【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】

1ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc 2018/05/09(水) 20:58:41.75ID:9/lXBGIZ
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
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過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
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【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1516638784/l50

184創る名無しに見る名無し2018/07/03(火) 18:15:21.24ID:f1dClnnX
WV8

185創る名無しに見る名無し2018/07/03(火) 22:14:41.45ID:HSI0+GOT
>>183
お前の自画自賛本気で醜いから消えろや
バレてないと思ってるの?
なあウンコマン

186創る名無しに見る名無し2018/07/04(水) 14:27:16.95ID:0gsznIYf
>>183
ラテカスさあ毎回そうやって迷走するよなあ

187創る名無しに見る名無し2018/07/06(金) 12:24:35.94ID:nXBHjlqr
糞ラテの暴走はまだまだ続く…!

188創る名無しに見る名無し2018/07/06(金) 18:12:09.79ID:VQzMZHHg
ラテカス 自演 無能
 我儘

189創る名無しに見る名無し2018/07/08(日) 22:20:02.14ID:exOLxskt
ラテ、アウト〜ーーー

190スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:42:35.60ID:Ukn/WbDI
神術の炸裂が終末の鐘の如く響き渡り、死闘が終わりを迎える。
全の英雄の倒れる音と、アルダガの荒く不安定な呼吸。
それ以外の一切の音が介在しない静寂が、帳を降ろすように横たわる。

「――――っ」

最早言葉にすらならない呻きのようなものを上げて、アルダガもまた力尽きた。
焼け焦げた右腕に痛みはなく、そして痛み以外の感覚もない。
緊張の糸がぷっつりと途切れて、彼女は足の支えを失った。
仰向けに、倒れていく。

>「バフナグリーさん!」

その背を受け止める者がいた。
駆け寄ってきたシャルムがアルダガの肩を支えて、炭化した右腕を掴む。
皮膚の成れの果てがポロポロと溢れ落ちて、亀裂から血が溢れ出ていた。

「シアンス、殿……」

>「しゃがんで。楽にして下さい」

しかし血はすぐに止まった。
シャルムの回復魔法が焦げた血肉を癒やし、傷を埋め、新たな皮膚が形づくられていく。
同時に、沈黙していた神経が再び感覚を取り戻して、痺れるような痛みが腕から全身を駆け巡った。

「あっ、痛ぅぅぅ……!シ、シアンス殿、もう少し手心を……!」

>「……痛いですか?少しだけ我慢して下さい。必ず治してみせますから」

灼け尽き、失われていた肉体の機能を取り戻しているのだから、痛みがぶり返すのは当然と言えば当然だ。
全の英雄を打ち倒すのに、犠牲を払わずに済むなんて端から考えてなどいなかった。
右腕一本と引き換えに世界を救えるのなら、甘んじてそれを受け入れるつもりだった。
しかし――

>「……ごめんなさい。あなたにしか、頼めない事でした」

アルダガの肩に額を付けて、しゃくり上げるシャルムの姿を見たとき、彼女は心に何か温かいものが満ちていくのを感じた。
無事な左腕で、シャルムの頭を抱き寄せる。

世界を救うのに、見返りを求めるつもりはなかった。
黒騎士としての使命であり、女神を奉ずる者として当然のことだと認識していた。

だが、こうして傷ついたアルダガを見て、涙を流してくれる人がいる。
払った犠牲を取り戻さんと、失ったものを補わんと、必死に手を尽くしてくれる人がいる。
その温もりは、異教徒を滅したあとに、聖女を通じて交わされる女神のお褒めの言葉よりも、ずっと心地が良かった。

「貴女がそう言ってくれるのなら……戦った甲斐がありました、シアンス殿」

肩から伝わってくるシャルムの体温を感じながら、アルダガは零すように呟いた。
見返りを得て喜ぶなど、修道士として失格かもしれない。
だけど今はきっと、それで良い。それで良いのだと、心から思える。

(女神様。拙僧は今でも、貴女に対する信仰を失ったわけではありません。
 ですが……"わたし"の選んだ守るべきものもまた、こんなにも尊いのです)

人民を救うなどと、上から目線で御大層な大義がなくても、人は戦える。人を救える。
他ならぬ証が、いまこの手の中にある。
シャルムを抱き締めながら、アルダガは自身の心の変容を、そう肯定した。

――――――・・・・・・

191スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:43:51.57ID:Ukn/WbDI
アルダガと全の英雄とが一騎打ちを演じる一方で、スレイブ達は女王パンドラと対峙していた。
ティターニアが大地の指輪の力で女王を翻弄し、岩の根がその動くを封じる。
全の英雄からの助けを得られず孤立しパンドラは、やがて指輪の勇者達に追い詰められていった。
そして、アルダガが全の英雄を打ち倒す。全てに決着がつく。

>「もう良い――私の負けです」

全の英雄の敗北は、旧世界の民に抵抗の術が残されていないことを意味していた。
パンドラは諦めたように椅子へと腰掛け、周囲から護衛の騎士たちが消える。
女王もまた静かに息を引き取って、指輪の勇者を阻むものは何もなくなった。

>「女王パンドラ……あなたのことは最後まで嫌いでしたよ。でも、世界を救おうとするその意志の強さだけは好きでした」

息絶えた女王の姿を複雑な面持ちで眺めるのは、旧世界の英雄が一人、オウシェン。
ジャンと戦い、その力量を測っていた彼女は、指輪の勇者達に向き直る。

>「パンドラがいなくなったことで不死者たちは統制を失い、神殿へと獲物を求めてやってくることでしょう。
 理性もなく、本能のみで生きる人間なぞ獣以下の存在でしかありません。
 そのような者たちにこの神殿を乗っ取られるなど言語道断、私と生き残った英雄でここを守ります」

「先程から神殿の周りから聞こえてくる叫びは、そういうことか。
 他人のことを言えた義理じゃないが、あんたたちも満身創痍だろう。大丈夫なのか?」

スレイブの問いに、オウシェンは見くびってくれるなとばかりに鼻を鳴らした。

>「火と闇と光と土と……爺様も生きておられるようですね。
 爺様に治療してもらえればなんとかなるでしょう、ほら爺様起きてください!寝たふりしないで!
 魔力封印?爺様なら集中すればすぐに解除できます!」

指輪の勇者と対峙し、打ち倒された英雄たちが、一人また一人と立ち上がる。
全身に傷を負い、武装の砕けた者もいるが、その双眸には未だ戦意の火が宿っていた。

「俺を忘れるなよ、水臭いじゃないかオウさん。……水だけにさ」

突風が玉座の間を洗い、風の英雄ザイドリッツがふわりと着地する。
スレイブによって刻まれた刃傷は未だ残っているが、血は止まっているようだった。

「……生きてたのか」

「よく言うぜ、トドメ刺していかなかったのは君だろ。詰めが甘いよ、詰めが。気をつけなよ?
 まぁ死に体ではあったんだけど……俺がまだ生きてるのは多分、女王様の差配さ」

ザイドリッツの言葉に、スレイブも合点がいく。
女王の最期は、彼女が自ら命を絶ったように見えた。

パンドラは自身の消失が不死者を暴走させることまで読んでいて、あえて余力を残して絶命したのだ。
自分の命の維持に使う魔力を、英雄たちの回復に充てた。
致命傷を負ったはずのザイドリッツが、こうして戦線に復帰できているのが何よりの証左だ。

「餞別だ、持っていきな」

不意にザイドリッツが放ったものを、スレイブは片手で受け止めた。
それは黒騎士の証、ブラックオリハルコンの長銃。ザイドリッツが百年前の黒騎士から奪ったものだ。

「これをどうしろと……」

スレイブは困惑した。渡された長銃は銃身が半ばから綺麗に断たれている。
他ならぬスレイブが、ザイドリッツとの戦いで破壊した銃だ。

192スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:44:14.43ID:Ukn/WbDI
「そっちの世界で俺を弔ってくれるんだろ?墓標代わりにでもしといてくれ。
 うまい感じにソードオフになってるから撃てないこともないだろうけど、まぁお勧めはしないかな」

「……懐に入れておけば、盾くらいにはなるか」

風の英雄の真意が読めないまま、スレイブは長銃を腰帯に差した。
ザイドリッツは満足したように頷くと、オウシェンと共に神殿の出入り口へと向かっていく。

>「……行こうぜ。俺たちはあいつらに託されたんだ」

ジャンがそう言って、踵を返した。
一度は殺し合いを演じ、同じ目的のもと集った英雄と勇者が、再び袂を分かつ。

(託された、か)

世界を救いたいというザイドリッツの言葉に嘘はなかった。
そして、英雄たちが幾万年もの間掲げ続けてきたその責務は、正しく指輪の勇者たちに託されたのだ。

スレイブは、腰の壊れた長銃に手を置く。
進もう。託されたものと、意志を背負って。彼らの悲願もまた、スレイブ達と共にある。

>「行きましょう、ディクショナルさん」

スレイブもまた一歩踏み出そうとすると、何かに引っ張られるような感覚があった。
アルダガの治療を終えたシャルムが、神殿へ来たときと同じように、彼の袖をつまんでいた。

「………………」

スレイブはしばらく無言で立ち止まり、思案に思案を重ねて、行動に移した。
袖をつまむシャルムの手を振り払う。

「もしかするとまた分断される可能性がないこともないかもしれないからな。こうするのが、おそらく多分合理的だ」

スレイブはシャルムの方を見ることなく、自由になった手で、シャルムの手を握った。
手のひらから伝わる彼女の体温と、血の巡る鼓動。
彼に力をくれるその全てを確かめるように感じながら、スレイブは転移陣を踏んだ。

193スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:45:10.88ID:Ukn/WbDI
・・・・・・――――――

194スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:45:47.97ID:Ukn/WbDI
視界を包む光が晴れると、そこはこれまでとは別の神殿だった。
竜を象った意匠がそこかしこにあしらわれ、静謐と荘厳とが渾然一体となって見る者を包む。
パンドラのいた玉座の間とは異なり、生気に満ちた瑞々しい気配が充溢していた。
アルダガは目を閉じ、周囲の気配を探る。不死者の律動はどこにもない。

(星都の……更に隔離された空間、ですか。女王パンドラが、虚無の竜から最期まで護り通したもの)

巨大な扉を開いた先には、巨大な玉座を温めるように座する巨竜の姿。
――『竜の間』。星都を巡るこの旅の、最終目的地だ。

>『ありがとう、よくぞパンドラを解放してくれました。
 これで、あなた達に虚無と戦う力を与えることが出来る――』

ティターニアの求めに応じて、全竜は真相を語る。
女王パンドラが虚無に墜ち、不死者の王として星都に君臨し続けた理由。
そして、アルダガ達の奉じる女神の正体――

「それではエーテルの指輪を司るのは、女神様ということですか……?」

他の指輪が四竜三魔の力を封じ込めたものであるように。
エーテルの指輪は、女神パンゲアの奇跡を凝縮し、形を成したものだった。
おそらくは、同じ理屈で力を得る神術よりも、更に奇跡の本領に近い力を手にすることができるだろう。

