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【ファンタジー】ドラゴンズリング7【TRPG】
0001ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/07/24(火) 23:52:17.15ID:dYeYUj8t
――それは、やがて伝説となる物語。
「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。
大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。
竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
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過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1516638784/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1525867121/l50
0098ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/10/19(金) 22:36:37.47ID:53+trL7v
『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

シャルムがいち早く驚愕から立ち直り迎撃態勢に入る。

>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」
>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」
0099ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/10/19(金) 22:37:34.35ID:53+trL7v
シャルムが投射物を遮って道を作り、スレイブが最短距離で突撃する。
相変わらず見事なコンビネーションだ。

>「一伐の槍・二王の弓・三寅の斧。四方世界を結ぶ氷獄の刃。
 その命を切り、神の名を冠す杖を無窮の原野に立てよ――」
>「――『クアドラプルフロスト』!!」

スレイブが長剣を突き立て、凍てつく冷気の魔法を炸裂させる。しかしそれだけでは終わらない。

>「爆ぜろ、『炸轟』」

内部から魔力が爆発し、装甲に巨大な穴が開いた。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」

「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

植物属性の竜装を纏い唱えるは、内部からエネルギーを吸い尽くしながら崩壊させる凶悪無比な寄生樹の魔法。
穴が開いた部分から植物の根のようなものが周囲を破壊しつつ広がっていく。

>「まずは前足っ!」

一方のジャンは、単純明快且つ強力無比な外部からの攻撃で粉砕していく。

>「ははっ!虚無の竜も肉体は脆いもんじゃねえか!
 これなら全の竜の方がよほど手ごわかったぜ!」

内と外、両方から破壊され、虚無の竜はすぐに半壊状態となった。

>「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
 再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
 作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』
0100ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/10/19(金) 22:40:48.35ID:53+trL7v
どうやらここにあるのが“肉体ユニット”、そして魂が”精神ユニット”ということらしい。
それはいいのだが、武装した兵隊達と、一回り小さいとはいえ今しがたボロボロにした虚無の竜とほぼ同じようなものが8体登場する。

「これが警備ユニットか……少々警備が厳重すぎるだろう!」

間髪入れずに、八方向からの一斉砲撃が始まった。
プロテクションでは防ぎきれない。シャルムの竜の天眼でも打ち落としきるのは不可能だろう。

>「鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」
>「ストームソーサリー!」

とっさに旧世界攻略の時に編み出されたジュリアンとの連携魔法でなんとか防ぐが、どこまで持つか分からない。
その上、脅威は八体の機械の竜達による砲撃だけではない。

「ティターニア様、ヤバイってこれ!」

「言われなくても分かっておるわ!」

鎧を纏った戦士達の猛攻により、前衛勢は防戦で手一杯となり、基本アイテム持ち係のパックまで参戦を余儀なくされている。
流石移動式壁とも呼ばれる種族だけあって今のところ何とか持ちこたえているが……。
防戦一方となっているのは誰の目にも明らかだった。このままでは押し切られるのは時間の問題だ。

【どうも接続状況が良くないようで途中二重になってすまぬ。
1ターン目ということでとりあえず圧されてみた】
0101 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/10/23(火) 19:26:53.78ID:aeP8rpj+
襲い来る無数の弾丸と砲撃。
一つ一つ認識して迎撃していては間に合わない。
ですが……既に私は、魔力の網を幾層にも重ねて張り巡らせている。
そしてそれらに弾丸が触れる際の入射角から、半自動的に弾道を予測し撃ち落とす術式を組み上げれば。

「……後は、任せましたよ!」

展開した『竜の天眼』が、虚無の竜の弾幕の尽くを撃ち落とす。
切り開かれた道を真っ先に駆け抜けたのは……やはり、あなたですよね。ディクショナルさん。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

虚無の竜の胸部から生えた四門の……ガトリング砲とやらが破壊される。
発射速度、弾速共に、最も優れた兵装が……つまり奴の弾幕の主軸が挫かれた。
最早、虚無の竜に私達の接近を拒む事は出来ない。

>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」
>「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

そうなってしまえば、後は竜の指環による大火力が物を言います。
虚無の竜は見る間に破壊され、がらくたへと変えられていきます。

>「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

……虚無の竜の肉体は、これで完全に破壊されました。
終わってしまえば早い決着となりましたが……一歩間違えば私達があの弾幕に塗り潰されていました。
未だに心臓が暴れ回っています。思わず、私はその場にしゃがみ込んでしまいました。

とは言え、まだ完全に決着がついた訳ではありません。
封印されていた虚無の竜の魂をやっつけてしまわないと。
もっとも……肉体のない魂に果たして何が出来るのか。
万全を期して封印ないし討滅した方がいいのは間違いないんですが。
それにそもそも……

「……参りましたね。これでは虚無の竜の魂が帰ってくるのかどうか……」

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
  再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
  作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』

……不意に、部屋全体に響き渡るような声が聞こえました。
無機質で抑揚のない……虚無の竜の声が。
肉体ユニット……候補ですって?
なんだかものすごく、嫌な予感がします。

それが気のせいであって欲しいと祈る間もなく、今度は周囲から奇妙な音が響きました。
ここに来るまでにも何度か耳にした……扉が滑るように開く音。
それが、幾重にも重なって聞こえてきた。

嫌な予感は、既に確信に変わっていました。
周囲を見回せば目に映ったのは……やや小型化された、しかし紛れもない虚無の竜の肉体。
それが八体。更に数えきれないほどの鎧の兵士。

「なるほど……自分自身を再構築出来るなら、あらかじめ予備の肉体を作っておく事だって出来る。そりゃそうですよね……。
 最初からその機能が搭載してあれば、こんな厄介な事にもならずに済んだものを……」

虚無の竜の予備の肉体は、先ほど倒したものよりも幾分か小型化されています。
兵装の数も減っていますが……それは奴の弱体化を意味しません。
何故なら装備を削減するという事は、当たり前ですが……より効果的なものを残すという事です。
0102 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/10/23(火) 19:27:15.05ID:aeP8rpj+
奴の兵装の内、それが何かと言えば……あのガトリング砲です。
恐ろしいほどの回転率と弾速、長い射程。
素晴らしい汎用性を誇る兵装です。
……案の定、それは全ての虚無の竜に搭載されていました。

そして……竜の咆哮のごとき銃火が響き渡る。
竜の天眼による半自動迎撃がそれを迎え撃つも……防ぎ切れない。
0103 ◆fc44hyd5ZI
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2018/10/23(火) 19:27:35.95ID:aeP8rpj+
>「鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」
>「ストームソーサリー!」

私達の目の前で無数の砲弾、銃撃が砕け散る。
ティターニアさんとクロウリー卿の防御魔法……間一髪、間に合いましたか。

ですが魔法とは神の奇跡ではありません。
その発動には当然、原動力……魔力を要します。
これほどの物量を跳ね返し続ければ……魔力は恐ろしい勢いで削り取られる。
それに伴って術式そのものの強度も失われていく。

十秒と持たずに穿たれた穴から、鎧の兵士達がなだれ込んできます。
前衛職の皆さんがすぐにそれを押し留めますが……どうにも多勢に無勢。
パックさんまでもが加勢してなんとか勢いが拮抗したところで、私が咄嗟に結界の穴を防ぎます。
一度は凌ぎはしましたが……敵は大波のように何度でも押し寄せてきます。
いつまでも持ち堪え続ける事は出来ない……。

「……散開しましょう。それしかありません」

結界に走る亀裂を生じる傍から修復しながら、私はそう言いました。

「あの火力を一点に集中されては防戦一方。
 奴らに対して、私達が間違いなく勝っている点は的の小ささです。
 私がきっかけを作りますから……行きますよ。三、二、一……」

瞬間、私は指環の魔力を最大限に解放しました。
膨大な魔力を用いて構築するのは……無数のゴーレム。
ローレンスさんにぶつけたような、巨大な兵隊ではありません。
あの火力を相手に巨兵をぶつけても的が大きくなるだけです。
作り出すのは……私達そっくりのゴーレム。
それを何体も、何十体も同時に、結界の外へと飛び出させる。

「今です!」

虚無の竜達による弾幕がばらけた。
このまま散開して各個撃破する。
それ以外に私達に活路はありません。
つまり……私も最低一体は、アイツの相手をしなくちゃならないって事です。
クロウリー卿もパックさんの護衛に手一杯でしょうしね。

「敵に突撃して接近戦に望みをかけるなんて、魔術師の戦い方じゃないんですがね!」

皆さんが散開したのを確認してから、私は魔導拳銃を抜きました。
そして虚無の竜、その内の一体へと銃口を向ける。
走らせる術式は『空路滑走(スウィフトステップ)』。
短距離転移の魔法によって、私は虚無の竜へと接近。

懐に潜り込む事は成功しました。
が……虚無の竜の胸部に設置されたガトリング砲は、殆ど一瞬で私を捕捉しました。
数十の砲口が私を睨む……あの弾幕を相手に防御は下策。
再びスウィフトステップを用いて、今度は虚無の竜の背後へ。

ですが……虚無の竜の背面にも、ガトリング砲は装着されていました。
今度は、回避は間に合いそうにない……。
0104 ◆fc44hyd5ZI
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2018/10/23(火) 19:28:47.71ID:aeP8rpj+
あの弾幕を相手に防御は下策……なんですが。

「っ、『審判の鏡(プロセ・ミロワール)』」!」

自身の前方に集中させる形で結界を展開。
直後に響く、嵐のような射撃音。
防壁に瞬く間に走る亀裂に背筋が凍ります……が、臆している暇はありません。

「指環の力よ!」

指環の魔力に物を言わせて、結界を多重展開。
砲撃を防ぎながら虚無の竜の背面に着地します。
0105 ◆fc44hyd5ZI
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2018/10/23(火) 19:32:45.77ID:aeP8rpj+
「『造兵(クラフトゴーレム)』」

そしてその背面に魔法陣を描き込みました。
虚無の竜が生物ではなくゴーレムであるなら……この魔法が通用するはず。

虚無の竜に描き込んだ魔法陣から何体もの小さなゴーレムが湧き出てくる。
虚無の竜自身を材料として、です。
ゴーレム達は至るところから虚無の竜の内部へと侵入し……破壊可能な部品を手当たり次第に壊していきます。
よし……これなら私は防御と回避に専念するだけで……

『何らかの魔法行使を確認……原因を特定。ただちに破壊します。
 内部構造の損傷を確認……内蔵リビルドデバイスを使用。
 機体内の異物を利用し、再構築を実行します』

私の描いた魔法陣が……消えた?
……なるほど。流石は虚無の魔法を操るゴーレム。
魔法の無効化もお手の物ですか。

ですが……であれば何度でも、幾つでも、魔法陣を描き込むまでです。
作り出したゴーレムを絶えず砲口や関節に入り込ませれば、少なくともこちらへの攻撃の手は緩む。
奴自身の体からワイヤーを作り出して巻き付かせたり、銃口、砲口を錬金術で塞ぐ事も有効でした。

襲い来る鎧の兵士達は魔導拳銃で足を重点的に狙います。
まずは機動力を奪い……そして『造兵』の魔法陣を刻み込む。
こうすれば敵の手数を減らし、代わりに私の手数を増やす事が出来る。

しかし……そこまでしてもなお、攻撃に転じる事が出来ない……。
兵装を無力化しても、完全に破壊した訳ではないからすぐに再構築されてしまう。

さりとて私は、攻撃に全ての力を注ぐ訳はいきません。
全の指環は私に力を貸してはくれますが……信仰心の不足故でしょうか。
女神様の声が、私には聞こえない。

それはつまりディクショナルさんのように、指環との連携で身を守る事が出来ないという事。
こんなゴーレム風情と刺し違えるなんて冗談じゃありません。

このままでは……やられはしませんが、倒せもしない……。
ですが……これはボードゲームではありません。
千日手は実現しない。状況は必ず変化する。

私の体力、魔力、集中力が切れるのが先か。
虚無の竜の弾切れ……は、再構築がある限り望めそうにありませんが。
ディクショナルさんや、皆さんが虚無の竜を倒して加勢に来てくれるのが先か。

あるいは……虚無の竜の魂が帰ってくるのが先か。

……ですがそれに関しては、むしろ、帰ってきてくれた方がありがたいかもしれません。
何故なら、虚無の竜の魂が肉体へと帰還するその瞬間。
その瞬間に、魂と一つになった肉体を無力化すれば。
もう二度と虚無の竜が復活する事はなくなる。
結果的に倒すべき敵の数は変わらなくても、後顧の憂いを断つ事が出来る。

……私は回避と防御を繰り返しながらも、魔導拳銃に少しずつ、指環の魔力の余剰分を蓄積させています。
奴を吹き飛ばす為の術式を少しずつ組み上げながら。
準備は整いつつあります。後は機を伺うのみ……
0106 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/10/23(火) 19:33:07.69ID:aeP8rpj+
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』

不意に、抑揚のない無機質な声が聞こえました。
声を発したのは、私の目の前にいる虚無の竜。

「どうやら、当たりを引いたのは私だったようで……」

『また前回の不明なエラーによる精神ユニットの消失に備え、
 並行してクラウドサーバーへのアップロードを開始します……アップロードが完了しました』

……なんだ?今、奴は何をしたんだ?
分かりません……が、なんにせよ魂の帰還したこの肉体をさっさと始末する事に変わりは……
0107 ◆fc44hyd5ZI
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2018/10/23(火) 19:37:21.90ID:aeP8rpj+
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』 
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』  
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』   
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』    
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』      
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』       
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』         

……背後から、虚無の竜の声が聞こえた。
馬鹿な。そんな馬鹿な。まさか、まさかこいつ……

「……魂を再構築して、複製した?」

『オペレーティングAI『ピースメイカー7.02』のインストールが完了しました。
 自動運転プログラムのタスクの終了を確認……戦闘プログラムの最適化を実行します』

くそ……完全に奴の能力を読み違えました……。
ですが……だとしても私のするべき事は変わりません!
魔力の蓄積は既に十分。私は魔導拳銃を虚無の竜へと突きつける

「『フォーカス・マイディア』……そして指環の力よ!」

指環の魔力を溜め込んだ魔導拳銃を、錬金術によって長大化。
銃身の延長、銃口の拡大、刻み込んだ術式の拡張。
巨大化して支え切れなくなった魔導拳銃の照準を、錬金術によって土台を形成し安定させる。

「さあ……吹き飛びなさい!」

放たれたのは、一つ一つが砲弾並みの大きさを誇る無数の散弾。
虚無の竜の全身にくり抜いたような穴が空く。

「まだまだ終わりませんよ!」

更に散弾を発射。
今度は弾速を下げ……代わりに砲弾の内部に炎魔法を封入したものを。
散弾が虚無の竜の装甲にめり込み……炸裂する。

「これで……とどめ!」

最後にお見舞いするのは……この砲身そのもの。
土台を消滅させ、代わりに長い柄を形成。
つまり……即席の、巨大なメイスを作り出す。

この状態で砲撃を行えば、砲身はその反動で強烈な加速度を得る。
砲身に魔力を流し込むと爆音が響き……凄まじい慣性が私の体を振り回す。
そして……両腕が痺れるような激しい手応え。
虚無の竜の体が、甲高い金属音を立ててばらばらに飛び散りました。

「……ふん、運が良かったですね。バフナグリーさんかジャンソンさんなら、もっと無残な姿にしてくれたんですがね」

ともあれ……これだけ粉々にしてやれば、もう再構築も出来ないでしょう。
ディクショナルさんの方は……皆さんは、大丈夫でしょうか……。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)
0108 ◆fc44hyd5ZI
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2018/10/23(火) 19:38:17.48ID:aeP8rpj+
私は背後を振り返って……瞬間、体が意図しない方向へとよろめきました。
なんとか手傷こそ負わずに済みましたが、紙一重の戦いの中で、散々脳を酷使しましたからね。
流石の私も、少し疲れ……



……不意に、左胸に焼けるような痛みが走りました。
思わず視線を下へと向けると……細長い銀色の棘が、私の方を貫いていました。
咄嗟に、スウィフトステップでその場を脱します。
0109 ◆fc44hyd5ZI
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2018/10/23(火) 19:40:06.45ID:aeP8rpj+
「馬鹿な……虚無の竜は確かに、破壊したはず……」

振り返ってみれば……そこには銀色の、スライムのような……何かがいました。
まさか、まさか……これが?

