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【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】
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0001ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/23(火) 01:33:04.93ID:Uq/HO4fB
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50
0002ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/23(火) 01:38:19.60ID:Uq/HO4fB
>「指環の勇者というのは君たちのことか?ラーサ通り総責任者の
 ガレドロ・アルマータより伝言を預かっている。」
>「ガレドロ爺からか!?どんな内容なんだ」

山道を下る道中で、ダーマ魔法王国からの使いが現れた。
各地の反乱はおさまり、王は王宮に戻りエーテル教団の信徒以外の者を無罪としたという。

「ということは……オーカゼ村の者達も無罪ということだな!」

>「村に戻って晩飯だ!洗脳も溶けてるだろうし、村のみんなと宴会でもしようぜ!」

「そうだな! ……ん?」

一件落着を喜びつつも、はて、何か忘れているような――と思うティターニア。
当初はジャンが父親と母親に会うためにここに来たはずなのだが、すっかり初心が忘れ去られているのだった。

「まあ――良いか」

ジャンの両親がどんな人物かは少し見てみたくはあったのでそこは残念だが
出稼ぎに行っていて事件に巻き込まれるのを逃れたということならそれはそれでいいだろう。
尤も、村に行ったら案外しれっと帰ってきているかもしれない。

《そんなに悠長に構えていていいのですか? だってハイランド連邦共和国に宣戦布告って……》

テッラが心配げに語りかけてきた。
そこに誰も突っ込まずにひとまずめでたしめでたしな雰囲気になっているので、突っ込まずにはいられなかったのだろう。

「ああ、あれは他国の首府を殲滅しにいく以上形式上宣戦布告という形を取らざるを得ないのだろう。
実際はハイランドは多数の国の集まりみたいなものだからな。
ここにまで情報が流れて来るぐらいだ、各州から見てすでに首府の異常は自明。
進撃といっても形式上の降伏勧告の後素通しという形になるだろうな。
つまり……援護するから行けという我々に対するゴーサインだ」

そしてシノノメに話を振る。

「シノノメ殿――しっかりいい物を食べて英気を養っておくのだ。
出発したら早速闇の指輪の力を使っての移動中の隠密をお願いすることになる。
いったんアスガルドに立ち寄り情報を得たり装備を整えるとしよう。
ダーマの外に出るのは初めてだな? アスガルドは面白いところだぞ。
――ああ、忘れておった」

ティターニアはシノノメに改めて右腕を差し伸べて言うのだった。

「ようこそ――指輪の勇者一行へ」

【第六話完!】
0003ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/23(火) 01:55:36.93ID:Uq/HO4fB
前スレが全く書けなくなったので急遽スレを立てた。
750kbまで書けると思いきや730だったのだな……。

第六話お疲れ様!
一応締めてしまったが数日中に次章開始するのでその間リアクションや幕間などあれば自由に書いてもらって一向に構わない!
もしくは次章の最初にくっつけてもらってもOK。
本編で言っている通り新規募集期間兼ねて1ターン程アスガルドのシーンを入れようと思う。
今からだとかなり後発参加にはなるがまだ指輪使いの枠が2つ(エーテルの指輪が出て来るのは最終盤にしても光は次で出てきそう?)空いてるので興味のある方は遠慮せずに是非。
(誰も来なければジュリアン殿とかに使ってもらう手もあるのだがやっぱり指輪は参加者が一つずつ持つのがベストだと思うゆえ……
しかし6話は新規は来なかったし最終的に7人になると1シーンで回すには多すぎるからシノノメ殿とフィリア殿が二つやってくれてるのは丁度良いなと思っておる)
0004第6話『闇黒の体現者』ダイジェスト ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/23(火) 20:17:21.47ID:XAgijgeq
キアスムスを訪れた一行が酒場で食事をしていると、通りでにわかに騒ぎが起こる。
街の中にアックスビークの群れが入り込んで走り回り、大捕り物が繰り広げられているのだった。
加勢する一行だったが、アックスビークの一匹が店に突っ込んでいく。
悲痛な叫びをあげる店主だったが、居合わせた魔族の少女がそれを瞬く間に屠る。
彼女はキアスムスの処刑執行人のシノノメであり、スレイブの古い知り合いでもあった。
執行人であるため町の人々から爪はじきにされているシノノメは、
一行に食料の買い出しの依頼をもちかけ、自らの屋敷の一室を宿として提供することを申し出る。
ジャンは最初難色を示したが、最終的には依頼を受けて、彼女の屋敷に泊まることになった。
そこに、ジャンの師匠でラーサ通りの総元締めであり、正体は王の隠し牙であるガレドロが突然訪ねてきた。
彼は、闇の指輪が良からぬ形で封印を解かれぬように、
体調不良で表舞台に姿を見せていないとされている王が実は大陸全土に封印を施し続けていると告げ
良からぬ者の手に指輪が渡る前に、闇の指輪を手に入れるように一行に依頼する。
そして、チェムノタ山に闇の指輪がある可能性が高いこと
そのふもとのジャンの故郷がエーテル教団によってすでに村人が洗脳されて支配されてしまったこと、
それを口実に村人が全員死刑になったことを告げる。
そして弟子であるジャンのために、処刑人のシノノメの足止めをしようと試みるガレドロ。
しかしシノノメはそれを退け、一行が指輪を手に入れれば魔王が体調不良を装う必要もなくなり、
恩赦によって村人が助かるという道を示し、一行に同行し力を貸すと力強く言うのだった。
翌朝オーカゼ村に行ってみると、村人はひとっこひとりおらず、教団の建物に入ってみると留守番らしき者達だけが残っていた。
彼らをのして情報を聞き出すと、村人は洗脳されてチェムノタ山に連れていかれたということが分かった。
急いでチェムノタ山を登ると、中腹で、教団の者に連れられた村人たちに追いついた。
村人たちを連れているのは、一人は黒犬騎士アドルフ、もう一人は天戟のアルマクリスだ。
一行が姿を現すと、アドルフはアルマクリスに一行の足止めを命じ、自らは山頂へと急ぐ。
戦闘の混乱に紛れてジャンは村人たちを逃がすことに成功。戦闘にも勝利する。
一行はアルマクリスにとどめを刺さなかったどころか傷の治療を施してから先を急ぐのだった。
しかしアルマクリスは目覚めた直後、アドルフが駆る猟犬により始末され闇に取り込まれることとなる。
一行が山頂にたどり着くと、アドルフが老竜ニーズヘグと問答をしていた。
ニーズヘグは闇の竜テネブラエの影の一つであり、一行とアドルフに一方的に指輪の試練を持ちかけるのだった。
試練とは、それぞれの最も思い出したくない記憶との対面。
それぞれの記憶が投影された異空間で苦戦する一行の前に、アルマクリスが現れ力を貸し、全員無事に試練をクリアーした。
現実世界に戻ってみると、アドルフだけが試練に耐えられず骨と化していた。
彼の最も思い出したくない記憶とは、幼い頃に姉メアリに光の指輪を贈ったこと。
指輪の魔女とはヒトを乗っ取る指輪そのものだったのだ。
闇の指輪を具現化し、ふさわしい者は進み出よと告げるニーズヘグ。
皆の後押しを受けて、シノノメが闇の指輪に触れた瞬間、彼女は闇に包まれる。
まだ最後の試練が残っていたのだった。
闇に取り込まれて共に闇の指輪の一部となったアドルフとルマクリスが、シノノメを乗っ取り指輪の器にしようと仕掛けてきたのだ。
しかしシノノメは彼らを退け、指輪に乗っ取られることなく無事に戻ってきた。
ニーズヘグは試練は終わりだと告げ、闇の指輪を手に入れた一行は山頂をあとにする。
下山中に王の使いが現れ、王の勅命によってオーカゼ村の人々は無罪になったと一行に告げる。
ひとまずこの地での案件は一件落着となり、オーカゼ村で宴会をしようと山を下っていく一行であった。
0005ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/24(水) 21:53:16.25ID:LvXzydvU
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. 第7話開始.。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

一行が乗った飛空艇は、敵の本拠地ソルタレクへ攻め込むに先立って、情報収集と準備を整えるためにアスガルドへと向かっていた。

これまでのあらすじ

古竜が復活する

とりあえず古竜に対抗するために?指輪を集めよう

指輪を集める旅をしているうちに指輪の魔女なる悪い奴が明らかになってくる
その正体は遥か昔からいろんな人を乗っ取り続けている悪い光の指輪っぽい

地水火風闇の指輪を手に入れて次は光の指輪。
いよいよ指輪の魔女の本拠地に攻め込もう←今ここ

「……というわけだ」

――と移動式ミニ黒板に記しつつ、ティターニアは最近仲間になった者達に今までの経緯を簡単に説明していた。
もっと詳しく知りたい方はこちらを読んで頂ければ大体分かると思う。
ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/12.html

尚、次のアスガルドはどさくさに紛れて仲間に加わるチャンスである。
そうこうしているうちに、飛空艇は魔術学園都市アスガルド内のユグドラシアの着陸場に到着した。
降り立ってみると――何故か生徒たちによる人だかりが出来ていた。

「指輪の勇者様ご一行だ!」「あっ美少女とイケメンが増えてる!」
「あの超美形は帝国の伝説の魔術師の白魔卿じゃね!?」「マジで!?」
「サインください!」「わーわーきゃーきゃー」

「お主ら、儂を通さんか!」

人だかりにまぶれながらやっとこさダグラスが前に進み出てきた。
彼は、スレイブとシノノメを一瞥すると、こちらが何も言わずとも察したのだった。

「――見事風の指輪と闇の指輪を手に入れたようじゃな」

「…… 一応極秘の旅のはずなのに何でこうなっておるのだ?」

「……いや、儂は上層部にしか言ってないはずなのだが……。知らん、断じて知らんぞ」

何でと聞いたものの、大体想像はつく。
上層部がつい「ここだけの話」で一般導師に教える→導師から「ここだけの話」で生徒に情報が漏れる→秘密じゃなくなる
といったところだろう。
しかし本来敵国のはずのダーマにも公認されているぐらいだから、もはや秘密にしておく意味もあまりないのかもしれない。
0006ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/24(水) 21:55:46.98ID:LvXzydvU
「しかしどちらにせよ遅かれ早かれ公開事項じゃ。次の任務は我々の全面的なバックアップのもとに行ってもらうことになる。
そなた達にはソルタレクのエーテル教団へ突入してもらうことになる」

「ソルタレクは今どうなっているのだ? 突入するのに援護が必要なほどなのか?」

「それは……オベロン殿から説明してもらおう」

ダグラスが示した方向から、ティターニアがよく見知ったエルフの男性が進み出てきた。

「ティターニア、無事だったか」

「父上――!」

現エルフの長の夫である彼は、首府ソルタレクでドリームフォレスト州の代表として執政に携わっていたはずなのだが、
彼がここにいるという事自体、ソルタレクがもはや普通の状態ではないということを示しているのだった。

「今や街全体がエーテル教団の牙城だ。
私は幸い早いうちに異常を感じたから脱出できたのだが……執政官だった者の中にも何人か取り込まれてしまった者がいる」

前回はここに来た時はまだエーテル教団が水面下でソルタレクの冒険者ギルドを操っているといった段階だったが、
一行が暗黒大陸に行っている間に、エーテル教団が本格的に動き出したらしく
ソルタレクは誰がどう見ても異常な事態となっているらしかった。
通常の統治機構はとうに壊滅。
今や首府ソルタレクは教団の武装勢力に包囲され、普通には近づけない状態となっているそうだ。
そしてここユグドラシアには反乱軍の拠点として、教団に対抗しようとする者が集結しているらしかった。
そこで、集団で派手に攻め込んでドンパチやっている隙に指輪の勇者一行が内部へ潜入という単純明快な作戦である。

「決行は一週間後――たまたまダーマの侵略軍が首府に攻め込むのと同時になる予定だ」

「うん、そうだな。たまたまだな」

もはや裏で手を組んでいるのは明らかなのだが、一応敵国同士という建前らしい。
ダグラスが続ける。

「それまでそなた達は英気を養ってくれ。
儂とオベロンは反乱軍を取りまとめておく。もしもその中でそなた達と共に潜入するに相応しい者がいたらそちらに付けよう」

こうして一行は暫しユグドラシアに滞在することになった。
学園内で情報収集をしてもいいし、街を探索してもいいし、反乱軍の様子を見てみるのもいいだろう。
0007シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/25(木) 19:06:41.63ID:dYA3/ncH
>「無事だったか……!」

スレイブ様の、緊迫の抜け切らない、しかし安堵を含む声。
随分と心配をかけてしまったみたいです。
私なら全然平気です。なんだったら笑みの一つでも見せて、安心してもらいましょうか。
……少し私らしくなくて、かえって心配させてしまったり、しませんよね?
そうして振り返ると……ティターニア様が、目の前にまで駆け寄ってきていました。

>「シノノメ殿……見事試練を潜り抜けたんやな! 良かった……良かったよ……!」

「……エルフって、意外と温かいんですね。私の体温が低いだけでしょうか」

……指環なんかよりも、この包容の方が、私にとっては価値があるものです。
そんな事言ったら怒られちゃうかもしれませんけど。
ずっと、ずっと得難いと……いえ、得られる訳がないと思っていたもの。他者の、ぬくもり……。

>「……悔しいが我からも礼を言うぞ。結果オーライという言葉が古来より存在するからな」

「……私からも、お礼申し上げます。
 終わってみれば、短いけど満ち足りた、そんな旅が出来ました」

頭を下げると、闇竜は声を発さずに、小さく口角を上げました。
その笑みが意味するところは私には分かりません。
お人好しが過ぎるという嘲笑なのか、それとも別の意味があるのか……。
だけどこの旅を通して分かった事は……

「その思わせぶりな笑みも、今は快く感じられます。
 大事なのは、それだけで。
 そこに含まれた真意は、私には分かりませんけど……分かる必要も、ないんですよね」

別にその意味が分からなくても、それならそれでいいって事です。

執行官が、首を斬る相手の心や人生を知る必要がないように。
何も分からなくても……私は、私にとって大きな意味のある旅が出来た。
それは、どれくらいの割合かは分からないけど彼……テネブラエのおかげでもあって。
私は彼の笑みが、そんなに不快じゃなかった。いえ、むしろそれを見られて、良かったとさえ感じている。
大事なのは、たったそれだけ。
私はずっと……考えても仕方のない事を、考え続けていたみたいです。

……っと、余韻に浸っている場合じゃありません。
まだやるべき事は残っています。オーカゼ村の皆さんの安否を改めて確認して、
ガレドロ様に無事指環を手に入れられたと連絡して……。
私は、ジャン様達の後を追いかけます。
この指環に関しても、きっとお話しなくてはいけませんしね。
……とは言え、どのタイミングで、その話を切り出せばいいんでしょう。

>「指環の勇者というのは君たちのことか?ラーサ通り総責任者の
 ガレドロ・アルマータより伝言を預かっている。」

なんて考えていると、空から竜騎兵が降りてきました。
あの隊章は……黒の小隊。
私達が指環を手に入れられなければ、オーカゼ村に差し向けられていたはずの部隊。
村の人達の洗脳は解けていた。何も起きてはいないはずですが……
0008シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/25(木) 19:08:10.49ID:dYA3/ncH
そんな心配を密かにしていたのですが、どうやら杞憂だったみたいです。
魔王様は既に私達が指環を手にした事を悟り、離宮を出て、国中にお触れを出したとの事。
流石は、ダーマを覆うほどの結界を張れてしまう魔王陛下。手が早いです。

>「ということは……オーカゼ村の者達も無罪ということだな!」
>「村に戻って晩飯だ!洗脳も溶けてるだろうし、村のみんなと宴会でもしようぜ!」

「……オーク族の民族料理、ですか。楽しみです」

……ジャン様達と違って、まだ私の事を受け入れられない方は、いるかもしれません。
私がどう吹っ切れたって、私は魔族の執行官。
だけど、それももう怖くありません。考えても仕方のない事ですから。
そんな事に頭を悩ませるより、初めて食べるご飯にでも夢中になっていた方が、ずっとマシです。

>「シノノメ殿――しっかりいい物を食べて英気を養っておくのだ。
  出発したら早速闇の指輪の力を使っての移動中の隠密をお願いすることになる。
  いったんアスガルドに立ち寄り情報を得たり装備を整えるとしよう。
  ダーマの外に出るのは初めてだな? アスガルドは面白いところだぞ。
  ――ああ、忘れておった」

……闇の指環を使って、お願いする?
あの、待って下さい。私は……

>「ようこそ――指輪の勇者一行へ」

ティターニア様は清々しい笑顔で私に手を差し伸べました。
……私は、まだ執行官ですから。
この指環は手に入れるだけ手に入れて、お譲りしようと思っていたのですが。

私はそんな事を考えていて……だけど、ふと、気付きました。
……私の背後に、誰かがいる事に。
刃が、鞘の内側を滑る音が聞こえる。

ティターニア様も、ジャン様も、スレイブ様も、誰も気付いていない。
闇の指環を持つ私だけが気付ける、誰か。
0009シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/25(木) 19:10:19.66ID:dYA3/ncH
いえ、誰かじゃない。見なくても分かります。
そこにいるのは、闇の試練で出会った私の幻。

あの時、私は彼女の正体を問おうとして……取り合われなかった。
だけど、なんとなく正体は分かっていたんです。
そして今、確信しました。

……あなたは、

「……はい。私で良ければ、あなた達の力になります。私を、一緒に連れて行って下さい」

あなたは……指環の勇者になれなかった、私。
スレイブ様と再開出来なかったのか。あの夜、僅かな勇気が出せなかったのか。
何かの理由で指環を手に入れられなくて、執行官を続けた、そんな未来の私。

闇とは……負の感情の象徴、そして理解出来ず、未知なるもの。
つまり……未来もまた、闇の属性の範疇。
だから私だけが感じ取れる。

「あの……だけど、少しだけお時間を下さいね。
 父に手紙を出さなくてはなりませんから。
 それに……皆さんが買ってきてくれたお食事も、ちゃんと食べておきたいですし」

……背後の気配が消えていく。

……大丈夫です。私は、あなたには決してならない。
あなたが生まれてくる未来は、もうどこにもない。
私はちゃんと、指環の勇者になりますから。




「……そう言えば、光の指環は何故、魔女を生み出すモノになってしまったんでしょうか。
 元は、かつて指環の勇者と共に世界を救った指環のはずなのに……」
0010 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/25(木) 19:11:47.87ID:dYA3/ncH
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――え?どこ見てるのかって?」

「そんなの決まってるでしょ?ジャンさんと、ティターニアさんだよ。
 あとフィリアちゃんと、えーとなんかカッコいい人と、お人形さんみたいな子」

「うん。今ね、槍を持った強そうな人と戦ってるよ。でもジャンさんの方がもっと強そう」

「え?ああ、うん、見えてるよ。この子が見せてくれるの」

「あっ、今終わったみたい。やっぱりジャンさんの方が強かったよ。
 それにカッコいいね。普通にやっつけちゃえばよかったのに」

「……ううん、ホントは良くないんだよね。
 ああやって、無茶してでも、やらなきゃいけない事があるんだよね。
 ジャンさんだけじゃない。あの人達はみんな、それが出来る」

「すごいなぁ……私も、あんな風になりたいなぁ」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)
0011 ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/25(木) 19:13:44.78ID:dYA3/ncH
【第六話お疲れ様でした!隙あらば自分語りって感じになっちゃったけどとても楽しかったです。ありがとうございます。
 次の章も楽しみだなぁ……】
0014創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/25(木) 23:22:44.43ID:9gZFf/Gt
家で不労所得的に稼げる方法など 
参考までに、 
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。 
0015スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/27(土) 23:18:15.40ID:vFKg1gMj
>『これで終わりじゃよ。物語や伝承に語られるように、
 勇者たちは無事試練を抜け指環を手に入れました……めでたしめでたしというわけじゃ』

スレイブの問いに、老龍は悪びれもせずにそう答えた。
無駄に動揺させられたバツの悪さを抱えながらも彼は剣を納める。

>「まだめでたしとは言えねえな。指環の魔女――というかメアリの奴とエーテル教団をぶちのめしてからだ」
>『……ソルタレクへ行くのじゃな?今やあそこはエーテル教団の理想郷。
 今代の指環の魔女は随分と実力があるようじゃ』

「それは身に沁みて分かっている……次は遅れをとらない」

シェバトの宿屋での戦闘では、スレイブの最大の技を受けてなお黒曜のメアリを倒すこと叶わなかった。
単なる実力差と言えばそれまでであろうが、もっと根本的な部分で格の違いを感じたほどだ。
仮に指環の勇者5人が万全な状態で相対したとしても、攻撃が通用しないのではないかという、諦念めいた予感。
弱気を振り払うようにして、スレイブは己の頬を張った。

チェムノタ山頂の洞窟を後にした一行は、道中で一組の竜騎兵に遭遇した。
ブラックミスリルの竜騎鎧と戦斧は、ダーマ軍精鋭部隊のものだ。
思わず剣の柄に手を掛けるが、先方に交戦の意志はないようだった。

>「指環の勇者というのは君たちのことか?ラーサ通り総責任者の
 ガレドロ・アルマータより伝言を預かっている。」

読み上げられた書簡の内容は、闇の指環奪還に伴う本件の沙汰についてだった。
魔王は王宮へと戻り、エーテル教団を撃滅すべくハイランド首府ソルタレクへの進撃を決定した。
そして、貴族院の出した命令を勅令を以て撤回したという――

>「ということは……オーカゼ村の者達も無罪ということだな!」

「そうか……これが今日一番の朗報だな」

無邪気に喜ぶティターニアの横で、スレイブもまた安堵の溜息を吐いた。
エーテル教団の策謀に巻き込まれただけの、無実の村民たちが磔刑に処されることはない。
チェムノタ山で血みどろの死闘を演じた甲斐が、ようやくあったと言えるだろう。

>「村に戻って晩飯だ!洗脳も溶けてるだろうし、村のみんなと宴会でもしようぜ!」

「こんなこともあろうかとキアスムスで良い酒を仕入れておいたんだ。
 ジャン、あんたのご両親は飲めるクチか?30年モノの妖果酒だ、祝い事には最適だろう」

既に歓待を受けるモードに突入している呑気な男二人の後ろでティターニアとシノノメが何か話している。
0016スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/27(土) 23:18:42.80ID:vFKg1gMj
>「シノノメ殿――しっかりいい物を食べて英気を養っておくのだ。
  出発したら早速闇の指輪の力を使っての移動中の隠密をお願いすることになる。
>「ようこそ――指輪の勇者一行へ」

「あー……ティターニア、水を差すようだが、俺と違って彼女には定職が……」

ほとんど成り行きでここまで同行させてしまったが、本来シノノメはキアスムスの執行官だ。
ジュリアンの差配で王宮を離れて自由に動けるスレイブとは違い、他国までおいそれと出られない身分である。
シノノメの力は正直惜しいが、ダーマと小康状態にあるハイランドへ連れ回すわけには行くまい。

>「……はい。私で良ければ、あなた達の力になります。私を、一緒に連れて行って下さい」

しかし、シノノメは何かを確信したかのようにティターニアの申し出を受けた。

「良かったのか?……その、お父上の事は」

スレイブの濁した問いに、シノノメは動じることなく答える。

>「あの……だけど、少しだけお時間を下さいね。父に手紙を出さなくてはなりませんから。
 それに……皆さんが買ってきてくれたお食事も、ちゃんと食べておきたいですし」

闇の指環を巡るこの旅路で、確かに彼女は道を見つけ、進むことを選んだのだ。
ならばスレイブがすべきことは、その前途を祝福し、多難を除くことであろう。

「そうだ、キアスムスで貴女に渡してなかったものがあるんだ」

オーカゼ村の宴会の席で、スレイブはそう切り出して自身の旅装をまさぐった。
出てきたのは封を切っていない瓶。中には調味液と、大ぶりの眼球が二つ浮いている。
――『飛び目玉の丸ごと煮』。『目玉亭』で購入した二瓶のうちの残りだ。

「貴女に買い出しを頼まれてこいつを買ってきたは良いが、微毒があることだし口に合うかわからなくてな。
 昨晩俺たちで毒見と味見は済ませておいたが……『仲間』になるのなら、もうそんな他人行儀は必要ないだろう」

トランキルの屋敷に泊めてもらった晩、スレイブ達は今後の方針を固めるために早々に自室へと辞した。
馬車一台ほどもある食べ物の山と、数世紀に一度の冒険譚を引っ提げて訪れたのに。
シノノメは、一人で食卓に座っていたのだ。

「……一緒に食べよう。同じ鍋を囲んで、これまでの冒険を肴にしながら」

酔っ払ったオーク達の歓声に包まれて、ダーマの夜は更けていく。

――――――・・・・・・
0017スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/01/27(土) 23:19:15.68ID:vFKg1gMj
<アスガルド冒険者ギルド:練兵場>

ユグドラシアのお膝元として多様な文化と技術を受け入れているアスガルドには、国内でも有数の規模の冒険者ギルドがある。
ティターニアの厚意によってソルタレク攻略まで一週間の猶予を貰ったスレイブは、暫しの余暇としてギルドを訪れていた。
併設された練兵場の一角で、スレイブを囲むように人だかりが出来ている。
彼らに共通するのはギルド付きの冒険者であることと、得物として剣を得意とする剣士たちであることだ。

衆人環視に若干の居心地の悪さを感じながら、スレイブは剣を抜き放った。
切っ先を向けるのは、5歩ほど離れた位置にある鍛錬用の木人だ。
彼が踏み込みと共に剣を一閃、ニ閃すると、木人の表面に取り付けた金属製のプレートだけが弾け飛んだ。
袈裟斬りに深く切り込んだにも関わらず、木人本体には傷一つ付いていない。

「……ダーマの軍式剣術が一つ、『鎧落とし』。強固な甲殻を持つ竜種の外鱗を削ぎ落とす技だ。
 竜の分厚い肉質は剣の威力を吸収してしまう。だからこうして手首の返しを使い、鱗だけを的確に斬撃して斬り離すわけだな」

「おおー……」

スレイブの業前を眺めていた剣士たちが誰ともなく感嘆を漏らし、まばらな拍手が起きる。

「やっぱダーマの剣ってこっちの対人剣術とは全然違うなぁ。仮想敵からして別モノだ」

「ダーマの剣術を教えるのは良いが、参考になるのか?」

「まー八割がた興味本位だけどよ。こんな機会なかなかないし勉強させてもらうぜ」

ユグドラシアに着いた途端、スレイブはギルドの剣士達に引きずられるようにして練兵場へ連れてこられた。
現在は交戦状態にないとはいえ、元々ダーマとハイランドは敵対関係にあった国同士だ。
すわ、敵国の軍人を袋叩きに来たか――そう身構えたスレイブに、剣士たちは木人を見せて頭を下げたのだ。
ダーマの剣を教えて欲しいと。

「一週間後にはソルタレクへの進軍だ。それまでに何がしかモノにしてぇもんだがな」

「術理の単純なものから順に教えていこう。あんた達の既存剣術から応用できるものがいくつかある」

「気が利くねぇ」

ソルタレクへの侵攻開始まで一週間、正直言って手持ち無沙汰だったスレイブは言葉とは裏腹に乗り気であった。
この機会にハイランドの剣術を習得するのも良い。『アスガルド流剣術』という魔法剣の開祖がユグドラシアにはいたはずだ。
そして――

「それより、約束を忘れるなよ」

「わーかってるって!ちゃんと後でメシ奢るからよ!ギルド出たすぐのところに美味い屋台があんだよ」

スレイブはアスガルドの食文化に強烈に興味を牽かれていた。
ダーマから殆ど出たことのない彼にとって、アスガルドの玉石混交な食事は新鮮な驚きに満ちている。
剣の講義の対価として、冒険者達から地元のグルメの提供を受ける約束を取り付けていた。
0018スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/01/27(土) 23:19:33.75ID:vFKg1gMj
「しかし頼んどいてなんだけど、軍式剣術を他国の剣士にホイホイ教えちまって良いのか?利敵行為になるんじゃねえの」

「問題ない。今教えているのはあくまでダーマ剣術の入り口でしかないからな。
 ……ダーマの剣は『化外の剣』、本来は魔族が用いる剣術だ。術理の深奥は、人間に再現できるものじゃない」

「あー……連中、身体の構造からして俺たちとは別モノだもんなぁ。ん?じゃあなんでお前さんはダーマの剣術使えてんの?」

「沢山練習したからな」

「そういう問題かぁ……?」

"鎧落とし"の動きを真似ていた剣士は、休憩とばかりに一息ついた。

「でもまぁ、あながち利敵行為ってわけでもないのかもな」

首を傾げるスレイブに、剣士は歯を見せて笑った。

「今度の作戦は表向きにはハイランドへの侵攻だけど、実質的にはダーマとユグドラシアの共同作戦だ。
 共通の敵なんて安易なきっかけだけどさ、これを期に両国の関係がうまくいったなら、俺たちは敵同士じゃなくなる。
 晴れてこの場は同盟国の技術提携ってことになるわけだ」

「……そんなにトントン拍子にうまくいくとは思えないが」

剣士の言葉に、スレイブは目を伏せる。

「うまくいくと良いな」

本心からそう呟いた。

【アスガルド逗留中。冒険者ギルドの練兵場で死亡フラグを立て合う】
【六章完走お疲れ様でした!まさに『旅』って感じのシナリオで楽しかったです!次章もよろしくお願いします!】
0019創る名無しに見る名無し
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2018/01/28(日) 23:53:45.51ID:O/f/OjB9
ごめん、ふらっとこの板来て初代スレをざっと見て思ったんだけど
このスレってもしかして梅津大輔…じゃなくて脱税オーク関係?
元ネタdisとかぼっち拗らせ感を含む嫌味っぽさがすごくそれっぽいんだけど
ばれると困るからなろうとかSS速報じゃなくて5chのマイナー板でこそこそやってるの?

ていうか今度は指輪物語に因縁をつけつつの指輪物語+グループSNE系かよみたいな呆れが
わかったわかった魔女はカーラで邪神復活阻止系なんだろと
0020創る名無しに見る名無し
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2018/01/28(日) 23:55:10.10ID:O/f/OjB9
濡れ衣だったらごめんね?
それじゃ
0021創る名無しに見る名無し
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2018/01/29(月) 12:30:31.55ID:qoRDVc5W
>>20
濡れ衣も糞も全く無関係です
中学時代あたりまで戻ってオリジナリティについて勉強してください
てか事情も知らずに口開けるなや蛆虫
0022創る名無しに見る名無し
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2018/01/29(月) 13:09:46.96ID:CJ5XBCg0
まあここのメンバーは10分あれば地図、30分あれば世界観、1時間あれば伏線含めたストーリーぐらいは作れるからな

それできるのが水野良ぐらいだと思い込んでるんだろ
0023ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/01/31(水) 16:50:44.97ID:uS6pkaOI
ジャンたちがオーカゼ村に戻ってみれば、既に村人たちが自らの仕事に励んでいた。
ただ一つ違ったのは、白黒のローブを着た教団の信者たちが村の広場に集められ、
手足を縛られ猿轡を口に嵌められていたことだ。

キアスムスから派遣された衛兵たちが信者たちを取り囲み、指揮官らしき羽飾りを
兜に付けた衛兵が厳しい口調で尋問を行っている。

「村人をどうやって操っていた?方法を詳細に答えろ。
 薬ならば製法、儀式魔術や呪いの類なら触媒と魔法陣の手順もだ」

「貴様らになぞ話すものか!エーテル教団万歳!メアリ様を称えよ!」

猿轡を一人だけ外された男は指揮官にそう怒鳴ると、後は何も語らず黙るばかりだった。
やがてうんざりしたように首を振った指揮官は、村長の家に入って何事か村長と話すと
オーク族の若者数名を引き連れて戻ってきた。

「暴力は好きではないんだがな……だが被害者の頼みとあっては仕方あるまい。
 我々は一旦キアスムスに戻る。彼らは好きにするといい」

日々の狩りと農作業、そして村人どうしの拳闘で鍛えられた彼らの肉体は筋骨隆々と呼ぶにふさわしい。
そんな彼らに信者たちは首を掴まれて引きずられ、村はずれの広場まで連れていかれた。

「爺ちゃん久しぶり!あの野郎どもどうなるんだ?」

「おおジャン!さっきはすまなかったのう、まさか村人が皆操られてしまうとは思わなんだ。
 日々の修練が足りんかったわい」

そんな光景に偶然通りがかった一行のうち、ジャンが村長に挨拶する。
村長もまたオーク族であり、緑がかった肌色に若者より衰えてはいるが
六つに割れた腹筋を見せつけるように腹の空いた毛皮のコートを着ていた。

「あやつらはしきたりに則り、拳闘裁判にて決める。
 勝てば無罪、負ければ大平原に手足を縛り放置じゃ」

「いつも通りか、変わってねえな……」

「それがオークというものじゃよ。さて、よき友人ができたようじゃが……
 これは宴をせねばなるまいな。ジャン、お前も手伝いなさい」

そう言って村長とジャンは村人に声をかけて集め、その夜は盛大な宴会となった。
宴会の中心ではアクアの指環を使った宴会芸が大層盛り上がり、
最後は拳闘でジャンが五人抜きしたところでお開きとなった。

そして次の日の朝、旅の準備を済ませたジャンが村長に一つの疑問を聞いた。

「そういえば今思い出したんだけどよ、父ちゃん母ちゃんはまだ出稼ぎか?
 バルデッドおじさんもいないみたいだけどよ……」

「……ダーマはハイランドに宣戦布告したんじゃよ。
 傭兵は皆かき集められ、今頃どこぞの港町じゃろうな」

「そっか……だったらあっちで会えるかもしれねえな。
 ありがとよ、爺ちゃん」

両親に久しぶりに会えるかもしれないという希望は叶わなかったが、
闇の指環を手に入れ、新たな仲間も増えた。
これでよいとジャンは満足し、仲間たちと共に飛空艇へと向かった。
0024ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/01/31(水) 16:51:29.79ID:uS6pkaOI
――ソルタレク冒険者ギルドの襲撃から立ち直り、アスガルドは以前よりも活気に溢れた街となっていた。
崩された城壁はより頑丈に、壊された街並みはより華やかに。
怪しげな宗教団体から自分たちの国を解放するとあってか、街を歩く冒険者や傭兵、兵士たちの顔はやる気に満ちている。

仲間たちがそれぞれ自らのやるべきことをやっている中、一週間という時間でジャンは自分の本業に立ち返っていた。

「オラァ!アスガルド冒険者ギルドの者だ!
 てめえらが塩に白石灰を混ぜて量を増やしたのは分かってんだぞ!」

「既に逮捕状も発行されている!大人しく全員地面に伏せろ!」

つまり、冒険者として依頼をこなしていた。
この日は塩の業者が混ぜ物をしていたとして現場に衛兵と共に強行突入。
雇われていたならず者たちを殴り飛ばし無事全員取り押さえることに成功した。

(父ちゃん母ちゃんがダーマ軍にいるなら……たぶん最前線に出るはずだ。
 今頃はもう着いてる頃かな……)

一仕事終え、城壁の向こうに沈む夕日を眺めながらジャンは両親のことを思っていた。


《ハイランド連邦共和国:カルネージ諸島》

最もダーマに近く、対ダーマ魔法王国の最前線として要塞化が進んでいたここカルネージ諸島は、
皮肉にも今はダーマ軍の一大補給拠点となっていた。

カルネージ諸島の司令塔であるシュトローム要塞に居座っていたエーテル教団を
ダーマ海軍の傭兵部隊が夜間奇襲によって制圧、本来の機能を取り戻したためだ。

これによってダーマはソルタレクへの足がかりを手に入れ、
解放されたシュトローム要塞の司令官はダーマへの協力を約束した。

そしてその傭兵部隊の中に、白銀の錫杖を持った人間族の女性と
黄金の斧を持ったオーク族の巨漢がいた。

「ソルタレクまで行けばジャンに会えるかねえ。
 指環の勇者なんてみんなに崇められちゃって、調子に乗らなきゃいいけど。
 あの子は調子に乗るとすぐに転んじゃうから」

「……ジャンならば大丈夫だろう。あの子はもう立派な戦士だ」

二人は要塞の見張り台に立ち、夕日に照らされながらジャンのことを話していた。
まだ小さかったとき、成長して見張り台に立つようになったとき、村を飛び出したとき…

「きっとソルタレクで会えるだろう。あの子は私たちの息子なのだから」

オーク族の巨漢は会話の最後にそう呟き、ただ沈みゆく夕日を眺めていた。


【六章お疲れ様でした!シナリオ主導するのは初めてでしたが面白かったです!
 展開を考えるのは大変でしたが……】
0025ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/01(木) 23:50:25.62ID:XFQBVN7L
スレイブがギルドで剣士達の指導をする一方、ティターニアはジュリアンと共に、ユグドラシアで作戦に参加する術士達の指導にあたっていた。

「まさか生ける伝説の魔術師の白魔卿様にお会いできるなんて……!」「本物!?」「すげー!」

――実際にはジュリアンのサイン会のような状態になっており、ティターニアはその様子をニヤニヤしながら見ていた。
まさか一生のうちで実際にお目にかかれるとは思うはずもない伝説級魔術師が目の前にいるのだから、無理もない。

「おい、何で俺が見世物のような扱いを受けているのだ。そこのエルフ、見てないでこいつ等を追っ払え!」

「良いではないか良いではないか、人気者税ということよ……ん?」

そんな事態の中珍しく自分の方に寄って来る者がいたので目を向けてみると――

「導師様、お久しぶりです」

そこには、テッラ洞窟での戦いの後ユグドラシアに引き取られた獣人の精霊術士の姉妹の姿があった。

「シュマリ殿にホロカ殿! そなたらも作戦に参加するのか……!?」

「ああ、タダで居候させてもらってるからにはたまには恩返ししねーとな」

「そうか、押さない走らない死なない――それさえ守れば大丈夫だ」

「お、おう」

実際、集団戦において後方の魔術士部隊が走って逃げ惑う事態になったらそれはもう負けているのである。
そして今回の戦いはもちろん勝つ前提なので、そんな事態にはならないのだ、多分。

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0026ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/02(金) 00:26:53.64ID:XqqZ2PZs
そうして、出撃の日がやってきた。
作戦は簡単に言うと、地上部隊が街を取り囲む武装集団と戦闘開始、
その隙に指輪の勇者達が闇の指輪の力で隠密した飛空艇で内部に侵入というものである。

「竜達よ、そろそろ知っていることを全て教えてもらおうか。この期に及んで勿体ぶるのは禁止だ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、と昔から言うからな」

いよいよ指輪の魔女との直接対決に向かうに先立って、指輪の勇者達と、具現化したそれぞれの指輪の竜達が作戦会議を行う。

>「……そう言えば、光の指環は何故、魔女を生み出すモノになってしまったんでしょうか。
 元は、かつて指環の勇者と共に世界を救った指環のはずなのに……」

以前シノノメが口にしたこの疑問に、実体化したテッラが答える。

「ニーズヘグが光と闇の竜は我々四星竜とは性質を異にすると言っていたのを覚えていますか?
光の竜ルクスもテネブラエと同じく無数の影を持つ存在……。
今は恐るべき魔女と化した件の光の指輪も、もとは無数の影の中の一つだった。
その名はエルピス――」

その意味は、希望、そして予兆――未来を見通す予知の力をも意味する。
闇が象徴する絶望や未知なるものに対して、どちらも典型的な光の属性だ。

「そうか……予知の力を持つばっかりに絶望の未来を見てしまい、虚無に呑まれた――そうなのか?」

「ええ、おそらくは――
もしかしたら、全てを虚無で呑み込むしかこの世界を救う道はないと、分かってしまったのかもしれません」

「なに、恐れることはない。奴に対抗する切り札はすでに手に入れておるからな。
闇の司る属性の一つは未知――つまり言い換えれば無限の可能性だ」

そう言ってシノノメに頼りにしておるぞ、といった感じで目くばせするティターニアであった。

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0027ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/02(金) 00:42:21.78ID:XqqZ2PZs
皆六章の締め乙だ! シナリオを主導してくれたジャン殿は特にお疲れ様! 両親活躍の予感にwktk
一瞬戦闘開始までいってしまってもいいかなとも思って文末にレス途中の区切り的なのが入ってるんだが
シノノメ殿の時間軸がまだ前章の最後&今回思いがけず早く回ったので募集期間延長も兼ねて今回はここで止めとこうかな
もし何かネタがあれば作戦会議シーンで出し合いつつ気が向いたら移動シーンとかでじわじわ進める感じで
0029シノノメ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/06(火) 00:12:09.39ID:IrqRNSep
アスガルドに着いてから三日が経ちました。
私は今日も……街を当て所なく歩いていました。
様々な種族の、大勢の冒険者達が行き交うここ……玉石通りでしたっけ。
ここには色んな物が売られています。
数多の冒険者と共に集い、露店に並んだ奇妙な品々。
冒険者の為の武具やマジックアイテム……それに、見た事のない料理です。
丸焼きにしたワイバーンの赤子に、殻を向いて茹でた甲虫、それに……アレは、オオネズミの串焼き?

「おっ、どしたにゃ姉ちゃん。興味あるにゃ?
 ウチのオオネズミはこの近くの洞窟で取れた、虫だけ食べて育った奴にゃ。
 そんじょそこらのオオネズミ肉とは味が違うにゃ!」

店を広げるワーキャットが私の視線に気付いたようで、声をかけてくる。
ネズミ……ですか……流石にちょっと……
でもスレイブ様が買ってきて下さった目玉も美味しかったですし……。

「……おいくらですか?」

「おっ、見た目より勇気があるにゃ。その勇気に免じて銅貨3枚、どうにゃ?」

私は代金を支払って、串焼きを一本受け取りました。
……何故わざわざ露店の柱に解体前のオオネズミを吊るしてあるのでしょう。
アピールのつもりなのでしょうか……かえって人が寄り付かなくなるような。

そんな事を考えつつ、お肉を一口齧る。
……意外と、美味しい。
臭み消しがしっかりされているのか、気になるような獣臭さはありませんし、
味はまろやかだけど豊かな肉の旨味があって……虫を主食に育ったお肉、侮れません。
そう言えば餌が違うとか言っていましたけど、生息地によって味が違うんでしょうか。
……いえ、別に気になっている訳ではないんですよ。

それにしても……私がこんな風に通りを歩いて、食べ歩きが出来るなんて。
こんな日が来るとは思っていませんでした。
アスガルド……とても懐の深い街です。
戦いが始まるまでの短い時間では、この街の全てを見て回る事は出来ません。
それが残念でならない。

……だからちゃんと帰ってこないといけません。
またこの街を見て回ろうと思える気持ちのままで、帰ってこないと。
0030シノノメ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/06(火) 00:12:48.84ID:IrqRNSep
 
 
 
そして出撃の日がやってきました。
私達は飛空艇を使って直接ソルタレクへ侵入するといった算段のようです。
街の中は……どうなっているのでしょうか。
虚無に呑まれた市民との戦いになるとしたら、少しやりにくいでしょうね……。

甲板にはジャン様達と、指環から姿を現した竜達がいます。
無論、人の姿を取ってはいますが。

>「竜達よ、そろそろ知っていることを全て教えてもらおうか。この期に及んで勿体ぶるのは禁止だ。
  敵を知り己を知れば百戦危うからず、と昔から言うからな」

ティターニア様が竜に問いかける。

>「ニーズヘグが光と闇の竜は我々四星竜とは性質を異にすると言っていたのを覚えていますか?
  光の竜ルクスもテネブラエと同じく無数の影を持つ存在……。
  今は恐るべき魔女と化した件の光の指輪も、もとは無数の影の中の一つだった。
  その名はエルピス――」

口を開いたのは……確か、大地の指環に宿る竜、テッラ……でしたか。

>「そうか……予知の力を持つばっかりに絶望の未来を見てしまい、虚無に呑まれた――そうなのか?」
>「ええ、おそらくは――
  もしかしたら、全てを虚無で呑み込むしかこの世界を救う道はないと、分かってしまったのかもしれません」

「……何もかもが虚無に呑まれれれば、もう未来は見なくて済む。
 何の未来も残らないから……それだけの事かもしれませんよ」

エルピスがこの世の救いを求めているのか。
それとも自分が救われる事を求めているのか。
それは、戦う相手の行動原理という意味では、どうでもいいくらい些細な事。
だけど、読み違えれば無用な情けを生むという意味では、とても重要な事。

>「なに、恐れることはない。奴に対抗する切り札はすでに手に入れておるからな。
  闇の司る属性の一つは未知――つまり言い換えれば無限の可能性だ」

「もっと言い換えればどんなに悪い事でも起こるときゃ起こるって事だけどな」

「……アルマクリス?テネブラエはどうしたんですか?
 わざわざあなたが出てこなくても、ニーズヘグが出てくれば……」

「あー、あの爺な。こないだの試練で頑張りすぎて腰やっちまったから出てこれねえんだとよ。
 んなわきゃねーだろ!行くのだりいって素直に言えやクソ爺!
 なんであっちもこっちもドラゴン様が並んでる中に俺が突っ立ってなきゃいけねーんだよ!気まずいわ!」

「……もう少しマシな言い訳は思いつかなかったんでしょうか」

と、ともあれ……侵入から対光竜まで、私は責任重大です。
ですが……正直なところ、不安はあまり感じません。
そんなものを自分の中で膨らませたところで物事はいい方向に転びませんから。
それに……
0031 ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/06(火) 00:13:58.20ID:IrqRNSep
「それにしても、闇の指環と同化した影響ですか?また悪ぶるのが上手くなったみたいですね」

「あん?」

「最悪の事態になんて、させる気ないんでしょう?」

「……うるせえよ」

肌が痺れるような、そんな錯覚すら感じる気迫……。
幼馴染であり、愛する人の……直接的ではないにせよ仇であるメアリに対して、
彼が今どのような思いを抱いているのかは分かりません。
ですが……頼りになるのは間違いないはずです。
彼も……姿は見せないけど、指環の中で同じくらいの気迫を滾らせている、もう一人も。

「……離陸の準備が出来たみたいですね。いよいよ……」

船に魔力が巡り、駆動音が響き出す。
……その音に紛れて、背後で何か音がしました。
足音、何者かがこの甲板に降り立つ音。
私は右手に長剣を作り出すと同時、咄嗟に振り返り……

「……あれ?びっくりさせちゃった?」

そこにいたのは……この子は、確かラテちゃん?
飛空艇の下から、ここまで、登ってきた……?
どうやって……まさか装甲の継ぎ目に指をかけて?気配も感じさせず?
記憶を失っていて、戦えないと聞いていましたが……。

「ジャンさん、ティターニアさん、わたしも一緒に連れていって。
 お願い……わたしも、みんなの力になりたい。
 みんなと一緒に戦って、みんなみたいにカッコよくなりたいの」

……記憶が回復した、訳ではなさそうですね。お二人の反応を見る限りでは。
少なくとも一つ言える事は……

「……今からこの子を説得して、降ろしている時間はなさそうですね」

既に進軍を始めているであろう地上部隊との足並みを乱す訳にはいきません。
私のその言葉を聞くと、ラテちゃんは満足げに鼻息を鳴らし、胸を張る。

「ねっ、言ったでしょ?ギリギリで飛び乗れば、きっと連れてってもらえるって」

そして微笑みを浮かべながら……姿の見えない何者かに向けて、そう言いました。
0032 ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/06(火) 00:14:34.61ID:IrqRNSep
 
 
 
到着までの間、私達は船内で装備の最終確認などをしていました。

「回復した、と見るべきなのでしょうか」

その中で私は小さく呟く。
言葉にするべきなのか分からないけど……皆さんならそうそう心を乱す事はないはず。
だったら、不明な事は出来る限り減らしておいた方がいい。私はそう考えたのです。

……執行官として数多の種族の肉体を切り刻み、死体を検めてきたトランキル家は、
処刑だけではなく医療の技術も培っていました。

「……記憶喪失は、原因が常に肉体にある訳ではありませんが、病は病。
 その症例は……僅かですが、私にも学んだ覚えがあります。
 記憶喪失になった者が回復した例は、更に僅かですが、存在しました」

私はかつて学んだ事を、目を閉じ記憶を辿りながら言葉に紡ぐ。

「肉体的な原因であるならば、時間の経過や回復魔法によって記憶が回復する事はあったそうです。
 精神に原因があるのなら、時間が解決してくれるという事も……」

だけど、あの子の場合はそのどちらでもなさそうです。
だとしたら……

「あるいは……また新しく記憶を積み上げて、一つの人格を得る。
 それも……ヒトとして社会に復帰出来るという意味では、回復、と言えます……」

……恐らくは、彼女の変容は……この例に含まれるでしょう。
それがジャン様とティターニア様にとって喜ばしい事なのかは……聞かずにおきましょう。
0033 ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/06(火) 00:18:01.02ID:IrqRNSep
名前:ラテ・ハムステル
年齢:18
性別:女
身長:153cm
体重:57kg
スリーサイズ:わりと健康的
種族:半人半獣
職業:なし

性格:「カッコいい」に憧れる怖いもの知らず。

能力:かつてのスキルと半人半獣の身体能力……の名残り、土属性のコントロール。

武器:手足、土属性の力で形成する武器、エルダーミミックの死骸。

防具:手足、土属性の力で形成する防具。

所持品:古い日記帳の数々、おやつ、エルダーミミックの死骸

容姿の特徴・風貌:赤毛のポニーテール、真っ赤な瞳、子供っぽい容姿。

簡単なキャラ解説:
はじめまして!私はラテ・ハムステルって名前みたいです!
みたい、って言うのは……私、よく分かんないけど一回記憶を全部失くしちゃったみたいなんです。
だからずっと子供みたいに、ジャンさんティターニアさんについていくばかりだったんだけど、
二人の旅を、二人が出会う人達を見て。そこで交わされる言葉を聞いて。
そうしている内に、なんだか最近、色んな事を考えられるようになってきました!

私の中にはふぇんら……あれ?ふぇんり、ふぇんりら……ワンちゃん!
ワンちゃんが住んでるんですけど、そのワンちゃん曰く

「一度全てが埋もれ、そこに新たに積み上げられたのがお前」とか、
「失われたのは中身だけ。肉体は、のーずいは以前と変わらない。ならば……こういう事もあるか」とか、

つまり……訳分かんないよねー!もっと簡単に言ってくれればいーのに!

まっ、いーや。ワンちゃんが魔法で見せてくれてたけど、
しののめちゃん?もあの山頂で言ってたしね。分からなくてもいい事もあるって。
大事なのは……これで私も、ジャンさんティターニアさん、それにみんなの力になれるって事!
そして私も……みんなみたいに、カッコよくなれるかも、って事。

ところで……この沢山の日記、これは記憶を無くしちゃう前の私が書いてたものみたい。
読んでみると、これがけっこー面白いの。
……あれ?これって書いた覚えはないけど自画自賛になっちゃうのかな?うわ、はずかしー!
まっ、一番新しいのだけは、ずっと前にジャンさんが読んじゃ駄目って言ってたから読んでないんだけどね。

で、読んでみて分かった事は……私はどうやら、カッコいい、が好きだったみたい。
それはもう、お金にならなくても、自分が危なくなっても、私はカッコいいを大事にしてた。
そんな前の私はきっと、とってもカッコよかったに違いない。
だから……今の私が、前の私みたいに、前の私よりももっと、カッコよくなれば。
ジャンさんもティターニアさんも、喜んでくれるよね。



【よろしくおねがいします】
0035創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/02/06(火) 18:06:36.44ID:lqFQ4TMs
のーずいイカれちゃってるやつが

なにをいっても イミがない!

ラテは じえんをした!
0037スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/02/09(金) 01:25:32.89ID:f1CzTz3E
待機時間として与えられた一週間は矢のように過ぎ去り、ソルタレク突入の日が到来した。
地上部隊とは別働して空路でのソルタレク侵入を目指す指環の勇者一行は、飛空艇の甲板に集合していた。

>「竜達よ、そろそろ知っていることを全て教えてもらおうか。この期に及んで勿体ぶるのは禁止だ。
  敵を知り己を知れば百戦危うからず、と昔から言うからな」

ティターニアの計らいで設けられたのは、指環に宿る竜たちを交えての作戦最終確認の場だ。
力の大部分を未だ教団に奪われたままのウェントゥスは、幻体の維持さえも疲労するのか指環に篭ったままだった。

>「ニーズヘグが光と闇の竜は我々四星竜とは性質を異にすると言っていたのを覚えていますか?
 光の竜ルクスもテネブラエと同じく無数の影を持つ存在……。
 今は恐るべき魔女と化した件の光の指輪も、もとは無数の影の中の一つだった。その名はエルピス――」

「闇の指環同様、光の指環もまた一枚岩ではないということか……」

テネブラエの代理として出席させられ悪態を付いているアルマクリスを見ながら、スレイブは益体もない感想を漏らした。
ただの人間から紆余曲折を経て指環の化身へと成った男は、なんのかんのと言いながらも指環の勇者に協力してくれている。
しかし、アルマクリスがここに居るということは、黒犬騎士アドルフもまた指環の中に収まっているということだろうか。

>「そうか……予知の力を持つばっかりに絶望の未来を見てしまい、虚無に呑まれた――そうなのか?」
>「ええ、おそらくは――
  もしかしたら、全てを虚無で呑み込むしかこの世界を救う道はないと、分かってしまったのかもしれません」

『エルピスは……光竜の中で最も世界の在り方について案じておった。やり方に問題はあったがの。
 "指環の魔女"の創造も、世界を好き勝手に分割して為政者の真似事をする、ヒト共への牽制みたいなものじゃ』

スレイブの手の中にある風の指環が震え、ウェントゥスの声だけが響いた。

『今の世にあって、祖龍や儂ら七竜の影響力はあんまり大きくはない。
 ダーマは相変わらず魔族が支配しておるし、東のヴィルトリア……今の帝国じゃな、あっちはヒトの威勢が強い。
 儂らは祖龍の封印に力の殆どを使ってしもうたというのもあるが、まぁなんちゅうか、時代が変わったんじゃろ』

いつにもなく落ち着いた口調で、ウェントゥスは語る。

『この世界は儂らが産み落とした愛子のようなもんじゃが、いつまでも過保護にあれこれ指図するもんでもない。
 世界のことはそこに生きる命たちが決定し、営んでいくもの。
 それがこの数千年で儂らの出した結論じゃったが、エルビスはそれに納得しておらんかった。
 奴はヒト任せにして眠りについた儂らを腑抜けと断じ、単独で世界に対して手を加え続けておった』

「……それが、『指環の魔女』ということか」
0038スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/02/09(金) 01:26:23.71ID:f1CzTz3E
『世界の営みに積極的に絡んで行こうっちゅうエルビスの姿勢が間違っていたとは儂も思わんよ。
 現に、こうして無軌道にヒトの跋扈を赦したせいで、祖龍もマジギレして復活しかけとるわけじゃしな。
 ただ結局のところエルビスのやり方は、世界を虚無に呑み込んで生まれた直後の状態に戻すことに近い。
 世界が生まれて幾星霜、ここまで積み上げてきた命の営みの全てを無に帰するのと同じじゃ』

「エルビスは何故そんなことをしようとしている」

『テッラが言うたじゃろ、それしか世界を救う方法がないと。"絶望の未来"を避け得る唯一無二の方法。
 それは、マジギレした祖龍が世界を滅ぼす前に、好き勝手落書きされた世界を、まっさらにする。
 ……まぁ身も蓋もない言い方をすると、運営に失敗した世界を一度消してなかったことにするってことじゃ』

つまりは祖龍に対するご機嫌取りに過ぎん、とウェントゥスは吐き捨てた。
ヒトの営みはおろか、ヒトに任せて眠りについた指環の竜達そのものを否定するようなやり方。
苦々しい想いは、おそらくウェントゥス自身にもダーマを放置していた自覚があるからだろう。

『……喋り疲れた。儂もうちょい寝とるからあとで起こしとくれ』

「責任重大だな」

スレイブは目頭を揉んでそう零した。

「エルビスは、今の世界の状態が『失敗作』だと、そう断じている。
 俺たちは奴に相対し、ヒトが営んできたこの世界が間違いなどではなかったと、証明しなければならない」

証の立てかたなど今この場で論じたところで意味はあるまい。
敵は光の指環が『世界の改竄者』として生み出した指環の魔女。
世界を白紙に戻すという途方もない野望は……必ず止めなければならない。

・・・・・・――――――
0039スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/02/09(金) 01:26:57.31ID:f1CzTz3E
「現地の最終確認を行っていた斥候部隊から連絡があった。
 ソルタレク進撃の地上部隊が都市凱旋門へと集結し、交戦準備が完了したそうだ。
 カルネージ諸島のシュトローム要塞に詰めていたダーマ軍も既に出立している。
 ハイランドの地上部隊が凱旋門付近で戦闘を行い、ダーマ軍が横合いから包囲する手筈だ」

管制部隊から遠話で送られてきた暗号電文を翻訳して、スレイブは仲間たちに伝えた。
地上での交戦を陽動とし、隠密裏に飛空艇で空中からソルタレクへの侵入を果たす。
作戦の都合上、アスガルドから直接飛び立った飛空艇は、ソルタレクの防空警戒網ギリギリの空域に停留していた。

「ここから先は本当に後戻りは出来ない。改めて確認しておくが、本当に"その子"を連れていくのか?
 今からでも揚陸艇に乗せて地上部隊に保護してもらうことはできると思うが……」

スレイブが指摘したのは、ティターニアやジャンがラテと呼ぶ少女のことだ。
飛空艇の離陸の瞬間に地上から飛び乗ってきたらしき彼女に、スレイブはどう対応して良いかわからなかった。
『飛び立とうとする飛空艇に飛び乗る』という恐るべき所業を難なくこなした身体能力には目を見張るものがある。
しかし、その天真爛漫過ぎる言動は、いくつ命が散るとも知れない戦場に連れ込むには不安を否めない。

「厳しい言い方をするが、指環の魔女との決戦で子守りまでする余裕などないだろう。
 ティターニアやジャンがその子を庇って傷を負うことがあれば、それこそ本末転倒だ。
 その子とあんた達の双方が危機に陥るなら、俺はあんた達の方を優先するぞ。
 ……俺の"仲間"はあんた達だ。それだけは、憶えておいてくれ」

スレイブはラテの方を見ずにそう言った。
彼にとってはシェバトで初めて対面し、以降は飛空艇の中で留守番をしていた印象しかないが、
ティターニアやジャンにとってはかつての仲間であるらしい。
アスガルドとソルタレクの一度目の衝突の際に、敵の死を間近で見て心を砕かれてしまった少女。
彼女をソルタレクにつれていくことに、意味はあるのだろうか。

「じきに地上部隊の交戦が始まる。議論している時間はなさそうだな」

せめてもの抗議のように、スレイブは踵を返して飛空艇の窓から外を眺めた。

『……あっ、やばい。やばいやばいやばい』

不意にスレイブの指環からウェントスの幻体が飛び出し、焦った表情で窓に張り付いた。

『メアリの奴、シェバトから拉致ってきた儂の本体を出してきおった!』

「何だと」

飛空艇に備え付けの索敵用望遠鏡を覗けば、ソルタレクの上空に一匹の竜が顕現している。
その姿はシェバトの空に鎮座していた『風竜ウェントゥス』そのものだ。

「馬鹿な、ここはまだソルタレクの警戒空域の外のはず。気取られたのか!?」

『いや、敵意はこっちには向いとらん。儂の力じゃから儂に向けられたら一発で分かる。
 あれは……たぶん、表に集結しとるアスガルドの地上部隊を叩き潰すつもりじゃ』

シェバトという大都市を丸々一つ封鎖し得る竜の力があれば、地上を容易に蹂躙できるだろう。
この差配はメアリによるものか、あるいはソルタレクに押し込まれたエーテル教団の反撃か……

「マズいぞ……!侵攻部隊は対空迎撃の手段を殆ど持っていない。このままじゃ地上の戦線が瓦解する……!」

スレイブは仲間たちに振り向き言った。

「ティターニア、ジャン、シノノメ殿、行こう。シェバトで取り逃がしたウェントゥスを、撃墜する……!」


【ソルタレク上空にウェントゥスの本体が出現】
0040ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/02/11(日) 16:03:30.06ID:T4YnYbYT
後の世にはこう語られる。『指環の勇者たちは飛空艇にて、お互いに視線を交わし合うだけで意思を統一した』
だが、実際のところお互いの意見を口に出し、話し合わなければ作戦の立てようがない。

>「竜達よ、そろそろ知っていることを全て教えてもらおうか。この期に及んで勿体ぶるのは禁止だ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、と昔から言うからな」

>「ニーズヘグが光と闇の竜は我々四星竜とは性質を異にすると言っていたのを覚えていますか?
光の竜ルクスもテネブラエと同じく無数の影を持つ存在……。
今は恐るべき魔女と化した件の光の指輪も、もとは無数の影の中の一つだった。
その名はエルピス――」

ジャンの隣に座っているアクアが、それに付け加えるように口を開いた。

「世界を管理するのがボクたち四属性ならば、光と闇の属性は生物の管理だ。
 エーテルは……最後の手段でしかない。この世界に未来はないと分かった時のための」

>「なに、恐れることはない。奴に対抗する切り札はすでに手に入れておるからな。
闇の司る属性の一つは未知――つまり言い換えれば無限の可能性だ」

>「もっと言い換えればどんなに悪い事でも起こるときゃ起こるって事だけどな」

闇竜の代理としてか、アルマクリスが姿を現す。
トランキルとの掛け合いを見るに、やはり指環の適性はあったようだ。
突入作戦において重要な役割があるだけにジャンは気になっていたが、これならば問題ないとジャンは考えた。

>「エルビスは、今の世界の状態が『失敗作』だと、そう断じている。
 俺たちは奴に相対し、ヒトが営んできたこの世界が間違いなどではなかったと、証明しなければならない」

「数えきれないぐらいのヒトを自分一人で裁こうなんてとんだワガママ野郎だ。
 そういう奴は一発ぶん殴ってやらなきゃ自分のやらかしたことを理解できねえ」

「……ボクの言いたいことは大体ウェントゥスが言ってくれた。
 でもこれだけは言わせてほしい。――どうかエルビスを、止めてくれ」

今までの旅で出会ってきた様々なヒトがいた。
悪人も善人もいたが、だからこそ世界は動くのだ。誰か一人の基準でそれを止めていいものではない。
指環の勇者というより、この世界を旅する冒険者としてジャンは改めて覚悟を決めた。
0041ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/02/11(日) 16:04:10.13ID:T4YnYbYT
―――それからしばらくして、飛空艇はソルタレクの周辺空域へと近づいた。
雲の切れ間から見えるソルタレクは光竜が操っているのか、多種多様なワイバーンや
召喚魔術で呼び出されたのであろう異形の生物が上空を警戒するように飛び回っている。

「連中、ソルタレクを本気で守るつもりみてえだな。
 つまりあいつらには後がねえってことだ」

>「ここから先は本当に後戻りは出来ない。改めて確認しておくが、本当に"その子"を連れていくのか?
 今からでも揚陸艇に乗せて地上部隊に保護してもらうことはできると思うが……」

スレイブが気にしているのは、飛空艇が離陸する寸前に飛び乗ってきたラテのことだ。
最初は記憶が戻りでもしたのかと驚いたが、話を聞くうちにどうも様子がおかしいことにジャンは気づいた。
記憶は戻らず、だが力がある。空っぽになり、砕けた器を無理やり土で固めて埋めたようだとアクアは伝えてきた。

『壊れることはない……と思う。だけど、エルビスとの戦いには連れて行かない方がいいだろう。
 一度砕けた器はたやすく乗っ取られてしまうだろうから』

「連れていくぜ。アクアによりゃあ、指環ほどではないが強い地属性の力があるってんだ」

>「厳しい言い方をするが、指環の魔女との決戦で子守りまでする余裕などないだろう。
 ティターニアやジャンがその子を庇って傷を負うことがあれば、それこそ本末転倒だ。
 その子とあんた達の双方が危機に陥るなら、俺はあんた達の方を優先するぞ。
 ……俺の"仲間"はあんた達だ。それだけは、憶えておいてくれ」

「……飛空艇を守る奴は必要だろう。信者だらけの街をふわふわ飛んで何も飛んでこないわけがねえ。
 それに、ラテも仲間だ。俺たちが巻き込んじまったけどな」

これはお互いに譲れない問題である以上、話を続ける必要はなかった。
スレイブが振り向き、ジャンが武器の確認に戻った直後だ。

>『メアリの奴、シェバトから拉致ってきた儂の本体を出してきおった!』

「お前の本体、大活躍だなオイ……歴史に残る一場面ってやつだ」

飛空艇の窓から外を見れば、ソルタレクの真上に巨大な竜が翼を広げ、巨大な魔法陣を展開しつつあった。
この距離では飛空艇からの砲撃も無意味であり、詠唱が終わればアスガルドの地上部隊は壊滅するだろう。
0042ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/02/11(日) 16:04:27.32ID:T4YnYbYT
>「ティターニア、ジャン、シノノメ殿、行こう。シェバトで取り逃がしたウェントゥスを、撃墜する……!」

「ああ、とっとと仕留めなきゃ地上がまずいぜ!」

ジャンが応じ、甲板に飛び出て指環の力を発動しようとした瞬間だ。
一騎の赤い竜騎兵が飛空艇の横から飛び出し、やや乱暴に甲板に降り立った。

「その必要はありません!我らダーマ軍が……奴を止めます!」

すると、ウェントゥスの本体に動きがあった。
巨竜の眼が光ったかと思うと、なんと頭がよろめき、姿勢を崩したのだ。
当然魔法陣は消え去り、巨竜は苛立ちを示すように大きく咆哮した。

「指環の勇者殿は無駄な消耗を避けてソルタレクに向かい、教団の首魁を早急に討ち取ってほしいとのことです!それでは!」

レッドミスリルの鎧を煌かせ、竜騎兵はウェントゥスの本体へ向かう。
どうやらダーマ軍は竜騎兵部隊を相当数投入したらしく、明らかに眷属の数が減り、巨竜も詠唱ができないでいる。

「……まさかここまで助けてくれるとは思わなかったぜ。
 信用されてんな、俺たち」

「で、どうする?ティターニア。このままソルタレクに突っ込むか?それともあの本体ぶちのめして風の指環に力を戻すか?」


【ウェントゥスの本体&眷属&魔獣VSダーマ軍竜騎兵部隊】
0043光竜エルピス ◆aEexDLMSnE
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2018/02/12(月) 11:57:48.12ID:2BrQGMvZ
名前:「光竜」エルピス・プレースリー
年齢:20000万以上
性別:♂
身長:全長40m(細長飛行タイプ)
体重:170t程度
スリーサイズ:わりと良心的
種族:半龍半星
職業:光竜にしてスーパースター

性格:愉快痛快にしてサービス精神旺盛

能力:全光属性魔法

武器:全身とその存在そのものが武器である。

防具:光のうろこと強力な全身を纏うオーラ。

所持品:様々な古代語楽譜

容姿の特徴・風貌:ちょっとファンキーでロックなテカっている光龍

簡単なキャラ解説:
半分はドラゴンだが半分はスターである。
エーテル教団の影響でかなりダーク化している、龍族のスーパースター。
母親は星であるという言い伝えがある。
秘技は「エルピス・プレス」と「エルピス・ブレス」という強力なもの。
外見に反して、かなりフランクな性格。

【敵役として参加します。よろしくお願いします。】
0044ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/12(月) 17:49:51.12ID:tBRv8jCg
今にも飛び立とうとしている飛空艇の甲板に、何者かが降り立った。

>「……あれ?びっくりさせちゃった?」

「ラテ殿!? どうやって……!? そなたもしや記憶が」

ラテは依然として戦える状態ではないはずだったので、ユグドラシアに保護してもらっておく予定だったのだが――
まさかここまで身一つでよじ登ってきたとでもいうのか。

>「ジャンさん、ティターニアさん、わたしも一緒に連れていって。
 お願い……わたしも、みんなの力になりたい。
 みんなと一緒に戦って、みんなみたいにカッコよくなりたいの」

記憶が戻ったわけではなさそうだ。
しかし、一時は全てが幼児退行してとても戦える状態では無かったというのに、
少なくとも身のこなしだけは元通り、どころか以前よりも機敏になっているようにすら見える。
その身に宿したフェンリルの力の影響かもしれなかった。

>「……今からこの子を説得して、降ろしている時間はなさそうですね」

「……ああ」

危ないから残っておけと言ってあっさり引き下がるわけもなく、この身体能力では物理的に降ろすのも不可能に近いだろう。
実際に戦いに出すかはともかく、とりあえず今は出発するしかなさそうだ。
0045ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/12(月) 17:50:33.56ID:tBRv8jCg
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
0046ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/12(月) 17:51:36.53ID:tBRv8jCg
飛空艇は順調に航行し、ソルタレク突入直前。
スレイブが最終確認という形を取りつつラテは連れて行かない方がいいのではないかと提案する。

>「ここから先は本当に後戻りは出来ない。改めて確認しておくが、本当に"その子"を連れていくのか?
 今からでも揚陸艇に乗せて地上部隊に保護してもらうことはできると思うが……」

>『壊れることはない……と思う。だけど、エルビスとの戦いには連れて行かない方がいいだろう。
 一度砕けた器はたやすく乗っ取られてしまうだろうから』
>「連れていくぜ。アクアによりゃあ、指環ほどではないが強い地属性の力があるってんだ」

『ええ、今のラテさんはフェンリルの力を宿している……大地の竜たる私と一緒なら強力な戦力にもなり得るはずです』

スレイブと同じく慎重論を唱えるアクアに対して、この際連れて行こうというジャンとテッラ。
様々な意見が飛び交う中、ティターニアは改めてメンバーを見まわした。
すっかり指輪の魔女が最大の敵のような気分になっているが、指輪を全て集めて祖竜をどうにかする、
というのが最終目標である以上、あと二人指輪の勇者が必要だ。
まずジュリアンの方を見てこっちはビジュアル的にも立場的にも何も違和感は無いか、
と思いつつ、続いてパックの方に視線を移してまじまじと見る。

「いや、別に駄目ではないんだがなんというかどっちかというと運転手兼アイテム管理係枠というイメージなのだよな……」

「ティターニア様! 思考が漏れちゃってるよ!? うん、そういうポジションじゃないのは自分でも分かってるけどさあ!」

>「厳しい言い方をするが、指環の魔女との決戦で子守りまでする余裕などないだろう。
 ティターニアやジャンがその子を庇って傷を負うことがあれば、それこそ本末転倒だ。
 その子とあんた達の双方が危機に陥るなら、俺はあんた達の方を優先するぞ。
 ……俺の"仲間"はあんた達だ。それだけは、憶えておいてくれ」

>「……飛空艇を守る奴は必要だろう。信者だらけの街をふわふわ飛んで何も飛んでこないわけがねえ。
 それに、ラテも仲間だ。俺たちが巻き込んじまったけどな」

「その通りだ。パック殿、そなたは飛空艇を守るという拠点防衛の重要な立ち位置なのだ」

パックを適当にそういいくるめ、皆の方に向き直ってふと真面目な顔になって告げる。

「今度は大丈夫だろう。彼女の心を砕いたのは指輪を求める者同士の争いだ――
でも今回は違う。裏で糸を引きそうなるように仕向けていた黒幕との対決だからな」

>「じきに地上部隊の交戦が始まる。議論している時間はなさそうだな」

せめてもの抗議のように言うスレイブだったが、その言葉の通り、議論している時間はなくなったのであった。
ソルタレク上空に現れたのは、巨大な翼竜。風竜ウェントゥス――その本体だ。
0047ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/12(月) 17:56:38.49ID:tBRv8jCg
>『……あっ、やばい。やばいやばいやばい』
>『メアリの奴、シェバトから拉致ってきた儂の本体を出してきおった!』
>「何だと」
>「ティターニア、ジャン、シノノメ殿、行こう。シェバトで取り逃がしたウェントゥスを、撃墜する……!」
>「ああ、とっとと仕留めなきゃ地上がまずいぜ!」

「良い機会だ、こうなったらウェントゥス殿に本来の力を戻してやろうぞ――!」

一行が出陣しようとしたその時、一騎の竜騎兵が甲板に降り立つ。

>「その必要はありません!我らダーマ軍が……奴を止めます!」

「しかし竜に対抗するには指輪の力が……なんだと!?」

指輪の力が必要、そう言おうと思ったのだが、次の瞬間に目に飛び込んできたのは大きくよろめき姿勢を崩すウェントゥスの姿であった。
詠唱中の魔法陣は消え去り、差し当たっての地上部隊崩壊への秒読みはリセットされた。

>「指環の勇者殿は無駄な消耗を避けてソルタレクに向かい、教団の首魁を早急に討ち取ってほしいとのことです!それでは!」

>「……まさかここまで助けてくれるとは思わなかったぜ。
 信用されてんな、俺たち」
>「で、どうする?ティターニア。このままソルタレクに突っ込むか?それともあの本体ぶちのめして風の指環に力を戻すか?」

ウェントゥスの制圧を彼らに任せてこのまま突っ込んだ場合、
一番うまくいけば――つまり竜騎兵部隊が首尾よくウェントゥスを仕留めることに成功すれば、
無駄な消耗もないまま指輪に力も戻り、万全の状態で指輪の魔女と対決できるだろう。
しかし、制圧に時間がかかった場合は、風の指輪に力が戻らないまま対決となる可能性も否定できない。
それはまだマシな方で、最悪負けてしまった場合は地上部隊が全滅することになる。
そんな時、地上部隊からの緊急連絡が入ったらしく、パックが悲鳴のような声をあげる。

「ティターニア様、大変!!」

「なんなのだ、騒々しい」

「地上部隊に戦意喪失する者が続出してるって!」

「成程、先刻の魔法陣は精神に作用する類の術だったのか。ああ見えて不完全ながらも発動していたのかもしれないな――」
0048ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/02/12(月) 17:57:41.17ID:tBRv8jCg
そう分析するジュリアンに、ティターニアが反論しようとしてあることに思い至る。

「しかし精神に作用する類の術は光と闇とエーテル属性の専売特許では……あっまさか……」

『指輪の魔女に抗おうとするウェントゥスはこちらにいる。
ということはあそこにいる方のウェントゥスは文字通りのエルピスの傀儡なのかもしれなません』

「やはり我々が出るしかないようだな――! 地上部隊が骨抜きにされる前に決着を付けるぞ!
パック殿、攻撃が届く距離まで接近だ!」

堅牢の大地の竜装【クエイクアポストル】を身にまとい、開幕妨害を仕掛けるティターニア。

「――グラビティプレス!!」

対象にかかる大地の引力――つまり重力を最大限まで増幅し、動きを鈍らせる妨害魔術。
特に飛空系の相手への効果は絶大で、並大抵の相手なら問答無用で地面に引きずり落とすことが出来る。
流石に相手は風竜ウェントゥス、一筋縄ではいかないが、それでもいくらかの足枷にはなったのだろう。
ウェントゥス本体は敵意のこもった目で一行を睨みつけた。

【我も前哨戦としてウェントゥス本体戦を持ってこようと思っていたところなので驚いた!

