>「え……あ……えぇっ!?ティ、ティターニアさんっ!い、良いんですか……?」
>「……帝国に指環をもたらす。確かに成し遂げましたね、バフナグリーさん。
 他ならぬ指環の勇者様がこう仰っているんです。頂いておきましょう」
>「ほれ、帝国代表様が言っておられる。
 とっとと嵌めて、帰ろうや」

「どのみち指輪は一人一属性しか使えぬ。
ジュリアン殿なら使えるかもしれぬがその指輪の力を最も引き出せるのはそなただろうからな」

指輪が原因になっての戦禍を懸念し戸惑うアルダガだったが、
ティターニアがまず第一に考えているのは、この後に控えたエルピスや虚無の竜との決戦である。
これは別にどちらが正しいというわけでもなく常に権謀術数渦巻く政治的思惑の中で生きてきた者と、
神々や英雄の伝説を現実に起こり得る身近なものとして研究してきた者の思考の違いであろう。
地上がどうなっているのかは分からないが、もうすでに虚無の竜が世界を破壊し始めていることだって有り得るのだ。
ゆえに指輪の力を最も効率的に引き出せそうな者に渡したという単純な意図であったのだが、アルダガの胸中を察し、ニヤリと笑う。

「”有効活用”される可能性があるのはどの勢力に渡ってとて同じであろう。
それに安心しろ、その指輪は誰にでも使えるものではない。もしも欲にまみれた元老院の爺様に奪われたとてウンともスンとも言わぬだろうよ。
いくら御託を並べようが巨大な力を手にしてしまえば世の中多少の無理は押し通せるものだ。
その指輪を手にして尚化石のような上層部の思惑に唯々諾々と従う必要などないのだぞ」

そこで帝国と教会に忠誠を誓うアルダガから見て穏やかではない物言いになっていることに気付き、慌てて仕切り直す。

「……おっと、随分と物騒な言い方になってしまった。つまり何がいいたいかというとだな。
そなたなら……その指輪を使って帝国を更にいい方向に変えていけると思うのは買いかぶり過ぎか?
もしかしたらそれは国家や教会という枠におさまらない形になるかもしれぬがな――」

しかしアルダガは皆に指輪の所有者としてふさわしいと言われて尚、指輪の所有権は決闘で決めるという初志を貫徹するのであった。

>「……受け取れませんよ、ティターニアさん。帝国に指輪が渡れば、それは戦争の火種になります」
>「ですが、一時的に預からせていただきます。約束、覚えていますよね?
 星都での旅が終わったら、指輪を賭けた立ち合いが待っています。真の所有者は、それを経て決めましょう」

「やれやれ――とことん頑固な奴め。約束してしまったのだから受けるしかあるまい。
地上に帰った時に虚無の竜どもが決闘するだけの猶予を与えてくれていたらだがな」

アルダガのあまりの初志貫徹っぷりに苦笑しながらも頷くティターニアだったが、一つの条件を提示した。