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ロスト・スペラー 20
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0001創る名無しに見る名無し
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2018/12/07(金) 18:09:05.48ID:81QT8mxd
未だ終わらない


過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0548創る名無しに見る名無し
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2019/06/28(金) 18:24:34.92ID:KyxuLPqW
同時に彼はヘルザに警告する。

 「ヘルザちゃん、目と耳を塞げ!
  泣き声に精神を惑わされるぞ!」

ヘルザは言われた通りに、目と耳を塞いだ。
続いてコバルトゥスはラントロックの様子を窺ったが、そちらは大丈夫だった。
ラントロックは彼に対して、大きく頷いて見せる。
ここで闇の子等は葬らなければならない。
所が、事は容易には片付かない。
そこに闇の子等を監視していた、石の魔法使いバレネス・リタが現れたのだ。
彼女はワーロックに対して警告する。

 「今直ぐに攻撃を止めろ!
  然も無くば、全員石塊(いしくれ)に変えてくれる!」

しかし、ワーロックは怯まない。
真っ直ぐ彼女を見詰めて、言い返す。

 「お前達が殺した人達の事を考えろ!
  その人達にも親があり、子があった事を思え!」

彼の瞳は鏡の様にリタの姿を映す。
瞳術、瞳力(どうりき)と呼ばれる類の技だ。
相手の姿を己の瞳に映し、合わせ鏡で同じ瞳術を無効化する。

 「わ、私の魔法が効かない……!?」

 「己が所業を顧みるが良い!
  如何程残酷な事をして来たか、その身を以って知れ!」

断じて行えば鬼神も之を避く。
強い決意と実行力の前には、大抵の障害は無力と化すのだ。
0549創る名無しに見る名無し
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2019/06/28(金) 18:25:31.75ID:KyxuLPqW
実際の所、ワーロックに石化が効かないのは、彼の魔法に原因がある。
リタの石化能力も、所詮は魔法に過ぎない。
物質変換魔法の一だ。
魔法と言うからには、魔力を利用して現象を起こしている。
より強い魔力の流れには逆らえない。
今、ワーロックはコバルトゥス等の魔法資質を借りて、強大な魔力を纏っている。
これが強力な防護壁になっているのだ。
闇の子は形を失って崩れて行く。
泣き声は益々激しくなり、あちこちから人が現れた。
その多くは女性……。
子供の泣き声に誘われて出て来たのだ。
リタは険しい顔でワーロックに命じる。

 「止めろ!!
  然も無くば、何も彼も石に変えてやる!」

だが、ワーロックは聞く耳を持たない。
唯、力強い瞳で真っ直ぐリタを見詰めている。
眼力に負けてリタは怯んだ。

 「止めてくれ、お願いだ……」

彼女は弱々しく懇願した。
それにリベラも加勢する。

 「お養父さん、止めて上げて!」

更に、見ず知らずの女性達まで、口々にワーロックに言う。

 「お願い、止めて!」

 「子供を苦しめないで!」
0550創る名無しに見る名無し
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2019/06/28(金) 18:27:20.46ID:KyxuLPqW
誰も彼も子供の泣き声に騙されているのだ。
否、ワーロックが子供を苦しめているのは事実なのだが……。
ワーロックはリタを睨んで言う。

 「止める訳には行かない!
  お前達の悪巧みも、これで終わりだ」

それに対してリタは降伏宣言をした。

 「頼む、私から子供達を奪わないでくれ!
  止める、もう止めるから!」

 「駄目だ!!
  ここで一時的に切り上げた所で、お前達は再び悪事を働くだろう!
  それが反逆同盟の目的である限り!」

ワーロックは心を鬼にして断じる。
子供は泣き声も発さなくなった。
闇の子は明かりに弱い。
照らされ続けていると、衰弱死する。
毒を浴びている様な物なのだ。
この儘では愛しい子供等が死んでしまうと、リタは決心して遂に決定的な一言を口にする。

 「わ、解った!
  もう反逆同盟には加担しない!
  私は子供達を連れて、遠くに逃げる!
  だからっ!!」

ワーロックは未だ明かりを弱めず、念を押した。

 「魔法使いの言葉の重みを理解しての事か?」
0551創る名無しに見る名無し
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2019/06/29(土) 19:08:28.34ID:RRlPKRQY
リタは僅かに回答を躊躇った。
彼女もルヴィエラは恐ろしいのだ。
反逆同盟から逃げ出せば、間違い無く追手を差し向けられるだろう。
しかし、彼女は我が子の為に恐怖を振り払って言う。

 「わ、解っている!
  魔法使いは約束を違えない……」

だが、闇の子等はルヴィエラが生んだ物。
ルヴィエラの庇護無くしては、生きて行けない。
どちらにしろ、子供達は死んでしまう。
それが今死ぬか、後で死ぬかの話。
リタの言葉は、その場凌ぎの嘘なのか?
ワーロックは彼女の言葉を吟味する事無く、言質を取っただけで済ませる。
明かりが徐々に薄れて行く。
闇の子等は、もう生きているかも死んでいるかも判らない位、衰弱していた。
それと同時に女性達の洗脳が解けて行く。
リベラも正気に返った。
残ったのは、一言も発さなくなった黒い残骸だけ。
リタは闇の子等に駆け寄り、息を確かめる。
そして、未だ死んでいない事を理解すると、小さく息を吐いて安堵した。
ワーロックは何も言わず、リタを凝視している。
彼女は決まり悪そうに目を伏せ、ワーロックに言った。

 「感謝する……。
  もう会う事は無いだろう」

これからリタは、どうするのだろうか?
先の事は誰にも判らない。
0552創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/29(土) 19:09:14.79ID:RRlPKRQY
暫くは彼女は子供等と平穏な時を過ごせるだろう。
そして何れルヴィエラに始末されるか、或いは見過ごされたとしても、子供等が弱って行くのは、
どう仕様も無い。
リタは子供等を救う新たな道を見付けられるのだろうか?
――唯、ティナー市での騒動は、これで終わった。
泣き声に集められた女性達は、何事も無かったかの様に、散り散りに帰って行く。
後から都市警察や執行者が到着して、ワーロックとコバルトゥス等に事情を聞いた。
ワーロックは自ら執行者に事情を説明したが、余り理解はされなかった。
翌朝にワーロックは改めて執行者の事情聴取を受ける事になる。
そこでも、やはり彼の行動は理解されなかった。
何故、敵を見逃したのか?
再び犠牲者が出るとは考えなかったのか?
何度も詰問されたが、ワーロックの心は揺れ動かなかった。
彼は責任を取る為、今後を見届ける為に、2週間程ティナー市に滞在する事になった。
再襲来に怯える人々を他所に、夜中に人が消える事は二度と無かった。
子供の泣き声も……時々聞こえては人々を脅かしたが、その正体は普通の子供だった。
0554創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/30(日) 19:04:20.07ID:STW4VGW3
「お養父さん、家に帰ったんじゃなかったの?」

「偶々帰り道だったんだよ」

「ブリンガーから禁断の地に帰るのに、ティナーは通らないよね?」

「……一寸、寄り道してたんだ。商売があるからね」

「取引品目表と売買記録出せる?」

「実際に売買してた訳じゃなくて、取り引きの確認だから……」

「嘘だよね?」

「う、嘘ではない」

「嘘じゃないだけだよね? 家に帰る気は無かったんでしょう?」

「家には帰るよ」

「今直ぐ?」

「その内」

「……お養父さん?」

「…………反逆同盟を放置する訳には行かない」

「それは私達も同じ気持ちだよ。一緒に行こう、お養父さん」
0555創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/30(日) 19:05:11.77ID:STW4VGW3
「一緒に行く事は出来ない」

「どうして?」

「敵は神出鬼没だ。私達は別行動するべきだと思う」

「お養父さんは独りで大丈夫なの?」

「独りじゃない。都市警察が居る、魔導師会が居る。こうして、お前達とも会える」

「……そう言うのは狡いよ」

「リベラ。私達は何時でも、『独り切り』と言う事は無いんだ。命がある、人が居る、皆が居る」

「お説教?」

「その積もりで聞いてくれ。仮令、1人になったとしても、それは数の上の事に過ぎない」

「……意味が解らないよ」

「無理に解る必要は無い――けど、この先に何があるか判らないから、出来る事なら解って欲しい」

「それじゃあ、もっと解り易く教えて?」

「どこにでも風がある、水がある、草がある、光がある。この辺の事はコバルトゥスが詳しいだろう」

「精霊の事?」

「それだけじゃない。敵も居る」

「敵……? 敵は居ない方が良いよ」

「そうだな、敵と言う表現は良くない。『相手』が居ると言うべきかも知れない。相手が敵になるか、
 それはリベラ達の対応次第だ」

「大体言いたい事は解るけど、もっと、こう、さぁ……」
0556創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/30(日) 19:05:28.23ID:STW4VGW3
「否々(いやいや)、そう言う事じゃないんだ」

「どう言う事なの……」

「敵は居る。それは事実だ。どこかでリベラは、敵と1対1だとか、或いは1人で大勢を相手に、
 戦わないと行けなくなるかも知れない」

「……はい」

「その時に自分は独りだと思い込むんじゃなくて、周りに物が在る事、そして敵と言う存在も、
 自分を取り巻く物の一つだと言う事を忘れないで欲しい」

「うわっ」

「何、『うわっ』て……」

「あ、難しい話だなって思って」

「真面目に聞けよ? 大事な話なんだからな。詰まり、どんな状況でも独りと言う事は無いんだ」

「あー、そう言う話?」

「そう言う話だよ」

「詭弁臭い」

「でも、重要な事だ。どんなに追い詰められた状況でも、それを忘れないで欲しい」

「……解ったよ、お養父さん」

(解ってないな?)
0557創る名無しに見る名無し
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2019/07/01(月) 19:01:53.68ID:Pg7WHO8O
やっぱり落ちませんね。
スレの容量制限が1024KBまで増えたのか、それとも制限その物が取っ払われたのか?
どっちにしてもスレの消費が遅くなるだけなので問題はありませんが……。
しかし、これまではスレが落ちてから新しいスレを立てるまでに、少しずつ書き溜めていたんですが、
今度からは定期的に1週間から2週間程スレが止まるかも知れません。
0559創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/02(火) 18:34:05.77ID:CO0Q8/mw
獣の街


第五魔法都市ボルガにて


ティナー市内で女性行方不明が起きていた頃、ボルガ地方でも不穏な噂が流れていた。
何者かに食い荒らされた人の死体が、街の中に放置される様になったのだ。
それが明らかに、人の手で「加工」された物だったので、魔導師会が出動する事になった。
本来は「魔法」の使用が疑われるまでは、解決は都市警察の手に委ねられるのだが、時勢が時勢。
半共通魔法社会的な外道魔法使いの集団、反逆同盟が暗躍している今、その関与を疑わない訳には、
行かないのだ。
人の死体は大抵は浮浪者の物で、市民は気味が悪いと思いつつも、「浮浪者だから」と切り捨て、
余り自分達の問題だとは捉えていなかった。
本来は魔導師会と共に全力で捜査しなければならない都市警察も、余り本気にはならない。
新聞や魔力ラジオウェーブ報道等は、早期に解決しなければ、市民に被害が及ぶかも知れないと、
警鐘を鳴らしていたが、それも何か他人事の様だった。
事件は1月間、毎日起きた。
魔導師会の調査では、人間の死体には共通魔法では無い魔力の痕跡が見られた。
即ち、反逆同盟の仕業である可能性が高まったのだ。
それでも……ボルガ市民は不気味に思いこそすれど、それ以上の危険は感じていなかった。
殺されるのは浮浪者だから。
真面に家のある者、「正しい生活」をしている者が殺される事は無い。
そうした根拠の薄い安心に縋っていた。
丸で「悪い事をしなければ、悪い目に遭ったりはしない」とでも言う様な、因果応報的な、
宗教に似た心理で……。
0560創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/02(火) 18:36:21.29ID:CO0Q8/mw
>半共通魔法社会的な外道魔法使いの集団
正しくは「反共通魔法社会的な外道魔法使いの集団」です。
済みませんでした。
0561創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/02(火) 18:38:21.98ID:CO0Q8/mw
しかし、事件の発生から1箇月後に、今度こそ一般の市民を巻き込んだ事件が発生してしまう。
それも真に痛ましい、平穏な家庭を狙った、一家惨殺事件だった。
これも外道魔法を利用した犯罪だと、魔導師会は決定した。
ボルガ市民は今度こそ怒りを発露させ、徹底的な糾弾と事件の解決を訴えた。
当時のボルガ市内では、浮浪者は一掃されていた。
1箇月も毎日の様に連続して浮浪者が死ねば、流石に浮浪者もボルガ市から離れる。
誰も自分達を守ってはくれないのだから。
元々住家を持たない事もあり、浮浪者達は移動に抵抗を持たない。
浮浪者が居なくなったので、遂に市民が狙われる様になった……と言うのが、大凡の市民の理解だが、
その真相は全く違う物だった。
魔導師会は事件の真相を掴んでいたが、それを発表する事は控えていた。
――市民を殺したのは、呪詛魔法によって蘇った浮浪者だった。
浮浪者は自分達が殺されても無関心な、市民、都市警察、都市と言う機構その物を恨んでいたのだ。
一連の浮浪者連続殺人事件は、今回の為の布石に過ぎなかった。
以後、「普通の市民」を狙った事件が立て続けに起こる様になる。
浮浪者の呪詛によって……。
0562創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/03(水) 18:06:46.01ID:pMMFxkGE
ボルガ市から「逃れて来た」浮浪者は、聞き込みの捜査官に恨み言を吐く。

 「俺達は都市にとっては厄介者なんだ。
  ゴミ漁りの不潔な生き物。
  犬や猫やカラス何かと大差無い。
  それ所か、もっと汚らしい、見るのも嫌な存在だと思われてる」

 「誰も俺達の事を守っちゃくれない。
  死んだって、都市の連中は手を合わせてもくれない。
  死んで当然だって思われてんだ。
  立派な市民様とは違うんだよ。
  魔導師会も都市警察も、俺達が殺されたんで捜査する訳じゃない。
  法が犯されたってんで捜査すんだ。
  表向き正義の味方を気取ってたって、根性が判んだよ」

 「私等だって、好きで浮浪者をやってる訳じゃない。
  こうなっちまった事情は色々だわね。
  仕方無し、仕方無しだよ。
  善良な市民様は皆、自業自得だと言うけれど、私等も嘗ては、その善良な市民様だったんだよ。
  明日は我が身と言う事を、皆知らない……。
  いや、知らないんじゃないんだね。
  自分が浮浪者になるって思いたくないんだ。
  見たくない物を見ない振りして、知りたくない物を知らない振りして、それが今だよ」

 「帰れる家があれば、帰りたい。
  施設に入れば良いとは言われっけど、あんな所は御免だね。
  あそこは悪魔の巣窟だよ。
  民間の営利業者だから、利益を上げる為に、儂等を食い物にする。
  何でも彼んでも経費削減で、最低限、最低限。
  浮いた金を懐に仕舞ってよ。
  あんな所で軟禁みてえな生活を送る位なら、刑務所にでも入るわな。
  今時は刑務所にも入れちゃくれねえ……。
  残酷な事だよ」