>エルピス殿
テンプレは竜としての姿を現した時の設定、ということで良いのだよな。
(今のところエルピスは闇落ち(?)した光の指輪に宿っている光の竜の”影”で
当代の指輪の魔女のメアリを操っている存在なので)
早速だがもしよければウェントゥス本体がエルピスに操られている、という設定で
ウェントゥスの操作をお願いしたいのだがどうだろうか!
OKかやめとくか2日以内に返事くれると助かる!】
0050ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/02/12(月) 21:09:11.74ID:tBRv8jCg
>49
いきなりの無茶振り受けてくれてかたじけない!
では順番としてはこの位置(我の次)に入ってもらうということで早速よろしく頼む!
0051ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/02/18(日) 19:10:19.93ID:7R7sPiwI
>エルピス殿
念のため確認しておくが一週間ルールなので明日の夜ぐらいまでにタノム!
がっつり導入とか無くてもとりあえず動かしてみる感じでも全然構わないので!
期限を過ぎると一応次の人に自動的にターンが移っちゃうルールなのでもし遅れそうな場合はそれまでに申告よろしく
0053エルピス ◆aEexDLMSnE
垢版 |
2018/02/20(火) 15:12:44.35ID:OR9T0RMZ
>>52ティターニア様

すみません、多忙だったので、土日あたりまでお時間頂けると嬉しいです。
0054 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/02/20(火) 17:31:03.92ID:/fwyhcQR
もうレス書き始めてるし全部書き直すのも嫌なので遠慮してくださいありがとうございます
0055 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/02/20(火) 17:33:42.46ID:/fwyhcQR
そもそも次の土日までって二週間も一人で待たせるつもりですか
私そんなの付き合ってらんないですよ
0056ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/02/20(火) 18:35:30.28ID:jDqIfapl
【正直言ってテンプレの内容も怪しいし世界観からズレてますし他スレで愉快犯的なコテが出没してる時期に
こういうことされると疑ってしまうんですよね。
他の方も言ってますが二週間近く待たされるとテンポも悪くなりますし
順番飛ばされたと分かった数時間後にレスする辺り確信犯なのでは?】
0057スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/02/20(火) 18:50:55.87ID:VkMslJc0
【ティターニアさんの要請から2日の間、携帯で一報入れることすらできないほど多忙なら
 そもそも参加は難しいんじゃないかと思うんスよ
 難しいっつーのはエルビスさんにとって負担になるって意味じゃなくてね
 率直に言うと私たち他の参加者が迷惑するって意味ね
 少なくとも私は、悪意があろうがなかろうがまともに連絡とれない人と一緒にはプレイできないッス】
0059エルピス ◆aEexDLMSnE
垢版 |
2018/02/20(火) 19:49:20.92ID:OR9T0RMZ
>>皆様

お待たせしました。とりあえず延長反対意見多数ということで、
半星龍エルピス・プレースリーの参加権限を放棄させていただきます。
NPCとして動かしていただければと思います。長引かせて失礼しました。
0060創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/02/21(水) 00:12:01.41ID:TAKqoYvo
ドラリンもそろそろ外部板移行を考えた方がいいと思う
これからクライマックスなのに、こういう妨害が入ると萎えるわ
0061ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/02/21(水) 00:28:46.32ID:9ar3/kSG
>エルピス殿
折角参加希望してくれたのになんか済まない……。
でも1週間ルールは基本1週間以内にレスできる環境の人を募集しますという意味でもあるので
たまに1日2日遅刻する程度ならともかく流石に2週間近くかかるのが常態だとちょっと厳しいかもなので今回の辞退は正解だと思う
出番がまだ先だと思ってテンプレだけ投下したところにいきなり振ってしまったのが原因だとしたらマジで申し訳なかった!
お待たせしたら悪いと思ってつい……。
今後はたまたま手の付けられない時期と被ってしまった時は順番が回ってきた時点でパス宣言か順番変更申請するのをお勧めしておこう
0063 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/02/22(木) 03:16:11.60ID:fc16csmT
>「現地の最終確認を行っていた斥候部隊から連絡があった。
  ソルタレク進撃の地上部隊が都市凱旋門へと集結し、交戦準備が完了したそうだ。
  カルネージ諸島のシュトローム要塞に詰めていたダーマ軍も既に出立している。
  ハイランドの地上部隊が凱旋門付近で戦闘を行い、ダーマ軍が横合いから包囲する手筈だ」

スレイブさんがなんか難しそうな事を言ってる。
難しそうなって言うか、実際に難しいんだけどね!
でもなんとなくだけど意味は分かるよ!前のわたしの日記帳にも、それっぽい事が書いてあったもん。
つまり……遠くから延々石を投げて、嫌がって出てきたら必殺パンチ!って事だよね。
この場合の石はハイランドの人達の魔法とかで、必殺パンチはダーマのムキムキな兵士さん達!

>「ここから先は本当に後戻りは出来ない。改めて確認しておくが、本当に"その子"を連れていくのか?
 今からでも揚陸艇に乗せて地上部隊に保護してもらうことはできると思うが……」

「むー、スレイブさんったらひどい事言ってー。スレイブさんも見たでしょ?
 わたし、このお船の壁にしがみついて登ってきたんだよ?
 すごくない?ソルタレクでも大活躍間違いなしだって!」

>「連れていくぜ。アクアによりゃあ、指環ほどではないが強い地属性の力があるってんだ」

「ほらー!ジャンさんもこう言ってるし!ね?仲良くしよーよ!」

>「厳しい言い方をするが、指環の魔女との決戦で子守りまでする余裕などないだろう。
 ティターニアやジャンがその子を庇って傷を負うことがあれば、それこそ本末転倒だ。
 その子とあんた達の双方が危機に陥るなら、俺はあんた達の方を優先するぞ。
 ……俺の"仲間"はあんた達だ。それだけは、憶えておいてくれ」

「うわー!スレイブさんったらめちゃくちゃ頑固!
 まぁ分かってたけどねー!スレイブさん仲間思いだもん」

>「……飛空艇を守る奴は必要だろう。信者だらけの街をふわふわ飛んで何も飛んでこないわけがねえ。
 それに、ラテも仲間だ。俺たちが巻き込んじまったけどな」
>「今度は大丈夫だろう。彼女の心を砕いたのは指輪を求める者同士の争いだ――
  でも今回は違う。裏で糸を引きそうなるように仕向けていた黒幕との対決だからな」

「あ、今ジャンさんがすごくいい事言った!
 そうだよわたしもスレイブさんの仲間に入れてよー」

……でも、巻き込んじゃったなんて思われるのは、ちょっといやかなー。
前のわたしがどういう理由で記憶がなくなっちゃったのかは分かんないけど。
わたしのせいで二人が辛そうな顔をするのは、ちょっとどころじゃなく、いやだなぁ。

……わたしが、もっと前のわたしみたいに振る舞えたら。
ジャンさんもティターニアさんも、嬉しそうにしてくれるかな。

>『……あっ、やばい。やばいやばいやばい』
>『メアリの奴、シェバトから拉致ってきた儂の本体を出してきおった!』

「……え?ウェンちゃんの本体って事は……ドラゴン!?わー、生で見るのは初めてかも!」

まーシェバトに行った時も見てるはずなんだけど……。
あの時の私はまだあんまり色んな事を考えてなかったからなー、覚えてないんだよね。
0064 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/02/22(木) 03:16:40.58ID:fc16csmT
>「ティターニア、ジャン、シノノメ殿、行こう。シェバトで取り逃がしたウェントゥスを、撃墜する……!」
>「ああ、とっとと仕留めなきゃ地上がまずいぜ!」
>「良い機会だ、こうなったらウェントゥス殿に本来の力を戻してやろうぞ――!」

「ふふーん、スレイブさん見ててよねー……じゃなくて、えっと……見てて下さいね、かな?
 わたしが頼りになるかわいこちゃんだってとこ、見せてあげますから!」

不敵に笑って、指をびしっと突きつけて、自信満々に!
……うん、日記の中のわたしはこんな感じの喋り方だったよね!
ちゃんと前のわたしみたいにならなきゃ。

>「その必要はありません!我らダーマ軍が……奴を止めます!」

って、えー?そんなぁ。カッコつけたばっかりなのにそりゃないよぉ。
てゆーかホントに大丈夫なの?
確かにそのちっちゃな竜で周りを飛び回れば、そう簡単には狙いを付けられないかもしれないけど。
動きを止め続ける事も難しいんじゃないかなー。
だってなりふり構わずにボディプレスされるだけでも地上の人達にとっては大損害になっちゃうよ?

>「指環の勇者殿は無駄な消耗を避けてソルタレクに向かい、教団の首魁を早急に討ち取ってほしいとのことです!それでは!」
>「で、どうする?ティターニア。このままソルタレクに突っ込むか?それともあの本体ぶちのめして風の指環に力を戻すか?」

「行こ……じゃなくて、行きましょうよティターニアさん。
 わたし達が助けてあげないと、ちょっと危ないと思いますよ」

なんだか不発に見えた魔法も、地上の人達には効いちゃってるみたいだし……。

>「やはり我々が出るしかないようだな――! 地上部隊が骨抜きにされる前に決着を付けるぞ!
  パック殿、攻撃が届く距離まで接近だ!」

そうこなくっちゃ。
スレイブさんに、わたしだってジャンさんの仲間なんだって見せつけてあげないと。
それに……

「……ジャンさん。ティターニアさんも。見てて下さいね。
 わたし、前のわたしみたいに、頑張りますから」

……だけど頑張るって言ってもどうすればいいんだろう。
ウェンちゃんの本体は空を飛んでて、しかもこっちと違って自由自在に飛び回れる。
普通に近づいたら撃ち落とされちゃうよね。
……と思ってたんだけど、ウェンちゃん(本体)はどうもわたし達に気付いていないみたい。
これは……あ、そっか。シノノメちゃんの闇の指環だ。
もう指環の力を使いこなしてるんだ。すごいなぁ。

>「――グラビティプレス!!」

そしてティターニアさんは……なるほどなるほど。
まずはウェンちゃんを地上に引きずり降ろそうって感じだね!
まっ、相手の有利なフィールドでいつまでも戦ってらんないもんね!
日記にも書いてあったよ。レンジャーたるもの地形を上手く利用して戦ってなんぼだって。
まっ、こんなお空のど真ん中で地形も何もないけど、それでもやりようは……

あっ、そんな事を考えてたらフィリアちゃんも動き出しちゃった。
甲板から飛び出して、蜂さんの羽でウェンちゃんに近づくと、そのまま翼を切り刻む。
すごーい、竜騎兵さん達よりもっと速い!
0065 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/02/22(木) 03:17:25.71ID:fc16csmT
「……負けてらんないなぁ」

わたしは懐から銀貨を取り出す。
それを親指で上に弾くと……あら不思議、おっきな槍になっちゃった。

「種も仕掛けもございません……なんちゃって」

これはねー、わたしの中にいるワンちゃんの力なの。
ティターニアさんの指環と同じ、大地の属性。
銀じゃん、金属じゃんって?金属だって元を辿れば大地の一部だったんだから操れちゃうんですー。

『……ワンちゃんではない』

あっ、ワンちゃん。
このワンちゃんはねー、なんか気付いたらわたしの中にいたの。
声はすっごく怖そうだけど、ジャンさん達が遠くに行っちゃった時は
みんなの様子を見せてくれたり、実は結構優しいんだよ。

『貴様がいつまでも呆けていては、我が困る。それだけの事だ』

ふーん……でも、なんでわたしが呆けてるとワンちゃんが困るの?
……ま、いーや。それより早くあのウェンちゃんを落とさないとね。
えーと、まずはもう一枚コインを取り出して。今度は鎖を作ろうね。とってもながーい鎖を。
そんでもって槍に鎖を巻きつけて……せーのっ!

「フィリアちゃーん!これを使って!」

そう叫びながら、わたしは槍をぶん投げた。
もちろんフィリアちゃん目掛けてじゃないよ。
槍は流れ星みたいな速さで、ウェンちゃんの翼に突き刺さる。
いやぁ痛そう。

フィリアちゃんにあげるのは、鎖の方。
……うん、あっちも察してくれたみたい。
鎖を槍から外して、ウェンちゃんの周りを飛び回る。

うんうん、いい具合に巻きついてるねー。
めっちゃ飛びにくそうなのに頑張るなぁウェンちゃん。
だったら……

「……ねえねえワンちゃん」

『ワンちゃんではない。フェンリルと呼べ』

「……確かにその方が、前のわたしっぽいかな。
 それじゃ……ウェントゥスとフェンリルさんって、力比べをしたらどちらが勝つんですか?」

『こと力比べに限れば、あやつなど稚児と変わらぬ』

「フェンリルさん、子供相手に力比べした事あるんですか?大人気なくない?」

『……ものの例えだ』

「なーんだ、紛らわしい事言わないで下さいよ。まっ、いーや。
 それだけ分かれば十分……さぁ、地上に落っこちてもらいましょうか!」

わたしは鎖をぶん回そうと、ぐいっと引っ張って……あ、あれ?びくともしない。
0066 ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/22(木) 03:17:43.73ID:fc16csmT
「ちょっとー!どうなってんのさワンちゃん!」

『……その愚かさは器由来か。如何な名剣も心得なき者が振るわばなまくらと変わらぬ』

「名犬?」

『……我が力を十全に扱えるのは、我が心を知る者のみという事よ。
 なにゆえ、人の心で魔狼の肢体が使いこなせよう』

「む……難しくてよく分かんないからもういいです……。
 えっと……じゃあこれどうしよう。綱引きは下の人達にやってもらおっかな。それとも……」

わたしはちらりとジャンさんの方を見る。
いや、流石にね?
流石のジャンさんもこの足場でウェンちゃんが相手じゃ無理だとは思うんだけどね?

「……ジャンさん、ドラゴンとの力比べとか、興味あります?」



【そう言えば今回途中から敵役に転向したい(かも?)と思ってるんですけど大丈夫でしょうか】
0068ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/02/22(木) 23:04:07.96ID:AJ35wER4
>66
そういえば前から敵役やってみたいような事を言っていたな――
元々敵役参加アリのスレだし敵役化自体は全然OKだ
敵役化するのはラテ殿で合ってるかな? 一時の敵役化なら全然大丈夫だと思う。
長期的に敵役化となると負担が大きくなるかもしれないけどそれでも良ければ。
というのがシノノメ殿とフィリア殿が指輪ホルダーなのでこれから動かしてもらう必要があるシーンも出てきて両サイド操作になるかもしれないので……。

どっちにしても最後まで敵のままだとなんか寂しいので最終的には戻ってきてほしいな、と我は思う
特にラテ殿の場合一回精神崩壊した人を性懲りもなく戦場に連れてって敵化した挙句死亡ENDとかだと
あまりに救いが無いというか作中のジャン&ティターニアがあまりに立つ瀬がないゆえ……
(自キャラの処遇は各自の判断なので飽くまでも個人的な希望だ!)
0069 ◆fc44hyd5ZI
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2018/02/23(金) 04:45:01.07ID:qBKDSxsg
わーいありがとうございます!
大丈夫ですよー私はこう見えてハッピーエンドが好きなんです。過程はともかくね!
0072スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/02/25(日) 18:03:38.21ID:F2UU1MUb
>「ああ、とっとと仕留めなきゃ地上がまずいぜ!」
>「良い機会だ、こうなったらウェントゥス殿に本来の力を戻してやろうぞ――!」
>「ふふーん、スレイブさん見ててよねー……じゃなくて、えっと……見てて下さいね、かな?
 わたしが頼りになるかわいこちゃんだってとこ、見せてあげますから!」


スレイブの求めにジャンとティターニア、そしてラテが応じ、ウェントゥスの姿を間近で確認すべく甲板へ出る。
既に何らかの魔法を発動しようとしているのか、ウェントゥスの眼前に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

「マズい……間に合わない!」

飛空艇の主砲でどうにか痛打を与えられないかと踵を返したスレイブの後ろで、何かが甲板に降り立つ音がした。
朱く輝くミスリルの鎧に身を包み、同じく鎧に覆われた竜に跨る魔族の姿に、スレイブは記憶から名を探り当てた。

>「その必要はありません!我らダーマ軍が……奴を止めます!」

「レッドミスリルの竜騎鎧……"朱の屠龍師団"か!」

ダーマの王都空域の防衛を担う特務部隊の一つだ。
その鎧の朱は例外なく、竜騎兵達が仕留めてきた竜の血によって染まったものだとされる手練の集団。
武勇に偽りはなく、大規模魔法を放たんとしていたウェントゥスが呻き、仰け反り、陣が破壊された。

>「指環の勇者殿は無駄な消耗を避けてソルタレクに向かい、教団の首魁を早急に討ち取ってほしいとのことです!それでは!」

伝令だけを残して戦場へと飛び去っていく竜騎兵を見送って、ジャンが感慨深く呟いた。

>「……まさかここまで助けてくれるとは思わなかったぜ。信用されてんな、俺たち」

「ああ……本国の防衛を手薄にしてまで兵力を寄越してくれたんだ。俺たちも応えなくてはな」

"朱の屠龍師団"は航空戦闘に特化した竜殺しのエキスパート達だ。
武装化されているとはいえ巡航艦であるリンドブルムでウェントゥスに接近するよりもリスクは減るだろう。
だが――それでもなお、一介の戦闘者とは一線を画する戦力を有すのが、指輪の竜という存在だ。

>「で、どうする?ティターニア。このままソルタレクに突っ込むか?それともあの本体ぶちのめして風の指環に力を戻すか?」
>「行こ……じゃなくて、行きましょうよティターニアさん。わたし達が助けてあげないと、ちょっと危ないと思いますよ」

選択肢は二つに一つ。竜騎兵を支援して確実にウェントゥスを墜とすか、任せてソルタレクに突入するか。
メアリとの決戦を控える指環の勇者の立場であれば、余計な損耗は避けるべきだろう。

『あの……儂の意見は……?』

性懲りもなくゴネはじめたウェントゥス(の搾りカス)を目線で黙らせて、スレイブは決断を待った。
逡巡すること数秒、沈黙は操縦手パックの悲鳴じみた報告によって寸断される。

>「地上部隊に戦意喪失する者が続出してるって!」
>「成程、先刻の魔法陣は精神に作用する類の術だったのか。ああ見えて不完全ながらも発動していたのかもしれないな――」

『えっなにそれ……儂の本体そんな魔法使えるの……?』
0073スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/02/25(日) 18:04:11.48ID:F2UU1MUb
ウェントゥスの困惑も無理はない。風を統べるはずの風竜が、人心を歪ませる魔法を使っている。
おそらくは、ウェントゥスの魔力だけを使って別の者が術式を編んでいるのだろう。
そして術者は間違いなくエルピスと、その契約者たるメアリだ。

『エルピスのぼけなすがぁぁぁぁぁ……!他人のもの勝手に使うとかダメなことじゃろ!!どこまでも儂をコケにしおって!!』

数千年ちまちま溜め込んだ魔力を良いように利用されたウェントゥスが甲板の上で地団駄を踏む。
自分がシェバトで何をしようとしていたかについては完全に忘れているようだった。

>「やはり我々が出るしかないようだな――! 地上部隊が骨抜きにされる前に決着を付けるぞ!
 パック殿、攻撃が届く距離まで接近だ!」

「先にウェントゥスを叩くか……了解した。シノノメ殿、闇の指環で隠蔽を頼む」

竜騎兵達が間断なく攻撃を加えているいまこの瞬間であれば、本体に気取られるなく接近は可能だ。
知覚外からの奇襲――こちらの持ち得る最大限の火力を集中させて、短期で決着を付ける。

>「――グラビティプレス!!」

初手からティターニアが重圧魔法を叩き込んだ。
巨大な体躯をもつウェントゥスを包み込むほどの大規模な魔法陣が展開し、巨竜の羽撃きが目に見えて鈍くなる。
指環と指環のぶつかり合い、まるでシェバト防衛戦の再来だが、敵はスレイブではなく風竜ウェントゥスそのもの。
そしてこちらには、スレイブがいる。

「俺たちも行こう、我が女王」

先駆けて飛翔するフィリアを追うように、スレイブも甲板から飛び出した。
虫精の女王と違って彼には翅も翼もない。寄る辺なき虚空へ放り出されれば、待っているのは自由落下のみだ。
しかし彼は一切ためらうことなく宙へと足を踏み出し、重力の虜となった。

「対空機動剣術――『砕麟』」

術式起動の鍵号を唱えれば、彼の纏う脚鎧の踵部分に小さな魔法陣が出現する。
『跳躍』の魔術。脚で触れたものに対して協力な反発力を付与し、矢を放つが如く自身を発射する術式だ。
飛空艇の側面装甲を蹴ったスレイブは、砲弾にも迫る速度でウェントスの横っ腹へと『着弾』した。

『装甲は俺が破る。防御の薄くなった箇所から痛打を叩き込んでやれ』

スレイブの遠話が響くと同時、一枚一枚が民家の戸板ほどもあるウェントスの鱗がひとつ、弾け飛んで宙に舞う。
ダーマ軍式剣術が一つ、『鎧落とし』。スレイブは跳躍術式でウェントスの体表を飛び回り、鱗を削ぎ落としていく。

>「フィリアちゃーん!これを使って!」

翼の鱗を剥ぎ落とした刹那、スレイブとフィリアとの間に鎖付きの槍が一本突き刺さった。
鎖で繋がった投擲の主を振り仰げば、飛空艇の甲板からラテがにこやかに手を振っている。

「……投げたのか、この巨大な槍を。あそこから?」

スレイブは信じがたいものを見た気分になって眉を開いた。
現在飛空艇はティターニアの魔法の届くギリギリの部分に滞空している。
ゆうに民家10軒はあろうかという距離に、バリスタでも投石機でもなく、ラテは膂力だけで槍を届かせたのだ。
0074スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/02/25(日) 18:04:31.72ID:F2UU1MUb
「あの子を見くびり過ぎていたようだな……」

飛空艇での言動を恥じ入るようにスレイブは目を伏せ、そしてすぐに切り替えた。
ティターニアの重圧魔法のおかげで好き放題出来ているが、ウェントスはじきに戒めを解くだろう。
そうなる前に、出来るかぎり敵の勢いを削いでおきたい。

大槍を突き刺されたウェントスの体表からは、血潮の代わりに仄青い燐光が湧き出ていた。
燐光と同じ色をした風の指環から、ウェントスの幻体が飛び出した。

『この匂い……儂の魔力じゃ!』

「傷口から魔力が漏れ出ているのか……?」

『儂の本体は言わば、水でパンパンに膨らんだ革袋みたいなもんじゃ。穴を開ければ当然中身がチョロチョロ出てくる。
 濃密な竜の魔力じゃからほっといても霧散することなく、じきに本体へと吸収されるじゃろうが……』

幻体は両手を漏れ出た魔力へと突き出す。まるで、飼い犬を抱擁で迎え入れるかのように。

『汝の在るべき主へと還れ――我が魔力!』

空中を漂っていた燐光たちが、導きに呼応して飛来し、幻体へと吸い込まれていった。
指環越しに感覚を共有しているスレイブにも分かる。魔力が少しだけ戻ってきている。

『これじゃ!本体をボッコボコの穴だらけにして、滲み出た魔力を幻体の儂が回収する!
 傷口を補填する魔力をこっちがパクってしまえば本体は削れた身体を癒やすこともできん!
 ついでに儂も元気になって一挙両得じゃ!』

なるほど、とスレイブは鼻を鳴らした。遠話で仲間たちへとつなぐ。

『力の取り戻し方が分かった。刺突系の攻撃でウェントゥスの体表にいくつも傷穴を作ってくれ。
 できるだけ大きな傷が良い。そこから漏れ出した魔力を俺たちで回収する』

再び跳躍術式で本体の翼から背中まで跳び、長剣の切っ先を柄まで深々と突き刺す。
間欠泉のように溢れ出した魔力を全身に浴びて、スレイブは犬歯を見せた。

『全て奪い返すことができれば、俺たちの勝ちだ』


【ウェントス本体にプスプス穴開けて漏れてきた魔力を回収】
0076ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/02/28(水) 15:19:26.83ID:J7wi6PaD
>「――グラビティプレス!!」

竜装を纏ったティターニアがまず先手として重圧魔法を叩き込む。
導師としての実力と指環の魔力が合わさり、空の支配者たるウェントゥス本体の動きが急に鈍くなる。
そこを好機としてスレイブ、フィリア、ラテが連携して槍を翼に突き刺し、
さらにウェントゥス本体へのダメージが加速していく。

>「……ジャンさん、ドラゴンとの力比べとか、興味あります?」

ラテの挑発的なその問いに、ジャンはニカッと笑って応じた。

「おう、ドラゴン相手は初めてだが興味は大アリだぜ!いっちょ止めてやらあ!!」

そう叫んで自らに気合を入れ、取り出した指環を静かに嵌める。
そして大槍を背中から両手に持ち替えて甲板に立て、ウェントゥスの本体に向けて掲げた。

「アクア、俺らも行くぞ!竜装だ!」

『根源たる水の魔力よ、指環の主に力を!……これが終わったらウェントゥスに今までの貸しを払ってもらおう』

「『大海嘯!!』」

掲げた大槍に水の一滴が落ち、やがて大きな雨となる。
それは一つの流れを作り、ジャンを巻き込んだその瞬間、彼は全身を蒼い竜の鱗で覆い二対の翼を生やした姿となっていた。

>『力の取り戻し方が分かった。刺突系の攻撃でウェントゥスの体表にいくつも傷穴を作ってくれ。
 できるだけ大きな傷が良い。そこから漏れ出した魔力を俺たちで回収する』

「水でパンパンに膨らんでるならよ……こういうやり方もアリだよな!」

二対の翼をはためかせジャンが向かった先は、加重と竜騎兵による執拗な一撃離脱に苦しむウェントゥスの本体。その正面だ。
三騎一組による一か所への集中攻撃と急速な離脱は、徐々にではあるが傷口を広げている。

だが、その中の三騎へとウェントゥスの巨木と見まごうばかりの右腕が薙ぎ払うように襲い来る。
既に十分な加速を得ている竜騎兵たちは横合いからの奇襲にとっさに対応できず、一人がとっさに目をつぶった瞬間だった。
0077ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/02/28(水) 15:19:44.20ID:J7wi6PaD
「どおおおおらああああああいいい!!!!」

竜をその身に纏ったジャンが咆哮と共に竜騎兵たちの寸前で本体の右腕を両腕で押しとどめ、なんと押し返してすらいた。
さらには食い込んだ両腕をさらに突っ込ませ、魔法陣を展開する。

「アクア!制御はいらねえ、全力で魔力をぶちまけろ!」

『流れる水よ!力となりて敵を打ち倒せ!』

両腕から放たれる魔力の水流は鉄砲水のごとく噴出し、本体の右腕内部を蹂躙しつくした。
全てを魔力で構成したことで通常の武器では太刀打ちできないはずの身体は、同じ竜の魔力による破壊には耐えきれないのだ。

竜騎兵たちが続けていた一撃離脱によってできたわずかな傷口。
そこから水流に押し出されるようにウェントゥスの魔力が流れ出し、さらにウェントゥス本体は弱体化していく。

「よっしゃあ!これならいけるぜ、所詮は図体のでかい革袋だ!」

『本来ならもっと天候魔法とか大規模攻撃魔法があるはずなんだけどね……さすがはウェントゥスだよ、指環にその知識だけ逃がすとはね!』

本来なら相性の悪いウェントゥスに大きなダメージを与えたことに満足したのか、
アクアがやや皮肉めいた言い方でウェントゥスの幻体に念話を飛ばす。

「よし!あの巨竜は魔力の放出で落とせると見た!我ら朱の竜騎兵はぁーっ!」

「「「竜の血にて朱色なり!!!」」」

竜騎兵たちもさらに勢いづき、指揮官が檄を飛ばした直後、一撃離脱の戦法を解いて個別に動き始めた。
傷口を無差別に広げ、魔力放出をさらに広げるためだ。


【大型ボスでNPCとの共闘するのいいよね…したいだけですユルシテ!】
0078ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/03/01(木) 22:25:58.55ID:+CVK6srH
>「……ジャンさん。ティターニアさんも。見てて下さいね。
 わたし、前のわたしみたいに、頑張りますから」

「頼もしいな――しかし無理に前と同じようにならなくともよいぞ」

記憶はなくともラテはラテだ。
一時は精神崩壊状態となり、まともに社会生活が送れるようになるには記憶を戻すしかないと思っていたが、そうでもないらしい。
前と同じにはならなくても、これからの彼女が前向きに生きていけるのであればそれはそれでいいのかもしれない。

>「俺たちも行こう、我が女王」

フィリアとスレイブが、宙に身を躍らせ身一つで接近戦を挑みにかかる。

>『装甲は俺が破る。防御の薄くなった箇所から痛打を叩き込んでやれ』

>「フィリアちゃーん!これを使って!」

ラテがなんと飛空艇の甲板から鎖の付いた槍を投擲し、フィリアが鎖を使ってウェントゥスを簀巻きにする。
そして鎖を使って引きずり落とそうとするラテだったが流石に無理だったらしく、ジャンに振るのであった。

>「……ジャンさん、ドラゴンとの力比べとか、興味あります?」

>「おう、ドラゴン相手は初めてだが興味は大アリだぜ!いっちょ止めてやらあ!!」
>『根源たる水の魔力よ、指環の主に力を!……これが終わったらウェントゥスに今までの貸しを払ってもらおう』
>「『大海嘯!!』」

竜装をまとい二対の翼をはためかせ突撃するジャン。そこにスレイブからの念話が入る。

>『力の取り戻し方が分かった。刺突系の攻撃でウェントゥスの体表にいくつも傷穴を作ってくれ。
 できるだけ大きな傷が良い。そこから漏れ出した魔力を俺たちで回収する』
>『全て奪い返すことができれば、俺たちの勝ちだ』

「――シュートアロー!」

空戦に備え飛空艇に積んでいた矢を大量に、風の魔力を纏ませ空高く打ち上げる。
ウェントゥスの上空まで飛んだところで、風の魔力に代わって大地の重力の魔力が発動し、弾丸のような速度で豪雨のようにウェントゥスめがけて降り注ぐ。
矢を使っているとはいえもちろん通常の魔法攻撃の例にもれず、味方には当たらないご都合仕様だ。
そこにジャンが大技を決め、強烈な水流がウェントゥス本体に打ち込まれた。
矢が刺さった傷や竜騎兵たちがつけた傷から魔力が押し出される。
0079ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/03/01(木) 22:28:10.12ID:+CVK6srH
>『本来ならもっと天候魔法とか大規模攻撃魔法があるはずなんだけどね……さすがはウェントゥスだよ、指環にその知識だけ逃がすとはね!』

『ミニウェントゥスは自らを僅かな部分だけなんとか切り離した、と言っていましたが実際には違うのかもしれませんね。
魔力の大部分はあちら、ということは裏を返せばそれ以外はこちらにいるのかもしれません』

あの本体がウェントゥス本来の魔法を使っていないことを考えると、実は魔力だけが詰まった袋のようなものなのかもしれない。
どうやらこの戦い、思ったよりもこちらに分があるようだ。
そう思った矢先、ウェントゥス本体の体から細く幾筋もの閃光が走る。

「何かとてつもなく嫌な予感がするが……」

『まさか自爆!? なるほど、元から捨て駒のつもりだったということですね――』

「納得している場合ではないぞ!?」

自爆されれば甚大な被害が出る上に、魔力も雲散霧消して回収できなくなりかねない。
そこでティターニアは、ラテが手持無沙汰にしている、ウェントゥスに巻かれた鎖の端に目を付けた。
相手がすでに穴だらけの袋なら、全身にぐるぐる巻きになった鎖を一気に引いてやればとどめを刺せるはずだ。

「ラテ殿!」『フェンリル!』

ティターニアとテッラは、同時にラテとフェンリルに呼びかける。
フェンリルの力を全ては引き出せないラテだが、大地の竜のテッラと一緒ならフェンリルの力を引き出せるかもしれない。

『久々に竜と守護聖獣のタッグを見せてやりましょう!』

「我も手伝うゆえもう一度それを引っ張ってみようぞ――フル・ポテンシャル!」

ティターニアはラテと自らに身体能力強化の魔法をかけ、鎖に手を掛ける。
0080創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/03(土) 08:06:39.20ID:XNHzrDSQ
47 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2018/03/01(Thu) 21:17
最近は、なりきり掲示板より
テーブルトークRPGの方が人気な気がしますねぇ。
それかみんな『ツイッターでなりきり』とかしているようです。
0081ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/03/06(火) 00:06:24.93ID:T/h4Je/p
>「おう、ドラゴン相手は初めてだが興味は大アリだぜ!いっちょ止めてやらあ!!」

わお、すっごい自信。
私は正直、流石のジャンさんでも無理かなーなんて思ってたんだけど……ジャンさんはそうじゃないみたい。
だったら見せてもらおっかな。特等席で、ジャンさんのカッコいいところを。

>「アクア、俺らも行くぞ!竜装だ!」
 『根源たる水の魔力よ、指環の主に力を!……これが終わったらウェントゥスに今までの貸しを払ってもらおう』

あっ、早くもめちゃくちゃカッコいい!
ねえワンちゃん、わたし達もああいうの出来ないの?
……え?不可能?えーなんで……あなたがわたしを認める事なんてあり得ない?
うわ、ひっどーい。でも……前のわたしだったら、認められてたのかな。

>『力の取り戻し方が分かった。刺突系の攻撃でウェントゥスの体表にいくつも傷穴を作ってくれ。
 できるだけ大きな傷が良い。そこから漏れ出した魔力を俺たちで回収する』
>「水でパンパンに膨らんでるならよ……こういうやり方もアリだよな!」

っと、いけない。私ももっと頑張らなきゃ。
頑張って、カッコいいとこ見せて……そうすればもしかしたら、
前のわたしの記憶が戻ったりするかもしれないもんね。

ようし!それじゃ張り切って……張り切って、どうしよう。
穴を沢山開ければいいんだから、槍をいっぱい投げつけるとか?

……でも、たったそれだけでいいのかな。
ううん……前のわたしなら、もっとカッコよく出来たはずだよ。
例えば、めちゃくちゃおっきな槍を……なんて安直すぎるよね。ちゃんと投げられなきゃ意味がないし。
ウェンちゃんに飛び乗って大暴れ……は、スレイブさんがもうやってるし。
……どうしよう。何をすれば、どこまでやれば……わたしは、前のわたしみたいになれるんだろ……

>「ラテ殿!」『フェンリル!』

「わっ!……ティ、ティターニアさん?」

び、びっくりした……。
急に声をかけられ、手を取られて、わたしは少し裏返った声で返事をする。

『……小鼠。貴様の些少な懊悩など、我には到底理解し得ぬもの。
 だが……それが下らぬ、無意味なものであるという事は分かるぞ』

と思ったら、急にワンちゃんもわたしに声をかけてきた。
しかも大変失礼な内容で。一体どういう意味さ。

『考えているばかりで、事が上手く行くものか。
 矮小な貴様らに出来る事は、ただ全力を尽くす事のみよ。
 忌々しい指環の勇者共とて、そうしているではないか』

……そう言われれば、確かに。
そっか……全力を出す、かぁ。当たり前の事だけど……確かに、私はその事を忘れてた。
ワンちゃん、たまには優しい事も言ってくれるんだね……

>『久々に竜と守護聖獣のタッグを見せてやりましょう!』

……もしかして、テッラさんの前でいいとこ見せたかっただけだったりする?
いや、いいや。例えそうだとしても……ためになる言葉を聞かせてもらったのは、確かだもんね。
0082ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/06(火) 00:09:01.43ID:T/h4Je/p
「……ぼけっとしてて、ごめんなさい、ティターニアさん。
 だけどもう大丈夫、いつでも行けます」

>「我も手伝うゆえもう一度それを引っ張ってみようぞ――フル・ポテンシャル!」

「……はいっ!」

わたしは渾身の力で鎖を引っ張る。
ウェンちゃんの体に鎖が食い込んでいくのが見える。
体中の傷に鎖がめり込んで、引き裂いている。
……だけど、まだ終わりじゃない。
ウェンちゃんはおっきなドラゴンで、こっちは飛空艇の上。
だから鎖で引っ張られたなら……ウェンちゃんには、いっそこっちに突っ込んでくるって手が打てる。

「……そうはさせませんけどね。見てて下さい、わたしの全力」

わたしは甲板の手すりに足をかけて、宙に飛び出す。
高く高く、ウェンちゃんの頭上を取るように。
そして宙返り……頭を下に、両足を上に。

コインを弾く。
空中に足場を作り出して、それが砕け散るくらい強く、蹴る。
コインが変化する事による反発力と、私自身の脚力。
それらが生み出す、鳥肌が立つような加速。

その中で私は……もう一度、槍を作り出した。
私の背丈よりの何倍も長い、大きな槍。
貫くのは……ごめんねウェンちゃん、頭を潰すよ。
一瞬で命を奪えば……自爆も出来ないよね。

そして……重い手応え。
血飛沫のように飛び散る魔力が私の頬を叩く。

「ふう……良かった……。ちゃんと当てられて」

もし狙いが逸れてたら、わたし地上に真っ逆さまだった。
危なかったけど……だけど全力を出すなら、これ以外に手はなかったもんね!

「ジャンさーん!ティターニアさーん!それにスレイブさんも!
 見ました!?わたしの全力!すごいでしょー!」

死ぬかもしれなかったという怖さが薄れていって、代わりに高揚感が溢れてくる。

「……少しは、前のわたしみたいにやれましたか?」

面と向かっては聞けないけど……わたしは思わずそう、呟いていた。

『ううむ……なんと愚かな。明後日の方向に吹っ切れおって。
 これではまたテッラに小言を言われかねん……』

……あれ?ワンちゃんなんか言った?

『何でもないわ。愚か者め』
0084スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/11(日) 01:09:10.24ID:abLuoRDt
>「――シュートアロー!」

スレイブの要請にいち早く応えたティターニアが、飛空艇から魔力を纏った矢の雨あられを降らせる。
面制圧での魔法攻撃にも関わらずおそるべき精度だ。矢の嵐に身を投じたスレイブに、一矢さえも掠りはしない。
むしろウェントゥス側の迎撃を阻んで『道』が生まれ、おかげでまだまだ行動速度を上げられる。

>「水でパンパンに膨らんでるならよ……こういうやり方もアリだよな!」

一撃離脱を繰り返す竜騎兵を、うっとおしげに払い落とさんとするウェントゥス。
その巨腕へと飛び込んだジャンは、指環の力を解放し、一切の仮借なしに叩き込んだ。
さながら桶に満たされた水にさらに水を加えれば溢れ出すように、ジャンの魔力でウェントゥスの魔力が押し出されていく。

>『本来ならもっと天候魔法とか大規模攻撃魔法があるはずなんだけどね
 ……さすがはウェントゥスだよ、指環にその知識だけ逃がすとはね!』

吐き出された魔力を片っ端から回収するためにスレイブは飛び回り、その肩の上で幻体が口を開く。
仄青い燐光となった魔力が、幻体に呑み込まれていった。
アクアの皮肉交じりの遠話に、ウェントゥス(幻体)はにんまりと破顔した。

『ほーひゃろ!ほーひゃろ!わひはほれをみほしてうごいてほったんひゃ!』

「口にものを入れたまま喋るな」

>「よし!あの巨竜は魔力の放出で落とせると見た!我ら朱の竜騎兵はぁーっ!」
>「「「竜の血にて朱色なり!!!」」」

本体の体表を駆けずり回るスレイブと並走するようにして、竜騎兵たちが屠龍槍を突き立てていく。
スレイブが鱗を断ち落とし、間断なく竜騎兵の刺突が打ち込まれる。
言葉を交わさずとも、そこには緻密な連携があった。

「良い幸先だ……!このまま本体の魔力が枯れ尽くすまで――」

そのとき、ウェントス本体の体表から稲光にも似た光条が奔った。
漏れ出した魔力の光とは違う。もっと恣意的な、方向性を持った魔力。
この魔法の術式には覚えがあった。軍人ならば誰でも、戦場に出る前に習得させられる魔法だ。

「――自爆か!マズいぞ、退避を……!」

体内の魔力を暴走させ、肉体の炸裂と共に純粋な破壊力として解き放つ……自爆の魔法。
敵の総本山上空で自爆など選択するはずがないと甘く見ていたが、敵の狂気は想定の斜め上へと届いていた。
戦闘のために接近しすぎていたのが仇となったか、リンドブルムが破壊圏外へと逃れるにはあまりにも時間が足りない。

>「ラテ殿!」『フェンリル!』

絶望へのカウントダウン、針を止める呼び声はティターニアから発せられた。
正確には彼女と、彼女の指に収まった大地の竜の声だ。
そして応じたのは――大地の守護聖獣、フェンリル。

>「……はいっ!」

大地の名を冠する二つの力が、ウェントゥス本体に絡みついた鎖の両端を引く。
鋼の擦れ合う音とは別に、確かな悲鳴が、軋みが、宙を舞う巨竜から響き始めた。
0085スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/11(日) 01:09:33.56ID:abLuoRDt
ウェントゥス本体は、言わば水で満たされた革袋だ。
小さな穴を点々と空け、チョロチョロと水が漏れ出したところで、全て吐き出すには時間がかかり過ぎる。
ならば、革袋の中身を一気にぶち撒けたいときはどうするか。

――絞るのである。
鎖によって締め上げられたウェントゥスの本体から、燐光となった魔力が夥しい流れとなって搾り出されていく。
完成しつつあった自爆魔法は魔力の流れを大きく掻き乱されて、明滅し、砕け散った。

「……突っ込んでくるぞ!」

ウェントゥス本体は最後のあがきか、長い尾を波打たせてリンドブルム目掛けて吶喊する。
スレイブは振り落とされないようしがみつくのに手一杯で、突進を止めることができない。
代わりに、声を上げた。ウェントゥスの鼻先で既に跳躍の姿勢に入っていた、ラテへ。

>「……そうはさせませんけどね。見てて下さい、わたしの全力」

空中に形成した足場による、二段跳躍。頭上からの強襲。
飛空艇から槍を届かせるでたらめな膂力を、全て跳躍に費やした強烈な一閃が、ウェントゥスの頭蓋を穿ち貫いた。

「捨て身の吶喊……助けられたのは確かだが、あの歳の子が身につける技じゃないな……」

大きく動くウェントゥスの頭部に、身体ごと槍を直撃させてのけたラテの妙技。
ほんの僅かにでも狙いが逸れれば、ウェントゥスの鼻息にでも煽られれば、彼女に待っていたのは墜落死の運命だった。
この極限の綱渡りに、ラテは特段覚悟を決めたわけでもなく、まるで児戯のようにこなして見せた。
死を、破滅を、恐れていないのだ。

『お主も似たような歳で似たようなことしとるじゃろ……』

「俺のようになるべきじゃない、と言っているんだ」

>「ジャンさーん!ティターニアさーん!それにスレイブさんも!見ました!?わたしの全力!すごいでしょー!」

あっけらかんと生還を示すラテの姿に、スレイブは目頭を抑えて俯いた。
過酷な運命に疲れて、自身の命を顧みなくなった者を何人も知っている。その末路が一様に凄惨な死であったことも。
だが、ラテから感じるこの異質はなんだ?彼女の振る舞いはまるで――そう、舞台に上がった役者だ。

スレイブの知らない誰か。「あの人ならこうする」という行動を、ラテはなぞっているように見える。
恐ろしいほど、正確に。危ういほどの、実直さで。
と、そこでスレイブは思考を中断することとなった。しがみついた風竜の身体が燐光に包まれ始めた。

「ウェントゥスの本体が……崩壊していく……!」

頭蓋への一撃が致命となったのか、風竜ウェントゥスが一際響く断末魔を上げ、肉体を硬直させた。
傷穴の空いた場所から大小様々な亀裂が体表を走り、魔力が溢れ出していく。

『待っとったぞ、この瞬間を!いい加減儂のもとへ戻ってこい、風竜たちよ!』

スレイブの肩にさらにしがみついていた幻体がふわりと浮いて、光の粒となった魔力へ腕を差し出す。
しかし、先刻のように幻体へと集うかと思われた魔力は、一向に宙空から動かなかった。
ウェントゥスはいきなりキレた。
0086スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/11(日) 01:10:03.68ID:abLuoRDt
『あーー?なんで帰ってこんのじゃこのくそたわけども!儂の魔力なんじゃから儂が呼んだらパッと寄って来んか!』

「何を遊んでいる、早く力を取り戻せウェントゥス」

『いややっとるって!やっとるけれども!魔力が全然動かんのじゃ!
 呼びかけを無視されとるわけじゃない。なんちゅうかこう、別の場所からも引っ張る力が働いているような……』

「別の場所……だと?」

そのとき、本体の魔力がゆっくりと流れを作るように動いた。
ウェントゥスの幻体から遠ざかるように――ソルタレクの中心部へ向かって少しずつ、確実に引き寄せられている。

「竜の力と拮抗できるほどの、別の力――光竜エルピスか!」

ウェントゥス本体の敗北を契機として、光の指環もまた風の指環と同じように魔力の回収を図っているのだ。
風竜の魔力はウェントゥスの溜め込んだものであると同時に、長期にわたってエルピスによって汚染されてもいる。
つまり、どちらも魔力の主としての資格を有しているのだ。
あとは、飼い綱を引っ張る力がどちらの方がより強力かの比べあいになる。

『だ、ダメじゃ……馬力が違い過ぎる!』

力を回収しつつあるとはいえ、弱体化に弱体化を重ねたウェントゥスの幻体。
対する光竜エルピスは十全の力を振るえるばかりか、指環の魔女による支援も受けている。
拮抗しているように見えた引っ張りあいの構図は、やがてエルピスへと傾き、膨大な魔力がソルタレクへと流れていく。

「くそ……ここまで来て、また風の力を取り逃がすのか……?」

風の指環が力を取り戻すことができれば、来る指環の魔女との対決で必ず大きな手助けとなるはずだ。
否、常軌を逸した戦闘能力を持った魔女と戦い、生き残るには、火・水・地・風・闇の全ての指環が全力を出すことが必須。
ウェントゥスを取り逃がすのはあまりにも致命的な損失と言えよう。

「ジャンや、ティターニアや、シノノメ殿にフィリアに、あの子まで、命がけで対峙してくれたというのに」

押し寄せる自責の念に、スレイブは血が滴るほどに拳を握る。
だが、どれほど力に焦がれようとも、頼みの風の指環は力を失い、応えてくれることはなかった。
少しでも魔力を掻き集めようと腕を振るが、風を掴むことができないように、捉えようのない魔力は指の隙間から逃げていく。
眼の前が闇に閉ざされ、俯いたスレイブの眉間に、何かが飛んできて激突した。

「うぐっ……!?」

鈍い衝撃に面食らいながらも咄嗟に掴んだそれは、半ばで折れた刀身を短剣に研ぎ直した魔剣、バアルフォラス。
上空の風に煽られ、留め具からひとりでに外れてスレイブを殴りつけたのだ。
手も足もない魔剣が勝手に飛び跳ねたなどということは考えづらい。強風がもたらした偶然だろう。
しかしスレイブにはその偶然が、かつて共に戦った相棒による、活を入れた拳のように思えた。

「……そうだったな。すまない、忘れていたわけじゃないんだ」
0087スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/11(日) 01:10:47.19ID:abLuoRDt
ジャンが、ティターニアが、フィリアが、シノノメが、ラテが、そうであるように。
多くの仲間に囲まれ、もはや一人ではなくなった今も、なお。

「いつだって俺の傍には……お前が居るよな」

長剣だった頃と変わらない手応えを確かめるように、スレイブは短剣の柄を握り直す。
その光沢のない臙脂色の刀身を、今まさに吸い込まれんとするウェントゥスの魔力へ向けて、叫んだ。

「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』!!」
0088スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/11(日) 01:11:43.24ID:abLuoRDt
瞬間、魔剣から放たれた不可視の"あぎと"がウェントゥスの魔力へ喰らいつく。
指環同士の引っ張り合いなどまるで意に介さないとばかりに、魔力の光を咀嚼し、残さず呑み込んだ。

『おお、おおおおお……!!』

ウェントゥスの幻体が身を震わせ、その身体が燐光を発し始める。
呼応するように、スレイブの指に嵌った指環の宝玉が、一際強い青白い輝きを放った。
思うまでもなく足元に風が渦を巻き、ふわりとスレイブの身体を持ち上げて宙を舞った。

『やたーっ!魔力が戻ってきおったぞ!!長かった……マジで長かった……!
 みておれよメアリ、覚悟しとれよエルピス!儂が全力を出す以上、貴様らは今日滅ぶ!ぜったい滅ぼす!!』
0089スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/11(日) 01:12:03.78ID:abLuoRDt
飛空艇への甲板に着地したスレイブをよそに、ウェントゥスの幻体が全身で喜びを表すように飛び回る。
非常にうっとおしかったので指環を宙にかざすと、幻体が『ぐえええ!』とか言いながら吸い込まれていった。

「元気になった年寄りがうるさいのは厄介だが――」

飛空艇に戻ってきた仲間たちへ、スレイブは拳を握ってみせた。

「風の指環はこの通り、元の力を取り戻せた。……これでようやく、俺も指環の勇者の一員としてあんた達の隣に立てる」

目を閉じ、感慨に打ち震えるスレイブは、数秒ほどそうしていた。
戦場での貴重な数秒を浪費したことにばつの悪さを感じながら、指環を嵌めた手でソルタレクの中心地を指差す。

「ウェントゥスの魔力を引き寄せる力は、あの辺りから放たれていた。
 つまりエルピスと指環の魔女は、おそらくあそこ――ハイランド王宮にいるはずだ」

ソルタレクはハイランド連邦の首府。
城下町の中心には、当然ハイランドの国家元首が住まう宮殿が屹立している。
ウェントゥスの魔力がそちらへ向かって引き寄せられていたということは、エルピスもまたそこにいるということだ。

「進もう。今度こそ、連中の野望を止めて……世界を救うんだ」


【風竜ウェントゥスを撃破し、風の指環が本来の力を取り戻す】
0090ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/03/12(月) 18:37:01.71ID:UdU6Cyja
>『まさか自爆!? なるほど、元から捨て駒のつもりだったということですね――』

ウェントゥスを操る光竜は魔力を吸収される前にいっそ放出して破壊を選んだのか、
巨竜の内部からいくつもの閃光が迸る。

それは単純な自爆魔法であり、だが巨竜を形成する魔力量から考えてみれば
この戦場を丸ごと吹き飛ばすには十分だ。

指環の力である程度は封じ込められるかもしれないが、戦場に多大な被害を及ぼすことは間違いない。
ジャンが再び突撃しようとしたその時、ラテとティターニアが動いた。

>「ラテ殿!」『フェンリル!』

巨竜に絡みついた鎖を凄まじい膂力で引っ張り、巨竜の全身が締め上げられる。
翼すら満足に動かせないほどの拘束は、自爆魔法の完成を妨害するには十分だった。

最後の足掻きか、リンドブルムへの突撃もラテの投擲した槍によって正面から貫かれて止まる。

>「ジャンさーん!ティターニアさーん!それにスレイブさんも!
 見ました!?わたしの全力!すごいでしょー!」

「お、おう!しっかり見てたぜ!俺より力持ちになったんじゃねえか!」

巨竜の肉体が崩壊し、霧散する魔力の中で少女が微笑む。
それはかつての冒険者だった少女を思い出させるような笑顔だったが、どこか違うものを感じた。
だがジャンはその考えを頭を振って忘れ、手を振って応える。

>「竜の力と拮抗できるほどの、別の力――光竜エルピスか!」

後は魔力を回収するだけと思いきや、空に漂う魔力が徐々にソルタレクの中心へと向かう。
明らかに引き寄せられていると分かるその動きは、光竜によるものだ。

『ジャン!手出しはダメだ、こちらが魔力を吸収してはウェントゥスに力が戻らない!』

「かといって今からエルピスぶん殴りに行くわけにもいかねえぞ!」
0091ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/03/12(月) 18:37:51.66ID:UdU6Cyja
仲間であるはずのスレイブを助けられず、思わず奥歯を噛むジャン。
しかし、スレイブにはまだ仲間がいた。

>「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』!!」

日の光を反射することのない、紅色の刀身から見えない何かが放たれる。
それはかつて魔剣と呼ばれた短剣、スレイブの相棒にして半身。

>「風の指環はこの通り、元の力を取り戻せた。……これでようやく、俺も指環の勇者の一員としてあんた達の隣に立てる」

ウェントゥスは無事に魔力を吸収し、風の指環としての本来の力を取り戻す。
ジャンも一旦竜装を解いて飛空艇に戻り、スレイブに駆け寄った。

「これで指環の勇者全員集合ってわけか!後はあのでかい建物に殴り込めば全部終わりだな」

ダーマの竜騎兵部隊の集団戦術によって眷属や空を飛べる魔物はほぼ駆逐され、空は完全に制圧された。
地上での戦闘も術式が解除されたことで再びダーマ・ユグドラシア連合軍が優勢となり、今や城下町までエーテル教団を押し込んでいる。

連合軍の指揮官たちもほとんど勝利を確信しており、エーテル教団にこれ以上の手札はないように思われた。


――舞台は変わり、ハイランド王宮へと移る。
かつてハイランドが王制だったことを示すこの王宮は、連邦制に移行してからは
国のトップではあるが政治に関わることのない王族が厳かに暮らし、季節ごとに行事を行う場でしかなかった。

今ではエーテル教団の幹部たちが集い、あわただしく戦場の指揮を行う場へと変貌していた。
そしてその中心にいるのは、教団の支配者である『黒曜のメアリ』と、黄金の甲冑を纏った騎士だ。

騎士は竜を象ったフルフェイスの兜を被り、背後のステンドグラスから差し込む日光で光り輝く黄金の甲冑には無駄な装飾が何一つない。
腰には二振りの白銀に輝く大剣を携え、背丈はジャンよりも大きいだろう。

「……風竜が堕ちたか。地上での戦いも押されつつある」

兜の中から聞こえるのは、低い男の声だ。
感情は感じられず、事実のみを淡々と伝えるような、そんな言い方だった。

「だとしても構いませんわ。エルピス様の御力ならば、指環の勇者たちを始末するのは造作もないことでしょう」

騎士の隣に立つメアリはまるで気にしていないかのように語り、信者たちに指示を出す。

「市街地での戦闘は避けなさい。相手をできるだけ王宮近くまで引き込むように」

「……空を飛ぶものを落とす」

そう言って光竜エルピスは右の大剣を抜き放ち、ステンドグラスに掲げた。
すると光を浴びて輝く刀身が光を集中させ、やがて一条の閃光となる。
それは触れた物全てを切り裂く刃であり、ステンドグラスを貫いて飛び出たそれはソルタレクの空を薙ぎ払った。

当たった生物は種族を問わず真っ二つにされ、そのまま市街地へと墜落していく。
それは竜騎兵でも変わらず、音もなく迫りくる光の刃に次々と熟練の竜騎兵たちが落とされる。

そしてそれは、ジャンたちの飛空艇にも平等に向かっていった。
0092ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/13(火) 23:56:04.45ID:4zt4oFGH
>「……はいっ!」

「いくぞ! とりゃあああああああああ!」

ラテと共に渾身の力で鎖を引っ張るティターニア。
竜装をまとい魔力によって強化されているとはいえ、元々が魔術師のティターニアの力自体は微々たるものだろう。
しかしラテに宿るフェンリルの力を引き出すことにおいては十分過ぎるほど功を奏したようだ。
ウェントゥス本体の体中に鎖がめり込み、その巨体を見る間に引き裂いてゆく。
しかし、そう簡単には終わらない。満身創痍のウェントゥス本体は最後の足掻きか、リンドブルムめがけて突っ込んで来ようとしていた。
慌てて魔法障壁を展開しようとするティターニアだったが――

「往生際の悪い奴め……ラテ殿!?」

>「……そうはさせませんけどね。見てて下さい、わたしの全力」

ラテが止める間もなくアイキャンフライしていた。
まるでサーカスの演者のように鮮やかに、槍でウェントゥス本体の頭部を貫く。

>「ジャンさーん!ティターニアさーん!それにスレイブさんも!
 見ました!?わたしの全力!すごいでしょー!」

「お、おう……!」

戦線に復帰したばかりとは思えないあまりの凄さに愕然とし過ぎて、そう相槌を打つのだ精いっぱいだった。
もうすっかり元通り、どころか明らかに身体能力が以前より飛躍的に向上している。
しかしふと感嘆の中に、ほんの少しの不安がよぎる。前のラテはあそこまで命知らずだっただろうか――と。
何はともあれついにウェントゥス本体を撃破したのであった。

>「ウェントゥスの本体が……崩壊していく……!」
>『待っとったぞ、この瞬間を!いい加減儂のもとへ戻ってこい、風竜たちよ!』
>『あーー?なんで帰ってこんのじゃこのくそたわけども!儂の魔力なんじゃから儂が呼んだらパッと寄って来んか!』

どうやら光竜エルピスが魔力を横取りしようとしているらしい。

「なんだと!? ならばこちらも総出で対抗すれば……」

>『ジャン!手出しはダメだ、こちらが魔力を吸収してはウェントゥスに力が戻らない!』
>「かといって今からエルピスぶん殴りに行くわけにもいかねえぞ!」

「そんな……! 待てよ、指輪以外で魔力をこちらに吸い寄せられるような手段……何かあったような気が……」

スレイブは、ティターニアが思い出すよりも早くその存在に気付いたようだった。

>「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』!!」

「そ れ だ !」

かくして、風の指輪は本来の力を取り戻すことと相成った。
0093ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/13(火) 23:57:32.28ID:4zt4oFGH
>『やたーっ!魔力が戻ってきおったぞ!!長かった……マジで長かった……!
 みておれよメアリ、覚悟しとれよエルピス!儂が全力を出す以上、貴様らは今日滅ぶ!ぜったい滅ぼす!!』
>「風の指環はこの通り、元の力を取り戻せた。……これでようやく、俺も指環の勇者の一員としてあんた達の隣に立てる」

>「これで指環の勇者全員集合ってわけか!後はあのでかい建物に殴り込めば全部終わりだな」

「こちらは指輪5つ、向こうは1つだけ、負けるはずがあるまい!」

>「ウェントゥスの魔力を引き寄せる力は、あの辺りから放たれていた。
 つまりエルピスと指環の魔女は、おそらくあそこ――ハイランド王宮にいるはずだ」
>「進もう。今度こそ、連中の野望を止めて……世界を救うんだ」

ウェントゥス撃破で景気付いた一行は、意気揚々とハイランド王宮へと飛空艇を進めていく。
しかし、その道中で異変は起こった。ハイランド王宮から放たれた閃光に当たった竜騎兵達が次々と落ちていく。
そしてそれは、一行の乗っている飛空艇をも撃ち落とそうとしていた。

「随分と手荒い歓迎だな……! パック殿、飛んでいては狙われる、急いで着陸だ!
シノノメ殿、闇の指輪で防御を!」

無論ティターニアも大地の指輪の力を使っての防護障壁を展開するが、
それだけでは防ぎきれる保証はない、しかし二重の防御ならどうにかなるだろうと思ってのことだ。
こうしてなんとか着陸に成功したが、急いで地面に降りた影響で王宮から少し離れたところに着陸してしまった。

「ティターニア様、オイラはどうすれば……」

「うむ、こうなったら共に来るしかないだろう」

この状況では再び飛んで離脱しようものならすぐに撃ち落とされそうだし、かといって飛空艇に残っているわけにもいかない。
なし崩し的に全員で突撃することと相成った。
こうして、市街地を王宮に向かって走る指輪の勇者5人+ラテ+その他二人(ジュリアン&パック)。
王宮にたどり着くまでにそれなりに妨害が入るだろうと思いきや――

「怖いほどに何も襲ってこないな……」

「わざと懐におびき寄せる作戦かもしれん。まあいい、どちらにせよ行くしかないのだから好都合だ」

そしてまるで一行に招き入れるように王宮の扉は開き、ついに一行は指輪の魔女と対峙するのであった。
その傍らに傅く黄金の甲冑をまとった騎士が、光竜エルピスだろうか。
一見メアリにエルピスが仕えているように見えるが、本当はメアリがエルピスの傀儡というのが実態なのだが。
指輪に宿る竜でありながら常に実体を持って具現化していることからも、他の竜との格の違いが伺える。
メアリが座る玉座の背後には、美しい水晶のようなものが飾られている。
ユグドラシア防衛戦にて奪われた、“無の水晶”≪エーテル・クォーツ≫――虚無の竜”クリスタルドラゴン”復活の鍵だ。
0094ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/13(火) 23:59:17.39ID:4zt4oFGH
「よくぞここまで辿り着きました――指輪の勇者達よ」

一行を出迎えたメアリの仰々しい口上は、すぐに狂った哄笑へと変わっていく。

「ええ、本当に……よく辿り着いてくれました。5つも指輪を携えて。
カモがネギを背負ってきたどころの騒ぎじゃないわ。ククク……アーハッハッハッハッハッハ!
ついに……ついに今日この時、”虚無の竜”が復活する!」

「虚無の竜とは何だ? 古竜とは別の存在なのか!?」

「そうとも言えるしそうでないとも言えるわね。
全てを食らいつくす“虚無の竜”と、全てを司る”全の竜”――相反するこの二つがごちゃまぜになって伝承では古竜と呼ばれているわ」

「なんだと!?」

これが古竜を巡る伝承に各説で矛盾や混乱が多くみられる大きな原因の一つであることは間違いない。

「テッラ殿、知っておったのか!?」

『いえ……私もさっぱり……』

「無理もないわ。記憶操作は光の指輪――この光竜エルピスの十八番……相手が竜であっても例外ではないわ。
もう一つ面白いことを教えてあげましょうか。古竜は現時点ではまだ復活などしていない――虚無と全、そのどちらも。
全世界が私たちの情報操作にまんまと騙されたのよ。
もちろん、ご立派な指輪の勇者様や四星竜や闇の竜を焚きつけて指輪を集めさせここまで持ってこさせるためのね――!」

今まで古竜が復活したのを大前提に旅をしていただけに、にわかには信じがたいが、冷静に考えてみれば頷ける。
古竜が復活したらしいという漠然とした噂が世界を覆っているだけで、
実際に襲われた町を見たことはないのはおろか、具体的に古竜に襲われたという話すら一度も聞かなかった。

「少し喋りすぎたようね。大人しく指輪を全て渡しなさい――といってもそうはいかないでしょうね」

「全てがそなたらの掌の上で転がっておったというわけか……。
そんな周到な計画をここまできてご破算にしてしまうのも心苦しいが仕方あるまい」

光竜エルピスが白銀の大剣を構え、メアリを護衛するように立つ。
メアリが指輪を嵌めた手を掲げると、一行の頭上から無数の光線が降り注ぎ、戦闘の開幕を告げた。
0095ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/14(水) 00:16:56.33ID:ao+NXNTD
・まさかの古竜はいい奴と悪い奴の二人いた!
・そして実は復活していなかった!
(古竜が復活した前提で話が始まった割には全く登場してないな〜というのをそのままネタにした形だ)
・メアリが虚無の竜を復活させようとしている! 世界がヤバい!
(前に出てたエーテルクオーツを拾ってみただけで特に先のことは考えていない!)

なんとなくのイメージ
虚無の竜・・・世界を破壊する系の属性はこっち
全の竜・・・創造主っぽい属性とか願い叶えてくれるとかいう属性はこっち
      エーテルの指輪くれそうなのもこっちかも
元々は同一存在だったのがどこかの時点で分かたれたのかもしれないし最初から全く別の存在なのかもしれない

戦闘開始まで進めてしまったが追加したいネタがあったら例によって自由に変換受けしてくれ!
0096ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/18(日) 22:26:11.08ID:e5S3KlP6
>「お、おう!しっかり見てたぜ!俺より力持ちになったんじゃねえか!」
 「お、おう……!」

「えへへー!やだなぁジャンさん!わたしなんてまだまだですよぉ!」

わーい、ジャンさんに褒められちゃったー。これは幸先がいいぞぉ。

「ウェントゥスの本体が……崩壊していく……!」

……っと、いけない。早く飛空艇に戻らなきゃ地上に落っこちちゃう。
わたしはぴょんとジャンプして、飛空艇のティターニアさんの隣に着地する。

「ただいま、ティターニアさん!」

まだ戦いは終わってない。これからが本番……なのに顔が勝手にニコニコしちゃう。
だってわたし、段々と前のわたしに近づいていってるはずだもん。
この調子で頑張っていけば……きっと、ジャンさんもティターニアさんも……
「俺達が巻き込んだ」なんて……言わなくなってくれるよね。

強くて優しい、ジャンさんとティターニアさん。
わたしが何も分からないおばかさんになっちゃっても、ずっと一緒に連れて行ってくれた。

わたしが、今のわたしになったばかりの時の事を、実はわたしは覚えてるんだ。
ジャンさんもティターニアさんも泣いていた。
いつも大事そうに持ってるあの指環を、二人とも手放して泣いていた。
……だけど、今も二人は、一度は落っことした指環を拾い直して、旅をしてる。戦ってる。
指環を全部集めれば……わたしを元に戻す事だって簡単って、ジュリアンさんが言ってたから。

それはとっても嬉しい事……本当の、本当に、嬉しい事だよ。
でも……嬉しいのと同じくらい、悔しくて、いやな事なの。
わたしは、前のわたしの日記を読んだから……知ってるんだ。
旅って、冒険って……とっても楽しいものなんだって。

……別に、二人がこの冒険を楽しめてないなんて言うつもりはないけど。
それでもわたしが記憶を無くしたりしてなければ、その分だけ、もっと楽しい旅が出来てたはずだよね。
だから……わたしはもっと強くならなきゃ。
ジャンさんとティターニアさんの助けなんかなくても、前のわたしみたいにならなきゃいけないの。
このままずっと、わたしが二人の重荷になるなんて、二人の楽しい少しでも奪っちゃうなんて、そんなの絶対にいや。
だから……もっともっと、頑張らなきゃ。

……それにしても、スレイブさん遅いなぁ。
またウェンちゃんが何か遊んでるのかな。

「ちょっとー、ウェンちゃ……ウェントゥスさーん!はやくして下さいよー!
 さっきのジャンプ攻撃、もっかい間近で見せてあげてもいいんですよー!」

>『いややっとるって!やっとるけれども!魔力が全然動かんのじゃ!
 呼びかけを無視されとるわけじゃない。なんちゅうかこう、別の場所からも引っ張る力が働いているような……』
「別の場所……だと?」

って、あらら?なんだか不穏な雰囲気……。

>「竜の力と拮抗できるほどの、別の力――光竜エルピスか!」

げ、げえ!なんだかよく分からないけどヤバそうな感じ!
えっと、魔力を横取りされそうになってるんだっけ?
……そんなの、わたしにはどーしようもないよぉ!
0097ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/18(日) 22:28:01.46ID:e5S3KlP6
「ちょ、ウェンちゃーん!スレイブさーん!頑張ってよぉ!」

あ、喋り方変えるの忘れてた!……けどそんな事気にしてる場合じゃない!
な、何か出来る事ないかな……あ、そ、そうだ!
当てずっぽうでお城に向かってなんか色々投げつけてみるとか……。

>「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』!!」

「……って、アレ?」

もしかして、なんか上手くいった感じ?
……よ、良かったぁ。わたしなんにもしてないけど……。
ま、まぁそこはね?ほら、指環持ってないと指環の事はよく分かんないとこあると思うし、仕方ないよね!

