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日本が異世界に転移した第1(84)章
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0002始末記垢版2018/06/12(火) 02:38:18.32ID:gG5qxPam
まあ、私が被害担当スレ作っても問題ないでしょう
では、続き投下
0003始末記垢版2018/06/12(火) 02:39:20.34ID:gG5qxPam
モンスターや海賊がいる世界では、武道系の部活が実戦を意識した傾向に全国的になりつつある。
また、彼等の中には大陸で冒険者に憧れ、夢見ている者も少数ながらいて嬉々として参戦していた。

「やりすぎだろう
いつの時代だよ、まったく・・・」
「地域によっては、大筒まで再現したところもあるそうですよ。」
「マジか?
・・・我々が来た意味無くなりそうだから早く参戦しよう。」

宮迫警部は市民の自警ぶりにドン引きしながらも県警SATを率いて、平戸城に群がるハーピーの駆除に加わった。
すでに掃討は時間の問題だった。


北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

福岡、佐賀、長崎3県で起きた騒動はラジオで逐一、状況が報道されていた。
ナルコフ船長はこのまま日本の領海に留まるのは危険と判断し、船を外洋に向けて航行させていた。
死者は高麗で12名、日本で28名と発表された。
負傷者は両国で3800名を越える。
大半が自衛官や警官というから大変な戦果と言えた。

「まあ、今回は上手くいった方かな?」

今回は実験的な意味が強く、モンスターを使ったテロでは効果的だった。
モンスターを輸送するには、ホワイト中佐による時間凍結の魔法が必要なのは難点だ。
合流した帝国軍残党にも魔術の使い手はいるが、ホワイト中佐の魔法は大陸の魔術とは系統が違うらしい。
ホワイト中佐一人に支えられる現体制は不安定だった。
ナルコフや残党軍の指揮官達はどこかで、落とし所を望んでいるが、ホワイト中佐は違う。
どこかでホワイト中佐を切る必要はあると思うが、ロシアマフィアの幹部だったナルコフも地球側同盟国並びに都市に帰属を望めば投獄は免れない身だ。

「まあ、もう少し付き合ってはやるがな。」

感慨に耽っていると、レーダーにこの船を追跡してくる艦影が映し出されとの報告に眉を潜める。

追跡艦はこちらに停船せよと、無線で警告を送ってきている。

高麗国のフリゲート『大邱』であった。
『大邱』、転移前の巨済の大宇 造船所で起工されていた艦だ。
高麗国独立まで建造が凍結され、最近までは西方大陸派遣艦隊で活躍していた。
しかし、百済サミット並びに高麗・北サハリン襲撃事件を期に、高麗国防衛の穴埋めとして呼び戻されたばかりだった。
速度で老朽貨物船の『ナジェージダ・アリルーエワ』が振り切ることは無理だった。

「『海洋結界』はすでに抜けている。
13番コンテナを海中に投下しろ。」

コンテナは国際規格の三倍の大きさだ。
いざという時の切り札はまだ残してある。

「しっかし、あんなものどっから拾って来たんだ?」



フリゲート『大邱』

『大邱』のブリッジでは緊急接近する物体に、Mk 45 5インチ砲で狙いを付けるべく待ち受けていた。

「敵は海中か?」

艦長は近くまで来ている筈なのに姿を見せない敵に苛立ちを見せている。
小型の水中生物の相手はやりずらい。
0004始末記垢版2018/06/12(火) 02:43:32.79ID:gG5qxPam
その生物に至近距離まで接近され艦の真下を通過された。
水柱が艦の後方に立つと共に後部の飛行甲板に『ソレ』が降り立った。
臨検の乗員が小銃を構えて、『それ』に狙いを定めるが、あまりの悪臭に嘔吐する者が続出した。
全長9メートル程の個体は一見小型の竜に見えた。
しかし、その肉体は明らかに腐食していた。


田助港

炎上する貨物船の鎮火をすべく、巡視船からの放水が始まっていた。
すでに市内のハーピーは駆逐し、港に到着した消防車も消火に参加している。
貨物船は巨大な船倉に幾つかのコンテナが積載されていたらしく、そこにハーピーや卵が積載されていたと、推定されていた。
だが同時にコンテナでは無く、船倉に直接眠らされていたモノが目を覚ました。
脆くなった甲板をぶち破り、頭部を外に覗かせたそれは、巡視船の姿を見た瞬間、咆哮を放った。
魔力の籠められた咆哮を聞いた人間達は、その場に立ち尽くして気の弱い者は意識を失っていく。

「防衛フェリー『かもづる』通信途絶!!」
「特別警備隊、第1から4小隊も連絡が取れません!!」
「ミサイル艇『しらたか』、『おおたか』、通信途絶!!」

混乱は自衛隊だけではない


平戸警察署

「現場に派遣した警官、誰も連絡が取れません!!」
「無線機、個人携帯、何でもいいから連絡を取ってみろ!!」

署に残った婦警達が、知ってる限りの現場に派遣された警官達の個人携帯に電話を掛けているが誰も出ない。

「署長、海保からも田助港の巡視船『ちくご』が連絡が取れないと。
ハゲ島を探索していた『あまみ』が向かってますが、こっちの警官も向かわせて欲しいと・・・」

それどころでは無いのだが、警察にはまだ手駒があった。

「県警SATと水上警備艇を田助港に向かわせろ。
それと江迎署の警官隊を平戸港まで移動する様に要請しろ。」

ようやく事態が終息したと終わったらまだ一波乱が起きそうな展開に、署長はうんざりとしていた。
「署長、大村の陸上自衛隊の第21普通科連隊。
県警機動隊が平戸大橋を通過しました。」

それだけでは無い。

「目達原の第3対戦車ヘリコプター隊が作戦行動を開始する為に、住民の避難活動を要請して来ました。」

避難活動はとっくに終わっている。
それよりも強力な火力を持った部隊が、続々と到着したことに署員達は色めき立つ。



現地ではかろうじて意識を失っていなかった警官や海上保安官、自衛官達が抵抗を続けていた。
貨物船から出てきたモンスターは、いつの間にか識者がアンデット・ドラゴンと命名されている。

「識者って誰だよ!!」
「知らん!!」

田口一曹は、遺体収容の為に『かもづる』船内の冷凍倉庫にいたのが幸いした。
0005始末記垢版2018/06/12(火) 02:48:22.78ID:gG5qxPam
竜の咆哮は届かず、冷凍倉庫で他の隊員や乗員が倒れていたのに気が付いた。
タラップから船外に出ると、外も同様な状況の様だった。
そして、貨物船の甲板には巨大なモンスターがいる。
桟橋に倒れている隊員達を保護しつつ、同様に無事だった隊員とモンスターに対して発砲する。
他にも無事だった自衛官、警官、海上保安官も港や船から銃火器を発砲してそれに続く。
アンデット・ドラゴンの名称は、ヘッドフォンをしていて無事だった報道関係者から聞いたものだった。
特別警備隊は船内の活動が本来の任務なので、重火器を装備してないのは痛かった。
幸いなことに、アンデット・ドラゴンは手近なハーピーの死体を食い漁っているので、歩みは遅く人間に被害はまだ無い。
肉体が腐っている為か、翼をはばかせて飛ぶことは出来ないようだ。

「ここを通すな!!」

田口一曹は銃を持った者達を桟橋に集めて、前進を阻止すべく攻撃する。
その中には89式小銃を拾ってきた平戸署の副署長も混じっている。
だが頑健な鱗は健在であり、銃弾では貫くことが出来ない。
絶望的な戦いだが彼らの耳にはヘリコプターのローター音が届くと希望が湧いてくる。
戦っている者達だけでは無く、竜の咆哮で恐慌に陥っている者達が再び銃を手に取り始めた。


8機のAH-1 コブラは田助港に向かい、識者に命名されたアンデット・ドラゴンを包囲するように飛行する。
桟橋では車両でバリケードを作り、銃器で抵抗が続けられている。

『騎兵隊の到着だ。
味方に当てるなよ?
全機、攻撃を開始せよ。』

M197旋回式3銃身20mm機関砲から合計6480発が撃ち込まれ、アンデット・ドラゴンは細切れになり、桟橋まで粉砕されていた。

「や、やり過ぎだ・・・」

機関砲による弾雨を背後に、港に走りながら退避していた田口一曹は叫びながらも事件が終わったことに安堵していた。


平戸市田助港

事態が解決した平戸では、援軍の到着した第21普通科連隊や県警機動隊の隊員達が街中で打ち捨てられたハーピーの死体の回収が行われていた。
同時にハーピーの歌やアンデット・ドラゴンの咆哮で、心身喪失した隊員や警官達の回収もだ。
唐津からの報告では、同様の状態に陥った者達が回復しているとの報告もあがっている。
平戸の回収者達も直に回復すると、安堵の空気が漂っていた。
佐世保特別警備隊の田口一曹は。戦い続けたこともあり、休憩を兼ねて桟橋を散策していた。
粉砕されたアンデット・ドラゴン周辺を見て違和感に気がついた。

「ハーピーが喰われてる?」

アンデット・ドラゴンとの戦いの最中にハーピーが食われているのは何度も目撃した。
落ち着いて思い出してみると、アンデット・ドラゴンは海上に漂うハーピーの死体も喰っていたのだ。
海上には『海洋結界』が存在したはずだ。
海上に墜落したハーピーは、『海洋結界』に触れて狂死している。
その死体が喰われているのだ。

「アンデットだからか?
いや、実験は行われたからそんな筈はないはずだ。」

アンデットに『海洋結界』が効果があることを横須賀の研究所が行い、実証された筈だ。
食い散らされたハーピーの数は無数に打ち捨てられている。

「『海洋結界』が効かないモンスターがいる?」

自らが辿り着いた答えに戦慄し、上官の元に具申すべく駆け出していった。
0006始末記垢版2018/06/12(火) 02:56:51.61ID:gG5qxPam
翌日の東京市ヶ谷
防衛省

「最終的な自衛官の殉職者は13名。
警察官、海上保安庁も23名の殉職者を出してしまいました。
また、民間人の死者も28名。
負傷者は官民合わせて五千人を越えます。」

統合司令の哀川陸将が、乃村利正防衛大臣に報告する。
会議室には防衛省、自衛隊、警察、海上保安庁幹部が集まっていた。

「『歌』や『咆哮』で意識を失っていた者達の容態は?」
「一晩寝たら概ね回復の傾向にあります。
最も王国や子爵の話によると、この世界の人間なら30分もあれば回復するものだとか。
やはり我々はこの世界の人間より魔力に対する耐性は無いようです。」

その反面で、民間人の中でもこの世界に来てから生まれた子供達には影響は少なかったことが実証された。

「ハーピー達は『海洋結界』に守られる我が国の海からは餌が調達出来ないことから、避難の完了した地域に展開した警官や自衛官が狙われました。
武器を持った者に優先的に襲いかかったおかげで、被害は最小限に済んだと言えるでしょう。」

哀川陸将軍の言葉に警察幹部が反発を覚える。

「最小限ですと?
うちは平戸署が死傷者多数で、機能停止。
海保も巡視船2隻が港の突っ込んで中破だぞ。
あの帝国との戦争以来最大の被害なんだ。
だいたい自衛隊は高麗にハーピーを討伐に向かったんじゃなかったのか!!
なぜ、日本に奴等が飛来する羽目になったんだ!!
そして、あの貨物船はいったいなんだったんだ!!」

確かにハーピーやアンデット・ドラゴンを積載した貨物船には謎が多かった。
その点に関しては海保の幹部が立ち上がる。

「あの貨物船は海保並びに全国の港湾局に日本に立ちよった記録がありませんでした。
つまり、転移当時日本領海或いは近海の公海を航行中に転移に巻き込まれた1隻と考えられます。」

転移当時、日本政府は日本近海を飛行、或いは航行していた船舶に国籍問わずにあらゆる通信体で、日本に留まるように呼び掛けた。
自衛隊や海保も総動員でエスコートに参加していたので、覚えている者も多い。
このエスコート任務には在日米軍も加わっている。
しかし、人工衛星が全て失われ、通信や捜索可能な範囲に大きく制限が掛かってしまった。
また、異世界転移を戯れ言と日本政府の警告を無視した船舶も多かった。
脛に傷を持つ船などは、むしろ速度を上げて逃げ去っていった。

「そうした船の1隻か・・・
なるほど、『長征7号』の例もある。
我々が把握している以上に多いんだろな、そういった行方不明船は。」

乃村大臣の言葉に海保と警察の両幹部が席に座る。

「貨物船の詳細については、各捜査機関に任せるとしてだ。
最後に出てきたアンデット・ドラゴン、あれはまずい。
ハーピーもだが、船舶にモンスターを積載して日本や大陸領土に突入させてくるテロは絶対に防がないといけない。
それとな、気になる報告だが、こいつは海上に墜ちたハーピーの死骸を食ってたそうだ。」

会議室の面々は驚愕の声をあげる。

「今、子爵殿と王国大使館で検証してもらっているが、どうやら竜種には『海洋結界』が効果が薄いという結果が出そうだ。」
「そんな・・・、だから隅田川に水竜の群れが侵入出来たのか・・・」
0007始末記垢版2018/06/12(火) 03:00:59.44ID:gG5qxPam
警視庁が総力を結集して退治した『隅田川水竜襲撃事件』を思いだし、警察幹部は冷や汗を垂らす。

「『海洋結界』は年々、範囲が狭まっている。
いずれその効果が消滅することを前提に我々は防衛体制を整えなければならない。
今回の責任問題を我々に追及してくる声もあるが、我々の予算要求に尽く抵抗してくる財務省に今回の件を被ってもらう。
関係各機関はその方向で情報統制を進めてくれ。」

与党右派と野党日本国民戦線の主張通りに軍備増強の口実になるだろう。
会議の結論を述べて、解散となった。
それぞれの担当者には被災地域に対する支援や地元組織の再建など、仕事が山積みなのだ。
大臣秘書の白戸昭美が執務室で資料を渡してきた。
白戸は既に乃村の次男と入籍を済ませているが、夫婦別姓で名字は変えていない。

「高麗側の被害です。
民間人の死者48名、国防警備隊の殉職者19名。
御自慢の新鋭フリゲート『大邱』が中破してドック入りしました。
不審船の『大邱』にも小型のアンデットドラゴンが襲いかかったようです。
どうにか始末出来たようですが、甚大な損害が出ていたそうです。」

