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【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2017/07/31(月) 22:38:53.85ID:TwvFk4rz
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
       
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過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50
0300シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 22:59:48.77ID:tK4aegA2
『帰らせて下さい?おかしな事を言いますね。あなたはトランキル。
 ダーマの建国、黎明。それらの裏に、澱のように積もっていく闇の全てを背負ってきた者。
 ……いえ、それらを積み重ねてきた者こそが、トランキル』

私の幻、その斬り落とされた生首が、あの闇竜のように声を発する。

『そう、あなた達は闇から生まれた。そして長い歴史の中で
 闇を生み出し、形造る者になった。
 今のあなたなら……誰の助けも必要としない。一人で、ここから立ち去る事が出来る』

それらの言葉に私は何の返事もしない。
ただ、右手の長剣をもう一度振るった。
トランキルの剣技が放つ黒の剣閃が闇を断つ。
空間に細い切れ目が走る。向こう側から眩い光が漏れる切れ目が。

「……ありがとう、ございました」

『礼ならあの槍使いに言いなさい。私はただあなたを試しただけです』

「はい。あの方にも、お礼は言います。だけど、あなたにも。
 ……それと、あなたは、もしかして」

『試練は終わりです。あなたが助けになりたいと願った者達は、既に試練を終えて待っていますよ』

……これ以上の問答をするつもりは、私の幻にはないみたいです。
私はもう二度、長剣を振るい……細い切れ目を、三角形の穴に変える。
そしてその向こうに見える光へと、足を踏み入れました。

「……ここは」

気付けば私は、どこかの神殿にいました。
元の世界ではない、どこか……だけどスレイブ様も、ジャン様も、皆が既に揃っています。
待たせてしまった……という様子ではなさそうで、ひとまずは安心ですが……。
しかし、ここはどこなんでしょうか。

>「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

「あ、アルマクリスさん。あの……さっきは、ありがとうございました」

「あー?何言ってんだ?お前。いや、なんの事かさっぱり分かんねーわー!
 異空間にありがちな幻でも見たんじゃねーの?いいからさっさと帰ろうぜって」

アルマクリスさんが私に目もくれず歩き出す。
だけど不意に、周囲の風景が再び闇色の渦と化した。
そしてそれが晴れると……私達は森の中にいました。
……子供の声が聞こえる。振り向いてみれば、淡い木漏れ日の中で子供達が遊んでいます。

>「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

……これは、黒騎士アドルフの記憶?
この穏やかな時の中に……彼が最も忌み嫌う記憶があるんでしょうか。

>「お姉ちゃん、あげる! はめてみて!」
>「まあ綺麗。どこで見つけてきたの?」

……私には、彼らがどういう人で、どんな考えを持っていて、どんな行いをしたのか。
完全には分からない。だけど、あの指環。そして彼がこの記憶を忌み嫌っているという事は……。
今この瞬間こそが、きっと全ての始まりなんだ。
この大陸に戦争の火が燃え広がり、世が乱れ……多くの人達がトランキルの刃に掛けられた。
その始まりも……。
0301シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 23:01:19.26ID:tK4aegA2
>「ぜんぶ、ぼくのせいなんだ……。あのときゆびわなんてあげなければ……。
 ほんとうは、もうおねえちゃんはおねえちゃんじゃないってわかってた。
 せめてぼくがおわらせてあげなきゃいけなかったのに。
 おねがい、おねえちゃんをかいほうしてあげて……」

そう言い残して……アドルフは少年の姿のまま、消えてしまいました。
そして気付けば私達も、あの山頂に戻ってきていた。

>「……どういうことだ、爺さん」
>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

……私は何も言えずにいました。
ティターニア様のように、彼に祈りを捧げる事も出来なかった。
気持ちが落ち込んでしまった訳ではありません。
ただ……何か、違和感がある。

>『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』
>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』
>「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」

闇竜の呼び声が、闇の指環を現界させる。
漆黒の、竜の指環……本当に今更だけど、実在していたなんて……。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

ジャン様が自信に満ちた態度で大きく一歩踏み出す。
……そうですね。
ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者……。
故郷の人々を洗脳され、殺されかけても、それを許してしまえるジャン様になら相応しい……

>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

……えっ?そ、そうなんですか?

