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ロスト・スペラー 17 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001創る名無しに見る名無し
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2017/09/20(水) 19:39:30.53ID:RxuePOP2
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過去スレ
ロスト・スペラー 16
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ロスト・スペラー 15
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ロスト・スペラー
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0197創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/08(水) 19:43:12.07ID:4wLCsPWI
爪の先でレクティータに触れた瞬間、マトラの脳裏に女の顔が浮かび、強い力で弾かれる。
それは半面ずつ違う顔の女……。
正体はレクティータ事クロテアの生みの母と、育ての母なのだが、それを知らないマトラは、
誰だか判らずに困惑する。

 「な、何だ、今のは……。
  これも呪詛か」

しかし、同時に感じた、体の芯が凍り付く様な、烈しい「呪い」には覚えがあった。

 「我が片足では飽き足らず……。
  否、そちらが本命だったのだな」

怨念はレクティータを優しく包み込む様に覆っている。
力尽くで引き剥がしてやろうかと、マトラは一瞬短気を起こし掛けたが、直ぐに思い止まった。
再びネサと対峙する事になれば、今度は何を失うか分からない。
昨夜は右足と引き換えに撤退させたが、彼の残した言葉が不気味過ぎる。

 (恨みに因りて、果は悲しき。
  逃すまい、遺恨、討ち果たす時まで)

暫く放置すると、怨念は静かに消えた。
下手に弄って恨みを買うより、これは専門家に任せるべきだと、マトラは考えた。
決して怯えた訳ではない。
完全に消滅させるとなると、相応の力を使わなくてはならなくなる。
マトラが本気を出せば、都市の1つや2つは軽く吹き飛ぶ。
それでは協和会を創った意味が無い。
そう言う事にして、マトラは自尊心を保った。
――だが、彼女は心の底では呪詛魔法を恐れていた。
もし本気を出しても、呪詛を断ち切れなかったら……。
そればかりか、更なる恨みを買う事になったら……。
僅かな引っ掛かりではあったが、無視出来る程の物ではなかった。
0198創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/09(木) 20:12:58.02ID:xG16sdsl
マトラはレクティータの治療に、シュバトを頼った。
彼は協和会の中では、「エルダー・シュバルト」と言う事になっている。
人前には滅多に姿を現さないので、協和会の中で彼の存在を知っている者は少ない。
マトラは呼び出したシュバトにレクティータを診させた。

 「どうだ、解呪は出来そうか?」

しかし……と言うか、やはりと言うか、シュバトはレクティータの治療は出来ないと言った。

 「これは私の手に負える物ではない」

 「そこを何とかして貰いたいのだが」

マトラは内心で役に立たない奴だと思った。
呪詛魔法使いの偉人であるネサを特別視し過ぎていると思い、彼女はシュバトを詰責する。

 「如何にネサの呪いとは言え、呪詛は呪詛。
  何も試さぬ内から出来ぬとは、怠慢、逃避ではないか?」

 「呪詛を返そうにも、返す相手は既に死亡している。
  そもそも恨みの始まりは、マトラ……貴女自身だ。
  貴女は神聖魔法使いを排除する為に、私を頼った。
  その結果が、これなのだ」

 「呪詛返し以外に、解呪の方法は無いのか?」

 「……貴女自身が怨霊となって、この呪いを打ち消せば、或いは……」

 「この私に死ねと?」

 「その位の覚悟は必要だ」

呪詛魔法を脅威に思っているマトラだが、やはりシュバトの態度は大袈裟過ぎると感じた。
0199創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/09(木) 20:14:11.07ID:xG16sdsl
彼女はシュバトの対抗心を煽る。

 「お前は何れ、呪詛魔法使いとして、ネサを超越せねばならぬのであろう?
  敬服してばかりで、立ち向かえもせぬ様であれば、何時までも下揩フ儘だぞ」

シュバトは平然と反論した。

 「越える、越えないではない。
  呪詛の強さは、呪う心の強さであり、術者の強さではない。
  怨念、執念、妄念が結ぶ果なのだ。
  呪詛魔法使いは媒介に過ぎぬ」

昨夜の様子とは打って変わり、彼は落ち着き払っている。
マトラは不信の目で彼を見た。

 「ネサとの対峙を避けたい心があるのではないか?」

 「……あるかも知れない」

意外にもシュバトは、自身の心の迷いを認める。
これに驚いたマトラは一瞬返す言葉を失った。
シュバトは彼女に虚ろな目を向けて言う。

 「しかし、それは貴女も同じ事ではないか」

マトラは否定しようとしたが、思い直して諦めた。

 「言ってくれるなよ」

呪詛魔法使いは人の心を読む事に長けている。
特に、恐怖や虞の心には敏感だ。
結局レクティータは放置する事になった。
怨霊はレクティータに取り憑いている間は、他に害を及ぼさない。
これで封じられるなら悪くは無いと、マトラは妥協した。
0201創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/09(木) 20:16:04.86ID:xG16sdsl
その後に、マトラは予知魔法使いのジャヴァニを尋ねた。
彼女は協和会の中では、「シスター・ジェニー」と呼ばれている。
魔法資質は平凡で、纏う魔力にも特異な所は無いので、シュバトとは違い、頻繁に人前に現れる。
彼女自身がマトラに代わって指示を出す事も多い。
しかし、ジャヴァニは留守だった。
協和会本殿にある、彼女の部屋には誰も居ない。

 「ジャヴァニ……どこへ行った?」

マトラは堂々とジャヴァニの部屋を物色し始める。

 (行く先も告げずに、出掛ける者が悪いのだ)

彼女は机の上に、ノートが置いてあるのを見付けた。
それは何時もジャヴァニが大事そうに抱いている、マスター・ノート……に似ている。

 (無用心に置いて行く物か?)

マトラは怪しみながらも、ノートを捲ってみた。
案の定、真っ白で何も書かれていない。

 (……人に見られる所に、置いて行く訳は無いか……)

少々落胆しつつ、念の為にマトラは最後まで『頁<ページ>』を捲って確認した。
何も書かれていないと思い、畳んで置こうとして、気紛れに思い付いて、裏からも捲ってみる。
0202創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/10(金) 20:00:52.36ID:fW8eGDo/
そうすると偶々1頁の中に少しだけ、何か書かれている箇所が目に入った。
マトラは手を止めて、熟(じっく)りと見る。

 (……どう言う意味だ?)

そこに書かれていたのは短文。
真っ白な中に1行だけ、「最早これまで」と……。

 (予知に失敗した?)

意味を考えている内に、マトラは背後から声を掛けられる。

 「『マザー』、私の部屋で何をしているのですか?」

ジャヴァニが戻って来たのだ。

 「ああ、悪い、『シスター・ジェニー』。
  鍵が掛かっていなかった物で」

マトラは謝罪しつつ、ジャヴァニの顔色を窺う。
特に怒っている様子も無ければ、驚いている様子も無い。
留守中にマトラが訪ねて来る事も「予知していた」のだろう。
ジャヴァニは呆れて溜め息を吐く。

 「貴女は影を通じて、どこからでも入れるのですから、鍵の有無は関係無いでしょう」

仮令鍵が掛かっていたとしても、無関係に侵入出来るのがマトラだ。
ジャヴァニは涼しい顔でマトラに近付き、堂々と尋ねる。

 「それで、何の御用でしょう?」
0203創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/10(金) 20:03:36.17ID:fW8eGDo/
マトラは極自然に、悪怯れる姿を見せず対応する。

 「今後の予定は、どうなっているのかと思ってな」

ジャヴァニは彼女を横目で見ると、口の端に小さな笑みを浮かべた。

 「何か気になる事でも?」

マトラは失策を犯した。
ジャヴァニの忠告に従わずレクティータを動かして、「使えなく」してしまった。
その事にジャヴァニは感付いているに違い無いと、彼女の様子からマトラは察する。

 「言わずとも、分かっておろう。
  その為に出掛けたのではないか?」

 「……フフフ、そうですね。
  私の計画は失敗します。
  今の私に出来る事と言えば、崩壊までの時間を引き延ばす事だけ……。
  恨みますよ、マトラ様」

「恨む」と言われ、マトラは内心驚いた。
呪詛魔法使いの呪いを思い出したのだ。

 「おお、私が悪かったよ。
  頼むから呪ってくれるな」

彼女が冗談めかして哀願すると、ジャヴァニは再び小さく笑う。

 「そんな積もりはありません。
  御安心を。
  それより『畳む』準備を進めておいて下さい。
  呉れ呉れも、同盟以外の者には覚られない様に」

マトラは静かに頷いた。
0204創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/10(金) 20:04:03.49ID:fW8eGDo/
それに加えて、ジャヴァニはマトラに新たな忠告をする。

 「今後、協和会に迎える人物の選定には、慎重になって下さい。
  明から様に人を遮断しても、逆に怪しまれる事になるので、人選は引き続き私が担当します」

 「ああ、協和会の事は、そなたに全面的に任せる」

マトラはジャヴァニの言う通りにした。
呪詛魔法使いネサの出現で、予知に逆らう事の恐ろしさを身を以って感じたのだ。
ジャヴァニは話を続ける。

 「予知の通りに事が進めば、協和会は未だ数週は持ちます。
  逆に言えば、残り数週の運命なのですが……。
  撤退前に置き土産をして行きましょう。
  『ガーディアン・ファタードの逮捕』が合図になります」

 「……詰まり、奴の逮捕を遅らせれば?」

 「それだけ余裕が出来ます。
  下手をすれば、当然その余裕は無くなります。
  ガーディアンにはマトラ様の影が付いていましたね」

 「ああ」

現在ガーディアンに取り憑いている影は、彼に血酒を飲ませて気絶させた時に、植え付けた物。
影の魔物の一種で、ディスクリムと似た様な存在であり、マトラの命令には忠実に従う。

 「ガーディアンの逃走も、私が指示しましょう。
  彼には悪いですが、操り人形になって貰います」

 「多忙になるが、大丈夫か?」

協和会の事も、ガーディアンの事も、全て個人で担当するには、負担が大きい。
マトラやフェレトリの様に、分身を生み出せるならば話は違うが、所詮彼女は人の身だ。
処理能力には限界がある。
0205創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/10(金) 20:05:54.55ID:fW8eGDo/
しかし、ジャヴァニは気にしていなかった。

 「構いません。
  ビュードリュオン様に改造手術を施して貰います」

マトラは彼女の覚悟に驚く。

 「人の身が惜しくは無いのか?」

 「脆弱な人の体の、何を惜しむ事がありましょう。
  未練や愛着は惰弱さの象徴です。
  私は予知を完遂する為なら、何にでも成れます」

ジャヴァニは動揺を見せる所か、益々目付きを険しくした。
マトラは彼女を見詰めて小さく零す。

 「それが『魔法使い』か……」

魔法使いは魔法の為に命を賭ける。
魔法は魔法使いの命であるが故に。
「悪魔」の彼女には理解が及ばない観念だ。
魔法とは悪魔の業を言う。
悪魔であるマトラにとっても、魔法は命に等しい。
彼女を構成している物が、彼女の魔法なのだから。
しかし、それでも魔法の為に命を捨てる事は無い。
魔法使いは異世界で生きて行く為に、自己の存在を魔法に托した。
それは力が弱い者の生き方だと、マトラは憐れに思った。
0206創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/11(土) 19:52:37.81ID:CztuuiCe
時は移り、精霊魔法使いコバルトゥスの依頼を受けて、隠密魔法使いがティナーに到着した。
その名は「フィーゴ・ササンカ」。
隠密魔法使いの一族の中でも、腕利きの女である。
コバルトゥスとレノック、そしてササンカの3人は、『風の旅人<コン・ヴェントゥス・デ・カエラ>』に運ばれ、
人目に付かないティナー市の外れに降り立った。
風の旅人は、空を飛ぶ魔法使いである。
渡り鳥の様に遙か上空の風に乗って世界中を旅しており、人間社会に関わる事は無い。
今回は旧知のレノックの依頼と言う事で、一行を共に風に乗せた。

 「どうだった、空の旅は?」

レノックはササンカに空の旅の感想を尋ねたが、彼女の姿が見当たらない。

 「あれれ、どこ行った?
  先まで一緒に居たよね?」

コバルトゥスも共にササンカの姿を探すが、やはり見付からない。

 「どこかで落としたかな?」

 「いや、確かに俺の後ろに……」

2人して困惑していると、返事がある。

 「ここです」

声はコバルトゥスの背後から聞こえた。
0207創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/11(土) 19:53:39.12ID:CztuuiCe
ササンカはコバルトゥスの背に影の様に張り付いていた。
コバルトゥスは吃驚して尋ねる。

 「何で気配を消してるんだ?
  それだけなら未だしも、何故人の背後に……」

 「済みません、見知らぬ土地では目立たない様にしたいので。
  私の事は気にせず、どうぞ……」

「どうぞ」と言われても困ると、コバルトゥスとレノックは互いの顔を見合って、同時に肩を竦めた。
レノックはササンカに告げる。

 「それは良いんだけど、君は一族の代表として、協和会に乗り込まないと行けないんだよ?
  そんな調子で大丈夫かい?」

 「大丈夫です」

情け無い姿とは裏腹に、彼女は強気だ。
本人が言うならと、コバルトゥスとレノックはティナー市の市街地へ向かった。
市街地に入っても、ササンカは相変わらず、コバルトゥスの背後で息を潜めている。
レノックは彼女に話し掛ける。

 「そろそろ普通に歩いても、大丈夫だと思うけど」

ササンカは何も答えないが、レノックは構わず続けた。

 「誰も君の事なんか気にしやしないよ。
  これだけの人が居るんだ。
  ボルガ地方民だからって、服装や喋りで、特別目立つ事は無い」

 「構わないで下さい」

しかし、ササンカの反応は膠(にべ)無い。
0208創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/11(土) 19:54:58.30ID:CztuuiCe
その儘、3人は市内の料理店に入った。
ボルガ地方の郷土料理を提供する、東方風の高級料亭。
そこでは魔導師会の執行者が先に座敷の個室を予約して、一行を待ち構えている。
一行が入店すると、店員が寄って来た。

 「入らっしゃいませ。
  御予約は、お有りでしょうか?」

ここは高級料亭である。
如何に空いていようが、予約も無しに利用は出来ない。
レノックは店員に告げた。

 「『外回り組<アウトサイド・ワーカーズ>』で、予約が入ってる筈だけど」

子供の姿のレノックが答えたので、店員は内心驚いたが、そこは高級料亭で勤める仕事人、
決して顔には出さない。

 「はい、承っております。
  お連れ様からは3名様と伺っておりましたが……」

店員の目にはレノックとコバルトゥスしか映っていない。
ササンカは相変わらず、コバルトゥスの背後で気配を消している。
レノックは困った物だと少し顔を顰め、店員に告げた。

 「後から合流するよ」

 「承知しました。
  どうぞ、こちらへ」

店員は一行を魔導師会の執行者が待つ、座敷の個室へ案内する。
0209創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/12(日) 20:34:23.68ID:5C4csXpz
寛ぎながら一行を待っていた執行者達は、レノックとコバルトゥスの姿しか認められなかった事から、
早合点して落胆の表情を見せた。

 「駄目だったか?」

 「いや、ここに居るよ」

レノックはコバルトゥスの背後を指したが、執行者達はササンカを認識出来ない。
コバルトゥスが仕方無く、ササンカを抱き寄せて自らの横に立たせる。

 「彼女が隠密魔法使いのフィーゴ・ササンカだ」

行き成り現れた(様に見える)彼女に、執行者達は驚きの表情を見せた。
これが隠密魔法使い、その名に違わぬ隠密振りだと。
ササンカは無表情で、愛想笑いもしないが、執行者達は挨拶をする。

