X



トップページ創作発表
760コメント638KB
【チャイナ・パニック2】海棠的故事
0002創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 09:08:13.53ID:UTcvnWE+
海は今日も凪いでいた。
風は強い。松林を力ずくで抜けて来る風が髪を乱す。
遠くを見渡しても船影はない。
魚網を仕掛けた杭が少し遠くに見えるだけである。
この風景を物心ついた頃から見て育った。
岩の上に立ち、少女は面白くもなさそうな顔で、しかし海を眺め続けた。
まるで海の向こうから帰って来る誰かを待っているように。
「椿(チュン)、風邪をひくよ」
少女の口を動かして、少年の声がそう言った。
「早く家に帰ろ?」
見渡す限りここには少女一人しかいない。少女は一人きりで、自分の中にいる少年と会話していた。
「ユゥ兄ィが連れて来たんでしょ」
「そっかな」同じ少女の口を動かして少年の声が少し笑いながら答える。「そうかもしれない」
暫く少女は無言でまだ海を眺めていた。質素な薄青い着物一枚に身を包み、寒風の中を立っていた。やがて踵を返すと、ゆっくり歩き出した。
0003創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 09:34:02.58ID:UTcvnWE+
家に帰ると色白で美形の經熟女が台所で魚を捌いていた。
彼女は音もなく玄関を潜って入って来た椿にすぐに気づくと、声を掛けた。
「お帰り、椿、ユゥ。また海を見に行ってたの?」
椿は無言で頷くと、奥の自分達の部屋へ歩いて行こうとする。
「ねぇ、椿」
「何、ママ」と椿は元気のない顔を向ける。
母は魚を捌いていた手を洗うと、優しい笑顔を浮かべて食卓に腰を掛けた。
「ねぇ、そろそろ学校に行こ?」
気を遣って暫くしていなかった話を母は繰り出した。
「あなた中学生なのよ? 来年は高校受験も控えてる」
椿は黙ってそれを聞いた。目はずっと箪笥の上にある豪華なトロフィーを見ている。
「あなたが学校行きたくないならそれでもいいけど……」母は話を続けた。「お兄ちゃんが困るでしょ」
「……べつに。勝手にあたしの中にいるだけじゃない」椿は突っぱねるような表情で言った。
「ユゥはもう高校一年になる歳なのに、中学二年ほどの学力もないのよ?」
「あたしのせい?」
「ううん。そうじゃないの」
「あたしのせいだよ」椿はそう言うと、トロフィーのほうへ向かって歩き出した。
「違うよぉ」歩きながら椿の口が勝手に動き、少年の声が言った。「ぼく、勉強嫌いだもん。だから……」
「ママ」椿は少年の声を無視して言った。「パパはどうしてチャンピオンやめちゃったの?」
「覚えてないの?」母は溜息を吐きながら笑った。「負けたからよ」
0004創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 09:52:11.35ID:UTcvnWE+
父の青豪(チンハオ)は中国の花形格闘技『散打』のチャンピオン、散打王だった。
54歳の高齢でチャンピオンとなり、一生ベルトを守ると豪語していたが、三度目の防衛であっさりと負けた。
現在は67歳になり、初老とはいうものの体だけは元気で、太極拳教室の講師をやっている。
しかし敗北で心が折れてしまい、再び格闘界へ戻る気力もなく、大都会北京に構えていた豪邸も売り払った。
静かなところに住みたいと父は言い出した。母は子供達のために都会に残ることを希望した。
しかし権威を失った元散打王を見る人々の目に耐えられずに夫が苦しむのを見かね、遂に田舎に移り住むことに同意したのだった。
この海辺の小さな町に小さな家を買い、住みはじめてもうすぐ10年になる。
0005創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 09:57:59.46ID:UTcvnWE+
「話をはぐらかさないで」母は真剣な顔で口元だけ笑いながら言った。「学校に行って」
「ごめんなさい」そう言うと椿は早足で自分達の部屋へ逃げた。
0006創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 10:07:52.75ID:UTcvnWE+
父の青豪が帰って来た。
「やー、今日もバカばっかりだったよー」
北京にいた頃の弱々しさはとっくになく、自信と過去の栄光に満ちているように見える笑顔で明るさを振り撒いた。
「何教えてもトンチンカンな動きしか出来ない奴ばっかり。才能ないからやめろって言って来た」
「ハオったら、生徒さん失ったら食べて行けないでしょ」母の樂樂(ラーラァ)がたしなめる。
「いやぁ、俺が職失ってもララの稼ぎがあるから食って行けるよぉ。まだ若いしねっ」
「こう見えてもあたし、58歳なのよ?」どう見ても三十代半ばのララが言った。
「さぁ、メシにしよう」ハオは明るく笑い飛ばした。「子供達も呼べ、呼べ」
0007創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 10:15:27.81ID:UTcvnWE+
食卓に並べられた魚料理をみんなでつつきながら、ララがまた切り出した。
「椿ったら、まだ学校に行こうとしないのよ。ハオからも何か言って」
「大丈夫だよぉ」ハオはバカみたいな笑顔で言った。「僕も中学しか出てないけど、散打王様になれたんだから」
「このままじゃ中学も卒業できないのよ。それにユージンが……」
「大丈夫だって。それに小学校すら出てない君が言うことじゃないだろう」
「人の弱点突くのやめて」
「ごちそうさま」椿はろくに箸もつけていない茶碗を残し、席を立とうとした。
「あっ、やだ! ぼく、食べたい!」
「……じゃあ、変わって」
自分の中から食欲を訴える兄ユージンに、椿は面白くなさそうな顔で交代を促した。
0008創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 10:23:56.10ID:UTcvnWE+
椿のおかっぱにした髪が一瞬波立つと、繊細だった黒髪が少し雑に乱れた。
着物の前を膨らませていた二つの胸がしぼみ、胸囲が少しだけ逞しくなる。
閉じていた目を開くと、面白くなさそうだった瞳が急に輝き、悪戯っぽい光を浮かべた。
少女は一瞬にして少年になり、たちまち現した食欲のままに目の前のごはんをバクバクと口に運びはじめた。
「ユージン」ララが言った。「あなたからも部屋に帰ってから椿に言っといて」
「うまーし!」ユージンは母には答えずに満面の笑みで飯を食った。
「……太る」椿の声が食べる合間の口を動かして、呟いた。
0009創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 10:39:37.37ID:UTcvnWE+
風呂に入る頃には椿の姿に戻っていた。
脱衣所で白いパンツまですべて脱ぐと、少女は音も立てずに浴室へ入った。
妹の裸は見慣れている。ユージンにとって、椿の裸は自分の裸だった。
膨らみはじめた胸も、生え揃いはじめた下のほうの毛も、自分のものとしか思わない。

浴槽に浸かりながら椿は聞いた。
「ユゥ兄ィ」
「ん?」
一人の口から二つの声が浴室に響く。
「学校なんか、行く必要あると思う?」
「うーん」
「どうせあたし、どっかにお嫁に出されて、炊事洗濯するんだよ?」
「メイ姐ェみたいに医者とかなればいいじゃん」
「あたし何も出来ないもん」
「出来るようになればいいじゃん」
「簡単に言うな」
「やれば出来る、やらなきゃ何も出来ないって言うじゃん」
「じゃあユゥ兄ィには何が出来るの?」椿は少し怒ったように言った。
「ぼく?」
「ごはん食べて、笑って、寝るだけでしょ? ばかみたい」
「うーん」ユージンはとぼけた声で言った。「ぼく、昔はすごい力を持ってたらしいんだけど」
「またその話?」椿は聞き飽きたというように目を伏せた。「失くしちゃったんでしょ?」
「どんなのだったのかなぁ。アハハハ」
0010創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 10:48:49.43ID:UTcvnWE+
風呂から上がると胸がしぼんでいた。
髪は雑に乱れ、目は悪戯っぽい光を浮かべている。
しかし斑に生え揃いはじめた下の毛のさらに下に、男の子のしるしはついていなかった。

風呂から上がるなりユージンは母のところへ行った。母は春物の着物を編んでいるところだった。
「ね、メイファン」ユージンは母のララに向かって言った。「またあの話、してよ」
すると編み物をする母の口が勝手に動き、鈴の鳴るような母の声とは違う、ガサツな声がそれに答えた。
「うるせー。今、寝てたところだボケ」
「してよー、してよー、椿も聞きたがってるからー」
「別に……」椿の声が言った。
「まー、ヒマだしな」メイファンはララの口を動かし、言った。「私にとっても楽しい話だ。何度でも聞かせてやる」
0011創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 17:18:59.51ID:xv7/aAON
おしっこぶっしゃーうんちぶりっ
>>1-10
0012創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/05(火) 22:32:08.20ID:Z9TrcyUq
             /: : : : : : : : : : : : :`ヽ、
          /: : : : : : : : : : : : ;.イノ\ : ',
         i: : : : : : : : : : ;. - '´ ′ │: }
         |: : : : : : ://__       l /
         |: : : : : : :L -‐{〒ぇ>‐rfデ1
         ヽ: : f ヽ;|     ̄  ト -〈
          \:! ぃ         ′ ./
            `!ヽ.、   r_:三ヨ / ラピュタはかつて恐るべき科学力で天空にあり
            L:_| ヽ     ‐  /  全地上を支配した恐怖の帝国だったのだ
             │ \      亅
             │ __二二ニヱ‐ 、_
               r弋/ _  -‐ フ´    | ̄  ‐- .._    __
         ,. ‐ '"´  ̄\=ニラ'´        !         ̄    \
      _ /   / /  |/   ____」      /        ヽ
      //      /.   |     \           /            ',
0013創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/06(水) 04:20:05.92ID:elFjdoZW
おちんぽ
0014創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/06(水) 05:33:29.19ID:elFjdoZW
うんこ
0015創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/06(水) 07:50:00.81ID:a7Bg4yLs
「コラ」メイファンが睨みつけるような声で言った。「おちんぽなんて言うな、椿」
「わ、わたしそんなの言ってない!」椿は驚いて言い返した。
「しかもその上うんこだと? はしたない子だな、お前は」
「言ってない!」
泣きそうになる椿にメイファンは意地悪をやめた。
「わかってるよ。言ったのはID:elFjdoZWだ。後で高層ビルから突き落としとく」
「早く話を聞かせてよ、メイファン」ユージンが急かす。
「あぁ、今から暫く仕事で忙しいらしいからな、ちょっと待て」
0016創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/06(水) 23:42:44.13ID:cInIwtVu
        |.:.|.:.:.:.:.:.:.:.:ミ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.|
        |.:.| :.:.:.:.:.:.:. :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.|            ___
        |.:.ト.:.:.:.:.:.:.:y :.:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:.:.|            /ilj ;::u::;ヽ
.           |,イミ三三夫三三三三|:.:.:.:.:.:.:.|         /:: -三ー u;l!
.        /    ,/       ヽ二二ス         (○))ミ(○ ))l     でかすぎる!
.         ,'    ,i'           仆    }            { ((_人__)) :J
        i    i!           ヽンノノノノ             lil |r┬-| u |
        !     i!           ̄ ̄          l ! | .|  /ヽ,,,,,シヾ
       ',    ';,            :l          ヾ_ヽ=U ,/−三ー::ilj:ヾ
       丶    丶              l          /  ヽノ:::(○)三(○ )::)  ___
         ヽ    ヽ、          l   ぶ        :| |   :::ヾ┌─┐,,;;;;シ /ー三ーiljヾ
          ', "   ', '' "       l   ら              ::/ ゝーイ :::.: (○ )三(○ ))U、
            !      ',           !   ぶ            | |     .:::|:: ((_人_)) ::ilj:::li
           !       :!        !    ら                      ::| ヾ|r┬-i! u ;;_シ
           l      l           !    ん                    / ! |: |  ̄:::ヾ
          l      !        !                            | U−'"  :::i::::!
0017創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/06(水) 23:47:01.75ID:ox/YYJel
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!
0018創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/06(水) 23:53:56.86ID:Vw76bs+t
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●              ●              ●
●              ●              ●
●              ●              ●
  ●            ●            ●
    ●         ●           ●
      ●       ●         ●      __( "''''''::::.
        ●    ● ●      ● ____,,,,,,---'''''''"""" ヽ   ゛゛:ヽ
         ●  ●    ●  ●:""""  ・    ・  . \::.    丿エ〜デルワ〜イス
          ● ●    ● ●:::        ・......::::::::::::彡''ヘ::::....ノ    エ〜デルワ〜イス
           ●       ● ::::::::::;;;;;,,---"""
            ●●●●●
0020創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/07(木) 00:15:05.65ID:qWJlDg2z
ちんぽこもっこりどっこいしょ
0021創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/07(木) 01:49:08.25ID:4Sl9BzP4
うんち
0022創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/07(木) 22:11:35.52ID:+TBakqs1
おちんぽ
0023創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/08(金) 04:27:48.02ID:AknK29OL
ちんちろりんにさりげなく〜
0024創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/08(金) 06:47:15.02ID:cpx4qS1z
は?
0025創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/08(金) 14:39:37.48ID:eqDdNXs0
お?
0027創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/09(土) 00:47:02.62ID:AeRmlTLr
ぶりぶり
0029創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/09(土) 23:32:57.72ID:8hFIYpce
メイファンは語った。
「まず、私はその昔、全中華を震え上がらせる殺し屋だった」
ユージンは何度も聞いたと言いたげに先を急かす。
「はいはい。『黒色悪夢(ヘイサー・アーマン)』って呼ばれてたんだよね?」
「お前らが知らんのが恥ずかしいぐらい有名だったんだぞ」
「40年近くも昔の有名人だったんだよね?」
「うぐぅ……。まぁ、いい。つまり私は無敵だった。私に勝てる者などいなしなかった」
「でも、僕が勝った!」
「そうだ」
「まだ胎児の頃の僕が、ね?」
「そうだ。まだ産まれてもいないお前に、私は負けた」
「凄い力を持ってたんだよね?」
「そうだ。お前は六百万年に一人の天才だった」
0030創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/09(土) 23:42:40.06ID:8hFIYpce
「で」椿が白けた口調で口を挟んだ。「ユゥ兄ィはどんな風にメイファンに勝ったんだっけ?」
「ウム。よくわからん」
「凄い技を使ったんだよね?」ユージンがわくわくした口調で聞く。
「ウム。よくわからん凄まじい技でお前は私を封じ込めやがった」
「どんな感じの技かぐらいわかるはずだよね」椿が言う。
「いや、全然わからん」と、メイファン。
「凄すぎてわからなかったんだよね?」とユージン。
「とにかくお前はよくわからん技を用いてよくわからんうちに私を幻の中へ落とし込み、よくわからん流れで私の殺した敵どもを復活させたのだ」
「ん。よくわからーん」椿が馬鹿にするように言った。
「まぁ、でも間違いないのは」ユージンが自慢げに言う。「僕が超天才だってことだよ」
「今は?」と椿。「食べて、寝て、笑うだけのダメ人間じゃない」
「うるさいな」
「あたしと同じ」
0031創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/09(土) 23:53:05.94ID:8hFIYpce
「今でも潜在能力の中にあの力はあるはずだ」メイファンが言った。
「だよね? 僕、まだ本気出してないだけだよね?」ユージンはノリノリでメイファンの言葉を受けた。
「何とかお前の力を開花させたい……が」
「さ、もう寝る時間ですよー」と、メイファンの言葉を遮ってララが口を動かした。
「なぁララ、ユージンは世界最強になる。私に任せてくれれぶりぶりぶり」
「ぶりジンは……ユージンは危ない世界なんかに行かなくていいの。心の優しい子なんだぶり」
メイファンはララの中に住んでおり、ララの口を使って喋る。
ゆえにララとメイファンが同時に言葉を発すると言葉と言葉がぶつかり、ぶりぶりという意味のない音になるのだ。
「ぶりえは……お前は子供の成長を願わんのかララ」
「あたしの息子を変な世界へ連れて行かないでちょうだい。いくらあたしの妹でも、そんなことしたら一生身動きの出来ない所へ閉じ込めるわよ」
0032創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 00:02:29.41ID:uuTFXCj/
「それならランも連れ戻せよ」メイファンは言った。「話がおかしいじゃねぇか」
「いつも言ってるでしょ」ララが言い返す。「あの子はあれがあの子の道。しかも成功してるわ」
「ラン兄ィ……」椿がぽつりと言った。「いつ帰って来るのかな」
その声には溢れるほどの寂しさと愛しさが詰まっていた。
「ランからメールは来ないのか」メイファンが聞いた。
「うん、来るよ」ユージンがわざとらしく明るい声で答える。「すっごい短いやつが」
「忙しいのよ」ララが言い聞かせる。「わかってあげなさい」
0033創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 00:08:49.38ID:uuTFXCj/
部屋に戻った椿はメールボックスを確認した。
今日はランからメールは届いていなかった。
毎日観ている動画サイトを開き、「トウ・ロウガ」と日本語で検索をかけると、無数の動画が表示された。

ディスプレイの中で成長した懐かしい顔が笑っていた。
自分達の義兄、ケ 狼牙(ダン・ランヤァ)が、日本人に囲まれ、流暢な日本語で喋っていた。
0034創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 00:15:49.33ID:uuTFXCj/
「強いですね。ここまで20戦全勝。どうですかトウ選手、今日も勝利した感想は?」
インタビューの質問に狼牙はにこやかに流暢な日本語で答えた。
「ありがとうございます。ボクは感謝しているよ。みなさんがボクを応援してくれるおかげ」
「女性からも凄い人気ですよね」
「日本のベイビー達、凄い可愛いからね。ボクもとってもパワーになるよ。愛してる」
動画のコメント欄には日本語で『チャラいw』と複数の書き込みがされていたが、ユージン達にはもちろんわからなかった。
0035創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 00:26:23.59ID:uuTFXCj/
ランは3年前、16歳で日本に渡り、総合格闘技のファイターとしてデビューしていた。
細い体つきながら太極拳の柔らかさと散打のパワーを合わせ持ち、デビューするなり連勝を重ね、瞬く間にスターの座へ駆け昇った。
しかも格闘家とは思えない甘いマスクと驕らない穏やかな性格、そしてチャラい日本語が受け、
格闘技に興味のない女性にもファンを膨大に増やし、女性週刊誌の表紙を何度も飾った。

ユージンと椿は同じ身体の中に住んでいても、テレパシーのように言葉なしで会話することは出来ない。
しかし二人は動画を観ながら、同時に同じことを思っていた。

「ラン兄ィがどんどん遠くなる」
0036創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 00:32:15.89ID:uuTFXCj/
次の日も椿は崖の上に立ち、長い間海を見ていた。
ユージンも無言で一緒に見ていた。
ここへ来たのは椿の意思であるが、確かに自分が連れて来たのかもしれないとユージンは思った。
自分もこの海が見たい。遥か向こうに日本のあるこの海が。
しかしどれだけ眺めたところで日本は見えず、ランがその向こうから帰って来ることはない。
0037創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 00:40:13.61ID:uuTFXCj/
ふと、海の中に赤い影が見えた気がした。
海面を染めて、それはどんどん大きくなって来る。
「おい?」ユージンが声を出した。「なんだあれ?」
椿も目を見開いてそれを見守った。
海はその辺り一面真っ赤になり、暗い青色を漂わせていた波も輝くような赤い光を煌めかせる。
「伝説の……」
椿が言いかけた言葉をユージンが継いだ。
「……巨大魚?」
しかしその巨大な赤い影は、姿を見せることなく、ゆっくりとまた沈んで行った。
海は再び暗鬱な青さを取り戻し、何事もなかったかのように風が吹き抜けた。
0038創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 10:49:06.19ID:O011PdNa
すぐに走って帰ると、ユージンは母に報告した。
「あらまぁ、あんなの地元の人の伝説でしょ」と母は素っ気なく言った。
次には母の口を動かしてメイファンの声が言った。
「デカかったか?」
「デカかったなんてもんじゃない。海が一面真っ赤になった」
「強そうだったか?」
「わかんないよ! 姿見せてくれなかったもん!」
0039創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 10:54:24.69ID:O011PdNa
「なんか」ララが言った。「プランクトンじゃないの?」
「違うよ」ユージンは少しムキになって答えた。「椿も見た。海の中にあれがいたんだ! 二人で見間違うことないでしょ」
「信じるよ」メイファンがクククと笑いながら言った。「信じたほうが面白そうだ」
そこへ部屋の入口に突っ立って聞いていた父のハオが入って来て、言った。
「伝説って何?」
ララが洗い物で濡れた床で足を滑らせた。
0040創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 11:06:59.64ID:O011PdNa
面倒臭いのでララはハオをお隣のマオさんのところへ行かせた。
今年96歳になるマオさんは庭で木の椅子に座り、ぼーっと何もないほうを眺めていた。
「やぁ、マオさん」
「あぁ、ハオくん」
「伝説って何?」
マオさんは暫くの沈黙の後、気持ちのいい発音で言った。「は?」

二人はマオさんの孫娘の淹れてくれた杜仲茶を飲みながら、並んで座った。
「この辺りの海の伝説じゃ」
「うん」
「海の中に仙人の住む世界があると言われておっての」
「へぇ」
「18年に一度、そこから仙人が魚に姿を変えて人間界に上がって来るのじゃ」
「デカいやつ?」
「巨大な、赤い、イルカによく似た、しかしこの世にはおらん魚じゃ」
「なんかアニメにそういうのなかった?」
「何をしにやって来るのかは知らん。ただ、その姿を見た者が90年前に一人だけおっての」
「マオさんもう産まれてるって凄いな!」
「哀しい目をしておったそうじゃ」
「ふーん」ハオは頷きながら、言った。「虚言癖じゃね?」
0041創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 11:10:20.62ID:O011PdNa
「村の伝説をバカにするな!」
マオさんは側にあった鉈でハオに斬りかかった。
「わぁ!」
ハオの膝が真っ二つに割れ、血がどっくんどっくんと溢れ出した。
0042創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 11:13:36.46ID:O011PdNa
膝を押さえながらハオが帰って来た。
「あー、痛かった」
「またマオさんに斬られたの?」ララが皿を拭きながら笑う。
「あのじぃさん、俺がすぐ治ると知ってるから遠慮ねぇ……」
ハオの膝から下は赤黒い血でべっとりと濡れていたが、鉈で割られた傷は既にすっかり塞がっていた。
0043創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 11:27:03.22ID:Bk8BHEKc
夜、自分の部屋に帰った頃には巨大魚の影を見たことなどすっかり忘れていた。
母から昨日に続いて学校へ行くようしつこく言われ、椿はベッドにダイブした。
自分には何もない。趣味も特技もない。好きなものも……
そのくせ凄い人達に囲まれすぎていた。
父は、元散打王。しかも人間離れした超再生能力をもっている。
母は、主婦をこなしながら地元で一番の腕と言われる医者もやっている。
母の中にいる母の妹メイファンは、元全中華を震え上がらせる殺し屋。しかも料理が抜群にうまく、母が料理をする時実はメイファンと身体を交代している。
姉は、北京の大学病院に勤める優秀な内科医。しかも太極拳の中国チャンピオンでもある。
姉の旦那は中国初代大統領の息子。今は事業を起こしては潰してを繰り返してはいるが、未来は父の後を継ぐと言われている。
その旦那の父親は、初代中国大統領であり、現在も40年近くもの間大統領を勤め続けている。しかも68歳にして現役の散打王である。
0044創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 11:35:11.14ID:Bk8BHEKc
そして義兄のランは、今まさに日本で大人気の格闘家をやっている。
「あたしだけ出来損ないじゃん」
「いや、違う。椿は普通だよ」ユージンが言った。「普通が一番えらいんだって、誰かが言ってたよ」
「身体の中にお兄さんがいる子のどこが普通?」
「は? ぼく、邪魔なの?」
「……べつにそうじゃないけど」
「椿が嫌ならいつでも出て行っていいんだよ? ぼく、自由に誰の身体にでも入れるんだから」
「……ごめん」
「パパに引っ越そうか? 寿命短くなるけど」
「……いてよ」
「椿……」
「同じ普通の人間同士、慰めあお」
「ぼくが普通だって?」
「身体なんかなくたって、ユゥ兄ィは普通の人間だよ」
「違う!」ユージンは怒った。「ぼくは超天才なんだから!」
0045創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 11:57:30.46ID:Bk8BHEKc
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。
現在は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。

・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
日本にいる義兄ランの帰りを心待にしている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。

・ハオ(李 青豪)……67歳。ユージン達の父。元散打王。
自由な性格で椿の登校拒否を容認している。大怪我をしてもすぐに治る特異体質。

・ララ(ラン・ラーラァ)……58歳だが見た目は35歳。ユージン達の母。
息子のユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在。妹のメイファンと身体を共有している。凄腕の医者でもある。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元殺し屋。ユージンを調教したがっている。
0046創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 16:00:11.45ID:mxpDblWB
・大島 男夫......このスレの主人公。神室町の均衡を保つ暴力組織『茨虎組』に所属してる若頭。

・ゼムナス......“虚無の支配者”の異名を持つ謎の男。ノーバディ故、感情が無い。

・青城 羅綺子(あおぎ らきこ)......黒魔術を使う美少女。人間をカラスに変える能力を持つという。

・グリフォン......軽い口調で人語を喋る謎のカラス。青城を死ぬほど恨んでる。

・鴨志田(かもしだ)先生......元メダリストの体育教師。青城にセクハラ行為を試みた結果、呪い殺された。
0048創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 19:44:45.08ID:ZWXPBFJr
ハオは死んでしまった
0049創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 20:33:07.69ID:ZWXPBFJr
〜茨虎組事務所〜

大島「あ〜あ、暇だな」
グリフォン「公園にでも行こうぜ」

大島「おいおい...こんな時間に公園に行ったら職質されるだろ」
0050創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 22:14:16.30ID:9klAc9p0
大島とグリフォンはなんやかんやで公園に行った
0051創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 22:29:44.46ID:I9wH259S
公園にはゼムナスが居た。

〜公園〜

ゼムナス「クククク...」
0052創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 23:26:35.28ID:DTdYICEA
大島はゼムナスを倒した

ゼムナス「貴様っ!?ぐわあぃぁぁぁあ」
ゼムナスは光の様に消えた

大島「俺、ヤクザだけど」
0053創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/10(日) 23:32:31.45ID:2eKccuoo
大島はとりあえず公園のベンチに座った
0054創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/11(月) 00:55:30.36ID:jZzixwiO
そこに青城羅綺子が現れた!
0056創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/11(月) 16:23:08.67ID:JuKyz4NX
その瞬間、公園が爆発した
0057創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/11(月) 17:57:17.48ID:nHy8BVxX
その人はピカピカのドイツ製の高級車に乗って帰って来た。
両親はバカのように嬉しがり、久し振りに会えたことを喜んだ。
自分が成長して、遠くへ仕事に出、久方振りに帰って来ても、両親がこれほど嬉しがるとはユージンには思えなかった。
きっと椿も同じことを思っていた。
見慣れないサングラス姿の精悍な顔が笑っていた。
長く伸ばした黒いストレートの髪、グレーのスーツ姿。
「メイ! お帰り!」
「メイ! メイ!」
両親が姉の名前を興奮しながら呼んだ。
0058創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/11(月) 19:39:10.78ID:reuO5AOu
>>56

大島「な、何だ!?爆発した!?」
突然の爆発で大島とグリフォンは動揺した。

青城「フフフフ...」
青城は不敵な笑みを浮かべている。
0059創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/11(月) 22:07:10.17ID:Ly50QJi6
そう、この騒動は青城が企てたのだ
0060創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 02:35:49.27ID:jhK/bOz0
その日、大島は矢場とんでたいして旨くもない豚カツ定食を食っていた。
するとガタイはいいが低能そうな男が店に入って来た。
0061創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 17:30:53.09ID:2sWuvP1z
ウンコマン「やぁ」
0062創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 17:39:50.72ID:jhK/bOz0
「うわぁ、矢場とんくそマズ…」
味音痴で有名なウンコマンではあるが
さすがのウンコマンも矢場とんはくそマズかったらしい
0063創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 17:54:12.25ID:gIny/KFn
「あのさ」
ハオは大島 男夫(オオシマ・ダンプと読むのかな?)を発勁で吹っ飛ばした。
「最愛の娘との再会なんだ。邪魔しないでくれる?」
0064創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:00:39.61ID:gIny/KFn
「きゃー! パパ! 変わりないね」
メイはハオに向かって10mの距離を3歩で縮めると、勢いよく抱きついた。
「だろう? 70歳近くなってもイケメンだろう?」
ハオは慣れた体捌きでメイの突進の勢いを殺して受け止める。そして聞いた。
「ぼくとお前の旦那のヘイロンと、どっちがイカしてる?」
「きゃー! ママ! なかなか元の歳に戻らないね」
メイはララに小走りに歩み寄ると、優しくハグをした。
0065創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:11:08.03ID:gIny/KFn
見た目2歳しか違わない母はメイをぎゅっと抱き締めると、形のいいおでこにキスをした。
「元気にやってた? 困ってることない?」
「元気だよー。ロンの会社潰しにはもう慣れたし」
「そう? まぁ、顔を見て安心したわ」
後ろからハオがララごと娘を抱き締めた。
「33歳になっても可愛いぞ〜」
「パパもかっこいいよ〜。どっちがとは言わないけど」
3人は暫く一つの生き物になったように抱き合っていたが、やがてぽつんと立っている椿のほうへメイが思い出したように顔を向けた。
「椿、大きくなったね」
「お帰りなさい、大姐(ダージェ)」
「中学二年かぁ。学校楽しい?」
椿は俯くと、とても小さな声で「あのね。あたしね」ともじもじしながら言った。
0066創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:16:18.17ID:gIny/KFn
「メイ姐ェ、ひどい!」
椿の口を動かしてユージンが大声を出した。
「ぼくのこと忘れてたでしょ!」
「いやー、ユゥ。久しぶりー」メイは誤魔化すように笑う。
「どーせぼくは見えないもんね?」
「いやいや、ユゥも大きくなったね」
「身体ないのにどうやって大きくなんの!?」
「いやー金色の『気』がますますピカピカになって」
ハオとララが口を揃えて笑った。
メイファンは完全に忘れられていた。
0067創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:23:22.85ID:gIny/KFn
しっきからハオはそわそわしていた。
「なぁ、メイ。チェンナも連れて来たん……だよな?」
「車の中?」ララがニコニコしながら聞く。
「うん。眠ってる」
ユージンとメイファンも入れて実質6人の4人は、音を立てないようにメイの車に近づいた。
後ろの席に設置されたチャイルドシートに抱かれて、メイにそっくりなちびっ子がよだれを垂らして眠っていた。
「くっ……!」ハオが大声を出しかけて慌てて駆け出した。
そして遠くまで離れてから叫んだ。「かわいい!」
0068創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:37:22.99ID:gIny/KFn
「可愛いわぁ」
よだれを垂らして孫の寝顔を見つめるララの口を動かして、メイファンが言った。
「おい、メイ」
「あ、メイファン忘れてた!」メイは素直に謝った。 
「そんなことはどうでもいい。それよりメイ、コイツに武術は教えているか?」
「教えるわけないでしょ。チェンナまだ4歳なのに」
「もう4歳だ」メイファンは叱るように言った。「遅すぎるわ」
「まーた馬鹿妹が変なこと言い出した」ララが呆れ口調で発言権を奪った。「アンタはそりゃ4歳の頃にはもう人殺してたけどね、チェンナはぶりぶり」
「ぶりのガキ……このガキなかなかいい素質を持ってるぞ」
「そりゃーね」メイは平気な顔で言った。「このあたしとあのヘイロンの子だもん。素質はあるでしょーよ」
「戦士に育てろ」
「やーだよ」
「んだと? 貴様、私の弟子の分際で……」
「チェンナはね、可愛い可愛い女の子に育てるの」
0069創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:52:32.83ID:gIny/KFn
「そう。椿見たいな可愛い女の子になってほしいな」
そう言ってメイに顔を向けられ、椿はたじたじとなった。
「あ……あたし?」
「うん。我が妹ながら本当可愛いわー。あたしも同じぐらいの年頃なら負けてたつもりないけどねっ」
メイはそう言うと、舌を出して笑う。
「でもこのままじゃ見た目が可愛いだけのバカ子ちゃんよ」ララが言った。「メイ、あなたから何か言ってあげて」
「あー。……ま、いいんじゃない?」
「メイ!」ララがメイの背中を小突く。
「学校なんかさー、楽しくなけりゃ行かなくてもいんだよ」
明るく笑い飛ばすようにそう言うメイだったが、椿は目を逸らして聞いた。
ハオが「さすが我が最愛の娘だ」と言いたげに頷いている。
「でもさー」メイは椿にまっすぐ目を向けて言った。「学校行かないせっかくの自由な時間活かして、何かでっかいこと経験してみない?」
0070創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/12(火) 18:59:00.71ID:gIny/KFn
「あ、お腹が……」
椿はそう言うと、お腹を押さえて背を向けた。
「お腹が痛い。薬飲んで来る」
「は?」ユージンが声を出した。「お腹なんか痛くないじゃん?」
無視して椿は駆け出した。
「後で部屋行くからー!」
メイがそう言う声を背に、椿は家に入ると、まっすぐ自分の部屋に駆け込んだ。
「何なの?」ユージンが聞く。「椿が具合悪かったらぼくも……」
椿はそれを無視して枕に顔を埋め、独り言を呟いた。
「メイ姐ェとは違うもん……」
「椿?」ユージンは自分の目から熱い水が出るのを感じた。
「あたし……何も……出来ないもん」
0072創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/13(水) 02:19:47.36ID:dzPUqeIe
大島「お前...何やってんだ!?」

大島はキレた
0073創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/13(水) 18:19:14.25ID:J3tXA9mY
茨虎組長「大島...落ち着け」

組長が現れた!

大島「組長!?何故こんなトコに居る!?」
0074創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/13(水) 18:39:14.39ID:HIDQBQPj
一方、地球では…

ジュラル星人「キチガイどもが宇宙に消えて良かったでジュラル」
ハラワタモモンガ「それでは、どんどんステーキを焼くでありますよ」
ハッケヨイ「ステーキですか、今日は遠慮しませんよ」
六本足「ギャギャ!」

盛大にステーキパーティーが行われていた。

ハッケヨイ「美味い旨い!何グラムでも食べれる!」
ハッケヨイはフンドシから糞をもらしてはステーキを食い続けた 。
0075創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/13(水) 19:40:10.71ID:m3ZCOs6X
ハッケヨイ一行は自爆した
0076創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/13(水) 19:46:49.19ID:E7W7j+XF
・茨虎(いばらが)組長......茨虎組の二代目組長。長ドスを常に帯刀している。本名は「茨虎 剣太郎」。
0077創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/13(水) 19:59:30.30ID:6fLRbPqT
茨虎組長「大島ぁ...お前は次期組長だってのに昔から全然変わらんなぁ」

大島「ははっ、すんません」
大島は静かに笑った。

グリフォン「そんな事よりよ、青城の奴はどこ行ったんだ?」
大島「分からん...」

茨城組長「やれやれ、オカルト好きの女にはロクな奴がおらんな」
グリフォン「だな」
0078創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/14(木) 00:10:45.36ID:RgKWzvA0
大島達は茨虎組事務所に帰った
0079創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/14(木) 07:00:04.07ID:bI2KXu76
〜茨虎組事務所〜

死にかけの組員「あ...あ...」
大島「!?」

事務所に帰ると、何故か組員が瀕死の状態になっていた!! 

茨虎組長「な、何があった!?」

死にかけの組員「あ...青城に...やられ...た...ぐふっ」
組員はその言葉を最期に息絶えた。

グリフォン「...またあの女か...クソッ!!」ギリッ
0080創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 01:24:51.68ID:giBzzSby
刹那、巨大なダンプが事務所に突っ込んで来た。
「あ、あれれ?アクセルとブレーキ間違ったの?」
運転席の婆さんがパニクってる
「く、組長ー」
駄目だ、組長は虫の息だ。
「と、とにかくダンプを止めやがれー」
大島は婆さんに怒鳴り付けるが…
0081創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 14:14:35.91ID:lz7uqcWD
婆さん「クククク...」

婆さんは大島を轢いた
0082創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 17:41:23.28ID:Nsv9K5UP
大島「な、何すんだバーサン!」

大島は辛うじて生きていた
0083創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 22:44:13.59ID:xD90nGnr
椿がベッドで打ちひしがれているとランからメールが入って来た。
「あ! ラン兄ィからだ」
ユージンがまずそう言い、急いで椿がメールを開く。
0084創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 22:46:32.67ID:xD90nGnr
 おーい元気か弟妹
 やっと休暇が取れることになって、ようやくそっちに帰れる
 もうすぐ帰るよ、会えるの楽しみ
0085創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 22:54:04.29ID:xD90nGnr
ランからのその短いメールの文字を椿とユージンは何度も何度も繰り返し目で追った。
ベッドに伏せた椿の顔から暗い表情はすっかり消え、目も口も嬉しそうに笑っている。
「ラン兄ィ、帰ってくるって!」
「読んでるよ」
「……わぁい、……わぁい」
椿は歌うように踊るように小刻みに身体を動かした。
「よかったよ、椿が元気になって」ユージンも嬉しそうな声を出した。
「メイ姐ェ、部屋に来るって言ってたね」
「ん。ちょっとこれ片付けようよ」
ユージンはだらしなく散らかった部屋を指して言った。
0086創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:03:22.10ID:xD90nGnr
その時、部屋のドアをノックする音が響いた。
「あ、もう来ちゃった」
「しょうがない。どうぞー」
するとすぐにドアが元気に開き、入って来たのはランだった。
二人は暫く呆気にとられ、すぐに喜びの大声を上げた。
「ラン兄ィ!」
「よっ。久しぶりー」
椿は勢いよくベッドから跳ね起きると、笑顔でランに飛びついた。
「もうすぐ帰るよって、すぐすぎ!」
「アハハ! 驚いたか?」
「全然気づかなかった! すごい!」とユージンの声。
「ユゥに気づかれないぐらい『気』を消せるようになったオレ、すげーだろ?」
ランは優しくも逞しい笑顔でそう言いながら、椿をベッドに押し倒した。
0087創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:16:06.02ID:xD90nGnr
「あー。椿とユゥにずっと会いたかったよ〜」
ランはそう言いながら椿の身体をぎゅうぎゅう抱きしめ、柔らかい髪に頬ずりをした。
椿は小鳥がさえずるように笑いながら、ランの固いけれどしなやかなくせ毛を手で優しくぽんぽんと叩く。
ランの細いのに逞しい身体から頼もしいほどの暖かさが伝わってくる。
ユージンは椿の奥のほうから何か痛みのような水の流れが溢れてくるのを感じた。
それはまるで何かを受け入れる準備をするように、身体の下のほうへ向かって流れて行き、引き潮のようにまた上へさっと戻る。
同時に自分のあそこがおねしょをしたように熱くなるのを感じた。
『何、これ……?』
椿は腰を左右にもじもじと揺らし、その動きとは反するような明るい声で言った。
「あたしも会いたかったぁ〜」
「ぼ、ぼくも会いたかったよ!」ユージンが遅れをとったように慌てて言った。
0088創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:27:28.64ID:xD90nGnr
「な、ユージンこっち来いよ」ランが言った。「久しぶりにこっち入れ」
「うん! 行きたい!」
男二人でそう決めると、ランは椿に言った。
「椿。口、開けて」
椿はこくんと頷くと、目を閉じ、口をゆっくりと開ける。
「準備オーケーだ。ユゥ、来いよ」
そう言うとランは椿の口に触れるか触れないかと距離で口を合わせた。
椿はランの熱い吐息を感じた。
椿の身体の中がきゅんきゅんという音を立てるように物凄いことになっているのを感じながら、ユージンは椿の奥から上がって行く。
喉を出て、ジャンプのために踏み切る。椿の舌が柔らかすぎて飛び出す方向を誤りそうになる。
しかしランが至近距離で迎えてくれていたため、コースアウトすることなくその口の中へ飛び込んだ。
0089創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:34:49.98ID:MQ6VPEsr
婆さん「そなたなど、まだまだ子犬よ...」
大島「その声...ま、まさかお蝶殿!?」

婆さん「ククク...その通りさ」

婆さんの正 体はお蝶だった!
0090創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:56:34.09ID:Np3VPaGy
大島「お蝶殿...何故この様な凶行に及んだ!?」
大島は声を荒げながらお蝶に問い詰めた。

お蝶「ククク...青城の指示によってね」

グリフォン「お前!なんで青城側に!?」

お蝶「あの小娘に協力すれば不死にしてくれるらしいからさ!」
0091創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/15(金) 23:58:53.89ID:PfBDFNmN
大島「不死のパワーに魅了されたか...下衆め。今ここで組長の仇を取ってやる!」

大島VSお蝶の戦いが始まった!
0092創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 09:42:55.53ID:7b7XcOUm
3年振りだった、自分本来の性別の身体になるのは。
感覚が締まった板のように硬くなり、吸い込む空気が多く重くなったような気がした。
下のほうには身体の外まで突き出した力のシンボルがあり、なぜかそれが少し硬く大きくなっていた。
ユージンを飲み込んだランは自分の中へ向かって聞いた。
「どうだ? 久し振りにオレになった感想は?」
「すごく強くなったね、ラン兄ィ」
「まだまださ。これから世界に挑戦するんだぜ」
「世界最強の戦闘ロボに乗った気分だ」
ユージンはそう言ってはしゃいだ。
0093創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 09:51:57.59ID:7b7XcOUm
「はしゃがないで、ユゥ兄ィ」目の前の椿が言った。
ランのカッコいいイメージが壊れるからやめてというように、妹が凛々しい目を自分に向けていた。
いつも鏡の中に見ていたが、生の椿を前にするのは3年振りだ。
ユージンは自分に見惚れる気分だった。
外から眺める自分の身体はいつの間にか花が咲くように鮮やかに咲いていたと気づいた。
「可愛いなぁ、椿」
「それ、どっちのお兄ちゃんの言葉?」
「ユゥ」
「……そう」
椿はがっかりしたように見えた。
0094創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 10:11:43.85ID:7b7XcOUm
「あたしもラン兄ィに入りたいな」椿が呟いた。
ランは笑うと、「逆だろ」と言った。
「逆って?」
「あ、いや……」
「ラン兄ィ、今の下ネタ?」ユージンが突っ込んだ。
「あ、いや……」
「ラン兄ィ、椿に入りたいの?」ユージンがいじめる。
「すまんすまん。変なこと言ったな」
ランはそう言うと、椿の頭を撫でた。すると椿がその手を払う。
「撫でるのやめて」ランを睨むように見る。「わたし、もう子供じゃないんだから」
11歳だった少女は14歳に成長していた。ユージンから見ても確かに今の椿に「いい子いい子」するようにランが頭を撫でるのはおかしな気がした。
しかしそれ以上に何かがおかしかった。見慣れた自分の姿がやたらと眩しい。
お風呂で裸を見ても自分の身体としか思わなかったのに、今自分の目の前にいる自分は、思わず目を背けたくなるほどに眩しいのだ。
唇を結んで怒ったような顔を向ける椿の姿に、ユージンは胸がドキドキした。
0095創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 10:27:30.85ID:7b7XcOUm
困惑して逃げ出したくなっているところへドアがノックされ、メイが顔を覗かせた。
「どう? 二人ともびっくりした?」
助け舟を出してもらったようにほっとすると、ユージンは答えた。
「へへっ。まんまとね。『気』を消してたからユゥも気づかなかった」
椿はランの肩に両手を乗せると、満面の笑みを見せた。それを見てメイも笑った。
「ようやく笑ったな〜。やっぱり椿は笑顔が一番いーよ?」
そう言うメイの足下をすり抜けて、ちっちゃいメイが部屋に入って来た。
「チェンナちゃん、起きたか!」ランが優しく微笑みかける。「オレのこと、覚えてる? 覚えてるわけないじゃん、ラン兄ィ最後に会ったの新生児の時だよ?」
「何て言うか」メイが呆れたように言う。「ランとユゥが一緒になってると、どっちが喋ってんのかわかんないね」
0096創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 10:46:28.08ID:7b7XcOUm
「劉 千哪(リウ・チェンナ)です」チェンナは自己紹介した。「よんさいです」
「もー、メイちゃん。こんな若い弟をおじさんにしないでよー」
「それ、どっち?」
「ラン」
「いちいち聞かんとわからん。めんどい。ユゥ、椿に戻れ」
「やだ。もうしばらくラン兄ィにいる。面白いもんな?」
「続けて喋んなラン、紛らわしい」
「いちいち文句つけんなー。あ、ぼくユージンね」
「さてチェンナにもみんなを紹介しようね。チェンナ、この可愛い女の子が椿おばちゃん」
「おばちゃんはやだ」椿が口を尖らせる。「椿ちゃんて呼ばせる」
「メイファンちゃんの気持ちがわかるなぁ。おばちゃんって呼んだら殺されるもんね」ランとユージンが続けて言った。
「じゃあ」メイがチェンナに紹介する。「こっちが椿ちゃん、こっちがランちゃん、そしてその中にいるのがユゥちゃん」
最後にユージンを紹介する時、チェンナは確かに胸のあたりにいる金色の『気』を見た。
「ぼくが見えるの? すごい」
「ところで」メイが部屋のドアのほうを振り返る。「何してんの、メイファン」
少し開いたドアの隙間から肌の色の黒くなったララが覗いていた。恥ずかしそうな表情で、手には色紙を持っている。
0097創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 11:00:23.18ID:7b7XcOUm
「ロウガ選手だぁ」メイファンは目を輝かせながら入って来ると、ランに握手を求めた。「いつもTVで観てますぅ」
「あれがメイファン。おばあちゃんの妹だよ」メイはチェンナに紹介した。「あんまり近寄っちゃダメなひと」
「メイファンちゃん、冗談やめてよ」ランが笑う。
「いやー芸能人はやっぱいいね」メイファンはランの匂いをくんくんと嗅いだ。「いい匂いする」
「芸能人じゃねーし」
「そうだな」
「ちょっ……!」
メイが叫ぶよりも早く、メイファンが拳を繰り出し、ランがそれを受けた。部屋に破裂音のようなものが響く。
突然の攻防にチェンナが目を輝かせて叫んだ。「ひーろーだ!」
「いいね」メイファンが嬉しそうに言う。「強いヤツはやっぱいい。それを怖がらんガキも最高だ」
「っていうか」ランがからかうように言った。「メイファンちゃん、弱くなったんじゃない?」
「あ?」
「トシ取っちゃった?」
「やりてーのか、ガキ?」
メイファンは楽しそうに笑うと、黒い『気』を燃え上がらせた。
0098創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 16:39:49.98ID:+q9FYHGY
戦いが始まった瞬間、お蝶はいきなり
クナイを投げた!

大島「(────速いっ!?)」

大島はギリギリで回避した

大島「あ、危ねぇ...」
お蝶「ククク...その程度か?茨虎のせがれ殿よ」

大島「...やれやれ、どうやら“本気”を出すしかなさそうだ」

大島はそう言いながら帯刀していた長ドスを抜刀した!!!

お蝶「何────!?」
0099創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 22:31:05.19ID:bHwmtpZB
大島「うおおおおおおお!」
大島はお蝶に斬りかかった

お蝶「ぐっ...」
お蝶は深い傷を負った

お蝶「どうやら分が悪いようだねぇ...一時撤退させてもらうよ」

お蝶は幻かの様に霧へと消えていった

大島「おい、待て!」
グリフォン「くっ、逃げられたか...」
0100創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/16(土) 23:10:19.43ID:7bsImYGN
大島「あっ、そう言えば組長埋めないと」

茨虎組長「生きてるわい!!」
組長は生きていた。
0102創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 01:41:32.27ID:dLgI/ZYA
そしてお蝶は李家の一族を惨殺した。


お蝶「よし、これで邪魔者共は消え去った。この家を“我等”の本拠地にしようぞ」

青城「フフッ、いいですね」ニヤリ
0103創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 06:24:43.55ID://l2YEDR
「コラー!」
メイの長い脚が真下から二人の間めがけて振り上げられた。
メイファンとランは同時にのけ反りかわすと、低空でぶつかり合う。
「ダメでしょー……がっ!」
高速で切り返して振りかかって来るメイの踵落としを飛び退いてかわすと、メイファンはランを殺すつもりで手刀を繰り出した。
その力を利用して受け流すと、ランも殺す気の肘をメイファンの鳩尾へ打ち込む。
「こらー!」
突然、真下から小さなメイのハイキックが襲って来たのを二人は避けきれなかった。
「ダメでちょー!」
チェンナは倒立する格好で二人の顎を足で捕らえると、そのまま身体を回転させ、プロペラのように二人を弾き飛ばした。
「ママ!」椿はメイファンに好きにされている母親の身体を心配し、叫んだ。
0104創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 06:50:08.21ID://l2YEDR
「そうだよラン兄ィ、あれ、ママの身体!」ユージンが中から叫ぶ。
しかしランには聞こえていなかった。自分を殺す気で向かって来る強者の姿しか見えていない。楽しそうに笑うと、ランは高速のジャブを繰り出した。
自分の中の血がそうさせる。リウ一族の血が闘いを止めさせない。強い奴には敬意を、悪い奴にはお仕置きを。
ジャブを全てスゥエーでかわすとメイファンは飛び退きながらサマーソルト・キックを放つ。その脚は『気』で巨大なナイフに変えられている。
3cmの距離で横にかわしながら、ランは追うように裏拳をメイファンの顔面に叩き込んだ。
「もぉっ!」
メイが横からランの腕を蹴りで薙ぎ払う。
「モーッ!」
チェンナがさらにランに飛び蹴りを喰らわせる。
ランは足捌きでダメージを受け流すと、優しく笑いながら言った。
「大丈夫? メイファンちゃん」
これだけ四人が暴れているのに椿の部屋は少しも乱れていなかった。床に散乱している鞄や本は元からだ。
「メイ姐ェの邪魔がなかったらK.Oだったね」
「運も実力のうちだボケ」
メイファンは額に青筋を立てて笑う。その腕が黒く鋭く尖りはじめる。回転しながら自分の身を巨大な手裏剣に変える。
「バカーっ!」メイがびっくりして叫ぶ。
「スゲーッ!」チェンナが喜んで叫ぶ。
「死ぬーっ!?」ユージンが恐怖に叫んだ。
高速回転しながら真っ黒な巨大手裏剣が自分めがけて飛んで来た。
0105創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 06:54:20.61ID://l2YEDR
「ふふっ」
可笑しそうに笑うとランは、母親譲りの透明の『気』を発動させた。
0106創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 07:00:03.45ID://l2YEDR
ランの透明な『気』は相手の『気』を吸う。
体力などなくすべて『気』の力で闘うメイファンにとって天敵と言えた。
斬り刻むはずが逆に吸収され、巨大な黒い手裏剣はどんどん小さくなり、回転しながらメイファンは床にどべっと落ちた。
0107創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 07:04:24.70ID://l2YEDR
「メイファンちゃん、やりすぎ」
ランは床に寝そべるメイファンを見下ろしながら微笑んだ。そしてようやくララを心配する。
「ところでママ、大丈夫?」
しかしララはすやすやと眠っていた。メイファンが感覚を遮断しているため、起こっていることに気がついてすらいないようだ。
「やるなぁ」メイファンは顔を少し起こすと、言った。「いつか殺してやんよ」
0108創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 07:08:00.60ID://l2YEDR
ランはベッドの上に立って怯えるように震えている椿に気づくと、歩み寄り、優しく声をかけた。
「ごめん、怖かったか?」
椿は何度も首を横に振ると、クスッと笑った。
「ううん、カッコよかった」
0109創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 07:19:35.02ID://l2YEDR
海は少し波が高かった。通る船はなく、沖から寄せて来る波の他に何の影もない。
海面は緑を湛えて黒く、曇った空は光を投げかけない。
海の底から赤が浮かび上がって来る。
小さな赤いイルカが顔を出すと、きょろきょろと辺りを珍しそうに見回した。
遠くから苦しがっている声が聞こえて来る。
赤いイルカは声の聞こえるほうへ泳ぎ出した。
0110創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 15:38:18.83ID:rmYlZklp
メイファンは公園の砂場で尻を出して勢いよく脱糞した。
その様子をお蝶はiPhoneで盗撮しネットに流した。
0111創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 16:17:12.87ID:ql/jBraB
その後、メイファンは自殺を決意した
0112創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 17:07:11.80ID:DBsCzOQV
その夜、李氏一族は久々に家族全員が集まり食事をした。
両親、長女メイメイ、長男ランヤァ、次男ユージン、次女椿、孫娘チェンナ……
「ちょっとパパ、ウチのヘイロン忘れてるよ」長女メイが言った。
「ヘイロンはどうでもいい」父ハオは答えた。「あれは僕の義理の息子でも何でもない。離婚しなさい」
「ヘイロン兄さん会いたかったな」魚料理を口に運びながら長男ランが言う。
「それよりラン。お前は私の誇りだ」ハオは満面の笑みで言った。「私はお前の師匠としても、父としても鼻高々だ」
「ありがとう、パパ」ランは箸を置き、礼をする。「そしてありがとうございます、師父」
「……で、パパは?」メイが大盛の海鮮丼を口に運びながら言う。
「んっ?」
「お義父さんがいつも言ってるよ、『リー・チンハオは倒れたままなのか?』って」
「なっ、何の話!?」
「散打王の座、奪い返しに来いって」
「ぼっ、ボクもう67歳なんですけど!?」
「お義父さんは……現役散打王リウ・パイロンは68歳だよ」
「ロ……ロンロンは酷いよーっ」ハオは泣き出した。「いつも僕の大事なものを奪って行くんだからーっ」
0113創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 17:35:04.59ID:DBsCzOQV
「まぁ、それより明日はちゃんとしてよね」メイはおかわりの海鮮丼を作りながら言った。
「任せておけ。お前に恥などかかせないよ」ハオは威厳を取り戻し、涙を拭いた。
「運転気をつけてね」ララがハオに海鮮丼を渡しながら言った。「隣町まで300kmあるんだから」
「うん。ママ、悪いけどチェンナの面倒お願いね」メイは海鮮丼を完食しながら言う。
「大丈夫よ。明日は診療所も休みにしたし。それに……」ララは膝の上のチェンナの頭を撫でた。「悪いどころか大歓迎よ」
「講演会って、何喋るの?」ランがパンを噛みちぎりながら聞く。
三杯目の海鮮丼を食べはじめながらメイが照れ臭そうに笑う。
「アメリカ生まれアメリカ育ちで散打王の父を持ち、医師でありながら太極拳チャンピオンのあたしの経歴が珍しいだけよ」
「そしてこんな素晴らしい娘をいかに育てたかを僕が語るんだ」
ハオは得意満面にそう言うと、続けて言った。
「ランが来ると知ってれば、ランにも出席して貰いたかったな」
「パニックになるよ」メイが笑う。「今や超有名人なんだから、ランは」
「ボクはどうせ行かないよ」ランはそう言って微笑んだ。「ユゥと椿に会いに帰って来たんだから」
0114創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 17:58:13.18ID:DBsCzOQV
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。
普段は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
誰の身体にでも自由に移動することが出来、現在は義兄ランの中に入っている。

・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
帰りを心待にしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれ中。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。
リウ・パイロンとメイファンが殺したケ 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。

・ハオ(李 青豪)……67歳。ユージン達の父。元散打王。
自由な性格で椿の登校拒否を容認している。大怪我をしてもすぐに治る特異体質。
基本的にダメ人間だが愛する者のためには超人的な力を発揮し、四人の子を育てた。長女メイを特別溺愛している。

・ララ(ラン・ラーラァ)……58歳だが見た目は35歳。ユージン達の母。
息子のユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在。妹のメイファンと身体を共有している。凄腕の医者でもある。
椿の登校拒否に頭を悩ませている。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元殺し屋。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。

・メイ(リー・メイメイ)……前スレ主人公。33歳。李家長女。結婚して北京に住んでいる。
医師であり太極拳チャンピオン。講演会に父と出席するため帰って来た。旦那はリウ・パイロンの息子ヘイロン。

・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。四歳。意外に強い。
0115創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 18:29:19.35ID:aWsmD5T0
青城とお蝶は李家の円卓に座った。
そして突如現れた謎の男達も同様に座った。

青城「まず私達の目的をおさらいしましょうか。我等“月夜同盟”の目的はすなわち、茨虎組を潰す事...!」

謎の男A「潰すには具体的にどうすればいいんだ?」
お蝶「ククク...組員全員の首を落とせばいいのじゃよ...」
謎の男A「野蛮なやり方だな...」
0116創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/17(日) 18:42:48.14ID:CWPCwU+d
青城「お蝶さんの言う通りです。我等の手で茨虎組に所属してる者達を皆殺しにしましょう。フフッ...」

こうして茨虎組〃S月夜同盟≠フ抗争が始まった!!

