ロスト・スペラー 20

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1創る名無しに見る名無し2018/12/07(金) 18:09:05.48ID:81QT8mxd

851創る名無しに見る名無し2019/10/13(日) 18:24:50.18ID:qxxFWky3
ソームは何度も頷く。

 「成る程、成る程ね。
  しかし、それだけでは無いと思うけど……。
  あぁ、この話をこれ以上引っ張っても仕様が無いな。
  確かに、君の期待通り、私は夢の中に現実のバックアップを取っている。
  夢の世界の管理人だからね。
  その位は出来る」

ワーロックとレノックは瞳に希望を宿らせ、殆ど同時に言った。

 「それで……、それで、どうすれば!?」

 「しかし、しかし、これは容易な事では無いよ。
  この星全体を覆い、完璧に再現する程の魔法資質が必要だ」

それを聞いて、レノックは俯く。
どう足掻いても足りないのだ。
レノックでも無理、ワーロックは勿論の事、八導師が全員揃っていても、全く足りない。
だが、ワーロックは提案する。

 「レノックさん、ルヴィエラにも手伝って貰えないでしょうか?」

これにレノックは驚いた。

 「奴の手を借りるのか!?
  何をされるか分かった物じゃないぞ!」

その通りだ。
ルヴィエラは邪悪で意地が悪い。
途んでも無い罠を仕込まないとも限らない。

852創る名無しに見る名無し2019/10/13(日) 18:25:43.91ID:qxxFWky3
丁度その時、ルヴィエラが禁断の地の森に降り立つ。

 「やれやれ、漸く追い付いたよ。
  話は聞かせて貰った。
  何やら面白い事になっている様だねェ」

レノックは明から様に嫌な顔をしたが、ルヴィエラは全く気にしていない。
ワーロックは緊張して、躊躇いながらも、彼女に依願した。

 「聞いていたなら、話は早い。
  ルヴィエラ、貴女にも協力して欲しい」

 「見返りは?」

 「えっ」

見返りを要求するのかとワーロックは驚いて硬直する。
レノックは彼の肩を叩いて言った。

 「こんな奴を当てにする事は無い。
  長い時間は掛かるけど、少しずつ元に戻して行こう」

ルヴィエラはレノックの言葉を聞いて、意地悪く笑う。

 「そんな事を言って良いのかい?
  私の事だから、どんな心変わりを起こすか分からないよ?」

レノックは嫌な顔をして、ソームを顧みた。

 「ソーム、何とか言ってやってくれ」

それを受けてソームはルヴィエラに視線を送り、にやりと笑う。

853創る名無しに見る名無し2019/10/13(日) 18:26:50.32ID:qxxFWky3
ソームの実力は未知数だ。
夢の世界を管理しているだけあって、その魔法資質は計り知れない。
もしかしたら、ルヴィエラより上なのかも知れない。

 「な、何だってんだい?」

不敵なソームの態度に、ルヴィエラは少し怯む。

 「もっと素直になったら、どうなんだい?」

ソームの姿はルヴィエラの物に変わって行く。
それも今のルヴィエラでは無い。
嘗て、彼女がレラ・ダイナモーンと名乗っていた時の物だ。
口調も当時の彼女を真似る。

 「アタシにはアンタの心が手に取る様に解るよ。
  だって、アタシはアンタなんだからね」

 「ええい、止めろ!
  悪趣味な!
  人の過去を掘り返すんじゃないよ!」

 「アンタ本当は寂しいんだろう?
  ボースティンが死んでからと言う物、アタシは――」

 「お黙りっ!!
  貴様っ、黙らんかっ!!
  知った風な口を利きおってぇっ!!」

ルヴィエラは俄かに激昂して、ソームを睨み付ける。

854創る名無しに見る名無し2019/10/14(月) 19:21:39.96ID:E4888LZv
ルヴィエラは魔法資質を解放して凄んだが、ソームは慌てる様子が無い。
相変わらずの嫌らしい笑みを浮かべている。
彼女は遂に切れた。

 「この私を本気で怒らせてしまった様だねェ!!
  今更後悔しても遅いよ!!
  諸共に消し飛んでしまえぇええぃ!!!!」

周囲の混沌の力が、全て破壊の力に変わる。
暴虐の嵐が吹き荒れ、全てを粉々に打ち砕く。
小さな禁断の地等、一溜まりも無い。
風前の塵の如く、瞬く間に消し飛んでしまう。
勿論、レノックもワーロックも助かりはしない。
ルヴィエラと正面から戦う事等、誰にも出来はしないのだ。

 「ハッ、雑魚の分際で!!」

ルヴィエラは怒り冷め遣らぬ様子で、塵となった禁断の地のあった空間を見詰め、吐き捨てた。
大悪魔にとって、自分の力に靡かない物、平伏しない物が居る事は、許し難いのだ。

 「フーーーーッ、ハァ、ハァ……。
  はぁ……」

漸く気を静めた彼女は、虚無感に襲われて小さく息を吐く。

 「滓め、大人しく私に跪いておれば良かった物を。
  何故死に急いだのか?」

ルヴィエラは舌打ちして、詰まらなそうに零す。
相手を殺した所で、自分の意の儘にならなかった事実には変わり無い。
「意の儘にならないから殺した」と言うのは、精神的な敗北だ。

855創る名無しに見る名無し2019/10/14(月) 19:23:55.00ID:E4888LZv
しかし、ルヴィエラの眼前で禁断の地が復活する。
否、それだけでは無い。
丸で時が戻ったかの様に、状況までが再現されている。
場所は禁断の地の上で、ルヴィエラの前にはレノック、ワーロック、ソームが居る。
先程まで周囲は只の混沌の海だった筈なのに。

 「……な、何だ?
  これは一体どうした事だ!?」

ソームは在りし日のルヴィエラの姿で、変わらず嫌らしい笑みを浮かべ、動揺する彼女に問い掛ける。

 「どうした、何を慌てている?
  『悪い夢』でも見ていたのかな?」

これがソームの最強最大にして最も得意とする魔法。
即ち、『夢落ち<TWaD-That Was a Dream-トワッド>』である。
だが、ルヴィエラは再び向きになる様な事は無かった。
寧ろ、安堵して両肩を竦める。

 「やれやれ、何をやっても無駄な様だね……」

 「理解したか?」

上段から見下ろす様なソームの物言いに、ルヴィエラは反感を抱くも、本気で怒ったりはしない。

 「お前が飽きるまで、ここを破壊し尽くしてやっても良いんだよ?
  だけど、そんな事をしたって無意味さね。
  得る物が無い事を続けるのは馬鹿さ」

彼女は打って変わって無気力になった。
悪魔は気紛れ。
怒るだけ怒れば、その後の事には固執しない。

856創る名無しに見る名無し2019/10/14(月) 19:25:54.88ID:E4888LZv
ルヴィエラから敵対の気配が消えた事をワーロックは察して、彼女に呼び掛けた。

 「……ルヴィエラ。
  これから私達は世界を再生させる」

先まで敵対していた相手との会話に、ワーロックは気を揉む。
そんな彼に対してルヴィエラは無気力に答える。

 「ああ、邪魔する気は無いから、安心おしよ」

 「えー、いや、そうでは無くて……。
  結局、手伝っては貰えないのか?」

 「嫌だよ、面倒臭い」

浅りと言い切られても、ワーロックは気落ちしなかった。
駄目で元々の積もりだったので、想定通りの回答に衝撃も何も無い。
邪魔をしないと言う確約が得られただけでも、十分な成果だ。

 「はぁ、分かった……」

ワーロックはソームに向き直り、彼に問う。

 「えー、それで、どうすれば世界を元に戻せるんですか?」

ソームはルヴィエラの姿から、元の寝間着姿に戻って答えた。
彼の姿は正に夢の如く、変幻自在だ。

 「私の『記録庫<アーカイブ>』から必要なデータを引き上げる。
  それには一定の魔法資質が必要だ。
  君達の他にも未だ幾らか生き残りが居るな?
  皆に協力して貰って、世界を復元しよう。
  一度に戻すのは無理な様だから、少しずつ、少しずつだ」

857創る名無しに見る名無し2019/10/15(火) 19:51:20.45ID:BVM+MuA2
ワーロックはレノックの分身と共に箱舟に乗り込み、八導師達の元へ戻る。
レノックの分身が4人の八導師に、これまでの事情を説明した。

