大学の昼休み、メイはヘイロンに電話をしてみた。
腕のボタンを押し、電話帳のHの欄を目の前に並べると、ヘイロンの名前を人差し指で突っついた。
耳許で呼び出し音が鳴る。
メイは自分の心音が高鳴るのを楽しんだ。
電話が繋がる。
「ただいま電話に出ることが出来ません。ピーッという音の後にメッセージをどうぞ」
いや、こんな旧式のメッセージの残し方、知らんし。辟易してメイは電話を切った。
今日も稽古、つけてくれるのかなぁ……。そう思っていると、すぐにヘイロンのほうから電話がかかって来た。
電話を取ると、5秒ほどメイは無言で彼の言葉を待った。暫く不思議な無音が続き、やがてヘイロンの声が聞こえた。
『おう』
「ハイ」メイは笑ってしまいながら挨拶した。
『あのな』
「うん?」
『昨日、お前、俺のお願い一つ聞くって言ったよな?』
「うん。変なのじゃなけりゃ何でも聞くよ」
『じゃ、今日、学校終わったらデートしろ』
メイは飛び上がるように背中を伸ばすと、嬉しさを顔いっぱいに表現した。
「え〜? それ、変なお願いかもぉ〜」
『なんでだよ。まだ襲ったりしねぇよ』
「『まだ』って何よ。こっわ〜〜!」メイはくすくす笑う。
『あのな。○○街に焼肉食べ放題の店あるだろ。あそこでデートするぞ』
また何でそんな臭そうな店で……と思いながらもメイは承諾した。
「ね、稽古は?」
『あ? あぁ、デートの前につけてやるよ』
「それもデートのうちじゃないの〜?」
『どうでもいいだろ。じゃな』