(……どうやら、指輪の勇者たちとわたしの旅は、ここで終わりのようです)

女神の力を司るエーテルの指輪は、本質的にはアルダガの持つ神術の力と同一だ。
それは逆説的に、神術使いとしてのアルダガが指輪の勇者と共に居る妥当性を否定するものとなる。
エーテルの指輪があれば、アルダガと同じ力をアルダガよりも高い精度で扱うことができるからだ。

思えば、星都への旅路は彼女にとって、帝国の全ての民を救うための使命を帯びた戦いだった。
既に話のスケールは一国の範疇などとうに越えて、指輪の勇者が救う対象は「世界」になっている。
復活した虚無の竜が今度こそ世界を食らいつくせば、帝国も連邦も王国も、国家の垣根など意味を為さないのだ。

だから、アルダガが指輪を求める理由は、最早帝国上層部への義理立てだけだ。
聖女はまたぞろマジギレするかもしれないが、そのためだけに勇者から指輪を奪う気にはならない。
アルダガが真に守りたいのは帝国ではなく……そこに生きる民だからだ。

指輪の勇者たちと共に戦い続けることが出来ないのが、残念ではないと言えば嘘になる。
しかし、帝国の強い意向を受けている立場のアルダガが勇者一行に混ざれば、待っているのは再びの政争だ。
無粋な横槍を避けるには、やはりアルダガはここで離脱すべきだろう――

彼女はそう結論付けて、指輪の勇者たちより一歩下がった。
しかし全竜との対話を終えて振り返ったティターニアは、真っ直ぐアルダガの方へ歩いてきた。

>「アルダガ殿……これはそなたが使うのがいいのではないか。女王様は、仮初なんかじゃなかった――」

差し出されたエーテルの指輪。
その行動が意味するところを、彼女はしばらく理解できていなかった。

「え……あ……えぇっ!?ティ、ティターニアさんっ!い、良いんですか……?」

アルダガが最後の指輪を手にすれば、これまでのように国家に囚われずに行動することは出来なくなる。
言わば現在のアルダガは帝国のエージェントだ。国家の意志によって指輪を探索している。
その『成果』として指輪を得れば、帝国上層部はそれを『有効に』使うことだろう。

行き着く先はハイランドやダーマとの戦争。
表立って開戦はしなくとも、指輪の力を背景に不平等な交渉を迫ることもあるだろう。
指輪の勇者たちにとって益となるものはなにもないはずだ。

195スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:46:16.52ID:Ukn/WbDI
>「……帝国に指環をもたらす。確かに成し遂げましたね、バフナグリーさん。
 他ならぬ指環の勇者様がこう仰っているんです。頂いておきましょう」

「シアンス殿っ!?」

思わぬところから謎の援護射撃が飛んできた。
そう、国家間のしがらみや上層部の意向を無視するなら、エーテルの指輪の入手はアルダガにとっても悲願であった。
旧世界の女王が、新世界で女神となって造った指輪。それを賜るのは修道士としてこの上ない誉れだろう。
正直に言えば、喉から手がでるほど欲しい逸品ではある。

「……受け取れませんよ、ティターニアさん。帝国に指輪が渡れば、それは戦争の火種になります」

言葉とは裏腹にアルダガは手を伸ばし、ティターニアの手からエーテルの指輪を拾う。
巨大なメイスを振るい続けたために常人よりも大きいアルダガの指に、指輪はピタリと嵌った。

「ですが、一時的に預からせていただきます。約束、覚えていますよね?
 星都での旅が終わったら、指輪を賭けた立ち合いが待っています。真の所有者は、それを経て決めましょう」

指輪を嵌めた手を確かめるように握ったり開いたりしながら、アルダガは言葉を返した。
当初の予定に変更はない。決着を着けるその意志は、未だなお胸の中にある。

さあ、あとは星都を脱出し、指輪を新世界に持ち帰るばかりだ。
竜の間を辞する支度を整えていると、シャルムが不意に思案を言葉にした。

>「もし、この滅びた世界に……まだ、誰も答えを知らない謎が残されているとしたら」
>「どう、思いますか?その謎の正体を、知りたい、ですか?」

「……シアンス殿?」

エーテルの指輪を含む、全ての指輪を手に入れて、残るは虚無の竜との最終決戦。
大団円まであと一歩というところで、シャルムは足を止める。
その表情には、謎への探究心というよりかは、もっと根源的な"怯え"のようなものが見て取れた。

>「……ディクショナルさん。もし私が、もう一度。
 何も聞かず、何も言わず、ただ手を握って欲しいとお願いしたら……それを、聞いてくれますか?」

問われたスレイブはほんの数瞬、真意を探るように目を動かして、すぐに頭を振った。
シャルムの言葉が駆け引きや暗黙の訴えなどではなく、純粋な願いであると、気づいたのだ。

「貴女が何をしようとしているのか、俺は知らない。だが、何をするのだとしても……俺は貴女の隣に居よう」

スレイブは返答と共に、シャルムの手を再び握った。
そしてシャルムは、アルダガへと目を向ける。

>「バフナグリーさん」
>「私が今からする事は、別に帝国の為ではありません。それどころか……むしろ、誰の為にもならないかもしれない。
  ……それでも、力を貸してくれますか?」

「そんな他人行儀なこと言わないで下さい、シアンス殿……。わたしの守りたいものの中に、貴女もまた入っているんです。
 帝国だからとか、新世界だからとか、そんなことは関係なしに、わたしは貴女を守ります」

仲間たちに一通り声をかけてから、シャルムは全竜へと向き直った。

>「すみません。少し、聞きたい事があります。まだ明らかになっていない、幾つかの謎についてです」

シャルムの問いに真摯に答えていた全竜。
しかしその態度は、ある質問を境に豹変することとなる。

196スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:46:58.89ID:Ukn/WbDI
>「これが、僅かに残った謎……真実を、教えて下さい」

全竜が笑う。裂けた口からのぞく、無数の牙は、彼のこれまで隠していた獰猛さの発露だった。

>『真実?真実ならもう分かってるじゃないか。私はあの時、滅びゆく世界をここから眺めていた。
 世界の平和なんてつまらない願いを、全て足蹴にしてやった』

かつて世界を救うために戦った、先代の指輪の勇者たち。
いや、先代だけでなく、その前の代も、その前の前の代も、ずっと以前の勇者たち。
彼らが一様に望んだであろう世界平和は、指輪の力で叶えられるはずだった願いは。

――眼の前で心底愉快そうに語るこの全竜によって、阻止されていたのだ。

「ふざけるな……!!」

全竜の言葉をシャルムの隣で聞いていたスレイブが、怒りを露わにして叫んだ。

「ふざけるなよ、ふざけるな……!それじゃあ、これまで先代たちや、旧世界の英雄たちが払ってきた犠牲は……
 彼らが願い、旅の果てに死力を尽くした戦いは、まるで――」

『――まるで無意味な、茶番。そう言いたいのだろう?ひどいことを言う奴だな。
 君は興行の前座で痴態を晒す道化を、無意味なものだと斬って捨てるのかい?』

「貴様――!!」

激昂したスレイブが剣を手に飛びかかる。
怒りに任せた愚直な突進は、竜の鼻息一つで吹き飛ばされた。

『茶番などではなかったさ。彼らは優秀な道化だった。見ていて飽きないほどにね。
 これからもそれは変わらない。君たちは私の書いた筋通りに世界を救うだろう。
 私はひとしきりその過程を楽しんだあと、君たちの冒険譚を閉じて本棚にしまう。
 よく頑張った、感動した、心躍ったと感想を述べてね。そしてまた次の勇者が生まれるのを心待ちにするのさ』

アルダガもまたメイスを構え、全竜と対峙する。

197スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:47:33.73ID:Ukn/WbDI
規制解除

198スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:48:38.05ID:Ukn/WbDI
「それを聞いて、拙僧たちがおとなしく貴方の思い通りにするとでも?」

『するとも。虚無の竜から世界を救うという点においては、私と君たちの願いは同じなのだからね。
 まさか世界を救わないなんて言い出すつもりはないだろう?それは困るなぁ。
 せっかくここまで"育てた"最高の道化達が、舞台から転げ落ちてしまうのは良くない。
 君たちの頭の中身を少々弄って、素直に世界を救いたくなるように仕向けてみるのも悪くないかもしれないね』

「心配せずとも、世界は救ってやる」

叩きつけられた壁の中に埋まっていたスレイブが、瓦礫を跳ね除けて起き上がった。

「貴様の描くシナリオなど知ったことじゃない。この下らない輪廻を、俺たちの代で終わらせる。
 貴様が永遠の繰り返しを望むのなら、虚無の竜よりも先に貴様を滅ぼすだけだ」

『こらこら、観客に刃を向ける道化がどこに居ると言うんだい。
 ……いや、そういうのも趣向としては悪くないか。観客参加型の戯曲というのも、世界にはあったね。
 よし、君の望む通りにしよう。私は何をすれば良い?舞台に上がって一緒に歌えば良いのかな』

「抜かせ……!」

『そら、第一楽章が始まるぞ。まずはロンドから踊って貰おうか――"破滅への輪舞曲"』

瞬間、神殿を構成していた石壁が消失した。
外には星都の密林が広がっているはずだが……目に飛び込んできたのは荒野。
地平線の彼方まで、木の一本すら見えないひび割れた荒野だ。
失われた天井の代わりに空には暗雲が立ち込め、雲の隙間から幾条もの稲光が降ってくる。

土砂降りの雷雨と、暴風。
どこからともなく押し寄せる濁流は、まるで嵐の海の上のようだ。
……"ようだ"ではない。いつの間にか、指輪の勇者たちは今にも沈みそうな船の上に放り出されていた。
荒波に揉まれ、転覆寸前にまで傾く船。足元の甲板の、濡れた木材の感触まではっきりと感じる。

「これは、空間の書き換え……滅びをもたらす天災を、『創造』した――!?」

『船旅と嵐による難破。艱難辛苦の代名詞とされるものさ。
 今の時代は飛空艇なんて言う便利な乗り物が普及してしまったけど、あれは良くない。つまらない。
 やはり冒険はこうでなくてはね』

船底に穴が空き、またたく間に海水が入り込んでくる。
難破寸前の船にトドメをささんとばかりに、濁った高波が空を覆い尽くした。

199スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 22:49:21.75ID:Ukn/WbDI
【全の竜との戦闘開始。『創造』の力により嵐の中で難破寸前の船の上に放り出される。】

200スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/08(日) 23:04:36.79ID:Ukn/WbDI
【遅くなりました!すみません!】

201ジャン ◆9FLiL83HWU 2018/07/09(月) 00:51:32.78ID:mTKOyPFu
全の竜が待ち受ける広間は華やかではないが気品を感じさせる装飾が施され、
旅の終わりに相応しい場所であった。

