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ロスト・スペラー 20

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0001創る名無しに見る名無し
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2018/12/07(金) 18:09:05.48ID:81QT8mxd
未だ終わらない


過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
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http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0499創る名無しに見る名無し
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2019/06/12(水) 18:28:58.86ID:8LAItr7g
彼女は自信の無さそうな声で、ワーロックの正体に関する考察を披露する。

 「詰まり……。
  詰まり、こう言う事か?
  お前は魔導師でも無いのに、独自の判断で反逆同盟と戦おうとしているのか?
  そんな事を魔導師会が許す訳が無いと、知っていながら?」

 「いや、魔導師会と連絡は取っている。
  しかし、私は一般人と言うだけだ」

 「民間の掃除屋か何か?
  そんな物があるか知らないが……」

 「それも違う。
  仕事ではない。
  どちらかと言うと、ボランティアだ」

 「魔導師会は人手不足なのか……。
  それとも……」

 「確かに、魔導師会は人手不足だ。
  特に外道魔法に関する知識が豊富な人材に関しては」

 「お前は民間の研究者か?
  外道魔法の?」

 「違う。
  少し外道魔法使いと交流があるだけの者だ」

散々推理を外した白い法衣の女性は、ワーロックの答に興味を持った。

 「お前は共通魔法使いでありながら、外道魔法使いとも知り合いなのか……。
  それでは私の話を聞いた事はあるか?」
0500創る名無しに見る名無し
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2019/06/12(水) 18:30:39.19ID:8LAItr7g
そう言いながら彼女はローブのフードを剥いで、目元を覆う『仮面<マスク>』を着けた顔を晒す。
ワーロックは彼女に見覚えが無い。
仮面の女の怪談や昔話は幾つか知っているが、どんな外道魔法使いだとかは聞いた事も無い。

 「……貴女は誰なんだ?
  全然話を聞いた事も無い」

 「未だ何も言うとらんがぞね」

 「あ、はい」

仮面の女性は昔話をする様に語り始める。

 「石女(うまずめ)の魔法使いの話だ。
  呪詛の瞳で見る物を全て石に変える」

 「石化の魔眼とか、石化能力を持つ魔物の伝説なら知っているが……」

 「言ってみろ」

 「『待ち石』の伝説の中に、人に裏切られて魔物になった存在の話がある。
  女性の嫉妬だったと記憶している。
  彼女は旅人と関係を持って彼を待ち続けていたが、何時まで経っても彼は帰らなかった。
  待ち疲れて石になった彼女の前に、旅人が別の女を連れて現れる。
  彼は彼女の事を覚えておらず、待ち石になった彼女を他人の様に言う。
  その事に怒った彼女は、石の儘で動く怪物となった。
  その姿は風雨に晒されて、最早人の姿をしていなかった。
  重い石の体を引き摺る、その様は蛇の如く……。
  彼女の恐ろしい姿を見た者は、恐怖に駆られて逃げ出した。
  その事を彼女は益々恨んで、あらゆる物を石化させる能力を得た。
  石になった物は逃れられない」

ワーロックの話を聞いた仮面の女性は、深く頷いて付け加えた。

 「『石化<ペトリファイ>』の能力を持つ怪物は、英雄に倒されて大岩に姿を変えた。
  その大岩は呪いの能力を持ち続け、女の恨みに応え、恨み持つ女に能力を与えた」
0501創る名無しに見る名無し
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2019/06/13(木) 19:28:40.08ID:P7V47BWV
その言葉をワーロックは少し考えて、彼女の正体を予想する。

 「石化の能力を得た魔法使いが、貴女だと……?」

 「そうだ」

 「……それで、貴女は反逆同盟の者?
  それとも反逆同盟と戦う側の者?」

仮面の女性は小さく笑った。

 「もし反逆同盟の者だったら、どうする?」

ワーロックは静かにロッドを構える。
それが答えだ。
仮面の女性は笑みを消して、緩りと自分の仮面を外そうとする。
彼女の言葉が本当なら、石化能力を使う積もりだ。
その目に睨まれたら石化して動けなくなる。
ワーロックは彼女の目を直視しない様に、ロッドで防御した。
次の瞬間、ロッドが石化して重たくなる。
彼女の石化能力は生き物以外にも作用するのだ。
詰まりは、瞳を直視せずとも石化すると言う事である。
重たくて振り回し難くなったロッドを、ワーロックは石女の魔法使いに向けて投げ付ける。

 「あっ、ブヘッ……!」

石化したロッドは見事に彼女の頭に当たった。
リタは石の体だけあって、余り動きが俊敏では無い。

 「貴様ーーっ!!」

彼女は激昂してワーロックを睨むが、そのワーロックは彼女の目を見ない様に蘭燈の灯を消して、
暗闇に紛れる。
0502創る名無しに見る名無し
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2019/06/13(木) 19:29:53.49ID:P7V47BWV
石化したロッドを脳天に食らった筈だが、石女の魔法使いに然程のダメージは見られない。
石の体は頑丈さも石その儘で、堅固なのだ。

 「えぇい、暗闇に紛れよったか!」

それでも、どうやら知覚や運動神経は人並みの様で、その事実にワーロックは安堵する。
厄介なのは石化能力と頑丈さのみだ。
ここで戦い続けるより、逃げた方が良いと思い、ワーロックは忍び足で裏通りを駆け抜け、
大回りして表通りに戻る。
人の多い場所に出て、彼は安堵の息を吐いた。

 (子供の泣き声だけじゃないみたいだな……。
  石化の能力を持った魔法使いまで居るとは。
  やはり反逆同盟の策略か)

謎の子供だけなら未だしも、石化能力は厄介だ。
しかし、これまで石化したと言う話は聞かなかった。
それは今まで仮面の女性に関わった者が全滅していたか、或いは、彼女が新しく派遣されたか、
どちらかと言う事。

 (一度、魔導師会に報告する必要があるだろう)

そう決めたワーロックは、今日の所は宿に帰って休む事にした。
ロッドも失っているので、戦いは控えたい。
彼は大きな溜め息を吐いて、今後の事にも考えを巡らせる。
敵が複数居ると判明した以上、単独行動は危険だ。
一緒に行動出来る仲間が欲しい。
だが、魔導師会が手を貸してくれるとは思えない。
魔導師会は自分達だけで解決したがるだろう。

 (コバギを頼るか……?)

一時的にコバルトゥスの力を借りる事も、彼は視野に入れた。
0503創る名無しに見る名無し
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2019/06/13(木) 19:30:26.64ID:P7V47BWV
翌朝、ワーロックは魔導師会支部を尋ねて、親衛隊員に昨夜の出来事を報告する。

 「実は昨夜――」

彼の話を聞いた親衛隊員は驚いた。

 「子供の泣き声の正体を探ろうとしたんですか!?」

 「あっ、はい……」

 「しかも、お1人で?」

 「はい」

 「危険だって言ったじゃないですか!!」

 「はい……。
  しかし……」

 「しかしも何もありませんよ!」

親衛隊員はワーロックの話を聞き終える前に、彼の無謀な行動を非難する。
警告を聞かなかった非は、ワーロック自身も認めているので、反論はしない。
それでも過ぎた事より、これからの事を話したかった。

 「ま、先ずは私の話を聞いて下さい。
  子供の泣き声を聞いた時に、私は放って置けないと言う気持ちになりました。
  貴方にも都市警察にも、危険だと言われていたにも拘らず。
  これは私が不注意だっただけかも知れませんが、もう1つ可能性があります。
  詰まり、泣き声が聞こえた時点で、軽い洗脳状態にあるのではと言う事です」

彼の推測に親衛隊員は興味を持つ。

 「聞こえた時点で危ないと言う訳ですか?」
0504創る名無しに見る名無し
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2019/06/14(金) 18:31:09.96ID:gcXZ4aV2
ワーロックは深く頷いた。

 「私の場合は意識がありましたが、無性に心配になったのです。
  深夜に子供の泣き声が聞こえて、それを放って置いて良いのかと……。
  いや、冷静に考えると怪しい事この上無いんですけど」

 「そう言う人間の心理を利用している?」

 「或いは、そう言う心理の働く人間だけを、狙っているのかも知れません」

親衛隊員は両腕を組んで低く唸る。

 「……所謂、良い人、優しい人を狙って?
  いや、確証の無い事を幾ら考えても仕方ありません。
  お話と言うのは、それだけでしょうか?」

 「いえ、未だ未だあります」

ワーロックは「未だ」を2度繰り返したので、親衛隊員は驚いた顔をした。

 「取り敢えず、全部話して下さい」

 「ええ。
  子供の泣き声の正体は、よく分からない黒い影の様な物でした」

彼の矛盾した説明に、親衛隊員は困惑する。

 「……結局、正体は分からなかったんですか?」

 「いやいや、確かに見たんです。
  身長が半身と少し位の、子供みたいな……」

 「子供?」

 「ええ、子供みたいな黒い影でした」

やはりワーロックの説明が理解出来ず、親衛隊員は苦笑いした。
0505創る名無しに見る名無し
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2019/06/14(金) 18:32:01.28ID:gcXZ4aV2
ワーロックは何とか理解して貰おうと、言葉を尽くす。

 「黒い影と言っても、立体なんですよ。
  全身が真っ黒な子供です。
  色黒とか、そう言うんじゃなくて、本当に真っ黒の。
  それで、明かりで照らされると逃げて行きました」

 「明かりに弱い?」

 「恐らく」

黒い影は明かりに弱いと聞いて、親衛隊員は先に聞いていたコバルトゥス等からの報告を思い出した。

 「影の魔物……でしょうか?
  反逆同盟の長であるルヴィエラは、闇を操ると聞きます。
  子供の姿をした魔物が、何体居るかは判りませんが、それが全てルヴィエラの配下なら……」

 「その可能性は高いでしょう」

人を誘う子供の泣き声を発する物の正体は、ルヴィエラの配下の影の魔物。
それならば、対策も立てられるかも知れないと、親衛隊員は深く頷く。

 「では、強い明かりを持っていれば大丈夫と言う事ですね」

これで子供の泣き声を恐れなくて良いと思った彼に、ワーロックは待ったを掛けた。

 「いえ、待って下さい。
  明かりを持っていても、洗脳状態が弱まる訳じゃないんです。
  それに敵は子供の姿をした奴だけではありません」

 「他にも……?
  もしかしてルヴィエラ自身が!?」

親衛隊員は目を剥いて驚く。
0506創る名無しに見る名無し
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2019/06/14(金) 18:32:37.69ID:gcXZ4aV2
ワーロックは首を横に振った。

 「いいえ、ルヴィエラではありませんでしたが……。
  女性の魔法使いでした。
  石化の能力を持った、石女の魔法使いだと、本人は名乗っていました」

 「石化!?
  反逆同盟で、石化で、女性――と言うと、バレネス・リタでしょうか?」

 「いや、名前までは聞かなかったので、そこまでは……。
  そのバレネス・リタとは一体どんな魔法使いなんですか?」

親衛隊員はワーロックの問に淀み無く答える。

 「バレネス・リタは石の魔法使いだと聞いています。
  石化の魔眼を持ち、見た者を石に変えると……。
  反逆同盟の砦で、魔導師会はバレネス・リタとも戦いました。
  その時に執行者の何人かが石に変えられてしまった訳ですが……」

 「その人達は、どうなったんです?」

石化とは即ち絶命と同義では無いかと、ワーロックは心配した。
親衛隊員は感情を抑えた平静な声で言う。

 「象牙の塔に送られて、解呪を試されている所です」

 「元に戻るんですか?」

 「……何とも言えません。
  研究者達の話では、見込みが無い訳では無いとの事でしたが……」

ワーロックはコバルトゥス達の事を心配した。
0507創る名無しに見る名無し
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2019/06/15(土) 17:36:50.21ID:UwQ0TMAP
昨夜の内に何かあったと言う事は無かろうが、石化の魔法使いが共に居るとは知らないだろう。

 「取り敢えず、石化の魔法を使う者が、この街に居る事は周知した方が良いと思います。
  その……石の魔法使いバレネス・リタでしたか?
  彼女は白い法衣を着て、目を隠す仮面を着けていました」

 「ええ、分かりました。
  白い法衣に仮面……。
  そこまで明から様に怪しい容姿であれば、迂闊に近付く者は、そうそう居ないでしょうが、
  一応は警戒を呼び掛けておきます」

ワーロックと親衛隊員は頷き合う。
それから魔導師会支部を後にしたワーロックは、コバルトゥス達を探しに街に出た。
今まで嘘を吐いていた事を認めなければならないのは苦しいが、一刻も早くバレネス・リタの情報を、
教えなければならないと彼は思っていた。
しかし、こう言う時に限って、中々会おうと思っても会えない物だ。
偶々街中で見掛けたのが奇跡の様な物で、その後は闇雲に歩き回っても会えない。
ティナー市は広いし、人口も多い。

 (皆、どこに行ったんだろう?
  もう街を離れたなら良いんだが……。
  夜中に街を歩いていたりはしないよな?
  その辺はコバギが付いているから大丈夫な筈……)

もう日が暮れると言う頃になっても、ワーロックはコバルトゥス等を探して歩き続けた。
途中、彼は都市警察に出会い、声を掛けられる。

 「あっ、貴方!
  そろそろ暗くなりますよ」

 「あっ、はい……」
0508創る名無しに見る名無し
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2019/06/15(土) 17:37:13.17ID:UwQ0TMAP
ワーロックが露骨に嫌な顔をしたので、警官も態度を厳しくする。

 「何ですか、その顔は?
  私達も何も嫌味で言ってる訳じゃないんですよ。
  市民の安全を守るのは、私達の務めですから」

警官の言葉を受けて、ワーロックは彼に尋ねてみた。

 「石の魔法使いの話は知っていますか?」

 「石?
  何ですか、それは?」

 「この街での行方不明事件には、子供の泣き声が関係しているって話でしたよね?」

 「いや、直接の関係は判っていませんが……。
  何等かの関係はあるだろうとは言われています」

ワーロックは頷いて、昨日得たばかりの新情報を伝える。

 「それが子供の泣き声だけじゃなかったんです。
  石の魔法使いも居たんですよ」

 「……何なんですか、それは?」

 「何って言われても、女性の外道魔法使いです。
  石化の魔法を使うんですよ」

 「そんなのが居るんですか?」

 「聞いていないんですか?」

ワーロックと警官は、お互いに疑問の眼差しを向け合う。
0509創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/15(土) 17:37:37.85ID:UwQ0TMAP
中々1日だけで末端まで情報は行き渡らないのかなと、ワーロックは思った。
そもそも親衛隊員がワーロックの話を信用したとして、その儘、彼を情報源として他の全員に、
新たな情報を伝えると言う事が可能なのかと言う問題がある。

 (私独りでは情報源としては弱いのかな……?
  裏を取ろうにも時間が無いし。
  相手が石化の魔法を使うなら、尚の事、難しいだろうしな)

ワーロックは悩ましい顔で低く唸る。
そして警官の怪訝な顔に気付いて、弁明した。

 「あ、いや、本当なんですよ。
  未だ話が行き渡ってないんですかね?」

 「行き渡るも何も、貴方は何なんですか?
  その話が本当だとして、どうして知ってるんです?」

ワーロックは覚悟を決めて、真面目な顔で答える。

 「私は魔導師会の協力者です。
  独自に外道魔法使いを追って、各地の事件を解決しているんです」

警官は暫く沈黙して彼を見詰めていたが、直ぐに我に返った。

 「ハハハ、何を馬鹿な事を。
  余り巫山戯ていると逮捕しますよ」

 「いや、別に巫山戯てなんか……」

 「未だ続けるんですか、その話?
  これ以上は署で聞かせて貰いますけど」

ワーロックは両腕を組んで低く唸る。

 (行き成り信じろって方が無理だよなぁ……。
  こりゃ参った)
0510創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/16(日) 18:53:23.43ID:imDBIy+B
どうにか警官を説得出来ないかと彼は考えた。

 「嘘じゃないんですよ。
  一緒に街を『警邏<パトロール>』しませんか?」

 「何を言うんですか、貴方は?」

警官は露骨に不信感を露にする。
ワーロックは至極真面目な顔で言った。

 「私達の目的は同じ筈です。
  協力出来る事は協力しましょう」

警官は途んでも無いと、首を横に振る。

 「馬鹿を言わないで下さい。
  私達は事件を解決する為に動いている訳じゃないんです。
  被害者を減らす為ですよ。
  そもそも魔導師会から、危険には近付くなと言われていますから!」