光と闇の戦いの行く末は如何に────!?
0117創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/18(月) 09:03:24.13ID:ndo/K84z
【組織解説】

・茨虎(いばらが)組......神室町の均衡を保つ極道組織。

・月夜同盟......茨虎組の壊滅を狙う謎の団体。

【主な登場人物まとめ】

・大島 男夫(おおしま だんぷ)......このスレの主人公。『茨虎組』の若頭。冷静沈着で仲間思いな男。

・茨虎組長......『茨虎組』の二代目組長。長ドスを常に帯刀している。本名は「茨虎 剣太郎」。

・青城 羅綺子(あおぎ らきこ)......黒魔術を使う謎の美少女。『月夜同盟』の主導者。人間をカラスに変える能力を持つという。

・お蝶
クナイで戦う老婆。“不死の力”を手に入れる為、青城に協力している。

・グリフォン......軽い口調で人語を喋る謎のカラス。青城を死ぬほど恨んでる。

・鴨志田(かもしだ)先生......元メダリストの体育教師。青城にセクハラ行為を試みた結果、呪い殺された。
0118創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 03:34:00.56ID:l0Yb1K0+
「ああっ……!」ユージンは思わず声が漏れた。「ううっ……!」
「ユゥ」ランは平気な声で言った。「うるさい」
「だって……ラン兄ィっ! こんな……こんな太いの……ああああ無理無理無理っ!」
ランは持参した紙を取り出すと、尻を拭いた。
「うんこぐらいで大袈裟だなぁ、ユゥは」
「だって……さすがラン兄ィ……っていうか男のうんこ太すぎ。椿のと全然違う」
「えっ」
「ん?」
「椿って、うんこするのか?」
「そりゃ、するよ」
「嘘だ!」
「小さい頃、椿のオムツ替えてやってたって、ラン兄ィよく言ってたじゃん」
「そりゃ、赤ちゃんからうんこは出るだろう。でも椿、もう赤ちゃんじゃないんだぜ? 女性になったらうんこはしないもんじゃないのか?」
「するよー! 人間だもの」
「ど、どんなうんこ?」
「ラン兄ィみたいなぶっとい一本グソの真逆」
「……と、いうと?」
「うさぎみたいに、ポロッ、ポロッ、って」
「き、聞かなかった! 今の、オレは聞かなかったぞ!」
ランは大急ぎでズボンを穿くと、トイレを飛び出した。
0119創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 19:07:11.17ID:l0Yb1K0+
夜、部屋で一人きりになるとランは言い出した。
「ユゥ、ヒコーキやんぞ」
「えっ?」
「打飛機(オナニー)だよ、お前やったことないだろ」
「ラン兄ィ、日本でそんなこと覚えて来たの!?」
「タケル兄貴って人に教えて貰ったんだ」
「気持ちいいの?」
「飛べるぜ?」
「……やる」
「よし!」
そう言うとランは鞄を開け、一冊の本を取り出した。
「わっ! もしかしてそれ日本の工口書?」
「エロ本までは行かない」ランはアイドル写真雑誌を広げて見せた。「でもオレらには刺激200%」
ページをめくるたびにランと同世代ぐらいの可愛い女の子達が水着や下着姿で男の劣情を誘っていた。
「こんないやらしいの持ち込んで、逮捕されない?」
「古いな。もう共産党の時代じゃないんだぜ」ランは笑った。
0120創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 19:16:25.84ID:l0Yb1K0+
「うわっ……たまんねーな」
ランは清純そうなおかっぱの女の子が下着姿でベッドに寝そべっている写真に釘付けになった。
「あぁ……すごい」
ユージンは興奮に息が荒くなっていた。
写真の女の子は何とも思わない。可愛いとは思うけれど、押し倒したいとは思わない。むしろなってみたい対象だ。
ランの手が、ランのペニスを握り、それをしごいている。
その光景とランの手から伝わって来るペニスの逞しさがユージンを夢中にさせた。
「あぁっ……イキそうだ。ユゥも気持ちいいか? いいか?」
「あぁっ……ラン兄ィっ! 何か、来る……っ!」
「よし……イクぞっ!」
ランの左手の動きが速くなる。
「ああああラン兄ィ! ラン兄ィっ!」
ユージンはなるべく声を出さないように気をつけたつもりが、その名を絶叫してしまった。
「あああ……チュン…!」
「!?」
「あああイクよ! チュン! 椿ーーーっ!!」
0121創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 19:32:33.58ID:l0Yb1K0+
ユージンはランの名を絶叫し、ランは椿の名を連呼して果てた。
行為が終わって下半身丸出しで大の字に寝そべるランにユージンは聞いた。
「ラン兄ィ、椿のこと、好きなの?」
「えっ?」
「女の子として、好きなんだね」
「なんでだよ。いきなり」
「今さっき口にしてたこと覚えてないの?」
「うっ? まさか……!」
「椿の名前呼んでイッちゃってたよ」
「……まじか」
ユージンはなぜか胸にどす黒い感情が湧き上がって来るのを感じた。しかしそれを抑えつけ、明るい声で言った。
「椿と結婚したら?」
「バッ……! バカ! 椿は妹だ!」
「でも血は繋がってないじゃん」
「産まれた時から知ってんだぞ。オムツも替えてやった。本当の妹みたいなもんどころか、本当の妹だ!」
「椿もラン兄ィのこと大好きだよ?」
「そりゃ……お兄ちゃんとして……」
「椿とラン兄ィが結婚したら、ぼく、嬉しいな」
ユージンの頭の中に二人が甘い結婚生活を送る光景が浮かんだ。椿の中にはしっかり自分もいた。
「ダメだ」ランは決意のこもった口調で言った。
「どうして?」
「椿はハオ師父の娘。オレは師父に返しきれない恩がある」
「え〜? そんなの……」
「オレは椿とユゥと兄弟やらせてもらってるだけで幸せなんだ」
「パパもラン兄ィなら喜ぶかもしれないのに……」
ランは首を横に振った。そして、言った。
「これ以上は望まないよ」
0122創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 19:51:46.75ID:l0Yb1K0+
コンコンとドアをノックする可愛い音がした。
「うわっ!?」ランは慌ててパンツを穿く。
「ラン兄ィ」と、ドアの向こうから椿の声がした。
「ちょっ……! 待っ……!」
椿はドアを開けようとした。鍵をかけていて助かった。
大急ぎでズボンを穿き、雑誌を隠すとランはドアを開けた。
寝間着姿の椿が少し不思議そうな瞳でランを見上げた。
「なんか……あたしの名前、呼んでなかった?」
「ええっ? ああっ! ユージンが……」
「ユゥ兄ィの声……? じゃ、なかったけど……」
「ううっ!? うん。その、召還したら来るかな、って」
「そしてまんまと悪魔は現れた!」ユージンがおどけた声で言った。
「な? すげーだろ? 本当に来たな? な?」ランが必死で誤魔化す。
「ユゥ兄ィ、うざい」椿は嫌悪を顔に浮かべた。
「何をぅ!? 悪魔め!」ユージンは少しも堪えることなくさらにおどける。
「何してたの?」椿が部屋を見回す。「なんか臭いよ」
「ああっ、スルメパーティーを……」
それには答えず、椿は部屋に入って来た。
0123創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/19(火) 20:08:06.92ID:l0Yb1K0+
「ラン兄ィと一緒に寝たい」
そう言うと椿は背中から自分の枕を取り出した。
子供っぽい椿の仕草を見ると、ランは瞬く間に落ち着いた。
「アハハ。なんだよ中身は11歳の時のまんまか」
頭を撫でようとしたランの手から逃げながら、椿は少し強い口調で言った。
「違うもん! お話したいだけだもん」
「よっし。じゃ……」ランは椿を抱き上げると、そのままベッドに放った。「寝やがれぇっ!」
椿が無邪気に笑う。
布団をかけてやりながらランもベッドに入る。二人は顔を近づけ、あれこれと懐かしい話をした。たまにユージンが口を挟むと椿が怒った。
「ユゥ兄ィ、うざい。喋らないで」
ユージンはそれで暫く黙る。そしてまた口を挟んだ。椿が自分をうざがるのはどうでもよかった。
椿がランばかりを見ていることに焼き餅を焼くわけでもない。椿は、自分なのだ。
しかしランの目を通して見る椿はとても眩しく、ランを見ている椿の中に今、自分はいない。
そのことが少し居心地悪く感じる。それだけだった。
0124創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 19:30:19.31ID:CW1hQqLD
次の朝、父と姉は300km離れた隣町へ出掛けて行った。
メイが運転するピカピカの高級車を見送ると、母はランを呼んだ。
「ラン。あなたから椿に言ってちょうだい。あなたが言えばきっと椿も学校に行ってくれるわ」
ランは椿の登校拒否のことは知っていた。しかしその理由はよくわからずにいた。
「別に、いじめられてるとかじゃないんだよね?」
「うん、ないよ」ユージンが言った。「あいつ地味だし、地味なパンツ穿いてるし、目立たないから」
「じゃ、なんで……」
「とにかく」母が口を挟む。「行かないより、行ったほうがあの子のためでしょ」
0125創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 19:42:10.10ID:CW1hQqLD
ランは中庭に一人でやって来ると、切り株に腰掛けた。そして自分の中のユージンと会話を始める。
「ユゥ、お前も椿の登校拒否の理由、知らないのか?」
「まぁ……どーせ学校なんか行っても何にもならないとかはよく言ってるけど」
「けど?」
「それが理由で学校行かないって、変じゃない?」
「……まぁ、強い理由って感じじゃないな」
「そう。やることないんだから、意味感じられなくても行けばいい」
「学校では楽しそうにやってたか?」
「うーん。あのね」
「うん」
「ぼくが勉強嫌いだから、椿も楽しそうじゃなかった」
「何だそれ?」
「知ってるでしょ、ぼくと椿、よくシンクロしちゃって、考えたことがどっちの考えなんだかわかんなくなることがあるって」
「あぁ」
「たとえば猫かわいいなって思ったとして、それを思ったのがぼくなのか椿なのか」
「わからないことがあるんだよな?」
「そう。だから、本当は登校拒否してるのはぼくなのかもしれない」
「え」
「ぼくが勉強嫌いだから、学校行きたくない。それを椿が自分の意思だって思ってるだけかもしれない」
「難しいな……」ランは頭をかきむしった。
0126創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:06:42.83ID:CW1hQqLD
「ところでラン兄ィ」
「ん?」
「さっき、ぼくが椿のパンツの話したのに、華麗にスルーしたよね?」
「か、関係ないだろ」
「興味ないの?」
「なっ! ……ないわけないだろ」
「だよね」
「なんだよ」
「ラン兄ィは椿のこと、いやらしいことする対象として見てるんだもんね」
「そんなんじゃない!」
「え。イク時思い浮かべて叫んだくせに?」
「違うんだ」
「どう違うの」
「あれな、オカズにする日本妹妹(リーベン・メイメイ)の名前が難しくてな」
「ん?」
「で、呼びやすい名前、絶頂ん時に言う癖がついちまった」
「ええ?」
「それだけのことだよ」
「じゃ、別に『リン・チーリ〜ン!』とかでもいいんじゃ……」
「なげーよ」
「『メイファ〜ン!』とかでもいいんじゃ……」
「断る」
「まぁ……。じゃあつまり、ラン兄ィは椿といやらしいことをしたくは、ないと?」
「あ、当たり前だろ〜!」
「ふ〜ん」
「何だよ」
「ラン兄ィ」
「何」
「今夜もヒコーキ(オナニー)、する?」
「おう」
「するの?」
「しようぜ」
「やった!」
0127創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:12:19.73ID:CW1hQqLD
「それより椿に学校行けって……どう言おうかな……」
ランが頭を悩ませているのを見かね、ユージンは提案した。
「ねぇ、みんなで海に遊びに行こうよ!」
「え?」
「ママとチェンナも誘って、さ」
「あ……うん」
「広い空と海を見ながらだったら、きっとすんなりした話が出来るよ」
「なる……!」
0128創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:14:31.22ID:CW1hQqLD
「椿! 海へ遊びに……」
ランはノックもせずに椿の部屋のドアを開けてしまった。
0129創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:16:58.67ID:CW1hQqLD
猫耳のついたカチューシャを今、頭につけたばかりの椿が振り返った。
可愛い椿の顔の上にそれをさらに可愛くする猫の耳がついている。
ただそれだけで、ランは発狂した。
「ぎゃわわわわわ!」
「え?」椿はただ顔を赤らめた。
0130創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:24:36.68ID:CW1hQqLD
「海に行くのね〜。お弁当も持って行かなきゃね〜」
そう言いながらララはメイファンに全員ぶんの弁当を作らせた。

「うみー! うみー!」
海のない北京育ちのチェンナは大袈裟なぐらいにはしやいだ。

「水着……地味なのしか持ってない」
椿が残念そうに俯いた。

「椿、スクール水着だ。胸に『椿』のネームの刺繍入り、むしろそれが最大の武器になる!」
ユージンがそう入れ知恵したが、結局椿はただ地味なだけの水色の水着を持って行った。
0131創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:30:40.84ID:CW1hQqLD
しかしちょうどそこへ電話がかかって来た。
少し離れたタオさん家の奥さんが急に産気づいたというのだ。
「行かなきゃ」ララはラン達を振り返り、言った。「あなた達、海、行くの?」
「うん。チェンナはボクらが見とくから、安心して行ってあげて」
「でも……」
ララは心配だった。仲良し3人兄弟は昔から遊びに夢中になると周囲が見えなくなりがちだった。
もしチェンナが溺れていても気づかなかったら……
「ユゥ」ララはユージンに言った。「あなた、チェンナの中に入って見ててあげなさい」
「え〜?」ユージンは不満そうだ。
「いや……やっぱり」ララは撤回した。「ユゥじゃ不安ね」
0132創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 20:33:58.87ID:CW1hQqLD
「チェンナちゃん」
ララはチェンナの前にしゃがみこむと、にっこりと笑った。
「おばあちゃんとチューしようね」
「うん!」
元気よくそう言うと、チェンナは言われた通りに精一杯口を大きく開けた。
「行くわよ〜? 入るわよ〜? びっくりしないでね」
あーんと口を開けて待ち構えるチェンナの口の中へ、ララの口から飛び出した真っ黒なものがすぽんと飛び込んだ。
0133創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 23:09:34.03ID:QdRi3t2I
「ククククッ」チェンナの口が笑った。
「アハハハッ!」チェンナの口が高笑いした。
「うるちゃい」チェンナが叱った。
「……すんまへん」チェンナの口が謝った。
0134創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/20(水) 23:14:04.89ID:QdRi3t2I
「メイファン」ララが厳しい笑いを浮かべて言った。「チェンナを守ってやってね」
「フン、任せとけ」
「信頼してるわよ。あなたもいい大人なんだから」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、行って来るわね」
そう言って自転車に乗って出て行ったララの姿が遠く見えなくなると、メイファンは言った。
「よし、ラン、殺し合うぞ」
0135創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/21(木) 21:47:02.01ID:37bT0zLt
                    ______
                         |  ,.へ、__,.ヘ/
                         | / \  ∠ヽ
                         |i^|「::::::ノ=l:::::ィ   / ̄ ̄ ̄ ̄
   ,. -‐- 、               |ヽ|   r_ \l   | 静粛に……!
  _/       \     ____/| ∧. (二二7!   < この男は今ネタに
∠   ハヾミニ.r-、\∠L:r‐-‐-、:::::::::|/ ヽ_‐__.」`ー- |  マジレスをした
. /ィ ,L V∠ \l \\.)j j j j`二i\    /:|:::::::::::: | 最初に言ったはずだ
  W、ゞi ,、~ __ 「 ̄∧ ヾ´´´   |.  \ / |:::::::::::: | 嘘は嘘であると
    ,ゝし'/ ,ノ.|  / i  l.     l    \、.|::::::::::::   見抜ける人でないと
   l 、`ヾニンl\./\|l、_」     ヽ、 /  ヾ::::::::::::  (掲示板を使うのは)難しい
.    | l    | _l\ト、  | \r──‐┐ト/ / r‐┴-、:::   と……!
.   |. |    7 l  ヽ | /☆☆☆.| | ∨ {ニニヾヽ
0136創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/21(木) 21:51:02.71ID:8HsAuFgy
「やだよ」ランは言った。「チェンナちゃんの身体にそんなことさせられない」
ママの身体だったらいいのか、とユージンは思ったが黙っていた。
「ならばその気にさせてやる」
そう言うとメイファンはチェンナの小さな身体のあっちこっちを武器に変えはじめた。
左腕はドリルに。右腕は青竜刀に。胸からは3つめの腕が生え、ヌンチャクを振り回した。
「ギャー!」チェンナが叫ぶ。「おもちれー、これ!」
その後ろから肩を掴み、くるりと後ろを向かせると、怖い目をした椿は、母親譲りの厳しい口調でメイファンを叱った。
「いい加減にして、メイファン。チェンナを守るのがあなたの仕事でしょう?」
「はい……」
「私達がもし海で溺れて死んでも、あなたはチェンナだけを守りなさい。いいわね?」
「はーい……」
椿の凛々しさに見とれているランに、ユージンが小声で言った。
「ラン兄ィ」
囁くほどの小声でも、骨を伝って二人は会話出来た。
「椿に『いい加減にしろ椿、学校に行くのがお前の仕事だろ』って言うのはどうかな」
「ねーわ」
ランはそう言って笑いもしなかった。
0137創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/22(金) 05:38:55.72ID:YEwEavpm
まだ風は少し冷たかった。
椿は水着を着た上に学校の長袖体操着を羽織った。
「椿……」ユージンがぽつりと言った。「色気ない」
「ユゥ兄ィ、うざい」
「いや、そこに猫耳をつければ……」ランが呟いたが、椿には聞こえていなかった。
0139創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/22(金) 18:22:56.20ID:9G5VtU8W
そのメンバーは全員殺された。

“あの男”に──
0140創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 01:18:45.33ID:lgah3XGl
玉金野郎に−
メンバー1人がダイイングメッセージを残して絶命している。
ユージンは死体を片付けようとするが
「およし」
李夫人がそれを制した
「ばあちゃん、だってこれまずいでしょ」
「これは見せしめだよ。天下の李一家に喧嘩を売って来たんだ。」
「でもこれじゃ役人が…」
「役人?はんっ!! あんな能無しどもに何が出来るってんだい
あたしの目の黒いうちは奴らも口を挟まないさ!!
何せ、こっちは暗殺一家なんだからね」
0141創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:00:26.71ID:9Aik73B7
「そういえば、ぼくのおばあちゃんって誰?」
ユージンはメイファンに聞いた。
「知るかボケ」と的確な答えが返って来た。
母のララは捨て子、父のハオは勘当息子。ユージンはルーツの失われた自分を、まぁ、どーでもいっか、と思った。
0142創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:07:25.94ID:9Aik73B7
チェンナをランが抱っこし、椿と並んで歩き、四人は二つの身体で歩いて海まで向かった。
徒歩で10分もかからない距離を、二人はわざとのようにゆっくりと歩いた。
晩春の風が下から吹き上がって来る。
椿は風に乱される髪を押さえながら「生きてるね」と言った。
ランは頷きながら「壮絶にな」と返した。
0143創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:08:44.76ID:9Aik73B7
「お前に抱っこされるのも悪くないな」
メイファンは少し眠そうな、しかし機嫌のいい声でランに言った。
0144創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:19:50.01ID:9Aik73B7
10分ほどで海へは着いた。崖の上を海と呼ぶならば、だが。
ここから泳ぎに海へ入るためには、30mほどの杣道を下ればある狭い砂浜まで行くか、あるいはここから飛び込むかである。
兄弟達は小さい頃からここから飛んでいた。もちろん母親のララは知らない。
しかし今日は少し寒すぎた。椿が自分の身体を抱いて震えている。
ランは寒くなかった、透明の『気』の鎧を着ているので。
チェンナも寒くなかった。メイファンが何も言わず黒い『気』の鎧を着せて、危険からも寒さからも四歳の小さなチェンナを守っていた。
0145創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:25:45.44ID:9Aik73B7
何も言わないが寒そうにしている椿の後ろからランは近づいた。
「寒いか?」
「さっむい……」椿は振り返らずに身体を寒そうに動かしながら答えた。
「じゃあ……」
「うん、ラン兄ィ……」
ランが後ろから腕を伸ばしはじめ、抱き締めてやろうとした時、椿が言った。
「ユゥ兄ィ返して?」
ランの腕がぴたりと止まった。
0146創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:35:26.41ID:9Aik73B7
ユージンが身体の中に入れば、椿も金色の『気』の鎧に守られ、寒くなくなる。
「そっか、それがいいな」ランは少し残念そうに言った。
「なんだと思ったの?」不思議そうに椿が振り返る。
問答無用にランは後ろから椿を抱き締めた。
「これでも寒くはないだろ?」
あっ、と驚いたような声をひとつ漏らしてから、椿は笑った。
「本当だ」
「でもこれじゃ泳げないから、後でユージン返す」
「……うん」
「その前に、少し話をしよう」
「うん!」
「楽しい話じゃなくて悪い。お前、学校行かないの、なんで?」
「あ……」椿は微かに逃げるような動作をした。
0147創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 05:48:32.27ID:9Aik73B7
ユージンがランの口を借りて喋った。
「椿、もしかしてぼくが出たら学校行きたくなっちゃってない? 学校行きたくないのは、実は勉強嫌いなぼくの……」
「ユゥ兄ィ、うざい」椿は遮った。「学校行きたくないのは、純粋にあたしの意思だから」
「なんで?」ランが聞いた。「いじめ?」
椿は首を横に振った。
「楽しくないの?」
椿はさっきよりは弱いが、また首を横に振った。
ランは椿を捕まえたまま、優しい声で言った。
「椿が答えたくなかったら答えなくていい。でもオレ、心配なんだ。理由を教えてくれ」
すると椿は、弱々しい声で間を置いて答えた。
「あたし、何も出来ないからだよ」
「そんなことは……」
「何も出来ないの」
「いや、椿……」
「何も出来ないの、ラン兄ィがいないと」
0148創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 06:12:15.81ID:9Aik73B7
「え」ランは意外だったのか声を詰まらせた。「オレのせい?」
椿はゆっくり大きく頷いた。
「ん。そっか」ランは優しく言った。「じゃ、オレが帰って来たからもう学校行けるな?」
「行かない」
「どうして?」
「……すぐまた日本に行っちゃうでしょ」
「当たり前だ!」ユージンが口を挟んだ。「ラン兄ィは日本でトップの格闘家になって、これから世界に挑戦……」
「うるさい」椿が低い声で言った。
「椿」ランが抱き締めている腕に力を込めた。「オレと一緒に日本、行こ」
「えっ」
「椿を連れて行きたい」
「中国人の転入生はいじめられるぞ!」ユージンがまた口を挟む。「日本語も喋れないし、不安がいっぱい!」
椿はユージンを無視してランに言葉を返そうとして、しかし黙っていた。
「こっちに好きな奴でもいるの?」とランが聞く。
「好きな……ひと?」
「うん」
「……いるよ」
「なんて奴?」
椿はランの腕を振りほどくと、後ろを向いたまま言った。
「ミーミー(秘密)!」
そしてそのまま崖のほうへ走り出し、飛び込みの姿勢に入った。
「バカ!」
ランは急いでその腕を掴んで引き止める。
『気』の鎧を着ずに春の冷たい海へ飛び込んでいたら、心臓が止まってもおかしくはなかった。
0149創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 06:32:17.57ID:9Aik73B7
「あ……あたし……!」崖っぷちで振り返った椿は動転していた。「ユゥ兄ィが……もう、入ってると……勘違い……」
「まったく」ランは厳しい口調で叱った。「お前が死んだらオレも死ぬぞ!」
その言葉に椿は少し落ち着き、嬉しそうに微笑んだ。
「さ、口を開けて」
崖の上を温い春風が吹き抜けた。ランに言われるまま、椿が口を開く。
ランは椿の肩を両手で優しく掴むと、そこへ大きく開けた口を近づけて行く。
なんで唇、触れないかなぁ、とユージンは思う。
椿の小さな口から温かい吐息が入り込んで来るほとの距離なのに、唇どうしは決して触れ合わない。
自分がこのままここから出て行かなかったらどうなるんだろうなぁ。
単に何もなく、不思議そうに一旦離れちゃうんだろうなぁ、とユージンは思いながら、ランの胸から這い出すと、椿の口へ向けて飛び出した。
飛び出す時、ランがタイミングよく舌をカタパルトのように使ったので、勢いがつきすぎて、椿の喉に突き刺さるように入った。
0150創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 11:07:23.56ID:He2rAYn8
     ,.-‐ """''''''- 、
   /          \
  /  ノりノレりノレノ\  i
  i  ノ    ノ' 'ヽ   ミ |
 ノ  |  -="- , (-=" . | |
 イ   |  "" ).●●)(""| |
 ノ   !   ノ u 丶.  ! |   あ〜ん!最近男の人にすごく見られるの
 彡  !    ノ^_^)   !  ミ   髪型変えたからチェックされてるのかしら♪
 ノ ノノノヽ  ` --'  /ノヽ  ヽ
ー 'ヽヽヽ ソ⌒ ヽ r ⌒ '`ノー''`、
   `- 、_   ノヽ  _,/    ヽ
  ヽ   人   / |、  ,ヽ   |
,ノ _,ニ/    ̄/  .|  ̄  \ニ |
/ /     /    |     ヽ
0151創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 12:43:39.13ID:yT9OjuLa
ケホケホと咳き込んだ後、椿の口からユージンの声が言った。
「あっ、ラン兄ィ! 今夜、ヒコーキ……」
「ああ……」ランは約束を思い出した。「そん時、またこっち来い」
「飛行機がどうしたの?」椿が首を傾げる。
「ん。その……飛行機飛ばすゲームな。ユゥと昨日やってて……」
「あたしもやりたい」
「いや。それは……ムリ」
「なんで? あたしアクションゲーム好きだよ。やりたい」
「その……男しかやっちゃダメなやつ」
「何それ。飛飛機(飛行機を飛ばす)んでしょ?」
「いや。打飛機(オナニー)」とユージンが呟いた。
「飛行機を……やる……? って、あ!」
「さ! 泳ぐぞー!」
そう叫ぶように言うと、ランは上着を投げ捨て、飛行機が滑走路へ突っ込むように崖の上から飛んだ。
0152創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 12:46:15.52ID:yT9OjuLa
椿は続いて飛び込まなかった。崖の上に体育座りをして、ランが泳ぐのを眺めた。その身体が寒くないよう、ユージンが金色の鎧を着せて守っている。
空にはさっきからメイファンにムササビに変えられたチェンナが、ドローンのようにくるくると飛び回っている。

ユージンが椿の口を動かした。
「椿もズーチー・モー・ズーチー(女性のオナニーのこと)ぐらい覚えてよ」
ランとの初体験に触発され、女の身体の快感のことにも興味津々になっていた。
椿が何も答えないので、ユージンは聞いた。
「ぼく、うざい?」
「うざい」椿は即答した。
「出て行こうか?」
「うざいけど、いないとなんかおかしかった」
「え?」
「ユゥ兄ィがいてくれないと、自分が半分なくなったっていうか」
誉められたわけでもないのにユージンは嬉しくなった。
「ぼくは椿の一部だもんね」
「うん。ユゥ兄ィ、必要」
「二人揃ってユゥチュン(愚蠢=まぬけ)だもんね」
「うるさい」
「椿、さっき体操着着たまま海に飛び込もうとしたよね」
「もう、本当うるさい」
「出て行こうか?」
「やだ」
0153創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 13:02:25.78ID:yT9OjuLa
「椿、ラン兄ィと結婚する?」唐突にユージンが聞いた。
「は?」
「日本に一緒について行って」
椿は黙り込んだ。
「ラン兄ィのこと好きでしょ? 一人の男として」
「……」
「ぼく、お前らが結婚してくれたら嬉しいなぁ」
「ユゥ兄ィのほうでしょ」
「ん?」
「ラン兄ィのこと好きなのは」
「ぼく、男だけど?」
「身体がないのにどこで男だってわかるの?」
「チンコはないけど、男だもん」
「チンコないのに、どこが男なの?」
「男だもん!」
「パパとママがそう決めたから?」
「男だもん!」
「女の子より男が好きなのに?」
ユージンは言葉に詰まった。
0154創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 13:21:35.83ID:yT9OjuLa
波が少し高かった。
ランは泳ぎながら、荒れはじめそうだなと気づいていた。
崖の上に目をやると、上空をブンブン飛ぶチェンナらしき黒い点が目に入った。
椿はしゃがみ込んでユージンと話をしているようだ。
椿が飛び込んで来そうにないので引き返そうとした時、目の端に何か赤いものが映った。
見ると、魚漁の仕掛け網に赤いイルカがひっかかり、ぐったりしている。
「まぬけだなぁ、お前」
ランはそう呟くと、なぜか椿を見るような気持ちがしてクスッと笑った。
「待ってろよ」
0155創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 13:24:49.64ID:yT9OjuLa
近づくと赤いイルカは怯えた目をして逃げようとした。動くと絡んでいる網がさらに締まり、イルカは苦痛に顔をしかめる。
「じっとしてろ」
ランは絡まった網をほどこうとする。しかし固くイルカの身体に食い込んでしまっている。
「あ、そうだ」
ランはサザエがいたら採って帰ろうと水着にナイフを仕込んでいた。鞘からそれを抜き出し、網を切りにかかる。
「叱られるかな……構うもんか」
しかし網は予想外に固く、ナイフでもびくともしない。
「お前が抜けられないわけだな」
そう話しかける相手のイルカは、さっきからランのすることを驚いたような顔で大人しく見守っていた。
ランはナイフに透明の『気』を込めた。
「これでも切れなかったらメイファンちゃんを呼ぶよ」
そう言いながらナイフを引くと、今度は網は紙のように簡単に切れた。
0156創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 13:32:33.67ID:yT9OjuLa
「さ、行けよ」
赤いイルカは自由になると、ランから慌てて逃げるように泳ぎ出した。
「もうまぬけな捕まり方するんじゃないぞ」
ランはその赤い影を優しく笑いながら見送った。
ふと気がつくと、崖の上から椿とユージンが何か叫んでいる。
沖のほうを見ると、大きな渦潮がこちらめがけて近づいて来ていた。
すぐにランは急いで泳ぎはじめる。
七歳の時からこの海で泳いで来た。
荒れそうだと思った後には大抵、渦潮がやって来ることなどよく知っていたはずだった。
0157創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 16:27:02.80ID:yT9OjuLa
「ラン兄ィ!」椿は声を限りに叫んだ。
「ラン兄ィ! 急げ!」ユージンもその後に続いて叫ぶ。「バカ! さっきから何べんも知らせてんのに!」
ユージンと椿の眼下でランは速いクロールでこちらへ戻って来ていた。しかし沖まで出過ぎていた。
渦潮の速度は明らかだった。ランよりも速かった。
まるで竜巻のように、それはランを飲み込むと、海中へひきずり込んだ。
0158創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 16:33:12.11ID:yT9OjuLa
事態に気づいてメイファンも空から降りて来た。
その目の前で、椿が崖から身を乗り出し、震える声で呟いた。
「ユゥ兄ィ……」そして崖を蹴った。「守って」
「おい!」とメイファンが止める間もなくユージンとともに椿は海へ飛び込んだ。
ユージンは何も言わなかった。ただ椿と気持ちは同じだった。
崖を蹴って飛んだのが椿なのか自分なのかわからないほどだった。
「任せろ、椿」ただ心の中で呟いた。「ピンチになったらきっとぼくの力が目覚めるから」
0159創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 16:47:08.89ID:yT9OjuLa
メイファンはチェンナの小さな身体でとぼとぼと崖の端まで歩き、下を見た。
椿の身体が速い流れに振り回され、渦潮の中心へ引きずり込まれ、すぐに海中に見えなくなった。
「あ〜あ」メイファンが呟く。「ま、チェンナさえ無事ならいいか」
チェンナはあまりのことに声を失っている。
「私まで飛び込んで、チェンナにもしものことがあったら大変だ。帰ろ、帰ろ」
渦潮は眼前で岩礁に突き当たり、方向を変えると東のほうへ去って行く。
「あ」チェンナがようやく声を出した。「あかーい」
「あ?」メイファンもそれに気づく。
暗い色を浮かべていた海が、どんどんと赤くなって来る。
血の色のようではなく、子供の好きそうなポップな赤が、すぐに海面を埋め尽くすと、凄まじい飛沫を上げてそれは海の中から飛び上がった。
景色を覆い隠すほどに巨大な赤いイルカのようなものが全身を現し、天地を揺るがす哀しげな声を放った。
0160創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 16:59:20.38ID:yT9OjuLa
「どああああ!?」
「あかーい! あかーーーい!!」
目を最大に見開き、最大音量で叫ぶ二人の声も巨大イルカの声にかき消された。
「と……飛んでやがる」
その巨体が明らかに浮遊していた。約10秒、それは何かを訴えるようにメイファンをまっすぐに見つめる。
そして身を翻すと、天に轟く波音を立てて海中へ帰って行った。
0161創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 17:08:32.46ID:yT9OjuLa
しばらくメイファンは声を失い、立ち尽くしていた。
「あかーい、あかかったー」チェンナが震える声で繰り返す。
「3人死のうが4人死のうが一緒か」メイファンが楽しそうに笑う。「チェンナ、行くぞ」
「うん、いく!」
「海の底にあるのは竜宮城か、はたまた海獣の巣か」
メイファンはチェンナの足で崖を蹴り、飛んだ。
「知らんが面白そうなことだけは確かだな」
チェンナの身体は黒い小さな潜水艦に変わり、海の中へと突入した。
0162創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/23(土) 17:24:10.87ID:yT9OjuLa
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。
普段は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。

・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれ中。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。
リウ・パイロンとメイファンが殺したケ 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元凄腕の殺し屋。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。
ランの母親を15年前に殺した。現在、ララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。

・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。

・ハオ(李 青豪)……67歳。ユージン達の父。元散打王。
自由な性格で椿の登校拒否を容認している。大怪我をしてもすぐに治る特異体質。
基本的にダメ人間だが愛する者のためには超人的な力を発揮し、四人の子を育てた。長女メイを特別溺愛している。

・ララ(ラン・ラーラァ)……58歳だが見た目は35歳。ユージン達の母。
息子のユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在。妹のメイファンと身体を共有している。凄腕の医者でもある。
椿の登校拒否に頭を悩ませている。

・メイ(リー・メイメイ)……前スレ主人公。33歳。李家長女。結婚して北京に住んでいる。
医師であり太極拳チャンピオン。講演会に父と出席するため帰って来た。旦那はリウ・パイロンの息子ヘイロン。
0164創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 01:30:38.47ID:CvmttKVq
椿は目を開けた。
見慣れた自分のベッドの上だった。
窓からは緑色の陽射しが差し込んでいる。
扉を開けて入って来た母が、いつも通りの優しい微笑みを浮かべ、言った。
「お帰り、椿。人間の世界はどうだった?」
そしてベッドの脇のテーブルに果実を乗せた皿を置く。
果実は青や紫や緑の色をぷるぷると震えた。
「聞いていた通りだった」椿はそう言うと、目をこすった。「汚くて、恐ろしくて、そして哀しい世界……」
「これであなたも大人の仲間入りね」母は嬉しそうに言う。「明日には成人式を開いてくださるそうよ」
「でも……」椿は自分の話を続けた。「罠にかかった私を助けてくれた、優しい人間にも出会ったわ」
「そんな人間もいるだろうね」母は落ち着いた声で言った。「その人間はお前を助けてからどうしたんだい?」
「死んだわ。渦潮に飲まれて」椿は赤いおかっぱの髪に手を埋めて、俯いた。「海底で看取ったの」
0165創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 01:53:37.28ID:CvmttKVq
「そうかい。それは残念なことをしたね」母は少しだけ悲しそうな顔をした。「でもそれが自然の掟だよ」
「わたし……あの人間を助けたい」
「椿?」
「あの人の笑顔、優しかったもの」
「気持ちはわかるが、無理を言うんじゃないよ」
「生き返らせる方法は、ないの? だってわたし達は人間の生をも司る……」
「椿!」母は厳しい声で叱った。「自然の流れに逆らってはいけない。そんなことをしては必ず世界に歪みが生じるよ」
椿はわかったという風に素直に頷いた。
「さ、悲しいことは忘れて、今日はゆっくりしなさい。あなたはハナカイドウを任される神になるのよ」
そう言うと母は部屋を出て行った。
「神じゃない。わたし達は……」椿は一人、呟いた。「でも……あるんだ。自然の流れに逆らう、方法が……」
0166創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 02:09:04.76ID:CvmttKVq
椿は外へ出た。
長い回廊を降りると、いつもの町だった。
火水木土金を司る仙人や神の使者達が平和に生活している。
豚の顔をした仙人が話しかけて来た。
「おぉ、椿。成人おめでとう」
「まだよ。明日なの」
「人間界への儀式は済ませたんだろう?」
「えぇ。無事に」
そこへ少し離れたところから鹿の角を生やしたおばさんが話しかけて来た。
「あ! ちょっとちょっと椿ちゃん! おじいさんにこれを持って行ってくれないかい?」
「ちょうどよかったわ」椿はにっこりと笑った。「おじいちゃんの家に行く所だったの」
0167創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 02:23:37.92ID:CvmttKVq
高いクスノキを登って行くと、天辺に近い枝の上に小屋があった。
「椿か」
まだそこへ辿り着かないうちに空から威厳ある老人の声がした。
「うん、おじいちゃん」
「待ってろ。迎えをやる」
上のほうからシュルシュルと音を立てて白い蔦が降りて来る。椿はそれに掴まると、エレベーターに乗ったように上へ昇った。
部屋に入ると、背の高い白い髭に包まれた老人が椿を見て優しく微笑んだ。
「どうした。困ったことが起きたのか。お前はいつも困ったことがあると私の所へ来る」
部屋の床中に木の根のように張り巡らされた祖父の髭を踏まないように、気をつけながら椿は歩いた。
「うん、おじいちゃん。助けてほしいの」
「お前をか? 椿。見たところどこも悪そうではないが」
「おじいちゃんの医術で死んだ人間を生き返らせることは出来る?」
0168創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 10:04:01.88ID:CvmttKVq
「死んだ者を生き返らせることは不可能だな」と、老人は言った。「それは自然の中にないことだ」
「そうだよね」椿は項垂れた。
「だが」と、老人は続けた。「我々の国には死者の魂を司る者もいる」
「魂?」
「その者に頼めば、あるいは」
「魂って、何?」
「人間の国で死んだ者は皆、魚に姿を変えてこの世界にいるのだ」
「魚?」
「魂には形がない。ゆえに魚の形を借りてこの世に送られて来る」
「じゃあ、あの人の魂には会えるのね?」
「ああ」
「どこへ行けば会えるの?」
「会ってどうするつもりだね?」
「わからない」椿はまた俯いた。「でも、助けられるものなら、助けたい。あの人は、死んではいけない人なの」
「それはお前が勝手に決めたことだ」
椿はさらに俯き、床を這っている老人の白髭に目を落とした。
「……と、皆は言うだろう」
はっとして椿は顔を上げる。老人は白い髭の奥で微笑んでいた。
「お前が正しいと思うことなら、しなさい。それを皆がおかしいと思うのなら、皆のほうが間違っているのだ」
椿は老人を真剣な眼差しで見つめ、ありがとうと言った。
「霊婆(リンポー)を訪ねなさい」老人は地図を渡した。「船に乗り、『気』の海を渡るのだ」
0169創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 10:19:57.69ID:CvmttKVq
深夜、椿は音を殺して家を出ると、急いで回廊を下り、石畳の道を駆け出した。
自分は自然の掟を破ろうとしている。誰かに見つかれば、総出で止められるに決まっている。
高い窓際に腰掛け、鉢植えの紅葉の葉を紅くする練習をしていた少年がそれを見ていた。
「おい、椿」少年が大声を投げる。「こんな夜中にどこ行くんだ?」
椿は立ち止まり、頭上の少年を睨んだまま暫く立ち止まっていた。
しかし何も言わずに前を向くと、そのまままた駆け出して行った。
0170創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 10:29:35.12ID:CvmttKVq
祖父に貰った地図の通り、森を抜け、丘を越えると港があった。
ぼんやりと大きな行灯の白い光が見えて来る。
さまざまな色の靄のような『気』の海の上に一艘の小舟が止まっており、気味の悪い船頭が待っていた。
椿が舟に乗ると、船頭は何も言わずに舟を漕ぎ出す。
『気』の海から神獣が長い身体を現し、虹をかけるように舟の上を通って行った。
やがて舟は岸に着いた。
椿はたどたどしくジャンプして岸へ渡る。
靄が深くかかり、霊の匂いがする。
歩き出すとすぐに見えはじめた大きな寺の中へ椿は入って行った。
0171創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 10:48:26.53ID:CvmttKVq
「珍しいな、客人とは」
椿の姿を見る前から低く粘っこい声が響いて来た。
「霊婆?」
椿は急ぎ足でその広い部屋に入った。

部屋の中では四人が卓に腰掛け、麻雀をしていた。
大きな身体に大きな顔、一つ目の描かれた布で目を隠した性別不明の老人が四人。そのうち背中を向けていた一人が振り向いた。
「ちょうど百年暇していたとこだよ」
「あなたが霊婆?」
「そうだ」
「会いたい人間の魂がいるの」
「魂なんて一杯ありすぎて、どれがどれだかわからないよ?」
「今日、ここへ来たばかりなの」
「今日死んだ人間だって、相当ある」
「見れば……会えば、わかるわ! ……きっと」
「フン」霊婆は馬鹿にするように笑うと、立ち上がった。「ならば案内しようね」
霊婆が立ち上がると、麻雀卓に座っていた他の3人の霊婆が煙を吹いた。そしてネコの姿に戻ると、威嚇する声を上げて散って行った。
0172創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 11:03:01.97ID:CvmttKVq
部屋の天井はとても広いのに足の踏み場は狭かった。
部屋の四隅を何重にも並べられた棚が塞ぎ、そこに夥しいほどの小さなガラス容器が並んでいた。
それぞれに水が張られ、その中には小さな赤い魚が泳いでいる。
どれもこれもがまったく同じ形をした赤い魚だった。
「今日、来たのは……」霊婆はのしのしと歩き、案内した。「ここからあそこまでの8,392匹だね」
椿はその数字に一瞬びっくりしたが、気を取り直して霊婆に聞く。
「今日のお昼、それより後に来た魂は、わかる?」
「大体あのへんからではないかなぁ」
「人間は死んだらすぐにここへ来るの?」
「知らんの。多少の時間差はあるじゃろが……」
椿は霊婆が「あのへん」と言った辺りから探し出す。
どれもこれもまったく同じ赤い魚だった。
0173創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 11:24:21.16ID:CvmttKVq
291匹目の魚の前で目が止まった。
その赤い魚は優しい目をして笑っていた。
頭に柔らかい癖毛のような盛り上がりがあった。
何よりその魚を見た時、頭の中で知らない少女の叫び声が聞こえたのだった。
『ラン兄ィ!』
「この子」
椿はそのガラス容器を指差した。
「見つけたのかい?」
暇をもて余していた霊婆は嬉しそうに後ろから近づいて来た。
「わたし、この子……貰ってもいい?」
「育つよ?」霊婆は言った。「ここにいればずっとこのままだ。でも、ここから出せば育ちはじめる」
「人間に戻してあげたいの」椿は正直に相談した。「出来る?」
「そうだね」霊婆は答えた。「大きく育てれば……自然の摂理にないほどまで大きく育てれば、転生する」
「本当に!?」
「ああ」霊婆は楽しそうに言った。「その代わり……」
「その代わり?」
「ああ、いや。やめとこう。それは持って行くがいい。ただ、その代わり、お代は頂くよ?」
「何を出せばいい?」
「お前の寿命を半分貰おうか。持って行くかい?」
「いいわ」椿は即答した。
「そうかい」霊婆はヒヒヒと笑うと、椿の頭に長い爪を当て、魂を半分引き抜いた。
0174創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 11:34:52.43ID:CvmttKVq
椿はガラス容器に布で蓋をし、大切に抱えて同じ道を戻った。
深夜の誰もが寝静まった道を静かに駆けて行くその姿を、高い窓から少年が見ていた。

誰にも見られないように部屋に戻ると、枕元に容器を置いた。
その中で赤い魚は、少し怖がっているような、驚いているような顔をしている。
「あなたに名前をつけよう」椿は笑顔で魚と向き合いながら、言った。「他の赤い魚と区別するためよ」
本当はぴったりの名前を考えてあった。「鯤(クン)」と呼びたかった。しかし頭の中で見知らぬ少女の声が叫んだ名前が引っ掛かっていた。
「ラン」椿は嬉しそうに笑った。「あなたの名前、ランにしよう」
0175創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/24(日) 13:56:12.31ID:D6Bdufpm
1月に稽留流産しました。 今回再び妊娠したんですが、どうもネットで調べた数値より胎芽が
小さい気がします。 4w5dでGS=1.9mm、5w3dでGS=7.3mmだったんですが、 6w5dで初めて胎芽が
確認できて、CRL=3.1mmでした。流産した前回に似た数値です。 両家にとっても初孫になりますし、
一度流産を経験しているので少々不安になりすぎているのかもしれません。もしよければ皆さんの
妊娠週数とCRL、或いはGS分かりましたら教えてください。 よろしくお願いいたします。
0176創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 01:38:12.30ID:4Qnxnpvs
椿は目を開けた。
どこかわからない暗い森の中だった。
柔らかい腐葉土の上に仰向けに倒れていた。
不安にさせる獣の声などは今のところ聞こえては来ない。
「ユゥ兄ィ?」
自分の中に声をかけるが、返事はなかった。
気を失っているだけなら気配でわかる。しかしユージンの僅かな体重すら感じない。
「ユゥ兄ィ!?」
何度呼びかけても返事はない。存在を感じない。
ユージンは約束通り、椿を守って、しかし死んでしまったのかもしれない。
あるいはショックで口から飛び出しただけかもしれないが、それでも身体がなくなれば数分で窒息してしまう。
二人の兄を同時に失い、黒いおかっぱの髪に手を埋めて、椿は嗚咽した。
しかしすぐに顔を上げると、立ち上がる。
「探さなきゃ」
暗い森の中を、二人の兄の名を呼びながら、椿は歩き出した。
「ユゥ兄ィ!」
その声が木に跳ね返り、森の中に響いた。
「ラン兄ィ!」
0177創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 04:10:59.60ID:tLXlYzEe
そこに長倉ヒロアキが現れた!
0178創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 09:12:09.50ID:7K+4DgR9
「待て」誰かがヒロアキを呼び止めた。
振り返ると水龍の頭をした青い仙人が立っている。
水龍「お前、人間だな? なぜここにいる?」
ヒロアキ「え〜? エヘヘ……」
水龍「どうやってここへ来たのだ?」
ヒロアキ「あの〜……死んだら転生しちゃってぇ……それで」
水龍「人間がこんな所にいてはならない。お前は自然の摂理を侵している」
ヒロアキ「そうなんですか〜? ハハハ……」
水龍「人間の世界へ返すしかないな。一度殺して、お前を魚にする」
ヒロアキ「え? 殺……」
水龍は問答無用でヒロアキを噛み殺した。一噛みでヒロアキは粉々になる。
粉々になったヒロアキに手をかざし、『気』を集めると、水龍の手の中に赤い魚が生まれた。
水龍「さぁ人間の世界へ帰るがよい。ただしお前はもう、死ぬまで魚のままだ」
ヒロアキだった赤い魚は知性をなくした目をして空中を泳ぎ、天からの風に吸い込まれるように人間界へ帰って行った。
「む」水龍は感覚を澄ます。「他にも人間が紛れ込んでいる気配がする」
0179創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 19:44:53.54ID:tm9Efm7t
椿は森の中をあてもなくさ迷い歩いた。
足の裏を細かいトゲのような葉が容赦なく傷つけた。
やがて目の前が開けると、大きなクスノキが見えた。
椿はそこまで歩き、声を出す気力もなくクスノキの幹に凭れかかる。すると天から優しい声が聞こえて来た。
「そなた、どうした? 傷だらけではないか」
椿は声の聞こえたほうを仰ぐと、不思議がることもなく答えた。
「お兄ちゃん達がいなくなったの」
「不憫な」老人らしきその声は、情け深い色を湛えて言った。「喉が乾いたろう。薬も塗ってあげよう。上がっておいで」
上のほうから白い蔓がシュルシュルと音を立てて降りて来た。
0180創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 19:47:20.12ID:tm9Efm7t
椿が蔓に掴まると、蔓は身体に優しく巻きつき、まるでエレベーターに乗るように上へと運んでくれた。
怖がる余力も、驚く余力もなく、椿は運ばれるがままにクスノキの天辺へと上がって行った。
0181創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 20:05:45.12ID:tm9Efm7t
天辺に近い枝の上に木の小屋があり、椿は扉の前に椿を立たせると、扉の下へと消えた。
椿は扉をノックする。
すると中からさっきより近くで老人の声がした。
「構わんよ。遠慮なく、お入り」
扉を開けるとまるで昔映画で見た清代の診療所だった。
分厚く古めかしい医学書が本棚に重々しく並び、卓の上には豪華な陶磁器が置かれ、円形の窓には近世風の装飾が施されている。
しかし整然と片付いたそれらに反して、床はまるで森の地面のように土や葉っぱが散らかり放題だった。
その部屋の中心にまるで根を張るように、白い髭で顔の覆われた、背の高い老人がいた。
「なんと……お前は」老人は椿を見ると、穏やかな口調で言った。「人間なのか」
「おじいさんは……」椿は疲れ果てた声で言った。「神様?」
0182創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 20:24:45.73ID:tm9Efm7t
老人は可笑しそうに細い身体を揺らして笑うと、言った。
「まぁ、こっちへ来なさい」
椿はフラフラと歩き出す。すぐに地面に張り巡らされた白い根のようなものに躓いて前にすっ転んでしまった。
「あぁ」老人が済まなさそうに言う。「気をつけなさい。儂(わし)の白髭が部屋中に根を張っている」
椿は顔を擦りむいた。しかし既に傷だらけの顔に傷が増えただけである。
老人はギリギリと軋むような音を立てて歩いて来ると、椿の手を取り、床に座らせた。
「森の中を何時間も歩いたな? あそこは生身を切り刻む茨が一杯だ。どれ、足の裏を見せてみなさい」
椿は座ったまま、老人の顔に向けないよう気をつけながら足の裏を見せる。
「おお……」
老人は何も言わず、絹の衣服の懐から薬を取り出すと、椿の足裏に塗った。
「あ」椿は思わず声を出した。「痛みが……引いて行くわ」
椿には何の香りかわからなかったが、部屋にはショウノウの香りが立ち込めていた。
薬臭く、決していい香りとは言えなかったが、椿はその香りに心まで癒される気持ちだった。
「そなた、兄を探していると言ったな?」老人は聞いた。「兄者達も人間なのか?」
「うん」椿は無表情に答えた。「もちろんでしょ」
「そうか」
老人はそれ以上何も言わなかったが、その顔には哀れみの色が浮かんでいた。
0183創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 20:47:18.51ID:Rh29iyIk
「さぁ、これを飲みなさい」
そう言って老人は温かい湯気を立てる湯呑みを差し出した。
椿は何も言わず、何も疑わずにそれを受け取った。
「それを飲むと心が落ち着く。傷も癒える」
椿は躊躇うことなくその液体を飲んだ。
「忘れてしまったほうがよいことも忘れてしまえる」
「美味しい」椿は少し微笑んだ。「喉乾いてたから、何でも美味しい」
「お前の名を聞いておこう」
「椿(チュン)よ」
「椿か、いい名だ」老人は頷いた。「春を司るにはふさわしい」
0184創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 20:50:47.37ID:Rh29iyIk
「おじいさんの名前は?」今度は椿が質問した。
「儂に名はない」老人は答えた。「強いて言うならばクスノキだ」
「仙人なの?」
「儂らを呼び現す言葉はない」老人は言った。「ここには様々な者が住む。それだけだよ」
「人間ではないのね?」
「いや、儂らも一応は人間だ」
「白いお髭が床に根を張る人間なんていないわ」
「人間に深く関わっている」老人は言葉を選び、説明しようとしたが、諦めたように言った。「人間と神の間にあるもの、と言っておこう」
「ここに人間がいるのはおかしなことなのね?」
椿がそう言うと、老人は明らかに動揺し、白い髭を忙しなく撫ではじめた。そして、言った。
「自然なことではない」
「そうなんだ」椿は少し首を傾げて言った。
「しかし、そなたからは」老人はまるで今思い付いたようなことを言い出した。「ハナカイドウの匂いがする」
「ハナカイドウって……」椿は現代の言葉に置き換えた。「ベゴニアね」
「桃色に近い赤色の、春に可憐な花を咲かせるハナカイドウの匂いがする」老人は繰り返した。「そなたは人間だが、儂らに近いのかも知れぬ」
老人が言い終えた時、椿は眠っていた。
「薬が効いたようだな」
0185創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/25(月) 21:03:52.73ID:Rh29iyIk
「そなたの兄らは間違いなく生きてはおらん」老人は言った。「ここへ来てしまった人間は命を取られ、魚に転生させられ、人間界へ戻される」
座ったまま眠る椿の黒い髪に老人は細い指で触れ、そこに『気』を込めた。
「そなたの記憶を消す。もう二度と記憶が戻ることはない。人間だった頃のことはすべて忘れておしまい」
眠る椿の目から一筋涙が零れ落ちた。
「そなたを儂ら海底に住むものの仲間として迎え入れよう。儂の娘に養女とするよう申しつける」
老人の指から注がれる『気』の流れが途絶えると、椿の髪はハナカイドウの花のように赤くなっていた。
0186創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/26(火) 07:36:02.62ID:mUXHwZQJ
メイファンは潜水艦チェンナ號に乗って渦潮に呑まれた3人を探していた、というより面白そうな赤い大魚を追っていた。
「どこ行ったんだ、アイツら」
「ブーン、ブーン」チェンナが潜水艦らしさを擬音で演出する。
「小癪なランの『気』はともかく、ユージンのピッカピカで目立ちまくりの『気』さえ感じんとは……」
「ブゥーン、ブーン」
「どうでもいいがチェンナ、潜水艦はそんな音はしない」
もうかなり潜っていた。自分の住んでいる海の底がこんなに深いとは知らなかった。
暗い海底の砂の中から、まるでワープして来たように一匹の赤い魚が現れた。
「ム?」メイファンはヒロアキの出現を見逃さなかった。「あの魚、どこから出て来た?」
0187創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/26(火) 11:53:29.56ID:mUXHwZQJ
ユージンは目を開けた。
見知らぬ森の中だった。
「ここはどこ?」
目覚めるなり心細くなり、ユージンは弱々しい声で呟いた。
「ぼくは誰?」
「いきなり人の口から入って来といてそれかよ」
同じ口で誰かが喋った。乱暴そうな男の声だ。
「だだだだどなた?」
「お前こそ誰だ」と男の声は言った。
「ぼぼ、ぼくは……」
「名前は?」
「ユージン」
「どっから来た?」
「あ……」
「なんだよ」
「覚えてない……」
「なんだそりゃ」
「ぼくは誰?」
「さっき名前言ったじゃねーか」
「名前しか覚えてない」
「そんなのアリかよ」
声の主は豪快に笑った。
0188創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/26(火) 12:06:57.15ID:mUXHwZQJ
「あなたはだ……どなた?」
「俺か? 俺はズーロー。火を司るズーロン様の弟子だ」
「ズーロー……」
「ユージンだったか? お前、変わってんな。空気でも司ってんのか?」
「空気?」
「形のない生き物なんて初めて見たぜ」
「形?」
ユージンは自分の身体を見た。逞しい男の胸筋が橙色の衣服からはだけて見えた。
「おい、勝手に俺の首動かすんじゃねぇ」
「すすすすいません」
「まぁ、いい。お前、俺が昼寝してたらいきなり口に飛び込んで来たんだぜ?」
「かかか勝手にすいません」
「虫かと思って吐き出そうとしたら、なんか俺の口が勝手に喋り出すじゃねぇか」
「なな何て言ってました?」
「なんか『守る』とか『なんとか兄ィ』とか『超天才』とか言ってたぜ?」
「な、何のことだろう……」
「最初、人間臭ぇから人間かと思ったが」
「え」
「お前みたいな人間いるわけねぇもんな、ハハハハ」
「ハァ……」
実際、自分は何なんだろうとユージンは思った。
0189創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/26(火) 12:16:12.02ID:mUXHwZQJ
「まぁ、いい。とりあえずお前、出ろ」
「は?」
「いつまで俺ん中いるつもりだ? 出てけよ」
「ハァ……」
「悪ィけど昼寝の邪魔だ。俺、1日22時間は昼寝しねーと眠くて活動できねんだわ」
「あ、共感」
「何?」
「大物こそよく眠るんですよね」
「あ?」
「セコセコせず、どっしりといつも寝ている奴こそ、本当の実力者なんですよ」
「てめぇ……」
「え」
「よくわかってんじゃねぇか!」
0190創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/26(火) 12:25:22.52ID:mUXHwZQJ
たちまち意気投合したズーローはユージンに一生自分の中にいてもいいと許可を出した。
「さぁ、ふんじゃ一緒に死ぬまで寝るぞ」
「寝よう」
同意しながらもユージンは心が落ち着かなかった。
自分が何を忘れているのかもわからない。しかし早く探し出さないといけない何かがあるような気がして仕方がなかった。
「ユージン」ズーローが言った。「お前、いくつだ」
「15です」歳はなぜか覚えていた。
「15?」ズーローはぴくりと目を開けた。「それじゃウチの弟と同い年だ」
「弟がいるんですか」
「あぁ、血は繋がってねぇけどな」ズーローは再び気持ち良さそうに目を閉じた。「チョウっていうんだ。また後で紹介するよ」
そう言うとズーローはすぐに寝息を立てはじめた。
ユージンは落ち着かず、なかなか一緒に寝つけなかった。
そう言えばズーローって人、どんな顔をしてるんだろうと思いはじめた。
さっき見えた逞しい胸は、やたら焦げたような赤い色をしていた。
0191創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 06:59:59.26ID:jZu554U3
5階まで石の階段を昇った。
この世界ではかなり高いほうの建物だ。現代風に言えばアパートという赴きだった。
「ここだぜ」と言うとズーローは、布を垂らしただけで扉のないその一室に入って行った。
「ウチの家族を紹介するわ」
そう言われてユージンは「はい」と返事し、愛想笑いをした。
「ばあちゃん」
ズーローが指差すとやたら色の青い老婆が振り向いた。
「なんだい? ズーロー」
「ばあちゃん紹介するぜ。新しい家族のユージンだ」
老婆は濁った黄色い目で不思議そうにまばたきすると、ズーローの背後を確認した。
何も見えないし、誰もいないので首を傾げて言った。
「誰のことだえ?」
ズーローはワハハと大笑いすると、奥の部屋へ歩き出した。
「チョウ! 兄ちゃん帰ったぞ」
0192創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 07:11:49.46ID:jZu554U3
奥の部屋にはベッドが一つ置かれ、あとは所狭しと紅葉の若木の鉢植えが占領していた。
真っ赤に紅葉した若木もあれば、緑のままのも、枯れてカサカサになったものもある。
通りを見下ろせる大きな窓があり、窓辺に座っていた背の低い、髪の白い少年が振り向いた。
「あれ? 兄ちゃん、何か身体ん中、入ってるぜ?」と開口一番チョウは言った。
顔も幼ければ声も少し幼い感じの子で、ユージンは親しみやすそうに思った。
「ユージンだ」とズーローは言った。
「ユージン?」とチョウは首をひねった。
「よ、よろしく」とユージンが言った。
「よろ〜」とチョウは普通に言った。
兄の口から少年の声が出たことにも身体のない生き物がいることにも不思議がっていないようだった。
0193創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 07:25:49.43ID:jZu554U3
「チョウは幼い時に両親を失くしてな」ズーローは言った。「ウチのばあちゃんが引き取ったんだ」
ユージンはただ相槌を打ちながら聞いた。
「お前も今日からウチの家族だ、ユージン。同い年どうしチョウと仲良くな」
「あ、ハイ」
「ちーす」チョウがテキトーに挨拶した。
「ところでユージン」ズーローが少し改まった口調で言った。「お前は俺が1日22時間寝ることを初めて褒めてくれたヤツだ」
「そうなんですか」
「皆『だらしない』だの『怠け者』だの言ってちっとも理解してくれん。弟のチョウでさえもだ」
「だって兄ちゃん修行する気ねーだろ」
「しかしだ、ユージン」チョウの言葉は無視してズーローは言った。「てめぇ、嘘つきやがったな?」
「え」
「てめぇ、俺と一緒にちっとも寝なかったじゃねーか」
「あ、あの。何かが気がかりで……」
「お陰で気が散ってちっとも眠れなかったんだよ。腹立つわ。だからてめぇ、やっぱり出てけ」
「は?」
「チョウん中入れ」
「ええ?」
「わー面白そう」チョウはあまり面白くもなさそうに言った。「いいぜ。俺ん中入れよ」
0194創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 07:33:32.67ID:jZu554U3
ユージンはかしこまりすぎるあまり、ズーローの口から勢いよく飛び出せず、ぽてっと床に落ちた。
金色のうんこにも見えないこともない雲のようにフワフワしたユージンを見て、ズーローが言った。
「なんだお前、形あるじゃねーか」
チョウは何も言わず、表情も変えずに見守っている。
ユージンはすぐに苦しくなった。呼吸が出来ず、全身の『気』の流れが止まってしまった。
チョウの口まで飛ぼうにも力が入らない。
口がないので苦しみの言葉を発することも出来ない。
無音でのたうち回るユージンをチョウは手でつまむと、大きな口を開けて飲み込んだ。
0195創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 07:44:34.18ID:jZu554U3
「た、助かった」チョウの口からユージンの声が出た。「ありがとう」
「どーいたしまして」チョウはテキトーに言った。
「じゃ、俺寝るわ」そう言うとズーローは立ち上がった。「お前ら仲良くな」
「兄ちゃん、頑張れよな」そう言ってチョウは兄を見送った。
0196創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 07:54:16.42ID:jZu554U3
ユージンと二人きりになると、チョウはいきなり元気に明るく喋り出した。
「なぁ、俺のことはチョウでいいけど、ユージンて呼びにくいな。何て呼んだらいい?」
「あ。じゃあ、『ユゥ』で」
「ユゥか。わかった。ところでユゥ、お前、糞まっずいのな。うんこ飲み込んだ気がしたぜ。のどごしも最悪」
「えー……ひどい」
チョウは楽しそうに笑った。
ユージンは部屋を占領する小さな鉢植えの山を見た。そして、聞く。
「紅葉集めが趣味なの?」
するとチョウは明らかにムッとして、怒ったような声で言った。
「俺は修行中なんだ。秋を司るものになるんだぜ」
「秋を?」
「見てろよ」
チョウはそう言うと、緑色の紅葉の植えられたのを一つ取った。
そして集中すると、チョウの身体から橙色の『気』が放出される。
手を近づけると、紅葉は急激に紅葉し、慌ててチョウが手を離した時にはカサカサに干からびて床に散った。
「あー、またやっちまった」
それを見ていてユージンはまた違和感に襲われた。
この人達、ぼくとは違う生き物のような気がする。
そう言えばさっきチョウに入った時ちらりと見えたズーローの顔も、赤い鬼のように恐ろしく、角があった。
0197創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 08:04:46.18ID:jZu554U3
「ユージンは何が出来るんだ?」チョウが聞いた。
「え」
「その色を見た感じ通りか? 金を司るものになるのか?」
「ぼく……記憶がないんだ」
「そうなのか?」
「うん。なんか……すごいことが出来た気はするんだけど」
「慌てず思い出せよ」チョウは穏やかに言った。
「でも……」
「ん?」
「誰かを探してた気がするんだ。急がなきゃいけないような気がするんだ」
「そうなのか」
「うん」
「じゃ、どうする?」
「えっ?」
チョウは鉢植えをまた一つ取ると、それに手を当てながら言った。
「慌てたってしょーがねーだろ? 心を落ち着けて待ってろ。そうすればあっちのほうからやって来てくれる。そんなもんさ」
鉢植えの紅葉は今度は最も鮮やかな色で留まり、あかるい赤と金色を並べて笑った。
0198創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 08:24:03.34ID:jZu554U3
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。
普段は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。

