X



トップページ創作発表
460コメント724KB
ロスト・スペラー 17 [無断転載禁止]©2ch.net
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/09/20(水) 19:39:30.53ID:RxuePOP2
やっぱり容量制限は512KBから変わっていませんでした。
表示が実際と違うみたいです。


過去スレ
ロスト・スペラー 16
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
ロスト・スペラー 15
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
ロスト・スペラー 14
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
ロスト・スペラー 13
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
ロスト・スペラー 12
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
ロスト・スペラー 11
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
ロスト・スペラー 10
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
ロスト・スペラー 9
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
ロスト・スペラー 8
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
ロスト・スペラー 7
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
ロスト・スペラー 6
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
ロスト・スペラー 5
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
ロスト・スペラー 4
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
ロスト・スペラー 3
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
ロスト・スペラー 2
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
ロスト・スペラー
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0309創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/14(木) 18:17:57.11ID:lJg6vp1o
「……あぁ、早くグラマー市が狙われないかなぁ」

「行き成り素に戻って、不謹慎な事を言うんじゃない! どうして先(さっき)の真面目な会話から、
 そんな巫山戯た言葉が吐けるんだ?」

「共通魔法使いの聖地を攻略するのに、どんな化け物を使うのか、沸々(わくわく)して来ないか?
 魔力発生装置、空間移動、未知の技術を備えた驚異の生体兵器!」

「鹵獲しようってか? 苟も研究者なら敵の技術に頼らないで、自力で発明しろよ」

「倫理的な制約があるから面倒臭いんだよぉ」

「嘘吐け! お前等、自分の体を改造しまくってるだろうが! その目は何だ、その目は!
 明らかに人間の目じゃないぞ!」

「暗視、望遠、顕微、可視波長域拡大、防塵、音波可視化、水晶体再生……便利過ぎて、
 元に戻すなんて考えられない。人体実験も死体弄りも、大した問題では無いんだよ。
 本当に危(やば)いのは……。あっと、何でも無い。今のは忘れてくれ」

「馬鹿な夢見てないで、地道に研究を続けてくれよ」

「何が危いのか聞かないのか……?」

「自分で『忘れてくれ』って言っただろう。そうやって仲間を増やそうとするのは止めろ」

「そんな人を噂の悪魔(※)みたいに」


※:人の噂を媒介として増殖する怪物の事。
  人々の認識によって、存在を得る。
  開花期の小説「噂の悪魔」より。
0310創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/14(木) 18:25:36.07ID:lJg6vp1o
「マトラ公、足は治った様であるな」

「……聖君の器を手放せば、呪いを掛け続ける必要は無いと言う事なのだろう」

「しかし、マトラ公にも敵わぬ物があるとは」

「呪詛とは真、厄介な物よ。そなたも他人事ではないぞ。気を付けよ、フェレトリ」

「用心するとしよう。そうそう他者の恨みを買う事は無いと思うが……」

「吸血鬼である、そなたが最も人の恨みを買い易いのでは?」

「吸血は夢見る裡に誘い堕とす。これに尽きる。死への旅立ちは快楽に包まれ、苦しみを与えず。
 心は極楽、体は地獄。然すれば、恨まれる事は無くなろう」

「優しい事で」

「悪魔とは誘惑する物。言葉巧みに誘い、快楽を与えて魂を奪う。最後まで、否、決して、
 正体は明かさぬ」

「それが難しい。間抜け共が悪魔の正体を知って、絶望する所を見るのが愉しみなのだ」

「マトラ公もクリティアも、嗜虐心が過ぎ申すな」

「ハハハ、人に憎まれ、恨まれる。これも悪魔の風流と言う奴よ。憎悪怨恨を恐れて、
 人間に阿る様では、とても悪魔とは言えぬであろう」

「……我の事を言うておられるか?」

「そうは言うておらん。一々刺々するでないよ。賢しく立ち回る真似が、煩わしくなる時もあるのだ。
 小細工を圧し潰して進む事以上に、己が力を誇示する方法はあるまい」
0312創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:23:10.09ID:yDtBesXF
怯者/怯懦/懦弱(へたれ)


気弱な者、臆病者、勝負弱い者、口ばかりで中身が伴わない者の事です。
「疲れる」、「元気が無くなる」と言う意味の「へたる」の名詞形「へたり」が変化した物と思われます。
他にも、「へこたれる」を略した物とも言われますが、「屁垂れ」は当て字ではないでしょうか……。
「馬鹿垂れ」、「洟垂れ」等、人や物に対して強調の意味で使われる「タレ」がありますが、
その語源は様々です。
「小便垂れ」や「洟垂れ」は後に付く「小僧」、「坊主」が省略された物で、主に子供に言います。
(小便垂れは、身分の低い妾[夜鷹]を言う事もあったそうです)
「染みっ垂れ」、「甘っ怠れ」は、それぞれ動詞と形容詞の名詞化です。
「糞っ垂れ」は腹が立つ相手や出来事に言い、「糞」、「糞野郎」の類型です。
「部子(へこ)垂れ」は少年愛に現を抜かす者。
(部子は少年の隠語で、薩摩弁「へご」や男性器の古語「へのこ」と関連があると思われます)
「馬鹿垂れ」は馬鹿を「垂れる(言う)」者。
(完全に余談ですが、「アホンダラ」は「アホ」+「ダラ」ではなく「アホタレ」の音便化だと思います。
 同じく「クソンダラ」も「クソ」+「ダラ」ではなく、「クソタレ」の音便化でしょう。
 しかし、山陰から北陸に掛けて、馬鹿を意味する「ダラ」の語源が不明なので断言は出来ません。
 そもそも語源が唯一とは限らず、複数の要因が絡む事もあるので……)
対して、臆病者と「屁垂れ」の関連は不明瞭です。
「屁放虫(へこきむし、へっぴりむし)」は臭気を放つ昆虫(カメムシ類とミイデラゴミムシ)を言い、
人間に使う時は、「よく屁をする者」、「屁の音が大きい者」、「屁が臭い者」、「屁をした者」で、
「弱虫」の意味では余り使われません。
寧ろ、人前で屁を放く事は大変失礼であると同時に、恥ずかしい事でもあり、それを逆手に取って、
「大胆さ」や「無神経さ」の表現に用いられる程です。
昔話「屁こき嫁」にも、「へたれ」のイメージは全くありません。
0313創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:24:10.75ID:yDtBesXF
「どうと言う事は無い」、「取るに足らない」と言う意味の「屁でもねえ」は、「そうでもない」の、
転訛の可能性を指摘しておきます。
東海、関東、東北では「そう」の意味で「へえ」、「へー」、「へ」が用いられる地域があり、
元々「屁」とは無関係かも知れません。
(例:「へーでな(それでな)」、「へーだで(そうだよ)」等。
 「そう」から「せー」へ、「せー」から「へー」に変化したと思われます。
 「そう」が「せ」になるのは、関西弁「せやで(そうだよ)」に見られます。
 これに江戸弁に見られる「サ行」が「ハ行」に置き換わる現象が加わり、「へ」になったのでしょう。
 しかし、「サ行」が「ハ行」に置き換わるのは、日本の東側に限った話ではなく、関西地方でも、
 「そ」が「ほ」になったり、「せ」が「へ」になったりします。
 「そ(ほ)んなら」「知りませ(へ)ん」が代表的です。
 「サ行」と「ハ行」の置き換わりは、九州から東北まで各地にあり、古い日本語だとも言われます)
「屁垂れ」と臆病者に関連があるとすれば、「屁っ放り腰」。
屁をする時の姿勢が腰を引いた物である事から、怖ず怖ずした様を「屁っ放り腰」と言います。
「屁っ放り(へっぴり)」も同じ意味で使われるらしいので、そこから「屁垂れ」かも知れません。
強調の「タレ」は関西弁らしいのですが、関西では「へたれ」に類似した意味の「あかんたれ」があり、
こちらは「あかん(『行かん』の転)」+「タレ」で「行かん(駄目、悪い、怪しからん)奴」です。
「いけず(行けず)」に近いとも。
「へたれ」と「あかんたれ」の違いは、「あかんたれ」の方が悪行や非行を含む広義の「駄目」で、
又「へたれ」は新しい言葉との事。
それは扨措き、当て字は何れも「気弱」、「臆病」、「臆病者」の意味です。
0314創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:26:14.02ID:yDtBesXF
密告(ちく)る


告げ口する事です。
中国語では告密、伝舌と言うらしいので、それも使えると思います。
告げ口の「口」から「口(くち)る」、「チクる」と変化したとも、「(嫌味等を)ちくりと言う」に由来するとも、
言われます。
この「ちくり」は、鋭い物が刺さる時の「ちくり」です。
どれが正しい語源なのかは不明ですが、個人的には後者を推します。
0315創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:29:10.14ID:yDtBesXF
おられる


尊敬語の「おられる」ですが、誤りとする人が多い様です。
そう言う人は「いらっしゃる」が正しいと主張するのですが、「いらっしゃる」も実は問題があります。
「いらっしゃる」の「いる」には「居る」と「入る」があり、更に「居る」、「在る」、「行く」、「来る」の、
4つの意味を持つ尊敬語でもあります。
「居る」の尊敬語には他に、「坐す(おわす、います)」があります。
「あられる」で代用される事もあります。
時代劇では「こちらに坐す方は〜」と言いますが、現在では殆ど死語です。
方言で「おわっしゃる(おわせらる)」を使う所も残っている様ですが、現代で「社長がおわします」、
「社長がいまします」は古めかしいと同時に、仰々しい印象でしょう。
一方「社長がいらっしゃいます」と言った時に、「入る」と「居る」の区別は文脈で行うしかありません。
「社長はいらっしゃいますか?」では、「入る」と「居る」だけでなく、「入る」でも更に意味が分かれ、
「(こちらに)来る」のか、「(そちらに)行く」のかと言う問題も生じます。
「こちらにいらっしゃって下さい」でも、「ここに居て欲しい」のか、「側に来て欲しい」のか、
解釈が必要になります。
「いらして下さい」等と言えば、確実に「来い」の意味に取られます。
意味の取り違えが無いと言うのは、「おられる」の長所でしょう。
「おる」は謙譲語だから誤りとするのは、余りに現代国語の規範に縛られ過ぎています。
現代国語の規範は飽くまで後付けの物で、当然例外があります。
幸い、「おられる」は「いらっしゃる」より敬意の度合いが低い言葉として、例外的に認められています。
これには「いる」の尊敬語である「いられる」が、尊敬語として使い難い事がある様です。
「先生がいられる」とは言いませんし、「話していられる」と言う表現は「可能」と受け取られます。
(関西弁では「いてはる」が通用する様ですが、例外的な物でしょう)
特に現在進行形の「いる」、過去進行形の「いた」に関しては、「いられる」が使えないばかりか、
「いらっしゃる」でも諄くなり勝ちです。
「言っていた」を尊敬語にする際、「仰っていた」では敬意の度合いが低いが、だからと言って、
「仰っていらっしゃった」では長くなり過ぎる。
そう言う時にも「おられた」が使えます。
「御覧になっておられた」、「召し上がっておられた」等も「いらっしゃった」では一文が諄くなりますし、
実際に口で言っても長々しく感じます(促音の連続が理由でしょう)。
又、「おる」は「いる」よりも文語的とされて「おり」、この様に付属語でも活躍します。
これを『「おる」は「いる」よりも文語的とされて「いて」』と言うと、口語的で砕けた印象を与えます。
この例は「おる」の謙譲語の用法ではありません。
しかし、常に「いる」の代替に用いられる訳では無く、「おる」や「おった」は余り使いません。
「いる」の隙間産業を担う「おる」は、今後も生き続けるでしょう。
0316創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:30:13.83ID:yDtBesXF
余談ではありますが、「おる」には謙譲語の他に、尊大語(自敬)の意味もあります。
偉い人が「知っておる」、「言っておる」と言う時が、それに当たります。
「困っているのです」と「困っておるのです」では、謙譲語の分、後者が丁寧な言い方の筈ですが、
「おる」の尊大語の性質を考慮すると、後者の方が偉そうに聞こえるかも知れません。
尊大語は他に「食らう」、「くれる」、「やる」、「遣わす」、「申す」、「参る」、「致す」があります。
王様や殿様が偉そうに使う言葉だと思って下さい。
この中には乱暴な言葉と同時に、謙譲語と呼ばれる物も含まれています。
偉い人が自分の行為に丁寧語でない謙譲語を使うと、尊大語になるのです。
「手打ちに致す」、「今参る」、「確かに申した」等。
以上の例は幾ら謙譲語でも、丁寧語に直さなくては、謙った事にはならない事を意味します。
謙譲語は丁寧語にして、初めて正しく謙譲の意味を持つとも言えるでしょう。
謙譲語U(丁重語)と言う分類もありますが、これでは上記の事柄を全て説明出来ません。
「伺う」や「頂く」、「仕(つか)る」でも同じ事が言える為です。
尊敬語も同じで「何を仰る」と言うと無礼な感じがあり、「何を仰います」と丁寧語にします。
そして、自分の行為を尊敬語で言う事はありません。
どうも尊敬語としての「おられる」は、尊大語の「おる」の受け身として誕生した経緯がある様です。
「偉い人が目下の者に尊大語を使う」、「言われた側が受け身で表現する」と言う自然な遣り取りが、
尊敬語と同時に謙譲語でもある言葉を生み出したのでしょう。
似た様な「受動態での敬語表現」は他言語でも見られます。
そもそも日常会話で「尊敬語」に加えて「謙譲語」まで一々対応する言葉を覚えなくてはならないのが、
大きな手間なのです。
無教養と切って捨てるのは簡単ですが、所謂「平民」と呼ばれる人達が「正しい国語」の教育を、
受けられる訳も無く、又「正しい国語」と言う物も無かった時代、こうして自然に発生した言葉を、
「誤り」と断じるのは傲慢にも思われます。
0317創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:33:56.39ID:yDtBesXF
更に余談になりますが、「おる」や「申す」(所謂「丁重語」)は本当に謙譲語だったのか疑問です。
古文書を見ると、「申す」は必ずしも謙譲語ではなく、尊敬語や丁寧語としても使われています。
江戸期の文書では「被申候(もうされそうろう)」があり、やはり尊敬と謙譲どちらでも用いる上に、
「申候(もうしそうろう)」を「言う」や「する」の改まった言い方として用いる例もあります。
(丁寧語の「ます」が「申(まお)す」、「坐(ま)す」の影響を受けている事も関係しているでしょう)
同時に「被仰候(おおされそうろう)」もあり、こちらは歴とした尊敬語です。
頻繁に使われ過ぎて、「申す」本来の意味を失ってしまったか、若しくは最初から謙譲語ではなく、
丁寧語だった物が格下げされた可能性もあります。
(「言う」の丁寧語が「申す」で、尊敬語が「仰る」だったかも知れないと言う事です)
これに限らず殆どの場面で、尊敬語は確実に目上の者に対してのみ用いられているのに対して、
謙譲語は丁寧語との区別が曖昧で、時に尊敬語にもなります。
元は丁寧語と尊敬語だけだった所に、新しく謙譲語が誕生したのでしょう。
現在、尊敬語でも「お召し上がりになる」や「仰られる」等、「尊敬語を更に尊敬語にする」事が、
多くの場面で行われています。
恐らく、「召し上がる」や「仰る」では敬意が足りないと感じての事でしょう。
特に「召し上がる」に関しては、家庭で普通に「召し上がれ」、「お上がりなさい」と言うので、
改まった言葉だと実感出来ないのかも知れません。
(「上がる」は「食べる」の尊敬語で正当な物ですが、現在では余り使われない様です)
これ等は「二重敬語」であり、「好ましくない」とされていますが、その理由は「身分制度的な物」で、
実は戦後になってから廃止された物です。
そうでなければ奏上文で、「おかせられる」、「あらせられる」等とは言いません。
又、「おっしゃる」の元になった「おおせらる」も誤りと言う事になってしまいます。
(「せらる」は「される」の古語で、それが「おおす」に付いて、「おおされた」の意味です。
 二重敬語が誤りとするならば、「おおした」と言わねばなりません。
 その方が簡潔で良いと言う意見もありましょうが……)
「二重敬語は好ましくない」と言う見解は、墨守すべきとは思いません。
一応、「お召し上がりになる」は慣例として許容される事になっています。
0318創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/15(金) 18:35:47.90ID:yDtBesXF
二重敬語に関して、もう少し詳しく言及しておきます。
「お召し上がりになる」は動詞を尊敬語にする際の「お[ご]+(動詞の名詞形)になる」と、
「食べる」の尊敬語の「召し上がる」との組み合わせです。
「仰られる」は動詞を尊敬語にする際の「〜される(受動態)」と、尊敬語「仰る」の組み合わせです。
これ等は敬語に敬語を組み合わせるので、好ましくないとされています。
同じく、「お伺いする」等の動詞を謙譲語にする際の「お[ご]+(動詞の名詞形)する」と、
謙譲語(この場合は「伺う」)の組み合わせも、好ましくないとされています。
しかし、この程度の組み合わせは数あり、しかも既に多く使われています。
「仰せになる」、「お召しになる」、「お伺いする」、「お参りする」等。
(「仰せになる」は本来「お仰せになる」が正しいのでしょうが、「お」が多過ぎるのでしょう。
 敬語の重複を避けるなら、「仰(おお)した」と言わねばなりません。
 「お召しになる」の「召す」は「お気に召す」の様に、「召す」だけで尊敬の意味がありますが、
 「召される」と併せて多用されます。
 謙譲語の方は、「伺います」、「参ります」だけで十分とされています)
これ等が全て誤りである、又は好ましくないと言うのは、どうにも乱暴です。
一方で、「お頂きします」、「お承りします」の様に、違和感のある組み合わせも確かにあります。
この違和感のある物と、そうでない物の区別が「慣習」以外で説明不能な事が問題なのでしょう。
更に「個人的な違和感の有無」が加わると、それは最早感覚の問題であり、議論になりません。
0319創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/16(土) 18:24:21.05ID:eDyt7x8J
共(ごと)