警官の言う事は真実で、魔導師会は都市警察に、事件には関わらない様に言われている。
飽くまで「市民を危険から遠ざける」為の活動しか出来ない。
都市警察に外道魔法使いと戦う能力は無いから、それは仕方の無い事だ。

 「そうですか……。
  それでは仕方ありません」

ワーロックが引き下がると、警官は彼を呼び止める。

 「一寸、待った!
  何が仕方無いんですか!?」
0511創る名無しに見る名無し
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2019/06/16(日) 18:54:38.86ID:imDBIy+B
勝手に独りで行動する積もりでは無いかと、警官は疑ったのだ。
ワーロックは面倒臭そうな顔をして言う。

 「都市警察は事件の解決には動けないんでしょう?
  夜間の警邏はしてるんですか?」

 「ああ、その位は」

 「もう西の時ですけど、もしかして夜勤?」

 「ええ、そうです」

日中の勤務時間は大体、東の時から南西の時か、南東の時から西の時だ。
西の時以降に働いている者は、夕勤や夜勤の可能性が高い。
ワーロックは再び両腕を組んで、低く唸る。

 「それだったら、私が貴方の警邏に付き合いましょうか?」

 「えっ……」

 「私と貴方で、一緒に夜の街を見回りすると言う事です」

 「いや、それは解りますよ」

 「1人より2人の方が良いでしょう?」

警官は面倒臭そうな顔をした。
如何に善意の者でも、よく分からない一般人を連れて警邏する事に、問題があると思うのだ。

 「私独りで大丈夫ですから……」

 「本当に?
  石化の魔法使いまで出るんですよ」

ワーロックに執拗く迫られ、警官は悩むも、やはり都市警察としての面子を第一に考える。
0512創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/16(日) 18:57:05.36ID:imDBIy+B
 「いや、駄目です。
  貴方は一般人、私は警官。
  一般人を危険に巻き込む事は出来ません」

お堅い人だなとワーロックは内心で呆れるも、もし逆の立場なら自分も同じ事を言っただろうから、
これ以上無理な願いを言う事は諦めた。

 「ああ、済みません。
  無理な事を言いました。
  大人しく帰る事にします」

それを聞いて警官は安堵する。

 「フー、良かった。
  早く帰って下さい」

 「はい、失礼しました」

浅りと引き下がったワーロックに、警官も怪しさを感じてはいた物の、ここで深く突っ込んで、
又あれこれと言い合う破目になっても詰まらないので、お役人的な事勿れ主義を発揮した。
ワーロックは一旦ホテルに帰って、夜中に再び街に出掛ける。
――一方その頃、コバルトゥス達は……。

 「昼間の活動では、事件を解決出来ない。
  敵を仕留めるなら、夜に動く必要がある」

コバルトゥスの発言に、リベラ、ラントロック、ヘルザの3人は頷いた。
コバルトゥスは続ける。

 「敵の弱点は判っている。
  皆で一緒に行動すれば、危険は少ない筈だ」

3人は再び真剣な顔で頷く。
コバルトゥスは号令を掛けた。

 「良し、行こう!」

こうして4人は夜の街に繰り出す事に。
0513創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/17(月) 18:54:52.86ID:dirS0tZC
ホテルの玄関の鍵は閉まっていたが、コバルトゥスは得意の鍵開けで解錠し、4人で外に出た後に、
再び閉めた。
夜の街は誰も居ないと思っていた4人だが、意外と人が出歩いている。
ティナー市民の全員が全員、魔導師会や都市警察の言う事を聞いて、大人しく篭もる訳が無いのだ。
しかし、流石に子連れの者は居ない。
コバルトゥスとリベラは未だしも、ラントロックとヘルザは、どう見ても少年少女の年齢。
傍から見れば一行は、宿る所の無い不良少年少女の集団の様だ。
差し詰め、コバルトゥスは子供を連れ出す悪い大人……。
そう見える事を逆手に取り、コバルトゥスは有事には大人である自分が、矢面に立とうと考えていた。

 (これが大人になると言う事なのか……)

今まで責任感や大人らしさとは余り縁の無かったコバルトゥスは、心の成長を感じていた。
責任を取ると言うと、面倒臭い事としか思っていなかった彼だが、今は誇らしい気持ちがある。
そして一行が街に出て間も無く、都市警察に発見された。

 「おい、そこの!!」

呼び掛けられて、リベラとヘルザの2人は緊張した表情になった。
だが、魅了の魔法で適当に遇えば良いと考えているラントロックと、今が大人である自分の見せ場と、
張り切っているコバルトゥスは違う。

 「何だ?」

コバルトゥスは全員を後ろに隠す様に立って、自ら進んで男性の都市警察と対面した。
都市警察は激昂して噛み付く。

 「警察相手に『何だ』はないやろ!
  今、子供を連れ歩くとか、何を考えとんのや!
  つーか、どう言う関係なん、君等?
  親子やないやろ。
  親御さんは、どこに居んねん」

 「俺が、この子達の保護者みたいな物だ」

コバルトゥスは堂々と、そう宣言した。
0514創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/17(月) 18:56:00.82ID:dirS0tZC
勿論、そんな事で引き下がる都市警察では無い。

 「いやいや、そんなん口では何とでも言えるがな。
  親御さんの許可は取っとるんか?
  取っとらんやろ。
  合意とか関係無しに、他人の子供を勝手に連れ回すのは、未成年略取やぞ」

早口で迫る警官にも、コバルトゥスは押し負けない。

 「いいや、取っている」

 「おう、ンなら証明して見せえや」

無理難題を言われても、彼は冷静だった。

 「都市警察なら、俺が嘘を吐いているか、どうか位は判るんだろう?」

 「愚者の魔法なんぞ当てになるかい!
  あんな物は、誤魔化そう思うたら、幾らでも誤魔化せるさかいな」

 「それなら、この子達に直接聞いてみると良い」

 「阿呆か!
  余計、当てにならんわ!
  こう言う事は、子供の方が信用ならんのやで。
  平然と嘘吐きよる。
  そもそもの話、親の許可の有る無しは関係あらへん。
  深夜に子供を連れ歩く事自体が怪しからんっちゅうとるんや」

 「それじゃあ、どうしろってんだ?」

警官の言う事は正論ではあるが、コバルトゥスは両肩を竦めて、呆れて見せる。
0515創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/17(月) 18:58:56.56ID:dirS0tZC
実際どうすれば良いか等、誰にも言えはしない。
素直に考えれば、警官は怪しい男であるコバルトゥスから、若年者を引き離して、保護する事になる。
そしてコバルトゥスは逮捕するか、放置するか……。
その決断をするのは、もう少し聴取をしてからでも良いと、警官は判断した。
もしかしたら、本当にコバルトゥスが保護者の可能性もある。
それなら無理に引き離す事をせずに、どこかで宿を取らせれば良い。

 「誤解せんといて欲しいんやけど、別に結論を急いどる訳やないんやで。
  今、この街が危険な状況なんは、あんたも当然知っとるよな?
  そっちの子供等も」

全員が頷いたのを見て、都市警察も頷く。

 「ほんなら、何で子連れで、こんな所に居るんや?」

 「事件を解決する為だ」

コバルトゥスは真面目に答えた。
都市警察は目を丸くして、言葉を失う。
数極して、彼は何とか声を絞り出した。

 「いや、いやいや、いやいやいや、あんたは何の積もりなんや?」

 「事件を解決する積もりだが」

 「そやのうて、本真に出来る思うとるんかい!」

 「思ってなけりゃ言わないだろう」

 「あんた何者なんや?」

何者と問われても、コバルトゥスは困る。
0516創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/18(火) 18:49:11.71ID:ynclmxu2
少し迷った後、コバルトゥスは魔導師会の名を出す事にした。
権威主義的な傾向のある組織の者には、有効なのかも知れないと思ったのだ。

 「魔導師会の協力者だ。
  俺達は魔導師会から反逆同盟と戦う許可を受けている」

警官は困惑していた。
当然の反応ではある。

 「反逆……?」

 「何も知らないのか?」

 「いや、名前位は知っとる。
  知っとるんやけども……えぇ、本真に?」

コバルトゥスは大きく頷いた。

 「俺達は共通魔法使いでは無い。
  反逆同盟と戦う為に、魔導師会に協力している」

警官は沈黙して、長考を始めた。
彼の言う事を信じて良いか、迷っているのだ。

 「証拠はあるんか?」

 「証拠?」

 「あんた等が魔導師会の協力者っちゅう……」

コバルトゥスは苦笑いする。
所謂世直し組が持つ鉄簡の様な、そんな見た目に判り易い便利な証拠は無いのだ。
0517創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/18(火) 18:50:03.12ID:ynclmxu2
途端に疑わし気な表情になる警官を見て、コバルトゥスは言い訳した。

 「魔導師会の者を呼んで貰えれば分かる」

 「あんな、そんなんで一々呼べるかい」

どうあっても警官は一行を信用しない。
権威主義と事勿れ主義を拗らせると、こうなるのだ。
どうにか彼を説得しようと、コバルトゥスは試みる。

 「それなら、俺達の実力を見て貰おう。
  反逆同盟に返り討ちに遭う様な、柔な者では無いぞ」

 「な、何をする気や……」

警官は警戒して身構える。
コバルトゥスは不敵に笑って、ティナーの夜空を仰ぎ、両手を天に掲げた。
急に周囲から雑音が消えて、不気味に静まり返る。
そして弱い風が吹き始めた。
それは徐々に強くなって行き、街全体を覆う強風になる。

 「な、何や、これは……」

 「これが俺の魔法だ。
  大自然の力を自在に操る大魔法、精霊魔法」

コバルトゥスは大袈裟に言って、自分の能力を誇示した。
精霊魔法は実際、そこまで万能では無い。
彼は再び不敵に笑い、警官に向かって言う。

 「俺達の仲間も、俺と同じ位の力は持っているぞ。
  若いからとか、子供だからと侮って貰っては困る。
  魔法資質に年齢は関係無いと言う事は、あんたでも知っているだろう」
0518創る名無しに見る名無し
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2019/06/18(火) 18:50:55.21ID:ynclmxu2
警官は彼に気圧されて、何も言えなくなった。
コバルトゥスは満足して、強風を収める。

 「解って貰えた様だな」

 「あ、いや、しかし……」

 「魔導師会に聞いてみるかい?」

警官は彼が徒者では無いと、認めざるを得ない。
しかし、確かな証拠を見るまでは、軽々しく認める訳にも行かない。
その時、リベラがコバルトゥスの背後から、彼の服の裾を引っ張った。

 「コバルトゥスさん、聞こえる……」

 「例の子供の泣き声か?」

コバルトゥスが問うと、リベラは小さく頷いた。
彼は警官に向かって言う。

 「子供の泣き声が聞こえた。
  俺達は、これから声のする方に向かう。
  あんたは、どうするんだ?」

 「どうって……。
  あ、あかんて!」

 「俺達は事件を解決する為に来たんだ。
  ここで動かなきゃ何の意味も無い。
  あんたも仲間を呼ぶなり、魔導師会に連絡するなり、何か出来る事があるだろう」

そう言うとコバルトゥスは警官を放置して、リベラの先導で子供の泣き声がする場所へと向かった。
0519創る名無しに見る名無し
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2019/06/19(水) 19:00:10.43ID:RfJHK+m+
リベラは人の居ない路地裏の暗がりに向かう。
コバルトゥス、ラントロック、ヘルザの3人は彼女の後を追う。
道中、リベラはコバルトゥスに話し掛けた。

 「とても胸騒ぎがします。
  誰か困っている子が居る、助けないと行けない。
  そんな気持ちにさせられる様な……。
  これも敵の罠なんでしょうか?」

 「恐らくね。
  その焦燥感を利用して、犠牲者を呼び込んでいるんだ。
  例えるなら、囮猟みたいな物だな」

コバルトゥスは冷静に答える。
そして、こうした卑劣な手を使う者を許してはならないと決意する。

 「待たんかい、どこへ行くんや!!」

一行の後に先程の警官も付いて来ていた。
ラントロックはコバルトゥスに言う。

 「どう仕様、小父さん?
  魅了で黙らせようか?」

 「いや、良い機会だから一緒に戦って貰おう。
  都市警察なら、それなりの戦力になる筈。
  いざと言う時には、応援を呼んで貰えるかも知れないからな」

彼は冷静に判断して、都市警察を振り払わなかった。
0520創る名無しに見る名無し
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2019/06/19(水) 19:00:47.86ID:RfJHK+m+
リベラは入り組んだ路地裏を暫く進んだ所で足を止める。

 「……逃げているみたい」

コバルトゥスは彼女に尋ねた。

 「どう言う事だい?」

 「子供の泣き声が遠ざかっていると言うか……」

 「ウーム、大勢相手では不利だと感じたのかな?」

全員その場に留まって、小さく息を吐く。
逸れた者は居らず、警官も確り付いて来ていた。

 「何や、どないしたん?」

コバルトゥスは疑問顔の警官に説明する。

 「どうやら逃げられたみたいだ。
  俺達が大所帯だったんで、警戒されたみたいだな」

 「はぁ……。
  何も無かったんなら、それに越した事は無いわ」

警官は解った様な解らなかった様な調子で、小さく溜め息を吐いた。
そこでコバルトゥスは少し気になっていた事を尋ねる。

 「所で、警官さん。
  あんたには子供の泣き声、聞こえたか?」
0521創る名無しに見る名無し
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2019/06/19(水) 19:01:39.00ID:RfJHK+m+
警官は驚いた顔で、首を横に振った。

 「いや、全然……」

 「本当に全然?」

 「ああ、それが何なんや?」

コバルトゥスは少し思案して、ラントロックにも尋ねる。

 「ラントは?」

 「俺?
  最初は聞こえなかったけど、追っている間には少し聞こえた」

 「やっぱり聞こえる奴と聞こえない奴が居るんだな」

その違いは何だろうかと、コバルトゥスは考えた。
先ず彼が思い付いたのが年齢だ。
年配の人間にだけ聞こえない。
自分が老いたとコバルトゥスは思いたくは無かったが、事実は事実として認めなければならない。

 (仮に年齢は関係無いとするなら、性別か?
  男より女の方が聞こえ易い。
  母性本能とかだろうか……。
  いや、でも、ラントには無いだろうからな。
  子供って事から、母性と同時に父性にも関係しているんだろうか?
  先輩には聞こえるかな?)

