「ですが老齢に達すると性欲が霧散し、突然美術や医術、哲学に魔術、政治といったこと学問的なことに対する欲求が起こり極めようとします。
長老と呼ばれる彼等がそうです。
彼等は大族長や族長の諮問を担当する賢者達であり相談役なのです。」
「先にそれを話して欲しかった。」
「勘違いなされては困りますが、私は別に貴殿等の味方というわけでわないのですよ?
寧ろ貴殿等が私の権益を犯さないか憂慮している。」

シルベール伯爵は自分の知識や経験が交渉には不可欠だと、自分達に売り込んでいるのだと杉村は悟る。
外務局員達は深刻な顔で対策を考えている。
その中若手の局員が思い詰めたように呟く。

「性欲が抜けて賢者に?
・・・賢者モードか・・・」

杉村はその若手に書類を叩きつけた。

「つまらんことを言うな。」
「賢者モードとは何ですか?」

シルベール伯爵も真面目な顔で聞いてくる。
だが総督府と連絡を取っていた局員がパソコンを通じてプリントアウトしてきた書類を杉村に見せると彼の顔は豹変し、まわりの局員達も書類を見せられ雰囲気が変わっていく。
シルベール伯爵も場の空気が変わったことを悟る。
まるで示しあわせたかのように沈黙する外務局員達を不気味に思いつつ会議が再開される。

「話の続きの前に現在起こっている事態を説明しましょう。
まず我々は今回の会談を打ち切る準備があります。」

突然の総督府外務局の豹変ぶりに長老達も緊張を新たにしていた。


大陸東部
東西線『よさこい3号』
機関車から少し離れた場所、ケンタウルス達が築いたバリケードを、機関士大沢達が必死に突き崩していた。

「壁の外側は最後だ。
連中に気がついたら台無しだからな。」
「おやっさん、外側だけなら機関車で強引に突破できないかな?」

車掌の平田の提案に大沢は考え込む。
だがシャベルを持つ手は休めていない。
列車を傷付けない為と前方が確認出来ないから今回は停車させた。
しかし、バリケードをある程度排除し、状況が確認出来た今なら出来ると言える。

「やれるな・・・よし、お前らは機関車を動かす為に戻れ。
俺らはもう少しバリケードを薄くする。
準備が出来たら俺らも戻る。」

機関助手達を機関車に戻らせ、車掌達とバリケードの撤去作業を続ける。


九号車両の壁が破壊され、鉄道公安官の二人と浅井は八号車両に移動したが、ここの壁も破壊され始めた。
浅井のAKも久田と建川の猟銃もすでに弾はない。

「さて、白兵戦か。二人は下がっててくれ。」
「いえ、もう少しお付き合いしますよ。」

浅井はナイフを鉄道公安官二人は鉈を構える。
刃渡りはどう見ても浅井のナイフよりでかい。