 「……――と言う訳で、禁断の地に来て欲しい」

八導師を代表してレグントが答える。

 「解った。
  有難い。
  世界が元に戻るのだな?」

 「アーカイブの記録が確りしていればと言う但し書きが付くが、概ね合っている。
  僕の箱舟に乗ってくれ。
  禁断の地まで案内する」

 「否、それには及ばない。
  私は禁断の地を知っている」

レノックの提案をレグントは断った。
既に一同の目の前には、既に禁断の地が現れている。
混沌の海の距離は零にも無限大にもなる。
確かに求めれば、その通りに現れる。
どちらが、どれだけ近付いたとか、引き寄せた、引き寄せられた等と言う事は関係無い。
それが混沌の距離なのだ。
禁断の地に降り立った一同は、世界を再生させて行く。
八導師は四方陣を組んで、現実の世界をイメージし、ソームの夢から蘇らせる。
それにレノックも協力した。
魔法資質の低いワーロックは、世界の再生に貢献出来ないのが、歯痒かった。
先ず、禁断の地に近いレフト村が蘇る。
一度に完全に再生させる事は不可能なので、こうして少しずつ、禁断の地から近い場所、目に見える、
近い距離の場所から再生させて行くのだ。

858創る名無しに見る名無し2019/10/15(火) 19:52:19.24ID:BVM+MuA2
しかし、再生したレフト村には人の姿が無かった。
地上こそ再現されているが、空は虹色に揺らめき、全く現実感が無い。
不安に思うワーロックに、レグントが話し掛ける。

 「ワーロック君、一緒にレフト村に入ろう」

 「えっ、あ、はい。
  何をしに行くんですか?」

 「私達だけでは、世界の再生は難しい。
  だから、多くの人の手を借りに行くんだ」

レグントの言いたい事は何と無くワーロックにも解ったが、具体的に何をすれば良いのかは不明。
困った顔のワーロックに、レグントは言う。

 「この村の事を、どれだけ憶えているかな?」

 「どれだけって……。
  幾らか交流のある人は居ましたけど……。
  でも、全員では無いですよ」

 「構わないよ。
  君が蘇らせた人々が、繋がりのある人々を思い出す。
  私達とて真面に記憶しているのは、身近な人だけだ」

 「ええと、それより四方陣を崩して大丈夫なんですか?」

ワーロックはレグントが他の3人の八導師から離れた事で、不都合が起きないか気にした。
これにレグントは平然と答える。

 「大丈夫、大丈夫。
  残りの3人に、レノック殿も居る。
  私個人の力は微々たる物だよ」

859創る名無しに見る名無し2019/10/15(火) 19:53:05.45ID:BVM+MuA2
ワーロックとレグントはレフト村に入った。
そして村唯一の宿の戸を開ける。
しかし、中には誰も居ない。
レグントがワーロックに助言する。

 「この中の様子を思い出してくれ。
  君のイメージを元に、その人物を召喚する」

ワーロックは彼に言われた通り、何時もの宿の様子を思い浮かべた。

 「えーと、先ず入ると、小父さんか小母さんが居て……。
  あっ、もう小父さん、小母さんじゃなくて、お爺さん、お婆さんって年齢か……。
  確か、リベラより年上の娘さんが手伝っていて……」

彼の言葉通りに、その場に年配の夫婦が突如現れる。
2人は困惑していた。

 「あれ、私は何を……」

瞿々(きょろきょろ)辺りを見る2人に、レグントが話し掛ける。

 「お久し振りです、今日は。
  私はレグント・アラテル。
  八導師の第一位です」

それを聞いて2人は俄かに畏まった。

 「あっ、これは、どうも……」

 「何の御用でしょうか?
  いえ、それより何かあったんでしょうか?
  前後の記憶が曖昧で……」

混沌から引き上げられたばかりの2人は、記憶が混乱している。

860創る名無しに見る名無し2019/10/16(水) 18:55:54.83ID:++HXf4X5
レグントは落ち着いた声で、丁寧に説明した。

 「外を御覧下さい」

先ず、その指示に従って、2人は窓の外を見る。
空は虹色に揺らめいており、明らかに異常だと言う事が一目で判る。

 「うわぁ……」

 「これは一体!?」

2人の疑問にレグントは真実を話さない。

 「反逆同盟が最後の手段を使いました。
  この場で身を低くして動かずに、貴方の身の回りの人、大切な人の事をイメージして下さい。
  他の方々も我々魔導師会が必ず助けますので、どうか信頼して下さい」

 「はい」

 「解りました」

素直に従う宿の2人を見て、ワーロックは巧く誤魔化したなと感心していた。
一度世界が終わったと正直に話しても、直ぐには信用されない。
仮に信用して貰えたとしても、事態を正確に理解する事は困難だろう。
もしかしたら、魔導師会の治世に重大な疑念と危機を覚えるかも知れない。
ここは嘘も方便だ。
レグントは2人のイメージから村の人々を引き上げる。
同様にして、村の人々からも同様に知り合いを引き上げて、少しずつ元に戻して行く。
レフト村を完全に再現したら、今度は第一魔法都市グラマーだ。
2人は砂漠を越えて、防砂壁を潜り、グラマー市内に入った。

861創る名無しに見る名無し2019/10/16(水) 18:56:57.20ID:++HXf4X5
グラマー市内は既に人が復活していた。
人が自分の記憶を頼りに人を復活させれば、又その記憶を頼りに、連鎖的に人が復活して行くのだ。
レグントは魔導師達に事情を説明した。

 「反逆同盟が最後の手段を使った。
  日常の生活や状況、それに遠い街の知り合いや親戚を思い浮かべてくれ。
  皆が無事である様にと。
  そのイメージが世界を守る」

ここでもレグントは本当の事を語らなかった。
それは良いのだが、ワーロックには一つ疑問があった。

 「レグントさん、もし誰にも思い浮かべて貰えない人が居たら、どうなるんですか?」

 「永遠に復活しない儘だろうね」

レグントは浅りと答える。
ワーロックは蒼褪めた。

 「例えば、貧民街の人達や、地下組織の人達は、どうなるんでしょうか?」

レグントは穏やかな声でワーロックに告げる。

 「それでも全く他人と関わらずに生きる事は出来ないよ。
  どんな人でも、どこかで誰かに繋がっている」

本当に、そうなのだろうかとワーロックは思った。
孤独な人間は意外と多いのでは無いだろうかと。
彼は唯独りで寂しく過ごしている旧い魔法使いを多く知っている。
同じ様な人間が居ないとは限らない。
自分は相手を憶えていても、相手が自分を憶えていなくては、蘇る事が出来ないのだ。
一度現実として確定してしまえば、もう元には戻らない。

862創る名無しに見る名無し2019/10/16(水) 18:58:51.93ID:++HXf4X5
ワーロックは恐ろしくなり、懸命に自分の記憶にある人達の事を思い出した。
血縁は勿論、今まで一度会っただけの人の事も。
それからレグントとワーロックは唯一大陸の各都市を巡った。
本来なら何年にも及ぶ長い長い旅だが、ここでは時間の概念が無い。
空は虹色の儘で、朝も昼も夜も無い。
各都市は見た目だけは元通りだが、それが完全に元の通りか、ワーロックには判らない。
彼の知り合いは生きている。
だが、それだけなのでは無いか、世界には誰か取り残された人が居るのでは無いか、そんな疑念が、
拭い切れない。
不安気な顔をするワーロックに、レグントは言う。

 「さて、これで粗方見て回った。
  何か足りない物があったかな?」

 「……ガンガー北の魔城の中です」

 「良し、行ってみよう」

そうして2人はガンガー北極原に向かった。
そこには魔導師会が臨時に築いた根拠地があり、更に先には魔城が見える。
魔導師達は八導師のレグントを見るや、呼び掛ける。

 「レダ・レグント、今まで一体どこに!?
  いえ、それよりネク・アドラートとスー・ヴァリエント、そしてマーゼ・タタッシーの所在を、
  御存知ではありませんか?」

 「ああ、大丈夫。
  判っている。
  彼等の事は心配しなくて良いよ。
  それより、他に連絡が取れない人達は居ないかな?」

 「いえ、大丈夫です。
  全員確認が取れています。
  しかし、この空は……」

魔導師達は不安気な顔をして、虹色に揺らめく天を仰いだ。

863創る名無しに見る名無し2019/10/17(木) 18:56:30.57ID://bIUg+D
レグントが魔導師達に応対している間に、レノックが地上に現れる。
何時の間にか現れていたレノックは、レグントに一声掛けた。