「丸ごと」の「ごと」です。
「車ごと船に乗る」、「家ごと売り払う」、「箱ごと包む」等、「一緒に」と言う意味の接尾語です。
語源は分かりませんでした。
「事」か「如」か、それとも全く別の言葉か……。
0320創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/16(土) 18:28:47.83ID:eDyt7x8J
祟(たた)らう


本編では「呪(たたら)う」と当てています。
「祟る」の未然形「祟ら」に反復・継続の意味を持つ接尾語「ふ(う)」が付いた物です。
動詞の未然形+「ふ(う)」の例としては、「語らう」が代表的でしょう。
これは「語る」の反復で、「語り合う」の意味になります。
「住まう」は「住む」の継続で、「住んでいる」の意味。
「服(まつら)う」は「奉(まつ)る」の継続で、「奉げ続ける」から「従う、服従する」の意味。
「論う」は「挙げる」+「つる(連る?)」の継続で、「取り上げる」の意味。
「繕う」は「作る」の継続で、「作らう」の音変化、「直す、装う」の意味。
「呪(のろ)う」は「宣(の)る」の継続で、「宣らう」の音変化。
他、「呼ばう」、「移ろう(移らう)」、「生まう」、「坐(いま)さう」、「霧(き)らう」等。
調べると意外な物が出て来ます。
しかし、「補う」は「おき(置き)-ぬふ(縫ふ)」の変化であり、反復や継続の「ふ」ではありません。
語源を確り調べないと、紛らわしい物が幾つもあります。
又、反復の「ふ」は「合ふ」であり、継続の「ふ」とは意味が異なるとも言われます。
継続には明確に「〜している、〜し続ける」の意味が付加される物もあれば、元の動詞と然して、
意味が変化しない物も、元とは意味が変わってしまう物もあります。
肝心の「祟らう」の意味は、「祟る」と殆ど違いありませんが、「祟っている」、「祟り続ける」と、
解釈しても問題ありません。
「祟る」事の継続を表しているだけです。
0321創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/16(土) 18:35:13.77ID:eDyt7x8J
辣(ひり、ぴり)りと/辣々(ひりひり、ぴりぴり)/辣(ひり)付く


辛味や手厳しさ、或いは、焼け付く様な熱さを表す「ヒリヒリ」のヒリです。
中国語から。
中国語では「火辣辣」で、「ヒリヒリする」と言う意味に。
他、辣油や辛辣と、この漢字自体に、「ヒリヒリする、ピリッとする」の意味がある様です。
「辛辣」や「辣腕」は、それぞれ「手厳しい様子」と「物事を的確に処理する能力がある事」で、
味覚や痛覚以外にも使われています。
他に「赫」と言う漢字もありましたが、こちらは「明るい」や「赤々と」と言う意味です。
どちらも使えるのではないでしょうか?
0322創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/16(土) 18:36:02.71ID:eDyt7x8J
吃逆(しゃっくり)


「穢」の「禾(のぎ)偏」の代わりに「口偏」を入れて、漢字一字で「しゃっく(り)」とする事もありますが、
残念ながらコードの関係で表示出来ません。
代わりの漢字があるのは良い事だなと思いました。
「サクる」が語源だそうです。


似(そぐ)う


「似合う」、「釣り合う」、「相応しい」と言う意味の「そぐう」です。
現代では多く否定を伴って、「似(そぐ)わない」と言います。
古い小説では、「似はぬ(=そぐわぬ)」と表記されていたりします。
0324創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/17(日) 17:16:55.13ID:oaHQZgpW
動乱の裏で


所在地不明 反逆同盟の拠点にて


反逆同盟の一員だった魅了の魔法使いバーティフューラー・トロウィヤウィッチ・ラントロックと、
外道魔法使いとして覚醒しつつあるヘルザ・ティンバーの2人は、拠点から離脱しようとしていた。
今、反逆同盟の拠点には、主要なメンバーが殆ど居ない。
全員ティナー地方に出掛けているのだ。
しかも、長期間の出張である。
残っているのは、ラントロック、ヘルザ、リタ、ニージェルクロームと、B3Fだけ。
反逆同盟から抜け出すなら今しか無いと、ラントロックは脱走の覚悟を決めた。
しかし、脱走するには大きな枷がある。
それはB3Fの存在だ。
B3Fは「出張」に同行しておらず、大体ラントロックの近くに居る。
その上、彼女等はマトラに忠誠を誓っている。
忠誠心は個々で差がある様だが……。
密かに抜け出そうとしても、ラントロックの脱走を見逃す訳が無い。
どうするべきか悩んだラントロックは、正直にB3Fに同盟から離脱する意思を伝える事にした。
0325創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/17(日) 17:21:21.70ID:oaHQZgpW
彼は「説得」に自信があった。
魅了の魔法を使えば、どうとでもなると思っているのだ。
最初にラントロックが意思を伝えに行ったのは、魚人のネーラ。

 「ネーラさん、大事な話がある」

 「どうした、改まって?」

ラントロックが真剣な声で言う物だから、ネーラは怪訝な顔をした。
彼女の反応にラントロックは、言い出し難さを感じたが、迷う気持ちは数極以内に押し込み、
思い切って言う。

 「俺は同盟から離脱する」

その宣言にネーラは無反応だった。
驚くなり、止めるなり、何等かの反応をする物だと予想していたラントロックは不安になる。

 「……止めないの?」

ネーラは彼の疑問には答えず、自らの疑問を優先させた。

 「どうして、そんな事を言いに来た?
  私達が同盟の長である『マトラ』に逆らい得ない事は、主も知っていよう」

その口調は怒っている様で、ラントロックは罪悪感を覚えた。
ネーラはマトラに逆らえない。
だから、同盟の離脱者は止めざるを得ない。
離脱を知りつつ見過ごす事は、マトラへの「反逆」を意味する。
賢いネーラは、「指示に無い事」と無責任になれないのだ。
0326創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/17(日) 17:30:09.80ID:oaHQZgpW
ラントロックはネーラの瞳を真っ直ぐ見詰めて提案した。

 「ネーラさん、一緒に逃げないか?」

意外な言葉に、彼女は動揺する。

 「何だと!?」

 「俺は同盟を抜ける。
  この考えを変える積もりは無い。
  ネーラさんが、その気なら……」

ネーラは数々の特殊な能力を持っている。
ラントロックにとって、彼女が味方である事は心強い。
しかし、ネーラは首を縦には動かさない。

 「主は余りにマトラの恐ろしさを知らな過ぎる。
  主とマトラでは、1つや2つでは済まない桁違いの開きがある。
  無論、私もマトラの足元にも及ばない」

 「だから、黙って従うしか無いって言うのか?」

ラントロックの問い詰めに、ネーラは無言の返答をする。
彼は同情心を抑えて、毅然と言い放った。

 「俺は御免だよ。
  止められる物なら、止めてみろ、ネーラ」

挑発されたネーラはラントロックに対して、水の魔法を使う。

 「水泡よ、その儚きより儚きを封じる檻となれ。
  泡沫の命、命の泡沫。
  泡沫の命、潰えしは水となりて巡るも。
  命の泡沫、潰えしは虚にして、二度(ふたたび)還らぬ故」
0327創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/18(月) 18:10:50.54ID:SYWSewZL
ネーラとラントロックの魔法資質の差は、そう大きくは無い。
時々の調子によって、互いの優位は入れ替わる。
その程度の差でしか無いから、単純に比較して、どちらが上とは言えない。
だが、ネーラは自分の方がラントロックより強いと言う自負があった。
B3Fで最も高い魔法資質を持つ彼女は、自分の能力が他の「人間」に劣る物ではないと信じていた。
ラントロックの魅了の魔法に抗えないのは、魔法資質の優劣では無く、それが魅了の「性質」だから。
本気になれば、ラントロックには自分の魔法を打ち破れないと、高を括っていた。
ネーラが呪文を唱え始めると、無数の小さな水泡がラントロックに纏わり付き、やがて彼を包み込む、
大きな1つの水泡となる。
水泡を操る魔法は、ネーラが最も得意とする物。
普段、水中にしか居られない彼女が地上で活動するのに必要な魔法の一。
これの扱いに関しては、かなりの自信があった。
水泡の強度は、高めれば矢をも弾き返す程になる。
「魅了の魔法」しか使いたがらないラントロックに、これを破壊する手段があるか?
水泡に包まれても、ラントロックは全く動揺せず、静かにネーラを睨んでいた。
彼が徐に右手の指先を伸ばして水泡に触れると、破裂せずに突き抜ける。
これを見たネーラは驚いた。
水泡の強度を突き抜けられる程、弱くした覚えは無い。
想定通りの強度であれば、多少変形した後に、ラントロックの指を押し返して弾く筈だ。
ラントロックが左手も突き出すと、水泡は簡単に突き破られて、弾け飛んでしまう。
0328創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/18(月) 18:12:42.07ID:SYWSewZL
 「ネーラ、もう俺は躊躇わない」

落ち着いた声音で宣言する彼には、凄まじいまでの色気があった。

 「貴女の立場を、俺は解っている積もりだ。
  だから、俺は貴女を魅了する。
  貴女は俺の物になる。
  これから貴女が行う事は、全部俺が命じた事だ。
  全て俺の所為にすれば良い。
  ……一緒に逃げよう」

甘美な誘惑の囁きに、ネーラは簡単に堕ちて行った。
彼女は余りにも日常的に、ラントロックの魅了を受けていた。
「慣れる」所か、強い意志を持っていないと、益々深みに嵌まるのが、魅了の魔法。
魅了されても思考は自由ではないか等と油断していると、抜け出せない所まで来ている。
ネーラの瞳から光が失われ、ラントロックの言葉に従うだけの存在となる。

 「他の皆は素直に応じてくれるかな?
  『説得』しに行こうか、ネーラ」

無言で頷いたネーラは、宙に浮かせた水球に飛び込み、ラントロックの後に続いた。
次にラントロックはフテラに会いに、彼女の塒へ向かった。
その前に、フテラの方がラントロックに気付き、彼の目の前に下りて来る。
フテラはネーラの異変を敏く読み取り、少し警戒してラントロックに尋ねた。

 「ネーラの様子が奇怪しいが……、賢し立って粗相でもしたか?」

ネーラは余計な気を回して失敗する事が間々あるので、それでラントロックの不興を買って、
魅了で黙らされてしまったのかと。
その疑問にラントロックは答えず、フテラに対して言う。

 「フテラさん、今丁度会いに行く所だったんだ」

彼の笑顔にフテラは不吉な物を感じて、身震いした。
0329創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/18(月) 18:15:21.99ID:SYWSewZL
普段のラントロックであれば、素直にフテラに事情を説明した。
彼はB3Fを魅了して従わせる事に、幾らか負い目を感じていた。
本音を言えば、魅了せずとも従う様になって欲しいのだろうと、そうフテラは理解していた。
しかし、今のラントロックからは、そうした遠慮や優しさが感じられない。
彼の微笑みに、何時もの親しみは感じられず、牙を隠している様な恐ろしさがある。
身構えるフテラに、ラントロックは告げた。

 「俺は反逆同盟を抜ける」

 「えっ」

フテラは戸惑い、言葉を失う。
そんな彼女にラントロックは平然と尋ねる。

 「フテラさんは、どうする?」

 「えっ」

フテラは未だ何も答えられない。
彼女にはラントロックの意図が読めなかった。
返答に困っている彼女を見兼ねて、ラントロックは選択肢を用意する。

 「俺を止めるかい?
  それとも黙って見過ごす?」

そこまで言われて、漸くフテラはネーラが魂を抜かれた様になっている理由を察した。

 「ト、トロウィヤウィッチ……」

彼女の先を制して、ラントロックは自ら語る。

 「あぁ、『ネーラ』は俺と一緒に来てくれるって」

ラントロックがネーラを一顧して視線を送ると、ネーラは無感動に頷いて返す。
フテラは体の震えが止まらなかった。
0330創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/19(火) 18:13:52.24ID:rrE4ydP5
ラントロックがネーラを呼び捨てにする所も、フテラは初めて見た。
それは今までの関係が終わった事を意味する。