そう考えながら、コバルトゥスは警官を一瞥する。
もし母性や父性が関係しているなら、自分や警官は余り人の親には相応しくない人間かも知れない。
0522創る名無しに見る名無し
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2019/06/20(木) 18:56:26.35ID:CzxO8ttF
コバルトゥスは警官に尋ねた。

 「警官さん、賭け事は好きかい?」

 「何や、行き成り……。
  まあ、嫌いやないけど」

 「よく競馬場とかに行く?」

 「休みの日には大体通っとるな」

 「それなら結婚はしているか?」

 「そんなん関係無いやろ……。
  何の積もりや、気色悪い」

彼の質問の意図が読めず、警官は困惑する。

 「独身なのか」

 「お、おう、悪いか!」

 「詰まり、そう言う事なんだろう……。
  もし、あんたが子持ちなら、子供の泣き声が聞こえていたのかもな」

 「どう言う事だ?」

 「どうって、今言った通りさ。
  子供に愛情を持たない奴には、泣き声は聞こえない様になっているんだ。
  多分な」

そう言うとコバルトゥスは他の3人を連れて、路地裏から表通りに戻った。
0523創る名無しに見る名無し
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2019/06/20(木) 19:04:34.23ID:CzxO8ttF
コバルトゥスは警官に尋ねた。

 「警官さん、賭け事は好きかい?」

 「何や、行き成り……。
  まあ、嫌いやないけど」

 「よく競馬場とかに行く?」

 「休みの日には大体通っとるな」

 「それなら結婚はしているか?」

 「そんなん関係無いやろ……。
  何の積もりや、気色悪い」

彼の質問の意図が読めず、警官は困惑する。

 「独身なのか」

 「お、おう、悪いか!」

 「詰まり、そう言う事なんだろう……。
  もし、あんたが子持ちなら、子供の泣き声が聞こえていたのかもな」

 「どう言う事だ?」

 「どうって、今言った通りさ。
  子供に愛情を持たない奴には、泣き声は聞こえない様になっているんだ。
  多分な」

そう言うとコバルトゥスは他の3人を連れて、路地裏から表通りに戻った。
0524創る名無しに見る名無し
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2019/06/20(木) 19:05:44.07ID:CzxO8ttF
警官はコバルトゥスの後を追って、問い掛ける。

 「どう言うこっちゃ?
  ロリショタの変態にしか泣き声は聞こえんっちゅうんか?」

 「どっちかと言うと逆だな。
  子供を性の対象に見る様な連中には、聞こえないだろう。
  親が子供を守ろうとする気持ち、子供の気持ちを理解しようとする心、そう言う物だ」

 「待てや!
  儂には、それが無いっちゅうんか?」

 「普段から子供には関わりたくない、鬱陶しい、倦ざったいと思っているだろう?
  煩いだけの子供は要らないとも思っている」

コバルトゥスの指摘に警官は憤った。

 「そ、そんな事は無いで!
  儂は志を持って都市警察になったんや!」

 「ああ、そう」

 「おっ、信じとらんな!?」

コバルトゥスは警官の抗議を聞き流しながら、次の対策を考える。
大勢で出掛けると、撤退されてしまうなら、囮を用意するべきだ。
しかし、誰も危険な目には遭わせられない。
リベラやヘルザは論外。
ラントロックなら、何とかなるかと言う所。
彼は暫し悩んだ結果、ラントロックに話を持ち掛けてみる事にした。
0525創る名無しに見る名無し
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2019/06/20(木) 19:06:32.04ID:CzxO8ttF
 「なあ、ラント」

 「どうしたの、小父さん?」

 「相談がある」

コバルトゥスの真剣な声音に、ラントロックは緊張した。

 「……何?」

 「囮になれるか?」

 「俺が?」

その話を横で聞いていたリベラが、高い声で割って入る。

 「駄目ですよ、コバルトゥスさん!!
  ラントも!!」

彼女の勢いにラントロックは怯むも、コバルトゥスは動じない。
リベラは自らコバルトゥスに申し出た。

 「囮なら私がなります!」

コバルトゥスは困った顔で彼女に告げる。

 「いや、君では駄目なんだよ。
  余りに掛かり易過ぎる。
  簡単に意思を奪われてしまう様では行けない。
  同じ理由で、ヘルザちゃんも駄目だ。
  俺は子供の泣き声が聞こえない。
  そうなると、ラントしか居ない」
0527創る名無しに見る名無し
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2019/06/21(金) 18:20:23.45ID:WnWpr4aK
リベラは反論出来ないが、感情として義弟を囮に使う事には賛同出来なかった。
そこへ都市警察が口を挟む。

 「あのー、もしもし?
  そう言う話は、儂の居らん所でやってくれんかな?
  聞いてもうたら、止めへん訳には行かんやんけ」

コバルトゥスは皮肉の笑みを浮かべる。

 「善良な警官は、そんな事は言わないぞ。
  今の話で、犯人の性質みたいなのは分かった筈だ。
  都市警察は何か行動を起こさないのか?」

彼の問いに、警官は小さく溜め息を吐いた。

 「そんな権限はあらへんねん。
  魔法に関する事は全部、魔導師会の領分や。
  儂等に出来る事と言えば、『警邏<パトロール>』だけやで」

面倒臭いなとコバルトゥスは溜め息を吐き返す。
多くの公的機関は、自分の領分を持っていて、それから外れた事はしたがらない物だ。
否、それは公的機関に限らない。
数多の事象が体系化された社会では、一般人の行動は指標と規範を以って示される。
そして、そこから逸脱する事が悪とされてしまう。
これはディストピアの始まりだ。
コバルトゥスは両肩を竦めて、警官に言った。

 「それなら警邏に戻ってくれよ。
  俺達は俺達で事件を解決する」

彼は追い払う仕草で、警官を遇う。
警官は眉を顰めて言い返した。

 「そんなん言われたら、儂も引き下がれん様になるやんけ」
0528創る名無しに見る名無し
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2019/06/21(金) 18:21:29.52ID:WnWpr4aK
警官は呆れ果てた様に、コバルトゥスに教える。

 「こう言う時にはな、表向き『解りました〜』言うて、笑ってバイバイすんねや。
  ほんで自己責任でやるんやで?」

コバルトゥスは逆に呆れ返る。

 「汚職警官じゃないか」

 「失敬な!
  怠慢と呼ばれても、汚職と呼ばれる言われは無いで!
  悪を見逃した訳でも、賄賂を貰た訳でも無いからな!」

 「じゃあ、怠慢警官じゃないか……」

 「そやかて権限が無い物はしゃあないやんけ。
  所詮、儂等も性無い公務員や」

 「志は?」

 「何程(なんぼ)あっても『規則<ルール>』には勝てへん」

 「もう良いから帰れよ」

 「そうや無いやろ?」

この警官は正義感があるのか無いのか、コバルトゥスが大人しく従うまで離れる積もりは無い様子。
コバルトゥスは仕方無く、警官の要請通りの言葉を言う。

 「解ったよ。
  『俺達は事件に深入りしない』。
  『もう帰る』から、あんたも帰ってくれ」
0529創る名無しに見る名無し
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2019/06/21(金) 18:22:19.08ID:WnWpr4aK
警官は大きな笑みを浮かべて、指を鳴らした。

 「ほい、言質取ったで。
  ほんなら、お気を付けて」

そう言って彼は敬礼して去って行く。
何だったんだと、一行は呆れ果てた。
リベラはラントロックに言う。

 「ああ言う人になっちゃ駄目だよ」

 「なりたいとは思わないよ」

姉弟は頷き合った。
コバルトゥスは警官の背を見送って、3人に向き直る。

 「やれやれ、気が殺がれたな。
  今日の所は出直そう」

犯人の追跡を続行する物だとばかり思っていた3人は、目を丸くした。
リベラがコバルトゥスに問う。

 「中止するんですか?」

 「どうしたの、続けたい?」

 「いえ、そう言う訳じゃないんですけど……」

どうして急に素直に警官の警告に従う気になったのか、彼女には不可解だった。
コバルトゥスは苦笑いして言う。

 「『言質を取られた』。
  都市警察も無能って訳じゃないんだな」

 「えっ、『有言実行』の魔法ですか?」

リベラの問い掛けに、コバルトゥスは小さく頷く。
0530創る名無しに見る名無し
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2019/06/22(土) 18:21:32.32ID:1WltATKo
有言実行の魔法は、行動強制魔法の一。
相手が発した言葉の通りの行動を強制させる。
例えば、自殺を実行しようとしている者に、強引にでも『生きる』と言わせる事で抑止したりと、
主に心理療法で使われる。
勿論、一般人が使用するには大きな制限があるが、魔導師や都市警察なら「緊急事態」を理由に、
ある程度は自分の判断で使用出来る。
この日は、もう撤収しようとコバルトゥスは考えていた。
有言実行の魔法を解く方法が無い訳では無い。
これは自分だけだと解くのは大変だが、他人に手伝って貰えば簡単だ。
共通魔法の知識があるリベラなら、解除も可能だろう。
しかし、あの怠慢警官の精一杯の抵抗に免じて、それは止めておいた。
他の3人も、今日の所は引き揚げる事に、異論は無かった。
誰しも危険な事は避けたいのだ。
だが、ホテルに戻る道中で、コバルトゥスはワーロックの姿を見掛けた。

 (先輩?)

確証は無かったので、声を掛ける事はしなかったが、一度足を止める。

 (……魔力の流れを感じない。
  やっぱり先輩だよな?)

魔力の流れはファイセアルスに於いては、個人を判別する物でもある。
親兄弟、親戚は魔力の流れが似るし、成り済ましを見切るのにも使われる。
魔法資質の低い者は、魔力を纏わないので、この判別が難しい。
ワーロックの同定にコバルトゥスが迷っていると、リベラが心配して話し掛けた。

 「コバルトゥスさん、どうしたんですか?
  又、何か?」
0531創る名無しに見る名無し
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2019/06/22(土) 18:22:22.27ID:1WltATKo
コバルトゥスは一度リベラを見て、何と言った物か迷う。
ワーロックは今頃、家に帰っている筈なのだ。
それは嘘なのだが、リベラやラントロックの前では、そう言う事になっている。
ワーロックはコバルトゥスには真実を話し、影で反逆同盟との戦いを続けると言っていた。
だから、ここに彼が現れるのは不自然でも何でも無い。
だが、リベラやラントロックにとっては別だ。
何事かと怪しみ、正体を探ろうとするだろう。
否、事情を知っていたとしても、それは変わらないだろうが……。
見なかった事にするべきか、正直に見た事を言うべきか、コバルトゥスが判断に困っている間に、
ワーロックの姿は消えていた。
魔力を纏わない物だから、追跡も難しい。

 「あー、いや、何でも無いよ。
  知り合いに似てる人が居たから、一寸気になっただけ」

コバルトゥスは適当に誤魔化したが、リベラは追及する。

 「知り合いって誰ですか?」

 「ん、気になるのかい?」

 「ええ、はい」

 「妬いてくれているのかな?」

 「巫山戯ていられる状況じゃないでしょう」

冗談で乗り切ろうとした彼に、リベラは真顔で反論した。

 「コバルトゥスさん、お知り合いが危険な街を歩いているんですよ!」
0532創る名無しに見る名無し
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2019/06/22(土) 18:22:53.86ID:1WltATKo
言われてみれば、その通りではある。
コバルトゥスは低く唸って考えた。
仮にワーロックだったとして、彼は独りで街の異変に対処しようとしているのか?
彼の事だから、全く考え無しでは無いだろうが、危険な事に変わりは無い。
コバルトゥスは数極思案して、リベラに頼む。

 「リベラちゃん、都市警察の魔法を解いてくれ」

 「お知り合いの方を追い掛けるんですね?」

 「ああ」

リベラはコバルトゥスの胸に手を当て、共通魔法を唱えた。

 「H36I4、BG4J4I17!」

魔力の衝撃がコバルトゥスを貫き、有言実行の魔法を解除する。
少し噎せ込んだ彼は、リベラに礼を言った。

 「有り難う」

そして3人を見渡して、意見を聞いた。

 「これから『俺の知り合い』を追い掛けるんだけど、良いかな?」

ラントロックもヘルザも反対はしない。

 「良いよ」

 「人を助けるんですよね?」

これから追う人物の正体を隠した儘、コバルトゥスは3人を連れて追跡を始める。
0533創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/23(日) 19:18:54.94ID:y8DjQ5zH
道中、リベラは当然の質問をする。

 「お知り合いって誰ですか?
  女の人?」

 「いや、違う……。
  会えば判るさ」

 「私達も知っている人なんですか?」

質問を繰り返す彼女に、コバルトゥスは人差し指を立てて唇に当て、沈黙する様に示した。

 「もしかしたら、知り合いも街の事件を解決しようとしているかも知れない。
  彼を助けたいとは思うけど、邪魔はしたくない。
  出来るだけ、身を潜めて。
  魔法で人の気配を探そうと思っても行けない」

彼に真面目な顔で言われたリベラは、小さく頷いて黙り込む。
ラントロックとヘルザも口を閉ざした。
その儘、一行は再び市街へ。
コバルトゥスはワーロックの気配を、風を頼りに読む。

 (……どこへ行こうとしてるんだ?)

彼には特に目的がある様には思えない。
街中を適当に彷徨いているだけ。

 (何か隠された意図が……無いのか?
  子供の泣き声が聞こえる所を探して、移動しているだけなのか)
0534創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/23(日) 19:19:45.13ID:y8DjQ5zH
どうやら、ワーロックの方も真面な手掛かりがある訳では無い様子。
それでも戦闘になる事を覚悟して、コバルトゥスは気を引き締めた。
彼は声を潜めて、リベラとヘルザに言う。

 「リベラちゃん、ヘルザちゃん、子供の泣き声が聞こえたら教えてくれ」

2人は頷いて、了解の意を表す。
それから約1角、ワーロックは街を歩き続けた。

 (先輩、疲れないのかな……ってか、本当に手掛かりが無いんだな。
  こっちから声を掛けた方が良いんだろうか?
  でも、先輩はリベラちゃんやラントに、未だ家に帰っていない事を知られたくないかも知れない。
  ウーム……)

どうした物かとコバルトゥスは悩む。
そんな彼の様子を心配して、リベラが声を掛ける。

 「コバルトゥスさん、どうしたんですか?」

 「いや、何でも無いよ」

そう答えたコバルトゥスだったが、心の迷いは如実に顔に表れていた。

 「何でも無い事は無いでしょう……」

リベラの言葉にコバルトゥスは、どうせ直ぐに判ってしまう事なのだからとも思った。
そこで彼はリベラに1つの質問をする。

 「リベラちゃん、お父さんは真っ直ぐ家に帰ったと思う?」

 「えっ、あー……、それは……」
0535創る名無しに見る名無し
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2019/06/23(日) 19:20:29.83ID:y8DjQ5zH
リベラは困った顔で答えた。

 「お養父さんの事だから、多分帰ってないんじゃないかと……思います。
  家に帰るとか言いながら、彼方此方寄り道して、結局何だ彼んだで反逆同盟と戦っている。
  そんな気がするんです……ね、ラント」

彼女は最後にラントロックの意見を問う。
ラントロックは吃驚して目を丸くした。

 「えっ、俺に聞かれても困るよ。
  親父の事なんか知らないし……」

自信無さそうに言う彼に、リベラは小さく笑って問い掛けた。

 「もしラントだったら、どうするかな?
  自分達の子供が危険な旅に出ている時に、一人だけ家に帰れる?」

 「いや、俺と親父は違うし」

 「じゃあ、ラントは自分だけ家に帰るんだ?」

 「……俺だったら帰らないけど、親父は解んないよ。
  だって、親父は魔法資質が低いんだから」

 「ラントも魔法資質が低かったら、家に帰っちゃうの?」

リベラに何度も問われて、ラントロックは困ってしまう。

 「帰るかも知れないし、帰らないかも知れない。
  だから、親父の事なんか解んないって」
0536創る名無しに見る名無し
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2019/06/24(月) 19:07:21.90ID:AtblciTp
ラントロックは頑なに父を理解する事を拒んだ。
自分と父は違うのだと。
しかし、リベラは養父と義弟は血の繋がりがあるのだから、そこには相通じる物があると信じていた。
コバルトゥスは姉弟の会話を微笑ましく思いながらも、今は静かにするべきだと釘を刺す。

 「2人共、一寸静かに」

 「あっ、済みません」

 「御免、小父さん。
  義姉さんが執拗いから」

ラントロックがリベラの所為にしようとしたので、リベラは眉を動かすも、又言い合いになっては、
気取られるかも知れないと、コバルトゥスが間に入って宥めた。

 「まあまあ、落ち着いて。
  ここは静かに」

そう彼が言った直後、リベラとヘルザは同時に子供の泣き声を聞く。

 「あっ」

2人は同時に声を上げて、同時に互いの顔を見合い、頷き合った。

 「聞こえた?」

 「聞こえた」

そしてリベラがコバルトゥスに声を掛ける。

 「コバルトゥスさん、今、子供の泣き声が……」
0537創る名無しに見る名無し
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2019/06/24(月) 19:07:55.29ID:AtblciTp
コバルトゥスは真剣な表情でリベラに尋ねた。

 「どっちの方角?」

 「えぇっと、あっち……だと思います」

彼女が指差したのは、ワーロックが向かっている方向とは反対側。
リベラは一度ヘルザに振り向いて、同意を求める。

 「あっちだよね?」

 「はい、多分」

コバルトゥスは両腕を組んで考えた。
恐らくワーロックは子供の泣き声に気付いていない。
この儘、彼を放置して自分達だけで泣き声の元に向かって良いのだろうかと。

 (先輩を巻き込まないで済むなら、それで良いか?
  余り大勢で行くと、又、逃げられるかも知れないし。
  いや、待てよ?
  先輩は魔法資質が低いから、もしかしたら気付かれない可能性がある?)