 「ここからは僕が彼に同行して確認しに回るよ。
  君が居ては何かと都合の悪い事もある」

レグントは彼の意図を理解して頷く。

 「ああ、それではワーロック君、後はレノック殿に任せるよ」

旧い魔法使いは魔導師会を警戒する。
八導師が居ても、話が拗れるだけなのだ。
それならば、その方面に顔の広いレノックの方が適任。
ワーロックとレノックは魔導師会の根拠地から離れて、魔城に向かった。
その前に、リベラがワーロックの元に駆け付ける。

 「お養父さん!!」

ワーロックは彼女の姿を見て、顔を綻ばせた。

 「おぉ、リベラ、無事だったか!?」

リベラに続いて、コバルトゥスも駆け付ける。

 「先輩!」

 「コバルトゥスも!
  良かった!
  ……本当に良かった」

ワーロックは2人を抱き締めて、その実在を確認した。

864創る名無しに見る名無し2019/10/17(木) 18:58:10.00ID://bIUg+D
リベラは不安気な顔をして、虹色の空を見上げ、ワーロックに問う。

 「お養父さん、この空は何?」

 「あぁ、これは……」

どう説明した物かと迷う彼に、リベラは自分の知識から推理して言う。

 「もしかしてオーロラ?」

 「いや、えー、オーロラ??
  あぁ、いや、オーロラじゃないよ。
  お前も見た事があるだろう?
  オーロラは、もっと、こう……こんな空一面を覆う感じじゃなくて……。
  あ、そんな事は今は良い!
  私とレノックさんは、これから魔城に行く。
  お前はコバルトゥスと、ここで大人しく待っているんだ」

ワーロックは途中で本来の目的を思い出して言った。
リベラは不思議そうな顔をする。

 「えっ、戻って来たんじゃないの?」

普通に考えれば、そうなのだ。
ワーロックは詳細な説明をして良い物か迷った。
言った所で、信じて貰えるか、先ず怪しい。
世界が一度崩壊してしまい、今は元に戻している最中だ等と言って、果たして……。

 「済まない、リベラ!
  詳しい説明は後でする!
  戻って来たら、全部話すから!」

865創る名無しに見る名無し2019/10/17(木) 18:59:40.29ID://bIUg+D
そう言って、ワーロックはレノックに呼び掛けた。

 「行きましょう、レノックさん!」

 「ああ、行こう」

出発しようとする2人をリベラが止める。

 「待って、私も行く!」

困った顔をするワーロックの代わりに、レノックが答えた。

 「ああ、良いよ」

予想外の返答にワーロックは目を剥いて驚く。

 「良いんですか!?
  あっ、でも、そうだった……。
  もうルヴィエラは脅威では無くなったんでしたね……」

2人の会話にリベラもコバルトゥスも困惑した表情になる。

 「どう言う事なの……?」

 「一体何があったんスか?」

それに対してワーロックは小さく息を吐いて言った。

 「道々教えよう。
  一寸、信じられないかも知れないけど……」

4人は揃って魔城に向かって出発する。
道中でワーロックは、これまで起こった事、そして今の世界は再生中だと言う事を語った。

866創る名無しに見る名無し2019/10/18(金) 18:38:09.48ID:7rp9rMUc
ワーロックの話を聞いて、リベラとコバルトゥスは信じられないと言う顔をした。
コバルトゥスが先ず疑問を口にする。

 「詰まり、俺達は死んでたって事ですか?」

 「そう言う事になるのかなぁ……?」

混沌に回帰する事を、死んだと表現して良い物か、ワーロックには判らない。
現に、こうして蘇っている。
考え事をしていた様子のリベラは、ワーロックに尋ねた。

 「お養父さん、もう死んじゃった人も生き返るの?」

 「それは……無理だと思う。
  そうですよね、レノックさん?」

ワーロックが確認を求めると、レノックは大きく頷く。

 「ああ、無理だよ。
  ルヴィエラが世界を崩壊させる前に死んだ者は、既に死んだ物として記録されている。
  『記録庫<アーカイブ>』から再生している以上、それより過去に遡って蘇らせる事は出来ない」

リベラは誰かを生き返らせたい訳では無かったが、心の片隅では両親や義母の事を想っていた。
怪訝な顔になったワーロックを見て、彼女は言う。

 「あっ、何と無く思っただけだから……。
  別に誰かを生き返らせようだとか、そんな事は全然……。
  変な事を言って御免なさい」

誰もが気不味い空気を感じて、暫くの間、重苦しい沈黙が続く。

867創る名無しに見る名無し2019/10/18(金) 18:38:28.74ID:7rp9rMUc
 「……そう言えば、風が穏やかと言うか、余り寒さを感じませんね。
  景色は冬と言うか、極原その物なのに」

氷原を移動中、ワーロックが違和感を口にすると、レノックが解説する。

 「『これ』は未だ現実じゃないからね。
  環境の完全な再現までは出来ていないんだ」

 「はぁ、そう言う物なんですか……」

そうして一行は魔城の門の前に到着した。
最初に見た時の威圧感は、今は全く感じられない。
レノックは、その違いを感じ取れないワーロックに告げる。

 「この城は本物の魔城じゃない。
  外観だけ似せた空虚な物だ」

 「あっ、そうなんですか……。
  何か問題とかありますか?」

 「いや、何も問題は無い。
  内装も記憶に忠実に再現されている」

そう言いながら、レノックは城内に入る。
残りの3人も彼に続いた。
レノックとワーロックは当時の状況を思い浮かべながら、城の地下に向かう。
ワーロックがレノックに確認を求めながら、城の地下へ向かった。

 「こっちで合っていましたよね?」

 「ああ、合っている。
  地下で僕達と一緒に居たのは――」

868創る名無しに見る名無し2019/10/18(金) 18:39:08.17ID:7rp9rMUc
 「ラントロックと、ビシャラバンガ君と、ササンカさん……。
  あれ、他にも居た様な?」

誰か忘れていると感じるワーロックに、レノックは告げる。

 「敵の事を忘れているね。
  いや、永遠に眠らせた儘にも出来るけど?」

レノックは意地悪く笑った。
「敵」なのだから蘇らせなくても良いと言う誘導。
しかし、ワーロックは、それには乗らない。

 「蝙蝠のバルマムスと、予知魔法使いの……。
  えー、とにかく、その2人でしたか?
  他には居ませんでしたか?」

 「奴等も蘇らせるのかい?」

レノックの問にワーロックは小さく頷く。

 「ルヴィエラが居なくなれば、もう脅威にはならないでしょう。
  反逆同盟に身を置きながら、人間を憎んでいるとか、そう言う事では無い様ですし……。
  それに旧い魔法使いと言う物は、義理堅いんでしたよね?」

 「恩を売ろうって?」

 「丁(ちゃん)と着てくれるかは分かりませんが……。
  恩を売るのは私の趣味です」

それは見返りを期待しないと言う意味。
レノックは小さく笑う。

 「悪趣味だなぁ」

869創る名無しに見る名無し2019/10/19(土) 19:42:29.23ID:Rat41EkQ
一行が魔城の地下の広間に移動すると、そこではビシャラバンガ、ラントロック、ササンカ、
そしてスルトの4人が待機していた。
ラントロックが最初に声を上げる。

 「義姉さん、親父、それに小父さんも!
  無事だったんだ!
  良かった……」

それにリベラが応えた。

 「それは、こっちの台詞!」

ビシャラバンガはスルトに目を遣って言う。

 「お前の言う通りだったな」

 「我が予知は絶対」

瞑目して答えたスルト。
彼は待っていれば迎えが来ると知っていたが、それ以前に、世界再生まで予知していたのかは、
定かでは無い。
そこでレノックが核心を突く質問をする。

 「所で、自称『全知の書』、君は魔法の世界で何を見た?」

「魔法の世界」は高い魔法資質を持つ存在にとっては、素晴らしい世界だ。
自分の思う儘の世界を想像出来る。
それは正しく創造主――神の所業。
自分の世界を持つ高位の悪魔貴族は神にも等しい。
そこでは自分の望んだ物が現れる。
レノックはスルト事マスター・ノートに対して、暗に予知の無力を指摘していた。

870創る名無しに見る名無し2019/10/19(土) 19:44:01.68ID:Rat41EkQ
ルヴィエラの様な強大な悪魔貴族の前では、予知等と言う物は全く無意味。
マスター・ノートが真の「全知の書」を目指すならば、魔法の世界の到来時に、世界の根幹――即ち、
神の意思に触れなければならない。
生憎、魔法の世界が訪れても、神は降臨しなかったので、直接の接触は不可能だった筈。
そうなると、マスター・ノートは魔法の世界で何を見たのか?
或いは、混沌に呑み込まれて、何かを見る所では無かったのか?
どうせ後者だろうとレノックは高を括っていた。
マスター・ノートの魔法資質は高くない。
ファイセアルスを掌握する程の能力は到底無いのだ。
スルトは曖昧な笑みを浮かべて、こう答える。