浮浪者は市民が殺されても何とも思わない。
寧ろ、良い気味だと嘲笑している。
0563創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/03(水) 18:07:19.35ID:pMMFxkGE
こうした社会の歪(ひずみ)に、悪魔は付け入るのだ。
誰もが綺麗事で生きて行ければ良いのだが、残念ながら、そうは行かないのが世の中。
勝者が居れば敗者が居て、儲ける者が居れば損する者が居る。
本音では自分さえ良ければ、それで良い。
誰もが、それを隠し、或いは誤魔化しながら生きている。
その裏では不満が溜まり続けており、小さな切っ掛けで爆発する。
爆発が個人で収まれば良いが、集団となると手が付けられない。
一度狂った歯車は、もう元には戻らない。
仮令、事件を解決しようとも、その後には修正不可能な傷が残る。
……とにかく今は、問題を解決しない事には始まらない。
その後に起こる問題は、その後の事だ。
魔導師会と都市警察は、呪詛魔法使いの正体を掴むべく、行動を起こした。
しかし、これも浮浪者達の反感を買った。
明らかに事件の重要度、優先度が、呪詛魔法使いへの対処であり、浮浪者連続殺人事件の解決は、
一先ず置かれたのである。
呪詛魔法で市民が殺害される様になってから、確かに浮浪者が殺害される頻度は下がった物の、
犯人が捕まった訳では無い。
それでも呪詛魔法使いを捕らえる事が、事件を解決する事に繋がるのだと、魔導師会と都市警察は、
考えていた。
呪詛魔法使いが連続殺人事件の犯人と連携しているか、或いは同一人物だと予想していたのだ。
0564創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/03(水) 18:08:22.98ID:pMMFxkGE
しかし、「そうで無かった」場合の事は殆ど考えていなかった……。
素直に推理すれば、浮浪者殺人犯と呪詛魔法使いは結託している。
何しろ反逆同盟と言う、共通魔法社会に仇為す組織が暗躍しているのだ。
その関連である事は間違い無い――と、誰でも思うだろう。
寧ろ、誰が無関係だと思うのか?。
だが、呪詛魔法を止めるのに、呪詛魔法使いを仕留めようと言う発想は、賢いとは言えない。
真の呪詛魔法使いは、人の恨みを晴らす為の「媒介」に過ぎないのだ。
呪詛魔法使いは強い恨みや憎しみの感情に引き寄せられ、それを晴らす為に現れる。
詰まる所、人に恨まれたり、人を憎んだりしない様にする事が重要で、それ以外の方策は、
その場凌ぎの対症療法にしかならない。
痛みに対して麻酔を打つ様な物で、根本的な解決にはならない。
社会不安や不況が引き起こす犯罪に、警官を幾ら投入しても、限(キリ)が無いのと同じである。
政治的な方面で社会の仕組みを根本的に変える様な大鉈を振るうか、或いは宗教や哲学で、
地道に人々の意識を変えて行かなければならない。
しかしながら、一度安定した社会基盤が築かれると、そんな事が出来る訳も無く……。
やはり魔導師会や都市警察は、呪詛魔法使いを追うより他に無かった。
「市民」が、それを望んでいるのだ。
浮浪者よりも、先ず我々の身を守って欲しいと。
そして同じ口で浮浪者が幾ら市民を恨もうとも、逆恨みだから放って置けと言うのだ。
無法者を助けてやる事は無い。
それは自業自得なのだから、守るとか助けるとか言う事は、全く必要無い。
そんな事に金や手間を掛けるなと。
0565創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/04(木) 18:39:09.94ID:2ZIOelBH
人の思い込みの最も悪い事の一つに、因果応報がある。
何等悪事を働いていなくても、偶然に悪い事は起こり得る。
逆に、どれだけ悪事を働いても、全く裁かれる事が無い者も居る。
相手が悪いのだから、対処するのは相手側であって、自分は何もしなくて良い。
寧ろ、自分が対処してしまうと相手が付け上がるので、放置する方が良い。
これは正論ではあるが、正論だけで片付かないのが、世の中である。
結局、それでは回り回って自分の首を絞める事になり兼ねない。
重要なのは助け合う事と、寛容さを持つ事である。
だが、それを実践出来る人間が何人居るだろうか?
負けたくない、損をしたくないと言う、仕様も無い自尊心の為に、僅かなコストを支払う事さえも、
拒否する者は性質の悪い吝嗇家である。
しかし、世の中には吝嗇家が多いのだ。
そうで無ければ生きて行けない様な世の中にしたのは、誰だろうか?
否、そうで無ければ生きて行けない程、本当に世の中は厳しいのだろうか?
――魔導師会は呪詛魔法使いの逮捕に全力を挙げる。
その裏で、「協力者」に浮浪者連続殺人事件の解決を依頼していた。
それに応じたのが、『変温動物達<ポイキロサームズ>』と隠密魔法使いのフィーゴ・ササンカ、
そして巨人魔法使いのビシャラバンガだった。
0566創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/04(木) 18:40:13.26ID:2ZIOelBH
浮浪者連続殺人事件の犯人は、エグゼラの狐ヴェラである。
死体を人目に付く所に散らかすのは、彼女が操る獣の仕業だった。
ヴェラは魔性の瞳で、標的の動きを封じる事が出来る。
その能力を利用すれば、容易に人を殺せた。
彼女は人の血を浴び続け、徐々に知性を取り戻して、自分の本性を思い出して来た。

 (あぁ、蒙が啓けて行く。
  我が身は人でありながら、獣の時分よりも劣る知性だった。
  人、人、人……人とは何か?
  ナハトガーブ、哀れな魔獣……。
  私は人の世を獣の道理で支配しよう。
  今こそ、その時)

狐の妖獣だった頃の自分を思い出した彼女は、妖獣軍団の遺志の様な物を感じていた。
嘗て、魔獣ナハトガーブに率いられた妖獣軍団は、人間が地上を支配する現状への下克上を企てた。
しかし、それは失敗して地上の支配者は今尚人間である。
その事実は動かしようも無い。
それならば人倫を汚し、腐らせようと、彼女は考えた。
人も畜生道に堕ち、人獣の隔てを失わせるのだ。

――人間(じんかん)に我欲満ち、人倫を失う。
――法、能(はたら)かずして、罪の咎め無き。
――人、畜生に堕ち、人獣の隔て無し。
――即ち、地上忽ち畜獣の配下に降る。
――ここに人無し、嘆く者も無し。

旧暦、教会が国際秩序を維持していた時代は、神の教えが失われる事を警告していた。
天地万物を司る神が、人の良心を見守っていた為に、今の秩序に守られた世の中があるのであり、
神の教えを失えば人は獣と変わらない存在と化してしまうだろうと。
人が神の御許を離れて500有余年、遂に、その時が来たのだ。
0567創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/04(木) 18:42:26.88ID:2ZIOelBH
ボルガ市内で頻繁に動物が目撃される様になったのは、浮浪者達が消えてから。
よく見られる猫や鼠では無く、本来は山野に潜んで、滅多に人里には現れない筈の中型の妖獣が、
多数目撃される様になった。
ゴミを掃除する浮浪者が居なくなった為だと、魔導師会や都市警察は認識していた。
人々は呪詛魔法を恐れて、夜間は家の中に篭もる。
だから、野犬や夜行性の中型妖獣が街中に出現する様になったのだと。
しかし、浮浪者を再び都市に招こうとは、誰も思わなかった。
そうしている内に、徐々に獣の数が増えて行く。
丸で都市が獣に支配されているかの様に。
その内、市民が獣に噛み付かれたり、引っ掻かれたりする事件が起きる様になった。
都市警察は呪詛魔法使いを追うと同時に、街中を彷徨く獣の駆除もしなければならない。
ここで魔導師会は呪詛魔法使いを追い、都市警察は獣を駆除すると言う、役割分担が出来た。
誰が知るだろう。
その獣はエグゼラの狐ヴェラが呼び寄せた物だと。
全ては都市を支配する為の、大掛かりな策略だと。
獣は狐や狸だけでは無い。
野良犬や野良猫までもが、人を襲う様になっていた。
こうなっては浮浪者連続殺人事件の解決等、完全に後回しだった。
ボルガ地方の魔力ラジオウェーブ放送では、動物学者が市内に増え続ける妖獣の行動を解説している。

 「妖獣は賢いですから、恐らくは仲間同士で情報を共有しているんでしょう。
  『ここは今、人が少ないから安全だぞ』と。
  人間の言葉で言っている訳ではありませんがね。
  だから、次々と周囲から妖獣が集まって来る。
  種類の違う妖獣同士で争わないのは、同じ妖獣より人間の方が、もっと厄介で強大な敵だと、
  理解しているからです。
  流石に、同属意識とまでは行かないでしょうが、お互いに無駄な争いはしない位の、
  緩い共通認識があるのだと思います」

何の事情も知らない一般人は、その専門家の言う事を信じるしか無い。
これは動物の習性の一で、幾つかの条件が重なって、こうなっているだけであり、何等異常ではない。
必要以上に恐れる事は無い。
そんな風に、自分自身を説得して落ち着かせる。
0568創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/05(金) 18:42:59.46ID:bvaYYfRH
ボルガ市内には未だ幾らかの浮浪者が残っている。
浮浪者達は丸で復興期の様に、都市の片隅で妖獣達と生活圏を奪い合う「戦争」をしていた。
しかし、都市警察が守るのは浮浪者では無く、「市民」の生活圏。
浮浪者だろうが市民だろうが、妖獣を市内から駆逐すると言う一点で、事態の解決は一体の物だが、
残念ながら都市警察は、そうとは認識していなかった。
都市警察は「納税者」の味方なのだ。
ここでも浮浪者が市民を恨む理由が出来ていた。
そんな状況で、ポイキロサームズ等は、浮浪者連続殺人事件を解決しようと奔走していた。
浮浪者達との交渉は、ビシャラバンガが担当した。
彼も一時期は浮浪者の様な生活をしており、修行生活中に知り合った浮浪者も居た。
その巨躯からビシャラバンガは「デラ」さんと言う渾名で呼ばれていた。

 「おー、デラさんだがや」

 「久しいな。
  己の事を覚えていたのか」

 「忘れたぁても忘れられんでよ。
  とにかく、お前(みゃー)さんは、でっきゃあがや。
  遠目でも一目で判るで。
  ほんで、態々こんな時に、こんな場所に来て何の用かや?」

 「魔導師会や都市警察の代理だ。
  浮浪者連続殺人事件を追っている」

 「ヒャー、お前さんが!?
  えりゃー出世した物だがや」

浮浪者の男性はビシャラバンガの体を叩きながら、驚いた様な、感心した様な声を上げる。
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2019/07/05(金) 18:44:10.18ID:bvaYYfRH
ビシャラバンガは少し困った顔で言い訳した。

 「魔導師会の関係者と言う訳では無い。
  小間使いの様な物だ。
  あちらは別の事件で、こちらまで手が回らないと言うからな」

そう言われると浮浪者の男性は、顔を顰める。

 「魔導師会も都市警察も当てになりゃせんがや」

市民と浮浪者間の確執は、ビシャラバンガも聞いていた。
魔導師会や都市警察の中にも、浮浪者連続殺人事件を軽視せず、解決しようと言う者は居るのだが、
結局の所、優先されるのは「市民」なのだ。

 「とにかく、少しでも手掛かりになりそうな事を知っていたら、教えて欲しい」

ビシャラバンガの頼みに、浮浪者の男性は大きく頷いた。

 「お前さんの頼みなら、聞かにゃー訳にゃ行かにゃーで。
  ……っちゅうても、手掛かりなぁ……。
  最初の頃は、何だら見慣れん者が居るやら居らんやら言う話もあったけんども……。
  今は、それ所じゃにゃーでなぁ」

 「見慣れない者?」

 「女だっちゅう話だったで。
  最近は聞かれんけど」

 「女か……。
  どんな女だったとか判るか?」

 「別嬪だったっちゅう話だけんども、当てにゃ出来んでよ。
  大体、男の噂ってな女を美人っちゅう事にしたがるでな。
  美人か不細工か、どっちかに寄る物だがや」
0570創る名無しに見る名無し
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2019/07/05(金) 18:45:19.10ID:bvaYYfRH
ビシャラバンガは少し思案して、こう聞いてみた。

 「それなら女達に話を聞けば、何か判るだろうか?」

浮浪者の男性は難しい顔をする。

 「女達に聞いても、分かりゃせんと思うでよ。
  初期の被害者は男ばっかだったでな。
  寡夫(やもお)が掛かる物だて、女達は笑っとったで」

 「ウーム……。
  しかし、他に手掛かりが無いなら、その女とやらを探してみよう。
  浮浪者の仲間では無いのだろう?」

 「力になれんで済まなんだの」

 「気にするな」

 「獣には気ぃ付けやーよ」

 「ウム」

2人は頷き合って別れた。
後方で待機していたポイキロサームズが、戻って来たビシャラバンガを迎える。
蛙男が問う。

 「何か判ったか?」

 「『女』が居たそうだ」

それを聞いて蛇男が不安そうな声を上げた。

 「正か、ルヴィエラ……?」
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2019/07/06(土) 17:53:49.90ID:LnCndVOx
ビシャラバンガは至って冷静に言う。

 「さあな、そうかも知れん。
  だが、逃げる訳には行かん。
  可能性に怯えていては何も出来んぞ」

堂々とした彼の物言いに、亀女が問うた。

 「貴方はルヴィエラが怖くないの?」

 「己は未だルヴィエラとやらの事をよく知らん。
  故に、恐れるも何も無い。
  無知は偉大だ」

実際の所、ポイキロサームズもルヴィエラに就いて、具体的に何を知っていると言う訳では無い。
但、ルヴィエラによって生み出された存在なので、その能力が何と無く分かってしまうのだ。
自分達とは存在自体が掛け離れた物だと言う事も。

 「……もし女の正体がルヴィエラだったら、その時は、その時だ。
  今から愚図愚図言っていても仕方あるまい」

そう言い切ったビシャラバンガは、ポイキロサームズを引き連れて、殆ど廃墟の様になってしまった、
無人のボルガ市内を歩く。

 「待てよ、ビシャラバンガ!
  どこに女が居るとか、そう言う情報は?」

蛙男の問い掛けに、ビシャラバンガは首を横に振った。

 「得られなかった。
  最近は女を見なくなったらしいから、もしかしたら、もう居ないのかも知れん。
  それでも動かねば始まるまい」

 「手掛かりも無いのにか?」

 「無いからこそだ」

断言するビシャラバンガに、ポイキロサームズは素直に従った。
彼の決意と信念に満ちた言葉には、有無を言わせぬ力があった。
0572創る名無しに見る名無し
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2019/07/06(土) 17:54:27.25ID:LnCndVOx
一行は手分けして、市内に怪しい女が居ないか、何か特異な現象が起こっていないか、見回りに出る。
一つは蜥蜴女アジリアと蛙男ヴェロヴェロと昆虫人ヘリオクロス。
一つは蛇男ヤクトスと影人間シャゾール。
一つはビシャラバンガと亀女コラル。
3つの班は機動力を考慮しての編成だ。
アジリアは敏捷性に優れ、ヴェロヴェロには壁に張り付く吸盤と跳躍力がある。
甲虫のヘリオクロスは鈍重そうに見えるが、実は空を飛べる。
蛇男ヤクトスは狭い所にも入り込め、影人間シャゾールは影と同化出来る。
唯一、重装甲で動きの鈍いコラルにはビシャラバンガが同伴する。
市内の各所には猫が屯していて、熟(じっ)と一行を見詰めていた。
偶に犬とも出会すが、ポイキロサームズの特異な風貌に驚いて退散する。
ビシャラバンガと行動を共にしていた亀女のコラルは、猫に近付いて触ろうとした。

 「猫ちゃん、良し良し」

しかし、猫は彼女を警戒の目で見詰め、さっと逃げてしまう。
コラルは余り表情の変わらない顔で、小さく息を吐いて落胆した。

 「はぁ、やっぱり逃げられちゃうかぁ……。
  早く人間になりたいなぁ」

 「今、猫が逃げたな」

ビシャラバンガの言葉にコラルは落ち込んだ声で返事をする。

 「はい、逃げられちゃいました。
  爬虫類の姿だと怖がられちゃうんですかねぇ?
  それとも野良猫だから?」

 「どちらでも無いと思う」

そう答えたビシャラバンガの目は険しい。
0573創る名無しに見る名無し
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2019/07/06(土) 17:55:33.24ID:LnCndVOx
コラルは目を瞬かせて問うた。

 「どう言う事です?」

 「奴等は己達を監視している様だ」

 「比喩的な意味ですか?」

 「違う、言葉通りだ。
  恐らく、己達の動きは見張られている」

 「猫が人間を見張る……?」

ビシャラバンガの考え過ぎでは無いかと、コラルは怪しむ。
そこまでの知能が野良猫にあるとは思えないのだ。
仮令、妖獣だとしても、猫が連携した所で何があると言うのか?
コラルはビシャラバンガに尋ねる。

 「もしかして、貴方は猫が他の動物達の斥候を務めていると言いたいんですか?」

 「ああ、その通りだ。
  取り敢えず、猫の目を誤魔化さなければ、怪しい女とやらには辿り着けないだろう」

 「でも、どうして、そんな事が判るんです?」

 「勘だ」

 「勘って、もう一寸自分の感覚を言葉にする努力をしましょうよ」

呆れるコラルに、ビシャラバンガは少し思案した。
0574創る名無しに見る名無し
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2019/07/07(日) 18:16:17.89ID:5T2JIIRd
感覚的な物を言葉にして伝える事は難しいが、それが出来ない者は他者を説得出来ない。
後進の教育も同じく。
体験や知識を言葉にするのと同じく、感覚を言葉にする事も重要なのだ。
ビシャラバンガは説明を試みる。

 「先ず、猫が多過ぎるのだ。
  如何に街中に動物が屯している状況とは言え、この数は異常。
  曲がり角の陰や塀の上に、必ず数匹の集団で居る」

 「確かに多いとは思いますけど……」

 「それと他の動物が来ても逃げないな?
  本来、天敵である筈の野良犬が通り過ぎようと、全く関心を示さない」

 「はー、成る程」

 「猫は人間に危害を加えないと言う、先入観があるのだ。
  実際、猫の脅威は犬に比べれば、格段に低い。
  手を出して引っ掻かれたり、噛み付かれたりする事はあっても、集団で人間を襲う様な事は無い。
  脅威では無いから放置される」

 「監視役には打って付けと言う訳ですか……」

彼の推測にコラルは幾分かの説得力を感じる様になっていた。

 「でも、それが事実だとして、どうやって猫の目から逃れるんです?」

 「……都市警察や魔導師会なら何か知っているかもな」

何か妙案を持っていると思ったら、そうでも無かったので、コラルは脱力した。
2人……否、1人と1体は先ず魔導師か都市警察を探す。
0575創る名無しに見る名無し
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2019/07/07(日) 18:16:48.91ID:5T2JIIRd
ビシャラバンガとコラルは動物を駆除中の都市警察に会った。
大柄なビシャラバンガと人外の容姿をしたコラルに、都市警察達は身構える。