>『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』

でも、だったら誰が……ティターニア様はあのユグドラシアの導師。
闇の魔法に関しても深い造詣があるはず……

>「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

そう言ってティターニア様は私の背中を……えっ?

「わ、私ですか……?」

私は指環が欲しくてここに来た訳じゃないってさっきも……
闇竜の方を見てみると……もう視線は逸らされない。
けどそれだけです。彼は私に何も言おうとしない。
……光栄に、思わない訳じゃないんです。
0302シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 23:03:23.61ID:tK4aegA2
だけど……私はこの、執行官の娘がわがままを言って連れ出してもらった短い旅の中で
……指環の勇者の名に相応しい事を成せたんでしょうか。
偶然スレイブ様を見つけて、偶然オーカゼ村の殲滅を命じられて
……そんな事したくないから、執行官の使命をねじ曲げて。

偶然に流されて、嫌な事から逃げて、
運良くそれらしい答えを見つけられただけの小娘。
私はまだ、その程度でしかない気がするのに……。

「……本当に、私でいいんでしょうか」

だけど、この状況で私にはやれません、自信がありませんとは言えなくて。
私は一歩前に出て、手を伸ばす。
そして指先が指環に触れて……瞬間、闇の魔素が溢れ返る。

「えっ……な、なに?なんで急に……!?」

『……うむうむ、愛い反応じゃのう。
 指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

周囲が急速に闇に染まっていく……。

「一体、どういう事なんですか?私は……指環に拒まれたのですか?」

『む、なんじゃ。思ったより勘が鈍いのう。拒まれたのではない。
 試練はまだ終わっておらぬ。ただそれだけの事。言うたはずじゃ。
 闇の指環が認めるは、ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者』

即ち……こういう事じゃ、と闇竜が続けた。
辺りに満ちた闇の魔素が形を得る。見覚えのある、ヒトの形を……。

「執行官……指環を寄越せ。俺は……責任を果たさねばならん。
 姉上を救うのは俺だ。闇に呑まれ、闇と同化した今、闇の指環を手にすれば……
 俺は俺自身を完全に律する事が出来る。姉上を、止められる」

……黒騎士、アドルフ。
 
「まっ、要するに……俺達の器になってくれやって事だぜ、トランキルさんよ。
 さっきは助けてやったり、姉上を救ってーなんて言ってたけどよ。
 生憎ここにいるのは指環に集積された闇そのもの……つまり」

そして……アルマクリスの姿を取った影が、矛の切っ先を私に向ける。

「殺し合おうぜ。殺し殺される、その絶対の運命を楽しめ。
 そして……指環は俺達のもんだ!俺達がここにいんだ。パトリエーゼもきっとここにいる。
 後はメアリを殺せば……やっとだ。やっと全部の辻褄を合わせられるって寸法よ!」

その咆哮と共に……アドルフが動いた。

一対の細剣から放たれる無数の斬撃……
五月雨のような手数を繰り出しながら、
しかし一つとして受けてもいいと思える一撃がない。
0303シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 23:04:28.00ID:tK4aegA2
「俺達は闇の指環と同化している。だから分かる。
 お前には大層な望みなどない。闇の指環を手にして何を願う?
 それは俺達の願いを踏み躙ってまで、叶えなければならないものか?」