>『ありがとう、よくぞパンドラを解放してくれました。
これで、あなた達に虚無と戦う力を与えることが出来る――』

そうして全の竜が語り出すのは、旧世界の終焉と女神の誕生。
おとぎ話ですら語られることのなかった、世界創造の真実だ。

>「アルダガ殿……これはそなたが使うのがいいのではないか。
女王様は、仮初なんかじゃなかった――」

ジャンは一介の冒険者にすぎない。だが、教会からの出向とはいえ黒騎士のアルダガが指環を持つという意味は理解していた。
行動そのものが帝国の意志を示す黒騎士が女神に認められた証を持ち、自在に操る。
それは帝国と教会の間に軋轢を生み、ハイランドやダーマへの侵攻どころか
この大陸に広く信仰を持つ教会すら敵にするということ。

だが、それでもジャンは思う。
信仰に敬虔であり続け、一行をここまで守り抜いてくれたアルダガならば。
女神は虚像ではなく、本当にいたということが示されたならば。
それは報われるべきなのだと。

「とっとと受け取っちまえよ、どうせ俺たちじゃ使えねえしな」

>「……帝国に指環をもたらす。確かに成し遂げましたね、バフナグリーさん。
 他ならぬ指環の勇者様がこう仰っているんです。頂いておきましょう」

「ほれ、帝国代表様が言っておられる。
 とっとと嵌めて、帰ろうや」

結局指環を受け取ってはくれたものの、アルダガは頑固な姿勢を崩すことはない。
帝都で交わした約束をまだ実行するつもりでいるらしい。

>「ですが、一時的に預からせていただきます。約束、覚えていますよね?
 星都での旅が終わったら、指輪を賭けた立ち合いが待っています。真の所有者は、それを経て決めましょう」

「なあティターニア、やっぱり俺たちでやんないとダメかな……
 今のうちに俺の頭を覚えておいてくれ、きっとあのメイスでへこんで形が変わっちまうから」

アルダガの強靭な意志を秘めた目はまるで伝説に語られるオリハルコンのようだ。
確かに決闘はオーク族として誉れではあるが、思わずジャンはその目から目線をずらしてティターニアにこっそり耳打ちする。

202ジャン ◆9FLiL83HWU 2018/07/09(月) 00:51:54.81ID:mTKOyPFu
さて、一行がどうやって帰るかとなったそのとき。
帝国の一流魔術師たるシャルム・シアンスがぽつりとつぶやく。
それは指環の勇者たちに対する問いかけであり、全の竜への問答でもあった。

>「ジャンソンさん。私は結局、まだまだオークの事が分からないままです。
 ……だけど、あなたの事は……少しだけ、分かったような気がしてるんです。
 何事も、中途半端は良くない……ですよね?」

「……ああそうだ。やるなら最後まで、諦めは死……それが俺たちオークさ」

まるで気づいてはいけないことに気づいた子供のような、
王族の秘密を知った侍女のような表情でシャルムは語り始める。

先代勇者が願ったいくつかの出来事、そして唯一叶えられなかった、たった一つの願い。
そして、全の竜は真の姿を現す。

>『茶番などではなかったさ。彼らは優秀な道化だった。見ていて飽きないほどにね。
 これからもそれは変わらない。君たちは私の書いた筋通りに世界を救うだろう。
 私はひとしきりその過程を楽しんだあと、君たちの冒険譚を閉じて本棚にしまう。
 よく頑張った、感動した、心躍ったと感想を述べてね。そしてまた次の勇者が生まれるのを心待ちにするのさ』

「……閉じる?閉じるってのはどういう意味だ!?」

『そのままさ。指環を全部返してもらった後、記憶をいじって故郷にでも送り出す。
 かくして勇者は故郷に戻り、静かに幸せに暮らしましたとさ……』

「ふざけんじゃねぇぞ!!ここまでやってきたことも全部お前がやったってのか!」

『私は観客。透明な壁の向こうでただ楽しむだけさ。
 役者たちは衣装と道具を与えれば常に自分で筋書きを整えてくれるからね……私は指環という大道具係でもあるかな?』

>「貴様の描くシナリオなど知ったことじゃない。この下らない輪廻を、俺たちの代で終わらせる。
 貴様が永遠の繰り返しを望むのなら、虚無の竜よりも先に貴様を滅ぼすだけだ」

「シェバトからの付き合いだけどよ――スレイブ、お前は本当に気が合うぜ。
 自分の道を好き勝手に弄られて黙ってられるか!」

ミスリルハンマーに指環の魔力を纏わせ、大瀑布のごとき水圧が大槌に宿る。
そうして各々の得物を全の竜に突きつければ、それが開始の合図だ。

203ジャン ◆9FLiL83HWU 2018/07/09(月) 00:52:27.50ID:mTKOyPFu
>『そら、第一楽章が始まるぞ。まずはロンドから踊って貰おうか――"破滅への輪舞曲"』

>「これは、空間の書き換え……滅びをもたらす天災を、『創造』した――!?」

「全ての竜だからなんでもありってか!だけどよぉ!」

『専門家がいることを忘れてないかな!』

ジャンが荒れ狂う波と激しく叩きつけるように降り注ぐ豪雨に向けて指環をかざせば、
波は静かに、雨と雷雲は即座に霧散して青空が広がる。
船底から入り込んだ海水も戻り、逆に船を包む壁となって滑らかに海面を進んでいく。

「苦労しなけりゃ冒険じゃねえなんて、それこそ見ている側だけの感想さ。
 いかに楽して安全に旅するかってところに力を入れるのが冒険だぜ」

『観客は刺激を求めるものなのだが……では、次の章に移るとしよう。
 喜劇か悲劇かは君たち次第――"終わりよければ全てよし"』

いつの間にか全の竜の声だけが辺りに響き、雲一つない晴天だった空は今にも振りそうな曇天へと移り変わる。
船はどこかの港へと静かに着き、甲板から桟橋へ向けてタラップが勝手に伸びていく。

「……降りろってことか。茶番に付き合えとさ」

『指環の勇者たちはなんとか嵐を乗り越え、近くの港町へとたどり着いた。
 だが町を歩く人々は何か事情を抱えているのか、表情は空の如く重苦しい』

港を歩く水夫や住人の顔は全の竜が語る通り暗く、何かに怯えているようだ。
ジャンが事情を聞いてみようと近づくが、誰一人として言葉を交わさず離れて行ってしまう。

『事情も分からぬまま勇者たちは町を歩き、そして市場で騒ぎに遭遇した』

言われたまま市場に辿り着いてみれば、そこにはボロボロの布切れを纏った複数の老人と子供が槍や剣を持ち、
町人たちに突きつけては食料を奪っていく。

『当然勇者たちは止めようとするが、老人の中で眼帯を付けひときわ立派な体格をした老人が勇者たちの前に進み出る』

「あんたら余所者には分かんねえだろうがな、こいつらは俺たちを捨てたんだ!
 五年前に帝国への徴税として食料が片っ端から持ってかれ、口減らしとして働けない赤ん坊と老人を
 魔物の住む洞窟に片っ端から捨てたのさ!」

武器を振り上げ威嚇する眼帯の老人は見れば古傷が多く、他の子供や老人も皆等しく傷ついている。

「だから生き残った俺たちは復讐するんだ!これは生きるための正当な手段だ!」

町人たちも負い目を感じているのか、非難の声を挙げる者はおらず、抵抗する者もいない。
武器を突きつけられているとはいえ、皆素直に食料や衣服を差し出している。

『さて、世界を救いたいと願う指環の勇者たちはどちらを救うのか?
 あるいはどちらも等しく滅ぼすのか?役者の演技に期待するとしよう』

「……クソ、どっちをぶん殴ればいいってんだ……!」


【全の竜との戦闘(問答)?】

204ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2018/07/10(火) 01:38:50.19ID:uP2jdR3j
>「え……あ……えぇっ!?ティ、ティターニアさんっ!い、良いんですか……?」
>「……帝国に指環をもたらす。確かに成し遂げましたね、バフナグリーさん。
 他ならぬ指環の勇者様がこう仰っているんです。頂いておきましょう」
>「ほれ、帝国代表様が言っておられる。
 とっとと嵌めて、帰ろうや」

「どのみち指輪は一人一属性しか使えぬ。
ジュリアン殿なら使えるかもしれぬがその指輪の力を最も引き出せるのはそなただろうからな」

指輪が原因になっての戦禍を懸念し戸惑うアルダガだったが、
ティターニアがまず第一に考えているのは、この後に控えたエルピスや虚無の竜との決戦である。
これは別にどちらが正しいというわけでもなく常に権謀術数渦巻く政治的思惑の中で生きてきた者と、
神々や英雄の伝説を現実に起こり得る身近なものとして研究してきた者の思考の違いであろう。
地上がどうなっているのかは分からないが、もうすでに虚無の竜が世界を破壊し始めていることだって有り得るのだ。
ゆえに指輪の力を最も効率的に引き出せそうな者に渡したという単純な意図であったのだが、アルダガの胸中を察し、ニヤリと笑う。

「”有効活用”される可能性があるのはどの勢力に渡ってとて同じであろう。
それに安心しろ、その指輪は誰にでも使えるものではない。もしも欲にまみれた元老院の爺様に奪われたとてウンともスンとも言わぬだろうよ。
いくら御託を並べようが巨大な力を手にしてしまえば世の中多少の無理は押し通せるものだ。
その指輪を手にして尚化石のような上層部の思惑に唯々諾々と従う必要などないのだぞ」

そこで帝国と教会に忠誠を誓うアルダガから見て穏やかではない物言いになっていることに気付き、慌てて仕切り直す。

「……おっと、随分と物騒な言い方になってしまった。つまり何がいいたいかというとだな。
そなたなら……その指輪を使って帝国を更にいい方向に変えていけると思うのは買いかぶり過ぎか?
もしかしたらそれは国家や教会という枠におさまらない形になるかもしれぬがな――」

しかしアルダガは皆に指輪の所有者としてふさわしいと言われて尚、指輪の所有権は決闘で決めるという初志を貫徹するのであった。

>「……受け取れませんよ、ティターニアさん。帝国に指輪が渡れば、それは戦争の火種になります」
>「ですが、一時的に預からせていただきます。約束、覚えていますよね?
 星都での旅が終わったら、指輪を賭けた立ち合いが待っています。真の所有者は、それを経て決めましょう」

「やれやれ――とことん頑固な奴め。約束してしまったのだから受けるしかあるまい。
地上に帰った時に虚無の竜どもが決闘するだけの猶予を与えてくれていたらだがな」

アルダガのあまりの初志貫徹っぷりに苦笑しながらも頷くティターニアだったが、一つの条件を提示した。

205ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2018/07/10(火) 01:40:11.91ID:uP2jdR3j
「ただし一つ条件がある―― そなたが勝ってそちらに指輪が渡ってももちろん我々も共に戦う。
だから……もしも我々が勝ってジュリアン殿が使うことになっても……共に虚無の竜と戦ってくれるか?」

これはもちろんアルダガが純粋に戦力として頼りになるというのもあるが、
“決闘に負けたので潔く散ります”は禁止という言外の意味も込められているのだった。
普通はそんな事はしないだろうが、星都の探索を通して黒騎士というのは
そもそもぶっ飛んだ集団というのがよく分かったので先手を打っておくに越したことはない。