 「何者だ!?」

 「己達は怪しい者では無い。
  魔導師会の協力者だ」

ビシャラバンガは堂々と説明する。
その余りの真っ直ぐさに都市警察達は信じそうになったが、やはり思い止まった。

 「証拠はあるのか?」

 「魔導師に連絡を取って、聞いてみるが良い」

都市警察達は、その場で魔力通信を利用して魔導師会に連絡した。

 「こちら都市警察です。
  ……怪しい2人……2人?
  2人組を発見しました。
  魔導師会の協力者だと言っています」

疑われる事には慣れっ子だったビシャラバンガとコラルは、大人しく話が終わるのを待つ。

 「1人は大柄な男です。
  もう一1人は小柄な……」

都市警察はコラルを横目で見ながら、彼女の事をどう形容して良いやら困っていた。

 「えー、人間では無さそうです。
  黒い岩の様な肌で、顔は蛇か蜥蜴の様な。
  太っている……と言うか、横幅の広い……」
0576創る名無しに見る名無し
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2019/07/07(日) 18:17:17.09ID:5T2JIIRd
暫く魔導師会と遣り取りしていた都市警察は、改めてビシャラバンガとコラルに向き直った。

 「名前は?」

 「己はビシャラバンガだ」

 「コラルです」

 「判った」

2人の名前を確認した都市警察は、再び通信を始める。

 「大男の方はビシャラバンガ、小さい方はコラルと言うそうです。
  ……あっ、はい、そうですか……。
  はい、お手数をお掛けしました」

都市警察は通信を終えて、小さく息を吐く。

 「確認が取れた。
  それで何をしているんだ?」

疑った事への謝罪も無いが、ビシャラバンガは気にしない。

 「浮浪者が殺された事件を追っている。
  それで聞きたい事がある」

都市警察達は揃って面倒臭そうな顔をした。
浮浪者連続殺人事件は、都市警察の領分では無いのだ。
否、正確には領分には違い無いのだが、現在優先して解決すべき事件では無い。
0577高山犬子の激白【連絡先:葛飾区青と6−23−18】
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2019/07/08(月) 07:17:53.02ID:+2tsqO3b
【超悪質!盗聴盗撮・つきまとい嫌がらせ犯罪者の実名と住所を公開】
@高添・沼田(東京都葛飾区青と6−26−6)
※盗聴盗撮・嫌がらせつきまとい犯罪者のリーダー的存在/犯罪組織の一員で様々な犯罪行為に手を染めている
 老義父は息子の嫁の痴態をオカズに自慰行為をし毎晩狂ったように射精をしている/息子の嫁をいつもいやらしい目で見ているエロ老義父なのであった
A井口・千明(東京都葛飾区青と6−23−16)
※犯罪首謀者高添・沼田の子分/いつも逆らえずに言いなりになっている金魚のフン/親子孫一族そろって低能
 低学歴で醜いほどの学歴コンプレックスの塊/超変態で食糞愛好家である/醜悪で不気味な顔つきが特徴的である
B清水(東京都葛飾区青と6−23−19)
※低学歴脱糞老女:清水婆婆 ☆☆低学歴脱糞老女・清水婆婆は高学歴家系を一方的に憎悪している☆☆
 清水婆婆はコンプレックスの塊でとにかく底意地が悪い/醜悪な形相で嫌がらせを楽しんでいるまさに悪魔のような老婆である
C高橋(東京都葛飾区青と6−23−23)
※高橋母は夫婦の夜の営み亀甲縛り食い込み緊縛プレイの最中に高橋親父にどさくさに紛れて首を絞められて殺されそうになったことがある
D長木義明(東京都葛飾区青と6−23−20)
※日曜日になると必ず風俗に行くほどの風俗好きである
E高山犬子(東京都葛飾区青と6−23ー18)
※顔と根性がが異常なくらいひん曲がっている
F九●●(東京都葛飾区青と6−26−5)
※還暦低学歴不細工で犯罪者顔のキツネ目の男/警察に通報したら完全にビビってしまい急に涙目になってオドオドしてブルブルと震えていた
0578創る名無しに見る名無し
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2019/07/08(月) 19:40:58.27ID:9wyYxcq9
>>576から

そうした裏事情を無視して、ビシャラバンガは簡潔に問う。

 「都市警察が駆除対象にしている動物と、そうで無い動物の違いは何だ?」

 「何って……、それは人に危害を加える事だよ」

 「野良猫は駆除しているか?」

 「いや、猫は対象外だ。
  主に犬とか狼とか熊とか猪だな」

 「狐や狸は?」

 「あれは群れを作って人を襲う事はしない。
  単体では人の脅威にはならないから無視している。
  連中も人を見掛けると逃げるからな」

都市警察の答を聞いたビシャラバンガは、首を横に振った。

 「どんな動物でも油断しては行けない。
  仮令猫だろうと、人の脅威にはならなかろうと、連中は貴様等を監視している」

 「監視……?」

 「20年位前だろうか……。
  エグゼラの小さな町だか村だかが、妖獣に襲われた事件があったな。
  今のボルガは、その時の状況に似ていると思う」

 「20年前……?」

それはエグゼラ地方ルブラン市で起きた妖獣襲撃事件だ。
巨大な古代亜熊が妖獣を率いて、エグゼラ地方の小村を支配し、更に都市にまで攻め込んだ。
0579創る名無しに見る名無し
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2019/07/08(月) 19:43:03.73ID:9wyYxcq9
それなりに大きな事件であり、その影響で妖獣を飼育する条件が厳しくなったりもした。
ボルガ地方にも当然影響はあったのだが……。
20年も経過すれば、もう昔の事だ。
何の罪も無い捨て使い魔を処分するなと言う声もあり、野良猫が増えても実害が無ければ放置する。
野良猫が増えれば、誰が妖獣を捨てたか等、誰も問題にしなくなる。
そうして妖獣飼育に関する法律は有名無実化してしまう。
その結果が今だ。
20年前の事件を知らない様子の都市警察達に、ビシャラバンガは問う。

 「知らないのか?」

 「いや、知ってはいるが……。
  そんなに状況が似ているのか?」

 「己が直接関わった訳では無いから、実際の所は分からんな」

 「余り脅かさないでくれよ」

確証が無いのであれば、同じ状況だとは言えないと、都市警察達は脱力した。
獣が街中を徘徊しているのは、外道魔法使いの仕業では無いと安心したいのだ。

 「話は、それだけか?」

 「否、未だある。
  『女』を見なかったか?」

 「女?
  どんな女だ?」

 「とにかく怪しい女だ。
  こんな状況で独り街中を歩いている様な」

都市警察達は互いの顔を見合った後、改めてビシャラバンガに尋ねる。

 「独りで出歩く様な女性が居ない訳では無いが……。
  怪しいと言うのは、どう言う意味の『怪しい』なんだ?」
0580創る名無しに見る名無し
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2019/07/08(月) 19:43:59.58ID:9wyYxcq9
 「外道魔法使いだ。
  それが浮浪者連続殺人事件の犯人だと、己は思っている」

ビシャラバンガの答に、都市警察達は再び互いの顔を見合って言った。

 「否、それらしい者は見なかった」

 「解った。
  話は終わりだ」

都市警察達は何なんだと言う顔で、その場から立ち去る。
コラルはビシャラバンガを見上げて言った。

 「感じ悪かったですね。
  都市警察って言うのは、あんな物なんでしょうか?
  それとも、あの人達だけ?」

 「あんな物だろう」

お役所に有り勝ちな、己の領分以外の事をしたがらない性質を、ビシャラバンガは問題にしない。
彼も又、似た様な性格だったのだ。
だから、他人に必要以上の期待をしない。

 「結局、己を助ける物は己自身なのだ。
  他人の助けは、あれば良い物、無くとも困らぬ様にせねばならん」

 「……色々大変だったんですね」

妙に達観しているビシャラバンガの、これまでの人生を思って、コラルは同情した。

 「ああ、それなりに苦労はして来た。
  そんな事より今は事件の調査だ。
  そろそろ他の連中と合流して、情報を整理しよう」

ビシャラバンガとコラルは他の仲間達と合流する。
0581創る名無しに見る名無し
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2019/07/09(火) 19:00:16.07ID:16L+6Org
一方、ボルガ市内ではビシャラバンガとポイキロサームズの他にも、反逆同盟と戦う仲間が居た。
それは自称妖獣の天敵、猫型妖獣のニャンダコーレである。
ニャンダコーレは同じ猫型の妖獣、魔猫や化け猫に混じって、情報収集をしていた。
彼は道行く化け猫に話し掛ける。

 「コレ、そこの!」

 「ニャー、儂ん事(きょと)きゃにゃ?」

化け猫は酷い訛りだったが、言葉を理解出来ない訳では無かった。

 「コレ、そうである、そうである」

 「ニャんの用きゃや?」

 「コレ、この街は、どうなっているのだ、コレ?」

 「おミャーしゃんはニャんも知りゃんと来たんきゃにゃ?」

 「コレ、どう言う事なのだ?」

 「しゃーニャーのー。
  知りゃにゃー教(おしぇ)ーちゃーや。
  ニャンダキャ様(しゃま)の再来(しゃいりゃい)でゃーよ」

 「ニャンダキャ……。
  コレ、ナンダカナンダカの事かな?」

 「人間(にゃんぎゃん)共に反乱(はんりゃん)を起こしたニャハトギャーブときゃ言うんぎゃ、
  居ってにゃ……。
  そん手下ぎゃ生き残(にょこ)っちょって、仲間(にゃきゃみゃ)を集めちょーっち、
  話(はにゃし)だぎゃ」
0582創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/09(火) 19:01:00.94ID:16L+6Org
化け猫の話を聞いたニャンダコーレは驚く。

 「コレ、ナハトガーブだと!?
  その手下が、コレ生き残っていたのか!?」

 「そうだぎゃ。
  儂も驚(おでれ)ぇたでゃーよ」

 「それは、コレ、どんな奴なのだ?」

 「見た目(み)ゃあ、人間でゃーよ。
  ニャんでも、獣きゃー人間にニャったっちゅうぎゃ……。
  儂も人間にニャれーきゃのー?」

 「コレ、真面な手段では無いぞ」

 「そうきゃにゃぁ……。
  はぁ、そっきゃぁ……」

 「お主も、コレ、ナハトガーブの手下の配下になるのか?」

 「ニャー、儂ゃー日和見だぎゃー。
  人間と戦(たたきゃ)う気ゃーニャーきゃーの」

 「コレ、賢明である」

ニャンダコーレは化け猫と別れて、再び市街を彷徨いた。

 (獣から、コレ、人間に……?
  コレ、ナハトガーブの配下に、その様な物は居なかった筈……。
  ニャー、コレ、何者かの手により、コレ、人化したと見るべきであろうな……。
  コレ、やはり反逆同盟が絡んでいるか……)
0583創る名無しに見る名無し
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2019/07/09(火) 19:04:37.17ID:16L+6Org
獣が人に成ると言う事に就いて、ニャンダコーレは否定的だった。
一時的に化ける事は出来ても、本性までは変えられない。
魂の形は、そう簡単に変えられる物では無いのだ。
人に焦がれ焦がれて、魔性を蓄え、長き年月の果てに人の姿に変じたとしても、本当の姿は……。
人に成ったのだから、人として生きれば良いのだが、それが出来ない、それをしないと言う事は、
自分が獣だと言う意識を捨て切れない証拠。
ニャンダコーレは他にも化け猫達を探して、ナハトガーブの手下だったと言う者に接触しようとした。

 「コレ、そこの!
  ナハトガーブの手下だと言う物は、コレ、どこに居る?」

 「ニャー?
  ニャんだゃ、おミャーは?
  仲間にニャーに来たんきゃや?」

 「コレ、そう思って貰って良い」

 「ニャー、コレコレ妙な奴(やっ)ちゃニャ。
  できゃー図体(ずうてゃー)だぎゃ、何某(にゃんぼ)の物(もん)きゃーのー。
  ミャー良え、付いて来ぃやー」

化け猫はニャンダコーレを連れて、行き詰まりに誘う。
そこには何匹もの化け猫が屯していた。

 「ニャー、誰(だり)ゃー、そいちゃー」

 「新入りだぎゃー」

 「ヒャー、中々(にゃきゃにゃきゃ)偉丈夫だにゃーきゃ!」

 「ヴェリャー様(しゃま)ん会(え)いに来たぁて」

 「ヒャー、ヴェリャー様にきゃや?
  ミャーしきゃし、力(ちきゃりゃ)の程ぎゃ判(わきゃ)りゃにゃーのー」
0584創る名無しに見る名無し
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2019/07/10(水) 19:11:42.62ID:hmXnqd3p
化け猫達は徐に散開して、ニャンダコーレを取り囲む。

 「力を見しぇて貰(もりゃ)わにゃーのー。
  ニャー、新入りや!」

しかし、化け猫達は自ら仕掛けようとはしない。
ニャーニャー威嚇するだけだ。
普通の化け猫より一回り二回り大きいニャンダコーレを警戒しているのだ。

 「コレ、仕方ニャー……っと、伝染(うつ)ってしまった、コレ。
  後悔するなよ。
  シッ!!」

ニャンダコーレが爪を伸ばして左腕を振り払うと、獣魔法が発動して、彼の左に居た化け猫の額に、
小さな爪痕を付けた。

 「ギャニャッ!!」

然程、大きな怪我では無いが、見慣れない獣魔法に化け猫達は戦慄する。
基本的に戦いで使う様な獣魔法は咆哮で相手を怯ませたり、自分の能力を強化する物が殆ど。
偶に相手を弱体化させたり、動きを止めたりする物があるが、遠隔攻撃が可能な物は珍しい。
化け猫達は忽ち戦意を萎えさせて、渋々戦いを止めた。

 「ニャ、よう判ったで、こかぁ一旦、矛を収めようや」

 「コレ、そのヴェリャー様とやらには、コレ会わせて貰えるのか?」

ニャンダコーレが問い掛けると、化け猫達は畏縮して答える。

 「ニャ、ミャー、ああ、会わせちゃーでにゃ。
  しばし待(みゃ)っちょれにゃ」
0585創る名無しに見る名無し
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2019/07/10(水) 19:12:02.10ID:hmXnqd3p
ニャンダコーレは化け猫達に連れられて、「ヴェリャー様」に会いに行った。
所が、化け猫達は街を徘徊するばかりで、一向に「ヴェリャー様」に会える様子は無い。
彼は化け猫達を疑って、脅し掛ける。

 「コレ、一体何時になったら、コレ、ヴェリャー様とやらに会えるのだ、コレ?
  巫山戯た事をする積もりなら……」

化け猫達は慌てて言い訳する。

 「ニャー、ヴェリャー様にゃ、どこで会えーきゃ判りゃにゃーで。
  決(け)まった所(とこ)に居(お)ー訳(わきゃ)ーじゃにゃーきゃーの。
  今(いみゃ)探(さぎゃ)しちょー所(とこ)だぎゃ」

 「コレ、どこに居るのか判らないのか?」

ニャンダコーレは呆れるも、化け猫達は気にしない。

 「判りゃにゃー物は判りゃにゃーで、しゃーにゃーぎゃや」

この儘、化け猫達に付いて行っても無駄では無いかと、ニャンダコーレは思い始めていた。
しかし、化け猫のネットワークは侮れない。
直ぐに化け猫達は「ヴェリャー様」の居場所を掌握する。

 「ニャー、判ったで!
  ヴェリャー様(しゃみゃ)ぁ、南(みにゃみ)だぎゃ!
  こっちゃ、こっちゃ!」

1匹の化け猫の呼び掛けに応じて、化け猫達は急いで付いて行く。
特に急ぐ必要は無いのだが、何と無く雰囲気で、走ってしまうのだ。
ニャンダコーレも四足歩行になって駆けた。
0586創る名無しに見る名無し
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2019/07/10(水) 19:12:34.97ID:hmXnqd3p
「ヴェリャー様」が居たのは、ボルガ市内の南部にある橋の下。
そこで魔犬に囲まれて、1人の女が大きな丸石の上に座っていた。

 「ほんにゃりゃ俺等(おりゃーりゃ)は、こいで……。
  案内(あんにゃい)はしたでにゃー」

化け猫達は魔犬に近付きたくないので、早々(さっさ)と逃げて行った。
ニャンダコーレは堂々とした二足歩行で、橋の下に屯している魔犬の群れに向かう。
彼が近付くと、それまで伏せていた魔犬達は徐に立ち上がり、警戒し始めた。
女は丸石の上に横臥して、少しも反応しない。
ニャンダコーレは魔犬を物ともせず、歩みを進める。
魔犬達は愈々総立ちになり、彼に向かって吠え始めた。
流石にニャンダコーレも飛び掛かられたくは無いので、一旦足を止める。
そして、その場から石の上の「ヴェリャー様」に対して、よく通る声で話し掛けた。

 「コレ、そこの貴女が『ヴェリャー様』か?」

「ヴェリャー様」は気怠気に目を開けて上半身を起こす。
それと同時に、唸っていた魔犬達が静まり返った。

 「何じゃ、貴様は?」

 「コレ、申し遅れた。
  吾輩はニャンダコーレ」

 「私はヴェラ。
  ニャンダコーレとやら、ここに何をしに来た?」

 「コレ、この街に溢れる妖獣共を従えているのは、貴女と聞いた。
  どう言う者なのか興味があって、コレ来た」

ヴェラは暫しニャンダコーレを熟っと見詰めていたが、その内に飽きた様に再び伏せる。

 「御苦労な事だ」
0587創る名無しに見る名無し
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2019/07/11(木) 19:24:09.31ID:mXgjtagP
脅威とは見做されていないのかと、ニャンダコーレは小さく嘆息した。
魔犬達もニャンダコーレから遠い集団は、興味が失せた様に伏せる。
ニャンダコーレは1歩踏み出し、ヴェラに向かって行った。