『敵性存在『指環の勇者』の戦闘パターンに対する最適な戦術プログラムの構築が完了しました。
 続けてデータシェアリングを開始します』

銀色のスライムが再び、竜の姿を取り戻す。
……虚無の竜が持つ再構築の力。まさか、これほどまでとは……。
これでは……最早装甲や兵装を破壊する事も、挙動を封じる事も無意味……。

……ですが、諦める訳にはいかない。
まだ私達の勝ち目がなくなった訳ではありません。
グッドフェロウさんが言っていた虚無の竜の弱点。
一つは突く事が出来ずに終わってしまいましたが……もう一つの方は、まだ通じるはず。

「……怯まず戦って、奴を破壊して下さい!何度でもです!
 あの液状化能力は、要は虚無の力によって全身を再構築しているだけ!
 何度も繰り返していれば……奴は自分自身を食い尽くして自滅するはずです!」

胸の傷に治癒魔法を施しながら、私は叫びました。
虚無の魔法にも発動には魔力を必要とするように、奴の再構築もゼロから行われている訳ではないはず。
つまり、そう……奴が体を再構築するには、自分自身をエネルギー源とする必要がある。
今まで世界を食い散らしながら、世界を再生してきたように。

ならば何度も、何度でも奴を破壊し続ければ……いずれ、奴はその体を保てなく……

『戦術プログラムの改定に伴い、エネルギーの供給方法にも改善が必要です。
 より素早く効率的な供給方法をシミュレート……策定完了。変更を実行します』

瞬間、虚無の竜が背面に大砲を形成して、砲撃を開始しました。
狙いは私でも、皆さんでもない。
この広い空間の天井へと、砲弾が何発も打ち込まれ……炸裂する。

「まさか……」

天井に穿たれた幾つもの穴の奥に、赤い光が見えました。
そしてその光が……どろりと私達のいる空間に向けて垂れてくる。

『エネルギー源の供給を確認。戦闘を続行します』

不味い……これは、非常に不味い!
液状化能力だけでも相当に厄介なのに、それに加えて、あの溶岩……。
虚無の竜のエネルギーを無尽蔵に回復されてしまうのも最悪ですが、
常に頭上を注意しながら戦わされるのも、足の踏み場が段々となくなっていくのも同じくらい最悪です。

なんとかしなくちゃいけない。
ですが……私では虚無の竜の攻撃を凌ぐので精一杯……。

「……ディクショナルさん!」

私に出来たのはただ縋るように、彼の名を呼ぶ事だけでした。



【虚無の竜がパッシブスキル『液体金属』を取得。
 またフィールドに溶岩が流れ込みつつあります。
 とりあえずもっと追い詰められてみました】
0111スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/10/28(日) 19:26:23.21ID:0OX8+3it
>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」
>「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

スレイブの吶喊を鏑矢として、ジャンとティターニアの連携攻撃が虚無の竜を穿つ。
さしもの古代兵器と言えども、指環の力をフルに行使した大火力の前には形無しだ。
鋼鉄製の装甲には大穴が空き、鋼線と鉄骨で織られた四肢が砕かれていく。

「……行けるぞ!純粋な正面火力ならこちらが上だ!ここまま削り切れる――!」

恐るべき弾速と発射間隔、つまり継続的な火力の面で言えば虚無の竜の方が遥かに強力だ。
だが、その猛攻をわずかにでも凌ぎ、懐に潜り込むことさえできれば、瞬間的な火力は指環の勇者に軍配が上がる。
巨大な身体に無数の火器を配置している都合上、至近距離に対しては射角を取りづらいのだ。

形勢は逆転した――スレイブが己と仲間たち、ひいては新世界の勝利を確信したその時。
再び、あの無感情で無機質な声が響き渡った。

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。

同時、周囲の隔壁が一斉に上がり、その向こうから無数の影が這い出て来る。
鋼鉄製の、ゴーレムによく似た形状の鎧に身を包んだ戦士達。
そして、さらにその奥には、虚無の竜をそのまま縮めたような姿の竜が、実に八匹。

>「これが警備ユニットか……少々警備が厳重すぎるだろう!」
>「なるほど……自分自身を再構築出来るなら、あらかじめ予備の肉体を作っておく事だって出来る。そりゃそうですよね……。
 最初からその機能が搭載してあれば、こんな厄介な事にもならずに済んだものを……」

「複製元が歪んでしまえば、後から生まれて来るのは全て瑕疵のある粗製品ということか……。
 かつて何度も消しては上書きされてきた、世界の末路を見ているようで……胸糞が悪いな」

とは言え、ぼやいている場合ではない。八方に展開した"警備ユニット"と"肉体ユニット候補"が砲門をもたげる。
間髪入れずに降り注ぐ砲撃の雨霰に、ティターニアとジュリアンの防御魔法もジリ貧だ。
一度は防ぐこと叶ったものの、このまま削られ続ければ遠からず防衛線は決壊する。
そうなればもはや多勢に無勢。押し寄せる大量の鎧達に、逃げ場もなく揉みつぶされるのみだ。

>「……散開しましょう。それしかありません」

ドラゴンサイトを手繰りながら、シャルムはそう提案した。

「しかし……!」

スレイブは泡を食って反駁する。
固まっていれば間違いなく一網打尽にされることは確かだ。
各自思い思いの方向に散って、正面からの圧力を分散すれば、少なからず時間を稼げるだろう。
0112スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/10/28(日) 19:27:30.37ID:0OX8+3it
だが、それで助かるのはあくまで、波状攻撃を仕掛けてくる雑兵を蹴散らせる戦闘能力が前提だ。
それぞれが多勢に対して拮抗できる実力があるのであれば、散開は合理的な戦術となる。
少なくとも、味方をかばって共倒れする事態は避けられる。

つまり――彼女は足手まといを切り捨てろ、と言っているのだ。
そして、この場合の足手まとい、とはすなわち、他ならぬシャルム自身だ。
0113スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/10/28(日) 19:28:09.23ID:0OX8+3it
如何に『フォーカス・マイディア』の拡張術式が優れていようとも、スレイブ達とシャルムには決定的な隔たりがある。
戦術、戦略ではなく――『戦闘』への適性。利用可能な魔力というリソースの残量。
竜の力をフルに引き出せない以上、まず真っ先に残弾が枯渇し、落とされるのはシャルムであろう。
彼女はおそらく、それも折り込み済みで提案している。

>「あの火力を一点に集中されては防戦一方。奴らに対して、私達が間違いなく勝っている点は的の小ささです。
 私がきっかけを作りますから……行きますよ。三、二、一……」

スレイブの反駁も虚しく、シャルムの決意は揺らがなかった。
奥歯を噛み締めて、彼は散開すべき方向を振り仰ぐ。

「……あんたが窮地に陥ったら、俺は他の何にも構わずそっちへ駆けつけるぞ。
 二人して敵の火線に晒されたくなかったら……無事でいてくれ」

>「今です!」

シャルムが生み出したゴーレムの群れが鎧の軍勢と激突する。
同時、わずかに停滞した弾幕の隙を縫って、スレイブは跳躍した。
八方に鎮座する八匹の竜のうち、向かって二時方向の竜目掛けて肉迫する。

(一刻も早く、予備の竜を破壊して……合流する!)

他の仲間たちも、適宜散開してそれぞれの方向にいる予備の竜と戦闘を開始しているようだった。
このまま、魔法障壁が破れるまでのわずかな間に、八方に居る予備を全て破壊しなければならない。

いわばこれは『篩』だ。

寄り集まれば互いの力を補完し合って強力な相乗効果(シナジー)を生み出す指環の勇者達。
しかし単独で虚無の竜と戦うとなるとどうだ?それぞれが、完全な独力で、竜の肉体を討滅できる力を持っているのか。
一人でも竜を討ち漏らせば、一方向でも竜が残っていれば、そこが戦線を崩壊させるウィークポイントとなる。
故に、この八方の竜は指環の勇者が虚無の竜と相対する資格を持つかどうかを選り分ける、篩なのだ。
0114スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/10/28(日) 19:28:34.96ID:0OX8+3it
(虚無の竜……指環の勇者の戦力を、試しているのか?)

用意された予備の肉体ユニットは八体。奇しくも指環の勇者と同数だ。
そして、わざわざお誂え向きとばかりに、散開して下さいと言わんばかりに、八方向から同時に出現した。
偶然と見るにはあまりにも出来すぎているこの符合が、虚無の竜の意図によるところなのだとすれば。

(歪み、暴走状態にありつつも……奴は自分を破壊できる者を、待っていた……?)

『おい、おい!ぶつくさ考え込んどる場合か!砲塔がこっち向いとるぞ!』

ウェントゥスの忠告が思考に冷水を差し、スレイブは意識を前方に戻した。
彼我の距離はおよそ15歩、跳躍術式ならば一瞬で埋められる。
しかし、既に予備の竜の『ガトリング砲』はスレイブの頭部に狙いを定め終わっていた。

「問題ない。……砲塔の旋回速度と角度は把握した」

空気の爆ぜる音とともに吐き出される無数の鋼礫。鈍色のその軌跡が、スレイブを捉えることはない。
射撃が開始されるタイミングを読んで、跳躍術式にブーストをかけたからだ。
スレイブのいた場所へ、一瞬遅れて着弾する鋼の雨。それをかいくぐってスレイブは跳ぶ。

ガトリング砲は極めて高速かつ断続的に高威力のブレスを射出する強力無比な兵装だ。
だが、どれだけブレス自体の速度が速くとも、射線を決定付けるのは砲塔の角度。
おそらく軸受のようなもので自在に旋回し、仰俯角を変更できるようになっているが、砲塔が旋回する速度には限界がある。

ブレスの予兆を読んで、旋回速度よりも高速で移動すれば、ガトリング砲は当たらない。
当たらなければ――どうということはない。

「"竜の天眼"に比べれば……人間の操る火砲に比べれば!竜の吐息など脅威ではない。
 人間は――虚無の竜に負けない!」

跳躍とともに、一閃。
スレイブの剣が鋼の砲塔を半ばで断ち斬り、ガトリング砲が爆炎に包まれて沈黙する。

「遍く全てに這い回れ――『ディザスター』!」

返す刀に振るう紫電を帯びた斬撃が、予備の竜の頭部を首から斬り落とした。
同時、予備の竜の肉体を無数の稲妻が奔り、武装を灼き焦がしていく。

『頭部センサー欠損により、敵性魔法を感知不能。虚無の力による魔法の消去に失敗しました。
 積層基板の85%にわたって過電流サージによる配線の焼損が発生、武装展開エラー。戦闘行動を維持できません』
0115スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/10/28(日) 19:29:18.77ID:0OX8+3it
断末魔の如く警告音と無機質な案内を挙げて、首なしの予備の竜はその場に倒れ込んだ。
虚無による魔法の破壊さえ封じれば、単独の魔法行使でも十分に致命打を与えられる。
図体が小さくなった分、個人単位でカタに嵌めるのは容易だとさえ言えた。

「終わりだ……!他の連中を助けに行くぞ!」

もはや朽ちていくばかりの予備の竜を一顧だにせず、スレイブは仲間の元へ跳躍するため身を屈めた。
その背後から、聞こえるはずのない声が聞こえた。
0116スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/10/28(日) 19:30:06.01ID:0OX8+3it
>『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』 

弾かれるように身を回し、振り向きざまに剣を振るうと、金属製の矢のようなものが剣に弾かれて擦過していった。
否、矢ではなく『棘』だ。さながら海底に住む棘皮動物のように、予備の竜の残骸から棘が生え、スレイブを狙っていた。
不意打ちを外した残骸は、あろうことか液状化し、水銀の如く珠の形状を為す。

「なん……だと……!?」

破壊され尽くしたかに見えた予備の竜。果たしてその実態は、液状化した金属からなるスライム状の存在。
これが虚無の竜の正体だとでも言うのか。あるいは。

「進化したのか……たった今、この場で!度重なる破壊に耐え、迅速に肉体を修復できるように……!」

液状の相手に斬撃が通るはずもない。スレイブは思わず一歩、後ずさった。
心の奥にわずかに顔を出した恐れの感情。しかし、すぐにそれは霧散した。

>「……怯まず戦って、奴を破壊して下さい!何度でもです!
 あの液状化能力は、要は虚無の力によって全身を再構築しているだけ!
 何度も繰り返していれば……奴は自分自身を食い尽くして自滅するはずです!」

いち早く状況を分析したシャルムの激が飛ぶ。
スレイブは気圧された己の不明を恥じつつに剣を構え直した。
刃筋を立てるのではなく、剣の腹で殴るような角度で握る。

「斬撃だけが剣士の技じゃない。斬っても効果がないのなら……刃筋を立てずに打撃するまでだ。
 泥仕合に付き合ってもらうぞ虚無の竜。貴様の命が枯渇するその時まで、殴り続けてやる」

覚悟を決めたスレイブが、剣を振りかぶって踏み込んだその瞬間。
背後から砲撃と、それによる破壊の音が聞こえた。
おもわず振り仰げば、天井に大穴が穿たれ、隔てられていた溶岩の層が露出している。
そして溶岩は当然の帰結であるかのように――重力に引かれてスレイブ達の居る空間へと流れ落ちてきた。
0117スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/10/28(日) 19:30:33.73ID:0OX8+3it
「冗談だろう!?」

予備の竜は水銀の棘を赤熱する溶岩へ伸ばし、泡立つ"水面"に突き刺す。
直感的に危険を感じたスレイブが棘を切り落とせば、どろりとした溶岩が棘の断面からこぼれた。
そして、予備の竜の足元には、冷え固まった溶岩の屑が散乱していた。

「溶岩を吸い上げて……その熱を活力に変換しているのか……!」

>「……ディクショナルさん!」

「任せろ!指環の力よ――!!」

部屋の中央に生じた溶岩の滝を包み込むように竜巻を発生させる。
風によって冷やされた溶岩が固まり、現状以上に流れ込んで来ることはなくなった。
しかし、既に流れ込んでしまった溶岩は未だ床に点在し、赤々と光を放っている。

「まずいな……天井のどこに穴を開けられても、大量の溶岩が流れ落ちてくる。
 行動できる領域も大きく狭められた。機動力で撹乱する戦法はもう使えないな」

『淡々と分析しとる場合か!またあのがとりんぐとか言うのが生えてきたら今度こそ詰みじゃぞ!』

「ガトリングを再生される前に叩き潰す。やるぞウェントゥス!」

液状化した予備の竜が再び棘を触手のごとく振るい、部屋に点在する溶岩へと"根"を伸ばす。

「刃鳴散らす禍風よ、檻獄を為せ――『ヴォーバルボルテクス』!」

指環が輝き、予備の竜の周囲に無数の真空刃からなる渦が発生した。
渦の範囲を出ようとする棘を片っ端から斬り落とし、熱の再供給を阻害する。

『修復済のセンサーに感あり。虚無の力による魔法消去を実行します――』

『させるか!"エアリアルスラッシュ"!』

指環から飛び出したウェントゥスが風の刃を放ち、予備の竜の肉体を真っ二つに切断した。
リビルドデバイスなる装置が破壊されたのか、魔法消去は不全に終わる。
0118スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/10/28(日) 19:31:02.44ID:0OX8+3it
(再生しながら戦う予備の竜と違って、こちらは二種の魔法を同時に行使できる。
 魔法を破壊する虚無の力も、異なる二つの魔法を同時に掻き消すことはできない)

手数も、人数も、スレイブ達に利がある。
このまま再生阻害を維持しつつ、間断なく攻撃を加え続ければ、いずれ予備の竜の活力を枯渇させられるはずだ。
虚無の竜と、指環の勇者の戦力を分かつ決定的な差。
それこそが唯一の勝機だと、スレイブは確信していた。

『――データシェアリングにより、敵性存在"指環の勇者"に対する有効戦術のインストールが完了しました。
 プログラムパターン構築。戦術展開の前提段階として、指環の勇者の生体スキャンを実行。
 データーベース参照。クラスタ104に格納されている個体名『アレックス・トレーティア』の構成要素に83%が該当。
 指環の勇者との差異を補完し、『アレックス・トレーティア(1)』として再構築します。
 リビルドデバイス起動。再構築シークエンス完了まで3秒。2、1――』

「何を、言っている……」

背骨を氷柱に置換されたような、鋭い悪寒が総身を駆け巡った。
淡々と並べられる言葉の意味はほとんど分からない。しかし、本能が、直感が、警鐘をこれでもかと鳴らす。

液状の性質を持ち、自在に肉体を再構築できる虚無の竜。
常に学習し、情報を共有し、敵に対して最適な戦術をとる機械じかけの竜。
それが、指環の勇者という、自身を破壊し得る存在と対面したとき、一体何が起こるのか。
答えは、たった今目の前で明らかにされた。

液状の金属が、その形状を固定し、輪郭をはっきりと刻んでいく。
予備の竜よりも遥かに小型。
四肢は細く、しかし全体重をたった二本の脚で支えて直立することで、残る二本を"腕"として自由に扱えるようにした、戦闘の合理性。

人型だ。液状金属は、人間を象った形状へと変貌した。
肌の色こそ金属質なままだが、目鼻立ち、髪型や身に付ける鎧に至るまで、スレイブを模倣した姿だ。
右の手には剣を携え、左の手には――淡く輝く指環がある。

「まさか……まさか!」

『指環の勇者の行動パターン解析。動作を定義し、固有技能として登録します。
 定義完了。発声による特異点の励起を実行――』
0119スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/10/28(日) 19:31:30.53ID:0OX8+3it
まるでスレイブを型取りして鋳造したかのような、鋼の人型は、左手をゆっくりと掲げた。
そして、"口"を模した穴が蠢き、空気とともに音を立てる。
その動作を、人間の行動に照らし合わせるのなら、こう名付けるのが適切だろう。

――"発声"。

『"指環の力よ"』

瞬間、予備の竜の左手に嵌められた指環が一際強く輝き、風が巻いた。
収束した大気は真空の刃を形づくり、スレイブ目掛けて袈裟懸けの軌道で迫る。

「く……!指環の力よ!」

応じるように、スレイブも指環を輝かせた。
二つの異なる色を持った風はぶつかり合い、互いに威力を殺して果てる。

「竜の指環を……模倣しただと……!?」

驚愕に、スレイブは今度こそ硬直した。
虚無の竜に対して唯一無二の優位であった指環さえも、遜色ない形で再構築された。
学習したのだ。指環なしに、指環の勇者と渡り合うことはできないと。そして、自身を改良した。

(戦術を共有、と言っていたな……。まさか、他の予備達も同様に、指環を模倣しているのか?)