 「遠路遥々、ようこそティナー市へ。
  御協力感謝する、ササンカ殿。
  私達は魔導師会法務執行部の執行者だ。
  ……取り敢えず、座ってくれ」

3人は勧められた通り、執行者達の対面に腰掛けた。
執行者はレノックに段取りの確認をする。

 「レノックさん、今回の作戦の説明は済んでいるかな?」

 「一応ね」

彼の返答を受けて、執行者は改めてササンカに話し掛けた。

 「ササンカ殿、今回の作戦に就いて、改めて私の口から説明する」
0210創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/12(日) 20:35:19.65ID:5C4csXpz
しかし、ササンカは反応しない。
執行者は戸惑いながらも続けた。

 「これを見て貰いたい」

そう言って彼は机の上に、この近辺の地図を広げて見せる。

 「ここが現在、私達が居る料亭『東風<イースト・ウィンド>』。
  東に約1通の所に、協和会の会館がある。
  会館の入り口には門衛が居る。
  先ずは、それに話し掛けて、『責任者と話がしたい』と言う。
  怪しまれるかも知れないが、その時は外道魔法使いである事を明かしてくれ」

ここで執行者はササンカを一瞥したが、彼女は無言で無反応。
相槌の一つも打たない。
執行者は眉を顰めて続けた。

 「『協和会の噂を聞き付けて訪ねて来た』とでも言えば良い。
  魔導師会に通報される事は無いと思う。
  もし通報されたら作戦は失敗だが、仕方が無い。
  私達執行者が貴女を回収して、それで終わりだ。
  もし『責任者』と話が出来る運びになったら、素直に応じてくれ。
  危険を感じたら、身を引いても構わない。
  私達が知りたいのは、協和会の詳細な組織構造だ。
  それさえ判明すれば良い。
  必要以上に深入りする必要は無い。
  協和会に潜入出来た後の行動は、貴女の判断に任せる事になるが……」

ササンカは無言の儘、執行者を睨む様に見詰めている。
執行者は彼女に確認した。

 「何か質問は無いだろうか……?」
0211創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/12(日) 20:36:39.69ID:5C4csXpz
ササンカは数極の沈黙を挟み、静かに尋ねた。

 「報酬は?」

確りしているなと思いつつ、執行者は答える。

 「潜入に成功したら、1日当たり10万MG。
  得られた情報次第で上乗せする。
  それと必要経費は、こちらで持つ。
  当然、報酬とは分けて扱う」

それに対して彼女は、こう応じた。

 「金だけの問題では無い。
  我等の一族に『配慮』して貰いたい」

 「配慮とは?」

執行者達の目付きが俄かに険しくなる。
ササンカの言葉次第では、直ぐに交渉が決裂し兼ねない雰囲気だ。
重々しい空気の中、ササンカは口を開く。

 「……今後、我等の活動に口を挟まない事」

執行者は即断した。

 「それは認められない。
  全ての魔法は魔導師会の下にある。
  特例を作る訳には行かないし、不法を見過ごす訳にも行かない」
0212創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/13(月) 20:07:21.84ID:y59PHXQK
両者の対立を見兼ねて、レノックはササンカに声を掛ける。

 「ササンカ君、要求は正確にするべきだ。
  魔導師会は魔法を利用した不法行為に対処しなければならない。
  そう言う意味で、全く口を挟まないと言う事は無い」

ササンカは小さく眉を動かし、不満気な様子を見せつつも、独り思案する。
然る後、彼女は静かに語った。

 「……我等は一族間で細々と、今日まで魔法を継承して来た。
  それを無に帰す様な事はして欲しくない」

執行者は彼女に提案する。

 「隠密魔法の技術を共通魔法に組み込めば、外道と呼ばれる事は無くなる。
  丁度、精霊魔法や海洋魔法が、そうだった様に。
  共通魔法は何時でも新しい魔法の技術を求めている」

しかし、ササンカは頷かない。

 「隠密魔法は一族の秘伝。
  その極意を他者に教える事は出来ない。
  我等の要求は、第一に『隠密魔法の使用を咎められない事』。
  第二に『身内の問題に不干渉を貫く事』。
  第三に『絶滅作戦を行わない事』。
  以上だ」

執行者達は互いの顔を見合って、テレパシーで協議した後、回答した。

 「共通魔法以外の魔法は、大々的に使用しなければ問題は無い。
  隠密魔法は、その性質から密かに使用する場合が殆どであろうと思われる。
  犯罪に利用しなければ、一々是非を問う事はしない。
  身内の問題だろうと、それは同じだ。
  絶滅作戦に関しても、魔法を利用した犯罪行為が『個人』に留まる限りは問題にしない。
  一族で結託する等と言う事があれば、その限りでは無いが」

それは飽くまで、現在の法解釈を変える積もりは無いと言う事だ。
0213創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/13(月) 20:08:34.22ID:y59PHXQK
ササンカは沈黙して、執行者の言葉の意味を考える。

 「不十分だ。
  我等は配慮を求めている」

執行者達は再び顔を見合わせ、テレパシーで協議した。

 「……では、隠密魔法使いの処遇に関して、魔導師会側で一方的に断じる事はしないと言う事で、
  どうだろうか?
  問題が発生した場合、双方が協議した上で、共同で事に当たる。
  双方共に事情を明かして、隠蔽を行わない」

 「未だ十分ではない。
  隠密魔法使い同士の問題に、関与しない事を求める」

 「そうは行かない。
  法的に問題のある事柄を内々に処理したければ、外部への漏洩を徹底して防ぐ事だ。
  魔導師会は不法を見過ごさない。
  問題が発覚した時点で即時介入する。
  その場合、如何なる隠蔽工作も許さないし、関係者の処遇は魔導師会の一存で決める。
  ……しかし、最初から協調する姿勢を示し、問題解決に当たって協議に応じるのであれば、
  強硬に出る事は無い」

駆け引きをしている場合では無いのだがと、レノックとコバルトゥスは呆れ半ばで決着を待っていた。
執行者達とササンカは暫し無言で睨み合う。
先に口を利いたのはササンカだった。

 「口約束は信用ならない。
  書面で誓約出来るか?」

 「良かろう。
  明日には用意する」

どうにか話が付いたので、レノックとコバルトゥスは安堵の息を吐いた。
斯くして漸く、潜入作戦が始まるのだった。
0214創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/13(月) 20:10:14.94ID:y59PHXQK
ササンカは単身で協和会に乗り込み、浅りと裏で接触する事に成功した。
協和会の会館を訪れた彼女は、純白の本殿の一室に通され、「シスター・ジェニー」と一対一で会う。

 「初めまして。
  私は協和会のシスター、ジェニーと申します」

 「隠密魔法使いのササンカだ」

互いに名乗った後、シスター・ジェニー事ジャヴァニは、ササンカに対して告げる。

 「私は予知魔法使いです。
  『外道魔法使い』と呼ばれる者同士、協力し合える事を望んでいます」

ササンカは相手が同じ外道魔法使いと言う事で、少し気を緩めた。
それを顔に表しはしないが……。
彼女は感情を殺した口調で、ジャヴァニに尋ねる。

 「協和会は『外道魔法使い』との共生を目指していると聞いた。
  それは本当か?」

 「はい」

自然に答えたジャヴァニに対して、ササンカは指摘する。

 「嘘だな。
  隠し事をしている」

ジャヴァニは眉を顰め、理由を問うた。

 「何故そう思うのですか?」

 「諜報活動に特化した隠密魔法を甘く見ないで貰いたい。
  貴女からは誠意が感じられない」
0216創る名無しに見る名無し
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2017/11/14(火) 20:01:41.35ID:y/DHMoiZ
ササンカの言葉は、ジャヴァニには言い掛かりとしか思えなかった。

 「『誠意』とは何ですか?」

 「真心だ。
  貴女は努めて感情を隠そうとしている。
  本意を読まれまいと言う心理がある。
  知られては不味い事がある証拠だ」

ササンカの説明には有無を言わせない説得力がある。
ジャヴァニは沈黙で肯定の意を表すより他に無い。
彼女はササンカを睨んで、話を逸らした。

 「……貴女は何の為に、協和会に近付いたのですか?」

 「外道魔法との共生を訴えていると言う事は、裏に外道魔法使いとの繋がりがあると思った。
  共生の訴えが本気なら、協力するに吝かでない。
  しかし、どうやら違う様だな」

話を打ち切られそうな雰囲気に、ジャヴァニは焦りを隠して言い訳する。

 「その通り、私達が目指している道は『共生』ではありません。
  『外道』を『内道』に戻す道です。
  私達の本意は、外道と呼ばれて来た魔法の復権にあります。
  全ての魔法は、今再び旧暦の姿を取り戻すのです」

それは外道魔法使いと呼ばれ、疎外されて来た者達にとっては、甘美な囁きだ。
しかし、故に余りに現実味が無い。
0217創る名無しに見る名無し
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2017/11/14(火) 20:02:51.80ID:y/DHMoiZ
ササンカは疑いの眼差しで、ジャヴァニを見た。

 「そんな事が本当に出来ると思っているのか?」

 「不可能ではありません。
  私達の背後には、強大な『公爵閣下<デュース・グロリアシッシア>』が付いています」

反逆同盟の事をササンカは既に知らされているが、それは伏せて会話を続けた。

 「俄かには信じ難い」

ジャヴァニは微笑を浮かべ、彼女に告げる。

 「そうでしょう。
  貴女は半信半疑。
  ならば、信じざるを得なくさせましょう」

尋常ならざる気配を感じて、ササンカは身構えた。
眩い程に真っ白な本殿が急に暗んだと感じる。
ジャヴァニの背後の影が盛り上がり、人の形を取る。
反逆同盟の長マトラの登場だ。

 「そなたが隠密魔法使いか?」

人外の業にササンカは構えるばかりで、返事が出来ない。

 「そう警戒しなくとも良い。
  私は『マザー』。
  協和会の会長であるレクティータ様の最側近であり、シスターを束ねている」

マトラは丁寧に名乗ったが、ササンカは硬直して動けない。
理解を超えた存在を、どう受け止めたら良いのか分からないのだ。
0218創る名無しに見る名無し
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2017/11/14(火) 20:03:49.43ID:y/DHMoiZ
ジャヴァニは淡々と答える。

 「彼女が『古の魔法使いの復権』の実現性を疑う物で。
  故(ゆえ)『マザー』に、お越し頂いたのです」

 「成る程、成る程、そうであったか」

マトラは頷きながら、改めてササンカに向き直った。

 「では、御覧に入れよう。
  悪魔公爵の力、心行くまで篤と味わえ」

邪悪な笑みを浮かべた彼女は、再び強烈な威圧感を放ち、周囲を暗黒で包んで行く。
暗黒はササンカを押し潰す様に、圧力を強めながら濃く深くなって行く。
ササンカは暗黒の球体に閉じ込められたのだ。

 「如何かな?」

マトラの声は暗黒の中で反響し、ササンカの神経を蝕む。

 「わ、解った。
  確かに、恐ろしい力だ」

嫌な予感がしたササンカは、もう十分だと答えたが、マトラは彼女を解放しない。

 「いや、未だ解っておらぬ。
  解ろう筈が無い。
  こんな物は私の力の一分にも満たぬ。
  そなたには、遙かなる暗黒の旅に出て貰おう」

暗黒の球体は徐々に体積を小さくして行き、終にはササンカを消滅させた。
0219創る名無しに見る名無し
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2017/11/14(火) 20:04:53.87ID:y/DHMoiZ
マトラは苦笑して、妖しくササンカに微笑み掛けた。

 「やれやれ、仕方が無いな」

それと同時に、場を支配していた「尋常ならざる気配」が消失する。
マトラは改めてササンカに話し掛けた。

 「これで、どうかな?」

ササンカは緊張から解放されたが、未だ気を緩める事は出来ない。
警戒した儘で、マトラに質問を打付ける。

 「あ、貴女は何者なのだ……?」

マトラは堂々と答えた。

 「遙か昔、人間が『旧暦』と呼ぶ時代に、『悪魔』と呼ばれた存在」

 「悪魔……」

唖然としているササンカをマトラは笑った。

 「あらゆる魔法は悪魔によって齎された。
  『隠密魔法の始まり』は、どの様に伝えられている?」

 「……答える必要は無い」

ササンカが話を打ち切ると、マトラも頷く。

 「あぁ、悪かった。
  余談であったな。
  さて、何の話をしていた所だったか……」

彼女はジャヴァニに視線を送った。
0221創る名無しに見る名無し
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2017/11/14(火) 20:08:19.00ID:y/DHMoiZ
ササンカを消滅させたマトラは溜め息を吐き、ジャヴァニに尋ねた。

 「これで良いのか?」

 「はい、お手数をお掛けしました。
  あの女は確かに隠密魔法使いですが、魔導師会の息が掛かった者でした」

予知魔法使いの彼女の前では、あらゆる策略が無意味。

 「何か手を隠しておるかと思ったが、そうでも無かったな。
  他愛も無い」

期待外れだとマトラは脱力する。
ジャヴァニは彼女に念を押した。

 「容易には解放されない様に、お願いします」

 「分かっておるよ。
  どの道、暗黒の牢獄から逃れる術は無い。
  普通の人間であれば、半日と経たぬ内に、精神が崩壊する。
  あれでも『魔法使い』と言うのだから、数日、数週は保つかも知れんが、些細な違いだ」

果たして、暗黒に囚われたササンカの運命は……。
0222創る名無しに見る名無し
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2017/11/15(水) 19:24:49.29ID:9zsR+3lY
他方、執行者に追われる身となったガーディアン・ファタードは、影に体を乗っ取られた儘で、
何日も過ごしていた。
彼は意識がある状態で、自分の手が知人を殺めて行く様を見届けた。
人並みの良心を持っていれば、大いに苦悩する所だが、この男は違う。
操られているのだから仕方が無いと、早々に諦め、無責任に達観している。
自力で何とか抵抗しようと言う気概は欠片も無く、執行者に逮捕される時を待っているのだ。
体を乗っ取られている間は、何も考えない様にして、呑気に眠っていた。
逃亡生活が始まってから1週後、遂に彼が逮捕される時が来た。
ガーディアン確保に動いているのは、魔導師会法務執行部刑事部捜査第六課「外道魔法対策課」、
通称「外対(げたい)」。
外道魔法が関わる事件や犯罪に、専門的に対処する部署である。
外対は「影の様な物」の対処を心得ていた。
似た様な事件が過去にあったのだ。
外対の執行者達は、明かりを灯す魔導機を持って、街中の暗がりを虱潰しに調べて回った。
これが影の化け物の弱点。
明かりで照らされると、姿を隠せなくなる上に、動きも鈍る。
更に、今回は「協力者」も居る。
影人間の「シャゾール」。
これは影の化け物と同じ性質を持っており、影の気配を探れる。
0223創る名無しに見る名無し
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2017/11/15(水) 19:30:02.12ID:9zsR+3lY
ガーディアンが隠れていたのは、市内のアパートの空き部屋だった。
外対の執行者達が事前通告も無しにアパートを包囲したので、管理人や住人は大層驚いた。
執行者達はガーディアンが潜伏している部屋の両隣と、バルコニーを押さえ、正面玄関から、
室内に突入する準備を整える。
ガーディアンに取り憑いた影は、包囲されている事を察して、緊張していた。
視線は忙しなく動き、身構えつつ、耳を澄ます。
それは体を共有しているガーディアンにも伝わる。

 (……何や、この胸騒ぎは?
  こいつ、何を恐れとんのや?)