そしてアドルフの連撃を目眩ましにして襲い来る刺突。
受け止められない。防御すればこちらの剣が一瞬止まる。
そうなればアドルフの双剣が私に届いてしまう。

「アイツらの力になりてえか?それなら別に俺達の器になったって叶えられる。
 なあ、頼むわ。俺達の願いを叶えさせてくれよ」

黒騎士と、その命を狙い続けた男の、
いえ……命を落としてやっと、その手を組む事が出来た二人、その連携……。
……強い。

それだけじゃない。闇の魔素は次から次へ、影を生み出し続けている。
数え切れないほどの民兵に、エルフ達……。
見覚えのあるリザードマン……私が、いえトランキルが首を刎ねた罪人達も。
それに、彼らは……かつて指環の勇者を志して、そして叶わなかった数多の冒険者達。

こんなの、私に勝ち目があるとは思えない……だけどそれでも、私もこの体を、そして指環を渡す訳にはいかない。
こうして追い詰められてこそ、改めて分かる事がある。
それは、私には、私の……

……アルマクリスの天戟、私はそれを長剣の切っ先で受け止める。
そしてその反動で後方へ大きく飛び退いた。

「……私は、ただ幸運に恵まれて、嫌な事から逃げ出して、ここに来ました」

無数の影は……緩やかな歩みで、私に迫ってくる。
ありがたい事です。

「だから、せめて最後くらいは……自分の意志で何かをしないと。私は……」

アドルフが地を蹴った。低く、低く、懐に潜り込む動き。
同時にアルマクリスが槍を支点に宙へと飛び上がる。
天と地からの挟み撃ち……私はそれを、

「――指環の力よ」

長剣を上から下へ、蛇のように。

「私は、あなた達の器にはなりません。私には私の……願いがある」

その一振りで、彼らの首を薙ぎ払った。二人だけでなく、全ての影の首を。

「私は、私に恥じない私になりたい。たったそれだけの事だけど。
 あなた達の願いよりも、ずっとちっぽけな願いだけど……」

闇の属性が持つ力。見えず、理解出来ず、無形である事。
その概念を以って生み出した刃によって。

「あなた達の願いは叶えられない。
 誰かが首を刎ねられ、誰かが首を刎ねなければならないように。
 願いを叶えるのは私です。あなた達じゃない」

「俺達を、拒むのか……いや、ならば何故、闇の指環が……」

斬り落とされたアドルフの、アルマクリスの首が、私を見つめる。
0304シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 23:05:14.68ID:tK4aegA2
「いいえ……拒みはしません。拒める訳がない。
 あなた達の願いは、とても尊いものです。
 叶うべきで、叶わない方が間違っている……」

「ならば……」

「それでも、叶わない。罪なき者が、時に死の運命から逃れられないように。
 あなた達はもう何も叶えられない。その無情と、無念を、私は受け入れます。
 そう……世の中は、そんなものだと」

私はヒトの首を斬り落とした。
その願いを断ち切って、決して未来へと辿り着かないようにした。
だけど……いつも処刑台に立っていた時のようには、私の心と鼓動は荒ぶらない。
胸の内が静かです。無風の湖のように、だけど水面よりも遥かに硬く。
心がまるで……罪人の首を断つ長剣のように変わっていくのを、私は感じていました。
……父も祖父も、きっといつも、こんな気持ちで処刑台に立っていたんだ。

「……要するに、開き直ってるだけじゃねーか」

「ええ。だけどそれでいいんでしょう。なんと言っても闇の指環です。
 きらきら眩しい心より、こっちの方がお似合いでしょう?」

……それに。

「あなた達はもう何も出来ないんだから……何も気負う必要もないんですよ。
 あなた達の願いが叶うか叶わないかは、私の気分次第……。
 なら、叶わなかったならそれは私のせい。でしょう?」

だからあなた達はもう何も気負わなくてもいいし、自分を責める必要もない。

「……さぁ、私は闇の指環の力を引き出した。今度こそ、試練は終わりです」

私がそう言って、数秒……不意に周囲の闇が渦を巻いて、消えた。
……今のは、幻?それとも……いえ、どちらであっても、関係ありません。
私は、確かに試練を乗り越えた。

