ある海の見える丘の街に少女はいた。
今は戦乱の時代だ。

かつてオリ族という毛むくじゃらで魔力の強い種族が住んでいたという。
ある日青年はオリ族の男が突然家の中に入ってきて、その少女を預かる。
「この子は強い、だが間違った強さを与えるな」

そう言って去っていった。恐らくは父親、それももう長くは持たなかっただろう。

そして10年の月日が過ぎ少女はすっかり成長していった。
しかし間違った成長の仕方だった。
なんせ保護者が間違ったダメ人間だったからである。

「イージス、今日は何をすればいいの?」
「あぁ、オリエッティ、今日はこのレタスを全部千切りにしてくれ。
全部綺麗に寸分の狂いも無く、だ。終わったらこの袋に入れといて」
「りょーかい」

オリエッティが特注の鋼鉄製まな板を使い、凄い勢いで大量のレタスを捌く……

イージスは市場で大量のレタスの千切りを売っていた。
「今日もレタスが安くて助かるわ」
これはサンドイッチ店の店員の声。
「レタスがこれだけあれば、今日の晩お偉いさんがきても大丈夫だな」
これは大きな料理店の主人の声。
一般のお客を入れると、レタスはあっという間に売れ、結構な金額になった。

日が真上に来る前に、イージスは家に帰り、オリエッティに言った。
「外で遊ぶときは必ず俺を呼んでくれ。外は危ないからな」

実際にはそんなことはない。オリエッティは力や魔力が高すぎるのだ。
前にイージスが友人に剣の稽古をオリエッティにさせようとしたら、木刀が
鉄の盾を真っ二つにしてしまった。友人に怪我はなかったが、この力は隠すことにした。
「なあ、今回のことは、お願いだから見なかったことにしてくれ、一生のお願いだ」

魔法でも火事のようなことがあったが、イージスはその事実を何とか隠してきた。
「お前が大人しく仕事をしていれば、俺も良い暮らしができるし、お前にも良い食事と好きな服を買ってあげられる」

とはいえ、もうオリエッティは16歳になる。嫁に出してもおかしくない年頃だ。
自分の嫁にする? いや、とイージスは首を振った。こいつは娘のようなものだ。
どうしたものか、オリエッティたちは新たな来訪者を待っていた。