 「何も見なかった。
  しかし、私の目指す所は変わらない」

 「君が全知の書になる事は、永遠に無いと予言しておこう」

レノックはマスター・ノートに対抗して、一つの予言をした。
スルトは力無く笑い、小さく息を吐いた。

 「果たして、そうだろうか?
  今し方、私は何も見なかったと言ったが、正確には違う。
  私は魔法の世界の混沌の中で、真実を知った。
  それは――定まった未来は無いと言う事だ」

 「よくも予知は絶対等と言えた物だ」

レノックが呆れると、スルトも自嘲する。

 「私は知った。
  究極の予知とは、予知しない事だったのだ。
  有るが儘を受け容れる事で、予知は完成する……。
  私は散り散りになって無に還り、世界を取り巻く事象の一部となる」

871創る名無しに見る名無し2019/10/19(土) 19:44:36.05ID:Rat41EkQ
そう語る彼の体は少しずつ崩れて行った。
丸で灰が風に浚われる様に、足元から崩れ落ちる。

 「マスター・ノートは漸く完成する。
  自我を失い、私達は終わりの無い観測と予測から解き放たれる」

皆が見ている前で、スルトは消え去った。
ビシャラバンガは小首を傾げる。

 「訳の分からない奴だったな」

それに対してレノックは点(ぽつ)りと一言。

 「旧い魔法使いの最期と言う物は、ああ言う物だよ。
  恐らくマスター・ノートは旧暦に存在した予知魔法使いの、怨念の様な物だ。
  全ての予知が不可能と悟って、やっと永遠の呪縛から解き放たれた。
  ビシャラバンガ、君だって、あんな風になっていたかも知れない」

その指摘にビシャラバンガは口を閉ざして、眉を顰める。
正しくレノックの言う通り、ビシャラバンガは過去に力に取り憑かれていた。
もし、その儘で態度が改まらなかったら、マスター・ノートの様に果て無き無限の力を求めて、
やがては力その物になる事を希望しただろう。
レノックの話を聞いて、ワーロックは思った事を口にする。

 「旧い魔法使いの最期って事は、レノックさんも何時か、ああなるって事ですか?」

レノックは困った顔で笑みを浮かべた。

 「ハハハ、僕はならないよ。
  そうならない為に、こうして生きている」

872創る名無しに見る名無し2019/10/20(日) 18:11:04.76ID:7raygibe
旧い魔法使いの正体は、異空からの来訪者――即ち、『古の征服者達<オールド・コンクエラーズ>』だ。
征服者達は退屈凌ぎに地上に現れ、思うが儘に振る舞った。
ある物は破壊を齎し、ある物は支配し、ある物は人と共に生き、ある物は天に挑み、
ある物は有るが儘を見詰め……。
レノックは大きな溜め息を吐いて言う。

 「さて、これで安心と言う訳だ」

しかし、ワーロックは首を横に振った。

 「レノックさん、もう少し付き合って貰えませんか?
  未だ無事を確認したい人達が居ます」

 「ああ、そうだね。
  僕と君とで、見て回ろう」

レノックは皆に言う。

 「そう言う訳で、僕とワーロックは他にも取り残された人達が居ないか探すよ。
  皆は魔導師会の根拠地に戻って、待っていてくれ」

これに対して先ずコバルトゥスが手を上げた。

 「俺も行きます。
  精霊の事が解るのは、俺しか居ません」

続いてササンカも手を上げる。

 「私も、村が気になります」

更にリベラまで。

 「皆が行くなら、私も!」

873創る名無しに見る名無し2019/10/20(日) 18:11:25.39ID:7raygibe
レノックは困った顔で言った。

 「大勢で行くのは一寸……。
  どうしても自分が行かないと行けない理由がある人達だけにしてくれないかな?」

ワーロックはリベラに言う。

 「リベラはラントロックと一緒に、魔導師会の所で待っていてくれ。
  ビシャラバンガ君、2人を頼む」

リベラは同行しなければならない理由を見付けられず、肩を落とした。
彼女をラントロックが慰める。

 「親父達に任せておけば大丈夫だって。
  信じろよ」

リベラは渋々頷いた。

 「お養父さん、必ず帰って来て」

 「ああ、もう危険は無いんだ。
  心配するな」

最後にワーロックはビシャラバンガに視線を送る。
以心伝心。
ビシャラバンガとワーロックは無言で頷き合って、互いに了解の意を示した。
魔城を後にした一行は、2手に分かれる。
ワーロック、レノック、コバルトゥス、ササンカの4人は世界を再生しに。
ビシャラバンガ、リベラ、ラントロックの3人は魔導師会の元へ。
レノックとコバルトゥスが風を呼ぶと、その場に弱い旋風が起こる。

 「それじゃあ、行って来るよ」

旋風は少しずつ強くなり、大きな竜巻となって4人を空高く運んだ。
ビシャラバンガとリベラとラントロックは、山の向こうに消える白い竜巻を見送った後、
魔導師会の根拠地へと歩く。

874創る名無しに見る名無し2019/10/20(日) 18:12:01.76ID:7raygibe
竜巻に巻き上げられた4人は風に乗って移動する。
竜巻の中でコバルトゥスがレノックに言う。

 「最初はガンガーの頂、天の座に降りる」

そんな所に誰が居るのかとワーロックとササンカは思っていたが、レノックは理解していた。

 「分かった」

4人はガンガー山脈の最高峰、天の座に降り立つ。
……やはり寒さは然程感じない。
未だ物理法則が完全に戻っていないのだ。
コバルトゥスは雪を踏み締め、天を仰ぎ、精霊の気配を感じた。
それに応じて、精霊が復活する。
復活した精霊は風を起こし、颪となってガンガーの頂から地上に吹き下ろす。
そうして世界中に散って行く。
俄かに寒気を感じる様になり、ワーロックとササンカは震えた。
コバルトゥスはレノックを顧みて告げる。

 「ここは十分だ。
  エグゼラの精霊の力は蘇った」

そうして一行が次に向かったのは、山間の小さな村。
氷の魔法使いザムラザックが、この近くの雪山に棲んでいる。

 「ザムラザックさん!」

ワーロックはザムラザックが棲んでいた、雪山の洞窟に入って呼び掛けた。
他の3人は洞窟の入り口前で待機している。
やがて、洞窟の中から徐に青いローブを着た老人が姿を現す。

875創る名無しに見る名無し2019/10/21(月) 18:36:40.58ID:mJcvtKI8
ザムラザックは相変わらずの不機嫌そうな顔と態度で、ワーロックに言った。

 「何事だ?」

 「あ、いえ、御無事だったんですね」

 「ああ、無事だ。
  魔法の世界が到来した程度で、斃(くたば)りはしない。
  侮るな。
  お前は何か?
  俺が消えたと思って、心配して来た訳か?」

 「え、ええ。
  いや、だって、世界が一度終わっちゃったんですから……」

 「要らぬ世話だったな」

打っ切ら棒なザムラザックを見て、ワーロックは安堵の息を吐く。

 「お元気そうで何よりです」

 「フン、お前もな」

その言葉を聞いたワーロックは、もしやと思った。

 「あの、ザムラザックさん……。
  もしかして……」

誰かのイメージで人が混沌の中から救い上げられるのなら……。
自分が混沌の海に呑み込まれなかったのは、誰かに守られていた為なのではと。
そして、ザムラザックも、その一人なのでは無いかと。