>「なあティターニア、やっぱり俺たちでやんないとダメかな……
 今のうちに俺の頭を覚えておいてくれ、きっとあのメイスでへこんで形が変わっちまうから」

「うむ……ちょっともうどうしようもなさそうだな……」

ジャンが耳打ちして来るが、自主的に指輪をあげて決闘回避しよう作戦(?)も失敗した以上どうにもならないのであった。

「全の竜殿よ、いい感じに我々を地上に帰らせてくれたりは出来るのか?
無理なら”リターンホーム”で帰るが――」

とりあえず元の世界に帰ろうと、ティターニアが全の竜に尋ねた時だった。
シャルムが意味ありげに問いかけてくる。

>「……ティターニアさん。いえ、先生」
>「もし、この滅びた世界に……まだ、誰も答えを知らない謎が残されているとしたら」
>「どう、思いますか?その謎の正体を、知りたい、ですか?」

「それはもちろん知りたいが……そんな深刻な顔をしてどうしたのだ?」

仲間の一人一人に問いかけるシャルムを見て、気付いてはいけないことに気付いてしまったのだと察する。
考古学者としての個人的興味としては、喉から手が出る程知りたいに決まっている。
しかし、好奇心は猫を殺す、深淵を覗く者はまた深淵に覗かれる――
世の中には謎のままにしておいた方がいいことがあるのかもしれない。
純粋に真実を探求し過ぎた結果狂気に堕ち破滅の道を歩んだ魔術師は枚挙にいとまがないのだ。
そして今回の場合、下手すれば破滅するのは自分達だけではなく世界の全てなのかもしれない
逡巡している間にも皆の後押しを受け、シャルムは全の竜にいくつかの問いを投げかける。
そしてシャルムが自身の本性を見抜いたのだと悟った時、全の竜の態度が豹変した――
シャルムがドラゴンサイトで開けた穴は事も無げに修復され、彼女は決断を委ねるようにこちらを見つめる。
迷う素振りも見せず宣戦布告するスレイブとジャンだったが、ティターニアは最終判断の材料を得るために追加で質問をした。

「毎度頃合いを見計らって自分で虚無の竜を目覚めさせては滅びない程度に力を貸す……
一人でマッチポンプしておったのではないか?
しらばっくれておるが本当は虚無の竜を呼び出したのもそなたなのだろう?
退屈のあまり世界を破壊する存在を望んでしまったのではないか?」

『さぁ、そうかもしれないしそうでないかもしれない』

206ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2018/07/10(火) 01:42:15.05ID:uP2jdR3j
からかうように曖昧な答えを返す全の竜。
単にふざけているのか、あるいは……ほんの少し願っただけでその事象が起こってしまうのだとしたら、
本当に本人にもどこまでが自分が起こした事象なのか分からないのかもしれない。
決断に窮したティターニアは、仲間の中で唯一冷静なジュリアンに視線で意見を求める。

「指輪の勇者ではない俺が決めることではないが慎重に考えることだな。
……正直お前の推測のとおりの可能性はかなり高いと思う。だが万が一違っていたら……」

ティターニアの推測が当たっていれば、全の竜が全ての元凶ということになり、これを倒すことは大きな意味を持つ。
しかしもしも、世界を救う側に干渉しているだけで、世界を滅ぼす要因の方に直接は干渉していないのだとしたら――
全の竜を倒すことは何のメリットもないどころか、世界滅亡の爆弾を抱えたまま世界存続の保険のみ失うことになる。
つまり、もしも首尾よくこの全の竜を倒した後で虚無の竜を倒し損ねたら、最悪の事態。
英雄どころか世界を滅ぼした大罪人だ。
そんな中、決断の決め手は、意外な者によって齎された。

「……頼む、力を貸してくれ」

「アルバート殿!?」

アルバートが素直に他人に物事を頼むのを初めて目撃し、驚愕するティターニア。
アルバートは確信に満ちた目で言葉を続ける。

「コイツを倒しこの虚無の指輪で全ての属性を吸収し尽くせば……新世界から属性を奪わずともこの世界を再建することが出来る!」

この言葉は戦う決め手を探していたティターニアにとって、十分すぎるほどの一押しになった。

「そなたには恩義があるからな――頼みを聞かぬわけにはいくまい。
あの時炎の山で出会わなければこんなに凄い冒険をすることはできなかった。
それに、打ち捨てられたはじまりの世界を救う――か、なかなか悪くないではないか!」

全の竜が、メンバー全員が宣戦布告したのをみとめると、ついに戦いは始まった。

>『そら、第一楽章が始まるぞ。まずはロンドから踊って貰おうか――"破滅への輪舞曲"』

>「これは、空間の書き換え……滅びをもたらす天災を、『創造』した――!?」

「おそらく一種の異空間だろうな……単なる幻ではなくここで受けたダメージは現実のものとなるだろうから気を付けよ!」

最初の試練は、船旅での転覆寸前の嵐。
しかしジャンが指輪の力によって難なくそれを鎮め、船は滑らかに進んでいく。

207ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2018/07/10(火) 01:43:49.76ID:uP2jdR3j
>『観客は刺激を求めるものなのだが……では、次の章に移るとしよう。
 喜劇か悲劇かは君たち次第――"終わりよければ全てよし"』

用意された状況は、口減らしのために捨てられた老人や子どもが村人を脅して食料を奪っているというものだった。

>『さて、世界を救いたいと願う指環の勇者たちはどちらを救うのか?
 あるいはどちらも等しく滅ぼすのか?役者の演技に期待するとしよう』
>「……クソ、どっちをぶん殴ればいいってんだ……!」

「落ち着け、所詮は全竜の茶番劇だ――セオリー通りにやればよい」

ティターニアはそう言って、混乱の渦中からは少し外れたところの村人と呑気に話をしている。

「五年前に食料が片っ端から持っていかれたそうだが……帝国が急に税を増やしたということか?」
「いや、その年から急に作物がとれなくなったのに税は減らなくて……」

『引き延ばしはいけないよ、退屈するからね。どちらを救うのか、どちらも滅ぼすのか――決断を』

「気が短い奴だな。時間制限付きクイズじゃあるまいし……」

決断を煽ってくる全の竜にぶつくさ言いつつ、ティターニアは抗争している村人達に向かって杖を構えた。

「双方ともいい加減にせぬか――」

杖を一振りしてファイアボールを放つ。すわ全員吹き飛ばすのかと思いきや、着弾したのは横の畑。

「早く逃げねばそなたら自身が食料になるぞ!」

爆発が巻き起こり、地中から鋭い歯の生えた大きな口を持つ巨大なミミズのような虫――サンドワームが現れた。
作物が取れなくなったという情報から、大地の指輪に宿るテッラの力で見抜けたのだ。
村内は先刻までとは別種の阿鼻叫喚となり、逃げ惑う人々。

『何等かの理由で狂暴化したサンドワームが土の中で作物を食い荒らし
ついには地上に出て人間を食べようとしていた――というわけですね』

サンドワームがすぐに無力化されると、ティタ―ニアは虫と会話できるフィリアに要請。

「フィリア殿、事情を聞いてみてくれ。もしかしたら黒幕の名でも聞けるかもしれぬな」

そう言った後、明後日の方向に向かって全の竜に語り掛ける。

208ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2018/07/10(火) 01:46:12.75ID:uP2jdR3j
「……もうこの辺りで良いか?
情報を集めることで現れるもう一つの選択肢、ド派手な怪物の登場で有耶無耶になる当初のいざこざ、
満を持して姿を現す黒幕――歴代勇者の伝説を研究すれば分かる、定番のパターンではないか」

209ティターニア ◆KxUvKv40Yc 2018/07/10(火) 01:46:44.87ID:uP2jdR3j
『ハハハ、まさか質問に答えないとはね!』

「ハハハじゃないわ、全てそなたのシナリオ通りだろう?
馬鹿正直に最初に提示されたどの選択肢を選んでも鬱展開にしかならぬからな。
エンターテイメント型の劇を好むそなたが都合よく解決する追加選択肢を作らぬはずがない。
いい加減無意味な茶番劇はやめて普通に戦わぬか」

『全く……今代の勇者は情緒がなくて困る。
こういうのは土壇場で活路を見出すから燃えるのであって最初から余裕綽綽でやられると……』

「やかましいわ!」

『仕方がない、次に行こう――”常闇の牢獄”』

次の瞬間、辺りは闇に包まれた。夜の闇より昏い漆黒。上下左右の間隔も無い、音も聞こえない。
唯一聞こえて来るのは頭の中に響く全の竜の声だけだ。

「これは……何の試練だ……!?」

『単純なことさ、いつまで耐えられるか根競べだ――
ちなみに一説によると感覚を遮断した闇の中に3日もすれば発狂するらしい。
降参ならいつでも受け付けるよ』

「流石に形振り構わなくなってきたな……。
何、すぐに終わるだろう。こちらには闇の勇者シノノメ殿も光の勇者ラテ殿もおるからな」

『それはどうかな? 彼女らはまだ指輪の真の力を引き出せていないからね――
テネブラエとルクスは……果たして彼女らを認めるかな?』

意味深な言葉を最後に、それっきり全の竜の声は聞こえなくなった。
テネブラエとルクスは、それぞれ闇の竜と光の竜の本体の名前だが、真の力を引き出すにはそれらと対話する必要があるということだろうか。
もちろんその言葉の真意やそれ以前に真偽自体も不明で、単に不安を煽るために言っただけかもしれない。
そんなことを考えながらティターニアは、状況に変化が起こるのを待つことにした。

210創る名無しに見る名無し2018/07/10(火) 12:15:24.27ID:G3dnlC/N
文盲のために一度解説してやれ

211 ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:04:31.86ID:Qh0572MQ
>『茶番などではなかったさ。彼らは優秀な道化だった。見ていて飽きないほどにね。
 これからもそれは変わらない。君たちは私の書いた筋通りに世界を救うだろう。
 私はひとしきりその過程を楽しんだあと、君たちの冒険譚を閉じて本棚にしまう。
 よく頑張った、感動した、心躍ったと感想を述べてね。そしてまた次の勇者が生まれるのを心待ちにするのさ』

私達の希望を、尊厳を、何もかもを踏みにじるような全の竜の声。
嫌でも耳に届くその声に晒されながら、縋るような気持ちで、皆さんへと振り返る。

>「それを聞いて、拙僧たちがおとなしく貴方の思い通りにするとでも?」

>「心配せずとも、世界は救ってやる」
 「貴様の描くシナリオなど知ったことじゃない。この下らない輪廻を、俺たちの代で終わらせる。
  貴様が永遠の繰り返しを望むのなら、虚無の竜よりも先に貴様を滅ぼすだけだ」

>「シェバトからの付き合いだけどよ――スレイブ、お前は本当に気が合うぜ。
  自分の道を好き勝手に弄られて黙ってられるか!」

ジャンソンさんもディクショナルさんも、バフナグリーさんも、怒りを露わにしている。
……ええ、そりゃそうです。私だって怒っています。
だけど……怒りに任せて決めてしまえるほど、この戦いの意味は、軽くない。

相手は全の竜。指環の力があれば、あの肉体にダメージを与える事は出来るかもしれない。
だけど……全の英雄と同じ、そして全の英雄よりも更に強力であろう、世界を創造する力。
まともな戦いが出来るのかも、分からない。

>「毎度頃合いを見計らって自分で虚無の竜を目覚めさせては滅びない程度に力を貸す……
一人でマッチポンプしておったのではないか?

