懸命に思考する彼に、声を掛ける者があった。

 「あら、あんたもモールの樹の下に避難しに来たのかい?
  中々勘が良いんだねぇ」

それは魔女ウィロー。
発光している彼女を見て、ラントロックは驚く。

 「うわ、眩しっ!?
  どうなってんですか、それは?」

ウィローがラントロックに近付くと、彼女の纏う光を厭う様に、血の霧が引いて行った。

 「単なる光の魔法だよ」

旧い魔法使いと言う物は、基本的に自分の魔法以外の魔法は使いたがらない物である。
「使役魔法」使いであるウィローが、「光の魔法」を使っている事が、ラントロックには不思議だった。

 「使役魔法使いって言ったのは?」

彼は「光を使役している」のかと予想したが、そうでは無い。
ウィローの使役魔法の本質は、光の明滅を用いた精神操作。
薄暗い森の中に住んでいるのも、魔法の効果をより高める為だ。
暗黒の中にある者を明かりで誘導してやれば、その通りに進む事しか出来なくなる。
しかし、彼女は素直にラントロックに事実を伝えようとしなかった。

 「理屈さえ判っていれば、他の魔法も使えるのよ。
  私は『儀術士<ウィッチ>』だから」

それは嘘では無い。
ウィローには魔法とは別に、儀式的な呪術の心得もある。
そう説明しつつ彼女は、木の幹に巻き付けられている、樹液の入った容器を手に取った。

 「それ、どうするんです?」

 「新たに結界を張って、奴を封じる。
  手伝っとくれ」

ラントロックはウィローに差し出された容器を受け取る。
この状況で拒否する選択は無かった。