。
否、可能性が全く無い訳では無いのだが……。
ヘルザは言葉の魔法使いの少女に尋ねる。

 「あの、それで、召喚魔法は何かの役に立つんでしょうか?」

 「えっ、役に?
  ……それは君の心掛け次第じゃないかな?
  全く何の役にも立たない魔法なんて、そうそう無いよ」

そうは言われても、ヘルザは未だ召喚魔法の具体的なイメージを持っていない。
今の所は、少し変わったテレパシーの一種でしか無いのだ。
不安気な顔をするヘルザに、少女は困った顔をして言う。

 「多くの魔法使いは『役割』を持って生まれる。
  それを持たない君は、幸福であり、不幸でもある。
  役割に縛られた生き方をしなくても良いと言う事なのだから。
  君は新しい世代の魔法使いなのだ。
  『役に立つ』と言う考え方をする必要は無いんだよ」

人の世界で生きるのだから、人の役に立とうと考えるのは、自然な事なのだが……。
所謂「外道魔法使い」の少女には、その心が理解出来ない。
未だ不満気な顔のヘルザに、少女は告げる。

 「役に立たなくても良いじゃないか?
  全てが何かの役に立つと思う必要は無いんだよ。
  君は自由に生きれば良い。
  自ら考え、自ら選択して生きるんだ。
  それは苦しみでもあろうが、無上の喜びでもある」
0168創る名無しに見る名無し
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2020/01/09(木) 18:34:56.42ID:v1M/wuau
言葉の魔法使いの少女は、ヘルザの両親にも言う。

 「『外道魔法』を恐れる必要は無い。
  この子は普通の人間だ。
  少し共通魔法が苦手で、少し変わった魔法が使えるだけの子供。
  今時、共通魔法が使えない子供は珍しくも無いだろう」

しかし、ヘルザの両親は軽々に頷かなかった。
共通魔法が使えない事は確かに珍しくは無いが、嫌悪感を示す者は殆ど居ない。
多くの共通魔法を使えない者は、魔法資質が低い。
故に、魔法に対して鈍感だ。
だが、ヘルザは違う。
そうした共通魔法社会に生きる、平凡な一家としての悩みを、少女は理解出来ない。
納得行かない様子の一家の顔を見て、少女は眉を顰めた。

 「……後は本人達で解決するしか無い。
  幾らでも迷い、悩むと良いよ。
  それも人間ならではの貴重な体験だ」

そう言って少女は今度こそ本当に去る。
一家は呆気に取られていたが、最初にノーブルが我に返る。

 「……とにかく、ヘルザが無事に帰って来て良かった。
  今は、それで良しとしよう」

マージョリーもヘルザも頷く。
問題の先送りだとは解っていたが、これ以上疲れる話をする気力は無かった。
0169創る名無しに見る名無し
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2020/01/09(木) 18:35:47.61ID:v1M/wuau
しかし、現実とは向き合わなくてはならない。
ヘルザは学校に行く気力はあるのだが、共通魔法だけが受け入れられない。
共通魔法を教えない学校があれば良いのだが、残念ながら、そんな学校は唯一大陸には無い。
義務教育に確り組み込まれている。
共通魔法の授業だけを休む事も出来なくは無いが、所謂「不良」扱いは避けられない。
ノーブルとマージョリーには、それが受け入れられなかった。
ヘルザが自分から逸(ぐ)れてしまえば良かったのだが……。
その夜、ノーブルとマージョリーは2人だけで相談する。

 「ヘルザの事なんだが……。
  学校の先生に相談してみるのは、どうだろう?」

 「共通魔法の授業だけ受けないの?
  そんな事が出来る?」

 「頼むだけ頼んでみようじゃないか?
  余り聞かないだけで、もしかしたら他にも共通魔法の授業を受けない、前例があるかも知れない」

 「でも、他の子達は、どう思うかしら。
  虐められたりしない?
  子供って残酷だから」

 「その時は、その時だ。
  学校に行きたくないと言ったら、考えよう」

 「大丈夫かしら……」

 「昔だって、クラスに1人は居たじゃないか?
  苦手な授業を放り出す様な問題児が……。
  それと同じだよ。
  そう言う奴だって、公学校は卒業していた」

 「卒業までは良いとして……卒業後は、どうなるの?」

マージョリーは我が娘ヘルザの将来を心配した。
0170創る名無しに見る名無し
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2020/01/10(金) 18:40:37.87ID:9rXaT7ZA
2人は共に真面目な学生だった為に、道を外れてしまった時の事が分からない。
元に戻る為の道程も。
だから、過剰に心配してしまう。
ノーブルは妻マージョリーに言う。