>「指輪の勇者ではない俺が決めることではないが慎重に考えることだな。
 ……正直お前の推測のとおりの可能性はかなり高いと思う。だが万が一違っていたら……」

それに……そう、ティターニアさんとクロウリー卿は分かっていますよね。
全の竜は、私達の世界にとっては保険でもある。
奴の望みは永久の観劇……だからこそ、舞台が滅びてしまわぬよう、力を貸してくれていた。
その保険を失うリスクは……言うまでもなく、大きすぎる。

>「……頼む、力を貸してくれ」

ですが……不意にアルバートさんが、そう声を発しました。

>「コイツを倒しこの虚無の指輪で全ての属性を吸収し尽くせば……新世界から属性を奪わずともこの世界を再建することが出来る!」

……あなたにとって、虚無の竜とは直接の創造神。
それも私達のように、姿形の見えない、伝承の中に生きる存在じゃない。
確かに存在して、目で見て、声を聞く事だって出来ただろう、創造神。
その全の竜を……滅ぼす。
生半可な決意で口に出せる事では、ないでしょうに。

>「そなたには恩義があるからな――頼みを聞かぬわけにはいくまい。
 あの時炎の山で出会わなければこんなに凄い冒険をすることはできなかった。
 それに、打ち捨てられたはじまりの世界を救う――か、なかなか悪くないではないか!」

……ティターニアさんも、どうやら覚悟を決めたみたいです。

「……ごめんなさい。私一人で抱え込むには……あまりにも重すぎる謎でした」

212 ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:06:25.61ID:Qh0572MQ
指環を持たない私には、全の竜に対して有効打を与える事は出来ないかもしれない。
それでも……出来る事はあるはず。
この戦いは、絶対に、負けられない。

>『そら、第一楽章が始まるぞ。まずはロンドから踊って貰おうか――"破滅への輪舞曲"』

全の竜が翼を振るう。
瞬間、再び神殿の壁と天井が消え失せた。
代わりに周囲に描かれるのは……荒野と、暗雲に埋め尽くされた空。
そして気づけば私達は荒れ狂う海の上、頼りなく揺れる船の上に立たされていた。

>「これは、空間の書き換え……滅びをもたらす天災を、『創造』した――!?」
>「おそらく一種の異空間だろうな……単なる幻ではなくここで受けたダメージは現実のものとなるだろうから気を付けよ!」

船は今にも転覆してしまいそう……。
ですが……

>「全ての竜だからなんでもありってか!だけどよぉ!」
 『専門家がいることを忘れてないかな!』

こちらにはジャンソンさんの水の指環がある。
彼が指環を掲げるだけで、荒波は凪ぎ、暗雲は散っていく。
もっとも……全の竜もこの程度で私達を仕留められるとは思っていなかったでしょう。

>「……降りろってことか。茶番に付き合えとさ」
>『指環の勇者たちはなんとか嵐を乗り越え、近くの港町へとたどり着いた。
 だが町を歩く人々は何か事情を抱えているのか、表情は空の如く重苦しい』

そして次の舞台として用意されたのは……曇天に覆われた港町。
待っていたのは、争う人々。
やはり、この空間は……

>『さて、世界を救いたいと願う指環の勇者たちはどちらを救うのか?
  あるいはどちらも等しく滅ぼすのか?役者の演技に期待するとしよう』
>「……クソ、どっちをぶん殴ればいいってんだ……!」

……全の竜は、非常に回りくどい手段で私達を攻撃してきている。
だけど……全の竜は私達を直接、海に叩き落とす事だって出来たはず。
そうしなかったのは恐らく、この空間、この攻撃が……

>「落ち着け、所詮は全竜の茶番劇だ――セオリー通りにやればよい」

……そう、この茶番劇は、これ自体がある種の魔法陣であり、呪文の詠唱なのです。
ただ紙の上にインクで魔法陣を描いたり、呪文を声に出すばかりが魔法の使い方ではありません。
例えば星の巡り。土地や触媒の選択、代償、生贄の有無……
大規模で高度な魔法には、しばしば発動に満たすべき条件が定められます。
複雑に描かれた魔法陣が複雑な魔法を生み出すように……より複雑な条件は、より複雑な魔法を生み出すのです。

つまりただ私達を海に沈めるのではなく、対処を誤って船を転覆させる。
舞台装置である彼らに対して間違った行動を取る。
そういった条件を設ける事で、より強力な効果を発揮させる。
この茶番劇は恐らくはそういった類のもの。

もっともこの説明は、今は不要でしょう。
ティターニアさんなら、この類の現象は容易く突き崩せるでしょうから。

213 ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:09:44.34ID:Qh0572MQ
>「双方ともいい加減にせぬか――」
 「早く逃げねばそなたら自身が食料になるぞ!」

そう。この現象が物語の体裁を取っているのなら、その対処法は単純です。
語り部である全の竜に付き合わない事。

>「フィリア殿、事情を聞いてみてくれ。もしかしたら黒幕の名でも聞けるかもしれぬな」

「……恐らくは、無用だとは思いますがね」

フィリアさんへと視線を落とすと……彼女は静かに首を横に振った。
そして腕を百足に変形させ、伸ばしたかと思うと……
その先端に形成された蟻の大顎がサンドワームを咀嚼、嚥下していく。

「これは……人形ですの。ただの人形なら、まだしも……命ある人形。
 この劇の為だけに作られた……過去も未来もない、命……」

……彼女は、周囲を見回した。
そして……背中から生やした巨大な百足を振り回す。
村の家屋が薙ぎ払われ、逃げ隠れた村人達の姿が露わになる。
だけど……彼らは何の反応も示さない。
ただ感情の見えない表情で、ぼんやりとこちらを見つめているだけ。

「……ちゃちな舞台裏ですの」

そう呟いたフィリアさんの声音には、強い侮蔑の感情が宿っていた。
気持ちは、分かります。これは……命への冒涜だ。

>「……もうこの辺りで良いか?
 情報を集めることで現れるもう一つの選択肢、ド派手な怪物の登場で有耶無耶になる当初のいざこざ、
 満を持して姿を現す黒幕――歴代勇者の伝説を研究すれば分かる、定番のパターンではないか」

既に、この異空間の性質は明らかになっている。
演劇の形を取り、誤った行動を取らせる事で、何らかの作用を引き起こすだろう魔法攻撃。
種が割れている以上、私達はもう芝居に付き合う事はない。

>『全く……今代の勇者は情緒がなくて困る。
 こういうのは土壇場で活路を見出すから燃えるのであって最初から余裕綽綽でやられると……』
 『仕方がない、次に行こう――

それでも……全の竜はこの茶番劇をまだ続けるつもりのようです。
一体何故。狙いが読めない。

>”常闇の牢獄”』

不意に、周囲を満たす暗闇。
何も見えない。地面に立っている感覚すらない。
魔力の波を発して周囲の様子を探ろうとするも……何も感じ取れない。
すぐ傍にいたはずのディクショナルさんも、バフナグリーさんも、他の皆さんも……どこにいるのか分からない。

>『単純なことさ、いつまで耐えられるか根競べだ――
 ちなみに一説によると感覚を遮断した闇の中に3日もすれば発狂するらしい。
 降参ならいつでも受け付けるよ』

唯一聞こえるのは、全の竜の声と、自分自身の呼吸音だけ。
体の感覚すら麻痺させるほど濃密な闇の魔素……。
ですが……これも結局、先ほどまでと変わらない。
光と闇の指環なら、この状況をどうにかするくらい、容易く……

214 ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:10:19.85ID:Qh0572MQ
>『それはどうかな? 彼女らはまだ指輪の真の力を引き出せていないからね――
 テネブラエとルクスは……果たして彼女らを認めるかな?』

……なんだ。なんの話をしているんでしょうか。
テネブラエと、ルクス。確か、古竜の伝承における光と闇の竜の名前……。
光と闇の指環に……あの二人はまだ、認められていない?

……私は、どうすべきなのか。
もし、シノノメさんとラテさんが、指環の力を完全には扱えないのなら……
彼女達の助けをただ待っているのは、愚策なのかもしれない……。

疑心暗鬼が、自分の中で膨らんでいくのを感じる。
頭を左右に振って、思考を切り替える。
やめよう。こんな考えに陥ったら、それこそ全の竜の思う壺……。

215シノノメ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:18:50.81ID:Qh0572MQ
 
 
 
……アルマクリスさん。アドルフさん。
あなた達の力でこの闇を払う事は出来ないんですか?

『もうやってるっつーの』

それにしては、周囲の様子が変わったようには見えませんが……。

『闇を払っても、その先にあるのも闇なんだからしょうがねーだろ』

つまり……癪な事ではありますが、全の竜の言っていた通り。
闇の竜、テネブラエの力を借りなければ……この状況は打破出来ない、と。
あなた達から、テネブラエに意思疎通を図る事は出来るのでしょうか。

……アルマクリスさん?アドルフさん?
返事がない……一体、何が。
いえ……全の竜が指環そのものに干渉出来るのなら、こんな回りくどいやり方をする必要はない。
であれば、恐らく……異常をきたしているのは私の方。

ナイトドレッサーである私ですら、感覚を奪われてしまうほどの、完全な闇。
その力が、指環との会話すら妨害しているのでしょう。
話し相手がいては、折角の暗闇も効果は半減してしまうでしょうしね。

…………現状を打破するには、より強い闇の力が必要。
だけどテネブラエと交信を図ろうにも、指環との会話はこの闇の魔素によって封じられている。

八方塞がりのようにも思えるこの状況。
ですが………………まだ、打つ手はあります。

今すぐに実行出来る手段ではありません。
時間が必要です。どれほどかかるのかも、試してみないと分からない。
それでも……皆が私を信じて、待っていてくれる事を、私は信じます。

………………完全な暗闇の中、私はただ、黙って時間が過ぎるのを待つ。
………………やがて、指環を握り締めていた左手の感覚が、なくなっている事に気づいた。

理由は分かっています。
体が……少しずつ、少しずつ、周囲の闇に侵されていっているから
私は闇から生まれた、闇の魔素で体を構成する種族。

乾いた布が水を吸い上げるように。
私の肉体は、より濃度の濃い周囲の闇に、侵食されていく。
このまま時が経てば……私はこの完全な闇に塗り潰されて……消える。

私は……それでもただ、時が過ぎゆくのを待っていた。
左手と両足の感覚が完全になくなって、代わりに呼吸が喉から、胸から、漏れるような感覚がするようになって。

段々と意識が……朦朧としてきて………
………私という存在が…………消える…………
その瞬間が…………もう目前にまで……迫ってきている……のが…………分かる…………。

