バニェスは意味深で思わせ振りな事を言うだけのフィッグに、苛立ち始めた。

 「誰に?」

 「さて、誰だったかな……?
  遠い昔の事だ。
  嘗ての私は過去を振り返る事をしなかった。
  あの頃は気にも掛けず、笑い飛ばしていたが……。
  今なら何と無く解る気がする」

 「それで、結局何なのだ!?
  貴様は何が言いたい!」

 「私達は既に愛を知っている……と言う事だ。
  バニェス、貴様にとって価値のある物は何だ?
  失いたくない物、存在を認められる物。
  私にとって、それはマクナク公だった。
  ……否、違うな。
  マクナク公は私にとって永遠の存在だった。
  決して失われる事の無い、揺るぎ無き偉大な存在。
  それに認められる事で、自分も又、永遠の一部になろうとしたのか……」

丸で話が解らないと、バニェスは切り捨てる。

 「一体どうしたのだ?
  マクナク公に捨てられて、精神が壊れたのか?」

 「ああ、私の精神は一度破壊された。
  そして目覚めた、生まれ変わったと言うべきなのかも知れない。
  私は愛せる物を探したいと思う。
  今までは存在価値を認められる事ばかりに、心が向いていた。
  今度は、自分が存在価値を認める物を見付ける」