・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれていたが、義兄が渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
リウ・パイロンとメイファンが殺したケ 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
赤いイルカを助けた後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元凄腕の殺し屋。黒い『気』の使い手。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。
ランの母親を15年前に殺した。現在、ララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
メイファンに身体を潜水艦に変えられ、喜んでいる。

・チャン……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。秋を司る能力を持っている。橙色の『気』を使う。

・ズーロー……チャンの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
0199創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 08:42:46.86ID:jZu554U3
「あ、チョウ」
街を歩いていると、幼い頃からお世話になっているフォンおばさんに声をかけられた。
食料を調達に来ていたチョウは、野菜を選ぶ難しそうな顔をやめて、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「やー、フォンおばさんも買い物かい?」
「ちょっと紹介するよ」
そう言うフォンおばさんの後ろから、髪の赤い女の子が現れた。
「こないだウチの娘に引き取った椿って子だ。まだ友達もいないから、仲良くしてやってくれるかい?」
椿はぺこりと頭を下げると、凛々しい目でチョウを見つめ、挨拶をした。
「椿よ。よろしくね、チョウ」
ユージンはその娘を見た時、チョウの心臓が激しい勢いで絞めつけられるのを感じた。
0200創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 20:25:36.90ID:ZGA/Z+r2
部屋に帰ったチョウはいつものようにモミジの葉を紅くする練習を始めたが、心ここにあらずだった。
鉢植えを手に取り、手を当て『気』を込めるが、何も起こらない。
「あー、集中できねー」
「どうしたの?」ユージンが聞く。「ずっと顔の筋肉笑ってるけど……」
「笑ってねーよ」チョウは幸せそうにニコニコしながら言った。「なぁユゥ、椿ちゃんて可愛いよな」
「そう?」ユージンは答えた。「ぼくはなんかうるさそうな子だなって思った」
「あー、お前はチンコついてないからな。女の子の魅力とかわかんねーわな」
「え」ユージンはどこかで同じようなことを言われたような気がした。
椿ちゃん、椿ちゃん、と譫言のように呟きながら、チョウの練習は絶不調を極めた。
「『気』が乱れまくり」ユージンが突っ込んだ。
「いいだろ、こんな日もあるさ」チョウはそう答えるとまた呪文のようにチュンチャン、チュンチャン、と呟き出す。
0201創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 20:31:51.35ID:ZGA/Z+r2
「あの子に恋しちゃったの?」
チョウはそのユージンの言葉にかぶせて別のことを言い出した。
「あー! なんか椿ちゃんと繋がり出来ねーかなー!」
「繋がりって?」
「たとえば……そうだユゥ! お前、誰かを探してるって言ってたよな?」
「あぁ……うん」
「それ、もしかして椿ちゃんなんじゃないか? お前もあの子も最近出現した新顔だし」
ユージンは黙って考え込んだ。続けてチョウが言う。
「なぁ、お前、記憶なくしてるだけで、椿ちゃんが実はお前が探してる人、たとえば、生き別れのお前の妹とか。ほら、思い出せ」
「それはない」ユージンは即答した。
「なんで言い切れんだよ? 記憶ないくせに」
「だって」ユージンは言った。「あんな赤い髪、ぼく嫌いだもん」
0202創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 20:57:45.11ID:ZGA/Z+r2
毎日椿に会いたいというチョウの願いはしかし、すぐに叶えられた。
チョウが毎朝参加している川での染め物に、次の朝から椿もレギュラーで加わることになったのである。
そんなことは聞かされていなかったチョウは眠そうな顔つきで布を川の流れにさらしていた。
「おはよう、チョウ」
名前を呼ばれて振り向くと、赤いおかっぱの少女の微笑みが朝日より眩しく輝いていた。
思わずチョウは水音を派手に立てて身を起こした。が、顔は笑っていなかった。
「おー、昨日会ったな。えーと……名前何だったっけ」
「椿よ」
「あー、そだそだ」
「今日から染め物に参加するの。教えて?」
「おう、いいぜ。来なよ」
椿は清代風の赤い無地の旗袍(チーパオ、いわゆるチャイナドレス)の上だけに、黒いスカートを穿いていた。
長いスカートを捲り上げると上のほうで結び、川に入って来る。
「そんなチャラチャラした格好じゃ仕事になんないぜ」チョウは目をそむけながらぶっきらぼうに言った。
「どんな格好がよかったのかな」
「え? えーと……いや、別に、それでいいわ」
そう言い終えたチョウの口でユージンが思いきり吹き出した。
0203創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 21:10:57.01ID:ZGA/Z+r2
「何笑ってるの?」椿の表情が険しくなった。「失礼な人ね」
「あ、いや。今の俺じゃない!」チョウは慌てて立ち上がり、弁解した。「ほら、見えない? 俺ん中に金ピカの奴がいるだろ?」
「何言ってるの?」椿はさらに機嫌を悪くした。「そんな変なものいるわけないでしょ」
「あ、見えないのか」チョウはそこでうっかり椿の生足をモロに見てしまい、挙動不審になった。
それで思わず悪口のようなことを言ってしまった。
「『樹の一族』の養女にしちゃ大したことないんだな」
椿はチョウに暫く憎らしそうな目を向けると、背中を向けた。
「も、いい。別の誰かに教えて貰うから」
「待てよ」
向こうへ行きかける椿の腕をチョウは思わず掴んだ。
「何よ」椿はその手を振り払おうとする。
「俺に教わるよう言われたんだろ?」チョウは手を離さなかった。「俺、こう見えて責任感強ぇーんだ。任されたからには意地でも教える」
0204創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 21:31:42.41ID:ZGA/Z+r2
チョウは大きな白い布を綺麗に伸ばして広げ、投げ放つように川にさらして見せた。
まるで魔法のようにそれは川面に広がると、朝陽を浴びて瞬く間に橙色に変わって行く。
その神秘的ともいえる光景を見て、椿の機嫌は一瞬にして直ってしまった。
「どうだ、簡単なもんだろ? やってみて」
「うん」
椿は頷くと、麻の敷物の上に積まれた白い布の一枚を手に取り、構えると、チョウに聞いた。
「ばっと広げるのね?」
「そう。一気に、ばっと」
椿は勢いをつけてばっと布を広げたが、広げたつもりが棒のように一直線になってしまい、川面に落ちた時には皺くちゃだった。
布は橙色に染まりはじめるが、ムラのある失敗作になってしまった。
「笑う?」椿は泣きそうな顔で言った。
「笑わない」チョウは真面目な顔で答えた。「最初はそんなもん」
続けて椿はもう一枚白い布を取ると、さっきよりも勢いをつけて川へ投げ放った。
布は椿の手を離れ、雲のように飛んで行き、しかしそんなに遠くないところに落ちた。
言葉を失ってぽかんと口を開けている椿にチョウは優しく笑いながら言った。
「力、入りすぎ」
0205創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/27(水) 22:02:23.93ID:ZGA/Z+r2
朝陽はもう既に高くなっていた。
チョウは根気強く指導し、椿は諦めることなく初歩の染め物を練習していた。
もう30枚もの白い布が無駄になっていた。
「ちゃんと『気』を込めてるか?」チョウが真剣な口調で指導する。「もっと力は抜いて、布全体に『気』を行き渡らせんの」
「込めてるもん」椿は泣きそうな顔で言った。「気力全開でばっと広げてるもん」
「うーんなんでうまく行かねーんだ」チョウは頭をかきむしった。「こんなことぐらい出来るだろ? 『力』のない人間じゃあるまいし」
「『こんなことぐらい』って言ったわね?」椿がむくれる。「バカにしないで」
「ねぇ、チョウ」ユージンが小声で囁いた。「後ろからさ、手取り足取りで教えてあげたら?」
「で、出来るか!」
「出来るわよ!」
椿は怒ったように叫ぶと、仕切り直した。息を整え、心を落ち着ける。
「……おじいちゃん、力を貸して」
そう呟くと、椿は初めて薄紅色の『気』に包まれた。
それを白い布に行き渡らせる。布は生き物のように前のほうへ伸びると、そのまま皺一つなく川面に着いた。
「あ」
「わっ」
「出来たー!」
思わずチョウは椿に抱きつきに行った。
寸前で気づいて手を引っ込めかけたチョウに椿のほうから抱きついた。
「ありがとう、チョウ!」
「あ、あぁ……」
0206創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/28(木) 12:39:22.69ID:GoH91J/1
「うー」
部屋に帰ったチョウは修行もせずにベッドに伏せ、病気のように唸っていた。
「痛い。胸が痛い」
チョウはそう言うものの、ユージンはちっともチョウの身体の痛みなど感じず、不思議がった。
強いて言えば胸に甘酸っぱい締めつけを感じるが、痛いというよりは何だか気持ちいいぐらいだ。
「そんなに痛いもんなの?」ユージンは思わず聞いた。「恋の病って」
「そんなんじゃねー。そんなんじゃねーよ。うー」
0207創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/28(木) 12:53:45.96ID:GoH91J/1
次の朝、チョウが川へ行くとまだ誰も来ていなかった。
「いくら何でも早すぎたか」
身体の中でユージンもまだすやすやと寝ている。
暫くそのへんの草で遊んでいると、皆が集まって来た。
そわそわしていると少し遠くから椿がやって来るのが見えたので、慌てて背中を向けて支度を始める。
「おはよう」
後ろから椿に声をかけられ、ようやくチョウは振り向いた。
「お、おう」
今日も椿は赤い無地の旗袍だが、膝上まで丈のあるワンピースのものを着ていた。
チョウはそれを褒めもせず、せかせかと仕事の手を動かしながら、言った。
「悪ィ。名前、何だったっけな」
「椿よ」
「あー、そだそだ。チュン、チュンね」
「覚えた?」
「あぁ、今、覚えた」
0208創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/28(木) 13:03:29.51ID:GoH91J/1
「出来るか?」
「もう大丈夫よ」
そう言うと椿は白い布を取り、皺一つなく広げると、川面にさらして見せた。
「へぇ。物覚えいいな」チョウは初めて椿のことを褒めた。「努力家なんだな」
「エヘヘ」
「もう一人で……大丈夫……かな」
チョウが少し残念そうに言うと、椿は首を横に振った。
「まだこれ一つ出来るようになっただけよ。もっと沢山教えてね、チョウ」
「そ、そうか」チョウは思わず顔が笑ってしまった。「俺、教えるの好きだし、頑張る娘もす」
チョウは慌てて言葉を切って自分の口を押さえた。
聞いていなかったのか、椿は黙々と染め物を続けていた。
0209創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/28(木) 13:09:22.08ID:GoH91J/1
昨日染めた布を台に掛けて小屋の中に干してあったものが乾いていた。
皆でそれを取り込み、畳んで牛の背中の籠に乗せると、解散となった。
「じゃ、俺、牛に乗ってくから」
「うん。じゃ、またね。チョウ」
「またな、椿」
椿は背を向け、逆方向へと一人で歩いて行った。
「家、同じ方向だったらよかったのにね」ユージンが言う。
「バーカ」
チョウは明るい笑顔でそう答えながら、何度も後ろを振り返った。
0210創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/28(木) 19:16:09.12ID:bLXAmv0H
いよいよチョウは修行が手につかなくなってしまった。
帰るとベッドに寝転び、ため息ばかり吐いている。
「チョウ」ユージンが言った。「ヒコーキとかしないの?」
「何だって?」チョウはため息まじりに言った。
「打飛機(飛行機をやる=オナニーの隠語)だよ、知らないの?」
「飛行機って、人間の世界の乗り物だろ? 神の領域を侵すあの、汚いやつ。それを……どうするって?」
「いや、手で、こうやって……」
ユージンはそう言うとチョウの手を動かし、股間に持って行った。
「勝手に俺の身体動かすな!」
「あ……はい」
予想外なほどの剣幕でチョウに怒鳴られ、ユージンは思わず萎縮してしまった。
「なんだよ。手淫のことか? 知ってるよ。知ってるけどやらねー。そんなことしてる暇があったら他にやることあるし……」
「修行、してないくせに……」
「とにかく」チョウはごまかすように言った。「勝手に俺の身体動かすな。あと、椿の前では絶対に喋るなよ?」
「とにかく、椿の下着姿、想像してみようよ」
「ハァ!? お前……」
「あいつ下着、絶対地味だよ。あれは絶対綿とか着けてる。フリフリのついた麻のとか、セクシーな絹のとかはつけないタイプ」
「意味わかんねーけど、お前……」
「よっ!」と言ってそこへ兄のズーローが入って来た。
今まで怒っていたチョウは兄を見ると、たちまち力が抜け、口数が少なくなった。
0211創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/28(木) 21:03:09.08ID:w9H0pbOF
ズーローは冷やかすように言った。
「聞いたぜ、チョウ。お前、彼女出来たんだって?」
「は?」チョウはテキトーに答えた。「ねーよ」
「なぁユージン、どんな女だ?」
「え」ユージンは答に困った。
「はぐらかせ」とチョウが小声で囁いた。骨を伝ってユージンにはよく聞こえた。
「さ、さぁ……。いないと思う」
「なんだ? つまんねぇ」
ズーローはそう言うとせっかちな動きでさっさと部屋から出て行った。
ズーローが出て行くと、ユージンは済まなさそうに言った。
「ごめん。変な答になっちやった」
「別にいいよ」
暫く二人とも沈黙した。いつもは何時間でも黙っていられるのだが、ユージンはなんだかこの沈黙に耐えられなかった。
「チョウさ、お兄さん来るといつも無口になるっていうか……態度変わるよね?」
「あー……そうかも」
「なんで?」
「あいつ、ゲスだし。何より怠け者だろ? やる気のない奴とは会話したくねーんだ。やる気のなさがうつりそうで」
「え」
ユージンは自分がズーローの1日22時間睡眠を褒めたことに思い当たり、言葉を詰まらせた。
暫くまた二人とも黙った。
ふいにチョウが口を開く。
「ユージン」
「はい」
「お前、きくらげ臭いな」
「は!?」
「いや……何でもない」そう言うとチョウはまたベッドにごろんと寝転んだ。「変なこと言った。悪ィ」
「本当だよ〜」
ユージンは意味がわからず、笑うしかなかった。
0213創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/29(金) 22:42:25.41ID:WDLWDOdg
次の朝も同じようだった。
朝から川へ出掛け、女達に混じって染め物に従事する。
ユージンは段々と同じ毎日の繰り返しが退屈になって来ていた。
しかしチョウは違うようで、修行そっちのけで染め物に張り切っていた。

「チョウ」椿が話しかけて来た。
「おう」チョウは仕事から目を話さず、ぶっきらぼうに返事をする。
「おこわでおにぎり作って来たんだけど、終わったら一緒に食べない?」
「えっ!」チョウは思わず顔を上げた。
「食べようよ」
そう言いながら穏やかに微笑む椿の顔が朝陽に照らされていた。
「お、おう。腹減るからな」そう言いながらチョウは顔を背けた。
「じゃ、仕事終わらせちゃうね」
そう言って椿が向こうへ行ってもチョウはずっと顔を背けていた。
「誰にも見せられない顔してるもんね」ユージンが言った。
0214創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/29(金) 22:58:58.37ID:WDLWDOdg
仕事が終わり、他の女達は帰って行った。
杭に牛を繋いで待たせ、チョウと椿は川辺の岩に並んで腰かけた。
「いっぱい作って来たから。好きなだけどうぞ」
そう言って椿が二人の間に竹の葉の包みを置いた。紐を解くと、中から可愛いサイズの茶色いおにぎりが12個、顔を出した。
チョウは無言でひとつ手に取ると、米粒の隅々まで確かめるようにじっと見た。
「へんなもの入ってないわよ」
椿が言うと同時にチョウは楽しくなさそうな顔で勢いよくおにぎりを頬張った。
「うめぇ!」食べた瞬間に声が出た。
「よかった」椿が嬉しそうに笑う。
「これ本当にお前が作ったの? フォンおばさんじゃねーの?」
「それぐらいおいしいってことだね」椿は口に手を当てて笑った。
「この味……知ってる気がする」ユージンが言った。
「え?」
「なんか……懐かしい味」
「そうなの?」椿が首を傾げる。
「喋るな」チョウは横を向いて小声で言った。「追い出すぞ」
0215創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/29(金) 23:17:18.24ID:WDLWDOdg
「お茶も持って来たの」
椿はそう言うと竹筒の水筒を出した。
チョウはそれを無造作に掴むと、口をつけて飲んだ。
「あっ」椿が慌てたように小声で叫んだ。
「ん?」
「お椀あったのに……」
「何だよ。いいだろ、別に」
暫く二人は黙々とおにぎりを食べた。チョウはおにぎりを食べてはお茶を飲み、椿はおにぎりばかり食べていた。
黄色と白の蝶が並んで目の前を通って行った。
やがて椿が言った。
「お母さんがチョウにお礼言っとけって」
「え。何で?」
「チョウのお陰で椿の才能が開花したって」
「は? 染め物の練習でか?」
「うん。あれから本当にあたし、何かに目覚めて。何もないところに樹を生めるようになったし」
「お。それは凄いな」チョウは目を見開いた。「そんなの俺、出来ねーよ」
「だからこれ、お礼のつもりで作って来たの」
「あ」チョウはおにぎりを見つめた。
「いっぱい食べてね」
「そうなんだ……」チョウは少しうなだれた。
0216創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/29(金) 23:38:16.44ID:WDLWDOdg
椿が弾むような声で鼻歌を歌いはじめた。チョウは暫くそれを黙って聞いていた。
「いい歌だな。何て歌?」
すると椿はびっくりするような顔をチョウに向け、言った。
「知らない」
「知らない……って……」
「無意識に歌ってた」
「聞いたことない変わった歌だったぜ。お前の故郷の歌?」
「あたし……」
椿が何か言いかけた時、チョウの口が勝手に歌い出した。
先程椿が歌ったのとまったく同じ旋律だった。
「もう覚えたの?」椿が目を丸くする。
「あ、ああ。俺、記憶力いいからな」チョウはしどろもどろになりながら言った。「とりあえずほら、おにぎり食えよ。お前さっきから全然食ってないじゃん」
「喉、乾くから……」
そう言われてチョウはようやく気づいた。
「あ! 悪ィ、俺、口つけちゃったもんな……。川の水でも飲……染め物で汚れちまってるか」
「ま、いっか」
そう言うと椿は竹筒を取り、口をつけて飲んだ。
チョウは声が止まり、心臓も止まり、時間も止まったように、椿の口の動きと喉の動き、赤い髪が風にそよぐのと閉じた瞼の中で瞳が動くのを見ていた。
0217創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/29(金) 23:52:57.35ID:WDLWDOdg
「じゃ、お疲れ様でした」
椿は徒歩で西へ、チョウは牛を連れて東へ向き、二人は背中を向け合った。
朝陽はもう二人の背よりも高く昇り、それぞれの一日が始まろうとしていた。
「あ、あのさ」チョウが振り向いた。
椿はまだ散歩ほど歩いたところにいて、チョウの声に振り向いた。
「今日、おにぎりありがとな」
「いいわよ。お礼だもの」
「いっつも仕事のあと、おなか空くよなーって思ってたんだよな」
「フフ」
「辛いんだよなー、家に帰るまで、腹ペコでさ」
「毎日作って来よっか?」
「本当!?」
「うん。いいよ」
「あー、助かるー。いや、腹減るからなー」
「じゃ、また明日ね」
「おう。気ィつけて帰れよ」
椿はくるりと背を向けると、荷物を入れた風呂敷を背負って歩き出した。
チョウはなかなか歩き出さなかった。椿が途中で振り向くんじゃないかと思うと目が離せなかった。
椿の姿が遠く見えなくなっても、暫くそこで牛と一緒に突っ立っていた。
ユージンは何も言わなかった。なぜ自分が椿と同じ歌を知っているのか、そのことばかり考えていた。
0218創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 00:14:08.79ID:Zuxd3b/N
ベッドの上で布団を抱いて悶えながらチョウが言った。
「好きだ! 好きだ好きだ好きだ椿!」
ユージンはそれを黙って聞いていた。
「あぁ……」チョウは動きを止め、呟いた。「俺、あいつのためなら死ねるぜ」
「チョウ」ユージンが口を開いた。「あの娘はチョウのことは好きにならない」
「は!?」
「あの娘には……チョウがそう思うように、この人のためなら死んでもいいって思ってる別の人がいる」
「お前……」チョウはむっくりと起き上がった。「あいつの何だってんだよ?」
「ぼくは……椿の……」
「何か思い出したのか?」
「わからないけど……」
「じゃあテメーが何であいつのこと知ってるかのようなこと言うんだ」
「それだけはわかるんだ」
「わかるだと?」
「それに、椿は、本当はチョウが嫌うようなやる気のない子で……」
「何だとテメー! あれだけ頑張ってるあいつのことをそんな風に言うのは許さねー!」
「絶対、結ばれないんだ。チョウと椿は」
「出て行け!」
チョウは勢いよく立ち上がると、台所へ向かってズンズン歩き出した。
「おや、チョウ。どうした?」
台所仕事をしていたおばあちゃんが振り向いた。
チョウはおばあちゃんに思い切り接吻すると、ユージンを吐き出した。
0219創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 00:16:28.11ID:Zuxd3b/N
「この、きくらげ臭い、金ピカのうんこ野郎が」
チョウはおばあちゃんに向かって吐き捨てるようにそう言うと、自分の部屋へ戻って行った。
0220創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 08:26:50.71ID:EF/Yg0w2
人間関係がかなりギクシャクしたのであからさまには公表できなかったが、
私のピアノリサイタルを行ったのだよ、昨日
0221創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 18:50:51.22ID:3a3DHcUh
金萬福「かたたくよー!(戦うよー!)」
ジャイアン「ぬう?」
金萬福「かたたくよー!(戦うよー!)」
ジャイアン「やんのか!?」
0222創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 22:18:11.22ID:uJrRbe1i
なぜあんなことを言ってしまったのだろう、ユージンは落ち込んだ。
椿の歌った歌、自分も知っていたその歌のことばかり考えていたら、自然に口から出てしまった。
チョウに嫌われるのは自分でも意外なほどにショックだった。
「身体が重いよ……」ユージンはおばあちゃんの口でそう言った。「ぼく、まだ15歳なのに……」
チョウの身体は特段住み心地がいいとは思っていなかった。むしろいつもそわそわしてしまって落ち着かなかった。
しかしこうやって外に出されてみると、好きな場所だったことがしみじみとわかる。
「何言ってんだえ? あたしゃ……」
おばあちゃんはそう呟くと、やりかけだった大根の皮剥きを再開した。
0223創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 22:29:20.39ID:uJrRbe1i
次の朝、チョウはおばあちゃんに挨拶もせずに、染め物仕事に川へと出掛けて行った。
ユージンは迷った。
おばあちゃんを操作して後をつけて行こうかと思った。
しかしおばあちゃんの身体はあまりにも重く、動きもしんどくて歩くのが大変だった。
「あら、マオマオ。また来たのねぇ」とおばあちゃんがふいに言った。
見ると、扉のない家の玄関から茶色い猫が入り込んで来ている。
おばあちゃんは猫を抱き上げると、笑顔で話しかけた。
「孫に相手にされなくて寂しいばあちゃんのこと、気にしてくれるのはお前だけだねぇ。さ、今日もごはんを食べてお行き」
これだ! ユージンは猫がニャーと口を開けて鳴くタイミングを見計らっておばあちゃんの口から飛び移った。
「出来た! あ、喋れるんだ」
ユージンは猫の口でそう言い、おばあちゃんは小さい悲鳴を上げながら猫を投げつけるように離した。
0224創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 22:39:23.86ID:uJrRbe1i
ユージンは猫の身体で町を駆けた。
身体を勝手に動かすと怒るチョウと違い、自由だった。
行きたいほうへ行き、好きなように町中を探険してみることも出来る。
しかし今は川へ行くことしか考えられなかった。
なぜかチョウと椿から目を離してはいけないという気がして、いつもの染め物現場へと急いだ。
いつもチョウの歩みに任せているので迷った。見覚えのある店や大樹や丘を辿って走っていると、ようやくいつもの川辺の燦めきが見えて来た。
0225創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 22:50:48.38ID:uJrRbe1i
「えー!」
猫の耳は遠くの声もよく拾った。まだ二人の姿が見えていないうちから椿のその声は聞き取れた。
「チョウって年上だったの?」
ユージンが叢を分けて進むと、岩に座って並んでいるチョウと椿が見えて来た。昨日とまったく同じおにぎりを食べているようだ。
「ひでぇな」チョウが言った。「お前14だろ? ってことは俺のこと13歳ぐらいだと思ってたのか?」
「12歳ぐらいかと……」
チョウの心が傷つく音が聞こえたような気がした。
ユージンは安心した。チョウが子供だと思われていたことがなぜか嬉しかった。
「ひでーよ……」チョウは予め椿がお椀に入れていたらしきお茶をぐびっと飲んだ。「対象だとすら思われてなかったのかよ」
「対象って?」椿はきょとんとした顔をした。
0226創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 23:02:57.02ID:uJrRbe1i
実際、外から改めて見るチョウは背が低く、喋り方も甘ったるく、年齢よりも幼く見える。
しかしユージンは、努力家で将来をしっかり見据えているチョウのことを知っている。
それだけで椿に対して優越感を覚えた。
椿が手を伸ばし、チョウの白い髪を触ったのが見えた。
「背もあたしと同じくらいだし」
チョウは何も答えず、すねたようにおにぎりを齧った。
やがて話題が変わる。チョウが椿の故郷のことを聞いたのだ。
「あたし、記憶がないの」と椿が打ち明けた。
自分と同じか、とユージンは少し驚きながら思った。
「慌てんなよ」と、チョウが自分に言ってくれたのと同じことを言い出した。「慌てず待ってれば、そのうち何かの拍子に思い出す、そんなもんさ」
ユージンは胸のあたりが気持ち悪くなった。猫が何か悪いものを食べたせいかとも思った。
しかし同時に猫の爪を最大に伸ばして椿に飛びかかり、その顔を傷だらけにしてやりたいという衝動にも駆られていた。
0227創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 23:19:04.53ID:uJrRbe1i
話題はさらに変わる。
椿が自分は記憶がないせいか、皆が当然知っているようなことでも知らないことがあると言い、
数日前、森でこの世界に迷い込んで来た人間が発見されたという噂話と合わせ、人間の話になっていた。
「人間って、どんなものなの?」椿がチョウに聞く。
「俺、まだ成人してないから、よくは知らない」
「成人の儀で人間の世界を自分の目で見て来る試練があるんだよね?」
「あぁ。だから見たわけじゃないからよくは知らない。けど、聞いた話じゃ俺らと大して違わないなしいぜ」
「何が違うの?」
「うーん。俺らみたいに『足るを知る』みたいなところがないとかかな。だから神通力が使えないんだってさ」
「足るを知る?」
「うん。俺らはさ、自然から恩恵を受けて、それ以上は望まないだろ? その代わり自然から『司る力』を貰ってる」
「うん」
「ところが人間は際限がないんだって。だからむしろ自然からしっぺ返しを食らってるんだって」
「ふーん」
0228創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 23:25:51.34ID:uJrRbe1i
「見た目もあたし達と違わないの?」椿がさらに人間のことを聞いた。
「いや、俺らみたいに角があったり羽根が生えてたり、髪が炎だったりするのはいないらしいよ」
椿は真面目な顔をして耳を傾けた。チョウが続けて喋る。
「ただ、俺や椿は、人間とほぼ同じ見た目みたいだぜ」
「あたし達って人間に似てるのね」
「あぁ」
「じゃあ、あたし達と人間は見分けがつかないのかな」
「いや、簡単につくよ」
「どうやって見分けるの?」
「人間はね」チョウはおにぎりを平らげると、はっきりと言った。「匂いが『きくらげ』に似てるんだ」
0229創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 23:39:30.85ID:uJrRbe1i
「きくらげってどんな匂い?」椿は驚いたように聞いた。「むしろ匂い、ないんじゃない?」
「俺もよく知らなかったんだけどさ」チョウは言った。「最近わかるようになった」
「どんな匂いなの?」
「穴が空いてるんだ、匂いに」
「穴?」
「うん。本来あるはずの自然な匂いが、むしろないんだ」
「ふーん?」
「だから、すぐわかる。不自然なんだ」
「どうして最近になってわかるようになったの?」
「身近にきくらげ臭い奴がいてさ」
「それって……人間?」
「あぁ」
「うそ!」
「本当」
0230創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/11/30(土) 23:51:40.49ID:uJrRbe1i
「退治しないの?」と椿は怯えたような目で言った。
「カタワなんだ」チョウは答えた。「だから何も出来ねーよ」
「森で見つかった人間、退治されたって聞いたよ?」
「人間を退治する必要があるのは、この世界の秩序を崩してめちゃくちゃにしてしまうからなんだって」
「でしょ?」椿は攻めるような目をして言った。「……だから」
「でも、人間がこの世界にいるだけでは、それだけでは何も起こらない」
「そうなの?」
「人間が恐ろしいのは、際限なく自然を変えて行こうとするからなんだ」
「変える?」
「うん。自分の欲望のままに、自然をねじ曲げてしまう。それが怖いんだって」
椿は黙り込んだ。
「だから」チョウは言った。「カタワだったら何も出来ない。自由じゃない人間は、無害」
0231創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 00:04:03.70ID:hGBwrxaO
「もしピンピン動ける人間を見つけたら、俺が退治してやるよ」
「退治するって、どうやるの?」
「殺すんだ」チョウは穏やかな笑顔で言った。「この世界で死んだ人間はその場で赤い魚になって、人間の世界に帰って行く。可哀想じゃない話だろ?」
「じゃあ、もし……」椿は言った。「あたしが人間だったら、どうする?」
「は!?」チョウは思わず大きな声を出した。
「あたし、記憶がないもの」椿は少し怯えたような顔をして、言った。「本当ほこの世界に迷い込んだ人間かもしれないよ?」
「そんなだったらとっくに匂いでわかっとるわ!」チョウは笑い飛ばすつもりで言い、すぐに考え込んだ。
身近にいるきくらげ臭い奴が最近、邪魔をしていたことに考えが及ぶ。
もし他にきくらげ臭い奴がいても、そいつの匂いが邪魔をして、気づかなかったということはあるかもしれない。
それに、これは椿の匂いを至近距離で嗅いでもいい機会でもあった。
「どれどれ」チョウは椿に顔を近づけた。「確かめてやんよ」
椿は嫌がる素振り一つなく、目を閉じるとチョウが近づくに任せた。
チョウは椿の赤い髪に鼻をつける勢いでその香りを嗅いだ。
ユージンは遠くから見ていた、チョウの表情が急変するその様を。
0232創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 00:24:58.44ID:hGBwrxaO
ユージンは走った。
走って、走って、走り続けた。
家に帰り、扉のない玄関を潜ると、おばあちゃんはベッドで昼寝をしていた。
ちょうど大口を開けて寝ていたので、そこへ飛び込んだ。
猫は自由になると、逃げるように外へ出て行った。

暫くするとチョウが帰って来た。
0233創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 08:46:29.66ID:hGBwrxaO
チョウは何も言わずに台所の前を素通りすると、自分の部屋へ行き、ベッドに倒れ込んだ。
絹さやの筋取りをしているおばあちゃんの足が勝手に歩き出し、チョウの部屋の入り口で止まった。
「チョウ」
ユージンがおばあちゃんの口を動かし声をかけると、チョウは魂が抜けきったような顔を上げた。
「昨日はごめん」ユージンは言った。「なんであんなこと言ったか、自分でもわからない」
チョウがにかっと笑った。
「こっち来るか? ユゥ」
ユージンはそう言われ、飛び上がるぐらい嬉しかった。
0234創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 08:58:01.14ID:hGBwrxaO
チョウが近くに寄って来て、おばあちゃんを食べる勢いで大口を開けた。
ユージンが飛び移っても、おばあちゃんは呆然として入口に立っていた。そしてややあって言った。
「なんなの?」
「なんでもないよ」チョウが背中を向ける。
「きくらげ臭いけど」
「あっち行ってよ。邪魔だよ、ばあちゃん」
ぶつぶつと呟きながらおばあちゃんが台所へ帰って行くと、チョウの口からユージンの声が出た。
「チョウ。おばあちゃんのこと、もっと構ってあげなよ。孫に相手にされないって寂しがってるよ」
「え。そうなのか?」チョウは驚いた声を出した。「……そっか。考えたら飯の時ぐらいしか会話してないもんな。わかった、後で肩でも揉んでやるよ」
「ところで」ユージンが言った。「ぼくって、人間なの?」
0235創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 09:14:37.29ID:hGBwrxaO
「ごめん」ユージンは素直に白状した。「今朝、猫に入ってチョウと椿の会話、盗み聞きしてたんだ」
「そうなのかよ!」チョウは怒ろうとして、すぐに穏やかな声で言った。「ま、考えたらいつも盗み聞きされてるようなもんか」
「ごめん。チョウのプライバシー、ないようなもんだよね」
「いいって。『お前は俺の一部』って考えるようにしてるから」
そう言われてユージンは嬉しくなった。しかしすぐに落ち込んだ声を出す。
「で、ぼく、人間なの?」
「そうだろ。きくらげ臭いもん。ヒコーキとか人間臭ぇことよく言うし」
「カタワだからって同情してるの?」
「そんなんじゃねーよ」チョウは何も隠さない口調で言った。「お前のこと嫌いじゃねーだけだ」
「本当!?」
「あぁ」
「嫌いじゃないってことは、好きなの?」
「はぁ?」
「好きなんだよね?」
「何だよ気持ち悪ィーな。あぁ、好きだよ」
「それは愛なの?」
「は、はぁ? 普通に好きだよ。愛じゃねーよ」
「ごめん。ぼく、うざい?」
「暇潰しにはなるわな」
「ところで」ユージンは聞いた。「椿はどんな匂いしたの?」
0236創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 09:23:31.83ID:hGBwrxaO
チョウは何か暫く考えるような顔をした。眉間に皺を寄せ、深い懊悩を漂わせる。
突然、枕を強く抱き締め、苦しみはじめた。
「ど、どうしたの?」ユージンがオロオロする。
「ああああ」チョウの口から震える声が漏れる。
「チョウ?」
チョウの身体から急に力が抜け、枕に顎を乗せてベッドに体重を預けきった。その顔は鼻の下が伸び、だらしなく笑っていた。
「びっくりしたよ。女の子があんなにいい匂いするなんて、思ってもなかった」
0237創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 09:33:54.47ID:hGBwrxaO
チョウは町へ出た。
町はいつも通り適度な活気に満ちあふれていた。
角のあるものやヒレのあるもの、動物の顔をしたものなどが買い物をしたり、ぶらぶら歩きをしたりしている。
「チョウ、ばあちゃんは元気かい?」
「チョウ、この間は屋根の修理ありがとな。また困ったことあったら頼む」
道行く人によく声をかけられた。チョウは結構人気者のようだ。
「ぼく、大丈夫かな」とユージンが言った。
「何が?」とチョウが聞いた。
「きくらげ臭いんでしょ? 匂いでバレないかな」
「俺の中にいりゃ大丈夫。俺の橙色の『気』がお前を隠してるよ」
0238創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 09:42:54.66ID:hGBwrxaO
数日前、森で発見された人間を仙人が退治した話が一昨日あたりからようやく民衆の間に伝わり、町はその噂で持ちきりだった。
「赤松子(チーソンズ)の所の弟子の水竜(シュイロン)が退治したらしいよ」
「おぉ、怖い」
「仙人さまさまだな」
「発見が遅れてたら、世界に異変が起きてたかもしれないよ」
「もし俺達が人間を見つけたらどうしよう?」
「仙人の所へ差し出すしかないよ」
「俺達じゃ何も出来ん」
「そもそも人間だってわかるのかね、見つけても? 俺達ごときに?」
「きくらげ臭いらしいよ」
「きくらげってどんな匂いだ?」
0239創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 09:57:57.17ID:hGBwrxaO
「大騒ぎだね」
「あぁ」
「ぼくも、バレたら……?」
「大丈夫だって」
「チョウは」ユージンは聞いた。「仙人なの?」
「たまご」
「おい、チョウ」
後ろから誰かに呼び止められ、チョウは身体を固くした。
振り返ると、いかにも強そうな戦士といった感じの男が手招きをしている。その髪の毛は赤と青の混じった燃え盛る炎で出来ていた。
「祝融(ズーロン)師匠」チョウは畏まりながらその男のほうへ歩んだ。「久しぶり」
「お前、最近修行をサボっているな?」祝融はチョウに厳しい目を向けた。
ユージンはチョウの橙色の『気』が急激に強くなるのを感じた。自分を隠そうとしているのだ。
「『気』を強くして見せたって駄目だ。俺にはお前の怠けぶりが透けて見えるぞ」
祝融はそう言ったが、中にいるユージンは透けて見えていないようだった。
「ごめんなさい」チョウは素直に認めた。「秋を司るものになれるよう、頑張ります」
「あぁ、頑張れ。お前には期待しているんだ」
なんて強そうな仙人だ、とユージンはチョウの背中のほうに隠れながらまじまじと見た。
そしてこんな強そうなのを見たらあの人が大喜びするぞ、とふいに思ったが、次にはあの人って誰だっけと忘れてしまった。
0240創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 10:18:40.91ID:hGBwrxaO
「兄ちゃんは火を司るものを継げますか?」チョウは祝融に聞いた。
祝融はため息を吐き、答えた。
「ズーロー(祝熱)には期待していない。私の後を継げるとしたら、正直今のところお前しかおらん」
「え! でも、俺は、秋を司る……」
「秋も五行においては火に属するのだ。火を司れば、同時に秋を司ることも可能。お前、私の後を継がんか」
「はい!」チョウは大喜びで即答した。「俺、頑張ります!」
「うむ。期待しているぞ」
祝融は逞しい手でチョウの白い髪を撫でた。
「うん?」
そして何かに気づいたように笑顔をしまうと、辺りを見回す。
「何か……きくらげ臭いな。私は町の警備に戻る」
そう言うと勇ましい背中を残して去って行った。
「俺、頑張らなきゃ……」チョウが喜びに震えながら言った。「帰って修行だ!」
ユージンも喜ばしかった。町へ出れば椿に会えるかもと期待して出て来たチョウのことを、正直面白く思っていなかった。
椿に魂を抜かれたチョウよりも、頑張って修行をするチョウのほうがユージンは好きだった。
0241創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 10:25:42.25ID:hGBwrxaO
しかし次の朝、チョウはいつも通り、修行以上に張り切って川での染め物に出掛けた。
「修行のほうを頑張るんじゃなかったの?」ユージンは不満そうに言った。
「わかってねーな。修行頑張るためにも椿には会わなきゃいけねーだろ」
しかしその朝、椿は来なかった。

その朝だけではなかった。
それから椿は朝の染め物に来なくなってしまった。
他の女達に聞いても誰も知らなかった。
チョウの前から椿は消えてしまった。
0242創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/01(日) 10:48:26.67ID:hGBwrxaO
【主な登場人物まとめ】

人間

・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
人間界にいた頃は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来た。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけており、人間界にいた時は登校拒否に陥っていた。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれていたが、義兄が渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。
今では自分を海底世界の住人だと思っており、『樹の一族』の一員として薄紅色の『気』が使え、黒かったおかっぱの髪も赤くなっている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
リウ・パイロンとメイファンが殺したケ 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
赤いイルカを助けた後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元凄腕の殺し屋。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。
ランの母親を15年前に殺した。現在、ララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
メイファンに身体を潜水艦に変えられ、喜んでいる。

海底世界の住人

・チョウ……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。秋を司る能力を持っている。橙色の『気』を使う。
言葉遣いが粗野で、歳より幼く見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・おばあちゃん……両親を失くした幼いチョウを引き取り育てた。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。
0243創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 08:37:20.96ID:tQq4hViU
「ねぇ……チョウ」
「……んー?」
「修行、しようよ」
「どー……でも……いいよ」
チョウはベッドに身を埋めた。
「頑張るって言ったじゃん、祝融先生に」
「頑張る意味がわからねー……」
ユージンは暫く黙った。言うことはあったが、言いたくなかった。しかし仕方なく言った。
「椿に会いたいんなら、椿の家は知ってるんでしょ?」
「あー……フォンおばさんには昔、世話になったからなー……」
「じゃあ、会いに行けば?」
「いやー、『何しに来たの?』って不思議がられらぁ……」
「偶然装って……」
「全然反対方向なのに偶然行く理由もねー……」
この世界には学校もなかった。子供達は皆、それぞれの親や師匠に物を教わって育つ。
「じゃあ」ユージンははっきり言った。「偶然がない限り、椿には一生会わないんだね?」
チョウは何も言わず、ただ洟をすすった。
0244創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 08:43:18.16ID:tQq4hViU
「慌てたって仕方ないんだもんね?」
「……」
「待ってれば、あっちからやって来てくれる。そんなもんなんだもんね?」
「ちくしょォーー!!」
チョウはいきなり叫ぶと、飛ぶように起き上がった。そして泣き声でまくし立てた。
「なんで何も言わずにいなくなんのよ!? 悲しいじゃんかよ? 何があったか知んねーけど、俺って椿にとってその程度の存在だったのかよ!?」
ユージンは何も言わなかった。ただ心の底で『そうなんじゃない?』と思っていた。
0245創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 12:13:11.25ID:dcOEOuAW
いてもたってもいられず、チョウは町へ出た。
用事なんて別になかった。
「町に出てどうするの?」ユージンが聞いた。
「ばったり会うしかねーだろ」
「ばったり会ってどうすんの?」
「今何してるかぐらい聞けるだろうがよ」
「町ってここしかないの?」
チョウは少し黙ってから、言った。
「『樹』の屋敷からは……反対側にもっと近い町がある。俺がそこ歩いてたら不自然なくらいの遠くに……」
「じゃあ」ユージンは呆れた声を出した。「ほぼ無理じゃん」
「黙れ! 誰かに聞いたら椿が今何してるか聞けるかもしんねーだろ」
そう言いながら、チョウはただひたすら歩いた、誰にも話しかけず。
たまに誰かから話しかけられても椿の話を持ち出さなかった。
「なんで聞かないの?」ユージンがとうとう聞いた。
「ふ、不自然だろ」チョウは口を尖らせて言った。「ま、まるで俺が椿のこと好きみたいでさ」
0246創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 12:22:13.10ID:dcOEOuAW
いつの間にかチョウは町を抜け、森を抜け、隣の町まで来てしまっていた。
「ここって……」
「あぁ」
「チョウがここ歩いてたら不自然なくらいの遠くのほうの町?」
「来ちまった」
道行く知らない顔のもの達が「あれ、どこの子だっけ」という風にチョウのことを横目で見ているような気がした。
別に恥ずかしいことではないのにチョウは早足になった。
誰にも話しかけず、ただひたすらに歩いて行くと、山のように大きな建造物がやがて見えて来た。
長い木の回廊に囲まれ、遠く真ん中のほうに大木が聳え、太い枝が点々と木造の建物を乗せている。
「あれって……」
「あぁ」チョウは恥ずかしそうに言った。「『樹の一族』の……椿の家だよ」
0247創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 12:38:58.09ID:dcOEOuAW
チョウは一段ずつ、木の長い回廊を上った。
「何これめんどくさい」ユージンが言った。「いちいち出入りするたびにここ通るの?」
「そうさ、何も不自然じゃない」チョウはユージンの聞いたこととはまったく別のことを答えた。「突然何も言わずに染め物に来なくなったんだ。どうしたのかと思って来てもおかしくねぇだろ」
「これだけの距離じゃなければ、ね」
「うるせー。俺は決めた。椿に会う」
前方の扉が突然開いた。チョウは飛び上がると泥棒のようにこっそり隠れた。
太ったおばさんが姿を現し、藁袋を手に回廊を降りて来る。
チョウは脇の茂みに身を隠し、おばさんが通り過ぎて行くとほっと息を吐いて立ち上がった。
「聞けよ」ユージンが突っ込んだ。
「るせー」チョウは顔を赤くした。
「まるで不審者じゃん」
「るせー」
「ぼく、代わろうか?」
「は?」
「身体の支配権を交代しよう。チョウに任せてたら日が暮れる。ぼくが聞いてあげるよ」
「ダメだ!」チョウは厳しく言った。「人間であるお前を自由に動けるようにはさせられねー」
0248創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 12:42:22.86ID:dcOEOuAW
そう言うとチョウは走り出した。物凄い勢いで回廊を、降りて行く。
「どうしたの?」ユージンは呆れて聞いた。
「帰る!」
チョウは町を抜け、森を抜け、また町を抜けると自分の家へ帰って行った。
0249創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 12:44:51.81ID:dcOEOuAW
ため息を吐きながらチョウが扉のない玄関を潜ろうとすると、隣の家から赤い髪の女の子が出て来た。
「あら?」椿はチョウに気がつき、声を出した。「チョウ?」
チョウはのけ反って飛び退くと、声も出せずに椿の顔を見た。
0250創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 18:16:00.89ID:dcOEOuAW
「なななんで……」としかチョウは言えずに固まってしまった。
「引っ越して来たの」椿は涼しい目をして微笑んだ。「隣がチョウの家だったなんて、偶然ね」
「偶然にも程がある!」ユージンが叫んだ。
「そ、そうね」チョウの口から怒ったような声が出たので椿は少し引いた。
「なんで……」チョウが言った。「なんで黙っていなくなるんだよ!」
椿は意味がわからなかったようで暫くぽかんとしていたが、やがて気がついたように言った。
「あ。ごめん。友達だもんね」
0251創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 18:40:20.31ID:dcOEOuAW
「どうしたね?」と年配の男性の声がし、椿の後から出て来た。
「お父さん」椿はその男性に言った。「お隣、友達の家だったの」
「おお、チョウじゃないか?」
「樹(シュウ)さん、久しぶり」チョウはぺこりと頭を下げた。
「久しぶりだな。前に会った時はまだこれぐらいの小さな子供だったが……」
そう言って、樹氏は言葉に詰まった。
『今でも充分ちっちゃいよね』ユージンは心の中で突っ込んだ。
「なんで?」チョウは椿と樹氏に聞いた。「あんな大きな屋敷があるのに、引っ越し?」
「東西二つともの森に病気が発生しててね」樹氏は言った。「暫く両方の森に近いここに住居を構え、樹木の容態を診ることになったんだ」
「おじいちゃんのクスノキも危ないの」椿が言った。「おじいちゃんは医者だけど、樹木の病気はわからないから」
「単身ここに住むつもりだったんだが」樹氏が照れ臭そうに言った。「娘の椿もついて来てくれると言ってね」
「どれぐらい滞在すんの?」とチョウが聞く。
「そうだね。短くても1年。長くかかれば2年はここで生活するかもしれない」
チョウの顔がびっくり笑いを浮かべるのをユージンは感じた。
「よろしく樹さん! ばあちゃんのご飯でよければ差し入れするよ! なんならウチに食べに来たらいいぜ」
チョウは樹氏の手を握り、ぶんぶんと振り回した。
「あぁ、こちらもよろしくな、チョウ」樹氏は優しそうな笑顔でその手を握り返す。
「あたしも、よろしくね」
そう言って笑顔で差し出した椿の手に怯むようにチョウは引いたが、ぼりぼりと頭を掻きながらぶっきらぼうに手を差し出した。
「お、おう。よろしくな」
椿の掌は少し冷たく、柔らかかった。
0252創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 19:06:07.93ID:dcOEOuAW
「急にお父さんの仕事が決まって、染め物は暇をいただいたの」
椿はチョウの部屋で紅葉を指で弄びながら話した。
「明日から機織りの仕事に入る予定よ」
「機織りかぁ」チョウはベッドを背もたれにして胡座をかき、言った。「女仕事だなぁ。男は入れねぇ……」
「染め物みたいに牛の背中に乗せる力仕事もないもんね。何? チョウも機織りやりたいの?」
チョウは頭を横に何度も振った。
「べっ、別にそんなつもりで言ったんじゃねぇよ!」
「頑張ってるんだね」椿は部屋に狭しと置かれたたくさんの鉢植えを見ながら言った。「秋風を司る仙人になるんだよね?」
「それどころじゃねぇぜ」チョウは自慢げに胸を張った。「俺、火を司る仙人になるんだ」
「それって最上位じゃない!」椿は目を見張った。「凄い。頑張って」
そう言われてチョウの脳に麻薬物質が昇って来るのを感じ、ユージンまで気持ちよくなった。
「椿はハナカイドウだったよな?」
「うん」椿はお茶を飲み干し、無邪気な笑顔を見せた。「ハナカイドウを司るものを目指してる」
「チュンって漢字、木へんに春だろ? お前もハナカイドウだけにとどまらず、名前の通り春を司るもの目指せばいいのに」
「お母さんは『才能ある』って期待してくれてるけど」椿は顔を赤くして下を向いた。「ムリだよ」
「似合うと思うぜ」チョウは俯いた椿の顔を覗き込むように言った。
「あ、そうだ」椿が顔を上げた。
「な、なんだよ」チョウが思わずのけ反る。
「チョウって、どんな漢字?」
「あぁ、さんずいに秋だ」
「いい字だね」椿は微笑んだ。「『湫』か」
0253創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 19:24:34.05ID:dcOEOuAW
まるで兄妹のように仲良く二人は育った。
やがて一年が過ぎ、二年が過ぎた。
チョウは17歳に、椿は16歳になった。
0254創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/02(月) 19:31:43.86ID:dcOEOuAW
悪魔は森に舞い降りた。
この世界に落ちる時に大きなショックがあった。
並みの者なら記憶ぐらい失っていたかもしれない。
しかし四歳の小さな身体を黒い『気』の鎧で守り、柔らかい腐葉土の上にクッションを効かせて着地すると、すぐに顔を上げた。
身体の主チェンナは予め眠らせてある。
「フン」メイファンは辺りを見回し、感想を漏らした。「何だこのインチキ臭い世界は」
0255創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 08:03:41.49ID:u/7tsAkt
四歳の顔に猛獣の眼が光った。何かが近づいて来る。
わざと気づかぬふりをしていると、それは向こうから声を投げて来た。
「なんだ、子供じゃないか」
振り向いてメイファンは少し驚いた。
水龍の頭を持つ白い衣服の仙人らしきものがそこに立っていた。そいつは言った。
「なぜ人間の子供がここにいる?」
メイファンは同情を誘う泣きべそ顔を作ると「何もわからない」という風に首を横に振った。
「そうか。可哀想だが、人間がここに来ちゃいけないんだよ」
「ここはどこ?」
「知らなくていいんだ」
「おじちゃんは誰?」
「それも知らなくていい。おじさんが人間の世界へ帰してあげよう」
そう言うなり水龍の口が大きく開き、蛇のように凄まじいスピードで噛みついて来た。
予め両手を刃物に変えていたメイファンは身体を回転させるとカウンターで水龍を斬り裂いた。
水龍の頭が飛び、口から下を残した身体が青い血の噴水を上げて突っ立っている。
夜の森の木々の上で鳥達がざわめいた。
「なかなか面白い世界のようだな」メイファンは笑った。「私の腕も錆びついてはいないようだ」
「わー! 怪獣」目を覚ましたチェンナが叫んだ。「退治だ! いぇーい!」
0256創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 08:13:10.58ID:u/7tsAkt
暫く歩くと町があった。深夜の町は眠っていた。
メイファンは建物を見て歩く。どれもこれも時代劇のセットのように古風な建物だ。
「なんだ、ここは。何百年前だ」
高い塀で囲まれた豪邸の前で立ち止まると、身体をドローンに変える。ゆっくり音もなく塀を飛び越えると、草木の生えるままにしてある大きな庭があった。
「庭の手入れぐらいせんのか」
そう呟きながら、中央にある大きな家の前で着地する。扉はなく、玄関にはただ大きな藍色の布が掛けてあるのみだった。
「無用心だな。強盗が入るぞ」
そう言いながらメイファンは家の中へ入って行った。
0257創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 08:52:05.71ID:u/7tsAkt
いびきをかいて真っ黒な住人達が寝ていた。
全員炭のように真っ黒で、目を瞑っているのでどこが顔なのかすらわからない。
身体つきと大きさで夫婦と3人の小さな子供だと見てとることが出来た。
「起きろ」
メイファンは主人らしきのの頭を蹴っ飛ばした。
「ひっ!?」
悲鳴を漏らして主人は起き上がったが、チェンナの身体を認めると安心したような声を出した。
「なんだ? 子供じゃないか。どこから入って来た?」
妻らしきのも目を覚まし、子供達も身を起こす。
「迷子だ」メイファンは言った。「ここはどこだ? 何という所だ?」
「ここは『火』の町だよ?」主人は優しい声で説明した。「お嬢ちゃん、どっから来た?」
「ちょっと。この子、きくらげ臭いよ」と妻が鼻をつまんだ。
「何?」主人はそう言われてチェンナの身体を匂う。「驚いたな。お嬢ちゃん、人間なのかい?」
「人間だったらどうなんだ?」
0258創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 10:11:38.95ID:6l7dhUJF
だからこそ今、
配達不要の書き方まで
マスターしないといけないのか 、それが今わかったところ
0259創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 10:38:55.29ID:u/7tsAkt
夫婦は顔を見合わせた。
ややあって主人のほうが言った。
「人間はこの世界に来たら仙人さまに会わなければならないんだよ」
「仙人に会わせてどうする気だ?」
「さぁ。後は仙人さまにお任せなんだ」
メイファンは糞可笑しそうに鼻で笑った。
「まぁ、今夜は遅い。泊まって行きなさい。これ、布団を出しておあげ」
「今夜だけ?」メイファンは可愛い声を作った。「子供だよ? 可哀想だと思わないの? ずっといさせてよ」
「悪いなぁ。決まりなんだ。明日の朝、仙人さまの所へ一緒に行こうね」
「ハン」メイファンは諦めた。
「ころそう」チェンナが言った。
メイファンはチェンナの手をナイフにすると、主人の喉元に突きつけた。
妻が震え上がり、3人の子供を守って抱き寄せた。
「な、なんだお前は!」主人が緊張した声を上げる。
「ひとつ聞く」メイファンはナイフを突きつけたまま、言った。「19歳の癖っ毛の男と14歳の黒いおかっぱの少女が最近この世界に迷い込んだはずだ。知っていることがあれば教えろ」 
「ししし知らない!」
「もしかしたら髪型は変わっているかもしれない」
メイファンは恐怖でハゲたランと髪の白くなった椿を思い浮かべながら、言った。
「とにかく19歳ぐらいの細マッチョの男と14歳ぐらいの大人しそうな娘だ」
「知らない! 本当だ! 最近この辺りに新しく入って来た顔はいない!」
「……そうか」
「どうか妻と子供達だけは……」主人は懇願した。
「では」メイファンは言い渡した。「お前が言い触らして回れ。人間界から小さな黒悪魔がやって来たと」
そう言うとメイファンは再びチェンナの身体をドローンに変え、満月の夜空へと舞い上がった。
0260創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 10:43:15.02ID:u/7tsAkt
「ころさないの?」
そのチェンナの質問には答えず、メイファンは呟いた。
「あいつら、やっぱ死んでるかもしれねーな。まぁ、それはそれでいいとして、あの大魚とだけは闘りてぇ」
0261創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 10:56:25.36ID:u/7tsAkt
椿は16歳になり、娘らしさを増していた。
つぼみのようだった胸も少し膨らみ、直線で描いたような身体のラインも艶やかな曲線に変わっていた。
髪は赤いおかっぱのまま少し伸び、そこだけ露出させた首の後ろから芳しい香りを立ち昇らせている。