>『やたーっ!魔力が戻ってきおったぞ!!長かった……マジで長かった……!
 みておれよメアリ、覚悟しとれよエルピス!儂が全力を出す以上、貴様らは今日滅ぶ!ぜったい滅ぼす!!』
>「元気になった年寄りがうるさいのは厄介だが――」
>「風の指環はこの通り、元の力を取り戻せた。……これでようやく、俺も指環の勇者の一員としてあんた達の隣に立てる」

「……あー、いーなぁ。わたしも欲しいなぁ、指環。
 ほら、わたしって明るいですし、光の指環の持ち主には相応しかったり……駄目ですかね」

なんて言いつつ、左右のほっぺに人差し指を添えてにっこりと笑ってみたり。
前のわたしってわりとこういうとこ、あったと思うんだよね。
後はレンジャーのスキルとか使えれば、もうかなりいい線まで来てる気がするんだけどなー。
そこんとこはこっそり練習したり、大地の力でそれっぽく見せてくしかないかなぁ。
0098ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/18(日) 22:29:24.42ID:e5S3KlP6
>「これで指環の勇者全員集合ってわけか!後はあのでかい建物に殴り込めば全部終わりだな」
>「こちらは指輪5つ、向こうは1つだけ、負けるはずがあるまい!」
>「ウェントゥスの魔力を引き寄せる力は、あの辺りから放たれていた。
 つまりエルピスと指環の魔女は、おそらくあそこ――ハイランド王宮にいるはずだ」
>「進もう。今度こそ、連中の野望を止めて……世界を救うんだ」

「……そうですね。世界を救って……その後はのんびり、また旅をしましょうよ。
 わたし、ダーマの時は一緒について行けなかったから……今度は一緒に、行きたいです」

その時には、わたしも……記憶が戻ったり、してればいいんだけどなぁ。
それまでは……わたしがちゃんと、前のわたしみたいに頑張らなきゃね。

……あれ?なんだか今、地上の方で何かがぴかって光ったような。
それに、この風に巻き上げられて散っていく赤い色は……血?

「……っ、いけない。ティターニアさん!攻撃されてます!」

>「随分と手荒い歓迎だな……! パック殿、飛んでいては狙われる、急いで着陸だ!
 シノノメ殿、闇の指輪で防御を!」

あのお城から飛んでくる光の斬撃……う、うぅ、こんなに広範囲だとわたしには止めようがないよ。
ティターニアさんとシノノメちゃんが二人で防御してるけど……周りの竜騎兵さん達は……。

「み、みんな!こっちに集まって!もうお空の決着はついてるから!はやく!」

慌てて叫ぶけど、相手は光。速すぎる……みんなが次々に落とされていく。

「っ、この!」

わたしはお城に向かって全力でコインを投げる。
コインは空中で沢山の槍に変化して……すぐに光剣に切り落とされる。
無駄かもしれないけど……少しでも的を増やすくらいしか、わたしには……。

「――指輪の力よ!」

と……不意に響く、力強い声。この声は……フィリアちゃん?
女王蜂の羽を生やして……飛空艇から飛び降りて……

「だ、駄目だよ!それじゃフィリアちゃんまで!」

瞬きよりも速く、フィリアちゃんに閃光が迫る。
そして……光はフィリアちゃんの直前で、捻れるように動いて外れた。

「あ、あれ……?」

「強い炎は光を捻じ曲げる。わたくしにその技は通じませんの……あ、これはイグニス様の発想ですの。
 手柄は彼女の方に……わたくしは、先に下で待っていますの」

そう言うとフィリアちゃんは目にも留まらぬ速さで降下していく。
竜騎兵さん達をおっきなムカデさんで強引に捕まえて、拾い上げながら……良かったぁ。

>「怖いほどに何も襲ってこないな……」
 「わざと懐におびき寄せる作戦かもしれん。まあいい、どちらにせよ行くしかないのだから好都合だ」

「……急ぎましょう!ジャンさん、ティターニアさん!
 世界を救うなんて理由よりもまず……エルピスを、思いっきりぶん殴ってやらないと!」
0099ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/18(日) 22:30:49.60ID:e5S3KlP6
飛空艇が着陸してフィリアちゃんと合流すると、わたしは我慢出来ずにそう叫んだ。
こんな事言っちゃなんだけど……あの竜騎兵さん達がいてもいなくても、この先の戦いに変化なんてない。
あの人達は大きな竜相手にはバチバチ戦えても……人の大きさをした、竜の力を持つ相手との戦い方なんて知らないんだから。
だから、だから今の攻撃は……何の意味もない、ただ命を奪っただけだ。
記憶を無くして、分からない事だらけのわたしにだって分かる、許しちゃいけない事だ!
つい、かっとなって叫んじゃったけど……前のわたしだって、きっとこうして怒ってたはずだ。

>「よくぞここまで辿り着きました――指輪の勇者達よ」

そして……お城に、王座の間に辿り着いたわたし達を出迎えるのは……。
わたしは初めて目にするけど……あの人が、メアリさん……。

>「ええ、本当に……よく辿り着いてくれました。5つも指輪を携えて。
 カモがネギを背負ってきたどころの騒ぎじゃないわ。ククク……アーハッハッハッハッハッハ!
 ついに……ついに今日この時、”虚無の竜”が復活する!」

メアリさんが何か難しい事を喋っている。
わたしにはその内容の全部を理解する事は出来ないけど……一つだけ分かる事がある。
0100ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/18(日) 22:32:06.29ID:e5S3KlP6
>「少し喋りすぎたようね。大人しく指輪を全て渡しなさい――といってもそうはいかないでしょうね」
>「全てがそなたらの掌の上で転がっておったというわけか……。
 そんな周到な計画をここまできてご破算にしてしまうのも心苦しいが仕方あるまい」

それは別に理解出来ても出来なくても、わたし達のする事は変わらないって事。
メアリさんが右手を頭上に掲げる。瞬間、無数の光線がわたし達に降り注ぐ。
自分に迫ってくる分の光線なら、わたしにも防御は出来るはず。
だけど……ここはあえて、防御を捨てて前に出る!
だって、

「今度はちゃんと、聞こえるように言ってあげますの。その技はわたくしには通じませんの」

なんと言ってもこっちは八人パーティだから!
フィリアちゃんの炎を纏ったムカデが光線をねじ曲げ、逸らす。
おかげでわたしは素早くエルピスとの距離を詰められた。

床を大地の力で操作して、わたしの体を跳ね飛ばす。
同時に床を蹴り出して……食らえ!二重の加速からの必殺パンチ!
そのちょっとカッコつけた鎧と兜べっこべこにしてや……

「……浅はかだな」

……眩しい。そう思った時には、わたしは既にエルピスとは反対側の壁に叩き付けられていた。
右腕が燃えてるみたいに熱い。お腹も……触ってみると、ぬるっとしてる。
左手を顔の前に持っていく。動かすのがだるい……やっと視界に映った左手は、真っ赤に染まっていた。
フィリアちゃんが私のところまで下がってきて、指輪の力で治療してくれる。

「光の属性……それは邪なるものを退ける力。あなた達は指一本、エルピス様に触れる事は叶わない」

傷は……そんなに深くない。なのに……おかしい、指輪の力で治療をしても、全然塞がる気配がない……。
良くない……わたしの傷の話じゃなくて……。

「ふふっ……そう、あなた達は邪悪なの。あなた達こそがこの世界の不純物。
 それを決めるのはエルピス様。何故なら今やこの御方は……我らエーテル教団の崇める神なのだから」

この雰囲気、場の……空気……。

「分かるかしら。信仰を束ね、エルピス様はまことの神と成った。
 最早、あなた達の従える竜とは別格……」

調子に……勢いに、乗らせちゃった……。わたしのせいだ。
ウェンちゃんの時は、上手に出来たのに……前のわたしなら……もっと上手くやれたのかな……。
やっぱり、わたしじゃ……駄目なのかな……。

「……少しは、虚無を感じてもらえたかしら?あなた達の冒険はここでおしまい。
 さぁ……もうどこにも行けない閉塞感と、全てを失う喪失感に溺れながら、この神の園で息絶えなさい!」

無数の閃光が、またジャンさん達に襲いかかる。
フィリアちゃんが……わたしの治療さえしてなければ、あんな攻撃、怖くないのに。
速くて、鋭くて、手数も多い……シノノメちゃんが闇の力で防御しても、簡単に削り取られていく。
闇の指環と光の指環で、そんなにも力の差があるの……?

強いのは分かっていた……でもこれは、あまりにも……圧倒的すぎる……。
こんなの……こんなの……わたしに、なにが出来るんだろう……。
0102スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/22(木) 20:36:10.18ID:BfKxc279
力を取り戻した風の指環を得て、今度こそ決戦の場へと乗り込まんとする指環の勇者たち。
風を巻いて進撃する飛空艇の舳先で、光を伴う破壊が空を舐めた。

「対空砲……!?エルピスの光撃魔法か!」

光条がソルタレクの空を蹂躙し、飛び交っていた竜騎兵たちが次々と撃墜されていく。
射出元はハイランド王宮。エルピスが待つと目される場所だ。

>「随分と手荒い歓迎だな……! パック殿、飛んでいては狙われる、急いで着陸だ!
  シノノメ殿、闇の指輪で防御を!」

「撃ち落とされた竜騎兵たちを救護する!ハッチを開けてくれ」

応じたパックが甲板へのハッチを再び開け、飛び出したスレイブを追い抜くようにフィリアが空へと先行した。

「障壁から出たら狙い撃ちにされるぞ!」

スレイブの忠告は、しかし現実のものとはならなかった。
フィリアはイグニスの炎を身にまとい、生じた陽炎で破壊の光を捻じ曲げることで回避を成功させていた。

>「強い炎は光を捻じ曲げる。わたくしにその技は通じませんの……あ、これはイグニス様の発想ですの。
  手柄は彼女の方に……わたくしは、先に下で待っていますの」

「……あんたはああいうこと出来ないのか、ウェントゥス」

『む、無茶振りするない!風で光が遮れるわきゃないじゃろ!!』

「だろうな」

『くっおおお!腹立つ!!なんで聞いたんじゃ貴様マジでさぁ!!』

「防御は出来なくても……落ちてくるものを拾うことくらいはできるだろう」

シノノメとティターニアの張った防壁越しに、落下していく竜騎兵たちへ向けてスレイブは剣を構えた。

「フィリアの手の届かない場所は俺がカバーする――『ミストクレイドル』」

虚空に実体を伴った霧の渦が巻き、竜騎兵の身体を支えて落下速度を緩める。
ウェントゥスの魔力をフルに使えば、ソルタレク上空の各所で墜落した竜騎兵の身柄を全て受け止め切ることすら可能だ。
フィリアが竜騎兵たちを回収するまでの時間はこれで稼げる。

飛空艇は対空砲火を避けて市街地へと着陸し、撃墜された竜騎兵たちが後詰の部隊に保護されるのを見届けてから、
指環の勇者たちは街中を駆け抜けるかたちで王宮を目指した。

>「怖いほどに何も襲ってこないな……」
>「わざと懐におびき寄せる作戦かもしれん。まあいい、どちらにせよ行くしかないのだから好都合だ」

「光の指環は未来を司る……俺たちが王宮まで辿り着くという"未来"も、既に予知済みなんだろう」

迎撃らしい迎撃もなく、不自然なほどに静まり返った街中を抜けて、一行は王宮へと到着した。
玉座の間の扉が開き、そこでついに、宿敵・メアリと光竜エルピスに相見えることとなる。

>「よくぞここまで辿り着きました――指輪の勇者達よ」

待ってましたと言わんばかりにメアリは柔和な笑みを見せ、そしてそれはすぐに狂気を孕んだ凶相へと変わった。

>「ええ、本当に……よく辿り着いてくれました。5つも指輪を携えて。
 カモがネギを背負ってきたどころの騒ぎじゃないわ。ククク……アーハッハッハッハッハッハ!
 ついに……ついに今日この時、”虚無の竜”が復活する!」
0103スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/22(木) 20:36:32.26ID:BfKxc279
「虚無の竜……だと……?」

『えぇ……なにそれ……』

「だからなんであんたが知らないんだ……!」

またぞろウェントゥスの痴呆が発作を起こしたかと思いきや、テッラもまた同様に困惑している。
ということは、四竜たちは本当に何も知らなかったのだろう。

『はあー!?なんでお主儂じゃなくてテッラの方を信頼しとるんじゃ!儂の契約者じゃろ!!』

「自分のこれまでの言動を振り返ってから言ってくれ……」

メアリが心底おかしそうに語った内容は、ヒトはおろか竜たちさえも欺かれていた世界の真実。
『古龍』と呼ばれる存在は、二つ在った――"全"と"虚無"、相反する属性を司る者たち。
そして、いままさに世界を揺るがしている『古龍の復活』は、実際のところまだ為し得ていないのだという。
げに恐るべきは、同じ指環の竜ですら騙されたほどの、光竜の記憶を歪める能力。

(シェバトで俺を傀儡に変えたのはこの力か――!)

ヒトの心を支配し、認識を捻じ曲げ、偽物の記憶を植え付ける。
メアリがスレイブに対して行った認識の操作も、源流を辿ればエルピスの能力だったのだ。

>「少し喋りすぎたようね。大人しく指輪を全て渡しなさい――といってもそうはいかないでしょうね」
>「全てがそなたらの掌の上で転がっておったというわけか……。 
 そんな周到な計画をここまできてご破算にしてしまうのも心苦しいが仕方あるまい」

「虚無の竜とやらを喚び起こすのに俺達の指環が必要というわけか。だったらなおさら、渡すわけにはいかないな」

剣を構える鎧姿の偉丈夫・エルピスと、漆黒に身を包む魔女・メアリ。
魔女が魔力を纏った掌を頭上に掲げる。そこから放たれた破壊の光が、開戦の狼煙となった。

「シェバトではまんまと遅れをとったが……二度同じ轍は踏まない」

あのとき、スレイブは一人でメアリと対峙し、そして敗北した。
だが今は違う。十全な力を取り戻した風の指環と――そして、彼の傍には仲間がいる。

>「今度はちゃんと、聞こえるように言ってあげますの。その技はわたくしには通じませんの」

イグニスの炎を宿した百足がとぐろを巻き、メアリの光条を捻じ曲げて散らす。
開いた活路に身をねじ込むようにして、ラテが獣の跳躍力でエルピスへと迫る。

>「……浅はかだな」

――刹那、エルピスの眼前にいたはずのラテが、スレイブ達の遥か後方の壁に叩きつけられていた。

「ッ!……何が起こった!?」

間近で一部始終を目の当たりにしていたはずのスレイブには、ラテが吹き飛ばされる瞬間さえも見えなかった。
気付いたときには血塗れのラテが壁に埋まって、既にメアリがトドメを刺さんと魔力を練り始めていた。

>「光の属性……それは邪なるものを退ける力。あなた達は指一本、エルピス様に触れる事は叶わない」

再び破壊の光条が放たれる。
陽炎で光を捻じ曲げられるフィリアは、ラテの治療のために後方へと下がっていて防御が間に合わない。
一向に治癒する気配を見せないラテの傷を必死に癒そうとする彼女の背中へ、メアリの光線が迫る。

「くっ……ウェントゥス!」

『わかっとる!』
0104スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/22(木) 20:37:11.03ID:BfKxc279
スレイブは跳躍術式で後方へと跳び、ラテをかばうように立ちはだかって盾を構えた。
魔法を防ぐ効果を持ったミスリル製の盾が、あっという間に穴だらけになった。

『――"エリアルシールド"!』

間一髪でウェントゥスの防御魔法が発動し、盾を貫通した光線をどうにか逸らすことには成功した。
魔法同士がぶつかり合い、光が弾け、防ぎ漏らした光線の一部がスレイブの肩口を灼き焦がす。
0105スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/22(木) 20:37:18.35ID:BfKxc279
「っくそ……左肩が……」

光線で深く抉られた左の肩から先が動かない。
治癒術式を唱えるが、やはりラテの傷と同じく、どれだけ魔力を注いでも血の止まる気配すらなかった。

『何やっとるんじゃお主、あの小娘は庇わないとか飛空艇で抜かしとったじゃろ』

「……そういうあんたこそ、防御魔法の用意が早かったじゃないか」

無駄口を切り上げて、スレイブは再び剣を構える。
左腕は動かなくなったが、剣を振るうのは右腕だ。防御を考えなければ正味問題はない。
剣を向けた先で、メアリが肩を竦めた。

「あらあらウェントゥス、しばらく見ないうちに随分と人間びいきに宗旨変えしたのねぇ。
 とっても良い兆候よぉ、それでこそ泳がせておいた甲斐があったわぁ」

『あーっ?なに意味わからんこと抜かしよるんじゃメアリ』

「言ったでしょぉ?『カモがネギを背負ってきた』って。あなたの心境の変化もぜーんぶ、エルピス様の差配の結果なのよ」

「……どういう意味だ」

「知らないの?カモって美味しいけれど肉に臭みがあるでしょう。香味野菜のリーキ(葱)ととっても相性が良いの。
 カモの脂を吸ってトロトロに煮込まれたネギの美味しさっていったらもう、この為に世界滅ぼしてもいいくらいよぉ。
 だからね、カモがネギを背負ってきたら、そのまま一緒に鍋に放り込めて色々捗るっていう――」

「聞いたのはそっちの意味じゃない……!」

問答を無駄と悟ったスレイブは跳躍し、メアリの喉元を掻き切らんと飛びかかる。
メアリが身構えるより先に、エルピスがスレイブを叩き落とさんと大剣を振るった。

長剣と大剣の質量差、まともに受ければこちらの剣が砕かれるだろう。
跳躍の最中、空中にあっては回避することすらままならない。

横薙ぎに振るわれる大剣へ向けて、ウェントゥスが風魔法を放った。
突風に煽られた剣の軌道が下がり、スレイブの鼻先一寸の地面へと大剣が埋まる。

(ここだ……!)

大剣が止まった一瞬の隙を縫って、スレイブはエルピスの剣の横腹に着地した。
剣を振るう手には、長剣の柄とは別に、もう一つのものを握っていた。
魔剣だ。

「喰い散らかせ――『バアルフォラス』!」

メアリを狙うと見せかけ、さらに剣での斬撃と見せかけた、二重のフェイントからの魔剣発動。
対象の知性を喰い散らかす不可避の"あぎと"が、鎧の向こうのエルピス目掛けて迸る。
対するエルピスは……一切の回避行動をとることなく、ただ面頬越しに聖句を唱えた。
0106スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/22(木) 20:37:41.26ID:BfKxc279
「――『聖四文字(テトラグラマトン)』」

音もなく、光さえもなく、魔剣のあぎとは霧が散るように立ち消える。
刀身に灯っていた魔力の輝きは、錆びついた鉄のように失われていた。

「……!」

驚愕に、しかしスレイブは硬直することなく次善の策を打つ。
魔剣と一緒に握っていた長剣で、エルピスの面頬目掛けて突き込む。
キアスムスでアックスビーク相手に放った神速の刺突。

だが、面頬の隙間を正確に狙って打ち込んだはずの切っ先は、どういうわけか面頬の表面で止まってしまった。
まるで――『剣が突然切れ味を失った』かのように。

「……いつまで我が聖剣を足蹴にしている?その不敬、命で贖え」

エルピスの地の底から響くような声と共に、彼の帯びていたもうひと振りの剣がスレイブへ放たれる。
咄嗟に跳躍術式で逃れようとするが、どれだけ魔力を込めても脚部に反応がなかった。

「魔法が発動しな――」

今度こそ不調に戸惑ったスレイブは、襲いかかる大剣を回避することすら叶わずに、直撃を食らってしまった。
ラテがそうなったように、スレイブもまた吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
堅牢な王宮の壁に大きな亀裂を残して地面へと崩折れたスレイブは、肺の中身を全て吐き出す苦痛に喘いだ。
ティターニアの防御魔法がなければ、胴から真っ二つにされていたことだろう。

「学習能力がないのねぇ。神に敵うわけないって、さっきあの娘が身をもって教えてくれたでしょう?」

倒れ伏すスレイブを睥睨してメアリが失笑した。
彼女はエルピスの傷一つない鎧を愛おしそうに撫で、歪んだ笑みを零す。

「冒険者ってどうしてこうもみんな学がないのかしら。今どきはその辺の教会でもまず聖典の内容を読み聞かせるでしょう?
 神に敵対した者たちが、どんな末路を辿ったか。歴史がこれ以上ないくらい雄弁に教えてくれてるじゃない」

メアリは鎧に頬擦りをして、蕩けたような声を漏らした。

「神の光の前には、あらゆる敵対行動がその意味を失うの。刃は鈍く、炎は静まり、矢は地に落ちる。
 赦されるのは……跪き、崇め、奉ることだけ。こんなふうにねぇ?」

どうにか呼吸を強引に整えたスレイブは立ち上がろうとするが、膝に力が入らない。
骨が折れたわけでも、腱を斬られたわけでもないのに、膝から先が動かなかった。

「だぁめ。神の裁きを受けてなお立ち上がろうとする行為も、敵対行為とみなされるわぁ。
 神から賜った傷を癒すこともね?虫精のお嬢さん」

「傷が治らないのは……こういうことか……!」

地に臥せったままのスレイブには、もはやメアリとエルピスを睨め付けることしかできなかった。

神となった光竜エルピスが司る光。
それは、神なる者の権能を示し、相対する者に五体投地を強いる、威圧の光。

名を付けるならばすなわち――『威光』。
0107スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/22(木) 20:38:02.88ID:BfKxc279
【『聖四文字(テトラグラマトン)』:
 エーテル教団の信仰によって神格を得た光竜エルピスの威光。
 あらゆる敵対行為を無力化する最上位全体デバフ。攻撃には威力がなくなり、受けた傷は治らない。
 一度地に伏せれば立ち上がれず、敵意を持ち続ける限りやがて生きていることさえ赦されなくなる】
0109ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/03/23(金) 19:17:17.22ID:ktw/SpDV
王宮になんとかたどり着いた一行は警戒しつつ進み、やがて玉座のある大広間へとたどり着く。
色とりどりのステンドグラスが天井を形作り、差し込んだ日光が荘厳な雰囲気を漂わせる。
まさしく神が鎮座するに相応しい光景だが、ジャンはそれらを無視して
玉座に居座るメアリと、傍らに佇む黄金の騎士のみを視界に捉えていた。

>「よくぞここまで辿り着きました――指輪の勇者達よ」

>「ええ、本当に……よく辿り着いてくれました。5つも指輪を携えて。
カモがネギを背負ってきたどころの騒ぎじゃないわ。ククク……アーハッハッハッハッハッハ!
ついに……ついに今日この時、”虚無の竜”が復活する!」

『おいアクア、虚無の竜ってなんだ?古竜が復活するって話はどうなった?』

『ボクにも分からない、虚無を司る指環なんてなかったはず……』

メアリとティターニアの話を聞いてみればそれはすぐに分かった。
光竜が記憶操作によってあらゆる古竜に関する記憶を捻じ曲げ、本来二体存在したはずが一体という形にしてしまったのだ。

>「全てがそなたらの掌の上で転がっておったというわけか……。
そんな周到な計画をここまできてご破算にしてしまうのも心苦しいが仕方あるまい」

そのティターニアの言葉を開戦の狼煙とするかのように、黄金の騎士となったエルピスが白銀の大剣を構える。
ジャンも指環から水流を放ち、やがて一本の大剣を形作ると両手で構え、前に立つ。

「指環の勇者、最後の戦いってわけだ!てめえらまとめてぶっ飛ばしてやるからな!」

先程竜騎兵を撃ち落とした破壊の閃光がメアリから迸り、まずはラテとスレイブ、
そしてジャンがフィリアとティターニアの援護を受け疾走する。
ティターニアたちに向かう閃光はジュリアンがことごとく氷槍をぶつけて撃ち落としてはいるが、
相殺で手一杯のようだ。恐らく前線に出る余裕はないだろう。

>「……浅はかだな」

ラテがエルピスに接近し、ジャンでは見切れぬほどの速さで拳を繰り出す。
文字通り必殺の一撃は、エルピスの感情のないつぶやきと共に無力化される。

音すら置き去りにする一撃よりも早く、エルピスが白銀の大剣を振るって吹き飛ばしたのだ。
無論それは凄まじい衝撃波を伴い、ラテは重傷を負ってしまう。
直撃しなかったジャンも突風に舞う落ち葉のように吹き飛ばされ、なんとか大剣を支えに体勢を立て直す。

さらに放たれたメアリの追撃はスレイブがなんとか防いでくれたが、二人とも様子がおかしい。
どうやら傷が治っていないようだが、一種の呪いだろうか。

>「喰い散らかせ――『バアルフォラス』!」

跳躍したスレイブが二人を二重の罠に嵌めて、見事に魔剣がエルピスを捉える。
ジャンもその隙を逃すことなく腰から聖短剣サクラメントを抜き放ち、指環の魔力を乗せて投擲した。
だがエルピスは、まるでそれらを意に介さず、ただ一言詠唱する。
0110ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/03/23(金) 19:17:55.68ID:ktw/SpDV
>「――『聖四文字(テトラグラマトン)』」

バアルフォラスの魔力は掻き消え、投げつけたサクラメントは突然速度を失い落下する。
スレイブは即座に刺突を放ち、ジャンも怯むことなく背中から取り出した長槍で鎧と兜の隙間、首筋を狙った一撃を繰り出す。
だが二つの会心の一撃はピタリと止まり、二人はその姿勢のまま硬直してしまう。

>「……いつまで我が聖剣を足蹴にしている?その不敬、命で贖え」

「直接殴れば効くとでも思ったのか?」

これも何かしらの魔術か、ほぼ同時に異なる言葉を発したエルピスは片腕で大剣を振るってスレイブを薙ぎ払い、
もう片腕で破壊の閃光を放ち、ジャンの膝と肘を正確に撃ち抜く。

「槍が……通らねえ……!」

床に倒れ伏したジャンの頭をメアリが思い切り踏みつけ、抵抗は無駄だと言わんばかりに指環の勇者たちを見回す。

>「学習能力がないのねぇ。神に敵うわけないって、さっきあの娘が身をもって教えてくれたでしょう?」

>「冒険者ってどうしてこうもみんな学がないのかしら。今どきはその辺の教会でもまず聖典の内容を読み聞かせるでしょう?
 神に敵対した者たちが、どんな末路を辿ったか。歴史がこれ以上ないくらい雄弁に教えてくれてるじゃない」

「教会なんざダーマにゃねえよ、学がないのはてめえの方――ぐああっ!」

黙れとでも言いたいのか、一瞬ジャンを睨みつけて今度は肩を破壊の閃光で撃ち抜く。

>「神の光の前には、あらゆる敵対行動がその意味を失うの。刃は鈍く、炎は静まり、矢は地に落ちる。
 赦されるのは……跪き、崇め、奉ることだけ。こんなふうにねぇ?」

と、それまで後衛で閃光の迎撃に徹していたジュリアンが口を開いた。

「なるほど、洗脳した信者の強烈な信仰によって神にも等しい魔力を得ている。
 これは確かに強力なものだろうな。正直、俺でも勝てんだろう」

しかしジュリアンはニヤリと笑ってこう続ける。

「だが俺たちは俺たちだけでここに来たわけではない……そろそろいいタイミングだろう」

「神を前にしてとうとう頭がおかしくなってしまったようね。
 そろそろおしまいにしましょう」

エルピスがその言葉に応えるように、白銀の大剣を掲げる。
光を大剣に集め、一点に集中して放つそれは飛空艇を撃ち落とした時よりもはるかに熱量を高めたものだ。

「生きていた痕跡すら残さず、虚無に還してあげる!」

そしてひときわ眩い閃光が放たれ、大広間が光に包まれた瞬間誰もが死を覚悟した。
だが光が収まってもなお、誰一人として消えていない。

「……何故?何故消えていないの?エルピス様の光刃を受けてなぜ無傷で……!?」
0111ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/03/23(金) 19:19:36.96ID:ktw/SpDV
「決まっているだろう、メアリ。貴様らを奉ずる者はもはやいないということだ」

メアリが半ばパニックになりながら念話を飛ばし、教団幹部の視界を借りて状況を理解しようとする。
だが彼らと誰一人として念話は繋がらず、なんとか繋がった者からは意味不明な発言が聞こえるだけだ。

「戦線はどうなっているの!?市街地の状況は!」

『メアリ様!エルピス様って中身が女の子だとしたら鎧で蒸れてすごい熱いと思うんですよね!
 それで兜を脱いだときに汗がうなじに垂れてたらすごい色気があると思いませんか!僕は思います!』

予想していない発言に思わずメアリは石となるが、やがて困惑した表情で念話の相手に怒号を飛ばす。

「何を訳の分からないことを!早く状況を報告しなさい!」

『状況ですか?ユグドラシアの人たちと今エルピス様が女の子だとしたら無口クールなのは確定で
 尽くすタイプか尻に敷くタイプかで話し合ってますよ、今は尻に敷く派が優勢ですね。
 あっ尽くす派が一人増えました!これは分かりませんよ』

「もういい!!」

念話を一方的に断ち切り、ジュリアンを親の仇でも見るかのような目で睨みつける。

「フフフ、どうやら策は上手くいったようだな……
 恐らく貴様らが信仰によって力を得ているのは予想していた。虚無で世界を包もうとするのならそれくらいはやるだろう。
 だからユグドラシアの導師たちに頼んでおいた。なるべく信者を殺さず学園特製の精神攻撃で無力化するようにな!」

王宮の周囲を囲む市街地は今やユグドラシア特製のチャーム砲や幻惑ガス、その他学生や導師たちの課題作品や実験作品で
パニック状態となっており、真剣にエルピスとメアリを信仰する者はごく少数となりつつあった。

『メアリ様ってたぶん恋人には口調そのままで優しくなるタイプだよね』

『うおおおメアリちゃん!メアリちゃん!!!』

『メアリ×ティターニアとかメアリ×エルピスいいよね……』

『いい……』

「殉教者の信仰を変えるには冥界に行かねばならんが、生者の信仰を変えるのはたやすい!
 さあ、今や貴様らに残されたのは己の力だけだ!存分に発揮してみるがいい!
 俺たちも自分の力だけで戦うからな!」

まるで物語の悪役のような台詞を吐いてジュリアンが勝利を確信した笑みを浮かべ、
メアリがパニックになっている間にこっそりフィリアに治療してもらったジャンが立ち上がる。

「よ、よし!みんな今のうちにやっちまおう!」

ジャンは大剣を構えて再びメアリたちに向き直り、じりじりと詰め寄る。


【メアリちゃんカワイイ!】
0112ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/24(土) 01:30:48.40ID:Nl3NXYcb
ついに始まった指輪の魔女との決戦。

「――ストーンガード! 」

ティターニアは手始めに全員に防御力強化の大地の加護を付与した。
ジャン・スレイブ・ラテが前線に切り込んでいき、フィリアが中衛での援護
シノノメ・ティターニア・ジュリアンが後衛で防御を担当する形となる。
まずは獣の瞬発力を持つラテが先制攻撃を仕掛けた――かと思われたが。

>「……浅はかだな」

ラテはエルピスのただの大剣の一振りで壁に叩きつけられた。
常識破りに早い単純明快なその攻撃は凄まじい衝撃波を伴い、ジャンまでも木の葉のように吹き飛ばす。

>「光の属性……それは邪なるものを退ける力。あなた達は指一本、エルピス様に触れる事は叶わない」

フィリアがラテの治療にあたるが効果が芳しくないようで、更に彼女たちを庇ったスレイブも負傷する。
シノノメやティターニア、ジュリアンは光線の防御で精いっぱいで手が出せない状態だ。

>「知らないの?カモって美味しいけれど肉に臭みがあるでしょう。香味野菜のリーキ(葱)ととっても相性が良いの。
 カモの脂を吸ってトロトロに煮込まれたネギの美味しさっていったらもう、この為に世界滅ぼしてもいいくらいよぉ。
 だからね、カモがネギを背負ってきたら、そのまま一緒に鍋に放り込めて色々捗るっていう――」
>「聞いたのはそっちの意味じゃない……!」

「天然属性でギャップ萌え狙いか……あざとい奴め!」

額に汗を浮かべながらも自らを鼓舞するように、軽口を叩く。
このユグドラシア精神が後に重要な意味を持ってこようとまだこの時は予想していなかったのだが。

>「喰い散らかせ――『バアルフォラス』!」

スレイブとジャンが同時に攻撃を叩きこむが、エルピスのたった一言で無力化される。

>「――『聖四文字(テトラグラマトン)』」

「――シノノメ殿、来るぞ!」

>「魔法が発動しな――」
>「槍が……通らねえ……!」

ラテと同じパターンが頭をよぎり、今度は間一髪で防御を間に合わせることが出来た。
ジャンに放たれた破壊の閃光の相殺は闇の指輪を持つシノノメに任せ、
物理防御に優れる大地の力を使うティターニアは大剣を振るわれたスレイブの防御にあたる。
防御を成功させて尚その衝撃はすさまじく、スレイブは壁に叩きつけられてジャンは床に倒れ伏す。
どう見ても明らかな劣勢だが、しかしそんな中で、ジュリアンが不敵な笑みを浮かべていた。
0113ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/24(土) 01:33:04.29ID:Nl3NXYcb
>「なるほど、洗脳した信者の強烈な信仰によって神にも等しい魔力を得ている。
 これは確かに強力なものだろうな。正直、俺でも勝てんだろう」
>「だが俺たちは俺たちだけでここに来たわけではない……そろそろいいタイミングだろう」

更に、今まで背景と化していたパックがうんうんと頷く。

「そだねー、そろそろいいかも」

「そなたら……何か知っておるのか!?」

何が何だか分からず戸惑いながら尋ねるティターニアを後目に、パックは投影魔法で市街の映像を白い壁に映し出す。
胸部に二門のチャーム砲搭載の改良された美女型巨大ゴーレムが闊歩し、魔術歌唱&魔術舞踏研究室の導師や学生が歌って踊る。
それは戦闘というよりまるで何かのイベントのような、一見ふざけているようにしか見えないユグドラシア軍の様子であった。
ティターニアはそれを見てもああユグドラシアだな、位にしか思わなかったが、
メアリやエルピスは心の片隅で”まさか”と思っただろう。
それこそが作戦発動のスイッチだったのだ。

>「神を前にしてとうとう頭がおかしくなってしまったようね。
 そろそろおしまいにしましょう」
>「生きていた痕跡すら残さず、虚無に還してあげる!」

とどめの一撃が放たれ、ティターニアの西方大陸語丸出しの叫びが響き渡る。

「あかぁあああああああああん!!」

「……ん?」

――やたら派手な演出だった割には何も起きていない。攻撃は不発だったようだ。
ティターニアの疑問を代弁するようにメアリが呟く。

>「……何故?何故消えていないの?エルピス様の光刃を受けてなぜ無傷で……!?」

「またまた。本当は自分でも勘付いてるんじゃないかい?」

と、パック。

「んん?」

>「決まっているだろう、メアリ。貴様らを奉ずる者はもはやいないということだ」

ジュリアンが答えを言うが、ティターニアはまだ状況に付いていっていない。

>「戦線はどうなっているの!?市街地の状況は!」
>『メアリ様!エルピス様って中身が女の子だとしたら鎧で蒸れてすごい熱いと思うんですよね!
 それで兜を脱いだときに汗がうなじに垂れてたらすごい色気があると思いませんか!僕は思います!』
>「何を訳の分からないことを!早く状況を報告しなさい!」

>『状況ですか?ユグドラシアの人たちと今エルピス様が女の子だとしたら無口クールなのは確定で
 尽くすタイプか尻に敷くタイプかで話し合ってますよ、今は尻に敷く派が優勢ですね。
 あっ尽くす派が一人増えました!これは分かりませんよ』
>「もういい!!」
0114ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/24(土) 01:35:35.77ID:Nl3NXYcb
そこまで聞いてティターニアもようやく理解した。
エルピスの強さが信仰を糧とするものならば、敵軍を混沌の渦中に陥れるユグドラシアの戦法が絶大な威力を発揮するのは頷ける。

「そういうことか……! パック殿、黙っておったのか!」

「ダグラス様に言うなって言われてたんだ。
ジュリアン様とオイラは指輪を持ってないからノーマークだろうって言われて」

確かに、早い段階でこの絡繰りに勘付かれていたら対策をされてしまっていただろう。
圧倒的優勢と思わせて油断させたところから一気に形勢逆転で相手が混乱しているうちに畳みかける――今が千載一遇のチャンスだ。

>『メアリ様ってたぶん恋人には口調そのままで優しくなるタイプだよね』
>『うおおおメアリちゃん!メアリちゃん!!!』
>『メアリ×ティターニアとかメアリ×エルピスいいよね……』
>『いい……』

「メアリちゃんって……ふざけないで頂戴!」

今までダークな狂気の魔女を貫いてきたメアリはこういったことには全く耐性がないらしく、完全にこちらのペースだ。

>「殉教者の信仰を変えるには冥界に行かねばならんが、生者の信仰を変えるのはたやすい!
 さあ、今や貴様らに残されたのは己の力だけだ!存分に発揮してみるがいい!
 俺たちも自分の力だけで戦うからな!」

>「よ、よし!みんな今のうちにやっちまおう!」

「バカにしないで! 指輪の力なんてなくてもアンタ達なんて一捻りよ! ――セフィアトルネード!」

セフィアトルネードーー黄昏の大旋風が一同を襲う。
神の威光を奪われたメアリが取った戦法は――光の指輪の力ではない、彼女本来のエーテルの魔術だった。
威光を封じられたとはいえその強さは相当なもので、1対2や1対3で勝てるかどうかは怪しいだろう。
しかし、1対8――数の上で圧倒的に勝っているこちらが優勢だ。

「そなたほどではないが我もエーテル魔術の心得はあるぞ!
メアリ×ティターニアかティターニア×メアリか決着を付けようではないか! ――エーテルストライク!」

そう、1対8――何故だか威光を奪われて以後エルピスが戦闘に参加しなくなっていた。
程なくしてメアリは無力化され拘束されて身動きできなくなっていた。
ティターニアがメアリにゆっくりと近づいていく。

「何を勿体ぶっているの、早く殺しなさい!」

お姉ちゃんを助けて、と言った少年アドルフの言葉が脳裏をよぎる。
メアリの眼前まで来たティターニアは彼女の手を取って、語り掛けた。

「良いか? そなたは指輪の魔女でも何でもない。ずっと操られていたのだ。
ただエルピスに”器”として選ばれてしまっただけだ――」
0115ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/24(土) 01:38:09.42ID:Nl3NXYcb
そして、その指から指輪を抜いたのだった。それは拍子抜けするほどあっさりと抜けた。
指輪はメアリの指から抜けると同時に光の粒となって掻き消えた。
エルピスに回収された、ということだろう。

「あぁ……私は……」

指輪を抜かれたメアリは、先程までとはまるで別人のような雰囲気になっていた。

「全部……覚えてる……操られていた時のこと……
私は狂った魔女になった私をどこかで見てて……でもどうにもならなくて……」

「良い、何も言うな……」

「ええ、分かっています。今やるべきは――うっ」

エルピスを倒すこと、そう言おうとしたメアリだったが、胸を押さえて崩れ落ちるように膝をつく。

「メアリ殿!?」

ここでエルピスがゆっくりと口を開いた。

「脆弱な人の身で神の力を使い続けた結果だ、当然のことよ――」

「貴様……!」

以前ウェントゥスがスレイブにそれ以上力を使ったら爆発するぞ、と言っていたように、通常の指輪の竜達は使い手の命を削らないようにしている。
しかし、エルピスはそんなことはお構いなし。
歴代の指輪の魔女として認識されている人間達は、使い捨ての器でしかなかった。
実際には指輪――光竜エルピスこそが指輪の魔女の正体だったのだ。
0116ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/24(土) 01:42:05.20ID:Nl3NXYcb
「もはやその女は用済みよ! そして貴様らは光の指輪を手に入れることは出来ぬ――
何故なら我に勝てるはずはないのだからな」
0117ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/03/24(土) 01:42:40.54ID:Nl3NXYcb
そう言いながらエルピスは白く光り輝く巨大な竜に姿を変えていく。
人間界で暗躍するには人の傀儡が必要だが、敵を屠るにはその必要はない、ということらしい。
一方メアリは、必死に運命に抗おうとしていた。

「このまま消えるのはいや……せっかく解放してもらったのに……」

――この世界のどこにでもいてどこにもいない光竜ルクスよ、どうかわたしの願いを聞いて。願わくば、この人達の力に……

果たして――願いは届いた。メアリの体が眩い光に包まれ―― その一瞬後、メアリがいた場所に指輪が浮かんでいたのだった。
光の指輪は闇の指輪と同じく複数存在し得るという。
長年、腐っても光の竜の影のうちの一つであるエルピスの傀儡をしていた影響であろうか。
アルマクリスが闇の指輪の”竜”の一人になったのと同じ現象がここに起こったのだ。

「光の指輪……!」

ティターニアは、どちらが使う?と問いかけるようにラテとジュリアンに目くばせした。
尚、パックは当然のごとく除外されているのであった。

【メアリ:エルピスに見放される→指輪を抜かれて長年強大過ぎる力を使っていた反動で力尽きる→自分が指輪になる】
【エルピス:竜形態へ。このまま2ラウンド目突入でもいったんどっか飛んでいって新展開でも。
人間形態での鎧の中身の姿はまだ秘密らしい】
【指輪:ラテ殿が使うかジュリアン殿に使ってもらうかお任せ!】
0118ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:03:05.97ID:c7LWoCnk
メアリさんが指環を嵌めた右手を掲げる。
とんでもない量の魔力が膨れ上がって――閃く。
わたしと、わたしを治そうと敵に背を向けたままのフィリアちゃんに。
咄嗟に、フィリアちゃんを覆い被さるように抱き寄せる。
こんな事したって、守りきれる訳ないって分かってるけど……わたしには、これしか出来ない……。
……襲いかかってくる閃光が眩しくて、目を閉じる。

>『――"エリアルシールド"!』

……痛くない。何も起きない。
頬に何か温かい液体が触れて、目を開く。
0119ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:04:11.35ID:c7LWoCnk
>「っくそ……左肩が……」

「ス……スレイブさん?なんで……」

>『何やっとるんじゃお主、あの小娘は庇わないとか飛空艇で抜かしとったじゃろ』
 「……そういうあんたこそ、防御魔法の用意が早かったじゃないか」

わたしのせいで、スレイブさんまで怪我をして……こんな、こんなつもりじゃなかったのに。
スレイブさんとジャンさんが同時にエルピスに攻めかかる。
なのに……それでも通じない。
ジャンさんが手足を撃ち抜かれて、頭を踏みつけられて……なのに、わたしは何をやってるんだろう……。
立たなきゃ。立ってよ。お願い……なんてどれだけ足掻こうとしても、体はろくに動かせない。
前のわたしなら……立ててたのかな。それとも、こんな事になる前に、もっと上手にやれてたのかな。
0120ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:04:31.18ID:c7LWoCnk
>「神を前にしてとうとう頭がおかしくなってしまったようね。
  そろそろおしまいにしましょう」
 「生きていた痕跡すら残さず、虚無に還してあげる!」

……眩しい光がもう一度、今度はみんなを包み込む。
これで、本当にこれでおしまいなの?
みんなのお荷物になったまま……ジャンさんに、ティターニアさんに、前のわたしと会わせてあげられないまま?
そんなの……いやだ。

「……いやだ!」

気づけばわたしはそう叫んでいて……エルピスのはなった光は、消えていた。
……生きてる?わたしだけ……じゃない。みんな、無事だ。
一体どうして……。

>「……何故?何故消えていないの?エルピス様の光刃を受けてなぜ無傷で……!?」
 「決まっているだろう、メアリ。貴様らを奉ずる者はもはやいないということだ」

……どういう事?

>「フフフ、どうやら策は上手くいったようだな……
  恐らく貴様らが信仰によって力を得ているのは予想していた。虚無で世界を包もうとするのならそれくらいはやるだろう。
  だからユグドラシアの導師たちに頼んでおいた。なるべく信者を殺さず学園特製の精神攻撃で無力化するようにな!」

得意げに語るジュリアンさんの言葉を聞いても……わたしはまだ何が起きたのか分かっていなかった。
そのまま続いた説明を全部聞いて、やっとなんとなくだけど起きた事が理解出来た。
……前のわたしなら、きっともっと早く理解してたんだろうな。

>「よ、よし!みんな今のうちにやっちまおう!」

ジャンさんが戸惑いながらも檄を飛ばす。
メアリさんは……

>「バカにしないで! 指輪の力なんてなくてもアンタ達なんて一捻りよ! ――セフィアトルネード!」

……指輪の力がなくても?
信仰の力がなくなっただけで、エルピスはまだ戦えるはず……。
なのにエルピスは……確かに、まるでメアリさんを援護しようとしない。
むしろエルピスに攻撃が及ばないようにメアリさんが無茶をしているくらい。

「お前、まさか……」

その理由がなんなのか考えて、一つの可能性を思いついて……
わたしは思わず、戦いの最中にエルピスを睨みつけてしまった。
無言を貫く面頬の奥を、どれほど視線で突き刺しても……エルピスは何の反応も示さない。
……思いっきりぶん殴ってやりたいけど……ここは我慢だ。
わたしじゃまた足を引っ張っちゃうかもしれない。
それに何より……もう、メアリさんを解放してあげないと。
0121ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:05:28.75ID:c7LWoCnk
わたしは深く息を吸い込んで、

「……この、外道め!!」

そう、叫んだ。同時に右手に大きな槍を作り出して、大きく振り被る。
メアリさんがわたしとエルピスの間に飛び込んで、迎撃の構えを取る。
そうだよね。あんな事叫べば、わたしがエルピスを狙ってるって思うよね。
そしてこの距離で投げつけられた槍を撃ち落とすには、見てからじゃ間に合わない。
足を止めて、魔法を撃つ準備をする。だけど生憎……この槍は、投げない。
投げると見せかけた勢いのまま床に突き刺して……大地の力を操る。
床を伝ってメアリさんの足元へ。その石材を砂糖菓子みたいに脆くした。
メアリさんが体勢を崩す……この人数差じゃ、その隙は致命的だ。立て直せないよね。
そして……それから更に何度かの攻防の末に、

「――闇の指環よ」

シノノメちゃんが、メアリさんの背後を取っていた。
闇の指環から黒い影が二つ溢れる。それは人の形を取って……メアリさんの前に並び立った。
アルマクリスさんと……アドルフさんだ。

「……私ではない誰かが、闇の指環の主となった未来。
 その内の二つを……ここに顕現しました。決着をつけましょう、黒曜のメアリ。
 ああ、ご心配なく。私は手を出しませんよ。ただ、あなたの後退と、余計な手出しを禁じるだけです」

「舐めるなッ!!お前達が闇の指環を持ち帰ってさえいれば……!
 この、この……出来損ないめ!お前達が二人並んだところで、私に勝てるとでも――」

響く怒号を断ち切るように、アドルフさんの双剣が閃いた。
瞬間……メアリさんが魔法を放とうと練り上げていた魔力が……齧り取られた?

「勝てるさ、姉上。黒犬騎士アドルフの、狂犬の牙は……あなたを止める為に磨いた剣技だ。
 光の指環の回復魔法をも食らい……その魂を、俺の手元に、あなたを留める為に、磨いてきたんだ」

「……けっ、シスコン野郎め。俺の出る幕がねーじゃねーか」

アルマクリスさんが悪態をつく……それしかする事がないくらい、アドルフさんの剣は冴え渡っていた。
冴えだけじゃない。鬼気迫るような圧力……それが、メアリさんから動きの精彩を奪っているんだ。

「……頑張って、アドルフさん」

……気づけばわたしは、そう呟いていた。
そして……決着が、ついた。

>「何を勿体ぶっているの、早く殺しなさい!」
 「良いか? そなたは指輪の魔女でも何でもない。ずっと操られていたのだ。
  ただエルピスに”器”として選ばれてしまっただけだ――」

メアリさんの右手から指環が抜き取られる。
瞬間……メアリさんの顔から、狂気が消えた。
0122ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:06:27.45ID:c7LWoCnk
>「あぁ……私は……」
 「全部……覚えてる……操られていた時のこと……
  私は狂った魔女になった私をどこかで見てて……でもどうにもならなくて……」
 「良い、何も言うな……」

……良かった。メアリさんが助かって……後は、エルピスをやっつけるだけ……

>「ええ、分かっています。今やるべきは――うっ」
 「メアリ殿!?」

だけど突然、メアリさんが胸を押さえて崩れ落ちる。

>「脆弱な人の身で神の力を使い続けた結果だ、当然のことよ――」
 「貴様……!」
>「もはやその女は用済みよ! そして貴様らは光の指輪を手に入れることは出来ぬ――
  何故なら我に勝てるはずはないのだからな」

「……この、外道め」

わたしはさっきも言った言葉を、もう一度口にしていた。今度は演技じゃない。
さっきからずっと、あいつが外道だって事くらい分かってたけど……あの時はまだ、足りない頭で戦術を練る冷静さがあった。
だけど今は……今すぐにでも、お前をぶん殴ってやりたいよ、エルピス。
わたしは弱くて……勝手に動いたらジャンさん達の迷惑になっちゃうから、辛うじて抑えが効いてるけど。

>「このまま消えるのはいや……せっかく解放してもらったのに……」

……メアリさんが最後にそう呟くと、その姿は消えてしまった。
後に残ったのは……

>「光の指輪……!」

小さな指環……たったそれだけを残して、メアリさんは消えてしまったんだ。
たったそれだけだ。例えそこにあるのが光の指環であっても、そんなものは……「たったそれだけ」なんだ。
それ以外の全てがなくなっちゃったんだ。
死なせてしまった人の為に悲しむ事も、償う事も。
生きててよかったと喜んでもらう事も、喜ばせる事も……もう、メアリさんは出来ないんだ。
0123ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:07:15.04ID:c7LWoCnk
ティターニアさんがわたしとジュリアンさんを見る。
……光の指環を、どちらが使うのかって言いたいんだよね。
答えはもう、決まってる。わたしはティターニアさんと目を合わせると……

「光の指環を手に入れて、それで我が力に対抗し得ると思ったのか?」

「……うるさいな。今から大事な話をするんだから、黙ってなよ」

エルピスがわたし達を見下ろして、嘲るように鼻で笑う。

「無駄な事だ……お前達がいかに群れようが、我が信仰を削ぎ落とそうが……全ては無駄なのだ。
 この光竜エルピスの前では……指環の勇者御一行など、弱きヒトの集いに過ぎない。
 最も弱き環から順番に砕いてゆく……それだけの相手だ」

瞬間、エルピスの右眼が眩く光った。
魔力を帯びた光がわたし達を照らす。
……あれ?なんだか……頭が、くらくらして……視界が、ぶれる……?

「我が眼は全てを照らし、透かす、光の眼。
 見えるぞ……未完の心が、満たされぬ器が」

なんだ、こいつ……わたしを、まっすぐに見下ろして……。
満たされぬ器……?わたしの事を、言ってるのか……?
ああ、くそ……頭の……中に……変な……光景が……。
ぼろぼろになった街の中に……ジャンさんと……ティターニアさんがいて……。

「……どこ、ここ……アスガルド……?」

獣人の女の子が、二人に襲いかかって……あれは……前の、わたし?

「なんで、わたしが……ジャンさんを……殺そうと……」

……何やってんのさ、前のわたし。
勝手に思いつめて、勝手に壊れて……二人を、泣かせて。
わたしは……こんなに、ジャンさんが、ティターニアさんが、好きなのに。
これなら、これなら……今のわたしの方が……二人を、大事に思ってるじゃないか……。

「今のわたしよりも……こんな弱い、前のわたしの方がいいの……?」

「光栄に思うがいい。次の指環の魔女はお前だ。
 もっとも……一時間も保たぬだろう、仮初めの魔女だがな」

気づけばわたしは、不思議な力で宙に浮かんだままだった光の指環を、掠め取っていた。
みんなから離れて、エルピスの真下にわたしはいた。
わたしが……指環の魔女?……そっか。
指環の魔女になれば……みんなの記憶を操れば、わたしが、前のわたしになれるんだ。

「では……また会おう。指環の勇者達よ。次は何人で我がもとへ辿り着けるか、楽しみだな。
 その時はまた、最も弱き環を砕いてやるぞ。仲間を殺めたその瞬間を、思い出させてからな」

そしてわたしは……大きく振りかぶって、コインを投げる。
渾身の力で投げたそれは、大地の力で槍に変化して……わたしの狙い通りに突き刺さった。
0124ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:09:26.80ID:c7LWoCnk
「……馬鹿な」

さっきエルピスが偉そうに自慢していた、右の眼に。

「何故だ。何故お前が、我が洗脳に抗える……。
 心弱き故に全てを放棄した愚かな人間の、残滓ごときが!」

くるんと回転して上に向かって投げつけたんだけど、上手く当たって良かったなぁ。

「……わたしは、確かに未完成だけど。空っぽなんかじゃないからだよ」

エルピスの右腕がわたしに向かって振り下ろされる。
わたしはそれを左に避ける。潰した右眼の死角に回り込むように。

「まっ……ついさっきまで、うじうじ悩んでたのは事実だけどさ。
 ……ごめんね。答えはもう見つけちゃったんだ。
 だからあんなもの見せられたって、わたしはもう平気なの」

てゆーか、かなり悪意があるよね、さっきの見せ方。
左手に握りしめた光の指環……メアリさんが慌てて、もっとちゃんと記憶を見せてくれたけどさ。

だけど今は、その記憶をじっくり見てる暇はない……わたしは床を砕く右腕を駆け上ぼる。
そして跳躍……右眼に突き刺さった槍を、踵で思いっきり蹴りつけた。
その反動で宙返りを打って、わたしはみんなの傍へと着地する。

「ジャンさん、ティターニアさん……それに、ジュリアンさん。この指環。わたしに使わせて」

わたしはエルピスを睨みつけたまま、そう言った。
それは自然に出てきた言葉だった。前のわたしならなんて言うかなんて考える前に、自然と。

……でも、これでいいんだよね。分かったんだ、わたし。
わたしは、前のわたしみたいにはなれない。
わたしは考える前に体が動いちゃうし、敵の戦術を読んで対策するなんて絶対無理。
日記の余白を色んな話で埋めたりも出来ない。

だけど……そんなわたしにも、出来る事は、あった。
わたしは何も考えなくたって、フィリアちゃんを庇おうとしてた。
わたしなりのやり方で、メアリさんを止めようとした。
わたしは、わたしの心でアドルフさんを応援したくなって……エルピスに、怒りを抱いた。

ねえ、ワンちゃん。これなんでしょ?
わたしが、わたしのまま……目の前にある物事に向き合う事。
これが……『全力』って事なんだよね。
0125ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:10:11.25ID:c7LWoCnk
ねえ、ワンちゃん……わたしが、わたしのまま向き合ったら……
ジャンさんと、ティターニアさんも……今のわたしに向き合ってくれるかな。

「……ジャンさん、ティターニアさん」

……え?なに?知るかって?

「わたしね、ホントは嫌だったの。二人に……俺達が巻き込んだ、なんて言われるのが」

もう、そんなんだからテッラさんともいまいちいい雰囲気になれないんだよ。

「わたしのせいで、二人が負い目を感じてるのが嫌だった。
 もっと、今よりももっと、一番楽しい冒険をして欲しかった。
 わたしが、前のわたしみたいになれればいいなって思ったんだけど……それも上手に、出来ないし」

いいもんね、あなたが優しい言葉をかけてくれなくたって……

「だけど、だから……もう、心配しないで。前のわたしが戻ってこれるまで、わたしがこの体を守るから。
 二人が負い目なんて感じられないくらい、強くなるから。
 その代わり……じゃないんだけど、もし良かったらで、いいんだけど」

わたしの気持ちはもう、決まってるもん。

「前のわたしじゃない、今のわたしを……少しずつでいいから知って、好きになって欲しいなー……なんて。
 知って、なんて言っても、わたしの事なんてわたしもまだ全然分かってないし……
 だから、えっと、色んなとこに連れてって欲しいし、いっぱいお話したいし……」

なんてわたしが言ってると……急にとんでもない爆音が響き渡った。
いや、違う。これはエルピスの咆哮だ。

「ふざけるな!惰弱なヒトが……自らの力でその弱さを克服するだと?
 そんな事が認められるか!記憶を捨てて、何度やり直したところで……
 その弱さが消えるなどあり得るはずがない……!」

「……今から大事な話をするから黙ってろって、さっき言ったはずなんだけどな」

「黙れ!いや、そうか……お前達か……!
 わたしが洗脳を施すその前に、既にその小娘を操作していたな?
 イグニス、テッラ、それともテネブラエ……貴様の仕業か!」

「……ああ。そう言えばあなた、人間なんて弱っちいもん世界なんか任せとけなーい……
 なんて考えてたんだっけ。そこは嘘じゃないんだね。
 で……どうする?わたしが弱い人間なんだって証明したいなら、やる事は一つじゃない?」

初めて取り乱した様子を見せるエルピスを余裕の笑みと共に睨み上げる。
0126ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:12:19.16ID:c7LWoCnk
「ほざけ小鼠が。“無の水晶”が見てみるがいい」

エーテル・クォーツって……なに?わたし多分その頃の記憶はないんだけど……。
あっ、あの玉座の後ろに飾ってあった水晶か……

「って、なくなってるけど……」

「ああそうだ。既に虚無の竜は目覚めた。貴様達が目覚めさせたのだ。
 全の中にあってこそ、虚無は形を得る。
 貴様達がここまで運んできた指環がこの世の滅びを呼び覚ましたのだ!」

エルピスは、くつくつと嘲笑した。
0127ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/03/27(火) 06:12:47.15ID:c7LWoCnk
「虚無の竜はやがてこの世界の全てを虚無に沈めるだろう。
 より多くの絶望を、より多くの虚無を生み出しながら、この世界を巡るのだ。
 今に全ての人間が滅びの時を焦がれるようになる……」

いい加減、嫌味な声にムカムカしてきて、わたしはポケットからそっとコインを取り出す。
だけど……そこで気づいた。エルピスの姿が少しずつ薄れていっている事に。
なるほどね……とっくに逃げ出してるって訳だ。

「……やーい、臆病者」

「今の内に勝ち誇っていろ。最早私がお前達と戦う意味などないのだ。
 お前達はいずれ自分達が犯した罪の重さに……潰える事になるのだからな」


【敵役になる予定はならない方がきもちよく終わりそうなのでやめときました。へへっ。

 虚無の竜って?→全世界にラック値減少のデバフを振りまくすごいやつだよ。
            こいつがいる限りこの世の運命は世紀末ルートに固定されちまうんだ】
0130スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/31(土) 22:15:50.64ID:9OgiXgQ0
剣は鋭さを失い、魔法は鎮まり、立ち上がる力さえも掻き消える。
光竜エルピスのもたらす「威光」は、指環の勇者たちから立ち向かう術を奪い、着実に追い詰めつつあった。

>「なるほど、洗脳した信者の強烈な信仰によって神にも等しい魔力を得ている。
 これは確かに強力なものだろうな。正直、俺でも勝てんだろう」

地に伏せたスレイブをメアリから庇うように、ジュリアンが一歩前に出る。
指環を持たない彼は、勇者たち以上にエルピスの影響力を受けるはずだ。
だがジュリアンの表情に、諦念や苦悩はなかった。

>「だが俺たちは俺たちだけでここに来たわけではない……そろそろいいタイミングだろう」

敵対する者を例外なく消し飛ばす破壊の光条。
メアリの杖から放たれた致死の威力は、しかし誰一人の命さえも奪うことはなかった。

>「……何故?何故消えていないの?エルピス様の光刃を受けてなぜ無傷で……!?」

>「フフフ、どうやら策は上手くいったようだな……
 恐らく貴様らが信仰によって力を得ているのは予想していた。虚無で世界を包もうとするのならそれくらいはやるだろう。
 だからユグドラシアの導師たちに頼んでおいた。なるべく信者を殺さず学園特製の精神攻撃で無力化するようにな!」

メアリの戸惑いに、ジュリアンは口端を上げる。
語られたのは、彼とパックが裏で動いていた暗躍の結実であった。

「そうか……エーテル教団が洗脳によって強引に信仰を獲得しているならば……」

スレイブにもようやく、現在起きている事態の合点がいった。

「洗脳し返し、教徒たちの精神をこちらに利するよう捻じ曲げれば良い。ユグドラシルには、そういう魔法があったな……!」

音に聞く、過日のアスガルド防衛戦――
ソルタレクとユグドラシルとの緒戦となったかの戦いでは、軍団同士の戦闘は小規模に収まったらしい。
ユグドラシアの術士たちが開発した洗脳の魔術によって、敵軍の尽くが戦意を失ったのだ。
同じことが、ソルタレクの市街戦においても起こっていた。

>「殉教者の信仰を変えるには冥界に行かねばならんが、生者の信仰を変えるのはたやすい!
 さあ、今や貴様らに残されたのは己の力だけだ!存分に発揮してみるがいい!俺たちも自分の力だけで戦うからな!」

『えぇ……さらっと言っとるけどエグくない?洗脳合戦ってことじゃろつまり』

ドン引きするウェントゥスは、やはり自分がシェバトでやろうとしていたことを思いっきり棚に上げていた。
スレイブは肩を竦め、膝に力を入れて立ち上がる。――立ち上がることができた。

「策士が策に溺れたな。連中の失策は、俺たちが同様の策を講じないと断じた、想定の不足だ」

『ものは言いよう過ぎるわ!』

>「バカにしないで! 指輪の力なんてなくてもアンタ達なんて一捻りよ! ――セフィアトルネード!」

余裕を失ったメアリが、ついに光の指環に頼ることを止めた。
対するこちらは人数で大きく上回っているうえに、指環の力の後押しまである。
勝敗は火を見るよりも明らかだった。ほどなくして、決着がつく。
闇の指輪から生み出されたアドルフの剣がメアリの杖を弾き飛ばし、ティターニアの拘束魔術が彼女の身動きを封じた。

>「何を勿体ぶっているの、早く殺しなさい!」

一転攻勢の末に追い詰められたメアリ。
ティターニアは抵抗する彼女を宥めすかし、その指に嵌った指環を抜いた。
0131スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/31(土) 22:16:16.60ID:9OgiXgQ0
>「あぁ……私は……」
>「全部……覚えてる……操られていた時のこと……私は狂った魔女になった私をどこかで見てて……でもどうにもならなくて……」

最も強固なる洗脳でもあった指環の支配から解かれ、文字通り憑き物の落ちたメアリは茫然自失としていた。
『指環の魔女』の末路――元の人格を取り戻した彼女は、共にエルピスへと立ち向かわんとして、しかし膝を付く。

>「もはやその女は用済みよ! そして貴様らは光の指輪を手に入れることは出来ぬ――
 何故なら我に勝てるはずはないのだからな」

メアリから指環を回収し、本来の姿である光の竜へと変貌したエルピス。
彼は追い詰められたメアリに助力する姿勢さえ見せなかった。本当に、使い捨ての駒としか認識していなかったのだ。

『いつまでイキっとるんじゃエルピス。んなんだから儂らにもハブられるんじゃぞ。
 信仰の後ろ盾を失った貴様なんぞ、たかが一匹の竜に過ぎん。五竜に勝てるわけないじゃろ』

恥も外聞もなく全力で勝ち馬に乗り始めたウェントゥスの無様はともかく、こちらの有利には違いない。
エルピスが単独で世界を左右する力がないのは、指輪の魔女を使って暗躍していたことからも明らかだ。
プライドの高い光竜が、それでも信仰の蓄積という手段を取らざるを得なかった、選択の余地の不足。
エーテル以外の全ての指輪が揃った今、彼に勝ちを拾う術などないはずだ。

>「このまま消えるのはいや……せっかく解放してもらったのに……」

一方で、メアリの身体が光の粒へと変わり、その輪郭が失われていく。
エルピスの力に長くさらされ続けた反動。光の指輪は、彼女の生命維持の役割も果たしていたのだ。
それが取り除かれたいま、メアリの肉体はそれまで抑え続けてきた滅びに抗うことができなかった。

>「光の指輪……!」

かつて闇に呑まれたアルマクリスがそうであったように。
光に呑まれたメアリもまた、光の指輪の『影』の一つとして、その生涯を完結させた。
スレイブは目を伏せる。哀れみではない。ただ、竜に振り回された彼女の末路を、直視できなかった。

>「無駄な事だ……お前達がいかに群れようが、我が信仰を削ぎ落とそうが……全ては無駄なのだ。
 この光竜エルピスの前では……指環の勇者御一行など、弱きヒトの集いに過ぎない。
 最も弱き環から順番に砕いてゆく……それだけの相手だ」

「まずいぞ……奴は、新たな"指環の魔女"を作り出そうとしている……!」

メアリの成れの果て、宙に漂うそれを、ラテが掠め取ってエルピスの元へと下る。
先代の指環の魔女、メアリは年端もいかない幼少の頃に光の指環に見初められた。
つまり、幼く、善悪の判断に乏しい者のほうがエルピスの洗脳には都合が良いのだろう。
そして、アスガルドの戦いで記憶を自ら封じたラテに、新たな白羽の矢が立った。

>「では……また会おう。指環の勇者達よ。次は何人で我がもとへ辿り着けるか、楽しみだな。
 その時はまた、最も弱き環を砕いてやるぞ。仲間を殺めたその瞬間を、思い出させてからな」

「逃がすか……!」

飛び立たんとするエルピスに追いすがろうとスレイブが膝をかがめる。
跳躍魔術を発動するより早く、光の指環を嵌めたラテが跳んだ。
すわ、エルピスの逃亡を手助けするための迎撃か――歯噛みしたスレイブをよそに、彼女の投じた槍はエルピスの右眼を穿った。

>「何故だ。何故お前が、我が洗脳に抗える……。心弱き故に全てを放棄した愚かな人間の、残滓ごときが!」
>「……わたしは、確かに未完成だけど。空っぽなんかじゃないからだよ」

ラテは、エルピスの洗脳に抗い切っていた。
救済をもたらす甘言をはねのけ、光の指環の支配を克服して、立ち向かう力を得たのだ。

『魔剣でアッパラパーになっとったお主とは大違いじゃな』
0132スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/31(土) 22:16:35.12ID:9OgiXgQ0
くつくつと笑うウェントゥスに、スレイブは無言を肯定とするほかなかった。
肉体をどれほど頑健に鍛えたところで、精神まで屈強になれるわけではない。
過去を忌み、自由を恐れ、束縛を求める。その甘美な誘惑に、抗えなかったのがかつてのスレイブだ。
だがラテは違った。記憶の大部分を封じ、わずかに残るばかりだった心で、正しい道を確かに選び取ったのだ。

当ての外れたエルピスは、半ば負け惜しみのように『虚無の竜』の復活を伝える。
玉座の間に安地してあった無の水晶は消え失せ、虚無の竜の依代として既に役割を果たしていた。

「……!」

ラテの槍の刺さったままのエルピスの頭部を切り落とさんと、スレイブが今度こそ跳躍して剣を振るう。
しかし刃が竜の肉を断つ手応えはなく、エルピスの姿は光の粒となって霧散した。
ここにいたのは幻体――本体は、とうの昔にここから逃げ去っていたのだ。

>「今の内に勝ち誇っていろ。最早私がお前達と戦う意味などないのだ。
 お前達はいずれ自分達が犯した罪の重さに……潰える事になるのだからな」

「自信家のわりに、抜け目がないな……流石に指環の魔女なしには分が悪いと判断したか」

『なに他人事みたいなこと言っとるんじゃ、エルピス逃げてしもうたぞ!
 せっかくここまで追い詰めたっちゅうのに、またあやつの本体を探すところからやり直しじゃろこれ!』

「振り出しに戻ったわけじゃない」

今回エルピスと対峙できたのは、エルピスがメアリを使ってソルタレクを支配していたからだ。
つまり、エルピス自身に動きがなければこちらから敵方の位置を特定することは不可能だった。
彼が本気で隠遁しようと身を潜めれば、居場所を見つけ出すことはまず無理だろう。
しかし今なら手がかりがある。ラテの持つ光の指環なら、エルピスの気配をたどることはできるはずだ。

『気配を辿るっちゅうても大まかな方角くらいしか分からんじゃろ。
 このだだっぴろい大陸の中から、方位磁針だけで砂漠の砂粒を見つけ出すようなものと違うか』

「大陸全土を虱潰しに探すなら、何年経ってもエルピスを探し出すことは不可能だろうな。
 ……探す範囲が大陸全土ならば、だ」

無の水晶の残骸を調べていたジュリアンが、何かを合点したように立ち上がった。

「案ずるな、大方の見当は今しがた付いた。
 エルピスはおそらく、目覚めたばかりの虚無の祖龍に会いに行っているはずだ。
 猛り狂う祖龍を宥めすかし、ヒトの世を破壊するよう舵を切る為にな」

エルピスはヒトの支配する世界を蹂躙し、再構築する為に暗躍を続けていた。
目的が決まっているということは、エルピスがまずどこから手を付けるかも予想ができる。

「最初の標的となるのは――ヒトの権威の象徴にして人間の総本山、大陸東方『ヴィルトリア帝国』。
 帝国は人間至上主義を掲げる大国だ。まず間違いなく、エルピスは帝国の破壊から始めるだろう」

先代の指環の魔女、メアリ・シュレディンガーは帝国の民だった。
彼女を見初め、傀儡として仕立て上げたとき、エルピスは帝国にいたのだ。
ジュリアンは複雑そうな顔をしていた。捨てた故郷に思う所があるのだろう。

「帝国へ行くぞ。指環を巡る全ての因縁の始まりの場所で――今度こそ、決着を付ける」
0133スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/03/31(土) 22:16:50.62ID:9OgiXgQ0
【エルピスの行方について:
 ヒトの世を壊したいならヒトの総本山をまず攻撃するだろうし、最終決戦の地は帝国になりそう】
0134ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/01(日) 14:39:57.24ID:lsQYEdzu
――ヴィルトリア帝国・帝都ヴィル。

支配の名を冠するこの都市は帝国の政治的中心であり、あらゆる権力と情報が集中するピラミッドの頂点だ。
そしてその中心、皇帝が座する要塞城マグヌスにおいて帝国の行く末を左右する重要な会議が行われようとしていた。

「ソルタレクはやはり解放されたか……武器も兵もある程度出してやったが所詮は烏合の衆だな」

「指環の勇者様は随分と働いてくださる、黒騎士共もそれくらい働いてくれればいいものを」

「それは黒騎士を定めた皇帝陛下に対する不敬罪になるぞ!」

元老院の議員たちが激しく意見を交わす中、元老院会議場の一番奥、豪奢な椅子に座る男が口を開いた。

「……爪からの報告によれば光竜は消え去り、虚無の竜とやらが復活するとのことだが?」

白髪混じりの黒髪を肩まで無造作に伸ばし、やつれきった表情で男はそう問いかける。
黒地の生地に金糸で刺繍されたチュニックは威厳があるが、やせ細った顔と身体はまるで浮浪者のようだ。

「そもそも古竜の復活という情報がでたらめだったのです!
 虚無の竜と全の竜という情報も疑わしい、一度爪を全て検査するべきでしょう!」

ここで言われている爪とはヴィルトリア帝国の間諜のことだ。
帝国を人間の身体に例えれば、現場で動く間諜は伸びた爪程度の存在でしかないという意味が込められている。
やつれた男は強気な議員の意見を手を振って静かにさせ、さらに口を開く。