 「俺は本気だよ。
  フテラさん、答えてくれないか?
  俺『達』を止めるのか、見過ごすのか」

改めて2択を提示され、フテラは戸惑う。

 「ど、どうして同盟を抜けるなんて……」

彼女の疑問にラントロックは即答した。

 「同盟は長くない。
  未来の無い所には居られない。
  それだけさ」

 「か、考え直せ、トロウィヤウィッチ。
  『マトラ』は強い。
  あの女に逆らう事は賢明ではない」

 「どんなに強くても、組織の運用が下手じゃ意味が無い。
  これ以上は付き合い切れないんだ。
  共通魔法社会に不満はあるけど、だからって支配したい訳じゃないしな。
  俺は自分で選んだ道を進むよ。
  ……それじゃ」

フテラはラントロックを止めたかったが、どんなに言葉を尽くしても、それは無理に思われた。
そうなると実力で止めるのかと言う話になる訳だが、ラントロックとネーラに勝てる気もしない。
黙って見送るしか無いのか、他に良い考えは無いのか、フテラは焦った。
0332創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/19(火) 18:19:34.58ID:rrE4ydP5
 「待て、トロウィヤウィッチ!
  どうして態々私に宣言しに来た?
  黙って同盟を抜け出す事も出来た筈だろう!」

彼女は懸命に知恵を働かせ、1つの疑問に辿り着く。
ラントロックは短く一言だけ答えた。

 「決まってるじゃないか」

全ては既知の事であるかの様。
フテラは悩みに悩む。
離脱を宣言する事に、何の意味があるのか?
フテラが離脱に反対するなら、宣言には損しか無い筈だ。
暫くして、彼女は理解する。
去り行くラントロックの背を追って、彼女は叫んだ。

 「待ってくれ、トロウィヤウィッチ!
  私も一緒に行く!
  一緒に居させてくれ!」

フテラは自分の意思で、ラントロックと共に同盟から離脱する道を選んだ。
それをラントロックは無言の微笑みで歓迎する。
残るは2体、テリアとスフィカ。
彼女等は、どう言う選択をするだろうか?
ラントロックはネーラとフテラを連れて、テリアの元へと向かった。
テリアが居る穴蔵の前で、ラントロックは彼女を呼ぶ。

 「テリアさーん、出て来てくれー!」

ラントロックの声を聞いたテリアは、鈍々と穴蔵から這い出す。

 「何の用だ、トロウィヤウィッチ?
  もう少し寝ていたかったのに」
0333創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/19(火) 18:21:21.82ID:rrE4ydP5
テリアは小言を呟きながら、開き切らない目でラントロックの顔を見る。
ラントロックもテリアの瞳を見詰め、話を始めた。

 「テリアさん、俺は同盟を抜けるよ」

テリアは直ぐには彼の言葉が理解出来ず、寝惚け眼を擦る。

 「……なぁに、何だってぇ?
  同盟を抜ける……?」

遅れて理解した彼女は、目を見開いた。

 「同盟を抜けるぅ!?
  ええー、何で何で!?」

早口で捲くし立てながら、テリアはラントロックに縋り付く。

 「何か嫌な事でもあったの!?
  ここで暮らすのが嫌になった!?」

ラントロックは詳しい説明はせず、適当にテリアの言葉に合わせて頷く。

 「まあ、そんな所かな。
  もう同盟には居られない。
  それでテリアさんは、どうする?」

 「ど、どうするって??
  どうすれば良いの??」

 「簡単に言うと、俺達の敵になるのか、味方になるのか」

テリアは困惑を露にして、答え倦ねていた。
0334創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/20(水) 19:13:17.59ID:l6xdnpbr
彼女は全く理解の無い子供の様な反応をする。

 「トロウィヤウィッチと敵同士にはなりたくないよ……」

 「それじゃあ、テリアさんも俺達と一緒に同盟を裏切ってくれるかい?」

ラントロックは態と悪い言い方をして、彼女の覚悟を試した。
「同盟を裏切る」と聞いて、テリアは悩む。

 「ど、同盟を裏切るのも嫌だよ……。
  だって、同盟は『マトラ』の物だから……。
  マトラを裏切る事になる……」

 「一緒には行けないって事だね?
  残念だよ」

 「そ、そんな……」

ラントロックは冷淡に告げて去ろうとした。
テリアは彼では無く、ネーラとフテラを呼び止める。

 「お、おい、ネーラ、フテラ!
  お前達は同盟から離れて良いのか!?
  マトラが怖くないのか!」

それにフテラが答えた。

 「確かに、マトラは恐ろしい……。
  だが、私はマトラの付属物ではない。
  旧暦から何だ彼だ、1羽で暮らして来た。
  鳥は空を飛ぶ物。
  私が自由を失う時は、この翼を失う時」
0335創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/20(水) 19:16:53.89ID:l6xdnpbr
フテラの答にテリアは愕然として、今度はネーラの方に同意を求める。

 「ネーラ、お前は!?」

 「全てはトロウィヤウィッチの為に」

しかし、彼女の答も冷淡。
ここで漸くテリアは、ネーラの異変に気付く。
感情が全く感じられず、両の瞳からは生気が失せている。

 「ネーラ……?
  お前、変だぞ!
  そんな事言う奴じゃなかった!
  トロウィヤウィッチ、ネーラに何をした!?」

そう尋ねるテリアの足は、生まれ立ての小鹿の様に震えている。
ラントロックは平然と答えた。

 「彼女は俺の邪魔をすると言った。
  だから、邪魔されない様にした」

 「わ、私の事も、ネーラみたいにするのか?」

怯えるテリアを、彼は幼子を見る様な目で笑う。

 「邪魔さえしなければ、何もしないよ」

テリアは小さく唸り、改めてラントロックに警告した。

 「ウゥ〜……、トロウィヤウィッチ、マトラは恐ろしいんだぞ!
  裏切りは許されない!
  必ず、お前を追い詰める!」

 「解っているよ」

 「解ってないよ!
  絶対に後悔する!」

 「そうかも知れないな」

 「そう……って、えぇ!?
  後悔するんだぞ!?」

 「それでも俺は同盟には居たくない。
  テリアさん、俺達と一緒に来てはくれないんだね?」

テリアは再び答え倦ねて沈黙した。
0336創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/20(水) 19:20:32.71ID:l6xdnpbr
ラントロックは優しく彼女に言う。

 「だからって、恨んだりはしないよ。
  危険を冒したくない気持ちは解るし、それは仕方が無い事だ。
  残念ではあるけど」

背を向けようとしたラントロックに、テリアは尋ねた。

 「トロウィヤウィッチ!
  ……スフィカに話はしたのか?
  同盟の他の奴等とは?」

 「スフィカさんには、これから話しに行く所だ。
  彼女が何と言うかは分からない。
  同盟の他の人達は……誘いに乗ってくれなかったよ。
  止めはしないけど、一緒には行かない。
  皆そう言っていた」

同盟に残るのが自分だけでは無い事に、テリアは安堵するも、不安と焦りは燻り続ける。

 「スフィカと話しに行くなら、私も付いて行く!
  ……良いだろう?」

同情を誘う問い掛けをする彼女に、ラントロックは静かに頷いた。

 「構わないよ」

ラントロックとネーラ、フテラ、テリアは揃って、スフィカの「巣」に向かう。
スフィカの巣は砦の外壁に備え付けられた雨除けの下にある。
乾いた泥で造られた、歪な球体を連結した「巣」に掴まって、彼女は眠る。
B3Fの中では明確に昼行性の彼女は、明るい内は餌を探し回り、大きな虫や小動物を、
肉団子にして巣の中に蓄える。
一行がスフィカの巣に近付くと、丁度彼女は餌を銜えて戻って来た所だった。
仕留めた大きな野良猫を、前足で転がして丸めながら、スフィカは尋ねる。

 「何かあったの?」
0337創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/21(木) 18:50:51.52ID:d28kRL2c
ラントロックは迷い無く話を始めた。

 「スフィカさん、俺は同盟を抜ける。
  フテラさんも俺と一緒に来てくれる。
  でも、テリアさんは、それは出来ないと言うんだ。
  ……スフィカさんは、どうする?」

スフィカは猫の死体から皮を剥ぎながら、沈黙して長考する。
皆、彼女の反応を静かに待った。

 「私は同盟を抜ける訳には行かない」

スフィカの答もテリアと同じだった。
テリアは大いに安堵し、得意になって言った。

 「そ、そうだよな!
  マトラは強い!
  逆らうのは賢くない、寧ろ馬鹿だ!」

彼女の言い分に、スフィカは言い添える。

 「それだけでは無い。
  私はマトラ様に恩がある。
  トロウィヤウィッチ、本当に同盟を抜けるのか?」

そして、ラントロックの真意を糺した。
ラントロックは頷く。

 「もう決めた事だ」

スフィカは再び沈黙して長考した。
テリアは彼女が心変わりしないか、兢々として見守る。
0338創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/21(木) 18:56:03.12ID:d28kRL2c
スフィカは無言の儘、肉団子を捏ね始めた。
彼女は肉や内臓が崩れ落ちない様に、消化酵素と凝固酵素を含む唾液で繋ぎ止めながら、
骨を抜いて捏ね回して行く。
やがて一言。

 「……今度会う時は、敵同士かも」

 「そうならない事を願ってる」

ラントロックが去ろうとしたので、テリアはスフィカに掴み掛かった。

 「お、おい、スフィカ!
  止めなくて良いのかよぉ!」

スフィカは肉団子を捏ね続けて言う。

 「良くはない。
  でも、止められるとも思えない。
  力尽くで行くのか?」

彼女の問いに、テリアは声を詰まらせた。
正直な所、ラントロックに加えて、ネーラとフテラを相手にするのは難しいと思っているのだ。
スフィカは淡々と続ける。

 「マトラ様が何等かの手を打って下さる事を期待しよう。
  トロウィヤウィッチを取り戻すには、それしか方法が無いと思う」

テリアは恨めし気に、去り行くフテラの背を睨んだ。
彼女はマトラを恐れずに行動出来るフテラを羨んでいた。
0339創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/21(木) 18:58:13.87ID:d28kRL2c
ラントロックとヘルザ、ネーラ、フテラの2人と2体は、反逆同盟の拠点を後にした。
仲間を置いて行く事に、ラントロックは後ろ目痛さがあったが、誘っても乗らなかったのだから、
幾ら気に掛けても仕方無いと、迷いを振り切った。
彼はネーラに依頼する。

 「ネーラさん、どこか遠くへ運んでくれ。
  ここから出来るだけ離れた所へ」

ネーラはラントロックとヘルザを抱いて水に飛び込み、瞬間移動する。
移動先はブリンガー地方のインベル湖。
ラントロックとヘルザが岸辺に上がると、ネーラはフテラを連れて再度移動した。
ラントロックは辺りを見回して、現在位置を確認する。

 「ここはインベル湖か……?」

 「知ってるの?」

ヘルザの問いに、ラントロックは頷く。

 「小さい頃、親父の旅に付いて行った時に、来た事がある。
  大陸最大の湖と言われる、あのインベル湖だよ」

 「これから、どうするの?」

再びの彼女の問いに、ラントロックは考え込んだ。

 「……ソーダ山脈を越えて、キーン半島に行ってみよう。
  確か、そこの森に『外道魔法使い』の小母さんが住んでいた。
  姿を隠すには、丁度好いと思う。
  険しい長歩きになるけど」

一行はキーン半島への長旅の準備を始める。
0341創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/22(金) 18:27:53.16ID:DDgZZQaA
内通者


第四魔法都市ティナー ティナー魔導師会本部にて


協和会が壊滅した後、PGグループが魔導師会に提出した裏名簿の中に、魔導師の名前があった。
「ソルート・レッドバーク」と「トレンカント・ゴーバル」の2名。
この2人は魔導機密造事件に関与したとして指名手配中の容疑者で、現在は行方不明。
2人の名前を騙った偽者か、それとも本人なのか、魔導師会は動揺した。
自己防衛論者と協和会が絡んだ事件に共通する存在として、魔導師会は「PGグループ」と、
「ガーディアン・ファタード」を疑った。
裏名簿はPGグループから渡された物で、そこに作意が無いとは言い切れないが、
裏名簿の作成者を心測法に掛けても、怪しい所は無かった。
ガーディアン・ファタードも2人の魔導師とは無関係。
2人の魔導師は一体何なのか、謎は深まる一方。
そんな時、ソルートとトレンカントに関して、親衛隊の内部調査班は、ある奇妙な情報を得た。
この2人が失踪前に、ある中央運営委員の秘書と接触していたのだ。
その中央運営委員の名は、ファラド・ハクム。
グラマー地方出身で、魔導師会の権限を拡大すべきと主張する、強硬派として知られている。
0342創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/22(金) 18:33:09.08ID:DDgZZQaA
ソルートとトレンカントは彼の秘書と接触していただけで、本人と直接の関係は無い。
しかし、ファラドの態度は内部調査班の間でも、度々問題視されていた。
中央運営委員会は、八導師を除いた組織の頂点であり、実質的な魔導師会の運営者である。
殆どの重要事項は、中央運営委員会によって可否が判断される。
中央運営委員は、八導師と同じく魔導師による選挙によって選出される。
八導師は多くの場合、中央運営委員会の決定を追認するに過ぎない。
それだけの重責を担う中央運営委員でありながら、ファラドは物議を醸す不用意な発言を、
今日まで繰り返している。
大きな事件が起きる度に、都市警察は当てにならないと断言し、魔導師会の完全な統治こそが、
社会を安定させ、文明の発展を齎すのだと彼は主張した。
反逆同盟が活動を始めると、その主張は益々激しくなった。
ファラドの主張に理解を示す声も無かった訳では無い。
緊急時には多少強権的であっても、「強い力」が必要になる。
大方の中央運営委員には、ファラドは「議論に必要な人物」と認識されていた。
問題は……ファラド自身が「議論の為に敢えて強硬論を唱えている」のでは無く、至極真面目に、
魔導師会の完全な統治を訴えている事。
だからこそ、思想面に問題ありとして、内部調査班が付いている。
0343創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/22(金) 18:34:38.36ID:DDgZZQaA
ファラドの思想は、自己防衛論とは異なるし、況して協和会とは相容れない。
だが、思い返せば、自己防衛論者の動きも、協和会の動きも、結果としては市民の魔導師会への、
依存度を高めている。
これは全くの偶然だろうか?
自己防衛論者は魔導機を密造した「過激派」によって自滅した。
魔導機の密造を手伝ったのは、「魔導師」である。
協和会は普段綺麗事を言っている、大企業の役員や幹部、市議会や都市連盟の議員も、
全く信用ならない存在だと、強烈に印象付けた。
これにも同じ「魔導師」が関わっているとしたら……。
親衛隊の内部調査班は、ファラド本人だけでなく、彼の周辺の人物も含めて、徹底的に監視した。
そして、やはり秘書が怪しいと言う結論に落ち着く。
ファラドには4人の秘書が居る。
第一秘書のワディ、第二秘書ゼメラ、第三秘書サディカ、そして見習いのクータ。
何れも女性と言う、男女の別が厳しいグラマー地方では中々見られない配置。
ワディは何時もファラドの側に控えている、所謂「お供」、「お付き」。
ゼメラは事務所に常駐して諸業務を熟す、「事務方」。
サディカもゼメラと同じく事務方ではあるが、こちらは政治的な方面を担当する。
クータはワディに同行したり、事務を手伝ったりと様々。
この中でサディカとクータが、不審な人物と会っている。
0344創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/23(土) 18:51:28.92ID:dlECRN6H
第一魔法都市グラマー ジャダマル地区にて