3人はコバルトゥスが決断するのを待っている。
彼は大きく息を吐いて、覚悟を決めた。

 「良し、行ってみよう」

 「お知り合いの事は良いんですか?」

リベラの問い掛けに、コバルトゥスは困った笑みで答える。

 「仕様が無いさ。
  今は事件の解決を優先する」
0538創る名無しに見る名無し
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2019/06/24(月) 19:08:36.03ID:AtblciTp
そう言いながらも、コバルトゥスはワーロックに風の精霊魔法でメッセージを送っていた。
もし窮地に陥った時は、彼に助けて貰える様に。
一行が泣き声の元に向かっている間、ワーロックはコバルトゥスからのメッセージを受け取る。

 「先輩、こっちッス、こっち」

 「コバギ!?
  ……どこだ?」

 「これは伝言用なんで、返事は出来ないッス。
  悪しからず」

問い掛けた自分が馬鹿みたいだと、ワーロックは沈黙した。
コバルトゥスからのメッセージは続く。

 「俺は風の魔法で、このメッセージを送ってます。
  とにかく、声のする方向に来て下さい」

ワーロックは誘われる儘に、メッセージの聞こえる方へと進む。
メッセージは段々と雑談染みて来る。

 「でも、先輩……。
  当ても無く街を歩き回るとか、効率の悪い事してますね」

 「仕方が無いだろう。
  私は感知能力が優れている訳では無いんだ」

返事をしても聞こえないのは判っていても、ワーロックは言い返さずには居られない。

 「それは扨措き、俺達は今、子供の泣き声の元に向かってます」

 「いや、それを早く言えよ!
  俺達って事は、他にも人が居るんだな!?」

ワーロックは駆け足で、コバルトゥスの元に急いだ。
0539創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/25(火) 19:12:42.76ID:EWKLIJ83
その頃、コバルトゥス達は闇の子供と対峙していた。
明かりの魔法で正体を暴き、捕らえるか、それが出来なければ抹殺する。
……その筈が、予想外の事態に見舞われた。
闇の子供は1体では無かったのだ。

 「明かりが……!」

ヘルザが不安そうな声を上げる。
一行は闇の子等に包囲されていた。
頼みの綱であるコバルトゥスの明かりの魔法は闇の力に押し負けて、今にも消えようとしている。

 「一度に出て来るとは……ってか、こんなに居たんだな」

闇の子は全部で5体。
未だ、これが全てでは無いのかも知れない。
暗黒物質に体を守られた闇の子供は、焦り焦りと包囲を狭めて行く。
ラントロックはコバルトゥスに言う。

 「小父さん、何か手は無いの?」

 「いや、これは、どうしようか……」

コバルトゥスは小声で呟いた。
こうなるとは予想していなかった。
相手も馬鹿では無いと言う事。
正直な所、彼は相手が所詮子供だと思って侮っていた。
ルヴィエラが生み出す他の怪物と同じで、余り知能の無い物だろうと。
今は弱くとも明かりがあるから、闇の子は手を出して来ないが、魔力も無限では無い……。
包囲された状況では、魔力の補充も儘ならず、何れは枯渇してしまう。
0540創る名無しに見る名無し
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2019/06/25(火) 19:13:54.37ID:EWKLIJ83
ラントロックは魅了の魔法を応用して、闇の子から魔力を導き、明かりの魔法に変換出来ないかと、
思案していた。
彼とて何時までもコバルトゥスに頼っていては行けないと思う。
最終手段として、ネーラを頼る手もあるが、何時でも彼女が応えてくれるとは限らない。
今は夜中だ。
ネーラも眠っているかも知れない。
しかし、闇の子の魔力が読めない。
魅了の魔法を使うラントロックは、相手の性質を読む能力を持っている。
だが、今の闇の子からは、そうした生き物が持つ息遣いを感じない。
丸で外部から何某かの力で操られているかの様。

 (どう言う事なんだ、これは……?
  確かに奴等は魔力で出来ている筈。
  この前は魅了で惹き寄せられたのに。
  いや、奇怪しいぞ?
  もしかして……)

ラントロックは感付いた。
これは闇の子では無いのでは無いかと。
闇の子が纏う闇だけで、中身は空。
どこか他の所で、本体が闇を操っている。

 (そう言う事か!
  でも、どこに本体が……?)

ラントロックの能力であれば、『乗っ取り<インターセプト>』も容易な筈だが、それでも魔力が読めない。
詰まり、何等かの仕掛けがある事になる。
どうやって操っているのか、その方法が判れば、どうにか出来るかも知れないと、彼は考えた。
そしてコバルトゥスに協力を仰ぐ。

 「小父さん、聞いてくれ。
  こいつ等はホテルに出て来たのとは違う」
0541創る名無しに見る名無し
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2019/06/25(火) 19:15:14.66ID:EWKLIJ83
コバルトゥスは目を見張って驚いた。

 「何だって!?」

 「中身が空で、誰かが操ってるんだ。
  その気配が読めない……」

 「それで、どうしろってんだ?」

 「本体を探して欲しい。
  小父さんの精霊魔法で何とか……」

 「悪いが、そりゃ無理だ。
  俺は明かりを維持するので精一杯なんだよ」

 「えぇ……」

 「少なくとも、その操ってる本体とやらは、この近くには居ない……と思う」

ラントロックはコバルトゥスの言葉を慎重に吟味する。
本当に、この近くには居ないのだろうか?
遠隔操作なら、それが魔力で見える筈。
ラントロックは、もう1つの可能性に思い至る。

 (魔力の隠蔽?
  そんな事が出来るのか?
  でも、ルヴィエラなら出来ても奇怪しくは無い)

彼は改めてコバルトゥスに尋ねた。

 「小父さん、魔力自体を隠す事って出来るのかな?」
0542創る名無しに見る名無し
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2019/06/26(水) 19:14:36.78ID:j6/9WX6V
 「何だ、どう言う意味だ?」

聞かれている事の意味が掴めずに、コバルトゥスは困惑する。
ラントロックは、どうやったら伝わるのか考えながら説明した。

 「魔力の流れを見えない様にしてしまう事が可能なのかなって」

 「……魔力の流れを解り難くする、読まれ難くするって事か?」

 「そうじゃなくて、もっと直接的に、概念的にだよ」

コバルトゥスは漸く何と無く理解する。

 「あぁ、そう言う事か……。
  旧い魔法使いなら出来るのかもな」

ラントロックは自らの考察を述べる。

 「ルヴィエラは闇を操る。
  闇って言うのは、黒い物、暗い物、見えない物、隠す物……。
  その概念的な物まで操れるなら、ある筈の物を『隠す』事も出来るんじゃないかって」

 「そうかもな……?
  それで、どうすれば良いんだ?
  何か妙案が浮かんだのか?」

コバルトゥスの問い掛けに、ラントロックは困った顔で答えた。

 「いや、特に良い案が浮かんだ訳じゃないけど。
  あの黒い奴等の魔力の流れが見えない理由は、多分そうなんじゃないかって」

 「それだけ判ってもなぁ……」

未だ窮地を脱する良案は無い。
0543創る名無しに見る名無し
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2019/06/26(水) 19:15:37.85ID:j6/9WX6V
その間、リベラとヘルザも何か良い手は無いかと思案していた。

 「ヘルザ、貴女の魔法で何とか出来ない?」

 「わ、私ですか……?
  でも、私の魔法は……」

 「解ってる、未だ判明してないんだよね?
  でも、他に手は無いみたいだから……。
  コバルトゥスさんもラントも……」

 「は、はい。
  私の魔法が判れば、何とかなるかも知れない……って事ですよね」

ヘルザの理解にリベラは頷く。
しかし、どうすれば良いのか分からない。

 「で、でも、どうすれば……」

 「お養父さんの受け売りだけど、魔法は願いの形に変わるらしいの。
  この状況で貴女は何を願う?」

 「だ、誰か助けに来てくれないかな……って……。
  ご、御免なさい、危険な状況なのに……」

他力本願な自分の願望を、ヘルザは恥じらいながら答えた。
リベラは何度も頷いて、彼女の心を落ち着かせる。

 「大丈夫、それで良いの。
  自分の心は偽れないから。
  その気持ちを大事にして」

肯定された事が意外で、ヘルザは目を瞬かせた。

 「い、良いんでしょうか?」
0544創る名無しに見る名無し
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2019/06/26(水) 19:16:14.29ID:j6/9WX6V
リベラは小さく笑う。

 「良いも悪いも、それは仕様が無いじゃない。
  自分が強い力を持って戦おうとは思わないんでしょう?」

呆れられているのかと思ったヘルザは、申し訳無い気持ちで俯いた。

 「意気地無しで済みません……」

 「だから、そうじゃなくて……。
  良いんだよ、それでも。
  自分が力を持って強くなろうって考えは、頼もしくて立派ではあるけれど、逆に言えば、
  自ら戦いを望むって事だから」

そう言う人間は間に合っていると、リベラはヘルザを慰める。
世の中には色々な人間が居て当然で、それで良いのだ。
リベラは続ける。

 「自分の在り方に自信を持って。
  他人と比べて自分は勇敢だとか臆病だとか、そんな事は考えなくて良いの。
  それが自分を肯定すると言う事。
  自分の魔法を認めるのも、それと同じ。
  誰かとか皆とか、そんな事は考えないで。
  それが嫌で家出したんでしょう?
  自分の心の赴く儘に、魔法は自分を導いてくれる」

ヘルザは彼女の言葉を聞いて、それを自分の中で繰り返し、緩りと消化した。

 (誰かに助けて欲しいと思う。
  本当に、それで良いのかな?
  私が願えば、誰か助けてくれるの?)

ヘルザは半信半疑ながら、自分の心を受け入れようとする。
0545創る名無しに見る名無し
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2019/06/27(木) 18:32:54.13ID:eNxHIU4t
彼女は両目を緊(きつ)く閉じて、取り敢えず必死に願ってみた。

 (誰か助けに来て!
  誰か!)

丁度その時、ワーロックが現場に駆け付ける。
彼は黒い塊が何かを包囲している事に気付いて、一旦様子を見た。

 (どうなっているんだ、これは?
  誰かが襲われている?
  コバギか!
  そう言えば奴の姿が見えないな)

ワーロックはコバルトゥスが襲われているのではと予想して、直ぐに行動に移る。
魔力石を片手に持ち、高く掲げて叫ぶ。

 「A17!!」

眩い閃光に黒い塊は反応して振り向いた。
ワーロックは、その向こうに居るであろう者に対して、声を掛ける。

 「おい、大丈夫か!!」

 「先輩、来てくれたんスね!」

 「コバギか!
  良かった、生きていたな!
  こいつ等をどうにかするぞ!」

ワーロックは両手を高く掲げて、コバルトゥスに合図を送った。
0546創る名無しに見る名無し
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2019/06/27(木) 18:34:23.51ID:eNxHIU4t
コバルトゥスは驚嘆の目でワーロックの『後光<ヘイロー>』を見ていた。
しかし、心做しか未だ明かりが弱い様に感じられる。
闇を完全に払うまでには至らない。
ワーロックも、それは感じていた。

 「コバギ、未だ明かりが弱い!
  もっと魔力を!」

彼の要請にコバルトゥスはリベラ、ラントロック、ヘルザの3人を見る。

 「3人共、俺と一緒に魔力を送ってくれ」

リベラとヘルザは素直に頷いたが、ラントロックは難色を示した。

 「えぇ……何するの?」

 「知らん!
  だが、君の親父さんが言うんだ!」

それが信用ならないとラントロックは渋る。

 「どんだけ親父を信用してるのさ」

 「この非常時に、呟々(ぶつぶつ)言ってる場合か!
  他に手があるなら聞いてやるが?」

コバルトゥスに叱責された彼は、仕方無く黒い塊の向こうに見える輝きに、魔力を送った。

 (これが親父の魔法?
  訳が解らない)

その際にラントロックは実父の魔力の流れや魔法の正体を探ろうとする。
だが、「よく解らない」。
個人の魔力の流れは感じられないが、全員の魔力が混然一体となって、一箇所に集まっている。
それだけは判った。
0547創る名無しに見る名無し
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2019/06/27(木) 18:36:14.22ID:eNxHIU4t
ワーロックはコバルトゥス等から受け取って溜めた魔力を、一気に解き放つ。

 「レイディエント・フラーッシュ!」

眩い光の洪水が闇の子を覆っていた闇を、一瞬で振り払った。
闇の子の正体は10歳児程度の子供だった。
余りに幼く、仇気無い……。
しかし、ワーロックは容赦無く明かりを浴びせ続ける。

 「ギャーーーーッ!!」

闇の子等は激しく泣き始める。
明かりは闇の子等にとっては毒その物。
それを浴びせ続けられる苦悶の泣き声だ。

 「お、お養父さん……」

リベラは魔力を送る事を止めた。
それにコバルトゥスは驚く。

 「ど、どうしたんだ、リベラちゃん!?」

 「これ以上は可哀想だよ。
  この子達に悪意は無いのに。
  どうにか、お養父さんに止めさせないと」

ワーロックに向かって駆け出そうとする彼女を、コバルトゥスは押さえた。

 「止めるんだ、リベラちゃん!
  君は敵の策略に嵌まっている!」
0548創る名無しに見る名無し
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2019/06/28(金) 18:24:34.92ID:KyxuLPqW
同時に彼はヘルザに警告する。

 「ヘルザちゃん、目と耳を塞げ!
  泣き声に精神を惑わされるぞ!」

ヘルザは言われた通りに、目と耳を塞いだ。
続いてコバルトゥスはラントロックの様子を窺ったが、そちらは大丈夫だった。
ラントロックは彼に対して、大きく頷いて見せる。
ここで闇の子等は葬らなければならない。
所が、事は容易には片付かない。
そこに闇の子等を監視していた、石の魔法使いバレネス・リタが現れたのだ。
彼女はワーロックに対して警告する。

 「今直ぐに攻撃を止めろ!
  然も無くば、全員石塊(いしくれ)に変えてくれる!」

しかし、ワーロックは怯まない。
真っ直ぐ彼女を見詰めて、言い返す。

 「お前達が殺した人達の事を考えろ!
  その人達にも親があり、子があった事を思え!」

彼の瞳は鏡の様にリタの姿を映す。
瞳術、瞳力(どうりき)と呼ばれる類の技だ。
相手の姿を己の瞳に映し、合わせ鏡で同じ瞳術を無効化する。

 「わ、私の魔法が効かない……!?」

 「己が所業を顧みるが良い!
  如何程残酷な事をして来たか、その身を以って知れ!」

断じて行えば鬼神も之を避く。
強い決意と実行力の前には、大抵の障害は無力と化すのだ。
0549創る名無しに見る名無し
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2019/06/28(金) 18:25:31.75ID:KyxuLPqW
実際の所、ワーロックに石化が効かないのは、彼の魔法に原因がある。
リタの石化能力も、所詮は魔法に過ぎない。
物質変換魔法の一だ。
魔法と言うからには、魔力を利用して現象を起こしている。
より強い魔力の流れには逆らえない。
今、ワーロックはコバルトゥス等の魔法資質を借りて、強大な魔力を纏っている。
これが強力な防護壁になっているのだ。
闇の子は形を失って崩れて行く。
泣き声は益々激しくなり、あちこちから人が現れた。
その多くは女性……。
子供の泣き声に誘われて出て来たのだ。
リタは険しい顔でワーロックに命じる。

 「止めろ!!
  然も無くば、何も彼も石に変えてやる!」

だが、ワーロックは聞く耳を持たない。
唯、力強い瞳で真っ直ぐリタを見詰めている。
眼力に負けてリタは怯んだ。

 「止めてくれ、お願いだ……」

彼女は弱々しく懇願した。
それにリベラも加勢する。

 「お養父さん、止めて上げて!」

更に、見ず知らずの女性達まで、口々にワーロックに言う。

 「お願い、止めて!」

 「子供を苦しめないで!」
0550創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/28(金) 18:27:20.46ID:KyxuLPqW
誰も彼も子供の泣き声に騙されているのだ。
否、ワーロックが子供を苦しめているのは事実なのだが……。
ワーロックはリタを睨んで言う。