気付けば私は、闇の指環に手を伸ばした時と同じ場所で、同じように右手を伸ばしていました。
いえ……一つだけ、違う事があります。私はいつの間にか、右手を握り締めていました。
その拳を、手のひらを上にして開く。
……闇の指環は、私の手の中にありました。



【遅くなってごめんなさい!】
0306スレイブ
垢版 |
2018/01/19(金) 17:48:58.61ID:Sg82Od9q
【すみません!今日ちょっと間に合わなさそうなので明日には投下します!
 二週連続で遅くなってしまってホント申し訳ないです!】
0308スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/20(土) 23:07:23.02ID:8pkZ86TN
五里の霧中をかき分けて、スレイブが辿り着いたそこは『無』としか形容しようのない空間だった。
既に試練を終えたらしきジャンとティターニア、それからシノノメが彼を待っていた。
そして――

>「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

――アルマクリス。
一体如何なる因果によるものか、一度は敵対した指環の勇者達に助太刀し、闇の帳から救い出した男。
助かったには助かったが、正直仲間面して一緒にいることに違和感を禁じ得ない。

「皆、無事だったか……"試練"は、成功したのか……?」

「さぁな、クソドラゴンの採点次第だ。あのジジィが耄碌してなきゃそれなりの結果になるだろうよ」

ジャン達がどのような試練を受けたかは想像もつかないが、互いにべらべらと語り合うものでもないだろう。
掘り返されたのは記憶の澱、心の痛み――胸の裡に秘しておくべき過去なのだから。

「まーいいじゃんダメでもさ!指環あげないって言われたら今度こそぶっ殺して奪っちまえばいいのよ。
 いや、"創る"か?どーでもいいっすね。……今更略奪したくないなんて抜かすなよ、ヘボ剣士」

「……わかってる」

試練を乗り越えたからといって、過去と決別したわけではない。忘れることなど赦されない。
ただ……覚悟を決めた。
これまで忌むべきものとして封じてきた薄汚い殺人者の過去を、前へ進む理由にする覚悟。
ただの偽善に過ぎなくても、最後まで貫き通した偽善ならばそれは、美談と呼べるものになるはずだ。

スレイブが仲間たちど合流すると、不意に周囲の『無』が渦を巻いた。
身を包む闇が軋み、色を得ていく――風景が切り替わっていく。
山頂への帰還かと思われたその変化は、しかし見覚えのない光景を形作った。

柔らかな日差しと木立の緑に囲まれた、静かな街道のほとり。
齢十にも満たない幼い四人の少年と少女が、草遊びをして笑いあっていた。

「これは、まさか……」

少年二人の顔には見覚えがある。随分と様変わりをしてはいたが、わずかに面影が残っている。
黒犬騎士アドルフと、アルマクリス。幼き日の二人だ。

>「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

アルマクリスが露骨に双眸を歪め、不快そうに呟いた。
この過去が、誰にとっての『試練』であるのかは……問うまでもない。

かつてアドルフがどこからか見つけ、姉に贈った指環。
それこそが光の指環であり、指を通した瞬間から彼の姉は最早何者でもなくなった。

>「我々は大変な勘違いをしていたのかもしれないな……。
 指輪の魔女メアリが光の指輪を手に入れたのではなく、光の指輪がメアリを”指輪の魔女”に仕立て上げたのだ……」

「ならば、アドルフの忌むべき過去とは――」

自分の姉を指環の魔女へと変えてしまったこと。
たとえそれが指環によって撚られた運命の糸だったとしても、全てを納得出来るはずもない。
彼もまた足掻いていた。変貌した姉に寄り添い、助け続けることで、贖罪を図っていたのだ。

>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」
0309スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/01/20(土) 23:07:53.60ID:8pkZ86TN
再び景色が切り替わり、元の山頂へと戻ってきて、変わらずそこにいた老龍は、無感動にそう吐き捨てた。
一歩間違っていればスレイブもこうなっていたかもしれない。
受け入れがたい過去などヒトであれば誰もが抱えているものだ。
老龍の足元に散らばる白い"何か"が、夥しい量の人間の白骨であることに気付いてスレイブの肌は粟立った。