「…………テネブラエ」

そして私は……その名前を呼んだ。

216シノノメ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:19:19.32ID:Qh0572MQ
「“ここ”に……いるんでしょう?」

闇とは……光が、希望が、未来が見えない状態の事。
闇とは……本来、存在しないもの。
その存在しないものを、かつて、誰かが『闇』と認識した。

だから……あなたは、ここにいるはず。
ここは、一切の感覚が消え失せた、死の目前。
何もかもが失われる、私にとって最も恐れるべき『闇』の入り口なのだから。

そして……私は、見た。
一切の光がない闇の中で。
だけど確かにそこにある……完全な闇よりも更に濃い闇色の輪郭。
闇の竜の姿を。

無数の鎖に繋がれた、人間と、亜人と、魔族と、獣と、魔物と、竜と……ありとあらゆる存在の頭部。
それらを繋ぎ合わせた異貌の怪物……。
これが……闇の竜、テネブラエの姿。

『我ガ助力ヲ求メルカ』

空気の流れすら感じない闇の中に、声が響く。

『……ダガ、愚カナリ、我ガ眷属ヨ。我ハ闇ノ象徴。
 即チ恐怖、破滅、絶望……ソレラヲ体現スル者。
 我ガ権能ハ闇ヲ払ウ事ニ非ズ。闇ヲ深メル事』

……テネブラエが無数の貌を私へと近づける。
幾つもの視線が私を、看取るように見つめているのが分かる。

『貴様ノ願イハ叶ワヌ。貴様ハ、コノ闇ノ中ニ融ケテ、果テル』

冷酷な響きをもってそう宣告する、テネブラエの声。
私は……

「……いいえ、それは嘘です」

もう殆ど自由の利かない体で、小さく首を振って、そう答えた。

『……現実ヲ認メラレヌカ、我ガ眷属ヨ』

「ふふ……あまり、意地悪をしないで下さい……
 私……今にももう……気を失ってしまいそうなんですよ」

もう殆ど感覚のない右手を伸ばして、テネブラエの体……それを縛り付ける鎖に触れる。

「あなたは……そう、闇の象徴。
 実態のない恐怖よりも、名前のある、そこにある恐怖の方が、怖くない。
 そうやって生み出された存在……」

だから、

「だからあなたには出来るはずなんです。闇を縛り……御する事が」

『……死ヘノ恐怖ニ飲マレル事ナク、己ヲ保ッタカ。
 ソノ気質……確カニ闇ノ指環ノ主ニ相応シイ』

瞬間、テネブラエの肉体が巨大な渦と化した。
回転する鎖が、周囲の闇を絡め取って……べりべりと、暴力的な音を立てる。
そして……周囲に光が戻った。

217シノノメ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:25:25.73ID:Qh0572MQ
周りにはジャンソンさんも、ティターニアさんもいる。
皆、無事……でしょうか。大分、時間をかけてしまいましたから……。

「……す、すみません。一人には……わりと慣れてるつもりだったんですが」

シャルムさんが真っ青な顔をして、その場にへたりとしゃがみ込んだ。
指環を持たない彼女は……私達よりも長く、孤独な闇に晒され続けていた。
呼吸もままならないほどに取り乱して……可哀想に。

私の体は……元通りに、復元されています。
元から、何事もなかったかのように……。
これもテネブラエの力なのでしょうか。
左手の闇の指環は……心なしか、より深い闇色を湛えているような気がします。

「……時間をかけてしまって、すみません」

皆にそう詫びつつ周囲を見回す。
目に映るのは……風に揺れる花畑。
眩い太陽に、流れる雲……。

「全の竜は……一体どこに?」

『……お見事、お見事。まさか自ら死の淵に飛び込む事でテネブラエとの交信を図るとは。
 実にヒロイックだったよ。女の子にしておくのが勿体ないね』

「相変わらず神経を逆撫でするような言動がお上手な事で……。
 その余裕が仇とならない内に、姿を見せてはどうですか」

『魔族の皮肉に晒され育った君ほどじゃないだろうけどね。
 だけど安心したまえ。この物語は、ここで終幕さ』

不意に、花畑のどこかから音がした。
何かが這いずるような、草花が擦れる音。

『最終章の題名は……そうだな。“地を這う者ども”なんてのはどうだろう』

……それきり、虚無の竜の声は聞こえなくなりました。
地を這う者ども……姿の見えない何者かは、今もなお私達の周囲を蠢いている。
フィリアさんに目配せをしてみるも……彼女は小さく首を横に振る。
炎とは生命力の象徴。炎の指環を持つ彼女なら、この何者かを探知出来るかもと思ったのですが……。

ならば……ラテさんならどうでしょうか。
彼女の持つ、魔狼フェンリルの力の片鱗。
それに照らし、透かす事を得手とする光の指環なら……。

そう思い彼女へと視線を移すと……彼女は、淡く……どこか神聖な光を宿した指環を、じっと見つめていました。

「……ラテさん?大丈夫ですか?」

「あっ……ご、ごめんね。ルクスが……少し気になる事を言ってたから」

「気になる事、ですか?」

「うん……だけど今は、それどころじゃないの。急がないと」

ラテさんの左手。光の指環から強い輝きが溢れ出す。
彼女はそれを……空に向けて、かざした。

218シノノメ・トランキル ◆fc44hyd5ZI 2018/07/13(金) 01:31:35.62ID:Qh0572MQ
「ラテさん?何を……」

……瞬間、強い光に照らされた空が……透けた。
まるでガラスのように。
その向こう側に見えたのは……この『ガラス玉』を押し潰さんとする、全の竜の姿。

『おっと、気づかれてしまったか。
 “地を這う者ども”は君達だったというミスリードだったんだが。
 やはりルクスの権能は良くないな。物語の先を盗み見るなんて』

そう言うと全の竜は……私達を嘲るように笑った。
今までの茶番は……全てこの為の時間稼ぎ……?

『もっとも……この先が読めたところでもう手遅れだけどね。
 なに、殺しはしないよ。この中に封じて……いつまでも眺めていてあげよう』

空が……迫ってくる。全の竜の笑い声が木霊する。
これは……一体、どうすれば。

「……っ、まだです!」

不意にシャルムさんが、全の竜の声に負けないくらいの大声で叫んだ。

「奴が力づくで私達を封印出来るなら、最初からそうすればよかった!
 そうしなかったのは、出来なかったから!
 今ならまだ、この結界を破れるはずです!」

219創る名無しに見る名無し2018/07/13(金) 07:59:48.88ID:q/zltkwz
お前一人で破ってな
TRPGのルールを

220創る名無しに見る名無し2018/07/14(土) 23:58:33.89ID:8GxVoVuu
ラテマジ基地無能

221スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:16:53.12ID:lWZcALOw
第一楽章、『破滅への輪舞曲』。

突如として放り出された嵐の船上、スレイブ達を呑み込む濁流。
甲板を容易く木屑に――藻屑に変える大津波を、ジャンが水の指環で沈静化する。
神話のごとく波を割った後に垣間見えるのは、照りつけるような晴天だ。

>「苦労しなけりゃ冒険じゃねえなんて、それこそ見ている側だけの感想さ。
 いかに楽して安全に旅するかってところに力を入れるのが冒険だぜ」

>『観客は刺激を求めるものなのだが……では、次の章に移るとしよう。
 喜劇か悲劇かは君たち次第――"終わりよければ全てよし"』

「陸地が見えて来たぞ……今更だが、本当に海と陸を創造しているのか……」

>「……降りろってことか。茶番に付き合えとさ」

続く第二楽章。下船した先に広がるのは、港町と言うには余りに寂れた寒村だった。
導かれるがままに市場へと向かい、そこで一行は町を襲う賊らしき集団に出会う。
頭目の老人が語るには、彼らは重税に耐えかね食い詰めた町から切り捨てられた存在。
町から食料や衣服を奪うのは、過去の仕打ちに対する正当な要求なのだと言う。

>『さて、世界を救いたいと願う指環の勇者たちはどちらを救うのか?
 あるいはどちらも等しく滅ぼすのか?役者の演技に期待するとしよう』

>「……クソ、どっちをぶん殴ればいいってんだ……!」

「劇中で答えを出す気など、初めからないんだろうな。どちらが正義か、解釈は観客次第……。
 政治批判の戯曲によく見られる寓話要素だ。当事者にされた身には堪ったものじゃない」

スレイブは唾棄したい欲を抑えてそう吐き捨てた。
これは、答えのない悲劇を通して悪政を批判するための戯作。
登場人物に現状を打破する選択肢など用意されていないし、観客たる全竜もそれを望んではいないだろう。
劇中で許されるのは、ただやるせなさに歯噛みして拳を握ることだけだ。

>「落ち着け、所詮は全竜の茶番劇だ――セオリー通りにやればよい」

「セオリー?俺たちにまだ何かできることがあると言うのか?」

直面した難題に唸るジャンとスレイブをよそに、ティターニアの反応は至極あっけらかんとしたものだった。
彼女は町の住人と何か言葉を交わしたかと思うと、唐突に杖を掲げる。

「ティターニア?一体何を――」

>「早く逃げねばそなたら自身が食料になるぞ!」

ティターニアが放った炎弾は町の畑へと直撃し、土煙の中から巨大な管虫が飛び出した。
サンドワーム。本来は地中に生息して土壌を耕す魔物だが、作物を食い荒らす害獣となることも多い。
巨大化したサンドワームが住み着いていたせいで、この町はずっと不作に見舞われ続けていたのだ。

「第三の選択肢――そういうことか!」

登場人物が選べるのは、何も提示された選択肢からだけではない。
底意地の悪い全竜ならば、「こうしておけば良かったのに」としたり顔で言うために最良の選択肢を隠しているはずだ。
考古学に詳しいティターニアなら、物語の類型からそれを推測して選び取ることができる。

222スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:17:14.28ID:lWZcALOw
例えばこの町での一連の出来事は、賊と住人どちらにも非があり、どちらの主張にも正当性がある。
外からやってきた旅人が、一方を断罪することなど出来るはずもない。
だが、確執を生む大本の原因を解決出来るとすれば、それこそが物語を大団円に導く最良の選択肢だ。

無論、賊の住人への恨みは、かつて切り捨てられたことに対するものが大きい。
今更原因を解決したところで、虐げられてきた傷が癒えることなどないだろう。

しかし、サンドワームを退治すれば、町の食料事情は改善される。
賊たちに十分な補償をしつつ、再び町の住民として受け入れる――第三の道が拓ける。

物語の寓話性を根本から否定するティターニアの選択に、全竜は不満げに鼻を鳴らした。

>『仕方がない、次に行こう――”常闇の牢獄”』

刹那、寂れた町に立っていたはずのスレイブは、無窮の闇の中へと放り出された。
足元にあった土の感触さえも消え失せ、自分の手のひらすら目視することができない。
試しに腕を振ってみたが、風を切る感触はおろか、自分自身の筋肉の動きも感じ取れなかった。

(見当識の喪失――まずいな、自分が生きているかどうかさえ分からない)