 「止める訳には行かない!
  お前達の悪巧みも、これで終わりだ」

それに対してリタは降伏宣言をした。

 「頼む、私から子供達を奪わないでくれ!
  止める、もう止めるから!」

 「駄目だ!!
  ここで一時的に切り上げた所で、お前達は再び悪事を働くだろう!
  それが反逆同盟の目的である限り!」

ワーロックは心を鬼にして断じる。
子供は泣き声も発さなくなった。
闇の子は明かりに弱い。
照らされ続けていると、衰弱死する。
毒を浴びている様な物なのだ。
この儘では愛しい子供等が死んでしまうと、リタは決心して遂に決定的な一言を口にする。

 「わ、解った!
  もう反逆同盟には加担しない!
  私は子供達を連れて、遠くに逃げる!
  だからっ!!」

ワーロックは未だ明かりを弱めず、念を押した。

 「魔法使いの言葉の重みを理解しての事か?」
0551創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/29(土) 19:08:28.34ID:RRlPKRQY
リタは僅かに回答を躊躇った。
彼女もルヴィエラは恐ろしいのだ。
反逆同盟から逃げ出せば、間違い無く追手を差し向けられるだろう。
しかし、彼女は我が子の為に恐怖を振り払って言う。

 「わ、解っている!
  魔法使いは約束を違えない……」

だが、闇の子等はルヴィエラが生んだ物。
ルヴィエラの庇護無くしては、生きて行けない。
どちらにしろ、子供達は死んでしまう。
それが今死ぬか、後で死ぬかの話。
リタの言葉は、その場凌ぎの嘘なのか?
ワーロックは彼女の言葉を吟味する事無く、言質を取っただけで済ませる。
明かりが徐々に薄れて行く。
闇の子等は、もう生きているかも死んでいるかも判らない位、衰弱していた。
それと同時に女性達の洗脳が解けて行く。
リベラも正気に返った。
残ったのは、一言も発さなくなった黒い残骸だけ。
リタは闇の子等に駆け寄り、息を確かめる。
そして、未だ死んでいない事を理解すると、小さく息を吐いて安堵した。
ワーロックは何も言わず、リタを凝視している。
彼女は決まり悪そうに目を伏せ、ワーロックに言った。

 「感謝する……。
  もう会う事は無いだろう」

これからリタは、どうするのだろうか?
先の事は誰にも判らない。
0552創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/06/29(土) 19:09:14.79ID:RRlPKRQY
暫くは彼女は子供等と平穏な時を過ごせるだろう。
そして何れルヴィエラに始末されるか、或いは見過ごされたとしても、子供等が弱って行くのは、
どう仕様も無い。
リタは子供等を救う新たな道を見付けられるのだろうか?
――唯、ティナー市での騒動は、これで終わった。
泣き声に集められた女性達は、何事も無かったかの様に、散り散りに帰って行く。
後から都市警察や執行者が到着して、ワーロックとコバルトゥス等に事情を聞いた。
ワーロックは自ら執行者に事情を説明したが、余り理解はされなかった。
翌朝にワーロックは改めて執行者の事情聴取を受ける事になる。
そこでも、やはり彼の行動は理解されなかった。
何故、敵を見逃したのか?
再び犠牲者が出るとは考えなかったのか?
何度も詰問されたが、ワーロックの心は揺れ動かなかった。
彼は責任を取る為、今後を見届ける為に、2週間程ティナー市に滞在する事になった。
再襲来に怯える人々を他所に、夜中に人が消える事は二度と無かった。
子供の泣き声も……時々聞こえては人々を脅かしたが、その正体は普通の子供だった。
0554創る名無しに見る名無し
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2019/06/30(日) 19:04:20.07ID:STW4VGW3
「お養父さん、家に帰ったんじゃなかったの?」

「偶々帰り道だったんだよ」

「ブリンガーから禁断の地に帰るのに、ティナーは通らないよね?」

「……一寸、寄り道してたんだ。商売があるからね」

「取引品目表と売買記録出せる?」

「実際に売買してた訳じゃなくて、取り引きの確認だから……」

「嘘だよね?」

「う、嘘ではない」

「嘘じゃないだけだよね? 家に帰る気は無かったんでしょう?」

「家には帰るよ」

「今直ぐ?」

「その内」

「……お養父さん?」

「…………反逆同盟を放置する訳には行かない」

「それは私達も同じ気持ちだよ。一緒に行こう、お養父さん」
0555創る名無しに見る名無し
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2019/06/30(日) 19:05:11.77ID:STW4VGW3
「一緒に行く事は出来ない」

「どうして?」

「敵は神出鬼没だ。私達は別行動するべきだと思う」

「お養父さんは独りで大丈夫なの?」

「独りじゃない。都市警察が居る、魔導師会が居る。こうして、お前達とも会える」

「……そう言うのは狡いよ」

「リベラ。私達は何時でも、『独り切り』と言う事は無いんだ。命がある、人が居る、皆が居る」

「お説教?」

「その積もりで聞いてくれ。仮令、1人になったとしても、それは数の上の事に過ぎない」

「……意味が解らないよ」

「無理に解る必要は無い――けど、この先に何があるか判らないから、出来る事なら解って欲しい」

「それじゃあ、もっと解り易く教えて?」

「どこにでも風がある、水がある、草がある、光がある。この辺の事はコバルトゥスが詳しいだろう」

「精霊の事?」

「それだけじゃない。敵も居る」

「敵……? 敵は居ない方が良いよ」

「そうだな、敵と言う表現は良くない。『相手』が居ると言うべきかも知れない。相手が敵になるか、
 それはリベラ達の対応次第だ」

「大体言いたい事は解るけど、もっと、こう、さぁ……」
0556創る名無しに見る名無し
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2019/06/30(日) 19:05:28.23ID:STW4VGW3
「否々(いやいや)、そう言う事じゃないんだ」

「どう言う事なの……」

「敵は居る。それは事実だ。どこかでリベラは、敵と1対1だとか、或いは1人で大勢を相手に、
 戦わないと行けなくなるかも知れない」

「……はい」

「その時に自分は独りだと思い込むんじゃなくて、周りに物が在る事、そして敵と言う存在も、
 自分を取り巻く物の一つだと言う事を忘れないで欲しい」

「うわっ」

「何、『うわっ』て……」

「あ、難しい話だなって思って」

「真面目に聞けよ? 大事な話なんだからな。詰まり、どんな状況でも独りと言う事は無いんだ」

「あー、そう言う話?」

「そう言う話だよ」

「詭弁臭い」

「でも、重要な事だ。どんなに追い詰められた状況でも、それを忘れないで欲しい」

「……解ったよ、お養父さん」

(解ってないな?)
0557創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/01(月) 19:01:53.68ID:Pg7WHO8O
やっぱり落ちませんね。
スレの容量制限が1024KBまで増えたのか、それとも制限その物が取っ払われたのか?
どっちにしてもスレの消費が遅くなるだけなので問題はありませんが……。
しかし、これまではスレが落ちてから新しいスレを立てるまでに、少しずつ書き溜めていたんですが、
今度からは定期的に1週間から2週間程スレが止まるかも知れません。
0559創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/02(火) 18:34:05.77ID:CO0Q8/mw
獣の街


第五魔法都市ボルガにて


ティナー市内で女性行方不明が起きていた頃、ボルガ地方でも不穏な噂が流れていた。
何者かに食い荒らされた人の死体が、街の中に放置される様になったのだ。
それが明らかに、人の手で「加工」された物だったので、魔導師会が出動する事になった。
本来は「魔法」の使用が疑われるまでは、解決は都市警察の手に委ねられるのだが、時勢が時勢。
半共通魔法社会的な外道魔法使いの集団、反逆同盟が暗躍している今、その関与を疑わない訳には、
行かないのだ。
人の死体は大抵は浮浪者の物で、市民は気味が悪いと思いつつも、「浮浪者だから」と切り捨て、
余り自分達の問題だとは捉えていなかった。
本来は魔導師会と共に全力で捜査しなければならない都市警察も、余り本気にはならない。
新聞や魔力ラジオウェーブ報道等は、早期に解決しなければ、市民に被害が及ぶかも知れないと、
警鐘を鳴らしていたが、それも何か他人事の様だった。
事件は1月間、毎日起きた。
魔導師会の調査では、人間の死体には共通魔法では無い魔力の痕跡が見られた。
即ち、反逆同盟の仕業である可能性が高まったのだ。
それでも……ボルガ市民は不気味に思いこそすれど、それ以上の危険は感じていなかった。
殺されるのは浮浪者だから。
真面に家のある者、「正しい生活」をしている者が殺される事は無い。
そうした根拠の薄い安心に縋っていた。
丸で「悪い事をしなければ、悪い目に遭ったりはしない」とでも言う様な、因果応報的な、
宗教に似た心理で……。
0560創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/02(火) 18:36:21.29ID:CO0Q8/mw
>半共通魔法社会的な外道魔法使いの集団
正しくは「反共通魔法社会的な外道魔法使いの集団」です。
済みませんでした。
0561創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/02(火) 18:38:21.98ID:CO0Q8/mw
しかし、事件の発生から1箇月後に、今度こそ一般の市民を巻き込んだ事件が発生してしまう。
それも真に痛ましい、平穏な家庭を狙った、一家惨殺事件だった。
これも外道魔法を利用した犯罪だと、魔導師会は決定した。
ボルガ市民は今度こそ怒りを発露させ、徹底的な糾弾と事件の解決を訴えた。
当時のボルガ市内では、浮浪者は一掃されていた。
1箇月も毎日の様に連続して浮浪者が死ねば、流石に浮浪者もボルガ市から離れる。
誰も自分達を守ってはくれないのだから。
元々住家を持たない事もあり、浮浪者達は移動に抵抗を持たない。
浮浪者が居なくなったので、遂に市民が狙われる様になった……と言うのが、大凡の市民の理解だが、
その真相は全く違う物だった。
魔導師会は事件の真相を掴んでいたが、それを発表する事は控えていた。
――市民を殺したのは、呪詛魔法によって蘇った浮浪者だった。
浮浪者は自分達が殺されても無関心な、市民、都市警察、都市と言う機構その物を恨んでいたのだ。
一連の浮浪者連続殺人事件は、今回の為の布石に過ぎなかった。
以後、「普通の市民」を狙った事件が立て続けに起こる様になる。
浮浪者の呪詛によって……。
0562創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/03(水) 18:06:46.01ID:pMMFxkGE
ボルガ市から「逃れて来た」浮浪者は、聞き込みの捜査官に恨み言を吐く。

 「俺達は都市にとっては厄介者なんだ。
  ゴミ漁りの不潔な生き物。
  犬や猫やカラス何かと大差無い。
  それ所か、もっと汚らしい、見るのも嫌な存在だと思われてる」

 「誰も俺達の事を守っちゃくれない。
  死んだって、都市の連中は手を合わせてもくれない。
  死んで当然だって思われてんだ。
  立派な市民様とは違うんだよ。
  魔導師会も都市警察も、俺達が殺されたんで捜査する訳じゃない。
  法が犯されたってんで捜査すんだ。
  表向き正義の味方を気取ってたって、根性が判んだよ」

 「私等だって、好きで浮浪者をやってる訳じゃない。
  こうなっちまった事情は色々だわね。
  仕方無し、仕方無しだよ。
  善良な市民様は皆、自業自得だと言うけれど、私等も嘗ては、その善良な市民様だったんだよ。
  明日は我が身と言う事を、皆知らない……。
  いや、知らないんじゃないんだね。
  自分が浮浪者になるって思いたくないんだ。
  見たくない物を見ない振りして、知りたくない物を知らない振りして、それが今だよ」

 「帰れる家があれば、帰りたい。
  施設に入れば良いとは言われっけど、あんな所は御免だね。
  あそこは悪魔の巣窟だよ。
  民間の営利業者だから、利益を上げる為に、儂等を食い物にする。
  何でも彼んでも経費削減で、最低限、最低限。
  浮いた金を懐に仕舞ってよ。
  あんな所で軟禁みてえな生活を送る位なら、刑務所にでも入るわな。
  今時は刑務所にも入れちゃくれねえ……。
  残酷な事だよ」

浮浪者は市民が殺されても何とも思わない。
寧ろ、良い気味だと嘲笑している。
0563創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/03(水) 18:07:19.35ID:pMMFxkGE
こうした社会の歪(ひずみ)に、悪魔は付け入るのだ。
誰もが綺麗事で生きて行ければ良いのだが、残念ながら、そうは行かないのが世の中。
勝者が居れば敗者が居て、儲ける者が居れば損する者が居る。
本音では自分さえ良ければ、それで良い。
誰もが、それを隠し、或いは誤魔化しながら生きている。
その裏では不満が溜まり続けており、小さな切っ掛けで爆発する。
爆発が個人で収まれば良いが、集団となると手が付けられない。
一度狂った歯車は、もう元には戻らない。
仮令、事件を解決しようとも、その後には修正不可能な傷が残る。
……とにかく今は、問題を解決しない事には始まらない。
その後に起こる問題は、その後の事だ。
魔導師会と都市警察は、呪詛魔法使いの正体を掴むべく、行動を起こした。
しかし、これも浮浪者達の反感を買った。
明らかに事件の重要度、優先度が、呪詛魔法使いへの対処であり、浮浪者連続殺人事件の解決は、
一先ず置かれたのである。
呪詛魔法で市民が殺害される様になってから、確かに浮浪者が殺害される頻度は下がった物の、
犯人が捕まった訳では無い。
それでも呪詛魔法使いを捕らえる事が、事件を解決する事に繋がるのだと、魔導師会と都市警察は、
考えていた。
呪詛魔法使いが連続殺人事件の犯人と連携しているか、或いは同一人物だと予想していたのだ。
0564創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/03(水) 18:08:22.98ID:pMMFxkGE
しかし、「そうで無かった」場合の事は殆ど考えていなかった……。
素直に推理すれば、浮浪者殺人犯と呪詛魔法使いは結託している。
何しろ反逆同盟と言う、共通魔法社会に仇為す組織が暗躍しているのだ。
その関連である事は間違い無い――と、誰でも思うだろう。
寧ろ、誰が無関係だと思うのか?。
だが、呪詛魔法を止めるのに、呪詛魔法使いを仕留めようと言う発想は、賢いとは言えない。
真の呪詛魔法使いは、人の恨みを晴らす為の「媒介」に過ぎないのだ。
呪詛魔法使いは強い恨みや憎しみの感情に引き寄せられ、それを晴らす為に現れる。
詰まる所、人に恨まれたり、人を憎んだりしない様にする事が重要で、それ以外の方策は、
その場凌ぎの対症療法にしかならない。
痛みに対して麻酔を打つ様な物で、根本的な解決にはならない。
社会不安や不況が引き起こす犯罪に、警官を幾ら投入しても、限(キリ)が無いのと同じである。
政治的な方面で社会の仕組みを根本的に変える様な大鉈を振るうか、或いは宗教や哲学で、
地道に人々の意識を変えて行かなければならない。
しかしながら、一度安定した社会基盤が築かれると、そんな事が出来る訳も無く……。
やはり魔導師会や都市警察は、呪詛魔法使いを追うより他に無かった。
「市民」が、それを望んでいるのだ。
浮浪者よりも、先ず我々の身を守って欲しいと。
そして同じ口で浮浪者が幾ら市民を恨もうとも、逆恨みだから放って置けと言うのだ。
無法者を助けてやる事は無い。
それは自業自得なのだから、守るとか助けるとか言う事は、全く必要無い。
そんな事に金や手間を掛けるなと。
0565創る名無しに見る名無し
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2019/07/04(木) 18:39:09.94ID:2ZIOelBH
人の思い込みの最も悪い事の一つに、因果応報がある。
何等悪事を働いていなくても、偶然に悪い事は起こり得る。
逆に、どれだけ悪事を働いても、全く裁かれる事が無い者も居る。
相手が悪いのだから、対処するのは相手側であって、自分は何もしなくて良い。
寧ろ、自分が対処してしまうと相手が付け上がるので、放置する方が良い。
これは正論ではあるが、正論だけで片付かないのが、世の中である。
結局、それでは回り回って自分の首を絞める事になり兼ねない。
重要なのは助け合う事と、寛容さを持つ事である。
だが、それを実践出来る人間が何人居るだろうか?
負けたくない、損をしたくないと言う、仕様も無い自尊心の為に、僅かなコストを支払う事さえも、
拒否する者は性質の悪い吝嗇家である。
しかし、世の中には吝嗇家が多いのだ。
そうで無ければ生きて行けない様な世の中にしたのは、誰だろうか?
否、そうで無ければ生きて行けない程、本当に世の中は厳しいのだろうか?
――魔導師会は呪詛魔法使いの逮捕に全力を挙げる。
その裏で、「協力者」に浮浪者連続殺人事件の解決を依頼していた。
それに応じたのが、『変温動物達<ポイキロサームズ>』と隠密魔法使いのフィーゴ・ササンカ、
そして巨人魔法使いのビシャラバンガだった。
0566創る名無しに見る名無し
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2019/07/04(木) 18:40:13.26ID:2ZIOelBH
浮浪者連続殺人事件の犯人は、エグゼラの狐ヴェラである。
死体を人目に付く所に散らかすのは、彼女が操る獣の仕業だった。
ヴェラは魔性の瞳で、標的の動きを封じる事が出来る。
その能力を利用すれば、容易に人を殺せた。
彼女は人の血を浴び続け、徐々に知性を取り戻して、自分の本性を思い出して来た。