>「ああ、奴は……真の敵に立ち向かう勇気を出せなかった……。
 見えない敵と戦っていた時間が長すぎたのかもしれぬな……」

「だが奴は、己の信念を貫いて……それに殉じた。『向き合わざるを得なかった』者よりも、ずっと強かった」

狂気や妄信は、確かにあったのだろう。
しかしそれ以上に、自身が変えてしまった姉を救いたいという執念が、彼を突き動かしていた。
突き動かして、そして歪なかたちであってもメアリの傍に居続けられるほどに、彼は強かったのだ。
そしてその強さが、この試練では彼に牙を剥いた。

『同情しとるんかお主?あのメアリの弟、信念は御大層じゃけどやっとることは外道そのものじゃぞ。
 麓のオークの村、ありゃマジでちょっとでも遅かったら全員虚無に呑まれとったからな』

ウェントゥスがスレイブの袖を引いて釘を刺した。
それが文字通りの老婆心によるものなのか、単に煽っているだけなのかは、今はどうだって良い。
わずかにでもアドルフの方へ引っ張られそうになった心に冷水を掛けられて、スレイブは首を振る。

アドルフに対する敬意のようなものが生まれていた。
スレイブが耐えきれず逃げ出し、アルマクリスに頬を張られてようやく直視した現実に、アドルフは抗いきったのだ。
物言わぬ亡骸へ向けて、静かに瞑目した。

>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』

老龍が手を掲げると、周囲に満ちていた闇の魔素がそこへ凝集していき、一つの輪郭を形づくる。
彼の手のひらに落ちてきたのは、光を一切反射しない漆黒の指環。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

差し出された指環に、ジャンもティターニアも、そしてスレイブもまた踏み出すことはなかった。
この場の誰が相応しいかなど、言葉にせずとも皆が理解していた。

>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

……理解していた。そういうことにしておく。

>「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

『えっマジで?』

ティターニアの言葉にウェントゥスが素で驚愕した。

「何故あんたが知らないんだ……」

『いや、じゃって千年前は人数的にピッタリじゃったし指環と勇者もそれぞれお互い相性良かったし……。
 誰も気にしとらんかったわそんなん……えぇ?じゃあなにティターニア、このままテッラと組むんか?
 儂誰と組めばいいの……』

ウェントゥスはスレイブの方を振り仰いで、心底げんなりした顔を見せた。

『……これぇ?』

スレイブは無言で指環を外し、握りしめて振りかぶった。

『うそうそ!うそじゃって!年寄りの可愛らしいジョークじゃろうが!ニーズヘグもやっとるじゃろ!?』
0310スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/20(土) 23:08:18.52ID:8pkZ86TN
スレイブは露骨に舌打ちして指環を嵌め直し、シノノメに視線を遣る。

「……シノノメ殿、頼む」

>「わ、私ですか……?」
>「……本当に、私でいいんでしょうか」

ティターニアに背を押されているシノノメに、スレイブもまた頷きで肯定した。

「"相応しい"、と言ってしまうのは少しばかり傲慢かも知れないが。少なくとも俺にはそれを持つ資格はない」

アドルフの亡骸に目配せして、スレイブは一歩下がった。そうして彼の空けた道に、シノノメは硬い表情で歩み出た。
老龍の差し出す指環に、彼女の指先が触れた瞬間――

>「えっ……な、なに?なんで急に……!?」
>『……うむうむ、愛い反応じゃのう。指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