内部調査班の仕事は徹底している。
班員は秘書の4人と接触した「全ての」人物の素性を探った。
そしてサディカとクータの2人が、身内でも友人でも仕事上の知り合いでも無い人物と、
定期的に接触している事実を突き止めたのだ。
この日はクータが喫茶店で謎の人物と接触していた。
彼女を尾行する2人の内部調査班員も喫茶店に入り、少し離れた席でクータと謎の人物を見張る。
「謎の人物」は、本当に謎だ。
顔を面紗で覆い隠しており、体形も厚着で分からない。
女性にしては少し大柄だが、時々見掛ける程度の身長であり、男とも女とも言い切れない。
クータと謎の人物の会話は、小声の上に必要最小限の事しか話さないので、殆ど聞き取れない。

 「これを……」

 「はい、では……」

謎の人物が封筒を差し出すと、クータも封筒を差し出した。
互いに封筒を交換する格好になり、互いに受け取り合う。

 「どう?」

 「あ、うん」

テレパシーでも使っているのではないかと思う位の、短い遣り取りだけで全てが片付いている。
だが、魔力反応は無い。
班員の2人は、多少なりとも封筒の中身に就いて話さないかと期待していたが、結局無駄だった。
クータと謎の人物は別れて、喫茶店を後にする。
班員の2人は怪しまれない様に、1人が先に喫茶店を出て、謎の人物の方を追跡した。
0345創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/23(土) 18:54:57.93ID:dlECRN6H
内部調査班が謎の人物の追跡をするのは、これが初めてではない。
この謎の人物は、グラマー市内の宿泊施設を転々としており、決まった住所を持たない。
当然、内部調査班は謎の人物の行動を把握しようと、張り込みを続けたのだが、
どこかで必ず見失う。
加えて、謎の人物と同じ格好をした者が、複数人存在している。
一人を尾行中に、別の一人がサディカやクータと接触していた事が実際にあった。
恐らくは、「仲間」と思われる。
怪しい事この上無いのだが、不法行為を働いている訳では無いので、逮捕する事は出来ない。
事件が起きた訳でも無いのに、「何と無く怪しい」程度で、一々一般人を逮捕して取り調べていては、
暗黒社会に驀(まっしぐ)らだ。
根気強く張り込みを続けて、襤褸を出すのを待つしか無い。
サディカかクーテの、どちらかを「取り込む」事も、内部調査班は検討したが、ファラド本人に、
「仕掛け」を覚られてはならないと言う事で、却下された。
中央運営委員を『監視<マーク>』していると公になれば、それこそ魔導師会の信用に係わる。
0346創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/23(土) 18:57:43.90ID:dlECRN6H
謎の人物がホテルに入ったのを見届けた班員は、小さく溜め息を吐いた。

 (又、新しい宿……)

これで既に6箇所目。
毎回宿泊施設を変えているかの様だが、「複数の人物」を完全に把握している訳では無いので、
正確な所は分からない。
この謎の人物が、ソルートとトレンカントであれば、話は早いのだが、魔法資質による判別では、
「別人」だと結論が出ている。
ソルートとトレンカントに関しては、本件と関係していない可能性もあるとして、余り拘らない様にと、
班長から言い付かっている。

 (用心深いのか、尾行を覚られているのか……)

内部調査班の各班員は、隠密行動の達人である。
追跡や尾行が覚られる事は、先ず無い。
しかし、謎の人物の行動は明らかに、「追跡者」を警戒している。
それが実際に「追跡されている」と確信を持っているが故の反応か、それとも用心深いだけなのか、
班員には判別が付かなかった。
この班員は暫く、「新しい宿」を見張る事になる。
今度は謎の人物を見失わない様に。
だが、どんなに気を付けていても、謎の人物は知らぬ間に姿を消しているのだ。
相手の魔法知識や魔法資質を把握出来ていないので、どこまで踏み込んで良いのか、
加減が分からない。
慎重を期そうとすれば、どうしても監視の目は緩くなり、僅かな隙を突かれて逃してしまう。
0347創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/24(日) 18:52:49.04ID:BrdxLQxm
内部調査班が懸命に地道な捜査を続けている間も、ファラドは増長を続けていた。
彼は事ある毎に過激な主張を繰り返し、「魔導師会の対応が遅い」と市民から苦情が来る度に、
それ見た事かと得意になって、慎重派を攻撃した。
ファラドに同調する委員は多かったが、しかし、心の底から彼に賛意を示す者は無かった。
復興期の様に、魔導師会が完全な統治を行うべきと言う彼の意見は、余りに急進的だった。
それは反逆同盟を退けるまでの一時的な措置では無く、恒久的な物にすべきだと言うのだ。
ある意味では、「懐古的」とも言えよう。
八導師は中央運営委員会の議論には加わらないが、どちらかと言えば慎重派に属するのは、
公然の事実だった。
そうでなければ、嘗ての魔導師会の権利を多少なりとも取り戻そうとする筈で、況して、
反逆同盟に対抗すると言う建て前があれば、それを実行しない訳が無い。
即ち、ファラドは八導師の意向に真っ向から逆らっていた。
大抵の中央運営委員は、八導師に逆らう事を畏れ多いと考えており、その意向と違う事を、
進んでしたがらない。
権威に弱いと言えるが、魔導師会の権力を徒に拡大するべきでないと言う主張は、
大方の委員の総意だった。
将来の魔力不足が懸念される今日に於いて、組織の巨大化は間違い無く悪い方面に作用する。
ファラドの主張は利権の拡大が根本にあり、その企みを見抜けない間抜けは委員には居なかった。
0348創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/24(日) 18:53:25.05ID:BrdxLQxm
ファラドと共に利権で甘い汁を吸おうと考えている委員は少なかった。
反逆同盟が勢い付いている今の内は、ファラドは一方的な攻勢に回れるので良いが、
彼の主張は守勢に回ると極端に弱い。
事が落ち着いた後は、叩き伸されるだけと多くの委員は理解していた。
逆に言えば、「必ず事は落ち着く」と多くの委員は理解している事になる。
反逆同盟の勢いは一時の物で、魔導師会が本気を出せば、対処出来ない物では無いと、
考えているのだ。
強権を発動するのも一時的な措置であり、「敵」を倒した後も、これを永続させる道理は無い。
では、ファラドの考えは?
彼の主張は「常に」敵が存在する事が前提だ。
反逆同盟が倒された後も、人々が脅威に晒されている必要がある。
広い様で狭い唯一大陸で、反逆同盟が打倒された後に、未だ魔導師会に抵抗しようと言う、
根性のある「敵」が存在するのだろうか?
それともファラドは「反逆同盟は打倒されない」し、「魔導師会も打倒されない」と信じているのか?
ファラドの態度を怪しむ声は、中央運営委員の間でも密かにではあるが上がっていた。
0349創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/24(日) 18:54:56.87ID:BrdxLQxm
そんな中、親衛隊は治安維持部の執行者の協力を得て、謎の人物との接触を図ろうとした。
内部調査班の親衛隊員は、仮令同じ魔導師にであっても軽々に身分を明かせないので、
依頼を受けて貰う事は苦労した。
相手が「中央運営委員」の関係者と知って、快く引き受けてくれる者は少ないだろう。
容疑が明らかでない状況で、執行者を動かす事には慎重にならなければならない。
基本的に、魔導師会の「運営部」と「法務執行部」は相互に監視し合う、対立する組織であり、
領分を侵す様な越権行為や違法行為、過干渉には厳しい。
治安維持部の巡査官は、「不審」と判断した人物に「職務質問」を行えるが、それは強制ではない。
謎の人物の正体を掴もうと、強引に迫れば、それがファラドの耳に入って、「お叱り」を受ける
――可能性もある。
こうした事を恐れない、或いは、「お叱り」を受けても平気な人物が望ましい。
内部調査班の班員は、治安維持部の中でも逸れ者扱いされている人物を探し出して、
協力を要請した。
その名はエイムラク・キルトカマーシ。
治安維持部生活安全課の中では、主に荒事を担当している。
怪しいと思った相手には、強引な手法で取り掛かり、成果を上げてはいるが、比例して失敗も多い。
正義感が強く、自分を曲げないが故に、課内では煙たがられている部分もある。
今回の件には、打って付けの人物だった。
0352創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/27(水) 09:42:30.04ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

F3O5E7RYZX
0355創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/07(日) 18:33:33.69ID:OBQ3v2eI
魔導師会法務執行部ジャダマル地区支部にて


内部調査班は治安維持部内に潜入している班員を通じて、エイムラクに働き掛ける。

 「エイムラクさん、一寸良いかい?」

 「どしたんで?
  掃除の小母ちゃん」

 「あんたを見込んで頼みがあるんだよ」

 「へぇ、とにかく言ってみな」

エイムラクは堂々とした態度で、清掃員に扮した班員に応えた。
彼は班員の正体を知らない。
唯、長年清掃員として勤めているだけの、普通の小母さんだと思い込んでいる。
班員は内緒の噂話をする小母さんの如く、声を潜めて話し始める。

 「この間ね、怪しい人を見掛けたのよ。
  ベールを被って顔を隠した……」

 「そりゃ大体の女は、そうじゃねぇか?
  小母ちゃんだって、そうじゃねぇか」

ここはグラマー地方だ。
素顔の露出を避ける為に、ベールを被る女性は珍しくない。
男性でも砂嵐を防ぐ為に、フード付きのコートを着込んで、マスクやゴーグルを付ける。
見様によっては、街中怪しい人物だらけだ。

 「それが本当に怪しいのよぉ。
  何て言うか、窃々(こそこそ)してて。
  人目を避ける感じで、独りでホテルに入って行ったの」

 「旅行者か何かだろう……」

エイムラクは班員の話に取り合わなかった。
彼女の判断には主観的な要素が多く、個人的な印象の域を出ない。
0356創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/07(日) 18:36:22.28ID:OBQ3v2eI
勿論、班員の態度は偽りの物だ。
余り詳細を語ると、正体を怪しまれる。
飽くまで彼女は徒の清掃員。

 「それだけじゃないの!
  その人はファラド先生の事務所に出入りしてる秘書と、密会してたのよ」

エイムラクは漸く興味を示した。

 「ファラド先生ってぇと、中央運営委員の?」

 「そう、そうなのよ!
  怪しいでしょう?」

 「密会……ねぇ」

彼は暫し思案して、浮かんだ疑問を口にする。

 「何で、そこまで知ってんだい、小母ちゃん?」

 「偶々よ、偶々、本当に偶々見掛けたんだから!
  怪しい人を見付けたら、後を追ってみたくなるじゃない?
  そしたら何と!」

 「そいつは偶々とは言わねえよ。
  追跡したんじゃねえか」

演技で興奮気味に語る班員に、エイムラクは呆れ顔をした後、急に表情を引き締めた。

 「危ねえ事は止してくんなよ。
  好奇心で斃(くたば)っちまったら、悔やんでも悔やみ切れねえぞ」

 「大丈夫よぉ〜!
  小母さんの事、心配してくれてるの?」

 「そんなんじゃねえ、素人が出張ると碌な事にならねえってんだ」

班員が茶化すと、エイムラクは外方を向いて照れ隠し。
0357創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/07(日) 18:40:38.93ID:OBQ3v2eI
少しの間を置いて、彼は話を元に戻した。

 「……怪しい奴がファラドの秘書と会ってるってぇんだな?
  それで俺に何をしろってんで?」

班員は怯んだ振りをして、気不味そうに言う。

 「そ、そんな大した事じゃないんだよ。
  もしかしたら何かあるかもって、勘だよ、勘。
  エイムラクさん、治安維持部の執行者だろう?
  職務質問でもして……、何にも無ければ、それで良いんだしさ」

 「気軽に言ってくれるねぇ。
  職質も巡回も、程度って物があんだよ」

都市警察にも、魔導師会法務執行部にも、その活動が市民生活の妨げになってはならないと言う、
同様の規定がある。
頻繁に職務質問や巡回を行えば、市民は何事かと不安になる。
そして、日常生活の些細な「違反」さえも咎められるのではないかと、圧力と脅威を感じる物だ。
しかし、班員は正論で応えたエイムラクを笑う。

 「へ〜、エイムラクさんの口から、そんな殊勝な言葉が聞けるなんてね〜。
  何時も強引な遣り口で課長に注意されてるのに、一向に態度を改めたりしないじゃないか」

エイムラクは眉を顰めた。

 「俺だって、誰でも彼でも取っ捕まえてる訳じゃねえ。
  この目で確り見極めてんだ。
  そいつが怪しい奴か、どうかをな」

自らの目元を指して、彼は主張する。
彼は彼なりの正義で動いているのだ。
だが、班員は余り信用していない様子で、浅りと話を片付ける。

 「はい、はい。
  無理にとは言えないよ。
  変な話をして悪かったね」

 「あ、あぁ」

去り行く班員を呆然と見送り、エイムラクは溜め息を吐いた。

 「ファラドか……」
0358創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/08(月) 17:40:30.13ID:JgGEmmO2
中央運営委員のファラドは有名人なので、彼に就いての色々な話は、エイムラクも知っている。
彼自身、ファラドの主張に同意する部分もあるが、それ以上に危うい人間と言う印象だ。
余り尊敬出来る人物ではないと思っている。
それからエイムラクは意識的に、巡回の際はファラドの事務所の周囲を注意深く見る様になった。
しかし、当然ながら即日密会の現場に出会す訳も無く……。
数週は何時もと変わらない日々が続いた。
エイムラク自身、怪しい人物の存在を忘れ掛けていた頃に、変化は起きた。
彼が巡回の小休憩に、喫茶店に寄った時の事。
魔導師会の執行者は、職務中は指定のローブを着ていなければならないが、こうした「休憩」で、
営業中の店舗に出入りする時は、事件の調査かと誤解を招かない様に、マントやコート等の、
上着を羽織る。
エイムラクも同様に大き目のマントでローブを隠し、喫茶店で『珈琲<カフア>』を一杯頼んでいた。
こう言う時間が持てるのは、街が平和である事の証であり、それに感謝して彼は溜め息を吐く。
仕事で張り詰めていた精神が一息で緩む感覚が、エイムラクの小(ささ)やかな幸せだった。
珈琲が少し冷めるまで香りを楽しみ、飲み易い温度になってから呷ると、丁度2点。
そろそろ仕事に戻るかと席を立とうとした所で、彼は新しく入店して来た2人組に気付く。

 (あれはファラドの所の……サディカ・マリカーンだったか?
  連れは誰だ?)