冗談抜きで帝国との戦争以来の損害だった。
実際のところ、日本本国ではともかく、高麗国の鳥島諸島において、ハーピーの駆除作戦はいまだに続いている。
幾つかの無人島に巣を作られた形跡があり、住みつかれたようだ。
ハーピーが空を飛んで、無人島から無人島にと、逃げ回っているので、人員の足りない国防警備隊だけでは手に負えないのだ。

「こちらに来るほど数が増えなければいい。
連中にも少しは苦労してもらおう。」
「海棲亜人による襲撃事件も加えると、ろくな目にあってないから少し可哀想な気がしますが・・・」

息子の嫁の言葉に話題を変えることにした。

「府中の子爵様の報告も来てるな。
あのアンデット・ドラゴンの作成には、人間の魂千体以上必要だそうだ。。
いったいどんな奴の仕業だろうな。」
「会議の場では、誰もテロリストの正体に付いて口に出しませんでしたね。」

テロ集団が従来の帝国残党軍と違い、高い技術力を有していることから、地球人の集まりであることは明白だ。
その事の公表は地球系同盟国並びに独立都市の足並みを乱す可能性がある。
薄々は誰もが勘づいており、はみだし者達の行き着く先となっている。

「今はまだ泳がす。
連中も地盤固めの為に王国と度々衝突してるようだからな。
王国を消耗させ、手に負えなくなった時に、一気呵成に叩き潰す。
精々我々にとっての良い当て馬になってくれることを望むよ。」

国民を満足に食べさせられない日本は、その敵意を向けれる外敵を欲している。
西方大陸で活躍する派遣隊が活躍するニュースだけでは足りないのだ。

「それは亡国への道かも知れませんよ?」

白戸の言葉に乃村は肩を竦める。

「ああ、だから我々も第二の日本を造るまでの時間を稼ぐ必要があるのだ。」



大陸西部
ブライバッハ子爵領

現ホラティウス侯爵に成り済ました元アメリカ空軍チャールズ・L ・ホワイト中佐は、解放軍兵士たちともに、ホラティウス侯爵領から幾つもの領地を経由して、ブライバッハ子爵領の海に面した崖道を歩いていた。
ブライバッハ子爵は、帝国残党軍を支援する門閥貴族の一人で、有るものを何年も王国や日本から隠していた。
0008始末記垢版2018/06/12(火) 03:33:46.73ID:gG5qxPam
「この地域は十数年も立入禁止にしている。
領民でもほとんど知られていない。」

案内を自らがするブライバッハ子爵にホワイト元中佐は、興味深く尋ねる。
偽装された崖にある洞窟に入るのだから、警戒も怠っていない。

「乗員が何百人もいた筈だが?」
「500人ほどいたかな?
大多数は歓迎の宴で毒殺したよ。
立て籠った連中も人質をとって、投降したところで始末した。
その後に日本との戦争が始まったので隠蔽して沈黙を守っていたが、帝国が滅んだ以上、あれはとんだ不良物件だ。
持ち去ってくれると助かる。」

やがて、広い空間に入る。
そこに仮設された桟橋に係留された大型の『艦』をみて、ホワイト中佐は感嘆の声をあげる。

「素晴らしい。
まさかこれほどのモノとは・・・」

ミストラル級強襲揚陸艦『ディズミュド』。
乗員を失ったその艦は静かにその艦体に錆を浮かせて、停泊していた。
乗員の手配、長年放置されていたことからの整備など、数々の問題が浮き上がっているが、ホワイト中佐の中では崩壊する地球系の都市が脳裏を占めていた。
0009始末記垢版2018/06/12(火) 03:34:05.58ID:gG5qxPam
では投下完了
0088始末記垢版2018/06/12(火) 21:21:28.11ID:gG5qxPam
大陸南部
ハイライン侯爵家が南部に港町を建設する計画は周辺地域に降って湧いた好景気をもたらしていた。
旧ノディオンの商人リュードは侯爵家の要請もあり、王都で開いていた店を畳んでハイライン侯爵領に向かっていた。
資産と家族の人数はそれなりにあるので馬車を七台仕立ててることとなった。
同様にハイライン侯爵領に向かう旧ノディオン住民達と合流し、馬車15台の大規模なキャラバンのようだ。
いずれも商人ばかりだから間違いでもない。
安全の為に傭兵も20人ばかりを雇っている。
いずれも十代から二十代の傭兵達なので、3人いる娘や妻や3人の妾に手を出さないか心配である。
だが三十代、四十代の傭兵など信用ならないから仕方がない。
この年代の傭兵は腕も悪いし、度胸も無い連中ばかりなのだ。
最近は街道もだいぶ整備された。
日本の連中が年貢や鉱物資源を輸送する為に整備したのだ。
街道の横には煙を立てて動く列車の線路が敷かれている。
この線路に沿えば日本の軍隊のいる治安のよい町や村に通じているわけだ。
だからといって完全に安全というわけではない。
南部地域は元々亜人の諸部族が多く住んでおり、帝国は彼等の族長に辺境貴族の称号を与えて支配領域の保障を与えていたのだが帝国は滅び王国にその力はない。
亜人達は各部族内部でも分裂や権力闘争が起こっているらしい。
王国の後ろ楯である日本も介入する様子は全くみせずに放置している。
そんなことを考えていると、リュードの近くで後方を警戒していた傭兵が胸を矢で貫かれて馬車から転がり落ちていく。
リュードは指揮を執る傭兵隊長にかわり大声を張り上げる。

「敵襲!!」

馬車のスピードを上げ、傭兵達は各々持ち場で警戒をして武器を抜き放つ。
だが森の中から放たれた数本の野矢が傭兵二人の命を奪う。

「山賊か?」

森の木々の間から馬車に並走して矢を射ってくるのは・・・

「ケンタウルスか!!」

森から街道に30騎ばかりが唸り声を上げながら躍り出てくる。

「まずい、女達を守れ!!」

傭兵隊長が叫んだ瞬間に体に矢を数本生やして馬車から転がり落ちる。
ケンタウルスの目的は女と酒だ。
なぜか人間の若い娘に目が無い彼等は、発情した顔を剥き出しにして襲い掛かってくる。
傭兵達も弓矢で応戦するが、その数をまた一人一人と減らしていく。

「冗談じゃ無い。
後払いの料金は少なく済むが、全滅されちゃ意味はない。
急げ、馬車のスピードを上げろ!!」

馬車の壁に貼られた『時刻表』によればそろそろ遭遇するはずだ。
馬車が1台横転し、亭主が刺され女房がケンタウルスに抱えられている。
助ける余裕はない。

「もうすぐ・・・もうすぐだ!!」

また、1台の馬車が車輪に槍を差し込まれて横転する。
あの馬車には年頃の姉妹を乗せていたはずだ。
後ろで怯える娘達を同じ目に合わすわけにはいかない。
その時、リュードが求めていた汽笛の音が聞こえてくる。

「来たぞ、日本の装甲列車だ!!
おいお前!!
馬で先導して救援を求めろ。」
0089創る名無しに見る名無し垢版2018/06/12(火) 21:24:17.74ID:gG5qxPam
予めこちらの状況を知らせる為に馬に乗っていた傭兵の一人に命じる。
馬に鞭を入れて煙を上げる汽車に向かって走らせる。
ただ汽車は線路の上以外は動くことが出来ない。
だが装甲列車の機関車から、筒状の何かを口に着けた車掌がこのまま街道を走り抜けろという声が伝わってきた。
なんと大きな声だと驚くが、馬を操る手を止めるわけにはいかない。
キャラバンと機関車が対抗車線側にすれ違い、ケンタウルスの群れがそれに続く。


大陸東部
新京特別区
西区
許忠信は転移前は中華人民共和国国家安全部第十局(対外保防偵察局)に所属し、日本国内で外国駐在組織人員及び留学生監視・告発、域外反動組織活動の偵察などの任務に携わっていた。
転移後、新香港に移住したが日本後に堪能なことと、転移前の経歴を買われて新香港武装警察公安部の一員として、新京で中華料理店の皿洗いとして情報収集の活動を行っている。
先日、新京で林修光主席が遭遇した日本人の尾行を7人の同僚と行っていた。

「主任、李と田のチームが撒かれました。」
「くそ、またか・・・」

尾行対象は明らかに尾行を意識した行動を取っている。
唐突に建物の中に入り別の入り口から出ていったり、階段を登ったかと思えばそのまま降りてきたりを繰り返したりしてこちらの尾行チームが二組も撒かれたのだ。
尾行対象はハイライン侯爵家令嬢ヒルデガルドの従者斉藤光夫。
まだ、新京大学の四年生である。
今も学生街の一角の複雑な路地を歩いて、許と新人の王成明の尾行を受けている。

「他の連中との合流は無理だな。
まったく、どこまで行く気だ。」

ぼやいていると斉藤はビルの地下に入っていく。
何やら地下街になっているようだが、この時間はほとんどの店が閉まっているのは看板から伺える。

「一人ずつ入るぞ、先に行け。」
情報機関の人間として、些か不安を感じさせる王成明は転移前は日本に留学していた学生だった。
相当な日本被れだったが日本通だったこともあり、公安部にスカウトされたが情報部員としては三流もいいところだった。
王がビルの入って数分後、許も地下街に入る階段を降りていく。
たがその行く手を塞ぐ男がいる。
左目に眼帯、十字架を首から掛け、黒いパーカーにはドクロと羽がプリントしてあり、指には一つずつ指輪が嵌めている。
ズボンも黒いジーンズで靴は黒い安全靴だ。

「待ちな・・・あんたは同胞じゃない・・・ここから先を行く招待状は持ってないだろう?」

許は警戒して、背中のホルダーに隠した拳銃を使うか迷う。
しかし、黒い男は左腕を前へ伸ばし、鼻筋へ左手人差し指を合わせる、右肩をあげ右手をピーンと伸ばすという奇妙なポーズを取っている。
あまりに奇妙な動きに対応を躊躇してしまう。
許は中国人だ。
黒目黒髪で基本的に日本人とは見分けはつきにくい。

『だが一瞬で同胞では無いと見破られた。
こいつはただ者ではない。
王は通れたのか?
あいつどうしたんだろう・・・』

「我が左手に刻印されし、暗黒の炎に抱かれて灰となるか。
封印されし、左目に封印されし魔眼の魔力に魅入られるか・・・選ぶがいい・・・」

許は一目散に階段を掛け上がって逃げ出していった。

『奴は何を言った?
魔力だと、そんな馬鹿な・・・ついに日本人も魔力を手にいれたというのか?』

現在までに転移してきた人間で、魔法が使えるようになった事例は1例しか確認できていない。
0090始末記垢版2018/06/12(火) 21:28:13.88ID:gG5qxPam
在日米軍のパイロットで、皇都空爆を行ったB−52の編隊長だった男だ。
現在は行方不明で暗黒神の大神官となっているらしい。
まずはこの場を退き、本部に連絡してこの男を観測する準備を整えねばならない。

「行ったか・・・何者だ?」

黒い服の男の後ろから二人の男が現れる。
斉藤とこの場の取り仕切っている後藤だ。

「いや、それより黒川さん何してるんですか?」

後藤が床に目をやると、黒ずくめの男が苦悶の表情で転がりまわっている。

「中学時代の多感な自分を再現して身悶えして転がってるだけだ。
ほっといてやれ。」

「・・・まあ、それはいいとして・・・斉藤さんつけられましたね?
当局の奴等でしょうか・・・」
「それはそこの彼に聞けばいいさ。」

二人が振り返ると数人の男達に拘束された王成明がパイプ椅子に座らされている。

「き、貴様らはいったい何者だ!!」

斉藤が苦笑いしながら答える。

「何者?
おかしなことを聞くね。我々は君の同胞だよ。」

怯える王に後藤が扉を開けて部屋の中に招待する。

「ようこそ、我々の世界へ・・・」

数日後、行方不明だった王成明から郵送辞表が届けられた。
『僕は自分が行くべき世界を見つけました。』
と、書かれていたので新たな異世界転移かと物議を醸しだした。



大陸南部
ケンタウルス自治伯領
ケイトレン氏族トルイの町
ケンタウルス族は大陸において、大族長が自治伯爵として帝国に任命され、その武力を背景にそれぞれの氏族の縄張りを統合して自治伯領として存在していた。
大族長は世襲ではなく族長選挙によって選ばれる。
帝国が滅び王国にその統治機構が変わってもその盟約は存在したが、問題は王国がケンタウルス族を武力を背景に抑えることが出来なくなりつつあることになった。
このトルイの町のケンタウルス人口は五千人、人間は主に奴隷が千人ほど。
町は当然ケンタウルスに優しいバリアフリー完備だ。
族長の名前は町の名前そのままのトルイ。
後継者が跡を継げば町の名前は代わる。
その族長トルイは怒り心頭で客人を待っていた。

「遅い、エリクソンはまだか!?」

召し使いの人間の女達は投げ飛ばされる杯に怯えきっている。
トルイはケンタウルス族の中ではこれでも理知的な方だ。
人間の商人と組み獣の革や工作物に使える骨。
この地域の特産物である病気によくキノコやニンジンを各氏族から集め、商人に高値で売り付けて利益を得る。
周辺の鉱山で奴隷に採掘させている鉱物資源。
狩猟部族であるケンタウルスが町を築いていることからもその辣腕ぶりが伺えるだろう。
そして各氏族の族長には安値で卸した酒や奴隷女をあてがい機嫌を取ることにも長けている。
0091創る名無しに見る名無し垢版2018/06/12(火) 21:31:55.03ID:gG5qxPam
そんなトルイが怒っているのは館の庭に並べられていた町の若衆の遺体30体ばかりが原因である。
遺体のほとんどは体に穴を開けられ、原形を留めていない者も多い。
若衆の遺族代表は館の中に。
他の遺族も館を取り囲んで騒ぎ立てていた。
そこに商人エリクソンがやってくる。
場所が場所だけに馬車が使えない。
うっかり使ったらケンタウルス族の中には襲ってきたり、嫁に欲しいとか言い出すものがいる。
少し高価だが地龍に車を曳かせた龍車で館の門を潜り、トルイのもとに参上する。
ケンタウルス自治伯領との折衝や交易の独占権を持つ帝国貴族シルベール伯爵は商場(あきないば)を割り当てて、そこで交易を行う権利を商人に与えて運上金を得ていた。
エリクソンはその一人でこのトルイの町の交易の独占権を持つ商人だった。

