その言葉に、アルダガは電撃の奔るような感覚をおぼえた。
ずっと探していた答えにようやくたどり着いたような、快い熱が腹の底から湧き上がってくる。
アルバートの植え付けた女神への不信、教えを否定することへの罪悪、何より自分自身がどうすべきかという迷妄。
その全てに、納得のいく答えが一つ、見つかった。眼の前に横たわった闇霧を切り裂いて、光が差し込んだ。

「……シアンス殿、拙僧は古代から受け継がれてきた教えを遵守し、古代の法術を使ってこれまで戦い抜いてきました。
 だから、古代の遺産に頼らないあなたの信念に賛同はできません」

>『人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです』

晩餐会の場でシャルムが語った信条が、ずっと頭の中に引っ掛かっていた。
女神の教えを逸脱し、前人未到の道を己の足で進まんとする彼女を理解できず、常に困惑が頭にあった。
そして、星都で再会したアルバートという古代の代弁者――言うなれば、古代そのものとの戦い。
旧い教えを守り続けてきた彼女は迷い、ついに足を止めてしまった。
真に守るべきものが何か、わからなくなってしまったのだ。

「命よりも大切にしてきた教えを、拙僧は裏切れません。拙僧の存在自体を否定することになるからです。
 ですが……全てを古代に帰そうとするアルバート殿の考えにも、賛同するつもりはありません」

右手に握ったメイスを掲げ、その先にアルバートを捉える。
俯いていた顔を上げ、逸らしていた目を真っ直ぐ前へ向けて、彼女は自分のたどり着いた答えを放つ。

「拙僧は――わたし達は。教えを守るために生きているのではなく、生きるために教えを守っているのですから。
 我々が生きているのは古代ではなく"いま"です。わたしは、いまを守るために戦います」

>「……まあいい。全員まとめて叩きのめすまでだ。この虚無の指輪がある以上お前たちに勝ち目はない」

守護聖獣との問答に見切りをつけたアルバートは、レーヴァテインを構えて臨戦態勢をとる。

「確かに虚無の指環は強力です。属性を奪い取る力は、まさに指環の勇者の天敵とも言えるでしょう。
 ……しかしアルバート殿、貴方はいっときでも勇者たちと共に旅をして、まだ気付いていないのですか?」

再び全てを消し飛ばさんとするその姿に相対して、アルダガは不敵に笑って見せた。

「ティターニア・グリム・ドリームフォレストが、ジャン・ジャック・ジャクソンが。
 ――たかだか勝ち目がない"程度のこと"で諦めるはずがないと」

>「黒板摩擦地獄(ブラックボードキィキィ)――高音質(ハイレゾナンス)!」