「あ……あたし……!」崖っぷちで振り返った椿は動転していた。「ユゥ兄ィが……もう、入ってると……勘違い……」
「まったく」ランは厳しい口調で叱った。「お前が死んだらオレも死ぬぞ!」
その言葉に椿は少し落ち着き、嬉しそうに微笑んだ。
「さ、口を開けて」
崖の上を温い春風が吹き抜けた。ランに言われるまま、椿が口を開く。
ランは椿の肩を両手で優しく掴むと、そこへ大きく開けた口を近づけて行く。
なんで唇、触れないかなぁ、とユージンは思う。
椿の小さな口から温かい吐息が入り込んで来るほとの距離なのに、唇どうしは決して触れ合わない。
自分がこのままここから出て行かなかったらどうなるんだろうなぁ。
単に何もなく、不思議そうに一旦離れちゃうんだろうなぁ、とユージンは思いながら、ランの胸から這い出すと、椿の口へ向けて飛び出した。
飛び出す時、ランがタイミングよく舌をカタパルトのように使ったので、勢いがつきすぎて、椿の喉に突き刺さるように入った。