 「禍々しい気配を感じるぞ、コレ!
  貴女は、コレ真面な人間では無いな!!」

彼の指摘にヴェラは再び体を起こす。

 「フム、解るのか……」

ヴェラの体は魔力を纏い始める。
ニャンダコーレは得体の知れない感覚に身震いした。

 「その体の中に、コレ、幾つもの魂を感じる!
  コレ、虎か!?」

 「懐かしいな。
  憐れな老虎……。
  そして将軍虎共……」

 「コレ、貴女の気配には覚えがある。
  ナハトガーブの下に居た狐か!!」

 「そこまで看破するか……」

ヴェラは緩りと丸石の上に立ち上がった。
魔犬達は、彼女の纏う禍々しい気配に怯えて、少し距離を取る。

 「ロホホホホ……。
  その通り、私は狐から人に成った者」

 「戯言を!
  獣は所詮、コレ獣!
  人に等、成れはしないのだ、コレ!!」
0588創る名無しに見る名無し
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2019/07/11(木) 19:26:49.37ID:mXgjtagP
ニャンダコーレの言葉にヴェラは怒りを滲ませた。

 「何だと?」

 「その証拠に、コレ、貴方は魔性を捨てられない!
  唯の人であるならば、コレ、魔性は要らない筈!」

 「フン、人に拘る必要は無い。
  脆弱な人間が、如何程の物だと言うのだ!
  魔性を持つ私は、人より優れた存在だ!」

堂々と言い切るヴェラを無視して、ニャンダコーレは問う。

 「コレ、貴女の目的は何なのだ、コレ?
  正か、コレ、妖獣軍団の仇討ちと言うのでは、コレ無かろうな?」

彼女は数極の間を置いて答えた。

 「或いは、そうなのかも知れぬ。
  思えばナハトガーブも憐れな存在だった。
  私は、より優れた物が地上を統べるべきだと思っている。
  ナハトガーブには、その力があった。
  結局は唯1人の人間に負けてしまったがな。
  私は同じ轍は踏まぬ。
  今度は私がナハトガーブに代わって、人間共を屈服させよう」

 「コレ、私は貴女の力が、そこまで強いとは思わない。
  妖獣は所詮、敗者ニャンダカニャンダカの血筋なのだ、コレ」

ニャンダコーレの一言にヴェラは激怒する。

 「敗者だと!?」
0589創る名無しに見る名無し
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2019/07/11(木) 19:28:54.59ID:mXgjtagP
それに魔犬達は同調するよりも、味方の筈の彼女への恐れを先に抱いた。
その様子にヴェラは益々怒りを膨らませる。

 「どうした、貴様等!!
  己が血統を敗者と罵られて悔しくは無いのか!」

 「コレ、多くの妖獣にとって、ニャンダカニャンダカの物語は、コレ、遠い昔の語に過ぎぬのだ。
  そして、コレ貴女は今や人でも妖獣でも無い、唯の怪物だ、コレ!!」

 「フン、だから何だ!!
  私は獣を超え、人を超え、更なる上位の存在になった!
  強者こそ絶対!!
  私より弱い物は、私に従い、平伏するのみ!
  Cooh――――!!!!」

ヴェラは大声で吠えて、大気を揺るがした。
魔犬達は腰を抜かしてしまうも、ニャンダコーレは姿勢を低くして四つ足になり、鳴き返す。

 「Neeee――――!!!!」

獣魔法は相殺されて、お互いに効果が無い。
ヴェラは目を見張った。

 「我が魔法に魔法で対抗するとは!」

 「この程度の魔法、コレ、何を恐れる事があろうか!!」

 「高が化け猫風情がっ!!」

彼女はニャンダコーレに対して凄んで見せるが、特に何か出来る訳では無い。
獣魔法は相手を怯ませるだけだし、魔性の瞳も遠くからでは効果が無い。
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2019/07/12(金) 18:57:07.98ID:GI8E15B8
ヴェラは苛立って、魔犬達に命令する。

 「えぇい!!
  犬共め、何をしておる!!
  掛かれっ!!」

しかし、魔犬達はヴェラの獣魔法を受けて、恐慌状態から立ち直れない。
その隙にニャンダコーレは四つ足の儘、素早く駆けた。
木偶の如く動かない魔犬達の間を縫って、ヴェラの居る丸石の元にまで迫り、高く飛び跳ねて、
獣魔法による一閃。

 「シャーッ!!」

共通魔法で言う『風の刃<ウィンドリッパー>』に相当する獣魔法。
俗に「鎌鼬」、「不可視の爪」、専門用語的には「小陣風爪(こじんふうそう)」と称される。
風の爪はヴェラの頬を掠めて、小さな傷を付けた。
その瞬間、ヴェラとニャンダコーレの目が合う。
彼女の魔性の瞳をニャンダコーレは正面から受け止めて、睨み返す。
互いの瞳力が拮抗し、効果が無い。

 (此奴、私の魔性が通じない!?)

ヴェラは驚いたが、ニャンダコーレは追撃せずに、直ぐに距離を取った。
そしてヴェラに対して言う。

 「この騒動の正体、コレ、確かに見たぞ!
  お前達ニャンダカニャンダカの、コレ子孫共の野望は、この吾輩が挫く!!」

 「何だと!!
  貴様は何者だと言うのだ!?」

 「吾輩はニャンダコーレ!!
  コレ、ニャンダカニャンダカ一党の仇敵、ニャンダコラスの子孫である!!」

そう名乗ってニャンダコーレは撤退した。
0591創る名無しに見る名無し
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2019/07/12(金) 18:58:21.90ID:GI8E15B8
その儘、ニャンダコーレは四つ足で駆けて、市内の魔導師会支部に向かう。
途中、彼はビシャラバンガとコラルに会った。
ニャンダコーレは足を止めて、ビシャラバンガに話し掛ける。

 「ニャッ、コレ、良い所に!」

 「どうした、ニャンダコーレ?」

 「黒幕を見付けたのだ、コレ!!
  奴はヴェラと名乗った!」

 「ヴェラ……。
  確か、反逆同盟の中に、そんな名前の奴が居たな。
  エグゼラの狐だったか?」

 「コレ、それだ!!
  エグゼラの狐、コレ、妖狐が人の姿になった物!」

ニャンダコーレの話を聞いて、ビシャラバンガは大きく頷いた。

 「良し、これで反逆同盟と浮浪者殺しが繋がったな。
  魔導師会や都市警察も動く理由が出来た。
  よくやったぞ、ニャンダコーレ!」

彼に褒められたニャンダコーレは小さく笑う。

 「ニャヒヒ……。
  あー、コレ、しかし、油断は出来ないのだ。
  コレ、奴には妖獣共が付いている。
  それに奴自身も、コレ、未だ何か手を隠しているだろう、コレ」

 「……余程の化け物で無ければ、この己でも倒せる。
  心配するな」

少し謙虚なビシャラバンガの励ましに、ニャンダコーレは小さく頷いた。

 「ニャー、コレ、貴方の実力は知っている。
  頼りにしている、コレ」
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2019/07/12(金) 18:59:43.82ID:GI8E15B8
それからビシャラバンガはニャンダコーレに尋ねる。

 「それで、ヴェラと言う奴の居所は判るか?」

 「コレ、ここから南の橋の下に居たが……。
  今も同じ場所には、コレ、居ないと思う。
  誰でも、コレ、最後の手段は、最後まで取っておきたい物であるからして、コレ」

 「真面にやり合う積もりは無いと言う事か?」

 「コレ、強敵を避けるのは兵法の基本である。
  手強い強兵を避けて、コレ、多数の弱兵や無力な者を叩くのである。
  戦いはコレ、数であるからして、勝てる物とだけ戦うのだ」

ビシャラバンガは大きく頷き、再びニャンダコーレに尋ねた。

 「では、どう対応するべきだと思う?」

 「ニャー、コレ、無闇に追い掛け回すのは愚策である。
  今はコレ、確りと守りを固め、出向いて来た所をコレ叩くべきであろうな」

 「成る程、罠に掛けてみるか?」

 「ニャ?
  妙案があるのか、コレ?」

ビシャラバンガは小さく頷く。
彼等は再びポイキロサームズと合流して、魔導師会にヴェラの存在を伝えに向かった。
浮浪者連続殺人事件と呪詛魔法使いの出現は、やはり裏で繋がっていた。
これで魔導師会や都市警察も、浮浪者連続殺人事件の解決に動き出す筈だったが……。
0594創る名無しに見る名無し
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2019/07/13(土) 17:59:33.87ID:IfmU2mQF
 「私達も事の重大さは理解している積もりです。
  しかし、人手が足りないのですよ。
  呪詛魔法使いを追って、街の警邏をしながら、妖獣を追い払い、それだけでも手一杯なのに、
  更に外道魔法使いが居るなんて……」

魔導師会の反応は色好い物では無かった。
寧ろ、厄介事を持ち込まれて、迷惑していると言いう風な態度。

 「こちらに貸せる手勢は無いと言う事か?」

 「……はい。
  申し訳ありませんが……」

ビシャラバンガは謝罪が口先だけの物だと感じていた。
詰まる所、現行の体制を動かす事が億劫なだけなのだ。

 「心にも無い事を言う必要は無い。
  もっと正直に言ったら、どうなのだ?
  訳の解らない連中の報告で動く事等、出来る訳が無いと」

 「否(いえ)、決して、その様な事は……」

 「違うのか?
  では、こうか?
  そちらの事は、そちらで解決してくれと」

 「否々……」

 「どうやら、その様だな。
  気にするな、こちらも勝手に動いていると思われない様に、報告しているに過ぎぬ。
  この件に関して、こちらに一任して貰えるなら有り難い」

魔導師会の者は沈黙した。
その通り過ぎて、言い返す事が出来なかったのだ。
口先だけの言葉は、ビシャラバンガに嘘だと見抜かれる。
0595創る名無しに見る名無し
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2019/07/13(土) 18:00:40.01ID:IfmU2mQF
結局、魔導師会や都市警察の協力が得られない事に変わりは無かった。
ビシャラバンガの交渉が下手だった所為もあるが……。
彼は寧ろ、事情に明るくない者が割って入るのは、解決の妨げになると考えていた。
反逆同盟の魔法使い達は、対共通魔法使いに有利な性質を持っている事が多いのだ。
下手に大勢が出動すると、逆に纏めて対処され兼ねない。
ビシャラバンガはポイキロサームズと相談する。

 「やはり魔導師会や都市警察は、こちらにまで手が回らない様だ。
  ヴェラとやらは己達で退治するしか無い」

しかし、ポイキロサームズは不安がった。
亀女のコラルが言う。

 「私達だけで大丈夫でしょうか?」

 「その前にニャンダコーレの話を聞こう。
  ニャンダコーレよ、ヴェラに就いて教えてくれ」

ビシャラバンガの要請に、ニャンダコーレは深く頷いた。

 「ウム、コレ、私はヴェラと直接対峙した。
  それで判った事が、コレ幾つかある。
  先ず、ヴェラ自身は、コレ、大した力を持っていないのだ、コレ。
  厄介な物は、コレ、魔性の瞳と、簡単な獣魔法だけだ、コレ。
  コレ、詰まり……瞳と『咆哮<ロアリング>』にさえ気を付けていれば、コレ、後は腕力の勝負になる。  妖獣共を、コレ、従えているのも厄介ではあるが……」

ビシャラバンガは対処法を尋ねる。

 「どうすれば、魔性の瞳と咆哮を防げる?」

 「魔性の瞳は、コレ、魅了の一種である。
  コレ、瞳を覗かなければ良いのだが、相手と対峙するのに、コレ、瞳を見ないと言うのは、
  大きな制限となってしまう」
0596創る名無しに見る名無し
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2019/07/13(土) 18:03:09.78ID:IfmU2mQF
ニャンダコーレは指を立てる代わりに、爪を伸ばした。

 「コレ、しかし、魔性の瞳にも発動条件があるのだ、コレ。
  瞳には、コレ感情が表れる物。
  コレ、相手の感情を捉えなければ、コレ、効果が出ない。
  コレ、その点、諸君等ポイキロサームズは有利と言える。
  何故なら、コレ、爬虫類や両生類、昆虫類の瞳は、人とは違うのでな、コレ。
  『見る側』にとっては、コレ、見慣れない瞳に先ず驚いて、魔性を向ける所では無くなる」

蛙男のヴェロヴェロが確認する。

 「詰まり、俺達には魔性の瞳が効かないって事か?」

 「そうであるな、コレ。
  後は、コレ、咆哮に怯まなければ良い」

それなら何とかなるかも知れないと、ポイキロサームズは希望を持った。
しかし、蜥蜴女のアジリアが水を差す。

 「でも、どうやってヴェラと戦うんだ?
  素直に姿を現してくれるとは思えないけど」

 「それは……コレ、姿を隠して、囮作戦をするしか無いと思う、コレ」

 「誰が囮になるんだ?」

アジリアの問に、ニャンダコーレは一同を見回した。

 「コレ、出来るだけ人型に近い物が良いな」

そう言いながら、彼は囮に最適な人物を見定める。
0597創る名無しに見る名無し
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2019/07/14(日) 17:17:32.50ID:xQe1JVb0
ビシャラバンガは余りに巨体過ぎる。
当然警戒されてしまうだろう。
亀女のコラルは横に広過ぎる。
彼女も怪しまれる。
昆虫人のヘリオクロスも体が大き過ぎる。
ニャンダコーレは背が低い。
蛇男のヤクトスは足が無い為に、歩き方が不自然。
蜥蜴女のアジリアは尻尾が目立ってしまう。
そうなると、残りは……。

 「えっ、俺か!?」

蛙男のヴェロヴェロしか居ない。

 「頼むよ、ヴェロ」

アジリアに頼まれても、ヴェロヴェロは素直に頷けなかった。

 「いや、しかし……」

ヴェロヴェロも容姿は人間に近いとは言い難いが、フード付きローブで何とか誤魔化せる。
側(ガワ)を覆えば、太った男性で通らなくも無い。
それでもヴェロヴェロが躊躇う理由は、やはり恐怖心。
妖獣を従えた者と戦う決心が付かないのだ。
相手と一対一なら未だ良いが、妖獣を複数従えているとなると……。
ヤクトスも頼み込む。

 「他に居ないんだ。
  大丈夫、独りで戦えとは誰も言わないよ」

 「お前、他人事だと思ってさぁ……」
0598創る名無しに見る名無し
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2019/07/14(日) 17:18:53.44ID:xQe1JVb0
ポイキロサームズは特異な外貌をしているが、中身は普通の人間の積もりなのだ。
特別優れた能力がある訳では無いし、何か魔法が使える訳でも無い。
人並みに臆病でもある。

 「大体ヴェラってのは、何者なんだよ。
  獣魔法を使うって、野生児なのか?」

ヴェロヴェロの疑問に、ニャンダコーレは答える。

 「コレ、野生児と言う表現は中々面白い。
  ヴェラは、コレ、妖獣が人の姿になった物である」

その言葉にアジリアは驚いた。

 「私達とは逆って訳かい?」

 「コレ、そうであるな」

ポイキロサームズは人の心を持ちながら、人外の姿を持った者達だ。
獣から人間になったヴェラとは確かに逆。
だが、人に化ける妖獣の昔話は多くあるが、実際に人の姿に変化したと言う明確な記録は無い。

 「所謂『成り上がり<アップスタート>』って奴か?」

ヴェロヴェロが問うと、ニャンダコーレは首を横に振った。

 「ニャー、コレ、違う。
  コレ、成り上がり等と言う、可愛らしい物では無い。
  もっと悍ましい物だ、コレ」

 「悍ましい?」
0599創る名無しに見る名無し
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2019/07/14(日) 17:22:02.19ID:xQe1JVb0
ニャンダコーレは険しい顔になる。

 「奴はコレ、自力で人に変化した訳では無いのだ。
  コレ、体も魂も、幾つもの異物が、コレ一体になっている」

 「な、何だよ、それ……」

ヴェロヴェロは蒼褪め……は出来ないが、精神的な衝撃を受けて恐怖していた。

 「恐らくはルヴィエラの仕業だろうな、コレ。
  闇の力で、コレ、人間の体を造り、そこに無理遣り魂を押し込めたのだ、コレ」

 「そんな化け物を相手にするのかよ」

ニャンダコーレの説明でヴェロヴェロは悉(すっか)り弱気になる。
言葉だけ聞けば、どんな怪物なのかと恐れるのも無理は無い。

 「否、コレ、平素は普通の人間だ、コレ。
  コレ、何等かの本性を隠していても、追い詰められるまでは、コレ隠し通すだろう」

そこで影人間のシャゾールが言った。

 「ヴェロ、心配なら私が影に付いて行こう」

 「わっ、シャゾール、居たのか!」

 「他に適任者は居ないんだ。
  頼むよ、ヴェロ」

シャゾールに説得されて、ヴェロヴェロは渋々ながら頷く。
入念な準備が必要と言う事で、作戦の決行は翌日となった。
この日は魔導師会が手配した市内の宿に泊まって過ごす。
0600創る名無しに見る名無し
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2019/07/15(月) 18:29:42.24ID:9y8OB7iG
魔導師会の紹介と言う事で、宿の従業員達も一行の奇怪な風貌には目を瞑ってくれた。
事件と獣達の所為で旅行者が居ないので、宿は空々(がらがら)。
殆ど貸し切り状態である。
宿としても、貴重な客を逃す訳には行かなかった。
この宿には温泉があるが、ポイキロサームズの中でヴェロヴェロとヘリオクロスは湯に浸かれない。
囮の役目のヴェロヴェロは詰まらなそうに、和風の宿泊室から宿の中庭を見ていた。
彼は同室のヘリオクロスに語り掛ける。

 「ヘリオス、お前は温泉に行かないのか?」

 「コノ体デハ、ドウモ水ハ苦手デ……。
  ヴェロサンハ?」

 「俺は蛙だからな。
  熱い湯に入ったら、あっと言う間に茹で上がっちまう」

 「オ互イ大変デスネ。
  早ク人間ニ戻リタイナ」

 「ああ、全くだ。
  俺達を生み出した奴には、責任を取って貰いたい所だが……」

 「デモ、相手ハ大悪魔ダッテ」

 「そうだな、俺達じゃ足元にも及ばない。
  ヘリオ、何故お前は反逆同盟と戦うんだ?」

 「ドウシテモ何モ……。
  皆ガ一緒ダカラデスヨ。
  皆ガ止メルッテ言ッタラ止メマス。
  ヴェロサン、今更何デ、ソンナ事ヲ?

