まったくの前振りなくおもむろにティターニアのはなった魔法がアルバートを直撃する。
鳥肌が立つような不快な不協和音を直接脳味噌に叩き込む凶悪無比な幻聴術だ。

>「どうだ、こんな魔法は旧世界にはなかっただろう!」
>「貴様――! そんなふざけた技があってたまるか……!」

古代人が考えつくはずもない――思いついても誰もやらなかったであろう嫌がらせ特化の魔法。
純粋培養の古代人であるアルバートにはてきめんに効果を表し、彼は不快に顔を歪めてもがき苦しんでいる。
敵ながらなんとも気の毒な状態であるが、アルダガは構わずアルバートの方へと踏み出した。

「エーテリアル世界だの虚無の竜だのは置いておいて、拙僧からも言いたいことがあります。
 古代の民ではなく、アルバート殿、貴方へ言っておきたいことです」

彼女はメイスを掲げる。高く高く振り上げたその柄は、凄まじい握力によって軋む音を立てた。

「――手紙の一つもよこさず、どこをほっつき歩いてたんですかぁぁぁぁっ!!」

怒声と共に音を割って打ち下ろされたメイスが、地面を衝撃だけで爆発させた。

「拙僧や黒騎士、陛下たちがどれほど心配したとっ……!国民たちが、どれほど不安になったとっ……!!
 古代の記憶が甦った?本当は女王に仕えていた?そんな言い訳より、まず言うべき言葉があるでしょう!!」

間一髪でメイスの直撃を回避したアルバートに、気炎を吐きながら追いすがるアルダガ。
棍術もへったくれもなく幼子のように振り回されるメイスの、一撃一撃が余波で周囲の草や木の葉を塵に変える。
頭の中で響き渡る騒音に苦しみながらもアルバートは大剣で反撃するが、純粋な質量差でメイスに押され気味だ。

「昔のことを思い出したら、それまで貴方が誓ってきた陛下への忠誠や、拙僧たちと共に帝国を守ってきた日々は、
 全部なかったことになるんですかっ!?そんなわけがないでしょう!そんなことは、拙僧が許しません!!
 あなたはアルバート・ローレンス、黒竜騎士です。古代の民である以前に、帝国に生きる民の一人です!!」

完全にお説教モードに入ったアルダガは、奇しくも彼女のパトロンである聖女の言動と瓜二つであった。
神殿に務める人はみんなこうなる。説教気質は空気感染するのだ。