「……指環の勇者たちを帝都に招こうではないか。
 一度彼らと話をしてみたい、上手くいけば指環の一つぐらいもらえるかもしれんぞ?」

ハハッと自嘲するかのようにやつれた男は笑い、言葉を紡ぐ。

「世界に害を招かんとしたエーテル教団と指環の魔女を滅ぼした功績を認め、
 要塞城にて開かれる晩餐会にぜひとも出席していただきたい……とな。
 招待状を送るように。相手が人間族ではないからと言って礼節を欠くなよ」

帝国で最も高い地位にいる男、ヴィットーレン3世はそう議員たちに語り終えると、
指環に関する話題はこれで終わりというように、話題を切り替える。

「……さて、他の報告を聞こうか。
 我々は指環の勇者たちにだけ構っていればいい立場ではない……」
0135ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/01(日) 14:40:16.23ID:lsQYEdzu
視点は移り、ソルタレクの王宮内。
見事にエルピスを追い払い、首都の奪還に成功したジャンたちは
直後に突入してきたダーマ・ハイランド連合軍に事情を説明していた。
もっとも、ジャンは突入部隊の中にいた両親に再会したことで少し違ったものとなっていたが。

「……つまり光竜はまんまと逃げちまったってことかい!
 我が子ながら情けないねえ、転移先を予測するなんて戦闘の基本だよ!」

「そう言ってやるな、魔女を討ち取っただけでも大したものだ」

『ジャンって結構厳しく鍛えられた?』

「二人とも剣闘士だったから相当……」

ジャンよりも頭二つ抜けて大きいオーク族の巨漢と、
亜麻色の髪に動きやすいよう全体的に短く切ってあるローブを着た人間族の女性。

ベテランの傭兵として有名な『爆雷のジャック』と『指鳴らしのカリア』の二人だが、
ジャンを相手にからかったりギュッと抱きしめる様はまるで普通の家族のようだ。

そして一通り説明が終わり、連合軍の司令官が簡易的なものながらバルコニーから戦争の終結を宣言する。
王宮の大広間は一時歓声に包まれ、兵士たちはダーマ、ハイランド問わず互いに喜び、
未だ煙が上がる市街地からも歓声が上がる。ソルタレク解放戦はこれで終わったのだ。


【そろそろ章区切りだと思うんですがどうでしょう】
0136ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/01(日) 22:06:35.50ID:jAwe3V4q
>「無駄な事だ……お前達がいかに群れようが、我が信仰を削ぎ落とそうが……全ては無駄なのだ。
 この光竜エルピスの前では……指環の勇者御一行など、弱きヒトの集いに過ぎない。
 最も弱き環から順番に砕いてゆく……それだけの相手だ」
>「まずいぞ……奴は、新たな"指環の魔女"を作り出そうとしている……!」

「……しまった! ラテ殿! それに触れては駄目だ」

チェムノタ山で、試練は終わったと安心しきって皆でシノノメが闇の指輪に手を伸ばすように仕向けた時、どうなったか。
あの時と同じなら、メアリは自らが指輪になって尚まだエルピスの支配下ということも考えられるのだ。
あの時はシノノメが無事に最後の試練を潜り抜けてくれたからよかったようなものの、ラテもそうである保証はない。
慌ててラテが指輪に触れようとするのを阻止しようとするが、時すでに遅し。
ラテは獣の瞬発力でもって指輪を掠め取り、そして――エルピスの右目を槍で穿った。

>「……馬鹿な」
>「何故だ。何故お前が、我が洗脳に抗える……。
 心弱き故に全てを放棄した愚かな人間の、残滓ごときが!」
>「……わたしは、確かに未完成だけど。空っぽなんかじゃないからだよ」

かつてミライユの死を乗り越えられず、一度全ての記憶を埋もれさせたラテ。
しかし今のラテは、メアリの死を乗り越えて、真っ直ぐに前に進もうとしていた。

>「ジャンさん、ティターニアさん……それに、ジュリアンさん。この指環。わたしに使わせて」

「いいんじゃないか? お前のような単純な者には光の指輪がよくお似合いだ」
「さてはジュリアン殿、ちょっと狙っておったか?」
「やかましい」

>「……ジャンさん、ティターニアさん」
>「わたしね、ホントは嫌だったの。二人に……俺達が巻き込んだ、なんて言われるのが」
>「わたしのせいで、二人が負い目を感じてるのが嫌だった。
 もっと、今よりももっと、一番楽しい冒険をして欲しかった。
 わたしが、前のわたしみたいになれればいいなって思ったんだけど……それも上手に、出来ないし」

「それは違う――あの時ラテ殿を元に戻してやらなければ、という理由がなければ
どこかであまりの話の大きさに怖気づいて旅をやめていたかもしれない。
ラテ殿が続けさせてくれたおかげでここまで来れたのだぞ」

>「だけど、だから……もう、心配しないで。前のわたしが戻ってこれるまで、わたしがこの体を守るから。
 二人が負い目なんて感じられないくらい、強くなるから。
 その代わり……じゃないんだけど、もし良かったらで、いいんだけど」
>「前のわたしじゃない、今のわたしを……少しずつでいいから知って、好きになって欲しいなー……なんて。
 知って、なんて言っても、わたしの事なんてわたしもまだ全然分かってないし……
 だから、えっと、色んなとこに連れてって欲しいし、いっぱいお話したいし……」
0137ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/01(日) 22:07:59.78ID:jAwe3V4q
「――しかし認識を改めなければいけないようだな。
そなたがそう言ってくれるなら……元に戻さなければという負い目は捨てよう、だからラテ殿も前みたいにならないといけない負い目は捨てるのだ。
もしかしたら、今のラテ殿は前のラテ殿が望んだ姿なのではないか?
いつか記憶を思い出した時、前のラテ殿に体を明け渡すんじゃない。そなたが前のラテ殿を迎え入れるのだ」

思えば前のラテはどこか、常に何かに負い目を感じているようだった。
記憶を埋もれさせる時に以前のラテの記憶に触れたことがあるテッラによると、
彼女の家系は旧きエーテリアル世界の研究をする家系でたまたま弟の方が魔術方面の才能があったゆえにその研究を継ぎ、
不幸にもその弟が研究上の事故で死んでしまったことにラテの苦悩は端を発するらしい。
傍から見ればそんなものは彼女のせいでも何でもないのだが、今のラテは、もしもそのような不幸な事故がなければなっていたはずの姿なのかもしれない。

「ラテ殿、改めて――」

その時響き渡るエルピスの怒りの咆哮が、会話を中断させた。

>「ふざけるな!惰弱なヒトが……自らの力でその弱さを克服するだと?
 そんな事が認められるか!記憶を捨てて、何度やり直したところで……
 その弱さが消えるなどあり得るはずがない……!」

「なんだ、空気を読まぬか。折角いいところだったのに」

>「ほざけ小鼠が。“無の水晶”が見てみるがいい」
>「って、なくなってるけど……」
>「ああそうだ。既に虚無の竜は目覚めた。貴様達が目覚めさせたのだ。
 全の中にあってこそ、虚無は形を得る。
 貴様達がここまで運んできた指環がこの世の滅びを呼び覚ましたのだ!」
>「今の内に勝ち誇っていろ。最早私がお前達と戦う意味などないのだ。
 お前達はいずれ自分達が犯した罪の重さに……潰える事になるのだからな」

成す術もなく、エルピスはその場から離脱。それだけならまだしも、虚無の竜が目覚めてしまったという。

「大変なことになってしまった……」

途方に暮れるティターニアだったが、ジュリアンはエルピスの行き先に見当を付けたようだ。

>「案ずるな、大方の見当は今しがた付いた。
 エルピスはおそらく、目覚めたばかりの虚無の祖龍に会いに行っているはずだ。
 猛り狂う祖龍を宥めすかし、ヒトの世を破壊するよう舵を切る為にな」
>「最初の標的となるのは――ヒトの権威の象徴にして人間の総本山、大陸東方『ヴィルトリア帝国』。
 帝国は人間至上主義を掲げる大国だ。まず間違いなく、エルピスは帝国の破壊から始めるだろう」

「エルピスの奴、虚無の竜までも操り利用しようとしているのか!?
普通に考えればそんなものが目覚めた時点でヒトの世どころか世界そのものが滅びるであろうに……!」
0138ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/01(日) 22:09:17.44ID:jAwe3V4q
そこで光の指輪からメアリの幻影が現れ、一行に告げる。

『大丈夫、勝算はある――。全の竜に会いエーテルの指輪を授かるのよ』

「一刻を争うのだ。探している間に世界が滅ぼされてしまうぞ」

『つい先刻までエルピスの傀儡だったのだもの。もちろん居場所は分かるわ。
星都セント・エーテリア――竜が世界を統べていた時代の首都。
そしてその更に昔、旧きエーテリアル世界の首都でもある。6つの指輪が揃った今なら扉は開くはずよ』

「して、その都は何処に?」

『丁度今で言うところの――帝国の帝都ヴィルの位置になるわ』

四星竜が当時の各地方の中心都市のような場所にいたのだから、本家本元の全の竜が古代の首都にいるのは自然な流れ。
それは偶然か必然か――奇しくも、現在の帝都ヴィルにあたる位置にあるという。
――行き先は決まった。

>「帝国へ行くぞ。指環を巡る全ての因縁の始まりの場所で――今度こそ、決着を付ける」

「ああ――」

そんな勇壮な雰囲気をぶち壊すかのように王級の扉が開き、イロモノ集団もといユグドラシア軍をはじめとする連合軍の面々がわらわら入ってきた。
その中には、ダーマで会いに行ったものの不在にしていて結局会えなかったジャンの両親もいた。

>「……つまり光竜はまんまと逃げちまったってことかい!
 我が子ながら情けないねえ、転移先を予測するなんて戦闘の基本だよ!」
>「そう言ってやるな、魔女を討ち取っただけでも大したものだ」
>『ジャンって結構厳しく鍛えられた?』
>「二人とも剣闘士だったから相当……」

そんなジャン一家の再会の光景をしみじみと見ていたティターニアだったが――

「なんや、エーテル教団いうからどんな手強い奴らかと思うたけどイチコロやったなあ!」

特徴的な口調の声が聞こえてきてそちらを見てみると、案の定――
そこにいたのはド派手なファッションに身を包んだ西方大陸語丸出しのエルフの女性――それでいて恐ろしい美人だというのだから余計性質が悪い。
現エルフの長エリザベートであった。
この戦いにはハイランドに存在する様々な種族の州から派遣された部隊も参加していたので、いても不思議ではないのだが……。
0139ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/01(日) 22:10:16.10ID:jAwe3V4q
「トップなのだから森で大人しくしておればよいものを自ら出張ってきたか……」

「なんか言うたか? エルフの耳が長いのは伊達やあらへんぞ!?
ウチのお色気魔法で敬虔な教団信者のボウヤ達が次々と落ちてってなあ、ウチもまだまだ捨てたもんじゃないで!」

「西方大陸語萌え〜ってか? 誰も聞きとうないわそんな武勇伝!」

とにもかくにも、世界が危機になっている気がするが、とりあえずソルタレク解放戦は完全勝利に終わったと言って良いだろう。
連合軍司令官がソルタレク解放戦の終結を宣言し、束の間の勝利の宴が開かれる。
そんな中、ティターニアはふと、ラテにお約束の台詞を言い損ねていたことに気が付いた。

「おっと、とんだ邪魔が入って忘れておった。改めてようこそ、指輪の勇者一行へ――」

【第7話完! もうちょっとだけ続くんじゃよ!
飽くまで予想だが次かもしくはラスボス戦部分だけ独立させるとしたら次の次でラストかな!?
近日中に7話のダイジェストを書いて8話の最初を少しだけ書くので少しお待ちを!】
0140第7話『光輝の魔女』ダイジェスト ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/02(月) 22:44:22.11ID:bqXE6RcW
火・水・土・風・闇の指輪を携えた一行は、光の指輪を持つ指輪の魔女メアリとの戦いに挑むべく、
エーテル教団の本拠地と化したハイランドの首府ソルタレクを目指すこととする。
準備を整えるためにユグドラシアに立ち寄ると、そこにはエーテル教団に対抗しようとする勢力が集まっており、
ハイランド・ダーマ連合軍によるソルタレク奪還作戦の核として指輪の勇者VS指輪の魔女の対決が行われる運びとなった。
地上部隊の進撃に合わせて一行が飛空艇で空からソルタレクに接近すると、光竜エルピス(メアリが持つ光の指輪に宿る影)に操られてウェントゥス本体が出現。
一行はこれを撃破し、スレイブが持つ風の指輪に本来の力を取り戻すことに成功。
そのままメアリが待ち構えるハイランド王級へと突入する。
そこには虚無の竜が復活するための器であるエーテルクオーツがあり、メアリは虚無の竜を復活させるのが目的だと語る
そして伝承で古竜と呼ばれる存在は全の竜と虚無の竜の二つが存在し、実は復活していないことを明かす。
そしてついに光の勇者一行の対決VSメアリ&具現化した光竜エルピスの対決が始まったのであった。
エーテル教団員達の信仰を糧とした圧倒的な力”威光”に苦戦する一行だったが、
ユグドラシア軍をはじめとする突入部隊&ジュリアン&パックの奇策によって、”威光”
を封じることに成功、一気に形勢逆転する。
その時点でエルピスはメアリを見捨て、一行はメアリを追い詰めその指から指輪を抜き取ることに成功。
エルピスの洗脳が解かれ我に返るメアリだったが、長年強大な力を使い続けた反動によりその場で死亡。
同時に彼女自身が光の竜の影の一つとなり、新たな光の指輪と化した。
光の指輪に手を伸ばすラテを、新たな指輪の魔女にするべく洗脳しようとするエルピスだったが、
ラテはこれに抗い切り、光の指輪の使い手――指輪の勇者となったのであった。
いつの間にかエーテルクオーツは消えており、虚無の竜が復活したと言い残し姿を消すエルピス。
世界は危機に直面したが、ひとまずソルタレク解放戦は勝利に終わった。
ジュリアンはエルピスの行き先を帝国と推測。
光の指輪に宿るメアリは古の首都セント・エーテリアに行き全の竜からエーテルの指輪を授かるように一行に告げる。
こうして一行は、セント・エーテリアが存在するという首都ヴィルに向かうこととなる。
0141ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/02(月) 23:49:34.60ID:bqXE6RcW
作戦に参加したハイランド軍のうちの一部はそのままソルタレクに残り、街の復興にあたることとなった。
暫しソルタレクに身を置き、帝都行きへの準備を進める。
帝都へ行くと言うのは簡単だが、そう簡単にはいかない。
もしも星都への扉が城の開かずの間的なところにあるなら入れてもらわねばならないし、
もしも街中が戦場になるようなら住人を避難させて貰わなければいいけない。
アルバートが消息不明になって以来、帝国とのパイプは絶たれてしまったので、帝国がこの件をどこまで知っているかは未知数。
ダーマの時のようにこちらを指輪の勇者一行として認識していれば話は早いが、そうであるとは限らない。
それどころか立場上、アルバートを暗殺し指輪を奪った怪しからん輩扱いになっていても不思議はないポジションだ。
なにしろ帝国は人間至上主義。
カルディアのような自由都市ならともかく皇帝様のお膝元を異種族を多分に含む一行がうろうろすればそれだけで曲者扱いになりかねない。
その上ジュリアンに至っては祖国での扱いは聖女を殺めた大罪人である。
この状況を受け、ダグラスは言ったのであった。

「案ずるな、儂が腕によりをかけて手紙を書いてやろう――他の者にも何人か頼んでみようかのう」

というわけで行き着いたのは結局、偉い人達に書簡を持たせてもらうというベタにして王道の作戦である。
――が、すぐにその必要はなくなった。

「ティターニア様、大変大変!」

「なんだパック、騒々しい」

「帝国の伝書鷲が飛んできてこんなものを……!」

「……招待状だと!?」

それはなんと、帝都の要塞城にて開かれる晩餐会への招待状であった。
一応全員集めて相談するが、当然のごとく全会一致で出席となった。
もちろん警戒は欠かせないが、渡りに船。すぐに出席の返事を鷲に持たせて送り返したのであった。
こうして準備は整い、一行はいよいよ帝国へと出発する。

【第8話開始。
このスレの短期参加者としては珍しく生存してて尚且つ話の流れ的に再登場しても不自然じゃない希少な人がいたのを思い出した……。
アルダガ殿がもしまだ見ていたらラストバトルに向けて参加してくれたらとても嬉しい。
エーテルの指輪もあるぞ!
もちろんアルダガ殿だけではなく生死不明枠の人なんかもラストバトルはもう細かいことは言いっこなしで復帰歓迎】
0142アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/03(火) 02:36:38.36ID:cbAXbYoH
【第8話開始お疲れ様ですー
 よろしければ決着を付けに参加したいと思います
 タイミングはいい感じのところを見計らいます】
0143ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/03(火) 22:13:53.38ID:y1FUZqxN
アルダガ殿キタ――! まさかこんなに早く快諾してもらえるとは!
参加してた時期がもうかなり前だし正直駄目でもともとだったのだが言ってみるものだな……!
一緒に世界を救おう!
0144 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/06(金) 03:55:31.22ID:SQrw4I6+
名前:シャルム・シアンス
年齢:21歳
性別:女
身長:143
体重:44
スリーサイズ:板
種族:人間
職業:主席魔術師(ロード)
性格:昔は素直だったけど今はわりとひねくれてる
能力:極めて高い魔法技術
武器:魔導式拳銃
防具:白衣(対物対魔術式付与済み)
所持品:拳銃の予備、手帳、筆記用具など
容姿:カチューシャでオールバックにまとめた金髪、幼さの残る怜悧な顔立ち
   白衣、内側に黒いシャツ、長ズボン

簡単なキャラ解説:
はい、どうも。
亡命した白魔卿に代わり魔術協会の主席魔術師に任命されました、シャルム・シアンスと申します。
この会話は指環の勇者と接触するエージェントとして適格であるかを確認する為のもので、内容は全て記録される。
はいはい、分かってますよ。
では、まずは名前……はもう言いましたね。生まれはスマラクトの農家です。シアンス農園、ご存知でしょう?
両親は帝国の食料自給の一端を担っている事を誇りに思っていましたし、私もそんな家業を誇りに思っていました。
なので愛国心はありますよ。あまりそういうのを表に出すタイプじゃないので、誤解されがちですが。

家業を継がなかった理由は単純に私に魔法の才能があったからです。
両親はそれを活かして国の助けになるべきだと私を帝都の学校に入れてくれました。
私は我ながらびっくりするくらい才能があったみたいで、学校は主席で卒業。

その後はハイランド、ユグドラシアに留学してあちらの魔法技術を学んだりもしました。
え?ティターニアとは旧知の仲という事になるのかって?
いえ、別に。それなりに会話を交わした記憶はありますが、何分この性格ですので。
特に交友関係を築く事はありませんでしたよ。

留学から帰ってきた後は魔術協会に所属して……それからすぐジュリアン・クロウリー卿が亡命したので、
彼の代わりに主席魔術師の座を拝命しました。
いやぁ、いくら私が天才だからって当時、私まだ16歳でしたからね。
これからどうなっちゃうんだろうって思ってたんですけど、なんとかなるもんですね。

協会で研究しているのは専ら軍用魔術と魔法の簡易化ですね。
純粋な人間が主導する国家を保つには強い軍事力と、人間全体の性能の底上げが必要ですからね。
……あ、今のちょっとまずかったですかね。
別に人間が亜人に比べて劣っているとか、そんな意図はないんですよ。
たまーにちょっとおかしな性能の個体が生まれてくる人間と、全体的に性能の優れた亜人。ただの種族の性質差の話です。

……ていうか、この審査まだ続けます?必要ありますか?
指環の勇者と接触するのにそこらの兵士や諜報員じゃ役者不足だけど、
黒騎士達は性格最悪だったり、いつの間にかいなくなってたりとかで数揃えられないから私が選ばれたんでしょう?
貧乏くじを素直に引いてあげるって言ってるんだから、せめてさっさと済ませて下さいよ。

……はいどうも。
え?大口叩いて、研究畑の魔術師がちゃんとやれるのかって?
それ、ジュリアン・クロウリーが相手でも同じ事を聞きますか?
……ふん、そういう事ですよ。

あなた達はただの人間なんですから。素直に、たまに生まれてくるおかしなのに頼っていればいいんです。
つまり私や……黒騎士達のような人間に。


【実は前からずっと帝国出身のキャラが使いたかったんですよね……へへへ、またキャラを増やしちゃって申し訳ない】
0145 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/06(金) 03:59:09.20ID:SQrw4I6+
あーあー、テステス。これ、ちゃんと筆記されていますか?
……ちゃんと機能しているようですね。
それでは……この手帳は帝国魔術協会所属、主席魔術師シャルム・シアンスの物です。
落とす事はまずあり得ませんが、万が一この手帳を取得した方は魔術協会まで直接ご連絡下さい。

さて、この手帳には大別して四つの魔法が施してあります。
まず一つ目は私以外がこの手帳を開く時、無意識的に、最初のページから読み始めてしまう魔法です。
厳密には精神汚染の呪いなのですが、気にしないで下さい。細かい定義を論じるにはこの手帳は小さすぎます。

二つ目は、この次以降のページを閲覧した者に対する呪いです。
視覚と知性に重篤かつ不可逆な汚染をもたらすものですので、決して見ちゃ駄目ですよ。
主席魔術師と魔法比べがしたいなら私に直接ご連絡を。

さて三つ目ですが、この手帳には私の思考の表層部分を直接記述する魔法が施されています。
四つ目は手帳に記述された文章を、遠隔地にて複写する魔法。
別にペンを走らせるのが億劫って訳じゃありませんよ。

ただ私は、これからとある極秘任務に就く事になってまして。
その間に私がよからぬ事を考えたり、或いは精神汚染を受けていないか。
そういった事の確認の為にこの手帳を携行しています。

……ただまぁ、正直意味あるのこれ?って感じはしますよね。
だって私を監視する為のマジックアイテムを私に作らせる訳にはいかない。
でも……この国に私以上の魔術師はいない。
この手帳作ったの、ウチのガーネットでしたっけ?
まぁまぁ良く出来てますよ。あなたは素直で覚えがいいので教え甲斐がありますよ。

まっ……冗談はさておき、そろそろ任務に就くとしますかね。
私が今いるここは帝都の要塞城マグヌスです。皇帝陛下の居城、その大広間です。
指環の勇者様御一行は……あ、いましたいました。

「どうもこんばんは、お久しぶりですティターニアさん。お噂はかねがね聞いていますよ。
 ですが……いや驚きました。本当にエルフって全然見た目が変わらないんですね」

高い魔力に長い寿命、自然との感応性……いやぁ羨ましい限りですね。
私もあやかりたいものです……という訳で握手を求めてみたり。

「私は見ての通り、大分背が伸びました。……嘘じゃありませんよ?ほら、2センチくらい……」

留学してた頃から思ってたんですけど、彼女と会話するとすごく見上げる形になって首が痛いんですよね。
2センチ伸びたのは本当なんですけど、目線の違いは昔と変わった気がしません。

「しかしお互い出世しましたねえ。まぁ、私の主席魔術師の座も、指環の勇者様に比べれば霞んでしまいますが。
 あの頃は考古学なんて暇なエルフの道楽だと思ってたのですが……いや、私の見識が狭かった。流石です」

まぁ当時、そんな結果が得られるか不明瞭な学問にかまけている暇がなかったのは事実ですが。
やっぱり長命の余裕が多様な学問や技術の発展に繋がっているんでしょうねえ。
そう考えると寿命も短ければ心の余裕もない帝国は……おっと失礼。

「まっ、それはさておき……皆さんが帝国に滞在する間は、私が皆さんのご案内をさせていただきます。
 本当はもう一人、黒騎士が来るはずなんですが……まぁ黒騎士ですからね。想定外の事は想定内です。
 ……っと、申し遅れました。私、魔術協会の主席魔術師を務めております、シャルム・シアンスと申します」

そう言えば彼女、彼らと一度戦った……殺し合った事があるんですっけ。
そりゃ気まずいですね。そんな事を気にするタマかと言われれば、間違いなくノーですが。
0146ラテ・ハムステル ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/06(金) 03:59:51.73ID:SQrw4I6+
「そちらのオークさんが例の……ジャンソンさんですか。
 ええと……やっぱり指環の勇者と呼ばれるだけあって、なかなかワイルドな……。
 ……あー、失礼。オークの方向けの社交辞令が思いつきませんでした」

だって仕方ないじゃないですか。ここは帝国で、私は人間で、しかも主席魔術師ですよ。
オークと会話する機会なんて皆無なんですもん。

「悪気はないんです。どうかご勘弁を……で、実際オークって何を褒められると嬉しいんです?
 やっぱり筋肉なんでしょうか。それともその牙とか?」

同じ失敗を繰り返さないよう確認しておきましょう。
本当は指環の話とかもっと色々尋ねてみたいんですが、流石に今はやめておきます。

「それで、あなたが……ディクショナルさんですね。純粋な人間でありながら指環の勇者になられたお方。
 素晴らしいですね。どうです?ウチに来ませんか?今なら黒騎士の座を約束しますよ」

反応は……はい冷たいですね。そりゃそうでしょうよ。
既に指環の勇者の名誉と力を持っている人が、黒騎士の座に何の価値を見出すんですか。

「……すみませんね。馬鹿馬鹿しい事言ってるのは分かってるんですけど。
 お偉いさん達が絶対にお誘いしろってうるさくて……
 これでノルマは達成しました。もう二度と言いませんのでお許しを」

さてさて、この調子で挨拶を続けていって……最後に残ったのは、おや、あなたでしたか。

「お久しぶりですね、クロウリー卿。聖女殺しの罪は既に、濡れ衣であったと周知されています。
 良かったじゃないですか。これであなたさえ望めば帝国に帰ってくる事も、
 主席魔術師に復帰する事も出来ますよ。実に言祝ぐべき事です」

「……いや、俺は」

「……冗談ですよ。ただの社交辞令です。
 それに、あなたの魔術理論は芸術的すぎて、結局誰にも理解出来なかった。
 戻ってこられても困りますよ」

言い方に棘がある?……そりゃそうでしょう。
お友達を虚無に沈めぬ為だとかいう動機は聞いてますけど、それにしたってただの独りよがりだ。
そもそもたった一人の友人の為に、国を裏切るなど……主席魔術師の亡命が、どれほど人心を乱れさせた事か。

「ご存知ですか、ティターニアさん。彼の提唱した後天性魔術適性の付与術式。
 体内を巡るマナに人工的に支流分流を形成する事で、
 本来の適性を無視した魔術の習得が可能になる……ふふっ、まさに机上の空論です」

私達人間の体内にはマナが流れていて、個人の魔術への適性はその流れの形状によって決まる。
要するに体内にある魔法陣の種類によって魔法の才能、属性への適性が決まる。
エルフや魔族ともなると、そもそも適性が高すぎてそんなの関係なくなってくるんですけどね。
ともかく、ならばその魔法陣に後から線を書き加えてやれば、どんな人間でも魔法の才能を獲得出来る。
そりゃ、理論的にはその通りです。私達の体が羊皮紙で出来てるならそれでいいんですけどね。
0147 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/06(金) 04:00:17.58ID:SQrw4I6+
「戦士の皆さんにも分かるように例えるなら……そうですね。
 腕の筋肉を切除して脚に埋め込み、手足両方に治癒魔法を施せば、
 理論上、人間は本来の限界を超えた脚力を得る事が出来る……ってとこでしょうか」

実際にはそれを実践出来たのはジュリアン・クロウリー本人だけ。
他の誰にも真似する事は出来なかった……え?私?
私はそもそも真似しようともしてませんよ。だって必要ないじゃないですか。

「そんな事しなくたって……魔法陣も筋力の強化も、体の外に施せばいいんですから。
 つまりマジックアイテムを持てばいい。遥か昔から行われてた事です。
 それを小難しくわざわざ理論化して……実に、芸術的だ」

……クロウリー卿は、何も言葉を返してこない。
つまらないですね。ですが、あまりこの話を長く続けても仕方ないのも事実です。
さて、それでは……

「……では改めて、ご挨拶申し上げましょうか。
 ヴィルトリア帝国へようこそおいでなさいました。指環の勇者御一行様。
 先ほども申し上げました通り、皆様が帝国に滞在する間は私が案内人を務めさせて頂きます」

恭しく礼をして……いよいよ本格的に任務開始、ですね。
私の任務。それはただ彼らの案内人を務めればそれで良し、なんてものではない。

「もちろん、ただの案内人に主席魔術師を使えるほど帝国も人材の宝庫って訳じゃありません。
 私は案内人であり、護衛であり、監視であり……暗殺者ってとこですね」

私は白衣の前身頃を開いて見せる。ベルトに差した二丁の拳銃を。
……まさか、今の言葉を真に受けたりはしませんよね?

「帝国にとって最も好ましい展開は、このままあなた達と手を取り合う事ではありません。
 最も好ましいのは……あなた達をここで亡き者にして指環を帝国の物とする事。
 そして竜どもも殺してしまうのでは勿体無い。指環は別途手に入るのだから、別の用途に使うべく捕らえておきたい」

大丈夫ですよね。拳銃と言えば剣も魔法も使えない生粋の平民、生産職、研究職が護身用に持つものですし。
確かにお手軽な武器なんですけど、火薬の限界がそのまま威力の限界なので、実力の高い者ほど持つ意味がない。
彼らなら言われるまでもなく知っているはず。

「この期に及んで何を馬鹿な、と思うでしょう?ですがこれが帝国なのですよ。
 こんな事を言うと皆怒るのですが……私達はか弱い人間ですから。
 亜人や魔族達を相手に人間主導の国を保つには、これくらい強欲でなければやっていけない」

だからこそ、不意打ちが成立する。
この二丁は私が開発した特製の魔導拳銃。
細かい説明は省きますが……オリハルコンだって撃ち抜ける逸品です。

「世界が危機的状況にある今だからこそ、ここで勝ち抜ければ以後百年、千年の繁栄を確立出来る。
 ジュリアン・クロウリー以来の天才……主席魔術師である私と、黒騎士が。我々のホームで、手段を選ばず戦えば。
 ……あなた達から指環を奪い取る事は不可能ではない、と言うのが元老院の見解」

まぁ黒騎士様は未だここにはいませんが、騒ぎが起これば勝手にやってくるでしょう。
彼らはそういう人種です。
そして私は……

「……というのは、冗談です。……半分くらいは」

両手を白衣から離して、彼らに手のひらを見せるように、顔の高さにまで上げた。
0148 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/06(金) 04:01:13.15ID:SQrw4I6+
「いや、すみませんね。本当は皆さんの実力を少し試してやろう、なんて考えてたんですが。
 ……とんでもないプレッシャーだ。不遜が過ぎました」

これは本当の事です。
指環の勇者が単に超すごいマジックアイテムに恵まれた冒険者風情だったなら、
いっそ指環を奪って黒騎士にでも持たせた方が確実に竜どもを征伐出来る。帝国の為になる。
ですがどうやら、そういう訳ではないみたいです。

「ただ、私が語った元老院の見解。冗談だったのはあくまでも半分です。
 明確にそうしろ、とは命じられていませんが……
 状況を見て常に帝国にとって最善の手段を取れとは、仰せつかっています」

要ははっきり言葉にはしないけど察しろよって事ですね。
私は皆さんに一歩近寄ると、少しだけ声のトーンを落とす。
風の魔法で声の拡散を完全に抑える。

「元老院はあくまで総取りを、戦争を望んでいます。ですが私は違います。
 私は研究者だ。魔法の神秘を解き明かし、膾炙して、人間に進歩をもたらすのが私の使命です。
 相手が竜でも、他国でも、人を死なせるのは御免です」

え?手帳は大丈夫なのかって?

「別に帝国から離反したいとか、そんなつもりじゃないんですよ。クロウリー卿じゃあるまいし」

複写の方なら、とっくの昔に私の研究室で作れる楽ちん飯のレシピ帳になってますよ。
ティターニアさんと私で盛り上がってる最中って事になってます。

「……私はスマラクトの出身です。小麦の生産地としてわりと有名なんですが、ご存知ですか?
 生家は大きな農園を営んでいて、両親は帝国の食料自給の一端を担っている事を誇りに思っていました。
 そんな両親に育てられたから、私も自然と帝国が好きになっていました。だから愛国心はあるんです」

いつか、もしもこの手帳を私以外の人が見る事があれば……私はなんでこんな話をしているのか。

「ヴィルトリア帝国とは、元老院の事を意味しません。ならば皇帝陛下が帝国なのでしょうか。
 いえ、皇帝陛下も人間ですからいずれはお亡くなりになるでしょう。
 その時、帝国は死ぬんでしょうか。そして皇帝が代替わりしたら生き返る?違いますよね」

そう思うかもしれません。
ですがこれは大事な事なんですよ。
0149 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/06(金) 04:02:28.31ID:SQrw4I6+
「私にとっての帝国は……私の生家が作った小麦を一粒でも口にした……
 いえ、本当はしてなくてもいいんですが、とにかく全ての人間です」

クロウリー卿が向こうにいる以上、帝国の行動原理は彼らも理解しています。
竜との戦いの最中、背中を刺されるリスクを呑んで、手を組んで下さいと。
そうお願いしたいのなら……腹を割って話すしかないと、私はそう結論づけました。

「力でオークや獣人に劣り、魔法でエルフや魔族に劣り。
 それでも人間だけの国家を保とうとしてきた。その為に努力して、進歩してきた。
 その人間こそが、人間の進化と可能性こそが、帝国なんです」

こんな事を素面で言うのは、とても恥ずかしいですけど……。
だけど、譲れない事なんです。

「そして戦争なんて起きたら、その可能性は次々と欠け落ちてしまう。
 その愛すべき、私の帝国を欠けさせようと言うのなら、元老院の意向なんて知ったこっちゃありません」

私が言うべき事は……いえ、言いたかった事は、全て言い終えました。
後は彼らの善意を期待する……私に出来る事はそれだけです。

「指環の勇者の大冒険、その最終章……そこに私も同行させてはもらえませんかね。
 なんと言っても私、帝国の主席魔術師です。客観的に見てそこのクロウリー卿と同格ですよ。
 いえ、私は五年前から史上最年少で主席を務めてますからね。むしろ格上とすら言えるかも」



【私&帝国的にはまだラスボスの最初の標的が帝国とは思ってないって感じで】
0151ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/04/06(金) 21:39:18.84ID:Wyd8Og+j
>シャルム殿
ここで新キャラが来るのは予想外だったけど全然OK!むしろ帝国側の案内役をしてくれて助かる!
ただもう指輪持ちを3キャラしてもらってるのでエーテルの指輪はアルダガ殿に優先的に回してもらえると嬉しい!
0152創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/04/07(土) 16:35:02.93ID:FXhX2tVO
ボードゲームの展示イベント「ゲームマーケット」の成長記録からこれからの
市場に必要なことを妄想してみた。6年間の来場者数推移(2016年4月時点調べ)
https://bodoge.hoobby.net/columns/00001
ボードゲーム市場がクラウドファンディングの出現で急成長を遂げ市場規模を拡大中
http://gigazine.net/news/20150820-board-game-crowdfunding/
中世っぽいデザインの金属サイコロ&ダイスカップ「Rhythm Metal Gaming Dice」
http://gigazine.net/news/20140207-rhythm-metal-dice/
RPGの魔法のアイテムっぽい形と雰囲気のサイコロ「Wizard Set by PolyHero Dice」
http://gigazine.net/news/20160823-polyhero-dice-wizard/
サイコロの枠を逸脱した奇抜なデザインの金属製サイコロ「Cast Metal Gaming Dice」
http://gigazine.net/news/20160128-cast-metal-gaming-dice/
QRコード・クトゥルフ神話・24世紀などユニークすぎるデザインてんこ盛りのサイコロ「Dice Empire」レビュー
http://gigazine.net/news/20150313-dice-empire/
デザイン戦略やタイポグラフィの歴史などがゲームしつつ理解できるトランプ「The Design Deck」レビュー
http://gigazine.net/news/20161027-design-deck-review/
ファンタジーやRPGの世界で実在しそうな11種類の金属製コインセット「Legendary Metal Coins」
http://gigazine.net/news/20150320-legendary-metal-coins/
ロンドンに実在する魔法専門店には杖や魔女鍋から「イヤな奴を家に入れない呪い(約3600円)」まで本当に売っている
http://gigazine.net/news/20160306-treadwells-books-magic/
聖水や十字架がセットになった19世紀のヴァンパイア退治キット
http://gigazine.net/news/20071226_vampire_hunt_kit/
0153ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/08(日) 13:31:14.26ID:anlWLKg9
ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/?page=%E4%B8%BB%E9%A1%8C%E6%AD%8C
主題歌を公開しておいた
一応歌詞は物語の順番通りに 炎→水→大地→風→闇→光→星(全属性的な意味でエーテル)
0154スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/12(木) 05:29:00.61ID:vvqYzloK
主であった光竜エルピスが逃亡し、空の玉座となったハイランド王宮。
連合軍によって残党の掃討と王宮内の制圧が完了し、一行は束の間の休息と作戦会議を行っていた。

>『ジャンって結構厳しく鍛えられた?』
>「二人とも剣闘士だったから相当……」

オーカゼ村では入れ違いとなった両親と再会したジャンは、ばつが悪そうにしながらも抱擁を受け入れる。
スレイブはその様子を遠巻きにしながら、眩しそうに眺めていた。
力を取り戻したおかげで自由に出歩けるようになったウェントゥスは、指環の竜同士でなにやら話し合いをしている。
イグニスあたりとぎゃーすか罵り合い、ついには取っ組み合いをしたあげく一方的にボコられてこちらへ逃げてきた。

『あいつ!あいつまじむかつく!お主儂の傀儡なんじゃから加勢せんか!』

「何をしているんだあんたは……」

『光の指環としてメアリが加入してきたじゃろ?新参者に経験豊富な儂が色々アドバイスしてやろうと思っとったのに、
 またぞろイグニスのばかちんがいらん茶々をいれるせいで儂の威厳が台無しじゃ!』

肉体を失い、アルマクリス同様光の指環の化身となったメアリ。
彼女は幻体の姿でイグニスとウェントゥスを交互に見ながらおろおろと戸惑っていた。
エルピスの呪縛から解き放たれたいま、メアリにかつてのような超然とした態度は見られない。
すっかり毒の抜けた元・指環の魔女は、アクの強すぎる指環の竜たちの板挟みとなって困惑していた。

「見てて気の毒だからあまり先輩風を吹かせるな、ウェントゥス」

『お?風だけにか?』

「違っ……!?いまのはそんなつもりで言ったわけじゃない……!」

凄まじく低レベルな駄洒落を言ったと解釈されてスレイブは泡を食った。
メアリが『うわぁ風の指環の勇者ってこんなくだらないこと言う人なんだ……』という目でこちらを見ている。
誤解も甚だしい。情報操作やら印象操作やらはエルピスの専売特許じゃなかったのか。

『そういうお主はこんな隅っこで何ぼっ立ちしとるんじゃ。陰気な奴じゃのぉー。
 あすこで和気あいあいとしとるオークとかに混じってくりゃええじゃろ』

「……あれはジャンの家族だ。もうしばらく会っていなかったと聞いた。
 せっかくの水入らずの再会だ、俺が割って入って水を差すこともないだろう」

素っ気なく答えたスレイブは、壁に背を付けてジャンと両親のやり取りを再び眺める。
ウェントゥスはスレイブの横顔を何やら思案顔で見て、やがて合点がいったとばかりに手を叩いた。

『ははーん。なるほどなるほど、しょうがないのぉ。ほれ?』

そう言うと、ウェントゥスは爪先立ちになってスレイブへ向けて両腕を広げた。
抱きしめてやらんとばかりのポーズに、スレイブは怪訝に眉をひそめた。

「何のつもりだ」

『いやな、お主家族の愛とかに飢えてそうな感じじゃし、あのオークが羨ましいんじゃろ。
 ほんで儂って自愛に溢れた母性の塊みたいなところあるじゃろ?じゃから、ほれ。甘えてもいいのよ』

スレイブは鼻で笑った。
ウェントゥスはいきなりキレた。
0155スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/12(木) 05:29:23.80ID:vvqYzloK
『はぁー!!?なんでそー素直になれないんじゃお主は!思春期っちゅう歳でもないじゃろうに!』

「あんただってそういう脳の溶けたような言動が赦される歳じゃないだろ。今年で何千歳だ?」

年甲斐のない年寄りの妄言に、スレイブは耳を塞いだ。
実際のところ、ウェントゥスの見立ては的を得ている。
ジャンが家族と交わす他愛ないやり取りに、スレイブは漠然とした憧憬を感じていた。

親の顔を知らない自分の生まれの境遇が、特別に不幸だったとは思わない。
人間が迫害されているダーマにあって、この歳まで生きてこられたこと自体が類稀な幸運だ。
むしろ、親を知らないスレイブは、愛する者と死別する悲しみも知らずにいられた。
それは……幸福なのだろうか。

オーカゼ村を巡る一件で、ジャンが冷静でいられなかったのは、危機に晒された者たちがジャンにとって大切だったからだ。
もしもスレイブが同じ立場に立たされたとして、きっとジャンほどには怒ることも動揺することもなかったろう。

喪失への恐怖――それは、ときに戦う者にとって致命的な弱みとなる。
だからこそ、尖兵として常に最前線で戦ってきたスレイブは、失うのが怖くなるような大切なものを作らずにいた。
だが、家族や友人という戦闘者としての弱点を露呈させたジャンは、しかし不幸そうには見えない。

『くっっっっっさ!お主いまさら何青臭いこと抜かしとるんじゃ。えぇ……マジでいまさら……』

スレイブの内心の吐露を、ウェントゥスは身も蓋もない言葉でばっさりと切って捨てた。
議論するつもりはなかったので、スレイブは一言「そうだな」とだけ返す。
ウェントゥスもそれ以上煽ることなく、肩を竦めてスレイブの隣に立った。

『なぁ傀儡よ。お主いま、不幸か?』

「……そんなわけがない」

絶望と苦悩の淵から、たくさんの人が手を差し伸べて、スレイブを引っ張り上げてくれた。
そしていま、そんな彼らのために、スレイブは剣を振るえている。
だから、はっきりと不幸などではないと、断言できる。

『喪失への恐怖は、満たされることの幸福と表裏一体じゃからな。
 お主の周りにあるもので、一つでも欠ければ不幸だと感じるものがあるなら、それこそがお主の幸福じゃろ。
 別にそれは一つきりじゃないし、これから増やしていったってええんじゃ。遅すぎるっちゅうことはない。
 数千年生きとる儂が言うんじゃから間違いない』

「あんたにも、失えば不幸だと感じるような大切なものがあるのか?」

『うむ。秘蔵しとる落花堂の甘露飴パクられたら儂マジギレするじゃろな』

「ジャンの家族を飴と同列にするな」

スレイブは目頭を揉み、ウェントゥスはカラカラと笑った。
自分が幸福かどうかなんて分からない。それでも、剣を振るえる理由はできた。
失いたくないものを、失わないために。いまはまだ、それでいいのだ。

――――――・・・・・・
0156スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/12(木) 05:30:00.43ID:vvqYzloK
数日後、帝国側へどのように渡りを付けようか検討していた指環の勇者一行へ、当の帝国から書簡が舞い込んできた。
内容は、大陸を脅かすエーテル教団を壊滅させたことに対しての報奨として、晩餐会へ招聘したいとの旨。
これは国家としての謝礼と同時に、事情の報告も兼ねているのだという。

>「……招待状だと!?」

「分かりきっていたことだが、耳が早いな。ソルタレクの駐留大使はよほど有能らしい」

報せを受けて、スレイブは皮肉交じりに呟いた。
ハイランド王宮での戦闘からわずか数日で、晩餐会の手配が決まるほど帝国内で話が進んでいる。
おそらくソルタレクを解放した当日のうちには本国へ伝令が飛んでいたのだろう。
ろくに兵力も寄越さなかったわりに、情報だけはやたらと早い。
連合軍か、エーテル教団か、あるいは両方に、帝国へ内通した者が紛れ込んでいたのだ。

もともといかなる手段であれ、帝国へ行く必要があった。
向こうから手引きをしてくれるのであればこれ以上ない道程だろう。
全会一致で誘いに乗ることを決め、かくして一行は帝国へと艇を飛ばす運びとなった。

<帝国首都ヴィル・要塞城マグヌス>

大陸を東に舵切りした飛空艇リンドブルムは、夜を徹して飛び続け、国境を越えて帝都へと入った。
帝国軍を示す赤と黒に彩られた、無数の駆逐艇に取り囲まれるようにして、帝都の空を横断する。
領空に入った段階で帝国空軍から護衛の名目で先導を受けたが、実際は余計な場所へ行かないよう監視が目的だろう。
工場群から立ち上る塵煙を強烈な探照灯の光が貫き、厳戒態勢のなかリンドブルムは城内ドッグへと入渠した。

「こうも十重二十重に帝国船が取り囲んでいたんじゃ、帝都の街並みを眺める隙間もないな」

リンドブルムに乗っている間ずっと窓縁から外を見ていたスレイブは、船を降りてから残念そうに溜息をついた。
ダーマ軍人である彼は、帝都はおろか帝国領にさえ足を踏み入れるのは初めてだ。
話に聞いていた帝都の景色をこの目で見れると、半ば物見遊山の観光気分で浮かれていたところに冷水を浴びせられた気分だった。

「国交があるとはいえ、帝都の俯瞰図は戦略上の機密だからな。
 ダーマに与する俺やお前がいる以上、おいそれと見せるわけにはいかないだろう」

ジュリアンに窘められ、スレイブはそれ以上不満を漏らすのはやめておいた。
5年ぶりに祖国を訪れるという彼の上司は、帝国領に入ったあたりからずっと苦虫を噛み潰したような顔をしている。
スレイブはその微妙な機微を感じ取って、話題を変えるようにジャンたちへと水を向けた。

「城の対空砲門の数を見たか?国賓として遇されなければ、あの全てが俺たちに向いていたんだろうな」

年甲斐もなくはしゃぎ気味のスレイブと、いつにもなく沈鬱な面持ちのジュリアン。
敵国に属する二人を、先導役の帝国兵たちは遠巻きに、そして一切視線を切ることなく見送った。

「晩餐会は要塞城の賓客室で行われるんだったな。大広間を抜けた先か」

城付きの執政官に案内されるままに城の内部を進む指環の勇者一行。
晩餐会の会場へと続く大広間で、彼らに声をかける人影があった。

>「どうもこんばんは、お久しぶりですティターニアさん。お噂はかねがね聞いていますよ。
 ですが……いや驚きました。本当にエルフって全然見た目が変わらないんですね」

「……知り合いか?ティターニア」

近付いてくるなり近況をまくしたてているのは、白衣に身を包んだ女性だった。
金の長髪をカチューシャで強引にまとめているのは、彼女が実務畑の人間であることの証左。
そして上等な耐薬繊維で織られた白衣には、帝国が高位の魔導師にのみ与える徽章が縫い付けられていた。
0157スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/12(木) 05:30:22.33ID:vvqYzloK
>「まっ、それはさておき……皆さんが帝国に滞在する間は、私が皆さんのご案内をさせていただきます。
 本当はもう一人、黒騎士が来るはずなんですが……まぁ黒騎士ですからね。想定外の事は想定内です。
 ……っと、申し遅れました。私、魔術協会の主席魔術師を務めております、シャルム・シアンスと申します」

(帝国の主席魔術師――ジュリアン様の後釜か)

シャルムと名乗ったその女は、どうやら指環の勇者一行の案内役として帝国側が用意した人材らしい。
ティターニアの旧知を接待役に選んだのは、単に話をしやすいと考えたからか、はたまた情や油断を突く為か――

>「それで、あなたが……ディクショナルさんですね。純粋な人間でありながら指環の勇者になられたお方。
 素晴らしいですね。どうです?ウチに来ませんか?今なら黒騎士の座を約束しますよ」

「せっかくのお誘いだが、辞退させてもらう。俺にも愛国心はあるつもりだ」

心にもない理由で断りを入れるのは、お互いに単なる建前であることを明確にする為だ。
シャルムとしても、本気でダーマ軍人を黒騎士にスカウトする気はないようだった。

>「お久しぶりですね、クロウリー卿。聖女殺しの罪は既に、濡れ衣であったと周知されています。

指環の勇者たちへ順番に品定めするように話し掛けていったシャルムは、最後にジュリアンへと視線を移した。
ティターニア以上に旧知であるはずの彼を後回しにしていた理由は、彼女の語調を聞いてすぐに分かった。
ジュリアンが帝都を去った後に、主席の座へ選ばれた魔術師。
いかなる内情があったのかは推し量るしかないが、"前任"に対して手放しの敬意を抱えているわけではないようだ。

帝国の主席魔術師という肩書は、無論生半可な実力で得られるものではない。
立板に水とばかりによく喋る彼女は、少なくともジュリアンと同等の力量を備えているはずだ。
しかしそれでも、正当な実績でその座を奪ったわけではなく、言わば消去法に近い形で彼女は主席の椅子に座ることになってしまった。
この差配を名誉と思えるような人間なら、以降5年間も主席で居続けることなどできなかっただろう。

>「(中略)それを小難しくわざわざ理論化して……実に、芸術的だ」

「……それ以上は、ダーマの食客魔術師に対する侮辱と判断するぞ」

シャルムの物言いに眉を立てたスレイブは一歩前に出た。
前のめりになった彼を、ジュリアンの左腕が制する。

「よせ、スレイブ」

「しかし、」

「……良いんだ」

スレイブは、ジュリアンがこのような苦み走った表情を浮かべるのを、初めて見た。
それだけで彼はもう何も言えなくなってしまった。
0158スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/12(木) 05:30:43.61ID:vvqYzloK
>「……では改めて、ご挨拶申し上げましょうか。ヴィルトリア帝国へようこそおいでなさいました。指環の勇者御一行様。
 先ほども申し上げました通り、皆様が帝国に滞在する間は私が案内人を務めさせて頂きます」
>「もちろん、ただの案内人に主席魔術師を使えるほど帝国も人材の宝庫って訳じゃありません。
 私は案内人であり、護衛であり、監視であり……暗殺者ってとこですね」

「…………」

シャルムが白衣を開き、その下に隠した暗器を見せても、スレイブに動揺はなかった。
主席魔術師を接待に寄越した時点で、単なる観光案内で済むはずもない。
同時に、仮にも国賓待遇の他国人を、城内でおおっぴらに攻撃することもあり得ないとわかっている。
スレイブは剣を振るう方の腕の、指先をほんの少しピクリと動かした。
いつでも反撃ができるという意志を表示するには、これで十分だろう。

>「……というのは、冗談です。……半分くらいは」
>「いや、すみませんね。本当は皆さんの実力を少し試してやろう、なんて考えてたんですが。
 ……とんでもないプレッシャーだ。不遜が過ぎました」

「腹芸はもう十分だ。帝国の魔術師は政治家でも兼任しているのか?人材不足というのは本当らしいな」

スレイブの皮肉を受け流し、シャルムは言葉を続ける。
建前に舗装された迂遠な回り道の果てに、ようやく彼女は胸襟を開いた。

>「指環の勇者の大冒険、その最終章……そこに私も同行させてはもらえませんかね。
 なんと言っても私、帝国の主席魔術師です。客観的に見てそこのクロウリー卿と同格ですよ。
 いえ、私は五年前から史上最年少で主席を務めてますからね。むしろ格上とすら言えるかも」

「……今、この場で答えが出るなんてことはあんたも期待していないだろう。
 少なくとも俺は、あんたが信用に値するとは到底断言できないな」

敵地のど真ん中で、明確に指環を求めている国家の高官が、指環の勇者に一枚噛ませて欲しいと言う。
これで手放しに信用せよというのも無理な話だ。
そしてシャルムも、端から指環の勇者の一員として受け入れられるなどとは考えているまい。

解せないのは、何故わざわざ自分から第一印象を悪くしたのか。
言ってはなんだが一行の中心であるティターニアはかなりのお人好しだ。それは旧知であるシャルムも知っているだろう。
ジュリアンとの確執を顕にせず、不遜な物言いをやめて、平身低頭協力を仰ぐという選択もできたはずだ。
敬愛する上司を侮辱されたという個人的なやっかみも相まって、スレイブはシャルムの同行に否定的だった。


【パイセンを馬鹿にされて噛み付く舎弟】
0159スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/12(木) 05:32:16.25ID:vvqYzloK
【>ティターニアさん
 Wiki編集&主題歌作成おつかれさまっす。毎回助かってるっす】
0161ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/12(木) 20:12:53.11ID:V/OsUpv/
王宮での戦闘から帝国からの招待状が届くまで、ジャンは両親と共に復興作業に従事していた。
ダーマ軍と傭兵部隊の契約はソルタレク解放までという条件だったため、三人はここで一時的に働くことにしたのだ。

「いいのかい、二人とも。
 ダーマ軍は払いがいいって言ってたじゃないか」

「かわいい一人息子が立派に成長して、しかも指環の勇者様になった!
 親として話の一つも聞きたくなるってもんさ」

三人は市街地戦で生じた瓦礫のバリケードや壊れて住めない建物の破壊を担当していた。
ジャンとその父であるジャック・ジョン・ジャンソンが鉄製のハンマーである程度壊し、
母のカリア・ジャンソンが指をパチンと鳴らせば凝縮された魔力の塊が瓦礫に向けて放たれ、粉々にする。
その作業を何度か繰り返し、やがて日が真上に達したところで休憩となった。
既に復興が始まっている市場の食堂で食事をとることにした三人は、
黒パンと野菜の煮物を口に入れつつ今後のことについて話し合う。

「ジャン、これから帝国へ向かうのだろう?
 あそこの考えはダーマの魔族至上主義と同じだ。
 理由もなく無差別に自分たち以外のヒトを排除しているわけではない」

「人間とそれ以外、って分けてるのは気に入らないけどね。
 傭兵雇うにも種族を聞くって話さ」

「その辺りは俺も気に入らねえよ。
 でも最後の指環は帝都にあるってんだ、行くしかねえ」

いつものようにニカッと明るく笑ってジャンがそう言うと、
二人は顔を見合わせ、やがて分かっていたように二人とも頷いた。

「それでこそジャンだ」

「上手くやりなよ、あのエルフの嬢ちゃんとね!」

カリアの一言にジャンは飲んでいたエールを吹き出しそうになったが、
慌てて口に手をやり抑える。

「な、なに言ってんだ!
 ティターニアは雇い主だぞ、そんなこと考えたこともねえよ……」

帝都に行くまでの間、ジャンは両親にこうしてからかわれ続けた……
0162ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/12(木) 20:13:35.71ID:V/OsUpv/
そして招待状が届き、飛空艇リンドブルムは帝都を目指し空を往く。
いざ帝都に着いてみれば、リンドブルムよりやや大きめの飛空艇に囲まれる。
魔力による念話の結果、招待状の客だということが分かると威圧するように包囲していた
飛空艇は陣形を並べ替え、国賓をもてなすかのように丁寧にこちらを先導していく。

そして天を衝くほど大きな要塞城、その城内ドッグへと案内され、飛空艇から出れば
兵士たちがずらりと並び、捧げ筒の姿勢から一歩も動かない。

>「城の対空砲門の数を見たか?国賓として遇されなければ、あの全てが俺たちに向いていたんだろうな」

『帝国の文明は原始的だけど、僕たちが築いていたかつての文明に近しい。
 あの対空砲からもそれを感じるよ』

「……指環じゃ防げねえってことか?」

『その前に飛空艇が撃墜されるね』

執政官に道を案内されつつ、大広間へと進む一行。
そこにいたのは、白衣を着た一人の女性だ。

>「まっ、それはさておき……皆さんが帝国に滞在する間は、私が皆さんのご案内をさせていただきます。
 本当はもう一人、黒騎士が来るはずなんですが……まぁ黒騎士ですからね。想定外の事は想定内です。
 ……っと、申し遅れました。私、魔術協会の主席魔術師を務めております、シャルム・シアンスと申します」

帝国側が案内役として指名したらしく、こちらまで案内してくれた執政官は頭を下げると別の通路に向かっていった。
おそらくここからは彼女が帝国の説明と案内を務めるのだろう。そうジャンは考えた。

>「そちらのオークさんが例の……ジャンソンさんですか。
 ええと……やっぱり指環の勇者と呼ばれるだけあって、なかなかワイルドな……。
 ……あー、失礼。オークの方向けの社交辞令が思いつきませんでした」

>「悪気はないんです。どうかご勘弁を……で、実際オークって何を褒められると嬉しいんです?
 やっぱり筋肉なんでしょうか。それともその牙とか?」

「あんたらと同じだよ。顔とか見た目を褒められたら大体みんな喜ぶだろ?
 バカにされたら怒るけどよ」

軽い挑発も混じっているのかもしれなかったが、
わざわざ相手の土壌に上がることもない。そして招待された場で暴れるような真似は
オークでも人間でもヒトであればみっともなく、控えるべき行為だ。
0163ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/12(木) 20:14:00.71ID:V/OsUpv/
他の仲間にもそういった挑発めいた挨拶を繰り返しているようだが、
これが帝国が他国に対する態度を表しているとは思いたくなかった。
港町カルディアにいたオーク族の水夫もそうだが、帝国が定める人間以外の他種族も
少ないとはいえきちんと帝国の庇護の下で生きている。

(単純に、こいつがよく知らないだけか……)

ふぅ、と一つため息をついて、ジャンは彼女の長い口上を聞いてやることにした。

>「指環の勇者の大冒険、その最終章……そこに私も同行させてはもらえませんかね。
 なんと言っても私、帝国の主席魔術師です。客観的に見てそこのクロウリー卿と同格ですよ。
 いえ、私は五年前から史上最年少で主席を務めてますからね。むしろ格上とすら言えるかも」

『おいアクア、つまりどういうこった』

『指環が欲しいのは帝国も同じだけど元老院や皇帝には従いたくない。
 帝国全てを救うために私も指環が欲しい。実力はジュリアンよりあるかもね』

『なんてこった、煽りに煽っといてやりたいことがそれかよ』

>「……今、この場で答えが出るなんてことはあんたも期待していないだろう。
 少なくとも俺は、あんたが信用に値するとは到底断言できないな」

「スレイブよく言った、やっぱり目玉煮を食ったやつは言うことが違うな。
 俺もその意見に賛成だ。いきなり客を煽って過去をほじくるような奴、金貨積まれてもお断りだね」

場所が場所であれば、背中に背負った長槍を構えて突きつけるぐらいはやったかもしれない。
あの魔導拳銃とやらは確かに強力かもしれないが、それで背中を撃たれては本末転倒というものだ。

そうして大広間の雰囲気が険悪になりかけ、一触即発かと思われたその瞬間。
晩餐会の会場に続くドアがバン!という音と共に勢いよく開かれ一人の男が現れる。

「そこまでにしておけ、シアンス。
 お前の仕事は案内であって、道化ではないぞ?」

肩にかかるほど伸びた白髪混じりの黒髪に、病人のようにやせこけた頬。
黒い瞳は爛々と輝いているが、それ以外の身体を構成する部分は全て病にかかって久しい老人のごとく弱っている。

「ようこそ指環の勇者よ。私はヴィットーレン3世。
 このヴィルを治める者にして、帝国を統べる者。そして――セント・エーテリアを預かる者である」


【wiki編集とか主題歌とかティターニアさんはやっぱりすげえよ……】
0164ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:00:57.83ID:cOFbRyG0
「お主――本当に行くのか?」

帝国への出発に先立ってダグラスがジュリアンに直球で問う。
それは皆内心では思っているが踏み込めなかった事であった。

「行くに決まっている――やっと、やっとセシリアの仇が討てるのだからな」

その言葉に、かねてより思っていた憶測が正しかったことを確信するティターニア。
彼は友を虚無に落とさぬために全てを捨てて聖女殺しの罪を被り、
友の仇を討つために魔族至上主義のダーマに身を置き指輪を集める孤独な戦いを続けていたのだ。

「やはり……そうだったのか」
「ああ、お前たちに手を貸しているのもそのためだ。勘違いするな」
「ああそうだな、ツンデレだな」

確かに最初は指輪を巡って敵対していたのが途中から手を貸すようになったのは、その方が目的を達成するのに効率的だと判断したためだろう。
しかし亡命先のダーマでなんだかんだでスレイブに手を差し伸べたりしていたのを知ってしまった今、
もはや何を言ってもツンデレ枠にしかならなかった。

「相手は帝国――何が起こるか分からない。くれぐれも気を付けていくのだぞ」
「きっと大丈夫だろう――帝国もまたエルピスの記憶操作から脱したのであれば、な」

警戒を促すダグラスに、何かを確信したかのように答えるティターニア。
その夜、風の指輪から飛び出たウェントゥスの幻体がティターニアの元へ来て話しかける。

《ティターニア、儂には分かるぞ。お主、やはりあのティターニアじゃな?》

「”久しいですね、ウェントゥス――” ――なんてな」

《儂には最初から分かっておった。会いたかったぞ……!》

ウェントゥスはティターニアに抱き付こうとするも幻体なのでいったんすり抜け、空気椅子的な要領で抱き付いているような形を作る。

《落ち着いてウェントゥス、解釈によってはそうとも言えるかもしれない、程度のことよ》

《分かっておるわ、それぐらい……!》

「テッラよ、まあ堅い事を言うな。
しかし今の我にはテッラ殿がおるからな。そなたはスレイブ殿に力を貸してやってくれ」
0165ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:03:27.85ID:cOFbRyG0
それから暫くティターニアとウェントゥスは思い出話や飴の話で盛り上がったりした。
エーテリアル世界の終焉と同時に現在の世界が始まって以来何度か繰り返された虚無の竜と指輪の勇者との戦い――
毎回、虚無の竜を完全に倒すことはかなわずクリスタルに封印するまでに終わっていた。
先代勇者の旅もまた虚無の竜を倒す旅であり、今度こそ倒せるのではないかというところまでいったが
土壇場で、腹に一物抱えて勇者側に潜り込んでいた光竜エルピスの裏切りに会い、またしても倒すことは叶わず封印に終わった。
そこで先代勇者のティターニアは死の間際に、自らにある秘術をかける。
それは次に虚無の竜が復活する時代に生まれる誰かに、自分の記憶を託す術。
次こそは、虚無の竜を確実に倒すことが出来るように――
そして、ティターニアの知る限りその秘術を使った者はもう一人いる。
というよりその人物がそのような事をしたと噂に伝え聞いていた故自分もその発想に至ったのだ。
ヴィットーレン1世――他種族の脅威に怯える一小国の王子であったが指輪の勇者として世界を救った後、後に帝国の初代皇帝と呼ばれることになった人物だ。

先代の記憶を思い出した事に関して取り立てて自分からは言う事もないティターニアであったが、
次の日、帝国に向かう飛空艇の中でウェントゥスが《やはりティターニアはティターニアじゃったぞ!》等と嬉々としてはしゃぎ周り、結局瞬く間に全員に広まったのであった――

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

こうして一行は、ついに帝都ヴィルに足を踏み入れた。

>「こうも十重二十重に帝国船が取り囲んでいたんじゃ、帝都の街並みを眺める隙間もないな」
>「国交があるとはいえ、帝都の俯瞰図は戦略上の機密だからな。
 ダーマに与する俺やお前がいる以上、おいそれと見せるわけにはいかないだろう」

帝国船に取り囲まれて帝都の俯瞰図は見えなかったが、高度な技術で築かれた要塞都市だということは垣間見えた。

>「城の対空砲門の数を見たか?国賓として遇されなければ、あの全てが俺たちに向いていたんだろうな」
>『帝国の文明は原始的だけど、僕たちが築いていたかつての文明に近しい。
 あの対空砲からもそれを感じるよ』
>「……指環じゃ防げねえってことか?」
>『その前に飛空艇が撃墜されるね』

「かつての文明に近しい――だと? まさかセント・エーテリアを擁するのと何か関係しているのか……?」

『その可能性は否定できませんね――』

帝国には皇帝以下ほんのひと握りの上層部しかしらない機密事項など数えきれない程あるのだろう。
上層部がセントエーテリアの存在を認識している可能性は十分にある。
そんな事を考えながら大広間に案内されると、一人の女性が一行を出迎えた。
小柄な体躯に幼さと怜悧さを同居させる整った顔立ち――女性というよりクール系美少女、と言った方がしっくりくる。
そしてティターニアはその少女に見覚えがあった。
彼女はとても才能に恵まれていたので印象に残っており、積極的に話しかけたものだがあまり心を開いてくれなかった記憶がある。
0166ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:06:34.37ID:cOFbRyG0
>「どうもこんばんは、お久しぶりですティターニアさん。お噂はかねがね聞いていますよ。
 ですが……いや驚きました。本当にエルフって全然見た目が変わらないんですね」

「……シャルム殿か! そなたも……いや、久しぶりだな! 息災だったか?」

“そなたも変わってないぞ”と言いかけて、やめたのであった。
短い寿命に縛られる人間属にとって一般的には”昔と変わっていない”は褒め言葉とされているが、彼女は人間の中でもかなり小柄な部類。
そのせいで幼く見えるのを気にしていてはいけないと思ったのだ。

>「私は見ての通り、大分背が伸びました。……嘘じゃありませんよ?ほら、2センチくらい……」

「そ、そうか。大きくなったな――!」

それは“大分”じゃなくて”少し”じゃないか!?と心の中でツッコミを入れつつ握手を返すティターニアであった。

>「しかしお互い出世しましたねえ。まぁ、私の主席魔術師の座も、指環の勇者様に比べれば霞んでしまいますが。
 あの頃は考古学なんて暇なエルフの道楽だと思ってたのですが……いや、私の見識が狭かった。流石です」

「ははは、暇なエルフの道楽で間違ってはないぞ。しかしそれが無ければ指輪を手にすることも無かっただろうな――」

>「まっ、それはさておき……皆さんが帝国に滞在する間は、私が皆さんのご案内をさせていただきます。
 本当はもう一人、黒騎士が来るはずなんですが……まぁ黒騎士ですからね。想定外の事は想定内です。
 ……っと、申し遅れました。私、魔術協会の主席魔術師を務めております、シャルム・シアンスと申します」

「そなたの若さで主席魔術師か……! 100年後にどうなっているか想像もつかないな……」

人間の寿命を忘れついエルフ的感覚で語っているティターニア。
あるいはシャルムのさりげなく繰り出される絶妙なボケに絶妙なボケで返しているのかもしれない。

>「そちらのオークさんが例の……ジャンソンさんですか。
 ええと……やっぱり指環の勇者と呼ばれるだけあって、なかなかワイルドな……。
 ……あー、失礼。オークの方向けの社交辞令が思いつきませんでした」
>「悪気はないんです。どうかご勘弁を……で、実際オークって何を褒められると嬉しいんです?
 やっぱり筋肉なんでしょうか。それともその牙とか?」
>「あんたらと同じだよ。顔とか見た目を褒められたら大体みんな喜ぶだろ?
 バカにされたら怒るけどよ」

「筋肉って……ふふっ」

オーク→筋肉 というオークに実際に接した事が無い人あるあるな発想を地で行く発言に思わず吹き出すティターニア。
その後シャルムは、スレイブを黒騎士にスカウトして断られてみたり、フィリアやラテやシノノメにも似たような感じで挨拶を続ける。
そして最後に、ジュリアンに声を掛ける。
0167ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:08:29.59ID:cOFbRyG0
>「お久しぶりですね、クロウリー卿。聖女殺しの罪は既に、濡れ衣であったと周知されています。
 良かったじゃないですか。これであなたさえ望めば帝国に帰ってくる事も、
 主席魔術師に復帰する事も出来ますよ。実に言祝ぐべき事です」
>「……いや、俺は」
>「……冗談ですよ。ただの社交辞令です。
 それに、あなたの魔術理論は芸術的すぎて、結局誰にも理解出来なかった。
 戻ってこられても困りますよ」

随分と棘を隠さな言い方だが、ティターニアはそこからジュリアンがシャルムにとって少なくともどうでもいい人間ではなかった、ということを感じ取った。
どうでもいい人間が消えたところで何とも思わないどころかむしろ補欠当選ラッキーとすら思うだろう。
もしかしたら、尊敬していつか超えてやる、と思っていた存在なのかもしれない。

>「ご存知ですか、ティターニアさん。彼の提唱した後天性魔術適性の付与術式。
 体内を巡るマナに人工的に支流分流を形成する事で、
 本来の適性を無視した魔術の習得が可能になる……ふふっ、まさに机上の空論です」

そしてシャルムがジュリアン袋叩きの流れのままティターニアに話を振ったが最後、ティターニアは何かのスイッチが入ってしまったのである。

「机上の空論? 本当にそうか? 学問の発展は往々にして荒唐無稽な思い付きから始まるもの――」

そして何か凄いことに気付いてしまったような顔をしてジュリアンをびしっと指差す。

「……分かったぞ! そなた、さては自分に施して成功しておるのだな……!
明らかに人間の域を超える魔術適性を持っておるから不思議に思っておったが……
そうか、そういうことだったか……! ならばもはや机上の空論では無い!」

「あ、ティターニア様こうなったら止まらないんで気にしないでやってください」

とパックが「ああまたか」という感じでフォローに入り。

>「そんな事しなくたって……魔法陣も筋力の強化も、体の外に施せばいいんですから。
 つまりマジックアイテムを持てばいい。遥か昔から行われてた事です。
 それを小難しくわざわざ理論化して……実に、芸術的だ」

シャルムが相変わらず皮肉を垂れ流しスレイブが激昂したりジュリアンがそれを制したりしている中、
ティターニアは「ああ、芸術的だ……実に芸術的だ……!」と一人で感動しているというシュールな光景が繰り広げられるのであった。
この話題を続けても不毛なことを悟ったのか、シャルムは本題を切り出す。
0168ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:10:21.38ID:cOFbRyG0
>「……では改めて、ご挨拶申し上げましょうか。
 ヴィルトリア帝国へようこそおいでなさいました。指環の勇者御一行様。
 先ほども申し上げました通り、皆様が帝国に滞在する間は私が案内人を務めさせて頂きます」
>「もちろん、ただの案内人に主席魔術師を使えるほど帝国も人材の宝庫って訳じゃありません。
 私は案内人であり、護衛であり、監視であり……暗殺者ってとこですね」
0169ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:13:19.81ID:cOFbRyG0
白衣を開いて二丁の拳銃を見せられ、流石のティターニアも真面目な顔に戻る。
そして何かの受け売りのようないかにも帝国っぽい物騒な事をひととおり語るシャルム。
帝国のことだ、内心考えていても不思議はない内容だが、不思議なのはなぜそれをわざわざ言うのか――
というより上層部は何故彼女にそれを言わせるのかという点だ。

>「……というのは、冗談です。……半分くらいは」
>「いや、すみませんね。本当は皆さんの実力を少し試してやろう、なんて考えてたんですが。
 ……とんでもないプレッシャーだ。不遜が過ぎました」

「ああ、指輪を奪うのはお勧めせぬぞ。どうも竜ども、使い手を選り好みするらしくてな――
ここで指輪を奪ったはいいが相性が合わなくて指輪の力を引き出せず世界自体が崩壊、では元も子も無いからな」

元老院の見解を語り終えたシャルムは、風の魔法で声の拡散を抑えて自らの意思を語り始める。

>「元老院はあくまで総取りを、戦争を望んでいます。ですが私は違います。
 私は研究者だ。魔法の神秘を解き明かし、膾炙して、人間に進歩をもたらすのが私の使命です。
 相手が竜でも、他国でも、人を死なせるのは御免です」