指環から溢れ出た闇が、彼女を包み込んで……そこから消し去った。

「!!」

瞬間、スレイブは弾かれた礫の如き速度で老龍までの距離を踏み込む。
流れるような所作で抜き放った剣、その切っ先に老龍の喉元を捉えた。

「彼女に何をした……!」

老龍は眉一つ動かさずに喉に突きつけられた刃と、その先のスレイブを睥睨した。

『何をもなにも、見た通りじゃよ。"試練は合格だ"。"指環を授けよう"。……一言でも儂がそう言ったかの?』

「まさか……」

『さぁさぁ、余興はここからじゃ。あと何度、お主らは儂を愉しませてくれるかの』

断末魔ひとつ上げずに白骨となったアドルフの姿が脳裏に過ぎる。
試練に落第した者の末路――最悪の想像に、スレイブは奥歯を軋ませて耐えた。

やがて、シノノメを飲み込んで消えた闇が再び虚空に渦を巻く。
老龍に剣を突きつけながら固唾を飲んでいたスレイブは、闇の中から五体満足のシノノメが出てきたことに何より安堵した。

「無事だったか……!」

『くくく……愉快愉快。許せヒトの子よ。若者をからかうのは年寄りの特権、娯楽のない余生の一抹の潤いなんじゃ』

『相変わらず趣味と性格が悪いのニーズヘグは……儂ちょっとドン引きじゃわ。やっぱ友達は選ぶべきじゃな』

『いつから儂とお主が友になったんじゃウェントゥス』

『えっ』

スレイブは老龍を睨めつけてから剣を納めて下がった。
シノノメをティターニア達に任せて、彼女たちと老龍とを隔てるように立つ。

「次、くだらない茶目っ気を入れてみろ……ウェントゥスに頭を下げてでも指環の力で貴様を叩き斬る。
 これで指環の試練は終わりなのか?追試はないんだろうな」
0311スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/20(土) 23:08:40.22ID:8pkZ86TN
【ニーズヘグのからかいにマジギレ】
【遅れてすみません!】
0312ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/01/22(月) 16:59:45.57ID:ITTT5Tzu
>「次、くだらない茶目っ気を入れてみろ……ウェントゥスに頭を下げてでも指環の力で貴様を叩き斬る。
 これで指環の試練は終わりなのか?追試はないんだろうな」

『これで終わりじゃよ。物語や伝承に語られるように、
 勇者たちは無事試練を抜け指環を手に入れました……めでたしめでたしというわけじゃ』

「まだめでたしとは言えねえな。指環の魔女――というかメアリの奴とエーテル教団をぶちのめしてからだ」

『……ソルタレクへ行くのじゃな?今やあそこはエーテル教団の理想郷。
 今代の指環の魔女は随分と実力があるようじゃ』

「闇の指環は手に入ったし、村のみんなも助けた。
 これ以上あいつに好き勝手はさせねえよ。ありがとうな、爺さん」

ジャンが礼を言って、夕焼けが照らす山道を歩き出す。連れだって歩く他の仲間を見ながら、闇竜テネブラエの身体は
静かに闇の魔素に分解され、彼のいた場所には巨大な竜の頭骨がまるではるか昔からそこにあったように、佇んでいた。

――山道を歩く一行の頭上を通り過ぎる影が、彼らの目の前に現れる。そこにいたのは一体の竜騎兵。
ミスリルと鋼の合金で作られ、金で縁取られたブラックミスリルの甲冑を身に纏い、
長大なブラックミスリルのハルバードを片手に持ち、ワイバーン種の中でも最も強力なエルダーワイバーンの背中に跨っている。

ダーマ魔法王国が誇る竜騎兵部隊、その中の最精鋭である『黒の小隊』だ。
フルフェイスの兜のフェイスガードを上げ、肌の色からおそらく魔族であろう竜騎兵が
ワイバーンに跨ったまま喋りはじめた。

「指環の勇者というのは君たちのことか?ラーサ通り総責任者の
 ガレドロ・アルマータより伝言を預かっている。」

「ガレドロ爺からか!?どんな内容なんだ」
0313ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2018/01/22(月) 17:00:08.73ID:ITTT5Tzu
ジャンの返答を聞いて本物と確信したのか、鞍にくくりつけていた革袋から
丸められた一枚の羊皮紙を取り出し、紐をほどいてピンと伸ばす。