ヴェロヴェロは反逆同盟との戦いから抜けたいのかと、ヘリオクロスは思った。
0601創る名無しに見る名無し
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2019/07/15(月) 18:30:45.13ID:9y8OB7iG
ヴェロヴェロは意地の悪い質問をする。

 「――ってぇ事は、皆が戦わないって言ったら、お前も止めるのか?」

 「マァ、ソウデスネ。
  僕ダケデ戦ウノハ厳シイデスシ」

 「お前は、それで良いのか?」

 「エッ、何ヲ――」

ヘリオクロスは彼の言葉に驚いた。
「皆が戦っているから」と言う理由は、積極的な意思では無い。
誰か1人でも、やる気を無くしてしまったら、全員が意欲を失う。
そう言った脆さを孕んでいる。
ヴェロヴェロは真っ直ぐヘリロクロスを見ていた。

 「何デ僕ニ、ソンナ事ヲ聞クンデスカ……?」

 「やる気が無えなら、止めた方が良いぜ。
  不本意な戦いで死にたか無えだろう?」

 「不本意……」

ヘリオクロスは真剣に自分の置かれた状況に就いて考える。
ヴェロヴェロは警告しているのだ。
今の浮ら浮らした心の儘では、危機に対応出来ないと。
自分達が絶対に安全と言う事は無い。
反逆同盟との戦いに参加している以上、どこかで危険な目に遭う事は覚悟しなければならない。
0602創る名無しに見る名無し
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2019/07/15(月) 18:31:30.15ID:9y8OB7iG
ヘリオクロスは逆にヴェロヴェロに問う。

 「ヴェロサンハ、ドウナンデスカ?
  何デ戦ウンデスカ?」

 「俺は……。
  そうだな、俺にだって人の役に立とうって気持ちはあるんだ。
  俺にしか出来ない事があるなら、やってやろうって思う」

 「ソレデ死ンデモ良イッテ事デスカ?」

 「何言ってんだ、良かねえよ。
  でも、死ぬかも知れねえだろう?
  その時に後悔しねえかって事だよ」

 「ヤッパリ、怖インデスカ?」

ヘリオクロスはヴェロヴェロが急に、こんな話を始めたのは、自分が囮をする事に対して、
恐怖や不安があるからでは無いかと考えた。
ヴェロヴェロは数極の間を置いて、小声で答える。

 「怖いか怖くないかで言ったら、怖い。
  怖(こえ)えよ、そりゃあな。
  でも、止める訳にも行かねえだろうよ。
  何でとか、詰まらん理由は要らねえ。
  やるからには、やる。
  お前達が止めても関係無え。
  俺は、こんな姿になる前の俺の事を覚えちゃいねえが、多分、そう言う性格だったんだ。
  これは言わば、俺の魂の証明みてえな物だ」

そう力強く断言出来る彼が、ヘリオクロスは少し羨ましかった。
0603創る名無しに見る名無し
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2019/07/16(火) 18:47:11.41ID:OX9zjsbc
ヘリオクロスは俯き加減で言う。

 「僕ハ……屹度、臆病ナンダナト思イマス。
  コウナッテシマウ前ノ僕モ」

 「ああ、だから無理すんなよ」

 「ソレデモ僕ハ、皆サント一緒ニ居マス。
  コウシテ会エタノモ何カノ縁デス。
  皆一緒デ居マショウ。
  反逆同盟ヲ打チ倒スマデハ……」

 「その後は、どうするんだ?」

ヴェロヴェロの問に、ヘリオクロスは自信の無さそうな声で言った。

 「ヤッパリ、皆撒ラ撒ラニナッチャウンデスカネ……?」

 「そりゃ何時までも皆仲良く一緒にって訳には行かねえだろうな。
  今は皆、目的があって一緒に居るだけだ。
  何時か、それぞれの道を見付けて歩く事になる」

 「僕ニハ何モアリマセン……」

小声で零したヘリオクロスを、ヴェロヴェロは慰める。

 「まぁ、そんな物だろう。
  俺だって今後の事なんか、何も決めちゃいねえんだ。
  でも、何とかなるさ。
  そう言う気持ちで居なきゃ、後ろ向いてばっかじゃ、どう仕様も無えぜ」

 「ヴェロサンハ強イデスネ……」

 「そうでも無えよ。
  雑な持ち上げ方すんな」

何時の間にか、外は雨になっていた。
それぞれの思いを胸に、囮作戦の日を迎える。
0604創る名無しに見る名無し
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2019/07/16(火) 18:47:55.43ID:OX9zjsbc
翌日、雨は止む所か益々激しくなっており、囮作戦は一旦中止になった。
雨の中では、獣も濡れるのを嫌がって出歩かないのだ。
しかし、ヴェロヴェロは提案する。

 「今こそヴェラとか言う奴を探す好機じゃないか?」

 「どうして?」

アジリアの疑問に彼は淡々と答える。

 「雨が降っていれば、獣は出歩かない。
  それは詰まり、監視の目が緩むって事だろう?」

 「向こうから来るのを待つんじゃなくて、こっちが奴を探しに出向くって訳かい?」

 「ああ、この雨なら、どこか屋根のある所で休んでいる筈」

 「しかし、『この雨』だよ」

蛙のヴェロヴェロと亀のコラルは、雨を問題にしないが、他の者達は違う。
アジリアもヤクトスも雨に濡れるのは好きでは無い。
序でに、ニャンダコーレも。
ビシャラバンガは目的の為ならば、多少の事は苦では無い性格なので、気にしない。
こう言う時はビシャラバンガが意見の纏め役を買って出るべきなのだが、彼は人の和に疎かった。
ヴェロヴェロが熱弁を振るう。

 「雨が何だよ。
  俺達は何の為に、この街に来たんだ?」

 「自棄に張り切ってるじゃないか?」

一体どうした事だと、アジリアはヴェロヴェロの態度に驚いた。
0605創る名無しに見る名無し
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2019/07/16(火) 18:48:40.77ID:OX9zjsbc
そこでヘリオクロスが彼に加勢する。

 「僕モ今ノ内ニ叩クベキダト思イマス。
  今ナラ妖獣モ少ナイデスカラ、戦イモ楽ニナルデショウ」

 「ヘリオス、あんたも雨は一等苦手だったじゃないか?
  どう言う風の吹き回しだい?」

 「今ハ、ソウ言ウ事ヲ言ッテル場合ジャ無イッテ事デス」

2対1で押されているアジリアに、今度はニャンダコーレが加勢した。

 「コレ、コレ、落ち着くのだ、コレ。
  急いては事を仕損じると、コレ、言うだろう。
  コレ、一応魔導師会にも断りを入れておかなければ、コレ、私達だけで奴と戦うのでは無いのだ」

ヴェロヴェロもヘリオクロスも彼に説得される。
だが、ここで話が落ち着き掛けていたのに、ビシャラバンガが口を挟む。

 「こちらから打って出るのは、妙案だとは思う」

 「ビシャラバンガ、コレしかし、ヴェラが今どこに居るのか絞り込む必要があるのだぞ、コレ。
  闇雲に市内を歩き回るのでは無く、コレ、土地勘のある者を頼るのだ。
  それは、コレ、やはり魔導師会か都市警察の者だろう」

 「連中が協力してくれるか?」

ビシャラバンガは魔導師会や都市警察の手を借りるのに、否定的だった。
ニャンダコーレは彼を説得する。

 「今は雨だ、コレ。
  魔導師会や都市警察の見回りも少なかろう」
0606創る名無しに見る名無し
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2019/07/17(水) 18:56:08.60ID:ezlqGDMa
ビシャラバンガは一同を見回して、改めてニャンダコーレに尋ねた。

 「それで……誰が魔導師会に渡りを付ける?」

この中で交渉上手な者は居ない。
全員が沈黙していると、そこへ隠密魔法使いのフィーゴ・ササンカが現れた。

 「その役目は私が果たそう、ニャンダコーレ殿」

 「ニャ、コレ、ササンカ殿!
  何時から居たのか、コレ?」

 「最初から居たぞ。
  交渉にヤクトス殿を借りて行くが、構わないな?」

 「えぇっ、私ですか?」

驚くヤクトスにササンカは真面目な声で言う。

 「私達だけでは相手にされないだろうから、親衛隊の手を借りたい。
  ストラド・ニヴィエリの事だ。
  ヤクトス殿は彼と親しいのだろう?」

 「親しいと言うか……。
  ウーム、他の人達よりは親しいと言って良いんでしょうか……?」

ヤクトスは親衛隊員ストラドが未だ執行者だった頃から、行動を共にしていた。
他の者達より関係が深いと言えば深い。
ササンカは弱気なヤクトスに力強く告げる。

 「とにかく話をする。
  細かい事は、その後だ」
0607創る名無しに見る名無し
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2019/07/17(水) 18:56:49.39ID:ezlqGDMa
ヤクトスとササンカは親衛隊員ストラド・ニヴィエリに、仲介を頼みに行った。
ストラドはボルガ魔導師会支部で、呑気に寛いでいた。

 「どうした、『蛇男<ヴァラシュランゲン>』?
  失礼、今は名前があるんだったか?
  あー……ヤークト?」

 「ヤクトスです」

 「そう、ヤクトス。
  何の用だ?」

 「この辺の地理に明るい人を探しています」

 「そりゃ何で又?」

 「えーと、この大雨でしょう?
  獣は濡れるのを嫌って、雨宿りしている筈です」

 「お前達は浮浪者連続殺人事件を追っていたんじゃないのか?
  何で獣の話が?」

 「ああ、えーと、そこから説明しないと駄目でしたか……。
  実は反逆同盟が関わっていた事が判ったんです。
  犯人はヴェラと言う、妖獣から人間になった女です」

 「ヴェラ……。
  反逆同盟に、そんな奴が居ると言う話だったな。
  詳細は不明だが……」

 「そのヴェラと言う女が、妖獣を従えているんです。
  だから、妖獣が出歩けない今の内に、居所を探して叩こうって……」
0608創る名無しに見る名無し
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2019/07/17(水) 18:57:23.81ID:ezlqGDMa
ストラドは大きく頷く。

 「話は解った。
  それで居所の見当は付いているのか?」

 「多分……。
  私は分かりませんけど」

自信無さそうなヤクトスに、ストラドは呆れて溜め息を吐いた。

 「やれやれ、こう言う時は嘘でも良いから、判っていると言うんだ。
  幸い、話が解る俺だから良い物のな」

ササンカが話を締めに掛かる。

 「それでは頼めますか、ストラド殿?」

 「ああ。
  地理に明るいって事は、地元の奴が良いな。
  暇そうな奴を見付けて、手配してやるよ」

 「感謝します」

 「おう、大いに感謝してくれ」

ヤクトスとササンカはストラドに渡りを付けて貰い、地元の執行者を遣して貰える事になった。
彼の名はミヤ・ロクセン。
ボルガ地方魔導師会法務執行部所属の執行者で、取り立てて優秀では無い、程々の執行者だ。
本当に、唯単に地元民だと言う事だけで、ポイキロサームズ等の元に派遣された。
彼は最初、ポイキロサームズの特異な風貌に驚いていたが、それも直ぐに慣れる。
そして、早速ホテルにて作戦会議に参加するのだった。
0609創る名無しに見る名無し
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2019/07/18(木) 18:27:35.20ID:HlSb7P3M
ロクセンはポイキロサームズ、ニャンダコーレ、ビシャラバンガ、ササンカと顔を付き合わせて、
ボルガ市の地図を睨みながら、ヴェラの居そうな場所を探す。
ロクセンは先ず、自分の見解を言う。

 「この雨ですから、下水道は増水していて使えないでしょう。
  無人の空き家や倉庫が怪しいですね」

更に捜索地点を絞り込むべく、ニャンダコーレが発言した。

 「コレ、奴は多数の妖獣を従えている。
  それなりに広い場所に、コレ居ると思う」

 「そうなると……。
  ウーム、無人の広い場所……。
  でも、屋内は大体避難所になっていますから……。
  屋根さえあれば良いのでしょうか?
  それなら、大街道の高架下とかですかね……。
  今なら浮浪者も居ないでしょうから、都合が好いでしょう」

 「そうと決まったら、コレ、大街道沿いを探しに行けば……、コレ、良いのかな?」

 「ええ、多分。
  でも、大街道は長いので、雨の内にと言うのであれば、手分けして探す事になります」

大街道はボルガ市の中心から北西、西、南西、南南西、南に分かれている。
それぞれの道を辿って一々調べて行くとなると、結構な時間が掛かる。
そこでビシャラバンガが提案した。

 「己に良案がある。
  浮浪者達のネットワークを活用するのだ。
  今なら、どこに妖獣が多いか判る筈」

浮浪者達も人目に付かず、且つ、雨風を凌げる場所を知っている。
都合の好い場所は、先ず浮浪者が目を付けている筈なのだ。
そして妖獣とは居場所を奪い合う事になる。
0610創る名無しに見る名無し
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2019/07/18(木) 18:27:58.49ID:HlSb7P3M
ビシャラバンガは浮浪者達から聞き込みをして、妖獣達が屯している場所を特定した。
それは南西のブリウォール街道の高架下。
人気の無い河川と一般道路を跨ぐ高架の下には、種々の妖獣達が犇めいている。
犬、猫、狐、狸、熊、亜熊……。
その様にポイキロサームズは戦慄した。
ポイキロサームズは特異な風貌を持ち、それぞれの外見に応じた生物の特徴を持っているのだが、
特別な魔法が使えたり、魔法資質が特別に優れていたりする訳では無い。
獣の群れと戦うのは難しい。
そこでビシャラバンガが先陣を切る。

 「先ずは、己が行ってみる。
  お前達は逃げ出す獣共の中に、ヴェラとやらが居ないか見張ってくれ」

そう言って、彼は堂々と正面から高架下の獣達に向かって行った。
高い魔法資質を持つビシャラバンガは、魔力を纏って巨大化する。
その威容に獣達は怯んだ。
接近して来るビシャラバンガから遠ざかり、距離を取る。
獣達は押し合い圧し合い、高架の下から食み出す物達も居る。
高架の下に入ったビシャラバンガは、獣達の集団に向かって前進する。
獣達は後退を続けて、弱い物達は高架の下から追い出され、雨に打たれる。
ビシャラバンガが1歩足を前に踏み出す度に、魔力の衝撃波が獣達を襲う。
これは物理的な衝撃波とは違う。
振動を感じはするが、実際に体が後方に押されたりはしない。
揺さ振られるのは精神だ。
魔法資質が鋭敏であり、且つ魔法資質が魔力の衝撃波より弱い存在は、自身の内の魔力の流れを、
衝撃波によって崩される。
これが強烈な違和感や不快感となり、一層の恐怖を喚起する。
0611創る名無しに見る名無し
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2019/07/18(木) 18:28:47.88ID:HlSb7P3M
ビシャラバンガは妖獣達に呼び掛ける。

 「ヴェラとやらは、どこだ!?
  貴様等、軟弱な獣共を率いて、お山の大将気取りの者は!」

怒気を孕んだ彼の言葉は、丸で獣の咆哮だ。
小さな獣達は怯んで逃げ出す。
熊や亜熊でさえ、ビシャラバンガに比すれば、子供同然。
圧倒的な『力』の化身。
それが巨人魔法使いのビシャラバンガなのだ。
多くの獣達は高架下から出て行き、散り散りに雨の中を逃げ出す。
半分近くの獣が高架下から逃げ出した所で、漸くビシャラバンガの前にヴェラが現れた。
否、ビシャラバンガがヴェラの居る所まで、獣達を押し退けて進んだと言うべきか?
金髪の美しい娘の姿をしたヴェラを、ビシャラバンガは睨み付ける。

