なんで、なんでそんな事が出来るんですか。
心臓は外れていたけど、そんなのたまたまです。
死ぬのが、怖くないんですか。

「なっ……」

私は動揺を禁じ得なくて……それは私の『マリオネット』の動作を阻害する。
次の瞬間、私の視界が激しく揺れた。
矛の柄で殴られたんだ。叩き付けられる殺気。見えなくても分かる。このままじゃとどめを刺される。

甲高い金属音……襲いかかる矛先を、ショートソードが弾いた。
マリオネットによる自動迎撃だ。
……だけどマリオネットは、私が思い描いた通りの動きをする為の補助魔法。
魔力を介した身体操作を行う事で、反射的な行動の速度も上がるけど。
つまり……目に映っていない攻撃を、正確に防ぐ事が出来るようになる訳じゃない。

「う、あ……」

弾いた矛の刃が、私の脇腹を引き裂いていた。
傷口から、大量の魔素が溢れ出る。
体から力が抜ける。体勢が崩れ……アルマクリスの追撃は更に続く。
五月雨のような刺突。軌跡は見える……剣を合わせる事は出来る。
だけど……力が入らない。十分に軌道を変えられない。
でも……おかしい……なんで……。

「なんで、その深手で、こんな……」

こんなにも凄まじい攻めを、繰り出す事が出来る……。

「気合。つーか別にこんなもん深手でもなんでもねーけどな!」

……事も無げに返ってきたのは、荒唐無稽で、しかし間違いなく、正確な答えでした。
短剣に腕の筋を断たれ、胸部を深く切り裂かれ、それでもまるで衰えない動き。
この世のあらゆる戦場に、魔術師だけが溢れ返っていない理由……。
己が肉体に頼みを置いて戦う者達の……理不尽な精神力。

……私には、無い力。
押し切られる。矛の柄が横薙ぎに、私の腹に叩き込まれる。
踏み留まれ……ない……。

「はいこれにて決着!格付け終了!俺様が本気出しゃてめえなんてこんなもんなの!
 さ、て、と、そんじゃアイツらが来る前に可及的速やかに遺言をどーぞ!とびきり気まずくなる感じの奴頼むわ!なっ!」

アルマクリスが得物の矛先を、倒れた私の胸の上に置く。

「何黙ってんだよ今すぐ死にてえか。……あ、もしかして今考え中?
 なんだよだったらそう言えよ!しょーがねーなー!
 俺様が面白トークで間を持たせてやっから早めにお願いね!」

そしてそのままジャン様達へと振り返った。
それは……私に対する油断を意味してはいない。
もし私が新たに武器を作り出せば、目もくれないままでも、彼は私を殺められるのでしょう。

「……いや、やっぱやめたわ。もっとスカッとするやり方思いついちまった」

……彼は何を、言っているのでしょう。

「おいてめえら。今すぐその指環を寄越して俺様の前に跪きな。
 勿論その後俺様はてめえらを殺す。一人ずつ、散々甚振ってからぶっ殺す。
 全員死んだら……コイツだけは助けてやんよ」