「これはまた・・・派手にやられましたなあ・・・」

事前に聞いてはいたが、勇猛なケンタウルス族がここまで一方的にやられるとは思ってもいなかった。

「貴様のいう通りにキャラバンを襲ったらこの様だ。
まさか貴様、我々を嵌めたのではないか?」

エリクソンは首を振って否定する。
確かに長年の商売敵のリュードに対する恨みからケンタウルス族を煽ったの間違いないが、失敗は望んでいない。

「冗談じゃない。
あのへんはあんたらが詳しいというから、襲撃を一任したんじゃないか。
日本の装甲列車が通る時に襲うとは思ってなかったしな。」

確かに若衆達が襲撃したのは予定より早い時間だった。
襲撃は夕暮れの予定だったが、昼日中に襲っている。
若い女の姿に興奮して暴走する若衆の姿がトルイにも目が浮かぶようだった。

「判った信じよう。」

トルイか手を挙げると、遺族達が退室していく。
エリクソンは安心してない。
トルイがこの程度でことを納める筈が無いからだ。

「貴様のことは信じるが、今回の件で族長会議での面目は丸潰れだ。
次の大族長を選ぶ会議での不利になる。
失った倍の日本人の首か、女を手に入れねばこの町での立場まで弱くなる。
貴様もそれでは不味かろう。」
「何をお考えで?」
「また列車を襲う。
ただし今回は装甲列車じゃなくて襲いやすいのだ。
一週間やるから考えろ。」

さても厄介なことになったとエリクソンは苦虫を潰していた。


大陸東部
新京特別区から海岸に沿って南に50キロ。
車両が通れるように舗装された道路の終点に大陸総督秋月春種が、秘書官の秋山や護衛のSPを引き連れて視察に訪れていた。
一行は先に完成していた市役所庁舎ビルの会議室に入る。
窓から見える光景はほとんど原野の土地でブルドーザやショベルカーが、整地作業を行っている。
会議室ではレーザーポインターでプロジェクターに映し出された画像や動画を解説する責任者の朝比奈順一部長の話を聞いている。

「市役所や駐屯地、港湾、電気、ガス、水道、通信、病院のインフラ設備も完成しております。
第一期の団地も現在は内装工事中。
病院、駅、学校に関しては、来年着工になります。」
0092創る名無しに見る名無し垢版2018/06/12(火) 21:35:08.29ID:gG5qxPam
「まあ、上出来だろう。
最初の住民は新京からの異動組に単身赴任で来てもらうから家族はいない。
インフラ設備の職員や自衛官、警察官、役所の職員。
2月いっぱいはそれで済むはずだ。」

秋月の言葉に全員が頷く。
新京特別区の住民は来年の1月をもって、人口が二百万人を越える。
大半が団地や寮住まいだが、こちらの大陸で財を成した者が一軒家を建築する光景も珍しくもなくなった。
中には新京を飛び出して大陸の他の町に住民に混じって生活の居を移した者もいる。
だが日本本土からの移民希望者は新京の住民の20倍はいる。
そこで新京の開発も一段落した頃から新都市開発を進めていたのだ。
官民合わせて異動組が2月から3月に生活を始める。
その後は家族を呼び寄せて、彼等の穴を新着の移民で埋めていく。

「民間からの工場やスーパーの建築、一軒家の購入の要望も殺到しています。
新京からの引越し組も考慮して、移民組第一期の居住は6月あたりになります。」

秋山は新京からの要望も合わせた話を語る。
移民の問題は現時点で問題はない。
秋月は次の問題を提起する。

「次の案件は・・・これは大事だな。
この市の名前は何にするか一般公募か・・・」
「名称、由来、構想・・・まあ、新市民に夢と希望を抱かせる誤魔化しですな。」

秋山は容赦がない。
秋月はスルーして話を進める。

「大々的に募集してくれ。
締め切りは今月中だ。」
「手配致します。
ところでこの新都市開発計画とは関係無いのですがもう一件よろしいでしょうか?
例のアンフォニーの代官が決まりました。」

秋月は総督府執務室に飾られたマーマン王のホルマリン漬けを思いだしてうんざりした声で話を続けるよう促す。
わざわざ代官の任命に総督府が関与することは少ない。
わざわざこの場で議題にあげるのは、代官当人に大きな問題を抱えているからだ。


「どうも日本人のようなんです。」

秋月秘書官も困惑したように説明をはじめた。


大陸中央部
旧皇室領現子爵領
マッキリー
第四分遣隊分屯地
マッキリー子爵は帝国解体時は、男爵に過ぎなかったが日本との和平に尽力して昇爵と加増を勝ち得た人物である。
その子爵領では金、銀、銅、石炭、ニッケル、ボーキサイトが採掘されて大陸総督府が管理している。
ニッケル、ボーキサイトについては現在は唯一の鉱脈であり、重要視されている。
その為に混成部隊である第四分遣隊は300名と各分遣隊の中でも最大規模であり、1機ではあるが唯一汎用ヘリコプターMi−8、ヒップが配備されている。
石炭が採掘出来ることから、新京と王都を繋ぐ東西線東部方面の中間地点としての賑わいも見せている。

「浅井治久二尉、入ります。」

入室して敬礼すると、分屯地司令の朝倉三等陸佐の答礼を受ける。
0093創る名無しに見る名無し垢版2018/06/12(火) 21:50:53.43ID:gG5qxPam
「浅井二尉、二年間のお勤めご苦労だった。
君が補佐官だったおかげで任務は楽をさせてもらえた。
昇進は来年になるが先に一つ派遣任務を司令部から命令された。」

浅井二尉は一等陸尉に昇進後、来年創設される第七分遣隊90名の指揮官となる。
この分屯地には研修の一環として赴任していた。

「現在、建設中の第六分屯地のアンフォニーに新たな代官が任命され赴任する。
新領地ということもあり、現在新京で留学中のハイライン侯爵令嬢も視察として同行することになり、このマッキリーを列車で通過する。
貴官もこれに同行し一連の行動を視察せよ。
また、これは第六分遣隊の進捗状況を貴官の参考にする為でもある。」
「はっ、浅井二尉命令謹んで拝命致します。
また、この度のご配慮感謝致します。
第四分屯地での毎日は大変勉強になりました。
マディノの地でも精励していきたいと思います。」

二人は握手をかわし、朝倉は浅井に椅子に座るよう促す。

「しかし、代官の視察ですか。
たぶん監視せよと総督府あたりからの指示なのは判りますが、問題のある人物なのですか?」
「詳細はこちらにも伝えられていない。
総督府はよほど知られたくないらしいが、機密にも指定されていない。
民間絡みじゃないのかな?
とにかく明後日の1000時にマッキリー駅、王都行き『よさこい3号』で、令嬢を伴って乗車している。
これに同行せよ。」


明後日
昨晩の送別会で散々に酒を飲まされた浅井二尉であったが、習慣から朝6時に起床して身なりを整え分屯地を後にすることにした。
分屯地の受付では、カラシニコフ小銃を持った歩哨や警衛、受付の隊員達から

「浅井二等陸対し・・・捧げ銃!!」

の敬礼を受けて、少し涙目になってしまった。
駅には一時間早く到着して汽車を待っていた。
汽車は定刻通りに停車する。
鉄道公安官にAK−74を初めとする護身用の武器をほとんど預け、自身はマカロフ PM拳銃と予備の弾装1個を携帯して列車に乗り込む。
座席は指定席だ。
令嬢と新任代官は同じ車両に乗るよう手配されているのだ。
青と黒を基調とした騎乗服に身を包み、ポニーに結んだブロンドドの髪を靡かせている美少女だった。
歳は十代半ば。
透けるような白い肌を持ち、ぴっちりとした軍服が彼女の均整の取れたスタイルを強調している。

「レディ・ヒルデガルドさんですね。
お初に御目にかかります。
自分は陸上自衛隊二等陸尉、浅井治久と申します。アンフォニーまで同行を命じられました。
よろしくお願いします。」

貴族令嬢への敬称『レディ』と日本人風に『さん』付けしている完全に失敗な挨拶だが、浅井は気が付かずに握手を求める。
だがその手は若いリクルートスーツを着た男に握られる。

「お初に御目にかかります。
この度、アンフォニー領の代官として着任することとなった斉藤光夫と申します。
道中、短い間ですが宜しくお願いします。」

丁寧な挨拶だが目が笑ってない。
同時に周囲から敵意が一斉に向けられるのを感じた。
周辺の座席の若い男達が一斉にこちらを見てるのだ。
0347創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 13:33:56.25ID:NWj3tL1r
「総督府に可能かどうか提案を問い合わせてみますよ。」

赤井達が侯爵家での晩餐を終えて用意された宿舎に帰っていく。
その様子を窓から眺めボルドーはフィリップのグラスにワインを注ぐ。

「洞窟や船の乗員の墓から、異世界の銃や肩掛け式大砲は回収しました。
倉庫に隠しています。
研究するにせよ、使用するにしろ、ほとぼりが冷めるまでは封印ですな。」
「財宝も将来的な投資に使えるから回収は必須だ。
未開拓地はマーマンの王国のそばとは予想外だったが上手く始末して、港の建設費用も新香港に出させた。
今回一番利益を受けたのは我々だな。
アンフォニーには代官を派遣する必要があるな。
人選は近日中に決めよう。」

二人はグラスを傾けて乾杯する。

「今回のマーマンやシーサペントの討伐は父上が家を飛び出して、冒険者をしていた経験が生きましたな。
そういえば父上、総督府の総督閣下に手柄首を送りましたが日本ではああいった風習はとうに廃れてると聞きましたが?」
「こちらを古臭い懐古趣味な田舎者と侮ってくれれば今後もやりやすかろう。
あとはそうだな・・・単なる嫌がらせよ。
ところで、儂もお前に言いたいことがある。
ヒルデガルドの教育についてじゃが・・・」
0348創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 17:19:07.64ID:pzJCpdoQ
そこはこれから官公庁が集中する中央区にある大陸総督府の城での会議で決められることになる。
大陸総督府の城には連日のように大陸各所から貴族や街の代表者が陳情に訪れている。
開発の誘致や日本人とのトラブルの裁定、本領安堵の免許更新、再発行、モンスター退治の自衛隊の出動の要請など多岐に渡る。
総督府の執務室には多数のファンタジー小説やオカルト雑誌が本棚を埋め尽くす。
少しでも現状を理解してもらう為と頭を柔らかくしてもらう為だ。
他には江戸幕府に関する資料が本棚の一角を占めている。

「まさか、首獲りの恩賞を求められるとは思ってなかったな・・・」

大陸に存在する統一国家である王国を傀儡にする男、秋月春種総督府は机の上で頭を抱えている。
新香港の主席との会談などより気が重くなる。
何しろハイラインの代表がこの部屋にこれから生首を持って来るというのだ。
日本の古い文献を漁り、このような文化があったことを知られてしまったのだ。

「今後もこのような事態が続いたらどうしましょうか・・・部屋が生首で溢れるような事態は、ちょっと避けたいのですが・・・ああ、ここがよろしいかと。」

秘書官秋山も困り顔で書類を渡してくる。

「元帝国皇族天領アンフォニーか。
男爵領になるのかな?
ハイライン侯爵領からも比較的近くて、将来的な南北線の駅建設の候補地の一つか。
まあ、申し分ないんじゃないかな?
地下資源に関してはどうだ?」
「亜鉛、石炭、鉛の二号鉱山。銅に関しては三号鉱山の採掘が開始されています。現在は第6鉱山開発地域に指定されてました。
これは総督府直轄ですが、鉱山町に関する利権はアンフォニー領統治機関に委ねられるでしょう。」

数字の割り振りはこの九年で見つり、日本の管理下になった鉱山の順番である。
ちなみにアンフォニーが現在の調査対象としては最新のものだ。
南北線は南部地域に植民都市百済との間に引く列車の一つだ。
首一つの恩賞として、ノディオン元公爵に与える隠居地としては惜しくも無い。
ハイライン侯爵の申請によれは、将来的にこの新京に留学中の妹に分家として相続させる予定となっている。
公安からの報告では、その妹君は親日で進歩的らしい。

「進歩的という言葉に多少違和感を覚えるが承認しよう。
安堵状の手配は?」
「完成しております。」
「よろしい。
現地の総督府支所と駐屯の第六分遣隊への連絡はよろしくな。
しかし、・・・やっぱり生首は勘弁してくれないかな・・・」
0349創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 19:15:14.95ID:NWj3tL1r
「ああ、お気になさらずに。
彼等は代官所のスタッフと研修生です。」
「研修生?」
「お気になさらずに。」

強調されて困惑する浅井にヒルデガルドは、クスクスと笑っている。

「ヒルダでいいですわ。
楽になさって下さい。」
「・・・、お言葉に甘えて・・・」

ようやく座席に座ることが出来た。
ギスギスした車両はたいへん居心地が悪かった。
ヒルダとの会話には支障はなかった。
大貴族ほど日本語を学んでいるし、ヒルダは新京に留学出来るくらい優秀なようだ。
日本人の方が大陸での言語を学ぶのに苦労している。
大陸の統治に旧帝国の貴族や役人を排除出来なかった一因でもある。
会話は進み、旅程について話が進むとヒルダが浅井の赴任地について訪ねてくる。

「浅井様が赴任するマディノというと、旧マディノ子爵領の?」
「はい、『横浜広域魔法爆撃』で改易となったマディノ子爵の領地だった場所です。」
「確か金、銀、銅の鉱山があったかしら?
日本の鉱物資源の欠乏は切実のようね。」
「まあ、そんなところです。」

今度は浅井が斉藤達を睨み付けるが、斉藤は意にも介さない。

「姫様は新京の留学生ですからその辺りは授業で習いますよ。
我々が教えるまでなくね。
二尉殿は我々が大陸技術流出法に違反してないか心配のようですが、あの法律は木材を使った技術は規制してないし、農業に関しては奨励しているくらいですからご心配なく。」

確かに木材技術は日本としては眼中に無いし、食料生産の向上は望むところなのだ。

「単刀直入に言おう。
大陸総督府は今回の代官就任に注目している。
君たちが危険かそうじゃないかだ。
だいたい君らは一体何者なのだ?」

斉藤は自信満々に答える。
たぶん、用意してあったような発言だった。

「ただの就活中の大学生ですよ。」

そのどや顔をおもいっきり殴りたかった。
睨み付ける浅井をヒルダが話掛けてきて会話が変えさせられる。

「浅井様、前々から疑問だったのだけど、日本は、鉱山を発見したり開発するの早すぎないかしら?
どうやって見つけてるの?
あと、やたらと金、銀、銅に片寄ってるのは何故なのかしら?」