>「指環の勇者の大冒険、その最終章……そこに私も同行させてはもらえませんかね。
 なんと言っても私、帝国の主席魔術師です。客観的に見てそこのクロウリー卿と同格ですよ。
 いえ、私は五年前から史上最年少で主席を務めてますからね。むしろ格上とすら言えるかも」
>「……今、この場で答えが出るなんてことはあんたも期待していないだろう。
 少なくとも俺は、あんたが信用に値するとは到底断言できないな」
>「スレイブよく言った、やっぱり目玉煮を食ったやつは言うことが違うな。
 俺もその意見に賛成だ。いきなり客を煽って過去をほじくるような奴、金貨積まれてもお断りだね」

シャルム殿よ、さりげなさ過ぎるボケとかジュリアンに対するツンの奥のデレとか、分かりにく過ぎて通じてないぞ!? と思うティターニア。
特定の分野で超優秀な人物が人当たりに難があるのはありがちな事ではある。
いたたまれなくなったティターニアは、シャルムの肩を掴んでがくがく揺する。

「そなた……ユグドラシアで何を学んだのだ!? 掴みは重要だといつも言っておっただろう!
そこは白衣をめくったら水鉄砲か長ネギが差してあるぐらいの分かりやすいのを一発かまさねば!
もしくは”安心してください、はいてませんよ”のお色気路線も可!」

「ユグドラシアが誤解されるからやめて!? いや、誤解じゃなくてほぼ合ってるかもしれないけど!」

そんな感じで混沌の渦中と化した大広間に、一人の男が入ってくる。
0170ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:20:51.09ID:cOFbRyG0
>「そこまでにしておけ、シアンス。
 お前の仕事は案内であって、道化ではないぞ?」

いつまで経ってもシャルムと一行が晩餐会の会場に来ないから迎えにきたのだろう。
えらくヨボヨボのお爺さんだなあ、でも、遠い昔にどこかで会った事があるような――等と思うティターニア。
そして、彼の次の言葉を聞いて驚愕することとなる。

> 「ようこそ指環の勇者よ。私はヴィットーレン3世。
 このヴィルを治める者にして、帝国を統べる者。そして――セント・エーテリアを預かる者である」

なんと、この老人は帝国を統べる皇帝その人であり、そして――”セント・エーテリアを預かる者”――確かにそう言った。
やはりここにセント・エーテリアの入り口はあり、皇帝はそれを知っているということであろう。

「セント・エーテリアを預かるとは……」

「まあそう慌てるな、隣の部屋でゆっくり話そう――」

こうして、豪華絢爛な料理が並んだ晩餐会の会場に通される。
流石にこの期に及んで毒が盛ってあるなんてことは無いだろうが、一体どんな話が持ちかけられるのだろうと緊張の面持ちで席に着く。
皇帝は、開口一番こう言った。

「遠路はるばるご苦労であった。先ほどは我が国の主席魔術師が失礼な発言をしたようで申し訳ない」

「皇帝陛下……!」

皇帝が異種族を多分に含む一行にあまりにもあっさりと部下の非礼を詫びたことに、元老院らしきお偉いさん達がざわつく。

「思えば、”人間達が力持つ種族に虐げられずに幸せに暮らせる国を作ろう”
その単純な願いがこの国の始まりだったのだが……時が経ち組織が巨大になると歪んでしまうものだな――」

更に、遥か昔を思い出すような目をして語りはじめた皇帝に、
いよいよ寄る年波には勝てなくなってきてそろそろ危ないか――等と思っていそうな心配そうな視線を向けるお偉いさん達。
しかし、ティターニアにはその意味を理解することができた。

「そなた……もしや……!」

記憶を引き継ぐのは、全くの他人よりも子孫や魔力的な繋がりのある者であることが圧倒的に多い。
幸いにも、何代も後の子孫と思われる現皇帝のヴィットーレン3世が記憶を引き継いでいた。
今まで思い出さなかったのは、世界全体に及んでいたエルピスの記憶操作の影響であろう。
逆に言えばここにきて思い出したのはエルピスがもうその必要はないと判断したからとも取れるので油断はならないのだが。
ティターニアは皇帝に、先代勇者のティターニアの口調で語り掛ける。
0171ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:32:23.03ID:cOFbRyG0
「”本当に……そうですね。
全ての子ども達に教育の機会を――その理念で作ったユグドラシアも今ではすっかり面白芸人集団になってしまいました。
ヴィット、私です。風の指輪の勇者だったティターニアです”」
0172ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:34:17.95ID:cOFbRyG0
「”おいティタ、私の国をお前の面白芸人集団と一緒にするな――”」

「”ええ、困ったことにこれはこれで面白い方向に進化したかと思っています”」

ティターニアと皇帝が突然旧知の仲のように言葉を交わしはじめ、状況が分からないながらもとりあえずやいのやいの言い出すお偉いさん達。

「皇帝陛下をそのように馴れ馴れしく呼ぶとは……!」「不敬罪だ!万死に値するぞ!」

「良い! この者と話をさせてくれないか」

騒ぐギャラリーを一喝して黙らせた皇帝は、元の調子に戻ってティターニアに向き直る。
0173ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/14(土) 11:36:06.13ID:cOFbRyG0
「そうか。いや、あまりに似ているとは思ったが……見た目だけではなかったのだな」

そして皇帝は改めて、一行全員に目を向ける。

「本当に……よく来てくれた。
明日すぐにセント・エーテリアに至る聖域へと案内しよう――ただし、一つだけ条件がある」

どのような条件が提示されるのだろうと、少しだけ身構える。それは、意外なものだった。

「黒騎士を一人、同行させて欲しい。何、個人的な思い入れだ。
今ではすっかり権力争いの道具と化してしまったが当初は来たる危機の時代に備えて指輪の勇者の候補とすべく作ったポストでな……」

「その黒騎士とは……?」

「本来はもうこの場におるはずなのだが何分忙しい身の上でな。
黒鳥騎士――アルダガ・バフナグリー。彼女なら必ずや力になれるだろう」

皇帝の口からかつて指輪を巡って戦った相手の名が飛び出し、ティターニアは思わずジャンと顔を見合わせた。

【ちょっと話がうますぎかな、とも思ったが権力闘争している間に世界が吹っ飛んでもいけないのでここはサクッといってしまった。
アルダガ殿はそろそろ出てもいいしもうちょっと勿体ぶって好きなタイミングで出てもOK!
次の人が書く都合があるので入るところで早めに宣言をたのむ!】
0174アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/14(土) 22:26:05.65ID:hny1prDr
【はいー。明日がおやすみなのでこのタイミングで参戦できると思いますー
 難しそうだったらはやめに連絡しますね】
0175アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/16(月) 05:12:11.29ID:zAYucHdh
<帝国領西・キャムレット地方>

過日のソルタレクにおける決戦によって、総本山を崩されたエーテル教団は急速に瓦解しつつあった。
大陸の各地に点在する拠点にもその混乱は波及し、指揮系統を失った残党たちはもはや烏合の衆だ。
散発していたゲリラ活動は片っ端からその国の軍や自警組織によって鎮圧され、事態の収束は時間の問題だった。

すでに負け戦となったエーテル教団の残党が、しかし根強く抵抗を続ける場所がある。
指環の魔女、黒曜のメアリの影響力がとりわけ強かった、帝国領の一角だ。
帝国人であるメアリが最初に支配を始めた、言わばエーテル教団発足の地。
そこではソルタレクの一件で散り散りになった教徒たちが、再度の決起を誓って集結を始めていた。

集っているのはいずれも、指環の勇者たちや連合軍の追撃をかわし、振り切れるほどの実力者たち。
メアリの出生地であることを旗印として、かき集められた戦力はソルタレクの決戦時にも劣らない。
復権と復讐を目論む彼らの士気は高く、まずは帝都を獲らんと反撃の狼煙をあげようとしていた。

果たして、彼らの悲願が叶うことはなかった。
大陸全土から集結したエーテル教団の残党たちは、わずか一夜にして一人残らず壊滅することとなる。
帝国領内の残党狩りとして、帝国が誇る最強戦力・黒騎士が二人、投入されたのだ。

廃村を改築して造られた要塞、その各所から上がる火の手が夜空を朱色に染め上げる。
怒号とともに飛び交う矢、魔法による稲妻、火炎。果ては攻城用の大砲。
それら破壊の波濤が向かう先には、ただひとつの人影があった。

炎の揺らぎを鏡のように映す、磨き上げられた漆黒の全身甲冑。
この国では皇帝から賜ることでしか身につけることを赦されない、ブラックオリハルコンの鎧。
黒騎士の代名詞ともなっている黒の甲冑へ、要塞からの攻撃が『吸い込まれるように』着弾する。
すでに幾度となく繰り返された波状攻撃は、しかし鎧の主はおろか鎧にさえも傷一つ付けられない。
どす黒く目に見えそうなほどに濃密な禍々しい気配が、鎧の隙間から熱気のように漏れる。

岩山一つくり抜けるほどの苛烈な集中攻撃に晒されてなお、一切歩調を緩めることなく歩き続ける黒鎧。
その背後にはもう一つ、小柄な人影があった。黒の修道衣に身を包んだ、金髪の女だ。
彼女は身の丈ほどもある長尺のメイスを構え、轟音の響くなか聖句の詠唱を続けていた。

「女神の吐息、燻る篝火、最期の一灯――法撃準備整いました!『呪い』を解除します」

「よろしい」

修道女の要請に、黒甲冑の中から男の声が応じる。
甲冑の男が膝を屈して頭を垂れると、修道女が懐から聖水を取り出して兜の上から振りかけた。
すると、甲冑の周囲に充満していた禍々しい気配が消えた。聖水は熱した鉄板に注いだかのように蒸発していく。

「聖水で相殺された呪いが再び我が身を満たすまで、猶予は五秒程度だ。それまでに法撃を終え給えよ」

「わかっています――『ディバインカノン』!」
0176アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/16(月) 05:12:29.55ID:zAYucHdh
メイスから放たれた極太の光条が、夜空を貫いて要塞へと着弾する。
真っ白な聖なる光の波濤は要塞の壁を砕き、内部で炸裂し、さらなる火の手を燃え上がる要塞へと追加した。
吐き出され続ける攻撃法術の光は、要塞を舐めるよう破壊していく。

「おのれ、帝国の狗めッ!光竜様の裁きを喰らえ!」

崩れ落ちた要塞の中からまろび出てきた教団の魔導師が、大振りな杖から魔術の雷を放つ。
攻撃晒されながらも詠唱を完了させたのは、魔導師が術士として極めて高い域にある証左。
狙いを誤るはずもなく、致死の雷撃はまっすぐに修道女へと飛来した。

「……五秒だ。全ての流矢は我が身へ集う」

空を灼き、修道女を穿つはずだった雷撃は、その軌道を不自然に捻じ曲げた。
修道女の眼前からほとんど直角に曲がった雷撃が黒甲冑へと直撃する。
攻撃の結果に唖然とする敵魔導師は、直後に接近してきた修道女に対応しきれず、メイスの一撃で吹っ飛ばされた。

「さすがは『黒亀騎士』、本当に心強いです」

「硬くて便利な盾があって良かった、と本音を言ってはどうかね、『黒鳥騎士』よ」

「単なる盾が欲しいだけならこんなめんどくさい人と一緒に来ませんよ!聖水もタダじゃないんですから!」

「君は本当に正直だな……」

軽口を交わしながら、二人の黒騎士は淡々と戦闘を重ね、一晩で要塞を文字通り叩き潰した。
この戦いにはエーテル教団を完全に国内から排除すると同時に、周辺国家への牽制としての意味がある。

帝国の抱える最強戦力、黒騎士。
一人いれば街を落とし、二人いれば城を落とし――七人揃えば、国をも落とす。
一国が有するにはあまりに苛烈に過ぎるその戦力を、改めて国内外へと知らしめることとなった。

黒甲冑の男は、魔法を含むあらゆる飛び道具が狙いに関わらずその身に集まる『流矢の呪い』に侵された騎士。
超硬度のブラックオリハルコンの鎧を常に身にまとい、呪いを全ての攻撃から味方を護ることに転化した鉄壁城塞。
その名を――『黒亀騎士』ヘイトリィ・ランパート。

修道衣の女は、大陸全土を教圏とする『中央協会』から帝国中枢へと派遣された戦闘司祭。
城壁をも穿つ大規模攻撃法術と、女神の加護に裏打ちされた無双の怪力を併せ持つ歴代最強の修道女。
人呼んで――『黒鳥騎士』アルダガ・オールストン・バフナグリー。

いずれも純人国家であるヴィルトリア帝国を強国たらしめる、確かな裏付けとなった者たちである。


 ● ● ● 
0177アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/16(月) 05:12:59.48ID:zAYucHdh
晩餐会の催されている応接の間は、どよめきとざわめきに支配されつつあった。
皇帝が指環の勇者たちの同行者として呼んだという黒騎士があまりに来ないためである。
皇帝と勇者の一人には積もる話があるとはいえ、そろそろいい加減間がもたなくなってきたその時。
応接間の外でドタドタと走り回る音が聞こえたかと思うと、扉がバンと開いて一人の女が飛び込んできた。

「ご、ごめんなさいー!黒鳥騎士アルダガ、遅れ馳せながら参上いたしましたっ!」

黒鳥騎士を象徴するような黒の戦闘修道服を脱ぎ、儀礼用の道衣に身を包んだアルダガは、肩で息をしながらやってくる。
その後ろから、黒騎士付きの従属官だちが数人がかりでメイスを抱えて応接間の入り口で跪いた。

「先の任務から蜻蛉返りで登城したので、なにぶん武装解除に手間取ってしまいました、面目次第もないです」

城の行政区画においては、皇帝及び元老院の護衛を除いて、最低限の武装以外の装備を外す義務が武官に課せられている。
黒騎士と言えども例外ではなく、メイスを始め法術に使う聖水やら術符やらを全て解除するのには時間がかかった。
晩餐会の日取りは決まっていたのだから、前もって登城しておけば良いと言われればそれまでの言い訳に過ぎないが。

「貴様!皇帝陛下より栄えある抜擢を受けながら、会合に遅刻してくるとは何たる無礼か!」

さんざん待ちぼうけを食わされて、いよいよ耐えかねたとばかりに元老院から怒声が飛ぶ。
アルダガは首を縮こませて「ひぃーすみません!」と平身低頭謝罪するばかりだ。
国敵にとっては死神に等しい黒騎士も、お偉方の中にあっては哀しき労働者である。
アルダガの平謝りに気を大きくしたのか、あるいは不満の爆発か、元老達は口々に罵声を飛ばす。

「所詮は国家へ帰属せぬ教会の走狗か。愛国心を説くなど、それこそ貴様らへ説法を垂れるようなものだな」
「黒騎士の席は限られているのだ。やはり外様の者にその位地は荷が勝ちすぎているのではないか」
「陛下の恩寵を賜っているから目溢しをくれてやっているというのに……」

四方八方から飛んでくる、品だけは上等な罵詈雑言に、アルダガの首はどんどん縮んでいく。
やがて論調が黒鳥騎士の地位剥奪にまで及ばんとしたその時、罵声を遮るように鋭い音が響いた。

「お黙りなさい」

音の主は、元老の席の中程にいた女性。
その手に握る錫杖の石突きで、床を突き鳴らしたのだ。
身に纏う純白と純金糸のダルマティカは、その者が教会総本山・教皇庁の最上位にあることを示す着衣。
大陸全土に裾野を広げる教会という名のピラミッドの頂点に立つ、通称『聖女』。
黒騎士の一席に修道女アルダガをねじ込んだ、彼女のパトロンである。

「黒騎士が陛下のお招きに即応できない原因は、貴女がたにもあるでしょう。
 黒竜騎士アルバート・ローレンスの消息途絶……失われた黒騎士の席が、未だ空座のままなのは何故ですか?
 黒竜騎士を後援する方が、空いたポストに別の息がかかるのを拒んでいるからでしょう」

聖女は場を制するように二度、三度と錫杖を打った。

「加えて過日、黒犬騎士アドルフが離反した一件。国家の威信そのものともいえる黒騎士は、今や五名を残すばかり。
 祖龍復活に揺れる帝国領を鎮めるのに、黒騎士五人だけで手が回るわけもありません。
 真に守るべきは既得権益や、まして礼節などではなく、帝国領に生きる全ての民の命のはず」

気圧された元老達が次々に押し黙る一方で、聖女の説教は加熱していく。
見かねたアルダガがおすおずと手を挙げてそれを諌めた。
0178アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/16(月) 05:13:24.80ID:zAYucHdh
「あ、あの、聖女様、そのくらいで……陛下の御前ですし……」

「だって!言われっぱなしで悔しいじゃないですかっ!というか梯子を外さないで!貴女はどっちの味方ですかっ!」

奇しくも元老院を庇うような形となってしまったアルダガにも聖女は噛み付いた。
地位不相応の幼い物言いは、事実彼女は元老院やアルダガを含め、この場の誰よりも齢若いが為であった。
教皇庁のイコンともいえる頂点、聖女。その実体は、女神の寵愛を受けし少女である。

「……陛下、出過ぎた発言を失礼致しました。私はこれにて」

流石に皇帝の頭越しに言葉を交わし続ける無礼を察したのか、聖女は大きな鼻息を一つして着席した。
アルダガは胃のキリキリ痛むのを抑えながら、ようやくとばかりにティターニアとジャンへ歩み寄った。

「ティターニアさん、ジャンさん。お久しぶりです。カルディアでの一件ではお世話になりました。
 ……また、あなたたちとお会いできて良かったです。あのときの約束、守っていただけたんですね」

いずれ来たる再戦のときまで、誰にも指環を奪われないでいて欲しい――
カルディアでの戦いのあと、アルダガが一方的に押し付けた約束を、勇者たちは違えなかった。
聞けば、遥か西方のダーマ魔法王国まで出向いて都合6つの指環を回収してきたという。

「火と水の指環だけでなく、地、風、闇、光の指環までも。
 教皇庁が総力を挙げても辿り着くことさえ叶わなかった指環の数々が、あなたたちの手の中にある。
 悔しくないとは言えませんけれど、やはりあなたたちは、真の指環の勇者でした」

エーテル教団周りのゴタゴタで随分と遠回りになってしまったが、こうして指環と共に再会することができた。
これが女神のご加護の賜物であるなら、毎晩祈りを捧げた甲斐があったというものだ。
アルダガは体幹をぶれさせない特有の歩調でティターニア達の隣に立つ。
周囲に漏れないよう声を抑えて、ティターニアとジャンだけに届くようささやく。

「……次会ったときは、拙僧があなたたちと決着をつける最後の機会だと思っていました。
 そしてそれは、いまも変わっていません。帝国の、大陸の全ての民のため、きっと指環をいただきます。
 あなたがたを倒すための秘策も、ちゃあんと用意してきました」

修道女アルダガは、嘘偽りを口にすることができない。
女神の加護をその身に受けるため、真実だけを言葉にすることを誓約として己に課している。
指環を得るために騙し討ちなど不可能と判断して、ティターニア達へ想いの全てを明かした。

「古代文明の遺した亡霊の蔓延る星都では、神術に長ける拙僧の力が必ず役に立ちます。
 7つ目の指環を、必ずあなたたちの元へと届けましょう。
 だから、星都の探索が終わったそのとき。指環を賭けた立ち合いに、どうか応じていただけますか?」

それからアルダガは、傍にいたシャルムへと声をかける。

「主席魔術師、シャルム・シアンス殿。お噂はかねがねより伺っています。
 勇者の皆さんから指環を帝国のもとへともたらす為、一緒にがんばりましょう!」

――アルダガは嘘をつけない。
そして、シャルムの抱える内情を推し量る術も機微も持ち合わせていない。
彼女のこの言葉が勇者たちと敵対したくないシャルムにとって、どれほどの爆弾発言であったかなど、知るはずもなく。
完全に天然での所業であった。


【指環の勇者たちと再会し、星都攻略後に決着を所望。シャルムにキラーパス】
0179アルダガ ◆XorFujhzk6
垢版 |
2018/04/16(月) 05:14:09.62ID:zAYucHdh
名前:アルダガ・オールストン・バフナグリー
年齢:21
性別:女
身長:165
体重:45
スリーサイズ:
種族:純人
職業:神官/黒鳥騎士
性格:敬虔な宗教家
能力:神術・杖術
武器:新式聖銀製メイス『インドゥルゲンティア』
防具:神官服(防護魔法付与)
所持品:鋼鉄装丁の聖書
容姿の特徴・風貌:巨大なメイスを抱えた黒い修道服の女神官。金髪おさげ
簡単なキャラ解説:
女神を奉ずる大陸で最もメジャーな宗教に属する神官。
帝国と教会との政治的なあれこれにより帝国に出向しておりお飾り権限として『黒騎士』の地位を与えられている。
教皇庁上位の権限によって付与された女神の加護と神術、巨大なメイスを使った格闘術を武器に戦う。
大規模超射程の砲撃系神術に加え、加護増し増しで小柄な体躯からは想像できないような怪力を持つ。
カルディアで指環の勇者に敗北したあとは、己の不足を補うため徹底した鍛錬で神術をさらに磨き、
敗因を分析した補強の策を用意している模様。言うまでもなくアンデッド特効。


【あらためて、よろしくおねがいします!】
0180 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/04/16(月) 18:28:11.96ID:xqJ/eShF
>「……今、この場で答えが出るなんてことはあんたも期待していないだろう。
 少なくとも俺は、あんたが信用に値するとは到底断言できないな」

「あら、駄目ですか。ううん……信用を得なければ同行は許してもらえない。
 でも同行せずに信用を得るというのも難しい……ふむ、仕方ありません」

私は右手の指先を僅かに動かした。
ちょうど先ほどディクショナルさんがしてみせたのと同じように。

「やっぱり、私の実力をお見せした方が良いのでしょうか。
 真っ向勝負でも私は十分に強いとお見せすれば、少なくとも不意打ちの心配はなくなりますよね?」

私としてはこんなやり方は気が向かないのですが。
お望みとあらば主席魔術師の実力、ご覧になって頂きましょうか……

>「スレイブよく言った、やっぱり目玉煮を食ったやつは言うことが違うな。
 俺もその意見に賛成だ。いきなり客を煽って過去をほじくるような奴、金貨積まれてもお断りだね」

「……はあ?」

……思わず、私は剣呑な声を上げてしまいました。声の拡散を抑えておいてよかった。
彼らは賓客ですが、今の言葉は看過出来ません。

「お言葉ですがね、裏切り者はいつまで経っても裏切り者ですよ。
 それともオーク族の法には、裏切りに時効が存在するんですか?
 そういうの結構、気にする種族だと思ってたんですが」

私は一歩前に踏み出て……不意にティターニアさんが、私の肩を両手で掴みました。
一体何のつもりかと睨み上げると、彼女は……そのまま私をがくがくと揺さぶり始めた。

「ちょ、あの……ほんとに一体何のつもりですか!」

>「そなた……ユグドラシアで何を学んだのだ!? 掴みは重要だといつも言っておっただろう!

「掴みって……あんなの参考に出来ませんよ。
 あなたそう言って学会発表の時、いつも漫才だけで持ち時間の八割使ってたじゃないですか」

逆になんであんな発表で研究費貰えるのか、私ずっと不思議だったんですけど。

>そこは白衣をめくったら水鉄砲か長ネギが差してあるぐらいの分かりやすいのを一発かまさねば!
 もしくは”安心してください、はいてませんよ”のお色気路線も可!」

「……もう、そんな事出来る訳ないでしょう!魔法を他人に教える時、
 良識ある魔術師なら誰だってその用法とリスクを説明しますよね?この話だって同じですよ。
 私が元老院から仰せつかった事を黙って同行を願い出たんじゃ……不誠実じゃないですか!」

別に、私は元老院に睨まれたって怖くもなんともないですよ。
だけど指環を総取りして帝国に千年の繁栄をもたらそうというその考え。
それそのものは、外道ではあっても政治家としては、唯一無二とは言えなくとも、正答の一つです。
私が土壇場で欲に駆られてその考えに流れる可能性は、私自身にも否定し切れません。
だから全部説明しました。そうする事が誠実だと思ったからです。
そりゃ、クロウリー卿への言葉は余計だったかもしれませんが……でも、

「それに、クロウリー卿の事だって……確かに裏切った側からすればとっくの昔に終わった話でしょうよ。
 でも私にとっては違う。私は、この五年間ずっと!」

不意に、ばん、と大きな音が響いた。
振り返ってみると、大広間と晩餐会の会場を繋ぐ扉が開放されていました。
0181 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:28:58.56ID:xqJ/eShF
>「そこまでにしておけ、シアンス。
  お前の仕事は案内であって、道化ではないぞ?」

「……お言葉ですが皇帝陛下。それは間違っていますよ。
 あなた方が、道化に彼らの案内を申し渡した……これはただそれだけの事です」

……それにしても私の秘匿魔法、平然と見破ってくれましたね、皇帝陛下。
こうも容易く見抜かれると、いやぁ自信なくしちゃいますねえ。
まぁ陛下の『眼』を欺くつもりなど元よりありませんでしたけど。

> 「ようこそ指環の勇者よ。私はヴィットーレン3世。
 このヴィルを治める者にして、帝国を統べる者。そして――セント・エーテリアを預かる者である」

>「セント・エーテリアを預かるとは……」
 「まあそう慌てるな、隣の部屋でゆっくり話そう――」

セント・エーテリア?
ええと……確か古代文明の首都の名前でしたっけ?
考古学は聞き齧った程度の知識しかないからよく分かりませんが……一体何の話なんでしょう。

「……ま、私もご一緒させて頂きますよ。構いませんよね?
 ハイランドとダーマの合同戦力を、皇帝陛下と元老院の元に通すんですから。
 むしろ私一人じゃ足りないくらいです」

さて……かくして晩餐会に席に着いた私ですが。
セント・エーテリアについての話は正直、後からティターニアさんに聞こうと思います。
何やら彼女と皇帝陛下は親密そうな雰囲気。私への説明を挟みながらでは興が削がれるでしょう。
なので暫くは、二人の話を大人しく静聴している事にします。

「……ああ。私が食事に手を付けていないのは、気にしないで下さい。
 単にこういう豪奢な料理を、あまり胃が受け付けないんですよ。
 ですがもしお望みとあらば、毒見役を申し付けてくれても構いません」

嘘じゃありませんよ。なにせ私、普段、研究室ではろくなものを食べてませんからね。
栄養価と食べやすさを考慮すると大体、干しスライムかお湯溶きスライムになっちゃいますから。

>「黒騎士を一人、同行させて欲しい。何、個人的な思い入れだ。
 今ではすっかり権力争いの道具と化してしまったが当初は来たる危機の時代に備えて指輪の勇者の候補とすべく 作ったポストでな……」
>「その黒騎士とは……?」
>「本来はもうこの場におるはずなのだが何分忙しい身の上でな。
  黒鳥騎士――アルダガ・バフナグリー。彼女なら必ずや力になれるだろう」

「……それにしても彼女、遅いですね」

確かキャムレットの方に出征しているんでしたっけ。
エーテル教団の残党処理なんて、彼女ならちょちょいのちょいでしょうに。
黒狼さんなら帰路で新たな獲物を見つけてそれ追っかけ回してるんだな、
で済むんですけど、黒鳥さんはそういう事はあんまりしないはずなんですが……。

>「ご、ごめんなさいー!黒鳥騎士アルダガ、遅れ馳せながら参上いたしましたっ!」

と思ってたら、やっと来ましたか。

「随分と遅かったですね。何してたんです?」

>「先の任務から蜻蛉返りで登城したので、なにぶん武装解除に手間取ってしまいました、面目次第もないです」

「あー……律儀ですねえ。ぶっちゃけそんな事するだけ無駄でしょうに。
 武装していようが、いまいが、あなたは黒騎士なんですから」
0182 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:30:17.51ID:xqJ/eShF
彼女なら素手でも、この場にいる私と彼ら以外の全員をこう……肉団子に出来ちゃいますよ。
まぁ皇帝陛下への敬意の問題なんで、そういう話じゃないって言われればそれまでなんですが。
この非常時における効率という観点から見ればまったくの無駄ですよね。

>「貴様!皇帝陛下より栄えある抜擢を受けながら、会合に遅刻してくるとは何たる無礼か!」

「……あーあー、始まっちゃった。無闇に腰が低いからそうなる……。
 もっと超然としてればいいのに。
 黒狼なんて皇帝陛下との謁見すら余裕ですっぽかしますよ」
0183 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:30:52.26ID:xqJ/eShF
>「所詮は国家へ帰属せぬ教会の走狗か。愛国心を説くなど、それこそ貴様らへ説法を垂れるようなものだな」
 「黒騎士の席は限られているのだ。やはり外様の者にその位地は荷が勝ちすぎているのではないか」
 「陛下の恩寵を賜っているから目溢しをくれてやっているというのに……」

「……うるさいなぁ、もう」

皇帝陛下も止めて下さればいいのに。陛下はこういう時にあえて様子を見がちです。
まるで自分以外の人間が、どうするのか、上手くやれるのかを見定めているかのように。
……それじゃ私が上手くやって差し上げますよ。
雷の魔法を、派手な音と共に一発彼女にお見舞いすれば、皆黙るでしょう。
大丈夫、威力は抑えておきます。
皇帝陛下の前で攻性魔法を使う事はもちろん不敬ですが、ふん、堂々としてれば誰もそんな事注意出来ませんよ。
さあて、それでは……恨まないで下さいよ……

>「お黙りなさい」

……おっと、ようやく助け舟が出ましたか。
まぁ黒鳥の後援者としては黙ってはいられない話題ですよね。

>「加えて過日、黒犬騎士アドルフが離反した一件。国家の威信そのものともいえる黒騎士は、今や五名を残すばかり。
  祖龍復活に揺れる帝国領を鎮めるのに、黒騎士五人だけで手が回るわけもありません。
  真に守るべきは既得権益や、まして礼節などではなく、帝国領に生きる全ての民の命のはず」

……あれ?それともこれ、普通に怒っていらっしゃる?

「あー不味いですよ。これめちゃくちゃ長くなるやつじゃないですか。
 彼女、聖職者だけあって本領は政治じゃなくて日々の暮らしにまつわる説法ですからね。
 今はまだ政治の話してますけど、最終的に休日の過ごし方とか日々の食生活にまで話が至ります」

なんて指環の勇者の皆さんに説明してたら、うわ、めちゃくちゃ鋭い眼光で睨まれました。
聖女様なのにとんでもない地獄耳……。

>「あ、あの、聖女様、そのくらいで……陛下の御前ですし……」
 「だって!言われっぱなしで悔しいじゃないですかっ!というか梯子を外さないで!貴女はどっちの味方ですかっ!」

あ、良かった。流石に聖女様に雷魔法はぶっ放せませんからね。

>「……陛下、出過ぎた発言を失礼致しました。私はこれにて」

いや、それにしても大したものだ。
女神様に愛されているとやっぱりああも自信満々に、清く正しく育てるもんなんですね。
私もあやかりたいものです。いえ、今更手遅れなのはちゃんと自覚してますよ。
なんて事を考えていると、黒鳥……バフナグリーさんがこちらへと歩み寄ってきました。

>「ティターニアさん、ジャンさん。お久しぶりです。カルディアでの一件ではお世話になりました。
  ……また、あなたたちとお会いできて良かったです。あのときの約束、守っていただけたんですね」

……あの時の?ああ、そう言えば彼女、指環の勇者とは因縁があるんでしたっけ。

>「古代文明の遺した亡霊の蔓延る星都では、神術に長ける拙僧の力が必ず役に立ちます。
  7つ目の指環を、必ずあなたたちの元へと届けましょう。
  だから、星都の探索が終わったそのとき。指環を賭けた立ち合いに、どうか応じていただけますか?」

立ち合い……決闘ですか。そりゃなんともまた古風な話を……。
国益の為に指環を得んとするのなら、そんな事言ってないで不意打ちをかませばいいでしょうに。
正々堂々やりたいなら、指環の話なんてしなくてもいい。
どっち付かず……に、私には思えてしまうけど。
彼らにとってはきっとそうではないのでしょうね。
0184 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:32:02.97ID:xqJ/eShF
……しかし、どうしたものでしょうか。彼女が勝てば、それは確かに帝国の利益に繋がる。
元老院……と言っても一部の連中ですが。
彼らも、私と黒騎士が手段を選ばなければ、勇者御一行から指環を奪う事は不可能ではないと考えている。
ですがその考えには落とし穴がある。現実的とは到底……

>「主席魔術師、シャルム・シアンス殿。お噂はかねがねより伺っています。
  勇者の皆さんから指環を帝国のもとへともたらす為、一緒にがんばりましょう!」

……なーんでわざわざこの、元老院と指環の勇者、両方がいる場所でそんな事言ってくれますかね。
指環の勇者にすり寄れば、私は元老院からの信用を失う。
この帝国の存亡の危機に、今の任を解かれる訳にはいかない。
だけどバフナグリーさんの言葉に賛同すれば、もう二度と彼らから信用を得る事は出来ないでしょう。

あーやだやだ。そもそも指環の総取りなんて現実的じゃないんですよ。
オールオアナッシングで話が完結するほど状況は単純じゃありません。
もしも我々が指環の幾つかを奪ったとして。彼らがそのまま全滅するまで戦ってくれるとは限らない。
残る指環を持って、体勢を立て直すべく逃走されたら?
どの属性であっても、適切に用いれば逃走をほぼ確実なものにする事は難しくないはず。

そうなったら……その後は、今度こそ国と国との戦争ですよ。
指環という兵器を得た事で、大量に殺され、大量に殺す。
次世代の戦争の産声を、そんなに皆さん聞きたいんですか?私は御免だ。
さて……どうしたものか。
元老院のご機嫌を損ねず、指環の勇者のヘイトも貰わず。

「……えー?いやですよ、そんな面倒臭い。私そもそも指環にはあまり興味がありませんもん。
 人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。
 古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです」

ああ、なんでこんな事で気を揉まなくちゃいけないんですか。
恨みますよバフナグリーさん。
さて、とりあえずこれで指環の勇者の皆様には言い訳をさせて頂いて……

「……それに、私は効率よく事を運ぶのが好きなんですよ。
 決闘なんて泥臭い真似、お断りです。
 やるなら……もっとスマートに、やらせて頂きますよ」

……これで、元老院の方々にも、いつも通りの大口を叩いているだけ……
そう思ってもらえれば幸いなんですがね。
はぁ、胃が痛い……。

「まっ、なんにせよ、そんなのは光と虚無の竜をどうにかしてから考える事です。
 皇帝陛下、お話はもうよろしいんですか?」

ティターニアさんとのお喋りは……とりあえずは満足されたようですね。

「……では、迎賓室へご案内しますよ。どうぞこちらへ。
 ところで……ティターニアさん。今のなんだったんです?
 あなたと皇帝陛下に個人的な交友なんてあるはずがないのに」

私は席を立ち皇帝陛下に一礼すると、部屋を出た。
迎賓室は要塞城の上階層にあります。
少し歩く事になりますが……今の私には、その長い道のりは好都合でした。
0185 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:32:28.44ID:xqJ/eShF
「……ディクショナルさん。ジャンソンさん。先ほどの非礼をお詫びします。
 これはただの言い訳ですが、あなた達がクロウリー卿にそれほど肩入れしているとは思っていませんでした。
 クロウリー卿が……そういう人間を作るとは、思っていなかった」

私は廊下の途中、人気のない場所まで移動すると一度足を止め、皆さんを振り返ります。
これから話すのは、立ち話でするような内容でもありません。
顔を見られながら喋るのも嫌だったので、私はすぐに身を翻して再び歩き始めました。

「だってそうでしょう?友人も、国も……何もかもを、大勢の人を裏切って亡命したのに。
 そんな人間がもう一度、自分を慕う人間を作るなんて……思いもしなかったんですよ」

私にとっては、この五年間ずっと、ジュリアン・クロウリーは帝国の裏切り者でした。
でも……私以外の人達にとっては、そうじゃない。
そんな事は……分かっていたはずなんですがね。

「だけど……よくよく考えてみれば、そうなって当然ですよね。
 五年前、ジュリアン・クロウリーは帝国で最も敬愛された魔術師でした。
 どんな花形俳優よりも、その男の方が、帝国民の心を掴んでいた」

そりゃそうです。
エルフと魔族をも凌ぐ魔術の才能、鋭い知性、怜悧な美貌。
それに聖女殺しの罪を、全ての泥を被ってでも、友を守らんと容易く決意出来る人間性。
慕われない方がおかしい。

「……着きました」

あらかじめ用意しておいた鍵で扉を開ける。

「無断で出歩くのは申し訳ありませんがご勘弁下さい。
 城内の構造は防衛上の機密ですので」

皆が部屋に入ると、私も最後にそれに続きます。

「お嫌かもしれませんが、私も同室させて頂きますよ。
 護衛と見張りを兼ねての事です。どうかご容赦を。
 基本的にドアの傍から動くつもりはありませんので、お気になさらず」

指環の勇者に城内を歩き回られるのは論外。
彼らを賓客として扱っている間は、万が一、竜の襲撃でもあって怪我をされたら帝国の面子に関わる。
……まぁ、徹夜も我慢も慣れっこです。
魔法で生理的反応を抑制したり、体力を回復するのもお手の物ですし、問題を起こさせるつもりはありません。
とは言え……ずっと突っ立っているのも退屈ですね。

「……ディクショナルさん。あなたは特に、クロウリー卿を慕っているように見える。
 こんな事で信用を得ようとは思ってませんが……いけ好かない帝国人と同室させてしまっているお詫びです。
 さっきの話、もう少し続けさせて下さい。あなたの知らないクロウリー卿の話です」

気になるでしょう?と尋ねて、しかし私はその答えを待たずに言葉を続ける。

「クロウリー卿は当時、様々な異名で呼ばれていました。
 本人はその中でも一番大人しめな、白魔卿の名が気に入っていたようですが。
 魔導の太陽だとか、白夜の魔導師だとか、雪華の才賢、人類進化の終着点……他にも色々あったんですが、流石にもう思い出せませんね」
0186 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:37:46.14ID:xqJ/eShF
白夜とはこの大陸の北端、マナの乱れから夜が来ない地の天候の事。
彼の才知はまさしく何もかもを照らす、夜を知らない氷原の如しでした。
魔導の太陽もほとんど同様の語源ですね。
雪華の才賢は、雪の華のように無数に広がる彼の魔術の才を称賛して。
人類進化の終着点は……まんまですね。

「一癖も二癖もある黒騎士と違って、クロウリー卿はただただ、魔法に長けていました。
だから皆が彼になりたがった。彼のもたらす魔術理論は、自分達を彼のいる高みへ導いてくれると信じた。
ひいては帝国人の皆が、我々は亜人を遥かに凌ぐ種族なのだと信じられた」

彼には……それほどの才がありました。
0187 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:41:18.86ID:xqJ/eShF
「当時はもう、白いローブが大流行して……魔法学校は右を見ても左を見ても白一色でした。
 熱心な信奉者は、今でも白いローブを着続けているくらいです。私には理解出来ませんがね」

……さて、クロウリー卿の様子は。
うんうん、いい具合に恥ずかしがっているようで大変結構。
攻め口を変えた甲斐がありました。

「そうそう、私の通っていた魔法学校にも一度、クロウリー卿が特別講師として来た事がありまして。
 校庭を丸ごと覆うほどの氷の講堂を、卿が自ら建てたりして……
 今思えばどんだけキザなんですかって感じですけど、当時は……いえ、なんでもありません」
0188 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/16(月) 18:41:57.13ID:xqJ/eShF
……けど、ああ、駄目だ。やっぱりその顔を見ると……薄暗い気持ちがこの胸の内で膨れ上がる。
心臓が押さえ込まれるような気分になって……憎たらしいと、思ってしまう。

「……ちなみに、私にもちゃんと異名はあるんですよ。
 どうです、クロウリー卿。一つ、その才知で私の異名を当ててみてはくれませんか」

クロウリー卿は……答えない。それがまた、無性に腹が立った。
何故あなたが辛そうな顔をしてるんですか。

「シカトですか、クロウリー卿」

あなたは自ら望んで帝国を裏切ったのに。
他にいくらでもあったはずの道の中から、一番自分が望んだものを選んで、何故辛そうにしているんです。

「……はあ、仕方ありませんね。聞きたくなくても教えてあげますよ。
 私はね、魔術師の間じゃ日食の魔女と呼ばれているんですよ」

いや、誰が考えたのか知りませんがよく出来た名前ですよ。

「魔道を照らす者ジュリアン・クロウリーが残した遺産を、食い散らかす魔女だと。
 心外ですよね。私が主席魔術師に着任してから、帝国軍の有効交戦距離は40%伸びました。
 兵士の識魔率は50%を超えています。私はずっと、あなたが捨てた帝国を守ってきたはずなのに」

…………なんて、こんな事を彼に言ったって何になる訳でもないんですけどね。
また感情的になって、無駄な事をしてしまいました。
しまったなぁ。気まずいなぁ、これ。



【なによアンタ!私の方がクロウリー卿の事たくさん知ってるんだからね!】
0189ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/16(月) 20:10:53.88ID:aYVPqiI2
アルダガ殿シャルム殿素早い投下乙! では今後アルダガ殿にその位置に入ってもらって久々に5人プレイで!
この局面なのでもう普通に味方参加かな、と思っていたので意外だったがこの際シナリオボスとして大暴れしてやってくれ!
もし良ければ多分今回で手に入るエーテルの指輪使うのもいいと思う!
その後は折角だから最後まで一緒に……というのが個人的な希望だが敵として散りたいなら尊重するので判断はお任せしよう
(少なくとも今章では終わらないのはほぼ確定だが"もうちょっとだけ続くんじゃよ"の後が結構長いのは世の常らしい――)
0190スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/19(木) 06:11:19.01ID:06g81mfA
>「スレイブよく言った、やっぱり目玉煮を食ったやつは言うことが違うな。
>「そなた……ユグドラシアで何を学んだのだ!? 掴みは重要だといつも言っておっただろう!
>「それに、クロウリー卿の事だって……確かに裏切った側からすればとっくの昔に終わった話でしょうよ。

シャルムの同行に否定的なスレイブ、同調するジャンと諌めるティターニア。
ジュリアンを庇い立てするスレイブ達に納得がいかないとばかりに反駁するシャルム。
出会って数分で即刻ギスギスし始める指環の勇者と主席魔導師は、TPOも弁えずに言葉で殴り合う。

>「そこまでにしておけ、シアンス。お前の仕事は案内であって、道化ではないぞ?」

晩餐会の会場へ通じる扉が開き、そこから一つの人影が顔を出した。
白髪交じりの黒髪を長く伸ばした老人。痩せ細った体躯からは虚弱な印象を受けるが、その双眸には輝きがある。
すわ、待ちくたびれたお偉方が呼びに来たのかと思ったスレイブだったが――

『あ?ヴィット?ヴィットか?生きとったんかお主……いやだいぶ老け込んどるけれども』

ウェントゥスが唖然として呟いたその言葉に、シェバトでの記憶がふと蘇る。
ティターニアと初めて対面したときも、この風竜は似たような反応を示していた。

>「ようこそ指環の勇者よ。私はヴィットーレン3世。
 このヴィルを治める者にして、帝国を統べる者。そして――セント・エーテリアを預かる者である」

(帝国の……皇帝……?)

死にかけの老人に思えたその男は、ヴィルトリア帝国の政治首長、すなわち皇帝だと名乗った。
自称が虚偽ではないことは、シャルムの不遜ながらも敬意を示す返答で理解できる。

「……皇帝陛下自らの出迎えか。俺たちは相当待たせていたみたいだな」

人を遣わせればよかろうに、わざわざ自身で出迎えに来た皇帝を見て、スレイブは聞こえないよう呟いた。
騒乱の種を持ち込んだシャルムに対する暗黙の批判だ。無論、自分のことは棚に上げている。
変なところだけウェントゥスの影響を受けてしまったスレイブであった。

>「セント・エーテリアを預かるとは……」
>「まあそう慌てるな、隣の部屋でゆっくり話そう――」

一行の目的地である星都セント・エーテリア。
帝都の地下に今など存在するとされるその土地を、皇帝が預かっていると言う。
代々の皇帝が管理を担っているのか、それとも封じられたそこへ突入する方法を伝えられているのか。
いずれにせよ、星都へ行くには皇帝の協力が不可欠ということだろう。

>「遠路はるばるご苦労であった。先ほどは我が国の主席魔術師が失礼な発言をしたようで申し訳ない」

(聞こえていたのか……?)

皇帝が言及したのは、先刻のシャルムとスレイブ達との諍いのことであろう。
扉を隔てた先の出来事、それもシャルムは音声秘匿の魔術を行使していたはずだ。
単に地獄耳と言ってしまうのは楽天的すぎた。この城で内緒話は出来ないと、暗に示しているのだ。

>「思えば、”人間達が力持つ種族に虐げられずに幸せに暮らせる国を作ろう”
その単純な願いがこの国の始まりだったのだが……時が経ち組織が巨大になると歪んでしまうものだな――」
>「”本当に……そうですね。
 全ての子ども達に教育の機会を――その理念で作ったユグドラシアも今ではすっかり面白芸人集団になってしまいました。
 ヴィット、私です。風の指輪の勇者だったティターニアです”」

「ティターニア……?」

皇帝の言葉にティターニアが何かを思い至ったような反応をしたあと、二人は親しげに話し込み始めた。
帝国のトップとは初対面であるはずのティターニアが、普段の言動とはかけ離れた口調で。
それこそ、十年来の旧知と思い出話に花を咲かせるかのように。
0191スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/19(木) 06:11:52.59ID:06g81mfA
「……何が、どうなっている」

『今あすこで喋っとるのは、"儂の知ってる"ディターニアとヴィットじゃ。かつて、共に旅をしておった者たちじゃな』

「先代の指環の勇者だと……?」

ウェントゥス曰く、彼と彼女は千年前に時の祖龍を封印した指環の勇者達本人。
次の祖龍復活に備えて、記憶を子孫へ継承する秘術を使い――それが当代の彼らへと発現した。
帝都へ向かう飛空艇の中で、ウェントゥスがやたらはしゃいでいたのはこのことか。

「千年を越えた再会か……ぞっとしないな。甦った記憶とやらは、千年前の別人のものなんだろう。
 まるで現代のティターニアや皇帝が、記憶を受け継ぐための器に過ぎないようじゃないか。
 いま、生きている彼らはどうなる?その人格は、現代を生きてきた人生は、まるきり無視されているのか?」

『水を差すことを言う奴じゃのう……記憶の継承っちゅうても人格がまるのまま移し替えられとるわけじゃない。
 指環の使い方やら、祖龍に関するあれこれ、討伐のために必要な知識を血脈に保存しとるだけじゃ。
 限られた者にしか封を切れない手紙を遺したっちゅうのが正しい表現かもしれんな』

「俺の知っているティターニアが、失われたわけじゃないのか」

『儂にとっては実に遺憾じゃが、まあそういうことじゃな。あくまで主導権は肉体の主にある。
 少なくとも、ヒトから生まれた明確な肉体を持つヴィットの方はそうじゃろう。
 ティターニアは……エルフの身体ってよくわからんし、多分そうじゃとしか言えんが』

先代の風の勇者、聖ティターニアとやらが仲間に加わるのであればこれ以上心強いことはないだろう。
だがスレイブにとっては、シェバトで彼を救ってくれたティターニアが全てだ。
指環のために彼女の人格が聖ティターニアに蝕まれるのだけは、看過できなかった。

悠久の時を埋めるように、旧交を温め合うティターニアと皇帝。
スレイブがそれを複雑な面持ちで眺めていると、皇帝は星都への案内に一つの条件を付けた。
帝国が誇る最高戦力、黒騎士を一名そこへ立ち会わせて欲しいと。

「言われてるぞ主席魔術師殿。あんただけでは不足だと皇帝陛下はお考えのようだ」

先程の小競り合いを思いっきり引きずっているスレイブは、シャルムに皮肉を垂れる。
当の彼女はそれをさらっと受け流した。結果的に器の小ささを露呈しただけのスレイブであった。

>「……それにしても彼女、遅いですね」

同調するわけではないが、確かに遅い。報連相が行き届いていないのか。
帝国お抱えの料理人が髄を凝らした料理に舌鼓を打つことしばらくして、大扉が無遠慮に開かれた。
待ち合わせに盛大に遅刻した黒鳥騎士が、元老院のお偉方に大目玉を食らっている。
政治家同士のマウントの取り合いに巻き込まれてはたまったものではないのでスレイブはことの成り行きを黙って見ていた。

皇帝肝煎りの黒騎士、アルダガ・バフナグリーは平謝りしながらこちらへと合流する。
どうやらティターニアとジャンは面識があるらしく、アルダガは顔を明るくしながら何かを話していた。
声を落としているらしく、こちらまでは聞こえてこない。積もる話に水を差すものでもないだろう。
だが、アルダガがシャルムに向けて告げた言葉は、聞き捨てるわけにいかなかった。

>勇者の皆さんから指環を帝国のもとへともたらす為、一緒にがんばりましょう!」

「……とのことだが?」

指環を巡る勇者と帝国の暗闘を示唆するような言葉に、スレイブはピクリと眉を動かす。
黒騎士のアルダガが勇者から指環を奪わんとするのであれば、シャルムもまた帝国人としてそれに協力せざるを得まい。
となれば、シャルムの存在はスレイブ達にとって明確な障害となる。
0192スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/19(木) 06:12:23.41ID:06g81mfA
彼女の返答次第では、それを理由にシャルムの同行を拒否するつもりでいた。
そして、元老院のお歴々の見ている前で、アルダガの要請を無碍には出来ないだろうとも考えていた。

>「……えー?いやですよ、そんな面倒臭い。私そもそも指環にはあまり興味がありませんもん。
 人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです」

しかし、あっけらかんと放たれたシャルムの答えに、スレイブは虚を突かれた思いだった。
これまで、所有者に絶大な力をもたらす指環を狙う者たちを幾人も相手にしてきた。
黒犬騎士やアルマクリスを始め、シェバトに居た頃にもジュリアンと共に風の指環を守る為に戦ったことが何度もある。

だが、彼ら指環の簒奪者たちと、シャルム・シアンスは思想からして異なっていた。
彼女は――指環なんていうチャチな玩具の存在など、初めからアテにしてはいないのだ。
そんな、お仕着せの補助輪に頼らずとも、人間は自らの力で栄光を手にできると……人間の可能性を、心から信頼している。
積み上げた実績と才覚、そしてそれを根拠としたプライドが、彼女の信念を支えているのだ。

指環を必要とせず、むしろ余計な戦争の火種と断じ、帝国に渡ることを阻止しようとする彼女の姿勢。
それは、勇者たちに対するおべんちゃらなどではなく、嘘偽りない彼女の本音なのだろう。
スレイブにはそれが――感情的な納得はともかく――このやり取りで理解が出来た。
少なくともシャルムは、指環の勇者を騙し討ちして指環を奪おうと画策しているわけではない。
それだけは、断言できる。

>「まっ、なんにせよ、そんなのは光と虚無の竜をどうにかしてから考える事です。皇帝陛下、お話はもうよろしいんですか?」

八方塞がりの窮地を弁舌一つで脱してみせたシャルムは、一行を迎賓室へと案内する役をかって出た。
謝辞もそこそこに晩餐会を辞したスレイブ達は、シャルムの後を付いて要塞城を歩く。

>「……ディクショナルさん。ジャンソンさん。先ほどの非礼をお詫びします。
 これはただの言い訳ですが、あなた達がクロウリー卿にそれほど肩入れしているとは思っていませんでした。
 クロウリー卿が……そういう人間を作るとは、思っていなかった」

迎賓室への道すがら、シャルムは訥々と言葉を零す。
非礼とはすなわち、ジュリアンに対する悪し様の数々。
指環の勇者を迎え入れる立場であるはずの彼女が、何故確執を隠すことが出来なかったのか。

>「だってそうでしょう?友人も、国も……何もかもを、大勢の人を裏切って亡命したのに。
 そんな人間がもう一度、自分を慕う人間を作るなんて……思いもしなかったんですよ」

「それは……どんな事情があったか、あんただって分かっているはずだろう」

ジュリアン・クロウリーが帝国を出奔するきっかけとなった事件について、スレイブは伝え聞いたことしか知らない。
ジュリアン自身はあまりそのことについて語りたがらなかったし、スレイブ自身も過去のことはどうだって良かった。
何より、当時のスレイブは魔剣に知性を喰われて馬鹿になっていた。

それでも、ジュリアンがやむにやまれぬ事情の果てにダーマへ渡ったことは知っている。
そしてそれは、他ならぬ帝国の民にも、五年の歳月を経て周知となった事実だ。

>「……着きました」

話もそこそこに、一行は迎賓室へと辿り着く。
翌日の星都入りへ備えた臨時の宿だ。お目付け役としてシャルムもここに寝泊まりするらしい。
差配に不満はなかった。他国の者を城に逗留させるならば当然の対応だろう。

「晩餐会の料理は旨かったが、如何せん量が少ないな。動き回らない政治家連中にはあれで十分なんだろうが。
 このままじゃ夜中に腹が減って目が覚めそうだ。何か小腹に収めておきたい」

念の為迎賓室のベッドを検めたスレイブは、荷物の中から保存食をいくつか取り出して並べる。
干し肉に堅焼きのパン、恭しく取り出したるは瓶詰めの目玉煮込みだ。
備え付けの羊皮紙に手早く加熱魔法の陣を描くと、手鍋に材料を放り込んでいく。

「ジャン、こいつで飲み直さないか。晩餐会の席から一本拝借してきたんだ」
0193スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/19(木) 06:12:48.29ID:06g81mfA
懐から蒸留酒の瓶を取り出して、スレイブはニヤリと笑った。
瓶の中で波打つ琥珀色の液体は、帝国産の麦を発酵させて作ったウイスキーだ。
ワインのような食中酒ではなく、食後酒として供される度の強い酒である。

「ダーマやハイランドには流通していない種類の酒だ。帝国のお手並み拝見といこう」

>「……ディクショナルさん。あなたは特に、クロウリー卿を慕っているように見える。
 こんな事で信用を得ようとは思ってませんが……いけ好かない帝国人と同室させてしまっているお詫びです。
 さっきの話、もう少し続けさせて下さい。あなたの知らないクロウリー卿の話です」

寝物語の代わりとばかりに、シャルムは話を続ける。
スレイブにそれを拒絶する理由はない。純粋に、興味もあった。
五年前、ダーマの王宮で初めて出会ったジュリアンが、帝国を出る以前の話。
当のジュリアンは苦虫を噛み潰したような顔をしているが、シャルムを黙らせるつもりはないらしい。

>「クロウリー卿は当時、様々な異名で呼ばれていました。
 本人はその中でも一番大人しめな、白魔卿の名が気に入っていたようですが。
 魔導の太陽だとか、白夜の魔導師だとか、雪華の才賢、人類進化の終着点……
 他にも色々あったんですが、流石にもう思い出せませんね」

「……白魔卿しか知らないな。ダーマでは、その名が一番通っていた」

帝国の英才、ジュリアン・クロウリーの名は本人が亡命する前から大陸全土に轟いていた。
東の大国に恐るべき才覚を持った魔導師が居るらしいというのは、かつてのスレイブもよく耳にしたものだ。
もっぱら、敵性情報として。戦争になった際に、最優先で仕留めるべき対象の中にジュリアンがいた。

>「……ちなみに、私にもちゃんと異名はあるんですよ。
 どうです、クロウリー卿。一つ、その才知で私の異名を当ててみてはくれませんか」

シャルムがジュリアンへ水を向ける。ジュリアンは硬い表情のまま答えなかった。
語られる思い出話は、いずれもジュリアンにとって栄光の絶頂にあった頃の記憶だ。
――失われ、二度とは戻らない、覆った盆の水。
彼が自らの意志で捨て、顧みることを諦めた……過去。

>「……はあ、仕方ありませんね。聞きたくなくても教えてあげますよ。
 私はね、魔術師の間じゃ日食の魔女と呼ばれているんですよ」

「日食……?魔術師の頂点に立つ者に付ける名にしては、えらく辛辣だな」

>「魔道を照らす者ジュリアン・クロウリーが残した遺産を、食い散らかす魔女だと。
 心外ですよね。私が主席魔術師に着任してから、帝国軍の有効交戦距離は40%伸びました。
 兵士の識魔率は50%を超えています。私はずっと、あなたが捨てた帝国を守ってきたはずなのに」

それを言うなら、ジュリアンがダーマ王国軍にもたらしてきた変革も非常に大きい。
使い捨ての尖兵としてしか扱われてこなかったヒトの兵達に、ジュリアンは魔法の基礎を教えた。
魔族達からはいい顔をされなかったが、事実そのおかげで兵士の生還率は倍以上に跳ね上がった。

単純な戦闘力の向上だけでなく、戦場でこれまで致命的だった負傷も、魔法ならば癒せるケースが多い。
ジュリアンの授けた魔法医療の知識で、野戦病院が墓場と揶揄されることもなくなったのだ。

(……いや、彼女が言いたいのは、おそらくそんなことじゃない)

主席が入れ替わってからの功績を、ことさらにアピールする理由。
『日食の魔女』などとんだ見当はずれだ。シャルムは、ジュリアンの遺したものを何一つ傷つけてなどいない。
むしろ、ジュリアンの功績を維持し、彼が作り上げたものが損なわれないよう保護してきた。

人々が、ジュリアン・クロウリーを忘れないように。
他ならぬ彼女自身が、ジュリアンに並び立つために。
0194スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/19(木) 06:13:14.67ID:06g81mfA
『日食の魔女』の名を返上したいのであれば、わざわざジュリアンの後追いをする必要はなかったはずだ。
魔導の道は一つではない。ジュリアンとは別のアプローチから、魔術の深奥を追求すればよかった。
シャルムにはそれを実現するだけの実力があったはずだ。

汚名にも等しい二つ名を受け入れ、それでもジュリアンを追った理由は――

「あんたは、いまでもジュリアン様を諦めていないんだな」

皇帝に諌められてなお、執拗なほどにジュリアンに絡むシャルム。
その胸の裡にあるのは、裏切り者への憎悪とはまた違ったものなのかもしれない。
月並みな表現ではあるが、愛憎の裏返しとか、好きの反対は無関心とか、その手の稚拙な感情が垣間見える。

「ジュリアン様に対する感情は、俺とあんたで、おそらくほとんど変わらない。
 一杯どうだ?シャルム・シアンス。……あんたとは、うまい酒は飲めなさそうだがな」

デスクに置いてあったグラスに蒸留麦酒を注いで、シャルムの前に置いた。
彼女が手を付けようが付けまいが、スレイブは自分のグラスを一気に呷って机に置く。
酒精の灼熱感が喉を滑り落ちていって、腹の中が火をつけたように熱くなった。

「感情にも多寡がある。敬愛の度合いだ。あんたなんかよりも俺のほうがずっと――
 ずっとずっとずっと、ジュリアン様を尊敬している……!ちょっと待っていろ、新しい瓶を出す」

ほんのり赤みの差したスレイブは、ふらつく足取りで自分の荷物を漁って新しい酒を出した。
ダーマから持ち込んだブランデーだ。ワインをさらに蒸留したもので、度も強い。
ウイスキーのグラスを洗わずに新しく酒を注いで、スレイブはそれも一気に飲み下した。

「俺の知らないジュリアン様の話だと?古いんだよ、情報が……!五年も前の話なんか知ったことじゃない!
 そんな埃の被った情報をありがたがるなど、主席魔術師様の戦略眼もたかが知れてるな!
 俺はあんたよりも新しい、新鮮な!最新の!!パイセ……ジュリアン様の話をいくつも話せるぞ!」

呂律がまともに回っているのが奇跡だった。
既に顔は真っ赤になって、へべれけ寸前のスレイブの弁舌は加速する。

「例えば知っているかシャルム・シアンス。ジュリアン様が趣味としてバイオリンを嗜んでいるのは周知の事実だが……
 ダーマに来てからは宮廷楽団からダーミアン・ハープの演奏も習っていたんだ。
 わずか数ヶ月で楽団のお墨付きをもらったその音色、貴様は聞いたことがないだろう。
 俺は聞いたぞ、そして楽団とのセッションを収録した録音盤も所有している」

ジュリアンがぎょっとした表情でスレイブを黙らせようとするが、彼の舌は止まらない。

「それからジュリアン様は何食っても大体同じ感想を言うがな……
 こいつを食ったときは、いつもより指一本ほど眉が大きく上がった。うまさに感動したんだ。
 すなわちジュリアン様の好物!それがこの……飛び目玉の姿煮だ!」

手鍋で温まっているスープの上で、大ぶりの目玉がいくつか浮いている。
キアスムス名物の目玉の姿煮を、スレイブが各種薬草と調理することで旨味を損なうことなく毒消しに成功した改良品だ。
三日くらい寝ずに色々試して作ったこの料理をジュリアンに供したとき、
出会って初めて彼の「うまい」という肉声を聞いた思い出深い一品である。

「どんな高級料理も表情筋の死んだような仏頂面で食べるジュリアン様が、顔を綻ばせる一歩寸前までいったんだ。
 お上品な帝国主席魔術師様のお口には合わないだろうがな……!」

自分の知らないジュリアンのエピソードを開陳され、得も言われぬ敗北感に支配されていたスレイブは、
意趣返しとばかりにダーマ時代からのジュリアンの話を暴露していく。
ジュリアンが魔術で物理的にスレイブを黙らせるまで、酒の勢いに任せた狂宴は続いた。


【キャットファイト勃発】
0196ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/20(金) 15:26:44.68ID:DNZcR9Fx
>「そなた……もしや……!」

先代の指環の勇者たちの記憶は今代に引き継がれるものなのか、
ティターニアとヴィットーレン三世は初めて出会ったにも関わらず、まるで友人のように話している。
その様子を見たジャンがふと思いつき、指環に宿るアクアに念話を飛ばす。

『おいアクア、前に水の指環使ってたやつはどんなヒトだった?』

『君のようなオークではなかったね。
 勇者としての使命を果たすためにヒレと尾を失い人の身体を得た、人魚族だった』

『……そりゃずいぶんと物語的だな、本当は?』

『祭壇から指環をかっぱらったけど扱いに困ってた人魚族の海賊。
 ヴィットに喧嘩売って返り討ちにされて改心した』

『俺も物語じゃ、啓示を受けたダーマの騎士になっちまうのかね……』

先代の勇者の中で、おそらくリーダーだったろうヴィットーレン一世の苦労を偲び、
今目の前でこうしてティターニアと話している、ヴィットーレン三世を見つめた。

>「本来はもうこの場におるはずなのだが何分忙しい身の上でな。
黒鳥騎士――アルダガ・バフナグリー。彼女なら必ずや力になれるだろう」

自由都市で戦ったあの黒騎士、その名を聞いてティターニアと顔を見合わせる。
高度な法術と鍛えられたメイスさばき、そして敵の能力を見抜く判断力。
勝てたのは数の有利と時の運だと、ジャンは常々思っていたあのアルダガだ。

「お、おい!もらった短剣やっぱり返した方がいいと思うか!?
 硬くなっちまった肉とか動物の解体に便利で結構使っちまったけど、
 ちゃんと洗って研ぎ直したから大丈夫だよな…?」

武器は部屋に入る際に衛兵に預けることとなっていたため、
今はジャンの腰にあるベルトにはないが、もしかしたら既に返されているかもしれない。
もし傷が残っていたり加護が消えてしまっていたら、怒られるだけではすまないだろう。

>「ご、ごめんなさいー!黒鳥騎士アルダガ、遅れ馳せながら参上いたしましたっ!」

ジャンが悶々と教会相手の裁判について考えていたところ、その対象が騒がしくやってくる。
自由都市での戦闘から変わらないその姿は、まるで敬虔な修道女だ。

(どっちかというと聖騎士って感じだがな。あのメイス、俺でも両手で持てるかどうか分かんねえぞ……)

おそらくは戦場帰りだったのだろう、汗と血の匂いをジャンの鼻が嗅ぎ取る。
かすかに漂う返り血の匂いから、おそらく任務というのも一方的なものだったはずだ。
さらに腕前を上げたことにやや身震いしつつ、目の前の豪華な帝国式の食事を眺める。
茶色のソースがかかった柔らかそうなステーキや、湯気を立てる黄金色のスープなど、
冒険者だった頃は夢に見ていたはずの貴族の料理。
0197ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/20(金) 15:27:39.30ID:DNZcR9Fx
スレイブやフィリア、ラテは遠慮なく食べているようだが、
ジャンは非常に困ったことが一つあったのだ。帝国の食事マナーが分からない。
人間以外の人種を等しく差別することで知られる帝国、その首都に招待された以上
無作法と誤解されがちなオークとしては噂通りのふるまいになりたくはなかったが、帝国出身の人間が身内におらず、
またソルタレク解放戦においてソルタレクの図書館が焼けてしまったこともあり、
マナーに関する知識がまったく得られなかったのだ。
学者ということでなんとなく詳しそうなティターニアや
国が違うとはいえ上流階級との経験がありそうなスレイブに聞きつつ、ジャンはなんとか凌いでいく。

「……ティターニア、ナイフとフォークが2つずつあるがどっちから使えばいいんだ」

「食べる順番があるのかよ!?よく分かんねえな……スレイブ……
 好きなように食べればそれでいいじゃねえか……」

>「ティターニアさん、ジャンさん。お久しぶりです。カルディアでの一件ではお世話になりました。
 ……また、あなたたちとお会いできて良かったです。あのときの約束、守っていただけたんですね」

と、帝国式マナーにジャンが苦しんでいたさなかにアルダガがやってきた。
元老院に絡まれていたようだが、上司の一声で収まったらしい。
彼女は最後の指環の捜索にあたって協力してくれるようだ。

>「古代文明の遺した亡霊の蔓延る星都では、神術に長ける拙僧の力が必ず役に立ちます。
 7つ目の指環を、必ずあなたたちの元へと届けましょう。
 だから、星都の探索が終わったそのとき。指環を賭けた立ち合いに、どうか応じていただけますか?」

「……おうよ!あんたの実力はようく分かってる、
 それを立ち合い一つで雇えるってんならありがたいもんだ!」

そう言うとジャンは右手で拳を作り、アルダガに同じく拳を作らせる。
そしてお互いの拳をごつん、とぶつけた。

「戦士の約束だ。つっても、光竜の野郎をぶっ倒してからになるけどよ」

人間の基準では不細工に当たるのであろうその顔で、ジャンはニカッと笑う。
理性的とはいえオーク族である以上、強者との戦いには心躍らずにはいられないのだ。
しかし、その直後の台詞にはジャンもさすがに戸惑った。

>「主席魔術師、シャルム・シアンス殿。お噂はかねがねより伺っています。
  勇者の皆さんから指環を帝国のもとへともたらす為、一緒にがんばりましょう!」

>「……えー?いやですよ、そんな面倒臭い。私そもそも指環にはあまり興味がありませんもん。
 人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。
 古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです」

「……随分と『人間』にこだわるもんだ。
 一つの種族だけで生きられるほど世の中上手くできちゃいないぜ」

人間を名乗り、それ以外をヒトとして認めないという主義はジャンとしては理解できないわけではない。
オーク族にもそういった主義の連中はいるからだ。だが、同意できるかと言われれば『いいえ』と言うだろう。
種族ごとに向き不向きがあり、それらを補いあっているからこそ世界は動く。
単一種族による強引な統一は必ず歪み、腐敗し、停滞し、つまらないものになる。ジャンはそう信じている。

だが少なくとも、指環を闇討ちして奪おうとは思っていないようだ。
その点では安心できた。
0198ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/20(金) 15:28:37.23ID:DNZcR9Fx
こうしてお互いの自己紹介と少しのトラブルを経て、晩餐会は終わる。
監視兼案内役としてシャルムが一行に参加し、今夜の宿である迎賓室に案内されることとなった。
そしてその道中、シャルムがふと立ち止まり振り返る。

>「……ディクショナルさん。ジャンソンさん。先ほどの非礼をお詫びします。
 これはただの言い訳ですが、あなた達がクロウリー卿にそれほど肩入れしているとは思っていませんでした。
 クロウリー卿が……そういう人間を作るとは、思っていなかった」

晩餐会を終えて落ち着いたのか、シャルムが自らの複雑な気持ちを話し始める。
ジュリアンの後釜として据えられたことへの不満か、ジュリアンへの疑問からか。
どちらにせよ、正直な心情の吐露にジャンも先程の発言を訂正する。

「……俺もいきなり突っかかっちまった。言い過ぎた、すまねえ」

そこから一言二言とりとめのない話をしながら、迎賓室へと到着した。
中は相当広く、これならば一行も余裕で寝られるだろう。

だが、ジャンは寝る前に腹が減っていることに気がついた。
マナーを守るのに必死で肝心の食事ができず、味も楽しめなかったのだ。

>「ジャン、こいつで飲み直さないか。晩餐会の席から一本拝借してきたんだ」

「いいぜ!宴会の続きといこうじゃねえか。
 俺もダーマから色々持ってきてたんだよ……」

ジャンも腰の革袋から、ダーマから持ち込んだ保存食をいくつか取り出す。
ワイバーンの干し筋肉や人食い花の茎を刻んだものなど、こちらはダーマ産のものだ。
スレイブの手鍋に同じく放り込み、煮えたところからひょいっとつまんでは食べる。

……そしてスレイブとシャルムが、ジュリアンによる物理的な口止めをされるまでの間。
ジャンも久々の強い酒に酔い、ティターニアに絡んでしまっていた。
シミ一つない白いシーツに包まれたベッドの上であぐらをかき、ティターニアの横に並んで
酒を飲みつつだらだらと話す。

「ソルタレクでよぉ、親父たちに言われたんだよ。
 あのエルフの嬢ちゃんとはどうなんだって」

スレイブが熱弁を振るっている間、自分のコップにどばどばと蒸留酒を注いでいく。
そしてグイッ!と飲むとまたティターニアに絡みだした。

「……実際、どうなんだ?最初は偶然。
 次は雇い主と護衛。いつの間にか仲間。今は……分かんねえ、もういいやこの話」

ジャンは顔を赤くし、鍋の中でくたくたになった人食い花の茎を三本ほどまとめて口に放り込んだ。

「それよりも、明日のセント・ナンターラだ!
 エーテルの指環を手に入れて、エルピスも倒して、虚無の竜とかいうのも倒す!寝る!」

それだけ言うと自分に割り当てられたベッドに倒れ込み毛布を乱暴に被って、派手な寝息を立てて眠り込んだ。
まるでそれはティターニアに直接言いたかったことを誤魔化すような、そんな眠り方だった。


【アルダガさんお帰りなさい!】
0199ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:22:07.69ID:HqazLHKZ
>「お、おい!もらった短剣やっぱり返した方がいいと思うか!?
 硬くなっちまった肉とか動物の解体に便利で結構使っちまったけど、
 ちゃんと洗って研ぎ直したから大丈夫だよな…?」

「しかしあの時、他の持ち物はアルダガ殿と一緒に消えたのにその短剣だけ残っていたぞ?
気になるなら“あの場に残っていたから預かっておいたのだが”とそれとなく本人に言ってみるといいのではないか?」