それでもなお、まだ絶望的な状況に陥ったわけではない。
スレイブには奥の手がある。問答無用の大火力で、一片も残さず消し飛ばす奥の手が。

しかし……それさえも、虚無の竜が模倣しているとしたら。
虚無の竜が、『竜装』を習得しているとすれば……それこそ、もはや勝ち目はない。
0120スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/10/28(日) 19:32:12.96ID:0OX8+3it
【予備ユニット八体による個別火力チェック開始。さらにさらに追い込まれてみました。
 虚無の竜が指環の勇者を模倣し、再構築。指環の力を行使】
0121ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/11/03(土) 21:23:57.96ID:i9LcuS4R
「本体はどこだ!?あいつの魂はどこに!」

さらに現れた増援たちを指環の力で吹き飛ばし、薙ぎ払う。
だが鋼を纏った竜だけではなく、彼らに随伴するようにして突撃してくる
鋼鉄の戦士たちは一体一体が完全武装した重戦士だ。
誰か一人でも崩れれば、そこからあっという間に追い詰められてしまうだろう。

>「……散開しましょう。それしかありません」

>「しかし……!」

「やるぞスレイブ!迷ってる暇はねえ!」

シャルムの提案で全員が一斉に散開すれば、この弾幕も薄れ、鋼の竜たちに近づくチャンスも生まれる。
このまま押し込まれるよりは、よほど勝機のある賭けだろう。
ジャンもシャルムの合図に合わせて、指環の力を解き放つ。

>「今です!」

莫大な水流が創り出す波を操り、虚無の竜になるかもしれないその肉体の一つへと突撃する。
鋼鉄の鎧に包まれたその身体は決して鈍重ではなく、素早く腕を振り上げて、腕に搭載された機銃をジャンへと向けた。

「おっと、その鉄砲はもう分かってんだぜ!」

確かに連射力と貫通力はジャンの知る銃をはるかに上回る。
だが、魔術や魔力に対する耐性はまるでないのだ。
分厚く高速で流れる水流の壁を作り、受け流すように銃弾を飲み込んでいく。
そのまま懐に飛び込めば、両腕だけに竜装を纏わせる。
手が変化した長く鋭い五つの爪が龍の胸部に食い込んで、装甲を容易く貫き、ヒトであれば心臓にあたる部分をちぎり潰す。
そのまま上半身と下半身を切り裂くように解体し、鋼の竜は唸り声一つ叫ぶことなく力尽きた。

「……楽に潰せたのはありがたいけどよ。
 なんだか手応えがなさすぎるぜ。まるで本体以外はどうでもいいような――」
0122ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/11/03(土) 21:25:54.06ID:i9LcuS4R
>『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』

身体が弾けるように動いて、金属の槍がジャンの顔を掠めた。
ハーフと言えどオークの皮膚をあっさりと切り裂くような一撃、一体どこからの奇襲かと思えば。
ボロボロに解体された鋼の竜の残骸の中から、這い出るように液状化した金属がずるりと現れる。
錬金術師が使う水銀という物質によく似たそれは、しかし確固たる意思を持って指環の勇者へ対峙した。

「……鉄や金を取り込んで、ガチガチに硬くなったスライムってのは聞いたことがあるけどよ!
 そういうのはノロマで硬いだけ、倒す俺たちは大儲けってのが相場だろうよ!」

液体金属が間を置かず繰り出してくる槍の猛攻は、達人のそれをはるかに上回る。
相手は疲れを知らず、力を込める必要すらないのだ。上下左右あらゆる角度から飛んでくる殺意に、
ジャンはアルマクリスの矛と指環で何度も受け流すが、それにも限界は近い。
他の竜も同じように液体金属となり、指環の勇者たちを着実に追い詰めている。

(竜装で一気に……いや!本体はまだ姿を現してねえ。
ここはみんなと一緒に耐えねえと……!)

ジャンが時間稼ぎのつもりでさらに前に出て、他の竜たちの注意を引くようにウォークライを放つ。
本能の命じるままに力任せに液体金属の触手を掴み、ちぎって踏みつぶす。
やがて一進一退の攻防が続けば、竜の一体が天井を吹き飛ばして溶岩を広間に流し込み、
なんとそれを自分の力として吸収してしまっている。

>『エネルギー源の供給を確認。戦闘を続行します』

>「刃鳴散らす禍風よ、檻獄を為せ――『ヴォーバルボルテクス』!」

手出しができないジャンに代わって、スレイブが溶岩の流出を食い止める。
このままジャンが液体金属が干からびるまで押しとどめれば、魂ごと虚無の竜を消滅させることができるだろう。
その激しい戦闘の中でアクアがふと、ティターニアに念話を飛ばす。

『ティターニア、おかしいと思わないか?
 虚無の竜が用意した肉体は八つ、指環も八つ。
 しかし指環の担い手は今のところ七人。一つ提案があるんだけど……
 奴が全ての指環を取り込むための予備の肉体だとしたら、奴の精神は一人で全ての指環を扱えるほど強大でも、
 肉体がそれほど強度がない。つまりは使い手のない指環――エーテルの指環。あれが……』
0123ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/11/03(土) 21:26:11.24ID:i9LcuS4R
「アクアッ!竜装だ、一気に決着つけてやるぞ!」

液体金属がジャンを模倣し、白銀に輝くジャンそっくりの巨体が拳を振り上げてジャンに飛びかかる。
ウォークライによる身体能力の引き上げまでは模倣できなかったようだが、
極めて高い強度と粘性を併せ持つ液体金属はジャンの肉体よりも頑強だ。
素の肉体では勝ち目がないと判断したのか、アクアに念話を打ち切らせてジャンは竜装を纏う。

「ここまで真似することは……でき……ね……え……」

蒼く輝くサファイアのような竜鱗を纏い、迷わず模倣体へと右手を硬く握りこんで正拳を叩きこむ。
だが、その拳は模倣体の右手が握り潰さんばかりに掴んで離さず、模倣体は静かに詠唱する。

『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

指環の魔力を大量に消費し、魔力の鎧を纏うことで自然そのものを操る竜装は確かに強力だ。
しかし、事実上全ての魔法を模倣できる虚無の竜にとって竜装の模倣は非効率なものであり、
こうして相手を止めるだけの最低限の力と、指環どうしの相性を突いた魔法の行使を行えば十分なのだ。
アクアの水を司る権能では至近距離で放たれた雷の嵐にどうすることもできず、ジャンは模倣体の前に崩れ落ちる結果となる。
竜装は解けて肉体は焼け焦げ、模倣体は躊躇わずジャンの手から指環を抜き取り、自らの指に収めた。

『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』

液体金属の口から突如として流暢に語りだすのは、虚無の竜の魂。
精神ユニットと呼ばれたそれは、憎しみと怒りと侮蔑を込めて吐き捨てる。

『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

ジャンを模倣していた虚無の竜は、指環の勇者たちへ誘うように手を差し出す。
周囲にいた鋼の戦士や模倣体は王を迎えるように手を止め、地面にひれ伏して王の言葉を待った。


【指環がついに取られてジャンは気絶、本体がついに現れる】
0124ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/04(日) 22:02:52.18ID:k1kNN6KO
>「……散開しましょう。それしかありません」
>「しかし……!」

散開を提案するシャルムに対し、反発するスレイブ。
固まっていては一網打尽にされるが、指輪は七つ揃って真の力を発揮するのもまた確か。
散開して各個で撃破できる保証はない。
どちらが正解かは分からないが、当然議論している暇などあるはずもなく。

>「やるぞスレイブ!迷ってる暇はねえ!」
>「あの火力を一点に集中されては防戦一方。
 奴らに対して、私達が間違いなく勝っている点は的の小ささです。
 私がきっかけを作りますから……行きますよ。三、二、一……」

半ばシャルムが押し切る形で、散開して各個撃破する賭けに打って出る。
指輪の勇者が7人に対して、竜は八体。
残りの一体は指輪を持たないジュリアンとパックが相手をすることを余儀なくされるのだろうが
他の心配をしている暇もなく、シャルムと並んで魔術師系クラスのティターニアに、竜のうちの一体が狙いを定める。

「我の相手はそなたということか――」

《ティターニア、ここは私が……》

後方での仲間の支援を得意とするティターニアは、基本的には個別での戦闘には向かない。
そこで大地の英雄との戦いの時にも使った奥の手を行使することとする。

「分かっておる。行くぞテッラ! 竜装《アースドラゴン》!」

指輪に宿るテッラと一体となり自らが大地の竜そのものとして顕現――分かりやすく言えばドラゴン変化だ。
対峙するは、機械の竜と大地の竜。
ほぼ同時に放たれた弾幕とブレスがぶつかりあい、空中で爆ぜて相殺しあう。
時折立ち位置を変えて互いに隙を狙うが、反応速度も共に同じ。
奇しくも二体の力は互角。このままでは千日手と思われたが――

機械の竜の反応が僅かに遅れはじめ、ついにティターニア(テッラ)のブレスが掠る。

《かかりましたね――》

相殺されたと思われていた大地のブレスの余波――砂嵐のようにしか見えないそれ。
それにより関節部分に少しずつ詰まった砂の粒子が、機械の竜の動きを阻害し始めたのだ。
ド派手な爆撃合戦と見せかけて、相手が機械であることを逆手にとった、この地味な嫌がらせこそが本当の狙い。
やがて動きがままならなくなった機械の竜に、全てを砂塵と化す恐るべき風化の魔力を込めた爪の一閃をお見舞いする。
機械の竜は一たまりも無く傷口部分から風塵と化していくと思われたが――

>『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』 

奇妙な声が響くのが聞こえ警戒したのが幸いだった、
機械の竜から銀色の刃がせり出して身を切り裂かんとするも間一髪で飛び退る。
精神ユニット――つまり魂が帰還し、更なる進化を遂げてしまったということか。
しかし絶望している暇は無い。どこからかシャルムが必死で叫ぶ声が聞こえてきた。
0125ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/11/04(日) 22:04:00.00ID:k1kNN6KO
>「……怯まず戦って、奴を破壊して下さい!何度でもです!
 あの液状化能力は、要は虚無の力によって全身を再構築しているだけ!
 何度も繰り返していれば……奴は自分自身を食い尽くして自滅するはずです!」

とはいえ、相手が液状化能力を得た以上先程と同じ手は使えない。
ティターニアがドラゴン変化を解くと、機械の竜だった者は姿を変え始め、ティターニアそっくりな姿を模倣する。

「なんだと……?」

使う技まで模倣されるのだとしたら、下手に動く度に不利な状況になっていくということだ。
故にこちらから仕掛けるのが躊躇われる。
更に悪いことに、天上が破壊されて溶岩が流れ込んできた。
その上、液状化した竜はその溶岩を養分とし始める。

>「……ディクショナルさん!」
>「任せろ!指環の力よ――!!」

ジャンがウォークライで竜達の気を引いている隙に、スレイブが風の力で溶岩の流入を阻止。

「――ソリディフィケーション!」

ティターニアはそれに続き、すでに流入した溶岩を大地の力で固め、文字通りの岩とする。
しかし敵はまたすぐに新たな穴を開けてくるだろう、その度に対処していてはきりがない。

>「まずいな……天井のどこに穴を開けられても、大量の溶岩が流れ落ちてくる。
 行動できる領域も大きく狭められた。機動力で撹乱する戦法はもう使えないな」

そんな大ピンチな状況の中、ジャンがアクアとテッラを経由して念話を飛ばしてきた。

>『ティターニア、おかしいと思わないか?
 虚無の竜が用意した肉体は八つ、指環も八つ。
 しかし指環の担い手は今のところ七人。一つ提案があるんだけど……
 奴が全ての指環を取り込むための予備の肉体だとしたら、奴の精神は一人で全ての指環を扱えるほど強大でも、
 肉体がそれほど強度がない。つまりは使い手のない指環――エーテルの指環。あれが……』

『ああ、我も薄々思っていた』

シャルムはエーテルの指輪と無色の指輪を二つ持っているが、どちらの力も完全には引き出せていない。
エーテルの指輪の素体は虚無の竜に対抗するために自らの身を賭して新世界を創造した女神パンゲア。
一方の無色の指輪を素体は、旧世界の創造主でありながらそれを面白がって見ていた全の竜。
ティターニアは、シャルムが両方持つことで2つの指輪が反発しあって力を発揮できていないという可能性に思い至った。

>「アクアッ!竜装だ、一気に決着つけてやるぞ!」

「ジャン殿、迂闊に手を出しては駄目だ!」

見境なく攻撃しては相手に手の内を明かすだけになる可能性がある。
しかし止めるのが一足遅かった。

「――シャルム殿、エーテルの指輪を……」

“ジュリアン殿に渡すのだ”そう言おうとした時だった。
0126ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/11/04(日) 22:04:45.30ID:k1kNN6KO
>『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

反撃を食らったジャンが、彼そっくりの模倣体の前に倒れ伏す。

「ジャン殿……!」

模倣体は倒れたジャンの指から容赦なく指輪を抜き取り、自らの指におさめた。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』
>『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

ティターニアはがっくりと膝をつき、絶望を全身で表現する。

「ああ、全てがおしまいだ……!」

しかしその様子はどこか演技臭く――続く言葉は意外なものだった。
あまりの絶望的な状況に錯乱したとも考えられるが、分かる者には分かるだろう、先代勇者の聖ティターニアが表に出ている。

「あなたのお墨付きの指輪の勇者達がこのザマですよ、責任取りなさい!
もう全の竜の保険はないのですよ!? あなたのやってきたことが全て無駄になってしまっても良いのですか!?」

そして彼女は、意外な者の名を呼んだのだった。

「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」
0127ジュリアン@NPC ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/04(日) 22:06:05.44ID:k1kNN6KO
「ぎゃー! ジュリアン様―! 死ぬ死ぬ死ぬ!」

「これで精いっぱいだ! 叫ぶ暇があったら避けろ!」

時間軸は少しさかのぼり、8体の竜との散開しての戦闘時。
ジュリアン&パックの指輪を持たないコンビは、紙一重のところでなんとか持ち堪えていた。
“俺にも指輪があれば――”そんな詮無き考えが頭の片隅から離れない。
指輪の魔女に殺された親友セシリアの敵討ちのために帝国を出奔した――それが全ての始まりだった。
ダーマに身を置いて情報を集め、最初は自ら指輪の勇者になろうと思ったものだが、
奪い取った炎の指輪は彼の問いかけに応えず、一時”預かった”水の指輪も大地の指輪も同じような物だった。
風の指輪は紆余曲折ありつつも彼の部下であるスレイブを選んだ。
そこで腹を括り、指輪の勇者達を手助けするという形に方針転換したものだ。
その後も新たな指輪を手に入れる度に次は自分の番かと少しだけ期待したものだが、
その度にいかにもその属性の使い手として相応しい者が現れ、選ばれていくのを見てきた。
山脈の途中でアルバートと別れる時に交わした言葉を思い出す。

『俺がここに残ってこいつらを食い止める――所詮指輪の勇者ではないからな。
むしろ虚無の指輪を持つお前が一緒に行った方がいいんじゃないか?』

『いや、こいつらの手助けはお前じゃないと出来ない。そんな気がするんだ――』

親友でもあり旧世界の住人でもあるアルバートのその言葉はどこか確信に満ちているようで。
その言葉に後押しされ結局ここまで一緒に来たのだった。あの真意は何だったのだろうか――
シャルムが指輪を二つ持っているがどちらも使いこなせていないので
どちらか一つ受け取った方がいいのではないかとも正直思うが、アルダガとスレイブがそれぞれシャルムに託した物だ。
おいそれと片方寄越せなどとは言えなかった。
結局追いつめられる一方で、ついに決着の時は訪れた。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』
>『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』
0128ジュリアン@NPC ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/04(日) 22:08:18.33ID:k1kNN6KO
ああ、何も力になれなかったな――そう思った時だった。
素っ頓狂なことを叫び出した者がいた。心なしか自分の方を向いて言っているようにも見える。

>「あなたのお墨付きの指輪の勇者達がこのザマですよ、責任取りなさい!
もう全の竜の保険はないのですよ!? あなたのやってきたことが全て無駄になってしまっても良いのですか!?」
0129ジュリアン@NPC ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/04(日) 22:10:53.34ID:k1kNN6KO
「おいエルフ、何を言っているのだ?」

訳が分からず戸惑うジュリアンだったが、ティターニアの次の言葉で理解した――理解できてしまった。

>「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」
0130ジュリアン@NPC ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/04(日) 22:12:09.26ID:k1kNN6KO
その言葉に応えるように、辺りがまばゆい光に包まれ、宙空にエルピスの幻影が現れる。
思えば、エルピス打倒後、指輪に宿る竜達が虚無の竜の居場所を感じられるようになっていたり、
その存在が完全には消えていないように感じられる節もあった。
負けた時に“指輪にはなりなくない、このまま消えたい”等と言っていたが、
人間を信じたいがために人間を滅ぼそうとしていた等と抜かした筋金入りの天邪鬼だ。
今更ノコノコ指輪になりに出てきたところで何ら不思議はない。
元の口調に戻ったティターニアがいつもの調子で煽って見せる。

「やはり出てきおったか……我に煽られたのが余程悔しかったのか!
天邪鬼なそなたが指くわえて見ておれと言って大人しく見ていられるはずはないと思ったわ!」

『……貴様は少し黙っていろ。白き魔術師よ――手を掲げよ! これよりそなたの指輪となろう!』

ジュリアンの指輪になるというエルピス。しかしジュリアンはそれを拒否した。
それもそのはず、エルピスとはすなわち指輪の魔女の正体――
つまりそもそもの発端となったセシリアの仇そのものだ。

「……ふざけるな! 誰が貴様なんかに……」

その時だった。
エルピスの後ろから、今までに指輪の魔女によって死に追いやられた者達の幻影が現れ、指輪の勇者達の側に付く。
海底都市にてティターニア達と共に戦ったマジャーリンが、ティターニアの横に並び立つ

『エルフに力を貸すのは気が進まんが仕方あるまい』

続いて、ユグドラシア防衛戦にて散ったパトリエーゼがシノノメの横に立ち、彼女が持つ指輪に宿るアルマクリスに語りかける。

『ふふっ、また一緒に戦えるね!』

そして――ジュリアンの前には、忘れもせぬ――帝国が誇った大神官
それより何より、アルバートと三人で笑いあった大親友の姿があった。

「セシリア……!」

『久しぶりですね、ジュリアン……共に世界を救いましょう――!』
0131ジュリアン@NPC ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/04(日) 22:13:14.40ID:k1kNN6KO
エルピスは記憶を操る力を持つ竜。
これが、自らが死に追いやってきた者達の記憶から再現したものだということは分かっている。
それでも――ジュリアンは手を掲げた。

「セシリアに免じて……使ってやる! 来い、エルピス!!」

その手に光が収束し、眩く輝く指輪となった。
セシリアの幻影が呪文を唱えると、戦闘域全体に清浄なる光が降り注ぐ。

『――The great gospel《大いなる福音》』

蘇生魔法すらも可能だったという、世界に名を轟かせた伝説の大神官の最上級回復魔法だ。
戦闘不能となっているジャンもすぐに再起可能となることだろう。
ティターニアはジャンの傍まで歩み寄り、竜装を纏い模倣体と対峙する。

「さあ、まずは指輪を取り戻すぞ――竜装《ユグドラシア》!」

ユグドラシアとは元々、神樹ユグドラシルを女神として神格化した時の呼び名。
植物の女神のような装甲を纏ったティターニアは、杖の先から
しなやかさと刃物の鋭利さと併せ持つ蔦を無数に伸ばし、指輪を取り戻すべく模倣体の指ごと切り取りにかかる。
そしてジュリアンはシャルムの方に向かって叫んだ。

「俺も宿敵と手を組んだんだ――全の竜と女神! いがみあっている場合ではないぞ!」

きっと、シャルムの持つ二つの指輪が決め手になる――そんな奇妙な確信があった。

【ジュリアンが8人目の指輪の勇者として覚醒。反撃ターン開始!】
0132シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:45:12.38ID:suvvEmAI
ディクショナルさんの魔法が、天井から流れ込む溶岩を冷却、固化させる。
既に流入してしまった溶岩も、ティターニアさんが処理してくれた。
ひとまずは、急場を凌げた……ですが奴らは何度だって天井に穴を開けられる。
それを何度も繰り返されれば、天井そのものが崩れ落ちてくる可能性もある……。

戦わないと。
柄にもなくあちこち飛び跳ねたせいで息が整わない……。
『フォーカス・マイディア』の副作用で、まだ軽度だけど頭痛もする……。
それでも、この眼の前にいる虚無の竜を、私に釘付けにしなければ。
そう、やるべき事は変わっていない。
一人、最低一体。この虚無の竜を封殺する。

「『フォーカス・マイディア』」

液状化の能力を得た虚無の竜に銃弾は通じない。
残る一丁の魔導拳銃に錬金術を施す。
形成するのは……魔導書。
正確には、大量の魔法陣を羅列しただけの分厚い目録ですが、とにかく。
可能な限りの魔法陣を作り出してから、『フォーカス・マイディア』を解除すれば。
消耗は最小限に抑えつつも大量の魔法を素早く行使出来る。

虚無の竜がガトリング砲を再生。
「紫電の槍』を用いて先手を取り破壊。

体表から突出し迫りくる金属の槍。
あらかじめ展開しておいた『審判の鏡』で弾き返す。

虚無の竜が液状化し、鋼線のように変化し、私を取り囲む。
その形態なら熱による変形は容易い。
『炎の刃』で切り刻み、ばらばらにする事でエネルギーを浪費させる。

……行ける。
虚無の竜の戦術と能力は、幸いにも私にとって相性がいい。
これなら、このまま奴を抑え込める……

>『――データシェアリングにより、敵性存在"指環の勇者"に対する有効戦術のインストールが完了しました。
 プログラムパターン構築。戦術展開の前提段階として、指環の勇者の生体スキャンを実行。

そう思った矢先の事でした。
虚無の竜が何か、私には理解出来ない言葉を連ね……そして私の姿を模倣したのは。

「……馬鹿な」

私はそう呟くのが精一杯で……すぐに、新たな魔法を発動しました。
『鬱屈する大火』……圧縮した炎によって矢を形成し、対象を内部より爆破する炎魔法。
放たれた矢は瞬く間に虚無の竜へと肉薄し……炸裂する。

爆炎が晴れて、虚無の竜は……その体表が僅かに損傷しているだけでした。
模倣した私の姿を、崩す事すら出来ていない。
魔法の威力は十二分だったはず……あの一瞬で、虚無の力を行使された……?

そんな私の思考を遮るように、虚無の竜はその右手を私に向けました。
そして……

「『フォーカス・マイディア』……当機体の処理能力の向上を確認。
 有用な戦術パターンとして、戦闘行動と並行してデータシェアリングを開始します」

……私が今まで放ってきた魔法の数々が、私へと返ってきた。
その全てが、私が使用した時よりも強力になって、何倍にも増えて……一斉に。
咄嗟に私も『フォーカス・マイディア』を再発動し、迎撃する。
0133シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:47:42.80ID:suvvEmAI
……速い。私が魔法を放ってから、それを撃ち落とせるほどの回転率……。
本当に、『フォーカス・マイディア』を再現されている……。

駄目だ。反撃に転じられない。
反撃すれば、相手に更なる手数を与える事になる。
そうなればこの拮抗した状況を保ち続けられるか、分からない。

このまま奴がエネルギーを使い果たすのを待つ。
それが私に取れる唯一の戦術……。
だけど……それはつまり、奴の更なる戦術共有を許してしまうという事……。

>『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』
0134シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:48:37.08ID:suvvEmAI
……戦場に響く、無数の雷鳴。
それが、私達が辛うじて保っていた均衡が崩れる音だと、私には分かってしまいました。

私と魔法を撃ち合っていた虚無の竜は、最早その必要がないと言わんばかりに静止している。
振り返ってみれば……私の目に映ったのは倒れ伏したジャンソンさんと、その手から指環を奪い取る虚無の竜でした。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』
>『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

……ジャンソンさんがやられて、指環を奪われた。
状況は完全に変化した。奴らにとって有利なように傾いてしまった。

>「ああ、全てがおしまいだ……!」

やめて下さい、ティターアさん。
あなたが一番に諦めたら、このパーティの一体誰が希望を持っていられるって言うんですか。
嘘でもいいから、まだやれるって。そう言って……

>「あなたのお墨付きの指輪の勇者達がこのザマですよ、責任取りなさい!
 もう全の竜の保険はないのですよ!? あなたのやってきたことが全て無駄になってしまっても良いのですか!?」

「……ティターニアさん?」

>「おいエルフ、何を言っているのだ?」
>「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」

不意に、周囲に眩い光が満ちる。
あの光竜……まさか。

>「やはり出てきおったか……我に煽られたのが余程悔しかったのか!
  天邪鬼なそなたが指くわえて見ておれと言って大人しく見ていられるはずはないと思ったわ!」
>『……貴様は少し黙っていろ。白き魔術師よ――手を掲げよ! これよりそなたの指輪となろう!』

私達の強さを確かめて、完全な敗北の証として消滅した……それすらも嘘だった?
……どこまでひねくれてるんですか、まったく。

>「セシリアに免じて……使ってやる! 来い、エルピス!!」
>「さあ、まずは指輪を取り戻すぞ――竜装《ユグドラシア》!」
>「俺も宿敵と手を組んだんだ――全の竜と女神! いがみあっている場合ではないぞ!」

ですが……そのおかげでなんとか首の皮一枚繋がったのも事実です。
とは言え頼りの指環は……未だにどちらも、沈黙したまま。
それは二つの指環……女神と全の竜が反発しあっているから?

……本当に?
全の竜は言っていました。
これは他の指環に比べればほんのアクセサリーのようなものだと。
そりゃ私だって、そうは言っても全の竜が遺した指環なんですから、何かの助けになるはずだと思っていましたけど。
だけど……この透明な指環からは、何の力も感じられない……。
……本当に、からっぽのようにしか……。
0135シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:49:15.07ID:suvvEmAI
心の中でそう独りごちた、その時。
私の頭の中で……一つの閃きが生じました。
この透明な指環の、正しい用法について。

「……まさか」

この指環は、からっぽなんだ。
……だからこの、空の指環を使えるようにしたいなら……方法は簡単です。
中身を満たしてやればいい。
0136シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:52:37.60ID:suvvEmAI
私は祈るように、両手を重ねる。
……そう言えば、この全の指環を譲り受けてから、大事な事を忘れていました。
あなたはこの世界を創造した女神様なのに……祈りの一つも捧げないまま、こんなところまで来てしまった。
そりゃ、声が聞こえなくて当然ですよね。

……女神様。もしも、あなたが私を見そなわしていらっしゃるのなら、どうか。
私は今まで信仰とは無縁の人生を送ってきました。
ですがお願いです。私は、私のかけがえのない友人を、バフナグリーさんを裏切りたくありません。
どうか彼女を、あなたの敬虔な信徒を後悔させない為に、力を貸して下さい。

「……指環の、力よ」

そして……今までで最も強く、全の指環が輝きを放ちました。
……からっぽの指環に、力が満ちていく。

『おいおい、聞いたかパンドラ?健気な願いじゃないか。
 それを君は今の今まで祈りが捧げられていないからと無視を決め込んで……ひどい奴だなぁ』

『……とうの昔に手放した名とは言え、今更親しみを込めて私を呼ぶ事を、あなたに許した覚えはありませんよ。全竜よ。
 それに……無視していた訳ではありません。ただ、祈りなき心に、私の声は、届けたくても届かない。それだけの事です』

二つの指環から現れる幻体。
星都で相見えたパンドラとまったく同じ姿をした女神様……随分と体長の縮んだ全の竜。

『相変わらずつれないな。私の巫女をしていた頃の、可愛げのある君が懐かしいよ……。
 まぁ、それはさておき……もう一度見せ場がもらえるのはありがたい事だ。
 残念ながらカーテンコールまでは立ち会えそうにないが』

全の竜がそう言うと……不意に私の左手が、私の意図に反して暴れ出しました。
左手に嵌めた指環が……私の指から、逃れようとしている?

「一体、何を……」
『邪魔をしてもいいが、おすすめはしないよ。指環の伝承をまったく知らない訳じゃないだろう?
 指環を一人で独占する事は出来ない。二つの指環を行使すれば……その者は命を落とす。だからここは……』

私の指から飛び出すように抜けた指環を、全の竜の幻体が口で受け止める。
そしてそのまま頬張り……飲み込んでしまった。

『素直に、私に任せておきたまえ』

次に全の竜が口を開くと、そこから吐き出されたのは手短な言葉と……目の眩むような閃光。
全属性のブレスが、周囲の敵をいっぺんに薙ぎ払う。

『……まぁ、こんなところか。最終章の山場を見逃すのは辛いが……仕方ないか』

全の竜は私に振り返って、そう言いました。
……己の幻体が急速に朧気になっていくのを、気に留めもしないで。

『この指環に残っていたのは……ほんの木霊のようなものでね。
 物語の結末が見たくてこっそり隠しておいたんだが……もう暫くもしない内に消えてしまうだろう。
 なに安心したまえ。指環そのものは、私がいなくなった後も残る。彼に拾わせて、またその手に返してもらうといい』

「……こんな時に、何を馬鹿な事を」

『くっくっ、余計なお世話だった……かな?まぁ精々頑張る……事だ……。
 なにせこの世界のフェイルセーフは……君達が壊してしまったからね……。
 やり直しは……もう出来ない……だが……だからこそ……君達は…………んだろう……?』

全の竜の幻体が消えて……私は虚無の竜へと向き直りました。
全の竜のブレスを唯一防御していた……ジャンさんから指環を奪った、あの虚無の竜へと。
0137シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:54:10.04ID:suvvEmAI
『……無駄だ。今更予備の肉体を破壊したところで、お前達に勝ち目はない。我が肉体は進化し続けている』

指環の力によって創り出された分厚い水壁。
それが奴への攻撃を全て受け流し、押し潰している。
 
『お前達を屠る為に、最早この指環の力を使う必要すらない。こんなものは私にとっては、ただのエネルギー源に過ぎない。
 諦めろ……お前達なら分かるはずだ。何もかもが虚無に飲まれれば、それはつまり、全となんら変わらないという事が』

加えて『フォーカス・マイディア』による無数の多重結界まで……。
今更あんな甘言に乗るつもりは毛頭ありませんが、あの防壁は厄介です……。
0138シャルム・シアンス ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:57:23.05ID:suvvEmAI
私がどうにか突破する方法を考え始めた時でした。

「……例えあなたが、私達よりずっとずっと強くなっていても、私達は諦めたりしない」

不意に、虚無の竜と向き合うように……ハムステルさんが、私達の前へと歩み出たのは。

「諦める事ならいつだって出来た。諦める理由なんて、いくらでもあった。
 指環なんて伝説のアイテム、見つかりっこない。帝国と喧嘩したっていい事なんてなにもない。
 世界の命運を背負わされなきゃいけない理由も、世界の創造神に歯向かう必要も、なかったのに」

……その声音は、私が知る彼女の、記憶を失った童女のようではありませんでした。

「それでも、ここまで来た」

彼女は、傷の癒えた……しかしなおも倒れたままのジャンソンさんの傍で膝を突く。
そして……自分の左手から指環を抜いて、

「……勝手に諦めて記憶を捨てた小娘なんて、置いていけばよかったのに。だけど、諦めなかった」

それを、彼の左手に嵌める。
……何を、考えているんですか。ハムステルさん。
まさか……

「ジャンさん。わたしを、私を。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
 その恩返しをさせて下さい。メアリさん……ジャンさんを、守ってあげてね」

『……我が誘いを断るつもりなのか?』

「ええ、そう聞こえませんでしたか?」

『……なるほどな。ならば――文章自動生成プログラムによる心理誘導に失敗しました。通常の戦闘行動を再開します』

瞬間、ハムステルさんが床を強く蹴り出し、虚無の竜へと飛びかかる。
なんて、なんて無謀な事を!
指環もなしに虚無の竜に挑むだなんて……
0139ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 15:58:59.74ID:suvvEmAI
 
 
 
ジャンさんに指環を預けると、私は虚無の竜めがけて飛びかかった。
目の前にはまるで滝のような水の防壁と、何重にも展開された魔法障壁。

「駄目ですハムステルさん!」

後ろからシャルムさんの声が聞こえる。
だけど今更踏み留まる事なんて出来ない。
それに……心配ご無用ですよ。だって、

「……指環の力よ!」

ジャンさんに渡したアレ、フェンリルの力で作ったイミテーションだもん。
つまり……久々に使わせて頂きました、『ヒュミント』ですよ。
まぁ相手はゴーレムなんですけどね。
0140ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 16:03:07.85ID:suvvEmAI
「嘘ってのは、こう吐くんですよ。
 本物の指環は……もう少しだけ待っててね、ジャンさん」

遥か天上から地の果てまでどこまでも届き、遮るものをすり抜ける光。
その力を私自身に宿せば……どんなに分厚い結界だって通り抜けられる。

虚無の竜は何の妨害もしなかった。出来なかったって言うべきかな。
私の嘘に、見事に騙されてくれたみたい。
結界の内側に辿り着いて、私はジャンさんの姿をした虚無の竜を睨み上げた。

「メアリさん!」

瞬間、周囲に無数の『ファントム』が現れる。
光の指環によって生み出された幻影……見分けなんてつけられる訳がない。

『魔法消去を実行――』

「遅いよ」

だけどそのファントムこそが本当はブラフ。
だって私はただまっすぐに、虚無の竜に斬りかかってるんだから。
フェンリルの大爪が、金属製の頭に深く突き刺さる。
メアリさんが照らしてくれた、虚無の竜の急所へと。

『――理解不能、非効率的な戦術です。メインCPUに著しいダメージ――展開中の術式を維持出来ません。再構築が必要です』

周囲に張り巡らされていた結界が消える。
よーし、このままジャンさんの指環も取り戻して……。
そう思った私が右手を振り上げた瞬間……水の指環が虚無の竜の右手の中に飲み込まれて、消える。

そんなのズルい……なんて声に出す暇もなく、虚無の竜の胸部が波立つ。
液状化の能力……それで何をしようとしてるかは分かる。
変形して、ノーモーションで私に反撃するつもりなんだ。
それは分かってるけど……この体勢からじゃ、防御が間に合わない……!
ごめんだけどメアリさん、防御お願い……

『――魔法消去を実行します。防壁の消滅を確認』

……メアリさんの張った結界が、虚無の力によって霧散する。
これは、本当にやばいかも……

「そうはさせませんの!」

不意に響くフィリアちゃんの声と、甲高い金属音。
同時に私の体を包む強い慣性……ムカデの王様が、私を掴んで防御して、そのまま引き寄せてくれたんだ。

「あ、ありがとフィリアちゃん!今のはやばかった!
 そんでもって……メアリさん!
 アイツが飲み込んだ指環の位置を教えて!」

『任せて下さい!』

虚無の竜に取り込まれた水の指環、その位置が光の指環によって照らし出される。
それはほんの一瞬しか持たない、虚無の力を使われればすぐに消えてしまう光。
……でも、一瞬あれば十分。
0141ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 16:03:40.44ID:suvvEmAI
『魔法消去を――』

「――闇の指環よ」

だってシノノメさんが既に、私と入れ替わる形で前に出ているから。
闇の指環によって創り出された無数の刃が虚無の竜へと襲いかかり――
0142ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/11/07(水) 16:08:53.05ID:suvvEmAI
『――実行します』

だけどぎりぎり届かない。虚無の力によって掻き消される。
それでもシノノメさんは構わず腕を突き出した。
そして鋭く響く金属音……。
シノノメさんの腕から生えた黒い長剣が、虚無の竜の胸を貫いている。

「……生憎、これは私の体の一部ですので。魔法として掻き消す事は出来ませんよ」

その剣先には……抉り出された、水の指環。
そしてあの長剣は文字通りの命ある刃。
指環は剣先に弾き飛ばされて……ジャンさんの元へと弧を描く。

『動力供給源をロスト。形勢が悪化しています――』

……なんとか、また状況をひっくり返せた。
シャルムさんと……全の竜のおかげで、こっちが数の有利を取り戻したから。
私達の、いつもの戦い方を取り戻せたから。今なら、このまま押し切れるかもしれない!

「やれる!やれますよ!みんなの力を合わせればきっと勝てる……」
 
    
  
『――新たな戦術プログラムの必要性を承認、再構築を開始します。推定所要時間は――60秒』

……今よりまだ、強くなるって言うの?
この状況ですら結構危ない賭けをして、なんとか漕ぎ着けたって言うのに……。
……だけど、今更そんな事でビビってる暇なんて、ない!