答えていいものなのか浅井は迷ってしまっていた。
金、銀、銅、それに加えて鉄が多いのは最初から帝国や貴族たちが発掘したのを接収したからだ。
それ以外、石炭、亜鉛、鉛、ボーキサイト、ダイヤモンド、ニッケル、カリウム、リチウムに関しては、帝国が設立した学術都市での調査記録に基づいている。
他にも色々発見はしているのだが転移当時の鉱山労働者の数が少なかった日本には手がつけられなかったのだ。
現在は鉱山労働者を教育、経験を積ませて順次鉱山に割り振っているのが現状だ。
同時に冒険者を雇って、未開発鉱山からサンプルを持ち帰らせたりしている。

「私は自衛官なので専門外のことはわかりませんな。」

お茶を濁すことにした。
0350創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 19:19:16.57ID:NWj3tL1r
「自分も聞いていいですか?」

斉藤からの質問である。
身構えるが内容はたいした質問でじゃなかった。

「なんで分遣隊の隊員さん達は東側の装備なんですか?」


転移6年目
南樺太道
大泊郡深海村(旧サハリン州ダーチェ)

日本に返還された南樺太は食料増産を目論む日本政府によって、幾つもの開拓団が組織された。
中心となるのは転移前に廃業した農家や漁師達で、第三次産業に従事していた者達である。
もちろん一朝一夕に畑は出来ないし、漁船だって足りてるわけじゃない。
それでも南樺太に駐屯する陸上自衛隊第2師団の隊員達が手伝いに来ることもあって、ようやく東京への出荷が出来る規模の生産が可能となっていた。
そんなある日、人口四千人ほどの豊原市に隣接する深海村に三千人ほどの第二師団の隊員が展開していた。
動員されているのは豊原の第2普通科連隊、第2後方支援連隊。
住民達は普段は地引き網や開墾を手伝ってくれる隊員達が怖い顔をしてある倉庫のような建物を包囲しているのに驚愕していた。
隊員の中には村の娘と恋人関係或いは結婚した者も多いが誰もが家族にも理由を明かさない。
不安がる住民を代表して、村長と駐在が村の代表数人を引き連れ自衛隊の仮設司令部を訪れていた。
「お騒がせして申し訳ない。」

開口一番、第二師団団長穴山友信三等陸将が頭を下げてくる。
三等陸将は自衛隊の大幅な増員を受けて、予てより計画されていた将・将補の2階級制度を4階級制度にした為に出来た階級だ。
だが呼びにくいので部下達すらいまだに陸将としか呼称してくれない。

「穴山団長、我々としても朝っぱら自衛隊さんが大挙して押し掛けてきた困惑している。
村の中じゃ、ここにもモンスターが出たのかと怖がっている者も多い。
機密とかに縛られてるあんたらの事情も理解は出来るが、村の者を安心させる発表を欲している。
そこらを説明してくれないだろうか?」

村長は元は大阪の住民だ。
樺太開拓は様々な地方から集まった住民がいるため、極力標準語で喋っている。
北海道ではいまだに存在する『隣の町の人間が何を喋ってるか判らない』問題を南樺太にまで持ち込まない為だ。
故郷への郷愁を断ち切る為でもある。

「そうですな・・・、皆さんはニコラス・ケイジが昔主演した武器商人の映画を観たことがありますか?」

唐突に始まる映画鑑賞会。
ソ連崩壊によりウクライナで将軍の叔父を訪れた主人公は、叔父が管理する基地で膨大に保管されている兵器を売却して富を築いていく。

「この保管基地がですね。
実はこの村にもあったんです。」

名称は第230保管基地。
2008年、ドミートリー・メドヴェージェフ大統領が承認した「ロシア連邦軍の将来の姿」に従い、ロシアの各師団は一度全て旅団に改編された。
さらにもう一歩進めて、第230保管基地は平時には基幹部隊と装備のみ維持し、戦時に完全編成の第88独立自動車化狙撃旅団として展開する予備旅団の基地となった。
そして日本転移に巻き込まれ、日本政府の支援の代償に千島列島と南樺太を返還すると、各地に点在していたロシア軍北サハリンに集まり統合された。

「ところがですな問題はもう1つありまして、樺太にも千島にもロシア製、いや東側の武器弾薬を造る工場なんてこの世界にはどこにも無いわけです。
さらに新設の部隊を創設出来るほど、ロシア人人口に余裕があるわけでもない。
ならばいっそ我々に造らせてしまえと。
この保管基地はそのサンプルとして譲渡されたわけです。
これには同系統の装備をしている新香港の意向でもあるわけですな。
まあ、我々も武器弾薬の消耗は悩みの種でしたからな。」
0351創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 19:23:53.18ID:NWj3tL1r
「自分も聞いていいですか?」

斉藤からの質問である。
身構えるが内容はたいした質問でじゃなかった。

「なんで分遣隊の隊員さん達は東側の装備なんですか?」


転移6年目
南樺太道
大泊郡深海村(旧サハリン州ダーチェ)

日本に返還された南樺太は食料増産を目論む日本政府によって、幾つもの開拓団が組織された。
中心となるのは転移前に廃業した農家や漁師達で、第三次産業に従事していた者達である。
もちろん一朝一夕に畑は出来ないし、漁船だって足りてるわけじゃない。
それでも南樺太に駐屯する陸上自衛隊第2師団の隊員達が手伝いに来ることもあって、ようやく東京への出荷が出来る規模の生産が可能となっていた。
そんなある日、人口四千人ほどの豊原市に隣接する深海村に三千人ほどの第二師団の隊員が展開していた。
動員されているのは豊原の第2普通科連隊、第2後方支援連隊。
住民達は普段は地引き網や開墾を手伝ってくれる隊員達が怖い顔をしてある倉庫のような建物を包囲しているのに驚愕していた。
隊員の中には村の娘と恋人関係或いは結婚した者も多いが誰もが家族にも理由を明かさない。
不安がる住民を代表して、村長と駐在が村の代表数人を引き連れ自衛隊の仮設司令部を訪れていた。
「お騒がせして申し訳ない。」

開口一番、第二師団団長穴山友信三等陸将が頭を下げてくる。
三等陸将は自衛隊の大幅な増員を受けて、予てより計画されていた将・将補の2階級制度を4階級制度にした為に出来た階級だ。
だが呼びにくいので部下達すらいまだに陸将としか呼称してくれない。

「穴山団長、我々としても朝っぱら自衛隊さんが大挙して押し掛けてきた困惑している。
村の中じゃ、ここにもモンスターが出たのかと怖がっている者も多い。
機密とかに縛られてるあんたらの事情も理解は出来るが、村の者を安心させる発表を欲している。
そこらを説明してくれないだろうか?」

村長は元は大阪の住民だ。
樺太開拓は様々な地方から集まった住民がいるため、極力標準語で喋っている。
北海道ではいまだに存在する『隣の町の人間が何を喋ってるか判らない』問題を南樺太にまで持ち込まない為だ。
故郷への郷愁を断ち切る為でもある。

「そうですな・・・、皆さんはニコラス・ケイジが昔主演した武器商人の映画を観たことがありますか?」

唐突に始まる映画鑑賞会。
ソ連崩壊によりウクライナで将軍の叔父を訪れた主人公は、叔父が管理する基地で膨大に保管されている兵器を売却して富を築いていく。

「この保管基地がですね。
実はこの村にもあったんです。」

名称は第230保管基地。
2008年、ドミートリー・メドヴェージェフ大統領が承認した「ロシア連邦軍の将来の姿」に従い、ロシアの各師団は一度全て旅団に改編された。
さらにもう一歩進めて、第230保管基地は平時には基幹部隊と装備のみ維持し、戦時に完全編成の第88独立自動車化狙撃旅団として展開する予備旅団の基地となった。
そして日本転移に巻き込まれ、日本政府の支援の代償に千島列島と南樺太を返還すると、各地に点在していたロシア軍北サハリンに集まり統合された。

「ところがですな問題はもう1つありまして、樺太にも千島にもロシア製、いや東側の武器弾薬を造る工場なんてこの世界にはどこにも無いわけです。
さらに新設の部隊を創設出来るほど、ロシア人人口に余裕があるわけでもない。
ならばいっそ我々に造らせてしまえと。
この保管基地はそのサンプルとして譲渡されたわけです。
これには同系統の装備をしている新香港の意向でもあるわけですな。
まあ、我々も武器弾薬の消耗は悩みの種でしたからな。」

安全が確認され、保管基地の地下倉庫の扉が開けられる。
そこには無数のロシア製兵器がところ狭しと鎮座している。
その規模には同行した村長や駐在はともかく穴山団長や隊員達も驚いている。
0352創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 19:30:23.95ID:NWj3tL1r
「とても旅団用の数じゃないな。」

自分達第二師団はずっとこんな連中と対時していたのだと冷や汗が流れた。


転移から九年目
大陸中央部
東西線『よさこい3号』

「その後、山口の第17普通科連隊にロシア製兵器の転換訓練が行われた。
大陸派遣を命令させて6っの分遣隊が同連隊から組織されて今に至るわけだ。」

あれだけ敵意を向けていた斉藤やスタッフ達が、浅井の話を聞き入っていた。
久し振りの本国の話も聞けたからというのもあるだろう。
次はこちらが彼等に聞く番と考えていると、全員の携帯から一斉に着信音が鳴り響く。
浅井や斉藤達だけでなく、車両に乗り合わせた日本人乗客からもだ。

「安否メールか。」

浅井が携帯から確認したのは、新京から出た日本人に配布された総督府からの安否確認を行うサイトに繋がるメールだ。
災害やテロが発生した時に一斉に送信される。
もとは警備会社が顧客サービスに使用していたシステムだ。
そして、内容も書き込まれている。

「テロ警戒か・・・君らは護身用の武器を持ってきたか?」


大陸中央部
旧皇室領現子爵領マッキリー

町の片隅で一頭のケンタウルスが弓を構えていた。
傍らには商人エリクソンから派遣された男が目標を指差して頷いている。

「あいつを殺ったら俺は一族に復帰できるとトルイの叔父貴は行ってたんだな?」

ケンタウルスはトルイの甥でセルロイ。
素行の悪さから一族を追放され、マッキリーの鉱山で荷車を運ぶ日雇い人夫をして過ごしていたが、ようやくチャンスが巡ってきた。
セルロイは一撃離脱の騎射の名手である。
ビルの路地から飛び出し、一騎駆けで目標の陸上自衛隊第四分遣隊隊長朝倉三等陸佐が軽機動車の後部座席に乗り込もうとするところを騎射する。

「往生せいや!!」

肩を射抜かれた朝倉三佐の部下達が離脱しようとするセルロイを銃撃で蜂の巣に変える。

「隊長!?」
「大丈夫だ。
肩に刺さったがこれくらいなら・・・」

だが朝倉三佐は青い顔をして口から泡を吹いて倒れる。

「これは・・・毒か!?
救急車だ、救急車を呼べ!!」

慌てる隊員達を尻目に見届け役の男は人ゴミの雑踏に紛れ込んで消えた。


大陸中央部
旧天領トーヴェ第5分遣隊分屯地
第5分遣隊は各分屯地の中でも最小で僅かに50名しかいない。
分屯地も小規模であるがT−72戦車、2К22ツングースカ自走式対空砲、2S19ムスタ-S 152mm自走榴弾砲などが1つずつ格納庫に鎮座している。
0416創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 22:44:33.38ID:NWj3tL1r
専門の隊員も足りないので普通科から人数を借りて教育して運用したりしている。
現在、この分屯地には10名の隊員しかいない。
鉱山、居住区の警備、市街地の巡回、訓練中などで4個分隊が留守にしているのだ。

「先生、よろしくお願いします。」
「オウ、マカセロ」

分屯地の営門で警衛任務にあたっていた加藤二等陸士は信じられない者が街中からこちらに歩いてくるのを目撃する。
身長210センチほど、角の生えた兜からはタテガミを靡かせている。
肩鎧には一角馬の頭部を模した金属で造形されている。
鎧は蹄を模したデザインで全身鎧だ。
ベルトも蹄の形の紋章のバックルとなっている。
腰鎧も装着して、分厚い金属の盾と巨大なバスターソード。
それなりに強そうな騎士に見える。
問題は顔が馬だったことだ。

「獣人?」

疑問を口にしたところで、巨大な剣で脇から凪ぎ払われた。
馬の騎士は剣を見て不思議そうな顔をしている。
剣で斬り裂くつもりがケプラー繊維の防弾・防刃ベストがそれを防いだのだ。
馬の騎士は大して力は込めていなかったのだが、衝撃で五メートルは飛ばされた加藤はあばら骨が折れて気を失っている。
防刃ベストも穴だらけでもはや使い物にならない。
飛ばされていく加藤を警衛所から目撃した宮崎陸士長は即座に分屯地に鳴り響く警報のボタンを押す。
これで現在分屯地にいない部隊にも連絡がいく。
同時に受付業務にあたっていた前川一等陸曹が机の引き出しから、拳銃を取り出して受付ブースから発砲する。
馬の騎士よろめきこそしたが、盾や鎧に拳銃弾の穴を開けただけだ。
宮崎陸士長も壁に立て掛けているAK−74を窓口から発砲する。

「馬鹿な効いてない?」

今は亡き帝国の重装甲騎士団のプレートメイルすら穴だらけに出来る拳銃で相手にダメージを与えられていない。
だが警報を聞いて隊舎から出てきた隊員が撃ったAK−74も加わると、衝撃で仰け反っていたが盾を構えられると途端に防がれてしまう。
そして、その太い足からの瞬発力で銃口を定めさせない。
さらに三人の隊員が建物から出て来る。
一人が銃撃しながら牽制し、二人が加藤を担架に積んで建物に引き返しながら後退する。
警衛所から出てきた前川一等陸曹は今更ながら相手を誰何する。

「貴様、何者だ!!
何が目的だ!!」
「ダダノルロウノダバデアル。
ベツニオヌシラニウラミハナイガ、イッショクヒトバンノオンギ二アズカリオヌシラノクビヲショモウスル。」