そして朗々とその羊皮紙に書かれた内容を読み上げた。

「指環の勇者よ、王は闇の指環が相応しき者の手に渡ったことを悟り、
 封印を解いて離宮を離れ、王宮に戻られました」

「あなた方からの連絡が来るよりも先に王からの密使が届き、
 今こうして手紙を書いています。
 また、大陸全土で起きていた反乱も収まりました。
 おそらくはエーテル教団がかく乱のために続けさせていたのでしょう」

「王は勅令を出され、今回の件は全てエーテル教団が裏で仕組んでいたものとし、
 信徒以外の者を全て無罪としました。
 これよりダーマ魔法王国はエーテル教団殲滅のため、ハイランド連邦共和国に宣戦布告。
 首府ソルタレクまで進撃を続けるでしょう」

「指環の勇者よ、あなた方には感謝しています。ガレドロ・アルマータより」

「……以上だ」

羊皮紙を読み上げ終えた竜騎兵は紐で縛って丸め終え、フェイスガードを下げる。
そして兜の中から、くぐもった声でこう言った。

「シェバトには私の妻と子供がいた。……ありがとう。では!」

竜騎兵が両足でワイバーンの腹を二度軽く蹴り、砂を巻き上げてあっという間に飛翔する。
高度を上げたワイバーンは風に乗り、遠くにいる他の竜騎兵たちに合流しに向かっていった。

「……なんだかすげえ話になっちまったな。
 でもよ、これからやることは決まってるぜ」

「村に戻って晩飯だ!洗脳も溶けてるだろうし、村のみんなと宴会でもしようぜ!」

旅人が来ればもてなすのがオーカゼ村の流儀。
ましてやそれが帰ってきた村人と友人ならば、より一層盛り上がるだろう。
この先どうなるか分からないのならば、今を楽しむべきだ。

ジャンは夕日の中、そう考えて山道を下り続けた。

【この辺でそろそろ章区切った方がいいんじゃないでしょうか…】
0314ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/01/23(火) 01:08:46.38ID:Uq/HO4fB
>「……本当に、私でいいんでしょうか」

皆に背中を押され、シノノメが指輪に手を伸ばす。
彼女がそっと手を伸ばし指輪に触れた瞬間、指輪からあふれ出した闇が彼女を包み込んだ。

「なんだと……!?」

>「えっ……な、なに?なんで急に……!?」
>『……うむうむ、愛い反応じゃのう。
 指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

シノノメの姿は闇に包まれ、その場から見えなくなった。
ティターニアが言葉を発するよりも早く、スレイブが剣を突きつけながらニーズヘグに問う。

>「彼女に何をした……!」
>『何をもなにも、見た通りじゃよ。"試練は合格だ"。"指環を授けよう"。……一言でも儂がそう言ったかの?』
>「まさか……」
>『さぁさぁ、余興はここからじゃ。あと何度、お主らは儂を愉しませてくれるかの』

「貴様……もしも、合格できなかったら、彼女はどうなる?」

よくも嵌めたな――と激昂して詰め寄りたい衝動を抑え、不合格だった場合のシノノメの処遇を問う。
竜とはヒトの尺度を遥かに超えた、世界の理が形を成したようなもの。怒りを向けるだけ無駄だと分かっているからだ。

『そうじゃな――指輪に乗っ取られ言わばもう一人の”指輪の魔女”となるじゃろう。
安心せい、どっちにしても指輪は手に入るということじゃ。
ああ、それとアルマクリスじゃったか、それに今しがた試練に敗れた犬騎士も今や儂と同じ闇の一部となっておる。
今頃仲良く手を組みあの娘を乗っ取ろうとしておるじゃろうな。要はお主、アルマクリスの小僧にまんまと利用されたのじゃよ』

