そう言いながら彼女はローブのフードを剥いで、目元を覆う『仮面<マスク>』を着けた顔を晒す。
ワーロックは彼女に見覚えが無い。
仮面の女の怪談や昔話は幾つか知っているが、どんな外道魔法使いだとかは聞いた事も無い。

 「……貴女は誰なんだ?
  全然話を聞いた事も無い」

 「未だ何も言うとらんがぞね」

 「あ、はい」

仮面の女性は昔話をする様に語り始める。

 「石女(うまずめ)の魔法使いの話だ。
  呪詛の瞳で見る物を全て石に変える」

 「石化の魔眼とか、石化能力を持つ魔物の伝説なら知っているが……」

 「言ってみろ」

 「『待ち石』の伝説の中に、人に裏切られて魔物になった存在の話がある。
  女性の嫉妬だったと記憶している。
  彼女は旅人と関係を持って彼を待ち続けていたが、何時まで経っても彼は帰らなかった。
  待ち疲れて石になった彼女の前に、旅人が別の女を連れて現れる。
  彼は彼女の事を覚えておらず、待ち石になった彼女を他人の様に言う。
  その事に怒った彼女は、石の儘で動く怪物となった。
  その姿は風雨に晒されて、最早人の姿をしていなかった。
  重い石の体を引き摺る、その様は蛇の如く……。
  彼女の恐ろしい姿を見た者は、恐怖に駆られて逃げ出した。
  その事を彼女は益々恨んで、あらゆる物を石化させる能力を得た。
  石になった物は逃れられない」

ワーロックの話を聞いた仮面の女性は、深く頷いて付け加えた。

 「『石化<ペトリファイ>』の能力を持つ怪物は、英雄に倒されて大岩に姿を変えた。
  その大岩は呪いの能力を持ち続け、女の恨みに応え、恨み持つ女に能力を与えた」