彼は執行者が既に包囲を完了しているとは気付かず、影の焦燥を疑問に思っていた。
直後、玄関の戸が開き、白い拳大の球体が放り込まれる。
強力な発光魔法を封じた魔導機、閃光弾だ。
それは激しく発光して、ガーディアンの視界を完全に奪う。

 (うわっ、眩しっ……)

その後に複数の乱暴な足音が聞こえる。
完全武装した外対の執行者が突入したのだ。

 「対象を発見!
  『処理する<エグゼキュート>』!」

続いて、外対に同行していた処刑人が『死の呪文<デス・スペル>』の魔導機を構えた。

 「『処刑<イクシキューション>』」

これは精霊体に特化した死の呪文を放つ物。
発動すれば、肉体を傷付ける事無く、精霊だけを消滅させられる。
勿論、ガーディアンの精霊も無事では済まない。
彼が死の呪文に耐えられるか否かは、当人の精神力と幾許かの運に掛かっている。
0224創る名無しに見る名無し
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2017/11/15(水) 19:37:47.16ID:9zsR+3lY
ガーディアンは執行者が突入した事は何と無く察せたが、後に襲い来る急激な冷気と心細さには、
大いに混乱した。
これは精霊が弱っている為に起きる現象だ。
体温が下がると同時に、意志力や思考力が減退する。
鬱の様な精神状態に陥り、自己の存在感の希薄化と矮小化、喪失感を味わう。
屈すれば、即死だ。
強い生への執着心が無ければ、生きられない。
幸い、標的はガーディアンではなく、彼に憑依している影の方なので、直撃は受けない。
ガーディアンを狙った物であれば、確実に彼は死亡している。
それに彼には歴とした自分の「肉体」がある。
肉体と精神の結び付きが強ければ、この呪文の効果は薄れる。
漸く閃光が収まっても、ガーディアンの視界は回復せず、眩んだ儘。

 「寒い、死にたくない……。
  な、何や……?
  儂が何をしたって言うんや……」

ガーディアンは震えながら倒れ込み、弱々しい言葉を吐いた。
それを執行者達は冷淡な目で見下ろし、影の化け物が死亡したか、慎重に判別を試みる。

 「シャゾール殿、未だ気配は感じられますか?」

外対に同行していたシャゾールは確認を求められ、静かに否定した。

 「いいえ、完全に消滅した様です」

執行者達は頷き合い、漸くガーディアンの救助に取り掛かる。

 「毛布と担架を持って来い!
  魔法で体を温めながら、本部内の医療施設に護送しろ。
  運が良ければ助かるだろう」
0225創る名無しに見る名無し
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2017/11/16(木) 19:56:16.03ID:wFjLQ1aM
ガーディアンに取り憑いていた影の魔物は消滅した。
その影響を大きく受けたのは、影を生んだマトラではなく、ジャヴァニだった。
彼女は影の動向を把握する為に、感覚の一部を影と共有していた。
影と感覚を共有した儘だと被害を受ける事は、予知で判っていたが、少しでも時間を稼ぐ為に、
ジャヴァニは危険を顧みず感覚の共有を遮断しなかった。
結果、死の呪文の脅威を彼女は間接的に体感する破目になる。
体温の低下を実感し、存在が消滅する死の恐怖に、彼女は震えた。
彼女は共通魔法使いを、死の呪文を甘く見ていた。
巻き添えで死を覚悟する事になろうとは、思ってもいなかった。
影の魔物を生み出した本人であるマトラも、その死を感じ取り、ジャヴァニの元を訪ねた。

 「ガーディアンに植え付けた、私の子が『消滅』した。
  魔導師会も無能では無いらしい。
  ……ジャヴァニ、大丈夫か?」

しかし、ジャヴァニは直ぐには応えられない。
蹲って震えながら、何とか声を絞り出す。

 「わ、私の事は、お構い無く……。
  少々余波を受けただけです。
  それより計画は最終段階へ」

 「分かった。
  共通魔法使い共が周章狼狽する様を肴に、高みの見物と洒落込もう」

反逆同盟は協和会を切り捨てる。
大きな置き土産を残して。
0226創る名無しに見る名無し
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2017/11/16(木) 19:59:44.08ID:wFjLQ1aM
ティナー魔導師会本部に護送されたガーディアン・ファタードは、医務室で治療と同時に、
心測法を受けていた。
心測法には精神に働き掛けて過去の記憶を読む物と、肉体に働き掛けて過去の動作を読む物の、
2種類がある。
ガーディアンは、その両方を施された。
当人の意識が無く、何の抵抗も反論も出来ないのを良い事に、手早く済ませようと言うのが、
執行者側の魂胆だった。
緊急事態と言う事で、正式な許可を取っているのだが、誰でも記憶を読まれる事には抵抗がある。
心測法を受けると聞くや、暴れ出したり、騒ぎ立てたりする者も、珍しくは無い。
そうなると面倒なので、意識が無い内に済ませてしまうのだ。
しかし、心測法の結果は思わしくなかった。
ガーディアンが協和会のエルダーとなり、酒を飲まされた後、約半角、記憶が途切れている。
恐らくは、この間に影の化け物が取り憑いたと思われるのだが、決定的な瞬間は無い。
ガーディアンの主観的な思い込みは、客観的な証拠の価値を持たない。
心測法の『走査官<トレーサー>』は、『捜査官<エージェント>』に告げる。

 「証拠としては弱いと思う。
  協和会への突入許可が出るかは分からない。
  五分五分かな」

 「それでは困る。
  何としても協和会の本性を暴かなくては。
  こいつだけが頼りだと言うのに」

捜査官はガーディアンを見下ろして、焦燥を露にした。
彼の言う通り、今の所はガーディアン以外に、協和会を突き崩せる手掛かりは無い。

 「『影の魔物』とやらが、重要な情報を持っていた様だが、消滅させてしまったのではな」

 「あれを生け捕るのは無理だ。
  それに心測法が通用するかも分からない」

 「それは確かに、そうだな。
  一応、深部心測法も試してみる。
  期待せずに待っていてくれ」

走査官は複数人で、より精度の高い心測法を実行する。
0227創る名無しに見る名無し
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2017/11/16(木) 20:01:06.89ID:wFjLQ1aM
しかし、やはり結果は捗々しくなかった。
どうやって影の魔物が憑依したのか全く分からない。
無理も無い。
影の魔物はガーディアンの「影」に憑依したのであり、心測法には「影」の過去を見る術が無いのだ。
影は光が物体に遮られて出来る物であり、それ自体は過去を持たない。
影は物体では無いし、そこに情報が蓄積される事も無い。
共通魔法も所詮は物理の限界に縛られる。
だが、丸で何の成果も得られなかった訳ではない。
協和会を取り仕切っているのは、「マザー」だと言う事。
血酒の交盃の際に、「マザー」が唱えた誓約の言葉を、影の魔物も一言一句違わず口にした事。
そして地下の部屋の事。
容疑を掛けるには十分だ。
執行者は都市警察と共同作戦を取る事になった。
突入決行は3日後。
余りに性急だと、異論が都市警察からも執行者からも噴出したが、統合刑事部は強引に決断した。
……その日を迎える前に、ティナー市を混乱に陥れる、新たな事件が起こる。
0228創る名無しに見る名無し
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2017/11/17(金) 19:34:11.77ID:JCBDl3OV
ガーディアン・ファタードが逮捕された翌々日、協和会に出資していた男が殺害された。
その死に様は尋常ではなかった。
全身の骨と内臓が砕けていたのだ。
男は家庭を持っていたが、ここ数週は家に帰らず、ホテルで外泊していた。
殺人現場は男が宿泊していたホテルの一室。
どうして家に帰らず、ホテルに泊まる様になっていたのか?
都市警察がホテルの従業員に話を聞いた所、夜になると若い女が彼の元を訪ねて来て、
朝まで泊まって行くのだと言う。
要するに、ホテルは愛人との逢引の場だったのだ。
事件当日も男は愛人と宿泊していたのだが、この愛人がホテルから外に出た所を見た者は居らず、
行方不明となっている。
ホテルの室内では争った形跡があり、熟睡中に襲われた訳では無い様だが、防音が完璧な為に、
上下左右の客室に音が漏れる事は無かったと思われる。
部屋の唯一の出入り口である戸には、鍵が掛かっており、現場は所謂「密室」だった。
本来ならば、本件の捜査は都市警察の仕事だが、協和会絡みと言う事で、執行者が同行した。
都市警察と執行者の関係は複雑だ。
基本的には協力する物なのだが、「執行者さえ居れば、都市警察なんか要らない」と言われる位、
都市警察は軽視されている。
都市警察が対処可能な事件は、魔法を使わない犯罪に限られる。
魔法が使われていても、然して複雑でない事件であれば、都市警察が解決する事もあるが、
その例は少ない。
逆も然りで、魔法が使われていなくても、執行者が出動する事もあるが、その場合は都市警察が、
無能扱いされる。
その為、執行者の方が立場的に上であり、共同捜査となると、どうしても都市警察は緊張する。
実際は「担当する事件」が違うだけで、どちらが上と言う事は無いのだが……。
0229創る名無しに見る名無し
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2017/11/17(金) 19:35:49.36ID:JCBDl3OV
執行者は都市警察の捜査を邪魔しない様に、見物するだけに留めている。
恰も監視しているかの如きで、益々都市警察は、やり難さを感じていた。
執行者達は小声で話し合う。

 「奇妙だな。
  被害者が暴れたのなら、それなりに犯人の遺留品が残っていても良さそうな物だが……。
  髪の毛なり、血痕なり、体毛なり、足跡なり」

 「確かに。
  相当用意周到だったのか、それとも――」

 「魔法を使ったか……。
  共通魔法を使ったにしては、痕跡が全く無い。
  大体、魔力遮断された部屋ってのは、使える魔力が限られて、大逸れた事は出来ない物だが。
  余程の手練れか、外道魔法使いか、何れにしても心測法を使う必要がありそうだ」

 「都市警察が素直に了承してくれるか……」

 「どうせ証拠は見付からないさ。
  例の共同捜査の日が近い事もある。
  多少は融通を利かせてくれるだろう」

その通り、都市警察では犯人に繋がる証拠は発見出来なかった。
それ所か、翌日には又も協和会に出資していた男が殺害された。
しかも、全く同じ状況で。
流石に都市警察も、これは徒事ではないと、執行者が捜査に乗り出す事に反対しなかった。
0230創る名無しに見る名無し
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2017/11/17(金) 19:36:54.99ID:JCBDl3OV
犯行現場で心測法を試みた結果、恐ろしい事が明らかになった。
真っ黒な影の化け物が、男女を殺していたのだ。
影の化け物は大型犬程の大きさで、大きな頭と短い手足を持っている。
譬えるなら、巨大な赤子の様だった。
男の方は抱き付きで絞め殺され、女の方は丸呑みにされた。
しかも化け物は人語を喋っていた。
低い声で泣きながら、「パパ」、「ママ」と。
明らかに、殺された男女に向かって。
これは何なのか?
堕胎させられた子供の怨念を呪詛魔法で具現化させた物か?
それともガーディアンに取り憑いていた物と同類か?
心測法では影の化け物の正体までは掴めなかったが、被害者の男に心測法を使った事で、
新たに明らかになった事もあった。
被害者の男と一緒にホテルに泊まっていた女は、協和会のシスターだった。
協和会の「地下」の狂宴も明らかになった。
狂宴の参加者には、大企業の役員や市議会議員も居た。
これは協和会にとっては誤算だろうか?
もし協和会が仕掛けた事ならば、男の死体を残す等、余りに杜撰過ぎる。
今まで完璧に近い形で、その内情を隠蔽して来たと言うのに。
とにかく突入の日を早目にしたのは正しい判断だった。
今、徒に時間を浪費すれば、協和会の裏に居る反逆同盟を取り逃がしてしまう危険性があった。
0231創る名無しに見る名無し
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2017/11/18(土) 19:26:13.53ID:1HNNMu59
だが、突入当日になって、更なる衝撃が街を襲った。
深夜北北東の時。
新たな事件を防ぐ為に、都市警察と執行者の一部は、協和会の出資者達の住居に、
密かに張り付いていた。
ガーディアンの逮捕から立て続けに、協和会の出資者が殺害されている。
今夜も誰かが狙われる可能性が高い……と言う予測は、幸か不幸か外れた。
しかし、問題が起きたのは、早朝東の時、突入予定時刻の2角前。
突然、協和会から人々が逃げ出した。
先ず白いローブを着たシスターとエルダーが顔を覆い隠しながら走り去る。
それに続いて一般の会員も。
更に、その後から黒い怪物が複数現れた。
協和会の出資者を殺害した影の化け物と、見た目は同じ物。
数は二十体前後。
明け方の静かな街が、悍ましい地獄と化して行く。
何よりも人々を恐れさせた物は、怪物の叫び声。
どこまでも響く様な大声で、父母を呼び、泣き喚くのだ。

 「ヴァア゛ア゛ヴァア゛ア゛ーーーー!!
  マ゛ァア゛ア゛マ゛ア゛ア゛ーーーー!!」

1体が泣けば、他も連られて泣き始める。
それは合唱となって、地響きの様な振動を起こす。
余りの不快音に、人々は正気では居られない。
耳を塞いでも、大地と空気を伝う振動が心を掻き乱す。
誰も彼も、衝き動かされる様に駆け出した。
0232創る名無しに見る名無し
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2017/11/18(土) 19:35:29.56ID:1HNNMu59
協和会を見張っていた魔導師会の執行者は、黒い怪物が人々を追って街中に拡散するのを、
食い止める為に打って出た。

 (こちらS隊[※]、協和会会館より正体不明の怪物が複数出現しました。
  推測ですが、昨日、一昨日と続いた事件の怪物と同一か、類似の存在と思われます。
  S隊で足止めを試みます。
  処理と外対の応援を要請します。
  それと初動には近隣住民の避難をお願いします)

テレパシーで応援を呼んでから、執行者達は複数の集団に分かれて数人で包囲陣形を組み、
攻撃を仕掛ける。
黒い怪物に一定の距離まで接近した時点で執行者達は、これが共通魔法とは全く異なる流れの、
魔力を纏っている物、即ち外道魔法によって生み出された存在だと感付いた。
それでも全員、「協和会の出資者を襲った影の化け物」の事は既に知っていたので、取り敢えず、
効きそうな攻撃を試せるだけ試してみる。
先ずは、「影」の弱点である発光系の魔法。

 「A17!!」

閃光を浴びせると、黒い怪物は怯んで蹌踉めき、その場に尻餅を搗いた。
それと同時に、激しく泣き始める。

 「ギャアアアアーー!!!!」

鼓膜が破れる様な叫びに、執行者達は堪らず耳を塞いだ。


※:SはSurveillance、又はSentryの略。
  偵察、監視、警備警戒を行う部隊で、各課に存在する。
  今回の様に統合刑事部が全体を指揮する場合は、課の垣根を越えて任務に当たる事もある。
0233創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/18(土) 19:37:53.78ID:1HNNMu59
 (詠唱封じか!)

共通魔法は詠唱と描文で発動する魔法。
詠唱は空気の振動なので、当然雑音が混じれば完成に影響が出る。
より大きな音である程、周波の乱れた音である程、影響は大きい。
詠唱を封じられると言う事は、共通魔法使いにとって、片手を封じられたも同然。
単純に考えて発動には倍の時間が掛かるし、精密さや精巧さも損なわれる。
詠唱が使えない事も、泣き喚く声が非常に煩い事も、どちらも厄介だが、それ以上に悪い事がある。
泣き声を聞いただけで、執行者達は気分が悪くなって来たのだ。

 「ヴァア゛ア゛ヴァア゛ア゛ーーーー!!
  マ゛ァア゛ア゛マ゛ア゛ア゛ーーーー!!」

 (何だ、この不快さは!
  この泣き声が原因なのか!?)

 (防音魔法を使え!)

直ぐに防音魔法を描文で発動させるが、それでも気分は良くならない。

 (全く変わらない所か、寧ろ悪化しているみたいだ……。
  畜生、こいつを泣き止ませるのが先だ!)

執行者達は互いにテレパシーで会話し合い、防御陣形を組んで、烈日の魔法を掛ける。
これは名の通り、激しい光熱を対象に浴びせ掛ける魔法だ。
黒い怪物の体は、溶解する様に小さくなって行くが、反比例して泣き声は益々大きくなる。
それは防音魔法の前には何の関係も無いのだが、同時に不快さも増大する。

 (耐えろ!
  奴も限界が近い証拠だ!)

