からかうように曖昧な答えを返す全の竜。
単にふざけているのか、あるいは……ほんの少し願っただけでその事象が起こってしまうのだとしたら、
本当に本人にもどこまでが自分が起こした事象なのか分からないのかもしれない。
決断に窮したティターニアは、仲間の中で唯一冷静なジュリアンに視線で意見を求める。

「指輪の勇者ではない俺が決めることではないが慎重に考えることだな。
……正直お前の推測のとおりの可能性はかなり高いと思う。だが万が一違っていたら……」

ティターニアの推測が当たっていれば、全の竜が全ての元凶ということになり、これを倒すことは大きな意味を持つ。
しかしもしも、世界を救う側に干渉しているだけで、世界を滅ぼす要因の方に直接は干渉していないのだとしたら――
全の竜を倒すことは何のメリットもないどころか、世界滅亡の爆弾を抱えたまま世界存続の保険のみ失うことになる。
つまり、もしも首尾よくこの全の竜を倒した後で虚無の竜を倒し損ねたら、最悪の事態。
英雄どころか世界を滅ぼした大罪人だ。
そんな中、決断の決め手は、意外な者によって齎された。

「……頼む、力を貸してくれ」

「アルバート殿!?」

アルバートが素直に他人に物事を頼むのを初めて目撃し、驚愕するティターニア。
アルバートは確信に満ちた目で言葉を続ける。

「コイツを倒しこの虚無の指輪で全ての属性を吸収し尽くせば……新世界から属性を奪わずともこの世界を再建することが出来る!」

この言葉は戦う決め手を探していたティターニアにとって、十分すぎるほどの一押しになった。

「そなたには恩義があるからな――頼みを聞かぬわけにはいくまい。
あの時炎の山で出会わなければこんなに凄い冒険をすることはできなかった。
それに、打ち捨てられたはじまりの世界を救う――か、なかなか悪くないではないか!」

全の竜が、メンバー全員が宣戦布告したのをみとめると、ついに戦いは始まった。

>『そら、第一楽章が始まるぞ。まずはロンドから踊って貰おうか――"破滅への輪舞曲"』

>「これは、空間の書き換え……滅びをもたらす天災を、『創造』した――!?」

「おそらく一種の異空間だろうな……単なる幻ではなくここで受けたダメージは現実のものとなるだろうから気を付けよ!」

最初の試練は、船旅での転覆寸前の嵐。
しかしジャンが指輪の力によって難なくそれを鎮め、船は滑らかに進んでいく。