ここで彼は清掃員の小母さんが言っていた、「怪しい人物」の事を思い出す。

 (もしや……、奴が例の?
  確かに怪しいと言えば怪しい)

エイムラクは2人に疑われない様に注意しつつ、席に着いた儘で様子を窺った。
0359創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/08(月) 17:42:27.47ID:JgGEmmO2
サディカと彼女の連れは、2人で向かい合って、空いた席に着く。
連れの人物が男か女か、エイムラクは怪しんだ。

 (小母ちゃんは『怪しい人』としか言ってなかったな。
  成る程、男か女かも分からない怪しい奴だ)

ローブとベールで全身を覆い隠しているが、それだけではない。
歩き方、手の運び、どの振る舞いにも男性的な特徴も、女性的な特徴も見受けられない。
これは意図して「隠している」のだとエイムラクは考えた。

 (……グラマー人らしくねえな)

性差に拘りが強いグラマー地方民は、男性は男性らしく、女性は女性らしく振る舞おうとする。
肌を隠していても、己の性別は確り主張するのだ。
それは誤解を避ける為でもある。
例外的な人物は、どこにでも存在するが……。

 (魔法資質も妙だ)

更に、エイムラクは謎の人物の魔法資質にも違和感を覚えていた。
纏う魔力の流れが不自然なのだ。
それなりの魔法資質を持つ者は、纏う魔力の流れに「癖」の様な物がある。
だが、この人物からは魔力の「流れ」が殆ど感じられない。
ある程度の魔力を纏っているにも拘らず。
魔法資質が低い者であれば、そもそも魔力を纏わない。

 (後で話を聞いてみる価値はありそうだ)

エイムラクは店を出た所を捕まえて、職務質問をする決意をした。
0360創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/08(月) 17:48:57.25ID:JgGEmmO2
サディカと謎の人物は、殆ど言葉を交わさず、封筒の交換をする。

 (金か?
  何を交換した?)

視界の端で、その現場を捉えたエイムラクは、益々疑いを強める。
その時、若い男性の給仕から彼に声が掛かった。

 「お客様、カフア、もう一杯お注ぎしましょうか?」

空の『器<マグ>』が放置されているのを見兼ねて、気を遣ったのであろう。
エイムラクは少し焦って答える。

 「あ、ああ、頼む」

若い男性の給仕は、愛想の良い笑顔を浮かべて、手に持ったポットから熱い珈琲を注ぐ。
それに気を取られている内に、サディカと彼女の連れは席を立っていた。
エイムラクは慌てて珈琲を飲み干そうとして、その熱さに躊躇い、仕方無く口を付けずに、
テーブルの上に磁器のマグを戻した。
サディカが会計を請け負い、連れの方は黙って店を出る。
早く後を追わなければ、見失ってしまう。
そう思ったエイムラクは、サディカが支払いを済ませたのを見計らい、珈琲を置いた儘で席を立った。

 「これで。
  釣りは要らん」

会計で1000MG紙幣を置いた彼は、小走りで店を出てサディカの連れの姿を探す。
道行く人々は、誰も彼も同じ様な格好をしているが、エイムラクは不自然な魔力を纏う人物を、
直ぐに判別出来た。
0361創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/09(火) 18:33:54.14ID:PlrzMNba
既に距離は半通近く離れている。
見失ってなるかと、エイムラクはマントを外して肩に掛け、執行者のローブを露にした。
そして、密かに魔法で加速し、謎の人物を追う。
エイムラクは生活安全課の所属とは言え、歴とした執行者である。
静かに人込みを擦り抜け、気配を殺して標的に近付く。
数多の悪党を相手にして来た彼の実力は、熟達した刑事部の執行者に比肩する。
それでも謎の人物は追跡されていると言う感覚があるのか、狭い路地に逃げ込んだ。
対象まで約7身の距離に近付いたエイムラクは、一気に速度を上げて回り込む。
謎の人物は一瞬反応したが、逃げ出そうにも間に合わないと悟ったのか、逃走はしない。
エイムラクは執行者の手帳を呈示して、職務質問を始める。

 「止まれ、執行者だ。
  身分証を示して、氏名と住所を明らかにしろ。
  それと……差し支え無ければ、顔も見せてくれ」

高圧的な態度に、謎の人物は怯んだ。

 「そ、それは……。
  何で?」

声の低さと言葉の抑揚から、エイムラクは幾つかの情報を得る。

 「中央訛りがあるな。
  ティナー地方出身か?
  男だろう、顔を見せろ」

彼の言葉には有無を言わせない迫力があった。
謎の人物は身分証を取り出して見せる。
それをエイムラクは取り上げて確認した。

 (ヴィクター・ストンハイマー。
  ティナー地方ユヨーク市マイナー通り8−25番)

名前と住所が判っても、彼は「ヴィクター」である筈の男を解放しない。

 「氏名と住所を言ってみろ。
  それと顔も見せるんだ」

本当に「ヴィクター」なのか怪しんでいるのだ。
エイムラクの心中では未だに、彼は「ヴィクター」では無く、「謎の人物」の儘。
謎の人物は懸命に抵抗する。

 「今、身分証明書を渡した。
  それで十分だろう?
  何で、そんな事をしないと行けない?」

 「職務質問だよ。
  疚しい所が無けりゃ、答えられるだろう?
  自分の名前も言えないのか」

エイムラクは正論で攻め立てた。
0363創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/09(火) 19:04:10.32ID:PlrzMNba
これに対して、謎の人物も正論で応じる。

 「職質は任意の筈だ。
  大体、何で私なんだ!」

 「そりゃ、あんたが怪しいからに決まってるじゃないか!
  自覚が無いのか?」

 「拒否する!
  答える義務は無い」

頑なに職務質問に応じようとしない謎の人物に、エイムラクは真面目に説明を始めた。

 「今、大陸中で危(やば)い事件が起きてるのは知ってるよな?
  ここでだって、何時、誰が、どんな事件を起こすか分かった物じゃない」

 「私が事件を起こすとでも?」

 「口では何とでも言えらぁな。
  顔を見せろ。
  見せられない理由があるなら言え」

エイムラクは口調の硬軟を使い分けて迫る。
謎の人物は黙り込んだ。
ここは我慢比べだ。
謎の人物は逃走出来ないが、エイムラクも確信が無ければ手は出せない。
然りとて、徒に時が過ぎるのは、エイムラクにとって好ましくない。
「今の所は」何もしていない一般人を、余り長時間拘束するのは問題だ。
どこかで諦めて解放する事になる……が、一旦捕まえた以上、何の結果も得られていない状態で、
逃がしてしまう訳には行かない。
0365創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/09(火) 19:09:29.08ID:PlrzMNba
突破口を開く為に、エイムラクは畳み掛ける。

 「序でに、所持品の検査も良いか?
  拒否するなら理由を明確にしろ」

謎の人物は沈黙した儘で俯き、話には取り合わず、時間稼ぎに入った。
何があっても応じない積もりだ。
エイムラクは気が長い方では無い。
この様に反抗的な態度を取る人物に対しては、力尽くで従わせる事もあった。
それでも彼は単純な馬鹿ではない。
過去の実力行使は短気を起こした結果では無く、「こいつは逃がせない」と強く思ったが故の事。
「少し怪しい」程度なら見過ごす事もある。
エイムラクは自分の直感と信念に基づいて動くのだ。
それが何時も絶対に正しいとは限らない所が、最大の欠点だが。
この謎の人物に対する、エイムラクの判定は――、

 「沈黙は肯定と見做す!」

真っ黒。
彼は周囲に人気が無いのを良い事に、謎の人物の顔を覆う布を乱暴に引き剥がした。

 「何をする!
  こんな事をして只で済むと……」

謎の人物は諦めが悪く、両腕で顔を覆って素顔を隠す。
エイムラクは無言で謎の人物の頭を鷲掴みにし、顔を上げさせる。

 「顔を見せろ。
  氏名と住所を言え」

 「拒否するっ!!
  手を離せ、身分証明書も返せ!」

 「それは出来ない。
  何度でも言うぞ。
  氏名と住所を言え、そして顔を見せろ」

彼は完全に「謎の人物」を犯罪者扱いしていた。
0366創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/10(水) 17:25:48.75ID:kwXyS1vV
身の危険を感じたのか、謎の人物が纏う魔力の質が変わった。
不自然だった魔力が俄かに激しく流れ始める。
それを感じ取ったエイムラクは笑みを浮かべた。

 「魔力の流れを読まれない様に隠していたな?
  余程、不都合があると見える」

その一言に謎の人物は焦る。

 「お、お前は何者だ!?
  徒の執行者じゃない!」

 「……何を怯えている?」

極悪人にしては様子が奇怪(おか)しいと、エイムラクは訝った。
しかし、単なる小悪党にしては、誤魔化し方の手が込んでいる。
自分の物ではない身分証明書を持ち歩き、纏う魔力の質を変える理由とは?
特に、「纏う魔力の質を誤魔化す」と言う行為は、普通の人間は思い付かない。

 (追われる身分だった……?
  指名手配か!
  もしや、こいつ!)

思い当たる事があったエイムラクは、試しに鎌を掛けてみた。

 「ソルートか、トレンカントか」
0367創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/10(水) 17:29:03.52ID:kwXyS1vV
それを聞くや否や、謎の人物は行き成り顔を隠すのを止めて、エイムラクの頭を両手で掴んだ。

 「俺の事は忘れて貰おう!」

通行人、即ち目撃者が現れない内に、記憶を失わせる魔法を使おうと言うのだ。
エイムラクは初めて、謎の人物の顔を確り見た。

 「トレンカント……!」

髪が伸びている物の、顔付きは指名手配書に描かれていたトレンカントと同じ。
不意打ちで頭を掴まれたエイムラクは、魔法を妨害する手段を考えた。
トレンカントは元魔導師、その実力は折り紙付きだ。
エイムラクも魔導師、しかも執行者だが、どちらが上なのか、この状況で力量を測る暇は無い。

 「ベッ!」

エイムラクは咄嗟に、トレンカントの顔面、主に目の辺りを狙って、唾を吐き掛けた。

 「うっ、汚ねぇっ!!」

トレンカントは堪らず両目を閉じ、詠唱を中断するが、唾を避ける事は出来ず、顔面に浴びてしまう。
それでもエイムラクの頭を掴んだ両手は離さない。

 「隙有りだっ!」

一方のエイムラクはトレンカントの頭を掴んでいた手を離して、彼の顎に強烈な打撃を見舞った。

 「指名手配犯と判った以上、もう容赦しねえからなぁ!!」

魔導師であるにも拘らず、エイムラクは魔法を使わずに、拳でトレンカントを痛め付ける。
顎を殴った後は、横っ面を左右に叩き、堪らずトレンカントが顔を庇った所に腹に一撃。
丸まった背に上から両拳を叩き付けて、地面に俯せに押し倒した。
0368創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/10(水) 17:32:52.05ID:kwXyS1vV
 「『黙れ』!!
  抵抗は止めて大人しくしろ!!
  今、応援を呼ぶからな!
  洗い浚い白状して貰うぞ!」

エイムラクは苦痛に呻くトレンカントに口封じを掛け、彼の両腕を背中に回して、手錠を掛ける。
執行者が逮捕に使う手錠には、魔力を分散させる力がある。
魔力の集中が必要な、手を使った描文動作は完全に封じられる。
エイムラクはテレパシーで魔力通信の回線に割り込み、応援を呼んだ。

 (緊急事態発生!
  こちらエイムラク・キルトカマーシ。
  巡回中に指名手配犯のトレンカントを発け……?)

所が、テレパシーが「指名手配」と言い掛けた途中で途切れてしまったのを、エイムラクは感じた。
彼はトレンカントを睨み付ける。

 「お前が妨害したのか?」

トレンカントは無言で嫌らしい笑みを浮かべるだけ。
エイムラクは執行者である。
魔法資質は決して低くなく、目の前で魔法の妨害をされて、気付かない程、間抜けではない。
だが、トレンカントが卓抜した魔法の発動技術を持っているのであれば、話は別だ。

 (こいつじゃない……)

数極思案した後、これはトレンカントの仕業ではないと、エイムラクは結論付けた。
通信は未だ回復しないが、トレンカントが妨害を続けている様子も無い為だ。
0369創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/11(木) 18:20:37.03ID:/HBuCCY1
エイムラクは周囲の様子を窺ったが、人の気配は無い。

 (指名手配犯は2人……。
  ソルートが近くに?
  いや、ファラドん所の奴かも知れねぇな。
  関係が暴かれんのは困んだろう)

トレンカントには仲間が居て、それが自分に妨害を仕掛けているのではと、彼は推測した。

 (参ったな。
  俺は独り、応援も無しで、どこまで戦えるか……)

エイムラクは取り敢えず、トレンカントに余計な事をされない様に、彼の首の後ろを押さえ付けて、
魔法で気絶させようとする。

 「B46G1、M1D7!」

意識を朦朧とさせた所に、衝撃を加えて失神させる。
決して「安全な方法」とは言えないが、多対一を想定して、対処しなければならない敵の数を、
減らす事をエイムラクは優先させた。
トレンカントは脱力して動かなくなる。
これで少なくとも彼が自力で逃げ出す事は無い。

 (さて、連行するか……)

エイムラクは警戒を緩めず、トレンカントを抱えて移動する。
絶対に途中で、トレンカントの仲間が姿を現すと、彼は予想していた。
0370創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/11(木) 18:23:33.17ID:/HBuCCY1
気絶したトレンカントの体は重く、エイムラクは少し歩いて、彼を地面に下ろした。
エイムラクは体力には自信があったのだが、それでもトレンカントを酷く重たく感じる。

 (気絶した人間は重たいとは聞くが……。
  それにしても重い、異常だ。
  重石でも持ってんのか、こいつ?)

一度抱えてみた感触では、特にトレンカントの肉体は鍛え上げられている訳では無い。
どちらかと言うと痩せ型で、身長は高いが、そこまで体重が重いとは考え難い。
服の中に何か隠し持っているのかと、エイムラクはトレンカントの服を叩いて、所持品を検めた。

 (そう言や、封筒は?)