 「貴様がヴェラか!」

 「そうだ。
  そう言う貴様は?」

流暢な人語を話す彼女は、丸で人間だ。
しかし、ビシャラバンガには判る。
彼女の魔法資質は明らかに異常。
得体の知れない物が混然一体となっている。
ヴェラを盾として彼女の後ろに隠れていた獣達は、その異様さに漸く気付いた。
そしてヴェラからもビシャラバンガからも離れる。
0612創る名無しに見る名無し
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2019/07/19(金) 20:30:43.32ID:42fx2VWB
ビシャラバンガはヴェラに言った。

 「フン、所詮は野に生きる獣だ。
  忠誠心等と言う物は、持ち合わせていない」

それでも彼女は動じず、堂々としている。

 「元から期待等していない」

 「貴様の詰まらん遊びも、これで終わりだ」

 「ホホホ、終わり?
  どう終わりだと言うのだ?
  貴様が私を倒すとでも?
  どうやって?」

ビシャラバンガの威容にも、ヴェラは怯まない。
その態度が彼の癇に障った。

 「女は殴れないとでも思っているのか?
  貴様の様な外道に、男も女もあるまい。
  少しでも助かりたいと言う気持ちがあるなら、大人しく魔導師会の裁きを受けるのだな」

 「ホホ、もう勝った積もりで居るのか?
  お目出度い奴よ」

ビシャラバンガは高笑いするヴェラに向かって、魔力の塊を打ち出した。
魔力の飛ばす、『魔力弾<エナジーバレット>』と言う初歩的な魔法だ。
ビシャラバンガの高い魔法資質によって物質化された拳大の魔力弾は、石の様な硬さになる。
それが彼の怪力で、恐ろしい速さで飛んで行くのだから、ヴェラには避けられない。
0613創る名無しに見る名無し
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2019/07/19(金) 20:31:14.26ID:42fx2VWB
ヴェラは鳩尾に投石を食らった様な衝撃を受けて、その場に崩れ落ちた。
彼女は激しく噎せ込んで、しかし、不敵な笑みを浮かべる。
効いていない訳では無い。
確かに痛みを受けているし、肉体も損傷している。
それをビシャラバンガは気味悪く思った。

 「……何だ?」

 「フッフフフ、効かんよ」

 「どう見ても、効いているが……」

 「貴様には判らんのか?
  我が内に潜む物が……。
  もっと私を痛め付けろ。
  人の身は狭い狭いと嘆いておる。
  肉体と言う器を破り、解き放たれる時を、今か今かと待っておるのだ」

彼女の言動にビシャラバンガは怯み、追撃を止めた。
ヴェラを殺すのは簡単だが、それが何かの引き金になると彼は理解する。
戦いに関して鋭い嗅覚を持つ彼には、ヴェラの言葉が感覚で理解出来るのだ。
ヴェラは美しい女性の体の内に、途轍も無く巨大で醜い「何か」を押し込めている。
それは打撃を受ける度に彼女の中で膨らみ、突き破って表に出て来ようとしている……。
ヴェラは薄気味悪い笑みを浮かべた。

 「ククク、どうした?
  攻めて来ないのか?」

彼女は浸々(ひたひた)とビシャラバンガに向かって歩き始めた。
0614創る名無しに見る名無し
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2019/07/19(金) 20:32:14.73ID:42fx2VWB
ビシャラバンガは顔を顰めて、腰を溜め、魔力弾発射の構えを取る。
構えだけで、実際に発射しはしない。
これでヴェラの反応を見た。
しかし、ヴェラは歩みを止めたりはしない。
恐れて怯む事も無い。

 「威嚇の積もりか?
  可愛いな」

ヴェラはビシャラバンガの対応を嘲笑った。
それは弱者に向ける顔。
優越と侮蔑の笑み。
怒りを感じたビシャラバンガは小さく自嘲して、強気にヴェラに対して笑みを返した。
それは未知に立ち向かう挑戦者の顔。
更なる己の高みを見る笑み。
ヴェラは歩みを止めずに、一層見下しの感情を強くする。

 「強がるな。
  私は強者、お前は弱者。
  身の程を弁えぬ者に明日は無い」

対してビシャラバンガも言い返す。

 「強がっているのは、どちらか?
  貴様の目は曇っている様だな。
  力に溺れた者の目だ」

彼は無防備に近付いて来るヴェラに、魔力弾で弱い一撃を加えた。
魔力弾は彼女の肋骨を叩き、心臓に衝撃を与える。
0615創る名無しに見る名無し
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2019/07/20(土) 17:54:47.27ID:SXjrbOry
ヴェラの心臓は心室細動を起こす。
彼女は蒼褪めて、魚の様に口を開閉させた。
ビシャラバンガは憐れみの目を向ける。

 「……肉体を傷付けずとも、命を失わせる方法は幾らでもある。
  力押しだけが戦いでは無い」

ヴェラは必死に呼吸して、自分の胸を叩く。
しかし、益々苦しくなって行くばかりだ。
彼女は最後の力を振り絞って、最終手段に出た。

 「わ、私……は……、死な……ん……!」

ヴェラは鋭く伸びた爪で、自らの腹を引き裂く。
自ら体を破壊する事で、内に封じられた物を解き放つのだ。
鮮血が噴き出し、雨で湿気た地面を赤く染めて行く。

 「お、おぉ……」

ヴェラは満足気に微笑みながら、俯せに倒れて息絶えた。
傍目には狂ったとしか思えない行動。
だが、ビシャラバンガは気を抜かない。
ヴェラの肉体は死したが、その魔力反応は消えていないのだ。
約1点後、ヴェラの肉体は再び動き出す。
生気を失った彼女の体は徐々に暗緑色に変色し、腐敗して溶け落ちる。
それは緩やかに拡がって泡立ち、宛ら毒沼の様になった。
妖獣達はヴェラの死に動揺して、暫く茫然と立ち尽くしていた。

 「ギャーーーーッ!!」

突然、妖獣達の中から悲鳴が上がる。
0616創る名無しに見る名無し
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2019/07/20(土) 17:57:13.07ID:SXjrbOry
見れば、化け猫が1匹、緑色の粘液に絡め取られていた。
化け猫は徐々に力を失い、やがて粘液に呑み込まれて行く。
妖獣達は『恐慌<パニック>』に陥り、その場から逃げ出そうとするが、足元が忽ち緑の沼に変じる。
妖獣達は足を取られて、脱出も儘ならず、小さい物から順に沼に沈んで行く。
ビシャラバンガは妖獣を助ける積もりは無いが、この目の前の恐ろしい事態を何とかしなければ、
もっと恐ろしい事が起きるのでは無いかと感じていた。
彼は大地に拳を突き、その衝撃で地上に魔力を巡らす。

 「ギャギャッ!!」

何割かの妖獣は、魔力の衝撃派で粘液から逃れる事が出来た。
粘液から脱出した妖獣は、一目散に雨の中を走って逃げる。
粘液の沼から幾つもの泡が立ち、弾ける。
その音は丸でヴェラの笑い声の様だった。

 「ロホホホホ、ロホホホホ」

ビシャラバンガは粘液の正体が、魔力を纏った液体だと気付く。
彼は自ら魔力の粘液に踏み入り、魔力を纏わせた拳を叩き込んだ。

 「化け物め!!」

魔力の衝撃が電撃の様に粘液から魔力を分離させる。
粘液に捕らわれていた、妖獣達の死体が浮き上がる。
骨と皮だけになった物や、溶けた肉塊の様な物が……。
遠くで戦いの様子を見ていたポイキロサームズは恐怖した。
ヴェラは人の体を捨て、不定形の悍ましい怪物になったのだ。
勇敢なニャンダコーレも逃げ出したい気持ちを抑えるので精一杯だった。

 「こ、これが奴の正体なのか、コレ……」
0617創る名無しに見る名無し
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2019/07/20(土) 18:00:11.77ID:SXjrbOry
ニャンダコーレはササンカに呼び掛ける。

 「コレ、ササンカ殿!
  早く魔導師会に連絡を!」

 「相解った!」

ササンカは風の様に迅く、魔導師達を呼びに行く。
次にニャンダコーレはポイキロサームズに指示した。

 「コレ、私達もビシャラバンガに加勢に行くぞ!」

 「加勢ったって、俺達に何か出来る事があるのかよ」

ヴェロヴェロは困惑を露に問う。
実際、何等特別な力を持たないポイキロサームズは、戦力としては数えられない。
ニャンダコーレは少し考えて、自分の考察を述べる。

 「あれは、コレ、ヴェラの魔力に水が反応した物!
  恐らくヴェラは、コレ、自分の体細胞を水に溶かして、あの様な姿になったのだ、コレ!」

 「だから、どうすれば良いんだよ!」

ヴェロヴェロは原理よりも具体的な対策を求めた。
ニャンダコーレは数極の思案後に決然と告げる。

 「コレ……、燃やす!!」

確かに、ヴェラの液体の体は燃やし蒸発させれば、小さくなる。

 「燃やす!?
  でも、今は雨だ!」
0618創る名無しに見る名無し
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2019/07/21(日) 17:53:39.84ID:MaxQPlN4
雨では火の勢いは弱まる。
魔力の炎は水の中でも燃え続けるが、それでも火勢が弱まる事は避けられない。
強い炎で一度に焼き尽くさなければ、ヴェラを倒せない。
ニャンダコーレは言う。

 「コレ、とにかく火種と燃料になる物を探して来るのだ!
  それまでは私とビシャラバンガで、コレ、何とか食い止める!」

彼はビシャラバンガの元に駆け付け、呼び掛けた。

 「ニャー、コレ、ビシャラバンガよ!
  『球体成型<モールド・スフィア>』でヴェラを閉じ込めるのだ、コレ!」

 「ムッ、成る程!」

ビシャラバンガは直ぐに理解して、液体のヴェラを覆う様に魔力を展開させる。
彼の優れた魔法資質を以ってすれば、拡がったヴェラの回収も容易。
だが、ヴェラも無策では無い。
緑色の沼から、ヴェラの形をした物が飛び出す。

 「ホホホ、ホホホホホ」

それは人の言葉は喋らないが、耳障りな笑い声を上げながら、ビシャラバンガの魔法から逃れる。
その動きは元は液体とは思えない程、身軽で素早い。
丸でトビネズミの様に軽快に跳ね回る。
ビシャラバンガはヴェラの大部分を球体に閉じ込めたが、数体のヴェラの分身を取り逃した。

 「ええい、逃したか!!
  ニャンダコーレ、どうにかしろ!」

 「ニャッ、しかし、液体では……」
0619創る名無しに見る名無し
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2019/07/21(日) 17:54:30.73ID:MaxQPlN4
ヴェラの分身はビシャラバンガから離れて、市街地へ向かっていた。
ニャンダコーレは風の刃で仕留めようとするも、液体が相手では効果が無い。
更に、大雨が彼の集中力を削る。

 (ムムム、コレ、この雨では……!)

ヴェラの分身は地表を流れる水に乗って、滑る様に移動する。
その姿は人型から獣型に変化して、速度を上げる。
ニャンダコーレは懸命に彼女を追った。
ビシャラバンガはヴェラの大部分を押し留めているので、その場を動く事が出来ない。
数点して、ササンカがロクセンを連れて、戻って来る。

 「ビシャラバンガ殿、暫し待たれよ!
  直ぐに魔導師会が来る!」

 「己の事は構わん!
  今暫くは持つ!
  それよりも、ニャンダコーレを追え!!」

 「ニャンダコーレ殿が、どうされた!?」

 「街の方へ、分裂したヴェラを追って行った!」

ビシャラバンガの話を聞き、ロクセンが驚いた声を上げた。

 「街へ!?」

 「追うぞ、ロクセン殿!」

ササンカが駆け出すと、ロクセンも彼女を追う。
0620創る名無しに見る名無し
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2019/07/21(日) 17:55:18.88ID:MaxQPlN4
ロクセンは魔力通信で、他の魔導師達に呼び掛ける。

 「こちらミヤ・ロクセン!
  市街地に『ヴェラ』が向かっている!
  ……えっ、特徴!?
  どんな奴かって……」

彼は変化したヴェラを見ていなかったので、何とも言えなかった。
ササンカが助言する。

 「緑色の液体だ!」

 「み、緑の液体です!
  その取り零しが市街地に向かっていると!
  ……えっ、何をする積もりかって!?
  それは……」

ロクセンは再びササンカを見たが、彼女にもヴェラの目的は判らない。

 「判らない!
  だが、とにかく止めるべきだ!」

 「わ、判りません!!
  とにかく止めて下さい!」

通信の向こうの魔導師達は反応に困っている。
市民に被害が出そうなら、避難させるなり、屋内に止まらせるなり、対策を取らないと行けない。
市民の命を預かる者として、どの様な被害が想定されるかも判らないと言うのは、非常に困るのだ。
しかし、判らない物は仕方が無い。
0621創る名無しに見る名無し
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2019/07/22(月) 19:15:00.68ID:vBAJjNZu
魔導師会の執行者達は、呪詛魔法使いの捜索とは別部隊で、ヴェラを討伐する小部隊を編成した。

 「相手は液体だって?」

 「そう言う話だ。
  魔力を持った……水精とか、そう言うのだろうな」

 「どうやって戦えって言うんだよ?
  しかも、この少人数で」

ヴェラ討伐隊は5人編成。
これから正体不明の外道魔法使いと戦おうと言うのに、余りにも心許無い。

 「仕方無いだろう。
  陽動の可能性もあるんだ。
  文句ばっかり言ってないで、魔力探知を掛けろ。
  出た所勝負だ」

5人の執行者達は魔力探知で、異質な魔力の流れを探す。
反応は直ぐにあった。

 「南方に反応が4つ。
  1つだけ何か違う物が……」

 「4つか!
  それなら1人1つで行けるな!
  絶対に取り逃すなよ!」

隊長格の指示で、執行者達は一人一殺を目標に魔力反応の元へ向かった。
0622創る名無しに見る名無し
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2019/07/22(月) 19:15:49.10ID:vBAJjNZu
4つの反応の内、1つはニャンダコーレだ。
ニャンダコーレはヴェラの分身を追って、魔法攻撃を仕掛けていた。

 「Naoooo――!!」

打撃が効かないなら、音で攻める。
鳴き声に魔力を乗せて、丸で遠吠えする様に。
魔力が共鳴してヴェラの液状の体を崩して行く。
ヴェラも受けてばかりでは無かった。
彼女は足を止めて、獣の姿に変じ、ニャンダコーレに襲い掛かる。
彼女が取った動物の姿は虎だ。
緑色の液体の虎となって、吠え、噛み付く。

 「グルルルル……」

それは真似事等では無く、正しく虎その物。
ヴェラは取り込んだ動物の魂を再現している。
ニャンダコーレは四つ足で応戦するも、雨の中では俊敏な動きが出来ない。
地面は泥濘んで足を取り、雨水は冷たく体に圧し掛かって体温を奪う。

 「クッ、コレ……」

自らの不利を自覚しつつも、ニャンダコーレは引き下がろうとしない。
ニャンダコラスの子孫が、邪悪な力を手にしたニャンダカニャンダカの子孫に負ける訳には、
行かないのだ。
虎と化したヴェラの攻撃を避けながら、しかし、ヴェラが街へ逃げない様に誘導する。

 (コレ、所詮は獣の知能だ!
  逃げる物を見れば、コレ、追わずには居られない!)
0623創る名無しに見る名無し
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2019/07/22(月) 19:16:36.72ID:vBAJjNZu
ヴェラとニャンダコーレが交戦している所に、2人の執行者が駆け付けた。

 「おっ、何だ、ありゃ!?」

 「化け猫と……何か変なのが戦っているぞ!」

2人は足を止めて、どちらに加勢すべきか一瞬迷う。

 「えーと、敵は水の精霊だっけか?」

 「だったら、化け猫を助けるのか?」

 「そうだな。
  危(ヤバ)そうな奴から片付けよう」

執行者の2人はニャンダコーレよりも、得体の知れない液体の虎を警戒した。
化け猫位なら、どうとでもなるだろうと言う侮りもあったが、真実間違った判断では無かった。
執行者の2人が近付くと、ヴェラは気配を察知して逃走しようとする。
ニャンダコーレも執行者に気付き、人語で命じた。

 「ニャッ、コレ、逃がすなっ!!
  そいつを捕まえるのだ、コレっ!!」

ニャンダコーレの指示を受けて、執行者達は互いの顔を見合う。

 「捕まえろってよ」

 「そりゃ逃がす訳には行かない」

2人は呑気な会話をしながら、共通魔法で一瞬にして液体の虎を凍らせる。
執行者は魔導師の中でも腕利きの者達。
強大な力を持ったヴェラ本体なら未だしも、力の弱い分身では相手にならないのだ。
0624創る名無しに見る名無し
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2019/07/23(火) 19:17:55.99ID:hMzEPN8V
凍った液体の虎を見て、執行者の2人は相談する。