 (あぁ、蒙が啓けて行く。
  我が身は人でありながら、獣の時分よりも劣る知性だった。
  人、人、人……人とは何か?
  ナハトガーブ、哀れな魔獣……。
  私は人の世を獣の道理で支配しよう。
  今こそ、その時)

狐の妖獣だった頃の自分を思い出した彼女は、妖獣軍団の遺志の様な物を感じていた。
嘗て、魔獣ナハトガーブに率いられた妖獣軍団は、人間が地上を支配する現状への下克上を企てた。
しかし、それは失敗して地上の支配者は今尚人間である。
その事実は動かしようも無い。
それならば人倫を汚し、腐らせようと、彼女は考えた。
人も畜生道に堕ち、人獣の隔てを失わせるのだ。

――人間(じんかん)に我欲満ち、人倫を失う。
――法、能(はたら)かずして、罪の咎め無き。
――人、畜生に堕ち、人獣の隔て無し。
――即ち、地上忽ち畜獣の配下に降る。
――ここに人無し、嘆く者も無し。

旧暦、教会が国際秩序を維持していた時代は、神の教えが失われる事を警告していた。
天地万物を司る神が、人の良心を見守っていた為に、今の秩序に守られた世の中があるのであり、
神の教えを失えば人は獣と変わらない存在と化してしまうだろうと。
人が神の御許を離れて500有余年、遂に、その時が来たのだ。
0567創る名無しに見る名無し
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2019/07/04(木) 18:42:26.88ID:2ZIOelBH
ボルガ市内で頻繁に動物が目撃される様になったのは、浮浪者達が消えてから。
よく見られる猫や鼠では無く、本来は山野に潜んで、滅多に人里には現れない筈の中型の妖獣が、
多数目撃される様になった。
ゴミを掃除する浮浪者が居なくなった為だと、魔導師会や都市警察は認識していた。
人々は呪詛魔法を恐れて、夜間は家の中に篭もる。
だから、野犬や夜行性の中型妖獣が街中に出現する様になったのだと。
しかし、浮浪者を再び都市に招こうとは、誰も思わなかった。
そうしている内に、徐々に獣の数が増えて行く。
丸で都市が獣に支配されているかの様に。
その内、市民が獣に噛み付かれたり、引っ掻かれたりする事件が起きる様になった。
都市警察は呪詛魔法使いを追うと同時に、街中を彷徨く獣の駆除もしなければならない。
ここで魔導師会は呪詛魔法使いを追い、都市警察は獣を駆除すると言う、役割分担が出来た。
誰が知るだろう。
その獣はエグゼラの狐ヴェラが呼び寄せた物だと。
全ては都市を支配する為の、大掛かりな策略だと。
獣は狐や狸だけでは無い。
野良犬や野良猫までもが、人を襲う様になっていた。
こうなっては浮浪者連続殺人事件の解決等、完全に後回しだった。
ボルガ地方の魔力ラジオウェーブ放送では、動物学者が市内に増え続ける妖獣の行動を解説している。

 「妖獣は賢いですから、恐らくは仲間同士で情報を共有しているんでしょう。
  『ここは今、人が少ないから安全だぞ』と。
  人間の言葉で言っている訳ではありませんがね。
  だから、次々と周囲から妖獣が集まって来る。
  種類の違う妖獣同士で争わないのは、同じ妖獣より人間の方が、もっと厄介で強大な敵だと、
  理解しているからです。
  流石に、同属意識とまでは行かないでしょうが、お互いに無駄な争いはしない位の、
  緩い共通認識があるのだと思います」

何の事情も知らない一般人は、その専門家の言う事を信じるしか無い。
これは動物の習性の一で、幾つかの条件が重なって、こうなっているだけであり、何等異常ではない。
必要以上に恐れる事は無い。
そんな風に、自分自身を説得して落ち着かせる。
0568創る名無しに見る名無し
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2019/07/05(金) 18:42:59.46ID:bvaYYfRH
ボルガ市内には未だ幾らかの浮浪者が残っている。
浮浪者達は丸で復興期の様に、都市の片隅で妖獣達と生活圏を奪い合う「戦争」をしていた。
しかし、都市警察が守るのは浮浪者では無く、「市民」の生活圏。
浮浪者だろうが市民だろうが、妖獣を市内から駆逐すると言う一点で、事態の解決は一体の物だが、
残念ながら都市警察は、そうとは認識していなかった。
都市警察は「納税者」の味方なのだ。
ここでも浮浪者が市民を恨む理由が出来ていた。
そんな状況で、ポイキロサームズ等は、浮浪者連続殺人事件を解決しようと奔走していた。
浮浪者達との交渉は、ビシャラバンガが担当した。
彼も一時期は浮浪者の様な生活をしており、修行生活中に知り合った浮浪者も居た。
その巨躯からビシャラバンガは「デラ」さんと言う渾名で呼ばれていた。

 「おー、デラさんだがや」

 「久しいな。
  己の事を覚えていたのか」

 「忘れたぁても忘れられんでよ。
  とにかく、お前(みゃー)さんは、でっきゃあがや。
  遠目でも一目で判るで。
  ほんで、態々こんな時に、こんな場所に来て何の用かや?」

 「魔導師会や都市警察の代理だ。
  浮浪者連続殺人事件を追っている」

 「ヒャー、お前さんが!?
  えりゃー出世した物だがや」

浮浪者の男性はビシャラバンガの体を叩きながら、驚いた様な、感心した様な声を上げる。
0569創る名無しに見る名無し
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2019/07/05(金) 18:44:10.18ID:bvaYYfRH
ビシャラバンガは少し困った顔で言い訳した。

 「魔導師会の関係者と言う訳では無い。
  小間使いの様な物だ。
  あちらは別の事件で、こちらまで手が回らないと言うからな」

そう言われると浮浪者の男性は、顔を顰める。

 「魔導師会も都市警察も当てになりゃせんがや」

市民と浮浪者間の確執は、ビシャラバンガも聞いていた。
魔導師会や都市警察の中にも、浮浪者連続殺人事件を軽視せず、解決しようと言う者は居るのだが、
結局の所、優先されるのは「市民」なのだ。

 「とにかく、少しでも手掛かりになりそうな事を知っていたら、教えて欲しい」

ビシャラバンガの頼みに、浮浪者の男性は大きく頷いた。

 「お前さんの頼みなら、聞かにゃー訳にゃ行かにゃーで。
  ……っちゅうても、手掛かりなぁ……。
  最初の頃は、何だら見慣れん者が居るやら居らんやら言う話もあったけんども……。
  今は、それ所じゃにゃーでなぁ」

 「見慣れない者?」

 「女だっちゅう話だったで。
  最近は聞かれんけど」

 「女か……。
  どんな女だったとか判るか?」

 「別嬪だったっちゅう話だけんども、当てにゃ出来んでよ。
  大体、男の噂ってな女を美人っちゅう事にしたがるでな。
  美人か不細工か、どっちかに寄る物だがや」
0570創る名無しに見る名無し
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2019/07/05(金) 18:45:19.10ID:bvaYYfRH
ビシャラバンガは少し思案して、こう聞いてみた。

 「それなら女達に話を聞けば、何か判るだろうか?」

浮浪者の男性は難しい顔をする。

 「女達に聞いても、分かりゃせんと思うでよ。
  初期の被害者は男ばっかだったでな。
  寡夫(やもお)が掛かる物だて、女達は笑っとったで」

 「ウーム……。
  しかし、他に手掛かりが無いなら、その女とやらを探してみよう。
  浮浪者の仲間では無いのだろう?」

 「力になれんで済まなんだの」

 「気にするな」

 「獣には気ぃ付けやーよ」

 「ウム」

2人は頷き合って別れた。
後方で待機していたポイキロサームズが、戻って来たビシャラバンガを迎える。
蛙男が問う。

 「何か判ったか?」

 「『女』が居たそうだ」

それを聞いて蛇男が不安そうな声を上げた。

 「正か、ルヴィエラ……?」
0571創る名無しに見る名無し
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2019/07/06(土) 17:53:49.90ID:LnCndVOx
ビシャラバンガは至って冷静に言う。

 「さあな、そうかも知れん。
  だが、逃げる訳には行かん。
  可能性に怯えていては何も出来んぞ」

堂々とした彼の物言いに、亀女が問うた。

 「貴方はルヴィエラが怖くないの?」

 「己は未だルヴィエラとやらの事をよく知らん。
  故に、恐れるも何も無い。
  無知は偉大だ」

実際の所、ポイキロサームズもルヴィエラに就いて、具体的に何を知っていると言う訳では無い。
但、ルヴィエラによって生み出された存在なので、その能力が何と無く分かってしまうのだ。
自分達とは存在自体が掛け離れた物だと言う事も。

 「……もし女の正体がルヴィエラだったら、その時は、その時だ。
  今から愚図愚図言っていても仕方あるまい」

そう言い切ったビシャラバンガは、ポイキロサームズを引き連れて、殆ど廃墟の様になってしまった、
無人のボルガ市内を歩く。

 「待てよ、ビシャラバンガ!
  どこに女が居るとか、そう言う情報は?」

蛙男の問い掛けに、ビシャラバンガは首を横に振った。

 「得られなかった。
  最近は女を見なくなったらしいから、もしかしたら、もう居ないのかも知れん。
  それでも動かねば始まるまい」

 「手掛かりも無いのにか?」

 「無いからこそだ」

断言するビシャラバンガに、ポイキロサームズは素直に従った。
彼の決意と信念に満ちた言葉には、有無を言わせぬ力があった。
0572創る名無しに見る名無し
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2019/07/06(土) 17:54:27.25ID:LnCndVOx
一行は手分けして、市内に怪しい女が居ないか、何か特異な現象が起こっていないか、見回りに出る。
一つは蜥蜴女アジリアと蛙男ヴェロヴェロと昆虫人ヘリオクロス。
一つは蛇男ヤクトスと影人間シャゾール。
一つはビシャラバンガと亀女コラル。
3つの班は機動力を考慮しての編成だ。
アジリアは敏捷性に優れ、ヴェロヴェロには壁に張り付く吸盤と跳躍力がある。
甲虫のヘリオクロスは鈍重そうに見えるが、実は空を飛べる。
蛇男ヤクトスは狭い所にも入り込め、影人間シャゾールは影と同化出来る。
唯一、重装甲で動きの鈍いコラルにはビシャラバンガが同伴する。
市内の各所には猫が屯していて、熟(じっ)と一行を見詰めていた。
偶に犬とも出会すが、ポイキロサームズの特異な風貌に驚いて退散する。
ビシャラバンガと行動を共にしていた亀女のコラルは、猫に近付いて触ろうとした。

 「猫ちゃん、良し良し」

しかし、猫は彼女を警戒の目で見詰め、さっと逃げてしまう。
コラルは余り表情の変わらない顔で、小さく息を吐いて落胆した。

 「はぁ、やっぱり逃げられちゃうかぁ……。
  早く人間になりたいなぁ」

 「今、猫が逃げたな」

ビシャラバンガの言葉にコラルは落ち込んだ声で返事をする。

 「はい、逃げられちゃいました。
  爬虫類の姿だと怖がられちゃうんですかねぇ?
  それとも野良猫だから?」

 「どちらでも無いと思う」

そう答えたビシャラバンガの目は険しい。
0573創る名無しに見る名無し
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2019/07/06(土) 17:55:33.24ID:LnCndVOx
コラルは目を瞬かせて問うた。

 「どう言う事です?」

 「奴等は己達を監視している様だ」

 「比喩的な意味ですか?」

 「違う、言葉通りだ。
  恐らく、己達の動きは見張られている」

 「猫が人間を見張る……?」

ビシャラバンガの考え過ぎでは無いかと、コラルは怪しむ。
そこまでの知能が野良猫にあるとは思えないのだ。
仮令、妖獣だとしても、猫が連携した所で何があると言うのか?
コラルはビシャラバンガに尋ねる。

 「もしかして、貴方は猫が他の動物達の斥候を務めていると言いたいんですか?」

 「ああ、その通りだ。
  取り敢えず、猫の目を誤魔化さなければ、怪しい女とやらには辿り着けないだろう」

 「でも、どうして、そんな事が判るんです?」

 「勘だ」

 「勘って、もう一寸自分の感覚を言葉にする努力をしましょうよ」

呆れるコラルに、ビシャラバンガは少し思案した。
0574創る名無しに見る名無し
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2019/07/07(日) 18:16:17.89ID:5T2JIIRd
感覚的な物を言葉にして伝える事は難しいが、それが出来ない者は他者を説得出来ない。
後進の教育も同じく。
体験や知識を言葉にするのと同じく、感覚を言葉にする事も重要なのだ。
ビシャラバンガは説明を試みる。

 「先ず、猫が多過ぎるのだ。
  如何に街中に動物が屯している状況とは言え、この数は異常。
  曲がり角の陰や塀の上に、必ず数匹の集団で居る」

 「確かに多いとは思いますけど……」

 「それと他の動物が来ても逃げないな?
  本来、天敵である筈の野良犬が通り過ぎようと、全く関心を示さない」

 「はー、成る程」

 「猫は人間に危害を加えないと言う、先入観があるのだ。
  実際、猫の脅威は犬に比べれば、格段に低い。
  手を出して引っ掻かれたり、噛み付かれたりする事はあっても、集団で人間を襲う様な事は無い。
  脅威では無いから放置される」

 「監視役には打って付けと言う訳ですか……」

彼の推測にコラルは幾分かの説得力を感じる様になっていた。

 「でも、それが事実だとして、どうやって猫の目から逃れるんです?」

 「……都市警察や魔導師会なら何か知っているかもな」

何か妙案を持っていると思ったら、そうでも無かったので、コラルは脱力した。
2人……否、1人と1体は先ず魔導師か都市警察を探す。
0575創る名無しに見る名無し
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2019/07/07(日) 18:16:48.91ID:5T2JIIRd
ビシャラバンガとコラルは動物を駆除中の都市警察に会った。
大柄なビシャラバンガと人外の容姿をしたコラルに、都市警察達は身構える。

 「何者だ!?」

 「己達は怪しい者では無い。
  魔導師会の協力者だ」

ビシャラバンガは堂々と説明する。
その余りの真っ直ぐさに都市警察達は信じそうになったが、やはり思い止まった。

 「証拠はあるのか?」

 「魔導師に連絡を取って、聞いてみるが良い」

都市警察達は、その場で魔力通信を利用して魔導師会に連絡した。

 「こちら都市警察です。
  ……怪しい2人……2人?
  2人組を発見しました。
  魔導師会の協力者だと言っています」

疑われる事には慣れっ子だったビシャラバンガとコラルは、大人しく話が終わるのを待つ。

 「1人は大柄な男です。
  もう一1人は小柄な……」

都市警察はコラルを横目で見ながら、彼女の事をどう形容して良いやら困っていた。

 「えー、人間では無さそうです。
  黒い岩の様な肌で、顔は蛇か蜥蜴の様な。
  太っている……と言うか、横幅の広い……」
0576創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/07(日) 18:17:17.09ID:5T2JIIRd
暫く魔導師会と遣り取りしていた都市警察は、改めてビシャラバンガとコラルに向き直った。