根拠は無いのだが、気合で何とか乗り切ろうと、執行者達は互いに励まし合った。
複数人で協力して発動させる魔法の欠点は、1人でも欠けると一気に効果が落ちる事。
気休めでも何でも、味方には耐えて貰わなくてはならない。
全員の命の為に。
0234創る名無しに見る名無し
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2017/11/19(日) 19:05:30.18ID:S66kHpLB
だが、影の怪物は中々倒れなかった。
溶けた『雪達磨<スノーマン>』の様になっても、泣き叫び続けている。
一向に泣き疲れる様子は無い。
途方も無い活動力だ。
先に参ったのは、執行者の方だった。

 (な、何と言う奴……。
  しかし、時間は稼げた筈……)

1人が倒れると同時に、直ぐ全員が撤退する。
体力と気力に余裕のある者が、倒れた者を回収。
残された影の怪物は暫く泣いていたが、徐々に復元して完全復活すると、泣き止んで歩き始める。

 「ダーァダーァウ、マァーマァーウ。
  パァ、パァ、ムァ、ムァ」

相変わらず、不気味な声で父母を呼びながら……。
応援に駆け付けた執行者の処理課と外対課の者は、S隊の報告から遠距離攻撃を試みた。
初動対応係と治安維持部による住民の避難は、既に完了している。
協和会への突入作戦は遺憾ながら中止。
この正体不明の怪物を全力で始末するのが先と決まった。
黒い影の怪物、二十体余りは、どこへ向かおうとしているのか?
怪物の様子を観察していた、処理課と外対課の混成部隊は、テレパシーで話し合う。

 (怪物共は、どこへ行こうとしてるんだ?)

 (特に目的は無い様です。
  怪物は常に、何れかの個体が目に見える範囲で、行動しています。
  部隊を編成していると言うよりは、誰も居ない所で独りは嫌だって感じでしょうか……)

 (そりゃ嫌だ。
  俺だって嫌だ)

 (個々の動きに目的や統率感は無く、何と無く屯っているに過ぎないみたいです)
0236創る名無しに見る名無し
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2017/11/19(日) 19:14:38.79ID:S66kHpLB
それを聞いた処刑人の班長は外対の執行者にテレパシーで告げた。

 (何でも良い。
  纏まっているなら好都合だ。
  一網打尽にしちまおう。
  周辺住民の避難は完了してるんだったよな?)

 (確認します)

疑問を受けて外対の執行者は、新しく編成されたS隊に新しい回線を通したテレパシーで尋ねる。

 (S2隊、避難状況は?
  怪物の周辺に取り残された人は居ないか?)

 (ありません。
  全て完了しています)

 (了解)

その返事を外対の執行者は、魔力通信の回線を切り替えて、処刑人の班長に告げる。

 (避難は完了しているとの事です)

 (良し、始めよう)

一度決まったら、行動は迅速に。
処刑人は遠距離用の狙撃魔導機を構えて、一撃必中必殺の態勢に入る。
処刑人を指揮する班長は、専用の回線で配下の処刑人に告げる。

 (先ずは『逸れ』を狙って、効果を確かめる。
  群から離れている1体が判るな?
  カートリッジは5−1−8を使え。
  『核<コア>』が確認出来ない為、頭、胸、腹の3点を同時に狙うぞ。
  1番は頭、眉間の辺り。
  2番は胸、心臓の辺り。
  3番は腹、臍の辺り。
  それぞれ中心部を的確に撃ち抜け。
  効かなければカートリッジ6−1−8に切り替える)

 (了解)

処刑人達は指示通りに、魔導機の後ろにカートリッジを挿入した。
0237創る名無しに見る名無し
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2017/11/19(日) 19:20:31.32ID:S66kHpLB
時刻は東の時半角。

 「『処刑<キュー>』!」

処刑人の班長の掛け声で、配下の処刑人は死の呪文を放つ。
呪文を乗せた魔力の流れは、観測不可能な「少し錯(ずれ)た空間」を通って、相手の位置に届く。
D級禁呪を応用した、直撃の直前まで察知が困難と言う、超技術兵器。
この「死の呪文」は魔力分解攻撃を仕掛ける類の物で、一切の物理化学的な攻撃が通用しなくとも、
「魔法を利用した物」には確実に効果がある。
影の魔物が直ぐに姿を消したり現したりして、器用に攻撃を避ける性質を持っていれば、
効果は絶大だ。
魔力分解攻撃は、魔力で構成された有りと有らゆる存在に通用する。
魔法生命体は疎か、物質化した魔力にも効果があり、魔法その物も消せる。
共通魔法も外道魔法も関係無く、魔力を利用した物を全て消し去るのだ。
当然、影の怪物に死の呪文を避ける手段は無く、3点の急所に直撃を食らう。
小さな穴が開通したかと思えば、それは徐々に拡がって行き、「影」を食らい始める。
魔力で創られた「影」が全て取り除かれ、後に残ったのは「黒い点」。
処刑人の班長は、S2隊に確認する様に要請する。

 (S2隊、あれは何だ?
  精確な情報を遣して貰いたい)

 (……大きさは1節程度。
  黒い……何だ、これ?
  これは……胎児?
  胎児と思われます。
  魔力反応有り、しかし、低温、全く動きません。
  生死は不明、どうぞ)

S2隊の報告に、処刑人の班長は驚いた。

 (どうぞって……。
  胎児?
  いや、何でも良い。
  とにかく始末しなければ!)
0238創る名無しに見る名無し
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2017/11/20(月) 18:30:00.66ID:sNJU7vt3
処刑人の班長は回線を切り替え、改めて班員に命じる。

 (カートリッジ6−2−8を装着)

 (6−2−8ですか?)

 (ああ、6−2−8だよ、6−2−8、早く交換しろ!
  装着し終わった者から撃って構わん。
  標的は怪物が残した黒い点だ。
  『構え<レディ>』、『処刑<キュー>』!
  『構え<レディ>』、『処刑<キュー>』!)

対象が胎児に見える事を、班長は敢えて教えなかった。
処刑人には必要の無い情報なのだ。
魔力分解呪文の直撃から、通信と指示を挟んで、処刑人が2度目の狙撃をする間に、
影の怪物は体を半分程度まで再生させていた。

 (再生が速い!)

再攻撃まで1点も掛かっていない。
精々半点と言った所で、小さな核だけの状態から、体を半分も再生させる能力を持っている。
これは驚異的な速度だ。
再度の狙撃で、遂に影の怪物も終わりかと誰もが思ったが、結果は違った。
今度の死の呪文は魔力分解呪文では無く、物質分解と魔力分解を同時に仕掛ける物。
先程と同じく、影も分解しているのだが、完全に消失するには至らない。
黒い怪物の「核」は影の様に見える強固な黒い魔力の鎧に守られているのだ。

 (どこから、あれだけの魔力を供給しているんだ!?)

共通魔法の常識では、生物は魔力を保有しない。
魔力は自然環境から取り込む物で、それを貯蔵するには、「特殊な器官」が必要だ。
0240創る名無しに見る名無し
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2017/11/20(月) 18:32:37.91ID:sNJU7vt3
しかし、先程の魔力分解攻撃で、全ての魔力を消耗させた筈。
幾ら再生が速くとも、自然の魔力供給には限界がある。
だから物質分解と魔力分解で止めを刺せた筈。
周辺の魔力が特に濃い訳では無く、どこから死の呪文に耐えるだけの魔力を供給したのか不明。

 (核が魔力を発しているのか?
  魔力発生器官がある?)

処刑人の班長は沈黙して考察を始めた。
それに部下が呼び掛ける。

 (班長、指示を!
  未だ奴は死んでいません!)

 (解っている!
  死の呪文が効いていない訳じゃない。
  どこかに核がある、それを狙え)

 (ね、狙えと言われましても……)

 (1番と2番は継続式に持ち替え、カートリッジは5−2−8を使え。
  距離を詰めて連射、とにかく核を暴き出すんだ。
  そこを3番、お前が止めを刺す、良いな?
  全員、解ったか?)

 (了解)

 (間違っても、標的以外は引っ張って来るなよ。
  対処は1体ずつだ。
  では、行け!)

1番と2番と呼ばれた処刑人は、魔導機を持ち替えて、影の怪物に向かって走り出した。
3番の処刑人は、その場に留まり、必殺の時が訪れる瞬間を待つ。
0241創る名無しに見る名無し
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2017/11/20(月) 18:34:33.53ID:sNJU7vt3
2人の処刑人は最も近くに居る影の怪物に接近した。
人間を感知した影の怪物は、不気味な笑みを浮かべ、処刑人に向かって行く。

 「ダァー、ダァー」

処刑人は魔導機を構えて、テレパシーで指示を求める。

 (班長、指示を)

 (良し、『実行<キュー>』!)

班長の許可を受け、処刑人は接近される前に、魔力分解を仕掛ける死の呪文を使った。
トリガーを引きっ放しにする事で、その間は死の呪文の効果が継続する。
死の呪文を浴びた影の怪物は、徐々に体を失って行く。
泣き声を上げる事も出来ずに、数極後には核が露になる。

 (今だっ、『処刑<キュー>』!!)

班長は3番の処刑人だけに通じるテレパシーで命じた。
狙撃用の魔導機から、死の呪文が放たれる。
核に死の呪文の直撃を受けた影の怪物は、完全に消滅した。
復活する気配は無い。
一先ず1体が片付いた事に、処刑人達は大きな安堵の溜め息を吐いた。
死の呪文でも、どうにもならない様な凶悪な存在ではないのだ。

 (1番、2番、魔力石の残量は?)

 (殆ど空です)

 (予備もか?)

 (はい)

 (解った、戻って来い。
  補給を受けながら、一時休憩としよう)

班長はテレパシーで本部に報告すると同時に、応援を求める。

 (報告します――)
0242創る名無しに見る名無し
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2017/11/21(火) 18:38:39.06ID:KxbMFrPh
その頃、住民の避難を担当していた初動対応係と治安維持部の執行者達は、黒い怪物とは又別の、
驚くべき物を目にさせられていた。
協和会のシスターとエルダーが、揃って顔を隠しながら執行者に助けを求めて押し掛ける。
どうした事かと執行者が尋ねると、1人が恐る恐る顔を上げて訴える。

 「カ、カおガ……。
  カおガ、トケテシまッタのデス!」

そこにあったのは口以外には何も無い顔だった。
目も鼻も眉も髭も無い。
殆ど野箆坊(のっぺらぼう)の様。
口も小さな切れ込みがあるのみで、唇も歯も無い。
その異様な容貌に、然しもの執行者も肝を冷やした。

 「タ、タスケテクダサい!
  何も見えない!」

必死に取り縋られ、執行者は狼狽えながらも応対する。

 「ど、どうして、その様な事に……」

 「分カりまセん……!
  キヅいタら、コんなコトに!」

 「何も心当たりは無いんですか?
  例えば、顔に何かされたとか……」

それを聞いた1人のシスターが高い声を上げた。

 「ああっ!!
  コれはセいケいの――」
0243創る名無しに見る名無し
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2017/11/21(火) 18:40:21.64ID:KxbMFrPh
執行者は彼女に問い返す。

 「せいけい?」

 「は、はい、セいケいデス!
  『マザー』にカおをカえて貰ッタのデス」

シスターの説明で、執行者は漸く理解した。

 「整形手術をしたのか?」

 「はい、おソらク、ソのセいデス!
  『マザー』は、ふシギな魔法デ、わタシタチをうツクシクシテクれまシタ。
  ソのダいショうなのダト思いまス」

鼻や歯が無い為か、顔を失ったシスターの話し方は不自然で、聞き取り難い。

 「代償……?」

 「わタシタチガあサはカダッタのデス。
  ドうカ、カおをもトにもドシテクダサい……。
  コれまデのコトは、ザんゲシまス」

 「分かった。
  話は後で詳しく聞こう。
  とにかく、今は避難が優先だ」

執行者はエルダーとシスターを連れて、安全な場所まで避難を始める。
0244創る名無しに見る名無し
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2017/11/21(火) 18:43:19.61ID:KxbMFrPh
避難先でエルダーとシスターは、自分達の罪を告白した。
マザーに整形されて、美貌を手に入れた事。
その美貌で協和会の出資者に近付き、篭絡した事。
性行為の対価に大金を手に入れ、快楽と金欲に溺れた事。
シスターは妊娠が発覚したら、堕胎まで面倒を見て貰い、更に大金を得た事。
欲に目が眩んだ、自分達が愚かだったと、皆口々に語った。

 「わタシタチのカおは、もトにもドりまスカ?
  おねガいシまス、もトにもドシテクダサい。
  うツクシクなクテもカまいません」

エルダーとシスターは目が無いので、泣く事も出来ない。
それを哀れに思った執行者は、気休めを言った。

 「治せないと言う事は無いと思う。
  大掛かりな手術になるが……。
  それより――」

 「ソれより、何デショう……?」

 「貴方達の行いは、決して許される物では無い。
  深く反省する事だ」

 「はい、ソれは、もう……。
  コの様な過チは、おカシまセん」

エルダーとシスターは平伏して誓う。
エルダーとシスターでは明らかにシスターが多い。
比率は1対10と言った所。
何十人と言うシスターが、協和会のマザーに胎児を提供したのだ。
欲深いシスターは、短期間に何度も妊娠して大金を得た。
出資者の相手をして金を貰い、妊娠すれば只で堕胎して貰える上に、更に金を貰えるのだから、
それが仕事の様な物だった。
0245創る名無しに見る名無し
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2017/11/22(水) 19:58:26.14ID:aLYhuOyT
執行者が市民を避難させ、処刑人が影の怪物を倒している間、一部隊が協和会に突入する。
親衛隊と「外道魔法使い」の混成部隊だ。
メンバーは魔楽器演奏家のレノック、精霊魔法使いのコバルトゥス、巨人魔法使いビシャラバンガ、
旅商の父娘ワーロックとリベラ、親衛隊のストラドとブライトンの7人。
数日前から、先に潜入した筈の隠密魔法使いササンカと連絡が取れなくなっているので、
彼女の安全を確保する為に、別働隊として突入を強行したのだ。
同時に、PGグループの総帥であるアドマイアーも、協和会の会館に突入する。
協和会の会長レクティータが取り残されていないか、確かめる為に。
PGグループと混成部隊は折り悪く、会館の正面で鉢合わせた。
親衛隊のブライトンが、PGグループの面々に突っ掛かりに行く。

 「オイオイ、こいつァ一体どう言うこっちゃねん。
  退避命令が出とんの、聞こえんかったんか?
  ヤァ、そこに居るのはアドマイアー総帥やなぁ?
  手下引き連れて、こんな所に何の用や?」

アドマイアーは鬱陶しそうな顔をして、護衛の男の1人に目配せをした。
護衛の男は頷き、ブライトンの前に立ち開(はだ)かる。
ブライトンは拳を構えて戦闘態勢に入った。

 「やる気か、木偶の坊?
  魔導師を相手にするとは良え度胸や」

 「いえ、そう言う訳ではありません。
  総帥は中に取り残されている人が居ないか、心配で様子を窺いに来たのです」

 「総帥が?
  自らァ?
  嘘を吐くなら吐くで、増しな嘘を吐かんかい!」

 「いえ、本当です、我々も止めたのですが……」

ブライトンと護衛の男が話し合っている間に、アドマイアーは独りで会館の敷地内に入って行く。
0246創る名無しに見る名無し
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2017/11/22(水) 20:02:03.30ID:aLYhuOyT
ブライトンは慌てて大声を出し、アドマイアーを呼び止めた。

 「オォイ、待てぇい、待たんかい!!
  何、無視してくれとんねん!
  勝手に入って行くなやァ!」

アドマイアーは一瞥を向けただけで、無視して先に進もうとする。
ブライトンが追い掛けようとすると、ストラドが制した。

 「俺『達』に任せてくれ」

疑わし気な眼差しで、ブライトンはストラドを見ていたが、やがて大きな溜め息を吐く。

 「……しゃーない、解った、任せた。
  こっちは連中から話聞いとくわ」

ブライトンは護衛の男に向き直り、話の続きを始めた。

 「君等の『総帥<ボス>』は、豪い肝が座っとるな。
  突入に護衛は要らんて?」

先とは変わって落ち着いた調子で、彼は護衛の男達に言う。

 「はぁ、我々も『止めましょう』、『撤退しましょう』とは言ったんです。
  しかし、どうしてもと聞かなかった物で……」

 「そりゃ、そんだけ大事な物(もん)がある言う事やろ?
  何やろな、それ」

 「さぁ、私には爽(さっぱ)り……。
  あの、これ何ですか?
  尋問?」

戸惑いながら応じる護衛の男に、ブライトンは小さく笑って頷く。

 「そう思って貰って良えよ。
  所で、君等は総帥の後を追わへんの?
  そんだけ居って?」

他の護衛の男達は互いの顔を見合い、狼狽する。
0247創る名無しに見る名無し
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2017/11/22(水) 20:05:21.50ID:aLYhuOyT
先までブライトンと話し合っていた護衛の男も、困惑を露に言い訳した。

