白い月の下で、あなたを食べたい
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
ここは愛する人を食べたくなる世界。
愛していない人はどうでもいい通行人。
嫌いな人はただ殺し、愛する人を味わって食べるのみである。
愛し合う二人は互いを食べ合う。
髑髏のように白い月がいつでも空にあるから、
人間の影は後ろ暗く、紅く染まってしまう。
こんな世界で人々はどう愛し合うのだろうか? 瑪依瑠(メイル)は今日も駅でそのひとを見る。
いつも清潔なスーツを着た、20歳代後半ぐらいの平凡な会社員。
恋なんかしたことがなかった。だからこんな気持ちは知らなかった。
食べたい、あのひとを。無性にそう思う。 奥さんはいるのだろうか、でもどうでもいい。
愛し合って結婚する夫婦はいない。
愛し合ったことがあればこの世にはいない。
瑪依瑠は彼と恋人になりたい。
いきなり食べるのはただの変態だ。 でもどうやって仲良くなればいいのだろう?
彼女は正しい恋の仕方など知らなかった。
毎日、彼の姿を遠目に見るだけの繰り返し。
↓ 友達の定子が昨日、死んだ。
付き合っていた彼と遂に結ばれたのだ。
皆が定子のことを羨んだ。
今、生きている人間は、すべて愛し合っことのない屑だ。
つまらなく、何の感動もなく、ただヴァーチャルな愛の経験を与えられ、
味気ない生という名の拷問を受けている。
それを自覚することないように己をコントロールし、日々を浪費している。 カルシウム質の白い月の下で、定子はどんな風に彼の内臓を食べただろう。
きっとその時彼は、定子の下半身を完食していた。 互いの血をコップになみなみと注ぎ、乾杯しただろうか。
白い月の下で、それはどんな色だったのだろう。
瑪依瑠は自分のまだ知らない世界を妄想することしか出来なかった。 貴彦は毎朝駅で同じ電車に乗り合わせるその女性のことが気になっていた。
柔らかそうな栗色の髪に触れたい、くすぐったそうなその睫毛に唇で触れたい。
美しいその瞳を噛んで引きずり出して、コリコリと音を立てて味わってみたい。
リップクリームごとその可愛い唇をめくって噛みちぎり、柔らかく溶ける肉を舌の上で楽しみたい。
その衣服で隠された下にはどんなに感動的な美食があるのだろう。
そして彼女にも是非自分を食べさせたい。
でもいきなり話しかけたら変な人だと思われるかな。
貴彦は話しかける勇気もなく、毎朝先に降りて行く彼女の後ろ姿をただ見送るだけだった。 同僚の啓太は一週間前、愛するふみえさんに遂に告白した。
「好きだ!」と叫んで胸に突撃した啓太は、ふみえさんが持っていた護身用のハンマーで頭を殴られ、
病院に運ばれることもなく会社で放置され、死んだ。
俺はあんなことになるのはゴメンだ、貴彦はそう思うと慎重にならざるを得なかった。
殺されるのが嫌なんじゃない、彼女に嫌われるのが怖いのだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています