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日本が異世界に転移した第1章
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0002創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/25(日) 13:46:27.39ID:w/ET72s4
興味深い
日本丸ごと異世界【移転】なのか

日本列島として考えていいのかな
周辺海域は?
海域の生態系も移転?
それに地下どれだけの距離が一緒に移転したのだろう
地下水や河川などの自然環境から電気上下水道などのライフラインとか
そこら辺どうなっているのか楽しみです
0003創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/25(日) 17:27:54.15ID:HGqlw/lT
そんな事言い出したらそもそも重力、気温、大気成分なんかも同じでないと困っちゃう
0004創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/25(日) 17:35:54.98ID:w/ET72s4
>>3
良い着眼点やん
気温が熱帯だったり極寒だったりすると行動選択も変わってくるだろうし、重力が違って当たり前に出来ていたことに思わぬ障害が発生したり
今の日本が前提条件の違う異世界でどうなるのか楽しみだわ
個人ではなく日本丸ごととなると描写範囲も変わるだろうし、大変そうだ
0005創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/25(日) 20:25:59.38ID:dhhwMHyy
興味があるのは日本が異世界に転移したとし、地球の海水がその抜けた穴に一気に流入するわけだよね?
太平洋の船舶は急激な海流で全滅状態になるのかな
0011始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:16:00.76ID:hXr3L7hE
誰も使ってないし試しに投下
0012始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:18:37.39ID:hXr3L7hE
大陸東部
新浜市

「海だあ!!」

むさ苦しい海パン姿の男達が砂浜に繰り出している。
7月になり、新浜の砂浜でも海開きが行われた。
海開きは月初に就任した初代市長がテープカットに参加する盛大なものだった。
男達はこの地に駐屯する陸上自衛隊第16師団、第33普通科連隊の若き隊員達だ。
この海開きに合わせて休暇を取り、水着美女との心と体の交流を謀るべく、有志による部隊をビーチに展開したところだ。
何故か市や海の家から大量の割引券等が、寄贈されたことも部隊が動員された動機にもなっている。
彼等の誤算は、水着姿の人間はむさ苦しい彼等くらいしかいなかったことだろう。

「な、何故だ・・・」
「俺達はこの日の為に厳しい訓練を・・・」

砂浜には潮干狩りに興じる家族連れしか見当たらない。
あるいは砂浜で釣糸を垂らしている釣り人か。
家族連れの妙齢の女性達もいるにはいるが、誰も海に入らずに波打ち際で遊んでる程度だ。
大陸での早婚率が高いのも一因となっている。
そもそも家族連れなどナンパとしては対象外もいいところだ。
新浜市の人口は今月50万人に達したことが、朝のニュースで報じられていた。

「単純な試算として、人口の半分が女性。
平均寿命が70代として、最低でも三万人のうら若き妙齢の女性が新浜にはいる筈じゃないか・・・」

隊員の一人の屁理屈っぽい愚痴を後ろで聞いていた制服姿の海上保安官の猿渡二等海上保安士が、彼等の希望を打ち砕く言葉を口にした。

「去年は海洋モンスターや海棲亜人の襲撃が各地で続いたからね。
誰も怖がって海に入ろうとしないんだよ。」
「そんな!?
あんなに頑張って、自衛隊や多国籍軍が駆逐したり、降伏させたりしたんじゃないか・・・」
「イメージはなかなか拭えないのですよ。
この海岸だって、我々や海自が定期的に掃討したのだが、この有り様だよ。」

海岸で潮干狩りや釣りに来ている客も単純に遊びに来ているわけではない。
少しでも食卓を豊かにしようと真剣な眼差しで作業に当たっていた。

「遊びに来たのって、あんたらだけじゃないのかな?
まあ、それより海で泳がないのかい?」
「それを聞かされて泳げるか!!」
「やだなあ、割引券とか大量に貰ったり、休暇の調整が妙にやりやすかったろ?
市は君達に期待しているんだよ。
誰も海で泳いでくれなかったら外聞が悪いからね。」
「え?
なぜ、それを知っている・・・」

猿渡の言葉は若き隊員達の心を抉っていた。
悲痛な叫びをあげている隊員達が、笑顔をひきつらせながら海で游ぎ始める。
海で泳ぐ隊員達の姿を見て、波打ち際に留まっていた市民達も少しずつ海水浴を楽しみ始めた。
賑わい始めた砂浜を尻目に、猿渡は冷房の効く海保パトカーに戻っていった。
海保パトカーには同僚の鵜島二等海上保安士がアイスティーを魔法瓶から紙コップに注いで渡してくれる。

「お疲れ〜
どうだったあの連中は?」
「さすがは市民に愛される自衛隊員ですね。
自分達の役割を理解して、率先して海に飛び込んでくれましたよ。
彼等の努力次第で、若いリピドーを発散させる対象が増えてくれることを祈りましょう。」
0020始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:21:20.80ID:hXr3L7hE
「わかった、本部には異常無しと報告しておく。
しっかし、どうしてこんなとこで海開きなんかしてるのかな?
湾内なら安全も確保されているのに。
去年までは向こうが海水浴場だったろ?」

新浜市の港は周囲を陸地に囲まれた湾に沿って造られている。
大型船も寄港出来るように桟橋や岸壁が建設された。
防波堤も設置され、移民管理局や海上保安署、税関や検疫所が設けらた。
現在も埋め立てや陸地の掘り込み、浚渫などの拡張工事が行われている。
湾の入り口には堤防が造られ、監視カメラやセンサーがモンスターの侵入を監視し阻んでいる。

「開港して船舶の出入りが激しくなるからだそうですよ。
ほら、今日も来てる。」

猿渡の指差す方向、水平線の向こうから巡視船に護衛された巨大な客船が新浜に向かって航行しているのが視界に入る。
新浜港の開港により、移民管理局新浜市が新設された。
新浜市は一日に250名の移民を受け入れが可能となったことを意味する。
もちろん移民先は、新浜市ではなく、第三植民都市である六浦市だ。
一家総出、家財道具一式を持ち込んで来ている者がほとんどだ。
移民たちの荷物は想定より多くない。
移民対象者は第二・三次産業従事者だった者達が大半だ。
転移後はその大半が無職となった者達だ。
配給だけでは足りない食料を得る為に家財道具を第1次産業従事者に売り付けた為に引っ越し荷物が大幅に減ったのだ。
この後はそのまま列車で六浦市に運ばれていく。
今の新浜市は新生児による住民増加で、定数を満たしている状態だ。
パトカーで港湾に戻ると、客船と巡視船が停泊していた。
客船から移民達が船体の側面に装備しているスロープから、持ち込んだ車両を降ろしている。
この港では毎日のように見られる光景となったが、隣に停泊している巡視船に猿渡は怪訝な顔をする。

「あれ?
うちの巡視船じゃないのか?」

猿渡が困惑した様に、巡視船の船体は白いが赤いラインが入っている。
ルソン沿岸警備隊の証だ。

「噂に聞く、ルソンに供与される巡視船だな。
完成してたんだな。」

鵜島が端末から情報を引き出していた。
巡視船『マラパスクア』は、日本がルソンに供与した40m型多目的即応巡視船の三番船である。
処女航海ついでに日本からの移民船を護衛してきたのだ。

「海保の巡視船も充足したとはいえ、数が足りないからな。
同盟都市の海洋戦力の充実してきたから駆り出したのだろう。」
「巡視船の供与は転移前からの約束でしたからね。
向こうにも受け入れの余裕が出来たからですが、パラオやジプチの巡視艇は埃を被ったままですよ。」

転移前の対中国、対海賊を見越した海賊を念頭に置いた巡視船供与を東南アジア各国と取り決めていた。
転移後もその取り決め通りに後継組織たる同盟都市に供与された。だがいまだに同盟都市を建設する為の人口に達しておらず、他国との連合が合意に達していないジプチやパラオの巡視艇は横浜のドックで保管されている。

「王国も欲しがってるらしいぞ。」
「まあ、今無償で無ければ支払い能力があるのは王国だけでしょうしね。
売らないでしょうがね。」

巡視船の売却など技術流出防止法に抵触しまくりで話にならない。二人はそのまま移民船から降りてくる日本人達の整理に駆り出されて奔走することになる。



客船から家族と荷物を降ろした新島晴三は移民先の大陸の大地を踏みしめていた。
元々は父親が横浜の商社の重役だったが、海外との取引先が転移により消滅して収入が途絶した。
0034始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:25:16.40ID:hXr3L7hE
それまでの蓄えや配給で食い繋ぎ、小学生だった徹也も家庭菜園や近所の畑へのバイトに奔走して、家計を支える毎日だった。
兄の新島晴久が陸上自衛隊に入隊して、大陸の六浦市に赴任することになって、移民の優先権を手に入れたのだ。
幸い、転移前に購入していたワゴン車が残っていたことから、他の移民達よりも大量の家財道具を持ち込むことが出来た。
大陸上陸した初日は移民局が用意した宿泊所に泊まり、簡単な書類の申請や検疫を済ますことになっている。
風土病に対する予防接種も行われる。
主要な健康診断や書類の作成は、航海中に行われているので、上陸後のものは最終確認程度のものだった。

「本国を離れる時もあれだけやったのに・・・」
「まあ、タダで健康診断をやって貰えてると思えばいいじゃないか。」

夕方には大食堂で移民局から無償で提供された。

「親父見たか?
鍋の中身はカレーだぜ・・・」
「ああ、たっぷりと野菜や肉が入っていたな。
あんな豪華なカレーは何年ぶりにみるか・・・」

転移で輸入先が消滅したことにより、牛肉を初めとする肉は全く手に入らないものになってしまっていた。
本国内の畜産農家も生産の拡大に努めてはいたが、飼料の不足から僅かな成果しか上がっていなかった。
近年では大陸から安価な飼料を献上させることで、それなりに効果は出てきたらしいが、それでも国産肉の高騰化に歯止めが掛からない状態であった。

「大陸にくれば餓死の心配は無いって本当なんだな。」

晴三は豊富な具材が入ったカレーを食べながら、横浜で自警団に参加していた時のことを思い出す。
転移前はエリート商社マンだった一家が餓死していた事件だった。
遺体の放置によりグール化する事件が相次いだことから、自警団は各家の住民の安否を確かめる巡回を行っていた。
遺体で発見された一家を空き地に移送し、警察官の立ち合いのもと荼毘に伏したのは苦い思い出であった。
十分な食事と睡眠を取り、翌朝には六浦市に向けての出発の準備に取りかかる。
移民達も車両を持ち込んでいない者は、汽車に乗って現地に向かうことになる。
7両編成の汽車だが客車は二両だけで、二両は貨物車だ。

「機関車と炭水車はわかるけど、最後尾の車両は何だろう。」

晴三の疑問に野戦服を来た自衛官がその言葉を聞いて、答えてくれる。

「あれは装甲列車だよ、俺達自衛官や公安鉄道官が乗り込むんだよ。
ほら、屋根にも銃座とか付けられてるだろ?
まだまだ、帝国残党やモンスター、山賊なんかが出るからな。
だいぶ掃討したんだが、どこから沸いて出てくるやら・・・」

呆れ顔の自衛官がそのまま装甲列車に戻っていった。
晴三も護身道具として持ってきた金属バットだけでは心細く感じている。
叔父もせいぜいスパナ程度らしい。
列車に伴走する民間の警備車両の武装警備員達もライフルを持っていることから、銃器購入の必要性を感じた。

「なあ親父、俺達民間人もこっちの大陸でも銃とか持てるのかな?」
「新京の方にメーカーが工場造って直販してるらしい。
途中で立ち寄るから買ってみるか?」

六浦でも割り当てられた農地を貰うことになっているので、害獣、害虫対策に必要になることもあるらしい。

「害虫対策って、どんだけデカイ虫が出るんだ?」
「城壁を崩すくらいのが出るらしい。
怪獣だよなそれは・・・」

汽車には300名の乗客が乗れるが、乗用車を持ち込んだ移民達は乗り込む訳にはいかない。
可能な限りの家財を積み込み、警備車両や他の移民の車両と一団を形成し、幹線道路で六浦に向かうことになる。
新浜市から六浦市までは、途中の新京特別行政区を挟み約百キロの幹線道路が通っている。
安全運転で三時間もあれば着くはずだった。
0040始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:28:23.41ID:hXr3L7hE
「じゃあ晴三、家族を頼むぞ。」
「ああ、ここから百キロも先だから運転気をつけてくれよ親父。」

父と祖父は一足先にワゴン車で六浦市に向かうことになっていた。
六浦市では、兄の晴久一家が割り当てられた住宅の掃除をしながら待ってくれているらしい。

駅のホームでは新浜市のボランティアによる炊き出しが行われていた。

「現地に着くまでのおにぎりを持って行って下さい。
一人三個までです。」

初老の男性からおにぎりを貰い、晴三は頭を下げる。

「ありがとうございます。」
「我々も新浜を造る時はそれなりに苦労したが何とかなった。
君達にも出来るさ。」

一から全てを造り上げねばならなかった新京の連中から比べれば恵まれていると言えよう。
移民達を乗せて発車する汽車や車両群をボランティア団体を率いていた新浜武道連盟の理事長の佐々木は感慨深く見送っていた。


大陸東部
京浜道

新島一家は長男の晴三が汽車に乗り、女子供達と六浦市に向かっていた。
その間に晴三の祖父利光、父晴利、晴光の弟晴史の免許のある男手3人は、大陸に持ち込んだ車で中継地点である新京特別行政区を目指すことになった。
移民達の車両は31両に及び、98名が一団となって京浜道を進む。
制限速度は時速30キロ。
約80分程で、新京特別行政区に入ることが出来る。
新京特別行政区でもこちらに寄港した移民船から降ろされた車両が合流する手筈になっている。
そこからほぼ同じ速度、距離を走行し六浦市街地に入る予定だ。
途中休憩を挟み、約5時間ばかりの行程だ。
また、先導する車両は自衛隊の軽装甲機動車であり、最後尾には高機動車二両と73式中型トラックが張り付いている。
これらの車両は移民達の車両を伴走警備する為のものだ。
動員された自衛隊の規模は普通科1個小隊。
彼等にとっては定期的な日帰りパトロール任務の一環である

「東部地域ではあまり活動が見られませんが、帝国残党軍によるテロを警戒しています。
他にも日本人を狙った山賊や盗賊とか・・・
一度に大量の人間が動くことを嗅ぎ付けたモンスターとか・・・
結構、掃討したのですがたまに現れるんですよ。」
「帝国軍が壊滅して王国軍の規模の演習では駆逐出来ないらしく、各領地で行われていた領主による狩猟も小規模化して、モンスターが増えちゃったんですよね。」

説明してくれる自衛官達は気軽に言ってくれるが、大陸に到着してまだ1日程度の移民達には壮絶な光景が頭に過っている。
実際のところスタンピード現象における各地の被害は軽視できるものでは無い。
王国軍や貴族の私兵、自衛隊をはじめとする地球系同盟都市の各治安部隊まで駆り出されて駆除にあたっている有り様であった。
特に大陸の農村部の民達に被害が出ると、賠償金代わりの年貢に響くのだ。
とにかく自衛隊の護衛は有難いのだが、自衛隊の警備に便乗する形で、都市間市営バスや荷物を積載したトレーラー、新京、新浜市民の乗用車も後に続く。
これらの民間人が72名。
総勢200名からなる一団は、予定から少し遅れて出発する。