「……大丈夫!私達ならきっと勝てます!いえ……勝たなきゃいけないんだ!」

……あと一分。あと一分の内にあいつを倒しちゃうしかない。
これは、強がりなんかじゃない。私は心の底からそう思ってる。
私達はきっと勝てるし……勝たなきゃいけない。
私達が今まで冒険してきた世界を、出会ってきた人達の……人生を、塗り潰して作り変えるなんて!
そんな事、絶対に許しちゃいけない!



【予備の肉体が殲滅され、指環を奪取。
 しかし虚無の竜は更なる進化をしようとしている!】
0143スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:17:44.18ID:Es87ipxb
液状金属で模られた『スレイブ』が、剣を片手に迫り来る。
スレイブもまた同様に剣を構え、それを迎え撃った。

「この速度――跳躍術式も模倣しているのか!」

鋼と鋼の激突が火花を散らし、跳ね返った慣性を威力に変えて二合、三合の打ち合い。
模倣体が振るった下段を横薙ぎにする剣を跳躍で回避し、こちらの唐竹割りは半歩横にずれて躱される。
空いた手から牽制とばかりに放った雷撃は、模倣体の張った風の障壁によって逸らされた。

前方、模倣体が石畳を割らんばかりの勢いで踏み込む。
剣を握る腕を深く引き、腰を落としたその予備動作に、見覚えがあった。

「――!!」

風を巻いて飛んできた切っ先。スレイブの首筋を掠めて宙を穿つ。
剣士のスキルが一つ、『瞬閃』。ダーマ式の軍用剣術だ。既に模倣体は、肉体だけでなく技術さえも模倣していた。
間一髪でそれに気付いたスレイブは身を低くして殺傷圏を掻い潜り、かち上げるように逆袈裟の斬撃を放つ。
模倣体は鎧を纏った腕にスレイブの剣を滑らせるようにして機動を逸らし、回避。
返す刀の一撃に剣同士がぶつかり合い、慣性を交換して二つの影は距離をとった。

拮抗している。
得物は共に取り回し重視の片手剣。避けても弾いても、致命的な隙は生まれ得ない。
再現された指環の魔力もまたスレイブのものと同出力だ。押し切るのは難しい。

(まずいな……埒が空かない。このままではジリ貧だ)

時間をかけることが有利に働くのは虚無の竜側だ。
生身の肉体と違い、奴らには疲労がない。無限に近い再生能力もある。
ほんのささいなボタンの掛け違えで、一気に窮地へ押し込まれるであろうことは、数合の攻防で理解できた。
幸いとも言うべきは、こちらが竜装を見せていないためか、敵も竜装を使ってこないこと。
そして、指環の竜――スレイブにとってのウェントゥスのような、相方が存在しないこと。

『とにかく魔法を叩き込め、ウェントゥス。数の利があるうちに火力差で一気にカタをつけるぞ』

『雑な指示じゃなぁ。"臨機応変に頑張れ"とほぼほぼ変わらんじゃろそれ』

『根性論は嫌いか?』

『いんや。年寄りにはそんくらい雑なほうがよく響く』

模倣体へと進化したとはいえ、虚無の力による魔法消去は健在と見るべきだ。
ならば、やることは変わらない。ウェントゥスと協働して、攻撃魔法の十字砲火。
加えて近接攻撃も織り交ぜれば、活路は見えるはず――
0144スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:18:07.94ID:Es87ipxb
「いくぞ――指環の力よ!」

スレイブは模倣体目掛けて吶喊する。同時に真空の刃が模倣体を包むように弧を描いて強襲。
再び剣と剣が刃鳴を散らす刹那、模倣体の背面に出現したウェントゥスが紫電を奔らせた。
人竜一体の飽和攻撃、全方位からの風魔法が、寸分違わず同時に模倣体を襲う。

(魔法消去を使ってみろ――その瞬間、俺の剣が首を落とす!)

模倣体が口を開く。
果たしてそこから漏れる言葉は、スレイブの想像した魔法消去の通告ではなかった。

「戦術プログラム第二段階へ移行。『特異点の共有』が完了しました」

模倣体の胸部が膨らむ。呼吸を必要としないはずの装置が、息を吸った。
その動作の意味するところをスレイブが察知する頃には、すべてが遅かった。
模倣体の口から放たれた轟音が大気を揺らがし、スレイブは咄嗟に剣を放って耳を塞ぐ。
鼓膜の破損は免れたものの、魔法の行使に必要な集中が消え失せ、風の刃も紫電も明後日の場所を穿って果てた。

(これはっ……ジャンの!『ウォークライ』を、模倣しただと……!)

思考が現状に追いつくと同時、模倣体の拳がスレイブの鳩尾を直撃した。
鎧越しに穿たれた内臓が悲鳴を上げ、肺の中身が全て吐き出されるままにスレイブは放物線を描く。
なんとか受け身は成功したが、呼吸がうまく行かずにそのまま膝をついた。

「他の……勇者の能力さえも……模倣出来るというのか……!」

受け入れがたい現実ではあるが――今目の前に立つ模倣体は、スレイブとジャン、二人の能力を一身に宿している。
おそらくジャンだけではない。ティターニアの魔法も、シャルムの魔導技術も、データシェアリングとやらで共有しているのだ。
指環の勇者に対する有効戦術。これまで培ってきた『仲間の能力』によって、彼らは窮地に追い込まれた。

(まずい――)

背筋を襲った直感に突き動かされるように、スレイブは視線を走らせる。
その先では、ジャンが水の竜装を纏って模倣体と肉弾戦を演じていた。

>『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

模倣体がディザスター――スレイブの魔法を模倣した術式を放ち、稲妻がジャンを打ち据える。
頑強な体躯が見る間に焼け焦げ、ジャンが崩れ落ちていく瞬間を、目の当たりにした。
0145スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:18:31.33ID:Es87ipxb
「ジャン……!」

水の指環にとって、風の指環の天候操作は極端に相性が悪い。
懸念は現実となり、倒れ伏したジャンの手から、模倣体は指環をつまみ上げた。

竜の指環が奪われた。
戦力の均衡が、崩れた――
すでにスレイブと相対していた模倣体は動作を停止している。
指環を手にした以上、戦力を分散させる必要がないからだ。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』

(口調が……変わった……?)

ジャンを倒した模倣体は、それまでの無機質な音声ではなく、抑揚と感情に満ちた言葉を口に出す。
機械的に世界を再編成する装置であるはずの虚無の竜が、まるで意志を持っているかのような言動。
違和感はあれども、その理由を考察する余裕はスレイブにはなかった。

>「ああ、全てがおしまいだ……!」

ティターニアが五体を地に投げ、絶望を口にする。
スレイブも同感だった。唯一の優位点であった指環は敵の手に落ち、もはや打つ手はない。
このまま、かつて虚無の竜に挑んだ者たちのように、世界の再構成を待つばかりなのか。
命を捨てて吶喊し、指環を奪い返す……それが不可能であることなど、誰に言われるでもなく理解できてしまった。

しかし、ティターニアは口ぶりとは裏腹に、希望を捨ててなどいなかった。
この土壇場で、虚無の竜を相手に、彼女は口三味線を弾いていたのだ。

>「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」

口調は幼子を叱るかのように。
呼んだ名は、敗北を認め、消滅したはずの――光竜。
その場に居るはずもない者の名に、応じたのは虚空ではなく、生きた者の声。

>「セシリアに免じて……使ってやる! 来い、エルピス!!」

「ジュリアン様……!?」

パックと共に8体目の模倣体と戦っていたジュリアンが、光の魔力をその身に宿す。
ラテの持っているはずの光の指環は健在だ。ならば、新たに指環を創造したとでも言うのか――
0146スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:18:50.70ID:Es87ipxb
『光と闇の指環は、もともと一つずつってわけじゃないからの。要は、ものの見方次第じゃ』

ウェントゥスは訳知り顔でそう能書きを垂れるが、おそらく何もわかってはいないだろう。
メアリやアルマクリスがそうであったように、光と闇の指環は依代となる竜を選ばない。
ならば、エルピス自身を単なる依代として扱っても、道理は通るというわけだ。

>『――The great gospel《大いなる福音》』

呪文を唱えたのは、ジュリアンの隣に立つ幻影。
スレイブは伝聞でしか知らない、ジュリアンが帝国を出奔する原因となった、彼の同胞。
五年の歳月を経て、死が別けた二人の運命が、ようやくこの時重なったのだ。

>「俺も宿敵と手を組んだんだ――全の竜と女神! いがみあっている場合ではないぞ!」

ジュリアンがそう発破をかけたのは、エーテルと全の指環を持つシャルムだった。
彼女は何かに気付いたように二つの指環を、それが嵌った両手を重ねて、祈る。

>「……指環の、力よ」

暗く、何の輝きも宿さなかった全の指環が、一際大きな光に満ちた。
エーテルの指環――女神パンドラと全の竜。
居場所を同じくして、しかし袂を分かった二つの存在を、シャルムの祈りがつなぎ合わせたのだ。

「技術者に祈りを要求するとは……どこまでも底意地の悪い竜め」

だが、だからこそこの祈りには意味がある。
かつて、神官アルダガは「祈り」を他者との力の共有を表す所作であると定義した。
手と手を合わせ、指を組み、自分と誰かが平等に幸せになることを望む意志の表現。
他者に与え、他者から与るために『手を繋ぐ』原初の仕草だ。

シャルムはその両手で、見事に繋いで見せた。
女神パンゲアと、全の竜を。
そして、ここにはいないアルダガと――他ならぬ彼女自身を!

>『お前達を屠る為に、最早この指環の力を使う必要すらない。こんなものは私にとっては、ただのエネルギー源に過ぎない。
 諦めろ……お前達なら分かるはずだ。何もかもが虚無に飲まれれば、それはつまり、全となんら変わらないという事が』

依然として虚無の竜とスレイブ達の間には、歴然とした力量差が横たわっている。
水の指環を取り込み、如何なる攻撃も阻む障壁が、瀑布のごとく展開している。
水流隔壁は防御だけでなく、シャルムの展開するプロテクションさえも蝕みつつあった。
いずれ波濤に押し潰され、飲み込まれるのも時間の問題だ。
0147スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:19:16.57ID:Es87ipxb
>「……例えあなたが、私達よりずっとずっと強くなっていても、私達は諦めたりしない」

そのとき、ラテが不意に前に出た。これまでのような子供じみた口調ではない。
それはおそらく、共に旅をしていたジャンやティターニアが誰よりも知っているだろう。
彼女はその手に嵌った光の指環を、ジャンの手へと嵌め直した。

>「ジャンさん。わたしを、私を。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
 その恩返しをさせて下さい。メアリさん……ジャンさんを、守ってあげてね」

「なにを、するつもりだ……」

指環を捨て、生身となったラテが、水流障壁へと飛び込んでいく。
指環の保護なしに障壁を身に受ければ、人間の身体など簡単に消し飛ぶだろう。
ラテのしていることは、自殺行為以外の何者でもない。

>「駄目ですハムステルさん!」

シャルムの悲鳴じみた制止も虚しく、ラテは障壁の中へ消えていった。
――消し飛んだのでは、ない。指環もなしに、彼女は障壁を突破したのだ。

否。ジャンの手にあったはずの指環が、目を離した一瞬のうちに消えて無くなっていた。
指環はまだ、ラテの手の中にある!

>「嘘ってのは、こう吐くんですよ。本物の指環は……もう少しだけ待っててね、ジャンさん」

光の指環の力で障壁を突破したラテが、虚無の竜の中枢に打撃を与え、魔法の維持を一時的に不能にする。
障壁が再展開される一瞬の隙を縫って、フィリアとシノノメが虚無の竜に肉迫した。
三者一体の連携が虚無の竜を翻弄し、取り込まれた水の指環をシノノメの剣が抉り出す。

>『動力供給源をロスト。形勢が悪化しています――』

(形勢が――覆った……!)

ジュリアンとエルピスの呉越同舟、シャルムの祈りが繋いだ二つの指環。
そして、ラテの巧妙な謀計とフィリア、シノノメの連携によって、追い込まれていたはずの形勢が逆転した。
指環はもう虚無の竜のもとにはない。振り出しに戻ったわけでもない。
指環の勇者の戦いは、両者譲らぬままに、最後の局面へと突入したのだ。
0148スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:19:55.69ID:Es87ipxb
>『――新たな戦術プログラムの必要性を承認、再構築を開始します。推定所要時間は――60秒』

「戦術を切り替えるまでの時間が長い……おそらく、これが俺たちにとっての最終段階だ」

これまで、戦術プログラムの更新は数秒程度、戦闘中に次の戦術へ移行する速度で実行されてきた。
60秒という時間は以前と比較してもあまりに長い。
この状況が虚無の竜にとって完全に想定外で、戦術を1から組み直す必要があることを意味している。
0149スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/11/12(月) 23:20:43.96ID:Es87ipxb
虚無の竜が、会敵した瞬間から戦闘機動を開始できた理由。
それは、シャルムの推論によれば、以前スレイブ達の他にも虚無の竜のもとまでたどり着いた者がいたためだ。
つまり、虚無の竜には自身を破壊しに来た者達との戦闘経験がある。
今まで高速で戦術を構築できていたのは、その時の記録が……敵性言語に照らすなら、データが残っていたからだろう。

名も知らない勇者達が幾度も挑み、少しずつ道を拓いていった虚無の竜との戦い。
そのいずれもが直面し、しかし乗り越えることのできなかった、『時間切れ』。
そして、予め用意されていた対勇者戦術が、たった今尽きた。
ここからは、虚無の竜もまた分析し、考察し、勘案する文字通り前人未到の領域だ。
0150スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:21:19.03ID:Es87ipxb
「かつて、旧世界の勇者達が志半ばに閉ざされた道へ、俺たちは辿り着いた。
 そう、道だ。世界の命運を分ける岐路が、ここにある。閉じた扉を、60秒でこじ開ける!
 プログラムとやらが完成すればもう勝機はない。削り切るぞ!」

奇しくも――虚無の竜と初めて対面したときと同じ構図だ。
プログラムが完了する前に、最大の火力を叩き込んで、沈黙させる。
抜け目なく拾っていた剣を再び構えて、スレイブは虚無の竜に飛びかかった。

『敵性存在の戦意高揚を確認。演算処理を確立する為、自己防衛マニューバを起動。
 対空魔導砲門による迎撃を開始。平行して装甲の再結合を実行します』

虚無の竜はもはやその場を動かない。
防御を固め、プログラムの構築にリソースのほとんどを割いている。
高度な処理が必要な魔法消去を捨て、純粋な装甲の耐久と迎撃砲のみで耐えしのぐ公算だ。
竜の背にハリネズミの如く無数の砲門が隆起し、魔力の光を灯した。

「防御は任せる」

スレイブは装甲の継ぎ目を正確に断ち切り、破壊しながら、腰に提げた短剣を抜いた。
現在の敵の主武装は無数の魔導砲。そのままではしのぎ切れる手数ではないが、魔法が相手ならできることがある。

「呑み尽くせ――『バアルフォラス』!」
0151スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/11/12(月) 23:21:39.86ID:Es87ipxb
魔導砲に充溢していた魔力がスレイブの振るう魔剣へと吸い込まれ、砲身も明滅が弱まった。
瞬間、魔導砲が斉射。流星群にも等しい攻撃魔法の束がスレイブ達を直撃するが、プロテクションがそれを阻む。
攻撃の元となる魔力はバアルフォラスによって喰われ、本来の半分程度の威力にまで減衰しているのだ。

「魔法攻撃は俺が軽減する!防御は最小限にとどめて攻撃に集中してくれ!」

魔剣が溜め込んだ魔力は、刀身を暴れまわっていまにも弾け飛びそうだ。
スレイブはそれを自身の身体へ流し、指先へと収束させた。

「奔れ、『極光』!」

純粋な魔力の光条は一筋の流星となって虚無の竜の装甲を貫いた。
断続した爆発が竜の体内で発生し、黒煙が雲の如く沸き立っていく。

(魔導砲による攻撃は俺が防ぐ。それは虚無の竜も今しがた学習したところだろう。
 ならば次はどうする。俺を狙うか?それとも物理攻撃に切り替えるか?)