エイムラクは先程の喫茶店で、トレンカントがサディカと封筒を交換していた事を思い出す。
改めて服の上から、トレンカントが何か持っていないか探すと、ローブのポケットに異物感があった。

 (何を貰ったんだ?)

取り出してみると、それは封筒で、中には長方形の厚みがある物が入っている。

 (これが交換した物か?
  大した重さじゃねぇな)

エイムラクは封を開けた。
中から出て来たのは、2束の紙幣。

 (200万って所か……。
  こいつはファラドの秘書に何を渡した?
  その報酬が、これか)

彼は札束を封筒に収めると、元の通りに仕舞い直した。
0371創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/11(木) 18:25:57.06ID:/HBuCCY1
その後、エイムラクは改めて周囲を窺う。
気絶した人間の懐を漁る姿が、どの様に他人に見られるか気になったのだ。

 (大丈夫だ、こいつはトレンカントに間違い無い……筈。
  俺は何も疚しい事はしちゃいない)

一瞬、人違いだったらと言う考えが過ぎるが、彼は直ぐに否定した。
正体を言い当てられて狼狽し、更に執行者に対して魔法を使おうとした。
そんな奴が、無関係な一般人の訳が無いと。
エイムラクはトレンカントを引き摺り、自ら人通りの多い場所に出る。
執行者のローブを着ているので、何事かと驚かれる事はあっても、疑われる事は先ず無い。
ここはグラマー地方で、市民の魔導師に対する信頼は厚い。
もし通報されても、それは望む所。
彼は再度テレパシーを試みたが、やはり繋がらない。

 (未だ邪魔して来んのか……!
  とにかく、早く交番まで。
  俺独りでは手に余る)

未だ通信が回復しない事に不安を覚えつつ、エイムラクは走行中の辻馬車を捕まえようとした。
相変わらず、トレンカントには謎の重さがある。
一人で署まで運ぶのは困難だと、エイムラクは判断していた。
偶々空車の辻馬車が通り掛かったので、彼は確実に止めさせる為に、執行者の手帳を掲げながら、
路上に身を乗り出す。

 「止まれー!!
  止まれ、執行者だ!」

それに驚いた御者が、慌てて馬車を路肩に止める。

 「わ、私が何か?
  速度を守って安全運転していましたし、免許もあります、あります!」

言い訳する御者を無視して、エイムラクは馬車の左側からトレンカントを中に押し込み、
その後に自分も乗り込む。

 「最寄の交番まで、頼む」

御者は直ぐには意味が解らず、暫し呆けた顔をしていた。
0372創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/12(金) 18:42:36.87ID:Demr8lQl
エイムラクは苛立ち、改めて言う。

 「指名手配犯を捕まえたんだ。
  俺は、こいつを連行しなくちゃならん」

 「は、はぁ」

御者は未だ混乱しているらしく、中々発進しようとしない。
怒りを爆発させて怒鳴り付けては、相手を萎縮させるだけと知っているエイムラクは、
一呼吸置いて、語気が荒くならない様に努めて言った。

 「とにかく、交番に行ってくれ!
  最寄が分からないか?
  じゃあ、東駐在所で良い」

 「えーっと、本部じゃなくて宜しいんで?」

 「こっから本部は遠いだろう!?
  こいつは危険人物だ!
  丁(ちゃん)と執行者の馬車で護送しなくちゃなんねぇんだよ!
  あんたも危険人物を乗せて長々走んのは嫌だろう!」

 「は、はい。
  東駐在所ですね、分かりました」

御者は緊張した面持ちで、漸く馬車を発進させる。
エイムラクは大きな溜息を吐き、トレンカントが気絶しているのを確認してから、
馬車の座席に凭れ掛かった。
……未だ通信障害は続いている。

 (執拗いな。
  こりゃ本部に着くまで油断ならねぇ)

エイムラクは再び気を引き締め、不測の事態に備えた。
0373創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/12(金) 18:45:22.23ID:Demr8lQl
エイムラクがトレンカントを逮捕する一部始終を、内部調査班の班員は陰で見守っていた。
エイムラクが職務質問から行き成り、乱暴な行動に出た時には、何と強引な事をする男だと、
冷や冷やしていた。
結果論ではあるが、謎の人物の正体は指名手配犯のトレンカント・ゴーバルだったので、
彼の多少乱暴な行動にも目を瞑る。
しかし、トレンカントを取り押さえた後のエイムラクの行動は、傍目に見て不可解な物だった。
エイムラクは応援を呼ばずに、自力でトレンカントを運搬しようとし、重たかったのか、
運ぶのを途中で止めて、懐を漁り始める。
これでは強盗ではないかと、班員は姿を現して止めるべきか迷った。
幾ら相手が凶悪な指名手配犯とは言え、その持ち物を奪い取って良いとはならない。
惑々(まごまご)している間に、エイムラクはトレンカントが隠し持っていた封筒から、
札束を取り出そうとしているではないか!
この班員はエイムラクの人格に関して、正確な情報を持っていなかった。
悪徳執行者であれば、この場での粛清も已む無しと、班員が飛び出そうとした所で、
エイムラクは札束を封筒に戻し、トレンカントに返した。
所持品を確かめただけなのだと、班員は安堵して、監視を続ける。
0374創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/12(金) 18:46:11.86ID:Demr8lQl
それにしても、どうしてエイムラクは一人でトレンカントを運ぼうとしているのか?
そこが班員には不思議でならない。

 (……連絡が取れない状況なのか?
  妨害魔法を掛けられている?)

班員は周囲の魔力の流れを見たが、特に大きな乱れは無い。
もし掛けられているとすれば、それはエイムラク個人と言う事になる。

 (格闘の間に、トレンカントが何か仕掛けたか?
  こうして鈍々している間に、仲間が駆け付けるのを期待した?)

班員は周囲に注意を払った。
どこかでトレンカントの仲間が、様子を見ているかも知れない。
この場に出会したらエイムラクの隙を窺い、トレンカントを解放しようとするだろう。
エイムラクはトレンカントを引き摺って、人の多い通りに出ようとしている。

 (人通りの多い所に出て大丈夫か?
  通行人に紛れて、襲撃して来るかも知れない。
  しかし、通信が出来ないなら、自力で運ぶしか無い。
  本部に連行するなら、大通りは避けられないか……)

不自然にエイムラクに接近する者が無いか、特異な雰囲気の者が紛れていないか、
班員は通行人に気を配る。
エイムラクは直ぐに馬車を止めて、トレンカントと共に乗り込んだ。

 (辻馬車で移動するのか!?
  それなら、こちらから通報しておけば良かったな。
  確かに、馬車の方が足は早いが……)

班員は一般人が巻き込まれる事を懸念していた。
普通の馬車の運転手が、襲撃に対応出来るとは思えない。
人が多い通りだけに、何かの拍子に大事故に繋がり兼ねない。
班員は静かに辻馬車を追う。
0375創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/13(土) 18:26:16.30ID:WtSa/prQ
エイムラクは馬車の少し後ろを、早足で追跡して来る者の存在を認めていた。

 (こいつの仲間か……?)

単なる通行人にしては、気配を周囲に溶け込ませて、存在感を消している所が怪しい。
他の執行者であれば、彼に気付かなかったかも知れないが、それだけエイムラクは「優秀」だった。
しかし、この者の正体は親衛隊内部調査班の班員である。
エイムラクの警戒は全く無駄な物。
寧ろ、彼に気を取られている分、危険な状況にある。
エイムラクの知覚の鋭敏さは、班員の想定外だった。
馬車が十字路を左折しようとした所で、懸念されていた事態が発生する。
少年が馬車の進路に飛び出して来たのだ。
御者は慌てて馬を止め、手元のブレーキを引いて車輪を固定するが、間に合わない。

 「うわっ!!」

 「あぁーーーーっ!?」

少年が短い叫び声を上げた後、御者が大声で叫ぶ。
エイムラクとトレンカントは急ブレーキで、前倒(の)めりになった。
エイムラクは前面の壁板に手を突いて堪えるが、トレンカントは気を失った儘なので、
勢い良く頭を打ち付ける。
少年は馬の左側面に接触し、馬車の車体にも当たって、撥ね倒される。
馬車が衝撃で少し揺れる。
幸い、曲がり角で馬も馬車も速度を落としていたが、ブレーキを止めるのが僅かに遅かった。
気絶しているとは言え、指名手配犯を乗せていると言う事実に、御者は必要以上の緊張感を、
感じていたのだ。
体を強く打った少年は、瀕死でこそ無い物の、路上に倒れて痛みに呻いている。
事故だ、事故だと周囲の人間が騒ぎ立て、人集りが出来る。
0376創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/13(土) 18:30:14.05ID:WtSa/prQ
 「えぇい、こんな時に!」

エイムラクは思わず、苛立ちを口に出していた。
しかし、トレンカントの体を引き起こしつつ、思い付く。

 (いや、これなら直ぐ執行者が駆け付けんじゃねぇのか……?)

グラマー地方では都市警察の代わりに、魔導師会法務執行部が、治安維持活動を担っている。
「警察」と言う組織は無く、その職務は全て執行者が取り仕切っている。
通信妨害を受けて、応援が呼べない状況で、不幸中の幸いと言うか、禍転じて福と為すと言うか、
とにかく問題は無いとエイムラクは思い直した。

 「すっ、済みません!!
  人が急に飛び出して来て――」

御者は乗客であるエイムラクに謝罪するが、彼は気にしない。

 「俺の事は気にすんな!
  それより打付かった奴の心配をしな!」

 「は、はい」

御者は運転席から飛び降りて、少年に声を掛ける。

 「おい、君、大丈夫か!?」

少年は呻きながら、左脇腹から腰、背中の辺りを左手で押さえて、立ち上がろうとする。

 「わ、脇腹が……」

 「動くんじゃない、今、救急を呼ぶからな!」

それを御者は押さえ付けて制止した。
足腰は軽傷の様だが、胴を強く打ち付けた様だと言う事が見て取れる。
0378創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/13(土) 18:33:26.24ID:WtSa/prQ
御者は魔力通信機で救急に連絡すると、周囲の人に呼び掛けた。

 「誰か手当ての出来る人は居ませんか!」

そうすると数人が進み出て、互いに視線で譲り合い、結果1人が御者に応える。

 「一寸、私に診させて下さい」

善意の民間人の助けで、応急処置が進められる。
馬車の中で、一連の出来事を見ていたエイムラクは、歯痒い思いをしていた。
本来ならば、執行者である彼が真っ先に動いて、場を取り仕切らなければならない事態だ。

 (こいつさえ居なければ……)

だが、今は指名手配犯の運送中である。
隙を見せて逃亡されたら、それこそ大問題だ。
幸いにも、少年は命に関わる様な重傷ではないが……。
落ち着かない心持ちで、エイムラクは改めて周囲を警戒した所、怪しい者の気配が消えていたので、
人込みに紛れて見失ったのかと、彼は焦った。
今、馬車は事故で停止している上に、野次馬が多い。
これでは、どこから襲撃されるか分からない。

 (通信は……)

焦ってばかりでは何にもならないと、エイムラクは通信の状況を確認した。

 (おっ、通じる!?)

妨害が止んでいる事を、彼は耳に残る低く小さな「ブーン」と言う特有の音で察する。
0379創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/14(日) 18:11:12.76ID:cC+aMl1e
 (緊急事態発生!
  こちらエイムラク・キルトカマーシ!
  指名手配中のトレンカント・ゴーバルを発見、拘束している!
  現在地は東駐在所から南西に2通の交差点!
  応答せよ、応答せよ!
  緊急事態発生!)

エイムラクは繰り返し呼び掛けた。
それに落ち着いた男性の声で反応がある。

 (はい、こちら魔導師会法務執行部グラマー市ジャダマル地区支部)

先から緊急事態だと言っているのに、落ち着き払った態度で澄ましている場合かと逸る心を抑え、
エイムラクは状況を伝える。

 (緊急事態だ!
  指名手配中のトレンカント・ゴーバルを拘束している!)

 (トレンカント?
  トレンカント・ゴーバル……って、あの裏切り者の!?
  本当ですか?)

先ず疑って掛かる通信手には構わず、エイムラクは畳み掛ける様に言う。

 (現在地は東駐在所から南西に2通の交差点だ!
  交通事故が発生している!
  至急、刑事部に応援を遣して貰いたい!)

 (確認します。
  東駐在所から南西に2通の交差点で……交通事故?
  あの、事故で応援を?)

「交通事故」と「指名手配犯の逮捕」と、同時に2つの話をされて混乱する通信手。
エイムラクは遂に声を荒げる。

 (そうじゃねえよ!!
  事故の事は良い!
  いや、良くは無えが、それは一旦横に置いといて!
  俺は『指名手配犯を引き取りに来い』っつってんの!!
  でなけりゃ、態々刑事部に連絡するかっ!!)
0381創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/14(日) 18:15:06.36ID:cC+aMl1e
しかし、通信手の対応は冷静な物だ。
鵝鳴り付けて来る者の相手は慣れている。

 (あぁ、はい。
  えぇっと、貴方は誰です?
  お名前を――)

 (執行者、生安のエイムラク・キルトカマーシ。
  良いから、早く応援を遣せ。
  こちとら事故で立ち往生だ!)

 (あぁ、はい、分かりました。
  今直ぐ遣します。
  通信は繋いだ儘にして下さい)

要求が通ると、エイムラクは大きな溜め息を吐いた。
これで一安心。
後は応援の執行者が到着するのを待つのみだ……が、エイムラクは礑と思い至った。
どうして通信が回復したのか?
単に効果時間が切れたのだろうか?
大した事では無いかも知れないが、彼は引っ掛かりを覚える。
事故の発生から約3点が経過、執行者は未だ現場に到着しない。
遅いなと、エイムラクが苛立ちを露に舌打ちした時、馬車の右側の戸が開いた。

 「誰だっ!?」

愈々追跡者が襲撃に来たかと、エイムラクは素早く反応した。
彼の目に入ったのは、魔導師のローブを着た男。
顔の上半分は目深に被ったフードの所為で判らないが、仲間だと思った彼は一瞬気を緩める。
直後、それが執行者の青いローブでない事に違和感を覚え、トレンカントに手を伸ばす。
0382創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/14(日) 18:16:11.81ID:cC+aMl1e
所が、魔導師のローブを着た男は、エイムラクの手が届くより先に、トレンカントを馬車から、
引き摺り出した。

 (何だ、こいつ!?
  横取り、口封じ、いや、仲間か!)