人間の言葉に慣れて無いのだろう。
聞き取りずらいがなんとなく意味は理解できた。
問題は相手の目的だ。
現在、戦えるのは残っているのは普通科の5名。
残りは通信科1名、医官2名、飛行科1名、負傷者1名。
重火器のほとんどが持ち出されて分屯地には残っていない。
だが簡単に首を獲らせるわけにはいかない。
新たに駆けつけた二人も警衛所の反対側から銃撃を浴びせる。
隊舎の1人も玄関から発砲して、3方向から防御を崩そうと攻め立てる。
だが自衛隊側の誤算は彼らの考える鎧甲冑はあくまで人間の騎士のものを想定していたことだ。
馬の騎士の鎧兜盾一式の重量は、人間の騎士の物の四倍の重量があり、その分装甲も分厚くなっている。
それらを着こなしてなお軽いフットワークでこちらに接近してくる。
遮蔽物も利用してきてこちらとの戦い方も理解している。
そして獣人特有の痛覚の鈍さが多少のダメージを無視した戦いを繰り広げてくる。
銃撃を避けながら、隊舎の普通科隊員が壁に追い詰められていく。
隊員の持っていたAK−74が剣で破壊される。
0417創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 22:49:27.89ID:NWj3tL1r
「マズヒトリメ。」
「舐めるな。」

普通科隊員の首が斬り落とされる。
だが斬り落とされる寸前、防弾・防刃ベストのアタッチメントに装着していた手榴弾のピンを引き抜いていた。

「サテツギハ・・・グホッ!?」

手榴弾の爆発に巻き込まれて、馬の騎士は爆風で転がってくる。
前川も宮崎もマカロフ PMの銃弾を浴びせまくる。
だが数発命中しただけで飛び退かれて

「ハッハハサスガニイマノハシヌカトオモッタゾ。
ケッコウイタカッタナ。」

血塗れの馬の騎士が起き上がってくる。
鎧がかなり破壊されたのを見て剣を鞘に納める。

「マアヒトリハヤッタシギリハハタシタ。」

天に向かって嘶くと、営門のゲートを潜って巨大な白馬が現れる。
この白馬も馬用の鎧が着せられている。
その白馬に颯爽と馬の騎士が乗り込む。
宮崎は後ろから銃弾を撃ち込もうとしたが、前川に止められる。
このまま戦えば死人が増えるだけである。

「アアマダナノッテナカッタナ。ワガナハアウグストス。
ソシテワガアイサイセレーヌデアル。
ソレデハサラバダイカイノヘイシタチ。!!」

去っていく白馬の馬の騎士に隊員達は戦う気力も無くして立ち尽くして見送るしかなかった。

「な、なんだっだんだアイツは・・・」



大陸中央部
東西線沿線

70騎のケンタウルスが線路に石や斬り倒した木を積んでバリケードを築いている。
エリクソンの金の力と日本への反発を利用して、各領地の貴族達にケンタウルスの通過を黙認させた。
そして、『よさこい3号』は間もなくここを通過して停車を余儀無くされる。
トルイはここに一族の戦士全てをここに集めた。

「男は首を斬れ、女は全部連れ帰る。
マッキリーとトーヴェの日本軍は動けん。この機を逃すな!!」
『『『おおぉぉ!!!』』』


機関車の汽笛の音が聞こえる。
バリケードに気がついてブレーキを架けている。

「車両の両側から矢を射る。
連中はまだ何が起きてるか知らないはずだ。
女は殺すなよ、突撃!!」

半数に別れたケンタウルスは弓に矢をつがえながら駆け出した。
0418創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 22:58:04.31ID:NWj3tL1r
『よさこい3号』車内
浅井は斉藤達が持ち込んだ物を並べて呆れ返っていた。
鉄道公安官の二人もこれが何のか理解できなかったらしい。

「てっきりおもちゃかと・・・」

女性公安官の建川は困惑している。
実際の物を見て浅井が思ったのは模型か夏休みの自由研究である。
「間違いなく使えるんだな?」
「使い捨てだがね。
まあ、4発が限界だが。」

斉藤は自信満々だ。
サークルのメンバーが組み立ている。
手順の確認を取っていると、前方車両から公安主任の久田がやってくる。

「来ましたよ、ケンタウルスがいっぱい。

マッキリーとトーヴェのテロと同様です。」
「安否メール通りだな。」

列車の乗員、乗客達はすでにテロの情報は伝わっていた。
各々が身を守る準備を始めている。
ヒルダが護身用のレイピアを抜いて宣言する。

「こちらも歓迎の準備は整いましてよ。」
「よし、戦える奴等を配置に付けろ。」


王都ソフィア
第17普通科連隊戦闘団司令部
王都にて各分遣隊を派遣する基幹部隊である。
すでに半数もの隊員を分遣隊に派遣したが、戦力の半分は集中してこのソフィアに駐屯して、近隣の盗賊や帝国残党、モンスター退治を一手に引き受けている部隊でもある。
その司令部に次々と訃報が届けられる。
所用で留守にしていた連隊長碓井一等陸佐は幕僚達からの報告の数々にこめかみに青筋を立てている。

「マッキリーで朝倉三佐が殉職されたとの報告がありました。」
「トーヴェで大林陸曹長の戦死に続き、加藤二等陸士が内臓破裂で死亡したとの報告がありました。」

机の上に被害などの報告書が山と積まれている。

「どこもかしこも馬、馬か・・・鉄砲玉に出入り、列車強盗とは恐れ入る。
最近、馬にケンカ売られるような事態はあったか?」
「南部で装甲列車がケンタウルスの略奪集団を攻撃した事例が二週間ほど前にありました。
その報復ではないかと思います。」
「その件は総督府が役人送って、シルベール伯爵と交渉中だろ?
交渉中に手を出して来やがったのか?
あと鉄道公安本部から要請の件はどうなった。」
「マッキリーの連中が朝倉三佐の敵討ちだと、Mi−8に普通科1個小隊が乗り込み現地に向かっています。」

自分の留守中でも対応していた幕僚達に満足する。

「だかこの出入りの馬頭はなんだ?
こんなのが今までノーマークだったのか?」
「その件に付きましては、王国外務省が総督府に取り次いで欲しいとの連絡がありました。
あちらが何やら情報を持っているようです。」
0419創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 23:06:34.33ID:NWj3tL1r
大陸東部
東西線沿線

東西線、『よさこい3号』先頭車両は当然機関車である。
運転台には機関士と助手が交代要員も含めて四名が乗り込んでいた。
昔は三名で運用していたが失業者対策と労災の問題がそれを許さなかった。
機関士大沢は最初にバリケードを発見すると列車にブレーキを掛けて停車し、助手を車掌に知らせに行かせた。

「まずいな司令車から銃を持って来い。」

二両目の炭水車の梯子を登って、三両目の司令車に向かう。
司令車には列車乗務員の待機室や通信室、食料や水の保管庫、武器庫、発電機が置かれている。
話を聞いた車掌の岡島は

「鉄道公安本部に電話だ。」

もう1人の車掌平田が受話器を手に取る。

「こちら『よさこい3号』、大規模な襲撃を受ける可能性有り、線路上に石を積まれ進路を防がれた、救援を求む。
襲撃者はケンタウルスが数十頭・・・頭だよな?
数十人か・・・数十匹かな?」
「どっちだっていいさ。」

平田は武器庫から猟銃を取り出している。
何れも散弾銃でシトリ525だ。

「四丁を機関車に2丁は我々が使う。
森山くん達の2丁と後尾車両の建川さん、久田さんの分。」

銃を渡された車内販売員の女性、森山と川田にも銃が渡される。

「あの・・・やはり私達も?」
「訓練は受けてるだろ?
お客様と自分の身の安全は守るんだ。」

国鉄職員としての公務員の義務でもある。
機関車の運転台では機関助手達が炭水車の中や運転台の壁に身を潜めて手渡された銃に弾込めをしている。

「おやっさん・・・」
「情けない声を出すな。
一時間もしないうちに鉄道公安本部や自衛隊から援軍が来る。
それまで持ちこたえればいいだけだ。
開通当初は山賊だの帝国残党だのゴブリンだのが襲ってきて蹴散らしてやったもんだ。」

大沢の言葉に機関助手達が勇気付けられる。

「おやっさん来ました!!
左右に別れて、弓をこちらに向けてる!!」
「奴等は密集している。
狙いなんぞいらんから、通過する音が聞こえたら銃口だけ隙間から出して、とにかく外にぶっぱなせ!!
体を壁から出すなよ?」

大量の蹄の音が接近を告げている。
左右に2丁ずつ散弾銃。
ケンタウルスの集団が最初の一頭が炭水車に到達すると一斉に発砲された。
至近距離から互いに効果範囲がカバーしあうように放たれたため、ケンタウルス四頭が転倒、3頭が死亡し、1頭が後続のケンタウルス達に踏まれ死亡した。
攻撃されたことを悟ったケンタウルス達は一斉に上半身を後ろに捻り、前進しながら騎射を敢行してくる。

「おやっさあ〜ん!?」
「馬鹿、頭あげんじゃねえ。」
0420創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 23:15:26.13ID:NWj3tL1r
立ち上がろうとした助手の服をつかみ引きずり倒す。
トルイは倒された戦士達が起き上がらないことを憂慮を覚える。
だがまずは前進を優先させた。

「四騎ずつ残して前進だ!!」


司令車両では平田と岡島が銃眼から銃を射っていた。
司令車両はモンスターや武装勢力の襲撃に備えて窓はなく、壁は鉄板を貼り付けてある。
外の状況は外部カメラで確認できる。
狙いは外部カメラから確かめたので、機関車で不意打ちを受けたトルイ達は少し距離を取っていたが、右側で3頭、左側で2頭が撃ち殺される。

「あの穴に向けて一斉射!!」

ケンタウルスは何れも弓の名人である。
鉄張りしてある司令車両とはいえ、一ヶ所に20本もの矢がほぼ同時にに命中すれば、2、3本は壁に刺さって車掌達を驚かす。
平田は驚いて銃から手を離して後ろに転がっている。

「だ、大丈夫か。」
「ああ、当たってはいない・・・すまない。」

だがケンタウルス達の武器は弓矢だけではない。

「やれ。」

左右から3頭ずつが紐に球形の物体をくくりつけて投擲してくる。
車両に当たると同時に爆発する。
「爆弾!?」
「馬鹿な、そんな物が使えるのか?」

たが司令車両には穴は空いてない。
外側に幾つか燃えてる部分はあるが極僅かな損害だ。
だが銃眼や矢で開けられた穴から幾つかの物体が侵入し、壁や床を破壊した。
迂闊に壁際に近付けなくなった。

「外部カメラも破壊されたか・・・」

傷ついた穴にはケンタウルス達の馬力とスピードで威力を増した破城槌が両側から叩きつけら穴が拡大されていく。


最後尾車両
望遠鏡で前方車両の戦闘を覗き見てた斉藤は眉を潜める。

「まずいですな。」
「そうですの?」

望遠鏡をヒルダに渡すとサークルのメンバーを集める。

「諸君、あれはてつはうだ。」
「てつはう?」

ヒルダも混じって聞いてくる。

「「てつはう」は鉄や陶器の容器に火薬を詰め込み、導火線で火をつけて相手に投げつける擲弾です。
巨大な爆裂音をたてて爆発するので、人馬がその音に驚いたと記録されていますがそれほどの破壊力はありません。」
「何が不味いの?」
「ネタが被りました。」

斉藤とヒルダのまわりでもサークルのメンバーが座席を車両から取り外して即席の砲座を作っていた。
座席を2つ重ね合わせて紐で縛る。
0421創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 23:32:06.92ID:NWj3tL1r
四号車
浅井二尉は車両内部を姿勢を低くして移動し、司令車まで後一両のところまで来ていた。
持っている武器はマカロフ拳銃一丁と途中で取り外した座席。
四号車の屋根に連結部からよじ登る。
司令車は先程から爆発にさらされていたが意外に破損は少ない。
だが破城槌やてつはうが交互に叩きつけられて、穴が空くのは時間の問題だろう。
屋根の上から先ず右側のケンタウルスを始末することに決めた。
ケンタウルスの腰に紐で括りつけられたてつはうに、9mmマカロフ弾を三発命中させてあたり爆発させる。
そのまま破城槌を持っていた四頭に銃口を向けて発砲する。
重量物を持っていたケンタウルス達は回避行動も取れずに3頭を射殺、1頭が地面に倒れ伏す。
予備のマガジンに交換して、てつはうを持っていた2頭も始末した。

「残り6発・・・」

浅井の存在に気がついた左側のケンタウルス達が矢やてつはうを放ってくるが、屋根まで持ち込んだ座席を盾に移動し、司令車両の屋根に飛び付く。
だが幾つかのてつはうに仕込まれていた土器の破片が、座席の隙間から背中や足に当たる。

「痛・・・」

幸い刺さりはしなかったようだ。
叫びたいのを我慢して、手近にいた破城槌を持ったケンタウルス2頭に残りの弾丸を全部叩き込んで射殺する。
半分は八つ当たりだ。
槍に持ち変えたケンタウルスが屋根の上で転がる浅井を狙うが、屋根の扉を開いた平田が散弾銃で槍持ちを射殺し、岡島が浅井を車内に引き摺って中に入れる。

「状況は?」

ようやく一息付けるが休む暇はない。

「機関車両に8頭にこちらは四頭、最後尾車両に25頭までは確認できてます。」

司令車両には各車両からの内線から報告が来ている。

「こちらは悪い知らせだ。拳銃の弾がもう無い。」

岡島と平田は顔を見合せて苦笑する。

「ご安心をこちらも弾切れです。
でも預かってたものがありましたよね?」
「ああ、そいつを取り来た。」


機関車両
「おやっさん弾切れです。」
「俺も・・・」
「自分もです・・・」

機関助手達は猟銃を置いて、スコップを持つ。

「馬鹿野郎、撃ちすぎだ。」

だが大沢ももう二発しか持ち合わせていない。
まだ、この機関車両を攻撃してくるケンタウルスは7頭もいる。
だが司令車両の屋根から再び飛び出した浅井の手には、出発前に鉄道公安官に渡して預けていたAK−74が握られていた。
司令車から炭水車に移り、一頭ずつ撃ち殺していく。

「大丈夫ですか?」
「若ぇのを一人、死なせちまったよ・・・」

大沢が矢が数本刺さった機関助手の一人を床に寝かせて、他の二人は泣きはらした目をしている。
0422創る名無しに見る名無し垢版2018/06/13(水) 23:43:00.92ID:NWj3tL1r
「おまえさん自衛隊だな、援軍かい?」
「自衛隊だが乗客です。」
「そうか、まだ続くんだな。」

