……アルマクリスの足元から、不意に刃が生えた。
地中を通して移動させた、私の指先から伸びた刃が。
狙いは首筋。今度は、避けざるを得な……

「あーあー!早くしねーからコイツが気を使って味な真似してくれちゃったじゃん!」

アルマクリスの矛が、私の胸を貫いていた。
同時に私の刃も、アルマクリスの首筋を切り裂く。
そして直後に彼は、左手で傷口を抑え……肉の焼ける音と臭い。

「せっこいよなぁそう言うの!かーっ!俺らのせいじゃありませーんって……」

「……げほっ……はぁ……はっ……」

「はぁー!?なんで生きてんのお前!意味分かんねえんだけど!」

……大抵の魔族は、純人種よりもずっと頑丈ですからね。
ナイトドレッサーは身体のどの部位を欠損しても再生が可能です。
体内の魔素が尽きない限りは……ですが、そんな事よりも。

「理解が出来ないのは……私の方……です……。
 あなたは……死ぬ事が、怖くないんですか……」

魔族じゃない、ただの人間の身で、なんであんな戦い方が出来るのか……私には理解出来ません。
私は……今まで、多くのヒトを、魔族を、殺してきました。
だけどこれほどまでに……死を恐れない人を、見た事がありません。

……突き立てられた矛が、赤く染まっていく。
炎の付与魔術……それが何を意味しているかはすぐに分かった。
私を、体内から……焼き尽くすつもりなんだ……。
……怖い。嫌だ。死にたくない。私の心を、暗い感情が埋め尽くしていく。

「……あぁ、ぜーんぜん怖かねえよ。俺にはなんもねえんだからよ。
 だからてめえらも、全部失くしてから死ねや」

……だけどその言葉が聞こえた瞬間、それらがふっと消えていくのを、私は感じました。
だって私は……ジャン様の、スレイブ様の邪魔をする事だけは、したくない。
彼らの冒険の負い目になりたくない。

それに……この人が、こんなにも空虚な声で話をするのも……なんだか、嫌です。
話が聞きたくない訳じゃなくて、むしろ逆で……上手く言葉に、出来ないけど、とにかく嫌なんです。

この気持ちを、失くしたくない。
抱えたまま死んでしまいたくない。
これはきっと……私が変わる為に必要だったものだから。
だから……

「さて、そろそろ決めてくれや!もう半分見殺しにしてるようなもんだけどよ!
 ちゃんとてめえらの言葉で聞きてえんだよなぁ俺ぁ!
 さぁどうするよ!指環を寄越して死ぬか!このアマ見殺しにして生き延びるか!さっさと決めやがれ!」

矛の刺さった傷口から魔素が漏れ続けてて……声は、出せないけど。
彼らの方を、じっと見つめる事しか出来ないけど。
それでも、お願いです。気付いて下さい。

……助けて、下さい。