思いの他すんなりとセントエーテリアに行ける算段が整い、豪華な料理に舌鼓を打ちながらアルダガの到着を待つ一行。

「“ところでヴィット、指輪の勇者の候補が黒ずくめの集団というのはなんというか……”」
「“何故だ!? 格好いいではないか――!”」
「”あなたのセンスがそれだから国が悪の帝国みたいな方向性に行ってしまうのです。
私なら名前はエーテル星騎士団――イメージカラーは7つの属性のイメージに合わせて赤青黄緑黒白虹! ――こうしますね”」
「”それはそれで週に一回ぐらい合体巨大ゴーレムを召喚して巨大モンスターを討伐する愉快な特殊部隊感が半端ないぞ。
やはりユグドラシアは芸人集団になるべくしてなった気がする――”」

などと先代同士が他愛のない話をしたりしてしばらく間を持たせていたが、それでも次第に皆が待ちくたびれてきた頃。

>「ご、ごめんなさいー!黒鳥騎士アルダガ、遅れ馳せながら参上いたしましたっ!」

黒騎士、といったら見るからに謎めいた影があったり超然とした佇まいの者を想像するが、
この一見すると典型的な遅刻ドジっ娘が無双の強さを誇る黒騎士の一角なのだから恐ろしい話である。
そこから暫く、元老院の爺さん達の遅刻への小言やら聖女と爺さん達の言い争いやらが繰り広げられる。
その様子を“帝国とは面倒くさいものだなあ”と思いながら眺めつつ、食事を続行するティターニア。

>「……ティターニア、ナイフとフォークが2つずつあるがどっちから使えばいいんだ」
>「食べる順番があるのかよ!?よく分かんねえな……スレイブ……
 好きなように食べればそれでいいじゃねえか……」

「ナイフとフォークは外側から取ってだな――まああまり気にせず食べればよい。
ここにおる者達は誰もそんなところは気にしてはおるまい」

テーブルマナーが分からずわたわたしているジャンにそう声をかけつつ、
皇帝や一部の者は世界の行く末、その他大勢の者は権力闘争や派閥闘争で頭がいっぱいだろうからな――と心の中で付け加える。
そして帝国人であるシャルムも”帝国のノリ面倒くせー”と思っているのが言葉の端々にありありと現れており、意外なところで共感するのであった。
ようやく騒ぎが一段落すると、アルダガがジャンとティターニアの元へやってくる。

>「ティターニアさん、ジャンさん。お久しぶりです。カルディアでの一件ではお世話になりました。
 ……また、あなたたちとお会いできて良かったです。あのときの約束、守っていただけたんですね」

事情を知らない者がこの会話を聞いても、まさか“お世話になりました”の内容が殺してでも奪い取る覚悟の指輪争奪戦だったとは思うまい。
0200ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:24:15.90ID:HqazLHKZ
「ああ、それなのだが正確には一度アイツに奪われてしまったがな」

「奪ったとは人聞きの悪い――預かっただけだ」

一度ジュリアンに指輪を持っていかれたことを正直に白状するティターニアだったが、
本人が否定している上に、そもそもその奪った人間が平然とメンバーの中に入っているのでは説得力も何もあったものではない。

>「火と水の指環だけでなく、地、風、闇、光の指環までも。
 教皇庁が総力を挙げても辿り着くことさえ叶わなかった指環の数々が、あなたたちの手の中にある。
 悔しくないとは言えませんけれど、やはりあなたたちは、真の指環の勇者でした」

「いやアルダガ殿、少し誉め過ぎだ――」

と満更でもなさそうなティターニアだったが。
アルダガが更に二人に近づいてティターニアとジャンにだけ聞こえるように話した言葉に面食らうことになる。

>「……次会ったときは、拙僧があなたたちと決着をつける最後の機会だと思っていました。
 そしてそれは、いまも変わっていません。帝国の、大陸の全ての民のため、きっと指環をいただきます。
 あなたがたを倒すための秘策も、ちゃあんと用意してきました」

「ん?」

あまりに友好的に宣戦布告されたので意味を理解するのに数秒かかり、ようやく意味を理解すると、
”皇帝に『戦力になるから連れて行ってね』と言われたはずなのになんで宣戦布告されてるのだ?”と更なる疑問が湧いてくる。

>「古代文明の遺した亡霊の蔓延る星都では、神術に長ける拙僧の力が必ず役に立ちます。
 7つ目の指環を、必ずあなたたちの元へと届けましょう。
 だから、星都の探索が終わったそのとき。指環を賭けた立ち合いに、どうか応じていただけますか?」

>「……おうよ!あんたの実力はようく分かってる、
 それを立ち合い一つで雇えるってんならありがたいもんだ!」

強敵と戦うのが好きなジャンは、目を輝かせて立ち合いの申し込みに応じてしまった。
何か認識にズレがある気がする。具体的には、『決闘をするのはいつか』ということだ。
あわよくば早い時点で指輪を全部奪い取ってやろう、というのが帝国のお偉方の根底にある考えだということは
シャルムの口を通して聞いたことで、なんとなくは認識している。
そしてアルダガは、“帝国の、大陸の全ての民のため、きっと指環をいただきます”と言った。
真面目猪突猛進な彼女のこと、帝国万歳の思想が何の疑いもなく刷り込まれているに違いない。

>「戦士の約束だ。つっても、光竜の野郎をぶっ倒してからになるけどよ」

「ジャン殿、アルダガ殿は”星都の探索が終わったそのとき”と言ったが……」

アルダガは続いてシャルムへ向かって堂々と爆弾発言を炸裂させる。

>「主席魔術師、シャルム・シアンス殿。お噂はかねがねより伺っています。
  勇者の皆さんから指環を帝国のもとへともたらす為、一緒にがんばりましょう!」
0201ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:26:07.55ID:HqazLHKZ
これには大勢の“隙あらば騙し打ちして奪い取ってやれ派”と少数の”とりあえず世界を救ってから考えよう派”の双方がざわめき、会場は騒然となった。
皇帝に”あなたが抜擢したのでしょう、どうにかして下さい”と視線で訴えるティターニアだったが、
皇帝は遠い目をして”国家が巨大になると最高権力者の一存で全てが動くわけではないのだ――”的な哀愁を漂わせるのみ。

>「……えー?いやですよ、そんな面倒臭い。私そもそも指環にはあまり興味がありませんもん。
 人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。
 古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです」

周囲がざわめく中、当のシャルムは、アルダガの誘いをきっぱりと断って見せた。
人間至上主義は垣間見えるものの、指輪に興味が無いと言い放つあたり、
元老院のお偉方とは根本的に違う思想を持っているのだということが分かり、また少し好感度が上がる。
そこでティターニアは皇帝に、先程疑問に思ったことを切り出す。

「ところで皇帝殿、先程アルダガ殿が”古代文明の遺した亡霊の蔓延る星都”と言ったが
先代の時には綺麗な古代都市だったと思うのだが……」

エーテリアル世界の女王が収める美しき星の都――それが先代の時の星都の印象だ。
星都は、エーテリアル世界時代の最後の女王が四星都市でいうところの守護聖獣のようなポジションを務めていた。
最奥の神殿に住まう全の竜を奉り星都を守る美しき女王。その名はパンドラ――
現在の伝承には“旧きエーテリアル世界の神”として伝わっている存在である。

「そうなのだ。先代――1世は星都のあるこの場所に帝都を築き、この国は長年の間星都から遺産を持ち帰っては役立てきた。
幸い、六つの指輪が必要になるのは全の竜の神殿に入る時だけだったからな。
しかし、何代か前の皇帝の時から不死者が蔓延り奥に進むことが出来なくなったらしい。
不死者どもが外に出てこぬように転送陣のある部屋は開かずの間として封印――それ以来誰も足を踏み入れてはいない。
――というわけで、星都攻略には黒鳥騎士の力が必要不可欠だと思って抜擢したのは確かだ」

>「まっ、なんにせよ、そんなのは光と虚無の竜をどうにかしてから考える事です。
 皇帝陛下、お話はもうよろしいんですか?」

シャルムも指輪の所有権を争うのは後にしろと言うが、アルダガは言われて踏みとどまる性格ではない。
ジャンが勢いで決闘の申し込みを受けてしまったし、結局星都攻略後に挑戦を受けることになるのだろうな、と半ば諦念にも似た覚悟を決めるティターニア。
しかし、不死者が蔓延り今やどうなっているか分からない星都攻略に力を貸して貰えるのは素直に助かる。
もう一つ助かる点があるとすれば、その間騙し討ちの心配はしなくていいということだろうか。

>「……では、迎賓室へご案内しますよ。どうぞこちらへ。
 ところで……ティターニアさん。今のなんだったんです?
 あなたと皇帝陛下に個人的な交友なんてあるはずがないのに」

「先代勇者のうちの二人がそれぞれ我と皇帝に記憶を託したのだ。
今度こそは必ず虚無の竜を倒せるように――」

記憶を持っているということはすなわち人格自体を宿しているとも言えるのだが、この状態を一言で説明するのは難しい。
転生体というほど完全に同一人物というわけでもなく、憑依というほど隔たってもいない。
別人格として存在しつつも完全に意識を共有している状態、とでも言うべきだろうか。
0202ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:29:04.17ID:HqazLHKZ
>『記憶の継承っちゅうても人格がまるのまま移し替えられとるわけじゃない。
 指環の使い方やら、祖龍に関するあれこれ、討伐のために必要な知識を血脈に保存しとるだけじゃ。
 限られた者にしか封を切れない手紙を遺したっちゅうのが正しい表現かもしれんな』
0203ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:31:03.35ID:HqazLHKZ
先刻ウェントゥスがスレイブに対してしたこの説明はうまく言い得ているが、
結果的に知識そのものというよりも、先代が共に旅した記憶自体が、帝国との回りくどい交渉をばっさり省くことにおいて大いに役立った。
知識だけではなく記憶を丸ごと継承したのは、そのような可能性まで見越してのことだったのかもしれない。

>「……ディクショナルさん。ジャンソンさん。先ほどの非礼をお詫びします。
 これはただの言い訳ですが、あなた達がクロウリー卿にそれほど肩入れしているとは思っていませんでした。
 クロウリー卿が……そういう人間を作るとは、思っていなかった」
>「だけど……よくよく考えてみれば、そうなって当然ですよね。
 五年前、ジュリアン・クロウリーは帝国で最も敬愛された魔術師でした。
 どんな花形俳優よりも、その男の方が、帝国民の心を掴んでいた」

部屋へと向かう道すがら、ジュリアンへの思いの丈を語り始めるシャルム。
もしや帝国時代の舎弟だったのか!?と思うティターニア。

>「……着きました」

>「ジャン、こいつで飲み直さないか。晩餐会の席から一本拝借してきたんだ」
>「ダーマやハイランドには流通していない種類の酒だ。帝国のお手並み拝見といこう」
>「いいぜ!宴会の続きといこうじゃねえか。
 俺もダーマから色々持ってきてたんだよ……」

「飲むのは良いがほどほどにしておくのだぞ。明日は全の竜との謁見なのだからな」

そう忠告したのも虚しく、シャルムとスレイブの間でジュリアンを巡ってのキャットファイトが勃発。

>「……ディクショナルさん。あなたは特に、クロウリー卿を慕っているように見える。
 こんな事で信用を得ようとは思ってませんが……いけ好かない帝国人と同室させてしまっているお詫びです。
 さっきの話、もう少し続けさせて下さい。あなたの知らないクロウリー卿の話です」

>「俺の知らないジュリアン様の話だと?古いんだよ、情報が……!五年も前の話なんか知ったことじゃない!
 そんな埃の被った情報をありがたがるなど、主席魔術師様の戦略眼もたかが知れてるな!
 俺はあんたよりも新しい、新鮮な!最新の!!パイセ……ジュリアン様の話をいくつも話せるぞ!」

人気者は大変だな、という感じでそれを観戦していたティターニアだったが、ジャンが不意打ちをくらわせてきた。

>「ソルタレクでよぉ、親父たちに言われたんだよ。
 あのエルフの嬢ちゃんとはどうなんだって」

「――嬢ちゃん!? げほっ、ごほっ!」

飲んでいた酒が変なところに入ってむせ返るティターニアに代わって、パックが適切な解説を加える。

「嬢ちゃんどころか100歳越えのBBAですけど!?
ジャンさんのお父さんはオークだからよく分からないけど……少なくともジャンさんのお母さんは人間だから自分より年上どころの騒ぎじゃない件」
0204ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:33:47.39ID:HqazLHKZ
まあ、いかにも老練な女戦士といった雰囲気のジャンの母親なら、少なくとも100歳越えのエルフを捕まえて嬢ちゃんと呼ぶのもありそうな話ではある。
おおかた両親が軽くからかって遊んでいたのを純朴なジャンが真に受けたとかいうオチだろうが。

>「……実際、どうなんだ?最初は偶然。
 次は雇い主と護衛。いつの間にか仲間。今は……分かんねえ、もういいやこの話」

「どうって……ジャン殿、少し飲み過ぎだ。顔が真っ赤だぞ。しかしそうだな――この戦いが終わったら――」

そこで思わせぶりに間を置いたため、パックが一瞬「ティターニア様、それは死亡フラグだ!」と慌てたが、続きの言葉は流石に典型的な死亡フラグそのものではなかった。

「ユグドラシアに我の助手として来るのはどうだ!? 魔法を使えないのは気にすることはないぞ。
生徒も兼ねて授業に参加しつつ覚えていけば良い。
ユグドラシアは各機関からの研修も受け入れていてな――大人用の基礎クラスもある」

あっけらかんと、しかし楽しそうに名案を思い付いたような顔で言う。

>「それよりも、明日のセント・ナンターラだ!
 エーテルの指環を手に入れて、エルピスも倒して、虚無の竜とかいうのも倒す!寝る!」

ジャンが酔いつぶれて寝てしまうと、指輪から飛び出した竜達がざわざわと寄り集まって勝手に盛り上がり始める。

アクア『……今のは死亡フラグではないよな?』
テッラ『あれを死亡フラグと取るのは飛躍し過ぎだから多分大丈夫でしょう』
アクア『ジャン、苦労しそうだなぁ……』
テッラ『だからそれは飛躍し過ぎだと……』
アクア『まあ、ユグドラシアにはダグラスという生きた先例がいるからよく話を聞いて考えることだね』
ウェントゥス『何も急いで結論を出すことはない、現エルフの長ときたら殺しても死にそうにないからの。
ティターニアが長を継ぐのはまだまだ先のことじゃろう』
イグニス『幸いジャンはハーフオーク、エルフよりは短くとも純人よりは遥かに長い時を生きるのだろうしな』
パック「ジャンさんが助手になったらオイラは先輩だな!」

「お前たち、何をこそこそ盛り上がっておるのだ!」

「な、何でもないです!」

一方のキャットファイトの方はジュリアンがスレイブを強制的に黙らせたことで収束し、ようやく一行は眠りについたのであった――
0205ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:36:36.32ID:HqazLHKZ
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

夢の中で、ティターニアは自分にそっくりなエルフと鏡移しのように向かい合っていた。
相手の方は眼鏡をかけていないことで、絵的に区別されているようだ

「先代……!?」

聖ティターニア――先代の風の勇者にして、王国時代のエルフの森の最後の女王。
ハイランド建国の英雄にして、ユグドラシアの創始者。そのエルフが目の前にいた。

「人間とはなんて愚かなのだろう――この期に及んで正しい優先順位すら付けられない。
眼前に危機が迫っているというのに、実際に我が身が巻き込まれるまで気付かない。
そうなってからではもう遅いというのに。――そう思っているのでしょう?」

実際に指輪を集める冒険をしてきたティターニア達と違って、帝国のお偉方達は想像を超えた世界の実感が無い。
古竜が実は復活していなかったという肩透かしをくらったばかりであるので、「どうせ今回もデマだろう」という風潮になるのも分からないでもない。
それは分かってはいるのだが、あの元老院の化石のような爺さん達には苛立ちを覚えずにはいられなかった。

「まあ……全ての人間がそうだとは思わぬがあの爺達のようないわゆる帝国の一般的な人間に対しては思っておるな」

隠し立ては意味を成さないので、正直に答えるしか手は無い。
これが自分の中に宿っている記憶が形を成したものと考えれば、思考が筒抜けなのは当たり前である。

「でもね――私は人間の考え無しなところ、悪い面ばかりではないと思っています」

「それは何故だ?」

「あの人……ダグラスね、いとも簡単に神樹の民となって定命の人間であることを捨てたのよ? すごいと思わない?」

「結局惚気話かい!」

準不老不死が当たり前のエルフの側から見れば、それっていい事づくめじゃない?とも思うが
確かに定命の人間が永遠の世界に足を踏み入れるのはそれはそれで勇気がいる事かもしれない。

「ところで……今更だがダグラス殿に挨拶してこなくて良かったのか?」

「ああ、いいのいいの。転生とか大層なものじゃなくて単に記憶だし。
曾孫のあなたがそんな事を言い出しても多分反応に困るでしょう」
0206ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/21(土) 16:40:13.67ID:HqazLHKZ
「あ、確かに……」

エルフの親子関係は魔力を継いでいくようなもののため人間でいう血縁関係とは少し違うものとはいえ、
それでも元人間のダグラスにとっては気分的に微妙なのは違いない。

「それに――向こうも気付いていたから罠かもしれない晩餐会にあっさり送り出したのではないでしょうか。
“アイツが一緒なら大丈夫か”ってね」

「今度は自慢かい!」

こんな感じで、ティターニアと先代ティターニアは、夢の中で他愛のないことを語らったのであった。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

次の日――アルダガも合流し、皇帝によって星都の入り口へと案内される一行。
長きに渡って封印されていた開かずの間が開かれると、
そこにはテッラ洞窟にあった地底都市アガルタへの転送魔法陣を彷彿とさせるような魔法陣があった。
これがセント・エーテリアへの入り口ということなのだろう。
出発にあたって皇帝が再度注意を促す。

「昨日も言ったが今や星都は不死者が蔓延る魔境。
おそらく女王パンドラはとうの昔に虚無の側に堕ちたということだろう……。
何が起こるか分からない、心して行くのだ――」

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――星都セント・エーテリア
エーテリアル世界の最後の女王パンドラ――”旧きエーテリアル世界の神”は、今や死せる都を統べる不死者の女王と化していた。
彼女は竜の神殿にて、未だ目覚めぬ全の竜を見上げ語り掛けていた。
おそらく竜は、六つの指輪を携えた勇者が辿り着いた時、長き眠りから目覚めるのだろう。

「あなたのもとに勇者を辿り着かせはしない――
あの時滅びを拒み世界を存続させたのが全ての災いの始まりだった……。
今こそその過ちを精算し、全ての苦しみを終わらせるとしましょう――」

そこまで言うと彼女は全の竜に背を向け、神殿から出ていく。来たる指輪の勇者達を迎え撃つために――
0207アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/23(月) 05:02:27.33ID:6OLzAbWL
>「……えー?いやですよ、そんな面倒臭い。私そもそも指環にはあまり興味がありませんもん。
 人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです」

アルダガが求めた握手を、シアンスは素気なくスルーした。
空中を所在なさげに泳ぐ掌を、アルダガは引っ込めない。

「えっ……?し、しかしシアンス殿、指環の力があれば我が国の魔術水準を大幅に――」

『おやめなさい、アルダガ』

食い下がるアルダガを、聖女が遠話で制した。
当の聖女は会食しているお偉方と談笑しているが、細められた目はこちらを射すくめている。

『主席魔術師殿が仰っているのは、人間の矜持についてです。
 効率だけを追い求めるのであれば、指環の力はそれは覿面にはたらくでしょう。
 しかし、初めから古代の遺産に頼っていては、古代よりも優れた未来へはたどり着けない。
 遠からず、帝国の発展は頭打ちになってしまう……主席殿は、そう仰っしゃりたいのです』

「な、なるほど……!そこまでお考えとはつゆ知らず、とんだご無礼を……」

シアンスへ向けてペコペコ頭を下げるアルダガであったが、次いで聖女から囁かれた言葉に硬直した。

『それはそれとして……アルダガ、後で聖堂裏へ来るように』

「うっ……」

権謀術数渦巻く晩餐会の席で、場を弁えずに帝国の目論見を明かしてしまったこと。
アルダガはその夜、聖女からマジ説教を朝まで受けた。

 ● ● ● 
0208アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/23(月) 05:02:43.48ID:6OLzAbWL
翌朝、アルダガは逗留している指環の勇者一行を迎えに賓客室へ訪れた。
昨晩から朝にかけて聖女のループする話をひたすら聞き続けていたが、加護のおかげで体調に影響はない。

「おはようございます。早速本日より星都の攻略を――って、皆さん顔色がお悪いですよ!?」

賓客室から出てきた勇者たちは、ふかふかのベッドで熟睡できたはずにも関わらず、疲れ果てた顔をしている。
加護によって強化された嗅覚で、彼女は鼻を鳴らした。

「それにこの匂い……お酒を呑まれたんですか?て、帝国のど真ん中でなんという胆力……。
 とくにディクショナル殿……でしたか。かなり深刻な二日酔いをされていますね……。
 星都へ赴く前に、この聖水でお顔を洗ってきて下さい。解毒の作用があります」

瓶詰めの聖水を手渡すと、アルダガは傍に控えていたシャルムへと足音なく近寄る。

「敵地とも言えるこの城の中で、帝国人と共にいたはずの彼らがここまで泥酔しているとは……
 シアンス殿、よほど彼らに信頼されているんですね……。一体どのようなお話をされたんですか?」

安全の確保された賓客室の中と言えど、帝国人のシャルムが一晩そばに居たはずだ。
彼女が騙し討ちをすることがなくとも、敵地で深酒などもっての他だろう。
指環の勇者があまりに豪胆であるか、何かあってもシャルムが護ってくれると信頼していたのか――

「少しだけ羨ましいです。拙僧も、出会い方が違えば、貴女のように彼らと……」

無意味な仮定は頭を振ることで打ち消して、アルダガは背筋を伸ばした。
指環の勇者たちの支度が済めば、いよいよ星都への突入だ。

星都への転送陣が封じられた部屋へは、皇帝自らが案内を行うらしい。
先んじて指環の勇者と合流したアルダガは、皇帝の先導に従って魔法陣を踏む。

>「昨日も言ったが今や星都は不死者が蔓延る魔境。おそらく女王パンドラはとうの昔に虚無の側に堕ちたということだろう……。
  何が起こるか分からない、心して行くのだ――」

「ご安心を、陛下。何が起ころうとも、必ずやこの黒鳥騎士が、勇者殿を指環の元へとお届けします」

セント・エーテリアを守護する存在であったはずの女王パンドラ。
虚無へと堕ちた彼女が、如何なる策謀を敷いて待ち構えているか……それはこれから明らかになる。

 ● ● ● 
0209アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/23(月) 05:03:26.35ID:6OLzAbWL
星都セント・エーテリア。
帝都ヴィルの遥か地底に眠るとされるその古代都市は、日の射さない地中深くに存在するにも関わらず、光に満ちていた。

「地底なのに、太陽があります……!古代の民は、太陽を再現する魔法さえも創り出したということですか……!?」

魔法陣によって転送された先は、神殿のような様式の古びた建物だった。
長く人の手の入っていない石畳は割れ、コケのような植物が隙間を塞いでいる。
壁は崩壊し、拓けた先には青い空を燦々と照らす巨大な光の球があった。

植物が自生しているらしく、神殿の石畳が途切れた先は既にシダの繁茂する密林だ。
川のせせらぐ音に混じって聞こえて来るのは、小鳥の羽音と鳴き声。
封印されて数百年の歳月を経ても、自然の食物連鎖は途切れることなく生態系を維持していた。

「不死者の気配は、感じられる範囲にはありません。日の光の射す場所には現れないのでしょうか。
 あの太陽は少しずつ移動していますから、おそらくここには時間の概念がまだ存在しています。
 問題は、『夜』が訪れたときにどのような環境になるかですね……」

周囲を見渡しながら、アルダガは石畳から一歩踏み出す。
枯れた小枝の折れる音が響き、すぐ傍の茂みがガサリと揺れる。
刹那、アルダガの右腕が残像を伴って動き、握っていたメイスを茂みへと叩きつけた。
茂みの草が爆発したように一瞬で消滅し、千切れた木の葉が宙を舞う。
その中を、一匹の鳥が羽ばたいて逃げていく。

「と、鳥ですか……敵意がないので近くに居ることに気付きませんでした。
 視界が悪いので注意してくださいね。不死者の気配は分かりますが、危険はそれだけとは限りません。
 毒蛇や猛獣に対しては、おそらく拙僧よりもあなた達のほうが対処に慣れているでしょうから」

アルダガはほっと一息つくと、懐から一枚の大きな羊皮紙を取り出す。
年代物のそれは、酸化しきったインクでかろうじて筆跡が分かる程度の、地図だった。
かつてセント・エーテリアが不死者の巣窟となる前に、ここを探検した帝国軍の遺した地図だ。

「セント・エーテリアは今でこそ不死者の徘徊する危険な地ですが、数代前の皇帝の頃はそうではありませんでした。
 古代の遺産が数多く眠る宝物庫――いわば、帝国の資源採集地として扱われていたようです」

アルダガは地図に記された印をいくつか指でなぞりながら、方位磁針と交互に見て現在地を確認する。

「星都の各所には、その時代に帝国軍が探索拠点として整備したキャンプがいくつかあります。
 そこを確保できれば、星都の攻略拠点として拙僧たちも使用できるはずです。
 ――もっとも、"掃除"は必要になると思いますけれど」

全の竜の眠る神殿へは大きな街道が続いているはずだが、こうも鬱蒼とした密林では道の痕跡さえも分からない。
だが、キャンプからであれば帝国軍によって整備された道が残っているはずだ。
何日かかるとも知れないこの星都探索で、野宿のリスクを下げられるという点でも拠点の確保は重要となる。

「転送陣から最も近い拠点……『キャンプ・アンバーライト』。まずは、ここを目指しましょう。
 拙僧が先頭を行きます。周囲への警戒はお願いしますね」

アルダガがメイスで力任せに木々をなぎ倒し、拓けた道を勇者一行が進んでいく。
途中で小休憩を挟みながらの強行軍が続き、日が傾き始めた頃。

「……今のうちに、お伝えしておきたいことがあります」

汗ひとつかかずに巨木を粉砕したアルダガが、ふとそう零した。
0210アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/23(月) 05:04:00.14ID:6OLzAbWL
「シアンス殿はご存知かもしれませんが……昨晩、要塞城の内部で魔力の揺らぎが観測されました。
 ほんのごく僅かな、残り香にも満たない揺らぎではありますが、問題は観測された場所です。
 揺らぎは、星都へ繋がる魔法陣の封じられた部屋から発生していたそうです」
0212アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/23(月) 05:05:10.58ID:6OLzAbWL
何らかの魔法が、転送陣の部屋で行使された痕跡。
それも、僅かな余韻だけしか残さない、非常に高度な隠蔽を施された魔法だ。
本来皇帝の一族だけしか開くことの出来ない転送陣を、無理やりこじ開けた痕跡かもしれない――
隠密裏に情報を受け取った聖女は、そう推測していた。正座して説教を受けているアルダガの前で。

「あくまで憶測の域でしかありませんが、拙僧たちの他に星都へ侵入した者がいるかもしれません。
 侵入者が指環を持たない以上、祖龍の神殿の封印が第三者に解かれるなどということはないでしょうが……
 一応、可能性として考慮しておいて下さい」

アルダガがこのタイミングで勇者達に情報を伝えたのは、これから会話する余裕がなくなると感じたからだ。
その予感は、彼女の前方から放たれる気配によってもたらされたものだった。

「――見えてきました。あれがキャンプ・アンバーライトです。
 そして、やはりと言いますか……不死者の巣食う気配があります」

眼の前にある、帝国旧様式の古びた建物。
その窓の向こうに広がる闇の中から、巨大な眼球がこちらを見ていた。

「内部に存在する不死者は気配から察するに、6体程度の小型と、1体の大型。
 既に彼らは拙僧たちの存在に気付き、迎撃の体制に入っています。
 まず拙僧が吶喊し道を拓きますので、後詰めはお願いします――『エヴァレイション』」

身体強化の聖句を紡ぎ、光の帯がアルダガの四肢を覆う。
遠距離から法撃で殲滅する手段を取らないのは、拠点に使うためにできる限り建物を傷つけたくないからだ。

「他人の家に勝手に住み着く不届きな輩に……女神の神罰を!」

強化された脚力でアルダガは跳躍、同時に窓を破って不死者たちが溢れ出てくる。
アルダガの振るったメイスがうなりをつけて小型の不死者に直撃。
砲弾の如く吹っ飛んだ不死者近くの木に叩きつけられた。


【セント・エーテリア探索の拠点として『キャンプ・アンバーライト』の清掃開始
 指環の勇者以外に星都へ入り込んだ者がいるかも?】
0213 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:08:32.78ID:frpmB/rM
>「あんたは、いまでもジュリアン様を諦めていないんだな」

「……仰る意味がよく、分かりませんね」

>「ジュリアン様に対する感情は、俺とあんたで、おそらくほとんど変わらない。
  一杯どうだ?シャルム・シアンス。……あんたとは、うまい酒は飲めなさそうだがな」

ディクショナルさんが私の方へと歩いてきて、傍にあったサイドテーブルにグラスを置く。
中身は……まぁ、先ほどから彼らが口にしている物ですよね。
0214 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:10:15.36ID:frpmB/rM
「すみませんが、私お酒はまだ……ああ、いえ、もう飲めるんでしたっけ……。
 どちらにしても、お酒は今まで一度も飲んだ事がないんです。
 醜態を晒すのは御免なので、ご遠慮しておき……あの、聞いてますか?」

ディクショナルさんは私の声など聞こえていないかのように、戻っていってしまいました。
……どうしましょう、これ。まぁ、無視するのもなんか角が立ちそうですし、試しに一口……

「っ……けほっ、けほっ……な、なんですかこれ。こんなもの……何がいいんですか?」

舌と喉が焼け付くような感覚に、思わず咳き込んでしまいました。
これは……やめておきましょう。な、涙が……。
ほんの少し口にしただけなのに、なんだか顔が熱くなってる気さえします。
酒の事はさっぱり分かりませんが、これ、生まれて初めて飲むお酒には不適当ですよね?
……まぁ、この先も飲酒の暇が出来る予定なんてないんですけど。

>「感情にも多寡がある。敬愛の度合いだ。あんたなんかよりも俺のほうがずっと――
  ずっとずっとずっと、ジュリアン様を尊敬している……!ちょっと待っていろ、新しい瓶を出す」

「……指環の勇者がお人よしばかりだって話は聞いてましたが、これほどとは。敬愛?尊敬?……何を馬鹿な」

>「俺の知らないジュリアン様の話だと?古いんだよ、情報が……!五年も前の話なんか知ったことじゃない!
  そんな埃の被った情報をありがたがるなど、主席魔術師様の戦略眼もたかが知れてるな!
  俺はあんたよりも新しい、新鮮な!最新の!!パイセ……ジュリアン様の話をいくつも話せるぞ!」

「ははーん、分かりましたよティターニアさん。この人さては酔ってますね?
……ちょっと、なんですかその目。同類を見るような目で見ないで下さいよ。
 私は別に酔ってませんからね」

……私が、クロウリー卿を敬愛?馬鹿馬鹿しい。
ですがディクショナルさんは私の反応など最早お構いなしに喋り続けています。

>「それからジュリアン様は何食っても大体同じ感想を言うがな……
  こいつを食ったときは、いつもより指一本ほど眉が大きく上がった。うまさに感動したんだ。
  すなわちジュリアン様の好物!それがこの……飛び目玉の姿煮だ!」

……別に、あなたがどれだけクロウリー卿を敬愛していようが関係ありませんけど。
だけど延々とそうして勝ち誇っていられるのは、少し癪ですね。

>「どんな高級料理も表情筋の死んだような仏頂面で食べるジュリアン様が、顔を綻ばせる一歩寸前までいったんだ。
  お上品な帝国主席魔術師様のお口には合わないだろうがな……!」

「それ、遠回しにクロウリー卿のお口はお上品じゃないと言っているようなものなのでは?
 ……いや、それにしても大した敬愛ぶりですね。実に大したものだ……ところでディクショナルさん」

なので少しだけ、意地悪を言わせて頂きましょう。

「酒の力を借りて愛の告白をする男性をどう思いますか?
 私はこう思いますねー。なんて軟弱な殿方なんだろうと。
 その心も、そこから生まれた感情もね……くふふっ」

と……不意にふわりと、部屋の中に冷気が漂いました。
直後、ディクショナルさんが糸の切れた人形のようにこてりと倒れる。
『凍えの棺(ヒエムス・サルコファグス)』。
精神の活動を抑制する呪術的な冷気……凍結という概念に魔力をもって形を与える、超が付くほどの高等魔法。
それをディクショナルさんだけを対象にして使用する技術。相変わらず見事なものですね。
……もっとも今では、その腕を尊敬する事などとても出来ませんが。
0215 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:11:32.35ID:frpmB/rM
「……その点、私は違いますよ。私は素面でも、きっと酔っていようが変わらず、あなたが憎い」

ディクショナルさんが私の傍に持ってきたお酒。
私はそれを魔法で宙に浮かべて、文字を描く。
ジュリアン・クロウリー……その名前を。

まあ、認めてもいいですよ。確かに私は、かつては彼を尊敬していました。
この国で、いえ、この世で最も優れた魔術師だと信じていました。
いずれは彼の下に付きたいとも。並び立ちたいとも。
ですが……もう、昔の事です。
今更あの頃の気持ちを思い出す事も、この憎しみを忘れる事も、出来る訳がない。

……指先に炎を灯す。
宙に浮かぶお酒にそれを近づけると、私が記した名前はあっという間に燃えて、なくなった。
これくらい簡単に、忘れたり、消したり、出来てしまえば楽なんですけどね。

さて……ディクショナルさんは静かになっちゃいましたし、ジャンソンさんも寝息を立て始めました。
私も休ませて頂くとしましょう。
まずは断続的に発する魔力波によって、自身の知覚を拡張する……要は蝙蝠の真似事ですね。
索敵網を構築したら、次に魔法で心身を鎮静……体から力が抜けてその場に座り込む。
これで……何か異変が起こるまでは……浅い……眠りに……。
0216 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/04/24(火) 21:13:03.49ID:frpmB/rM
 
 
 
…………誰かが、この階に上がってきた。
……通り過ぎない。まっすぐ私のいる部屋へ近づいてくる。
私は魔法によって急速に意識を覚醒。目を開くと静かに立ち上がり、白衣の内側に右手を潜らせた。
そして扉が開くと同時、私は魔導拳銃を抜いて……

>「おはようございます。

「なんだ、あなたでしたか。皆さん起きて下さい。バフナグリーさんが来ましたよ」

>早速本日より星都の攻略を――って、皆さん顔色がお悪いですよ!?」

「顔色?……あー、確かに酷いですね。まぁ昨日あれだけ飲めば、そりゃそうでしょう」

>「それにこの匂い……お酒を呑まれたんですか?て、帝国のど真ん中でなんという胆力……。
  とくにディクショナル殿……でしたか。かなり深刻な二日酔いをされていますね……。
  星都へ赴く前に、この聖水でお顔を洗ってきて下さい。解毒の作用があります」

「身体活性法をご所望でしたらお申し付け下さいね。
 肝機能を増強させれば症状もマシになるんじゃないですか?」

まっ、頼まれなくても使っておきますけどね。あなたが使い物にならなくては私も困ります。
ふらふらと洗面所に歩いていくディクショナルさんの背に右手をかざす。
身体機能を軽く活性化させました。
つまり肝機能が増強されるので二日酔いの解消は早まりますが……暫くは頭痛も鮮明になるかも。ふふん、いい気味です。

>「敵地とも言えるこの城の中で、帝国人と共にいたはずの彼らがここまで泥酔しているとは……
  シアンス殿、よほど彼らに信頼されているんですね……。一体どのようなお話をされたんですか?」

「はあ?……っと、失礼。あまりに突拍子のない事を仰るものですから、つい変な声が。
 それで、なんですって?私が、彼らに、信頼されてる?」

この人はなんと言えばいいのか……素直なんですかねえ。

「あのですね、自分で言うのもなんですが。
 私が初対面の人と一晩で信頼関係を築けるような人間に見えますか?
 彼らが底抜けに怖いもの知らずなだけですよ」

>「少しだけ羨ましいです。拙僧も、出会い方が違えば、貴女のように彼らと……」

ははーん、分かりましたよ。
さてはこの人、あんまり人の話を聞くのが得意じゃありませんね?

……彼女は何を言いたがっていたんでしょうか。
いえ……やめておきましょう。私には関係のない事です。
彼女が何を考えているのかなど、知ったところで何が出来る訳でもない。

「……さっ、行きましょう皆さん。玉座の間で皇帝陛下がお待ちですよ」

……皇帝陛下に案内されて、私達は城の地下へと下りていきます。
そうして辿り着いたのは……何重にも物理的、魔術的な封印を施された扉でした。
予め招集されていた大司教級の神官、魔術師達がそれらを解いていく。
開かれた扉の先にあったのは……あれは、転移の魔法陣でしょうか。
0217 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/04/24(火) 21:15:17.43ID:frpmB/rM
>「昨日も言ったが今や星都は不死者が蔓延る魔境。おそらく女王パンドラはとうの昔に虚無の側に堕ちたということだろう……。
  何が起こるか分からない、心して行くのだ――」

「仰せのままに、陛下。主席魔術師として、この国の未来、しかと守ってみせましょう」

そう……私は、竜の指環などに興味はない。
私が成すべき事は、帝国の、人間の未来を守る。それだけです。
魔法陣の中心に足を踏み入れる。そして……眩い光が、私達を包み込んだ。

光が収まると、私達は既に見知らぬ場所にいました。
神殿のような建築物に、生い茂った植物群。崩れた天井の先に見えるのは……太陽?

「……すごい」

>「地底なのに、太陽があります……!古代の民は、太陽を再現する魔法さえも創り出したということですか……!?」

「これは……すごいですよ、先生!見えますかあの太陽!
 疑似太陽の生成、数百年も続く魔力源……一体どういう原理で動いてるんでしょう。
 カンニングするつもりはないんですけど、やっぱり魔術師としては気になっちゃ……」

思わず声を上げてしまってから数秒。私は自分の失態に気づきました。
先生って……何年前の事ですか、ああもう恥ずかしい……。
いえね、私実はユグドラシア時代は魔術の農業利用の研究をしていたんですよ。
だからつい、その、ちょっと……舞い上がっちゃいまして。
初っ端から何をしてるんですか、私は……はあ。

「あー……いや、すみません。続けて下さい」

>「不死者の気配は、感じられる範囲にはありません。日の光の射す場所には現れないのでしょうか。
  あの太陽は少しずつ移動していますから、おそらくここには時間の概念がまだ存在しています。
  問題は、『夜』が訪れたときにどのような環境になるかですね……」

バフナグリーさんが慎重に歩みを進めていく……。
ふと、彼女のすぐ傍で茂みが揺れ……たと思った時には、メイスの一撃がそこに叩き込まれていました。
……草が跡形もなく吹っ飛びましたよ。なんつー威力ですか。
茂みを揺らした小鳥が、慌ただしく飛び去っていきました。良かったですね、無事で済んで。

>「と、鳥ですか……敵意がないので近くに居ることに気付きませんでした。
 視界が悪いので注意してくださいね。不死者の気配は分かりますが、危険はそれだけとは限りません。
 毒蛇や猛獣に対しては、おそらく拙僧よりもあなた達のほうが対処に慣れているでしょうから」

「よろしくお願いしますよ、指環の勇者様。私も一応、戦場に立った事はあるんですが……
 地形を吹っ飛ばさず進軍するやり方はあまり経験がないんですよ。お手本を見せて下さいな」

バフナグリーさんと勇者様御一行に前を譲って……。
あれ?これもしかして特にする事ない感じですか?
……まぁ、それならそれで、辺りをじっくり見ておきますか。
古代の文明に興味などないとは言いましたが、それは主席魔術師としてはの話です。
一魔術師、一学者としては……そりゃ、興味を惹かれない訳ないですよ。
0218 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/04/24(火) 21:16:26.88ID:frpmB/rM
>「セント・エーテリアは今でこそ不死者の徘徊する危険な地ですが、数代前の皇帝の頃はそうではありませんでした。
 古代の遺産が数多く眠る宝物庫――いわば、帝国の資源採集地として扱われていたようです」

当時の主席魔術師は大変だったでしょうね。
きっと星都からの出土品の研究に追われる日々だったに違いありません。
自分の研究なんて殆ど出来ずにね。
……ふむ、建造物にも損傷の激しいものと、そうでないものがありますね。
材質の問題か、それとも何かの魔術的防護が施されているのか。
当時の帝国にとっては重要ではなかったのでしょうけど、これは結構興味深いです。
自生している植物も、まったく同じ種は地上では見た事ありません。
何か薬や産業資源として活用出来るものがあったりするかも……。
私もホントはこういう、素朴な、人の暮らしに関わる研究がしたいんですけどね……なんて。
まっ、サンプルを持ち帰って誰かに研究をお願いするくらいはしてもいいかもしれません。

>「……今のうちに、お伝えしておきたいことがあります」

なんて、私が取り留めもない事を考えていると、バフナグリーさんがふと口を開きました。

>「シアンス殿はご存知かもしれませんが……昨晩、要塞城の内部で魔力の揺らぎが観測されました。
  ほんのごく僅かな、残り香にも満たない揺らぎではありますが、問題は観測された場所です。
  揺らぎは、星都へ繋がる魔法陣の封じられた部屋から発生していたそうです」

「……そう言えば夜中に一度、魔力の波を感じましたね。
別に城内で何か魔法が使用される事は、まぁ無い訳じゃないので放っておきましたが」

>「あくまで憶測の域でしかありませんが、拙僧たちの他に星都へ侵入した者がいるかもしれません。
  侵入者が指環を持たない以上、祖龍の神殿の封印が第三者に解かれるなどということはないでしょうが……
  一応、可能性として考慮しておいて下さい」

「侵入者……ねえ。解せませんね。私達の敵がここに忍び込んだのだとすれば、やり方が回りくどい。
 ですが今更、まさか盗賊の仕業なんて事もないでしょうし……」

私が呟き、しかしバフナグリーさんからは最早何も言葉は返ってこない。
……なるほど、既に臨戦態勢って訳ですか。

>「――見えてきました。あれがキャンプ・アンバーライトです。
 そして、やはりと言いますか……不死者の巣食う気配があります」

「あれが……うーん、特にリアクションする事がないくらい、普通の建物です。
 掘も囲いもないわ、窓は多いわ……まぁ、当時は陣地防御なんて意識してなかったんでしょうね」

多分、大きくて状態のいい建物を見つけてそのまま利用してたんでしょう。
まぁ、逆に攻め落とすのも容易いのはいい事です。

>「内部に存在する不死者は気配から察するに、6体程度の小型と、1体の大型。
  既に彼らは拙僧たちの存在に気付き、迎撃の体制に入っています。
  まず拙僧が吶喊し道を拓きますので、後詰めはお願いします――『エヴァレイション』」

バフナグリーさんは言うが早いか、キャンプ・アンバーライトへと突撃していく。
迎え撃つように窓から飛び出してきたのは……白い、人型の何か。
死人よりもなお青白い肌、痩せた体躯、体毛は一切なし……中途半端に人間に似てるのが、不気味です。

>「他人の家に勝手に住み着く不届きな輩に……女神の神罰を!」

「……それを言ったら我らが帝国軍も、遺跡荒らしの盗掘者みたいなものなんですがね。
 まぁ、それはさておき……私ちょっと気になる事があるんですよ」

私はそう言うと、私達を取り囲みつつある不死者の一体に歩み寄る。
0219 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:18:02.77ID:frpmB/rM
「……彼らは一体、何を活力に生きているんでしょう。
 死なないという事は食物連鎖が成立しないという事。
 数百年も捕食者が君臨し続ければ、この星都の生物は絶滅していなきゃおかしい」

ですが実際には、そうはなっていない。
という事は、彼らは食事によって活力を得ている訳ではないという事。
私は十分に不死者に近寄ると、その全身をくまなく観察する。
ふむ……浮かび上がった血管のように見えるこの赤い模様。
これが何らかの魔術的な効果を発揮しているんでしょうか……。

「太陽の下に出てこれないのなら、植物のような生態という訳でもない。
 不死者の活力の源、気になりませんか?
 それを解き明かせば人類の魔法学はまた一つ上の段階に……」

不意に、目の前の不死者が動いた。
口を大きく開けて……その形が、めきめきと音を立てて変形する。
私の頭を丸ごと齧り取るくらい、容易いくらいに大きく。
そして……鮮血が飛び散った。

「……変形能力。なるほど、それによって普段は燃費を抑えている、と。
 つまり無尽蔵のエネルギーを有している訳ではないのですね」

白衣の内側から抜いた魔導拳銃。
それによって撃ち抜かれた不死者の胴体が、スライムのように爆ぜていた。
魔力波によって展開した索敵網が、背後から迫るもう一匹の不死者を感知。
振り向く必要すらない。左手でもう一丁の魔導拳銃を抜き、肩越しに銃口を背後へ向け……念じる。
それだけで、放たれた弾丸は不死者の体を真っ二つに弾けさせた。
……ああ、しまった。返り血がすごく不愉快です。

「……『賢者の弾丸(グランス・フィロソフォルム)』」

どうです、ご覧になって頂けましたか?
これが帝国主席魔術師の技術の粋……。
魔導拳銃『ナイト・ブリーチャー』と『ドーン・ブレイカー』。
闇夜を白ませ、夜明けを告げる……帝国に、人類に進化をもたらす、私の最高傑作。

……ですが、流石は不死者と言ったところ。まだ起き上がってきますか。
しかも、ばらばらになった上半身と下半身、それぞれが別々に再生して。
四体に増えた不死者が私を包囲する。

「斬ったり爆ぜさせたりするのは、あまり良くないかもしれませんねえ。
 あ、別に手出しは無用ですよ。
 この程度で足を引っ張るような同行者は、皆様にとっても不要でしょう」

いえ、それどころか……

「むしろ私としては……この再生能力は好都合でさえあります。
 なにせ……まだまだ存分に、私の、主席魔術師の力をお見せ出来るんですから」

んー、思い出しますねえ。この魔導拳銃を開発してまだ間もない頃の事を。
あの頃は軍にとっても、私はジュリアン・クロウリーの代わりに過ぎなかった。
性能を知ってもらう為に何度も頭を下げて、南方の軍で試験運用をしてもらって。
私自身も魔物や盗賊の征伐、国内の小さな任務にも同行して……。

さて、不死者どもは私を取り囲んだのはいいものの、攻めあぐねています。
そりゃそうだ。この魔導拳銃がある私には、通常の魔術師と違って詠唱というものが必要ない。
動けば撃たれる。もう学習した事でしょう。
ではもう一つ学習しましょうか。別に動かなくたって撃たれると。
0220 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:21:07.06ID:frpmB/rM
「……土属性によって弾頭と炸薬を、風属性によって可燃性の気体を生成、凝縮。
 そして水属性による蒸気圧力、炎属性による炸裂をもって、弾丸を多段加速。
 狭い砲身の中で強烈な推力を得る事で、弾丸は高等魔法、大魔法級の殺傷力を発揮する」

殆ど一瞬の内に、周囲の四体に銃弾を見舞う。
血と肉片と共に、千切れた手足が宙に舞った。
私はそれを空中で更に撃ち抜く。

「あまりに高度な術式を施したマジックアイテムは、使用する事にさえ魔術適性が求められます。
 ですがこの魔導拳銃は単純な魔法を組み合わせる事でその問題を解決しました。
 これがあれば誰もが戦場において、実戦で運用可能な魔法戦力となれる」
0221 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:21:46.65ID:frpmB/rM
……どんな状態からでも再生出来る無限のエネルギーがあるのなら、
彼らは最初から巨大な化け物の姿を取っていればいい。
そうしないという事は、エネルギーは有限。
つまりある程度の小ささにまで刻むなりなんなりしてしまえば、再生は叶わない。
その辺の検証は手間がかかりそうなので、私は粉微塵にしてしまいましたが。

「まっ、生まれ持った魔力量による出力限界、使用回数限度に差は出てきますがね。
 もっとも、そんな事はポーションや別の、魔力を貯蓄するマジックアイテムで容易に解決可能です」

弱点を見抜かれた不死者どもが一斉に飛びかかってくる。
私はそれらを、ただ撃ち落とす。
射程と速度に勝る私が負ける要素はない。
……とは言え、彼らが限界を迎えるまでひたすら撃ち続けるというのも、芸がない。

「ですがそれだけでは、この魔導拳銃は超優れたマジックアイテムに過ぎません。
 主席魔術師の成果としては今ひとつ……。
 つまり……この殺傷力はあくまでもオマケ」

なおも私に襲いかかる四体の不死者。それらに一発ずつ銃弾を撃ち込む。
血は飛び散らない……別に彼らの変形能力が、私の銃弾を防御した訳ではありません。
スライムのような粘液と、それらが帯びた電撃で動きを封じただけ。
推力と弾頭と魔法配分を変えればこんな芸当だって出来る。

「この魔導拳銃には軽度の、精神汚染の呪いが施してあります。
 使用者の精神に、魔法を使用した際の魔力の流れを刻み込むんです。
 つまり使えば使うほど……魔法の成り立ちを感覚で理解出来るようになる」

……何度も何度も、数え切れないほど口にしてきたセールストーク。
今じゃ人を撃ちながらだって諳んじられるようになったそれを紡ぎながら、
私はゆっくりと、不死者の一体に狙いを定める。

「いずれは誰もが魔導拳銃なしでも『賢者の弾丸』を使えるようになる。
 そうなれば後は応用です。賢者の弾丸のみならず様々な魔法を覚えられる。
 そう……この魔導拳銃は、体外式の、後天性魔術適性の付与装置なんですよ」

銃弾を放つ。炸薬と風、炎の魔法を、推力ではなく弾頭に使用した銃弾を。
不死者の体が一瞬の内に燃え上がる。
法術に並ぶ、古式ゆかしい不死者の倒し方です。

……悲鳴が、耳障りですね。
昔ほどは、気にならなくなりましたが……本当は、こんなものに慣れたくなんかなかった。
0222 ◆fc44hyd5ZI
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2018/04/24(火) 21:25:18.37ID:frpmB/rM
「あなたが残していった、誰の役にも立たない理論を、私が洗練させたんだ」
 今は軍用の物しか開発されていませんが、
 いずれはもっと多様な適性付与装置の製造だって可能になるでしょう」

……不死者が燃え尽きたら、次の一体に同様の弾丸を撃ち込む。
悲鳴がいくつも重なるととても不愉快なので、一体ずつ、焼却していく。
 
「これがあれば誰もが私のように戦える。
 いずれは全ての人間がエルフと遜色なく魔法を使えるようになる。
 人類の進化の道標は、もうあなたじゃない」

四体の不死者を仕留めると、私は振り返ってクロウリー卿を見つめた。

「なのに何故……今更帰ってきたんですか、ジュリアン・クロウリー」

そして銃口の一つを、彼に向ける。
この程度の不死者を相手にジャンソンさん達が負けるとは思えない。
加勢は必要ないでしょう。

「あなたは……今でも帝国民の夢だ。勝手に投げ出して、
 助けてなんてくれないのに、それでも縋るのをやめられない悪夢なんです。
 元老院ですら……未だにあなたを呼び戻せないか考えている。信じられますか?」

クロウリー卿が右手の杖を私に突きつけている。

「あなたは、帝国を捨てるべきじゃなかった。それが出来ないならせめて……戻って来るべきじゃ、なかった」

そして……氷の槍が迸る。
私も、銃弾を放つ。
互いの魔法は、互いの狙い通りに命中した。
……私の背後で動き出そうとしていた、未だに建物の中から出てこない巨大な不死者の眼球に。

「……余計な事を。気付いていましたよ」

振り返ってみれば、撃ち抜かれた眼球は……既に再生を殆ど終えていた。
巨大なだけあって、保持するエネルギーの量も多いんでしょう。

「……あの大物は、折角です。指環の勇者様にお譲りしますよ。
 冒険譚の見せ場にしてやって下さい。
 もっともあの程度では、見せ場にもならないかもしれませんがね」
0224スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:04:40.59ID:3+OaYk3Z
泥酔し、自分でも気付かないうちに意識を失っていたスレイブは、激痛の中で目覚めた。
断続的に頭蓋を襲う打撃にも似た痛みは、まるで頭の中で銅鑼が鳴り続けているようだ。

「う……ぐ……一体何が……襲撃者による呪詛攻撃か……?」

既に日は昇り、朝の光が窓から差し込んできて、それがいやに眩しい。
目を逸らすようにあたりを見回すと、既に起きていたジュリアンと目があって、彼は瞑目して首を振った。

『おー起きたか。ひどいもんじゃったぞお主、ベロンベロンに酔っ払っとったからな』

向かいのベッドでティターニアと一緒に寝ていたらしきウェントゥスが愉快そうにほくそ笑む。

「酔っ払った?俺がか?馬鹿な……ここは帝国の中枢部だぞ。
 いつ暗襲を受けるとも知れない状況で、軍人の俺が前後不覚になるまで酩酊するなど……」

信じられないといった口ぶりで否定するスレイブだったが、信じられないは周りの台詞だろう。
ものの見事に記憶をふっ飛ばした酔っぱらいは、ふらつく足取りでベッドを出る。
未だ頭の中身を引っくり返すような激痛が、何よりも雄弁に昨夜の痴態を証明していた。

「ジュリアン様、俺は……」

「良い。何も言うな。思い出すな。忘れたままにしておけ」

ジュリアンはこちらを見ずに掌でスレイブを制した。
あの口の悪い上司が、スレイブの醜態について一切語らないという事実が、状況の深刻さを如実に物語っている。
当のスレイブはまったく記憶にない自身のやらかしを思って頭を抱えた。

>「おはようございます。早速本日より星都の攻略を――って、皆さん顔色がお悪いですよ!?」

そのとき、不意に来賓室の扉が無遠慮に開かれて、黒鳥騎士アルダガがひょっこり顔を出す。
やたら元気が良い朝の挨拶が、スレイブの頭に直撃して「ぐあああ!」と情けない悲鳴を漏らした。
0225スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:05:43.38ID:3+OaYk3Z
>「とくにディクショナル殿……でしたか。かなり深刻な二日酔いをされていますね……。
  星都へ赴く前に、この聖水でお顔を洗ってきて下さい。解毒の作用があります」

「め、面目ない……少しだけ時間をくれ。星都に入るまでには間に合わせる」

アルダガから酔い覚ましの聖水を受け取って、スレイブは部屋に備え付けの洗面台に行く。
その足取りは亡霊の如く、引きずるような遅々としたものであった。
0226スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:06:14.46ID:3+OaYk3Z
>「身体活性法をご所望でしたらお申し付け下さいね。肝機能を増強させれば症状もマシになるんじゃないですか?」

「待て、それには及ばない。及ばないって……ぐおおおお!?」

シャルムの飛ばしてきた魔法はスレイブの視界にかかった靄を吹き飛ばした。
それと同時に、鮮明になった感覚が、麻痺しかけていた頭痛を再びはっきりとさせる。
スレイブは痛みにみっともなくのたうちまわり、洗面所まで這いずる羽目となった。

「ぐぅ……あ、あの女……覚えておけよ……!」

『いや自業自得じゃろ……昨日あいつにめっちゃ絡んどったのはお主の方じゃぞ。
 儂見てらんなかったもん。酔っぱらいっちゅうのはいつの時代も無様で迷惑千万な存在じゃなって』

「なん……だと……?」

洗面台の鏡に映る自分は、それはそれは酷い顔をしていた。
青白くむくんだ姿は酔っぱらいというか川に浮かんだ水死体のようだ。
アルダガの聖水に加え、シャルムの活性魔法によって急速にむくみが取れていくのが見て分かった。

「二度と酒はやらない……絶対にだ……!」

酔いが完全に晴れるまで、実に半刻もの間スレイブは床を這いずる生命体と化していた。

・・・・・・――――――
0227スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:07:08.82ID:3+OaYk3Z
酔っぱらいのせいで盛大に皇帝以下帝国の重鎮たちを2日続けて待たせた指環の勇者たち。
既に星都への転送紋の前には魔導師達が集まり、転送準備は完了していた。
出立の挨拶もそこそこに転送紋を踏むと、目の前が青白く染まり、周囲の空気が変わる。

「この匂いは……」

まず感覚として飛び込んできたのは、鼻の奥に感じる匂いだった。
緑の匂い。帝都に来て久しく感じたことのなかった、木々と土の織りなす森林の匂いだ。
セント・エーテリアは地底に眠る古代都市と聞いていた。しかし、目の前に広がる光景は植物に覆われている。

「森に、太陽に、小川……ここは本当に地底なのか?まるで未開拓地域の原生林だ」

国土の6割以上が未だ開拓されていない暗黒大陸と、同じ空気を星都からも感じる。
どことなく懐かしいダーマ人の原風景に、スレイブは困惑した。
戸惑う彼とは裏腹に、シャルムはいつになく高揚しているようだった。

>「これは……すごいですよ、先生!見えますかあの太陽!
 疑似太陽の生成、数百年も続く魔力源……一体どういう原理で動いてるんでしょう。

「先生……?」

>「あー……いや、すみません。続けて下さい」

どうやら高揚のあまり、学生時代のノリに先祖返りしてしまったらしい。
スレイブもジュリアンのことをたまにパイセンと言いかけることがあるからよく分かる。

>「不死者の気配は、感じられる範囲にはありません。日の光の射す場所には現れないのでしょうか。
 あの太陽は少しずつ移動していますから、おそらくここには時間の概念がまだ存在しています。
 問題は、『夜』が訪れたときにどのような環境になるかですね……」

「太陽の位置を見るに、今はまだ午前中か。だが、今日中に神殿へ到達するのは難しそうだ」

感動しているシャルムとアルダガをよそに、スレイブは手近な木によじ登って遠くを見晴らす。
見渡すかぎり、地面のほとんどは密林で覆われていて、いくつか石造りの建物が木々の隙間から生えているといった具合だ。

「密林が邪魔で地平線までの距離は測りづらいな。セント・エーテリアはどの程度の広さなんだ?
 帝都の外径と同じ面積だとすれば、徒歩でこの密林を踏破するのに何日かかることか……」

とにかく木々が密集している以上、獣道さえも探すのは困難であろう。
倒木や巨木を迂回しなければならないとなれば、相当な時間のロスとなるはずである。
と、これから始まる強行軍に思いを馳せていたスレイブは、巨木をアルダガがこともなげに粉砕するのを見て思い直した。

「……前言撤回だ。最短距離で行けそうだな」

>「よろしくお願いしますよ、指環の勇者様。私も一応、戦場に立った事はあるんですが……
 地形を吹っ飛ばさず進軍するやり方はあまり経験がないんですよ。お手本を見せて下さいな」

「地形を無視するという意味では、焦土進軍も俺達の探索も似たようなものだろう。
 密林の行軍は俺も経験があるが、こんな平らな轍が残るような道程は初めてだ」

げに恐るべきは、枝でも払うような動作で繰り出されるアルダガのメイスの一撃だ。
軽くなでるだけで大人三人分はあろうかという大樹が根本から吹き飛ばされ、切り株さえも残らない。

これが黒騎士。これが帝国の誇る最高戦力の一角。
スレイブが対面した経験は黒犬騎士のみで、彼は闇竜に喰われてしまったので実力のほどを確かめる機会はなかった。
巨木を粉砕するこの圧倒的火力を、自分たちに向けられたらと思うと実にぞっとしない。
0228スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:07:38.65ID:3+OaYk3Z
アルダガの案内に従って、一行は当面の拠点を確保すべく旧帝国軍のキャンプへと向かう。
道すがら魔獣にでも出逢うかと気負っていたスレイブだったが、結局戦闘となることはなかった。

「一歩進む度に木をふっとばす衝撃と轟音が響いてるんだ、獣はみな逃げていくんだろう」

獣や魔物よりよほど恐ろしい黒騎士の後に続ける幸運を噛み締めながら、スレイブは独りごちた。

「倒れた木から果物を拾って来てるんだが……形もいびつだし、あまり美味くはないな。これが数百年前の果実か。
 市場に並んでる果物類が、長い年月をかけて人の口に合うよう改良されてきたものだってことを思い知ったよ」

強行軍に備えて十分な食料は持ち込んでいるが、現地調達は出来ないこともなさそうだ。
すぐ傍を小川が流れていて水も得られる。精査の魔法で水質に問題がないことも確認済みだ。
当面、携行食が尽きても飢え死にすることはあるまい。
とはいえ、脅威の全てが取り除かれているわけではないようだった。

>「……今のうちに、お伝えしておきたいことがあります」

アルダガ曰く、昨晩スレイブ達がどんちゃんやっている間に、転送紋の部屋で魔法が使われた痕跡があったらしい。
転送紋が通常通り機能している以上、使われた魔法は妨害や術式改竄の類ではない。

>「あくまで憶測の域でしかありませんが、拙僧たちの他に星都へ侵入した者がいるかもしれません。

(……妙だな)

アルダガの言葉に、スレイブはおぼろげな違和感をおぼえた。
星都攻略は、皇帝が主導となって他国の協力者を交えた非常に重要な事業であるはずだ。
にもかかわらず、侵入者の可能性を事前に説明されることはなかった。
皇帝たちが指環の勇者を謀っているというよりも、本当にあの場の誰も痕跡に気付いていなかったかのように。

アルダガの口ぶりからすると、歪みの痕跡を観測したのは帝国の魔術当局ではなく、ごく僅かな魔導師や密使に留まっている。
報告が、皇帝にまで上がっていない。この件に関して、上意下達が機能していないのだ。

(痕跡を観測したという事実が、揉み消されている――?おそらくは、意図的に。帝国上層部の誰かによって)

観測された魔力の歪みを、単なる偶然の産物として、報告せずに内々に処理した者がいる。
魔術当局の方針を左右できるあたり、その"誰か"はかなり政治的な影響力の高い人物だ。

(もみ消したのは元老院の中の誰か――となれば、元老院が星都へ内密に送り込んだ侵入者がいるとすればそれは、)

>「――見えてきました。あれがキャンプ・アンバーライトです。そして、やはりと言いますか……不死者の巣食う気配があります」

アルダガが前方から視線を逸らさずに発した警告で、スレイブの思考は中断された。
既に彼女はメイスを掲げ、臨戦状態にある。星都の光景にはしゃいでいたシャルムもお喋りをやめた。

>「内部に存在する不死者は気配から察するに、6体程度の小型と、1体の大型。
 既に彼らは拙僧たちの存在に気付き、迎撃の体制に入っています。
 まず拙僧が吶喊し道を拓きますので、後詰めはお願いします――『エヴァレイション』」

「了解した」

スレイブも短く応答すると、意識を切り替えて腰に帯びた剣を抜く。
宣言通り飛び出したアルダガを迎撃するように、キャンプから不死者の集団が溢れ出した。
総数七体――うち一体をアルダガのメイスが吹き飛ばし、初撃を免れた不死者達がこちらへと疾走してくる。

>まぁ、それはさておき……私ちょっと気になる事があるんですよ」

不死者の視線に晒されてなお、シャルムの探究心は衰えない。
それどころか彼女は自ら不死者の傍へと近付いて、その姿をまじまじと観察しはじめた。
0229スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:08:08.90ID:3+OaYk3Z
>「……彼らは一体、何を活力に生きているんでしょう。
> それを解き明かせば人類の魔法学はまた一つ上の段階に……」

「おい!こいつらはあんたが研究室で弄くり回してるような動かない標本とは違うんだぞ!」

鉄火場にあってなお危機感の欠片も見せないシャルムに、スレイブはたまらず怒声を発した。
星都攻略に同行したいと言った彼女が、どれほどの戦闘能力を持ち合わせているのか分からない。
少なくとも、不死者は観察しながら戦えるような相手ではないはずだ。

一向に身構えないシャルムを眺めていた不死者が、不意に頭部を大きく開いて獰猛な牙を見せた。
馬1頭を丸呑みしてしまえるような大顎が、シャルムへと迫る――

>「……変形能力。なるほど、それによって普段は燃費を抑えている、と。
 つまり無尽蔵のエネルギーを有している訳ではないのですね」

咄嗟にシャルムをかばわんと踏み込んだスレイブは、不死者の胴に巨大な風穴が空くのを見て足を止めた。
破壊の発生源は、シャルムが稚気ほどの戦意も見せずに抜き放った魔導拳銃。

>「……『賢者の弾丸(グランス・フィロソフォルム)』」

(この女……これを俺達にも向けて撃とうとしていたのか!?)