エイムラクは急いで馬車から飛び降りるも、既にトレンカントは意識を取り戻しており、
2人して逃走を始めようとしている。
片方は魔導師のローブを着た男、もう片方は元魔導師。
如何に熟練執行者のエイムラクと言えど、この2人を相手に対等に立ち回れるかは分からない。
驚くべき事に、トレンカントに掛けた筈の手錠までも外されている。

 「待てっ、K56M17!」

彼がトレンカントに向けて苦し紛れの拘束魔法を放つと、魔導師のローブを着た男が、
振り返りつつ腕を一振りした。
それだけで拘束魔法が無効化される。
エイムラクは直感した。
魔導師のローブを着た男は、トレンカントと同じく元魔導師であろうと。
それは同じく指名手配犯のソルートしか居ない。
馬車の中では、熟(じっく)り顔を見る事が出来なかったが、何と無く手配書のソルートと、
似ていた気がする。

 (指名手配犯が2人も市内に潜伏してやがったってのか!
  何で誰も気付いてねえんだよ!
  笊か!)

エイムラクは自分も含めた、執行者の腑抜け振りを呪う言葉を内心で吐いた。
そこへ丁度、通信手から声が掛かる。

 (何が起こりました?)

彼の声は冷静だが、先程までとは違い、緊迫感がある。
良くない事が起こったと、既に察している様だった。
0383創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/15(月) 18:14:02.29ID:HtGG5mfa
エイムラクは2人を追跡しながら応える。

 (トレンカントの仲間に襲撃された!
  恐らくソルートだと思う!
  トレンカントを連れて2人で通りを北へ逃走中!
  これから追跡する!
  通信は繋いだ儘にするから、俺の位置を逆探知して、追って来てくれ!)

彼が2人を追走する事、約2点。
互いの距離は縮まる所か、少しずつ開き始めていた。
2人は頻繁に左へ右へ角を曲がり、少しでもエイムラクの視界から逃れようとする。
序でに、路地に置いてある物を転がして、道を塞ぐ障害にしていた。
エイムラクは魔力を察知して追っているので、1通まで引き離されなければ、見失う事は無いが、
何時までも追い付けなければ、その内疲労して魔法を使えなくなる。
エイムラクは走力にも持久力にも自信があるのだが、明らかに2人の方が速い。

 (協力して身体能力強化魔法を使ってんのか……!
  独りじゃ厳しい!)

共通魔法は多人数で協力する事で、より効果が高く、効率の良い魔法を使える。
エイムラクは徐々に息が上がって来た。
2人は更に彼を引き離す様に、大跳躍をして建物の屋上に跳び上がる。

 (畜生、逃げられる!)

焦ったエイムラクは堪り兼ねて、思念だけでは済まず、声に出して通信手に怒鳴り掛かった。

 「駆付は何してんだ!?
  機動隊は未だかっ!!」

 (今、到着します)

通信手は冷静さを失わなかったが、それは遅れている事を誤魔化す時の決まり文句だろうと、
エイムラクは益々怒りを募らせた。
0384創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/15(月) 18:15:18.41ID:HtGG5mfa
しかし、彼の怒りは瞬く間に萎む。
執行者が駆る馬の足音が聞こえた為だ。
騎乗した4人の執行者達は、エイムラクには目も呉れず、彼を置き去りにして、逃走者を追う。
エイムラクは徐々に速度を落として足を止めると、深い溜め息を吐いて、遠ざかる馬群を見送った。
通信手から声が掛かる。

 (エイムラクさん、後の事は機動隊に任せて、貴方は今直ぐ本部に向かって下さい。
  統合刑事部から貴方に聞きたい事があるそうです)

 (人遣いが荒えな)

 (これも執行者の務めです)

疲れた様に言うエイムラクに、通信手は淡々と応える。
エイムラクは小さく溜め息を吐いた。

 (その前に、交通事故の処理を済ませたい)

 (どうしても貴方が、やらなければならない事ですか?)

彼の申し出に、大事の前の小事ではないかと、通信手は疑問を差し挟む。
今は小さな事に構う必要は無いと。
エイムラクは不機嫌な声で答えた。

 (当事者なんでな。
  俺の乗ってた辻馬車が事故ったんだ。
  俺が証言しなきゃ始まんねえ)

 (出来るだけ早く済ませて下さい。
  その様に事故対応の執行者にも伝えておきますので)

 (そいつは有り難え。
  涙が出て来らぁ)

今日は忙しい日になると、エイムラクは皮肉を言って嘆いた。
0386創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/15(月) 18:19:35.12ID:HtGG5mfa
事故現場では交通安全課の執行者が、辻馬車の運転手に事情聴取をしている。
そこにエイムラクは割り込んで、話を始めた。

 「よっ、シークァン!」

 「あっ、エイムラクさん」

都合の好い事に、事故の調査に出て来た執行者は、エイムラクの知り合いだった。
2人は所属する課こそ違うが、先輩後輩の間柄にある。
エイムラクはシークァンに尋ねた。

 「どこまで話を聞いた?」

 「大体、聞き終わった所です」

 「撥ねられた子供は?」

 「既に病院に搬送されました」

 「何か俺に聞いとく事は無いか?」

 「いえ、特には」

シークァンの返答は淡々としている。
エイムラクは通信手の対応を思い出して、少し苛付いた。

 「俺は事故を起こした馬車に乗ってたんだぞ?
  何か有んだろう?」

 「いえ、目撃者も多数居たので、大凡の事情は把握出来ました。
  馬車が左折して来ると言うのに、子供が急に飛び出したと。
  馬車の運転手には可哀想ですが、事故は事故なので、無罪放免とは行きません」

交通弱者である歩行者は、多少落ち度があっても、守られる傾向にある。
この場合、少年は左右不注意だったと言えるが、彼に大きな怪我をさせた運転手にも、
過失が無いとは言えない。
0387創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/16(火) 09:25:44.45ID:GADseKjp
あげ
0388創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/16(火) 18:13:49.97ID:6SBjHMMd
そう言う不注意な者は時々現れるので、馬車の運転手は「何時も通り」に歩行者が配慮して、
道を譲ってくれると思い込んではならない。
左折の合図は適切に出されていたか、歩行者の動きを確認したか?
不注意や怠慢があれば、「注意を払っていれば、避けられた事故だったのではないか」と言う、
疑惑が付き纏う。
証言と言う程では無いが、エイムラクは運転手を擁護する。

 「馬車の速度は適切だった。
  『指名手配犯を乗せてた所為で急いでいた』って事実は無い。
  俺は急かさなかったし、運転手も急がなかった。
  緊張はしていたが」

 「ええ、馬車の速度は普通でした。
  但し、少年に気付くのが、少しだけ遅かった様ですね」

 「自白魔法でも使ったのか?」

 「いいえ、目撃者の証言と制動痕で判ります。
  運転手は指名手配犯を乗せていると言う事実に、緊張していた。
  それで後ろに気を取られて、歩行者の確認が少し遅れた。
  そんな所でしょう。
  ……話は変わりますが、エイムラクさん、どうして指名手配犯の輸送に辻馬車を?」

 「通信が妨害されてたんだ。
  仕様が無えだろう……」

当然の疑問に、エイムラクは気不味い表情で答えた。
一度は逮捕したトレンカントを逃がしてしまったのは、彼の落ち度と言えよう。
余り言い訳するのは、男らしくないと彼は考えている。
しかし、他に手は無かったのだ。
0390創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/16(火) 18:15:47.59ID:6SBjHMMd
シークァンは同情して頷く。

 「それは……仕方が無いですね……。
  指名手配犯を連れて、長々と歩くのも危険でしょうし……」

 「これから俺は本部に向かう。
  本当に、聞いておく事は無いんだな?」

 「今の所は。
  後で何か伺いに行くかも知れませんが」

エイムラクが念を押すと、シークァンは即答した。

 「あぁ、そんじゃ、邪魔したな」

エイムラクはシークァンと運転手に断りを入れ、一度支部に向かう。
本部は遠いので、支部で馬を借りて行こうと考えたのだ。
統合刑事部の連中に何を聞かれるのかと、エイムラクは内心不安だった。

 (心測法をやられるって事は無えだろうな……。
  事情聴取をした切っ掛けが、掃除の小母ちゃんに聞いた話ってぇなぁ、どうなんだろうなぁ……。
  そこら辺は言わずに済むなら黙っててぇんだが……。
  巡回中に怪しい奴を見掛けたって事にすれば、良いよな?
  ファラドが手を回してなきゃ良いんだが……。
  あぁ、そう言や、ファラドん所の秘書は何を持って帰ったんだ?)

頭の中で様々な事を考えながら、彼は馬に乗って本部へ向かう。
0392創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/16(火) 18:19:27.26ID:6SBjHMMd
時は遡り、エイムラクとトレンカントを乗せた馬車が事故を起した瞬間。
馬車を追跡していた内部調査班の班員は、事故現場から足早に立ち去ろうとする女を見付けた。
「少年が馬車に撥ねられた」と騒付く群衆の間を擦り抜けて、班員は彼女を追う。
纏う魔力の流れから、班員は女の正体に感付いていた。

 (あれはサディカ・マリカーン?
  トレンカントを守る為に、少年を突き飛ばしたのか?
  しかし、事故が起きれば、直ぐに執行者が駆け付ける。
  こんなのは時間稼ぎにならない所か、執行者が増えて益々逃走が難しく――)

彼がサディカの行動を不可解に思った直後、馬車の方に素早く接近する人影があった。

 (何っ、未だ仲間が居たのか!)

班員は慌てて引き返そうとするも、サディカを追って既に事故現場から半通は離れている。
彼は馬車周辺の魔力の流れを読んだ。

 (誰だ!?
  魔導師の気配、男……ソルートか!!)

人影の正体を察して、班員は後悔した。

 (謎の人物は『複数』存在した。
  その内の2人が、ソルートとトレンカントだった!
  『複数』居るんだから、何か起きたら救援が来るのは、予想出来た事だ!)

ソルートとトレンカントは逃走を始める。
今から追っても間に合わない。
幸い、エイムラクが既にテレパシーで通信しつつ、追走を開始していた。
執行者の応援も、間も無く駆け付けるだろう。
だが、班員が足を止めた僅かな間に、サディカの気配は消えていた。

 (二兎を追う者、一兎をも得ずか……)

片方に気を取られた隙に、もう片方を逃がしてしまうと言う失態。
彼は己の未熟さを恥じた。
0394創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/17(水) 18:08:15.63ID:CRFA4Kjt
魔導師会法務執行部本部に着いたエイムラクは、ソルートとトレンカントを追っていた捜査班に、
執拗な聞き取りを受ける破目になった。
場所は小会議室。
取調室でないのは、同じ「執行者」に一定の配慮をした表れであろう。
この重大事件の捜査班は6人の刑事執行者で構成されており、内3人がエイムラクの聴取に出た。
班長の刑事執行者は高圧的な態度で物を言う。

 「先ず、トレンカントを発見した経緯を聞きたい」

同時に、若い刑事執行者が録音用の小型魔導機を作動させた。
特に断りも無く、これである。
刑事部の者は大体、治安維持部の者を軽んじている。
「刑事の仕事が増えるのは治安維持が弛んでいるから」等と言われる位だ。
統合刑事部は刑事部より更に上で、治安維持部の下っ端に過ぎないエイムラクとは身分が違う。
エイムラクは本当は刑事執行者になりたかったのだが、適性試験に合格出来なかった為、
已む無く治安維持部に入った。
故に、彼は「刑事執行者」に対して複雑な感情を持っている。

 「巡回の休憩に偶々立ち寄った喫茶店で、怪しい人物を目撃したのです。
  それで職務質問を行った所、その人物がトレンカントだと発覚しました」

 「何と言う喫茶店だ?」

 「タンクィットです。
  地図ありますか?」

エイムラクは状況を説明するには、地図を使うのが手っ取り早いと考えたのだが、残念ながら、
その意図は刑事執行者に伝わらなかった。
若い刑事執行者が疑問を口にする。

 「地図?」

 「その方が説明し易いですし、そちらも解り易いでしょう」

鈍い奴等だとエイムラクは内心で虚仮にしつつ、堂々と言う。
0395創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/17(水) 18:12:22.05ID:CRFA4Kjt
素直にグラマー市全体の地図を持って来た若い刑事執行者に、エイムラクは困った顔をして見せた。

 「これじゃなくて、ジャダマル地区の地図が欲しかったんですが。
  事が起こったのは、そこですから……」

若い刑事執行者は露骨に面倒臭そうな顔をしたが、先輩であろう刑事執行者に睨まれ、
改めてジャダマル地区の地図を持って来る。
班長がエイムラクに謝罪した。

 「済みませんね、気の利かない奴で」

口では謝っているが、彼は圧力を掛ける様に、エイムラクの肩に手を置く。
エイムラクは苦笑いにも見える不器用な愛想笑いをした後、地図を指しながら説明を始めた。

 「えー、ここのタンクィットです。
  ここで私が休憩していると、ファラドの秘書のサディカ・マリカーンが、怪しい人物を伴って、
  喫茶店に入って来ました」

3人の刑事執行者の顔付きが、途端に険しい物になる。

 「ファラドの秘書?」

班長の問い掛けを、エイムラクは制止した。

 「取り敢えず、区切りの良い所まで話させて下さい」

班長は大人しく黙り込んで、難しい顔をする。
エイムラクは続けた。

 「そこでサディカと怪しい人物は、封筒を交換していました。
  封筒の大きさは1手×1足程度。
  封筒の交換が済むと、2人は直ぐに別れました。
  中身までは判りませんでしたが、2人は殆ど言葉を交わさず、親しい様子も無かったので、
  何か秘密の取り引きでもしているのではないかと疑い、怪しい人物の方を追い掛けました」
0396創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/17(水) 18:16:33.33ID:CRFA4Kjt
ここで一旦、話は区切られる。
班長は改めて質問した。

 「その『怪しい人物』と一緒に居たのは、本当にファラドの秘書のサディカだったか?」

グラマー地方の女性は、大体がベールを被っており、中には顔を隠す者も居るので、
人相の判別は困難だ。
それに中央運営委員の秘書に嫌疑を掛けて、人違いでしたでは済まされない。

 「サディカと面識はありませんが、彼女を直接見掛ける機会は何度かありました。
  雰囲気からして間違いありません。
  喫茶店の店員にも確認を取ってみて下さい」

エイムラクの言う「雰囲気」には、纏う魔力の質や流れも含まれる。
魔法資質が高い者は、これだけで人物を判別出来るので、「雰囲気」と言えど侮れない。
班長は頷いて、次の質問をする。

 「分かった。
  所で、『怪しい人物』とは何を以って、そう判断した?
  具体的に何が怪しかった?」

 「振る舞いの一つ一つです。
  素顔を隠していて、男か女かも判らない。
  纏う魔力の流れは、妙に静かで整っている。
  自分の正体を覚られない様にしている感がありました」

エイムラクの洞察力に、3人は内心で感心した。
刑事執行者でも、これ程までに勘が働く者は少ない。
0397創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/18(木) 18:41:08.83ID:nwGuQUZw
班長は3つ目の質問をする。