 「いえ、追って良いのであれば、直ぐにでも追いますが……」

 「良え訳無いやろ……。
  良え訳無いけど、何で、そんな消極的なんや、君等は本真に。
  数で掛かれば俺独り、突破しよう思たら出来る筈や。
  人情言う物が無いんかい」

護衛なのに総帥であるアドマイアーを守らなくて良いのかと、ブライトンは呆れる。
護衛の男は言い訳した。

 「いや、本当に我々は撤退を主張したのです。
  こんな所に残っている人が居るとは思えませんし。
  しかし、総帥は聞き入れてくれず、仕方無しと言うか……」

 「君等は乗り気や無かった訳やな?」

 「そうです。
  仕事は仕事ですから、こうして来ましたが……。
  魔導師と鉢合わせても強行するとは思いませんでした」

 「困った総帥やな。
  何を取りに来たんやろな、本真」

 「わ、分かりませんって……。
  本当に知らないんですよ」

執拗に追及されていると感じた護衛の男は、勘弁して下さいと泣きを入れて来た。
ブライトンは上の空で呟き続ける。

 「何なんやろな、本真……」

PGグループの総帥と言う立場で、命懸けで突入してまで守りたい、或いは、隠したい物があるのか、
それが判れば、PGグループの弱味を握る事にもなる。
ここで考えてばかりでは、判る訳も無いのだが……。
0248創る名無しに見る名無し
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2017/11/23(木) 18:53:57.79ID:QOcPhCQk
時と所は変わり、マトラが創り出した暗闇の牢獄に囚われたフィーゴ・ササンカは……。

 (何だ、ここは……?
  暗い、寒い、何も無い……。
  地獄か……)

彼女の目の前に広がるのは、無限の暗黒のみ。
手足の自由は利くが、それだけ。
何も無い空間に浮いている。

 「オォーーイ!!」

声で反響を確かめてみるも、闇に吸い込まれる様に無音。

 (何とか脱出しなければ……)

それでもササンカは絶望せず、無の宙を泳ぎ始めた。
しかし、進んでいるかも、戻っているかも判らない。
肌に触れる感覚が何も無い。
動けば動く程、体温を失う様な感覚に陥る。

 (凍える様だ。
  ……死ぬのか?
  こんな所で?
  使命も果たせず、犬死すると言うのか、この私が!?
  嫌だ、そんなのは嫌だ!)

取り敢えず体を温めようと、彼女はペペの実を乾燥させた物を詰めた懐炉を小袋から取り出し、
それを揉みながら手足の指に擦り付けた。
肌が小さな辣(ひり)付きと共に熱を帯びる。
0249創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/23(木) 18:55:50.93ID:QOcPhCQk
しかし、全身を暖めるには頼り無い。
丸で水中の様に体全体から急激に熱を奪われている。
身を縮めて耐えるにしても、何時誰が助けに来ると言うのか……。

 (……はっ、行かん、行かん!)

絶望に囚われて意識を失い掛けたササンカは、頭を振って自らの両頬を挟み込む様に叩き、
気合を入れ直した。

 (余所者の手を借りるのは癪だが、今は非常時だ。
  レノックとか言う小僧が寄越した、あれを使ってみるか……)

レノックは緊急事態を想定して、「ある物」を彼女に預けていた。
それは――……。

 (何だ、これは?)

ササンカがレノックに渡された小さな袋を開けてみると、そこには直径2節程の滑々(すべすべ)した、
謎の石が入っていた。

 (握り締めると、少し温かい……。
  懐炉にしては熱量が足りんな……。
  何なんだ、これは?)

試しにササンカは石を小脇に挟んでみる。
確かに温かいが……、予想通り、全身を温めるには丸で頼り無い。

 (徒の石ではあるまいし、何か他の用途があるのだろう。
  それにしても変わった石だ。
  ……本当に石なのか?)

ササンカは石を軽く数回叩いてみた。
中が空洞の様な、奇妙な音がする。
重さの割に、中身が確り詰まっている感じではない。

 「はい、今日は!
  お困りの様だね!」

小首を傾げていたササンカに、元気の良い声が届く。
それはレノックの声。
0250創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/23(木) 18:59:57.67ID:QOcPhCQk
 「ヒャッ……!?」

ササンカは驚いて猫の吃逆(しゃっくり)の様な可細い悲鳴を上げ、石を手放してしまった。
彼女は慌てて掴み直そうと、数回お手玉した後に、やっと捕まえる。

 「大袈裟に驚き過ぎじゃないかい?
  そんなんじゃ、この先、身も心も保たないよ」

 「その声はレノック・ダッバーディー!」

ササンカは大いに安堵した。

 (これは通信機か!)

無様に囚われの身となった事は一先ず置いて、これで助けが呼べると。

 「実は今、大変困った事になっている。
  私とした事が、油断した。
  救助してもらいたい。
  誰か傍に居ないか?」

彼女はレノックを全く戦力として当てにしていなかった。
普段から子供の容姿で、しかも魔法資質を隠しているので、正体を知らない者には侮られるのだ。
石は明るく笑いながら、彼女に応える。

 「ハッハッハッ、ここには君と僕しか居ないじゃないか」

 「えっ」

思考が一瞬停止したササンカは、懸命に頭に血を巡らせて、質問をした。

 「こ、これは通信機では……?」

 「違うよ、真に残念ながらね!
  僕は『音石<サウンド・ストーン>』。
  レノック・ダッバーディーの分身さ。
  気軽に音石君と呼んでくれ」

ササンカは脱力して、静かに涙を流した。
何の為にレノック・ダッバーディーは、こんな玩具の様な石を寄越したのか?
これで何をしろと言うのか?
今、一切の希望が失われたのだ。

 「あ、あれっ、ササンカ君!?
  気を確り持つんだよ!
  大丈夫、僕が付いているからね!」

音石の声が暗黒空間に虚しく消える。
0252創る名無しに見る名無し
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2017/11/24(金) 18:36:53.52ID:NE7oDCzR
潸々(さめざめ)と泣いているササンカに、音石は優しく声を掛けた。

 「僕はレノック・ダッバーディーの分身。
  僕は魔法も使えないし、何か特別な力がある訳じゃない――」

 「うっ、ううっ……」

一度希望を与えられてからの絶望は、計り知れない物がある。
心折れてしまったササンカの思考は負の方向に行き勝ちで、事ある毎に泣き崩れそうになる。
音石は早口で続きを言った。

 「――けど!
  だけど、だよ!
  僕にはレノック・ダッバーディーの知識がある。
  彼の豊富な魔法知識がね。
  必ず君の役に立つだろう!」

 「……本当?」

 「屹度、多分、いや、絶対!
  だから、希望を失っちゃ行けないよ!
  希望こそ、人が生きる力の源なんだ!」

 「うん……」

ササンカは悉(すっか)り弱気になって、萎らしくなってしまっていた。
これは良くないと、音石は彼女を元気付けられないか思案する。

 「そうだ、こんな時は元気の出る歌を歌うと良い。
  好きな歌はあるかな?」

唐突な音石の提案に、ササンカは戸惑う。

 「歌……?」

 「僕は音楽を奏でられるんだ。
  好きな歌を言って御覧。
  何でも演奏して上げるよ」

 「……私、音楽は余り知らないの……」

彼女は恥じらい、小声で告白した。
0253創る名無しに見る名無し
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2017/11/24(金) 18:38:36.41ID:NE7oDCzR
ササンカは閉鎖的な村で育ったので、世間の流行とは無縁だった。
青春の全てを厳しい修行と鍛錬に捧げたのだ。
それでも全く音楽を知らない事は無いだろうと、音石は試しに歌い出しを演奏する。

 「『六都の歌』は、どうだろう?
  『元気が出る歌』とは少し違うかも知れないけど、懐かしい故郷が――」

 「それは共通魔法使いの歌だから」

 「あぁ、悪かった。
  でも、極端な高音や低音が無くて、リズムも取り易い、子供でも簡単に歌える良い歌だ」

六都の歌は6つの地方の特色を歌にした物で、実際は共通魔法社会とは余り関係が無い。
しかし、共通魔法使いの歌と言うのは間違っていない。
音石は思案した後、ササンカに言った。

 「知ってる歌を教えてくれよ。
  何だって演奏するから」

 「私が知ってるのは童歌とか……」

 「童歌って、あれかい?
  ガンガー北の大聳峰(しょうほう)、ベルは陸を流る海、ハモン南の大海浜って言う」

 「それも共通魔法使いの歌……」

 「はぁ、とにかく君が知ってる歌を教えてくれよ」

どんな歌なら良いのかと、音石は不貞腐れてササンカの返事を待つ。
0254創る名無しに見る名無し
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2017/11/24(金) 18:41:44.67ID:NE7oDCzR
ササンカは小声で呟いた。

 「闇に独り忍ぶ影」

音石は直ぐに何の歌か言い当てる。

 「『反逆のハザヤ』の主題歌だね。
  ボルガ地方のローカル番組だ。
  闇に独り、忍ぶ影、怒りに燃えて、悪を討つ。
  降りかかる、火の粉をはらい、安らぎの時は、いつ、いつ来たる。
  疾駆(はし)れ、ハザヤ!
  巨悪を止めろ!
  疾駆れ、ハザヤ!
  命尽きるまで……。
  2番も行っとく?」

ササンカが小さく頷いたので、音石は自慢の美声で歌い続けた。

 「郷(くに)を捨てて、追われる身、昔の仲間は、今の敵。
  友と刃、交えて嘆く、安らぎの時は、いつ、いつ来たる。
  戦え、ハザヤ!
  正義のために!
  戦え、ハザヤ!
  明日のために……。
  (間奏)
  真の敵は、雲の上、叫びも届かぬ、殿上人。
  追えど追えど、影すら踏めぬ、安らぎの時は、いつ、いつ来たる。
  進め、ハザヤ!
  悲しみを越えて!
  進め、ハザヤ!
  真実を掴め!
  疾駆れ、ハザヤ!
  巨悪を止めろ!
  戦え、ハザヤ!
  明日のために……」

「反逆のハザヤ」は復興期のボルガ地方を舞台にした、武侠活劇である。
重要人物の暗殺に関わり、君主にも上司にも裏切られたハザヤは、逃亡と孤独な戦いを続ける。
そして逃げ場が無いと悟った彼は、遂に反逆を決意するのだった。
主題歌「疾駆れハザヤ!」は曲調の勇ましさとは対照的に、歌詞は暗く悲壮。
0255創る名無しに見る名無し
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2017/11/25(土) 18:47:10.94ID:M4TJAhY5
これは魔力ラジオウェーブ放送で配信された物で、共通魔法を嫌うササンカが知っているのは、
奇妙な話だ。
共通魔法の知識か、受信用の魔導機が無ければ、「反逆のハザヤ」を知る事は出来ない。
原作は小説なのだが、それに「主題歌」は付かない。
ササンカも少女の時分には、狭苦しい村社会での生活に飽いていた所があったのだろう。
彼女は共通魔法の技術を忌避しながらも、密かに放送を受聴していたのだ。
音石は密かに思った。

 (誰にでも、若かりし日々はあると言う事かな。
  しかし、『反逆のハザヤ』か……。
  益々暗くなるだけじゃないかなぁ……)

「反逆のハザヤ」の内容は、お世辞にも明るい話とは言えない。
ハザヤは元々暗殺や間諜と言った汚れ仕事を担う「隠密」。
ある時、彼は上司に君主の実弟の暗殺を命じられる。
君主は政治的な失策を犯した為に、領民に君主としての価値を疑われていた。
そればかりか、君主の弟を担ぎ上げようとする謀反者まで現れる。
そこで君主は偽りの罪状を隠密頭と共謀して捏ち上げ、ハザヤに暗殺させようとしたのだ。
暗殺は成功したが、ハザヤに与えられたのは、善良な君主の弟を殺したと不忠者と言う不名誉。
彼は一夜にして命を狙われる立場になる。
敵は元同僚であり、罵りや憐れみの言葉を掛けて来る。
追っ手にも家族があり、殺してしまえば、嫁や子が復讐に走る。
最後にはハッピーエンドを迎えるが、それまでが只管に重く、暗く、長い。
二部構成で、反逆の決意をするまでが第一部、そこから君主を打倒するまでが第二部だが、
第一部では、どこへ行っても追っ手だらけで歓迎されない。
人の温かさに触れる度に、その人が不幸になる。
第二部では、幾らか前向きになる物の、元仲間と正面から対峙する事で、悲壮感は増し、
多くの人が最後まで耐えられずに脱落してしまう。
ボルガ地方のローカル番組止まりだったのは、この辺りに理由がある。
0257創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/25(土) 18:49:09.86ID:M4TJAhY5
だが、孤独に戦うハザヤに己の姿を重ねたのか、当のササンカは勇気が湧いて来た様である。
彼女の体温は上がり、心臓の鼓動は力強くなる。
音石はササンカに尋ねた。

 「どんな物かな?
  元気出た?」

 「……有り難う」

 「どう致しまして」

小声で礼を言ったササンカに、音石は軽く返事をすると、この空間に就いて解説を始める。

 「さて、この空間は悪魔公爵ルヴィエラが創った物だろう。
  彼女は暗黒を操り、空間操作も思うが儘と聞くが、僕も実際に体験するのは初めてだよ」

ササンカは元通りの口調で質問した。

 「悪魔公爵とは?
  いや、それより脱出する方法を知っているか?」

 「残念だけど、分からないね……。
  おっと、落ち込まないでくれよ。
  1人より2人と、昔から言うじゃないか!
  一緒に考えていれば、妙案が浮かぶさ」

ササンカは落胆こそしたが、先程の様に沈み込んだりはしない。

 「ああ、考えよう。
  こんな所で終わる積もりは無い」

 「その意気だ、ササンカ君!」

音石は気分を盛り上げようと、取り敢えず声を張って勢い付けた。
0258創る名無しに見る名無し
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2017/11/25(土) 18:49:46.43ID:M4TJAhY5
ササンカは自分から進んで思考し、音石に尋ねる。

 「……『暗黒を操る』とは、どう言う事なのだ?」

 「彼女は魔力で何でも生み出せるんだ。
  大体黒くなっちゃうけど」

 「何でも?」

 「ああ、大体何でも。
  こんな風に空間を生み出して、そこに何かを閉じ込める事も出来る」

 「魔力で創った空間なら、壊す事も……」

 「出来なくは無いだろうけど、難しいと思うよ。
  何たって、ルヴィエラは悪魔公爵だから」

先から繰り返し言われる、「悪魔公爵」とは何なのかと、ササンカは疑問に思った。
彼女は改めて音石に尋ねる。

 「その『悪魔公爵』とは何だ?」

 「簡単に言うと、『とても強い悪魔』さ。
  悪魔の中でも力が強い物を、悪魔貴族と言う。
  悪魔貴族の階級は、準爵、子爵、伯爵、侯爵と来て、その上が公爵。
  公爵の上は皇帝しか居ない」

 「具体的に、どの位の強さなのか?」

 「聞かない方が良いと思うけど」

音石は返答を躊躇った。
その態度にササンカは立腹する。

 「何故だ?
  余りの強さに絶望するとでも?」

 「……後悔するよ」

 「構わない、言え」

気遣いを見せる音石に、彼女は強気に迫った。
0259創る名無しに見る名無し
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2017/11/26(日) 18:00:59.17ID:njjgsNgM
音石は仕方無しに言う。