876創る名無しに見る名無し2019/10/21(月) 18:37:23.32ID:mJcvtKI8
ザムラザックは嫌な顔をして、ワーロックに言う。

 「巫山戯ろ」

 「あ、はい、済みません……」

ザムラザックが否定しなかったので、ワーロックは確信を持った。
彼は素直では無いのだ。

 「それでは失礼しました。
  又、お会いしましょう」

 「ああ」

ザムラザックは気の無い返事でワーロックを見送る。
3人の元に戻ったワーロックは、一言詫びを入れた。

 「お待たせしました。
  次、行きましょう」

レノックは彼の顔を見て、小さく笑う。

 「へへ、奴の事だから、素直じゃなかっただろう?」

 「あー、ええ、まあ……」

 「冷たく、二度と来るなとか言われたんじゃないか?
  何せ、氷の魔王だからね。
  態度も冷たい」

 「いえ、又会いましょうと言って別れましたよ」

 「はぁ、珍しい事がある物だ」

ワーロックの一言にレノックは目を丸くしながらも、嬉しそうに笑った。

877創る名無しに見る名無し2019/10/21(月) 18:38:53.61ID:mJcvtKI8
それから4人はボルガ地方へ飛んだ。
行き先はササンカの故郷、隠密魔法使いの村。
ワーロックだけは部外者と言う事で、村の外で待機となった。
隠密魔法使いの村があるのは、標高3通弱の山の中腹、雑木林の中。
村に入った3人は人気が無い事に驚く。
しかし、ササンカだけは直ぐに気付いた。

 「これは緊急避難です。
  一見、廃村の様に見せ掛ける事で、訪問者を惑わすのです」

そう言うと、彼女は村の中の最も大きな民家に立ち入った。
コバルトゥスとレノックも彼女に続く。
民家の土間からササンカは、よく通る声で呼び掛けた。

 「棟梁、只今戻りました!
  皆、変わり有りませんか!?」

その声に応じて、天井から数人が下りて来る。
皆、忍び装束に身を包んでいる。
中心の高座に居る老人が、この村の長にして、ササンカ達の棟梁。

 「ササンカ、よく戻った。
  しかし、どうなっているのだ?
  外の様子を見ただろう。
  あの不気味な空は何なのだ?」

 「はい、話せば長くなりますが……」

ササンカは事情を説明した。
それを聞いて村長を始め、全員が信じられないと言う顔をするも、虹色の空が真実を物語っている。

878創る名無しに見る名無し2019/10/22(火) 18:53:06.75ID:m1of4BwS
 「ウーム……。
  それで、我等は何をすれば良いのだ?」

村長は低く唸り、ササンカに尋ねた。
ササンカは簡潔に答える。

 「元の通りの世界を想起して下さい。
  何も変わらず、元の通りであると」

 「それだけで良いのか?」

 「はい」

不安気な顔をする隠密魔法使いの一族に対して、レノックとコバルトゥスは力強く頷いて見せる。
これにてササンカの役目は終わった。
レノックは彼女に言う。

 「ササンカ君は、ここに残るかい?」

 「いいえ、私はレノック殿に付いて行きます」

 「村の事は良いのかな?」

 「その事ですが……」

ササンカは村長に対して頭を下げた。

 「棟梁、この村を抜ける事をお許し下さい」

彼女の予想外の行動に、村の者もレノックも目を見張る。

879創る名無しに見る名無し2019/10/22(火) 18:53:35.31ID:m1of4BwS
レノックは慌てて声を上げた。

 「ササンカ君、それは行けない」

 「いいえ、お止め下さいますな、レノック殿。
  棟梁、私は本気です」

彼女の決意に村長は困惑する。

 「フィーゴのササンカよ、一体何があった?」

 「私はレノック殿に一生を捧げます。
  これからの私の人生は、全て彼と共にあります」

更なる彼女の発言に益々困惑する一同。
レノックも又、例外では無かった。

 「いや、その、待って、ササンカ君。
  もっと穏便に……」

何故態々自分を追い詰めるのか、レノックには理解出来ない。
しかし、ササンカは抜け忍となる覚悟を示す事で、自らの本気さを証明しようとしているのだ。
村長は驚いた顔でレノックを見て言う。

 「いや、待て、彼か?
  本気で彼なのか?
  未だ子供では無いか!?
  ササンカよ、お稚児趣味で里を裏切るのか!?
  正気か!?!?」

ササンカは大人の女性である。
村の中でも良識のある者だと、村中の全員が思っていた。
外界に対する憧れも、決して悪い意味の物では無いと信じられていた。

880創る名無しに見る名無し2019/10/22(火) 18:54:44.31ID:m1of4BwS
村長は激怒する。

 「ササンカ、考え直せ。
  お主一人の汚名で済むなら未だ良い。
  しかし、家の恥、一族の恥となるぞ」

説得する様な台詞だが、言い方は非常に厳しい。
序でに、レノックも睨まれる。

 「いや、その、僕は違います。
  何も唆したとか、そんな事は……」

 「棟梁、お許し頂けなくとも構いませぬ。
  悲しい事ではありますが、疾うに覚悟は固まっておりまする」

もうササンカは聞く耳も持たないと言う態度。
それに対して、村長は遂に怒りを爆発させた。

 「世俗の悪風に染まりおって!!
  恥を晒す前に、その命、終わらせてくれよう!」

彼の合図で、側に控えていた隠密魔法使い達が動き出す。
見兼ねたレノックは何とか止めようとした。
指笛で『警笛<ホイッスル>』の様な音を鳴らせば、皆の注目がレノックに集まり、動きが止まる。

 「待てっ!!
  皆、落ち着け!!」

レノックは青年の姿になり、魔法資質で全員を威圧する。
急に彼の姿が変わったので、隠密魔法使い達は混乱した。

 「だ、誰だ!?」

881創る名無しに見る名無し2019/10/23(水) 19:11:46.09ID:fy8Etfna
レノックは一つ咳払いをして、堂々と名乗った。

 「私は魔楽器演奏家のレノック・ダッバーディー。
  旧い魔法使いの一にして、音を司る存在(もの)」

彼はササンカを一瞥する。
彼女は真剣な表情で、レノックを見詰めていた。
ここでササンカを突き放す事も彼には出来たが、敢えてしなかった。

 「フィーゴ・ササンカは私の花嫁だ。
  彼女は私に身も心も捧げた。
  最早彼女は私の物。
  奪い返す積もりなら、相応の覚悟をして貰う」

レノックは人間と添い遂げる積もりは全く無かったが、魔法使いの長い一生、一度位は嫁を貰っても、
良いだろうと考える様になっていた。
彼の魔法資質に、村長は恐れを成して言う。

 「こ、子供の姿は……」

 「世を忍ぶ仮の物」

 「ムム……、かなりの実力者と、お見受けする。
  しかし、ササンカは一族の者。
  ここまで大事に育てたのだ。
  一族に益の無い事は許せぬ」

村長は暗に見返りを要求していた。
所謂、結納金である。
レノックは村長の態度は気に入らなかったが、実力で脅し掛けるのも悪いと思い、仮に物事が、
円満に進んでいた所で、同様に結納金に相当する物を贈っただろうと、素直に頷いた。

 「良かろう。
  私の持つ魔楽器の一を呉れてやる」

882創る名無しに見る名無し2019/10/23(水) 19:14:36.30ID:fy8Etfna
そう言ってレノックが村長に投げて遣したのは、木製の短い横笛。

 「吹けば人も獣も踊り出す魔性の笛、狂乱舞踏の笛だ」

 「は、はぁ……」

どう反応して良いか困っている村長に、レノックは続けて言う。

 「何だ?
  未だ欲しいのか?
  幾らでも呉れてやるが」

 「頂ける物なら……」

そう答えた村長に、今度はレノックは石笛を投げて遣す。

 「これは地磐破の石笛。
  吹けば岩石を破砕する」

未だ不満そうな顔の村長に、更にレノックは『二枚貝<ミディア>』を投げて遣した。

 「これは火熾しの打貝(うちがい)。
  合わせて鳴らせば、火が熾る」

 「えー、その、実際に、どの様な事が起こるのか、どの程度の事が出来るのか……」

恐る恐る尋ねる村長に、レノックは深く頷く。

 「成る程、効果を信じられないと言うのだな。
  宜しい、手本を見せよう」

先ずレノックは村長から狂乱舞踏の笛を受け取り、その場で吹いた。

883創る名無しに見る名無し2019/10/23(水) 19:15:20.55ID:fy8Etfna
高く澄んだ音楽をレノックが吹き奏でると、その場の全員が思い思いに踊り出す。