 「どうしてサディカではなく、『怪しい人物』の方を追い掛けた?」

エイムラクは控え目に失笑した。

 「どうしてって、サディカはファラドの秘書ですよ。
  取っ捕まえて話を聞こうにも、後ろ盾が強過ぎる。
  それに素性が知れてるんで、職質するのも不自然でしょう。
  どっちが扱い易いかって言やぁ、そりゃあ……」

彼は言葉を濁したが、意図は伝わった。
中央運営委員の秘書と、素性の知れない人物と、どちらが職務質問し易いかは明白だ。
班長は頷いて、話の続きを促す。

 「あぁ、確かに。
  先を続けてくれ」

エイムラクは頷いて、タンクィットの場所を押さえていた指を、西方向に動かす。

 「『怪しい人物』は、こちらの方向へ移動しました。
  私は急いで後を追い、お互い、こう動いて、ここで捕まえて、職務質問をしました」

狭い路地を、彼はトントンと叩いて示す。

 「所が、氏名と住所を言え、それと顔を見せろと、何度言っても応じず……。
  あぁ、そう言えば、身分証を提出されましたが……。
  これです」

エイムラクは今更ながら、トレンカントから偽の身分証を取り上げた事を思い出して、
それを班長に提出した。
0398創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/18(木) 18:42:17.91ID:nwGuQUZw
受け取った班長は、身分証の名前を読み上げて、首を捻る。

 「ヴィクター・ストンハイマー?」

 「偽造か、そうでなければ他人の物だと思います。
  『自分の口から』は氏名と住所を言おうとしなかったので。
  これは愈々怪しいと思った私は、実力行使に出ました。
  それで初めて、『怪しい人物』の正体が指名手配中のトレンカントだと判明したのです。
  トレンカントは魔法を使って抵抗しようとしたので、私は力尽くで取り押さえました。
  その後、応援を呼ぼうとしたのですが、何者かに妨害されて通信が途絶えてしまいました。
  私は仕方無く、大通りに出て、辻馬車でトレンカントを近くの駐在所まで運ぶ事にしました」

班長はエイムラクが自ら話を区切るまで、頷いて聞きながら、再度疑問点を突(つつ)く。

 「どんな理由で、身分証が偽物だと判断した?」

自分は試されているのかと、エイムラクは少し眉を顰めた。
一々説明しなくとも解るだろうと、彼は思っていたのだ。

 「どんなって……、真面な社会人なら、自分の名前と住所を言えないって事は無いでしょう。
  口が利けないってんなら話は別ですが、奴は言わない所か、頑なに拒んだんです。
  愚者の魔法を警戒したんでしょう」

班長は謝罪もせず、無言で頷き、次の質問をする。

 「通信を妨害されたと言うのは、誰に、どうやって?」

話を聞いていなかったのかと、エイムラクは又少し機嫌を損ねた。

 「分かりません。
  どんな手を使われたのかも……」

魔法に関して『分からない』と言わなければならない事態は、魔導師として恥である。
しかし、それを責める者は居ない。
相手は元魔導師、魔法に関する知識量に差は無い。
だが、だからこそ対抗出来なくてはならないとも言える。
執行者は魔法の番人でもあるのだ。
0399創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/18(木) 18:44:56.45ID:nwGuQUZw
班長は困った顔をして、次の質問に移る。

 「トレンカントは職質中に、魔法を使おうとした?」

 「はい。
  奴が先に」

先に魔法を使おうとしたのはトレンカントだと、エイムラクは主張した。
班長は俄かに目付きを険しくする。

 「君が実力行使に出たのと、トレンカントが魔法を使おうとしたのと、どっちが先だった?」

これは確認の為に尋ねているのだ。
エイムラクは後ろ暗い所を隠す為に、堂々と言う。

 「先に手を出したのは、私です。
  しかし、相手は指名手配犯でした!」

 「『偶々』な。
  結果論だ」

冷徹に断言する班長に、エイムラクは憤り、机を叩いて席を立った。

 「言いたい事があるなら言って下さいよ!
  聞きたいのは、犯人の事じゃないんですか?」

丸で自分が取り調べを受けている様で、それが彼には堪らなかった。
若い刑事執行者がエイムラクの暴走に備えて身構えるも、班長は落ち着いた所作で、
彼に手の平を向けて制する。
そして、エイムラクを諭しに掛かった。

 「もし、ファラドがトレンカントと繋がっていたなら、これは大事件だ。
  奴は有らゆる手を使って罪を逃れようとするだろう。
  君に対する『報復』も想定しなければならん。
  職務質問に問題が無かったか、僅かな瑕疵でも因縁を付けられる」
0401創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:49:36.75ID:a3rMjZem
エイムラクは不満を露に反論した。

 「ファラドだろうが、誰だろうが、指名手配犯と繋がってたんだぞ!」

班長は2人の刑事執行者を所作で制しつつ、エイムラクへの説諭を続ける。

 「落ち着け、未だファラドと繋がってると決まった訳じゃない。
  話を聞く限りでは、『ファラドの秘書』と接触していただけだ。
  勿論、もしファラドが指名手配犯と何等かの取り引きをしていたなら、委員の席は失われる。
  しかし、それとは別に『乱暴な職務質問に就いて』、訴訟を起こされる可能性がある。
  所謂『第三者機関』にな。
  我々は悪を許す積もりは無いし、君の事も出来る限り守る。
  だから、その為にも気を悪くせずに、私の質問に答えてはくれないか?」

数極の沈黙を挟んで、エイムラクは不機嫌な顔で席に着き、渋々謝罪の言葉を述べた。

 「済みませんでした」

魔導師会が暴走した時の為に、市民が事実を検証する第三者機関が複数ある。
グラマー地方に於いては、その権限も影響力も小さいが、歴とした「事実」を突付けられれば、
魔導師会とて対応しない訳には行かないのだ。
班長は再び先の話に戻る。

 「実力行使に出たのは、少々拙かったかも知れない。
  相手が指名手配犯と言う確証があった訳じゃないんだろう?」

 「ええ、まあ……」

エイムラクは目を逸らして、打っ切ら棒に答えた。
班長は至極真面目に言う。

 「『指名手配犯を捕まえた』と言う事実だけを見れば、君の活躍は表彰物だ。
  感謝状を贈りたい位だよ、冗談や皮肉では無く。
  君は良い勘をしている。
  ……だが、余り大っ平(ぴら)に褒め称(そや)す訳には行かなくなるかも知れない」

エイムラクは鼻で笑った。

 「んな事ぁ、気にしませんよ。
  持て囃されたくて執行者になった訳じゃ無し」

公に認められる必要は無いと、彼は強がる。
本当はトレンカントを取り押さえた瞬間に、「指名手配犯を逮捕した」と言う名誉が頭を過ぎったが、
見栄の為に無かった事にした。
0402創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:51:20.22ID:a3rMjZem
班長は小声で一言「済まんね」と言って、更に続きを促す。

 「トレンカントを取り押さえて、その後は?」

エイムラクは静かに長い溜め息を吐き、改めて地図を指して説明を再開する。

 「この辺りで辻馬車を捉まえて、東駐在所に向かおうとしました。
  所が、ここの交差点で私の乗った馬車が、人身事故を起こしまして……」

 「事故?
  あ、いや、続けてくれ」

思わず声を上げた班長は、話の腰を折る積もりは無かったと、釈明する様に言った。
エイムラクは一旦話を止めた物の、表情を変えずに続ける。

 「馬車が飛び出して来た少年と、接触してしまったんです。
  事故で馬車が止まっている間、通信が回復したので、私は改めて応援を呼びました。
  その時に通信手から、『通信は繋いだ儘で』と指示されたので、その通りにして。
  それで馬車の中で応援を待っていると、魔導師のローブを着た男が、馬車の戸を開けたんです。
  私は馬車の左側に乗っていて、トレンカントは右側に居ました。
  男は右側の戸からトレンカントを引っ張り、馬車から降ろしました」

班長は又も声を上げようとしたが、今度は思い止まる。

 「――っと、それで?」

 「相手が魔導師のローブを着ていたので、私は一瞬混乱しました。
  しかし、直ぐに男はトレンカントを逃がしに来たのだと思いました。
  もしかしたら、この男はトレンカントと一緒に指名手配されていた、ソルートではないかと」

班長は先程から何度も頷いており、落ち着かない様子。
0404創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:53:52.17ID:a3rMjZem
エイムラクは短く話を纏めようと努力する。

 「魔導師のローブを着た男は、トレンカントを目覚めさせ、共に逃走を始めました。
  こう言う風に、路地を右に左に。
  私は直ぐに追い掛けたのですが、引き離されるばかりで。
  それで、この辺りで駆付が私を追い抜いて。
  『もう追わなくて良いから、本部に行って事情を話せ』と、通信手に言われまして。
  今、ここに居る次第です」

彼の話が終わると、班長は難しい顔をして溜め息を吐いた。
その後、短く息を吸うと、真顔になって尋ねる。

 「事故と言うのは?」

 「少年が馬車に接触したんです。
  幸い、命に関わる様な大怪我はしていませんでしたが……」

 「犯人の仲間の妨害だと思うか?」

 「……判りません。
  そうかも知れないですね。
  可能性は否定出来ないと思います」

 「分かった」

班長は一息吐いて、エイムラクを気遣った。

 「喉が渇かないか?
  水なり何なり、欲しければ持って来させるが」

 「いや、結構です」

彼は多少喉が渇いていたが、余り長々と話をする積もりは無かったので、断った。
0405創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:55:34.16ID:a3rMjZem
エイムラクに断られた班長は、少し残念そうにして質問を再開する。

 「トレンカントを連れて逃走したのは、本当にソルートか?」

 「顔は確認出来なかったので、ソルートだとは言い切れません。
  直感的に、そう思っただけです。
  魔導師のローブを持っていて、私の魔法を無効化したり、追走を振り切れる位、
  共通魔法の扱いに長けている……。
  元魔導師のソルートなら、それに当て嵌まるのではないかと」

 「顔は確認していないか……。
  気を悪くしないで欲しいんだが……、トレンカントを逃がさない様には出来なかったのか?」

その問い掛けを受けて、エイムラクの目付きが鋭くなった。
彼は「自分の判断や行動に落ち度は無かったのか」と聞かれているのだ。
彼は苦々しい表情で答える。

 「全く落ち度が無かったとは言えませんが、それこそ結果論です。
  トレンカントに仲間が居て、グラマー市内で活動してる何て、予想しろって方が無理です。
  他の執行者も揃いも揃って、奴等を見過ごしてたって事なんですから」

 「『自分の落ち度ではない』と」

エイムラクの言い訳を、班長は端的に纏める。
それが癇に障って、エイムラクは嫌味を言った。

 「寧ろ、あんた等の落ち度じゃないんですかね。
  今まで何してたって話ですよ」

年配の刑事執行者が色を作して反論しようとするも、班長が無言で制止する。
班長は素直に自分達の非を認めた。

 「返す言葉も無い」
0406創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:56:48.77ID:a3rMjZem
エイムラクは小さく溜め息を吐いて、今度は自分から班長に尋ねる。

 「本当に全く誰も、連中がグラマーに潜り込んだ事に気付かなかったんですか?」

魔導師会とは存外無能な組織なのではと、彼は感じ始めていた。
グラマー地方は魔導師会による監視の目が確り行き届いており、故に事故や事件は少なく、
又、大逸れた事を仕出かそうと言う悪党も現れないのだと、嘗ての彼は信じていた。
今それが揺らいでいるのだ。
班長は少しの間を置いて答えた。

 「全てを監視するのは不可能だ。
  相手は元魔導師だから、手の内が読めるのかも知れない。
  ファラドが背後に付いているなら、尚の事……」

それは言い訳だと、エイムラクは内心で憤る。
結局、誰も判っていなかったのだ。
彼は真剣な声で班長に言った。

 「市民の魔導師会への信頼は大きく揺らぎますよ」

 「解っている」

重々しい口調で班長は応える。

 「隠蔽なんかしやしないでしょうね?」

 「私達に、そんな権限は無い」

彼は無責任とも受け取れる回答をした。
事実、その通りではある。
事件を公表するかしないかは、何時も『上』が判断する。
エイムラクは「フン」と不機嫌に鼻を鳴らして、外方を向いた。
0407創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:58:07.06ID:a3rMjZem
気不味い空気になった所で、小会議室の戸が軽く叩かれる。

 「失礼します」

女性の刑事執行者が入って来て、班長に視線を送った。

 「お報せが……」

先ず年配の刑事執行者が動いて、話の内容を確かめる。
女性刑事執行者に耳打ちされた彼は、血相を変えて班長に駆け寄り、同じ様に耳打ちした。

 「何だと?」

予想外だと言った顔をする班長に、年配の刑事執行者は無言で頷く。

 「何があったんですか?」

エイムラクが尋ねると、班長は心底申し訳無さそうに応えた。

 「済まない、今は話せない。
  聴取は――今日の所は、これで終わりにする。
  御協力感謝する」

話すべき事は全て話し終わった後なので、これで聴取が終わっても何も問題は無いのだが、
慌てた様子で雑な打ち切り方。
これは余程の事だと、エイムラクは察する。

 「おい、行くぞ」

班長は2人の刑事執行者に声を掛けて、女性刑事執行者と共に退室した。
その後に続いて、2人の刑事執行者も退室する。
取り残されたエイムラクは、溜め息を吐いて帰途に就いた。
0409創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/19(金) 18:59:59.07ID:a3rMjZem
翌日、魔導師会は2人の指名手配犯が、グラマー市内に居た事を公表した。
しかも、彼等を「取り逃した」事まで。
その事をエイムラクは、職場での緊急朝会で知らされ、愕然とした。
昨日の刑事執行者達の慌て振りを、彼は犯人が死亡したか、執行者に死傷者が出たか、
とにかく予期しない事態が発生したのだとは理解していた。
それが正か、「犯人を取り逃した」事だとは、予想外の予想外。
例の2人は駆付の追跡をも振り切って、行方を晦ましたのだ。
朝会の後で、エイムラクは課長に呼び止められる。

 「エイムラク君、昨日の事だが」

 「何かあったんですかい?」

動揺する彼に、課長は小声で言う。

 「報告書を提出してくれないか?
  未だ書いてなかったよね」

 「何で、そんな窃々(こそこそ)と?」

どうして小声で話すのかと問われた課長は、少し眉を顰めた。

 「噂になるのは好まないだろう?」

昨日の出来事を「上」から聞かされたのだろう。
周囲の者に気取られない様に、彼は配慮している。
事実、エイムラクは昨日の件が皆に広まり、あれこれと詳細を説明しなければならなかったり、
又、他者に噂されたりする破目に陥る事を望んでいなかった。

 「本部で話した事と、同じ事を書いて良いんですか?」

 「ああ、そこまで詳細に書かなくても良いよ。
  簡単な有らましさえ分かれば、それで」

課長の要求は如何にも事務的な物で、「規則として報告書を作成しなければならない」以上の、
理由は無い様に思われた。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況