初めて会ったとき要塞城でシャルムが見せたものと同じ魔導拳銃が、不死者の硬質な胴に大穴を穿つ。
なるほど、研究畑を自称するわりに指環の勇者の暗殺まで元老院から仰せつかるわけだ。
彼女の物言いは不遜でもなんでもなく、純粋に勇者と渡り合うだけの戦力があるという事実の指摘に過ぎなかったのだ。

「空恐ろしい発明だな。そいつは戦場に出せるまで数年はかかる従軍魔導師を、ものの一瞬で完成させるわけだ」

ダーマの軍人としては非常に複雑な心境ではあるが、シャルムの戦闘力は他ならぬ帝国のお墨付きだ。
大穴を穿ったものを含め四体の不死者が彼女を取り囲むが、シャルムは一切怖じずにそれを弾丸の餌食とした。

>「この魔導拳銃には軽度の、精神汚染の呪いが施してあります。
 使用者の精神に、魔法を使用した際の魔力の流れを刻み込むんです。
 つまり使えば使うほど……魔法の成り立ちを感覚で理解出来るようになる」

次いでシャルムの謳った魔導拳銃の効力に、スレイブは今度こそ度肝を抜かれることとなる。

「ここが帝国領の中というのが残念だ。……ダーマのお偉方も、これを見れば軍の構成を一から見直すことになるだろうからな」

シャルムの魔導拳銃は、訓練を伴うことなく魔法兵を作り上げるばかりか、その兵士を戦いの中で強制的に成長させるのだ。
戦場における大前提として、兵士というものは『戦闘を重ねるほどに弱くなる』という性質がある。
それは肉体や精神の疲弊だけでなく、基本的に戦うより訓練をしていたほうが練度の向上が見込めるからだ。

戦いに駆り出され、連携を維持する訓練の機会が減ると、兵士の練度は低下していく一方となる。
だから遠征を行う軍隊が練度を保つには、兵站とは別に現地でも訓練が可能な拠点の確保が必要なのである。

シャルムの開発した魔導拳銃があれば、兵士たちは戦闘と訓練を並行して行うことができる。
大陸を縦断してなお精強さを保つ軍隊を送り込めるのであれば、それは他ならぬダーマにとっての脅威となるはずだ。

そして指環が帝国に渡れば、もはや皇帝の意志とは無関係に帝国上層部は大陸全土の支配に乗り出すだろう。
いかに種族的優位に立つ魔族を中心とするダーマ軍であっても、帝国に対する抑止力には足るまい。
シャルムの謳った戦争の回避は、彼女自身の発明によって、現実的な必要性を帯びている――

>「……あの大物は、折角です。指環の勇者様にお譲りしますよ。冒険譚の見せ場にしてやって下さい。
 もっともあの程度では、見せ場にもならないかもしれませんがね」

こともなげに分裂した不死者四体の処理を終えたシャルムは、大型不死者を指してそう言った。
必要な分は見せたということだろう。スレイブにも異論はなかった。
0230スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/04/26(木) 03:08:28.95ID:3+OaYk3Z
「お言葉に甘えるとしようか。……デカブツ相手は俺の専売特許だ」

建物から這い出てきた大型不死者が、屈していた膝を伸ばして立ち上がる。
この密林で最も高い木よりも頭ひとつ分は出る巨体の頂点で、巨大な眼球がこちらを見下ろしていた。

「対空起動剣術――『砕鱗』起動」

鎧の脚部に展開した魔法陣が反発力を発生させ、スレイブは大型不死者の首目掛けて跳躍した。
すれ違いざまに首筋を長剣で斬撃し、巨大な斬傷を創り出すが、切断はおろか骨にさえも届いていない。
血の一滴さえも滴らない切り口から無数の触手が生え、互いに結びついて縫合するように傷を閉じていく。

「再生が早いな。ティターニア!こいつがどこからマナを吸っているか分かるか?」

不死者が何かを食べて活力を生み出しているわけではないというのはシャルムが実証済みだ。
しかし、生まれ落ちてから数百年もの間、この巨体を維持してきただけの活力源は間違いなく存在する。
かつて暗黒大陸で討伐した墓地に巣食う不死者は、土の中に埋葬された魔族の遺体からマナを摂取していた。
その時は、結局大規模炎魔法で遺体を全て火葬しない限り不死者の再生が止まることはなかった。

「法術で強制的に浄化しても良いが……俺たちは俺たちなりのやり方で、こいつを倒そう」

大型不死者がうっとおしげに巨腕を振るい、首元で跳ねるスレイブを払いのける。
その手首から先が切断されて宙を舞った。拳がスレイブに直撃するより早く、スレイブの一閃が飛んだのだ。
切り飛ばされた手首が重力に引かれて自由落下を始める前に二つ、四つ、八つと分割されて掻き消えた。
一定以上のサイズにまで分割された肉片は再生しない。これもまた、シャルムの検証で明らかになっている。

「マナの供給源を断ったうえで、再生不能なレベルの大打撃を与える――ジャン、合わせてくれ!」

スレイブは不死者の肩を蹴ってさらに上空まで跳躍すると、長剣を両手で天へと掲げる。
風の指環が輝き、空の空気が一変して瞬く間に暗雲が辺りへ立ち込めた。
天候さえも支配する風の指環の影響力は、地底の空間にあっても健在だ。

「遍く全てを灼き焦がせ――『ディザスター』!」

唱えた呪文は、シェバト攻防戦で指環の勇者達に対して放った殲滅破壊の魔法。
術者すら焦がす苛烈な威力を、漏らさず刀身に封じ込めることによって制御する。

「駆け抜けるぞ……頭の上から股の下まで!」

暗雲から降った稲妻を刀身に込めて、不死者の頭部へと長剣を叩き込んだ。
巨体を真っ二つにする破壊の大瀑布が、雷の速度で流れ落ちる。
0232ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/26(木) 19:01:27.69ID:oRj6XtPj
オークとしての性質を半分しか持たずとも、
ジャンの身体は外も内もヒトの中では強靭と言っていいだろう。

だからこそ、部屋に近づいてくる足音に反応できた。
二日酔いという後遺症もほとんどなく、腰にある短剣の鞘に手をかけて音もなく起き上がる。

>「酔っ払った?俺がか?馬鹿な……ここは帝国の中枢部だぞ。
 いつ暗襲を受けるとも知れない状況で、軍人の俺が前後不覚になるまで酩酊するなど……」

>「おはようございます。早速本日より星都の攻略を――って、皆さん顔色がお悪いですよ!?」

「おう、おはようさん。俺もちょっとばかし飲み過ぎたかもしれねえな、昨日飲んだのは覚えてるんだが……
 何言ったか覚えてねえや。ティターニア、覚えてるか?」

部屋に持ち込んだ武器――ミスリル・ハンマーとアルマクリスの矛をそれぞれ窓から差し込む日差しに当てて
傷や欠けた部分がないか調べる。両方とも業物と呼ぶべき武器だが、手入れを怠っていいものではない。

それぞれ特に問題がないことを確かめ、背中と腰に一つずつある鞘に収める。
重いハンマーは腰に、比較的軽い矛は柄を紐で結び目を作り、ずり落ちないよう鞘に引っ掛けた。

>「昨日も言ったが今や星都は不死者が蔓延る魔境。おそらく女王パンドラはとうの昔に虚無の側に堕ちたということだろう……。
  何が起こるか分からない、心して行くのだ――」

一行は準備を整え、要塞城の最深部、ここが作られるよりはるか昔からそこにあったような、古びた部屋へと案内される。
皇帝は威厳ある、というよりもここから不死者が溢れてくるのを恐れているような口調で警告すると、
部屋にある魔法陣を起動させた。そうして一行は最後の古代都市、セント・エーテリアへと向かう。

転移魔術独特の、視界が光に包まれるような副作用が消えていく中で
ジャンはさらに眩い光を見た。それは本来地下から見えるはずのない光、古代文明が作り上げた人工太陽だ。
そしてそれが照らすのは、他の封印された古代都市とは異なる廃墟。
動物と植物が支配する、食物連鎖そのものだ。

>「地底なのに、太陽があります……!古代の民は、太陽を再現する魔法さえも創り出したということですか……!?」

>「これは……すごいですよ、先生!見えますかあの太陽!
 疑似太陽の生成、数百年も続く魔力源……一体どういう原理で動いてるんでしょう。
 カンニングするつもりはないんですけど、やっぱり魔術師としては気になっちゃ……」

あまり風景や建造物に興味のないジャンですら、思わず眺めてしまうような景色だ。
魔術師としては気になってしまうのだろうと、ジャンは納得した表情でシャルムを見る。

(あいつ最初はやたらと突っかかってきたが……やっぱり魔術師なんだな。
ひねくれた対応するよりこの方がずっと話しやすいってもんだぜ)

>「不死者の気配は、感じられる範囲にはありません。日の光の射す場所には現れないのでしょうか。

>「太陽の位置を見るに、今はまだ午前中か。だが、今日中に神殿へ到達するのは難しそうだ」

「不死者がどういうもんか分からねえが、たぶんアンデッドの類だろ?
 『夜』というか明かりがなけりゃ凶暴になるのがあいつらに共通する習性だ、どこかでその間、休憩する必要があるぜ」

>「転送陣から最も近い拠点……『キャンプ・アンバーライト』。まずは、ここを目指しましょう。
 拙僧が先頭を行きます。周囲への警戒はお願いしますね」
0233ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/26(木) 19:03:14.44ID:oRj6XtPj
ツタやシダ、その他あらゆる植物に埋もれたとはいえ古代文明の建物は堅牢であり、今に至るまで形を保っている。
アルダガが強引に邪魔な障害物を薙ぎ払う様を後ろから眺めつつ、奇襲がないかジャンは見回す。

>「一歩進む度に木をふっとばす衝撃と轟音が響いてるんだ、獣はみな逃げていくんだろう」

「前に戦ったときよりメイスの振りがすごいぜ、俺でもまともに受けたら今の大木みてえにボキリ!グシャ!だな。
 ……このリンゴみてえな赤い実うめえぞ、塩振ったらちょうどいい甘さだ」

スレイブと一緒に拾った果実をかじりつつ、黒騎士が帝国の最高戦力であるという認識を改めて実感する。
ジャンが村で半日かけて切っていたような巨木を、文字通り小枝のように吹き飛ばしていくのだ。
立ち合いをするとは言ったが、ちょっとその場のノリで言い過ぎたかもしれないとジャンは後悔しつつ、一行は先へ先へと進んでいく。

>「……今のうちに、お伝えしておきたいことがあります」

その道中、アルダガから伝えられた不穏な情報。
なんでも自分たちより先にここに侵入した者がいるらしく、敵は不死者だけではないらしいということ。

「よっぽど信用されてねえみたいだな、俺たち。
 まぁ帝国軍人ってわけでもねえし、仕方ねえな」

>「――見えてきました。あれがキャンプ・アンバーライトです。
 そして、やはりと言いますか……不死者の巣食う気配があります」

その言葉とほぼ同時にジャンは構える。
腰の鞘からミスリル・ハンマーを外して両手に持ち、不死者の襲撃に備えるためだ。

>「内部に存在する不死者は気配から察するに、6体程度の小型と、1体の大型。
 既に彼らは拙僧たちの存在に気付き、迎撃の体制に入っています。
 まず拙僧が吶喊し道を拓きますので、後詰めはお願いします――『エヴァレイション』」

「あいよ、任せたぜ」

突撃したアルダガが先手を打って一匹を吹き飛ばし、残った不死者がこちらへと襲いかかる。
だがその内の二体はシャルムの魔導拳銃によって撃ち抜かれ、残りの三体は標的を変えてジャンへと向かってきた。

痩せ細った体格に浮かぶ、血走った目のような紋様。
アンデッドというよりは悪魔信仰の信者のようなその姿には、生者であれば嫌悪感を感じずにはいられない。

「てめえらに構ってる暇は――ないっ!」

一番前にいる不死者の頭をハンマーでかち割り、それを掴んで振り回し、後続に叩きつける。
全員がバランスを崩したところで後衛のジュリアンとフィリアが魔術と指環の力で薙ぎ払い、ラテがトドメを刺す。
連携のとれた動きによって誰かが極端に消耗することのない戦術は、長く旅を続けてきたからこそだ。
0234ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/04/26(木) 19:04:53.94ID:oRj6XtPj
>「……あの大物は、折角です。指環の勇者様にお譲りしますよ。
 冒険譚の見せ場にしてやって下さい。
 もっともあの程度では、見せ場にもならないかもしれませんがね」

そうして小型を掃討し終えた頃で、建物から巨体がゆっくりと姿を現す。
サイクロプスの亜種とも言うべきその大型不死者には、前衛であるスレイブとジャンが対応する。
スレイブが見事な空中機動でかく乱し、だが決定打は与えられない。
通常のサイクロプスならば致命傷となりうる首筋への斬撃は驚異的な再生能力によってかすり傷にすらならず、傷跡も残らない。

>「マナの供給源を断ったうえで、再生不能なレベルの大打撃を与える――ジャン、合わせてくれ!」

「おうともよ!行くぜアクア―――『トルレンス』」

ミスリル・ハンマーを腰にしまい、背中の矛を取り出す。
隕鉄とミスリルの合金で作られたそれはエンチャントに適応しやすく、指環の力もまた然り。
矛の先端に水の魔力を凝縮し、スレイブの放つ空中唐竹割りに合わせてジャンも鋭く、重い突きを放つ。

スレイブのそれが表面ごと内部を打ち砕くものならば、ジャンのそれは内部から表面ごと破壊するもの。
ちょうど大型不死者の肉体の真ん中、ヒトならば臍の上の部分に放たれた矛の一撃は、水の魔力を
丸ごと解き放ち、相手の肉体内部で縦横無尽に暴れさせた。
0235ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/28(土) 01:13:11.62ID:+y4p7i23
次の朝、目覚めたティターニアは思った。“これはアカン”――と。何がアカンって主にスレイブが。
ついついキャットファイトを面白がって観戦してしまったが、もっと早く止めておくべきだったかもしれない。

>「おはようございます。早速本日より星都の攻略を――って、皆さん顔色がお悪いですよ!?」
>「それにこの匂い……お酒を呑まれたんですか?て、帝国のど真ん中でなんという胆力……。
 とくにディクショナル殿……でしたか。かなり深刻な二日酔いをされていますね……。
 星都へ赴く前に、この聖水でお顔を洗ってきて下さい。解毒の作用があります」

「面目ない――ほどほどにしておくようには言ったのだが」

ティターニアは嗜む程度にしか飲んでいないので酔いは残ってはいないが、
飲むなと言わないどころか自分も付き合って飲んでいる時点で五十歩百歩である。
それはそうと、昨夜の酒盛りのおかげで分かったことがある。
シャルムのジュリアンに対する感情はツンデレなんていう生易しいものではない――ヤンデレだ。(ティターニア分析)
それも、自分では無自覚どころかそれを指摘されると全力でくってかかるという最も厄介なパターンである。

>「おう、おはようさん。俺もちょっとばかし飲み過ぎたかもしれねえな、昨日飲んだのは覚えてるんだが……
 何言ったか覚えてねえや。ティターニア、覚えてるか?」

「――何、他愛のない会話をした程度だ。そなた、酔っぱらってすぐに寝てしまったからな」

スレイブとシャルムのキャットファイトに比べれば他愛のない会話に違いないので、別に嘘ではない。
ともあれ、ジャンも相当酔っていたことが露呈してしまった。

>「敵地とも言えるこの城の中で、帝国人と共にいたはずの彼らがここまで泥酔しているとは……
  シアンス殿、よほど彼らに信頼されているんですね……。一体どのようなお話をされたんですか?」
>「はあ?……っと、失礼。あまりに突拍子のない事を仰るものですから、つい変な声が。
 それで、なんですって?私が、彼らに、信頼されてる?」

アルダガとシャルムがお互い大真面目なのに噛み合っているのかいないのか分からない、
どこか漫才のような会話を繰り広げる。
直球剛速球型の天然娘と何回転にも捻りを加えた変化球型のクール美少女――
正反対とも言える二人だが、相性はそんなに悪くないようにも思えた。
こうしてスレイブが聖水やら魔術やらで回復するのを待ち、ようやく一行はセントエーテリアへと出発する。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*
0236ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/28(土) 01:14:43.69ID:+y4p7i23
星都には、今まで訪れたどの古代都市とも異なる光景が広がっていた。
ちなみに、先代の時と比べると街は荒れ果てて様変わりしてしまっているようで、先代の記憶はあまり役に立ちそうにはない。
高度な文明と自然が共存する都市の様相を多分に残していた先代の時とは違い、今や木々が生い茂る密林の遺跡と化していた。

>「地底なのに、太陽があります……!古代の民は、太陽を再現する魔法さえも創り出したということですか……!?」

「ここは帝都の地底とされているようだが本当にそうかは誰にも確かめようがないからな――
あるいは我々の世界とは異なる位相に存在する異空間なのかもしれない」

>「これは……すごいですよ、先生!見えますかあの太陽!
 疑似太陽の生成、数百年も続く魔力源……一体どういう原理で動いてるんでしょう。
 カンニングするつもりはないんですけど、やっぱり魔術師としては気になっちゃ……」

「……仮にそうするとあれは我々の世界とは異なるこの世界の本物の太陽という可能性も出て来るわけだな。
あらゆる可能性を想定するのだシャルム君。
しかし……7つの属性が存在する我々の世界では光を魔法のパネルに当てて魔力を生成したり風で巨大な風車を回してみたりと色々出来るが
古代エーテリアル世界はエーテル属性だけでどうやって世の中が回っていたのか――皆目見当もつかぬ。
安心するがよい、それはカンニングではなくてリスペクトもしくはオマージュだ」

ただでさえ大好物の古代都市の風景の上に、シャルムに先生と呼ばれて嬉し気なティターニア。

>「あー……いや、すみません。続けて下さい」

「ん? どうしたのだ?」

ティターニアにとってはシャルムが留学していたのはついこの前のことであるし、
シャルムから見れば余裕でおっさんにあたる年齢の人間にも同窓会では普通に先生と呼ばれているので、
シャルムが何を恥ずかしがっているのか分からないのであった。

>「と、鳥ですか……敵意がないので近くに居ることに気付きませんでした。
 視界が悪いので注意してくださいね。不死者の気配は分かりますが、危険はそれだけとは限りません。
 毒蛇や猛獣に対しては、おそらく拙僧よりもあなた達のほうが対処に慣れているでしょうから」

「まあ……我に限って言えば少なくとも対人戦よりは対モンスターの方が得意な事は違いない。
それにしても何故かこの都市は竜の眷属ではなく動物がたくさんいるのだよな。
機会があれば色々な謎を解き明かしてみたいものだ」
0237ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/28(土) 01:16:59.46ID:+y4p7i23
先代の時はすんなりとエーテルの指輪を貰って即終了だったため、謎のまま終わってしまった事も多いのだ。
四星都市では、竜とは別の系列の存在と思われる幻獣が守護聖獣を務めていたが、それと何か関係があるのかもしれない、と思う。

>「転送陣から最も近い拠点……『キャンプ・アンバーライト』。まずは、ここを目指しましょう。
 拙僧が先頭を行きます。周囲への警戒はお願いしますね」

アルダガが、帝国の機密情報と無双の怪力で先陣を切って道を切り開いていく。
黒鳥騎士半端ないと思いながらそれに続く一行。
周囲への警戒をお願いされたが、そこらの猛獣程度は裸足で逃げ出す快進撃である。
そうしてしばらく進み、日が傾き始めた頃。アルダガが意外な事を言い始めた。

>「……今のうちに、お伝えしておきたいことがあります」
>「シアンス殿はご存知かもしれませんが……昨晩、要塞城の内部で魔力の揺らぎが観測されました。
  ほんのごく僅かな、残り香にも満たない揺らぎではありますが、問題は観測された場所です。
  揺らぎは、星都へ繋がる魔法陣の封じられた部屋から発生していたそうです」

「やれやれ、この期に及んで内輪で足の引っ張り合いか……。帝国クオリティ半端ないな――」

そう呆れたように呟きながら、単なる内輪の足の引っ張り合いならまだいいのだが――と内心で思う。
エルピスや虚無の竜が早速帝国上層部の誰かを洗脳して手駒としているのだったら目も当てられない。

>「――見えてきました。あれがキャンプ・アンバーライトです。
 そして、やはりと言いますか……不死者の巣食う気配があります」
>「内部に存在する不死者は気配から察するに、6体程度の小型と、1体の大型。
  既に彼らは拙僧たちの存在に気付き、迎撃の体制に入っています。
  まず拙僧が吶喊し道を拓きますので、後詰めはお願いします――『エヴァレイション』」

アルダガが不死者の群れに切り込んだのを合図に、戦闘は始まった。

>「……彼らは一体、何を活力に生きているんでしょう。
> それを解き明かせば人類の魔法学はまた一つ上の段階に……」
>「おい!こいつらはあんたが研究室で弄くり回してるような動かない標本とは違うんだぞ!」

戦闘が始まっているにも拘わらず悠然と落ち着き払っているシャルム。
紙一重な人材なのか余程肝が据わっているのかあるいはその両方か――何にせよ尋常ではない。
見かねたスレイブがかばいに入ろうとしたところ、シャルムが瞬速で銃を抜き放ち、不死者が爆ぜる。
0238ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/28(土) 01:18:42.61ID:+y4p7i23
>「……『賢者の弾丸(グランス・フィロソフォルム)』」
>「斬ったり爆ぜさせたりするのは、あまり良くないかもしれませんねえ。
 あ、別に手出しは無用ですよ。
 この程度で足を引っ張るような同行者は、皆様にとっても不要でしょう」
0239ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/28(土) 01:20:53.82ID:+y4p7i23
「分かった――しかし油断は禁物だ。危なくなったら手を出させてもらうぞ」

シャルムがそう言うので、今後の大物との戦いに備えて彼女の戦闘スタイルを見ておくこととする。
まるで自ら開発した魔導銃の宣伝のように、流暢に解説を加えながら不死者を倒していくシャルム。
使えば使うほど魔術適性が上がっていく――その素晴らしさに純粋な感動とスレイブが思っているのと同じような空恐ろしさを同時に覚えつつ、
帝国は人間ばかりだから寿命で頭打ちになるのがせめてもの救いか――等と思う。
元々魔術適性が高くて寿命が長い種族が多いハイランドやダーマでもしも類似品が開発されて何百年使い続けたりしたらどうなるのだろう、とも思うが
最初から優れた魔術適性を持っている種族は思いつかない、人間ならではの発想なのかもしれない。

>「あなたは、帝国を捨てるべきじゃなかった。それが出来ないならせめて……戻って来るべきじゃ、なかった」
>「……余計な事を。気付いていましたよ」

シャルムとジュリアンが仲間割れを装って、大型不死者に不意打ちをくらわせる。
ティターニアは“そなたら、息ぴったりではないか”と喉まで出かかった言葉をすんでのところで飲み込んだ。

>「……あの大物は、折角です。指環の勇者様にお譲りしますよ。
 冒険譚の見せ場にしてやって下さい。
 もっともあの程度では、見せ場にもならないかもしれませんがね」

>「お言葉に甘えるとしようか。……デカブツ相手は俺の専売特許だ」
>「対空起動剣術――『砕鱗』起動」

スレイブが切りかかるも、大型不死者はすぐに再生してしまう。

>「再生が早いな。ティターニア!こいつがどこからマナを吸っているか分かるか?」

「――”リフレクション”! 我の推測が正しければこれで……」

先程シャルムの戦いを観戦しつつ魔力の流れを探っていたティターニアは、魔力の供給元にすでに見当を付けていた。
ティターニアはスレイブの問いに応える代わりに、魔法反射の結界を張る魔法を使う。
これは通常は味方や自分にかけて敵の魔法を跳ね返す用途で使う防御魔法だが、この度は戦闘域全体を覆うように広範囲に展開した。
0240ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/04/28(土) 01:24:05.66ID:+y4p7i23
>「マナの供給源を断ったうえで、再生不能なレベルの大打撃を与える――ジャン、合わせてくれ!」
>「おうともよ!行くぜアクア―――『トルレンス』」
>「遍く全てを灼き焦がせ――『ディザスター』!」

スレイブの唐竹割とジャンの突きが同時に炸裂する。
大型不死者は爆ぜて細かい肉片となり――そして、再生することなく消滅した。
それを見て自らの推測が正しかったことを確信したティターニアは、ここにきてスレイブの先程の問いに答える。

「――やはりな。都市のどこかに何らかの魔力の供給元があるらしい。おそらく、これから向かう竜の神殿か――
今のは魔法反射の魔術の応用で結界の外からの魔力の供給を遮断した、というわけだ」

こうしてキャンプ・アンバーライトの掃除は終わり、辺りはすっかり暗くなっていた。
今夜はここに泊まることになるのだろう。
建物内を見て回っていると、謎の文字が刻まれた石板やら見る度に違った形に見える武器のようなものやらが転がっていた。

「ティターニア様、ラテさんが確かこんなの持ってるよね」

「たまたま似ておるだけだろう」

旧きエーテリアル世界の研究を代々してきたという彼女の家系。
今まさにエーテリアル世界の秘密の深奥に踏み込んでいるわけだが、
そのエーテリアル世界の研究が彼女のトラウマの大元の原因とも言えるわけで、
何かを思い出してしまってそれが悪い報告に作用しないかとほんの少し心配になる。
ともあれ、まずは安全の確保だ。リフレクションを建物を覆うように展開し、固定化――

「これで不死者どもは中に入りたがらぬだろう……ん?」

上階から物音が聞こえた気がし、首を傾げるティターニア。

「パック殿、様子を見てきてくれ」
「なんでオイラ!?」
「助手すなわち運転手兼荷物持ち兼雑用係だろう。それにそなた、種族特性上移動式壁だし」
「なんかどんどん扱い雑になってない!?」

師弟漫才ならぬ導師助手漫才を始めるティターニアとパックであった。
もしかしたら侵入者かもしれないし、単なる猫なんていうありがちなパターンかもしれない。
0241アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/30(月) 13:56:58.28ID:/CqQsyiB
襲い来る不死者をメイスで叩き潰しながら、アルダガは同行者達の戦い方を見ていた。
教会様式の戦闘方法しか知らない彼女にとって、他国の者や魔術師の戦いは発想の宝庫だ。
来るべき立ち合いに備えて手の内を把握しておくという実利的な面を置いておいても、その目で彼らの戦いを見ておきたかった。

>「……『賢者の弾丸(グランス・フィロソフォルム)』」

主席魔術師シャルムの持ち出した、二丁一対の魔導拳銃。
誰であってもこの銃を持つだけで即席の戦闘魔導師となり、戦闘と平行して使用者を術士に仕上げる鍛錬具としての側面をも兼ねる。
寿命という限られた時間的リソースをいかに無駄なく効率よく使うかに腐心した、まさに合理主義者の発想だ。

アルダガも黒騎士として投入された戦場で、同種の武装を持った友軍の姿を何度か目の当たりにしている。
ほんの昨日まで帝国の隅で畑を耕していた者たちが、今日この時から攻性魔術を使いこなす一人前の魔導師だ。
味方ではあればこの上なく心強いが、敵に回せば一転して帝国の悩みの種となるだろう。

(……この技術が、帝国の外に漏れなければよいのですが)

魔法の本場が寿命の長いエルフ達の住まうユグドラシアであるように、魔法という技術は本来極めて属人的なものだ。
魔術師が生み出し、覚えた魔術は、その術者にのみ使うことができる。
この大原則があるからこそ、国家は国を挙げて魔術師を育成し、魔法という技術を手の届く範囲に管理することができる。

しかし、シャルムの創り出した魔導拳銃は、その原則を大きく覆すものだ。
『賢者の弾丸』の本体と言えるものは、魔法を使う術者ではなく、魔導拳銃そのものにある。
誰でも使えるということは、どこにでも持ち出すことが可能で、それは帝国の中に留まらない。
仮に戦場で鹵獲でもされようものなら、甚大な技術流出を招くことになる。
行き着く先は、魔法技術の氾濫。数年もしないうちに、各地の戦場で同じ魔法が両軍から飛び交うこととなるだろう。

無論シャルムもそのあたりは考慮して何らかの安全装置は搭載しているだろうが、解呪の方法などいくらでもある。
魔法が世に生まれて数千年、魔術師達が堅守してきた不文律を、真っ向から破壊しかねない技術であった。

(シアンス殿……貴女はどこを目指しているのですか――)

古きものの破壊者、日食の魔女。
そのストイックなまでに魔術を追求する姿勢に、アルダガは畏怖を覚える。

>「マナの供給源を断ったうえで、再生不能なレベルの大打撃を与える――ジャン、合わせてくれ!」
>「おうともよ!行くぜアクア―――『トルレンス』」
>「――”リフレクション”! 我の推測が正しければこれで……」

指環の勇者達は、洗練された連携による独自の方法で大型不死者を攻略していた。
反射魔術で外部からの魔力の供給を断ち、大火力の一撃で粉砕――
圧倒的な再生力を誇り、再生を阻害する法術以外で倒しようのなかったはずの不死者が、その巨躯を崩壊させていく。

「お見事です、流石は指環の勇者……拙僧と戦ったときよりもずっと強く、指環を使いこなしているんですね」

風の指環の天候支配と、水の指環による波濤の圧力。
緻密な連携によって相乗された威力の前に、大型不死者の図体など風前の塵にも等しい。
ティターニアの推論から一切の遅滞も、寸分の狂いもなく一撃を集中させられるのは、共に旅してきた彼らの経験の賜物だ。

――自分はこれを相手にして、指環を賭けた戦いを挑まねばならない。

この震えは畏れか、武者震いか。
きっとどちらでもあり、そして今の自分にはどちらでも良いのだ。
彼らに打ち勝つために、敗北してから今日までアルダガの人生はあったのだから。

「……掃除完了ですね。じきに夜が来ます、今夜はこのキャンプに宿をとりましょう」

そこから先は、戦闘よりもよほど忙しかった。本来の意味での『掃除』が必要だったからだ。
数百年間放置されてきたキャンプ・アンバーライトの内部にはコケやシダがびっしりと生え、埃が堆積している。
不死者の遺したものか、よくわからない肉片がこびりついて異臭を放っている。
アルダガと指環の勇者たちは、拠点の清掃と瓦礫の運び出しに夜までの時間を費やされることとなった。
0243アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/30(月) 13:58:54.44ID:/CqQsyiB
「おつかれさまでした!キャンプも綺麗になったことですし、お夕飯にしましょう!」

瓦礫を掃き出して作った全員が足を伸ばして寝られるスペースに、アルダガと同行者たちは車座になる。
中央で火を熾し、探索中の食料として支給された携行食を並べていく。

「罠を仕掛ければ簡単な獣は捕れますし、近くの川では魚が泳いでいます。
 もしも持ち込みの携行食だけじゃ味気ないようでしたら、ちょっと行って狩ってくるのも良いかもしれません。
 ……拙僧は、戒律で異教徒以外の殺傷が禁止されているのでご同行できませんけれど」

他の者が狩りや食事の支度をしている間、アルダガは地面に蝋石で奇怪な文様を描いていた。
文様の中心に、保存食や取ってきた食料を置き、その前で指を組んで祈る。

「女神様、女神様。今日のご加護に感謝し、今日の糧をいただきます。
 我が血肉となるもの達へ無窮の感謝と輪廻の栄転を」

文様に聖なる光が灯り、食材を輝きが包む。女神の加護による防毒と浄化の法術だ。
古代の病原菌が潜んでいるとも知れないこの密林では、防疫にも入念の配慮が重要となる。

「自分たちが得た食事への感謝を女神様に捧げるなんて、奇妙だと思いませんか?
 拙僧もそう感じて、聖女様と夜通し討論したことがあります。あれは本当に疲れました……。
 これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

喰われた獣や魚が、何を望んでいるかなんてことは捕食する側に推し量ることなど出来まい。
だから、ただ幸せを願う。不運にも喰われてしまった今生ではなく、次の生で幸福が訪れるよう。
それが、アルダガの奉ずる教えにおける死生観の一つだ。

「おまたせしました、早速食べましょう!――宗教上の理由でお酒が飲めないのは、とても残念です」

アルダガはシャルムの方をチラっと見ながらそう言った。
昨晩のことを未だに口惜しく感じているらしい。
焚き火を囲んでの晩餐は、しばし談笑しながら(主にアルダガばかり喋りつつ)和やかに進んでいった。

>「これで不死者どもは中に入りたがらぬだろう……ん?」

周囲に結界を張っていたティターニアが、キャンプの階上から聞こえてきた物音に首を傾げる。
ジャンからもらった干した茎を煮戻した保存食をかじっていたアルダガも、同じタイミングで音に気付いた。

>「パック殿、様子を見てきてくれ」

「あ、拙僧も行きます。結界があるとはいえ、ここは敵地ですから……ご一緒しますね、パック殿」

ティターニアの従者(と言っていいのか)であるパックを伴って、アルダガはメイスを担いで階段を登る。
懐から手鏡を取り出して、階段の踊り場から鏡越しに上の様子を伺った。
上の部屋に誰かがいる様子はない。しかし、窓が一枚割れて、舞い上がった埃を月光が照らしている。

(結界を突き抜けて何かが入ってきた……?)

「パック殿、ティターニア殿に警戒するようお伝え下さい」

パックに短くそう指示し、アルダガは音もなく踊り場を蹴って階上へと飛び込む。
メイスを構えて全方位を警戒するが、やはり何者の姿も気配さえも感じられない。
代わりとでも言うように、割れた窓の先にある壁に、一本の矢が突き刺さっていた。
0244アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/04/30(月) 14:00:54.20ID:/CqQsyiB
「これは――」

長弓に用いられる、径の太い大型の矢。
それ自体は帝国様式のごく一般的な種類であるが、他とは異なる特徴が矢羽にあった。
光沢のない、染み入るような漆黒の矢羽。
アルダガは壁から矢を引き抜くと、それを持って階下の同行者たちの元へ戻った。

「先程の物音の正体です。このキャンプの二階に、この矢が撃ち込まれていました」

黒い羽の矢を焚き火の傍に置き、アルダガはシャルムの方を見る。
帝国人である彼女ならば、この矢に真っ先に見当がつくはずだ。

「この黒い矢は、『月蝶弓』と呼ばれる特殊な長弓にのみ番えられるもの。
 そして当代の帝国において、月蝶弓の使い手は記録されている限りただ一人しか存在していません」

――『黒蝶騎士』シェリー・ベルンハルト。
七人の黒騎士に名を連ね、大陸全土にその名を轟かせる、人類最強の弓使いだ。
彼女の放つ黒き矢には特殊な魔法が込められていて、風に乗って旅する蝶の如く、あらゆる場所への狙撃を可能とする。
公式の戦闘記録では、イグニス山脈の向こう側から大陸の半分近い距離を越えて敵の指揮官の頭蓋を穿ったことさえあるほどだ。

「我々よりも先に、非公式の星都入りを果たした侵入者……おそらくはそれが、黒蝶騎士です。
 正確にキャンプ・アンバーライトを狙ったことから見るに、彼女は拙僧たちの同行を完全に把握しています」

アルダガは黒羽の矢の鏃を撫で、魔力を込める。
すると、鏃に刻まれた術式が展開し、赤い輝きが周囲を照らし出した。

「一番の問題は――この矢が攻撃用ではなく、連絡用のものだということです。
 より具体的に言うなら、赤い光は帝国軍式の魔術暗号で、『救援要請』を示しています。
 つまり、黒蝶騎士はどこかから、キャンプにいる拙僧たちへ向けて、救援を求めているということ」

どこの元老の差金か、指環の勇者に先駆けて星都へと侵入した黒蝶騎士。
しかし彼女は勇者たちを秘密裏に暗殺するどころか、わざわざ矢に乗せて救援を要請している。
一体この古代都市で何が起きているのか。右も左も密林に覆われたこの地で、彼女は何を求めているのか。

「罠、と見るのが最も妥当かもしれません。しかし、罠にしては誘いがあまりに安直です。
 黒蝶騎士を窮地に追い込めるような存在がこの地に居るなんてことは想像したくもありませんが……
 拙僧達や、皇帝陛下の預かりの及ばない場所で、もっと厄介な何かが起きている可能性があります」

アルダガがもう一度鏃を撫でると、救援信号の赤い光が収まり、周囲に再び焚き火の明かりが戻ってきた。
矢をシャルムへと手渡す。検分は任せたという意思表示だ。

「このまま祖龍の神殿を目指すか、救援信号の主を追うかは、指環の勇者殿にお任せします。
 どのみち、動き始めるのは夜が明けてからとなるでしょう。拙僧は二三日寝なくても大丈夫なので、見張りに立っています」


【物音の正体:ティターニアの結界を突き破って撃ち込まれた黒蝶騎士の矢。
       救援信号が仕込まれていて、指輪の勇者達に助けを求めてる(罠?)】
0245 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:44:54.15ID:JILRKLMa
>「お言葉に甘えるとしようか。……デカブツ相手は俺の専売特許だ」
>「対空起動剣術――『砕鱗』起動」

ディクショナルさんが魔法陣を踏み台に宙へと飛び出す。
多様な魔族や亜人が住み、魔物が生息する暗黒大陸で発展した地に足つけない白兵術。
興味深いです。実に興味深い。

これから先、射程と機動力が戦場で物を言う時代が必ず来ます。
指環の勇者である彼らが、ソルタレクでの戦闘で証明した事です。
巨大な竜と、指環の勇者……戦いを制したのは小さなヒトの軍団でした。
互いに相手を殺傷し得る火力があるのなら、より素早く小回りが利く方が強い。
ほら、あの巨大不死者も……速度で劣るが故に容易く首を斬られている。
まぁ今回は再生されてしまっていますが、本来なら致命傷だ。

>「再生が早いな。ティターニア!こいつがどこからマナを吸っているか分かるか?」
>「――”リフレクション”! 我の推測が正しければこれで……」

……流石ですね、ティターニアさん。既に魔力の流れを掴んでいましたか。
これで魔力の供給は絶たれた。
もっとも、体内にはまだある程度の魔力が溜め込まれているはずですが……

>「マナの供給源を断ったうえで、再生不能なレベルの大打撃を与える――ジャン、合わせてくれ!」

とてつもない魔力の高まり……聞きしに勝る、指環の力。
これほどの力を受けては、耐えられないでしょう。

>「おうともよ!行くぜアクア―――『トルレンス』」
>「遍く全てを灼き焦がせ――『ディザスター』!」

まさしく疾風迅雷、とでも言うべき強烈な唐竹割り。
飾り気のない、しかし武芸に疎い私にも分かるほど重く鋭い一撃。更にそこから生じる津波のような水の乱流。
……魔力供給が健在でも、耐えられたか怪しいところですね、これ。

>「――やはりな。都市のどこかに何らかの魔力の供給元があるらしい。おそらく、これから向かう竜の神殿か――
  今のは魔法反射の魔術の応用で結界の外からの魔力の供給を遮断した、というわけだ」

「……いや、お見事でした。ティターニアさんの魔法は相変わらず規模、精度ともにデタラメですし。
 指環の力も実に素晴らしい……私も少し、欲しくなってきちゃいましたよ」

私は目を細めて笑みを浮かべ、彼らの手に光る指環を見つめる。

「よく見るとその指環、なかなか凝ったデザインをしているんですね。
 私はほら、ご覧の通り、洒落た服を見繕ってくる時間もありませんのでね。
 そういう綺麗な小物、少し憧れちゃいますねえ」

……や、もちろんジョークですけどね?伝わってますよね?

>「……掃除完了ですね。じきに夜が来ます、今夜はこのキャンプに宿をとりましょう」

「そうですね……ところで、ジャンソンさん。このキャンプ・アンバーライトなんですが。
 冒険者的にはこれでも一晩過ごすのに十分な環境なんでしょうか。
 私としては……もう少し清潔な環境で寝泊まりしたいものなんですが」

……あ、皆さんも流石にこれはないって感じの雰囲気してますね。良かったです。
そうと決まれば……内部の清掃は皆さんにお任せしましょう。
植物の処理はティターニアさんなら容易い事でしょうし、私が力仕事を手伝っても邪魔になるだけです。
なら私は……この穴だらけで落ち着かない建物を、少しはまともな形にしておきますか。
0246 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:45:35.79ID:JILRKLMa
「ええと、とりあえず木杭の柵を立てて、壁は錬金術で補強、窓は鉄枠を……」

……しかし考えてみれば、リフレクションによる結界は、
不死者への魔力供給を絶ちはするものの、その命がただちに害される訳ではない。
女王パンドラ……でしたっけ。もしパンドラが不死者の動きをコントロール出来るとしたら。
彼らの活動が活発になる夜の間に一斉攻撃を仕掛けてくる可能性はゼロではない。

「となると、柵は木製ではなく金属製の方がいいですよね……。
 ……あ、そうだ。さっきの不死者達の肉片を触媒に、奴らに供給される魔力を横取り出来るかも」

まずはティターニアさんがちゃんと張り直している最中のリフレクションに少し細工を…… 
……うん、うん、行けますね。これを利用して柵に電撃を流して……。
折角なので周囲の植物を変質させて茨の絨毯を作ってみたり……。
でも私達の為の通り道は残しておかないと……逆に敵の進路を限定出来るからここに……。

「あれ、外に出るんですか。そこの魔法陣、踏まないようにお願いしますね。
 今踏むとすごい勢いで魔力を吸い上げられますよ」

…………気づけば私は、キャンプの周辺をちょっとした要塞のように作り変えていました。
皆さんが掃除に勤しんでいる中ずっと……やってしまいました。これは気まずい。

「……いえ、決して遊んでた訳じゃないんですよ。
 ただ不死者達が捨て身の特攻をしてくる可能性を考えると、ある程度の築城は必要かと思いまして」

嘘は言っていませんよ。ただちょっと興が乗っちゃったと言いますか……。
いや、堂々としてればバレませんよね……。

>「おつかれさまでした!キャンプも綺麗になったことですし、お夕飯にしましょう!」

「あっ、ほら、夕飯の準備はまだなんでしょう?急がないと日が暮れちゃいますよ」

>「罠を仕掛ければ簡単な獣は捕れますし、近くの川では魚が泳いでいます。
  もしも持ち込みの携行食だけじゃ味気ないようでしたら、ちょっと行って狩ってくるのも良いかもしれません。
  ……拙僧は、戒律で異教徒以外の殺傷が禁止されているのでご同行できませんけれど」

「……私もご遠慮しておきましょうかね。バフナグリーさんがいないのでは、
 虫に蛇に、何が寄ってくるか分かったもんじゃありませんからね。
 私そういうの駄目なんですよ。特に虫はホントに嫌いで……」

そう言ってから、私ははっとして、指環の勇者の内の一人……あるいは一匹、フィリアさんを見た。

「あー……失礼。今のはこう、知性も何もないただの虫の事を指してまして……」

……ふう、気にしてないと言って頂けて幸いでした。
しかし食事の準備となると、私はあまり手伝える事がありませんね。
料理なんてもう何年もしてませんし……かと言ってもう要塞化は十分すぎるほどですし……。

手持ち無沙汰なまま、時間が過ぎていきます。
……こんなに暇な時間は、久しぶりです。落ち着きません。
そわそわと辺りを見回していると、バフナグリーさんが地面に何やら蝋石を這わせているのが見えました。
あのシンボルの羅列は……

「……神術ですか。魔法とはまた異なる力、神の奇跡……。
 何かコツとかないんですか?神を信じる以外に……」

>「女神様、女神様。今日のご加護に感謝し、今日の糧をいただきます。
 我が血肉となるもの達へ無窮の感謝と輪廻の栄転を」

っと……これは邪魔しちゃ悪いですね。
ジャンソンさん達も準備が出来たみたいですし……私も、もう座っちゃいましょう。
0247 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:46:55.88ID:JILRKLMa
……しかし、長い祈祷ですね。これが神術のコツなんでしょうか。

>「自分たちが得た食事への感謝を女神様に捧げるなんて、奇妙だと思いませんか?
 拙僧もそう感じて、聖女様と夜通し討論したことがあります。あれは本当に疲れました……。

ふと、バフナグリーさんが祈りを捧げながら口を開く。

>これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

……私は、神を信じていません。少なくとも、全能の神の存在は。
古き時代から存在する実体なき意思……悪魔の親戚のようなものはいても不思議ではありませんが。
力ある神が存在するのなら、世の中はもっとマシになってなきゃおかしいですからね。
まぁ……それを口にするほど私も野暮じゃありません。

>「おまたせしました、早速食べましょう!――宗教上の理由でお酒が飲めないのは、とても残念です」

……何故そこで私を見るのでしょうか。

「……バフナグリーさんのところでは作ってないんですか?
 薬草を熟成させる過程で仕方なくアルコールが発生してしまうポーションとか」

教会や修道院って、結構そういう物を作っているイメージがあるんですよね。
まぁ、完全にただの偏見ですし、仮に作っていても彼女は口にしないんでしょうけど。

……それはそれとして、保存食だから仕方のない事なんでしょうけど、今日の夕飯はどれもこれも固いですね。
私は普段あんまり噛まなくてもいい物ばかり食べてるから、なかなか噛み切れなくて……。
私が何の肉かも分からない干し肉と悪戦苦闘していると……ふと、何か音が聞こえました。
天井……二階からですね。結構大きな音でした。

>「パック殿、様子を見てきてくれ」
 「あ、拙僧も行きます。結界があるとはいえ、ここは敵地ですから……ご一緒しますね、パック殿」

……ティターニアさんが展開していたのはリフレクション、魔法を反射する結界。
生物が侵入してくる事は不可能ではない。
仮に何者かが侵入していたとして、バフナグリーさんが不覚を取るとも思えませんが……。

「……念の為、私もご一緒します。前衛、よろしくお願いしますよ」

私はそう言って立ち上がると、階段を進もうとしていたバフナグリーさんの肩に手を置く。
すぐ後ろにいる事を知らせる為です。まぁ、彼女ならこんな事しなくても分かってくれそうですが。
階段の踊り場に差しかかったところで、バフナグリーさんが手鏡で二階を確認する。

「ちょっと待って下さい。目眩ましを仕掛けます」

そのまま足を止めてもらって……魔導拳銃を左手で抜く。
発射するのは……閃光魔法。
ぽん、と軽やかな音と共に射出された光球が踊り場の殆ど真上、天井近くの壁に着弾し、その場で激しい光を放ち続ける。
これで二階に侵入者がいるのなら、その者は階段を直視出来ない。
私達は二階へ上がればこちら側の壁に背を向ける事になるから、目眩ましを受ける事はない。

>「パック殿、ティターニア殿に警戒するようお伝え下さい」

バフナグリーさんがメイスを構えて先行する。
私も二階へ上がると、物陰へ威力を抑えた賢者の弾丸を撃ち込んでいく。
ちょっとした瓦礫や置物くらいなら、私の銃弾は貫けます……が、反応はない。
0248 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:47:58.55ID:JILRKLMa
「……誰も、いませんね」

閃光魔法を一度解除して、代わりに右手に小さな灯りを生み出す。
侵入者はどこにも見えなかった。
不死者が結界の外から石でも投げたのでしょうか。
確かに窓が割れています。私が折角補修したのに……。
まぁ、侵入者がいないなら後はバフナグリーさんにお任せしましょう。
既に何かを見つけたようですし、私はひとまず安全である事を皆さんにお伝えしておきます。

「侵入者はいませんでしたね。代わりに何か、バフナグリーさんが見つけたようですが……」

>「先程の物音の正体です。このキャンプの二階に、この矢が撃ち込まれていました」

階段を降りてきた彼女はそう言って私をちらりと見る。
この矢羽は、確か……

>「この黒い矢は、『月蝶弓』と呼ばれる特殊な長弓にのみ番えられるもの。
  そして当代の帝国において、月蝶弓の使い手は記録されている限りただ一人しか存在していません」

「……『黒蝶騎士』ですね。シェリー・ベルンハルト。
 帝国陸軍大将、ディアマンテ・ベルンハルトの推挙によって黒騎士に名を連ねた帝国軍人です」

もしかしたらご存知だったかもしれませんが、一応補足を挟んでおきますか。
あとこれは言うまでもない事なので口にはしませんが、彼女を推挙したのは彼女の血縁、祖父君です。ですが、

「もちろん、縁故採用で名を連ねられるほど黒騎士の座は安くありません。
 居場所さえ分かっていれば、彼女は大陸の端から端にだって狙撃が可能だとか。
 ……実際、公式の戦闘記録でも、およそ大陸の半分ほどの距離を隔てての狙撃に成功していますからね」

>「我々よりも先に、非公式の星都入りを果たした侵入者……おそらくはそれが、黒蝶騎士です。
  正確にキャンプ・アンバーライトを狙ったことから見るに、彼女は拙僧たちの同行を完全に把握しています」

バフナグリーさんが鏃を指先で撫でる。
赤い光が周囲を照らした。軍用の信号魔法です。

>「一番の問題は――この矢が攻撃用ではなく、連絡用のものだということです。
  より具体的に言うなら、赤い光は帝国軍式の魔術暗号で、『救援要請』を示しています。
  つまり、黒蝶騎士はどこかから、キャンプにいる拙僧たちへ向けて、救援を求めているということ」

黒蝶騎士が、救難信号……にわかには信じがたい事です。

>「罠、と見るのが最も妥当かもしれません。しかし、罠にしては誘いがあまりに安直です。
  黒蝶騎士を窮地に追い込めるような存在がこの地に居るなんてことは想像したくもありませんが……
  拙僧達や、皇帝陛下の預かりの及ばない場所で、もっと厄介な何かが起きている可能性があります」

バフナグリーさんが私に矢を差し出す。はいはい、一応ちゃんと調べてみますよ。
とは言え、

>「このまま祖龍の神殿を目指すか、救援信号の主を追うかは、指環の勇者殿にお任せします。
  どのみち、動き始めるのは夜が明けてからとなるでしょう。拙僧は二三日寝なくても大丈夫なので、見張りに立っています」

受け取っておいてなんなんですけど、この矢が本物か偽物かなんて私にも分かりませんよ。
まず本物を見た事がありませんし。
0249 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:48:50.56ID:JILRKLMa
「……ちょっと待ってもらえませんか、バフナグリーさん。
 この矢、少し調べてみますが……一応、神術の準備をお願いします」

ですが、出来る事がない訳じゃありません。私は受け取った矢に魔力を流し込む。
染み込ませるようにゆっくりと。『フロート』です。
既にエンチャントされている魔法を、後から流し込んだ魔力によって押し出す技術。
浮かび上がってきたのは……黒い蝶々。
……蝶は私の方へふわりと近寄ってくる。
警戒しつつ、人差し指をそちらへ伸ばす。

「っ……!」

瞬間、体が宙に浮き上がるような感覚が私を襲う。
まるで体から重さがなくなって、羽毛のようになって……どこかへ吹いて飛ばされてしまうような。
意思に反して体が動こうとするのを、気を強く持って堪える。

「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」

まぁ私も主席魔術師ですからね。
そう危なげなく無効化する事が出来ましたが……もし何度も重ねがけされたら、抗えるかどうか。
とは言え十分な分析も出来ず、ただ跳ね除けてしまったのは正直、屈辱です。
このまま引き下がれるものですか。私はもう一度、慎重に黒蝶に手を触れる。

「……なんですか、これ。
 複雑……と言うよりは、煩雑な落書きが結果的にとんでもない効果を発揮してる。
 そんな術式です……こんなの魔法と言うより、ただのアビリティだ」

人が空を飛ぶには魔法が必要ですが、鳥が空を飛べるのを魔法とは呼ばない。
魚が素早く泳ぎ、兎が風のように地を駆けるのも、魔法じゃない。
ただの特技、能力……この黒蝶は、魔法よりもむしろそれらに近い。
これが黒蝶騎士のものかは分かりませんが……術者は生半な使い手ではない事だけは確かです。

「とりあえず……この蝶々、捕まえておきましょう。
 さっき感じた強制力は、もしかしたら術者の場所へ私を誘う為のものだったのかもしれません」

……それと、これは言うべきか悩んだんですが、

「……この救難信号、明日の明朝に確認に向かいましょう。
 黒蝶騎士がもし私達の敵なら、このまま神殿に向かうのはあまりに危険です」

黒蝶騎士は既に私達の所在を掴んでいます。
不死者の女王との戦闘が終わった頃合いで狙撃をされたら、防御の余裕があるか分かりません。
……それに、もし敵だったとしても。これ以上黒騎士が帝国から失われるのは良くない。

光の竜とか、虚無の竜とか、そういうのが全部終わった後で、
ハイランドとダーマがこれからはみんな仲良く生きていこう……なんて言ってくれるかは分からないんですから。
ひねくれた、穿ったものの見方をしている自覚はありますよ。
でも仕方ないじゃないですか。私は主席魔術師なんです。
私が、帝国で一番優れた魔術師なんだから……私が、一番しっかりしないといけないんです。

「……それにもし敵でないのなら、味方に出来れば、彼女は心強い戦力です」

そして翌朝。結局、私は昨夜の意見を貫き通しました。
こう言ってはなんですが、ティターニアさんはエルフの中でも一際甘いヒトです。
例え他の人が難色を示しても、彼女に訴えかければ聞き入れてくれるのは分かっていました。

昨夜、あの後リフレクションで構築した小型結界に捉えた黒蝶を方位磁石代わりに、私達は密林の中を進んでいきます。
暫く歩き続けると、異変が目に留まりました。とても分かりやすい異変が。
木立に、矢によって縫い留められた大量の不死者。
たった一本の矢で射抜かれています。そして……死んでいます。
0250 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:50:23.62ID:JILRKLMa
一体いかなる手段で再生能力が阻害されたのかは、分かりませんが。
それから更に歩みを進めると……
0251 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:51:59.69ID:JILRKLMa
「……バフナグリーさん、あれは」

木々の隙間の向こうに垣間見える、自然物ではない彩色。
バフナグリーさんが大木を殴り倒すと、その輪郭がはっきりと見えました。

……木々に矢を打ち込み、その間にハンモックを吊るして眠る、齢十八ほどの少女。
ブラックオリハルコン製の、プレートメイル。
0252 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:52:24.05ID:JILRKLMa
「間違いなく、黒蝶騎士、シェリー・ベルンハルトです。あんな鎧、見間違えようがない」

弓兵でありながら、黒騎士故に最前線に立たざるを得ない時が来る事を想定して、
彼女の鎧は他の黒騎士とは違い、軽さを非常に重視した造形になっています。
ですが……私が見間違えようがないと言ったのは、そういう意味ではありません。
今回は私の後ろに回ってもらったジャンソンさん達も、見てみれば分かります。
……皇帝陛下より拝領した鎧のあちこちにルビーにサファイアに、あれこれ装飾を施しているあの姿。
ね?見間違えようがないんですよ。
容姿もまぁ……淡い桃色の波打つような長髪に、月明かりで染めたような白すぎるほど白い肌。
過去に何度か見た事のある、彼女のものです。

「……それにしてもまぁ、気持ちよさそうに寝てらっしゃいますね」

ひとまず起こさないと話が始まらないんですが……
戦場で眠っている黒騎士を起こすなんて、そんじょそこらのドラゴンを退治するより危険です。
彼女がいつから寝ているのかは知りませんが、事実として、不死者は彼女に返り血一つ浴びせられていない。

「防御の準備だけは万端にしといて下さいよ……」

そう言うと私はバフナグリーさんに先導を頼んで……
次の瞬間、彼女にめがけて何かが飛来した。

「『プロテクション』」

すかさず防御魔法を展開。
ただし対象はバフナグリーさんではなく、彼女に飛んできた何かの方。
防御魔法で包み込む事で空中に固定して、その造形を確認。
……木の枝?

「……あの黒蝶を使った即席のトラップでしょうか。
 気をつけて下さいね。同様の物がまだまだ仕掛けられて……」

そこで、私は思わず言葉を失った。
目の前に浮かび上がる、無数の小枝、木の葉、石、骨片。
バフナグリーさんが巨木を殴り倒して開けた空が、再び見えなくなるほどの物量。

「……っ!」

咄嗟に魔導拳銃を抜き、二つの銃口を空へ向ける。
この『ナイト・ブリーチャー』と『ドーン・ブレイカー』は私専用の特製品。
汎用性の高い魔法を幾つか、無詠唱で発動出来るようカスタムしてあります。
展開するのは言うまでもなく『プロテクション』。
二重に展開した防御魔法に……無数の『鏃』が襲いかかる。
ぴしり、と、肝が冷える音がした。
たかが小枝や、石ころが、この私の防御魔法を……これが、黒騎士の力。

「プ、『プロテクション』!手、手を貸して下さい!これは持ちません!」

慌てて魔導拳銃を経由せずプロテクションを重ねがけする。
それでも、この圧力は……ずっと防ぎ続けるのは無理です!
もっかい指環の力を見せて下さいよ!薙ぎ払って下さい!
…………し、死ぬかと思いました。
0253 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:52:53.09ID:JILRKLMa
「ん……ふああ……」

私達がなんとか鏃の雨を凌ぐと、黒蝶騎士が大きな欠伸と共に、ハンモックから体を起こしました。

「……あれ?誰?あなた達。こんなに近くに寄ってきて、なんで生きてるの?」

……自分から救難信号を送っておいて、何を寝ぼけた事を。
私は預かっていた漆黒の矢を彼女に見せる。
0254 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:53:38.34ID:JILRKLMa
「あ……そっか。じゃああなたが……ええと、うーん……あっ!ジャンソンさん!」

「どうしてそーなるんですか!私はシャルムです!シャルム・シアンス!ジャンソンさんはこちらですよ!」

一応、何度か顔を合わせた事があるはずなんですがね……。
魔導拳銃の売り込みで軍部を訪ねた時とか……。
いや、やめましょう。彼女のペースで会話をしても不毛なだけです。
私は魔導拳銃を抜き、黒蝶騎士に銃口を突きつける。

「……答えて下さい。あなた、何故ここにいるんです?」

「えー?なんでだっけー……ああ、そうそう。キーゼルさんにお願いされちゃったんだよねぇ。
 指環の勇者なんかやっつけてえ、指環全部もらっちゃおうよーって」

「……確か、帝国陸軍の少将の一人です。
 権限的には、独断で黒騎士を動かすのは不可能じゃありません」

小声で、ジャンソンさん達に向けてそう呟く。
……もっとも、本来は他の将校が制止をかけます。そんな独断が通るはずはないんですが。
人の記憶を操る光の竜に、世界に破滅をもたらす虚無の竜……でしたっけ。
何か、良からぬ事が起きているのかもしれません。
ですが今は……目の前の事に集中しないと。

「では……救難信号は私達を呼び寄せる為の罠だった、という事でいいんでしょうか」

突きつけた銃口は微動だにさせないまま、問いを重ねる。

「んーん、違うよ。実はねー……もう一人、いるっぽいんだよね」
「……なにがですか?」
「ここに忍び込んでる、悪い子ちゃん」
「……馬鹿な。昨夜の魔力反応は一度だけだった」
「あ、やっぱりあなた達も知らないんだ。うーん、じゃああの人誰だったんだろ」

……彼女は、人柄が独特すぎて今ひとつ言葉の真偽が分からない。
真意も、見えてこない。
結局彼女は何がしたくて私達を……

「でもよく分かっちゃった。結局、あなた達もまったく状況をコントロール出来てないんだね」

不意に、彼女の口調が変わった。
見た目通りの、年頃の少女の声音が……冷たい黒騎士の声に。

「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

瞬間、私は『賢者の弾丸』を放っていた。
私の中にある直感が、私に撃てと声を張り上げていた。
黒騎士を死なせる訳にはいかない。なのに弾頭を制圧用の電撃弾に変える事すら忘れていた。
そして……

「私、急いでるのよね。早く全部終わらせて、お家に帰りたいの。
 軍閥とか、政権とか、どうでもいいのに……」

黒蝶騎士シェリー・ベルンハルトは、自らの得物……月蝶弓をこちらに向けていた。
私の放った弾丸を、その弓の弦で受け止めて。

「だから……不死の女王も、虚無の竜も、私が全部仕留めといてあげるからさ」

……言葉が出ない。本当に同じ人間かと疑いたくなるほどの、技量なんて言葉では説明出来ない凄まじさ。
受け止められた弾丸に、黒蝶が宿る。
0255 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 19:55:28.12ID:JILRKLMa
「その指環、私に貸してくれない?」

……正直なところ、私は状況を楽観視していました。
0256 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/01(火) 20:01:23.78ID:JILRKLMa
シェリー・ベルンハルトは黒騎士とは言え、弓使い。
これだけの人数で防御を代わる代わる行いながら進めば接近出来ないなんて事はないと。
実際にはもっと容易く接近出来て、この距離なら彼女も十全の力は発揮出来ないだろうと。

だけどそれはとんでもない見当違いだった。
彼女はどんな戦闘でも敵の接近を許す事はなかった。
それはただ単に、相手が接近する前に全ての戦いが終わってしまっていただけで……。
接近戦における彼女の能力、実力は……全くの未知数。

そして……弾丸が射返された。
プロテクションを二重展開……一枚が完全に打ち砕かれ、二枚目にも深い亀裂が走る。
私が発射した時より、威力が高い。
弦を用いた防御、相手の攻撃を本来以上の威力で射返す技量……とことん、デタラメですね。

シェリー・ベルンハルトが再び弓を構える。今度は、あの漆黒の矢を番えて。
来る……決して狙いを誤る事のない必中の狙撃が。

それに、これは……黒蝶が次々に宙に現れて、周囲に広がっていく。
数え切れないほどの蝶……これら全てに、あの体の自由を奪う強制力が宿っている……?
私も結構な天才だと自負していますが……彼女も、とんだ怪物だ。

「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」



【きな臭くしたかっただけー】
0257スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:35:48.19ID:TlCcoAOi
>「おうともよ!行くぜアクア―――『トルレンス』」
>「――”リフレクション”! 我の推測が正しければこれで……」

ティターニアがマナの供給を切断し、そこへ寸毫の狂いなく叩き込まれた風と水の指輪の一撃。
無限の再生を封じられた大型不死者は頭から真っ二つになり、両片は波濤の魔力によって細切れとなった。
股下まで雷鳴と同速で駆け抜けたスレイブが風の魔力でふわりと着地すると同時、不死者の破片が雨あられと地面を打つ。
その一片一片に、再び蘇りうごめく気配はない。

>「――やはりな。都市のどこかに何らかの魔力の供給元があるらしい。おそらく、これから向かう竜の神殿か――
 今のは魔法反射の魔術の応用で結界の外からの魔力の供給を遮断した、というわけだ」

「ということは……この不死者共を操っていたのはやはり女王パンドラか。
 俺達の居所が知られたのは良くないな。うかつに野営はできなくなる」

やはり適当な建物に築城するのが無難だろう。
先行して抜け目なく残党を打ち払っていたアルダガが戻ってきた。

>「……掃除完了ですね。じきに夜が来ます、今夜はこのキャンプに宿をとりましょう」

>「冒険者的にはこれでも一晩過ごすのに十分な環境なんでしょうか。
 私としては……もう少し清潔な環境で寝泊まりしたいものなんですが」

「任せてくれ。故あって俺はこうした廃墟の掃除にも覚えがある。ジュリアン様の居室の掃除も俺の仕事だったからな」

「待て、廃墟の掃除と俺の部屋の掃除が何故結びつく……そんなにか?」

ジュリアンが珍しく戸惑ったような声を漏らし、スレイブは目を伏せて首を逸らした。
愕然と絶句する上司の方を見ないようにしながら、スレイブは腕鎧を外してインナーの袖をまくる。

「日が暮れる。迅速果断にとりかかろう」

キャンプ・アンバーライトの清掃作業には夜までかかった。
壁をびっしりと覆うツタを山刀で切り離し、湧いてくる羽虫を払いながら外へと放り出す。
石畳を割って生えている雑草の根は、出力を抑えた火炎魔法で焼き払う。
山積みになった瓦礫はジャンに頼んで破壊してもらい、小石ほどのサイズにして風魔法で掃き出した。

>「あれ、外に出るんですか。そこの魔法陣、踏まないようにお願いしますね。
 今踏むとすごい勢いで魔力を吸い上げられますよ」

「あんたは何をやってるんだ、掃除もせずに……これはブービートラップか?夜戦築城そのものだな……」

スレイブ達が掃除に明け暮れる一方で、シャルムはキャンプの外周に何やら細工を施していた。
ここは敵地だ、用心をしておくに越したことはない。
研究畑というにはやけに手慣れたトラップの構築を眺めていると、シャルムはこちらの視線に気付いたようだった。

>「……いえ、決して遊んでた訳じゃないんですよ。
 ただ不死者達が捨て身の特攻をしてくる可能性を考えると、ある程度の築城は必要かと思いまして」

「異論はない。明日の朝、俺達がここを出るときに引っかからなければな」

全方位にトラップを設置した結果、拠点から出られなくなったというのは兵士によくある失敗談だ。
シャルムがその愚を犯すとは思わないが、まるで積み木を並べる子供のように生き生きとした表情を見ると少しだけ不安になる。

>「あっ、ほら、夕飯の準備はまだなんでしょう?急がないと日が暮れちゃいますよ」

「そうだな。俺はそこの川で魚でも捕ろうか。ジャン、狩りに出るなら付き合うぞ」
0258スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:36:46.07ID:TlCcoAOi
魚を捕るにせよ、獣を捕らえるにせよ、風の指環の魔力は大いに役に立った。
小規模な竜巻の中に獲物を捉えて動きを封じ、宙に浮かせて首を斬ればその場で血抜きも出来る。
木の上にある果物は、スレイブが跳躍術式でジャンプしてもぎり取る。
ほんの小一時間その辺をうろつくだけで、同行者全員が腹を満たせる程度の収穫があった。

『指環の力はこんなことに使うためにあるわけじゃないんじゃがの……』

獲物の血抜きを行うスレイブの手際を眺めていたウェントゥスが、複雑な表情でぼそりと漏らした。

「なにも戦争や敵を斃すためだけに指環があるわけじゃないだろう」

『それはそうなんじゃが、便利な十徳ナイフ程度に扱われるのもなんかすごい屈辱じゃ』

「そう言うな。ほら、あんたのお陰で捕れた新鮮な魚だぞ。流石は風竜、人々の役に立つ素晴らしい力だな」

『雑な宥め方じゃなあ!』

両手一杯の収穫を持って拠点に戻ると、既に夕飯の下準備は済んでいるようだった。
アルダガが床に蝋石で文様を描き、そこへ食材を置いて女神への祝詞を捧げる。

>「これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

「……ダーマにはない価値観だな。暗黒大陸の神は、供物と力を酷い天引き率で交換する邪な神ばかりだ」

ダーマ魔法王国は数多の種族がその数だけ別々の神を奉じる多宗教国家だ。
土着の神――『魔神』は確たる存在として生息し、その土地から供物を吸い上げて生きている。
そして、国家に仇なすとみなされた魔神の討滅も、暗黒大陸においては日常茶飯事だ。
"知性"を供物とする魔神バアルフォラスが、かつてスレイブによって殺されたように。

神と直に触れ合うことのできるダーマでは、帝国のように超越した存在として神を崇拝することはない。
ダーマの神は、そういう生態をもった一つの生き物に過ぎないのだ。

>「おまたせしました、早速食べましょう!――宗教上の理由でお酒が飲めないのは、とても残念です」

「う……酒の話はやめてくれ。俺はもう生涯酒は呑まない。絶対に、絶対にだ。
 ……少なくとも帝国にいるうちは呑まない。あ、いや、星都の攻略中は呑まない」

『意志が薄弱過ぎるわ……』

どんどん決意のハードルを下げるスレイブを、ウェントゥスが半目で切り捨てた。
そうして焚き火を挟んだ晩餐をみなで摂っていると、不意にキャンプの二階で物音が聞こえた。
ティターニアがピクリと反応すると同時、スレイブも脇に置いてあった剣を掴んだ。

>「パック殿、様子を見てきてくれ」
>「あ、拙僧も行きます。結界があるとはいえ、ここは敵地ですから……ご一緒しますね、パック殿」
>「……念の為、私もご一緒します。前衛、よろしくお願いしますよ」

「頼んだ。俺は地上からの接敵を警戒しておく」

シャルム、アルダガ、パックの三人が物音の正体を確かめに階段を上がっていく。
スレイブはティターニアの傍まで移動して、静かに長剣を鞘から抜いた。
刃渡りのまっすぐな長剣は、納刀状態からの抜き打ちには向かない。
同時にバアルフォラスもシースから取り出して、いつでも戦闘に入れるよう身構える。

しばし息の詰まるような緊張が場を支配して、階上へ向かった連中が突入する音が聞こえた。
先んじて戻ってきたパックが警戒の要を伝え、追ってシャルムも階段を降りてくる。
0259スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:37:21.09ID:TlCcoAOi
>「侵入者はいませんでしたね。代わりに何か、バフナグリーさんが見つけたようですが……」

シャルムの言葉にスレイブはようやく息を吐いて剣を鞘に戻す。
最後に一同のもとへと帰ってきたアルダガは、一本の大きな矢を手に持っていた。

>「先程の物音の正体です。このキャンプの二階に、この矢が撃ち込まれていました」

「黒の……矢羽。俺も人伝いにだが聞いたことがあるぞ」

>「……『黒蝶騎士』ですね。シェリー・ベルンハルト。
 帝国陸軍大将、ディアマンテ・ベルンハルトの推挙によって黒騎士に名を連ねた帝国軍人です」

「黒蝶騎士……!やはり侵入者というのは黒騎士だったか……!」

道中でアルダガの告げた"侵入者"の兆候。
その隠蔽に元老院が関わっているとすれば、送り込まれたのは元老の息のかかった戦力であると踏んでいた。
そして、指環の勇者に黒鳥騎士、主席魔術師まで含んだ一行へのカウンターとして放つなら、同等の戦力が必要となる。
それが黒蝶騎士。シャルムによれば大陸間の狙撃さえも完遂させた、掛け値なく人類最強の弓使い。

>「一番の問題は――この矢が攻撃用ではなく、連絡用のものだということです。
 より具体的に言うなら、赤い光は帝国軍式の魔術暗号で、『救援要請』を示しています。
 つまり、黒蝶騎士はどこかから、キャンプにいる拙僧たちへ向けて、救援を求めているということ」

アルダガが黒の矢に魔力を流すと、赤の光が部屋の中を染め上げた。
否応なしに警戒を強めさせられる仰々しい色合いは、帝国式の信号弾のものだという。

「黒蝶騎士が、助けを求めている……?秘密裏に侵入したにも関わらず、俺達にその存在を知らせてまでか?
 解せないな。再生だけが取り柄の不死者程度に、黒騎士が追い詰められるとも思えない」

>「罠、と見るのが最も妥当かもしれません。しかし、罠にしては誘いがあまりに安直です。
  黒蝶騎士を窮地に追い込めるような存在がこの地に居るなんてことは想像したくもありませんが……
  拙僧達や、皇帝陛下の預かりの及ばない場所で、もっと厄介な何かが起きている可能性があります」

「頭が痛いな……いや、酒が残ってるわけじゃなくてな。世界の危機だというのに頭痛の種が増えるばかりだ」

黒蝶騎士のバックに居るのが何者であれ、指環の勇者とは別の思惑で指環に関わろうとしている者がいることは確かだ。
虚無に堕ちた女王パンドラでさえ不死者を指揮する厄介な相手だというのに、この上黒騎士まで相手取らなければならない。
正直言って、黒蝶騎士はこのまま見捨てておいたほうが色々とスムーズに行くとさえ思える。

>「っ……!」

と、黒羽の矢を調べていたシャルムが、不意に痙攣した。
すわ何事かとスレイブは再び剣に手をかけるが、どうやら大事には至らなかったようだ。

>「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」

「クロ、だな。敵意と害意がこの矢には盛りに盛られている。これはもう完全に罠だろう」

矢に込められた魔法はおそらく、救援信号を受け取った者を有無を言わさず自分のもとへ呼び寄せるもの。
魔法に触れたのがシャルムでなければ、たとえばスレイブなら、万難を排して黒蝶騎士の方へと向かったに違いない。

>「……この救難信号、明日の明朝に確認に向かいましょう。
 黒蝶騎士がもし私達の敵なら、このまま神殿に向かうのはあまりに危険です」

「場合によっては後ろから撃たれることもあり得るということか……そいつは、ぞっとしないな」

大陸を縦断しての狙撃さえも可能な黒蝶騎士の弓さばき。
このセント・エーテリアならどこにいたって彼女の射程範囲内だ。
放置して女王パンドラとの戦いに挑むには、危うすぎる後顧の憂い。
0260スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:37:41.25ID:TlCcoAOi
>「……それにもし敵でないのなら、味方に出来れば、彼女は心強い戦力です」

――それは、あまりにも希望的すぎる観測だと。
思いはしても、スレイブは口に出すことができなかった。

・・・・・・――――――
0261スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:38:13.65ID:TlCcoAOi
翌朝。昨晩の残りを温め直した簡単な朝食を摂ると、一行はキャンプ・アンバーライトを出立した。
向かう先は矢を撃ち込んできた黒蝶騎士の居所。奇しくも先方の目論見通りだ。
シャルムが捉えた黒蝶を案内人として、鬱蒼と茂る密林を再び切り拓きながら進んでいく。
しばらく代わり映えのない景色が続いていたが、ある時を境に視界の色合いがガラリと変わった。

「……不死者の遺骸。再生も、分裂さえも許さず一撃で仕留められているな」

地面を染め上げる夥しい赤黒い血痕と、その主たる不死者の残骸。
無数のそれらは、たった一本の矢によって大木に縫い止められ、尽くが絶命していた。
矢の尻には、黒の矢羽――この死体の山を作り上げたのが黒蝶騎士であるという、何よりの証左だ。

一体如何なる技量を用いれば、無数の不死者を一撃の矢で全て仕留めることができるのか。
想像の及ばない世界の一端を垣間見た気分になって、スレイブは寒気を覚えた。

>「……バフナグリーさん、あれは」

先導するアルダガの後ろについていたシャルムが、声を低くして何かを示す。
その指の先には、木々の間に渡したハンモックで眠る、一人の女の姿があった。
若い。歳はスレイブやラテとそう変わらないだろう。少女から女性へと変わる過渡期のような、あどけなさを残している。

そして、黒騎士の代名詞とも言えるブラックオリハルコン製の鎧――
弓士らしく、軽鎧として仕立てられたその鎧には、色鮮やかな宝石が散りばめられている。
無骨な鎧に宝石の装飾というミスマッチが、しかし奇跡的なバランスによって両立し、確固たる存在感となっていた。

「あれが黒蝶騎士――!随分と若いな、俺より歳下なんじゃないか」

この期に及んで益体もない感想が漏れるのは、目の前の光景にどこかお伽噺めいた現実感のなさがあったからだ。
木漏れ日のなか、まるで休日の令嬢のように眠る黒蝶騎士の姿は、一枚の絵画のように美しい。

>「防御の準備だけは万端にしといて下さいよ……」

シャルムに促され、ようやく現実へと戻ってきたスレイブは、音を立てないよう静かに剣に手をかけた。
帝国最強戦力、黒騎士。帝国全土で7つしかない席の一つを占める者。
そしてスレイブたちは、その眠れる虎の尾を、今から踏み抜きに行くのだ。
アルダガが一歩踏み出して、その足元で微かに何かが弾ける音がした。

>「『プロテクション』」

刹那、何かがアルダガ目掛けて飛んできて、シャルムがそれを防護魔法でキャッチした。
矢もかくやの速度で飛来したのは、何の変哲もない小枝。

>「……あの黒蝶を使った即席のトラップでしょうか。
 気をつけて下さいね。同様の物がまだまだ仕掛けられて……」

「なっ――!?」

シャルムが言葉を終えるよりも先に、周囲の大気が大きく震えた。
音の正体は、そこかしこから飛び上がった枝に小石に骨の欠片。
夥しい量のそれらは一度空へと浮かび上がると、まるで号令をかけられたかのように一斉にスレイブ達へと降り注いだ。

「挙動をトリガーとした多段トラップ……!この物量、まずいぞ!押し切られる!!」

>「プ、『プロテクション』!手、手を貸して下さい!これは持ちません!」

一つ一つに込められた魔力は礫としての威力を確実に引き上げ、シャルムの重ねがけした防御壁が見る間に削られていく。
スレイブは指環に魔力を走らせ、掌を空へと掲げた。

「逆巻く風よ、礫を弾け――『エアリアルシェル』!」
0263スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:39:56.03ID:TlCcoAOi
シャルムの防御壁より一回り大きな竜巻のドームが出現し、強風が飛来する礫の軌道を逸らす。
スレイブ達を中心とした円形状に地面が穿たれ、抉り取られていくさまは、トラップの常軌を逸した威力を十分に思わせた。

>「……あれ?誰?あなた達。こんなに近くに寄ってきて、なんで生きてるの?」

耳元で展開される地獄絵図を、まったく意に介すことなく眠り続けていた黒蝶騎士。
彼女は今まさに起きたとばかりに起き上がると、大きくけのびをしてハンモックから降りた。

「ご挨拶だな、あんたが俺達を呼んだんだろう。それともその月蝶弓の使い手が帝国に二人と居るのか?」

>「……答えて下さい。あなた、何故ここにいるんです?」

シャルムが油断なく魔導拳銃を構え、黒蝶騎士に問う。
返って来た答えは要領を得ないが、要約するに黒蝶騎士が星都へ侵入したのはやはり帝国上層部の差金だったようだ。
皇帝の意に反する差配がまかり通っているのは、帝国内が祖龍復活に揺らいでいるからか。

>「では……救難信号は私達を呼び寄せる為の罠だった、という事でいいんでしょうか」
>「んーん、違うよ。実はねー……もう一人、いるっぽいんだよね」
>「ここに忍び込んでる、悪い子ちゃん」

「侵入者は黒蝶騎士だけじゃ、ない……?どういうことだ、まさか別の黒騎士も入り込んで来ているのか?」

晩餐会で皇帝さえも黒鳥騎士アルダガの所在を把握できていなかったことから察するに、
黒騎士の居所は軍事機密として極僅かな者を除いて伏せられているのだろう。
仮に黒蝶騎士の協力を得られたとしても、事態の全貌は彼女さえも知りはしないのだ。
そして、黒蝶騎士もまた同じ結論に達したようだった。

>「でもよく分かっちゃった。結局、あなた達もまったく状況をコントロール出来てないんだね」
>「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

――お互いに情報不足なら、協働体制を取る利点はない。
黒蝶騎士にわずかに残っていたあどけなさが完全に消え失せ、百戦錬磨の武人の顔が表に出る。

刹那、シャルムが射撃した。
不死者の胴に一撃で大穴を空けたあの魔導拳銃が、黒蝶騎士へ向けて仮借なく火を吹く。
しかし――黒蝶騎士が致死の弾丸に穿たれることはなかった。

「弦で――弾を――受け止めただと――!?」

音よりも速く飛翔する弾丸を、こともなげに振るった弓の弦が捉えていた。
人智を超越した技巧に、スレイブは己の眼を疑わざるを得ない。
炸裂するはずの術式が機能せず、代わりに黒の蝶が弾丸に宿る。

>「その指環、私に貸してくれない?」

弦の張力によって跳ね返された弾丸が、発射元であるはずのシャルムへと飛んだ。
咄嗟に彼女の張った二枚重ねのプロテクションのうち、一枚は完全に貫通し、もう一枚にも大きな亀裂が入る。
信じられないといったシャルムの表情を見るに、弾丸の威力は発射された時よりも格段に上昇していた。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」

既に黒蝶騎士は二の矢を弓に番えている。
加えて無数の魔力で編まれた蝶が周囲を飛び交い、彼女の制空権を確たるものとしていた。

「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」

矢に比べれば遥かに軽量な銃弾を、それも不安定な態勢で跳ね返してなお、あの威力。
番えられ、今まさに放たれんとしているあの矢をまともに受ければ、それこそ木に縫い留められた不死者たちの二の舞だ。
0264スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:40:27.17ID:TlCcoAOi
「ウェントゥス!」

『わかっとる!』

言葉一つで意図を伝えあった指環の勇者と竜は、お互いに現在の魔力で可能な全ての魔法をその身に行使する。
跳躍術式、回避術式、幻影術式、防御術式。魔力の篭った風がスレイブの全身と、構えた長剣を包み込んだ。
風魔法は飛び道具と相性が良い。これだけ重ねがけした障壁ならば、いかに強力な矢であっても阻めるはずだ。

「行くぞ!」

対空起動剣術の跳躍力で、黒蝶騎士目掛け突進するスレイブ。
凝縮した時間感覚の中で、引き絞られた矢が長弓から放たれるのが見えた。

「――――ッ!!」

風切り音すら遅れて聞こえる超速の射撃。
もはや一筋の黒い閃光と化した矢が、スレイブを包む風の結界に突き刺さる。

『あ?あああ?ウソじゃろ!!?』

ウェントゥスが悲鳴を上げる。
黒の矢は、幾重にも張り巡らされた風魔法の障壁を一切の遅滞なく貫いた。

「馬鹿な……!」

それでも僅かに軌道が逸れ、スレイブの肩口を切り裂いた矢が背後へと抜けていく。
風の中を鮮血が舞い、それが地面に落ちると同時、矢が飛んでいった方向から爆発じみた轟音が響いた。
矢が壁に着弾した音だと理解するのを脳が拒む。一体どれほどの力が込められているのか。

「あれ、外しちゃった?寝起きで弓引くもんじゃないね」

『飛び道具に儂の風魔法が押し負けた……?どういう張力しとるんじゃあの弓!』

だが、初撃はなんとか命に届かなかった。
肩口は大きく切り裂かれたが、急所は無事だ。問題なく剣を振れる。
そしてスレイブは、黒蝶騎士を長剣の間合いに捉えた。
0265スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/04(金) 01:41:05.11ID:TlCcoAOi
黒蝶騎士がシャルムの銃撃に対応したのと同じように、剣の軌道へ弓を置く。
受け止めるつもりか。だが銃弾とは違い、こちらが振るうのは剣だ。

(その弓の弦を断ち斬る――!)