 「か、体が勝手に……!?」

手を動かし、足を動かし、体を揺すって、笛の律動に乗って。
村の者達の踊りは、ボルガ地方の伝統的な庶民的な舞踊だ。
優美と言うよりは、陽気で楽し気な様子。

 「わ、解った。
  十分に解った!
  止めてくれ!」

村長の懇願に応じて、レノックは演奏を止める。
そして一言忠告した。

 「何れも魔楽器と呼ばれるに相応しい物だ。
  扱いには気を付ける事だな。
  それでは、花嫁は貰って行くぞ」

青年の姿のレノックは、ササンカを抱き上げると、その儘出て行った。
コバルトゥスは気不味い顔で、村長に断りを入れる。

 「……じゃあ、そう言う事で……」

 「お前にササンカを預けるのでは無かった」

恨み囂(がま)しく零した村長に、コバルトゥスは呆れた笑みを向けた。
確かに、ササンカを村から連れ出したのはコバルトゥスだが、それは村長の同意もあっての事。

 「今更そんな事を言われても困る。
  彼女も一人前の大人の女だ。
  彼女は彼女の意思で、自分の相手を決めた。
  それに何の彼んのと言うのは、野暮って物だぜ」

884創る名無しに見る名無し2019/10/24(木) 18:57:26.91ID:BOtgzGqF
そして隠密魔法使いの隠れ里を出た3人は、村落の外で待機しているワーロックと合流し、
今度はコバルトゥスの希望でガガノタット山の麓に向かった。
ガガノタット山はボルガ地方最高峰にして、最大の活火山。
破局噴火の際には、唯一大陸が沈むとまで言われる。
山麓の誰も居ない山林に、4人は降りる。
そこでコバルトゥスは火の精霊に呼び掛けた。
数点の瞑想の後に、コバルトゥスは言う。

 「もう良いぞ。
  次に行こう」

ワーロックもササンカも精霊を感じる事が出来ないのだが、コバルトゥスを信じて頷いた。
それから一行はカターナのコターナ島、ブリンガーのソーダ山脈、ティナーのシェルフ山脈、
最後にグラマー北の砂漠へと移動し、精霊を蘇らせる。
何も無い砂漠でコバルトゥスは3人に振り返って尋ねた。

 「これで俺の用は終わった。
  それで……、どうする?」

 「どうするって……」

再び子供の姿に戻っているレノックは、ワーロックに視線を送る。
全員の注目がワーロックに集まる。

 「ここからは、私独りで回って行きたいんですが……。
  何分、気難しい人達が多いので」

彼はコバルトゥスやササンカを抜きで、各地の旧い魔法使い達を訪ねて回りたいと思っていた。
その2人は他の旧い魔法使いと会わせるには、未だ若過ぎる。
多くの旧い魔法使いは、厭世的であり、隠遁しているので、多くの人と会いたがらない。

885創る名無しに見る名無し2019/10/24(木) 18:57:47.55ID:BOtgzGqF
レノックは顔が広いし、旧い魔法使いの一人なので、問題は無いと思いきや……。
コバルトゥスは未だしも、ササンカはレノックから離れる気配が無い。
そこでワーロックは、独りで行動したいと言ったのだ。
レノックは困った顔をして、ワーロックに横笛を渡した。

 「風の笛だ。
  これを吹けば、突風が吹いて、君を運ぶ。
  風は笛の音に応じて、君の思う儘に吹く。
  しかし、君は魔法資質が低いから、風の働きを読む事は難しいだろう。
  慣れと勘で何とかしてくれ」

 「有り難う御座います」

ワーロックは素直に笛を受け取ると、含羞みながら3人の前で笛を吹いた。
風が優しく渦を巻いて吹き下ろし、彼を取り囲むと、小さな竜巻を起こして、空に巻き上げる。

 「それでは行って来ます!」

そう言ったワーロックに対して、レノックは空を見上げながら無言で頷いた。
コバルトゥスが別れの声を掛ける。

 「先輩、お気を付けて!」

 「あ、ああ!」

ワーロックは丁とした返事を返したかったが、風に乗るのに精一杯で真面な事が言えなかった。
多少浮ら付きながらも、ワーロックは風に乗って飛ぶ。
先ずは近くの精霊石の在処。
精霊コバルタの眠っている洞窟。
岩の洞窟の前に降りたワーロックは、洞窟の中に踏み入った。
そして精霊石の事を想う。

886創る名無しに見る名無し2019/10/24(木) 18:59:28.94ID:BOtgzGqF
果たして、洞窟の中には美しい水晶があった。
それは以前より成長しており、当時は片手で持てる程の大きさだった物が、今は石の台座を覆って、
人間の背丈程にまでになっている。
自然に成長するにしても不自然過ぎるので、これは魔法の世界の影響だとワーロックは考えた。

 (魔法の世界の影響で、精霊力が増大している……のか?
  魔力不足問題は暫く先送りになる?)

今ならコバルタが蘇るかも知れないと、ワーロックは思ったが、どうにも顔を合わせるのは気不味い。
少し遠くからコバルタの精霊の復活を祈って、ワーロックは洞窟から離れる事にした。
砂漠からワーロックは再び笛を吹いて、ティナー市内に向かう。
彼が探すのは言葉の魔法使いワーズ・ワース。
求めれば現れると言う、旧い魔法使いの性質を信じて、ワーロックはワーズ・ワースを捜し歩く。
人気の少ない路地裏を数点歩き、彼は漸くワーズ・ワースに会えた。
最初に彼が会った時と同じ、オーバーオールにハンティング・キャップと言う、少年の様な格好で、
彼女は路地裏に積まれた木箱に座り、彼の事を待ち構えていた。

 「やあ、ラヴィゾール……。
  今はワーロックだったかな。
  『悪の魔法使い<ワーロック>』……君の御両親は、随分と『独特<ユニーク>』な名前を付けたね」

 「御無事でしたか、ワーズさん!」

 「無事……。
  無事だったと言うべきなのかな?
  私は残念ながら、一度死んでしまった。
  否、魔法使いに生も死も無いか……。
  私は何度も死んでいるが、誰かに諱を憶えられている限りは復活出来る」

 「ワーズさんは、誰か蘇らせたい人とか、そう言うのはありませんか?
  今、世界は再生中です。
  貴女しか憶えていない人とか、誰か――」

 「ああ、心配無いよ。
  それより君の方だな。
  誰かの事を忘れていないか、よく考え給え」

ワーズ・ワースの忠告に、ワーロックは深く悩む。

887創る名無しに見る名無し2019/10/27(日) 18:09:10.43ID:iEvwxpuf
彼女と別れたワーロックは、貧民街に移動した。
乞食達も復活しており、ワーロックは硬貨を恵んで、通して貰う。
そして彼は予知魔法使いのノストラサッジオに会いに行く。
当然の様に、地下組織マグマの者達も、ノストラサッジオも復活していた。
誰もが、どこかで繋がっているのだ。
ワーロックは廃墟ビルディングの一室で、ノストラサッジオに会い、彼に尋ねた。

 「ノストラサッジオさん、貴方の事ですから、現状に関しても、大凡の事は解っていると思います。
  助言を頂けないでしょうか?」

ノストラサッジオは小さく首を横に振る。

 「私から言える事は何も無い」

 「どうしたんですか?
  何か悪い事でも……」

元気が無い彼の姿を見て、ワーロックは異変を感じた。
ノストラサッジオは全く無気力に俯いて、再び首を横に振る。

 「何も……。
  君の心配は誰かを忘れていないかと言う事だろう?
  その点に関しては、心配は要らない」

 「あっ、どうも……、有り難う御座います」

ノストラサッジオの助言に、ワーロックは感謝するも、やはり彼の悄然とした様子が気になる。

 「本当に、どうしたんですか?」

 「長らく生きていると、気分の盛り上がらない日もある。
  そっとしておいてくれないか?」

888創る名無しに見る名無し2019/10/27(日) 18:09:30.21ID:iEvwxpuf
明らかにノストラサッジオは普通では無かったが、放って置いて欲しいと言われれば、そうするより、
他に無い。
ワーロックは貧民街を後にして、笛を吹いて風に乗り、織師の老婆が住む迷いの森に移動する。
森を歩き、織師の老婆の小屋を発見したワーロックは、緊張して戸を叩いた。
「居ない」と言う事は無い筈だと、固く信じて。

 「おう、入りなし」

老婆の返事を聞いて、ワーロックは安堵する。

 「失礼します」

小屋に入った彼は老婆の姿を見て、驚いた。
そこに居たのは、巨大な紬蜘蛛。
ワーロックは思わず後退り、狼狽する。

 「う、うわぁ……」

しかし、逃げ出す事はせず、真面真面と観察。
巨大な蜘蛛はワーロックに顔を向け、腹を床に着けて伏せた儘で動かない。

 「えーと、もしかして、穏婆様ですか?」

蜘蛛は何も答えなかった。
どうして、今頃になって、こんな姿を見せるのかとワーロックは困惑する。

 「どうしたんですか?
  どこか具合でも悪いんでしょうか?」

ノストラサッジオと言い、何か奇怪しいと彼は感じる。

889創る名無しに見る名無し2019/10/27(日) 18:11:12.19ID:iEvwxpuf
巨大な蜘蛛は、織師の老婆、その儘の声でワーロックにテレパシーを送った。

 (済まんな。
  混沌の海を耐えたは良いが、大分力を使っちまってな)

 「そ、そうですか……。
  無理をなさらず」

老婆の正体が蜘蛛だったと知っても、ワーロックは特に虫嫌いと言う訳でも無かったので、
然程気にはしなかった。
旧い魔法使いとは、大概が人外なのだ。
中には動物や化け物から人間になった、所謂『成り上がり<アップスタート>』も多く居る。

 「えー、大丈夫ですか?」

 (ああ、寝とれば治る。
  気にすんな)

 「それは良かったです」

 (んで、何の用だ?)