 「名前は?」

 「己はビシャラバンガだ」

 「コラルです」

 「判った」

2人の名前を確認した都市警察は、再び通信を始める。

 「大男の方はビシャラバンガ、小さい方はコラルと言うそうです。
  ……あっ、はい、そうですか……。
  はい、お手数をお掛けしました」

都市警察は通信を終えて、小さく息を吐く。

 「確認が取れた。
  それで何をしているんだ?」

疑った事への謝罪も無いが、ビシャラバンガは気にしない。

 「浮浪者が殺された事件を追っている。
  それで聞きたい事がある」

都市警察達は揃って面倒臭そうな顔をした。
浮浪者連続殺人事件は、都市警察の領分では無いのだ。
否、正確には領分には違い無いのだが、現在優先して解決すべき事件では無い。
0577高山犬子の激白【連絡先:葛飾区青と6−23−18】
垢版 |
2019/07/08(月) 07:17:53.02ID:+2tsqO3b
【超悪質!盗聴盗撮・つきまとい嫌がらせ犯罪者の実名と住所を公開】
@高添・沼田(東京都葛飾区青と6−26−6)
※盗聴盗撮・嫌がらせつきまとい犯罪者のリーダー的存在/犯罪組織の一員で様々な犯罪行為に手を染めている
 老義父は息子の嫁の痴態をオカズに自慰行為をし毎晩狂ったように射精をしている/息子の嫁をいつもいやらしい目で見ているエロ老義父なのであった
A井口・千明(東京都葛飾区青と6−23−16)
※犯罪首謀者高添・沼田の子分/いつも逆らえずに言いなりになっている金魚のフン/親子孫一族そろって低能
 低学歴で醜いほどの学歴コンプレックスの塊/超変態で食糞愛好家である/醜悪で不気味な顔つきが特徴的である
B清水(東京都葛飾区青と6−23−19)
※低学歴脱糞老女:清水婆婆 ☆☆低学歴脱糞老女・清水婆婆は高学歴家系を一方的に憎悪している☆☆
 清水婆婆はコンプレックスの塊でとにかく底意地が悪い/醜悪な形相で嫌がらせを楽しんでいるまさに悪魔のような老婆である
C高橋(東京都葛飾区青と6−23−23)
※高橋母は夫婦の夜の営み亀甲縛り食い込み緊縛プレイの最中に高橋親父にどさくさに紛れて首を絞められて殺されそうになったことがある
D長木義明(東京都葛飾区青と6−23−20)
※日曜日になると必ず風俗に行くほどの風俗好きである
E高山犬子(東京都葛飾区青と6−23ー18)
※顔と根性がが異常なくらいひん曲がっている
F九●●(東京都葛飾区青と6−26−5)
※還暦低学歴不細工で犯罪者顔のキツネ目の男/警察に通報したら完全にビビってしまい急に涙目になってオドオドしてブルブルと震えていた
0578創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/08(月) 19:40:58.27ID:9wyYxcq9
>>576から

そうした裏事情を無視して、ビシャラバンガは簡潔に問う。

 「都市警察が駆除対象にしている動物と、そうで無い動物の違いは何だ?」

 「何って……、それは人に危害を加える事だよ」

 「野良猫は駆除しているか?」

 「いや、猫は対象外だ。
  主に犬とか狼とか熊とか猪だな」

 「狐や狸は?」

 「あれは群れを作って人を襲う事はしない。
  単体では人の脅威にはならないから無視している。
  連中も人を見掛けると逃げるからな」

都市警察の答を聞いたビシャラバンガは、首を横に振った。

 「どんな動物でも油断しては行けない。
  仮令猫だろうと、人の脅威にはならなかろうと、連中は貴様等を監視している」

 「監視……?」

 「20年位前だろうか……。
  エグゼラの小さな町だか村だかが、妖獣に襲われた事件があったな。
  今のボルガは、その時の状況に似ていると思う」

 「20年前……?」

それはエグゼラ地方ルブラン市で起きた妖獣襲撃事件だ。
巨大な古代亜熊が妖獣を率いて、エグゼラ地方の小村を支配し、更に都市にまで攻め込んだ。
0579創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/08(月) 19:43:03.73ID:9wyYxcq9
それなりに大きな事件であり、その影響で妖獣を飼育する条件が厳しくなったりもした。
ボルガ地方にも当然影響はあったのだが……。
20年も経過すれば、もう昔の事だ。
何の罪も無い捨て使い魔を処分するなと言う声もあり、野良猫が増えても実害が無ければ放置する。
野良猫が増えれば、誰が妖獣を捨てたか等、誰も問題にしなくなる。
そうして妖獣飼育に関する法律は有名無実化してしまう。
その結果が今だ。
20年前の事件を知らない様子の都市警察達に、ビシャラバンガは問う。

 「知らないのか?」

 「いや、知ってはいるが……。
  そんなに状況が似ているのか?」

 「己が直接関わった訳では無いから、実際の所は分からんな」

 「余り脅かさないでくれよ」

確証が無いのであれば、同じ状況だとは言えないと、都市警察達は脱力した。
獣が街中を徘徊しているのは、外道魔法使いの仕業では無いと安心したいのだ。

 「話は、それだけか?」

 「否、未だある。
  『女』を見なかったか?」

 「女?
  どんな女だ?」

 「とにかく怪しい女だ。
  こんな状況で独り街中を歩いている様な」

都市警察達は互いの顔を見合った後、改めてビシャラバンガに尋ねる。

 「独りで出歩く様な女性が居ない訳では無いが……。
  怪しいと言うのは、どう言う意味の『怪しい』なんだ?」
0580創る名無しに見る名無し
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2019/07/08(月) 19:43:59.58ID:9wyYxcq9
 「外道魔法使いだ。
  それが浮浪者連続殺人事件の犯人だと、己は思っている」

ビシャラバンガの答に、都市警察達は再び互いの顔を見合って言った。

 「否、それらしい者は見なかった」

 「解った。
  話は終わりだ」

都市警察達は何なんだと言う顔で、その場から立ち去る。
コラルはビシャラバンガを見上げて言った。

 「感じ悪かったですね。
  都市警察って言うのは、あんな物なんでしょうか?
  それとも、あの人達だけ?」

 「あんな物だろう」

お役所に有り勝ちな、己の領分以外の事をしたがらない性質を、ビシャラバンガは問題にしない。
彼も又、似た様な性格だったのだ。
だから、他人に必要以上の期待をしない。

 「結局、己を助ける物は己自身なのだ。
  他人の助けは、あれば良い物、無くとも困らぬ様にせねばならん」

 「……色々大変だったんですね」

妙に達観しているビシャラバンガの、これまでの人生を思って、コラルは同情した。

 「ああ、それなりに苦労はして来た。
  そんな事より今は事件の調査だ。
  そろそろ他の連中と合流して、情報を整理しよう」

ビシャラバンガとコラルは他の仲間達と合流する。
0581創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/09(火) 19:00:16.07ID:16L+6Org
一方、ボルガ市内ではビシャラバンガとポイキロサームズの他にも、反逆同盟と戦う仲間が居た。
それは自称妖獣の天敵、猫型妖獣のニャンダコーレである。
ニャンダコーレは同じ猫型の妖獣、魔猫や化け猫に混じって、情報収集をしていた。
彼は道行く化け猫に話し掛ける。

 「コレ、そこの!」

 「ニャー、儂ん事(きょと)きゃにゃ?」

化け猫は酷い訛りだったが、言葉を理解出来ない訳では無かった。

 「コレ、そうである、そうである」

 「ニャんの用きゃや?」

 「コレ、この街は、どうなっているのだ、コレ?」

 「おミャーしゃんはニャんも知りゃんと来たんきゃにゃ?」

 「コレ、どう言う事なのだ?」

 「しゃーニャーのー。
  知りゃにゃー教(おしぇ)ーちゃーや。
  ニャンダキャ様(しゃま)の再来(しゃいりゃい)でゃーよ」

 「ニャンダキャ……。
  コレ、ナンダカナンダカの事かな?」

 「人間(にゃんぎゃん)共に反乱(はんりゃん)を起こしたニャハトギャーブときゃ言うんぎゃ、
  居ってにゃ……。
  そん手下ぎゃ生き残(にょこ)っちょって、仲間(にゃきゃみゃ)を集めちょーっち、
  話(はにゃし)だぎゃ」
0582創る名無しに見る名無し
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2019/07/09(火) 19:01:00.94ID:16L+6Org
化け猫の話を聞いたニャンダコーレは驚く。

 「コレ、ナハトガーブだと!?
  その手下が、コレ生き残っていたのか!?」

 「そうだぎゃ。
  儂も驚(おでれ)ぇたでゃーよ」

 「それは、コレ、どんな奴なのだ?」

 「見た目(み)ゃあ、人間でゃーよ。
  ニャんでも、獣きゃー人間にニャったっちゅうぎゃ……。
  儂も人間にニャれーきゃのー?」

 「コレ、真面な手段では無いぞ」

 「そうきゃにゃぁ……。
  はぁ、そっきゃぁ……」

 「お主も、コレ、ナハトガーブの手下の配下になるのか?」

 「ニャー、儂ゃー日和見だぎゃー。
  人間と戦(たたきゃ)う気ゃーニャーきゃーの」

 「コレ、賢明である」

ニャンダコーレは化け猫と別れて、再び市街を彷徨いた。

 (獣から、コレ、人間に……?
  コレ、ナハトガーブの配下に、その様な物は居なかった筈……。
  ニャー、コレ、何者かの手により、コレ、人化したと見るべきであろうな……。
  コレ、やはり反逆同盟が絡んでいるか……)
0583創る名無しに見る名無し
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2019/07/09(火) 19:04:37.17ID:16L+6Org
獣が人に成ると言う事に就いて、ニャンダコーレは否定的だった。
一時的に化ける事は出来ても、本性までは変えられない。
魂の形は、そう簡単に変えられる物では無いのだ。
人に焦がれ焦がれて、魔性を蓄え、長き年月の果てに人の姿に変じたとしても、本当の姿は……。
人に成ったのだから、人として生きれば良いのだが、それが出来ない、それをしないと言う事は、
自分が獣だと言う意識を捨て切れない証拠。
ニャンダコーレは他にも化け猫達を探して、ナハトガーブの手下だったと言う者に接触しようとした。

 「コレ、そこの!
  ナハトガーブの手下だと言う物は、コレ、どこに居る?」

 「ニャー?
  ニャんだゃ、おミャーは?
  仲間にニャーに来たんきゃや?」

 「コレ、そう思って貰って良い」

 「ニャー、コレコレ妙な奴(やっ)ちゃニャ。
  できゃー図体(ずうてゃー)だぎゃ、何某(にゃんぼ)の物(もん)きゃーのー。
  ミャー良え、付いて来ぃやー」

化け猫はニャンダコーレを連れて、行き詰まりに誘う。
そこには何匹もの化け猫が屯していた。

 「ニャー、誰(だり)ゃー、そいちゃー」

 「新入りだぎゃー」

 「ヒャー、中々(にゃきゃにゃきゃ)偉丈夫だにゃーきゃ!」

 「ヴェリャー様(しゃま)ん会(え)いに来たぁて」

 「ヒャー、ヴェリャー様にきゃや?
  ミャーしきゃし、力(ちきゃりゃ)の程ぎゃ判(わきゃ)りゃにゃーのー」
0584創る名無しに見る名無し
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2019/07/10(水) 19:11:42.62ID:hmXnqd3p
化け猫達は徐に散開して、ニャンダコーレを取り囲む。

 「力を見しぇて貰(もりゃ)わにゃーのー。
  ニャー、新入りや!」

しかし、化け猫達は自ら仕掛けようとはしない。
ニャーニャー威嚇するだけだ。
普通の化け猫より一回り二回り大きいニャンダコーレを警戒しているのだ。

 「コレ、仕方ニャー……っと、伝染(うつ)ってしまった、コレ。
  後悔するなよ。
  シッ!!」

ニャンダコーレが爪を伸ばして左腕を振り払うと、獣魔法が発動して、彼の左に居た化け猫の額に、
小さな爪痕を付けた。

 「ギャニャッ!!」

然程、大きな怪我では無いが、見慣れない獣魔法に化け猫達は戦慄する。
基本的に戦いで使う様な獣魔法は咆哮で相手を怯ませたり、自分の能力を強化する物が殆ど。
偶に相手を弱体化させたり、動きを止めたりする物があるが、遠隔攻撃が可能な物は珍しい。
化け猫達は忽ち戦意を萎えさせて、渋々戦いを止めた。

 「ニャ、よう判ったで、こかぁ一旦、矛を収めようや」

 「コレ、そのヴェリャー様とやらには、コレ会わせて貰えるのか?」

ニャンダコーレが問い掛けると、化け猫達は畏縮して答える。

 「ニャ、ミャー、ああ、会わせちゃーでにゃ。
  しばし待(みゃ)っちょれにゃ」
0585創る名無しに見る名無し
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2019/07/10(水) 19:12:02.10ID:hmXnqd3p
ニャンダコーレは化け猫達に連れられて、「ヴェリャー様」に会いに行った。
所が、化け猫達は街を徘徊するばかりで、一向に「ヴェリャー様」に会える様子は無い。
彼は化け猫達を疑って、脅し掛ける。

 「コレ、一体何時になったら、コレ、ヴェリャー様とやらに会えるのだ、コレ?
  巫山戯た事をする積もりなら……」

化け猫達は慌てて言い訳する。

 「ニャー、ヴェリャー様にゃ、どこで会えーきゃ判りゃにゃーで。
  決(け)まった所(とこ)に居(お)ー訳(わきゃ)ーじゃにゃーきゃーの。
  今(いみゃ)探(さぎゃ)しちょー所(とこ)だぎゃ」

 「コレ、どこに居るのか判らないのか?」

ニャンダコーレは呆れるも、化け猫達は気にしない。

 「判りゃにゃー物は判りゃにゃーで、しゃーにゃーぎゃや」

この儘、化け猫達に付いて行っても無駄では無いかと、ニャンダコーレは思い始めていた。
しかし、化け猫のネットワークは侮れない。
直ぐに化け猫達は「ヴェリャー様」の居場所を掌握する。

 「ニャー、判ったで!
  ヴェリャー様(しゃみゃ)ぁ、南(みにゃみ)だぎゃ!
  こっちゃ、こっちゃ!」

1匹の化け猫の呼び掛けに応じて、化け猫達は急いで付いて行く。
特に急ぐ必要は無いのだが、何と無く雰囲気で、走ってしまうのだ。
ニャンダコーレも四足歩行になって駆けた。
0586創る名無しに見る名無し
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2019/07/10(水) 19:12:34.97ID:hmXnqd3p
「ヴェリャー様」が居たのは、ボルガ市内の南部にある橋の下。
そこで魔犬に囲まれて、1人の女が大きな丸石の上に座っていた。

 「ほんにゃりゃ俺等(おりゃーりゃ)は、こいで……。
  案内(あんにゃい)はしたでにゃー」

化け猫達は魔犬に近付きたくないので、早々(さっさ)と逃げて行った。
ニャンダコーレは堂々とした二足歩行で、橋の下に屯している魔犬の群れに向かう。
彼が近付くと、それまで伏せていた魔犬達は徐に立ち上がり、警戒し始めた。
女は丸石の上に横臥して、少しも反応しない。
ニャンダコーレは魔犬を物ともせず、歩みを進める。
魔犬達は愈々総立ちになり、彼に向かって吠え始めた。
流石にニャンダコーレも飛び掛かられたくは無いので、一旦足を止める。
そして、その場から石の上の「ヴェリャー様」に対して、よく通る声で話し掛けた。