「線路と幹線道路が並行になっているのは助かるな。」

運転している晴利が感慨深そうに呟いている。
線路は道路より外側の海に面して張られている。
道路沿いの防音壁は、大森林からの野性動物の侵入を防いでいた。
そのせいなのか、ところどころに破壊されている場所や補修箇所が見受けられる。
幹線道路も安全では無いことを示していた。
新島家の男達にはコンクリートの外壁を破壊できるモンスターとはどんなのなのか想像が出来ない。
0041始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:31:14.42ID:hXr3L7hE
「見ろ、交通誘導の警備員だ。」
「工事でもしてるのかな?」

サンルーフから周囲を警戒していた晴史が双眼鏡で捉えた方向を指差している。
確かに道路の片側車線を塞ぐように制服を着た警備員が旗を振っている。
先頭を走る自衛隊の軽装甲機動車が停車し、警備員から事情を聞いているようだ。
もう一人の自衛官が拡声器で注意を促している。

『この先で、モンスターによると思われる防音壁の破壊が確認されました。
現在、道路公団による補修工事が行われております。
各車両は誘導に従い徐行で通過をお願いします。』

この間にドライバーの腕や自動車の性能、荷物の過多により伸びていた車列も修正されていく。
交通誘導員の誘導に従い、工事現場が行われている車線の横の反対車線を車列が通過していく。
その後方には道路公団の黄色い車両の姿が見受けられる。
本国にいるノリで交通誘導員を軽視して、悪態を吐く若者もいた。
しかし、交通誘導員達が一様に刀や拳銃で武装していることに驚き、それらを手を掛けながら若者に指示に従う様に詰め寄っている。
激昂した若者が唾を吐くと、一斉に刀や拳銃を突き付けて威嚇する。
よく見てみれば警戒に為に槍まで持たされている交通誘導員までいる。
交通誘導員が武器を持って、民間人に詰め寄っているのに、それを自衛官達は止めようとはしない。

「お、おい、何みてるだけなんだ!!
助けろよ、コラッ!!」

悲鳴を上げた若者に助けを求められ、ようやく一人の自衛官が彼等の間に割って入る。
ほっとした顔の若者の期待を裏切り、自衛官は一言だけ若者に言った。

「後がつかえてます、誘導に従って下さい。」

ここは本土とは違うことを再び実感させられる。

「あれ・・・、大丈夫なのか?」

晴利が付近で交通整理を手伝っていた自衛官に聞いてみる。

「ああ、実際に発砲したり、斬り付けなければ威嚇の範囲で始末書にもならないでしょうね。」
「いや、本国なら鉄砲向けただけでも始末書じゃ済まないでしょう?
威嚇だけでも新聞沙汰だぜ。」

自衛官は不思議そうに首を傾げ、急に何かを思い出したように柏手を打つ。

「ああ、本国ではそうでしたね。
帰国した際には我々もうっかりやらないように気を付けないと。」

自衛官達もやっているらしい言葉に、晴利はドン引きしつつ誘導に従い車を前進させる。
暫くして京浜道の中間地点に設置している京浜監視所が姿を見せる。
それは一見すると、要塞化されたサービスエリアであった。
普通のサービスエリアと違うのは、強固な外壁とタワー状の監視塔の存在である。
自衛隊の車両や大砲、ヘリコプターが置かれている。
警察や各治安機関の連絡所もあるらしく、広い駐車場には様々なパトカーも駐車している。
道路公団も事務所を置いており、黄色い車両や工事用の重機の姿も見える。

「給油や車両修理の施設もあるらしい。」
「レストランやお土産コーナーまで完備か・・・、足湯にマッサージコーナー?」
「異世界の大陸に来てまで土産物が饅頭に煎餅か・・・、武器屋?」

新島家の男達は案内の看板を見ながら苦笑を禁じ得ない。
まだ、土産を買う余裕や食事をする空腹感は無いが、トイレタイムで予定通りに一行は立ち寄ったのだ。
先を急ぐ便乗組の車両は立ち寄らずに先に進む。
0050始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:33:40.01ID:hXr3L7hE
3人はせっかくだからと足湯に浸かっている。
湯に浸かりながら晴史がカタログに目を通している。

「さっき武器屋を覗いてみたんだが、刀剣に槍、弓矢に拳銃、手裏剣とバラエティーに富んでいたよ。
でも気軽に手に入る値段じゃないな。」
「街中ならともかく、こんなところで買いに来る人達がいるのか?」

利光が疑問を口にしていると、駐車場に3台の軽トラックが入ってきた。
移民団とは別口の車両だ。
公団のクレーン車が軽トラの荷台から何かを吊り下げて宙吊りにしている。
利光がその光景に感嘆の声を挙げる。

「でかいイノシシだなあ!!」
「いや、でかすぎだろ・・・」

晴利は呆れた声をあげている。
全長四メートルを越えるイノシシなどは見たこともない。
それが三匹。

「あいつが外壁を破壊した奴らしい。」
「ワイルドボアか、でかいな。
600キロは有りそうだ。」

見学に来た自衛官達の声が聞こえる。
本国でもイノシシの被害は転移前から報告されていたが、大陸のは桁が違うようだ。
ワイルドボアとは日本語だとイノシシのことだが、大陸ではイノシシのモンスターの名前として定着しつつある。
大陸の人々は単に『でっかいイノシシ』としか呼ばない。
ワイルドボアの名称は、日本人学者が勝手に命名したのが登録されたものだった。

「あの怪獣みたいの自衛隊が倒したんですか?」

晴史が彼等に声を掛けている。

「いやあ、あれは俺達じゃなくて・・・」

自衛官達は手首を振って否定して指を指す。
獲物の側で写真撮影をしている一団がいる晴利達の目からはコスプレイヤーの撮影会にしか見えない。

「この付近で活躍している冒険者のパーティーだよ。」
「全員日本人?
いや、大陸の人もいるのか。」

パーティーに白人がいるので、逆に安心した気分になる。

「いや、あれロシア人のアンドレセンさん。
転移前は格闘家で確かに強かったけど・・・
仕留めたのはリーダーのあの弓と薙刀持ったおばさんの市川さん。」

袴姿の恰幅のよい女性がピースでカメラに応えている。

「あのおばさんが・・・」
「日本人冒険者では有数の実力者だ。
新浜の剣豪佐々木会長とどちらが強いか話題になっている。」
「佐々木会長って?」
「出発時に炊き出ししているお爺さんがいたでしょう、あの人。」「あの爺さんそんなに凄い人なんだ!!」

とんだ買い被りである。
盛り上っている中、吊り下げられたワイルドボアの血抜きが行われている。
その濃厚な臭いに、先ほど交通誘導員に悪態を付いていた男が口を抑えてトイレに駆け込んでいく。
0059始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:35:36.42ID:hXr3L7hE
「ああ、移民さん達にはキツかったかな?
ごめんね。」

市川女史が困ったように謝罪を振り撒いている。
他にも10人ほど移民達が血や肉の臭いに具合を悪くしたので、暫くこの監視所で休憩することになった。
暫くして移民達が落ち着きを取り戻すと、市川女史のパーティーからお詫びと称してワイルドボアの肉が切り分けられ、移民達に御裾分けが行われていた。
軽トラでも無いと運べない獲物だったので、通常は討伐対象の確認部位や一部の肉を食料、素材に使える部位を切り取るだけで投棄するだけだった。
今回は運良く防音壁工事の軽トラックが空荷で近くを通ったから乗せて運ぶことが出来たらしい
勿論、監視所にいた自衛隊の衛生科の隊員や保健所職員による検査済みの肉だ。
新島家もクーラーボックスにビニール袋に包んだ生肉を入れて保存する。

「母さん達、イノシシの肉なんて調理できるかな?」
「や、焼けばいいんじゃないかな?
焼肉とかステーキみたいに。」

新島家の兄弟達は額に汗を浮かべる。

「そもそもイノシシの肉と同じ様に考えていいのか?」
「いや、でかいだけでイノシシなんでしょ?」

利光も首を傾げる。
貴重な食料は無駄には出来ない。
携帯電話で先行している列車組に遅延と土産の肉を手に入れたことを連絡して出発する。
京浜監視所から新京までは何事もなく順調に進み、新京港から上陸した移民達の車両が合流してくる。
すでに先発隊は出発しているらしく、合流組は第三陣にあたる。
規模は新浜市上陸組と同規模だが、全体的には四倍の数になる。
新京特別行政区から六浦市への幹線道路は、京六線と命名されている。
移民団はすでに大都会化している新京の光景に驚きを隠せない。
ところどころに大陸風の御屋敷が見受けられる。

「あれが大陸貴族の屋敷らしいな。
ちょっとした観光名所になっているらしい。」

利光が監視所の売店で購入したガイドブックを見ながら解説してくれる。


外壁や路面も工事中の場所も多い。
六浦市の新しい市民達にはこの工事の為の労働力としても求められている。
晴利や晴史もそういった仕事に従事することになっている。
京六線の監視所たる京六監視所と休憩後、六浦市の光が見えてくる。
六浦市も新京や新浜と同様、城塞都市の形が取られている。
重装備の警官が警備するゲートを検問の後に通過し、割り当てられた住居に向かうことになる。

「おっ、いたいた。」

晴史が携帯電話で連絡を取り、ゲートまで迎えに来ていた晴三を車に乗せて案内してもらう。
案内された家は屋敷のようにでかい住宅だった。
自衛官をしている長男一家のお陰で、優遇された結果だった。
最も新島家と長男の細君一家合わせて13人で住めばすぐに手狭になるかもしれない。
「今日は疲れたでしょう。
荷物は明日からでいいから先にお風呂にでも入っちゃいなさいよ。」

妻の明美に言われて、晴利は『大浴場か?』とツッコミたくなる風呂に浸かる。
そのうち、ややクセのある匂い肉を焼いた匂いが漂ってくる。
例のイノシシの肉なのを察して、ため息をはく。
風呂から揚がると明美に御近所迷惑にならないか聞いてみる。

「私も気になったけど、御近所さんの大半が同じメニューみたい。」

と、言われて深く考えることをやめた。
0066始末記
垢版 |
2018/04/08(日) 19:37:06.66ID:hXr3L7hE
では今回はここまで
次回は三日後くらいにこの三倍で
0076始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 00:13:26.10ID:n0V4KVrE
>>66
と、思いましたが今、やってしまいます。
投稿しすぎの注意がでたら停止の形になります
0077始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 00:17:27.06ID:n0V4KVrE
大陸南部
呂栄市

人口24万人を誇る旧フィリピン人による地球系都市で開かれた地球系国家首脳会議は無事閉幕した。
ニーナ・タカヤマ市長の肝煎りで、昨年の百済襲撃のような愚を犯さないように徹底した警備が行われていた。
現在も完全武装の軍警察一個連隊が市内や郊外を巡回し、警戒を怠っていない。
港湾から沿岸までは、40m級多目的対応巡視船『トゥバタハ』、『マラブリコ』、『マラパスクア』、『カポネス』、『スルアン』、『シンダンガン』が海上警備を担当し、同盟国・都市の海上部隊と守りを固めていた。

「本国も呂栄沿岸警備隊の充足に力を入れてるなあ。」
「転移前からの約束ですからね。
あと4隻が予定されていますが、供与が早すぎて呂栄側が船員を揃えるのに苦労してるみたいですよ。」
「十年遅れですが・・・」

総督府一行が宿泊する日系ホテルのテラスから港湾を眺め、秋月総督と秋山補佐官はサミットの間に山のように溜まっていた書類を些か現実逃避ぎみに処理していた。
わざわざ呂栄まで持ち込んだ書類だけあって呂栄絡みの物が多い。
呂栄沿岸警備隊の整備事業の書類を見て意見を交わしあっているところだ。

「あ、これがエウローパから提出された旧構成国別のリストです。
分類がなってないな。」

秋山補佐官からの愚痴混じりの言葉を聞き流しながら、リストを受け取る。
エウローパは、ヨーロッパ39ヵ国の国籍保有者と彼等の配偶者となった日本人約6万人で建設された新たな地球系同盟都市である。名称はヨーロッパの語源となった女神のラテン語読みから名前から取られている。
その構成は

フランス13000名
ドイツ6200名
イタリア4000名
ベルギー3600名
ウクライナ3100名
スペイン、ルーマニア各3000名
スウェーデン2700名
ポーランド2000名
スイス1600名
オランダ1300名
ポルトガル1200名
オーストリア1100名
ブルガリア、デンマーク各1000名
フィンランド、ノルウェー、リトアニア各800名
ルクセンブルク750名
エストニア700名
ハンガリー、セルビア、スロバキア各600名
チェコ400名
ギリシャ、クロアチア各300名
ラトビア、モルドバ各200名
スロベニア、アイスランド各100名
グルジア、アルメニア各50名
マルタ20名、リヒテンシュタイン10名
他少数サンマリノ、バチカン、アンドラ、キプロス、モンテネグロ

「細かいな。
しかし、よくまとまったものだな。」
「ヨーロッパ系キリスト教国で固まりました。
ボスニア、アルバニア、コソボといったヨーロッパ系イスラム国家は態度を保留しつつ、外務省の仲介で教徒同士の住民交換も行われました。」

宗教、文化は均一な方が争いは少ないと、外務省が仲介に奮闘した結果である。

「次はどこが有力なんだ?」
「単体の人数ではモンゴルですが、ボリビアが南米、中南米系をまとめ始めました。
年内には決まると思います。」
0078始末記
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2018/04/09(月) 00:19:10.03ID:n0V4KVrE
在日外国人の処遇も大半が片付き、目処が見えてきた感がある。
最終的には全部まとめて押し込む気だ。
地域的に孤立したモンゴルやヨーロッパ系イスラム三か国はその対象となっている。

「そうそう北部デルモンドに派遣している第10分遣隊より、現地の鉱物資源の調査結果が出ています。
ウラン、クロム、鉄鉱石、マンガン、なかなか有望ですな。」

大陸最北端の北サハリン領ヴェルフネウディンスク市と王都ソファアを繋ぐ大陸鉄道北部線。
そのちょうど大陸中央と大陸北部の境界線にあるデルモンドの町の砦を接収して分屯地の建設が行われた。
まずは砦を改修し、駅の建設、インフラの確保が行われ、周辺地域の資源の調査が実施された。
調査の結果は上々で、特にクロムは日本の支配領域では初めての算出だ。
現在はサイゴンからの輸入に頼っているが、この量を減らす事が出来る。

「来年のサイゴンサミットでは議長国を困らせることになるな。」
「供与予定の船舶で我慢してもらいましょう。
すでに漁業取締船6隻や退役した巡視船を2隻供与してるのです。
呂栄に次ぐ優遇ですよ。
他の同盟都市からの需要も伸びてる筈ですから、問題は無いでしょう。」
「他都市からの依存度が減らせるのは優先すべきだな。
ここ数年は騒動続きだったからな。
そろそろ落ち着いて欲しいものだ。」

秋月総督の期待を裏切るように新たな書類が机に積み上げられた。持ってきたのは総督府で軍務を補佐する高橋陸将だ。

「何か問題が起きたか?」
「スコータイのウラン鉱山が襲撃を受けました。
スコータイの連中は秘匿していますが、警備に当たっていた軍警察の一個分隊は全滅。
鉱道が爆破され、鉱夫にも少なからず死傷者が出てるので、現地の大使館が情報を掴みました。
敵の正体は不明です。」

銃器で武装したスコータイの軍警察を全滅に出来るとはただ事では無い。
スコータイの軍警察は転移後に即席で創られた為に練度に不安があったのは間違いない。
それでも装備も軽歩兵程度の物は揃えてある。
銃火器やテクニカルで武装した分隊がムザムザとやられるだろうか?
サミット開催中であり、現地が手薄だったことも一因ではあるが、全滅の上に敵の正体もわからないとは遅れを取るにも程があった。

「おそらく奇襲だったのでしょう。
通信も出来ないほどに敵の連携も巧みだったことが予想されます。
ウラン鉱山はこの世界の住民では活用出来ないことから、狙われたのは偶然と思われます。」

高橋陸将の分析にも腑に落ちない点は拭えなかった。

「ソムチャイ市長には私が直接話を付ける。
自衛隊は調査部隊を至急派遣する準備をしておいて下さい。」
「アンフォニーの第6分遣隊から小隊を出させます。」

地図で確認すれば一番スコータイに近い部隊だ。

「物が物だけに各同盟都市にも警戒を促すようにしましょう。」
0079始末記
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2018/04/09(月) 00:21:02.13ID:n0V4KVrE
スコータイ市市営病院

同盟都市の中では比較的人口が豊かなスコータイではあるが、転移当時は医療関係者はほとんど存在しなかった。
これは他の同盟都市も同様である。
当初は在日外国人を伴侶にした日本人医療関係者とたまたま観光で来日していた外国人医療関係者を中心として各都市は病院を創設し、運営する状態となっていた。
近年では日本で学んだ外国人の医者や看護師の若者が病院に勤めだして改善の傾向はある。
しかし、その数は少なく少数の病院に集約せざるを得ないのは致しか無かった。
その為に殉職した軍警察の隊員10名達の遺体もこの病院に安置されていた。

「こちらです。」

在スコータイ日本大使館駐在武官重留康之二尉は、日本人医師福永に霊安室に案内された。
線香の匂いの強い霊安室の中には十人分の遺体がベッドに寝かされていた。

「報告書は目を通させて頂きましたが、実際にみるとひどいですなこれは・・・」

いずれの遺体も惨憺たる有り様で、通常の弓矢や銃火器、刀剣で殺されたのとは違う有り様を呈していた。

「見てください、この苦悶の表情・・・
苦しみ抜いて死亡したことが伺えます。」

福永が遺体の顔に掛ける白い布、打ち覆いを外すと夢に観そうな苦悶の顔をした軍警察隊員が現れた。
報告書には死因は溺死と書かれている。

「はい、どうも水筒の水を一気に飲んで溺死のようですが不自然すぎます。
次の遺体は焼死です。
火炎放射器でも浴びせられたのでしょうかね?
熱量は大したことは無さそうですが、全身に火傷を負って死亡しています。
魔法でも火炎球を飛ばすのが有りましたからその類いかと。
次の遺体は・・・」

シーツを剥がされた遺体は全身に湿疹が出ていた。

「これは?」
「協力な花粉症によるアレルギーによるショック死です。」
「か、花粉症・・・」

次の遺体は植物の蔓に首を巻かれた状態発見された。
鋭利な何かで全身を切り刻まれたり、石が多数飛んできて死亡した遺体もある。

「他の遺体は・・・仮眠中に同じ刃物、おそらく同一人物に殺されてます。
誰一人暴れることも起きることも出来ずに。
こんなことが訓練を受けたとはいえ、人間に可能なんですかね?」

現状では魔法による攻撃に間違いない。
それも導士級の魔術士が兵士の訓練を受け複数人。
高名な魔術士は公安調査庁を初めとする各情報機関が不完全ながら監視対象としている。
現状では有り得ないとしか、重留二尉には思えなかった。
現地に調査に向かった部隊からも鉱山の爆破も火薬が使われた形跡が無かったとの報告があった。
警戒を各方面に促す必要があった。
0080始末記
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2018/04/09(月) 00:23:27.83ID:n0V4KVrE
ガンダーラ
ウラン鉱山

ガンダーラ軍警察第一グルカ・ライフル部隊は、周辺領域を圧倒的なスピードで鎮圧したことで、近隣にその名を轟かせていた。
他の同盟都市と同様の銃火器で武装しながら、森林戦では残党軍もモンスターも歯が立たない。
そんな強者揃いの彼等だが、ガンダーラの都市建設が目処が立ち始めると、同胞となるインド、ブータン、ミャンマーの民達を兵士として鍛え上げることを新たな目標に掲げた。

「見込みが甘かったな。
ブータンの連中はともかく、ミャンマー、インドの連中は話にならん。」

そう嘆くグルカ兵の教官パン曹長の評価は些か厳しい部類にはいる。
子供の頃からスカウトされて訓練を受けていた彼には、転移に兵士として徴兵された彼等は頼りなく見えるのだ。
今日もウラン鉱山基地の施設までの山岳訓練を実施していた。
だが少し前から山道を進む自分達が追尾されているのを感じた。
しかし、何度振り返っても相手の姿が確認出来ない。

「全員に安全装置を外させろ。
そのまま音がするまで振り替えるな。」

インド人の分隊長に指示して、藪に身を潜める。
追尾者の気配は感じるが、ひどく薄い。
姿は相変わらず見えないが、パン曹長は己の勘を信じて、日本の包丁鍛冶に造って貰ったグルカナイフを藪の中から投擲した。

「きゃあ!?」

女の声がしたかと思うと、何も無い空間から血が噴き出し、金髪の小柄な少女が姿を現す。
誰何をしなかったことを責任問題として、追及されるかを考えた直後に植物の蔓がパン曹長に巻き付いた。

「ぐあっ、魔法か!?」

パン曹長の声を聞き付け、行軍を続けていた訓練部隊が少女のいる方に発砲する。
たちまち少女は銃弾の雨に曝されて血飛沫をあげるが、同時に少女の回りで姿を消していた連中にもあたり、金髪の若い男達が地面に倒れ伏す。
パン曹長も蔓に巻き付かれながらもホルスターから拳銃を取り出す。
例え魔法による攻撃でも、こちらを視界に捉えられる範囲に敵はいるはずだった。
少女の周辺、訓練部隊の火線から外れた位置に銃弾を叩き込む。
二人に当たったらしく、金髪の若い男が姿を現すが、魔法を掛けてきた当人では無いらしい。
締め付けてくる蔓に意識が朦朧としてきた頃、火線の範囲を広げた訓練部隊が術者を仕留めたことで命拾いした。

「助かったよ、やるじゃないかお前ら。」

労いの言葉に訓練部隊の兵士達はいい笑顔で応えくる。

「俺達に基地までの道案内をさせる気だったのかな?
どれ何者か顔を拝んでやるか。」

転がっている死体は4つ。
そのうちの血溜まりに伏した少女の頭を掴み、顔を確認する。
白人のようだが北欧のモデルのような美少女だったが、今は物言わぬ死体である。
武器は細剣や弓矢だけ、銃火器や爆弾の類いは持っていなかった。

「帝国の残党か、貴族の私兵か・・・」

パン曹長が思索していると、同じように倒れていた男達を調べていた訓練部隊の隊員の一人が口笛を吹いて、死体をパンの元に引き摺ってくる。

「教官、こいつらはエルフです。
見てください、この長い耳を。」

実物にお目にかかるのはパン曹長も初めてなので判断に迷った。
だが明確な敵対勢力がこの山中にいるのは確かだった。
他にも敵はいないか探るが、足跡や草木が踏まれた痕跡は一切無かった。
0081始末記
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2018/04/09(月) 00:25:28.33ID:n0V4KVrE
唯一の痕跡は数人分の負傷時に流血したと思われる血痕だけだった。

「本部に通信。
我が隊はエルフによる襲撃を受けたがこれを撃退。
なお、掃討の必要ありと認む。」

連絡を受けたガンダーラ軍警察本部は、グルカ兵による中隊をこの山に投入を決定し、エルフとグルカ兵が2日に及ぶ山岳戦に突入することになる。
また、アンフォニーからの調査隊がガンダーラにも派遣されることが決定していた。




大陸南部
アンフォニー男爵領

この地に駐屯する自衛隊第六分屯地司令柴田一尉は、大陸南部の同盟都市ガンダーラがエルフの小部隊と交戦したとの報告を受けていた。
ガンダーラにも自衛隊部隊の調査隊を派遣する命令を受けて苦い顔をする。

「昨日もサイゴンに小隊を派遣したばかりなんだがな・・・
ここが手薄になるぞ、全く・・・」

第六分屯地には204名の陸上自衛隊隊員が、任務に携わっている。
海自や空自の隊員もいるが、連絡官かオブザーバーの役割でしかない。
第六分屯地の任務は主に近隣の鉱山や年貢を納めてくれる農地、農民の保護である。
普通科2個小隊を送り出して、日々の任務にローテーションにも支障が出てしまう。

「司令、領主代行閣下が一連の騒動のことでお話があると・・・」

幕僚の一人が報告してくる。

「どっから掴んで来たんだその情報。
・・・応接室にお通ししろ。」

応接室に移動して待っていると、この地を治めるハイライン侯爵家令嬢兼アンフォニー男爵領主代行ヒルデガルドとアンフォニー男爵領代官斉藤光夫が入室してきた。
軽い挨拶の後に本題に入る。

「正直なところ、日本はエルフについて、どの程度ご存じで?」

ヒルダに言われて柴田一尉は考え込む。
日本はエルフとの交流はほとんど無い。
冒険者の中にはエルフやハーフエルフの存在が確認されている。
資源探索に総督府も依頼したりもするが、エルフ達が帝国に与えられていた本拠地である大陸北部にある大公領とは接触出来ていない。
だが概ね日本人達がイメージするエルフ像と大差が無いことで知られている。

「大公領は北部の大森林奥深くに有りますものね。
陸路では『迷いの結界』も張られてますから、到達はほぼ無理かと。」
「まだ、試しては無いので無理かどうかは判断は付きかねますね。
それに『帝国』はどうやってか連絡は取り合ってたのでしょう?
ジェノア事件の時のケンタウルス自治伯とシルベール子爵のような取次役がいるのかこちらも調べてはいるんですよ。」

エルフ達がケンタウルス達より高い爵位を与えられているのも気になる点だった。

「取次役はいたんですけど、帝都と一緒にふっ飛んじゃいました。
貴族では無く、皇族でしたから・・・」

公安調査庁の調査では皇族の生き残りはいない。
臣籍降下した者も含めてだ。
また、エルフ大公領が日米との戦争の際に大公領の治安組織である『森林衛士旅団』を参陣させて皇都大空襲で全滅させている。
エルフ達の帝国との連絡所たる大公屋敷も跡形も残っていない。
0082始末記
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2018/04/09(月) 00:27:39.97ID:n0V4KVrE
唯一の例外が、皇弟だった現アウストラリス王国国王モルデール・ソフィア・アウストラリスだけだが、かような些事に関わらせるわけにはいなかった。

「では、エルフとの接触方法は空路で直接乗り込むか、俗世に出ているエルフに伝言を頼むしかなさそうですな。
今回の事態の説明を求める必要が出てきました。
今回出てきた死体は何れもエルフのみ。
総督府並びに同盟都市政府は、今回の事態をエルフによる組織だったテロと見ています。
襲撃を受けた場所も些か問題があります。」

地球人達が規模は小さいがウランという鉱物に神経を尖らせている理由はヒルダも斉藤達に聞いている。
日本くらいしか使い道や活用出来ないが、莫大なエネルギーを産む鉱物とは理解している。

「そういえば、今日こちらに来たのは何か有益な情報を頂けるので?」
「人間に残る最後の取次役が出来そうな人物への紹介状をお売りしようと思いまして・・・」
「つい先ほど取次役は全員死んだとお聞きしましたが?」
「公的にはです。
現在の王家も大公領とは連絡を取り合っていません。
ですが私的には貴族にも連絡手段を持っている人物がいるのです。」

ヒルダは紹介状の代金代わりの利権を記した書類を柴田一尉に渡す。
目録に目を通した柴田一大尉は眉を潜めてため息を吐く。

「小官の一存では決められません。
総督府の判断待ちになりますが、よろしいですか?」
「えぇ、互いに喜ばしい判断をお待ちしておりますわ。」



ガンダーラ近郊山中

エルフのクラクフは、額に汗して山中を逃げ惑っていた。
人間達が掘り起こした醜悪な鉱山を襲撃する為に30人からなるエルフが集まり、幾つかの組に別れて目標を進んでいた。
エルフは森林では身が軽く、溶け込みやすい習性を持っている。
人種に気づかれる様な事はこれまでは無かった。
だがどこかの組がヘマをしたのか、地球人の軍と交戦したことから作戦が早められた。
鉱山に砦を築いていた地球人の兵士達は警戒を強めていたが、クラクフ達の弓矢や精霊魔法に次々と倒れていった。
森の中からの攻撃は優位に進んでいたが、砦に空飛ぶ機械が飛来してからは状況が変わった。
自衛隊のセスナ 208 キャラバンの主翼下6箇所のハードポイントから発射されたヘルファイア対戦車ミサイルが、クラクフ達の隠れていた森林を爆発させた。
無差別な爆発は数人のエルフを吹き飛ばした。
たちまち姿を隠してくれていた精霊が逃げてしまった。
もう2機、飛来したUH-60Jと旧インド海軍のウエストランド、シーキング Mk.42B哨戒ヘリコプターが着陸し、2つの軍隊の兵士達が展開した。
ウエストランド、シーキング Mk.42B哨戒ヘリコプターは、インド海軍シヴァリク級フリゲート『サハディ』に搭載されていた機体である。
ガンダーラの虎の子といえた。
鉱山基地の正面に布陣した自衛隊の隊員達は、AK-74小銃とKord重機関銃を森林に向けて無差別に掃射した。
逃げ惑うエルフ達がたちまち血飛沫を上げて薙ぎ倒されていく。

「退けぇ!!
森の奥なら我等が有利だ!!」

クラクフの張り上げた声に生き残っていたエルフ達が森の奥に退き消えていく。
しかし、森の奥にはヘリコプターから降り立ったグルカの兵士達が先回りして待ち構えていた。
森の精霊が危険を伝えてくれるが、その動きや射撃に体が着いていけない。
グルカナイフで切り裂かれ、警告の外から小銃で狙撃される。
エルフに取って有利な筈の森での戦いが一方的な殺戮の舞台と化していく。
クラクフは風の精霊の力を使い、味方と敵の位置を把握している。
しかし、敵の銃撃は把握出来る距離の外側からも行われる。
近くにいたグルカ兵を弓で射るが、肩口に刺さっただけでは怯まずに射撃してくる。
矢や王国の小銃なら反らす事が出来る風の精霊も彼等の銃弾を反らすには不十分だった。
0083始末記
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2018/04/09(月) 00:34:58.29ID:n0V4KVrE
数発の銃弾がクラクフを貫く。
自衛隊の隊員達も森に入ってきて掃討を始めている。

「捕虜になるわけにはいかない。」

クラクフは囲まれる前に自ら首をナイフで掻き切った。

「くそっ、生け捕りは無理か!!」
「スコータイの鉱山基地を襲ったのもこいつらか?」
「襲われたのは一昨日だろ?
距離的に無理だ。
別動隊がいるんだろう。」

薄れゆく意識の中で地球人達の会話から、別動隊のヴァンダ組は上手く逃げ延びたことを悟り、クラクフは息を引き取った。
0084始末記
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2018/04/09(月) 00:36:57.44ID:n0V4KVrE
アンフォニー男爵領

翌日、総督府からの解答を持って柴田一尉は領館を訪れていた。

「総督府は利権を売ることに同意しましたよ。
詳しいことはこちらの封筒に。
朱印状も入ってるからお確かめ下さい。」
「はい、確かに。
しかし、せっかくの朱印状を下賜されるとしたら堂々とした式典を開いたらよかったですね。」

礼服を着て赤絨毯の上で、ドレス姿のヒルダに朱印状を渡す自分の姿を想像して柴田一尉は頭痛を覚える。

「そ、そういうのはもう少し上の方がいる時にお願いします。
さて、本題の取次役になりうる御仁ですが・・・」
「はい、私の父のノディオン前公爵フィリップです。
若い頃は家を飛び出して冒険者として活躍していました。
そのパーティーにいたエルフの精霊使いが現大公領森林衛士旅団団長ヤドヴィガ殿なのです。」

意外な人選に柴田一尉が感心するが疑問も残る。

「しかし、物理的な接触は不可能な筈ですが。」

ヒルダはこの質問に少し顔を赤らめながら、言いにくそうに答える。

「父はその・・・ヤドヴィガ殿と冒険者時代に肉体関係にあったらしくて・・・
パーティー解散時に個人的に通信用の水晶球を贈られて、逢瀬を重ねてたらしく、私に腹違いのハーフエルフの姉までいるらしいのです。」

ハイライン侯爵家の黒歴史らしいので、対価を得ねば割に合わないのは理解出来た。

「こちらから特使を送る旨をお伝え下さい。
詳しい日時は・・・代官殿に電話で連絡します。」



大陸東部
新京特別区大陸総督府

「そういえば疑問なんだが、ケンタウルス自治伯、エルフ大公領とか何で種族名がそのまま領地名になってるんだ?
大陸の他の地域にはかの種族達は住んでいないのか?」

秋月総督の疑問に秋山補佐官が資料をめくる。

「驚くべきことに帝国初代皇帝陛下は、大陸中の亜人を一地域に移住させて、代表者を貴族として叙勲し、領地を封じたようです。
その為に種族名がそのまま領地名となってるようです。」

なるほどと秋月総督は頷く。

「爵位の格付けは各種族の規模と帝国に対する貢献度が反映されているのか。
しかし、大公という地位はさすがに度が過ぎてないか?」
「初代大公は当初公爵だったようですが、そのまま初代皇帝の第3后妃を兼ねていたようです。
初代皇帝の崩御後に大公として陞爵した模様です。」

二人がこんな会話を続けているのは、特使として派遣される杉村外務局長に聞かせる為だ。
ジェノア事件の失態がある杉村としては、今回の会談が不首尾に終われば進退を伺う状況であった。

「デルモントの街に駐屯する蒲生一等陸尉には、全面的に協力するように言ってある。
必要なら援軍も派遣しよう。」
「はい、必ずやエルフとの会談を設けて見せます。」

杉村の熱意に秋月総督は、困ったような顔をする。
0085始末記
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2018/04/09(月) 00:41:44.03ID:n0V4KVrE
「一連の襲撃でウラン鉱山が立て続けに襲われたが、日本及び各同盟都市はこの大陸に5ヶ所のウラン鉱山を確認している。
スコータイ、サイゴン、新香港・・・・
そして日本が管理する2つのウラン鉱山、そのうちの1つがデルモントだ。
エルフの本拠地たる北部にあることもある。
安全には十分に気を付けて行ってくれ。」

少し顔をひきつらせた杉村に脅かしすぎたかと後悔した。
杉村局長が現地にヘリで向かうと同時に、新香港のウラン鉱山が襲撃を受けたとのニュースが飛び込んできた。
総督府のヘリポートで、見送りに来ていた秋月総督は顔をしかめる。

「大陸南部から西部へとか。
ずいぶん広範囲だな。
被害状況は?」
「武警の隊員が八名、鉱夫が四名死亡。
エルフの死体は13体確認。
鉱山も爆破されて、林主席は怒り心頭で机を蹴飛ばしたそうです。
常峰輝武警少将が陣頭指揮を取って、新香港から特殊警察部隊一個連隊も投入して山狩りの実施中です。」

新香港武装警察は首都の新香港と衛星都市である陽城、窮石防衛の為に、武装警察第一師団を組織した。
そして、将来的な正規軍設立の為に重武装の特殊警察部隊が政府直轄部隊として設立させた。
その新香港の最強戦力を投入していることから、怒りの本気度が理解できる。

「本気なのは新香港だけじゃないのだよな・・・」

秋月総督が頭を抱えるのを秋山補佐官は不審に思う。

「本国が何か言ってきましたか?」
「エルフ共が邪魔するなら、特戦大を派遣するか、巡航ミサイルの使用を許可しようかと乃村大臣が・・・
本国もこの件に大変関心がおありのようだ。
だが我々としては本国の介入は最低限に留めたい。」

転移後に規模を大隊にまで拡大させた特殊作戦群と在日米軍の倉庫から引っ張り出した巡航ミサイルを装備した部隊は防衛大臣の直轄部隊だ。
総督府や大陸方面隊の意向を無視する可能性があった。

「何より、大陸において3番目に人口の多い種族との戦争は避けるべきなんでしょうな。」




大陸北部
エルフ大公領
タージャスの森外縁

深い霧が常に森全体に立ち込め、侵入者が必ず行方不明なるタージャスの森。
森全域がエルフ大公領であり、その面積は関東平野に匹敵する。
そのエルフ大公領を求めて、侵入する者が稀にだか現れる。
商人、冒険者、密猟者・・・
後日、エルフ達に連行され、戻ってくるが全員ではない。
この霧はエルフ達が張った魔法による結界と言われている。
そんな怪しげな森に陸上自衛隊の大型ヘリコプターが接近していた。

「外務局長、見えました。」

そう声を掛けられた杉村外務局長は、CH-47J大型輸送ヘリコプターの窓から地面を眺める。
即席で造られたヘリポートには、デルモントの第6分屯地から派遣された部隊がテントや陣地を構築して展開している。
降下したCH-47Jから降りた杉村と外務局スタッフを部隊長の佐久間二等陸尉が敬礼で出迎える。

「デルモントより派遣された佐久間二等陸尉以下、隊員21名。
外務局の護衛を勤めさせていただきます。」
0126始末記
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2018/04/09(月) 01:43:07.70ID:n0V4KVrE
一応は外務局からも警備担当官を二名連れて来ているが、重武装の自衛隊の協力は有難い。

「お忙しいところお世話になります。
しかし、デルモントにもウラン鉱山はあるでしょう?
そちらは大丈夫なのですか?」

敵の目標が明確なのだから警備は厳重なのだろうが、人手をこちらに割いてしまったことに負い目を感じていた。

「以前に龍別宮捕虜収容所の襲撃時に透明化した敵を判別したサーモグラフィを投入していますので、これまでとは同じにはいかないと思います。」
「ならよいのですが・・・
こちらも『迎え』が来るまで時間はありますので、考えられる事態を想定しておきたいのですが。」

付近に駐車されている自衛隊の車両に不安を覚えた。
普通科部隊の持ち込んだ73式中型トラックと高機動車は理解できる。
問題は緑色の自衛隊カラーに塗り替えられた赤色灯が付いた車両だ。

「あれ、警察の化学防護車ですよね。」
「正確にはNBC災害対策車ですね。
我々も予算の問題で割りを食ってまして・・・
自衛隊の車両よりは入手しやすいので・・・」

佐久間二尉も苦笑しながら答える。
すでにこのNBC災害対策車で霧の解析は行ったが、何もわからなかった。
後は直接隊員かヘリコプターを突入させるくらいだが、相手が迎えに来てくれるというなら待つしかない。

「ではそろそろ連絡しますか・・・」

杉村は携帯を懐から出して、登録してある番号に掛けてみるのだった。

「杉村です・・・
はい、準備が出来ましたのでよろしくお願いいたします。」




大陸西部
ハイライン侯爵領
侯爵館

新香港や日本との商取引で多大な利益を得たハイライン侯爵は、ようやく城の建設に取り掛かることが出来た。
ハイライン侯爵ボルドーは感慨深く普請を監督していた。
縄張りを父のフィリップがしていたことは不安を覚えるが、アンフォニーから妹のヒルダから日本の技術者を呼び寄せてくれたのは助かった。
現在建築されているハイライン城は、星形城塞となる予定だ。
完成予想図を見せられた時のフィリップのはしゃぎぶりは脳裏に焼き付くほどだ。
その光景を思い浮かべてると、軽快な音楽に思索を中断される。

近くの陣幕からだ。

「父上、何か音楽が・・・」

陣幕を潜ると、フィリップが携帯電話を片手に水晶をいじっていた。
そばにはアンフォニーから派遣された黒川という言葉が右手を奇妙な形に挙げて、こちらの言葉を遮ってくる。

「妖精の森に連絡を取るところだ、邪魔をするな・・・」

仮にも侯爵である随分高圧的な言い種である。
黒川は大陸語は流暢に話せるが、同じ日本人同士で会話すると難解な論調で話すと相手を困惑させる傾向があるらしい。
何故かフィリップはあっさりと理解し、コミュニケーションはスムーズに進んでいる。
ちなみにフィリップが会話している携帯は黒川のものだ。
黒川の目にはフィリップがいじっている水晶の操作が、転移前に流行ったスマートフォンみたいに見えていた。
0137始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 01:51:41.33ID:n0V4KVrE
黒川の目にはフィリップがいじっている水晶の操作が、転移前に流行ったスマートフォンみたいに見えていた。
転移当時のスマートフォンのシェアは20パーセントに届いた程度だった。
しかし、転移後は新機種が出るわけでもない。
海外サーバーから切り離されたことにより大半のインターネットのサイトも消え去り、電池が長持ちしないスマートフォンは一気に無用の長物となり廃れてしまった。
本国では倉庫や廃棄待ちだった公衆電話や固定電話が再び普及し始め、携帯電話も通話とメールが出来ればよいとガラケーに戻っていった。
今でも本国の電力事情は良くない。
現在の電力生産量は転移前の半分程度にしか満たしていない。
転移により、輸入に頼っていた石油やLNGを使用していた火力発電所は軒並み停止してしまっていた。
石炭系の火力発電所は転移前から三割以上の電力生産を可能としており、大陸から採掘が可能になった現在は本国の電力を支える主力となっている。
水力発電も転移前から1割程度の電力生産を担っていた。
ここに北サハリンや新香港の東シナ海からの石油や天然のガスの輸入により持ち直して来たばかりなのだ。
原子力発電は、転移後に激減した電力生産を支える為に全力稼働の方向となっていた。
しかし、転移から十年以上も経つと、備蓄されていたウランやプルトニウムも枯渇し始め、再び停止する原発も増えていた。
大陸からウランが採掘出来るようになると、柏崎原子力発電所がようやく再稼働が可能になっていた。
本国も省エネやリサイクルが進み、電力消費も下がっている。
このような状況では、携帯電話の充電にも苦労する有り様だ。
根本的な問題として、電池の生産に必要なリチウムをはじめとしたレアメタル等の採掘量が需要に追い付かないのだ。
一番肝心のリチウムにしても、吹能等町近郊にしか鉱山を発見出来ていない。
現在の黒川達が使っているのは、都市鉱山で資源をリサイクルされた携帯電話ばかりだ。
年配の者達が

「時代は30年は後退したな。」

と、ボヤいていたのが印象的だ。

「ギーセラーの奴が出てくれればいいんだが・・・
向こう側の水晶球の側に誰かいてくれないと気がついてもらえないのだ。」

ギーセラーというのが冒険者時代のフィリップが浮き名を流したエルフの女性の名であることに、ボルドーは頭痛を感じていた。
ハーフエルフの姉サルロタまでいるという話も昨夜に聞かされたばかりで、心の整理が追い付いていないのだ。
すでに一昨日に連絡が取れているので、向こうも水晶球の側にいるはずだった。

「おっ、繋がった!?
ギーセラーか、一昨日に話した件だが、日本側の準備が整ったそうだから回廊を開いてくやってくれ。
ああ、何か不自由は無いか?
必要な物があれば送るが・・・
ワシも行きたかったのだが、離れられなくてなあ・・・」

フィリップの喜色を隠そうともしない姿にボルドーも黒川も苦笑する。
ボルドーもまだ会ったことが無い姉とやらに会って見たかった。

「いずれ客人として呼べばいい。
その為にもこの城の完成を急がせねばな。」

珍しく黒川の言うことにボルドーは頷き、その日が来ることを楽しみに思えていた。



エルフ大公領
タージャスの森付近

「霧のトンネル?」

杉村局長の言葉に誰しもが納得していた。
深い霧に包まれたタージャスの森に、ぽっかりと回廊のように霧が晴れていく。

「ここを通れと?
車両では無理ですな・・・」

回廊の広さは車両でも十分に通れる。
0154始末記
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2018/04/09(月) 01:56:01.92ID:n0V4KVrE
問題は獣道に毛が生えた程度の道だ。
普通科部隊なら問題は無いが、杉村達をはじめとする官僚達にはきついだろうと、佐久間二尉達は眉をしかめる。
杉村達もある程度の徒歩は覚悟しており、全員が登山ルックだ。

「佐久間二尉、とにかく行くしかない。
途中のポイントに発信器を置いて、ヘリにフォローしてもらいながらマッピングして行こう。」

霧の回廊に自衛隊の隊員15名と官僚5名が霧の回廊を進む。

「霧を操ることが出来る。
魔法なのか、魔道具なのか・・・
これは脅威ですね。」

杉村はキョロキョロと警戒しながら歩くが、佐久間二尉は前だけを見ていた。

「普通科部隊には脅威ですが、いざとなれば特科で吹き飛ばせば問題はありません。
空爆という手段があります。」

自衛隊だって煙幕くらいは使う。
対抗策は幾らでもある。

「それでも気象兵器なのか、自然現象なのか区別がつかないのかわらかないのは問題ですね。
初動が遅れそうだ・・・」

一見すると真っ直ぐ歩いているようだが、微妙に方向がずらされてるのがわかる。
時間の感覚もわからなくなってきた。
コンパスも狂わされてるのか、回転している。
マッピングしずらくてしょうがない。
森林の木も一本一本の樹齢が想定出来ないくらいの巨木なのも距離感を狂わせる。
それら巨木から伸びた枝葉が日の光を遮り、昼間なのに明け方くらいの暗さになっている。
訓練を積んだ隊員なら惑わされることもないが、同行している官僚達はつらいだろうと佐久間二尉は気になりはじめた。

「二時間で4キロですか、あんまり進めてないですね。」

驚いたことに佐久間二尉に指摘されて柴田は驚く。
よく見てみれば官僚達は平気な顔で隊員達に着いてきており、疲れや焦りの顔も見せていない。

「意外に元気そうなので驚きました。」
「もう慣れましたよ。
交渉の度に大陸各地に派遣されました。
航空機は燃料が高いのと滑走路の問題で余程の有事でなければ使わせてもらえない。
車両だって舗装された道ばかりじゃないですからね。
最近は鉄道である程度は近場まで移動出来るだけ楽になりました。」
「なるほど・・・新人とか来たら大変そうですな。」

足手まといにはならそうだと安堵していると、霧の彼方から蹄の音が聞こえてくる。

「どうやらお出迎えのようです。」

隊員達が互いの姿を見失わない範囲で散開して警戒にあたる。
官僚達に同行している外務省警備対策官の二人は、ホルスターに手を掛けながら杉村を護るべく前後に立ち塞がる。
現れたのはユニコーンに美形の妖精族だった。

「エルフ大公領森林衛士隊所属のサルロタと申します。
日本の使節団のお出迎えにあがりました。」

責任者とおぼしきハーフエルフの少女に一行は戸惑いを覚えるが、他種族は見た目で年齢を判断してはならないと肝に命じているので顔には出さない。
人数は30人程度。
騎乗しているのは六人。
平兵士と思われるエルフは軽鎧だけを纏い、頭部には縁の周りの広い鍔と円形かつ浅いクラウン部が特徴の地球側がブロディヘルメットと呼ぶ物を被っていた。
0163始末記
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2018/04/09(月) 01:59:40.59ID:n0V4KVrE
武器もレイピアこそ腰に挿しているが、全員が小銃を肩に担いでいる。
明らかに大陸の王国軍が制式採用しているものより先進的だ。

「リー・エンフィールド・・・?」

背後で隊員が呟くのが聞こえたが、杉村も佐久間も今は挨拶と相手の観察に重点をおいていた。
エルフの森林衛士を率いていたサルロタに若い隊員達は笑顔を隠しきれていない。
だが彼女の着ている服装に違和感を覚えて笑顔も消えていく。
全員がズボンを穿いているのは理解できる。
しかし、上着はブルゾンっぽい服でネクタイが首に巻かれている。
また、頭部はベレー帽を被っている。

「礼服なのです。
あまり見たことが無い格好でびっくりしますよね。
私もあまり着ないのですが・・・」

サルロタも照れ臭そうに言ってくれるが、現在のブリタニアの軍服に酷似している為に自衛隊側は困惑を深めるだけだった。


「ようこそエルフ大公領へ。
すでに貴方達は『街』の中に踏み込んでいます。」

よく見てみれば巨大樹の幹や枝に、鳥の巣箱のような家が多数見受けられる。
枝から枝には橋も掛けられている。
身軽なエルフ達には、木の上での生活も苦労はしないようだ。
しかし、もっと森の奥深くに町なり拠点があると思っていた日本人一同は、森の外縁から約二時間程度で目的地についてしまった事に拍子抜けしてしまっていた。。

「遠いと何かと不便じゃないですか。」

エルフ達に対するイメージはあまり変えて欲しくは無かったゆえにサルロタの答えにどこか釈然としないものを感じていた。





大陸北部
エルフ大公領
リグザの町

日本の使節一行が案内されたリグザの町は、基本的には鎖国体制を取るエルフ大公領の唯一の開かれた町である。
何百年も霧に包まれた大森林ではあるが、かつての帝国の領邦となってからは、儀礼的に帝国の使者を受け入れる拠点が必要があって作られた。
最も帝国が崩壊し、新たに勃興した王国は一度もこの地に使節を派遣していないし、大公領からも忠誠を誓う為に王都に出向いたりはしていない。
最早、実質的な独立国と言ってよかった。

「王国などと言っても、帝国時代は我らと同じ大公領に過ぎなかったソフィアの軍門に下る必要は感じなかっただけです。
ソフィアにもこちらに討伐軍を派遣する余裕は無かったでしょう。」

そう説明してくれるのは、森林衛士旅団で、小隊を預かるサルロタであった。
彼女はハーフエルフでありながら、エルフの高官の娘という立場から外から来る招かぜらる来客を迎え討つ、もしくは保護する部隊の指揮官となっている。
ユニコーンから降りて、杉村や佐久間達にと共に徒歩で案内してくれている。
人間種だからと高貴なエルフに見下されるのでは無いかと懸念していた杉村達は、内心で反省を試みていた。
町の建物の大半は木の上に小屋が建てられ、大樹と大樹を繋ぐ縄橋が掛けられている。
佐久間達は不安定で脆そうな縄橋に不安を覚えるが、身軽で小柄なエルフ達は問題なく渡っている姿を見て、種族的特性を感じずにはいられなかった。
しかし、それ以上に気になる点があった。

「あのサルロタ殿。
エルフの皆さんはその・・・、随分好奇心が旺盛のようですな。」

杉村が他の官僚や自衛隊隊員の疑問を代表して質問する。
小屋という小屋の窓、縄橋、大樹の陰から無数のエルフがこちらの様子を伺っているのだ。
0176始末記
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2018/04/09(月) 02:02:50.17ID:n0V4KVrE
その問いにサルロタも些か困った顔をする。

「え〜と、皆さんがエルフをどのように考えているかは、理解しているつもりです。
ですが、おそらく彼等彼女等は、あなた方の想像より、好奇心が旺盛で、奔放なのです。」

明らかに言葉を選んでいるサルロタに、杉村も佐久間も先が思いやられる気がした。
エルフ達は何れも妖精的な美しさであり、大森林の外の人間に比べれば小綺麗にしているので、魅力的に見える。

『日本人は女に興味が無いのか?』

と、言われるほどに大陸の日本人は大陸の人間と性的なトラブルは少ない。
それどころか、娼館にも行く者は少ない有り様だ。
それは大変な偏見であるが、日本人から見れば大陸の平民の小汚ない格好や臭いは、マイナスのイメージとなっていることは間違いない。
また、栄養に問題があるのか肉体的魅力にも乏しさを感じている。
未知の風土病や性病の恐れもあり、二の足を踏むのは十分とも言える。
現に日本の統治地域に来た良家の女性はこの問題からは、解放されており、アイドルのように扱われている大陸人女性も多数存在するのだ。
しかし、エルフ達は痩身だが栄養には問題の無い生活を送っているようであり、花の香りがして若たい隊員達を魅了している。
やがて一行の前に地上に建てられた迎賓館が現れた。
帝国の施設一行が宿泊する為に建てられたもので、歴代皇帝も宿泊した由緒正しい建物らしい。
出迎えてくれたのはこれまた20代後半に見える美人な女性エルフだった。

「この町の町長ユシュトーに御座います。
使節御一行の御世話を任されております。
部屋は有り余っていますのでそれぞれ個室を用意しております。
長旅お疲れでしょう。
先にお食事にしますか?
湯編みにしますか?
それとも・・・」

急にユシュトーが流し目で杉村を見つめてきた。
見れば隊員達にもメイド姿のエルフ達が、色目を使っている。

「さ、先に広間をお借りしたい。
こちらも話し合うことがあるので、軽食を用意して頂くとありがたい。
アルコールは無しで・・・」

ユシュトーは残念そうに頷くと、メイド達に目配せして準備をさせる。
長年の外交官人生で遭遇したハニートラップに誘われた状況と同じだった。
あんな失敗は三度で十分である。
広間に集まった日本人一同は、美しいエルフ達に完全に舞い上がっていた。
佐久間二尉を除いて。
杉村が泰然としている佐久間に感心していた。

「さすがですな佐久間二尉。」
「いや、私に色目を使ってきたのが執事のエルフだったので・・・」

ゲンなりした声で言われて杉村も肩を落とす。
サルロタが退室する前に一つ忠告してくれた。

「明日にはこの大公領を取り仕切っている公子殿下が到着します。
正式な会談はその時に・・・
それと、御家庭に不和を招きたくなければ
彼女等の誘いを受けないでください。
大公領のエルフはこの十年男日照りなので・・・」
「じゃあ、あの執事は何なんだ・・・」

佐久間二尉は自分に熱い視線を送ってくる執事エルフに体を身震いさせている。
いつまでも消沈してもいられないので、状況を整理することにする。
0191始末記
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2018/04/09(月) 02:06:23.27ID:n0V4KVrE
「まずあのエルフ達の格好はなんだ?
昔の英国軍みたいだったぞ。」

窓から外を見ていた上坂三尉がそれに付け足す。

「ここの警備の兵もです。
赤い上着に熊の毛皮の帽子、まるでバッキンガム宮殿の近衛兵です。
メイド達もヴィクトリアンメイドとか言ったかな?」
「ふむ、毛受一曹。
先ほど連中の銃について何か言ってたな。」

毛受一曹は転移前から自衛隊に所属していたベテランだ。
古い銃器についても含蓄がある。

「はい、エルフの兵士達の兵装は第一次世界大戦の時の大英帝国のものに酷似しています。
銃もリー・エンフィールド小銃に似ていますね。
手に持たせて検分させて貰ったわけでは無いので、はっきりとは言えませんがあれがリー・エンフィールド小銃と同じなら、10発入りの着脱式弾倉。
これだけで大陸の王国軍の小銃を遥かに凌駕しています。
独自のボルトアクションによる素早い再装填が可能です。
有効射程も900メートル以上もあります。」

色々と説明されたが、杉村にはエルフ達は王国軍や帝国残党より厄介なことは理解できた。

「ブリタニカの連中が密かに供与したのか・・・
いや、不可能か。」

如何にブリタニカとはいえ、そこまでの生産力は無い。
各同盟都市の兵器の生産は、公安調査庁の監視下にもある。
しかも、森の外のエルフ達からはそのような武器を持っていると報告されたことはない。
今回の一連の事件でも使用されていない。
エルフ達が鍛冶に長けているようにも見えない。。
ここのエルフ達は明らかにおかしい。
それと気がついたが、エルフ達の男女比率も女性に片寄ってる気がする。
公式記録によると、エルフ大公領の人口は55万人。
全部の人口がエルフでは無く、半数以上がハーフエルフとのことです。
まあ、実際にはかなりの領民が領地から出て旅をしたりしてるらしいですが・・・」

それには佐久間二尉が答える。

「杉村局長。
その記録は帝国が十年前に取った戸籍のものです。
皇都大空襲のおりにエルフ大公領は五個の森林衛士旅団を派遣しており、約二万人のエルフが灰となりました。
男女比率の歪さはそこから来てるのでは無いでしょうか。」
「だとすると寿命の長いエルフは遺族として我々を恨んでるかもしれません。
寝首を掻かれないようベッドに彼女等を招き入れることは勘弁して下さいよ。」

杉村の言葉に舞い上がっていた隊員達の顔は引き締まる。
相手は敵かも知れないとわかれば彼等には十分だった。
しかし、情報が不足していた。
もう少しエルフのことを知る必要がありそうだった。



サルロタは仲間達の色情ぶりにうんざりしていた。
長い寿命を持つエルフにとって、退屈は天敵だった。
概ね六百年ほど生きるが、三百年も生きてくると、何事にも無感動になってくるのだ。
そのうち考えるのも面倒になり、瞑想に耽りながら朽ちていく。
初代皇帝の孫娘である現大公もそうであり、この百年は眠ってばかりいる。
退屈をまぎらわす為に執着するものの探求はエルフにとっての課題になっている。
冒険や研究に走る者はよい方で、性的に倒錯に走る者も少なくない。
0201始末記
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2018/04/09(月) 02:10:33.01ID:n0V4KVrE
そのくせ出生率は高くないのだが、長い寿命の中で他種族との子供を宿す者も出てきた。
だが帝国と日本、アメリカとの戦争で年長で能力のある男性エルフは多数戦死する事態に陥った。
エルフは基本的に年功序列であり、年長の者が大公軍に所属していた。
その穴を埋めるべく女性エルフが大公領の要職を占めるようになった。
サルロタも再建された大公軍だからこそ、隊長までに昇進出来たのだ。
そうでなければ大公家に血が連なるとはいえ、年若いハーフエルフの自分は昇進などは無縁だったろう。

「余計なことを言ってくれたわね。
おかげで彼等は私達を警戒して廊下に見張りを着けたわよ。
近よれはしない。」

ユシュトーの抗議にもうんざりしてきた。
彼女達にとっては一連の騒動も刺激的な娯楽に過ぎないのだ。

「少しは自重してください。
日本とのトラブルは起こさないように大公家からも元老院からも指示が来ていたでしょう!!」
「自由を愛するエルフを縛るには、どっちも物足りないわね。
まあ、いいわ。
機会は今夜だけではないから・・・、それよりどう?
今夜一緒に寝ない?」
「結構です!!」

そのまま自室に戻ることにした。
明日にはアールモシュ公子殿下が母のギーセラーとともにリグザの町にやって来る。
日本の使節達を例の場所に案内する役目があるのだ。
アールモシュはサルロタの従兄にあたる。
今夜はゆっくりと湯船に浸かり眠りたかった。



大陸北部
南北鉄道
よさこい11号

黒煙を上げながら、多数の貨車を牽引して汽車は進んでいた。
線路の脇には、日本管理するデルモントの町を経由し、北サハリン領ヴェルフネウディンスク市に続く街道が存在する。
機関車に乗車していた機関士達が前方の街道に不穏な土煙を発見した。

「あれは自動車が何台も走っている土煙だな。
自衛隊かな?」

北部地域で車両を何台も走らせることが出来るのは、自衛隊か北サハリン軍だけだ。
接近してみればわかるが、日本製の車両ばかりだ。
問題は車両に『新香港武装警察』と書かれていることだろう。
三菱パジェロ4両、トヨタ・コースターGX、三菱キャンターの一団だ。
キャンターが牽引するトレーラーの屋根には銃座が2基設置されている。
パジェロにもサンルーフから銃架が設置されている。
よさこい11号はその一団を追い抜いていくと、30分後に同じ編成の一団と遭遇する。
よさこい11号の車掌と鉄道公安官が対応を話し合っている。

「分屯地に通報は?」
「出来ました。
こちらからは刺激するなと・・・」

新香港武装警察の部隊を追い抜き、距離を取るしか無かった。
0219始末記
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2018/04/09(月) 02:14:57.14ID:n0V4KVrE
デルモントの町
陸上自衛隊第10分屯地

「よさこい11号からの通報により、三個小隊規模を確認!!」
「デルモントの北部の街道、オーロフ男爵領近辺の線路補修中の工員が四個小隊規模の新香港武装警察部隊を確認。」

報告を聞いて分屯地司令の蒲生一尉は困惑を深めている。

「海路でヴェルフネウディンスクから来たな?」

デルモントにいる第10分遣隊も中隊規模の約200名の隊員がいるが、先日1個小隊をタージャスの森に派遣している。
さらにウラン鉱山の警備とパトロールに2個小隊割かれている。
分屯地の防衛を考えれば動かせるのは1個小隊しかなく、南北から接近する新香港武装警察を食い止めるのは論外である。

「だが新香港も我々と事を構えるのは本意では無いだろう。
総督府を通じて止めてもらうしかない。」

政治的圧力で止められなければなす術が無い。
大陸中央からの援軍はまず間に合わない。
だが新香港の目的地はデルモントでは無いだろう。

「第5小隊をタージャスの森に派遣して合流させろ。
対応は追って沙汰する。
ここの警備には海と空の連中にも手伝ってもらう。」

戦力をここに置いて置いても今がない。
連絡官として来ている海自や空自の隊員が少数だがいる。
彼等にも小銃でも持たせておけば飾りにはなる。
事態をややこしくすることは避けて欲しかったな。




大陸北部
タージャスの森南側外縁
自衛隊キャンプ

大森林に向かった部隊の留守部隊として、陸上自衛隊の隊員六名が自衛隊キャンプに残っていた。
彼等は留守番の最中も陣地構築を行っていた。
問題は陣地が森側からの攻撃を想定されていて造られていることだ。
これから迎え撃たないといけない相手は街道からやって来るのだから意味が無い。

「新香港の部隊が?」
「やりあわずに足留めってどうしろというんだ。」
「無理に決まってんだろ!!」

連絡と命令を受けた隊員達は頭を抱える他無い。
まともに使える車両はNBC災害対策車と高機動車くらいだ。
銃火器も小銃や拳銃くらいしか残っていない。
こんな装備で二百名近い新香港武装警察とやりあえる筈もない。
ましてや地球人同士の交戦は、神戸条約により禁止されている。
地球人による植民都市が増えた結果に結ばれた条約だ。
逆に言えば彼等自身が人間の盾になれるのだが、そんな立場は御免蒙りたかった。

「森の中の佐久間二尉との通信はまだ取れないか・・・」

どのような作用か、電波による通信は本隊が町に入るとの通信を最後に取れなくなっていた。
増援の第5小隊の到着も3日は掛かる見通しだ。
彼等留守部隊六人がとれる選択肢は少ない。
0224始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 02:17:53.21ID:n0V4KVrE
「森の中に隠れよう、車両もテントも全部だ。
痕跡を残すな。」
「命令は足止めでは?」
「ようするにここを通すなという意味だろ?
見つからなければ時間も稼げる。」

反対する者はいなかった。

「森の奥まで行かなければ迷うことはないはずだ。
後は霧が隠してくれる。」

幸いなのは新香港も森の入り口はわかっていないことだ。
関東平野に匹敵する広さの森の周囲探索に時間が掛かるのを望むしかなかった。

「隠せるかな・・・」

今さら造り続けていた塹壕を埋め戻したり、鉄条網の撤去など6人で出来る時間があるのかは疑問だった。
結局のところ、彼等は盛大に霧の中を迷子となった。
そして、新香港武装警察の部隊は自衛隊が構築していた陣地跡まで来ることは無かった。
森の中に隠れた彼等がエルフ達に発見され、保護されて解放されたのは一ヶ月後の話になる。



大陸西部
新香港
主席官邸『ノディオン城』

日本大使相合元徳と駐在武官である渡辺始一等海佐は、大陸北部に部隊を進めた新香港に事態の説明を求めに訪れていた。
ノディオン城は主席官邸と同時に新香港政府の政府庁舎を兼ねている。


「説明も何も事態は明白でしょう。
我々はウラン鉱山の被害と死者を出しているんですよ。
報復か謝罪を要求するのは当然では無いですか。
そして、我々にはエルフとの外交チャンネルを持っていない。
わかりやすい示威的行動或いは実力行使が今回の動員の理由です。
貴国が対応したケンタウルスの時と何ら変わらない。」

武装警察の常峰輝武警少将が応対に出て会談に応じている。
普段は友好的な対話をしてくる常武警少将の高圧的な態度に、二人は顔には出さないが動揺していた。

「ケンタウルスの時は明確な敵対勢力による攻撃でした。」
「今回は違うと?」

そう言われると些か苦しいが、ここで退く訳にもいかなかった。

「詳しいことはまだ何もわかっていない。
現在、我々がエルフとの外交交渉を行っています。
今少し御待ちいただけませんか?」
「失礼ながら、我々は全て日本に任せている現状を憂いている。
貴国には、同盟都市としてこれまでの援助は感謝している。
それゆえに我々は日本の負担を分かち合う準備がある。」

常武警少将の言葉に二人は身構えて聞く羽目になっていた。

「それはどういう意味で?」
「地球人による五番目の国家の建国ですよ、大使。
これからも友好国としてよろしくお願いします。」

現状は日本、アメリカ、北サハリン、高麗の他は国ではなく、独立都市の扱いだ。
0233始末記
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2018/04/09(月) 02:20:42.07ID:n0V4KVrE
新香港は人口も北サハリンやアメリカよりも多く、石油の採掘や独自の軍事力、衛星都市の建設など他を凌駕している。
武器も銃火器程度なら生産も可能となった。
そろそろ自分達の国を建設してもいい頃だと常武警少将も信じていた。
これこそが新香港に住む民の総意であると。


大陸北部
エルフ大公領
リグザの町迎賓館

早朝、大公公子アールモシュとその叔母で大公領の軍事を司るサルロタの母のギーセラーが町に到着した。
驚いたことに二人は飛竜に乗って現れたのだ。
大公領でも八匹しか飼い慣らせていない貴重な生き物だ。
アールモシュは、颯爽と飛竜から飛び降りると、出迎えの為に待機していた杉村達に爽やかに微笑み挨拶をしてきた。

「お待たせしました。
大公領公子アールモシュです。
大公の代理として全権を委任されています。
日本とは実りある交渉を期待しています。」

意外に低い物腰のアールモシュに杉村外交局長達は気圧される。

「こちらこそ、貴方方との交流は我々も夢見ていました。
今後の友好関係の構築に向けて問題点の解決に努力したいと思っています。」

互いに握手を交わす。
第一印象はまずまずだったが、エルフは何の躊躇いもせずに握手を交わしてきた。
これまでの大陸人には無かったことだった。
エルフ達との交流を夢見ていたことも嘘では無い。
地球から転移して、エルフが実在したことに日本人達が如何に歓喜していたことか。
実に妄想を昂らせたりしていたものだった。
だが接触の機会は少なく冒険者として現れるエルフに依頼をする時くらいに限定されていたのだ。
杉村達が軽く興奮していたことも仕方がないことだろう。
さて、軽く互いを紹介し、親好を温めた一行は飛竜が降り立った広場から迎賓館へと移動する。
会談に用意された部屋に入室すると、会談に携わる者達が席に着いた。
会談はアールモシュが口火を切り始まった。

「まず最初に疑問に思われるでしょうが、我が母であり現大公ピロシュカのことです。
彼女は現在長い眠りに付いていて、もう30年ばかり起きてきていません。」
「30年!?」

思わず叫んでしまった。
エルフは長い寿命の中で、やりたいことや考えることが無くなると、眠りに付いたまま起きてこなくなるらしい。
野外で寝ていて何十年も放置され、大樹と一体化してしまう者までいるらしい。

「なんとも凄まじい話ですな。」
「はい、母は初代皇帝の孫にあたります。
その初代皇帝の教えが、貴方方の鉱山が襲撃された原因です。
初代皇帝はあの悪魔の石を病気をもたらす危険な物と考えていました。
学術都市が採掘して研究中に多くの研究者が健康を害し、原因不明のまま死亡したことに端を発しています。
その結果、採掘場所を隠蔽しそれを暴く者を討伐せよ、と。」

悪魔の石とはウランのことだとは理解は出来る。
地球でもウラン鉱山による環境、健康被害は問題となっていた。
ウランを採掘する際に、放射能を含んだ残土がむき出しになっていた。
これが乾いて埃となり、周辺に飛散して大雨が降ると川に流れ込み、放射能による深刻な環境汚染が引き起こされたのだ。
ウランを含む土には他にも放射性物質が含まれ、肺癌や骨肉腫などの原因になっている。
鉱夫のなかにもこれらの埃や水を体内に取り込み、肺癌になった者が多数存在する。
0251始末記
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2018/04/09(月) 02:25:03.80ID:n0V4KVrE
「なるほど悪魔の石ですか・・・、その為に兵を派遣したと?」
「時代は変わるものです。
長い年月を生きてきた我々にはそれが判る。
貴君等があの悪魔の石を利用する術を持っていることも把握している。
だが若者は原則に拘り、教えを守ろうとした。
それが今回の事件の発端です。」

千年も昔の教えに引っ掻きまわされていたとは、襲撃された同盟都市は納得はしないだろう。
だが事態を終息させる必要はある。

「公子閣下から、外界のエルフに襲撃を辞めるよう命令を下して頂けませんでしょうか。」
「宣言は出しましょう。
ですが彼等が言うことを聞くかは別の問題です。
勿論、彼等を諌める使者も出しましょう。
それでも手を引かない者達に付いては・・・、大公領としては追放処分とします。」

煮るなり焼くなり好きにしろということだ。
現状ではこれ以上は大公領からは望めそうも無かった。
大公領は現時点では誠意は見せている。
エルフ個人によるテロならば、責任は問えそうにも無い。
0257始末記
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2018/04/09(月) 02:26:30.03ID:n0V4KVrE
「なるほど悪魔の石ですか・・・、その為に兵を派遣したと?」
「時代は変わるものです。
長い年月を生きてきた我々にはそれが判る。
貴君等があの悪魔の石を利用する術を持っていることも把握している。
だが若者は原則に拘り、教えを守ろうとした。
それが今回の事件の発端です。」

千年も昔の教えに引っ掻きまわされていたとは、襲撃された同盟都市は納得はしないだろう。
だが事態を終息させる必要はある。

「公子閣下から、外界のエルフに襲撃を辞めるよう命令を下して頂けませんでしょうか。」
「宣言は出しましょう。
ですが彼等が言うことを聞くかは別の問題です。
勿論、彼等を諌める使者も出しましょう。
それでも手を引かない者達に付いては・・・、大公領としては追放処分とします。」

煮るなり焼くなり好きにしろということだ。
現状ではこれ以上は大公領からは望めそうも無かった。
大公領は現時点では誠意は見せている。
エルフ個人によるテロならば、責任は問えそうにも無い。
0353始末記
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2018/04/09(月) 02:56:47.72ID:n0V4KVrE
「もう一つ疑問があるのですが、大公領軍の兵装は我々に取って見覚えがあるものなのですが・・・」
「はっきり言って貰って大丈夫ですよ。
我々の兵装は地球の第一次世界大戦時の大英帝国軍のものを模倣しています。」

あまりにあっさりと言われたので、杉村をはじめとした日本側は誰もが言葉を失っていた。

「ち、地球の歴史をご存知で?」
「貴殿方は最初の転移者と言うわけでは無いのです。
まあ、貴殿方ほど大規模な転移は初めてだが、過去にも何度か転移してきた者達がいました。
最初の頃はこちらと技術や文化の差はそこまでなかったのです。
1200年くらい前から産業革命とかいうのを体験してきた転移者から状況が変わってきましてね。」
「1200年前?」
「そちらとは時間の流れが多少ズレがあるようです。
彼等の知識は当時はほとんどが再現不可能でした。
しかし、時の流れが少しずつ問題を解決し、大陸の発展に寄与してきました。
初代皇帝は我等に彼等の保護と知識の調査を命じました。
我々は長命の種族だから、そういった活動は我々の退屈を解消させる格好の役割となりました。
そして、そちらの暦で1915年に転移してきた者達がこちらの世界で500年ほど前に転移してきましてた。
彼等は大英帝国軍、ノーフォーク連隊と名乗っていました。
彼等の装備や知識を模倣し、エルフ大公領軍は再編されて今に至るわけです。」

突然のことに杉村も佐久間も理解が出来ない。

「一度、総督府に問い合わせる必要がいりそうです。
事実ならノーフォーク連隊とやらの同胞もこの大陸に来ています。
彼等にも話を聞く必要があるでしょう。
森の外に一度、出たいのですが?」

ノーフォーク連隊についてはオカルト関連ではそれなりに知られた話だ。
だがこの場の日本側の人間には、それを知っている人間はいなかった。
問題は外部との連絡が取れなくなっていることだった。

「ご案内しましょう。
私も久しぶりに森の外に出たい気分ですから」

日本とエルフ大公領との最初の接触は、好感触のうちに終わった。


タージャスの森
西側外縁
新香港武装警察部隊

新香港武装警察派遣部隊の指揮官劉文哲武警少佐は、いつまでも続く森の入り口の探索にうんざりしていた。
そして、部隊を牽制するように周辺貴族が私兵を差し向けて来ていた。

「少佐、また貴族共の軍勢が・・・」

周辺貴族が私軍は距離を取りながら、代わる代わる接近と離脱を繰り返してくるのだ。

「うっかり蹴散らす訳にもいかないからな。
うっとおしい・・・」

警戒の為に部隊の一部を割けざるを得ないのも癪に障る。
私兵軍もそうだが、自衛隊とも遭遇しても厄介なのだ。
地球人同士の不戦を誓った神戸条約に抵触して、責任問題となってしまう。
それなりの規模の部隊を用意してもらったのはいいが、食料や燃料、弾薬といった物資も手持ち分だけで補給は要請出来ない。

「まだ、我々には遠征は早いんじゃないかな・・・」

だんだんイライラしてきた劉武警少佐は、目の前の大森林を見渡して暗い衝動的な作戦を思い付く。
0376始末記
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2018/04/09(月) 03:02:39.68ID:n0V4KVrE
「よし、燃やそう。」

エルフどもが出てこないなら引きずり出すのに、これほど効果的な手は無いだろう。
焚き火をしている隊員達から燃えた薪木で、大森林の樹木していく。

「今晩は放火に徹するぞ。
薪になる木をたくさん持ってこい。
街道沿いに移動して、火を着けながら拡大していく。」

複数の箇所から引火させた炎は燃え繋がり、森林火災を拡大させていく。
この規模の大火災は日本の消防隊でも鎮火は難しいだろう。

「あとで問題になりませんかねぇ?」

部下に言われて冷や汗を掻き始めるが、今さら退くに退けなかった。

「け、結果さえ出せば問題は無い。」

貧乏クジを引いた気分を劉武警少佐は味わっていた。



タージャスの森

リグザの街を出発した日本特使一行と同行するエルフ大公領公子アールモシュの元には、次々と伝令が舞い込んでいた。
おかげで一行の歩みは遅々として進まない。

「申し訳ない。
また、火事のようだ。」

アールモシュが申し訳なさそうに杉村達に陳謝してくる。

「こうも複数の箇所での火災が起きるなど、明らかに人為的なものです。
兵を派遣したりはしないのですか?」
「森を焼いて、我らを誘い出す。
この数千年の間に何度も使われた手ですからね。
姿を消させての偵察は出してますよ。」

どうやら想定内の出来事らしい。
「敵の戦力や位置が把握出来次第、包囲して殲滅するつもりです。
それに森の権益は我々の物だけでは無いですからね。」

タージャスの森周辺の貴族達にはエルフの愛人を代々送り込んである。
いざというとき時に様々な便宜を計らせる為だ。
今回、新香港武装警察部隊を牽制しているのも、そういった貴族達だ。
日本人やその同盟国・同盟都市に送る必要があるなと、アールモシュは考えていた。
0391始末記
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2018/04/09(月) 03:08:09.55ID:n0V4KVrE
タージャスの森外縁

新香港武装警察部隊
派遣部隊本部

「ポイントBに貴族の私兵軍が押し寄せ、書簡と口頭による厳重な抗議を受けているそうです。」
「ポイントDからもです。」

派遣部隊の指揮官劉少佐は、手回しのいい貴族達の行動に頭を悩ませていた。
大森林から漏れでる恵みを受けとる権益を持った彼等と領民からみれば、大森林が焼けて無くなることは死活問題なのだ。
私兵軍だけで無く、武装した民衆が殺到している場所もある。
彼等の抗議は正当なものだけに、その声を無視することも出来ない。
劉少佐に出来ることは、相手をたらい回しにして時間を稼ぐことだけだ。

「抗議は新香港の外務局が取り扱うので、そちらに回してくれと伝えろ。」

それでも対応に人が割かれるのは痛い。
早くエルフに出てきて貰わないと、受け取った書簡だけで司令部に使っている車の車内が埋まりそうだった。

「劉少佐、ポイントCの森から動きが。」
「ようやく出てきたか・・・
2個小隊を増援に・・・」

敵の出現を懇願している自分が笑えてくる。
だが無線から声が悲鳴に変わり、劉少佐の希望を打ち砕く。

『少佐、こいつはエルフじゃありません。
モンスターです!!』




タージャスの森
放火ポイントC

ポイントCで森に火を付けていた新香港武装警察の分隊は、森の奥から出てきた巨大な青黒いビーバーの群れに襲われていた。

「アーヴァンクだ!!
近寄られたらひとたまりも無いぞ!!」
「手榴弾を使え!!」

エルフ達を引きずり出す前にとんでも無いモノを引き当ててしまい、弾薬を消費する羽目になっていた。
それでも分隊だけでは支えきれなくなる寸前、本部から派遣された小隊が戦闘に加わってくれる。
現在の新香港武装警察が使用しているのは、日本が北サハリン向けに製造していたAK−74だ。
小規模だが中国人第二の植民都市陽城市で生産工場の建設も完了している。
車両を盾にして射撃を続けて撃退したが、アーヴァンクの体当たりに些かの損壊が生じていた。
部隊を直接率いてきた劉少佐は疲れた顔でため息を吐く。

「走行には支障は無いと思いますが・・・」
「武警の虎の子だぞ?
始末書は確実だよ、参ったなあ・・・、誰か変わってくれよこの任務・・・」

最悪戦争して来いと言われてるのに、車両の傷やへこみで責められる未来図に劉少佐もへこみそうになる。
0400創る名無しに見る名無し
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2018/04/09(月) 03:10:16.35ID:n0V4KVrE
そのエルフ達は、初代皇帝の教えを守る皇帝派の面々である。
だがそれ以上に人々や自然に呪いを振り撒く悪魔の石と、それを採掘しようとする者達が許せない正義感に溢れる男女だった。
そんな彼等が、地球人の手によって燃え盛る大森林を見て憤りを感じるのは当然の帰結といえた。

「大公軍は何をしているんだ。
大森林が燃えてるんだぞ!!」
「日本と交渉中だから、放って置けとのお達しが届いてるようだ。」
「あの臆病者共め!!
仲間を集めろ。
あの地球人共を皆殺しにする。」
「もう大森林にはほとんど残っていない。
50人がいいところだ・・・」

大公軍で無い彼等は銃器等は持っていない。
さすがに弓矢と細剣、精霊魔法だけでは勝てないのは理解は出来ている。

「大公軍にも同志はいる。
彼等に武器庫の鍵を一つ閉め忘れて貰えばいい。」
「なるほど、それなら奴等に一矢を報いれるかもしれん。」

大公軍の保有する武器は、かつての帝国軍の武具を遥かに凌駕する性能を持っている。
さすがに地球人達が使う武器程では無いが、最初の一撃くらいは大きなダメージを与えれことが可能な筈だ。

「一撃加えて、大森林に退く。
追ってくればしめたもの。
留まるなら時間を置いて、もう一撃して退く。
あわよくば、仕留めた敵の武器も奪う。
この作戦でいくぞ。」

森の中では風のように動ける彼等は、さらに精霊魔法の風の声で遠距離の仲間と連絡を取り合い準備を進めていく。
その迅速な動きは、無線や携帯電話で連絡を取り合う地球系の武装組織を凌駕していた。
彼等は大公軍の同志が、うっかり閉め忘れた武器庫の前に集まり、小銃や弾薬を持ち出していく。
持ち出される武器は、かつてのこの地に転移してきた英国軍の装備を500年近い歳月を掛けて複製したものだ。
転移してきた英国軍兵士や将校から原理を学び、ドワーフの協力を得てそれなりのものが出来上がり、大公軍だけの制式装備として数も揃えられた。
持ち出された武器は、廃棄された筈の武器とすり替えられて、書類上の帳尻を合わせていく。
複製された銃火器のうち、リー・エンフィールド小銃はほぼ完全な再現を達成した。
ルイス軽機関銃はいまだにエルフが持てる重量に軽量化が果たせず、車輪つきの砲架や三脚に固定せざるを得ないのが現状だ。
No 1手榴弾はオリジナル程の爆発の威力を出せていない。
火薬の精製に難があるようだ。
拳銃のウェブリーMk IVも、構造が簡単なことからドワーフの職人が再現に成功した。
火薬を造る為の硝石も大規模な鉱床でドワーフ達が採掘している。
帝国でも歴代皇帝と一部皇族しかこのことは知らない。
今の王国では知る者はいないだろう。
生産された武器は、タージャスの森の各地に点在する町の武器庫に大公軍の管理のもとに保管されている。
この武器庫のある町は、住民や町長、大公軍には皇帝派の支持者も多い。

「地球から来た軍隊は自らの兵器の質が大陸とは何百年も先をいっていることに驕っている。
その差をせいぜい百年程度に縮めてやるのだ。」
「しかし、勝てるのは最初の一回だけだ。
いま、こんな小競り合いで使うのは正しいのか・・・」

それは今は亡き帝国に固執したエルフ達にもわかっていた。

「今、燃えているのは我らの森なんだぞ!!
今、使わなくていつ使うのだ!!」

激論が彼等の間でもかわされている。
納得できない者は協力はするが、戦いには参加しない。
戦闘に参加する者達の数はみるみる減っていた。
彼等の間に明確な指導者がいない為である。
0417始末記
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2018/04/09(月) 03:16:05.40ID:n0V4KVrE
激論が彼等の間でもかわされている。
納得できない者は協力はするが、戦いには参加しない。
戦闘に参加する者達の数はみるみる減っていた。
彼等の間に明確な指導者がいない為である。
自由な気風を大事にするエルフならではではある。
最終的に新香港武装警察を相手に集まった皇帝派のエルフ達は街からの志願者も集まり、80人ほどの男女に減っていた。



新香港武装警察の派遣部隊は、小隊規模の部隊を、大森林から時計回り、逆時計回りに移動させて放火作業を行わせていた。
火災がモンスターを発生させたことから、部隊を小隊規模にまで拡大させた。


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[7]
01/31 23:19
同時に五つの分隊に貴族の私兵軍とそれぞれ対陣させている。
本隊も放火を続けつつ、陣地構築を続けていた。
前方には焔が大森林を侵食している。
こちらから敵が来ることは無い。
街道は三菱キャンター2両を使って封鎖した。
キャンターが牽引するトレーラーの屋根に設置された銃座が2基、目を光らせている。
敵が透明化してくる事も予想の範囲内で、各種センサーも張り巡らせている。
例えエルフだろうと、王国の銃火器を使用しても突破出来るものではない。
だがトレーラーに刺さった矢を見て、銃座に座っていた武警の隊員は叫びながらトレーラーから飛び降りた。

「敵襲!!」

隊員が飛び降りた瞬間、トレーラーの屋根で爆発が起こり、もう1基の銃座に座った隊員が爆風と破片に巻き込まれて負傷してトレーラーから転げ落ちる。

劉武警少佐がパジェロから出てきて、地面に転がった隊員に駆け寄る。

「何があった、報告しろ!!」
「矢に手榴弾が・・・」

劉武警少佐の頭が些か混乱する。
矢に手榴弾を括りつけて放つ等可能なのかと。
実際に第一次世界大戦では、クロスボウを使用した実例があるのだが、劉武警少佐にはそこまでの知識は無い。
続けざまにキャンターに、手榴弾が括り付けられた矢が複数命中し、キャンターは大爆発を起こして吹き飛んでいった。
ここまで来ると、武警側も小銃を構えて、塹壕や車の陰に隠れて応射を始める。
街道の誰もいないはずの場所から悲鳴が上がり、蜂の巣にされたエルフが三人、地に伏したまま姿を現す。
その途端、大森林の火災が所々消火される。
エルフ達の水の精霊魔法による消火だ。
消火された焼け跡の向こうから、銃弾の雨が武警隊員達を襲う。
この奇襲に幾人かの武警隊員達が倒れるが、回避した武警隊員達も応戦し、たちまち銃撃戦が巻き起こる。
双方に被弾して倒れる者が続出して、距離がとられはじめて膠着状態となっていく。

「おかしい、大陸の連中の火力じゃない。」

劉武警少佐の疑問は最もで、小銃の練射速度がこれまでと段違いだ。
さらに森の中から機関銃のような銃撃が武警隊員達を襲う。

「いや、これ機関銃だろ!!」

先程の手榴弾らしき爆弾もそうだが、大陸の住民が機関銃を使うのは衝撃的な事実だった。

「こっちも撃ち負けるな。」

反対側の街道を封鎖するキャンターのトレーラーの屋根に設置された重座から機関砲が森の中に隠れたエルフ達を凪ぎ払う。
0450始末記
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2018/04/09(月) 03:26:22.34ID:n0V4KVrE
武警本隊の半数が既に地面に倒れている。
また複数の手榴弾が投げ込まれて、キャンターのトレーラーが爆発に巻き込まれて銃座も傾いて使えなくなる。

「後退、後退!!
別動隊に本隊に合流するように連絡しろ。」

負傷者をパジェロやトヨタ・コースターGXに乗せて応戦しながら後退する。



大森林とクロチェフ男爵領は街道を挟んで境としている。
近隣の村の住民が集まり、大森林に放火している新香港武装警察の分隊と対時していた。
住民達に取っては、大森林は獣の狩猟や森の恵みをもたらす神聖な場所であった。
また、住民達のまとめ役はエルフ達に肉体的に懐柔されている。
ほとんどは大公家の紐付きだが、例外的に皇帝派のエルフにまとめ役が懐柔されたのがこの男爵領だった。

「お願い、森を守って・・・」

涙目の美しいエルフに懇願されて、まとめ役の男は奮い立ち、周囲にいる民衆を煽動する。

「まかせておけ・・・
おい、みんな!!
余所者に好きにさせていいのか!!
大森林をみんなの手で守るんだ!!」

その言葉に憤りを感じていた民衆が呼応してしまう。

「大森林の火を消すんだ!!」
「神聖なる森に火を着けた連中を許すな!!」

農具や自衛用の武器を持って、武警隊員達に民衆が殺到する。
10人程度の分隊ではもうどうすることも出来ない。
また、この分隊は本隊に一番近い距離に有り、本隊からの増援要請に焦っていたことも災いした。

「蹴散らせ!!」

武警隊員達の小銃が民衆に向けられて発砲し、民衆が凪ぎ払われる最悪の事態に発展した。
領民を守る為にクロチェフ男爵領軍が両者の間に割り込んで終息したが、分隊は暫くこの場に拘束されることとなった。
0472始末記
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2018/04/09(月) 03:31:49.23ID:n0V4KVrE
偵察に出した兵から報告を聞いたアールモシュ公子は、眉をしかめ杉村や佐久間二尉に一つの提案を行った。

「我々は事態の鎮静化の為に、王国傘下からの離脱と日本との同盟を提案させてもらいたい。」



クロチェフ男爵領との境にいた分隊からの通信を受けた劉武警少佐は、一つの決断を下した。

「近くに自衛隊の部隊がいる筈だ。
同盟の規約に則り、我々の撤退支援を要請しろ。」
0482始末記
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2018/04/09(月) 03:34:51.43ID:n0V4KVrE
タージャスの森外縁

ようやく通信が出来る場所に辿り着いた日本の外交官と自衛隊の特使一行は、デルモントの分屯地や新京の総督府への通信を試みていた。
すでに大森林外縁で、民衆や皇帝派エルフは、新香港武装警察と交戦状態に入っている。
アールモシュ公子からの同盟の提案は、ようするに日本の保護下に入ることを意味しているようだった。
一介の外務官僚に判断できる内容では無い。

「まあ、説得出来る材料はあるか・・・」

エルフ達は異世界転移に関する情報を持っていた。
これは地球系国家・独立都市が喉から手が出るほど欲しい情報のはずだった。


佐久間二等陸尉が指揮する自衛隊隊員達は、大森林に出発前に設営した自衛隊野営地に赴いた。
しかし、留守を任せた部隊はおらず、杜撰だが野営地を撤去した跡が残されている。

「よほど慌てて離脱する事態に遭遇したか・・・」

周辺を捜索していた毛受一等陸曹が戻ってくる。

「車両のタイヤの跡が綺麗に残されていました。
跡を辿ると、事前に取り決めていた場所に車両は隠されてました。
ですが、肝心の留守部隊六名がいません。」

毛受一曹からの報告に苦虫を潰したような顔をしてしまう。
だがようやく繋がったデルモントの分屯地との通信から状況は理解できた。
案内として、同行していたサルロタが口を挟んで来た。

「おそらく留守居の方々は、迷いの霧に囚われて大森林をさ迷っているのでしょう。
我々エルフの血をひく者には効果の無い霧なので、捜索は我々が引き受けましょう。」

これ以上の捜索は二次災害を引き起こす可能性があると判断し、佐久間二尉は、彼女達に任せることにした。

「ならば我々は大森林の消火活動に参加しましょう。」

NBC災害対策車や73式中型トラック、高機動車はいずれも問題無く動く。
隊員達が車両に乗り込み、近隣の火災現場に向かった。


野営地に戻った杉村外務局長は、総督府と連絡を取り、エルフ大公領の事情やノーフォーク連隊についてを報告したことをアールモシュ公子に伝えた。

「新香港にはエウロペやアメリカ、ブリタニカが圧力を掛けてくれることが決まりました。
特にブリタニカはあなた方に興味津々のようです。
総督府もテロリストによる事件を地方の自治体に責任を負わせる行為については疑問に思っているようです。
何より我々はエルフ大公領との交流を望んでいます。」

北サハリンもだ。
今回は新香港の顔を立てて協力してきたようだが、日本とエルフが交流を持ちそうだとわかると、手のひらを返してきた。


「それは我々もです。
若者達に外の世界との交流は必要だと思っていました。
しかし、外の世界との交流の再開は、再び王国との軋轢を産み出します。
日本さえよろしければ、我々を日本傘下の公国として認めて頂けませんか?
確か、海棲亜人達にはそれを認めた前例がある筈ですよね。」

どこまでこちらの事情を察しているのか、油断がならないと杉村は思わず舌打ちしそうになる。
0489始末記
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2018/04/09(月) 03:38:05.21ID:n0V4KVrE
確かに日本は海棲亜人達を傘下に治めて東京に大使館まで作らせたが、アールモシュ公子提案は総督府の権限を超えているので即答は出来ない。