チョウは17歳になったが、雰囲気はそのままだった。
歳よりも幼く見え、背もなかなか椿を追い越せない。
しかし祝融師匠の元に足繁く通い、若い者の中では神通力がずば抜けていると評判になっていた。

チョウと椿の関係は何も変わらないように見えた。
ただ、2年前よりそれは深まり、椿にとってもチョウは特別な相手のようになっていた。
0263創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 11:02:49.99ID:u/7tsAkt
ユージンは相変わらずチョウの中にいた。
17歳になってもほとんど精神的な成長はないと言えた。
チョウのすることをチョウの中から見るだけで、何もしていなかった。
どうせユージンがもし何かしようとしてもチョウが許さなかっただろうが、元々何もする気はなかった。
ただ『気』の使えるようになった椿にもユージンが見えるようになり、チョウと椿はユージンも交え、3人で兄妹のように仲良く育った。
0264創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 11:15:16.15ID:u/7tsAkt
ユージンの記憶喪失もそのままだった。
記憶を消された椿と違い、ユージンは努力して記憶を取り戻すことも出来ただろう。
しかし「幸せだからこのままでいいや」と、何の努力もせずに、椿が自分の実の妹だということも思い出さず、のほほんとした毎日を送っていた。
0265創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 11:21:59.87ID:u/7tsAkt
「こら、チョウ」椿が厳しい顔をして言った。「いじめは許さない」
「だって>>262が……」チョウは怒りを抑えきれない顔で振り返った。「椿を傷つける奴は許さねー!」
「わたしは大丈夫だから」椿は少し微笑みを浮かべる。「だから、>>262のこと許してあげて? ね」
>>262は「バーカ、チービ」と罵声を残して逃げて行った。
「大体、椿が巨大乳輪なわけないじゃん。そもそもの土台がちっちゃいのに」
「今の、ユゥ?」椿がチョウを睨む。
チョウは鶏のように何度も頷いた。
0266創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 13:21:09.41ID:u/7tsAkt
「いつものことだけど、お前、姉ちゃんみたいに上から物言うのやめろよな」
町で買い物をした帰り、並んで歩きながらチョウが椿に言う。
「忘れてっかもしんねーけど俺のが年上なんだぜ?」
「チョウはわたしの弟でしょ」
「ハァ!? てめー……!」
「可愛い可愛い弟くん」
椿がバカにした笑顔でチョウの白い髪をなでなでする。
「ハァ!? ハァ!? てめー、今に見てろよ!」
0267創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 13:30:16.50ID:u/7tsAkt
そんなチョウを感じながらユージンは思う。
こいつ、死ぬまで一生告白しないんだろうな。
慌てず、待ってれば、椿のほうから告白して来る、そんなもんさとか思っているんだろう。
確かに2年前、消えた椿は向こうのほうから戻って来たが、あんなのは滅多にない偶然だ。
何よりぼくは探している誰かにまだ出会えてないじゃないか。
そう思いながら、ユージンはチョウに何を言うつもりもなかった。
今のまま、このままの3人の関係ならいつまでも続いてもいいなと思っていた。
チョウは椿が側にいれば幸せで、椿はチョウを笑わせてくれる。
自分がいつも中にいてもチョウはちっとも邪魔がらず、いさせてくれる。
自分はいつもチョウの中にいて、チョウの暖かさを感じていられる。
椿のことはやはりうるさいし、しばしば猫になって引っ掻いてやりたい衝動には駆られるが、なぜか嫌いになれなかった。
0268創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 13:38:53.03ID:u/7tsAkt
ただひとつ欲を言うなら、チョウに自分を見てほしいという不満はあった。
チョウはいつでも椿を見ていて、自分のことは可哀想なカタワの人間、あるいは不憫な捨て猫ぐらいにしか見ていない。
それが悔しかった。
それである時、チョウにこう言い出した。
「ぼく、椿に入りたい」
チョウはとんでもないほど取り乱し、怒り出した。
何てこと言い出すんだこの変態とさえ言われた。
しかし椿に入ればチョウは自分を見てくれると思った。
それが単に物理的な意味での「見る」であってもよかった。
チョウの中にいるのは相変わらず、好きではあるけど落ち着かなかった。
いつもソワソワしてしまい、どっと疲れることもあった。
何よりおばあちゃんの中に入った時、思ったことがあったのだった。
「ぼく、チンコがないほうがしっくりくる」
0269創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 13:48:58.93ID:u/7tsAkt
「5月、か……」チョウが緑から青に変わり行く木の葉を眺めながら言った。「もうすぐだな。椿の成人の儀」
「うん」椿が少し不安そうに頷く。「チョウより一足先に大人になっちゃうね。年下なのに」
「ったくよー。なんで女のほうが成長が早いんだよ。神様も不平等だよな」
「それで……言うの遅くなっちゃったけど、成人の儀がある6月までには『樹』の家に帰るの」
チョウが買い物の紙袋を落とした。
「は? 隣からいなくなっちまうのか?」
「うん。お父さんの仕事もちょうど終わりそうだし」
「なんで黙ってたんだよ!?」
「え?」
「ひでーよ! ある日突然いなくなっちまうつもりだったのかよ!?」
「あ、ごめん」椿はチョウが何を怒っているのかわからないという風に言った。「別に遠くなるだけで、会えなくなるわけじゃないじゃない」
0270創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 14:11:13.31ID:u/7tsAkt
「皆もう知っていると思うが、昨夜『水の森』で赤松子道士の一番弟子だった水龍が何者かに殺害された」
祝融は屋敷にすべての弟子を集め、それを前にして言った。
「そして同じく昨夜、この町で殺されそうになった者がいる。犯人は小さな子供の姿をしており、人間界から来た黒い悪魔と名乗ったそうだ」
その話は誰もが初耳だったらしく、弟子達はざわめいた。
「祝融先生、ではその悪魔とやらが水龍道士を殺した犯人なんですか?」
「確定ではない。しかしその確率が高い。この世界に人間界から落ちて来るものは決まって『水の森』に着地する。水龍道士はそれを見張る役を務めていたからな」
「では皆でその悪魔を探しましょう」
「ウム。しかし」祝融は皆に言い聞かせた。「見つけても、争うな。必ず私に報告せよ。赤松子や他の道士でもよい」
「了解しました」
「いいな? 手は出すな。相手は私達道士がする」
0271創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 14:19:07.84ID:u/7tsAkt
「黒い悪魔だって。怖いね」ユージンが言った。
しかしチョウは祝融の話を聞いてはいたが、元気がなかった。
そんなチョウのところへ祝融がやって来て、声をかけた。
「どうした、チョウ? お前のことだから真っ先に『俺が退治してみせます』などと言い出すものと思っていたぞ」
「先生、俺……」チョウは顔を上げると、言った。「何が何でも守るよ」
祝融は意味がわからなそうな顔をしたが、頼もしそうにチョウを見つめて笑うと、頭をぽんと撫でた。
「あぁ、頼むぞ。手を出すな。自分を守れ」
皆が騒然となっている中で、たった一人、昼寝をしていて話を聞いていなかったものがいた。
チョウの義兄、ズーローであった。
0272創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 14:59:26.91ID:u/7tsAkt
散会してチョウが屋敷を出ると、表に赤松子道士がいた。
深い蒼の長髪に青い着物、いつも通り名とは全く違った青ずくめの姿だ。
細面の美しい顔を涙で歪め、祝融に助けを求めるように抱きついていた。
「祝融〜。惨いよ〜。水龍が……水龍が……」
「赤松子、しっかりしろ。我等で仇を討つのだ」
「あのひと、あんなんでめっちゃ強いなんて、信じられない」ユージンが言った。
「ウチの先生と互角だって噂だぜ」
「あの二人、出来てるの?」
「は? 男同士だぜ?」
「ありえない話じゃないじゃん」
0273創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 20:56:13.82ID:8CtqExzM
しかし『黒い悪魔』は見つからなかった。
見慣れない四歳の子供が歩いていたらすぐに目立つというのに。
町にも森にも目撃者は現れなかった。
鼻の利く竜の馬が駆り出されたが、『マイナスの匂い』を放つ人間の探索には意味をなさなかった。
一体、悪魔はどこにいるのか。
そもそも本当にそんなものが存在するのか。
やがて祝融と赤松子を除き、人々は黒い悪魔のことを忘れて行った。
0274創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:00:20.89ID:DtCsDxbN
チョウは手綱をふるう。
「ちくしょーっ! 待てーっ!」
「アハハ! チョウ、早く!」
椿は笑いながら先を駆けて行く。
赤い馬に乗り、チョウは椿の緑の馬を追いかけた。
草原があっという間に後ろに流れて行く。
時間は緩やかに、穏やかに二人だけの世界を包み込んでいた。
0275創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:08:55.73ID:DtCsDxbN
川のほとりがゴールだった。椿が一足先に到達し、馬の足を緩める。
遅れて来たチョウも手綱を緩め、汗を拭き、息を整えると馬を降り、そのまま草に臥れた。
「ちくしょー……とうとう椿に勝てなかったぜ」
「フフ、22連勝。前はチョウのほうが速かったのにね」
そう言うと椿はチョウのすぐ隣に寝転んだ。
暫く草に寝転び、目に見えない風を二人で見つめた。
風は汗をかいた肌をくすぐり、二人の髪を弄び、遠くの川面をキラキラと揺らした。
「いい風」椿が言った。
チョウはずっと何かを考えながら黙っていたが、意を決したように口を開いた。
「椿」
「ん?」
「俺さ……」
「うん」
0276創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:26:41.21ID:DtCsDxbN
「えっとな。俺な、その……」
「何よ」椿はクスッと笑った。「へんなチョウ」
「お前のこと……」
椿は黙り、覚悟をするような真面目な顔になる。
「お前のこと……、尊敬してる」
椿の真顔が崩れた。すぐにまたクスッと笑い、身を起こす。
「何よ、それ。ありがとう」
チョウは真っ赤な顔をそむけると、慌てたように言った。
「な、なんだ俺! へんなこと言い出したな!」
「わたしもチョウのこと、尊敬してるよ」
「ほ、本当か?」チョウは向こうを向いたまま言った。
「ねぇチョウ、舟に乗らない?」
「あぁ、いいな」
椿は薄紅色の『気』を集めると、足元の草に込めた。すると地中から音を立てて、太短いが巨大な竹が顔を出す。
竹がみるみる差し出した笹の葉をチョウが火の力で焼き落とす。二人で端を折ると、瞬く間に二人の乗れる笹舟が完成した。
0277創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:38:42.56ID:DtCsDxbN
川に浮かべた大きな笹舟をチョウは竹の棒で漕いだ。
椿は船の先に楽しそうに膝を畳んで座り、何も言わずに景色を見ている。
右手には真っ赤な『火』の森があり、左手には青々とした『樹』の森があった。
チョウの住む『火』の町と椿の帰る『樹』の町はそう遠く離れているわけではないが、この森によって互いに遮られている。
「またこっちまで競争しに来るね」と椿が言った。「毎日は出来なくなるけど」
チョウは船を漕ぎながら小さな声で「あぁ」とだけ言った。
ずっと椿の後ろ姿を見つめていた。手を伸ばせば抱き締められる距離にあった。
もうすぐ6月がやって来る。
ユージンはずっと黙っていた。穏やかな時間と川面の涼しさに言葉を忘れていた。
0278創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:51:37.64ID:DtCsDxbN
「なんとも風雅だな」
部屋の調度品を眺めながら、メイファンは馬鹿にするように言った。
「毛沢東の文化大革命はこの世界には起こらなかったんだな」
そして床に根を張る白い髭を足でコツコツと蹴った。
「……それで、なぜ私を匿う?」
問いかけられた老人は淹れた茶を持ち、振り返った。
「儂は医者だ。人を助けるのが務めだからな」
フンと鼻で笑うと、メイファンは聞いた。
「ここに来た人間を他に知らないか? 細マッチョな男とおかっぱの娘だ」
「椿のことか」
「それだ」
「知っているぞ」
「どうした? 殺したか」
「助けた」
「務めだからか」
「いいや」老人は首を横に振った。「かわゆいからだ」
0279創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:57:44.37ID:DtCsDxbN
老人は立派な桐の引き出しを開けると、中から大量のブロマイドを取り出した。
「儂はこう見えてアイドルオタクなのだ」
「ほう?」メイファンは身を乗り出した。
「この世界にはアイドルなどというものはない。ゆえに人間世界からこういうものを取り寄せているのだ」
「なかなか話の合いそうなジジイだな」芸能人オタクのメイファンは目を輝かせた。
「飛鳥さんとよだっちょなど、見ていてたまらんものがある」
「小動物より可愛いよな」
「あぁ……かわゆい。椿にもそんなかわゆさを感じてしまったのだ」
「なるほどな」メイファンは深く納得した。「お前、変わり者だってよく言われるだろ?」
0280創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:08:37.75ID:DtCsDxbN
老人は髭に包まれた顔を笑わせた。
「医術というものは自然に反するものだ。死ぬ運命のものを引き戻すのだからな」
「誰でも死にたくはねーだろ」
「無論。それゆえ皆、儂に助けを求める。が、儂は自然に反する変わり者、嫌われ者だ」
「ふーん」
「それゆえここには誰もやっては来ん。患者の元には儂のほうから出向く。だからお前はここにいれば安全だ」
「そいつはどうも」
「あぁ、ただ一人、訪ねて来てくれる者がいる。それが椿だ。かわゆいのぅ」
「来るのか、ここに?」
「あぁ」老人は言った。「ただし、儂が人間の記憶を消した。お前のことは覚えていない」
「そうなのか」
「あぁ、悪いことをしたかな」
「構わん。勝手にしろ。それよりジジイ、お前、若い頃は相当強かったろ?」
メイファンは老人の身体から薄く漂っている薄紅色の『気』を見ながら、言った。
0281創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:33:11.08ID:DtCsDxbN
「おじいちゃん!」
そう言いながら笑顔で椿が飛び込んで来た。
「どうした、椿。また困ったことが起こったのかね?」
椿は首を横に振ると、クスノキの老人の胸に手を添えた。
「わたし、もうすぐ成人するのよ」
「あぁ、知っている」クスノキは優しく笑った。「おめでとう」
「それでね、でも不安だから。おじいちゃんに色々お話聞きたいの。……あら? 誰か来てたの?」
椿は卓の上の冷めた茶を見て言った。
「栗鼠だよ」老人は答えた。「さ、椿にも茶を淹れてあげよう」
0282創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:41:06.59ID:DtCsDxbN
椿が帰ると、調度品に姿を変えていたメイファンは『気』を解いた。
「探していたんじゃなかったのかね? あの子を」
老人が聞くと、メイファンは欠伸をしながら答えた。
「どうせ私のことは覚えていない。覚えていない以上、椿にとって私は通報すべきお尋ね者だ」
そして自分で新たに毒の有無を確認しながら茶を淹れた。
「まぁ無事な顔を見れてよかった。しかし……」茶を口に運ぶ。「中にもう一人いなかったな。あっちは死んだか」
茶を卓に置くと、付け加えた。
「もったいない」
0283創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:50:55.02ID:DtCsDxbN
クスノキの老人が激しく咳き込んだ。
「病気か?」メイファンは茶を飲みながら聞く。「椿もお前の身体を心配していた」
「なに」老人は笑いながら答えた。「三千年年も生きていれば、病気にもなかなか勝てなくなるものだ」
0284創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 09:55:34.00ID:5oJ1rDdy
「李さんの、ばかばかばか眉毛が痒いよ目玉がかゆいよズボン脱いで寒いんだけど、 今てんとう虫のサンバ歌ってるんだよ!!」
0285創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 10:14:06.26ID:DtCsDxbN
「そんなことより、だ」メイファンはウズウズしながら老人に尋ねた。「ここにとんでもなくどでかい赤い魚のバケモノがいるだろう? 強そうな」
「赤き……巨大魚だと?」クスノキの老人は答えた。「知らんな。そのような神獣もここにはおらん」
「そうなの?」メイファンはがっかりしたが、気を取り直してさらに聞いた。「他になんか強い奴いるだろ? ここなら……」
「祝融と赤松子は強いぞ」
「ほう!」メイファンはメモした。「生意気そうだな。神様の名前なんかつけやがって」
「あの二人には決して見つかるでないぞ」
「は?」
「闘おうなどと思ってはならん。お前ごときは一瞬で粉粉にされる」
「ハアァ〜?」メイファンのこめかみで青筋がビキビキと音を立てた。
「はらへった!」チェンナが騒ぎ出した。
0287創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 15:53:05.01ID:gcvY6MWO
メイファンはクスノキの老人を信用することにした。
やたら薬臭い具だくさんのスープを振る舞われ、有り難くチェンナの身体に栄養と満腹感を与えた。
ベッドを貸すと言われたが、老人の寝床を取るわけにも行かず、クスノキの洞の中に『気』で寝袋を作り、寝た。
0288創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 15:58:00.29ID:gcvY6MWO
月を見上げながらメイファンは聞いた。
「チェンナ、寂しくはないか?」
「ちっとも」
「ママに会いたくはないのか?」
「んーん。だぁじょぶだよ」
メイの奴、娘に愛されてねーんだな、と思った時、チェンナが言った。
「だってメイファン、ママとおんなじにおいだもん」
「あぁ、そうか」メイファンはそれで合点がいった。「私はお前のママの出来損ないバージョンだったな」
0289創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 16:17:11.46ID:gcvY6MWO
チョウはベッドに寝転び、ずっと親指の爪を囓っていた。
隣の家からは気配も物音も消えていた。
「……なぁ」
「ん?」ユージンが返事をする。
「昼間……あの時、俺が気持ちを伝えてたら……何か変わってたのかな」
「変わってただろうね」ユージンは答えた。「どっちにかはわかんないけど」
ユージンの言葉で悪いほうの想像をしてしまい、チョウはヒィッと小さく悲鳴を上げ、頭を押さえた。そしてそれきりまた黙り込んでしまった。
ユージンはどうしてあげたらいいのかわからなかった。
そもそも椿のどこがそんなにいいのかがわからなかった。
ユージンにとって椿は相変わらず、そこそこ顔は可愛いけれど小うるさくて地味なだけの女の子だった。
地味なくせに花々しい赤い髪が嫌いだった。
「椿のどこがいいの?」かける言葉が見つからず、思わず聞いてしまった。
別に知りたくはなかった。答えてくれなくてよかった。
チョウは何も答えなかった。ただ、何かを考えながら速いテンポで指を折りはじめたので、ユージンは言葉を待った。
やがて無言のまま二人とも眠ってしまった。
0290創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 16:49:18.95ID:gcvY6MWO
6月がやって来た。

椿の成人の儀は始められた。
その第一段階は人間界へ赴き、人間の生活を見て来ることだった。

『樹の一族』が集まり、樹氏や鳳婦人の親しい者も集まり、宴が催された。
椿も仕事仲間の女友達を呼んだ。もちろんのようにチョウとユージンも招待されていた。

宴が終盤にさしかかると、皆は酒や料理を置き、外の広場へと移動した。
円形の広場の中心に丸く掘られた大きな穴があり、中には海水が満ちていた。

椿は皆が取り囲んで見守る中、穴を前に立つと、祈るように両手を前で合わせた。
身体に密着した赤い無地の旗袍に黒い長スカートを穿いている。

やがて顔を上げると、泳ぎ出すように椿の身体が空へと浮かび上がった。
薄紅色の『気』に包まれ、ゆっくりと回転しながら、見えない力に身を任せるように椿は赤いイルカに姿を変えて行く。

「綺麗……」ユージンが呟いた。「椿のくせに……綺麗」
チョウはただ口を開けて見つめていた。

赤いイルカに変わりきった椿は穴へ飛び込んだ。
水飛沫を上げ、飛び込んだ向こう側は人間界だ。
0291創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 17:07:19.21ID:gcvY6MWO
【主な登場人物まとめ】

人間

・ユージン(李 玉金)……17歳の少年。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。身体がないのでチンコもないが、性同一性障害。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
人間界にいた頃は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来た。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……16歳の少女。人間界にいた時は登校拒否を患っていた。ユージン曰く地味だがそこそこ可愛い顔をしている。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれていたが、義兄が渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。
今では自分を海底世界の住人だと思っており、『樹の一族』の一員として薄紅色の『気』が使え、黒かったおかっぱの髪も赤くなっている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
リウ・パイロンとメイファンが殺したケ 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
赤いイルカを助けた後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
メイファンに身体を潜水艦に変えられ、喜んでいる。

海底世界の住人

・チョウ……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。秋を司る能力を持っている。橙色の『気』を使う。
言葉遣いが粗野で、歳より幼く見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。
0292創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 06:46:01.26ID:twuXFjIQ
「行っちゃったね、椿」
チョウと並んで見ていたルーシェン(鹿神)が言った。
「あぁ……」チョウは放心したように答えた。
「ところでチョウ」ルーシェンは高いところから見下ろしながら、言った。「椿とはもうヤッたの?」
「バーカ」チョウは軽く流した。
「椿、寂しがってたよ」
「へぇ? そっか」
「せっかく待ってたのにチョウが抱いてくれなかったって」
「へぇ〜」
「いつ処女を奪ってくれるのかなぁって、ボクに相談しに来てた」
「もう黙れ。殴るぞ」少しだけ気持ちよさそうに聞いていたチョウはさすがに態度を変えた。
0293創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 06:47:17.71ID:twuXFjIQ
ルーシェンはチョウと椿共通の友達だが、他のものからは嫌われていた。
明るい性格なのだが、嘘ばかりつくので相手にされていなかった。
『ルーシェンの言うことは10個のうち9個が嘘」というのが評判だった。
それさえなければ、スラリと伸びた長身、中性的な顔だち、魅力的な頭の二本の短い角、気さくな性格と、少なくとも女の子にモテない要素はない。
きっかけがあって仲良くなったが、それがなければチョウも相手にしていないところだった。
0294創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 06:55:18.71ID:twuXFjIQ
「本当なのに〜」ルーシェンはなおも言った。「とりあえずチョウ、椿が帰って来たら告白しなよ」
チョウはすべて信じずに聞いていたのに、なんだかいつの間にかルーシェンの嘘に乗せられていた。
「うん」チョウは頷いた。「告白する」
ルーシェンは嬉しそうに笑うと上半身を折り、チョウの顔を覗き込んだ。
「言ったね?」
「あぁ」
「告白しなよ?」
「しつこいな」
「椿が帰って来るのは一年後の春かぁ」
「明日の朝だ、バカ」
皆は椿を見送ると席に戻り、宴を続けた。
チョウとルーシェンも席に戻ると、バカ話をしながら肉を食い、烏龍茶を飲んだ。
0295創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 08:20:04.66ID:Pmn1YG93
生ゴミに注意!
0296創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 09:34:46.95ID:X5WZi0NY
ルーシェンのいうことは10に9は嘘だ

つまり1は本当のことをいうのだ

チョウは信じたかったのだ

椿が自分のことを好きだという話が1のほうなのだと
0297創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 15:33:46.36ID:Pmn1YG93
先には大穴!

警告
0298創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 19:51:20.06ID:D9bwzt11
ZOZO創業者の前澤友作氏(44)が、11月29日にネット動画のYouTubeチャンネルを立ち上げた。
その第1弾が「1000億円を通帳に記帳してみた」である。
案の定、“下品の極み”なんて言う声が相次いで……。

(中略)

精神科医の片田珠美氏は

「なぜ、こんなことをするのか。前澤氏のレゾンデートル、つまり自分の存在価値、生きる理由は、金儲けをすることだけなんでしょうね。
その背景には、コンプレックスがあるのではないでしょうか。
ミュージシャンになろうとして失敗し、ZOZOで金を儲けることができても、事業が行き詰って、Yahoo!に売却せざるを得なくなった。
本人もかなりショックだったと思います。
そういうのを払拭するために、1000億円入金されたっていうことを見せびらかせたかったわけです。
本物の金持ちは、こんなこと絶対しませんよ」

「世間から何と思われるか、想像力が欠如しているのかもしれません。
前澤さんといえば、先日、剛力彩芽さんと破局していたことが明らかになりました。
清純なイメージの彼女といきなり別れれば、彼女の女優としての商品価値がどれだけ落ちるかということを考えていない。
想像力が働かないのです。
相手が傷ついても、その痛みがわからない人なのでしょう。
そういう意味で彼は、他人の苦しみに鈍感で哀れみも感じない、情性欠如者の可能性も考えられます」と分析した。
0299創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 21:53:06.38ID:dmaF0Xpb
赤いイルカに姿を変えた椿は暗い海を泳ぎ、上へ上へと向かった。
たまにキラキラと銀の鱗を光らせて魚群が通るのを立ち止まって見とれながら、人間界らしい景色を見るために泳いだ。
たまに上下がわからなくなった時は、力を抜いた。沈む感覚と浮き上がる感覚で、進むべき方向がわかった。
やがて匂いが変わりはじめた。
嗅いだこともない胸の悪くなる匂いとともに、美しかった海が黒くなりはじめた。
黒い海の向こうが明るくなったかと思うと、椿は海の上に顔を出した。
荒波が赤いイルカの姿を揺らす。他には何もなかった。空はどんよりと曇っている。
遠くから苦しむ声が聞こえて来た。椿はすぐにその方向へ、海の上を泳ぎはじめた。
0300創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 22:00:05.90ID:dmaF0Xpb
巨大な鉄の船が何か黒いものを海に撒いていた。
椿は遠くからそれを見つけ、近づこうとした。
しかしまだまだ遠いのに、それ以上は近づくことが出来ない。本能が死の危険を報せていた。
鉄の船が撒く黒いものに包まれて、夥しいほどの海の生命が死んで行くのを感じた。
苦しみの声が怨霊のように椿もそこへ引きずり込もうとする。
思わず顔を背ける。彼らを見捨てて逃げるしかなかった。
0301創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 22:18:20.25ID:dmaF0Xpb
遠くの陸地には神を脅かすように高く聳える建造物が見えた。
馬よりも速く走る車と竜よりも速く飛ぶ飛行機を見た。
しかし人間は小さすぎてどこにも姿を見つけることが出来なかった。

ようやく小さな舟に乗った3人の人間に遭遇した。自分やチョウと違うのは髪の色が真っ黒なことぐらいで、他は何も変わらないように見える若者達だった。
椿は海から顔を出し、微笑んで3人に手を振る動作をした。
「おい、変な色のイルカがいるぜ」
「誰が仕留めるか勝負しよう」 
「おい、動画録れよ?」
椿の身体を掠めるように、ざらついた銀色の銛が打たれ、海面に穴を空けた。
「チッ! 惜しい」
さらに続けて2本、自動連続射出式の銛が椿めがけて飛んで来た。
連続で次々と飛んで来る冷たい凶器から椿は逃げた。海へ潜っても3人は暫く潜って追いかけて来た。
0302創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 22:51:29.66ID:7ZdN0qZP
身も心も早くも憔悴しきっていた。
夜を待たずに帰ろうかとも思った。
しかしまだ陽は水平線にかかってすらいない。
とぼとぼと泳いでいると、突如押し寄せた大きな波に後ろから押された。
押された先に罠があった。
ちょうどそこに仕掛けられていた魚漁りの網は、椿の身体を受け止めると絡みついた。
「……!」
そこで初めて、この身体では声が出せないことを知った。
「……! ……!」
椿は出ない叫び声を上げようとしながら、網から抜け出そうともがいた。
もがけばもがくほど、網はきつく身体を縛り上げる。
0303創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 22:54:46.13ID:7ZdN0qZP
人間界の月が出た。
夜のうちには海底世界へ帰らなければならなかった。
椿は網にかかったまま、力を使い果たしてぐったりとしていた。
小魚達が身体を突っつきながら、自分が死ぬのを待っていた。
0304創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:07:36.21ID:7ZdN0qZP
ふと気がつくと誰かの声が遠くに聞こえた。辺りはすっかり明るくなってしまっていた。
気を失っていたせいか、少しは体力も戻っていた。
誰かの声は、そこから少し離れた崖の上から聞こえて来ていた。
「ミーミー!」とどこか聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
暫くすると男の人間らしき影が現れ、すぐにそれは高い崖の上からこちらへ向かって飛んだ。
椿は怖がり、身をすくめ、どうかこっちへ来ませんようにとでも言うように顔をそむけた。
「あれ?」と男の声がした。
目を合わさないようにしていると、その男は声を掛けて来た。
「まぬけだなぁ、お前」
そしてクスッと笑った。
0305創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:14:54.96ID:7ZdN0qZP
「待ってろよ」と言うなり、人間の男は近づいて来る。
椿は恐怖にもがき、逃げようとする。しかし動けば動くほどに網が身体を強く絞めつけた。椿は苦痛に顔を歪める。
「じっとしてろ」
そう言うと男はおぞましいことに椿の身体に触れて来た。あまつさえ、どこにしまっていたのかナイフを取り出すと、椿に突きつけた。
しかしそのナイフで切りつけはじめたのは椿の身体ではなく、椿が絡まっている網だった。
0306創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:24:59.45ID:/UH5v2Ee
網は固く、なかなか切ることが出来ず、しかし男は真剣な顔で椿を助けようとしていた。
椿はもうもがくことはせずに、黙ってじっとその人間の男の顔を見ていた。
睫毛が長く、綺麗な顔をしていた。濡れてうねった髪の毛が柔らかそうで、触れてみたかった。
真剣な眼差しには優しさが漂っていた。紫色のくちびるが美しくて、椿は思わず見とれていた。

男はまるで励ますように椿に話しかけた。
「これでも切れなかったらメイファンちゃんを呼ぶよ」
そう言った途端、それまでびくともしなかった網が、まるで紙のように簡単に切れた。
0307創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:33:20.89ID:PfKdlfTG
「さ、行けよ」と人間の男は言い、にかっと笑った。
網の束縛から自由になったのを確かめると、椿は礼も言わずに逃げ出した。
「もうまぬけな捕まり方するんじゃないぞぉー!」
そんな言葉に見送られながら海へ潜ろうとした時、崖の上から必死で叫んでいる声に気づき、振り向いた。
「……ン兄ィ!」
「ラン兄ィ!」
遠く崖の上で少女らしき影が何やら2種類の声で、声を限りに叫んでいた。
0308創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:48:02.94ID:k9H+fr7V
さっきの人間の男が急いで泳ぎ出したのが見えた。
その後をまるで追うように、大きな渦潮がやって来ていた。
椿は迷った。どうすればいいのかわからず、動けなかった。
次の瞬間には身体が勝手に動いていた。男を助けに最高速で向かう。
しかし椿の目の前で、男は遂に渦潮に足を捕まれると、そのまま引きずり込まれた。

椿は海に潜り、その行方を追いかけた。
男の身体は海中で、渦に振り回されながらも抵抗していた。
まるで鎧でも着ているかのようにその身を守っていたが、やがて鎧は激しい竜巻に剥ぎ取られた。
身体のあらゆる部位が有り得ないほうへ曲がり、骨は砕かれ、内蔵は圧し潰され、風に踊る紙切れのようにされるがままに、
男は海の底へと引きずり込まれて行った。
0309創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:56:25.97ID:ll1eiuAH
海の底の岩盤の上に、その人間の男は目を閉じ、仰向けになって息絶えていた。
椿はその回りを何度も何度も泳ぎ回り、顔を覗き込んだ。
「……! ……!」
呼び掛けても声が出せなかった。
やがて深く目を閉じ、勢いよく開けると、その目には強い決意が浮かんでいた。
椿は人間の男に背を向け、もう一度だけ振り返ると、海底の家へと帰りはじめた。
0310創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:59:56.53ID:cF3l/i9b
明治大学校歌・応援歌
1. 白雲なびく駿河台     2.権利自由の揺籃の
  眉秀でたる若人が       歴史は古く今もなお
撞くや時代の暁の鐘      強き光に輝けり
文化の潮みちびきて      独立自治の旗翳し
遂げし維新の栄になふ     高き理想の道を行く
明治その名ぞ我等が母校    我等が健児の意気をば知るや
明治その名ぞ我等が母校    我等が健児の意気をば知るや

3. 霊峰不二を仰ぎつつ
刻古研鑚他念なき
我等に燃ゆる希望あり
いでや東亜の一角に
時代の夢を破るべく
正義の鐘打ちて鳴らさむ
正義の鐘打ちて鳴らさむ
0311創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 00:01:47.20ID:9TDc1BgQ
赤いイルカが帰って来た。海水から顔を出した瞬間、椿の姿に戻った。
口で呼吸を整えていると、母の鳳(フォン)が見つけて飛んで来た。
「椿! 遅かったから心配したよ! お父さんも……」
「わたし……」
そう言うなり椿はその場に倒れ、気を失った。
0312創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 00:12:23.36ID:25Tumgh3
椿は目を開けた。
見慣れた自分のベッドの上だった。
窓からは緑色の陽射しが差し込んでいる。
扉を開けて入って来た母が、いつも通りの優しい微笑みを浮かべ、言った。
「お帰り、椿。人間の世界はどうだった?」
そしてベッドの脇のテーブルに果実を乗せた皿を置く。
果実は青や紫や緑の色をぷるぷると震わせた。
「聞いていた通りだった」椿はそう言うと、目をこすった。「汚くて、恐ろしくて、そして哀しい世界……」
「これであなたも大人の仲間入りね」母は嬉しそうに言う。「明日には成人式を開いてくださるそうよ」
「でも……」椿は自分の話を続けた。「罠にかかった私を助けてくれた、優しい人間にも出会ったわ」
「そんな人間もいるだろうね」母は落ち着いた声で言った。「その人間はお前を助けてからどうしたんだい?」
「死んだわ。渦潮に飲まれて」椿は赤いおかっぱの髪に手を埋めて、俯いた。「海底で看取ったの」
0313創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 00:17:51.07ID:+r2q14o3
「そうかい。それは残念なことをしたね」母は少しだけ悲しそうな顔をした。「でもそれが自然の掟だよ」
「わたし……あの人間を助けたい」
「椿?」
「あの人の笑顔、優しかったもの」
「気持ちはわかるが、無理を言うんじゃないよ」
「生き返らせる方法は、ないの? だってわたし達は人間の生をも司る……」
「椿!」母は厳しい声で叱った。「自然の流れに逆らってはいけない。そんなことをしては必ず世界に歪みが生じるよ」
椿は素直に頷いた。
「さ、悲しいことは忘れて、今日はゆっくりしなさい。あなたはハナカイドウを任される神になるのよ」
そう言うと母は部屋を出て行った。
「神じゃない。わたし達は……」椿は一人、呟いた。「でも……あるんだ。自然の流れに逆らう、方法が……」
0314創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 00:31:59.74ID:9yskSPNW
チョウは朝の染め物仕事に出ていた。
遅れてルーシェンもやって来た。
「チョウ、おはよ」
「オス、ルー……。なぁ、椿、帰って来たのかなぁ」チョウは真っ赤な目をして言った。
「うん。昨日の夜遅くに帰って来たらしいよ」ルーシェンはにっこりと笑って言った。
「お前……」チョウが怖い顔になる。「そんな嘘はつかねぇよな? まさか……」
「本当だって」
ルーシェンは綺麗な緑色の目に優しさを浮かべてチョウを見つめた。
チョウもルーシェンの目をじっと見つめた。
「そっか! よかった……!」チョウは顔を崩すと、大きく息をついた。「よーし元気出た! 早く仕事終わらせて会いに行こうぜ!」
「つまり」ルーシェンがにんまりと笑う。「告白の時だね?」
0315創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 00:36:02.87ID:ljfAMkOB
糞みたいな書き込み止めろや!
0316創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 00:36:57.79ID:ljfAMkOB
きもいわぁ
0318創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 07:50:01.13ID:/OEInF1U
「なんだとこのヤロー」
ルーシェンはそう言うと下半身を鹿に変えた
ドカドカと走り寄るとあっという間に>>315>>317を踏み潰した
0319創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 10:20:39.87ID:AnKBC6a4
回廊の袂で待っていると、椿が帰って来るのが見えた。
「あ、チョウ。ルー」
その声にチョウとルーシェンは揃って立ち上がる。
「てめー、帰って来てたんなら顔ぐらい見せに来いよ」
「ごめん」椿はそう言いながら微笑んだ。「おじいちゃんのところへ行ってたの」
「何か相談事か?」
椿は首を横に振った。
「新しい黒い調度品を入れてあったのに、褒め忘れてたから」
「人間界はどうだった?」
「平気よ」椿は涼しい顔で言った。「いい経験になったわ。楽しくて少し居すぎちゃったけど……。こっちは変わった事とかあった?」
「うん。『水』の町が大水害でね。死者がたくさん……」
「ルー……」チョウが遮った。「不謹慎」
椿はクスクスと笑う。
「それに『火』の町が火事になるぐらいあり得んわ。赤松子がいるのに」
「椿」ルーシェンが聞いた。「その手に持ってる地図みたいなの、何?」
「とりあえず部屋に上がったら?」椿はそう言いながら手に持った地図を隠した。
0320創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 10:34:43.83ID:AnKBC6a4
「いや、帰るわ」とチョウが言った。
「そう?」椿は先を行きかけて、振り向いた。「お茶ぐらい飲んで行けばいいのに」
「うん。そうだよチョウ、話があるだろう」ルーシェンがにっこり笑う。「椿、チョウが椿に話があるんだって」
「そうなの?」椿がチョウを見つめる。「何?」
「ないないないない!」チョウは手を振った。「顔、見に来ただけだ」
「なんならボク先に帰るけど?」ルーシェンが盗み聞きする気満々の顔で言う。
「何言ってんだバカ」チョウがルーシェンをどつく。「乗せて帰れ、バカ」
「ねぇ、チョウ」
椿に呼び止められ、心臓が止まる勢いで立ち止まると、チョウはゆっくり振り向いた。
「もう一回『お帰り』って言って」
「え?」
「別の声で」
「……あぁ」そう言うとチョウは黙った。その口を動かしてユージンが言った。「お帰り、椿」
「うん」椿はにっこりと笑った。「ただいま」
0321創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 10:44:09.24ID:AnKBC6a4
ルーシェンに乗ってカッポカッポと森を歩きながら、チョウは暫く何も言わなかった。
「嘘つき」とルーシェンが詰る。「告白するって言ったくせに」
「あぁ」チョウは答えた。「駄目だな、俺」
木漏れ日がそろそろと身体を射す暑さになりはじめていた。
「ところで最後の何なの?」ルーシェンが聞く。「チョウ、たまに別人みたいな声出すよね」
「あぁ」チョウは言った。「俺の中にさ、ユージンって名の人間が住んでるんだ」
「人間?」
「あぁ」
「チョウの中にいるの?」
「あぁ」
ルーシェンはカッカッカッカと声を上げて笑った。
「ボクみたいな嘘つくようになったね、チョウ」
0322創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 11:25:17.90ID:AnKBC6a4
ユージンはずっと黙っていた。チョウのふりをして発言することも控えていた。
人間は見つかったら即殺され、知性のない赤い魚に変えられ、人間界へ戻される。
ルーシェンは嘘つきだがいい奴だ。しかし、それでも人間を『世界を歪めるもの』として危険視するのがこの世界に住むものの『当たり前』なのだ。

お喋りなユージンだが、黙っているのは苦ではなかった。
自分で喋るのと同じぐらい、好きな人が喋るのを聞くのも好きだった。
身体の中にいるだけで充分気持ちが満たされ、チョウとは何時間も話をしないでいられる。
ルーシェンのことも、嘘つきだけど好きだった。
0323創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 11:35:28.02ID:AnKBC6a4
ユージンは思い出す。
ある朝、川での染め物仕事に新しい顔がやって来た。
4年ぐらい前から『火』の町にやって来て一人で住みはじめていた年齢不詳の若者だが、誰も親しいものはいなかった。
スラリと背が高く、長い2本の脚が美しく、中性的な顔立ちがミステリアスで、頭に魅力的な2本の短い角を持っていた。
女だらけの職場はすぐにピンク色のうっとりした笑顔で充満した。
同年代の女の子3人組がいそいそと声を掛けた。
「よろしくね。この仕事は初めて?」
するとルーシェンはにっこり笑うと、女の子の一人に言ったのだった。
「あっ。顔にうんこついてる。取ってあげるよ」
そしておもむろに女の子のほっぺたをつまむと、「取れないや」と大声を上げて笑った。
0324創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 12:02:14.10ID:AnKBC6a4
それだけなら「変わったひと」で済んだかもしれなかった。
しかしルーシェンは一朝だけで全員から嫌われた。
「あそこの茂みに何かいる」
と皆を緊張させ、動けなくしておいて、自分だけ鼻唄を唄いながら不器用な手つきで仕事をし、誰にも要領を聞かないので次々と不良染め物を生産した。
「おい、てめぇ」チョウが言いに行った。「仕事の邪魔しかしねーんなら帰れ」
するとルーシェンは悲しそうな顔を上げ、チョウに言った。
「ごめんね。ボク、ふざけてるつもりはないんだけど……」
その切実そうな美しい顔にチョウはどきりとして声を失った。ルーシェンは続けて言った。
「ボクの中に『ふざけ神』がいて、ふざけたことをさせるんだ。どうにもならないんだよ」
「てめぇ!」
チョウが怒声を上げかけた時、川の少し離れたところで大きな水音がした。
見るとパンダの子供が川に落ち、溺れている。
泳ぎに入ろうとしたチョウよりも先にルーシェンが動いた。足を4本の鹿の脚に変え、その長い脚で川の中を駆け出した。
その顔は真剣で、ひたむきな者のもつ美しさに満ちていた。
0325創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 12:10:03.84ID:AnKBC6a4
パンダの子供を抱いて帰って来たルーシェンに、チョウは言った。
「とりあえずお前、仕事覚えろ。俺が要領教える」
ルーシェンはパンダの子を野に放つと、にっこり笑って言った。
「よろしく〜」

あれからチョウはルーシェンのこと、だんだんと見る目を変えて、遂にはこんなに仲良くなっちゃったなぁ。
ユージンはそう思いながら、チョウの身体の中でルーシェンの背中に揺られていた。
「次は告白しなよ?」ルーシェンが振り返る。「せっかく譲ってやってんだからさ。実を言うと……ボクも椿のこと……好きなのに」
「ほ、本当に?」チョウが焦ったような声を出す。
「嘘だよ。今の顔〜!」
「あっ……! くっ……!」

ユージンも会話に加わりたかった。
チョウの橙色の『気』がユージンの金色の光も、人間の匂いも頑なに隠していた。
0326創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 12:22:31.90ID:AnKBC6a4
「なぜあんなことを教えた?」
メイファンは茶を飲みながら、クスノキの老人に言った。
「自然に反することをしようとしている椿は危険なんだろう?」
「あの子のしたいようにさせてやりたいのだ」老人は答えた。「儂にとって、あの子こそが正義だ」
よくわからん、と思いながらメイファンは黙った。
そして窓から見える『火』の町を眺める。
椿がしたのもよくわからない話だった。黒い調度品に姿を変えて聞いていたが、誰を生き返らせたいのかもわからなかった。
「さて」メイファンは茶を置いた。「そろそろ動くか」
「ならん。人間界に帰れる機会が来るまでここにいるのだ」
メイファンは老人の言葉を無視し、屋根の上に登った。
窓枠の額縁の取れた町はすべてが見渡せた。しかし祝融とやらの『気』は見当たらなかった。
「近くまで行くか。……しかし」メイファンは呟いた。「あれだけ目立つ金ピカの『気』がどこにも感じられねぇ。やはり死んだか」
0327創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 14:42:47.48ID:AnKBC6a4
月が昇り、町は寝静まった。
夜が更けてもチョウは眠れず、蝋燭の明かりもつけずに、大きな窓の縁に座っていた。
窓枠に置いた鉢植えのモミジの葉に手を当てると、葉っぱが紅くなったり緑色に戻ったりを繰り返した。
「ぼく、先に寝ちゃうよ?」ユージンが言った。
「あぁ……」と言って顔を上げたチョウは動きを止める。
眼下の石畳の道を、音を殺して駆けて来る赤い髪が見えた。遠くてもチョウにはそれが誰なのか、すぐにわかった。
裸足のようだった。足音は聞こえないが、明らかに急いでいた。
赤い髪が真下を素通りしようとした時、チョウは大きな声を掛けた。
「おい椿、こんな夜中にどこ行くんだ?」
その声に身を震わせて椿は立ち止まった。
こちらを見上げて来る。その表情は遠い上に暗くてよく見えなかった。
何も言わなかった。暫く二人は遠い距離を置いて見つめ合っていた。
そしてすぐに椿は前を向くと、また音もなく深夜の石畳の道を急ぐように走り出した。
0328創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 14:50:39.62ID:AnKBC6a4
「椿が……」チョウは呟いた。「俺に助けを求めてる」
そう言うなり、5階の窓から外へ飛び降りた。
「うわぁ!?」ユージンが悲鳴を上げた。
石畳に激突する直前で火をぶつけて衝撃を殺し、チョウは着地する。
「ななななに? こんなこと出来たの?」
騒ぐユージンに答える間もなくチョウは駆け出す。駆けながら答えた。「火事場のバカ力」
「む、無茶するな! 心臓止まるかと思ったろ」
赤い髪が遠くなっていた。見失わないよう、チョウはそれを追いかけた。
0329創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/06(金) 20:37:51.62ID:r661XIJf
椿は森へ入って行った。
真っ暗な森の中を駆けて行く。チョウに追えないスピードではなかったが、その暗さに何度か姿を見失った。
しかしまた赤い髪を遠くに見つけると、後を追いかけた。
「名前叫んだらいいのに」
ユージンがそう提案しても、チョウは無言で距離をとって追いかけ続けた。

そのうち本当に見失ってしまった。
チョウが途方に暮れながら歩いていると、森を抜けたところに丘があった。
そこに立って見渡すと、下ったところに港があり、ぼんやりとした明かりが見える。
「あそこか?」
0330創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 05:52:57.12ID:Jk9WuIG3
近づくと、明かりは白い行灯だったとわかった。
港の先には様々な色を浮かべた『気』の海が広がっており、怪しげな船頭が小舟を着けて椿を待っている。
椿はたどたどしいジャンプをし、舟に飛び移ったところだった。
「待っ……!」
チョウは大声で呼び止めようとしたが、ちょうどその時『気』の海から神獣の麒麟が飛び出した。
麒麟の静かだが空気の震える滑空に、チョウの声はかき消され、椿を乗せた小舟は靄の中に見えなくなった。

「なんなんだろうね」ユージンが言った。
「これ……」チョウが言った。「霊婆(リンポー)の島に行く舟だ」
「霊婆? ……って?」
「死者の魂を司る仙人だ」
「魂?」
「何しに行ったんだろう」
0332創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 22:21:33.76ID:9RRIb4/d
月の位置からすると八刻(約二時間)以上は待った。
チョウが茂みに身を埋めて椿を待っていると、『気』の海を越えて舟が帰って来た。
椿はたどたどしいジャンプで舟から岸へ降りると、きょろきょろと辺りを見回し、人気を探った。
チョウを探しているのでないことは、その警戒するような仕草で明らかだった。
「何か……」チョウは身を隠したまま、ユージンに言った。「持って帰って来た」
ガラス瓶なのはわかった。中身が何なのかは想像もつかなかった。大事そうに胸に抱え、帰り道を歩き出す。
「食べ物かな」ユージンが言った。
チョウは答えずに、駆け出すと、来た道とは違う険しい森の中へ入って行く。
0333創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 22:29:13.35ID:9RRIb4/d
近道を走り、チョウは自分の部屋へ戻る。
窓に腰掛けて待っていると、やがて椿が戻って来た。
チョウが窓から見つめる真下を素通りして行く。
チョウは声をかけなかった。
「なんか椿の秘密を知っちゃった気分だね」ユージンが小声で楽しそうに言う。
チョウは何も答えず、椿を見送った。
すぐにその後ろ姿は深夜の闇に包まれ、赤い髪もすぐに見えなくなったが、暫くの間、怒ったような顔をして見送っていた。
0334創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 22:46:10.83ID:9RRIb4/d
「チョウ、おはよ」
珍しくルーシェンのほうが早く仕事に来ていた。理由はもちろんチョウが遅れたからだ。
「オス、ルー……」
チョウは何も言わずに仕事を始めた。昨夜の椿のことは何も言わなかった。
ユージンとも話し合い、誰にも言わないことに決めていた。
様子から察するに、椿は人に見られてはいけないことをしていたのだ。
しかしそれはチョウの知っている椿ではなかった。
良い子で、真面目で責任感があり、何でも相談に乗ってくれ、何でも打ち明けてくれる、それが椿だった。
深夜の町を泥棒のようにヒタヒタと走るなんておよそ椿のイメージとは程遠かった。
「ルー」
「何? チョウ」
「俺、仕事終わったら、一人で椿んとこ行って来る」
ルーシェンは飛び上がる勢いで喜び、言った。
「わかった。ボク、決して覗いたりしないからね。頑張れ!」
0335創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 23:15:10.46ID:9RRIb4/d
【主な登場人物まとめ】

人間

・ユージン(李 玉金)……17歳の少年。性同一性障害。身体を持たない金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。また、入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。ユージンの妹だが、記憶を失くしている。
穏やかで真面目な性格だが、ユージンからは小うるさい奴と思われている。
大好きな義兄のランが日本から帰って来、うかれていたが、ランが渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。
今では自分を海底世界の住人だと思っており、名門『樹の一族』の一員として薄紅色の『気』が使える。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
海で罠にかかっていた赤いイルカを助けた直後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

海底世界の住人

・チョウ……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
下半身を鹿に変えて、悪者を踏み潰したり人を背中に乗せて走ったり出来る。
スラリと背が高く、中性的な顔立ちに魅力的な2本の短い角を持ち、嘘さえつかなければ女の子にモテない要素はない。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。
0336創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 23:42:26.45ID:9RRIb4/d
チョウは『樹の一族』の家にやって来た。家というより由緒ある建造物である。
中心に聳え立つ大樹を取り巻いて長い長い回廊が渡され、等間隔で設えられた階段で少しずつ上へ上がって行く作りになっている。
太い枝の彼方此方に建物があり、一族の者が住んでいる。
大樹の根元には巨大な洞があり、先日椿の成人の儀式はその中にある広間で執り行われた。
椿の家は一番高い所にある最も立派な赤い建物である。

チョウが回廊の始まりに立って見上げていると、後ろから椿の声がした。
「チョウ!」
振り向くと赤い旗袍を着た椿が手を振っている。
チョウは笑顔を浮かべると、ぶすっと頬を膨らせ、また少し笑うと、怒ったように椿を睨んだ。
0337創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/07(土) 23:49:29.88ID:9RRIb4/d
「何、その顔」椿は可笑しそうに言った。「新しい遊び? おもしろい」
「あのさ」チョウは結局怒ったような顔に固まり、言った。「話があって来た」
椿の笑顔がすっと消えた。
「何?」
「とりあえずお前の部屋で茶でも飲ませろ」
椿はじっとチョウの顔を見る。そして言った。
「駄目」
「は? 昨日は上がってけって言ったくせに……」
「散らかってるの」
「じゃ、ここでいいよ。あのな……」
椿はチョウの顔をじっと見たまま言葉を待った。
0338創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 00:13:11.37ID:gF/KaFVk
「昨日、夜、どこ行ってたんだ?」
チョウが聞くと、椿はなんだか悲しそうな顔をし、目をそらした。
「なんか……」チョウはまっすぐ椿の顔を見ながら言った。「霊婆のとこ、行ってたよな?」
すると椿は勢いよく顔を上げて、詰るように言った。
「尾けてたの!?」
「心配だったからさ」
椿はすぐに顔を伏せた。
「椿」チョウは言った。「なんか一人で抱え込んでるんじゃないか?」
椿は顔を上げない。チョウは続けて言った。
「霊婆のとこに行くなんて、ただ事じゃないぜ。しかもあんなに人目を気にして……」
椿は黙っている。
「出来れば……出来ればさ、俺も巻き込んでくれ。俺のこと弟だって言ってくれたろ? 俺のほうが年上だけど……」
椿は顔を上げた。いつもの凛々しい目が弱々しくなっていた。
「チョウ」
「うん?」
「なんでもないの」
「……そうか」
チョウはくるりと背中を向けた。失望したような顔をしていた。
「わかった」とだけ言って歩き出したその背中に、椿が声を掛けた。
「チョウ!」
「なんだよ」
「やっぱり部屋に……お茶、飲んで行って」
0339創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 00:31:01.62ID:gF/KaFVk
各入口を赤く縁取った黒い木の家に入り、赤い垂れ幕のある広間を抜け、奥へ進むと椿の部屋だった。
障子を開けると窓から明るい緑色の光が差していた。
椿はしゃがみ込むと、ベッドの下から大事そうにガラスの小瓶を取り出した。
「それ、昨日、持って帰ったやつ……」
「そんなとこまで見てたの?」
椿は少し軽蔑するような目をチョウに向けると、それを見せた。
瓶の中で可愛らしい小さな赤い魚がチョウのほうを振り向いた。
「魚?」
「……うん」
「でもこれって……」
「……」
「持って帰っちゃ駄目なやつだよな?」
「そうなの?」ユージンが口を挟んだ。
「あぁ」チョウはユージンに言った。「死んだ人間の魂だ」
「チョウ……」椿が目に涙を溜めて懇願する。「お願い……。誰にも言わないで」
「駄目だ。こんなの許されない」チョウは厳しく言った。「自然の掟を破る犯罪行為だ。見過ごすわけにはいかない」
「待ってよ、チョウ」ユージンが口を動かした。「椿、なんでこんなことしたの?」
0340創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 00:44:14.82ID:gF/KaFVk
「どんな理由があろうと駄目だ」
「チョウ!」ユージンは反抗するように言った。「『巻き込め』って言ったのお前だろ!?」
「お前は人間だから事の重大さがわかってねーんだよ!」
「なんだとこの野郎! 人間様バカにすんな!」
「これだから人間は……! これだから……!」
「チョウ!」椿が言った。強い目をしていた。「話をさせて」
それはチョウのよく知っている椿だった。凛々しく、一生懸命で、責任感に溢れる愛くるしい女の子だった。
「お……おう」チョウは思わず言ってしまった。「何か知らねーけど聞くだけ聞いてやる」
0341創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 00:59:56.18ID:gF/KaFVk
椿は人間界であったことを話した。
人間の罠にかかり、死にかかったこと。それで帰りがあんなに遅くなってしまったこと。
死にかけていた自分を助けてくれた人間の青年がいたこと。自分を助けたがために渦潮に飲まれ、彼が死んでしまったこと。
崖の上から青年の妹が見ていて、悲しませてしまったこと。青年がどんなに優しい目をしていたか、どんなに美しい姿をしていたか、
そんな彼を海底で看取るほかに自分に何も出来なかったこと。