ただ、頭の中に響き渡る全竜の声だけが、この空間における唯一の刺激だった。
この声が聞こえるうちは、スレイブは当面生きているということなのだろう。

>『単純なことさ、いつまで耐えられるか根競べだ――
 ちなみに一説によると感覚を遮断した闇の中に3日もすれば発狂するらしい。
 降参ならいつでも受け付けるよ』

「劇の続きはどうした?随分と安直なやり方をするじゃないか」

『なに、趣向を変えてみたくてね。言うなればこれは劇の場面転換を意味する"暗転"さ。
 暗転が明けたとき、演者たちがどうなっているのかまでは保証しかねるがね』

「抜かしていろ。闇も光も、最早俺たちと共に在る」

『指環のことかい?』

全竜は愉快そうに笑う。
声に含まれる愉悦の感情だけは、闇の中でもはっきりと感じられた。

>『それはどうかな? 彼女らはまだ指輪の真の力を引き出せていないからね――
 テネブラエとルクスは……果たして彼女らを認めるかな?』

「……なんだと?」

意味深げな言葉を最後に、全竜の気配が消えた。
正真正銘の、何も感じられない闇が押し寄せてくる。

『うおっ……おおおお……暗ぁ……怖ぁ……』

全竜の変わりに脳裏に響き渡ったのはウェントゥスの声。
どうやら全ての感覚が遮断されたこの場所でも、魂に深く繋がった指環の竜の声は聞こえるらしかった。

223スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:17:36.32ID:lWZcALOw
『お主なんでそんな平気そうなツラしとるんじゃ。いや見えんけれども』

「この手の拷問は珍しいものじゃない。特にダーマではな。
 対拷問の訓練など飽きるほど積んできた。……実際に感覚遮断の拷問を受けたこともある。
 何も考えなくて良い分、俺にとってはむしろ楽な部類だ」

『拷問慣れしとるのを自慢げに語る奴初めて見たわ……』

「取り乱す必要はない、というだけのことだ。じきに第三楽章とやらも終わるだろう。
 この闇を払うのはシノノメ殿たちだ。俺たちは、それを信じて待っていれば良い。
 無駄に体力を消耗することもない」

スレイブはそれだけ言って、目を閉じた。
視界に変化はなく、やはり視覚そのものが遮断されているのだと理解する。
苦しいという感覚もないため呼吸を忘れそうになるが、そこにさえ気をつけておけば問題はない。

『えぇ、マジで黙っとるつもりかお主。儂どうすりゃいいのこれ。
 ヒマなんじゃけど。怖いんじゃけど。……ヒマなんじゃけど!!』

「……うるさいな!!」

結局、騒ぎ立てるウェントゥスに付き合う形でスレイブも会話をする羽目になった。

――スレイブがドヤ顔で行った『常闇の牢獄』への対処法は、てんで見当違いのものだった。
外部からの感覚を完全に遮断され、己の心臓の鼓動さえも感じ取ることのできない『闇』。
自身の生存を証明するものは『思考』だけだ。

考えることさえも放棄すれば、肉体は容易く生命の維持を忘れる。
使われなくなった部位に活力を費やす意味がないと、判断してしまうのだ。
脳にエネルギーが供給されなくなり、いずれ真実の死を迎える――

魔術で擬似的に作り出された闇であれば、スレイブのように思考を停止させて消耗を抑える方法で乗り切ることもできただろう。
だがこれは全能の竜の齎す本物の闇。
思考を辞めれば、命を確かめることができなければ、死はすぐ傍らにある。

奇しくも、ウェントゥスの奇行がスレイブを助けることとなった。
会話によって思考を保ち続けているうち、やがて闇の帳が晴れていく――
卵の殻を破るように、目の前の闇が剥がれ落ちて、光に満ちた風景が目に飛び込んできた。

>「……時間をかけてしまって、すみません」

指環を掲げていたシノノメが、四肢の感触を確かめるように見回しながらそう零す。

「……いや、助かった。全竜の用意した"劇"は……これで終幕なのか」

へたり込むシャルムの傍で、スレイブは剣の柄を握りつつ答えた。
指環を通じて思考を保つことのできた勇者たちと異なり、シャルムは孤独なまま闇へと曝露されていた。
その心理的な負担、精神へのダメージは推し量りきれまい。

蒼白の面持ちで膝を屈する彼女に、スレイブが出来ることはあまりにも少なかった。
ただ、次に如何なる演目が来ようとも、彼女の傍を離れるまいと寄り添う他にない。
全竜の姿は消えたままだったが、あの癪に触る声だけは、どこからか響いてきた。

224スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:18:10.45ID:lWZcALOw
>『最終章の題名は……そうだな。“地を這う者ども”なんてのはどうだろう』

瞬間、足元に生い茂る柔らかな草原に不穏な気配が満ちる。
風が吹いているわけでもないのに、ざわざわと葉の擦れ合う音が聞こえてきた。
スレイブは理性が判断を下すよりも早く、その場にしゃがみ込んだ。

「シアンス殿、少しだけ辛抱してくれ……!抗議は後で受け付ける」

未だ立ち上がることのできないシャルムの背と膝に手を回し、その細い身体を抱き上げる。
『地を這う者ども』。その名の通りの事象が勇者たちを襲うのであれば、地に伏せ続けるのはまずい。
スレイブはシャルムを抱えたまま、いつでも跳躍できるよう膝を屈めた。

(どこから襲って来る……?抱えて跳んで、逃げ場はあるのか……!?)

地面からの奇襲ならば跳んで避けることも可能だろう。
だがスレイブにできるのは、『飛行』ではなく『跳躍』だ。
仮に四方全ての地面を埋め尽くすように敵が出現し、着地したところに押し寄せられれば為す術などない。
……それが何だというのだ。この手を離すまいと決めた。邪魔立てする者がいるならその障害を除いてみせる。

(どこから来ようと……顔を見せた瞬間、範囲魔法を叩き込んでやる……!間抜け面を晒してみろ、全竜っ!)

>「ラテさん?何を……」

スレイブの腕の中で、シャルムが怪訝そうにラテの方を見た。
視線の先で、ラテが光の指環を天へと掲げる。
指環から放たれた光条が空を切り裂いて――その向こうに、全竜の姿があった。

>『おっと、気づかれてしまったか。
 “地を這う者ども”は君達だったというミスリードだったんだが。
 やはりルクスの権能は良くないな。物語の先を盗み見るなんて』

(やられた……!俺たちの意識が地面へ向かう隙に、封印結界を張っていたのか!)

>『もっとも……この先が読めたところでもう手遅れだけどね。
 なに、殺しはしないよ。この中に封じて……いつまでも眺めていてあげよう』

閉じ込められた。
空き瓶に虫を入れて観察する子供のように、全竜は指環の勇者を標本にしようとしている。
結界は少しずつ縮小していて、いずれ身動きさえもとることができなくなるだろう。

(だが……!)

>「……っ、まだです!」

スレイブが思考を手繰り寄せると同時、シャルムが叫ぶ。
彼には彼女が何を伝えんとしているのか、手にとるように理解できた。
同じ結論にたどり着いていたからだ。

>「奴が力づくで私達を封印出来るなら、最初からそうすればよかった!
 そうしなかったのは、出来なかったから!今ならまだ、この結界を破れるはずです!」

「俺たちとは異なる次元の生き物、超越した存在であるはずの全竜が、俺たちを『封印』しようとするのは何故だ?
 封印しなければ危険なほど――俺たちには、奴を害する力があるからだ。
 奴は全能だが、完全ではない。この結界だって、俺たちの力で叩き割れる!」

225スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:18:30.81ID:lWZcALOw
・・・・・・――――――

226スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:18:55.68ID:lWZcALOw
「――叩き割ります!」

シャルムの言葉に、真っ先に動いたのはアルダガだった。
彼女はメイスを全力で横薙ぎに振るい、結界の内壁を打撃する。

巨木を一撃でへし折り、飛竜の頭骨を甲殻ごとぶち抜く巨大質量の激突。
大気を波打たせる大音声と共に、結界の一部が大きくたわんだ。
しかし奇妙な弾力を有しているのか、メイスの衝撃を殺しきって結界はもとの形状に戻ってしまう。

『無理だと思うなぁ。結界の強度は勇者達の中で最も腕力のある君を基準に設計してあるんだ。
 星都に入ってからの君たちの戦いは全て見ていたよ。いずれも私の結界を破るに足りる威力ではない。
 だから――』

「――だから、無駄な試みはせずに座して待てと?
 結界を傷付けられると困るから、そうして絶望を煽っているようにしか聞こえませんね」

『解釈は自由さ。好きなだけ試すと良い。
 こうしてわざわざ情報を提供するのも、君たちの前途をより劇的にする為かもしれない。
 ただ一つ誓っておこうか。語り手は演者に嘘を言わない。提供する情報は全て真実だよ』

「でしょうね。拙僧の打撃では、この結界を破ることは不可能です」

『皆で力を合わせれば乗り越えられると、そう考えたかな?
 それも良いね、実に私好みの展開だ。ルクスに聞いてごらん、全員で力を重ねれば突破が可能かとね』

「結構。連携による突破力の向上など、貴方は既に計算済みでしょう。
 これまで何代にも渡って指環の勇者の姿を見続けてきた貴方には、結末が見えている」

アルダガは自身の右手を見遣る。
中指に嵌ったエーテルの指環。そこには指環に認められた者だけが得られる輝きがない。
正式な所有者であると、他ならぬアルダガ自身が認めていないからだ。

「だから拙僧は……わたしたちは。貴方の見たことのない力で、貴方の想定を上回ります」

指環を掲げ、祈る。
僅かな魔力の火が、指環の宝飾に灯った。

『ああ駄目だ、それは悪手だよ。エーテルの指環は未完成だって、そこの魔術師君が解説してくれただろう?
 その指環は私そのものだ。私を滅ぼさんとする者に、私自身が力を貸すはずもない。
 しかしがっかりだなあ。期待はずれも甚だしい。散々大口を叩いておいて、結局上位の存在に頼るのかい』

アルダガは答えなかった。
集中が増すに従って指環は強く輝き、同時にアルダガの身体にも光が宿る。

「信仰とは」

光はやがてアルダガの背中から放たれる。
それはさながら光の『翼』。黒鳥騎士アルダガの象徴とも言うべき、神鳥の両翼。

「本来、形あるものではありません。拙僧たちが祈りを捧げる女神像は、信仰を集める言わば"道標"のようなもの。
 偶像辞退が力を持つわけではなく、神の力の本質は"祈り"そのものにこそ生まれます。
 隣人への奉仕。自身の持つ権能を他者の為に使う……女神の教えとはすなわち、『力の再分配』です」

翼を構成する光条は、よく見れば一筋一筋が鎖の形状を帯びている。
アルダガが神術で他者とを繋ぎ、その能力を共有する為の鎖だ。彼女の背から伸びる鎖の束が、仲間たちの元へと届いた。

227スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:19:37.90ID:lWZcALOw
規制解除

228スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:20:33.61ID:lWZcALOw
「ジャンさん。ティターニアさん。ディクショナル殿。――シアンス殿。
 わたしを『信じて』、その力を委ねてくれますか?」

『おいおい。パンゲアの教えをそんな風に歪めるなんて、バチ当たりな修道女だなぁ』

「問題ありません。わたしが信じるのは新世界の創造主たる女神パンゲアではなく――『わたしの中の女神様』です。
 きっと大目に見てくれますよ。わたしの女神様なんですから」

『たった今邪教が誕生した気がする……』

アルダガは背後を振り向かない。
彼女もまた、仲間たちのことを『信じて』いるからだ。
光の鎖越しに流れ込んでくる暖かな力をその背に受けて、アルダガは己の信仰に名前を付けた。

「神装――『黒翼の聖槌(ヴェズルフェルニル)』」

――奇しくもその姿は、ソルタレク防衛戦にて光竜エルピスの見せたものによく似ていた。
他者の信仰を捻じ曲げ、その身に集めることで不可侵の神性を得る。

アルダガとエルピスとの違いは、信仰の源となる"信徒"の数。
そしてエルピスが純粋に己の力を高めていたのに対し、アルダガは鎖で繋がった者の全能力をメイスに宿す。

「わたしたちの世界に……貴方という"神"は、必要ありません。
 貴方に全てを託すのならば……これからは、わたしが神になります」

聖なる光を纏って鉄槌と化したメイスを、結界目掛けて打ち下ろした。
鉄槌と結界の激突点において、神と神の力が無限の攻防を展開する。
ティターニアの魔力が増幅したシャルムの魔導技術が結界を解き、スレイブの剣技が亀裂を刻む。
開いた裂け目をジャンの膂力がこじ開けていき――アルダガの神術が、結界を貫いた。

張り詰めた革袋が破裂するように、結界が少しずつ崩壊していく。
やがて空隙は人の通れる大きさにまで広がった。

「……今ですっ!」

アルダガの神装、その真骨頂は仲間の力を一時的に借りることにある。
信仰をいう形で力を供給しつつも、仲間たちは遜色なく動くことができるのだ。

つまり――結界を広げさえすれば、アルダガ以外の指環の勇者たちは外に出られる。
外に出て……全竜の喉元へと、その刃を届かせることができる。


【エーテルの指環を依代にして仲間の信仰を集め、一時的に神化。結界を破る】

229スレイブ ◆T/kjamzSgE 2018/07/17(火) 03:21:49.62ID:lWZcALOw
【暑中見舞い申し上げます。これからどんどん暑くなってきますので皆様お気をつけて】

230創る名無しに見る名無し2018/07/17(火) 08:00:52.25ID:zNkNFxgE
規制解除、って書く必要あるか?
いつもお前そうだけど

231創る名無しに見る名無し2018/07/19(木) 07:59:50.45ID:ql3oOitk
ゴミカスリーチ!

232ジャン ◆9FLiL83HWU 2018/07/19(木) 17:21:40.06ID:oNTcEcHi
>「落ち着け、所詮は全竜の茶番劇だ――セオリー通りにやればよい」

どちらを殴るか考えていたジャンとは違い、ティターニアは冷静に動いた。
事情を聞き、全の竜の急かすような煽りにも動じることなく、この劇のからくりを見抜く。

>『全く……今代の勇者は情緒がなくて困る。
こういうのは土壇場で活路を見出すから燃えるのであって最初から余裕綽綽でやられると……』

「うるせえ!とっとと次に行くかこの術を解くかしやがれ!」

『仕方がない、次に行こう――”常闇の牢獄”』

街は消え失せ、仲間たちも見えない。それどころか自分がどこにいるのかすら分からない、
一切の色のない闇にジャンは包まれる。
全の竜の脅しめいた声を最後に、一切の音は聞こえなくなった。
そんな状況の中、ジャンは指環に宿るアクアと話し始めた。

「アクア、オークにはこんな言葉がある。『折れぬ剣より折れた剣』
 あの二人は一回折れた剣だけどよ、今は立派に治って昔よりも切れ味がいい」

『それは……心が折れないより一回折れた方がいいってことかい?
 折れるようなことは本人にとって重荷にしかならないんじゃないか』

「そりゃ重荷だよ。引きずって歩くのはつらいし、時には座り込んで全部諦めたくなる。
 でもよ、一度も失敗せずに軽々歩くような奴よりは……歩くのが遅くても、それでも歩き続ける奴の方を……俺は助けてやりたい」

『……なるほど。君はやはりお人好しさ』

「そいつはどうも」

それからしばらくジャンはアクアと話し続け、やがて目の前の闇が砕け散るのを見た。
一行を包む闇は消え去り、青空と綺麗な花畑が一行を迎える。

>「……時間をかけてしまって、すみません」

「謝ることはねえよ、闇の竜に認められたんだろ?
 ならそれでいいさ」

トランキルは闇竜の分体ではなく本体と出会うことで指環の力をさらに引き出し、
この暗黒を消し去ってくれたようだ。反対に指環を持たないシャルムは話し相手もなく、より負担が大きかったのだろう。
顔色を悪くしてへたり込んでいる。

>『最終章の題名は……そうだな。“地を這う者ども”なんてのはどうだろう』

景色を眺める時間も与えられぬまま、全の竜のその言葉を皮切りに、地中から奇妙な音が響く。
姿の見えない何かが地響きを立てて辺りを蠢くような、そんな音だ。

233ジャン ◆9FLiL83HWU 2018/07/19(木) 17:22:01.91ID:oNTcEcHi
>「ラテさん?何を……」

全員があらゆる方向を警戒する中、ラテはただ一人空を見る。
そして掲げた光の指環が天を貫けば、雲の晴れた先に全の竜の姿が現れた。
今までの劇や試練もどきは全てこの封印結界の時間を稼ぐためだとシャルムとスレイブが気づく。

>「奴が力づくで私達を封印出来るなら、最初からそうすればよかった!
 そうしなかったのは、出来なかったから!今ならまだ、この結界を破れるはずです!」

>「俺たちとは異なる次元の生き物、超越した存在であるはずの全竜が、俺たちを『封印』しようとするのは何故だ?
 封印しなければ危険なほど――俺たちには、奴を害する力があるからだ。
 奴は全能だが、完全ではない。この結界だって、俺たちの力で叩き割れる!」

そしてその言葉に呼応して、アルダガが走り、ジャンがそれに続けて結界の表面へ突進する。
常人のそれをはるかに上回る膂力で放たれたメイスの一撃に続けて、ジャンのミスリルハンマーによる打撃が続けざまに結界を襲う。

>「――叩き割ります!」

「ぶん殴るぜ!」

両者による必殺の一撃は結界をたわませはしたものの、それは一時的なものだった。
ぐにゃりと歪んで元に戻り、結界はさらに一行を追い詰める。

だが、そこでアルダガはある閃きを決意にして、形にした。
それはエーテルの指環から流れる光がアルダガの背中まで届き、ジャンとティターニアが
カルディアで見たそれよりはるかに大きく美しい翼となって顕現する。

>「ジャンさん。ティターニアさん。ディクショナル殿。――シアンス殿。
 わたしを『信じて』、その力を委ねてくれますか?」

「信じなかったことなんて、一度もねえよ!
 持っていきな、俺の全部!」

そうして指環の勇者たちの力を結集させたアルダガは竜装をはるかに上回る力――神装を発現させる。
それは全の竜といえども予想できなかった力。一人で全てを扱えるからこそ、全の竜には分からなかった力。

>「……今ですっ!」

結界は少しずつ砕け、アルダガの力を抑えきれなかった部分は隙間として発露する。
そこを見逃すジャンではなかった。

234ジャン ◆9FLiL83HWU 2018/07/19(木) 17:22:35.89ID:oNTcEcHi
「アクアッ!あの野郎まで一直線だッ!」

『分かってる!――海の底の底、はるか下を流れる偉大なる水の流れ。
 今こそ我に集いて――駆けろ!』

ジャンの背後から現れたのは、深海を駆け巡る水流の群れ。
凄まじい圧力と速度を持つそれを身に纏い、全の竜へ向けて自らを射出した。

『所詮は力押ししかできない亜人か、ならば期待に応えてやるとしようか』

全の竜は右手で結界を維持しつつ、左手で魔法陣を描き始める。
それは本来ならば一流の魔術師が数十人がかりで完成させる強大な魔法。

『これが神罰というものだよ。砕け、ミョルニール!』

目もくらむような雷が天から降り注ぎ、全の竜の左腕がそれを纏う。雷によってはるかに大きくなった左腕は、
巨人ですら焼き尽くすような武器となるだろう。
そうして一直線に突進するジャンに向けて左腕を振り下ろし、お互いの一撃がぶつかりあうかと思われた瞬間だ。
ジャンが右の拳を思い切り握りしめ、まるで全の竜を殴るつもりであるかのような体勢をとった。

『その距離で殴り合えるとでも思ったのかい!?
 そのまま雷に焼かれるがいいさ!』

「――いや、殴れるぜ」

その瞬間、ジャンの右腕に先程まで背後にあった水流が次々と宿り、まるで巨人の拳のような形になっていく。
そうして全の竜の肉体ほどにまで大きくなった水流の拳は振り下ろされた左腕に下からかち上げる形ですれ違った。

すれ違いざまにジャンの左半身を雷が焼き、苦痛が全身を駆け巡る。
シェバトの時は片腕のみだったが、左半身ともなれば意識が飛びそうなほどのショックが脳を襲う。
だがジャンはまだ意識を保つ。奥歯を砕かんばかりに噛みしめ、目の前の殴るべき敵はまだ立っていると自分に言い聞かせて。

「歯ァ食いしばれやァァァァ!!!」

感覚の残る右腕を振りかぶり、ウォークライで自らに喝を入れて。
全身全霊を込めた一撃が、全の竜の顎へ鈍く低い音を立てて突き刺さった。

「……やったぜ」

強烈なアッパーを受けて全の竜はよろめき、ジャンは力を使い果たしたように落ちていく。
だが、どこまでも落ちていくことはなかった。既に結界の維持を全の竜は放棄し、場所は竜の神殿へと戻っている。
ジャンは神殿の床に倒れ込み、体勢を崩していた全の竜はやがて大きな笑い声を挙げて、一行へ向き直った。

『フフフ……この長い間……私に立ち向かうものなどいなかった。
 だが!この亜人は私をただ一発殴るために全力を賭けて私に立ち向かった』

全の竜は口から流れ出る血にも構うことなく喋り続け、傷を癒すことすら考えずに両手と両翼に魔法陣を展開する。

『それに敬意を表そう。小細工はいらない。君たちは全て、一切、区別なく潰す。
 観客を害する役者など、あってはならない……!』

両手に四つ、両翼に四つ。それぞれ属性が異なるのか、色違いの八つの魔法陣からあらゆる攻撃魔法が飛び出る。
さらには全の竜が大きく咆哮し、ウォークライにも似た音圧が一行に叩きつけられた。


【あまりの暑さにカレンダーを見たらまだ7月でたまげました
 アクアの指環が欲しいです……】

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