御者は魔力通信機で救急に連絡すると、周囲の人に呼び掛けた。

 「誰か手当ての出来る人は居ませんか!」

そうすると数人が進み出て、互いに視線で譲り合い、結果1人が御者に応える。

 「一寸、私に診させて下さい」

善意の民間人の助けで、応急処置が進められる。
馬車の中で、一連の出来事を見ていたエイムラクは、歯痒い思いをしていた。
本来ならば、執行者である彼が真っ先に動いて、場を取り仕切らなければならない事態だ。

 (こいつさえ居なければ……)

だが、今は指名手配犯の運送中である。
隙を見せて逃亡されたら、それこそ大問題だ。
幸いにも、少年は命に関わる様な重傷ではないが……。
落ち着かない心持ちで、エイムラクは改めて周囲を警戒した所、怪しい者の気配が消えていたので、
人込みに紛れて見失ったのかと、彼は焦った。
今、馬車は事故で停止している上に、野次馬が多い。
これでは、どこから襲撃されるか分からない。

 (通信は……)

焦ってばかりでは何にもならないと、エイムラクは通信の状況を確認した。

 (おっ、通じる!?)

妨害が止んでいる事を、彼は耳に残る低く小さな「ブーン」と言う特有の音で察する。