 「それで、どうするよ、これ?」

 「取り敢えず、持って帰ろうぜ。
  分析して貰えば、何か判るだろう」

 「誰が持って帰るんだよ、こんなの……。
  面倒臭えなぁ」

ニャンダコーレは執行者達に駆け寄って、先ずは礼を言った。

 「コレ、助かった。
  有り難う」

執行者達は彼を只の化け猫としか思っておらず、軽く遇う。

 「礼が言えるとは中々躾の行き届いてるニャン公だな」

 「良し良し、大丈夫か?」

不用意に頭を撫でようとする執行者の手を、ニャンダコーレは振り払って訴えた。

 「コレ、そんな事より、急ぐのだ!
  こいつと同じ物が、コレ未だし2体居る!」

必死な様子の彼を執行者達は宥める。

 「心配するな、俺達の仲間が対処している」

 「コレ、本当か!?」

 「嘘は言わねえよ、安心しな。
  この程度の奴に後れを取る程、魔導師は弱くねえ」

ニャンダコーレは耳を垂らして、安堵の息を吐いた。
0625創る名無しに見る名無し
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2019/07/23(火) 19:19:17.35ID:hMzEPN8V
しかし、未だビシャラバンガの所にヴェラの本体が残っている。
ニャンダコーレは改めて訴える。

 「しかし、コレ、未だ本体が残っているのだ。
  私の仲間が、コレ、戦っている。
  何とかして欲しい、コレ」

 「ウーム、しかし、こいつを放って置く訳にはなぁ……」

執行者の1人は、凍った虎を見ながら両腕を組んだ。
そこで、もう1人が言う。

 「こいつは俺が見ておく。
  お前はニャン公と行ってくれ」

 「……解った。
  そっちは早い所、応援を呼んでくれ」

 「あいよ」

ニャンダコーレは執行者を連れて、ビシャラバンガの元に急ぐ。
――一方その頃、ポイキロサームズは火の元になる物を探していた。
アジリアが他の仲間に問う。

 「今、この街で手に入る物って何がある!?」

ヴェロヴェロが答えた。

 「油とか?」

 「油……。
  店に売ってれば良いけど、開いてる店があるのかい?」

 「開いて……開いていないかもな。
  そん時は勝手に持っていくしか無えよ。
  金は後で払えば良いだろう」
0626創る名無しに見る名無し
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2019/07/23(火) 19:20:30.53ID:hMzEPN8V
足の速い(※)ヤクトスが、先に油屋を発見する。

 「こっちに油屋があるぞ!」

油屋とは文字通り、油を売る店だ。
料理用では無く、可燃性の高い危険な物を売る為に、専門店が取り扱う。
今日は開店していないのだが、一刻を争う時に、そんな事は言っていられない。
ヤクトスは店の戸を叩いて、店員を呼ぶ。

 「開けて下さい!
  誰か居ませんか!?」

大抵どこの店でも、閉店時であっても緊急時の為に、店番は置く物だ。
店員はヤクトスの呼び掛けに応えて、姿を現した。

 「はい、はい、何事ですか……?
  うっ、うわぁあああ!?」

しかし、彼は異貌に驚いて、腰を抜かす。
ヤクトスは腕の生えた巨大な蛇だ。
胸部は人間の様に幅広になっていて、肩部も明確になっているが、下半身は殆ど蛇その物。
店員は彼の目を見て、気絶してしまう。

 「あっ、あのー?
  ど、どう仕様……。
  取り敢えず、中に運んで安静にさせないと」

ヤクトスは店員を抱えて、店の中に入った。


※:足は無い
0627創る名無しに見る名無し
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2019/07/24(水) 18:50:03.74ID:et6g9VP5
そこへアジリアとヴェロヴェロが駆け付ける。

 「ヤクトス!?」

 「やっちまったか!?」

ヤクトスは慌てて弁解した。

 「いや、違う、誤解です!
  この人は私の姿を見て、気絶して……」

アジリアとヴェロヴェロは安堵する。

 「気絶してるだけか……。
  それなら良かった」

 「こいつは好都合だ。
  今の内に、油を持って行こう」

ヴェロヴェロは油の入った『瓶<ボトル>』を両手に抱えて、早々と店を後にしようとした。
流石にアジリアが彼を止める。

 「一寸待った、ヴェロ!
  あんた、この儘で行く気なの!?」

 「仕様が無えだろう?
  一々許可取って、金払ってる暇なんか無えんだ!
  そう言うのは、全部終わった後に、魔導師会に何とかして貰えば良い!
  ヤクトス、お前も来い!!
  店員は、そこら辺に寝かせとけ!」

彼は先に雨の中を走って行く。
0628創る名無しに見る名無し
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2019/07/24(水) 18:51:19.75ID:et6g9VP5
アジリアとヤクトスは店員をバックヤードに寝かせると、自分達も油入りの瓶を持って、
ビシャラバンガの元へと急いだ。
2人……2体……2匹(?)はヴェロヴェロに追い付き、共にビシャラバンガの元に向かう。
未だヴェラを閉じ込めているビシャラバンガの元に着いた3匹の内、ヴェロヴェロが真っ先に、
大声で呼び掛けた。

 「油を持って来たぞ!」

 「良し!
  球体に向かって放り込め!」

ビシャラバンガの指示に従い、3匹は油入りの瓶を、ヴェラを閉じ込めている球体に向けて、
投げ付ける。
瓶は球体に吸い込まれて、ヴェラと共に球体の中に閉じ込められた。

 「燃え尽きろ!!」

ビシャラバンガは球体を圧縮させて、内部圧力を高める。
圧力の上昇で温度が上がり、油の自然発火温度に達して、液体のヴェラを焼き尽くす。
ヴェラは依り代を失い、魔力だけの存在となった。
体を失った魔力は脆い。
特に元は妖獣だったヴェラは、魔力だけとなった己の存在を維持出来ない。
精霊化の術を心得ていないのだ。

 「オオオ……」

媒体を焼き尽くされて、ヴェラは怨嗟とも苦痛とも付かない、奇怪な叫び声を上げる。
だが、それは球体の中に封じられて、誰にも届かない。

 「消え去れ、永遠に!」

ビシャラバンガは強引に球体内の魔力を己の魔法資質で磨り潰した。
0629創る名無しに見る名無し
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2019/07/24(水) 18:52:17.99ID:et6g9VP5
後からニャンダコーレと執行者が駆け付けるも、もう片付いた後。
ニャンダコーレはビシャラバンガに問う。

 「コレ、ヴェラは……?」

 「倒した。
  最早魔力の欠片も残っていない」

 「それは、コレ、良かった……」

安堵するニャンダコーレに、今度はビシャラバンガが問う。

 「そちらは、どうだった?
  逃げた分身の方は片付いたか?」

 「ああ、コレ、魔導師会の執行者に任せたのだ、コレ」

ビシャラバンガは執行者に目を向けた。
執行者は自信有り気に深く頷いて、彼を安心させようとする。

 「大丈夫だ。
  あの程度の物に後れを取る執行者では無い」

 「そうだと良いがな」

ビシャラバンガは小さく息を吐いて、市街地へと移動する。

 「とにかく、これで浮浪者連続殺人事件の方は、一段落と言って良いだろう。
  妖獣共も戴く物を失って、散り散りになる……筈だ。
  暫くは様子見だな」

彼の言う通り、浮浪者連続殺人事件は、これで解決したと言って良いだろう。
しかし、未だ呪詛魔法使いの件は片付いていない。
真に平和が取り戻されるのは、未だ先の事になる。
0630創る名無しに見る名無し
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2019/07/25(木) 18:38:12.33ID:OzeLey14
凍った液体の虎を除いて、ヴェラの分身は全て執行者によって処分された。
魔導師会は外道魔法使いの研究と対策の為に、ヴェラの分身である凍った液体の虎を厳重に封印し、
魔導師会本部まで運んで、それを解析する。
残るは呪詛魔法使い。
どうにか事件を止めようと、ビシャラバンガ達も呪詛魔法使いを追う事になった。
意外な事に、浮浪者達もビシャラバンガ達に協力してくれる。

 「儂等にも、お前さんの手助けをさせてちょうよ。
  殺された上に、死んでからも利用されるとは、哀れでならん。
  市民様にゃあ一言も二言も言いてえ所だが、それとは別だでな」

浮浪者達は魔導師会の協力を得て、呪詛魔法によって復讐を続ける「死者」の身元を特定した。
浮浪者達とて知り合いや友人は居るのだ。
全くの天涯孤独な者は少ない。
浮浪者達は死者を説得させてくれと、魔導師会に申し出た。
果たして、既に死して呪詛を放つだけの存在となった者に、人の心は残っているのだろうか?
本当に説得等可能なのだろうか?
それに関して、呪詛魔法使いを追って執行者に協力していたレノック・ダッバーディーの分身、
『音石<サウンド・ストーン>』は、執行者達に助言する。

 「呪詛魔法は恨みを晴らす。
  死者は物を思う事をしない。
  生前の呪詛は、死後も変わらない。
  恨みを晴らすまでは」

 「やっぱり駄目ですか?」

 「……だけど、全くの無駄とは言い切れない。
  僅かでも、良心が残っているなら。
  呪詛が恨みだけの物では無いのなら」

僅かな希望を胸に、浮浪者達は仲間の呪詛と相対する。
0631創る名無しに見る名無し
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2019/07/25(木) 18:39:45.67ID:OzeLey14
呪詛魔法とは中々厄介な物で、恨み持つ魂は恨みが消えなければ、実質倒す事が不可能だ。
妨害され、撃退される度に、恨みは強くなり、更なる力を得る。
そもそも呪詛魔法使いを止めても、呪詛魔法は止まらない。
一度発動した呪詛魔法を止める事は、不可能と言って良い。
呪詛の対処法は、呪詛の目的を知る事だ。
恨みを晴らしさえすれば良いので、その目的を果たさせれば、被害は最小限で済む。
しかし、浮浪者の死者が抱いていた市民への恨みは、漠然とした物だ。
特定の誰かを標的に定めた物では無い。
故に、「どうやって解消するか」が大きな問題となる。
正か、市民を全滅させる訳には行かない。
だから、執行者達も「説得」に期待を持ったのだが……。
呪詛魔法によって生じた怨念を「説得」するのは、困難である。
基本的には目的を果たす為だけの傀儡となるので、説得の余地は無い。
レノックの助言も「可能性」を提示しただけであり、本当に説得出来るとは彼自身も期待していない。
0632創る名無しに見る名無し
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2019/07/25(木) 18:42:34.87ID:OzeLey14
未練を残して


第五魔法都市ボルガにて


浮浪者の市民への悪感情を利用した、呪詛魔法使いの市民全滅計画は実に上手く行っていた。
どの位上手く行っていたかと言うと、魔導師会と都市警察と更にビシャラバンガ達が協力しても、
全く呪詛魔法使いを発見出来ずに、被害を食い止められなかった程である。
最早お手上げと言う他に無かった。
もう市内には居られないと、住み慣れた家を捨てて脱出する市民も出る有り様。
人命には代えられないと、魔導師会も市民の脱出を補助した。
こうして「市民」が居なくなれば、浮浪者が恨む対象も居なくなると言う訳だ。
しかしながら、どうしても脱出したくないと言う頑固な者も居た。
そうした者達は、口々に魔導師会や都市警察は何の為にあるのかと責める。
この期に及んで市内から脱出しない市民は、市内を脱出する余裕の無い市民だ。
市外に身寄りが居ないとか、魔導師会の補助を受けても未だ引っ越しに掛かる費用を工面出来ない者。
弱者の怒りが、より弱い者達に向く様に、こうした余裕の無い市民が特に浮浪者を虐める。
その浮浪者の怒りが、呪詛魔法によって返って来ているのだから、これも自業自得なのかも知れない。
一方で、呪詛魔法の対象外である浮浪者達は、妖獣が排除された事で、市内に戻って来ていた。
魔導師会や都市行政は空き物件に浮浪者を住ませる事で、市内の秩序を保とうとしていた。
街を廃墟にする訳には行かなかったし、浮浪者も仕事を与えれば、真面な生活が送れるので、
更生の可能性もあるのだ。
そうして浮浪者の幾らかは市民に復帰した。
0633創る名無しに見る名無し
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2019/07/26(金) 18:53:29.57ID:zhxYPl3T
しかし、こうした「復帰市民」と既存の市民の間でも問題が起きる。
それは復帰市民が元浮浪者だと言う事実から来る偏見だ。
表向き差別を禁じても、それが完全に解消されるまでは数世代を経なくてはならない。
復帰市民も同じ「市民」であると言う感覚は、中々根付かない物だ。
多くの市民は、去って行った市民が戻って来る事を願っているし、そうなれば復帰市民は邪魔だとも、
考えている。
平和になった後も復帰市民が居座っていると、去って行った市民が戻って来ないとも。
だが、市民側とて一枚岩では無く、寧ろ去って行った市民の帰還を望まない者も居た。
それは市民が減った事で、新たな権益を得たり、活躍の場を広げた市民だ。
……未だ事件は解決していないのに、誰も皮算用をしてばかりだった。
魔導師会と都市行政、市議会は、この事態を重く受け止めて、どう対処すべきか相談した。
都市行政機関を代表して、市庁職員が現状を説明する。

 「現在、所謂『復帰市民』が既存市民と同数に迫りつつあります。
  一方で既存市民は減少の一途であります。
  市内を脱出した市民にアンケートを取りましたが、事件が解決すれば市内に戻ると言う者と、
  暫く様子を見てから決めると言う者が、大体半々と言った所です。
  全体的には市内に帰還したいと言う意見が大半でしたが、安全が証明されるまでは戻らない、
  或いは、市内の状況によっては復帰しないと言う者も、少なくありませんでした。
  これは避難先の市が受け入れに寛容だった事も、関係していると思われます」

それに対して魔導師会の反応は冷淡だった。

 「魔導師会としては市民が生活出来てさえいれば、細かい状況には拘らない。
  市民の構成が入れ替わろうとも、それは人の自由だと思っている」

問題なのは、市議会議員の姿勢だ。
新体制を望む者も居れば、復帰市民を認める者、認めない者、帰還市民に関しても認める者と、
認めない者が居る。
全く撒ら撒らで意見が統一されていない。
0634創る名無しに見る名無し
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2019/07/26(金) 18:54:34.56ID:zhxYPl3T
喧々諤々の議論の末に、結論は持ち越しとなった。
結局、魔導師会と都市警察が頑張って、呪詛魔法を止めるしか無いと言う事に。
果たして、この事件を解決する事は出来るのだろうか?
そもそも、そんな事が可能なのだろうか?
事は一人の浮浪者から始まる。
彼の名はショ・ナン・シンシ。
浮浪者の両親から生まれ、浮浪者として育ったと言う、生粋の浮浪者の青年だ。
実は、彼の様な者は珍しい。
浮浪者は自分で子供を育てられないので、赤子の内に拾った等と言って児童養護施設に預ける。
赤子とは酷いと思われるかも知れないが、赤子から幼児と呼べる年齢まで育ててしまうと、
愛着が湧いて離れられなくなる。
どうして、そこまでして手放さなければならないかと言うと、浮浪者として生きるより、
その方が真面な人生を送れると信じている為だ。
それは間違ってはいない。
最初から浮浪者として生きなければならないと言うのは、とても不幸な事だ。
浮浪者になるのは簡単だが、一度浮浪者となった者は這い上がる事が出来ない。
そう言う意味では、浮浪者から「復帰市民」になれる今回の騒動は、シンシにとっては好機と言えた。
しかし、シンシは市民になる事に興味が無かった。
彼は生まれ付いての浮浪者であり、その事に自信と矜持の様な物を持っていた。
生まれ付いての浮浪者である彼は、浮浪者達の中でも浮浪者暦が長い方で、過去への執着も無い為に、
浮浪者達を導く立場でもあった。
彼は結構な世話焼きでもあり、故に呪詛魔法の元となった浮浪者達とも面識があった。
0635創る名無しに見る名無し
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2019/07/26(金) 18:56:01.61ID:zhxYPl3T
シンシは知っていた。
呪詛魔法の元となった浮浪者は、全て「元市民」である事に。
そして自分達が浮浪者と言う身分に貶められる事になった、元凶を恨んでいると言う事に。
彼は魔導師会や都市警察に、その事実を伝えた。
呪詛魔法使いは元市民を無差別に狙っているのでは無い。
直接か間接かの違いはあれど、殺された市民は、浮浪者に恨まれていた。
例えば、社員を首にした者だったり、同僚を陥れた者だったり、悪辣な詐欺を働いた者だったり、
子供を捨てた親だったり、全員が何かしら後ろ暗い過去を持っていた。
中には巧妙に自分の悪事を秘密にしていた者も居たが、当の浮浪者から話を聞いていたシンシと、
魔導師会が持つ浮浪者の怨念の情報を突き合わせれば、どんな事をしたのか直ぐに明らかになった。
だが、問題は罪を犯さない人間等居ないと言う事だ。
自分が悪事を働いたと言う心当たりのある者は、魔導師会に名乗り出て保護を求めよと言われても、
自分こそ恨まれていると自覚している人間は少数だ。
逆に、当人が気にしている程は恨まれていないと言う事もある。
呪詛魔法は八つ当たり的な恨みも対象になるので、本当に悪い事をしたとは限らない所も非常に厄介。
魔導師会と都市警察は、シンシから得た情報を公表するべきか迷った。
それが及ぼす影響は、とても大きく根が深いのだ。
0636創る名無しに見る名無し
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2019/07/27(土) 18:02:09.43ID:rqiXKKf/
公表後に都市を離れる市民は、白い目で見られる事だろう。
罪の有無に関わらず。
公表された事実を元に、人々が冷静に判断出来るとは限らないのだ。
では、怪しい人間を調べ上げて、退避を促せば良いかと言うと、それも難しい。
素直に退避するとは限らないし、逆に反発して意固地にさせてしまうかも知れない。
何しろ自分は悪人だと認める事になるのだから。
悪いのは死んだ浮浪者だと言っても、そんな理屈が通用するなら苦労は無い。
幾ら怪しくても、実際に恨まれているとは限らないと言うのが、又難しい。
逆に、全く怪しくない者が殺された時に、魔導師会や都市警察は言い訳が立たない。
それに、どんなに秘密にしていても、情報とは漏れる物だ。
完璧に情報を伏せられたとしても、実際に避難した人々の素性を誰かが興味を持って調べれば、
恨みを買い易い職種の人が多い事は、判ってしまう。
それに本気で恨みを持っていれば、市外に退避した所で無駄である。
呪詛魔法は遠く離れた所で、無効に出来る物では無い。
効力こそ弱まるが、どんなに時間が掛かろうとも追って来る。
シンシは自分に何が出来るかを考えていた。
彼は浮浪者と言う身分に、一種の誇りの様な物を持っている。
浮浪者も都市を構成する存在であり、都市は浮浪者無くしては回らないと言う一面がある。
都市を清潔に保つのも治安の維持も、浮浪者が果たす役割は小さくない。
浮浪者を見れば、都市の有り様が判る。
貧民街の貧民程、都市から隔離されていない浮浪者は、それぞれ野鼠と家鼠の様な物。
市民と同じく都市に生きる命なのだ。
0637創る名無しに見る名無し
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2019/07/27(土) 18:02:31.32ID:rqiXKKf/
シンシは浮浪者達の世話役として、長らく色んな浮浪者達を見て来た。
浮浪者と言う境遇を受け容れらずに、浮浪者の中に入る事を拒む者にも、声を掛けて様子を見た。
その経験上、殺された浮浪者と言うのは、浮浪者の中に馴染めなかった者が多いと言う事も、
判っていた。
そうした者達は零落しても、自分は浮浪者とは違うと言う、小さな自尊心を保とうとするのだ。
それで殺されるのは馬鹿じゃないかとシンシは思うのだが、人間は単純には出来ていない。
人間が誇りを持つのは、自分自身では無く、自分の置かれた立場や環境なのだ。
誇りを持てない立場や環境は受容し難く、蔑んでさえいる。
嘗て自分達が蔑んで来た立場に、自分も落ちる事を何より恐れている。
市民になれると言うのに、復帰市民になろうとしないシンシも、それは同じだ。
彼も態々苦労の多い浮浪者で居続ける自分を、愚かだと思っている。
だが、彼には責任感の様な物があるのだ。
自分は生まれ付いての浮浪者だから、復帰市民になれなかった浮浪者を纏めるのも、自分なのだと。
もし自分が市民になる時は、この街から浮浪者が1人も居なくなった時だと。
浮浪者連続殺人事件は終わり、何れ死した浮浪者の恨みも晴らされて、事態は終息するだろう。
そうしたら、又市民と浮浪者と復帰市民の間で、問題が発生するとシンシは予見していた。
その時に上手く仲立ちしてやれるのも、自分しか居ないと彼は信じていた。
0638創る名無しに見る名無し
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2019/07/27(土) 18:03:58.63ID:rqiXKKf/
しかし、中々呪詛魔法は消えなかった。
どうしても消えない最後の1人が、何時までも市内に出没し続けたのである。
誰か恨み持つ者が帰還するのを待っているのでは無いかと、市民達は恐々としていた。
魔導師会や都市警察が現れると、霧の様に消えてしまうので、退治する事も出来ない。
魔導師会の執行者が記録した似姿を見せられたシンシは、その正体はニレ・ヤナキだと判断した。