 「通じないかも知れないけど、この『星』と同じ位かな。
  それより少し強い位かも」

 「星??」

「星」の強さがササンカには解らない。
音石は彼女に解説する。

 「地上では色々な現象が起きるだろう?
  大雨とか大雪とか大噴火とか大地震とか、その位は当然出来るとして。
  公転軌道から外れさせたり、粉々に破壊したり。
  いや、しかし、これでは物理的な強さしか表せないな……。
  この星全体の法則を思う通りに作り変えたりも出来るんだけど。
  ……解る?」

結局よく解らない儘、ササンカは答えた。

 「とにかく凄い奴だと言う事は解ったよ」

本当に解っているのかと、音石は怪しむ。

 「この星の支配権を丸々奪い取る様な、恐ろしい力なんだ。
  無の状態から法則を生み出す事も大概なんだけど、既にある強力な法則を作り変えると言う、
  途轍も無い『力』を必要とする事まで可能な……」

音石の言う通りであれば、それは想像も付かない存在だ。
そこまでの力を持ちながら、どうして協和会と言う組織で動いているのか、ササンカは不可解だった。

 「そんな奴が何故、細々(こまごま)と地上で悪事を企む?」

 「『その方が面白い』からさ。
  君達人間は、奴にとっては玩具なんだ。
  それも『他人の大事な玩具』だから、怒られない様に気を付けて遊ぶ」
0260創る名無しに見る名無し
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2017/11/26(日) 18:10:53.78ID:njjgsNgM
強大な力を持つ存在が面白半分で地上を荒らす事よりも、音石の『他人の大事な玩具』発言の方が、
ササンカは気になった。

 「他人?
  人間が誰かの玩具だと?」

 「玩具と言っては悪いかも知れないけれど……。
  人間は『神』の大事な物なんだよ」

音石に行き成り「神」なる物の存在を語られた彼女は、小さく噴き出す。

 「ハハハ、悪魔の次は神か?
  一気に真実味が失くなったぞ」

 「信じる信じないは勝手さ」

音石が少し拗ねた様な口調になったので、ササンカは謝った。

 「悪い悪い、俄かには信じられなくてな。
  しかし、こう言う状況に陥ったからには、全く信じない訳にも行くまい」

彼女は一呼吸置き、改めて音石に尋ねる。

 「魔法で空間を破壊する事が不可能なら、どうすれば良い?」

 「力尽くで突破は出来なくても、どこかに綻びがあるかも知れない。
  ルヴィエラは強大な力を持っているけれど、完璧な存在と言う訳じゃないんだ。
  『旧い魔法使い』の性質を鑑みれば、尚の事」

 「空間の綻びを探すんだな?
  ……どうやって?」

 「空間が歪んでいれば、『音』や『光』の伝わり方も歪む。
  それを目と耳で確かめるんだ。
  どこが歪んでいるか、正確な位置は、地道に泳ぎ回って探すしか無いけど」

 「この暗く冷たい、何も無い空間を?
  泳ぐと言っても、水の中を泳ぐ様には行かないぞ」

ササンカは困惑した。
どんなに冷たくとも、これが水中なら泳げるが、肌に触れる物は何も無いのに、泳げる物かと。
0262創る名無しに見る名無し
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2017/11/26(日) 18:13:49.78ID:njjgsNgM
音石はササンカに助言する。

 「魔法資質を研ぎ澄ませば、ここにも僅かながら魔力が漂っている事が判るだろう?」

ササンカは音石の言う通り、周囲の魔力を探ってみた。
……確かに、微量ではあるが魔力を感じられる。

 「この魔力を、どうするんだ?」

 「推進力に変えるんだ。
  そう言う技術は無いのかな?
  空中歩行とか、壁蹴りとか……」

音石の問いに、ササンカは頷いて試した。

 「有るには有るが……。
  こうだな?」

僅かな魔力を集めて、小さな足場を無の空間に作り、それを蹴って進む。
丸で冷たい風の中を飛んでいる様。
だが、音石の音楽に伴う温かさを帯びた波動が、冷気を和らげる。

 「そうそう。
  僕は音で空間の綻びを探してみるよ。
  ササンカ君も何か気付いた事があったら言ってくれ」

静寂の中、音石が奏でる音楽(反逆のハザヤ挿入歌「闇の運命」)はササンカを勇気付けた。
0263創る名無しに見る名無し
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2017/11/27(月) 19:00:58.58ID:Tn06ddgn
闇の世界に生きる者は、誰にも知られず消えゆく運命(さだめ)。
風となれ、土となれ。
流れ流れて、行き着く先は、平和の地か、地獄の底か。
戦え、命ある限り!
抗え、非情の運命に!
行け、行け、ハザヤ、ハザヤよ。
ああ、新たな道を拓け。

(間奏)

闇の世界に生きた者は、人の幸せ得られぬ運命。
悲しくない、悲しくない。
使い捨てられ、見捨てられた、友を見たか、敵を見たか。
叫べ、己の心を!
討て、巨大な悪を!
行け、行け、ハザヤ、ハザヤよ。
おお、お前にも明日は来る。
0264創る名無しに見る名無し
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2017/11/27(月) 19:01:59.81ID:Tn06ddgn
暫く暗黒空間を泳いだ所で、音石とササンカは同時に空間の歪みを発見する。

 「今、音楽が……」

 「ああ、この辺りで音が少し歪んだ。
  空間が歪んでいるのかな?
  あった、ここだ!」

 「どこだ?」

 「直ぐ目の前だよ、ササンカ君。
  手を伸ばしてみてくれ」

暗闇の中、ササンカは手探りで空間の歪みを探した。
そうすると、ある一点で腕が暗闇に吸い込まれる。
小さな穴が開いている様だった。

 「ここか!
  ……しかし、通れるのは腕一本が精々と言った所だな」

残念ながら人が通れる様な広さではない。
そこでササンカは音石を見詰める。

 「ん、何?」

 「音石殿、向こう側の様子を見て来て貰えないか」

 「僕は自力では動けないんだけど……」

 「紐を括り付けて投げる」

ササンカはロープを取り出し、音石を拮(きつ)く縛り上げた。
0265創る名無しに見る名無し
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2017/11/27(月) 19:04:20.06ID:Tn06ddgn
返事を待たず行動に移るササンカに、音石は抗議する。

 「あの、僕は未だ良いとも何とも言ってないよ?」

 「それは悪かった。
  ……やってくれる?」

 「断る選択は無い訳だけど、どんな時でも同意を得る努力は大事だ。
  些細な行き違いが、諍いの元になっては詰まらない。
  今の君の一言で、僕の覚悟は決まった。
  良し、やってくれ」

音石の答を聞いたササンカは、音石を空間の歪みに向かって放り投げた。
ロープは1身程伸び、そこで止まる。
ササンカは手応えを確かめながら、ロープを引き寄せた。
音石を回収した彼女は、早速尋ねる。

 「どうだった?」

 「どこかの部屋に繋がっているみたいだけど……、先細りになっている。
  確かに『綻び』ではあるんだが、余りに小さ過ぎて、僕でも通り抜ける事は不可能だ」

 「そう……」

落胆するササンカに、音石は提案した。

 「でも、僕の『音楽』なら、この綻びを更に拡げる事が出来るかも知れない」

 「本当!?」

 「自信は無いんだけど、やるだけやってみる。
  時間が掛かると思うから、その間、君は寒さとか飢えとか、諸々に耐えないと行けない」

 「私の事は構うな」

音石の懸念に対して、心配無用だとササンカは力強く答えた。
隠密魔法には、共通魔法の「冬眠の魔法」に似た、寒さと飢えを凌ぐ魔法がある。
0266創る名無しに見る名無し
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2017/11/28(火) 18:34:01.52ID:/UJUHbfz
それを知らない音石は、未だ安心し切っていない様子で言う。

 「そうは行かないよ。
  そもそも君を助ける為に、僕は存在している訳で」

音石の言い分に、ササンカは少し赤面した。
この様な気取った台詞を言われるのは、初めてだったのだ。
音石は事実を言っただけであり、「気取った」積もりは無かったが、ササンカは初心かった。

 「私は平気だから」

 「そうなら良いんだけど……。
  あっ、耳は塞いでおいた方が良いよ。
  確実に煩いから」

 「潜水用の耳栓がある」

 「用意が良いなぁ。
  それじゃあ、僕を空間の歪みに放り込んで、少し離れててくれ」

ササンカは音石の言う通り、空間の歪みに音石を放り込んだ後、距離を取った。
数極後に、暗黒の空間全体が激しく震える。
その振動はササンカにも伝わり、彼女の心臓にまで響く。
これは耳栓をして防げる物ではない。

 (激しい魔力の鳴動を感じる……。
  音石殿……)

果たして音石は無事で済むのだろうかと、ササンカは俄かに心配になった。
小さな石が、これだけの力を解放して……。

 (済まない、私には待つ事しか出来ない)

ササンカは肌寒さを感じて、早急に「冬木(とうぼく)の法」で眠りに就いた。
その名の如く、冬に葉を落として枯れ果てる樹木の様に、表面上は死んでいる様に見えて、
時が来れば生命活動を再開すると言う、仮死状態になる魔法だ。
彼女は音石を信じ、再び会える事を祈って、深い眠りに落ちた。
0267創る名無しに見る名無し
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2017/11/28(火) 18:35:38.58ID:/UJUHbfz
時は戻り、協和会の会館では……。
混成部隊を率いるストラドと、PGグループの総帥アドマイアーが言い争っていた。

 「アドマイアー、何の目的で、ここに来た?」

アドマイアーの腕を掴んで詰問するストラド。
それに対してアドマイアーは話に応じる姿勢を見せない。

 「私に構うな!
  今は1極でも惜しい!」

 「構って欲しくなければ、目的を明かせ。
  俺は気の長い人間じゃない。
  実力行使に出ても良いんだぞ」

素直に目的を明かせと迫るストラドを、アドマイアーは構っていられないと無視しようとする。
そこへ魔楽器演奏家のレノック・ダッバーディーが仲裁に入った。

 「こんな所で言い合っていても始まらないよ。
  この御老人に付いて行こう、ストラド君」

 「しかし、レノック!
  民間人を危険に晒す訳には……」

魔導師会の一員として、民間人を巻き込めないと主張するストラドに、レノックは小声で囁く。

 「……既に、ここには反逆同盟の連中は居ないと思う。
  強力な魔力を感じない。
  それに、ここは元PGグループの本館だったんだろう?
  彼に案内して貰おうじゃないか」

ストラドは暫し無言でアドマイアーを睨んでいたが、やがて彼から手を離した。
0268創る名無しに見る名無し
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2017/11/28(火) 18:37:24.56ID:/UJUHbfz
怪訝な顔をするアドマイアーにストラドは言う。

 「道案内、宜しく頼むぜ」

 「勝手にしろ」

アドマイアーは一言だけ吐き捨てると、早足で本殿に向かって行った。
一行は彼を追って本殿に入る。
本殿に入った混成部隊は、その白さに驚かされた。

 「ウヘェ、眩しい。
  目が悪くなりそう」

精霊魔法使いのコバルトゥスが率直な感想を口にする。
ワーロックは無言で『視線隠し<ブリンカー>』を装着していた。
混成部隊の動揺を余所に、アドマイアーは真っ直ぐ2階へと続く階段へ。

 「あっ、待て、アドマイアー!」

スドラドは彼を追おうとしたが、レノックが動こうとしないので、焦りを露に尋ねた。

 「レノック、何を呆っとしている!」

レノックはストラドに振り向いて答える。

 「……どうやら、ササンカ君が近くに居るみたいだ。
  僕とコバルトゥスは、そっちを優先したい。
  アドマイアーを追うのは任せるよ」

行き成り指名されたコバルトゥスは驚いたが、ササンカを誘ったのは自分だと思い出して、
渋々レノックに従う決意をする。
0269創る名無しに見る名無し
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2017/11/29(水) 18:59:06.74ID:DrXffFGk
ストラドは小さく溜め息を吐いて言った。

 「分かった。
  用が済んだら、そちらから合流してくれ。
  それじゃ、残りの者はアドマイアーを追うぞ」

ここでストラド達とレノック達は別れて、本殿の中を進む。
アドマイアーを追うストラド達は、彼に続いて2階の仰々しい扉を潜り、その先の小部屋に向かった。
一体アドマイアーは何の為に走っているのだろうと、全員が疑問に思う。
迷う様子は微塵も無く、丸で全て把握しているかの様。
小部屋の『戸<ドア>』を開けたアドマイアーは、大声で叫ぶ。

 「ロード・レクティータ、坐(おわ)しましたら、お返事を!」

彼は躊躇い無く室内に進入して、レクティータの姿を探した。
室内は他とは違い、幾分白の眩しさが落ち着いている。
ここが会長であるレクティータの個人的な部屋なのだと、後から入室した一同は察する。
それと同時に、アドマイアーの目的がレクティータの確保だと言う事も。
巨人魔法使いのビシャラバンガは、自分の体に比して部屋が狭いと感じたので、戸の前で留まり、
外を見張る事に。
アドマイアーは少なくとも、この場には誰も居ないと認め、部屋の奥側にある戸に近付き、
強目に敲いて呼び掛けた。

 「ロード・レクティータ、失礼します!」

返事を待たず、彼は室内に踏み入る。
ストラド達も後に続いた。
そこは広い寝室だった。
豪華な天蓋付きの『寝台<ベッド>』の上では、白い女が死んだ様に眠っている。
0270創る名無しに見る名無し
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2017/11/29(水) 19:00:28.03ID:DrXffFGk
アドマイアーは顔に安堵の色を浮かべ、彼女に呼び掛ける。

 「ロード・レクティータ、お目覚め下さい!
  ここから出ましょう」

しかし、白い女は僅かも反応しない。
親衛隊のストラドはワーロックに視線を送って尋ねた。

 「クロテアとか言う神聖魔法使いと似ているか?」

リベラも同じくワーロックに視線を向けている。

 「……似てはいます。
  外見が特徴的ですから。
  こんな人、そうは居ませんよ。
  だからって、本人だとは断言出来ませんけど……」

肌も髪も輝く様に白い人間は、滅多に居る物ではないが、魔法資質の低いワーロックには、
纏う魔力の性質による人物の特定が出来ない。
よって、この様に曖昧な言い回しになる。
ストラドとリベラは白い女に視線を戻した。

 「ロード・レクティータ!
  ……失礼!」

白い女が何時までも目覚めないので、アドマイアーは彼女を抱え上げて運び出そうとする。
だが、彼がレクティータに触れようとした瞬間、遮る様に黒い靄が彼女を覆った。

 「ムムッ、何だ、これは!?」

アドマイアーは喫驚して後退り、靄を振り払おうとする。
0271創る名無しに見る名無し
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2017/11/29(水) 19:01:15.17ID:DrXffFGk
不吉な気配に、ストラド達も身構えた。
黒い靄は女の形を取り、白いレクティータを庇う様に包み込む。

 「この子は私の物……。
  誰にも渡しはしない……」

それは驚々しくも明瞭な声で宣言した。
この黒い靄は一体何なのかと、一同怪しむ。
アドマイアーだけは黒い靄の正体を知っていた。
彼は懸命に訴える。

 「こんな所に我が子を閉じ込めておく積もりなのか!
  彼女を解放しろ!」

 「この子を自由にするには、俗世は穢れ過ぎている。
  誰かが守ってやらねばならぬ」

黒い靄の言い分にも一理あると、アドマイアーは認めざるを得なかった。
協和会に利用されていたレクティータを、彼は救う事が出来なかったのだから。
一連の遣り取りから、リベラは黒い靄の本性を感じ取った。

 (お母さんが自分の子供を守ろうとしているの?
  ……いいえ、違う。
  子供を手離したくないだけ。
  自分の傍に置いておきたいだけ。
  『親の愛』と言う名の、執念の塊なんだ)

彼女は自分の母親の事を思い出して、感傷的な気分になる。
母親は子供を手放したがらない物。
それは愛情か、我欲か……。
0273創る名無しに見る名無し
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2017/11/30(木) 18:32:14.63ID:4SmzO23W
リベラは小声でストラドに尋ねる。