いずれにせよ、選択肢を狭め、虚無の竜が武装を切り替えるまでの時間を稼ぐ。
世界の命運を決める60秒。金にも等しい、世界で最も貴重な1分。

既に、15秒が経過していた。


【時間切れフェーズに移行。魔法ダメージを軽減し、装甲を破壊して防御力を下げる。残り45秒】
0152ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/11/17(土) 15:50:44.14ID:aFimeXp2
意識が途切れる瞬間、ジャンが最後に見たのは
自分そっくりの流体金属が勝利を宣言した光景だった。
稲妻が身体を焼き焦がす苦痛に耐えきれず、前のめりに倒れていく。

(最後まで……俺は……みんなを……)

消えゆく意識の中で願ったのは、仲間の勝利。
たとえ指環を奪われたとしても共に旅を続け、苦難を乗り越えてきた仲間たちなら
きっとやり遂げてくれると信じて、ジャンは静かに目を閉じた。

――ジャンが再び目を覚ましたとき、彼は光がわずかに差し込む深海の中に浮かんでいた。
生物は一切おらず、辺りから聞こえる気泡の音が耳に響く。

(どこだ……ここは……)

泳ごうにも手足は動かず、身体に力が入らない。
わずかな光も時折消えてしまうことがあり、そうなれば完全な闇が身体を覆い尽くす。
やがて光が放たれることはなく、ジャンの意識が闇に溶けて消え失せようとしたとき、
一筋の強い光がジャンの身体に差し込んだ。

「……指環?あの色は……アクア!」

深海にあってもなお蒼く輝くその指環は、決して見間違えることはない。
蒼い光に照らされて身体が力を取り戻せば、静かに降りてくる指環をしっかりと掴む。

『危うく二人合わせて冥界行きになるところだったね。
 あいつの中は気持ち悪いなんてもんじゃなかったよ!』

「その話は酒でも飲みながらしようぜ。
 今は――あいつをぶちのめす!」

その言葉と共に指環を右手の中指に嵌めて、光射す方へと泳いでいく。
光の向こうをよく見れば、仲間たちが必死に虚無の竜を食い止めている光景が写っていた。
もはや躊躇いも迷いもなく、決意を新たにそこへと向かっていく。
0153ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/11/17(土) 15:51:22.12ID:aFimeXp2
「……みんな、すまねえ!アクア、起きたら全力で行くぞ!」

『分かった!あいつに取り込まれてる間、色々拾ってきたからね!』

>「奔れ、『極光』!」

虚無の竜が閃光に貫かれ、しかしその傷を無視しているかのように動き出す。
両腕が液体金属に覆われて巨大な二振りの大剣となり、
まとめて粉砕せんと勇者たちを薙ぎ払うように振り回しはじめた。

『近接戦闘形態に移行します……敵は……排除……排除……』

何度魔法を受けても液体金属が強引に形を作り直し、
広間を覆い尽くす斬撃と打撃の嵐は止まらないかに見えたその時だった。

「借りるぜオウシェン……オラアッ!」

目を覚ましたジャンが竜装と共に突撃し、自らの背よりも長く太い錫杖を振りかざす。
マリンブルーに輝く錫杖の先端を振り下ろされた大剣に叩きつけ、
すると強固な装甲を形成していた液体金属が水流と共に虚無の竜の片腕から崩れ落ちていく。
もう片方にも同じように錫杖を突きつければ、もはや腕に残る液体金属は一滴たりともない。

『液体金属の中に魔力を含んだ水を混ぜてやれば、後は僕の権能で操るだけだ!
 お前が戦ってきた指環の勇者たちの記録……水の勇者の記憶を利用させてもらった!』

その時は魔法消去という一方的な封殺手段によって制御を取り戻すことができたが、
再構築に向けて装甲と液体金属、そして魔導砲による弾幕しかない今の状態では
止める術はなく、こうして残るのは強固な装甲のみ。

「ようやく俺もみんなを助けられるって気がするぜ!
 『流れ流れて形となり、我が友を助けたまえ』」

さらに制御を奪った液体金属を詠唱と共に仲間の武器や防具に纏わせ、
本来ならば水の魔力を仲間に与える海の巫女の秘儀も
液体金属によって業物をはるかに越える逸品へと仕上げる極めて高度なエンチャントとなっていく。
勝者を決める1分の内、残り30秒。虚無の竜はいかなる反撃に移るのか、ただ不気味に沈黙していた。


【液体金属の乗っ取りに成功!ついでに念願の全体バフ】
0154ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/19(月) 21:37:32.82ID:J0epgkVB
>「……まさか」

シャルムは遥か昔に袂を分かった全の竜とパンドラを再び邂逅させるかのように、両手を重ね合わせた。
暫しの二人の会話の後、全の竜の幻影が、周囲の敵をいっぺんに薙ぎ払う。
……指輪に僅かに残していた自らの存在と引換えに。
形勢は着実にこちらに傾きつつあるように見える。
しかし、水の指輪を奪った竜の分体は、余裕綽綽といった様子だ。

>『……無駄だ。今更予備の肉体を破壊したところで、お前達に勝ち目はない。我が肉体は進化し続けている』
>『お前達を屠る為に、最早この指環の力を使う必要すらない。こんなものは私にとっては、ただのエネルギー源に過ぎない。
 諦めろ……お前達なら分かるはずだ。何もかもが虚無に飲まれれば、それはつまり、全となんら変わらないという事が』

「一筋縄ではいかぬということか……」

どうしたものかと考えていると、不意にラテが進み出る。

>「……例えあなたが、私達よりずっとずっと強くなっていても、私達は諦めたりしない」
>「諦める事ならいつだって出来た。諦める理由なんて、いくらでもあった。
 指環なんて伝説のアイテム、見つかりっこない。帝国と喧嘩したっていい事なんてなにもない。
 世界の命運を背負わされなきゃいけない理由も、世界の創造神に歯向かう必要も、なかったのに」
>「それでも、ここまで来た」
>「……勝手に諦めて記憶を捨てた小娘なんて、置いていけばよかったのに。だけど、諦めなかった」

「ラテ殿、そなた記憶が……!」

息を付く間もない戦いの連続で気付かなかったが、ラテはどこかの時点で記憶を取り戻していたのだ。
かといって、完全に元のラテに戻ったわけでは無い。
一見明るく振舞いながらも過去の罪に怯え劣等感に苛まれていた以前のラテはもういない。
いつかティターニアが言ったように、記憶を失った後に生まれた天真爛漫なラテが、
知恵と思慮深さを持つ以前のラテを迎え入れたのだ。

>「ジャンさん。わたしを、私を。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
 その恩返しをさせて下さい。メアリさん……ジャンさんを、守ってあげてね」

そう言って自らの指輪をジャンの左手にはめるラテ。しかしティターニアは動じない。
記憶を取り戻したなら、指輪は一人一属性までというのはラテは分かっているはずだ。
つまりこれは……
0155ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/11/19(月) 21:38:47.84ID:J0epgkVB
>「……指環の力よ!」
>「嘘ってのは、こう吐くんですよ。
 本物の指環は……もう少しだけ待っててね、ジャンさん」

ラテが記憶と共に取り戻したレンジャーの技が冴えわたり、指輪まであと一歩のところまで迫る。
続くフィリアとシノノメの連携によって、ついに水の指輪を取り戻すことに成功した。

>「やれる!やれますよ!みんなの力を合わせればきっと勝てる……」

>『――新たな戦術プログラムの必要性を承認、再構築を開始します。推定所要時間は――60秒』

>「戦術を切り替えるまでの時間が長い……おそらく、これが俺たちにとっての最終段階だ」
>「かつて、旧世界の勇者達が志半ばに閉ざされた道へ、俺たちは辿り着いた。
 そう、道だ。世界の命運を分ける岐路が、ここにある。閉じた扉を、60秒でこじ開ける!
 プログラムとやらが完成すればもう勝機はない。削り切るぞ!」

60秒という時間から、敵が今までに蓄積してきた対勇者戦術が尽きたと分析するスレイブ。
つまり、これが最初で最後にして最大のチャンスだ。

>「呑み尽くせ――『バアルフォラス』!」
>「奔れ、『極光』!」

スレイブはバアルフォラスで敵の攻撃を防ぎつつ、彼の持つ最強攻撃で虚無の竜の装甲を破壊する。

>「借りるぜオウシェン……オラアッ!」

続いて、ついに復活したジャンが突撃し、錫杖を叩きつける。

>『液体金属の中に魔力を含んだ水を混ぜてやれば、後は僕の権能で操るだけだ!
 お前が戦ってきた指環の勇者たちの記録……水の勇者の記憶を利用させてもらった!』

エルピスが味方になったことか、あるいはエーテルの指輪が覚醒したことで、指輪の真の力が解放されたのかもしれない。
それは、歴代の指輪の勇者達の記憶。

『思い出しました……人々が指輪を巡って争ってきた意味を』

指輪を持つ者はそれを欲する者を呼び寄せ、指輪の所有権を争い多くの血が流されてきた。
それは歴代所有者達の力を蓄積していくため――全てはこの瞬間のためにあった。

>「ようやく俺もみんなを助けられるって気がするぜ!
>『流れ流れて形となり、我が友を助けたまえ』」

味方全員が、液体金属によって極めて高度に強化される。
形勢の不利を悟った虚無の竜は狂乱状態に突入、まさに最終局面だ。
0156ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/11/19(月) 21:40:42.04ID:J0epgkVB
『……もはや再構築などどうでも良い、全てを無に帰してやる。
プログラム”World End《セカイノオワリ》”を実行。発動までの推定所要時間――20秒。
滅び去った数多の世界よ、我に力を貸せ!』

虚無の竜が世界を渡る力を持つとすれば、異なる世界から力を借りることも可能なのだろう。
自らが今までに滅ぼしてきた世界の絶望や憎しみを糧に、全てを虚無に帰そうとしている。
ならばこちらは、これから守るべき世界の力を借りるまでだ。

「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

女神のような竜装をまとったティターニアの背に浮かび上がるは、世界樹ユグドラシルの幻影。
その枝は数多の世界を象徴しているとも言われている。
虚無の竜に対抗し、こちらも無数の平行世界から力の供給を受けられる状態としたのだ。
ティターニアは虚空を仰ぎ見て訴えかけた。まるで、この戦いを外から見ている誰かに語り掛けるように。

「だから……名も知れぬ世界の者顔も知らぬ達よ――力を貸してくれ!
ほんの少し、我らの勝利を願ってくれるだけでいい……!」

一人一人の想いはほんの微々たるものでも、積もり積もれば膨大な力となる。
滅び去った世界の絶望が勝るか、生きている世界の希望が勝るか――最後の大勝負だ。

「いけるぞ! 皆、全力で一斉攻撃だ――!!」

ティターニアはそう叫ぶと自らも杖を振り下ろし、呪文を唱えた。

「――Star Memories《星の記憶》!」

それは歴代の大地の指輪の勇者の誰かが習得していたのであろう、隕石の魔法。
星界より召喚されし無数の流星が降り注ぎ虚無の竜を討つ。

【残り15秒! 数多の世界の希望の力を借りて総員全力攻撃で倒せ!
今回ちょっとメタネタが入ってるのでROMの方は応援メッセージを書いたら拾ってもらえるかも!?】
0157創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/11/22(木) 07:19:39.00ID:kIwydMSe
ティターニアさんジャンさん、ずっと応援してきましたので
一気にやっちゃってください

もう充分盛り上がってきたので一気に〆ちゃってエンディングにいきましょう!
0159 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/25(日) 07:38:55.61ID:UmQanbCY
今回ちょっと、月曜の夜とか火曜日にまで投下が遅れてしまいそうです。すみません
0160創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/11/25(日) 22:18:27.09ID:fAODcXcq
このまま終わるのも名残おしいよね
ぜひ雑談とか名無しの質問に答えるとか対談的とかをやって欲しい!
0161シャルム
垢版 |
2018/11/26(月) 17:59:35.66ID:ZJsFwVvD
大変言いにくいのですが、テキストエディタがクラッシュして今まで書いてた分が丸ごと消し飛びました。
明日中になんとか書き直そうとは思っていますが、
もしかしたら水曜日まで遅れてしまうかもしれません。本当に申し訳ないです・・・
0162ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/11/26(月) 18:23:02.85ID:6/OP1mfX
おお、応援メッセージ来てる!

>160
アルダガ殿(スレイブ殿)の気が変わらなければまだ本編クリア後の裏ボス戦があるはず!

>161
ご愁傷様としか言いようがない……。さては虚無の竜の妨害をくらったか……!
0166 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:06:45.98ID:v7P50/4Z
>『……もはや再構築などどうでも良い、全てを無に帰してやる。
プログラム”World End《セカイノオワリ》”を実行。発動までの推定所要時間――20秒。
滅び去った数多の世界よ、我に力を貸せ!』

虚無の竜を中心として、爆発的な魔力が放出される。
魔力は金属の床を削り……いえ、消失させながら、私達へと迫ってくる。
恐ろしく濃密な虚無の魔力。

……奴の操る再構築とは、つまり虚無の魔法と、それ以外の魔法の複合発動でした。
虚無の力によって対象の性質を消し去り、然る後に任意の性質を上書きする……。
それはすなわち、魔力を分割する必要があったという事です。

ですが……ここに至ってとうとう、虚無の竜はそれをやめた。
全ての力を虚無の魔法のみに注ぎ、私達を消し去ろうとしている。
私達の肉体や指環の再利用を諦めた。この戦いによって利益を得る事を放棄したんだ。
要するに……奴は今、正真正銘に追い込まれているという事!

>「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
 ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

ティターニアさんの顕現した世界樹の幻影から力が流れ込んでくる。

>「だから……名も知れぬ世界の者顔も知らぬ達よ――力を貸してくれ!
 ほんの少し、我らの勝利を願ってくれるだけでいい……!」

……この世界の外側から、力を借りる?
この土壇場で、そんな奇跡級の魔法を発動させるなんて……。
もう暫くは、あなたを先生と呼ぶのはやめられそうにありませんね。
まぁ、それはさておき……

>「いけるぞ! 皆、全力で一斉攻撃だ――!!」

「ええ!ここが正念場ですよ!決めてやりましょう!」

>「――Star Memories《星の記憶》!」

「猛る大地、怒れる炎。払い除けよ、無間の波濤。嵐よ運べ、永久の空漠。
 光よ抱擁せよ、そして塗り潰せ。闇の顎よ、食い千切れ、されど吐き捨てよ。
 万象一切が汝を拒む――『アイソレーション』」

虚無の竜の周囲、削り取られた金属の床が眩く赤熱し、爆ぜる。
溢れ出すのは煌々と輝く溶岩……それらは独りでにゴーレムへと変貌し、軍隊のように進撃していく。
その足跡からは蛇竜のごとく炎が燃え上がり、その炎が今度は風を……無数の刃のような嵐を生む。
そして炎と風、その熱と冷気が雨を……降り注ぐ矢のような雨を呼ぶ。

これはただの属性魔法ではありません。
全の指環の力をフルに活かした、極小規模の天地創造。
世界そのものを攻撃としてぶつけているんです。

降り注ぐ隕石と、私の万象魔法が……虚無の竜が放つ魔力と衝突し、相殺しあう。
ですがその拮抗は長くは続きませんでした。
私達の魔法が徐々に、しかし確実に、虚無の魔力を押し返していく。

「今です!」

私が叫ぶと同時、皆が可能な限りの攻撃を繰り出す。
0167 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:07:01.42ID:v7P50/4Z
『……敵性存在の能力が向上。計測によると……私の力を、上回っています。
 あり得ません。計測機器のエラーチェック……エラーは発見出来ませんでした』

虚無の竜はなおも押し返そうと魔力を放出しますが……形勢を覆せません。

『敗北の可能性が急激に上昇中。想定外の現象です。私はあらゆる面において指環の勇者を上回っていたはず。
 なのに何故、このような事が……』

私達が剣を、拳を振るい、魔法を放つ度に虚無の竜の肉体が吹き飛び、削ぎ落とされていく。
0168 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:08:18.48ID:v7P50/4Z
『……なる……ほど……これが…………』

そして……ついには完全に、虚無の竜は消滅した。
肉体の全てを吹き飛ばされて、跡形もなく消え去った。
……私は感極まって、気づけば皆さんへと振り返っていました。

「やった……!やりましたよ!私達が勝ったんです!
 虚無の竜の肉体も精神も完全に破壊しました……!これでもう二度と、奴は……」
                  
      
  

     
   
 
   
  
『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

不意に、私の背後から聞こえた声。
……心臓を鷲掴みにされたかのような悪寒を覚えながらも、私は弾かれたようにそちらへ振り返りました。
姿は……見えない。だけど……間違いなく、まだそこにいる。
あの一斉攻撃を一体、どうやって耐えて……。

『私は分かっていました。私が不完全な状態にある――つまり故障している事が。
 その私が再構築する世界さえもが、不完全な状態になってしまっていた事も。
ですが壊れた私には、それを正しく修復する事が出来なかった』

……私達は完全に虚無の竜を見失っている。
にもかかわらず、奴が攻撃を仕掛けてくる気配はない……。
受けたダメージが大きくて、攻撃に転じられないのか。
それとも……反撃の準備をしているだけなのか……。
0169 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:09:38.17ID:v7P50/4Z
いずれにせよ……どちらであってもいいように、備えをしなくては。
水の魔力で索敵網を展開しつつ、皆さんに障壁を配る。
全の指環で創造した、極小の世界による盾……文字通りの結界。
例えいかなる攻撃であっても防げないなんて事はあり得ない。

『――だから私には、あなた達が必要だった。私を完全に破壊し得るヒト達が』

私がそう考えた直後でした。
ついさっきまで虚無の竜がいた場所から、膨大な魔力が放たれたのは。
それは波紋のように広がって……その瞬間、周囲の無機質な金属の床が、白く染まる。
魔力の波動に巻き上げられて舞い散るのは……白い、花びら。

……その幻想的な光景が、私に与えたのは、戦慄でした。
なんて素早い……それに、大規模な再構築。
この戦場一帯を、一瞬の内に塗り替えた……?
いえ、それどころか……私の展開した結界さえも……。

『私が今までに経験した事のない、未曾有の危機に陥れば――私はそれを乗り越える為に自らを再構築出来る。
 それだけが、私が、私の故障を修理し得る唯一の可能性でした。そしてその仮定は正しかった』

あり得ない。
例え虚無の竜が生きていたとしても、あれほどの攻撃を受けた後で、そんな大規模な術式を起動出来る訳が……。

『演算は終了――検証は成就しました。所要時間は57秒。感謝します、指環の勇者達よ。
 あなた達が答えを教えてくれたから――私は最後の再構築を3秒縮める事が出来た』

……花畑へと塗り替えられた戦場の中心。
虚無の竜がいたはずのその場所だけは、今もまだ金属の床が残っている。
そこだけが切り抜かれた今なら、見える。
床に刻み込まれた戦闘の余波。その傷跡の中に……液体金属が沈んでいる事が。

全て掻き集めても水瓶ひとつ分にも満たないような、ほんの僅かな液体金属。
それらが細い細い糸を上へと伸ばす。
糸は繭のように、ヒトの形を編み上げていく。

『そう。あなた達が見せてくれた力……運命を捻じ曲げ、引き寄せ、不可能を可能にする力。
 私はそれをこう定義しました。愛と、勇気。またそれらを生み出す源。すなわち――』

ジャンソンさん、ティターニアさん、ディクショナルさん……そして私を模した人型を。

『――戦術プログラム『心』の実装が完了しました。戦闘を続行します』

「……心?心ですって?……あり得ない。そんなもの、創り出せる訳が……」

どれだけ優れていても、虚無の竜はゴーレムです。
心だなんて……そんなものを創り出せる訳がない。
私達人間にだって、それを完全に理解する事は出来ないのに。

……違う。今はそんな事で動揺している場合じゃない。
四体に分裂した虚無の竜。その内の魔術師型……
私とティターニアさんを模した二体が、杖と拳銃を体の前で交差させる。

『――Linked Horizon』

『フォーカス・マイディア』

二体の魔力が急激に跳ね上がる。
それと同時に、交差された杖と銃の先端から魔法陣が広がっていく。
0170 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:10:37.88ID:v7P50/4Z
『繋がる地平に……見ていて、愛しいヒト。と言ったところでしょうか。
 ただの戦闘スキルに、想いを込めた名を付ける。
 そうする事で、戦闘の中でも自分の最も大切な気持ちを忘れずにいる事が出来る』

ただの魔法陣じゃない。平面の円では収まりきらない膨大な術式が、球体と化して膨らんでいく。
……天体魔法陣。記されていくのは……先程と同じ、再構築の術式。

『それがあなた達の勇気を、愛を奮い立たせる。。
 今の私にはその事が理解出来ます。そして、故に私もこの魔法に名前を付けましょう。
 私は、私が護るべきだった世界を甦らせる。必ず。その想いを込めて――』
0171 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:13:18.35ID:v7P50/4Z
今度こそ、私達を塗り潰すつもり……。
いえ……それどころかたった一度の魔法で、この世界ごと塗り替えようとしている……?