聞き終えると、チョウの顔つきが変わっていた。
「椿……死にかけたの」
「うん」
「命の……恩人なんだな」
「うん」
チョウはガラス瓶の中の小さな赤い魚を見た。
魚は親しげにチョウに向かって微笑んだ。チョウは魚を見つめながら椿に聞く。
「名前、つけてやった?」
「うん」椿は嬉しそうに答えた。「ランよ」
「ラン?」ユージンが言った。「へんなの。魚なのに狼(ラン)みたいな名前!」
0342創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 01:08:49.37ID:gF/KaFVk
帰り道、ユージンはチョウに聞いた。
「黙っててあげるんだね」
「おう」
「あの魚が椿の命の恩人だから?」
「そんな甘い理由じゃねーよ」
「じゃあ……」
「あいつが悲しむことはしたくねぇ、それだけだ」
0343創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 10:01:13.92ID:gF/KaFVk
「チョウ!」
叫びながらルーシェンが後ろから四本足で追いついて来た。
「あれ? ルー……お前」
「チョウチョウ!」
ルーシェンは機嫌がよさそうだ。
「なんで……そっちから?」
ルーシェンが来るなら前からのはずだ。それがなぜか後ろからやって来る。
「チョウチョウチョウ!」
「まさか……、お前……」
「ごめーん」と言って長い体躯を折ると、ルーシェンは言った。「聞いてたよん」
0344創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 10:26:31.27ID:/iwxGB8m
中国式 大渋滞が起きるよね
その時ね、 私昼寝してたんだよね そうしたらさ
0345創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 10:27:41.53ID:gF/KaFVk
「なんだって?」チョウの顔が蒼白になる。「で……お前、まさか……」
「これから町で言いふらして回るよん」ルーシェンはさも嬉しそうに言った。
「お、お前が言いふらしたって、誰も信じねーよ!」
「あの赤い魚を見せればさすがに皆信じるよ」
「……」
「大体、チョウ君ともあろうひとが、なんで犯罪行為を見過ごしてんの〜? おっかし〜」
「頼む……」チョウは泣きそうな顔で頭を下げた。「見逃してやってくれ……!」
「うっそだよ〜ん」
「椿は……自分を助けたがために死んだ人間を……」
「嘘だってば」
「……は?」
「誰にも言わない。言うわけないでしょ」
ルーシェンは「また引っ掛かった」とでも言うように面白そうに笑った。
「ルー……」
「大体、ボクが言いふらしたって、赤い魚を見せたって、誰も『金魚か』としか言わないよ」
「お前……そこまで自己評価低かったのかよ」
「大体、死んだ人間の魂持って来て何が悪いの?」ルーシェンは本当にわからないという顔で聞いた。「ボクわかんない」
ユージンもよくわからないと思ったので、ついチョウの頭を深く頷かせてしまった。
0346創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 10:31:04.01ID:gF/KaFVk
「あのな」チョウはユージンを叱るように言い、説明した。「人間は世界をめちゃくちゃにしてしまうだろ」
「でも、魚だよ? 魚に何が出来るの? しかもあんなに小さな魚」
「……うん」
チョウは実は自分も思ってたというように頷いた。
「ピンピン動ける人間ならともかく、泳ぐしか出来ない魂に何が出来るのさ?」
「あ……!」
チョウはユージンと目を合わせるように自分の胸のあたりを見た。
「大体」ルーシェンは冗談の口調で言った。「チョウだって身体の中に人間を匿ってるじゃないか」
0347創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 11:00:08.69ID:gF/KaFVk
「そうなんだ、ルー」チョウは申し訳なさそうに言った。「実は俺も、椿とおんなじようなことをしてる」
「冗談だよ、バカチョウ」ルーシェンは笑い飛ばすように言った。
「本当なんだ。見てくれ……。いいよな? ユゥ」
「いいよ。ぼくもルーと仲良くしたかったから」
「よし」
そう言うとチョウは、ユージンを隠している橙色の『気』を、解いた。
ユージンはルーシェンに自分がよく見えるよう、全開で金色の光を放った。
その光はルーシェンの目に突き刺さり、森を突き破り、隣の町まで届いた。
0348創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 11:01:59.35ID:gF/KaFVk
「ム?」
メイファンは屋根の上から、森の中に突然出現した金ピカの光を見た。
「あそこか」
そう言うと身体をムササビに変え、屋根を蹴った。
0349創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 11:04:32.24ID:gF/KaFVk
「ムゥッ?」
祝融は怪しげな気配を感じ、回廊へ出た。
遠くの森から金色の光が上がり、雲を染めているのを見る。
「なんだ、あれは……」
そう言うと身体を炎の竜に変え、飛んだ。
0350創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 11:58:22.31ID:gF/KaFVk
チョウは強すぎるユージンの光を慌てて橙色の『気』でまた隠した。
「アホか、お前は!」
「ごめん。あんなに光るとは……」
「本当にいたんだね」ルーシェンは潰れた目をこすりながら言った。「でもそんな人間はいない」
「気持ちはわかる」チョウは頷いた。「でも、きくらげ臭かったろ?」
「あぁ、確かに」ルーシェンはようやく開いた目に涙を溜めて言った。「まつたけ臭かった」
「まつたけは臭くねーよ!」
「名前、つけてやった?」
「元からありますから!」ユージンが抗議した。
「ユージンって名前なんだ」チョウが紹介する。「ユゥって呼んでやってくれ」
「ユゥ、ね」ルーシェンはにっこりと笑った。「私が火の仙人、祝融だ。よろしくな」
「ルーシェンだろ! 知ってるよ!」ユージンは突っ込んだ。
「やっぱりチョウも、その人間に助けてもらったの?」ルーシェンが聞く。「ユゥはチョウの恩人なの?」
「いや」チョウが首を振った。「何もしてもらってねー」
ユージンは言い返す言葉かなかった。
「じゃあ、なんで匿ってんの?」
「だってコイツ、何も出来ねーもん。でも見つかったら殺されるだろ? 可哀想じゃん」
「ぼくは……何も出来なくなんかないぞ! 超天才なんだから」
「わっ。怖い」ルーシェンが言った。「じゃ、殺しとかないとね」
「あ、ごめんなさい。何も出来ません……」
「な? 何も出来ねー口だけ野郎だろ? 哀れだし……」
「哀れとか言うな」ユージンが悲しそうな声を出す。
「すんげー哀れだし、嫌いじゃねーからまぁ、匿ってやってる」
「嫌いじゃないっていうか、好きなんだよね? ぼくのこと」
「好きじゃねーよ。好きじゃねーけどアケビの実が転がってたら持って帰る程度に嫌いじゃない」

そこへ西から黒いムササビが、東から真っ赤な竜が飛んでやって来た。
0351創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 13:49:27.54ID:gF/KaFVk
先に着地したのは黒いムササビのほうだった。
地面に降り立つと、色の黒い四歳の女の子が姿を現す。
辺りをキョロキョロと見回すと、チョウとルーシェンに言った。
「おい、ガキども。今、このへんに金ピカの光を放つキンタマがいたろう?」
「は? 何だこのガキ。ガキにガキって言われる筋合いはねーよ」
そう言いながらチョウはユージンを隠そうと橙色の『気』を強くした。
「あっ!」ユージンは、メイファンを見ると叫び、小声でチョウに言った。「コイツ、水龍道士を殺害した『黒い悪魔』じゃない?」
「オイオイ」メイファンは強くなったチョウの『気』を見て、バカにするように言った。「いっちょまえにやる気出してんじゃねーよ、ザコが」
「ザコではないぞ」ルーシェンが吠えた。「ここにおられるのをどなたと心得る! かの有名な火の仙人、祝融さまであるぞ!」
「バッ……!」チョウは急いでルーシェンの口を塞ぐ。
「ハァ? これが祝融?」メイファンはびっくりする顔とがっかりする顔を同時にした。
しかしそこへ天から本物の祝融が降りて来た。
0352創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 15:24:33.46ID:gF/KaFVk
祝融は森の上空まで炎の竜に姿を変えて飛んで来たが、森を燃やしてしまわないよう、着地点を探していた。
チョウの姿を見つけ、炎を解くと、足元だけに炎の勢いを残し、静かにその逞しい身体を着地させた。
「祝融師匠!」チョウが振り返る。
祝融は金色の光は見つけられず、しかし予期せず探していた標的を目の前にして眼光を鋭くした。
「お前……『黒い悪魔』か!」
「お前が本物の祝融とやらか」メイファンは相手の姿を見て、素直な感想を口にした。「なんだよ……弱いじゃねぇか」
メイファンは瞬時に相手の力量を見極める。チョウはなかなか強い橙色の『気』を持っている。しかしそれを戦闘のために鍛え上げていないことは丸わかりだった。
そしてクスノキの老人に『お前ごときでは瞬殺される』と聞いていた祝融は、チョウよりも弱かった。
身体はなるほど逞しく、ユラユラと燃え盛る髪は見た目には強そうだが、祝融には『気』が、なかった。
通常、どんなに弱い者でも『気』は持っている。しかし弱ければ弱いほどそれは小さい。小さすぎてゼロな奴は初めて見た。
「お前は粉々にして人間界に送り返すことはせん」祝融は右手を前に差し出した。「決して復活せぬよう、滅してくれる」
「なんだよ。あのドラゴンヘッド殺したことか?」メイファンは不満そうに言った。「あっちから殺しに来たんだ。正当防衛だろ」
0353創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 20:23:25.07ID:QqCneZig
しかし祝融は前に差し出した右手を無念そうに下ろした。
「何してんだお前?」メイファンが退屈そうに言う。
「祝融師匠……」チョウが呟く。「森の中だから火事を恐れて火の力が使えないんだ!」
「じゃ、瞬殺」メイファンが動いた。
チェンナの短い腕を暗器の鎖鎌に変え、祝融の心臓を一刺しにする。
しかし手応えはまったくなかった。炎の中に向かって攻撃した感触だった。
「こっちだ!」とチョウが叫び、後ろからメイファンに拳を放つ。
「あっ。これも正当防衛ね」と言いながらメイファンは手刀をふるった。
チョウの首が飛ぶ寸前、メイファンは腕に激しい衝撃を感じた。見ると、右腕が折れている。
「?」メイファンは折れてブラブラしているチェンナの幼い右腕を見つめる。
そして叫んだ。
「ギャアアアア! チェンナの腕が!……」
祝融がメイファンの腕を折った拳を握りしめ、仁王のごとく立ち、見下ろしていた。
「出来れば赤松子に仇を討たせてやりたかったが……」
そう言うと蹴りを放ち、左腕もあっさりと折った。
「ギャアアアア! てめぇ! 四歳児の腕だぞ!」
「滅せよ」
祝融はとどめの攻撃を繰り出した。両拳を前で交差させ、そこに火が灯ったと思ったと同時に飛んで来た。
0354創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 20:35:13.01ID:QqCneZig
メイファンは攻撃が来る前に飛び退いていた。
メイファンらしくもなかった。いつもなら相手の攻撃を紙一重でかわし、バカにしてから返り討ちにするところである。
それは相手の『気』を読むからこそ出来ることであった。
しかし今、目の前の敵には、『気』が、ない。
突然、ピストルの弾のような無『気』物が飛んで来るように攻撃が来るのである。
それでも鈍ければかわすことは簡単だ。しかし祝融の攻撃はまるで火炎放射器だった。
しかも火炎放射のトリガーを引く準備動作が見えないのでは、かわしようがなかった。
メイファンは折れた両腕を『気』で一時的にくっつけると、身体をドローンに変えて飛び上がった。
「チッ。今日のところはおあずけだ。また勝負しようぜ」
しかし祝融はすぐさま身体を炎の竜に変えると飛び、凄まじいスピードで追って来た。
「逃げられると思うな、人間!」
「プロを舐めんな!」メイファンは吠えた。「ララから『チェンナを守れ』って命令されてんだ! 命令だけは遂行する!」
0355創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 20:51:34.75ID:QqCneZig
口ではそう言いながら、メイファンは諦めていた。
『あ、こりゃ死んだな』
『生き残れる可能性(計算中)0.0001%』
『ハハハ』
『ごめんな、チェンナ享年四歳』
『ごめんな、メイ。お前の娘の死因=撲殺』
0356創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 20:57:57.44ID:QqCneZig
しかし奇跡は起きた。神風が吹いた。
神風に吹かれ、一匹の蜘蛛が飛んで来た。
「うぉっ……と!」祝融は蜘蛛を燃やすのを嫌い、のけ反る。
のけ反り、上を向くと、そこへ燕の糞が降って来た。
「むぅっ……! 食らってたまるか」
横へ避けた祝融に向かって蜜蜂の大群が飛んで来た。
「何だ? 何なのだ、これは!」
その隙にメイファンは身体をジェット機に変え、飛び去っていた。
「待て! 待……」
風に飛ばされて来た誰かの鼻紙が祝融の顔を直撃した。
0357創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 21:01:20.62ID:QqCneZig
「あーあ」ユージンが言った。「黒い悪魔に逃げられちゃった」
「ユゥ」チョウがユージンに言う。「お前……何か、した?」
「はぁ!?」ユージンはびっくりして声を上げた。「ぼくが? 何をしたって!?」
0358創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 21:11:28.82ID:QqCneZig
クスノキの老人の治療を受けながら、メイファンは興奮した口調で言った。
「すげぇよ! 0.0001%を勝ち取っちゃったよ!」
「だから言ったであろう」クスノキは嗜めた。「祝融には決して遭遇するでない、と」
「そうだな」メイファンは素直に頷いた。「アレはバケモノだ。本物の火の神『祝融』なんじゃねぇか?」
チェンナは黙々とアケビの実を食べている。痛覚はメイファンが遮断していた。
「とにかく、懲りたであろう」クスノキはチェンナにアケビを食べさせながら、言った。「人間界へ帰れる機会が来るまで大人しくしていなさい」
「そうだな。私は勝ち目のない闘いはしない」メイファンは言った。「ただ、連れて帰るべき奴が一人、見つかった」
0359創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/08(日) 23:40:36.51ID:ZjQFr3GT
「とりあえずジジイ、このほうが治療しやすいだろ」
そう言ってメイファンは全裸になった。
0360創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/09(月) 04:58:09.51ID:mBd7tPjd
ある日、ウイルスによる犯行声明を出した犯罪集団。
今まで逮捕した怪人の解放が条件。
強敵を何とか倒したハイホンだが、彼にミンメイが「だから何?そんな事して何になるのよ!」と言い放つ。
今までの多忙を反省し、娘に会いに行くためしばらくの休暇を上司に願い出るハイホンだが、拒否される。
固い決意で家まで帰るが、そこには家はなかった。

本当の事を話せ、と上司に迫るハイホン。
ハイホンの娘はAIだと言う。
ハイホンだけではなく他の同僚の家族もバーチャルな家族設定。
皆改造手術の時に記憶をすり替えられた。
我々がいなくなったら世界平和はどうなる、と言う上司。
ミンメイに電話をするハイホン。
何のために戦っているか判らない、と嘆くハイホンはミンメイに「AIなんだろう?」と聞く。
お前はニセモノなんだと言うハイホンに、そうだったら良かったのに、とミンメイ。
明日手術を受けると言うミンメイ。
成功しても完全に治ることはない。
現実にはヒーローなんかいない。
実はハイホンらは「永遠のヒーロー」というスマホのアプリ。
でもお父さんがいたから諦めずにがんばって来れた。
私のヒーロー。
今までありがとう。

署に顔を出すハイホン。
「ご迷惑をおかけしました。またよろしくお願いします」 
「よし、全員出動だ!」
0361創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/09(月) 17:00:33.62ID:TBrcb+HR
1ヶ月が経った。

『黒い悪魔』は影を潜めた。
祝融らは捜索を続けていたが、居場所は杳として知れなかった。

ルーシェンとユージンは仲良しになっていた。うざい者同士ウマが合うのかもしれなかった。
チョウと椿の関係は何も変わらなかった。
赤い魚は、成長していた。
0362創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/09(月) 17:11:05.88ID:TBrcb+HR
緑の森の中で、チョウとルーシェンは木陰に座り、椿を待っていた。

「ねぇ、チョウ」ルーシェンが言った。「今日こそ椿に告白するよね?」
「そんな流れになれば、な」
「いっつもそれじゃん! それでいっつもしないじゃん! そんなんじゃ永遠にそのまんまだよ? ねぇ、ユゥ?」
「べつに」ユージンは言った。「永遠でいいと思う」
「ユゥまでそんなこと言うの!?」
「だって永遠て、美しいじゃん」
「ダメダメ! 永遠の愛ならいいけど永遠の弱虫はダメ!」
チョウは頬を膨らますと、ルーシェンを煩がるように言った。
「なんでお前がそんなにしつこく言うんだよ。ほっとけよ」
「ほっとけないよ!」ルーシェンは友を思う真摯な目つきで言った。「こんな面白いこと、ほっとけない!」
0363創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/09(月) 17:24:32.46ID:TBrcb+HR
「よし、練習してみよう」ルーシェンが言い出した。
「練習?」チョウが面倒臭そうに返す。
「うん。ボクを椿だと思ってさ、告白してみて」
「気持ち悪ィ……」
「ほら!」と言ってルーシェンはチョウを立たせた。
ルーシェンは足を折り畳み、椿の背の高さ、つまりはチョウと同じぐらいの高さに合わせ、向かい合った。そして言う。
「はい、どうぞ」
「おまえのことあいしてる」
「軽っ!」
しかも早口だった。
「嘘だったら簡単に言えんだよ」チョウはつまらなそうにルーシェンの目を見ていたのをそらした。
「ひどい! ボクのこと愛してないの?」
「お待たせー」と少し遠くから椿の声がし、チョウは身体を固くした。
風呂敷包みを抱えて小走りでやって来る、赤い旗袍に黒い長スカート姿の椿が見えた。
0364創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/09(月) 17:45:35.43ID:TBrcb+HR
「見て、こんなに大きくなったの」
椿が風呂敷包みを解くと、薄く削った竹の入れ物が現れた。薄く水が張ってあり、赤い魚は小ブナぐらいの大きさに成長していた。
「もう水のないとこでも泳げるのよ」
「なんか見た目も変わって来たな」
最初に見た時は金魚みたいだった。今は丸みを増し、胸びれが少し羽根のように長くなっている。
「飛べるんじゃねーの、これ?」チョウは冗談っぽく笑いながら言った。
「うん、飛べるんだよ」
椿はそう言うと、大事そうに魚を水から掬い出し、両手に乗せる。そして前に掲げると、魚と顔を見合わせ、愛しそうに「ふふっ」と笑った。
「ほら、ラン」椿は魚に優しく話しかける。「手、離すよ?」
ゆっくりと椿が両手を下げると、魚はたどたどしくも腹びれを羽ばたかせ、その場に浮遊した。
「ふふっ。おいで」
椿が駆け出す。魚は追うように、森の中を泳ぎはじめた。
0365創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/09(月) 18:03:17.86ID:TBrcb+HR
椿の楽しそうな笑い声が森に響いた。
軽やかに駆け回るうちに、椿の動きは踊りに変わる。
赤い魚と戯れて舞う少女をチョウはずっと目で追っていた。
細い肩が上下し、細い腰がくるくると回った。しなやかな指先が虹を描き、赤い髪が風にたなびいて光を振り撒いた。
赤い魚は優しげな笑顔を浮かべ、追いかけながら椿を見守っているようだった。
椿は目を閉じ、幸せそうに手を広げる。
その椿を取り巻いて魚は空を泳ぎ、螺旋を描く。
「楽しそうだね、椿」そう言いながらルーシェンも笑っていた。
「まるで愛犬と飼い主だ」そう言いながらユージンも笑った。
チョウは椿に見とれながら、しかし笑っていなかった。少しいじけたような顔を膝に半分埋めた。
0366創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 12:29:30.64ID:/0FCxJWE
「あれだけの複雑骨折だったのに」メイファンはチェンナの腕を自由に動かした。「たった1ヶ月と1週間で治るとはな」
クスノキの老人は立っている。その表情は白い髭で見えない。
「アンタ大した名医だぜ」
「そうか、早かったか」クスノキは残念そうに言った。「もう一月ぐらいかければよかったかな」
メイファンは意味がわからず暫く黙っていた。
「あっ」ようやく意味がわかった。「てめぇ! 手を抜きやがったな?」
「治療中は大人しくしているであろうと思ったまでだ」
「本当はどれぐらいで治せた?」
「一週もあれば」
「マジかよ」メイファンは目を覆った。「ララより凄ぇかも」
「とりあえず大人しく……しているつもりはないのだろうなぁ……」
「もちろんだ」メイファンはそう言うと黒い清代風の服を羽織り、早速出掛けようとする。
「その子が可哀想だとは思わないのかね」
その言葉にメイファンの動きがぴたりと止まる。老人は続けて言った。
「チェンナのことは、儂もかわゆいのだ。危険な目に遭わせるな」
四歳の子があんなバケモノを目の前にした上、痛覚は遮断していたとはいえ、腕を折られたのだ。
悪魔のメイファンもさすがに思いやらずにはいられなくさせられた。
「チェンナ」メイファンは柄にもなく優しい声で聞いた。「怖かったか」
「んーん」チェンナはあっさりと答えた。「たぁじょーぶだよ」
「そうなのか?」
どれだけ胆の座った子を育てたんだ、メイは。と思っていると、チェンナが言った。
「だってママとパパのけんか、いっつも見てるもん」
「なるほどな」
メイファンは深く納得し、何度も頷くと外へ出て行った。
0367創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 12:44:48.21ID:/0FCxJWE
目立たないよう顔を変えた。前に押し入った家で見た、炭のように真っ黒な家族の子供の顔を借りた。
別に襲いかかって来る奴がいても殺せばよかった。しかし弱い奴と闘うのはいちいち面倒臭い。
スライムが大群で襲いかかって来たら面倒臭いようなものだ。ゆえに顔を変えた。
見たところ、この世界でもほとんどの奴は雑魚だった。人間界と同じく平凡な『気』の者がほぼすべてだ。
出会ったものの中で強いのは、祝融とクスノキの老人だけだった。
とは言え祝融は強すぎる。赤松子も恐らく同様だろう。
クスノキの老人は年寄りすぎる。たまに死にそうなほどに咳き込む老いぼれと闘う気にはなれなかった。
赤い巨大魚も、クスノキの老人でさえ知らないのでは、出会うことも期待できない。
メイファンはさっさとユージンを見つけて連れて帰ろうと決めていた。
0368創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 16:53:24.56ID:Nvj+PCII
町へ向かうつもりで歩き出したが、すぐにその足が止まる。
背後の森の中からなかなか強い『気』を感じたのである。
「ちょっと遊んで行くか」
ちょっとゲーセン寄ってくかみたいなノリでメイファンは森へと入って行った。
0369創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 17:27:34.19ID:Nvj+PCII
メイファンが赤い『火』の森へ入って行った頃、緑の『樹』の森では、一週間ぶりにチョウが
椿との逢い引きの待ち合わせをしていた。もちろんルーシェンもユージンも一緒である。
もちろん椿はランを連れてやって来た。風呂敷にも入れ物にもいれず、ランは低空を泳いで椿について来る。
「で、でかくなったな!」チョウは思わずまだ遠いうちから声を上げた。
赤い魚は人間の新生児ぐらいの大きさになっていた。エラが小さくなり、穴のような器官に変化している。
腹びれはさらに長くなり、もうそれは立派な羽根と呼べるものになっていた。
「もうほとんど水もいらないのよ」椿が自慢げに微笑む。
「隠さなくていいの?」ルーシェンが心配そうに言う。
「うん。お父さんもお母さんも、もうランのこと知ってる。これだけ形が変わったら人間の魂だなんて思わなくて、わたしが神獣の子を飼い始めたと思ってるわ」
「あーあ。樹さんと鳳おばさんを騙してんだ」チョウが意地悪そうに言った。「椿、悪い子になったなぁ」
すると椿はしゅんとして俯き、弱々しい声で言う。
「悪いことしてるとは思ってる。でもわたし、ランを助けたいの」
ルーシェンがランの身体をくんくんと嗅ぐと、言った。
「うわっ! こんだけきくらげ臭いとバレちゃわない!?」
「嘘!」椿が少しむっとする。「ランは臭くないわ」
「本当だ」チョウもランの匂いを嗅いだ。「ちっとも人間の匂いしないんだな、魂って」
ランは男二人に寄ってたかって匂いを嗅がれ、嫌そうな顔をしている。
「ランをいじめちゃだめ」椿がランを抱いて引き離した。「ランはわたしの恋人なんだから」
そう言うと目を瞑り、魚の口と短いキスをした。
0370創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 17:35:53.15ID:iWagRBC+
ユージンはチョウの胸に煮え湯のようなものが上がって来るのを感じた。
「もしかしてチョウ、魚に嫉妬してるの?」
チョウはそれには答えず、嫌な気持ちを吹き飛ばす勢いで言った。
「で、その魚育ててどうすんだよ?」
「……言ってなかったかな」椿は困ったような顔で答えた。「……人間に戻すのよ」
「え! 初めて聞いた」チョウは驚いて言った。「死んでんだぜ? そんなこと出来んのかよ?」
「ハハ、なんかタブーくさい」ルーシェンはそう言うと木に登り、枝に座った。
椿は霊婆に聞いた通りのことを話しはじめた。
0371創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 17:50:41.55ID:jgzsJT7L
「大きくなるまで育てるんだって」
「どれくらい?」
「わからない。でも、あり得ないぐらい大きくなるんだって」
「そんなんなったらもう本当に魂じゃなくて神獣だなぁ」
「『気』の海に放して神獣の仲間入りさせてやったら?」
「だめよ。育ったら、人間界の海へ戻してやるの」
「どうやって?」
「道を示してやったら自分から帰るんだって霊婆は言ってたわ」
「説明書が欲しいなぁ」
「ちょっとルー! 危ない。降りて」
「いーからいーから。で、人間界に帰ったら人間に戻って生き返るの?」
「たぶん……。ちょっとルー! いい加減にして。降りなさい」
「本当だぜ、ルー。お前、降りろ」
木の枝に座ったルーシェンは途中から足を枝に引っかけてぶら下がり、逆さまになって聞いていた。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。大袈裟だなぁ」
ちょうどその時、小さな地震が起こった。
0372創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 18:12:39.86ID:SmzztsEa
ルーシェンの余裕の笑顔が消えた。
バランスを崩し、両足が枝から外れる。
「ルー!」
チョウは立ち上がり、駆け出すとすぐに手を伸ばし、クッションになろうとした。
しかし一歩届かなかった。
チョウはすぐ目の前でルーシェンが地面に頭から落ち、その首が嫌な音を立てて曲がるのを見た。
椿は思わず立ち上がったが、しばらく口に手を当てて震えるしか出来ずにいた。
「ルー!」
「ルーっ!」
チョウの口が二つの声を出して叫ぶ。
「嘘だろ? ……お前、また騙してんだろ……?」チョウが動かなくなったルーシェンを前に、信じないぞとばかりに弱々しく笑う。
「おじいちゃん!」椿が空に向かって叫ぶ。「助けて!」
しかし遠すぎる。クスノキに椿の声は届かない。
「俺が運ぶ!」
そう言ってルーシェンを背負いかけたチョウをユージンが止める。
「動かさないほうがいい! 呼んで来よう!」
「そうか、そうだな! よし、ルー! 乗せてけ!」
「バカ! 動転してんじゃない!」
「おじいちゃん!」椿は薄紅色の『気』を全開にして声を限りに叫んだ。「お願い! 届いて!」
するとかなりの遠くからやって来た二本の蔓が、ルーシェンの身体を優しく持ち上げ、頭部を固定すると、するすると運んで行った。
0373創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/10(火) 20:26:27.37ID:9L7TM+1T
不手際承知の吉永隊員
「海上自衛隊の本部は 夕食のラーメン定食で 、日本側が代わりに出たのでアメリカンじゃないと怒っちゃったんだよなぁ 。
そういうことって どういうことなんだろうな••••••••」
0374創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 09:48:56.56ID:IFpZivsd
メイファンは強い『気』の発生源を見つけると、複雑そうな表情をした。
角が一本生えた赤鬼のような男が木に凭れて気持ちよさそうに眠っている。
『気』は確かにその男から出ていた。
それを見るに天才的な能力の持ち主だった。しかし、やる気がなさすぎだ。
メイファンは遠い昔、リー・チンハオという名の似たようなバカを調教したことを思い出す。
「んぉ?」赤鬼はいびきとともに目を開け、メイファンを見た。「なんだ? また人間かよ。……しかも中に凄いの入ってんな」
0375創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 09:56:44.44ID:IFpZivsd
赤鬼はうーんと伸びをした。隙だらけだった。防御する気がないどころか警戒心がまったくない。
「なんで人間だとわかるんだ」変装しているのに、とメイファンは聞く。
「匂いでわかんだよ」赤鬼は答えた。「お前、めっちゃめちゃ臭い」
「で」ちょっと傷ついた顔をしてからメイファンは言った。「何か言うことは?」
「へ?」赤鬼は笑った。「お前、へんな奴だなぁ」
「私のことを知らんのか」
「知るわけねーだろ、初めて会ったのによ。あ、強いて言うなら」赤鬼はぽんと手を叩いた。「お前、ユージンに似てんな」
0376創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 13:02:06.67ID:IFpZivsd
「もう、大丈夫だ」
クスノキの老人はそう言うと咳き込んだ。
ベッドに寝かせたルーシェンはアホ面をして目を閉じている。
「よかった」椿は口を塞いで喜び、涙を流した。「ありがとう、おじいちゃん」
「二日も寝かせておけば首も動かせるようになるだろう」
「ありがとな、じいちゃん!」チョウはベッドに駆け寄り、こけそうになりながら言う。「よかったな、ルー!」
「お髭に気をつけて」椿が再三注意を促す。
床には一面、クスノキの老人の白い髭が根を張っており、椿でさえ気をつけていなければ転びそうになるのだった。
「見ての通り、歳のせいで根を張ってしまった。儂はここを動けん。怪我人や病人がいても、外へは出向けなくなってしまった」
椿が気遣うように老人に寄り添った。
「椿」老人はその頭を撫でると、言った。「蔓もあまり遠くまではやれなくなった。先程のが最後の力と思ってくれ」
「うん、ごめんね、おじいちゃん。ご無理をさせて」椿は祖父の目をまっすぐ見上げる。「今度怪我人が出たら、板に乗せて連れて来るからね」
「おい、ルー。目ェ覚ませ」チョウがルーシェンの肩を揺すっている。「助かったんだぞ。早く起きやがれ、オイ」
「これこれ揺らすでない」老人が嗜めた。
「あれ?」椿は気づいて、言った。「黒い調度品がないわ。どうしたの?」
「あぁ」老人は答えた。「今、外出しておる」
0377創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 16:30:02.03ID:mddI5nKL
「ただいまー」
そう言って入って来たズーローを見て、おばあちゃんは戦慄した。
「この子は……! いつかやると思ってたよ……! こんな小さな子をたぶらかして、連れ込むなんて……!」
「バーカ、ばあちゃん、ちげーよ」
「何が違……あっ! 臭っ! きくらげ臭っ! よりによって人間の幼児を?」
「お邪魔します」メイファンはぺこりと頭を下げた。
「ばあちゃんなんか無視して奥行こーぜ」
「チョウならまだ帰ってないよ」
「あー、カノジョと逢い引きかぁ……。まっ、とりあえず奥の部屋行こうぜ」
0378創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 16:43:48.06ID:mddI5nKL
メイファンはチョウのベッドに座って帰りを待った。
「本当にお前の弟の身体の中にユージンって名前の人間がいるんだな?」
「あぁ、間違いなく金ピカで名前はユージンだぜ」
「アホみたいな金ピカか?」
「あぁ、限りなくアホっぽい金ピカだ」
「じゃ、間違いないな」
「ま、じゃ、俺、寝るわ」
「客入れといて寝んな、アホ。まだお前の名前も聞いてねーぞバカ」
「あぁ、そうだっけ。じゃ、まずお前が名乗れボケ」
「私はメイファン、身体のほうはチェンナだ」
「メイファンにチェンナちゃん、ね。覚えたぜ。俺の名はズーロ……」
「ひっ!?」メイファンはびくっとした。
「……ズーローだ。どうした?」
「てめぇ紛らわしい名前してんじゃねぇ! こっちは祝融(ズーロン)恐怖症になってんだ」
「ハハハ! 祝融(ズーロン)こえーもんな、確かに!」
0379創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 16:49:04.96ID:mddI5nKL
1時間待っても帰って来なかった。
「おせーな。本当に帰って来んのかよ?」
「カノジョ送ってから帰って来んじゃねーかな。ところでお前、イケる口か?」
「酒か?」
「あぁ、いいのあんぜ。飲んで待たねぇ?」
「大賛成だ」
「じゃ、待ってろ」
そう言うとズーローは台所に立ち、暫くすると瓢箪と猪口を二つ持って来た。
「特別製の老酒だ。燗はしなくていいか?」
「構わん。早く飲ませろ」
「チェンナものむー」
「よし、感覚を少し分けてやる。チェンナもこの機会に酒の味を覚えろ」
0380創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 17:02:37.08ID:mddI5nKL
「本当はなー、人間見つけたら殺さねーといけねーんだぜー、ハハハ」
「知ってるぅ。もう殺されかけたぁ。ウフフ」
「よーし、じゃあ、俺がメイファン殺してやろっかなー、クックック」
「うん、ズーロー。殺せるもんなら殺して〜、キャハハ」
「おるぁー! バシュッ! ヒヒヒ〜」
「キャーやられた! フフフ〜」
「おいちいねー、おいちいねー、おちゃけって、おいちいねー、メイファン」
「おいちいだろー、チェンナー、チェンナも一緒にズーローに殺されようなー」
「どりゃー! ドカッ! ギャハハ〜」
「いやーん、まいっちんぐー、キャハハ!」

そこへチョウが帰って来た。
0381創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 19:24:03.96ID:mddI5nKL
「何やってんだ、兄ちゃん」
まずズーローにそう言ってから、チョウはメイファンを見た。
「待ちくたびれたぞ少年」
気分よさそうにそう言って手を上げたメイファンは変装を解いていた。
チョウの脳裏に自分の首をはねようとした『黒い悪魔』の顔が浮かび、ぴったり重なる。
「うわっ!?」チョウは思わず腰が抜けた。「うわっ! うわーーっ!」
「何だどうした」ズーローが不思議がる。「失礼だぞ幼女に向かって」
「こっ、コイツだよ!」
「何がだ」
「水龍道士を殺した犯人だ!」
「本当? メイファン」ズーローがのんびりした声で聞いた。
「あー、あのドラゴンヘッドね。うん、殺したー。だっていきなりあっちから殺しに来たんだもん。正当防衛だよー」
「あー、あのひと、人間見つけたらすぐ噛み殺しに行くからなー」
「でしょー? 殺さなかったらこっちが殺されるんだよー? そりゃ殺すでしょー?」
「あー、そりゃ殺すわなー」
二人はそう言うと大声を上げて笑った。
チョウは橙色の『気』を強くすると身構える。
「あ! その『気』、見覚えあるなぁ」メイファンが楽しそうに言う。「ズーローの弟だったのかよ。お前も危うく殺すとこだった」
「え〜、そうなのかー」ズーローが大笑いし、すぐに真顔になった。「チョウ殺してたらさすがに許せなかったとこだわ」
0382創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 19:40:50.26ID:mddI5nKL
「でも、まぁ、酒酌み交わすとわかるもんだ」ズーローはまた笑った。「メイファンはいい奴」
「いや……離れろ、兄ちゃん……」チョウは足が震えている。「首、飛ばされるぞ」
「んー。じゃ、飛ばしちゃおっかなー。えいっ」メイファンが恋人のようにズーローにじゃれついた。
「ばあちゃん!」と、チョウがいきなり台所に向かい叫んだ。
「いや待て騒がないでお願い」メイファンは手を合わせる。
「メイファンはユージンに用があって来たんだぜ」ズーローが笑う。
「はぁ!?」ユージンは思わず声を出してしまった。
「あ、本当だ」メイファンが嬉しそうに笑う。「いた」
「だろ?」と、ズーロー。
0383創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 19:51:38.07ID:mddI5nKL
「しかしお前、スゲェな」メイファンは目を細めて笑う。「そうやってると本当に見えん、あれだけの金ピカが。よく隠せるもんだ」
「お、お前……ユゥの何なの?」チョウは幼女の中の黒いモノを凝視しながら聞く。
「私か? 私はユージンの……」メイファンは暫く考えてから言った。「お姉ちゃんだ」
「嘘だ!」ユージンの声がまたチョウの口から出た。「嘘だよ、信じるな、チョウ。あんな人殺しがぼくのお姉ちゃんなわけが……」
「ユージン」メイファンは唐突に言った。「お前は昔、すごい力を持ってたんだぞ」
「あ、メイファン!」チョウの顔が勝手に笑い、勝手に柏手を打った。「それそれ! その話、チョウにも聞かせてあげてよ!」
メイファンはしばし呆気に取られてチョウの中のユージンを見つめていたが、やがてアホを見るように笑った。
「記憶、戻ったみたいだな」
0384創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 20:04:05.70ID:yt9nnAOm
その時、メイファンは気づいた。
扉がないので物音はしない。しかし、気配でわかった。おばあちゃんがコソコソと外へ出て行く。
「おい、ズーロー」
「んー? どうした、メイファン」
「おばあちゃんがコソコソ出て行ったぞ。私のことを通報にでも行ったか?」
「あー、たぶん……」ズーローはのんびりと言った。「祝融師匠を呼んで来るつもりだな」
「げっ」メイファンは慌てて立ち上がった。酔いが一気に醒めた。「私は帰る。じゃっ!」
「メイファン……」ユージンがその名を呼んだ。
「あっ、そうだユージン。お前も一緒に帰るぞ」
「えっ?」
「人間界へ帰るんだ」
「ええっ?」
「チェンナの中に入れ。チェンナ、2人入ったら苦しいかもしれんが、少し我慢しろ、な?」
「やだ」と、ユージンが言った。
「やだ……だと?」
0385創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 20:13:25.05ID:7V/Yndy3
「ぼく……ここにいる」ユージンは駄々をこねるように言った。
「待て待て待て待て」チョウはそう言うと、ベッドにへたり込むように座った。「何が何だか……」
「あっ、そう?」メイファンは急いだ口調で言った。「そんなら別にいいぞ。私が命令さるてるのは『チェンナを守れ』だけだからな。お前は別に好きにすればいい。じゃっ!」
「おい、ちょっと待てメイファン」ズーローが呼び止めた。
「何? 早くして。早くしないとアレが来ちゃう」
「お前、俺と付き合わねー?」
「ごめんなさい。じゃっ!」
「じゃあ、今度でいいから秀珀(ショウポー)の中に入ってくれよ」
「秀珀? 何だ、それ」
「俺の惚れてる女だ。凄い美人なんだけどs」
「くだらんことで呼び止めるな!」メイファンは激怒した。「帰る! じゃ、またな!」
0386創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/11(水) 20:29:19.60ID:i/CuRhx5
何事もなくクスノキの老人の小屋へ無事戻ると、鹿のような人間のようなものがベッドに寝ていた。
「なに? これ」とメイファンが聞いた。
「患者だ」と老人が答えた。
「ふーん。意識ないの?」
「あぁ、未だ戻らぬ」
「じゃ、いいや」
そう言うとメイファンは服を脱ぎ、全裸になって箪笥の上に座った。そして老人に聞く。
「私、人間界に帰るわ」
「そうか」
「世話になったな。礼と言っちゃなんだがチェンナを抱っこさせてやる」
メイファンは酔っぱらって眠っているチェンナと身体を交代すると、全裸のチェンナをしばし老人に抱っこさせた。
「癒されたか?」
「……ウム」
「じゃ、人間界への帰り方を教えてくれ」
「知らん」
「知らん……だと?」
「とりあえず今は機会ではない」老人は言った。「何度も言っているであろう。その機会を待つのだ」
0387創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/12(木) 11:19:07.53ID:iUyqOuVb
「なに? これ」とメイファンが聞いた。
「ナマズだ」と老人が答えた。
「ふーん。意識ないの?」
「あぁ、未だ戻らぬ」
「じゃ、いいや」そして、老人に聞く。
「私、芸能人になるわ」
「そうか」
「世話になったな。言っちゃなんだが 調味料切れてるんだ」
酔っぱらってる老人に「歯をくれ!」
「……ウム」

「知らんのか、これはな先祖代々の入れ歯じゃ」
「知らん……だと?」
「とりあえず今は機会ではない」


老人は言った。
0388創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/12(木) 22:58:17.61ID:XTxzMy9e
チョウはベッドに潜り込んだ。
疲れていた。ルーシェンのこと、メイファンのこと。
表のほうでは祝融の声がしていた。ズーローが絞られているようだ。
「ユゥ……」チョウは寝ながらユージンに話しかけた。「本当に『黒い悪魔』がお前の姉ちゃんなのか?」
「姉ちゃんじゃないけど……」ユージンは答えた。「親類」
「姉ちゃんじゃあないのかよ」
「姉ちゃんもいるけど、姉ちゃんはもうちょっとまともな人」
「じゃあ、椿は?」
「え?」
「思い出したんだろ? 椿はお前とは関係ねーの?」
「関係って……?」
「たとえば……妹だとか」
「バカなの? チョウ」
「は?」
「椿は人間じゃないでしょ」
「あっ? あぁ……そうか」チョウは苦笑いし、頭を掻いた。「何言ってんだ、俺」
「大体、記憶が戻ったっていっても、やっぱり部分的なものっぽいんだ」
「全部じゃないのか」
「うん、でも」ユージンは言い切った。「椿がぼくの妹だなんて、それだけはあり得ない」
0389創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/12(木) 23:18:48.18ID:XTxzMy9e
「お前、人間界に帰らないって言ってたけど……」チョウは聞いた。「なんでだ?」
ユージンは答えに詰まった。
自分でもなぜああ言ってしまったのか、よくわからなかった。
メイファン繋がりでチェンナとメイ姉のことは思い出したが、それ以外がまだよく思い出せていないせいかもしれない。
兄がいたような気がする。しかしどんな顔だった? よく思い出せない。
「アイツ、もう」チョウが言った。「お前のこと置いて人間界に帰っちまったかもしれないぜ?」
「ごめん、チョウ」ユージンは口を開いた。「チョウのことも考えずにあんなこと言った」
「俺のこと?」
「ぼくがずっと中にいたら迷惑なのに」
「バっカ」チョウはユージンの額を小突くように自分の鼻をピンと弾いた。「2年も一緒にいるんだぜ? お前、完全に俺の一部だよ」
「本当?」
「あぁ」
「ぼくがいないと落ち着かない?」
「あぁ、落ち着かねーよ」
「チョウ……」
「実を言うとな」チョウは頭の後ろで手を組むと、話しはじめた。「俺、昔、弟がいたんだ」
0390創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 15:23:31.06ID:3nVWcnh+
チョウは産まれた時、双子だった。ただし双子の弟は、チョウの脇腹にくっついていた。
チョウも未熟児気味ではあったが、弟はさらに小さく、心臓はあったが胃から下はすべてチョウのほうにあった。

母親は出産のあと間もなく亡くなった。父親は二人を隣国で名医と呼ばれているクスノキの元へ連れて行った。
しかし名医といえども生きている二人を切り離すことは不可能だった。

弟の名はシェンと言った。クスノキは弟が長生きできないことを予め宣告していた。
宣告通り、シェンは八歳になる年に静かに眠るように死んだ。シェンの死を確認した後、クスノキはチョウの身体からシェンを切り取った。
0391創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 15:37:35.10ID:3nVWcnh+
「俺、シェンを切り取らないでくれって、泣いてお願いしたんだぜ」
チョウが話すのをユージンはたまに「うん」と言いながら黙って聞いていた。
「シェンは俺の一部だったからさ……」
窓から入って来た風が紅葉の葉を軽く揺らした。
「だから正直、嬉しいんだぜ? お前がいてくれると、さ。シェンが帰って来たみたいで」
「……そうだったんだ」
「あぁ」
「仲良かったんだね」
「ケンカもよくしたけどな」チョウは笑った。「ただ……」
「ん?」
「お前は、いいのか?」
「え?」
「人間界に、帰れなくなっても」
「……いいよ」
「なんでだ?」
「チョウといたいから」
チョウは暫く呆気にとられていたが、やがて吹き出すように笑った。
「へんな奴だな、ユゥって。本当にへんな奴」
「ごめん」
「まぁ、アイツも言った通り、お前が好きにすればいいさ。お前が決めることだ」
「うん」
「それに」チョウはため息を吐くと、言った。「俺も、お前がいなくなったら寂しいわ」
0392創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 15:58:45.18ID:3nVWcnh+
「ところで」ユージンが言った。「チョウのお父さんは? どうしたの?」
「あぁ。俺が10歳の時、病で死んだ」
「そうだったんだ……」
「クスノキのじいちゃんもその頃はまだ外まで来てくれたんだけどさ、手遅れだった」
「……」
「それから……俺達兄弟の面倒見てくれてたフォンおばさん……今の椿のお母さんが、俺のこと引き取るって言ってくれて……」
「そうなの?」
「あぁ。でも、俺の素質が『火』だったからな。『樹の一族』には向かなかったんだって」
「そっか」
「で、今のばあちゃんが、ズーローを兄ちゃんにしてしっかりさせたいって、俺を引き取った」
「兄ちゃん、しっかりしなかったね」
「はは……」
「んー。でも」
「ん?」
「チョウ、もしフォンおばさんに引き取られてたら、椿と兄妹になってたんだね」
「あぁ。本当、そうならなくて、よかったよ」
「よかったの?」
「あぁ。そうなってたら、永遠に結ばれることはなかったからな」
「べつに……血が繋がってなけりゃ……」
「血が繋がってなくても、妹は妹としてしか見れねーよ。特に俺、そういうとこあるからさ」
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんだ」
「そんなもんじゃなくても」
「ん?」
このままじゃチョウ、永遠に椿とは結ばれないよ? と言おうとして、ユージンは黙った。
「なんだよ? ユゥ」
「ううん。眠い。おやすみ」
「……? おう、おやすみ」
「あ、あとね」
「ん?」
「ぼくは、チョウの弟じゃないからね」
「はは」チョウは笑った。「わかってるよ、親友」
0393創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 16:24:00.74ID:3nVWcnh+
次の日、メイファンは、クスノキの老人の小屋で暇していた。
「あーヒマヒマヒマヒマ!」
そう叫びながら小屋の中を歩き回る。
「ひーーーまっ!」
そう叫びながらルーシェンの角を持ってぐりぐりした。
「おい、ジジイ! 私と殺伐とした遊びをしないか?」
「この老いぼれに何が出来るものか」クスノキの老人は答えた。
「しかしお前、よくこんなとこで一人で一日中そうやって立ってられんな? ヒマだろ?」
「樹木に暇などというものはない……ム?」
「おっ?」
「おじいちゃん!」と息を切らしながら椿が飛び込んで来た。
メイファンは瞬時に黒い調度品に化けていた。急いだので手足が変わりきつっていない。
そんなことには気づかずに、椿は聞いた。
「ルー、まだ目、覚めないの?」
メイファンはゆっくりと手足を仕舞っている。
「ウム。身体はもう大分治ったのだが……ム?」
「うっ?」と黒い調度品がつい声を出した。
「こんちは」と言ってチョウが入って来た。
0394創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 16:42:21.78ID:3nVWcnh+
椿は赤い魚を連れていた。ふわふわと宙に浮かんでいるその魚をメイファンは初めて見た。
『なんだあの魚。椿のペットか? なんで水もねーのに泳いでんだ? 神獣ってやつか?』

椿とチョウは並んでルーシェンの顔を覗き込んでいる。

クスノキの老人は言った。
「身体はもう大分治っている。呼吸もしているし、瞼の下で眼球も動いている。……しかし、魂が戻って来ぬ」

話を聞きながら、チョウがくんくんと鼻を動かした。そして言う。
「ちょっと待って、じいちゃん」
そして部屋を見回す。
箪笥の上の黒い調度品に目を止めた。
「……おい」
「どうしたの?」と椿が聞く。
「姿を現せ!」チョウは調度品に向かって叫んだ。「めっちゃめちゃ臭いぞ、この野郎!」
0395創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 17:09:50.03ID:3nVWcnh+
「臭いいうなーーー!」
メイファンはあっさりと姿を現した。

黒い調度品が幼児に化けるのを見、椿の目が点になる。

「テメェ! なんでここに……!」
チョウが殺気を全身から放つ。
そして椿を守ろうと動いたが、そこに椿はいなかった。

「お姉ちゃん、あのお兄ちゃんこわーい」
メイファンは椿の胸に飛び込んでいた。
いつの間にか自分に抱っこされている幼女を見、椿の顔が笑った。
「可愛い! どこの子?」

「椿! 離れろ! そいつは……」
チョウの言葉がそこで止まる。
「え〜ん。ホラホラ、あのお兄ちゃんこわいよぉ〜」
そう言いながらメイファンが左手を小刀に変え、椿の頸に突きつけていた。
「チョウ?」椿は小刀には気づかずにただチョウを睨む。「この子が何?」
「やっ……やめろ!」チョウはメイファンに向かって泣くように言い、続けて椿に言った。「椿、そいつは……」
「そいつは?」メイファンの目が鋭く殺気の光を浮かべ、右手が椿の胸を揉むぞと脅した。
「そいつは……」
「儂の客だ」クスノキの老人が威圧するような声を出した。「メイファン、その手を退けよ。退けぬと……」
「じゃ、おじいちゃん。あのお兄ちゃん何とかしてよ」
「チョウ」老人が懇願する。「どうか黙っていてはくれまいか。メイファンは本当に、儂が招いた客なのだ」
0396創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 20:55:33.90ID:qwfb0qW+
「チョウ」ユージンが声を出した。「メイファンはぼくの『おば○ん』なんだってば。怖がらないで」
チョウはユージンだけに聞こえる小声で言った。
「でもアイツは水龍道士を殺したやつだぞ」
「お願い」ユージンはチョウを刺激しないよう、懇願する口調で言った。「ぼくの大事な身内なんだ」
「……わかったよ」チョウは納得していない顔をしながらも、言った。「何もしねーから……椿を離しやがれクソヤロウ」
「いい子だ」メイファンは椿の胸から降りると、手を繋いだ。
「手ぇ離せ!」
「お姉ちゃんの手、あったかーい」
「フフ」頭に疑問符を乗せていた椿が安心して笑顔を浮かべた。「メイファンちゃんって言うのね。わたしは椿。よろしくね」
「よろちくねー」
「手を離せって言ってんだ!」
「チョウ」椿が睨む。「見損なった。あんたってそんなひとだったの?」
「椿……! ちくしょ……」チョウはようやく大人しくなった。
0397創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 21:08:05.09ID:qwfb0qW+
「ルーシェンのことだが」クスノキの老人が言った。「魂のこととなると儂の専門外だ」
「霊婆ね」椿が言った。
「ウム」老人は頷いた。「もしも明日になっても意識が戻らぬなら、霊婆の所へ連れて行きなさい」
「板に乗せて連れて行こう」チョウがメイファンから目を離さずに言った。「俺が背負って行けりゃいいけど、背が違いすぎる」
「ルーの足、ひきずっちゃうもんね」ユージンが面白がる。
「じゃあ、明日、また来る」椿はそう言うと、クスノキの老人に抱擁した。「メイファンちゃん、またね」
「うん! お姉ちゃん、またねー」
「さ、チョウ。帰るわよ」椿はさっさと先を歩き出した。そして赤い魚に言った。「おいで、ラン」
「待てよ、椿」チョウが追いかける。
「ユージン、チョウを頼むぞ」クスノキの老人が背中に声をかけた。
「うん」とユージンが答える。
メイファンは黙っていた。暫く黙って考え込んでから、ようやく呟いた。
「……ランだと?」
0398創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 21:19:39.28ID:qwfb0qW+
チョウは椿と並んで町を歩いた。
メイファンのことを椿に説明したかったが、ずっとユージンに小声でお願いされていた。
「お願い、チョウ。ぼくの叔母さんを売らないで」
ランは子犬のようにずっと椿の隣をついて飛んでいた。
知り合いに会うたび「可愛い神獣ちゃんね」と微笑んでもらった。
しかし茶屋の前を通りかかった時、店の長椅子に座っていた薄青い着物姿の細身の男が立ち上がり、後ろから声をかけて来た。
「待ちなさい、お嬢さん」
椿は振り返り、男の顔を認めた。
蒼い長髪を絹の紐でまとめ、額に紺色の刺青のある柔和な顔つきのその男を認めると、椿は名を呼んだ。
「赤松子さま」
0399創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 21:35:47.90ID:qwfb0qW+
【主な登場人物まとめ】一

人間

・ユージン(李 玉金)……17歳の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……14歳の黒いおかっぱの少女だった。ユージンの妹。登校拒否の中学生。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけていた。
大好きな義兄のランが日本から帰って来、うかれていたが、ランが渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
海で罠にかかっていた赤いイルカを助けた直後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。
0400創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/13(金) 21:41:28.58ID:qwfb0qW+
【主な登場人物まとめ】二

海底世界の住人

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・椿(チュン)……元ユージンの妹で人間。今は海底世界の住人。渦潮に飲まれて海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられた。
名門『樹の一族』の養女。薄紅色の『気』が使える。人間の記憶はすべて消されている。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
自分を助けたがために死んでしまった人間の青年を生き返らせようと、霊婆の元から青年の魂を貰って来た。
赤い魚の姿をした魂にランと名前をつけ、いつも連れて歩いている。

・ラン……椿が育てている赤い魚。周囲からは神獣の子だと思われているが、実は椿を助けて死んだ人間の魂。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
下半身を鹿に変えて、悪者を踏み潰したり人を背中に乗せて走ったり出来る。
スラリと背が高く、中性的な顔立ちに魅力的な2本の短い角を持ち、嘘さえつかなければ女の子にモテない要素はない。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。
0402創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/14(土) 17:26:50.65ID:skQNeN+d
「君は……『樹の一族』のお嬢様だね?」赤松子はそう言うと恥ずかしそうに頭を掻いた。
「とても可愛らしいお嬢さんだなと思っていた」と言おうとしたら椿の「はい」という返事に言葉を切られ、赤松子は泣きそうになった。
助けを求めるように後ろのチョウに声をかける。
「やぁ、君は祝融のお弟子さんの……」
「チョウです」ぺこりとチョウは頭を下げた。「よろしく、赤松子」
「そしてこの子は……」と言って赤松子がランを見下ろした。
「ランです」椿が自慢するように微笑む。「神獣の子で、わたしの……」
「違うでしょう」赤松子が急に厳しい顔つきになる。「これは神獣ではない」
椿が緊張して身体を強張らせた。
「どうしたのだね? 霊婆め、これを君に持たせたのか?」
椿は俯き、黙ってしまった。
チョウはその後ろで何とかしてやろうとしているが、何も出来ない。
ランは無邪気に椿の回りをゆっくり飛びながら、赤松子を見上げて嬉しそうに微笑んだ。
「君は、わかっていてこの子を連れているのか?」
赤松子に問い詰められ、椿はようやく顔を上げ、言った。
「赤松子さま、わたし喉が乾いたわ」
「えっ?」
「そこの茶屋でお茶をご一緒しません?」
0403創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/14(土) 17:40:08.40ID:skQNeN+d
三人は並んで長椅子に座り、茶を飲み団子を食べた。
チョウはユージンの存在がばれないよう、橙色の『気』を強く放ちながら団子を食べた。
赤松子が椿越しにへんな奴を見るようにチョウを見た。

椿は正直に本当のことを赤松子に話した。
成人の儀で人間界に行った時、魚捕りの罠にかかって死にかけたこと。自分を助けてくれた優しい人間の青年がいたこと。
青年がどれだけ美しかったかということ。自分を助けたせいで、青年が渦潮に呑まれて死んでしまったこと。
ただひとつ、生き返らせようとしていることだけは言わなかった。

「なるほど」赤松子は団子に手もつけずに話を聞いていた。「君の気持ちはわかる」
「聞いてくれてありがとうございます」椿が一礼する。
「しかし、わかっているとは思うが、これは自然の掟に反することだ」
椿は礼をしたまま目を伏せた。
「可哀想だが、それが青年の運命だったのだ。君が遺憾に思うことはない」
椿は項垂れてしまった。
「……なんて、言えたらなぁ〜」
赤松子の口調が急に変わり、椿はびっくりして顔を上げた。
0404創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/14(土) 17:53:02.07ID:skQNeN+d
「椿ちゃんの気持ちは本当によくわかる」赤松子は目に涙を溜めながら言った。「私だって同じことをするかもしれない」
椿は黙って話を聞いている。
チョウは緊張を緩め、危うく橙色の『気』が弱まりかけたのを慌てて戻した。
「しかし、その人間の魂。もう大分育っているであろう?」そう言って赤松子は椿の膝で休むランを見た。
「はい……」椿はゆっくり首を縦に振った。
「人間の魂は霊婆の島を出ると、育ちはじめる。その魚、何も餌を食べぬであろう?」
「そうです」わかっている、という風に椿は頷いた。
「魂は食べ物を必要としない。ただ、愛を必要とする」
チョウが団子を喉に詰まらせた。急いで茶を口に運ぶ。
赤松子は続けた。
「愛されれば愛されるほど、急速に成長するのだ。君が愛すれば愛するほど、彼は化け物のようになってしまうぞ」
「あ……」ユージンはここ最近で急速に魚が大きくなっていることに思い当たった。
0405創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/14(土) 18:08:00.62ID:skQNeN+d
「返すのだ」赤松子は冷たい表情に優しい声を乗せた。「君の気持ちはわかる。しかし彼をここにいさせては、皆が不幸になる。
「彼はなりたくもない化け物にさせられ、世界を壊しはじめるだろう。君が望んでいるのはそんなことではない筈だ。
「恩を受けた。返したい。側に置いて愛を注いでやりたい。その気持ちはわかる。しかし、結果が見えている。
「祝融ならばここで彼を滅するであろうな。しかし、壊した魂は二度と人間界に戻らぬ。永遠に冥界をさまようことになる。私にそれは出来ん。
「霊婆の元に返すのだ。霊婆なら魂の大きさを変えられる筈。元の小さな魚に戻し、生まれ変わるまでガラス瓶の中にいさせるのだ」
0406創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/14(土) 18:21:15.91ID:skQNeN+d
椿は話を聞きながら泣いていた。
泣きながら膝の上のランの背中を撫でていた。
心なしか目の前でまた少し魚が大きくなったようにユージンは思った。
「椿……」チョウが言った。「赤松子、ちょうど明日、俺達、霊婆のところへ行くんだ」
「それはまた物好きだな」赤松子はチョウを見た。「何の用があって?」
「友達の魂が戻って来ないんだ。だから、その時に……な? 椿」
チョウは椿の顔を覗き込む。
椿は暫く何も言わずに泣いていたが、遂には首を縦に振った。
「返しに行こう、ランを」チョウは優しい声で言った。「いいな? 椿」
椿がチョウにすがりついてきた。チョウの耳元で小さな嗚咽が聞こえる。
チョウは抱き締めてやろうと手を回し、右手でポンポンと椿の背中を叩き、左手で赤い髪をポンポンと撫でた。
0407創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/14(土) 18:51:03.39ID:skQNeN+d
「君を信じているよ」
茶屋を出て、手を振りながら赤松子は言った。
チョウがぺこりと頭を下げる。並んで椿も頭を下げたまま、震えながらランを胸に抱き締めている。
赤松子は椿を見て同情するような表情を一瞬したが、威厳を取り戻すと背を向け言った。
「また、見に来る」
0408創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 00:21:03.39ID:V+EmR6yE
つまらん
0409創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 08:51:31.91ID:eRmybZ+1
チョウは椿を送って行った。
まっすぐ歩けない椿の手を繋いで、何も言わずに歩いた。
何を言っても椿の慰めにならないとわかっていた。
ランは何もわかっていない顔をして、ただ心配そうに椿の側をついて来た。