 「どうにか出来ない物なんですか?」

 「えっ、何で俺?」

 「だって、魔導師……」

2人の話を耳に挟んだのか、アドマイアーも振り返って無言でストラドを見詰めた。
視線に気付いたストラドは、苦笑いして答える。

 「いや、魔導師でも無理な物は――」

そう言い掛けた所で、更にワーロックまでが口を挟んだ。

 「葬儀屋が使う、擬似霊体を解除する魔法なら、何とか出来るかも知れません」

ストラドは怒りを滲ませて答える。

 「俺は葬儀屋じゃないんだ。
  魔導師だからって、何でも出来ると思って貰っちゃ困る!」

魔導師は共通魔法の専門家。
その認識は間違っていない。
間違ってはいないのだが、大抵の魔導師の記憶力は常人と変わらず、難度の低い基本的な物と、
職務に関わる専門的な物を扱えるだけに過ぎない。
しかし、ワーロックは毅然とした態度で続ける。

 「いいえ、出来ないとは言わせませんよ」

彼の手には日に焼けて変色した、一冊の古びたノートがあった。
0274創る名無しに見る名無し
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2017/11/30(木) 18:33:22.62ID:4SmzO23W
ストラドはノートを凝視して言う。

 「何だ、そりゃ?」

 「私は若い頃、魔導師を目指していまして。
  色々な魔法を描き取った物です。
  用途の限られている魔法でも、どこかで使う事があるだろうと。
  葬儀屋が使う魔法は、一般に『除霊魔法』と言われる、これの事ですよね?」

ワーロックが開いて指し示した頁には、「擬似霊体の処分」の魔法陣が描かれていた。
描き方の順番、詠唱の律動、原理の丁寧な解説、それに加えて、実施する際の諸注意まで。
彼は穏やかな口調で、ストラドを説得する。

 「通用するかは判りませんが、試してみる価値はあると思います」

ストラドは息を呑んだ。

 「『俺に』、やれってか?」

 「いいえ、『皆で』、やりましょう。
  ここに居る4……あれ、ビシャラバンガ君は?」

室内を一覧したワーロックは、今更ながらビシャラバンガが居ない事に気付く。
その疑問にリベラが答えた。

 「部屋が狭過ぎるから、外で見張ってるって」

 「あぁ、成る程……。
  とにかく、この場に居る人だけでも、やれるだけの事は、やってみましょう」

ワーロックの呼び掛けに力強く頷いたのはリベラだけで、他の2人は不安そうな顔をしている。
0275創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/30(木) 18:41:08.86ID:4SmzO23W
それをワーロックは鋭い瞳で見咎めた。
この緊急時に躊躇っている場合かと。
ストラドは溜め息を吐いて、直ぐ行動に移る。

 「分かった、分かったよ。
  専門外だが、やらせて貰う。
  魔導師である俺が、見ているだけってのは、有り得ないからな。
  序でだ、責任も全部俺が取ってやる。
  何でも来い、この野郎!」

彼は独り気を吐いて、ワーロックからノートを奪い取った。
そして、ノートに書かれている内容を確認しながら、全員に指示を出す。

 「俺が頭の所に立つ。
  そんで、ワーロックさんは俺の右側。
  リベラさんは俺の対面。
  アドマイアー、あんたは左側だ。
  4人で四方陣を組む。
  唱える呪文は『B36D6、B46G1』の繰り返し。
  声を合わせて、『B36D6、B46G1』、『B36D6、B46G1』、良いな?
  他の複雑な手順は、全部俺が実行する。
  詠唱時の心掛けは、出来るだけ穏やかな心で、強い感情で霊体を刺激しない様に。
  緩(ゆっ)くりと両手の平を内側に向けた状態で、水平やや下向きに広げ、受容の体勢を取る」

ストラドは早口で捲くし立てながら手本を示す。
皆、見様見真似で動作を確認する中、アドマイアーだけは動きが鈍い。

 「アドマイアー、どうした?」

ストラドが気に掛けて尋ねると、彼は躊躇いつつ、自信の無さそうな声で正直に告白した。

 「……私は共通魔法が上手くない。
  情け無い話だが、もし私の所為で失敗したらと思うと……」

余りに弱気過ぎる発言に、ストラドは苛立ちを露にする。

 「あんた何の為に、ここまで来たんだ?
  真っ先に駆け付けておきながら!
  何も大した事をさせようってんじゃない。
  あんたは言われた事をやってりゃ良い。
  それさえも出来ないってんなら、早々(さっさ)と出て行け!」
0276創る名無しに見る名無し
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2017/12/01(金) 18:38:47.87ID:2AWRr/wt
啖呵を切って憤然とするストラドに、アドマイアーは自信喪失し、悄気返ってしまった。
そんな彼を見兼ねて、ワーロックが説得する。

 「アドマイアーさん、貴方の彼女を思う気持ちに偽りは無い筈です。
  彼女の事が心配で、ここまで来たんでしょう?
  魔法資質が高いとか低いとか、そんな事は重要じゃありません。
  『これ』は恐らく、外道魔法の呪いです。
  真面な手段が通用するか分かりません。
  そう言う時に人を思う気持ちが、どれだけ大切か、私は知っています」

一般的には小っ恥ずかしいと言われる様な台詞を、彼が真面目に口にする物だから、
ストラドもリベラも雰囲気に圧されて黙ってしまった。
ワーロックの言葉を受けたアドマイアーは、思い直し、自ら申し出る。

 「済みませんでした。
  どうか、私にも手伝わせて下さい」

ストラドもワーロックも無言で頷き、彼を受け入れる。
そんな中、リベラは赤面して、余計な事を考えていた。

 (……年の差恋愛って事なの?
  お祖父さんと孫位は、差があるのに?)

世の中には色々な事がある物だなと、呆けている彼女をワーロックは咎めた。

 「リベラ、集中しろ」

 「あっ、はい、御免なさい」

既に何時始まっても良い様に、準備を済ませている養父に倣って、リベラも受容の姿勢を取る。
アドマイアーも覚悟を決めて、他に倣った。
0277創る名無しに見る名無し
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2017/12/01(金) 18:42:03.20ID:2AWRr/wt
ストラドが詠唱を開始する。

 「B36D6、B46G1、B36D6、B46G1、B36D6、B46G1……」

徐々に白いレクティータから、黒い靄が湧き上がる様に出て来る。
その大きさに一同、僅かながら怯んだ。
黒く、濃く、正に禍々しいとしか形容の仕様が無い闇が、寝台全体を覆い隠す。
ストラドが全員にテレパシーを送る。

 (恐ろしければ、目を閉じていろ。
  直視する必要は無い。
  気を乱すな)

彼の言う通り、ワーロックは目を閉じるが、リベラとアドマイアーは目を閉ざせない。
2人は魔法資質で、その禍々しさを感じ取る事が出来る為だ。
目を閉じれば一層恐怖が増す。
黒い靄は膨れ上がり、全員の頭上を、品定めする様に巡回する。
これに恐怖せず、穏やかな心を保った儘で居ろと言うのは、中々難しい話だ。

 (……効いているのか、いないのか判らない。
  こいつは何をしようとしている?)

数点経過しても、黒い靄が弱まる様子を見せないので、ストラドは段々心配になって来た。
無意味であるなら、中止も考えなくてはならない。
そして、別の策も。
本物の葬儀屋を呼ぶか、魔導師会を頼るか?
魔導師会に任せる事に、ストラドとて不安が無い訳では無い。
魔導師会は人命よりも、この恐ろしい黒い靄の排除を優先するだろう。
0278創る名無しに見る名無し
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2017/12/01(金) 18:47:15.43ID:2AWRr/wt
緩慢な動きを続けていた黒い靄は、突如蛇の様な素早さで、アドマイアーに纏わり付いた。
これを危険だと感じたストラドは、彼に警告する。

 「アドマイアー、離れろ!」

しかし、間に合わない。
庇う暇も無く、黒い靄がアドマイアーを覆い尽くし、彼の「内側」に入り込む。

 (なっ、何だ、これは!?
  冷たい、寒い……。
  視界が暗む。
  私を凍え死なせようと言うのか……)

アドマイアーは、その場で昏倒し、黒い靄は一時収まった。
但し「アドマイアーの中に」だが……。
ストラドはワーロックに尋ねる。

 「――これは成功と言って良いのか?」

ワーロックも返答に困って冷や汗を流した。

 「分からない。
  何故、黒い靄は、私を襲わなかったのか……。
  魔法陣の弱所を狙うなら、私の居る方だと思っていた……。
  取り敢えず、彼女とアドマイアーさんを運び出そう」

そう彼が言うと、リベラが白いレクティータに触れる。
アドマイアーが触れようとした時とは違い、黒い靄の噴出は見られない。
ストラドとワーロックは同時に呟いた。

 「身代わりになったのか……?」
0279創る名無しに見る名無し
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2017/12/02(土) 18:41:47.83ID:fEE/4LQn
さて、アドマイアーを誰が運ぶかと言う事になり、ストラドとワーロックは互いに見合う。
レクティータはリベラが先に運び出した。
後はアドマイアーを運び出せば良いのだが……。

 「私が運びましょうか?」

 「待て……」

ワーロックが気乗りしない様子で言うと、ストラドが待ったを掛ける。
本当は誰もアドマイアーに触れたくない。
黒い靄と係わるのは、御免だと思っている。
次に乗り移られるのは、自分の方かも知れないのだ。
だが、人命が懸かっている。
アドマイアーは青白い顔で呻いており、見るからに具合が悪そう。

 「俺が運ぶ。
  一般人を救助するのは、魔導師会の役目だ」

ストラドは覚悟を決めて、アドマイアーに触れた。
彼は丸で死体の様に冷たく、負えば背中から体温を奪われる。
言い表し難い不快感を、ストラドは歯を食い縛って堪える。
魔導師、それも栄えある親衛隊と言う肩書きが、彼に使命感と責任感を与えるのだ。
幸いにも、黒い靄は現れない。

 「良し、早く外に出て、救助を呼ぼう」

アドマイアーはストラドに背負われ、死んだ様に動かない儘、運び出される。
0280創る名無しに見る名無し
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2017/12/02(土) 18:43:04.05ID:fEE/4LQn
その頃、ササンカ救出に向かっていたレノックとコバルトゥスは、何も無い広い部屋に到着していた。
小物一つ無い空間に、本当にササンカが囚われているのかと、コバルトゥスは怪しむ。

 「ここで合ってるのか……?」

そう言った後で、彼は幽かな音楽が、室内で流れている事に気付いた。

 「音楽……、どこから?
  館内放送か?」

音源を探すコバルトゥスに、レノックは何も無い空間を指して言う。

 「ここだ。
  『空間の綻び』がある」

 「空間の……綻び?」

聞き慣れない単語に、コバルトゥスは唖然とするばかり。
レノックは自らの推測を口にする。

 「恐らく、閉鎖空間に閉じ込められてしまったんだろう。
  コバルトゥス、君の魔法剣で何とか出来るかな?」

唐突に尋ねられ、コバルトゥスは困惑した。

 「えぇ……?
  言ってる意味が分からない。
  魔法剣で空間を断ち切れと?」

 「そう言う事だ」

コバルトゥスは応否の返事をする前に、「空間の綻び」を注意深く観察した。
確かに、音楽は何も無い空間から発せられている。
魔力の流れにも違和感がある。
空間の綻び付近では、魔力の増減が激しいと感じる。
0282創る名無しに見る名無し
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2017/12/02(土) 18:48:22.79ID:fEE/4LQn
コバルトゥスは「空間を切る」のは初めてではない。
魔法剣で周囲の空間共(ごと)、物体を断ち切った事はある。
しかし、異なる空間の壁を破壊した事は無い。
取り敢えず試してみようと、彼は短剣を構え、精神を集中して、空間の綻びを凝視した。

 (……斬る!)

彼の魔法剣は空間を切り裂き、その「連続」を断つ。
空間の綻びは一瞬大きくなったかの様に思えたが、直ぐに復元してしまった。
コバルトゥスは「惜しかった」手応えを得るも、どうやれば空間の綻びの拡大を維持出来るかは、
想像が付かない。
彼の失敗を見届けたレノックは、困り顔で言う。

 「駄目だったか……。
  じゃあ、僕が何とかするしか無いね。
  コバルトゥス、耳を塞いでいてくれ」

出来るんだったら、最初から自分でやれば良いのにと、コバルトゥスは内心で毒吐いた。
彼は言われる儘に耳を塞ぎ、これからレノックが何をするのか興味を持って注視する。
レノックは徐に袖口から銅鑼を取り出した。
直径1手程の、手持ちの小さな銅鑼。
耳を塞がなければならない程、大きな音が出るのかと、コバルトゥスは疑問に思った。
強大な魔力を秘めている様子も感じられない。
レノックは撥で力強く銅鑼を叩く。
ゴワァァァァンと、見た目に似(そぐ)わない重低音が、空間中に響き渡る。
その音圧と魔力の揺らぎにコバルトゥスは驚いた。
五臓六腑を揺るがし、血液の脈流にまで干渉する様な、巨大な「力」を感じる。
レノックが再び銅鑼を叩くと、音圧は一層強くなり、コバルトゥスは頭痛と眩暈と耳鳴りに襲われた。

 (高が楽器が、こんな力を持っているのか!?
  頭が割れる様に痛い。
  意識が飛びそうだ……。
  内側から粉々に砕け散りそう……)

真面に視界が利かない中で、コバルトゥスは何も無い空間に真っ黒な穴が開いているのを垣間見た。
幻覚でなければ、レノックが自力で空間の綻びを拡げたのだ。
0283創る名無しに見る名無し
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2017/12/03(日) 17:27:03.05ID:0GTY+NzH
その真っ黒な穴から、小さな石が転げ落ち、続いて渋色の装束を着た女が吐き出される様に、
滑り落ちる。
それと同時に銅鑼の音は止んだが、コバルトゥスは未だ眩暈が収まらなかった。
レノックは眠っているササンカに声を掛ける。

 「起きてよ、ササンカ君」

彼の声は魔性を持って、ササンカの冬木の法を解く。
直ぐにササンカは起き上がり、辺りを見回した。

 「ここは……」

元の世界に戻れたのだと、彼女は小さく安堵の息を吐く。
レノックはササンカに謝罪する。

 「大丈夫かい?
  危険な目に遭わせて悪かった」

 「いや、私の未熟さが招いた事。
  それより音石殿は?」

ササンカは先ず、レノックから預かった音石の心配をした。
レノックはササンカより先に異空間から落ちて来た、半節にも満たない小さな石を拾い上げ、
彼女に見せ付ける。

 「これだよ。
  何とか内側から空間の綻びを拡げようと頑張っていたみたいだね。
  体を削ってまで……。
  結局、無理だったみたいだけど」

 「何とか元に戻せないのか?」

ササンカは真剣にレノックに訴えた。
レノックは苦笑いして応じる。

 「音石は僕の分身だから。
  元通りにするのは容易い事だ」

彼は両手で音石を包むと、数極後に開いて見せた。
音石が元の大きさに戻っているのを認めて、ササンカは安堵する。
0284創る名無しに見る名無し
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2017/12/03(日) 17:28:48.86ID:0GTY+NzH
レノックが再び両手で音石を包むと、今度は音石が消えて無くなった。
手品の様な技に、ササンカは一々驚く。

 「お、音石殿は?」

 「音石は僕の分身だ。
  用が済んだから、僕に還った。
  彼は僕の一部、心配は要らない」

そんな芸当が出来るのかと、ササンカは感心するより他に無い。
世の中には、彼女には想像も付かない事が多くあるのだ。
レノックは未だ目が晦んでいるコバルトゥスと、呆然としているササンカに呼び掛ける。