 「何とかなるよ。
  不良学生が皆、犯罪者になったり、野垂れ死にする訳でもあるまいし」

マージョリーは不安そうな顔をしていた。
ノーブルも同じ気持ちだったが、弱気な所は見せられないと強がる。

 「何が幸せか、それを決めるのは、ヘルザ自身だ。
  親として、子供の望みは叶えて上げたい」

 「それが本当に、あの子の為になるなら良いんだけど」

マージョリーは疲れた顔で俯いた。
翌日、ノーブルとマージョリーは、ヘルザが通っていたバルマー市第三公学校に連絡を入れて、
校長や担任教師と面談する。
2人の訴えを聞いた校長は、困った顔をした。

 「お話は分かりました。
  しかし、1人だけを特別扱いする訳には……」

例外を認めていては切りが無いし、担任教師の負担もある。
他の子供達との兼ね合いも問題だ。
何故あの子だけと言われない様に、説明するのは困難。
魔法資質が低い子供でも、共通魔法の授業は受けるだけ受けなくては行けない。
共通魔法社会の中で、外道魔法使いは魔法資質が低い者よりも少ない、圧倒的少数派だ。
それに対応する方法が確立されていない。
未だ未だ外道魔法に対する理解は進んでいない。
0171創る名無しに見る名無し
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2020/01/10(金) 18:41:41.58ID:9rXaT7ZA
しかし、公学校とて何の柔軟性も無い訳では無い。
担任教師はヘルザの両親に尋ねた。

 「共通魔法の実技は無理でも、筆記は出来るんじゃないでしょうか?
  共通魔法の基礎的な知識さえ理解していれば、最低限の合格点は出せるので……」

マージョリーは怖ず怖ずと問う。

 「実技は免除して貰えると言う事ですか?」

 「いえ、免除と言うか……。
  勝手に休んだと言う扱いですけれど。
  でも、筆記で知識があると分かっていれば……。
  魔法以外は問題無いんですよね?」

 「ええ、多分。
  共通魔法に対して過敏になっている部分はありますが……」

一定の成果を得て、ヘルザの両親は帰宅する。
そうして両親に説得されて、ヘルザは再び公学校に通う事になった。
多くの魔法使いと出会い、多くの魔法を見て、更に自分の魔法を知ったヘルザは、共通魔法にも、
以前程は嫌悪感を持たなくなっていた。
寧ろ、魔法に関する興味は以前よりも増していた。
相変わらず、共通魔法は苦手だったが……。
その理論をよく勉強した。
自分の魔法をよく知る為にも。
彼女には学校の友人以外にも、心強い仲間が居た。
それは……共通魔法使いから外道魔法使いになった、ルヴァート・ジューク・ハーフィードと、
その弟子のメルベーとルーウィーである。
0172創る名無しに見る名無し
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2020/01/10(金) 18:42:19.75ID:9rXaT7ZA
ルヴァートとヘルザの出会いは、ヘルザが両親からルヴァートの事を聞いたのが、始まりだった。
ヘルザは自ら外道魔法使いとなったルヴァートに興味を持った。
何を思って共通魔法使いから外道魔法使いへ転身したのか?
そこに苦労は無かったのか?
彼の弟子達も共通魔法使いなのか?
公学校の休日に、ヘルザは両親と共にバルマー市から離れたサブレ村を訪れ、山間の花畑に向かう。
一面に広がる色彩々の季節の花々に、ティンバー家の3人は圧倒された。
花畑では初老の男性が、花の手入れをしている。
彼は直ぐにティンバー一家に気付き、自ら近付いて声を掛けた。

 「今日は。
  皆さんは、ティンバー家の方々ですか?」

我に返った一家は、小さく礼をして、銘々に挨拶をする。
男性は笑顔で自己紹介する。

 「私がルヴァートです。
  緑の魔法使い。
  初めまして、ヘルザさん」

ヘルザは花畑が魔法陣を描いて、結界の役割を果たしている事に気付く。
ここの植物は全て生き生きとしていて、微風が吹くと人に語り掛けるかの様に爽々と音を立てる。

 「綺麗な花ですね」

マージョリーの言葉に、ルヴァートは小さく笑った。

 「ああ、ははは、有り難う御座います。
  ここで立ち話も何ですから、取り敢えず家の中へ」

一家はルヴァートの住家に案内される。
0173創る名無しに見る名無し
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2020/01/11(土) 18:46:15.24ID:L1SWExwq
家の中には若い男女が居た。
2人はルヴァートの弟子、メルベーとルーウィーた。
ティンバー一家を見て、2人は自己紹介をする。