夜、布団の中で、眠ろうとしているチョウにユージンが言った。
「ねぇ、チョウ」
「ん?」
「明日、椿、ランを連れて来るかな」
「来るさ」
「でも……」
「椿はそういう奴だ」チョウは言った。「自分のわがままのために皆を不幸にしたりしない」
0410創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 09:33:29.32ID:eRmybZ+1
次の日、仕事を終えるとチョウは、まっすぐルーシェンの容態を見に行った。
クスノキの老人の小屋は『樹』の町寄りではあるが、『火』の町との中間にある。
ゆえに別の場所で椿と待ち合わせすることなく、まっすぐ向かった。
小屋に入るとすぐにメイファンが言った。
「いらっしゃいませ☆ご主人様〜」
メイファンは黒いメイド服を着、もえもえきゅん等と言ったが、チョウは無視して奥へ進んだ。
椿はまだ来ていなかった。
ルーシェンは何も変わらず、アホ面をして眠っていた。
「ルーの魂、戻って来ないのか、じいちゃん」チョウがクスノキの老人に聞く。
「ウム。やはり霊婆のところへ連れて行くしかあるまい。早いほうがいい」
「おじいちゃん」椿がそこへ飛び込んで来た。「ルーは?」
椿は元気が戻っていた。後ろからランをがふわふわと空を泳いでついて来た。
0411創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 10:04:23.89ID:eRmybZ+1
「霊婆は夜しか舟を出さん」クスノキの老人が言う。「椿よ。行き方はもう覚えたか?」
「うん。大丈夫よ、おじいちゃん」
「二人で行くのか?」
「あぁ」チョウが答える。「夜だと他に手伝ってくれそうな奴、いねーし」
「ルーシェンに身内は?」
「いないんだ。コイツ、木の股から産まれたから」
ユージンの頭の中で、ルーシェンの「また騙された〜、チョウ」と面白がる声が聞こえたような気がした。
「では……」と老人はメイファンをチラリと見た。
「は? 私に手伝えって言うの?」メイファンが意外そうな顔をする。
「暇なのであろう?」
「子供に何が出来るって言うの? 大体、お外は危ないし。私、その鹿が死のうが馬になっちゃおうがどうでもいいし」
「そうよ、おじいちゃん」椿が止めた。「メイファンちゃんは子供なんだから。それに……」
椿は少し頬を赤くすると、言った。
「わたし、チョウと二人きりで行きたいの」
0412創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 10:38:14.97ID:KGQXtRZj
「わたし、チョウと二人きりで行きたいの」
帰ってからずっとチョウは、熱にうかされたように独り言を呟いていた。
「二人きりで。二人きりで〜〜! ウフーッ!」
修行も手につかずにただベッドの上を転げ回る。
「二人きりがいいの。邪魔者はいらないの。イヒーッ!」
「チョウ」たまらずユージンが声をかけた。「あんまり喜ばないほうがいいと思うよ」
「は? 何でだよ? 大体喜んでなんかねーし。ブフッ!」
「女は怖いから」
0413創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 10:49:47.28ID:KGQXtRZj
ひとしきり大喧嘩した後、チョウはベッドに大の字に固まった。
「ところでさ、ぼく、考えたんだけど」ユージンが言った。「ルーシェンのあの大きな身体を運ぶの、大変そうじゃない?」
「板に乗せて二人で運ぶんだ。大丈夫だよ」
「でも椿、女の子だよ?」
「……うん」チョウが困った顔をする。「それは思ってた」
「それでぼく、考えたんだけど、ぼくがルーシェンの身体に入って、自分で歩けば楽じゃない?」
チョウがはっとした。思いつきもしなかった考えを頭の中でシミュレーションしているらしかった。
恐らくチョウの頭の中ではルーシェンが下半身を鹿に変えて歩き、その背中に椿が乗り、椿を守るように抱きかかえて、王子様のような自分が乗っていた。
しかしチョウは首を横に振った。
「駄目だ駄目だ駄目だ」チョウは厳しい口調で言った。「人間であるお前を自由にはさせられねー」
0414創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 12:32:24.04ID:h2HIeK7E
夜が更けた。
クスノキのたもとに椿は先に来て、待っていた。
椿のすぐ隣にはまた少し大きくなったランが浮遊している。

椿は『樹の一族』特製の板の担架を持って来ていた。
薄く、軽く、四隅に取っ手がついており、これならば二人ででも楽にルーシェンの身体を運べそうだった。

「いいわ、おじいちゃん」
椿がそう言うと、木の上からするすると、蔓がルーシェンの身体を降ろして来る。
板にそっと乗せ、持ち上げてみると意外なほどに軽かった。
「軽いな」チョウが嬉しそうに言った。
「うん」椿も笑い、頷いた。
「コイツ、身体でかいけど、細いから助かったぜ。これなら運べそうだ。あ、もちろん椿の板のおかげで、な」
「行こう」椿が楽しそうに言った。
チョウが前に立ち、二人はルーシェンを乗せた担架を二人で持ち、歩き出した。その後をランが泳いでついて行った。
「気をつけてな」頭上からクスノキの老人の声がした。
0415創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 12:44:10.64ID:h2HIeK7E
「二人きりじゃなくしてごめんね」ユージンが言った。
「いや、二人きりだよ」チョウは鼻唄を歌うように言った。「お前は俺の一部だから、立派な二人きりだ」
二人の会話は小声でも骨を伝わってよく聞こえるので、椿には聞こえていない。
二人は『樹』の森を抜け、『火』の町に入って行く。

担架を通じて椿の手の細さがチョウに伝わって来る。
「大丈夫か?」
チョウはたびたび振り返り、聞いた。
「うん、大丈夫」
そのたびに椿はそう答えた。
二人は町外れのチョウの家の前を通ると、夜でも赤さの浮かぶ『火』の森に入って行った。

なんだか後ろが下がって来た。
振り返ると椿が一生懸命な顔をして、汗をかいている。
「きつくなって来たか?」チョウが声をかけた。「ここらで休もう」
0416創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 12:54:24.84ID:h2HIeK7E
「ううん、大丈夫」椿がにかっと笑った。「ルーのために急がないと」
「なんか無理してる笑顔だよ」ユージンが小声で言った。「チョウは大丈夫?」
「おう。俺は軽いもんだ」
そう答えてチョウはもう一度振り返る。椿は口で息をし、顔を赤くしている。
「頑張れ。森を抜ければすぐだ」
「うん!」掛け声のような返事が返ってきた。
「チョウ」ユージンがまた小声で言った。「ぼくをルーの中に入れて」
「駄目だって言ってんだろ」
「でも、椿が……。あれは相当きつくなってるっぽいよ」
「頑張ってんだ。邪魔すんな」
「うーっ!」椿が遂に苦しそうな声を上げはじめた。「うーっ!」
「椿、やっぱり休もう」チョウが見かねて言う。「無理はすんな」
椿は頑なに首を横に振った。
0417創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 13:14:31.86ID:h2HIeK7E
「チョウ」ユージンが新しい提案をした。「ルーが駄目なら、椿にぼくを入れて」
「は? それでどうなんの?」
「ぼくが中から力を貸してあげれば椿は二人力になる。それに椿を休ませてあげられるだろ」
「はぁ……ん。でも……」
「椿は意識があるからぼくも自由には動けない。力を貸してあげるだけ」
「なるほどな」チョウは急いで考えをまとめ、言った。「そうしよう。で、どうやってお前を椿に移せばいい?」
「前におばあちゃんに移したろ。あれみたいに……」
チョウの頭におばあちゃんを椿に変換した光景が浮かぶ。
椿の肩を掴み、顔を寄せ、開かせた椿の口に、自分の口を近づける。
椿の温かい吐息が、唇が、迫って来る。
「はわわわ!」チョウは思わず声を上げた。「ひゃ……ひゃははは!」
「何笑ってるの!?」後ろから椿の怒ったような声が飛んで来た。
「口はつけなくていいんだ」ユージンが小声でさらに言う。「二人で口を開けて近づいてくれれば、飛び移れる」
「無理……! 無理……! ひゃははっ!」チョウは顔をひきつらせ、笑い声にしか聞こえない叫びをまた上げた。
「笑うなーっ!」
「椿!」ユージンが大きな声を出した。「限界でしょ? 休んで! このままじゃ港までに君の力が尽きちゃう!」
0418創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 13:35:20.10ID:PiqdtjbZ
担架を下ろし、大樹に凭れて二人は休憩をとった。
二人の苦労も知らず、相変わらずのアホ面で寝ているルーシェンの顔を月が照らした。
椿は目を閉じ、腰につけていた水を飲み、汗を拭きながら荒い息を整える。
チョウはその横顔をじっと見ていた。はぁはぁと半開きで息をするその赤い唇を見ていた。
「椿。ユゥが、さ。言うんだ」チョウは切り出した。「お前の中に、入れろって……」
意味がわからなかったらしく、椿は頭に疑問符を乗せた。
さっきユージンが言ったことをそのまま説明すると、椿は答えた。
「そっか。二人力になるのか……。いいよ。やろう」
「や……やるの?」
「うん。なんで?」
「い……嫌じゃねーの?」
椿はチョウの顔をじっと見つめると、ふっと微笑んだ。
「嫌じゃないよ」
0419創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 18:56:27.51ID:PiqdtjbZ
チョウは地面に手をついた。椿も手をついた。お互いが同時に手をついたので、重なってしまった。
上になった椿が退けないので、チョウも手を退けなかった。椿の体温が伝わって来る。
チョウが顔を近づける。椿のほうからも近づいて来た。椿は目を閉じ、口を大きく開ける。その頬が紅く染まっている。
チョウも目を薄く閉じた。椿の顔は見えるぐらいに。
椿の湿った吐息が近づいて来る。
チョウも口を大きく開けようとした時、
「口をつけなくていいからね」ユージンが念を押すように言った。「寸止めでいいから」
何も答えず、チョウは大きく口を開けた。
顔はみっともないほどに真っ赤だった。
椿の唇の感触が予感できるほどに接近した時、チョウは胸に強い衝撃を受け、突き飛ばされた。
0420創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 19:06:50.35ID:PiqdtjbZ
驚いて目を開けると、赤い魚が椿の前に立ち塞がっていた。
怖い顔をして、椿を守るようにそこを退かない。
「クオォォッ!」と威嚇する声を出す。
「ラン!」椿が困ったように笑う。「違うの。チョウはわたしに悪いことをしようとしているんじゃないのよ」
「クオォォッ!」しかしランは威嚇をやめない。
「なんだ、この魚野郎!」チョウは真っ赤な顔で激怒した。「俺をバカにしてんのか? ふざけやがって……!」
「チョウ」椿が険しい顔になった。「ランを悪く言わないで」
ランはチョウを睨み続けたまま、椿の回りを飛び回った。
「あら、ラン」椿は微笑むと、言った。「チョウ、ランが手伝ってくれるって」
0421創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 19:12:04.92ID:PiqdtjbZ
二人はルーシェンの搬送を再開した。
ユージンはチョウの中に入ったままだ。
担架の下にランが潜り込み、下から支えて泳いだ。
担架はてきめん軽くなり、椿はほぼ担架に手を添えているだけになった。
「ありがと、ラン」椿が微笑む。「頼りになる子だね」
「そんなんなら最初っから手伝えよ、糞魚野郎」チョウがぶつぶつ言った。
0422創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/15(日) 20:51:03.00ID:PiqdtjbZ
「畜生、糞魚野郎。畜生」とぶつぶつ呟きながら歩いている間に、森の向こうに光が見えて来た。
「森を抜けるぞ」ユージンが言った。「もうすぐだ」
「うん!」椿が明るい声で言った。
「クォッ」とランも嬉しそうな声で鳴いた。
0423創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/16(月) 12:25:57.87ID:/4tnZOb7
舟はもう着いていた。
顔のない不気味な船頭が、櫓を手に、じっと客が乗るのを待っている。
チョウが一番に乗り込むと、担架ごとルーシェンを乗せた。
椿が手を伸ばす。チョウはその手を取ると、軽く引っ張って舟に乗せてやった。
椿が座ると、ランはその膝に乗り、勝ち誇ったようにチョウの顔を一瞥した。

小さな舟は出港した。
『気』の海には靄がかかり、波音もなく舟は進んだ。
海中から神獣麒麟が姿を現すと、舟に虹をかけるように、大気を震わせてまた海へと潜って行った。
「静かだね」
「うん」
「おう」
三人はそれだけ言葉を交わすと、後はずっと黙っていた。

靄の向こうに松明の灯りが見えてきた。
0424創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 05:37:55.85ID:3wZwfotP
「おや、またお前かね」
霊婆は誰かが来るのを知っていたかのように出迎えた。
「今度は友達も一緒か。賑やかなことだね」
そう言うと霊婆は意味不明の粘ついた低い笑い声を出す。
「こんちは」
チョウの挨拶を無視して霊婆は背中を向けると、寺の中へと案内した。
「ところで今度は何の用だね?」
「友達が」椿はすぐに答えた。「大怪我をしちゃって……身体は生きてるけど魂が、戻って来ないの」
「その鹿みたいなのかね」
「えぇ」
霊婆は担架に乗ったルーシェンを一瞥すると、即答した。
「それは無理だね。とっくに魂は逝ってしまってるよ」
「そんなのないわ! よく診てください!」
椿にそう言われ、霊婆は仕方なさそうにルーシェンを霊堂の中心に置かせ、容態を覗き込んだ。
0425創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 05:48:34.78ID:3wZwfotP
「どうだ?」チョウが聞く。「よくなりそうか?」
「煩い小僧だね。集中できないよ」
暫く霊婆はルーシェンの身体のあちらこちらに手を当てて何かを診ていたが、やがて顔を上げると、言った。
「何とかならないこともない」
「本当か!?」
「……よかった」
喜ぶ二人をくだらなそうに一瞥すると、霊婆は続けた。
「魂が冥界をさまよっている。まぁ、眠ってるようなもんだから苦しんではいないよ」
「それを引き戻して来ることがアンタなら出来るんだな?」チョウが希望に顔を輝かした。
「出来ないこともない」霊婆は無表情に言った。「だが、大仕事だ」
「報酬がいるのね?」椿が言った。
「そうだ。しかも頂くのはちょっとやそっとのものじゃ済まない」
「……って、いうと?」
そう聞いたチョウを霊婆はいきなり指差すと、言った。
「小僧の寿命すべてを頂こうか」
0426創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 06:03:58.30ID:3wZwfotP
「え……」チョウはぽかんとした。「俺の命とルーの魂の……かえっこか……」
「そんなのダメよ」椿が言った。「そんなの……」
霊婆はにたりと笑うと、言った。
「冗談だよ」
「テメェ……!」
「あぁ、冗談さ、ヒヒヒ。出来ないこともないというのは本当だがね。しかしそれで私も死ぬかもしれないんだ。そんな仕事は……ん?」
霊婆は突然、チョウの胸のあたりに目を止めた。
「小僧。お前、面白いものを飼っているな」
「え」
チョウの気が緩んだ瞬間、透けて見えたユージンを、霊婆は目ざとく捉えていた。
「身体のない人間か。これは面白い」
「ど、どうする気だ」チョウが腕でユージンを守ろうとする。
「……よし。その人間を私にくれるなら、冥界へ行く仕事を引き受けよう」霊婆の顔は一つ目の布で見えないが、真剣な空気が伝わって来た。「今度は冗談じゃないぞ」
0427創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 06:15:20.83ID:3wZwfotP
「いいわ」と、椿が即答した。「お願い。ルーの魂を連れ戻して」
「バカか!」チョウか声を上げた。「ユゥは物じゃねぇ!」
「あらら。意見が割れたねぇ」霊婆は困ったように言った。「べつにそいつの命はとらないよ。私のペットとして側に置くだけだ」
「ほら、チョウ。ユゥがここに住むだけの話でしょ」
「椿!? 信じらんねぇ! お前がそんなこと言うなんてよ」
「ほら、ここに住めばいい」霊婆はハムスターの飼育セットみたいなガラス容器を取り出した。「寄生生物のようだが、この中なら身体を出ても生きられるよ? ヒヒヒ」
「ほら、可愛がってもらえそうしゃない?」
「ルーがこうなったのは運命だ!」チョウは強い口調で言った。「でもユゥを捨てるなら、捨てるのは俺達だ! 運命じゃねぇ!」
0428創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 06:30:19.28ID:3wZwfotP
「まぁまぁまぁまぁ」霊婆が提案した。「その人間、ユゥとやら自身に決めてもらったらどうだね?」
「ぼくは……」ユージンがチョウの口を動かして声を出した。
「お前が私のものになってくれたら、お友達が助かるんだよ?」
「ぼく……」
「可愛がってやるよ。ここがきっと気に入るよ」
霊婆は心底からユージンのことを欲しそうに、涎を垂らして迫って来た。
「霊婆」チョウが口を挟んだ。「このままだとルーの魂は絶対に帰って来ないのか?」
「まぁ、ほぼ、絶対だね」霊婆は少し大袈裟な口調で言った。「一厘(0.0001%)の望みがいいとこだね」
「よし、帰ろう」チョウは霊婆に背を向けた。「帰って、ルーの帰りを待とう」
0429創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 06:37:31.40ID:3wZwfotP
「待たんか」霊婆が呼び止めた。「お友達が、何も栄養も摂らず、生きていられると思うのかね?」
「うっ?」チョウはそう言われ、気がついた。
「動かない身体は固まる。何も食べられない身体は痩せ細って行く。待っているうちに、お友達は死んじゃうよ?」
「そうよ」椿が責める口調で言った。「ルーが死ぬか、ユゥが引っ越すかの話でしょ。考えるまでもないわ」
「チョウ……」ユージンは小声で言った。「ぼく……あのひとの物になるよ」
「駄目だ」チョウは即答した。「お前はそんな運命じゃねぇ。そんなの不自然だ」
0431創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 06:48:50.82ID:3wZwfotP
結局、チョウは霊婆にユージンを渡さなかった。
魂が戻らないままのルーシェンを再び担架に乗せて、帰りの舟に乗った。
ユージンは椿があんなことを言い出したのがショックだった。
チョウもショックだったようで、椿と目を合わさない。
椿は舟の縁に座り、困ったような顔をして、ずっとランの背中を撫でている。
……ランの、背中を。
「あーーーっ!?」いきなりチョウが大声を上げた。「お前……魚! ランを返して来るんじゃなかったのかよ!?」
椿がキッとチョウを睨んだ。
0432創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 06:55:54.80ID:3wZwfotP
「ルー……絶対よくなると思ってたのに……」椿は涙をぽろぽろ零しはじめた。「計画が狂っちゃった……」
「けっ……計画!?」チョウが愕然とする。
「うん」椿はこくんと頷いた。「正直に言うね。わたし、チョウを気絶させといて、ランと家出しようと思ってたの」
「は、はぁ!? 家出って……。気絶ってどうやって!?」
「え。……こうやって」椿は手刀で自分の首の後ろを叩く動作をしてみせた。
「そんなもんで気絶するわけねーだろ!」
「え。でも……」
0433創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 07:44:55.19ID:3wZwfotP
「……トンッ、て……やれば……」
そう言いながら椿は舟を降りた。
「手、貸せよ」
チョウがそう言い、二人でルーシェンの担架を下ろす。
「……で?」チョウが目を伏せて言った。「お前の考えてた計画とやら、聞かせてもらいやしょうか?」
0434創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 09:01:10.81ID:7C8VhMWv
we are going out to even think so xoebjcnueb
0435創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 09:24:02.08ID:PbJ9iqTW
      ____   
     /__.))ノヽ   
    .|ミ.l _  ._ i.)  おるりゃー!     _/Z_rュ.ロ  
   (^'ミ/(;・;) (;・;)リ             ,、ヽァrァ//_._._ __
    .しi   r、_) |           人人人ノく/レ' >ン>> `> 
     |  (ニニ' /--、   ≡ ≡ ≡       (≡/'´ | ̄`ヽ  _ 
  ,.-rュノ `ヽ二ノ /; ; ̄了`>―-、_, r---、 て≡ __/   へ_ /・) 
 { l``<ヽ、  ノ/;'; '、'、 .ノ  /_,. イ , , , 〉  (≡ (6   ` _| ̄ ぐぇあ!  
 ',  ノ^   ̄´  、丶 ヽf´、  ゝ'ヽ//// て ≡ゝ    ┌' 
  |  |!:'        ヽl ̄ ̄``ー´^'′ ̄  (  ≡ヽ    └, .:∴∵・o∴ 
  l_,!   ; ',     ';,         ⌒⌒ヽ\ ≡ノゝ、 イ′ 
 ,!  i .'、ゝ、      |  
 !  l| /i'|    ノ^  |  
 `ヽ、_ノ 〉、____ノ"`ゝ
0436創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 12:15:04.20ID:3wZwfotP
椿はその邪悪なる計画の全貌を明かした。
ルーシェンの魂が戻って来たら、チョウの首の後ろをトンッと叩いて気絶させ、ルーシェンがチョウを介抱している間に
隣の『雪の国』へ逃げ、潜み、密かにランを育てる、という、それは壮大で恐ろしいものだった。

「そんだけ?」とチョウが口をぽかんと開けて聞いた。
「そんだけよ」椿が唇を尖らせる。
「……」
「……」
「……駄目だろ」とチョウが言った。「ランを返して来ないと」
「ほら! そう言うと思ったから!」椿が悪者を見る顔で言った。「だから気絶させようと思ったのよ」
「また明日、霊婆の島に行くぞ。あの船頭、引き返せって言っても何も聞こえてねーみてーで……決められた仕事しか出来ねーんだな」
「ランは返さないわ」
「バッ……! お前……」
「返さない」
チョウは困ったように頭を掻くと、椿に軽蔑するような目を向けた。
「お前ってそういう奴だったんだな」
0437創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 12:29:19.55ID:3wZwfotP
「本気でユージンを霊婆に渡して、それでルーが助かればいいって思ったのか?」
椿は俯き、黙り込んだ。
「引っ越しなんて話じゃ済まねーぜ? あんな奴、ユゥを実験動物にするかもしれねぇ」
「……」
「大体お前、ユゥの気持ち、考えたかよ? お前、別の友達助けるために、友達売ろうとしたんだぜ?」
「……ごめんなさい」
「どっちが大事かなんて話じゃねー。皆が幸せになる方法じゃなきゃ、とっちゃいけねぇんじゃねーかなぁ!?」
「ごめんなさい。あたし……」ぽろりと涙が零れた。「自分の計画のことしか考えてなかった……」
チョウは涙を見て黙った。椿は続けて喋った。
「ルーの魂が戻ったの見とかないと……安心して家出できないと……思って……」
家出って安心してするもんじゃないよなぁ、とユージンは思った。
「ごめんね、ユゥ……」椿はぽろぽろと泣き出してしまった。「……ごめんなさい」
「ユゥ」チョウがユージンに言う。「何か言ってやれ」
「一発……」ユージンは押し殺したような声で言った。「殴らして」
椿はこくんと頷くと顔を上げ、涙で濡れた頬を差し出した。
チョウの右腕が勝手に上がり、掌がパーの形に開く。
「勝手に身体動かすなって言ってんだろーが!」
チョウの怒声にユージンは引っ込んだ。
0438創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 16:24:44.57ID:3wZwfotP
「ユゥをあんなとこに置いて来てたら、俺が安心して毎晩眠れんとこだったわ」
「……うん」椿は自分で自分の頬を一発叩いた。
「まぁ」チョウは話を戻す。「明日こそ、ランを返しに行くぞ?」
すると椿は怖い目をして顔を上げた。
「チョウ。……ランの気持ちは考えてくれないの?」
「は?」
「皆が幸せになる方法じゃなきゃ、とっちゃいけないんでしょ?」
「いや。それとこれとは……」
「何が違うって言うの!?」
椿の剣幕に少し圧されながらもチョウは言った。
「だってそいつは世界を壊すだろ? 赤松子が言ってたように」
「だからってランをあそこに返すの?」椿の声は穏やかながら怒気を帯びていた。「それは運命じゃない。わたしが、ランを捨てることだわ」
「だから話が違うって! あそこに返せば、いつか生まれ変わるんだぜ!?」
「でもそれはランじゃない」
「知るか!」
「チョウはランを愛してる?」
「は? 愛してはねーよ」
「じゃあ、わたしのことは愛してる?」
「はっ? はぁっ!?」
「わたしはチョウのこと愛してるよ」
ぶっ倒れかけたチョウにユージンが囁いた。「チョウ! 間違えるな! 『友達として』だ!」
0439創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 16:40:45.50ID:3wZwfotP
「チョウも、ユゥもルーも、生まれ変わったら、もうわたしの愛するひとじゃないじゃない」
「お……おう」チョウはちょっとだけがっかりしながら言った。
「ランも同じ」椿はそう言うとランを抱き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。「わたし達……愛し合ってるのよ」
「あい……あいあい……」チョウは言葉が出て来なかった。
「それに……。赤松子さまにはお話してない方法があるでしょ」
「うん」ユージンが言った。
「ランを幸せにしてあげる方法は二つある」椿は強い目をして言った。「一つは霊婆に返して生まれ変わらせる。もう一つは……」
「人間に返すんだよね?」
「そう」椿は頷いた。「わたし、ランを絶対に生き返らせるんだ」
0440創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 16:53:18.17ID:3wZwfotP
「でも……」暫く考え込んでからチョウが言った。「赤松子に見つかったんだぜ? たぶん、皆にもばらして回ってる」
「だから家出するのよ」
「お前なぁ……」
「でも……ルーがそのままじゃ……ほっといて行けない」
「まぁ」チョウはまた頭を掻いた。「俺ん家まで運ぶのだけは手伝ってもらわねーとな」
「チョウの家に置くの?」
「あぁ。それしかねーだろ。面倒みないといけねーし」
「じゃ、運ぼう」
「あぁ」
そう言うと二人は担架を持ち、立ち上がった。すぐにランが担架の下を泳いで支える。
ランの力がチョウの手にも伝わって来た。
0441創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 17:05:26.43ID:3wZwfotP
五階のチョウの家までの階段を二人でルーシェンを担いで上がった。
チョウが背負い、椿はルーシェンの足が階段にぶつからないよう持ち上げた。

部屋に着くと、チョウのベッドに寝かせた。
チョウが荒い息を整える。
「それで、どうするの?」椿が聞いた。「ルーにご飯、食べさせなきゃ」
「ユゥ」チョウは目を瞑ると、言った。「ルーん中入れ」
「いいの!?」ユージンがびっくりした声を出す。
「仕方ねーだろ。お前がルーに入って、身体動かして、飯食ってやれ。ただし……」チョウは厳しく言った。「半刻(約30分)だけだ」
0442創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 17:18:24.56ID:3wZwfotP
チョウはベッドの上のルーシェンに覆い被さった。
指で強引に口を開かせる。幸い、歯は噛みしめていなかった。
男同士が接吻しているような光景を、椿は口に手を当てながらまじまじと見ている。
「どうだ? ユゥ」チョウは顔を離すと、聞いた。「動けるか?」
アホ面で意識を失っていたルーシェンが目を開け、喋った。
「うん! 大丈夫」ユージンは手を上げて伸びをした。「クスノキのおじいさんが身体は治してくれてるから、なんともない」
「中にルーがいたりは……しねぇ?」
「全然ダメ」ユージンは足をぱたぱたと動かしてみる。「やっぱり冥界をさ迷ってるみたい」
「……そうか」
「あーーーっ!?」
いきなりユージンが背中を向けて叫んだので、チョウも椿も驚いた。
「な、ななな何だよ?」
「どうしたの、ユゥ?」
「いや……」ユージンは振り向き、困ったような顔をして笑った。「なんでもない」
なんだか変な感じがして、股間に手を突っ込んでみたのだった。そこにはユージンのしっくり来るほうのものがあり、指は突き当たらずに、埋まった。
『まさかルー……こんなとこまで嘘ついてたなんて……!』
0443創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/17(火) 20:46:17.95ID:EFKVmb4b
「なんだい? 騒々しい」
「ばあちゃん、悪ィ」入って来たおばあちゃんにチョウが謝る。「こんな夜遅くにうるさくしちまったな」
「あら、椿ちゃん」おばあちゃんは深夜に孫の部屋に女の子がいるのを見ても、普通の反応しかしなかった。
「おばあちゃん、久しぶり」
「うん。久しぶりだねぇ。いつもチョウのお姉ちゃんやってくれて、ありがとねぇ」
「俺のが年上だってば……」
「おや。ルーシェンじゃないか。元気になったのかい」
「おかげさまで」ユージンはぺこりと頭を下げた。
「ばあちゃん、こんな夜中だけど腹減ったんだ。なんかない?」
「あぁ。作り置きの葱餅があるけど、食べるかい?」
「食べる!」三人は同時に言った。
0444創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/18(水) 07:24:19.89ID:iswhT6+6
おばあちゃんの葱餅は、片栗粉と小麦粉を合わせたものに塩と醤油を加えて水で溶き、
葱とごまを加えて火にかけるというだけの単純なものだったが、ユージンには極楽料理かと思えるほどに染みた。
自分で口を動かして食事するのなんて何年振りなんだろうと思った。
チョウも椿もユージンと同じ表情で、もぐもぐと口を動かしていた。
まったりとした時間があった。
「泊まってけよ」とチョウが言った。
「通報しない?」と椿が睨んだ。
「いいよ。協力してやるよ」
「本当?」
「ランを人間にして生き返らせよう」
「ありがとう」
みんなくたびれていた。
葱餅が片付く頃には三人とも床に転がって寝息を立てていた。
0445創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/18(水) 07:39:57.79ID:iswhT6+6
「ユゥ、ユゥ」
誰かが身体を揺すっている。
「……ラン兄ィ?」
ユージンは夢を見ている。
「おい、ユゥ」
「……ヒコーキ、気持ちいいよ」
「ユゥ!」
目を開けるとチョウの顔があった。
「……あれ? チョウの顔が……なぜここに……?」
「寝ぼけてんな!」チョウは厳しく言った。「早くルーの身体から出ろ。こっち戻れ」
すっかり日が高かった。椿は先に起きておばあちゃんの手伝いをしているようだ。
赤い魚のランがユージンの頭の上から覗き、クォッと笑うように鳴いた。
0446創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/18(水) 07:54:56.11ID:iswhT6+6
「オイ」と、ふいに声がした。
いつの間にか窓にメイファンが立っている。
「ズーローなら暫く帰ってないぜ」
チョウの言葉は無視して、メイファンは言った。
「ジジイが危篤だ。早く来い」
0447創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/18(水) 08:10:21.67ID:iswhT6+6
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……17歳の人間の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。
椿に恋しているが、気持ちを伝えようとは決してしない。特別に仲良くはなったものの、年下の椿から弟扱いされてしまっている。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・椿(チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。元ユージンの妹で、今は海底世界の住人。
クスノキの老人に助けられ、名門『樹の一族』の養女となる。薄紅色の『気』が使える。人間の記憶はすべて消されている。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
自分を助けたがために死んでしまった人間の青年を生き返らせようと、霊婆の元から青年の魂を貰って来た。
赤い魚の姿をした魂にランと名前をつけ、いつも連れて歩いている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。赤いイルカに姿を変えた椿を助け、渦潮に呑まれて絶命した。
今は赤い魚の姿をした魂となって、椿に飼われている。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。
0448創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/18(水) 08:21:10.15ID:iswhT6+6
ユージンが金色の『気』を込めると、容易くルーシェンの下半身が鹿に変わった。
「乗って!」
「おう、急げ!」
チョウが先に鹿の背に乗り、椿が急いでチョウの腰に手を回して掴まった。
「おじいちゃん……!」
「行くよ」
そう言うとユージンは蹄の音を立て、全速力で駆け出した。
0449創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/18(水) 08:35:39.09ID:iswhT6+6
クスノキの老人はベッドに長い身体を横たえていた。その傍らにメイファンが立ち、見守っている。
「おじいちゃん!」
いつもなら楽しそうに扉を開けて入って来る椿が、悲しそうに飛び込んで来た。
「おお……椿」
老人の声は昨日までとまったく違い、消えてしまうほど弱々しかった。
「俺、フォンおばさんと樹さんに知らせて来る!」入って来たばかりのチョウが駆け出す。
「チョウ、お願い!」
「椿よ」老人は言った。「儂を……許せ」
「……え?」
「ジジイ」メイファンが言った。「そんなんよりやることあんだろ」
「椿」老人は言った。「儂の残りすべての力をお前にやる」
「バカ言わないで」椿にはその意味がわかった。「死なないで」
しかし老人は、椿に手を触れると、その薄紅色の『気』をすべて椿に与えた。
「大切に使え。これを使い切ったら、お前は、ただの人間になってしまう」
0451創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/19(木) 12:26:12.92ID:+E5Ia2my
『なんだって? お父さんが?』
『よく報せてくれたね、ありがとう、チョウ。すぐに行くよ』
『ところで椿を知らないかい?』
『あの子の連れてる魚を殺さないと』

「急げ、ユゥ」
チョウは馬を走らせるようにユージンの胸を叩いた。
0452創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/19(木) 12:34:58.23ID:+E5Ia2my
「椿、顔を近くで見せておくれ」
クスノキの老人にそう言われ、椿は膝をついて顔を近づけた。唇を伝って涙が落ちる。
「椿……。儂はお前が一番かわゆい」
「おじいちゃん」椿は子どもみたいな声で言った。「死なないで」
「メイファン」老人は椿の頬を撫でながら、言った。「すまんな。世話をしてやれなくなる。ここは自由に使ってよい」
「嫌だね」メイファンは腕組みをしながら言った。「ジジイいなくなったらそれこそ何もねーじゃねーか」
「頼みがある」老人は椿の顔を見ながら、言った。「椿を守ってやってくれ」
「それは命令か?」
「命令ではない」
「そうか」
「椿」老人は明るい目を白い髭の奥から覗かせた。「お前のおかげで、最後の最後に儂は幸せを知った」
「死なないで」
「ありがとう」
「おじいちゃん!」
0453創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 08:15:13.69ID:kHQ8blOD
メイファンは老人が死ぬことはどうでもよかった。当たり前のことだ。
それよりも椿の連れている赤い魚をじっと見ていた。
遠くてよく見えないので歩いて近づいた。
エラのところをがしっと掴んで顔を突きつけてよく見た。
『痛い、痛いよメイファンちゃん』と魚が嫌がっているのが見えた。
『まじかよ』メイファンはがっかりした顔で思った。『本当にこれお前なのかよ、ラン』
0454創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 08:22:13.36ID:kHQ8blOD
そこへチョウが駆け込んで来た。
老人の胸に突っ伏している椿を見る。
「じいちゃん……逝っちまったか」
椿は絶望したように泣いている。
「椿」チョウはその肩を急いで叩く。「フォンおばさんがランを殺しに来る。逃げるぞ」
「……でも、おじいちゃんが……」
「後のことはフォンおばさんに任せればいい。行くぞ」
チョウに手を引かれ、何度も振り向きながら、椿は出て行った。ランが後をついて行く。
メイファンは窓から出た。
老人には何も言わなかった。死人はただの死体だ。
「新しい隠れ場所見つけねーとな」
0455創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 08:27:56.38ID:kHQ8blOD
椿はユージンの背に乗りながら、ずっと泣いていた。
「ユゥ、いったん家に帰るぞ」
「わかった」
「お前、ルーの中にいすぎだ。ルーの身体をベッドに置いて行く」
「えぇ?」ユージンがびっくりした声を出す。「乗り物いらないの?」
「お前を自由にさせるわけには行かねぇ。歩いて行く。いいな、椿?」
椿は頷きながらも、まだ泣いている。
「椿、明日のこと考えろ。ランを人間に戻すんだろ」
0456創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 08:33:38.33ID:kHQ8blOD
家に帰るとすぐにおばあちゃんが無言でどこかへ出掛けて行った。
「やべぇ。あれは祝融に通報に行ったな。急ぐぞ」
そう言うとチョウはベッドに寝たルーシェンに急いでキスをする。口を通じてユージンが身体に戻って来る。
「ひぃ。気持ち悪ィ」と言いながらチョウは口を離した。「言っとくけど俺、同性と接吻する趣味ねーぞ? 人工呼吸みてーなもんだから」
しかし椿は聞いていなかった。ずっとランを抱き締めて泣いている。
「で、なんで『雪の国』なんだ?」チョウが聞く。
「成長が早いんだって」椿はしゃくり上げながら答えた。「氷の水で泳がせると」
0457創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 08:53:41.57ID:kHQ8blOD
雪の国には町がなかった。
そこに住むのは神獣と、雪や氷を司る仙人だけである。
厳しい風雪と森、そして雪の大聖堂があるだけである。
「うぅ……忘れてた」チョウはガチガチと歯の音を立てながら言った。「ここって半端なく寒ィーんだった」
チョウも椿も薄い衣服一枚だった。
歩けば歩くほどに寒さと雪の量が増して来る。
前方に巨大なかまくらのようなものが見えて来た。雪の大聖堂だ。窓から灯りが漏れている。
「あそこでちっと休憩して行こーぜ」
0458創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 10:09:43.04ID:CqNyJ5Y5
「チョウ、あっためてあげる」
そう言うとユージンは、金色の『気』でチョウを包んだ。
「うぉっ? あったけぇ」チョウがほっとした声を出す。「凄ぇな、お前。こんなこと出来んのか」
ユージンはチョウを包みながら、その唇の感触を反芻していた。
チョウの部屋で、ベッドに寝かせた自分に彼は覆い被さり、キスをしたのだ。
チョウはルーシェンの身体から出るのを嫌がった。
?マークを頭に乗せてチョウは唇を離すと、「何やってんだ、早くこっち入れ。急いでんだぞ」と言った。
ユージンは目を瞑ったまま、言った。「やだ」
「あん?」と怪訝そうな顔をするチョウに、ユージンはため息とともに言った。「もっと」
ルーシェンの身体でもっと自由に動きたいものと勘違いしたチョウにさんざん怒鳴られた。
これはルーの身体だ、お前が好きに使っていいもんじゃねぇ、等と言われた。
しかしあの唇の感触に比べれば、すべてはどうでもいいことだった。
チョウはユージンの金色の『気』に暖められながら、振り向いた。
椿が下を向きながら歩いている。自分の身体を抱き、ガチガチと震えている。
「ユゥ。椿も一緒に暖めてやること出来るか?」
「無理。暖めてあげられるのは入ってる身体の持ち主だけ」
「そうなのか……」
何も出来ないままチョウは歩き続け、雪の大聖堂の大扉を開けた。
0460創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 23:30:28.58ID:FwjqwyIP
「あったかい……」
椿はチョウに続いて入ると中を見回した。
中は、外観から想像した通りのだだっ広い半球形の一室だったのだが、その広い空間に暖気が充満していた。
殺風景な石壁の空間なのに暖かいというだけで色鮮やかに見える。
「ねぇ、これ、どうやって暖めてるんだろ」
椿がそう喋った後ろで、ばたりと倒れる音がした。
石の床にチョウがうつ伏せに倒れている。
0461創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 23:40:52.38ID:FwjqwyIP
「チョウ?」
椿は恐る恐る近づいた。
チョウは動かない。
「チョウ……」
椿はしゃがみ込むと、背中に触れて弱々しい力で揺すぶった。
「……」
黙って力なく揺すぶっていると、チョウの口が動いた。
「……椿」ユージンの声だった。
「チョウ!」
「……ユゥだ。くる、しい……。出る……から、呑み込んで早く」
するとチョウの顔がギギギと音を立てるような動きで横を向き、口から金色のうんこのようなものが出て来た。
「……」椿は黙ってそれを眺めた。
呑み込んで! 早く! 死ぬ!
ユージンはそう叫んでいるつもりだったが、口がないのでは椿に聞こえるわけもなかった。
0462創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/20(金) 23:52:59.27ID:FwjqwyIP
「クォッ!」とランが鳴き、椿はハッと気づいた。
「ユゥ? ユゥなのね?」
床で苦しげにもぞもぞと蠢いているそれに話しかける。
「苦しいの!? 大丈夫!?」
ユージンがもうダメだと諦めかけた時、椿が両手で持ち上げ、芋虫を食べる前のように泣きそうな顔をすると、大きな口を開けて呑み込んだ。
0463創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/21(土) 00:03:12.15ID:0w7KTkj3
椿の中に入った時、ユージンは意識が朦朧となっていた。
自分が生きているのか死んでしまったのかもわからなかった。
椿の温かい食道を流されて行き、胃に入れられる前に、無意識にいつものように胸にとどまった。
「ユゥ?」椿が呼び掛ける。
遠い世界から響いて来るようなその声をユージンは聞いた。
「ユゥ」
懐かしい感じだった。前世で住んでいた自分の部屋に帰って来たような。
『ユゥ兄ィ!』
ふと、そんな声が聞こえた。
『守って!』
「椿!?」
椿の口から少年の声が出た。
0464創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/21(土) 00:09:31.23ID:0w7KTkj3
「よかった、ユゥ。生きてるのね」
椿が安心した声を出す。しかし安心しきった声ではない。
「……うん。死ぬかと思ったけど」
ユージンがまだクラクラしている意識でそう言うと、椿が聞いた。
「チョウは?」
ユージンは椿がじっと見ているチョウを見る。
ユージンが横を向かせたチョウの横顔が見えた。瞳孔が開き、明らかに死んでいた。
「どうなったの?」椿が放心した声で聞く。
「わからない」ユージンは震える声で言った。「急に心臓が止まった」
0465創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/21(土) 00:33:05.44ID:0w7KTkj3
「あらあら、お嬢ちゃん。どうしたの?」
突然後ろからした声に驚き、椿とユージンは振り返った。
黒に金の刺繍を施した帽子を被り、桃色に色とりどりの模様の入ったドレスに身を包んだ女性がいつの間にかそこに立っている。
輝くような美しい顔に意味ありげな微笑みを浮かべ、毒々しい花のような色の『気』を背負っているのがユージンには見えた。
「あなたは……誰?」怯えた声で椿が聞く。
「私は秀珀(ショウポー)」女性は答えた。「悪い子の魂を司る神よ」
0466創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/21(土) 11:16:50.97ID:FRMmWmwZ
「チョウが……」椿は秀珀に言った。「チョウが……。お願い、助けて!」
「フフフ」と秀珀は笑うと、物欲しそうに身体をくねらせた。「人間ね。素敵だわ」
「もしかして……」ユージンは椿の口を借りて言った。「お前が何かしたのか?」
「だって見るからに悪い子でしょ。悪い子の魂はすべて私のもの」
「お前かーーッ!」
椿の赤い髪が逆立った。目が怒りに燃え、一瞬にして少女は少年に変化した。
「あら、おもしろい」秀珀はくすっと笑う。
「うああーっ!」
めちゃくちゃな拳法の動きで殴りかかって来たユージンの足を秀珀は蹴り飛ばした。
「でも、弱いわね」
ゴロゴロと転がって無様に止まりながら、ユージンは叫んだ。
「チョウを返せ!」
「その子なら、ここよ」
扇子で口元の歪んだ笑いを隠しながら、秀珀は自分の足元を指差した。
汚ならしい小さなネズミが一匹、そこに呆然と立っていた。
0467創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/21(土) 22:55:09.02ID:kg3E1aKn
「チョウ!?」
「これがチョウ!?」
二人は同じ口で別々に叫んだ。
「ん?」秀珀が唐突に何か考え込む。「……チョウ?」
「あ、でも」椿が言った。「ネズミに入り込んだのなら、生きてるってことだから安心よね?」
「何言ってんだ」ユージンが泣き叫ぶ。「身体が死んでんだ! ルーの場合とは違うよ! 一生ネズミのままだ!」
「チョウって、もしかして」秀珀が口を開いた。「ズーローの弟かい?」
「ズーローの知り合い!?」ユージンが喚く。「ならチョウ殺したらどうなるかぐらいわかるだろ! 戻せ!」
「間に合うかしら」秀珀はばつの悪そうな顔で頭を掻くと、何やら呪文を唱え出した。
足元のネズミの姿が消える。チョウの手がぴくりと動いた。
「チョウ!」
ユージンは駆け寄ると仰向けにさせ、胸に耳を当てた。
「心臓が……動き出した」
「チョウ! チョウ! 起きなさい」椿が身体を揺さぶる。
しかし呼吸は止まったままだ。
「人工呼吸だ!」
ユージンが椿の口を近づけた時、チョウが勢いよく息を吐いた。
0468創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/21(土) 23:10:37.25ID:kg3E1aKn
「あれ……? 俺……」
寝ぼけた子供のように上体を起こしたチョウにユージンが抱きついた。
「チョウ……。 よかった……」その声は椿だった。
「済まないねぇ」秀珀が平謝りしている。「てっきり悪い子かと思ったら、あんたが噂のズーローの弟のいい子ちゃんかい」
「人を見た目だけで判断するなんて大したことない神様だね!」ユージンは皮肉を言ってやった。「悪い子は椿なのに!」
椿は何も言わなかった。
「お前……」チョウがユージンを見て言った。「誰だ?」
「あっ……。えっと……」ユージンは言われて自分が椿の身体を乗っ取っていることを思い出した。「その……」
「ユゥか」
「……はい」
「テメェ……」チョウの顔がみるみる怒りに染まった。「なんでそこに入ってんだテメェ!」
0469創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/22(日) 09:22:33.29ID:7olsUkAW
ユージンは慌てて引っ込んだ。
少年が引っ込み、少女の気の緩んだ顔が現れる。
「チョウ」椿は言った。「ユゥを叱らないで」
「っていうかテメェ……」チョウはユージンに言った。「どうやってそっちに入った?」
チョウの頭には椿とのキスシーンが浮かんでいるらしかった。チョウの顔がみるみる赤くなる。
「覚えてねー! 畜生! 何も覚えてねー!」
「お取り込みのところ悪いけど」秀珀が声を掛けて来た。「あんたら、人間界へ行きたいんだって?」
「誰?」とチョウがまた聞く。
「兄ちゃんから聞いてないかい? 凄い美人の秀珀さ」
「あぁ」とチョウは興味なさそうに言った。「兄ちゃんが惚れてる女か」
ユージンには信じられなかった。地味な椿にはてんで弱いチョウが、自称するほどのことはある凄い美人を目の前にして、ちっともたじたじしていないのだ。
「人間界に行きたいわけじゃないけどさ」チョウは質問に答えた。「コイツを返してやらなきゃなんねーんだ」
そう言ってランを見た。
0470創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/22(日) 10:31:20.00ID:7olsUkAW
「可愛らしいお魚さんだこと」
撫でようとして来る秀珀からランはさっと椿の後ろに隠れた。
「このお魚さんが人間界への扉を開いてくれるのねぇ。アンタ達、本当にいい子だわ」
「悪い子じゃないの?」ユージンが聞く。
「私はねぇ、人間界に行きたいのさ。その扉を開いてくれようなんて、いい子に間違いないよ」
「何しに行きたいの?」
秀珀は含み笑いをすると、答えた。
「秘密」
「そんなことはどうでもいい」チョウが言った。「とにかくユゥ、こっち戻れ」
0471創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/22(日) 10:46:00.74ID:7olsUkAW
「あ……うん」
「またさっきみたいに?」椿がユージンに聞く。
「いや、あれ苦しすぎるから勘弁して。口移しでお願い」
「わかった」
そう言うと椿はチョウの前に立った。
「よし、椿。口を開けろ」
チョウに命じられるがままに椿は目を瞑り、口を大きく開けた。
チョウの前に椿の口の中が晒される。
椿が上体をゆっくり前に出すと、チョウはその肩を掴んだ。
椿の顎がチョウの指でつままれる。うっすら目を開けてみると、血走った目をしたチョウが急接近して来ていた。
「嫌!」椿が後ろに軽く飛び退く。
「なななんだよ!?」
「チョウ、なんだか怖い」
「なんだよどーせ2回目だろ!?」
「2回目?」
「ど、どーでもいーからユゥをこっちに戻せ!」
「待って」ユージンが椿の口を動かした。「ぼく、こっちにいれば椿の身体を暖めてあげられるよ。さっきみたいに」
「駄目だお前は人間だ人間を自由に動けるようにしておけねー」
そう言うとチョウは再び目を血走らせて迫って来た。
0472創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/22(日) 13:19:18.71ID:kiyh01d0
気持ちがいいほどの平手打ちの音が聖堂内に響き、チョウは横に吹っ飛んだ。
椿が屹立し、悪者を見るような目でチョウを見下ろしている。
何か言おうとしているのに震えて言葉が出て来ないようなので、ユージンがその口を使って、チョウに言った。
「チョウ、いい加減、ぼくのこと、信用してよ」
チョウはずるずると身体を引きずって起き上がると、ユージンに言った。
「お前のことはとっくに信用してるよ」
「じゃあ……!」
「ただ、人間を信用してねーんだ。人間は、どんだけ正しくしようと気をつけてても、しちゃいけねーことしちまうんだって」
「え。たとえば……?」
「知んねーけど」
「聞きかじりかよ!」
「知んねーけど、そういうもんなんだよ」チョウは立ち上がった。「だから、俺が友達でいられるのは、お前が動けねー状態の時だけだ」
「ホホホホホ」秀珀が笑った。「それなのにタマシイちゃんを育てようとしてる彼女のことは許すのね」
0473創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/22(日) 13:28:26.20ID:kiyh01d0
「椿は仲間だ!」チョウは怒鳴るように言った。「人間じゃねぇ!」
秀珀は意味ありげにニヤニヤ笑うばかりで黙っていた。
「ぼくは……」ユージンが寂しそうに言う。「仲間じゃないの?」
チョウは黙った。
「とりあえずユゥを返すわ」椿はそう言うとチョウに歩み寄った。「じっとしてて。動かないで」
「いや、まぁ……」チョウは顔を背けた。「じゃ、もういいよ。ユゥ、椿を暖めてやってくれ」
「言うことのコロコロ変わる子だねぇ」秀珀が馬鹿にするように言った。
0474創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/22(日) 13:35:24.96ID:kiyh01d0
「とにかく、行くぞ」
チョウが出口に向かって歩き出す。
「急いでそいつ育てるんだろ?」

「あん、待ってよチョウ〜」
ユージンがそう言ったが、身体の動きと合っていなかった。

「行くわよ、ラン」
椿は振り返ると、ランを呼んだ。

「クォッ」
ランは明るい声で一声鳴くと、床から浮き上がり、椿の後をついて行った。

「頑張ってね」
秀珀がニヤニヤと笑いながら見送った。
「応援してるわよ」
0475創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 12:11:48.79ID:gxVPqcHA
湖には一面、氷が張っていた。
湖面を歩いて何の不安もないほどの厚い氷の下に、お目当てのものはあった。
チョウが火の神通力で五分ほどかけて穴を開けると、ランを急速に成長させるという冷たい水が現れた。

「さぁ、ラン。泳ぐのよ」
椿が抱いて水の上に差し出すと、ランは軽く暴れた。
「嫌がってるな」
「めっちゃ冷たそうだもんね」
「さ、行ってらっしゃい」椿は手を放した。
仕方なさそうにランは飛び込み、水飛沫が上がった。

「大丈夫かな」椿の口でユージンが言った。
「大丈夫よ。水はそこまで冷たくないわ」椿が水に手をつける。
「いや、めっちゃ冷たいじゃん」
「そう?」
「椿は守られてるからな」チョウが言った。「感覚が俺らとちが、ちがちがち……」
「大丈夫? チョウ」ユージンが心配そうに声をかける。「チョウが一番寒そう」
「あぁ、すす涼しいのは好きなんだが、さむ、さむさむ寒いのはどうも……」
チョウの橙色の『気』に鎧としての機能はなかった。火を掌に灯して一応暖をとってはいるが、それはあまりにちっぽけだった。
0476創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 12:18:03.20ID:gxVPqcHA
ランが水面から顔を出した。
何か訴えるように椿の顔を見ると、小さくクォンと鳴いた。
既にさっきまでより明らかに大きくなっていた。
「凄い」椿が喜びの声を上げる。「ほら、もっと泳いで。もっともっと大きくなろ?」
クォン、とまた寂しげに鳴くと、ランは水から上がりたがるような動作をした。
「駄目よ」椿はランを叱った。「大きくなって、1日も早く大きくなって人間界に帰るのよ、ラン」
キュウン、と締めつけられるような声を上げ、仕方なさそうにランはまた水の中へ入って行った。
0477創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 12:24:39.13ID:gxVPqcHA
「どどどどれぐらい泳がせとくつもりだ?」チョウがしばしばと身体を動かしながら聞いた。
「少しずつにしようか」椿はチョウを気遣い、言った。「次はチョウ、わたし達だけで来るから、あの大聖堂で待ってて」
「いや結構距離あったろ」チョウは反対した。「お前に何かあったら駆けつけられねぇ。次もついて来るよ」
「本当、結構距離あったよね」ユージンが言った。「チョウの家に帰るほうが近いくらい」
夜空は晴れていた。しかし風が雪を飛ばし、雪が降りしきっているのと変わらない。
ユージンに守られ、椿の周りだけ雪が蒸発していた。
「ととところで」チョウが言った。「ラン、戻って来ねーけど……」
0478創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 12:32:56.74ID:gxVPqcHA
心配した椿が薄紅色の『気』を纏う。
これにも身体を暖めるような機能はない。ただ植物の力を使うためだけのものだ。
椿は指先から白い蔓を出すと、水の中に潜らせ、ランの居場所を探索する。
蔓がランを捕まえた。湖の底のほうで力を失い、ぐったりとしている。
「ラン!」椿は声を上げた。「冷たすぎたんだわ! 気を失ってるみたい」
「おいおい」チョウが歯をガチガチ鳴らしながら言った。「引き上げられるか?」
椿はランを掴んだ蔓を手繰り寄せる。しかし、ランはさらに大きくなっている。
「重い!」椿が必死の形相になる。「無理……。ラン!」
そう言うなり椿は氷の湖に飛び込んだ。
「うぉい!?」チョウが驚いて叫んだ。
0479創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 12:41:51.58ID:gxVPqcHA
何の相談もなくいきなり湖に飛び込んだ椿をユージンは守った。
自分が冷たくても、椿は冷たくならないよう、全力で暖めた。
椿も全力で泳ぎ、蔓を辿った。
幸い、海で育ち、30mの崖から飛び込んで遊びながら育って来た子である。泳ぎは大の得意だった。
まっすぐランに辿り着くと、ランは目を閉じて湖底の水に揺られていた。
ほとんど冬眠状態になっている。やはりいくらなんでも冷たすぎたのだ。
椿は急いでランを抱いたが、後悔するような表情を浮かべた。
もう片方の指先からも蔓を出し、チョウに繋いでおけばよかった。
イルカの成体ほどの大きさになっているランを抱えて水面に上がる力は、椿にはなかった。
0480創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 18:02:59.88ID:gxVPqcHA
今からでも遅くはないとばかりに、椿は水上へ向かって蔓を伸ばす。
しかし氷に開けた穴の場所がわからない。
椿はランを抱いたまま、意識が遠くなって行く。

