「ただし一つ条件がある―― そなたが勝ってそちらに指輪が渡ってももちろん我々も共に戦う。
だから……もしも我々が勝ってジュリアン殿が使うことになっても……共に虚無の竜と戦ってくれるか?」

これはもちろんアルダガが純粋に戦力として頼りになるというのもあるが、
“決闘に負けたので潔く散ります”は禁止という言外の意味も込められているのだった。
普通はそんな事はしないだろうが、星都の探索を通して黒騎士というのは
そもそもぶっ飛んだ集団というのがよく分かったので先手を打っておくに越したことはない。

>「なあティターニア、やっぱり俺たちでやんないとダメかな……
 今のうちに俺の頭を覚えておいてくれ、きっとあのメイスでへこんで形が変わっちまうから」

「うむ……ちょっともうどうしようもなさそうだな……」

ジャンが耳打ちして来るが、自主的に指輪をあげて決闘回避しよう作戦(?)も失敗した以上どうにもならないのであった。

「全の竜殿よ、いい感じに我々を地上に帰らせてくれたりは出来るのか?
無理なら”リターンホーム”で帰るが――」

とりあえず元の世界に帰ろうと、ティターニアが全の竜に尋ねた時だった。
シャルムが意味ありげに問いかけてくる。

>「……ティターニアさん。いえ、先生」
>「もし、この滅びた世界に……まだ、誰も答えを知らない謎が残されているとしたら」
>「どう、思いますか?その謎の正体を、知りたい、ですか?」

「それはもちろん知りたいが……そんな深刻な顔をしてどうしたのだ?」

仲間の一人一人に問いかけるシャルムを見て、気付いてはいけないことに気付いてしまったのだと察する。
考古学者としての個人的興味としては、喉から手が出る程知りたいに決まっている。
しかし、好奇心は猫を殺す、深淵を覗く者はまた深淵に覗かれる――
世の中には謎のままにしておいた方がいいことがあるのかもしれない。
純粋に真実を探求し過ぎた結果狂気に堕ち破滅の道を歩んだ魔術師は枚挙にいとまがないのだ。
そして今回の場合、下手すれば破滅するのは自分達だけではなく世界の全てなのかもしれない
逡巡している間にも皆の後押しを受け、シャルムは全の竜にいくつかの問いを投げかける。
そしてシャルムが自身の本性を見抜いたのだと悟った時、全の竜の態度が豹変した――
シャルムがドラゴンサイトで開けた穴は事も無げに修復され、彼女は決断を委ねるようにこちらを見つめる。
迷う素振りも見せず宣戦布告するスレイブとジャンだったが、ティターニアは最終判断の材料を得るために追加で質問をした。

「毎度頃合いを見計らって自分で虚無の竜を目覚めさせては滅びない程度に力を貸す……
一人でマッチポンプしておったのではないか?
しらばっくれておるが本当は虚無の竜を呼び出したのもそなたなのだろう?
退屈のあまり世界を破壊する存在を望んでしまったのではないか?」

『さぁ、そうかもしれないしそうでないかもしれない』