 「あ、初めまして。
  ティンバー家の皆さんですね?
  私はメルベー、そして、こちらが――」

 「ルーウィーです」

それに対してティンバー一家も名乗った。

 「私はノーブル・ティンバーです。
  そして、妻のマージョリーと娘のヘルザ」

メルベーとルーウィーの視線は、ヘルザに集まる。
最初にメルベーが言った。

 「この子が例の隔世遺伝の子ですね」

ヘルザは見知らぬ大人が2人も居る事に緊張して身構えている。
メルベーとルーウィーは互いの顔を見合って、小さく笑みを漏らした。

 「私達はルヴァートさんの弟子です」

そうメルベーが言うと、ルーウィーも続く。

 「元共通魔法使い……。
  否、今でも共通魔法使いを止めた積もりは無いけれど。
  師匠には劣るけど、緑の魔法が使える。
  所謂『多重魔法理論内包者<マルチマジシスト>』だな」
0174創る名無しに見る名無し
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2020/01/11(土) 18:46:56.98ID:L1SWExwq
聞き慣れない単語に、ヘルザは戸惑った。

 「マルチ……?」

 「Multi-magic-ist……即ち、『多重』、『魔法主義者』。
  Multi-magic-theor-ist(マルチマジックセオリスト)……とも言う。
  本来的に共通魔法使いは多重魔法主義者だ。
  何故なら、多くの旧い魔法の理論を取り込んでいるから」

ルーウィーの説明にメルベーは呆れる。

 「行き成り難しい事を言っても伝わらないでしょう?」

 「はは、その内、解る様になるよ。
  今は解らなくても、知識として知っているだけで良い。
  それが後になって、こう言う事だったんだと解る」

言い合う2人の間に、ルヴァートが割って入った。

 「知識の先行は好ましいとは言えないけれどね。
  納得、体感、知識は一体の物。
  その段階に応じて、少しずつ歩んで行かなくては」

その後、彼は2人の弟子を下がらせる。

 「さて、今から私は、お客様と話をしなければならない。
  君達2人は少し席を外していてくれ」

メルベーとルーウィーは素直に従い、退席した。
ルヴァートはティンバー一家を台所のテーブルに案内する。
ティンバー一家は両親の間に娘を挟む形で着席し、その対面にルヴァートは座った。
0175創る名無しに見る名無し
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2020/01/11(土) 18:47:45.30ID:L1SWExwq
ルヴァートはティンバー一家に話を促す。

 「それでは、お話を伺いましょう。
  何か、お力になれれば良いのですが……」

ノーブルとマージョリーは何から聞けば良い者か、お互いに見合う。
最初に口を開いたのは、ノーブル。

 「外道魔法使い……と呼ばれる物が、共通魔法社会で生きて行く為に……。
  何か助言を頂けないかと」

 「具体的に、どんな事で、お困りですか?」

 「それは……」

ノーブルは一度ヘルザを見て、こう言う。

 「共通魔法を使えない事で……。
  いえ、共通魔法に違和感と言うか、嫌悪感があるらしいのですが……」

 「ああ、解ります。
  御両親は外道魔法を目にした事はありますか?」

ルヴァートの問い掛けに、ティンバー夫妻は再び見合って、首を横に振った。

 「いえ、瞭りと目にした事は……ありません」

その答を聞いたルヴァートは、何度も頷いた。

 「それでは中々娘さんの気持ちは理解出来ないでしょう。
  『異なる魔力の流れ』と言う物が、如何なる物なのか、先ずは解って頂こうと思います」
0176創る名無しに見る名無し
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2020/01/12(日) 21:28:55.78ID:F6lR3R6s
次の瞬間、ルヴァートは緑の魔法を使った。
何と言う事は無い、植物を成長させるだけの魔法。
家の周囲の雑草が伸びて、窓を覆い始める。
先に退室した2人の弟子が、異変を察知して慌てて飛び込んで来る。

 「ど、どうしたんですか!?」

それに対して、ルヴァートは落ち着いた声で言った。

 「『外道魔法』と言う物を見せているだけだよ。
  心配無い」

2人の弟子は本当に心配しなくて良いのか迷い、狼狽していた。
2人共、師が大きな魔法を使う所を、未だ見た事が無かったのだ。
一方、ティンバー一家の反応はと言うと、ヘルザは動揺しているだけだったが、夫妻の方は、
恐怖に顔を引き攣らせていた。
ノーブルはルヴァートに問う。

 「な、何をするんです!?」

それに対して、ルヴァートは冷淡に答えた。

 「御両親、これが外道魔法の結界です。
  貴方々の娘さんは、この様な物の中で生きているのです」

ティンバー夫妻が感じているのは、違和感、異質感、異物感。

 「貴方々は知らなかったでしょう。
  共通魔法社会で暮らしている、共通魔法使いの貴方々は、無意識に、そして日常的に、
  私達を迫害しているのです。
  共通魔法の結界その物が、多くの外道魔法使いにとっては毒なのですよ」
0177創る名無しに見る名無し
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2020/01/12(日) 21:30:11.12ID:F6lR3R6s
不快感に顔を歪めて苦しむ両親の姿を見て、ヘルザはルヴァートに訴えた。