「任せて!」ユージンが目を開けた。

ユージンはランを抱いたまま、湖底の地面を蹴った。
潜って来た方向は覚えている。
椿も気を取り戻した。二人で力を合わせ、バタ足で順調に上へ向かって泳いで行く。
しかしここにチョウまで飛び込んで来たら終わりだ。
あれだけ既に凍えていたチョウが氷の水に飛び込んで無事でいられるわけがない。
水の上に上がれたとしても、三人ともが力尽きていたら、仲良く凍死だ。
しかしユージンはチョウを信じた。
チョウはきっとぼくを信じてくれる。
そう思って、ひたすらに泳いだ。
0481創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/23(月) 18:09:57.79ID:gxVPqcHA
しかし、水面が遠い。
そんなに深くはないはずなのに、永遠のように遠かった。
ユージンが力尽きると、椿も気を失った。
顎が上がり、腕は下がり、ランを抱く力も……
「クォォッ!」ランが目を開き、勇ましく鳴いた。
『ラン!』ユージンはランの背びれを掴む。『頼む!』
ランは力を振り絞ると、弾丸のように上へ向かって泳ぎ出した。
0482創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/25(水) 11:01:50.87ID:Cwiuk57o
湖面に出るとチョウの明るい笑顔があった。
「ユゥ! つかまれ!」
少年の姿の椿の手をチョウが固く掴んだ。
そのまま引っ張り上げると、氷の上に二人と一匹は米袋のようにどさりと倒れた。
「チョウ……よく……我慢したね」
「おう」チョウが泣き出す。「お前を信じるしかなかったぜ、ユゥ。信じて……正解だったぜ」
「ありがと……」
ユージンは力尽き、意識を失った。
あとはこの頼もしい相棒に任せれば大丈夫だと信じて。
0483創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/25(水) 11:39:13.96ID:Cwiuk57o
「いや待て待て」
一人残されたチョウは呟いた。
「俺一人で一人と一匹背負っての?」
ユージンが気を失うと、椿は少女の姿に戻った。
ランは立派なイルカの成体の大きさになっている。
気を失った椿をまず背負う。
自分の身体が大きければ軽いものだったろう。
しかし女の子とはいえ同じぐらいの体格の人間を背負うのはなかなかきついものがあった。
その上にランを乗せる。
大きくて、重くて、つるつる滑るランを、頑張って背負おうとした。
「無理」
そう言うとランは氷の上にランを残し、歩き出した。
悲しそうに目を閉じたランの上に雪が降り積もった。
0484創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/30(月) 15:45:35.34ID:2DoFR2RW
「いや、駄目だろ」
そう呟くとチョウは踵を返した。
五日間放置されていたランは雪に埋もれて死にかかっていた。
まずランを背負い、腰紐で自分にくくりつけた。その上に椿を背負う。
相当重たい筈だったが、チョウは何も言わずに歩き出した。
0485創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/30(月) 16:16:12.53ID:2DoFR2RW
ユージンは目を覚ました。
すぐ目の前にランの赤いつるつるした頭があって、揺れていた。
その向こうに荒い息を立てて歩いている小さな少年の気配があった。
「チョウ!」
「お……ユゥ、目ェ覚ましたか」ランの向こうから真っ赤な笑顔が振り向いた。「よかっ……た」
そう言うとチョウは力尽き、膝をつくと、ゆっくりとその場に倒れた。
椿の手を握り締めていた手がほどけ、力なく地面についた。
「チョウ!」
ユージンは椿の身体を乗っ取ると、駆け寄った。
チョウの額に手を当ててみる。
「すごい熱だ」
辺りを見回すと、火の森を抜けるところだ。チョウの家まで近い筈だ。
「……ユゥ?」椿の口が動いた。
「椿! 気がついた?」
「あ……ラン。よかった」椿は気を失っているランの姿を見つけ、安心した声を出す。
「椿、チョウがすごい熱なんだ。チョウの部屋まで力を合わせて運ぼう」
「でも……ランは?」
「え?」
「おばあちゃんに見つかったら通報されちゃう」
「大丈夫だよ。木陰に隠しとけば」
「駄目」椿は頑なな口調で言った。「ランをほっとけない」
0486創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/30(月) 16:23:31.11ID:2DoFR2RW
「チョウとランと、どっちが大事なんだよ!?」ユージンは声を荒らげた。
それには答えず、椿は言い張った。
「ランをほっとくことなんて出来ない」
「ちょっとだろ! ここからチョウの家までたぶん、近い!」
「一時でも駄目」
「じゃあ……!」ユージンは口をバタバタさせた。「どうすれば安心するの!?」
「水……」椿は言った。「水の中を泳がせておけば……」
「わかったよ!」
ユージンは叫ぶように言うと、ランを繋いでいる腰紐をほどき、チョウに結んだ。
そしてランを抱いて立ち上がると、呟いた。
「確か……このへんに沼があったはず」
0487創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/30(月) 16:36:06.98ID:2DoFR2RW
幸い沼はすぐに見つかった。
森の中にひっそりと隠れるようにある沼にランを浸す。
「いいわ」椿が安心したように言う。「ここなら誰にも見つからない」
水に浸すなりランは目を開けた。クォン!と嬉しそうな声を上げる。
「静かにしなさいね」椿は優しい笑顔で叱った。「ふふ。よかった」
「さ、行くぞ」ユージンは立ち上がろうとしたが、身体が言うことを聞かない。
「ごめんね、ラン」ユージンに乗っ取られている筈の椿が身体を支配に逆らっていた。「冷たすぎたね。今度はちょうどいいところに行こうね」
「椿! チョウが……」
「いい子ね、ラン」
「死んじゃうよ!」
椿は黙ると、仕方なさそうに立ち上がった。
「ラン、すぐ戻るから、ここで待っててね」
歩き出すと、すぐにまた振り向いた。
「動いては駄目よ? ちゃんと待っててね」
0488創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/30(月) 16:41:41.01ID:2DoFR2RW
ユージンは椿と力を合わせ、チョウを背負った。
「お……重い!」
たまらず膝をつく。
「さすが男の子だ。小さいくせに重い……」
「ラン……大丈夫かな」椿が呟く。
「そうだ、椿」ユージンが言った。「このままチョウの部屋へ行ってルーシェンを連れて来よう」
0489創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/30(月) 16:45:06.36ID:2DoFR2RW
「こんにちはー」と言いながら見知らぬ男の子が家に入り込んで来たので、おばあちゃんはぽかんとした。
「誰だい?」というおばあちゃんの問いには答えず、ユージンはまっすぐチョウの部屋へ行く。
ベッドに寝ているルーシェンの口を開かせると、椿の口から飛び移った。
0490創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 10:04:33.48ID:+Q5Zjw3X
ルーシェンが背負って来たチョウの様子を見ておばあちゃんは慌てふためいた。
「チョウ! あぁ……クスノキのお爺さんを……早く」
「おじいちゃんは死んじゃったでしょ」ユージンはそう言うと、チョウをベッドに寝かせた。
真っ赤な顔できつく目を閉じ、苦しそうに息を荒くしている。
「お爺さんに貰った薬、なかったかしら」おばあちゃんがバタバタと向こうの部屋で探し物を始めた。
「わたし」椿が言った。「おじいちゃんから術をひとつ授かってるわ」
「治療できるの?」ユージンがすがるように聞く。
0491創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 10:14:26.16ID:+Q5Zjw3X
「おじいちゃんほどじゃないけど……。やってみる」
「お願い!」
「うん」
こくんと頷くと、椿はお辞儀をするように身を屈め、躊躇うことなくチョウの唇に唇を重ねた。
「あっ?」ルーシェンのアホ面でユージンはとぼけた声を出した。「あぁっ? あっ!?」
椿はぴったりと隙間なく閉じた口を通じて何かをチョウの中へ入れているようだった。
椿の接吻を受けながら、チョウは苦しそうに目をきつく閉じ、少しのけ反った。
ゆっくりと唇を離すと、椿は額についたチョウの汗を拭いながら言った。
「自己修復の実をチョウの奥に埋め込んだわ。あとはチョウ次第」
「あ……治るの?」
「だからチョウ次第」そう言うと椿は立ち上がった。「わたし、行くね」
0492創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 10:28:17.11ID:+Q5Zjw3X
「なかったわ!」と言いながらおばあちゃんが駆け込んで来た。
「椿が処置してくれた」ユージンは落ち着かせるように言った。「あとはチョウ次第だって」
「ルーシェン、あんた、ずっと眠ってたかと思ったら急に起き出すんだね」
「とりあえずチョウを暖めないと」
そう言うとユージンはチョウの着物をすべて脱がし始める。
「脱がしたら余計寒いじゃないか」
「濡れてるんだよ。新しいの持って来て」
おばあちゃんがバタバタと向こうの部屋へ行っている間に、ユージンはチョウを下着まですべて脱がせた。
そして暖めるために抱き締めると、顔を寄せる。
「知ってた? ルーシェンって、実は女の子なんだ」ユージンはそう言うと、唇を近づけた。「だから……こうするの、おかしくないよ」
熱いその唇に強く接吻をする。頭が痺れた。
「持って来たよ!」
「……早いね」
ユージンは不満そうにおばあちゃんから新しい着物を受け取った。
0493創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 10:36:30.95ID:+Q5Zjw3X
「ところで椿ちゃんは?」おばあちゃんが聞く。
「帰ったよ」
「帰るわけないだろ。あの子、お尋ね者だよ」
「そうなの?」
「皆があの子を探してる。あの子が連れてる人間の魂を殺せって」
「通報する?」
「まぁ……椿ちゃんはいい子だからねぇ。何か事情があるんだろうけど」
「通報しようよ」
「え?」
「皆で捕まえて、ひどい目に逢わせてやろう」
「ルーシェン……あんた、ちょっと、きくらげ臭いけど……」
「気のせいだよ」
ユージンはチョウに着物を着せ終わると、横に寝転び、またチョウを抱き締めた。
「ぼくが暖める。おばあちゃんはもう寝ていいよ」
0494創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 13:27:22.52ID:wrrct0BI
「待った?」
火炎樹のたもとでメイファンに声を掛けられ、ズーローはにっこりと微笑み返した。
「ううん、今起きたとこ」
0495創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 13:37:38.30ID:wrrct0BI
「ところでそんな大きな猫いないよ、メイファン。アハハハ」
「うん、私もそう思ったー。ウフフフ」
メイファンはなるべくこの世界の住人に見つからないよう、大きな猫に姿を変えていた。
「大きすぎるってぇー。まるでイノシシー」
「やだーズーローったらぁ。キャハハハ」
「しかも近く寄るととんでもなくきくらげ臭いしー」
「それレディに言う言葉じゃないー。モホホホ」
「じゃ、今日も……」
「うん、ズーロー。しよ?」
「しなーい」
「おい」メイファンの口調が変わる。「この私が稽古つけてやるって言ってんだ。大人しくヤらせろ」
「お?」ズーローが何かに気づき、声を上げた。
「ム?」メイファンも同時に気づき、そちらを向く。
下半身を鹿に変えたルーシェンが、森の中を蹄の音とともにやって来た。
0496創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 13:53:34.52ID:wrrct0BI
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……17歳の人間の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は植物鹿人間となったルーシェンの身体に入っている。チョウのことが大好き。

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。
椿に恋しているが、気持ちを伝えようとは決してしない。特別に仲良くはなったものの、年下の椿から弟扱いされてしまっている。
ユージンを人間だと知りつつ信頼し、海底世界に住むことを許している。

・椿(チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。元ユージンの妹で人間。今は海底世界の住人。
クスノキの老人に助けられ、名門『樹の一族』の養女となる。薄紅色の『気』が使える。人間の記憶はすべて消されている。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
自分を助けたがために死んでしまった人間の青年を生き返らせようと、霊婆の元から青年の魂を貰って来た。
赤い魚の姿をした魂にランと名前をつけ、溺愛し、いつも連れて歩いている。
人間の魂を育てることは自然の掟を犯す犯罪であり、指名手配されている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。赤いイルカに姿を変えた椿を助け、渦潮に呑まれて絶命した。
今は赤い魚の姿をした魂となって、椿に飼われている。
何も食べないが、誰かの愛を受ければ受けるほど急成長する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとして四歳児チェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。
身体を動かし、食事をしなければ生命維持が出来ないため、ユージンが中に入って世話をしている。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。
秀珀の外見に惚れているが、中身はメイファンのほうが好みらしく、秀珀にメイファンが入ってくれることを望んでいる。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。
寿命をまっとうし、椿に看取られながら逝去した。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。

・秀珀(ショウポー)……雪の国に住む美女。悪い子の魂を司る。
秘密の目的があって人間界に行きたがっている。
0497創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 13:59:27.27ID:wrrct0BI
「おい」
「おい」
「ユージンじゃないか」メイファンとズーローが口を揃えた。
「あっ、メイファン。ズーロー」
呼ばれて初めて二人に気づき、ユージンはカッポカッポと音を立てやって来た。
0498創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:04:34.26ID:wrrct0BI
「椿、見なかった?」
「いや、見てないぜ」
「あ、メイファンは椿のこと知ってたかな」
「は?」メイファンは意味がわからなかった。「知らないわけねーだろ」
「そうなの?」ユージンは不思議そうな顔をすると、また歩き出そうとした。「椿を探してるんだ。じゃ」
「おい、待て」メイファンが呼び止めた。「私のことは思い出したけど妹のことは憶えてないのかよ?」
ユージンの足が止まる。
振り返ると、言った。
「妹?」
「あぁ」
「何言ってんの?」
「はぁ?」
「あんな嫌な子がぼくの妹なわけないじゃない」
0499創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:14:37.98ID:3M4jb9vv
そっぽを向いて歩き出そうとしたユージンをメイファンはまた呼び止める。
「おい、お前、おかしいぞ」
「何が」ユージンは無表情に振り向いた。
「あの赤い魚が誰なのかもわかってねーのか?」
「なんのこと」
「いや……あんだけ慕ってた義兄のこと。姿形が変わってたってお前がわかんねーわけねーだろ」
「意味がわからない」
そう言うとまた歩き出そうとしたユージンをメイファンが呼び止める。
「しつこい」ユージンは苛立った顔つきで振り向いた。
「なんか」メイファンは少しニヤニヤしながら言った。「お前の記憶喪失、都合がよすぎるみてーだな」
「そうなのかな。じゃ、行くよ。急ぐから」
「なぁ、お前、あの小僧の中にはもういねーのか?」
「チョウのこと?」
「あー、そいつだ」
「いないよ」
「そうか」メイファンはこの上なく嬉しそうな顔をした。
0501創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:21:31.42ID:3M4jb9vv
「いいなぁ」ズーローが言った。「俺も誰かの身体に入って乗っ取ってみてー」
「あっ! 私、用事思い出しちゃった」メイファンはユージンの姿が見えなくなるのを待って言った。
「え〜? 一緒に昼寝デートするって約束じゃんよ〜」
「ごめんねっ。この埋め合わせは必ずするから。じゃっ!」
そう言うとメイファンはスキップするように飛び去った。
0502創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:27:02.65ID:3M4jb9vv
木の枝を伝って飛び、身体をムササビに変えて森から町へ飛び移った。
チョウの住む集合住宅の下に立つと、メイファンは身体をイモリに変え、速いスピードで壁をよじ登った。
5階の目的の窓に到達すると、物音を潜めて中を窺う。
チョウはベッドに伏しており、その傍らに付き添っている椿の後ろ姿が見えた。
『バカユージン……。ここにいるじゃねーか』メイファンは音を立てずに舌打ちした。
0503創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:36:04.27ID:3M4jb9vv
「ねぇ、チョウ。起きて」
椿は付き添っているというよりチョウを起こそうと揺すぶっているようだった。
「ランがいなくなっちゃったの」

『ランが……?』
メイファンは事態の重さを計り、心の中で呟いた。
『……どうでもいいな』

「お願い。一緒に探して」
椿はチョウの胸に顔を埋めた。
「わたしの埋めた実、効かなかったの? でもあれ、二度やると逆に身体に悪いの……」

メイファンは部屋に入った。
「おい、椿」
「あれ……。メイファンちゃん」
0504創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:45:28.41ID:3M4jb9vv
「椿、お前、指名手配されてるらしいな」
椿は弱ったような顔をすると、小さな声で言った。
「皆、私のこと、怒ってるかな」
「あの魚がいなくなったのか」
メイファンがそう言うと、椿は勢いよく顔を上げた。
「うん。ランが、どこにもいないの。メイファンちゃん、赤い大きなお魚、見なかった?」
「大きな?」メイファンは普通に負なぐらいの大きさだった魚を思い出しながら首をひねった。「大きかったっけ?」
「うん。今、人が乗れるぐらいの大きさなの。見なかった?」
0505創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 14:51:44.88ID:3M4jb9vv
「まー……見かけたら教えてやるよ」
「お願い」椿は手を合わせると、上を向いた。「あぁ、わたし、心配で心配で、胸が張り裂けそうなの」
「ま、考えたら」メイファンはつまらなさそうに窓のほうへ歩き出した。「3人まとめて連れて帰ったほうがララにも怒られねーしな」
「ちょっ……! メイファンちゃん!?」
「椿がいたんじゃ用事も出来ねーし」
そう言い残しながらメイファンは窓から外へ落ちて行った。
悲鳴を上げて椿が窓辺に駆け寄り、見下ろしたがメイファンの姿はもうなかった。
0506創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/31(火) 15:00:29.69ID:3M4jb9vv
「暇だぁー!」

メイファンは身体を黒いポニーに変え、川辺を駆け回った。

「暇なんだぁぁぁあ!」
0508創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 01:16:08.57ID:cs1zEjdU
そして世界は滅びた
0509創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 18:14:53.30ID:SjwKwqwJ
「ほんま、滅びろこんな暇な世界」
メイファンがそう呟きながらポニーになって川岸を駆けていると、ふと背筋に寒気を感じた。
恐る恐る右へ頭を向けてみる。
全速力で駆けているメイファンの隣を、いつの間にかニコニコ微笑みながらついて飛んでいる老人の姿があった。
「どわぁっ!?」
メイファンが急停止すると、老人もついて止まった。
ずっとこちらをまっすぐ向いたまま、余裕の笑みを浮かべている。
「なっ、何だこのジジイ、いつからいやがった!?」
「こら人間」老人は微笑んだまま、厳しい声で言った。「そなた、水龍道士を殺害した犯人じゃな?」
0510創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 18:27:09.04ID:SjwKwqwJ
やたら金色の多い派手な着物に赤い帽子を被った健康そうな老人だった。
にこやかな表情は顔に貼り付いた仮面のようにしか見えず、その裏にある鬼のような顔をむしろ強く想像させた。
「だっ、誰だよ、お前?」
「ワシの名前は辱収(ルゥショウ)」
「ルッ……辱収だと!?」メイファンがその名を知らないわけがなかった。「句芒、祝融、玄冥と並んで四神と呼ばれる……あの!?」
老人は黙ってコクコクと頷いた。
祝融と闘っていなければコイツも神の名を騙る生意気なバカだとしか思わなかったことだろう。
しかしメイファンは既に祝融を本物の火の神だと認めていた。ということはコイツも……。
『気が……ねぇ』メイファンの額から大量の油汗が髪の毛や頬をつたって落ちた。『コイツも祝融レベルだってことかよ』
0511創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 18:37:22.13ID:SjwKwqwJ
メイファンは相手の『気』を読むことで闘う。
『気』の動きがあるからこそ相手の攻撃を避け、隙を見つけて攻撃を叩き込める。
『気』が存在しない相手の攻撃は避けようがなく、隙のありかもわからない。
今、目の前にいる老人は、人間の形はしているものの、まるでいつどこから襲いかかって来るか読みようのない、まるで自動照射式のレーザー砲みたいなものだった。
「チェンナ……」メイファンは小声でチェンナに話しかけた。
「んー?」
目の前の老人が優しそうなおじいちゃんにしか見えないらしく、チェンナの声は呑気なものだった。
「すまん。死ぬかもしれん」
「え〜? 死ぬのはいやだよ」
「いやだよな……」
逃げるか、闘うか。逃げる時にはどうしても隙が生じる。しかし自分はどうでもいいとして、チェンナを殺されたくはなかった。
0512創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 18:51:27.64ID:SjwKwqwJ
『通じるわけないか……』
半ば諦めながら、メイファンはいつもの手を試してみることにした。

「おじいちゃん……」
四歳チェンナの声で弱々しくそう言いながら、うるうると瞳を潤ませる。
「チェンナね、迷子なの」

辱収はただニコニコと笑っている。

「帰り道がぁ……わかんないのぉ」
メイファンは渾身の演技をした。
「助けてよぉ……おじいちゃぁん……」

老人の笑顔が崩れた。
明らかに本物の憐れみの表情に替わり、ゆっくりと近づいて来た。
「おぉ……おぉ……それは可哀想にの」

近づいて来る辱収の首にメイファンの高速の鎌が食い込み、そのままはねた。
0513創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/06(月) 18:53:50.03ID:SjwKwqwJ
「子供の姿に惑わされるとは……」
メイファンは安堵の息を漏らしながら、草に倒れた辱収の首のなくなった身体に吐き捨てるように言った。
「それでもプロか」
0514創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 06:25:11.56ID:qwQbyaH4
ユージンはチョウの容態が気になり、椿を探すのを一旦諦め帰って来た。

部屋に入るとチョウは落ち着いて眠っていた。
「……だいぶんよくなったみたい」
ホッとして側に腰を下ろす。

傍らに冷たい水を張った盥が置いてあり、チョウの額には濡れた手拭いが置かれてあった。

「おばあちゃんが付き添っててくれたんだな」
そう思ったところへおばあちゃんが帰って来た。

「あらルーシェン。チョウにそんなことしてくれたのかい? ありがとうね」
ユージンはおばあちゃんの言葉に首をひねり、聞いた。
「これ、おばあちゃんがしたんじゃないの?」
「またまた……。私、そういうの気づかずにね、チョウをほっといて薬を貰いに行っちまってね」
「じゃあ……これは……」
ユージンの脳裏に赤いおかっぱの女が浮かび、ユージンを小馬鹿にするように薄笑いをした。
0515創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 06:41:23.08ID:qwQbyaH4
おばあちゃんが向こうへ行き、暫くするとチョウが目を開けた。
「……ユゥ?」
「チョウ!」ずっと顔を見つめていたユージンが喜びの声を上げる。「よかった。気分はどう?」
「ん……」チョウはまだ夢の中にいるように言った。「なんか……俺……凄く甘いものに食べられてた……」
「は?」
「ごま餡というより白餡……というより……」
「まだ夢見てんの!?」
「俺が食べるはずの甘くて美味しいものが……俺を……あっ!」
チョウは跳ね起きた。
「そうだ! そうじゃん!」チョウの顔がみるみる赤くなり、目が垂れ下がった。「お前を、椿が、俺から吸い出して! つまり……」
「接吻」ユージンはムキになったように言った。「してないよ」
「え……。でも……!」
「ほくがチョウに初めて入った時、覚えてる?」
「ああ……」チョウは記憶を辿るまでもなく、言った。「ズーローの口から、お前が床に、うんこみてーに、ぼとっと……。それを俺が拾って……」
「そう」ユージンは勝ち誇ったような顔をした。「あんな感じ」
「ま」チョウは残念さを隠しきれないまま落ち着いた声で言った。「まじかぁ……」
0516創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 06:56:04.43ID:qwQbyaH4
平静を装うチョウを見ながら、ユージンの脳裏に先程の光景が浮かんでいた。
椿が自己修復の種を埋めるために、そのいやらしい唇で、チョウの口を塞いだ光景が。
「チョウ」ユージンは無表情に聞いた。「お腹減ってない?」
「いや。大丈夫だ。それより椿は? ランは? どこ行ったんだ?」
「チョウ!」ユージンは叱るように言った。「椿は自分達が逃げるためにチョウを利用してるんだよ?」
「おぉ?」チョウはびっくりしたような顔で答えた。「べつに利用してくれりゃいいじゃん」
「もう関わらないで!」
「なんだそりゃ」
「チョウがあんなに必死になることないじゃない! チョウには関係ないことだよ!」
「関係なくねーよ!」チョウが大声を上げる。「俺は大切な奴が困ってたら絶対に助ける、大いに関係ありだ!」
「でも……」ユージンははっきりと言ってやった。「椿はランに恋してる! チョウにじゃなくて!」
「あぁ!?」チョウはおかしなことを言う奴だな、と顔で言った。「ランは……魚だぞ?」
「でも、元々は人間だよ」
「だけど……!」
「カッコいいお兄さんだって聞いた」
「は? でも……!」
「優しくて、カッコよくて、でも椿のために死んだ」
「それが何だよ!?」
声を聞いておばあちゃんが部屋に入って来たので二人は黙った。
0517創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 07:04:53.37ID:qwQbyaH4
おばあちゃんが薬をチョウに飲ませ、出て行っても二人は暫く黙っていた。
「そっち……」ユージンが重い口を開く。「戻ろっか?」
「え?」
「ぼくを自由にさせとけないでしょ? 人間だから」
「いや」チョウは向こうを向いて寝転んだ。「ルーの身体、動かしてやってくれ」
「いいの……? ずっと?」
「もちろんルーが戻って来るまでだよ」
「自由にして……いいの?」
「そりゃルーの身体だからな、あんまり自由にすんのはルーに失礼だぞ。大切に扱ってやってくれ」
「ぼくを」ユージンは嬉しさに声を震わせた。「信頼してくれるんだね」
「お前だからだぞ」チョウは向こうを向いたまま言った。「人間は信用してねーけど、お前は特別だ」
「ありがとう!」ユージンはチョウの首に後ろから抱きついた。
「うわっ!」チョウが慌てて飛び起きる。「気持ち悪ィな! やめろ!」
0518創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 09:48:40.57ID:qwQbyaH4
ユージンは下半身を鹿に変え、背中にチョウを乗せて川岸を駆けた。

「アハハ、チョウ!」
「こら遊んでんじゃねぇぞ? 椿を探すんだ」
「ウフフ、チョウ! チョウ!」
「うっせー頭イカれたか? 水のあるところにいるはずなんだ」

ユージンはルーシェンの身体にひとつだけ不満があった。
背はすらりと高いし、容姿端麗で、カッコいい角もある。
ユージンの望んでいたほうの出っ張っていない性器もついている。
『でもルー……なんでこんなに胸がぺったんこなんだ』
チョウがせっかく背中に跨がり、胸に手を回して掴まってくれているというよに。
チョウが掴まるカッコいい胸が欲しかった。
0519創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 09:48:52.87ID:qwQbyaH4
しばらく駆けていると、前方に何やらグロいものが見えてきた。
近づくにつれ、それが何なのか、はっきりとわかりはじめた。
金ピカの着物を着た老人の、首なし死体。
「どわぁぁぁあ!?」
「ひゃあぁぁぁっ!?」
二人は同時に悲鳴を上げ、ユージンは脚を止めた。
0520創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 10:23:43.01ID:qwQbyaH4
「こっ……これ」チョウが目を背けながら言った。「黒い悪魔の……お前の叔母さんの仕業じゃねぇのか!?」
「いや……違う」ユージンは否定した。「……と思う。プロなら後始末はする。こんな所に放置したりしない……と思う」
「何がプロだ!」チョウは怒りはじめた。「人間め……! やっぱり人間ってヤツは……」
ユージンは黙るしかなかった。
0521創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/07(火) 10:28:52.53ID:qwQbyaH4
「祝融に報告するぞ?」
「待ってよ! 証拠がない!」
「お前、今、言ったばっかりじゃねーか」チョウは怒りで白い髪が逆立っていた。「アイツはそういうことする奴だって」
「でも……」
「証拠がなくても第一に疑うべきはアイツだ。通報する」
「……仕方ないね」
ユージンは項垂れるしかなかった。
「よし、走れ」チョウが命令した。「祝融師匠んとこ、行くぞ」
0522創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 00:03:40.85ID:HO5T2/aa
次の日の昼、メイファンはいつものように大きな猫に姿を変え、待ち合わせ場所に行った。
ズーローはいつもと変わらず樹に凭れ、平和そうに惰眠を貪っていた。
それでもメイファンは少し期待しながら声をかけてみた。
「おい、ズーロー」
呼び掛けるとすぐにズーローは目を開けた。心なしかいつもよりも怖い顔で。
「メイファン……」ズーローは目を覚ますなり、言った。「お前……辱収……殺した?」
「殺した!」メイファンは胸を張って言い、ズーローの反応をわくわくしながら待った。
0523創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 00:11:51.05ID:HO5T2/aa
「すげーな」ズーローはそう言うと、笑った。「あのじーさん、祝融と同等の力あんだぜ?」
「は?」メイファンは拍子抜けしてしまった。「私のこと、怒らんの?」
「なんで?」
「だって……またお前の仲間、殺したんだぜ?」
「仲間ってほどじゃねーし」
「それに」メイファンはニヤリと笑った。「今回はあっちが私を殺そうとしたからじゃなく、一方的に殺したんだ」
「どーせ辱収もメイファンを殺して魚にして人間界に送り返すつもりだったに違いねーよ」
「おいコラ私は殺人鬼だぞ?」
「ううん。こわいっていうより可愛いよ」
0524創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 00:25:12.69ID:HO5T2/aa
「つまんねー!」メイファンは叫び出した。「わざと死体残してまでお前の耳に入りやすくしてやったのに!」
「ハァ?」ズーローは首を傾げた。「何がしたかったの? メイファン、お前?」
「なんでもねーよ。ただ、才能あるお前に殺る気になってほしいなーとは思う」
「ヤる気なら結構あるんだぜ。メイファンが秀珀の身体に入ってくれたらもっとビンビン……」
「お前、怒らせたら結構面白そうなんだけどな」
「怒らせてみろー。やーい、やーい」ズーローは舌を出しておどけた。
「……暇だ」メイファンはため息を吐く。
0525創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 00:35:07.71ID:HO5T2/aa
「しかし……」ズーローは急に真顔になった。「祝融が本気になったぞ」
「まじ?」メイファンが怯えた声を出す。「じーさん殺したから激おこ?」
「俺、たぶん祝融に、お前を匿ってると疑われてる」
「まぁ……その通りだもんな」
「俺、祝融に拷問されて、お前の居場所吐かされるかも」
「拷問か……。楽しそうだな」
「一緒に逃げようぜ。駆け落ちしよう」
「っていうか、私が祝融なら……」メイファンは背筋がぞくりとした。「気配を消してお前を見張り、私と接触するのを待つ……」
0526創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 00:41:04.41ID:HO5T2/aa
『……しまった!』
メイファンは急いで辺りの気配を窺った。
森の中など樹木の陰だらけで隠れる場所など探せばきりがない。
しかも相手は『気』を持たない。
樹の陰からいきなり攻撃されては避けられるはずもない。
しかし『気』の鎧を最大にして攻撃を待っても、祝融の攻撃が襲いかかって来ることはなかった。
0527創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 00:45:18.35ID:HO5T2/aa
「おかしいな……」メイファンはなおも警戒しながら、呟いた。「お前を見張っているものだと思ったが……」
「ん?」ズーローが言った。「何の音だ?」

言われてメイファンも耳を澄ます。

遠くから地鳴りと、海の水が暴れるような音が聞こえて来た。
0528創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 22:22:35.40ID:NMw9aKRS
異変を聞きつけた祝融の弟子達は師匠の家に駆けつけた。
ズーローを除く全員が集まった。
もちろんチョウも、話を聞きたがるユージンを中に入れてやって来た。

祝融は弟子達が勢揃いしても、暫くの間険しい顔をして黙り、考え込んでいた。
しかし「何事ですか」と弟子達が急かすので、仕方なさそうに口を開いた。
「ありえぬことだ。ウル川が突然氾濫し、水の町を襲った。大水害だ」
弟子達はざわめき、口々に驚きの声を上げた。
「水の町を?」
「そんな、まさか!」
「ありえない! だって水の町は……」
「そうだ」
祝融は苦しみを顔に表し、言った。
「水を司る赤松子のいるあの町が大水害などとは……俺のいるこの町が大火災に見舞われるに等しい」
0529創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 22:30:09.19ID:NMw9aKRS
「自然が怒り狂ってるんだ」
チョウは小声でユージンに言った。
「人間が一度にたくさん、この世界にやって来たから」

「そんな……!」
ユージンは危うく上げかけた大声を殺して言った。
「ぼくのせいなの!?」

「いや、お前は身体がないし、きくらげ臭さも隠せる程度だ。大したことない。それよりも……」
チョウは確信したように言った。
「メイファン。あれは人間の中に人間が入ってる。二重だからきくらげ臭さが半端ない! アイツのせいに間違いない」
0530創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 22:36:09.24ID:NMw9aKRS
「原因は『黒い悪魔』だ」
チョウは大声で祝融に告げた。
「アイツがこの世界にやって来たせいで自然がおかしくなっちまったんだ」

「いや。それはない」
祝融は断言した。
「人間がこの世界に存在するのは確かに不自然なことだ。しかし、それだけでは、こんなことにはならない」

「じゃあ! ……何が原因だ?」チョウは少しムキになった。
「わからぬ」祝融はそう答えるしかなかった。「わからぬが、必ず突き止める。このままでは赤松子の面目が丸潰れだ」
0531創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/09(木) 22:49:28.19ID:NMw9aKRS
「『黒い悪魔』のことも重要な案件だ」
祝融は弟子達に言った。
「信じられぬことだが辱収を殺害したのは恐らく奴だ。放ってはおけん」
「しかし、水の町の支援と水害の原因究明は更に急を要する」
「今、土の町が地母神后土の統率の元、早速支援にあたっているそうだ」
「我らも急ぐぞ。よいな?」

弟子達は声を揃えて立ち上がった。
0532創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 06:05:51.04ID:j1AN+948
「祝融」
赤松子はやって来た祝融を見ると、泣きそうな顔をした。
町は濁流に呑まれ、住人達は皆高台に避難していた。
破壊された家屋の残骸がごうごうと流されて行き、時々犠牲者らしき影もその中に見えた。
「赤松子。なんということだ。お前がいながら」
悲しみに顔の歪む祝融の胸に赤松子は飛び込み、顔を埋めた。
「私の神通力が……効かないんだ」

向こうのほうではいつもは穏やかな母のような地母神后土が、崩れる土砂を宥めようとしていたが、こちらも神通力が届いていないようだ。
激流に圧され土砂は、地母神の言うことなどまったく聞かずに、怒り狂うように暴れていた。
0533創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 06:08:41.00ID:j1AN+948
「原因は」赤松子は悔しそうに言った。「察しがついている」
「何だと?」祝融は赤松子の顔を上げさせ、聞いた。「その原因とは何だ」
「魚だよ」
「魚?」
「『樹の一族』の養女だ。あの娘が育てている赤い魚だ」
0534創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 09:26:48.27ID:j1AN+948
話を聞き、祝融は赤松子を責めた。
「お前、なぜそんなことを黙っていた?」
「だってあの娘、いい子だし、可愛いし……」
赤松子の頬を祝融の平手が打った。
「それでも水の長か! しっかりしろ」
「……ごめん」赤松子は祝融の胸で泣き出してしまった。「ごめんねぇ〜!」
0535創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 09:39:11.79ID:j1AN+948
「チョウ」
祝融がチョウのほうを振り向いた。
「お前、樹の娘と親しかったな」
「え……」チョウはいきなり言われ、言葉に詰まった。
「あの娘はどこにいる?」
「あ……し、知らない」
「探せ」
「は……はい」
「死んだ人間の魂を霊婆の島から持ち出し、育てるなど許してはならん。前代未聞だ」
チョウは返す言葉を見つけられず、黙ってしまった。
「間違いない。前代未聞の自然に逆らうその娘の行いに、自然が歪んでいるのだ」
「……」
「ここの救援は私達でやる。お前は樹の娘を探して見つけ出し、私の元へ連れて来い」
「……」
「お前は大切な者を守ろうとする、心優しい子だ。そういう子は私は好きだ」
「……」
「だからズーローを差し出せとも言わなかった。しかし、今回は事が重大だ」
「……」
「この世界と、その娘と、どちらが大事なのか、考えるまでもなかろう。一刻も早く世界を不安に陥れている元凶を、その娘を、探し出すのだ」
「……」
「よいな?」
「わかった」
そう言うと、チョウは振り返り、駆け出した。
0536創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 11:50:04.64ID:j1AN+948
『やった!』
ユージンは心の中で喜びの声を上げた。

チョウは何も言わずに走っていた。
方角からしてどうやらチョウの家に向かっているらしかった。

「ルーにぼくを戻すの?」
ユージンが聞くと、言葉が届いているのかどうかよくわからない、上の空な調子で返事が返ってきた。
「うん」
0537創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 11:53:14.27ID:j1AN+948
「椿を差し出すっていっても、死刑にされるわけじゃないんだからね」
「うん」
「あの魚が滅せられるだけだよ。椿のこと思いやる必要ない」
「うん」
「大体、悪いことしてるわけだからさ。友達が悪いことしてたら、ちゃんと正してやるのが本当の友達ってもんだよ」
「うん」
「聞いてる?」
「うん」
0538創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/10(金) 11:56:48.66ID:j1AN+948
「ねぇ、椿、あそこじゃないかな」
「うん」
「ほら、雪の国の、大聖堂」
「うん」
「なんだか椿を応援してる女の人もいたし」
「うん」
「ランもあそこだと早く大きくなるって言ってたし」
「うん」
「うんばっか言ってんじゃねーよ」
「うん」
「バカにしてんのか?」
「とにかく」チョウは顔を上げると、穏やかな口調で言った。「早く椿を見つけねーと」
0539創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 08:39:11.29ID:RHtJi0r4
「こんにちは」
雪の国の大聖堂の大扉を開けて、メイファンは言った。
「だれかいませんか」
するとすぐに赤黒い『気』が糸のように上からゆっくりと降りて来、つららが落ちるようにメイファンめがけて襲いかかって来た。
避けるまでもなく盾にした右手で払うと、メイファンは言った。
「だれかいませんかぁ」
「おりません」と奥のほうから女の声がした。
「じゃ、勝手に奥へ入りますよ」
そう言うとメイファンは短い足をちょこちょこと動かして奥へと進んだ。
0540創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 08:48:19.89ID:RHtJi0r4
少し進むと足元に赤黒い『気』の糸が横に張られ、足を引っかけようと待ち構えていた。
「うーん」メイファンは少し考えてから、それに足を引っかけて転んでみた。「わぁ、罠だぁ」
赤黒い『気』が無数の手となり、チェンナの魂を掴むのがわかった。
ぐいぐいと引っ張り、身体から引き出してネズミの形に変えようとする。
「あっ、だめですよー」
そう言いながらメイファンは身に纏った真っ黒な『気』を無数の足に変え、ドカドカと相手の手を踏み潰す。
「失礼な子だね!」
たまらず激怒の表情で秀珀が奥から姿を現した。
「失礼を通り越して無礼!」
0541創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 08:56:10.62ID:RHtJi0r4
「無礼はどっちだ、このドブス」
メイファンの言葉に秀珀の美しい顔が歪んだ。
「ドブスじゃないわよ、この悪たれが」
「私はお客さんだ。さっさと歓迎しろ、このドブスババァ」
「ドブスにとどまらずババァ呼ばわりかい。覚悟おし。アンタは生きて帰さないよ」
「ズーローから紹介されて来たメイファンとチェンナだ。大人一人と子供一人でチェックイン頼む」
「聞いてないよ。大体ズーローなんてただの酒場での飲み友達。アンタの面倒見る義理などないわ」
「やるか?」
「ネズミにしてくれる、この人間の悪ガキが」
0542創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 09:07:44.42ID:RHtJi0r4
秀珀の顔が強風に煽られるようにざわめき、目が赤くつり上がった。
「わぁ、本当にドブス」
無邪気に笑うメイファンの前から秀珀は飛び上がり、大聖堂の高い天井で止まる。
「ネズミどもに食い殺されるがいい」
四方八方から食欲を剥き出しにしたネズミが無数に出現し、メイファンめがけて押し寄せて来た。
「あぁ。なんか殺すのかわいそう」
そう言うなりメイファンは飛び上がり、頭に『気』で作ったプロペラをくっつけて空を飛んだ。
「なんだい、お前は?」秀珀は驚いて大きな口を開けた。「人間が飛べるわけが……」
チェンナの口から波動砲のように黒い光がカッと発射される。
黒い光は避けようのないスピードで秀珀の開けた大きな口へ飛び込んだ。
0543創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 09:14:16.63ID:RHtJi0r4
残しておいた微量の『気』でチェンナはまだ飛んでいる。
メイファンは秀珀の身体を乗っ取ると、その口を動かして言った。
「ここに赤いおかっぱの娘が来てるだろう。出せ」
「きっ……来てないよ!」
「え〜? ここじゃねーのか。まぁ、いいや。私達も追われてる。ここに泊まらせろ」
とりあえず秀珀の神通力を奪って床のネズミ達を引っ込ませると、メイファンはチェンナを着地させた。
「とりあえず、酒、ある?」
0544創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 09:23:27.30ID:RHtJi0r4
ルーシェンの背に乗りチョウは雪の国の大聖堂にやって来た。
大扉を開けるとチェンナの身体に戻ったメイファンと秀珀が酒を酌み交わし談笑していた。
「あら、チョウくん。また来たの」秀珀が色っぽい顔色で言った。
「よう、少年。ユージンも一緒か」メイファンが明るい笑顔で言った。
「あ……てめーーっ!」チョウが大声を上げる。
「メイファン!」ユージンがルーシェンの口で言った。「また人殺しちゃったの?」
0545創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 09:34:13.80ID:RHtJi0r4
「まぁ、ガキどももここ来て座れ」メイファンが手招きをする。「酒、飲むか?」
「あら、ダメよぉ」秀珀が笑いながら手をひらひらと動かす。「それじゃ悪い子になっちゃう」
チョウはメイファンに飛びかかり、捕まえるような動作をしたが、途中で足がすくんだ。
首をはねられかけた記憶が強烈に身に染みついていた。
「椿は……ここに来てないか?」飛びかかる代わりにチョウはメイファンに聞いた。
「うん。私もここかと思ったんだが、来てないらしい」
「メイファン」ユージンが言った。「早くあの子捕まえないと、この世界が滅茶苦茶になっちゃうんだ!」
「あら。捕まえられちゃ困るわ」秀珀が言った。「あのお魚さんに、人間界への扉を開けて貰うんだから」
0546創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 09:43:12.19ID:RHtJi0r4
「そうなんだ、ユージン」メイファンは諭すように言った。「椿の邪魔しちゃダメだぞ」
「椿ちゃんは人間界への扉を開けてくれるのよ」秀珀はうっとりするように言った。「それを通ってメイファンとユージンくんは人間界に帰り、私も……」
秀珀はビクビクンと2回痙攣すると、白目を剥いた。あまりに甘美な想像に逝ってしまったようだった。
「お前」メイファンが秀珀に聞く。「人間界行って何すんの?」
「秘密」
「教えろ」
「しょうがないわね。親友のメイファンだから教えてあげるわ」
秀珀は頬を染めてメイファンに耳打ちした。
「なんだそんなことか」メイファンは呆れたように言った。「くだらねー」
0547創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 09:54:54.45ID:RHtJi0r4
「とりあえず私と秀珀は、二人とも人間界に行きたい。利害関係が一致して親友になった」
「薄っぺらい親友だね」ユージンは呆れて言った。
「まぁ、人間界への扉が開けば、お前も帰れる。椿の邪魔しちゃダメだぞ」
「ぼくは帰らないよ」
「いや、連れて帰る。ララに怒られるの嫌だからな」
「帰らない。ここに残る」
「お前な……」
「おい!」チョウが口を挟んだ。「勝手なこと言ってんなよ」
「勝手なこと?」メイファンが首を傾げる。
「お前にはどうでもいいかもしんねーが、この世界が滅茶苦茶になるんだぞ?」
「椿はランを人間界に還そうとしてるんだ」メイファンは同情を求めるように言った。「ランが人間界に戻れば、この世界も平和になる。それまでの辛抱だ」
0548創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 10:04:45.75ID:RHtJi0r4
「ふざけんな!」チョウは怒鳴った。「もう既に水の町が滅茶苦茶だ」
「だから皆に迷惑がかからないよう、急いでランを育ててるんだよ、椿は」メイファンは姪っ子の行いに感心するように言った。
「ちょっとでも駄目だろ! そんなの……」
「考えてもみろ」メイファンは諭す口調でチョウに言った。「椿はランを帰したい、秀珀は山崎賢人に会いに人間界へ行きたい」
「いっ……!」秀珀が声を上げ、顔を赤らめた。「言っちゃ駄目だよぅ〜!」
「私とユージンも人間界に帰りたい」
「ぼくは……」ユージンは突っ込もうとしたが面倒臭くなってやめた。
「これだけの人数が助かるんだぞ? 町の壊滅など安いものだ」
「バカか!?」チョウは呆れて吐き捨てた。
0549創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 10:19:24.35ID:RHtJi0r4
しかしチョウはそれ以上何も言えなかった。
「あのお魚さん」秀珀が言った。「今、急速に大きくなってるわよ」
「わかるのか?」メイファンが酒を呷りながら聞いた。
「ネズミちゃんが知らせてくれるの。ぐんぐん目に見えて膨らんでるって」
「おい!?」チョウが口を挟む。「それ、椿も一緒か!?」
「いいえ。椿ちゃんはまだお魚さんを探してる。どこにいるかは知らないけど」
「でもなんでそんな急速に?」
メイファンの問いに秀珀は答えた。
「たぶんだけど、椿ちゃんが心配してるからね。離ればなれになって、より強い想いをお魚さんに向けてるから……」
「あぁ」ユージンが言った。「ランは椿の愛を栄養として育つんだもんね」
「しかも成長を促す冷たい水の中に閉じ込めてあるから、本当、素晴らしい勢いで大きくなってくれてるわ」
「は?」チョウが突っ込んだ。「もしかしてアンタ、ランをさらって監禁してる?」
0550創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 13:55:21.05ID:RHtJi0r4
「あら、だって……」秀珀は善いことをしている人の顔で言った。「出来得る限り早く育てなければいけないでしょ?」
「てめぇ……!」チョウは声を荒らげた。「椿が今、どんな想いでランを探してるか、わかってんのか!」
「だぁ〜かぁらぁ〜」秀珀は尚も善人面で言った。「その想いがお魚さんを育てているのよ、と言ってるでしょ」
「危険な目に遭ってるかもしれねぇんだぞ! 椿を苦しくさせんじゃねぇ!」
「臭っ」メイファンが言った。「臭ぇ、臭ぇ。お前、物凄く臭ぇぞ」
0551創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 14:03:43.97ID:RHtJi0r4
「お前、名前なんだっけ」
「チョウだよ」
「チョウか。チョウ、お前、物凄く臭ぇぞ」
「なんだよ、それ」
さんざん『きくらげ臭い』と言われてる復讐かな、とユージンはこの時は思った。
「とりあえず」メイファンは鼻をつまみながらチョウに言った。「お前、ちょっとこっち来い」
「は?」
「あっちの部屋、一緒に行こう。付き合え」
「な、なんだよ?」
「話があんだよ、お前だけに」
「俺はねーよ。お前なんかと二人きりになってたまるか」
「椿からお前に伝えてくれって言われてることがあんだよ。それ伝えてやっから、いいから来い」
「椿から?」
チョウはユージンのほうを振り向きもせずにメイファンについて行った。
ユージンはなんだか嫌な予感がして、声をかけた。
「ぼくも行く!」
「お前は来んな」メイファンが目だけで振り向いた。「チョウだけに伝えてくれって言われてんだよ」
0552創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 14:14:25.38ID:RHtJi0r4
狭い部屋に入ると、すぐまた向こうに扉があった。
次の部屋に入るとまたすぐに扉がある。
メイファンはばたんばたんと扉を開け閉めしながら進む。チョウは黙って後をついて行った。
七回ほど扉を潜るとようやく行き止まりになった。メイファンはついまた扉を開けようとし、壁に手をついて「あっ」と小さく声を出した。
0553創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 14:25:47.45ID:RHtJi0r4
「椿が……俺に何を言ってた?」
チョウが聞くと、メイファンはニコニコしながら振り返り、言った。
「何も言付かってねーよ」
「は!?」
「私がお前に用があったんだ。騙してごめんなさい」メイファンはバカにするように頭をぺこりと下げた。
「なんだよ」チョウは逃げようとした。「じゃあ、俺、戻るわ」
しかし扉は開かなかった。よく見ると黒い『気』の楔でびっしりと打ちつけられてある。
「お前のこと、殺すね」メイファンはウキウキしながら言った。
「はぁ!? なんだよ、いきなり!? 意味わかんねぇ!」
「お前、人間界の扉開けるの、邪魔しそうだし」
「そりゃ……!」
「それにな、お前殺したらさすがにズーローも殺る気を出してくれるし」
「そりゃ……! ズーロー黙ってるわけねーよ」
「いいね。じゃ、殺そう」メイファンは舌なめずりをした。
「おいおい! ユゥだって黙っちゃいねーぞ!?」
「何? ユージンが本気になってくれるのか?」メイファンは夢見るように目を輝かせた。
0554創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/11(土) 14:34:26.11ID:RHtJi0r4
「お前を殺せばいいことづくめだ」メイファンはそう言いながら、手を青竜刀に変えた。
「ころすの?」チェンナが声を出した。「よわいものいじめ、かこわるいよ」
「そんなんじゃない、チェンナ」メイファンは教えた。「ただこのお兄ちゃんの首を持ってズーローに会いに行くだけだ」
「キチガイか、てめぇ!」チョウは橙色の『気』を全開に纏い、指の先から火を放った。
メイファンは蚊を叩くように火を消す。そしてすまなさそうに言った。
「わかってくれ」
「わ、わかるかよ!」
「暇なんだ」
そう言うより早く、メイファンの青竜刀がチョウの首を正確に狙って繰り出された。
0555創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 08:13:52.38ID:Cd8qh9PJ
「いたっ」
メイファンは後ろへ吹っ飛んだ。
一匹の大きなアブが顔面に激突して来たのだった。
「こんな雪国の室内にアブがいるわけねーだろ」
気を取り直し、再度チョウの首をはねに行ったメイファンにアブの大群が襲いかかって来た。
左手をべとべとする蠅取り紙に変えて一匹残らず退治すると、突然壁に大きな穴が空き、風雪が吹き込んで来た。
「なんだなんだなんなんだ」
吹き荒ぶ風雪の中にはギラギラと光る無数の眼光が並んでいる。唸りを上げるとそれらは走り出し、狼の群れが入り込んで来た。
メイファンは身体を黒豹に変え、応戦する。身体の小ささを活かして素早く動き、大きくて隙だらけの狼達を次々と噛み殺して行く。
チョウは怯える声を漏らしながら、扉に体重をかけた。扉は脆くもはずれて落ち、一目散にチョウは逃げ出した。
メイファンが打ちつけていた黒い楔は、白アリの群れにことごとく根元を食われ、緩くなっていた。
0556創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 08:21:52.30ID:Cd8qh9PJ
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……17歳の人間の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は植物鹿人間となったルーシェンの身体に入っている。チョウのことが大好き。

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。
椿に恋しているが、気持ちを伝えようとは決してしない。特別に仲良くはなったものの、年下の椿から弟扱いされてしまっている。
ユージンを人間だと知りつつ信頼し、海底世界に住むことを許している。

・椿(チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。元ユージンの妹で人間。今は海底世界の住人。
クスノキの老人に助けられ、名門『樹の一族』の養女となる。薄紅色の『気』が使える。人間の記憶はすべて消されている。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
自分を助けたがために死んでしまった人間の青年を生き返らせようと、霊婆の元から青年の魂を貰って来た。
赤い魚の姿をした魂にランと名前をつけ、溺愛し、いつも連れて歩いている。
人間の魂を育てることは自然の掟を犯す犯罪であり、指名手配されている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。赤いイルカに姿を変えた椿を助け、渦潮に呑まれて絶命した。
今は赤い魚の姿をした魂となって、椿に飼われている。
何も食べないが、誰かの愛を受ければ受けるほどに急成長する。
自然界にはあり得ないほどの大きさまで育つと、人間界への扉を開けると言われている。
そしてその成長は自然のルールを破壊し、海底世界を滅茶苦茶にしてしまっている。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとして四歳児チェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。
暇なので悪いことばかりしている。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。
身体を動かし、食事をしなければ生命維持が出来ないため、ユージンが中に入って世話をしている。
自分のことを男だと言っていたが、実は女だった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中。才能はあるが、やる気がない。
秀珀の外見に惚れているが、中身はメイファンのほうが好みらしく、秀珀にメイファンが入ってくれることを望んでいる。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。

・秀珀(ショウポー)……雪の国に住む美女。悪い子の魂を司る仙女。
秘密の目的があって人間界に行きたがっている。
0557創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 08:23:46.98ID:Cd8qh9PJ
「これ、私が祝融に滅せられかけた時と同じだな」
メイファンは狼達を噛み殺しながら、呟いた。
「やはりユージンか。あの金ピカ野郎……!」
0558創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 08:31:22.28ID:Cd8qh9PJ
息を荒くして戻って来たチョウを見て、ユージンは不思議そうな顔をした。
「どうしたの!? チョウ」
「あああああ」
「落ち着きなさいな」秀珀が言い、盃を差し出した。「これでも飲んで……。あ、お酒じゃないわよ? ただのお水」
チョウは水を飲み干すと、ユージンに言った。
「おま、おまお前、何かした?」
「は?」ユージンは首を傾げた。「何かって?」
「ま、まぁいい。アイツ……メイファン、俺を殺そうとしやがった」
「ええ!?」
「やっぱりアイツ、人間は悪いものだ! 自分が暇だからって、退屈しのぎに俺を殺そうとした」
「なんか……ごめん」ユージンはぺこりと頭を下げた。
「あらあら」秀珀が意地悪そうに笑った。
0559創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 08:35:10.74ID:Cd8qh9PJ
「とりあえず」ユージンはチョウの手を握ると、言った。「ぼくと一緒にいれば大丈夫だ」
「あ?」チョウは繋がれた手を嫌そうに見た。
「ぼくが一緒にいたらメイファンも悪さできない。離れずにくっついててね」
「あ? ……ああ」
チョウは息を整えながら、自分が出て来た扉を振り返った。
メイファンはどうやら外へ逃げ出したようだった。
0560創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/12(日) 08:37:59.38ID:Cd8qh9PJ
一匹のネズミが駆けて来て、秀珀の顔を見上げてチチッと鳴いた。
「あら」秀珀はその知らせを受けてチョウ達に言った。「朗報よ」
0561創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 16:10:22.26ID:Mp6bRsJy
もうとっくに日は暮れていた。
しかしチョウは構わず暗闇の中を走った。
「待ってよ、チョウ!」ユージンはその背中を追いかけた。「ルーシェンに乗りなよ! そのほうが早いよ!」
「何も見えねーのに速駆けして木にでもぶつかったらどうすんだ!」
チョウは振り返らずにそう言い、障害物に気をつけながら走った。
雪の国を抜け、森を進むと前方に月明かりに照らされた高台が見えた。
そこに立ち、下界を見下ろす椿の後ろ姿がそこにあった。
0562創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 16:13:14.88ID:Mp6bRsJy
「椿!」
チョウが声を投げると、椿は振り向いた。
「チョウ!」
その驚いた顔を月が照らす。そしてすぐにその顔は穏やかな、安心したような笑顔に変わった。
「体、よくなったのね。よかった……」
0563創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 16:25:12.02ID:Mp6bRsJy
「椿……」
チョウは何か言おうとしたが、息を整える必要があった。
追いついて来たユージンはただ黙っていた。
「なんだか」椿が言った。「火の町が……おかしいの」
そこからはチョウの住む火の町の全貌が見渡せた。町はいつも通り平和なように見えた。
「おかしいって?」
ユージンが町の様子を見ながら聞く。
「植物達が騒いでいるの」
「植物?」
「うん」椿は町から目を離さずに、言った。「何か、嫌な予感がする」
「椿」ユージンはその手を強く握った。「祝融の所、行こう」
「え?」椿は驚いたように振り向いた。
「嫌な予感がするなら報告しないとだろ」
「でも……わたしは……」
「ランの居場所ならわかったよ」
「本当!?」椿は体ごと振り返ると、ユージンの胸に手を置き、迫った。「どこなの!?」
「ランも一緒に連れて行こう」ユージンは厳しい顔で言った。「自主するんだ、椿」
0564創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 16:28:43.49ID:Mp6bRsJy
「自主するって何だ、『自首』だろ、バカ」チョウが突っ込んだ。
「おっ、音は同じだろ! 日本語なら……」ユージンはあがいたが、中国語では音も違う。
0565創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 16:33:54.30ID:Mp6bRsJy
「とにかく……ランのとこ行こう」チョウが言った。
「どこ?」椿がチョウを頼るように見た。
「秀珀が監禁してやがったんだ」
「秀珀?」椿は一瞬わからなかったが、すぐに言った。「あ……。あの綺麗な女の人ね」
「お前がここにいることもアイツから聞いて来たんだ。行くぞ」
「うん。ありがとう、チョウ。ランを見つけてくれて……」
「行くぞ」チョウは礼には答えずに歩き出した。
0566創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 17:09:22.22ID:f6q+Kyr7
森の中を揃って歩きながら、ユージンがしつこく言った。
「椿、何度も言うけど……ランと一緒に自首するんだよ?」
チョウは黙ってただ先頭を歩いていた。
「チョウも……」椿はその後ろ姿に声を投げた。「同じ考え?」
何も答えないチョウに代わってユージンが言った。
「だってランのせいで水の町が滅茶苦茶になったんだぞ? 悪いことしたんだから自首するのが当たり前だ」
「ランのせいだってはっきりしたわけじゃないじゃない!」
「祝融が言ってたんだよ! ランの自然界にはあり得ない成長のせいで、自然のバランスがおかしくなったんだって」
「証拠はあるの?」椿はなおも強い顔つきで歯向かった。
「あの祝融が間違いないって言ったんだよ!」
「祝融が何よ!」椿はユージンを睨みつけた。
「見えたぞ」チョウが振り向いた。「雪の大聖堂だ。少し暖まろう」
0567創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 17:16:15.81ID:f6q+Kyr7
大扉を開け、中へ入ると空気が暖かくなった。
すぐに秀珀が出て来て、椿に言った。
「お嬢ちゃん、お帰りなさい。いよいよね」
「こんにちは。いよいよ……って?」
意味がわからず聞く椿に、秀珀は嬉しそうに言った。
「ネズミちゃんの報告があったわ。お魚さんが逃げ出したの。火の町の方角へ飛んで行ったそうよ」
「えっ」
「いよいよ開くわよ」秀珀は白目を剥き、笑った。「人間界への扉が」
0568創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 17:42:30.83ID:f6q+Kyr7
メイファンはチョウ殺害にしくじり、夜の森の中を歩いていた。
「やーい」チェンナがしつこくメイファンを笑い者にしていた。「よわいものいじめしっぱーい、やーい」
「うるさい。追い出すぞ、チェンナ」
「無理よー。これチェンナのからだだもん」
「うぅ……。しかしこんな外を歩いていて、祝融に見つからなければいいが……」
「たたかえばいいじゃん」
「嫌なこった。アイツは強すぎる」
0569創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 17:47:25.22ID:f6q+Kyr7
「こえていけばいいじゃん」
「わかったようなことを言うな。ド素人のガキが」
「ちょーせんするんだよ! そーやってもっとつよくなるの!」
「私の歳を考えろ」メイファンは面白くもなさそうに言った。「若ければそうしたろうが、もう無理はせんわ」
「じゃー、なんで、つよいひとと、たたかいたがるの?」
「暇だからだ」メイファンは即答した。「それだけだ。そのためにはちょうどいい強さの奴がいい……ん?」
メイファンは何かに気づいて夜空を見上げた。
0570創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/13(月) 17:53:12.09ID:f6q+Kyr7
ゴウン
ゴウン
と、重量物が飛ぶ音を立て、何かが後方から空をやって来ていた。
暗い夜空でもはっきりと、明るい赤色をした巨大な魚だとわかった。
それは間違いなく、メイファンをこの世界へ導いた、あの巨大魚の姿だった。
「ラン!?」メイファンは届かない声を上げた。「お前だったのかよ!」
森を揺るがす悲しげな叫び声を上げると、ランは月を隠しながら、火の町のほうへと飛んで行った。
0571創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/14(火) 23:34:00.73ID:kZHCwNe9
「急げ!」
チョウは椿を抱いてルーシェンの背に乗り、駆けた。
椿が樹木の気配を察知できるので、もうぶつかる心配はなかった。

森を抜けると、大勢の人が作る列が見えた。
皆、大きな荷物を背負い、川のほうへと大移動している。

「どうしたの!?」
椿が顔見知りのおばさんを見つけ、叫んだ。
「あぁ……椿ちゃん」おばさんは泣きそうな顔で言った。「あんたのせいだ」
「え?」
「あんたがあんな化け物を育てるから、火の町が滅茶苦茶だよ!」
0572創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/14(火) 23:44:58.56ID:kZHCwNe9
町へ近づくと、空がどんどん赤くなった。
「馬鹿な……」チョウが声を漏らした。「火の町が……燃えてる」
チョウの住む石の集合住宅も大火に包まれていた。
「ばあちゃん!」チョウは叫んだ。「ズーロー!」
「チョウ!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、振り向くと、樹氏と鳳夫人が並んでこちらを見ていた。
「おばあさんは無事だ。私が救助したよ」樹氏が言い、すぐに椿を見た。
「おとうさん……」椿はまっすぐに立ち、二人と向き合った。「おかあさん……」
0573創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/14(火) 23:55:51.95ID:kZHCwNe9
「椿……」鳳夫人は言った。「これ、あんたのせいなんだよ」
椿はびくんと震え、固く拳を握りしめた。
「お前がまさか……」樹氏が残念そうに言った。「人間だとは」
「え?」椿は驚き、顔を上げた。「私が? 人間?」
「この世界の住人でこんなことをする者はいない。祝融が言っていた、こんなことをするお前は人間に違いないと!」
「そんな……」椿は何も言えず、口を覆った。
「クスノキの義父さんに騙されたよ。あのひとは人間が好きだったから……」
「わたし……」椿は涙しながらもようやく言った。「みんなの……仲間よ?」
「仲間だと言うのなら、あれを何とかしろ!」樹氏は大きな声を出し、空を指差した。
赤い空を更に赤く染めるように、巨大な飛行船のような真っ赤な魚が建物の間を横切った。
0574創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 08:05:09.65ID:zMCgAb20
メイファンは身体を小型ジェット機に変え、ランを追って飛んでいた。
火の町は所々から黒い煙を上げ、明々と燃えていた。
「わぁ……楽しそう♪」
そう言いながらも町の手前で着地し、変身を解く。
『気』を持たない祝融がどこにいるかわからず、警戒したのだ。
「ちくしょ。迂闊に近づけねぇ……」
「やーいメイファンのよわむしー」チェンナが怒ったように言った。
「しかし……これ……」メイファンはチェンナを無視し、赤く燃える町を眺めて呟いた。「ランがやったって言うのか?」
0575創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 08:14:54.18ID:zMCgAb20
あれだけ優しかった両親に酷い言葉を浴びせられる椿を、チョウはただ黙って見ていた。
困ったような顔をして、ユージンの鹿の背中に手を触れて、口を半開きにして。
椿がランを追うように急に駆け出すと、思い出したようにチョウも駆け出した。
「椿!」
樹氏が娘の背中に声をかけたが、椿は振り向かなかった。
「チョウ!」
樹氏は振り向かない椿の代わりにチョウに言った。
「祝融が出る! 神通力に巻き込まれないよう……!」
「わかった!」
そう言うとチョウは全力で椿を追った。
0576創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 08:31:06.51ID:zMCgAb20
「チョウ!」
ユージンは四本脚で駆け、追いついた。
「乗って!」

