フォークランド王国、王都ウスワイエ――

「では、われはどうしたらよいと思うのだ?」

マリス女王が三人の男たちに向けて落ち着き無く歩きながら問う。
腰には剣を挿し、武芸に秀でているのが分かるだろう。
女王は若い頃はそれは美しいと評判であったが、縁談を断り続けたため、近頃はそういう話は滅多にない。

このマリスがグレている原因は二つある。
一つは同じ「マリス」の名を持つ5代前の女王、マリス1世が偉大過ぎたこと。名前へのコンプレックスだ。
マリス1世は南の森のエルフ軍を味方につけ、フォークランドの最大勢力版図を築いた。
そしてもう一つは、最愛の父を失い、年齢を減るごとに鏡を見るたびに若々しさが欠けていっていることの自覚。
それが剣術の鍛錬というストレス解消方法へと結びつき、国政への興味を損ねている。

「こ、子を……子を授かってははいかがでしょうか?」

古くから仕える一族といわれているホプキンが発言する。
彼は女王より若く年齢は20代後半、貴族にあたるが幼少期からの関係で召使のような扱いを受けている。
しかし、それに不満はないようだ。

「では、ドラガニアと戦を始めるのは如何でしょう? 我が国もかつての大勢力だった時期に比べれば
だいぶ領土を失っております。兵力を集め、国力を高めましょうぞ」

しわがれた声は王位の第一継承権を持つエイリーク、従兄弟にあたるが、年齢は40歳を超える。
その顔には野心が満々と溢れていた。

「それはならぬ。ドラガニアとは農作物の肥料で取引がある。親交を深めるべきだ。
あ、そうだ! なら闘技場を作るというのはいかがだろう? ノルディスにわれが行った時に見たぞ」

女王のコロコロ変わる表情に呆れるエイリーク、そこに小柄な大臣のデリンが一声。

「では、ドラガニアとは通常通りに親交を深め、同時に姫様、いや、女王陛下には
少々外で息抜きをしていただきましょう。そうすれば何らかの出会いも……
それと、近頃小耳に挟んでおりますが、この大陸深部で大規模な天変地異があったと聞きました。
その調査団を近々、派遣するつもりでおります」

デリンは身分こそ低いが現時点では彼女にとって臣下でも最も「良心」といえる人物。
歳はもう50そこそこになるだろうか。
万能で父の代から仕えている。

常に王位を狙っているエイリーク、女王に明らかに好意を持っているホプキン比べれば
彼女にとっては信頼できた。

「難しいことはではデリンに任せる。では、そのようにしようか。城の兵は骨の無い奴らばかりでな。しかし、
あの時現れた若造のような剛の者といえる者はおらんのだろうか……?」

と言うと、マリス女王は「お忍び」の格好に着替え、数人の部下を連れ出して城を飛び出していった。


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