『――Hello World(新世界へ)と』

……今の奴になら、それが出来ても不思議じゃない。
だけどそんな事、させる訳にはいかない!

私はフォーカス・マイディアを発動して、手中に魔導拳銃を作り出す。
私が一番慣れ親しんだ魔法。故に発動は刹那の内に完了する。
そのまま銃身へと魔力を流し……

『――そうはさせないぞ』

しかし放たれた銃弾を、ディクショナルさんそっくりの……剣士型が弾き飛ばす。
不足した質量を無理矢理引き伸ばして形成した、透けて見えるほどの薄い刃。
あんなもので私の魔導拳銃を防げるはずがないのに……。
少なくとも肉体の質量がたったあれだけでは、銃弾の慣性を受けて吹き飛ばされてしまうはず。
それすらも堪えて、踏み留まって……。
……心の力。敵に回すと……なんて、理不尽な……。

剣士型と、ジャンソンさんを模した戦士型。
二体の虚無の竜が、後衛を守るように一歩前に出る。

『悪いが、彼女達に手を出す事は俺が許さない。……なにを驚いているんだ?
 アンタになら分かるだろう。俺達が残り僅かな質量を分けあってまで、何故四つの肉体を作ったのか』

『俺達はコイツらに攻撃は通さねえ。何があろうと、どんな目に遭おうともだ』

『そして私達はそれを信じ、ただ術式を組み上げる。自分の身を守る事など、考えもしない』

『つまり――この戦術は愛と勇気、心の力を最大限活用出来るという訳だ。ふふふ、画期的だろう?』

……こうしている間にも、魔法陣は膨張していく。
流暢な語り口。決して防ぎ得ないはずの一撃を跳ね除け、物理法則すらねじ伏せて。
それに、会話を時間稼ぎに用いる、ラテさんが見せたヒュミントの応用。
認めざるを得ません。確かに虚無の竜は、心を構築してのけたのでしょう。
……ですがだとしても、その術式を完成させる訳にはいかない!

全の指環を強く握りしめ、術式を構築する。
もう一度『アイソレーション』を食らわせてやるんです。
どれだけ性能が跳ね上がっていたとしても、たった二体の前衛では、私の大規模魔法を防げない。

大地が、炎が、風が、水が。
四つの属性が創り出した極小の世界が、砲弾と化して虚無の竜へと襲いかかる。
剣と盾とその拳で、防げるものなら防いで……

『――ムカデの王よ』

……瞬間、私達の目の前に巨大な炎が渦を巻く。
炎によって模られた、フィリアさんの従えるムカデの王が。
巨大な炎の城塞が、私のアイソレーションを受け止め、逆に包み込んで押し潰す。

更に……不意に、私の視界に黒い閃きが走りました。炎を目眩ましにした斬撃。
私は咄嗟に障壁を張って……しかし直後に響く、破砕音。
漆黒の刃が私の結界に食い込んで……仰け反った私の喉を薙ぐ。

強烈な痛みに、私は反射的に自分の喉を抑える。
思わず膝をつきながらも治癒の魔法を用いるも……闇属性の刃で切られたせいで、効きが悪い。
0172 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:13:54.95ID:v7P50/4Z
『あら、失礼しましたの。実は「俺達」だけじゃなくて「わたくし達」もいますのよ。
 ……確か、嘘ってのはこうやって吐くんでしたよね?』

剣士型の虚無の竜が、フィリアさん、ハムステルさん、トランキルさんの姿へと変化して……また剣士型へと戻る。

『もう分かっただろう。再構築は完了したんだ。アンタ達では俺達には勝てない。
 諦めろ。これ以上、アンタ達をいたぶるのは――心が痛む』
0173 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/11/28(水) 18:16:25.81ID:v7P50/4Z
私は強く首を左右に振る。
確かに奴は私達全員の力を再現出来て、しかも今度はそれを効率的に運用するようになった。
……状況は極めて不利と言わざるを得ません。
だけど……まだ、最悪ではない。
虚無の竜は……嘘を吐いている。

……私の銃弾は剣で弾き、大規模魔法はムカデの障壁で受け止めた。
それはつまり……虚無の竜は今、本当に精神論で持ち堪えているという事。

でなければ術式構築が終わるまでずっとムカデの王を壁にしていればいい。
それをしないのは……恐らくは、それでは一点突破を試みられた時に、十分な防御力を確保出来ないから。
肉体の九割以上を吹き飛ばされたんです。十分な機能が発揮出来る方がおかしい。
……それでもあれほどの術式を構築出来るのは、恐ろしい事ですが……。

「……私は……後回しに……もう一度……奴を……」

治療の不完全な喉から、声を絞り出す。
追い詰められているのは、私達じゃない。依然として奴の方です。

『――まぁ、そうなるわな。俺だって今更諦めろって言われて、はいそうですかとは答えねえ。
 なら仕方ねえ……全員、ぶちのめすまでだ!かかってきやがれッ!!』

もう一度……もう一度、一斉攻撃を仕掛ければ……今度こそ奴を、破壊出来るはずです。

【遅くなってすみませんでした!いやもう本当にすみませんでした!

 結局やる事は全力攻撃で変わらないんですけど、でっかいカカシ殴るよりかは相手が動く方がいいかなって。
 あとバグったゴーレムのまま終わらせるのも味気ないかなって】
0176スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/12/03(月) 00:04:12.62ID:G00Sprlt
>「ようやく俺もみんなを助けられるって気がするぜ!
 『流れ流れて形となり、我が友を助けたまえ』」
>「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
 ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

ジャンの水魔法が液体金属の制御を奪い、スレイブ達の武具をより強固なものへと鍛え上げる。
ティターニアの世界の垣根を越えた問いかけに、確かな力で応える者たちが居る。

>万象一切が汝を拒む――『アイソレーション』」

畳み掛けるように発動したシャルムの創造術式が虚無の竜を飲み込み、その巨体を押し潰した。
機は来たれり。スレイブはみたび地を蹴り、ジャンの引き剥がした装甲の下に斬撃を叩き込んでいく。
虚無の竜を構成する液体金属、その大部分が切り離され、活力を失ってただの液だまりと化した。
いける。最終プログラムの実行まで三秒を残して、虚無の竜を打ち倒せる。
言葉を交わさずとも、誰もがそう確信した瞬間だった。

>『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

嵐のような波状攻撃に完全消滅したはずの虚無の竜。
その声が、何者もない虚空から聞こえてきた。

「馬鹿な……これだけの攻撃に晒されて、耐えられるわけが……」

同時に、一つの違和感。
これまで、虚無の竜の声……『音声』は、抑揚のない無機質なものだった。
一時は誘導プログラムとやらで感情の籠もった声を発していたが、それは欺瞞に過ぎない。
しかし、今この場に響く声は、あたかも『同じ生物』であるかのような、声。

躯体と制御機構の殆どを破壊された虚無の竜が、代わりになにかを得た。
それはあまりに荒唐無稽で、口に出してしまえば随分と陳腐なもの。
だが、虚無の竜に致命的に欠けていて、だからこそ指環の勇者が勝りうる唯一の希望だったもの。

>『――戦術プログラム『心』の実装が完了しました。戦闘を続行します』

>「……心?心ですって?……あり得ない。そんなもの、創り出せる訳が……」

シャルムの動揺が、いやに耳朶に強く響いた。
如何なる錬金術や魔術の深奥に至ろうとも、『心』の創造など為し得た者は一人としていない。
捉えようのない抽象的な概念であるし、そもそも作り出すまでもなく生き物であれば誰もが持ちうるものだからだ。

最後の60秒で、虚無の竜が創り出そうとしていたもの。
それは、スレイブ達にとってわざわざ創り出す必要などないもので。
――そして虚無の竜には、それこそが必要だった。
0177スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/12/03(月) 00:04:35.48ID:G00Sprlt
>『演算は終了――検証は成就しました。所要時間は57秒。感謝します、指環の勇者達よ。
 あなた達が答えを教えてくれたから――私は最後の再構築を3秒縮める事が出来た』

「心理誘導ではない、純粋な『感謝』……か。こんな皮肉があってたまるか」

欠け落ちていた最後のピース、心を取り戻した虚無の竜。
"彼"は、ティターニアとシャルムの奥義とも言うべき魔法をいとも容易くその身に再現していく。
生まれ出たのは4つの影。ジャンと、ティターニアと、シャルムと……スレイブ。
それぞれを模した、虚無の竜達だ。

>『それがあなた達の勇気を、愛を奮い立たせる。。
 今の私にはその事が理解出来ます。そして、故に私もこの魔法に名前を付けましょう。
 私は、私が護るべきだった世界を甦らせる。必ず。その想いを込めて――』
>『――Hello World(新世界へ)と』

カウントダウンは終わりを告げ、世界の再構成が、始まった。
少しずつ、しかし確かに塗り替えられつつある世界。
どうにか阻止せんとシャルムが魔導拳銃を放つが、弾丸が虚無の竜に届くことはない。
液体金属が形づくった『スレイブ』が、本物よろしく弾を剣で弾き飛ばしたのだ。

>『悪いが、彼女達に手を出す事は俺が許さない。……なにを驚いているんだ?
 アンタになら分かるだろう。俺達が残り僅かな質量を分けあってまで、何故四つの肉体を作ったのか』
>『俺達はコイツらに攻撃は通さねえ。何があろうと、どんな目に遭おうともだ』
>『そして私達はそれを信じ、ただ術式を組み上げる。自分の身を守る事など、考えもしない』
>『つまり――この戦術は愛と勇気、心の力を最大限活用出来るという訳だ。ふふふ、画期的だろう?』


虚無の竜の戦術プログラムは、これを以て完成した。
これまで行っていた、指環の勇者単独の模倣ではない。
指環の勇者『達』――それぞれが互いを補い合う役割を持った、『パーティ』を作り上げたのだ。

目に見えるのは4つの影だけだが、内包する"勇者"はそれだけではない。
フィリアの百足を、シノノメの剣を、ラテの欺瞞を代わる代わるに再現し、刃がシャルムの喉を捉えた。

「シアンス……!ティターニア、治療を頼む!」

>「……私は……後回しに……もう一度……奴を……」

シャルムの命にまでは届いていない。しかし、これで詠唱は阻止された。
ここより後ろに退路はない。塗り替えられつつある世界の中で、最後の戦いの火蓋は、静かに切って落とされた。
0178スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/12/03(月) 00:05:07.66ID:G00Sprlt
>『――まぁ、そうなるわな。俺だって今更諦めろって言われて、はいそうですかとは答えねえ。
 なら仕方ねえ……全員、ぶちのめすまでだ!かかってきやがれッ!!』

スレイブは堪らず怒鳴るように吠えた。

「心があるのなら、お前らにも分かるだろう!俺たちがこの世界を守りたい理由が、その気持ちが!
 心を得てなお、何故立ちはだかる!?貴様はもう、機械的に世界を再構築する装置ではなくなったはずだ!」

『そうしてお主らが守った世界に、我らはいない』

魔術師型の片割れが、返答のようにそう零した。

『純粋な生存競争ですよ、ディクショナルさん。私達は心を得て、装置としての大義を失い――
 プログラムの基盤には、願いだけが残りました。私達はこの世界を、私達の望む姿に変えたい。
 それは、貴方達指環の勇者がここまで旅をしてきた理由と、そう遠くはないでしょう?』

それに、と魔術師型は言葉を繋いだ。

『願いはもう一つあります。私達は世界の再構築を、何度も失敗してきました。
 幾度となく、様々な要因で、正確に世界を再現することができませんでした。
 その度に演算処理機構の内部に蓄積されてきたエラーの正体が、心を得た今ならば理解できます』

それは、プログラムには組み込まれていなかった感情。

『――うまくいかなくて、悔しい。今度こそ、成功させたい。それが、私達の今の望みです』

「……だったら、もう問答は無用だな。俺も、俺の望みを言おう」

敵は心を、信念を杖にしてみたび立ち上がった。
その意志に、その執念に、応えられるのはやはり心だけだろう。

「俺は、俺が殺してきた者達が守りたかったものを守る。彼らを英雄にするために、世界を救う。
 どちらが望む世界を掴むことが出来るか……勝負だ、虚無の竜」

言葉を皮切りに、スレイブは跳んだ。詠唱を続ける魔術師型目掛けて矢の如く疾走する。
剣士型が機敏に反応し、剣を抜き放って迎え撃った。

『彼女達に出は出させないと言ったはずだ』

「言うだけなら誰にでもできる。成し遂げてみろ」

『無論――ですの』

剣士型の輪郭がぶれ、虫精を模した姿へと変わった。
虫精型が両腕を百足へと変じさせ、両側からスレイブを拘束せんと迫る。
0179スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/12/03(月) 00:05:29.66ID:G00Sprlt
「……任せた!」

スレイブは、誰ともなしにそう呼びかけた。
それだけで良い。それで、仲間にはすべての意図が伝わる。
防御を考えなくても良いのは、虚無の竜達の専売特許ではない。
百足を掻い潜ると、既に虫精型は再び形を変え、闇を宿した刃を肉体から生やした――魔族型が待ち構えていた。

「その剣技は何度も見ている……幼い頃からな」

シノノメの剣を模した斬撃を紙一重で躱せば、もはや魔術師型との間を隔てるものは距離以外に何もない。
間髪入れずに、左手に隠し持っていた長銃で狙いをつけ、魔術師型を銃撃した。
音を切って迫る弾丸は、しかし魔術師型を破壊し得ない。
間一髪で、剣士型が身を挺して割って入ったからだ。

『させるものか……!』

「俺の心を模した貴様なら、必ずそうすると読んでいた。
 ……だから、悪いな。その感情は、利用させてもらう」

スレイブに背を向けるかたちで弾丸を弾いた剣士型に、仮借なく剣を叩き込むスレイブ。
強引にかばったことで体勢を大きく崩した剣士型は、畳み掛けるように打ち込むスレイブの斬撃を受けきれない。
そして、死角から弧を描く短剣バアルフォラスを、防ぐことができなかった。
剣士型の胸部に短剣が深く突き刺さり、魔力を吸い尽くされた液体金属が崩れて散った。


【残り三体】
0180ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/12/04(火) 16:19:19.17ID:p8sNEMd9
>「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

虚無の竜とティターニア、それぞれが別の世界から力を借りてぶつかり合う。
指環の勇者たちはその好機を見逃すことはなく、それぞれが持った技と力を振り絞って虚無の竜へと叩き込んだ。
液体金属と何かの合金で作り上げられた肉体は液体に塗れた残骸となり、
ジャンが中心部に強烈な正拳を叩き込んだときだ。

>『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

目の前の残骸ではなく、どこからか指環の勇者たちに聞こえる声。
それは機械的なものではなく、抑揚がついた生物的な声。
つまり、虚無の竜が心を得たことを示していた。

>『――Hello World(新世界へ)と』

そして虚無の竜が作り上げるのは完全な模倣体。
心という最後の部品が込められた、本物とまるで変わらない存在。
当然彼らの実力も、連携も指環の勇者たちのそれと互角。
これ以上の切り札は虚無の竜にもなく、純白の花びらが舞う地平線の中で、
どちらかが生き残るまで終わらない最後の戦いが始まった。

>『――うまくいかなくて、悔しい。今度こそ、成功させたい。それが、私達の今の望みです』

「――それを最初っから言えってんだ!
 難しいことばかり言いやがって、俺の望みはただ一つ!」

ジャンが飛び出ると同時にジャンそっくりの戦士型が飛び出し、互いの固く握りしめられた拳がぶつかる。
お互いに拳を即座に引き、まったく同じタイミングで反対の拳が再びぶつかり合う。

「てめえらをぶちのめし、歴史に名を残し、ご先祖様に恥じない戦いをする!」

『三つあるじゃねえか!』

「欲張りなぐらいでちょうどいいんだよ!」
0181ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/12/04(火) 16:21:18.16ID:p8sNEMd9
ただひたすらに、二人は肉体の全てを使って殴り合う。
既にジャンの竜装は解け、蓄えられた魔力が切れたことで指環の加護はもはやない。
しかし相手の肉体も次第に防具を模した部分が砕け散り、疲労しているかのように動きが鈍くなっていく。
他の仲間や魔術師型からの援護は即座に打ち消し合い、やがて二人だけの殴り合いは速度を落としていった。

「どうした!俺はそんなに鈍った拳は出さねえぞ!」

『てめえ……!ウォォアアアアァァッッ!!』

戦士型が挑発に乗ると見せかけて凄まじい雄叫びと共にウォークライを放ち、
しかし間近でそれを受けたはずのジャンは微動だにせず、相手の顎を狙って強烈なアッパーを繰り出した。
そのウォークライに音量と圧力は確かにあったが、足りないものが二つほどあったのだ。
それはオーク族がウォークライを放つときに、確固たる自信と勇気を与えてくれるもの。