車掌の二人もこちらに合流してくる。

「お前ら全員、シャベルとツルハシを持て!!」
「おやっさん、さすがにそれは無茶だ!!」

平田が大沢を止めにはいる。
銃弾が残っているのは浅井だけだ。
ケンタウルスにシャベルやツルハシで勝てるとは思えなかった。

「勘違いするな、俺達の相手はあれだ!!」

大沢が指を指した方向は線路の先、石や木が積まれたバリケードがそこにあった。

「機関車さえ動けば馬なんざ引き離せる。
援軍の到着なんか待ってられねぇ!!」

途端にシャベルを持って駆け出し、助手達もそれに続く。

「浅井さん、我々も行きます。
乗客を前の車両に誘導して下さい。」
「わかりました。
なるべく連中から見えないバリケードの向こう側から崩してください。
ああ、そうだ。
救援の連絡から何分たちました?」
「25分。」

車掌達と浅井も反対方向に走り出す。


ケンタウルス達は途中の車両のドアや窓を一つ一つ破壊していたが中には侵入出来ないでいた。

「狭ぇ・・・」

外部の扉を破壊して内部に入ろうとしたが、下半身の馬の巨体では壁に体を擦りながら進むことになる。
天井も低く、弓を縦にも横にも構えられない。
客室に通じる内部扉はさらに小さく、大柄なケンタウルスでは嵌まって動けなくなる者が続出した。
窓ガラスも強化ガラスで、頑丈でどうにか割っても破片で手を切る者がやはり続出した。
全ての車両がブラインドを締めていた為にどの車両に乗客がいるのかを確かめる必要があったのだ。
最後尾車両に一度は到達したが、もう一度分散して探索に当たっている。

「くそ、ラチが明かないな。」

族長トルイは予想以上の被害と時間のかかりように苛立ちを見せていた。

「族長!!
一番後ろの扉からなら直接中に入れるし、破城槌が使えるぞ。」
「でかした!!
さっさと破壊して、矢を叩き込め!!」

乗客達は最後尾にある10号車両を放棄して、九号車両に移動していた。
ケンタウルス達に見付からないように身を屈めてである。
10号車両の後尾連結部入り口は外部に剥き出しになっていたので破城槌で破壊された。
ケンタウルス達は麻痺毒を塗った矢を入り口から放つ。
応戦が無いのを確認すると、客室に侵入に成功する。
だがボックスシート、4人掛けの向かい合わせ式の座席の通路はやはりケンタウルス達には狭かった。
それでも一頭ずつ中に入り、通路を進むが、反対側のドアが開いた瞬間、鉄道公安官の建川と久田が猟銃で撃ってきた。逃げ場の無い先頭のケンタウルスは体に穴を開けて絶命し、後続のケンタウルスの進路を塞ぐ。
0773創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 21:55:15.40ID:fAhsc82M
>>422
逃げようとしたケンタウルスは座席に阻まれて方向転換が出来ない。

「だめだ族長、狭すぎて狙い撃ちされてる。
こっちは不利だ。」
「ふん、ならばこの車両には乗客はいないのだな。
応戦してる連中を引き付けておけ。」
「如何なさるので?」
「まどろっこしいことは止めだ。壁を直接ぶっ壊す。
まずはてつはうを1個ずつ車両に放り込んで連中の位置を確認しろ。
その車両にロープを窓枠にくくりつけて引っ張る。
端を破城槌をぶつけて剥がしやすくしろ。」

大陸南部
シルベール伯爵領迎賓館
シルベール伯爵家は長年の間、ケンタウルス自治伯領と帝国の仲介役としての役割を担ってきた。
帝国が滅びた後も、王国と日本国大陸総督府の代理人として彼等との仲介を任せられている。
その為に領内に迎賓館を設け、日本の大陸総督府の外務局長杉村をはじめとする代表団とケンタウルスの長老会議代表団との会談の場を設けていた。

「日本国が我が種族の若衆30名を一方的に虐殺したのは甚だ遺憾です。
謝罪と賠償を要求したい。」
「ケンタウルス若衆は日本国管理地域である鉄道線路沿線で略奪行為を働いていた。
これは明らかに犯罪である。
当方は犯罪行為に対し、実力を行使したに過ぎない。
要求を拒否する!!」
「帝国並びにそれを継承した王国では、ケンタウルス自治伯領内での人族に対する治外法権が認められている。
線路はともかく事件の起きた地域の沿線の街道は自治伯領の境界線に接している。
そして、確実に十数頭は自治伯領内で殺害されている。
これは法に反する行為ではないかね?」

南北線沿線の『ケンタウルス若衆によるキャラバン襲撃並びに装甲列車による撃滅』事件は、地域の名前を取って、ジェノア事件と呼称されることとなった。
当初は脳筋のケンタウルスなど力を背景にすれば容易く主導権を握れると思っていた。
総督府外務局は法を背景に弁護士の如く抵抗してくるケンタウルス長老会議代表団に意外な苦戦を味わうことになる。
なぜこんな会談が行われているのか?
傭兵やケンタウルスに多数の死者が出ていることからうやむやにするのは良くないと王国側から責任の所在を求める要請があったからだ。
総督府側は拒否もできたのたが、会談を受けたのはケンタウルス族に対する自治に対する介入が出来る機会と侮っていたことが大きい。
休憩を挟むこととなり、外務局員達は用意された迎賓館の部屋で予想外の苦戦に憤る。

「なんなんだあいつらは?
我々が想定していたイメージとはだいぶ違うぞ。」
「ケンタウルス族は粗野で野蛮、そう考えてましたな?
だが考えてもみて下さい。
彼等は帝国から自治権を勝ち取った種族ですぞ。
武力だけなら帝国は彼等の自治権など認めなかったでしょう。」

シルベール伯爵は仲介を担うが別に中立というわけではない。
伯爵の領地は年貢の他にケンタウルスと商人による交易に対する権利を認める運上金によって莫大な利益を上げて成り立っている。

「主な商品は傭兵、狩猟により得られる肉や毛皮、自治領特有の果実といった物です。
他にも医薬品や音楽を初めとする美術品、工芸品。
つまり野蛮な風俗とは別の文化的な側面があります。」

官僚達はシルベール伯爵の話に聞き入っている。

「ケンタウルスは性欲の強い種族ですが、腹上死は彼等の死因の上位にあたります。」

全員複雑な顔となった。
女性の官僚もこの場にいるのだから勘弁して欲しい話題である。
0774創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 22:00:08.93ID:fAhsc82M
「ですが老齢に達すると性欲が霧散し、突然美術や医術、哲学に魔術、政治といったこと学問的なことに対する欲求が起こり極めようとします。
長老と呼ばれる彼等がそうです。
彼等は大族長や族長の諮問を担当する賢者達であり相談役なのです。」
「先にそれを話して欲しかった。」
「勘違いなされては困りますが、私は別に貴殿等の味方というわけでわないのですよ?
寧ろ貴殿等が私の権益を犯さないか憂慮している。」

シルベール伯爵は自分の知識や経験が交渉には不可欠だと、自分達に売り込んでいるのだと杉村は悟る。
外務局員達は深刻な顔で対策を考えている。
その中若手の局員が思い詰めたように呟く。

「性欲が抜けて賢者に?
・・・賢者モードか・・・」

杉村はその若手に書類を叩きつけた。

「つまらんことを言うな。」
「賢者モードとは何ですか?」

シルベール伯爵も真面目な顔で聞いてくる。
だが総督府と連絡を取っていた局員がパソコンを通じてプリントアウトしてきた書類を杉村に見せると彼の顔は豹変し、まわりの局員達も書類を見せられ雰囲気が変わっていく。
シルベール伯爵も場の空気が変わったことを悟る。
まるで示しあわせたかのように沈黙する外務局員達を不気味に思いつつ会議が再開される。

「話の続きの前に現在起こっている事態を説明しましょう。
まず我々は今回の会談を打ち切る準備があります。」

突然の総督府外務局の豹変ぶりに長老達も緊張を新たにしていた。


大陸東部
東西線『よさこい3号』
機関車から少し離れた場所、ケンタウルス達が築いたバリケードを、機関士大沢達が必死に突き崩していた。

「壁の外側は最後だ。
連中に気がついたら台無しだからな。」
「おやっさん、外側だけなら機関車で強引に突破できないかな?」

車掌の平田の提案に大沢は考え込む。
だがシャベルを持つ手は休めていない。
列車を傷付けない為と前方が確認出来ないから今回は停車させた。
しかし、バリケードをある程度排除し、状況が確認出来た今なら出来ると言える。

「やれるな・・・よし、お前らは機関車を動かす為に戻れ。
俺らはもう少しバリケードを薄くする。
準備が出来たら俺らも戻る。」

機関助手達を機関車に戻らせ、車掌達とバリケードの撤去作業を続ける。


九号車両の壁が破壊され、鉄道公安官の二人と浅井は八号車両に移動したが、ここの壁も破壊され始めた。
浅井のAKも久田と建川の猟銃もすでに弾はない。

「さて、白兵戦か。二人は下がっててくれ。」
「いえ、もう少しお付き合いしますよ。」

浅井はナイフを鉄道公安官二人は鉈を構える。
刃渡りはどう見ても浅井のナイフよりでかい。
0775創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 22:16:06.32ID:fAhsc82M
「なんでそんな物が列車にあるんだ?
ナイフと交換してくれ。」
「倒木が線路にあった時の為です。
後は・・・刺又が二本有ります。」

そこにヒルダと斉藤達もやってくる。

「連中の弓矢を三セットばかり奪いました。
扱ったことのあるのが姫様だけなので・・・」
「あら、私も使えるわよ。」

乗客の中から恰幅のよい主婦が名乗りを上げる。

「多少、ブランクがあるけどJK時代は弓道部だったから。
和弓だから勝手が違うかもだけど、心得がない人よりはマシでしょ?」

JKと言われて浅井、斉藤、久田が顔を見合わせるがヒルダが弓を主婦の市原に渡す。
狭い通路で使うのだから期待は出来る。

「てつはうもまだ2個あります。
直接、投擲する必要がありますが。」

色々とツッコミたいところがあったが、てつはうは土器で出来ているし火薬自体はすでに大陸でも流通しているので大陸技術流出法には違反していない。

「乗客の中に七人ばかり冒険者をしている日本人もいます。
今は貨物車から彼等の武器を持ち出させています。
日本刀や薙刀とか持ってきてましたね。」

転移から九年、大陸進出してくると六年も経過すると色んな日本人が出てくる。

「前方車両のドアを守らせてくれ。
乗客の移動は勘づかれないように頼む。」
「浅井さん壁が破られた!!
連中が入ってくる。」
「八号車両客室を放棄!!
鍵を掛けて、七号車両で抵抗線を作るぞ。」

通路ならケンタウルスも自由に動けずこちらが有利だ。
腕時計で時間を確認する。

「通報から45分・・・」



族長トルイは些か焦っていた。
連れてきた兵は自分も含めて70騎ばかり、既に戦死が18騎、負傷して戦えないのが16騎。
戦でもないのに半数がやられたことになる。

「大損害だ。
割には合わん・・・」
「族長、もう退くべきではないか?
今なら近くの村でも襲って首をとって日本人ということにしておけば面目は立つ。」

顔は焼いとけば問題はない。
女はその場限りになるが、事が済めば口を封じればいい。
日本人どもにも一矢を報いた。

「よし退くか、角笛を」
言い掛けたところで先頭の機関車が煙突から煙を吹き出し、下方からは水蒸気を噴出させ始めた。
バリケードからは数人の人間が機関車に駆け出している。
0776創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 22:23:28.82ID:fAhsc82M
列車の内部には5頭のケンタウルスが乗り込んだままだ。

「つ、連れ戻せ!!」


7号車両では突撃してくるケンタウルスを、久田と斉藤が刺又二本で押し止める。
狭い通路で走れないケンタウルスなら何とか押さえ込める。
座席の陰から浅井が鉈を振り回してるので勢いを殺したのも大きい。
市原とヒルダが弓でケンタウルスを射ると、後続のケンタウルスが前進できなくなる。
たがそこからケンタウルス達が矢を放ち久田に二本が刺さる。

「久田さん!!」

建川が久田を引きずりながら七号車両に移動しようとする。
だが久田が口から血と泡を吹き出している。
痺れる体で手だけ動かして、全員に六号車両に移動するよう指差す。
次にてつはうを指差した。
浅井達が六号車両に移動すると、サークルのメンバーがてつはうの導火線に火を着けて、七号車両に放り込んで七号車両のドアと六号車両のドアを閉める。
爆発音とともにドアが揺れる。
だがすぐにケンタウルスの姿がドアの窓から見える。
顔は血まみれだ。

「久田さんが・・・」

泣き顔の建川が敬礼しているので、浅井もそれに倣う。

「五号車両からは乗客が避難しているのでここらで食い止めたい。」

車掌の平田がシャベルを持ってやってくる。

「車両を切り離しましょう。」
「走行中に出来るんですか?」
「本来は配線やブレーキ管を外さないといけないのですが時間が無いから強引に切り離します。まずは連結機を切り離してから一つ一つ鉈で斬ります。」

平田が作業に入るが、岡島の声が車内放送で鳴り響く。

「バリケードに突っ込みます。何かに掴まりながら頭を守ってください!!」

全員が座席に捕まると何かに衝突したような衝撃が車内を揺るがしといく。


機関車
大沢達を乗せた機関車はゆっくりと加速を続け走り始める。
可能な限りに勢いを付けて、バリケードを吹っ飛ばして突破しないといけない。
機関助手達は必死に石炭を竈にくべている。

「いけ、いけ、いけぇ〜い!!」
手を振り回しながら声援する大沢の声に応えるように機関車の先頭部分がバリケードにぶつかり、粉砕しながら土砂を撒き散らす。
機関車周辺を駆けていたケンタウルス達が土砂を浴びて転倒していく。
機関車は震動しながらバリケードを突破してさらに加速を続ける。
「やったあ!!」

大沢は歓声を挙げるが肩に矢を受けていた。
そのまま崩れ落ちる。

「おやっさん!!」

「退け、退くんだ!!」

トルイは追い付いた兵達を一人一人に声を掛けて列車の追撃を止めさせる。
0777創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 22:34:31.45ID:fAhsc82M
合流した29騎のケンタウルスは負傷した16騎を回収して、撤退しようとする。
死体も18騎。