 「こいつはニレ・ヤナキだ……と思う」

 「どんな奴だった?」

執行者の質問に、シンシは正直に答える。

 「どんなって……。
  よく解らない奴だった。
  若い男、年は俺と同じ位。
  浮浪者の仲間になるでも無く、その辺で呆っと突っ立ってる事が多かった」

一体どう言う人物なのかと、執行者は眉を顰める。
それに対して、シンシは落ち着いた口調で言った。

 「そう言うのは、珍しくないんだ。
  何て言うのかな……。
  もう市民から片足落ち掛かっている連中は、大体そんな物なんだよ。
  浮浪者になる踏ん切りが付かないから、最初は遠巻きに見ているだけって言う」

 「成る程」

 「あんたも、どうだい?
  一寸体験してみないか?
  家も仕事も無くして、これこそ真の自由って奴だぜ」

 「いや、遠慮する」

シンシの冗談めいた誘いを、執行者は苦笑いで断る。
0639創る名無しに見る名無し
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2019/07/28(日) 18:42:56.67ID:PHShTyzR
彼は語りを続けた。

 「ヤナキは……、仕事を首になったと言っていたな。
  家賃の支払いも出来なくて、その内、追い出されるだろうと。
  だからって、実家に帰るのも『自尊心<プライド>』が許さなかったみたいだ」

 「それは……可哀想に」

 「全く、可哀想にな。
  俺は浮浪者仲間にならないかと誘ってみたが、良い顔はされなかった。
  まあ、仕様が無い。
  そう言うのも、よくある事だ。
  その内、諦めて浮浪者になるか、立ち直るか、他所へ行くかするだろうと、俺は思っていた。
  だが、そこで例の事件だ」

 「……詰まり、ヤナキの事は解らないと?」

 「そうだな。
  でも、誰かを強く恨んでいるとか、そんな事は無かったと思う」

シンシの話を聞いて、執行者は小首を傾げる。

 「特に誰かを恨んでいたりはしなかった?」

 「俺が見た限りではな。
  誰を恨んで良いか、判らないって言った方が良いのかな?」

 「もしかして、ヤナキは恨みを打付けられる相手を探しているのか?」

 「そうかもなぁ……。
  恨むと言っても、そいつは首になった会社の社長か、自分を直接首にした上司か、それとも、
  自分を切り捨てて残った他の同僚か、或いは、全然関係無い事かも知れないし、もしかしたら、
  実力の足りない自分自身を恨んでいたり、そんな自分を産んだ親を恨むとか、社会だとか、
  世の中だとか、恨める物は一杯あるからな」

執行者は沈黙した。
結局、どれが本当の事かは、恨みを持つ当人しか解らないのだ。
0640創る名無しに見る名無し
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2019/07/28(日) 18:43:32.66ID:PHShTyzR
その日の夜、夜の路地裏を徘徊していたシンシは、ヤナキを見付けた。
もう死んでいる筈の彼が居るのは、どう考えても異常だ。
呪詛魔法で誕生した、彼の怨恨では無いかと、シンシは身構える。
彼は共通魔法が上手くないし、特殊な能力がある訳でも無い。
少し喧嘩が上手いだけで、戦闘に関しては特筆すべき所が無い。
呪詛魔法を相手に、何が出来る訳でも無いのだ。
余り魔法の知識が無いシンシは、先ずヤナキの呪詛に話し掛けてみた。

 「お前、ニレ・ヤナキか?」

ヤナキの呪詛は緩りと振り向いて、静かに頷く。
取り敢えず話が通じそうで、シンシは安堵したが、実は悪手である。
呪詛魔法に安易に関わるべきでは無い。
見掛けても、素知らぬ顔で無視すべきだ。
呪詛に巻き込まれて、良い事等何一つ無い。
……ヤナキの呪詛は沈黙した儘で、シンシは恐る恐る尋ねた。

 「こんな所で、何をしているんだ?」

ヤナキの呪詛は数秒の沈黙後、非常に聞き取り難い低い声で答える。

 「……分からない」

 「分からないって……」

 「俺は死んだのか?」

ヤナキの呪詛は本体が死んだ事も理解していない様子だった。
どう説明したら良い物か、シンシは困る。

 「死んだのかって……」

 「俺は……何なんだ?」
0641創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/28(日) 18:44:17.24ID:PHShTyzR
ヤナキの呪詛は自分の置かれた状況を、全く理解していない。
そもそも説明してやるべきなのか、シンシは判断に迷った。
今のヤナキは彼自身では無く、呪詛だと教えてやった所で、良い事があるとは思えないのだ。
適当に誤魔化す方が良いと、シンシは思った。

 「ヤナキ、あんたは死んだんだよ。
  今は幽霊みたいな物だと思う」

 「幽霊?
  人は死んだら、幽霊になるのか……。
  死んだ事が無いから、分からなかった」

ヤナキの呪詛は素っ呆けた事を言う。

 「幽霊になった俺は、これから、どうすれば良いんだろう?」

 「さ、さぁ?
  何か生きている時に、やりたかった事とか無かったのか?」

シンシはヤナキの呪詛から何とか前向きな言葉を引き出したかった。
生前の恨み辛みの事は忘れさせて、どうにか他の方向で未練を晴らしてやれないかと思ったのだ。

 「やりたかった事……。
  いや、俺には何も無かった。
  全てを失った俺は、生きる気力も失くしていた」

 「でも、何か未練があるから幽霊になったんだろう?」

 「そうなのか?」

 「いや、知らんけど」

シンシは目の前のヤナキが、本当にヤナキの呪詛か疑い始める。
0642創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/29(月) 18:47:28.32ID:FYoCXQqV
もしかしたら、彼は本当にヤナキの幽霊なのかも知れない。
そうシンシは思い始めていた。
魔導師であれば、魔力で判定出来るのだが、生憎とシンシには呪詛魔法を判別出来る程の知識が無い。

 (魔導師に相談してみれば……。
  いや、駄目だ。
  予防的措置とか何とか言って、強制的に消されるかも知れない)

シンシはヤナキの呪詛を魔導師会には見せず、自力で彼の魂を安息に導こうと考える。

 「ヤナキ、幽霊ってのは、どんな気分なんだ?」

 「……とても焦っている。
  何かをしなければと、心が騒ぐんだ。
  でも、何をすれば良いのか、俺には判らない」

 「それを見付けたいんだな?
  幽霊の儘で居続ける事は出来ないのか?」

 「今の儘で居たいとは、少しも思わない。
  とにかく心苦しいんだ。
  俺は何かをしないと行けない……」

どうにか彼の力になれないかと、シンシは本気で考える。
ヤナキの呪詛は暫くシンシを見詰めた後、こう尋ねて来た。

 「所で、君は誰なんだ?」

 「えっ、俺を忘れたのか?
  そもそも覚えていないのか?
  俺はシンシだ。
  ショ・ナン・シンシ」

シンシは名乗ったが、ヤナキの呪詛は沈黙した儘で小首を傾げる。
0643創る名無しに見る名無し
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2019/07/29(月) 18:48:16.04ID:FYoCXQqV
生前のヤナキはシンシの事を憶えていたが、真面に名前を記憶していなかった。
その頃は余り他人に興味が無かったと言うか、職を失ったばかりで、それ所では無かったのだ。
シンシに対しては何と無く覚えがある様な無い様な、非常に曖昧な記憶しか無い。

 「聞いた事がある様な気がする」

 「……まぁ、良い。
  それじゃ、改めて名乗ろうか?
  俺はショ・ナン・シンシ。
  浮浪者達の世話役をしていた者だ」

 「それで、俺に何の用なんだ?」

 「用って……」

どう説明したら良いか、シンシは迷う。
今のヤナキは呪詛魔法で魂だけの存在となったと言っては、自分の恨みの感情を思い出して、
暴走してしまうかも知れない。

 「死んだ筈の人間を見掛けたら、声を掛けずには居られないだろう」

 「俺は死んだのか?」

 「どうやって死んだか、憶えていないのか?」

 「……判らない。
  でも、それは重要な事じゃない気がする」

ヤナキの呪詛は、生前の恨みを晴らそうとしている。
唯それだけが彼の存在理由。
故に、死因は問題では無いのだ。
0644創る名無しに見る名無し
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2019/07/29(月) 18:49:21.88ID:FYoCXQqV
それは詰まり、自分を殺した者に復讐したい訳では無い事を意味している。
他に恨みを晴らすべき対象が居るのだ。
シンシには理解し難かった。

 「どうしてだ?
  あんたは殺されたんだぞ」

 「殺された?
  君は俺が、どうやって死んだのか知っているのか?」

 「ああ、知っている。
  少々辛い話になるが、良いか?」

 「いや、それなら良い」

 「良いって、あんた……。
  本当に聞かなくて良いのかよ?」

 「知った所で、どうにもならないだろう。
  それよりも俺には、やるべき事があるんだ。
  そっちを思い出すのが先だ」

 「一体『それ』は何なんだ?」

自分の命よりも重い物があるのかと、シンシは本気で理解出来なかった。
ヤナキは最早呪詛の塊であり、人間だった頃の人間らしい執着と言う物を完全に失った様に見える。

 「判らない。
  俺には何も判らない……が、やらねばならぬ事がある。
  それだけは判る」
0645創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/30(火) 18:54:48.82ID:EXiW8Vfp
シンシは彼を説得するのは諦め、その恨みか無念かを晴らしてやるべきでは無いかと、思い始めた。
今のヤナキは生前のヤナキとは違うのだ。
所詮、呪詛は呪詛。
誰が犠牲になろうと、精々1人か2人の事。
早々と恨みを晴らして、消えて貰った方が、街が平和になると。
自分が恨みの対象となるとは、全く考えなかった。
シンシとヤナキは殆ど接点が無かったのだから、それは当然である。

 「何をしなきゃ行けないんだ?
  親か?
  それとも子供が居たか?
  それとも嫁さんか彼女か?」

シンシはヤナキの身内に対象が居ないかと突いてみる。
ヤナキは少しの間、考え込んだ。

 「親……父さん、母さん……?
  親には出来の悪い息子で悪かったと思っている。
  でも、会いたい訳じゃない」

 「親には会いたくないのか?
  子供は?」

 「子供……」

 「おっ、彼女でも居たのか?」

子供が未だ生まれていなくても、付き合っていた女性が居れば、何度か夜を共にしていても、
不思議は無い。
その時に相手が妊娠した可能性があるなら、子供が出来ていないかは気に懸かるだろう。
そうシンシは考えた。
0646創る名無しに見る名無し
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2019/07/30(火) 18:55:33.45ID:EXiW8Vfp
しかし、ヤナキの呪詛は首を横に振る。

 「いや、多分違うな……」

 「多分?」

 「彼女は居たけど、何年も前に別れた。
  子供が出来たと言う話は聞いていない」

こうなったらと、シンシは思い切って尋ねる。

 「それなら、憎い奴は居ないか?
  どうしても恨みを晴らしたい様な、糞野郎は?」

 「……いや、居ない」

 「あんたは、もう死んじまったんだから、取り繕う必要は無いんだぜ?
  何たって幽霊なんだ。
  未練があって出て来たって事は、何か憎い奴でも居たんじゃないのか?」

ヤナキの呪詛は暫く考え込んでいた。
心当たりが無い事も無いのだろうと思い、シンシは突く。

 「ほれ、あんたを首にした会社の奴等は?」

 「ウームムム……」

 「社長とか上司とか同僚とかに、向か付く奴が居ただろう?」

 「そりゃ1人や2人は……」

ヤナキの呪詛は抑えた声で答える。
0647創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/30(火) 18:56:30.57ID:EXiW8Vfp
シンシは意気込んで言う。

 「良し、殺しに行こうぜ」

 「ええっ!?」

 「あんた、未練があんだろう?
  未練を残した儘じゃ、何時まで経っても綺麗に逝けねえぜ?」

 「いや、殺そうとまでは思わないって」

ヤナキの呪詛は断言した。
恨んでいない事も無いが、そこまで強い恨みを持っている訳では無いのだ。

 「じゃあ、何なんだよ?」

 「だから、それが判れば苦労しないんだよ」

当の彼自身も、自分の未練の正体が判っていない様子。
シンシは段々面倒臭くなって来た。

 「詰まり、あんたは何か未練があって化けて出たのに、その未練が判んねえってんだな?」

シンシの問にヤナキの呪詛は申し訳無さそうに頷く。

 「ああ」

 「面倒臭え奴だな。
  死後も手間を掛けさせるのか……」

 「済みません」

ヤナキの呪詛は、呪詛の癖に悄気て俯いた。
0648創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/31(水) 18:38:17.72ID:6dwcvPnB
シンシは両腕を組んで低く唸る。
彼は心の中で、ある決断をしていた。

 「良し、魔導師会に何とかして貰おう」

 「何とかって?」

ヤナキの呪詛は不安気な声を出す。
シンシは瞭(はっき)りと告げた。

 「そりゃ強制的に浄化させるんだよ。
  あんたも、訳も解らない儘、浮ら浮らしてるのは辛いだろう」

 「いや、そりゃそうだけど、強制的って」

 「嫌なら早く思い出せよ。
  死ぬ前に、自分が何をしたかったのかをな。
  早くしないと執行者を呼ぶぜ」

 「……どうやって?」

 「そりゃ呼びに行くんだよ。
  ……走って」

シンシは通信機を持っていないし、共通魔法が得意と言う訳では無いし、魔法資質も優れて高くない。
だから、魔導師会への連絡手段は、直接話す他に無い。

 「その間、俺が大人しく待ってるとでも?」

 「えぇ……?
  あんた、逃げて何をするんだ?
  逃げた所で、どう仕様も無いだろうに」

 「そうかも知れない。
  でも、足掻けるだけ、足掻いてみる」

 「それなら勝手にしろよ」

もう付き合い切れないと、シンシはヤナキの呪詛に背を向けて手を振った。
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