喋繰り


ティナー地方の芸能の一に「喋繰(しゃべく)り」と言う物がある。
その名の通り、面白い事を喋って、客を笑わせる物。
笑えるだけでなく、知的な言い回しがあると、尚良(なおよし)とされる。
昔は通りで高台に立ち、「聞きなっしゃい、聞きなっしゃい」と通行人に呼び掛けて、
人が集まった所で話し始めたと言う。
面白ければ銭を投げられ、詰まらなければ石を投げられた。
大元は噂話や吉事、凶事、店の宣伝、新しい法律等を集落に伝える、「触れ回り」とされる。
開花期になると、交通法が改められ、通りで勝手な商売が出来なくなった。
その為、宿や屋敷の一間を借りて、「喋繰り」を披露する様になる。
この頃から挨拶に、「よう来なはった」が加わり、「よう来なはりました、まあ聞いとくんなはれ」が、
話初(はなしはじめ)の挨拶として定型化する。
「喋繰り小屋」と称する専用の劇場が建てられた事もあったが、極少数の例を除いて、
平穏期の中頃には殆どが廃業した。
景気の後退や、娯楽の多様化で、客足が遠退いた事が原因とされる。
現在の「喋繰り」は話芸の一種、それも伝統芸能として、細々と生き残っている。
喋繰りに必要な才能は、「度胸」、「閃き」、「声」と「舌」。
伝統芸能でありながら、現在でも血統より実力が重視される。
その様は「血は要らぬ、耳で覚えろ、舌回せ」と語られ、実力者の下に弟子が集う。