「数が合わないな、列車の中か・・・」

証拠は残したくないが長居は危険だった。
どうせ東部地域にケンタウルスの集落は無い。
列車の中のケンタウルスの素性を洗っても自治伯との繋がりを思わせる物は持たせていない。
流れのケンタウルスが勝手にやったと言い逃れが出来る。
遠ざかる列車を尻目に引き換えそうとすると、奇怪な羽音が上空から聞こえてきた。

「なんだ、この音は?」

同時に森の中からこちらを囲むように斑模様の緑の服を着た集団が現れる。
木々の間から銃を構えているのが判る。

「バカな日本兵だと、どっから現れたのだ。」

日本軍が駐屯する主要な町には見張りを置いてあったはずだ。
例え日本の車がどんなに早くてもケンタウルスの伝令に勝てるはずがない。
たが現実に目の前にいるのは・・・


困惑するトルイ達の前に低空をホバリングするMi−8TB、ヒップEの機首の備え付けられた12.7mm機銃が火を噴いた。
族長トルイは一瞬にして、真っ先に肉塊となった。
同時に列車から七号車両以降が切り離された。
ケンタウルス達は車両に向かって逃げ出す。
そこなら攻撃を受けないと考えたからだ。
だが半包囲していた陸上自衛隊の第4分遣隊の隊員達が前進しながら銃撃を開始する。

「ケンタウルスの指揮官以外の生死を問わない。
まあ、無理に捕まえる必要も無いがな。」

隊長の進藤一等陸尉の命令のもと、ケンタウルス達は一騎、また一騎と駆られていく。
そこに切り離された車両が線路で止まっているが乗客はとうにいない。
そのことは『よさこい3号』から連絡を受けている。
ケンタウルス達はそんなことは知らないので車両に集まっていく。

「いいカモだな、馬か?撃滅しろ。」

切り離された列車の中にいたケンタウルス達は先頭車両から飛び出し、遠ざかっていた列車に追い付いていく。
一匹が手摺を掴もうとしたところで、ヒルダのレイピアがドアの隙間からケンタウルスの手の甲を貫く。

「しつこいですわよ。」

反対側の手摺に掴もうとした一匹も浅井が鉈で手首ごと切り落とす。
残りの3頭は斉藤が転がしたてつはうの餌食となった。


ケンタウルス達が掃討され、再び汽車が停車する。
隊員達によって、乗客が外に出てきて治療や事情聴取を受けている。

「おやっさんしっかり!!」
「いやだよお、おやっさん、いかないでよう!!」

泣き叫ぶ機関助手達を尻目に、浅井と斉藤達はケンタウルスの荷物を漁る。
大半はケンタウルスの肉体ごとミンチに混じっていたが、車両近くのケンタウルス達は背後から銃弾を受けただけだ。

「あった!!」
0778創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 22:42:40.67ID:fAhsc82M
ケンタウルスの腰ベルトに毒、毒消し、麻痺の薬が入った小瓶を手にいれた。

「これを機関士に」

斉藤の助言、毒を使うものは解毒薬も持ち歩いているはずという言葉に従い、賭けには勝ったようだ。
ケンタウルスの薬を人間に使ってよいかは迷ったが、このままではどうせ死ぬ。
投薬後、顔色や呼吸が正常に戻ったことから薬が効果は確かめられた。
大沢機関士はヘリで一足早く新京大学病院に運ばれることになる。
やはり人間には人間の為の医療の方が安心出来る。
精神的に


「浅井二等陸尉、よく持ちこたえたものだな?」

仮設テントの指揮所で、進藤一尉がその労を労う。

「二人も死なせてしまいました。
そして、乗務員や乗客の奮戦の賜物です。」

「二人とも公務員として、国民に殉じた。
御冥福を祈る。
国鉄と鉄道公安本部は激怒してたよ。
我々もだよ。
大陸総督府は自衛隊に報復を許可した。」
0779創る名無しに見る名無し垢版2018/06/14(木) 22:52:26.80ID:fAhsc82M
大陸南部シルベール伯爵領
迎賓館

「つまり日本側は武力討伐を決意したと見てよいのですな?」
「その通りだ。
トルイ族長とこれに味方する諸兄等をことごとく粉砕して、その権利を剥奪させて頂く。」

列車襲撃、第四分遣隊隊長暗殺、第五分遣隊基地襲撃の映像をプロジェクターから見せられたケンタウルス長老代表達は眉を潜めていた。
どの事件も発生から半日もたっていないのに大陸南部のこの地まで伝わっているのだ。
情報伝達の速さの有効性は彼等も認識している。
杉村外務局長はケンタウルス自治伯領に開戦か、降伏かの選択を迫ったのだ。
だが、彼等の返答は予想に反するものだった。

「心得た。
トルイの町の討伐の先陣、我等が確かに承った!!」
「何?」

ケンタウルス自治伯領に対する問題をトルイの町限定の問題にすり変えられたのだ。
途端に年若い長老が一人、会議室から退出していく。

「我々はケンタウルス自治伯領全体に対して言ってるのだかな。」

長老を睨みをつけるが長老達はどこ吹く風とばかりに気に求めていない。

「帝国ならば連座制による処罰も有り得ただろうが、王国は日本からの指導により連座制の処罰を廃止している。
だからトルイの部族以外が処罰を受けるのは対象外と我々は考えている。
まあ、それでは日本側もおさまらないのも理解している。
ゆえに自治伯軍並びに日本軍の連合軍によって、トルイの町を制圧、関係者を処分する。
日本側は遠征に対する財政、兵站に対する負担が減るのでは無いかな?
もちろん露払いを含む血も我等が流そう。」

痛いところを突いている。
大陸に派遣している陸上自衛隊部隊は各地に分散しているし、少しは生産が可能になったとはいえ、弾薬や燃料の補給も遅れぎみである。
反対に大陸から本国への食料・資源輸送任務から人手は割けない。
今回はトルイの町限定とするのは、日本の苦しい懐事情からも一理あるのだ。
杉村は全権を委任されてる者てして決断する。

「わかった。
今回はそれで手を打とう。
だが次もあると思うなよ?」
「肝に命じて起きましょう。」

長老達はまったく悪びれていない。

「いや、話がまとまってよかった。
何にしろ遠征までは、連絡や準備で時が掛かるでしょう?
今晩は親睦のパーティーでも如何ですかな?」

自称仲介役のシルベール伯に杉村は首を横に横にふる。

「せっかくですが、こちらの部隊が投入されるのは明後日です。
忙しくなりそうなので、今晩はご遠慮する。」

杉村としてはケンタウルス達に先陣を任せる気はなかった。
密かに関係者を逃亡させることまで疑っていたからだ。
だがケンタウルス長老達まで首を横に振っている。

「そうですぞ伯爵。
我らも先陣を承ったからにはのんびりもしておられるぬ。
こちらの先鋒は明日には攻撃を仕掛けますからな。」
0865創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 06:51:48.76ID:GoWIy/vZ
>>779
杉村は絶句する。
ケンタウルス達は交渉の最中もトルイの町を攻撃する兵を派遣していたことを暴露したからだ。


ケンタウルスの将ウォルロックの陣

大族長の末子ウォルロックはケンタウルスの兵士二千を率いて、トルイの町まで60キロの地点で陣取っていた。
ウォルロックは先ほど届けられた、シルベールに派遣された長老達からの書状を読んでほそく笑む。

「皆の衆、大族長からの命令が下った。これより日本と連合して、トルイの町を攻め滅ぼす。今晩には戦端を開けるだろう。日本も明日には合流出来るようだが・・・町には兵は僅かしか残っていない。金も女も獲り放題だ!!日本の連中にはビタ一文渡すな!!」

ウォルロックの檄に兵士達は喚声を挙げて喜び応える。
同種族の集落を滅ぼすのに何の躊躇いも感じられない。

「トルイ族長はやりすぎたのだ。我等の足元を脅かし、自治伯随一の裕福な財産と町を創り上げた。それらを今宵、我等に献上してもらう。全軍、進撃せよ!!」


大陸東部新京特別区
日本国大陸総督府

「舐められたものだな。」

秋月総督の呆れたような口調とは別に、総督府官僚、自衛隊将官、国鉄総裁、鉄道公安本部本部長のお歴々の顔が怒りに満ちている。
電話で武力討伐の決定を杉村に伝えたらこの始末である。

「青木君、現在の陸上自衛隊にトルイの町を連中より早く攻撃する手段は無いのだね?」
「残念ながら・・・夜明け前なら、第17普通科連隊戦闘団で運用させている列車砲が使えるのですが。」

第16師団団長青木陸将の言葉に秋月は渋い顔をする。
すっかり何でも屋と化している第17普通科連隊戦闘団は、2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲を装甲列車に備え付けて、列車砲として運用している。
現在は王都ソフィアから全速で現地に向かっているが、自治伯軍の攻撃にはどうやっても間に合わない。

「ならば空自だな。本国の許可は取り付けてある。松本空将、F−2を爆装させて出動を命じる。そうだな訓練飛行で北サハリンのTu−95がこっちに来てたな。大陸にいる間の指揮権は総督府にある。彼等にも出動命令を出そう。」

戦略爆撃機Tu−95は恒例の『東京急行』の為にサハリンの基地に待機していたところを転移に巻き込まれた機体だ。
今回は北サハリンへの訓練と大陸での同胞への物資を持ってきただけなので、爆弾は二発しか持ってきてなかった。
FAB-1500とFAB-500である。


航空自衛隊
新京基地

新京国際空港に併設されたこの基地には、再編成された航空自衛隊第九航空団に所属するF−2戦闘機25機が配備されていた。
そのうちの2機が滑走路を飛び立つ。

『ウルティマ1よりウルティマ2へ、ベア5が飛び立った。引き離さないように気を付けろ』
『ウルティマ2了解、ベア5をエスコートします。』

傍受される可能性も無いから、平文で交信が常態化している。
そして両機の後背から巨大な戦略爆撃機が後を着いてくる。
音速を越えれるF−2から観れば鈍足だが、マッハ0,8で追ってくる。
ウルティマ2に水先案内人を任せ、ウルティマ1は先行して現地に向かう。
帰りは新香港の航空基地に着陸するので、戦闘行動半径は無視してよい距離だ。
爆弾投下後は軽くなるのだから尚更だ。
戦闘機の燃料補給は二時間が鉄則だが、一時間余りでトルイの町の近郊まで辿り着いていた。

『ウルティマ1より、ソフィアSOC。すでに戦闘が始まってるぞ。』

王都ソフィアの基地に配備されたソフィア管制隊に報告し指示を仰ぐ。
0866創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 06:57:15.57ID:GoWIy/vZ
杉村は絶句する。
ケンタウルス達は交渉の最中もトルイの町を攻撃する兵を派遣していたことを暴露したからだ。


ケンタウルスの将ウォルロックの陣

大族長の末子ウォルロックはケンタウルスの兵士二千を率いて、トルイの町まで60キロの地点で陣取っていた。
ウォルロックは先ほど届けられた、シルベールに派遣された長老達からの書状を読んでほそく笑む。

「皆の衆、大族長からの命令が下った。
これより日本と連合して、トルイの町を攻め滅ぼす。
今晩には戦端を開けるだろう。
日本も明日には合流出来るようだが・・・町には兵は僅かしか残っていない。
金も女も獲り放題だ!!
日本の連中にはビタ一文渡すな!!」

ウォルロックの檄に兵士達は喚声を挙げて喜び応える。
同種族の集落を滅ぼすのに何の躊躇いも感じられない。

「トルイ族長はやりすぎたのだ。
我等の足元を脅かし、自治伯随一の裕福な財産と町を創り上げた。
それらを今宵、我等に献上してもらう。
全軍、進撃せよ!!」


大陸東部新京特別区
日本国大陸総督府

「舐められたものだな。」

秋月総督の呆れたような口調とは別に、総督府官僚、自衛隊将官、国鉄総裁、鉄道公安本部本部長のお歴々の顔が怒りに満ちている。
電話で武力討伐の決定を杉村に伝えたらこの始末である。

「青木君、現在の陸上自衛隊にトルイの町を連中より早く攻撃する手段は無いのだね?」
「残念ながら・・・夜明け前なら、第17普通科連隊戦闘団で運用させている列車砲が使えるのですが。」

第16師団団長青木陸将の言葉に秋月は渋い顔をする。
すっかり何でも屋と化している第17普通科連隊戦闘団は、2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲を装甲列車に備え付けて、列車砲として運用している。
現在は王都ソフィアから全速で現地に向かっているが、自治伯軍の攻撃にはどうやっても間に合わない。

「ならば空自だな。
本国の許可は取り付けてある。
松本空将、F−2を爆装させて出動を命じる。
そうだな訓練飛行で北サハリンのTu−95がこっちに来てたな。
大陸にいる間の指揮権は総督府にある。
彼等にも出動命令を出そう。」

戦略爆撃機Tu−95は恒例の『東京急行』の為にサハリンの基地に待機していたところを転移に巻き込まれた機体だ。
今回は北サハリンへの訓練と大陸での同胞への物資を持ってきただけなので、爆弾は二発しか持ってきてなかった。
FAB-1500とFAB-500である。


航空自衛隊
新京基地

新京国際空港に併設されたこの基地には、再編成された航空自衛隊第九航空団に所属するF−2戦闘機25機が配備されていた。
そのうちの2機が滑走路を飛び立つ。

『ウルティマ1よりウルティマ2へ、ベア5が飛び立った。
引き離さないように気を付けろ』
0867創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 07:03:15.72ID:GoWIy/vZ
『ウルティマ2了解、ベア5をエスコートします。』

傍受される可能性も無いから、平文で交信が常態化している。
そして両機の後背から巨大な戦略爆撃機が後を着いてくる。
音速を越えれるF−2から観れば鈍足だが、マッハ0,8で追ってくる。
ウルティマ2に水先案内人を任せ、ウルティマ1は先行して現地に向かう。
帰りは新香港の航空基地に着陸するので、戦闘行動半径は無視してよい距離だ。
爆弾投下後は軽くなるのだから尚更だ。
戦闘機の燃料補給は二時間が鉄則だが、一時間余りでトルイの町の近郊まで辿り着いていた。