 「いえ、お元気かなと様子を見に来ただけなので……。
  用と言う程の用はありません」

 (んなら、帰れ)

冷たく帰れと言われて、ワーロックは少し傷付いたが、それでも老婆が心配だった。

 「本当に大丈夫ですか?」

 (諄〔くで〕え)

 「わ、分かりました。
  お元気で……。
  又、来ます」

ワーロックは静かに戸を閉めて、老婆の住家を後にする。

890創る名無しに見る名無し2019/10/29(火) 18:31:04.01ID:+1xLFLSo
「さて、次は……」とワーロックは考えながら、笛を吹いた。
風に巻き上げられた彼は、西の空が黒くなっているのを目にして驚く。

 (な、何だ、あれは!?
  暗い……夜が来ている!)

虹色の空が晴れつつあるのだ。

 (行けない!
  混沌の夢が覚めようとしているのか!?)

世界が全体が『混沌の海<カオス・ワイルド>』から引き上げられようとしている。

 (もう世界は完全に元に戻ったと言う事か?)

未だ取り残されている人が居るかも知れないのにと、ワーロックは焦った。
しかし、全てを把握している者は居ないだろう。
それはワーロックも同じだ。
だから、不安になる。
夜の前進は早い。
緩りではあるが、確実に、焦り焦りと西から東へと進む。
目に見えて判る程の速度だ。

 (誰か、誰かの事を忘れてはいないか?)

ワーロックは必死に記憶にある人達をイメージした。
自分の家族、リベラ、ラントロック、両親、そして弟。
禁断の地の人々、旧い魔法使いの知り合い。
旅先で出会った人々。
誰一人忘れてはならないと、強く思い浮かべる。

891創る名無しに見る名無し2019/10/29(火) 18:31:43.22ID:+1xLFLSo
その内に、ワーロックの頭上を夜が追い越した。
美しい夜空が広がり、東側からは太陽が昇り始める。
それと同時に、ワーロックを運んでいた風が弱まり、彼は地上に落下した。

 (ど、どう言う事だ!?
  風が……!
  ま、魔法が……)

ワーロックが地面に激突する覚悟をした次の瞬間、彼は目を覚ます。

 「オワッ!?」

彼は床に横倒(たわ)っていた。
落下感から急に覚めた彼は、辺りの様子を窺う。
そこは魔城の中で、彼の周囲にはラントロック、ビシャラバンガ、ササンカが眠っていた。

 「お早う」

ワーロックに声を掛けたのは、音の魔法使いレノック。
ワーロックは欠伸を噛み殺して、頭を掻きながら、彼に応える。

 「お早う御座います、レノックさん。
  あれから上手く行ったって事で良いんでしょうか?」

その問に、レノックは深く頷いた。

 「ああ、全ては夢だった。
  そう言う事になった」

ワーロックは安堵の息を吐くと、ビシャラバンガの肩を揺する。

 「ビシャラバンガ君、起きてくれ」

892創る名無しに見る名無し2019/10/29(火) 18:33:32.37ID:+1xLFLSo
それに反応して、ビシャラバンガは慌てて素早く起き上がった。

 「ムッ!?
  ……己は眠っていたのか?
  確か、眩い魔力の奔流が全てを呑み込んで……。
  それから、どうなったのだ?」

ワーロックは小さく笑い、彼に言う。

 「全て終わった。
  帰ろう」

 「……夢の通りになったのか?」

 「そう言う事だ」

ワーロックはビシャラバンガの問に頷くと、今度はラントロックを起こした。

 「起きろ、ラント。
  朝だぞ」

 「うぅ……義姉さん?」

目も開けずに、未だ眠っていたい様子のラントロックの額を、ワーロックは軽く叩く。

 「誰が姉さんだ。
  寝惚けてないで起きろ」

 「……親父!?」

飛び起きるラントロックにワーロックは苦笑い。

893創る名無しに見る名無し2019/10/30(水) 18:42:01.07ID:xUnTMW/q
ラントロックは辺りを見回した後、ワーロックに尋ねる。

 「親父。
  俺、変な夢を見てたんだけど……。
  未だルヴィエラとの戦いは決着が付いていないよな?」

その問にワーロックは小さく頷いた。

 「ああ、決着は付いていない。
  でも、もう心配する必要は無い。
  戦いは終わった」

 「終わった?
  俺が寝ている間に何があったんだ?」

 「ルヴィエラは飽きたんだ。
  この世界に興味を失った。
  何時か再び戻って来るかも知れないが、それが何年先かは判らない」

ラントロックは吐き捨てる様に言う。

 「勝手な物だ」

 「悪魔と言う物は、気紛れな物なんだ」

小さく息を吐いて、ワーロックは改めてラントロックに尋ねた。

 「さて、何も無ければ帰ろうと思うが、何か心残りはあるか?」

これにラントロックは頷いた。

 「ああ、スフィカさんを探さないと。
  ……もしかしたら、ここには居ないかも知れないけど」

894創る名無しに見る名無し2019/10/30(水) 18:42:25.70ID:xUnTMW/q
ラントロックの探し人、スフィカは昆虫人である。
虫の性質を持っているので、寒さに弱い。
寒冷地では身動きが取れなくなる。
ラントロックはワーロックに言った。

 「少し探してみても良いか?」

 「ああ、気が済むまで探そう」

そこでワーロックは一度レノックとササンカとビシャラバンガを顧みる。

 「お3方は、どうします?
  先に戻っていますか?」

レノックはササンカとビシャラバンガに呼び掛けた。

 「僕等は帰ろう。
  特に用と言う用も無いし」

ビシャラバンガは眉を顰める。

 「2人だけでは危険では無いのか?」

当然の疑問だが、レノックは平然と答えた。

 「もうルヴィエラは居ない。
  他に脅威になりそうな奴も、残っていない。
  残りたいなら、残っても良いけれど」

そう言われたビシャラバンガは、少し思案した後に言う。

 「では、己も残ろう。
  どうせ先に帰っても、やる事等無いのだ」

895創る名無しに見る名無し2019/10/30(水) 18:43:59.51ID:xUnTMW/q
ワーロックとビシャラバンガとラントロックの3人は、魔城の跡に残って、スフィカを探す事に。
レノックとササンカは一足先に魔導師会の根拠地に帰る。
ワーロックはビシャラバンガに礼を言う。

 「有り難う、ビシャラバンガ君」

 「礼を言われる筋合いは無い。
  己が勝手に決めた事」

スフィカを探す道々、一行は雑談を始める。
ワーロックはラントロックをビシャラバンガに紹介した。

 「ビシャラバンガ君、そう言えば未だ丁と紹介していなかったな。
  おい、ラント」

彼はラントロックを呼び止めて、ビシャラバンガと向き合わせる。

 「私の息子、ラントロックだ」

 「……どうも」

ラントロックは素っ気無い態度で一礼。
愛想の良くない彼に、ワーロックは眉を顰める。

 「済まない、ビシャラバンガ君。
  人見知りする子で」

 「違う、親父!
  そんなんじゃ無いからな!」

 「だったら、丁と挨拶をしなさい」

言い合う父子をビシャラバンガは仲裁する。

 「そこまで己は礼節や形式には拘らぬ。
  ラントロックと言ったな。
  己はビシャラバンガ、巨人魔法使いだ」

ビシャラバンガはラントロックに対して、その大きな手を差し出し、握手を求めた。

896創る名無しに見る名無し2019/10/31(木) 18:34:25.97ID:gm0M1ww7
2人は握手し合うが、それ以上の話はしない。
元々口数の少ないビシャラバンガと、人見知りするラントロックなので、話が弾む訳も無かった。
それから3人は無人の魔城の中を探索する。
魔城の恐ろしい気配は、もうしないのだが、先ずはルヴィエラが本当に退去したのか確かめる為に、
玉座の間に向かう。
最初に他者の気配を察知したのは、ビシャラバンガだった。
――玉座の間には、そのルヴィエラが居た。
身構える3人に対して、ルヴィエラは意地悪く笑う。