鋼鉄さえも切断する鋭さを持ったスレイブの長剣が、弧を描いて月蝶弓の弦に直撃した。

――斬れない。
斬撃は手応えすら返らないほど完璧にいなされ、弓の弦でピタリと止まる。

「なっ……!?」

「良い剣だね。でもちょっと矢にするには重すぎるかな」

表情一つ変えずに剣を受けきった黒蝶騎士は、剣に弦を添えたまま弓を引き絞った。
ギリギリと悲鳴じみた音を立ててしなる弓は、ただならぬ張力を秘めていることを否応なしに伝えて来る。
これから起きるであろう現象を、スレイブは悟ってしまった。

「品評終わり。はい、返すね」

『剣を構えたスレイブ自身』を矢に見立てた、月蝶弓による射撃。
音の速さで撃ち出された剣の柄がスレイブの胸当てに着弾し、ミスリルの板金を容易く歪ませる。
慣性は余すことなくスレイブの全身へと伝わり、彼は矢と同じ速さで吹っ飛ばされた。

(人間一人を丸々矢として撃ち出しただと……!)

黒蝶騎士。人類最強の弓使い。
黒鳥騎士アルダガのようなある意味分かりやすい怪力ではなく、その深奥は卓越した体捌きと力の制御だ。
少女の細腕で引けるはずもない剛弓を引き、弾を受け止め、斬撃をいなし――人一人さえ射飛ばして見せた。

「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」

警告を最後に、スレイブは壁に叩きつけられて深く埋まった。
奇しくも先に飛んでいった矢と同じ場所への着弾で――おそらくはそれも、黒蝶騎士の狙い通りだった。


【黒蝶騎士と戦闘開始。剣ごと矢として撃ち出されてかべのなかにいる】
0266ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/05/06(日) 16:25:03.99ID:1hO1ktT1
>「お見事です、流石は指環の勇者……拙僧と戦ったときよりもずっと強く、指環を使いこなしているんですね」

「……そっちも強くなったみてえだな、メイスの一振りで吹っ飛ばされそうだぜ!」

迷いや躊躇いを感じさせないアルダガの戦闘はとても力強さを感じさせるものであり、
腕力に限らず純粋な力を奉ずるオーク族では尊ばれる戦い方だ。

冒険者となったジャンも例外ではなく、自由都市での戦闘からさらに強くなったアルダガとの
戦闘に期待し、その嬉しさからアルダガに威勢よく返答を返す。

>「……掃除完了ですね。じきに夜が来ます、今夜はこのキャンプに宿をとりましょう」

>「そうですね……ところで、ジャンソンさん。このキャンプ・アンバーライトなんですが。

帝国が放棄したおかげで長年掃除もされず、不死者たちがねぐらにしていたせいで謎の肉塊があちこちにあるこのキャンプ・アンバーライト。
冒険者として馬小屋や骸骨が転がっている遺跡で寝泊まりしたジャンにとっても、なかなかつらい環境だ。

「瓦礫とか邪魔なもんはまとめて壊しちまおう。肉の塊は……ちょっと食べる気分じゃねえな。
 掃除は水で流して火で乾かして、風で吹き飛ばせばすぐだろうよ」

単純な魔力の容量では世界最高峰の遺物であろう指環も、冒険者が使えばただの便利道具。
水を垂れ流したり親指ほどの火で焼く程度なら消費も少なく、あっという間にきれいになっていく。

>「あれ、外に出るんですか。そこの魔法陣、踏まないようにお願いしますね。
 今踏むとすごい勢いで魔力を吸い上げられますよ」

『ジャンがさっきからぐったりしてるのはそういうことかい。
 元々魔力の少ないオーク族にはつらいどころではないだろうね……』

>「おつかれさまでした!キャンプも綺麗になったことですし、お夕飯にしましょう!」

>「あっ、ほら、夕飯の準備はまだなんでしょう?急がないと日が暮れちゃいますよ」

>「そうだな。俺はそこの川で魚でも捕ろうか。ジャン、狩りに出るなら付き合うぞ」

「お、おう……ようやく動けるようになってきたぜ……」

その後のスレイブとの狩りで幾分調子は戻ってきたが、ジャンはどこか身体に気だるさが残ったままであった。
遺跡や洞窟に潜る際、いかに罠の知識が重要かを痛感しながら焚火を皆と囲む。

夕食の直前、アルダガが何かの儀式をしていた。
それは女神への祈りであり、防毒と浄化の法術も兼ねた実用的なものだ。

>「これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

>「……ダーマにはない価値観だな。暗黒大陸の神は、供物と力を酷い天引き率で交換する邪な神ばかりだ」

「俺たちオーク族は神様なんていねえな。むしろ他の種族の神様を俺たちの英雄がぶん殴る逸話しか聞いたことねえや。
 空を飛ぶ魔神を天まで吹っ飛ばして星にしたとか、炎を操る魔神を地面に埋め込むぐらい殴って火山になったとかそういうやつ」
 
暗黒大陸には古代文明よりも昔から、古龍と同じかそれ以上に古くから生きる生物が存在している。
彼らは皆一様に魔神と名乗り、加護の代償として生贄や宝石といった即物的な供物を好む。

オーク族はダーマ建国以前からそういった魔神の横暴に苦しむ他種族へしばしば魔神への反乱に傭兵という形で手を貸し、
自らは魔神を持たず、ただ英雄と先祖を奉ずる戦闘と放浪の民として知られてきた。
0267ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/05/06(日) 16:25:45.39ID:1hO1ktT1
こうして夕飯と共に会話を続け、ちょうどジャンが川で釣ってきた二匹目の焼き魚を食い終えた辺りだ。
何かが硬いものを貫いたような音と、刺さった矢がしなる独特の音が上階から響く。

アルダガとパック、そしてシャルムが階段を上がって正体を確かめに向かい、
それ以外のメンバーは焚火がパチパチと燃えて弾ける音の中、それぞれの武器を構えて辺りを注意深く見回す。

やがて降りてきた三人が伝えてきたのは、帝国が誇る最高戦力の一人である黒蝶騎士が矢を撃ち込んできたということ。
それも救難要請を示すものだと分かり、一行は議論を交わす。

>「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」

すると、矢を調べていたシャルムが痙攣と共に体がぐらついた。
矢には救難信号と共に行動を強制する呪いじみたものがあり、耐性のない者が触れば抜け出せない類のもののようだ。

「俺やスレイブが触ればあっという間にフラフラ出て行って、矢で撃ち抜かれて一丁あがりってわけだな。
 こりゃ話し合いの余地はなさそうだ……」

このまま放っておけば女王との決戦に横槍どころか女王ごとまとめて射抜かれかねない。
そうなる前に、黒蝶騎士をどうにかしなければならないということで結論となり、明朝すぐに向かうこととなった。

地下で朝が分かるのも奇妙なものだが、この都市を照らす人工太陽は
日の出の時間になれば徐々に明るくなり、日の入りになれば徐々に暗くなるようだ。

真上から降り注ぐ人工の光を浴びながら、一行は黒蝶騎士が眠る場所へとたどり着く。
そこは不死者の死体というより残骸、欠片とも言うべきものが散乱し
血液が辺りを赤一色に染め上げる凄惨な狩場となっていた。

さらに一行が近づけば即席の罠が一行を襲い、スレイブとシャルムがそれをなんとか防ぐ。
捕縛するための狩猟用の罠ではなく、明らかに殺意の込められた罠。

>「あ……そっか。じゃああなたが……ええと、うーん……あっ!ジャンソンさん!」

>「どうしてそーなるんですか!私はシャルムです!シャルム・シアンス!ジャンソンさんはこちらですよ!」

「おう!俺の名前はジャン・ジャック・ジャンソン……といつもなら名乗るんだが。
 さすがに殺意むき出しの相手に喋る名はねえな」
0268ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/05/06(日) 16:26:05.38ID:1hO1ktT1
シャルムとスレイブが事情を問いただせば、もう一人がこの遺跡に侵入し、さらに協力する気はないと黒蝶騎士は宣言する。

>「その指環、私に貸してくれない?」

その言葉と同時にシャルムが放った弾丸は跳ね返り、触れたものを自在に操る黒蝶が辺りに広がる。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」

>「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」
     ・・・
『アクア、沈むぞ』

スレイブが指環の力を開放し、あらゆる強化魔術と共に一陣の風となって突撃する。
幻影も合わせて同時に多方向から襲い来る斬撃は、達人ですら本体を見切れないはずだった。

だが、黒蝶騎士はそれをまるで意に介さずただ一本の矢で本体を掠める一撃を放つ。
それに動揺こそしたものの、怯むことなくスレイブは再び斬りかかる。

>「品評終わり。はい、返すね」

相手の獲物を眺める余裕を見せつけると共に、黒蝶騎士は弓の弦で受け止めたスレイブを
矢として放つという超人めいた芸当をやってのける。

吹き飛ばされたスレイブは近くにあった建物の壁に叩きつけられ、残骸の中に埋もれる形となる。
その状況の中、ジャンは指環の力を使い、自らを血液そっくりの液体に変化させて黒蝶騎士の背後へと向かっていた。

(スレイブのおかげでなんとか背後に回り込めた……後はサクラメントで首を取る!)

背後という死角に潜り、即座に擬態を解いて聖短剣サクラメントを鞘から抜き放つ。
そして黒蝶騎士の首筋、頭と胴を繋ぐ部分に向けて迷うことなくその刀身を振り下ろした。

「見えてるよ」

振り向くことなく黒蝶騎士が放ったその一言は、ジャンを動揺させ、行動を躊躇わせるのに十分な一言だった。
そしてその躊躇った代償はそのままジャンへと跳ね返る。
黒蝶騎士の華奢な身体が一瞬揺らめいたかと思うと、強烈なハイキックがジャンの顎を蹴り飛ばす。
ぐらついて崩れ落ちるジャンの腹に今度は膝蹴りを叩き込み、骨が砕ける音が辺りに鈍く響く。
一見すれば防御を捨てたともとれる軽装の鎧は、格闘の際には最も効力を発揮する武器だったのだ。

「がはっ……!」

「オークはやっぱり頑丈だね、まだ気絶しないんだ」

槍を支えにジャンは何とか立ち上がろうとするが、未だ身体に残る鈍痛が相手の実力を如実に伝えてくる。
すなわち、一人では絶対に勝てないということ。
0269ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/08(火) 02:15:55.19ID:KoZWHamK
廃墟の本来の意味での掃除は滞りなく進んだ。
ティターニアは指輪の力を少しばかり使って建物内にはびこる植物や土や小石を一網打尽にする係だ。
続いてリフレクションを張っていると、シャルムによって廃墟はいつの間にかちょっとした要塞と化しており、
外に出ようとしたジャンが早速罠に引っ掛かったりしていた。
スレイブとジャンが狩りや漁をしている間、ティターニアは木の実を採集する。
テッラは植物属性も管轄しているので食用の木の実の在り処が分かる、なんていう地味な特技もあるのだ。
こうして十分な量の食料が集まり、晩餐が始まった。まずアルダガが浄化魔法兼祈りを捧げる。

>「自分たちが得た食事への感謝を女神様に捧げるなんて、奇妙だと思いませんか?
 拙僧もそう感じて、聖女様と夜通し討論したことがあります。あれは本当に疲れました……。
 これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

「そうか。我は神官ではないがなんとなく分かるぞ。
きっと女神様というのは我々にとっての神樹ユグドラシルのようなものなのだろうな」

アルダガが言う女神というのは、帝国の人間が信仰しているメジャーな神のことらしい。
彼女らが神術という独自の系統の術を実際に行使している以上、その力の程はともかく何らかの力の源泉は存在するのだろう。
食べ物となった動植物まで気に掛ける女神が人間至上主義なのは一瞬疑問に思うが、それが本来の女神自体の思想とは限らない。
宗教は時が経つうちに国家の思惑などが取り込まれて教義が変化するのはよくある話である。

>「……ダーマにはない価値観だな。暗黒大陸の神は、供物と力を酷い天引き率で交換する邪な神ばかりだ」
>「俺たちオーク族は神様なんていねえな。むしろ他の種族の神様を俺たちの英雄がぶん殴る逸話しか聞いたことねえや。
 空を飛ぶ魔神を天まで吹っ飛ばして星にしたとか、炎を操る魔神を地面に埋め込むぐらい殴って火山になったとかそういうやつ」

「改めて凄いな……暗黒大陸……」

週一ペースで邪神が現れては英雄に倒される、は大袈裟だがもはやそれに近い世界観なんじゃないだろうか。
帝国は帝国で表の顔は皇帝万歳の独裁国家、内情を垣間見たら見たで権謀術数渦巻く権力闘争に明け暮れているし、
帝国や闇黒大陸と比べてのハイランドの平和さを改めて実感するティターニアであった。
和気藹々と食事をしていたところ、上階で物音がしたのでアルダガとシャルムとパックが偵察に行き、
パックがすぐに戻ってきて残ったメンバーに警戒を促す。
厳戒態勢で待機していると、二人が降りてきた。差し当たっての危機はないようだが、厄介な物が飛んできたようだ。

>「侵入者はいませんでしたね。代わりに何か、バフナグリーさんが見つけたようですが……」
>「先程の物音の正体です。このキャンプの二階に、この矢が撃ち込まれていました」

アルダガやシャルムの話によると矢の主は黒蝶騎士で、それは何故か救援要請を示すものらしい。
罠か、はたまた黒蝶騎士ですら救援要請を出さざるを得ないような何かが起こっているのか――
0270ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/08(火) 02:22:31.81ID:KoZWHamK
>「このまま祖龍の神殿を目指すか、救援信号の主を追うかは、指環の勇者殿にお任せします。
  どのみち、動き始めるのは夜が明けてからとなるでしょう。拙僧は二三日寝なくても大丈夫なので、見張りに立っています」
>「……ちょっと待ってもらえませんか、バフナグリーさん。
 この矢、少し調べてみますが……一応、神術の準備をお願いします」
0271ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/08(火) 02:22:57.25ID:KoZWHamK
シャルムに黒蝶騎士の矢についてどれ位予備知識があるかは分からないが、
少なくともティターニアよりは帝国事情に通じている彼女に任せてみることとする。
シャルムが矢に魔力を流し込むと、押し出された魔力が黒い蝶の形を取って出てきた。
シャルムはなんとそれを直接触って解析するという大胆な手段に出る。

>「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」
>「とりあえず……この蝶々、捕まえておきましょう。
 さっき感じた強制力は、もしかしたら術者の場所へ私を誘う為のものだったのかもしれません」

>「クロ、だな。敵意と害意がこの矢には盛りに盛られている。これはもう完全に罠だろう」

「しかし敵ならこんな手の込んだことをせずとも普通に狙撃してしまえば話は早いだろうに。
どうしても呼び出したい理由があるのか……単に狙撃したら指輪を回収に来るのが面倒というだけか?」

>「……この救難信号、明日の明朝に確認に向かいましょう。
 黒蝶騎士がもし私達の敵なら、このまま神殿に向かうのはあまりに危険です」
>「……それにもし敵でないのなら、味方に出来れば、彼女は心強い戦力です」

「なんにせよ行ってみるしかなさそうだな……」

行ってみれば分かるということで議論は切り上げられ、一行は食事の後片付けをして眠りについたのであった。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

>「……バフナグリーさん、あれは」
>「間違いなく、黒蝶騎士、シェリー・ベルンハルトです。あんな鎧、見間違えようがない」
>「あれが黒蝶騎士――!随分と若いな、俺より歳下なんじゃないか」

「うむ、あれは黒蝶というより童話の世界のカラフルな蝶だな――」

黒蝶という言葉から妖艶な夜の蝶のような妙齢美女を想像していたティターニアだったが、
少しばかり趣が違ったようで、まだあどけなさの残る少女であった。
それを言ったらアルダガだって黒騎士というよりは聖騎士の方が似合うのではないかという話になるし
そもそも黒騎士が全員黒で統一されているのはヴィットーレン一世の趣味から始まっているので仕方がない。
どうしてこの危険地帯で無傷で寝ていられるのか――その答えはすぐに分かった。
容赦ない罠が一行を襲う。

>「プ、『プロテクション』!手、手を貸して下さい!これは持ちません!」
>「逆巻く風よ、礫を弾け――『エアリアルシェル』!」

シャルムと共にプロテクションを展開するティターニア。
プロテクションだけでは追いつかず、スレイブの指輪の力を使った風の魔法でようやく安全が確保される。
――まだ相手は寝ているというのに、近づくだけで一苦労であった。
0272ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/08(火) 02:25:42.62ID:KoZWHamK
>「ん……ふああ……」
>「……あれ?誰?あなた達。こんなに近くに寄ってきて、なんで生きてるの?」
>「あ……そっか。じゃああなたが……ええと、うーん……あっ!ジャンソンさん!」
>「どうしてそーなるんですか!私はシャルムです!シャルム・シアンス!ジャンソンさんはこちらですよ!」

ようやく目を覚ました黒蝶騎士。
そのキャラは強烈なもので、天然というレベルを通り越してツッコミどころしかない不思議系であった。
彼女の潜入は、キーゼルという帝国陸軍の少将の命令によるものらしい。
そしてもう一人侵入者がいるらしく、その情報を持っていないかと思い一行を呼び出したようだ。

>「でもよく分かっちゃった。結局、あなた達もまったく状況をコントロール出来てないんだね」
>「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

「待て、落ち着け! 生憎指輪は一人一属性までという縛りが……」

ティターニアが駄目元の説得を試みている間にもいちはやく危機を察知したシャルムが弾丸を撃つ。
しかし次の瞬間、信じられない光景が展開されていた。
飛んできた弾丸を剣で切って回避というのは稀によく聞くが、その更に上を行く凄業だ。

>「弦で――弾を――受け止めただと――!?」

>「私、急いでるのよね。早く全部終わらせて、お家に帰りたいの。
 軍閥とか、政権とか、どうでもいいのに……」

黒蝶騎士が一行に戦いを仕掛ける理由は、崇高な使命感でも権力への野望でもなく「早くお家に帰りたい」というぶっ飛んだものであった。
もしや望んで黒騎士になったわけではなくあまりに強すぎて強制的にさせられてしまったのだろうか。
これには流石にティターニアも、話が通じない相手だということを悟る。

>「だから……不死の女王も、虚無の竜も、私が全部仕留めといてあげるからさ」
>「その指環、私に貸してくれない?」

撃ち返された弾丸を、シャルムは二重のプロテクションで辛うじて防ぐ。
シェリーが矢を番え、宙には黒蝶が舞う。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」
>「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」

「蝶の駆除か――ならば……ブラッディ・ペタル」

戦場のいたるところに、魔力で出来た巨大な深紅の花と獲物を捕らえる触手から成る植物が顕現する。
触手が黒蝶を捉えると、花弁の中に放り込んで食らう。魔力の蝶に魔力の食虫花で対抗する手段に出たというわけだ。
一方、スレイブが風属性の障壁をまとい先陣を切って突撃する。
竜の指輪による風の障壁がよもや突破されるとは思われなかったが、それでも肩を切り裂かれるのと引き換えに長剣の間合いに到達。
いくら黒騎士とはいえ弓使い相手なら、至近距離まで接敵してしまえば有利に進められると思われたが――
0273ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/08(火) 02:32:08.39ID:KoZWHamK
>「良い剣だね。でもちょっと矢にするには重すぎるかな」
>「品評終わり。はい、返すね」
>「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」
0274ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/08(火) 02:33:02.90ID:KoZWHamK
シェリーは剣による斬撃さえも弦で受け止めると、スレイブ自身を矢のように弾き飛ばして見せた。
しかしその隙に、指輪の力で液体と化したジャンがシェリーの背後に迫る。

>「見えてるよ」

頑強を誇るジャンを突き崩したのは、あろうことか何の小細工も弄しないシンプル過ぎるハイキックであった。
続いて容赦のない膝蹴りが見舞われる。

>「がはっ……!」
>「オークはやっぱり頑丈だね、まだ気絶しないんだ」

いい加減弓使いだから接近戦は苦手ではないかという常識は捨てないといけないようだ。
むしろ力の制御が彼女の能力の本質だとすれば、格闘戦は得意とするところかもしれない。
かといって距離を取り過ぎれば遮るものがない上空からの狙撃で一撃でやられる。
よって消去法から導き出されるとるべき戦術は、障害物がある環境での中距離戦――

「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

随所に隠れ場所兼盾とするべく障害物を配置――複数の石の壁が地面からせりあがる。
それをシェリーとジャンの間にも出現させ、ジャンが退避するための間を作った。

「ラテ殿とシノノメ殿は光と闇で攪乱を! フィリア殿とジュリアン殿は魔法で攻撃だ!
アルダガ殿、スレイブ殿とジャン殿を診てやってくれるか」

弾丸だろうと剣だろうと物理的な物を介した攻撃は漏れなく弾き返されて返り討ちに合う事が立証済みなので、
ひとまず魔法を主な攻撃手段とした中距離戦に持ち込んで、神官のアルダガが前衛勢を復活させる時間を稼ぐティターニア。
次々と砕かれるストーンウォールの再配置をしつつ、”シェリーと同じ黒騎士に名を連ねるアルダガなら
もしかしたらシェリーとの共闘経験もあって何らかの弱点を知っているかもしれない”と一瞬思うのであった。
尤もシェリーの性格からして他人と共闘が可能かは大いに疑問なのであまり期待はできないが。
0275ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/09(水) 21:01:30.96ID:9/lXBGIZ
少し早めに次スレを立てておいたが
ギリギリまで埋めないとスレが落ちないのでこっちに書けなくなってから移動で
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1525867121/l50
0276アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/10(木) 03:36:33.98ID:F9RsHmAw
黒蝶騎士から送り込まれた謎の救援信号。
その真意を計りかね、まんじりともせず夜を明かした一行は、翌朝蝶の案内に従って再び行軍を開始した。
いつどこから狙撃されるとも知れない緊張のなか、アルダガは行く手を阻む木をへし折って道を作っていく。
やがてたどり着いた黒蝶騎士のねぐらでは、苛烈なトラップによる洗礼が一行を待ち受けていた。

如才なく罠の急襲を退けた指環の勇者達は、樹上で眠る一人の少女と邂逅する。
帝国最高戦力・黒騎士が一角――『黒蝶騎士』シェリー・ベルンハルト。
まるで物音はうるさいからたった今起きたと言わんばかりの彼女は、状況を把握して一言こう漏らした。

>「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

応じるようにシャルムが発砲する。
シェリーは信じられないことに発射された弾丸を弓の弦で受け止めて、そのまま弾き返した。
そしてそれが、黒騎士と指環の勇者たちとの、開戦の狼煙となった。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」

「防御は拙僧にお任せを――なっ!?」

防壁神術を張ろうとしたアルダガであったが、にわかに眼の前が黒く埋め尽くされる。
足元の落ち葉に紛れて潜んでいた無数の蝶たちが一斉に飛び立ち、全方位からアルダガを包み込んだのだ。

(これは……昨晩シャルム殿を操ろうとしたものと同じ術式――!)

遮られた視界の向こうで、剣と魔法、そして矢の飛び交う炸裂の音が轟いた。

>「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」
>「がはっ……!」

斬り掛かったスレイブは突進の力をそのまま跳ね返されて壁へと埋まる。
その隙に指環の力で背後へと回り込んだジャンであったが、やはり奇襲でシェリーの首を獲ることは叶わなかった。
彼女の周囲を飛び交う蝶、その一匹一匹が彼女の『眼』を兼ねる。
地平線の彼方からでも正確に標的を撃ち抜くことができるのは、高精度での観測が可能だからだ。

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

ティターニアが魔法で地面を隆起させ、戦場に石の壁を林立させる。
地に伏せ、仮借ない打擲を受け続けていたジャンが、這いずるようにしてシェリーの傍から退避した。

「あーあ、背中見せて逃げてくれればサクっと楽にしてあげたのに」

シェリーは無感動にそう吐き捨てると、矢筒から新しい矢を取り出して月蝶弓へとつがえる。
ぎりぎりと悲鳴じみた音を立てて引き絞られていくさまは、放たれる矢の威力をありありと想像させた。
ティターニアが優秀な術士であることは疑うべくもないが、あまりにも相性が悪すぎる。
音を追い越して風を貫く矢は、石壁をどれだけ重ねたところで全てぶち抜いて彼女の命へと届くだろう。

「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

如何なる魔法防御も貫通する致死の矢が、ティターニアに照準に合わせて放たれる。
大気を破る破裂音が響き、白い水蒸気の尾を引いて黒の矢が迸った。
行く手を阻む石壁はもはや布を裂くように容易く穿たれ、都合三枚の石壁に大穴が空いた。

「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

最後の石壁を貫通した矢がティターニアへと届かんとした、その刹那。
横合いからうなりを付けて振るわれたメイスが、シェリーの矢に直撃した。
雷鳴にも似た音が響き、矢とメイスの接触点を中心に突風が吹き荒れる。
さながら爆心地の様相を呈しながら、強引に軌道を逸らされた黒の矢は明後日の方向を穿って果てた。
0277アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/10(木) 03:37:25.27ID:F9RsHmAw
アルダガが、総身を覆う黒蝶の群れからようやく脱出して、ティターニアを襲う凶矢を叩き落としたのだ。
シェリーはわずかに眉を動かして、自身の攻撃の結果に鼻を鳴らした。
0278アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/10(木) 03:37:48.21ID:F9RsHmAw
「忘れてないよ、黒鳥さん。だから最初にあなたを仕留めたはずだったんだけどな。
 一匹でも竜とか動けなくする魔法だったんだけど、どうやって跳ね除けたの?」

「触れた者に強力な強制力を付与し、傀儡へと変える黒の蝶、ですか。シャルム殿の分析でそこまでは把握していました」

アルダガがメイスを握っていない方の手を掲げると、掌の上で一匹の蝶がもがいている。
シャルムが全神経をかけてレジストした強制力が、しかし素手で蝶に触れているアルダガには作用していない。
アルダガが聖句を唱えると、掌の上の蝶から細い光の鎖が伸び、再びアルダガを襲わんとしていた黒蝶の一匹へと繋がる。
さらにその蝶からも鎖が伸び、無数の蝶は連鎖する無数の鎖によって繋ぎ止められた。

「強制力には優先順位があります。より強く重要な別の強制力があれば、あなたに従わされることはありません。
 ――拙僧は女神の尖兵。我ら戦闘修道士にとって、女神の思し召しは全てに優先します」

アルダガは掌の上の蝶を握り潰す。
瞬間、宙を飛び交う黒蝶のうち、光の鎖で繋がれた者たちが、空中で一斉に潰れた。
まったくの同時に――まったく同じ潰れ方で。

教皇庁制式神聖法術が一つ、『ルラシオン』。
鎖でつないだ対象同士で受けた傷を共有し、繋がれた数でダメージを分かち合う神術だ。
本来は一人では耐えきれない強力な攻撃を頭割りして受けるための防御魔法。
しかしアルダガの凄まじい握力によってもたらされた破壊は、無数の蝶たちが全員で分かち合ってなお、致命傷となる威力だった。

「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

アルダガは首に提げたロザリオを外し、ティターニアの傍の地面へと投じる。
地面に突き刺さったロザリオを中心に半球状の光の領域が発生した。
『祝福の杖』。領域内に居る者の治癒力を向上させる回復神術である。

「――!」

回復の聖句を唱えた瞬間、アルダガの腕が再び残像を伴って動いた。
抜け目なくシェリーから放たれた追撃の矢を、再びメイスが弾き落とさんと迎撃する。
しかし、今度の矢は真っ直ぐ飛ばなかった。巧妙に捻りを加えられた軌道はメイスを空振りさせる。
アルダガはメイスを振るいながら握りを変えて、柄尻で矢を捉えた。
再び衝撃波が爆風となって吹き荒れ、黒蝶騎士と黒鳥騎士の技量がせめぎ合う。

「満たせ。地を奔る楡の根、極北を攫う凍ての風、煉獄を舐めし炎の舌よ。我が指の示す先へ集え」

アルダガが懐から出した小瓶をメイスで叩き割り、中に詰められた聖水が弾ける。
聖句によって力を与えられた聖水の飛沫は、無数の氷柱となってシェリーへと殺到した。

「魂穿つ雫よ来たれ――『ディバインレイン』!」

波濤の如く押し寄せる氷柱の群れをシェリーは横っ飛びで回避し、避けきれない分は黒蝶をぶつけて相殺する。
蒸発した氷柱から発せられる蒸気が密林を覆い、それを突き抜けて黒の矢が飛ぶ。
アルダガは飛んできた矢を素手で掴み取ると、親指の力だけでそれをへし折って疾走した。

アルダガがシェリーをメイスの間合いに捉えるまで、歩幅にして十を数える間。
シェリーは実に20もの矢をアルダガへと射掛け、アルダガはそれを全て見切ってメイスで弾き飛ばす。

大気を叩き割りながら打ち下ろされたメイスが、頭上からシェリーを襲った。
油断なく弓を構えたシェリーはスレイブにしたのと同じように、弦を使ってメイスの衝撃を完全に殺す。
増幅された威力がそのままアルダガへと跳ね返るが、しかし彼女がスレイブのように吹っ飛ばされることはなかった。

「『ナーフレクト』」

――弱体化の神術。
対象の身体能力を著しく低下させる術を自分自身に行使することで、メイスの一撃を限りなく弱めたのだ。
間断なく弱体化を解除し、弱々しく跳ね返ったメイスを受け止めたアルダガは、強烈な蹴りをシェリーの足へ叩き込んだ。
0280アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/10(木) 03:38:49.18ID:F9RsHmAw
「わっ」

足払いを食らったシェリーは地面から浮いて仰向けに引っくり返る。
しかし黒蝶騎士もさる者、地面へと叩きつけられる前に自ら両手で地を叩き、反動を使って逆立ちのまま蹴りを繰り出す。
胴へとクリーンヒットした蹴りで、アルダガは僅かに後退。
その隙を突いてシェリーもまた後方へと身を起こしながら下がった。

「……ジャンさんに喰らわせた蹴りと言い、弓使いなのに随分と足技がお達者ですね」

「狙撃手って機動力も大事なんだよ。足速くないと追いつかれちゃうでしょ、今みたいにさ」

アルダガがメイスを構え、シェリーもまた弓に矢を番えてこちらへ向ける。
黒蝶騎士と黒鳥騎士。それぞれ異なる武の頂点を戴く者同士の、卓越した技の応酬であった。

「織り込み済みかと思いますが、黒騎士同士の私闘は当然ご法度です。
 如何にキーゼル少将の指令と言えども、皇帝陛下の制定された帝国陸戦法規を覆す理由にはなり得ません。
 『作戦区域内で武装集団に遭遇し、友軍と気付かず交戦してしまった』……という名目が立つのはここまでですよ。
 これ以上戦闘を続けるおつもりなら、今度は拙僧が、黒蝶騎士を反逆者として処理しなければなりません」

アルダガの言葉に、シェリーの眉が再び僅かに跳ね上がる。
シェリーから発せられた気配が圧力を伴って大気を叩き、風に舞う木の葉がピシリと断裂した。

「出来るの?飛び道具にめっぽう強い黒亀さんが居るならともかく、聖教のコネで黒騎士になっただけのあなたが」

「……それ、わざと言ってます?」

「かったいなぁ黒鳥さん。そこはブーメランだろ!ってツッコミが欲しかったよ。
 ……まぁ実際、コネでなれるほど甘くはないよね、黒鳥も――黒蝶も」

「とにかく!」

黒蝶騎士の言動に惑わされそうになったアルダガは、メイスの握りを確かめるように数回振るう。
それだけで周囲に群生した草が根ごと吹き飛んだ。

「拙僧がいる以上、指環の勇者達にあなたの矢は届きません。
 双方の力量が拮抗しているならば、数の上で勝る我々に分があります。戦闘を続ける利はないでしょう。
 そしてそれは、拙僧たちにとっても同じことです」

キャンプに矢が撃ち込まれてから頭の隅に引っかかっていた違和感がある。
陸軍少将の命令で指環を奪うためにセント・エーテリアへ送り込まれたという黒蝶騎士。
しかし彼女の行動には合理性を欠いた部分が多い。

例えば、わざわざ救援信号を撃ち込んでまで勇者たちに黒蝶騎士の存在を知らせたこと。
彼女は狙撃手だ。自分の存在や位置を教える愚は最も嫌うところだろう。
なにより、勇者たちが女王パンドラとの戦闘を終えた段階であれば、疲弊した彼らを仕留めるのは容易だったはず。
それでなくとも、星都の探索が長引き、兵站の枯渇したところを狙うこともできたはずだ。

この不合理が示唆する真相とはすなわち――『救援要請』が、本物であったということ。
不死者を相手取るにはあまりに過剰なあの罠の数にも合点がいく。
彼女もまた、何者かに追い立てられ、この場所から動けずにいたのだ。

だから指環の勇者たちをここへ呼び、状況の打開を図った。
勇者たちが何かを知っていればそれを聞き出し、何も知らなければ指環という戦力を簒奪する。
最悪、指環の勇者にまだ見ぬ『敵』をぶつけ、この場を脱出することも可能だ。

「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」
0281アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/10(木) 03:39:10.07ID:F9RsHmAw
【黒騎士同士のバトル勃発。膠着状態を作ったうえで状況を問う】
0282 ◆fc44hyd5ZI
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2018/05/11(金) 22:31:02.03ID:Wk578mQs
>「防御は拙僧にお任せを――なっ!?」

足元に潜んでいた黒蝶の群れが、バフナグリーさんを覆い尽くす。
驚くような事じゃない。私だって彼女の立場なら最初の一手はそうするでしょう。
ですが……援護は不要ですよね。黒鳥騎士ともあろう者が、こうも呆気なくやられるなんてあり得ません。
と言うより、まずは私自身が射抜かれないよう気をつけないと。

>「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」
>「蝶の駆除か――ならば……ブラッディ・ペタル」

ティターニアさんの発生させた疑似植物が、周囲を揺蕩う黒蝶を捕食していく。
シンプルで、だけど的確な対応です。
魔法の効力にはイメージの強さが少なからず影響する。
割られるかもと思いながら張った防御魔法と、絶対守り抜くと思いながら張った防御魔法。
二つが同じものである訳がない。
同様に、魔力の蝶々を駆除したいなら、魔力の食虫花。そのイメージは確かに功を奏している。

黒蝶が食い散らかされた事で、戦場に自由な空間が増える。
前衛職の方々が動く道が生まれる。
次の瞬間には、ディクショナルさんは地を蹴り出していた。
黒蝶騎士の放つ征矢に肩口を切り裂かれながらも、長剣の間合いに彼女を捉えた。

そして剣閃。切り落とした不死者の手首を空中で細切れにするほどの高速剣。

>「良い剣だね。でもちょっと矢にするには重すぎるかな」
>「品評終わり。はい、返すね」
>「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」

その一撃が……添えるように差し出された月蝶弓の弦に、制止された。
それどころか、そのままディクショナルさんごと弾き飛ばして……つくづく、化物じみてますね。

>「見えてるよ」

更に、背後を取っていたジャンソンさんを迎え撃ったのは鋭い上段の回し蹴り。

>「がはっ……!」
>「オークはやっぱり頑丈だね、まだ気絶しないんだ」

追撃の膝蹴りまで、余念がない。
やはり……接近戦も難なくこなしてきてきましたか。
間合いを問わず隙がない……指環の勇者を相手にしてもこの盤石さ。
ほんの十秒にも満たない時間で、実力の程を見せつけられた。
このまま真っ向勝負を続けるよりは……何か策を講じなければ。

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」
 「ラテ殿とシノノメ殿は光と闇で攪乱を! フィリア殿とジュリアン殿は魔法で攻撃だ!
  アルダガ殿、スレイブ殿とジャン殿を診てやってくれるか」

ティターニアさんは既に無数の石壁を作り出して皆さんの援護に回っている。
……ですが、それでは不味い。
あなたが一流の術士である事は知っています。指環が秘めている凄まじい力も。
だけど、それでも……シェリー・ベルンハルトは黒騎士なんです。
彼女が放つ矢は、たかが「皆を守るついでに行われる自分の為の防御」など容易く貫く。
そして恐らくこの黒蝶を経由して……既にティターニアさんの立ち位置は、彼女に把握されている。
0283 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:31:38.92ID:Wk578mQs
>「あーあ、背中見せて逃げてくれればサクっと楽にしてあげたのに」

私は咄嗟にティターニアさんに駆け寄った。
私が防御しなければ。
魔導拳銃をホルスターに仕舞う。出力の限られた魔道具では黒蝶の矢は止められない。
右手を前に突き出して構える。
彼女が黒蝶騎士なら、私は主席魔術師だ。
帝国魔術師の頂点……その私に、止められない訳がない。
防ぐ事も逸らす事も出来ない?だからなんだと言うのです。幾らでもやりようはある。
彼女の矢がどんな魔法をも貫くのなら……それをも凌ぐ、新たな魔法を生み出すまで。

「……『審判の鏡(プロセ・ミロワール)』」

用いる術理は類感呪術。
つまり……姿や性質の似通ったものを魔術的に結びつけ、相互に影響を及ぼさせる。
敵を模した人形を切り刻む事でその傷を相手に反映させたり、
逆に己を模した人形に本来自分が負うはずだった傷を肩代わりさせる。そのような魔術、呪術の事です。

魔力を成形して無数の鏡を作り出し、そこに術式を組み立てていく。
呪術の対象はこれらの鏡に映り込んだもの。発動条件は鏡を破壊する事。
鏡……そこに映る鏡像という完璧な類似物を破壊させる事で、矢の威力をそのまま、矢そのものに跳ね返す。
鏡の持つ反射のイメージが、この術理を補強する。
複雑な術式になりますが、私なら……

「う……」

……心臓が、重く跳ね上がる。
息が苦しい。目眩がして、自分が今まっすぐ立てているのか、分からなくなってくる。
怖い訳じゃない。焦っている訳でもない。
ただ……いや、余計な事を考えるな……とにかく、術式を間に合わせないと……

>「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

黒蝶騎士の殺気が一際膨れ上がる。
必殺の狙撃が来る……術式が、間に合わない。

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

瞬間、目の前で空気が爆ぜた。
眩い火花と共に生じる、金属音と突風。
バフナグリーさんのメイスが、漆黒の矢を弾き飛ばしていた。

……彼女の援護がなければ、私は死んでいた。
冷や汗が止まらない。心臓が、胸が苦しくなるくらい暴れまわっている。

>「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

「……すみません。ティターニアさん、お願いします」

気分が悪かった。
少し気を抜けば、吐いてしまいそうなくらいに。
0284 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:32:21.67ID:Wk578mQs
「……いや、本当に申し訳ないです。恥ずかしながら私、自分より強い相手と戦うのは初めてでして。
 どうも殺気に当てられてしまったみたいで……ああ、もう情けない」

……嘘です。本当は……本当は、私は……複雑な魔法を使おうとすると、いつもこうなってしまうんです。
主席魔術師になってから私はずっと……人間の進化の道標であろうとしてきました。
ジュリアン・クロウリーがいなくても、人間は進化していける。
いずれは誰もが私のように魔法が使えて、私のように戦えて、帝国を守れるようになる。

……ジュリアン・クロウリーがいなくても、帝国は、人間は、強い。
ダーマの魔族達が付け入る隙などない。亜人達が反旗を翻そうと勝ち目などない。
その事を証明するのが、証明し続けるのが、私の使命だと思ってた。

ずっと、ずっと、そう考えながら毎日を過ごしていて……気付けば私は、こうなっていました。
私が一人の魔術師として、魔術の深奥を覗き込む事を、私自身が罰するかのように。
……こんな事、彼らに気付かれる訳にはいきません。
先生……いえ、ティターニアさんには……特に、気付かれたくない。

>「拙僧がいる以上、指環の勇者達にあなたの矢は届きません。
  双方の力量が拮抗しているならば、数の上で勝る我々に分があります。戦闘を続ける利はないでしょう。
  そしてそれは、拙僧たちにとっても同じことです」

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

……二人の黒騎士の戦いは、気付けば膠着状態に陥っていました。
いえ……バフナグリーさんが膠着状態に持ち込んだと言うべきですね。
黒騎士同士の私闘は軍規違反。
ここを落とし所にしなければ、後はもういずれかが息絶えるまで続く死闘になる。
そして、シェリー・ベルンハルトは……

「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

そう言いながら構えを解いて、溜息を零した。
この場を満たしていた肌を突き刺すような緊張感が霧散していく。

「……私の元々のプランはね、あなた達がパンドラさん?をやっつけたところを、
 後ろから狙撃して指環もらってお家に帰ろー、いえーい……って感じだったんだけど」

そして彼女は順を追うように、まずそう言った。

「どーもね、もう一人、いるっぽかったんだよね。ここ。しかも大分前から。
 お互いに姿は見てないんだけど、足跡とか、枝とか草に残った痕跡とか?
 ほら、そーいうのでさ、なんとなく分かっちゃうじゃん?」

……ここまでは、戦闘が始まる前になんとなくですが聞いた話ですね。
要領を得ない喋り方は、どうやら彼女の素のようなので我慢するしかありませんね。

「だから、とりあえず矢で射ってみたんだけど」

「……防御されたんですか?それは、確かに迂闊には近寄れない……」

「ううん、違うの。当たった手応えはあったの。
 私くらいの弓使いになるともう的を見なくたって当たったかどうか分かっちゃうんだけどさ。
 確かに私の矢は命中していた。防御出来たとは思えない、そういうタイミングだった」
0285 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:32:46.05ID:Wk578mQs
……矢は命中した。だったら……それはもう、終わった話なんじゃないですか。
やっぱり彼女は何を言わんとしているのか、よく分からない……

「でもね、生きてたの。その人……あっ、足跡見たから人ってのは間違いないと思うよ。
 生きてて、こっちに向かってきたの。私もー怖くってさぁ、慌てて逃げ出しちゃったんだよねぇ」

「……ここに生息している、不死者の一種という事は」

「ただの不死者なら、私は一撃で仕留められる。あなたも見てきたでしょ?」

……そう、ですよね。
彼女の矢なら、不死者を不死たらしめる術式そのものを破裂させる事だって可能でしょう。
実際、そのようにして絶命した不死者の死体がいくつもあった。

「……ね、不気味じゃない?ナグリーちゃん。
 考えてみてよ。防御されたならまだしも、あなたのメイスが頭にごつーんとクリーンヒット!
 なのに相手は生きててこっちに向かってくるの。ただの不死者よりずっと怖いよ」

……長い沈黙。
シェリー・ベルンハルトは腰の水筒を口に運んで、一息吐いて……

「……あの、続きは?」

「え?今ので終わりだけど」

「……は?」

「私達があなたを呼んだのは状況が知りたかったから。
 それと……あなた達を横取りされない為。狙撃じゃ、戦利品だけ持ってかれちゃうかもしれない。
 ここで仕留められなかったのは残念だけど……これで、あなた達は自分で自分の身を守れるでしょ」

……確かに私達はもう、この場にいる誰でもない、第三者の存在を知っている。
その第三者も指環を狙っているというのはただの憶測でしょうけど、
今この星都にいる時点で指環絡みだろうというのは確かにその通りです。

弓使いである彼女が自分の居場所を明かしてまで嘘を吐く理由はない。
騙されている可能性は……低いと思います、けど……。

「パンドラを倒して、正体不明の第三者を退け、
 最後にあなたの狙撃を凌ぎながらこの星都から脱出しろ、と?」

ここであなたと最後までやり合うのが好ましくないのは確かですが……いくらなんでもそれは分が悪すぎる。

「それだと戦闘が……んーと、三回かぁ。それはちょっと良くないかな」

「……どういう意味です?」

「言ったでしょ。私、早くお家に帰りたいの」

瞬間、彼女は大きく後ろに飛び退いた。

「……今回の任務。なるはやで終わらせた方がいいよ、ナグリーちゃん。
 あまり時間を掛けると……クーデターが起きちゃうかも。あるいはそれ以上の事が。
 せっかちな人達はもうこの戦いが終わった後の準備を始めてる」

……それはつまり、指環を総取りした事を前提とした開戦の準備。
帝国がそのような動きを見せれば他二国も備えを始めなければならない。
皆が皆、戦いに備えて、後は誰かが勇み足をすれば……
指環にまつわる何もかもが未解決のまま、戦争だけが起こる事になる。
0286 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:33:49.81ID:Wk578mQs
無論、皇帝陛下はそのような事をお認めにならないでしょう。
だからまずクーデターが起こる……もしそうなれば軍の上層部も、一部は取って代わられる事になる。
早くお家に帰りたい……ですか。確かに、私も俄然そんな気持ちになってきました。
0287 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:34:10.53ID:Wk578mQs
「……あっ、それともう一つ」

何かを思い出したように声を発した彼女の周囲に、黒蝶が溢れる。

「私が射抜いたはずの、不死者よりも不死身な誰かさん。その時、一度反撃してきたんだけどね
 確かに、こう言ってたよ……『指環の力よ』ってね。
 炎の魔法だった。でも……そこのおチビさんの声じゃ、なかったかなぁ」

黒蝶が彼女の姿を塗り潰していく。

「もっと低い、男の声だった。どういう事なんだろうね?
 ……こっちはこっちで、探り回ってみるよ。手分けしないと、時間がないからね」

そして黒蝶が消え去ると……彼女はもう、そこにはいなかった。
……指環の力?私は思わず、フィリアさんを見下ろす。

「へ?……いやいや!わたくし、そんなの身に覚えがありませんの!」

彼女は慌てて両手を振って身の潔白を主張する。

「ああ、いえ……失礼。別に疑ってた訳じゃありません。
 ただ……二つ目の炎の指環が存在する可能性はあるのか、気になりまして」

『……妾達、竜の力と命。それら全てを注ぎ込んで作ったのがこの指環だ。
 二つ存在する事はあり得ない。贋作くらいなら、作ろうと思えば作れるだろうが』

「……ですよね。ううん……駄目ですね。何を考えようにも情報が足りない。
 結局、謎が深まっただけ……あえて思考の余地があるとしたら……」

こんな事、考えたって何の意味もないんですけど。

「まだ見ぬ第三者。その男が、どこからこの星都にやってきたか……。
 可能性としては……完全な秘匿性を保った上で転送魔法陣を使ってきたか。
 またはこの世界の原住民なのか。或いは……」

私は魔道拳銃を抜いて、四方の空に向けて弾丸を放つ。

「私達が使ってきた魔法陣以外にも、実は入り口が存在するのかも」

弾頭に秘められていた炸薬と炎魔法が爆発して、四度、大きな音が響く。だけど、

「……反響音がまったく聞こえません」

ここが地下なら、壁に音が跳ね返って聞こえるはずなのに。

「ティターニアさんが言っていた通り、ここは本当は地下じゃないのかもしれない。
 星都は帝都の地下にあるという情報自体が、間違っているのだとしたら」

『あるいは我々の世界とは異なる位相に存在する異空間なのかもしれない』……でしたっけ。

「つまり、ここエーテリアル世界と我々の世界は……なんて言えばいいんでしょう。
 あー……建物の一階と二階とか、ケーキのスポンジと生クリームのように、
 完全に隣り合わせになっているのかもしれません。上か下かなんて話は視点の違いでしかない」

指環やエーテリアル世界にまつわる伝承の中には確か、
エーテル属性のみで構築されていた旧世界の上に、四属性と光と闇が上塗りされて今の世界が出来た。
そんな内容のものがあったはず。その事が碑文なりなんなりに書き残されていて、
それを当時の学者が誤訳したと考えれば……。
0288 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:34:27.51ID:Wk578mQs
「二つの世界を繋ぐ扉、或いは階段は、一つしかないとは限らない。
 むしろあの扉が当時のこの世界の住人にとってのいわゆる非常扉だったなら、
 扉が一つしかない方が不自然だ。だから……」

だから、ええと……。
0289 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:35:00.10ID:Wk578mQs
「……駄目ですね。ここで行き止まりです」

上手い事、何か閃くんじゃないかと思っていろいろ連想してみましたが……。

「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
 黒蝶騎士が遭遇した第三者については……」

このまま黒蝶騎士の方に向かってくれればそれが一番なんですが……。

「もしこちらを追ってくるとしたら……その時は私に考えがあります。
 まずは、全竜の神殿を目指しましょう。やりやすい地形があるといいんですが……」

……そうして暫く密林の中を進んでいくと、不意にバフナグリーさんの手を借りる事なく視界が開けました。
建築物が密集していて、蔦や草くらいの植物しか侵食出来ていない……。
ここはかつてはどんな場所だったんでしょうね。
病院?学校?それとも政庁でしょうか。

ここは……キャンプ・グローイングコールですか。
全竜の神殿まで大分、近づきましたね。

「……とりあえず、掃除をしましょう。簡単に出来る方のね。
 終わり次第ティターニアさんはリフレクションと、指環の準備を。
 それと……ディクショナルさんも、指環の準備をしておいた方がいいですね」

全ての準備が終わると……私は魔導拳銃を構えました。
狙いは、私達が今まで通ってきた密林へ。
弾頭には炸薬と炎魔法を……それを立て続けに撃ち込んでいく。
密林が燃えていく。これも、戦場で何度も見た光景……。
……気分が、悪い。

「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

気付かれる訳にはいかない。
いつもよりも努めて不遜に皮肉を連ねる。
炎は瞬く間に燃え広がっていき……

「……指環の力よ」

不意に、どこからか声が聞こえた気がした。
瞬間、密林に広がっていた炎が渦を巻いた。
まるで風呂の栓を抜いたみたいに……ある一点へと吸い込まれて、消えていく。
……どうやらこちらを追ってきていたようですね。
さぁて……不死者よりも不死身な、見知らぬ指環の所有者様。
前評判のケレン味は十二分。どんな顔をしているのか拝んでやりましょうか。

「……は?」

そして、思わず私は気の抜けた声を漏らしてしまった。
草葉が燃え落ちて見晴らしのよくなった密林の奥。そこにいたのは、

「……アルバート?」

クロウリー卿が、呆然とした声音で呟いた。
そう、漆黒の板金鎧は身に纏っていないし、髪も伸びていますが……あの顔立ちと、深い青色の瞳。
そこにいたのは……間違いなく、黒竜騎士、アルバート・ローレンスでした。
0290 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:35:21.16ID:Wk578mQs
「お前、なのか?」

こちらへと歩み寄ってくる彼に、クロウリー卿が問いかける。

「……ああ。見ての通りだ」
0291 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:35:43.03ID:Wk578mQs
赤黒く薄汚れた布服に身を包み、魔剣レーヴァテインを背負い……
そして左手に大振りの指環を帯びたその男は、静かに、そう答えた。
クロウリー卿は……何も言葉を続けない。ただ、目の前に現実を必死に理解しようとしているように見えた。

……だけど、私にそれを待っている理由はない。

「何故、あなたがここにいて、炎の指環を手にしているのですか」

魔導拳銃をアルバート・ローレンスに突きつける。

「……私達を、つけてきた理由は?」

彼は答えようとしない。
私は二丁の拳銃の片方を、クロウリー卿に突きつける。

「答えて下さい」

「……覚えているか、カルディアで聞いた、舟歌を」

アルバート・ローレンスはジャンソンさんとティターニアさんを、まっすぐに見据えていた。

「あの時、俺には……あの歌の続きが聞こえていた。
 少女の声ではなく。海の底の、その更に奥底から響くような女の声で。
 あれは……女王陛下の声だった。俺に何かを思い出せと歌っていた」

……今、二人に説明を求める訳にはいきません。
分かる部分だけを掻い摘んで理解していくしかなさそうです。

「そしてその何かを思い出した時、俺は気付けばここにいた。そうだ。俺は思い出したんだ」

あーあー、なんかもう、ろくでもない内容が続きそうな気がしてきました。
けど、聞かない訳にもいかないんですよね。

「俺は、元々この世界の人間だった」

「……何を馬鹿な。あなたは、ローレンス家の長男でしょう」

「俺は女王陛下の秘法によって、あちらの世界に転生した。
 その時に、一度記憶が失われたのは……予定外の事だった」

「なるほど、記憶喪失。便利な言い訳ですね。
 ですが……では、一体何の為にそんな事を?」

「取り戻す為だ」

「……何を」

「全てだ。炎、水、大地、風、光、闇……この世界から失われた、全てを」

「属性?エーテリアル世界は、エーテル属性のみで構築された世界のはず」

「違う。かつてはこの世界にも属性があった。何もかもがあった」

……どういう事でしょうか。
確かにエーテリアル世界は名前の有名さとは裏腹に、殆ど情報が残っていません。
僅かに言い伝えられてる既知の知識も、確証がある訳ではないですが……。
0292 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:36:00.59ID:Wk578mQs
「だがある時、虚無の竜がどこからか現れ……この世界を喰らい始めた」
 俺達は必死に立ち向かい、勝利したが……
 その時には既に、この世界の殆どが奴に食い尽くされていた」

……やはり、考えるより彼の言葉を待った方が良さそうです。
0293 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:37:04.69ID:Wk578mQs
「それでも……希望は残っていた。あらゆる属性を食い尽くした虚無の竜の死体は、
 この世界に覆い被さるようにして、新たな世界となった。多くの者がそちらへ移り住んでいった。
 だがついていかなかった者達もいる。虚無の竜に喰われ、属性を奪われた者達だ」
0294 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:37:19.80ID:Wk578mQs
だけど……その、ついていかなかった者達の正体は……私にも分かった。
属性がないという事は、燃え上がる事も流れ行く事もない。
つまり……成長する事も、老いる事もない者達。

「俺達がずっと正気でいられる保証はなかった。
 欠落した属性を埋める為に、仲間を襲い出す可能性は否定出来なかった。
 だから……ここに残った」

アルバート・ローレンスの視線が、ふとフィリアさん……その右手に移った。

「どうだ。思い出したか、イグニス……アクア、テッラ、ウェントゥスも」

彼はそう尋ね……しかし彼らの答えを待とうとはしない。
すぐに目を逸らす。

「……だが、それが間違いだった。あの時、虚無の竜と戦う事なく生き延びた奴らに
 あの世界をくれてやるべきではなかった……!。
 俺達はずっと見てきた。奴らが何世紀にも渡って蔑み合い、拒み合い、争い続ける様を……」

ただその一瞬、彼の目の奥で光ったのは……私にも分かるほどの、ただならぬ憎悪の眼光……。

「……そんなにも闘争が恋しいのなら、奴らが虚無の世界に住めばいい」

アルバート・ローレンスが、左手を掲げた。

「指環の力よ……」

瞬間、周囲の建物から、地面から、何かが指環へと吸い取られていった。
これは……魔力だ。大地の、魔力だ。

「このセント・エーテリアが今も形を保てているのは、ここが全竜の膝下だからだ。
 辛うじて虚無の竜に喰われずに済んだ、最後の土地。だが……」

大地の魔力を奪われた建物は白く色褪せて、自重に堪えきれず半壊していく。
地面も同様に白く染まり……まるで真砂、いえ……塵か灰のように頼りない、感触に。
魔力の吸引は密林の方にも広がっていく。
焼け残った植物も……やはり白く、枯れ果てていく。
白一色の……ただ崩れ行くだけの世界。
それに……あの指環は、一体……。

「これが、この世界の本当の姿だ。完全な喪失……それだけが唯一この世界に訪れる変化。
 滅びゆく事にしか執着出来ない、愚かな連中の墓場に相応しいと思わないか」

「……やめろ、アルバート。それ以上は」

……クロウリー卿が、やっとの事で絞り出した、そんな声で呟いた。

「ああ、後戻り出来なくなる。それこそが目的だ。俺は全てを断ち切らねばならない」

アルバート・ローレンスが、魔剣レーヴァテインを抜いた。
……興味深い話でしたが、これ以上話してはもらえなさそうです。

「俺は、この世界の指環の勇者だ」

そして彼は……長い深呼吸の後に、そう言い放った。
0295 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:38:41.18ID:Wk578mQs
「お前達を殺し、指環を奪い……いずれはあちらの世界から全ての属性を取り戻す。この虚無の指環でな」

瞬間、私は魔導拳銃を発射していた。
クロウリー卿に突きつけた銃口からは、強烈な電撃を帯びた弾丸を。
こんな不意打ちが通じるほど動揺しているなら、あなたはただの足手まといだ。
それに……

「お二人は親友なんでしたよね。今、裏切られたら洒落にならない。
 ……あり得ない話じゃないでしょう。その人は、前科があるんですから」

そして今度は二つの銃口をアルバート・ローレンスに向けて……再び銃声が響く。
発射したのは炸裂弾。先ほどの戦闘の反省を活かして狙いはあえて曖昧に。
防御されても、命中しなくても関係ない。
無数の爆風が彼を包囲し、押し潰す。

爆炎が晴れて、アルバート・ローレンスは微動だにせずにそこに立っていました。
……女王の手によって転生したという彼の言葉を信じるとして、
彼の肉体が不死者のものなのか、人間のものなのか。
あるいはその中間にあるのかは分からない。
ですが仮に完全な不死者の肉体があったとしても、それだけでは黒蝶騎士の矢は耐えられない。
つまり彼が今もなお平然と立っている理由は単純に、

「純粋な身体能力と、精神力?……そんな馬鹿な」

あまりに荒唐無稽な結論……ですがそれ以外に言い表しようがない……。
アルバート・ローレンスは私の銃撃など意にも介さず、ゆっくりと、指環を帯びた左手をこちらに向けた。
吸い込んだ炎と大地の魔力が溢れ出てくる。
二つは混ざり合いながら空へと昇っていき……星の数ほどの燃え盛る石礫が、私達の頭上を飾った。

「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

そしてそれらが一斉に私達へと降り注ぐ。
咄嗟に三重のプロテクションで防御しましたが……周囲には地面の塵が舞い上がる。
何も見えない……だけどアルバート・ローレンスが何をしようとしているのかは分かります。
この塵を目眩ましにした……レーヴァテインによる必殺の一撃。
私は深く身を屈めて、被弾し得る面積を最小限にした上でより小さく分厚いプロテクションを展開。
他の皆さんは……各々、自分の身を守ってくれることでしょう。
少なくとも私には、他人を庇っている余裕はなさそうです。
0296 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/11(金) 22:39:34.58ID:Wk578mQs
 
 
 
【つまりどういうこと?
 エーテリアル世界は、遥か昔に虚無の竜に食べられちゃうまではちゃんと属性があったんだって。
 今の世界は、旧世界の属性を食い尽くした巨大な虚無の竜の死体らしいよ。
 せっかく恵まれた世界に逃げ延びたのにいつまでもしょーもない争いをしてるから
 不死者になった女王様とかも愛想を尽かしちゃったんだってさ。
 
 なんか今までの話と違くない?
 きっと遥か昔のことだから正しい情報が残ってなかったんだよ……。
 エルピス辺りは教団をうまく回すためにわざと嘘を吐いたりもしてたかもね。

 アルバートくんって何がすごいの?
 まず魔剣の攻撃力がヤバイじゃん。
 黒騎士水準の剣術もあるじゃん。
 不死者よりも不死身なんじゃないかってくらい我慢強いじゃん。
 ついでに属性を吸い取る虚無の指環を持ってるよ。多分あらかじめレーヴァテインから炎の属性を補充してる。

 まとめると?
 風呂敷広げたかっただけー。】
0299スレイブ@携帯
垢版 |
2018/05/14(月) 19:31:20.44ID:nkJpgd24
【誠に御座るか。これはあい失敬申した
 ジャン殿が投下する前に次スレの拙者の投稿を移植いたしても構わぬだろうか。今日の11時頃までに移植作業は可能に御座る】
0300ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/05/14(月) 19:44:14.59ID:7cUtZGEI
いや、全然大した問題ではないのだがやっぱり順番が前後すると分かりにくくなるからそれでお願いしようかな
多分最初の数レスを移植すれば埋まると思う
ジャン殿は普通に次スレの続きから書いてくれればOKだ
0301スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/05/14(月) 22:30:16.93ID:Gz6+LW/p
崩落した壁へと叩きつけられたスレイブは、風魔法によるクッションでどうにか直撃を回避する。
致命傷は避けられたが、左肩が衝撃で脱臼してしまった。
ほうほうの体で壁の穴からまろび出た時には、ジャンが黒蝶騎士に容赦なく蹴りを入れられ続けている最中だった。

「ジャン!」

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

ティターニアが石の壁を創り出し、黒蝶騎士とジャンとの間を阻む。
激痛を発する左腕を抑えながらも跳躍術式で前線へ飛び戻り、ジャンの襟首を掴んで後ろへと下がった。

>「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

石壁によって閉じられる視界の先で、黒蝶騎士が再び弓を引き絞るのが見える。
軋みを上げて引き絞られる弦の様子を見ただけでわかった。
あの矢は石の壁など濡れ紙の如く引き裂いて、容易くこちらへと届くだろう。
矢羽から手の離れたその時が、ティターニアとジャン、シャルム、そしてスレイブ、その誰かが命を落とす瞬間となる――

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

果たして、致命の想定は現実とならなかった。
石壁を突き破って踊り込んできた矢がこちらの鼻先に届かんとした瞬間、横合いからメイスが弧を描く。
質量と質量、慣性と慣性のぶつかり合いは火花どころか爆風じみた風を生み、周辺の草が耐えられずに散っていった。
弾かれた矢がどこかへと飛んでいき、再び石の砕ける音が轟く。

そう、この場に居る黒騎士は一人だけではなかった。
――黒鳥騎士アルダガ・バフナグリー。人類最強の弓使いに並び立つ、帝国最強戦力が一人だ。

>「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

如何なる手段を用いてか黒の蝶を無効化し、殲滅さえもし果せたアルダガは、スレイブ達を守るように前へ出る。
地面に突き立った十字架から放たれる癒やしの波動によって、脱臼した左肩がみるみる動くようになった。

そこから先は、スレイブが介入することさえままならない戦技の応酬だった。
黒蝶騎士は巧妙に軌道を逸らした矢を放ち、アルダガは巨大なメイスを手足のように操って叩き落とす。
アルダガが神術で攻撃すれば、黒蝶騎士はそれを身体の捻りだけで躱し、黒の蝶の群れで撃墜する。
反撃とばかりに撃ち込まれた黒の矢を、アルダガは――

「素手で掴み取った……だと……!?」

幾重にも張られた風の防壁をものともしなかった致死の弓を、あろうことか素手で掴んだアルダガ。
小枝を折るかのように真っ二つにされて放られた矢は、自由落下の勢いだけでも地面に大穴を穿った。

そうして両者は激突。
スレイブの二の轍を踏むかに思われたアルダガは弱化神術を応用して跳ね返しをこらえきり、
二人は強烈な蹴撃を交わし合って距離を開ける。

これが黒騎士。これが帝国最高峰の戦闘者達。
シャルムの銃弾に端を発した一分にも満たない攻防は、黒騎士同士の拮抗をもって終わりを告げた。

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

>「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

油断なくメイスを構えたアルダガの問に、黒蝶騎士は露骨に肩を落とした。
番えられた新たな矢は放たれることなく、彼女の背負った矢筒へと収まる。
それが小競り合いを終える合図だとでも言うように、張り詰めていた空気が弛緩していくのがわかった。

「なるほどな……シアンス。あんたが指環に固執しない理由がわかった。まざまざと見せつけられたよ……」
0302スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/05/14(月) 22:30:42.49ID:Gz6+LW/p
スレイブは早鐘を打つ心臓をどうにかこうにか抑えつけて、滝のように流れる冷や汗を拭う。
風の指環を得て、古今無双の力でも手にしたような全能感をおぼえていたところに、冷水を浴びせられた気分だ。

目が覚めた。指環の力などなくても、人類はここまでやれる。
黒蝶騎士は、6つの指環を相手取って一歩も引かなかった。その強さに、古代人の遺産は無関係だ。
同時に恐ろしくもある。ただでさえ人類最高峰の戦力が揃った黒騎士に、指環の力まで加わったら。
もはや帝国を止められる国は、大陸には存在しないだろう。

>「……私の元々のプランはね、あなた達がパンドラさん?をやっつけたところを、
 後ろから狙撃して指環もらってお家に帰ろー、いえーい……って感じだったんだけど」

黒蝶騎士が訥々と語る。
陸軍少将から指令を受けた彼女は、指環の勇者たちが女王パンドラから全竜の指環を奪取したところを闇討ちし、
指環の総取りを狙うべくセント・エーテリアに潜伏していた。

しかし、星都には先客がいた。僅かに残った痕跡から侵入者にあたりをつけた彼女はこれを狙撃。
確実に当たった手応えを得たにも関わらず、『先客』は生きていた。
不死者の術核さえ消し飛ばす一撃を受けてなお健在のその先客の接近を恐れた黒蝶騎士はこの場所へ立て籠もり、
そして状況を知るべく指環の勇者達へと救援信号を送って……今に至る。

「黒蝶騎士すら知らない不死身の第三勢力か……ぞっとしないな。帝国上層部の単なる内ゲバの方がよほどマシだった」

この状況で最も芳しくないのは、スレイブ達指環の勇者が完全に後手に回っているという点だ。
そもそも黒蝶騎士がこうして星都に侵入している事実さえ、事前に知らされてなどいなかった。
そして、情報戦において一歩リードしているはずの陸軍省すら、『不死身の先客』に見当が付いていない。
第三者のバックにいるのが何者であれ、皇帝とも陸軍省ともまったく異なる勢力がこの件に一枚噛んでいるのだ。

「一枚岩じゃないにもほどがあるだろう、帝国……この歪み切ったパワーバランスでよく云百年存続できたな」

あるいは、砂の上に城を築くが如く不安定に積み上げられた帝国を、必死に支え続けてきたのがジュリアンやシャルムなのだろう。
だがジュリアンは亡命し、祖龍復活の動乱は国家の基礎を大きく揺らがせている。
時間の問題だった崩壊が、単純に早まっただけの結果なのかもしれない。

>「……今回の任務。なるはやで終わらせた方がいいよ、ナグリーちゃん。
 あまり時間を掛けると……クーデターが起きちゃうかも。あるいはそれ以上の事が。
 せっかちな人達はもうこの戦いが終わった後の準備を始めてる」

黒蝶騎士が極めて一方的にそう告げると、彼女の周囲に黒の蝶が飛び交い始める。
すわ再戦か――スレイブは身構えるが、アルダガやシャルムに警戒する様子はない。

>「……あっ、それともう一つ」
>「私が射抜いたはずの、不死者よりも不死身な誰かさん。その時、一度反撃してきたんだけどね
 確かに、こう言ってたよ……『指環の力よ』ってね。炎の魔法だった。でも……そこのおチビさんの声じゃ、なかったかなぁ」

「指環だと……!?」

最後の最後に意味深な一言を残して、黒蝶騎士は蝶の群れに包まれた。
黒の帳が晴れた頃には、そこにはもうなにも残されていない。
黒蝶騎士がその場から消え、今度こそスレイブは臨戦の緊張を熱い吐息と共に解いた。

>「へ?……いやいや!わたくし、そんなの身に覚えがありませんの!」

炎の指環を使った第三者。
思わず誰もがフィリアを見て、彼女はぶんぶんと首を振って否定する。

>「ああ、いえ……失礼。別に疑ってた訳じゃありません。
 ただ……二つ目の炎の指環が存在する可能性はあるのか、気になりまして」

「『分霊』の線はどうだ?例えばソルタレクで力を取り戻すまで、俺の風の指環は本体とは言えなかった。
 同じように、イグニスの力の一部を切り取ってそれっぽく指環の体裁を整えることは出来るんじゃないか」
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