 「さて、一旦外に出よう。
  特にササンカ君は、長い間、異空間に閉じ込められて、疲労しているだろう。
  それに……、あっちも外に出るみたいだ」

3人は駆け足で本殿の入り口まで戻った。
そこへ丁度、ストラド等も駆け付ける。
レノックは自らストラドに話し掛けた。

 「どうしたの?」

 「今は落ち着いて話せる状態じゃない!
  後にしてくれ!」

アドマイアーを背負ったストラドは、足を止めずに本殿の外に出る。
直後、本殿が大きく揺れた。
真っ先にササンカが反応する。

 「地震か!?
  建物の外へ、急いで!」

全員が本殿から離れると、本殿は地下へ沈み込む様に、崩壊して行った。
そして僅か数点の間に、地下の凹みに収まる程度の砂と埃の山になってしまった。
瓦礫さえ残っていない。
0285創る名無しに見る名無し
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2017/12/03(日) 17:29:40.70ID:0GTY+NzH
正門に屯している護衛の男達にアドマイアー預け、駆け足で戻って来たストラドは、
崩落した本殿を見て驚愕する。

 「地響きが収まったと思ったら、何だ、こりゃ!?
  幾ら手抜き工事でも、こうはならねぇだろう……」

レノックは俯き加減で、彼に答えた。

 「証拠隠滅かな……。
  御免、僕の所為かも知れない」

 「何したんだ?」

怪訝な顔で尋ねるストラドに、レノックは小声で答える。

 「ササンカ君を助ける為に、『大きな力』を使った。
  それに何等かの罠が反応したんだと思う。
  迂闊だった。
  偶々全員無事で済んだ物の、一つ間違っていれば、皆を崩落に巻き込んでしまっていた」

ストラドは暫く沈黙して唸っていたが、やがて点(ぽつ)りと呟いた。

 「……執行者が大勢で突入してたら、もっと大変な事になってたかもなぁ」

それは彼なりの慰めの言葉だった。
直後、協和会の会館から出現した黒い怪物を、執行者が全滅させたと言う報せが届く。
一度に多くの事が起こったが、協和会は文字通り崩壊した。
街は平穏を取り戻すだろう。
後は「残った者達」が、どうなるか……。
0287創る名無しに見る名無し
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2017/12/10(日) 17:45:17.07ID:BZXQWqqd
アドマイアーは悪夢を見ていた。
彼は黒い靄に包まれ、精神的な拷問を受けているのだ。
悪夢の中で彼は指一本動かせず、凍て付く様な冷気が漂う暗黒に囚われている。
寒過ぎて、四肢が裂ける様に痛む。
夢の中だと言うのに、意識だけは嫌に確りしており、苦痛が和らぐ事は無い。
女の形を取る黒い靄の冷たい吐息が、アドマイアーの頬に掛かる。
彼は寒さに震えながらも、勇気を出して尋ねた。

 「何故、私に取り憑いた?」

 「お前には邪心がある」

 「邪心……?」

 「あの子は私の物……」

 「親は子を手元に置きたがる物だ。
  それを非難はしない。
  だが、眠りに落とした儘で良いとは思わない!」

アドマイアーが抗弁すると、黒い靄は怒りの形相に変じた。

 「誰もが、あの子を利用する。
  そして、あの子を苦しめる。
  あの子の神性に目を付けて。
  お前とて同じだ」

アドマイアーは反論出来なかった。
彼はレクティータを政治に利用しようとしていた。
大義名分があるとは言え、私欲を満たす為に巻き込もうとしていた事実は変わらない。
同時に、それが自分が襲われた理由だとも理解した。
あの場に居た4人の中で、アドマイアーだけがレクティータを利用しようと言う下心を持っていた。
思案の末、彼が出した結論は……。

 「……わ、解った。
  ならば、手を引こう。
  あの娘を政治の世界には関わらせない。
  私の夢は終わりにする」

 「信じられるか!」

黒い靄に喝破され、アドマイアーは沈黙した。
女の形をした靄は続ける。

 「下らぬ企みを直隠し近付いておきながら、どの口が言う!
  それに、お前一人が手を引いた所で何になる?
  あの子を狙う者は多い。
  徒人(ただびと)には有らざる力を持つばかりに……。
  おお、可哀想なクロテア……」
0288創る名無しに見る名無し
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2017/12/10(日) 17:48:37.95ID:BZXQWqqd
黒い靄はアドマイアーから離れて行く。
それを冷気が遠ざかる感覚で、アドマイアーは察した。

 「待て、行くな!」

彼は無我夢中で、黒い靄を逃すまいと、髪の毛の部分を引っ張る。
意外な事に靄は手を擦り抜けず、確り掴んだ手応えが残った。

 「行かせはせん!
  あの娘を取り殺す積もりか!」

黒い靄はアドマイアーに一瞥を呉れて、冷淡に微笑む。

 「誰かの手に渡ってしまうなら、それも悪くない」

アドマイアーは激昂した。

 「ふ、巫山戯るなーっ!
  親は子の幸せを願う物じゃないのか!
  お前こそ、あの娘を利用しようとしているだけじゃないか!
  唯、自分の為に!!」

 「親子を語れる分際か?」

鋭い一言に、彼は怯む。
アドマイアーには子供が居ない。
それでも彼は人の子で、人の親に育てられた。

 「子は無くても、親はある――あった!!
  私は……、私の両親は、共通魔法が下手な私を責めなかった。
  人には得手不得手があるのだから、自分の良い所を伸ばして行けと。
  父母の愛は偉大だった。
  私は人に劣る身で両親の多大な愛を受け、しかし、故に心苦しかった。
  どうして私は共通魔法が上達しなかったのか?
  魔法資質は悪くない、親や学校の教育も悪くない。
  皆同じ様に出来ているのに、私だけ共通魔法が下手だった。
  唯それだけの事で辛い思いをした。
  だから、世界を変えようとした!
  両親の愛に堪え得る偉業を成し遂げる為、私の様な思いをする人間を増やさない為!
  『共通魔法が使えないから何だ!』と言える世界に!
  私は資産運用を始め、小さな財閥を結成し、漸く政治に関与出来るまでになった!
  そこへ、あの娘が現れた!
  これぞ運命、天啓だと思った!!」
0289創る名無しに見る名無し
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2017/12/10(日) 17:51:02.71ID:BZXQWqqd
勢いに乗って関係無い事まで告白して熱弁する彼に、黒い靄は冷徹に言い放つ。

 「……それを諦めるのか?
  諦め切れるのか?
  何と浅謀(あさはか)な。
  信念の欠片も無い男!
  益々信じられん」

 「何とでも言えーー!!
  あの娘は殺させん!!
  お前は傀儡にされた娘を見ていないのか!?
  あの無垢で無知な瞳を見ていないのか!?
  何時の日か、子は親元を発つのだ!
  何も知されず、闇に葬られる事が残酷だとは思わないのか!
  どこの親に、そんな権利があると言うんだ……」

アドマイアーは泣いていた。
それには黒い靄の方が怯む。
彼の拳は熱を帯び、益々力強くなる。

 「お前をあの娘の元に行かせはせん!
  この命に代えてもだ!!」

 「な、何故、そこまで……」

 「知るかっ、私にも分からん!
  愛とも義とも言い難い!
  知り合って、日も浅いと言うのに。
  彼女には幸せであって欲しい」

 「自分の娘でもあるまいにっ!」

 「他人だろうと何だろうと、人の幸せを願う事の何が悪い!
  お前は人を呪うばかりか!?
  人の世は辛いだけではないさ!
  お前は今まで他者に、僅かな温もりさえも感じた事は無いと言うのか!」

口論の末に、双方が涙を流していた。
女の形をした黒い靄は、アドマイアーの気迫に圧され、消え入りそうな声で言う。

 「私は……、もう一度、あの子を抱き締めたかった……」

黒い靄の女の顔は額から顎まで縦に裂け、崩れ落ちて行った。
0291創る名無しに見る名無し
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2017/12/10(日) 17:59:07.08ID:BZXQWqqd
アドマイアーが目覚めたのは、昏倒から2日後、魔導師会の中にある医務室だった。
外対による精密な診断の結果、彼が昏倒した原因は呪詛魔法による物だと判明したが、
その事実は公には伏せられた。
しかし、一時的にとは言え総裁を失い、一部とは言え幹部が人身売買の容疑で逮捕された、
PGグループに留まろうとする者は少なく、残りはアドマイアーに忠誠を誓う者だけになった。
ある意味では、純化が進んだと言えるが……。
覚醒から即日解放されたアドマイアーは、直ぐにPGグループの本館に戻ったが、
人が減って活気が無くなっている事に気付くと、覚悟していた事でも少し気落ちした。
そんな彼を真っ先に出迎えたのは、何時も側に控えていた秘書の男。

 「総帥、お体は大丈夫ですか?」

 「……まあ、少々鈍ってはいるが、問題は無い。
  この年で中々頑健だと我ながら思う。
  さて、今もグループに残っているのは何社かな?」

アドマイアーが尋ねると、秘書は数極沈黙した。

 「30社程度です」

 「嘘を言うな」

 「いえ、確かに離脱を仄めかす者もありましたが、総帥が復帰されたと知れば思い止まるでしょう。
  そればかりか、総帥の復帰で再加盟を申し出る者もあるかも知れません。
  総帥が御自ら説得して頂ければ、50社程度までは回復する物と……」

 「良い、『去る者は追わず』だ」

懸命に説明する秘書の言葉を、アドマイアーは冷淡に遮って断じる。
0293創る名無しに見る名無し
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2017/12/10(日) 18:01:23.96ID:BZXQWqqd
その儘、執務室へと向かう彼の後を、秘書は追って続ける。

 「離脱によりグループの総資産こそ目減りしましたが、本体の資産が減った訳ではありません。
  使える現金は十分に残っています」

 「結構」

 「今回の件で痛手を負ったのは、我々だけではありません。
  他の大企業も同じです。
  総帥が作成を命じた、協和会の裏出資者名簿。
  これが役に立つ時が来ました」

協和会は資金の出入りを、素直に役所に報告してはいない。
魔導師会も把握し切れていない、裏献金がある。
当然、この献金者も狂宴に招かれる。
それをPGグループは役員を潜り込ませる事によって、把握していたのだ。
PGグループの役員で都市警察に身柄を拘束されている内の数名は、そうした使命を帯びた者で、
狂宴に参加しながらも、冷静に周囲を観察していた。
勿論、使命を忘れた者や、使命とは無関係に狂宴を楽しんでいた者も居るが……。
アドマイアーは裏出資者名簿を受け取ると、少し目を通しただけで秘書に突き返した。

 「その話は後にしよう」

 「はっ、あっ、お疲れでしたか……。
  済みませんでした」

慌てて畏まる秘書に、アドマイアーは小さく笑って言う。

 「大事な話をしたい。
  執務室まで付いて来てくれ」

 「はっ、畏まりました」

アドマイアーと秘書は執務室で2人切りになった。
0294創る名無しに見る名無し
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2017/12/11(月) 18:10:54.06ID:4XeLLqVv
アドマイアーは両袖机の傍にある総帥が座る椅子ではなく、来客と対話する際に使う、
少し低い長方形のテーブルの両側に沿って置かれた、片側のソファに腰掛けた。
そして、秘書に自分の対面に腰掛ける様に促す。
何を言われるのかと、秘書の男は緊張した面持ちで、総帥の言葉を待っていた。
アドマイアーは長い「間」を作って、大きな溜め息と共に告白する。

 「ユニフィアス、私はPGグループの総帥の座を退こうと思う」

 「な、何故ですか?」

秘書ユニフィアスは吃驚して、反射的に尋ねた。
アドマイアーは再び溜め息を吐いて言う。

 「決して、『未来を悲観した』訳では無い。
  君の言う通り、グループは立て直せると思っている」

 「では、何故……」

 「私は世の中を変える為に、政治の道を選んだ積もりだった。
  しかし、それは所詮、私の『我が儘<エゴ>』だったのかも知れん……」

弱気に零すアドマイアーを、秘書ユニフィアスは励ました。

 「そんな事を仰らないで下さい、総帥。
  貴方の信念に賛同して、政治活動に参加した人も多く居るんです。
  今更、自分だけ抜けるのは無しですよ!」

しかし、アドマイアーは既に決心している様である。

 「私は年を取り過ぎた。
  後進に道を譲る時期が来たのだよ。
  PGグループの後継者には君を指名したい、ユニフィアス」
0295創る名無しに見る名無し
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2017/12/11(月) 18:14:36.05ID:4XeLLqVv
意外な、そして急な後継者の指名に、ユニフィアスは喜びより焦りの感情が勝った。

 「総帥!」

 「もう『総帥』と呼ぶ必要は無い。
  私は君の伯父のアドマイアーだ。
  ユニフィアス、君には長い間、苦しい思いをさせた。
  君は私の信条を理解し慕ってくれたが、私は君を正式な後継者と認めて来なかった。
  何時までも政治家にさせるでも無く、私の秘書に止め置いたのは、残酷な処置だった」

アドマイアーは何れユニフィアスを政治家する積もりだったが、それを明言した事は無かった。
何時まで自分は秘書を続けるのかと、ユニフィアスが不安に思っていないか、彼は心配していた。
ユニフィアス自身、アドマイアーの後継者になりたいと言う希望はあったが、直訴した事は無い。
PGグループはアドマイアーの物であり、全ては彼が決めるべき事だと達観していた。

 「それは懺悔ですか……?」

戸惑うユニフィアスに、アドマイアーは頷く。

 「そうだ、私は悪い人間だった。
  目的の為には手段を選ばない様な、冷酷な男になっていた。
  私は個人的な事情を解決する為だけに、政治の道を志し、その過程で多くの者を犠牲にした。
  人を欺き、利用し、そうした事を平然と出来る人間こそが『賢い大人』であり、大成する人物だと、
  嘯いて来た。
  そんな人間にだけは成るまいと思っていたのに、何時しか私は純粋さを失っていた……」

彼を止める事は出来ないと、ユニフィアスは長年秘書を務めて来た経験から悟っていた。

 「決意は固いんですね……。
  伯父さん、一線を退いて何をする積もりなんですか?」

 「フリースクールで共通魔法の勉強をしようと思っている」

 「へ?」

ユニフィアスは耳を疑った。
伯父が長年忌避していた共通魔法を学ぶと言い出すとは、全く想像も出来なかった。
大陸旅行を始めるとか、或いは閑静な土地で暮らすとか、悠々自適の生活を送る物と思っていた。

 「可笑しいか?
  何を今更と思うかな?
  しかし、魔法を使えるに越した事は無いと、今になって思うのだ。
  若い頃、幾ら努力しても上達しなかったが……。
  今なら違う物が見える。
  そんな気がするのだよ」

遠い目をするアドマイアーは、時の彼方に忘れてしまった何かを、取り戻そうとしている様だった。
0296創る名無しに見る名無し
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2017/12/11(月) 18:17:24.27ID:4XeLLqVv
PGグループはアドマイアーの甥、ユニフィアスを新しい総帥として再出発する。
彼が隠し持っていた、協和会の裏出資者名簿は、魔導師会に提出された。
それを魔導師会は「匿名」の告発として扱い、都市警察と執行者の貴重な捜査資料となった。
魔導師会と都市警察は、市政が混乱に陥る事を承知で、大掃除に乗り出した。
大企業の幹部や役員、芸能人から議員まで多数が人身売買の容疑で逮捕され、起訴されて、
裁判で重い判決を受けた。
勿論、協和会のエルダーやシスターも同じく。
欲望が絡んだ前代未聞の大醜態に、市民は益々政治や企業への不信感を強め、
それは人間不信へと繋がって行くだろう。
全てを予測していながら、魔導師会と都市警察は正義を断行した。
社会の動揺を抑える為に、事件を闇に葬る事も出来たが、それをしなかった。
理由は、どちらにしても市民の不信感は募って行く為だ。
真実を隠そうとしても、事情を知る人から人へと情報は伝わり、「裁かれない者」の存在を、
意識させてしまうだろう。
結局の所、「頼れるのは魔導師会だけ」と言う事に落ち着いたのは、良かったのか悪かったのか、
今は何も分からない。
だが、ティナー市を中心とした大きな動乱は、一先ずの終息を迎えたのだった。
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