アルマクリスが一行に力を貸したのは、敢えて試練の第一段階をクリアーさせシノノメを乗っ取るのが目的だったのだ。
数舜かかってようやく意味を理解したティターニアの表情が絶望に彩られる。

「そ……んな……」

つい先刻シノノメの背中を押した右手を茫然と見つめる。
またしても無関係な者を指輪を巡る因果に巻き込み奈落の底に突き落としたのだ。
しかも、奇しくも少年時代のアドルフと同じ轍を踏む構図となっていた。

『なかなか出てこぬな。これはくたばったかもしれんぞ。
さあどうする。責任を持って引導を渡すか? それとも犬騎士のように地獄の果てまで寄り添うか?』

動揺するティターニアを、可笑しくてたまらないという風に煽るニーズヘグ。
ティターニアは目に涙を浮かべニーズヘグをきっと睨む。
0315ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2018/01/23(火) 01:14:06.57ID:Uq/HO4fB
「そなたは人知を超えた偉大な存在なのだろう!? ちっぽけなヒトを弄んで何が楽しいのだ……!
どちらも選ばぬ。今ここで貴様を屠り乗っ取られる前に彼女を連れ戻す……!」
0316ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/23(火) 01:15:17.67ID:Uq/HO4fB
そしてゆっくりと杖の先を向け今まさに宣戦布告しようとしたその時だった――

>「……さぁ、私は闇の指環の力を引き出した。今度こそ、試練は終わりです」

――凛とした声が響いた。
闇に取り込まれる前と比べてどこか吹っ切れたような雰囲気だが、
その気配は確かにシノノメのもので、その右手には、闇の指輪が握られていた。

>「無事だったか……!」

ティターニアはシノノメに駆け寄り、抱きしめて無事を喜んだ。

「シノノメ殿……見事試練を潜り抜けたんやな! 良かった……良かったよ……!」

そんな光景を前に、ニーズヘグは相変わらずからかうような態度を崩さない。

>『くくく……愉快愉快。許せヒトの子よ。若者をからかうのは年寄りの特権、娯楽のない余生の一抹の潤いなんじゃ』
>『相変わらず趣味と性格が悪いのニーズヘグは……儂ちょっとドン引きじゃわ。やっぱ友達は選ぶべきじゃな』

>「次、くだらない茶目っ気を入れてみろ……ウェントゥスに頭を下げてでも指環の力で貴様を叩き斬る。
 これで指環の試練は終わりなのか?追試はないんだろうな」

スレイブがシノノメ達とニーズヘグの間に割って入り、激昂しながら問いかける。

>『これで終わりじゃよ。物語や伝承に語られるように、
 勇者たちは無事試練を抜け指環を手に入れました……めでたしめでたしというわけじゃ』

その言葉を聞き、ひとまず安堵するティターニア。

「全く……そなた少し冗談が過ぎるぞ。おかげ様で年甲斐無く取り乱したではないか」

>「まだめでたしとは言えねえな。指環の魔女――というかメアリの奴とエーテル教団をぶちのめしてからだ」
>『……ソルタレクへ行くのじゃな?今やあそこはエーテル教団の理想郷。
 今代の指環の魔女は随分と実力があるようじゃ』
>「闇の指環は手に入ったし、村のみんなも助けた。
 これ以上あいつに好き勝手はさせねえよ。ありがとうな、爺さん」

「……悔しいが我からも礼を言うぞ。結果オーライという言葉が古来より存在するからな」

経緯はともかく結果的には味方は全員無事で、闇の指輪は手に入り、
おまけに強敵の一人であったアドルフは倒れ、敵に関する重要な情報まで手に入った。
結果だけを見ればいい事ずくめだ。
もしかしたら最初からこちらを指輪の勇者と認めていて、本当にからかって遊んでいただけなのかもしれない。
そう、竜は人知を超えた存在。真意など知る由もないのだ――
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