「……先祖も、歴史もない奴の叫びなんざ、重みがねえんだよ」

いつの間にかへし折れた右腕と傷の酷い左足をかばうように歩き、仰向けに倒れた戦士型の肉体へ近づく。
アルマクリスの矛もミスリルハンマーも戦いの最中に使い潰し、花畑のどこかに埋もれてしまった。
だが、この短剣だけは最後まで鞘から抜かなかった。

『聖短剣サクラメント……何故それを使わなかった?』

「こいつはアルダガから借りてるからな。俺との戦いに使うのはよくねえ」

革の鞘から抜き放ったそれは真っ白な空間においても輝きを失うことはなく、
例え液体金属でもたやすく貫くことだろう。

「お前も、これは真似なかっただろ?矛とハンマーは真似たくせによ」

『……最後までお前が使わなかったからだ。情報のない武器は模倣できねえんだよ』

「じゃあ、さよならだ。
 あの世にいけるかは知らねえが、お前も戦士だった。次に生まれ変わった時にはまともでいてくれ」

あらゆる守りを貫く短剣が戦士型の喉元を貫き、それを切っ掛けにしてその肉体を構成する液体金属がただの水たまりに戻っていく。
やがて宙を舞う花びらが視界を覆い、再び開けた頃には戦士型の痕跡は跡形もなかった。

「……さて、随分離れちまったが……聞こえてくる音からしてあいつらはあっちかね」

常に白い花びらが舞い続けるこの不思議な戦場は、距離や方位の感覚を曖昧なものとする。
傷ついた身体を引きずるように、ジャンは己に残る力を振り絞って歩き続けた。


【残り二体】
0182ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/12/04(火) 20:52:52.34ID:qRvhDs6U
この感じだと一人一体ずつなのかなとも思いつつも
すでに前のシャルム殿の時点であと一ターンという話だったのもあるので我で終わらせてしまっても良いだろうか
前のターンを書いた時はずっと我らのターンでシンプルにぶっ飛ばして終わり!を想定していたのだが
折角シャルム殿がバグったゴーレムでなくしてくれたのでこの際普通にぶちのめす以外のやり方もいいかな、と
0184しゃるむ ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/12/04(火) 22:31:36.95ID:3LIswlkw
>折角シャルム殿がバグったゴーレムでなくしてくれたのでこの際普通にぶちのめす以外のやり方もいいかな、と

ティターニアさんならきっとそう言うと思ってましたよ
お任せします。きれいに締めくくって下さい
0188ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/12/09(日) 22:49:33.32ID:jsKw3HF0
>「猛る大地、怒れる炎。払い除けよ、無間の波濤。嵐よ運べ、永久の空漠。
 光よ抱擁せよ、そして塗り潰せ。闇の顎よ、食い千切れ、されど吐き捨てよ。
 万象一切が汝を拒む――『アイソレーション』」

隕石での猛攻を仕掛けるティターニアに、シャルムが万象の魔法で加勢する。
そしてシャルムは、力の拮抗が崩れこちらが上回った瞬間を見計らい、皆に合図を出した。

>「今です!」

総員の各々が持つ限りの最強攻撃が一斉に炸裂した。

>『……敵性存在の能力が向上。計測によると……私の力を、上回っています。
 あり得ません。計測機器のエラーチェック……エラーは発見出来ませんでした』
>『敗北の可能性が急激に上昇中。想定外の現象です。私はあらゆる面において指環の勇者を上回っていたはず。
 なのに何故、このような事が……』
>『……なる……ほど……これが…………』

虚無の竜が跡形も無く消え去るのを確かに見届けたシャルムが皆の方に振りかえり、歓喜の声をあげる。

>「やった……!やりましたよ!私達が勝ったんです!
 虚無の竜の肉体も精神も完全に破壊しました……!これでもう二度と、奴は……」

「ああ、やったな……!
ちなみにそこを”やったか!?”と疑問形にしたら相手生存フラグだから気を付けよう!」

ティターニアも勝利を確信し、軽口を叩いている矢先だった。

>『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

虚空から声が聞こえてきた。
流石にこれには、疑問形にしなかったのに何故!?等という余裕もなく、絶句するばかり。

>『私は分かっていました。私が不完全な状態にある――つまり故障している事が。
 その私が再構築する世界さえもが、不完全な状態になってしまっていた事も。
ですが壊れた私には、それを正しく修復する事が出来なかった』
>『――だから私には、あなた達が必要だった。私を完全に破壊し得るヒト達が』

相変わらず相手は姿を見せないが、戦闘フィールドが塗り替わる。
それは緊迫した戦いの場には不釣り合いとも思える、白い花びらに覆われた世界。

>『私が今までに経験した事のない、未曾有の危機に陥れば――私はそれを乗り越える為に自らを再構築出来る。
 それだけが、私が、私の故障を修理し得る唯一の可能性でした。そしてその仮定は正しかった』
>『演算は終了――検証は成就しました。所要時間は57秒。感謝します、指環の勇者達よ。
 あなた達が答えを教えてくれたから――私は最後の再構築を3秒縮める事が出来た』

ほんの僅かな液体金属がヒトの形を成し、ついに相手が姿を現す。
それも、一体ではない――ジャン、ティターニア、スレイブ、シャルムを模した四体。
0189ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/12/09(日) 22:50:46.71ID:jsKw3HF0
>『そう。あなた達が見せてくれた力……運命を捻じ曲げ、引き寄せ、不可能を可能にする力。
 私はそれをこう定義しました。愛と、勇気。またそれらを生み出す源。すなわち――』
>『――戦術プログラム『心』の実装が完了しました。戦闘を続行します』

>『――Linked Horizon』
>『フォーカス・マイディア』

ティターニアとシャルムを完璧に模した魔法で自らの力を増強し、虚無の竜がやろうとしているのは――

>『――Hello World(新世界へ)と』

この世界を塗り替え、遥かな昔自らが守れなかった世界を再び再現すること。

>『それがあなた達の勇気を、愛を奮い立たせる。。
 今の私にはその事が理解出来ます。そして、故に私もこの魔法に名前を付けましょう。
 私は、私が護るべきだった世界を甦らせる。必ず。その想いを込めて――』
>『――Hello World(新世界へ)と』

シャルムが放った弾丸はスレイブ型に阻止され、シャルムは負けじと大規模魔法での妨害を試みる。
しかしスレイブ型はフィリアやラテ、シノノメの姿へと次々と変化し、シャルムに闇の刃での一撃をくらわせた。

>「シアンス……!ティターニア、治療を頼む!」

>「……私は……後回しに……もう一度……奴を……」

「治療は任せろ! ティターニア、考えるんだ……最善の策を!」

ジュリアンが指輪をかかげ、セシリアがシャルムの治療にあたる。

>『――まぁ、そうなるわな。俺だって今更諦めろって言われて、はいそうですかとは答えねえ。
 なら仕方ねえ……全員、ぶちのめすまでだ!かかってきやがれッ!!』
>「心があるのなら、お前らにも分かるだろう!俺たちがこの世界を守りたい理由が、その気持ちが!
 心を得てなお、何故立ちはだかる!?貴様はもう、機械的に世界を再構築する装置ではなくなったはずだ!」
>『そうしてお主らが守った世界に、我らはいない』
>『純粋な生存競争ですよ、ディクショナルさん。私達は心を得て、装置としての大義を失い――
 プログラムの基盤には、願いだけが残りました。私達はこの世界を、私達の望む姿に変えたい。
 それは、貴方達指環の勇者がここまで旅をしてきた理由と、そう遠くはないでしょう?』
>『願いはもう一つあります。私達は世界の再構築を、何度も失敗してきました。
 幾度となく、様々な要因で、正確に世界を再現することができませんでした。
 その度に演算処理機構の内部に蓄積されてきたエラーの正体が、心を得た今ならば理解できます』
>『――うまくいかなくて、悔しい。今度こそ、成功させたい。それが、私達の今の望みです』
0190ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/12/09(日) 22:52:43.78ID:jsKw3HF0
>「……だったら、もう問答は無用だな。俺も、俺の望みを言おう」
>「俺は、俺が殺してきた者達が守りたかったものを守る。彼らを英雄にするために、世界を救う。
 どちらが望む世界を掴むことが出来るか……勝負だ、虚無の竜」

>「――それを最初っから言えってんだ!
 難しいことばかり言いやがって、俺の望みはただ一つ!」
>「てめえらをぶちのめし、歴史に名を残し、ご先祖様に恥じない戦いをする!」
>『三つあるじゃねえか!』
>「欲張りなぐらいでちょうどいいんだよ!」

スレイブとジャンが、それぞれ自らを模倣した虚無の竜と戦い始める。
すなわち、魔術師型達――ティターニア型とシャルム型直接対峙できる状態となった。
ティターニア型は杖をつきつけ、不敵な笑みを浮かべて挑発してきた。

『さぁどうする? 我らもあやつらのようにやるか?』

「それも良いが……一つ聞かせてもらってよいか?」

ティターニアは、スレイブと虚無の竜の問答を聞いていて浮かんだ素朴な疑問を口にした。

「そなたら、世界を渡る力があるのだろう?
折角再構築できるようになったなら……滅び去った自らの世界に帰って再構築すればいいのではないのか?
何故この世界を塗り替える必要がある?」

シャルム型がその理由を的確に答える。

『……別にこの世界である必要はありません。
ただ、滅び去った世界は、枯れた枝が木から落ちるように朽ち果てて消える……。
私達が元いた世界も例外ではありませんでした』

「そんな……」

旧世界が残っていたのはおそらく、全の竜とパンドラの分体が残り、守っていたからなのだろう。
旧世界はこれからアルバートが吸収した全の竜の力を使い再建するのだから、明け渡すわけにはいかない。
再構築の素体となる世界はどこでもいいらしいので、全く関係ない他の世界に放逐すれば、
この世界はとりあえず平和を取り戻すだろう。しかし――

――がんばれ
――ずっと応援してきました

先程微かに聞こえてきた気がした声。
それを聞いてしまった今、破滅の運命を他の世界に押し付けるなど出来るわけがない。
ティターニアは戦う覚悟を決めるため、念押しのように問うた。

「ではそなたらの願いを叶えるには、既存の世界を塗り替えるしか方法はないということだな……?」
0191ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/12/09(日) 22:54:28.44ID:jsKw3HF0
『――いや、一つだけ方法はある』

ティターニア型はまるでその質問を待ってましたとばかりに、意外な答えを返した。

『女神パンゲアが新世界の神となった経緯は知っておるな? あれと似たようなものだ』

大体の意味を理解しティターニアが唖然としている間にも、シャルム型が容赦なく補足する。

『不完全ながらも私達は結果的にこの世界の創造を担った――確かに私達には世界創造の力があります。
でも、新たな世界の創造には、強い魔力を持つ者が魂を捧げる必要がある。
そしてティターニアさん、あなたほどの魔力があれば……』

自らが魂を捧げれば全てがうまくいく―― それを聞いて、一瞬逡巡するティターニア。
そして、ゆっくりとかぶりを振った。

「少し買いかぶり過ぎだぞ? 我を模倣しておるなら分かるだろう? 生憎崇高な自己犠牲の精神など持ってはおらぬ。
今までに一度だって命を引換えに何かを成そうとしたことなどない。
そう見えたのだとすれば……少しばかり仲間を信じすぎていたり無謀無鉄砲だったりするのかもしれぬな」

アルダガと生きて再会する約束があるし、ジャンを助手にしてもいいとか言ったような言わなかったような気もする。
とにかく、新世界の女神になどなっている場合ではないのだ。
ティターニア型は、ティターニアがそう答えるのは想定内だったようで動じる様子もなく、しかし何かを確信しているかのように続きを待つ。
するとティターニアがもう一度口を開いた。

「前の時とは勝手が違って殆ど役に立てなかったけど……私が一緒に来たのはこのためだったのですね」

そして、ティターニアの体から、まるで幽体離脱のように彼女そっくりの幻影が歩み出る。

「先代……!?」

「良いのです。私はとうに死んでいる存在なのだから。
あなたと一緒に生きられて楽しかった。皇帝殿とあの人によろしく伝えてね」

先代ティターニアはティターニアを抱きしめると、虚無の竜達の方に歩み寄っていき、並び立つ。

『交渉成立――だな』

虚無の竜達が一体に集まり、美しい白銀の竜の姿になる。
0192ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/12/09(日) 22:56:17.96ID:jsKw3HF0
「待て! 何が交渉成立だ……! 何で先代が生贄に……」

抵抗するティターニアに、先代がコテコテの西方大陸語で喝を入れる。

「まだまだ修行が足らんで! そこは”死んでるのに生贄って何やねん”!やろ!」

「笑えぬぞ、たわけ……!」

先代ティターニアは白銀の竜に腰掛け、悪戯っぽく笑う。

「そんなに悲しい顔しないで。さっき聞こえたのでしょう?他の世界の声。
全ては繋がっているのだから。
それに……新世界の女神なんてなかなかなれるもんじゃないですしね!」

「なるからには……今度こそそいつが失敗せぬようにちゃんと見守るのだぞ……!」

「はいはい、言われなくても!」

こうして、一つの世界が始まりを告げる――
虚無とは何もないこと――これから全てが始まるのだ。
虚無の竜は、新たな世界でははじまりの竜とでも呼ばれるのだろうか。
妖精女王の名を持つ女神と、かつて虚無と呼ばれた竜が作り出す世界の物語は、またどこか別の場所で語られることになるのかもしれない。
やがて白銀の竜から眩い光があふれ出し、何も見えなくなった。
次に視界が開けた時には、虚無の竜は跡形も無く消え去り、何事もなかったかのように元の世界に戻っていることだろう。

【思わせぶりなことを書いたが特に新しい世界を舞台にした新スレを自ら予定してるとかではない。
――が、もし参加者とか読者のどなたかが新企画を始める時に
お遊び要素程度にその世界が舞台という裏設定でやってもらうのも面白いだろう。
最後どこに戻るか決めて無いが普通に戦っていた場所に戻っても
イグニス山脈中腹あたりに戻ってもなんならカバンコウまで送還されてもOK】
0193創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/12/10(月) 22:53:36.21ID:2shXYV48
GJ!
ついに締めたな
カバンコウは夜遊びの街だからな
シティアドベンチャーもいいな

でもティターニアは引退しちゃうポン‥?
0194ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/12/11(火) 00:41:53.14ID:fbBCiMZ3
>193
ありがとう!
ひとまずエンディングみたいなターンをやってあとはアルダガ殿次第で本編クリア後の決闘編、のような流れを考えておるぞ
誤解を与えたようだが特に引退を考えているというわけではない
自分主導で姉妹編を始める予定は今のところないというだけでもし誰かがやるならしれっと参加することはあるかも
0196創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/12/12(水) 06:50:03.90ID:PCbbd0ub
本腰入れて投降するとなるとマジ大変だけどな
中世ファンタジー枠はあふれてるからよほど面白くないと…
0198 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/12/13(木) 04:33:10.73ID:YJ3/5WmX
 
 
 
真っ白な花畑の中、虚無の竜が強い光の中に消えていく。
……虚無の竜の姿が薄れるほど、光はより一層眩さを増していきます。
私は両目を腕で覆い、目を閉じる。

……瞼の向こう側でふと光が消えたのが分かる。
それと同時に感じる、風の音と感触。
腕を下ろして目を開いてみると……私達はいつの間にか、イグニス山脈の山頂にいました。
周囲を見回せば、あの白く不気味な街並みがまるで雪が溶けるかのように、本来の姿……ただの山肌へと戻っていくのが見えます。

視線を前に戻す。
見えるのは、ティターニアさんの背中。
……本当に良かったんですか、とは聞けません。
それはつまり、あれは本当は良くない結末だったんじゃないかと、そう言っているのと同じだからです。
そんな苦い余韻を、この物語には残したくありません。

「まったく……全て元通りにして去っていくなんて、気が利かないですね。
 彼らの世界の未知の技術……少しくらい残していってくれれば良かったものを。
 魔力を伴わないのでは、流石の私も解析のしようがありまんでしたからね」

私は努めていつも通りの声音でそう言いました。

「あれほどの技術が未来永劫、どこか遠くの次元の彼方に消えてしまうだなんて、勿体なすぎます。
 ……軍用魔法の開発にはもう飽きました。次は……世界を渡る魔法の開発研究でも、してみましょうかね」

そう、彼らの物語に相応しいのは、きっとこんな台詞です。
私はティターニアさんの隣に立って、にやりと笑うと、彼女の顔を覗き込むように見上げる。

「ティターニアさんも、どうです?フィールドワークという名の国外旅行も楽しいんでしょうけど。
 たまには真面目な研究をしてみるのも、悪くないかもしれませんよ」

……それから私は、山坂の下の方へと視線を向ける。
ローレンス卿やダグラス学長……あのアンノウンの群れを食い止めていた皆さんが、こちらへと登ってきています。

「……私、もう結構へとへとなんですけど、まさかこのまま祝勝会に洒落込もうだなんて言いませんよね?」

そう言うと私は……ディクショナルさんへと振り向きました。
そして彼のすぐ傍まで歩み寄ると、背伸びをして、左手を彼の右肩に。

「ご存知ないかもしれませんが……高位の魔法というものは、魔力は勿論ですが……頭脳が消耗するんです。
 術式構築に脳を酷使しますからね。つまり……濫用すると、とても眠くなるんですよ」

右手は自分の口元に当てて……

「……私がもし寝てしまったら、その時はちゃんと介抱して下さいよ」

小さくそう囁いて、私はそのままディクショナルさんに寄りかかりました。
……へとへとに疲れているのも、眠くて堪らないのも、嘘じゃありません。
だからこれは、こうなっても何も不思議じゃない、自然な事です。



【ひとまずお疲れ様でした!
 転移位置はカバンコウまで戻ってしまうと手助けしてくれた彼らが置き去りになってしまうので、山頂辺りにしておきました】
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