 「よく来たな。
  ……っと、この城は私の城では無かったな。
  フフフ」

独り笑いする彼女に対して、ワーロックは問うた。

 「未だ何かあるのか?」

ルヴィエラは小さく首を横に振る。

 「いいや、何もありはしない。
  少し、この城を見ておきたいと思ってな。
  唯それだけだ。
  確かに私の城と外観は似ているが、中身は全く違う。
  所詮は形だけの物か……。
  フフ、悪魔公爵の城を地上に再現出来る筈も無い」

彼女は嘆息して、問い返す。

 「それで、お前達は何の用だ?」

それにラントロックが答えた。

 「スフィカさんを探している。
  居場所を教えてくれ」

897創る名無しに見る名無し2019/10/31(木) 18:34:53.62ID:gm0M1ww7
ルヴィエラは少し考えた。

 「スフィカ……?
  ああ、昆虫人の奴が、そんな名前だったな。
  あれは寒い所には居られないと言って、南方に出掛けたよ」

ラントロックは表情を強張らせ、ワーロックに言った。

 「行けない!
  スフィカは人を襲うかも知れない。
  彼女は反逆同盟が倒れた事を知らない。
  ……知っていても、魔物だから……」

ワーロックは頷き、ルヴィエラに告げる。

 「私達も、ここには用は無い。
  もう会わない事を祈る」

それに対して、彼女は相変わらずの意地の悪い笑みを浮かべた。

 「さて、それは分からない。
  今回は引き下がるが、全ては私の気分次第さ。
  それは数年後かも知れない、何十、何百、何千年後かも知れない。
  そして、もしかしたら明日かも知れない」

そう言って、ルヴィエラは闇に溶け、姿を消した。
3人は不気味な物を感じながら、魔城を後にする。
これにて反逆同盟との戦いは、完全に終わったと言って良いだろう。
長い戦いが終わった。
……誰も忘れていたが、城の中には未だバルマムスが残っていた。
しかし、バルマムス一人に何が出来る訳でも無い。
そもそも城から出られるかも分からない。

898創る名無しに見る名無し2019/10/31(木) 18:35:43.43ID:gm0M1ww7
魔城から出た3人をレノックとササンカが待っていた。
レノックは穏やかな音楽を鳴らして、寒さを緩和している。

 「レノックさん、帰ってなかったんですか?」

ワーロックの問にレノックは小さく頷いた。

 「僕等だけ帰ると言うのも、何だか悪いと思ってね。
  僕の魔法があれば、寒さは何とも無いし」

レノックはササンカに目配せをして言うと、ササンカも頷いて返した。
その後にレノックは声を潜めて、ワーロックに問い掛ける。

 「何かあった?」

 「いえ、何もありませんでしたよ。
  ……あ、ルヴィエラが出て来ました」

 「未だ居たのか!?」

 「何やら思わせ振りな事を言って、去って行きましたが……。
  今の所は安心して良いみたいです」

 「そうなのか……。
  まあ、元々奴の気紛れで、どうにでもなる事だからな。
  僕達に出来る事は、備える事だけだ」

油断ならないなとレノックは苦笑しながら、一行を先導する。

 「さあ、帰ろう」

こうして一行は魔導師会の根拠地へ。
後の事は語るまでも無い。
漸く平和な日々が戻って来たのだ。

899創る名無しに見る名無し2019/11/01(金) 18:50:10.04ID:Gkl+ZMdT
後日談


スフィカを探して


第六魔法都市カターナにて


ラントロック・アイスロンは反逆同盟が倒れた後、独りで放浪の旅に出た。
ヘルザ・ティンバーは家に戻り、家族と和解した。
義姉リベラは父に付いて、旅商の修行。
ラントロックも家族と行動を共にするとか、禁断の地で静かに暮らすと言う選択があったが、
そうしなかった。
理由は父への反発等では無く、精霊魔法使いコバルトゥス・ギーダフィに憧れての事だった。
旅に出た彼は、最初の目的として、スフィカを探すべく、常夏の地カターナを訪れた。
カターナ市内でラントロックは、カターナ北の森の中で、大型の蜂に人が襲われる事件が、
相次いでいると言う情報を得て、スフィカの関与を疑い、そこに向かう。
蒸し暑いカターナの鬱蒼とした森の中は、虫も多く、酷く不快。
蚊に蚋に吸血虻だけで無く、吸血蛭も居る。
そうした直接害となる昆虫以外にも、毒蛇や蠍等、油断のならない生き物が多い。
勿論、小蝿や浮塵子、蜘蛛の巣と言った、単純に鬱陶しい物もある。
地元の人間も、特に用が無ければ、森には入らない。
想像するだけでも億劫になるが、ラントロックは覚悟を持って進んだ。
当然、事前の準備は欠かさない。
魔法で虫が嫌う音波を出す、防虫装置を片手に、彼は森の中に踏み入る。

900創る名無しに見る名無し2019/11/01(金) 18:50:46.83ID:Gkl+ZMdT
防虫装置の効果は確かな物で、ラントロックは昆虫に纏わり付かれる事無く、森の中を探索する。
しかし、広い森の中、どこにスフィカが居るかは判らない。
そもそも本当に蜂が人を襲うのが、スフィカの仕業なのかも定かでは無い。
適当に歩き回って、蜂に襲われるのを待つしか無い。
その内に日が暮れ出して、ラントロックは参った。
どうにかなるだろうと言う、軽い気持ちで森に入ったばかりに、迷ってしまったのだ。
本来人が立ち入る様な場所では無いので、案内も何も無い。
防虫装置は10日も効果が持続するので、虫は気にしなくて良いが、食べ物は1日分しか無い。
これまで魅了の力を使い、その日暮らしをしていた事が、仇となった。
しかしながら、ラントロックは冷静だった。

 (夜間に歩き回るのは、危ないな。
  引き際を間違えたのは、もう仕様が無い。
  明日の朝、朝日が昇る方向を確かめて、移動しよう。
  取り敢えず、南に歩いて行けば、森から出られる筈だ)

彼は旅の心得をリベラやコバルトゥスから聞いていた。
取り敢えず、野宿する為に、野生動物に襲われない場所を探す。
だが、ここで彼の経験の無さが表れる。
どこなら安全に野宿出来るか、判らないのだ。
取り敢えず、虫食いの無い大きな木に登って、樹上で一晩を過ごすと言う選択をする。
木の上は確かに野生動物に襲われ難いが、落下の危険が伴う。
そうそう睡眠に都合の好い枝の生え方をした木は無い。
ラントロックは、どうやったら寝苦しくないかを考えた。
幹に縋ってみたり、枝を跨いでみたりと、色々試したが、結局どれも今一つ。
素直に安定した姿勢で、自然に眠くなるまで待つ事に。

901創る名無しに見る名無し2019/11/01(金) 18:51:14.90ID:Gkl+ZMdT
樹上でラントロックは月を見ながら、瞑想した。

 (こんな時、親父や小父さんなら、どうしたんだろうなぁ……。
  真面な野宿の方法、教えて貰わないとな)

夜鳥の鳴き声が、彼を眠りに誘う。
ラントロックが眠りに落ちてから1角後、彼の耳に煩い羽音が聞こえた。
丸で機械の駆動音の様な騒音に、ラントロックは顔を顰めて目を開ける。
彼の目の前には、ホバリングしている昆虫人スフィカが居た。

 「スフィカさん……?」

 「……トロウィヤウィッチ、何をしに来た?」

しかし、お互いの声は羽音に阻まれて聞こえない。

 「煩くて聞こえないよ」

 「何?」

 「だから、煩いって。
  どこか……隣の枝にでも止まって」

ラントロックは近くの木の枝を指差しながら、身振り手振りで声が聞こえない事を示す。
スフィカは何と無く察して、彼の指示通りにした。
ラントロックは大きな欠伸を一つして、スフィカに言う。

 「スフィカさん、反逆同盟は終わったよ。
  マトラ事ルヴィエラは地上から去ったんだ」

 「そうなのか?」

 「ああ。
  だから、もう人を襲う事は無いんだ」

彼の説得にもスフィカは表情を変えない……と言うか、昆虫人は表情が変わらないので、
心の動きが判らない。

レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。