「本国に御意向は迅速に伝えさせて頂きます。
それと事態の沈静化の為にソフィアに駐屯していた日本国陸上自衛隊第34普通科連隊1200名がこちらに派遣されています。
三日後には到着する見込みです。」

援軍の到着は嬉しい限りだが、エルフ大公領の同盟締結と新香港からの同盟による支援要請という難題は頭の痛い話だ。
車両を回収して戻ってきた佐久間二尉も同じ様に頭痛を感じた。

「撤退の支援自体は問題ありません。
ですがエルフ大公領と同盟を結ぶか微妙な時期に、テロリストとはいえエルフと交戦してよいのか御墨付きが欲しいです。」

責任問題になることは御免被りたい佐久間二尉だが、一応は出来ることを考えてはいる。
今、出来ることは新香港武装警察の部隊を大森林から引き離すことと火災の消火活動だけだ。

「アールモシュ閣下、出来れば大公領の旗をお借りしたいのですが・・・」




新香港武装警察本隊

元々、新香港武装警察隊は人数と武器の質で皇帝派エルフに勝っている。
最初の奇襲を凌げれば、徐々に火力で皇帝派エルフを圧倒しつつあった。
機関銃を掃射して来る射手は一人で厄介なことこのうえなかった。
しかしそれもトレーラーに設置した銃座からの機関銃による制圧射撃で圧倒して沈黙させた。
指揮を取る劉武警少佐は、好転する状況に胸を撫で下ろしていた。

「援軍はいらなかったか?
いや・・・」

戦死した隊員が12名、負傷者は20名を越えている。
まともに応戦しているのは二個小隊程度にまで落ち込んでいる。
エルフ達の抵抗は弱まりつつあるが、実数がわからないので判断がつかない。

「少佐、エルフ達が火蜥蜴(サラマンダー)とか、ノームとかいった精霊を使った魔法で抵抗を始めてきました。
射程は短いので、問題はありませんがおそらくは・・・」
「なるほど、連中弾が尽きたか。
これ以上の犠牲は出したくないから、前線には近距離を避けて術者を仕留めるように指示しろ。」


地球のような大規模生産工場の無いこの世界では、大抵の物は職人が生産していた。
それでは大量消費が行われた場合に補充が間に合うものではない。
大自然を武器に変える精霊魔法は確かに厄介だ。
だがその精霊魔法により、発生した風や炎の効果範囲はせいぜい術者を中心に数メートル程度とは研究結果が出ていた。
上位の術者なら数十メートルを効果範囲にすることも可能なようだが、近寄らなければどうということは無い。
一度に複数の精霊魔法は使えないらしく、精霊魔法による攻撃に切り換えて来たということは姿を消す魔法は使えなくなるということだ。
銃弾で実態の無い精霊は倒せないが、突き抜けることは可能だ。
精霊のいる範囲に弾丸をばら蒔けば、高確率で後方にいる術者にも当たる。
また、手榴弾などの爆風で吹き散らすことは可能だ。
再生するまで時間が掛かるので、その間に術者を撃てばいい。
日本の囚人を使った第一更正師団が多大な犠牲を払って得た戦訓の一つだった。

「連中の底が見えたな。
いっそ姿を消されたまま刃物で襲われた方が厄介だったな。
慎重に片付けていけよ。」

一時の混乱から立ち直った武装警察隊は、皇帝派エルフを次々銃弾で容赦無く排除していった。
0500始末記
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2018/04/09(月) 03:40:52.73ID:n0V4KVrE
召喚されたサラマンダーのサイズは二メートル程度。
今回の襲撃に参加した皇帝派エルフ一番の腕利き術者が召喚した者だ。
サラマンダーが吐く炎の吐息は、数メートル先の武警隊員を一撃で消し炭に変えた。
武警隊員達は木々を盾にしながら、サラマンダーや術者を遠巻きに半包囲しながら射撃をしていく。サラマンダーの熱気と体内の熱が、銃弾が突き抜ける際に、大幅に速度を減速させてしまう。
それでも後方の術者を蜂の巣に変えるには十分な威力だった。



タージャスの森外縁
ビィルクス伯爵領境の街道

タージャスの森とビィルクス伯爵領の境界線もこの大森林を囲む街道となっている。
燃える大森林を背景に、新香港武装警察の小隊と押し掛けてきた民衆が睨み合い、伯爵領軍が間に入って民衆を押し留めていた。

「とにかく、火災を直ちに消させて頂きたい。
これ以上はエルフどころか、我が領の民衆を煽る行為だ!!」

伯爵領軍の使者の剣幕に、武装警察隊の小隊長も困り果てていた。
伯爵領軍は街道を越えての活動は基本的に出来ない。
だが民衆はタージャスの森の恵みを生活の糧にしている。
関所等で遮られていないので、民衆からすれば森の恵みが得られないのは死活問題なので、殺気だっているのだ。
しかし、このまま暴動となれば、民衆は新香港武装警察隊の銃弾の前に屍を晒すことになる。
それだけは絶対に避けねばならないのが伯爵領軍の思いであった。
睨み合いが続くなか、大森林の火災は拡大していく。
焦燥に駆られた一人の木こりが、斧を両手に持った時、水の塊が一本の線になって大森林の消火を始めたことに誰もが驚いていた。
それは街道の先から新香港武装警察隊とは趣きが違う車両から放たれていた。
誰しもがポカーンとするなか、新香港武装警察の隊員達だけがその車両の正体に悔しそうな顔を見せる。
元は日本国警察のNBC災害対策車 の陸自仕様車は、屋根に設置されている放水銃から放たれた水が、大火災の火勢を幾分か和らげていく。

「日本・・・、自衛隊か・・・」
伯爵領軍や民衆も新香港武装警察の援軍かと警戒するが、車両にはためく日の丸とエルフ大公領の旗を見て安堵する。

「道を開けろ!!
あの水を放つ車を通すんだ!!」

伯爵領の騎士達が民衆や車両を誘導する。

「水だあ!!
タンクに水を片っ端から持ってこい!!」

NBC災害対策車から出てきた上坂三等陸尉の声に、消火をしてくれると希望を持った民衆が家に戻り、井戸や川から桶やバケツに入れた水を持ってくる。
隊員はバケツリレーの要領を民衆に教えながら効率化をはかる。
数人の隊員は、車両から持ち出した消火器を噴霧して消火にあたっている。
正直なところ高圧放水でも無いので、たいした水量を搭載も放つことも出来ない。
巨大な火勢にたいして、焼け石に水もいいところだ。
火勢の反対側でもエルフ大公領軍が、水の精霊を召喚して消火にあたっている。
しかし、各勢力の衝突が避けられたことを伯爵領軍も胸を撫で下ろして消火に参加している。
自衛隊の車両や隊員は、自然と伯爵領軍と民衆を新香港武装警察を引き離す形になっていく。
お互いの問題が物理的に遠ざかっていくはずだったが、新香港武装警察の隊員が上坂三尉に抗議の声をあげる。

「これは対エルフの作戦行動だ!!
作戦の妨害は同盟の規約に対する違反行為だ!!」
「そのことだが・・・
先ほど自衛隊の無線機を通じて、今回のテロ行為に対して大公領は一部暴徒による被害を受けた都市に対しての謝罪が通達された。
事情と事実の確認の為に我々はまだ残るが、事態の沈静化の為に貴官等はお引き取り願いたい。
正式な謝罪が行われるまでは、我々が停戦を監視する。」
0510始末記
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2018/04/09(月) 03:42:59.62ID:n0V4KVrE
新香港武装警察本隊

各都市からの圧力を受けた新香港は停戦に合意した。
派遣部隊を率いていた劉武警少佐は、無線機を叩き付けて撤収を部下に命じる。

「戦死15名、負傷者42名。
車両四両大破。
これだけの損害を出してこのざまか・・・」

攻撃してきた皇帝派エルフは殲滅したが被害も甚大だ。
陸上自衛隊の部隊が停戦の監視のために到着した頃には、本隊を攻撃してきた皇帝派エルフは皆殺しにしたところだった。
このまま部隊を集結させて、エルフ大公領軍も撃破するはずが、中途半端な結果に終わってしまった。
さすがに自衛隊が日本国旗とエルフ大公領旗を掲げて来た時は驚きを隠せなかった。
日本が交渉をまとめて来るとは、夢にも思わなかったからだ。
停戦の為に新香港武装警察の本隊を訪れていた陸自の高機動車を忌々しげに見つめる。
負傷した武装警察隊員は自衛隊の衛生科の隊員に治療を施して貰っている。
だがそれでも悪態をつかずにはいられなかった。

「くそったれ・・・」

大森林の火災は停戦後の10日後まで続いた。



大陸東部
新京特別行政区
大陸総督府

年の暮れにエルフ大公領は、正式にエルフ公国としてアウストラリス王国からの独立を宣言した。
同時にエルフ公国の西側の山脈に領地を持つドワーフも独立を宣言し、日本の傘下に治まることとなった。

「ノーフォーク連隊の武器を模倣、量産する為にドワーフも多大に貢献していたようですね。
エルフ達の皇帝派は今回の件で掃討、或いは捕縛されたようですがドワーフにも皇帝派はいるようです。」

秋山補佐官の説明に秋月総督はうんざりした顔をする。

「初代皇帝は厄介な種を遺してくれたものだ。
千年も前から我々に祟ってくるとわな。」
「幸い、ドワーフはエルフほど行動的では無く、精霊魔法も使えないので脅威とはならないというのが公安調査庁の分析です。」

その分析に安堵しつつ、同席していた北村副総督が語りだした。

「ところで、ノーフォーク連隊とやらはこちらでも調べてみた。
第1次世界大戦のオスマン・トルコとの戦いで行方不明になったとされる270名余りの英国兵のことなんだな。」
「はい、英国軍がその後の調査で実はオスマン帝国の攻撃にあって戦死していたり、捕虜になっていたと報告書を出されてはいます。」

その調査報告が正確なものであったかは今となっては調べようがない。

第一次大戦中の1915年8月28日、オスマン帝国の首都イスタンブールを制圧すべく、ガリポリ半島に連合軍を展開した。
その最中、英国陸軍ノーフォーク連隊三百余名が、通称アンザック軍団の目の前で、奇妙な雲の塊の中に将兵が消えていくのを目撃したのだ。
雲が晴れ、アンザック軍団の前には、無人の丘陵地帯があるだけだった。
戦後、英国はオスマン帝国に将兵の返還を要求するが、そのような部隊との交戦記録は無いと要求を否定した。

これが事件の顛末である。

「他にも都市伝説として語られている失踪事件も見直す必要がありそうだな。
えっと・・・バミューダトライアングルとか・・・」

さすがに北村副総督はそこまでは詳しくないらしい。
0518始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 03:44:49.14ID:n0V4KVrE
「3000人中国兵士集団失踪事件、フライング・タイガー・ライン739便失踪事件などは注目に値しますが、正直なところ資料も現地調査も出来ないのでどうしようも無いというのが本音です。」

都市伝説やオカルトの類いの話を公的に調べないといけないとは冗談が過ぎる話だった。
秋山補佐官の言葉に秋月総督も北村副総督もお手上げのポーズを取る。

「ドワーフとエルフは例によって東京に大使館を設置してもらうが・・・、エルフの方が揉めてるんだって?」

秋月総督の質問に秋山補佐官も眉を潜める。

「大使に相応しいエルフで、性的に倫理観に問題の無いエルフの選定に手間取っているようです。
エルフの社会問題になっている性の乱れが酷いらしくて・・・
どうも我々が考えていたエルフのイメージとは些か違うようです。」

エルフにあった高慢で閉鎖的なイメージは想定していたが、奔放で淫蕩で存外に交渉がうまいとは想定出来なかった。


「我々の幻想を打ち砕かないで欲しいな・・・」

北村副総督も呆れ顔だ。

「それでドワーフ侯国大使館は、旧カナダ大使館が用意してくれるとして・・・エルフ公国大使館はどうなった?」
「旧シンガポール大使館が売却を予定しています。
宝石や宝物を大量に呈示されて担当者はひっくり返ってましたよ。」
「そして、シンガポールはそのまま新香港に合流か・・・
売却利益はそのままエルフ大公国の賠償金も含まれていると・・・」

在日シンガポール人は七割以上が華人であることから、在日シンガポール人約八千人が新香港に合流することになった。
その際の旧シンガポール大使館の膨大な売却利益が、新香港への賠償金になる。
日本が仲介した新香港とエルフの落とし所である。

「よく王国の連中が黙ってるな。」

北村副総督の指摘通り、エルフとドワーフの独立は宗主国であった帝国の後継を名乗るアウストラリス王国の面子も潰す行為である。
最もエルフもドワーフも王国を帝国の後継国家として認めていない。
王国の宗主国となった日本に遠慮して文句を言ってこないだけである。

「文句を言ってしまうと、統治の為に軍を送らないといけないらな。
連中も余裕が無いのだろう。
渋々認めざるを得ないから無視を決め込んでる。」

北村副総督の言葉に二人は頷く。
そこに青塚副総督補佐官が部屋に飛び込んでくる。

「そろそろお時間です。」

言いながらリモコンを操作すると、画面には新香港主席林修光の顔が映し出される。
林主席は壇上で演説をしている。

『我々は今回の自体に独立都市としての権限の弱さを痛感した。
新香港に移民して丸七年。
植民都市も陽城、窮石と建設は順調で、第四都市の建設も来年には始まる。
シンガポールの民が我々に合流するかはすでに皆も知っていると思うが、このほどモンゴルの民八千人も合流することになったことをここに報告させて頂く。
我々は十分に力を付けた。
日本、米国、北サハリン、高麗に続く第5の国家として、我々はここに華西民国の建国を宣言する!!』


秋月総督も北村副総督も新香港政府からの予め通達を聞いてはいたが、面白くなさそうな顔を浮かべている。
予定通りとも言えるので、総督府に動揺している者はいなかった。
問題が無いわけではない。
残っている在日外国人最大多数のモンゴル人を持っていかれたことで、新独立都市の建設が困難になったのだ。
0519始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 03:46:23.45ID:n0V4KVrE
「独立都市は残った在日外国人をまとめて放り込むべきでしたかな?」
「争いの火種を撒くだけですよ。
他の独立都市に草刈りの規制緩和に動くべきでしょう。」

華西にしても第四植民都市の建設には日本の協力が必要なのは理解しているから、停戦に応じたのだ。
しかし、相当な不満を溜め込んだことは間違い無さそうだった。


その日の夜。
総督府幹部職員や自衛隊の将官の邸宅にエルフの女性たちが全裸で現れて騒動となったことは、厳重に箝口令が敷かれて隠蔽された。

ただある写真週刊誌が『秋月総督は、総督府にエルフのハーレムを作る』との見出しの記事を載せて、総督府が数日昨日停止に陥った。
だが世間の反応は、

「また総督がコレクションを増やしたらしい」

と、薄い反応しか示さなかった。
0520始末記
垢版 |
2018/04/09(月) 03:47:39.46ID:n0V4KVrE
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支援のおかげで全部できた

五日くらい掛かるかと思ってたよ
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垢版 |
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