しかしチョウは何も言わず、困ったような顔で首を横に振る。

「椿を連れて避難しよう」
ユージンがそう言っても、チョウは追いつこうともせず、困ったような顔で椿の背中を追っていた。

椿の黒い長スカートが熱気にはためき、赤い旗袍と髪が炎に照らされていた。
3人は何も言わずに町の中央広場へ向かっていた。
0577創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 08:39:28.59ID:zMCgAb20
中央広場に着くと、仙人達が揃って空を仰いでいた。

火の祝融
雨の赤松子
地母神后土
樹の句芒

その他、優れた神通力をもつ仙人達が、ランに向かって総攻撃をかけるところらしかった。
そんなことも知らず、ランはこちらのほうへ空を泳いで来る。
ランは町を攻撃してなどいなかった。
ただ、そこにいるだけで、火の町を火で包むという、自然に反することを起こしてしまう。
それを悲しむように、ランは天地を揺るがす大声で叫んだ。
0579創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 18:30:37.67ID:A5qA1cGi
「俺の町を火で包むとは」
祝融は眉を吊り上げた。炎の髪が逆立つ。
「許さぬぞ、化け物」

祝融は左手をただ上げただけだった。
それだけでランの飛行船ほどの巨体が巨大な炎に包まれる。
ランは耳をつんざくほどの悲鳴を上げた。しかし、その身体には傷どころか煤ひとつついていない。

「なんと」
祝融は目を疑った。
「俺の炎に耐えるとは」
0580創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 18:38:19.75ID:A5qA1cGi
「たぶん身体が水で濡れているんだ」
赤松子が言った。
「ぼくがそれを退けてあげる」

赤松子の蒼い髪がゆらめくと、瞬く間に空に暗雲が立ち込めた。
雲はその裡に黄色い光を蓄えている。

「散」
赤松子がそう唱えると、無数の稲光がランを襲った。
轟音と明滅する光に包まれ、ランはまた大地を揺るがして絶叫する。
しかし雷雲が去ると、またもや何事もなかったような巨体を現した。
0581創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 18:44:27.13ID:A5qA1cGi
「あの雷撃にも耐えるのか」
緑色の草のような少年が呆れたように言った。樹の町の守護神、句芒である。

「でも今ので水分を飛ばした」
赤松子が落ち着いた口調で言った。
「祝融、もう一度火炎を」

「今度は仕留める」
祝融が左手を上げようとした時、駆けて来た少女が叫んだ。
0582創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 18:48:22.18ID:A5qA1cGi
「待って!」
椿は転びそうになりながらも祝融達の前に辿り着いた。
「待ってください!」

「お前が『樹の一族』の?」
祝融は恐ろしい目で椿を睨む。

「養女です!」
椿は息を切らしながら、頷いた。

「椿ちゃん……」
赤松子が悲しそうな顔を向ける。
「なぜ……霊婆の元へ返しに行かなかったんだ」
0583創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:04:15.25ID:A5qA1cGi
「樹氏にも君を育てた罪がある」
句芒が緑色の細い腕を組み、低いところから冷たい目で椿を見下した。
「追って沙汰するけど、君の罪はもっと、もっとだ。最上級に重いよ?」

「椿!」
叫びながら、後ろから樹氏と鳳婦人が追って来た。

「やはり……お前」
祝融が椿を睨みながら、言った。
「人間か」

「椿……!」
鳳夫人が口を覆い、嗚咽を漏らしはじめた。
「なんということだ……」樹氏が目を覆い、天を仰ぐ。
「まさか人間を自分の娘として育てていたとは……」

「椿ちゃんが……」
赤松子は吃驚している。
「……人間?」

「違う!」
椿は胸を張り、大声で名乗った。
「わたしは亡きクスノキ老の孫娘! ハナカイドウを司る仙人、椿だ!」
0584創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:08:12.68ID:A5qA1cGi
「どうでもよい」
祝融はそう言うと、左手を上げた。
「お前のことは後だ。まずはあの化け物を打ち落とす!」

「させない!」
そう言うや否や、椿も手を高く上げた。

椿の身体を薄紅色の巨大な光が包み、椿は一本のハナカイドウの樹と化した。
0585創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:10:43.16ID:A5qA1cGi
【ハナカイドウ】

ハナカイドウ(花海棠、学名:Malus halliana)は、バラ科リンゴ属の耐寒性落葉高木。別名はカイドウ(海棠)。

中国原産の落葉小高木。花期は4 - 5月頃で淡紅色の花を咲かせる。性質は強健で育てやすい。花が咲いた後の林檎に似た小さな赤い実は、食することができるが、結実しないことが多い。

樹高:5〜8m 

https://images.app.goo.gl/y1J6QtqfHM6qXnbs8
0586創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:15:25.96ID:A5qA1cGi
思わず祝融は驚きの声を上げた。

目の前に出現したハナカイドウの樹は、みるみるうちに天へと伸びた。
クスノキの老木を追い越し、ランをかばって壁となるほどの巨大なハナカイドウは、自然界にはあり得ないものだった。

「人間め!」
祝融が憎むように、目の前に立ちはだかったハナカイドウの巨木に手をかざす。
「お前も焼き殺してくれる!」
0587創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:21:08.56ID:A5qA1cGi
「待って!」
「待ってください!」
鳳夫人と樹氏が声を揃えて駆け寄った。
「人間とはいえ、3年近くもの歳月をともに過ごした娘です!」
「どうか! お慈悲を!」

「退け!」
祝融は構わず火を放った。
ハナカイドウの巨木が揺れた。
0588創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:23:02.11ID:A5qA1cGi
メイファンは樹の陰に隠れ、それを見ていた。
「あーあ……」
「ちゅんちゃん、しんじゃうよ?」チェンナが言った。
「仕方ねぇだろ」メイファンは冷静な口調で答えた。「あの火のバケモノに私が敵うわけあるか」
0589創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:26:25.74ID:A5qA1cGi
チョウは何も出来ずに少し離れたところで見守っていた。
ユージンは何も言えず、チョウの肩に掴まって立っているのがやっとだった。
あれほど一時は憎らしいと思ったはずの椿なのに、死ぬとなると足がガクガクと震えた。
「チョウ……どうしよう」それだけ言うのがやっとだった。「椿が……死んじゃう」
チョウは口を固く結び、真剣な眼差しでただ椿の闘いを見守っていた。
0590創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:32:45.17ID:A5qA1cGi
ランの巨体を包み込んだ祝融の火炎でも、ハナカイドウの巨木を包むことは出来なかった。
枝に火を灯しただけで、椿の化身はいまだ立ち塞がっていた。

「おのれ小癪な小娘め!」
一撃で燃やし尽くすはずだったものの平気な姿に逆上したように、祝融は吠えた。
「燃え尽きるまで何撃でも喰らわせてくれる!」

二撃目が放たれ、ハナカイドウの巨木は先程よりも大きく揺れ、燃えはじめた。
0591創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:39:51.46ID:A5qA1cGi
椿は背中に祝融の攻撃を受けながら、ハナカイドウの天辺でランに話しかけていた。
「行きなさい! ラン!」
ランは気遣い、オロオロするような目で悲しそうに椿を見た。
「クオッ……」と小さな声を漏らし、空にそれを響かせた。
「人間界への扉は開いたの! あそこよ!」
椿は西の空に空いた黒い大きな穴を指差した。
祝融の三撃目を背中に受け、椿が痛そうな顔をし、呻いた。
ランが寄って来ようとするのを見、椿は手で追い返す。
「お願い! 早く! 行って!」
0592創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:50:48.86ID:A5qA1cGi
「わたしもあなたを追って後から行くわ」
椿は微笑み、ランに言い聞かせた。

ランはまっすぐに椿を見た。
その巨きな両眼から涙が溢れた。

「ね? あなたが行ってくれないと」
椿は四撃目を背中に受け、仰け反った。しかしまたすぐに微笑みを浮かべ直すと、言った。
「あなたに会いに行けないじゃない」

五撃目がすぐにやって来た。
「……!」
椿は叫び声をこらえると、ランを急がせた。

「早く!」

ランが悲しげに長い叫びを上げた。

「……も…たない!」

すると椿を信じるように、ようやくランは西の空に向かって泳ぎ出した。
0593創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/16(木) 19:56:52.61ID:A5qA1cGi
「いい子ね……」
椿は去って行くランの後ろ姿を見ながら、笑った。
「ありがとう……ラン」

祝融の六撃目は怒りに満ちていた。
その黒い炎はハナカイドウの巨木に当たると、遂に裏側まですべてを火炎に包んだ。

真っ黒な煙を上げ、無数のとかげのような炎が幹から天辺までを舐め回し、
ハナカイドウの巨木は轟音を立てて燃え、遂には折れるような音とともに崩れ、倒れた。
0594創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 07:24:25.91ID:tHuI0QPw
メイファンはそれを見ないよう、目を瞑っていた。
それは椿の化身であるハナカイドウの大樹がまだ倒れる前だった。
「私にはどうにも出来ん」
そう心の中で呟きながら、動こうとする自分の足を止めていた。
「人はどうせ死ぬのだ」
ハナカイドウの樹が祝融の攻撃を受け、爆ぜる音を立てて燃えはじめた。
「早いか、遅いかだけの話だ」
空ではランが悲しげな声を上げ、人間界への穴に向かって飛んで行った。
「楽に死ぬか、苦しみ悶えて死ぬかの……」
椿の苦しむ声が聞こえた気がした。
同時に、自分にじゃれついてくる幼い頃の椿の笑顔が大きく浮かんだ。
0595創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 07:29:39.41ID:tHuI0QPw
「椿!」
叫びながら、メイファンは建物の陰から飛び出した。
燃え落ちるハナカイドウの大樹を見た。
こちらを振り返った祝融と目が合った。
「お前……」祝融はメイファンを睨み付け、言った。「探したぞ」
メイファンは椿の化身が地に倒れるのを見、天空に空いた自分の帰り道を見上げ、そして祝融をまっすぐ見て言った。
「てめぇ。可愛い私の姪っ子に何しやがる」
0596創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 07:34:59.20ID:tHuI0QPw
「この子は?」
可愛い四歳児の姿のメイファンに優しい目を向けながら、赤松子が聞いた。
「黒い悪魔だ」祝融が答えた。「見た目に騙されるな」
「黒い……悪魔? では、この子が……。こいつが……?」
赤松子の優しい顔が変貌して行く。
蒼い髪が逆立ち、目は吊り上がり、口は激しい怒りで歪み、濁った怒声を上げた。
「お前が水龍道士ををォオッ!!?」
0597創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 07:36:25.94ID:tHuI0QPw
赤松子は手を高く振り上げた。
一筋の稲妻が走り、メイファンの頭上に落ちた。
0598創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 07:48:18.25ID:tHuI0QPw
メイファンは咄嗟にチェンナの身体をビニールに変えていた。
「雷が来るとわかってりゃ絶縁すればいい」
そう言ってほくそえんでいるところへ祝融が掌を向けているのが見えた。
「大丈夫……だと思う」
メイファンが呟いた通りだった。
祝融が炎を放とうとした瞬間、飛んで来たカナブンがその掌に止まった。
「こっ、これでは撃てぬ!」
カナブンを燃やすことを躊躇して祝融が叫ぶと、句芒が横から身を乗り出した。
「手を貸そう」
そう言うと句芒はたちまち緑色の竜巻を起こし、それはメイファンとチェンナを飲み込んだ。
0599創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 07:51:59.22ID:tHuI0QPw
メイファンが仙人達の注目を浴びている隙に、チョウは駆け出した。
ハナカイドウの大樹の根本に駆け寄ると、燃えずに落ちた太い枝を一本拾った。
「どうするの?」ユージンが聞く。
「霊婆」
それだけ言うと、チョウは反対方向に向かってまた駆け出した。
0600創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 08:01:18.03ID:l0S3hwY9
ユージンの背に乗り、チョウは『気』の海の港に着いた。
「ユゥはここで待ってろ」
そう言うとチョウは、ハナカイドウの枝を抱いてちょうどやって来た舟に飛び乗った。
「ぼくも行くよ!」
ユージンは何か嫌な予感がしたので叫んだ。
「バァカ。心配いらねーよ。お前があそこ行ったらまた霊婆に欲しがられるぞ」
「だからだよ!」
霊婆は仕事が難しければ大きな見返りを要求する。前はルーシェンの魂を引き戻すのにユージンをペットとして欲しいと要求された。
チョウが何をしようとしているのか、大体わかる。恐らくは大きな見返りを要求されるだろう。
チョウが何を差し出すか、ユージンはわかっていた。自分の寿命だ。
0601創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/01/30(木) 08:03:23.99ID:l0S3hwY9
岸を離れようとする舟にユージンは飛び乗った。
「バカ! 邪魔だ帰れ!」
「帰らない! ついて行く!」

二人は激しく喧嘩をしながら霊婆の島へ渡って行った。
0602創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:05:09.39ID:TO9rIe6r
「なんだ。また来たのか」
寺に着くなり霊婆は出迎えた。
チョウはハナカイドウの太い枝を差し出す。それだけで霊婆には用事が伝わった。
「ふん」霊婆は枝を見ると鼻で笑った。「お嬢ちゃんかい」
チョウの後ろにぴったりとくっつき、ルーシェンの身体の中からユージンが見守る。
「できる?」
チョウが聞くと、霊婆は馬鹿にするなと言わんばかりに高い声を出して笑った。
「身体は生きていても魂が死んでいては仕方がないが、これはその逆だ。私には赤子を取り出すより簡単だ」
0603創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:10:35.58ID:TO9rIe6r
寺の神聖な部屋の中心に蓮華の形をした大きな台がある。
その上に霊婆は枝を置くと、神通力で焼いた。
焼けた枝の表面を手で崩すと、中から一糸纏わぬ姿の椿が仰向けになって現れた。
大事なところはすべて木片で隠されていたが、チョウは照れて目を逸らしたりはしなかった。
目を閉じて緩やかな息をしている椿を見ると安心したように、嬉しそうに笑った。
0604創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:17:33.19ID:TO9rIe6r
霊婆から窓に掛ける布を貰い、椿に着せると、チョウは聞いた。
「お代は?」
「要らないよ」霊婆は即答した。「こんな簡単な仕事で何も貰えるかい」
「そっか」チョウが笑う。
「ありがとう」ユージンも笑った。
ルーシェンの中のユージンにようやく気がつくと、霊婆は思わず声を上げた。
「あっ!」
「それじゃ、帰るわ」
「バイバイ」
そう言い残して背を向けた二人に霊婆は手を伸ばして悔しがった。
「あぁっ! しまった! その珍しい人間を私のものに出来る好機だった!」
0605創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:23:07.06ID:TO9rIe6r
船は靄の中を戻って行った。

「ありがとう、チョウ」椿は穏やかな声で言った。
「ランは人間界に帰ったぜ」チョウは顔を背けながら言った。
「よかった。でも……」
「ん?」
「人間界に帰っただけじゃ、まだ人間には戻れない」
0606創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:39:52.91ID:TO9rIe6r
「どうするんだ?」チョウは顔を背けたまま聞いた。
「私も人間界へ行くわ」椿は言った。
「行ってどうすんの?」
「ランに最後の栄養が必要でしょ」
「愛……かよ?」
椿は無言で頷いた。
0607創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:41:45.31ID:TO9rIe6r
「でも、わたし……」椿は少し弱々しい声で言った。
「うん」チョウはわかっているという風に返事をする。
「わたし……おじいちゃんから貰った『気』を、ランを守るためにすべて使い切ってしまった」
0608創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:44:42.01ID:TO9rIe6r
チョウは椿を見た。薄紅色の『気』を失い、ただの人間になってしまった椿を。
何の力も持たず、チョウごときの神通力でも簡単に砕けてしまうほどに弱々しい生き物がそこにいた。
0609創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:46:03.20ID:TO9rIe6r
「チョウ」椿は言った。「一緒に人間界へ連れて行ってほしいの」
「そっか」チョウは少しだけ考えてから、答えた。「いいぜ」
0610創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/01(土) 22:50:25.62ID:Iw9hGK/x
「待ってよ!」ユージンが大声を出した。「もう、いいでしょ! チョウを巻き込まないでよ!」
「ユゥ」椿はユージンを振り返った。「邪魔しないで」
「チョウ! 行くな!」ユージンは構わず言った。「椿は世界をめちゃくちゃにしたんだぞ!?」
「俺は……」チョウは二人のほうを見ずに言った。「大切な奴が困ってたら助ける。それだけだ」
0611創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:15:24.34ID:c9N8Jq8W
時は少し前に戻る。

句芒の緑色の竜巻がメイファンとチェンナを呑み込んだ。
メイファンは身体を柔らかいゴムに変え、渦に巻き上げられるがままに、気持ちよさそうに天空へと運ばれて行った。
竜巻の中を抜けると、人間界への穴が手の届く場所に見えた。
「あらメイファン」
神獣鳳凰に乗った秀珀が並んで飛んでいた。
「奇遇ね。一緒に入りましょ」
「あぁ……ここ逃したら戻れねぇかもな……」
メイファンは下界を見下ろすと、呟いた。
「すまん、椿……。私の任務はチェンナを守ること、それだけなんだ」
0612創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:16:42.26ID:c9N8Jq8W
メイファンは頭にヘリコプターの羽根をつけると、秀珀の乗る鳳凰とともに、ドラえもんのように穴へと入って行った。
0613創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:22:00.20ID:c9N8Jq8W
チョウは家に帰ると、すぐに支度を始めた。
着替えと食料の木の実を袋に詰め込むと、口を結わえる。
「ユゥ、お前も行くんだろ?」
チョウが言うと、ユージンは不満そうな顔をして立ったまま、答えた。
「ぼくは……行かない」
「行くっていうか……」チョウは少し驚いた顔をした。「帰れるんだぜ? お前の元いた世界に」
「行かない。チョウの帰りを待ってる」
「……そっか」
それだけ言うと、チョウは荷物を肩に下げ、出て行こうとした。
0614創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:23:56.96ID:c9N8Jq8W
「待って」ユージンがチョウを呼び止めた。
チョウはとぼけた顔をして振り向いた。
ユージンは思っていたことをチョウに向かってぶちまけた。
0615創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:27:19.46ID:c9N8Jq8W
なんで椿のこと、助けるの?
チョウにはなんにもいいことないじゃないか!
椿に利用されてるだけじゃないか!
ランを人間に戻して、それでチョウに何かいいことがあるの!?
チョウは椿のことが好きなんだろ!?
奪えよ!
このままじゃ椿はランと結ばれて、チョウは何もかもを失くしてこっちに帰って来るだけだぞ!
0616創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:29:18.22ID:c9N8Jq8W
ユージンの言葉をチョウはとぼけた顔のまま黙って聞いた。
聞き終わると、答えた。
「アイツの悲しい顔、見たくねーだけだよ」
ユージンはさらに何か言おうとしたが、構わずチョウは背中を向けた。
「じゃ、行くぜ?」
0617創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:33:25.84ID:c9N8Jq8W
「待ってよ!」ユージンは大声でチョウの背中を呼び止めた。
チョウがまたとぼけた顔で振り向く。
「ぼくのことは悲しませてもいいっていうの!?」
「は?」チョウは気持ち悪そうに顔を歪めた。
「黙ってたけど」ユージンは告白した。「ルーシェンね、女の子なんだ」
「まさか」チョウが嘘つきを見る目で笑う。
「それからね」ユージンは続けた。「ぼく……李玉金も、実は女の子なんだ」
0618創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/02(日) 09:37:48.67ID:c9N8Jq8W
「やめろバカ」チョウはゲロを吐く仕草をしながら笑った。
「本当なんだ! だってぼく、チンコないでしょ!?」
「そりゃお前は『気』だけで身体がないもんな。でもわかるよ。お前の声は男の声だし……」
ユージンは激昂し、身体中から金色の光を放った。
「これ見てよ!」
光に包まれたルーシェンの身体が、本来の性別の姿に変わって行く。
0619創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/09(日) 23:33:16.32ID:xXjnvNn8
「おぉ……」
目を見張って立ち尽くすチョウの前に、金色に光る美女がいた。
長い金色の巻き毛に長い睫毛、まっすぐ筋の通った鼻、透き通るような唇、繊細に天へ向かって伸びた角。
「これがぼくの本当の姿」
ユージンはそう言った。もちろんそれは正しくはユージンの理想の姿だったのだが。
「どう?」
「どう?……って……」
自信たっぷりにユージンに胸を張って言われ、チョウは困ったような顔をした。
これでもかとばかりに張った胸をユージンはさらに大きく膨らませた。
0620創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/09(日) 23:44:39.00ID:xXjnvNn8
「綺麗だ」チョウは涼しい笑顔で言った。「うん。綺麗だよ、お前」
「でしょー!?」ユージンは思わず素っ頓狂な声を出した。「椿なんかより、ぼくのほうがずっと綺麗でしょー!?」
「綺麗だけど……」
だけど、という言葉にユージンの、ルーシェンの美しい顔が曇る。
「俺は……」
「言わないで!」
ユージンは思わずチョウの言葉を遮った。
聞かなくてもわかっていた。聞きたくなかった。
椿に一途な、そんなチョウのことが好きな自分の気持ちもわけがわからなかった。
「……行けよ」
そう言いながら、ユージンはチョウの顔を見られなかった。
「行って、椿とランの縁結びでもして来いよ! バカ!」
0621創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/09(日) 23:49:26.69ID:xXjnvNn8
「お前は……」
チョウの真面目な口調が急にいつものぶっきらぼうさを取り戻し、聞いた。
「本当に帰らねーの?」
ユージンは顔を背けたまま何も答えなかった。
「……なぁ?」
「……」
「一緒に行こうぜ?」
「……」
何も言わないユージンのことを暫く戸口に立ってチョウは見つめていた。
しかしやがて静かにチョウが出て行く気配を感じると、ユージンはベッドに顔を埋めて動かなくなった。
0622創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/10(月) 00:16:20.51ID:Cf2qf5lI
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……17歳の人間の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は植物鹿人間となったルーシェンの身体に入っている。チョウのことが大好き。

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。
椿に恋しているが、気持ちを伝えようとは決してしない。特別に仲良くはなったものの、年下の椿から弟扱いされてしまっている。
ユージンを人間だと知りつつ信頼し、海底世界に住むことを許している。

・椿(チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。元ユージンの妹で人間。今は海底世界の住人。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
名門『樹の一族』の養女となり幸せに暮らしていたが、重大な犯罪を犯した上、人間であることがばれ、祝融に殺される。
しかしチョウの機転で復活し、死んだランの魂を復活させるという重大な犯罪行為を成し遂げようとしている。
ランのことを大好きな義兄だという記憶はないまま愛してしまっている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。赤いイルカの姿をした椿を助け、渦潮に呑まれて絶命した。
赤い魚の姿をした魂となって霊婆の島に落ちていたのを椿の手によって持ち出される。
何も食べないが、誰かの愛を受ければ受けるほどに急成長する。
自然界にはあり得ないほどの大きさまで育つと、人間界への扉を開けると言われている。
椿の愛を受けて急成長し、自然界のルールを乱して海底世界を滅茶苦茶にし、遂に人間界への扉を開けた。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたる。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとして四歳児チェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。
身体を動かし、食事をしなければ生命維持が出来ないため、ユージンが中に入って世話をしている。
自分のことを男だと言っていたが、実は女だった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中。才能はあるが、やる気がない。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。

・秀珀(ショウポー)……雪の国に住む美女。悪い子の魂を司る仙女。
秘密の目的があって人間界に行きたがっている。
0623創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/12(水) 14:53:29.35ID:O/okmU9F
赤い空に海のような青さの大きな穴が空いていた。
「まるで下から海に入る気分だな」
そう言いながら、メイファンは穴に入って行った。
「ホホホ。人間の悪い子をたくさん可愛がってあげるわ」
鳳凰の背に乗って悪人の笑い声を上げる秀珀をメイファンはまじまじと見た。
「おい、お前」
「なぁに?」
歪んだ笑顔で振り向いた秀珀にメイファンは聞いた。
「お前、そこにいるか?」
「はぁ?」秀珀は首を傾げる。
0624創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/12(水) 15:05:24.25ID:O/okmU9F
「あ……」
メイファンはふと後ろを振り返り、思わず声を漏らした。
「穴が……閉じて行く」
0625創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/12(水) 15:09:31.74ID:O/okmU9F
赤い穴はメイファンと秀珀を通すと急速に閉じはじめ、遂には完全に辺りは暗い青に包まれた。
「ユージン……。椿……。ラン……」
メイファンは呟いた。
「すまん。そっちの世界で達者で暮らせ」
0626創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/16(日) 18:48:33.62ID:rq35mOuD
チョウの誕生日だった。
しかし火の町は壊滅し、みんな樹の町へ逃げていた。
誰も誕生日を祝ってくれる者はいなかった。それが好都合だった。
0627創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/16(日) 18:49:50.93ID:rq35mOuD
チョウは火の町の祭壇のある広場へ椿を連れてやって来た。
18歳になったチョウは、本来なら今日ここで成人の儀を行う筈だった。
0628創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/16(日) 18:53:29.11ID:rq35mOuD
「チョウ」椿が言った。「おめでとう」
それまで成人の儀なんてどーでもいいような顔をしていたチョウが振り返り、にっこり笑った。
「ああ」と頷き、椿を見つめる。
椿は何も荷物を持たず、薄い白い着物一枚に身を包んでいた。
「大丈夫か?」チョウが心配そうに聞く。
「これしかないもの」椿は強い決意を込めた瞳で微笑んだ。
0629創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/16(日) 18:58:14.82ID:rq35mOuD
「じゃあ」チョウは頼もしそうに椿を見た。「行くぞ」

広場に開いた穴の前にチョウは立った。
穴の中には海水が漂っている。
チョウが祈るように天蓋を仰ぐと、その身体は浮き上がり、昇って行く。
緩やかに回転しながら、チョウの身体が白いイルカに姿を変えて行った。
0630創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/16(日) 19:03:07.89ID:rq35mOuD
白いイルカは「来いよ」というように椿を横目で誘った。
この姿では言葉を喋れないことを自らの成人の儀の時に知っている椿は、何も言わずに歩み寄った。
何の神通力も使えなくなった、ただの人間の少女を、白いイルカが抱く。
白いイルカは少し躊躇した。しかしすぐに気を取り直すと、少女の口を口で塞いだ。
そして二人繋がったまま、穴の中の海水へ飛び込んだ。
0632創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:40:45.69ID:CVQq3OLj
引き合うように椿はそこへ辿り着いた。
広大な海しか見えない高い崖の上に。
見渡す限り、海しかなかった。後ろは暗黒の森が影となり、世界を隠している。
0633創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:42:22.74ID:CVQq3OLj
「ラン!」
椿が嬉しそうに声を上げると、ランはすぐに飛んで来た。
「何をしてるの? 早く人間界に帰りなさい」
椿はそう言った。どう見てもここはまだ人間界ではなかったから。
0634創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:44:53.61ID:CVQq3OLj
チョウは辺りを見回すと、言った。
「どうやらここ、海底世界と人間界の『あいだ』だな」
何と言う場所なのかは知らなかった。
地獄とか天国とか、そういう類いの場所であることはしかし何となくわかった。
0635創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:47:15.98ID:CVQq3OLj
早く帰りなさいと言いながら、椿は軽い足取りでランの背に飛び乗った。
暫く跨がったまま、何かを味わうようにじっと目を瞑っていた。
ランも涙を止められないまま、椿を乗せてただふわふわとその場に漂っていた。
0636創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:49:25.91ID:CVQq3OLj
「今日はもう遅い」チョウが言った。「もうじき日が暮れる。明日、ランを返そう」
0637創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:51:13.65ID:CVQq3OLj
椿は暫く黙ったままランの背中に乗っていたが、目を開けると崖の上に戻って来た。
そして振り向くと、ランに聞いた。
「どうして泣くの?」
0638創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:55:15.69ID:CVQq3OLj
飛行船のように巨大なランと小さな椿は、鼻を合わせるほどの近さで会話をした。
「明日、人間界に帰れるのよ?」
ランがクォンと悲しげに鳴いた。
「わたしは……たぶん一緒に行けない。力を失ってしまったから」
ランが一際悲しげに、像が泣くような声で鳴いた。
0640創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 14:57:54.40ID:CVQq3OLj
「海に入ってお休み。わたし達もここで寝るから」
椿がそう言う前からチョウは後ろの森で薪集めをしていた。
「明日、また会いに来るから。あなたに、会いに来るから」
0641創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:42:57.41ID:V7XdZWGQ
沈む夕陽に世界は黄金色に包まれた。
ランは再び海に潜り込み、しかし拗ねてしまったようにもう姿は現さなかった。
「焚き火を起こすよ?」チョウが言った。
「うん」椿は振り返り、頷く。「寒くなりそうだね」
0642創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:43:47.03ID:V7XdZWGQ
焚き火の前に並んで座りながら、チョウは持って来た豆の皮を剥いた。じゃが芋ほどの大きさのある豆なので時間がかかった。
「どうして」剥きながら、チョウが言った。「人間界に出られなかったのかな」
「きっと罰よ」椿が答えた。「わたしが皆にひどいことをしたから」
0643創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:44:22.97ID:V7XdZWGQ
「お前は自分の心に従っただけだ」チョウは真面目な顔で言った。「命の恩人に恩を返すのが大変なことだったってだけさ」
「いいの」椿は首を振った。「自分のしたことぐらい、わかってるわ」
チョウは何も言ってやれなかった。
0644創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:44:49.87ID:V7XdZWGQ
「ティンムーって、いたでしょ?」椿は焚き火を見つめながら言った。
「あぁ、あの、小さい妹のいる、水の町の……」
「あの子、死んだのよ」
「そうなのか?」
「うん。水の町の大水害で」
「……椿が殺したんじゃないよ」
、椿は何度も首を横に振った。そしてその顔を膝の間に埋め、動かなくなった。
0645創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:46:00.13ID:V7XdZWGQ
「椿」チョウは剥き終えた豆を差し出した。「剥き終わったぞ」
椿は顔を上げると、濡れた目で焚き火を見ながら言った。
「ここはきっと地獄よ」
「……」
「わたしはどうなってもいい。でも、ランだけはどうしても助けたいの」
「……」
「わたし、帰ったら霊婆の島へ行くわ。ティンムーを生き返らせてもらう」
「そうだな」
「わたしの命なんか、全部霊婆にあげてもいい」
「そうか」チョウは逆らわず頷くと、椿の手に豆を持たせた。「いいからほら、食えよ」
0646創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:47:59.34ID:V7XdZWGQ
椿は手に持たされた巨大な豆を見つめた。
白くてふかふかした実が食欲を誘った。
さっきまで項垂れていたのが嘘のように豆にかぶりつくと、いつの間にか涙も乾いていた。
0647創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:49:33.86ID:V7XdZWGQ
チョウの口からするすると、今まで言えなかった言葉が出て来た。
豆を貪る椿の横顔をじっと優しく見つめながら、チョウは言った。
「食べてる椿が好きだよ」
0648創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 15:57:32.13ID:V7XdZWGQ
聞いているのかいないのか、興味のなさそうな顔で豆を食べ続ける椿の横顔にチョウは畳み掛けた。
「泣いてる椿も好きだ」
「笑ってる椿はもっと好きだ」
「馬に乗って駆けてる君も、困った顔をしながら頑張る君も」
「チョウ」椿がその言葉を遮った。「今までチョウのこと、わたしの弟だとか言ってごめんね」
チョウは言葉を遮られ、黙るしかなかった。
「本当はちゃんと思ってたから。チョウはわたしの……」椿は冷たい声で言い放った。「お兄さんみたいなものだって」
0649創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/24(月) 16:01:03.28ID:V7XdZWGQ
思いもかけず涙が溢れた。
チョウは顔を背けると、声を震わせて泣いた。
三年近くに及んだ恋も、破れるのは一瞬だった。
「チョウ」椿は憐れむようでもなく、抑揚のない声で言った。「いつもありがとう。感謝してるわ」
0650創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/25(火) 07:06:18.07ID:HgvHlvCi
布団などなかった。焚き火に薪を枯れないほどに入れて、足下に暖をとりながら、二人は並んで寝た。
背中を向け合い、少し距離を置いて、チョウはなかなか眠れずにいた。
顔はそちらを向かないまま、後ろの椿にチョウは声をかけた。
「おい」
「何?」椿の返事が返って来た。
「まだ眠れないの?」
「今、眠れそうになってたとこ」
「……悪ィ」
0651創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/25(火) 07:10:42.32ID:HgvHlvCi
暫くしてもチョウは眠れずにいた。
頭を起こし、振り返ると椿の後ろ姿が見えた。
その綺麗に丸い、赤い髪の後頭部に、チョウはまた声をかけた。
「椿」
今度は椿は返事をしなかった。
「眠ったか?」
椿の華奢な肩が穏やかに寝息を立てているのが見えた。
チョウは身を起こし、音を立てずに、その顔を見ようと近づいて行く。
0652創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/25(火) 07:13:34.73ID:HgvHlvCi
椿は綺麗に口を閉じ、眠っていた。
チョウは手を伸ばし、椿の薄い着物に手をかけた。
苦しむように顔を歪ませて。
チョウの頬を汗が伝った。
0653創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/25(火) 08:53:29.58ID:V/f1qN/B
チョウは椿の首を締めた
0654創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/25(火) 10:03:41.75ID:sT8vFJDv
ここは刀葉林
上から女神が手招きしている
鬼女様釜茹でしてる
雪女が息吹き掛けている
0655創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/25(火) 19:42:18.22ID:ZTGt3UJd
ヘッポコ「これは厚労省のせいだぞ
高熱だけで検査しろや
なに検査を水際で止めてんだよ」
0656創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/26(水) 00:50:37.93ID:3PJZkz/8
チョウが椿を殺そうとする理由はない。
チョウにとって一番辛いことは自分の好きな者が辛い思いをすることなのだから。
しかし椿に自分を選んでほしいという気持ちはあった。
兄妹のようにではなく、愛し合うもの同士として生きて行ければ、そんな願いは当然あった。
0657創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/26(水) 00:54:45.57ID:3PJZkz/8
無理矢理にでも、ここで椿を自分のものにしてしまえば…。
きっと椿もチョウのことをお兄ちゃんのようではなく、一人の男として意識するだろう。
椿を一生愛する自信はあった。

チョウは恐ろしい顔で、椿の薄い着物にかけた手に力を込めた。
0658創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 09:45:05.87ID:n/CeCYMU
椿の寝顔をじっと見つめた。
椿はチョウを信頼しきって、安心して眠っていた。
チョウは掴んだ椿の着物から手を離した。
0659創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 09:46:32.41ID:n/CeCYMU
「……クッ!」
悔しがるように離れると、椿にまた背中を向け、チョウは寝転んで目を閉じた。
0660創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 09:52:34.42ID:n/CeCYMU
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……17歳の人間の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は植物鹿人間となったルーシェンの身体に入っている。チョウのことが大好き。

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。
3年近くにわたり椿に恋していたが、一瞬でフラれた。特別に仲良くはあるものの、兄のような存在としか思われていない。
ユージンを人間だと知りつつ信頼し、海底世界に住むことを許している。

・椿(チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。元ユージンの妹で人間。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
名門『樹の一族』の養女となり海底世界で幸せに暮らしていたが、重大な犯罪を犯した上、人間であることがばれ、海底世界で暮らせなくなる。
ランのことを大好きな義兄だという記憶はないまま愛してしまっており、今はランを人間界に帰すことしか考えていない。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。赤いイルカの姿をした椿を助け、渦潮に呑まれて絶命した。
赤い魚の姿をした魂となって霊婆の島に落ちていたのを椿の手によって持ち出される。
何も食べないが、誰かの愛を受ければ受けるほどに急成長する。
自然界にはあり得ないほどの大きさまで育つと、人間界への扉を開けると言われている。
椿の愛を受けて急成長し、自然界のルールを乱して海底世界を滅茶苦茶にし、遂に人間界への扉を開けた。
0661創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 09:52:52.14ID:n/CeCYMU
・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたる。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとして四歳児チェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。
身体を動かし、食事をしなければ生命維持が出来ないため、ユージンが中に入って世話をしている。
自分のことを男だと言っていたが、実は女だった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中。才能はあるが、やる気がない。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。

・秀珀(ショウポー)……雪の国に住む美女。悪い子の魂を司る仙女。
秘密の目的があって人間界に行きたがっている。
0662創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 09:57:58.36ID:n/CeCYMU
夜が明けた。
崖から下を見ると、ランが海面に巨大な顔を出し、こちらを見ていた。
0663創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 09:58:39.43ID:n/CeCYMU
「おはよう、ラン」椿は小さな顔で笑いかけた。「いよいよ人間界に帰れるのよ」
0664創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:00:23.70ID:n/CeCYMU
チョウは風呂敷から一枚の面を取り出した。
神通力を高める竜神の面だった。
「こいつを祭壇から持って来ててよかったぜ」
そう言うとチョウはおもむろにそれを被り、神通力を手に込めた。
0665創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:03:00.10ID:n/CeCYMU
向こうで海面が渦を巻いた。
チョウの増幅された神通力はそれをさらに巻き上げ、渦巻きの柱を作った。
柱はごうごうと音を立てて天へ伸び、人間界への道が生まれた。
0666創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:03:44.87ID:n/CeCYMU
「さぁ、ラン。あそこに入るの」
ランは首を横に振り、悲しげな顔で椿をじっと見つめた。
0667創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:05:57.97ID:n/CeCYMU
「帰りなさい。あなたは人間なのよ」
優しく微笑みかける椿に、ランはまた首を横に振った。
0668創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:07:56.01ID:n/CeCYMU
「わたしのことは忘れて。一緒には行けないの」
ランが海面から飛び上がった。
0669創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:12:30.79ID:n/CeCYMU
飛び上がったランは長い胸鰭を羽根のように広げ、空中にとどまった。
椿の顔に巨大な顔を近づける。
「ラン!」
椿は思わずその嘴に抱きついた。
0670創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:13:27.59ID:n/CeCYMU
「お願い! 行って!」
椿はランを抱き締めながら、突き放すように叫んだ。
「わたしの気持ちを無駄にしないで!」
0671創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:15:54.95ID:n/CeCYMU
椿が突き飛ばすように両手で押すと、ランは涙を流しながら渦巻きの柱へ向かって飛んだ。
この後の運命を信じているかのように、力強く鰭を羽ばたかせ、空気を掻き分けて、柱の中へ飛び込んだ。
0672創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:17:49.44ID:n/CeCYMU
巨大な黒いランの影が渦巻きの柱の中を天へと昇って行くのを見届けながら、椿は微笑んだ。
「チョウ、帰りましょう。わたしを霊婆の島へ連れて行って」
0673創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:20:39.69ID:n/CeCYMU
振り向くと、チョウの身体が皸割れ、中から赤いマグマのようなものが露になっているのを椿は見た。
「チョウ!?」
「神通力が……!神通力に俺の身体が耐えられねぇ……!」
苦しみながらもしかし、チョウは神通力を込め続け、ランの影が消えるまで耐えていた。
0674創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:23:33.86ID:n/CeCYMU
「ランはもう行ったわ! 早く神通力を解いて!」
椿にそう言われながらもチョウは神通力を解かなかった。
「まだ……やることがある」
「だめよ! 死んじゃう! わたしを霊婆の島へ……」
「そうしたらお前が死んじまう気だろ」
「いいの! わたしは。わたしの残りの寿命すべてで、死なせてしまった人を救うの」
0675創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:25:09.55ID:n/CeCYMU
「……いやだ」
チョウは苦しそうに笑うと、椿を抱き締めた。
「俺がお前を人間界へ連れて行く」
0676創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:26:06.90ID:n/CeCYMU
チョウは椿を抱いて崖上から飛んだ。
炎の竜のように凄まじいスピードで、渦巻きの柱めざして。
0677創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:29:29.24ID:n/CeCYMU
「チョウ! わたしは……」
抵抗する椿を抱き締め、チョウは飛び続け、優しく笑いかけながら言った。
「やっぱり昨日の晩、お前を抱いときゃよかったぜ」
「チョウ……!」
「でも俺にはこれがお似合いだ」
「チョウ……!」椿の目から涙が溢れた。
「椿、人間界でランと幸せになれ」
0678創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:31:16.95ID:n/CeCYMU
「うおおおお!」
最後の力を振り絞ってチョウは叫び、渦巻きの柱へ突っ込んだ。
突っ込むなりチョウの身体はバラバラに砕け、しかしその破片が椿を守りながら、天空へと運んだ。
0679創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 10:33:54.86ID:n/CeCYMU
渦巻きの勢いはだんだんと緩くなり、やがて海へと戻って行った。
静けさを取り戻した海と崖しかない風景には、もう誰の姿もなかった。
0680創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 12:43:02.46ID:WAlOarbH
産まれたままの姿で青年が波打ち際に倒れている。
ゆっくりと目を開けた青年に向かって裸足の少女が近づいて来る。
0681創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 12:46:18.23ID:WAlOarbH
ゆっくり目を開け、意識を取り戻すように頭を振ると、ランは少女のほうを見た。
少女も産まれたままの姿だった。何を隠そうとすることもなく、椿は自分が守りきった青年を見つめて微笑んだ。
0682創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/02/29(土) 12:49:28.45ID:WAlOarbH
言葉は何も交わさなくともわかった。
ランも優しく微笑み、立ち上がる。
海水を踏んで椿はさらに近づき、ランの逞しい胸の前で足を止めた。
光が溢れていた。
ランは腕を広げて椿を抱き締め、椿もランの背中に細い腕を回した。
0684創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:22:18.94ID:OeuSFjWb
ユージンはチョウの部屋で待っていた。
何も手につかず、ただベッドの上でチョウの帰りを待っていた。
おばあちゃんは隣の金の町に避難していた。
一人、大火に崩れ落ちた町の煤臭い中で、焼け残ったチョウの部屋で待っていた。
0685創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:23:53.23ID:OeuSFjWb
誰もいなかった。食事はなんとか保存食のネギ餅等でしのいだ。
誰もいないので、ユージンは植物鹿人間になっているルーシェンの身体と会話をした。
0687創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:26:33.78ID:OeuSFjWb
どちらがどちらの役だか境目はなかった。
「チョウはバカだよね」
「そうかな」
「椿に利用されてるだけなのに」
「うん」
「椿だけ幸せになって、チョウはしょげかえって帰って来るよ」
「いいんじゃないかな」
「よくないよ」
「チョウさえそれでよければ」
0688創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:29:41.67ID:OeuSFjWb
「何一人でぶつぶつ喋ってんだ」
ふいに窓のほうからそんな声が聞こえ、ユージンはびっくりして飛び起きた。
チョウの声ではないのは明らかだった。女の、しかも子供の声だ。
「メイファン! 人間界に帰ったんじゃなかったの?」
窓枠にちょこんと腰掛けて、チェンナの顔で意地悪そうな笑いを浮かべるメイファンがいた。
0689創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:33:39.33ID:OeuSFjWb
「アイツ、死んだぞ」メイファンは言った。
「アイツ……って?」ユージンは信じたくないことを確かめるために聞いた。
「お前が身体借りてた小僧だよ」
「違うよ」
「見てたんだよ。黒い森の中からな。椿を人間界に送り届けるために神通力を使い果たして死んだ」
「おかしいよ」
「うん、おかしいよな」
0690創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:35:18.67ID:OeuSFjWb
「そんな筈ないもん」
「あぁ、そうなる筈はない」
「何言ってんの? さっきから……わかった風に」
メイファンはニヤリと笑うと、白い牙を見せて言った。
「またお前に騙されるところだった」
0691創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:37:41.19ID:OeuSFjWb
「秀珀の奴」メイファンは言った。「この世界を出るなり、消えたぞ」
「死んじゃったの?」ユージンがとぼけた顔で聞く。
「いや、ユージン」メイファンは探偵のように言った。「この世界はお前が作ったものだ。そうだろう?」
0692創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:41:14.24ID:OeuSFjWb
「何言ってんの?」ユージンは心から呆れたように言った。「そんなわけないじゃん」
「おかしいと思ってたんだ」メイファンは構わず言った。「なんだかこの世界は都合がよすぎると、思っていたんだ」
0693創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:44:44.90ID:OeuSFjWb
「思い出したんだよ」とメイファン。
「何を?」ユージンは相変わらずとぼけた顔だ。
「昔……。40年ぐらい前にこの世界にそっくりなアニメーション映画があった」
「そうなの?」
「何を言っている」メイファンは真犯人に指を差すように言った。「10年も前じゃない。テレビでやっているのをお前も一緒に見たんだぞ」
0694創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/02(月) 07:46:40.94ID:OeuSFjWb
「この世界が……」ユージンは震えながら言った。「チョウが……僕の作り出した幻だって言うの?」
「そうだ」メイファンは断言した。「違うとでも言うのか?」
0695創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/09(月) 23:50:45.85ID:KIdpjz9L
メイファンは憚ることなく告げた。
「椿はお前の妹だ」
ユージンは顔を伏せてすべてを否定した。
「違う」
「ランはお前の義兄」
「違う」
「お前はランのことが好きだった、性的な意味でな」
「違う」
0696創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/09(月) 23:52:56.02ID:KIdpjz9L
「お前とランは男同士で結ばれない」
「……」
「椿もランのことが好きだった、兄としてではなく、一人の男として」
「……」
「しかし椿とランも結ばれない。兄妹だから」
「一体何の話?」ユージンは顔を伏せたままとぼけた声を出した。
0697創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/09(月) 23:56:31.05ID:KIdpjz9L
メイファンは構わず続けた。
「ある日、ランは罠にかかった赤いイルカを助けて、渦潮に呑まれた」
ユージンは何も答えなくなった。しかし聞いていないような素振りでメイファンの言うことを聞いていた。
「それを助けようと、椿も海へ飛び込んだ。お前を中に入れたまま、な」
0698創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/09(月) 23:59:22.13ID:KIdpjz9L
「お前は椿を助け、ランのことも助けると心に誓った。
しかし、力及ばなかったんだ。
お前は人類史上最強の力を持って産まれた天才だ。
しかしその力をもってしても二人を助けられなかった。
なぜならお前の力は、幻を作ること、それだけだからだ」
0699創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:01:42.32ID:ydqtr3bd
「助けられなかったって?」
ユージンはそう言うと、顔を上げた。
その顔は泣きそうで、しかしメイファンを馬鹿にするように笑っていた。
「椿はランを生き返らせて、人間界へ戻ったんだ。ハッピーエンドでしょ」
0700創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:03:25.04ID:ydqtr3bd
「だからそれこそが」メイファンは冷たい笑いを浮かべて答えた。「お前の作った幻だ」
0701創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:06:19.44ID:ydqtr3bd
「あの二人を救ったことにし、現実を認めないために、お前はこの世界を作ったんだ」
「違う!」メイファンの言葉にユージンは苛立ったように立ち上がった。「それ以上言うと……!」
「ほう」メイファンがニヤリと笑う。「幻で私をどうにかするのか」
0702創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:08:58.71ID:ydqtr3bd
「大体おかしいでしょ!」ユージンは叫んだ。「この世界が幻なら、椿の身体から出た僕がどうして生きてるの!?」
「認めたな?」メイファンは聞き逃さなかった。「自分が椿の中にいたことを」
0703創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:12:26.25ID:ydqtr3bd
「ルーシェンが幻なら」ユージンはメイファンの言葉を無視した。「どうして僕は生きてるのかな!?」
「そうキチガイみたいに笑うなよ」
「うるさい! どうしてか答えてみろ!」
「そこがお前の凄いところだ」メイファンは答えた。「お前、幻で身体を作ったな?」
0704創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:14:51.91ID:ydqtr3bd
「そんなことまで出来るとは思わなかった」
メイファンは感心したような馬鹿にするような顔でユージンに言った。
「幻で作った人物の身体に入って、息をしていられるとはな」
0705創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:18:22.33ID:ydqtr3bd
「はっきり言ってみろ」
ユージンの顔が険しくなった。
「この僕に、言いたいことをはっきり言ってみろ」
メイファンはさすがに少し顔が青ざめた。
「椿とランが本当はどうなったって言いたいのか、はっきりと言ってみろ!」
0706創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:20:11.93ID:ydqtr3bd
メイファンは顔中に汗を流しながら、それでも口にした。
「海の底で、死体に」
「ただいまー」と言いながら、チョウが部屋に入って来た。
0707創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:22:50.77ID:ydqtr3bd
「チョウ!」ユージンが歓喜の声を上げた。
「おう、無事帰ったぜ」チョウは眠そうな声で元気に言った。
「聞いてよ! メイファンが変なことばかり言うんだ!」
「あ? 変なことって?」
「椿とランが僕の兄弟だとか、チョウが死んだのを見たとか」
「あぁ、死んだぜ、俺」チョウは笑いながらそう言った。
0708創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:25:45.98ID:ydqtr3bd
「死んだ……? でも、ここに……いるじゃん」
メイファンは二人のやり取りをニヤニヤしながら見物していた。
チョウが言った。
「死んだけど、霊婆に生き返らされた」
「霊婆に?」
「あぁ。俺に霊婆の後を継げってさ」
0709創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:27:23.34ID:ydqtr3bd
「あぁ、そうだったな。あのアニメでも確か、そうだった」
メイファンが口を挟んだが、二人はまるで別の世界にいるように聞いていなかった。
0710創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:29:51.35ID:ydqtr3bd
「ユゥ、一緒に霊婆の島で暮らそうぜ」
「チョウ……本当? 連れて行ってくれるの?」
「あぁ」チョウは優しく微笑むと、ユージンの手を取った。「お前を俺の、お嫁さんにしたい」
メイファンは腕を組むと、目を伏せた。
0711創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/03/10(火) 00:34:02.95ID:ydqtr3bd
『どうにもならなかった』
メイファンは頭の中で、ララへの言い訳を考えていた。
『命令通り、チェンナは守った。しかしお前の子は、3人とも、救えなかった』
0713ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 00:36:13.40ID:ydqtr3bd
うーん。もっと1レスの文章少なくすればよかった。
大分余ってしまった……。
0714ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 00:43:03.39ID:ydqtr3bd
【あとがき】

このスレッドの物語は中国の劇場用長編アニメーション映画「大魚海棠」をベースに、勝手にユージンとメイファンらを交えて作り替えた。
最初は椿が二人になる予定だったが、書いているうちに変わってしまった。
動機としては原作アニメの映像美に憧れ、ヴィジュアル重視の小説を書きたいと思ったのだが、あまりうまく行かなかったなと思っている。
本当はもっと詩のような物語にしたかったのだが、どうにも力が及ばなかった。
0715ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 00:46:54.35ID:ydqtr3bd
椿、祝融、赤松子、霊婆など、多くの人物は原作にも登場する。
ランは原作ではクン、秀珀は鼠婆(シュウポー)と名前が違う。
0717ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 00:51:59.23ID:ydqtr3bd
椿は元々アニメから名前を借りただけの別キャラで、海底世界の椿と出会って冒険を共にする予定だった。
なぜか書いているうちに変わってしまった。

【原作との相違点】
原作ではチョウの幼馴染み
髪は赤くない
元々海底世界の住人
0719ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 00:56:40.11ID:ydqtr3bd
チョウは原作ではそれほど好きなキャラではないが、本スレのチョウは個人的に贔屓するキャラとなった。

【原作との相違点】
椿のことは大好きだが、そんなに引っ込み思案ではない
0721ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 00:59:38.32ID:ydqtr3bd
祝融は原作ではあまり登場回数が多くはない。
原作の登場キャラの中でもかなり個人的に好きなほうだったので、本スレではいっぱい登場してメイファンとも戦ってもらった。

【原作との相違点】
原作ではそこまで強くない
0723ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:02:43.04ID:ydqtr3bd
赤松子のほうが原作では祝融より登場回数が多い。
祝融と同じぐらい好きなキャラ。

【原作との相違点】
元々椿とは仲良し
本スレのようにナヨナヨとはしていない
神通力を攻撃には使っていない
0725ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:04:48.57ID:ydqtr3bd
ルーシェンは原作とはまったく違うキャラ。
途中でユージンが入る身体が欲しくなり、急遽名前と下半身だけ借りた。
原作との相違点はありすぎるので記さない。
0729ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:09:47.96ID:ydqtr3bd
鼠婆はいかにもジブリのパクリ臭いキャラで、好きではないので出さない予定だった。
代わりに出した秀珀というキャラがこの鼠婆にあたる。
原作でも最後には絶世の美女に変身して人間界へ行くが、その目的は不明だったように記憶している。
0731ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:14:47.86ID:ydqtr3bd
ランは原作での名前はクン。
元々ランはクンとは違うキャラのつもりで作ったので、相違点はありすぎていちいち記さない。
0733ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:22:40.41ID:ydqtr3bd
クスノキの老人は原作では名前が「丿」。
もちろん原作ではアニメオタクではない。
基本的には原作のキャラに従った。
>>168の「お前が正しいと思うことなら、しなさい。それを皆がおかしいと思うのなら、皆のほうが間違っているのだ」
のセリフはまんま原語のセリフをパクった。
しかし最近Netflixで日本語版を観る機会があったのだが、日本語訳では「優しいお前のすることが間違いであるわけがない」みたいに変えられていた。
0734ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:23:47.94ID:ydqtr3bd
さて、大分スレが余ってしまったが……これ以上書くことがない。
0736ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:37:02.35ID:ydqtr3bd
さて本スレは自分がヴィジュアル的なものを書きたいという理由から一人で書いてしまったが、
次スレはリレー小説形式にするつもりである。
参加者がなければまた自分一人で書いてしまうつもりではあるが、
どうかそんな寂しいことにはならないよう、多数のご参加をお願いしたい。
0737ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:40:36.35ID:ydqtr3bd
ただし、今はチャイナがリアルでパニックになってしまっているので、次スレではタイトルを変える予定である。
台湾は台北を舞台に「TPパニック」にしようと思っている。
0738ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:41:21.70ID:ydqtr3bd
ちなみに台湾もコロナウィルスに曝されていると思っている方は多いかもしれないが、
政府が迅速に対応し、マスクの無料配布、各施設での衛生管理も徹底されており、日本よりも安全な状況である。
むしろ日本からの旅行者のほうが警戒されている。
0739ちゃめ ◆ImXwiGbh5w
垢版 |
2020/03/10(火) 01:42:04.24ID:ydqtr3bd
私は台湾旅行が趣味と言ってもいいほどなのだが、
あぁ……。しばらく台湾行けないなぁ。
0745創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/05/02(土) 09:44:56.72ID:otBhvPGx
とりあえずこの板って、常駐3人ぐらいしかいないの?
一見さんも月に数えるほどっぽい
0746創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/05/15(金) 17:18:07.09ID:xzsxXpJO
読んでないけど(ごめんw)なんか頑張って更新してる人がいるなーと思ってたよ
完結乙

>>745
もうちょっといる気もするけど特定スレのリレーだけ参加して去っていく感じだな
あと自粛で微妙に層が変わったような感覚がある(小中学生っぽいノリが増えた)
0747創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/06/04(木) 17:23:54.48ID:8X9F5GxQ
( ^ω^ )(((o(*゚∀゚*)o)))( ≧∀≦)ノ
0748創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/08/02(日) 15:34:29.49ID:fF49KMkW
最後まで読んだ。感動した
0749ちゃめ ◆1afS6ccHuc
垢版 |
2020/08/03(月) 04:47:28.67ID:7cssXkZn
ありがとうございます。
釣りだとしても嬉しい。
下敷きにしてるアニメは映像美がとにかく凄いですよ。netflixで日本語吹き替えで観られるのでよかったらどうぞ。
0750ちゃめ ◆1afS6ccHuc
垢版 |
2020/08/03(月) 07:44:40.33ID:7cssXkZn
原作アニメの日本語タイトルは確か「紅き大魚の伝説」だったかな。
「君の名は」の声優さんが声担当してたと思う。
0751創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/11/26(木) 17:05:31.85ID:5Nw+R1cX
良スレ
0752創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/11/26(木) 17:48:46.03ID:Nnh6k9mU
糞スレ
0754創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/11/26(木) 23:02:38.39ID:aeCuq5MC
『やんごとなき駄目ドラゴン』#1

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。

続く?
0755創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/11/26(木) 23:02:56.57ID:j0lmF6J/
『やんごとなき駄目ドラゴン』#1

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。

続く?
0756創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/11/26(木) 23:03:08.87ID:N1di0+eK
『やんごとなき駄目ドラゴン』#1

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。

続く?
0757創る名無しに見る名無し
垢版 |
2020/11/26(木) 23:03:22.80ID:LKbzKbbQ
『やんごとなき駄目ドラゴン』#1

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。

続く?
0760創る名無しに見る名無し
垢版 |
2023/06/16(金) 08:25:40.81ID:xvFf7DkG
https://i.imgur.com/Dzu4OJE.jpg
https://i.imgur.com/1lDEQkJ.jpg
https://i.imgur.com/IO8RHhE.jpg
https://i.imgur.com/W4xTjPk.jpg
https://i.imgur.com/LFkbYTF.jpg
https://i.imgur.com/dx3x0iC.jpg
https://i.imgur.com/96WdvyI.jpg
https://i.imgur.com/I87haxz.jpg
https://i.imgur.com/kFl7p8c.jpg
https://i.imgur.com/WBY60Db.jpg
https://i.imgur.com/N1B2KNV.jpg
https://i.imgur.com/l3XhrQg.jpg
https://i.imgur.com/5eDuY7s.jpg
https://i.imgur.com/sJywqBS.jpg
https://i.imgur.com/GxxlyZm.jpg
https://i.imgur.com/kKVaCdJ.jpg
https://i.imgur.com/YQXZAjQ.jpg
https://i.imgur.com/tQBt0uL.jpg
レスを投稿する