任務の性質上、ここで騒ぎを起こす訳には行かず、2人の親衛隊員は事の成り行きを見守った。
レクティータは馬車から降りて、人々と握手を始める。
こうやって身近な人物であると印象付け、親近感を持たせるのだ。
取り巻きの者達は、彼女の後方に控えており、襲撃を受ける心配は全くしていないかの様。
アドラートは群集に混じって、レクティータと接触出来る機会を待っていた。
――レクティータの取り巻きの正体は、反逆同盟の者達である。
吸血鬼フェレトリ・カトー・プラーカと、予知魔法使いジャヴァニ・ダールミカ、狐獣人ヴェラの3体。
彼女等は魔力を遮断するローブを着て気配を消しているが、優れた魔法資質の持ち主が、
疑いの目を持って注意深く3人を観察すれば、魔力の流れが無い事を怪しいと感じるだろう。
八導師であるアドラートが、取り巻き達の不自然な装いに気付かない訳が無かった。
一方で、フェレトリとヴェラも、アドラートが徒者でない事を見抜いていた。
彼が纏う魔力の流れは、周りの人間と比較して、妙に整っている。
それは櫛で梳いた糸の様だ。
ヴェラはアドラートを警戒して、ジャヴァニに囁く。

 「あいつ、変な感じ」

ジャヴァニが無言で頷くと、フェレトリも続いた。

 「予知では何とある?」

彼女からは抑え切れない殺気が滲み出ている。
ジャヴァニは冷淡に答えた。

 「安心して下さい。
  何も起こりはしません」

だが、フェレトリは納得しない。
不満を露にした眼でジャヴァニを睨んでいる。
アドラートを脅威になるかも知れないと感じているのだ。