 「コレ、そこの貴女が『ヴェリャー様』か?」

「ヴェリャー様」は気怠気に目を開けて上半身を起こす。
それと同時に、唸っていた魔犬達が静まり返った。

 「何じゃ、貴様は?」

 「コレ、申し遅れた。
  吾輩はニャンダコーレ」

 「私はヴェラ。
  ニャンダコーレとやら、ここに何をしに来た?」

 「コレ、この街に溢れる妖獣共を従えているのは、貴女と聞いた。
  どう言う者なのか興味があって、コレ来た」

ヴェラは暫しニャンダコーレを熟っと見詰めていたが、その内に飽きた様に再び伏せる。

 「御苦労な事だ」
0587創る名無しに見る名無し
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2019/07/11(木) 19:24:09.31ID:mXgjtagP
脅威とは見做されていないのかと、ニャンダコーレは小さく嘆息した。
魔犬達もニャンダコーレから遠い集団は、興味が失せた様に伏せる。
ニャンダコーレは1歩踏み出し、ヴェラに向かって行った。

 「禍々しい気配を感じるぞ、コレ!
  貴女は、コレ真面な人間では無いな!!」

彼の指摘にヴェラは再び体を起こす。

 「フム、解るのか……」

ヴェラの体は魔力を纏い始める。
ニャンダコーレは得体の知れない感覚に身震いした。

 「その体の中に、コレ、幾つもの魂を感じる!
  コレ、虎か!?」

 「懐かしいな。
  憐れな老虎……。
  そして将軍虎共……」

 「コレ、貴女の気配には覚えがある。
  ナハトガーブの下に居た狐か!!」

 「そこまで看破するか……」

ヴェラは緩りと丸石の上に立ち上がった。
魔犬達は、彼女の纏う禍々しい気配に怯えて、少し距離を取る。

 「ロホホホホ……。
  その通り、私は狐から人に成った者」

 「戯言を!
  獣は所詮、コレ獣!
  人に等、成れはしないのだ、コレ!!」
0588創る名無しに見る名無し
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2019/07/11(木) 19:26:49.37ID:mXgjtagP
ニャンダコーレの言葉にヴェラは怒りを滲ませた。

 「何だと?」

 「その証拠に、コレ、貴方は魔性を捨てられない!
  唯の人であるならば、コレ、魔性は要らない筈!」

 「フン、人に拘る必要は無い。
  脆弱な人間が、如何程の物だと言うのだ!
  魔性を持つ私は、人より優れた存在だ!」

堂々と言い切るヴェラを無視して、ニャンダコーレは問う。

 「コレ、貴女の目的は何なのだ、コレ?
  正か、コレ、妖獣軍団の仇討ちと言うのでは、コレ無かろうな?」

彼女は数極の間を置いて答えた。

 「或いは、そうなのかも知れぬ。
  思えばナハトガーブも憐れな存在だった。
  私は、より優れた物が地上を統べるべきだと思っている。
  ナハトガーブには、その力があった。
  結局は唯1人の人間に負けてしまったがな。
  私は同じ轍は踏まぬ。
  今度は私がナハトガーブに代わって、人間共を屈服させよう」

 「コレ、私は貴女の力が、そこまで強いとは思わない。
  妖獣は所詮、敗者ニャンダカニャンダカの血筋なのだ、コレ」

ニャンダコーレの一言にヴェラは激怒する。

 「敗者だと!?」
0589創る名無しに見る名無し
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2019/07/11(木) 19:28:54.59ID:mXgjtagP
それに魔犬達は同調するよりも、味方の筈の彼女への恐れを先に抱いた。
その様子にヴェラは益々怒りを膨らませる。

 「どうした、貴様等!!
  己が血統を敗者と罵られて悔しくは無いのか!」

 「コレ、多くの妖獣にとって、ニャンダカニャンダカの物語は、コレ、遠い昔の語に過ぎぬのだ。
  そして、コレ貴女は今や人でも妖獣でも無い、唯の怪物だ、コレ!!」

 「フン、だから何だ!!
  私は獣を超え、人を超え、更なる上位の存在になった!
  強者こそ絶対!!
  私より弱い物は、私に従い、平伏するのみ!
  Cooh――――!!!!」

ヴェラは大声で吠えて、大気を揺るがした。
魔犬達は腰を抜かしてしまうも、ニャンダコーレは姿勢を低くして四つ足になり、鳴き返す。

 「Neeee――――!!!!」

獣魔法は相殺されて、お互いに効果が無い。
ヴェラは目を見張った。

 「我が魔法に魔法で対抗するとは!」

 「この程度の魔法、コレ、何を恐れる事があろうか!!」

 「高が化け猫風情がっ!!」

彼女はニャンダコーレに対して凄んで見せるが、特に何か出来る訳では無い。
獣魔法は相手を怯ませるだけだし、魔性の瞳も遠くからでは効果が無い。
0590創る名無しに見る名無し
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2019/07/12(金) 18:57:07.98ID:GI8E15B8
ヴェラは苛立って、魔犬達に命令する。

 「えぇい!!
  犬共め、何をしておる!!
  掛かれっ!!」

しかし、魔犬達はヴェラの獣魔法を受けて、恐慌状態から立ち直れない。
その隙にニャンダコーレは四つ足の儘、素早く駆けた。
木偶の如く動かない魔犬達の間を縫って、ヴェラの居る丸石の元にまで迫り、高く飛び跳ねて、
獣魔法による一閃。

 「シャーッ!!」

共通魔法で言う『風の刃<ウィンドリッパー>』に相当する獣魔法。
俗に「鎌鼬」、「不可視の爪」、専門用語的には「小陣風爪(こじんふうそう)」と称される。
風の爪はヴェラの頬を掠めて、小さな傷を付けた。
その瞬間、ヴェラとニャンダコーレの目が合う。
彼女の魔性の瞳をニャンダコーレは正面から受け止めて、睨み返す。
互いの瞳力が拮抗し、効果が無い。

 (此奴、私の魔性が通じない!?)

ヴェラは驚いたが、ニャンダコーレは追撃せずに、直ぐに距離を取った。
そしてヴェラに対して言う。

 「この騒動の正体、コレ、確かに見たぞ!
  お前達ニャンダカニャンダカの、コレ子孫共の野望は、この吾輩が挫く!!」

 「何だと!!
  貴様は何者だと言うのだ!?」

 「吾輩はニャンダコーレ!!
  コレ、ニャンダカニャンダカ一党の仇敵、ニャンダコラスの子孫である!!」

そう名乗ってニャンダコーレは撤退した。
0591創る名無しに見る名無し
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2019/07/12(金) 18:58:21.90ID:GI8E15B8
その儘、ニャンダコーレは四つ足で駆けて、市内の魔導師会支部に向かう。
途中、彼はビシャラバンガとコラルに会った。
ニャンダコーレは足を止めて、ビシャラバンガに話し掛ける。

 「ニャッ、コレ、良い所に!」

 「どうした、ニャンダコーレ?」

 「黒幕を見付けたのだ、コレ!!
  奴はヴェラと名乗った!」

 「ヴェラ……。
  確か、反逆同盟の中に、そんな名前の奴が居たな。
  エグゼラの狐だったか?」

 「コレ、それだ!!
  エグゼラの狐、コレ、妖狐が人の姿になった物!」

ニャンダコーレの話を聞いて、ビシャラバンガは大きく頷いた。

 「良し、これで反逆同盟と浮浪者殺しが繋がったな。
  魔導師会や都市警察も動く理由が出来た。
  よくやったぞ、ニャンダコーレ!」

彼に褒められたニャンダコーレは小さく笑う。

 「ニャヒヒ……。
  あー、コレ、しかし、油断は出来ないのだ。
  コレ、奴には妖獣共が付いている。
  それに奴自身も、コレ、未だ何か手を隠しているだろう、コレ」

 「……余程の化け物で無ければ、この己でも倒せる。
  心配するな」

少し謙虚なビシャラバンガの励ましに、ニャンダコーレは小さく頷いた。

 「ニャー、コレ、貴方の実力は知っている。
  頼りにしている、コレ」
0592創る名無しに見る名無し
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2019/07/12(金) 18:59:43.82ID:GI8E15B8
それからビシャラバンガはニャンダコーレに尋ねる。

 「それで、ヴェラと言う奴の居所は判るか?」

 「コレ、ここから南の橋の下に居たが……。
  今も同じ場所には、コレ、居ないと思う。
  誰でも、コレ、最後の手段は、最後まで取っておきたい物であるからして、コレ」

 「真面にやり合う積もりは無いと言う事か?」

 「コレ、強敵を避けるのは兵法の基本である。
  手強い強兵を避けて、コレ、多数の弱兵や無力な者を叩くのである。
  戦いはコレ、数であるからして、勝てる物とだけ戦うのだ」

ビシャラバンガは大きく頷き、再びニャンダコーレに尋ねた。

 「では、どう対応するべきだと思う?」

 「ニャー、コレ、無闇に追い掛け回すのは愚策である。
  今はコレ、確りと守りを固め、出向いて来た所をコレ叩くべきであろうな」

 「成る程、罠に掛けてみるか?」

 「ニャ?
  妙案があるのか、コレ?」

ビシャラバンガは小さく頷く。
彼等は再びポイキロサームズと合流して、魔導師会にヴェラの存在を伝えに向かった。
浮浪者連続殺人事件と呪詛魔法使いの出現は、やはり裏で繋がっていた。
これで魔導師会や都市警察も、浮浪者連続殺人事件の解決に動き出す筈だったが……。
0594創る名無しに見る名無し
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2019/07/13(土) 17:59:33.87ID:IfmU2mQF
 「私達も事の重大さは理解している積もりです。
  しかし、人手が足りないのですよ。
  呪詛魔法使いを追って、街の警邏をしながら、妖獣を追い払い、それだけでも手一杯なのに、
  更に外道魔法使いが居るなんて……」

魔導師会の反応は色好い物では無かった。
寧ろ、厄介事を持ち込まれて、迷惑していると言いう風な態度。

 「こちらに貸せる手勢は無いと言う事か?」

 「……はい。
  申し訳ありませんが……」

ビシャラバンガは謝罪が口先だけの物だと感じていた。
詰まる所、現行の体制を動かす事が億劫なだけなのだ。

 「心にも無い事を言う必要は無い。
  もっと正直に言ったら、どうなのだ?
  訳の解らない連中の報告で動く事等、出来る訳が無いと」

 「否(いえ)、決して、その様な事は……」

 「違うのか?
  では、こうか?
  そちらの事は、そちらで解決してくれと」

 「否々……」

 「どうやら、その様だな。
  気にするな、こちらも勝手に動いていると思われない様に、報告しているに過ぎぬ。
  この件に関して、こちらに一任して貰えるなら有り難い」

魔導師会の者は沈黙した。
その通り過ぎて、言い返す事が出来なかったのだ。
口先だけの言葉は、ビシャラバンガに嘘だと見抜かれる。
0595創る名無しに見る名無し
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2019/07/13(土) 18:00:40.01ID:IfmU2mQF
結局、魔導師会や都市警察の協力が得られない事に変わりは無かった。
ビシャラバンガの交渉が下手だった所為もあるが……。
彼は寧ろ、事情に明るくない者が割って入るのは、解決の妨げになると考えていた。
反逆同盟の魔法使い達は、対共通魔法使いに有利な性質を持っている事が多いのだ。
下手に大勢が出動すると、逆に纏めて対処され兼ねない。
ビシャラバンガはポイキロサームズと相談する。

 「やはり魔導師会や都市警察は、こちらにまで手が回らない様だ。
  ヴェラとやらは己達で退治するしか無い」

しかし、ポイキロサームズは不安がった。
亀女のコラルが言う。

 「私達だけで大丈夫でしょうか?」

 「その前にニャンダコーレの話を聞こう。
  ニャンダコーレよ、ヴェラに就いて教えてくれ」

ビシャラバンガの要請に、ニャンダコーレは深く頷いた。

 「ウム、コレ、私はヴェラと直接対峙した。
  それで判った事が、コレ幾つかある。
  先ず、ヴェラ自身は、コレ、大した力を持っていないのだ、コレ。
  厄介な物は、コレ、魔性の瞳と、簡単な獣魔法だけだ、コレ。
  コレ、詰まり……瞳と『咆哮<ロアリング>』にさえ気を付けていれば、コレ、後は腕力の勝負になる。  妖獣共を、コレ、従えているのも厄介ではあるが……」

ビシャラバンガは対処法を尋ねる。

 「どうすれば、魔性の瞳と咆哮を防げる?」

 「魔性の瞳は、コレ、魅了の一種である。
  コレ、瞳を覗かなければ良いのだが、相手と対峙するのに、コレ、瞳を見ないと言うのは、
  大きな制限となってしまう」
0596創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/13(土) 18:03:09.78ID:IfmU2mQF
ニャンダコーレは指を立てる代わりに、爪を伸ばした。

 「コレ、しかし、魔性の瞳にも発動条件があるのだ、コレ。
  瞳には、コレ感情が表れる物。
  コレ、相手の感情を捉えなければ、コレ、効果が出ない。
  コレ、その点、諸君等ポイキロサームズは有利と言える。
  何故なら、コレ、爬虫類や両生類、昆虫類の瞳は、人とは違うのでな、コレ。
  『見る側』にとっては、コレ、見慣れない瞳に先ず驚いて、魔性を向ける所では無くなる」

蛙男のヴェロヴェロが確認する。

 「詰まり、俺達には魔性の瞳が効かないって事か?」

 「そうであるな、コレ。
  後は、コレ、咆哮に怯まなければ良い」

それなら何とかなるかも知れないと、ポイキロサームズは希望を持った。
しかし、蜥蜴女のアジリアが水を差す。

 「でも、どうやってヴェラと戦うんだ?
  素直に姿を現してくれるとは思えないけど」

 「それは……コレ、姿を隠して、囮作戦をするしか無いと思う、コレ」

 「誰が囮になるんだ?」

アジリアの問に、ニャンダコーレは一同を見回した。

 「コレ、出来るだけ人型に近い物が良いな」

そう言いながら、彼は囮に最適な人物を見定める。
0597創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/14(日) 17:17:32.50ID:xQe1JVb0
ビシャラバンガは余りに巨体過ぎる。
当然警戒されてしまうだろう。
亀女のコラルは横に広過ぎる。
彼女も怪しまれる。
昆虫人のヘリオクロスも体が大き過ぎる。
ニャンダコーレは背が低い。
蛇男のヤクトスは足が無い為に、歩き方が不自然。
蜥蜴女のアジリアは尻尾が目立ってしまう。
そうなると、残りは……。

 「えっ、俺か!?」

蛙男のヴェロヴェロしか居ない。

 「頼むよ、ヴェロ」

アジリアに頼まれても、ヴェロヴェロは素直に頷けなかった。

 「いや、しかし……」

ヴェロヴェロも容姿は人間に近いとは言い難いが、フード付きローブで何とか誤魔化せる。
側(ガワ)を覆えば、太った男性で通らなくも無い。
それでもヴェロヴェロが躊躇う理由は、やはり恐怖心。
妖獣を従えた者と戦う決心が付かないのだ。
相手と一対一なら未だ良いが、妖獣を複数従えているとなると……。
ヤクトスも頼み込む。

 「他に居ないんだ。
  大丈夫、独りで戦えとは誰も言わないよ」

 「お前、他人事だと思ってさぁ……」
0598創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/07/14(日) 17:18:53.44ID:xQe1JVb0
ポイキロサームズは特異な外貌をしているが、中身は普通の人間の積もりなのだ。
特別優れた能力がある訳では無いし、何か魔法が使える訳でも無い。
人並みに臆病でもある。

 「大体ヴェラってのは、何者なんだよ。
  獣魔法を使うって、野生児なのか?」

ヴェロヴェロの疑問に、ニャンダコーレは答える。

 「コレ、野生児と言う表現は中々面白い。
  ヴェラは、コレ、妖獣が人の姿になった物である」

その言葉にアジリアは驚いた。

 「私達とは逆って訳かい?」

 「コレ、そうであるな」

ポイキロサームズは人の心を持ちながら、人外の姿を持った者達だ。
獣から人間になったヴェラとは確かに逆。
だが、人に化ける妖獣の昔話は多くあるが、実際に人の姿に変化したと言う明確な記録は無い。

 「所謂『成り上がり<アップスタート>』って奴か?」

ヴェロヴェロが問うと、ニャンダコーレは首を横に振った。

 「ニャー、コレ、違う。
  コレ、成り上がり等と言う、可愛らしい物では無い。
  もっと悍ましい物だ、コレ」

 「悍ましい?」
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