 「もう止めて」

ルヴァートは小さく頷き、魔法を中止した。
植物は成長した儘だが、魔力の圧力は弱まる。
ティンバー夫妻は娘に対して、申し訳無さそうな顔をする。

 「ヘルザ、今まで済まなかった。
  お前の苦しみも知らないで、私達は……」

 「良いの。
  謝らないで、お父さん」

ヘルザは両親を許す。
そもそも許す許さない以前に、両親を恨んではいなかった。
全く恨みに思わなかった訳でも無いが、それは過去の話。
何時までも根に持つ積もりは無い。
ルヴァートはティンバー夫妻に告げる。

 「貴方々は共通魔法社会の中で、共通魔法に浸かっているから、気付かないだけなのです。
  少し共通魔法から距離を置けば、外道魔法と呼ばれる物の事も、公平に見られるでしょう」

ノーブルは途端に難しい顔になった。

 「それでは、ヘルザは共通魔法社会の中では、生きて行けないのでしょうか……?」

 「そんな事はありません。
  今の私や、私の弟子が、そうである様に……。
  多くの魔法に寛容になれば良いのです。
  幸い、今のヘルザさんは自分の魔法を自覚しています。
  もっと自分の魔法と他の魔法を知って、自分の魔法と言う物を確立出来る様になれば、
  周囲の魔力に乱されて、心身が動揺する事は無くなるでしょう」

ルヴァートの言葉に、ティンバー一家は安堵する。
共通魔法が大陸を支配している現状で、その中で生きて行けないと言うのは、大きな苦しみだ。
外道魔法使いであろうと、人である事には変わり無い。
人である限り、独りでは生きて行けない。
0178創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 21:31:07.65ID:F6lR3R6s
ヘルザは自分の将来に希望を持つと同時に、ラントロックの事を想った。
彼は独り旅を続けながら、共通魔法社会とは異なる世界を目指すと言う。
それは途方も無い野望だ。
どんな魔法使いも平等に生きて行ける場所を創ると言う理想。
どうして彼は、それを目指すのか?
共通魔法社会に紛れて生きるのでは駄目なのだろうか?
何時か、その楽園は完成するのだろうか?
呆けているヘルザに、ルヴァートは小声で言う。

 「所で、ヘルザさん」

 「は、はい、何でしょう?」

吃驚して我に返ったヘルザは、慌てて問う。
ルヴァートは少し困った笑みを浮かべた。

 「君の魔法は人に呼び掛ける魔法でしたね?
  テレパシーの様に。
  或いは、召喚魔法かも知れないと聞きましたが……」

 「あ、はい。
  未だ確信は無いんですけど、多分……」

 「私に会うのが楽しみだったんですか?」

 「え?」

行き成り何を言うのだろうと、ヘルザはルヴァートを怪しむ。
ルヴァートは益々困った顔になった。

 「いえ、その……。
  貴女が来る前から、強い思念と言うか、呼び掛けの様な物を感じていたので……。
  恐らく、貴女の心に反応して、魔法が勝手に発動していたのでは無いかと……」

 「あっ」

未だ未だ制御が必要だと、ヘルザは魔法の未熟さを自覚して赤面した。
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2020/01/13(月) 19:00:08.69ID:BixmOVcP
体が2つあれば


象牙の塔にて


カティナ・ウツヒコのB棟掌握計画は着々と進行していたが、彼女は自らの権力を、
誇示する事はしなかった。
偶に『予言』して、人を驚かせる程度である。
少し彼女の知る情報を話せば、頭の良い禁呪の研究者達は、勝手に「事実」を推測して、
恐れてくれる。
それだけで彼女は満足だった。
次第にカティナの興味は一向に行動の予測が付かない、カーラン博士に移りつつあった。
ヒレンミ・ヒューインの研究室に所属しながら、彼女は暇があればカーラン博士への連絡や雑用を、
進んで引き受けた。
これは象牙の塔の職員にとっては、大変有り難い事だった。
先ず、カーラン博士が好きと言うか、得意な人が居ないのだ。
誰も彼もカーラン博士の相手は苦手。
しかし、カティナの行動は当然不審がられた。
詰まり、ヒレンミがカーランを一方的にライバル視しているのだから、何か裏があるのだろうと。
例えば、カーランを監視しているのだとか、或いは、カーランに取り入ろうとしているのだとか……。
そんな人の噂を聞かない振りして、今日もカティナはカーラン研究室に連絡書類を届けに行く。
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