『ウルティマ1より、ソフィアSOC。
すでに戦闘が始まってるぞ。』

王都ソフィアの基地に配備されたソフィア管制隊に報告し指示を仰ぐ。
ウォルロック率いる兵団は、トルイの町の城壁に火矢を放って攻撃を仕掛けていた。
トルイの町はトルイ族長が対同族を意識していたのか城壁と水掘りに囲まれてケンタウルスお得意の弓矢による攻撃が有効に活かせない造りになっている。
だが50頭の守備隊と町から徴用した義勇兵100頭、人族などの奴隷兵450人程度は二千頭ものウォルロック軍を捌くのは限界だった。
そこに爆音を響かせて、F−2戦闘機が低空から侵入してくる。

ウォルロックの兵団に見せ付けるかのように城壁を飛び越えて、Mk82 500lb 通常爆弾を1基、大手門の裏側に投下する。
投下された爆弾の爆発は大手門を崩壊させ、水掘を渡る為の石橋も崩落させていた。

「やりやがったな日本軍!!」

ウォルロックの兵団の主力も大半が爆風に煽られ、或いは単に驚いて地面に転がったり、地に伏していたりという有り様だった。
大手門から侵入出来なくなれば、既に支隊に攻撃させていた他の門に兵力を振り直さなければならない。
文句の一つも言いたいところだが、主戦場だった大手門を守っていた守備隊主力を一撃で壊滅させたのだから何も言えない。
だいたい当の日本の飛行機械は遥か彼方まで飛び去っている。
敵の主力は片付けたのに何故か攻略には時間が掛かる事態となっている。

「まあ、被害は減ったからよしとするか。」

ウォルロックは気を取り直して攻撃の続行と部隊の陣形を組み直す指示を出す。
ようやく日付が変わり、一刻ほどの時間を掛け、攻城の為の陣形を組み直した。
だが今度は先ほどを上回る轟音が戦場に鳴り響く。

「今度は何だ?」

ウォルロックが闇夜に観たもの
先程の飛行機械の何倍もの大きさを誇る大型機だった。

『ベア5より、ソフィアSOC。領主の館らしき大きな建物を確認。
FAB-1500を投下した。』

機長の通信の直後に地表での爆発を視認した。
全長100メートル程もあった屋敷が跡形も無く吹き飛んでいる。
ケンタウルス達が好む藁が町の至る所に置かれていたせいか、町の各所に飛び火して大火災となっている。

「この町はもうダメだな。
『ベア5より、ソフィアSOC。
これより新香港に帰投する。』
早く帰って、ママのボルシチが食べたい・・・」

ウルティマ2も東門、西門を橋ごと破壊して帰投の態勢に入っている。
あまりにも巨大な炎の柱と爆風と爆音に敵も味方も戦いの手を止めて身を守っている。
吹き飛ばされた建物の破片も敵味方関係なく降り注いで犠牲者を増やしている。

「・・・嫌がらせか・・・」
「若、危険です、お退り下さい!!」
0868創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 07:09:15.80ID:GoWIy/vZ
側近達に押し留められ、本陣を後退させる。
爆音に驚愕、或いは恐怖して棒立ちとなり動けなくなった兵達が続出している。
逃げ出す者が皆無だったのは称賛に値しよう。
たが、せっかくの組み直した城攻めの陣形が崩れ、無駄になってしまった。
残った南門は逃げてきた住民まで抵抗に加わっている。
反対に味方は町から見える炎に怯えと略奪出来なそうな事態に士気が下がっている。
死にもの狂いとなった敵に被害が大きくなりだしていた。
翌朝、自衛隊の偵察隊員が使者としてバイクで、ウォルロックの陣に訪れる。
並みいる将兵達は憔悴しきった顔をしていた。

「なんと、そちらはもう攻撃の範囲内で歩兵達も一時間の距離に配置済みと・・・
せっかくだが大手門、東西門と橋はそちらの攻撃で使えない。
南門突破して既に市街の半分を制圧した。
出番は無いと思うのだが?」

「ご心配には及びません。
我々は崩壊した大手門側から進攻させて頂きます。」

装甲列車に固定された2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲の砲弾が大手門と繋がっている城壁に直撃し崩壊させていく。
その距離は20キロ。
その距離を列車降ろされた普通科隊員達は、やはり列車からクレーンで降ろされた装輪装甲車であるBTR-60PBやBTR-70の二両に21名の隊員が乗り込み先発する。
トルイの町の水掘は日本の城の掘と違ってさほど深くもない。
BTR-60PBやBTR-70の二両は水掘に入ってウォータージェットで航行し、対岸に隊員を上陸させて戻っていく。
徒歩でこちらに向かっている隊員を迎えに行ったのだ。
隊員達は見張りを撃ち倒し、城壁の穴を確保して侵入していく。
トルイの町の北側は大半が焼き付くされ、空爆による死体が点在している。
主戦場は町の中央の領主の館を抜かれて、こちら側に迫ってきている。

「当初の予定通りだ。
人間は解放し、ケンタウルスは撃ち殺せ。」
「味方のケンタウルスもいる筈ですが?」
「戦場で流れ矢はよくあることだ。
なるべく気を付けろよ?
見分けが付けばだがな。」

後背から自衛隊による攻撃が始まり、守備隊の防衛ラインは突き崩されていく。

隊長が拡声器で呼び掛ける。

「人族なら我々に降れ。
諸君の自由と生命だけは保証する。」

降伏しても殺されるか、奴隷に戻るかしかなかった人間達が手近のケンタウルスを殺害してこちらに駆け寄ってくる。
督戦しようと弓矢を構えるケンタウルスは隊員達に射殺される。
戦いはトルイの町のケンタウルスが男女問わず最後の一頭の抵抗が終わるまで続いた。
自治伯軍は約二百名近い死者とそれに倍する負傷者を出していた。
自衛隊側には人的損害は皆無である。
負傷や気絶などで生き残ったケンタウルスは奴隷に堕ちることになる。
人間の奴隷達は自衛隊が確保した。
渋るウォルロック達に略奪の権利を主張して自治伯領から装甲列車に乗せて脱出させのだ。
ケンタウルス自治伯爵領最大の都市トルイは僅か2日の攻防で消滅したのだった。


大陸中央部
王都ソフィア
国務省

『よさこい3号』襲撃事件から7日目、代官就任の手続きと挨拶、さらには一連の事件の事情聴取を終えた斉藤とヒルダは、国務省の玄関先で乗り付けた軽装甲機動車に気がついた。
運転席からは浅井二等陸尉が手招きしていた。
0869創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 07:40:13.00ID:GoWIy/vZ
「駅まで送ろう、姫様は後ろな。」

荷物を積み込みソフィア中央駅まで車を走らせる。
本来は馬車が通る道なので、まばらに人が歩いてたりするのであまりスピードは出せない。

「お仲間は先にアンフォニーに?」
「はい、途中のジェノアで自衛隊さんから、奴隷・・・おっと、難民を引き取らないといけないですからね。」

トルイの町で保護した三百名の奴隷は、総督府がトルイの町を攻撃したことの正統性を得る為の道具であった。
同時多発テロに対する関係者の逮捕に向かったら、たまたまケンタウルス自治伯の『内戦』に遭遇したので救助並びに解放したというのがマスコミ対策の名目である。
この時点では空爆の情報は関係者にしか知られていない。
ろくに日本の民間人が存在しない南部地域からの情報伝達は遅いし、自治伯領自体が奴隷と商人以外の人族には閉鎖的だ。
商人達も馬車での移動を数ヶ月単位で行うので、日本の民間人が多い東部地域に伝わるまで数ヶ月は掛かるだろう。
北サハリンは軍事情報をいちいち民間に公開しないし、民間人もあまり気にしてないのはお国柄だろう。
ヒルダと斉藤には空爆の情報を教えてある。
その必要があったからだ。

「総督府の杉村外務局長が感謝してたぜ?
だがよかったのか、難民を三百人も引き取って貰って?
こっちももてあましてたのは確かなんだが・・・」

後部座席からヒルダが身を乗り出して話に加わってくる。

「問題ありませんわ。
新香港の出資で作られるハイライン港、ハイラインからアンフォニーまでの街道の整備、サークルの相澤が提案していたアンフォニーとハイラインの治水事業、南北線の線路敷設事業。
アンフォニーでの学校の建設なんてのもありますわね。
人手が足りないくらいでしたもの。
彼等には代金分働いてもらいますわ。
費用は新香港持ちですけど、人夫として購入した名目ですから。」

斉藤も苦笑しながら

「建前は大事ですからね。
総督府から新香港が渋らないように力添え頼みます?
国営放送と大陸通信社に難民が解放されて、自由を謳歌しながら労働に励む姿や難民の子弟が元気に学校で勉学に励む姿のドキュメンタリー番組を作らせる協力をするのですから」

「上と色々企んでるんだな。
で、新香港は何を得るんだ?」

「トルイの町改め、ウォルロックの町とその周辺地域の交易の独占権といったところかしら?
まあ、そのへんは父と兄に任せておけばいいですわ。
問題は残った既得権益の商人なのですが・・・」

「エリクソン氏は行方不明だ。
懸賞金付きで指名手配にして、残った財産は王国が没収してるよ。」

意外に八方丸く治まったとヒルダと斉藤もホッとしている。


「さて、アンフォニーまで着いていく筈だったんだが一連のゴタゴタの後始末でここでお別れだ。」

車はソフィア中央駅のロータリーに着いていた。

「道中楽しかったですわ。」
「機会があればまたお逢いしましょう。」
「今度こそ無事着いてくれよ?
いずれ遊びに行くの楽しみにしてるからな。」

改札の向こうに二人が消えるまで、浅井は見送っていたのだった。列車が出発し、二人は今後のことを話し出す。
0870創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 07:47:51.25ID:GoWIy/vZ
「さあ、夢にまで見た内政チートでウハウハ生活の始まりよ。
我等の野望の第一歩、最初に何から始めるのかしら新任代官殿は?」
「まずは領民に入浴と歯磨きの習慣化の義務付けですね。」
「地味ねぇ・・・」
「いや、これが結構大事なんですよ、例えば・・・」


王都ソフィア近郊
瑞X林地帯

「ハッハハ、モウカクシテタアジトニフミコマレタゾ。
アレハオウトノキシダンダナ。」

間一髪潜伏していたアジトから連れ出されたエリクソンは、汗もダラダラに垂らして一息つく。
アジト周辺には松明が移動してるのが見える。
まだ、捜索は続いているようだ。
白馬の馬の騎士アウグストスは脇に抱えたエリクソンを地面に投げ下ろす。

「か、閣下の御尽力で助かりましたが・・・これからどうする気で?」

「ココデオワカレダナ。
ドウセホカニモアジトヤザイサンヲノコシテルンダロ?
ワレハヤツラトオナジブキ、タタカイカタヲスルレンチュウトタタカエテ、オオムネツヨサヲマナンダ。
ソロソロカエルトキカモシレンナ。」

遠くを見るアウグストスにエリクソンは服の汚れを落としながら疑問を口にする。

「失礼ながら閣下のお姿では、船に乗るのも困難だと思うのですが・・・私ももうお力になれませんし、ケンタウルス達も最早あてには出来ないでしょう。」

「マアイザトナレバオヨイデカエルサ、ハッハハ。
イキテイレバマタアオウ!!」

白馬の馬の騎士はそう言って愛妻の背に乗って、颯爽と駆けていった。
独り残されたエリクソンはアウグストスの姿が見えなくなると北に向かって旅立つ。

「まずは新しい戸籍を手に入れないとな。」



大陸東部
新京特別区
大陸総督府

「まさか、八方丸く治まったなんて考えてるんじゃないだろうな?とんでも無い、本国が激怒してるぞ。」

秋月総督の言葉に自衛隊、官僚、公社の幹部たちが恐縮している。
特に交渉で翻弄された杉村外務局長は頭を垂れている。
秘書官の秋山が被害を報告する。

「『よさこい3号』の事件の調査、修理と線路の補修、点検、死亡した乗務員の後任人事。
最大で4日はスケジュールに遅延が出ます。
その間に本国で出るであろう餓死者や自殺者の増加。
損害は大きいです。」
「本国マスコミは我々の食糧調達の不備を非難している。
貴族達からもう少し締め上げてもいいんじゃないかとか、民主化に対する試みが全く行われていないとかな。」

総督の言葉に大陸各地で年貢を徴収し、本国に輸送する部門の局長が不満をぶちまける。
0871創る名無しに見る名無し垢版2018/06/15(金) 07:52:01.08ID:GoWIy/vZ
「馬鹿な・・・確かに検知の完遂は東部地域だけで他は自己申告。
本国に送れる食糧が不足しているのは間違いない。
だが現状の人手不足で、貴族達の締め上げはギリギリの線で行っている。
これ以上は、ストライキと反乱を招くぞ。」

今年になってようやく南部地域に手をつけれるようなったのだ。
未舗装の街道による移動と輸送の困難。
散発的に現れるモンスターや帝国残党に対する自衛隊の護衛部隊の編成。
同時に大陸に移民した日本人へのインフラの建設。
問題は山積みなのだ。
王国政府と民政を調整する局長も声をあらげる。

「民主化とか話にならん。
大陸の教育レベルがそれに追い付いてない。
第一、我々がそれをやらないといけない理由はなんだ?
コストばかり掛かって将来の商売敵でも作るのか?
人材も資源も無限じゃないのだ。
時間だって足りない・・・本国では今でも・・・」

最初は項垂れてた官僚達の目が血走っている。
秋月総督は本国から伝えられた決定事項を伝える。

「マスコミが世論を煽るのはいつものことだが、世論に圧されて大陸への強硬策を取られてはたまらない。
だから政府も我々と大陸に強硬策を取るフリをすることが決定された。」

全員が座席から立ち上がった第16師団師団長青木一也陸将に注目する。

「静岡県御殿場市の板妻駐屯地の第34普通科連隊を基幹とする第34普通科連隊戦闘団が大陸に派遣、駐屯することになる。
その家族も含めて約八千名を受け入れる。」

妙に人数が多いのは転移後に食糧配給で優遇を受ける自衛隊隊員の既婚率が高いのと、それを頼って両家の親との同居が多いからである。
秋月総督は多少不安そうに質問する。

「本国の部隊がファンタジーな大陸に馴染んで戦力化するのには少し時間が掛かるかな?」
「いえ、34普連は本国で最もファンタジーとの戦闘経験が豊富な部隊です。」

青木陸将の答えに王都から来ていた第17普通科連隊戦闘団団長碓井一等陸佐が横槍を入れる。

「ああ、陸将・・・あれはファンタジーとは少し違うと思うぜ・・・」
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