アルダガとの膠着状態に矛を収めたシェリーは、星都で自身に起こった異変について語り始めた。
パトロンである陸軍少将の命令でセント・エーテリアへと潜入した彼女は、そこで不死者とは異なる『敵』と出会う。
先制攻撃で致死の矢を命中させたにも関わらず健在だったその敵は、指環の所持を仄めかす言葉を口にした。

指環の勇者以外に存在する、正体不明の指環保有者。
陸軍でも捕捉し切れていない、完全に情報不足の現状を打破すべく、彼女は独自に調査を続けに姿を消した。
『クーデターが起きるかも』という、実にきな臭い言葉を残して――

>「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
 黒蝶騎士が遭遇した第三者については……」

星都の位置について仮説を重ねていたシャルムは、諦めたようにかぶりを振った。

>「もしこちらを追ってくるとしたら……その時は私に考えがあります。
 まずは、全竜の神殿を目指しましょう。やりやすい地形があるといいんですが……」

「あのぅ……その『考え』というのは、昨晩のキャンプ魔改造のようなことですか?
 拙僧あんまり古代の遺産を弄り回すの良くないんじゃないかと……
 不死者のせいで発掘しきれてない有用資源もあることですし、できるだけ傷つけずに陛下にお返ししないと」

シャルムは有能な魔術師だが、その性向は些か未来の方を向きすぎているきらいがある。
新しく便利なものを作ることにかけては随一の才覚を持つ反面、古代の遺産に対するリスペクトがさらさらない。
壊してしまったらまた新しく作り直せばそれで良いという、合理性の塊のような女である。

もちろんその姿勢が現代の帝国の隆盛を支えているのは確かだ。
遺産などなくとも、人間は己の力だけで未来を切り開けるという主張を否定する気もない・
ただ、古代の女神を奉ずるアルダガとしては甚だ複雑な心境だった。

そして――たどり着いたキャンプ・グローイングコール。
そこでシャルムのとった追撃者対策に、アルダガは自身の願いが聞き届けられなかったことを知る。

>「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

「出来るだけ傷つけないようにって言ったじゃないですかぁーーっ!」

シャルムの放った魔導弾は密林に炎の轍を残し、みるみるうちに火災が広がっていく。
気付けばキャンプの周囲は炎上する木々に囲まれ、もうもうと立ち込める黒煙が人工の太陽を覆った。

「あああ古代の遺産が消し炭に!女神様になんと言い訳をすれば……!」

頭を抱えるアルダガの祈りが届いてか届かずか、燃え広がる炎の舌はやがて消えることとなる。
自然の鎮火ではない。ある一点へ向けて吸い込まれていく炎の先に、一人の男がいた。

指環を掲げるその姿は、一見すれば星都に迷い込んだ浮浪者。
しかし、アルダガは男の顔を知っている。その背に担った大剣を知っている。
違えるはずもない、彼はアルダガやシェリーと肩を並べ、共に帝国の為に戦ってきた存在。

――黒竜騎士アルバート・ローレンス。
港町カルディアで行方不明となり、アルダガが指環の勇者たちと邂逅するきっかけとなった男。
帝国諜報部が総力を挙げて捜索しても死体の痕跡さえ見つけられなかったアルバートが、密林の向こうから姿を現した。

「あ、アルバート殿……?なぜ貴方が星都に……」

アルダガが慄然と零した問いに、アルバートは答えない。
シャルムが魔導拳銃を突きつけ、ようやく言葉を発したかと思えば、その内容はアルダガの理解を越えていた。